4: 2010/10/26(火) 23:34:28.57 ID:AVC8UMdG0
始めます。


・・・
その日、午後から梓の家に行って、三人で宿題をすると言う約束があったんだ。

梓と(憂と)半日を一緒に過ごすってのは私にとってとても楽しみなイベントなのは、確かだよ?

でも、休日の朝6時に目が覚めるって言うのは、ちょっと私にしては珍しい事なんだ。

7: 2010/10/26(火) 23:39:14.15 ID:AVC8UMdG0
何で、こんな早くに目が覚めてしまったかと言うと、何かあまり良くない夢を見てしまったからなんだと思う。

内容は正直な話し、まったく覚えていないんだ。

なのに、何で良くない夢だったと言うのが分かるかと言うと、それは今洗面所の鏡に映っているこれのせいだ。

私は、自分の毛先を少し指に絡ませて引っ張ってみる。

びよよ~んと言う効果音がし(たような気がするだけだ、きっと)、バネのように跳ねる。

そうなのだ、目覚めが悪かったりすると、私の髪の毛の跳ねは、きつくなるんだ。

ちなみに、雨の日とかもその跳ねはきつくなるけど、別にそれは他の人と一緒の理由だと思う。

8: 2010/10/26(火) 23:46:01.97 ID:AVC8UMdG0
純「あー、午後まで何しようかな…」

午後はどちらにしろ勉強タイムなんだから、午前中も勉強を、何て言う選択肢は出る訳無い。

友人の顔が頭に思い浮かぶ。

純「よし、梓の家に行こう」

それで、午前中一杯を梓と二人きりで過ごすんだ。

昼ごはんを一緒に作ったりして…。

梓はもちろん裸エプロン。

それを私は後ろから抱きしめてみたり…、ふふふ。

そう言うのは冗談だし、そんなシチュエーションは有り得ないにしても、友達と言うラインを超えた愛情の対象と二人っきりで過ごす時間なんて、本当に最高だと思わない?

9: 2010/10/27(水) 00:03:12.18 ID:sCdAzK8X0
そうなんだ。

私は梓に思いを寄せている。

ライクじゃなくてラブって感じで。

でも、きっとこの思いは、氏ぬまで心の奥に隠し持って行くことになると思うけどね。

10: 2010/10/27(水) 00:04:44.58 ID:sCdAzK8X0
・・・

純「あれ?留守かなあ…」

何度チャイムを鳴らしても梓は出て来なかった。

純「午前中一杯はホスト役の常だけど、部屋の片付けに忙殺されてると思ったんだけどな…」

11: 2010/10/27(水) 00:06:06.10 ID:sCdAzK8X0
何で、ドアノブに手を掛けたかは分からない。

本当に何となくだったと思うんだけど。

でも、ドアに鍵は掛かって無かった。

純「あ、開いてる…」

無用心だなあ。

これはちょっと、しっかり言ってやらないと。

純「おじゃましまーす」

返事は無かった。

純「あ…、れ…?」

12: 2010/10/27(水) 00:07:50.84 ID:sCdAzK8X0
きちんと片付けられた玄関には、梓の靴。

梓の両親は用事があるとかで、今日は家を留守にするらしい。

だからこその梓の家での勉強会で、だから梓以外の靴は無いはずなんだ。

なのに、梓の靴の横には私も見覚えのある靴がキチンと揃えられて並べてある。

憂の靴だ。

間違いない。

13: 2010/10/27(水) 00:08:43.98 ID:sCdAzK8X0
純「何だよぉ…、二人とも冷たいなぁ…、午前中から始めるなら、私も誘ってくれれば良かったのにさぁ…」

心が痛い。

憂の優しい笑顔が思い浮かぶ。

そして、梓の顔も思い浮かぶ。

純「二人が私をハブにするなんて無いよね…」

うん、ある訳無い…、よ…。

15: 2010/10/27(水) 00:41:45.10 ID:sCdAzK8X0
純「おじゃましまーす」

午後から、何も知らなかった振りをして、もう一回来るって選択肢もあったかも知れないけど、でもそれもしたくなかった。

私は靴を脱いで、勝手だと思ったけど、上がり込む。

憂への嫉妬が私を突き動かしていた。

16: 2010/10/27(水) 00:47:48.60 ID:sCdAzK8X0
純「いない…」

居間に二人の姿は無かった。

テーブルにはノートと参考書が広げられっぱなしで、やっぱり私だけが午後から誘われたと言う事実を突きつけていた。

純「なんだよ…」

私は涙が出そうになる。

純「なんだよぅ…」

17: 2010/10/27(水) 01:02:20.98 ID:sCdAzK8X0
私は涙を拭う。

きっと梓の部屋だ。

私は二人に向き合った時、何を言ったら良いかなんて分からなかったけど、

でも、もう引き返すと言う考えは頭のどこに思い浮かばなくなって、抜き足で階段を登る。

18: 2010/10/27(水) 01:03:25.82 ID:sCdAzK8X0
梓の部屋の扉は少しだけ開いていた。

階段を登っている時は、思いっきり扉を開いて、

「酷いじゃーん、二人ともー」なんて言って、

普段通りのちょっとおばかな純ちゃんを装って入って行こうとか、色々考えていた。

でも、扉の間から漏れ聞こえてくる二人の声がそんな私の計画なんて、軽い高級羽毛布団みたいに吹っ飛ばしてしまったんだ。

19: 2010/10/27(水) 01:04:35.98 ID:sCdAzK8X0
憂「ふふ、梓ちゃんの胸って感度良いねー」

梓「それは、憂が…、する…、からぁ…」

二人はベッドで絡みあっていた。

友達同士のスキンシップとかそんなものじゃなかった。

だって、二人とも下着一枚付けてなかったし、憂は梓の胸に舌を這わせながら…、その…股のとこを弄っていたんだから。

23: 2010/10/27(水) 01:29:39.75 ID:sCdAzK8X0
憂「ね、今日こそは指入れて良い?」

梓「そ、それは…」

憂「駄目かな?」

梓「あ、やだ、クリトリス弄らないで…、あぅっ…」

憂「指入れて引っ掻いたら、これよりもっと凄いよ…?」

梓「だ、だって、やっぱり…」

24: 2010/10/27(水) 01:35:12.34 ID:sCdAzK8X0
私は止めたかった。

憂にしがみ付いて「私の梓から離れて!」って叫びたかった。

でも、身体は動かなかった。

その光景があまりに非現実的だったからって言うのもあるけど、顔を赤らめて喘ぐ梓はずっと私が見たくて、でも手が届かないんだと思っていて諦めていたものだったから。

その梓の姿ときたらとっても可愛くて可愛くて仕方無かったから。

それに、二人が窓から差し込む光を浴びて、ベッドの上で睦み合っている姿はとっても綺麗に思えたんだ。

25: 2010/10/27(水) 01:57:00.16 ID:sCdAzK8X0
憂「私は梓ちゃんの初めてになりたいんだけどなぁ?」

梓は、憂の言葉に頬を赤らめて黙り込んむ。

28: 2010/10/27(水) 02:58:44.22 ID:sCdAzK8X0
梓はとってもちっちゃくて、サラサラの黒髪が綺麗で、女の子って感じがして、それで凄い可愛くて…。

私は、今、憂がしてるみたいにしたいってずっと思って来たのに…。

何度も何度も想像の中で、梓に対してして来た事を憂は行っていた。

29: 2010/10/27(水) 03:24:11.69 ID:sCdAzK8X0
梓「も、もう少しだけ待って…、まだ、ちょっとだけ決心が付かないから…」

憂「分かった。梓ちゃんの決心が付くまで待つよ。だって、梓ちゃんのこと大切だもん」

梓「憂…」

憂「だーかーらぁ、今日も口でやらせてね?」

47: 2010/10/27(水) 17:46:39.64 ID:sYHILNl90
最初、少し驚いたように硬直していたが、梓もそろそろと憂の背中に手を回す。

梓「ううん、わ、私も、憂を疑ってる訳じゃない…、から…」

憂「こうしてる裸で抱き合ってると、ペターって貼り付く感じがあって、気持ち良いよねぇ…」

梓「うん…」

私は二人のそんな姿に立ち尽くすしか無かった。

52: 2010/10/27(水) 20:49:32.70 ID:sYHILNl90
私はその場をすぐ立ち去った。

出来るだけ物音を立てないようにと行動する自分の小心ぶりが、

今の憂と私の立っている場所の違いそのままであるように思えた。

58: 2010/10/27(水) 22:55:10.18 ID:sCdAzK8X0
私は全速力で走って帰って、

ベッドに飛び込んで今日の事は夢だったんだと、全てを忘れてしまいたかったけれど、

スカートの中のスースーする感覚と、手に握りしめた湿ったショーツの感覚がそれを許さなかった。

街は人が消え失せたかのように静かで、

つまり、人とまったく擦れ違わないと言う事は、

自分の無防備なスカートの中に関して考えずに済むのが良かった。

60: 2010/10/27(水) 23:07:48.01 ID:sCdAzK8X0
ただ、もしかしたら、人に自分のスカートの中を見られてしまうんじゃないかと言う緊張感は、

さっき自分が味わった絶望から目を背ける事に役立つのかも知れないのだけど。

純「あ、痛っ」

こう言う時に限って、不幸な事が起きるのは人生の常で、

私は、何でも無いところで転んでしまったのだ。

62: 2010/10/27(水) 23:11:14.03 ID:sCdAzK8X0
純「あー、もう、起きたく無いなぁ…」

ジンジンと痛む膝、キシキシと音を立てて壊れそうな心。

身体の側とそれを駆動させる心の側の両方に問題があると、私みたいに元気だけが取り柄のように思われている人間でも、

ちょっと躓いただけで立ち上がれなくなるんだ。

63: 2010/10/27(水) 23:33:27.84 ID:sCdAzK8X0
?「ひゃへ?」

「口に何かを咥えたまま、話そうとしてはいけません」

と言うのは、幼少時から良く言われる事だ。

その正しさと言うのは、大きくなって見れば当たり前の事で、傍から見ると非常にみっともない。

そう、そもそも見栄えが良くない訳で、お年頃になればそんな事はしなくなるものだ。

が、時々あまりそう言う事を気にしない人で、なお且つその姿さえ愛らしいと言う人がいる。

64: 2010/10/27(水) 23:37:43.77 ID:sCdAzK8X0
唯先輩は口に咥えたガリガリ君を左手に持ち替えて、私に話しかける。

唯「純ちゃん、そんなとこで何してるの?」

憂のお姉さんはそう言う感じの人だ。

純「いえ…」

唯「五体投地?」

何言ってるだろう、この人は。

純「そこまで熱心な仏教信者ではないです」

唯「うん、じゃあ手ぇ出して」

唯先輩は私の方に、右手を差し出す。

どうやら、助け起こしてくれるらしい。

純「あ、はい…」

私は促されるままに手を掴む。

65: 2010/10/27(水) 23:41:21.79 ID:sCdAzK8X0
・・・

唯「よっ…、と」

唯先輩はしゃがみ込んで、私の膝の傷を見てくれている。

唯「うわわぁ…、痛そー」

純「大丈夫ですから…」

唯「この傷見たら、澪ちゃんだったら卒倒しちゃうよねー」

澪先輩…。

純「あ、あの、もう大丈夫ですから、その…」

唯「これから、用事ある?」

用事はあった。

でも、今は無くなっています。

66: 2010/10/27(水) 23:42:24.73 ID:sCdAzK8X0
純「い、いえ、特には…、無いですけど…」

唯先輩は、立ち上がると、

唯「じゃ、取り合えず家においでよ、消毒した方が良いし」

そう言って、唯先輩はニコリと笑う。

憂と同じ顔なのに、さっきの憂とは全然ちがう。

さっきの憂の笑顔は氷姫の笑顔みたいだ。

見た人をたちまち凍らせてしまうと言うフィンランドのあれだ。

唯先輩の笑顔は向日葵みたいだ。

私は、思わず頷いていた。

72: 2010/10/28(木) 00:54:59.01 ID:R4YqW4Xs0
純「あ、お邪魔します…」
唯「さあ、自分の家のように寛いでくれたまいよ」

純「は、はぁ…」

私は憂の友達で、でもその友達はいないのに、その家族に饗される。

要するに、憂の家に唯先輩と二人きりってのは、何だか変な気分。

唯「じゃ、純ちゃんはそこに座っててー」

唯先輩は私をソファに座らせる。

74: 2010/10/28(木) 01:15:41.89 ID:R4YqW4Xs0
唯「じゃあ、今救急箱持って来るから待っててね」

そう言うと、唯先輩は家の中だと言うのに駆け出す。

あ、そんな急ぐと…。

唯「あ、痛っ」

あちゃ、柱に小指をぶつけた。

純「ははは…、変な人だなあ、でも…」

でも、唯先輩のそのおかしなところのお蔭で私は心の痛みを少し忘れられている。

79: 2010/10/28(木) 02:05:03.18 ID:R4YqW4Xs0
唯「ちょっと染みるからねー、我慢してねー」

純「ぷふっ、そんな事言わなくても大丈夫ですよ」

唯「小さい時、私が憂の手当てをして上げた時は、

いつだってこう言う風に注意してあげたもんさ」

ん?

唯「ん?何?」

純「憂が唯先輩の手当てをした時?」

80: 2010/10/28(木) 03:09:25.02 ID:R4YqW4Xs0
唯「ん?」

純「憂が」

唯「違うよー。私が憂の手当てをして上げた時だよぉ」

純「ちょっと、想像が付かなかったんで…」

唯「純ちゃん、酷いなー。私はお姉ちゃんをしっかりやれる女なのですよ?」

それは、分かります。

けいおん部のライブの時の唯先輩を見てれば良く分かります。

純「あっ」

何時の間にか、傷口を拭われ、消毒液がかけられていた。

唯「おっとぉ、掛け過ぎちゃったかな、ティッシュで拭いてっと…」

82: 2010/10/28(木) 03:37:23.36 ID:R4YqW4Xs0
唯「さ、これで完了と」

純「ありがとうございます…」

唯先輩は立ち上がる。

唯「ちっちっち、お礼には及ばないぜ、お嬢さん」

純「あはは、何ですかそれ?」

唯先輩はちょっと考え込むような仕草を見せてからクスっと笑う。

唯「んー、何となく?」

純「何となくですか」

唯「そーだよ、純ちゃん…。あ、そだ、コーヒーで良いよね?」

純「は、はい」

84: 2010/10/28(木) 04:08:41.27 ID:R4YqW4Xs0
・・・

唯「へー、純ちゃん、砂糖とミルク入れないんだ、大人っぽいんだね」

実は、普段は入れるし、今だって何となく見栄を張っているだけなんだけど、それは言わなくて良いよね?

唯「私も憂も、コーヒーの時はミルクと砂糖が必要なのに」

憂…。

その名前を聞いた瞬間、先ほどの出来事が私の胸に圧倒的な存在感を持って圧し掛かってくる。

唯「あれ、どうかした?」

85: 2010/10/28(木) 04:29:08.78 ID:R4YqW4Xs0
純「い、いえ、そうなんですか…」

唯「うん、そうなんだよ。憂とか、ミルクは二つ入れるんだよ」

純「へー、ちょっと意外な感じですね…」

うん、ちゃんと平静を保ててる。

私は大丈夫だ。

唯「あ、ごめんね、冷めちゃうよね?飲んで飲んで」

純「は、はい、それでは頂き…」

唯先輩は私がカップに口を付けるのを興味津々と言う感じで見ている。

96: 2010/10/28(木) 12:24:11.04 ID:R4YqW4Xs0
純「あ、あの、そんな風に見てられると飲みづらいんですけど…」

唯「えー、良いじゃん良いじゃん」

純「いやいや…」

唯「だって、純ちゃんのコーヒー飲むとこ見てみたいんだもーん」

純「私の飲むとこなんて普通ですよ?」

唯「憂の飲むとこはいつも見てるし、

あずにゃんの飲むとこもいつものティータイムで見てるから良く知ってる…。

だからあとは純ちゃんだけなのさ!」

憂、梓…。

いや、今はあまり考えないように、考えないように…。

純「純ちゃんだけなのさって…、本当に普通ですからね」

唯「普通でも良いよー」

97: 2010/10/28(木) 12:37:30.33 ID:R4YqW4Xs0
私はカップに口を付ける。

唯先輩はそんな私をニコニコと見ている。

苦い…。

今飲んでいるコーヒーが苦いのは、砂糖とミルクが入っていないからと言うだけだ、きっとそうだ…。

私は、あまりの苦さに、何口も飲むことが出来なくて、一口飲んだところで、コーヒーカップを下ろす。

唯先輩が私を心配するような表情になる。

純「あれ、どうかしました?もしかして、私の飲み方ってどこか変でした?」

100: 2010/10/28(木) 16:41:16.90 ID:Gr92NcYT0
あ…、唯先輩の手が近づいてくる。

唯「涙出てるよ?」

唯先輩は指先で私の目じりに溜まった涙を掬い上げる。

あ、あれ…、何で?

純「あはは、おかしいですね、何で涙なんか出てるんでしょうね」

唯「純ちゃん…」

純「唯先輩の前だからって、無理してミルク砂糖無しで飲んだからかな?あはは、やっぱりコーヒーって苦すぎますよね。

私もけいおん部の皆さんみたいに紅茶じゃないと駄目なんですかね…」

102: 2010/10/28(木) 18:09:19.59 ID:Gr92NcYT0
あれ、何で涙止まらないの、やだよ、泣きたくなんかないのに。

私は両手で必氏に涙を拭う。

でも、拭っても拭っても涙は止まらなかった。

涙を拭うのに一生懸命で、前が見えない私を何か暖かいものが包み込む。

唯「純ちゃん?」

唯先輩は私をぎゅっと抱きしめてくれた。

そのことは私の感情を余計に高ぶらせ…。

純「うわぁぁ…」

私の涙はもう止まらなかった。

103: 2010/10/28(木) 18:47:29.80 ID:Gr92NcYT0
・・・

どれぐらい、唯先輩は私を抱きしめていてくれたのだろう。

太陽はすっかり西に落ちんと言う時間になっていた。

唯「純ちゃん、もう大丈夫?」

純「は、はい…、ありがとうございます…」

唯先輩は暖かかった。

梓や憂がいつも言ってたように、抱きしめられていると凄く幸せな気分になる。

でも、私はあんまりその温もりに長い間浸っていると、この世界に帰って来れなくなると思って、

唯先輩の身体を押し戻す。

107: 2010/10/28(木) 20:31:18.65 ID:Gr92NcYT0
唯先輩は、そんな私の行動に、

「自分は余計な事をしてしまったんじゃないか」と言う感じの表情になる。

違うんです。

これは私が勝手に絶望して、それで唯先輩に勝手に縋りつこうとした事が嫌で…。

唯「ごめんね、何かこうして上げないと駄目かなって思ったから…。えへへ、余計なお世話だったかな…?」

純「ち、違うんです…、ただ、その…」

唯「うん、良いよ、大丈夫だから」

純「はい…、あ、あの、私もう帰りますね、あはは、何か随分長居しちゃいましたね…」

111: 2010/10/28(木) 23:10:36.10 ID:R4YqW4Xs0
私は立ちあがる。

唯「送っていかなくても大丈夫?」

純「あはは…、大丈夫ですよ、もう落ち着きましたから」

唯先輩は私の顔を心配そうに見上げる。

唯先輩は何か言おうとして、

でも躊躇って、それでもやっぱりと言う感じに口を開く。

唯「あ、あのさ、純ちゃんに取っては、

凄い辛い話を掘り起こされる形になっちゃうと思うんだけどさ…」

唯先輩…?

112: 2010/10/28(木) 23:37:50.57 ID:R4YqW4Xs0
唯先輩…?

唯「セカンドレOプとか、そう言う話にもなって来ると思うんだけどね…」

セカンド…、え?!

今、何て言いました?

唯「今日はまだ落ち着かないから、明日以降でも…、

あ、でも裂傷とかも可能性あるよね…」

純「唯先輩…?」

唯「純ちゃん、やっぱり今日行こう!」

唯先輩は何か大きな勘違いをしているらしかった。

114: 2010/10/28(木) 23:56:19.61 ID:R4YqW4Xs0
唯「えー!?違うの!」

純「違います…」

唯「だって、あの、道で傷口を見た時、純ちゃんノー…」

純「わー!わー!」

唯「ノーパ…」

純「わー!!」

唯「だから、ノーパ…」

純「わっ!!」

116: 2010/10/29(金) 00:13:00.76 ID:v87mPONb0
唯「あはははは」

純「唯先輩、最後の方はわざとしてましたね」

唯「うむ、許してくれたまへよ」

まったく、この人は…。

でも、唯先輩は本当に人の心を明るくさせてくれる。

その事は間違いない。

117: 2010/10/29(金) 00:37:52.83 ID:v87mPONb0
純「で、どうしてそう思ったんですか?」

唯「だって、純ちゃんあの時パンツ履いてなかったから、あの、きっとそう言う事をされたんじゃないかって」

純「そ、それは…」

唯「それとも、露出狂で…」

純「それは、断じて違います」

唯「純ちゃんでも、さすがにそれは違うかぁ」

純「唯先輩の私のイメージってどんなんですか」

118: 2010/10/29(金) 00:42:48.68 ID:v87mPONb0
唯「モフモフな子?」

純「髪型だけじゃないですか!」

唯「そーだなー…、素敵な女の子?」

純「あ、え…?嫌だな、冗談はやめて下さいよ…」

唯「冗談なんかじゃないよ?」

唯先輩は急に真顔になって言う。

119: 2010/10/29(金) 00:46:12.39 ID:v87mPONb0
そして…。

え?!

私はベッドに押し倒されていた。

唯「ね、純ちゃん?」

純「な、何でしょう…」

唯「何でノーパンだったの?」

純「そ、それは…」

唯「まあ、その答えは良いや」

純「あ、ありがとう…、ございます。そ、それで、どいて頂けると…」

121: 2010/10/29(金) 00:51:42.92 ID:v87mPONb0
唯「嫌だ」

純「唯先輩?」

唯「どかないよ。だって、純ちゃんの方からパンツを脱いで誘ってくれてたんだもんね?」

そう言うと唯先輩の顔が近づいて来る。

それは今までの唯先輩じゃないみたいだった。

誰かと言うのはすぐには出て来ないけど、別の人みたいだった。

そして、私はその誰かを…。

私の思考は停止させられた、強制的に。

?!

キス…、された…?

124: 2010/10/29(金) 02:57:48.67 ID:v87mPONb0
唯先輩は口の間から下を挿し入れると、

私の歯、歯茎、舌、あらゆる箇所を蹂躙した。

唯先輩は私の口内で舐める箇所が無くなったかと思うと、

自分の唾液を流し込んでくる。

あ、甘いかも…。

唯先輩の唾って、甘いんだ…。

時間にすると、ほんの数十秒だったかも知れないけど、

私にとってその時間は永遠のようだった。

永遠のキス。

死のキス。

126: 2010/10/29(金) 03:56:53.50 ID:v87mPONb0
唯先輩は私から口を離す。

唯先輩の口の端から、唾液が糸を引いて、それが夕日を反射させた。

唯先輩はニコリと笑う。

唯「ふふ、純ちゃんの…、美味しかったよ」

ああ、あの顔は憂だったんだ。

今の唯先輩は、さっきのあの氷姫みたいな憂と同じ顔をしていた。

127: 2010/10/29(金) 03:58:33.20 ID:v87mPONb0
唯先輩は、私のカットソーをまくり上げる。

唯「あー、純ちゃん可愛いブラしてる。今日は何かのイベントだったのかな?」

イベント…。


今日は、午後から梓と一緒に…。

あれ?

何で、私こんなとこにいるの…?

唯「純ちゃん、まだ、泣いちゃ駄目だよぉ?だって…」

同じ人が同じような言葉を使ってるのにまるで違う響き。

唯「これから私が純ちゃんのことをたくさん泣かしてあげるんだからね!」

唯先輩はそう言うと私の涙を舌で舐めとった。

129: 2010/10/29(金) 04:33:34.91 ID:v87mPONb0
純「あ、やだぁ…」

唯「へー、純ちゃん、あずにゃんの事が好きだったんだぁ…」

純「ち、違いますっ、そんなこと」

唯「隠さなくても良いよ。さっき『梓ぁ』って言ったの、聞いちゃったもんね」

純「あ、あぁ…」

唯「純ちゃんはあずにゃんに操を立ててたんだね?」

純「ち、違い…、あぁ!」

あ、え…、嘘…?

136: 2010/10/29(金) 10:29:31.52 ID:v87mPONb0
唯「でもその努力は無意味だよ。だって、あずにゃんは憂と付き合ってるんだよ?それも、結構前からね」

頭の奥で痺れるような感覚。

唯「あ、その反応だと、知らなかったって感じ?」

既に、知ってます。

だから、こんなに苦しいんです。

唯「じゃあ、二人とも『純ちゃん』には内緒にしてたんだね」

唯先輩は私の名前をわざと強調するように言った。

その瞬間、何かがプチプチと音を立てて千切れる音が聞こえたような気がした。

唯「あはは、純ちゃん、まったくの道化だね」

148: 2010/10/29(金) 17:57:04.80 ID:N6Y7TiIk0
そう言って、唯先輩は私にキスをする。


純「んんーっ!!」

この人の手はやっぱり巧みで、私をまた高いところに導いていく。

私が目開くと、唯先輩の顔が目の前にある。

きっと、私は今凄く快感を堪える表情をしてるんだろうけど…。

どうしてだろう?何故か唯先輩も、同じ様に快感を堪える表情をしていた。

152: 2010/10/29(金) 19:09:04.14 ID:N6Y7TiIk0
唯「あー、お腹んとこ純ちゃんのでベシャベシャだぁ」

唯先輩はいたづらっぽく言うから、私も言ってやる。

純「それ、唯先輩のも混じってますよ、きっと」

唯先輩は堪えた様子も無く、

唯「二人の愛の結晶だね!」

純「はいはい」

唯「じゃ、私はシャワー浴びてこよっかなぁー」

155: 2010/10/29(金) 19:44:21.07 ID:N6Y7TiIk0
そうだ、憂はもう唯先輩のものじゃない。

梓が私のものじゃないように。

唯「あ、そうだ…」

唯先輩は、私の迂闊な一言が聞こえなかったかのように、台所の方へ駆けて行くとタオルを持って戻って来る。

唯「じゃあ、これ使って待ってて」

唯先輩は私にタオルを放ると、また駆けて行く。

156: 2010/10/29(金) 20:14:25.30 ID:N6Y7TiIk0

純「結局、何の連絡もしないままサボっちゃったなぁ…。あ、そだ、携帯…」

放り出されたパーカーのポケットから携帯電話を取り出す。

あはは…、何だよ梓の奴、まめだなあ…。

着信履歴は梓からの電話で一杯だった。

感心な事に、一回毎にちゃんと留守電を吹き込んでくれていたらしい。

157: 2010/10/29(金) 20:15:49.02 ID:N6Y7TiIk0

梓「おーい、10分遅れだよ?」


梓「ちょっと、遅れるんだったら連絡するもんじゃない、普通」


梓「何か急な用事?」


梓「何かあった?あったんなら、連絡ぐらいよこしなさいよ」


梓「純?」


梓「大丈夫?」


梓「…、ともかく留守電聞いたら電話頂戴…。何時でも良いからさ」

162: 2010/10/29(金) 23:02:16.16 ID:v87mPONb0
純「ごめん!」


純「あ、うん、ちょっとね、急な用事でさ…、ホントーにごめん!」


純「うん、大丈夫、何も無いから…、うん…、うん…」


純「そう、ちょっと電話出来る状況じゃなくて…」


純「あはは、大丈夫だよ、うん、じゃあ、今日は憂とお泊りなんだ…」


純「そりゃー、私も一緒したかったよぉ」


純「うんうん、あはは、私がいないからって寂しがるなよぉ?」


純「あ、うん、そうだね、今度は絶対ね、うん、じゃあ、また明後日学校でね」

163: 2010/10/29(金) 23:19:21.59 ID:v87mPONb0
梓…。

梓への愛しさで私の心は一杯になる。

でも、梓はもう…。

164: 2010/10/29(金) 23:29:17.88 ID:v87mPONb0
唯「純ちゃん、出たよー」

唯先輩が頭を拭きながらやって来る。

純「あ、憂は梓んちにお泊りみたいで…、って、何で裸なんですか…」

唯「裸って気分だからだよ。それに裸も気持ち良いもんだよー?大体、純ちゃんも裸じゃん」

純「そりゃ、そうですけど…、でも、私は…、その…、今着たら服が汚れちゃうし…」

唯先輩は私がごにょごにょと言い訳をしている間に、散らかっている私の服をひょいひょいと拾い集めると私に渡してくれた。

唯「はい、シャワー気持ち良かったよぉって、あれ?」

唯先輩は、何かに気付いた表情。

165: 2010/10/29(金) 23:35:53.09 ID:v87mPONb0
純「何でも無いですよ」

唯「うん、純ちゃんが聞いて欲しく無いなら、聞かないよ」

純「じゃあ、シャワー浴びて来ます」

唯「行ってらっしゃーい…、あ、そだ、出て来たら一緒にアイス食べようね!」

純「そうですね…」

唯「あ、そうそう。パンツは脱衣カゴの中に入れておいたの使って良いから」

166: 2010/10/29(金) 23:54:41.77 ID:v87mPONb0
・・・

シャワーは確かに気持ち良かった。

純「なんか悔しいから、打たせ湯しちゃお…」

167: 2010/10/30(土) 00:11:58.04 ID:qsWEKegL0
『お姉ちゃん、今月の水道ガス料金がいつもの月より掛かってるんだけど』

『えぇ、知らないよぉ~』

『お姉ちゃん、身体洗う時にシャワー流しっぱなしにしたんじゃないの?』

『して無いよー』

『私とお姉ちゃん以外に誰も家のシャワーなんて使わないでしょ』

『してないってば』

『めっ、だよ』

『えぇ~』

170: 2010/10/30(土) 01:12:49.33 ID:qsWEKegL0
純「こうなれば良いんだ…」

あはは…。

梓…

純「わたし、これから梓にどう言う風に接したら良いんだろ?」

風呂場の扉が開かれる。

唯「それは純ちゃん次第じゃないの?」

純「ゆ、唯先輩!?」

173: 2010/10/30(土) 03:44:35.14 ID:qsWEKegL0
純「ゆ、唯先輩!?」

唯「純ちゃんとお風呂に入りたかったから戻って来ちゃいました」

純「で、でも、湯船は?!」

唯「御嬢さん、蓋を取って見てごらん」

私が一縷の望みを掛けて、風呂の蓋をずらすと、そこから湯気が湧き上がる。

唯「ね?」

174: 2010/10/30(土) 03:46:08.76 ID:qsWEKegL0
・・・

唯「はぁ~、極楽だぁねー。ね、純ちゃん?」

純「そうですね」

唯「あれ、気持ち良く無い?純ちゃんのためにお湯貼ったんだけど」

純「お湯は気持ち良いです、ええ、湯加減は最高ですよ」

唯「何か問題が?!」

純「この体勢に問題があり過ぎるんです」

176: 2010/10/30(土) 04:04:42.46 ID:qsWEKegL0
私は唯先輩に後ろから抱かれるような姿勢で入浴する形になっていた。

唯「えー、良いじゃーん。向かいあってだと、

足を互い違いにしなきゃいけないし、狭く感じるよぉ?」

純「それは、そもそも二人で入ろうとするから…」

唯「じゃあ、純ちゃんは、

私が一人湯船の外であったかあったかしている純ちゃんを横目に凍えても構わないって言うわけ?」

純「そんな事は言ってません」

唯「じゃあ…、ね?」

177: 2010/10/30(土) 04:26:44.58 ID:qsWEKegL0
はぁ…。

唯「ねえ、純ちゃん?」

純「何です?」

あ?!

唯「ギュってして上げるね?」

純「や、止めて下さい…、よ…。そんな慰め…」

唯「慰めじゃないよ?」

178: 2010/10/30(土) 04:27:43.81 ID:qsWEKegL0
純「で、でも…」

唯「私、さっき言ったよ?純ちゃんが聞いて欲しくなければ聞かないって。だから、純ちゃんから頼まれなければ慰める事なんてしないよ」

純「じゃ、じゃあ!」

唯「私がしたいからするの。したいからしてるだけー」

唯先輩…。

そうか、唯先輩も…。

唯「うん、だから、少しの間だけこうさせてね?」

純「はい…」

184: 2010/10/30(土) 10:59:13.55 ID:qsWEKegL0
・・・

唯「ふぃー、あったまったね!」

純「そうですね」

唯「アイスも美味しかったね!」

純「ええ」

唯「ハーゲンダッツだから、一本約250円だよ!」

純「高いですね」

唯「高級品だよ!」

185: 2010/10/30(土) 11:03:03.48 ID:qsWEKegL0
純「でも、唯先輩二本食べてましたね」

唯「憂の分も食べてやったさ!」

純「悪いお姉さんなんですね」

唯「あはは、きっと憂に怒られちゃうね」

純「何で私を、その…」

唯「私は憂に選んで貰えなかったから」

186: 2010/10/30(土) 11:16:19.37 ID:qsWEKegL0
唯先輩…。

唯「憂に好きだって伝えたんだけどね、うん、駄目だったよ。もう、結構前の話だけどね」

唯先輩は私に何を伝えようとしてるのか、分かるような気がするし、でも分かりたくも無い気がした。

唯「純ちゃんはそこら辺はどうなの?」

純「私は…、伝えようとは思っていませんでした」

唯「それはどうして?えっと、聞いても良いよね?」

純「構いませんけど…」

唯「じゃあ、どうして?」

189: 2010/10/30(土) 12:50:13.74 ID:qsWEKegL0
純「だって、やっぱりおかしいじゃないですか、同性同士なんて。そう思ってたんです」

唯「今は?」

純「今だって、基本的には…」

唯「でも、そう思ってたら、鳶に油揚げを攫われちゃったー、って感じかな?」

嫌な言い方…。

唯「ねえ、純ちゃん。私と付き合っちゃおっか?」

純「はあ…。何で急に?」

唯「ジ・アザー・トゥーって感じだから?」

192: 2010/10/30(土) 15:07:19.37 ID:NULCQgXt0
純「逆に嫌な感じじゃないですか」

唯「そう?ラブラブをみせつけて憂とあずにゃんを羨ましがらせよう!」

純「羨ましがらないですよ、特に憂は…、そう言う姿が想像出来ないです」

唯「そうかなぁ?」

純「そうですよ」

唯「じゃあ、身体だけの関係」

純「何ですか、それ」

193: 2010/10/30(土) 16:13:57.72 ID:NULCQgXt0
唯「同性愛者は…」

純「そう言う言い方嫌いです」

唯「純ちゃんはあの時凄い感じてたでしょ?

だから、こう言う形なら受け入れてもらえると思ったから」

純「何ですか、それ!あんな風に無理矢理しておいて…、

それ凄い酷い言い方って分かってますか?」

これは言い過ぎなんかじゃない。

まだ、穏やかな部類だ。

194: 2010/10/30(土) 17:18:50.65 ID:NULCQgXt0
唯「ごめんね、ちょっと偽悪的過ぎたかも」

純「次言ったら叩きます」

唯「つまり、私達はお互いに寂しいもの同士だから…、せめて…」

純「そう言うのはお手軽で嫌だって…」

唯「でも、私達は同性愛者で、簡単にはその事を分かち合える人間を見つけられないよ?

その上、それを認めてくれるような友達はいるけれど、別の理由で相談する事も出来ない。

その分だけ、余計に辛くない?」

195: 2010/10/30(土) 17:29:29.14 ID:NULCQgXt0
純「それでも…」

唯「それでも、あずにゃんが良い?」

純「は、はい、私は梓が…」

唯「そっか…」

今日、涙を流したのはこれで何回目になるんだろう?

198: 2010/10/30(土) 18:24:47.75 ID:NULCQgXt0
・・・

唯「落ち着いた?」

純「は、はい、す、すいません、と、取り乱したり、し、して…」

やっと、涙は止まった。

しゃっくりはまだ止まらないけど。

唯「気持ち伝える気は無いの?」

純「ええ、これは伝えないんだってずっと決めてましたから。

梓が私と同じように女の子を好きであっても、それはまた別の問題です。だって…」

唯「うん、分かるよ。

一般社会との問題で、自分が梓に取って軛になりたくないって事だよね」

199: 2010/10/30(土) 18:46:07.11 ID:NULCQgXt0
純「そうですね…」

唯「じゃあ、じゃあさ、仮にだよ?」

仮の話になんか意味が無いのに、唯先輩は一生懸命な力説を始める

唯「一般的な世の中の人は、純ちゃんのそう言う関係を咎めだてするような人は多いし、そう言う人や、そう言う人が多数を占める社会や、そう言う考え方が無くなったら、どうする?」

純「そんな事ある訳無いじゃないですか」

唯先輩はちょっとだけ、人を馬鹿にしたような顔になる。

唯「でもね、そんな事も起きちゃうかも知れないのがこの世だよ?」

202: 2010/10/30(土) 19:44:23.86 ID:NULCQgXt0
私はちょっとカチンと来て、唯先輩のその仮定を無視して言葉を続ける。

純「でも、そんな事ある訳無いですし、やっぱり、梓の負担になりたくないんです…」

唯先輩は私の言葉を聞くとニッコリと笑う。

唯「そっか…、そこまで梓ちゃんの事を大事に思ってるんだね」

え?!

唯先輩はスウェットパンツのポケットから髪ゴムを取り出し、そして…。

唯?「って言うのが、純ちゃんの考えなんだって。聞いた?梓ちゃん」

203: 2010/10/30(土) 19:48:18.56 ID:NULCQgXt0
え、何、どういう事?!

居間の扉を開けて、梓と憂?が入って来る。

梓と一緒に入ってきた憂?は髪の毛を止めていたリボンを解く。

憂?「て、純ちゃんは言ってるよ?あずにゃん?」

梓は俯いたまま、私の方に歩みよって来る。

純「梓…、どうして…?」

うぁ?!

私は一瞬、何が起きたか分からなかった。

ただ、すぐに頬がジンジンと熱を持ち始めたから、

だから、ああ、頬を叩かれたんだな、と理解出来た。

208: 2010/10/30(土) 21:36:02.63 ID:qsWEKegL0
純「あ、梓…?」

梓「そんな気遣いなんか…、純の馬鹿!!純は分からんちんだ!」

梓は泣いているようだった。

それだけ言うと、梓はトトトと小走りに走ってまた憂?の後ろに隠れる。

唯?先輩は憂?の横に立つ。

そうしておいて、二人はクルクルと自分の立ち位置を変更し合う。

憂とは数年来の友達だった。

憂と唯先輩が同じ服装、同じメイクをして並んでいたって、

どちらが憂でどちらが唯先輩かを見分ける事なんか、簡単な事だとずっと思ってた。

だけど、今は二人のどちらがどちらかを見分ける事など出来なくなってしまっていた。

それだけ、憂と唯先輩はいつもと違う顔をしていたんだ。

210: 2010/10/30(土) 22:27:57.26 ID:qsWEKegL0
憂?「私は純ちゃんに掛かってる規範意識を一つ外して上げたよ。

梓ちゃんもこう言う女の子だって、教えて上げたよね?」

唯?「わたしも純ちゃんに掛かってる規範意識をもう一つ外して上げたよね。

純ちゃんは女の子同士のを経験したよね?」

純「ふ、二人とも何を言ってるんですか…?」

また、二人はクルクルと立ち位置を変更し合う。

憂?「あずにゃんも何か言ってあげなよ」

唯?「わたしにいつも相談して来てた事を純ちゃんに伝えて上げなよ」

梓は躊躇っているのか緊張しているのか、

身体全体を震わせながら、二人の後ろからオズオズと出て来る。

211: 2010/10/30(土) 22:59:02.54 ID:qsWEKegL0
一秒、二秒…。

梓は言葉を発する事が出来ず、二人の方に助けを求めるように、顔を向ける。

唯?先輩と憂?は梓を勇気づけるように、梓の肩に手を置く。

梓はそれで決心がついたのか、息を大きく吸い込む。

梓「ねえ、私ね、ずっと純の事好きだったよ?

でも…、その…、勇気が無かったんだ」

梓…。

唯?、憂?「そうなんだよ?純ちゃん!」

ほんの半日前なら天国に昇る様な感動を得られたであろう言葉。

でも、この異様な状況のせいで、梓も私を好きでいてくれたと言う事実、

本当は凄く嬉しい筈の梓の言葉、それらを受け入れる事が出来なかった。

212: 2010/10/30(土) 23:07:02.66 ID:qsWEKegL0
梓「だ、だから!あ、あの…、純が私の事を好きだって、

あんな風にまで考えてくれて、凄い嬉しかった…」

梓は、そのまま私の方に駆けて来ると私をギュッと抱きしめる。

唯?、憂?「And I~♪

…ってあれ?純ちゃん何で抱きしめ返して上げないの?」

唯「ちゃんと応えてあげないと、あずにゃんが可哀想だよ?」

憂「梓ちゃん、あんなに勇気を振り絞ったのに…、純ちゃんてば…、酷い…」

217: 2010/10/30(土) 23:43:39.76 ID:qsWEKegL0
あはは…。

何これ…。

憂「そっか、純ちゃんはまだ『一般社会』の事が気になっちゃってるんだね?」

唯「それなら、しょうがないっかぁ」

憂と唯先輩は顔を見合わせる。

少しの間、見つめ合っていたかと思うと、

唯「じゃあ、やるしかないかぁ」

憂「仕方無いよね」

唯「憂はOK?」

憂「おねえちゃん、準備出来てるよ」

唯「いーち…」

?!

219: 2010/10/30(土) 23:51:01.57 ID:qsWEKegL0
唯先輩が口を開いた瞬間にすっかり暗くなっていた窓の外が一瞬パァっと明るくなる。

でもそんな事にも構わず、唯先輩は数字を数え続ける。

唯「にーい、さーん…」

唯先輩が1つ数字を数える度に、窓は発光し、

窓の外は赤く明るくなっていく。

何時の間にか、数字を数えるのに憂も加わっていた。

私は梓の身体の感触が暖かいな、その輝きがキレイだな、

と思って、ぼんやり外を眺めていた。

唯、憂「…、ひゃ~くっ!!」

憂と唯先輩は遂に数字を百まで数え終える。

220: 2010/10/31(日) 00:26:33.54 ID:2pPQKiN/0
憂と唯先輩は遂に数字を百まで数え終える。

窓の外から差し込む光は、既に昼と変わらない強さになっていた。

ただ、その窓からの光は真っ赤で、

どう考えても太陽が再び昇ったからと言う感じでは無かった。

唯、憂「じゃあ屋上に行こう!これは私達二人から、

純ちゃんとあずにゃん(あずさちゃん)へのプレゼントなんだよ」

222: 2010/10/31(日) 00:45:13.49 ID:2pPQKiN/0
・・・

屋上の扉を開いた途端に、物凄い熱気と明るさが奔流となって私達を包む。

純「あ…?あぁぁぁ!!」

街は燃えていた。

この平沢家を除いた街の全てが。

屋上の淵に立った唯先輩と憂は満足そうに街を見回し、

そしてゆっくりと私の方に振りかえる。

224: 2010/10/31(日) 01:06:22.98 ID:2pPQKiN/0
唯「ねえ、純ちゃん、取り合えずはこの街だけだけど、

私達を咎めだてするような一般社会は無くなったよ?」

憂「もう、純ちゃんの選択を妨げるものは何も無いよね」

私の腰に抱きついている梓が私を見上げる。

梓「ねぇ、純…、これ、私達の門出を祝う炎だよね…」

唯「二人は炎の中で永遠の愛を誓い合うの!」

憂「素敵!」

225: 2010/10/31(日) 01:07:03.54 ID:2pPQKiN/0
梓は燃える街を見てうっとりとする。

梓「純、ほら、夜が炎の中に放り込まれる感じだよ?」

憂「あはは、『ハートに火をつけて』だね」

唯「『ゲットマッチハイアー』って感じ!」

違う…。

これじゃ、『ジ・エンド』じゃないか…。

226: 2010/10/31(日) 01:16:23.98 ID:2pPQKiN/0
唯「ねえ、純ちゃん、知ってる?」

もう、何も聞きたくなかった。

この二人の言葉は他人を狂わせる。

梓はきっと、狂わされてしまったに違いない。

私は腰にしがみ付いている梓の肩をギュッと掴む。

梓は私の方に顔を向けると、ニコッと笑った…。

梓…。

227: 2010/10/31(日) 01:24:54.96 ID:2pPQKiN/0
純「知りません」

憂「純ちゃんも知っておいて損は無いよ」

純「もう、憂と唯先輩の事なんか知りたくないよ!!」

二人は、苦笑して、もう私の許しなんか必要ないとばかりに言葉を続ける。

唯「数十年前までは同性愛者って、理解不能な怪物として扱われてたんだよ?」

憂「辺境の怪物…」

唯「秩序ある世界の外に住んでいる怪物…」

憂「秩序を壊す怪物…」

228: 2010/10/31(日) 01:31:21.56 ID:2pPQKiN/0
唯「だから、私達はそいつらの言う通りに、本当に怪物になってやったの」

憂「だから、簡単に世界も壊せたよ、こんな風にね!」

憂は炎に包まれた街の方を指し示すように手を振る。

その動きに合わせて、火の勢いは一層強まったように見えた。

唯「私達を無意味な規範で縛り付けるこの国を永遠に離れたいな、

私達の生まれた街を燃やしつくしてね、って思ったの。そしたら…」

炎は天を焦がすような勢いでその勢いを強めていく。

憂「ほら!私達の思う通りになったよ!

ほら!これが私達が怪物である証拠なんだよ!」

229: 2010/10/31(日) 01:34:48.62 ID:2pPQKiN/0
そこまで言うと、唯先輩と憂は笑顔を浮かべて私に向かって手を伸ばす。

唯・憂「私達の王国へようこそ」

何も無い筈の二人の後ろの虚空には…。

あれ?

何も無い筈なのに…。

唯・憂「ふふ…」

何故か私には、西の王国へと向かう王の道が伸びてるのがはっきりと見えた。

                         「The End」    

230: 2010/10/31(日) 01:37:10.06 ID:P181uPKuO
はわわわわわわわ

231: 2010/10/31(日) 01:38:54.80 ID:v4PI2Q+t0
こんなオーケンみたいな世界観になると誰が予想できただろうか……


236: 2010/10/31(日) 03:10:03.71 ID:2pPQKiN/0
書き溜め無しで始めても二日ぐらいで終われると思ってました。
そしたら、今週時間を取られる事が多くて時間掛かってしまいました。

自分の中では普通の百合のつもりで書いてました。

タイトルと街を燃やす下りはThe Stone RosesのThis Is The Oneの歌詞から。
ラストのところはThe Doorsのハートに火をつけてとThe Endから。

保守して頂いた方、読んで頂いた方全ての人にありがとうございます。

引用: 憂梓純「私達の生まれた街を…」