38: 2009/09/02(水) 00:40:14.12 ID:rm2jvDyfO
最近谷口に彼女ができたらしい。
いや、なんというか、あまり正直にその辺りは触れたくないのだが、
しかし素直に羨ましいと思ってる俺も居る訳で。
毎日昼食時にあぁも緩んだ笑顔を見せられると、俺だって少しはこう思うのだ。
「あぁ、彼女欲しいな……」
40: 2009/09/02(水) 00:49:02.27 ID:rm2jvDyfO
思わず本音が口からまろびでる。
途端谷口と国木田が箸を止めて嫌な沈黙持って俺を見つめてくる。
得に谷口なんかは勝者の笑顔を浮かべてやがる始末、
俺は自分の迂闊さ呪いながら、ごまかす様に言を続ける。
「いや、べつにいますぐでなくてもいいんだがな。いつかはやっぱり欲しいなーってさ……」
途端谷口と国木田が箸を止めて嫌な沈黙持って俺を見つめてくる。
得に谷口なんかは勝者の笑顔を浮かべてやがる始末、
俺は自分の迂闊さ呪いながら、ごまかす様に言を続ける。
「いや、べつにいますぐでなくてもいいんだがな。いつかはやっぱり欲しいなーってさ……」
43: 2009/09/02(水) 01:19:42.16 ID:yXKNRFSz0
誤魔化し、というかこれも少なからず本音なのだが、
谷口は気持ちの悪い笑みを一層深めて笑い
俺の肩に腕をまわして古泉ばりに顔を寄せる。
「いんやー、お前の口から彼女が欲しいなんて聞けるとはなぁ」
「キョンもお年頃なんだね」
「だからそんなんじゃねぇって。
……ただ、少しだけ興味がでただけだ」
「それが大躍進だっての、お前はいつもそんなのに興味ないって感じだっただろうが」
どうだったろうか?
いまいちわからないが、確かに同年代の男子に比べれば
そういった欲求は希薄だった気がする。
45: 2009/09/02(水) 01:23:30.14 ID:yXKNRFSz0
というか、あまりそういった必然性に駆られてないというのも
まぁ偽らざる本音だ。
いたらいたで、今みたいな休日も放課後も束縛されてる
現状じゃ当然相手に退屈させてしまうだろうと思うし
かといって恋愛を優先させて団活を疎かにしたら
あの馬鹿になにをされるかわかったものじゃない。
「ま、それは確かに涼宮が簡単にお前を手放すとは思えねぇな」
「手放すって……、俺は所有物か愛玩動物か?」
「でも、実際いまのキョンの立場は彼女を作ったりするには難しいよね
学校終わったあとも休みの日も時間取れなかったら出会いもないしね」
「まったくだ、最近さっぱりこの面子で遊んだ覚えが無いぜ」
「それは素直に悪いと思ってるよ」
46: 2009/09/02(水) 01:24:28.89 ID:yXKNRFSz0
ちょっちTUTAYA行ってくる
借りたCDが昨日までなの忘却してた
延滞金取られてはかなわんね
48: 2009/09/02(水) 01:43:27.24 ID:yXKNRFSz0
それはどういうなのかわからないが
とりあえず無事に帰宅しましたよ
雨が微妙に降ってましたな
とりあえず無事に帰宅しましたよ
雨が微妙に降ってましたな
51: 2009/09/02(水) 01:56:34.59 ID:yXKNRFSz0
そろそろ昼休みの時間もないので、
食事を再開しながらの会話である。
「でもな、キョン。少しでも興味もったなら少しでも行動だぜ」
やおら真剣な表情を作り、
最近彼女ができたばかりの癖に
さも自分が百戦錬磨の色男のような口ぶりでアドバイスを始める谷口。
本当に氏ねばいいのに、そういうの。
「行動ね……」
だが思うところ、納得するところもあるのは事実なので
一応それを黙って受け入れる。
行動がなければ事態は進展しない。
起因がなければ結果は存在しない。
54: 2009/09/02(水) 02:47:03.89 ID:yXKNRFSz0
「ほら、あれだよキョン。興味を持ったいまの状態で
どんな女の子がタイプか、とか考えてみたら?」
「あー、それだな。お前のタイプってどんな女なんだ?
変な感じの女ってのは前に聞いたけどよ」
「……いや、変な女ってのは曲解だから忘れとけ」
タイプの女の子、ね。
どうなんだろうか、いままで考えたことも、そういえば無かった気がするな。
いきなり言われても軽く困惑する。
「じゃあ身近な女の子から、恋愛対象として見れるかとかは?」
「ん、なるほど……」
国木田に言われて取り合えず思考に耽ってみる。
あの馬鹿、はまずありえない。
向こうがこっちにも、こっちが向こうにも、双方恋愛感情を抱くとは思えない。
長門は? ……やっぱりないな、その素性は関係無しに
妹とか、保護対象にしか映らない気がする。
外見がどうでも中身は子供なんだからそれを恋愛対象にするのも気が引けるしな。
56: 2009/09/02(水) 03:17:37.77 ID:yXKNRFSz0
では朝比奈さんは?
どうだろう、なんだかんだ毎度あの人には言ってるけれど
冷静に分析して見れば憧れとかそういう感情な気がする。
好意はあるけれど、それは他の団員とかと同じで、
羨望はあるけれど、それは鶴屋さんにも抱いている物で。
やっぱり恋愛対象では無いと思うのだ。
「う~ん、こうして考えてみると、あまりこれと思う人はいない物だ……」
「あ? じゃあつまりあのトンチキ団の面子にはそういった感情はないってことか?」
「そうなるな、あまりあのメンバーにそういった感情を差し込みたくない。
いまのままの有閑倶楽部的なノリが一番好きだな」
「はぁん、ま、ちょっと前の俺なら即蹴り入れてる発言だな」
「仕方ないだろ。本音は本音だ」
「じゃあキョン、クラスの他の女子はどうなのさ?」
「クラスの女子、ねぇ」
言われてから、今度は俺達と同じように
思い思い食事をしたり雑談してるクラスメート達に目を向ける。
一人で地味に食事をしている娘もいれば、
数人で派手に談笑をしてる娘達もいる。
こうして改めてみてみると、どうだろう、
まともに会話した覚えもないような連中も多い。
これは女子に限らず男子も含めてだが。
57: 2009/09/02(水) 03:22:37.05 ID:yXKNRFSz0
ついでに、現在団長は教室内には存在していない。
すでに新しい団員を集める気などないだろうし、
いまさら探索するような場所も校内にありはしないだろうのに
昼休みには毎度教室を立ち去り、チャイムがなる寸前に戻ってくる。
あいつの一つのルーチンワークになっているようだ。
食事も、多分その時に摂ってるのであろう。
「そうだな……」
キョロキョロと、教室内を見渡して
ふと一人だけ、目に付いた女子がいた。
つい、流していた目を留めてしまった女の子が、居た。
それは他のクラスメート、団長と谷口・国木田を除いたクラスメートの中では
一番会話数の多いであろう、一人の少女。
のんびりとした調子で、数人のグループの中で一人
育ちのよさを伺える行儀のよさでまだ弁当を食べている、
SOS団二人目の依頼人の姿だった。
58: 2009/09/02(水) 03:46:34.47 ID:yXKNRFSz0
「そうだな、阪中……かな」
ぼそっと、またも無意識に口にしていた。
くすくすと、小さく笑いながら女友達の話を聞いている
阪中の後姿を眺めながら、俺は呟いていた。
「……?」
小さく、本当に誰にも聞こえないような独り言。
しかし、人の耳というのは聞きなれた声や、
聞きなれた単語に対しては通常よりも小さな声でも、
平常よりも遠く離れていても、拾い上げて脳へ伝達することができる。
阪中は、同級生達が騒ぐこの教室で、俺に背中を向けながらも、
俺が小さく零した自分の名に反応して、こちらに振り向いた。
ドクンと、心臓が跳ねた。
意識していた所為だろうか、眺めていた彼女が、
俺の方を不意に振り向いて、目が合った瞬間、
やけにドキドキして、愛想笑いを浮かべたり、軽く手を挙げて挨拶することも忘れ
ただただ目を合わせたまま俺は止まっていた。
59: 2009/09/02(水) 04:02:30.22 ID:yXKNRFSz0
「ちょっとごめんね」
多分、そんなことを言ったのだろう。
阪中は話していた友達に軽く手を振って、
微笑みを浮かべながらこちらに歩いてくる。
その間も、俺は馬鹿みたいに呆然と初めての感覚に当惑し続けていた。
「やっほ、キョン君」
「……よぉ、阪中」
極普通に声をかけてくる阪中に、
俺は動揺を隠しながら答える。
極普通に、当たり前だ。なに混乱してるんだ俺は、馬鹿者が。
「さっき私の名前呼んだかな?」
「いや、まぁ、そうだな、呼んだ」
「あは、なにか私に用でもあったのね?」
答えに詰まる。
助けを求めようとして谷口と国木田に目を向けると
国木田は軽く肩を竦めて、谷口はしたり顔でゴーサインを送ってくる。
……行動、ね。
61: 2009/09/02(水) 04:17:52.18 ID:yXKNRFSz0
まぁ阪中には多少悪い気もするけれど、
だけど実際見の周りの女子の中では一番意識していて
しかもまともで穏やかで普通の女の子だ。
自分を試すというか、試験的な意味合いも兼ねて
なんかしらのアプローチでもかけてみようかな。
なんて、思ってしまって。
「あのさ、阪中」
「ん? なにかな?」
「今度二人で遊びに行かないか? カラオケとか」
そんな事を口走っていた。
別段大きな声で喋ったわけではないのに、
なぜか教室の喧騒が一気に消えて沈黙が支配した。
なんだこの雰囲気。
やめろよ、なんで俺をそんな目で見るんだ。
いいじゃないか、ちょっと遊びに誘っただけだぞ?
63: 2009/09/02(水) 04:30:35.48 ID:yXKNRFSz0
非常に気まずい雰囲気で、
しかしなかった事にできる筈もなく。
俺は周囲の変な視線に晒されながら
阪中がなんらかの反応を示してくれるのを
しばしの間待つ羽目になった。
うん、待つのは別にいいんだ、
我ながら突然だったのは自覚してるしな。
けれどこの針の筵状態をどうにかしてくれ。
この場にあの馬鹿がいないことが唯一の救いだ、
まぁ居ないのを狙っての会話で行動なんだから当たり前だが、
それでもつくづく思う。
「……えっと」
冷や汗にも似たなにかを微妙にかきはじめた頃合で、
おずおずと阪中がなにかを口にし始める。
「ふ、二人で、だよね?」
「そうだが、嫌だったら嫌って言ってくれ、
やっぱり男と二人ってのは女の子としてアレだろうしな!」
「ううん、大丈夫。今度の日曜日でいいかな?」
「お、おぅ」
「じゃあ駅前に待ち合わせってことでいい?」
「わかった、すまんないきなり」
「気にしてないよ、じゃあ、楽しみにしてるから」
66: 2009/09/02(水) 05:43:10.97 ID:yXKNRFSz0
はにかみながらそう言って立ち去る阪中。
「あ!」
「ん、な、なんだ?」
「ちょっと携帯貸して」
背中を向けて一歩目、
なにかに気づいたように立ち止まり
再度振り向きながらそう言う阪中。
俺は意味もわからず素直に携帯を彼女に差し出す。
「えっと……」
俺の手から携帯を受け取り、
なにやら操作を始める阪中。
別にあいつじゃないから携帯を弄られたところで
悪さをされるとは思ってないし、構わないが
一体何をしてるのだろうと眺めていると
阪中も自分の携帯を取り出しさらに操作を続けること数分。
「私のアドレスと電話番号登録しといたのね、あとで連絡して」
「え? あ、あぁわかった」
「じゃあ、そういうことで」
69: 2009/09/02(水) 07:02:42.29 ID:yXKNRFSz0
会話終了。
今度こそ自席に戻る阪中に
心なし安堵して捻っていた身体を戻して、
弁当を共に食べていた友人達に向き直る。
「……」
「……」
なんだよ、その沈黙は。
言いたいことがあるなら素直にいいやがれ。
「なら言わせてもらうけどよぉキョン」
なんだ。
「お前さ、ほんっとに今までそういった付き合いとかないんだよな?」
当たり前だ。
お前みたいに女の尻ばかり追いかけてるようなのと一緒にするな。
俺は付き合ったことなんて一度も無いな、好きになったことすらほとんどない。
71: 2009/09/02(水) 07:06:07.38 ID:yXKNRFSz0
「それであれかよ……」
「いやぁ、僕もまさかいきなりデートに誘うとは思ってなかったよ、
しかもクラスメートのほとんどがいる昼休みに堂々とね」
「さらに、またも俺的美的ランクAの阪中とだと?」
ほぅ、阪中はAランクだったのか、初耳だな。
確かにあのお嬢様的な仕草とおっとりした物腰、整った顔立ちは結構目を引くものがあるな。
「お前は校内の美的ランク上位者を独り占めするつもりか……」
「なんだそりゃ?」
牽強付会にもある谷口の物言いを無視して、
残り少ない弁当の中身を一気に詰め込む。
いい加減次の授業が始まる時間だ。
この変な空気を切り上げるにも丁度いいだろうし、
俺は空にしたばかりの弁当を包みなおしてから
鞄に詰め込んで、足早にその場から離れて自分の席に腰を落ち着けた。
まだ一部の男子からの視線が耐えない。
次の授業は逃避も兼ねて惰眠を貪ることにした。
76: 2009/09/02(水) 07:18:18.68 ID:yXKNRFSz0
―――
「起きます」
自分に言い聞かせるように呟きながら起きると、
なんとびっくり五時間目どころかすでに終わりのHRだった。
満腹感が睡眠欲を増長させたのか、
眠気の残る頭を回転させながら
ギリギリの思考力で担任の話を聞きながして
起立、気をつけ、礼の流れを辛うじてこなせば
あっという間に放課後になってしまった。
「ううむ」
唸ってみるものの変化無し。
ただでさえ今日の五、六時間目の科目はあまり成績がよくないのに
意欲態度まで下げられてはどうしようもないのだが。
仕方ない終わったことは終わったことだと言い聞かせて鞄を取る。
「あの、キョン君」
そのタイミングで、阪中が俺に話しかけてきた。
79: 2009/09/02(水) 07:27:13.21 ID:yXKNRFSz0
「おう阪中、珍しいな」
いまだに寝ぼけている脳味噌の所為で
些か反応が鈍い様子の俺。
先刻の自分の所業を忘れての台詞である。
「うん、ほらさっきのこともあるし」
「さっきのこと……」
ここでようやっと思い出す俺。
少々本気で脳味噌の、特に海馬の心配をしてみる。
一見スポンジのようだがしかしその実態は四角い穴あきチーズなのだ、みたいな。
まったく吸収しません、すぐ零れます、的。
「あぁ、そのことならほら、メールなり電話なり後でする――」
「ううん、そうじゃなくて。それとは別に、今日、一緒に帰れないかなって」
驚愕。
というよりは困惑。
これはアフターのお誘いって奴ですか。
80: 2009/09/02(水) 07:39:11.23 ID:yXKNRFSz0
……いや、冗談だ。
慣れないことをしようとするとすぐこれだ。
「あー、どうだろう。それはちょっと後ろの奴にお伺いをしないとな……」
「そっか、ごめんね。活動あるもんねキョン君は」
「アレは何活動と表現すれば良いのか俺にはわからんが、一応そうだな」
とにかく、だ。
一緒に帰ろうと誘われたことはいいのだが、
しかし俺の席の後ろに鎮座する団長がそれを許してくれるかどうか。
一々こんな奴の顔色を伺わなければならないなんて、
本当に情けないばかりなのだが仕方ない。
これも一つのけじめという奴だ。
……まぁ、勝手して自分が後々物理的にも金銭的にも
痛い目を見るのが嫌だというのは主な理由だったりするがな。
あとは古泉に苦労をかけないように、とか。
83: 2009/09/02(水) 07:51:05.16 ID:yXKNRFSz0
っと、そういやまたぞろ周囲が俺達に目を向けてやがるな。
色恋沙汰が思春期の人間には格好の話題の種なのはわかるが
しかしこれはまだそういった甘いものはない、ただの交遊だぜ?
一体こいつらはなにを俺達に期待してるのかね。
「まぁ、あれだ、一緒に帰るくらいなら構わないぜ。
先に校門に行っててくれるか?
俺はまだ寝てる団長に許可を得ておくからさ」
「わかった、じゃあ先に行ってるのね」
「ん」
そんな感じで、擬音にするなら"とてとて"と言った感じで
小さく歩いていく阪中。
俺は彼女の背中を見送ってから、
周囲の俺に向いている目が形を変えて未だ継続してることに気が付いた。
その目線の意味合いは好奇から打って変わって同情と言った感じに。
首をかしげながら俺はさっさと団長を起こそうと振り向いて。
仁王立ちでこちらを見下ろす団長と目が合った。
85: 2009/09/02(水) 07:59:17.92 ID:yXKNRFSz0
―――
しばらくして、やっとこ上履きから靴に履き替えて
校門で手持ち無沙汰に立っている阪中と合流した。
「……すまん、待たせた」
「ううん、涼宮さんのことだからもっとかかると思ってたのね。
むしろ早かったくらいだもん」
「そっか、なら救われるな。じゃあ行こうか」
「うん、いこ」
柔和な笑みを絶やさぬ阪中に、
ほんの少し前にあの馬鹿から受けたダメージを癒してもらう。
前述の通りの穏やかで繊細な物腰や温和な態度や仕草は、
俺の周りでは珍しいタイプのキャラクターで、
いつも騒々しく仰々しく忙しい人間の中心近くに居る俺としては
本当に精神的オアシスのような存在である。
喜緑さんも似たような感じではあるけれど、
あの人は、どこか怖い。
静けさの中の猛々しさ、温厚な中の冷徹さが伺えるようで、
あまり気持ちを安らかにできない気がする。
「なんか、いいなあ」
「なにがかな?」
「こうして、可愛い女の子とのんびり一緒に下校することが」
88: 2009/09/02(水) 08:05:32.02 ID:yXKNRFSz0
「へ!?」
「あ、いや! 他意はない!」
思わずとんでもないことを口走ってしまった。
突然の発言に阪中は素っ頓狂な声を上げて
一気に頬を紅潮させて、慌てふためく。
俺は、咄嗟に言い訳をしながらも、
そんな極一般的な女の子の反応にときめきを覚えていた。
これが、恋とかその手の類の始まり、そのきっかけなんだろうか?
なんて冷静な部分が苦笑しているのが見えた気がする。
「その……、す、すまん」
「い、いや、驚いただけなのね。誤らなくてもいい……から」
お互い、顔を見合わせてから、
一拍置いて同時に微苦笑して。
それから、砕けた調子で雑談しながら
肩を並べてゆっくりと歩き始めた。
90: 2009/09/02(水) 08:14:27.21 ID:yXKNRFSz0
「今日は、びっくりしちゃった」
いつも使ってる自転車置き場から自転車を取り、
どうせだからと、後ろの荷台に阪中を乗せ
彼女がいつも使ってるローカル線の駅まで送る途中。
阪中は片腕を俺の腰にまわした状態でぽつりと呟いた。
「男の子に、二人で遊びに行こうって言われたの初めてかな」
「そうだったのか?」
「うん。あっ! でも嫌だったわけじゃないよ? 本当驚いただけで、
むしろ嬉しかったかな。キョン君、私を避けてるような気がしたから」
腰にまわされた腕に、ほんの少しだけ力が篭った気がした。
理由はわからないし、気のせいかもしれないけど、俺はそう感じた。
背中にほんのり感じる自分以外の体温を意識しつつ、
安全運転を心がけながらゆっくりと駅に向かってペダルを扱ぐ。
「避けてる?」
「うん。なんとなくだけど、キョン君ってクラスメートの子とかと
あんまりコミュニケーション取らないから……。
自分が気を許した人以外は興味ないみたいな、そんなイメージが少しあったのかも」
「まぁ、確かに俺も今日気づいたけど、もう約一年あのクラスで過ごしてるのに
半分以上の人間とまともな会話をしたことがないしな」
92: 2009/09/02(水) 08:23:39.30 ID:yXKNRFSz0
別にそんなセルフフィールドを発生させてるつもりはないのだが、
しかしそれは当人だけの主観認識。
相手からしたらその様に距離をとられてるように感じられるのかもしれない。
というか、入学初期からSOS団の所為で微妙に溝があったからな、
そういったあれやこれやで、気づけば決まった人間以外とは
最低限の会話しかしないライフスタイルになってたのかもな。
もしかしたら今日の多数の目線の意味はそういった所も関係あるんだろうか?
「普段はしゃいだり大声で騒いだりするようなキャラでもないし、
そうなると自然話す機会も減っちゃうし」
「……今後は気をつけるよ。
あと、一応言っておくと俺は阪中を避けてるつもりはないし、
仲良くなりたいと思ってる」
「本当?」
「あぁ、可愛い女の子と仲良くなりたくない男なんかいないよ」
「ふふっ、キョン君ってお世辞なんか言うんだね」
「世辞のつもりはなかったけどな、
べつにいつも冷静沈着なクールキャラではないよ俺は
冗談も言うし、ゲームもする」
「そうなんだ。……そっか、キョン君のこと私全然知らないね」
「べつに、俺も阪中のこと、あまり知らないさ正直」
「うん……」
「だから、これから知っていけばいい」
「え?」
「俺は、もっと阪中のこと知りたいと思うが?」
「うん、私もキョン君のこと、知りたいな」
「そっか」
94: 2009/09/02(水) 08:30:11.89 ID:yXKNRFSz0
駅に付いて、阪中に別れを告げてから
今度は自宅方面へ踵を返して自転車を走らせる。
急ぐ理由はないが、しかしあんまり遅くなるのも考え物だからな。
「ん? ……メールか」
ポケットに入れてた携帯が微動。
とりだせば昼休みに登録されたばかりの阪中の名前。
……そっか、阪中の下の名前ってこんなだったのか、
なんて新事実を噛み締めつつ。
内容を一瞥してまたポケットに仕舞う。
危ないので返信は帰宅してから、
最近の若いものの例に漏れて俺は結構そういうのは適当だ。
メールはチャットじゃないんだから即返す必要性が無いしな。
なんて、そんな感じ。
「夕焼け、か」
橙に染まる空を見上げながら、自転車をさらに進ませる。
俺の家まで、まだ遠い。
118: 2009/09/02(水) 10:51:04.10 ID:yXKNRFSz0
―――
翌日。いつものように自転車でなにくれとなく登校したのだが、
そこで俺は早々に驚かされる羽目になる。
「おはよう」
「……おはよう」
場所はいい加減愛着すら湧く駐輪場。
学校への坂道の手前、
蛇行しながらそこに自転車を進入させると
待っていたとばかりに阪中が俺を見つけて小さく手を振って
朝の挨拶を控えめに可愛く行ってきた。
「どうしたんだ?」
「なんとなくここを覗いてみたら、
まだキョン君の自転車が止まってなかったの。
だから待ってみようかなって」
「俺が休みだったり遅刻確定のタイミングだったりしたらどうするんだ?
……って、まぁ流石にその場合は諦めるか」
「うん、それに結局こうして会えたからいいのね」
「どれくらい待ってたんだ?」
「二十分位かな」
「……なんか悪かったな」
「気にしなくていいよ、私が勝手にしたんだから」
121: 2009/09/02(水) 10:57:36.94 ID:yXKNRFSz0
鞄を前カゴから取り出して、
毎度の横断歩道を渡り、登りだけのジェットコースターこと
全ての生徒が必ず通らなくてはならない
学校への唯一の登校路たる坂道を阪中と世間話しながら歩く。
谷口以外の人間と話していると坂道もそれなりに辛さが軽減される気がする。
まぁそれは寒さを骨身に感じる季節というのも、
大なり小なり関係してるのだろうけれど。
……夏は毎朝ゲンナリしたものだ。
「昨日はわざわざ送ってもらっちゃってありがとうね」
「いや、別に気にするな。むしろ可愛い女の子相手なら毎日でも送るぞ俺は」
「ん~、それは流石に悪いからいいよ」
「ははっ」
身にも実にもならない会話。
ただの一般高校生のような雑談が、やたら心地良かった。
なんとなく、青春という言葉の意味がわかった気がする。
122: 2009/09/02(水) 11:04:26.99 ID:yXKNRFSz0
教室にそのまま二人で到着すると、
昨日に増して視線が飛び交っていた。
理由は、さしもの俺も察せれるというものだ。
先日俺からアプローチ(俺にはそんな意図はあまりないのだが)をしたと思ったら、
翌日には二人並んで談笑しながら教室に入ってきた。
毎日を怠惰に暮らす高校生のいい餌食だろう、
それぞれの席に俺達が着くや否や
阪中の方には女子が、俺の方には谷口と国木田が、
詰め寄ってきては根掘り葉掘り聞いてやろうと集って来る。
「よぉキョン。お前がそんなに手が早い奴だとは思わなかったぜ」
「なにが言いたい」
「昨日の今日で、突然和気藹々と登校してくるとはよぉ」
「僕もびっくりしたよキョン。どうしたらそんな自然に振舞えるのか教えてよ」
「国木田までどうした? 谷口に毒されたか」
「ほら、谷口に続いてキョンにも彼女ができたら僕だけ一人になっちゃうからね」
「安心しろ国木田、俺達は彼女ができても友情を疎かにしたりしないぜ!」
「谷口の言うことは信用できんが、
まぁ心配しなくても彼女ぐらいじゃ、この関係は変わらないだろうよ」
163: 2009/09/02(水) 18:35:54.99 ID:yXKNRFSz0
前日の阪中との話によると、
俺とあまり親しくないクラスメートにしてみると
避けられてるように多少は感じてるようで、
今回俺に近づいてきたのも上記の通り谷口と国木田のみだった。
しかし興味は俺が避けてるかどうかに関わらず、
というか普段あまり接触が無いからこそ強い興味があるようで
谷口と国木田がなにも俺から聞きだせずに、
単に友情を深めただけに終わったことに
数人の男子が明らかに肩を落としてつまらなそうにしていた。
お前らもっと他の物に興味持てよ。
そう声を大にして言いたかったが自重する。
「まぁ、あれだ。べつに唐突に付き合い始めたとかじゃない」
「そうなのか?」
「そうだ、ま、ちょっとしたパラダイムシフトがあってな」
「パラセクト?」
「でも、将来的に付き合うとか考えてるの?」
「どうだろうな、昨日今日話した感じは、……正直好感触だったな」
俺が、阪中に対してな。
以前から可愛らしい、いまどき珍しい女子だとは思っていたが
話してるだけでこうも心安らぐ存在だとは思わなかった。
なんだろう、安心、する、のだ。
167: 2009/09/02(水) 18:52:26.05 ID:yXKNRFSz0
付き合う、とかどうとかはまだわからない。
経験がない事柄だし、そう性急に進めてもつまらないと思うから。
よく聞く言葉だが、祭りは準備段階が一番面白い、
恋愛も、相手を想ってあぁじゃないこうじゃないとやってるときが
一番楽しい時期だと。そんなことを耳にする。
俺はまだ阪中にそこまで積極的な感情を抱いてはいないけれど、
だからこそのんびりと彼女と友達していたいのだ。
「ま、キョンらしいよね」
「つっても、そんなのライバルが居ないときに限るぜ?
ボケッとしてるといつの間にか自分の前から居なくなっちまうよ」
「そんときは、まぁそんときだよ」
「それもまた、キョンらしいね」
「なんだかなー」
会話の一区切り、壁にかかっている時計を見ると
すでに朝のHR間際、二人は自分の席に戻り
他の野次馬連中も三々五々散っていった。
「……えへ」
不意に阪中と目が合い、微笑まれた。
……まいったな、本当に。
176: 2009/09/02(水) 19:16:57.81 ID:yXKNRFSz0
>>167
意識しだすと日常のひとこまが、
全然風景を変えて俺の目に映る。
初恋を経験した中学生みたいな感じで、
俺は日々を煩悶する羽目になった。
無意識の内に阪中の姿を探してる自分が居て、
それに気づくたびにそんな自分に苦笑いを浮かべて。
なんか団長にも色々と問い詰められたりしながらも、
どうにかこうにか妨害を受けずに、
とうとう日曜日がやってきてしまった。
しまったとか言うとなにやら俺がそれを望んでないみたいな語弊があるが、
実際俺は誘った側でありながらやたら緊張している。
そういえば俺はデートなんてするのは初めてだ、とか思い。
いつの間にか今日の予定をデートと自分で認めてる事に気が付いて、
さらにウゴウゴルーガしてみたり。
佐々木やあの馬鹿が精神病とのたまった理由がわかる、
自分の個が逐一変化しているようで、
確かにこれは病気だ。
……いやだから俺は別に恋愛してるわけじゃないって!
意識しだすと日常のひとこまが、
全然風景を変えて俺の目に映る。
初恋を経験した中学生みたいな感じで、
俺は日々を煩悶する羽目になった。
無意識の内に阪中の姿を探してる自分が居て、
それに気づくたびにそんな自分に苦笑いを浮かべて。
なんか団長にも色々と問い詰められたりしながらも、
どうにかこうにか妨害を受けずに、
とうとう日曜日がやってきてしまった。
しまったとか言うとなにやら俺がそれを望んでないみたいな語弊があるが、
実際俺は誘った側でありながらやたら緊張している。
そういえば俺はデートなんてするのは初めてだ、とか思い。
いつの間にか今日の予定をデートと自分で認めてる事に気が付いて、
さらにウゴウゴルーガしてみたり。
佐々木やあの馬鹿が精神病とのたまった理由がわかる、
自分の個が逐一変化しているようで、
確かにこれは病気だ。
……いやだから俺は別に恋愛してるわけじゃないって!
191: 2009/09/02(水) 20:12:13.33 ID:yXKNRFSz0
しばしそわそわしながら待つ。
場所はいつもと同じ筈なのに、
心境一つで違ってみえるものだと自販機で買った珈琲を啜りながら思っていると、
私服姿の阪中が間もなくとてとてと歩いてきているのが見えた。
淡い色を基調にした彼女の服は、なんと描写したものか、
女性の着衣の知識には疎い俺にはどうにも説明しにくいのだが
こうヒラヒラした感じのスカートとシャツ、
それとふかふかのジャケットみたいなのを着ていて
お洒落でかつどことなく高価な感じもでている服装だったのだ。
「おまたせキョン君」
「いや、いま来たところだから」
一度はやってみたかった会話を
上手くこなして、空缶をゴミ箱に放る。
「その服、似合ってる。いいなそういうの」
「そ、そうかな?」
「あぁ、正直ときめいた」
場所はいつもと同じ筈なのに、
心境一つで違ってみえるものだと自販機で買った珈琲を啜りながら思っていると、
私服姿の阪中が間もなくとてとてと歩いてきているのが見えた。
淡い色を基調にした彼女の服は、なんと描写したものか、
女性の着衣の知識には疎い俺にはどうにも説明しにくいのだが
こうヒラヒラした感じのスカートとシャツ、
それとふかふかのジャケットみたいなのを着ていて
お洒落でかつどことなく高価な感じもでている服装だったのだ。
「おまたせキョン君」
「いや、いま来たところだから」
一度はやってみたかった会話を
上手くこなして、空缶をゴミ箱に放る。
「その服、似合ってる。いいなそういうの」
「そ、そうかな?」
「あぁ、正直ときめいた」
205: 2009/09/02(水) 21:16:19.15 ID:yXKNRFSz0
いつから俺は女子に対して
こんなにも自然と甘ったるい文言を吐き出せる人間になったのだろうか。
そう疑問が湧き上がるほどの言葉を受けた阪中は、
はやり純情というか素直な女の子らしく顔を紅くさせて俯きがちに
俺の肩を遠慮がちに叩いてきた。
「あはは、行こうか阪中」
「もうっ……」
一応、こんな風に俺達のデートは始まった。
多分、これが皮切り。
色々なことの始まりだったのだろう。
いまになって俺は心から思う、
あの時阪中を誘ってよかったと。
237: 2009/09/02(水) 23:10:54.14 ID:yXKNRFSz0
>>205
それからは、定番というか定例というか
メールで話した時にでた阪中の見たい映画を見て
喫茶店でその話題で盛り上がりながら軽食を取って。
その後はゲームセンターやウィンドウショッピング、
あいつが嫌いだといっていた一連の流れをなぞった今日一日。
感想と言えば、「楽しかった」と本音で言える。
やはりあいつとは価値観を同義にすることはできないな。
「あっ、いま私以外の子の事考えてたよね」
「な、なにをおっしゃるうさぎさん」
「キョン君って、嘘つくのへたっぴだね」
反省。
それからは、定番というか定例というか
メールで話した時にでた阪中の見たい映画を見て
喫茶店でその話題で盛り上がりながら軽食を取って。
その後はゲームセンターやウィンドウショッピング、
あいつが嫌いだといっていた一連の流れをなぞった今日一日。
感想と言えば、「楽しかった」と本音で言える。
やはりあいつとは価値観を同義にすることはできないな。
「あっ、いま私以外の子の事考えてたよね」
「な、なにをおっしゃるうさぎさん」
「キョン君って、嘘つくのへたっぴだね」
反省。
257: 2009/09/03(木) 01:39:31.41 ID:KytdlN5c0
そんなこんな。
まるで付き合いの長い友達同士みたいに親しく、
まるで付き合い始めの恋人同士みたいに睦まじく。
「あ、これ可愛いの」
「どれどれ?」
「この子、可愛い」
「よし、買ってやろう」
「え? わ、悪いよ」
「いいんだよ、今日付き合ってくれたお礼も兼ねたプレゼントだ」
俺は、今日一日を通して、
あっという間に、好きになっていた。
阪中と言う少女の事を。
260: 2009/09/03(木) 01:52:37.30 ID:KytdlN5c0
―――
「谷口を笑えないな」
自室で、天井と向き合いながら苦笑する。
まさか俺がこんなに惚れっぽいキャラだったなんて思いもしなかった。
むしろそういったことを皮肉って、嘲笑して、
離れたところで傍観してるような人間だと思っていたのに。
なんだかんだで、結局俺は大多数の一般的普通人だったのだと、認識した。
自覚して、自認した。
携帯の裏には、今日の最後に撮った、
生まれて初めて女子と撮った、プリクラが貼ってある。
携帯を開けば、阪中からのメールが表示されている。
「……あー、すっげぇ楽しい」
264: 2009/09/03(木) 02:05:42.03 ID:KytdlN5c0
欝を筆頭にして、精神病というのは、
得てして当人には自覚症状が無いらしい。
他者の客観的な視点でのみ、それは異端で異変となる。
なら俺は他人から観測した場合そうとうに異常なのだろうか?
少なくとも以前の俺ならば携帯にこのような
装飾をすることを良しとはしなかっただろう。
「恋愛、ってこんなんなんだな……」
初恋は、従姉妹のお姉さんだった。
そのときの俺は、まだ幼かったのもあるだろうが、
こういった感情は無く、ただお姉さんが結婚したとき、
自分の手の届かないところに行ったんだと虚しくなったのだけを覚えてる。
一緒に居るのは、当時楽しかったろうか?
このように、高揚したのだろうか?
この感覚、熱に浮かされたような感触。
楽しくて楽しくて仕方が無い。
けれど、わかっていた。
このままで済むはずが無いことくらい、わかっていた。
あいつが、済ますはずが無いことくらい、わかっていた。
275: 2009/09/03(木) 03:16:46.64 ID:KytdlN5c0
>>264
―――
「あんた、阪中のこと好きなの?」
直球も直球、ど直球。
翌日学校に着いたと同時に教室前で憮然とした表情で
威風堂々と立っていた団長様々は、
今日も駐輪場で待っていた阪中と共に登校してきた俺にガンを飛ばしながら
そう切り込んできた。
「なんだいきなりお前は」
「いいから、聞いてることに答えなさい。質問をしてるのは私なのよ」
「……いや、それは」
―――
「あんた、阪中のこと好きなの?」
直球も直球、ど直球。
翌日学校に着いたと同時に教室前で憮然とした表情で
威風堂々と立っていた団長様々は、
今日も駐輪場で待っていた阪中と共に登校してきた俺にガンを飛ばしながら
そう切り込んできた。
「なんだいきなりお前は」
「いいから、聞いてることに答えなさい。質問をしてるのは私なのよ」
「……いや、それは」
276: 2009/09/03(木) 03:22:48.84 ID:KytdlN5c0
朝の登校時間。
あちこちに生徒が散らばる廊下で、
遠くまで通るその声で、はっきりと言い放つ団長閣下。
俺とこいつがやってる団活のことはこの学校の人間はみな知っている、
学年の連中となればその関係もある程度把握しているだろう。
あまり自分で言い出すのは気が引けるが、
しかし語り部たる俺の役目は全うしなくてはならない。
俺とSOS団団長が対峙し、その脇には一美少女がおろおろと佇む。
話題性は、まぁ状況と発言と共に残念なことに十分で。
あの馬鹿の最初の台詞からまだ二分程と言うのに、
野次馬根性丸出しの同級生があちこちから顔を出して覗いている。
「好きか嫌いで答えなさいってのは流石に酷だから、
好きか、そうでないかで答えて」
馬鹿者は、その周囲の雑多な物共には関与せず。
俺と、阪中だけを見据えて言葉を重ねる。
277: 2009/09/03(木) 03:27:58.25 ID:KytdlN5c0
助けを求めようとしたわけじゃない。
流石に俺もそこまで女々しくは無いはずだ。
とにかく如何なる理由か、俺は目の前の暴君から目を逸らして
隣の少女に目を向けた。
「……」
少女は黙って、俺を見ていた。
ほんの少し、潤んだ瞳で俺を見上げていた。
何も言わず、何も語らず、何も発せず。
しかしその瞳は俺になにかを雄弁に語ってるように思えて。
俺は、大衆監視の中で阪中の肩を抱いて、
先制する様に、宣誓する様に、言葉を紡ぐ。
「好きだ」
「……っ!」
「俺は、阪中が、好きだ。
まだ知り合って間もないし、これという理由がある訳じゃない、
仲良く話すようになったのは最近だし、
そんなのは軽い気持ちだと言われるかも知れないが
俺は阪中が好きだ」
282: 2009/09/03(木) 03:37:51.54 ID:KytdlN5c0
台詞の途中から、団長の、
――ハルヒの顔が歪んでいるのがわかった。
理由も、実を言うと前から知っていた。
それでも言葉をとめず、言い終えて。
直後、横から強い衝撃を受けて倒れそうになる。
狭い廊下の壁に肩を強打しながらも、
体勢を立て直して見てみれば。
「えぐっ……、うっ……」
衝撃の理由は、感極まって抱きついてきた阪中だった。
298: 2009/09/03(木) 05:07:46.63 ID:KytdlN5c0
>>282
「阪中……」
いじらしいというか、なんというか。
自分の胸で小さく嗚咽を上げる少女に、
感じるところが無いわけが無く。
俺は静かに彼女の髪をそっと撫でた。
「すまんハルヒ。だから、お前には答えられない」
「はぁ? なに言ってんのよ、私は、ただ、あんたが色恋にかまけて
団活をないがしろにすることがあったら困るから……。
その釘を刺そうと思っただけよ!」
「……そうか、それはすまなかった」
「自惚れも大概にしなさいよね! ちょっと彼女ができたからって……」
ハルヒは、そこまで言って
顔を背けて見物人達を吹き飛ばしながらどこかへ走り去っていった。
まったくパワフルな奴だ。
「阪中……」
いじらしいというか、なんというか。
自分の胸で小さく嗚咽を上げる少女に、
感じるところが無いわけが無く。
俺は静かに彼女の髪をそっと撫でた。
「すまんハルヒ。だから、お前には答えられない」
「はぁ? なに言ってんのよ、私は、ただ、あんたが色恋にかまけて
団活をないがしろにすることがあったら困るから……。
その釘を刺そうと思っただけよ!」
「……そうか、それはすまなかった」
「自惚れも大概にしなさいよね! ちょっと彼女ができたからって……」
ハルヒは、そこまで言って
顔を背けて見物人達を吹き飛ばしながらどこかへ走り去っていった。
まったくパワフルな奴だ。
299: 2009/09/03(木) 05:13:28.61 ID:KytdlN5c0
「ほら、お前達も見世物じゃねぇぞ。散れ散れ」
猫をあしらう様に空いてる手で
羨望と嫉妬とを混ぜた視線を放つ男子と
興味と関心とを併せた目線を送る女子を追い払う。
あぁもう、まったくこんな所で告白とは
俺もずいぶんと変な度胸ができてしまった。
しばらくはこれをネタに弄繰り回されること受け合いだ。
「阪中も、いつまでもこうしてる訳にはいかないだろ……?
そろそろ先生も来るしさ」
「うん……」
頷いて、指先で目じりの涙を拭いながら
俺から離れる阪中。
心臓が奏でる16ビートが聞かれていたのかどうか気になる。
いまさら羞恥とか色々が噴出してくる。
顔から火がでそうだ。
冬だというのにめちゃくちゃ暑い。
301: 2009/09/03(木) 05:19:32.73 ID:KytdlN5c0
「大丈夫か?」
「平気、……ありがとうね」
「なら良かった、じゃあ教室に入ろうぜ? 本当に教師が着ちまう」
照れ隠しにややぶっきらぼうにそう言って、
さっさと教室に入ろうとする俺。
その背中に、先程のハルヒまではいかないが、
はっきりと、透き通る声で制止をかけられる。
「待って、キョン君」
「お、おう」
「それはちょっとずるいよ。中途半端だし、言い逃げみたいかな」
「……」
中途半端、ずるい。
ま、そうなるのだろう。
好きだと言ったけど、それはハルヒに向かってだし、
それに対する答えも返事も問わないままだ。
304: 2009/09/03(木) 05:24:04.13 ID:KytdlN5c0
「……あー、阪中」
「はい」
心臓が口から飛び出そうだ。
まさに早鐘の如くである。
手の平は汗ばみ、耳元に心臓が移動したかのように心音がはっきり聞こえる。
あまりにも血流が早くなりすぎて軽く気持ち悪い。
それでも、言わなくちゃいけない。
今更引く後は無い。
「俺は、阪中のことが好きだ」
「……はい」
一拍、置いて。
肝心の言葉を、口にする。
「俺と、付き合ってくれるか?」
「…………はいっ。
私も、ずっとキョン君の事が、好きでした……!」
307: 2009/09/03(木) 05:38:59.39 ID:KytdlN5c0
―――
後日談というか、とにかくその後のお話。
俺達は晴れて恋人同士となり、
それは少なくとも同級生には周知の事実となった。
俺の廊下で衆人環視下で行った告白は、
武勇伝の如く伝播してあの日休んだ人間まで
事細かに知っているという状況にまで至ってるほどに。
「キョン君、はいこれ」
「ありがと」
しかしそんな経緯とは裏腹に、
以降は穏やかで平和な学園生活を俺は謳歌している。
昼には阪中と昼食を共にして、休日にはのんびりとデートをして、
少しずつだけどお互いの事を知りながら、
初々しい今の感覚を楽しんでいる。
310: 2009/09/03(木) 05:55:19.34 ID:KytdlN5c0
時折あの馬鹿がちょっかいを出してきたりするものの、
それも含めて楽しめるように、なってきた。
放課後は変わらずSOS団の団員その1として
活動と言えない活動を続けている。
差異があるのならば、
それは阪中がちょくちょく参加するようになったことか。
阪中は、ボードゲームの類が意外に上手くて、
勝率百パーセントだった古泉よりもいい相手になってくれる。
「ほら、そこもっと感情込めて! あんたな楽でしょ!?」
「無茶言うな! なんで俺がこんな商店街のど真ん中で愛を叫ばなくてはならないんだ!?」
「似たようなことしたじゃない、今更カマトトぶんな!」
「規模が違う!」
また、二年に進級し、
今年も懲りずに製作することになった映画では
阪中をヒロインとして起用した恋愛物を撮影するとかいいだし、
俺もカメラマンから男優にジョブチェンジ。
監督の無茶振りに振り回されている。
311: 2009/09/03(木) 06:09:18.00 ID:KytdlN5c0
そういえば、谷口は彼女にまたぞろ振られたらしい。
この間国木田と三人でボーリングに行ったときに愚痴っていた。
それに対して国木田というと、なんと新一年生の彼女を作ったと言っていた、
これまた美人さんで写真を見せたときの谷口の表情は
非常に面白い事になっていた。
「なに笑ってるの?」
「いや、ちょっと思い出し笑いだ」
くすくすと、笑う俺と隣を歩く阪中。
阪中は、俺の返事に少しつまらなそうに頬を膨らませる。
312: 2009/09/03(木) 06:11:20.48 ID:KytdlN5c0
「ふぅん……。あ、キョン君」
「ん? あぁ、イチョウか。そろそろ秋だな」
「うん、そしたら次は冬で。冬になったら一年だね」
「そうだな……、早いもんだ」
「ずっと、何年も。こうしていられたらいいの」
「いられるさ。きっと」
「うん」
「……阪中、まつげに埃がついてる」
「え?」
「とってやるから、目を瞑って」
「……わかった」
「……」
「んっ……、もうキョン君たら」
「好きだ」
「……私も、好きよ」
313: 2009/09/03(木) 06:12:33.36 ID:KytdlN5c0
おわり
314: 2009/09/03(木) 06:14:42.79 ID:KytdlN5c0
あー
マジで可愛い美少女彼女持ちは全滅しろよ
おやすみなさい
マジで可愛い美少女彼女持ちは全滅しろよ
おやすみなさい
322: 2009/09/03(木) 08:31:32.78 ID:XzbEzkq+O
乙
引用: キョン「はぁ彼女欲しいな」
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります