537: 2009/07/30(木) 07:31:26.81 ID:BZSZgS2VO
みっちゃんのお話より
城門前広場の歌声
昔々のおはなしです。ある小さな国の小さな広場で、それはそれは可愛らしい女の子がバイオリンを奏でていました。
春先のタンポポのほほ笑みのような、やさしい黄色いドレスを着た少女、金糸雀です。
金糸雀は毎日、広場前のパン屋さんから焼きたてパンの柔らかいかおりがする時間になると、広場にやってきてバイオリンを演奏します。
だれもが金糸雀の奏でる美しい旋律に足を止め、可愛らしい少女にほほ笑みを向けます。
【ローゼンメイデン】
城門前広場の歌声
昔々のおはなしです。ある小さな国の小さな広場で、それはそれは可愛らしい女の子がバイオリンを奏でていました。
春先のタンポポのほほ笑みのような、やさしい黄色いドレスを着た少女、金糸雀です。
金糸雀は毎日、広場前のパン屋さんから焼きたてパンの柔らかいかおりがする時間になると、広場にやってきてバイオリンを演奏します。
だれもが金糸雀の奏でる美しい旋律に足を止め、可愛らしい少女にほほ笑みを向けます。
538: 2009/07/30(木) 07:37:46.21 ID:BZSZgS2VO
ある日、金糸雀がいつものようにバイオリンを演奏していると、隣の国へ出かけるため馬車にのっていた王さまが、金糸雀のバイオリンを初めて耳にしました。
その美しい音色に心を奪われた王さまは、馬車の中から広場を離れるまで、ずっと音色に耳をすませていました。
王さまは国へ帰ってくると、すぐに金糸雀を探すように家来に命じます。
王さまは金糸雀の素晴らしい演奏を、もっとたくさんの人に聞いてもらいたいと思っていました。
家来は金糸雀を見つけると、すぐにお城に招待しました。突然の出来事に金糸雀は目をパチパチとさせてしまいます。
その美しい音色に心を奪われた王さまは、馬車の中から広場を離れるまで、ずっと音色に耳をすませていました。
王さまは国へ帰ってくると、すぐに金糸雀を探すように家来に命じます。
王さまは金糸雀の素晴らしい演奏を、もっとたくさんの人に聞いてもらいたいと思っていました。
家来は金糸雀を見つけると、すぐにお城に招待しました。突然の出来事に金糸雀は目をパチパチとさせてしまいます。
541: 2009/07/30(木) 07:44:59.79 ID:BZSZgS2VO
お城の謁見の間に呼び出された金糸雀は、もしかしたら素敵な王子さまとお見合いでもあるのかしら!?と、少しだけ都合のいい解釈をしました。
しかし、現われたのは初老の王さま。ちょっぴり肩を落としましたが、王さまの嬉しい提案に、そんなくらい気分はきれいに無くなりました。
「こんど、君が主役のコンサートをひらきたい。君の美しいバイオリンの音色を、多くの人に聞かせてほしい」
金糸雀は向日葵のように大きく可愛らしい笑顔を浮かべ、大変喜びました。ぴょんぴょんと飛び跳ねています。
コンサートは来週、国一番の大きなホール。金糸雀はその日の夜、ドキドキして眠ることができなかったそうです。
しかし、現われたのは初老の王さま。ちょっぴり肩を落としましたが、王さまの嬉しい提案に、そんなくらい気分はきれいに無くなりました。
「こんど、君が主役のコンサートをひらきたい。君の美しいバイオリンの音色を、多くの人に聞かせてほしい」
金糸雀は向日葵のように大きく可愛らしい笑顔を浮かべ、大変喜びました。ぴょんぴょんと飛び跳ねています。
コンサートは来週、国一番の大きなホール。金糸雀はその日の夜、ドキドキして眠ることができなかったそうです。
543: 2009/07/30(木) 07:51:56.64 ID:BZSZgS2VO
それから一週間、金糸雀はいつもより早く広場に来てバイオリンを演奏しました。
その旋律は金糸雀の気分を反映し、ふわふわと弾むように陽気で、楽しい音色です。聞いている人たちも、どこか、心が踊っているようです。
……しかし一人だけ、金糸雀のことを夜の月を隠してしまう暗い雲のような瞳で見ている人がいます。
意地悪な音楽家、ラプラスです。彼は才能はあれど、わがままで事故中心的で、みんなから嫌われているのです。
ラプラスは金糸雀が羨ましくて、なんとか金糸雀を困らせてやろうと思いました。
その旋律は金糸雀の気分を反映し、ふわふわと弾むように陽気で、楽しい音色です。聞いている人たちも、どこか、心が踊っているようです。
……しかし一人だけ、金糸雀のことを夜の月を隠してしまう暗い雲のような瞳で見ている人がいます。
意地悪な音楽家、ラプラスです。彼は才能はあれど、わがままで事故中心的で、みんなから嫌われているのです。
ラプラスは金糸雀が羨ましくて、なんとか金糸雀を困らせてやろうと思いました。
545: 2009/07/30(木) 08:00:32.36 ID:BZSZgS2VO
コンサート当日、金糸雀は緊張してさっきから何杯も水を飲んではトイレへ行ってを繰り返しています。
それに目を付けたラプラスは、金糸雀がトイレへ行っている間に、なんと金糸雀のバイオリンを壊してしまいました。
これでは、金糸雀はコンサートでバイオリンを演奏できません。冷たい笑いを浮かべたラプラスは、一番前の客席に座りました。金糸雀の困った顔を見るためです。
そして開演二十分前、王さまが金糸雀に挨拶に来ました。金糸雀は緊張で舌が回らず、何を喋っているか解りません。
王さまは金糸雀にリラックスするよう、少しバイオリンを弾いてみてはと提案し、バイオリンケースをあけました。
しかしどうでしょう、開けられたケースのなかのバイオリンは、見るも無惨に壊されています。
王さまも金糸雀も驚いて、飛び上がりそうになってしまいました。これでは、バイオリンを演奏できません。
それに目を付けたラプラスは、金糸雀がトイレへ行っている間に、なんと金糸雀のバイオリンを壊してしまいました。
これでは、金糸雀はコンサートでバイオリンを演奏できません。冷たい笑いを浮かべたラプラスは、一番前の客席に座りました。金糸雀の困った顔を見るためです。
そして開演二十分前、王さまが金糸雀に挨拶に来ました。金糸雀は緊張で舌が回らず、何を喋っているか解りません。
王さまは金糸雀にリラックスするよう、少しバイオリンを弾いてみてはと提案し、バイオリンケースをあけました。
しかしどうでしょう、開けられたケースのなかのバイオリンは、見るも無惨に壊されています。
王さまも金糸雀も驚いて、飛び上がりそうになってしまいました。これでは、バイオリンを演奏できません。
548: 2009/07/30(木) 08:10:02.15 ID:BZSZgS2VO
金糸雀のバイオリンは、金糸雀のお父様からいただいた大切なバイオリンです。それが壊されてしまい、金糸雀は言葉が出ませんでした。
涙があふれます、なぜ、こんなことになってしまったのか。金糸雀は考えても考えても答えを出せません。
王さまはすぐにコンサートを中止しようとしました。金糸雀もそのつもりです。
二人は舞台に立ち、みんなを説得しようと、ホールへ向かいます。重厚な扉を開くと、金糸雀は、自分の目を疑いました。
そこには、いつも広場に来てくれていた人たちだけではなく、たくさんの人で客席がうめられていました。
みんな、金糸雀の演奏を聞きに来た人たちです。ここに全員が、金糸雀を待っているのです。
金糸雀はすぐに暗い気持ちを吹き飛ばし、舞台に立とうとする王さまを止めました。
王さまは、金糸雀が何をするつもりなのか解らず、ゆっくりと歩きだす金糸雀をじっと見つめていました。
気が付けば開演の時間。金糸雀は舞台に立ちました。
涙があふれます、なぜ、こんなことになってしまったのか。金糸雀は考えても考えても答えを出せません。
王さまはすぐにコンサートを中止しようとしました。金糸雀もそのつもりです。
二人は舞台に立ち、みんなを説得しようと、ホールへ向かいます。重厚な扉を開くと、金糸雀は、自分の目を疑いました。
そこには、いつも広場に来てくれていた人たちだけではなく、たくさんの人で客席がうめられていました。
みんな、金糸雀の演奏を聞きに来た人たちです。ここに全員が、金糸雀を待っているのです。
金糸雀はすぐに暗い気持ちを吹き飛ばし、舞台に立とうとする王さまを止めました。
王さまは、金糸雀が何をするつもりなのか解らず、ゆっくりと歩きだす金糸雀をじっと見つめていました。
気が付けば開演の時間。金糸雀は舞台に立ちました。
552: 2009/07/30(木) 08:17:10.95 ID:BZSZgS2VO
客席に座る人々は驚きを隠せません。今日はバイオリンコンサートのはずなのに、金糸雀は何も持たずに舞台に立っています。ラプラスも、いったいどういうことかと目を丸くしています。
静まり返る会場。全員が息を呑んで金糸雀を見守ります。……すると、小さな歌声が聞こえてきました。
金糸雀です。金糸雀はその小さな体で、巨大なホールの全員に聞こえるように、力一杯歌いました。
小鳥のような可愛らしい歌声が、場内の人々の耳に小さく届きます。
どれだけ頑張って歌っても、大きなホールに強く響くことはありません。
けれど全員が、やっと耳に届くかのような小さな歌声に、じっと目を閉じて耳を傾けました。
広い草原で遊ぶ小鳥のような、幸せそうで、やさしい歌声です。
健気な金糸雀にみんなが、そっと涙を流しますが、その表情はほほ笑みが見えていました。
静まり返る会場。全員が息を呑んで金糸雀を見守ります。……すると、小さな歌声が聞こえてきました。
金糸雀です。金糸雀はその小さな体で、巨大なホールの全員に聞こえるように、力一杯歌いました。
小鳥のような可愛らしい歌声が、場内の人々の耳に小さく届きます。
どれだけ頑張って歌っても、大きなホールに強く響くことはありません。
けれど全員が、やっと耳に届くかのような小さな歌声に、じっと目を閉じて耳を傾けました。
広い草原で遊ぶ小鳥のような、幸せそうで、やさしい歌声です。
健気な金糸雀にみんなが、そっと涙を流しますが、その表情はほほ笑みが見えていました。
555: 2009/07/30(木) 08:23:39.83 ID:BZSZgS2VO
金糸雀が歌い終わると、巨大な拍手の音が波となりホールを飲み込みました。小さな体でその波には耐えきれなかったようで、金糸雀はぺたんとおしりを付いてしまいました。
ラプラスは泣きながら、ホールを後にしました。金糸雀の姿を見て、自分はこの場にふさわしくないと、夜の街に消えていきました。
王さまはすぐに舞台に駆け上がり、金糸雀の手を取り、ありがとうといいました。
なにがありがとうなのだろう。金糸雀はその意味が解らず、目をパチパチとさせました。
とはいえ、コンサートは大成功のようで、拍手は金糸雀が舞台裏に消えてもなお、止むことはありませんでした。
その日の金糸雀の歌声は、みんなの心に刻み込まれ、忘れられることはないでしょう。
ラプラスは泣きながら、ホールを後にしました。金糸雀の姿を見て、自分はこの場にふさわしくないと、夜の街に消えていきました。
王さまはすぐに舞台に駆け上がり、金糸雀の手を取り、ありがとうといいました。
なにがありがとうなのだろう。金糸雀はその意味が解らず、目をパチパチとさせました。
とはいえ、コンサートは大成功のようで、拍手は金糸雀が舞台裏に消えてもなお、止むことはありませんでした。
その日の金糸雀の歌声は、みんなの心に刻み込まれ、忘れられることはないでしょう。
557: 2009/07/30(木) 08:31:40.25 ID:BZSZgS2VO
次の日、金糸雀はいつものように広場にいました。バイオリンはありませんが、広場には彼女の歌声が響きます。
彼女だけではなく、まわりにいるすべての人が、金糸雀と一緒に歌を歌っています。
バイオリンは国一番の職人が、早く金糸雀の演奏を聞きたいと、せっせとなおしています。
バイオリンが直れば、広場にはバイオリンの音色と、多くの人々の歌声が響くことでしょう。
そして、その日はどうやらとおくはないようです。
今日も金糸雀は、広場で歌います。
城門前の広場から、素敵な歌声が、おいしそうなパンの香りと一緒に漂ってきます。
それは、春先のタンポポのように優しく……。
おわり
彼女だけではなく、まわりにいるすべての人が、金糸雀と一緒に歌を歌っています。
バイオリンは国一番の職人が、早く金糸雀の演奏を聞きたいと、せっせとなおしています。
バイオリンが直れば、広場にはバイオリンの音色と、多くの人々の歌声が響くことでしょう。
そして、その日はどうやらとおくはないようです。
今日も金糸雀は、広場で歌います。
城門前の広場から、素敵な歌声が、おいしそうなパンの香りと一緒に漂ってきます。
それは、春先のタンポポのように優しく……。
おわり
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