245: 2013/07/30(火) 20:34:02 ID:aZI3uTog
アニ「幼馴染みがM野郎」

※ユミベル前提 同郷仲よし話

※同郷が幼馴染み、その他捏造設定

ベルトルト「ユミルさま」の続き

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アニ(あー、眠い)

昨日の夜は散々だった。

なんでも昨日、休暇の晩にユミルとベルトルトが付き合いだしたとかで。

ミーナがそれをクリスタから聞きつけて、やたらとはしゃいでいた。

それを「明日は訓練だから寝な」ってやっと寝かせたのはいいんだけど、

あんまりはしゃぐもんだから私達と同室のミカサとハンナにも知れる結果になった。

ミカサのやつは興味ないかと思ってたけど、「後学のために」とか言って聞いていた。なんだそれ。

アニ(にしてもベルトルトとユミル、ねぇ。あのユミルの相手が、あいつに務まるのかな)

頭がまだ目覚めていない。ぼーっとしながら食堂に歩く。
進撃の巨人(34) (週刊少年マガジンコミックス)
246: 2013/07/30(火) 20:34:43 ID:aZI3uTog
それで、今は朝食の時間。

知ってる奴らと知らない奴らとがうまく合流したものだから、ユミルは災難だね。

クリスタ「うふふ、恋人かぁ……素敵だね、ユミル」

ミーナ「ねぇユミル、後でいっぱい話聞かせてね!」

ユミル「あーはいはい、気が向いたらな」

クリスタはユミルに恋人ができたのが嬉しいみたいだし、ミーナは普通の女の子ってものなんだろう。恋の話が大好きだし。

げんなりしたユミルは多分「気が向かないからなしだ」ってあしらう算段だろうけど、多分その策は失敗するよ。

ミーナの隣で話に参加することなく静かに食事をしていると、周りがよく見える。

247: 2013/07/30(火) 20:35:13 ID:aZI3uTog
サシャはなんかドヤ顔して、ベルトルトに絡んでいた。

サシャ「んふふ、やっぱりそうでしたか!なんだか私の勘が騒いだんですよ!昨日の昼間――」

ベルトルト「……ちょ、サシャ、声が大きいよ」

サシャ「ムグ……パンですね!ありがとうございます!」

そんな風にして、結果的にパンを半分巻き上げることに成功していた。おめでとう。

ベルトルトと同じ席だったライナーは笑ってたから、多分知ってるんだろう。

サシャが去ってからちょっと挙動不審だったのが変だけど。


ハンナとフランツは……まあいいや。


ミカサ「だからエレン、私達もそろそろ気持ちを」

エレン「なんであいつらの話からそうなるんだよ。……っていうかお前も恋の話とか興味あったんだな」

ミカサ「うん。人並みには」

アルミン「あれ、その話もうミカサまで知ってるんだ……大変だなぁ、あの二人」

あの三人組は相変わらずってところか。

アルミンは二人より早く、何か知ってたのかな。侮れないよ。

248: 2013/07/30(火) 20:35:51 ID:aZI3uTog

ジャン「くっそ、氏に急ぎ野郎……もう告白だろあれ!うらやましい……」

マルコ「はいはい、早く朝食取りにいかないと」

コニー「……ふぁー」

ジャン達が珍しく遅く食堂に入ってきた。

真面目人間のマルコがいるのに遅れたってことは、ジャンかコニーが寝坊したな。

朝食を取りにくるときに近づいてきて、会話が聞こえる。

ジャン「……そういやマルコ、氏に急ぎ野郎の言うあの二人って」

マルコ「……君には隠せないよね。考えてる通りの人だよ」

ジャン「そうか。……いや、あと一人がわからねぇ……まぁいいか」

マルコは何でか知ってるみたいだ。ジャン……こいつは視野が広い上に状況判断に長けるから、

すぐ「あと一人」とやらも見つけるだろうね。なんで一人断定済みかは知らないけど。

249: 2013/07/30(火) 20:36:25 ID:aZI3uTog
サシャ「コニー、おはようございます!」

コニー「おー……お前また人のパンもらったのか」

サシャ「このパン、ベルトルトにいただいたんです!」

サシャが両手に一個(かじりかけ)と半分のパンを持ってコニーに挨拶してる。食べながらじゃなかっただけましな方か。

この後、パンの入手経路からコニーにも知れるんだろう。

……あ、ほら。「昨日ベルトルトが――」まで言って、ユミルに怒られてる。

首根っこつかまれてるよ。叱られるいたずら猫みたいだね。

250: 2013/07/30(火) 20:37:40 ID:aZI3uTog

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そんなことがあってから少し経った日のことだ。

四日前の休暇はミーナと街を歩いてて、途中でクリスタ達を見かけた。

クリスタ「ベルトルトは当番で、ユミルとお出かけできないの……私が代わるって言ったんだけど」

アニ「休暇なんてまた来るでしょ。今日はクリスタが楽しみなよ」

ミーナ「えへへ、アニってばさりげなく優しいね!……あいたっ」

サシャ「……む?クリスタ、そのユミルはどこですか?」

クリスタ「どこかにお買い物だよ。すぐ戻るって」

そんなことを話して別れた。今思えばあの「お買い物」がそうだったのか。

253: 2013/07/31(水) 00:20:10 ID:9AlXpaBI
投下再開です。このアニの話は今日でお終いです。

254: 2013/07/31(水) 00:20:49 ID:9AlXpaBI

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アニ(ん、あいつら――)

夕食後、フラフラ外を散歩してたら木の陰にライナーとベルトルトがいた。

なにかひそひそ話してるけど、二人の距離がすごく近い。そんなんだからホ〇疑惑がかかるんじゃないの。

ライナー「すまなかった――大切な――」

ベルトルト「いいよ、気にしないで――壊したわけじゃ――」

ライナーがしきりに謝っている。ベルトルトがちょっと恐縮するくらいに。

アニ(……なんか不穏な会話だな)

気になる。ちょっと立ち聞きしてみよう。近くの草むらに身を潜める。

ライナー「ユミルからの大切なプレゼントなんだろう、その……あの首輪は」

ベルトルト「うん、そうだけど……箱の角がちょっと潰れただけだからそんなに気にしないで」

255: 2013/07/31(水) 00:21:43 ID:9AlXpaBI
アニ(は?首輪?)

恋人にそんなもの贈る?普通。

(……ああ、アクセサリーかな)

でも、あまりにもベルトルトのイメージじゃない。アクセサリーも、チョーカーも。

絶対似合わない。賭けてもいい。

人をよく見るユミルがそんなもの贈るだろうか。

ライナー「いや、でも見られたら困るだろう」

ベルトルト「うん、ライナーが箱につまづいて蹴っ飛ばして、飛び出たときはちょっと焦ったかな」

ライナー「あいつらに気づかれなくて助かったな」

見られたら困る、隠しておかなきゃいけない首輪? ……やっぱりなにか変なものじゃないの?

256: 2013/07/31(水) 00:22:35 ID:9AlXpaBI
ライナー「……その、使っているのか?やっぱり」

ベルトルト「うん、四日前に初めて……犬になった実感がね」

ライナー「い、いい、言わなくていい!人が来ないとも限らないんだぞ!」

ベルトルト「あ、ごめんね……浮かれてたみたいだ」

「……あのさ」

ライナー「アニ!?」

黙っていられなくなってつい出ていってしまった。でもこんな会話されたら、仕方ないと思う。

アニ「……犬だの首輪だの……あんたら普通に付き合ってるんじゃなかったの?

なんでこんなとこで変O性癖告白してるの?」

ライナー「いや、アニ。これはだな」

ベルトルト「いいよライナー。アニ、どこから聞いてたの?」

257: 2013/07/31(水) 00:24:40 ID:9AlXpaBI
アニ「ライナーが謝ってた所から。てっきり任務の話かと思ってさ」

ベルトルト「実際はこんな話だよ。……怒ってる?」

アニ「なんで」

ベルトルト「戦士らしくないって」

アニ「……いや。あんたのことだからなんとか折り合いつけたんでしょ」

ベルトルト「まあね。完璧ではないけど」

ライナー「それじゃ、お前はどうして」

アニ「心配だっただけだよ……幼馴染みが妙な趣味身につけて。

でも、お互い合意ならいいんじゃない。一方的にいじめられてるんじゃないんでしょ?」

ベルトルト「うん、合意の上だよ」

アニ「それならいいや。じゃあね」

258: 2013/07/31(水) 00:25:34 ID:9AlXpaBI
ライナー「おい、アニ……」

アニ「心配しなくても喋ったりしないよ」

それだけ言って、立ち去った。

皆に秘密の関係でも、ライナーにだけは話してあるのがあいつらしいと思った。

私に言わなかったのは、女の私に一応気を使ったんだろう。こっちもあいつらしい。

259: 2013/07/31(水) 00:29:49 ID:9AlXpaBI
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アニ(……それにしても)

一体いつ、あんな性癖が芽生えたんだろう。寮に帰る道で疑問が生まれる。

小さい頃からよく遊んだけど、そんな素振りは見せなかった。

(……ああいうのって、幼少期の体験が結構関係あるんだっけ)

この前読んだ心理の本に、そんなことが書いてあったのを思い出す。

親に体罰で躾られた子供が、SだかMだかに転びやすいとか。

(でも、ベルトルトの両親って優しかったような……とても体罰なんてなかったんじゃないかな)

何回か会ったことがあるけど、すごく優しい人たちだった。本人も大人しくて、そんなに叱られるような子供じゃなかったし。

そう、でかいくせに大人しくて気弱だから、ちょっといじめられっ子で……

260: 2013/07/31(水) 00:30:39 ID:9AlXpaBI
(……あ)

そうだ、いじめられっ子。近所の意地悪な奴らに絡まれて泣かされては、私やライナーが助けてやってた。それかな。

いつもある程度いじめられてからしか発見できなかったんだ。あいつら一緒にいたら最初から絡んでこなかったし。

私達がもうちょっと早く、泣かされる前に助けてやってれば、今ごろユミルとまともなお付き合いができてたんじゃないの?

(……あれ、私達のせい?)

幼少期に限らず、思い当たる節が沢山ある。

訓練兵になってから、泣き虫は治ったけど精神に余裕ができたのか私を子供扱いするもんだから何回か尻を蹴ったし。

わざとじゃないんだけど、ライナーの巻き添えにしちゃったこともある。

痛めつけた回数はそんなに多くないはずだけど……。

261: 2013/07/31(水) 00:32:14 ID:9AlXpaBI

(……でもまあ、よく考えたら。お互い合意ってことは、ユミルもSってことでしょ)

需要と供給が、二人の間で成り立っている。それならなんの問題もないよね。よかったじゃないか。

もともとあった素養が、ユミルにされた何かで開花したのかもしれないし。

(今まで無駄なこと考えちゃったな)

本当に無駄な時間を過ごしたことにちょっとうんざりして顔を上げたら、ミーナが向こうで手を振っていた。

ミーナ「アニー!一緒にお風呂行こうよ!」

アニ「うん」

軽く手を上げて答える。

並んで部屋に戻りながらどうでもいいことを喋っていると、ベルトルトの性癖もどうでもいいことに思えた。

262: 2013/07/31(水) 00:33:32 ID:9AlXpaBI
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アニ「……ねぇ、そういえばさ」

ベルトルト「何かな」

ある日たまたま備品の片付けを三人で命じられたときに、どうでもよかったんだけど気になったことを聞いてみた。

倉庫の中で誰もいないし、いい機会だろう。

アニ「やっぱり、「この豚野郎!」とか言われてるの?」

ベルトルト「豚じゃなくて犬だよ」

アニ「ああそう……そうだね、豚は首輪着けないもんね」

当然みたいな顔して答えられた。でも納得する。犬としての実感がどうとか言ってたしね。

ガシャン、と大きい音がしたから見たら、ライナーが対人格闘用の木剣が入った箱をぶちまけていた。

263: 2013/07/31(水) 00:35:13 ID:9AlXpaBI
ベルトルト「わっ、どうしたのライナー?」

アニ「何やってんのあんた」

ライナー「……スルッと答えすぎだろう、ベルトルト」

ベルトルト「アニもライナーも知ってるからいいと思って。……他の人には言ってないよ」

ライナー「そういうことじゃなくてな……アニ、お前も順応早いな」

アニ「あんたこそ遅いんじゃないの。私より早く知ってたくせに。

……それより、それ早く拾わなきゃいけないよ。紛失したら大事だからね。」

普段は兄貴面してドッシリ構えてるくせに、ライナーが一番動揺してるのがなんだかおかしい。

264: 2013/07/31(水) 00:35:55 ID:9AlXpaBI
アニ「私はベルトルトが犬なくらいで付き合い変えるつもりもないけど」

ライナー「それは、俺だってそうだぞ。お前達がどんな趣味を持っていようが」

ベルトルト「うん、僕もそのつもりだよ」

なんか改めて誓いあった、みたいな形になってしまってむずがゆいけど、

それでも私が兄弟みたいな感情をこいつらに感じているのは確かなことだった。

265: 2013/07/31(水) 00:36:49 ID:9AlXpaBI
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あちこち散らばった木剣を拾い集めると、昔三人で遊んだことを思い出した。

柄にもなく楽しくなって、ついいらないことを喋ってしまう。

アニ「私の弟みたいなものかもね、ベルは」

ベルトルト「ははは、その呼び方懐かしいね。……あれ、僕はアニを妹みたいに思ってたけど」

アニ「え、どう考えてもそっちが弟でしょ。どんだけ助けてやったと思ってるの」

ベルトルト「アニだって、迷子になって泣いてたときおんぶしてあげただろう」

ライナー「お前らは……二人とも俺の弟妹だ、それでいいだろ」

ベルトルト「……うん、そうだねライナー」

アニ「……ふん」

まあそれでいいか。兄貴面って言ったけど、やっぱりこうしてみるとライナーはお兄ちゃんみたいだ。

……絶対に本人には言ってやらないけど。



アニ「幼馴染みがM野郎」 終

276: 2013/08/01(木) 00:32:11 ID:AKgS5Gko

ベルトルト「ユミルと出かける」

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ベルトルト「…………」

異様に早く目が覚めてしまった。

空は明けはじめたばかりで、夜の気配がまだ残っている。同室の皆は当然まだ寝ていて、寝息だけが聞こえてくる。

(……どうしよう)

静かすぎる部屋にいると、悩みが増幅されるようだった。

なんの解決にもならないけど、布団の中でゴロゴロ寝返りをうつ。

なんであんな大口叩いちゃったんだろう。今度の休暇楽しみにしててね、なんて。

昨日の夜までは待ち遠しかったのに、寝つくころになって急に不安感に襲われた。

278: 2013/08/01(木) 00:33:19 ID:AKgS5Gko
(楽しんでもらえなかったらどうしよう……愛想尽かされちゃうかな)

白けた顔のユミルがいやにリアルに浮かんできて、寒気がした。

彼女が懐の広い人だっていうのは、よく知ってるのに。

想像が悪い方にばかり広がっていく。

(……でも、手を繋いで出かけるのは楽しみだな)

あの後すぐに、出かける時は手を繋いで歩きたい、とねだってみたら「いいよ」とあっさり許可されて拍子抜けした。

てっきり嫌がられると思っていたから。

(手を繋いで街を歩く、なんて。デートみたいだ)

みたい、というかそうなんだろう。

デート、だなんて改めて言うと本当に恋人なんだなと思って照れる。お互い愛情表現はちょっと変わっているけど。

279: 2013/08/01(木) 00:35:54 ID:AKgS5Gko

(……ユミルの手、か)

ユミルの手で撫でてもらうのが、僕はとても好きだ。優しく撫でてもらう度に満ち足りた気持ちになる。

そういえば、手を繋ぐのは初めてだ。

皆の前ではユミルがベタベタしたがらないし、僕も恥ずかしい。二人きりの時だって、手を繋ぐことはなかった。

それ以上のことだってしたのに、おかしな話かもしれない。



(とにかく、もうやるしかないんだよね……)

ユミルに与えられっぱなしにならないように、楽しんでもらう努力をしよう。

出かける約束したあの日だってそう決めたじゃないか。

考え込んでいる間に夜は明けていた。朝日が射し込んできて、皆モゾモゾ動き出している。

280: 2013/08/01(木) 00:38:34 ID:AKgS5Gko
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ベルトルト「おはよう、ライナー」

ライナーが完全に目覚めるのを見計らって、声をかけた。

エレンとアルミンも起きだしたようで、ゴソゴソ布団の音がする。

ライナー「うおっ、早いなベルトルト……寝てないのか?」

ベルトルト「いや、眠れたよ。すごく早く目が覚めただけ」

ライナー「初めてのデートだからな。緊張するのも分かる」

ベルトルト「……そうだね」

自分で言うのも照れるけど、他の人にデート、と言われると尚更照れくさい。

281: 2013/08/01(木) 00:42:54 ID:AKgS5Gko
ライナー「予定はあるのか?」

ベルトルト「特に決めてない……何が良いのか分からなくなって。ユミルは僕の行動範囲に興味があるらしいけど」

ライナー「お前、珍しい動物みたいな扱いだな」

ベルトルト「あはは、何それ」

ライナーが変な喩えをするから、少し笑った。心なしか、緊張が取れた気がする。

ベルトルト「……ありがとう、ライナー」

ライナー「ああ、良かったな。……よく分からんが」

疑問符を浮かべるライナーをそのままにして、着替えることにした。

早めに朝食を食べてしまってユミルを待っていたい。

デートに行くのに、女の子を待たせるなんてよくないから。

285: 2013/08/02(金) 00:31:24 ID:IoR7cXl6

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ベルトルト「お願いします」

教官「……よし。定刻は厳守するように」

朝食の後、準備を整えてから兵舎の入口へ向かった。

外出届をチェックしてもらって、玄関を出たところの壁に背中を預ける。

(食堂にユミルいなかったな)

食事が終わるまで、姿を見かけなかった。僕達は相当早い時間に行ったし、当然かもしれない。

待ち合わせ前に出会ってしまっても気まずいから、よかったのかな。

(……会えなくて安心するなんて変なの)

玄関先で何人かの同期生を見送っていると、後ろで最近聞きなれた声がする。

286: 2013/08/02(金) 00:32:17 ID:IoR7cXl6
「―――外出届です」

「――定刻は厳守するように――」

さっきまで会えないことに安心してたくせに、弾かれたように振り向いた。

ユミルがいる。

ベルトルト「ユミル、おはよう」

ユミル「おはようさん。早いな」

ベルトルト「この前は待たせちゃったから」

僕もだけど、ユミルもいつもと同じような服装をしていた。でも気にならない。

細身のパンツと、襟まわりの開いた鎖骨の見える服。この格好は、スラッとしたユミルにとても似合ってる。

287: 2013/08/02(金) 00:35:16 ID:IoR7cXl6
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歩き出してからは、隣で揺れるユミルの手ばかり見てしまう。


ベルトルト「あの……手、繋いでもいいかな」

ユミル「まだだ、待て」

訓練所の門を出てすぐに切り出してみたら、犬に餌を待たせるように鼻先に手を出された。

ユミル「訓練所を離れて……街の入口につくまでお預けだ」

ユミルが周囲をチラチラ見る。僕も見渡してみたら、門の辺りには街に行く訓練兵がちらほらいる。

ベルトルト「そうか、ばれたくないって言ってたもんね」

ユミル「広める必要性がないだろ……ここじゃ、街中よりも誤魔化せないからな」

街中なら人波にまぎれることができるけど、まばらに訓練兵がいるだけのここでは無理だ。

大人しく「待て」が解かれるまで待とうと思う。ユミルの命令だから。

288: 2013/08/02(金) 00:36:55 ID:IoR7cXl6

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

市街地に入る頃には、辺りに人がどっと増えた。多くの市民に混じって、僕らのような訓練兵らしい姿も見える。

ユミル「ほら」

ベルトルト「え」

ユミル「手、繋ぐんだろ。いらないのか」

ベルトルト「……繋ぎたいです」

ユミル「ハハッ、時々敬語になるよな。なんでだよ」

街の入口に差し掛かったところで手を繋いでくれた。

暖かくて形のいい、きれいな手。僕の手に比べると随分小さく見えてかわいい。

ベルトルト「今日はいつもより人が多いね」

ユミル「はぐれてもベルトルさんでかいから、すぐ見つかりそうで便利だ」

ベルトルト「……でも、はぐれるのは嫌だな」

ここからでも、混雑した様子がわかる。

はぐれてしまうのが怖くて、思わず手を強く握ったら握り返してくれた。受け入れてもらえてる感じがして幸せだ。

289: 2013/08/02(金) 00:38:06 ID:IoR7cXl6
ユミル「しっかし混んでる……広場の方で何かやってるのかもな」

ベルトルト「見に行く?」

ユミル「それもいいが、まずはベルトルさんの行動範囲だな。いつもはどんなとこ行くんだ?」

ベルトルト「ライナーと一緒だから、女の子の好きそうなところは行かないな……

本屋を見たり、日用品買ったり。市場もちょっとだけ見るかも」

ユミル「小ぢんまりしてるな」

ベルトルト「ご、ごめんね……」

僕は私物を増やすほうではないから、あんまり買い物を楽しんだことはないかもしれない。

精々本を買うくらいか。普段からもう少し、色々見ておけばよかった。

290: 2013/08/02(金) 00:39:38 ID:IoR7cXl6
ユミル「昼はどうする?」

ベルトルト「あそこ、いつもライナーと行くお店でよかったら」

少し離れた看板を指さす。入団して少し経ったくらいの休暇にライナーと入ったお店だ。

入口近くで場所も分かりやすいし、値段も手頃で利用することが多かった。

ユミル「喫茶店か。味はいいのか?」

ベルトルト「うん。サンドイッチがね、ライナーがおいしいって――」

ユミル「……ベルトルさん」

ベルトルト「どうしたの?」

ユミル「その、ライナーライナー言うのは今日はなしだ。……私はあいつとデートしにきたわけじゃない」

291: 2013/08/02(金) 00:40:51 ID:IoR7cXl6
ベルトルト「……うわぁ……ごめんね……」

悲しくなって俯く。つくづく自分が嫌になる。

ユミルと楽しく過ごそうって決めたのに、結局いつもみたいにライナー頼りなんて。

朝だってライナーに助けてもらってたし、こんなのじゃ駄目だ。

自分に意思がないのは自覚しているところだけど、今日くらいは。

ユミル「ああ、そんなにしょげるな。……私もクリスタからの受け売りなんだ」

ベルトルト「クリスタ?」

確かに僕にとってのライナーと同じくらい、ユミルはクリスタと一緒にいるけど。

励ますように、肩に手を置きながらユミルが続ける。

ユミル「昨日構いたおしてたらな、今日の予定を聞かれて。

私も今のベルトルさんみたいにクリスタクリスタ言ってたらしい。そしたら」

299: 2013/08/02(金) 13:20:24 ID:hQWNqD.o


クリスタ「もう、私の話ばっかりして……ユミルは誰とデートに行くの?」


「……そう!ベルトルトはユミルとデートするんでしょ。私じゃなくて」


「明日はベルトルトのことだけ見ててあげてね。私のことばっかり言っちゃだめだよ」

292: 2013/08/02(金) 00:41:58 ID:IoR7cXl6
ユミル「……だと」

ベルトルト「クリスタがそんなことを……」

普段からユミルは彼女に軽く怒られてるけど、ここまではっきり言うタイプとは思ってなかった。

温和に見えて、結構気が強いんだろうか。

ユミル「私はあいつのお人好しをあんまり良く思わないが、これはもっともだと思った」

ベルトルト「……だね」

ユミル「だから、二人の時はベルトルさんだけ見といてやる」

少し見上げるようにして、まっすぐ顔を見ながらユミルが言った。

皆の前では照れてるけど、二人きりの時のユミルはこういうときでも目を反らさない。

293: 2013/08/02(金) 00:43:03 ID:IoR7cXl6
ベルトルト「ユミル……僕もそうするよ、君だけ見てる」

ユミル「ん、よし」

彼女に応えようと精一杯目を見るようにして言ったら、喜んでくれたみたいだ。

手を伸ばして頭を撫でてくれようとしていたから、やりやすいように頭を下げる。

軽く何度か撫でた後、繋いでいる方の手をグッと引かれた。

ユミル「中の方行くか、ここでいつまでも話してても埒があかない」

ベルトルト「そうだね。折角君と出かけてるんだから」

忘れてた、ここはまだ街の入口だった。

ユミルと話すのは楽しいけど、中に入ってもお喋りはできるし。そろそろ行こうか。

294: 2013/08/02(金) 00:46:40 ID:IoR7cXl6
本日投下分終了です。おまけだというのにちょっと長い話になりそうです。
デートが終わってもまだ書きたいネタがあるので、しばらく投下が続きますがよかったらお付き合いください。

302: 2013/08/04(日) 00:13:16 ID:dcqy/8yo

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いつもの行動をなぞるように街を歩く。

ユミルが切らしているものがある、というので日用品を買った後、本屋へ向かっていた。

ベルトルト「荷物持つよ」

ユミル「軽いからいいぞ、別に」

ベルトルト「ううん、今日は僕が君になんでもする番だから……この前与えられっぱなしだったお返し」

ユミル「……そうだったな、じゃあ頼んだ」

空いている方の右手で紙袋を受けとる。中身は歯みがき粉や石鹸だから、本当に軽い。

あんまり振ったら飛んでいってしまいそうだ。

303: 2013/08/04(日) 00:15:51 ID:dcqy/8yo
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もうすぐ本屋の看板が見えるよ、と言ったらユミルに質問をされた。

ユミル「ベルトルさんって、どんな本読むんだ」

ベルトルト「いろんなジャンルを読むけど……最近は動物記録の本を読んでるよ」

ユミル「なんだそれ」

ベルトルト「学者が書いたシリーズ物なんだけどね。野生のウサギを追いかけて生態を記録したりとか、

僕らの乗ってる馬がどのように品種改良されてきたか、とか」

ユミル「へぇ……面白いのか」

ベルトルト「小説仕立てにしてあるから堅苦しくないし、面白いよ。

図書室にあるけど途中までしか入ってないから、一巻から少しずつ買ってるんだ」

途中から買ってもよかったけど、読み返したい時に不便だから結局最初から買った。

ユミル「ベルトルさんがそこまでするなら、面白いんだろうな。よかったら今度貸してくれ」

ベルトルト「うん、是非。明日にでも渡すよ」

我ながら分かりやすいくらいに声が弾む。

ユミルと読んでる本を共有できるなんて、すごく素敵なことじゃないか。

304: 2013/08/04(日) 00:18:14 ID:dcqy/8yo
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

本屋の店内、目当ての棚の前であることが頭をよぎる。

ベルトルト「……ユミル、さっきの本。今日買って渡そうか?」

折角なら新品の方がいいだろう。それに、ユミルに何か買ってあげたい。

ユミル「じゃあ、一巻だけ貸してくれ。二巻は買ってもらうから」

ベルトルト「え、なんで?一巻も買うよ」

ユミル「……変な事を言うようだが」

ベルトルト「うん」

ユミル「読みグセが見たいんだ、ベルトルさんの」

ベルトルト「読みグセ?」

ユミル「癖がついてるページとか、あれば書き込みや汚れなんかも。人によって違うから面白いぞ」

ベルトルト「へえ……そんな楽しみ方もあるんだね。文章じゃなくて本そのものを読むのか」

305: 2013/08/04(日) 00:19:31 ID:dcqy/8yo
ユミルは僕より一つだけ年上なはずだけど、こういう時はうんと大人びて見える。

同年代にはちょっといない感じ。そういうところも魅力的だ。

「じゃあ、一巻だけ貸すよ。僕のクセはそんなに面白くなさそうだけど……これ、買ってくるね」

「ああ、ありがとう。先行ってる」

二巻と、最新巻の五巻を持って会計に行く。その間、ユミルは店内を見ているようだった。

会計を済ませて、本屋を出る。本は日用品の紙袋にまとめて入れた。兵舎で分かれるときに自分の分だけもらおう。

ユミル「混んでたな、本屋も」

ベルトルト「人が多いからね……広場はもっと混んでるだろうね」

ユミル「だろうな。少し早いが、昼飯食べたら行くか」

ベルトルト「うん、そうしよう。この道を戻ってお店まで行こうか」

306: 2013/08/04(日) 00:21:44 ID:dcqy/8yo
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

街の入口近くの喫茶店に入って、昼食を食べている。

いつもの休暇と同じことなのに、目の前にいるのがライナーじゃなくてユミルだからか緊張する。

「…………」

ベルトルト(うう……気まずい……)

僕達はろくに会話もせずに黙々と食事をしていた。

黙っているのは得意だったのに今は気まずくて、サンドイッチの皿に目を落とす。

野菜の入ったのと、薄く焼いたオムレツの入ったものを頼んで、半分ずつ分けあって食べている。

彼女とこうして何かを共有できるのは嬉しい。本や食事、時間でも。

でも今は沢山のものを共有しているのに、途切れた会話が繋がらない。

サンドイッチが運ばれてきて、食べはじめてから変な沈黙ができてしまった。会話を始めるタイミングがつかめない。

307: 2013/08/04(日) 00:23:08 ID:dcqy/8yo
ユミル「……美味いな、これ」

沈黙を破って、ユミルがポツリと口を開いた。

ベルトルト「あっ……よかった。好きじゃなかったかと思った……何も言わないから」

ユミル「何か言おうとは思ってたが、タイミングがつかめなかったんだ、あんまり真剣に食ってるから」

ベルトルト「え、そうだった?」

全く意識していなかった。気まずくて食事に集中していたのがそう映ったのか。

ユミル「ああ。いつもと違って、なんかガキっぽく見えた……一生懸命食ってたな。そんなに好きか?これ」

私のも一つやろうか、とオムレツの方をユミルが差し出してくる。

ベルトルト「いや、僕は……ううん、ありがとう。いただくよ」

遠慮しようと思ったけど、気持ちを無下にしてしまうのが嫌で受け取った。

ちょっとだけ楽しそうにするユミルの様子に、緊張がほぐれる。

さっきまでは味もわからないまま食べていたけど、ようやくちゃんと味わえた。卵がおいしい。

308: 2013/08/04(日) 00:23:59 ID:dcqy/8yo
ベルトルト「君といると、なんだかよく子供扱いされる気がするよ」

この前の休暇、一緒に出かけられなくて落ち込んでいたときのことを思い出した。

あの時も、子供をあやすように説得されたっけ。

ユミル「不愉快か?」

ベルトルト「そんなことないよ。あまりされないし」

ユミル「違いないな。同期じゃ私か、ライナーぐらいだろ」

ベルトルト「そうだね」

アニもだけど、それは伏せておく。

309: 2013/08/04(日) 00:25:01 ID:dcqy/8yo
ユミル「……好きなんだ、ベルトルさんを甘やかすの。最初に言ったはずだけどな」

ベルトルト「そうだった、ね。……いじめてからじゃなかったっけ」

後の一言は極力小さく、ユミルにしか聞こえないように囁いた。

ユミル「それがあれば最高だ。……けど、甘やかすのだけやってもそれなりに満足してる」

僕がいじめられるのを飛ばして、撫でられるだけでもそれなりに満足なのと同じだろうか。

大きな満足感や快感は無いけど、心が暖かくなるには十分というか。

ユミル「……さて、食べきったな。出るか。広場行くんだろ」

最後に水を一口飲んで、ユミルが席を立った。

皿はすっかり空になっている。おいしかったから、半分無意識で食べたのはもったいなかったな。

314: 2013/08/05(月) 00:17:02 ID:h6VIujVE

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

広場へ向かう道の途中、小物を売っている店があった。

髪留めやアクセサリーが沢山ある、女の子の好きそうなお店だ。

(あ、あれ……)

店先に置いてあった白い髪留めが目に留まる。小さな花のついた、可憐な作りのもの。

(ユミルに似合うんじゃないかな)

横顔を見ながら想像してみる。

いつもの臙脂色も好きだけど、白い花を着けたユミルはきっとすごく素敵な女の子だろう。

ベルトルト「あの、ユミル」

ユミル「どうしたよ」

繋いだ手を軽く引くと立ち止まってくれた。

ベルトルト「あのお店に入ってもいいかな」

ユミル「……別にいいけど、あんな可愛らしい店に用があるのか?」

315: 2013/08/05(月) 00:18:29 ID:h6VIujVE
怪訝そうなユミルの手をとって、髪留めの前まで連れて行く。

ベルトルト「これ、君に似合うと思って」

ユミル「乙女趣味だな。どこをどう見てそう思ったんだ」

ベルトルト「後ろ向いてくれるかな」

ユミル「おい、ベルトルさんっ」

ちょっと強引だけど、肩を軽く持ちながらユミルの体を回して、背中を向けてもらった。

臙脂色の髪留めの上から、白い髪留めを当ててみる。

やっぱりよく似合う。予想が当たって笑ったら、爪先を踵で軽く踏まれた。

316: 2013/08/05(月) 00:19:20 ID:h6VIujVE
ベルトルト「いたっ」

ユミル「何笑ってんだ」

ベルトルト「思った通り似合ってたから。すごく可愛いよ」

ユミル「……もういいだろ、行くぞ」

ベルトルト「これ買ってくるから、待っててくれるかな」

ユミル「は……」

ベルトルト「君に着けてほしいんだ、これ」

ユミル「私には到底似合わないと思うんだが――」

ベルトルト「大丈夫、可愛かったよ」

言い逃げするように会計に持っていく。あのままだとユミルはずっと遠慮しているだろうから。

こんな強引な行動ができるなんて、自分でもびっくりだ。

317: 2013/08/05(月) 00:21:54 ID:h6VIujVE

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ユミル「……買ってもらっておいてなんだが」

ベルトルト「うん?」

ユミル「いつ使えばいいんだ?これは」

ベルトルト「んー……訓練中はちょっと無理そうだよね、結構華奢な作りだし。今日みたいな休日に使うとか」

ユミル「休日ね……まあそんなとこか。訓練中に壊したとかつまらない事は御免だし」

手の中で髪留めを弄びながら呟かれた言葉に、気に入ってもらえたと思えて胸がいっぱいになる。

ベルトルト「……ねえ、今着けてみてくれないかな」

ユミル「……ここまで来たら仕方ないな、やってやるよ」

強引ついでにお願いしてみたら、しぶしぶだけど了承してもらえた。

そばにあったベンチに座って、髪留めを取り替える。

パチン、と留め金を外して、手で髪を整えて。いつもの髪留めは小物屋の袋に入れて、日用品の紙袋の中だ。

318: 2013/08/05(月) 00:25:34 ID:h6VIujVE
ユミル「……よし」

白い髪留めを着け終えて、横目で出来を確認するユミルが少し照れているように見えて顔が緩んだ。

ベルトルト「! っユミル、いひゃい」

ユミル「デ、デレデレしやがって……!」

顔をほんのり赤くしたユミルに、右の頬を引っ張られた。痛い。

ベルトルト「えへへ、だってユミル可愛いから……うぐっ」

ユミル「このまま引きちぎってやろうか」

ベルトルト「ひゃめてぇ……」

一回は離してもらえたものの、今度は左右に引っ張られる。やっぱり痛い。

ユミルは二人きりのときはあんまり照れないけど、照れ隠しはその分過激なのかもしれない。

ユミル「ほら立て、広場に行く」

ベルトルト「ほっぺたがジンジンする……」

ユミル「はいはい、撫でてやるから」

頬を離して一足先に立ったユミルに、猫みたいに襟を後ろから持たれて立ちあがる。

痛みが残ることを訴えたら、グシグシと乱暴にだけど撫でてくれた。

319: 2013/08/05(月) 00:27:21 ID:h6VIujVE

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ユミル「うわっ……」

ベルトルト「混んでるね……」

広場では、何かのお祭りをしているみたいだった。露店が出ていて、大道芸人も来ている。

人でごった返していて、歩くにも一苦労しそうだ。

ユミル「はぐれるなよ」

ベルトルト「!?」

ユミルが握った手を離したかと思ったら、指を組むようにして握りなおす。いわゆる恋人繋ぎ、というやつだ。これは。

ベルトルト「こ、ここ、これって、恋人のする」

ユミル「一応は恋人じゃないのか、私達」

ベルトルト「……そうだね、うん。そうだ」

ユミル「なんでこれが今更恥ずかしいんだよ……ベルトルさんの価値観がわからねえ」

ユミルが呆れたように言う通りだ。今日の早朝も考えたことだけど、これより恥ずかしい事なんて沢山しているのに。

(……ユミルの手が好きだからかな、こんなに照れくさいのは。

そういえば、彼女を好きになったきっかけも手だったな)

320: 2013/08/05(月) 00:28:59 ID:h6VIujVE
ユミル「どうした、黙りこんで。前見て歩かねえと転ぶぞ」

ベルトルト「ごめん……ん、冷たい」

深く握った手を見つめていたら注意されて、慌てて視線を前にやる。鼻に何か冷たいものが当たった。水飛沫だ。

ベルトルト「たまに水飛沫が飛んでくるね、なんだろ」

ユミル「あれからだろうな」

ユミルが広場の中央を指さす。

初夏になって暑さが出てきたからだろうか、真ん中に設置された噴水の出力が上げられているみたいだ。付近の路面がびしょ濡れになっている。

ユミル「打ち水か、この量じゃ噴水からじゃなくてわざわざ撒いてあるんだな」

ベルトルト「暑くなってきたからね。気をつけて歩かないと滑りそうだ」

昼を少し過ぎて、太陽はまだ高い位置にある。最近日射しが強くなってきた。

ユミル「暑くないのか、カーディガン着てて」

ベルトルト「夏用の薄いのだから平気だよ」

ユミル「そうか。カーディガン好きだよな、ベルトルさん」

ベルトルト「好きなのかな……」

ユミル「いつも着てるから好きだと思ってたけど、違うのか?」

321: 2013/08/05(月) 00:32:13 ID:h6VIujVE
ベルトルト「寒暖の調節に便利だし、着てるとなんとなく安心するけど」

ユミル「いつも着てる上に、そんだけ理由があれば好きなんだろ」

ベルトルト「そっか、好きなんだ……教えてくれてありがとう」

ユミル「プハッ、あんたは変わり者だな」

自分では今一分からなかったことを知れたのでお礼をしたら、ユミルが噴き出した。

ずっと笑っているので、相当ずれたことを言ったのかと心配になる。

ユミル「……そんなとぼけたこと言う奴には見えなかった……フフッ」

ベルトルト「変だったかな」

ユミル「いや、今日は色んな顔を知れて楽しいよ。好きな本とか、食い物とか。

今までお互い交流はあったのに、よく考えたら知らないことが多すぎた」

ベルトルト「……そうだね。僕ももっと、君のことが知りたい」

僕もユミルも、触れられたくない大きな秘密を抱えている。

けれど、それ以外だったら色々知りたいし、知ってもらいたい。そうしたらきっと、彼女と過ごすのがもっと楽しくなる。

327: 2013/08/06(火) 00:18:08 ID:tbCKTXb.

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

露店を見ながら広場の外周をぐるりと回っていると、隅の方が騒がしくなった。

ユミル「うるせえな、なんだ一体」

ベルトルト「何か揉めているみたいだね」

ちょっと背伸びして、人混みの上から覗いてみる。

柄の悪そうな人達に、女の子が絡まれていた。隣にいる男の人は彼氏かな。

必氏に守ろうとしているけど、分が悪そうだ。あのままじゃ殴られるんじゃないか。

ベルトルト「……チンピラに絡まれてる人がいる」

ユミル「ハッ、どうしようもない奴ってのはどこにでもいるな」

ベルトルト「どうしたら……あ、駐屯兵だ……」

薔薇を背負ったジャケットが見えた。お祭りは人が沢山来るから三兵団が合同で警備に当たっていて、

ここは駐屯兵団の担当区域だったらしい。すぐに来てくれて、ホッと胸を撫で下ろした。

328: 2013/08/06(火) 00:20:24 ID:tbCKTXb.
ベルトルト「暴力沙汰になる前に来てくれてよかった」

ユミル「全くだ、訓練兵の身じゃ揉め事にホイホイ首突っ込む訳にもいかない」

もう少し規模の大きい催しだと僕達訓練兵も警備を手伝うことがあるけど、

そういった時以外で市民に対して力を振るうのはいけないことだと教えられた。

市民の税金で食べさせてもらっているんだから当然だろう。

今みたいな暴漢を制圧するにはいいらしいけど、それも他に兵士がいない場合の最後の手段らしいし。

ユミル「まだ喚いてるのか、意外と粘るな」

ベルトルト「しばらくかかるだろうね……嫌だな」

駐屯兵が来てからも、彼らは抵抗していた。解決したと思ったのに、性質が悪い。

絡まれていた人達は逃げられたようだけど、騒ぎは余計に大きくなっている。揉め事の横はあまり通りたくない。

329: 2013/08/06(火) 00:21:46 ID:tbCKTXb.

ユミル「面倒事には遇わないに限るが……どうする、このまま進めばぶつかるぞ」

ベルトルト「……別の道から抜けようか、こっちに横道があるよ」

ユミル「、おい、ベルトルさん。そっちは……まあいいか」

裏路地に入る道を見つけて、そっちへ向かう。

後ろでユミルが何かを言いかけてやめてしまったのが気にかかった。

でも立ち止まっては迷惑だし、抜けてから聞こうと思って足を進めた。

330: 2013/08/06(火) 00:33:20 ID:tbCKTXb.

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




僕は今、後悔しかしていない。

ユミル「……本当に知らなかったんだな……」

ベルトルト「…………うん」

なんでさっき、ユミルの言うことを聞き流してしまったんだろう。

ベルトルト「ごめんね……まさかこんな所に出るなんて……」

僕らがいるのは、連れ込み宿や酒場、その他いかがわしい店が立ち並ぶいわゆる色街という所だった。

裏道へ入ってからはとにかくどこかへ抜けたくて、ろくに周りを見ずにどんどん歩いていたらこんな所に来てしまっていて。

ユミルに立ち止まらされて初めて気がついた時には、恥ずかしいし申し訳ないしで消えたくなった。

331: 2013/08/06(火) 00:34:04 ID:tbCKTXb.
ユミル「知らなかったんだろ?宿なんか訓練兵でも来てる奴はいるし、そんなに落ち込むなよ……」

さっき「ベルトルさんも案外助平だな」なんてからかわれてちょっと涙目になったのを気にしているのか、ユミルが珍しく動揺している。

ベルトルト「……でも、女の子をこんな場所に連れてきちゃったなんて」

ユミル「来ちまったものは仕方ないだろ。私は気にしてないから、落ち込むのはやめろ」

ベルトルト「うん……ありがと……」

恋人繋ぎのままの手を引かれて、表の道を目指して歩く。

小さい頃も、よくこうして涙目で手を引かれて歩いたな。相手はアニやライナーで、手の繋ぎ方も涙目の理由も違ったけど。

332: 2013/08/06(火) 00:35:03 ID:tbCKTXb.
ベルトルト「うわっ」

場違いな思い出に浸っていたら、いきなり止まったユミルにぶつかりかけた。

ベルトルト「どうしたの?道が分からないなら誰かに……」

ユミル「いや、ここを真っ直ぐ行けば出られる」

ベルトルト「そうなんだ、なら――」

ユミル「その前にさ、入ってみないか?ここ」

ベルトルト「ここっ、て。ユミル、このお店は」

僕達が立ち止まったのは、連れ込み宿の前だった。外装は普通の宿みたいに見えるけど、歴としたいかがわしい店だ。

ユミル「わかってるよ、ここが何するところかなんて。私とそういうことは、したくないか?」

ベルトルト「……えっと、あ、う……」

目を見ながらストレートに誘われて、何か言いたいけど、何も言えない。意味のない声が出るし、顔も熱くなる一方だ。

なんでユミルは髪留めで照れて、これは照れないんだろう。

333: 2013/08/06(火) 00:36:02 ID:tbCKTXb.
ユミル「ベルトルさん。手、強く握りすぎだ。ちょっと痛い」

ベルトルト「あっ、ごめんね……。……っその……」

緊張して握り締めていた手を緩めた。やっと絞り出した言葉が震える。

ユミル「ん?」

ベルトルト「……したい、です……ユミルと……」

ユミル「うん、じゃあ入るか。緊張しながらお願いする時に敬語になりがちなんだな、ベルトルさんは」

ベルトルト「そうみたいだね……」

ユミルが笑いながら僕の背中を叩く。街の入口で手を繋ぐときに指摘されたことを思い返して苦笑いする。

ユミル「今日は何をするかな……また色々知らない顔が知れそうだ」

ベルトルト「あはは、お手柔らかに頼むよ……」

品定めするような鋭い目に、背中がゾクゾクした。

334: 2013/08/06(火) 00:37:38 ID:tbCKTXb.

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

受付で手続きを済ませて、部屋の鍵を受け取った。中も一見普通の宿屋と変わらない作りに見えるけど、

「そういう目的」の場所だからだろうか、街の表側とは違う空気が溜まっているみたいに感じる。

ベルトルト「訓練兵も来てる、って言ってたよね……鉢合わせたらどうしよう」

ユミル「平気だろ、気まずいのはお互い様だ」

……それもそうか。わざわざ言い触らすのは自分達にもリスクが高いし、誰かが僕達と会ったとしてもやらないだろう。

曲がり角の多い廊下を歩いて、鍵と同じ番号の部屋についた。

室内には簡素なベッド、その横に三つ引きだしのあるチェストだけで、目立った特徴はない。すりガラスの扉の向こうは風呂場だろうか。

何をしていいか分からず、とりあえずベッドの足側の端に腰かけてみた。兵舎のものよりはフカフカしている。

ユミルは頭側に置いてあるチェストの中身を見ている。

ユミル「タオルにゴムと……やっぱり無いよな」

ベルトルト「どうしたの」

ユミル「いや、ちょっとな……これでいいか」

そう呟いてユミルがポケットから取り出したのは、大判のハンカチだった。

紺色の生地に山吹色の花が刺繍されている。四辺はレースみたいに波形になっていてかわいらしい。

335: 2013/08/06(火) 00:38:44 ID:tbCKTXb.
ベルトルト「綺麗だね、それ」

ユミル「……まあな」

ハンカチを帯状に折り畳むユミルに声をかけると、なにか思うところがあるのか一拍置いて返された。

出来上がった帯を持って、僕の背後に回り込む。

ベルトルト「ん?うわっ……」

いきなり視界が塞がる。濃い色の布に覆われて何も見えない。

ユミル「白と迷ったが、紺色の方を持ってきといてよかったな」

ハンカチの端を結びながら、機嫌よく言っている。

小物の色で迷うなんて、女の子っぽくて可愛いなと思ったけど、そんな呑気なことを考えている場合じゃなかった。

336: 2013/08/06(火) 00:39:53 ID:tbCKTXb.
ユミル「よし、できた」

目隠しをし終わったユミルが後ろ側から抱きつく。

ベルトルト「ユ、ユミルッ……?」

膝立ちになっているので、後頭部に胸が押し付けられる。

フニフニ柔らかい感触と一緒に、鼓動まで伝わりそうなくらいに密着されている。

ユミル「大丈夫だ、怖いことはしないから」

ベルトルト「……うん」

宥めるように優しく言われて、好きにされることにした。ほんの少しだけ、後ろに体重を預けてみる。

ユミル「首輪がなくても、ベルトルさんは従順だな。ほんとに犬っぽい」

ベルトルト「ユミルは猫っぽいね。見た目とか、奔放なところとか」

犬を撫でるようにして、ユミルが喉や額を撫でている。僕を落ち着かせて、目隠しに慣れるようにしているんだろうか。

341: 2013/08/07(水) 00:24:40 ID:uWvLyQrE
喉を撫でていた手がそのまま体を撫でながら下がっていって、カーディガンのボタンを外しはじめる。

一回腕を解かれて、カーディガンを脱いだ。

ユミルの体も離れて、シーツと編み地の擦れる音が聞こえる。目隠しをされて聴覚が敏感になっているみたいだ。

ベルトルト「畳んでくれてるんだ、ありがとう」

ユミル「聞こえるのか……やっぱり敏感になるんだな」

なんだか高揚した響きが感じとれた。彼女の意図はこれだったんだろうか。

ベルトリト「目隠しした意味って、そういうことだったの?」

また後ろから抱かれて、今度はシャツのボタンが外されていく。

全部外して、肩を露出させたところで一旦動きが止まった。

袖が殆どないくらい短いものだからか、インナーには触れないようだ。

ユミル「まあそれもあるし……次何されるか分からない、ってのがいいんじゃないか。ベルトルさんみたいなのには」

僕みたいなの、と揶揄されるように言われてドキリとした。

ベッド横の引きだしが空いて、中を探る音。また体が離れている。視界がゼロなので、一人ぼっちみたいで不安だ。

目当てのものはすぐ見つかったらしくて、ユミルが戻ってきた。

342: 2013/08/07(水) 00:29:47 ID:uWvLyQrE
ベルトルト「……っ!」

抱かれて安心した次の瞬間、両手首が掴まれて後ろに回る。

「あ、」

シャツの余った袖で手首が縛られていく。

その上からさらにもう一度、何かで縛るようだ。端が手のひらに触れて、タオルだと分かった。

ベルトルト「二重に縛るなんて、結構きついね」

ユミル「途中で抜けたら萎えるだろ」

縛り終えたら、ゆるく抱き締められた。

ユミル「この間読んだ雑誌にな、変なところにある性感帯の話が載ってて」

ベルトルト「どんな雑誌読んでるんだい、君……」

ユミル「普通の女向け雑誌だよ。大きい記事は服だ雑貨だ華やかなもんだが、小さい記事は意外とえぐいぞ、ああいうの」

いきなり切り出された話に驚くと、更に知らない世界の話をされる。

そしてそれが今の僕達にどう関係してくるのか、うっすら理解した。

343: 2013/08/07(水) 00:33:59 ID:uWvLyQrE
ベルトルト「もしかして、今から君は」

ユミル「うん、ベルトルさんを開発してやろうかと」

ベルトルト「……開発」

ユミル「素質はあると思うんだよな、上顎の時も反応よかったし」

相変わらず胸が後頭部に密着しているので、微かに笑った時の振動も話し声の響きも全部伝わる。

今のユミルはとても愉しそうだった。どうやって僕を弄ろうか考えてるんだろう。

ユミル「例えば、眉間とか、肩とか」

言われた場所を手が滑っていく。真っ暗な視界と相まって、まるで暗示をかけられているような気分になる。

344: 2013/08/07(水) 00:37:57 ID:uWvLyQrE
ユミル「耳とか首筋……うなじもまあよくあるか」

ベルトルト「ひっ」

密着していた体が少しずれて、うなじに口づけられた。

いきなりの刺激に対応できない間にも、舐めたり噛んだりされている。

くすぐったいような感覚がだんだん変質してきて、体の奥がムズムズする。

ベルトルト「……は、」

しばらくして、唇が離れた。責めから解放されて息をつくけど、それも少しの間だけで、またうなじに口づけられる。

今度は動かず、一箇所をずっと吸っていた。チリッとした痛み。キスマークをつけられたらしい。

ユミル「……ん、きれいについた」

さっきまで吸っていたところを指先で撫でて、うっとりとユミルが呟く。

ユミル「この前はつけられなかったからな……ここならそう見られないだろ」

ベルトルト「……そうだね、僕のうなじ見る人はあまりいないよ」

ユミル「キスマークっていいよな。私のもの、って感じで」

姿勢は元に戻ったけど、ユミルの指はずっとそこを撫でていた。

345: 2013/08/07(水) 00:41:47 ID:uWvLyQrE
ベルトルト「独占欲強いんだ、意外だな……拘らない方だと思ってた」

ユミル「好きなように生きたいから、欲しいものは手に入れることにしてるんだ」

「欲しいもの」だと言われて、体が熱くなった。

言葉一つで、手を繋ぐことも比じゃないくらい照れてしまっている。耳や首筋まで赤くなっているんだろう。

ベルトルト「……今、ユミルすごく熱烈な告白してるよ。気づいてる?」

ユミル「知ってる……次は眉間触るか」

うなじを撫でていた方の手で顎を持ち上げられて、上を向いた。

最初よりもっと胸がくっついて、少し早くなった鼓動がよく伝わる。

目隠しで顔は見えないけど、ユミルの顔も赤いんだろうか。

348: 2013/08/08(木) 00:31:33 ID:IX.Z9YnU
ユミル「どうだ?」

ベルトルト「ん、ちょっとくすぐったい……」

顔を上にした姿勢を保ったまま、指の腹を使って細かく掻くような動きで眉間をくすぐられていた。

ベルトルト「うわ、今、ゾワッて」

ユミル「何回も擦られて敏感になってきたんだな、順調だよ」

ベルトルト「んっ」

擦られていた場所に口づけられて反応したのを境に、指での刺激から唇や舌を使ったものへ切り替えられる。

うなじと同じように、吸ったり舐めたりされる度にゾクゾクする感覚が走る。

唇で眉間を食むようにされる時が一番強くそれを感じた。

349: 2013/08/08(木) 00:34:30 ID:IX.Z9YnU
ユミル「これ、好きなのか?」

反応がいいのはユミルにも伝わっていたようで、からかうように言われる。

「……大分よくなってきたな」

しかしそれっきり唇は離れて、指での刺激も再開されない。どうしたんだろう。

ベルトルト「痛、った」

不思議に思っていたら、いきなり痛みが与えられる。速くて固いものがぶつかる痛さ。デコピンされたんだ。

刺激に敏感になっているからか、痛みが長く残っている。

ユミル「懐かしいだろ、この痛さも」

すぐさま口づけが降ってきた。痛むところをいたわるように舐め、食んでいる。

350: 2013/08/08(木) 00:38:57 ID:IX.Z9YnU
ベルトルト「君に告白した日だったね……うぁっ」

あの日、遊びの延長でしたはずの行為から発展して、眉間を触られて感じるようになるなんて。

快感から逃れるように少しだけ体を捩ってみたけど、それも大した抵抗にはならなかった。

目にはいつの間にか涙が滲んでいて、紺色のハンカチに染み込んでいく。

351: 2013/08/08(木) 00:43:17 ID:IX.Z9YnU
ユミル「いや、眉間でこんなにいい反応してくれるなんて思わなかった」

ベルトルト「自分でも思わなかったよ。……こんなとこで」

ユミル「知ってたら開発にならないだろ。……耳はなあ、この前触ったし……」

ユミルが急に黙りこむ。真っ暗な視界の中、息遣いだけが感じとれた。

耳をクニクニ触りながら、次はどこに触れるかを選んでいる。

352: 2013/08/08(木) 01:03:21 ID:IX.Z9YnU
ユミル「……」

首の近くに指先が触れた。インナーの襟に指を掛けて引っ張り、肌を露出させているみたいだ。

首筋に顔を埋めるようにして、肩の平らな所、鎖骨の上あたりを甘噛みされた。

軽く歯形がつくくらいの力加減だ。髪の毛がサラサラと首筋に当たってむずがゆい。

358: 2013/08/09(金) 00:53:47 ID:lICCSjgQ
ベルトルト「んっ……」

ユミルはしばらくずっと甘噛みを繰り返して、浅い歯形をつけていた。

噛む場所を変えるために頭を少し動かされる度に、首筋に髪が擦れる。くすぐったくて身動ぎした。

ユミル「なあ、もう少し強く噛んでもいいか?」

気分が昂ってきたのか、嗜虐的な色を隠そうともせずに聞いてくる。

ベルトルト「いいよ。大怪我するとか、命の危険がなければ君の好きにしてほしい」

ユミル「……氏ぬのは怖いもんな」

ベルトルト「すごく怖いよ」

ユミルも僕と同じで、氏ぬのが怖いのか。

好きなように生きたいと言っていたから、人生を満喫しきるまで氏にたくないのかもしれない。

359: 2013/08/09(金) 00:54:55 ID:lICCSjgQ
ユミル「……なんか湿っぽくしちまったな、噛むぞ」

ベルトルト「!……あっ、ぐ」

ユミルが寸前まで噛んでいた場所に歯を立てた。ぐぐっ、と徐々に食い込んでくる。

締めつけられるように段々力を込められて、痛みが強くなっていく。

甘噛みしていた時の力加減を忘れてしまったのかと思うくらいに強く噛まれて、悲鳴みたいな声が漏れる。

ベルトルト「……はぁっ……」

口が離れた後も、痛みはひかない。そこに痛みの素が埋まっているみたいだ。

ユミル「痛くしすぎたか?」

ベルトルト「……いや、まだ大丈夫。っ、痛かった、けど……平気」

気遣うように言いながら歯形に指を這わされて、乱れる息を整えながら答えた。

360: 2013/08/09(金) 00:58:26 ID:lICCSjgQ
ユミル「そうか、ならもうちょっと噛んでもいいだろ」

ベルトルト「うん」

もう、僕が拒否しないのを知っている問いかけ方だった。

こういうのも一種の信頼関係なんだろうか。

また同じ場所に歯を立てて、力を込めてゆく。さっきよりも深く歯が入っていく感じがする。

繰り返されたら食いちぎられてしまうんじゃないか。

ユミル「……ふぅ」

口を離したユミルの吐息がかかった。歯形のつきかたを確認しているみたいに、指を這わせている。

噛まれた場所がジクジク痛んで、熱を持ちはじめていた。

361: 2013/08/09(金) 00:59:48 ID:lICCSjgQ
ベルトルト「ひ、ぁ!ユミル、それ駄目だっ、」

いきなり歯形の溝を舐められる。

まだ痛むそこを舌先で抉るようにされるのが気持ちよくて、抑えたいのに声が出ていく。

ベルトルト「――っ」

ユミル「もっと声聞かせてよ、ベルトルさん。

……こんな所なんだから、声がしたって誰も気にしない。」

手が使えないから歯を噛んで声を抑えることにしたら、とっくに見抜いていたみたいに甘く囁いて頬擦りされた。

362: 2013/08/09(金) 01:01:55 ID:lICCSjgQ
ベルトルト「……ふ……」

ユミル「これもしばらく消えないな、赤く痕になってる」

ユミルの顔が肩に戻る。手当てするように、優しく唇や舌が触れている。

食いちぎられてしまいそうなくらいに激しく噛んでいたのが嘘みたいだ。

内出血しているのか触れられただけでヒリつくけど、舌が触れる度に痛みを舐めとられているような感じさえした。

382: 2013/08/14(水) 00:52:43 ID:zV3meazI

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ユミル「ベルトルさん。風呂あがったぞ」

ベルトルト「ん……」

ユミル「眠いのか?まだちょっと時間あるし、添い寝してやろうか」

ベルトルト「いやいいよ、僕寝相悪いから」

行為が終わって風呂を使った後、ベッドの上でユミルを待っていたら眠くなってしまって

ウトウトとうたた寝をしていたら風呂からあがったユミルに起こされる。

添い寝は嬉しいけど、彼女を蹴っ飛ばしてしまったら大変だから断った。

383: 2013/08/14(水) 00:55:45 ID:zV3meazI
ユミル「寝相悪いのか。全然見えないけど」

ベルトルト「男子寮で言われてるよ。占いができるとかって……ユミル、その格好は?」

ユミルはいつもの服を着ていたけど、下はタオルをスカートのように巻いたままだった。

ユミル「洗った下着が乾くまではこれだろうな、誰かさんがグチャグチャにするから」

ベルトルト「……ごめんね」

光景が蘇って、思わず目を逸らす。

ユミル「いいよ、私も結構派手にやっちゃったしな」

ベルトルト「ああ、これだよね。うなじはいいとして、肩のはうまく隠せるかな」

まだ赤いままの歯形に触れる。何かの拍子で見られたときにうまく言い訳できるか不安だ。

風呂場はまとまって利用することが多いから、ばれた場合一気に広まるんじゃないか。

385: 2013/08/14(水) 01:02:09 ID:zV3meazI
ベルトルト「お風呂の時間ずらそうかな……」

ユミル「絶対そっちのほうが怪しまれるだろ」

ベルトルト「……そうだね」

いつもの日常のような会話をしていると、熱に浮かされた頭では深く考えられなかったことが気になってきた。

肩に掛けたタオルで髪の水分を取っているユミルに聞いてみる。

ベルトルト「ところでユミル」

ユミル「ん?」

386: 2013/08/14(水) 01:04:05 ID:zV3meazI
ベルトルト「さっき、してるときに「僕のはじめてもらってから」って言ってたけど。あれ、何のこと?」

ユミル「ああ、こっちのことだけど」

事も無げに手を伸ばして尻を撫でられた。薄々感づいてはいたけれど、ほとんど反射的に後ろに飛びのく。

ベルトルト「……つまりそれは」

ユミル「ベルトルさんの処Oもらってから、私も」

ベルトルト「わ、分かった、もういいよ!言わなくていい!」

信じられなくて目を合わせると、平然ととんでもないことを言われそうになって慌てて遮る。

次こういうことをした時、何をされるのかが分かった気がして今から不安になった。

387: 2013/08/14(水) 01:14:55 ID:zV3meazI
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ユミル「これ返すよ、面白かった」

あの日から一週間した朝食の時間、ユミルに貸していた本が返ってきた。

ベルトルト「好みに合ったんだ、よかったよ」

ユミル「うん、馬の話なんか特に」

ベルトルト「僕も好きだな。やっぱり身近だからか、よく分かる気がするよね」

ユミル「ああ、そこの辺りよく開いた感じだったな」

ベルトルト「……読みグセってやつだね。この間言ってた」

ユミル「うん、それが目立つだけであとはキレイなもんだけどな。ベルトルトっぽい」

388: 2013/08/14(水) 01:21:02 ID:zV3meazI
ベルトルト「そうだね、僕のはあんまり面白くないと思うよ。……何で今「ベルトルト」って」

ユミル「気まぐれだよ、たまには本名で呼んでみようかなと思っただけだ。ここんとこ「ベルトルさん」って呼びすぎたし」

確かにあの日は、僕だけを見ててくれると言ったとおりに沢山名前を呼ばれたけど。

急に呼び方を変えられたのは、なにか嫌われることをしてしまったんだろうか。

ベルトルト「ベルトルさん、って呼ぶの嫌になった?」

ユミル「いや、そういうわけじゃない。本当に気まぐれなんだ」

389: 2013/08/14(水) 01:38:32 ID:zV3meazI
ベルトルト「じゃあ、ベルトルさんって呼んでほしい。好きなんだ、君にそう呼ばれるの……君の特別になれた感じがして」

ユミル「……朝から恥ずかしいやつだな、ベルトルさんは。すぐへこむし」

ベルトルト「あはは、ごめん……でも、本当のことだよ」

頭を人差し指で小突かれる。そういえば、あの日もこうして「ベルトルさん」と声を掛けられたのが始まりだった。

普通ならすぐに忘れてしまうような些細な事故から始まった関係だけど、僕らは普通じゃなかったからここまで発展した。

時間の許す限り、できるだけ長くこのままでいたいと思う。


391: 2013/08/14(水) 01:44:32 ID:zV3meazI
この話で終わりです。

寝相悪いベルトルトとか、急な「ベルトルト」呼びとか48話要素を急に入れたくなってこんな締め方になりました。

長いことお付き合いありがとうございます、感想レスが活力でした。

引用: ベルトルト「ユミルさま」