1: 2013/04/21(日) 12:34:30.25 ID:mQAtD2s70

諸注意

このSSは、まどかマギカ本編の11話からの分岐になります。
ワルプルギスの夜に追い詰められたほむらが、もう一度時間遡行をしていたら?というIFストーリーです。

では、お楽しみください。



2: 2013/04/21(日) 12:35:32.80 ID:mQAtD2s70
プロローグ

 立ちはだかる、舞台装置の魔女。通称、ワルプルギスの夜。
 ほむらは幾度と無く挑み、その度に叩きのめされ、逃げる様に時間を遡り続けた。

――君のおかげで、最強の魔女が出来上がったんだ。

 その結果は、親友を苦しめる最悪の状況を作り出してしまっていた。

 何度も見てきた、退院日の病院の天井。
(また、ダメだった……。それどころか、私の願いがまどかを苦しめていたなんて……)
 ほむらの頬に、一滴の雫が流れ落ちた。
(……ダメだ!! これ以上弱気になったら、無駄な魔女が増えてしまう!!)
 手の甲で拭い、奮い立たせるように自分に言い聞かせる。
(これ以上時間を繰り返せば、まどかの因果が増える一方……。もう時間を戻す訳には行かないのに……どうすれば良いの?)
 自問自答しても、活路は見えてこない。大きく溜息を吐き出し、自分のソウルジェムに目を向ける。紫の宝石は、かすかに濁りを溜めていた。
(……私の願いが原因。……私の願い?)
 そのキーワードが、頭の片隅に引っ掛かった。

3: 2013/04/21(日) 12:36:21.92 ID:mQAtD2s70

――鹿目さんを守れる自分になりたい!!

 契約の願いを思い出す。

 何度も繰り返した時間の中で、幾つ物真実を目に焼き付けてきた。
(もし、この理屈だとすれば……)
 希望の光、道標の先が見えた気がした。
(可能性は低いけど……賭けるしかない!! もう、これ以上は繰り返せないから……)
 ほむらの眼つきは鋭く研ぎ澄まされ、表情は凛と張りつめた。

 暁美ほむらは知りたい。あの戦いの結末を……。


4: 2013/04/21(日) 12:37:07.32 ID:mQAtD2s70
1.接触

 退院したその日。新たな住居に身を移したほむらは、荷物を解くよりも先に起こした行動。
≪……キュウべえ。聞こえるかしら?≫
 それは、頃し足りない位に憎らしい、契約請負人にコンタクトを取る事だった。
≪君は魔法少女の様だけど……僕と契約した記録は残っていないよ?≫
 感度は良好。返信はすぐにキャッチ出来た。
≪それを今から説明するわ。すぐに来てもらえるかしら?≫
≪……解った。今から向かうよ≫

5: 2013/04/21(日) 12:37:42.05 ID:mQAtD2s70
 一分と経たない内に現れた契約請負人、インキュベーター。
 ほむらは、鋭い目付きでキュウべえを見下ろす。
「ここでは初めまして、ね。キュウべえ。私の名前は、暁美ほむらよ」
「……暁美ほむら。その名前の少女と契約した記憶は無いね。しかし、君はソウルジェムを持っている……。君は何者なんだい?」
 キュウべえは、少し首を傾けてほむらをジッと見つめる。
「私は、時間遡行者よ。違う時間軸のインキュベーターと契約したから、この時間軸の貴方が知らないのも無理はないわ」
「……そういう理屈なら、合点は行くね。しかし、君の様子を見ていると、時間遡行をしたのは一度や二度じゃ無い様だね」
「そうよ。今から一か月後に現れる、ワルプルギスの夜を倒す為に、この一か月を繰り返しているわ」
 ほむらの口調は、淡々としていた。

6: 2013/04/21(日) 12:38:17.62 ID:mQAtD2s70
「……ワルプルギスの夜。歴史に名を残す最悪の魔女だね。確かに、並の魔法少女が集まった位では、あの魔女を倒す事は不可能さ。
 でも、この街には、巴マミと言うベテランの魔法少女も居る。何よりも、途轍もない才能を持った、魔法少女の候補も発見したんだ」
「鹿目まどか……でしょ?」
 キュウべえよりも先に、ほむらはその名前を口に出した。キュウべえは、思わず言葉を止めてしまった。
「……知っていたのかい?」
「ええ。彼女の才能は、確かにずば抜けているわ。彼女が魔法少女になれば、ワルプルギスの夜を倒す事は造作も無いでしょうね……。
 ただ、その後には、それ以上に最悪の魔女が生まれてしまう……」
「……全てお見通しって事か」
「私はソウルジェムの全貌も、貴方達の目的も知っているわ。
 私の目的は、鹿目まどかを契約させないで、ワルプルギスの夜を倒す。その為に、この一か月を何度もやり直しているのよ……契約してからずっとね。
 しかも、それが原因で、鹿目まどかに莫大な因果が集中してしまった……。彼女の素質が破格なのは、私が原因だったのよ」

8: 2013/04/21(日) 12:39:13.85 ID:mQAtD2s70
 キュウべえは、ほむらをマジマジと見つめる。
「なるほどね。彼女の因果は、理論上ありえない数値を出しているの。しかし、君の能力が原因だとすれば、全て説明が付くよ」
「……お蔭様で、貴方を頃しても、足りない位憎んでいるわ」
 ほむらは、溜息交じりにそう告げた。
「……妙な事を言うね。
 だったら、何故僕をこの場に呼び出したんだい? それに、わざわざ君の知っている情報まで提供してくれる。
 ありがたい話だけど、どう考えても企んでいるとしか思えないよ」
「交換条件よ。少なくとも、貴方に有益な情報を与えたんだから、私に協力してくれても良いんじゃないかしら?」
「仮に、鹿目まどかと契約するなと言う条件は受け付けないよ。僕達も、宇宙の寿命がかかってるんだ」
「そこまで、高望みはしないわ。
 要望は二つよ。一つは、ワルプルギスの弱点を教える。もう一つは、ワルプルギスの夜が過ぎるまでは、彼女と契約しない」
「……厳しい要求だね」
「そうかしら? ワルプルギスの夜までの限定なら、決して悪い条件ではない筈よ。
 それに……ワルプルギスには、私一人で挑むわ」

9: 2013/04/21(日) 12:39:59.37 ID:mQAtD2s70
 ほむらの一言に、キュウべえは反応を見せた。
「……正気かい?」
「当然よ。私一人で戦うなら、貴方も教える事位してくれるでしょ?」
 ほむらの口元は、小さな笑みを作っていた。
「はっきり言って、まともじゃ無いよ。君はワルプルギスの夜と、何度も戦ってきたんだろう? だったら、それがどれ程無謀な事か理解出来ている筈だ……」
「そんな事は解っているわ。
 でも、後戻りが出来ない以上、ここで刺し違えてもあの魔女を倒すしか道は無いのよ」
「……末恐ろしいね。
 君の様な魔法少女は、敵に回すと非常に恐ろしいタイプだよ……」
「どういう意味かしら?」
「目的達成の為なら、どんな手段も択ばないという事さ」
「ええ。その通りよ」

10: 2013/04/21(日) 12:40:27.70 ID:mQAtD2s70
 キュウべえは意を決した様に呟いた。無表情だという事に変わり無いのだが、ほむらは確かにそう感じた。
「君には、興味が沸いたよ。協力とは言わないけれど、手は組ませてもらうよ」
「……ふふ。頼りにしているわ……インキュベーター」
 ほむらは含み笑いを見せた。もっとも、その視線は、冷たいままなのだが。
「僕は、ここで消えさせて貰うよ。ワルプルギスの事はまた後日に話す事にするよ」
 そう言うと、キュウべえはほむらの前から消えていった。
(……まず第一段階ね)
 ほむらは、ホッと胸を撫で下ろした。


11: 2013/04/21(日) 12:41:16.21 ID:mQAtD2s70
 転校日。
「暁美ほむらです。よろしくお願いします」
 何時ものループと変わらない、淡々とした挨拶。しかし、クールビューティーな容姿が手伝って、クラス中の話題はほむらで持ちきりとなる。
 休み時間になると、ほむらの周囲はクラスメイトでごった返すのだった。
「ねーねー。暁美さんって、東京から来たんでしょ? どんな学校だったの?」
「ミッション系の学校だったわ。病気で余り、通学してなかったけれど……」
「髪の毛綺麗だよねー。シャンプー何使ってるの?」
「そんな良い物は使って無いわ。ホームセンターで売ってる物よ」
 多数の質問に、淡々と答える。
 ただ、今までのループとは大きく違う点がある。それは、鹿目まどかに対し自分から接触する必要が無いのである。


12: 2013/04/21(日) 12:41:46.85 ID:mQAtD2s70
 と言っても、ここで言葉を交わす事は、もはや運命なのかもしれない。
「あの、暁美さん?」
「……?」
 ほむらに声をかけてきたのは、鹿目まどか。幾つ物ループで、守ろうとしてきた、大切な親友。しかし、まどかにその事実を知る由は、まだ無いのだが。
「私、鹿目まどかって言います。保健委員やってて、早乙女先生から保健室を案内してあげてって言われてて」
 まどかは、屈託のない笑みを見せて、ほむらにそう言った。
「……そうだったわね。案内をお願いしたいわ。皆ごめんなさいね」
 ほむらはそう断りを入れて、席を立った。
(好都合ね……)
 内心では、ほくそ笑んでいたに違いない。


13: 2013/04/21(日) 12:42:14.57 ID:mQAtD2s70
 先導するまどかの背中を見ていると、ほむらの自然と険しくなってしまう。
(今回で確実に終わらせなければ……。貴女を呪縛から解かなきゃいけない……)
 そう思い込んでいると、不意にまどかの方から言葉がかかってきた。
「……暁美さん。やっぱり、気分が悪いの?」
 まどかは、余りにも険しい表情を見かねて、ほむらを体調を心配していた。
「大丈夫よ。それと……私の事はほむらで良いわ」
「……そっか。じゃ、私の事はまどかで良いよ」
 まどかは、そう言いながらニコッと笑みを見せた。
「ええ。よろしくね、まどか」
 ほむらも、笑みを見せてそう返答した。
「でもさ、ほむらってカッコイイ名前だよね」
「そうかしら? ちょっと変な名前だから、あんまり気に入って無いわ」
「私は、カッコイイと思うよ。燃え上がれーって感じでさ」
 言葉を幾つか交しながら歩いていると、保健室は目前だった。
「ここが保健室だよ」
「ありがとう。助かったわ」
 ほむらに言われると、まどかは照れた仕草を見せる。

14: 2013/04/21(日) 12:42:41.49 ID:mQAtD2s70
「ねえ、まどか。一つだけ聞いても良いかしら?」
「どうしたの?」
 ほむらが少し間を置くと、まどかは周囲の空気が張りつめた事を感じた。
「……貴女は、家族や友達の事。大切だと思ってる?」
「……えっ?」
「どうなの?」
 一呼吸して、まどかは凛とした顔付きで答えた。
「勿論、大切だと思ってるよ。家族も、友達も、皆大好きな人達だから」
「……そう。ならば、一つだけ忠告させて。
 もしこの先、何が起ころうとも“自分を変えよう”だなんて、決して思ってはいけないわ。そうで無ければ……貴女の大切な物を、全て失う事になるわ」
「ほむら……ちゃん……?」
「変な事を言って、混乱させてしまったかしら? でも……私の忠告を忘れないで」
 そう伝えて、ほむらは保健室の扉を潜って行った。
(……何の話なんだろう)
 取り残されたまどかは、呆然と立ち尽くすしか無かった。


15: 2013/04/21(日) 12:43:21.36 ID:mQAtD2s70
 その日の放課後。
 ショッピングモールのファストフード店で、談笑するまどかとさやか、そして仁美。内容が、転校生の事に偏るのは、致し方なしと言えよう。
「あっはっはっは……。ちょっと、それってマジなの!?」
 大爆笑で、目に涙を浮かべながらさやかはそう言った。
「さやかさん……笑いすぎですわ」
 呆れながら、仁美はそう呟いた。
「うぅ~……言うんじゃ無かった」
 まどかは、顔を赤くしながらポツリと言った。
「いやー悪い悪い。
 でもさ、才色兼備でミステリアスな転校生。だけど、実はサイコな電波さん。もしくは重度の厨二病……そりゃ笑っちゃうよ」
 さやかに反省の色は無かった。
「所でまどかさんは、あの暁美さんとはお知り合いなのですか?」
 仁美はさやかを一旦置いて、まどかに話題を振った。
「ううん。今日、保健室を案内しただけだよ。あ……でも」
「……でも?」
 まどかの思い出した様な一言に、さやかと仁美は注目した。
「夢の中で会ったような……」
 その言葉を聞いて、さやかと仁美は盛大に噴き出してしまうのだった。


16: 2013/04/21(日) 12:43:59.01 ID:mQAtD2s70
 同時刻。同じショッピングモール内の改装中エリアにほむらはキュウべえと居た。
「……確かに、魔女の反応が有るね。君が過去をやり直しているのは、本当なんだね」
 キュウべえは、感心しきりだった。
「……信じていなかったのね」
 ほむらの返答は淡白な物だった。
「正直、半信半疑だったよ。だけど、確信できた。
 実際、予知能力の魔法を使う魔法少女でも、魔女の現れる場所や日付まで正確に当てる事は不可能だ。過去を見てきたからこそ、出来る芸当だね」
「そんな事はどうでも良い事よ……」
 溜息を吐き出しながら、ほむらはそっぽを向く。丸で、魔女と戦う意志が見られない。
「……魔女を倒さないのかい?」
「今倒す必要は無いわ。むしろ、この魔女を倒しに来る魔法少女に用が有るのよ」
「巴マミの事だね」
 キュウべえの言葉に、ほむらの首は縦に動く。

17: 2013/04/21(日) 12:44:37.38 ID:mQAtD2s70
 お互いが無言のまま、数分経過。キュウべえはピクリと反応を見せた。
「その当ては外れた様だよ。あの魔女の結界に、鹿目まどかと美樹さやかが捕えられたみたいだ……」
「……何ですって?」
 ほむらは目を見開く。
「……魔女に捕えられるのは、何も口づけを受けた人間だけじゃないさ。
 魔法少女の素質を持つ人間も、結界に捕えられるのさ」
 キュウべえは得意気に言う。
「そんな事、初めて聞いたわよ……」
 ほむらは、キュウべえを鋭く睨みつける。
「それは聞かれなかったからね。
 魔女は魔法少女の末路。かつての姿を重ね合わせて、取り入れようとしているんじゃないかな?」
「……ちっ。御託は良いのよ!!」
 ほむらは焦った様に駆け出し、キュウべえはポツンと取り残されていた。


18: 2013/04/21(日) 12:45:10.06 ID:mQAtD2s70
 まどかとさやかの目前に広がるのは、異空間と形容できる光景だった。
 綿毛のバケモノに取り囲まれて、動く事もままならない。
「……何よこれ」
 さやかは背筋から、冷たい汗が流れている。
「解んないよ……こんなの夢だよね!?」
 まどかは、体の芯から震えている事を感じていた。
 このままここに居れば、間違いなく氏ぬ。本能が、そう察知していた。本物の恐怖に理性を支配され、叫び声さえ出せなかった。
(……誰か……助けて!!)
 声にならない叫びを、まどかは叫んだ。


19: 2013/04/21(日) 12:46:13.01 ID:mQAtD2s70
 カツン、と床を踏みつける音が、耳に飛び込む。
「危ない所だったわね……」
 そう聞こえた時、黄色いリボンが二人の周囲を包み込んだ。思わず辺りをキョロキョロと見渡すと、見滝原中学の制服を着た女性が、すぐ近くに立っていた。
「……ど、どちらさまでしょうか?」
「貴女達、見滝原中学の生徒ね」
 女性は、二人に向けてにっこりとほほ笑みを見せた。
「でも、その前に……ちょっと一仕事片付けてもいいかしら!!」
 力強く、それでいて優しい声だった。女性が可憐なポージングを決めると共に、きらびやかな光を放つ。

20: 2013/04/21(日) 12:46:38.61 ID:mQAtD2s70
 その中から再び姿を現すと、制服姿から変身を遂げていた。
「使い魔共、すぐに終わらせて上げるわ!!」
 女性はスカートの中から、大量のマスケット銃を一斉に召喚。
 大きく息を吸い込んで、集中力と魔翌力を高める。
「ティロ・ボレー!!」
 打ち上げ花火の如く、マスケット銃からの一斉砲撃で、無数の使い魔を蹴散らしていく。
 派手な発砲にも関わらず、魔弾は的確に的を撃ち抜いていた。
「……逃がしたわ」
 そう呟いた少女は、顔を少し苦々しくしていた。


21: 2013/04/21(日) 12:47:25.61 ID:mQAtD2s70
 同時に、取り囲んでいた空間が、改装中の殺風景な物に戻っていた。
「……」
 まどかとさやかは、呆然と少女を眺めるしか、リアクションが取れない。
「……自己紹介が遅れたわね」
 少女は変身を解いて、元の制服姿に戻っていた。
「私の名前は、巴マミ。貴女達と同じ、見滝原中学の三年生よ」
 そう名乗った少女は、ニコッとほほ笑んだ。
「せ、先輩だったんですね。私は、二年の美樹さやかって言います」
「わ、私も二年の鹿目まどかです。助けてくれてありがとうございます」
 あたふたと自己紹介する二人を見て、マミは少しだけ吹き出してしまった。
「そんなに、畏まらなくても平気よ。二人とも、怪我は無いかしら?」
「は、はい!!」
 さやかは背筋を張りながら、大きな返事を返す。
「私も、大丈夫です……」
 ちょっと、しり込みながら、まどかも答える。
「フフ……そんなに緊張しなくても良いのよ」
 マミは温和な笑顔で、二人を見つめていた。

22: 2013/04/21(日) 12:48:38.30 ID:mQAtD2s70
 コツ、コツ、と床を鳴らす足音。三人は、思わず足音の主に目を向ける。
「見事な戦いね。流石はベテランの魔法少女、と言った所かしらね……」
 不敵な笑みを見せながら、ほむらはそう声をかけた。
「……て、転校生!?」
「ほむらちゃん……!?」
 思わず声を裏返し、まどかとさやかは驚きを隠せなかった。
「あら? 見かけない子ね……」
 マミは内心では警戒しているのか、視線は僅かに鋭くなる。
「……そうね。最近、見滝原に引っ越してきたばかりなのよ」
 その一言で、マミはより警戒を高め、再び魔法少女に変身した。
「そう。……だったら、今回の獲物は貴女に譲ってあげるわ」
 マミはそう言って、ほむらを牽制する。
「どういう意味かしらね……」
 ほむらは微笑を浮かべたままだ。
「呑み込みが悪いのね……見逃してあげるって言ってるのよ」

23: 2013/04/21(日) 12:49:23.12 ID:mQAtD2s70
 マミの言葉は、尻上がりに強い物に変わって行く。更に、左手にマスケット銃を召喚して、ほむらに銃口を向けた。
 いきなりの険悪な雰囲気に、まどかとさやかは呆然と見る事しか出来ない。
「……貴女、思ったより間抜けね」
 ニヤッとしながら、ほむらはそう言った。この一言が、マミの神経を思いっきり逆撫でした。
 一瞬の間に、右手からリボンを召喚し、ほむらに向けてリボンを投げつけた。

――シュン。

 しかし、投げつけたリボンは何も捉えておらず、絡まったまま地面にポトリと落ちていた。
「……え!?」
 マミは我が目を疑った。
「……嘘?」
「どういう事……?」
 さやかは呆気にとられるしか無く、まどかには理解出来る時間も与えられなかった。
「……どう? 驚いたかしら?」
 得意げに声をかけるほむらは、一瞬の間にマミの後ろに回り込んでおり、頭に拳銃を突きつけている。

24: 2013/04/21(日) 12:50:24.33 ID:mQAtD2s70
「……喧嘩売る時は、少しは相手を見た方が良いわよ? 相手に武器を向ける行為は、自分も殺される覚悟があるって事になるわ。脅す為に使うのは、馬鹿のやる事よ。
 私がその気なら、貴女の脳みそに鉛弾をプレゼントしてたでしょうね……」
 口元をニヤリとさせるほむらだが、その眼は全く笑っていない。
「……くっ」
 意図も容易く手玉に取られ、マミの内心は屈辱を味わされていた。
「……貴女、目的は一体何なの? 縄張りなの? それともグリーフシードなの?」
 矢次口調のマミ。明らかに焦っている様だ。
「そうね……貴女の命」
「……!?」
「なーんてね」
 そう言って、ほむらは拳銃を下ろした。
「……まどか、美樹さやか、そして巴マミ。また明日学校で会いましょう。では、ごきげんよう」

25: 2013/04/21(日) 12:50:54.12 ID:mQAtD2s70
 次の瞬間、ほむらの姿は再び消え失せた。
「な……何なんだよアイツ……」
 ほむらの行動と言動に、苛立ちを隠せないさやか。
「ほむらちゃん……?」
 不安に駆られ、表情を曇らせるまどか。
(……怯えてた。銃を突き付けられた瞬間……私は確かに怯えてた)
 マミの右手は、握り拳を作りながら、小さく震えていた。


37: 2013/04/21(日) 20:50:55.11 ID:mQAtD2s70
気が向いたので、もう一話分投下します。

38: 2013/04/21(日) 20:52:11.43 ID:mQAtD2s70
2.憂鬱

 翌日。まどかとさやかは、何時もの様に登校していた。
「凄い話だよね。何か、マミさんって、正義の味方って感じがしてカッコイイよね」
 明るく話すさやか。
「うん。でも……ほむらちゃんも魔法少女なのに……」
 まどかがそう言うと、さやかはあからさまに嫌そうな表情を見せた。
「あんな奴、私が同じ魔法少女だったら、コテンパンにしちゃうのに」
「だけど……あんな行動するなんて、何か有るんじゃないかな~って思うんだけど……」
 強気な発言をするさやかを、なだめる様にまどかはそう言った。
 昨日まどかは、さやかと共にマミから、魔法少女の事、そして魔女の事。一通り聞く事となった。その際、マミの仲介でキュウべえとも顔を合わせた。
 その為、登校中の話題は魔法少女の事ばかりだった。偶々、日直で登校時間の合わなかった仁美が居なかった事も、理由の一つだろう。

39: 2013/04/21(日) 20:52:40.29 ID:mQAtD2s70
 学校に二人が到着すると、昇降口で不審な動きをするほむらを見かけてしまった。
(……転校生? アイツ、何してるんだ?)
 さやかは、ほむらの姿を目で追った。
「さやかちゃん? どうしたの?」
「まどか……あれ見てよ」
 さやかが指差した先は、下駄箱に何かを入れるほむらの姿だった。
「……何してたんだろう? まさか、ラブレター?」
「そんな訳無いじゃん。アイツ、もしかして嫌がらせとかしてるんじゃない? ほら、性格悪そうだし……」
 こそこそと話をしていると、ほむらは下駄箱から立ち去って行った。
「まどか……後付けて見ようよ」
「でも……」
「良いから、行くよ!!」
 さやかに押し切られて、まどかに選択権は無かった。二人はほむらの後を追う事になった。

40: 2013/04/21(日) 20:53:17.03 ID:mQAtD2s70
 ほむらの向かった先は、学校の屋上だった。フェンスにもたれかかって、誰かを待っている様である。
 物陰から、ほむらの姿をうかがうさやかとまどか。
「……誰を待ってるんだろう?」
「もしかして、本当にラブレターだったとか?」
 こそこそと話していると、ほむらの元にその呼び出した人物が現れた。
「……一体、何のつもりなの?」
 呼び出された張本人、巴マミは明らかに不機嫌そうに表情を曇らせていた。
「あら? 私からのラブレターは気に入らなかったかしら?」
「そういう事を言ってるんじゃないの。貴女みたいな怪しい魔法少女に呼び出されたら、誰だって警戒するわよ」
 マミの視線は、睨む様に尖っている。

41: 2013/04/21(日) 20:54:10.44 ID:mQAtD2s70
「テレパシーの方が早いけど、キュウべえに聞きとられるのよ。それに、手紙の方が粋だと思わない?」
「ふざけないで。意味も無い用事なら、私は教室に戻るわよ」
 ほむらは、フッと息を小さく吐いた。同時に、表情もキリッと引き締まった。
「呼び出したのは、昨日の事の釈明ですよ。
 私は、別に先輩の縄張りを荒らそうとか、グリーフシードを奪おうとか。そんな事は考えてません」
「……そんな言葉、本気で信用できると思ってるの?」
「別に信用しなくても良いですよ。
 仮に私が本気で縄張りを奪うつもりなら、魔女退治で消耗しきった後に、徹底的に痛めつけて二度と刃向わない様にする。それ位の事は平気でしますよ。
 そんな人間が、わざわざ一対一の話し合いをする訳がないじゃ無いですか」
 自信満々にほむらはそう告げた。
「最低の魔法少女ね……」
 この考えには、マミはドン引きしていた。
(……最悪)
(そんなの酷過ぎるよ……)
 隠れて盗み聞いている二人も、正直引いていた。

43: 2013/04/21(日) 20:55:11.95 ID:mQAtD2s70
「話を戻します。同じ街に複数の魔法少女が居る事が、どういう事か……。先輩だって、理解出来ますよね?」
「そうね……。普通だったら、縄張り争いやグリーフシードの奪い合いになる。下手に話が拗れてしまうと、魔女退治どころか、魔法少女同士の争いに発展してしまう……」
「そういう事ですよ。
 それを未然に防ぐって意味でも、舐められない様にするしかない。その為にも、あれ位の行動を起こさなきゃ、収まりがつかないんですよ。
 この縄張りを共有させて貰う以上、最低限の礼儀と筋は通します。だから、この見滝原での活動を認めて貰いたいという訳です」
 ほむらの言葉を聞いて、マミは少し考えを素振りを見せた。
「……一つだけ聞かせて。貴女は、誰かと仲間になる気は有るの?」
「有りませんね。
 ただ、利害の一意が有れば、当然ながら協力しますよ」
「……そう」

44: 2013/04/21(日) 20:56:13.52 ID:mQAtD2s70
「解って貰えますか?
 お互いの均衡を保つ為ですよ。仲間になった振りをして、後から裏切る様な魔法少女は腐る程存在します。
 それ位だったら、最初から適度な距離感と緊張感を持っていた方が、良い方法だと思いますけれど……」
「……」
「納得いきませんか……先輩?」
「……引っ越してきて、今更活動するな何て事言えないわ」
 マミは、少し渋っていたが、結局折れてしまった。
「……感謝しますよ」
「でも、正直な事を言わせて貰うわ。私は、貴女の事が一切信用出来ない。
 もし、万が一縄張りを奪う様な素振りを見せれば……その時は一切容赦しない。それだけは肝に銘じて起きなさい」
「活動を認めて貰えれば、私はそれでいいですよ……」
 そう言って、ほむらは屋上から立ち去ろうとした。

45: 2013/04/21(日) 20:56:57.67 ID:mQAtD2s70
「……あ、そうそう。まどか。それと、美樹さやか」
(……バレてた)
 隠れているさやかとまどかは、ドキリとしてしまう。
 だが、ほむらは構う事無く言葉を続けるのだった。
「盗み聞きとは、悪趣味ね。これは、貴女達が立ち入って良い話では無いのよ?」
 ほむらの言葉が、グサッと突き刺さった。
「……アンタ何様のつもりなんだよ」
 眉間にしわを寄せながら、さやかはいきり立っていた。
「さやかちゃん……やめようよ」
「まどかは黙ってて!!」
 まどかの制止も頭に入らず、さやかはほむらに突っかかる。
「マミさんは、この街を守ろうとする立派な魔法少女じゃない!! なのに、いきなり現れたアンタみたいな魔法少女が偉そうに……」
「黙りなさい」
 さやかの言葉を遮るように、ほむらはそう言った。静かでも力強い台詞。そして、刀の如く研ぎ澄まされた視線に、さやかはたじろいでしまう。

46: 2013/04/21(日) 20:57:52.94 ID:mQAtD2s70
「一応言っておくけれど、私は巴マミの考えを否定する気は無い。ただ、私自身が賛同していないだけよ。どう言う考え方で活動するかは、人それぞれ……そうでしょ?」
「だけど……」
「けど、何かしら? 自分の考えと合わないってだけで、その人間の意見を簡単に否定するものではないわ」
「……」
 さやかは、反論の言葉を見つけられなかった。
「今、確信できたわ。
 美樹さやか……貴女は魔法少女になってはいけない。貴女は、魔法少女になる上で、一番重要な物が欠けてるわ」
「……何だって?」
「冷静さが無さすぎるわ。そんな簡単に熱くなる様では、魔女の餌になるか、余計な氏体が増えるだけよ。
 如何なる時も、頭を冷やせなければ、戦い続ける事など不可能。無謀と勇気を履き違えてはいけないのよ」
「……そんなの……やってみなきゃ解らないじゃん!!」
「解るのよ……。巴マミに聞いてみればどうかしらね」
 そう言いきって、ほむらは屋上から立ち去って行った。

47: 2013/04/21(日) 20:58:32.35 ID:mQAtD2s70
「くそ!! 何なんだよ!!」
 さやかは、当り散らす様に叫んだ。
「……美樹さん。落ち着きなさい」
 マミは、さやかにそう促した。
「……マミさん。さっき、転校生が言ってた事って……」
 助けを求める様に、さやかの視線はマミを捉えていた。
「正直、言い方は最低で酷いものだわ。ただ……概ね内容は間違ってはいない」
「そんな……」
「確かに、酷な意見かもしれないわ。だけど、魔法少女ってそんな簡単に勤まる物でも無いのよ……」
 マミは、諭すようにそう告げた。
「マミさんは……あんな奴に好き勝手言われて、何も思わないんですか?」
「……滅茶苦茶頭に来てるわね。もし、仲間になりたいって言われても、あの子だけは願い下げよ……」
「……」
「でも……あの子の考えを聞いて、少し思う事も有ったのも事実なのよ」

48: 2013/04/21(日) 20:59:19.53 ID:mQAtD2s70
「思う事……ですか?」
「ええ。
 願いが叶うってだけで、誰かに契約を勧めてはいけない……それだけは解った。いえ、気付かされたって方が正しいわね……。
 当たり前の事を、すっかり忘れてたのよ……魔女と戦う事は、常に氏と隣り合わせ……」
「マミさん……」
「魔女がどれ程、恐ろしい物か……。ベテランの癖に、それを忘れてる何て魔法少女失格ね……」
「そんな事有りません!!」
 ここまで黙り込んでいたまどかは、声を荒げた。
「……マミさんの考えは、とても立派だと思います。
 それに、ほむらちゃんは言ったじゃ無いですか……マミさんの考えは否定しないって」
「鹿目さん……」
「きっと、ほむらちゃんにはほむらちゃんなりの考えが有るんですよ……」
「……そうかなぁ」
 まどかの言葉に、さやかは何処か納得の出来ない様子だった。

49: 2013/04/21(日) 20:59:47.25 ID:mQAtD2s70
「私とさやかちゃんは、魔法少女じゃないけれど……マミさんの事を応援する事は出来ます。
 それだけじゃ、頼りないかもしれないけど……私達に出来る範囲なら、マミさんに協力したいんです」
 まどかは、力強く言った。
「まどかに良い所持ってかれたかなぁ……。
 確かに、マミさんは命の恩人です。だけど、あたし達はそういうの抜きで、マミさんの事をもっと知りたいんです」
 さやかも、そう言ってまどかの意見に追従した。
「鹿目さん……美樹さん……。ありがとうね」
 マミは、感謝の言葉を述べた。そして、その瞳はかすかに光る物を浮かべていた。

50: 2013/04/21(日) 21:00:24.36 ID:mQAtD2s70
 その日の夕方。
 昨日取り逃がした魔女を、マミは追っていた。
 使い魔の魔力の痕跡から、じっくりと足取りを追う。華やかなイメージとは対照的に、実に地味な作業と言える。
(……近いわね)
 魔女の行先は見えた。標的の近くまで来ている事を確信した。
 ソウルジェムの点滅が、次第に速度は増していく。路地を曲がり、目前に見えたのは廃墟となった雑居ビルだ。
(……あれは!?)
 ビルの屋上に、人影が見えた。しかも、フェンスから飛び出している。
 そのまま、フラリと人影は屋上から飛び降りた。
(いけない!!)
 咄嗟に変身を完了させて、落下する体をリボンで包み込む。落下速度は次第に遅くなり、体はゆっくりと地面に据えられた。

51: 2013/04/21(日) 21:01:14.11 ID:mQAtD2s70
 飛び降りたのは、女性だった。今は気絶している様で、目を覚ます気配は無い。介抱していると、首筋に奇妙な痣が付いていた。
(……これは、魔女の口づけね)
 魔女は、このビルに潜んでいると、マミは確信した。しかし、このまま女性をほおって置くのも、少々気が引ける思いもあった。
「私がその人を見ておくから、貴女が魔女を倒しに行けば良いんじゃないかしら?」
 その言葉を聞き、マミは思わず振り返る。
「……何のつもりかしらね、暁美ほむらさん?」
 きつめの口調で、マミはそう告げる。

52: 2013/04/21(日) 21:01:53.78 ID:mQAtD2s70
「魔女の痕跡を追ってきたら、偶々出くわしただけよ。魔女を追うのは、魔法少女の習性みたいな物でしょ」
「どうかしらね……。言ったでしょ? 貴女は信用できないって……」
「流石に見ず知らずの一般人にまで、手はかけないわ」
「……その言葉の通りなら、私には手をかけても良いと言う訳ね?」
 マミは相当に警戒をしている様だ。
「……ならば、こうしましょう。貴女がその女性を介抱している間に、私が魔女を倒してくる。
 それなら、私も貴女に狙われないで済む。それに、全ての魔女がグリーフシードを落とすとは限らない。そうでしょ?」
 ほむらは、間髪入れず別の提案を出した。
「……したたかね。この魔女は、貴女に任せるわ……」
 マミは渋々ながら、ほむらの提案を受け入れた。
「恩に切りますよ、先輩」
 不敵に微笑しながら、ほむらは魔女の結界へと向かった。
(……仕方ないわね)
 マミはフッと溜息を吐き出した。

53: 2013/04/21(日) 21:02:28.68 ID:mQAtD2s70
 意識の戻らない女性を介抱していると、反応を嗅ぎ付けたのか、キュウべえも現れた。
「やぁ。どうやら、暁美ほむらに横取りされたようだね」
「……キュウべえ」
 マミはキュウべえを見つめた。
「君がこうも簡単に手玉に取られるなんて、思ってもみなかったよ」
 キュウべえの言葉に、マミはムッとした顔付きになる。
「手玉に取られてないわ。今回は、この人を介抱する必要があったんだし……」
「そういう事さ」
「……どういう事よ?」
「暁美ほむらの実力からすれば、強引に横取りする事も可能だ。
 しかし、不可抗力を上手く利用して、奪う事無く魔女を仕留める様に仕向けている。彼女は、恐ろしく頭の切れる魔法少女だね」
「…………」
「冷徹でいて狡猾。そして、強い。ある意味、最も敵に回してはいけないタイプさ」
「……キュウべえは、随分とあの子の事を買ってるのね」
「君の実力を否定する訳じゃ無いよ。ただ、暁美ほむらが異常なのさ……」
「その様ね……」
 マミの表情は、実に憂鬱そうだ。

54: 2013/04/21(日) 21:03:12.70 ID:mQAtD2s70
 暫く時間が経過すると、女性はゆっくりと眼を覚ました。
「……こ、ここは? あなたは一体……?」
 女性は周囲を見回しながら、キョトンとしていた。
「……たまたま通りかかったら、ここであなたが倒れていたんですよ。お怪我は有りませんか?」
 マミは、女性を不安にさせない様に、ニコッと微笑んで見せた。
「は、はい……。特には何とも……」
 そう言って立ち上がろうとするが、女性の体は酷く震えており、真っ直ぐには立っていられなかった。
「大丈夫ですか!?」
「何とか……大丈夫そうです」
 気丈に振る舞っているが、女性は一人で帰る事は不可能だろう。
「……家まで送りますよ」
 相手の体を支えながら、マミはそう言った。
「はい……すいません」
 顔を青白くさせ、女性は弱弱しくなっていた。
≪これって、口付けの影響かしら……? それとも、落ちる時の光景が、本能的におぼえているのかしら……?≫
 マミはテレパシーでキュウべえに聞いた。
≪どちらかと言えば、前者だね。魔女の口付けは、精神面に大きく影響を及ぼすよ≫
≪そう……≫
 このまま、暁美ほむらが魔女に負けるとは考えにくい。そう判断したマミは、一つ提案を挙げた。

56: 2013/04/21(日) 21:03:42.73 ID:mQAtD2s70
≪ねぇキュウべえ。……暁美ほむらの様子を見ててくれないかしら。私は、この人を家まで送ってくるから≫
≪僕は一向に構わないよ。そういう事なら、後でまた落ち合おう≫
≪よろしくね≫
 女性を気遣うマミは、タクシー会社に電話をかけるのだった。


57: 2013/04/21(日) 21:04:15.23 ID:mQAtD2s70
 女性を自宅まで送り届けると、辺りはすっかりと暗くなっていた。雲一つ無く、月明りと街灯で見通しは悪く無い中、マミは帰路に付いている。
(……暁美ほむら。彼女は、何を狙っているのかしら)
 マミの中に、ほむらに対する疑念が渦巻いていた。
(……協力を求める訳でも無く、縄張りを奪う訳でも無い。それでいて、あんな行動を取る魔法少女は、初めてだわ……。
 キュウべえの言ってた通り、強い上に頭が恐ろしく切れる……。狙いが解らない以上、こっちから手を打つ事も出来ないなんてね……)
 幾つかの推測を思い浮かべるが、決定的な策は見つけられない。
「……はぁ」
 思わず、大きなため息を吐き出していた。
(……考えてても仕方ないわね。コンビニでケーキでも買って帰ろ……)
 進路を変えて、公園を横切るように歩いていると、一番会いたくなかった人物がベンチに座って待ち構えて居た。

58: 2013/04/21(日) 21:05:07.42 ID:mQAtD2s70
「ここで待っていれば、貴女に会えるってキュウべえが言ってたわ」
 ほむらに声をかけられて、マミは心底嫌そうに表情を歪める。
「……待ち伏せのつもりかしら。とうとう、本性を現したのね?」
 マミは苛立っている様で、口調もきついものだ。
「随分と嫌われたものね……。ま、無理も無いけれど」
「今度は何のつもり? 言ったわよね……素振りを見せたら容赦しないって」
「私は、貴女に話したい事が有るから待っていたのよ。今朝は、部外者が居たから、話さなかったけれど……」
「……信用出来ないわね」
 マミは極めて警戒しているが、ほむらはお構いなしに口を動かし始めた。
「……鹿目まどか。彼女だけは、魔法少女として契約させてはいけないわ」
「あら……貴女も気が付いて居たのね。彼女の素質を……」
「そうよ。正確には、知っていたと言う方が正しいかもしれないわね」
「自分より優れた才能が有る。だからこそ、鹿目さんに契約されると、商売敵が増えてしまう……。貴女みたいな魔法少女なら、確かに契約されると困るかもしれないわね。
 自分よりも強くなりそうな芽は、早めに積んでおく。丸で、いじめられっこの発想ね」
「……」
「確かに、鹿目さんが契約するかどうかは、私が口を出す所では無いわ。
 ただ、彼女は貴女の様に非道で残虐な考えは持ち合わせていない。もし、魔法少女になったとすれば……きっとこの街を護る為に戦ってくれるでしょうね」
 マミは、ここぞとばかりに捲し立てる。今まで好き勝手言われたお返しとばかりに。

59: 2013/04/21(日) 21:05:48.50 ID:mQAtD2s70
「一つ聞くわ。貴女は、鹿目まどかや美樹さやかに契約して欲しいのかしら?」
「……それを貴女に言う必要は無いわ」
 ほむらはフッと息を吐いてから、言葉を吐き出す。
「私の様な卑劣な考えの持ち主が現れれば、他の魔法少女を頃しかねない。経験の浅い、契約仕立ての魔法少女ならば尚更危険。
 そう考えて、貴女はあえて契約を考える様に伝えたのでしょう?」
「……何が言いたいの?」
「仲間を手に入れられるチャンスを潰されて、尚更私が気に入らない。違ったかしら?」
「……違う。それは違うわ!!」
 マミは、思わず声を荒げた。
「……だけどね。私は何があろうと、新たな魔法少女を増やす事には反対なのよ」
「鹿目さんや美樹さんの様な、立派な考えを持つ子が魔法少女になれば、縄張りを争う事は減ると思うわ……。魔女を倒す事も楽になるでしょうし……」
 ほむらとマミの意見は平行線だった。ここまでは。
「……私が断固として、契約に反対する理由は、縄張り争いうんぬんじゃないわ。
 ソウルジェムの本当の秘密も……グリーフシードの正体も……インキュベーターの目的も知ってるからよ!!」
「……!?」
 ほむらは力強く言い切った。

80: 2013/04/23(火) 20:21:30.12 ID:sbMsI/FL0
3.真相

 マミは思わず言葉を止めていた。

「何よ……? その秘密って?」

 ほむらの瞳は、真っ直ぐにマミを射ぬいていた。

「ソウルジェムは、私達の魂を宝石に変えた物。言うなれば、ソウルジェムが私達の本体で、体は後付けの様な物よ」

「……貴女、何を言ってるの?」

「体から全ての血が抜けても、心臓が破れても、骨が粉々に砕けても……ソウルジェムが無事なら生き返られるわ。無論、魔力は使うけれどね。
 言い換えれば、ソウルジェムが砕け散ってしまうと、私達は氏んでしまうわ。
 ちなみに、ソウルジェムが半径100メートル以上離れると、体の機能は全て停止する」

「ちょっと……訳が解らないわよ。性質の悪い嘘は止めなさいよ!!」

「……この目を見て、私が嘘を言ってるとでも思うの?」

「……」

 あまりの威圧で、マミは黙り込むしかなかった。

81: 2013/04/23(火) 20:22:24.28 ID:sbMsI/FL0

「次は、グリーフシードの事ね。
 貴女は、今まで疑問を持ったことが無いかしら? 何故、ソウルジェムの穢れはグリーフシードでしか浄化出来ないのか……」

「それは……グリーフシードは、魔女の卵。呪いから生まれる代物……」

「違うわね。元が同じ物だからこそ、浄化が出来るのよ」

「……!?」

「グリーフシードは……絶望するなり、魔力を使い果たすなり……ソウルジェムが穢れきって壊れた時に生まれ変わる物よ。
 つまり……魔女は元々は魔法少女だった」

「……嘘よ」

「嘘じゃ無いわ。この目で、私は見てきたの」


82: 2013/04/23(火) 20:23:30.52 ID:sbMsI/FL0

「だったら……キュウべえは何の為に魔法少女を生み出しているって言うのよ!!」

「私達の感情をエネルギーに変えて、宇宙の寿命を延ばしているらしいわ。特に、魔法少女が魔女になる時は、極めて効率よくエネルギーを回収が出来るとか抜かしてたわ。
 私はあいつ等じゃないから、良く解らないけど……」

 マミの瞳から、大粒の涙が零れ落ちた。体は酷く震えだし、顔色は真っ青だった。

「ねぇ……キュウべえ。近くにいるんでしょ!? 嘘よね!? 魔法少女は希望を生み出す存在で、魔女は絶望を生み出す存在なんでしょ!?」

 マミの後ろに、キュウべえは現れた。

「ねぇ……彼女の言ってる事は……でたらめでしょ!?」

「全て真実だよ。
 それと、誤解している様だけど、魔法少女は希望から生み出される存在で、魔女は絶望から生み出された存在だと僕は教えた筈だ。
 ニュアンスは似ているけれど、意味合いは大きく異なっているよ」

 マミの理想は、呆気なく打ち砕かれていた。


83: 2013/04/23(火) 20:24:25.25 ID:sbMsI/FL0

「……何よそれ。
 ……それじゃ、私は何の為に魔女と戦って来たっていうのよ!!
 ソウルジェムが魔女を生み出すなら……皆氏ぬしか無いじゃない!! 貴女も!! 私も!!」

 半狂乱となったマミは、黄色い光を生み出して、魔法少女姿に変身した。

(……きたわね!!)

 ほむらも、同調するように変身し、魔法少女姿になって見せた。


84: 2013/04/23(火) 20:25:13.28 ID:sbMsI/FL0

 マミは即座にマスケット銃を召喚し、ほむらに向ける。ソウルジェムに照準を合わせて、引き金を引く。
 銃声が、漆黒の夜に響き渡った。

 しかし、魔弾は空を切って公園の地面を抉ったにすぎなかった。

「……!?」

 目前から消えた標的。マミは本能的に後ろに向けて、リボンを放出させた。

(……居ない!?)

 絡みつくリボンは、何も捉えていない。

「……ここよ」

「……!?」

 突然のささやきは、右耳から聞こえた。

「……え?」


85: 2013/04/23(火) 20:26:07.20 ID:sbMsI/FL0

 今度は、左から鎖が飛んできた。マミの体に絡みつき、あっという間に拘束されてしまっていた。

「……ちょっと!! 何てことするのよ!!」

「殺されかければ、それ位しなきゃ大人しくしてないでしょ」

 声を荒げるマミに、ほむらの突っ込みは冷静だった。
 マミは力を込めて引き千切ろうと試みるが、纏わりついた鎖はビクともしない。

「無駄な抵抗よ。魔力を込めているから、そう簡単に切れる訳がないわ」

「…………」

 マミの体から力が抜けて、その場に両膝を着いてしまう。

86: 2013/04/23(火) 20:26:52.27 ID:sbMsI/FL0

 長い間、魔法少女として戦ってきたにも関わらず、意とも容易く負けていた。こうなってしまえば、魔法少女としては氏を意味している。

 ほむらはゆっくりと歩み寄り、マミの頭に。否、ソウルジェムに向けて、銃口を突きつけた。

「……貴女の負けよ。巴マミ」

 この時点で、マミのプライドはズタズタだった。

「……頃してよ」

 マミの声は涙交じりだった。


87: 2013/04/23(火) 20:27:40.80 ID:sbMsI/FL0

「このままソウルジェムを、さっさと撃ち抜きなさいよ!! この縄張りも手に入るし、私の持っているグリーフシードは貴女の物になる!!
 もう十分じゃない!! 私は魔女になりたくない!! 早く引き金を引いて、私を殺せばいいじゃない!!」

 理性が切れた様に、マミは捲し立てた。

「……フフ」

「…………?」

「クックック……フフフ……アーッハッハッハ……」

 何を思ったのか。ほむらは、今まで見せた事の無い位に高笑いを始めた。

「何がそんなにおかしいのよ……」

「……そんなに氏にたいなら、その命……私が貰ったわ。
 今すぐ、私に忠誠を誓いなさい……巴マミ」


88: 2013/04/23(火) 20:28:30.21 ID:sbMsI/FL0

「……!?」

「頃すなんて、勿体ないじゃない。氏ねばゼロだけど……生きている限りは駒として動かせる。そうでしょ?」

 この一言は、屈辱だった。

「……貴女は、命を何だと思ってるよ!!」

「何とも思っていないわ。
 ただ、私は自分の目的の為なら、どんな手段も択ばないわ。例え恨みを買う方法でも、他人の命を踏みにじろうともね……。
 使えるなら、魔女だろうが魔法少女だろうが、何だって使うわ」

「……信じられない。魔女より性質が悪いわ……」

 ほむらの言葉を拒絶する様に、マミは吐き捨てた。

89: 2013/04/23(火) 20:30:02.86 ID:sbMsI/FL0

「ねぇ……魔女になる事って怖い?」

「怖いに決まってるでしょ!! 誰かを呪いながら生きながらえる何て、私はまっぴらよ!!」

 マミは、怒りで顔を真っ赤にしながらほむらに告げる。

「そりゃ、魔女になるのは私も御免よ。
 でも、魔女になる事が避けられないなら……私はそれを受け入れるわ」

「何よそれ……狂ってる……」

「普通に考えれば、そうかもしれないわね。
 だけど、仮に私が魔女になったとすれば、貴女が殺せばいい。そうすれば、少なくとも貴女は延命できるわ」

「……嫌よ。誰かを犠牲にしてまで生き延びるなんて……。私はそこまでして生きたくない!!」

「……本当にそう思ってる?」

「そうよ!!」

 マミの言葉を聞いて、ほむらは拘束する鎖を解いた。


90: 2013/04/23(火) 20:30:43.20 ID:sbMsI/FL0

「……何のつもり!?」

 マミはほむらと向き合う様に、体勢を変える。

「覚悟を試させて貰うわ」

 そう言うと、ほむらは盾の中から、リボルバー式の拳銃を取り出した。

「コルトパイソン。リボルバー式の拳銃でも、極めて威力の強い物よ。仮に頭を撃ち抜けば……脳みそは軽く飛び散るでしょうね」

 ほむらは銃弾の装備されるシリンダーに、一発だけ装弾。そして、シリンダーを思いっきり回転させたままリロードする。

「……まさか!?」

「そのまさかよ!!」


91: 2013/04/23(火) 20:31:12.86 ID:sbMsI/FL0

 ほむらは何のためらいも見せず、自分のソウルジェムに銃口を当てた。
 そして、一切の迷いも見せないで、引き金を引いた。

――カチン。

 空発。

――カチン。

 二回目も、弾丸は飛びださない。

――カチン。

 三度目の正直には至らない。ほむらの顔は、何時もと違わぬポーカーフェイスを保ったままだ。

「……ま、こんな所よ。
 言ったでしょ? 何とも思っていないってね」

 得意げに言いながら、ほむらはマミに拳銃を差し出す。

92: 2013/04/23(火) 20:31:54.02 ID:sbMsI/FL0

「次は貴女の番よ?」

「……」

 無言で受け取り、マミはソウルジェムに拳銃を突きつける。
 ドクリ、と心臓が高鳴り、全身の汗腺から汗が噴き出る。拳銃を持つ手は震え、奥歯がガチガチと鳴る。
 マミは、怖かった。氏ぬ事は怖い。トリガーにかかる指を、動かす事が出来ない。
 改めて突きつけられた現実は、あまりにも非情であった。

 拳銃を構えて、数十秒。マミは、引き金を引く事が出来なかった。

「……これが、現実よ」

 ほむらは、冷たく言い放った。そのまま、マミから拳銃を取り上げる。

「……」

 全身の力が抜けた様に、マミは地面にへたり込んでしまう。

93: 2013/04/23(火) 20:32:32.91 ID:sbMsI/FL0

「怖いと思ってる?」

 ほむらの言葉に、マミの首は縦に動く。

「それが心理よ。だけど、怖さを知らない者は、強くなれないわ。
 自分の無力さを認める事は、悪い事ではない。少なくとも、私は全てを受け入れた上で行動を起こしているのよ。近い将来、魔女になる事も含めてね。
 出来もしない理想論を語るより、現状を見つめて出来る事を考える。それが私なりに導き出した、魔法少女の生き方よ」

 マミの反応は無いが、ほむらは言葉を続ける。


94: 2013/04/23(火) 20:33:20.30 ID:sbMsI/FL0

「……巴マミ。貴女は、自分に厳しすぎる。
 正義の味方とか、街を護るとか、その考え方は素晴らしいわ。だけど、自分でハードルを上げてしまい、自分自身を苦しめていては意味が無い。
 もっと、ズル賢くても良い。もっと、楽にすればいい。少し位、自分に甘えたってバチは当たらないわ」

「違うの……」

 弱弱しくマミの口は動く。

「私は……本当は弱いの。
 強がってばかりで、魔女と戦うのが怖くて……本当に氏にたいと思っても、自決する勇気だって持って無い……。
 願いが叶う事は素晴らしいって、あの子達に言ったわ……。だけど、本当はそんな事を思って無い。
 私は、ただ魔法少女の仲間が欲しかった……」

「やっと、自分自身に向き合ったわね」

 そう呟いてから、ほむらは今日刈り取ったばかりのグリーフシードを、マミに差し出した。

95: 2013/04/23(火) 20:33:58.28 ID:sbMsI/FL0

「……?」

「早い内に浄化しないと、魔女になるわよ?」

 マミはグリーフシードを受け取った。その様子を見て、ほむらは再び口を動かす。

「自分のエゴは醜いと思うかもしれない。だけど、汚い部分も含めて、それが自分なの」

 その言葉は、マミの心に深く刺さった。

「巴マミ。これからどうするかは、貴女が決める事。
 もし、魔法少女を続ける気が有るのなら……明日の夕方。この公園で待っているわ」

 そこまで言うと、ほむらはマミに背を向け、足を進め出す。

「……待って」

 その一言に、ほむらの足はピタリと止まった。


96: 2013/04/23(火) 20:34:38.64 ID:sbMsI/FL0

「一つだけ聞かせて。
 暁美さん……貴女に取って、魔法少女はどんな存在なの?」

「そうね……。
 強いて言うなら、願いを叶えたが為に魔女退治をやらなければいけない、自業自得な存在かしらね」

「……貴女っぽい意見ね」

「ええ。気に入らないかしら?」

「いいえ。それも、魔法少女の有り方なんじゃないかしら……。
 ……本当なら今日で、私は殺されているわ。だからこそ、今の私は助けられたようなもの……。
 私は貴女と手を組みたい。いいえ、私に忠誠を誓わせてほしいの!!」

 マミの言葉は吹っ切れた様に、はっきりとしていた。

(……陥落したわね)

 ほむらは、ニッと口元を歪ませた。

97: 2013/04/23(火) 20:35:24.23 ID:sbMsI/FL0

「まぁ……そこまでは言わないわよ。だけど、貴女の力を借りれるのなら、心強いわ。
 よろしくね……マミ」

 ほむらは振り返りながら、スッと右手を挙げた。

「こちらこそ、よろしくね。暁美さん」

 マミも同じ要領で右手を挙げる。
 パン、とハイタッチする音が、公園に響いた。


98: 2013/04/23(火) 20:35:50.68 ID:sbMsI/FL0

「……そう言えば、何時の間にキュウべえは消えているわね。根掘り葉掘り問いただしたい事があったのに……」

 マミは、周囲を見渡したが、キュウべえの影は何処にもない。

「アイツの事だから、その内現れるわ。
 それと、アイツを見つけて、頃したところで意味は無いわよ。一匹頃したところで、別の個体が出てくるだけだから」

「……初めて聞いたわ」

「アイツらの事は、私でも解らない事は、まだまだあるわ。だから、あまりアイツの事を当てにしてはいけないのよ」

 ほむらは、鬱陶しそうに溜息を吐き出す。

「……ねぇ、暁美さん。まだまだ色々話もしたいから、ケーキでも食べに行きましょう」

「この時間じゃ遅すぎるわ。私はラーメンが食べたいわね」

「女子中学生二人でラーメンはちょっと……」

 この後、相談の末ファミレスに行く事となり、二人は夜の街に消えていった。


99: 2013/04/23(火) 20:36:41.95 ID:sbMsI/FL0

 何時の間にか姿を消したキュウべえは、ビルの屋上から街を見下ろしていた。

「やれやれ……。まさか、巴マミを手籠めにするとはね。
 しかし、ワルプルギスの夜に挑むのは、彼女一人だと言っていた。無論、嘘だと言う可能性も十分に有るけれど……。
 暁美ほむら……彼女は何を企んでいるんだ?」

 ほむらへの疑惑は、キュウべえさえも抱いていた。


100: 2013/04/23(火) 20:37:13.11 ID:sbMsI/FL0

 翌日の登校。

「おはよ~……」

 まどかは、眠たそうに眼をショボショボさせて、何時もの待ち合わせ場所に到着した。

「おはよ。遅いぞ~」

 さやかは、茶化すようにまどかに挨拶をした。

「おはようございます、まどかさん」

 仁美もにこやかに微笑みながら、まどかに挨拶をした。

「じゃ、行こっか」

 三人が揃った所で、学校へと向かい始めた。
 そして、待ち合わせていた公園を抜けると、さやかとまどかは思わず立ち止まってしまったのだ。


101: 2013/04/23(火) 20:38:00.49 ID:sbMsI/FL0

「どうかなさいました?」

 足を止めた二人に向けて、仁美はそう声をかけた。

「嘘……?」

 呆然とするまどか。

「何がどうなってるのよ……」

 さやかにも、その光景は信じられない物だった。

 思わず我が目を疑うのも無理はない。

「あら、おはよう。まどかに、美樹さやかに、志筑さん」

 と、淡々と挨拶するほむら。

「おはよう。奇遇ね」

 そう言って、にこやかに挨拶するマミ。

102: 2013/04/23(火) 20:38:27.07 ID:sbMsI/FL0

 昨日、散々いがみ合っていた二人が、仲良く一緒に登校していれば、驚くなと言う方が無理である。

「……転校生とマミさんが、仲良く登校してるって。何かの間違いよね?」

 信じられないとばかりに、さやかはそう聞きただしてしまう。

「紛れも無い事実よ。
 強いて言えば、昨日取っ組み合いの喧嘩してから、一緒に食事をしたからかしらね」

 ほむらは、事情を簡潔に説明した。

「まぁ……青春ですね!!」

 何の事情も知らない仁美は、その説明に目をキラキラと輝かせていた。

「まぁ……間違ってはいないけれど」

 マミは苦笑いを浮かべながらそう言った。

「……訳が解らないよ」

 流石に事情が呑み込めないまどかは、呆れ気味だ。

「そんな事より、早く行かないと遅刻するわよ」

 そう告げて、ほむらは先に足を進め始めた。


132: 2013/04/25(木) 22:09:34.30 ID:FZPh3Pup0
4.覚醒

 マミとほむらが協力関係を作って、三日ほど経過した。
 昼休みの屋上に、ほむらはマミを呼び出していた。

「暁美さんが呼び出す時って、あまり良い予感がしないのよね……」

 マミは、若干皮肉っぽく言い付けた。

「酷い言い草ね。ま、それ位の事をしてる自覚はあるけれど……。
 それはそうと、本題に入るわ」

 ほむらは一旦、咳払いを入れる。

「ちょっと、二、三日の間は魔女退治に参加できないのよ」

「そう。わざわざ断りを入れるという事は……何か考えが有るのよね?」

「ええ……」

133: 2013/04/25(木) 22:10:05.00 ID:FZPh3Pup0

 ほむらの眼光が、一瞬の間に鋭く尖った。

「……今から、約二週間後。ワルプルギスの夜が襲来するわ」

「……!?
 貴女、その情報を何処で手に入れたの!?」

「それは内緒。だけど、来る事は確実よ」

 ほむらがこういう場面で嘘を言うタイプでは無い。マミは十分に理解している。

「……貴女がそういう眼をしている時は、紛れも無い真実よね。だけど、それと魔女退治を休む事に、何の関係が有るの?」

「……この近辺の街の魔法少女を集めるわ。風見野町にあすなろ市。それに、この街にもまだ隠れている可能性だって有るわ」

「…………そう」

 マミの返事は、歯切れが悪い。


134: 2013/04/25(木) 22:10:48.89 ID:FZPh3Pup0

「何も、貴女が頼りない訳じゃ無いわ。
 ただ、確実に仕留めるのなら、人数が多い方が確実よ。“きっと勝てる”のでは無く“絶対に負けない”様にしなければならないのよ。
 仲間になるかは解らない。だけど、その時だけ手を借りる様に交渉をしてくるわ」

(……交渉というか、貴女の場合は脅し同然じゃない)

 マミは内心で突っ込んだ。

「……そういう訳だから、少しの間は単独になるわ。油断して、首を飛ばすような真似だけはしないでね」

 その言葉に、マミは少しムッとした。

「……あんまり、甘く見ないで」

「冗談よ。貴女の実力は、良く解ってるわ」

「……冗談に聞こえないわよ」

 マミは、げんなりとした顔だった。


135: 2013/04/25(木) 22:11:34.13 ID:FZPh3Pup0

 その日の夕方。
 まどかは、病院の待合室にいた。

(……今日は、随分と長いな)

 さやかは、幼馴染の上条恭介の元にお見舞いに行っている。まどかは連れられてきただけで、待合室で待っているだけである。

 病院で買ったホットレモンティーの温度は、既に温くなっていた。

「お待たせ、まどか」

 幼馴染のお見舞いを終えたさやかは、ようやく待合室に戻ってきた。

「上条君、どうだった?」

「うん……ちょっと精神的に参ってるみたいでね。あんまり元気はなかったよ」

 そういうさやかも、ちょっと落ち込んだ様子だった。

 トボトボと歩く二人は、病院の駐車場を横切って行く。


136: 2013/04/25(木) 22:13:32.45 ID:FZPh3Pup0

「……はぁ。どうにか、元気になってくれないかなぁ」

 力無くぼやくさやかだが、まどかは全く聞いておらず、呆然と病院の壁を見つめていた。

「まどか? どうしたの?」

「ねぇ、さやかちゃん……あそこに何か刺さって無い?」

「え? どこどこ」

 二人は、何かが刺さっている壁に向かった。

「二人とも。今すぐ離れた方が良いよ」

 突如後ろからの声に、足を止めてしまう。


137: 2013/04/25(木) 22:14:33.04 ID:FZPh3Pup0

「キュウべえ?」

 さやかは、裏返った様な声を出しながら振り返った。

「そこに刺さっているのは、グリーフシードだよ。しかも、孵る寸前だ」

「……!?」

 突然の告知に、二人の顔は青ざめる。

「どうしよう……マミさん前に言ってたよね。病院で魔女が生まれると、ヤバいって……」

 さやかは、マミの助言を思い出した。その瞬間、冷や汗が背中を滑り落ちた。

「そんな……。早く、マミさんかほむらちゃんに知らせないと……」

 まどかは、おろおろとしながら、携帯電話を取り出した。

「……少し待ってて。マミにテレパシーを送るから」

 キュウべえは、至って冷静だった。もっとも、焦る様な感情は持ち合わせていないのだが。

138: 2013/04/25(木) 22:15:05.83 ID:FZPh3Pup0

≪……マミ。聞こえるかい?≫

≪キュウべえ……何の様かしら≫

 テレパシーをキャッチした様だが、マミの声のトーンは低い。

≪市民病院で、グリーフシードが孵ろうとしてる。まどかとさやかもここに居るんだ。今すぐに、来れるかい?≫

≪……解った。だけど、急いでも五分はかかるから、早く逃げるよう……≫

 マミからの返信は、プツリと途切れた。

「……遅かったね」

 キュウべえは、淡々と告げた。

「嘘でしょ……!?」

 さやかは息を飲んでしまう。

「……そんな」

 まどかは、周囲の光景を見て、思わず目を覆っていた。


139: 2013/04/25(木) 22:16:10.19 ID:FZPh3Pup0

 辺りは、既に病院の駐車場の光景では無くなっていた。
 甘ったるい匂いが立ち込め、山盛りのお菓子が立ち並ぶ魔女の結界。

「これは、お菓子の魔女の結界だね。幸い魔女の方は、まだ孵っていない様だけど、結界に取り込まれてしまっては、僕達では脱出不可能さ」

「……何とかならないの?」

 キュウべえの説明を聞き、さやかは思わず聞きただす。

「方法は二つある。
 一つは、マミには魔女の結界の場所は教えてあるから、助けに来て貰う。結界に入ってからなら、最短ルートを僕から発信する事も出来る。
 だけど、急いでも五分はかかるって言ってたからね。それまでに、魔女が生まれない保証は無い」


140: 2013/04/25(木) 22:16:56.43 ID:FZPh3Pup0

「もう一つは?」

「君達が僕と契約して魔法少女になる方法さ。ただし、この方法は推奨しないよ」

「……どうして?」

 思わず、さやかは聞いてしまう。

「暁美ほむらの信頼を失うからね。彼女は、君達を魔法少女にする事を望んでいないのさ」

 キュウべえの言葉を聞き、さやかは納得が出来無い様だった。

「……アンタ、随分と転校生の事を買ってるのね」

「その件を、君達に話す筋は無いよ」

 キュウべえは、それ以上は語らなかった。


141: 2013/04/25(木) 22:17:25.37 ID:FZPh3Pup0

「……大丈夫だよ、さやかちゃん」

 まどかは、はっきりと言い切った。

「まどか……」

 さやかは、まどかに視線を向けた。

「きっと、マミさんもほむらちゃんも来てくれるよ。私達が信じなきゃ……」

 まどかは、凛とした声でそう言った。

「……残念ながら、ほむらは今日は居ないよ。用事で、別の街に居る」

 希望を打ち砕くかの様に、淡々と告げるキュウべえ。

「アンタは……少し位空気を読めっての」

 さやかは、苦々しく顔を歪めて、そう突っ込んだ。

(……こりゃ、腹を括るしかないかな)

 そして、内心では覚悟を決めていた。

142: 2013/04/25(木) 22:18:48.60 ID:FZPh3Pup0

 マミは、全力疾走で病院へと向かっていた。しかし、気持ちばかり先走って、足の進むペースは上がらない

「もう!! こうなったら!!」

 決めポーズも忘れた様に、路地裏で変身を完了させた。そして、強化した身体能力を駆使して、屋根へ飛び乗る。そこからは、忍者の如く屋根から屋根へと飛び移って行く。
 病院までの道のりを、真っ直ぐに突っ切ってショートカットする考えだ。

(……急がないと!!)

 懸念している点は二つ。一つは、魔女に殺されないか。もう一つは、閉じ込められた状態で、先走って契約していないか。

(……待ってて。鹿目さん!! 美樹さん!!)

 マミは最短距離で、目的地を目指す。友人を助ける為に。


143: 2013/04/25(木) 22:19:26.62 ID:FZPh3Pup0

 キュウべえはピクリと反応を見せた。

「……来たようだね」

 その一言に、まどかとさやかは、少しホッとした表情を浮かべる。

≪……キュウべえ!! 今、結界に入ったわ!!≫

 マミのテレパシーを、キュウべえは受信した。

≪予想よりも随分早かったね。魔女の方は、まだ孵化していないけれど、予断は許さない。僕達の位置を送信するよ≫

 キュウべえからの情報を、マミはキャッチした。

≪……最下層ね。すぐに向かうから、間違っても契約はしないでね!!≫

 そう釘を刺した。

≪信用無いなぁ……≫

 ちょっと残念そうに、キュウべえはぼやいた。だが、マミは既に電波を切っていた。


144: 2013/04/25(木) 22:19:59.94 ID:FZPh3Pup0

「……マミさんは?」

 さやかは、慌ただしくキュウべえに詰め寄る。

「もう結界に入ってるよ。最短ルートは教えてるから、すぐに到着するさ」

「良かったー。さっすがマミさんだね」

 安堵の息を漏らすさやかだった。

「……ねぇ、さやかちゃん。あの箱……何か震えて無い?」

 まどかに言われ、さやかもその箱に視線を向けた。

「何? あの馬鹿でかいお菓子の箱……」

 その箱は、確かにガタガタと震えている。

「……まずい。魔女が孵るよ」

 キュウべえの一言で、二人の顔は一気に青ざめた。

145: 2013/04/25(木) 22:20:42.63 ID:FZPh3Pup0

「恐らく、魔法少女の気配を感じ取ったんだ。下手すれば、使い魔達の動きも活発になるだろう」

「嘘……」

 まどかは、体の芯が震える事を感じた。

「……マミさん」

 願う様に、さやかは呟いた。

「使い魔に足止めをされたら、間違いなくマミは間に合わない。後は、運を天に任せるしかないだろうね……」

 キュウべえの言葉は、重苦しい雰囲気を助長した。


146: 2013/04/25(木) 22:21:19.00 ID:FZPh3Pup0

 その直後だった。

――パキン。

 金属がひび割れる音が響いた。大きなお菓子の箱は、無数に亀裂が入り、丸で卵から雛鳥が生まれる時の様だった。

「……魔女が生まれる」

 キュウべえが呟くと同時に、お菓子の箱はボロボロと崩れていった。

【お菓子】の魔女 シャルロッテ その性質は【執着】

 崩れ去った箱から出てきたのは、ぬいぐるみの様な風体の魔女であった。

「……あれが……魔女?」

 まどかは拍子が抜けた様に、キョトンとしている。

「何か……思ってたより怖くないな」

 さやかも、見た目で判断して、ちょっと舐めている様だ。

「確かにね。ただ、魔女で有る事は間違いないよ」

 キュウべえは、そう促した。


147: 2013/04/25(木) 22:22:04.59 ID:FZPh3Pup0

 バン、と扉が開いた。
 一同が一斉に振り返ると、頼みの綱の人物が姿を現した。

「……お待たせ。真打登場よ!!」

 ニヤリと笑みを見せながら、マスケット銃を構えたマミ。

「マミさん!!」

 まどかとさやかは、同時に声を張り上げた。

「もう大丈夫よ。今日と言う今日は速攻で片づけるわ!!」

 マミは、二人の周囲をリボンで取り囲み、結界を張りめぐらせた。

(……普段と。否、今までと雰囲気が違っているね……)

 マミの様子を見て、キュウべえは何かを感じていた。


148: 2013/04/25(木) 22:22:53.60 ID:FZPh3Pup0

 お菓子の魔女と対峙するマミに、臆する様子は微塵も無い。
 しかし、魔女の方も、特に攻撃を仕掛けてくるような様子も見られない。

(……何か有るわね)

 マミは、勘ぐっていた。

 右手からリボンを放出して、魔女の体を一気に拘束する。宙にブラブラと浮き上がる魔女の本体は、抵抗するような様子さえ見受けられない。

「……一気に決めるわ」

 マミの持つマスケット銃は、黄色い光に包まれ、大砲へと早変わりした。
 大砲に魔力を込めると、銃口は黄色い魔弾を生み出していた。

「……ティロ・フィナーレ!!」

 トリガーを引くと、強烈な魔弾が標的に向かって、一気に炸裂した。
 爆発音と共に、魔女の胴体を一気に貫く。

「やったぁ!!」

 さやかは、ガッツポーズを作り、まどかもホッとしたような笑みを作っていた。


149: 2013/04/25(木) 22:23:24.78 ID:FZPh3Pup0

 ぬいぐるみの体は、確かに貫いていた。
 しかし口からは、ニュルン、と蛇のバケモノの様な物体が飛び出していた。

「……!!」

 その蛇のバケモノは、とんでもない速度で真っ直ぐにマミに向かって突っ込んでいた。
 大口を開けて、マミを目掛けて噛り付く。

――ガチン!!

 大口は何も捉えていなかった。
 咄嗟の判断で、マミはバックステップで距離を取っていたのだ。

(……一瞬でも遅れてたら危なかったわ。やっぱり、裏が有ったわね……。恐らく、人形みたいな恰好は囮。本体はあの黒い奴……)


150: 2013/04/25(木) 22:24:08.66 ID:FZPh3Pup0

 マスケット銃を幾つか召喚。次々と手に取って、魔弾を連射。
 しかし、魔女の本体は全く怯まない。再び大口を開けて、マミに喰らい付く。

「……くっ!!」

 身を反転させてかわしたが、魔女の動きは想像以上に早い。

(……頑丈な上に、素早いわ。普段のマスケット銃じゃダメージは与えられないけど、大技を構える隙も無いわね……)

 マミは奥歯をギリッと噛み締めた。

 魔女は、再び襲い掛かる。マミは何とか避けるが、攻撃の手立てを見いだせない。

(……だったら)

 今度は、無数のリボンを放出して、大口を開けた魔女に狙いを定める。
 魔女の牙を、リボンが捕えた。口は開けっ放しで、魔女の動きは止まってしまう。

(これなら、避けられないでしょう)


151: 2013/04/25(木) 22:24:43.71 ID:FZPh3Pup0

 再び、瞬時に大砲を召喚。

「もう一発……ティロ・フィナーレ!!」

 ドン、と魔弾が魔女の口内に発射された。開きっぱなしの大口からは、煙幕が立ち上った。

 これなら、魔女だって一溜りも無い。全員がそう思った。

「……!?」

 再び口の中から、ニュルリと蛇のバケモノが姿を現した。
 最短距離で、マミの体に向かい喰らい付く。

「……きゃッ!?」

 ギリギリで避けたが、牙で腹部に大きな傷を受けてしまった。


152: 2013/04/25(木) 22:25:25.20 ID:FZPh3Pup0

(……しくじったわ)

 傷口からは、大量の血が流れ出る。左手で傷を抑えるが、痛みも流血も引かない。

(……傷を手当てする余裕も無さそうね)

 マミの脳裏を、嫌な予感がかすめる。

(……落ち着きなさい、巴マミ)

 首を振るって、嫌な予感を振り払う。
 目を凝らして魔女を睨む。

(追い込まれた時程、頭を冷やすのよ……)

 マミは限界まで五感を研ぎ澄ます。


153: 2013/04/25(木) 22:26:15.15 ID:FZPh3Pup0

 固唾を飲んで見守るまどかとさやか。しかし、素人目から見ても、マミは苦戦している事は明白だった。

「……マミさん」

 さやかは、何もできない自分を呪いたいとさえ思っていた。

「……マミさん」

 まどかは、祈る様にマミから視線を逸らさない。

「マミの攻撃方法で、あの魔女を仕留めるのは厳しいかもしれないね。相性が悪すぎる」

 そう言い放つキュウべえ。

「……ちょっと。そんな言い方無いんじゃないの」

 少し頭に来たようで、さやかはキュウべえに突っかかる。

「事実さ。ただ、マミも伊達にベテランじゃないよ。
 追い込まれた時にこそ、状況を打破する機転が求められる。それが出来なければ、戦いに生き残る事は不可能だからね」

 キュウべえはそう告げた。

「……」

 さやかは、何も答えない。ただ、今は見る事しか出来ないのだ。

154: 2013/04/25(木) 22:27:03.54 ID:FZPh3Pup0

 意を決したマミは、両手から再びリボンを繰り出す。

「……行くわよ!!」

 今度は網目の様に、リボンが大きく広がった。図体のでかい魔女を、漁の様に魔女の体を絡める。
 今度は、魔女の口は閉じたまま拘束されていた。

「……これなら、脱皮は出来ないわね!!」

 再びマスケット銃を、大砲に変形させる。しかし、大砲の砲身は、さっきよりも極めて長い。
 集中力を高め、砲身に魔力を込める。

155: 2013/04/25(木) 22:27:41.41 ID:FZPh3Pup0

(破壊力じゃないわ……魔力を一点に集中させる)

 再び込められた魔弾は、渦を巻いている。

「ティロ・フィナーレ……エボルツォーネ!!」

 魔力を限界まで練り込まれた魔弾は、ライフルの様に貫通力を上げた代物だった。一気に放出されると、高速回転しながら魔女の胴体を一気に貫いた。


156: 2013/04/25(木) 22:28:14.54 ID:FZPh3Pup0

「……今度は、復活出来ないでしょうね」

 マミはそう言い切った。
 同時に、魔女も息絶えてしまった様で、目から生気が消え失せていた。

(ごめんなさいね……。貴女もかつては、魔法少女だったのでしょ?
 だけど、誰かを呪いながら生きるのは、きっと生前の貴女も望んで居なかった筈よ。天国でゆっくりとお休みなさい。後は、私達が何とかするわ……)

 魔女の体が、グリーフシードに戻ると同時に、マミは胸の前で十字を切っていた。


157: 2013/04/25(木) 22:29:05.15 ID:FZPh3Pup0

 結界が崩壊すると、辺りは病院の駐車場に姿を戻していた。
 すると、緊張の糸が切れてしまったように、マミは地面に片膝を着いてしまう。

「マミさん!!」

「大丈夫よ……ちょっと疲れただけ」

 そう言って笑みを見せるが、マミの表情は披露困憊している。何よりも、魔法による治療が追い付いておらず、傷口はまだ塞がっていない。

「マミ。早くソウルジェムを浄化して、魔力を回復させた方が良いよ」

 キュウべえはそう告げる。

「…………そうね。だけど、美樹さんと鹿目さんに話したい事があるのよ。
 折角だから、私の家でお茶を飲みながらなんてどうかしら?」

 マミはそう提案した。

158: 2013/04/25(木) 22:29:46.93 ID:FZPh3Pup0

「……本当に、大丈夫なんですか?」

 まどかは、心配そうにマミの顔を覗き込んだ。

「ええ。私は魔法少女だもの」

 マミはそう言いながら、笑みを作っていた。

「……」

 ただ、その笑みには何か奇妙な物を、まどかもさやかも感じていた。
 今までの温和な笑みとは、どこか違う。何処か裏が有りそうな、暁美ほむらが時折見せる様な笑みであった。


159: 2013/04/25(木) 22:30:21.47 ID:FZPh3Pup0

 マミのマンションに呼ばれた、まどかとさやか。そして、キュウべえも同席している。

「適当に寛いでて。すぐにお茶の準備するから」

 そう言って、マミはキッチンに向かった。

「また、マミさんの紅茶をご馳走になれるんだ……やった♪」

 さやかはウキウキと心を躍らせる。

「さやかちゃんったら……。気持ちは解るけどね」

 まどかも、満更でも無い様だ。

「……」

 キュウべえは、無言で二人を見つめているだけだ。

160: 2013/04/25(木) 22:31:29.32 ID:FZPh3Pup0

 数分も経つと、紅茶の香りが部屋にまで漂ってきた。マミは自慢のティーカップと、紅茶の入ったポットをテーブルの上に置く。
 しかも、お持て成しの為のプリンまで用意している。
 ポットからティーカップに紅茶を注ぐと、紅茶の香りが鼻をくすぐる。

 差し出されたプリンと紅茶に、まどかとさやかはゴクリと生唾を飲み込んだ。

「……さぁ、召し上がれ」

「いただきます!!」

 我慢できず、プリンをスプーンですくい上げ、一口頬張る。

「おいしい~♪」

「めっちゃ美味い~♪」

 まどかもさやかも、舌鼓を打つ美味しさで、顔をニンマリとさせた。

「喜んでもらえて何よりだわ。
 ……さてと。ここで、本題に入りましょうか」

 マミは打って変った様に、引き締まった顔つきになっていた。


161: 2013/04/25(木) 22:32:06.80 ID:FZPh3Pup0

 雰囲気を察して、さやかとまどかの表情も張りつめた様子に変わっていた。

「正直な気持ちを教えて欲しいわ。貴女達は、まだ魔法少女になりたいと思ってる?」

 マミの意見は直球だった。

「……私は、正直良く解ってません。
 どんな願いが叶うって言われても、叶えたい願いも解らないし……。マミさんの助けになるなら、契約してもいいかなって思ってますけど……。
 でも、戦うのは怖いです。うやむやな気持ちで契約しても、多分上手くいかない様な気もしてます」

 まどかはまだ迷っている様で、言葉も歯切れが悪い。

「あたしは、契約したいって思ってます。命を懸けてでも叶えたい願いも有ります。
 それに、今日のマミさんが苦戦する所を見てて、あたしはどうして何も出来なかったんだろうって思いました。正直、それが悔しかった。これが、今のあたしの気持ちです」

 さやかは、しっかりした口調で言い切った。真っ直ぐにマミを見つめた表情は、真剣な物だった。

162: 2013/04/25(木) 22:32:37.44 ID:FZPh3Pup0

「……二人の気持ちは、良く解ったわ。助けたいと思ってくれる事は、とても嬉しいわ。

 だけどね……だからこそ、私は契約には反対よ」

 穏やかな口調だが、マミはきっぱりと言った。

「……どうしてですか?」

 さやかは、残念そうに聞きただした。

「理由も、今から話すわ。
 先日、私は暁美さんから、こんな話を聞かされたの」

 マミはそう言って、ソウルジェムをテーブルの上に置いた。


163: 2013/04/25(木) 22:33:10.51 ID:FZPh3Pup0

「このソウルジェムは、私の魂。これが無ければ、私の体を動かす事は出来ないの。言ってみれば、ソウルジェムが本体で、体は抜け殻。
 ソウルジェムが無事な限り、血を抜かれても心臓が破れても、魔力が有れば復活できる。これが魔法少女の仕組みなの」

「……それじゃ、丸でゾンビじゃないですか!!」

 さやかは、思わず声を裏返していた。

「的を得てる例え方ね。
 それに、魔法少女の持つソウルジェム。これは、魔力を使う度に、穢れを溜めていく。そして、ソウルジェムが穢れきった時……」

 マミは、さっきの魔女が落としたグリーフシードをテーブルに出した。

「ソウルジェムから、グリーフシードが生まれる。これが、魔法少女の終着点」

「……!?」

 まどかもさやかも、動揺の余り声を出す事さえままならなかった。


164: 2013/04/25(木) 22:33:44.54 ID:FZPh3Pup0

「……危ない目に会わせたくない、何て綺麗事は言わないわ。魔法少女が増えれば、魔女の数もそれだけ増えてしまう。
 それじゃ、何の為に魔女を倒す魔法少女をしてるのか……。訳解らないでしょ?

 魔法少女に契約してしまえば、後戻りは出来ないの。だからこそ、貴女達は引き返せる時に戻るべきなのよ」

 諭すような優しい口調で、マミは厳しく突き放した。

「……キュウべえ。何で、魔法少女何て物作ったのよ」

 さやかは、キュウべえを睨みつけた。


165: 2013/04/25(木) 22:34:39.49 ID:FZPh3Pup0

「君達の感情を媒体として、宇宙の寿命を延ばす様にエネルギー回生する為さ。特に、相反する感情の変化は、大きなエネルギーを生み出すからね。希望から絶望とかね」

 キュウべえは、さも当然の様に告げる。

「意味わかんない……。そんな事の為に、私達の命を弄んでるって訳!?」

「そんな事とは、人聞きが悪いね。この一秒の為に、宇宙のエネルギーは、どれ程消費されていると思っているんだい?

 そもそも、宇宙がなければ君達は生きていく事さえ出来ないんだよ。むしろ、魔法少女が魔女になる事で、君達は生き延びられるんだ。
 それを感謝される筋合いはあっても、恨まれる筋合いは無いよ」

「そんなの……あんまりだよ」

 キュウべえの淡々とした態度を見て、まどかは悲観してしまう。

166: 2013/04/25(木) 22:35:08.34 ID:FZPh3Pup0

「……これ以上、聞く事は無いわ。幾ら話しても、平行線を辿るだけですもの」

 マミはそう言って、解説を打ち切った。

「……そして、これから話す事は、私の独り言よ」

「……」

 マミの一つ一つの言葉に、皆静かに耳を傾けた。


167: 2013/04/25(木) 22:35:51.06 ID:FZPh3Pup0

「二年前になるわ。

 私は家族でドライブに出かけたの。だけど、私と両親は大規模な交通事故に巻き込まれた……。潰れた車の中で意識を失いかけてた時、キュウべえに契約を迫られた。叶えたい願いは有るか、とね。
 私は、ただ助かりたいって答えたわ。それが、私が契約した経緯なの。

 考える余地も無かったし、あの時契約していなければ、今私はここに居なかったでしょうね……。

 どっちが良かったなんて、今となっては解らない。だけど、結果だけ見てしまえば、この現実を受け入れなくてはいけないわ。将来魔女になる事も……」

 そう語るマミは、少し悲しそうに眼を伏せた。


168: 2013/04/25(木) 22:36:20.82 ID:FZPh3Pup0

「……暁美さんは、こんな事を言っていたわ。
 もし、私が魔女になったら被害を出す前に貴女が仕留めれば良い、とね。

 開き直ってると言えばそれまでだけど、そんな事簡単に出来る事じゃない。あの子が、どれ程の修羅場を潜り抜けてきたのか、私には想像も出来ない。
 だからこそ、私はあの子と手を組む事にしたのよ」

 マミの口調は滑らかだった。


169: 2013/04/25(木) 22:37:06.16 ID:FZPh3Pup0

「……じゃあ、マミさんは転校生の事を、もう信用しているって事ですか?」

「……難しい所ね。
 私自身は、暁美さんの全てを信用している訳じゃ無い。でも、利害の一致が有れば、間違いなく背中を預けられる。
 言葉では上手く説明できないけれど、彼女はそう言う存在。今は、間違いなくその時なのよ」

 そこまで言い終えると、マミは紅茶に口を付けた。

「……マミさんは、これからどうするんですか?」

 まどかは、思わず聞いてしまった。

「今まで通りよ。変えるつもりも、変わるつもりも無いわ。私は私のやり方をするだけよ」

 マミの言葉は、凛々しく、力強かった。


183: 2013/04/26(金) 21:12:24.12 ID:8E71IuRE0
5.策士

 マミ達がお茶をしているのと、同じ時刻。ほむらは、あすなろ市に居た。しかも、喫茶店の窓際で、コーヒーを飲んでいる。

 もっとも、のんびりしている訳でも無いが。

≪キュウべえ。巴マミの方は、無事かしら?≫

 テレパシーで、最寄りのキュウべえに連絡を入れた。

≪見滝原の個体にアクセスした所、無事に魔女を撃破したよ。今の所、マミの家にまどかもさやかも居るよ≫

≪そう。それなら、問題無いわね≫

≪しかしだ。君は何故、巴マミが相性の悪い魔女と戦う様に仕向けたんだい?
 まさか、わざと負ける様に仕向けたとつもりなのかい?≫

≪そんな回りくどい事する位なら、自分で頃してるわ≫

≪やれやれ……訳が解らないよ≫

≪解ってもらうつもりは無いの。また、後で連絡するわ≫

 ほむらは一方的に電波を切った。

184: 2013/04/26(金) 21:13:14.66 ID:8E71IuRE0

 そのまま、暫しの間コーヒーブレイクをしていると、ほむらの座るテーブルに一人の少女が歩み寄った。

「……キュウべえから聞いたわ。貴女が、見滝原の魔法少女の暁美ほむらさんね?」

 そう声をかけてきた少女。黒のロングヘアーで、端正で美形の顔付き。知的と言う言葉が、非常に似合う少女だった。
 あすなろの魔法少女がようやく現れたのである。

「初めまして。まさか、売れっ子作家の御崎海香さんが、魔法少女だなんて思わなかったわ」

 そう言って、ほむらはニヤリと笑みを見せた。

「……そんな事は、今は二の次。違う街の魔法少女が、あすなろに何の用かしらね?」

 海香は、ほむらの向かいに座りながら、そう言った。極めて警戒をしているのか、ほむらを睨む様に見つめていた。


185: 2013/04/26(金) 21:13:46.79 ID:8E71IuRE0

「そんなに警戒しないで欲しいわ。こういう時は、お互いを対等にしないと意味が無いでしょう?」

 そう言いながら、ほむらは自分自身のソウルジェムをテーブルの上に置いたのだ。

「……」

 海香の眉が、ピクリと反応を見せた。本人は、ポーカーフェイスを保ったつもりなのだろうが、ほむらはそれを見逃さなかった。

「……あら? もしかして、ソウルジェムの概要を知っていたりする?」

 微笑を保ちながら、ほむらは海香を見つめていた。

「……ええ。知っているわよ」

 海香の声のトーンは、下がる一方だ。

「それなら、話は早いわね。
 貴女に……違うわね。貴女達に交渉がしたいのよ。そこの後ろに座ってる、魔法少女の二人も含めてね」

「……!?」

 海香の顔は、明らかに動揺を見せていた。


186: 2013/04/26(金) 21:14:22.53 ID:8E71IuRE0

「……何時気が付いたの?」

「貴女がこの店に入って来た時。そこの二人組と、僅かに目が合ったでしょ。その時に、すぐに逸らさなかったから、恐らく仲間じゃないかって疑ったわ。
 確信をしたのは今だけどね。貴女の動揺した顔を見てからよ」

 ほむらの説明を聞き、海香の眉間にしわが寄る。

「……本題に入りましょう」

 そう言いながら、海香も自身のソウルジェムをテーブルに置いた。


187: 2013/04/26(金) 21:15:06.35 ID:8E71IuRE0

「今から二週間後。見滝原に、ワルプルギスの夜が現れるわ。それを倒す為に、協力してほしいの」

「……貴女、本気で言ってるの?」

「ええ、本気よ」

 その言葉を聞き、海香はほむらをジッと見つめる。

「そんな言葉を一々真に受けていたら、幾つ体が合っても足りないわ……」

 バン、とテーブルの上に掌を叩きつけ、ほむらは海香を思いっきり睨みつけた。

「……この目を見て、本気かどうか判断しなさいよ」

 海香は、背筋がゾクリとした。
 抜身の刀を突きつけられている様な鋭い視線に、殺気に近い物を感じ取っていた。


188: 2013/04/26(金) 21:15:45.25 ID:8E71IuRE0

(……この子、なんなの!?)

 海香が過去に出会った魔法少女達の中でも、これ程恐ろしい物を感じた魔法少女は他に居ない。

(狂気とも、殺意とも違う……。だけど、何故この魔法少女に、こんなにも威圧されているの!?
 ソウルジェムをテーブルに差し出すなんて、真実を知っているならどれ程危険な事かも、解る筈なのに……)

 明らかに海香は、ほむらの気迫に呑まれていた。


189: 2013/04/26(金) 21:16:21.59 ID:8E71IuRE0

「別に、貴女達を私の手下にしようとかって話じゃない。単純に、協力を要請したいだけなのよ。
 それに、あの魔女が現れたら、この辺り一帯が崩壊する事は免れないわ。初見でどうにかなる相手じゃないのは、見た事の無い貴女でも解るわよね?」

「……それはそうだとしても。貴女は、そんな話を何処で手に入れたの? 正直、信用できるレベルの話じゃ無いわ」

「それは内緒よ。わざわざ、自分の手の内をバラす程、アホじゃないわ」

 海香は、今一つ腑に落ちない。

「……一つ聞いて良い? もし、私達が協力を拒んだら、貴女はどうするつもり?」

 その質問を受けて、ほむらは少し考える素振りを見せた。


190: 2013/04/26(金) 21:17:09.00 ID:8E71IuRE0

「そうね……。
 貴女達を拉致監禁して、生きていくのが嫌になる程痛めつけるわ。
 そのまま、一人づつ絶望させて、魔女に生まれ変わらせる。そうすれば、私の為のグリーフシードは、難なく手に入るわ」

 ほむらは、無表情を保ちながらそう告げた。

「……話にならないわ。そんな下衆に、協力をするなんて、反吐が出る……」

 海香は吐き捨てる様に言い返した。


191: 2013/04/26(金) 21:17:41.99 ID:8E71IuRE0

「……あすなろのプレイアデス聖団も、案外抜けてるわね。これ、何かしら?」

 ほむらの手には、海香のソウルジェムが握りしめられていた。そして、テーブルに置いていた、紫のソウルジェムは既に無い。

「い、何時の間に!?」

「さて……今、貴女の命は私の手の中に有ります。私はこのソウルジェムをどうするべきだと思いますか?」

「ふざけるな!!」

「そうね。ちょっと、悪ふざけしすぎたかしら……」

 ほむらは、海香のソウルジェムをテーブルの上に戻した。その途端、海香は引っ手繰るように、自分のソウルジェムを手に収めた。


192: 2013/04/26(金) 21:18:41.71 ID:8E71IuRE0

「……何が目的なの」

 海香の声は露骨に低く、怒りを抑えきれない様だ。

「さっきも言った通り、ワルプルギスの夜を撃破する事よ。その為に必要なのは仲間じゃない。
 私が欲しいのは戦力よ」

「……」

「絶対に負けないだけの戦力を揃えて、確実に仕留められる戦略を使うのよ。
 綺麗事じゃない。邪道でも、汚くても、私は構わない。ワルプルギスの夜を倒す為なら、悪魔にだって魂を売ってやるわ」


193: 2013/04/26(金) 21:19:21.77 ID:8E71IuRE0

「……貴女の目を見ていれば、本気で言っているのは解る。それに……拒めば本気で頃すつもりでしょう。
 だけどね……私達にも、プライドは有るわ。殺さない変わりに協力しろと言われ、はい解りました何て言う訳が無いでしょう」

「……それで?」

「……その話に乗るか反るかは、貴女の実力を見定めてからよ。貴女が私達を平伏せられるだけの力が有るかどうか……はっきりさせましょう」

 淡々と口を動かす海香だが、腹の中は煮え滾っているに違いない。

「面白いじゃない……」

 宣戦布告を受けて、ほむらはニヤリと笑みを見せた。


194: 2013/04/26(金) 21:19:59.40 ID:8E71IuRE0

 太陽が沈んで、街は夜の暗闇に染まっていた。あすなろ市の外れにある、資材置き場に到着したほむら。
 そして、対峙するプレイアデス聖団の残党、昴かずみ、牧カオル、そして御崎海香。

「……生憎だけど、ちょっと痛い目を見て貰うよ。君は、ちょっと調子に乗り過ぎている」

 普段は温厚なかずみも、ほむらに対して怒りを示していた。

「悪いけど、アンタには協力したくない。だから、全力で戦わせてもらうよ」

 カオルも、臨戦態勢が整っており、即座に攻撃を仕掛けられる状態だ。

「今更後悔しても、遅いわ。でも、命だけは勘弁してあげる」

 海香も武器を召喚し、ほむらに向けている。
 一対三。端から見れば、極めて分が悪い。しかし、ほむらは不敵に微笑を浮かべている。

「……格の違いを教えてあげるわ。かかってきなさい」


195: 2013/04/26(金) 21:21:01.35 ID:8E71IuRE0

 ほむらの言葉を皮切りに、カオルは我先にと、攻撃を仕掛ける。

「カピターノ・ポテンザ!!」

 一気に間合いを詰めて、ほむらの体を目掛けて蹴りを繰り出す。

(……なるほどね)

 瞬時にバックステップを取って、カオルの攻撃を避ける。

「リーミティ・エステールニ!!」

 しかし、避けた方向に、かずみの放った光線が飛び交う。

――シュン。

 だが、かずみの放った光線は何も捉えていない。

「消えた!?」

 カオルとかずみは、思わず動きを止めてしまった。


196: 2013/04/26(金) 21:21:32.28 ID:8E71IuRE0

(……瞬間移動? だったら……動いた先は)

 海香は、瞬時にほむらの動きを予測した。

「上よ!!」

 その言葉に釣られ、全員が天井に目を向けた。

「正解よ。流石ね」

 ほむらは、天井の梁に乗っていた。余裕があるのか、微笑を崩さないで見下ろしている。

「上に逃げても、逃げ場は無いよ!!」

 かずみは、ステッキに魔力を込める。再び、光線で狙い撃つ考えだ。

「……残念ながら、私の勝ちよ」

 ほむらは、確信した様に呟いた。


197: 2013/04/26(金) 21:22:20.10 ID:8E71IuRE0

 その刹那、パン、と爆発音が響いた。花火が発射された音だ。

 しかも、一発では無い。色鮮やかな六尺玉やら、噴射式の花火。挙句の果てに、ロケット花火にネズミ花火。大小多数の火花が、三人の方向に向けて水平発射される。

「ちょっ……熱っ!?」

 狼狽えながら逃げ惑うかずみ。

「ふざけんなよ、アンタ!!」

 ふざけきった攻撃方法に、カオルは怒声を張り上げる。

「危ないでしょ!! これは駄目だって!!」

 冷静な海香さえも、この花火の波に呑み込まれていた。

 飛び交う火花を避けるが、花火の量は半端では無い。


198: 2013/04/26(金) 21:23:10.26 ID:8E71IuRE0

「これも、オマケよ」

 そう言いながら、ほむらは発煙筒を投げつけた。

焼けた火薬の匂いと、充満する煙で、三人とも標的を見失っていた。

「……煙い」

 カオルは、服の袖で口元を抑える。

「あれ? アイツ、何処に消えた!?」

 目に涙をためながら、海香は必氏にほむらを探す。だが、煙の立ち込めた中では、見つかる物も見つからない。

「……うわっ!?」

 今度は、突如として突風が吹き荒れ、かずみはスカートを手で押さえる。
 ほむらが次に出した道具は、業務用の大型扇風機だった。立ち込めた煙と、火薬の匂いが一気に吹き飛んでいく。


199: 2013/04/26(金) 21:24:22.89 ID:8E71IuRE0

「チェックメイトよ!!」

 仕上げに、魔力を込めた網を投げつけて、三人を地引網の如く捉えてみせた。

「その網には、私の魔力を練り込んであるわ。簡単には逃れられないわよ」

 捕えられた三人を見下ろしながら、ほむらは得意気に言い放った。

「……くそぉ。こんな筈じゃなかったのに」

 かずみは、余程悔しいのか、顔を真っ赤にしてほむらを睨む。

「それに、今の状況なら……貴女達をこの場で頃す事さえも可能。言われなくても解るでしょ?」

「……」

 ほむらの言葉に対し、カオルは何も答えない。

200: 2013/04/26(金) 21:24:53.59 ID:8E71IuRE0

「……解ったわ。私達も手を貸しましょう」

 海香は、そう告げた。

「……海香。本気で言ってるの?」

 カオルは、海香に目を向けた。

「本気よ。貴女の固有魔法は良く解らない。だけど、もしそこに仕掛けてあった物が、花火なんかじゃ無く、兵器だったとしたら……。
 私達は、三人纏めて木っ端微塵だったわ。それに、私達が三人揃ってこの有様。しかも、貴女はまだ本気を出していないんでしょ?」

「……!?」

 海香の一言で、かずみとカオルは言葉を失う。


201: 2013/04/26(金) 21:25:28.09 ID:8E71IuRE0

「あら? そう思う?」

 ほむらは、すっとぼけた様に答えた。

「そうよ……私達の動きを、簡単に見極めてたわ。
 はっきり言って、貴女に勝とうとすれば、魔力切れを覚悟して戦わなくてはいけない。そこまでする気は、私達には無いわ。
 貴女……どんな修羅場を潜って来たの? そんな芸当、一朝一夕で身に着くものじゃない……」

「……そうね。嫌になる位に、氏線は潜って来たわ」

 ほむらは、うんざりした様に言った。

 そして、三人に纏わりつく網を引っ張り、拘束から解き放った。


202: 2013/04/26(金) 21:26:09.21 ID:8E71IuRE0

「解放したからって、闇討ちする様な真似はしないでね」

 嫌味っぽく、ほむらはそう言った。

「そうしたいのは山々よ。だけど、簡単に闇討ち出来る様なら、とっくにやってるわ……」

 海香は、冷静を装ってそう答えた。

「ふふ……頼りにしてるわよ。
 それと、見滝原に来るなら、巴マミって魔法少女を訪ねた方が良いわ。私よりは、大分真面な魔法少女だからね。
 では、ごきげんよう……」

 そう告げると同時に、ほむらの姿は一瞬で消え失せていた。


203: 2013/04/26(金) 21:26:38.67 ID:8E71IuRE0

「ちくしょう……」

 落胆した様子で、カオルはうなだれていた。

「……」

 どこか、釈然としないかずみは、無言を貫く。

「……あの子は、今まで見てきた魔法少女と明らかに違う。絶対に超えては行けない一線を、平然と超えているわ……」

 海香は、ポツリと呟いた。

「彼女は、僕が見てきた魔法少女の中でも、極めつけのイレギュラーさ」

 静まり返った資材置き場に、一部始終を見ていたキュウべえが、颯爽と登場した。


204: 2013/04/26(金) 21:27:10.21 ID:8E71IuRE0

「……見てたの?」

 キュウべえをジトッと見ながら、かずみはそう聞いた。

「そうだよ。君達が、如何にして暁美ほむらに立ち会うか、興味があったからさ」

「そんで、感想はどうなのよ?」

 カオルは反射的に聞きただしていた。

「予想通りだね。
 やはり、君達でも暁美ほむらに従わざるおえなくなった」

「……うるさい」

 不服なのか、不機嫌全開でかずみは呟いた。


205: 2013/04/26(金) 21:28:09.22 ID:8E71IuRE0

「事実さ。
 特に、海香とカオルは、正直気が付いているだろう。認めたくはないだろうけどね」

「……」

 キュウべえの言葉は、図星だったのか。反論が出てこない。

「君達二人と、同じタイプの魔法少女。そうだろう?」

「……解ってた。正直解ってたよ。あの子は、下手な魔女を倒すより、余程厄介なタイプだ……。
 どんなに隠そうとしても、同種の匂いは隠せないね。その先にある道が、茨でも獣道でも突き進むタイプ。例え道の果てが地獄でもね……」

 カオルは、そう答えた。


206: 2013/04/26(金) 21:28:44.39 ID:8E71IuRE0

「確かに、あの子は強いし、頭も切れる。彼女の実力なら、例え一人でも、相当なレベルまで行けるでしょうね……。

 だけど、キレすぎるナイフは嫌われる。一人でどれ程強くなっても限界は有る。そうなった時、あの子を待っているのは……呆気ない幕切れ。

 間違いなく、あの子は破滅型の魔法少女よ……」

 海香は、ほむらの事をそう評した。

「……カンナや、ユウリ。双樹姉妹……。
 彼女達の破滅的な行動も、全てを知れば理解も納得も出来た。あの子の起こした行動も、意味が有ってやってるのかな……?」

 かずみは、キュウべえに聞いた。

「少なからず、無意味なアクションは取っては居ないだろうね」

 キュウべえの答えは、淡々としていた。それを聞き入れた、プレイアデスの残党は、何を思うのだろうか。


207: 2013/04/26(金) 21:29:14.09 ID:8E71IuRE0

 同じ日。風見野町。

「ゆま……何で魔法少女になんかなった?」

「だって……キョーコが……」

「だってじゃねぇ!! 言っただろうが!! 魔法少女になんかなるなって!!」

「……だって……だって……。オリコがゆったもん!! ゆったんだもん!!
 ゆまは……役立たずじゃない!! 役立たずなんかじゃない!!

「…………」


208: 2013/04/26(金) 21:29:40.96 ID:8E71IuRE0

「キョーコのいう事、何でも聞く!! 好き嫌いも言わない!!

 だから……だから!!

 ゆまを一人にしないで……」

「……バカだなぁ」

「……ぐずっ……ひっく」

「他人の為に魔法少女になったって……何にもなりゃしないのに」

「キョーコ? 泣いてるの……?」

「バーカ……泣いてなんかないよ」

 そう呟くと、ポニーテールの少女は、小さな少女を抱き寄せた。

(オリコ……。何処の誰かは知らねーけど……この落とし前は、必ず着けてやる!!)

 固い決意を胸に秘めて。


209: 2013/04/26(金) 21:30:08.55 ID:8E71IuRE0

 見滝原、某所。

「……第一段階は、完了ね。次は、貴女の出番よ……キリカ」

「織莉子……。君の頼みを、私が断る訳が無いさ。ちょっと、汚れる位何て、無限の中の有限に過ぎないからね……」

 二人の魔法少女は、笑みを浮かべながら、紅茶に口を付けていた。


227: 2013/04/27(土) 21:05:51.83 ID:8cRyPZpH0
6.籠絡

 昨日あすなろ市の魔法少女三人に、無事交渉が成立したほむら。
 交渉と言える内容かは微妙だが、一応協力を仰ぐことは出来た。

 今度は、風見野の魔法少女にも協力を要請すべく、街に訪れていた。

(……過去の統計上、ゲームセンターに居る確率は高いわね)

 午前中から、制服姿でブラブラしているほむらは、端から見れば家出少女同然。もっとも、本人が気にする訳が無い。

(居たわ……。だけど、あの小さな子は……)

 そして、ゲームセンターでダンスゲームに興じる一人の少女に声をかけた。


228: 2013/04/27(土) 21:06:37.28 ID:8cRyPZpH0

「……貴女が、佐倉杏子ね?」

「あんた……ちょっと……待ってろ。すぐに……終わるから」

 ほむらに声をかけられが、その少女はダンスゲームを止める気配が無い。

「……そう。
 良い話が有るんだけど、乗らない? もちろん、魔法少女に絡む事でね。
 折角だから、そこのハンバーガーでも奢るわよ?」

 その一言で、少女はピタリと動きを止めた。

「へぇ……。見ず知らずの人間に奢るとは、気前が良いな。新手のナンパか? ドッキリか?」

 振り返りながら、佐倉杏子はニヤリと笑みを見せていた。

「違うわ、取引よ。
 それに、そこの子も連れなんでしょ? 一緒に食べない?」

「ゆまも良いの?」

 ほむらの言葉に、ゆまと名乗った少女は、目をパチパチとさせる。

「ええ。勿論いいわよ」

 ほむらは、ゆまに向けて微笑んだ。


229: 2013/04/27(土) 21:07:31.25 ID:8cRyPZpH0

 窓際に席を取っているほむら。杏子とゆまは、反対側の座席に座った。

 ほむらのトレーはコーヒー一杯だけだが、杏子のトレーにはビッグサイズのハンバーガーが、五つも鎮座している。なお、ゆまはお子様向けのおもちゃ付きセットである。

「さて。改めて、自己紹介するわ。
 私の名前は、暁美ほむら。見滝原の魔法少女よ」

「へぇ……アタシは、佐倉杏子。まぁ、さっき名指しされたけど、一応な。んで、コイツが……」

「千歳ゆまだよ」

「そう。
 じゃあ、本題に入るわね。ワルプルギスの夜……聞いた事有るわよね?」

 ほむらの言葉で、杏子の顔が一気に強張った。

「わるぷるぎす……?」

 ゆまは、首を傾げたままほむらを見ているが、構わず口を動かす。


230: 2013/04/27(土) 21:08:34.88 ID:8cRyPZpH0

「今から二週間後に、見滝原にそいつが現れるわ。ワルプルギスの夜を討伐する為に、協力してほしいのよ」

「ちょっと待て……。色々聞きたい事が山ほど出来たぞ」

 杏子は、鋭い目付きでほむらを見ている。

「何かしら?」

「まず、その情報を何処で手に入れた?
 それに、見滝原には巴マミが居るだろうに、何でわざわざアタシの所にまで話を持ってきた?」

「情報源は秘密よ。先に手の内を見せる程、馬鹿じゃないわ。
 それに、巴マミの強さは確かだけど……それでワルプルギスに勝てると思う? 伝説にまで名を残す魔女に、たかが一介の魔法少女で勝てる保証は無いでしょう。

 一応、彼女の協力も得ているわ。だけど、私は貴女に仲間加わって欲しいと言う気は、全く無いの。ワルプルギスを討伐する為の、戦力が必要なのよ」

「……つまり、その時だけのチームを組むって事か」


231: 2013/04/27(土) 21:09:18.01 ID:8cRyPZpH0

「そうよ。勿論、ただとは言わないわ……」

 そう言い放ち、ほむらはカバンの中から、分厚くなった封筒を杏子に差し出した。

「……何だこれ?」

「現金で百万円入ってるわ。伝説の魔女を相手にするのなら、これ位の報酬は必要でしょ」

 杏子は、目を白黒させていた。

「お前……こんな大金、どうやって手に入れた?」

「どこかの資産家の家から、拝借してきたわ。
 警察の事なら大丈夫よ。これは、脱税して手に入れたお金みたいだから、盗んだ所で警察に届けられる訳がないの」

 得意げに言い張ったほむらを見て、杏子は呆然としていた。ゆまは、何が何だかわからず、キョトンとしたままだ。


232: 2013/04/27(土) 21:10:05.83 ID:8cRyPZpH0

「お前……滅茶苦茶だな」

「別に、何と言われても構わないわ。どうせ組むのなら、ドライな関係の方が揉めなくて済みそうでしょ。
 私は正義の味方でも聖者でも無いわ。自分の目的の為に行動を取る、魔法少女よ」

 ほむらの言葉を聞き、杏子はニヤリと笑みを見せた。

「アンタさ……この金だけ持って、アタシ達が直前になって逃げるとか考えてないのか?」

「勿論、考えてるわ。だけど、私の方の実害はゼロよ」

「……おもしれー奴だな。巴マミと正反対じゃねーか」

 そう言うと、杏子はハンバーガーを一口かじった。


233: 2013/04/27(土) 21:11:14.88 ID:8cRyPZpH0

「口先の言葉よりも、利益が有る方が当然良いでしょ。
 ハイリスクを伴う事には、ハイリターンじゃ無ければ、誰もやりはしない。そうでしょ?」

 バーガーをゴクンと飲み込んでから、杏子はケチャップの付いた口元を、ニヤッと笑わせた。

「……その通りだ。アンタの事、気に入ったよ」

「交渉は成立ね」

「ああ。アタシも、その話乗らせて貰うよ。だが……コイツは受け取れねぇわ」

 杏子は、封筒をほむらに返した。

「あら? 必要ないのかしら?」

「いや……全てが終わった時に、改めて貰う。
 それに、グリーフシードも、何個か追加してくれ。それだったら、アタシはアンタの手でも足にでもなってやらぁ。
 安心しろ。そう簡単に逃げ出す様な、ヘタレじゃねーよ」

 自信を漲らせて、杏子は不敵に微笑した。


234: 2013/04/27(土) 21:11:55.40 ID:8cRyPZpH0

「フフ……。ここで、報酬をつり上げるつもりね。
 良いわよ……条件に見合うだけの報酬は用意するわ」

 ほむらも、杏子に同調する様に、口元をニヤリとさせた。

「お近づきの記だ……食うかい?」

 そう言って、杏子はハンバーガーを一つ差し出した。

「……今は食欲が無いわ。第一、それは元々私が奢った物よ。その変わりに、今度何か奢ってもらうわ」

 ほむらはそう言って、やんわりと断った。

「……善処する。
 それとよ。協力する変わりに、情報が欲しい」

 杏子の表情が、不意に険しい物に変わった。

235: 2013/04/27(土) 21:12:45.15 ID:8cRyPZpH0

「何かしら?」

「白い魔法少女の、オリコって奴の事を探してる。何か知ってるか?」

「…………知らないわ」

 ほむらは、険しい表情でそう言った。

「そうか。もし、そいつの事で、何か情報があったら教えて欲しいんだ」

「解ったわ」

 ほむらは、そう言って席を立った。

「もう行くのか?」

 杏子に言われて、ほむらは縦方向に頷く。

「ええ。まだ、やる事は有るのよ」

「おねーちゃん、ハンバーガーありがとーね」

 ゆまは、笑顔で手を振った。

「ええ。ごきげんよう」

 そして、ほむらはバーガーショップを後にした。


236: 2013/04/27(土) 21:13:13.37 ID:8cRyPZpH0

「……ワルプルギス、か」

 杏子は、少し憂鬱な面持ちになっていた。

「キョーコ? 食べないの?」

「いや。すぐに食べるさ……」

 そう答えて、杏子は二つ目のハンバーガーに手を付けた。


237: 2013/04/27(土) 21:14:04.35 ID:8cRyPZpH0

 その日の夕方。

 ほむらとキュウべえは、電波塔の上から街を見下ろしている。

「ねぇ、キュウべえ。美国織莉子と呉キリカと言う少女と契約したの?」

「ああ。美国織莉子は先日。呉キリカも、二週間前程にね」

「そう……。もし、今から私が行動を起こさなければ、貴女は後悔したかも知れないわね」

 ほむらの言葉を聞に、キュウべえは疑問を抱く。


238: 2013/04/27(土) 21:14:38.72 ID:8cRyPZpH0

「どういう事かな? 過去の時間軸で、出会った事が有るのかい?」

「そうよ。
 恐らく彼女達は、鹿目まどかを殺そうとしてるわ。しかも、他の魔法少女も含めてね」

「それは、実に都合が悪いね。魔法少女が魔女になる前に殺されるのは、僕には不利益だよ」

「……だから、今から彼女達をこっちに引き込むわ」

「そんな事、出来るのかい?」

「まぁ、見てなさい。殺せばゼロだけど、生きてれば駒にはなる。
 要するに、こっちに刃向わない様にすれば良いのよ……」

 ほむらは、不気味な微笑みを見せていた。


239: 2013/04/27(土) 21:15:07.23 ID:8cRyPZpH0

 廃墟の様に、荒れた豪邸。

 幽霊でも出てきそうな雰囲気だが、そんな者は居ない。ただ、変わりに魔法少女が住居している。

「ドロレス……ストロベリーカップ……銀世界……プリンセスダイアナ……えーっと。あれは何だっけかな?」

 庭に植えられた薔薇を眺める、黒髪の魔法少女。呉キリカ。

「薔薇が好きなのね。もっと、庭に植えましょうか? キリカ」

 紅茶を淹れながら、キリカを見ながら、微笑む魔法少女。美国織莉子。

「……あれ? 織莉子は、薔薇が好きなんじゃないの?」

「お父様が好きだったのよ」

 織莉子が答えると、キリカは落胆した様に溜息を吐き出した。


240: 2013/04/27(土) 21:15:37.87 ID:8cRyPZpH0

「じゃあ、この情報は記憶から消しておくよ」

「折角覚えたのに? 勿体ないわね……」

「イヤイヤ……勿体ないのは、私の頭の容量だよ。私には君以外の情報は必要ないのさ」

 織莉子は、ふぅと息を吐き出した。

「キリカ……それでは貴女は無知な子供になってしまうわよ?」

 そう言われ、キリカはピクリと反応を見せた。

「君は何時も私を子ども扱いするんだ。
 たった121日と三時間年上だけでさ。だったら“君のお父様の好きな物が知りたいと”私は答えるべきだったの?」

「それは困るわ。
 私はお父様を尊敬しているのに、貴女がお父様に興味を持ったら……お父様に嫉妬してしまうかもしれないわ」

「なんだい、矛盾してるなぁ。織莉子もワガママな子供なんじゃない?」

 口を尖らせながらキリカが言うと、織莉子の眼つきは鋭くなっていた。


241: 2013/04/27(土) 21:16:25.26 ID:8cRyPZpH0

「えぇ~……やだやだ。怒らないでよ!!
 君に嫌われてしまったら、私は腐って果てるよ!!」

 困惑しながら弁明するキリカだが、織莉子が睨んでいたのはキリカでは無い。

「……キリカ。そのまま動かないで」

 織莉子は静かにそう告げた。

 その瞬間、ズドンと剣が地面に突き立っていた。
 そして、中庭を侵食していく異空間。織莉子が睨んでいたのは、それだった。

「ああ、前から思っていたんだよね。この家に有ると良いなって」

 能天気に笑いながら、鎧を模した魔女を見つめるキリカ。

「ブルジョワは、鎧を置くのがしきたりなんでしょ?」

「それは初耳だわ……」

 キリカの質問に、織莉子は苦笑いを見せる。

242: 2013/04/27(土) 21:17:44.32 ID:8cRyPZpH0

 魔女を目の当たりにしても、二人の魔法少女に動揺は無い。

「キリカ。紅茶に砂糖は何個入れる?」

 それどころか、織莉子は変身もしないで、紅茶を淹れ始める。

「三個!! あと、ジャムも三つ!!」

 キリカは、変身を完了させながらそう答える。そして、地面から高く飛び立って、魔女に斬りにかかる。

「丸でシロップを飲んでいるみたいね」

 と皮肉を言いながらも、カップに注いだ紅茶には、言われた通りの数の砂糖とジャムが入れられる。

「またそうやって君は私を子ども扱いするんだ!!」

 怒ってるのか不満なのか。叫びながら、キリカは魔女の体を斬り付けまくる。

「織莉子なんか……織莉子なんか……」

「嫌い?」

「……だいっ好き!!」

 そう宣言し、キリカの爪は、魔女を一刀両断した。
 止めの一撃で、魔女の息の根は止まっていた。コ口リと、中庭にグリーフシードが転がり落ちる。

243: 2013/04/27(土) 21:18:26.12 ID:8cRyPZpH0

 地面に無事に着地すると、キリカと織莉子はティータイムの続きを楽しむつもりだった。

「そこの魔法少女!!」

 今度の襲撃は、魔女では無い。しっかりと、声を張り上げていた。

「……!?」

「何だ!?」

 織莉子とキリカは、声の方向に体を向けたが、そこには誰も居ない。

「……嘘!?」

「何がどうなって!?」

 拳銃が、二人の頭に突きつけられていた。火薬の匂いが、鼻の奥を刺激する。


244: 2013/04/27(土) 21:20:17.02 ID:8cRyPZpH0

「本来なら、二人ともこれでくたばってた訳だけど……。
 魔法少女を狩ろうとしている魔法少女が、他の魔法少女に狩られてたら、世話が無いわよね?」

 拳銃を構えた魔法少女は、冷たい声でそう告げた。

「……貴女、何故それを!?」

 織莉子は動揺を隠せない。

「……お前、何のつもりだ!!」

 キリカは鼻息を荒くして、捲し立てた。

「私の名前は、暁美ほむら。貴女達の同業者よ。それと、さっきのグリーフシードは貴女達に上げるわ」

「……随分と物騒なプレゼントですね。魔法少女ともあろう人が、魔女を使って襲撃するなんて……」

 織莉子は皮肉を込めてそう答える。

「それは当然よ。
 鹿目まどかの命を狙ってる以上、容赦しないわ!!」


245: 2013/04/27(土) 21:21:07.64 ID:8cRyPZpH0

「……!?
 私とキリカ以外に、知っている人は居ないのに!?」

 織莉子の顔から、血の気が引いていく。

「何処で聞いていたんだ!! 私と織莉子しか、知らない筈なのに……。そもそも、私達をどうするつもりだ!!」

 キリカは顔を真っ赤にしながら、言葉を荒げていた。

「どうするって言われてもね……。
 もし、鹿目まどかを頃す事を諦めないのなら、この場で氏体にして魔女の餌にでもなってもらうわ。
 鹿目まどかの事を諦めるのなら、貴女達の命の無事は保障する」

 ほむらは、淡々と言った。


246: 2013/04/27(土) 21:22:21.08 ID:8cRyPZpH0

「ふざけるな!! あの娘を契約させたら、この世界は破滅してしまうのよ!!
 そうなってしまう前にあの娘を頃すしか、世界を救う事は出来ないのよ!!」

 キツイ言葉を吐き出して、織莉子は激昂していく。

「だったら、契約させなければ良い話よ。キュウべえと話は付けているのよ。
 少なくとも、ワルプルギスの夜が襲撃する日までは、契約を迫らない様に交渉は成立しているわ……」

「……それじゃ、何の意味も無いわ!! 貴女は、鹿目まどかを護ろうとしている!!
 それが、どれ程愚かな事か理解しているの!?」

「十分に理解しているわ。
 だけどね、世界の人口全ての命と、鹿目まどか一人の命を天秤にかけるなら……私はまどかの命を取るわ!!」

 ほむらは、大胆不敵な啖呵を切った。


247: 2013/04/27(土) 21:23:23.39 ID:8cRyPZpH0

「狂ってるわ……」

 織莉子さえもたじろいでしまう。

「話にならないね。君は……織莉子の敵かい?」

 キリカは静かに呟く。

「どうかしら? 交渉次第ね。そもそも、頭に銃を突き付けているのに、そんなに強気で大丈夫?」

 ほむらの挑発めいた発言に、キリカの怒りは沸点を超えていく。

「関係無い!! 織莉子の敵は私の敵だ!!
 君を頃す事は、無限の中の有限の過ぎない!! 今すぐ氏んで償え!!」

 ブチ切れたキリカは、思いっきり爪を振り回す。

(……さてと)

 ほむらの頭の中は、意外と冷静だった。むしろ、この展開は予想通りだったのだろう。


248: 2013/04/27(土) 21:23:59.53 ID:8cRyPZpH0

 振り回した爪は、ブン、と空を切り裂いたに過ぎなかった。

「あらら……随分と短気ね」

 ニヤニヤと余裕を見せるほむらは、一瞬で十メートルほど後ろに下がっていた。

(……一瞬であそこまで後ろに!? この女……相当な実力の様ね!!)

 織莉子も変身を完了させた。内心では、相当に警戒している様で、ほむらから目を離そうとしない。

「うるさい!! 氏ね!!」

 キリカは鉤爪を振り上げて、ほむらに向かい一直線に突っ込んで行く。

「キリカ!! 援護するわ!!」

 そして、織莉子も浮遊する水晶玉を召喚し、ほむらに狙いを定めた。


249: 2013/04/27(土) 21:24:40.47 ID:8cRyPZpH0

――シュン。

 またしても、ほむらの姿は消えていた。

「……プレゼント・フォー・ユー」

 織莉子の後ろに現れた、ほむらはそう呟いた。

 その瞬間、キリカと織莉子は口の中に、何かが入っている事に気が付いた。

「……!?」

 一瞬にして、二人の顔は真っ赤に染まり、額からは脂汗がにじみ出ていた。

「あ……あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

「か……辛ぁぁぃ!!」

 二人して、口を押えてもがき苦しむ。


250: 2013/04/27(土) 21:25:21.31 ID:8cRyPZpH0

「今、貴女達の口の中には、ハバネロを五個づつ突っ込んであるわ。思いっきり味わって頂戴」

 ほむらは、ニヤニヤしながら解説した。
 非常にふざけた攻撃なのだが、甘党の二人に取っては地獄の苦しみに近いものだ。

「ふ……ふ……ふじゃけりゅな!!」

 捲し立てるキリカだが、舌が回らず目からは涙が零れている。

「こ……これが貴女の戦い方と言うのですか!?」

 織莉子も、涙目で抗議する。更に水晶玉を撃ち出すが、集中力が出ないので、狙いが定まらない。

「そうよ。意外と効果あるみたいね」

 易々と避けながら、ほむらは得意気に言い張った。

「くそぅ!!」

 キリカは再び爪で斬りかかる。


251: 2013/04/27(土) 21:26:41.14 ID:8cRyPZpH0

――シュン。

 しかし、瞬時にほむらは背後に回り込む。

「貴女達に勝ち目は無いわ。大人しく降参して、私の下に付きなさい」

 その言葉は、打って変った様に冷たい声だった。殺気にも似た空気が、ほむらの周囲から放たれていた。

「……何が目的なのですか!? 鹿目まどかを守る事なの!?」

 織莉子の口調は、明らかに焦っている。

「そうよ。鹿目まどかを契約させない事と、ワルプルギスの夜を仕留める事。
 その為にも、貴女達の力が必要なの。勿論、拒否権は与えないわ。従えないのなら、ここで頃す……。
 ちょっと、予知してみなさいよ。多分、自分達の氏体の姿が見えるでしょうけどね!!」

 ほむらは、織莉子の固有魔法まで言い当てて見せた。


252: 2013/04/27(土) 21:27:59.15 ID:8cRyPZpH0

「……」

 織莉子もキリカも、何も言えないで黙ってしまった。

(……この女、本気ね)

 背筋に冷たい空気を、織莉子は感じてしまう。
 何よりも、僅かな時間の間に見た未来には、頭の吹き飛んだキリカと、体中に銃弾を受けた自分の姿が写っていた。

(こうなったら……)

 織莉子の目付きは、鋭く尖った。

(こいつは……危険すぎる!!)

 キリカはほむらの持つ空気に、完全に呑まれていた。
 しかし、織莉子の冷静な態度を横目で見て、あえて口は開かない。

253: 2013/04/27(土) 21:28:37.99 ID:8cRyPZpH0

「さぁ……どっち?
 ここで氏ぬか、私に従うか……選びなさい!!」

 ほむらは、二丁の拳銃の照準を、織莉子とキリカに併せていた。

「……解ったわ。貴女の言う事に、協力しましょう」

 織莉子は即座にそう言った。

「織莉子……」

 キリカは、不安げな様子で織莉子を見つめる。

「……解れば、それで良いのよ。頼りにしてるわ……お二人さん」

 ほむらは、構えていた銃をポケットに仕舞う。

「それと……。
 風見野町の佐倉杏子って魔法少女が、貴女達と会いたがってるわ。一度会ってみたらどうかしらね」

 そこまで告げると、ほむらは再び姿を消してしまう。


254: 2013/04/27(土) 21:29:35.19 ID:8cRyPZpH0

「……また消えたわね。奇妙なお人ですこと」

 織莉子は脱力した様にうなだれた。

「でもさ、織莉子。あんな奴の言う事に、本当に従うつもりなのかい?」

 少し不満そうに、キリカは問う。

「表向きは、そうね。
 恐らく、暁美ほむらと正面からぶつかれば、私達の方が遥かに分が悪いでしょう。
 さっきも、その気なら殺せると言うのに、わざわざ唐辛子を使う必要が有るとは思えないわ」

「……つまり、仲間になった振りをしといて、後で仕留める訳だね」

「その通りよ。加えて、暁美ほむらに近づければ、必然と鹿目まどかにも近づける事になるわ……。
 逆にこれは、世界を救うチャンスなのよ」

「やはり、織莉子は天才だね。あの短時間で、そんな機転を利かせるなんて、私には出来ないよ」

 感心しきりのキリカは、表情を明るく変えていた。

「フフ……ありがとう。
 クーデターを起こすなら、突然火を点けてはいけないの。じっくりと、ガスを溜めこんでから、爆発させる……。
 これからが、ガスの元栓を緩めるその時よ……」

 織莉子は、冷たい目付きのまま、口元をニヤッとさせた。


255: 2013/04/27(土) 21:30:38.87 ID:8cRyPZpH0

 自宅に帰ったほむらを出迎えたのは、キュウべえだった。

「案外早かったね。その様子だと、上手く行ったのかい?」

 キュウべえの問いかけに対し、ほむらの首は横に動いた。

「そういう訳でも無いわね。
 彼女達は、確かに仲間になると言ったけれど……後で裏切る可能性は十分に有るわ」

「……そこまで解ってて、あえて見逃すのかい?」

「さっきも言ったでしょう。生きているなら、駒にはなる。
 ただ頃すだけなら、猿でも出来るわ。こっちに刃向わない様にするなら、じっくりと手籠めにする必要が有るのよ」

「その様子なら、既に次の一手は考えている様だね」

「ええ。佐倉杏子と接触させる様に仕向けたわ」

「……彼女は、利己的な好戦主義。あまり、説得に向いた人物とは思えないけれど?」

「見ていれば解るわ。彼女の本質は、もっと別の物になるのよ」

 ほむらは、無表情で告げるのだった。


256: 2013/04/27(土) 21:32:46.29 ID:8cRyPZpH0
本日はここまで。

良いお知らせと悪いお知らせを一つづつ。

現在の書き溜め進行状況は9割5分。完結は出来ます。

悪いお知らせ。ここで、まだ半分。

258: 2013/04/27(土) 21:37:24.55 ID:JsjqIz71o

引用: ほむら「手段は択ばないわ」