89: 2009/01/06(火) 23:14:47 ID:PKeSwE/H
今日、芳佳は洗濯当番だ。隊員達から出される大量の洗濯物を洗って干し、綺麗にして戻す作業。
最近はリベリオンで開発された大型の回転槽式洗濯機が501にも導入され、威力を発揮していた。
回転による遠心力を利用して汚れを落とす仕組みで、電気で動き、レバーひとつですすぎから脱水まで出来る優れものだ。
シャーリーもこの洗濯機には「リベリオン製」と言う事でちょっとした誇りを持っているらしい。

芳佳はいつもと変わらぬ風に、隊員達の衣服や寝具などをより分けていく。上着やシャツ、ズボンなど洗うものは
バラバラだ。軍服やズボンなどはすぐに誰の物か分かるが、内に着るシャツなどは割と似た形が多く、誰のか分かりにくい。
芳佳はそう言う時、嗅覚に頼る。
「……この匂い、リーネちゃんのだ。すぐわかるよ」
芳佳は微笑んで、次のシャツを手に取る。
「……うぇっぷ。なんかケモノ臭い」
誰のモノかは言わずに、とりあえず仕分ける。
「シャツにまで香水付けるんだ。なんかオシャレだよね」
誰に言うとでもなく、ぶつくさ感想や文句を言いながら、洗いやすい様に全員の衣類を分類し、数基置かれた洗濯槽に放り込む。
洗濯槽が回転するときは結構な物音がするので、用事がある以外は少し離れて、休憩がてらくつろぐ。
小春日和の暖かな陽気に誘われ、芳佳はうつらうつらと浅い眠りに落ちた。

ちり~ん。
何処か遠い所で、小さく物音がする。
ちり~ん。
それは繰り返され、次第に、芳佳に迫ってくる。
ちり~ん。
なに、この不気味な音? 芳佳は焦って周りを見た。いつのまにか真っ暗闇で、周囲には誰も居ない。
「なに、この音。……みんな、何処?」
ちり~ん。ちり~ん。
背後から迫り来るその音は芳佳に底知れぬ恐怖を与え……

「わっ!」
「うわああああああああああああああ!!!!!!」
「うひゃあっ!」
居眠りの寝起きに驚かせたエーリカ。目の前に居た彼女をがむしゃらに柔道の投げ技でぶん投げると、芳佳は遁走した。
「エーリカ、大丈夫か!?」
慌てて駆け寄るトゥルーデ。
「いたたた……思いっきり投げられちゃったよ」
「宮藤、何をやってるんだ!」
「しっ仕置人、仕置人が来る! 殺される!」
「宮藤、どうした?」
「うわあああ!!!!」
「おわあ!?」
氏にもの狂いで叫びながら辺りを逃げ惑う芳佳に、トゥルーデも思わずびっくりする。
とりあえず押さえようとしたが、芳佳は酷く錯乱している様だ。極度の興奮か耳と尻尾が生え、取り押さえるのも容易でない。
仕方なくトゥルーデも魔力を解放し、力ずくで押さえつけた。
「待て! 落ち着け宮藤!」
「仕置人、仕置人がっ!」
「仕置人って誰だ? 何の事だ? 宮藤!? おい!」
「あらあら、どうしたの? 何の訓練?」
「おお、バルクホルンに宮藤、どうした?」
偶然の幸運か、ミーナと美緒がたまたま裏庭にやって来た。
「ミーナに少佐? すまないが手を貸して欲しい。宮藤が錯乱して暴れている」
「え、宮藤さんが?」
「何、またか!? おい宮藤! ……一応ブリタニア語は通じるみたいだな」
「仕置人、仕置人がぁっ!」
「仕置人……」
美緒は芳佳の言葉を確認すると、苦い顔をし、こめかみをぽりぽりと掻いた。
「何、仕置人って?」
ミーナが問う。
「暗殺者と言うか、殺人者みたいなもんだ。何を間違えたのか、自分が襲われたと勘違いしたんだろう」

90: 2009/01/06(火) 23:15:59 ID:PKeSwE/H
なおも暴れる芳佳を、何とか羽交い締めにするトゥルーデ。
「バルクホルン、動くなよ」
美緒が扶桑刀を構えた。
「え? ちょっと、少佐?」
流石のトゥルーデも美緒に真顔で刀を構えられ、少し顔を青くする。
居合抜きの要領で、一瞬刀を抜き、鈍い音を辺りに響かせ……美緒はすっと刀を仕舞った。
「今のは?」
「峰打ちだ」
芳佳から耳と尻尾が消え、だらりと力が抜ける。気を失った様だ。
「暴れた時は、この手に限る」
「これだから、扶桑の魔女は……」
ミーナが呆気に取られて言った。

「あれ、ここ何処?」
「芳佳ちゃん、大丈夫?」
芳佳は医務室で目を覚ました。すぐ横にリーネが居て、心配そうに芳佳の顔を見ている。
「リーネちゃん。あ、私……そうだ、仕置人に!」
「え? え? 芳佳ちゃん?」
「宮藤ッ!」
「は、はい!?」
美緒も傍らに居た。一喝されて目が覚める。
「お前、何を錯乱しとるか。うなされて変な夢でも見たんだろう?」
「坂本さん、違うんです。私、確かに聞いたんです! 遠い所から妙な鈴みたいな音がして、背後に迫ってくるのを!」
「だからと言って何故お前を頃しに来る事になる? 理由が無いだろ。第一、ここを何処だと思ってる?」
「あ……」
「ハルトマンを寝惚けて投げ飛ばしたそうじゃないか。ちゃんと謝れ」
芳佳の視線の先には、頭と掌に包帯をしたエーリカが居た。
「ハルトマンさん、ごめんなさい。私、そう言うつもりじゃ」
「いいってミヤフジ。うなされてたとこ、驚かした私も悪いんだし~」
あっけらかんと笑って手を振るエーリカ。
「エーリカ、お前ってヤツは……」
薄々事情を察したトゥルーデが、またかと言う顔をする。
「大丈夫だよミヤフジ。私は平気。なんたって、ここに頼もし~い旦那様が居るからね」
「あのなあ」
「ああ痛い、部屋まで連れてって~旦那様」
「勝手に……うわあ」
手を振り払うつもりが見事に抱きつかれ……仕方なく、お姫様抱っこをするトゥルーデ。
お姫様だっこをして貰いながら医務室から出ていくエーリカ。にやけてピースをしながら、部屋から消えた。
「あいつらもあいつらだな」
美緒が呟く。
「何だか色々誤解が有ったみたいね。でも皆無事……ではないけど、一応解決したから良かったわ」
美緒の横で看護士と話をしていたミーナが戻り、皆に声を掛けた。
「宮藤、本来なら始末書モノだぞ。今回はまあ、皆大目に見ると言う事だが」
「すいませんでした」
「でも、どうして仕置人なんて錯乱したんだ」
「音です。確かに、音がしたんです」
「音?」
首を傾げる一同。

その後芳佳と一緒に、洗濯の続きをしていたリーネが気付いた。
「芳佳ちゃん、もしかして……」
「?」
ルッキーニのシャツに入っていた、異国の小銭にボタン。これらが洗濯槽でかき回され、音を出したのかもしれない。
「服に何か入って無いか、確認しようね?」
「そうだね……なんか、ごめんねリーネちゃん」
苦笑いする芳佳に、リーネは微笑みかけた。

end

92: 2009/01/06(火) 23:19:27 ID:PKeSwE/H
以上です。
最近仕事やらPSZやら(マテ でなかなかSSに手が回らず……。
公式も更新されたし色々書きたいんですけど……無念orz

今回の元ネタは……某芸人の持ちネタを拝借しました。
「仕置人」と言うことばが個人的に妙にツボだったり。

ではまた~。

93: 2009/01/06(火) 23:32:18 ID:dV/FrBCT
>>92
GJ!おもしろかった……が!
ケモノくさい、って誰よ?誰なのよ?ケモノ!

引用: ストライクウィッチーズでレズ百合萌えpart17