465: 2009/01/13(火) 03:37:15 ID:vQ7yos5j



「エ・エイラさん、ちょ、ちょっと・・・いいですか・・・?」


「・・ぶほっ、ナ・なんだヨ、シャーリー・・気色悪い声出しテ・・・」


思わず吹き出したお茶を拭いながら振り向くと、凄い顔をしたシャーリーが居た。
いつも、颯爽とした立ち姿には覇気が無く、髪はボサボサ。
シャツはヨレヨレだし、目の下には大きなクマが出来ている。

「・・・おい、シャーリー、何があっタ? 凄い顔だゾ・・・?」

「い・いやぁ、ちょっと、いっぱいあってな・・・。で、ですね。エイラさん、ちょっと頼みg」

「気色悪イから、それヤメロ。・・・ほら、ちょっと来いっテ・・・」
言いづらそうにしているシャーリーを引っ張って、食堂を出て、空き部屋に入る。

「・・・デ、なんなんダ?」
「・あ、ああ、あのな。エイラs」
「そレ、ヤメナイと帰るゾ」
「すまん、エイラ、一生で一度の頼みがある!!」
すぱんっ、と小気味の良い音をたてて肩を叩かれる。
「い・痛ぇヨ、シャーリー!」
「す・すまん・・・。」
「・・・いいから、デ、なんナんだ?」
「あ、ああ。ほら、明日ってルッキーニの誕生日なんだけどさ・・・」

「・・アア、そういや、ソウダナ」
まぁ、もうなんとなく、予想が付いてしまった。
普段からアレやコレやとルッキーニの世話を焼いているシャーリーのことだ。
ルッキーニ絡みの頼みなのだろう。
まぁ、とてもシャーリーだ。

「ほら、あいつ、私のバイクに憧れててさ。しょっちゅうペタペタバイク触ってさ。いやー、もーその様子が可愛くてさ。この間なんかな・・・」
「・・・帰ってイイか?」
「ま・待て。エイラ! いや、それでな、ルッキーニも大きくなったし、私の部屋に転がってたミニバイクあるじゃん? アレ直してプレゼントにあげよっかって思ってたんだよ。」
「ンー? あー、そういやあったナぁ。アレ、動くのカ?」
居住空間よりもバイクやストライカーのパーツがところ狭しと並んだシャーリーの部屋を思い出す。
そういや、壁に飾りで掛かってた気がする。
あれなら、小さなルッキーニにも乗れるかもしれない。
まぁ、シャーシとハンドルだけしか無かった気がするが・・・。

「エンジンはかかった。」
「いヤ、それ、動くって言わないからナ・・」
「何、言ってんだ。エンジンかかれば、後は何とかなるだろ?」
「・・・何とかなったのかヨ?」
「・・・なってないから、頼みにきた・・・」
頭が痛くなってきた。状況を整理しよう。
明日、ルッキーニの誕生日。
シャーリー、プレゼントのバイクが出来てない。
今は昼。もうしばらくしたら、サーニャも起きてくるだろう。
ヨシ。決まったナ。


466: 2009/01/13(火) 03:38:15 ID:vQ7yos5j
「まァ。応援してルから、頑張ってくレ」
「お・おい、エイラ。待て、待て待て、待ってくれってばー」
踵を返して外に出ようとしたが、回り込まれてしまった。
ルッキーニの事になると必氏になるなコイツ。

「何だヨ。これから、サーニャのご飯、持ってくんだヨ。邪魔すんナ」
「・・いや、そこ曲げてな。・・頼む。他に頼める奴いないんだ!」
「整備兵のドワーフがいるだロ」
「いや、頼んでみたんだけど、私的立場での接触は禁止されています。の一点張りでさ。困ってるんだって!」
「な、な、頼むって!!」
「アー、そういや、そんな規則あったッケ。まァ。頑張レ」
あれだ。シャーリーがルッキーニを大切なのは分かる。
よく分かるが、同じように私もサーニャが大事なのだ。
まぁ、面倒だし。

ということで、さっさとサーn
「分かった! お礼に私の胸揉んでいいから手伝ってくれ!!」
・・・ナンデスト?
思わず、振り返ってしまった。きょとんとした顔のシャーリーと目が合う。
「・・・マジデ?」
「お、おお。勿論だ。手伝ってくれたら幾らでも揉んでも良いぞ!!」
「オオオオ・・!」
たゆんと目の前で揺れるおっOいに釘付けになる。
いやいやいや、待て。待て待て。待つんだ。エイラ。
落ち着け。落ち着くんだ。Koolになれ。
今は何時だ。12時半だ。サーニャが起きてくるのは何時だ? 16時くらいだ。
それまで手伝って、帰ってくれば良いんじゃないか?
だって、おっOいだ。巨Oなのだ。たゆんたゆんなのだ。
ルッキーニのやつが独り占めしてるから、なかなか触れないが、私は覚えている。
そう、あの夢のような感触を!!!!

「・・・で、手伝ってくれるか、エイラ?」
「お、オオ、仕方がないナ。手伝ってやるサ!」
「そうか、じゃあ、早速で悪いが、時間がない。すぐかかろう」
「ン。・・・ああ、でも、あれだかんナ。サーニャが起きてくる時間になったら抜けるからナ?」
わきわきと動いていた両手を握られ、せかせかと急がされて、部屋を出た。
・・・ん、何故ダ・・・。何か凄くいやな予感がすルぞ。


467: 2009/01/13(火) 03:39:34 ID:vQ7yos5j
私の能力は未来予知である。
とはいえ、そんなに遠い未来ではなく、近い未来しか見えない。
そう、だから、この結果を予想できなくたって仕方がないのだ。
「・・・おイ。シャーリー」
「どうした、エイラ?」
「・・・ミニバイクを直すって言ってタよナ?」
「ん? そうだぞ?」
「・・・このゴツいマフラーはなんダ?」
「お、それか? それ、高かったんだぜ。元は私のについてたやつだけどな、高いだけあってイイ品d」
「コのエンジンはなんだ?」
「ああ、それはな○○R500CCって言ってな。MOT○GPで」
「おイ! この、爆破スイッチみたいなのは何ダ!?」
「おお! それなんだ、それが出来て無くてな。そのニトr」
「ミニバイクじゃねーヨ!!!!」
シャーリーの部屋に鎮座した馬鹿でかいミニバイクという名の化け物マシン。
馬鹿でかい車体に、馬鹿でかいタイヤ。やたら厳ついエンジンに、ごつげな排気筒。
怪しげに光る赤いスイッチ。どこをどう見ても、昔、飾ってあったミニバイクの面影はない。

「いや、ほら。スピード出すなら、パワーがいるだろ?」
「ドンダケ、スピード出すんだヨ!! 前のミニバイクのパーツなんかネージャねーカ!!?」
「・・いや、ほら、ここのハンドルの辺りとか。ルッキーニが持ちやすいようにしてだな・・」
「コンナデカブツニ、ルッキーニガ乗れルワキャネーダロ!!!!!!」
「・・・はっ、そ・そうか! ど・どうしよう、エイラ!!? しまった。全く考えてなかった!!!!」
「マッサキニ考工口ー!!!!!」
やばい。頭が痛くなってきた・・・。
シャーリーは、部屋の真ん中でオロオロあたふたしている。
シャーリーって、こんな駄目キャラだっけ?
私の中では、すごい爽やかなキャラのイメージだったんだけどな・・・。

「・・・ミニバイクのパーツはどこダ?」
「あ、ああ、えーと。この辺りに・・・。あー、そっちのミニバイクのこの辺りだな」
「コレをミニバイクと呼ぶナ!!! アー、モウイイ。ほら、とっとと組み直すゾ。早くしロ」
「お・おお。悪いな・・・」
実を言えば、この時、私は油断していたのだ。
私のいやな予感という奴は、コレで終わったのだと、すっかり油断してしまっていた。
本当の悪夢はここからだというのに・!!

**************

「あ・ああ! ま・待て。エイラ!! そんな貧弱なエンジンに返るな!! あー!? なんで、そんな馬力の出ないマフラーにするんだ!?」
「ウルサイ・・・」
「ま・待て。やめろ。辞めるんだ。辞めてくれー!! そのニトロシステムだけは、あーーーー!!!!???」
「ミニバイクにニトロはイラネー!!!」

**************

「・・・ン。静かになったナ。おい、シャーリー、そっちは出来たのカ?」
「・・・」
「・・・シャーリー?
「・・zzZ」
「コラ、シャーリー!!! 寝るナぁ!!!!」


468: 2009/01/13(火) 03:40:17 ID:vQ7yos5j
チチチ。
外からは、早起きの小鳥たちの声が聞こえる。
もう朝だ。外は、うっすらと明るくなってきている。
結局、昨日の昼から、徹夜だ。
まぁ、徹夜した甲斐はあった。

「デ・出来タ・・・。」
「・・・zzZ」
「オイ、シャーリー。出来たゾ。起きロ!!」
シャーリーは、疲れ果てて眠ってしまっていた。
かけてやった毛布の中にくるまって、スースーと寝息を立てている。

「・・・ハァ。仕方のない奴だナ」
まぁ、当然だナ。部屋の中においてあった誕生日スケジュールを見ながら思う。
とんでもないスケジュールだ。
これをこなしているなら、シャーリーは少なくとも3日は、徹夜をしているはずだ。
どれもこれもルッキーニの誕生日を祝うための準備だ。
一番のプレゼントがシャーリーの趣味丸出しな辺りがいかにもシャーリーだけど、分からなくもない。

(私だっテ、サーニャのためなら、これくらいヤッチマウカモな。)
なんてことを考えていたら、サーニャに会いたくなってきた。
昨日はあれから、会えずじまいだったのだ。部屋に置いてきてしまったから、心細い想いをしているかもしれない。
そう、考えると居てもたっても居られなくなってきた。
・・・そうだ。そろそろ夜間哨戒から帰ってくる時間だ。ハンガーに迎えに行って、一緒にサウナに行くのがイイ。
それがいい!! そうと決まれば、シャーリーには起きてもらわなくては困る。

「ほラ、シャーリー。起きロ。起きロッテば」
「・・zzZ。うーん、ルッキーニ、激しいってばぁー」
「起きロ!! この色兎!!!!」
「うおっ! エイラ!? な・なんだ!? なんで、ここにいるんだ!?」
「アー、モー、ミニバイク頼んだんだロ。ほら、そこにあるから、微調整くらいはやれヨ」
「・・・お、おお。 す・すげぇ。 わ・悪い。いや、ありがと。いや、ありがとうございます。エイラさん。」
「・・・気色悪イから、ヤメロって言ってるダロ」
寝起きだからか、あたふたとミョーな事を口走るシャーリー。
半眼でじとーっと、見つめてやったら、おろおろと更に挙動不審になっていく・・。
ソンナノ、イイから、サーニャに会いに行きたいんだけどなぁ・・・。

「いや、あの、感謝してるのはホントだって。まぁ、ニトロは、惜しいけど・・・いや、何でもない・・・」
「え、えーと、・・・あ、そうだ。ほら、胸揉むか? 揉みたがってたろ?」
ピクン、と。耳が出てしまった。
いや、あれだ。これは、仕方がないんだ。生理現象。・・・そう生理現象ナンダ!!
「ほら、遠慮すんなって、今日はすっかり世話になったから、好きにしてイイんだぞ?」
まぁ、あれダナ。これは役得と言っても過言ではないだろう。
だって、あのグラマラスシャーリーの胸を好きに出来るなんて滅多にない。
普段、ルッキーニが独り占めしてるから、これを逃せば、もうほとんどないだろう。
・・・でも。


469: 2009/01/13(火) 03:40:49 ID:vQ7yos5j
「・・・ヤメトク。」
そう言って、私の手を握ろうとするシャーリーの手を押し返した。
「エ・エイラ!? ど・どうしたんだ? らしくないぞ!? 芳香、ルッキーニに次ぐおっOい魔神のお前が!? おっOいを触らないなんて???」
「・・オイ・・・。」
全く、コイツは一体何を言って居るんだ?
私が何時そんなに、おっOいおっOいと言ったと言うんだ。全く。

「・・・アノナ。アレはルッキーニのプレゼントなんだロ」
「あ、ああ。そうだ。」
今は姿形も性能もミニバイクになったミニバイクを指差しながら言う。
「私がシャーリーの胸揉んだの知ったら、ルッキーニいい顔しないだロ」
「いや、まぁ、そうかもしれないけど・・・でもだな」
「ミニバイクの対価がシャーリーの胸だって知って、ルッキーニ、喜ぶカ?」
「・・・」
「プレゼントを汚すナ」
「エイラ・・・」
「ン、分かったカ?」
「・・・お前、イイ奴だな。」
「フン、今頃気づいたのカ?」
「くーっ、いやー、コノ、コノォッ!」
「い・痛ぇ。痛いってルだロ!! シャーリー!!」
シャーリーは力加減を知らない。叩かれた背中がひりひりする。
叩かれた次は、抱きかかえられてしまった。
シャーリーはでかいから、すっぽりと覆われてしまった。
ていうか、おっOい、顔に当たってる。
うわ、やばい。気持ちイイ・・・。
さっき、格好いいこと言ったけど、やっぱ触ってれば良かったカ?

「いやー、もー、私、エイラのそーゆートコ、すっごく好きだわ。・・コノ、コノぉ」
・・・ハ?
「ウリウリウリー」
なんか、不思議な言葉を聞いた気がする。スキ?
なんだ、ソレハ?
というか、なんでシャーリーが私に頬ずりしてるんだ。
いや、それは好きだからだろう。
ハ? 好き? え、好き? ナンダソレハ?
「バ・ババババカ! 何、トチ狂ったこと言ってるんダ、シャーリー!! 離せ、コラ!!!」
「んーー、照れてんのかー? むふふふー、うい奴、ういやつー」
「ウルセー!!! 私はサーニャのとこに帰るんダ!! テメェは、ソレの調整でもしてやがレ!!」
魔力を解放し、強引にシャリーを振りほどく。
こんなトコ、とっととおさらばだ。早くサーニャの所へ行こう。


470: 2009/01/13(火) 03:41:20 ID:vQ7yos5j
「お、オイ、エイラ、待てってば!」
「待たナイ。じゃーナ」
「えーと、ほら!! コイツ持ってけ!」
「アー? なんだこりゃ?」
ドアを開けて、出て行く気満々の私に放り投げられたのはぬいぐるみ。
あんまり可愛くない。なんだ、この不思議物体は。
「ナンダ、コリャ?」
「ネコペンギンだ。」
「イラネー」
「お、おい。投げ返すな。出て行くな、待て待て。 お前が要らなくても、サーニャが欲しがってたぞ」
「・・・ホントカ?」
「ああ、ホントだって、リーネ達と話してたの聞いたんだよ」
「ナンデ、シャーリーが持ってんだヨ」
「・・いや、ルッキーニに買ったんだけど、興味を示さなくてな。人気商品なのに・・・」
「・・・ソレ、ホントニ、サーニャ、欲しがるのカ? 嘘くさいゾ?」
シャーリーの腕の中のそれは、どうみたって、可愛くない。
というか、ぬいぐるみのくせになんだ、そのふてぶてしい目つきは。可愛くないぞ。
「マジマジ。大マジだって。リーネだって、芳香だって、欲しがってたんだからな。コレ。」
「フーン、じゃあ、モラってく」
芳香のセンスは微妙だが、リーネが欲しがっていたのなら、まぁ、人気があるのも本当かもしれない。
私には分からないセンスだけど。
「おう。 エイラ、ありがとな。 この借りは今度返すからな」
「アー? 私の借りは高いんだゼ? ソンなこと言ってイイのか?」
「はっはっは、女に二言はない! ってなぁ!!」
まるで、少佐みたいに笑うシャーリーに見送られながら、外に出る。
「ウオッ!?」
「悪者はやられちゃえ!! ベーっ、だっ!!!」
ばたん。と扉が開くのが待っていたかのようにルッキーニが飛び込んで行った。
私へのアッカンベー付きで。
どうも機嫌が悪いらしい。
まぁ、ルッキーニからしたらシャーリーを取っていたような格好になっていただろうから、当然か。
今日はあいつの誕生日だし、放っておけば、機嫌も良くなるだろう。
それより、サーニャだ。昨日会えなかった分、会いたくて仕方ない。
プレゼントもあることだし、早く行くとしよう。

471: 2009/01/13(火) 03:44:58 ID:vQ7yos5j
※注意。以下の続きは書いてないので、もやもやしたくなければスキップ推奨(サーニャ、絡めるのむずいよー

ハンガーで、しばらく待っていると、聞き慣れたエンジン音が聞こえてくる。
サーニャだ。すぐに分かった。
飛び出していきたくなる気持ちを抑えながら、大きく手を振る。
「サーニャー!!!」
サーニャも私に気づいたみたいで、ホッとした顔を浮かべてる、気がする。遠くて見えないけど。
・・・アレ? なんか、顔を背けられた気がする・・・?、遠くて見えないから、気のせいだよナ?
「サーニャー!!!!!!!?」
ぬいぐるみを置いて、さっきよりも大きな声で大きく手を振った。
・・・え、ト。何の反応もナイのは、遠くて聞こえないし、見えないからなんだ。そ、そうだよな・・・?

「さ、サーニャ?」
降りてきたサーニャは、私、怒っています。という顔をしてる。
アア、怒った顔も可愛いなぁ・・・いや、そうじゃなイ。
なんでか分からないが、サーニャの機嫌が悪いのは良くなイ。
「え、ト。その、コレ。プレゼント・・・」
「・・・」
黙ったまま、ぬいぐるみを受け取るサーニャ。うつむいてて表情はよく見えない。
空気が重い・・・。
「そ、ソノ、サーニャ。もしかして、お、怒ってる?」
「エイラ」
「ハ・ハイ!!!」
聞いたことナイ声を聞いた。
声が凄く冷たい。
スオムスの冬より寒いんじゃないかってくらい寒い。
嵐なんてレベルじゃない。ブリザードだ! 
「・・・昨日、何処に居たの」
思わず、気を付けの姿勢を取ってしまった私に問いかけるサーニャ。
声は相変わらず、氷点下だ。
バナナどころかケフィアで釘が打ててしまう。
「・・・しゃ・シャーリーのトコ・・・」
引きつったような声になってしまった。だ、だって、サーニャの視線が痛い。
冷たいなんてもんじゃない、突き刺さるように痛い。さ・サーニャが怖い・・・。
「一晩中・・・?」
「・・・あ、あア、シャーリーの奴、途中で疲れて寝ちゃったけど、あ、でもそれは、ルxt」
「・・・(ジトー」
「い、いや、え、あの、さ・サーニャ?」
「一晩中、シャーリーさんの胸揉んでたんだ・・・」
「!!!?? ち・チガウ。ま、マテ、サーny」
「エイラ」
「ハ・ハイ!!!」
マズイ。非常にまずい。どうやら、シャーリーとの話を知っているらしい。しかも、中途半端に。
怒っている理由も分かったけど。
サーニャの怒りが半端じゃない。
いつも、眠そうに緩んだおめめが、いまは獲物に襲いかからんとするネコ化の目になっている。
繰り出す言葉はグングニル。
見つめる視線はブリザード。
ああ、でも、そんなサーニャもイイかもしれない・・・。
なんて、甘いことを想っていた。次の台詞を聞くまでは。

「エイラ、大嫌い!!!」
サーニャが去っていく。声をかけなきゃいけない。
チガウって、誤解だって、伝えなきゃ行けない。だっていうのに、私の体は、まるで動いてくれなかった。

**************

「ウジュー。デネ。悪者エイラはね。サーニャにとっちめてもらうよう頼んだから、シャーリーは心配しなくていいんだよ!! シャーリーは、私が守ってあげるんだからね!!」
「くー、ルッキーニイイ子だなぁ!! ・・・ん? サーニャ、悪者エイラ? ヤ・ヤベェ・・・」

548: 2009/01/15(木) 03:38:13 ID:Jf+UPjOD
サーニャが目を覚ましたときには、太陽が西に随分傾いていた。。
(・・・ねむい)
もそもそと、毛布の中に潜り込む。
いつものように、そろそろと隣に手を伸ばす。
恥ずかしがり屋のあの人が驚かないように、ゆっくりと。そっと。
・・ぱた、ぱた。・・けれど、私の手はすっかり冷たくなったベッドを撫でるだけだった。

「・・・はぁ。」
エイラは優しい。すごく優しい。
私がどれだけ甘えても怒らないし、良くご飯をすっぽかす私のご飯の用意をしてくれたりする。
凄く嬉しい。嬉しいのだけれども、私としては、エイラが隣に居てくれる方がずっと嬉しい。
でも、エイラにはそれをちっとも分かってくれない。
私の好きな食べ物、好きな服、いつも選んでいる下着もみんなみんな知っているくせに、どうして分かってくれないのだろうか。
分かってる。
こんな考えが私の我が儘だって事くらいは。
けれども。それでも、エイラなら・・・。と、期待してしまう私はやっぱり悪い子なのだろうか?

私にだってエイラの考えくらいは分かる。
ほら、今、隣に居ないのだって、眠っていた私の食事を取りに行ってくれているから。
エイラは、すぐ私を子供扱いする。
これでも、私は祖国では中尉なのだ。
私にだってちゃんと起きて食事を取ることくらい出来る。
けれども、エイラが私のために持ってきてくれたご飯というのは、何だか特別な気がして凄く美味しいし、
隣で「ウマイカ?」なんて、笑いかけてくるエイラの体にもたれかかるのも大好きなのだ。
それが嬉しくて、ついつい期待してしまって寝坊しているだけなのだ。
ああ、もう・・。どうして、エイラは今ここにいないんだろう?
隣にいてくれれば、ぎゅって抱きつけるのに。

でも、大丈夫。いつもなら、私が起きる頃にエイラは戻ってくる。
幸い、夜間哨戒の時間にはまだ時間がいっぱいあるから、それまでいっぱいエイラに甘えよう。
そんなことを想いながら、エイラの枕をそっと抱きしめて目を閉じた。


(・・・遅い。)
時計の短針が一周しようとしてもエイラは戻ってこなかった。

(何かあったのかな・・・)
急に胸の中を不安が覆う。
会いたい。エイラに会いたい。会って、「サーニャ」って、呼んで欲しかった。
どうして、私のココロはこんなにもエイラでいっぱいなんだろうか?
いつも居てくれる場所にエイラがいないだけで、こんなにも胸が切なくなる。

「・・・エイラ、どこ?」
我慢できなくなった私は、エイラを探しに行くことにした。

549: 2009/01/15(木) 03:38:45 ID:Jf+UPjOD
**************

食堂、ミーティングルーム、ハンガー、サウナ、屋上、水浴び場、エイラがこっそり教えてくれた泉のほとり。
全部、回った。エイラはいない。
なんだか、泣きたくなってきた。
隊のみんなに聞いても、昼時から見ていないそうだ。
(・・・エイラ、どこにいるの?)
そっと、心の中で呟いてみても返事はない。
実を言えば、あと一つだけ心当たりがある。心当たりはあるのだけれども、そこに行くのは凄く恥ずかしい。
ミーナ中佐の部屋だ。
エイラはミーナ中佐のことを凄く信頼している。
だから、もしかしたら、ミーナ中佐の部屋に居るのかもしれない。
2人とも凄く優しい。それも、相手に分からないように優しくするのが得意な2人だ。
きっと一緒に居る。
私のことを雛鳥を見やる親鳥みたいな目で見つめるミーナ中佐にこんな事を聞きに行くのは恥ずかしいけれど、行ってみよう。


コンコン。
「・・サーニャ・リトヴャクです。入ってもいいですか?」
「サーニャさん? どうぞ、入って。」
そっと、扉を開けて部屋に入る。
落ち着いた空気のする部屋の中をさっと眺めるけれど、エイラはいない。
「サーニャさん? どうしたの? まだ、夜間哨戒の時間には早いけれども・・」
「・・あ、え、、と。」
「ん? どうしたの?」
そっと、微笑んで、んーっ、と伸びをするミーナ中佐。
それから、私のことをそっと見つめる。決して、私を焦らしたりしない。
そこにあるのは暖かい視線だけ。
・・・やっぱり、とても恥ずかしい。
「・・・あの、エイラ、来てないかなって・・」
「エイラさん? いえ、今日は朝礼から見てないわね。 エイラさんが見つからないの?」
コクン、と。うなずいて、返事を返す。
恥ずかしくて、顔を上げられない。
だって、ミーナ中佐の声の中には、微笑ましい物を見るようなそんな声の響きが混ざっていたから。
「大丈夫。エイラさんはサーニャさんのこと、とっても大切にしているもの。きっと夜間哨戒の時までには姿を見せてくれるわ。」
「わ、分かりました。すみません。こんなこと、聞いて・・」
いいのよ、なんて、クスクス笑いながら手を振る中佐に見守られながら、部屋を後にした。


「はぁ・・・」
やっぱり、ミーナ中佐は、すごく大人だ。
それに対して私はどうだろう? 1日、エイラに会えなかっただけで、こんなになってしまっている。
なんて、私は子供なのだろうか?
目頭が熱い。気を抜いたら泣いてしまいそうだった。

「アーっ!!! サーニャ、見つけた!!!」
「・・!? ルッキーニちゃん?」
「サーニャ、こっち。こっち来て!!」
「え? え??」
泣きそうになっていた私の手を取って、どこかへ走り出すルッキーニちゃん。どうしたんだろう?

550: 2009/01/15(木) 03:39:16 ID:Jf+UPjOD
**************

「大変だ!! サーニャはシャーリーの胸に負けたぞ!!」
「・・え?」
空き部屋に入った瞬間の第一声がそれだった。

「実はな、さっきカクカクシカジカで。」
「え、エイラ、シャーリーさんの所にいるの?」
ほっ、とした。
エイラはシャーリーさんの所にいるらしい。そういえば、2人は仲が良かった。
あの2人のコンビならハンガーにいることが多いから、シャーリーさんの部屋というのは気付かなかった。

「そうだ! エイラがシャーリーをひとりじ・・・って、サーニャ!? 何処行くの?」
「・・エイラの所。」
「ちょっと待てって、サーニャ、怒らないのか!?」
「なんで?」
「な・なんでって、・・・えーと、えーと、ウジュー???」
ルッキーニちゃんは、頭を抱えてしまったようだ。
なんだかよく分からないけれど、まぁ、いいや。
エイラが居るところが分かったら、ほっとした。
シャーリーさんの部屋はここから、さほど遠くない。
エイラの顔が見たい。エイラのそばにいたい。さぁ、早くエイラの所に行こう。
「さ・サーニャ、待てってば!! サーニャは浮気されたんだぞ!! 悔しくないのか!!?」
なんだか、ルッキーニちゃんが不思議なことを言っている。

「・・浮気?」
「そう、浮気だ!! エイラは、シャーリーの胸に浮気したんだよ!!」
そういえば、エイラは常々言っていた。シャーリーの胸は凄いよな、って。
「サーニャのご飯持ってくの、ほったらかして、シャーリーの胸を揉みに行ったんだよ!?」
私の胸は、あんまり無い。ルッキーニちゃんほどではないにしろ、ぺったんこだ。
エイラは、やっぱり大きな胸が好きなんだ・・。揉んで大きくするって言ってたのに、エイラ、最近全然、揉んでくれないし。豊胸運動でもしようかな・・・。
まぁ、それはそれとして。

「・・・って、なんで、サーニャ、出て行こうとするの!?」
「だって、エイラに会いたいし・・」
「ウジュー!! 私だって、シャーリーと遊びたいのー!!」
(・・・一緒に来ればいいのに・・・)
シャーリーさんも居るんだから一緒に来ればいいのに、なんて思いながら外を見やる。
夕日がまぶしい。すごく綺麗だ。
ああ、もうすぐエイラに会える。そう想っただけでこんなに嬉しくなる。私ってやっぱり子供だ。


「ウジュー。 サーニャ! 手伝って!!」
「・・何を?」
ぼぅっと、外を見ていたら、ルッキーニちゃんが真剣な目で私を見つめる。
「私とシャーリーのらぶらぶ大作戦を!!」
「ら・らぶらぶ?」
「そうだ!! サーニャは毎日してるかもしれないけど、私なんか3日もシャーリーとちゅーしてないんだぞ!!」
「・・ちゅ・ちゅー!? ・・し・してない、ちゅ・ちゅーなんてしてないからっ!」
「ウジュ? なんで?? サーニャとエイラ、らぶらぶ夫婦じゃん。なんでしてないの?」
「・・夫婦・・・。な・なんでって」
なんだか、ルッキーニちゃんが凄く恥ずかしいことを言っている。顔が熱い。
ら・らぶらぶ、だなんて。別に私とエイラは、そんなのじゃない。
そんなのじゃないけれど、シャーリーさんとルッキーニちゃんはたしかにらぶらぶで夫婦かもしれない。
いつも、抱きついたり、キスしたり、大好きなんて言ったりしている。
それを目にする度に羨ましくて、エイラの事をじっと見るんだけれども、エイラときたら、真っ赤な顔で私の髪を撫でるだけ。
それだけで、すっかり嬉しくなって満足してしまう私も私なのかもしれないけれど。


551: 2009/01/15(木) 03:39:47 ID:Jf+UPjOD
「・・サーニャは、エイラとちゅーしたくないの?」
「・・・したい・・・。」
「よし!! 私に任せろ!!! エイラとちゅーさせてやるぞ!!」
「・・ほんと?」
「ウジュ。 そのためには、サーニャの協力が必要なんだ」
「・・ん。どうしたらいいの?」
「いいか、サーニャ。 浮気は悪いことだ。 悪いことをしたエイラは悪い子だ。 悪い子は誰かがしかってやらないといけない!」
「そして、それは、エイラのお嫁さんであるサーニャの役目だ!!」
「・お、お嫁さん、私が、エイラの・・・お嫁さん・・。」
お嫁さん。
お嫁さんだったら、毎日、いってらっしゃいと行ってきますのキスしたり、
2人でキッチンに並んでご飯作ったりとか、
2人で作ったご飯を「あーん」しあったりとかするんだろうか?
「・・・サーニャ?」
「・・ん。なんでもない・・。・・でも、私、あんまり怒ったことないから・・・」
「ウジュ? ちょっと怒ってみて。」

「うん。・・・ぷんすか。」
「・・・。」
「・・・。」
「ニャー!!! そんなので、エイラが反省するかー!!!」
「え、じゃあ、・・・ぷくー。」
「頬ふくらませたって、ダメー!!! そんなのカワイイだけだー!!!」
「・・むずかしい・・・。」
「ウジュー、、、。そうだ! エイラ、嫌いって言うんだ!!」
「・・・そんな、嘘、言えない・・。」
「それくらい言わないと、エイラはまた浮気するぞ!!! サーニャはエイラとちゅーしたくないのか!!?」
「・・・したい。・・・けど、嫌いって言って、どうやってキスするの?」
「何言ってんだ!! 仲直りの証拠にエイラにちゅーさせるんだ!!」
「・・・仲直りのキス・・・?」
「そうだ! どんなに喧嘩したって一発で元通りの魔法のちゅーだ!!! したくないのか、サーニャ!」
「・・・したい。」
「じゃあ、言うんだ!!」
「うん。じゃあ・・・エ、エイラなんか、嫌いっ!」
「・・・。」
「・・・。」
「チッガーウ!!! それ、ツンデレのツンの時の顔! しかも、ちょっとデレがまじってるじゃんかー!!!!」
「・・・ルッキーニちゃんの言うこと、むずかしい。」


**************


ルッキーニのらぶらぶ大作戦は、ほぼ予定通りに進んだ。
予定通りと言うよりは、予想以上の結果が、ここにあった。
「エイラ、嫌い」
「ば、ばっちりだ・・・」
・・・どう? と、首をかしげるサーニャにルッキーニはちょっと怯えながら答える。
(・・・というか、サ、サーニャ、怖い・・・。ミーナ中佐より怖い・・・。)
ルッキーニの指導の元、怒り方を追求した結果、なんだか想像以上の出来となったサーニャがそこにいた。
「・・・怒った後は、どうしたらいいの?」
「ウジュ? うー、部屋で待ってたら、エイラ謝りに来るんじゃない?」
「そうかな?」
「そうだよ。・・・サーニャ、忘れるなよ! エイラが謝るまで甘い顔見せちゃダメだからな!」
「うん。・・私もエイラとキスしたいから・・・」
「ウジュ。・・・そういや、サーニャ。夜間哨戒は?」
「・・・あ。 行かなきゃ、遅れちゃう・・・。(・・結局、エイラに会えなかった・・。)」


552: 2009/01/15(木) 03:40:18 ID:Jf+UPjOD

(・・・完璧!!)
ルッキーニは、自分の計画に実に満足していた。
今の状況はおかしい。
ルッキーニとシャーリーがらぶらぶで、サーニャとエイラがらぶらぶなのが本来の姿だ。
悪いのは、シャーリーを誑かしたエイラだ。
悪いエイラを正すのは、夫婦であるサーニャの役目だ。
かわいそうなシャーリーを助けるのは、シャーリーの婿であるルッキーニの役目だ。
これで、ハッピー! みんなハッピー 完璧だ!!
うきうきした気分で、シャーリーの部屋の前に着く。
耳をぴとっと当てて中をうかがう。
・・・まだ、シャーリーはバイクに夢中みたいだ。
シャーリーはバイクが大好きだ。もしかするとルッキーニよりも好きなのかもしれない。
でもでも、いいのだ。
ルッキーニは12歳だから、大人なのだ。大人だから、シャーリーがルッキーニの方を向いてくれるまでちゃんと待てるのだ。
振向かせなくちゃいけないときもあるけれど、今はそうではない。それくらい、ちゃんと分かるのだ。

そうして、ルッキーニはシャーリーの部屋の扉が開くのをじっと待つことにした。


かちゃり、とドアが開いた。
(!!! 開いた!! シャーリー!!!)
出てきたのはエイラだ。早く出て行けばいいのに何やらシャーリーと話をしてる。
どこかで見たようなぬいぐるみを持って、ようやく出て行くエイラ。
もはや、ルッキーニが待っている理由なんて無い。シャーリーの所に行くのだ!
おっと、悪いエイラには、こうだ!!
「ウオッ!?」
「悪者はやられちゃえ!! ベーっ、だっ!!!」
疾風迅雷。先制攻撃で出鼻をくじいて、扉を閉める。後は、サーニャがやってくれる。

「シャーリー!!」
「おお、ルッキーニ!!」
ぎゅぅっと、シャーリーの体を抱きしめる。シャーリーもぎゅっと、ルッキーニのことを抱きしめてくれる。
やっぱり、シャーリーはシャーリーだ。ルッキーニの大好きなシャーリーだ。

「グシュグシュ。寂しかったよ、シャーリー。」
「おお、ごめんよ、ルッキーニ。今日はずっと一緒にいるからな」
「・・ホント?」
「ホント、ホント。ほら、コイツを見ろ」
シャーリーの指差した先を見ると紅くて大きかったバイクが、小さくなっていた。ルッキーニでも乗れるくらいの大きさに。
「ルッキーニ、私のバイク見て、いいなぁ、って言ってたろ。 ほら、こいつが誕生日プレゼントだ」
「・・わ、わたしの?」
「そうだ。ルッキーニのだ。」
「シャーリー・・・。・・・大好き!!!」
「あはは、くすぐったいてばっ。」
・・・愛してるのちゅーをしながら、ルッキーニは思う。シャーリーはやっぱりルッキーニのことが大好きだった。
ルッキーニもシャーリーのことが大好きだ。

そうだ。シャーリーに悪いエイラをとっちめてやったことを教えて上げよう。
「ウジュー、シャーリー、聞いて聞いてー」
「ン、どうした、ルッキーニ?」


553: 2009/01/15(木) 03:40:59 ID:Jf+UPjOD
**************


ゴンっ!!
「シャーリー痛い!!!」
シャーリーにぶたれた頭をさすりながら言う。けれど、シャーリーはむすっ、とした顔のままだ。
「シ、シャーリー?」
「ルッキーニなんて、嫌いだ」
「・・・ッ!!!?」
ガンっ。音がしたみたいに思えた。さっきぶたれた頭なんかよりずっと痛い。
シャーリーに嫌われてしまった。せっかくの誕生日なのにシャーリーに嫌われてしまった。
「ウジュ、シャーリー、嫌わないでー(グジュ 」
「ああ、ほら、冗談だって。好き、好きだよ。ルッキーニ。好きだから、泣くなって」
(・・・アレ?)
そういって、ルッキーニを膝の上にのせるシャーリー。さっきまでのむすっ、とした顔はどこかに行ったみたいだ。
「ほら、ルッキーニ。好きな人から嫌いって言われるのは、悲しいだろ?」
「・・・うん。」
「ルッキーニは、サーニャにそれを言わせようとしたんだぞ?」
「ウジュ・・ゴメンナサイ・・・。」
「うん、分かればいい」
「ウジュ、デモね。シャーリー。」
「うん?」
「ルッキーニね。みんなが、ね。ハッピーになれるようにしたかったんだよ? 私とシャーリーがらぶらぶで、サーニャとエイラがらぶらぶなのが、一番なんだよ?」
「うん。分かってるさ。ルッキーニは、とびきりの良い子だからな」
「・・・うん。えへへ。」
「・・・でも、ルッキーニ。」
「ウジュ?」
「・・・・・・半分は八つ当たりだったろ。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・ウン。(ゴンっ) シャーリー、痛いー!!」
「ほら、エイラとサーニャに謝りに行くぞ」
「ウジュー」


ハンガーに着くとエイラが居た。なんか、サーニャのストライカーの前で突っ立ったまんまである。
「おーい、エイラー!!」
「ウジュ、エイラ?」
反応がない。仕方がないから、シャーリーと二人してエイラの前にのぞき込んだ。

『・・・うっ。』
思わず、引いた。引いてしまった。
そこにエイラは立っていた。いつもの軍服にいつもの髪型。いつものエイラだ。ただ違うのは。

泣いていた。
エイラは、ぽろぽろと大粒の涙をこぼして泣いていた。
顔をくしゃくしゃにして泣くのではない。いつもの無表情な顔に、ぽたぽた、ぽたぽたと止まらない涙で頬を濡らしている。
「お、おい。エイラ? だ、大丈夫か・・・」
問いかけるシャーリーの声も、魂(さーにゃ)の抜けたエイラには届かないみたいだ。
体はサーニャで出来ている。
血潮はさー・・・違う。変な物を受信してしまった。

「エ、エイラ。しっかりしろ、エイラ!?」
「・・ア。 ~~~~~~!?」
「お、おい。エイラ!? ま、待てエイラ!! ・・・は、速い。」
シャーリーに揺さぶられることで、エイラの目が焦点を結んだ、と思った瞬間に、エイラは、顔を伏せる。後ろを向く。走り出す!!
速い。とにかく速い。シャーリーが感心するほど速い。あっという間にエイラはいなくなってしまった。
「ウ、ウジュ。まだ、謝ってない・・・。どうしよ。シャーリー」
「ど、どうしよっか・・?」

554: 2009/01/15(木) 03:41:37 ID:Jf+UPjOD
**************


サーニャは、エイラの部屋に居た。
エイラからもらったぬいぐるみを胸に抱いて、ベッドに横になっている。
夜間哨戒明けでとても眠たいけれど、エイラが戻ってくるまで待っているつもりだった。
(エイラ、大嫌い)
さっきは、エイラにひどいことを言った。ルッキーニちゃんの作戦なのだけど、やっぱり大好きなエイラに嫌いと言うのは辛かった。
本当は、凄く嬉しかった。
ハンガーで私を待っていてくれたのが、
嬉しそうに手を振ってくれたのが、
欲しかったぬいぐるみをくれたのが、
サーニャって名前を呼んでくれるのがとても嬉しかった。
だから、早く仲直りがしたかった。ルッキーニちゃんの言うところの仲直りのキスがしたくてたまらなかった。
(・・・エイラ、早く帰ってこないかな・・・。)
なかなか戻らないエイラを待ちながら、ぬいぐるみをぎゅっとする。
たぶん、エイラは知らない。私がこのぬいぐるみを気に入った理由を。
私が気に入ったのはぬいぐるみの目だ。
真ん丸の目に\/のまつげ。・・・ほら、エイラそっくり。
エイラの代わりに頬ずりする。こうすると、エイラはいつも真っ赤になる。
ああ、早く返ってこないかな、エイラ。

コンコン。
ノックの音が鳴った。
「エイラ!」
思わず、嬉しそうな声が出てしまった。いけない。まだ、私は怒っていなくちゃいけないのに。
「いや、シャーリーだ。エイラ、居るか?」
「・・シャーリーさん?」
意外な人が来た。ドアを開けるとルッキーニちゃんも居た。
なんだろう。ルッキーニちゃんの顔が暗い。なんかイヤな予感がする。
「エイラなら、まだ戻ってないけど・・・」
「ウジュー。」
「あー、そのサーニャ、あのな・・・」

***  事情説明中  ***

「すまん。」「ウジュ、ごめんなさい」
「・・・。」
事情を聞いた。
どうしよう。私はエイラを傷付けてしまった。エイラはいつも私のために必氏なのに。
それなのに、私は、私の我儘のためにエイラを泣かせてしまった。
エイラが泣いた所なんて、一度も見たことが無い。そのエイラを泣かせてしまったのだ。
やっぱり、私は子供だ。なんだか、自分が嫌になってきた。
「さ、サーニャ、ほら泣くな。泣くなって。」
「そ、そうだぞ。サーニャ。サーニャが泣いてちゃ、エイラも泣いたまんまだぞ!!」
「・・えぐっ。・・・エイラ、どこ? 謝らなきゃ・・・」
「・・それが、今探して居るんだが、見つからなくてな・・・。」
「ウジュー、隠れ家いっぱい見たけど、どこにも居ないー」
「・・・私も探す。」
「そ、そうか。私たちも探して見付けたら連絡するから。」「ウジュー、エイラ隠れるの上手い、見つからないよー・・・」
シャーリーさんたちは、慌ただしく去っていった。
こぼれる涙をぬぐいながら私も立ち上がる。
辛い。エイラを泣かせてしまったのが、凄く辛い。けれど、エイラはもっと悲しかっただろう。
すごく優しいエイラだから、その分、傷付いているに違いない。
早く、早くエイラに謝らなくては・・・。



555: 2009/01/15(木) 03:42:08 ID:Jf+UPjOD

「・・・はぁはぁ。」
夜間哨戒前に回った全ての箇所を回った。みんなの部屋も回った。
居ない。エイラは、どこにも居なかった。
(・・・エイラ。・・・ドコ?)
あふれ出る涙をもう抑えられなかった。後悔がいっぱい胸に溢れてくる。
エイラはいつも私を助けてくれていた。なのに私はエイラに迷惑をかけてばかりだ。
どこでだって寝てしまう私をちゃんとエイラは見付けてベッドまで運んでくれる。
それなのに、私は、今、エイラを見付けることが出来ない。
(・・・私の能力でエイラを見付けることが出来たらいいのに・・・)
私の能力は大きな物を探すのにはとても役に立つ。けれど、人みたいな小さな物を見付けるにはすごく不向きだ。
試しに、魔力を解放してみても全く、エイラの行方は分からなかった。
(・・能力!?)
居た。エイラを確実に探し出せる能力を持った人が。
私は、その人の元に走った。


「お願いします! エイラを、エイラを見付けたいんです」
「・・・サーニャさん。」
飛び込んできた私を驚いた目で見つめるミーナ中佐。
そう、ミーナ中佐の魔法は、「聴力を高め、遠くの声や気配を知る」ことだ。
今のエイラはきっと泣いているから、ミーナ中佐なら見付けることが出来るはずだった。
けれど、
「サーニャ・V・リトヴャク中尉。 自分が何を言っているか分かっているのですか?」
「は、はい。 魔法を私用で使ってはいけないのは、知っています。けど・・」
「分かっているのなら、理解しなさい。リトヴャク中尉。」
「で、でも、エイラを見付けたいんです。 私が、私がエイラを傷付けてしまったから、謝らないと・・・」
「・・・リトヴャク中尉。それは、全てあなたの個人的な理由に過ぎません。そんな理由で、規則違反を見逃すことは出来ません。」
「・・・。」
「今の話は不問にします。・・退出してよろしい。」
「・・はい。申し訳、ありませんでした。」
ダメだった。当たり前だ。ミーナ中佐は部隊長だ。その人に規則を破れと言うのが無理なのだ。

とぼとぼとドアに手をかける。
手をドアノブにかけたところで声がかかった。
「・・・リトヴャク中尉。」
「はい。」
「今から独り言を言いますが、聞き流すように」
「・・え?」
「エイラさんは、南の第2倉庫に居るわ。まだ、泣いているみたいだから早く行ってあげなさい。」
「ミーナ中佐・・・。」
そっと、柔らかな声がかけられる。
目頭が熱い。やっぱり、ミーナ中佐はいい人だ。エイラと同じで分かりづらいけれど、とても暖かい人だ。
「ありがとうございます!」
「・・ただの独り言よ。 ほら、早く行きなさい。」
ありがとうの気持ちがいっぱい伝わるように大きく声を上げて、私は外に出る。
背中にはいつもと同じ暖かい視線を感じる。
いつもは恥ずかしいそれが、今は凄く嬉しく感じる。
・・エイラ。すぐに行くから!


**************


556: 2009/01/15(木) 03:42:56 ID:Jf+UPjOD
バタンと、大きな音を立てて扉を開ける。
「エイラ!!」
「(ビクン!!)・・ヒック。」
かすかに、しゃくりあげるような声がした。良かった。エイラはここにいる。
「エイラ、ごめんなさい。さっき、嫌いって言ったのは嘘なの!」
「ぬいぐるみ、ありがとう。 ホントは凄く嬉しかった。 エイラがハンガーで待っててくれて、ホントに嬉しかった。」
「だから、エイラ。私のこと、嫌いにならないで・・・」
「・・・ヒック。・・・サーニャ・・・。」
「サーニャ!!!」
顔をしわくちゃにしたエイラに体当たり気味に抱きしめられる。
エイラの腕の力がいつもよりずっと強い。離さないと言われているみたいで、凄く嬉しい。
私も負けずにエイラの背中に腕を回して、ぎゅっと抱きしめる。
「・・・ヒック。サーニャ、私のこと嫌いになったりしテない?」
「嫌いになるわけ無いよ。・・・エイラ。ごめんね。嘘ついて。・・・その、エイラ、私のこと嫌いになってない?」
「ナルワケナイ・・・ヒック」
ああ、ごめんなさい。お父様。お母様。サーニャは、悪い子です。
エイラを泣かせたのは、私なのに。泣いているエイラを見て、凄く可愛いなんて考えています。
でも、可愛いんです。いつも勝ち気な目が涙で潤んで、不安そうに私を上目遣いで見つめるエイラは、記録集に載せたいくらい可愛いんです。
嫌いになるわけないって、言ってくれただけで飛び上がりそうなほど嬉しいのに、ルッキーニちゃんが教えてくれた魔法を使おうとしている私は、やっぱり悪い子ですか?
「・・・ね。エイラ。仲直り、しよう?」
「・・・ウン。」
小さな声でうなずくエイラ。・・・やっぱり、可愛い。いつもの格好いいエイラもいいけれど、可愛いエイラもすごくイイ。
ああ、私、浮かれてしまってる。いいんだろうか?
「じゃあ、仲直りのキス・・・して?」
「・・・エ?」
「仲直りのキス」
「////・・・サ・サーニャ? ハ、ハナシテ ソ・ソノ、チカイ・・・。」
「やだ」
そんな小さな声でもがいたってダメなのだ。昨日から、ずっとエイラに会えなったから、私にはまだまだエイラ分が足りない。
もっともっと、エイラで私の中をいっぱいにしてもらわなくちゃダメなんだから。
「キス」
「////・・・サ・サーニャ。」
「キス」
「/////////////」
エイラは、真っ赤になってしまった。涙で潤んだ恥ずかしそうな瞳に、紅く染まった色白の肌が凄く色っぽい。
ああ、さっきはあんなに可愛かったのに。今度はこんなに綺麗だ。エイラは、どうしてこんなに素敵なんだろうか?
「キス」
「////・・・メ、トジテ」
4度目のおねだり。
エイラの胸の辺りから伝わる心臓の鼓動はドクドクとすごい音を立てている。
私の心臓の音も同じだ。すごくドキドキしている。
顔が熱い。エイラがその気になってくれた。ホントにキスしてくれるなんて、思ってなかった。
だって、エイラはいつもするりとかわしてしまうから。
心臓の音がバクバクうるさい。
エイラの顔がゆっくりと近づいてくる。
そっと、くちびるが重なった。

あったかい・・・。
エイラのくちびるは暖かかった。
いや、私が冷え切っていたみたいで、それに気付いたエイラがそっとくちびるを動かして、はむはむと私を暖めていってくれる
弾力があるのに吸い付くような感触。
くっつけるとむにむにとしていて、遠ざけるともちもちとしている不思議な感触。
ぽーっとなって、すごく気持ちいい。
「////・・・メ、トジテッテ イッタノニ」
ぽーっとなっていたらエイラをじっと見つめてしまっていたみたいで、エイラににらまれてしまった。
でも、大丈夫。私にはとっておきの魔法を持っているから。
「・・・ごめんね。エイラ。・・今度は私から、仲直りのキスするから・・」
「////・・・ウン」                               

 Fin

引用: ストライクウィッチーズpart17