1: 2012/08/09(木) 22:33:07.30 ID:IuIMIUswi
「ツモ、3000、6000」

「へ……?」

まくられ……
あれ……私は、負けたのか……。
点差は……なんだ、たったの800点じゃないか……。

「ありがとうございました」

素っ気なく彼女は挨拶をした。
こちらも、返さないといけない。

「あ…ありが……と、ござ……」

うまく声が出なかった。

「……大丈夫?」

歪んだ視界に心配そうに声をかける彼女の姿が入る。

「大丈夫ですっ」

そう反射的に言い放ち、逃げるように卓から離れる。
ちょっと変な感じだっただろうか。
あぁ、あの時は泣いてたんだっけ……。
はは、私は泣き虫だったっけなぁ……。
咲-Saki- 25巻 (デジタル版ヤングガンガンコミックス)
2: 2012/08/09(木) 22:33:51.83 ID:IuIMIUswi
―――――
――


「準優勝、おめでとう」

パパが言ったように結果は準優勝だった。
だがあまり嬉しく思えない。

「うん……」

返事はしたものの、空返事。

「なんだ、元気ないな……中学一年生があれだけやれれば十分だろう?」

「うん……」

「来年、再来年とまだあるんだから落ち込むこともないさ」

「はい……」

気分は沈んだままだった。
人生で始めての敗北だ、忘れられるはずもない。

3: 2012/08/09(木) 22:34:42.87 ID:IuIMIUswi
「はぁ……」

自然とため息がでてしまう。
どうして負けたのだろうか、という思考がぐるぐると回っている。

「あの人、高校でも麻雀打つのかな……」

それなら……
ん?
何を考えてるんだ私は……らしくない。

「宮永照、かぁ……」

そうつぶやいた時、胸の中になにか暖かいものが咲いた気がした。

4: 2012/08/09(木) 22:36:08.20 ID:IuIMIUswi
―――――
――

「あっさり優勝しちゃった」

あの敗北から一年経って、またインターミドルに出場した。

「はぁ、張り合いないなぁ……こんな簡単に優勝しできちゃうなんて……ん?」

ふと、テレビを見る。
どうやらインターハイの中継のようだ

「わぁ、すごいリード……あ」

卓につき、打ってる人の名前を確認する。そこには宮永の文字。

「宮永さん一年で大将を……すごいなぁ」

5: 2012/08/09(木) 22:38:35.80 ID:IuIMIUswi
「白糸台高校……ここ最近の大会じゃ聞いたことないところ……」

高校は、ここにしようかな……制服も可愛いし……。なんてね。

ーーーーー
ーー

「大会、本当に出なくていいのか?」

もう既に聞き飽きた質問だ。

「うん、受験勉強もあるから」

咄嗟に出た言葉は嘘ではない。
だがレベルの低い大会に出たくないというほうが理由としては強い。

「まぁ、そこまでいうならいいが……お前の学力ならある程度はいけるだろう?」

「行きたい高校があるから」

何度このやり取りをしただろうか、いい加減飽きてきた。

「わかった、息抜きはちゃんとするんだぞ」

パパはそういって新聞に目を落とした。

「はぁい」

私は短く返事だけ返した。

6: 2012/08/09(木) 22:41:11.05 ID:IuIMIUswi
ーーーーー
ーー

えーと……私の受験番号……
うう、数が多い……
あ、あった。これかな。

うん、合ってた…合格。

「これで、あの人と同じ土俵に……」

来年、いっしょに麻雀を打てると思うと心が踊った。
さっそくポケットの中の携帯を掴み、電話をかける

「合格、だったよ」

端的に結果を報告する。

「そうか」

受話器から響いた音声はどこか嬉しそうだ。

「それで……」

「ん、なんだ?」

7: 2012/08/09(木) 22:42:46.42 ID:IuIMIUswi
「いやぁ……寮に入りたいなぁって……」

「家も都内とはいえ、確かに遠いからな……まぁ、いいだろう」

「ありがとう。じゃあ、通話切るね」

パタンと携帯を閉じる

「追いついた」

思わず、そう呟いてしまった。

「あ、お母さんにも電話しないと……」

周りは先ほどから変わらず、騒がしいままだった。

8: 2012/08/09(木) 22:45:03.27 ID:IuIMIUswi
ーーーーー
ーー


「えへへ~、明日入学式かぁ……」

自然と顔がほころぶ。
友達にこんな顔見られたら、笑われるかな。

「インターハイ二連覇の学校……強い人も多いのかなぁ?」

頭に浮かぶのは、麻雀の考えばかりだった。

「んー、たのしみっ」

9: 2012/08/09(木) 22:48:02.98 ID:IuIMIUswi
ーーーーー
ーー

「ツモ、8100オール……終了ですね」

新入生の中では負けなし、やっぱりそんなに強いところじゃないのかしら……。

「む、大星がまたトップか」

「はい」

弘世先輩の声に答える。

「ミドルの時の牌譜も見せてもらったが……これなら1軍に混じって打てるんじゃないか?」

1軍という言葉にトクンッと心臓が跳ねる。

「ええ、雑魚の相手は飽き飽きしてたところです」

おっと、つい本音が出てしまった。
まぁ、実際のことなのだからいいだろう。

11: 2012/08/09(木) 22:51:50.31 ID:IuIMIUswi
「お前……まぁいい、こっちだ」

そういって弘世先輩は部室の外へ出る。

「あれ……部室じゃないんですか?」

小走りで追いかけながら問う。
どこへ向かうのだろうか。

「部室だよ」

部室がふたつあるのだろうか……?
よくわからないまま、私は先輩の後を追った。

「まぁ、ここだ」

一見ただの教室のように見える。
だが先ほどから響いている音は間違いなく麻雀牌の音だ。

「部室がふたつあるんですね」

「まぁ、そんなところだな」

そう言いながら、先輩がドアに手をかける。

「さ、ここが一軍部屋だ」

ガララと古い音を立て、ドアが開く。

12: 2012/08/09(木) 22:52:52.39 ID:IuIMIUswi
「……ッ」

その場で感じたあまりの威圧感に思わず震えてしまう。
部屋の中には三人いた。

「菫、その子が?」

肩にかかる程度の髪の先輩が答える

「あぁ、お前との対戦経験もあるんだったな?」

「んー……あぁ、三年前?」

三年前……?
その条件に当てはまる人が、雰囲気は今と違うが一人思い浮かんだ。

「宮永照さ……先輩?」

「……そうだけど?」

あの時とは雰囲気も変わっていて気づけなかった。
それに……

13: 2012/08/09(木) 22:55:33.55 ID:IuIMIUswi
「髪、長いままだと思っていましたから……びっくりしました」

「そういえばお前は新入部員に姿を見せたこともなかったな……」

思い返せば、あっちの部室で見かけたことはない。

「むぅ、似合ってないのかな」

彼女は髪をいじりながらそう言った。

「そういう問題ですかねぇー」

亦野先輩がつっこむ。

「い、いえ……」

似合っていると声が出そうになったが、抑える。

「こほんっ」

弘世先輩がわざとらしく咳払いをした。

「とりあえず、打ってみろ…大星」

「は、はいっ」

私は上級生三人の座る卓についた。

何故か宮永先輩は終始不思議そうな顔をしていた。

15: 2012/08/09(木) 22:57:49.85 ID:IuIMIUswi
ーーーーー
ーー

「か、勝てない……」

涙目でつぶやく。

「大星はずっと2位だったな」

そう、弘世先輩のいうように宮永先輩がずっとトップで、私がその下という結果が続いた。

「三年前より強くなってる」

雀卓に突っ伏していると、頭上から宮永先輩の声が響く。

「いえ……まだまだですよぅ……」

実際、宮永先輩の点数には届かない。
これが実力の差だろうか。

16: 2012/08/09(木) 23:00:52.24 ID:IuIMIUswi
「はぁ……それ以下なんだけど私たち……」

亦野先輩のつぶやき。

「流石に心が折れるね……」

続いて渋谷先輩。

「そんなこといっても、ずっと宮永先輩の独走なんですから……」

そんなことをうだうだいっていたら、宮永先輩が言ってきた。

「その……加減したほうがよかった?」

「必要ないです!」

あ、つい声を張ってしまった……。

「そ、そう……」

明らかにしょげてる宮永先輩。
やっちゃったなと私を見てくる先輩たち。

「う……もう一回やりましょう!次は負けませんから!!」

場の空気を戻そうと、私は再戦を申し込んだ。

17: 2012/08/09(木) 23:04:48.56 ID:IuIMIUswi
―――――
――

私が一軍メンバーに入ってから一週間ほど経った。

「大星、ちょっと聞きたいことがあるんだが、いいか?」

弘世先輩に呼び止められた。

「はい、なんでしょう?」

「その、嫌なら言わなくていいんだが……苗字が三年前と違うのはやっぱり……?」

「一年くらい前に両親が離婚しまして、いまは父方の姓を使ってます」

正直、もう気にしていないけど。

「最近か、変なこと聞いてすまなかった」

「いえ、大丈夫です。でも先輩、予想はあってたんじゃないですか?」

19: 2012/08/09(木) 23:08:13.92 ID:IuIMIUswi
しかし、なんで今更そんな質問をしてきたのだろうか。

「あー、その…確かに大体は予想していた通りだった」

先輩は歯切れが悪そうな感じで答えた。

「じゃあどうして確認なんて?」

意味はないとわかっていたけど、聞いてみる。

「…照のやつが不思議がっててね」

あー、三年前の名前のままだと思っていたのか。

「そ、そうだったんですか」

あぁ、悩んでる姿を想像したら笑えてきた。

「まぁ、そういうことだ……すまないな、変なことを聞いて」

「いえ、構いませんよ」

別にそういうのは苦でないと思えるから。

21: 2012/08/09(木) 23:15:01.16 ID:IuIMIUswi
―――――
――

とある日、敬語を使うことを禁止されてしまった。
渋々従っていたのだが……。

「テルー」

「なに、淡?」

「やっぱり敬語じゃないとなんかむずむずするー……」

「だめだよ淡、虎姫に上下関係はないんだから」

「えー……」

憧れている先輩にタメ口なんて、つらいです。

でも、先輩方がそういって仲良くしてくれるのは嬉しい。

「ですけどやっぱり……」

「ほら、敬語に戻ってるぞ」

菫先輩の一言が突き刺さる。

23: 2012/08/09(木) 23:17:54.81 ID:IuIMIUswi
「で……だけど私のほうが年下だし……」

何度目だと言わんばかりに菫先輩が口を開く。

「それがここのルールだ……いい加減慣れてくれ」

「うう……」

そう簡単に慣れれる訳がない。

「はぁ、胃に穴があきそうだよ……」

「それは、大変……」

「尭深先輩まで……はぁ」

「ほら、また……」

ほんと、愉快な先輩たちです……。

25: 2012/08/09(木) 23:20:32.94 ID:IuIMIUswi
「あ、それロンね13200」

「にゃっ!?」

亦野先輩に放銃してしまった、ううむ……集中ができない。

「にゃ、だとさ……くく」

「淡、それはさすがに……ふふ」

「淡らしいね……」

「ちょっ……テル、スミレ、タカミー、やめてよー!」

楽しいと感じる時間だった。
終始笑顔でいられた場所だった。


――ぃ

ん……

あわ――

あれ、呼ばれて……

淡、起きて

26: 2012/08/09(木) 23:22:15.20 ID:IuIMIUswi
淡「んぅ……?」

照「起きた、大将戦始まるよ」

淡「ぁー、私寝てたんだ」

淡「夢、見てました」

照「夢?」

淡「うん」

照「どうだった?」

淡「とてもいい夢でした」

淡「暖かい、感じの夢でした」

照「そう……」

28: 2012/08/09(木) 23:25:29.68 ID:IuIMIUswi
淡「さて、そろそろいかないとまずいや」

照「大将戦、がんばって」

淡「はい、いってきます」

淡(最後の戦い……これが終わったらもう今までのように5人で集まることは少なくなるかもしれない)

淡(この半年は楽しかった、だからこそ優勝を、三連覇をみんなに届けたい)

淡(だからわたしは……)

淡「よろしくお願いします」

『泣いても笑っても、最後の二半荘…点数はほぼイーブン!決勝大将戦、スタートです!』

淡(誰にも負けない!)

おわり

30: 2012/08/09(木) 23:26:18.12 ID:r35EKMRv0
お、乙?

33: 2012/08/09(木) 23:34:53.29 ID:5xZyNsHt0
乙乙

引用: 淡「夢、見てました」