266: 2013/04/28(日) 00:51:37.41 ID:qvnF4G6N0
魔法少女まどか☆マギカ【新装完全版】 1巻 (まんがタイムKRコミックス)
267: 2013/04/28(日) 00:52:03.31 ID:qvnF4G6N0
7.本音

 見滝原市とあすなろ市の中間に位置する風見野町。

 織莉子とキリカは、佐倉杏子を探すべく風見野に訪れていた。

「……さて、どうやってその佐倉杏子って魔法少女を探すんだい?」

 キリカは辺りを見渡しながら、織莉子に問う。

「とりあえず、魔女が現れるまで待ちましょう。恐らく、結界が出来上がれば、必然と鉢合わせる事になるでしょう」

 織莉子は、そう読んでいた。


268: 2013/04/28(日) 00:52:34.36 ID:qvnF4G6N0

 そのまま時刻は経過していく。結局、辺りが暗くなるまで徘徊したが、魔女の反応は無い。

「こういう時に限って、中々出てこないんだよね……」

 落胆気味に、キリカはぼやいた。

「仕方ないわ。時間も遅いから、そこのお店で晩御飯でも食べましょうか」

 そう言いながら、織莉子は目の前のうどんチェーン店を指差した。

「うどんかぁ……。うどんより、甘い物の方が……」

 キリカがそうリクエストした瞬間、運悪くソウルジェムが結界の反応を示した。

「……マジかぁ」

「タイミングが悪いわね……」

 がっくりと肩を落とすキリカと織莉子。しかし、気を取り直して、結界の方角へと駆け出した。

269: 2013/04/28(日) 00:53:11.95 ID:qvnF4G6N0

 人気の無い路地裏には、結界が出来上がっていた。

「不安定な結界だね」

 少々ご機嫌斜めのキリカは、武器をかざして何時でも戦闘に移れる姿勢だ。

「……キリカ。あの使い魔を斬りましょう」

 織莉子は、真剣な目つきで指示を出した。

「任せて……」

 キリカは、織莉子のマジな目つきに、ピンと来るものが有った。

(……多分、見えたんだろうね)

 そして、キリカは使い魔に向かい、地面を蹴った。

 標的向けて振るった鉤爪は、ガキンと弾き返された。

「……なるほどね」

 キリカの口元が、ニヤリと変化した。

270: 2013/04/28(日) 00:54:07.14 ID:qvnF4G6N0

「ちょっとちょっとー……アンタら何してんの?
 あれ、使い魔だよ。グリーフシード持ってる訳無いじゃん」

 赤い長髪を、ポニーテールに纏めた魔法少女が、キリカの前に立ちはだかる。

「そんな事は、百も承知さ。
 私は使い魔を狩りに来たんじゃないんでね……」

 キリカは、その魔法少女を鋭く睨みつけた。

「……アンタら、よそ者か。だったら何の用事だ? 縄張りでも奪いに来たのか?」

 風見野の魔法少女の眼つきも、鋭く研ぎ澄まされた。

「暁美ほむらって魔法少女に聞きました。佐倉杏子という魔法少女が、私達に用事があるとね……」

 後ろに立っていた織莉子は、そう告げた。

「だったら、その佐倉杏子はアタシの事さ。
 すると、アンタらのどっちかが、オリコって魔法少女か?」

 杏子の表情は、一気に険しくなり、あからさまな嫌悪感を示していた。

「如何にも……。私が、美国織莉子です」

 杏子は織莉子を睨みつけた。


271: 2013/04/28(日) 00:54:33.24 ID:qvnF4G6N0

「よそ見してる場合かな?」

 今度は、キリカが鉤爪を振り上げた。

「ちぃ!!」

 バク転で間合いを広げて、再度槍を構え直した杏子。

「どうやら、そいつを問い詰める前に、アンタを黙らせなきゃいけねーな」

「……アンタじゃない。私は、呉キリカ。織莉子には、指一本触れさせない!!」

 キリカは、間合いを詰めるべく、杏子に向かい特攻を仕掛ける。

(……速ぇ!?)

 ガキン、と一発目の鉤爪は防いだ。しかし、二発目も迫りくる。


272: 2013/04/28(日) 00:55:14.35 ID:qvnF4G6N0

「……散りなぁ!!」

(……バカが!!)

 爪を大きく振り被ったキリカだったが、腹部にズドン、と槍の柄が深く突き刺さった。

「ぐぅ……」

 一瞬動きが止まったキリカに、杏子は更に追撃の手を加える。

「……うらぁ!!」

 ズバッと、胴体を斬りつけ、更にキリカの体を蹴とばした。壁にまで弾き飛ばされ、キリカは地面にへたり込んでしまう。

「どーしたよ? その程度か?」

「抜かせ……」

 そう言って、再び立ち上がるキリカ。しかし、息は乱れて、流血は夥しい。


273: 2013/04/28(日) 00:55:44.48 ID:qvnF4G6N0

「……キリカ、下がりなさい。私が直接、お相手しましょう」

 織莉子は足を一歩前に踏み出した。

「最初っから、そーしやがれ。アタシの用が有るのは、アンタだからよ」

 杏子は織莉子に向けて、槍を構えた。

「……くたばりなぁ!!」

 織莉子に向け、真っ直ぐに突っ込んで行く杏子。

 対照的に、織莉子は微動だにしない。

(……これは、牽制。本命は……あの槍は多節根になる事ね)

 槍を右に回避すると、予知の通りに槍は体の周囲に絡みつこうとしていた。


274: 2013/04/28(日) 00:56:15.62 ID:qvnF4G6N0

「甘いですね」

 織莉子は、左手を杏子の横っ面に突き出した。

「……!?」

「飛びなさい」

 ドン、と杏子は横っ面から弾き飛ばされた。

(……いってぇ……アイツ、何しやがった?)

 杏子は再び立ち上がるが、想像以上にダメージは大きく、足元はふら付く。

「……ジャグリングしてるんじゃ有りませんよ?」

 余裕を見せる織莉子の周囲には、四つの水晶玉が浮遊していた。

(……あの妙な球が、武器って訳か)

 杏子は、再度槍を構えた。


275: 2013/04/28(日) 00:56:57.70 ID:qvnF4G6N0

「キリカを傷つけた代償は、償っていただきましょう」

 そして、織莉子は四つの水晶玉を、杏子に向けて撃ち放つ。

(……舐めんな!!)

 ドン、と杏子の体に、深々と水晶玉が突き刺さった。

「……!?」

 しかし、杏子は倒れない。気合だけで、織莉子の攻撃を凌いで見せたのだ。

「足元がお留守だな!!」

 しかも織莉子の足元に、多節根化した槍の柄が絡みつかせ、動きも封じ込める。

「……しまった!?」

 織莉子は、水晶玉を召喚しようと試みたが、時既に遅し。


276: 2013/04/28(日) 00:57:35.64 ID:qvnF4G6N0

 バキィ、と織莉子の顔面を思いっきりぶん殴った。思わず倒れ込んだ織莉子の体に、杏子は馬乗りになって胸倉を掴む。

「てめぇ……何のつもりだ!!」

 杏子は、鬼の様な形相で織莉子に問い詰めた。

「……何の事で?」

「とぼけてんじゃねーよ!!
 何で、ゆまを魔法少女になる様に仕向けやがった!!」

「ああ……あのおチビさんの事ですか」

 織莉子は不敵に笑みを見せていた。

「答えろ!! このまま、ぶっ殺されたいのか!!」

 掴んだ胸倉を揺する杏子は、怒りの余り冷静さを失っていた。

「氏ぬのは……貴女ですよ!!」

 織莉子は、そう言い切った。


277: 2013/04/28(日) 00:58:49.63 ID:qvnF4G6N0

(……!?)

 奇妙な気配を感じ、杏子が横に視線を向けた時だった。

 鉤爪を振りかざしたキリカが、既に目の前にまで迫り来ていた。

「それには、及ばないわ」

――カチン。

 鉤爪が斬り裂いたのは、地面だけだった。

「……え?」

 呆気にとられるキリカ。

「どうなってるのですか……?」

 壁際に寝させられている織莉子は、呆然と動けない。

「何が起きやがった……」

 杏子は、道路に立ち尽くすしかなかった。

「……少し、落ち着きなさい」

 ほむらは、髪をかき上げながらそう言った。


278: 2013/04/28(日) 01:00:11.42 ID:qvnF4G6N0

「……暁美ほむら」

 織莉子は、ほむらを睨みつける。しかし、ほむらは気に留める様子は無い。

「おい……何のつもりだ?」

 杏子も、ほむらを睨みつけている。

「言ってたでしょ? 美国織莉子を探していると。見つけたから、貴女と会う様に伝えただけよ」

 ほむらの淡々としていた。


279: 2013/04/28(日) 01:01:42.42 ID:qvnF4G6N0

「……そうかい。だけど、何でこの場にアンタまで現れたんだ?」

 杏子は、何処か不満げだった。無論、織莉子とキリカも同様の様だ。

「そりゃ、貴女達全員は私の協力者なの。下手に揉め事を起こして、氏なれるのは困るのよ」

「……アタシが、こいつらと手を組むのか? 何の冗談だ?」

 杏子は、苛立っていた。

「……私達も同感だね。
 こんな奴と手を組まなくても、ワルプルギスの夜なんて……」

 パン、と銃弾がキリカの頬をかすめた。

「口答えは許さないわ。私が求めているのは、仲間じゃ無くて戦力よ。仲良くしろだなんて、一言も言って無いでしょう。
 だったら、納得のいく様に、話し合いでもしましょうか」

 ほむらは、冷たく言い放った。

(……この女、本気で狂ってるわ)

 織莉子は内心で、毒づいた。

「と、その前に……使いなさい」

 そう言って、ほむらはグリーフシード三つ取り出し、一人づつに投げ渡した。

「……?」

「言ったでしょ。氏なれては困るとね……」

 言われるがまま、三人ともソウルジェムの浄化を始めるのだった。


280: 2013/04/28(日) 01:02:48.87 ID:qvnF4G6N0

 ほむらの提案を受け、一同は人気の無い公園に場所を変えた。その際、ゆまとキュウべえも合流。

 織莉子とキリカ、杏子とゆまが対峙する様に位置を取る。ほむらとキュウべえは、少し離れた位置から、様子を見る格好だ。

「……さて。答えて貰おうか……。
 なんで、ゆまを契約するように仕向けた?」

 真っ先に切りだしたのは杏子だ。

「……私達の世界を救う為ですよ」

 織莉子は、悪びれる様子も無くそう言った。

「何だそりゃ? 英雄気取りのつもりか?」

「ええ。
 あれを……解き放ってはいけない。その為の計画の、第一歩に過ぎないのですよ」

 織莉子の言葉に、杏子の表情は怒りに染まって行く。

「計画の為なら、後の連中はどうでも良いって言いたいのか?」

「……その通りですよ。
 もっとも、そこの狂い切った悪魔のせいで、その計画も頓挫してしまいましたけれどね」

 織莉子は嫌味たっぷりに、ほむらを指差した。


281: 2013/04/28(日) 01:03:54.12 ID:qvnF4G6N0

「大体、あれって何だ? ワルプルギスの夜の事か?」

「違うわ……。
 見滝原にある魔法少女の候補が居る。その少女が、契約した暁には……最悪の魔女が生まれる……。
 世界の崩壊を示しているのよ……」

 織莉子は、顔面を真っ青にしながら、そう言った。目からは涙が溢れ出し、体中はガタガタと震えていた。

「織莉子!!」

 ふら付いた織莉子の体を、キリカが肩で支えた。

「……話がみえねーよ」

 杏子は、織莉子の豹変っぷりに戸惑いを隠せない。

「……ソウルジェムが、どす黒く濁りを溜めきると、グリーフシードが生まれるわ。
 つまり、魔女は魔法少女の慣れ果て……」

 ほむらは、横から言葉を投げる。


282: 2013/04/28(日) 01:04:49.82 ID:qvnF4G6N0

「……!?
 お前……冗談にしては笑えねーぞ?」

「事実よ。私も、貴女達も……ゆくゆくはそうなってしまうかもしれないわね」

 冷徹な言葉に、杏子はほむらに凄まじい剣幕で歩み寄る。そのまま、胸倉を掴んで、ほむらを睨みつけた。

「てめぇ……何様のつもりだ!!
 ただの事情通ですって自慢したいのか!! 何でそんなに得意気に喋ってられるんだよ!!」

「離しなさい……」

 ほむらは、冷たい視線で杏子を睨み返した。

「……!?」

 杏子の地肌に、鳥肌が立つ。

「離せっていってるのよ? 聞こえないの?」

「……!?」

 静かだが、恐ろしく冷たい一言だった。ほむらの言葉に従うしか、杏子は出来なかった。


283: 2013/04/28(日) 01:05:35.68 ID:qvnF4G6N0

(……コイツは)

 杏子は、ほむらの気迫に押し返されていた。無言の圧力は、今まで戦ってきたあらゆる魔女よりも、恐ろしい気配を持ち合わせていた。

「……少し頭を冷やしなさい。
 魔法少女が魔女になる運命は、覆せない。でもね……やり方によっては、有意義になるのよ」

「有意義だと!?」

「そう。
 魔法少女が魔女になる時、宇宙の寿命を延ばすエネルギーが生まれる。それが、キュウべえが魔法少女を生み出す理由よ」

「……」

「魔法少女が自分自身に限界を感じてしまえば、魔女になる事を避けられない。
 だとすれば……知り合いの魔法少女に仕留めて貰えば良いんじゃない?
 そうすれば、少なくとも他の魔法少女は延命できるし、キュウべえにも利益は有るわ」

 杏子は、ほむらの胸倉を、再び掴み取った。

284: 2013/04/28(日) 01:06:29.01 ID:qvnF4G6N0

「……お前は、何のつもりだ? アイツらの手先か?
 魔女になる事まで、受け入れろだと? ふざけた事抜かすのも、大概にしやがれ!!」

「じゃあ……他に方法が有るの?
 魔女にならない為の方法でも知ってるの? 魔女を魔法少女に戻す方法でも知ってるの? 知らないでしょう?

 拒絶したいのは、魔法少女なら皆同じでしょ!!

 グリーフシードが無ければ、私達は一年も生きては行けない。だったら、妥協して延命出来る様にするしかないんじゃないの?

 感情に任せて理想論を語るだけなら、馬鹿でも出来るわ。今できる範囲で、何かをすれば良いんじゃないの?」

「…………」

「先の運命ばかり見てて、今出来る事を見失っては、何の意味も無いわ。
 もし、私が魔女になったら、遠慮なく頃してくれて構わないわ。
 少なくとも、巴マミとあすなろ市のプレイアデス聖団の魔法少女達には、それで話を付けたのよ」

 ほむらの口調は、少しだけ落ち着きを取り戻していた。


285: 2013/04/28(日) 01:07:02.80 ID:qvnF4G6N0

「……」

 杏子は何も答えられない。それは、キリカと織莉子も同じだった。

 そして、これまで沈黙を続けていた、ゆまは静かに口を開いた。

「ねぇ……キュウべえ?
 ゆまたちは、いつかは魔女になっちゃうの?」

「そうだよ。いつかはね」

「それって、今すぐにでも魔女になるの?」

「ソウルジェムが濁らなければ、魔女にはならないよ。常に穢れを取り除けば、魔法少女のままさ」

「そっか……。だったら……」

――ゆまの“いつか”は“今”じゃないよ。

 ゆまははっきりと言った。


286: 2013/04/28(日) 01:07:56.66 ID:qvnF4G6N0

「……フフ。貴女達よりも、あの子の方が強いかもしれないわね」

 ほむらは、笑みを浮かべていた。

「……ち。らしくねーわ」

 杏子の表情は、吹っ切れた様にさっぱりとしていた。

「決心がついた様ね。私に協力してくれるかしら?」

 ほむらは、さっきまでは打って変った様に、表情を明るくしていた。

「ああ。アタシの“いつか”も“今”じゃねーよ」

 そう言って、杏子はニヤリと笑みを見せた。


287: 2013/04/28(日) 01:08:46.89 ID:qvnF4G6N0

 そして、ほむらが視線を、織莉子とキリカに向ける。

「……貴女達は、どうするのかしら?
 私に近づいた振りをして、後からまどかを狙う何て目論見は読めているのよ。
 それだったら、最初から私と一緒に鹿目まどかを契約させない様に、手段を取る事だって出来るんじゃない?」

 ほむらの問いに、織莉子は意を決して口を開く。

「……良いでしょう。貴女の覚悟は、解りました。
 私達は、鹿目まどかに手は出しません。約束します。

 しかし……万が一にも、鹿目まどかが契約する事になれば……その時は、貴女の思い通りには動きません」

 織莉子は凛とした表情で、ほむらを見つめる。

「私の意志は、織莉子に一存している。
 織莉子の意見は、私の意見も同じさ」

 キリカも、決心が固まっていた。


288: 2013/04/28(日) 01:09:30.50 ID:qvnF4G6N0

「……ふふ、当てにしてるわよ。また、何かあれば連絡するわ。
 では、ごきげんよう」

 そう言い残し、ほむらは公園から立ち去った。

 残された四人の魔法少女を眺め、ここまで沈黙していたキュウべえが、満を持して言葉を出した。

「君達も、暁美ほむらに着くんだね。もっとも、それは僕自身にも言える事だけどね」

 そう漏らしたキュウべえの喉元に、杏子は槍を突きつける。

「……仮に、お前を殺せばどうなる?」

「意味は無いよ。僕は一個体に過ぎないさ。
 一つの携帯電話を破壊しても、他の携帯電話に影響は無い。それと同じ理屈さ。すぐに別の個体が現れる」

「……ちぃ。無意味って事か」

 杏子は吐き捨てながら、槍を仕舞う。


289: 2013/04/28(日) 01:10:08.98 ID:qvnF4G6N0

「それと、もう一つ付け加えておくよ。
 君達は僕を信用出来ないと思っているだろう。だが、利用はしようとしている。それ位は、僕にも解る」

「何が言いたい?」

「だけど、それは暁美ほむらでしか出来ない芸当だから、君達は何もしない方が無難だよ。
 彼女以外の魔法少女を生み出したのは、この僕さ。君達のデータは、僕達が管理している以上、どんな手段に出るかは簡単に解る。
 君達は、時が来るまで、暁美ほむらを傍観しておく事をお勧めする」

 キュウべえはそう忠告をした。

「……どう言う意味だ?」

 杏子は、表情を苦くしながらそう問う。

「後々、本人から聞けるさ。
 彼女は、とびっきりのイレギュラー。君達の理解を超えている存在だからね」

 キュウべえはそう告げて、その場から消え失せた。


290: 2013/04/28(日) 01:11:01.87 ID:qvnF4G6N0

「……意味がわかんねぇ」

 杏子はポツリと言葉を溢す。

「……ただ、彼女は私達の理解を明らかに超えているのは、確かなのでしょうね」

 そう呟いた織莉子は、ふぅと溜息を吐き出した。

「何でも、構わないさ。私は、私に出来る事をするだけだよ」

 キリカは、はっきりとそう言った。

「キョーコ。ゆまたちにも、世界を救えるのかな?」

 ゆまは、屈託の無い笑顔でそう言った。

「どーだろうな……」

 杏子は笑みを見せて、ゆまを見た。

「……」

 織莉子は無言のままだった。

「……悪かったな。さっきは、ぶん殴ってよ」

 杏子は、少し照れながら謝罪を入れた。

「いえ……問題は有りません。私にも、落ち度は有りますから……」

 そして、織莉子も謝罪を、一応は受け入れた。


291: 2013/04/28(日) 01:12:08.45 ID:qvnF4G6N0

 公園を離れ、帰宅途上のほむら。そこに、キュウべえが追い付いた。

「……暁美ほむら。
 君は、最初の約束を覚えているのかい?」

 キュウべえは、そう言葉を投げる。

「勿論、覚えているわ。何人集まっても、ワルプルギスの夜に挑むのは、私一人よ」

「おかしな事を言うね。
 だったら、何故君は戦力をかき集める様な真似をしているのさ?」

 キュウべえに聞かれ、ほむらはふぅと、溜息を吐き出した。

「じゃあ、ワルプルギスの夜に、私はやられました。だから、後はどうなっても知りません。
 そんな事出来る訳無いでしょう。
 私の集めてるのは、私が氏んだ後の保険みたいな物よ」

「じゃあ、君は何かい?
 自分が負ける前提で、戦おうとしてるのか……」

「あくまで、可能性の問題よ。
 確実に勝てる保証が無い以上、その後の事まで手を打つ必要が有るわ。ワルプルギスの夜を、確実に仕留める為にね」

 ほむらは、ニヤリと笑う。

(……本当に、彼女は何を狙っているんだ?)

 キュウべえは、ほむらに底知れぬ気味悪さを覚えていた。


292: 2013/04/28(日) 01:13:37.51 ID:qvnF4G6N0
今回は、ここまでです。

多分、1スレ以内には収まると思います。

305: 2013/04/28(日) 20:50:17.38 ID:qvnF4G6N0
続きを投下します。

306: 2013/04/28(日) 20:50:52.70 ID:qvnF4G6N0
8.声

 さやかは、トボトボと帰宅途上だった。

「……はぁ~」

 普段の明るさは何処へ消えたのか。さやかの面持ちは暗い。

(……こんなタイミングで、そりゃ無いよ)

 さやかは、事の発端を思い返していた。


308: 2013/04/28(日) 20:51:21.93 ID:qvnF4G6N0

 仁美に何時も寄るファーストフード店に呼び出された事が、事の発端だった。

「仁美。話って何?」

 さやかは何時ものノリで椅子に座る。しかし、仁美の方は何時ものノリでは無く、実に真剣な面持ちだった。

「私……以前からさやかさんに、秘密にしてきた事が有るんですの」

 仁美は凛とした声で、さやかに告げた。

 普段と違う仁美の雰囲気に、さやかは思わず息を飲んでしまう。

「私、以前から上条恭介君の事を、お慕いしてましたの」

 ドクリ、とさやかの心臓が高鳴ってしまう。

「……そ、そうなんだぁ。
 まさか仁美がねぇ……。アイツも隅に置けないなぁ」

 笑ってごまかしたつもりなのだろうが、さやかの笑みは明らかに引きつっていた。


309: 2013/04/28(日) 20:52:15.72 ID:qvnF4G6N0

「さやかさんは、上条君と幼馴染でしたわね?」

「うん……まぁ、腐れ縁って言うか……」

「本当に、それだけ?」

 仁美にそう言われると、さやかは思わず口を噤んでいた。

「私、もう自分に嘘はつかないって決めたんですの。
 さやかさん。貴女はどうですか? 本当の自分の気持ちに向き合えますか?」

「な……何の話をしてるのさ……」

「さやかさんは、私の大切なお友達です。ですから、抜け駆けするような真似も、横取りするような真似もしたくありません。
 私は、次に上条君のお見舞いに行ったときに、告白しようと思いますの」

「……」

「一日だけお待ちします。それまでに、後悔なさらない様に決めてください。
 上条君に、気持ちを伝えるべきかどうかを」

 そう言い切り、仁美は席を立った。そして、さやかに一礼してから、ファーストフード店を後にした。

(……)

 さやかは、呆然とトレーに乗った飲み物を見つめるしか出来なかった。


310: 2013/04/28(日) 20:52:49.93 ID:qvnF4G6N0

 どうにか気を取り直し、その足で恭介のお見舞いに向かったが、今一つ顔に覇気は見られない。

 病室の扉の前で、大きく深呼吸。

(……何時もの通り。何時もの通りに行こう)

 そして、さやかは意気揚々と病室に入って行くのだった。

「やっほー、恭介。お見舞いに来たよ」

「……さやか」

 無理に明るく振る舞うさやかだが、恭介の顔には元気の欠片さえ見えない。


311: 2013/04/28(日) 20:53:32.90 ID:qvnF4G6N0

「今日も、CD買ってきたんだよ」

 そう言って、カバンからCDを取り出す。

 しかし、それを見た途端に、恭介の表情は一気に曇ってしまう。

「……さやかは、僕を虐めているのかい?」

「……え?」

 唐突な一言に、さやかは凍りついてしまった。

「何で、今も僕に音楽を聞かせるのさ……」

「だって……それは恭介が音楽が好きだから……」

「もう、聞きたくないんだよ!! 自分で弾けもしない音楽何て!!」」

 錯乱した様に、恭介は右手でCDプレイヤーを弾き飛ばした。


312: 2013/04/28(日) 20:54:01.53 ID:qvnF4G6N0

「恭介ぇ!!」

 さやかは、咄嗟に恭介の右手を押さえつけた。

「……治るよ。諦めなければ、いつかきっと……」

「諦めろって言われたのさ……」

 恭介の声は、涙交じりだった。

「……今の医学ではどうしようも無いって。
 バイオリンは諦めろって言われたんだ……。僕の右手は……僕の指は……もう動かないんだ……」

 恭介の一言が、さやかの心にズシンと伸し掛かった。

「ゴメンね……恭介」

 そして、逃げだすように病室から立ち去っていった。


313: 2013/04/28(日) 20:54:43.30 ID:qvnF4G6N0

 さやかは河川敷に座り、呆然と川の流れを見つめていた。

(……もし、恭介の右手を治す事と引き換えに、私が魔法少女になるとすれば? それなら、恭介は振り向いてくれるのかな?

 だけど……それって仁美に対してフェアなの? それに、魔法少女ってゾンビになるのに、それで抱きしめてとか、言えるの? 魔女になるかも知れないのに……魔法少女になるの?)

 頭の中にグルグルと、あらゆる考えが思い浮かぶ。

(……最悪じゃん。
 あたし……こんな状況なのに、自分の身が可愛いって思ってる)

 そんな自分に、嫌悪感を抱いていた。

「はぁ~……あたしって嫌な奴だぁ」

 ぼやき口調で立ち上がり、さやかは重い足取りで、自宅へ向かう。


314: 2013/04/28(日) 20:55:13.18 ID:qvnF4G6N0

 その筈だった。

――ねぇ? 今の自分が醜いって思う?

 突然、聞こえてきた声。さやかは立ち止まってしまう。

「何よこれ……?」

――君の望む世界は……ここじゃないよ。

「何……? 何なのよ!?」

――さぁ行こう。私達の素晴らしい世界へね。

 それが、さやかの耳に届いた時。
 さやかの意識は、飛んでいた。


315: 2013/04/28(日) 20:55:41.92 ID:qvnF4G6N0

 まどかはマミのお茶会にお呼ばれした後、自宅へと向かっていた。

(さやかちゃんも来る筈だったのに……どうしたんだろ)

 携帯電話を取り出すが、メールの返信も着信も無い。まどかは、連絡の付かないさやかの身を心配していた。

 そんな時。

(……あれは!!)

 大通りを歩くさやかの姿を見つけたのだ。

「さやかちゃーん!!」

 大慌てで、さやかに駆け寄るまどかを見て、さやかはニヤッと笑って見せた。

「さやかちゃん、今日はどうしたの? マミさんのお茶会に来ないし、連絡も全然してくれないし……」

「ゴメンねー。だけどさ、その変わりに、今からとってもいい所に連れて行ってあげるよ」

 そう言ったさやかを見て、まどかはある種の予感を感じた。


316: 2013/04/28(日) 20:56:10.21 ID:qvnF4G6N0

(このさやかちゃん……おかしい)

 無論、良い予感ではない。

「ねぇ……一緒に行こうよ」

 そう言って、さやかはまどかの手を、ギュッと握りしめた。

「……う、うん」

 言われるがまま、まどかはさやかに付き添うしかなかった。


317: 2013/04/28(日) 20:56:39.00 ID:qvnF4G6N0

 街外れの廃工場に、多くの人が集まっていた。

 中年の男性や、主婦らしき女性。それに、若いカップル等。集まった人間に、共通点は無い。

「俺は、ダメなんだ……。こんな小さな工場すら、満足に切り盛りできなかった。
 こんな時代に、俺の居場所何て、有る訳がねえんだ……」

 中年男性は、そう嘆きながら、バケツに液体を並々注ぎ込んで行く。

 すると、今度は主婦らしき女性が、別の容器からバケツに何かを入れようとしていた。

(……あれって、洗剤?)


318: 2013/04/28(日) 20:57:36.98 ID:qvnF4G6N0

 まどかの脳裏に、ある言葉が過ぎる。

(いいか、まどか? こういう塩素系の漂白剤は、他の洗剤と混ぜたら、とんでもなくヤバい事になる。
 猛毒ガスで、あたしら家族全員あの世逝きだ。絶対に間違えるなよ)

 以前に、母親から教えられた事だった。

「ダメ!! それを入れたら、皆氏んじゃうよ!!」

 慌てて駆け寄ろうとするが、まどかの腕をさやかが掴んで離さない。

「邪魔しちゃダメだって。
 アレは神聖な儀式なんだよ。あたし達は、これから新世界に旅立つんだからさ」

 さやかは、恍惚な笑みを見せていた。

 その言葉に、周囲から拍手が沸き起こる。

「離して!!」

 まどかは、強引に腕を振り解いた。
 そして、バケツを引っ手繰って、窓の外へ思いっきり投げ捨てた。


319: 2013/04/28(日) 20:58:18.62 ID:qvnF4G6N0

(よかった……これで一安心……)

 そう思ったのも、つかの間だった。

(……じゃない!?)

 周囲の全員が、まどかを睨みつけている。
 ただならぬ雰囲気に、まどかは逃げ出す以外に選択肢が無かった。

 一番近くのドアを潜り抜け、即座に施錠する。

(……出口が無い!? ここって物置……?)

 キョロキョロと見渡すが、逃げ道は無い。更に、ドアをゴンゴンと叩きつける音が、まどかにプレッシャーを与える。

(どうしよう……どうしよう……)

 ドアから離れるが、もはやまどかはパニック状態に陥っていた。


320: 2013/04/28(日) 21:01:22.39 ID:qvnF4G6N0

 刺される様な視線を感じ、ゆっくりと振り向いていく。

(……これ……まさか!?)

 まどかの周囲は、見れた物では無い、歪んだ空間に支配されている。

 耳に纏わりつく奇妙な声は、この世の物と思えない。

【箱】の魔女“H・Nエリー・キルスティン その性質は【憧憬】

 箱に座る魔女は、まどかをじっくりと見定める。
 食いいる様に見つめられ、まどかは動けないままだ。

(これって……私に罰が当たったのかな?
 私が弱虫だから……こんな目に合うのかな?)

 魔女の結界の中で、確実にまどかの心を虫食んでゆく。

(私は……氏んでしまった方が良いんだ……)

 目の前の景色が、グニャリと湾曲していく。

(どうして……私は生きているの……?)

 まどかの意識は、途切れそうだった。


321: 2013/04/28(日) 21:02:06.08 ID:qvnF4G6N0

 ドン、と派手な爆発音で、まどかはハッとした。

「……すぐに助けるわ!!」

 その声の主は、まどかも良く知っている。

(……ほむら、ちゃん?)

 まどかは、少しだけ意識が戻った気がした。

 箱の魔女と対峙する、ほむら。

(……良くも、私の友達を危険にさらしたわね)

 その表情は怒りに染まり、鬼気迫る物を感じさせる。その体からにじみ出る感情は、純粋な殺意。

「……覚悟しなさい」

 ほむらの気迫は、魔女さえも飲み込もうとする。

――カチン。

 魔女は、ただならぬ気配に、思わず逃げようと試みていた。


322: 2013/04/28(日) 21:02:36.67 ID:qvnF4G6N0

 結界が一気に収縮していく。

「手遅れよ……」

 ほむらが呟いた時だった。

 ドン、と再び爆発が起きていた。爆風が吹き荒れ、熱風が頬を撫でた。
 乱れた髪をかき上げ、ほむらは一点をジッと睨みつけた。

 そこには、グリーフシードが転がり落ちている。

 魔女を確実に消した事を確認し、ほむらはまどかへと駆け寄った。

「……まどか!! まどか!!」

 ほむらは、まどかの体を抱き起す。

「ほ……ほむらちゃん」

 良く知った顔を見ると、まどかの瞳から大粒の涙が、ポロポロと零れ出した。


323: 2013/04/28(日) 21:03:16.03 ID:qvnF4G6N0

「ほむらちゃん!! 怖かった!! 怖かったよー!!」

 ほむらに抱き着き、まどかは感情を一気に爆発させた。

「大丈夫よ……。もう、大丈夫だから」

 ほむらは、優しく抱き寄せながら、まどかを諭した。

「ごめんね……」

 一しきり泣いていたまどかが、少し落ち着いた事を見て、ほむらはホッと胸を撫で下ろした。

「問題無いわ。それよりも、美樹さやかを連れて、ここから逃げるわよ」

 ほむらの表情が、一気に引き締まった。


324: 2013/04/28(日) 21:03:59.89 ID:qvnF4G6N0

「うん……もう大丈夫だよ」

 そう言いながら、まどかは立ち上がろうとするが、足が震えて立ち上がれない。

「その分じゃ、大丈夫では無いわね」

 そう言って、ほむらはまどかに肩を貸した。

「……うん。ごめん」

 まどかは、支えられてようやく立てる状態でしかなかった。

 ドアを開くと、さっきまで集団自殺を試みようよした人々が、地面に横たわって気絶している。

「これって、魔女に操られてたからなの?」

「いいえ。催涙スプレーを、これでもかって位に噴射したわ。お蔭で、もう一個も残って無いの」

「……」

 まどかは、リアクションを取れなかった。

「それより、美樹さやかも連れていかないと。ぼやぼやしてると、警察が来て面倒になるわ」

 ほむらは、気絶しているさやかの体を担ぎ上げた。

「さて……逃げるわよ」

 ほむら達は、足早に廃工場を後にした。


325: 2013/04/28(日) 21:04:31.02 ID:qvnF4G6N0

 さやかが目を覚まし、最初に見えたのは、心配そうに顔を覗き込んでいる、まどかの顔だった。

「まどか……?」

「さやかちゃん!! 良かったー!!」

 さやかが上半身を起こすと、まどかは思いっきりさやかの体に抱き着いた。

「ちょっと!? 何が何だか解らないんだけど!?」

 困惑するさやかを余所に、まどかはしがみ付いて離れない。

「ようやくお目覚めね。気分はどうかしら?」

 次に声をかけてきたのは、ほむらだった。

「て……転校生までいるの?」

「そうよ。そもそも、ここは私の家だもの」

「……へ?」

 さやかは、ポカーンと口を開けて固まる。


326: 2013/04/28(日) 21:05:14.69 ID:qvnF4G6N0

「さやかちゃんは、魔女に操られてたんだ。だけど、ほむらちゃんが助けてくれたんだよ」

 まどかは、さやかにそう告げた。

「……そう……だったんだ。ごめん……迷惑かけたね」

 バツが悪そうに謝るさやか。

「問題無いわ。そんな事より、聞く事が有るの」

 ほむらは、引き締まった表情に変わり、さやかにも緊張感が伝わる。

「あなた……今、相当精神的に参ってるでしょ?」

 ほむらの言葉を受けて、さやかの顔色は悪くなる。

「図星の様ね」

 ほむらは、ヤレヤレと溜息を吐き出した。


327: 2013/04/28(日) 21:06:40.84 ID:qvnF4G6N0

「な、何で断言できるのさ……」

 焦っているのが丸解りのさやかに向けて、ほむらは自分のソウルジェムをかざした。すると、僅かだがソウルジェムが反応を見せた。

「……やっぱりね。貴女は、魔女の口付けを受けたのよ」

「魔女の……口付け?」

「そう。魔女が自分の結界に人間を取り込む時には、ターゲットに紋章を残すの。紋章自体は消えているけど、魔力は僅かに残ってるわ」

 ソウルジェムを指輪に戻すと、ほむらは解説を続けた。


328: 2013/04/28(日) 21:07:22.45 ID:qvnF4G6N0

「魔女の口付けを受ける人は、例外無く精神的にダメージを負っている人ばかり。
 マミからも聞いているかも知れないけれど、病院だとか交通事故の現場だと廃墟だとか。
 そう言った、負の感情を持ち合わせやすい現場だと、魔女の餌食になる事が多いのよ」

「……」

 さやかは、何も答えられなかった。

「話してみなさい」

 ほむらにそう言われても、さやかは口を閉ざしたままだ。

「……さやかちゃん。私達にも、話せない事なの?」

 不安げに口を開いたまどかだが、さやかの様子は変わらない。

「ま、無理に聞く必要も無いけれどね。ただ、一つだけ助言させて貰うわ」

「……?」

 ほむらが改めて真剣な表情になると、さやかは無言でほむらに視線を向けた。


329: 2013/04/28(日) 21:08:05.04 ID:qvnF4G6N0

「私は、自他ともに認める、悪人よ。
 味方を作る事は苦手だけど、敵を作るのはすごく得意なの」

「……自慢げに、それを言うか?」

 さやかは、呆れた様子で突っ込んだ。

「だけど、無理して味方を作ろうとして、良い人のフリをして……。それって、本当の自分自身なのかしらね?
 偽った自分を演じても、すぐにボロが出てくるわ。それだったら、最初から本心をさらけ出してしまえば、良いんじゃないかしらね」

「…………」

「意地汚い部分も、悪い部分も含めて、それが私。
 開き直って、諦めてしまうと、意外と楽になる物よ。結局、一人で抱え込める限度は、たかが知れているのよ」

 ほむらの言葉を聞き、さやかは何を思うのか。


330: 2013/04/28(日) 21:08:52.37 ID:qvnF4G6N0

「それ位の考えでなければ、魔法少女を続けられないわ。
 私は正義の味方でも、聖者でも無い。綺麗事を並べたって、それで強くなれる訳がないのよ」

 ほむらの言葉を聞き、さやかは吹っ切れた様に、フッと笑みをみせた。

「……アンタは、確かにクズだわ」

 さやかは、改めてそう言った。

「そうね。その通りよ」

「だけど……その汚い部分を隠そうともしてない。
 真似する気はないけれど、ある意味凄いと思うわ……」

 呆れながらも、さやかは感心していた。

「おだてたって、何も出ないわよ」

「いや、誉めてないから……」

 さやかは、普段のペースを取り戻しつつあった。


331: 2013/04/28(日) 21:09:18.91 ID:qvnF4G6N0

「さて。そろそろ、時間も遅いし、帰った方が良いんじゃないかしらね」

 ほむらに言われ、二人は改めて時計を見た。

「やば……門限が近いじゃん。帰らなきゃ!!」

 さやかは、焦った様に立ち上がった。

「うん。私達、もう行くね」

 門限の無いまどかは、さやかよりもマイペースだった。

「助けてくれてありがとうね、ほむらちゃん」

 まどかは礼を言いながら、ほむらに手を振った。

「借りはちゃんと返すよ。また明日ね……ほむら」

 そう言いながら、さやかも手を振った。

「ええ。二人とも、気を付けて帰りなさいね」

 ほむらは、ドアの方へ向かう二人を見送るのだった。


332: 2013/04/28(日) 21:10:01.72 ID:qvnF4G6N0

 帰路に付いた二人は、薄暗くなった路地を歩いていく。

 モチベーションが回復しつつ有るさやかを見て、まどかは少し安心した様だった。

「しかしなぁ……。アイツ見てると、悩んでた自分が馬鹿に見えてきたよ……」

 さやかは、吹っ切れた様にそう言った。

「でもさ……助けてくれたのは事実なんだし。言う程、悪い人間なのかなぁ?」

 まどかは、首を傾げながら、疑問を言う。

「それはそうだけど……。
 でも、アイツ見てて、魔法少女になりたいとは思えなくなったわ。
 そりゃああいう考え方の方が、魔法少女としては良いかも知れないけれど、人間としては最低だわ」

「アハハ……」

 毒舌なさやかを見て、まどかは苦笑いをするだけ。


333: 2013/04/28(日) 21:10:31.84 ID:qvnF4G6N0

「でも……良い面みせながら騙そうとする奴よりは、よっぽど信用出来ると思うよ。
 マミさんも言ってたじゃん、背中を預けれるって。何となく、言ってた意味は良く解ったんだ」

「さやかちゃん……」

 さやかは、ほむらの存在を認めていた。

(でも、その前に……。
 明日、恭介と仁美にもう一度、話をしないとね……)

「さやかちゃん? どうしたの?」

「ううん。何でも無いさ」

 まどかもさやかも、普段の笑みを取り戻していた。


334: 2013/04/28(日) 21:12:07.29 ID:qvnF4G6N0
とりあえずここまで。

もっと読みたいと言う声が多ければ、一時間後にもう一話分落とします。

341: 2013/04/28(日) 22:21:16.78 ID:qvnF4G6N0
ご期待に答えましょう。

だけど、さやかちゃんの事は、少しだけ待ってて。

342: 2013/04/28(日) 22:22:10.85 ID:qvnF4G6N0
9.作戦会議

 ワルプルギスの夜が襲来するまで、後三日。

 ほむらは作戦会議を行う為に、今まで手籠めにした魔法少女達を呼び出した。
 狭い部屋には、まどか、さやか、マミ、杏子、ゆま、織莉子、キリカ、かずみ、カオル、海香、そして、ほむらとキュウべえ。

 一つのちゃぶ台を取り囲む様に、全員が着座している。

「改めて。ようこそ、我が家へ。
 ワルプルギスの夜が襲来するまで後三日だから、ここで作戦会議を開くわ」

 ほむらはそう言うが、各自の反応は薄い。

(……何で、私達まで呼ばれたんだろう)

 未契約のまどかは、隣に座るさやかに、こっそりと耳打ちをする。

(あたしにも、解んない……)

 同じく未契約のさやかも、戸惑うばかりである。


343: 2013/04/28(日) 22:22:57.99 ID:qvnF4G6N0

「ま、これだけそろってりゃ、ワルプルギスの夜も怖く無いだろ?」

 杏子は余裕が有るのか、危機感が無いのか。お気楽な声でそう言った。

「……と言いたい所だけど、生憎だけどワルプルギスと戦うのは、私だけよ」

 ほむらは、断言した。

「……どう言うつもりなのですか?」

 織莉子は、間髪入れず聞きただした。

「それを今から説明するわ。
 まず、作戦会議をする前に、貴女達が一番気になっている事……。
 私の正体を明かすわ」

 その一言に、一同は息を飲む。


344: 2013/04/28(日) 22:24:21.48 ID:qvnF4G6N0

「私は、この世界の人間じゃない。正確には、異世界から来た魔法少女なの。
 元々居た世界は、ワルプルギスの夜と言う魔女に、滅茶苦茶に壊されて逃げる様にしてこの世界にやってきた……。

 しかし、ワルプルギスの夜は、ただ一人取り逃がした私を追いかけて、この世界にやってくるの。
 信じられない話かも知れないけれど、これが真実なの」

 嘘をついていた。しかし、嘘の中に真実を混ぜて、嘘を信じ易くさせる。
 より正確に言えば、肝心な部分を隠しているとも言える。

「……確かに信じられる話じゃないわ。
 だけど、ワルプルギスの夜が現れると言う話が事実であれば、その情報を握っていても不思議では無いわね……」

 海香はそう言って、追従した。

「そして、私の固有魔法は、時間停止。
 一時的に時間を止める事で、相手に攻撃をする物。
 と言っても、止めていられるのは五秒が限度だから、素早く動く必要も有るし多用もしにくいわ。
 今まで、貴女達に仕掛けた攻撃を思い返せば、納得の出来るでしょ」

 ほむらに言われると、全員がハッとした顔になった。と言っても、時間停止の制限の部分は嘘なのだが。


345: 2013/04/28(日) 22:25:18.17 ID:qvnF4G6N0

「じゃあ、あの時のロシアンルーレットも、時間停止を使ってたの?」

 マミは、呆然としてしまう。

「そうよ。仮に、あの時引き金を引いても、貴女は氏ぬ事は無いようにしていたわ」

 ほむらは、開き直った様に言う。

「……」

 マミは、無言でほむらを睨む。

「イカサマも、バレなければテクニックよ」

 ほむらは、堂々と胸を張ってそう言った。

「本当に、食えないお人です……」

 表情を苦々しくする織莉子。

「何とでも言いなさい。今更、解った事じゃないでしょう」

 ほむらは、得意げだ。


346: 2013/04/28(日) 22:26:04.95 ID:qvnF4G6N0

「君の事は解ったよ。
だけどさ。だったら、一人で挑むつもりなのに、わざわざ戦力を集めたのさ?」

 かずみは、ポッと出た疑問を投げる。

「ワルプルギスが来るのは、私のせいだもの。私にも責任は有るわ。
 それに、私はこの世界の人間じゃないです。だから、私が氏んだ後はどうなっても知りません。そんな事言えるかしら?
 万が一の時に備えて、貴女達の協力が必要なのよ……ワルプルギスを確実に討伐する為にね」

 ほむらの眼光が、鋭くなる。

「……暁美さん。
 何故、一人で戦う事に拘るの? 今なら、皆で協力出来るチャンスでしょう?」

 マミは、改めて聞きただす。

「元々、コイツとはそう言う話をしていたのよ……鹿目まどかに契約を迫らない事を条件にね」

 ほむらは、キュウべえを指しながら告げる。

「わ、私?」

 面を食らった様に、まどかは目をパチパチとさせる。


347: 2013/04/28(日) 22:26:52.09 ID:qvnF4G6N0

「魔法少女の慣れの果ては、魔女。これは皆聞いてると思う。
 問題なのは、その魔法少女の素質によって、魔女になった時の強さが変わる事。
 素質の高い魔法少女であれば、魔女も強くなる。故に、最強の魔法少女は最強の魔女になってしまう。
 まどか。貴女は、破格の素質を備えているわ。だからこそ、契約させる訳には行かないのよ」

 一同の注目を浴びて、まどかはますます困惑する。

「……その通りです」

 織莉子の一言は、凛とした声でそう言った。

「私の魔法は未来予知です。
 その時、ワルプルギスの夜によって崩壊した街を見ました。そんな中、鹿目まどかが魔法少女として契約し、ワルプルギスの夜を意図も容易く倒す……。
 しかしです……。その鹿目まどかのソウルジェムから、途方も無い大きさを誇る魔女も生まれてしまう……」

 一しきり言い放つと、織莉子は顔を青ざめさせていた。


348: 2013/04/28(日) 22:27:58.68 ID:qvnF4G6N0

「……そういう事よ。
 今のまどかの素質は、例えて言えば軽自動車にロケットエンジンを積んでいる様な物。
 途方も無い素質を備えても、それを体が受け入れる事が出来ず、魔力に振り回されてコントロールする事は不可能。
 契約すれば、魔女化は確実と見てるわ」

 ほむらは、真剣な眼差しでまどかを見つめる。

「……でもよ。そんな魔女化する事知ってて、契約する奴居るのか?」

 杏子は、淡々と言った。

「確かに、今の段階なら、まどかもさやかも契約する事は無いと思うわ。
 だけど……もしワルプルギスの夜に、全員揃って殺された時。彼女達は、何を思うのでしょうね?
 そんな惨状を目の当たりにすれば、冷静でいられなくなるのは当然。

 そもそも、この二人が契約する時が来れば、止めれる人は誰も居ないわ。キュウべえに言われるがまま、契約してしまうでしょう。
 今、キュウべえが黙って見ている理由も、その一点に賭けてるんでしょうね」

 ほむらは睨む様にして、キュウべえに視線を移した。


349: 2013/04/28(日) 22:28:41.44 ID:qvnF4G6N0

「だけどさ。これだけそろってるんだよ?
 流石に、伝説の魔女と言っても、この戦力で負けっこないよ」

 カオルは自信を見せながら、左手で右の腕をポンと叩いた。

「……油断は禁物よ。慢心をすれば、自ずと隙が生まれるわ」

 海香はカオルにそう釘を刺した。

「その通りよ。
 だからこそ、絶対に負けない戦力で、絶対に倒せる戦術を使う必要が有るわ」

 そう言いながら、ほむらはちゃぶ台の上に、見滝原市の地図を広げて見せた。

「これを見て頂戴」

 全員が、地図を凝視する。


350: 2013/04/28(日) 22:30:33.28 ID:qvnF4G6N0

「まず、私が単独でワルプルギスに特攻をかけるわ。
 それまで、貴女達はこのビルの屋上に待機していて欲しい」

 そう言いながら、黒いペンで、ビルを丸印で囲んだ。

「ちょっとちょっと。君が強い事も、単独で挑む事も解ってるけど……特攻するってどういう事さ」

 キリカは、ほむらに視線を移した。

「簡単よ。ワルプルギスに向けて、全部の魔力と全ての武器を使って攻撃に集中するのよ。ただ、加減は出来ないから、下手に近づけば巻き添えを食らうでしょうね。

 それに、ワルプルギスと戦った経験が有るのは私だけよ。
 先手必勝の奇襲戦法で、可能な限りダメージを与える。それなら、後ろに控える貴女達の攻撃が通用しやすくなる筈よ」

 ほむらは、真剣な目つきで地図にマーキングを付けていく。

「恐らく、そのペースで攻撃を仕掛ければ、この化学薬品の工場付近で、私の魔力はガス欠になる。
 この地点までに、ワルプルギスを倒せなかった時が……貴女達の出番よ」


351: 2013/04/28(日) 22:31:17.45 ID:qvnF4G6N0

「……丸で、自分を捨て駒にする様な作戦じゃない。
 本気で言ってるの? 氏ぬつもり?」

 かずみは、不安げにほむらを見つめた。

「馬鹿言わないで。犬氏する気は更々無いわ。
 貴女も、私がどんな人間なのかは解ってるでしょう? このポイントに辿り着いたら、うまい具合に逃げるつもりよ」

 ほむらは、ニヤリと笑みを見せる。

「……だと良いけれど」

 マミは、今一つ不安を払拭しきれないでいる。

「お姉ちゃん……氏んじゃだめだよ?」

 ゆまも、ほむらを見て、心配そうに呟く。

「大丈夫よ。
 だけど……万が一、余計な魔女が増えてたとしたら、迷わずに頃す。それだけは、約束して」

 ほむらの言葉が、全員の心にズシリとのしかかる。


352: 2013/04/28(日) 22:31:49.20 ID:qvnF4G6N0

「これは、街を護るとか、魔女を退治するとかって、生温い考えは必要ない。
 まして、愛と勇気が勝つだとか、気合と根性で乗り越えるだとか、そんな綺麗な言葉は使えないわ」

 ほむらは、大きく息を吸ってから、一言告げる。

「これは、負ける事の出来ない戦争なのよ」

 そう断言した。


353: 2013/04/28(日) 22:33:13.53 ID:qvnF4G6N0

「やれやれ……。君は本当にしたたかだね」

 ここまで、一言も発さなかったキュウべえが、初めて言葉を出した。

「約束は守りながらも、言葉の中の隙を突く。限りなくアウトに近い部分で、セーフの領域を見出す何て、普通の考え方じゃ思いつかないだろう。
 おまけに、その裏で上手く立ち回って、自分にとって有利な材料も出来るだけ揃えておく。本当に蛇の様な魔法少女だ」

 キュウべえは、皮肉っぽく言う。

「何回も言ってるでしょ。
 私は手段を択ばないわ。見抜けない奴が悪いのよ」

 ほむらは、当然とばかりに言い放つ。


354: 2013/04/28(日) 22:33:50.93 ID:qvnF4G6N0

「一つだけ、聞きたい。
 万が一、僕が君を出し抜いて、鹿目まどかと契約していた。もし、そうなったら、君はどんな行動に出ていたのかな?」

「簡単よ。貴方にとって、一番不利益な行動を取っていたわ。
 具体的に言った方が良いかしら?」

 ほむらは、不気味な微笑を作る。

「……言わなくていいから。むしろ、言うな。アンタの冗談は、笑えないから……」

 慌てた様に、さやかは横やりを入れた。

「フフ……。約束は約束よ。
 ワルプルギスの夜の弱点を教えなさい」

 ここに来て、ほむらは交換条件の要求を出してきたのだ。

「無理に聞いてこないと思えば、全員に聞かせるように仕向けてくる。本当に、君は狡猾だよ。
 だけど、約束は約束だ。ワルプルギスの弱点を教えるよ」

 キュウべえは、観念したのか。ワルプルギスの全貌を語り出した。


355: 2013/04/28(日) 22:35:01.00 ID:qvnF4G6N0

「ワルプルギスの夜。
 しかし、この名前はあくまで通称で、本名は今となっては解らない。
 この魔女の最大の特徴は、複数の魔女の集合体である事。それが故に、魔力の大きさは計り知れない。
 結界に身を隠さない事も特徴と言われるが、厳密に言えば結界を作れないんだ。
 複数の魔女が集まってる事で、結界を打ち消し合ってしまっているからね」

「……一つだけ良いかしら?」

 ほむらは改まった様子で、キュウべえに聞きただす。

「何だい?」

「貴方って……結構解説が好きね」

「データを取り出して、説明してるだけだよ。
 では続けるよ。

 また、ワルプルギスの夜は、舞台装置の魔女とも異名を持つ。
 舞台装置の単語が示す様に、彼女の本体は剥き出しの歯車であって、体はあくまで装甲に過ぎないよ」

 キュウべえは、饒舌な口ぶりで、ワルプルギスの夜を解説していく。


356: 2013/04/28(日) 22:35:37.08 ID:qvnF4G6N0

「……見た事無いから、ピンとこないわ」

 マミは、首を傾げながらそう呟く。

「そうね。大体、こんな具合ね……」

 ほむらは、手に持っていたペンで、適当なチラシの裏にワルプルギスの絵を描いて見せる。

「あの魔女は逆立ちの状態で、出現してたわ。それで、足の部分が歯車になってるの」

 そう言いながら、描いた物を見せる。

「……下手過ぎて、言われなきゃわかんねー」

 杏子は、呆れた様子で突っ込んだ。

「うるさいわね……。美術は苦手なのよ……」

 ほむらは、顔を赤くする。


357: 2013/04/28(日) 22:36:10.07 ID:qvnF4G6N0

「解説を続けるよ。
 今、ほむらが逆立ちと言っていたけれど、あれは本体を地面から遠ざけている。言ってみれば、防御の姿勢と言っていい。

 つまり、あの歯車が地面に降り立ったときは、本気の攻撃を仕掛ける姿勢になる。
 以前にほむらが見た状態は、恐らく本気には程遠い」

「……」

「だが、言い換えれば、本体で攻撃を仕掛けるという事は、防御を捨てるという事。
 つまり……あの歯車。本体その物が、ワルプルギスの唯一の弱点となるのさ」

「なるほどね……」

 ほむらは、ニヤリと笑みを見せた。


358: 2013/04/28(日) 22:36:52.32 ID:qvnF4G6N0

 だが、他の人物は釈然としない様子だった。

(……何故、キュウべえはあっさりと、ワルプルギスの夜の弱点を、全員に教えたのかしら?)

 マミは、心の奥底から湧き上がる疑問に、戸惑いを隠せない。

(わざわざ教える必要が有るのか……? 不利益なら、黙ってれば問題無いだろうに……)

 杏子も、それは同じだった。

(ゆまも、頑張れば役に立てるかな?)

 奮戦を、心の中で誓うゆま。

(……仮に、ワルプルギスを仕留められないのなら。鹿目まどかだけでも、抹頃すれば問題は無いわ……)

 不気味に、次の一手を考える織莉子。

(まぁ、何でも構わないさ……。その気になれば、織莉子と共に逃げれば良い)

 キリカも同様だった。ぼむらや、他の少女は見捨てても構わないと、内心で思っている。


359: 2013/04/28(日) 22:37:23.32 ID:qvnF4G6N0

(……キュウべえもそうだけど、あの子の反応も不気味だ)

 かずみは、ほむらを横目で見る。

(勝ち目は有る筈。だけど……この違和感は何なんだろう?)

 カオルも、不信感を拭い去れない。

(暁美ほむらも、キュウべえも、ギリギリの部分で駆け引きしてるわ……。キュウべえの狙いも、暁美ほむらの狙いも、全く解らない……)

 海香さえ、神経が磨り減る思いだった。

(……何でか知らないけど、ほむらはもっと別の事を考えてる気がする)

 さやかは、直感的にそう思った。

(ほむらちゃん……)

 まどかは、ほむらをジッと見つめるだけ。


360: 2013/04/28(日) 22:37:53.51 ID:qvnF4G6N0

 ほむらは、満足した様子だった。

「そこまで聞ければ、対策は取れるわ。
 皆。また、三日後に会いましょう。

 それと、ワルプルギスが現れるまでは、近辺の地域に魔女は現れないわ。嵐の前の静けさって奴かしらね。
 各自ゆっくりと、休んで頂戴」

 ほむらは、そう言って作戦会議を締めくくった。


375: 2013/04/29(月) 18:18:28.17 ID:6KYUystw0
10.日常

 ワルプルギスの夜が襲来するまで、後二日。本日は日曜日である。
 決戦に向け、各自の思いは如何なる物なのか……。


376: 2013/04/29(月) 18:19:43.69 ID:6KYUystw0

 御崎家。

 筆が進まない海香は、ストレス解消に昼食を作っていた。

「……何かこう、サクッとアイディアは出ないのかしら」

 包丁で食材を切り刻む海香の頭部には、見えない角が生えていた。

「そう言われてもねぇ……。
 そもそも決戦前だから、そんなに切羽詰って小説書かなくても良いんじゃない?」

 カオルは、自分の席に座りながら、そう言った。

「それは出来ないわ。私の、小説家としてのプライドが許さないの」

 海香は、そう言い切った。

「……さいですか。
 でもさ。一つ思ったんだけど、あのほむらって子を主人公にしたら、面白い小説書けそうじゃない?」

 カオルはニヤニヤとしながら、海香をおちょくる。

「嫌よ。私が書きたいのは、恋愛とか青春なの。
 あの子が主役じゃ、仁義無き戦いになってしまうわ」

 海香は、即刻否定した。


377: 2013/04/29(月) 18:20:41.68 ID:6KYUystw0

 そんな中、かずみはまだ部屋に居た。
 ベッドに寝たまま、天井を見上げていた。

(……解んない)

 払拭できない疑問を、考え続けていた。

(あの子……。
 上手く逃げるって言ったけれど……本当に逃げられるの? 一度は上手く逃げられても、もう一度逃げられる保証は無い。
 そもそもあの子は、そんなに分の悪い賭けをする様にも思えない……)

 かずみは、柄にもなく、難しい顔のままだ。

(……目的の為なら、手段を択ばない。そういうタイプは……)

 かつて戦い、そして散って行った魔法少女達の姿が、かずみの脳裏をかすめていった。

「かずみー。ご飯出来たよー」

「うん。今行くよー」

 カオルに呼ばれ、かずみはベッドから起き上がった。


378: 2013/04/29(月) 18:21:13.51 ID:6KYUystw0

 市民病院の屋上に、さやかと仁美。そして、恭介は居た。

「今日も良い天気だね」

 晴れ渡った空を仰ぎ、さやかは笑顔を見せた。

「そうですね。上条君が無事に退院したら、何処かにお出かけしましょう」

 微笑みを見せながら、仁美はそう提案を出した。

「うん。
 その為にも、リハビリを頑張らないとね。僕の右手は、治らないけれど……また歩く事は出来るから」

 恭介の顔は、憑き物が落ちた様に、すっきりとしていた。


379: 2013/04/29(月) 18:21:48.48 ID:6KYUystw0

――数日前。

 ほむらに諭された翌日。

 さやかは、覚悟を決めて、恭介へのお見舞いへ向かった。

 病室の前に立ち、跳ね上がりそうな心拍数を、抑えようとする。

(落ち着かなきゃ……。私が落ち着かなきゃ……)

 大きく深呼吸。そして、意を決して扉を開いた。

「……よっ。看護婦さんかと思った?」

「……さやか?」

 予想通り、恭介の面持ちは暗い。
 しかし、何時に無く真剣な表情を見せるさやかに、恭介は少し面を食らっていた。


380: 2013/04/29(月) 18:22:22.94 ID:6KYUystw0

「ねぇ……恭介。
 少しだけ、話せない? どうしても、話しがしたいの」

「……僕は構わないけど」

 恭介は俯いて、さやかから視線を逸らす。正直、気まずいと思っているのだろう。

「恭介。
 恭介に取って、バイオリンを弾く事は、恭介の全てだったんだよね?
 もしも、私の命と引き換えに、右手が治るとしたら……どうする?」

「さやか……ふざけているの?」

「答えて……恭介。
 自分の望んだものが、他人を踏みにじってでも手に入るとしたら……そこまでしても、手に入れたい?」

 さやかは、真っ直ぐに恭介を見つめ続ける。


381: 2013/04/29(月) 18:24:07.42 ID:6KYUystw0

「……そんな事、僕には解らないよ!!」

 恭介は、怒鳴る様に声を張り上げた。

「僕だって、自分がどうしたいのか、解らないんだ!!
 バイオリンを弾く事が、僕の全てだったんだ……。今まで弾けた曲も、弾こうとしてた曲も……全て失ってるんだよ!?
 そんな僕に、どうしてそんな質問をするんだよ!!」

 バシン、と乾いた音が、病室に響いた。
 さやかは、恭介の横っ面を引っ叩いたのだ。

「……!?」

 恭介は、呆然とさやかを見つめる。

「恭介……どうして解らないの?」

 さやかは、瞳に涙を溜めていた。


382: 2013/04/29(月) 18:24:58.44 ID:6KYUystw0

「……どうして、バイオリンを弾く事に拘るの?
 それが、恭介に取って掛け替えの無い物だったのは解ってる……。

 だけど……無くした物を忘れられなくて、ずっとその場にしゃがみ込んでいるだけじゃない!!
 後ろばかり見て、前さえも見えなくなって……。気が付いたら、周りの事も見えなくなってて……。
 結局見えて居るのは、事故に合ったその事実だけ……。

 イジけたまま、バイオリンも握ろうともしないで……無くした事のせいに全てしてるだけじゃない!!

 どうして、進もうとしないの!! 右手がバイオリンを弾けなくても、動かす事は出来るじゃない!!
 この、意気地なし!!」

 泣きながら、さやかは叫んだ。そして、病室から飛び出して行った。


383: 2013/04/29(月) 18:25:40.88 ID:6KYUystw0

「…………」

 恭介は、俯いて何も出来ないで居た。

「か、上条君!? さやかさんと何かあったんですか!?」

 入れ違いで、病室に入ってきたのは、仁美だった。

 フルーツの盛り合わせを、棚の上に置き、慌ただしく恭介の元に駆け寄った。

「……し、志筑さん?」

「い、今さやかさんとすれ違ったんですの……。だけど、慌てて走って、何処かに行ってしまってて……」

 仁美は、動揺しすぎて、パニック状態に陥っていた。

「志筑さん……お願いがあります……。
 さやかを……さやかを追いかけてください!!」

「は……はい!!」

 凄まじい剣幕で言われ、仁美はさやかを追う様にして、病室から慌てて退室した。

 一人だけ残った病室で、恭介は右手を壁に打ち付けた。

「……僕は……世界一の愚か者だ」

 悔しさを噛み締める様に、嘆いてしまった。


384: 2013/04/29(月) 18:26:26.04 ID:6KYUystw0

 仁美は、病院中を駆け回った。そして、さやかの姿を見つけたのは、結局屋上だった。

「……さ、さやかさん。ここに居たんですね」

 壁にもたれて、力無くうなだれるさやかに、仁美はゆっくりと歩み寄った。

「仁美……。
 あたしじゃ、やっぱり無理だったよ」

「え……?」

「恭介の奴さ……事故以来右手がダメになってたんだ。
 バイオリンが弾けなくなって、アイツ落ち込んでて励ましてたけど、どうにもならなくてさ。
 思い切って、立ち直らせようとしてみたけど……あたしは恭介を怒らせただけだった……」

 さやかは、ポロポロと涙をこぼしていた。

「あたしって……ホントバカ……。本当にバカだよ……」

「そんな事有りません!!」

 仁美は、はっきりと告げた。


385: 2013/04/29(月) 18:27:08.39 ID:6KYUystw0

「さやかさんは、自分に向き合って……勇気を出した結果ですのよ?
 今、上条君の病室に行った時……凄い顔で、さやかさんを探してくれとお願いされました」

「……え?」

「まだ、事情は掴めてませんけれど……上条君はさやかさんを必要としてると思います」

「……」

「それに……私では、上条君にそんな事は絶対に言えませんの。
 幼馴染だからこそ……はっきりと物を言えるんだと、私は思います」

 仁美は、さやかを真っ直ぐに見つめた。


386: 2013/04/29(月) 18:27:42.26 ID:6KYUystw0

「……仁美って、お人好しだよね。
 こんな状況で恋のライバルを励ますなんてさ……」

 さやかは、笑みを作りながら、手の甲で涙をぬぐった。

「抜け駆けも、横取りもしたくないと、私は言いましたわよ?」

「ハハ……。何処かの誰かに、仁美の爪垢を煎じて飲ませてやりたいわ」

 そう言って、さやかは笑みを取り戻していた。

「……そうですか。
 それと、上条君に告白するのは、延期になりますね。フェアでは無いんですもの」

 そう言いながら、仁美も笑顔を取り戻していた。


387: 2013/04/29(月) 18:29:33.92 ID:6KYUystw0

――現在。

 さやかは、澄み渡った青空を見上げたまま。

「さやか? どうかしたの?」

 恭介は、そう声をかけた。

「ううん。何でも無いさ」

さやかはそう答えた後、フッと溜息を吐き出した。

「フフ。可笑しなさやかさんですね」

 仁美は、温和な表情で見つめていた。

(……ほむらが言ってたみたいに、私達が契約するしか無くなった状態になったら……。
 絶対にまどかには、契約させられない。

 あたしが契約して……恭介や仁美を護るんだ。例え、ゾンビでもバケモノでも構わない。
 あたしの願いで、ワルプルギスの夜を消し去るんだ……)

 さやかは、万に一つの可能性になった時。

 その身を捧げる覚悟を決めていた。


388: 2013/04/29(月) 18:30:31.60 ID:6KYUystw0

 杏子とゆまは、マミのマンションに訪ねてきた。

「よっ。遊びに来たぜ」

「マミお姉ちゃん、こんちわー」

 インターホンを押さず、ドアを開ける杏子。

「あら? 随分と早かったわね」

 そして、マミは微笑みを見せながら出迎えた。

「まぁね。魔女が居ないなら、アタシら暇だしさ」

 杏子はさっさと上がり込もうと、ブーツのチャックを下ろした。

「平和がいちばんだよ!!」

 ゆまは、エッヘンとばかりに、そう言った。

「ふふ。本当にそうね。さ、上がって待ってて。もうすぐケーキが焼けるから」

「よっしゃ!!」

「やったー♪」

 杏子とゆまは、遠慮なしとばかりにリビングに向かい、マミはキッチンに向かった。


389: 2013/04/29(月) 18:31:20.45 ID:6KYUystw0

 テーブルを囲み、魔法少女三人でお茶会を楽しむ。

「本当に、この平和が続けば良いのにね……」

 そんな中、マミはポツリと呟いた。

「でもよ。魔女が出なきゃ、アタシら生きられねぇんだ。あんまり平和すぎるのも、考え物さ」

 ニヤニヤしながら、杏子はそう言った。

「それもそうだけどね。
 本当に、ワルプルギスの夜が来るのかしら?」

「そりゃ、アイツしか解らん話だ。
 だけどさ……。アイツに、その話を持ちかけられた時にさ。アタシは、昔にマミと話してた事を思い出したんだ……」

 杏子は、少しもの思いにふける様な表情を見せる。


390: 2013/04/29(月) 18:31:51.96 ID:6KYUystw0

「キョーコ?」

 ゆまは、口元にクリームを付けたまま、杏子を見た。

「ねぇ、ゆまちゃん。
 私達、昔は一緒に戦ってたのよ」

 マミは、ゆまに視線を向けた。そのまま、ティッシュで口元を拭いた。

「そうだったんだ」

 ゆまは、表情を躍らせる。

「ああ……随分前だけどな」

 ふぅ、と息を吐き出して、杏子は再び口を動かす。


391: 2013/04/29(月) 18:32:59.72 ID:6KYUystw0

「ほむらの奴に協力を求められた時だ。マミの事を聞いた時は、正直信じられなかった。
 正義の味方なんて物を本気でやってる魔法少女が、あそこまで滅茶苦茶な魔法少女に協力する。何かの間違いかと思った。

 でも、ソウルジェムの事を全て聞いて、納得がいったよ。しかも、魔女に生まれ変わった時の約束までしてる何て、思いもしなかったわ……」

 噛み締める様に、杏子は独白する。

「そうね……。その話を聞いた時、私は氏にたいと思った。だけど、自分の命を自分で終わらせる。それが、本当に怖かったの。
 後で、イカサマだった事を聞いたけど、あの時の暁美さんは……間違いなく本気の眼をしてた。

 もし、知らなければ、ある意味幸せだったかも知れないけれど……生き抜く事は出来ないでしょうね」

 マミは瞳を閉じて、そう答えた。


392: 2013/04/29(月) 18:33:38.34 ID:6KYUystw0

「やらしさも汚らしさも、剥き出しにしてる。
 それが、暁美ほむらの強さかもしれねーわ。ただ、あそこまでは出来ねーし、やりたくねー」

 杏子は、笑いながら断言した。

「それは、同感ね……」

 マミも笑みを見せていた。

「ねーねー、二人とも。
 ゆまはほむらお姉ちゃんみたいになれるかな?」

「それは、絶対に止めなさい!!」

 ゆまの言葉に、二人は同時に突っ込んだ。


393: 2013/04/29(月) 18:34:11.38 ID:6KYUystw0

 美国邸。

「うーん、織莉子の作ったホットケーキは、世界一だよ」

 キリカは、そう言いながら、特性ホットケーキを頬張る。皿から溢れそうな程のシロップをかけたホットケーキに、味もへったくれも無いのだが。

「おかわりはまだまだ有るのよ。幾らでも、焼いてあげるわ」

 満面の笑みを見せながら、織莉子はそう言った。

 その言葉を聞くと、キリカは持っていたフォークを、テーブルの上に置いた。


394: 2013/04/29(月) 18:35:00.63 ID:6KYUystw0

「どうしたの?」

「私は織莉子に出会えなきゃ、もっと下らない人生を送っていただろうね。
 何もかも詰まらなくて、そこに有るのは退屈だけ。エネルギーの発散の仕方さえ解らない、いじけた子供のままだっただろう。
 改めて言わせて貰いたいんだ……ありがとう」

 キリカは、深く頭を下げた。

「キリカ……頭を上げて。お礼を言うのは私よ」

 織莉子の表情は、キリッと引き締まった。

「私は、キリカが居なければ、とっくに壊れてたでしょう。
 私が私である。その意味を、知る事が出来たのだから……。
 私の夢を叶える為には……隣に貴女の存在が必要なの」

「……もちろんだよ。一緒に行こう」

 織莉子の問いに、キリカは力強く答えた。


395: 2013/04/29(月) 18:36:19.15 ID:6KYUystw0

 まどかの自宅。

 部屋で、パパの特性のココアを飲みながら寛いでいた。

「本当に……私は世界を滅ぼせる力が有るのかな?」

 自問自答するが、一人でその答えが出てくる訳が無い。むしろ、そんなお伽話を、真に受けろと言う方が無理である。

(だけど……ほむらちゃんやマミさんは、私を護ってくれた。
 そして、魔法少女にならない様に、手を打ってくれたんだ……)

 残り少なくなったココアを、全て飲み干す。

(皆、きっと街を護ってくれるよ……)

 そう信じていた。

 ただ……まどかは、ほむらと出会う前に、一度見たあの夢の光景が、頭から離れなかった。


396: 2013/04/29(月) 18:38:21.96 ID:6KYUystw0

 ほむらのアパート。

 ほむらが黙々と武器の整備をしている間、キュウべえは無言で見続けていた。

「……ずっと見てる割に、喋らないのね。気味が悪いわ」

 耐えかねて、ほむらはポツリと呟く。

「過去に、ワルプルギスの夜に対して、複数回挑んだ魔法少女は居ない。
 君は、あらゆる情報を握り、あらゆる戦術を繰り出そうとしている。
 そこで聞きたい。
 ワルプルギスの夜に勝てると思ってるのかい?」

「……負けるつもりで戦う馬鹿は居ないわ」

 キュウべえに向け、ほむらははっきりと言いのけた。それ以上、会話が進む事は無かった。


397: 2013/04/29(月) 18:38:58.81 ID:6KYUystw0

 そして、二日後の明朝。

 見滝原市全域に、避難勧告が発令された。


398: 2013/04/29(月) 18:40:24.01 ID:6KYUystw0
今回はここまで。

次話で、最終回になります。

九時前後に、投下を開始するので、しばしお待ちください。

412: 2013/04/29(月) 20:59:22.91 ID:6KYUystw0
皆様。
お付き合いいただき、ありがとうございます。

ラストです。


416: 2013/04/29(月) 21:00:13.23 ID:6KYUystw0
11.決戦

「見滝原市全域に、避難勧告が発令されました。
 住民の方は、速やかに避難所に移動の方をお願いします」

 アナウンスが、町中に響く。

 暴風が吹き、黒く分厚い雲が、空を覆う。
 嵐来たるその日は、世界の命運を握っている事を、知る人は一握りだけ。


417: 2013/04/29(月) 21:01:23.22 ID:6KYUystw0

 避難所に退避しているまどかは、窓の外の荒れた天候を見続けていた。

「……まどか。やっぱりここに居たんだ」

「さやかちゃん……」

 後ろから声をかけてきたのは、さやか。表情には不安がにじみ出ていた。
 魔法少女以外で、この嵐の原因を知っているのは、この二人だけである。

「皆……戦ってるのかな?」

 まどかは、振り絞るような声だった。

「解んない……。
 だけど……マミさんもほむらも居る。理由は色々だけど、魔法少女達で力を合わせてるんだ。
 あたし達が信じなきゃ……」

 気丈に振る舞って、さやかはそう言った。

「そうだよ……そうだよね……」

 まどかも、力の無い笑みを作って、そう答えた。


418: 2013/04/29(月) 21:02:43.85 ID:6KYUystw0

 魔法少女達が控える、ビルの屋上。

 誰も声を出す事が出来ない。緊張感が張りつめ、胃から中身が飛び出しそうな気分だった。
 冷たい暴風に耐えながら、有る一点を見続ける。

 離れてても解る程強大で、酷く歪んだ禍々しい魔力。
 一か所から、溢れんばかりに滲み出ている。

 マミは、震えた声で、一言だけ放った。

「あれが……ワルプルギスの夜……」


419: 2013/04/29(月) 21:03:48.19 ID:6KYUystw0

 立ちはだかる魔法少女は、暁美ほむらただ一人。

 世界の終焉を、何度も見てきた。免れない崩壊と、変えられない運命に、逆らい続けてきた。

「ここが私の戦場よ……」

 空間の歪みから、魔女が姿を現していく。

――5

 心臓が高鳴る。

――4

 体中が震えだす。

――3

 汗腺から汗が噴き出てくる。

――2

 己の全てを使い。

――1

 暁美ほむらは挑む。

――開演


420: 2013/04/29(月) 21:05:17.73 ID:6KYUystw0

「キャハッハッハッハ……キャーッハッハッハ……」

【舞台装置】魔女 ???(通称:ワルプルギスの夜) その性質は【無力】

 笑い声を上げながら、宙を舞う巨大な魔女。ワルプルギスの夜が、ついに姿を現した。



――カチン。

 同時に、ほむらは盾に魔力を込めて、時間を止めた。

(……どんな攻撃力の有る武器を使っても、本体を撃ち抜けなきゃ話にならない!!)

 取り出したその兵器は。

――カチン。


 再び時が動き出す。


421: 2013/04/29(月) 21:06:59.11 ID:6KYUystw0

「キャハハ……?」

 ワルプルギスの体と本体である歯車を接続する軸には、ガッチリと二本の太いワイヤーが絡みついていた。

「……大型兵器ならぬ、大型重機よ!!」

 二台の大型クレーン車を使い、軸からガッチリと拘束。
 400トンもの重荷を落ち上げるクレーン車二台で、地上から全力で引っ張る。これでは、ワルプルギスの夜とは言え簡単には動けない。

「ここからよ!!」

 更に、バズーカー砲にロケットランチャー。現代兵器を次々に取り出し、ワルプルギスの本体に向けて構える。


423: 2013/04/29(月) 21:08:21.06 ID:6KYUystw0

 ドカン、と爆炎を上げ、砲弾やミサイルが次々と命中。本体の歯車を、的確に攻撃していく。

 しかし、動けないワルプルギスも、使い魔を次々と生み出す。

 そして、ほむらに向かい一斉に襲い掛かる。

「うぐっ……!!」

 魔法少女の影は、弓矢でほむらの腹部を貫く。
 更に、別の影は、ほむらを背中から叩き斬った。予想外の位置からの斬撃で、ほむらは弾き飛ばされた。

「……まだよ。まだまだ……!!」

 痛みを食いしばり、立ち上がる。



424: 2013/04/29(月) 21:09:37.16 ID:6KYUystw0

 再びミサイル砲を担いだ。そして、ワルプルギスの本体を狙い、トリガーを引く。

 ドン、と歯車から爆炎が立ち上った。

(使い魔に構ってられないわ……。
 アイツを……ワルプルギスの夜だけを狙い撃つ!!)

 使い魔の攻撃を無数に受けながらも、ほむらは攻撃の手を緩めない。

 丸で、弓矢を受けながらも、氏して立ちはだかった弁慶の様に。


425: 2013/04/29(月) 21:11:04.20 ID:6KYUystw0

 ビルから、激戦を見下ろす魔法少女達。
 自然と作っていた握り拳は、小さく小刻みに震える。

「神風特攻だなんて、レベルじゃないわ……。
 あんなバケモノ相手に、一人で挑む何て無謀よ……」

 海香は、戦慄の余り背筋が凍りつく。

「見てらんねぇよ……。いくら何でも、あんなやり方じゃ体がもたねぇぞ!!」

 杏子は、今すぐにでも向かいたい衝動を抑えきれない。


426: 2013/04/29(月) 21:11:45.59 ID:6KYUystw0

「……どうして。どうして、あんなにして戦うの!!
 私達も居るのに……」

 かずみは、半泣きで叫ぶ。痛々しいまでの玉砕戦法は、見ている心を絞め付けた。

「ちくしょぉ……。
 構うもんか!! 行こうよ!! これじゃ、作戦だって通用するか解らないだろ!!」

 カオルは、腹が立っていた。この状況下で動かない自分に。

「ゆまも行くよ!!
 あのままじゃ……お姉ちゃんは氏んじゃうもん!! ゆまが行って、お姉ちゃんを治さなきゃ!!」

 もはや、我慢は出来なかった。約束違反と言えど、ほむらの元へ向かう。
 そうするつもりだった。


427: 2013/04/29(月) 21:13:04.91 ID:6KYUystw0

 しかし、行こうとする先に、鉤爪からの斬撃が飛び交った。床に何本かの傷跡が走る。

「生憎だけど、ここは行くべきじゃないね」

 キリカは、淡々とした様子で言った。

「戦術を編み出したのは彼女。
 この状況は、彼女が作り出した事ですよ。手助けする必要がありますか?」

 織莉子は、うっすらと笑みを見せながらそう告げた。

「てめぇ……。
 信用する気は無かったが、裏切るつもりか?」

 杏子は、槍を構えだして、織莉子とキリカを睨みつけた。

「私達は、ワルプルギスを倒し、その後に鹿目まどかを頃す事が目的。ただ、その為に手を組んだだけ。
 彼女が生きようと氏のうと、知った事では有りません。
 むしろ、彼女が居なければ……私達の計画は、確実に遂行できるのですよ?」

 織莉子は、当然とばかりに言い張る。

「織莉子と私の狙いは、その一点さ。
 本人も言ってたじゃないか。仲良くしろとは言って無い、とね」

 そして、キリカも追従した。


428: 2013/04/29(月) 21:14:02.43 ID:6KYUystw0

 この土壇場での裏切りに等しい行為は、織莉子とキリカが逆転を狙った故の物。
 元々、組んでいた訳では無いが為の、悪い部分を露呈してしまったのだ。

――シュン。

 複数の黄色いリボンが、瞬時に飛び交った。

 仲間の魔法少女達を、次々と拘束していく。

「…………」

 一言も話さず、マミは全員を睨みつけた。

「何だよ……。何で、アタシ達まで捕まえるんだよ!!」

 不服とばかりに、杏子は捲し立てた。


429: 2013/04/29(月) 21:15:48.19 ID:6KYUystw0

 しかし、マミは無言のまま、屋上の鉄柵にまで歩み寄った。

――ゴン!!

 太い鉄柵を、マミは思いっきり蹴りつけた。
 グニャリと、飴細工の様に曲がった鉄柵を見て、一同はゴクリと息を飲む。

「……貴女達は、黙って見てる事もできないの?」

 マミは、今まで誰にも見せた事の無い、怒りの表情で全員を睨みつけながら、冷たい声で静かにそう言った。

 この中で、一番怒っていたのはマミだった。
 温厚な人間が怒ると後が怖いと言われるが、マミはまさにそうだった。では、何に対して怒っているか?

 ベテランの癖に、何もしていない自分に。
 自らの計画の為に、他の人間を切り捨てようとする仲間に。
 約束も、ろくに守れない仲間に。
 そして、身勝手な事ばかりして、単身で挑む仲間に。

 何もかもに、怒り狂っていた。

(……暁美さん)

 ただ、見守る事だけ。それが、今出来る、たった一つの選択肢だった。


430: 2013/04/29(月) 21:16:56.46 ID:6KYUystw0

 残りの武器も少ない。
 身体能力の強化に全ての魔力を注ぎ込んで、使い魔の攻撃を耐え凌ぐ。時間停止を使っていないとは言え、魔力の消費は極めて早い。
 しかし、使い魔の数は増える一方。

(……もう少し……もう少しの辛抱よ!!)

 大型の武器はもう無い。
 ライフルで、歯車を撃ちまくる。的確に撃ち抜くが、先程の武器に比べても威力は数段落ちる。

 食い止めるクレーン車も煙を上げ始め、エンジンはオーバーヒートしている。
 魔力を回復させる時間も無い。


431: 2013/04/29(月) 21:17:34.32 ID:6KYUystw0

 ほむらは、解っていた。もう、自分の限界が近い事を。

(そろそろ……本気を見せなさいよ……)

 それでも、一心不乱にワルプルギスを攻撃し続ける。

「ねぇ……ワルプルギス!!」

 キレた様に、ほむらは叫んだ。

 その時だった。


432: 2013/04/29(月) 21:19:07.73 ID:6KYUystw0

 ブツン、とクレーン車のワイヤーがぶった切れた。勢い余って、クレーン車が横転し、建物の群れに突っ込んだ。

 そして……。

「…………」

 ワルプルギスの夜は、笑いを止めた。

 ゆっくりと、姿を反転させていく。

 歯車を地面に落とし、正立の姿をついに見せたのだ。

 力無き魔法少女を、全力で仕留める為に、本気を出す。

 ほむらを見下ろす様に、ワルプルギスが立つ。

「本体にあれだけ撃ち込まれれば、そりゃ怒るわよね……」

 しかし、ほむらの眼に、諦めの色は無い。

(ここからが正念場よ……)

 手に持っていた機関銃を、盾の中に片付けた。


433: 2013/04/29(月) 21:19:48.44 ID:6KYUystw0

 使い魔の動きは、格段に活発になる。
 ほむらに狙いを定め、何十体の魔法少女の影が迫りくる。

(……ここからよ!!)

 怪我を追って、動きの悪い体を、強引に動かす。
 応急処置を施す魔力も残っていない。そんな悠長な真似をすれば、使い魔の餌食になるだけ。

(……予想より引き延ばせた。後は、上手く誘い込むだけよ!!)

 ほむらは、撤退する予定のライン。科学薬品の工場に向けて、駆け出した。


434: 2013/04/29(月) 21:20:43.45 ID:6KYUystw0

 影魔法少女達は、ほむらに再三攻撃を仕掛ける。

「くっ……!!」

 命中や致命傷は避けながら、ほむらは全力疾走。
 ジグザグに走り回り、狙いを定めさせない。

 ドン、とワルプルギスの放った光線が、アスファルトに大穴を空けた。

(今の状態であれを受けたら、一溜りも無いわ……)

 冷や汗をかきながらも、ほむらは回避し続ける。


435: 2013/04/29(月) 21:21:29.40 ID:6KYUystw0

 そして、塀を飛び越えて、工場の敷地内に侵入。

 影魔法少女達も、次々と飛び越えてくる。

(……あそこよ!!)

 ほむらの眼に写ったのは、薬品を貯蔵する、野外に接地した巨大なタンク。

 看板には「危険物第1類」と示されている。

「……これで、一発逆転よ」

 ほむらは、小さく呟いた。


436: 2013/04/29(月) 21:23:17.41 ID:6KYUystw0

 ドカン、と建物を破壊しながら、ワルプルギスの夜も、ほむらを追いかけてきた。

 あれだけ大量に居た影魔法少女の姿は、全て消えていた。

 ワルプルギスの夜は、直々に暁美ほむらに止めを刺すつもりだ。

(……とっておきは、最後の最後に使う物)

 ほむらが、盾から出したのは、ダイナマイト。

(……私が初めて魔女を仕留めたのも、自作のパイプ爆弾だった……)

 しかも後ろに控えるのは、可燃性の化学薬品のタンク。

(……これも、何かの因果なのかしらね……)

 どれ程の大爆発が起きるか等、語るまでも無い。

(砂時計も落ち切った……。戻れないし……止められない……)

 そして、ワルプルギスの夜は、目の前に壁の如く立ちはだかっていた。

(でも……思い残す事は何も無い……)

 溜めこんだ魔力を、ワルプルギスは放出しようとしている。

(幸せになってね……まどか……)

 同時に、ダイナマイトの信管にも、電気が走った。

(……ざまあみろ……インキュベーター!!)


437: 2013/04/29(月) 21:23:56.72 ID:6KYUystw0


――ドオォォォォォン……。


 薬品工場から、途轍もない火柱が立ち上った。

 爆発、炎上。工場の敷地全てが、真っ赤に燃え上がる。

 待機していた者は、衝撃波を受けて、姿勢を乱す。

 今までの突風では無い。爆発の熱風が、体中を撫でた。


438: 2013/04/29(月) 21:25:20.47 ID:6KYUystw0

 本気の自爆特攻。
 ワルプルギスの夜は、どでかい火柱に包まれた。

「あ……暁美さん」

 マミは、呆然と上がった火柱を見つめていた。

「うそ……だよ……ね」

 ゆまはポロポロと、涙を溢れさせた。

「ば……バカ野郎……。上手く逃げるんじゃねーのかよ!!
 あんな爆発の中で、たった五秒じゃ一溜りもないじゃねーかよぉ!!」

 杏子は、感情をむき出しにして叫んだ。

「そこまで……そこまでしなくてもいいじゃんよ!!
 何で……何でなの……?」

 かずみは、地面にへたりこみ、火柱を直視出来ない。

「あんなの……技でも何でもないよ……。犬氏するつもりは無いって言ってたのは……自分だろ……」

 カオルは、首を横に振る。

「彼女は……最初からこのつもりだったのね……。氏ぬつもりで……それで居て、仕留められなかった時に、私達に託す……。
 馬鹿よ……。手段を択ばないにしても……自分まで犠牲にしてたら……何にもならないじゃない!!」

 海香は、この現実を受け止めきれない。


439: 2013/04/29(月) 21:26:47.95 ID:6KYUystw0

「……」

 キリカは、一言も喋らない。ただ、立ち上る煙を、目で追いかけるだけ。

(……何故なの?)

 織莉子は、大量の冷や汗を、背筋に感じていた。

(……さっきまで見えて居た世界の終焉が見えない……!?

 未来が……変わってる!?

 厄災が降り注がない……何故なの!?

 暁美ほむらは……何をしたと言うの!?

 鹿目まどかから……最悪の魔女が生まれない!?)

 その予知は、確実に未来を示していた。

(あの子が……暁美ほむらが出し抜こうとしてたのは……私達じゃない……)

 困惑の余り、体中が震える。


440: 2013/04/29(月) 21:27:34.20 ID:6KYUystw0

 暁美ほむらの本当の狙いに気が付いた時、織莉子は体中の震えを、抑える事が出来なかった。

(キュウべえだ……)

 青ざめた顔で立ち尽くすしか、織莉子は出来なかった。


441: 2013/04/29(月) 21:28:25.48 ID:6KYUystw0

 そして、契約請負人がその姿を見せた。

「ワルプルギスの夜は、完全に消滅したよ。
 このゲームは、暁美ほむらの一人勝ちの様だね」

 キュウべえは淡々と言ってのけた。

「ゲームですって……?」

 マミの静かな声には、怒りが滲んでいた。

「元々、鹿目まどかの契約を賭けて、僕と暁美ほむらは話を通していたんだ。

 だが、彼女一人で、ワルプルギスの夜を倒したんだ。僕は鹿目まどかと契約する事は、未来永劫無いだろうね」

 キュウべえは理屈っぽい答えを述べた。


442: 2013/04/29(月) 21:29:44.99 ID:6KYUystw0

 ズバン、と地面を槍が抉った。

 キュウべえは、辛うじて避けていたが、杏子はキュウべえを睨みつけたまま。

「今すぐに消えろ……。何体出てきても、潰し続けるぞ……」

 杏子は、即座に斬りかかれる姿勢で、キュウべえに槍を向けた。

「ヤレヤレ……。無造作に潰すのは、コストの無駄だからね……。
 エネルギーの回収は、まだまだ先送りになりそうだから、節約に越したことは無い。君達とは、暫く会わない方が良さそうだ……」

 吐き捨てる様に言い、キュウべえはその姿を消していた。


 昼前には避難指示が解除され、市民達は自分達の家に帰宅する事が出来た。

 ただし、大爆発を起こした薬品工場の消化作業は、夜を徹し行われる事となった。


443: 2013/04/29(月) 21:32:01.17 ID:6KYUystw0

 美国邸。
 ソファーに座り、織莉子は呆然と天井を見上げていた。

「キリカ……。
 未来は変わったのよ……」

 力の抜けた声で、織莉子はそう言った。

「……どういう事だい?」

 キリカは、無表情のまま聞き返した。

「暁美ほむらは……最初から解ってたのですよ。
 どういう手を使ったのかは解りませんが、降り注ぐ厄災を回避出来る手段を見つけていた……」

「……」

「私達では、敵わない訳だわ……。
 全て、彼女の掌の上で、私達も……キュウべえさえも踊らされていただけ……」

 織莉子の言葉を聞き、キリカは静かに言葉を出す。

「……織莉子。
 君はこれから、どうするんだい?」

「解らないわ。
 ただ、鹿目まどかを頃す必要も無いのなら……見滝原に留まる理由も無い」

「そうかい……」

 キリカは、それ以上の事を聞かなかった。

 美国織莉子と呉キリカの両名は、その日を境にして、見滝原市からこつ然と姿を消してしまう。
 そして、その後の消息は、一切不明である。


444: 2013/04/29(月) 21:32:42.16 ID:6KYUystw0

 マミに呼ばれ、まどかとさやかは、マンションを訪ねてきた。

 しかし、暗い表情のマミを見て、まどかとさやかは感じる物が有った。

「……マミさん。ほむらちゃんは……?」

 まどかは、決氏の覚悟で聞いた。

 だが、マミの首は横に動いた。

「う……嘘ですよね……。
 ほむらは……頃しても氏なない筈ですよ……。あんなにずる賢くて、しぶとくて……。

 そんな奴が……氏ぬ筈無いですよ!!」

 さやかは、涙交じりの声を張り上げた。


445: 2013/04/29(月) 21:34:10.51 ID:6KYUystw0

「暁美さんは……命懸けで……魔女と戦ったの。
 自らの命を絶ってまで……魔女を倒したのよ……。彼女は口先だけじゃなかった……。

 目的達成の為に……手段を択ばなかったのよ。自分自身の命と引き換えにしても……」

 マミはそう語った。

 自然と涙が込み上げてきた。拭っても拭っても、涙を抑える事が出来なかった。

「マミさん…………。
 ほむらちゃんが……私達を護ってくれたんですよね!!」

 泣きながらまどかは言った。

 そして、マミの首は縦に動いた。

「マミさん……マミさーん!!」

 まどかはマミに抱き着いた。涙が枯れる位の勢いで。声枯らす位の大声で。まどかは泣き続けた。

 さやかも、すすり泣いていた。抑えようとしても、抑えられない感情を爆発させるしかなかった。


446: 2013/04/29(月) 21:35:23.01 ID:6KYUystw0

 三人とも、どれ位の時間を泣いていたのか、解らない。

 日が傾いて、西の空がオレンジ色に染まり出していた。

 まどかは、真っ赤な目で真っ直ぐにマミを見つめた。

「ほむらちゃんは……私の最高の友達です……胸を張って言えます。

 だから……私はほむらちゃんの分まで、生きようと思います!!」

 固い決意を、まどかは伝えた。


 それから数日もすると、魔法少女達は元の縄張りへと戻って行った。

 しかし、今回の出来事を切っ掛けにし、見滝原市、風見野町、あすなろ市。
 この三つの街を縄張りとする魔法少女達は、同盟を作る事となり、その名を轟かせる事となる。


447: 2013/04/29(月) 21:36:04.68 ID:6KYUystw0
エピローグ

 ある日の深夜。

 一人の魔法少女が、鉄塔の上から街を見下ろしていた。

「全く……。
 僕がまんまと、一杯食わされる羽目になるとはね。
 後にも先にも、僕を出し抜いたのは君だけだよ……」

 彼女の少し後ろで、キュウべえはぼやいた。

「……言ったでしょ?
 利用できるものは、何でも使う。情報もその一つなのよ……」

 少女は。

 暁美ほむらは、ニヤリとしながらそう言った。


448: 2013/04/29(月) 21:37:07.50 ID:6KYUystw0

 服の右袖は、風に煽られパタパタと揺れ、右目蓋は傷ついて閉じたまま。
 痛々しい傷を負いながらも、残った左目で街を見つめ、左腕で髪の毛をかき上げた。

「二つ想定していなかった事が、僕には有る。
 一つは、君がワルプルギスの本体を、確実に攻撃出来る技量を持っていると思わなかった」

 キュウべえの言葉に、ほむらは何も反応しない。

「もう一つは、君が最後まで、本当の狙いを隠し抜いてた事だ。
 何かを隠している事は解っていた。だけど、何を隠していたかが、僕には読めなかった」

 ほむらは、無言で髪の毛をかき上げた。

449: 2013/04/29(月) 21:37:51.74 ID:6KYUystw0

 キュウべえは、なおも言葉を続ける。

「君の魔法と、鹿目まどかの因果がリンクしている事は、君が教えてくれた。

 しかし、君の時間停止と時間遡行の魔法は、一か月だけの限定的な物だとは、教えてくれなかった。

 まさか、魔法の効果が切れると同時に、絡みついた因果の糸も解けるなんて、想像もつかなかったよ。

 そんな重要な事を隠す何て、君も人が悪いよね」

 キュウべえは、ぼやく様にそう言った。

「聞かれなかったから、答えなかっただけよ」

 しかしほむらは、当たり前の如くそう返した。


450: 2013/04/29(月) 21:41:14.41 ID:6KYUystw0

「更にそこまで考えた上で、自らの行動と言動で撹乱し、その事実に目を生かせない様にしつつ、大きく時間を稼ぐ。

 恐らく、自分がワルプルギスを倒せなかったとしても。
 鹿目まどかの因果だけは、消える様にしていたんだろう。

 しかし、万が一にもだ。
 鹿目まどかの因果が消えなかったら、君はどうするつもりだったんだい?」

 キュウべえは、ほむらに聞きただす。

「教えないわ。
 自分の手口を教える程、馬鹿じゃないのよ」

 ほむらは、その一点張りだった。



451: 2013/04/29(月) 21:42:13.56 ID:6KYUystw0

「全く。本当に、君は蛇の様さ。
 狡猾な手段で相手をハメる。嘘の中に真実を混ぜて、信憑性を高める。
 味方にも、全ては教えないで、肝心な所はボヤケさせる。まどかの素質の高さは、彼女達には永遠の謎だろう。

 時間遡行の事実を隠して、無駄なプレッシャーを与えない。
 その挙句、氏んだ様に思わせておいて、実はしぶとく生きているだなんてね。

 これ程、切れ者の魔法少女は、他に居ないよ」

「……これでも、ギリギリまで考えて出した選択よ。
 あの爆発の時だって、炎の中に巻き込まれ、逃げきれるタイミングはギリギリだった。
 工場を飛び出してから、何とか回復はしたけれど、魔力はグリーフシードを丸々四つも使い切った。それでも、右目と右腕はどうしようも無かったのよ。
 実際、生きてるだけでも儲け物よ」


452: 2013/04/29(月) 21:43:13.38 ID:6KYUystw0

「しかしだ……。
 生きているければ、まどか達に会う事も出来る。それなのに、会う気は無いのかい?」

「無いわ。
 私は、あの時氏んでいるの。二度と表側で生きていく事は出来ない。

 この先厄介な出来事に巻き込まれても、今回の様に上手く出来る保証は無いわ。それだったら、私は氏んでいる事にした方が、絶対に良いのよ。
 私の為にも、彼女達の為にもね」

「やれやれ。君の行動は、本当に解らないね」

 キュウべえは、そう言いながら、空を見上げた。

「貴方には絶対に解らない事よ」

 ほむらは、ふぅと溜息を吐いた。


453: 2013/04/29(月) 21:45:42.14 ID:6KYUystw0

「だったら、君はこれから、どうするつもりなんだい?」

「これからの私は、裏の世界を生きていくわ。
 別に、捻くれて流されるがままに、裏の世界に行く訳じゃ無い。

 一つの道標に辿り着いた時。そこから、また新しい道を歩いていく事は出来るの。
 それがどんな道であれ、私の意志でその道を生きて行くわ。

 だから、陰ながら、まどか達の幸せを祈らせて貰う。
 私に出来る事は、それ位かしらね」

 ほむらは、はっきりと断言した。

「……生き続ける事が、可能だと思ってるのかい?」

 キュウべえに聞かれ、ほむらははっきりとした口調で言った。

「当然よ。
 この先、何か有るか解らない。だけど、何が何でも生き抜くわ。
 その為だったら……」

 ほむらは、力強くそう言った。



――手段は択ばないわ





ほむら「手段は択ばないわ」 FIN



455: 2013/04/29(月) 21:50:51.18 ID:6KYUystw0

これにて、完結です。

過去に書いたまどマギSSで、良くも悪くもここまで反響の大きい話は無かったです。

色々と、賛否両論とか、言い分も有るでしょうが、自分の中ではベストを尽くしました。

お付き合いいただき、ありがとうございました。

質問が有れば、それなりには答えるつもりです。


引用: ほむら「手段は択ばないわ」