144: 2014/07/15(火) 17:47:58 ID:JJtGg3r.
クローンと言う技術が確立して半世紀が経ったらしい。
今じゃ殆どの食べ物はクローンだし、俺達も其れを受け入れている。
だが、俺の話したい事は、そんな事じゃない。
そんな事を話すだけならば、何も、こんな所で話したりする物か。
……そう。
アレは日差しの強い日の事だったか――。
145: 2014/07/15(火) 17:49:28 ID:JJtGg3r.
あの日、俺は街を歩いていた。何をする予定だったかは覚えていない。
只、暑い日だったと言う事は覚えている。
交差点に差し掛かった時だ。
俺は、俺の眼を疑った。
横断歩道の向こう側。
人混みの中に見付けた影。
其れは紛れも無く、俺の姿だった。
勿論そんな事がある筈は無かった。
“生き別れの双子”なんて線も考えたが、結論が出る前に奴は動いた。
人混みの中に溶ける様に消えて行く“奴”。
俺は何か得体の知れないモノに身体を動かされた。
――奴を、逃がしてはいけない。
俺は赤信号を無視して横断歩道を走破し、奴の後を追った。
狙っていたのだろうか?
俺と奴の距離は縮まらなかったが、だからと言って引き離される事も無かった。
今になって考えれば、まるで誘導しているかの様だった。
だが当然、其れも永遠には続かない。
或る公園まで来た時、俺は遂に奴を見失ってしまった。
「ったく——何処行きやがった……」
激しく息切れしながら俺は悪態を吐いた。
其の時、後ろから声がした。
「僕の事、かな?」
「な——!?」
「どうやら、そうらしいね」
どう言う事だろうか、奴は俺の背後から現れた。
「お前は……」
「誰かって? 残念ながら、生き別れの双子なんかじゃなくてね」
「じゃあ——何故お前は俺と同じ……」
「当たり前じゃないか。僕と君は同じ遺伝子を持ってるんだから。全く同じ遺伝子を、ね」
奴は薄い笑いを顔に貼り付けて、冷静に言い放った。
頭に血が上っていた俺には憎らしい位、奴は冷静だった。
「そんな事が……」
「出来るさ。クローンを知らない訳でも無いだろう?」
皆まで言わせず断言され沈黙した俺に、奴は続けて言った。
「黙っちゃうのか。まぁ良いさ。今、大切なのはそんな事じゃない。
どっちがオリジナルかって事さ」
“オリジナル”。
其の言葉が俺を貫く。
「……ジナルだ……」
「ん? 何?」
「俺がオリジナルだ!!」
叫ぶ俺に、奴は蔑む様な笑みを浮かべるだけ。
「何が可笑しい!」
「君は何も分かっちゃいない」
「何!?」
「教えてあげるよ。僕等が僕等になった訳を」
そう言われ、つい俺は問うてしまった。
「お前は……知っているのか?」
「まぁね」
いちいち癪に障る言い方をする奴だが、気にならない訳は無い。黙って次の言葉を待つ。
「君は、自分の親が本当の親でない事は知っているだろう?」
「……あぁ」
俺はそう呻く。両親は居るが肉親では無い。
一体何故居ないのか、その理由もこの歳まで知らされていなかった。
「君の本当の父親は————」
146: 2014/07/15(火) 17:50:04 ID:JJtGg3r.
「!?」
またしても、俺は反応してしまった。
「あの、クローン研究第一人者のか!?」
“神を越える者”として、彼は現存しているクローン技術の根幹を成す研究を成功させていた。
「良く知ってるじゃないか。普通の人はそんな事知らないんだけどね」
「俺が何を知っていようと……」
何を知っていようと関係無い。
そう言いかけた俺に奴が言葉を被せる。
「関係あるさ。君は無意識の内にクローンに興味を抱いている」
此の事ばかりは分からなかった。
「また黙っちゃうのかい? 良いけどね」
そうかも知れないし、そうで無いかも知れない。分からなかった。
「話を続けようか。
——彼と、其の妻の間には子供が出来た。1人の男の子が、ね」
「それが、俺達だとでも」「言わないよ。僕か君、どちらかなんだから」
奴は本当に、あっさりと物事を言う。
「しかし、幾らクローンとは言え、年齢差までは埋められないだろう……?」
そうだった。俺の反論は正しい、筈だった。
「其処がポイントなんだ。クローン技術を確立させた彼には新しい目的があった」
奴は右の人差し指を立て、続ける。
此の時に背中を汗が辿った感覚を、俺は今でも覚えている。
「其れが年齢差を埋める為の技術だよ」
「何故……」
「君の言った通り、年齢差は埋められない。
でもね、今の地球の人口は、畜産物が育つのを待つ余裕も無くなっているんだよ」
「だが、何故俺達が……」
「分からないかい? 人間は他の動物より圧倒的に複雑な構造をしている。
人間のエゴって訳じゃ無い。事実だよ」
奴は、続ける。
「人間で成功すれば、他の動物なんて簡単に出来るのさ。しかも……」
「しかも?」
——まだ、あるのか。
そう思った俺は、しかし、嫌気が差しながらも、そう促した。
「同じ年齢の人間を沢山作れるとしたら……他にも有利な事がある」
俺は初め、何の事であるか分からなかった。
——だが、すぐに理解した。
「まさか……」
「そうさ。——兵士、そして労働力。
奴は母国を、武力・経済力共に最強の国にし得る技術を開発したんだよ」
「奴は、自分の国の為に自分の子を……?」
尊い自己犠牲などと言う美談で済む問題では無い。
俺は湧き上がる感情を何とか抑え、問い掛けた。
「どうだろうね? 彼は自分の研究欲求以外に、興味は無かったんじゃないか?」
「……何故、奴は俺達に区別を付けなかった!?」
俺は地面に向かって、そう叫んだ。最早、怒りを抑えようなどとは考えていなかった。
だが返って来たのは、そんな俺を哀れむかの様な口調だった。
「君はチェスをする時、ポーンに名前を付けるのかい?」
此の時に俺は、頭の中が真ッ白になると言う現象を始めて体験した。
そんな俺に構わず奴は言葉を続ける。
「——とまぁ、こんな経緯で僕等が僕等になった訳さ」
「し、信じられるか!」
いや、違う。
信じられるからこそ、俺は怒りを顕にして叫んでいたのだ。
信じられるからこそ、俺は其の事実を否定したかったのだ。
「信じる信じないは君の勝手さ。だけどね、僕は知りたいんだよ。
君と僕、どちらがオリジナルなのかをさ」
胸が熱くなるのを感じた。
次の瞬間、気が付けば俺は手に収まる程の石を掴んでいた。
「俺が——」
言葉と共に奴を殴り付ける。
「俺がオリジナルだ!」
石を通して、俺は頭蓋骨を砕く感触を味わった。
患部から血を流し、倒れる。
奴は更に出血し続け、俺は更に殴り続けた。
遅れて、誰かの悲鳴が聞こえた。
俺は立ち尽くして、動かなくなった奴を見下ろしていた。
殴られそうになった時、殴られた時、殴り続けられた時。
奴は、ずっと同じ、あの、嫌な笑顔を湛えていた。
そして、動かなくなった今も。
肩で息をしながら、聞こえて来る音を頭の隅で知覚していた。
音は、厭に遠く聞こえた。
またしても、俺は反応してしまった。
「あの、クローン研究第一人者のか!?」
“神を越える者”として、彼は現存しているクローン技術の根幹を成す研究を成功させていた。
「良く知ってるじゃないか。普通の人はそんな事知らないんだけどね」
「俺が何を知っていようと……」
何を知っていようと関係無い。
そう言いかけた俺に奴が言葉を被せる。
「関係あるさ。君は無意識の内にクローンに興味を抱いている」
此の事ばかりは分からなかった。
「また黙っちゃうのかい? 良いけどね」
そうかも知れないし、そうで無いかも知れない。分からなかった。
「話を続けようか。
——彼と、其の妻の間には子供が出来た。1人の男の子が、ね」
「それが、俺達だとでも」「言わないよ。僕か君、どちらかなんだから」
奴は本当に、あっさりと物事を言う。
「しかし、幾らクローンとは言え、年齢差までは埋められないだろう……?」
そうだった。俺の反論は正しい、筈だった。
「其処がポイントなんだ。クローン技術を確立させた彼には新しい目的があった」
奴は右の人差し指を立て、続ける。
此の時に背中を汗が辿った感覚を、俺は今でも覚えている。
「其れが年齢差を埋める為の技術だよ」
「何故……」
「君の言った通り、年齢差は埋められない。
でもね、今の地球の人口は、畜産物が育つのを待つ余裕も無くなっているんだよ」
「だが、何故俺達が……」
「分からないかい? 人間は他の動物より圧倒的に複雑な構造をしている。
人間のエゴって訳じゃ無い。事実だよ」
奴は、続ける。
「人間で成功すれば、他の動物なんて簡単に出来るのさ。しかも……」
「しかも?」
——まだ、あるのか。
そう思った俺は、しかし、嫌気が差しながらも、そう促した。
「同じ年齢の人間を沢山作れるとしたら……他にも有利な事がある」
俺は初め、何の事であるか分からなかった。
——だが、すぐに理解した。
「まさか……」
「そうさ。——兵士、そして労働力。
奴は母国を、武力・経済力共に最強の国にし得る技術を開発したんだよ」
「奴は、自分の国の為に自分の子を……?」
尊い自己犠牲などと言う美談で済む問題では無い。
俺は湧き上がる感情を何とか抑え、問い掛けた。
「どうだろうね? 彼は自分の研究欲求以外に、興味は無かったんじゃないか?」
「……何故、奴は俺達に区別を付けなかった!?」
俺は地面に向かって、そう叫んだ。最早、怒りを抑えようなどとは考えていなかった。
だが返って来たのは、そんな俺を哀れむかの様な口調だった。
「君はチェスをする時、ポーンに名前を付けるのかい?」
此の時に俺は、頭の中が真ッ白になると言う現象を始めて体験した。
そんな俺に構わず奴は言葉を続ける。
「——とまぁ、こんな経緯で僕等が僕等になった訳さ」
「し、信じられるか!」
いや、違う。
信じられるからこそ、俺は怒りを顕にして叫んでいたのだ。
信じられるからこそ、俺は其の事実を否定したかったのだ。
「信じる信じないは君の勝手さ。だけどね、僕は知りたいんだよ。
君と僕、どちらがオリジナルなのかをさ」
胸が熱くなるのを感じた。
次の瞬間、気が付けば俺は手に収まる程の石を掴んでいた。
「俺が——」
言葉と共に奴を殴り付ける。
「俺がオリジナルだ!」
石を通して、俺は頭蓋骨を砕く感触を味わった。
患部から血を流し、倒れる。
奴は更に出血し続け、俺は更に殴り続けた。
遅れて、誰かの悲鳴が聞こえた。
俺は立ち尽くして、動かなくなった奴を見下ろしていた。
殴られそうになった時、殴られた時、殴り続けられた時。
奴は、ずっと同じ、あの、嫌な笑顔を湛えていた。
そして、動かなくなった今も。
肩で息をしながら、聞こえて来る音を頭の隅で知覚していた。
音は、厭に遠く聞こえた。
147: 2014/07/15(火) 17:50:38 ID:JJtGg3r.
そうさ……。
俺は奴を、俺は俺を頃した。だから、こんな所に居るんだ。
結局、俺と奴、どっちがオリジナルか、俺は知らない。
だが、奴が氏んだ以上、俺はオリジナルとして生きてやるさ。
——ん? 俺を狂ってると言うか?
まァ、そうだろう。俺もそう思う。
でも、お前さんにも分かるさ。自分に会ってみれば——な。
今日は日差しが強いな。
——なァ、お前さん。街に出てみなよ。
若しかすると、お前さん自身に——
会えるかも知れねぇぞ?
148: 2014/07/15(火) 17:52:04 ID:JJtGg3r.
≪了≫
引用: 173のSS置き場
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