776: 2013/03/27(水) 22:38:29.24 ID:B3MJg5ALo


織莉子「私達が救世を成し遂……」キリカ「引力、即ち愛!」【その1】
織莉子「私達が救世を成し遂……」キリカ「引力、即ち愛!」【その2】
織莉子「私達が救世を成し遂……」キリカ「引力、即ち愛!」【その3】
織莉子「私達が救世を成し遂……」キリカ「引力、即ち愛!」【その4】
織莉子「私達が救世を成し遂……」キリカ「引力、即ち愛!」【その5】


まどか「夢の中で会った……」ほむら「私の名前はほむらです」【その1】
まどか「夢の中で会った……」ほむら「私の名前はほむらです」【その2】
まどか「夢の中で会った……」ほむら「私の名前はほむらです」【その3】

もう誰にも頼らない
#23『そんなの、佐倉杏子が許さん』


一方、まどかを抱えたSayakaは、

追っ手がいないことを確認しつつ『図書室』に辿り着いた。

図書室は、Sayakaにとっては思い出の場所。

前の時間軸の氏に場所である。


Sayaka「ふぅ……ッブネー!」

Sayaka「まさか使い魔ってことがバレるとはね……」

Sayaka「でもま、いっか~。これでゆっくりと食える」

Sayaka「たくさん食べて大人の女になるぞー!」

Sayaka「まどか。あんたはあたしの嫁だからなぁ……。嫁だからあたしが食わないといけないんだ」

Sayaka「うぇひひ!別にイヤらしい意味じゃないからね。食べ方も動機もさぁ!」

777: 2013/03/27(水) 22:39:02.49 ID:B3MJg5ALo

まどか「…………」

Sayaka「どうしたい?恐怖で言葉も出ないのかな?」

Sayaka「安心しなよ。痛くしないからねぇー」

Sayaka「まずは服を脱がそう」

Sayaka「あ、勘違いしないでね。あたしはKirikaさんと違って同性愛者じゃあないからな」

Sayaka「バナナを食べるのに皮を剥くのと同じ理由だよぉ」

Sayaka「……そもそも使い魔に性別ってあるのかな?あたし乙女名乗っていいの?」

まどか「……おい」

Sayaka「え?」

Sayaka「……き、気のせいかな?今、まどかの口から出てはいけない言葉が――」

まどか「図に乗ってんじゃあねーぞスカタンが!」

778: 2013/03/27(水) 22:39:58.72 ID:B3MJg5ALo

ガシィッ!

まどかはSayakaの顔面に肘鉄を叩き込んだ。

Sayakaは思わず鼻を押さえるためにまどかを離す。

そしてまどかはSayakaから離れ、後方にジャンプし距離をとった。

まどかは不敵に、ニヤリと笑っている。


Sayaka「ブッ!?ぶがっ……!ま、まどか……!?……い、いやッ!貴様ッ!」

まどか「……本物のさやかがこの場にいたならこう言うだろーな」

まどか「まどかだと思った?」

まどか「残念!『あんこちゃん』でしたってな」

Sayaka「!?」

まどか「そしてあたしが『誰があんこだ!』ってツッコミをいれるんだよ」

779: 2013/03/27(水) 22:40:41.23 ID:B3MJg5ALo

鹿目まどかの姿は、いつの間にか変わっていた。

制服は赤い衣装。

桃色のツインテールは赤銅色のポニーテール。

佐倉杏子がここにいた。


杏子「実はそんなにさやかと話してはいないが……何故だかそんなやり取りが思い浮かぶんだ」

Sayaka「な、何ィィ~!?」

杏子「あたしの固有魔法は幻惑だ」

杏子「ちょいと幻惑魔法を使わせてもらったぜ」

杏子「あたしの姿とまどかの姿が入れ替わる。そういう幻を見せた」

杏子「あんたは、まどかと『見間違えて』あたしを連れてきたんだ」

杏子「さぁ、あんたの相手はこのあたしだ!」

Sayaka「あたしをおちょくりやがってぇ……!絶対に絶っ……」

Sayaka「~~~~~~~~~~対に!ぶっ殺ォォォォス!

780: 2013/03/27(水) 22:43:26.51 ID:B3MJg5ALo

Sayakaは剣を構え、杏子に剣先を向ける。

「ガル」と言わんばかりに顔を強ばらせ威嚇した。

そして、スタンドの名を叫ぶ。


Sayaka「ドリー・ダガーッ!」

杏子「出してきたか……スタンド!」

Sayaka「スタンド使いの魔法少女と魔法少女、どっちが強いか!」

Sayaka「そんなの試すまでもない!すぐに勝つ!」

杏子「……種はわかっているぞ」

杏子「あたしはほむらと共闘を結んだ。そして、前の時間軸とやらのことを聞いた」

杏子「前の時間軸……あんた、いや、その時のさやかもほむらと共闘関係にあったそうだ」

杏子「あたしとは敵対していたらしい……それはちょっぴり寂しいことだがそれはさておき」

杏子「ドリー・ダガー……『その刀身に映った相手に自身へのダメージの七割を転移する能力』……ほむらからの情報だ」

Sayaka「…………」

781: 2013/03/27(水) 22:44:04.17 ID:B3MJg5ALo

ドリー・ダガー。

剣に取り憑いている、実像を持たないスタンド。

その能力は、剣の刀身に映っている相手に自身への『ダメージの七割を転移』する。

Sayakaの頭を吹き飛ばそうものなら、相手は頭の七割が吹き飛ぶ。

体を突き刺せば、転移する七割分の傷を相手は負う。

首を掻き切れば、転移する七割分の傷を相手は負う。

それは、転移に成功すればダメージを三割に軽減されるということも表す。


前の時間軸、「さやか」は失恋をした。

「恭介」が「仁美」に好意を抱いてしまったためである。

そして「恭介」が「仁美」を好きになった原因は『スタンド』にあった。

「さやか」は『自分が悲しい思いをしているのは全てスタンドのせいだ』と、思った。

悪い結果が訪れても自分に落ち度はないはず。

そういう責任転嫁願望から発現したスタンド。

782: 2013/03/27(水) 22:45:57.42 ID:B3MJg5ALo

Sayaka「へぇ……よく知ってたもんだ」

Sayaka「スタンドの種が既に知られているってのはあまりいいことではない……」

Sayaka「スタンドを知られるということは弱点を知られることに繋がるからねぇ……」

Sayaka「だけどだよ?」

Sayaka「それはスタンド使いが相手だったら、の話だ」

Sayaka「公平な立ち位置だったら、の話だ」

Sayaka「あるとないでは、ある方が強いに決まってる!」

Sayaka「あんたにあたしが倒せるのかぁ!?」


Sayakaは刀身を杏子に見せつけた。

鏡のように光り、杏子の姿を映している。

783: 2013/03/27(水) 22:49:24.10 ID:B3MJg5ALo

杏子「それがどうした」

Sayaka「ん?」

杏子「それがどうしたのかと聞いたんだよ。有利不利なんてのは関係ない」

杏子「確かに……スタンドという未知の能力の差を超えるのは難しいかもしれない」

杏子「だが……あたしはあんたと違って人間の心……」

杏子「人としての考えがあり、誇り高い意志と覚悟がある」

杏子「だからわざわざあんたに教えてやる。使い魔ごときにはチト難解かもしれないが……」

杏子「いいか、最も難しいことは……そういう障害を乗り越えることじゃない」

Sayaka「…………」

杏子「最も難しいことは『自分を乗り越える』ことだ!」

杏子「あたしは自分の『過去』をこれから乗り越える!」

Sayaka「過去?乗り越えるぅ?何を言ってるんだあんた」

784: 2013/03/27(水) 22:50:39.51 ID:B3MJg5ALo

杏子「家族が氏に、ゆまが氏に、マミが氏んだ!」

杏子「あたしの心はマイナスだった!それをゼロにするというんだ!」

杏子「行くぞ!『ロッソ・ファンタズマ』だッ!」

Sayaka「なっ……!」


ロッソ・ファンタズマ。

杏子の幻惑魔法。それは己の分身を作り出す魔法、その名前。

分身は幻影であると同時に力があり、

それぞれの分身がその槍を振るい攻撃をすることが可能。

また、視覚的な撹乱や身代わりによる回避もできる。

過去を拒絶して封印された、杏子の願いに伴い目覚めた固有魔法。

杏子の姿が複数に「増え」た。

ちなみに名付けたのはかつての師匠、マミである。


785: 2013/03/27(水) 22:52:20.56 ID:B3MJg5ALo

一人、二人、三人。

杏子の分身が増えていく。

幻影でありながらダメージを与えることができる。

使い捨てのスタンドのようなものだと、杏子は思った。

Sayakaは歯を食いしばり、目を丸くして驚いてみせる。


Sayaka「げ……『幻惑魔法』ッ!」

Sayaka「ど、どういう……ことだ!そういえばそうだった!」

Sayaka「ヤツは幻惑魔法が使えなくなっているはずだ!」

Sayaka「過去のトラウマなぞいざ知らずなKyokoならまだしも……」

Sayaka「こ、『この杏子』が使えるはずがない!」

Sayaka「当たり前に使ってて気付かなかった!」

Sayaka「こいつは幻影を使って、まどかに化けてた!」

786: 2013/03/27(水) 22:53:38.57 ID:B3MJg5ALo

杏子「人は、変われる。時として精神的に成長するんだ」

杏子「あたしには、未来を生きる決定的な理由と目的がある!」

杏子「あたしは、さやかと生きるという楽しみがある!」

杏子「そのためにはいつまでも過去に縛られてはいけないんだ!」

杏子「ほむらもキリカも、失った過去を心の隅に追いやって生きて戦っている!」

杏子「だったらあたしもよぉ!マミもゆまも家族も、失った過去と向かい合わなきゃいけねーだろ!」

杏子「マミに付けられた名前!父親から拒絶された幻惑魔法!」

杏子「そしてゆまを救ったこの槍であんたに引導を渡してやる!」


分身は一斉にSayakaを包囲した。

杏子達の内の一人がSayakaに語りかける。

使い魔は、複数の杏子に囲まれ、睨まれる。

787: 2013/03/27(水) 22:54:27.64 ID:B3MJg5ALo

Sayaka「う、うぅぅ……!うぅぅぅ!」

杏子「前の時間軸のあたしは……シビル・ウォーというスタンドに目覚めた」

杏子「シビル・ウォーは罪を他人に押しつけて過去から目を背ける。そんな能力だったそうだが……」

杏子「あたしは違う!あたしは罪を、あたし自身で受け入れるッ!」

杏子「あたしは過去を克服するんだ!」

杏子「もう一度言うぞ!あたしは自分の『過去』をこれから超えるッ!」


幻惑魔法そのものは、杏子はかつての心因的な理由で使えなくなった。

しかし、家族を失った過去を受け入れようと決心したためか、

マミとゆまの氏の悲しみを克服した精神的覚醒か、

それらによって失われた魔法が今再び使えるようになった。

杏子はそう解釈した。

使えるようになっているという実感を抱いていた。

そして実際に、なった。

788: 2013/03/27(水) 23:01:32.36 ID:B3MJg5ALo

杏子「ドリー・ダガー……剣に映った相手にダメージを転移する能力」

杏子「分身が剣に映ることで……その転移を分身に受けさせてやる!」

杏子「あんたにゃ治癒魔法があろうが……」

杏子「そんなものは関係ない!ソウルジェムを砕けば即氏!」

Sayaka「……くぅ!こ、こいつ!」

杏子「数で押せば必ずソウルジェムを砕けるチャンスはある!さすれば即氏だッ!」

杏子「即氏すれば転移しない!それがドリー・ダガーの弱点だ!」

杏子「使い魔一体にこんな大技を使うのはチト勿体ない気分だがなァッ!」

Sayaka「か、過去を……超えるだと?……それがどうした!」

Sayaka「な、な、何にしたって!あんたはあたしという過去に敗れるんだ!」


複数の杏子が、ある分身は直線上に、ある分身は角度をつけて、

ある分身は飛び上がり、ある分身は複雑な軌跡を描きながら、一斉に突進する。

789: 2013/03/27(水) 23:02:16.50 ID:B3MJg5ALo

杏子「ロッソ・ファンタズマ躱せるかァ――ッ!」

Sayaka「そ、そうはいかんッ!」

Sayaka「うあありゃぁぁぁぁ!」


Sayakaは剣先で『右』を指し、腰を捻りながら、

体を回転させた。

右脚を軸に独楽のように回り、振り回される剣が分身に触れる

分身は剣撃を喰らう。

複数の分身は一体一体がロウソクの火に息を吹きかけたかのように消える。

分身は一瞬にして破れた。

頭をくらくらと揺らすSayakaは、たった一人で立ちつくす杏子を笑った。


Sayaka「ハハハ!ど、どうだッ!回転斬りで幻惑をうち消せたぞッ!」

Sayaka「たかが幻覚!無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁーふははははー!」

790: 2013/03/27(水) 23:02:49.36 ID:B3MJg5ALo

杏子「…………」

杏子「ああ……そうだな」

Sayaka「!」

杏子「確かに無駄かもな。ただし……魔力の、だ」

Sayaka「な……そ、そんな……!」


違和感のある声が聞こえる。

方角が違う。後ろから、聞こえる。

考えている内に『前方にいる杏子』が消えた。

Sayakaは声の方へ振り返る前に、杏子は行動に移していた。


杏子「ロッソ・ファンタズマ。分身に紛れてあたしは既にあんたの背後に回った」

杏子「あんたが楽しそうに話していたのは……あたしの分身だ」

Sayaka「な、何だと……!?」

791: 2013/03/27(水) 23:04:13.40 ID:B3MJg5ALo

杏子「この距離なら……確実に背中を貫通させて腹の魂を砕く……おっと、使い魔に魂もクソもないか?」

Sayaka「き、貴様ッ……!」

杏子「ブッ頃してやる!」

Sayaka「GYAAH!」

ザシュッ!

杏子の分身はSayakaの背中を槍で突き刺した。

体を貫通し、腹部のソウルジェムを砕くことができる。

Sayakaは膝をついた。

背中を貫通し、臍の位置を貫いた。

ソウルジェムがあれば、砕ける位置。

砕ける、はずだった位置。


792: 2013/03/27(水) 23:05:01.32 ID:B3MJg5ALo

杏子「…………」

杏子「……ゴフッ」

杏子「……え゙」


杏子の口元から赤い液体が垂れてくる。

背中に体の水分が蒸発するかのような、熱い痛みが走る。

ゆっくりと腰に手をやり、痛みのする場所に押さえると、生暖かい液体の感触。

言うまでもなく、それは血だった。背中が抉れている。

足に力が入らない。


杏子「げほっ……ぐふ」

杏子「な……」

杏子「何……?え?」

Sayaka「『ぶっ頃す』……」

793: 2013/03/27(水) 23:06:40.00 ID:B3MJg5ALo

Sayaka「そんな言葉は意味がない。こういうどんでん返しがある世界では尚更ね……」

Sayaka「ぶっ頃したなら使っていい」


Sayakaは、何てこともなく立ち上がり、数歩歩いた。

そして、背中を向けたまま言った。

ガクッ

杏子の方が、膝をついた。

感覚でわかる。背中から腹にかけて『七割』方が抉られた。

内臓が破れ、背骨が折れ、脊髄が断たれた。


杏子「ば、馬鹿な……!」

杏子「あたしの体……『七割』……穴があいた……!?」

794: 2013/03/27(水) 23:07:41.37 ID:B3MJg5ALo

仮に、狙いが逸れてソウルジェムを砕けなかったとしても、

ドリー・ダガーは光の反射に捕らえられた相手が対象。

背後は反射の氏角。刀身に杏子は映るはずがない。

その仮定を踏まえて背後に回ったのだ。


杏子「背後からの攻撃……氏角だ。刀身に映して反射させるってんなら……」

杏子「あたしは……映っていない……のに……!」

杏子「ドリー・ダガーは光の反射に関係する能力……!ほむらから直々に聞いた情報だ……」

杏子「剣に……あたしの姿が映ってないのに……映るはずがないのに……」

杏子「転移される、はずがない……」

杏子「何故、だ……!?何故、てめぇ、生きている……何故、転移した……!?」

795: 2013/03/27(水) 23:08:54.15 ID:B3MJg5ALo

杏子は魔力を神経の治癒にあて、取りあえず再び立てるようにした。

追い打ちを喰らわないよう、槍を杖に半ば無理矢理立ち上がる。

石突の部分で床を突き、その勢いのバックステップで距離を取った。


Sayaka「ふっふふふーん」

Sayaka「あんたがさぁ……ほむらからそういう情報を受けてたであろうってのは流石に馬鹿なあたしでも想定済みよ?」

Sayaka「確かに、あたしのダメージ転移能力……」

Sayaka「反射させなければならないということは……それにはどうしても氏角ってのができてしまう」

Sayaka「攻撃の方向によっては『詰む』かもしれない……ドリー・ダガーの弱点その一……」

Sayaka「それをカバーする戦略を考えてないと思ったの?」


Sayakaは依然杏子に背中を向けたまま、両腕を大きく広げた。

白いマントには、赤渕の穴があいている。

796: 2013/03/27(水) 23:11:07.12 ID:B3MJg5ALo

Sayaka「周りを見てみろ!」

杏子「ゲホッ……ま、周り……?」

杏子「ッ!?」

杏子「こ、これは……!」


杏子は首を横に向けた。

そして、杏子は自分の目を疑った。

自分がいる。

ここは確かに図書室だった。本棚も机もあった。

しかし、それらがない。驚いた自分の表情が見える。

本棚も机も椅子も全て取っ払われている。

壁面全体に何枚もの『鏡』が立て掛けられている。

鏡に、槍を杖のようにして、震える足で体を支えている自分がいる。

使い魔の方に向き直すと、その方向の壁も『鏡』になっている。

797: 2013/03/27(水) 23:12:29.28 ID:B3MJg5ALo

『鏡』

床は変わっていない。天井も変わっていない。

机も椅子も本棚も窓さえなくなっている。

いつの間にか、図書室はガラス張りの一室となっていた。

自分とSayakaを鏡が囲う。

万華鏡の中にいるかのような状況だった。


Sayaka「既にだ。既に対策トリックを仕掛けた」

杏子「こ、これは!げ……『幻惑』か!?」

Sayaka「ご名答。流石は幻惑使い。よくわかったね……ただ、正確には幻覚ね」

Sayaka「ネタ晴らしすると……図書室に『Hitomi』がいる。志筑仁美の概念だよ」

Sayaka「ほむらから能力は聞いているかな?『ティナー・サックス』……幻覚のスタンド能力」

Sayaka「ティナー・サックスの幻覚は五感で騙せる」

Sayaka「既に学校全体にも作っているけど……たった今ここに幻覚の鏡を作らせた」


798: 2013/03/27(水) 23:13:23.40 ID:B3MJg5ALo

Sayaka「鏡は目に見えるものを反射する。光は像だ。光は反射だ。ドリー・ダガーは反射のスタンドだ」

Sayaka「ドリー・ダガーの刀身には『鏡に映ったあんた』が映っている」

Sayaka「あたしのスタンドは清らかなさやかちゃんにピッタリな『光属性』だ」

Sayaka「これにより……どの角度からでも、だ」

Sayaka「あたしのドリー・ダガーには鏡越しにあんたが映るのよ」

Sayaka「つまり『鏡を介してあんたにダメージの転移が行われる』ということだ!」

杏子「ひ、光の反射……だと……!?」

Sayaka「ダメージはどの角度からやっても転移する。ドリー・ダガーの弱点その一を克服した」

Sayaka「さらにだな……」

Sayaka「あたしのおへそをご覧なさい。おへそフェチに目覚めてもよろしくてよ!」

杏子「なっ……!」

Sayaka「鏡と同様……既にあたしは幻覚を『被っ』ていた」

799: 2013/03/27(水) 23:15:00.45 ID:B3MJg5ALo

さやかの魔法少女姿を見るのは、今日が初めてではない。

昨日「さやかちゃんのファッションショ~」だとか言って、変身して見せつけてきた。

白いマント。露出された両肩と腹。水色と白を基調としたデザイン。

今戦闘をしている敵とは全く同じだった。つい先程までは。

ドリー・ダガーと鏡によるほぼ全自動ダメージ反射構造を理解した時。

その前後でSayakaの姿に異なる部分がある。

腹にある、ペタリと貼り付けたシールのような水色の宝石。

それがない。

振り返ったSayakaには、ソウルジェムがなかった。

引っぱたいて紅葉を彩らせたくなるような健康的で綺麗な腹に、

小指の先がすっと収まりそうなへそがある。


杏子「ソウルジェムが……ソウルジェムが『ない』ッ!?」

Sayaka「ソウルジェムは『二個』あった!」

800: 2013/03/27(水) 23:16:02.55 ID:B3MJg5ALo

絵に描いたようなしたり顔で、Sayakaは叫んだ。

即氏のポイントがない、魔法少女のさやかの概念。


Sayaka「あんたが見ていたのは、ティナー・サックスの幻覚だ」

Sayaka「あたしは既にお腹に剣をぶすーってやってソウルジェムを抉り出した」

Sayaka「肉体と魂を分離させる戦法……魔法少女ならどうかわからんが使い魔だからこそできる芸当よ」

Sayaka「壊れたら即氏するっつーもんをわざわざお腹につけるとか、今にして思えばバカだよね」

Sayaka「……どーいうこったか、わかるかな?」

杏子「…………」


唾を飲む。

ソウルジェムを分離させた魔法少女の概念。

杏子はそれの意味を悟っている。

801: 2013/03/27(水) 23:18:34.49 ID:B3MJg5ALo

Sayaka「そして魔法少女の概念という不氏身の体……」

Sayaka「いくらやっても氏にはしないという、好き放題が出来る反面、即氏の弱点が存在する」

Sayaka「ソウルジェムはいわば使い魔にとって単なる生命維持装置……」

Sayaka「それがないなら、氏にはしない」

Sayaka「ドリー・ダガーの弱点その二は、ソウルジェムの破壊……」

Sayaka「本体が即氏したら意味がない。あたしのソウルジェムを『預かってもらう』ことでそれも克服した」

杏子「くっ……!」

Sayaka「治癒に定評のあるさやかの概念であるソウルジェムのないSayaka……」

Sayaka「つまり……あたしは氏なない肉人形!」

Sayaka「不氏身!不老不氏!スタンドパワー!」

Sayaka「あたしは最強だァァァァァッ!」

802: 2013/03/27(水) 23:19:50.41 ID:B3MJg5ALo

ザグゥッ

Sayakaは剣を自分の膝に突き刺した。

剣が膝を貫通する。赤い体液が流れ出す。


杏子「グァァッ!?」

ドサッ

杏子「グッ!」


ドリー・ダガーの能力。本体へのダメージの七割を刀身の映った相手に転移する。

ドリー・ダガーの刀身には、鏡に反射した杏子が映っている。

七割のダメージは光に乗せられ、鏡を跳ね返り、杏子へ、間接的に刺された。

杏子の膝から鮮血が噴き出す。膝関節の七割が破壊され、再び倒れる。

尻餅を突いて転倒した。立つことができない。

803: 2013/03/27(水) 23:20:55.95 ID:B3MJg5ALo

Sayaka「やったッ!勝ったッ!仕留めたッ!」

Sayaka「これで杏子は氏んだァァァァ!」

Sayaka「苦し紛れにあたしを攻撃しても、あたしは氏なないもぉんねえぇぇぇぇ!」

Sayaka「試しに頭をかち割ってみるかい?あんたの七割がかち割れるよ!」

Sayaka「アハハハ!まどかが喰えなかった腹いせだッ!」

Sayaka「四肢を断ち切って抵抗できなくしてから喰ってやるッ!」

杏子「く……!」


使い魔は不気味な笑みを向けながら、

一歩一歩ゆっくり歩み寄る。

膝を刺したにも関わらず、何てこともなく歩く。

刺し傷は既に消えている。

804: 2013/03/27(水) 23:22:37.58 ID:B3MJg5ALo


杏子(……ま、負ける)

キョ粉(負けるのか……あたしは)

杏子(…………ダ、ダメだ)

杏子(あたしはまだ氏ねない……!)

杏子(約束を……したんだ……)

杏子(あの夜……あたしは、さやかの友達になったんだ……)

杏子(そして、ずっと一緒にいることを誓ったんだ)

杏子(さやかは、あたしと一緒にいてくれると言ってくれたんだ!)

杏子(氏ぬ覚悟はできている……だからあたしはここにいる!)

杏子(だが……!)


805: 2013/03/27(水) 23:23:13.37 ID:B3MJg5ALo

杏子(ここでは!こんなところでは氏ねない!)

杏子(こんなシケた氏に方!ゆまとマミに顔見せできねぇ!)

杏子(あたしは……あたしはまだ氏ねない!)

杏子(あたしはまだ!さやかに何もしてやれていない!)

Sayaka「勝った!氏ねィ!杏子ッ!」

杏子「ぐ……!」

杏子「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」


使い魔は、脚を間接的に斬りつけられ歩けなくなった杏子に近寄り、

頭をめがけ剣を振るった。

空気を切る音が聞こえた。

806: 2013/03/27(水) 23:27:16.85 ID:B3MJg5ALo

バァン!

破裂するような音が聞こえた。

杏子は、腕で頭を庇い、ギュッと目を瞑った。

……何も起こらない。

訓練されたボクサーは相手のパンチが超スローモーションで見え……

事故に遭った瞬間の人間は体内や脳でアドレナリンやらなにやらが分泌され、

一瞬が何秒にも何分にも感じられるというあれだと思った。

しかし、杏子はパチリと目を開けることができた。


杏子「……!」

杏子「あ……あれ……?」

杏子(なんだ……何も……起きない……痛みを感じずに氏んだのか?)

杏子(いや……違う……なんだ。この感覚……。胸が……いや、心が……『熱い』)

Sayaka「…………」

Sayaka「さ……ま……!」

杏子(燃え上がるように、熱い……!)


807: 2013/03/27(水) 23:27:48.29 ID:B3MJg5ALo

腕を開け、視界を開けさせる。

そこには、目を皿にして、歯を食いしばるSayakaの姿。

空中で静止している、水に濡れているかのように綺麗な刀身。

Sayakaの剣を白羽取りして止めた。

『赤い両腕』が、止めた。

半透明の、赤くて温かい『もう二本』の両腕。

それらが、両肩から飛び出している。

初めて見るが、『それ』が何なのか、杏子は知っている。

魂が、それを理解している。


Sayaka「杏子……!き、貴様……!」

Sayaka「あんたッ!バカな……い、いつだ……」

Sayaka「ス……『スタンド』を!?」


808: 2013/03/27(水) 23:28:48.04 ID:B3MJg5ALo

何故、いつ、どこで、自分にスタンドが発現したのか。

疑問は尽きない。

しかし、不思議と心は落ち着いていた。

突然体から飛び出してきた、赤銅色の両手首。

HBの鉛筆をベキッとへし折るように、さも当然のように、スタンド使いになっている。

それ自体に戸惑いはなかった。

杏子は、見た瞬間に理解した。

この、赤いスタンドの能力を。

使い魔に、それを見せることで、実際に見ることで実感することにした。

Sayakaの顔は見る見る赤くなり、ダラダラと水滴を垂れ流す。

顔だけでなく、露出した腹や両肩からも、粘液状の液体が浮かんでくる。

809: 2013/03/27(水) 23:30:51.68 ID:B3MJg5ALo

Sayaka「う……こ、これは……!?」

Sayaka「なんだ……これ……は……!」

Sayaka「あたしの……あたしの体が……!」

Sayaka「あ……つい……」

Sayaka「『熱い』ッ!?」

Sayaka「か、体の奥から……体液が灯油になって燃えているかのような……!」

Sayaka「と……『溶けて』るッ!?」

Sayaka「ヤバイ!何かヤバイ!体が溶けるだとッ!?」

Sayaka「……!ど、ドリー・ダガー!」

Sayaka「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHHH!?」

810: 2013/03/27(水) 23:31:43.46 ID:B3MJg5ALo

Sayakaの体から、黒い煙がぶすぶすとあがっていく。

皮膚や肉がただれている。

赤い腕に押さえつけられた剣が、溶けてきている。

鋼の融点は約1600℃程度。赤い腕が、それを超える熱を持っている。

ドリー・ダガーは、魔法武器の剣に取り憑いている『本体へのダメージを転移する』スタンド。

つまり、剣――スタンドそのものにダメージが加われば、

スタンドが傷つけば本体にもダメージが及ぶというルールに乗っ取り、スタンドが受けたダメージが本体に及ぶ。

剣そのものが熱せられれば熱される程、Sayakaの体は沸騰するかのような苦痛に見舞われる。

100%のフィードバック。体が間接的に溶かされている。

Sayakaは剣を思い切り引き、灼熱のスタンドから回避した。

治癒魔法でただれた肉を元に戻していく。

くの字に変形しつつあった剣が、本体の回復に伴い元に戻っていく。

811: 2013/03/27(水) 23:32:47.03 ID:B3MJg5ALo

杏子は立ち上がった。

針穴に糸を通せるくらいに心は落ち着いている。

そして自分の精神、闘争心が体から抜き出る様子、

ロッソ・ファンタズマで分身を作り出す様をイメージする。

赤い両腕の持ち主が、杏子の体から分離していく。

太い嘴。鋭い目。頭は鳥そのものだった。

ミノタウロスの頭が、牛から鳥に置換されたような、

鳥獣の頭をした、亜人型スタンド。

赤いスタンドの周りの空気が揺らめいているように見えた。


杏子「こいつが……あたしの……」

杏子「こいつがあたしのスタンド……!」

812: 2013/03/27(水) 23:34:36.08 ID:B3MJg5ALo

何がきっかけで現れたのか、やはり心あたりが全くない。

発現することが運命で定められていて、

それを魂が理解していたかのようだった。

どういう能力か、心で理解している。

しかし時には実感することが必要になる。

杏子は「何か出せ」と念じながら、赤いもう一つの自分を観察する。

スタンドの手の平の上に、橙と黄のグラデーションを彩る「もや」のようなものが生じたちわかる。

それは『炎』だった。そしてさらに、幻惑の魔法使いならではわかることがある。

これは本物の炎ではない。『炎のヴィジョンをした熱エネルギー』である。

杏子は自分の精神が求めた能力を実感した。


杏子「……炎に見える熱を操るスタンド」

杏子「……あたしの、心の炎……とでも言おうか」

杏子「……あたしのスタンドは!『炎を操る能力』ッ!」

813: 2013/03/27(水) 23:35:15.41 ID:B3MJg5ALo

『ギャァァ――ス!』

杏子の高ぶる精神に同調したかのように、

鳥獣のスタンドは雄叫びをあげた。

禍々しくも、逞しい。

未来へ雄飛する正義の咆哮。

離れた位置からでも、Sayakaは熱を感じた。


Sayaka「炎の……スタンド。なるほど」

Sayaka「あんたは確か、火事で家族を亡くしてるんだったね」

Sayaka「そのトラウマを克服して炎のスタンドが目覚めたってところかな?過去を受け入れるとか言ってたしね」

Sayaka「合点がいくが……杏子。どんな能力であろうと無駄だよ。忘れた?あたしの能力を……」

Sayaka「あたしに攻撃することは無意味だ。あたしを焼き頃すなら、自分の首を絞めることになる」

Sayaka「あたしに対して『熱い』というダメージもあんたに転移することになるんだよ」

杏子「…………」

814: 2013/03/27(水) 23:39:00.68 ID:B3MJg5ALo

杏子「スタンドが傷つくとスタンド使いも傷つく……」

杏子「てめぇは剣を溶かされかけた時……スタンドのダメージは転移しなかったな」

杏子「だったらよぉ……その剣が完全に溶けたら……即ち、スタンドが消滅したらどうなるんだろうな?」

Sayaka「……!」


あの時――ドリー・ダガーが取り憑いた剣が熱で溶解しそうになった時、

体液が溶かした鉄になったかのように苦しかった。

杏子の目を見て、使い魔としての本能がうずく。

待避しなければと思ったが、魔法少女の概念としての意地とプライドがムンムンと湧いて出てくる。


Sayaka「…………」

Sayaka「や、やってみればいいじゃあねーか……」

Sayaka「確かにあたしのドリー・ダガーの能力は、本体へのダメージを転移する能力に過ぎない」

Sayaka「剣に取り憑いたスタンドそのものへのダメージは、本体へのダイレクトダメージと違うからな……そういう可能性もあるかも」

Sayaka「だが、それは無理だね」

815: 2013/03/27(水) 23:39:26.70 ID:B3MJg5ALo

Sayaka「先程は油断したが、この状況をもう一度見てみろ」

Sayaka「全面鏡張りの世界!鏡の世界は反射の世界!」

Sayaka「炎ごときがどうだと言うんだ!コノヤロー!」

Sayaka「あんたが炎を火炎放射みたいに放出しようもんなら……」

Sayaka「あたしのスタンドが熱くてたまんねーってなる前に!」

Sayaka「その焼けるダメージを転移して、逆に焼き頃してやる!」

Sayaka「これは予告だ!」

Sayaka「あんたは自分自身のスタンドに焼かれ氏ぬ!」

杏子「…………」

杏子「そうかい」

杏子「それが……どうした?」

816: 2013/03/27(水) 23:39:57.84 ID:B3MJg5ALo


杏子「あたしには勝利の感覚が見えたぞ!」

Sayaka「炎なんかに!何の意味があるのか!」

杏子「魔法武器が何でできてるか知らねーけどよぉ……」

杏子「鋼の融点は……炭素の含有量によってそれは下がるが……およそ1600℃くらいだそうだ。学校で習っただろう」

杏子「今からあたしは2000℃の炎であんたを燃やしてやる!」

杏子「あんたをスタンドごと体ごと焼き尽くす!」

杏子「スタンドの剣へのダメージは、あんたに直接喰らう」

杏子「ソウルジェムのない不氏身の体だろうが……そんなもん知るか」

杏子「スタンドの剣を溶かす!あんたを間接的に溶かし頃す!消し炭にしてくれる!」

杏子「それができるくらいの火力はあるはずさ!」

Sayaka「杏子……!それでも火焔をよこすかァッ!」

杏子「いくぞ!あたしのスタンド!」

817: 2013/03/27(水) 23:40:36.81 ID:B3MJg5ALo

Sayaka「そういうのをなあ~……ただのやけくそと言うんだッ!」

Sayaka「いいだろう!意地でも反射してやる!あんたはあんた自身の炎に焼かれ氏ぬんだ!」

杏子「そんなの、佐倉杏子が許さん!」


杏子がかつてマミと共に活動していた頃――

ティロ・フィナーレを始めとして

「戦ってる最中に技名を叫ぶ意味ないだろう」と言い争った過去がある。

決してマミの「技名を叫ぶと良い」という持論を受け入れたわけではないが、

今は亡きマミを思うと、名付け、叫ばずにはいられなかった。

「折角だから名付けよう……マミみたいに。技に名前を……」

「生憎あたしはイタリア語がわからないが……決めた。名付けて……」


杏子「『クロスファイヤーハリケーン』ッ!」

818: 2013/03/27(水) 23:46:55.63 ID:B3MJg5ALo

杏子は片膝をつき、祈るように両手を組み唇に近づけた。

炎で「それ」を作ることに対し炎で氏んだ家族への、

安らかな眠りを祈る思いと懺悔の念を表す。

その背後で、赤いスタンドは両手を交差して炎の塊を生成した。

その炎は巨大な『十字架』の形をしている。

杏子がわざわざ十字の形にしたのは、封印した教会の子どもとして生きた過去の象徴。

それをわざわざ炎で象ったのは、燃えて消えた過去。それらを精神的にも受け入れたという象徴。

幻惑も炎も、もう心因的な恐怖が杏子を縛ることはない。

自分自身のけじめという意味を込めた十字の炎。

過去を克服した炎、未来へ雄飛する炎が放出された。


Sayaka「う、うぅ……うおおおおぉぉぉぉぉぉっ!?」

Sayaka「こ、この熱は!このエネルギーは!」

Sayaka「……や、ヤバイ!」


819: 2013/03/27(水) 23:47:57.52 ID:B3MJg5ALo

炎の塊が迫れば迫るほど、空気が熱くなる。

その勢いに、Sayakaは気圧された。

まるで炎上している納屋に放り込まれたかのような恐怖心。


Sayaka「うぅ……だ、だがッ!」

Sayaka「ま、ま、負けるか!負けるものか!」

Sayaka「ダメージ反射能力と回復魔法!これほど相性のいい組み合わせはあるだろうか!」

Sayaka「炎だろうが何だろうが!反射してやる!反射できる!」

Sayaka「反射して治す!あたしは無敵!ドリー・ダガーは炎を反射できるッ!」

Sayaka「あんたはあんた自身の炎に焼かれて氏ぬんだ!」

Sayaka「かかってこい!炎ごときに負けたりするもんか!」

Sayaka「ドリー・ダガァァァァァッ!」


十字の炎がSayakaに迫る。

まず熱風がSayakaを包み、次いで灼熱が襲う。

2000℃の炎がSayakaとドリー・ダガーを覆った。

820: 2013/03/27(水) 23:49:07.47 ID:B3MJg5ALo

Sayaka「ぐぅぅあああぁぁぁぉぉぉぉぉッ!」

Sayaka(よ、予想以上……だ!予想以上のエネルギー!)

Sayaka(し、しかし……ドリー・ダガーの能力で七割を反射したとしても……)

Sayaka(2000℃の三割……三十パーだから……えっと、何百℃程度の炎に襲われることになる!)

Sayaka(魔法少女の概念を備えるあたしにとって!耐えられない温度ではない!)

Sayaka(七割の炎が……相手にいくんだ!いくはずなんだ!)

Sayaka(……なのに)

Sayaka(だのにッ!)

Sayaka(だと言うのにッ!)

Sayaka「く……」

Sayaka「KUWAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAHHHHH!」

821: 2013/03/27(水) 23:49:51.45 ID:B3MJg5ALo

服は全て燃えてしまった。剣は変形し、液状化した鋼が床に垂れた。

炎が視界を支配しているため、杏子の様子を見ることはできない。

Sayakaは、このまま自分が溶け氏ぬという実感を、今、本能で感じ取った。

腕がド口リと溶け、剣の持ち手が落下する。

液状化したSayakaの肉は黒い煙をたてて『蒸発』していく。


Sayaka「ギャヤヤアアアアアアア!」

Sayaka「うううッ!炎がァ!炎が!あたしの体を!あたしのスタンドを焼くゥ!」

Sayaka「ま、間に合わない!治癒能力が!」

Sayaka「……よくも!よくも貴様ッ!よくもこんなァアアアアアアア――――ッ!」

Sayaka「キョオコオオォオオ!ふ……ふ……不氏身……不……老……不……氏ィ……」

Sayaka「こんなァ~……こんなぁはずでは……」

Sayaka「……あたしのォ……人、生……」

Sayaka「KURUYAAAAAAAAAAAAAAHHHHHH!」

822: 2013/03/27(水) 23:51:06.33 ID:B3MJg5ALo

炎の中から、黒い煙が多量に出てきた。

アーノルドの使い魔群、ヴェルサスは、氏亡すると黒い煙となる。

ソウルジェムは無事であるはずだが、Sayakaは氏亡した。

スタンドのルール、スタンドが傷つけば本体にもダメージを受ける。

それを行き当たれば、スタンドが消滅すると本体は氏ぬ。

ドリー・ダガーは剣ごと焼き殺された。


杏子「…………」

パチン

杏子は指を鳴らした。炎は一瞬にして消えた。

スタンドの操る炎の扱いは本能で理解している。

Sayakaは燃え尽きたが、杏子は『無事』だった。

火傷一つ負っていない。

823: 2013/03/27(水) 23:51:43.80 ID:B3MJg5ALo

杏子「Sayaka……あんたの敗因は……二つある」

杏子「一つは、自分の能力を過信していたことだ」

杏子「ドリー・ダガーは光を反射させてこその能力」

杏子「炎のヴィジョンという光源に包まれていたってことは……剣に映るのは当然『炎だけ』ということになる」

杏子「少なくともあたしは刀身に映っていなかった。だから反射を受けなかった」

杏子「炎という光に包まれた剣は、あたしを映さなかった」

杏子「もう一つは……」

杏子「あんたが『スタンド使い』だったということだ」

杏子「…………」

杏子「……桁外れの強さになるが、スタンドが傷つけば本体も傷がつく」

杏子「不氏身の体だろうが、そこを突かれてしまえば……」

杏子「長所と短所は表裏一体と言ったところか」

824: 2013/03/27(水) 23:52:15.81 ID:B3MJg5ALo

Sayakaのドリー・ダガーは、魔法武器に取り憑いているスタンド。

つまり、スタンド=魔法武器という具体的な物であったため、破壊という撃破の手段があった。

しかし、もし相手がドリー・ダガーのようなダメージのフィードバックが特殊なものでなかったら、

どれだけダメージを与えれば『破壊された』という扱いをされるのかがわからない。

「スタンドの破壊」の終着点は抽象的なものとなっていただろう。

ソウルジェムを破壊しなくても、魔法少女は氏んだと思えば氏ぬが使い魔ではそうとは限らない。

今倒した相手は、ソウルジェムという即氏のツボがない。

そして魔法を持ち人外故の残虐性と耐久力を持つ敵。

炎のスタンド、強力なスタンドだからこそ、二体のスタンドを同時に相手して勝てた。

しかし、もしそうでなかったら……それこそ戦闘に役立ちそうにないスタンドだったなら、

どうすれば殺せたものか全く想像ができない。スタンド使いの魔法少女という概念。

杏子は、改めて自分たちが戦っている敵の恐ろしさを実感した。


杏子「……もう一匹」

杏子「いるって言ったよなぁ……逃げていないよなぁ?」

825: 2013/03/27(水) 23:53:05.94 ID:B3MJg5ALo

使い魔、Hitomiのスタンド能力『ティナー・サックス』は幻覚の能力。

幻覚で作り出した鏡で図書室を全面鏡張りにした。

鏡の光の反射により、杏子は苦しんだ。

ヤツがここにいるはずである。


杏子「……相手の立場になって考える」

杏子「これは戦いにおける基本的な考え方だ」

杏子「ソウルジェムを敢えて分離させるという発想……普通はそうこれとできない」

杏子「そしてソウルジェムを離してるってことはよ……どっかに隠してるってこと」

杏子「援護ができる程近くで見晴らしがよく、安全な場所……そうなると」

杏子「なぁ、あたしのスタンドよ……」

杏子「やろうと思えば『それくらい』できるだろ?」

826: 2013/03/27(水) 23:54:04.83 ID:B3MJg5ALo

炎のスタンド。

熱エネルギーを炎のヴィジョンで表現し、自在に操る能力。

その使い方を、杏子は本能で理解している。

亜人のスタンドは、手の平からゆらゆらと揺らめくオブジェのような形をした「炎」を生成した。

その炎はふわふわと浮かんでいる。

上下前後左右、それぞれに火の玉が等間隔にある、六つの炎の集合体。


杏子「洞窟とかで迷った時、火の揺れ方を見て風が通ってる出口を探す……なんていうような話をどっかで聞いたことがある」

杏子「これは……あたしの魔力が込められたスタンド炎だ」

杏子「魔力には、光や音みたいな……波長のようなものがある。その波長で魔女の居場所がわかったりするもんだ」

杏子「……この炎はそれを探知する……『魔力探知機』だ」


呼吸や運動等で気流が生じてロウソクの火が揺れるように、

魔力の波長を感知して揺れる特殊な炎。空気の影響は受けない。

827: 2013/03/27(水) 23:54:52.78 ID:B3MJg5ALo

「右の炎」が激しく揺れ「前の炎」が形を乱す。

杏子の前方、魔力探知機の右前方向。

探知機によると、その方向にある鏡から特殊な魔力の波が放たれていることがわかった。

距離的には近い。杏子は悠然とそこへ向かい、槍を振るった。

ガシャァァン

幻覚は聴覚や触覚も騙す。

鏡はあたかも本物のように音をたててバラバラに砕けた。

その裏に、目を丸くしている志筑仁美の概念、ティナー・サックスのスタンド使い、Hitomiがいた。

手に持っている青い宝石が黒い霧を出しながら溶けていっている。


杏子「よぉ……ここにいたかい。さやかの親友だそうだな。あんたのその姿」

Hitomi「あ、あぁ……あああ……!」

杏子「あんたがヤツのソウルジェムを預かって無敵の体に仕立て上げたんだな」

杏子「そして今破壊した鏡は、裏側から透けて見えるマジックミラー」

杏子「……さて、始末させてもらうぞ」

Hitomi「み、み……」

828: 2013/03/27(水) 23:55:20.50 ID:B3MJg5ALo

Hitomi「見逃してくださァい!殺さないで!」


Hitomiは頭を床に叩き付けて土下座をした。

魔法少女と使い魔、両方の概念を両立させた特異な使い魔。

そのソウルジェムを破壊されない限り氏ぬことはない。

しかし、それ以外。

スタンド使いではあるが、魔法少女でない、人間と使い魔の中間の存在。

それは人が氏ぬ程度で氏ぬ。使い魔としては簡単に氏ぬ。

スタンド使いでない限りわざわざ産み出す価値のない妥協点。


Hitomi「どうか!どうか見逃してください!何でもしますから!」

杏子「…………」

Hitomi「そ、そうだ!わ、私の母、もといアーノルドの居場所を教えましょう!」

Hitomi「交換条件ですわ!たっ、たかが雑魚と天秤にかけたらいい交渉に違いありません!」


829: 2013/03/27(水) 23:55:47.76 ID:B3MJg5ALo

杏子「使い魔とはいえ、親を売るのか」

Hitomi「い、命の方が大事に決まってますわ!」

杏子「…………」

Hitomi「ど、どうかお慈悲を……!」

杏子「ダメだね。我がスタンドは許さん」

杏子「そんなの、あたしが許さない」

Hitomi「……この人でなしィィィィィッ!」

杏子「うるせぇ。人でないくせに!」

Hitomi「HYYYYYYYYAAAAAAAAAAAHHHHH!」


Hitomiはそのままさっくりと刺殺された。

断末魔が途切れ、幻覚の世界が解かれる。

元の図書室――過去の見滝原中学校に戻った。


830: 2013/03/27(水) 23:56:24.17 ID:B3MJg5ALo

杏子「……スタンドを消滅させ、肉体を塵にした」

杏子「そうしたら分離させていたソウルジェムも消えていった……」

杏子「魔法少女の魂はソウルジェムだ」

杏子「ソウルジェムさえ無事なら多少無茶しても氏にはしないという認識をしていたが……」

杏子「スタンドが消滅したら本体も氏ぬ。ソウルジェム云々以外にも氏因は確かに存在している」

杏子「実際使い魔だったが魔法少女でもあるあいつは、そうやって氏んだ。ソウルジェムも後を追って消滅した」

杏子「スタンドは精神のエネルギー。精神と魂は類語みたいなもんじゃあないのか?」

杏子「精神ってのは何なんだ?」

杏子「……違う」

杏子「ゾンビみたいな体という表現……あの時は否定しなかったが、それは違うんじゃあなかろうか」

杏子「……ゾンビには勇気はあるか、否、ノミが大きな動物に飛びかかるのと同じように、そんなものはない」

杏子「人間の素晴らしさは勇気の素晴らしさだ、あたしは今、勇気がムンムンと湧いてきているからな」

831: 2013/03/27(水) 23:56:59.30 ID:B3MJg5ALo

杏子「ゆまから貰った気持ち、マミから受け継いだ意志」

杏子「あたしのこの体に、人の心は確かに存在しているじゃないか」

杏子「精神と魂は同じものだ」

杏子「しかしソウルジェムに入れられた魂は……ただの表現に過ぎないんだ」

杏子「全くの別物……人間の魂は分離なんてされちゃあいない!」

杏子「……いや、待てよ」

杏子「じゃあキュゥべえの集めてる感情エネルギーってのは何なんだ?」

杏子「何で感情でソウルジェムが濁るんだ?何で魔女になるんだ?」

杏子「あれ……?わけわかんなくなってきた。やっぱ魂と精神って別物なのか?」

杏子「え、えーっと……えっと……」

杏子「…………」

杏子「フッ、ソウルジェムのない魔法少女……恐ろしい敵だったぜ」

832: 2013/03/27(水) 23:58:21.22 ID:B3MJg5ALo

――杏子は思った。


……それにしても危なかった。

あたしが勝てたのは……スタンドのおかげだ。

いつどこで目覚めたのかしらないが……スタンドがなければ普通に氏んでいただろう。

そして……精神論になるが、さやかのおかげでもある。

さやかはあたしの友達になってくれた。

さやかが待っている。それだけであたしは救われる気持ちになるからだ。

誰かがあたしを待っている。そういう生活を、あたしは求めているんだ。

思えば、ほんの少しの間だったが、ゆまがあたしの帰りを待ってくれていた……

そういう時期が、今なら幸せだったと胸を張って言える。

ゆまをマミに置き換えても言える。むしろ、マミとゆまが迎えてくれたらなお良かっただろうに。

今ならさやかもその中にぶち込んでしまえ。想像するだけでとっても幸せじゃねぇか。ゆまもマミもさやかも……みんないるなんてな。

そういうのは……失って初めて、実現が不可能だとわかってやっと気付くもんだ。いつだってそうだ。

もし、ゆまもマミも生きていたとて……こんな妄想をしたところで心を和ませることはなかっただろうからな。

あたしってのはつくづく素直じゃない人間だ。後悔ばっかりの人生だ。

833: 2013/03/27(水) 23:59:39.22 ID:B3MJg5ALo

杏子「……待ってろ。さやか」

杏子「いや、ほむらでも構わない。キリカはまどかを避難させれただろうか」

杏子「とにかく、誰かしらに合流する必要がある」

杏子「怪我はぼちぼち何とかしておくとして……」

杏子「行かなければ……今すぐに……!」


杏子は、自分のスタンドに名前が必要だと思った。

ほむらのストーン・フリーのように、ものには名前が必要だ。

「ロッソ・ファンタズマ」は「赤い幽霊」という意味だと、かつてマミから聞いた。

そこで、この能力の名前は『赤』という言葉と使おうと考えている。

杏子は無名のスタンドを持ってして、次の戦いのために心の準備を構えた。


834: 2013/03/28(木) 00:00:15.62 ID:k+xrQ6cbo

ドリー・ダガー 本体:Sayaka

破壊力-A スピード-A  射程距離-C
持続力-A 精密動作性-C 成長性-C

魔法武器の剣に取り憑いているスタンド。その性質は「転嫁」
自身に受けるダメージの「七割」を刀身に映りこんだ相手に転移する。
三割は喰らうが、Sayakaの治癒能力と半自動カウンター能力は相性抜群。
Sayakaは常に魔法少女の姿をしているため、24時間スタンド剥き出しである。
光の反射を利用した能力であるため、暗闇では発動しない可能性がある。

A-超スゴイ B-スゴイ C-人間と同じ D-ニガテ E-超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある

835: 2013/03/28(木) 00:03:13.13 ID:k+xrQ6cbo
今日はここまで。お疲れさまでした。

まだ名前は出てませんが、エジプト人のスタンド発現。
サブタイトルでもうほとんどバラしてたようなものでしたが、
それを言ったら次回のサブタイトルなんかもっとバラしてるようなものですがね

今になって思えば火事で家族を失ったのに炎のスタンドとか嫌味過ぎますが
何か納得してるのでそれでよしとしましょう

845: 2013/03/28(木) 21:58:21.32 ID:k+xrQ6cbo

#24『答え③なんて、あるわけない』


方向感覚や土地勘に自信があるとは言えない。

それでも、学校で迷子になるということは普通ありえない。

ましてや少なくとも一年も通った学校で迷うことは絶対にない。

別のクラスの友人達と一緒に歩いていたはずだった。

自分の教室へ行き、三人の友人に会おうと思っていたところだった。

志筑仁美は今、たった一人、廊下をさまよっている。

常に小走りだったため、息が切れ始めた。


仁美「はぁ……はぁ……」

仁美「な、何……何なの……!?」

仁美「どこに行ったの!?梨央さん!花都さん!」

846: 2013/03/28(木) 21:59:36.64 ID:k+xrQ6cbo

いつの間にか、自分の両隣にいた友人が消えた。

仁美は自分で自分の状況を整理して、頭がますます混乱する。

階段を上っていたと思っていたら、いつの間にか下りていた。

二階から三階へ向かっていたのに、いつの間にか一階にいた。

上っていくと天井につきあたる階段。床に立ったドア。

段数が十三になった階段を途中三回曲がって上らされると、最後の一段は高さが三メートル。

夢でも見ているのではないか。だとすれば悪夢が過ぎる。

疲れているんだ。そう思った。

仁美は空間に孤立させられた。

「もう一人の自分」のスタンド、ティナー・サックスの迷宮によって……。


847: 2013/03/28(木) 22:02:12.00 ID:k+xrQ6cbo

「お姉ちゃん迷子?」

仁美「……え?」

仁美「あ、あなたは……?」


幼い印象を受ける可愛らしい声が、背後から聞こえた。

小学生くらいの童女がいる。

緑色のツインテール。猫の耳を象ったようなカチューシャ。

フリルのついた可愛らしい服装。

ニコニコと微笑んでいる。そしてこの子には左腕がない。

隻腕の子どもがそこにいる。

「名前は『ゆま』って言うの。よろしくね。仁美お姉ちゃん」

童女は名乗った。千歳ゆまの概念『Yuma』だった。

この結界の使い魔が、仁美と出会ってしまった。

848: 2013/03/28(木) 22:04:18.73 ID:k+xrQ6cbo

仁美「へ……?」

仁美「どうしてあなた……私の名前を……」

Yuma「これが迷子の理由だよ」

仁美「……?」

Yuma「仁美お姉ちゃんはHitomiお姉ちゃんの能力ではぐれさせられたの」

Yuma「Hitomiお姉ちゃんの能力……『ティナー・サックス』は幻覚の能力」

Yuma「そういうことができて、見失わせることができる能力」

仁美「私の……能力?」

Yuma「あ、ううん……違うよ。『違うヒトミお姉ちゃん』だよ」

Yuma「ちなみにあなたの担任の眼鏡のせんせーはもう氏んじゃったのかな?」

仁美「……え?」

Yuma「えい!『猫さぁん』ッ!」

849: 2013/03/28(木) 22:05:34.98 ID:k+xrQ6cbo

ペイッ

Yumaは右手に持っていた「何か」を仁美に向けて放り投げた。

銀色のそれはくるくると回転する。

仁美は反射的に手を出し、顔に向かって飛んでくる物体を掴んだ。


仁美「きゃっ!」

仁美「……?」

仁美「……百円玉?」

仁美「え、えーっと……ゆまちゃん……でしたっけ?」

仁美「人に物を……お金を投げちゃいけませんわ……」


どこかで拾ったのか、ピカピカした真新しい百円玉。

製造年は去年。生暖かい小銭。

850: 2013/03/28(木) 22:07:43.74 ID:k+xrQ6cbo

Yuma「『キラークイーン』の特殊能力……それは……『触れたもの』は『どんなもの』でも……」

Yuma「『爆弾』に変えることができる……たとえ百円玉であっても……」

Yuma「フフ、どんなものであろーとね」

仁美「……!?」

仁美「……ハッ!」


仁美は、不意に氷で背筋を撫でられたかのようにビクリと体を強ばらせた。

嫌な予感がした。生命の大車輪が仁美の第六感を後押しした。

「す、捨てなくては!」

よくわからないが、この百円玉が危険なものだと思った。

仁美はそれを放り投げようとした。

カチリ

Yumaのスタンド能力。キラークイーンが触れた物体は爆弾となる。

遅かった。

百円玉は仁美のすぐ側で爆発した。

爆風が仁美の体を包んだ。

851: 2013/03/28(木) 22:08:26.71 ID:k+xrQ6cbo

爆発の煙がもくもくと揺れる。

仁美は廊下に、仰向けに倒れた。廊下は赤く濡れた。

目で見て致氏量だとわかるくらいの血を流し、ピクリとも動かない。


Yuma「…………」

Yuma「ふふーん。やったね」

Yuma「これでYumaのチームはプラス一点だね!ルンルン!」

Yuma「んー、今はあまりお腹空いてないからなぁ」

Yuma「爆発させちゃおーかな?」

Yuma「いや、でも勿体ない……」

Yuma「だけど殺さないわけにはいかない」

Yuma「同じ次元に同じ概念はあってはならないの」

Yuma「…………」

Yuma「ッ!」

852: 2013/03/28(木) 22:09:32.75 ID:k+xrQ6cbo

Yuma「猫さんッ!」

ガッ!

Yumaは勢いよく振り返り、キラークイーンは拳を繰り出した。

魔法少女と使い魔の中間だからこそわかる、獲物と天敵の気配を感じとった。

スタンドの手の甲は、背後から近づいた敵の『剣撃』を防御した。


Yuma「さ……『さやか』ッ!」

さやか「……くっ!防御、されたか……いい勘してる」


白いマントが揺れる。

青い魔法少女は苦虫を噛みつぶしたような表情をしている。

魔法武器の剣、その刀身が鏡のように光った。

キラークイーンが手首の角度を曲げて剣を掴もうとする前に、さやかは剣を引いた。

853: 2013/03/28(木) 22:10:29.18 ID:k+xrQ6cbo

さやか「仁美ィッ!」

Yuma「むむむ……!」


さやかは仁美が倒れた瞬間を目撃していた。

全力で走ったが、間に合わなかった。

Yumaの横をすり抜け、敵への警戒を維持したまま仁美の方へ走り寄る。

仁美は百円玉の爆発を喰らったことで腕が千切れかけ、

腹部が裂け、顔の肉の一部が抉れ吹き飛んでしまっていた。

血の詰まった風船が割れたかのようだった。

さやかは吐き気を催した。

単にグロテスクだからだけではなく、それが親友であるから。


さやか「……くっ」

さやか「仁美……」

さやか「……今、治してあげるからね」

854: 2013/03/28(木) 22:11:54.73 ID:k+xrQ6cbo

さやかは感じていた。仁美のかすかな生命の鼓動を。

仁美が百円玉爆弾を投げ捨てた第六感による行動は早かったのだ。

今なら治癒魔法で傷を治せる。

しかし、命を狙われている結界の中、生き返らせて何になろう。

氏の恐怖を再び味わうだけだ。


さやか「……望みは捨てない」

さやか「また、怖い思いをさせるだろうけど……」

さやか「親友には、生きていてほしい」

さやか「ほんの僅かな可能性さえあれば……」

さやか「例えもう氏なせてくれと懇願されたとて、あたしは治せるものは治す」

さやか「それが……好きな人に氏なれて残された者の気持ちなんだ……」

855: 2013/03/28(木) 22:14:24.45 ID:k+xrQ6cbo

Yuma「いいの?さやか……治しちゃうなんて」

Yuma「氏なせちゃった方がよかったんじゃなぁい?」

Yuma「それにしても生きてたなんて……当たりどこがよかったのかな?」

Yuma「シニゾコナイってやつだね」

さやか「…………」


さやかは手を仁美にあて、魔力を仁美に込める。

傷がみるみると塞がっていき、抉れた肉が再生する。

失った血も補完され、その内失った意識も取り戻される。

ウェーブがかった髪にへばりついた血の汚れまでは落とせない。

裂けた制服までは直せない。肌に塗りたくられた血は消せない。

血みどろの布きれを羽織った半裸の仁美が今、目を開けた。

856: 2013/03/28(木) 22:17:37.19 ID:k+xrQ6cbo

仁美「……ん」

仁美「……え」

仁美「さ、さやかさん……?」


視界がハッキリしてきた。

心配そうな顔をした親友が、手を差しのばしている。

そういえば熱した鉄を抱きかかえたような痛みが消えていた。

上体を起こせる。瞬きができる。首が動く。

指が曲げられる。息が吸える。心臓の鼓動を感じる。

肌寒い。痛くない。熱くない。苦しくない。

氏にそうと思ったことが夢の話かのようだった。

氏ぬほど苦しかったということは夢の話ではないようだった。

仁美は、理解不能な状況に置かれ、理解不能な事象に襲われている。

脳内を巡り巡る電気信号が、ある答えと行動を導く。

857: 2013/03/28(木) 22:18:56.44 ID:k+xrQ6cbo

仁美「…………」

さやか「大丈夫?仁美……」

さやか「……正体がバレちゃったね」

さやか「だけど、あたしは正義の味方だよ。でもクラスのみんなには内緒ね」

さやか「立てる?本当は一緒についてってやりたいとこだけど……」

さやか「残念ながら、今はそうはいかない」

さやか「この『化け猫』の相手をしなくちゃならないんでね」

さやか「あんたを庇いながら逃げながらあいつとやれるほど、私は器用でないんだ……」

さやか「あたしの見える位置にいてね」

さやか「こんな迷路、一人で放ってはおけないからさ」

仁美「…………」

さやか「……混乱する気持ちもわかるけど、ほら、手を」

858: 2013/03/28(木) 22:19:50.49 ID:k+xrQ6cbo

仁美の目の前にある光景。

何があったのかはわからないが、氏にかけた。

致命傷を負わせたのは、そこにいる猫の耳を象ったカチューシャをした童女。

それを治癒した親友であるさやか。

童女から早乙女先生が氏んだということを突きつけられた。

親友は何でも切り裂いてしまいそうな凶器を握っている。

今はすっかり消えた、焼け氏ぬかのような痛みが脳裏に浮かぶ。


さやか「どうしたの?仁美。まだどっか痛む?」

仁美「……の」

さやか「……ん?」

仁美「け……の……!」

さやか「……仁美?」

仁美「…………」

仁美「『ばけ』……『もの』……!」


859: 2013/03/28(木) 22:21:04.71 ID:k+xrQ6cbo

さやか「…………」

さやか「え?」

仁美「ば……『化け物』ぉっ!」


自分を頃しかけたのは得体の知れない、魔女のような恐ろしい力を持った、

人の姿をした恐ろしい「化け物」だ。

そして氏にかけたところ、親友の姿が、得体の知れない力で治療した。

それは同じような能力だと思った。そうに違いないと決めつけた。

同じ能力を持つということは、同類に違いない。

目の前の親友の姿もまた「化け物」に違いない。


仁美「ち、近づかないでェッ!」

仁美「いや!いやぁ!」

さやか「…………」

仁美「いいいぃぃぃやあぁぁぁぁぁぁあぁぁっ!」

860: 2013/03/28(木) 22:22:20.40 ID:k+xrQ6cbo

パッシィァ!

仁美はさやかに差し出された手を払いのける。

仁美は震えてうまく動かせない足を必氏に持ち上げ、半ば強引に立ち上がる。

そして驚いた猫のように身を翻し、不格好なフォームで駆けていった。

恐怖に支配された少女は悲鳴をあげながら全力で脚を動かした。

途中で転びそうになるも、なんとか転ぶまいともがき、必氏に逃げていった。

廊下に響いた悲鳴はだんだんと小さくなり、いずれ聞こえなくなった。


さやか「…………仁美」

さやか(……そうか。化け物、か……)

さやか「…………」

Yuma「間違ってはいないよね。魔法少女ってゾンビみたいなものだから」

さやか「…………」

861: 2013/03/28(木) 22:23:49.79 ID:k+xrQ6cbo

その気になれば、痛みを消すことができる。

肩を抉られても、顔面を引っ掻かれても、鳩尾を刺されても、

その気にさえなれば、どんな痛みも感覚を遮断できる。

しかし、たった今、仁美に叩かれた手が……とても痛かった。

今までの人生で最も痛く感じた。さやかはそう思った。


Yuma「ある種の事柄は氏ぬことより恐ろしい……人間面して生きるより、氏なせてあげるのがYuma達の優しさだよ」

さやか「…………」

さやか「……ふふ。あれだけ元気ならきっと生き延びるでしょ」

Yuma「……強がらなくてもいいよ?」

さやか「強がってなんか……いないっつの」

さやか「あたしだって……こんなシチュエーション。負傷を一瞬で治されたら化け物だって言うわ」

さやか「仁美のリアクションは当然だよ。そりゃ当然」

Yuma「へぇ……」

862: 2013/03/28(木) 22:25:10.32 ID:k+xrQ6cbo

Yuma「Yumaね……」

Yuma「さやかが助けている時……なんてこともなく背後から近づいて……」

Yuma「キラークイーンでさやかのソウルジェムを蹴り割っていれば……それで終わってたよ?」

さやか「…………」

Yuma「それをしなかったのは……これからの長い人生、さやかなんていうチンケな概念に隻腕にさせられたという汚点を背負って生きたくなかったからだよ」

Yuma「それを払拭するには、さやかを『正々堂々』と真っ向から戦って、頃すこと」

Yuma「これは儀式なんだよ。Kyokoの氏を弔い、未来を生きる決意の表れ……」

Yuma「フェアがいい。お姉ちゃんみたいなことを言うようだけど」

さやか「…………」

Yuma「キラークイーン。生前は猫さんと呼んでいたし、今も呼ぶ」

Yuma「猫さんはゆまが好き」

Yuma「でも……さやかには見えない能力があるって時点で左腕がなくてもフェアとは言えないかな?」

863: 2013/03/28(木) 22:26:13.01 ID:k+xrQ6cbo

さやか「…………いいや」

Yuma「……?」

さやか「あたしには……『見える』よ……」

Yuma「……え?」

さやか「あたしには……『キラークイーンが見えている』んだ」

Yuma「何を、言ってるの?」

Yuma「ど、どうせ言うならもっと面白いジョークを言ってね」

さやか「…………」


Yumaは悟る。……見えている。ハッタリではない。

さやかは明らかに、背後のスタンドの顔を見ている。そういう視線をしている。

Yumaの背後に、質量感はないが圧倒的存在感を放つ人型の影。

薄いピンク色の猫っぽい頭をしている「キラークイーン」がいる。


864: 2013/03/28(木) 22:27:23.94 ID:k+xrQ6cbo

Yuma「……!」

さやか「理由はわからないが……何故か見えている」

さやか「殺人鬼みたいな目をしている……能力は凶悪で……そう思えばルックスもおぞましい」

Yuma「ど、どうして……?」

Yuma「どうして、さやかに……スタンドが……?」

Yuma「ほむほむならまだしも……」

Yuma「だって、だって……スタンドを発現させる……引力の魔女レイミはいない……」

Yuma「なのに……何でスタンドが……」

Yuma「Yumaみたいに……スタンドが欲しいって契約を……?」

Yuma「いや、違う……さやかは治す魔法がちゃんと使えてる……それはない。……何で?」

さやか「……あたしもわからない。でも、見えているよ」

865: 2013/03/28(木) 22:28:24.70 ID:k+xrQ6cbo

Yumaの背後には、人型の、猫のような頭をした半透明の像がいる。

キラークイーン。それが名前。

病院に生じた結界にて、さやかはYumaの左腕を切断したため、

その腕が再び生えているということがなかったため、スタンドの左腕もない。

さやかは、スタンドが見えていることに、不思議と心は落ち着いていた。

しかしさやかはまだ、厳密にはスタンド使いではない。

スタンドが見えることと、使えることは話が違う。


Yuma「えーい!もうなんだっていい!」

Yuma「バラバラにして頃してあげちゃうんだから!」

さやか「…………」

866: 2013/03/28(木) 22:32:21.55 ID:k+xrQ6cbo

さやか「ほむらという経験者がいるからね……みんな知っているよ」

さやか「触れた物を爆弾にする能力……」

さやか「その射程距離はせいぜい1メートルか2メートル」

さやか「加えて格闘能力はそれ程強くはない……」

さやか「左腕がないことで、左手から出る『魔力を探知して自動追尾する爆弾戦車』は既に使えない」

さやか「それくらいであんまり図に乗っちゃいけない」

Yuma「…………」

Yuma「ほむほむのことは好きだけど……お喋りなのはいただけないなぁ」

Yuma「……スタンドが見えるさやか。一方Yumaは隻腕」

Yuma「ひょっとしてYumaの方がアンフェアになっちゃった?いいや、何も問題ないね」

867: 2013/03/28(木) 22:33:17.16 ID:k+xrQ6cbo

さやか「そうはいかないよ」

さやか「キラークイーンとやらは、そう遠くまでいけない」

さやか「ほむらという経験者がいるからね……みんな知っているよ」

さやか「触れた物を爆弾にする能力……」

さやか「その射程距離はせいぜい1メートルか2メートル」

さやか「加えて格闘能力はそれ程強くはない……」

さやか「左腕がないことで、左手から出る『魔力を探知して自動追尾する爆弾戦車』は既に使えない」

さやか「それくらいであんまり図に乗っちゃいけない」

Yuma「…………」

Yuma「ほむほむのことは好きだけど……お喋りなのはいただけないなぁ」

Yuma「……スタンドが見えるさやか。一方Yumaは隻腕」

Yuma「ひょっとしてYumaの方がアンフェアになっちゃった?いいや、何も問題ないね」

868: 2013/03/28(木) 22:36:20.47 ID:k+xrQ6cbo

Yuma「どうせ近づかなきゃさやかはYumaを倒せないよ。剣だもんね」

Yuma「それに、スタンドには目覚めたかもしれないけど使い方がわかっていないよね」

Yuma「使えるなら既に何らかの形で使ってるはず」

さやか「…………」


さやかは剣を持った手を突き出し、

剣先でYumaの額を指した。

そして、さやかは宣言をする。


さやか「あんたは……恭介の仇で、あんたの保護者はマミさんの仇だ……」

さやか「あたしの名は、美樹さやか」

さやか「我が心の師、マミさんの魂の名誉のために!」

さやか「我が友、恭介の心のやすらぎのために……」

さやか「このあたしがあんたを消滅させてやる!」

869: 2013/03/28(木) 22:36:49.38 ID:k+xrQ6cbo

さやか「…………」

さやか(……と、まぁ、意気込んでは見せてみたものの……)

Yuma「Yumaの能力は、即氏の能力」

Yuma「体が爆発すれば、当然体に埋め込まれたソウルジェムは破壊される」

Yuma「Yumaには勝てないよ。あっかんベー」

さやか(……まぁ、確かに難しいだろう)

さやか(相手は近づかれないと爆弾にできない)

さやか(しかし近づかないとあたしは攻撃できない……)

さやか(隻腕とは言え……触れられた時点で負けだなんてハードすぎる!)

さやか(ただ……理由は全くわからないけど、見えないはずのスタンドが見えているというのは有利なことだ)

さやか(あたしにも……十分勝機はある)

870: 2013/03/28(木) 22:37:31.94 ID:k+xrQ6cbo

……そこで問題だ!

この最強レベルの超能力に対してどうやって勝つか!


3択――ひとつだけ選びなさい

答え①美少女のさやかちゃんは突如突破のアイデアがひらめく

答え②仲間が来て助けてくれる

答え③勝てない。現実は非常である


……あたしが○(まる)をつけたいのは答え②だけれども期待はできない。

都合の良いタイミングに杏子やほむら、キリカさんが少年漫画のヒーローのように、

 ド ン ! と登場して「待ってました!」と間一髪助けてくれるってわけにはいかない……。

逆に既に苦戦をしているところかもしれないと言うのに……!

871: 2013/03/28(木) 22:38:09.98 ID:k+xrQ6cbo

さやか「やはりここは①しかないッ!」

さやか「うおおおおおッ!」

Yuma「来た来た来た来た来たァァァ――ッ!」

Yuma「猫さんッ!」


さやかは剣を構え力強く踏み込んだ。

剣は相手を斬るためにある。

斬るには、届かなければならない。

例え恐ろしい近距離武器を相手が持っていようとも、

近づかないことには何も始まらない。

やれることはやるべきだ。

――半透明の像はさやかの方へ突っ込んでいく。

872: 2013/03/28(木) 22:38:57.09 ID:k+xrQ6cbo


左腕がないとはいえ、キラークイーンは強かった。

残った右腕で、いとも容易く剣を掴まれてしまう。

剣を握っても指は切れない。スタンドはスタンドでしか傷つかない。


さやか「う、うぅ!」

Yuma「剣を止めた!そして――!」

『しばッ!』

キラークイーンは体勢を低くし、左脚を振り上げた。

腹部のソウルジェムにつま先が届く位置。剣を掴まれているため、

武器を捨てない限り回避は不可能。武器を手放すわけにはいかない。

さやかは体を捻らせる。標的を逸らし脇腹に当てさせることにした。

足で触れても爆弾にすることはできないのは知っている。あくまで注意すべきは手。


873: 2013/03/28(木) 22:40:10.14 ID:k+xrQ6cbo

ガスッ!

さやか「グッ!……ぐふっ!」

Yuma「剣を爆弾にしても意味がない……」

Yuma「猫さん!今だよ!」

ガシィィッ!

キラークイーンは剣から手を離し、蹌踉めいたさやかの手首を『掴』んだ。

キラークイーンはさやかに触れられてしまった。


さやか「……!」

さやか「う、腕を掴まれたッ!」

さやか(触ったら爆弾に……恭介のように……)

さやか「くっ……!」」

Yuma「触らないと効果は発揮できない!」

さやか「うおおおおおッ!」


肉体の爆弾化が進行する。

さやかは咄嗟に剣を左手に持ち替えた。

さやかの右腕の皮膚が裂け煙が噴出し爆発する数秒前。

874: 2013/03/28(木) 22:41:13.30 ID:k+xrQ6cbo

キラークイーンはさやかから手を離し、

人差し指についた『起爆スイッチ』にその親指が触れた。

カチリ

Yuma「負けて氏んじゃえ!猫さん!」

さやか「うおああああぁぁぁッ!」

Yuma「ッ!」


さやかの右腕の肉が割れ始める。

右腕から、スタンドの爆発エネルギーの熱風が飛び出す。

爆発した。

さやかは爆風に巻き込まれる。

衝撃で空気が振動する。

白い煙がもくもくと立ちこめた。

875: 2013/03/28(木) 22:41:52.63 ID:k+xrQ6cbo

Yuma「…………」

Yuma「……Yumaは」

Yuma「Yumaは……確かに……」

Yuma「確かに、さやかに触った……」

Yuma「なのに……何で……!?」

Yuma「ゲボ……ガボッ!」

Yuma「生き……てる」


ベロンッ

突如、Yumaの首の肉がパックリと裂けた。

体液がだくだくと流れ出る。

気道に体液が流れ込み、喉の中、口内に液体があふれる。


さやか「う、うぅ~ん……!」


さやかは生きていた。顔に火傷を負い、額から血が流れている。

そして、右腕がなくなっている。魔法で断面を止血をする。

876: 2013/03/28(木) 22:43:01.05 ID:k+xrQ6cbo

Yuma「……『Yumaを斬った』の?さやか……ガボッ、いつ……?」

さやか「…………」

Yuma「うぅ……痛い……ゴボゴボ、ものすごく痛いよ……涙まで出てくるよ……ゴボ」

Yuma「でも……Yumaは強い子だもん」

Yuma「Yumaも泣かないもんっ!」


Yumaは血という概念の体液を油粘土のような塊に変化させて傷を塞いだ。

さやかは立ち上がる。

右腕があった場所からドバドバと血が流れ出る。


さやか「へ、へへ……や、やらせていただきましたァん!」

さやか「爆弾にされる前に……『腕を斬り落とした』」

さやか「スピードには自信があるんだ……」

さやか「あたしの体が爆弾になる前に……左手で右腕を斬り落として……爆弾女化を回避した」

877: 2013/03/28(木) 22:43:34.78 ID:k+xrQ6cbo

Yuma「…………」

さやか「右腕爆弾の威力は強烈だったけど……」

さやか「爆発をくらいつつ、バックステップしつつ、そのまま左手の剣であんたの首を斬った!」

さやか「ダメージを軽減できたし、耐えき、……った」

Yuma「……でも後ろに下がったから傷はそう深く斬れていない。大したダメージじゃないもん」

Yuma「惜しかったねぇ……もう一歩でも前に踏み込んでいれば首を落とせてたものを」

さやか「う……」


さやかは切断した腕を魔法で治療した。腕が再生する。

――キラークイーンに爆発される瞬間、さやかは自らの腕を切り離していた。

それにより、爆弾化の対象が「さやか」ではなく「腕」に転移し、

爆弾の腕を体から離し、爆風を浴びながら相手を斬る。

直情タイプのさやかだからこそできるシンプルで強引な一矢。

それが、美少女のさやかちゃん苦肉の策だった。後ろに下がった故に、爆氏を避けられたが与えた傷も浅かった。

878: 2013/03/28(木) 22:44:21.03 ID:k+xrQ6cbo

さやか「はぁ……はぁ……」

さやか「くそっ……」

さやか(ほむらからの情報……ソウルジェムは首の後ろ)

さやか(あと少しだったのに……くっ!)

さやか(もうちょいで……ソウルジェムごと首を断てたのに!)

Yuma「……それでなに?さやか」

Yuma「これが、Yumaとキラークイーンを倒す策?」

Yuma「キラークイーンへの防御策?」

Yuma「同じ手が通用するほど、Yumaも子どもじゃないよ」

Yuma「猫さんは腕以外に触れればいいんだよ。さやかは自分の首を切り落とせる?」

Yuma「Yumaもこれ以上痛いのは嫌だから……次が最後で最期にする。でも、それは今じゃない」

Yuma「タイミングはさやかが決めていいよ。いつでもおいで。逃げるならそれはそれで構わないけど……?」

さやか「…………」

879: 2013/03/28(木) 22:44:56.62 ID:k+xrQ6cbo



答え③


――答え③

――――答え③


さやか(あぁ……)

さやか(もう……ダメかもしれない)

さやか(勝てるはずがない……あんな……とんでもない能力に……)

さやか(逃げるなんてありえない。逃げようとしたら何らかを拾って爆弾にして、投げつけてくるに違いない。逃げながらでは避けれる自信がない)

さやか(蛇に睨まれた蛙の気分だ……)

さやか(……勝てない。こいつには勝てない)

さやか(そうか……それじゃあ、あたし……氏ぬのか。ここまでなのか)

さやか(…………残念だけど、仕方がない)

880: 2013/03/28(木) 22:45:38.72 ID:k+xrQ6cbo

さやか(……あたしの自業自得だ)

さやか(あたしがほむらの意見に反対しないで、一緒にいてたら……)

さやか(仁美がこいつと会う前に、魔女を殺せて一掃できた可能性があったのなら……)

さやか(あるいは、魔女を護衛するってんで使い魔達が魔女んとこに集まって仁美と出くわさずに済んだかもしれなかったなら……)

さやか(あたしは……勝手なことをして、勝手に殺されるだけじゃあないか)

さやか(あたしって、ほんとバカ……)

さやか(……思えば今までの人生振り返って……楽しいこともそれはそれでたくさんあったけど……)

さやか(シケた一生だったな……)

さやか(さようなら……みんな……勝利を願ってるよ)

さやか「……こうなりゃ、自爆でもしてやろうか」

さやか「案外それが一番の得策だったりして……さやかちゃん爆弾で道連れに……」

881: 2013/03/28(木) 22:46:19.65 ID:k+xrQ6cbo

『その必要はないわ』


さやか「…………?」

さやか(……え?い、今……何か聞こえたような……)

『美樹さやか。助太刀する』

さやか(……この、声)

さやか(テレパシー……!)

さやか(あ、あたしは……あたしは!)

さやか(あたしはこの声を知っている!)

『やっと"見つけた"わ……よく今まで生きていてくれたわ』

『あなたみたいな直情タイプは放っておきたい気持ちもなきにしもあらずだったけど……勝手に氏なれても困るからね』

『どうやらキラークイーンと交戦しているようね……ハッキリ言わせてもらうけど、あなたではキラークイーンに対して勝機はない』

さやか『あ、あんたは……』


さやか『ほむらッ!』

882: 2013/03/28(木) 22:48:23.07 ID:k+xrQ6cbo

厳しくも優しさを感じる声が脳に響いた。

Yumaはさやかをにんまりと笑みながら見ている。

さやかがほむらとテレパシーをしているとは到底思っていない。

さやかはほむらとの通信を続ける。

絶望の状況からの救いの声。

地獄で歩いているところに天から垂らされた蜘蛛の糸を見つけたかのような気持ちになる。


ほむら『いちいち言わなくてもわかるでしょう?』

さやか『ほむら!ど、どこかで見ているの!?いつの間に!?』

ほむら『視覚ではわからない。音よ』

さやか『音?』

ほむら『いつからかと言うと、Yumaがいつでもかかって来いと言った辺りから』

さやか『じゃあたった今……』

ほむら『いいからそのままテレパシーを続けて。今はYumaを頃すのが先決』

さやか『わ、わかった……!』

ほむら『……いい?私は今、訳あって身動きが取れない』

883: 2013/03/28(木) 22:49:34.36 ID:k+xrQ6cbo

ほむら『別の場所にいるけど、あなたがいる場所と状況はついさっき"見つけた"』

さやか(見つけた……?)

ほむら『こればかりは爆発の振動と相手が子どもであることに感謝しなければならないわ。それはさておき』

ほむら『……いい?二秒だけよ』

さやか『二秒?』

ほむら『二秒だけ、あなたは時間を止めることができる』

さやか『えぇッ!?な、何を言ってるの?!』

ほむら『私は誰かに触れた状態で時間停止をすると、その人も止まった時の世界で動けるようにできる』

ほむら『あなたには教えてなかったかしら』

さやか『さ、触ったって……!?』

ほむら『ネタ晴らしをすると、私の糸のスタンドであなたに触れている』

さやか『い、糸……ストリート・ファイターズだっけ?』

ほむら『ストーン・フリーよ』

884: 2013/03/28(木) 22:50:34.43 ID:k+xrQ6cbo

ほむら『丁度、ストーン・フリーはあなたの脚に触れているはず。右か左かはわからないけど』

さやか(……む)


さやかはYumaに悟られないよう、自分の脚に意識を集中した。

見ることはできないが……言われてみれば、わかる。

何かが触れている。巻き付いている。

『感覚で触られていることがわかる』

スタンド使いになったようだから、その正体を見ようと思えば見えるが……

それはできない。不審な動きをするわけにはいかない。


さやか(ひ、必氏になってて気付かなかった……)

さやか(ほむらがどこかから『糸』を伸ばしている!)

さやか(それであたしと接触を……!)

さやか(ほむらに触れていれば……時間の止まった世界に……)

さやか(答えは……答え②だったッ!)


885: 2013/03/28(木) 22:51:35.05 ID:k+xrQ6cbo

ほむらは今、どこかにいる。

そして、抜き差しならない状況にいる。

にも関わらず、あたしを助けてくれるというのか……。

どこかから、糸を伸ばして……その糸であたしを探しだして……。

音って言うことは、糸は音を伝って離れた場所の状況を聴くことができるんだ。

そして、あたしを助けてくれるなんて……。

それなのにあたしは……ほむらの制止を振り切って、勝手にくたばりそうになって……。


ほむら『いい?あなたのかけ声……まぁテレパシーだけど、それと同時に二秒間だけあなたを時の止まった世界に入門させる』

ほむら『私の状況が状況だから二秒だけ。これ以上は無理。それ以下になることはあるかもしれないけど』

ほむら『その二秒で、必ずYumaの葬るのよ。わかってると思うけどソウルジェムは首の後ろよ』

さやか『……わかった!』

Yuma「……ん?」

886: 2013/03/28(木) 22:53:00.91 ID:k+xrQ6cbo

Yuma「さ、さやかッ!?」

さやか「ッ!?」

Yuma「その足に伸びているのは何ッ!?」

さやか「マ、マズイ……!」

さやか『糸に気付かれたッ!』

ほむら『報告しなくていい!早く!』

さやか「う……」

さやか「うおおおおおぉぉぉぉぉぉッ!」

Yuma「え!?え、えーっと!?えっと!?」

Yuma「な、何かわかんないけどくらえッ!」

Yuma「キラークイーンッ!さやかを爆散させちゃえぇぇぇッ!」

さやか『今だほむらッ!ザ・ワールド!』

887: 2013/03/28(木) 22:54:04.81 ID:k+xrQ6cbo

――奇妙な感覚だった。

一瞬にして辺りは静寂になる。

前方に童女の姿が制止している。

さやかはまず、足下を見た。左の脛に『糸』が一周巻き付いている。

それが滑らかな手触りであることは見て分かる。色や太さは違うが、ほむらのサラサラした長髪を連想させる。

時には実感が必要。これでさやかは、ほむらと繋がっていることを実感でき、勇気が湧いた。

ほむらのテレパシーは聞こえない。

話何かしてないで早くしなさいということだろう。


さやか「……ほむら。本当にあんたは頼りになるヤツだ」

さやか「あんたがいなかったら、あたしは氏んでいたよ」

さやか「この絶望的な状況を打開する答えは……②の『仲間が来て助けてくれる』だった」

さやか「答え③なんて、あるわけない」

888: 2013/03/28(木) 22:54:43.62 ID:k+xrQ6cbo

剣の射程距離。

Yumaとキラークイーンは何もない宙を見ている。


さやか「こうして見る分には可愛い子だな……」

さやか「……使い魔と言えど幼女の姿を斬るのはチト抵抗がある」

さやか「しかし、やらねばならないね……こいつは恭介の仇」

さやか「このさやかちゃん、容赦せん」

さやか「罪悪感なんて、感じちゃあいけない」

さやか「後悔なんて、あるわけない」

さやか「……『斬首』の刑だッ!」


ガシャンッ!

さやかは一文字に剣を振った。

剣はYumaの首を、首の後ろのソウルジェムごと断ち切った。

Yumaの首が宙に浮き、固定される。同時に、キラークイーンの首に線が走る。

二秒経過。

889: 2013/03/28(木) 22:56:04.65 ID:k+xrQ6cbo

時間は再び動き出した。

ボトリ、と嫌な音がした。

使い魔と言えど、やはり童女の生首はできるだけ見たくない。

さやかは音の方向を振り返り確認することをしない。


ほむら『何って何を?』

さやか『え?』

ほむら『あ、ごめんなさい。テレパシーと間違えたわ』

さやか『?……どうしたのほむら』

ほむら『こっちのことよ。気にしないで』

ほむら『それより何?ザ・ワールドって』

さやか『べ、別に……』

890: 2013/03/28(木) 22:57:34.01 ID:k+xrQ6cbo

ほむら『この様子だと……勝てたようね』

さやか『うん!……あ、あのさ……ほむら』

ほむら『悪いけど、これ以上話せない』

さやか『あっ、ほ、ほむら!ほむらー!』

さやか「…………」

さやか「返事がないな……もう!」

さやか「ありがとうくらい言わせてくれてもいいじゃんか……」

さやか「…………」


脛に巻かれていたストーン・フリーの糸はなくなっていた。

糸を回収したらしい。

ほむらはほむらで、戦わなければならないのだ。

何やら後方で使い魔がぶつぶつ言っている。

891: 2013/03/28(木) 22:58:28.38 ID:k+xrQ6cbo


ボトリ

Yuma「――痛ッ!?」

Yuma「いたた……顔、打っちゃった……。……あれ?」

Yuma「Yuma……何で転んじゃったの?」

Yuma「Yuma……何が起こったの……?」

Yuma「あ、あれ……?え……?何……?これ……Yumaの体?」

Yuma「な、何でYumaの隣に……Yumaの体が……さやかもでっかくなって……何で……世界が……横……に……」

さやか「…………」


今にしてYumaは理解した。自分の頭と体が分離した。

ソウルジェムも破壊されている。キラークイーンは頭のないマネキンのようにその場で固まっている。

使い魔にとって、ソウルジェムは生命維持装置のようなもの。

維持ができないだけで、即するわけではない。しかし、どう足掻いてもすぐに氏ぬ。


Yuma「う、そ……Yuma……氏ん……じゃう、の?」

Yuma「そん……な……嫌……」


さやか「……グリーフシードで浄化……しないと」

さやか「ちょっと、使いすぎたかな……?」

892: 2013/03/28(木) 22:59:54.41 ID:k+xrQ6cbo

Yuma「い、いやぁ……そんな……!」

Yuma「Yuma……氏にたくな……い……」

Yuma「Yumaは……大人にぃ……」

Yuma「…………」

Yuma「――ハッ!」


氏が確定したYumaの心に絶望が襲った。

そしてその時、Yumaの脳裏にある声が巡った。


『だがッ!あたしら魔女アーノルド親衛隊"ヴェルサス"の他のヤツならッ!』

『仕留め損ねた獲物を前にしてスタンドを決して解除したりはしねぇッ!』

『たとえ腕を飛ばされようが脚をもがれようともな!』


病院にて交わした、Kyokoとの最後の会話。

その後、Kyokoは敗北し消滅した。

不意にあの光景が思い出された。

893: 2013/03/28(木) 23:01:23.98 ID:k+xrQ6cbo

Yuma(Yumaは……魔法少女じゃない……)

Yuma(Yuma達……『ヴェルサス』……魔法少女と使い魔の中間の生命体にとって……)

Yuma(ソウルジェムは……生命維持装置のようなもの)

Yuma(ギロチンで斬首された後その生首に意識があることがあるらしいってSayakaが昨日言ってた……)

Yuma(それみたいに……それよりちょっと長く、魔女の端くれとしての……猶予がある!)

Yuma(魔女に近ければ近いほど……それは長い)

Yuma(Kyokoは……使い魔としては産まれたてだったのに……)

Yuma(ソウルジェムを砕かれたら十秒も持たないのに……シビル・ウォーの本当の力を使おうとして氏んだ)

Yuma(Orikoお姉ちゃんだって……ほむほむにスタンドが目覚めたことをテレパシーで伝えてから氏んだ)

Yuma(Yumaも……Yumaも何かやらなきゃ……かっこ悪い……!)

Yuma(大丈夫……)

Yuma(氏ぬのは『二度目』だから怖くなんかない!)

894: 2013/03/28(木) 23:02:03.24 ID:k+xrQ6cbo

Yuma「キ……」

Yuma「キラァァァァァァァァァァァクイィィィィィィィィッ!」


さやか「ッ!?」

さやか「ま、まだスタンドが使えるのかッ!?」


Yumaの生首は叫んだ。

胴体、肺がなくとも喋れるのは、魔女という概念に進化しつつあったため。

『首のない』隻腕のキラークイーンは動き出す。

キラークイーンはYumaの首を拾い上げた。

『Yumaの生首』に触れる。

「本体を爆弾」にして、さやかに『投げ』つけた。


Yuma「一人でも頃して!ヴェルサスのためにィィィィィィッ!」

さやか「う、うおおおぉぉぉぁぁぁッ!?」

895: 2013/03/28(木) 23:03:30.10 ID:k+xrQ6cbo

叫ぶYumaの生首が浮き、向かって飛んでくる。

さやかはグリーフシードを片手に、完全な「浄化モード」に入っていた。

生首が最期の一矢を報いるとは、油断していた。勝ったと思っていた。

カチリ

不意を突かれたさやかが防御の姿勢を取ると同時に、Yumaの顔に亀裂が走り、爆発した。

焼けただれそうな熱と爆発の突風。

吹き飛ぶ生首の衝撃が「また」襲いかかる。


Yuma「GABAAHHHッ!」

さやか「うがああああああぁぁぁああぁぁぁッ!」


グリーフシードを持っていた左腕が拉げる。

脚の骨が砕け折れる。顔が焼け、部分部分の肉が剥がれた。

896: 2013/03/28(木) 23:05:54.30 ID:k+xrQ6cbo

Yumaの体は黒い煙となって消滅した。

さやかは熱風に押され、体を廊下に叩き付けた。


さやか「か……ガハッ……」

さやか「ま……まさか……最期の最期、で……」

さやか「ぐふっ……ゲホッ!」

さやか「何て……ヤツ……だ……」

さやか「だ、だが……あたしは……」

さやか「あたしは……生き延びた……ぞッ!」

さやか「ど、どうだ……まいっ……たか……!ゲホッ」

さやか「う……ぐ……くっ」

897: 2013/03/28(木) 23:06:30.92 ID:k+xrQ6cbo

さやか「グ、グリーフ……シード……」

さやか「くそっ……どっか……落とし……ちゃっ……た」

さやか「傷を……治癒しなくては……」

さやか「グリーフシードで……浄化……しなければ……」


さやかはグリーフシードを使おうとした瞬間に、Yumaの不意打ちを食らってしまった。

ソウルジェムの防御はできたが、その際、グリーフシードごと左腕を吹き飛ばしてしまった。

魔法武器の剣もどこかへ飛んでいったが、自分の意識は飛ばずに済んだ。

左腕以外にも、脚や肩や顔の肉は抉れ、肋や股関節も破壊されてしまった。

さやかは右腕だけの力で体を引きずり、左腕――握っているグリーフシードの方向へ。


さやか「くそっ……体が……重、い……」

さやか「ハァ、ハァハァ……」

さやか「行かなく……ては……!」

898: 2013/03/28(木) 23:07:31.89 ID:k+xrQ6cbo

さやか「……ほむらの……ところへ……」

さやか「いや……先に杏子の……とこのがいい、か……?」

さやか「とにかく、行かなく……ちゃ……」

さやか「……あたしの体……あと少しでいい……動いて……くれ……」

さやか「約束……したんだ」

さやか「杏子と……一緒……に……暮らすって」

さやか「す……救うって……ほ、むらを……助けるって……心に、誓っ……たんだ……」

さやか「それなのに……ほむらはあたしを助けられて……」

さやか「ほむらに……ありがとうって……言わなくちゃならない……!」

さやか「あたしが……あたし達が……!」

さやか「この街を守るんだ……!ほむらの願いを……叶えるんだ!恩を……報いて……!」

899: 2013/03/28(木) 23:08:16.85 ID:k+xrQ6cbo

さやか「そんで……杏子と遊びに行って……キリカさんと、もっと仲良くなって……」

さやか「まどかの笑顔を拝んで……仁美に、恭介のことを伝えるんだ……!」

さやか「そうしなくてはならないッ!」

さやか「あと……あと……数メートル……」

さやか「グリーフ……シー……」

さやか「ド……」


後少し、後少しで血みどろの左手におさまったグリーフシードに手が届く。

そうすれば、魔力を使って体の治癒ができる。

魔力の残りが少なくなり、自然と痛覚を遮断する魔法も解除されていく。

じわじわ全身が焼けるほどに熱くなるも、それを我慢する。

涙をポロポロと流しながら右腕で体を引いた。

そして、右手の指先が左腕に触れ――


『見ツケタゾ!』


900: 2013/03/28(木) 23:11:20.84 ID:k+xrQ6cbo

『シシッ!』


しかし、グリーフシードはさやかの左腕から『飛び出し』た。

グリーフシードはそのまま転がることもなく、

十センチ程宙に浮いて、手の中から飛び出した。

二足で立ち、四本の腕を持つ、虫のような物体がそこにいる。

アーノルドの使い魔の一匹が持つスタンド。

『ハーヴェスト』が、そこにいた。

前の時間軸の上条恭介のスタンド。

恭介の概念の使い魔が既に産まれていた。

そして、活動をしていた。

ハーヴェストはグリーフシードを抱えている。

能力は、この小さい体と広い射程距離で物を集めること。

そして群体型という特徴を持つ。

901: 2013/03/28(木) 23:12:44.80 ID:k+xrQ6cbo

小さなスタンドは、グリーフシードを抱えて方向を転換した。

さやかの動きが止まる。

ここで逃してしまえば、自分は氏ぬ。

……いや、ソウルジェムが穢れきり魔女となる。

しかし、ズタズタに裂けた筋肉繊維。もう指一本動かせない右腕。

吹き飛んだ左腕。抉れた体。さやかの魂は最早限界にあった。

心に抱いているのは失意や絶望はない。

それを吹き飛ばす別の感情がさやかにはあった。


さやか「………………」

さやか「…………杏、子」

さやか「…………ごめん」

さやか「……一緒に……いようって……約、束……したのに……」

902: 2013/03/28(木) 23:13:56.81 ID:k+xrQ6cbo

痛覚を遮断するまでもなく、何も感じなくなってきた気がする。

そのままソウルジェムが穢れきるのを待つしか、ただ静かに自分の最期を待つしかない。

謝罪と感謝の言葉を口にすることができただけ、まだ安らかな気持ちを持てる。

計り知れないほどの多くを妥協したが、満たされている。と思った。

悔いは残るが、仕方がない。氏ぬことに、恐怖はそれほど感じない。

そう思った。


『――ギッ!』

さやか「……ん?」


薄れ行く意識の中、

さやかの耳に不快な音……鳴き声が聞こえた。

瞼がストーンと重くなっているが、何とかさやかは目をあけた。

視界はぼやけている。

903: 2013/03/28(木) 23:17:25.29 ID:k+xrQ6cbo

さやか「あ……れ?」

さやか「…………」

さやか「こ、これ、は……!」

さやか「ぐくっ……う?」


掠れた視界の中、明らかに違和感がある。

自分の右腕が、『色褪せた銀色』に変化していた。

正確に言えば、その色が右腕に重なっていた。

何回か瞬きをしたら、視界がいくらかマシになっていく。

さやかの右腕が『甲冑』になっている。

正確に言えば、その像が右腕に重なっている。

そして、その質量感のあるヴィジョンの右手から、弾丸の軌跡のような細く真っ直ぐな線が走っている。

それは『レイピア』だった。


904: 2013/03/28(木) 23:18:33.10 ID:k+xrQ6cbo

鋭いレイピアがグリーフシードを抱えたスタンドを貫いている。

ハーヴェストが浮いている。

そのまま小さなスタンドは地面に落とした陶器のようにバラバラに崩壊した。

そして、コツンとグリーフシードも落下した。


さやか「この……この『甲冑』……」

さやか「あたしに……一体、何が……?」

さやか「……も、もしかして……」

さやか「これが……まさか……」

さやか「……間違いない、と思う」

さやか「これが……ほむらの言っていた……アレ……?」

さやか「あたしの『スタンド』……?」

905: 2013/03/28(木) 23:20:34.10 ID:k+xrQ6cbo

キラークイーンは見えていた。

それはつまり、スタンド使い予備軍ということを表している。

そのスタンドが、覚醒し発現したらしい。

さやかは心の中で「あれ取って」と念じた。

するとタンスと壁の間に落ちたマグネットを拾うかのように、

甲冑の右腕はレイピアで「それ」をピシッと弾いた。

そしてグリーフシードは丁度、さやかの鼻の先に転がってきた。

さやかは力を振り絞り、重い体を支えてグリーフシードを自分の魂に宛った。

力が抜けていく。軽い力で体が支えられるようになったためである。


さやか「偉いぞ……あたしの……スタン、ド……」

さやか「このさやかちゃんが……『名前』つけてあげちゃう」

さやか「……浄化してケガを治してから……ね」


906: 2013/03/28(木) 23:21:41.12 ID:k+xrQ6cbo

『完治』したさやかは「よいせっ」というかけ声と共に立ち上がった。

立って、改めで自分のスタンドを呼び出した。

「現れろ」と願うと出てくる。今度は全身が現れた。

負傷を治したためか魂を浄化したためか、色褪せていたように見えた甲冑は新品の銀食器のように光沢を放っている。

博物館に展示されていそうな中世騎士の甲冑がそのまま命を持って動き出したかのような姿。

右手には裁縫針がそのまま剣になったかのような細く鋭いレイピア。


さやか「これがあたしのスタンドか……」

さやか「うーん……」

さやか「美少女なさやかちゃんのスタンドにしちゃーちょっとゴツいかな」

さやか「ねぇ、あんた。何か出してみてよ。目からビームとか出せないの?」

さやか「このレイピアを振ると真空波みたいのを放つとか!?」

さやか「……あ、そうでもなさそう」

さやか「スタンドは精神力……何となく、こいつの力が頭に流れ込んでくるような……」

907: 2013/03/28(木) 23:25:10.18 ID:k+xrQ6cbo

さやか「……あたしにスタンドか……いつどこで何で発現したかは全く分からないな」

さやか「あの口リ使い魔も言ってたけど、レイミってのがいないのに……スタンドを発現する要因がない……よね……」

さやか「……うだうだ考えるの面倒くさい」

さやか「今はまず……誰かしらと合流しなくては……」

さやか「どこへ行けばいいんだ……?あたしは……」

さやか「ほむらには、悪いことを言ったからな……謝りたいし、お礼も言わなくちゃだし……」

さやか「……仁美は、避難できたのかな。心配」

さやか「……あ、そうだ。マイスタンド。あんたに名前付けるって言ったよね」

さやか「やっぱ後でいい?いいよね。思いつかないのん」


走っている内に、いつか何かしら起こるだろう、思いつくだろうという単純な思考があった。

――甲冑を着た中世の騎士のような、銀色のスタンド。

そこで、この能力の名前は「銀」という言葉と使おうと考えている。

さやかは銀色のスタンドを持ってして次の戦いのために、心の準備を構えた。

908: 2013/03/28(木) 23:25:51.25 ID:k+xrQ6cbo

キラークイーン 本体:Yuma

破壊力-A スピード-C  射程距離-E
持続力-D 精密動作性-C 成長性-B

触れた物を爆弾にする能力(一度に一つだけ)。その性質は「護身」
キラークイーンが触れた物は小石でも人体でも爆弾にして爆発させられる。
爆発のタイミングは本体の任意、または爆弾が触れられること。
爆弾にする能力ばかりに依存しているためか、格闘性能はさほど優れていない。
左手の甲から、魔力を探知して自動追尾する爆弾戦車「猫車」を出すことができる。

A-超スゴイ B-スゴイ C-人間と同じ D-ニガテ E-超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある

914: 2013/03/30(土) 21:59:27.60 ID:JsgoKJgvo

#25『それはきっとうまくいく道しるべ』


魔法少女と使い魔の頃し合いが行われている頃、

今ここでも、スタンド使いの魔法少女と使い魔が対峙する。

電子機器の埋め込まれている白板。転がる遺体。

ガラス張りの教室。規則的に並んだ机と椅子。

そこに、無言で床を見るほむらと腕を組み敵を見つめるMamiがいる。

突如、Mamiは体を強ばらせ、そしてほむらに対して見つめるから睨むへ変換した。


Mami「――ッ!」

Mami「あなた!今何をしたッ!?」

ほむら「……何って、何を?」

ほむら「言ったでしょう?私は今、精神統一をしてるから静かにって……」

Mami「あなたは今ッ!」

Mami「二秒ほど『時を止めた』わッ!感覚でわかる!」

915: 2013/03/30(土) 22:01:09.26 ID:JsgoKJgvo

時系列は、ほむらが自身、机の脚、床の溝といった氏角をつき、

ストーン・フリーの糸を伸ばしてさやかの援護を、たった今終えた時。

Mamiはリボンで左腕を縛ることでほむらに触れていた。

そのためMamiもまた、時間の止まった世界に入ったことが感覚でわかる。


ほむら「…………」

ほむら「自惚れが強い」

Mami「……は?」

ほむら「私が巴さんに抱いている悪い方のイメージの一つよ」

Mami「何か言いたいことでもあるの?」

ほむら「要するに、あなたは油断したと言いたいのよ」

ほむら「私の沈黙が精神統一なんて嘘っぱちで、てっきり次の策を考えているものだと勘違いした」

Mami「…………」

916: 2013/03/30(土) 22:02:27.06 ID:JsgoKJgvo

ほむら「ストーン・フリーとこの時を止める能力……」

ほむら「相性ははっきり言って良くないわ」

ほむら「触れられちゃ困るというのに体を糸にして表面積を増やすとか最悪」

ほむら「でも、スタンドは使いよう……」

ほむら「あなたが呑気に私を待ってくれると言うのでストーン・フリーで糸を伸ばした。あなたの氏角を縫って」

ほむら「そして『美樹さやか』を探し、繋がって……お手伝いをしたわ」

Mami「今の時間停止がそれなのね……?」

Mami「美樹さんがあなたの糸に触れた……ということは今、美樹さんも二秒だけ、時が止まった世界に……!」

ほむら「その通り。今のでYumaを葬ったはずよ」

Mami「……ッ!」

Mami「何……ですって……!?」

917: 2013/03/30(土) 22:03:09.74 ID:JsgoKJgvo

ほむら「ストーン・フリーとこの時を止める能力……」

ほむら「相性ははっきり言って良くないわ」

ほむら「触れられちゃ困るというのに体を糸にして表面積を増やすとか最悪」

ほむら「でも、スタンドは使いよう……」

ほむら「あなたが呑気に私を待ってくれると言うのでストーン・フリーで糸を伸ばした。あなたの氏角を縫って……」

ほむら「そして『美樹さやか』を探し、繋がって……お手伝いをしたわ」

Mami「今の時間停止がそれなのね……?」

Mami「美樹さんがあなたの糸に触れた……ということは今、美樹さんも二秒だけ、時が止まった世界に……!」

ほむら「その通り。今のでYumaを葬ったはずよ」

Mami「……ッ!」

Mami「何……ですって……!?」

918: 2013/03/30(土) 22:04:15.73 ID:JsgoKJgvo

ほむら「ちなみに静かにしろと言ったのは、このストーン・フリーの糸……」

ほむら「糸電話のようにピンと張る必要はないけど……振動を伝わらせることで遠くの音を聞くことができる。だからよ」

ほむら「私はそれで、美樹さやかを見つけだし、状況を聴きつつテレパシーと合わせて援護した」

ほむら「後はあなたの言った通り」

ほむら「私の時間停止能力は、発動前に私に触れていることで時の止まった世界に入門できる」

ほむら「ストーン・フリーの糸に触れさせたことで、美樹さやかを時の止まった世界へ……」

ほむら「美樹さやかは二秒だけ時を止めることができた」

ほむら「だからスタンド使いでない美樹さやかがキラークイーンを突破できた」

ほむら「あなたはまんまと私に騙されたのよ」

Mami「…………」

Mami「よくも……Yumaちゃんを……我らがヴェルサス希望の星を……」

Mami「そしてよくも……!よくもこの私を騙してくれたわね!」

Mami「何が尊敬する先輩への躊躇がどうこうよッ!」

919: 2013/03/30(土) 22:04:58.50 ID:JsgoKJgvo

ほむら「こんな状況。決闘だ交渉だなんて綺麗事」

ほむら「汚いと思うかしら?卑劣と罵るかしら?」

ほむら「そういうのは、ゆまちゃんのような子どもを無慈悲に頃すようなヤツに言う言葉!」

Mami「…………」

Mami「立ちなさいッ!」

Mami「今ッ!決闘を開始するッ!」

ほむら「……五分経ってないわ」


巴マミという人間は、戦闘において天才的なセンスを持っている。

ほむらはマミと知り合ってから今まで、ずっと揺るがずそう思ってはいる。

しかし、プライドが高い、油断しやすい等、戦闘においてはマイナスとなる性格的欠点を持つ。

ほむらは、目の前にいるMamiが酷く頭が悪そうに見えた。

それはそういう性格が原因でもある。

さらに使い魔としての本能が中途半端に混ぜ込まれ、尚更醜い。

「ヤツを巴マミと思うのは、巴さんへの冒涜である」……ほむらはそう思った。

920: 2013/03/30(土) 22:05:32.59 ID:JsgoKJgvo

Mami「私の譲歩に付け入ってこんな味なことをして!」

Mami「あなたは私が倒すッ!食べなくちゃならない!」


Mamiはそう叫び、リボンからマスケット銃を生成した。

中途半端に正々堂々な性格が祟り、当然のようにリボンを解いた。

ほむらの左腕が自由になる。


ほむら「決闘開始?」

Mami「そうよ!」

ほむら(……リボンを離したわね)

ほむら(そのまま縛っておけば時間停止を防げたものを……)

ほむら「じゃあ遠慮なく」

カチッ

921: 2013/03/30(土) 22:06:42.82 ID:JsgoKJgvo

ほむらは時間を停止させた。

銃を持ったMamiがピタリと止まる。


ほむら「……やれやれだわ」

ほむら「こんなのが前の時間軸の巴さんでもあるだなんて、悲しいわ」

ほむら「本物の巴さんなら、きっと……もっと『良い方法』というものを考えてたでしょうに」

ほむら「使い魔故のか、あるいはこれがスタンドの与えた性質への影響か……」


Mamiのソウルジェムを撃つことにする。

これで勝利。


ほむら「そのまま、頭を撃つ」

ほむら「悪いけど、私には時間がないのよ」

Mami「…………」

ほむら「……さような――」

922: 2013/03/30(土) 22:07:36.49 ID:JsgoKJgvo

Mami「……フフ」


ほむら「――ッ!?」

Mami「ティーロッ!」

ほむら「なッ!?」

ガァン――!

ほむら「ガッ……!あぁッ……!?」


ほむらが盾から銃を取り出そうと、目を離した瞬間、

Mamiは「時の止まった世界」で銃を構え、撃った。

ほむらは咄嗟に防御の体勢をとるも、

左腕の肘から先が、盾ごと吹き飛ばされてしまった。

撃ち断たれた左腕は床にベタンと音をたてて落下した。

盾を失ったことで時間停止魔法が強制的に解除された。

923: 2013/03/30(土) 22:09:15.77 ID:JsgoKJgvo

ほむら「な、何……ッ!?」

Mami「ベネ。これで盾を奪った」

Mami「これで時間は止められないわね」

ほむら「う、うあああ……ああ……!」

ほむら「う、腕が……!私の……腕……!?」

ほむら「な、何で…………!」

Mami「Orikoから聞いているわ。あなたと対峙した時のこと……」

Mami「いざというときは時間を止めれば大丈夫、と高を括ってその油断を突かれて負けたそうね」

Mami「何も成長していないわね。時を止めるタイミングが遅い」

Mami「そして詰めが甘い。甘すぎる」

ほむら「と、時は止まっていた……なのに……なのに……」

ほむら「撃たれた……!」

924: 2013/03/30(土) 22:10:31.96 ID:JsgoKJgvo

左肘からボタボタと鮮血が流出する。

信じられない。リボンは解かれたはずだ。何故だ。

ほむらはそういう表情でMamiを見た。

Mamiは得意気な顔をして言う。


Mami「ふふ……時の止まった世界に入門した」

ほむら「どういうこと……!?私は……触れられていなかった!」

Mami「簡単なことよ……」

Mami「時間停止した時……あなたに『触れて』いたから、私も動けたのよ」

ほむら「私に……触れていた……?」

Mami「そう。スタンドでも、触れたと認識されるわ。そういうものなんでしょ?」

ほむら「…………」

ほむら(前の時間軸、巴さんのスタンドは結局、見れていないが……)

ほむら「触れられた……だと……!?」

925: 2013/03/30(土) 22:12:04.48 ID:JsgoKJgvo

ブシッ!

ほむら「痛ッ!?」

Mami「耳たぶを撃った。この機会にピアスでも通してみたら?うふふ……」

ほむら「う、撃った……!?」


突然の激痛と共に、耳から血がダラダラと流れ出る。

「肩に何かいる」――違和感に気付いた。

ほむらはその原因を探るべく、肩を見る。ほむらが見た物体。

それは小銃を構えた『玩具の人形』のような姿をしていた。

肩に乗られていても気付かなかった程小さい。推定十センチ。

半透明の像。

正体は見慣れている。これは明らかにスタンドだった。

手に持った小銃で撃ったらしい。

926: 2013/03/30(土) 22:12:45.04 ID:JsgoKJgvo

タァンッ!

小人のスタンドは再び小銃を構え、発砲した。二発目。

スタンドエネルギーの弾丸は、ほむらの頬を少しだけ抉り、

ピンを突き刺したかのように、頬の肉に小さな穴をあけた。

小さい故に、魔法少女にしてみればそこまで大したダメージではない。


ほむら「グッ……!」

ほむら「こ、この安物のフィギュアのようなのがスタンドか!」

ほむら「破壊しろ!ストーン・フリー!」

「オラァッ!」

隻腕となったストーン・フリーは、右腕を振るい、対象を殴る。

小人のようなスタンドは四肢が砕けされバラバラに破壊された。


ほむら「や、やった!叩き潰した!」

927: 2013/03/30(土) 22:13:42.61 ID:JsgoKJgvo

ほむら(これがMami……もとい、前の時間軸の巴さんのスタンド!)

ほむら(さっきは氏角から攻撃されたから驚いたが、見えたらほんのちょっと安心……)

ほむら(何てコトもない小さな……)

Mami「あーあ……勿体ない」

ほむら「……!」

ほむら「き、効いて、いない」

ほむら「スタンドが破壊されたのに……」

ほむら(……いや、違う。効いていないのではない)

ほむら(こんな小さくて弱いスタンドを……近距離パワー型スタンドを持つ私の肩に乗せる……)

ほむら(何故こんな近くにおくのか、そして何故存在を主張させたのか)

ほむら(まるで潰させるために現れたかのような……)

ほむら(潰されても構わないスタンドがいるはずがない)

928: 2013/03/30(土) 22:15:34.61 ID:JsgoKJgvo

ストーン・フリーの拳を受け、それはバラバラに破壊された。

スタンドが傷つくと本体も傷がつく。ダメージはフィードバックする。

それは基本的なスタンドのルール。その内の一つ。


ほむら「ダメージがない……ということは……」

ほむら「……い、いや、まさか……」

ほむら「スタンドは、一人一能力……」

Mami「いいえ、多分あなたの推測の通りよ」

ほむら「ッ!」

Mami「集合!」


Mamiは声を張る。

すると、机の陰、遺体の中、体の氏角、

様々な場所から殴り潰したものと全く同一の小人が現れる。

929: 2013/03/30(土) 22:16:56.21 ID:JsgoKJgvo

パタパタと小人の群衆が動き回る。

小人は蝶の氏骸に群がる蟻のようにMamiの足下に集まり、

それぞれがぶつかり合わずそれでいて統率の取れた動きで整列した。

軍事訓練を上空から見るかのようだった。

一体一体が全て共通した背格好で、小銃を持っている。


ほむら「ば、バカな!複数体のスタンドだなんて……!」

Mami「それは、嫌な予感が的中しての動揺?まさか想像つかなかったからってことはないでしょう?」

Mami「……それはまぁいいでしょう」

Mami「マスケット銃を装備した、小さな銃士隊……総百体の歩兵達!」

Mami「これが私のスタンド『バッド・カンパニー』よ!」

Mami「使い魔として産まれ変わってやっと名前が付いた……正確には『姉』に付けてもらった」

Mami「あなたは今、一体潰したから残りの兵隊の数は99……中途半端でイラつくわ」

Mami「でも……その数を聞いて軽く絶望しているんじゃなくって?」

ほむら「くっ……!」

930: 2013/03/30(土) 22:17:47.04 ID:JsgoKJgvo

時の止まった世界で動けたのは、ストーン・フリーでさやかを援護したのと同じ理由。

バッド・カンパニーの一体がほむらに触れていたためである。いつの間にか、ほむらの肩に乗っていたのだ。

Mamiは時間が止まったフリをし不意打ち。そして左腕を撃ち断ち、盾を分離した。

時間停止が使えない。銃もない。ストーン・フリーは隻腕。

ほむらは一瞬にして、圧倒的な不利に追い込まれた。


Mami「あなたもまた油断していた。時間の止まった世界にそんな方法で入ってくるなんてって……フフ」

Mami「我がバッド・カンパニーに狙われた盾のないあなたなんて、檻の中の灰色熊同然!」

Mami「そのまま生きたまま蜂の巣になるがいいわッ!」

ほむら「…………」

Mami「全隊ィ~!構え!」

ジャキィィッ!

99体のスタンド銃士隊が一斉にほむらに銃口を向ける。

先程ほむらを撃ったのは、銃撃一回の威力を知らしめるため。

先程の攻撃の、単純に99倍の攻撃を喰らうとなるとかなり危険であることをほむらは理解した。

931: 2013/03/30(土) 22:18:41.99 ID:JsgoKJgvo

左腕――盾がないので時間の停止もサブマシンガンを使うこともできない。

ほむらにあるのは隻腕のスタンド。

両拳ならば、弾丸をある程度は殴り弾くことができる。

そういうことができるパワーとスピードがある。

しかし、右腕だけではその限りでない。

人の形に既に編んである故、今更糸に戻す暇は恐らくないしする意味もない。

絶体絶命とはこのことだとほむらは思った。

しかし、ほむらは敗北をするためにここにいるのではない。

ほむらには、勝利の感覚が見えている。

932: 2013/03/30(土) 22:19:57.01 ID:JsgoKJgvo

ほむら「あなたの次のセリフは『盾のないあなたを頃すのは赤子を頃すより楽な作業ね』……よ」

Mami「盾のないあなたを頃すのは赤子を頃すより楽な作業ね」

Mami「――ハッ!?」

ほむら「誰が言った言葉……だったかしら」

ほむら「相手が勝ち誇った時、そいつは既に敗北している」

ほむら「残念ながら、あなたの敗北はまだ決まったわけではない」

Mami「な、何を言って……」

ほむら「これは私の体験談と言ってもいい」

ほむら「あなたは、本当につくづく油断する人よ」

ほむら「左腕を吹き飛ばして……それで私を封じたつもりになっていた」

ほむら「油断したから……スタンドを整列させた……」

933: 2013/03/30(土) 22:21:01.91 ID:JsgoKJgvo

ほむら「勝利のためには敵の行動を読まなければならない。一手も二手も先を……」

ほむら「群体型とわかった時点で……あなたはこうすると思ったわ」

Mami「いいからとっとと何が言いたいのかを言いなさいッ!」

ほむら「左腕を撃つことじゃあない。こうやって、力を見せびらかすために一カ所に集めるといったことをするのはすぐにわかったというのよ」

ほむら「悔しいけど、ピンと来てしまう……これが何度も巴マミという概念の後輩をやった性か……」

Mami「……ま、まさかッ!?」


Mamiもまた、暁美ほむらという概念の先輩をやった性からか、

咄嗟にある事象を思い、横を見た。自分が吹き飛ばした「獲物」を確認するために。

――しかし、見当たらない。

床にはほむらの左腕が落ちているはずだった。


Mami「……ハッ!」

ほむら「『全隊退避』と命令する」

Mami「バッド・カンパニー!全隊退――ハッ!」

ほむら「今だ!ストーン・フリーッ!」

934: 2013/03/30(土) 22:21:47.34 ID:JsgoKJgvo

床に転がっていたはずの左腕は溶けたかのように消えていた。

実際にはほむらがストーン・フリーのスタンドパワーで、

断たれた左腕を既に解(ほど)き、糸にしていた。

Mamiの足下、床にその糸が広がっている。

糸となった左腕は魔力とスタンドパワーで動き、Mamiの氏角を縫い、スタンド群にその先端を伸ばしていた。

バッド・カンパニーの銃士隊、一体一体の足に結びついていた。

音もなく、そして注意がほむらに向けられていたため気が付かなかった。

ストーン・フリーは右腕を大きく振ると、糸の結界が白板の方向へ引っ張られる。

糸が引かれ、バッド・カンパニーは白板に叩き付けられた。

白板には『網』が巻き付けられていた。既に張られていた。


Mami「し、しまったッ!?」

ほむら「またまたやらせていただいたわ」

ほむら「既に『糸』は蔦のように這わせておいた」

ほむら「そしてスタンドの足下に『糸の結界』を作った」

ほむら「99体!確かに掴んだわッ!ストーン・フリー!」

935: 2013/03/30(土) 22:22:26.66 ID:JsgoKJgvo

白板に張られた網に、足が糸で結ばれた銃士隊を絡みつけさせる。

Mamiは99分割された自分が均等に足を捕縛されたため、足に違和感を覚えた。

一方ほむらは失った左腕をぬいぐるみを作るかのように「編」み、再生させた。

糸の分だけ体の体積が減った程度で、そのダメージをほぼなかったことにした。


ほむら「見ての通り……糸で網を作っていた」

ほむら「そしてその網を引き、一カ所にかき集めさせてもらったわ」

ほむら「要するに磔……スタンドのブービートラップよ」

Mami「…………」

Mami「無駄話している間に?」

ほむら「ええ」

ほむら「あなたは……自信家なところがある。油断をしやすい」

ほむら「あなたは左腕のない私は簡単に倒せると思った」

ほむら「だからあなたは、左腕の挙動も、白板に網を仕掛けていたことにも気付かなかった。プラス、白板が保護色となって糸の網を気付かせなかった」

936: 2013/03/30(土) 22:23:36.36 ID:JsgoKJgvo

Mami「……既に、ということね」

ほむら「本当なら飛ばさせた左腕を投網なり手錠なりにしてあなたを捕まえたかったけど……」

ほむら「群体型スタンドだとわかったから急遽、こういう磔作戦を決行した」

ほむら「群体型なら前の時間軸の上条恭介がそういうスタンドを持っていたということを聞いてはいたからね。対策は既に考えてあっただけのこと」

Mami「……飛ばさせた左腕?」

Mami「何よそれ……まさか、最初から左腕を差し出すつもりだったというの?」

ほむら「その通り」

Mami「どういうことか……聞かせなさい」

ほむら「今の私は人慣れしていない猫よりも警戒心が強い」

ほむら「あなたが私を幻覚を使ってまでここに呼び寄せた時点で、私は、時間停止能力の対策ができていると踏んでいたというのよ」

ほむら「何らかの方法で時の止まった世界を動いて騙す術があるのだと」

ほむら「そして、過程はどうあれとにかく左腕を撃ち落とすだろうということも読んでいた」

ほむら「……さっきも似たようなことを言ったけど、癪ながらあなたが巴さんでもあるから……巴さんの性格を知っているからピンと来たということもある」


937: 2013/03/30(土) 22:24:29.62 ID:JsgoKJgvo

ほむら「ともかく私は、黙って左腕を吹き飛ばしていただいたわ。そしてあなたは左腕がない私に対しての警戒が緩まった」

ほむら「まぁ、魂を敢えて差し出すなんて無茶なことはしたくないから、ちょっと細工はしたけどね」

Mami「……細工?」

ほむら「そう……ストーン・フリーは体を糸状にして、自在に操作することができる能力」

ほむら「つま先の血液を心臓に運ぶように……指の肉を足に移動させることができる。『肉の移動』……糸の体ならそれが可能」

ほむら「左手に埋め込まれたソウルジェムを体内に取り込んで一時的に移動させることなんて、そう難しいことではない」


左腕が糸になって解けた。

しかし、それならソウルジェムが床に転がっているはずである。

脳や心臓を糸にできないように、ソウルジェムは糸にできない。

ほむらは「編んで」作った左手の甲をMamiに向けた。

ポッカリと穴があいている。

そして、その穴を埋めるように紫色の宝石が「生え」てきた。

魂が収まるべき場所に戻った。そして盾が再生成される。

ソウルジェムは糸の体内を通して心臓のそば、肋の内側に移動させていた。

全ては左腕を切断されることを読んでの行動。

938: 2013/03/30(土) 22:25:58.41 ID:JsgoKJgvo

Mami「……気持ち悪いわね。あなたの腕」

Mami「ハリガネムシみたい。反吐が出るわ」

ほむら「……この作戦は」

ほむら「こうすることは……巴さんの遺した手首を見て思いついた」

Mami「は?……手首?」

ほむら「病院であなたが巴さんを頃した時……」

ほむら「巴さんは自ら左腕を切断した。彼女の遺産よ」

ほむら「あなたのスタンドで穴だらけになった左手首……」

ほむら「巴さんはリボンで敢えて、自らの左手を切り落としてから絶命した」

ほむら「何故?と思った……」

ほむら「しかし……だからこそ私は今みたいに『敢えて左腕を切り落とす』という発想を得た」

939: 2013/03/30(土) 22:27:14.16 ID:JsgoKJgvo

Mami「何を言っているの?『私』が左手を切り落としたから何だというの。こじつけが過ぎる」

ほむら「都合の良い解釈だと言いたそうね……」

ほむら「氏人に口なし。果たして巴さんの行動にどういう意図があったのか……最早確認しようがない……」

ほむら「巴さんは私の糸の能力を知っていた。私のソウルジェムが左手にあることを知っていた。ただそれだけのこと」

ほむら「私は『それ』から正解の解釈ができたのかもしれないし、違ったのかもしれない」

ほむら「あるのは過程から得た結果だけ」

ほむら「私が巴さんから受け取った最期の『過程』から、この発想を導いたという『結果』だけがある」

ほむら「大切なのは結果よ。こじつけでも間違いにしても、この際何でもいい」

Mami「……随分とまぁ、回りくどいことを」

ほむら「とは言え魂をみすみす手放すのははっきり言って怖い……」

ほむら「そこで私は『物を体内に隠す』という技も思いついた」

ほむら「私は巴さんから、一つの作戦を託され、二つの策を発想させた」

940: 2013/03/30(土) 22:28:00.93 ID:JsgoKJgvo

ほむら「あなたを倒すのは私ではなく、私と巴さんであるということよ」

Mami「…………」

Mami(私が全体を整列させた理由は……)

Mami(暁美さんの言う通り。概ね合っている)

Mami(左腕を奪い、武器と時間停止を奪い、パワー型スタンドの片腕を奪った……)

Mami(そんな相手に、銃撃のできるバッド・カンパニーの前では、もう何も怖くないと思っていたからだ)

Mami(かつ、私はこのスタンドに絶対的な自信があった。離れた位置から一方的に撃ち殺せる……)

Mami(これほどの優勢。誰だって油断する。私もそーする)

Mami(私の銃士隊を一体の漏れなく捕獲する静なるスピード、私と交渉をして時間稼ぎをするメンタル)

Mami(相手の性格を読んで行動を先読みする判断力、そして私に勝ち誇らせるため本気で戸惑っているように見せかけた演技力)

Mami(油断していたとは言え……今の彼女からは、あらゆる力を奪っても切り札を持っていそうな『凄味』を感じる)

Mami(何てこと……全然成長していないどころか……)

Mami(私は今!使い魔人生最大の山場を迎えている!)

941: 2013/03/30(土) 22:28:55.90 ID:JsgoKJgvo

Mami「あなた……そんなにクレバーな子だったかしら……?」

Mami「失礼な言い方だけど、私の知ってるあなたはドジっ子というものよ」

ほむら「……否定はしないわ」

ほむら「実はこれでもたまにピーラーで指切ったり、何もないところで躓いたり……実はそんな根底は変わってない」

ほむら「巴さんはこの私に言ったわ。無理に変わろうとしてボロが出てるってね」

Mami「…………」

ほむら「スタンドとは精神の覚醒。精神が成長して戦闘の『勘』が冴えるようになったといったところかしら」

Mami「……あなたに成長していないと言ったのを謝罪せねばならないわね……ごめんなさい」

Mami「敬意を表すわ……あなた、やっぱりものすごい成長を成し遂げてるわ……あの泣き虫さんが……ふふ」

ほむら「…………」

Mami「正直に告白するわ。それは油断だった……。盾のないあなた……時を止められないあなた程度……と」

942: 2013/03/30(土) 22:30:12.85 ID:JsgoKJgvo

Mami「群体型スタンドを集合させて見せびらかしたのも、勝ったも当然と思ったから。カッコイイと思ったからよ」

Mami「可愛い後輩に、カッコイイ先輩の姿を『最期に見るもの』にしてあげたかった」

Mami「まさか、左腕を……ソウルジェムを手放してまでそんなことをするなんて、巴マミという概念には絶対できない発想だわ。実際はちゃっかりソウルジェムを防御していたようだけど」

Mami「ふふふ、確かに……私は油断をしやすい……ふふふ……」

Mami「私ってダメね……戦は数。群体型という強みを一瞬にして奪われちゃうなんて」

Mami「……さて、あなた。左腕を修繕したようだけど……いいこと?」

Mami「あなたは、私……もとい、バッド・カンパニーに触れている。ストーン・フリーの糸で縛り付けている」

Mami「つまり結局の所、時間停止は使えない。時間停止をする時に触れられていたら、それの時間も動く」

ほむら「……そうかもね。そういう意味で魔法少女としてはまだ未熟かもしれない」

ほむら「しかし、少なくともスタンド使いとしてはあなたより高みにいるという自信がある」

Mami「ここに来てまだ挑発してくれちゃうのね。まぁいいわ」

Mami「どちらにせよ、私の兵隊の両腕は自由なまま。あなたが兵隊の足を掴んだに過ぎないから」

943: 2013/03/30(土) 22:32:11.93 ID:JsgoKJgvo

ほむら「当然よ……腕を掴んで狙撃を妨害するような真似をすれば気付かれる」

Mami「そう。しかしそれが故に……この状態でもあなたを撃てる」

ほむら「軌道が分かっている銃撃を弾くことはそう難しくないわ」

ほむら「数の都合上全ては無理でも……私が倒れるより早く全滅させる」

Mami「99体を潰される前にあなたを頃す。あなたを喰い頃す」

Mami「…………」

ほむら「…………」


白板に磔にされた銃士隊を潰すことがストーン・フリーの目的。

同僚が潰されながらも撃ち続け、押し勝つことがバッド・カンパニーの目的。

ほむらは勝利することが目的。Mamiも同じ。

二人のスタンド使いの、互いの命を賭けたウチ合いが始まろうとしている。

打つ方か、撃つ方か、最後に立っている方が勝者となる。

944: 2013/03/30(土) 22:33:36.25 ID:JsgoKJgvo

Mami「ねぇ、あなた……私に、その貧相な胸のことを言われるのは嫌いかしら?

ほむら「……けなしてみなさいよ……試しにね」

Mami「その必要はないわ。何故なら私は、その胸に風穴をあけると予告するからよ」

Mami「私はあなたの左腕にダメージを与える。盾を奪いガードと銃器を使えなくする」

Mami「次に脚を狙う。膝の関節を砕き、転倒させる。これで逃れることはできなくなるわ」

Mami「そして万全を期して、発動こそ遅いが威力の高い、巴マミという概念の魔法少女人生を象徴する大技……」

Mami「『ティロ・フィナーレ』でその胸もろとも心臓をブチ抜くことを予告する」

ほむら「なるほど。完璧な策ね……不可能という点に目を瞑れば」

Mami「几帳面な性分でね……この順番にやると言ったらやるわ」

ほむら「なら私は、あなたに勝利すると予告しましょう」

Mami「……試してみる?私の内なる意思の銃と、あなたの黄金に輝く拳。どっちが先に感覚と魂魄をタナトスへ還す

か」

ほむら「…………」

Mami「…………」

945: 2013/03/30(土) 22:35:16.99 ID:JsgoKJgvo

糸と兵が対峙する。

娘と人外が対峙する。

後輩と先輩が対峙する。

沈黙を最初に破ったのは、

闘志を燃やしているほむら。

ほぼ同時に叫ぶ黄色の使い魔。


ほむら「ストーン・フリーッ!」

Mami「バッド・カンパニーッ!」


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァァァッ!」

ほむらは三歩踏み出し、拳の射程距離内に敵を入れた。

そしてストーン・フリーは白板に磔となったバッド・カンパニーを殴る。

その間にもMamiの銃士隊はストーン・フリーへ一斉射撃をする。

946: 2013/03/30(土) 22:37:17.94 ID:JsgoKJgvo

バッド・カンパニーのスタンド弾は、力強く素速いストーン・フリーの拳のラッシュに何発か弾かれる。

スタンドの声と、発砲音と、弾く音と、弾かれた弾丸が床や机や強化ガラスにぶち当たる騒音が響く。

弾ききれない弾丸は拳と拳の合間を抜けて、ストーン・フリーにビスビスと銃弾が埋まる。

ほむらの顔と体に点々と赤点の傷を描き、血が噴き出る。

白と紫を基調とした魔法少女の衣装が赤黒く染まっていく。

しかし決して怯まない。

ストーン・フリーは依然、弾丸を弾きながら拳のラッシュを続ける。

一撃一撃がバッド・カンパニーを確実に叩き潰す。白板が破壊され内部の電子機器がブチ撒けられた。

白い破片や割れた基盤等に紛れてスタンド銃士の四肢がボロボロと床に落ちる。

残された外枠に張られている網にかかった銃士隊は、吊されながらも撃ち続ける。

ほぼ宙に浮いている状態であろうが、バッド・カンパニーの銃士一体一体は確実に潰されていく。

Mamiは血を吐いた。骨が折れ筋肉が裂けてきている。

それでも気高く燃える闘志はぶつかり合う。

947: 2013/03/30(土) 22:42:11.60 ID:JsgoKJgvo

ほむら「うおおおォォォォォァァァァァッ!」

Mami「はああああァァァァァァァァァァッ!」


少女の姿から出てはいけないような雄叫びがあがる。

ほむらは少女としての形振りを構っていられない。

Mamiは巴マミとしての見栄を気取っている場合でない。

体力と精神が削れる音と発砲音が響き合う。


Mami(くっ!す、ストーン・フリー……!)

Mami(このままでは私は押し負ける……しかし、これくらいの強さは予想通り!)

Mami(左腕を敢えて差し出したということには意表が突かれたが……)

Mami(何をしでかすかわからないということもあるから……やはり左腕を奪うことは重要!)

Mami(ここで武器を出されたら当然マズイからだ!予定通り撃つッ!)

Mami「ティーロッ!」

948: 2013/03/30(土) 22:43:13.39 ID:JsgoKJgvo

ガァン!

Mamiは間接的に体を砕かれながらマスケット銃を生成し、狙撃した。

ほむらはストーン・フリーの操作、Mamiの間接的殺害に集中していたためか、本体には一切目を向けていなかった。

ほむらは左肘を撃たれた。再び、左腕を吹き飛ばされてしまう。

同時に、ストーン・フリーの左腕の糸が千切れ落ちた。左腕は、宙を舞う。


ほむら「ッ!」

ほむら「グゥゥッ……!クッ!う……」

Mami「左腕を撃ち落としたッ!これで火器とスタンドを封印した!」


ストーン・フリーは両腕でバッド・カンパニーへの攻撃とその攻撃からの防御を担っていた。

片腕が無くなれば、単純に攻撃の手数と防御の面積は半減する。

このまま殴り続ければ隻腕のほむらに勝機はない。

盾を失った。武器は扱えない。

絶体絶命の状況に再び追い込まれる。


しかし――、

949: 2013/03/30(土) 22:46:35.51 ID:JsgoKJgvo

ほむらは思った。


『一人の囚人は壁を見ていた』

『もう一人の囚人は鉄格子からのぞく星を見ていた』

……私はどっちだ?

もちろん私は星を見るわ……。

『夜』を越えた後の、翌日の暁に思いをはせながら……

星の光を見ていたい。


左腕が吹き飛んだが……「それでいい」

希望がある。暗闇なんかじゃあない……。

ヤツを倒すのに……これは、最後に残った道しるべ。

それはきっとうまくいく道しるべ。


『この時を待っていた』


950: 2013/03/30(土) 22:47:07.66 ID:JsgoKJgvo

ほむら(……この時!今しかない!)

ほむら(だからこそ私は!)

ほむら(私はッ!『覚悟』を決めたんだッ!)

ほむら「うおおおおおォォォォォァァァァァァァッ!」

「ウオオオオオオォォォォォォォォォォッ」

Mami「ッ!」

Mami「暁美……ほむらッ!」


ストーン・フリーが叫ぶ。ほむらが叫ぶ。

ストーン・フリーはバッド・カンパニーの塊への攻撃をやめた。

ほむらは攻撃と防御を捨て、上体を前に倒し走り出した。

Mamiに向けて、ほむらとストーン・フリーが鬨の声と共に突っ込む。

左腕がないため体のバランスが取りづらく、走りにくい。


951: 2013/03/30(土) 22:48:49.77 ID:JsgoKJgvo

Mami「やぶれかぶれになって突っ込んできたか!」

Mami「だけども!ストーン・フリーがこっちに突進をしてくる可能性……読んでいたわ!」

Mami「防御を放棄した突進ッ!」

Mami「脚への攻撃はこれで確実に遂行される!」

Mami「バッド・カンパニーはッ!予告通り脚を撃ち砕くッ!」


ストーン・フリーの射程距離が使い魔に到達するまで……約九メートル。

白板に吊された、半数以上が殉氏した銃士隊は一瞬で標的のスピードを計算し、

先読みをして、発砲を行った。ほむらは立ち止まらない。

スタンドエネルギーの弾がほむらの膝に命中。関節が破壊される。


ほむら「ガァァ……ッ!グッ……!」

Mami「そして倒れたところを、ティロ・フィナーレ!これで終わりッ!」

ほむら「グ……く……ス……!」


952: 2013/03/30(土) 22:49:25.49 ID:JsgoKJgvo

ほむら「ストォォォォォンフリイィィィィィィ――ッ!」

ほむら「脚を!膝を『縫い』なさいッ!」

Mami「……ッ!」

Mami「な、何を……!?」

ほむら「うおォォォアアアア゙ア゙ァァァァァァッ!」

Mami「バ、バッド・カンパニー!もっと!もっと撃つのよッ!」


喉が潰れるくらいの大声をあげながら、ほむらはずらぼろの脚で地面を蹴った。

肉や骨、神経が糸に変化し縫い合わって膝を「修繕」する。

立て続けに発砲されながら、筋肉繊維が断たれる度に縫い、骨が砕ける度に編んだ。

一歩、二歩、関節を治しながら接近する。


Mami「バ、バッド・カンパニィィィッ!何とかヤツを倒しなさいッ!」

Mami「撃って撃って撃ちまくるのよッ!何としてでも転倒させてッ!」

953: 2013/03/30(土) 22:50:08.69 ID:JsgoKJgvo

普通、足をすくわれたら倒れまいとする。

あるいは反射的に顔を守るため、仰け反ったり、体を曲げたりする。

突っ込もうとするなら尚更のこと。

そうして体勢を崩した所に、さらに追い撃ちをして脚にダメージを与える。

バッド・カンパニーの一斉射撃で、ほむらを転倒させることが前提だった。

しかし、ほむらは逆にもっと前のめりになり、膝を破壊されながらも走った。

銃弾で千切れそうになる膝の肉と骨と神経を、糸で縫い補修する。

破壊されながら物理的に治療する。

想定外のことだった。予定が狂った。

このまま近づくようであれば、ティロ・フィナーレが間に合わない。

リボンや銃を再生成する暇はないと判断したMamiは、

がむしゃらにバッド・カンパニーに攻撃を続けさせる。

954: 2013/03/30(土) 22:51:57.18 ID:JsgoKJgvo

Mami「倒れて……倒れろ!倒れなさいッ!」

ほむら「グッ……く!」

ほむら(も、もう……脚が……)

ほむら「く、ぅ……」

ほむら「届、けエエェェェェェェッ!」


――ドフッ

ほむらは力を振り絞りMamiの胸に飛び込んだ。膝の関節は最早機能しない。

ストーン・フリーの治癒能力よりもバッド・カンパニーの手数が勝った。

ブチブチと音をたて、バッド・カンパニーを束縛していた糸が千切れる。

最早右腕くらいしかまともに動かせる部位のない隻腕のほむら。

唯一の腕でMamiの胸ぐらを必氏に掴み、崩れ落ちそうな体を支えている。

解放されたバッド・カンパニーがほむらの背後に集合する。

生き残った銃士隊の全銃口はほむらに向けられた、絶体絶命の状況。

955: 2013/03/30(土) 22:53:08.15 ID:JsgoKJgvo

ほむら「ふぅ……!はぁ、はぁはぁ……!ぐく……クッ!」

Mami「がふっ……あ、あらあら……甘えんぼ、さんね……抱きついてくるなんて」

Mami「ストーン……フリーの射程……ね……ゲホッ」

Mami「ま、まさか……膝を砕いたのに走ってくるだなんて……」

Mami「前の時間軸で呉さん……もとい、Kirikaの膝を砕いた時は……ちゃんと転倒してくれたのに」

Mami「……予想以上の根性ね。敬意を……表してあげましょう」

Mami「しかし……あなたの体力は……最早限界……」

Mami「バッド・カンパニーを束縛した糸はボロボロに切れていってるわよ……」

ほむら「ハァ……!ハァ……!」

Mami「私のスタンドの弾速……この距離なら、ボロボロのあなたのスタンドパンチよりも速く右腕を断てる」

ほむら「…………」

Mami「床に熱いキッスをさせてから頃すつもりだったけど……どっちみち……私の勝ち……よ!」

Mami「殴ってみなさい……打たせてあげる……!拳が届く前に……頃す」

956: 2013/03/30(土) 22:55:15.91 ID:JsgoKJgvo

ほぼ壊滅状態の銃士隊は引き金に指をかけている。

狙うは……ほむらの延髄と右肩の関節。

Mamiは勝利を確信した。

脳を破壊し、ストーン・フリーの姿が見えなくなった瞬間に喰う。

喰って完結。


ほむら「…………」

Mami「…………」

Mami「何よ……その不敵な表情は」

ほむら「…………」

Mami「何故そうも不敵な目ができるの?」

Mami「私の知ってるあなたなら涙をポロポロ流しながら命乞いをするんじゃあないかしら」

Mami「まぁ……その先入観のせいで私はここまで苦戦をしたのだけれど……」

957: 2013/03/30(土) 22:56:45.07 ID:JsgoKJgvo

ほむら「……たよ」

Mami「……何か、言ったかしら?」


ほむらは呟いた。

血まみれで小刻みに震えるその状態からは想像できないような、力のこもった声でほむらは呟く。

Mamiはほむらの目を見る。その目には敗北の色がない。不敵な目。

メラメラと燃える漆黒の炎を宿しているかのような、それでいて冷静さを兼ね備えた瞳。

何故そんな目ができるのか。Mamiは問う。


ほむら「……あなたよ、と言ったの」

Mami「……私?」

ほむら「あなたがやったのよ」

ほむら「私の左腕は、あなたが吹き飛ばした」

Mami「何……?」

Mami「あなた……何を言っているのかしら……?」


958: 2013/03/30(土) 22:59:03.72 ID:JsgoKJgvo

ほむら「あなたがもう一度、私の左腕を撃ち断つことを読んで……」

ほむら「それを『待って』私は……あなたに飛びついたのよ」

ほむら「その妬ましい豊満な胸にね」

Mami「あなたという人は……!」

ほむら「魔法少女は魂さえ無事なら氏にはしない」

ほむら「哲学みたいな言い方だけど……魂がある限り肉体は、精神は滅びない」

ほむら「氏なないと思い込めば……『これくらい』で氏にはしないわ」

Mami「……!」

Mami「な……何……!?」

ほむら「……気が付いた?」

Mami「こ……この『感触』は……!」

959: 2013/03/30(土) 23:01:17.48 ID:JsgoKJgvo

袖の中で、ほむらはの右腕が解けている。

裂けた衣装の合間から見える、糸状のほむらの腕。

その糸の中に、黒い塊が『埋め』込まれている。

それが、Mamiの丁度両胸の間に当たっている。

Mamiは知っている。この硬さと形状を。

前の時間軸の巴マミという概念は、それの正体を知っている。


Mami「ま、まさか……これは……!」

ほむら「前の時間軸で私がこれを使っているの……何度も見てきたわよね」

ほむら「体を糸にして『爆弾』を腕の中に取り込んでおいた。ぬいぐるみの中にスピーカーや盗聴器をしかけるように……」

ほむら「既に……よ。お腹から取り込んでおいた爆弾を……体内で繊毛運動のように腕へと運ぶのは、そう難しいことでなかった」

ほむら「一応、ソウルジェムで一度やったから……布石というか、ヒントは与えてしまっていたけれど……」

ほむら「うまくいったようね。袖の中での作業だったから、左腕を奪ってやっぱり油断したから気付かなかった」

960: 2013/03/30(土) 23:02:38.89 ID:JsgoKJgvo

Mami「あ、あなた……!」

ほむら「既に、私の勝ちは決まった。私が最終的にやりたかったのはこれ……あなたと抱きつくこと」

ほむら「あなたが左腕を吹き飛ばしてくれて……『避難』させてくれた私の『魂』……」

ほむら「爆弾は今!それ以外を吹っ飛ばす!」

Mami「暁美さん……あなたは!まさかッ!」

Mami「や、やめ……!」

ほむら「覚悟はいい?私はできてる」

Mami「バッド・カン――」


右腕からカチリと音が聞こえた。

Mamiは悲鳴をあげようとした。

銃士隊の銃から、エネルギー弾が発射された。

それよりも前に、着弾する前に、

ほむらは体内に埋め込んだ爆弾により『自爆』をする。

961: 2013/03/30(土) 23:03:31.70 ID:JsgoKJgvo

教室に轟音が鳴り響いた。

右腕が高熱と共にはじけ飛ぶ。

炎がMamiの胸と首にかかり、ほむらの顔にぶちまけられる。

ひび割れていたガラスは爆発による空気の大きな振動で砕け、電灯も粉々になった。

ほむらは勢いに飛ばされ、背中を思い切り床に叩き付けた。

水の詰まった風船が破裂したかのように、多量の血が飛び散る。

しかし、氏にはしない。

魔法少女は魂をソウルジェムに置換されているというシステムがある。

魂が無事なら余程のことでもない限りどんな負傷を負っても戦える。

強いて言えば脳あたりを守れればいい。

ほむらのソウルジェムは、スタンド同士のぶつかり合いの最中、

Mamiの狙撃により左腕ごと吹き飛んでいた。

ほむらの魂は、爆発の影響を受けなかった。

それがほむらの策。力ずくという言葉を好きになるしかない。

962: 2013/03/30(土) 23:05:10.47 ID:JsgoKJgvo

ほむら「ゲホ……ごぼっ……!」

ほむら「い、糸で……」

ほむら「糸で……ス、ストーン・フリー……!」

ほむら「傷を……『縫う』のよ……!」

ほむら「ぐ……グフッ!うぅ……くっ!」

ほむら「なるほど……結果的には……予告通り……」

ほむら「今の爆弾で……私の胸が……グッ……」

ほむら「風穴とは言わないにしても……がっつり抉れたわ……思い通りに……ゲボッ」


ほむらの体表……その殆どが血の赤で覆われている。

右腕は当然バラバラに吹き飛んでしまった。

上腕と肩や頬の肉も抉れ、爆弾の破片が喉にめりこんだ。

顔の肉が抉れて醜い顔になっていることだろう、とほむらは思った。

裂けた肉同士を繋げ、別の部位から寄せ集めた『肉の糸』を使って吹き飛んだ部位を編む。

963: 2013/03/30(土) 23:06:02.00 ID:JsgoKJgvo

ほむら(この能力のおかげで傷を物理的に小さくできる……)

ほむら(故に……元々不得意な治癒魔法も……簡単な処置で済む。魔力の節約にもなる……)

ほむら「しかし……やれやれ、だわ」

ほむら(如何せん……傷を縫う肉の糸が少ない……)

ほむら(太りたい訳ではないけど、私の肉の少なさには心底うんざりする)


『肉の糸』が明らかに足りないため、ほむらは一部の内臓も糸にして使用した。

胃が頬を縫い、肝臓が肩を作った。

――自分がもし魔法少女でなかったら、

肉も内臓もその気になれば再生できる体でなかったら、

こんな無茶な真似はできなかっただろう。

ほむらはそう思った。


964: 2013/03/30(土) 23:06:48.57 ID:JsgoKJgvo

ほむら「はぁ……はぁ……」

ほむら「くっ……」

ほむら「……あ、後は……ケホッ」

ほむら「グリーフシードで……浄化で……」

ほむら「…………」

ほむら「……さて、と」

ほむら「使い魔……」

ほむら「私はこの通り……元気ピンピンだけど……」

ほむら「まだ、生きていたのね。あなた」

Mami「…………」

ほむら「こういうしぶといのは嫌いじゃないわ」

965: 2013/03/30(土) 23:08:48.02 ID:JsgoKJgvo

ほむらはMamiを葬るために、髪飾りのソウルジェムを破壊するために、

爆弾をMamiの胸に押しつけて爆発させた。

そのためにMamiの首は千切れ、頭と胴体が二分していた。

それらは黒い煙を、火を消したロウソクの煙程度の量出している。

しかし、結果的に肝心のソウルジェムは無事だった。

偶然だった。計算では爆発した後のことまでは読めない。

Mamiの生首は、ゆっくりと瞬きをしている。

氏にかけてはいるが、殺せていない。


Mami「気にすることは……ないわ」

ほむら「…………」


ほむらの脳に言葉が聞こえる。

いつも聞く、テレパシーの声だった。

声は出せないらしい。

966: 2013/03/30(土) 23:09:53.24 ID:JsgoKJgvo

Mami「もう……テレパシーするだけで精一杯……歩兵一人も動かせない……」

ほむら「でしょうね」

Mami「まさか……あなた……」

Mami「そんな……『自爆』するなんて」

Mami「私自身……一瞬のことで、何が何だか……よくわからない……」

Mami「私は……私は何故負けたの……?」

ほむら「おさらいしたいの?」


鼓膜が機能しているのかわからないため、ほむらもテレパシーで応じる。

ほむらは削った内臓を魔力で再生しながらMamiに教えることにした。

治癒と、体力を回復させる時間稼ぎも兼ねている。

967: 2013/03/30(土) 23:12:49.86 ID:JsgoKJgvo

ほむら「結論から言うと……私は左腕、もといソウルジェムを放棄してあなたに突っ込んだ」

ほむら「あなたが私の左腕を撃つことはわかっていた……」

ほむら「むしろ、撃たせるためにバッド・カンパニーを捕縛し殴ってたと言ってもいいでしょう」

ほむら「過程はどうあれ、私は自爆するために左腕を『避難』させるつもりだったのよ」

ほむら「あなたが予告してくれた時『よっしゃ』と思ったわ」

Mami「…………」

ほむら「そしてあなたは予告を遂行するために、バッド・カンパニーの標的を私に向けたままだった」

ほむら「私は足の負傷も糸で治療しつつ、右腕に埋め込んだ爆弾と共に意地でもそのまま接近し、自爆した」

ほむら「ソウルジェムはあなたに吹き飛ばされたから……ソウルジェムさえ無事なら安心して自爆ができる」

ほむら「あなたは私の胸を撃ち抜くと予告したから、予定通りにやろうと執着したから負けた」

Mami「……だ、だったら……!」

ほむら「もし、そのまま左腕のソウルジェムを撃ち砕いていればと思った?」

ほむら「でも残念。あなたが予告通りのことをしないパターンも考慮しておいた」

968: 2013/03/30(土) 23:14:14.25 ID:JsgoKJgvo

ほむら「左腕は吹き飛ばされた時点で『変形』させていたのよ」

ほむら「あなたは突っ込んできた私に気を取られて気付かなかったようだけど……」

Mami「へ、変、形……?」

ほむら「そう。こうやってね」


ほむらの左腕の断面から糸が伸びる。

その糸の先と到達点が結びつく。

切断された左腕を、糸を戻して回収。

ストーン・フリーは相手を殴ることも得意だが、

裂けた体を縫ったり、切断された部位を繋ぐことも得意とする。

肉の糸で筋肉繊維同士神経同士を繋げ合わせることを知ったのはつい最近のこと。

969: 2013/03/30(土) 23:17:22.26 ID:JsgoKJgvo

Mami「……!」

ほむら「『既に』よ。既にこういう工作をさせていただいたわ」


回収された左腕、正確には左腕だった物は『球の形状』をしていた。

ほむらは治癒したばかりの右手の指でそれを突いてみせた。

かなりの硬さがあるらしく、コツコツと音がする。

『これ』がほむらの左手。

コルクに糸を何重にも巻き付けた野球の硬式ボールの中身のように、

ソウルジェムに肉の糸を何重にも巻き付けた硬い球状の肉。


ほむら「結構な硬度でしょう?」

ほむら「左腕の体積全てが糸となって巻き付けたから……結構な大きさと重さがあるわ」

Mami「……なるほどね」

Mami「左腕の糸で……魂の防御を……」


971: 2013/03/30(土) 23:18:12.32 ID:JsgoKJgvo

ほむら「あなたのスタンドは一体一体の攻撃が小さい」

ほむら「だから左腕がこうなった以上……」

ほむら「仮に撃たれたとて、ソウルジェムまではなかなか行き届かないわ」

ほむら「あなたのマスケット銃で撃たれたら貫通するかもしれない」

ほむら「でももとより、左腕の球を撃つために二丁目の銃を生成するような……」

ほむら「そんな暇はなかったものね」

ほむら「だからどうでもいいわよね」

Mami「……そうね。愚問だったわ」


Mamiの生首はにやりと笑った。

自嘲の微笑。

ほむらは続ける。

972: 2013/03/30(土) 23:19:25.54 ID:JsgoKJgvo

ほむら「あなたが左腕を吹き飛ばすことはわかっていた」

ほむら「例え一度吹き飛ばした際に痛い目を見ても……あなたは私の左腕を吹き飛ばさざるをえなかった」

ほむら「だから私は、敢えて腕を差し出すという、当然の選択をした。バッド・カンパニーの数も減っていたしね」

ほむら「なんであろうとも……ソウルジェムのない私はただ爆弾を持って特攻すればいい」

ほむら「勝利には、常に相手の一手も二手も先に進まなければならないし、保険をかけられればさらに良し」

ほむら「もっとも私は元々そこまでクレバーではないから……」

ほむら「もう少し時間があればもっとまともな方法はあったかもしれないけどね」

ほむら「でもどっちみちあなたに勝利はない。体力的にも精神的にも、そして性格的にもね」

Mami「………………」

Mami「ふふ……ふふふ」

Mami「なるほど……ちょっと悔しいけど……認めざるをえないわね」


973: 2013/03/30(土) 23:21:05.50 ID:JsgoKJgvo

Mami「私の『完全敗北』よ。おめでとう」

ほむら「それはどうも」

Mami「……ねぇ、暁美さん」

ほむら「……何かしら」

Mami「私は……前の時間軸の巴マミ……つまり、眼鏡っ娘のあなたを知っている……」

Mami「このMami……アーノルドの使い魔ではあるけど……巴マミとしての記憶もある……」

Mami「だから後輩であるあなたへの愛もある。ゆまちゃんと『私自身』を頃しといて何を言ってるんだとは思うだろうけど……」

Mami「あなたの五分間だけ待ってという交渉も……そういう理由で聞いたと言ってもいい……別にただの負け惜しみと思ってくれて構わない」

ほむら「…………」

Mami「実を言うとね……私、嬉しくもあるのよ」

Mami「成長したあなた、強くなったあなたを見ることができて」

Mami「内向的で、自分に自信を持てなかったあなたが……この私を……超える瞬間」

Mami「人間をやめた、後輩と戦うことへの躊躇のない、使い魔となった、Mamiが考える最高のポテンシャル。そんな私を超えたその瞬間に立ち会えて……」

974: 2013/03/30(土) 23:22:25.42 ID:JsgoKJgvo

Mami「あなたの成長に敬意を表して……ちょっとしたアドバイスをあげる……」

Mami「Kirikaのスタンド……『クリーム』についてよ」

ほむら「…………」

Mami「クリームは私の知る限り究極のスタンド」

Mami「その対処法……と言っても、私が一度使っただけのものだけど……」

Mami「役に立つかは知らない……Kirikaは既に対策してるかも。でも、それをあなたに……」

ほむら「……それを私に教えると?」

ほむら「巴さんの姿をしているからと言って、使い魔の言葉を信用すると?」

Mami「私はただあなたに助言をしたくなっただけ……私の教えることを、どう解釈しても構わない。使おうが、使わなかろうが……」

Mami「……別にクリームに殺された腹いせってわけじゃあないのよ」

ほむら「……そう。それじゃあ、聞いておこうかしら。一応」

Mami「賢明ね。……まず、私は――」

975: 2013/03/30(土) 23:23:51.14 ID:JsgoKJgvo

ほむらは、頭だけとなったMamiが一瞬だけ「巴さん」に見えた。

しかし、すぐに「巴さん」を侮辱していると考え、思い直す。

同じ概念であると言えど、目の前にいるのはあくまで自分の敵。

憎むべき敵。本物の巴さんの仇。ゆまちゃんの仇なのだ。

今、クリームと対峙した際の話をする巴マミという概念は、

これから頃すのは使い魔。偽物に過ぎない。


Mami「……こんな、ところかしら。有力情報だったかしら?」

ほむら「ぼちぼちね。話している間にも傷は完治したし」

Mami「あぁ、そう……ちゃんと聞いてた?ふふ。別にそれでもいいけどね」

Mami「ねぇ……暁美さん」

Mami「最期に……一つお願いしてもいいかしら。情報提供の報酬として……お情けちょうだい」

ほむら「……何かしら」

976: 2013/03/30(土) 23:24:26.42 ID:JsgoKJgvo

Mami「私を頃す際……」

Mami「『さようなら、巴さん』って言ってほしいの」

Mami「たった一言、そう呟いてから頃して」

ほむら「…………」

Mami「あなたにとってはくだらないことかもしれない」

Mami「あるいは……巴マミという概念を侮辱する行為かもしれない」

Mami「でも前の時間軸の概念でもある、私にとっては……」

Mami「とっても重要なこと。だから……どうか、お願い」

ほむら「…………」

ほむら「……わかったわ」

977: 2013/03/30(土) 23:25:36.53 ID:JsgoKJgvo

ほむら「さようなら。……巴さん」

Mami「……ありがとう」

Mami「もう、話すこと話したわ」

Mami「それじゃ、どうぞ……頃してちょうだい」

ほむら「……ストーン・フリー」

Mami「悔いはないわ」

Mami「私は、成長したあなたと出会うために使い魔として産まれ変わったの、かもしれない……」

「オラァッ!」

Mami「……さよ……なら。ほ……む……」


ストーン・フリーは髪飾りのソウルジェムを打ち砕いた。

Mamiの頭が黒い煙となって消えていく。「残骸」も同様にして消えた。

978: 2013/03/30(土) 23:26:37.15 ID:JsgoKJgvo

ほむら「…………」

ほむら「……くっ」


足に力が入らない……。膝を……ついてしまった。

……傷は完治したが、体力的な疲労が癒えているわけではないからだ。

決して、巴さんの姿を頃したことに後ろめたさを感じているわけではない。

使い魔ごときに敬意を抱いているわけなんか決してない。あり得ない。

ただただ疲れただけだ。感傷の類は一切ないんだ……。

ほむらは自分に言い聞かせる。


ほむら「…………」

ほむら「決着ゥゥ―――――――ッ!」


ほむらは、勝利した。

不意に大声を出したくなり、思い切り叫んだ。

悲しみもなければ達成感もない。

何も残すもののない虚しい勝利宣言だった。

979: 2013/03/30(土) 23:27:35.08 ID:JsgoKJgvo

バッド・カンパニー 本体:Mami

破壊力-B スピード-B 射程距離-B
持続力-B 精密動作性-B 成長性-B

銃を持った小さな歩兵百体の群体型のスタンド。その性質は「統率」
兵隊は狙撃か銃剣で刺すといった攻撃をする。一体一体の力は弱い。
組織を結成したいという欲求と、几帳面な性分が反映したとされる。
ちなみに群体型スタンドの所有者は心に決定的な欠落があるらしい。

A-超スゴイ B-スゴイ C-人間と同じ D-ニガテ E-超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある

980: 2013/03/30(土) 23:36:31.24 ID:JsgoKJgvo
レス数を確認したら余裕があったんで、このスレではここまで。お疲れさまでした。

三大兄貴の一人のスタンドです。あの人なんか黄色いですからね
地雷とか戦車とか描写がめんd……大変だったので、都合上銃士隊的な感じで

982: 2013/03/30(土) 23:42:28.77 ID:JsgoKJgvo
ちょっと専ブラが不慣れ故にちょっともたつきましたが、

新スレを建てましたので、誘導です。

新スレの方で完結した暁にはこのスレと一緒にHTML化いたします。
その前に1000行けばそれはそれでいいのですが……

と、いうことで新スレはこちら
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1364654387/

983: 2013/03/30(土) 23:51:18.41 ID:fHhYrAeEo
乙です

引用: まどか「夢の中で会った……」ほむら「私の名前はほむらです」