105: 2009/01/07(水) 11:05:37 ID:yIC175Qr
※年明けゲルトマン

なんだよそうやって、みんな私を放っておくんだな。
もういいよ、知らないよ。みんな私なんてほっといて、違う誰かとよろしくすればいいじゃないか。
思いながらボトルからコップの中に、再びその液体を注ぐ。それだけでもう、なんだかくらくらしてきてしまう。
悪酔いしている。わかってる。

(…でも、やっぱりさみしいよ、こういうのは)
ストライクウィッチーズ 劇場版

先ほどから胸に空っ風を吹かせているその気持ちを言葉にするのは情けないから、コップの中の液体をひと
あおり。鼻に付くアルコールを一気飲み。ちょっと、とぅるーでぇ。顔を上げたフラウが目を丸くしながら叫んだ。

「飲み過ぎだってば、体に悪いよ。トゥルーデあんまり強くないんだからさあ」

そうしてフラウらしくもない、まるで医者のようなものいいでそんなことを言う。今日の昼盛大に、私が、掃除
したばかりの自分の部屋、自分のベッドで。寝転がっているフラウのその手にはどこでいつ買ってきたのか
分からないピンク色の可愛らしい便箋。その三分の一程度はもう文字の連なりで埋まっているようだけれど、
残念ながらそれを読み取ることまでは出来ない。もう視界さえもおぼろげだ。彼女の声さえ風呂の中で聞いた
ようにくぐもっているんだ。

「…なんだよ」

不機嫌さは、口調に出ていたと思う。たぶんそれを言ったならフラウあたりは「トゥルーデが不機嫌なのは
いつものことでしょお」と難癖をつけるのかもしれないけれど、私の中では明らかに違っていた。それはもう、
明白に。

確かに私はいつも怒っているかもしれない。ことフラウ、お前に対しては絶えないくらいに。でもそれは正確に
言うと怒っているわけじゃないんだぞ。カールスラント軍人たるもの、一に規律、ニに規律で、三から二百くらい
までずっとずっと規律なんだ。ネウロイ侵攻の混乱の中でウィッチになったお前は知らないかもしれないが、
それ以前からずっとずっと、骨の髄に染みるまでカールスラント軍で過ごしている私はよく知っている。それが
カールスラント軍人、いいやカールスラント人民でなければいけないのだと。間違ってもロマーニャのシエスタ
少尉やあのリベリアンのようであってはいけないんだ。お前は少々、いや多々それに染められつつある気を
感じるが、それは間違いだ。

「…ハルトマン、私はお前に対して責任がある。ロスマンとも、お前を立派に育て上げると約束した。だから
私はお前に対して決して手を抜くことなどしないし、してはならないんだ。私がお前に辛く当たるのは…
そうだな、上官としての心遣いだ。教育的指導のためなんだ、分かってくれ」
「…トゥルーデ、途中から話されても何言ってんだかわかんないんだけど」

いいから水飲んで横になって。戻したくなったら言ってよ?トイレまで付いていってあげるから。
一つため息をつくと、まるで私が一人では何も出来ない幼い子供か、それとも老いぼれた老人であるかの
ような口ぶりでやつはそんなことをのたまうのだった。はい、水。どうしてか周到に用意されていたデカンタ
からコップに水を注いで差し出してくる。ほら、こっち。そのまま元通り寝転がって、フラウは自分の傍らを
ぽんぽんと叩く。すっかり綺麗にしたはずのベッドの上はもう衣類やら紙切れやらで一杯だ。けれど今はもう、
そんなことどうでも良かった。私にだって色々なことを投げたしたくなるときがある。そしてそれは、今だ。

「任務なんだから、って、」

再び向こうをむいて便箋に向き合い始めたフラウが、こちらには目もくれずに呟く。今日、この状態に至った
理由を思い出しているのだろう。むすう、と顔をしかめたまま水を一気飲みした私は枕を抱きしめてその傍らに
寝転がって、何も言わずにそれを聞く。

「そう私に言ったの、トゥルーデじゃん」
「…そう言うお前は、あの時は文句ばかりだったじゃないか」
「だって、『任務ならしかたない』んでしょ?」

106: 2009/01/07(水) 11:06:08 ID:yIC175Qr
私はねえ、過ぎたことにはいちいち突っかからないことにしてるの。だってそう言うの疲れるもん。
呑気にそう続けて、笑えるフラウが羨ましい。…いや、そうしてこいつがひょうひょうとしているから、もしか
したら私の気持ちはわだかまるばかりなのかもしれないけれど。だって一緒にもっと悲しんで、寂しがって
くれたらもしかしたら私の心は晴れるかもしれないんだ。
でもさ、だってさ。口を付いて出るのは普段の私らしくない、情けない言葉ばかりだ。もっとちゃんと毅然として
いたいのに、上手く口が回らない。頭がふわふわとして、言葉だって滑っていくばかり。

ミーナなんて知らないよ。酒盛りをしようぜ、やけ酒だ!
そんなフラウの言葉で私はここにやってきた。そして今、こうしてる。
その理由は今朝聞いた、ミーナからの謝罪の言葉。ごめんなさいね、今晩は私、夜間哨戒に行くから一緒に
いられないわ。申し訳なさそうに切り出したミーナに、開口一番「えええー!」と口答えしたのはフラウだった。
私は逆にそんなフラウを諭すように「仕方ないな」と切り返して、「気をつけてな」なんてことを言ったのだ。後の
ことは私に任せてくれよ。そのための副官なんだからな、私は。偉そうにそんなことを言いながら、多分自分が
一番打ちのめされていたんだ。だって、私たちは、ずっと、ずっと。

「坂本少佐と一緒だもん。きっと楽しくやってるよ」
「…分かってるさ、そんなこと」

ずっと、ずっと、一緒だったのに。

ほら、もうすぐ新しい年が来るって言うのにミーナはいないし、フラウはここにはいない誰かのために、今日も
せっせと手紙を書いている。相手は誰だろう?いつも書いているのは知っているけれど、そう言えば確かめた
ことがない。だって怖いからだ。私の知らない方向に、大事な大事な仲間の世界が開けてる。それはとても、
寂しいことだからだ。
床に散乱したボトルたちを横目で見やって、ち、と舌を打った。酒は嫌いだ。いつも必氏でつくろってる強がりの
壁を、いとも容易く崩してしまうから。

ミーナと、フラウと、それから私。
今まで何度も何度も一緒に、年を越すそのときを過ごしてきた。一緒に過ごそうね、なんて言葉にした事は
ないけれど私にとってそれはもう決まりきっていたことで、なによりも大切にして、守らなければいけないこと
だったんだ。たぶんそれは、フラウにとってだって。
…新しい年を『家族』で迎える。そんな、世界中で当たり前のことを。残念ながら私だってフラウだって、ミーナ
だって、実の家族とは離れて暮らしているわけだけれど──でも、ミーナが『私たちは家族よ』って言ってくれ
たから。だからきっと、寂しがらずにいられるんだ。

「なに、バルクホルン大尉は私だけじゃ不安ということでありますか」

私は真剣な気持ちでいるのだというのに、どうしてか茶化すようにそんなことを言うフラウ。けれど顔では口を
尖らせて、ちょっと不満そうにこちらを見ている。ペンはもう置かれていて、どうやら一区切り付いたらしい。

「それは、そっちのほうだろ──」
さっきからずっと手紙を書いてばっかりで私のことなんてほっといてるくせに。ついにそんな不満をぶちまけ
そうになった、ところで。

ぼーん、ぼーん、ぼーん…

唐突に部屋の中の、特別大きな柱時計が音を立てた。鳴り響くその音はたぶん、10と2つ続くのだろう。窓の
向こうを見やる。ああ、あの空を今、ミーナは飛んでいるのかな。坂本少佐と一緒にさ。それは、私たちといる
よりもずっと幸せなことなんだろう?わかってるよ、もう。
過ぎる時間が恨めしくて、取り外そうと手首の時計を見た。そこでふとあることに気が付く。同時に何故だか
冷静になって、頭が冷え込んでいく。

「おい、ハルトマン」
「んあ?」
「まだ年明けには早いぞ。10分近くあるじゃないか」
「そりゃ、あの時計が進んでるからだよ、たぶん。てゆうか、どの時計が正しいのかなんて私、知らないし」
「…おい、おい!」

107: 2009/01/07(水) 11:07:12 ID:yIC175Qr
慌てて部屋を見渡す。見れば見るほど時計だらけなのが、こいつの部屋の特徴だ。そしてそれらはこの部屋
の主のごとく、好き勝手に時を刻んでは一つとして足並みをそろえていないのだった。

「まあ、"だいたいあってる"みたいだし、いいんじゃない?」
「だいたい、でいいわけあるかっ!!…リベリアンに直してもらえよ、あいつこういう作業得意だろ」
「『修理するくらいなら新しいの買え。改造ならしてやるよ』だって。エイラが怒ってたな。『買うくらいなら直して
使えよ!!』ってさ」
「…リベリアンらしいというか、スオミらしいというか…」
「つかさ、それもこれもトゥルーデが直してくれないからだよ」
「勘弁してくれよ、こういうのは苦手だって知ってるだろ」

そんなやり取りをしている間に、一つ、また一つ、部屋の時計が目覚めの泣き声を上げてゆく。いつもは止めてる
のもせっかくだから動かしてみたんだよ、なんて得意そうな顔をするフラウの頭を盛大にはたいた。やかましい。
…本当にやかましい。
先ほどまでの感傷的な気持ちはどこへやら。私は立ち上がって、やかましい音を鳴らし続ける時計たちに
駆け寄った。フラウと来たら何を考えたのか、目覚まし時計のアラームをすべて12時に合わせていたらしい。
おぼつかない手で一つを取り上げて、それらしいスイッチをいじくる。…どうしてか、別の音が鳴る。
…なんだ、なんなんだ、もう。自分の情けなさだとか、部屋のやかましさだとかになんだか泣きたくなって、
ふらふらとベッドに戻った。やあおかえり、などとのほほんと笑うフラウをにらみつけて。

けれどもやっぱりフラウは意に介する気配などなかった。はるとまんのばかやろう。いつもいつも言われて
いる言葉を返すように、喉の奥で呟く。けれどもやっぱりフラウと来たら何食わぬ顔で私に紙切れを差し出して
くるのだ。
「はい、トゥルーデ」
ひとまず受け取ってみるとそれは先ほどまでフラウが相手をしていた便箋と同じ色をしていて。
慌てて開く。見慣れたフラウの文字が、目に飛び込んでくる。


"あけましておめでとう。去年はどうもお世話になりました。"


なんだ、とばかりにフラウを見やった。少し照れたように、顔を紅くして笑っている。なんなんだ、わけがわからない。
扶桑ではさ。呟くフラウ。傍らの紙を取り上げる。すべて白紙。どうやらフラウはずっとずっと、私の今手に
持っている紙一枚と格闘していたらしい。何回か書き損じて、もういやとばかりにぐしゃぐしゃと塗りつぶした跡。
なあ、ここには一体何が書かれていたの?

「大好きな人に、一月一日に"絶対"届くように手紙を送る習慣があるんだって。」

一番最初に渡したかったから、待たせちゃってごめんね。そんなことを言うから私は、さっきまで拗ねていた
自分が恥ずかしくなってしまう。…けど、でも、だって。それならそうと、早く言ってくれれば良かったじゃないか。
そうしたら私もお前に八つ当たりすることなんてなかったのに。

「"よろしくね。これからも、ずっと"」

手紙の文面と、フラウの台詞が重なって。なんだか私はとてもとても泣きたい気持ちになって寝転がったままの
フラウの肩口に顔をうずめる。おおお、と声を上げて微かにのけぞって、けれどもすぐに抱きしめてくれることを
私は知っている。いつも私にわがままを言ってばかりの癖に、どうしてかこいつは人を甘やかすのも好む節がある。

腕時計の針はちょうどついさっき0時を回ったところで。実際のところ、フラウは正確な時間を把握していたの
ではないかと思う。ああ、ほらまたひとつ、部屋の時計が泣き声を上げた。いつまで続くかな。まったくもうしかたが
ないな。お前は私がいなくちゃ、ほんとに。

ねえ次はミーナに『ネンガジョウ』を書こうよ。諭すように言ってくるフラウの言葉を否定する。
「いいさ、そんなの、朝やれば」
うん、今はお前がいれば十分だもの。

―――
以上です お姉ちゃんがらしくないのは酔っ払ってるからだということにしといてあげてください
それと、お問い合わせいただいたのでお答えしますと味噌汁も記憶喪失もプロットだけは出来てます
作業に詰まると別の話に逃げるタイプの思考をしているために滞ってしまい申し訳なく

引用: ストライクウィッチーズpart17