1: 2013/04/21(日) 12:34:30.25 ID:mQAtD2s70
2: 2013/04/21(日) 12:35:32.80 ID:mQAtD2s70
プロローグ
立ちはだかる、舞台装置の魔女。通称、ワルプルギスの夜。
ほむらは幾度と無く挑み、その度に叩きのめされ、逃げる様に時間を遡り続けた。
――君のおかげで、最強の魔女が出来上がったんだ。
その結果は、親友を苦しめる最悪の状況を作り出してしまっていた。
何度も見てきた、退院日の病院の天井。
(また、ダメだった……。それどころか、私の願いがまどかを苦しめていたなんて……)
ほむらの頬に、一滴の雫が流れ落ちた。
(……ダメだ!! これ以上弱気になったら、無駄な魔女が増えてしまう!!)
手の甲で拭い、奮い立たせるように自分に言い聞かせる。
(これ以上時間を繰り返せば、まどかの因果が増える一方……。もう時間を戻す訳には行かないのに……どうすれば良いの?)
自問自答しても、活路は見えてこない。大きく溜息を吐き出し、自分のソウルジェムに目を向ける。紫の宝石は、かすかに濁りを溜めていた。
(……私の願いが原因。……私の願い?)
そのキーワードが、頭の片隅に引っ掛かった。
立ちはだかる、舞台装置の魔女。通称、ワルプルギスの夜。
ほむらは幾度と無く挑み、その度に叩きのめされ、逃げる様に時間を遡り続けた。
――君のおかげで、最強の魔女が出来上がったんだ。
その結果は、親友を苦しめる最悪の状況を作り出してしまっていた。
何度も見てきた、退院日の病院の天井。
(また、ダメだった……。それどころか、私の願いがまどかを苦しめていたなんて……)
ほむらの頬に、一滴の雫が流れ落ちた。
(……ダメだ!! これ以上弱気になったら、無駄な魔女が増えてしまう!!)
手の甲で拭い、奮い立たせるように自分に言い聞かせる。
(これ以上時間を繰り返せば、まどかの因果が増える一方……。もう時間を戻す訳には行かないのに……どうすれば良いの?)
自問自答しても、活路は見えてこない。大きく溜息を吐き出し、自分のソウルジェムに目を向ける。紫の宝石は、かすかに濁りを溜めていた。
(……私の願いが原因。……私の願い?)
そのキーワードが、頭の片隅に引っ掛かった。
3: 2013/04/21(日) 12:36:21.92 ID:mQAtD2s70
――鹿目さんを守れる自分になりたい!!
契約の願いを思い出す。
何度も繰り返した時間の中で、幾つ物真実を目に焼き付けてきた。
(もし、この理屈だとすれば……)
希望の光、道標の先が見えた気がした。
(可能性は低いけど……賭けるしかない!! もう、これ以上は繰り返せないから……)
ほむらの眼つきは鋭く研ぎ澄まされ、表情は凛と張りつめた。
暁美ほむらは知りたい。あの戦いの結末を……。
4: 2013/04/21(日) 12:37:07.32 ID:mQAtD2s70
1.接触
退院したその日。新たな住居に身を移したほむらは、荷物を解くよりも先に起こした行動。
≪……キュウべえ。聞こえるかしら?≫
それは、頃し足りない位に憎らしい、契約請負人にコンタクトを取る事だった。
≪君は魔法少女の様だけど……僕と契約した記録は残っていないよ?≫
感度は良好。返信はすぐにキャッチ出来た。
≪それを今から説明するわ。すぐに来てもらえるかしら?≫
≪……解った。今から向かうよ≫
退院したその日。新たな住居に身を移したほむらは、荷物を解くよりも先に起こした行動。
≪……キュウべえ。聞こえるかしら?≫
それは、頃し足りない位に憎らしい、契約請負人にコンタクトを取る事だった。
≪君は魔法少女の様だけど……僕と契約した記録は残っていないよ?≫
感度は良好。返信はすぐにキャッチ出来た。
≪それを今から説明するわ。すぐに来てもらえるかしら?≫
≪……解った。今から向かうよ≫
5: 2013/04/21(日) 12:37:42.05 ID:mQAtD2s70
一分と経たない内に現れた契約請負人、インキュベーター。
ほむらは、鋭い目付きでキュウべえを見下ろす。
「ここでは初めまして、ね。キュウべえ。私の名前は、暁美ほむらよ」
「……暁美ほむら。その名前の少女と契約した記憶は無いね。しかし、君はソウルジェムを持っている……。君は何者なんだい?」
キュウべえは、少し首を傾けてほむらをジッと見つめる。
「私は、時間遡行者よ。違う時間軸のインキュベーターと契約したから、この時間軸の貴方が知らないのも無理はないわ」
「……そういう理屈なら、合点は行くね。しかし、君の様子を見ていると、時間遡行をしたのは一度や二度じゃ無い様だね」
「そうよ。今から一か月後に現れる、ワルプルギスの夜を倒す為に、この一か月を繰り返しているわ」
ほむらの口調は、淡々としていた。
ほむらは、鋭い目付きでキュウべえを見下ろす。
「ここでは初めまして、ね。キュウべえ。私の名前は、暁美ほむらよ」
「……暁美ほむら。その名前の少女と契約した記憶は無いね。しかし、君はソウルジェムを持っている……。君は何者なんだい?」
キュウべえは、少し首を傾けてほむらをジッと見つめる。
「私は、時間遡行者よ。違う時間軸のインキュベーターと契約したから、この時間軸の貴方が知らないのも無理はないわ」
「……そういう理屈なら、合点は行くね。しかし、君の様子を見ていると、時間遡行をしたのは一度や二度じゃ無い様だね」
「そうよ。今から一か月後に現れる、ワルプルギスの夜を倒す為に、この一か月を繰り返しているわ」
ほむらの口調は、淡々としていた。
6: 2013/04/21(日) 12:38:17.62 ID:mQAtD2s70
「……ワルプルギスの夜。歴史に名を残す最悪の魔女だね。確かに、並の魔法少女が集まった位では、あの魔女を倒す事は不可能さ。
でも、この街には、巴マミと言うベテランの魔法少女も居る。何よりも、途轍もない才能を持った、魔法少女の候補も発見したんだ」
「鹿目まどか……でしょ?」
キュウべえよりも先に、ほむらはその名前を口に出した。キュウべえは、思わず言葉を止めてしまった。
「……知っていたのかい?」
「ええ。彼女の才能は、確かにずば抜けているわ。彼女が魔法少女になれば、ワルプルギスの夜を倒す事は造作も無いでしょうね……。
ただ、その後には、それ以上に最悪の魔女が生まれてしまう……」
「……全てお見通しって事か」
「私はソウルジェムの全貌も、貴方達の目的も知っているわ。
私の目的は、鹿目まどかを契約させないで、ワルプルギスの夜を倒す。その為に、この一か月を何度もやり直しているのよ……契約してからずっとね。
しかも、それが原因で、鹿目まどかに莫大な因果が集中してしまった……。彼女の素質が破格なのは、私が原因だったのよ」
でも、この街には、巴マミと言うベテランの魔法少女も居る。何よりも、途轍もない才能を持った、魔法少女の候補も発見したんだ」
「鹿目まどか……でしょ?」
キュウべえよりも先に、ほむらはその名前を口に出した。キュウべえは、思わず言葉を止めてしまった。
「……知っていたのかい?」
「ええ。彼女の才能は、確かにずば抜けているわ。彼女が魔法少女になれば、ワルプルギスの夜を倒す事は造作も無いでしょうね……。
ただ、その後には、それ以上に最悪の魔女が生まれてしまう……」
「……全てお見通しって事か」
「私はソウルジェムの全貌も、貴方達の目的も知っているわ。
私の目的は、鹿目まどかを契約させないで、ワルプルギスの夜を倒す。その為に、この一か月を何度もやり直しているのよ……契約してからずっとね。
しかも、それが原因で、鹿目まどかに莫大な因果が集中してしまった……。彼女の素質が破格なのは、私が原因だったのよ」
8: 2013/04/21(日) 12:39:13.85 ID:mQAtD2s70
キュウべえは、ほむらをマジマジと見つめる。
「なるほどね。彼女の因果は、理論上ありえない数値を出しているの。しかし、君の能力が原因だとすれば、全て説明が付くよ」
「……お蔭様で、貴方を頃しても、足りない位憎んでいるわ」
ほむらは、溜息交じりにそう告げた。
「……妙な事を言うね。
だったら、何故僕をこの場に呼び出したんだい? それに、わざわざ君の知っている情報まで提供してくれる。
ありがたい話だけど、どう考えても企んでいるとしか思えないよ」
「交換条件よ。少なくとも、貴方に有益な情報を与えたんだから、私に協力してくれても良いんじゃないかしら?」
「仮に、鹿目まどかと契約するなと言う条件は受け付けないよ。僕達も、宇宙の寿命がかかってるんだ」
「そこまで、高望みはしないわ。
要望は二つよ。一つは、ワルプルギスの弱点を教える。もう一つは、ワルプルギスの夜が過ぎるまでは、彼女と契約しない」
「……厳しい要求だね」
「そうかしら? ワルプルギスの夜までの限定なら、決して悪い条件ではない筈よ。
それに……ワルプルギスには、私一人で挑むわ」
「なるほどね。彼女の因果は、理論上ありえない数値を出しているの。しかし、君の能力が原因だとすれば、全て説明が付くよ」
「……お蔭様で、貴方を頃しても、足りない位憎んでいるわ」
ほむらは、溜息交じりにそう告げた。
「……妙な事を言うね。
だったら、何故僕をこの場に呼び出したんだい? それに、わざわざ君の知っている情報まで提供してくれる。
ありがたい話だけど、どう考えても企んでいるとしか思えないよ」
「交換条件よ。少なくとも、貴方に有益な情報を与えたんだから、私に協力してくれても良いんじゃないかしら?」
「仮に、鹿目まどかと契約するなと言う条件は受け付けないよ。僕達も、宇宙の寿命がかかってるんだ」
「そこまで、高望みはしないわ。
要望は二つよ。一つは、ワルプルギスの弱点を教える。もう一つは、ワルプルギスの夜が過ぎるまでは、彼女と契約しない」
「……厳しい要求だね」
「そうかしら? ワルプルギスの夜までの限定なら、決して悪い条件ではない筈よ。
それに……ワルプルギスには、私一人で挑むわ」
9: 2013/04/21(日) 12:39:59.37 ID:mQAtD2s70
ほむらの一言に、キュウべえは反応を見せた。
「……正気かい?」
「当然よ。私一人で戦うなら、貴方も教える事位してくれるでしょ?」
ほむらの口元は、小さな笑みを作っていた。
「はっきり言って、まともじゃ無いよ。君はワルプルギスの夜と、何度も戦ってきたんだろう? だったら、それがどれ程無謀な事か理解出来ている筈だ……」
「そんな事は解っているわ。
でも、後戻りが出来ない以上、ここで刺し違えてもあの魔女を倒すしか道は無いのよ」
「……末恐ろしいね。
君の様な魔法少女は、敵に回すと非常に恐ろしいタイプだよ……」
「どういう意味かしら?」
「目的達成の為なら、どんな手段も択ばないという事さ」
「ええ。その通りよ」
「……正気かい?」
「当然よ。私一人で戦うなら、貴方も教える事位してくれるでしょ?」
ほむらの口元は、小さな笑みを作っていた。
「はっきり言って、まともじゃ無いよ。君はワルプルギスの夜と、何度も戦ってきたんだろう? だったら、それがどれ程無謀な事か理解出来ている筈だ……」
「そんな事は解っているわ。
でも、後戻りが出来ない以上、ここで刺し違えてもあの魔女を倒すしか道は無いのよ」
「……末恐ろしいね。
君の様な魔法少女は、敵に回すと非常に恐ろしいタイプだよ……」
「どういう意味かしら?」
「目的達成の為なら、どんな手段も択ばないという事さ」
「ええ。その通りよ」
10: 2013/04/21(日) 12:40:27.70 ID:mQAtD2s70
キュウべえは意を決した様に呟いた。無表情だという事に変わり無いのだが、ほむらは確かにそう感じた。
「君には、興味が沸いたよ。協力とは言わないけれど、手は組ませてもらうよ」
「……ふふ。頼りにしているわ……インキュベーター」
ほむらは含み笑いを見せた。もっとも、その視線は、冷たいままなのだが。
「僕は、ここで消えさせて貰うよ。ワルプルギスの事はまた後日に話す事にするよ」
そう言うと、キュウべえはほむらの前から消えていった。
(……まず第一段階ね)
ほむらは、ホッと胸を撫で下ろした。
「君には、興味が沸いたよ。協力とは言わないけれど、手は組ませてもらうよ」
「……ふふ。頼りにしているわ……インキュベーター」
ほむらは含み笑いを見せた。もっとも、その視線は、冷たいままなのだが。
「僕は、ここで消えさせて貰うよ。ワルプルギスの事はまた後日に話す事にするよ」
そう言うと、キュウべえはほむらの前から消えていった。
(……まず第一段階ね)
ほむらは、ホッと胸を撫で下ろした。
11: 2013/04/21(日) 12:41:16.21 ID:mQAtD2s70
転校日。
「暁美ほむらです。よろしくお願いします」
何時ものループと変わらない、淡々とした挨拶。しかし、クールビューティーな容姿が手伝って、クラス中の話題はほむらで持ちきりとなる。
休み時間になると、ほむらの周囲はクラスメイトでごった返すのだった。
「ねーねー。暁美さんって、東京から来たんでしょ? どんな学校だったの?」
「ミッション系の学校だったわ。病気で余り、通学してなかったけれど……」
「髪の毛綺麗だよねー。シャンプー何使ってるの?」
「そんな良い物は使って無いわ。ホームセンターで売ってる物よ」
多数の質問に、淡々と答える。
ただ、今までのループとは大きく違う点がある。それは、鹿目まどかに対し自分から接触する必要が無いのである。
「暁美ほむらです。よろしくお願いします」
何時ものループと変わらない、淡々とした挨拶。しかし、クールビューティーな容姿が手伝って、クラス中の話題はほむらで持ちきりとなる。
休み時間になると、ほむらの周囲はクラスメイトでごった返すのだった。
「ねーねー。暁美さんって、東京から来たんでしょ? どんな学校だったの?」
「ミッション系の学校だったわ。病気で余り、通学してなかったけれど……」
「髪の毛綺麗だよねー。シャンプー何使ってるの?」
「そんな良い物は使って無いわ。ホームセンターで売ってる物よ」
多数の質問に、淡々と答える。
ただ、今までのループとは大きく違う点がある。それは、鹿目まどかに対し自分から接触する必要が無いのである。
12: 2013/04/21(日) 12:41:46.85 ID:mQAtD2s70
と言っても、ここで言葉を交わす事は、もはや運命なのかもしれない。
「あの、暁美さん?」
「……?」
ほむらに声をかけてきたのは、鹿目まどか。幾つ物ループで、守ろうとしてきた、大切な親友。しかし、まどかにその事実を知る由は、まだ無いのだが。
「私、鹿目まどかって言います。保健委員やってて、早乙女先生から保健室を案内してあげてって言われてて」
まどかは、屈託のない笑みを見せて、ほむらにそう言った。
「……そうだったわね。案内をお願いしたいわ。皆ごめんなさいね」
ほむらはそう断りを入れて、席を立った。
(好都合ね……)
内心では、ほくそ笑んでいたに違いない。
「あの、暁美さん?」
「……?」
ほむらに声をかけてきたのは、鹿目まどか。幾つ物ループで、守ろうとしてきた、大切な親友。しかし、まどかにその事実を知る由は、まだ無いのだが。
「私、鹿目まどかって言います。保健委員やってて、早乙女先生から保健室を案内してあげてって言われてて」
まどかは、屈託のない笑みを見せて、ほむらにそう言った。
「……そうだったわね。案内をお願いしたいわ。皆ごめんなさいね」
ほむらはそう断りを入れて、席を立った。
(好都合ね……)
内心では、ほくそ笑んでいたに違いない。
13: 2013/04/21(日) 12:42:14.57 ID:mQAtD2s70
先導するまどかの背中を見ていると、ほむらの自然と険しくなってしまう。
(今回で確実に終わらせなければ……。貴女を呪縛から解かなきゃいけない……)
そう思い込んでいると、不意にまどかの方から言葉がかかってきた。
「……暁美さん。やっぱり、気分が悪いの?」
まどかは、余りにも険しい表情を見かねて、ほむらを体調を心配していた。
「大丈夫よ。それと……私の事はほむらで良いわ」
「……そっか。じゃ、私の事はまどかで良いよ」
まどかは、そう言いながらニコッと笑みを見せた。
「ええ。よろしくね、まどか」
ほむらも、笑みを見せてそう返答した。
「でもさ、ほむらってカッコイイ名前だよね」
「そうかしら? ちょっと変な名前だから、あんまり気に入って無いわ」
「私は、カッコイイと思うよ。燃え上がれーって感じでさ」
言葉を幾つか交しながら歩いていると、保健室は目前だった。
「ここが保健室だよ」
「ありがとう。助かったわ」
ほむらに言われると、まどかは照れた仕草を見せる。
(今回で確実に終わらせなければ……。貴女を呪縛から解かなきゃいけない……)
そう思い込んでいると、不意にまどかの方から言葉がかかってきた。
「……暁美さん。やっぱり、気分が悪いの?」
まどかは、余りにも険しい表情を見かねて、ほむらを体調を心配していた。
「大丈夫よ。それと……私の事はほむらで良いわ」
「……そっか。じゃ、私の事はまどかで良いよ」
まどかは、そう言いながらニコッと笑みを見せた。
「ええ。よろしくね、まどか」
ほむらも、笑みを見せてそう返答した。
「でもさ、ほむらってカッコイイ名前だよね」
「そうかしら? ちょっと変な名前だから、あんまり気に入って無いわ」
「私は、カッコイイと思うよ。燃え上がれーって感じでさ」
言葉を幾つか交しながら歩いていると、保健室は目前だった。
「ここが保健室だよ」
「ありがとう。助かったわ」
ほむらに言われると、まどかは照れた仕草を見せる。
14: 2013/04/21(日) 12:42:41.49 ID:mQAtD2s70
「ねえ、まどか。一つだけ聞いても良いかしら?」
「どうしたの?」
ほむらが少し間を置くと、まどかは周囲の空気が張りつめた事を感じた。
「……貴女は、家族や友達の事。大切だと思ってる?」
「……えっ?」
「どうなの?」
一呼吸して、まどかは凛とした顔付きで答えた。
「勿論、大切だと思ってるよ。家族も、友達も、皆大好きな人達だから」
「……そう。ならば、一つだけ忠告させて。
もしこの先、何が起ころうとも“自分を変えよう”だなんて、決して思ってはいけないわ。そうで無ければ……貴女の大切な物を、全て失う事になるわ」
「ほむら……ちゃん……?」
「変な事を言って、混乱させてしまったかしら? でも……私の忠告を忘れないで」
そう伝えて、ほむらは保健室の扉を潜って行った。
(……何の話なんだろう)
取り残されたまどかは、呆然と立ち尽くすしか無かった。
「どうしたの?」
ほむらが少し間を置くと、まどかは周囲の空気が張りつめた事を感じた。
「……貴女は、家族や友達の事。大切だと思ってる?」
「……えっ?」
「どうなの?」
一呼吸して、まどかは凛とした顔付きで答えた。
「勿論、大切だと思ってるよ。家族も、友達も、皆大好きな人達だから」
「……そう。ならば、一つだけ忠告させて。
もしこの先、何が起ころうとも“自分を変えよう”だなんて、決して思ってはいけないわ。そうで無ければ……貴女の大切な物を、全て失う事になるわ」
「ほむら……ちゃん……?」
「変な事を言って、混乱させてしまったかしら? でも……私の忠告を忘れないで」
そう伝えて、ほむらは保健室の扉を潜って行った。
(……何の話なんだろう)
取り残されたまどかは、呆然と立ち尽くすしか無かった。
15: 2013/04/21(日) 12:43:21.36 ID:mQAtD2s70
その日の放課後。
ショッピングモールのファストフード店で、談笑するまどかとさやか、そして仁美。内容が、転校生の事に偏るのは、致し方なしと言えよう。
「あっはっはっは……。ちょっと、それってマジなの!?」
大爆笑で、目に涙を浮かべながらさやかはそう言った。
「さやかさん……笑いすぎですわ」
呆れながら、仁美はそう呟いた。
「うぅ~……言うんじゃ無かった」
まどかは、顔を赤くしながらポツリと言った。
「いやー悪い悪い。
でもさ、才色兼備でミステリアスな転校生。だけど、実はサイコな電波さん。もしくは重度の厨二病……そりゃ笑っちゃうよ」
さやかに反省の色は無かった。
「所でまどかさんは、あの暁美さんとはお知り合いなのですか?」
仁美はさやかを一旦置いて、まどかに話題を振った。
「ううん。今日、保健室を案内しただけだよ。あ……でも」
「……でも?」
まどかの思い出した様な一言に、さやかと仁美は注目した。
「夢の中で会ったような……」
その言葉を聞いて、さやかと仁美は盛大に噴き出してしまうのだった。
ショッピングモールのファストフード店で、談笑するまどかとさやか、そして仁美。内容が、転校生の事に偏るのは、致し方なしと言えよう。
「あっはっはっは……。ちょっと、それってマジなの!?」
大爆笑で、目に涙を浮かべながらさやかはそう言った。
「さやかさん……笑いすぎですわ」
呆れながら、仁美はそう呟いた。
「うぅ~……言うんじゃ無かった」
まどかは、顔を赤くしながらポツリと言った。
「いやー悪い悪い。
でもさ、才色兼備でミステリアスな転校生。だけど、実はサイコな電波さん。もしくは重度の厨二病……そりゃ笑っちゃうよ」
さやかに反省の色は無かった。
「所でまどかさんは、あの暁美さんとはお知り合いなのですか?」
仁美はさやかを一旦置いて、まどかに話題を振った。
「ううん。今日、保健室を案内しただけだよ。あ……でも」
「……でも?」
まどかの思い出した様な一言に、さやかと仁美は注目した。
「夢の中で会ったような……」
その言葉を聞いて、さやかと仁美は盛大に噴き出してしまうのだった。
16: 2013/04/21(日) 12:43:59.01 ID:mQAtD2s70
同時刻。同じショッピングモール内の改装中エリアにほむらはキュウべえと居た。
「……確かに、魔女の反応が有るね。君が過去をやり直しているのは、本当なんだね」
キュウべえは、感心しきりだった。
「……信じていなかったのね」
ほむらの返答は淡白な物だった。
「正直、半信半疑だったよ。だけど、確信できた。
実際、予知能力の魔法を使う魔法少女でも、魔女の現れる場所や日付まで正確に当てる事は不可能だ。過去を見てきたからこそ、出来る芸当だね」
「そんな事はどうでも良い事よ……」
溜息を吐き出しながら、ほむらはそっぽを向く。丸で、魔女と戦う意志が見られない。
「……魔女を倒さないのかい?」
「今倒す必要は無いわ。むしろ、この魔女を倒しに来る魔法少女に用が有るのよ」
「巴マミの事だね」
キュウべえの言葉に、ほむらの首は縦に動く。
「……確かに、魔女の反応が有るね。君が過去をやり直しているのは、本当なんだね」
キュウべえは、感心しきりだった。
「……信じていなかったのね」
ほむらの返答は淡白な物だった。
「正直、半信半疑だったよ。だけど、確信できた。
実際、予知能力の魔法を使う魔法少女でも、魔女の現れる場所や日付まで正確に当てる事は不可能だ。過去を見てきたからこそ、出来る芸当だね」
「そんな事はどうでも良い事よ……」
溜息を吐き出しながら、ほむらはそっぽを向く。丸で、魔女と戦う意志が見られない。
「……魔女を倒さないのかい?」
「今倒す必要は無いわ。むしろ、この魔女を倒しに来る魔法少女に用が有るのよ」
「巴マミの事だね」
キュウべえの言葉に、ほむらの首は縦に動く。
17: 2013/04/21(日) 12:44:37.38 ID:mQAtD2s70
お互いが無言のまま、数分経過。キュウべえはピクリと反応を見せた。
「その当ては外れた様だよ。あの魔女の結界に、鹿目まどかと美樹さやかが捕えられたみたいだ……」
「……何ですって?」
ほむらは目を見開く。
「……魔女に捕えられるのは、何も口づけを受けた人間だけじゃないさ。
魔法少女の素質を持つ人間も、結界に捕えられるのさ」
キュウべえは得意気に言う。
「そんな事、初めて聞いたわよ……」
ほむらは、キュウべえを鋭く睨みつける。
「それは聞かれなかったからね。
魔女は魔法少女の末路。かつての姿を重ね合わせて、取り入れようとしているんじゃないかな?」
「……ちっ。御託は良いのよ!!」
ほむらは焦った様に駆け出し、キュウべえはポツンと取り残されていた。
「その当ては外れた様だよ。あの魔女の結界に、鹿目まどかと美樹さやかが捕えられたみたいだ……」
「……何ですって?」
ほむらは目を見開く。
「……魔女に捕えられるのは、何も口づけを受けた人間だけじゃないさ。
魔法少女の素質を持つ人間も、結界に捕えられるのさ」
キュウべえは得意気に言う。
「そんな事、初めて聞いたわよ……」
ほむらは、キュウべえを鋭く睨みつける。
「それは聞かれなかったからね。
魔女は魔法少女の末路。かつての姿を重ね合わせて、取り入れようとしているんじゃないかな?」
「……ちっ。御託は良いのよ!!」
ほむらは焦った様に駆け出し、キュウべえはポツンと取り残されていた。
18: 2013/04/21(日) 12:45:10.06 ID:mQAtD2s70
まどかとさやかの目前に広がるのは、異空間と形容できる光景だった。
綿毛のバケモノに取り囲まれて、動く事もままならない。
「……何よこれ」
さやかは背筋から、冷たい汗が流れている。
「解んないよ……こんなの夢だよね!?」
まどかは、体の芯から震えている事を感じていた。
このままここに居れば、間違いなく氏ぬ。本能が、そう察知していた。本物の恐怖に理性を支配され、叫び声さえ出せなかった。
(……誰か……助けて!!)
声にならない叫びを、まどかは叫んだ。
綿毛のバケモノに取り囲まれて、動く事もままならない。
「……何よこれ」
さやかは背筋から、冷たい汗が流れている。
「解んないよ……こんなの夢だよね!?」
まどかは、体の芯から震えている事を感じていた。
このままここに居れば、間違いなく氏ぬ。本能が、そう察知していた。本物の恐怖に理性を支配され、叫び声さえ出せなかった。
(……誰か……助けて!!)
声にならない叫びを、まどかは叫んだ。
19: 2013/04/21(日) 12:46:13.01 ID:mQAtD2s70
カツン、と床を踏みつける音が、耳に飛び込む。
「危ない所だったわね……」
そう聞こえた時、黄色いリボンが二人の周囲を包み込んだ。思わず辺りをキョロキョロと見渡すと、見滝原中学の制服を着た女性が、すぐ近くに立っていた。
「……ど、どちらさまでしょうか?」
「貴女達、見滝原中学の生徒ね」
女性は、二人に向けてにっこりとほほ笑みを見せた。
「でも、その前に……ちょっと一仕事片付けてもいいかしら!!」
力強く、それでいて優しい声だった。女性が可憐なポージングを決めると共に、きらびやかな光を放つ。
「危ない所だったわね……」
そう聞こえた時、黄色いリボンが二人の周囲を包み込んだ。思わず辺りをキョロキョロと見渡すと、見滝原中学の制服を着た女性が、すぐ近くに立っていた。
「……ど、どちらさまでしょうか?」
「貴女達、見滝原中学の生徒ね」
女性は、二人に向けてにっこりとほほ笑みを見せた。
「でも、その前に……ちょっと一仕事片付けてもいいかしら!!」
力強く、それでいて優しい声だった。女性が可憐なポージングを決めると共に、きらびやかな光を放つ。
20: 2013/04/21(日) 12:46:38.61 ID:mQAtD2s70
その中から再び姿を現すと、制服姿から変身を遂げていた。
「使い魔共、すぐに終わらせて上げるわ!!」
女性はスカートの中から、大量のマスケット銃を一斉に召喚。
大きく息を吸い込んで、集中力と魔翌力を高める。
「ティロ・ボレー!!」
打ち上げ花火の如く、マスケット銃からの一斉砲撃で、無数の使い魔を蹴散らしていく。
派手な発砲にも関わらず、魔弾は的確に的を撃ち抜いていた。
「……逃がしたわ」
そう呟いた少女は、顔を少し苦々しくしていた。
「使い魔共、すぐに終わらせて上げるわ!!」
女性はスカートの中から、大量のマスケット銃を一斉に召喚。
大きく息を吸い込んで、集中力と魔翌力を高める。
「ティロ・ボレー!!」
打ち上げ花火の如く、マスケット銃からの一斉砲撃で、無数の使い魔を蹴散らしていく。
派手な発砲にも関わらず、魔弾は的確に的を撃ち抜いていた。
「……逃がしたわ」
そう呟いた少女は、顔を少し苦々しくしていた。
21: 2013/04/21(日) 12:47:25.61 ID:mQAtD2s70
同時に、取り囲んでいた空間が、改装中の殺風景な物に戻っていた。
「……」
まどかとさやかは、呆然と少女を眺めるしか、リアクションが取れない。
「……自己紹介が遅れたわね」
少女は変身を解いて、元の制服姿に戻っていた。
「私の名前は、巴マミ。貴女達と同じ、見滝原中学の三年生よ」
そう名乗った少女は、ニコッとほほ笑んだ。
「せ、先輩だったんですね。私は、二年の美樹さやかって言います」
「わ、私も二年の鹿目まどかです。助けてくれてありがとうございます」
あたふたと自己紹介する二人を見て、マミは少しだけ吹き出してしまった。
「そんなに、畏まらなくても平気よ。二人とも、怪我は無いかしら?」
「は、はい!!」
さやかは背筋を張りながら、大きな返事を返す。
「私も、大丈夫です……」
ちょっと、しり込みながら、まどかも答える。
「フフ……そんなに緊張しなくても良いのよ」
マミは温和な笑顔で、二人を見つめていた。
「……」
まどかとさやかは、呆然と少女を眺めるしか、リアクションが取れない。
「……自己紹介が遅れたわね」
少女は変身を解いて、元の制服姿に戻っていた。
「私の名前は、巴マミ。貴女達と同じ、見滝原中学の三年生よ」
そう名乗った少女は、ニコッとほほ笑んだ。
「せ、先輩だったんですね。私は、二年の美樹さやかって言います」
「わ、私も二年の鹿目まどかです。助けてくれてありがとうございます」
あたふたと自己紹介する二人を見て、マミは少しだけ吹き出してしまった。
「そんなに、畏まらなくても平気よ。二人とも、怪我は無いかしら?」
「は、はい!!」
さやかは背筋を張りながら、大きな返事を返す。
「私も、大丈夫です……」
ちょっと、しり込みながら、まどかも答える。
「フフ……そんなに緊張しなくても良いのよ」
マミは温和な笑顔で、二人を見つめていた。
22: 2013/04/21(日) 12:48:38.30 ID:mQAtD2s70
コツ、コツ、と床を鳴らす足音。三人は、思わず足音の主に目を向ける。
「見事な戦いね。流石はベテランの魔法少女、と言った所かしらね……」
不敵な笑みを見せながら、ほむらはそう声をかけた。
「……て、転校生!?」
「ほむらちゃん……!?」
思わず声を裏返し、まどかとさやかは驚きを隠せなかった。
「あら? 見かけない子ね……」
マミは内心では警戒しているのか、視線は僅かに鋭くなる。
「……そうね。最近、見滝原に引っ越してきたばかりなのよ」
その一言で、マミはより警戒を高め、再び魔法少女に変身した。
「そう。……だったら、今回の獲物は貴女に譲ってあげるわ」
マミはそう言って、ほむらを牽制する。
「どういう意味かしらね……」
ほむらは微笑を浮かべたままだ。
「呑み込みが悪いのね……見逃してあげるって言ってるのよ」
「見事な戦いね。流石はベテランの魔法少女、と言った所かしらね……」
不敵な笑みを見せながら、ほむらはそう声をかけた。
「……て、転校生!?」
「ほむらちゃん……!?」
思わず声を裏返し、まどかとさやかは驚きを隠せなかった。
「あら? 見かけない子ね……」
マミは内心では警戒しているのか、視線は僅かに鋭くなる。
「……そうね。最近、見滝原に引っ越してきたばかりなのよ」
その一言で、マミはより警戒を高め、再び魔法少女に変身した。
「そう。……だったら、今回の獲物は貴女に譲ってあげるわ」
マミはそう言って、ほむらを牽制する。
「どういう意味かしらね……」
ほむらは微笑を浮かべたままだ。
「呑み込みが悪いのね……見逃してあげるって言ってるのよ」
23: 2013/04/21(日) 12:49:23.12 ID:mQAtD2s70
マミの言葉は、尻上がりに強い物に変わって行く。更に、左手にマスケット銃を召喚して、ほむらに銃口を向けた。
いきなりの険悪な雰囲気に、まどかとさやかは呆然と見る事しか出来ない。
「……貴女、思ったより間抜けね」
ニヤッとしながら、ほむらはそう言った。この一言が、マミの神経を思いっきり逆撫でした。
一瞬の間に、右手からリボンを召喚し、ほむらに向けてリボンを投げつけた。
――シュン。
しかし、投げつけたリボンは何も捉えておらず、絡まったまま地面にポトリと落ちていた。
「……え!?」
マミは我が目を疑った。
「……嘘?」
「どういう事……?」
さやかは呆気にとられるしか無く、まどかには理解出来る時間も与えられなかった。
「……どう? 驚いたかしら?」
得意げに声をかけるほむらは、一瞬の間にマミの後ろに回り込んでおり、頭に拳銃を突きつけている。
いきなりの険悪な雰囲気に、まどかとさやかは呆然と見る事しか出来ない。
「……貴女、思ったより間抜けね」
ニヤッとしながら、ほむらはそう言った。この一言が、マミの神経を思いっきり逆撫でした。
一瞬の間に、右手からリボンを召喚し、ほむらに向けてリボンを投げつけた。
――シュン。
しかし、投げつけたリボンは何も捉えておらず、絡まったまま地面にポトリと落ちていた。
「……え!?」
マミは我が目を疑った。
「……嘘?」
「どういう事……?」
さやかは呆気にとられるしか無く、まどかには理解出来る時間も与えられなかった。
「……どう? 驚いたかしら?」
得意げに声をかけるほむらは、一瞬の間にマミの後ろに回り込んでおり、頭に拳銃を突きつけている。
24: 2013/04/21(日) 12:50:24.33 ID:mQAtD2s70
「……喧嘩売る時は、少しは相手を見た方が良いわよ? 相手に武器を向ける行為は、自分も殺される覚悟があるって事になるわ。脅す為に使うのは、馬鹿のやる事よ。
私がその気なら、貴女の脳みそに鉛弾をプレゼントしてたでしょうね……」
口元をニヤリとさせるほむらだが、その眼は全く笑っていない。
「……くっ」
意図も容易く手玉に取られ、マミの内心は屈辱を味わされていた。
「……貴女、目的は一体何なの? 縄張りなの? それともグリーフシードなの?」
矢次口調のマミ。明らかに焦っている様だ。
「そうね……貴女の命」
「……!?」
「なーんてね」
そう言って、ほむらは拳銃を下ろした。
「……まどか、美樹さやか、そして巴マミ。また明日学校で会いましょう。では、ごきげんよう」
私がその気なら、貴女の脳みそに鉛弾をプレゼントしてたでしょうね……」
口元をニヤリとさせるほむらだが、その眼は全く笑っていない。
「……くっ」
意図も容易く手玉に取られ、マミの内心は屈辱を味わされていた。
「……貴女、目的は一体何なの? 縄張りなの? それともグリーフシードなの?」
矢次口調のマミ。明らかに焦っている様だ。
「そうね……貴女の命」
「……!?」
「なーんてね」
そう言って、ほむらは拳銃を下ろした。
「……まどか、美樹さやか、そして巴マミ。また明日学校で会いましょう。では、ごきげんよう」
25: 2013/04/21(日) 12:50:54.12 ID:mQAtD2s70
次の瞬間、ほむらの姿は再び消え失せた。
「な……何なんだよアイツ……」
ほむらの行動と言動に、苛立ちを隠せないさやか。
「ほむらちゃん……?」
不安に駆られ、表情を曇らせるまどか。
(……怯えてた。銃を突き付けられた瞬間……私は確かに怯えてた)
マミの右手は、握り拳を作りながら、小さく震えていた。
「な……何なんだよアイツ……」
ほむらの行動と言動に、苛立ちを隠せないさやか。
「ほむらちゃん……?」
不安に駆られ、表情を曇らせるまどか。
(……怯えてた。銃を突き付けられた瞬間……私は確かに怯えてた)
マミの右手は、握り拳を作りながら、小さく震えていた。
37: 2013/04/21(日) 20:50:55.11 ID:mQAtD2s70
気が向いたので、もう一話分投下します。
38: 2013/04/21(日) 20:52:11.43 ID:mQAtD2s70
2.憂鬱
翌日。まどかとさやかは、何時もの様に登校していた。
「凄い話だよね。何か、マミさんって、正義の味方って感じがしてカッコイイよね」
明るく話すさやか。
「うん。でも……ほむらちゃんも魔法少女なのに……」
まどかがそう言うと、さやかはあからさまに嫌そうな表情を見せた。
「あんな奴、私が同じ魔法少女だったら、コテンパンにしちゃうのに」
「だけど……あんな行動するなんて、何か有るんじゃないかな~って思うんだけど……」
強気な発言をするさやかを、なだめる様にまどかはそう言った。
昨日まどかは、さやかと共にマミから、魔法少女の事、そして魔女の事。一通り聞く事となった。その際、マミの仲介でキュウべえとも顔を合わせた。
その為、登校中の話題は魔法少女の事ばかりだった。偶々、日直で登校時間の合わなかった仁美が居なかった事も、理由の一つだろう。
翌日。まどかとさやかは、何時もの様に登校していた。
「凄い話だよね。何か、マミさんって、正義の味方って感じがしてカッコイイよね」
明るく話すさやか。
「うん。でも……ほむらちゃんも魔法少女なのに……」
まどかがそう言うと、さやかはあからさまに嫌そうな表情を見せた。
「あんな奴、私が同じ魔法少女だったら、コテンパンにしちゃうのに」
「だけど……あんな行動するなんて、何か有るんじゃないかな~って思うんだけど……」
強気な発言をするさやかを、なだめる様にまどかはそう言った。
昨日まどかは、さやかと共にマミから、魔法少女の事、そして魔女の事。一通り聞く事となった。その際、マミの仲介でキュウべえとも顔を合わせた。
その為、登校中の話題は魔法少女の事ばかりだった。偶々、日直で登校時間の合わなかった仁美が居なかった事も、理由の一つだろう。
39: 2013/04/21(日) 20:52:40.29 ID:mQAtD2s70
学校に二人が到着すると、昇降口で不審な動きをするほむらを見かけてしまった。
(……転校生? アイツ、何してるんだ?)
さやかは、ほむらの姿を目で追った。
「さやかちゃん? どうしたの?」
「まどか……あれ見てよ」
さやかが指差した先は、下駄箱に何かを入れるほむらの姿だった。
「……何してたんだろう? まさか、ラブレター?」
「そんな訳無いじゃん。アイツ、もしかして嫌がらせとかしてるんじゃない? ほら、性格悪そうだし……」
こそこそと話をしていると、ほむらは下駄箱から立ち去って行った。
「まどか……後付けて見ようよ」
「でも……」
「良いから、行くよ!!」
さやかに押し切られて、まどかに選択権は無かった。二人はほむらの後を追う事になった。
(……転校生? アイツ、何してるんだ?)
さやかは、ほむらの姿を目で追った。
「さやかちゃん? どうしたの?」
「まどか……あれ見てよ」
さやかが指差した先は、下駄箱に何かを入れるほむらの姿だった。
「……何してたんだろう? まさか、ラブレター?」
「そんな訳無いじゃん。アイツ、もしかして嫌がらせとかしてるんじゃない? ほら、性格悪そうだし……」
こそこそと話をしていると、ほむらは下駄箱から立ち去って行った。
「まどか……後付けて見ようよ」
「でも……」
「良いから、行くよ!!」
さやかに押し切られて、まどかに選択権は無かった。二人はほむらの後を追う事になった。
40: 2013/04/21(日) 20:53:17.03 ID:mQAtD2s70
ほむらの向かった先は、学校の屋上だった。フェンスにもたれかかって、誰かを待っている様である。
物陰から、ほむらの姿をうかがうさやかとまどか。
「……誰を待ってるんだろう?」
「もしかして、本当にラブレターだったとか?」
こそこそと話していると、ほむらの元にその呼び出した人物が現れた。
「……一体、何のつもりなの?」
呼び出された張本人、巴マミは明らかに不機嫌そうに表情を曇らせていた。
「あら? 私からのラブレターは気に入らなかったかしら?」
「そういう事を言ってるんじゃないの。貴女みたいな怪しい魔法少女に呼び出されたら、誰だって警戒するわよ」
マミの視線は、睨む様に尖っている。
物陰から、ほむらの姿をうかがうさやかとまどか。
「……誰を待ってるんだろう?」
「もしかして、本当にラブレターだったとか?」
こそこそと話していると、ほむらの元にその呼び出した人物が現れた。
「……一体、何のつもりなの?」
呼び出された張本人、巴マミは明らかに不機嫌そうに表情を曇らせていた。
「あら? 私からのラブレターは気に入らなかったかしら?」
「そういう事を言ってるんじゃないの。貴女みたいな怪しい魔法少女に呼び出されたら、誰だって警戒するわよ」
マミの視線は、睨む様に尖っている。
41: 2013/04/21(日) 20:54:10.44 ID:mQAtD2s70
「テレパシーの方が早いけど、キュウべえに聞きとられるのよ。それに、手紙の方が粋だと思わない?」
「ふざけないで。意味も無い用事なら、私は教室に戻るわよ」
ほむらは、フッと息を小さく吐いた。同時に、表情もキリッと引き締まった。
「呼び出したのは、昨日の事の釈明ですよ。
私は、別に先輩の縄張りを荒らそうとか、グリーフシードを奪おうとか。そんな事は考えてません」
「……そんな言葉、本気で信用できると思ってるの?」
「別に信用しなくても良いですよ。
仮に私が本気で縄張りを奪うつもりなら、魔女退治で消耗しきった後に、徹底的に痛めつけて二度と刃向わない様にする。それ位の事は平気でしますよ。
そんな人間が、わざわざ一対一の話し合いをする訳がないじゃ無いですか」
自信満々にほむらはそう告げた。
「最低の魔法少女ね……」
この考えには、マミはドン引きしていた。
(……最悪)
(そんなの酷過ぎるよ……)
隠れて盗み聞いている二人も、正直引いていた。
「ふざけないで。意味も無い用事なら、私は教室に戻るわよ」
ほむらは、フッと息を小さく吐いた。同時に、表情もキリッと引き締まった。
「呼び出したのは、昨日の事の釈明ですよ。
私は、別に先輩の縄張りを荒らそうとか、グリーフシードを奪おうとか。そんな事は考えてません」
「……そんな言葉、本気で信用できると思ってるの?」
「別に信用しなくても良いですよ。
仮に私が本気で縄張りを奪うつもりなら、魔女退治で消耗しきった後に、徹底的に痛めつけて二度と刃向わない様にする。それ位の事は平気でしますよ。
そんな人間が、わざわざ一対一の話し合いをする訳がないじゃ無いですか」
自信満々にほむらはそう告げた。
「最低の魔法少女ね……」
この考えには、マミはドン引きしていた。
(……最悪)
(そんなの酷過ぎるよ……)
隠れて盗み聞いている二人も、正直引いていた。
43: 2013/04/21(日) 20:55:11.95 ID:mQAtD2s70
「話を戻します。同じ街に複数の魔法少女が居る事が、どういう事か……。先輩だって、理解出来ますよね?」
「そうね……。普通だったら、縄張り争いやグリーフシードの奪い合いになる。下手に話が拗れてしまうと、魔女退治どころか、魔法少女同士の争いに発展してしまう……」
「そういう事ですよ。
それを未然に防ぐって意味でも、舐められない様にするしかない。その為にも、あれ位の行動を起こさなきゃ、収まりがつかないんですよ。
この縄張りを共有させて貰う以上、最低限の礼儀と筋は通します。だから、この見滝原での活動を認めて貰いたいという訳です」
ほむらの言葉を聞いて、マミは少し考えを素振りを見せた。
「……一つだけ聞かせて。貴女は、誰かと仲間になる気は有るの?」
「有りませんね。
ただ、利害の一意が有れば、当然ながら協力しますよ」
「……そう」
「そうね……。普通だったら、縄張り争いやグリーフシードの奪い合いになる。下手に話が拗れてしまうと、魔女退治どころか、魔法少女同士の争いに発展してしまう……」
「そういう事ですよ。
それを未然に防ぐって意味でも、舐められない様にするしかない。その為にも、あれ位の行動を起こさなきゃ、収まりがつかないんですよ。
この縄張りを共有させて貰う以上、最低限の礼儀と筋は通します。だから、この見滝原での活動を認めて貰いたいという訳です」
ほむらの言葉を聞いて、マミは少し考えを素振りを見せた。
「……一つだけ聞かせて。貴女は、誰かと仲間になる気は有るの?」
「有りませんね。
ただ、利害の一意が有れば、当然ながら協力しますよ」
「……そう」
44: 2013/04/21(日) 20:56:13.52 ID:mQAtD2s70
「解って貰えますか?
お互いの均衡を保つ為ですよ。仲間になった振りをして、後から裏切る様な魔法少女は腐る程存在します。
それ位だったら、最初から適度な距離感と緊張感を持っていた方が、良い方法だと思いますけれど……」
「……」
「納得いきませんか……先輩?」
「……引っ越してきて、今更活動するな何て事言えないわ」
マミは、少し渋っていたが、結局折れてしまった。
「……感謝しますよ」
「でも、正直な事を言わせて貰うわ。私は、貴女の事が一切信用出来ない。
もし、万が一縄張りを奪う様な素振りを見せれば……その時は一切容赦しない。それだけは肝に銘じて起きなさい」
「活動を認めて貰えれば、私はそれでいいですよ……」
そう言って、ほむらは屋上から立ち去ろうとした。
お互いの均衡を保つ為ですよ。仲間になった振りをして、後から裏切る様な魔法少女は腐る程存在します。
それ位だったら、最初から適度な距離感と緊張感を持っていた方が、良い方法だと思いますけれど……」
「……」
「納得いきませんか……先輩?」
「……引っ越してきて、今更活動するな何て事言えないわ」
マミは、少し渋っていたが、結局折れてしまった。
「……感謝しますよ」
「でも、正直な事を言わせて貰うわ。私は、貴女の事が一切信用出来ない。
もし、万が一縄張りを奪う様な素振りを見せれば……その時は一切容赦しない。それだけは肝に銘じて起きなさい」
「活動を認めて貰えれば、私はそれでいいですよ……」
そう言って、ほむらは屋上から立ち去ろうとした。
45: 2013/04/21(日) 20:56:57.67 ID:mQAtD2s70
「……あ、そうそう。まどか。それと、美樹さやか」
(……バレてた)
隠れているさやかとまどかは、ドキリとしてしまう。
だが、ほむらは構う事無く言葉を続けるのだった。
「盗み聞きとは、悪趣味ね。これは、貴女達が立ち入って良い話では無いのよ?」
ほむらの言葉が、グサッと突き刺さった。
「……アンタ何様のつもりなんだよ」
眉間にしわを寄せながら、さやかはいきり立っていた。
「さやかちゃん……やめようよ」
「まどかは黙ってて!!」
まどかの制止も頭に入らず、さやかはほむらに突っかかる。
「マミさんは、この街を守ろうとする立派な魔法少女じゃない!! なのに、いきなり現れたアンタみたいな魔法少女が偉そうに……」
「黙りなさい」
さやかの言葉を遮るように、ほむらはそう言った。静かでも力強い台詞。そして、刀の如く研ぎ澄まされた視線に、さやかはたじろいでしまう。
(……バレてた)
隠れているさやかとまどかは、ドキリとしてしまう。
だが、ほむらは構う事無く言葉を続けるのだった。
「盗み聞きとは、悪趣味ね。これは、貴女達が立ち入って良い話では無いのよ?」
ほむらの言葉が、グサッと突き刺さった。
「……アンタ何様のつもりなんだよ」
眉間にしわを寄せながら、さやかはいきり立っていた。
「さやかちゃん……やめようよ」
「まどかは黙ってて!!」
まどかの制止も頭に入らず、さやかはほむらに突っかかる。
「マミさんは、この街を守ろうとする立派な魔法少女じゃない!! なのに、いきなり現れたアンタみたいな魔法少女が偉そうに……」
「黙りなさい」
さやかの言葉を遮るように、ほむらはそう言った。静かでも力強い台詞。そして、刀の如く研ぎ澄まされた視線に、さやかはたじろいでしまう。
46: 2013/04/21(日) 20:57:52.94 ID:mQAtD2s70
「一応言っておくけれど、私は巴マミの考えを否定する気は無い。ただ、私自身が賛同していないだけよ。どう言う考え方で活動するかは、人それぞれ……そうでしょ?」
「だけど……」
「けど、何かしら? 自分の考えと合わないってだけで、その人間の意見を簡単に否定するものではないわ」
「……」
さやかは、反論の言葉を見つけられなかった。
「今、確信できたわ。
美樹さやか……貴女は魔法少女になってはいけない。貴女は、魔法少女になる上で、一番重要な物が欠けてるわ」
「……何だって?」
「冷静さが無さすぎるわ。そんな簡単に熱くなる様では、魔女の餌になるか、余計な氏体が増えるだけよ。
如何なる時も、頭を冷やせなければ、戦い続ける事など不可能。無謀と勇気を履き違えてはいけないのよ」
「……そんなの……やってみなきゃ解らないじゃん!!」
「解るのよ……。巴マミに聞いてみればどうかしらね」
そう言いきって、ほむらは屋上から立ち去って行った。
「だけど……」
「けど、何かしら? 自分の考えと合わないってだけで、その人間の意見を簡単に否定するものではないわ」
「……」
さやかは、反論の言葉を見つけられなかった。
「今、確信できたわ。
美樹さやか……貴女は魔法少女になってはいけない。貴女は、魔法少女になる上で、一番重要な物が欠けてるわ」
「……何だって?」
「冷静さが無さすぎるわ。そんな簡単に熱くなる様では、魔女の餌になるか、余計な氏体が増えるだけよ。
如何なる時も、頭を冷やせなければ、戦い続ける事など不可能。無謀と勇気を履き違えてはいけないのよ」
「……そんなの……やってみなきゃ解らないじゃん!!」
「解るのよ……。巴マミに聞いてみればどうかしらね」
そう言いきって、ほむらは屋上から立ち去って行った。
47: 2013/04/21(日) 20:58:32.35 ID:mQAtD2s70
「くそ!! 何なんだよ!!」
さやかは、当り散らす様に叫んだ。
「……美樹さん。落ち着きなさい」
マミは、さやかにそう促した。
「……マミさん。さっき、転校生が言ってた事って……」
助けを求める様に、さやかの視線はマミを捉えていた。
「正直、言い方は最低で酷いものだわ。ただ……概ね内容は間違ってはいない」
「そんな……」
「確かに、酷な意見かもしれないわ。だけど、魔法少女ってそんな簡単に勤まる物でも無いのよ……」
マミは、諭すようにそう告げた。
「マミさんは……あんな奴に好き勝手言われて、何も思わないんですか?」
「……滅茶苦茶頭に来てるわね。もし、仲間になりたいって言われても、あの子だけは願い下げよ……」
「……」
「でも……あの子の考えを聞いて、少し思う事も有ったのも事実なのよ」
さやかは、当り散らす様に叫んだ。
「……美樹さん。落ち着きなさい」
マミは、さやかにそう促した。
「……マミさん。さっき、転校生が言ってた事って……」
助けを求める様に、さやかの視線はマミを捉えていた。
「正直、言い方は最低で酷いものだわ。ただ……概ね内容は間違ってはいない」
「そんな……」
「確かに、酷な意見かもしれないわ。だけど、魔法少女ってそんな簡単に勤まる物でも無いのよ……」
マミは、諭すようにそう告げた。
「マミさんは……あんな奴に好き勝手言われて、何も思わないんですか?」
「……滅茶苦茶頭に来てるわね。もし、仲間になりたいって言われても、あの子だけは願い下げよ……」
「……」
「でも……あの子の考えを聞いて、少し思う事も有ったのも事実なのよ」
48: 2013/04/21(日) 20:59:19.53 ID:mQAtD2s70
「思う事……ですか?」
「ええ。
願いが叶うってだけで、誰かに契約を勧めてはいけない……それだけは解った。いえ、気付かされたって方が正しいわね……。
当たり前の事を、すっかり忘れてたのよ……魔女と戦う事は、常に氏と隣り合わせ……」
「マミさん……」
「魔女がどれ程、恐ろしい物か……。ベテランの癖に、それを忘れてる何て魔法少女失格ね……」
「そんな事有りません!!」
ここまで黙り込んでいたまどかは、声を荒げた。
「……マミさんの考えは、とても立派だと思います。
それに、ほむらちゃんは言ったじゃ無いですか……マミさんの考えは否定しないって」
「鹿目さん……」
「きっと、ほむらちゃんにはほむらちゃんなりの考えが有るんですよ……」
「……そうかなぁ」
まどかの言葉に、さやかは何処か納得の出来ない様子だった。
「ええ。
願いが叶うってだけで、誰かに契約を勧めてはいけない……それだけは解った。いえ、気付かされたって方が正しいわね……。
当たり前の事を、すっかり忘れてたのよ……魔女と戦う事は、常に氏と隣り合わせ……」
「マミさん……」
「魔女がどれ程、恐ろしい物か……。ベテランの癖に、それを忘れてる何て魔法少女失格ね……」
「そんな事有りません!!」
ここまで黙り込んでいたまどかは、声を荒げた。
「……マミさんの考えは、とても立派だと思います。
それに、ほむらちゃんは言ったじゃ無いですか……マミさんの考えは否定しないって」
「鹿目さん……」
「きっと、ほむらちゃんにはほむらちゃんなりの考えが有るんですよ……」
「……そうかなぁ」
まどかの言葉に、さやかは何処か納得の出来ない様子だった。
49: 2013/04/21(日) 20:59:47.25 ID:mQAtD2s70
「私とさやかちゃんは、魔法少女じゃないけれど……マミさんの事を応援する事は出来ます。
それだけじゃ、頼りないかもしれないけど……私達に出来る範囲なら、マミさんに協力したいんです」
まどかは、力強く言った。
「まどかに良い所持ってかれたかなぁ……。
確かに、マミさんは命の恩人です。だけど、あたし達はそういうの抜きで、マミさんの事をもっと知りたいんです」
さやかも、そう言ってまどかの意見に追従した。
「鹿目さん……美樹さん……。ありがとうね」
マミは、感謝の言葉を述べた。そして、その瞳はかすかに光る物を浮かべていた。
それだけじゃ、頼りないかもしれないけど……私達に出来る範囲なら、マミさんに協力したいんです」
まどかは、力強く言った。
「まどかに良い所持ってかれたかなぁ……。
確かに、マミさんは命の恩人です。だけど、あたし達はそういうの抜きで、マミさんの事をもっと知りたいんです」
さやかも、そう言ってまどかの意見に追従した。
「鹿目さん……美樹さん……。ありがとうね」
マミは、感謝の言葉を述べた。そして、その瞳はかすかに光る物を浮かべていた。
50: 2013/04/21(日) 21:00:24.36 ID:mQAtD2s70
その日の夕方。
昨日取り逃がした魔女を、マミは追っていた。
使い魔の魔力の痕跡から、じっくりと足取りを追う。華やかなイメージとは対照的に、実に地味な作業と言える。
(……近いわね)
魔女の行先は見えた。標的の近くまで来ている事を確信した。
ソウルジェムの点滅が、次第に速度は増していく。路地を曲がり、目前に見えたのは廃墟となった雑居ビルだ。
(……あれは!?)
ビルの屋上に、人影が見えた。しかも、フェンスから飛び出している。
そのまま、フラリと人影は屋上から飛び降りた。
(いけない!!)
咄嗟に変身を完了させて、落下する体をリボンで包み込む。落下速度は次第に遅くなり、体はゆっくりと地面に据えられた。
昨日取り逃がした魔女を、マミは追っていた。
使い魔の魔力の痕跡から、じっくりと足取りを追う。華やかなイメージとは対照的に、実に地味な作業と言える。
(……近いわね)
魔女の行先は見えた。標的の近くまで来ている事を確信した。
ソウルジェムの点滅が、次第に速度は増していく。路地を曲がり、目前に見えたのは廃墟となった雑居ビルだ。
(……あれは!?)
ビルの屋上に、人影が見えた。しかも、フェンスから飛び出している。
そのまま、フラリと人影は屋上から飛び降りた。
(いけない!!)
咄嗟に変身を完了させて、落下する体をリボンで包み込む。落下速度は次第に遅くなり、体はゆっくりと地面に据えられた。
51: 2013/04/21(日) 21:01:14.11 ID:mQAtD2s70
飛び降りたのは、女性だった。今は気絶している様で、目を覚ます気配は無い。介抱していると、首筋に奇妙な痣が付いていた。
(……これは、魔女の口づけね)
魔女は、このビルに潜んでいると、マミは確信した。しかし、このまま女性をほおって置くのも、少々気が引ける思いもあった。
「私がその人を見ておくから、貴女が魔女を倒しに行けば良いんじゃないかしら?」
その言葉を聞き、マミは思わず振り返る。
「……何のつもりかしらね、暁美ほむらさん?」
きつめの口調で、マミはそう告げる。
(……これは、魔女の口づけね)
魔女は、このビルに潜んでいると、マミは確信した。しかし、このまま女性をほおって置くのも、少々気が引ける思いもあった。
「私がその人を見ておくから、貴女が魔女を倒しに行けば良いんじゃないかしら?」
その言葉を聞き、マミは思わず振り返る。
「……何のつもりかしらね、暁美ほむらさん?」
きつめの口調で、マミはそう告げる。
52: 2013/04/21(日) 21:01:53.78 ID:mQAtD2s70
「魔女の痕跡を追ってきたら、偶々出くわしただけよ。魔女を追うのは、魔法少女の習性みたいな物でしょ」
「どうかしらね……。言ったでしょ? 貴女は信用できないって……」
「流石に見ず知らずの一般人にまで、手はかけないわ」
「……その言葉の通りなら、私には手をかけても良いと言う訳ね?」
マミは相当に警戒をしている様だ。
「……ならば、こうしましょう。貴女がその女性を介抱している間に、私が魔女を倒してくる。
それなら、私も貴女に狙われないで済む。それに、全ての魔女がグリーフシードを落とすとは限らない。そうでしょ?」
ほむらは、間髪入れず別の提案を出した。
「……したたかね。この魔女は、貴女に任せるわ……」
マミは渋々ながら、ほむらの提案を受け入れた。
「恩に切りますよ、先輩」
不敵に微笑しながら、ほむらは魔女の結界へと向かった。
(……仕方ないわね)
マミはフッと溜息を吐き出した。
「どうかしらね……。言ったでしょ? 貴女は信用できないって……」
「流石に見ず知らずの一般人にまで、手はかけないわ」
「……その言葉の通りなら、私には手をかけても良いと言う訳ね?」
マミは相当に警戒をしている様だ。
「……ならば、こうしましょう。貴女がその女性を介抱している間に、私が魔女を倒してくる。
それなら、私も貴女に狙われないで済む。それに、全ての魔女がグリーフシードを落とすとは限らない。そうでしょ?」
ほむらは、間髪入れず別の提案を出した。
「……したたかね。この魔女は、貴女に任せるわ……」
マミは渋々ながら、ほむらの提案を受け入れた。
「恩に切りますよ、先輩」
不敵に微笑しながら、ほむらは魔女の結界へと向かった。
(……仕方ないわね)
マミはフッと溜息を吐き出した。
53: 2013/04/21(日) 21:02:28.68 ID:mQAtD2s70
意識の戻らない女性を介抱していると、反応を嗅ぎ付けたのか、キュウべえも現れた。
「やぁ。どうやら、暁美ほむらに横取りされたようだね」
「……キュウべえ」
マミはキュウべえを見つめた。
「君がこうも簡単に手玉に取られるなんて、思ってもみなかったよ」
キュウべえの言葉に、マミはムッとした顔付きになる。
「手玉に取られてないわ。今回は、この人を介抱する必要があったんだし……」
「そういう事さ」
「……どういう事よ?」
「暁美ほむらの実力からすれば、強引に横取りする事も可能だ。
しかし、不可抗力を上手く利用して、奪う事無く魔女を仕留める様に仕向けている。彼女は、恐ろしく頭の切れる魔法少女だね」
「…………」
「冷徹でいて狡猾。そして、強い。ある意味、最も敵に回してはいけないタイプさ」
「……キュウべえは、随分とあの子の事を買ってるのね」
「君の実力を否定する訳じゃ無いよ。ただ、暁美ほむらが異常なのさ……」
「その様ね……」
マミの表情は、実に憂鬱そうだ。
「やぁ。どうやら、暁美ほむらに横取りされたようだね」
「……キュウべえ」
マミはキュウべえを見つめた。
「君がこうも簡単に手玉に取られるなんて、思ってもみなかったよ」
キュウべえの言葉に、マミはムッとした顔付きになる。
「手玉に取られてないわ。今回は、この人を介抱する必要があったんだし……」
「そういう事さ」
「……どういう事よ?」
「暁美ほむらの実力からすれば、強引に横取りする事も可能だ。
しかし、不可抗力を上手く利用して、奪う事無く魔女を仕留める様に仕向けている。彼女は、恐ろしく頭の切れる魔法少女だね」
「…………」
「冷徹でいて狡猾。そして、強い。ある意味、最も敵に回してはいけないタイプさ」
「……キュウべえは、随分とあの子の事を買ってるのね」
「君の実力を否定する訳じゃ無いよ。ただ、暁美ほむらが異常なのさ……」
「その様ね……」
マミの表情は、実に憂鬱そうだ。
54: 2013/04/21(日) 21:03:12.70 ID:mQAtD2s70
暫く時間が経過すると、女性はゆっくりと眼を覚ました。
「……こ、ここは? あなたは一体……?」
女性は周囲を見回しながら、キョトンとしていた。
「……たまたま通りかかったら、ここであなたが倒れていたんですよ。お怪我は有りませんか?」
マミは、女性を不安にさせない様に、ニコッと微笑んで見せた。
「は、はい……。特には何とも……」
そう言って立ち上がろうとするが、女性の体は酷く震えており、真っ直ぐには立っていられなかった。
「大丈夫ですか!?」
「何とか……大丈夫そうです」
気丈に振る舞っているが、女性は一人で帰る事は不可能だろう。
「……家まで送りますよ」
相手の体を支えながら、マミはそう言った。
「はい……すいません」
顔を青白くさせ、女性は弱弱しくなっていた。
≪これって、口付けの影響かしら……? それとも、落ちる時の光景が、本能的におぼえているのかしら……?≫
マミはテレパシーでキュウべえに聞いた。
≪どちらかと言えば、前者だね。魔女の口付けは、精神面に大きく影響を及ぼすよ≫
≪そう……≫
このまま、暁美ほむらが魔女に負けるとは考えにくい。そう判断したマミは、一つ提案を挙げた。
「……こ、ここは? あなたは一体……?」
女性は周囲を見回しながら、キョトンとしていた。
「……たまたま通りかかったら、ここであなたが倒れていたんですよ。お怪我は有りませんか?」
マミは、女性を不安にさせない様に、ニコッと微笑んで見せた。
「は、はい……。特には何とも……」
そう言って立ち上がろうとするが、女性の体は酷く震えており、真っ直ぐには立っていられなかった。
「大丈夫ですか!?」
「何とか……大丈夫そうです」
気丈に振る舞っているが、女性は一人で帰る事は不可能だろう。
「……家まで送りますよ」
相手の体を支えながら、マミはそう言った。
「はい……すいません」
顔を青白くさせ、女性は弱弱しくなっていた。
≪これって、口付けの影響かしら……? それとも、落ちる時の光景が、本能的におぼえているのかしら……?≫
マミはテレパシーでキュウべえに聞いた。
≪どちらかと言えば、前者だね。魔女の口付けは、精神面に大きく影響を及ぼすよ≫
≪そう……≫
このまま、暁美ほむらが魔女に負けるとは考えにくい。そう判断したマミは、一つ提案を挙げた。
56: 2013/04/21(日) 21:03:42.73 ID:mQAtD2s70
≪ねぇキュウべえ。……暁美ほむらの様子を見ててくれないかしら。私は、この人を家まで送ってくるから≫
≪僕は一向に構わないよ。そういう事なら、後でまた落ち合おう≫
≪よろしくね≫
女性を気遣うマミは、タクシー会社に電話をかけるのだった。
≪僕は一向に構わないよ。そういう事なら、後でまた落ち合おう≫
≪よろしくね≫
女性を気遣うマミは、タクシー会社に電話をかけるのだった。
57: 2013/04/21(日) 21:04:15.23 ID:mQAtD2s70
女性を自宅まで送り届けると、辺りはすっかりと暗くなっていた。雲一つ無く、月明りと街灯で見通しは悪く無い中、マミは帰路に付いている。
(……暁美ほむら。彼女は、何を狙っているのかしら)
マミの中に、ほむらに対する疑念が渦巻いていた。
(……協力を求める訳でも無く、縄張りを奪う訳でも無い。それでいて、あんな行動を取る魔法少女は、初めてだわ……。
キュウべえの言ってた通り、強い上に頭が恐ろしく切れる……。狙いが解らない以上、こっちから手を打つ事も出来ないなんてね……)
幾つかの推測を思い浮かべるが、決定的な策は見つけられない。
「……はぁ」
思わず、大きなため息を吐き出していた。
(……考えてても仕方ないわね。コンビニでケーキでも買って帰ろ……)
進路を変えて、公園を横切るように歩いていると、一番会いたくなかった人物がベンチに座って待ち構えて居た。
(……暁美ほむら。彼女は、何を狙っているのかしら)
マミの中に、ほむらに対する疑念が渦巻いていた。
(……協力を求める訳でも無く、縄張りを奪う訳でも無い。それでいて、あんな行動を取る魔法少女は、初めてだわ……。
キュウべえの言ってた通り、強い上に頭が恐ろしく切れる……。狙いが解らない以上、こっちから手を打つ事も出来ないなんてね……)
幾つかの推測を思い浮かべるが、決定的な策は見つけられない。
「……はぁ」
思わず、大きなため息を吐き出していた。
(……考えてても仕方ないわね。コンビニでケーキでも買って帰ろ……)
進路を変えて、公園を横切るように歩いていると、一番会いたくなかった人物がベンチに座って待ち構えて居た。
58: 2013/04/21(日) 21:05:07.42 ID:mQAtD2s70
「ここで待っていれば、貴女に会えるってキュウべえが言ってたわ」
ほむらに声をかけられて、マミは心底嫌そうに表情を歪める。
「……待ち伏せのつもりかしら。とうとう、本性を現したのね?」
マミは苛立っている様で、口調もきついものだ。
「随分と嫌われたものね……。ま、無理も無いけれど」
「今度は何のつもり? 言ったわよね……素振りを見せたら容赦しないって」
「私は、貴女に話したい事が有るから待っていたのよ。今朝は、部外者が居たから、話さなかったけれど……」
「……信用出来ないわね」
マミは極めて警戒しているが、ほむらはお構いなしに口を動かし始めた。
「……鹿目まどか。彼女だけは、魔法少女として契約させてはいけないわ」
「あら……貴女も気が付いて居たのね。彼女の素質を……」
「そうよ。正確には、知っていたと言う方が正しいかもしれないわね」
「自分より優れた才能が有る。だからこそ、鹿目さんに契約されると、商売敵が増えてしまう……。貴女みたいな魔法少女なら、確かに契約されると困るかもしれないわね。
自分よりも強くなりそうな芽は、早めに積んでおく。丸で、いじめられっこの発想ね」
「……」
「確かに、鹿目さんが契約するかどうかは、私が口を出す所では無いわ。
ただ、彼女は貴女の様に非道で残虐な考えは持ち合わせていない。もし、魔法少女になったとすれば……きっとこの街を護る為に戦ってくれるでしょうね」
マミは、ここぞとばかりに捲し立てる。今まで好き勝手言われたお返しとばかりに。
ほむらに声をかけられて、マミは心底嫌そうに表情を歪める。
「……待ち伏せのつもりかしら。とうとう、本性を現したのね?」
マミは苛立っている様で、口調もきついものだ。
「随分と嫌われたものね……。ま、無理も無いけれど」
「今度は何のつもり? 言ったわよね……素振りを見せたら容赦しないって」
「私は、貴女に話したい事が有るから待っていたのよ。今朝は、部外者が居たから、話さなかったけれど……」
「……信用出来ないわね」
マミは極めて警戒しているが、ほむらはお構いなしに口を動かし始めた。
「……鹿目まどか。彼女だけは、魔法少女として契約させてはいけないわ」
「あら……貴女も気が付いて居たのね。彼女の素質を……」
「そうよ。正確には、知っていたと言う方が正しいかもしれないわね」
「自分より優れた才能が有る。だからこそ、鹿目さんに契約されると、商売敵が増えてしまう……。貴女みたいな魔法少女なら、確かに契約されると困るかもしれないわね。
自分よりも強くなりそうな芽は、早めに積んでおく。丸で、いじめられっこの発想ね」
「……」
「確かに、鹿目さんが契約するかどうかは、私が口を出す所では無いわ。
ただ、彼女は貴女の様に非道で残虐な考えは持ち合わせていない。もし、魔法少女になったとすれば……きっとこの街を護る為に戦ってくれるでしょうね」
マミは、ここぞとばかりに捲し立てる。今まで好き勝手言われたお返しとばかりに。
59: 2013/04/21(日) 21:05:48.50 ID:mQAtD2s70
「一つ聞くわ。貴女は、鹿目まどかや美樹さやかに契約して欲しいのかしら?」
「……それを貴女に言う必要は無いわ」
ほむらはフッと息を吐いてから、言葉を吐き出す。
「私の様な卑劣な考えの持ち主が現れれば、他の魔法少女を頃しかねない。経験の浅い、契約仕立ての魔法少女ならば尚更危険。
そう考えて、貴女はあえて契約を考える様に伝えたのでしょう?」
「……何が言いたいの?」
「仲間を手に入れられるチャンスを潰されて、尚更私が気に入らない。違ったかしら?」
「……違う。それは違うわ!!」
マミは、思わず声を荒げた。
「……だけどね。私は何があろうと、新たな魔法少女を増やす事には反対なのよ」
「鹿目さんや美樹さんの様な、立派な考えを持つ子が魔法少女になれば、縄張りを争う事は減ると思うわ……。魔女を倒す事も楽になるでしょうし……」
ほむらとマミの意見は平行線だった。ここまでは。
「……私が断固として、契約に反対する理由は、縄張り争いうんぬんじゃないわ。
ソウルジェムの本当の秘密も……グリーフシードの正体も……インキュベーターの目的も知ってるからよ!!」
「……!?」
ほむらは力強く言い切った。
「……それを貴女に言う必要は無いわ」
ほむらはフッと息を吐いてから、言葉を吐き出す。
「私の様な卑劣な考えの持ち主が現れれば、他の魔法少女を頃しかねない。経験の浅い、契約仕立ての魔法少女ならば尚更危険。
そう考えて、貴女はあえて契約を考える様に伝えたのでしょう?」
「……何が言いたいの?」
「仲間を手に入れられるチャンスを潰されて、尚更私が気に入らない。違ったかしら?」
「……違う。それは違うわ!!」
マミは、思わず声を荒げた。
「……だけどね。私は何があろうと、新たな魔法少女を増やす事には反対なのよ」
「鹿目さんや美樹さんの様な、立派な考えを持つ子が魔法少女になれば、縄張りを争う事は減ると思うわ……。魔女を倒す事も楽になるでしょうし……」
ほむらとマミの意見は平行線だった。ここまでは。
「……私が断固として、契約に反対する理由は、縄張り争いうんぬんじゃないわ。
ソウルジェムの本当の秘密も……グリーフシードの正体も……インキュベーターの目的も知ってるからよ!!」
「……!?」
ほむらは力強く言い切った。
80: 2013/04/23(火) 20:21:30.12 ID:sbMsI/FL0
3.真相
マミは思わず言葉を止めていた。
「何よ……? その秘密って?」
ほむらの瞳は、真っ直ぐにマミを射ぬいていた。
「ソウルジェムは、私達の魂を宝石に変えた物。言うなれば、ソウルジェムが私達の本体で、体は後付けの様な物よ」
「……貴女、何を言ってるの?」
「体から全ての血が抜けても、心臓が破れても、骨が粉々に砕けても……ソウルジェムが無事なら生き返られるわ。無論、魔力は使うけれどね。
言い換えれば、ソウルジェムが砕け散ってしまうと、私達は氏んでしまうわ。
ちなみに、ソウルジェムが半径100メートル以上離れると、体の機能は全て停止する」
「ちょっと……訳が解らないわよ。性質の悪い嘘は止めなさいよ!!」
「……この目を見て、私が嘘を言ってるとでも思うの?」
「……」
あまりの威圧で、マミは黙り込むしかなかった。
マミは思わず言葉を止めていた。
「何よ……? その秘密って?」
ほむらの瞳は、真っ直ぐにマミを射ぬいていた。
「ソウルジェムは、私達の魂を宝石に変えた物。言うなれば、ソウルジェムが私達の本体で、体は後付けの様な物よ」
「……貴女、何を言ってるの?」
「体から全ての血が抜けても、心臓が破れても、骨が粉々に砕けても……ソウルジェムが無事なら生き返られるわ。無論、魔力は使うけれどね。
言い換えれば、ソウルジェムが砕け散ってしまうと、私達は氏んでしまうわ。
ちなみに、ソウルジェムが半径100メートル以上離れると、体の機能は全て停止する」
「ちょっと……訳が解らないわよ。性質の悪い嘘は止めなさいよ!!」
「……この目を見て、私が嘘を言ってるとでも思うの?」
「……」
あまりの威圧で、マミは黙り込むしかなかった。
81: 2013/04/23(火) 20:22:24.28 ID:sbMsI/FL0
「次は、グリーフシードの事ね。
貴女は、今まで疑問を持ったことが無いかしら? 何故、ソウルジェムの穢れはグリーフシードでしか浄化出来ないのか……」
「それは……グリーフシードは、魔女の卵。呪いから生まれる代物……」
「違うわね。元が同じ物だからこそ、浄化が出来るのよ」
「……!?」
「グリーフシードは……絶望するなり、魔力を使い果たすなり……ソウルジェムが穢れきって壊れた時に生まれ変わる物よ。
つまり……魔女は元々は魔法少女だった」
「……嘘よ」
「嘘じゃ無いわ。この目で、私は見てきたの」
82: 2013/04/23(火) 20:23:30.52 ID:sbMsI/FL0
「だったら……キュウべえは何の為に魔法少女を生み出しているって言うのよ!!」
「私達の感情をエネルギーに変えて、宇宙の寿命を延ばしているらしいわ。特に、魔法少女が魔女になる時は、極めて効率よくエネルギーを回収が出来るとか抜かしてたわ。
私はあいつ等じゃないから、良く解らないけど……」
マミの瞳から、大粒の涙が零れ落ちた。体は酷く震えだし、顔色は真っ青だった。
「ねぇ……キュウべえ。近くにいるんでしょ!? 嘘よね!? 魔法少女は希望を生み出す存在で、魔女は絶望を生み出す存在なんでしょ!?」
マミの後ろに、キュウべえは現れた。
「ねぇ……彼女の言ってる事は……でたらめでしょ!?」
「全て真実だよ。
それと、誤解している様だけど、魔法少女は希望から生み出される存在で、魔女は絶望から生み出された存在だと僕は教えた筈だ。
ニュアンスは似ているけれど、意味合いは大きく異なっているよ」
マミの理想は、呆気なく打ち砕かれていた。
83: 2013/04/23(火) 20:24:25.25 ID:sbMsI/FL0
「……何よそれ。
……それじゃ、私は何の為に魔女と戦って来たっていうのよ!!
ソウルジェムが魔女を生み出すなら……皆氏ぬしか無いじゃない!! 貴女も!! 私も!!」
半狂乱となったマミは、黄色い光を生み出して、魔法少女姿に変身した。
(……きたわね!!)
ほむらも、同調するように変身し、魔法少女姿になって見せた。
84: 2013/04/23(火) 20:25:13.28 ID:sbMsI/FL0
マミは即座にマスケット銃を召喚し、ほむらに向ける。ソウルジェムに照準を合わせて、引き金を引く。
銃声が、漆黒の夜に響き渡った。
しかし、魔弾は空を切って公園の地面を抉ったにすぎなかった。
「……!?」
目前から消えた標的。マミは本能的に後ろに向けて、リボンを放出させた。
(……居ない!?)
絡みつくリボンは、何も捉えていない。
「……ここよ」
「……!?」
突然のささやきは、右耳から聞こえた。
「……え?」
85: 2013/04/23(火) 20:26:07.20 ID:sbMsI/FL0
今度は、左から鎖が飛んできた。マミの体に絡みつき、あっという間に拘束されてしまっていた。
「……ちょっと!! 何てことするのよ!!」
「殺されかければ、それ位しなきゃ大人しくしてないでしょ」
声を荒げるマミに、ほむらの突っ込みは冷静だった。
マミは力を込めて引き千切ろうと試みるが、纏わりついた鎖はビクともしない。
「無駄な抵抗よ。魔力を込めているから、そう簡単に切れる訳がないわ」
「…………」
マミの体から力が抜けて、その場に両膝を着いてしまう。
86: 2013/04/23(火) 20:26:52.27 ID:sbMsI/FL0
長い間、魔法少女として戦ってきたにも関わらず、意とも容易く負けていた。こうなってしまえば、魔法少女としては氏を意味している。
ほむらはゆっくりと歩み寄り、マミの頭に。否、ソウルジェムに向けて、銃口を突きつけた。
「……貴女の負けよ。巴マミ」
この時点で、マミのプライドはズタズタだった。
「……頃してよ」
マミの声は涙交じりだった。
87: 2013/04/23(火) 20:27:40.80 ID:sbMsI/FL0
「このままソウルジェムを、さっさと撃ち抜きなさいよ!! この縄張りも手に入るし、私の持っているグリーフシードは貴女の物になる!!
もう十分じゃない!! 私は魔女になりたくない!! 早く引き金を引いて、私を殺せばいいじゃない!!」
理性が切れた様に、マミは捲し立てた。
「……フフ」
「…………?」
「クックック……フフフ……アーッハッハッハ……」
何を思ったのか。ほむらは、今まで見せた事の無い位に高笑いを始めた。
「何がそんなにおかしいのよ……」
「……そんなに氏にたいなら、その命……私が貰ったわ。
今すぐ、私に忠誠を誓いなさい……巴マミ」
88: 2013/04/23(火) 20:28:30.21 ID:sbMsI/FL0
「……!?」
「頃すなんて、勿体ないじゃない。氏ねばゼロだけど……生きている限りは駒として動かせる。そうでしょ?」
この一言は、屈辱だった。
「……貴女は、命を何だと思ってるよ!!」
「何とも思っていないわ。
ただ、私は自分の目的の為なら、どんな手段も択ばないわ。例え恨みを買う方法でも、他人の命を踏みにじろうともね……。
使えるなら、魔女だろうが魔法少女だろうが、何だって使うわ」
「……信じられない。魔女より性質が悪いわ……」
ほむらの言葉を拒絶する様に、マミは吐き捨てた。
89: 2013/04/23(火) 20:30:02.86 ID:sbMsI/FL0
「ねぇ……魔女になる事って怖い?」
「怖いに決まってるでしょ!! 誰かを呪いながら生きながらえる何て、私はまっぴらよ!!」
マミは、怒りで顔を真っ赤にしながらほむらに告げる。
「そりゃ、魔女になるのは私も御免よ。
でも、魔女になる事が避けられないなら……私はそれを受け入れるわ」
「何よそれ……狂ってる……」
「普通に考えれば、そうかもしれないわね。
だけど、仮に私が魔女になったとすれば、貴女が殺せばいい。そうすれば、少なくとも貴女は延命できるわ」
「……嫌よ。誰かを犠牲にしてまで生き延びるなんて……。私はそこまでして生きたくない!!」
「……本当にそう思ってる?」
「そうよ!!」
マミの言葉を聞いて、ほむらは拘束する鎖を解いた。
90: 2013/04/23(火) 20:30:43.20 ID:sbMsI/FL0
「……何のつもり!?」
マミはほむらと向き合う様に、体勢を変える。
「覚悟を試させて貰うわ」
そう言うと、ほむらは盾の中から、リボルバー式の拳銃を取り出した。
「コルトパイソン。リボルバー式の拳銃でも、極めて威力の強い物よ。仮に頭を撃ち抜けば……脳みそは軽く飛び散るでしょうね」
ほむらは銃弾の装備されるシリンダーに、一発だけ装弾。そして、シリンダーを思いっきり回転させたままリロードする。
「……まさか!?」
「そのまさかよ!!」
91: 2013/04/23(火) 20:31:12.86 ID:sbMsI/FL0
ほむらは何のためらいも見せず、自分のソウルジェムに銃口を当てた。
そして、一切の迷いも見せないで、引き金を引いた。
――カチン。
空発。
――カチン。
二回目も、弾丸は飛びださない。
――カチン。
三度目の正直には至らない。ほむらの顔は、何時もと違わぬポーカーフェイスを保ったままだ。
「……ま、こんな所よ。
言ったでしょ? 何とも思っていないってね」
得意げに言いながら、ほむらはマミに拳銃を差し出す。
92: 2013/04/23(火) 20:31:54.02 ID:sbMsI/FL0
「次は貴女の番よ?」
「……」
無言で受け取り、マミはソウルジェムに拳銃を突きつける。
ドクリ、と心臓が高鳴り、全身の汗腺から汗が噴き出る。拳銃を持つ手は震え、奥歯がガチガチと鳴る。
マミは、怖かった。氏ぬ事は怖い。トリガーにかかる指を、動かす事が出来ない。
改めて突きつけられた現実は、あまりにも非情であった。
拳銃を構えて、数十秒。マミは、引き金を引く事が出来なかった。
「……これが、現実よ」
ほむらは、冷たく言い放った。そのまま、マミから拳銃を取り上げる。
「……」
全身の力が抜けた様に、マミは地面にへたり込んでしまう。
93: 2013/04/23(火) 20:32:32.91 ID:sbMsI/FL0
「怖いと思ってる?」
ほむらの言葉に、マミの首は縦に動く。
「それが心理よ。だけど、怖さを知らない者は、強くなれないわ。
自分の無力さを認める事は、悪い事ではない。少なくとも、私は全てを受け入れた上で行動を起こしているのよ。近い将来、魔女になる事も含めてね。
出来もしない理想論を語るより、現状を見つめて出来る事を考える。それが私なりに導き出した、魔法少女の生き方よ」
マミの反応は無いが、ほむらは言葉を続ける。
94: 2013/04/23(火) 20:33:20.30 ID:sbMsI/FL0
「……巴マミ。貴女は、自分に厳しすぎる。
正義の味方とか、街を護るとか、その考え方は素晴らしいわ。だけど、自分でハードルを上げてしまい、自分自身を苦しめていては意味が無い。
もっと、ズル賢くても良い。もっと、楽にすればいい。少し位、自分に甘えたってバチは当たらないわ」
「違うの……」
弱弱しくマミの口は動く。
「私は……本当は弱いの。
強がってばかりで、魔女と戦うのが怖くて……本当に氏にたいと思っても、自決する勇気だって持って無い……。
願いが叶う事は素晴らしいって、あの子達に言ったわ……。だけど、本当はそんな事を思って無い。
私は、ただ魔法少女の仲間が欲しかった……」
「やっと、自分自身に向き合ったわね」
そう呟いてから、ほむらは今日刈り取ったばかりのグリーフシードを、マミに差し出した。
95: 2013/04/23(火) 20:33:58.28 ID:sbMsI/FL0
「……?」
「早い内に浄化しないと、魔女になるわよ?」
マミはグリーフシードを受け取った。その様子を見て、ほむらは再び口を動かす。
「自分のエゴは醜いと思うかもしれない。だけど、汚い部分も含めて、それが自分なの」
その言葉は、マミの心に深く刺さった。
「巴マミ。これからどうするかは、貴女が決める事。
もし、魔法少女を続ける気が有るのなら……明日の夕方。この公園で待っているわ」
そこまで言うと、ほむらはマミに背を向け、足を進め出す。
「……待って」
その一言に、ほむらの足はピタリと止まった。
96: 2013/04/23(火) 20:34:38.64 ID:sbMsI/FL0
「一つだけ聞かせて。
暁美さん……貴女に取って、魔法少女はどんな存在なの?」
「そうね……。
強いて言うなら、願いを叶えたが為に魔女退治をやらなければいけない、自業自得な存在かしらね」
「……貴女っぽい意見ね」
「ええ。気に入らないかしら?」
「いいえ。それも、魔法少女の有り方なんじゃないかしら……。
……本当なら今日で、私は殺されているわ。だからこそ、今の私は助けられたようなもの……。
私は貴女と手を組みたい。いいえ、私に忠誠を誓わせてほしいの!!」
マミの言葉は吹っ切れた様に、はっきりとしていた。
(……陥落したわね)
ほむらは、ニッと口元を歪ませた。
97: 2013/04/23(火) 20:35:24.23 ID:sbMsI/FL0
「まぁ……そこまでは言わないわよ。だけど、貴女の力を借りれるのなら、心強いわ。
よろしくね……マミ」
ほむらは振り返りながら、スッと右手を挙げた。
「こちらこそ、よろしくね。暁美さん」
マミも同じ要領で右手を挙げる。
パン、とハイタッチする音が、公園に響いた。
98: 2013/04/23(火) 20:35:50.68 ID:sbMsI/FL0
「……そう言えば、何時の間にキュウべえは消えているわね。根掘り葉掘り問いただしたい事があったのに……」
マミは、周囲を見渡したが、キュウべえの影は何処にもない。
「アイツの事だから、その内現れるわ。
それと、アイツを見つけて、頃したところで意味は無いわよ。一匹頃したところで、別の個体が出てくるだけだから」
「……初めて聞いたわ」
「アイツらの事は、私でも解らない事は、まだまだあるわ。だから、あまりアイツの事を当てにしてはいけないのよ」
ほむらは、鬱陶しそうに溜息を吐き出す。
「……ねぇ、暁美さん。まだまだ色々話もしたいから、ケーキでも食べに行きましょう」
「この時間じゃ遅すぎるわ。私はラーメンが食べたいわね」
「女子中学生二人でラーメンはちょっと……」
この後、相談の末ファミレスに行く事となり、二人は夜の街に消えていった。
99: 2013/04/23(火) 20:36:41.95 ID:sbMsI/FL0
何時の間にか姿を消したキュウべえは、ビルの屋上から街を見下ろしていた。
「やれやれ……。まさか、巴マミを手籠めにするとはね。
しかし、ワルプルギスの夜に挑むのは、彼女一人だと言っていた。無論、嘘だと言う可能性も十分に有るけれど……。
暁美ほむら……彼女は何を企んでいるんだ?」
ほむらへの疑惑は、キュウべえさえも抱いていた。
100: 2013/04/23(火) 20:37:13.11 ID:sbMsI/FL0
翌日の登校。
「おはよ~……」
まどかは、眠たそうに眼をショボショボさせて、何時もの待ち合わせ場所に到着した。
「おはよ。遅いぞ~」
さやかは、茶化すようにまどかに挨拶をした。
「おはようございます、まどかさん」
仁美もにこやかに微笑みながら、まどかに挨拶をした。
「じゃ、行こっか」
三人が揃った所で、学校へと向かい始めた。
そして、待ち合わせていた公園を抜けると、さやかとまどかは思わず立ち止まってしまったのだ。
101: 2013/04/23(火) 20:38:00.49 ID:sbMsI/FL0
「どうかなさいました?」
足を止めた二人に向けて、仁美はそう声をかけた。
「嘘……?」
呆然とするまどか。
「何がどうなってるのよ……」
さやかにも、その光景は信じられない物だった。
思わず我が目を疑うのも無理はない。
「あら、おはよう。まどかに、美樹さやかに、志筑さん」
と、淡々と挨拶するほむら。
「おはよう。奇遇ね」
そう言って、にこやかに挨拶するマミ。
102: 2013/04/23(火) 20:38:27.07 ID:sbMsI/FL0
昨日、散々いがみ合っていた二人が、仲良く一緒に登校していれば、驚くなと言う方が無理である。
「……転校生とマミさんが、仲良く登校してるって。何かの間違いよね?」
信じられないとばかりに、さやかはそう聞きただしてしまう。
「紛れも無い事実よ。
強いて言えば、昨日取っ組み合いの喧嘩してから、一緒に食事をしたからかしらね」
ほむらは、事情を簡潔に説明した。
「まぁ……青春ですね!!」
何の事情も知らない仁美は、その説明に目をキラキラと輝かせていた。
「まぁ……間違ってはいないけれど」
マミは苦笑いを浮かべながらそう言った。
「……訳が解らないよ」
流石に事情が呑み込めないまどかは、呆れ気味だ。
「そんな事より、早く行かないと遅刻するわよ」
そう告げて、ほむらは先に足を進め始めた。
132: 2013/04/25(木) 22:09:34.30 ID:FZPh3Pup0
4.覚醒
マミとほむらが協力関係を作って、三日ほど経過した。
昼休みの屋上に、ほむらはマミを呼び出していた。
「暁美さんが呼び出す時って、あまり良い予感がしないのよね……」
マミは、若干皮肉っぽく言い付けた。
「酷い言い草ね。ま、それ位の事をしてる自覚はあるけれど……。
それはそうと、本題に入るわ」
ほむらは一旦、咳払いを入れる。
「ちょっと、二、三日の間は魔女退治に参加できないのよ」
「そう。わざわざ断りを入れるという事は……何か考えが有るのよね?」
「ええ……」
マミとほむらが協力関係を作って、三日ほど経過した。
昼休みの屋上に、ほむらはマミを呼び出していた。
「暁美さんが呼び出す時って、あまり良い予感がしないのよね……」
マミは、若干皮肉っぽく言い付けた。
「酷い言い草ね。ま、それ位の事をしてる自覚はあるけれど……。
それはそうと、本題に入るわ」
ほむらは一旦、咳払いを入れる。
「ちょっと、二、三日の間は魔女退治に参加できないのよ」
「そう。わざわざ断りを入れるという事は……何か考えが有るのよね?」
「ええ……」
133: 2013/04/25(木) 22:10:05.00 ID:FZPh3Pup0
ほむらの眼光が、一瞬の間に鋭く尖った。
「……今から、約二週間後。ワルプルギスの夜が襲来するわ」
「……!?
貴女、その情報を何処で手に入れたの!?」
「それは内緒。だけど、来る事は確実よ」
ほむらがこういう場面で嘘を言うタイプでは無い。マミは十分に理解している。
「……貴女がそういう眼をしている時は、紛れも無い真実よね。だけど、それと魔女退治を休む事に、何の関係が有るの?」
「……この近辺の街の魔法少女を集めるわ。風見野町にあすなろ市。それに、この街にもまだ隠れている可能性だって有るわ」
「…………そう」
マミの返事は、歯切れが悪い。
134: 2013/04/25(木) 22:10:48.89 ID:FZPh3Pup0
「何も、貴女が頼りない訳じゃ無いわ。
ただ、確実に仕留めるのなら、人数が多い方が確実よ。“きっと勝てる”のでは無く“絶対に負けない”様にしなければならないのよ。
仲間になるかは解らない。だけど、その時だけ手を借りる様に交渉をしてくるわ」
(……交渉というか、貴女の場合は脅し同然じゃない)
マミは内心で突っ込んだ。
「……そういう訳だから、少しの間は単独になるわ。油断して、首を飛ばすような真似だけはしないでね」
その言葉に、マミは少しムッとした。
「……あんまり、甘く見ないで」
「冗談よ。貴女の実力は、良く解ってるわ」
「……冗談に聞こえないわよ」
マミは、げんなりとした顔だった。
135: 2013/04/25(木) 22:11:34.13 ID:FZPh3Pup0
その日の夕方。
まどかは、病院の待合室にいた。
(……今日は、随分と長いな)
さやかは、幼馴染の上条恭介の元にお見舞いに行っている。まどかは連れられてきただけで、待合室で待っているだけである。
病院で買ったホットレモンティーの温度は、既に温くなっていた。
「お待たせ、まどか」
幼馴染のお見舞いを終えたさやかは、ようやく待合室に戻ってきた。
「上条君、どうだった?」
「うん……ちょっと精神的に参ってるみたいでね。あんまり元気はなかったよ」
そういうさやかも、ちょっと落ち込んだ様子だった。
トボトボと歩く二人は、病院の駐車場を横切って行く。
136: 2013/04/25(木) 22:13:32.45 ID:FZPh3Pup0
「……はぁ。どうにか、元気になってくれないかなぁ」
力無くぼやくさやかだが、まどかは全く聞いておらず、呆然と病院の壁を見つめていた。
「まどか? どうしたの?」
「ねぇ、さやかちゃん……あそこに何か刺さって無い?」
「え? どこどこ」
二人は、何かが刺さっている壁に向かった。
「二人とも。今すぐ離れた方が良いよ」
突如後ろからの声に、足を止めてしまう。
137: 2013/04/25(木) 22:14:33.04 ID:FZPh3Pup0
「キュウべえ?」
さやかは、裏返った様な声を出しながら振り返った。
「そこに刺さっているのは、グリーフシードだよ。しかも、孵る寸前だ」
「……!?」
突然の告知に、二人の顔は青ざめる。
「どうしよう……マミさん前に言ってたよね。病院で魔女が生まれると、ヤバいって……」
さやかは、マミの助言を思い出した。その瞬間、冷や汗が背中を滑り落ちた。
「そんな……。早く、マミさんかほむらちゃんに知らせないと……」
まどかは、おろおろとしながら、携帯電話を取り出した。
「……少し待ってて。マミにテレパシーを送るから」
キュウべえは、至って冷静だった。もっとも、焦る様な感情は持ち合わせていないのだが。
138: 2013/04/25(木) 22:15:05.83 ID:FZPh3Pup0
≪……マミ。聞こえるかい?≫
≪キュウべえ……何の様かしら≫
テレパシーをキャッチした様だが、マミの声のトーンは低い。
≪市民病院で、グリーフシードが孵ろうとしてる。まどかとさやかもここに居るんだ。今すぐに、来れるかい?≫
≪……解った。だけど、急いでも五分はかかるから、早く逃げるよう……≫
マミからの返信は、プツリと途切れた。
「……遅かったね」
キュウべえは、淡々と告げた。
「嘘でしょ……!?」
さやかは息を飲んでしまう。
「……そんな」
まどかは、周囲の光景を見て、思わず目を覆っていた。
139: 2013/04/25(木) 22:16:10.19 ID:FZPh3Pup0
辺りは、既に病院の駐車場の光景では無くなっていた。
甘ったるい匂いが立ち込め、山盛りのお菓子が立ち並ぶ魔女の結界。
「これは、お菓子の魔女の結界だね。幸い魔女の方は、まだ孵っていない様だけど、結界に取り込まれてしまっては、僕達では脱出不可能さ」
「……何とかならないの?」
キュウべえの説明を聞き、さやかは思わず聞きただす。
「方法は二つある。
一つは、マミには魔女の結界の場所は教えてあるから、助けに来て貰う。結界に入ってからなら、最短ルートを僕から発信する事も出来る。
だけど、急いでも五分はかかるって言ってたからね。それまでに、魔女が生まれない保証は無い」
140: 2013/04/25(木) 22:16:56.43 ID:FZPh3Pup0
「もう一つは?」
「君達が僕と契約して魔法少女になる方法さ。ただし、この方法は推奨しないよ」
「……どうして?」
思わず、さやかは聞いてしまう。
「暁美ほむらの信頼を失うからね。彼女は、君達を魔法少女にする事を望んでいないのさ」
キュウべえの言葉を聞き、さやかは納得が出来無い様だった。
「……アンタ、随分と転校生の事を買ってるのね」
「その件を、君達に話す筋は無いよ」
キュウべえは、それ以上は語らなかった。
141: 2013/04/25(木) 22:17:25.37 ID:FZPh3Pup0
「……大丈夫だよ、さやかちゃん」
まどかは、はっきりと言い切った。
「まどか……」
さやかは、まどかに視線を向けた。
「きっと、マミさんもほむらちゃんも来てくれるよ。私達が信じなきゃ……」
まどかは、凛とした声でそう言った。
「……残念ながら、ほむらは今日は居ないよ。用事で、別の街に居る」
希望を打ち砕くかの様に、淡々と告げるキュウべえ。
「アンタは……少し位空気を読めっての」
さやかは、苦々しく顔を歪めて、そう突っ込んだ。
(……こりゃ、腹を括るしかないかな)
そして、内心では覚悟を決めていた。
142: 2013/04/25(木) 22:18:48.60 ID:FZPh3Pup0
マミは、全力疾走で病院へと向かっていた。しかし、気持ちばかり先走って、足の進むペースは上がらない
「もう!! こうなったら!!」
決めポーズも忘れた様に、路地裏で変身を完了させた。そして、強化した身体能力を駆使して、屋根へ飛び乗る。そこからは、忍者の如く屋根から屋根へと飛び移って行く。
病院までの道のりを、真っ直ぐに突っ切ってショートカットする考えだ。
(……急がないと!!)
懸念している点は二つ。一つは、魔女に殺されないか。もう一つは、閉じ込められた状態で、先走って契約していないか。
(……待ってて。鹿目さん!! 美樹さん!!)
マミは最短距離で、目的地を目指す。友人を助ける為に。
143: 2013/04/25(木) 22:19:26.62 ID:FZPh3Pup0
キュウべえはピクリと反応を見せた。
「……来たようだね」
その一言に、まどかとさやかは、少しホッとした表情を浮かべる。
≪……キュウべえ!! 今、結界に入ったわ!!≫
マミのテレパシーを、キュウべえは受信した。
≪予想よりも随分早かったね。魔女の方は、まだ孵化していないけれど、予断は許さない。僕達の位置を送信するよ≫
キュウべえからの情報を、マミはキャッチした。
≪……最下層ね。すぐに向かうから、間違っても契約はしないでね!!≫
そう釘を刺した。
≪信用無いなぁ……≫
ちょっと残念そうに、キュウべえはぼやいた。だが、マミは既に電波を切っていた。
144: 2013/04/25(木) 22:19:59.94 ID:FZPh3Pup0
「……マミさんは?」
さやかは、慌ただしくキュウべえに詰め寄る。
「もう結界に入ってるよ。最短ルートは教えてるから、すぐに到着するさ」
「良かったー。さっすがマミさんだね」
安堵の息を漏らすさやかだった。
「……ねぇ、さやかちゃん。あの箱……何か震えて無い?」
まどかに言われ、さやかもその箱に視線を向けた。
「何? あの馬鹿でかいお菓子の箱……」
その箱は、確かにガタガタと震えている。
「……まずい。魔女が孵るよ」
キュウべえの一言で、二人の顔は一気に青ざめた。
145: 2013/04/25(木) 22:20:42.63 ID:FZPh3Pup0
「恐らく、魔法少女の気配を感じ取ったんだ。下手すれば、使い魔達の動きも活発になるだろう」
「嘘……」
まどかは、体の芯が震える事を感じた。
「……マミさん」
願う様に、さやかは呟いた。
「使い魔に足止めをされたら、間違いなくマミは間に合わない。後は、運を天に任せるしかないだろうね……」
キュウべえの言葉は、重苦しい雰囲気を助長した。
146: 2013/04/25(木) 22:21:19.00 ID:FZPh3Pup0
その直後だった。
――パキン。
金属がひび割れる音が響いた。大きなお菓子の箱は、無数に亀裂が入り、丸で卵から雛鳥が生まれる時の様だった。
「……魔女が生まれる」
キュウべえが呟くと同時に、お菓子の箱はボロボロと崩れていった。
【お菓子】の魔女 シャルロッテ その性質は【執着】
崩れ去った箱から出てきたのは、ぬいぐるみの様な風体の魔女であった。
「……あれが……魔女?」
まどかは拍子が抜けた様に、キョトンとしている。
「何か……思ってたより怖くないな」
さやかも、見た目で判断して、ちょっと舐めている様だ。
「確かにね。ただ、魔女で有る事は間違いないよ」
キュウべえは、そう促した。
147: 2013/04/25(木) 22:22:04.59 ID:FZPh3Pup0
バン、と扉が開いた。
一同が一斉に振り返ると、頼みの綱の人物が姿を現した。
「……お待たせ。真打登場よ!!」
ニヤリと笑みを見せながら、マスケット銃を構えたマミ。
「マミさん!!」
まどかとさやかは、同時に声を張り上げた。
「もう大丈夫よ。今日と言う今日は速攻で片づけるわ!!」
マミは、二人の周囲をリボンで取り囲み、結界を張りめぐらせた。
(……普段と。否、今までと雰囲気が違っているね……)
マミの様子を見て、キュウべえは何かを感じていた。
148: 2013/04/25(木) 22:22:53.60 ID:FZPh3Pup0
お菓子の魔女と対峙するマミに、臆する様子は微塵も無い。
しかし、魔女の方も、特に攻撃を仕掛けてくるような様子も見られない。
(……何か有るわね)
マミは、勘ぐっていた。
右手からリボンを放出して、魔女の体を一気に拘束する。宙にブラブラと浮き上がる魔女の本体は、抵抗するような様子さえ見受けられない。
「……一気に決めるわ」
マミの持つマスケット銃は、黄色い光に包まれ、大砲へと早変わりした。
大砲に魔力を込めると、銃口は黄色い魔弾を生み出していた。
「……ティロ・フィナーレ!!」
トリガーを引くと、強烈な魔弾が標的に向かって、一気に炸裂した。
爆発音と共に、魔女の胴体を一気に貫く。
「やったぁ!!」
さやかは、ガッツポーズを作り、まどかもホッとしたような笑みを作っていた。
149: 2013/04/25(木) 22:23:24.78 ID:FZPh3Pup0
ぬいぐるみの体は、確かに貫いていた。
しかし口からは、ニュルン、と蛇のバケモノの様な物体が飛び出していた。
「……!!」
その蛇のバケモノは、とんでもない速度で真っ直ぐにマミに向かって突っ込んでいた。
大口を開けて、マミを目掛けて噛り付く。
――ガチン!!
大口は何も捉えていなかった。
咄嗟の判断で、マミはバックステップで距離を取っていたのだ。
(……一瞬でも遅れてたら危なかったわ。やっぱり、裏が有ったわね……。恐らく、人形みたいな恰好は囮。本体はあの黒い奴……)
150: 2013/04/25(木) 22:24:08.66 ID:FZPh3Pup0
マスケット銃を幾つか召喚。次々と手に取って、魔弾を連射。
しかし、魔女の本体は全く怯まない。再び大口を開けて、マミに喰らい付く。
「……くっ!!」
身を反転させてかわしたが、魔女の動きは想像以上に早い。
(……頑丈な上に、素早いわ。普段のマスケット銃じゃダメージは与えられないけど、大技を構える隙も無いわね……)
マミは奥歯をギリッと噛み締めた。
魔女は、再び襲い掛かる。マミは何とか避けるが、攻撃の手立てを見いだせない。
(……だったら)
今度は、無数のリボンを放出して、大口を開けた魔女に狙いを定める。
魔女の牙を、リボンが捕えた。口は開けっ放しで、魔女の動きは止まってしまう。
(これなら、避けられないでしょう)
151: 2013/04/25(木) 22:24:43.71 ID:FZPh3Pup0
再び、瞬時に大砲を召喚。
「もう一発……ティロ・フィナーレ!!」
ドン、と魔弾が魔女の口内に発射された。開きっぱなしの大口からは、煙幕が立ち上った。
これなら、魔女だって一溜りも無い。全員がそう思った。
「……!?」
再び口の中から、ニュルリと蛇のバケモノが姿を現した。
最短距離で、マミの体に向かい喰らい付く。
「……きゃッ!?」
ギリギリで避けたが、牙で腹部に大きな傷を受けてしまった。
152: 2013/04/25(木) 22:25:25.20 ID:FZPh3Pup0
(……しくじったわ)
傷口からは、大量の血が流れ出る。左手で傷を抑えるが、痛みも流血も引かない。
(……傷を手当てする余裕も無さそうね)
マミの脳裏を、嫌な予感がかすめる。
(……落ち着きなさい、巴マミ)
首を振るって、嫌な予感を振り払う。
目を凝らして魔女を睨む。
(追い込まれた時程、頭を冷やすのよ……)
マミは限界まで五感を研ぎ澄ます。
153: 2013/04/25(木) 22:26:15.15 ID:FZPh3Pup0
固唾を飲んで見守るまどかとさやか。しかし、素人目から見ても、マミは苦戦している事は明白だった。
「……マミさん」
さやかは、何もできない自分を呪いたいとさえ思っていた。
「……マミさん」
まどかは、祈る様にマミから視線を逸らさない。
「マミの攻撃方法で、あの魔女を仕留めるのは厳しいかもしれないね。相性が悪すぎる」
そう言い放つキュウべえ。
「……ちょっと。そんな言い方無いんじゃないの」
少し頭に来たようで、さやかはキュウべえに突っかかる。
「事実さ。ただ、マミも伊達にベテランじゃないよ。
追い込まれた時にこそ、状況を打破する機転が求められる。それが出来なければ、戦いに生き残る事は不可能だからね」
キュウべえはそう告げた。
「……」
さやかは、何も答えない。ただ、今は見る事しか出来ないのだ。
154: 2013/04/25(木) 22:27:03.54 ID:FZPh3Pup0
意を決したマミは、両手から再びリボンを繰り出す。
「……行くわよ!!」
今度は網目の様に、リボンが大きく広がった。図体のでかい魔女を、漁の様に魔女の体を絡める。
今度は、魔女の口は閉じたまま拘束されていた。
「……これなら、脱皮は出来ないわね!!」
再びマスケット銃を、大砲に変形させる。しかし、大砲の砲身は、さっきよりも極めて長い。
集中力を高め、砲身に魔力を込める。
155: 2013/04/25(木) 22:27:41.41 ID:FZPh3Pup0
(破壊力じゃないわ……魔力を一点に集中させる)
再び込められた魔弾は、渦を巻いている。
「ティロ・フィナーレ……エボルツォーネ!!」
魔力を限界まで練り込まれた魔弾は、ライフルの様に貫通力を上げた代物だった。一気に放出されると、高速回転しながら魔女の胴体を一気に貫いた。
156: 2013/04/25(木) 22:28:14.54 ID:FZPh3Pup0
「……今度は、復活出来ないでしょうね」
マミはそう言い切った。
同時に、魔女も息絶えてしまった様で、目から生気が消え失せていた。
(ごめんなさいね……。貴女もかつては、魔法少女だったのでしょ?
だけど、誰かを呪いながら生きるのは、きっと生前の貴女も望んで居なかった筈よ。天国でゆっくりとお休みなさい。後は、私達が何とかするわ……)
魔女の体が、グリーフシードに戻ると同時に、マミは胸の前で十字を切っていた。
157: 2013/04/25(木) 22:29:05.15 ID:FZPh3Pup0
結界が崩壊すると、辺りは病院の駐車場に姿を戻していた。
すると、緊張の糸が切れてしまったように、マミは地面に片膝を着いてしまう。
「マミさん!!」
「大丈夫よ……ちょっと疲れただけ」
そう言って笑みを見せるが、マミの表情は披露困憊している。何よりも、魔法による治療が追い付いておらず、傷口はまだ塞がっていない。
「マミ。早くソウルジェムを浄化して、魔力を回復させた方が良いよ」
キュウべえはそう告げる。
「…………そうね。だけど、美樹さんと鹿目さんに話したい事があるのよ。
折角だから、私の家でお茶を飲みながらなんてどうかしら?」
マミはそう提案した。
158: 2013/04/25(木) 22:29:46.93 ID:FZPh3Pup0
「……本当に、大丈夫なんですか?」
まどかは、心配そうにマミの顔を覗き込んだ。
「ええ。私は魔法少女だもの」
マミはそう言いながら、笑みを作っていた。
「……」
ただ、その笑みには何か奇妙な物を、まどかもさやかも感じていた。
今までの温和な笑みとは、どこか違う。何処か裏が有りそうな、暁美ほむらが時折見せる様な笑みであった。
159: 2013/04/25(木) 22:30:21.47 ID:FZPh3Pup0
マミのマンションに呼ばれた、まどかとさやか。そして、キュウべえも同席している。
「適当に寛いでて。すぐにお茶の準備するから」
そう言って、マミはキッチンに向かった。
「また、マミさんの紅茶をご馳走になれるんだ……やった♪」
さやかはウキウキと心を躍らせる。
「さやかちゃんったら……。気持ちは解るけどね」
まどかも、満更でも無い様だ。
「……」
キュウべえは、無言で二人を見つめているだけだ。
160: 2013/04/25(木) 22:31:29.32 ID:FZPh3Pup0
数分も経つと、紅茶の香りが部屋にまで漂ってきた。マミは自慢のティーカップと、紅茶の入ったポットをテーブルの上に置く。
しかも、お持て成しの為のプリンまで用意している。
ポットからティーカップに紅茶を注ぐと、紅茶の香りが鼻をくすぐる。
差し出されたプリンと紅茶に、まどかとさやかはゴクリと生唾を飲み込んだ。
「……さぁ、召し上がれ」
「いただきます!!」
我慢できず、プリンをスプーンですくい上げ、一口頬張る。
「おいしい~♪」
「めっちゃ美味い~♪」
まどかもさやかも、舌鼓を打つ美味しさで、顔をニンマリとさせた。
「喜んでもらえて何よりだわ。
……さてと。ここで、本題に入りましょうか」
マミは打って変った様に、引き締まった顔つきになっていた。
161: 2013/04/25(木) 22:32:06.80 ID:FZPh3Pup0
雰囲気を察して、さやかとまどかの表情も張りつめた様子に変わっていた。
「正直な気持ちを教えて欲しいわ。貴女達は、まだ魔法少女になりたいと思ってる?」
マミの意見は直球だった。
「……私は、正直良く解ってません。
どんな願いが叶うって言われても、叶えたい願いも解らないし……。マミさんの助けになるなら、契約してもいいかなって思ってますけど……。
でも、戦うのは怖いです。うやむやな気持ちで契約しても、多分上手くいかない様な気もしてます」
まどかはまだ迷っている様で、言葉も歯切れが悪い。
「あたしは、契約したいって思ってます。命を懸けてでも叶えたい願いも有ります。
それに、今日のマミさんが苦戦する所を見てて、あたしはどうして何も出来なかったんだろうって思いました。正直、それが悔しかった。これが、今のあたしの気持ちです」
さやかは、しっかりした口調で言い切った。真っ直ぐにマミを見つめた表情は、真剣な物だった。
162: 2013/04/25(木) 22:32:37.44 ID:FZPh3Pup0
「……二人の気持ちは、良く解ったわ。助けたいと思ってくれる事は、とても嬉しいわ。
だけどね……だからこそ、私は契約には反対よ」
穏やかな口調だが、マミはきっぱりと言った。
「……どうしてですか?」
さやかは、残念そうに聞きただした。
「理由も、今から話すわ。
先日、私は暁美さんから、こんな話を聞かされたの」
マミはそう言って、ソウルジェムをテーブルの上に置いた。
163: 2013/04/25(木) 22:33:10.51 ID:FZPh3Pup0
「このソウルジェムは、私の魂。これが無ければ、私の体を動かす事は出来ないの。言ってみれば、ソウルジェムが本体で、体は抜け殻。
ソウルジェムが無事な限り、血を抜かれても心臓が破れても、魔力が有れば復活できる。これが魔法少女の仕組みなの」
「……それじゃ、丸でゾンビじゃないですか!!」
さやかは、思わず声を裏返していた。
「的を得てる例え方ね。
それに、魔法少女の持つソウルジェム。これは、魔力を使う度に、穢れを溜めていく。そして、ソウルジェムが穢れきった時……」
マミは、さっきの魔女が落としたグリーフシードをテーブルに出した。
「ソウルジェムから、グリーフシードが生まれる。これが、魔法少女の終着点」
「……!?」
まどかもさやかも、動揺の余り声を出す事さえままならなかった。
164: 2013/04/25(木) 22:33:44.54 ID:FZPh3Pup0
「……危ない目に会わせたくない、何て綺麗事は言わないわ。魔法少女が増えれば、魔女の数もそれだけ増えてしまう。
それじゃ、何の為に魔女を倒す魔法少女をしてるのか……。訳解らないでしょ?
魔法少女に契約してしまえば、後戻りは出来ないの。だからこそ、貴女達は引き返せる時に戻るべきなのよ」
諭すような優しい口調で、マミは厳しく突き放した。
「……キュウべえ。何で、魔法少女何て物作ったのよ」
さやかは、キュウべえを睨みつけた。
165: 2013/04/25(木) 22:34:39.49 ID:FZPh3Pup0
「君達の感情を媒体として、宇宙の寿命を延ばす様にエネルギー回生する為さ。特に、相反する感情の変化は、大きなエネルギーを生み出すからね。希望から絶望とかね」
キュウべえは、さも当然の様に告げる。
「意味わかんない……。そんな事の為に、私達の命を弄んでるって訳!?」
「そんな事とは、人聞きが悪いね。この一秒の為に、宇宙のエネルギーは、どれ程消費されていると思っているんだい?
そもそも、宇宙がなければ君達は生きていく事さえ出来ないんだよ。むしろ、魔法少女が魔女になる事で、君達は生き延びられるんだ。
それを感謝される筋合いはあっても、恨まれる筋合いは無いよ」
「そんなの……あんまりだよ」
キュウべえの淡々とした態度を見て、まどかは悲観してしまう。
166: 2013/04/25(木) 22:35:08.34 ID:FZPh3Pup0
「……これ以上、聞く事は無いわ。幾ら話しても、平行線を辿るだけですもの」
マミはそう言って、解説を打ち切った。
「……そして、これから話す事は、私の独り言よ」
「……」
マミの一つ一つの言葉に、皆静かに耳を傾けた。
167: 2013/04/25(木) 22:35:51.06 ID:FZPh3Pup0
「二年前になるわ。
私は家族でドライブに出かけたの。だけど、私と両親は大規模な交通事故に巻き込まれた……。潰れた車の中で意識を失いかけてた時、キュウべえに契約を迫られた。叶えたい願いは有るか、とね。
私は、ただ助かりたいって答えたわ。それが、私が契約した経緯なの。
考える余地も無かったし、あの時契約していなければ、今私はここに居なかったでしょうね……。
どっちが良かったなんて、今となっては解らない。だけど、結果だけ見てしまえば、この現実を受け入れなくてはいけないわ。将来魔女になる事も……」
そう語るマミは、少し悲しそうに眼を伏せた。
168: 2013/04/25(木) 22:36:20.82 ID:FZPh3Pup0
「……暁美さんは、こんな事を言っていたわ。
もし、私が魔女になったら被害を出す前に貴女が仕留めれば良い、とね。
開き直ってると言えばそれまでだけど、そんな事簡単に出来る事じゃない。あの子が、どれ程の修羅場を潜り抜けてきたのか、私には想像も出来ない。
だからこそ、私はあの子と手を組む事にしたのよ」
マミの口調は滑らかだった。
169: 2013/04/25(木) 22:37:06.16 ID:FZPh3Pup0
「……じゃあ、マミさんは転校生の事を、もう信用しているって事ですか?」
「……難しい所ね。
私自身は、暁美さんの全てを信用している訳じゃ無い。でも、利害の一致が有れば、間違いなく背中を預けられる。
言葉では上手く説明できないけれど、彼女はそう言う存在。今は、間違いなくその時なのよ」
そこまで言い終えると、マミは紅茶に口を付けた。
「……マミさんは、これからどうするんですか?」
まどかは、思わず聞いてしまった。
「今まで通りよ。変えるつもりも、変わるつもりも無いわ。私は私のやり方をするだけよ」
マミの言葉は、凛々しく、力強かった。
183: 2013/04/26(金) 21:12:24.12 ID:8E71IuRE0
5.策士
マミ達がお茶をしているのと、同じ時刻。ほむらは、あすなろ市に居た。しかも、喫茶店の窓際で、コーヒーを飲んでいる。
もっとも、のんびりしている訳でも無いが。
≪キュウべえ。巴マミの方は、無事かしら?≫
テレパシーで、最寄りのキュウべえに連絡を入れた。
≪見滝原の個体にアクセスした所、無事に魔女を撃破したよ。今の所、マミの家にまどかもさやかも居るよ≫
≪そう。それなら、問題無いわね≫
≪しかしだ。君は何故、巴マミが相性の悪い魔女と戦う様に仕向けたんだい?
まさか、わざと負ける様に仕向けたとつもりなのかい?≫
≪そんな回りくどい事する位なら、自分で頃してるわ≫
≪やれやれ……訳が解らないよ≫
≪解ってもらうつもりは無いの。また、後で連絡するわ≫
ほむらは一方的に電波を切った。
マミ達がお茶をしているのと、同じ時刻。ほむらは、あすなろ市に居た。しかも、喫茶店の窓際で、コーヒーを飲んでいる。
もっとも、のんびりしている訳でも無いが。
≪キュウべえ。巴マミの方は、無事かしら?≫
テレパシーで、最寄りのキュウべえに連絡を入れた。
≪見滝原の個体にアクセスした所、無事に魔女を撃破したよ。今の所、マミの家にまどかもさやかも居るよ≫
≪そう。それなら、問題無いわね≫
≪しかしだ。君は何故、巴マミが相性の悪い魔女と戦う様に仕向けたんだい?
まさか、わざと負ける様に仕向けたとつもりなのかい?≫
≪そんな回りくどい事する位なら、自分で頃してるわ≫
≪やれやれ……訳が解らないよ≫
≪解ってもらうつもりは無いの。また、後で連絡するわ≫
ほむらは一方的に電波を切った。
184: 2013/04/26(金) 21:13:14.66 ID:8E71IuRE0
そのまま、暫しの間コーヒーブレイクをしていると、ほむらの座るテーブルに一人の少女が歩み寄った。
「……キュウべえから聞いたわ。貴女が、見滝原の魔法少女の暁美ほむらさんね?」
そう声をかけてきた少女。黒のロングヘアーで、端正で美形の顔付き。知的と言う言葉が、非常に似合う少女だった。
あすなろの魔法少女がようやく現れたのである。
「初めまして。まさか、売れっ子作家の御崎海香さんが、魔法少女だなんて思わなかったわ」
そう言って、ほむらはニヤリと笑みを見せた。
「……そんな事は、今は二の次。違う街の魔法少女が、あすなろに何の用かしらね?」
海香は、ほむらの向かいに座りながら、そう言った。極めて警戒をしているのか、ほむらを睨む様に見つめていた。
185: 2013/04/26(金) 21:13:46.79 ID:8E71IuRE0
「そんなに警戒しないで欲しいわ。こういう時は、お互いを対等にしないと意味が無いでしょう?」
そう言いながら、ほむらは自分自身のソウルジェムをテーブルの上に置いたのだ。
「……」
海香の眉が、ピクリと反応を見せた。本人は、ポーカーフェイスを保ったつもりなのだろうが、ほむらはそれを見逃さなかった。
「……あら? もしかして、ソウルジェムの概要を知っていたりする?」
微笑を保ちながら、ほむらは海香を見つめていた。
「……ええ。知っているわよ」
海香の声のトーンは、下がる一方だ。
「それなら、話は早いわね。
貴女に……違うわね。貴女達に交渉がしたいのよ。そこの後ろに座ってる、魔法少女の二人も含めてね」
「……!?」
海香の顔は、明らかに動揺を見せていた。
186: 2013/04/26(金) 21:14:22.53 ID:8E71IuRE0
「……何時気が付いたの?」
「貴女がこの店に入って来た時。そこの二人組と、僅かに目が合ったでしょ。その時に、すぐに逸らさなかったから、恐らく仲間じゃないかって疑ったわ。
確信をしたのは今だけどね。貴女の動揺した顔を見てからよ」
ほむらの説明を聞き、海香の眉間にしわが寄る。
「……本題に入りましょう」
そう言いながら、海香も自身のソウルジェムをテーブルに置いた。
187: 2013/04/26(金) 21:15:06.35 ID:8E71IuRE0
「今から二週間後。見滝原に、ワルプルギスの夜が現れるわ。それを倒す為に、協力してほしいの」
「……貴女、本気で言ってるの?」
「ええ、本気よ」
その言葉を聞き、海香はほむらをジッと見つめる。
「そんな言葉を一々真に受けていたら、幾つ体が合っても足りないわ……」
バン、とテーブルの上に掌を叩きつけ、ほむらは海香を思いっきり睨みつけた。
「……この目を見て、本気かどうか判断しなさいよ」
海香は、背筋がゾクリとした。
抜身の刀を突きつけられている様な鋭い視線に、殺気に近い物を感じ取っていた。
188: 2013/04/26(金) 21:15:45.25 ID:8E71IuRE0
(……この子、なんなの!?)
海香が過去に出会った魔法少女達の中でも、これ程恐ろしい物を感じた魔法少女は他に居ない。
(狂気とも、殺意とも違う……。だけど、何故この魔法少女に、こんなにも威圧されているの!?
ソウルジェムをテーブルに差し出すなんて、真実を知っているならどれ程危険な事かも、解る筈なのに……)
明らかに海香は、ほむらの気迫に呑まれていた。
189: 2013/04/26(金) 21:16:21.59 ID:8E71IuRE0
「別に、貴女達を私の手下にしようとかって話じゃない。単純に、協力を要請したいだけなのよ。
それに、あの魔女が現れたら、この辺り一帯が崩壊する事は免れないわ。初見でどうにかなる相手じゃないのは、見た事の無い貴女でも解るわよね?」
「……それはそうだとしても。貴女は、そんな話を何処で手に入れたの? 正直、信用できるレベルの話じゃ無いわ」
「それは内緒よ。わざわざ、自分の手の内をバラす程、アホじゃないわ」
海香は、今一つ腑に落ちない。
「……一つ聞いて良い? もし、私達が協力を拒んだら、貴女はどうするつもり?」
その質問を受けて、ほむらは少し考える素振りを見せた。
190: 2013/04/26(金) 21:17:09.00 ID:8E71IuRE0
「そうね……。
貴女達を拉致監禁して、生きていくのが嫌になる程痛めつけるわ。
そのまま、一人づつ絶望させて、魔女に生まれ変わらせる。そうすれば、私の為のグリーフシードは、難なく手に入るわ」
ほむらは、無表情を保ちながらそう告げた。
「……話にならないわ。そんな下衆に、協力をするなんて、反吐が出る……」
海香は吐き捨てる様に言い返した。
191: 2013/04/26(金) 21:17:41.99 ID:8E71IuRE0
「……あすなろのプレイアデス聖団も、案外抜けてるわね。これ、何かしら?」
ほむらの手には、海香のソウルジェムが握りしめられていた。そして、テーブルに置いていた、紫のソウルジェムは既に無い。
「い、何時の間に!?」
「さて……今、貴女の命は私の手の中に有ります。私はこのソウルジェムをどうするべきだと思いますか?」
「ふざけるな!!」
「そうね。ちょっと、悪ふざけしすぎたかしら……」
ほむらは、海香のソウルジェムをテーブルの上に戻した。その途端、海香は引っ手繰るように、自分のソウルジェムを手に収めた。
192: 2013/04/26(金) 21:18:41.71 ID:8E71IuRE0
「……何が目的なの」
海香の声は露骨に低く、怒りを抑えきれない様だ。
「さっきも言った通り、ワルプルギスの夜を撃破する事よ。その為に必要なのは仲間じゃない。
私が欲しいのは戦力よ」
「……」
「絶対に負けないだけの戦力を揃えて、確実に仕留められる戦略を使うのよ。
綺麗事じゃない。邪道でも、汚くても、私は構わない。ワルプルギスの夜を倒す為なら、悪魔にだって魂を売ってやるわ」
193: 2013/04/26(金) 21:19:21.77 ID:8E71IuRE0
「……貴女の目を見ていれば、本気で言っているのは解る。それに……拒めば本気で頃すつもりでしょう。
だけどね……私達にも、プライドは有るわ。殺さない変わりに協力しろと言われ、はい解りました何て言う訳が無いでしょう」
「……それで?」
「……その話に乗るか反るかは、貴女の実力を見定めてからよ。貴女が私達を平伏せられるだけの力が有るかどうか……はっきりさせましょう」
淡々と口を動かす海香だが、腹の中は煮え滾っているに違いない。
「面白いじゃない……」
宣戦布告を受けて、ほむらはニヤリと笑みを見せた。
194: 2013/04/26(金) 21:19:59.40 ID:8E71IuRE0
太陽が沈んで、街は夜の暗闇に染まっていた。あすなろ市の外れにある、資材置き場に到着したほむら。
そして、対峙するプレイアデス聖団の残党、昴かずみ、牧カオル、そして御崎海香。
「……生憎だけど、ちょっと痛い目を見て貰うよ。君は、ちょっと調子に乗り過ぎている」
普段は温厚なかずみも、ほむらに対して怒りを示していた。
「悪いけど、アンタには協力したくない。だから、全力で戦わせてもらうよ」
カオルも、臨戦態勢が整っており、即座に攻撃を仕掛けられる状態だ。
「今更後悔しても、遅いわ。でも、命だけは勘弁してあげる」
海香も武器を召喚し、ほむらに向けている。
一対三。端から見れば、極めて分が悪い。しかし、ほむらは不敵に微笑を浮かべている。
「……格の違いを教えてあげるわ。かかってきなさい」
195: 2013/04/26(金) 21:21:01.35 ID:8E71IuRE0
ほむらの言葉を皮切りに、カオルは我先にと、攻撃を仕掛ける。
「カピターノ・ポテンザ!!」
一気に間合いを詰めて、ほむらの体を目掛けて蹴りを繰り出す。
(……なるほどね)
瞬時にバックステップを取って、カオルの攻撃を避ける。
「リーミティ・エステールニ!!」
しかし、避けた方向に、かずみの放った光線が飛び交う。
――シュン。
だが、かずみの放った光線は何も捉えていない。
「消えた!?」
カオルとかずみは、思わず動きを止めてしまった。
196: 2013/04/26(金) 21:21:32.28 ID:8E71IuRE0
(……瞬間移動? だったら……動いた先は)
海香は、瞬時にほむらの動きを予測した。
「上よ!!」
その言葉に釣られ、全員が天井に目を向けた。
「正解よ。流石ね」
ほむらは、天井の梁に乗っていた。余裕があるのか、微笑を崩さないで見下ろしている。
「上に逃げても、逃げ場は無いよ!!」
かずみは、ステッキに魔力を込める。再び、光線で狙い撃つ考えだ。
「……残念ながら、私の勝ちよ」
ほむらは、確信した様に呟いた。
197: 2013/04/26(金) 21:22:20.10 ID:8E71IuRE0
その刹那、パン、と爆発音が響いた。花火が発射された音だ。
しかも、一発では無い。色鮮やかな六尺玉やら、噴射式の花火。挙句の果てに、ロケット花火にネズミ花火。大小多数の火花が、三人の方向に向けて水平発射される。
「ちょっ……熱っ!?」
狼狽えながら逃げ惑うかずみ。
「ふざけんなよ、アンタ!!」
ふざけきった攻撃方法に、カオルは怒声を張り上げる。
「危ないでしょ!! これは駄目だって!!」
冷静な海香さえも、この花火の波に呑み込まれていた。
飛び交う火花を避けるが、花火の量は半端では無い。
198: 2013/04/26(金) 21:23:10.26 ID:8E71IuRE0
「これも、オマケよ」
そう言いながら、ほむらは発煙筒を投げつけた。
焼けた火薬の匂いと、充満する煙で、三人とも標的を見失っていた。
「……煙い」
カオルは、服の袖で口元を抑える。
「あれ? アイツ、何処に消えた!?」
目に涙をためながら、海香は必氏にほむらを探す。だが、煙の立ち込めた中では、見つかる物も見つからない。
「……うわっ!?」
今度は、突如として突風が吹き荒れ、かずみはスカートを手で押さえる。
ほむらが次に出した道具は、業務用の大型扇風機だった。立ち込めた煙と、火薬の匂いが一気に吹き飛んでいく。
199: 2013/04/26(金) 21:24:22.89 ID:8E71IuRE0
「チェックメイトよ!!」
仕上げに、魔力を込めた網を投げつけて、三人を地引網の如く捉えてみせた。
「その網には、私の魔力を練り込んであるわ。簡単には逃れられないわよ」
捕えられた三人を見下ろしながら、ほむらは得意気に言い放った。
「……くそぉ。こんな筈じゃなかったのに」
かずみは、余程悔しいのか、顔を真っ赤にしてほむらを睨む。
「それに、今の状況なら……貴女達をこの場で頃す事さえも可能。言われなくても解るでしょ?」
「……」
ほむらの言葉に対し、カオルは何も答えない。
200: 2013/04/26(金) 21:24:53.59 ID:8E71IuRE0
「……解ったわ。私達も手を貸しましょう」
海香は、そう告げた。
「……海香。本気で言ってるの?」
カオルは、海香に目を向けた。
「本気よ。貴女の固有魔法は良く解らない。だけど、もしそこに仕掛けてあった物が、花火なんかじゃ無く、兵器だったとしたら……。
私達は、三人纏めて木っ端微塵だったわ。それに、私達が三人揃ってこの有様。しかも、貴女はまだ本気を出していないんでしょ?」
「……!?」
海香の一言で、かずみとカオルは言葉を失う。
201: 2013/04/26(金) 21:25:28.09 ID:8E71IuRE0
「あら? そう思う?」
ほむらは、すっとぼけた様に答えた。
「そうよ……私達の動きを、簡単に見極めてたわ。
はっきり言って、貴女に勝とうとすれば、魔力切れを覚悟して戦わなくてはいけない。そこまでする気は、私達には無いわ。
貴女……どんな修羅場を潜って来たの? そんな芸当、一朝一夕で身に着くものじゃない……」
「……そうね。嫌になる位に、氏線は潜って来たわ」
ほむらは、うんざりした様に言った。
そして、三人に纏わりつく網を引っ張り、拘束から解き放った。
202: 2013/04/26(金) 21:26:09.21 ID:8E71IuRE0
「解放したからって、闇討ちする様な真似はしないでね」
嫌味っぽく、ほむらはそう言った。
「そうしたいのは山々よ。だけど、簡単に闇討ち出来る様なら、とっくにやってるわ……」
海香は、冷静を装ってそう答えた。
「ふふ……頼りにしてるわよ。
それと、見滝原に来るなら、巴マミって魔法少女を訪ねた方が良いわ。私よりは、大分真面な魔法少女だからね。
では、ごきげんよう……」
そう告げると同時に、ほむらの姿は一瞬で消え失せていた。
203: 2013/04/26(金) 21:26:38.67 ID:8E71IuRE0
「ちくしょう……」
落胆した様子で、カオルはうなだれていた。
「……」
どこか、釈然としないかずみは、無言を貫く。
「……あの子は、今まで見てきた魔法少女と明らかに違う。絶対に超えては行けない一線を、平然と超えているわ……」
海香は、ポツリと呟いた。
「彼女は、僕が見てきた魔法少女の中でも、極めつけのイレギュラーさ」
静まり返った資材置き場に、一部始終を見ていたキュウべえが、颯爽と登場した。
204: 2013/04/26(金) 21:27:10.21 ID:8E71IuRE0
「……見てたの?」
キュウべえをジトッと見ながら、かずみはそう聞いた。
「そうだよ。君達が、如何にして暁美ほむらに立ち会うか、興味があったからさ」
「そんで、感想はどうなのよ?」
カオルは反射的に聞きただしていた。
「予想通りだね。
やはり、君達でも暁美ほむらに従わざるおえなくなった」
「……うるさい」
不服なのか、不機嫌全開でかずみは呟いた。
205: 2013/04/26(金) 21:28:09.22 ID:8E71IuRE0
「事実さ。
特に、海香とカオルは、正直気が付いているだろう。認めたくはないだろうけどね」
「……」
キュウべえの言葉は、図星だったのか。反論が出てこない。
「君達二人と、同じタイプの魔法少女。そうだろう?」
「……解ってた。正直解ってたよ。あの子は、下手な魔女を倒すより、余程厄介なタイプだ……。
どんなに隠そうとしても、同種の匂いは隠せないね。その先にある道が、茨でも獣道でも突き進むタイプ。例え道の果てが地獄でもね……」
カオルは、そう答えた。
206: 2013/04/26(金) 21:28:44.39 ID:8E71IuRE0
「確かに、あの子は強いし、頭も切れる。彼女の実力なら、例え一人でも、相当なレベルまで行けるでしょうね……。
だけど、キレすぎるナイフは嫌われる。一人でどれ程強くなっても限界は有る。そうなった時、あの子を待っているのは……呆気ない幕切れ。
間違いなく、あの子は破滅型の魔法少女よ……」
海香は、ほむらの事をそう評した。
「……カンナや、ユウリ。双樹姉妹……。
彼女達の破滅的な行動も、全てを知れば理解も納得も出来た。あの子の起こした行動も、意味が有ってやってるのかな……?」
かずみは、キュウべえに聞いた。
「少なからず、無意味なアクションは取っては居ないだろうね」
キュウべえの答えは、淡々としていた。それを聞き入れた、プレイアデスの残党は、何を思うのだろうか。
207: 2013/04/26(金) 21:29:14.09 ID:8E71IuRE0
同じ日。風見野町。
「ゆま……何で魔法少女になんかなった?」
「だって……キョーコが……」
「だってじゃねぇ!! 言っただろうが!! 魔法少女になんかなるなって!!」
「……だって……だって……。オリコがゆったもん!! ゆったんだもん!!
ゆまは……役立たずじゃない!! 役立たずなんかじゃない!!
「…………」
208: 2013/04/26(金) 21:29:40.96 ID:8E71IuRE0
「キョーコのいう事、何でも聞く!! 好き嫌いも言わない!!
だから……だから!!
ゆまを一人にしないで……」
「……バカだなぁ」
「……ぐずっ……ひっく」
「他人の為に魔法少女になったって……何にもなりゃしないのに」
「キョーコ? 泣いてるの……?」
「バーカ……泣いてなんかないよ」
そう呟くと、ポニーテールの少女は、小さな少女を抱き寄せた。
(オリコ……。何処の誰かは知らねーけど……この落とし前は、必ず着けてやる!!)
固い決意を胸に秘めて。
209: 2013/04/26(金) 21:30:08.55 ID:8E71IuRE0
見滝原、某所。
「……第一段階は、完了ね。次は、貴女の出番よ……キリカ」
「織莉子……。君の頼みを、私が断る訳が無いさ。ちょっと、汚れる位何て、無限の中の有限に過ぎないからね……」
二人の魔法少女は、笑みを浮かべながら、紅茶に口を付けていた。
227: 2013/04/27(土) 21:05:51.83 ID:8cRyPZpH0
6.籠絡
昨日あすなろ市の魔法少女三人に、無事交渉が成立したほむら。
交渉と言える内容かは微妙だが、一応協力を仰ぐことは出来た。
今度は、風見野の魔法少女にも協力を要請すべく、街に訪れていた。
(……過去の統計上、ゲームセンターに居る確率は高いわね)
午前中から、制服姿でブラブラしているほむらは、端から見れば家出少女同然。もっとも、本人が気にする訳が無い。
(居たわ……。だけど、あの小さな子は……)
そして、ゲームセンターでダンスゲームに興じる一人の少女に声をかけた。
昨日あすなろ市の魔法少女三人に、無事交渉が成立したほむら。
交渉と言える内容かは微妙だが、一応協力を仰ぐことは出来た。
今度は、風見野の魔法少女にも協力を要請すべく、街に訪れていた。
(……過去の統計上、ゲームセンターに居る確率は高いわね)
午前中から、制服姿でブラブラしているほむらは、端から見れば家出少女同然。もっとも、本人が気にする訳が無い。
(居たわ……。だけど、あの小さな子は……)
そして、ゲームセンターでダンスゲームに興じる一人の少女に声をかけた。
228: 2013/04/27(土) 21:06:37.28 ID:8cRyPZpH0
「……貴女が、佐倉杏子ね?」
「あんた……ちょっと……待ってろ。すぐに……終わるから」
ほむらに声をかけられが、その少女はダンスゲームを止める気配が無い。
「……そう。
良い話が有るんだけど、乗らない? もちろん、魔法少女に絡む事でね。
折角だから、そこのハンバーガーでも奢るわよ?」
その一言で、少女はピタリと動きを止めた。
「へぇ……。見ず知らずの人間に奢るとは、気前が良いな。新手のナンパか? ドッキリか?」
振り返りながら、佐倉杏子はニヤリと笑みを見せていた。
「違うわ、取引よ。
それに、そこの子も連れなんでしょ? 一緒に食べない?」
「ゆまも良いの?」
ほむらの言葉に、ゆまと名乗った少女は、目をパチパチとさせる。
「ええ。勿論いいわよ」
ほむらは、ゆまに向けて微笑んだ。
229: 2013/04/27(土) 21:07:31.25 ID:8cRyPZpH0
窓際に席を取っているほむら。杏子とゆまは、反対側の座席に座った。
ほむらのトレーはコーヒー一杯だけだが、杏子のトレーにはビッグサイズのハンバーガーが、五つも鎮座している。なお、ゆまはお子様向けのおもちゃ付きセットである。
「さて。改めて、自己紹介するわ。
私の名前は、暁美ほむら。見滝原の魔法少女よ」
「へぇ……アタシは、佐倉杏子。まぁ、さっき名指しされたけど、一応な。んで、コイツが……」
「千歳ゆまだよ」
「そう。
じゃあ、本題に入るわね。ワルプルギスの夜……聞いた事有るわよね?」
ほむらの言葉で、杏子の顔が一気に強張った。
「わるぷるぎす……?」
ゆまは、首を傾げたままほむらを見ているが、構わず口を動かす。
230: 2013/04/27(土) 21:08:34.88 ID:8cRyPZpH0
「今から二週間後に、見滝原にそいつが現れるわ。ワルプルギスの夜を討伐する為に、協力してほしいのよ」
「ちょっと待て……。色々聞きたい事が山ほど出来たぞ」
杏子は、鋭い目付きでほむらを見ている。
「何かしら?」
「まず、その情報を何処で手に入れた?
それに、見滝原には巴マミが居るだろうに、何でわざわざアタシの所にまで話を持ってきた?」
「情報源は秘密よ。先に手の内を見せる程、馬鹿じゃないわ。
それに、巴マミの強さは確かだけど……それでワルプルギスに勝てると思う? 伝説にまで名を残す魔女に、たかが一介の魔法少女で勝てる保証は無いでしょう。
一応、彼女の協力も得ているわ。だけど、私は貴女に仲間加わって欲しいと言う気は、全く無いの。ワルプルギスを討伐する為の、戦力が必要なのよ」
「……つまり、その時だけのチームを組むって事か」
231: 2013/04/27(土) 21:09:18.01 ID:8cRyPZpH0
「そうよ。勿論、ただとは言わないわ……」
そう言い放ち、ほむらはカバンの中から、分厚くなった封筒を杏子に差し出した。
「……何だこれ?」
「現金で百万円入ってるわ。伝説の魔女を相手にするのなら、これ位の報酬は必要でしょ」
杏子は、目を白黒させていた。
「お前……こんな大金、どうやって手に入れた?」
「どこかの資産家の家から、拝借してきたわ。
警察の事なら大丈夫よ。これは、脱税して手に入れたお金みたいだから、盗んだ所で警察に届けられる訳がないの」
得意げに言い張ったほむらを見て、杏子は呆然としていた。ゆまは、何が何だかわからず、キョトンとしたままだ。
232: 2013/04/27(土) 21:10:05.83 ID:8cRyPZpH0
「お前……滅茶苦茶だな」
「別に、何と言われても構わないわ。どうせ組むのなら、ドライな関係の方が揉めなくて済みそうでしょ。
私は正義の味方でも聖者でも無いわ。自分の目的の為に行動を取る、魔法少女よ」
ほむらの言葉を聞き、杏子はニヤリと笑みを見せた。
「アンタさ……この金だけ持って、アタシ達が直前になって逃げるとか考えてないのか?」
「勿論、考えてるわ。だけど、私の方の実害はゼロよ」
「……おもしれー奴だな。巴マミと正反対じゃねーか」
そう言うと、杏子はハンバーガーを一口かじった。
233: 2013/04/27(土) 21:11:14.88 ID:8cRyPZpH0
「口先の言葉よりも、利益が有る方が当然良いでしょ。
ハイリスクを伴う事には、ハイリターンじゃ無ければ、誰もやりはしない。そうでしょ?」
バーガーをゴクンと飲み込んでから、杏子はケチャップの付いた口元を、ニヤッと笑わせた。
「……その通りだ。アンタの事、気に入ったよ」
「交渉は成立ね」
「ああ。アタシも、その話乗らせて貰うよ。だが……コイツは受け取れねぇわ」
杏子は、封筒をほむらに返した。
「あら? 必要ないのかしら?」
「いや……全てが終わった時に、改めて貰う。
それに、グリーフシードも、何個か追加してくれ。それだったら、アタシはアンタの手でも足にでもなってやらぁ。
安心しろ。そう簡単に逃げ出す様な、ヘタレじゃねーよ」
自信を漲らせて、杏子は不敵に微笑した。
234: 2013/04/27(土) 21:11:55.40 ID:8cRyPZpH0
「フフ……。ここで、報酬をつり上げるつもりね。
良いわよ……条件に見合うだけの報酬は用意するわ」
ほむらも、杏子に同調する様に、口元をニヤリとさせた。
「お近づきの記だ……食うかい?」
そう言って、杏子はハンバーガーを一つ差し出した。
「……今は食欲が無いわ。第一、それは元々私が奢った物よ。その変わりに、今度何か奢ってもらうわ」
ほむらはそう言って、やんわりと断った。
「……善処する。
それとよ。協力する変わりに、情報が欲しい」
杏子の表情が、不意に険しい物に変わった。
235: 2013/04/27(土) 21:12:45.15 ID:8cRyPZpH0
「何かしら?」
「白い魔法少女の、オリコって奴の事を探してる。何か知ってるか?」
「…………知らないわ」
ほむらは、険しい表情でそう言った。
「そうか。もし、そいつの事で、何か情報があったら教えて欲しいんだ」
「解ったわ」
ほむらは、そう言って席を立った。
「もう行くのか?」
杏子に言われて、ほむらは縦方向に頷く。
「ええ。まだ、やる事は有るのよ」
「おねーちゃん、ハンバーガーありがとーね」
ゆまは、笑顔で手を振った。
「ええ。ごきげんよう」
そして、ほむらはバーガーショップを後にした。
236: 2013/04/27(土) 21:13:13.37 ID:8cRyPZpH0
「……ワルプルギス、か」
杏子は、少し憂鬱な面持ちになっていた。
「キョーコ? 食べないの?」
「いや。すぐに食べるさ……」
そう答えて、杏子は二つ目のハンバーガーに手を付けた。
237: 2013/04/27(土) 21:14:04.35 ID:8cRyPZpH0
その日の夕方。
ほむらとキュウべえは、電波塔の上から街を見下ろしている。
「ねぇ、キュウべえ。美国織莉子と呉キリカと言う少女と契約したの?」
「ああ。美国織莉子は先日。呉キリカも、二週間前程にね」
「そう……。もし、今から私が行動を起こさなければ、貴女は後悔したかも知れないわね」
ほむらの言葉を聞に、キュウべえは疑問を抱く。
238: 2013/04/27(土) 21:14:38.72 ID:8cRyPZpH0
「どういう事かな? 過去の時間軸で、出会った事が有るのかい?」
「そうよ。
恐らく彼女達は、鹿目まどかを殺そうとしてるわ。しかも、他の魔法少女も含めてね」
「それは、実に都合が悪いね。魔法少女が魔女になる前に殺されるのは、僕には不利益だよ」
「……だから、今から彼女達をこっちに引き込むわ」
「そんな事、出来るのかい?」
「まぁ、見てなさい。殺せばゼロだけど、生きてれば駒にはなる。
要するに、こっちに刃向わない様にすれば良いのよ……」
ほむらは、不気味な微笑みを見せていた。
239: 2013/04/27(土) 21:15:07.23 ID:8cRyPZpH0
廃墟の様に、荒れた豪邸。
幽霊でも出てきそうな雰囲気だが、そんな者は居ない。ただ、変わりに魔法少女が住居している。
「ドロレス……ストロベリーカップ……銀世界……プリンセスダイアナ……えーっと。あれは何だっけかな?」
庭に植えられた薔薇を眺める、黒髪の魔法少女。呉キリカ。
「薔薇が好きなのね。もっと、庭に植えましょうか? キリカ」
紅茶を淹れながら、キリカを見ながら、微笑む魔法少女。美国織莉子。
「……あれ? 織莉子は、薔薇が好きなんじゃないの?」
「お父様が好きだったのよ」
織莉子が答えると、キリカは落胆した様に溜息を吐き出した。
240: 2013/04/27(土) 21:15:37.87 ID:8cRyPZpH0
「じゃあ、この情報は記憶から消しておくよ」
「折角覚えたのに? 勿体ないわね……」
「イヤイヤ……勿体ないのは、私の頭の容量だよ。私には君以外の情報は必要ないのさ」
織莉子は、ふぅと息を吐き出した。
「キリカ……それでは貴女は無知な子供になってしまうわよ?」
そう言われ、キリカはピクリと反応を見せた。
「君は何時も私を子ども扱いするんだ。
たった121日と三時間年上だけでさ。だったら“君のお父様の好きな物が知りたいと”私は答えるべきだったの?」
「それは困るわ。
私はお父様を尊敬しているのに、貴女がお父様に興味を持ったら……お父様に嫉妬してしまうかもしれないわ」
「なんだい、矛盾してるなぁ。織莉子もワガママな子供なんじゃない?」
口を尖らせながらキリカが言うと、織莉子の眼つきは鋭くなっていた。
241: 2013/04/27(土) 21:16:25.26 ID:8cRyPZpH0
「えぇ~……やだやだ。怒らないでよ!!
君に嫌われてしまったら、私は腐って果てるよ!!」
困惑しながら弁明するキリカだが、織莉子が睨んでいたのはキリカでは無い。
「……キリカ。そのまま動かないで」
織莉子は静かにそう告げた。
その瞬間、ズドンと剣が地面に突き立っていた。
そして、中庭を侵食していく異空間。織莉子が睨んでいたのは、それだった。
「ああ、前から思っていたんだよね。この家に有ると良いなって」
能天気に笑いながら、鎧を模した魔女を見つめるキリカ。
「ブルジョワは、鎧を置くのがしきたりなんでしょ?」
「それは初耳だわ……」
キリカの質問に、織莉子は苦笑いを見せる。
242: 2013/04/27(土) 21:17:44.32 ID:8cRyPZpH0
魔女を目の当たりにしても、二人の魔法少女に動揺は無い。
「キリカ。紅茶に砂糖は何個入れる?」
それどころか、織莉子は変身もしないで、紅茶を淹れ始める。
「三個!! あと、ジャムも三つ!!」
キリカは、変身を完了させながらそう答える。そして、地面から高く飛び立って、魔女に斬りにかかる。
「丸でシロップを飲んでいるみたいね」
と皮肉を言いながらも、カップに注いだ紅茶には、言われた通りの数の砂糖とジャムが入れられる。
「またそうやって君は私を子ども扱いするんだ!!」
怒ってるのか不満なのか。叫びながら、キリカは魔女の体を斬り付けまくる。
「織莉子なんか……織莉子なんか……」
「嫌い?」
「……だいっ好き!!」
そう宣言し、キリカの爪は、魔女を一刀両断した。
止めの一撃で、魔女の息の根は止まっていた。コ口リと、中庭にグリーフシードが転がり落ちる。
243: 2013/04/27(土) 21:18:26.12 ID:8cRyPZpH0
地面に無事に着地すると、キリカと織莉子はティータイムの続きを楽しむつもりだった。
「そこの魔法少女!!」
今度の襲撃は、魔女では無い。しっかりと、声を張り上げていた。
「……!?」
「何だ!?」
織莉子とキリカは、声の方向に体を向けたが、そこには誰も居ない。
「……嘘!?」
「何がどうなって!?」
拳銃が、二人の頭に突きつけられていた。火薬の匂いが、鼻の奥を刺激する。
244: 2013/04/27(土) 21:20:17.02 ID:8cRyPZpH0
「本来なら、二人ともこれでくたばってた訳だけど……。
魔法少女を狩ろうとしている魔法少女が、他の魔法少女に狩られてたら、世話が無いわよね?」
拳銃を構えた魔法少女は、冷たい声でそう告げた。
「……貴女、何故それを!?」
織莉子は動揺を隠せない。
「……お前、何のつもりだ!!」
キリカは鼻息を荒くして、捲し立てた。
「私の名前は、暁美ほむら。貴女達の同業者よ。それと、さっきのグリーフシードは貴女達に上げるわ」
「……随分と物騒なプレゼントですね。魔法少女ともあろう人が、魔女を使って襲撃するなんて……」
織莉子は皮肉を込めてそう答える。
「それは当然よ。
鹿目まどかの命を狙ってる以上、容赦しないわ!!」
245: 2013/04/27(土) 21:21:07.64 ID:8cRyPZpH0
「……!?
私とキリカ以外に、知っている人は居ないのに!?」
織莉子の顔から、血の気が引いていく。
「何処で聞いていたんだ!! 私と織莉子しか、知らない筈なのに……。そもそも、私達をどうするつもりだ!!」
キリカは顔を真っ赤にしながら、言葉を荒げていた。
「どうするって言われてもね……。
もし、鹿目まどかを頃す事を諦めないのなら、この場で氏体にして魔女の餌にでもなってもらうわ。
鹿目まどかの事を諦めるのなら、貴女達の命の無事は保障する」
ほむらは、淡々と言った。
246: 2013/04/27(土) 21:22:21.08 ID:8cRyPZpH0
「ふざけるな!! あの娘を契約させたら、この世界は破滅してしまうのよ!!
そうなってしまう前にあの娘を頃すしか、世界を救う事は出来ないのよ!!」
キツイ言葉を吐き出して、織莉子は激昂していく。
「だったら、契約させなければ良い話よ。キュウべえと話は付けているのよ。
少なくとも、ワルプルギスの夜が襲撃する日までは、契約を迫らない様に交渉は成立しているわ……」
「……それじゃ、何の意味も無いわ!! 貴女は、鹿目まどかを護ろうとしている!!
それが、どれ程愚かな事か理解しているの!?」
「十分に理解しているわ。
だけどね、世界の人口全ての命と、鹿目まどか一人の命を天秤にかけるなら……私はまどかの命を取るわ!!」
ほむらは、大胆不敵な啖呵を切った。
247: 2013/04/27(土) 21:23:23.39 ID:8cRyPZpH0
「狂ってるわ……」
織莉子さえもたじろいでしまう。
「話にならないね。君は……織莉子の敵かい?」
キリカは静かに呟く。
「どうかしら? 交渉次第ね。そもそも、頭に銃を突き付けているのに、そんなに強気で大丈夫?」
ほむらの挑発めいた発言に、キリカの怒りは沸点を超えていく。
「関係無い!! 織莉子の敵は私の敵だ!!
君を頃す事は、無限の中の有限の過ぎない!! 今すぐ氏んで償え!!」
ブチ切れたキリカは、思いっきり爪を振り回す。
(……さてと)
ほむらの頭の中は、意外と冷静だった。むしろ、この展開は予想通りだったのだろう。
248: 2013/04/27(土) 21:23:59.53 ID:8cRyPZpH0
振り回した爪は、ブン、と空を切り裂いたに過ぎなかった。
「あらら……随分と短気ね」
ニヤニヤと余裕を見せるほむらは、一瞬で十メートルほど後ろに下がっていた。
(……一瞬であそこまで後ろに!? この女……相当な実力の様ね!!)
織莉子も変身を完了させた。内心では、相当に警戒している様で、ほむらから目を離そうとしない。
「うるさい!! 氏ね!!」
キリカは鉤爪を振り上げて、ほむらに向かい一直線に突っ込んで行く。
「キリカ!! 援護するわ!!」
そして、織莉子も浮遊する水晶玉を召喚し、ほむらに狙いを定めた。
249: 2013/04/27(土) 21:24:40.47 ID:8cRyPZpH0
――シュン。
またしても、ほむらの姿は消えていた。
「……プレゼント・フォー・ユー」
織莉子の後ろに現れた、ほむらはそう呟いた。
その瞬間、キリカと織莉子は口の中に、何かが入っている事に気が付いた。
「……!?」
一瞬にして、二人の顔は真っ赤に染まり、額からは脂汗がにじみ出ていた。
「あ……あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「か……辛ぁぁぃ!!」
二人して、口を押えてもがき苦しむ。
250: 2013/04/27(土) 21:25:21.31 ID:8cRyPZpH0
「今、貴女達の口の中には、ハバネロを五個づつ突っ込んであるわ。思いっきり味わって頂戴」
ほむらは、ニヤニヤしながら解説した。
非常にふざけた攻撃なのだが、甘党の二人に取っては地獄の苦しみに近いものだ。
「ふ……ふ……ふじゃけりゅな!!」
捲し立てるキリカだが、舌が回らず目からは涙が零れている。
「こ……これが貴女の戦い方と言うのですか!?」
織莉子も、涙目で抗議する。更に水晶玉を撃ち出すが、集中力が出ないので、狙いが定まらない。
「そうよ。意外と効果あるみたいね」
易々と避けながら、ほむらは得意気に言い張った。
「くそぅ!!」
キリカは再び爪で斬りかかる。
251: 2013/04/27(土) 21:26:41.14 ID:8cRyPZpH0
――シュン。
しかし、瞬時にほむらは背後に回り込む。
「貴女達に勝ち目は無いわ。大人しく降参して、私の下に付きなさい」
その言葉は、打って変った様に冷たい声だった。殺気にも似た空気が、ほむらの周囲から放たれていた。
「……何が目的なのですか!? 鹿目まどかを守る事なの!?」
織莉子の口調は、明らかに焦っている。
「そうよ。鹿目まどかを契約させない事と、ワルプルギスの夜を仕留める事。
その為にも、貴女達の力が必要なの。勿論、拒否権は与えないわ。従えないのなら、ここで頃す……。
ちょっと、予知してみなさいよ。多分、自分達の氏体の姿が見えるでしょうけどね!!」
ほむらは、織莉子の固有魔法まで言い当てて見せた。
252: 2013/04/27(土) 21:27:59.15 ID:8cRyPZpH0
「……」
織莉子もキリカも、何も言えないで黙ってしまった。
(……この女、本気ね)
背筋に冷たい空気を、織莉子は感じてしまう。
何よりも、僅かな時間の間に見た未来には、頭の吹き飛んだキリカと、体中に銃弾を受けた自分の姿が写っていた。
(こうなったら……)
織莉子の目付きは、鋭く尖った。
(こいつは……危険すぎる!!)
キリカはほむらの持つ空気に、完全に呑まれていた。
しかし、織莉子の冷静な態度を横目で見て、あえて口は開かない。
253: 2013/04/27(土) 21:28:37.99 ID:8cRyPZpH0
「さぁ……どっち?
ここで氏ぬか、私に従うか……選びなさい!!」
ほむらは、二丁の拳銃の照準を、織莉子とキリカに併せていた。
「……解ったわ。貴女の言う事に、協力しましょう」
織莉子は即座にそう言った。
「織莉子……」
キリカは、不安げな様子で織莉子を見つめる。
「……解れば、それで良いのよ。頼りにしてるわ……お二人さん」
ほむらは、構えていた銃をポケットに仕舞う。
「それと……。
風見野町の佐倉杏子って魔法少女が、貴女達と会いたがってるわ。一度会ってみたらどうかしらね」
そこまで告げると、ほむらは再び姿を消してしまう。
254: 2013/04/27(土) 21:29:35.19 ID:8cRyPZpH0
「……また消えたわね。奇妙なお人ですこと」
織莉子は脱力した様にうなだれた。
「でもさ、織莉子。あんな奴の言う事に、本当に従うつもりなのかい?」
少し不満そうに、キリカは問う。
「表向きは、そうね。
恐らく、暁美ほむらと正面からぶつかれば、私達の方が遥かに分が悪いでしょう。
さっきも、その気なら殺せると言うのに、わざわざ唐辛子を使う必要が有るとは思えないわ」
「……つまり、仲間になった振りをしといて、後で仕留める訳だね」
「その通りよ。加えて、暁美ほむらに近づければ、必然と鹿目まどかにも近づける事になるわ……。
逆にこれは、世界を救うチャンスなのよ」
「やはり、織莉子は天才だね。あの短時間で、そんな機転を利かせるなんて、私には出来ないよ」
感心しきりのキリカは、表情を明るく変えていた。
「フフ……ありがとう。
クーデターを起こすなら、突然火を点けてはいけないの。じっくりと、ガスを溜めこんでから、爆発させる……。
これからが、ガスの元栓を緩めるその時よ……」
織莉子は、冷たい目付きのまま、口元をニヤッとさせた。
255: 2013/04/27(土) 21:30:38.87 ID:8cRyPZpH0
自宅に帰ったほむらを出迎えたのは、キュウべえだった。
「案外早かったね。その様子だと、上手く行ったのかい?」
キュウべえの問いかけに対し、ほむらの首は横に動いた。
「そういう訳でも無いわね。
彼女達は、確かに仲間になると言ったけれど……後で裏切る可能性は十分に有るわ」
「……そこまで解ってて、あえて見逃すのかい?」
「さっきも言ったでしょう。生きているなら、駒にはなる。
ただ頃すだけなら、猿でも出来るわ。こっちに刃向わない様にするなら、じっくりと手籠めにする必要が有るのよ」
「その様子なら、既に次の一手は考えている様だね」
「ええ。佐倉杏子と接触させる様に仕向けたわ」
「……彼女は、利己的な好戦主義。あまり、説得に向いた人物とは思えないけれど?」
「見ていれば解るわ。彼女の本質は、もっと別の物になるのよ」
ほむらは、無表情で告げるのだった。
256: 2013/04/27(土) 21:32:46.29 ID:8cRyPZpH0
本日はここまで。
良いお知らせと悪いお知らせを一つづつ。
現在の書き溜め進行状況は9割5分。完結は出来ます。
悪いお知らせ。ここで、まだ半分。
良いお知らせと悪いお知らせを一つづつ。
現在の書き溜め進行状況は9割5分。完結は出来ます。
悪いお知らせ。ここで、まだ半分。
258: 2013/04/27(土) 21:37:24.55 ID:JsjqIz71o
乙
引用: ほむら「手段は択ばないわ」
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