1: 2013/01/09(水) 22:21:17.83 ID:EQKVJDRF0

初めに、諸注意。

・このSSは、原作の魔法少女+オリジナル魔法少女を魔女化するスレに、投下された魔法少女のコラボになります。

・したがって、原作の雰囲気を壊しかねない場面も有るので、合わないと思った方はバックブラウザでお戻りください。

・世界観としては、ポータブルのお茶会ED後をベースにして、おりマギのキャラが登場します。

・かずマギのキャラは登場しません。

・ワルプルギス撃破の半年後の設定です。

・魔法などは、原作とは異なる場面が、非常に多いです。

・なお、作者の文才の無さはどうしようも無いので、その点は勘弁してください。

・最後に、オリジナルのキャラの使用を認めてくださった方。ご協力ありがとうございました。

では、お楽しみください。


もう誰にも頼らない

2: 2013/01/09(水) 22:22:20.24 ID:EQKVJDRF0

 新幹線は予定通りの平常運航で、浜松市を通過中である。

さやか「ねぇねぇ!! あれが浜名湖だよね!!」

ほむら「少し落ち着きなさいよ……」

 ハイテンションで、窓から景色を見るさやかに、ほむらは呆れた様子でボソリと呟いた。

仁美「浜名湖と言えば、ウナギの産地で有名ですわね」

まどか「へぇー、美味しそうだね」

 仁美の豆知識に、まどかが追従する。

ほむら「名古屋に行けば、ウナギが食べられる筈よ。ひつまぶしって言う、ご当地料理が有るでしょ?」

さやか「あと、エビフライ、味噌カツ、手羽先に……」

 この四人、さっきから食べ物の話題ばかりである。

 見滝原中学の二年生は、本日から二泊三日の修学旅行。一行は、名古屋に向かっている。中学生活の中でも大きなイベントであり、楽しみにしているのは誰もが同じだ。しかし、ほむらの表情は少しだけ硬い。

ほむら(……折角の修学旅行なのに。どうして三国織莉子は、私に奇妙な忠告をしたのかしら……)


3: 2013/01/09(水) 22:23:46.27 ID:EQKVJDRF0

――三日前。

ほむら「……こんな時に、私を呼び出して……何の用事かしら?」

織莉子「貴女に忠告すべき事が出来たの。今から、四日後。あなた達は、名古屋で事件に巻き込まれるわ」

ほむら「ええ。修学旅行で名古屋に行くわ。でも、私に直接それを言うという事は……魔法少女に関わる事件よね?」

 織莉子の首は、縦に動いた。

織莉子「そう。それによって、鹿目まどかが契約しかねないビジョンが見えたの」

ほむら「そんな事……させる訳がないじゃない!!」

織莉子「まだ、決まった訳じゃ無いわ。だけど、事件に巻き込まれるのは確実よ?
 それに……貴女は、ワルプルギスの夜を超えてから、ぬるま湯に浸かり過ぎてるんじゃなくて?」

ほむら「……どう言う意味よ?」

織莉子「平凡な日常が、如何に大切だとしても……私達は魔法少女に変わりは無い。例え厄災を乗り越えても、次の厄災が何時来るか解らない。
 今の貴女は、あの頃の様に脅威を感じないわ。沸騰したお湯の熱さも、零度の水の冷たさも忘れてる様に見える。
 少なくとも……今の貴女で鹿目まどかを護りきれるのかしら?」

ほむら「……護ってみせるわよ。例えこの命を引き換えにしてもね」

織莉子「もう一つ忠告しておくわ。もし、鹿目まどかが契約するような事態になれば……魔女になる前に、私が手を下す。それだけは、忘れないで」

ほむら「貴女に言われなくても……解ってるわ!!」


4: 2013/01/09(水) 22:25:14.04 ID:EQKVJDRF0

――……ちゃん? ほむらちゃん?


ほむら「……!?」

まどか「ほむらちゃん? さっきからボーっとしてたけど、大丈夫?」

ほむら「ええ……問題無いわ」

さやか「とか言って、実は乗り物酔いしてたんじゃない? 随分と険しい顔しちゃって」

仁美「さやかさん、からかうのはいけませんわ」

 ほむらは、フッと溜息を吐き出した。

ほむら(藪を突っついて、蛇を出さなければ良い話だもの……。だけど、この胸騒ぎはなにかしらね……)

 何処か腑に落ちないほむらの考えと裏腹に、新幹線は豊橋駅を通過していった。


5: 2013/01/09(水) 22:26:19.88 ID:EQKVJDRF0

――その頃。名古屋にて。

 二人の魔法少女は、テレビ塔の天辺から、街を見下ろしていた。
 黒髪の魔法少女は、マフラーで口元が見えないが、強張った様子。対照的に、白髪の魔法少女はヘラヘラと薄気味悪く笑っている。

黒髪の少女「……ボスからの伝令。配下の魔法少女が、反逆を企てている。守山、名東、千種、天白を縄張りとしている魔法少女達の動きに目を配れ、だ」

白髪の少女「クックック……。そんな物、待ってるまでも無く、今から頃しちゃえば良いじゃんよ……」

黒髪の少女「だから、貴様は愚かだ。魔法少女を無暗に殺せば、取り分が減る。一人を見せしめにした後、こちらの手駒にした方が遥かに利口だ」

白髪の少女「ボスも甘いねぇ……」

黒髪の少女「フン……貴様の様な狂い切った悪魔の考えには、同調できんな」

白髪の少女「しなくてケッコー。私は、欲望の為に狩るのみだからね」

 白髪の少女は、吐き捨てる様に告げて、テレビ塔から飛び降りた。

黒髪の少女(……憎たらしい。だが、私では奴には敵わないからな)

 溜息を吐き出して、少女は無数に並ぶビルの群れを見下ろし続けた。


6: 2013/01/09(水) 22:27:38.29 ID:EQKVJDRF0

 名古屋市。国内では、三番目に人口の多い都市である。また、他の巨大都市に比べ、変わった文化が多く存在する事も事実で、名古屋は世界の中の日本と言う言葉も存在する。

 修学旅行初日は、名古屋城を見学した後、名古屋市科学館でプラネタリウムの見学。
 食事をとった後に、ホテルに到着したのは午後七時を回ってからだった。

 ホテルで個々の部屋に入る。三人部屋のメンバーは、ほむら、さやか、まどかと都合の良い割り振りに当たったのだ。
 そしてさやかは、荷物を置くなりベッドにダイブした。

さやか「うーん……いいベッドだー」

ほむまど「……」

さやか「二人して、そんな目で私を見ないでよ……」

 憐みの目で見つめられ、さやかは少々いじけてしまう。

まどか「そういえば、さっきホテルの売店で、ご当地のストラップが有ったから買いに行きたいなー」

さやか「あれ可愛いよねー。あたしにピッタリじゃない?」

ほむら「あら? さやかなら、ドアラのストラップが似合うんじゃない?」

まどか「そういえば、さやかちゃんの髪の色も青だもんね」

さやか「え~? あたし的にはあんまり……」

 さやかが言葉を出している最中だったが、二人の持つソウルジェムが反応を見せた。ここから、比較的近い位置に、魔女が出現しているようだ。


7: 2013/01/09(水) 22:28:24.37 ID:EQKVJDRF0

さやか「……ほむら。魔女の反応だ」

 さやかは慌てて、立ち上がる。

ほむら「待ちなさい。貴女、今ここが何処だか解ってるの?」

さやか「名古屋に決まってるでしょ?」

ほむら「だからこそよ。この街には、この街の魔法少女が居るのよ。下手に手を出せば、縄張りを奪いに来たと勘違いされるわ」

さやか「でも……」

???「それに、魔女を退治したとしてもだ。土地勘の無い君達が、無事に戻ってこれるとは思えないけどね」

 突然、別方向から聞きなれた声が、三人の耳に飛び込んだ。


8: 2013/01/09(水) 22:29:52.86 ID:EQKVJDRF0

さやか「キュウべえ?」

まどか「どうしてキュウべえが……って、居ても当然だよね」

ほむら「何の様かしら? 私達、修学旅行の途中なんだけれど?」

QB「ほむら、さやか。君達二人に伝えるべき事があるからね」

ほむら「突然ね。何のつもりかしら?」

QB「君達は、この街で魔女を見かけても、手は出さない方が良いよ」

さやか「何でよ? 魔女を倒しても、縄張りの持ち主にグリーフシードだけ渡せば見逃してくれるんじゃない?」

QB「……見逃す保証が、あると思うのかい?」

ほむら「……?」

QB「詳しくは教える事は出来ない。でも、藪を突っついて蛇を出すのは得策じゃないよ」


9: 2013/01/09(水) 22:31:38.73 ID:EQKVJDRF0

 キュウべえの忠告に、さやかは少々納得が出来ない様子だった。

さやか「……もし、手を出したとすればどうなるの?」

QB「殺されるだろうね」

さやか「……殺させられるって」

まどか「そんなの……おかしいよ!!」

ほむら「……」

QB「事実さ。魔法少女全員が、同じ考えを持つ訳じゃ無いからね」

ほむら「忠告ありがとう。だけど……何故私達に、そんな助言をするのかしら?」

QB「君達を失う事は、我々としても損害が多いのさ」

ほむら「……そう」

QB「じゃ、僕は失礼するよ」

 最低限の事だけ告げると、キュウべえは部屋から消えて行った。

さやか「何なのよ……」

まどか「……」

ほむら(三国織莉子は、何を見たと言うのかしら……)

 そう言うほむらも、不機嫌そうに溜息を吐き出した。


18: 2013/01/10(木) 22:01:46.82 ID:AK3CxE2n0

――その夜。

 地下駐車場内で、五人の魔法少女と、二人の魔法少女が対峙していた。辺りには、不穏な空気が漂っている。
 そして、五人組の魔法少女は、明らかに二人組の魔法少女に怯えている様だった。
 大剣を持つ、褐色の衣装を纏った魔法少女は、ニヤリと笑みを見せながら口を開く。

大剣を持つ少女「……へぇ、ボスの言ってた通りだわ。アンタらが手を組んで、反逆しようって魂胆だった訳だ」

 魔法少女の一人は、震えながらも声を荒げた。

魔法少女A「うるさいわよ!! 人をゴミみたいに扱ってる癖に!! 貴方達は、どうせ私達を駒位にしか見てないんでしょ!!」

大剣を持つ少女「ふーん……。能無しの連中にしちゃ、賢いじゃん。何処で猿知恵を身に付けたの?」

魔法少女B「この……言わせておけば!!」

大剣を持つ少女「いいさ。相手になってやるよ。全員まとめて、かかって来いよ!!」

 少女は大剣を振りかざし、臨戦態勢を整える。

19: 2013/01/10(木) 22:02:26.53 ID:AK3CxE2n0
 それを見ると、隣の水色のドレスを着る魔法少女も槍を構えた。

槍を持つ少女「私も手伝うよ?」

大剣を持つ少女「氷架は見てるだけで良いよ。こいつら程度、本気を出すまでも無いしね!!」

槍を持つ少女「レイちゃんがそう言うなら……」

 そう言って、槍を持った少女は後ろに引き下がった。

魔法少女A「舐めるな!!」

 五人の魔法少女達は、大剣を持つ少女に向かい、一斉に襲い掛かった。


20: 2013/01/10(木) 22:04:02.51 ID:AK3CxE2n0

――三分後。

 地面には、五人の魔法少女が横たわっていた。僅か一ラウンドの時間しか使っていないにも関わらず、全員動く事が出来ない位まで痛めつけられている。
対照的に、大剣を持つ少女は息一つ切れていない。

大剣を持つ少女「手応えが無いねぇ……。ま、このままほっとくのも癪だし……アンタだけは見せしめにさせて貰うよ!!」

魔法少女A「ごめんなさい!! ……もう逆らいませんから!! 見逃してください!!」

 少女は無言で歩み寄った。這いつくばる魔法少女が泣き叫ぶのを、嘲笑いながら立ち止まる。

大剣を持つ少女「そんな風にする位なら……最初からやるなっての!!」

 何のためらいも無く、思いっきり大剣を振り落とした。

魔法少女達「……!?」

 少女の体は、右肩から股にかけて真っ二つに切り落とされた。即氏同然の攻撃を受けてしまう、動こうとしない。
鮮血が飛び散り、臓器の欠片が溢れ出してしまう。
 魔法少女達は、恐怖の余り悲鳴を上げる事さえも出来ない。失禁、嘔吐し、ガタガタと震えて見ているしか出来なかった。

槍を持つ少女「あー……レイちゃん。これ出てくるよ?」

大剣を持つ少女「ふーん……好都合じゃん」

 しかし、二人の魔法少女は、ソウルジェムが生まれ変わる瞬間を、笑いながら見ているだけだった。丸で、獲物を目の前にした肉食獣の様に。


21: 2013/01/10(木) 22:04:52.67 ID:AK3CxE2n0

――翌日。

 修学旅行二日目は、各グループによる自由行動になる。
 ほむら、さやか、まどか、仁美の四人で、名古屋の街を散策する。

仁美「では、行きましょうか」

 四人は、地下鉄で東山動物園に向かうのだった。

まどか「動物園、楽しみだなー」

仁美「東山動物園と言えば、コアラで有名ですものね」

さやか「へぇー。全然、知らんかった……」

ほむら「……そうね」

 楽しむ三人を尻目に、ほむらは不安を隠せないでいた。

ほむら(キュウべえの言ってた事が……頭から離れないわ)

 底知れぬ不安。それがほむらを襲っていた。


22: 2013/01/10(木) 22:06:51.85 ID:AK3CxE2n0

 ほむらの思いと裏腹に、東山公園前駅に到着し、皆で目的地に向かう。
 しかし、数メートル歩いた時点でほむらとさやかのソウルジェムが反応を見せた。

さやか(……魔女の反応だ!!)

ほむら(こんな時に……)

 ほむらは奥歯をギリッと噛み締めた。

さやか「ゴメン!! まどかと仁美は、ちょっと待ってて!!」

 さやかは、考えるよりも先に動いていた。既に反応の強い方向に向かい、駆け出している。

ほむら「……あのバカ」

 小さく呟いてから、ほむらもさやかを追った。

仁美「……さやかさん達、どうしたんでしょうか?」

 魔法少女の事を何も知らない仁美は、首を傾げて立ち尽くすしか無かった。

まどか「大丈夫だよ……きっと」

 なだめる様に、まどかはそう言った。しかし、そのセリフは自分に言い聞かせているだけかもしれない。


23: 2013/01/10(木) 22:07:45.27 ID:AK3CxE2n0

 魔女結界の前にたどり着くと、さやかは脇目も振らず結界に入って行く。

ほむら「全く……昨日言った事、全部忘れてるじゃない」

 ほむらも仕方なしにと、結界に入って行った。

 魔女の結界で、変身を完了させたさやかとほむら。

ほむら「さやか!! 貴女、昨日言った事忘れたの!?」

さやか「覚えてるよ。でもさ、やっぱり魔法少女だから……魔女をほおって置けないじゃん」

ほむら「……それはそうだけど」

さやか「大丈夫だよ」

ほむら(その大丈夫が、命取りになるんじゃない……)

 さやかは楽観視していたが、ほむらの内心は気が気では無い。


24: 2013/01/10(木) 22:09:16.23 ID:AK3CxE2n0

 魔女結界の中、さやかは使い魔に向けて剣を構えた。何時でも、攻撃に移れる体制だ。

さやか「ほむら。アンタ、修学旅行中だし、武器持ってきて無いでしょ? 今日はさやかちゃんに全部任せたまえ!!」

 意気込むさやかだが、ほむらは淡々としていた。

ほむら「確かに、武器何て持ってきてないわよ。でもね……時間停止できなくなったからって、私が何もしてなかったと思う?」

さやか「どういう事よ?」

ほむら「こういう事よ」

 ほむらは、左手に魔力を溜めた。
 手の平が、紫の光球を生み出すと、その光が真っ直ぐ棒状に伸びていく。

さやか「ほむら……それ何時の間に!?」


25: 2013/01/10(木) 22:10:24.57 ID:AK3CxE2n0

 光が消え失せると同時に、ほむらの左手には紫に輝く弓矢が召喚されていた。ただ、弓矢と言っても、スコープ等が付き装備の多い。アーチェリーとも言えそうな代物だ。

ほむら「ずっと、武器を生み出す特訓をしてたのよ。そう言っても、まだ完璧では無いけれどね」

さやか「武器を作り出すとか、そんなのずるい……」

ほむら「マミに教われば良いじゃない……。私も、彼女に教わったんだから」

さやか「そっか……。マミさんのマスケット銃って、本来の武器じゃ無いもんね」

ほむら「ええ。ワルプルギスを倒してから、少し考えてたのよ。時間停止が使えないんじゃ、現代兵器を借りてくるって事も出来無いじゃない」

さやか(あれを借りるって言うか、フツー……)

ほむら「まだ使いこなせる訳じゃ無いから、威力に不安は有るけど、丸腰よりはマシでしょう?」

さやか「それもそうだね」

 そこで会話を打ち切って、二人は結界の奥へと進んで行く。


26: 2013/01/10(木) 22:12:09.04 ID:AK3CxE2n0

 二つ目の部屋に入ると、魔法少女が血を流しながら倒れていた。恐らく、地元の魔法少女なのだろう。

さやか「……ちょっと、これ不味いよ!!」

 慌てて駆け寄ると、さやかは少女に治癒魔法をかける。少女の傷は見る見る間に回復し、ゆっくりと意識を取り戻していく。

魔法少女B「……はっ!?」

さやか「よかった、気が付いた」

魔法少女B「貴女達は?」

さやか「たまたま通りかかった、観光中の魔法少女だよ」

魔法少女B「そう……ですか」

 救われた筈の魔法少女は、何処か浮かない表情であった。

ほむら「……ゆっくりしてる間も無いわよ。魔女が来るわよ!!」

 その言葉と同時に、結界の中がグニャグニャと変化を見せていた。

27: 2013/01/10(木) 22:15:14.46 ID:AK3CxE2n0

 空間の変化が安定すると、結界の主である、魔女が姿を現した。

さやか「よーし……今日という今日はさっさと片付けちゃいますよ!!」

ほむら(……その台詞は、フラグになるわよ)

 ほむらは、内心で呆れ気味に突っ込んだ。
 しかし、さやかがそんな事を知る訳が無い。魔女に向けて剣を構え、一直線に突っ込んで行く。
 一気に懐にまで飛び込んで、魔女の胴体を連続で斬りつける。高速の剣技は、眼にも留まらぬ速技で、反撃の暇を与えない。
 一旦剣を構え直し、止めの一撃を狙い撃つ。

さやか「流剣乱舞……スクワルタトーレェ!!」

 必殺の一振りが、魔女の胴体を真っ二つに切り裂いた。

さやか「また、つまらぬ物を斬った……なんちって」

 余裕の決め台詞まで飛び出す始末だが、その破壊力は抜群。
 魔女の息は絶えて、結界は消滅を始めていた。

ほむら(手を出すまでもなかったわね。でも、必殺技の名前を叫ぶのは、何とかならないのかしら……)

 安堵の息と、呆れた溜息を同時に吐き出す頃には、地面にグリーフシードが転がり落ちていた。


28: 2013/01/10(木) 22:16:42.12 ID:AK3CxE2n0

 晴れた空が、三人の頭上に広がった。
 さやかはグリーフシードを拾い上げて、地元の魔法少女に手渡した。

さやか「はい、どうぞ」

魔法少女B「……え!?」

さやか「だって、ここは貴女の縄張りでしょ?」

 魔法少女は無言で頷く。

さやか「だったら、貴女の物で良いよ。今日は、魔力をそこまで使って無いしね」

魔法少女B「ありがとう……ございます」

 素直にグリーフシードを受け取ったが、ほむらは魔法少女の様子がおかしいと感じていた。

ほむら(酷く怯えてる……。だけど、魔女に怯えてる様には見えないわね)


29: 2013/01/10(木) 22:18:24.22 ID:AK3CxE2n0

 すると、意を決した様に、魔法少女は口を開いた。

魔法少女B「あ……あの、助けてもらってこんな事言うのもおかしいですけど……」

さやか「ん……?」

魔法少女B「二人とも、今すぐに名古屋から逃げて下さい!!」

ほむら「……どういう事かしら?」

魔法少女B「事情は言えませんけど……この街は危険です。貴女達の様な“まとも”な魔法少女が居るべき所じゃ無いんです!!」

ほむら(……まとも?)

 魔法少女は、叫ぶように伝えて、その場から逃げる様に立ち去った。

さやか「何なのよ? 折角助けたのに……」

 さやかは、ヤレヤレと溜息を吐き出した。

ほむら「……ねぇ、さやか。さっきの娘、怯えてる様に見えなかったかしら?」

さやか「どうだろう……。言われてみれば、そう見えなくも無いかも……」

ほむら「だとすれば、魔女に怯える要素が合ったかしらね」

さやか「そりゃ、そうでしょ。魔女が怖くない魔法少女何て、少ないでしょ。アンタの場合、ワルプルギスの見過ぎで感覚が変わってるんじゃない?」

ほむら「……だと良いのだけれどね。まどか達の所に、戻りましょうか」

さやか「だね。コアラも見たいし」

 ほむらとさやかは、待たせているまどかと仁美の元へ戻る事にした。


30: 2013/01/10(木) 22:21:34.49 ID:AK3CxE2n0

 一方、助けられた魔法少女は、人気の無い路地に逃げ込んでいた。

魔法少女B(何で、こんな時に限って助けられるのよ!! 折角……結界の中に逃げたのに!!)

 感情に任せて、思わずコンクリートの壁を殴りつけてしまう。労せずグリーフシードを手に入れたにも関わらず、かなり苛立っていた。

 カツン、と地面を叩く足音が聞こえた。一つだけでは無い。複数の足音が、周囲を取り囲んで行く。

魔法少女B(……まさか、見つかった!?)

 少女の体は、ガタガタと震えだした。

黒髪の少女「残念ながら、逃げ場は無い」

白髪の少女「アレさ、こっちが仕掛けた罠だったんだよねー。ま、見知らぬ人間に助けられたのは計算外だけどね」

大剣を持つ少女「残ってるのは、君だけ。ボスは、反逆を許さない人だからさ」

槍を持つ少女「おかげで、ストックも増えたよ。ありがとうね」

魔法少女B「……そんな。皆は……?」

 恐怖の余り、顔面蒼白となる魔法少女。全ての細胞から、血の気が引いていく。

31: 2013/01/10(木) 22:25:36.52 ID:AK3CxE2n0

 同時に、キコキコとタイヤの回る音が耳に飛び込んだ。

魔法少女B(ま……まさか、あの女まで来てる訳!?)

 そして、魔法少女が視線を向けた先。
 車椅子に乗った少女が、ゆっくりと姿を見せていた。

車椅子の少女「……我々の糧となって貰ったよ。反逆者には、制裁を与える。それがクォーターの掟……」

魔法少女B「……そ……そんな」

車椅子の少女「……フフ。散りなさい……」

 車椅子に乗った魔法少女は、右手に持つ剣を振り上げた。


32: 2013/01/10(木) 22:27:29.69 ID:AK3CxE2n0

――その頃。

 見滝原の駅のターミナルに、五人の魔法少女が集合していた。

織莉子「これで、全員揃ったようね」

マミ「一体、皆を呼び出して何をするつもりなのかしら?」

キリカ「これから、名古屋に向かうのさ。詳しくは織莉子が、後で話すよ」

杏子「名古屋って、また随分と遠いな」

ゆま「なごや?」

マミ「そう言えば名古屋って、二年生の修学旅行の行先じゃない」

杏子「ほー。所で、名古屋の上手い食い物って何だよ?」

ゆま「え? ゆま達旅行に行くんだ!!」

キリカ「旅行とはちょっと違うからね。ま、少し位は観光もしたいけど……」

織莉子「……もう少し、気を引き締めてくれないかしら。もうすぐ電車が来るから、その中で全てを話します。皆が思っているよりも、事態は深刻ですからね」

 織莉子は、引き締まった表情でそう言った。
 数分経つと、東京行きの快速列車が見滝原駅に到着した。


38: 2013/01/11(金) 22:11:08.45 ID:15RymeHl0

 ホテルに無事帰ってきた、ほむら達。どうにも、ほむらの様子が暗く、観光をしている時も、どこか上の空だった。

まどか「さやかちゃん……ほむらちゃん、どうしたんだろう?」

さやか「何か、こっちの魔法少女を助けてから、あんな感じの様子なんだよね」

 小声で聞こえない様に話す、まどかとさやか。しかし、ほむらはしっかり聞いていた。

ほむら「……問題無いわ。ちょっと、考え事してただけよ」

まどかさやか(……聞かれてたか)

ほむら「ええ。ばっちり聞こえてたから」

まどかさやか(しかも、考えまで読まれてる!?)

 固まるさやかとまどかを尻目に、ほむらは深いため息を吐き出した。


39: 2013/01/11(金) 22:13:34.48 ID:15RymeHl0

 その頃、ほむら達の宿泊するホテルの屋上に、四人の魔法少女が待機していた。
 地元の魔法少女を助けたほむら達に、クォーターの面々は目を付けていたのだ。

白髪の少女「へぇ……何処の奴かと思ったら、修学旅行で来てた魔法少女だった訳か……」

大剣を持つ少女「見滝原中学一行、か。……まてよ。見滝原って……何処かで聞いた事有る」

槍を持った少女「え? レイちゃん知ってるの?」

大剣を持つ少女「……確か、半年前にスーパーセルに襲われた街だ。だけど、誰一人犠牲者が出なくて、見滝原の奇跡ってニュースでやってた……」

黒髪の少女「それは……ワルプルギスの夜だ」

一同「……!?」


40: 2013/01/11(金) 22:14:19.85 ID:15RymeHl0

黒髪の少女「そのスーパーセルの正体は、ワルプルギスの夜だった。そして……見滝原近辺の魔法少女達が、ワルプルギスの夜を倒した。キュウべえ……そうだろ?」

 黒髪の少女に呼ばれ、キュウべえはスッと姿を見せた。

QB「森田栃(モリタトチノキ)……君は、その情報を得ていたのかい?」

栃「あくまで推測だ。仮に、ワルプルギスの夜が襲来したとすれば、逃げ切る事は間違いなく不可能。だとすれば、討伐する以外に道は無いだろう」

QB「見事な推測だね。正解だよ。彼女達は、七人でワルプルギスの夜を討伐したのさ」

栃「……ほう」

QB「例え、クォーター全員でワルプルギスの夜に挑んだとしても、討伐出来る可能性は少ないね」

 そう言われ、他の魔法少女達は無言になった。若干、苛立ってるとも言えるが。

41: 2013/01/11(金) 22:17:28.33 ID:15RymeHl0

QB「君達は、この国の魔法少女の中でも、トップクラスで強い部類に入る。しかも、他の魔法少女を魔女化させる事も問わない。
 僕達としては、ありがたい存在だけど……他の魔法少女達からすれば、敵対心を持たれても仕方ない」

栃「……何が言いたい?」

QB「鳴海(ナルミ)セナ……」

白髪の少女「……あん?」

QB「結城鈴(ユウキレイ)……」

大剣を持つ少女「んだよ?」

QB「桐ケ谷氷架(キリガヤヒョウカ)……」

槍を持つ少女「何よ……?」

QB「そして、森田栃……」

栃「……?」

QB「君達に聞こう。仲間とは、何だい?」

42: 2013/01/11(金) 22:18:43.52 ID:15RymeHl0

セナ「知るか。考える気も無いね」

氷架「私は、レイちゃんさえ居れば、仲間何ていらないよ?」

鈴「氷架に同じくだ。後の二匹は、単なる数合わせ」

栃「……目的の為に手を組んでいるだけ。仲間等、必要ない」

QB「それが、君達の答えな……」

 全ての台詞を言う前に、キュウべえの体は縦一直線に切り裂かれた。

セナ「ノーガキは良いんだよ……ウゼェ」

 セナは剣を振りかざしながら、そう言った。表情は、百人中百人が解る程イラついている。

43: 2013/01/11(金) 22:20:16.40 ID:15RymeHl0

QB「全く……君はどれだけ個体を破壊すれば気が済むんだい? 壊しても無駄な事は、良く知っているだろう?」

 破壊された個体と、別のQBが姿を見せた。

セナ「壊したいから壊す。それが、私の流儀だよ」

 セナは表情を、不気味な笑みに変えていた。

氷架「もー……短気だからー」

鈴「そんな事より、お前は何が言いたいんだ?」

QB「君達は、彼女達に勝てると思うかい?」

セナ「当然でしょ。大体、お前は私を見くびり過ぎだね」

氷架「ワルプルギスの夜って言ったって、所詮は魔女。わたし達の餌に過ぎないんだよ」

鈴「氷架の言う通りだぜ。どんな強力な魔女でも、魔力の力押しでどうにかなるだろ」

栃「実践に勝る訓練は無い。少なくとも、実戦の数なら私達の方が圧倒的だ」

QB「君達ならそう言うと思っていたよ。確かに君達は恐ろしく強い魔法少女さ。
 でもね……僕にも理解できない強さが彼女達には有る。クォーターの君達がどういう行動を取るかは好きにすれば良い。ただ……油断してると足元をすくわれてしまうよ」


44: 2013/01/11(金) 22:21:22.14 ID:15RymeHl0

 そう伝えると同時に、飛んできた剣が地面に突き刺さっていた。しかし、キュウべえはしっかりと避けている。

セナ「クソ……外したか」

QB「全く……危ないなぁ。これ以上居ると、個体が無駄に潰されてしまうからね。僕は消えさせて貰うよ」

 そこで、キュウべえは姿を消していた。

鈴「ちぃ……好き勝手抜かしやがって」

氷架「アレは、もうほっといて良いんじゃない? 後は、見滝原の魔法少女をどうやって捕まえようね?」

セナ「有無言わさず、叩き切っちまおうよ。てっとり早いし」

栃「まぁ待て。手短に、作戦を伝える……」


45: 2013/01/11(金) 22:22:17.11 ID:15RymeHl0

――ほむら達の部屋。

 食事を終えた三人は、部屋でゆっくりくつろいでいた。

さやか「はー……美味しかった」

まどか「ねー。でも、手羽先って食べにくいよね」

さやか「そうそう。何か、手がベタベタになっちゃうし……」

ほむら「……」

まどか「ほむらちゃん……本当に大丈夫なの?」

ほむら「……え?」

まどか「さっきも、あんまり食べて無かったし……」

ほむら「そうかしらね? 脂っこいものって、あまり好きじゃ無くてね……」

 そう言いながら、眼を逸らして髪をかき上げた。

さやか「ほむら。キュウべえとか、この辺の魔法少女が言ってたこと、気にし過ぎなんだって」

まどか「……そうだよ。折角の修学旅行で、そんなに気を張ってたら、疲れちゃうよ?」

ほむら「……ええ。そうは、思いたいんだけど……」

???「そう思っていた方が、良いだろう」

三人「……!?」

46: 2013/01/11(金) 22:25:01.46 ID:15RymeHl0

 突然、違う声が割って入った。声の方向に、全員の視線が向いた。

さやか「誰よ、アンタ!! ってか、どうやってここに入ってきたんだよ!!」

 さやかはまどかをかばう様に、立ち位置を変える。

栃「……初めまして、見滝原の魔法少女のお二人。その小さい子は、違うようだが」

ほむら「……貴女、この街の魔法少女ね?」

 ほむらの眼つきは鋭く尖り、真っ直ぐに栃を睨みつけた。

栃「その通り。森田栃と申す者だ。この際、名前などどうでも良いがな」

さやか「……いきなり魔法少女が現れて、何の用なのよ!!」

栃「君達見滝原の魔法少女は、ワルプルギスの夜を討伐したのだろう? そこで、君達に興味が沸いてね」

ほむら「……どういう企みかしら?」

47: 2013/01/11(金) 22:26:17.95 ID:15RymeHl0

栃「単刀直入に言えば、我々クォーターに加われ。貴様らの様に優秀な魔法少女が増えれば、あらゆる魔女を頃す事が出来る……」

ほむら「もし、断ればどうするつもりかしらね」

栃「容赦はしない。頃すか……こうなって貰うか、どちらかだ」

 栃の自慢げに見せた物は、真っ新なグリーフシードだった。
 この行動が、何の意味を示しているのか、解らないほど三人とも馬鹿では無い。

さやか「それ……まさか!?」

栃「どうやら、魔法少女の真実は知っている様だな……。想像の通り……反逆した魔法少女は、魔女に生まれ変わらせて貰った」

 淡々とした口調で、栃は恐ろしい事を述べている。丸で、それが普通だと言わんばかりに。

まどか「そんなの……酷過ぎるよ!!」

ほむら「あなた、頭おかしいんじゃないの!?」

さやか「許せない!! そんな連中に、力貸すなんて絶対に嫌だね!!」

 栃に向け、三人の怒りは頂点に達する。

48: 2013/01/11(金) 22:27:07.60 ID:15RymeHl0

 しかし、この時まどかは致命的なミスを犯していた。

栃「ほう……。その小さいのも、魔法少女の事を知っている訳か……」

ほむら(……しまった!!)

栃「ま……良い。契約していないなら、捕まえる必要も無いだろう」

さやか「……まどかには手を出させないよ!! 何が何でも、守って見せる!!」

ほむら「そうよ!! 簡単に手は出させない!!」

栃「クックック……。貴様らは、本当に愚かだな……」

さやか「何が言いたいんだよ!!」

栃「私は一人で来ていると、一度でも言ったか?」

さやか「……!?」

ほむら「……!?」


49: 2013/01/11(金) 22:28:27.40 ID:15RymeHl0

 栃の表情は、不敵な微笑を作っていた。余裕が有るのか、それとも……。

栃「もし要求を飲まないと言うなら、こっちの仲間が貴様らの学校の関係者を一人残らず頃す。それが、嫌なら今すぐに忠誠を誓え」

ほむら「ふざけないで!! そんな要求、飲める訳無いわ!!」

栃「ならば、もう一つ提案を出そう」

さやか「そんな物、聞くと思ってんの!!」

栃「……貴様らにもいい条件だ。今から、貴様ら二人には私達に着いて来て貰う。そして、こっちのメンバーの二人と貴様ら二人で、一対一の勝負をする」

さやか「……」

ほむら「……」

栃「貴様らが勝てば、二度と手出ししない。こっちが勝つ時は、貴様ら二人とも氏ぬ時だから、特に要求はしないがな」

さやか「そんな言葉、信用できるか!!」

ほむら「……さやか。条件を飲みましょう」

50: 2013/01/11(金) 22:29:17.31 ID:15RymeHl0

さやか「ほむら!? アンタ、何言ってんの!?」

ほむら《少なくとも、皆が泊まっているホテルから引き離す事は可能だし……何とか潜り抜けて見滝原に戻れば、対策は作れるわ》

さやか《……だけど》

ほむら《ここで、下手に暴れられるよりは遥かにマシよ。それに……私達はワルプルギスの夜を倒したんだから。貴女の強さは、私が保障するわ!!》

さやか《……うん。ほむらの言う通りにするよ。私じゃ、この場を収める方法が見つからないしね》

 二人は、覚悟を決めた。

栃「決まった様だな」

ほむら「……ええ。その勝負……受けて立つわ」

さやか「下手に暴れられるよりは、そっちの方がマシだしね」

 そう聞いた栃は、仲間にテレパシーを送った。

栃《交渉成立だ。今から、廃工場に向かう》

 事務連絡の様に、一方的に伝えただけのテレパシー。これが、クォーターの形だろうか。


51: 2013/01/11(金) 22:30:12.14 ID:15RymeHl0

まどか「さやかちゃん……ほむらちゃん……」

ほむら「心配しないで。無事に帰ってくるわ」

さやか「そうだよ。大体、そんな外道な真似する奴なんて、このさやかちゃんがお仕置きしちゃうんだから!!」

ほむら「貴女は、待っててくれれば良いわ。それと……私達を助ける為に、間違っても契約なんてしないでね」

まどか「……うん。二人共、戻ってきてね……絶対に待ってるから!!」

 まどかは、そう言って二人を見送る。
 栃、ほむら、さやかは、ホテルの窓から、街へと飛び降りて行った。

まどか(……どうして。どうして、私は……こんな時に皆の役に立てないんだろう。だけど……魔法少女になるのは、怖いよ……)

 臆病な自分が、如何に無力だという事を知らされ、まどかの目からは涙があふれ出ていた。

52: 2013/01/11(金) 22:31:12.52 ID:15RymeHl0

――その頃。名古屋駅付近のラーメン屋の前にて。

マミ「佐倉さん……まだ食べてるの?」

キリカ「チャーハン二杯、替え玉三杯、餃子五皿……。見てる方が気持ち悪くなる……」

織莉子「この時間が無い時に……」

ゆま「キョーコ、太っちゃうよー……」

 超極悪燃費の杏子に呆れ返る、四人の元にキュウべえは颯爽と登場した。

QB「皆、揃って居る様だね」

マミ「キュウべえ? どうしてここに?」

QB「皆、話は後だ。のんびりしている時間は無いよ。ほむら達に動きが有った」

織莉子「やはりか……。鹿目まどかの方は?」

QB「彼女は、ホテルの部屋で待ってるだけさ。ただ、このままなら、ほむらとさやかは確実に殺される」

53: 2013/01/11(金) 22:32:25.43 ID:15RymeHl0

キリカ「……で、私達にどうしろと?」

QB「ここから、北に向かって約20Km先に、廃工場が有る。そこに向かってほしい。急いでいかないと、手遅れになってしまう」

ゆま「うん……キョーコ、呼んでくるね!!」

  そう言って、ゆまが呼びに行こうとすると、丁度杏子は店から出てきた。

杏子「ふー……食った食った」

全員「遅い!!」

杏子「何だよ……。昼間に散々動き回ったんだから、飯ぐらいゆっくりしたってイイじゃねぇかよ……」

マミ「もう、そんな余裕は無くなったみたいよ」

織莉子「暁美ほむらと美樹さやかは、既に動いている」

杏子「マジか!?」

QB「そうだよ。魔法少女の動きは、僕が把握できるからね」

ゆま「北って、どっち?」

キリカ「多分、あっちの方だな」

QB「そっちじゃないよ……向こうだよ。皆、急ごう」

 キュウべえの言葉に頷くと、全員は急いで駆け出した。


54: 2013/01/11(金) 22:33:26.24 ID:15RymeHl0

 北区、廃工場。
 クォーターの四人組と対峙する、ほむらとさやか。いずれの魔法少女も殺気立ち、一触即発の空気が漂っていた。

ほむら「言われた通り、着いて来たわ」

さやか「……あんた達、一体何が目的なんだよ」

栃「目的なら、さっき話した通りだ。魔女を討伐するのは、魔法少女の役割だろう」

セナ「大体、ワルプルギスの夜を倒したって話だけど、あんまりピンとこないんだよねー」

 セナの一言に、ほむらは表情をムッとさせる

鈴「大体、強くも無さそうじゃん?」

氷架「そんな魔法少女が、最強の魔女にかてるのかなぁ?」

55: 2013/01/11(金) 22:34:23.27 ID:15RymeHl0

 連続する挑発の言葉に、さやかの怒りは沸点を超えた。

さやか「舐めんじゃないわよ!! アンタらみたいな、クズに負ける訳に行かないでしょうが!!」

セナ「クックック……本気で私達の誰かに勝つつもり?」

さやか「やってやるわよ!!」

セナ「へぇ……」

 セナがニヤリと笑みを浮かべる。しかし、それを制止させるように、栃が一歩前に躍り出た。

セナ「何のつもり?」

栃「簡単だ。この四人の中では、私の実力が一番劣る。相手を測るなら、丁度良いだろう?」

セナ「ふん……好きにしろ」

栃「そう言う訳だ。どっちが来る? 青いのか、黒いのか……」

 栃は、さやかとほむらをジッと睨みつけた。

56: 2013/01/11(金) 22:35:01.80 ID:15RymeHl0

さやか「……あたしが行く!!」

 意気込んで口を開くと、地面にサーベルを突き刺し、ほむらの周囲に結界を作った。

ほむら「……さやか!? 何考えてるのよ!!」

さやか「だって……あたしの方が、ほむらより弱いからね。せめて、アンタだけでは逃げれる様にさせて貰ったよ」

ほむら「バカ!! 一人置いて逃げるなんて真似、出来る訳ないわよ!!」

 ほむらは声を荒げたが、さやかの視線は既に栃しか見ていない。

栃「……氏ぬのと、私の餌に生まれ変わるの。どっちが良い?」

さやか「冗談じゃないね!!」

57: 2013/01/11(金) 22:36:38.63 ID:15RymeHl0

 さやかはサーベルを振り上げ、栃に正面から斬りかかる。
 一太刀目は、あっさりかわされ空振り。更に水平にサーベルを振るう。

さやか「……ッ!?」

 またも空振り。

栃「……扇風機か?」

さやか「……この!!」

 真っ直ぐにサーベルを構え、今度は突きで栃を狙う。

栃(……丸見えだ!!)

 ガン、と鈍い音を立て、さやかの顔面に拳が叩き込まれた。栃は完璧なタイミングで、クロスカウンターを成立させていた。
 横っ面を弾かれ、さやかの体勢は大きく崩れた。

 続けて繰り出した栃の回し蹴りが、さやかの胸部に叩き込まれ、壁際まで吹っ飛ばされてしまう。

ほむら「さやか!!」

 ほむらは、思わず叫んでしまう。しかし、さやかの意識は途切れて居ない。


58: 2013/01/11(金) 22:38:19.91 ID:15RymeHl0

さやか「いっ……たー……」

栃「ふん。その程度か?」

さやか「……まだ、終わって無いよ!!」

 再び立ち上がったさやかは、マントの中から多数のサーベルを召喚。そのまま、栃に目掛けてサーベルを投げる姿勢に入った。

栃(……牽制のつもりか? 甘い!!)

 無数のサーベルをさやかが投げ飛ばす。だが、栃は易々とかわしながら、さやかとの間合いを一気に詰める。

さやか(……速い!?)

 既に栃は、自分の間合いまで潜り込んでいた。
 迎撃するべく、さやかはサーベルを振り上げる。

栃「遅い!!」

 水面蹴りでさやかの足を払うと、後ろに大きく倒れかける。

さやか(やばっ……!?)

 続けて浴びせ蹴りを繰り出して、さやかの後頭部をコンクリートの地面に叩きつけた。
 ゴキィ、と鈍い音が壁に反響した。

59: 2013/01/11(金) 22:39:20.11 ID:15RymeHl0

ほむら(何よあの攻撃……。頃すつもりでやってるとしか言えないわ……)

栃「……ふん」

 栃は立ち上がって、さやかに背を向ける。

さやか「……そんな余裕にしてても良いのかな?」

 思わず声の方向に、再び視線を戻すしかなかった。栃の目に飛び込んでいるのは、再び立ち上がってる、さやかの姿。

栃「……首の骨をへし折った筈だが?」

さやか「あたしの魔法は“癒しの祈り”だからね。ちょっと痛めつける位じゃ、へこたれないよ!!」

栃「……ほう」

さやか「アンタも、そろそろ魔法とか武器とか出した方が身の為だよ」

栃「そんな物、私には無い。有るのは、体と魂だけだ」

さやか「何それ? アンタ、本当に魔法少女なの?」

栃「貴様よりは強い魔法少女だ」

 栃は不敵に微笑していた。

60: 2013/01/11(金) 22:40:31.36 ID:15RymeHl0

さやか「そんな事言ってられるのも、今だけよ!!」

 さやかは、再び攻撃を仕掛ける。

セナ(……本当に、ワルプルギスの夜を倒したのか? まるっきりトーシロー同然じゃん)

鈴(確かに栃は、私達の中じゃ一番弱い。でも、それは武器も魔法も持たない分の差が有るだけ。体術を使う肉弾戦なら、アイツに勝てる奴は居ない)

氷架(他の魔法少女よりも、ちょっと強い程度じゃあねぇ……)

 正直、クォーターの面々は、さやかの実力には拍子抜けしていた。

 栃は、さやかの剣術を完全に見切っている。かする事さえ許さず、拳や蹴りを何発も叩き込み、さやかの体を痛めつける。
 何度も倒される。その度に、自分の体を回復させ、さやかはしぶとく立ち上がる。


61: 2013/01/11(金) 22:41:37.29 ID:15RymeHl0

栃「……気に食わん。実力の差なら、自分の体で理解出来てるだろう。何故、そこまでして立ち上がる?」

さやか「……そんな事考えて、戦う訳無いじゃん。大体、勝てないからって立ち上がるのを止める理由にならないでしょ?」

栃「……」

さやか「あたしにはあたしが守りたいモノがある。だから、その為に立ち上がるんだ!!」

栃「……小賢しいな」

 栃の眼つきが鋭く尖り、微笑がスッと消えていた。そして、さやかを真っ直ぐに睨みつけている。

栃「……試される性能も無い癖に、偉そうに抜かす口先だけの人間は……気に入らん!!」

さやか(……雰囲気が変わった!?)


62: 2013/01/11(金) 22:42:27.00 ID:15RymeHl0

 今度は、栃からさやかに特攻を仕掛ける。

さやか(……速いッ!?)

 一発目の左拳は、辛うじて避けた。反撃を試みようと、さやかの右手は剣を突き立てた。

栃「ウラァッ!!」

 栃の拳は構えられた剣の上から、さやかの顔を殴り倒した。剣はへし折れ、倒されたさやかの額は、大量の流血で染まっていた。

ほむら「さやか!!」

さやか「……大丈夫。大丈夫だからさ……」

 そう言いながら、さやかが手の甲で傷を拭うと、流血は綺麗に無くなっていた。

63: 2013/01/11(金) 22:43:17.84 ID:15RymeHl0

栃(回復する魔法なら……回復出来なくなるまで、殴るのみ!!)

 栃は、再び攻撃態勢に入る。
 今までと打って変わり、凶暴で殺気立っており、一気に仕留めにかかっている。

さやか(……コイツ滅茶苦茶強い!!)

 一方のさやかは手数の多さに圧倒的されてしまい、防御で精一杯。完全に追い込まれてしまう。

鈴(アイツ……何をそんなに怒ってるんだ? 冷静なアイツが、あそこまで熱くなる相手でもないだろうに……)

 突如殺気立って攻撃する栃に、クォーターの面々も疑問を抱いていた。

さやか(……しまった。もう、後ろに行けない!?)

 ついに、さやかは壁際まで追い込まれた。

栃(……もう、逃げ道は無い!!)

 ここぞとばかりに、栃の攻撃に力が入る。

64: 2013/01/11(金) 22:44:30.74 ID:15RymeHl0

 ドスン、とさやかのボディに、拳が深く突き刺さった。

さやか(……ッ!!)

 腹部への衝撃は、ソウルジェムへも影響していた。さやかの動きが大きく鈍り、栃はテンプルを殴り突けた。続けて、髪の毛を鷲掴みにし、膝蹴りを繰り出して鼻骨を粉砕。

さやか「……ぅッ」

 この一撃で、さやかの意識は飛んで、ふら付いてしまう。大きく出来た隙に、栃が気づかない訳が無い。

栃「そのまま寝ていろ!!」

 止めの一発を打ち込むべく、右の拳を振りかざした。

さやか(……あれ? 氏ぬ瞬間って……スローモーションに見えるって言うよね?)

 栃の拳が迫りくる瞬間が、ゆっくりと見えていた。


71: 2013/01/12(土) 21:58:30.39 ID:umK21brR0

さやか(……ヤバい……でも……動けない!!)

 回復速度が追い付かない程の連続攻撃を受け、思考と体がバラバラだった。

ほむら「さやか!!」

 ほむらは、思わず叫んでしまった。


 その瞬間、バン、と銃声が響いた。

栃(……!?)

 一瞬の判断で、栃はバク転で間合いを広げた。
 壁には撃ち込まれた銃弾の跡。

ほむら(あれは……!!)

その弾痕からリボンが生え、倒れかけたさやかの体を包み込んだ。まさに、命を繋いだ黄色いリボン。

さやか(……これって)

 全員の視線は、廃工場の入口に向けられていた。


72: 2013/01/12(土) 21:59:27.06 ID:umK21brR0

 横一列に並ぶ、五人の魔法少女と、一匹の個体。

マミ「間に合ったみたいね……」

杏子「ったく……世話掛けさせやがって。後で、味噌カツ奢れよ」

ゆま「キョーコ……さっき沢山食べてたのに?」

キリカ「君達が、名古屋の支配者って訳だね?」

織莉子「その二人を返してもらおう。そうすれば、私達は何もしないで帰るわ」

 見滝原近辺の魔法少女達は、名古屋にまで遠路遥々加勢にやって来たのだ。

ほむら「皆……どうしてココが?」

QB「僕が案内したのさ。君達を失う事は、我々にとって損害が大きいのさ」


73: 2013/01/12(土) 22:00:39.26 ID:umK21brR0

 対して、クォーターの面々は何を思うか。

栃「仲間の加勢か。運が良かったな……」

氷架「皆まとめて、地獄に堕ちれるなら、寂しくは無いもんね?」

鈴「雑魚が集まった所で、所詮雑魚だぜ」

セナ「丁度暴れたかったからね。都合が良いや」

 臆する事は無い。例えどんな相手であろうと、邪魔する者はなぎ倒してきた。それが、クォーターと言う集団なのだ。

セナ「あのちっこいのは論外。閉じこもってる黒いのと氏に掛けの青いのは、後で殺せばいいね」

鈴「それだったら、一人一殺で丁度良いじゃん」

氷架「そうだね。優しい私達に、感謝して欲しいよね」

栃「……曲がりなりにも、ワルプルギスの夜を倒してる連中だ。気を抜くな」


74: 2013/01/12(土) 22:01:22.49 ID:umK21brR0

 四人が道を塞ぐように、横一列に並んでいた。

杏子「少しは、アタシらの事解ってるみたいだな」

マミ「美樹さんをリボンで包んでいる間は、怪我が進行しない筈よ。問題は、あの四人をどうにかしないと……」

織莉子「……言って引く様な連中じゃないみたいだわ」

キリカ「隙を作って、向こうに行けばどうにかなりそうだけど……」

 個々に臨戦態勢を作るが、易々と超えさせて貰えるほど、クォーターの連中は甘く無かった。

氷架「こういう時は……無理やりにでも、一対一に持ち込めばいいのさ!!」

 氷架のソウルジェムが水色の光を生み出すと、工場内全てを光で包んだ。
 そして、光が収まると同時に、クォーターの四人と、マミ、杏子、織莉子、キリカの合計八人が、消え去っていた。

75: 2013/01/12(土) 22:02:22.88 ID:umK21brR0

 工場内に取り残されていたのは、さやか、ほむら、ゆま、そしてキュウべえ。

ゆま「あれ!? キョーコ達が居ない!?」

QB「桐ケ谷氷架……さっきの槍を持った魔法少女の魔法だね。彼女の魔法は、バリアを作り出す物。
 上手く服用して、四つの部屋を作り出したんだ。その中に、二人づつ入っている筈さ」

 そう言って、キュウべえは周囲を見渡す。壁には、四枚のドアが召喚されていた。

ほむら「ゆま!!」

 結界の中から、ほむらはゆまを呼んだ。

ゆま「ほむらお姉ちゃん?」

ほむら「先に、さやかの怪我を治してあげて!!」

ゆま「うん!!」


76: 2013/01/12(土) 22:03:06.72 ID:umK21brR0

 ゆまは、さやかの元に駆け寄った。

さやか「……ゆまちゃん?」

ゆま「大丈夫だよ。すぐに治してあげる!!」

 そう言って、ゆまはさやかに治癒魔法をかけた。さやかの傷は、見る見る間に治って行く。

さやか「ふぅ……助かったよ。ありがと」

ゆま「困った時はお互い様だよ。マミお姉ちゃんがそう言ってた」

ほむら「……治った所良い? いい加減、出してくれないかしら?」

さやか「……あ、ごめん」

 さやかは、バツが悪そうにして、そそくさと結界の前に移動した。そして、サーベルを引き抜いて結界を解いた。

77: 2013/01/12(土) 22:04:52.12 ID:umK21brR0

QB「君は、何故さやかの結界に閉じ込められていたんだい?」

ほむら「……さやかの判断ミスよ。そんな事より、皆は何処に行ったの?」

QB「あのドアの中だよ。クォーターの一人が、魔法で新しい部屋を作り出したのさ。一対一の対決に持ち込む為にね」

ゆま「大丈夫かな……」

さやか「解らない……」

ほむら「……わざわざ、一対一に持ち込む必要があったのかしら。どうも、一対一の勝負に拘っている様に感じるけど……」

QB「……彼女達クォーターの狙いは、仲間にする事では無い。絶対的に、忠誠を誓わせる事が狙いなのさ」

ほむら「その為に、一対一で戦うって事なの?」

QB「そうさ。複数の人数で、一人を叩けば見せしめになる。だが、それだけなら一人になった所を狙って、奇襲をかける事も出来る。
 一人で一人を徹底的に叩く事で、絶対に勝てないと植えつけさせる。そして、二度と刃向わないと思わせる事がポイントなんだ。
 只の戦闘狂じゃないよ。裏で駆け引きをしながら、立ち回る。それが、クォーターの恐怖政治のやり方さ」

さやか「……」

ほむら「今は、待つしかなさそうね」

 ほむらの握りこぶしが、小さく震えていた。

78: 2013/01/12(土) 22:05:51.59 ID:umK21brR0

――一つ目、赤黒い扉の部屋。

 部屋の中に居るのは、栃。そして、杏子。

杏子「アンタ、さっきさやかと戦ってた奴だよな?」

栃「そうだ。もっとも、戦うとは違うな。私は頃すつもりだっただけ」

杏子「……アタシは、仲間が傷つけられて黙ってるつもりは無いね。ちょっと痛い目に会って貰おうか」

 杏子は槍を栃に向ける。

栃「……やれるのならやってみろ。やれるのならな……」

 栃も、不敵な微笑を見せながら、ファインティングポーズを構えた。


79: 2013/01/12(土) 22:06:57.01 ID:umK21brR0

――二つ目、白い扉の部屋。

キリカ「……へえ。魔法って便利な使い方出来るんだねぇ」

セナ「私の魔法じゃないけどね。それと、一つ選ばせてあげる」

キリカ「……?」

セナ「一瞬で殺されるか、じっくり痛めつけられてから氏ぬか……どっちがいいかな?」

 セナの顔付きが、狂喜じみた笑顔に豹変していた。

キリカ「……ま、君に恨みは無いけれど、倒させて貰うよ。仲間を助けるのは、織莉子の意向だからね」

 キリカは全くかみ合わない、見当違いな返答を言ってのけた。

セナ「ふーん……出来ると思う?」

キリカ「君を倒す事は、無限の中の有限だからね」

 お互いに武器を構え、すぐにでも斬りかかれる姿勢に入っていた。


80: 2013/01/12(土) 22:07:45.43 ID:umK21brR0

――三つ目、褐色の扉の部屋。

マミ「……あんまり、戦いたくないのよね。同じ魔法少女では……」

鈴「戦いたくなければ、戦わなくても良いぜ? その代わり、氏んでもらうか、グリーフシードになって貰うかだけど」

マミ「貴女……本気で言ってるのかしら?」

鈴「ああ、そうさ。私にとって、魔女も魔法少女も餌に過ぎないからね」

 鈴の言葉を聞き、マミの表情は引き締まった。

マミ「……同じ魔法少女と思いたくないわね。そんな、非道な考えをする人が」

鈴「非道? 大いに結構さ。私には氷架さえ居れば、何もいらないからね。邪魔する者は、全てなぎ倒す!!」

マミ「……良いわよ。その歪んだ考えを、叩き直してあげる!!」

 マミがマスケット銃に手をかけると同時に、鈴も大剣に手をかけていた。


81: 2013/01/12(土) 22:08:40.20 ID:umK21brR0

――四つ目、水色の扉の部屋。

氷架「いらっしゃいませ、私の空間へ……魔女化にする? 惨殺にする? それとも、ド・レ・イ?」

織莉子「全部、お断りしたいね。私には、キリカと言う帰るべき場所が有るのでね」

氷架「へー、私と一緒だね。だけど、何時もお世話になってるレイちゃん元に……お土産も無しで帰るのは失礼だからさ……」

 氷架は、織莉子に向けて槍を向ける。

氷架「グリーフシードに生まれ変わって貰えるかな?」

 満面の笑みで、恐ろしい台詞を告げた。

織莉子「……拒否させてもらうよ」

 織莉子は、真っ直ぐに氷架を睨みつけた。


82: 2013/01/12(土) 22:09:51.91 ID:umK21brR0

――廃工場内。

ゆま「……キョーコ達。ちゃんと戻ってくるよね?」

ほむら「……」

 ゆまの言葉に、ほむらは答えられなかった。

さやか「……誰と誰が戦ってるかなんて解らないけど……。一番弱い奴で、あたしは全然歯が立たなかった……」

QB「落ち込む事は無いよ。君が弱いのじゃ無く、向こうの魔法少女達が強すぎるのさ」

さやか「……ねぇ、キュウべえ。アイツ、目的って言ってたけど、それって何なの?」

QB「魔女を退治する事さ。ただ、君達の考える魔女退治とは、意味合いがかなり違うね」

ほむら「どういう意味かしら?」

83: 2013/01/12(土) 22:11:32.24 ID:umK21brR0

QB「……ソウルジェムが穢れると、グリーフシードに生まれ変わる。それを知った彼女達は、魔法少女も魔女も同じだと見なしているのさ。
 魔法少女を狩れば、魔女の数は減っていく。だから、魔法少女を支配し、意図的に魔女にしてから倒す。それが、クォーターの手段さ」

さやか「……絶対にそんなの認めない。認めたくない……」

ゆま「……」

ほむら「まさに外道ね……。でも、そのやり口は、貴方達インキュベーターが喜びそうな手段にも思えるけど?」

QB「確かに、効率は上がるさ。だけどね……僕達にも考えは色々あるのさ。
 ただ、エネルギー回収ばかりが我々の仕事じゃない。このシステムは、感情の研究も兼ねてるからね」

ほむら「……?」


84: 2013/01/12(土) 22:14:08.21 ID:umK21brR0

QB「我々の科学力を持ってしても、感情と言う物を解析する事は出来ていない。長い間研究を続けているが、中々成果は上がらない。
 そんな中、君達がワルプルギスの夜を倒した時の話さ。

 君達の魔力を全て出し尽くしても、ワルプルギスの夜には、到底及ばなかった。
 しかし……君達の感情の高ぶりが見えた時。魔力の全容量が、大きく増幅していた。僕達の理論では、絶対に起きない現象だった。
 それ以来、君達の魔力と感情の関連性を研究させて貰ってるのさ」

ほむら「随分、勝手な事してるのね。だけど、それが私達失うと損失が有るって意味だった理由かしら?」

QB「そうだよ。長い歴史の中で、後にも先にも、君達だけに起こった現象だからね。これを研究すれば、自分達でもエネルギーを作り出せるかもしれないチャンスなんだ」

ほむら「……最近、妙に契約を迫らない理由は、そこだったのね」

QB「君達は、母星の連中も一目置いているからね。簡単に氏なれては困るのさ」

 ほむら達は、それ以上は何も答えなかった。今は、仲間を信じて待つしかない。


89: 2013/01/13(日) 21:37:57.74 ID:QVz1CtYF0

――栃と杏子の部屋。

 杏子は先手必勝とばかりに、槍を構えて真っ直ぐに突撃。

栃(……軌道が丸解りだ!!)

 右にかわして、栃は回し蹴りを繰り出す。

杏子(……ちぃ!!)

 一旦屈んで避けると同時に、槍を多節根化させ、栃の足払いを狙う。

栃(……甘い!!)

 避ける様に飛ぶと同時に、浴びせ蹴りで杏子の頭を狙い撃つ。
 ガン、と蹴ったのは元に戻っていた槍だけで、見事にガードしていた。力で押し戻し、栃の体を吹っ飛ばして、体勢を崩れさせる。

杏子(大人しくしやがれ!!)

 再び一気に貫こうと、槍を撃ち出した。

90: 2013/01/13(日) 21:39:01.12 ID:QVz1CtYF0

 しかし、栃は崩れた体勢のままでも、槍の軌道をしっかりと見ていた。

 槍は空発。身を反転してかわし、そのまま横に一回転して、肘鉄を撃ち込んだ。先に顔面を弾かれたのは、杏子の方だった。

杏子「……っ!?」

 僅かに怯んだ隙に、右の拳でもう一発顔面を弾き飛ばした。杏子は、たまらず地面に転がり込んだ。

栃「……少しは出来る様だな。だが、それだけじゃ私には敵わない」

杏子「言ってろ……」

 強がるように言って立ち上がるが、杏子の内心はかなり焦っていた。

杏子(やべぇな……コイツ、マジで強いわ)

 肌でそう感じる程、栃は実力者だった。

91: 2013/01/13(日) 21:39:57.27 ID:QVz1CtYF0

栃「魔法が使えるなら、早く使った方が良い。使った所で、勝てはしないだろうが」

杏子「そりゃ、お前もだろうが……」

栃「生憎だな。私には魔法も無ければ、生み出せる武器も無い。そんな魔法少女が、戦いに生き残ってきた。
 それが何を意味しているか……解らないような馬鹿では無いだろう?」

杏子「……うるせーんだよ」

 再度槍を構え、栃を睨みつける。

杏子「……うりゃぁ!!」

 気合の咆哮と共に、栃に襲い掛かる。
 槍を振り回すが、栃には完全に見切られていた。紙一重でかわされ、カウンターを撃ち込まれる。

92: 2013/01/13(日) 21:40:58.41 ID:QVz1CtYF0

杏子(全然当たる気配が無ぇ……)

 口元を流れた血を、手で拭う。

栃「……さっきの奴よりは出来る様だが、戦う相手が悪いな」

杏子「余裕こいてられんのも今だけだ!!」

 杏子は再び構え直して、いきり立つ。

栃「どういう手を使ったか知らんが、伝説の魔女もコケおどしだな」

杏子「……好き勝手言いやがって」

栃「事実だろう」

杏子「……何が言いたい」

栃「貴様は弱い。弱い連中が集まっても、レベルが知れてる。魔法少女に、仲間何てものは必要無い」

杏子「そういうアンタにも、仲間が居るんじゃねーのか?」

栃「あいつ等とは、手を組んでいるだけだ。魔女を確実に討伐する手段としてな」


93: 2013/01/13(日) 21:41:46.93 ID:QVz1CtYF0

 栃の言葉は、杏子の胸に引っ掛かるものがあった。

杏子「……アタシも以前は、アンタみたいに考えてたさ。でもさ……一人で戦うって事にも、所詮限界は有る」

栃「……」

杏子「少なくとも……アタシは仲間の力で強くなれたさ。もし出会わなきゃ、今頃魔女にでもなってたかも解らない。
 だから、アンタの考え方には……真っ向から否定させて貰うよ」

栃「……だったら、頃すまでだ」

 そう呟いた栃は、首元のマフラーを外し道着を脱ぎ捨て、上半身はタンクトップ一枚になった。

94: 2013/01/13(日) 21:42:53.47 ID:QVz1CtYF0

杏子「……その傷跡が、一人で戦う理由って訳か」

栃「……数年前、私は家族共々魔女の結界に巻き込まれた。両親は目の前で魔女に食い殺され、私も瀕氏の怪我を負った。
 氏ぬ寸前に現れたキュウべえと契約して蘇ったよ……全ての魔女を頃す為にな」

杏子「……」

栃「私に魔法が無いのは、魔女も魔法も……魔法少女も否定しているからだ。貴様も魔法が使えないのは、何処かで魔法を否定しているから……そうだろ?」


95: 2013/01/13(日) 21:43:41.73 ID:QVz1CtYF0

杏子「……ああ。その通りだよ。アタシの魔法が封印されてんのは、アタシの願いで家族が滅茶苦茶になったからさ。
 アタシとアンタは、きっと同種の人間だよ。ただ、仲間に会える機会が有ったか、それが無かったかしか違わない」

栃「……少しは、やる気が起きた様だな」

杏子「ああ。迷いはねぇさ」

 そう告げて、杏子は十字架を切って祈りを捧げる。

栃「神に祈ってどうする?」

杏子「懺悔さ……大罪を犯すからね」

栃「……地獄に送ってやる。かかって来い」

 互いに構え、間合いを測る。僅かでも隙あらば、喰らい付く為に。


96: 2013/01/13(日) 21:44:51.52 ID:QVz1CtYF0

――キリカとセナの部屋。

 斬撃が飛び交う。短剣が地面を抉れば、鉤爪が壁に傷跡を残す。高速の攻防は、息を付く暇も与えられない。
 未だに、両者ともかすった傷は無い。

セナ「へえ……結構やるねぇ」

キリカ「私が相手した中で、君が一番速いよ。おめでとう」

セナ「……余裕だね。でも……それって魔法のお蔭だよね?」

キリカ「……」

セナ「私の固有魔法は、加速。自分の速度を限界まで上げられる代物だからね……」

キリカ(……通りで、速度低下が鈍い訳か。厄介だな……)

セナ「君の魔法は、速度低下でしょ? 私も、速度の魔法だからさ。似たような魔法だと結構見破れるんだよ?」

キリカ「……見破った所で、当たらなくては意味が無いんじゃないのかな?」


97: 2013/01/13(日) 21:45:47.33 ID:QVz1CtYF0

セナ「反する魔法同士なら、相殺は出来るよ。でもね……もし私はまだ本気を出していなかったら……君は避けきれるのかな?」

キリカ「……へぇ。その本気、見せて貰おうか」

 セナの表情が変わった。眼を見開き、狂気じみた笑みを見せて、キリカに襲い掛かる。

キリカ「……!?」

 ガキン、と金属がぶつかった。一太刀目は、鉤爪で防いだ。

セナ「ハイヤァッ!!」

 二太刀目は空を斬る。何とかかわしたが、セナの攻撃は止まらない。

キリカ(……速度低下が追い付かない!!)

 連続斬撃の速さは、キリカの予想よりも遥かに速かった。

98: 2013/01/13(日) 21:46:34.70 ID:QVz1CtYF0

セナ「あっはっは、お話にならないよ?」

キリカ(……調子に乗るな!!)

 同時に武器を振り上げ、一気に貫く姿勢に入る。
 ズバン、と斬撃が走り、両者が交錯する。

キリカ「……いっつぅ」

 キリカの腹部から、血が溢れ出る。

セナ「相撃ち覚悟で突っ込んでくる辺りは、やるじゃない」

 セナの体にも、無数の傷が走っていた。衣装は流血で染まっているが、本人は気にする様子も無い。

キリカ(……避ける事もしない、か。加速して突っ込んでくる分、見切る事もしないようだね……)

セナ「さて……次は避けきれるかな?」

 セナは、剣に付着した血をなめずる。


99: 2013/01/13(日) 21:47:29.17 ID:QVz1CtYF0

キリカ「簡単に決めさせないよ。私が氏ぬ時は……織莉子が居なくなった時さ。
 私の愛は……無限に有限なんだからね」

セナ「……」

 キリカの言葉を聞き、セナの表情は一変した。
 狂気じみた笑みは消え失せ、冷たい目付きで睨んでいた。

セナ「気が変わった……。お前……ムカつく」

キリカ(……雰囲気が全然変わってる!?)

セナ「弄り頃すつもりだったけど……愛とか抜かしやがった。そんな物は嘘っぱちだ。愛なんて、只の妄想……」

 譫言の様に、ブツブツと呟き、キリカを真っ直ぐに睨む。


100: 2013/01/13(日) 21:48:19.22 ID:QVz1CtYF0

キリカ(……あの眼つきは、完全に私を頃すつもりの眼だ。何をそんなに怒ってるんだ?)

セナ「……お前が嫌い……お前は憎い……」

キリカ「このままなら長引く事は無いね……。奥の手で仕留めるよ……一手で十手」

 ここからは降着状態にはならないと判断した。キリカの鉤爪が変化し、爪の数は十本に増える。一撃で仕留めるつもりだ。

セナ「……お前を頃す」

 セナはゆっくりとした動作で、再び剣を構えた。


101: 2013/01/13(日) 21:49:13.90 ID:QVz1CtYF0

――マミと鈴の部屋。

 十数丁のマスケット銃から、打ち上げ花火の如く、弾丸が放たれた。

鈴「うぜぇ!!」

 大剣で全て防ぎ切ったが、自分の間合いに持ち込めない鈴は、苛立ちを隠せない。

マミ(……これでもダメみたいね)

 マスケット銃の破壊力では、鈴の大剣を壊す事は出来ない。

鈴「ちょこまかと逃げんじゃねーよ!!」

 武器を振りかざし、マミに向かい振り落とす。

マミ(……もう!!)

 マミは、一気に下がって間合いを広げた。さっきまで立っていた場所は、思いっきり抉られている。

マミ(あんなの受けたら……体が粉々ね)

 背筋に冷たい汗が流れた。

102: 2013/01/13(日) 21:50:09.20 ID:QVz1CtYF0

鈴(クソ。一発当たれば何とかなるけど……この女予想以上にやりやがる!!)

 鈴も焦りを隠せない。接近した一撃必殺は鈴の方が上だが、マミは警戒しており必要以上に間合いを広げている。

マミ(これ以上時間はかけたくないわ……)

 マミは一か八かにかける。
 更にバックステップを取って、大きく間合いを広げる。

鈴(何か仕掛けてくるな!!)

マミ(……行くわよ)

 魔力を込めて、リボン握る。新体操の様にロールを描いたリボンから、大砲を召喚。魔力を充填すると、銃口は眩い光を溜めこんだ。


103: 2013/01/13(日) 21:51:26.41 ID:QVz1CtYF0

マミ「……頃すつもりは無いわ。出来る事なら、避けて欲しい……」

鈴「忠告した所で無駄だね!! その技、真正面から打ち破って見せてやるよ!!」

マミ「仕方ないわね……」

 大きく息を吸い込んで、マミの人差し指は大砲のトリガーを引いた。

マミ「ティロ・フィナーレ!!」

 黄色い閃光が、真っ直ぐに鈴に向かい突き進んでいく。
 対して、鈴は大剣を振り被り、閃光に照準を合わせた。

鈴「……舐めんなぁ!!」


104: 2013/01/13(日) 21:52:19.00 ID:QVz1CtYF0

 そして、気合の雄叫びと共に一刀両断。弾丸は真っ二つに斬られ、鈴の両脇をかすめて行った。

マミ「……ウソでしょ!?」

鈴「どんなもんよ……」

 鈴はニヤリと笑みを見せた。ティロ・フィナーレが打ち破られた事に、マミは同様の色を隠せない。

マミ(……まさか、ティロ・フィナーレを叩き切るなんて……)

鈴(ちぃ……結構ダメージ喰らっちまった。もう一発やられたらマズイな……)

 実は、鈴が余裕を見せているのは、ハッタリだった。
 直撃はしていなくとも、ティロ・フィナーレの衝撃は大きく、体にはかなりの負担がかかっていた。


105: 2013/01/13(日) 21:53:53.46 ID:QVz1CtYF0

 ただ、必殺技を打ち破った事によって、精神面はかなり優位に立っている。

鈴「……次は、私の魔法を見せてあげるよ」

 遠くに立つマミと、鈴の視線は重なり合った。

鈴(……さあ、悪夢を見な)

 鈴は魔力を視線に集中させた。

マミ(え……?)

 ドクン、と心臓が高鳴った。時が止まった様に、その目を見つめる。

鈴「悪夢(ナイトメア)……」

マミ「……あ……ああ」

 マミはだらしなく口を開き、膝から地面に崩れ落ちた。

マミ「………………」

 瞳孔は開き、焦点の合っていない視線を宙に向ける。


106: 2013/01/13(日) 21:54:37.17 ID:QVz1CtYF0

鈴「……私の魔法は、邪眼。アンタの心の奥にあるトラウマを、引きずり出させてもらったよ」

 呆然自失のマミの目前に、鈴は立ち止まる。そして、大剣を振り被った。

鈴「……って、解説した所で聞こえねーか」

 重みに任せて、思いっきり大剣を振り落とす。ドン、と言う音と共に地面が大きく抉られた。

鈴(……消えた!?)

 見えるのは、破壊されたのは床の残骸だけで、マミの姿は消えていた。

マミ「惜しかったわね……」

 その一言と聞こえると、鈴の体はリボンで巻かれ、あっという間に拘束されてしまった。


107: 2013/01/13(日) 21:55:38.36 ID:QVz1CtYF0

鈴「……どうなってんだ」

マミ「私の魔法は、命を繋ぐリボン。さっき大量に撃った魔弾を、リボンに召喚して動きを止めさせてもらったわ」

鈴「さっきのアレは、芝居だったって訳か……」

 鈴の表情は苦々しく、奥歯を食いしばっていた。

マミ「貴女は固有魔法をずっと使わなかったから、二つ推測していたの。
 一つは、攻撃に関する魔法で、発動させる事にタメが必要なもの。
 もう一つは、動き回る相手だと使えない、精神を犯す類の種類もの……」

鈴「……何時気が付いた?」


108: 2013/01/13(日) 21:56:25.86 ID:QVz1CtYF0

マミ「さっき撃った大砲の砲撃で、後者だと確信したわ。前者のパターンなら、魔法を発動させて相殺も出来る。
 しかし、それをやらないで魔弾を切り裂いた。そこで、貴女の魔法は精神攻撃の類と解ったのよ」

鈴「……そこで、銃痕から結界を作って、私の魔法を防いだのか」

 マミは後ろから、鈴の頭に銃を突きつけた。

マミ「その通り……チェックメイトよ。大人しく降参しなさい」

鈴「ジョークは、程々にしておけよ。これ位の拘束で……大人しくなるかよぉ!!」

 鈴は力任せでリボンを引っ張り、更に大剣を強引に振るった。


109: 2013/01/13(日) 21:57:46.44 ID:QVz1CtYF0

マミ(滅茶苦茶ね……)

 これには、マミも呆れた。一旦離れると、鈴はその場で暴れ出していた。

鈴「舐めるなぁ!!」

 腕力と、大剣の刃でリボンを切り裂いた。ただし、リボンの食い込んだ鈴の体にも、大きな代償が出来ていた。

マミ「……左腕に、肋骨が何本か折れてるわね。右手一本で、その大剣を振り回せるのかしら?」

鈴「……これ位、ハンデにもならないね」

マミ「容赦はしないわよ?」

鈴「こんな所で、負ける訳にはいかないのさ。魔法少女になる奴で、真面な人生を歩んできた人間が居るのかい? 居ないだろ」

マミ「……」


110: 2013/01/13(日) 21:58:59.38 ID:QVz1CtYF0

鈴「あんたも同じ魔法少女なら、どんな獣道を進んで来たか……解るよな?
 私達は、魔女を倒すならどんな手段も択ばない……。氷架と一緒に魔女を狩りまくって、グリーフシードを山程持って……何時か、南の島に行って二人で暮らすんだ……」

マミ「……素敵な目標ね」

鈴「……誰にも邪魔はさせない……誰にもな」

 鈴は、右手一本で大剣を構えた。


111: 2013/01/13(日) 22:00:32.95 ID:QVz1CtYF0

――織莉子と氷架の部屋。

織莉子(……右、右、左)

 直後の動きを予知しながら、織莉子は氷架の槍を全て避ける。

氷架(丸で、動きが読まれてるみたい……。かすりもしない)

 更に槍を引いた隙を狙い、織莉子は水晶玉を無数に飛ばす。

氷架(それ位は読んでるよ!!)

 だが、全て氷架のバリアに弾かれた。

織莉子(……避けるのは問題にならない。ただ、私の攻撃力じゃ、あのバリアを破壊するのは不可能のようね。
 おまけに、コイツの動きはかなり速いわね……)


112: 2013/01/13(日) 22:01:15.79 ID:QVz1CtYF0

氷架「……ちょっとー。危ないじゃないのー」

 そうは言うが、表情には余裕が垣間見える。

織莉子「その割には、まだ余裕が有る様ね……」

氷架「フフ……」

 氷架は、不気味に笑った。

織莉子「だったら……笑えなくしてあげましょう!!」

 織莉子は、今までよりも大きな水晶玉を召喚。今までがテニスボール位だったが、今度はボーリングの球位の大きさが有る。

織莉子「飛びなさい!!」

 高速で発射された弾は、真っ直ぐに氷架の元にすっ飛んで行く。


113: 2013/01/13(日) 22:02:04.00 ID:QVz1CtYF0

氷架「バリア!!」

 ゴン、と鈍い音を立てて、バリアに水晶玉がめり込んでいた。

氷架「へぇ……。私のバリアにヒビが入った事なんて、滅多に無いんだ」

織莉子「……大した厚さと丈夫さね」

氷架「フフフ……これ位防げなきゃ、レイちゃんの盾にすらならないんだよ」

織莉子「……仲間を護る為のバリアと言う訳かしら?」

氷架「ううん。私が護るのは、レイちゃんだけ。他の奴は誰も居れないよ」

織莉子「そう……。随分と愛しているのね」


114: 2013/01/13(日) 22:02:59.18 ID:QVz1CtYF0

氷架「愛なんかじゃ、物足りないかもね。私の身も魂も、全てレイちゃんに捧げても構わないんだ。
 私はずっとずっと、子供の時から虐められてきた。だけど、レイちゃんに出会って立ち直った。だから、レイちゃんを護る為に契約したの。
魔法少女になって、強くなれた。レイちゃんに会えなきゃ、とっくに自頃してたかもしれない。
 だから、レイちゃんの喜びは、私の喜び。レイちゃんの悲しみは私の悲しみ。レイちゃんの痛みは、私の痛みなんだよ」

 氷架の言葉には何の迷いの無い。舌足らずな言葉で、過度な台詞を捲し立てる。

織莉子「それ程の気持ちが有るのは、尊敬に値するわ」


115: 2013/01/13(日) 22:04:09.18 ID:QVz1CtYF0

氷架「ありがと。他の奴に言っても、誰も理解してくれないの。お姉さんが、初めて解ってくれたよ。このまま、頃すのは惜しい位に……」

織莉子「……出会う場面が違えば、キリカと仲良くなれたかもしれないわね。
 でも……遅すぎたわ」

 織莉子は再び魔力を充填する。そして、氷架もより強力なバリアを張った。

織莉子「この一撃で、全てを決めるわ。これが通用しなければ……私の負け。煮るなり焼くなりお好きになさい」

氷架「良いよ。どちらの愛が深い物か……試すには丁度良いもんね」

 織莉子は、ビー玉サイズの水晶玉を、五つ召喚した。


116: 2013/01/13(日) 22:05:50.38 ID:QVz1CtYF0

――マミと鈴の部屋。

マミ「……立っているのがやっとの状態ね。私は貴女の目的を邪魔しない。だから、諦めて貰えないかしら?」

鈴「無理だね。剣を構えた以上、引くような真似は出来ない……」

マミ「……仕方ないわね」

 マミは持っていたマスケット銃を捨て、今度はリボンを手に握りしめた。

マミ「……Un modo giallo」

 マミが唱えると、リボンは鈴に向けて真っ直ぐに伸びて行く。

鈴「うっとおしいぜ!!」

 鈴は右手だけで大剣を振り落とし、リボンを切り裂いた。


117: 2013/01/13(日) 22:07:40.33 ID:QVz1CtYF0

マミ(かかったわね!!)

 真っ二つに割れたリボンは、両側から鈴の体に纏わりついた。

鈴「……何ッ!?」

 両手両足、更に体を捕まえられ、鈴は一切の身動きが取れなくなってしまった。

マミ「……少し、大人しくしていなさい!!」

 もう一本リボンを取り出して、今度は首に巻き付けた。

鈴「……ッ!!」

 首を絞めているリボンは、次第に締め付けられていく。

マミ「……Strozzamento」

 鈴の顔色は、紫色に染まっていた。酸欠状態に陥っている証拠だ。
 脳に酸素が回らず、鈴の目は焦点を定めなくなっていた。

118: 2013/01/13(日) 22:09:44.91 ID:QVz1CtYF0

マミ「安心しなさい……リボンが巻かれている間は、怪我が進行しないわ。大人しく気絶していなさい」

 そして、絞めを続ける事三分……。

鈴「ッ……」

 ガクン、と体中の力が抜けてしまった。鈴の意識は完全に落ちてしまった。

マミ「あんまり、好きじゃないのよね……この技」

 マミは溜息を吐き出しながら、そう呟いた。

※ Un modo giallo=イタリア語で黄色い道
※ Strozzamento=イタリア語で絞殺

119: 2013/01/13(日) 22:10:57.12 ID:QVz1CtYF0

――栃と杏子の部屋。

 両者一歩も引かない、高速域の攻防。
 杏子が一太刀斬る間に、栃は三発の拳を叩き込む。懐まで潜り込めば、栃が圧倒的に有利だが、杏子も何とか避けながら立ち回る。

杏子(……ちぃっ!!)

 一旦間合いを取って、杏子は槍を構えた。

栃「さっきとは格段に動きが違うな。こっちのメンバーに勧誘したい位だ」

杏子「生憎だが、お断りだ!!」

 そう言い放ち、杏子は真っ直ぐに栃へ突っ込んで行く。

栃(玉砕のつもりか……ならば、カウンターで仕留めてやる!!)

 杏子の動きを予測して、栃は拳に力を込める。会心の一撃で、止めを刺す狙いだ。


120: 2013/01/13(日) 22:11:42.87 ID:QVz1CtYF0

杏子「いけぇ!!」

 槍を思いっきり突き出した。しかし、栃は左にかわしながら、右の拳を撃ち出している。

杏子(……ここだ!!)

 拳の軌道に併せて、杏子は槍を多節根化させる。

栃(……!?)

 槍に軌道を阻まれて、拳は杏子の顔面の右側をかすめるだけだった。

杏子「残念だが……アタシの勝ちだ!!」

 今度は杏子が懐に入り込み、槍の先端部分を握りしめ、そのまま一気に斬り付けた。

121: 2013/01/13(日) 22:12:26.47 ID:QVz1CtYF0

 栃の体を深く斬り付けると、傷口からは鮮血が飛び散っていた。

栃「私としたことが……判断を誤っていたか……」

 そのまま膝を付いて、栃は前のめりに倒れ込んでしまった。

杏子「……悪いけど、アタシにも譲れないもの意地ってもんが有るんだよ」

 そう告呟いて、返り血を浴びた顔を手で拭う杏子。しかし、気が抜けたのか、ガクリと膝が折れてしまう。

杏子(クソ……アバラ全部イッてるな……)

 杏子の体も、正直限界ギリギリだった。


122: 2013/01/13(日) 22:13:10.23 ID:QVz1CtYF0

――キリカとセナの部屋。

 ボソボソと呟きながら、セナは剣を構えた。標的のキリカを真っ直ぐに睨み、すぐにでも斬りかかれる状態だ。

キリカ(……全力で速度低下を使っても、あの女には通用しない。スピードを乗せてぶつかってくる分、カウンターの威力は上がる。問題は……私が避けられない)

 十本の爪を構え、キリカも迎撃の姿勢を作る。

キリカ(……だったら、避ける事は考えない。一か八か……)

 キリカは自分自身に向けて、全力の速度低下の魔法を発動させた。


123: 2013/01/13(日) 22:14:14.99 ID:QVz1CtYF0

セナ「……殺る!!」

 セナは、全速力でキリカへ突っ込んで行く。

キリカ「……当たれぇ!!」

 キリカも、十本の鉤爪を突きだした。

 ズバン、とキリカの胴体が思いっきり斬りつけられた。同時に、セナの体も十本の爪で貫かれた。

セナ「……ぐッ」

 流石に爪が胴体を貫通していては、セナの動きが停止してしまう。しかし、深く斬りつけられたキリカの体は、不思議な事に傷口から血が溢れていない。

セナ「どうなってんのよ……」

124: 2013/01/13(日) 22:15:03.33 ID:QVz1CtYF0

 一歩後退したキリカの体を見て、セナは思わず口を開いていた。

キリカ「簡単だよ……自分の体の速度を低下させてるのさ。こうすれば、斬られても十秒は動けるからね」

セナ「……その発想は……無かったね」

 セナは笑いながら言い放つと、糸が切れた様に地面に崩れ落ちた。

キリカ(……でも……限界だ)

 直後に、傷口から大量の血が噴き出していた。そのまま、キリカは意識を失い、地面に倒れ込むしかなかった。


125: 2013/01/13(日) 22:15:47.98 ID:QVz1CtYF0

――織莉子と氷架の部屋。

 織莉子の右掌の上に浮遊する、五つの小さな水晶玉。

織莉子「……君のバリアには、残念ながら欠点がある。今からそれを証明して見せよう」

氷架「へぇ。今まで、このバリアを壊せたのは、一人だけだよ。レイちゃんの大剣でも壊せなかったんだよ?」

織莉子「やって見せようじゃないか……」

 織莉子は、水晶玉に魔力を込める。左手を真っ直ぐに突きだして、狙いを定める。

氷架(……結界の強さは、限界まで硬度を上げてるんだ。絶対に、破られない!!)

 防御に集中できる分、氷架は絶対の自信を持って結界を作っている。


126: 2013/01/13(日) 22:17:12.36 ID:QVz1CtYF0

織莉子(……集中しろ)

 織莉子は、魔力の流れを一点に集中させる。

織莉子(……ここだ!!)

 掌から、水晶玉が発射された。

 パリン、と何かが割れる音が響く。
 張られた結界は原型を留めているが、結界には五つの穴が空いていた。

氷架「……そんな事って、出来るの……?」

 そして、氷架の体にも、銃痕の様な傷が五つも付いている。地面に膝を着き、氷架の息は荒くなっている。

織莉子「その結界を壊す事は、私の攻撃力では不可能よ。だからこそ、一点に魔力を集めて、貫通力だけ上げたの。ライフルの弾みたいなものかしらね」

氷架「……レイちゃん……ごめんね」


127: 2013/01/13(日) 22:20:48.73 ID:QVz1CtYF0

 氷架の目から、大粒の涙が零れていた。

織莉子(……愛に生きて愛に氏ぬ、か。と言っても、多分あの程度じゃ氏にはしないわ。
 幸いにも上手くいったわ……結果オーライね)

 織莉子はフッと溜息を吐き出した。自分自身でも通用するかは、定かでは無かった。しかし、結果的に上手くいった点は幸運だった。
 幸いにも、無傷の勝利を収める。

128: 2013/01/13(日) 22:21:33.59 ID:QVz1CtYF0

 そして、織莉子が氷架を倒したところで、四つの結界が光を放った。
 氷架を倒したので、部屋を作る魔法が発動しなくなったのだ。

織莉子(眩しい……)

 織莉子が次に眼を開くと、元の工場跡に風景を変えていた。

さやか「……皆!!」

 元の場所に戻されたメンバーを見て、さやかは思わず歓喜の声を上げていた。

ほむら「でも、怪我も酷いわね……」

ゆま「ゆまが治すよ!!」

さやか「あたしもやる!!」

 ゆまとさやかは、急いで皆の元に駆け寄る。続いて、ほむらも後を追った。


129: 2013/01/13(日) 22:22:19.54 ID:QVz1CtYF0

マミ「佐倉さん、すぐに治すから」

 比較的軽症のマミは、まず杏子に駆け寄り回復魔法をかけた。

杏子「悪いね……」

 流石に怪我の度合いが酷いのか、杏子の息は非常に荒い。

織莉子「キリカ……キリカ!! しっかりして!!」

 一番重症だったキリカは意識が無く、織莉子は抱きかかえて声をかけた。

さやか「待って、すぐに魔法をかけるから!!」

 さやかとゆまで、急いで魔法をかける。斬られた傷は想像よりも深く、骨と内臓さえも斬りつけられていた。


130: 2013/01/13(日) 22:22:55.54 ID:QVz1CtYF0

織莉子「こんなになるまで……」

ゆま「大丈夫だよ……ゆま達で、キリカお姉ちゃんを治してあげる!!」

 完全に治るまではいかなかったが、動ける程度までは回復出来た様だ。

キリカ「……ん。……んん?」

織莉子「キリカ!!」

 意識を戻したキリカを、織莉子は思いっきり抱きしめた。

織莉子「……良かった。氏んでしまうかと思ってしまってたわ……」

キリカ「私が氏ぬ時は、織莉子が居なくなった時さ……。それまでは、意地でも氏なないさ……」

 織莉子の腕の中で、キリカは笑みを見せていた。


131: 2013/01/13(日) 22:23:43.05 ID:QVz1CtYF0

 杏子もマミの魔法で回復し、一同は動ける様にはなった。

ほむら「さて……。これで一件落着と言う事かしらね」

杏子「今回は、手強かったな……。下手すりゃ、魔女より厄介だわ」

さやか「……さて、この連中はどうしよう? ほっとくのも、気が引けるし」

織莉子「処罰は、貴女達に任せます。私は手を下す気も有りません」

キリカ「織莉子と同じだね」

ゆま「うーん……どうしよう」

マミ「……キュウべえは、どう思うの?」

QB「回復させるだけ無駄だよ……」

 キュウべえは、厳しい意見で突き放した。皆目を白黒させながら、キュウべえを見つめた。

132: 2013/01/13(日) 22:25:05.53 ID:QVz1CtYF0

栃「その通りだ……」

 そのキュウべえの意見に同意したのは、誰の他でもない栃。
 辛うじて、意識を繋ぎとめているが、目は虚ろで呼吸はかなり荒い。

鈴「……どの道、こうなったら氏ぬ事は避けられない」

氷架「レイちゃんと一緒に……地獄に堕ちていくだけだよ……」

セナ「クックック……良いのかな? 止めを刺さなくて……」

 クォーターの面々を、僅かながら意識を取り戻していた。

キリカ「減らず口も、そこまで叩ければ大したもんだよ」

 キリカは呆れた様に口を開いた。そしてセナの元まで歩み寄って、鉤爪を首筋に突き立てた。

栃「手遅れだ……そうだろう? キュウべえ……」

 栃は、不敵に笑みを見せながらそう伝えた。


133: 2013/01/13(日) 22:26:21.52 ID:QVz1CtYF0

 それが、彼女の遺言だった。

 ザン、と首元にロングソードが突き刺さった。ソウルジェムを的確に砕いて、致命傷を与えていたのだ。
 一同、突然の事に動揺を隠せない。呆然と、息の切れた栃の亡骸を見つめる事しか出来なかった。

QB「……これは!?」

 何よりも、一番動揺していたのは、キュウべえだった。

QB(……僕にまで解らない様に、気配を消して来たと言うのか!?)

 再び、ロングソードが飛んできた。三本のロングソードは、キリカの足元をかすめて、セナの体を縦に一刀両断。

キリカ(……ウソでしょ?)

 砕け散ったソウルジェムは、血まみれの肉塊の中に混ざって行く。


134: 2013/01/13(日) 22:28:37.34 ID:QVz1CtYF0

さやか「ウッ……」

 スプラッタホラーの様な、悲惨な光景を目にし、さやかは胃の奥から込み上げてくるのを感じた。

杏子「見るな!!」

 ゆまを慌てて抱き寄せた杏子。しかし、杏子自身もここまで荒んだ光景を見た事が無かった。

マミ「……そ……そんな」

織莉子「どういう事……?」

キリカ「……何がどうなってんだよ!?」

 皆、腰を抜かしそうになる程だった。突然の殺戮劇に、同様と恐怖を隠せない。


135: 2013/01/13(日) 22:30:18.38 ID:QVz1CtYF0

 キコキコと、タイヤの回る音が全員の耳に届く。

QB「……まさか君まで、ここに来ていたとはね」

ほむら「……」

 視線の先に居たのは、車椅子に乗った魔法少女。左腕、両足が欠損している事が、真っ先に見えた。
 そして、顔も左半分が髪に隠され、露出している部分も傷跡が酷く残る。
 何よりも、威圧する様な冷たい視線。右手に握りしめたロングソードは、惨頃した剣と全く同じ。

織莉子(……これ程恐ろしい物を感じた事は……一度も無いわ)

杏子(何者だ、コイツ!? 仲間を、叩き切るとかイカれてるぞ!?)

さやか(……怖い。こんな怖い事奴……ワルプルギス以来だ)

「初めまして……クォーターを仕切っています、天百合氷見と申します」

 冷淡な口調で、そう名乗った。

140: 2013/01/14(月) 21:47:51.96 ID:c2oSCbno0

 氷見が次に見たのは、地面に這いつくばる鈴と氷架。

鈴「……命乞いはしない……頃すなら殺せ」

氷架「……レイちゃんと一緒なら……何も怖くないもん 」

 小さく口を動かした鈴と氷架。

氷見「そう……二人とも仲が良い物ね」

 微笑みを見せながら、氷見はそう言った。そして、十数本の剣を召喚した。

氷見「……散りなさい」

 そして、無数の剣が降り注ぎ、二人の体を貫いた。体中、生け花の様に剣が刺さっており、鈴も氷架もピクリとも動かなくなっていた。


141: 2013/01/14(月) 21:48:42.71 ID:c2oSCbno0

ほむら(……こんな滅茶苦茶な魔法少女、見た事も聞いた事も無いわ)

 ほむらも動揺を隠せない。縄張り争いで戦う事は有るにせよ、惨頃するような魔法少女はまず居ない。
 何よりも、魔法少女を確実に仕留められる事は、恐ろしく強い証拠だ。

氷見「……貴女達は、非常に強い魔法少女でしょうね。彼女達に勝てるのは、私だけだと思っていた物ですから……」

 氷見は、冷たい眼のまま笑っていた。

杏子「……どう言うつもりで、仲間を頃してるんだ? アンタは……」

氷見「……私に仲間など居ませんよ。彼女達も、所詮駒に過ぎませんから」

さやか「……酷い」

氷見「酷い? 酷いとはこう事を言うのですか?」

 氷見はとぼけた様に、答えを返した。


142: 2013/01/14(月) 21:49:16.70 ID:c2oSCbno0

 その直後だった。

織莉子「……!?」

キリカ「……え?」

 誰もが、眼を疑った。

ほむら「……何時の間に!?」

 ゆっくりと前のめりに倒れた織莉子の背中には、ロングソードが突き刺さっていた。地面は、流血で真っ赤に染まって行く。

ほむら「さやか!! 美国織莉子を!!」

さやか「解ってる!! すぐにやる!!」

 ほむらとさやかは、すぐさま織莉子に駆け寄った。さやかが急いで回復魔法をかけたお陰で、大事には至らなかった。しかし、戦闘出来る程の回復は出来ていない。


143: 2013/01/14(月) 21:49:48.47 ID:c2oSCbno0

 そして、愛しの相方を傷つけられたキリカの怒りは、頂点に達した。

キリカ「……お……お、織莉子に何をしたぁ!!」

 速度低下魔法を氷見に向け、鉤爪で一気に斬りかかる。

氷見「……あらあら。随分と、気が短いのね」

キリカ「うるさい!! 氏ねぇ!!」

 キリカは一気に爪で切り裂くべく、大きく振り被った。
 同時に、氷見もロングソードを構える。
 ガキン、と武器が交錯した。一本のロングソードが、十本の爪を防いでいた。

氷見「……軽いわね」

キリカ「何を!!」


144: 2013/01/14(月) 21:50:20.28 ID:c2oSCbno0

 キリカは再度、爪を振りかざした。

キリカ「……!?」

 今度は、召喚した二本のソードが爪の軌道を食い止めた。

氷見「飛びなさい」

 更に、爪の上からロングソードを叩きつけ、キリカを壁際に吹っ飛ばした。

キリカ「ぐぁ……」

氷見「……散りなさい」

 続け様にロングソードを投げつけた。剣は真っすぐに、キリカに向かい飛んでいく。

キリカ(……ヤバい!!)

 キリカは反射的に、眼を瞑っていた。

145: 2013/01/14(月) 21:50:49.71 ID:c2oSCbno0

 パン、とロングソードが弾き飛ばされた。キリカの脇に、ロングソードが突き刺さる。

キリカ「……!?」

ほむら「皆、下がってて。こいつは、私が仕留めるわ」

 紫の弓矢を構えたほむらは、力強くそう言った。

氷見「……貴女から来ますか?」

 氷見は、無表情のままそう答えた。

マミ「……暁美さん一人に任せる訳にはいかないわ。私達も、戦う」

さやか「うん……。こんな奴、野放しにしておく訳にはいかない!!」

杏子「見滝原の魔法少女は、甘く無いんだぜ?」

 マミ、さやか、そして杏子は武器を構えた。


146: 2013/01/14(月) 21:51:20.90 ID:c2oSCbno0

氷見「……フフ」

杏子「何がおかしい?」

氷見「貴女達は、さぞ友達思いなのでしょうね……。でしたら、こんな余興もよろしいのでは?」

ほむら「……まさか!?」

 氷見は、薄気味悪く笑みを見せて、指をパチンと鳴らした。

 合図と共に現れたのは、イエスキリストの如く十字架に張り付けられた、まどかの姿だった。
 口は塞がれ、手足は縛られている。潤んだ瞳で、ジッとほむら達を見つめていた。

まどか(……皆……ゴメンね)


147: 2013/01/14(月) 21:51:52.56 ID:c2oSCbno0

ほむら「まどか!!」

さやか「まどか……」

ゆま「お姉ちゃん!!」

杏子「てめぇ……やっていい事と悪い事って有るだろうが!!」

マミ「……鹿目さんを人質して、何が目的なの!?」

氷見「交換条件ですよ……」

マミ「交換条件ですって?」

 氷見は、冷たい笑みを崩さないで、言葉を告げた。


148: 2013/01/14(月) 21:52:38.37 ID:c2oSCbno0

氷見「今から、貴女達と私一人で、一対一の勝負をしましょう。
 一対七では、流石に私も分が悪いですからね。貴女達が、一人負けた時点で……この娘の四肢のどれかを斬り裂きます。五人目からは、体を突き刺します。
 最後の一人が負けた時点で、首が飛ぶでしょう。いい条件だと思いませんか?
 もっとも、拒否権は有りませんよ? 仮に、拒めばすぐにでもこの娘の体を、肉の塊にしても構いませんから」

さやか「ふざけるのもいい加減にしろ!! まどかは無関係じゃないか!!」

氷見「そう思いますか? 魔法少女に関わってる癖に、自分は魔法少女にならない。百歩譲って、真実を知るから契約しない。これは、さぞ賢い事ですよ。
 でも……無理やりにでも契約しなければならない条件になれば、話は変わってきますよね?」

ほむら「……つまり、今がその条件って事ね」

149: 2013/01/14(月) 21:53:39.07 ID:c2oSCbno0

氷見「その通り。彼女が助かる方法は二つ……貴女達が私を頃す。もう一つは、この娘がキュウべえと契約をして私を頃す……」

ほむら(美国織莉子に見えてたのは、この光景だったのね……不覚だわ)

氷見「決して、悪い条件ではない筈ですよ? 仮に、戦う方を選べば、一人目で勝てば良いんですから」

 氷見の言葉が、重く伸し掛かった。

QB「天百合氷見……君は復讐を望んで、契約した。だが、無関係な人間を巻き込んで、それが復讐だとでも言えるのかい?」

氷見「……感情の無い生き物が、偉そうに言うな。私の復讐は、終わる事は無い……絶対に!!」

 氷見はキュウべえを鋭く睨みつけた。

150: 2013/01/14(月) 21:54:38.45 ID:c2oSCbno0

ほむら「下がって居なさい、キュウべえ。さっき、言ったでしょう……私が引き受けると」

さやか「ほむら……アイツの口車に乗るつもりなの!?」

杏子「そうだぜ……。ここで受けちまったら、向こうの思う壺だ!!」

マミ「暁美さん!! 考え直して!!」

 ほむらは、大きく深呼吸した。

ほむら「無理よ。言って聞く様な人間とは思えない。
 あんな危ない連中を力付くで押さえつけられる程の魔法少女。もし、その気なら、私達はとっくに殺されてるわ」

マミ「暁美さん……」


151: 2013/01/14(月) 21:55:40.67 ID:c2oSCbno0

ほむら「それに、今この中で勝てる可能性が有るとすれば……私が一番マシよ」

氷見「ほう……」

 ほむらの一言を聞き、氷見は感心した様に、口元を吊り上げた。

ほむら「彼女には他の皆の手の内は見抜かれてるわ。さっきの戦いを、何処かで見ていたんでしょうね……。
 そうで無ければ、呉キリカの攻撃を受け止めたり、三国織莉子を奇襲するなんて絶対に不可能だからよ」

氷見「……どうやら、君はかなり頭の回転が速い様だね」

ほむら「どの道、私が勝たなければまどかは傷つくわ。何としてでも、私が仕留めなければいけないのよ」

 ほむらは、強い言葉でそう言った。その気迫が、周りの仲間達を黙らしていた。


152: 2013/01/14(月) 21:56:14.65 ID:c2oSCbno0

ほむら「……準備は出来ているかしら」

氷見「……良いでしょう」

 ほむらは、戦陣に躍り出て、弓を構えた。

キリカ(……負けるなよ)

ゆま(お姉ちゃん、頑張って!!)

織莉子(……ビジョンが見えてこない。それ程、この結末は不透明だという事なの?)

 そしてほむらは、挨拶代わりの一投目を射る。

ほむら「……行け!!」

 紫の矢が放たれた。

153: 2013/01/14(月) 21:56:47.19 ID:c2oSCbno0

氷見「甘いですね」

 カン、とロングソードが一振りされ、弓矢はあっさり防がれた。

氷見「牽制のつもりです? 挨拶代わりですか? 貴女の力は、その程度じゃないでしょう?」

ほむら「……そうね。今のは、距離感を測った所かしらね」

 ほむらは、口元にうっすらと笑みを作っていた。


154: 2013/01/14(月) 21:57:34.27 ID:c2oSCbno0

杏子「……所でさ。今気が付いたけど……アイツ、弓矢なんか使ってたか?」

QB「あの武器は、魔力で作り出した物さ。マミのマスケット銃と同じ理屈だよ」

さやか「それは、ほむらも言ってた。でも、まだ完成じゃないから威力も無いって……」

QB「ほむらの言う完成が、どの位のレベルを言っているのかは知らないけれど……。はっきり言うと、暁美ほむらの魔力の使い方は天才的さ」

 キュウべえは、そう断言した。

マミ「ええ……。暁美さんは魔力で武器を作り出すまでに、二か月しか使っていない」

さやか「しか……って事は。マミさんは、銃を作るまでどれ位かかったんですか?」

マミ「約一年って所ね」

杏子「……マミで一年も?」


155: 2013/01/14(月) 21:59:00.52 ID:c2oSCbno0

QB「マミも魔力のコントロールは、相当に上手なレベルだよ。むしろ、固有武器以外の物を作り出すのは、並の魔法少女じゃ出来ないよ。
 現に、マミとほむら以外で、武器を作り出す事が出来る魔法少女は居ないだろう?」

さやか「うん……見た事無い」

QB「大体自分の魔力の保有量の内、さやかで五割、杏子達で七割。マミに至っては九割近くを引き出している。
 だけどほむらは、九割九分を使いこなしている。
 もっとも、魔力の保有量ではほむらが一番低い分、使いこなしやすくなっていると言う、皮肉な面も有るけれどね」


156: 2013/01/14(月) 21:59:56.54 ID:c2oSCbno0

さやか「どういう事?」

マミ「そうね……。例えて言えば、並のレーサーがF1に乗っているのが私達かしらね。性能の全てを引き出せない。
 そして、暁美さんは普通の車に乗ってるF1ドライバー。だから、性能を限界まで引き出していると言う形になるわね」

杏子「……だから、魔力が多少劣ってても、あそこまで戦える訳か」

QB「そういう事さ……」

 百聞は一見にしかず。誰もが、ほむらの実力は認めている。だからこそ、今はほむらが勝つ事を信じて、見守るしかない。


157: 2013/01/14(月) 22:00:42.01 ID:c2oSCbno0

 氷見は召喚した一本のロングソードを構えた。

氷見「挨拶代わりですよ」

 そして、思い切って投げつけた。

ほむら(……撃ち落とすまでも無いわ!!)

 金属のぶつかる、鈍い音が建物中に響いた。

氷見「随分と、頑丈に出来ている盾ですね。私の剣で、貫けなかった物は、それが初めてですよ」

ほむら「光栄ね……」

 ほむらは、皮肉っぽく言い返した。

158: 2013/01/14(月) 22:02:18.95 ID:c2oSCbno0

氷見「……では、本番と行きましょうか」

 氷見は、再び剣を召喚。しかし、今度は一本では無い。少なく見積もっても、両手両足の指では足らない数だ。

ほむら(……何本出してくるのよ)

氷見「何時まで、避けられますか?」

 そして、再び剣が宙を舞う。ほむらを目掛けて、無数のロングソードが飛び交った。
 ほむらは迎撃するべく、魔力を込めて弓を引く。

ほむら(……狙いは、そこよ!!)

 矢は放たれた瞬間に、一気に拡散。飛び交うロングソードを次々と撃ち落とす。

氷見(やりますね……楽しませてくれます)

ほむら(……不味いわね)


159: 2013/01/14(月) 22:03:13.43 ID:c2oSCbno0

 ほむらは、内心ではかなり焦っていた。

ほむら(……魔力の容量は、向こうの方が圧倒的に上。この弓の弱点は、燃費が悪いから私の魔力が追い付かない……。力押しになったら、確実に私は勝てない……。
 せめて……あの魔法のカラクリさえ解れば……弱点を突ける)

氷見「さぁ……見せて貰いましょうか……」

 ロングソードが、次々と召喚される。今度は、さっきの数よりも更に多い。

ほむら(流石にあの数は撃ち落とせない!! どうすれば……)

 ほむらの思惑と裏腹に、氷見のロングソードが再び飛び交った。

ほむら(ええい……だったら)

 そして、次の矢を射る。

160: 2013/01/14(月) 22:04:14.02 ID:c2oSCbno0

 撃ち出された矢は、真っ直ぐに飛んでいく。

氷見「……!!」

 氷見の右頬をかすめて、後ろの壁に突き刺さった。

 しかしほむらも、数本の剣を受けて大きくダメージを受けていた。

ほむら(芯は外してるけど、結構喰らってしまったわね……。
 でも……掴めたわ!!)

 何かを読み取った。

氷見(……もしや)

 氷見の表情から、笑みが消えた。

ほむら「解ったわよ……貴女の魔法の正体が!!」

氷見「……」

161: 2013/01/14(月) 22:05:14.45 ID:c2oSCbno0

 ほむらは、再び弓を引く。今度の矢は、さっきの物よりも、遥かに大きい。

ほむら「……この矢を封じられるかしら!!」

 そして、真っ直ぐに射る。

 放たれた矢は、氷見を目掛けて真っ直ぐに飛ぶ。

氷見(……小賢しい!!)

 氷見はジッと矢の軌道を見据えていた。

ほむら(……かかったわね!!)

 ほむらは、ほくそ笑んだ。
 氷見が魔力を溜めこんだ瞬間。真っ直ぐに飛んでいた矢は、パン、と拡散した。

氷見「……!?」

 炸裂した矢は、氷見の体に突き刺さる。

氷見「ぐぅ……」

 致命傷を与えるまでには至らないが、氷見に初めてダメージを喰らわせた。


162: 2013/01/14(月) 22:06:25.58 ID:c2oSCbno0

ほむら「……貴女の魔法は、空間の内の物を動かす魔法ね」

 ほむらは、確信を持った顔つきで断言した。

氷見「……」

ほむら「だからこそ、剣を自在に飛ばしたり、矢の軌道をずらしたりする事が可能な代物……そうでしょう?」

氷見「よくぞ、短時間で見抜きましたね……賞賛に値しますよ」

ほむら「伊達に、魔法少女をやってないわ。どんな魔法にも、欠点は有る。そこを突ければ、対処は可能なのよ。
 どんな魔法も、発動にはタイムラグが起きる。僅かでも気をを逸らせてしまえば、封じ込められるものよ」

氷見「……大した洞察力です。頃すには惜しい人材ですが……ここで氏んでもらうのは確定です!!」

163: 2013/01/14(月) 22:07:03.10 ID:c2oSCbno0

 氷見は、ロングソードを二本だけ召喚。

氷見「今度は、簡単に防げませんよ?」

ほむら(……今度は二本だけか。戦法を切り替えたわね……)

氷見「踊りなさい!!」

 二本のロングソードは、回転しながら宙を舞う。

ほむら(……まずは右!!)

 狙いを定め一本目を撃ち落とす筈だったが、寸前で剣の軌道が動いて、矢を避けた。

ほむら「……!?」

氷見(甘い!!)


164: 2013/01/14(月) 22:07:41.48 ID:c2oSCbno0

 そして、左の一本がほむらの腕ををかすめる。同時に、右のロングソードが上から斬りかかる。

ほむら「……くっ」

 バックステップで避けると、剣は地面に突き刺さっている。が、今度は後ろから剣が迫りくる。

ほむら「この……!!」

 振り向き様に、盾で弾き飛ばして回避。だが、弾き飛ばされた剣は、ブーメランの様に戻ってくる。
 更に、地面に刺さって居た剣は、再び浮遊してほむらに向けて斬りかかる。

氷見(逃げ惑う、仔羊……哀れね)

 ニヤリと笑みを作りながら、氷見は剣を自由自在に振り回す。

165: 2013/01/14(月) 22:08:32.25 ID:c2oSCbno0
 遠隔操作しながら、ほむらを徐々に追い詰めて行く。

ほむら(追尾されると……こっちが攻撃出来ない!!)

 ギリギリでかわし、致命傷は避けている。しかし、ほむらはついに壁際にまで追い込まれた。

氷見「もう逃げ道は有りませんよ?」

 そして、ロングソードは回転を止めた。ほむらに向けて、真っ直ぐに向けられている。

氷見「……終わりです!!」

 一直線に、二本のロングソードが飛ばされた。

ほむら「……!!」

 迫りくる剣は、丸でスローモーションの様に見えてしまう。


166: 2013/01/14(月) 22:09:35.60 ID:c2oSCbno0

 ドクン、と心臓が高鳴った。

ほむら(……このまま……このまま氏んでしまう訳にはいかないの!!)

ほむら(ワルプルギスの夜を倒して……まどかを救う事が出来て……やっと前に進む事が出来たのに……)

ほむら(もう……幸せな日常を手放したくないのに!!)

ほむら(……神様……お願い!!)

ほむら(もう一度……私に奇跡を起こして!!)

 走馬灯の様に、脳裏を過ぎる過去の記憶。心臓の鼓動は、加速的に上昇していく。

QB(……ほむらの感情値が上昇し続けている!? 否……魔力の上限も、凄まじい勢いで上がってる……)

 理解し難い現象が、ほむらに起こっていた。


167: 2013/01/14(月) 22:10:07.86 ID:c2oSCbno0

 ザン、とほむらの腹部を、二本のソードが貫いた。

さやか「……ほむら!!」

杏子「ほむらっ!!」

マミ「暁美さん!!」

キリカ「ヤバい!!」

ゆま「お姉ちゃん!!」

織莉子(……どういう事!?)

まどか(ほむらちゃん!!)

 誰もが、終わった。そう思った。

 しかし、ほむらは弁慶の様に仁王立ちしたまま、氷見に狙いを定めている。


168: 2013/01/14(月) 22:10:36.57 ID:c2oSCbno0

――カチン。


169: 2013/01/14(月) 22:11:31.61 ID:c2oSCbno0

 バシュン。一際甲高く、弓を射る音が木霊した。

 全員我が目を疑い、その音が空耳だと勘違いする光景だった。

 血を啜ったロングソードは、地面に転がっている。しかし、血を吸われた張本人は、そこに居ない。

杏子(……!?)

さやか(何時の間に!?)

マミ(まさか……!?)

 氷見の胸に、深く突き刺さった一本の矢。そして、氷見の真後ろで弓矢を構えている、ほむらの姿。
 イリュージョンの如き光景。突然の形勢逆転には、敵も味方も混乱するしか無かった。


170: 2013/01/14(月) 22:12:02.33 ID:c2oSCbno0

氷見「……ぐ……どういう事ですか?」

 氷見は、思わず聞いてしまうしか出来ない。

ほむら「秘密……。自分の手の内をわざわざ敵に教えるバカは居ないでしょ?」

 しかし、ほむらの衣装は、血まみれだった。夥しい量の血液が溢れ出ている。

氷見「……こんな裏技を隠しているとは、さぞ性格の悪いお人でしょうね」

 氷見は、観念した様に呟く。

ほむら「……貴女程では無いわ。このまま、ソウルジェムを撃ち抜いても良いのよ?」

氷見「……ならば、撃つがよろしいでしょう。後ろに回り込まれては、私の体では成す術も有りませんよ」

ほむら「……そうね。だったら……私の好きなようにやらせて貰うわ」

 そして、ほむらは弓矢を射る。

171: 2013/01/14(月) 22:12:37.85 ID:c2oSCbno0

 パン、と放たれた矢は、氷見の頬をかすめて壁に突き刺さっていた。

氷見「……どういうおつもり?」

ほむら「確かに、貴女の行為は許される物じゃないわ。それだからって、頃しても良い理屈にはならないでしょう?」

氷見「……」

ほむら「それに……一つの道標に向かう為に、他の物を犠牲にする。そうまでして辿り着いた時……残る物は何も無いわ。
 一人の力が足りないなら、誰かの手を借りる。決して恥ずかしい事ではない筈よ」

氷見「……只の綺麗事ね」

ほむら「どうとって貰っても構わないわ。私は、まどかさえ返してもらえれば、貴女の命は奪うつもりは無いわ」

 氷見は大きく息を吐き出した。


172: 2013/01/14(月) 22:13:05.75 ID:c2oSCbno0

氷見「……君に会うには、私は遅すぎました。……私の負けですよ」

 氷見は、そう呟いて、右手をパチンと鳴らした。

 張り付けられた紐は解け、まどかの体はゆっくりと地面に下ろされた。

ほむら「……生憎だったわね。一人目で勝てたわ…………」

 しかし、ほむらの体は深く傷ついていた。ダメージが限界を超えて、徐々に意識が遠のいてしまう。
 そのまま、地面にドサリと倒れ込んでしまった。

 ほむらの耳に、かすかに聞こえたのは……。


173: 2013/01/14(月) 22:13:33.44 ID:c2oSCbno0

――ほむらちゃん……。


174: 2013/01/14(月) 22:13:59.27 ID:c2oSCbno0

 声が聞こえた。
 温かく優しい、親友の声。

 光が差し込んでくると、意識はゆっくりと覚醒していく。

ほむら(……?)

 光の中でぼんやりと見えたのは、最高の親友の泣き顔だった。

ほむら「……ここは天国かしら?」

まどか「ちがうよぉ……泊まってるホテルだよぉ……」

 舌足らずな声で、半泣きのまどかはほむらに抱き着いた。


175: 2013/01/14(月) 22:14:41.55 ID:c2oSCbno0

まどか「無事で……ほんと良かった……。ほむらちゃん、氏んじゃったかと思ったもん……」

ほむら「ごめんなさい……。巻き込みたくなかったのに……怖い思いをさせてしまったわ」

まどか「ううん……私は大丈夫だもん。ほむらちゃん達が、助けてくれたから……」

ほむら「……まどか」

まどか「ほむらちゃん……」

さやか「……あのさ、お取込み中良いかな?」

ほむらまどか「……!?」

 さやかの一言で、慌てて離れた二人は、頬を朱色に染めていた。


176: 2013/01/14(月) 22:15:17.69 ID:c2oSCbno0

マミ「もう……美樹さん」

杏子「全く、空気呼んでやれよ」

 さやかをジトッとした目で見つめる、杏子とマミ。

さやか「だって、このままだと点呼の先生来ちゃうもん」

キリカ「そう言えば、修学旅行中だしね」

織莉子「ともあれ、皆無事なら何よりですよ」

ゆま「zzzz……」

 ほむらが気を取り直して部屋を見渡すと、仲間の皆は揃って居た。

ほむら「……あれから、どうなったの?」

マミ「そうね。暁美さんが気絶した所から、話さないといけないわね……」


177: 2013/01/14(月) 22:15:46.97 ID:c2oSCbno0

――昨晩、廃工場にて。

 氷見の後ろで倒れたほむらの元に、まどかは慌てふためいて駆け寄る。

まどか「ほむらちゃん!! ほむらちゃん!!」

マミ「大丈夫よ!! すぐに魔法をかけるわ!!」

ゆま「ゆまもやるよ!!」

さやか「三人掛かりなら、助けられるよ!! 私達に任せて!!」

 そして、三人は急いでほむらの周りを囲み、回復魔法を試みた。

まどか(お願い……氏なないで!!)

 まどかは、兎に角祈るしか出来なかった。


178: 2013/01/14(月) 22:16:18.78 ID:c2oSCbno0

 一方の氷見は。

氷見「……」

 一言も発さないまま、動こうともしない。

杏子「おい……覚悟は出来てるか?」

キリカ「まどかは確かに返してもらった。だけど、織莉子を傷つけた落とし前はつけて貰うよ?」

 杏子とキリカは、氷見を挟み撃ちにして、首元に武器を突き立てた。

氷見「……無粋な方たちですね?」

 氷見は、ニヤリと笑った。

織莉子「二人とも!! 離れて!!」

 織莉子は叫んだ。それと同時のタイミングだった。


179: 2013/01/14(月) 22:17:05.39 ID:c2oSCbno0

 スパン、と二本の剣が飛び交った。

杏子「……!?」

キリカ「……!?」

 二人の首の側を、ロングソードがかすめていった。

氷見「確かに、あの方と私の勝負は負けています。ですが……貴女達に負けた記憶は有りませんよ?
 何なら、二人だけ切り裂いても宜しいですか?」

 背筋に寒気が走る程、冷たい声でそう言った。


180: 2013/01/14(月) 22:17:49.16 ID:c2oSCbno0

織莉子「……私達は、人質さえ返してもらえれば、戦う気は有りません。ですから、このまま、私達は帰ります」

キリカ「織莉子……?」

氷見「ええ……向かって来ないのなら、手は出しませんよ。約束します」

杏子「……ああ。アンタを野放しにするのは気が引けるけど……アタシ達じゃアンタには勝てない。魔法を見せられて解ったよ……」

キリカ「……でも」

織莉子「キリカ……。無用な血は流さない方が賢明よ」

キリカ「……うん……解った」

 織莉子に言われ、キリカは渋々引き下がった。

杏子(ほむらの奴……あんなバケモノと戦っててのかよ……)

 杏子は、氷見の攻撃を受けて、初めてその恐ろしさを理解した。

181: 2013/01/14(月) 22:18:17.71 ID:c2oSCbno0

マミ「何とか、傷は塞がったわね……」

 回復魔法をかけて、ほむらは何とか一命を取り留めた。しかし、眼を覚ますのはまだ先になりそうだ。

さやか(……骨だけじゃない、内臓までズタズタ……。こんな傷で良く動けてたよ……。ほむらめ……無茶して)

ゆま「……ふぅ。お姉ちゃん……起きるかなぁ?」

マミ「大丈夫よ……暁美さんは強いもの」

 ゆまに笑みを見せながら、マミはそう言った。

織莉子「……治療は終わった様ね。このまま、引き下がりましょう」


182: 2013/01/14(月) 22:19:18.21 ID:c2oSCbno0

 杏子とキリカの二人で、意識の無いほむらの肩を支える。

杏子「ああ……。兎に角、ホテルに送り届けないとな」

キリカ「……でも。帰りの電車……無いんじゃない?」

さやか「今夜だけ、ホテルに泊まれば良いんじゃない? 朝一にこっそり出て行けば大丈夫そうだし」

マミ「そうね……。暁美さんの容体も見ないと行けないし……今回は仕方ないわね」

ゆま「……うん」

 マミは眠そうなゆまを抱っこし、さやかはまどかを抱き上げた。

QB「君達は、先に行くと良いよ。僕は、ここに残っているからね」

マミ「……そう」

 見滝原の魔法少女達は、順番に廃工場から立ち去って行った。


183: 2013/01/14(月) 22:19:57.91 ID:c2oSCbno0

――朝、ホテルにて。

ほむら「そうだったのね……迷惑かけたわね」

さやか「問題無いさ。ただ……あの女が逆襲に来ないか心配でさ」

マミ「キュウべえが残ってるみたいだけど……ちょっと釈然としない点も多くてね」

杏子「正直に言うと、アイツとは二度と会いたくねぇな……。次戦っても、勝てる気がしねぇわ」

織莉子「ええ……。私も同じです」

キリカ「……」

まどか「……」

QB「心配には及ばないよ」

全員「……キュウべえ!?」


184: 2013/01/14(月) 22:20:32.57 ID:c2oSCbno0

QB「ん? 来ては不味かったのかい?」

マミ「そういう訳じゃ無いけど……」

ほむら「現れる時は、何時も突然だもの……。驚きもするわよ」

QB「事後報告は必要不可欠だよ? それに……ほむらの事だけど」

ほむら「……ええ。だけど、正直私が聞きたい位だわ」

QB「君の元々持ってた時間停止の魔法。一瞬だけ復活していたね」

さやか「だから、あの時突然違う場所にいたのか……」

185: 2013/01/14(月) 22:21:19.18 ID:c2oSCbno0

ほむら「正直、無我夢中でよく解らなかった。だけど、自分以外の動きが全て止まっていたのは確かだったわ……」

QB「あの瞬間、君は極限まで感情が高ぶっていた。そして、魔力の方も莫大な増幅を見せていた。
 感情の変化とソウルジェムに宿る魔力は直結すると、僕は推測している。言ってみれば、火事場の馬鹿力と言う現象と同じかもしれないね」

ほむら「……随分と、あっさりした解説ね」

QB「事実、それ以外の説明が見当たらないさ。
 感情と言う現象は、つくづく説明が出来ない。だからこそ、研究のし甲斐も有るのだけれど。
 今回の一件で、興味深いデータを採取出来たからね。感謝するよ」


186: 2013/01/14(月) 22:21:57.96 ID:c2oSCbno0

ほむら「お礼をされる様な物じゃないわ。私は、まどかを助け出したかった。それだけよ」

まどか「……ほむらちゃん」

 素っ気ない言葉に、まどかは照れくさそうに笑みを見せた。

QB「それともう一つ。天百合氷見は今の所、君達に関わる事は無さそうさ。ただ、この先彼女の目的は変わらないだろうけどね」

マミ「そう言えば……言ってたわね。復讐は終わらないって……」


187: 2013/01/14(月) 22:23:16.88 ID:c2oSCbno0

QB「彼女が左手と両足を失ったのは、事件に巻き込まれたからさ。
 二年前に、中学生が誘拐されたって事件が名古屋で発生した。……その被害者が彼女なんだ」

織莉子「……新聞で読んだ事有るわ。あの胸糞の悪い事件……」

杏子「知ってんの?」

織莉子「かなり有名よ……。中学生が半年監禁されてて、その間にレOプされ続けたって事件。しかも、犯人は地元の不良少年だった……」

QB「その時の怪我が影響して、彼女はあの姿になってしまった。
 もちろん、契約の時に復元する事は出来た。しかし、彼女は拒んだよ。怪我が治れば痛みを忘れてしまう、とね。
 そして、彼女は僕と契約したのさ……復讐する為と言う理由でね」

188: 2013/01/14(月) 22:24:09.33 ID:c2oSCbno0

キリカ「……そういう話を聞いちゃうと、何かこう……」

さやか「うん……ちょっと気の毒に思えちゃう」

QB「クォーターの面々も、酷いトラウマを持っていたよ。イジメだったり、虐待だったり、親を殺されたり、虎児だったり……。
 そのトラウマを超える為に、彼女達は形振り構わず力を求め続けた。故に、凶暴な集団になってしまったのさ。
 魔法少女の数が多ければ、それだけ魔法少女の考えも異なるのさ……」

ほむら「……」

QB「多少は異なれど、君達も近い悲劇を見ている。ただ、どうやって乗り越えるかは本人が決める事さ。その点は、僕の付け入る部分じゃない……」


189: 2013/01/14(月) 22:24:46.83 ID:c2oSCbno0

マミ「……」

杏子「……」

織莉子「……」

キリカ「……」

まどか「……」

さやか「……」

 キュウべえの一言で、皆沈黙するしかなかった。
 自分自身の心の闇を、クォーターとして散った魔法少女達と、照らし合わせずには居られなかった。
 一歩間違えば、自分自身も同じだったと。倒した魔法少女は、自分のもう一つの結末だったかもしれないから。


190: 2013/01/14(月) 22:25:27.05 ID:c2oSCbno0

 時刻は、もうすぐ朝の六時半を向かえる。

QB「さて……そろそろお開きの時間だね」

 そう告げて、キュウべえは真っ先に部屋から消えて行った。

織莉子「そうね……。そろそろ抜け出さないと、不味いわね……」

キリカ「もう、始発の電車も出ている時間だしね……」

杏子「……帰るとするか。今回ばかりは、かなり疲れたわ……」

マミ「……そうね。見滝原に戻りましょう」

 寝ているゆまは杏子がおぶって、全員窓からトンズラの準備を始めた。


191: 2013/01/14(月) 22:25:55.37 ID:c2oSCbno0

ほむら「皆が来てくれなければ、今頃どうなってたか……考えるだけで恐ろしいわ。ありがとうね……助かったわ」

さやか「ホントだよ。仲間が居るって、大切だって心底思ったもん」

キリカ「気にするなって。良く言うよね? 一心同体ってさ」

織莉子「……一蓮托生でしょ?」

杏子「はは、間違えてやんの」

キリカ「む……」

マミ「はいはい……揉め事は後回しにして。皆、行きましょう」

 そして、それぞれ窓から飛び去って行った。


192: 2013/01/14(月) 22:27:27.81 ID:c2oSCbno0

さやか「はぁ……。今回の修学旅行は、一生忘れられないよ……」

ほむら「ええ……。こんな羽目になるなんて、想像もしなかったから……」

まどか「でもさ……。皆とまた朝を迎えられたもん。それだけでも、私は嬉しいなって思うよ。皆……最高の友達だよ!!」


 かくして、見滝原から遠く離れた街で起こった魔法少女の事件。
 辛くも潜り抜けたほむら達は、また別の魔法少女の有り方を見つけた。その心に飛来した物は、本人達のみぞ知る所だ。

 ちなみに、一晩起き続けていた魔法少女達。杏子もマミも、織莉子もキリカも、ゆまも。帰りの電車で熟睡を続けていた。
 そして、さやかとまどか、そしてほむらは、眠たい目を擦りながら、修学旅行最終日に参加するのであった。


193: 2013/01/14(月) 22:28:13.43 ID:c2oSCbno0

――昨晩深夜、廃工場。

 工場内に一人残された氷見。そして、片隅で見守るキュウべえの姿。

氷見「……仲間ね」

 見滝原の魔法少女達を目の当たりにし、彼女の心の片隅には、そのキーワードが引っかかっていた。

氷見「でも……もはや手遅れ。私には……敵が増えすぎている」

「ああ……その通りだ!!」

氷見「……!?」


194: 2013/01/14(月) 22:28:55.75 ID:c2oSCbno0

 ブン、と一振りされた大剣が、氷見の体を斬り付けた。

氷見「ぐっ……やってくれたわね……鈴」

鈴「真正面からじゃ……アンタが相手じゃ敵わないからな。こういう機会を、ずっと待ってたんだ……」

氷見「……油断してたわ。さっき貴女達を切り裂いたのは……幻だった」

鈴「その通り!!」

 ズン、と今度は槍が突き刺さった。

氷架「えへへ……。こうでもしなきゃ、レイちゃんと二人で遠くに行くって出来ないもん」

鈴「そういう事さ……アンタの力は強力だからな……。今まで利用させて貰ったわけよ」

氷架「貴女の下に居たお陰で、グリーフシードのストックは増やせたもんね……足を向けて寝れないや」


195: 2013/01/14(月) 22:29:37.09 ID:c2oSCbno0

氷見「……フフ。お喋りしている余裕が有るのですか?」

鈴「くたばりかけてるアンタなら、苦戦はしない……もう虫の息だろう?」

 鈴と氷架の裏切りを受け、氷見の体は確かに瀕氏の状態だ。

 それでも、氷見は笑っていた。

氷見「……ええ。確かに、このままでは私は氏ぬでしょう……でもね?」

鈴(……こんな状態でも笑ってやがる……)

氷架(もう……早く氏んじゃいなよ……)

氷見「キュウべえ……そこに居るんでしょ? 最後に……貴女の望む姿になってあげるわ!!」

――復讐は……終わる事は無いのよ!!


196: 2013/01/14(月) 22:30:06.30 ID:c2oSCbno0

――パン!!


 氷見のソウルジェムが弾けた。

197: 2013/01/14(月) 22:30:40.74 ID:c2oSCbno0

 新たに生まれたグリーフシードが、新たな魔女を生み出していた。

QB(……驚いたよ。魔女になっても、君は変わらないんだね。その莫大なエネルギーは、過去を振り返っても相当な数値だ……)

 その魔女は、結界も無く使い魔も無い。そして、大きさも人と変わらないにも関わらず、飛び抜けた魔力を持っている。

【摩利支天】の魔女“タナトス”その性質は【不倶戴天】

 鋭利な触手が無数に生える。真っ黒な人の影から、その顔は全く見えない。
 直立不動のまま、獲物を物色するかの様に頭を動かす。


198: 2013/01/14(月) 22:31:21.89 ID:c2oSCbno0

鈴「魔女になりやがったか……まあいいさ」

氷架「うん……すぐに片づけちゃおう!!」

 そして、二人は同じタイミングで、魔女に襲い掛かった。

 しかし、触手の速度は見切れない程速く、鈴と氷架を同時に貫いていた。

鈴(……なんだ……これ?)

氷架「い……痛いよ……」


199: 2013/01/14(月) 22:31:59.99 ID:c2oSCbno0

――アハ……アハハハ……

 触手が血を啜っている事が解ったのか。魔女は突如として、高笑いを始めた。

 そして、無数の触手は、二人の魔法少女を滅多切りにしていく。顔も体も、元が人間だった事が解らないほどに、グシャグシャに斬りつけていく。
 地面も天井も、鮮血が飛び散る。
 おもちゃを振り回す子供の様に、氏体を滅茶苦茶に破壊していく魔女。

QB「……ワルプルギスの夜に続く、厄災の魔女が誕生したね。
 否、考えようでは……それ以上に厄介な存在かもしれないね……」

 一通り壊し終えると、満足したのか。魔女はこつ然と姿を消したのであった……。


200: 2013/01/14(月) 22:34:16.51 ID:c2oSCbno0

 その後。
 名古屋や近隣の地域で、謎の連続殺人事件が発生する。

 被害者はどれも共通点は殆ど無いが、遺体は何時も身元が解らない程バラバラ、かつグシャグシャに惨殺されていたと言う……。

 また魔法少女の間で、その魔女の存在は都市伝説として長く語られる事になる……。


201: 2013/01/14(月) 22:44:02.34 ID:c2oSCbno0
以上で、投下完了です。
後半は駆け足気味、しかもちょっとぶつ切り感のあるEDですが、勘弁してください。

やっぱり、SSを書く時は、バトル描写が難しいです。精進しないとね……。


ちなみに↓

摩利支天:

思いのままに身を隠す力を持つと言われる、仏教の守護神。

不倶戴天:

倶(とも)に天を戴(いだ)かず。と言う言葉。
一緒にこの世に生きていきたくない程、憎しみや恨みが深いという意味。

タナトス:

ギリシャ神話に登場する氏の神の名前。幾多の神の中で、最も嫉み嫌われたと言い伝えられる。


厨二くさい? ほっといて!!


元のアイデアに若干手を加えたのは、ご了承ください。
お付き合いいただき、ありがとうございました。

引用: ほむら「修学旅行で名古屋に来たわ」