1: 2009/10/14(水) 15:56:52.38 ID:czgBrG4o0
ハルヒ「スウィートホーム!」 でも可

第一回
ハルヒ「そういうわけで、今日は廃校探検!」【前編】
第二回
ハルヒ「そういうわけで、今日は廃校探検!」【中編】
うん、書き溜めはね、ちょっとだけできた!
六分間隔で書きながら溜まり分投下してあとは氏ぬ気で書きまう
涼宮ハルヒの憂鬱(1) (角川コミックス・エース)

2: 2009/10/14(水) 16:03:41.35 ID:czgBrG4o0

―――異次元空間 『鏡の回廊』

キョン(あのクソッタレ噴水部屋から抜け出して、三十分くらいが経っただろうか。
    ようやく、ハルヒと朝比奈さんが、落ち着きを取り戻してくれた……しかし、まだとても本調子とは言えないな……)

ハルヒ「……ごめん、もう大丈夫よ……先、進みましょ……」

長門「……この空間は、鏡にさえ近づかなければ、安全。まだ休んだほうがいい」

ハルヒ「……ありがと。でも、いいわ。こんな血だらけのところで休んでても、気なんか休まらないしね……」

キョン(そう……噴水の水が『血』に変わると同時に、それまで、この回廊の壁や、地面をぬらしていた『水』も、全部『血』に変わっちまいやがった。
    たしかに、リラックスの為の休憩に適してる環境じゃねえわな、こりゃ……
    だが、問題は……ハルヒや朝比奈さんが『動揺』を引きずったまま進むのは、まずい気がする。『心の力』に影響するかもしれねえ……)

ハルヒ「これは、こういう『作戦』なのよ、あの亡霊の。あたしたちの気をすり減らして、進む元気を奪おうってんだわ。
    姑息なやつ、こういう陰湿なのって大っ嫌い! さすが怨霊ね……ここで、へばってたら、アレの思う壺よ。進みましょう、みんな」

みくる「すいません、私ももう、大丈夫です……ちょっと、び、びっくりしちゃったけど、もう、落ち着きました……」

キョン(二人とも、洋服が真っ赤だな……ま、そう言う俺らだって、背中やらズボンの裾やらにしみこんだ『水』が『血』になりやがった所為で、十分血まみれだけどよ。
    ……それに、この二人もそうだが、古泉も。あの『日記』を手に入れてから、何か様子がおかしい……)

古泉「……そうですね。『フレスコ』の言う、『緑の扉』も探さなければなりませんし……休むにしろ、何かほかに、適した場所を探したほうがいい。
   では、もう五分ほど経ったら、出発しましょう。……」

キョン「ああ……ところで、古泉。お前、何をメモしてたんだ?」

古泉「ああ、これですか……僕らの装備を確認していたんですよ。現段階での、ね。よろしければ、どうぞ」

4: 2009/10/14(水) 16:10:07.81 ID:czgBrG4o0
・武器、武器になりえる物
 ナイフ×2、木刀×1、ロープ(登山用)×2
 魔よけの斧(重い)×1、魔よけの槍×1

・その他
 懐中電灯×10(現在5本使用中、フレスコに必要。切れれば朝比奈さんの力で代用可能?)
 安全靴×2(女性サイズではない、ネバネバを回避) ライター(長門さんの力で十分? 温存のためにはある限りは使ったほうが?)
 ハンマー×1(岩対策。武器としては微妙?)
 食料(節約すれば5日ほどは保つ?)
 日誌(鍵つき、重要な手がかり?)

・心の力(発展の可能性大。精神状態によって弱化・強化の可能性? 多用すれば精神疲労する)
 回復、攻撃(突風? 威力大) - 涼宮さん
 炎(かなり自在。鎧には効かない) - 長門さん
 超能力(飛行は無理、エネルギー弾のみ、威力は中程度) - 僕
 みくるフラッシュ(発光、幽霊には効果アリ)、みくるスポットライト(強いライト※長時間は体に負担?)
 みくるテレスコープ(双眼鏡程度? 便利) - 朝比奈さん
 シールド(力の加減や大きさ、形状が自在か不明。今のところ最高記録…一分ほど続いた鉄砲水を受け流しきった→威力・範囲大?) - 


キョン「……何で俺の名前だけ書いてないんだ」

古泉「いえ、今丁度、その部分を書いて、一通りまとまるというところでしたので。
   すこしでも、落ち着かなくてはならないと思い、記してみただけですよ。現状を見直すというのは、冷静さを取り戻せるものです」

キョン「……そういうもんかね」

古泉「……正直、自分でも何故、こんなに取り乱しているのかわからないんです」

キョン「こんな状況だ、誰だってちっとは参るさ」

6: 2009/10/14(水) 16:18:18.27 ID:czgBrG4o0
古泉「……ええ、それはわかっています。ですが……今、僕は冷静でいなければいけない……
   涼宮さんが、こんな異常現象に、露骨に遭遇するのは初めてでしょう。彼女はかなり疲弊しているし、恐怖だってある。
   朝比奈さんも、もともとこういった荒々しい事に向いた方でもありません。
   僕や長門さんが、それをフォローしなければ……」

キョン「……そう気を張るから、余計まずいんだろ。お前がいくら場慣れしてるっつったって、ここはまるっきりのアウェーだろうが。
    自分を無理に冷静にしようとしたって駄目だ、マジの意味で落ち着かなきゃな。ま、この状況でどう落ち着けってのかってのもわかるが……
    フォローできるやつがフォローすりゃいい。んな状況じゃねーというかも知れねーがよ、無理に気合入れて空回りしちまったら、余計嵌るぜ?
    少なくとも、長門はそれほど参っちまってはいないようだし、俺だって今は無力じゃねーんだ。そこらのザコ敵にむざむざ食われちまうほどの弱小パーティーじゃねえ。
    だからよ、もう少し気ぃ抜いとけ……? 何だよ、その目は」

古泉「……いえ、なんというか……こういう言い方は、何ですが、まさかあなたに諭されるとは思わなくって」

キョン「……えらそうな事言って悪いな」

古泉「いえ、そんなことはありません。……むしろ、少し、落ち着きました。
   ……しかし、正直、不思議だ。長門さんはわかりますが……あなたがこれほど、精神力の強い方だとは思っていませんでした」

キョン「そうかい」

キョン(……まあ、否定しない。正直、俺自身、どうしてこんなに落ち着いているのかわからんしな。
    ただ、何だ。……何の所為なのかわからんが、こう……『恐怖』というものを、今ひとつ感じないんだよな、いつからか。
    いや、もちろん、この先に何が出るか、どんな化け物が出るかと想像したら、怖いさ。また、噴水みてーなドッキリにいつ会うかとも思ってる。
    しかし、なんだ? とてつもなく妙な言い方だが……何かが常に、俺を『安心』させているような気がする……
    馬鹿な。こんな、イカレた亡霊の怨念にあてられながら、いったい何故『安心』なんぞを感じられるというのか。……しかし、実際感じているんだよな、これが。
    ……俺、なんか、悪いものでも食ったっけ……?)

ハルヒ「よし……そろそろ、五分でしょ。行きましょう、みんな。えーっと、『緑の扉』だったわよね」

古泉「はい。たしか、こちらから参りましたから……次は、この先ですね。『鏡』には注意してくださいね。では、行きましょう」

7: 2009/10/14(水) 16:27:02.01 ID:czgBrG4o0

キョン(―――歩くこと、数分。『道』は突然行き止まりとなり。その少し手前の壁に、『扉』があった)

古泉「……大丈夫です、向こう側からは、何の気配も感じません。少なくとも、『水』が溜まってるだとかは無いでしょう」

ハルヒ「よし、あけるわよ……ていっ!」



―――異次元空間 『緑の扉の部屋』


キョン「! おい、あるぞ、『緑の扉』だ……ついでに、『フレスコ画』もあるぜ」

古泉「……狭い上に、大して物も無い。安全なようですね……『模様』もありません」

ハルヒ「よし、まず『フレスコ』よ……ん、これね……また、高いところにあるわね。みくるちゃん、お願い」

みくる「あ、はい……えっと、読みますね」 キュウウウウン


『悲しみの血は、緑の扉を開く』


ハルヒ「血……? って、もしかして、この扉、開かないの?」

ガチャガチャ

キョン「の、ようだな……『血』っつーと、やっぱさっきのを思い出すが……
    まさか、アレをここまで汲んで来いってんじゃねーだろーな……さすがに勘弁して欲しいんだが」

8: 2009/10/14(水) 16:33:17.10 ID:czgBrG4o0
ハルヒ「う……で、でも、血って言ったらやっぱあれなんじゃ……まさか、ここで生き血をささげろってんじゃないでしょーし……」

キョン「第一、汲むったって何で汲みゃいいんだ? ボトルは満タンだしよ」

古泉「……満タン、ですか?」

キョン「ああ、俺のボトルと、ハルヒの水筒しか空いてなかったろ? それには、さっきの噴水で水を汲んじまっ…………」

ハルヒ「……水筒? ……あきゃあああっ!?」ババッ  ゴトンッ ゴロンゴロン……

キョン「……そいや、アレ……当然、あの噴水の水なら……」

古泉「……け、結果オーライとしましょう。汲んでくる手間が省けましたし……」

キョン(……俺はなんつーもんをバッグに突っ込んでたんだ……)

ごそごそ

キョン「あ、ああ、やっぱり、ボトルの中身が真っ赤っかだぜ……このボトル、もう使えねーな」

ハルヒ「あたしの水筒もよ! どうしてくれんのよ、馬鹿!」

キョン「汲めっつったんはおめーだろうが! いいから、お前と朝比奈さんは、回れ右しとけ! トラウマ穿り返されてもしらねーぞ!」

ハルヒ「う……そ、そうね。じゃあ、お願い……」

キョン「……安直だが、これしか考えつかねーし、とにかくやってみるかね……」
ドポドポドポドポトポトポトポ

キョン(……水にはねえヌメっぽい音が、気持ちわりい……)

9: 2009/10/14(水) 16:40:22.11 ID:czgBrG4o0
長門「……扉の色」

キョン「あ? ……! なんだこりゃ、血が掛かってねえところまで……『赤』くなってくぞ」

古泉「どうやら、アタリのようですね……おそらく、これでこの扉の向こうへの道が開けたのでしょう」

キョン「あ、ああ……おい、二人とも、もう大丈夫だ。このボトルは……捨ててくか」

みくる「あ、はい……わ、と、扉が真っ赤に……」

ハルヒ「ちょっと、大丈夫なの? 『眠るべき場所』は緑の扉の先なんでしょ? これじゃ『赤の扉』じゃない」

キョン「どこの一休さんだよ、んな難癖つけるのは……『フレスコ画』がこうしろっつったんだから、いいんじゃねーのか?」

古泉「……『眠るべき場所』が、あなたの予測したとおりなら、この先は『グラウンド』に繋がっているはずです……気をつけてください、また『犬』が出るかもしれません」

長門「問題ない。焼き尽くす」ボッ

古泉「い、いえ、脅かすくらいで問題ないと思いますが。……では、開けましょう……行きます」


ガチャ


キョン(これは―――やっぱり、俺の見たあの塔……『ここ』が、『眠るべき場所』―――!
    しかし、其れより目に付くのは……この『壁』みたいのは、何だっ!?)



―― グラウンド 供養塔エリア

12: 2009/10/14(水) 16:47:59.24 ID:czgBrG4o0
ハルヒ「……砂があるし、土もあるわ。確かに、ここは『グラウンド』みたいね……空も見えるわ、薄暗いけど。
    でも……ここら一帯を覆ってる、これって何? なんか、太い毛糸で編んだ『編み物生地』みたい……」

みくる「まるで、校庭のネットみたいに、高くまで続いてますね……こんなの、前に見たときは無かったのに」

古泉「……これは、『魔封じの紐』と同様のものですね。しかし、これだけの太さと、量……
   長門さん、ためしにこれを『燃やそうと』して見てくれませんか?」

長門「わかった」ボッ ギュンッ

ドォンッ …………シュウウウウ……

キョン(! 一瞬、表面がうっすら焦げたようには見えたが……すぐに元通りになっちまいやがった)

長門「……あの『亡霊の力』によって、護られている。おそらく、最大火力をぶつけても、小さな穴程度しか開かない。それも、すぐに再生すると思われる」

古泉「なるほど……ひとまず、こいつを破るのは難しいようですね。
   ……ならば、この『眠るべき場所』……『供養塔』を調べましょう」

キョン(『供養塔』……そうだ。俺が昇降口から見たのは、確かにこれだ。
     しかし、妙な塔だ。見た感じじゃ、むしろ石の柱のような……いくつものでかい石を積み上げて、無理矢理固めたような形をしてる。
     こんな形の石が、天然でできるわけもねえ。しかし、誰かが造ったものにしちゃ、前衛的すぎる……大体、誰を供養しているのかも書かれていねえ)

みくる「この『塔』が、あの『亡霊』さんが眠るべき、『お墓』なんでしょうか……
    ? あっ、あそこ……見てください、この『供養塔』、掘り返されてます!」

キョン「! 何だって……?」

古泉「―――あ、ほ、本当です! この塔の横の地面、『穴』が掘られている……
   まさか……あの少女が『亡霊』となってしまったのは、これが原因なのか……!?」

14: 2009/10/14(水) 16:54:13.22 ID:czgBrG4o0
キョン(誰かが、この墓を荒らしたから……あの『亡霊』は、よみがえOちまったってのか?)

ハルヒ「キョン、『ライト』を頂戴! この穴に、何かが残ってないか調べるわよ!」

キョン「! ああ……こりゃ、結構深いな。斜めに掘られてやがる、この『塔』の下まで続いてても、確かに、おかしくないな……
    えっと、よし、点いた……」

ハルヒ「……何も、見つからないわね。ただの穴だわ、一番奥まで。普通、『お墓』なら、ただ埋めるだけじゃなくて、事前にお骨を入れるスペースを作るわよね?」

キョン「ああ、そのはずだ……やっぱ、この墓はおかしいぜ。この奇妙な供養塔といい、この穴の感じといい……
    ……! ちょっと待った、今、穴のそこで、何か光ったぞ……」

ハルヒ「え……? ! 本当だ、何か落ちてる! キョン、取れる?」

キョン「やってみる……ん…………! 取れた……こりゃぁ―――『鍵』だ!」

古泉「っ―――『鍵』! まさか、この『日誌』の―――ッ!!?」


  「いいや、違う。それは、この『学校』の『地下室』の鍵だ」


キョン(―――誰だ? 今、喋ったのは。男の声だ。しかし、俺でも古泉でもねえ―――)

古泉「ッ――皆さん、後ろですッ!!」 ボッ

ハルヒ「っ、誰ッ!? 『敵』なのッ!?」

キョン(ハルヒや、古泉たちに遅れて、声のしたほうを振り返る―――
    ……俺たちのやってきた、扉の前。そこに立っていたのは―――見たところ、40前くらいの、中年の男だった)

15: 2009/10/14(水) 17:02:42.07 ID:czgBrG4o0
長門「……『亡霊』ではない、『人間』」

キョン「! 人間、だって……? 俺たちと同じ……『生きている』ってのか!?」

男「ああ。私は、君たちと同じようなものだと思ってくれていい」

古泉「……それは、つまり。この学校に迷い込んでしまい、脱出しようとしている……そういう事ですか?」

男「……その通りだ」

ハルヒ「あたしたちのこと……尾けてきたの!?」

男「いいや、それは違う……私は、君たちを待っていた。そう言った方がいいだろう……」

キョン(待っていた、だって……? まさか、この人……)

古泉「……あなたは、いつから此処に?」

男「……君たちが、この『世界』にきてしまうよりも、前からだ。それで十分だろう。
  それより、問題は、君たちが持っている、その『鍵』だ。それは……おそらく『地下室』の鍵だ」

古泉「地下室……? 僕らは、そんな部屋があること自体、初めて耳にしますが。何故あなたはそんなことを……?」

男「細かいことは重要じゃない。……その『鍵』は、とても重要なものなんだ。
  今まで、私には見つけることができなかった。……一体、どこで見つけたんだ?」

ハルヒ「……はあ? どこでも何も、今、たった今見つけたのよ。この、『供養塔』の穴の中から」

男「! ……何だって? 馬鹿な、私だって、そこは何度も調べたが……
  ……ふむ。まあ、この状況だ。何が有っても、おかしくはないか……」

16: 2009/10/14(水) 17:09:13.86 ID:czgBrG4o0
古泉「……あなたの言う『地下室』に、一体、何があるというのです?」

男「それは、わからない。しかし、それは間違いなく、大切なものだ。……『彼女』にとって」

キョン(! 『彼女』だって? こいつ……あの『亡霊』を、知っているのか?)

男「……どうやら、君たちは、知らないことがとても多いようだな。……私は、『彼女』を鎮める為に、君たちを待っていた。
  ……その『鍵』が、今、君たちの手元にあるということは……おそらく、君たちこそが。『彼女』を鎮められるものなのだろう……
  私の知っていることを話そう。ただ、時間を無駄にしたくない。歩きながらだ、着いてきてくれ」

ハルヒ「ちょ……ま、待ってよ! まだ、あんたのことを信用したわけじゃ―――」

古泉「……いえ、涼宮さん。彼は、信用していいと思います……それに、僕らの知らないことを知っているようだ」

ハルヒ「で、でも……そ、そうね……もし、妙なそぶりを見せたら、容赦なくぶっ叩くわよ! いい!?」

男「……ふ、構わないとも。私は君たちに敵意などないからな」

キョン(! ……なんだ、今……一瞬、こいつが微笑んだとき……
    ……よくわからんが、何か感じた。こいつは、俺たちの敵じゃない。そんな『何か』だ……)

キョン「……わかった、あんたの言う話を聞かせてくれ……こっちから質問するより、あんたが話したほうが早いだろ。
    それとだ……できりゃ、あんたの『名前』くらい教えて欲しいんだが……」

男「……そうだな。『山村』とでも呼んでくれ……さて、君たちは、あの『亡霊』が何者か、知らない……そうだったな?
  そこから説明しようか……彼女は、かつて、この学校の生徒だった少女だ。
  この学校の、『美術部』の部長。とても、才能溢れる人だった……らしい。
  それと、もう一つ。

  ―――彼女には、『不思議な力』があったんだ。まるで、彼女の願いを全て実現させるかのような……そんな力がね」

18: 2009/10/14(水) 17:22:14.20 ID:czgBrG4o0
古泉「ッ―――!」

みくる「えっ……!?」

長門「……」

ハルヒ「『不思議な力』……? そんなの、ありえるの……?」

キョン(……『やっぱりな』……って、所だな。俺や古泉からすりゃ……)

山村「ああ。しかし、普通の少女だった。彼女は、その力を自覚してはいなかったからね。
    だが……ある事がきっかけで、その力が『暴走』してしまった……
    率直に言えば。この『学校』を、このようなことに変えてしまったのは、彼女のその『力』によるものだ」

ハルヒ「あることって、何よ! もったいぶらずに教えてくれる!?」

山村「……君たちは、あの『三階』のフレスコを見たか? そこに残されていたメッセージの通りだ。
    とある、事故で。彼女と、同じ美術部員だった少年を……彼女が思いを寄せていた人物が、氏んでしまったんだ」

古泉「……それは、僕らも見ました。しかし、事故とは、一体どんな……?」

山村「……その少年の『作品』を、彼女がしまい忘れた所為で、誤って、ゴミとして、焼却炉へ運ばれてしまったんだ。
    少年は、それを回収するために、一人、焼却炉へ向かった。幸い、その日のゴミが焼かれるのは翌日で、『作品』はまだ焼かれていないはずだったからな。
    しかし……そのとき、大きな『地震』があった。少年は、誤って焼却炉に―――ッ!?」


  ゴ  オ  ン  ッ  


キョン(―――その瞬間。俺たちの前を歩いていた、山村という男の体が……突然、何かに吹き飛ばされるように、左方へ―――消えたっ!?)

20: 2009/10/14(水) 17:34:03.06 ID:czgBrG4o0
古泉「なっ―――!? 山村さんっ!?」

ハルヒ「な、何、今のっ!?」

キョン(ここは―――いつの間にか、あの『緑の扉』の部屋まで来ている……そして、鏡の回廊へ出たところで!
    山村さんは何かに吹っ飛ばされた! たしか、あっちは『行き止まり』だ!)

山村「くっ……『噴水』だ! 『噴水』の下に、『地下室』はある……『心』を使え! 私に構うな!」

みくる「ふえええ、で、でもっ!」

山村「いいから、行けっ!」

キョン「っ、行くぞ! 何かわからんが、山村さんは『何か』に襲われてる……俺たちにも何かが来る前に、あの『噴水の部屋』に行くんだ!」

古泉「ッ……わかりました! 行きましょう!」

長門「――――」






キョン(……俺たちは、一本道の、血まみれ回廊を駆け抜け……
    やがて、あのおぞましい『血の噴水』のもとへ、たどり着いた!)

21: 2009/10/14(水) 17:38:53.89 ID:czgBrG4o0
――― 異次元空間 『噴水の部屋』

キョン(噴水は、依然、変わりなく……おどろおどろい色の『血』を吹き上げている……)

ハルヒ「『心』……よくわかんないけど、『心』って言ってた……
    みんな、この『噴水』を囲んで! いっせいに、『心』を使うの!」

みくる「えっ……で、でも、どうすれば!?」

長門「念じる」

キョン「それだけかよ!?」

ハルヒ「それだけよ!」

古泉「急ぎましょう……いいですか、せーのです!」

キョン「っ、ああ、わかったよ! 何だって念じてやろうじゃねーか!」

ハルヒ「お願い……『地下室』に、私たちを連れてって――――!!」

長門「……」

みくる「――――っ!!」

古泉「―――!!」

キョン(―――! その瞬間―――!
    俺は、噴水から『血』が引いていくのを見た! 並々と注がれていた血が、綺麗に消え……『噴水』からの排出も、止まった!
    そして、現れた噴水の底―――小さな、『鍵穴』がある!!)

22: 2009/10/14(水) 17:47:04.82 ID:czgBrG4o0
ハルヒ「これが、地下室への扉っ!? 古泉君、鍵を!」

古泉「はい―――!!」

―――カチッ

……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

古泉「うわっ!? こ、これは……『下』に向かって、『噴水』が開いていく……!」

キョン(なるほど……こりゃ、『血』がなみなみ溜まってたら、行けねえな―――地下室が、血の池になっちまう)

みくる「あっ、は、梯子があります……この先が、『地下室』――!!」

古泉「ま、待ってください! 『噴水』が、完全に閉じてからのほうがいい、もしどこかに挟まったらまずい!」

ハルヒ「もう大丈夫よ、十分スペースはあるわ! いくわよ、みんな―――『地下室』へ! そこに、何かがあるのよ! あの『亡霊』を鎮めるための、何かが!」




―― 異次元空間 地下室


キョン(……そう長くない梯子を降りた、俺たちを出迎えたのは……爛々と燃える、『炎』だった―――)

ハルヒ「これ……なんで『地下室』にあるのか知らないけど!
    ―――『焼却炉』だわっ! 山村さんが言ってた、『焼却炉』よ!」

キョン(……の、ようだ。しかし、何か奇妙だ……この焼却炉、『熱』を感じない……大体、閉ざされた地下室で、炎が消えずに燃え続けているわけがない)

24: 2009/10/14(水) 17:52:37.11 ID:czgBrG4o0
古泉「……見てください、『フレスコ画』です」

ハルヒ「! キョン、ライト! はやく!」

キョン「分かってる! ……よし、おらっ!」カチッ

長門「……出た」


『少年の氏は 彼女を狂わせ 彼女の力を 暴走させた』


ハルヒ「同じだわ……山村さんの、言っていた事と!」

みくる「え……で、でも、あの人は、此処には来たことが無かったはずじゃ……?」

キョン(……まさか……あの、『山村さん』ってのは……あの『亡霊』を、知ってるのか!?
    ってことは、もしかして、あの人は―――!)

長門「待って―――」

キョン「え……どうした?」

長門「……」すっ


―――カチーン……―――。

キョン(! ……長門が、フレスコ画の中心に手をかざした、途端に―――『何か』が、フレスコ画のまえに、現れた?
    地面に落ちた、小さな金属―――これは―――『鍵』!!)

25: 2009/10/14(水) 17:57:59.71 ID:czgBrG4o0
古泉「ッ!! それは―――お、お願いします! 誰か、その鍵を僕に!」

キョン(ああ、わかってるッ! これは……この鍵は、間違いなく、『アレ』の鍵だ!
    そして……あの、山村さんの言葉。そして、山村さんという人物の正体―――
    それが、真実なら! ここに記されているのは―――!!)



―――カチリ



『三月×日 日次
 わたしの最後の日記が、新しい日記の最初のページなんて、なんだかおかしいですね。
 卒業式、泣いちゃいました。最後は、笑ってたかったのにな。少し残念です。
 これで、美術部は、お二人だけになっちゃいますね。さびしいですけれど。
 でも、このまま廃校になって。葉宮さんが、あの場所で、彼とずっと一緒に眠っていられるなら。
 それでも、いいかなって思っちゃったりもするんです。
 それで、もしできたら、葉宮さんの夢の中に、あたしや、二人もいたらな、なんて。

 ごめんなさい、うまく言葉にできませんから、おしまいにしますね。
 おふたりとも、もう会えなくなっちゃいますけれど   お元気で。

                              日次サクラ』



26: 2009/10/14(水) 18:04:25.53 ID:czgBrG4o0
『三月○日 行木六生
 さようなら、日次さん。
 僕も、とても寂しく思います。ですが日次さんの言葉を読んで、今は、それでもいいかな。なんて思っています。
 これまで、ありがとうございました。
 それと、神野さん。お二人だけになってしまいましたが、一年間、よろしくお願いします。』


『三月◇日 神野唯
 また、部室で。』


みくる「こ……これ……うそ、こんなことって……!」

キョン(―――! こ、こりゃ……ありえねえとしか思えない、だが……『思ったとおり』だ、いや、それ以上!
    っ、そうだ、ハルヒは! これをハルヒに読ませるのは、マズいんじゃ―――!)

古泉「大丈夫です、彼女は―――よくわかりませんが、あの『焼却炉』をじっと見ています。
    そ、それより……ページを! お願いします、ページをめくってください!」

長門「……」パラ


『四月○日 行木六生
 新学期ですね。それも、同じクラスになれるとは思っていませんでした。
 改めて、一年間よろしくお願いします、神野さん。』

『四月×日 神野唯
 よろしく。』


28: 2009/10/14(水) 18:07:52.53 ID:czgBrG4o0
キョン(……それから、この、『行木』と『神野』という二人のやり取りが、延々と続いている。春が終わり、夏、秋が過ぎて、また春になる……。
    やりとりが、二月の日付に入ったとき。俺たちは、再び。ページをめくる手を止めた……)


『二月○日 行木六生
 本当は、こんなお話はしたくなかったのですが。
 ですが、やはり、どうしてもお聞きしたいのです。
 神野さんも、やはり、卒業したら、帰ってしまわれるのでしょうか?』

『二月×日 神野唯
 人類の進化の鍵である葉宮スズの観測の役割は、あの日で既に終了している。
 おそらく、私という個体は、卒業後、上位思念体へと帰還する。』


みくる「あ……や、やっぱり……じゃあっ……あ、あ、あ、あああああの、『亡霊』さんって……っ!!」

古泉「……」

キョン(……絶句。ってのは、こういうことを言うのか……)

長門「……」パラ


『二月△日 行木六生
 そうですか。分かってはいましたが、やはりそうなんですね。
 正直を言って、とても寂しく思います。僕ら五人のなかで、一人きり残されてしまうというのは。
 ただ、それとは別に、どうしても、僕は気になるのです。
 葉宮さんの力は、本当に失われてしまったのでしょうか?
 あれから、口々に噂されている、彼女の呪いの噂を聞くと……彼女が眠った今でも、あの力は、彼女の元にあるのではないかと、そう思うのです。
 それについては、上位思念体さんのほうからは、特に何もないのですか?』

29: 2009/10/14(水) 18:12:27.12 ID:czgBrG4o0

『二月□日 神野唯
 その確認のために、彼女の氏後も、観測を続けることを、上位思念体は、私に命じた。
 しかし、やはり、彼女が最後に創り出した、あの供養塔の地中からも
 そのほかのどこからも、葉宮スズの力は観測されない。
 流布している噂に該当するような現象も、発生していない。ただの噂。
 一部の急進派は、あの供養塔の地中を解析し、そこにあるならば、彼女の肉体を検証すべきと主張しているが、その必要は無い。
 上位思念体の大部分は、葉宮スズの力は完全に消滅したと判断した。よって、私は帰還させられる。』

『二月%日 行木六夫
 そうですか。思念体が断定するくらいなんですから、そうなのでしょうね。
 葉宮さんは、自分の願いで、彼の遺骨を引き寄せ、この思い出の地で、ともに眠りにつく事を選んだ。
 きっと、彼女の力は、それで役目を終えたのですね。
 分かりました。この話は、おしまいにしましょう。
 試験勉強中は、気が張り詰めていて、気にならなかったのですが。
 合格して以来、どうしても落ち着かなくて。すみませんでした。
 
 もう、二月も終わりますね。あと少しの間ですが、よろしくお願いしますね。』



『三月×日 神野唯
 私という個体は、あなたと、この学校と離れたくないと思っている。』

『三月○日 行木六生
 ありがとうございます。
 もう、明日が卒業式なんですね。早いものです。
 この日記は、僕が持っているべきではないでしょう。この学校に、残していくことにします。
 お別れと、ご挨拶は、直接いたしましょう。』

31: 2009/10/14(水) 18:20:10.62 ID:czgBrG4o0
『三月△日
 日次サクラさんから預かった印を、行木六生、神野唯が代印致します。

 二人の友の、安らかなる眠りを祈り
 一九××年 三月△日
 ○○高校 美術部
 部長  行木
 副部長 神野
 前部長 日次』


キョン「……これで……終わりだ」

みくる「ど、どういうこと、なんですか、これっ……こ、これ……こんな、ことって……」

古泉「……『別世界』……そうとしか、考えられない……!!」

長門「……」

キョン(この日誌を書いた……こいつらの言葉から、いくつかの事実が察せられる……
    あの『供養塔』は、あの『亡霊』……『葉宮スズ』が、力……『ハルヒと同じ力』を使って作ったもの!
    そして、『遺骨』……? 『葉宮スズ』は、そいつをあの供養塔の下に埋めたってのか!?
    しかし、あの供養塔に掘ってあった『穴』の中には、そんなもんは無かった!)

古泉「……この、あと。この学校が『廃校』になった後で、あの『供養塔』が掘り返されたんだッ!
    そうとしか、考えられない……そして、おそらく! 『彼』の遺骨を、そこから持ち去った! それが、『葉宮スズ』を眠りから覚ませてしまった!!」

みくる「じゃあ……あの『亡霊』……『葉宮』さんは、それを、ずっと探し続けて……」

キョン(……『遺骨』だって……? そんなモン、盗み出してどうするってんだよ……!)

32: 2009/10/14(水) 18:25:04.29 ID:czgBrG4o0
ハルヒ「……ねえ、これ」

キョン「ひえっ!?」

古泉「うひゃぁっ!!?」

ハルヒ「……? 何びっくりしてんの?」

みくる「な、なな、な、な、なんでもない、でしゅ……ど、どうしたんですか?」

キョン(こいつのこと、忘れてた……ってか、ハルヒのやつ、なんか様子がおかしくねえか……
    何、じっと焼却炉なんか見て……)

ハルヒ「これ……もしかして」すっ

キョン「! おい、馬鹿、危ない!」

ハルヒ「違うのよ、この『炎』、熱くない……幻なのよ。
    この中に……やっぱり、これ……

                 『あたし』だ」


古泉「え――ッ!? そ、それは……?」

みくる「……ひ! ……あ、あ、あわっわあああああっわ……」くら

長門「キャッチ」 がしっ

キョン(ハルヒが、焼却炉から取り出したのは……『彫刻』だった。少女を象った―――『涼宮ハルヒ』に、そっくりな少女の、『彫刻』!)

34: 2009/10/14(水) 18:33:50.88 ID:czgBrG4o0
ハルヒ「これ……あの山村さんが言ってた、あの子の好きな人の『作品』って……きっと、これよ!
    これだけじゃ、駄目かもしれないけど……これはきっと、あの子を『鎮める』武器になるわ!」

キョン(……確かに、こいつは、滅茶苦茶重要なアイテムに思える……し、しかし……)

ハルヒ「きっと、これ! あたしじゃなくって、『あの子』の顔なのよ!」

みくる「」

長門「しっかりして」

古泉「そ、s。そ、そうで、しょうか……?」

ハルヒ「そうよ、あの子の好きな人は、あの子の為に、これを彫ったのよ!
    それに、だったら、あたしたちが此処に来ちゃった理由もわかるわ!」

古泉「」

キョン「そ、そりゃ……どんな、んだ?」



ハルヒ「あたしと顔がそっくりじゃない、この子。
    顔が似てる人って、多分、なんかこう……オーラも似てると思うのよね。
    きっと、ちょうど同い年ぐらいで、顔が似てるあたしのことを、あの子が呼び寄せたのよ!
    多分、あの子の『不思議な力』ってやつだわ! それがあたしを呼び寄せたのよ!」

古泉「え」

みくる「え」

36: 2009/10/14(水) 18:41:30.58 ID:czgBrG4o0
キョン(……顔って……いや、お前がいいならそれでいいし、俺らも都合はいいんだが……)

ハルヒ「みんな、地下室の秘密は、これよ! 山村さんを助けに行きましょう!
    きっと、あの子を鎮めるしかないんだわ……あたしたちが、この学校を脱出するには!」

古泉「はっ……そうだ、彼を助けなければ!」

キョン(っと、そうだった……心の力も月まで吹っ飛ぶような衝撃で、一瞬忘れかけてた―――!!)

ハルヒ「行くわよ、みんな!」ダッ

古泉「……急ぎましょう。おそらく、あの『山村さん』は……」

キョン「ああ……俺も、なんとなく、予想がついてきた……!」

みくる「あ、ま、まってください、涼宮さあんっ!」

ハルヒ「何もたもたしてるのよ、急いで……えぇッ!? みんな、後ろ! 焼却炉から、何か来てるっ!!」

古泉「なッ―――!?」

ボウボウボウッ

青白い人魂「「「―――」」」

キョン「なっ―――ちくしょう、此処は安全じゃあなかったのかよっ!? ……待てよ、こいつら、動きがおかしい―――誰かを、狙ってるッ!?」

人魂「「「―――」」」バババッ

長門「!―――」 ボヒュゥンッ

38: 2009/10/14(水) 18:45:30.19 ID:czgBrG4o0
キョン(なっ―――人魂が、一直線に長門に襲い掛かって―――長門を、覆っちまったっ!!?)

ハルヒ「有希いいいっ!」

長門「―――? これ、は……」



……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

キョン「ッ! 何だ、この音、上から―――ッ!?
    ハルヒ、やばい……『噴水』が閉まり始めたっ!! 閉じ込められたら、どう出りゃいいかわからねえっ!!」

ハルヒ「ええっ!? で、でも、有希があっ!!」

古泉「長門さん、抵抗してください! 長門さん!」

長門「……行って」

キョン「ッ!? 待て、長門、それだけは……ッ!」

長門「心配ない、あなた達の方が危ない―――扉が閉まる前に、上って」

古泉「しかしっ!」

長門「行って」スッ

――ドヒュゥゥゥンッ

キョン(なっ―――か、『風』ッ!? 風が、俺たちを、出口に向かって吹き飛ばそうとしてる―――ッ!?)

39: 2009/10/14(水) 18:49:00.85 ID:czgBrG4o0
みくる「いきゃああああっ!!」ドヒュウウウウッ

キョン「なっ、長門おおおおおっ!!」

長門「―――大丈夫」




ドンッ

キョン「げふっ!」 ズズッドサッ

キョン(ふ、噴水の部屋の天井までぶっ飛ばされた……俺たち、四人とも!?)


ゴゴゴゴ……ズウウウウン……


ハルヒ「ちょ、ちょっと待って、閉じるなああああっ!! 古泉君、もう一度鍵を―――ええッ!?」



――――スゥッ


キョン(……消えちまった……『噴水』が! ……まるで、はじめから、無かったかのように……
    『噴水の部屋』から、『噴水』が消えちまった……『床』しかねえ!)

古泉「な……そんな、馬鹿な……自分のことだって、吹き飛ばせたはずじゃッ!?」

42: 2009/10/14(水) 19:00:36.33 ID:czgBrG4o0
ハルヒ「う……うそ、でしょ? 有希いいい!!」

キョン(……何だ? 何故、長門は、あの人魂に抵抗しようとしなかったんだ……!?
    俺たちを吹き飛ばすことはできたのに……?)

古泉「……駄目だ、『山村さん』を探しましょう! 彼なら、ほかに『地下室』へ行くルートを知っているかも!」

ハルヒ「でもっ、あのオッサン、あの部屋には行けなかったって、確かに言ってたじゃない!!」

古泉「……それは、そうですが! だとしても、ここから地下室にいけないのは、もう確かなんだ!
    長門さんなら、きっと持ちこたえてくれるはずだ……だけどそれも、僕らが進まなきゃ、意味が無いんだっ!」

ハルヒ「う……わ、分かったわよ……!! そうよ……あの有希が、こんな、簡単にやられちゃうはずないもの……!!
    あのおっさん、確か……『緑の扉の部屋』のむこうの、行き止まりで別れたのよね!?」

キョン「よし……そこだ! 古泉、また後ろを頼むぞ!?」

古泉「分かりました!」


キョン(……長門。お前の、あの行動には―――何か、意味があるんだよな……!?
    信じてるからな、長門……絶対、もう一度、お前と会うからな―――ッ!!)


―― 異次元空間 『鏡の回廊』 『緑の扉の部屋』前


キョン「! あそこだ、山村さんが、何かと戦っていたのは―――おい、見ろ! 行き止まりの『壁』がブッ飛んで、どこかに通じてる!」

ハルヒ「何ですってッ!? ……あれ、どこかの『教室』よッ! この異次元空間じゃないわ―――もとの次元のどこかに通じてるのよ!」

46: 2009/10/14(水) 19:09:55.11 ID:czgBrG4o0

―――― ??階 フレスコの部屋

キョン(ぶち抜かれた壁の向こうは……ハルヒの行ったとおり、『学校』のどこかだった。
    俺たちが発電機で通した電灯が点っている、そして―――『フレスコ』がある!)

ハルヒ「またフレスコね……まどろっこしいわ、みくるちゃん、やっちゃって!」

みくる「は、ひゃいっ! みっ、みくるフラッシュ!!」

 カ ッ 

キョン「……! 出やがった、メッセージだ! くそ、フラッシュ一瞬分ぐらいでいいなら、最初からそう言ってくれりゃよかったじゃねえか!」

古泉「それより、メッセージを読むんだ―――! これは、やっぱり……!」


『彫刻は 彼女の力に抗える 唯一の武器』


ハルヒ「ッ! これだわ……やっぱり、『これ』は『あの子』なのよ!
    これなら、きっと、あの一階の廊下の、『結界』も破れる……『美術室』に行けるかもしれない!!
    それで、あの子を鎮めたら、きっと、有希も助かるわ!」

古泉「この部屋……ドアは、これだけだ! 開けます!」

ハルヒ「行っちゃって!」


―――バァァァンッ

48: 2009/10/14(水) 19:16:33.16 ID:czgBrG4o0

―― 一階 体育館

古泉「こ、此処は……体育館だって? こんな所に、扉があったなんて……」

ハルヒ「丁度いいわ、あの『結界』に近いじゃない―――もう、迷ってられないわ! きっと、山村さんもそっちにいるはずよ!」

キョン「その根拠は、何だよ!?」

ハルヒ「うっさい、黙ってろ!!」

鎧「――」ガシャンガシャン

ハルヒ「邪魔!」 ドヒュゥゥゥンッ

ボッグォン

鎧「」

キョン(な、何だか知らんが、ハルヒのテンションがとんでもねえ……いや、だが、この状態なら!
    『心の力』とやらも絶好調であろう、この状態なら、マジで……いけるかも知れねえ!)

古泉「行きましょう、考えるより、進むんです!」

キョン(ちくしょう―――長門! 無事でいてくれ―――頼むから!)



―――

49: 2009/10/14(水) 19:23:24.47 ID:czgBrG4o0
―― 一階 東側校舎 廊下

キョン(……依然、変わりなく。あの『結界』は、そこにあった……
    此処までで、山村さんとは出会えていない!)

ハルヒ「待ったり、探したりしてる時間は無いわ……あたしたちだけでも、行くのよ!」スッ…


―――キィィィィン


キョン(! ハルヒが、結界に向けて、『彫刻』をかざした瞬間……結界が、波打った!)

ハルヒ「やっぱり、いける! でも、これだけじゃ足りない……『心』よ、『心』がいるの!」

みくる「えっ、でも、結界に有効なのは、その『彫刻』だけ、なんじゃあ……」

ハルヒ「『彫刻』に心を注ぐのよ! ―――ってりゃあああああ!!!」

 カ ッ 

ズズ……ズズズズズ……ッ

キョン「! 結界が、後退した! 古泉、朝比奈さん! 俺たちもやるんだ、『彫刻』に触れろ!」

古泉「はい! このまま……『美術室』まで、押し切りましょう!」

みくる「え、あ、はい! え、ええええい!!」

キィィィ……――――ズズズズズズズッ………!!

51: 2009/10/14(水) 19:30:46.07 ID:czgBrG4o0
キョン(ぐ……た、確かに、押していけるが……かなり、きついぞ、これ……ッ!)

ズズッ  ズズズズズズ……ググ……

ハルヒ「んぐぐぐぐ……ッ! び、美術室まで、あと、ちょっと……っ!
     ―――ッ、きゃあああっ!?」


…………―――ドォォォォォンッ!


キョン「ぬがっ、やば、押し返されっ―――ぐえっ!!!」ドン―――ズドンッ!

ハルヒ「えうっ!」みくる「あきゃっ!」べしゃべしゃっ

キョン「ぅぐえッ!?」

古泉「ぐ……も、元の場所まで、はじき返されてしまった……」

ハルヒ「も、もう一回よ! あと少しだったじゃない! 誰か、手ぇ抜いてない!?」

キョン「ねえっ! つか、こんなこと繰り返してたら、『心の力』のほうが尽きちまうんじゃねえか!?」



山村「大丈夫だ」

キョン「のおッ!? って! あんた、山村さん!?」

山村「地下室から、何か見つけてきてくれたようだな……なるほど、『それ』か……」

53: 2009/10/14(水) 19:41:13.07 ID:czgBrG4o0
ハルヒ「あ、あんた! 無事だったのね……それより! 有希が、あたしたちの仲間が、地下室に取り残されたのよ!」

山村「……何だって?」

ハルヒ「この先よ、この先に、この子がいるんでしょ!? あの、『亡霊』の子が!
    これがあれば、そこまでいけるの! 早くあの子を鎮めてあげなきゃ、有希が手遅れになるかもしれないのよ!」

山村「……そうか。わかった……確かに、彼女は、美術室にいると、私も思う。
    しかし……『結界』は、押し返しても駄目だ。『破る』んだ。この『彫刻』と、君たちと私の『心の力』があれば、それができる」

キョン「破る……!? どうすりゃいいんだ、んなの!」

山村「……君」

ハルヒ「……? あたし?」

山村「君の、名前は?」

ハルヒ「名前? ……『涼宮ハルヒ』よ。それが、どうかした?」

山村「……いや、そうか。涼宮さん。彫刻を、僕に渡してくれないか。
    僕が先頭を行こう……君たちは、後ろから、『心の力』を込めてくれ」

ハルヒ「……わかったわ」

みくる「あ、あの……! あ、あなたは……も、もしかして、『彼女』の……」

山村「……今は、どうでもいいことだ。もし、時間があれば……後で話そう。……行くぞ。この『結界』を破る……『彼女』のところへ、行くんだ」スッ……

―――キィィィン―――

55: 2009/10/14(水) 19:46:20.82 ID:czgBrG4o0
ドンッ

キョン(! ……こ、この男が、彫刻をかざした途端……これまでの比じゃない、強力な『力』がッ!)

山村「早くしろ! いくらこの『彫刻』があっても、僕一人じゃあ足りないんだ!
    念じるんだ……この向こうへ『行きたい』と!」

古泉「は――はい!!」

みくる「ううっ――――!!」キィィィン

ハルヒ「―――――ッッッ!!」

キョン(頼む――――道を! 俺たちに、道をくれッ!!)



キィィィィイイイイイイイイイ―――――――――――――ッ



     ――――――― ピ シ ャ ァ ア ア ン ッ !



ハルヒ「きゃあっ!?」

古泉「うっく!」

キョン(―――! 『結界』が―――『割れた』ッ!!)

56: 2009/10/14(水) 19:56:12.79 ID:czgBrG4o0
山村「……やはり……この『彫刻』の、力か……『以前』は、この先へ……僕は、行けなかった」

キョン(! ……『以前』だって……!?)

山村「……以前も、結界は破れた。しかし、僕はここで、力尽きてしまった……『彼女』のもとへは辿りつけなかった。
    しかし、ようやく……僕は、彼女のもとへ……『あの部室』へ、行ける……」

ハルヒ「……? なっ、何言ってんのか、わかんないけど……! 『結界は破った』のね……?」

山村「……そうだ。立てるかい? かなり、『心』を消耗したろう」

古泉「……大丈夫です」

みくる「う、は、はい。……あたしも、大丈夫、です……」

山村「……『彼女』は、この先にいる。無理はしないでくれ……着いてこれるものだけ、着いてきてくれ。
   それと……たとえ、私に何かがあったときは。彼女を鎮められるのは、君たちしかいない。
   そのときは……お願いしますよ」

キョン「! ああ……分かった」

山村「……行くよ」



キョン(……ほんの、数秒しかかからない、美術室までの道のりが。まるで、何時間にも感じられるようだった。
    男の……『そいつ』の背中に着いた、俺たちは。やがて―――『美術室』の扉の前へと、たどり着いた―――)

山村「……開けるよ」
                  ――― ガ  ラ  ッ ……

58: 2009/10/14(水) 20:06:18.55 ID:czgBrG4o0


―― 一階 東側校舎 美術室


キョン(何だ……此処は! 俺たちは、『美術室』に入ったはずだ……
    だが、山村が扉を開けた瞬間―――床もなければ、壁も、天井も無い!
    まるで、宇宙のような空間に―――俺たちは、放り出されていたっ!)

ハルヒ「な、なによ、これ! みんな、いっ、居るのっ!?」

キョン(! ハルヒ―――どこだ!?)

古泉「涼宮さん! 居ます、僕は、此処に! ―――! あ……っ!」

みくる「は、はい、ここですっ! ここ、どこで、どうなって……! や、山村さん……!」

キョン「!? 何だ、どこに―――!?」

キョン(……すこし、視点を動かせば。すぐに分かった。
    俺たち四人は、何かを囲むように、この空間を浮遊している……そして、その中心に居るのは!)

ハルヒ「! や、山村さん! それと―――っ!!」



亡霊「う……あ……私の……学校に……入ってこない、で……!!」


山村「……『葉宮』さん――――ようやく、会えましたね」

60: 2009/10/14(水) 20:14:38.05 ID:czgBrG4o0
キョン(! ――やっぱり――あの、『山村さん』の、正体は!!)

古泉「くっ―――駄目だ、近づけないっ……!!」



山村「葉宮さん、落ち着いて、聞いていただけますか? ……もう、あなたを脅かすようなものは、この世界に居ません。
    この世界には、何も―――もう、何も、無いんです。あなたたちのほかには」

葉宮「う……だ、れ……違う……いない……奪ったの……返して……!!」

山村「……僕が誰だか、分かりますか? 葉宮さん。……彼は、きっと。僕が見つけます。あなたと同じ場所へと、眠りに着かせます。
    ……だから、どうか。先に、眠っていてください―――必ず。僕が、『彼』の遺骨を見つけます。
    ですから―――」

葉宮「―――あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!」


 ――――  ゴ  オ  オ  オ  オ  ッ  !  !  


キョン「なっ―――! なんだ、こりゃあ―――体が、ちぎれちまうッ―――!!?」

ハルヒ「きゃああああっ!?」


山村「ぐああっ!? ――-や、はり……だ、め……!!!
    もう―――彼女に、僕の声はっ……!!?」

古泉「や、山村さあああんッ!! だ、駄目だ、吹き飛ばされるッ―――!!」

62: 2009/10/14(水) 20:20:02.95 ID:czgBrG4o0
葉宮「返して……かえして……私の、学校から、何も、奪わないでえェェェェェッ!!」


    バ  ァ  ァ  ァ  ァ  ァ  ッ ! ! !


山村「っ―――ぐあああああっ!!!」


キョン(! や、山村さんの体が―――黒い、『炎』のようなものに―――っ!!)


ハルヒ「う、うそ……そんなあああぁぁぁぁぁっ!!」


山村「だ……め、だ、彼の……遺骨、を、さがさな、ければ…………きっと、あの……『彼女たち』も……おなじように……!!
    き、みたち……たの、む……『遺骨』を、『遺骨』を、かの、じょ……葉宮さんに…………―――」

 ――――――――――――――――ド  ジ  ュ  ゥ  ッ  ……

みくる「ッ―――いやァァァァァァッ!! 山村さぁぁぁぁぁん!!」

キョン(や―――山村の体が! まるで、『融けていく』かのように―――ッ!!)

古泉「駄目だっ、次元から―――押出さっ、れるぅぅぅぅ!!」

ハルヒ「い―――いやァァァァァァァッ!!!」


――――――

65: 2009/10/14(水) 20:29:27.05 ID:czgBrG4o0


―― 一階 東側廊下 美術室


キョン(此処は……『美術室』だ……あの、異次元から……俺たちは、はじき出されたのか……)

ハルヒ「……うそ、うそよ……や、山村さんが……あんな、ふうにっ……!!」

みくる「ぃ……う…………」カタカタカタカタ

古泉「……『遺骨』、だって……? そんな、馬鹿な……!」

キョン「……無事、なのか、みんな……」

ハルヒ「ッ―――無事じゃ、無いわよ! あんた、見なかったの!? や、山村さんが……あ、あの子に……っ!!
    きっと……あの、人! あの子の……あの子を、『知ってた』のよ……!!
    あの子の、名前も言ってた……っ、聞いたでしょ!?」

キョン(ああ……確かに、聴いたよ。あの、『日誌』に書かれていたのとおなじ名前を……あいつは、口にしていた……)

古泉「遺骨……遺骨を探せなんて……そんなの、いったい、どこにあるっていうんだ……ッ!?」

キョン「……わからねえ……だが。俺たちにできるのは……
    ―――この、『フレスコ画』を辿ることくらいだろ……」

ハルヒ「! フレスコ画―――!? ……! 本当だ、あるわ……この、『美術室』に!! 『フレスコ画』が、ある……
    まだ、『山本さん』も見ていないはずの『フレスコ画』が―――ここに、あるっ!!」

古泉「っ! 『フレスコ画』……!? まさか、どうして……これを書いているのは、『あの人』……『山村さん』じゃなかったのか……!?」

66: 2009/10/14(水) 20:35:13.19 ID:czgBrG4o0
キョン「あの『地下室』にも、フレスコはあったんだ……あいつじゃねえんだろうよ」

みくる「でっ、でも……ほかに、誰がっ……!?」

ハルヒ「……私たちを『導いて』くれるものは、まだ、無くなっていないのよ……!!
    みくるちゃん、お願い! はやく……『フレスコ』を、照らしてえぇぇぇぇっ!!」






『彼女が探し求めている 少年の遺骨のありかを 彼女に真実を』






キョン(……マジかよ――――それは、もう、聞いたぜ)

ハルヒ「…………」へたっ

みくる「…………もっ……もう、駄目……駄目……あたしたち、このまま……ッ!!」ガタガタガタガタ

古泉「…………」

キョン(……くそ……マジで――これで、終わりかよ、俺ら…………
    このまま、あの、『先行組』の連中みたいに――――ここで―――)

68: 2009/10/14(水) 20:42:52.37 ID:czgBrG4o0

モゾ   モゾ

キョン(……? ……んだこりゃ、『蛆』か……ああ、此処で氏んだら、こいつらの餌かね、俺たちも……)

ウゾ ウゾ

キョン(……床を見て、初めて気づいたが……この部屋、『蛆』が多いな……やたら)

モゾモゾ……

キョン(……どっか、目指してるのか? こいつら……―――!)

キョン「……『蛆』が……いる、だって……?」

古泉「…………え……?」

キョン「……古泉、見ろ……ハルヒに、朝比奈さんも……!!
    ……『蛆』が、居るんだ、この部屋の床には……こいつらは、あの……
    ……『準備室への扉』に近くなるにつれて、多くなってるんだ―――ッ!!」

ハルヒ「……準備、室……?
    『蛆』――!! それって―――まさかぁっ!」


     ド  ド  ド  ド  ド  ド  ド  ド  ド  ……

キョン(……『山村』は、言っていた……『以前』は、結界は破れたが、自分は此処で力尽きたと―――
    なら――『山村以外』は! 以前、既に、この部屋にたどり着いていたかもしれない―――!!
    この、扉の向こう――『準備室』に、『居る』のは―――ッ!!!)

69: 2009/10/14(水) 20:48:17.37 ID:czgBrG4o0

――― 一階 東側校舎 美術準備室



骸骨「」



ハルヒ「……『氏体』が、ある! この、美術室に……『一人』だけ、氏体がっ!!」

みくる「う……う、『蛆』が、いっぱい……!!」

キョン(俺たちは―――少なくとも! まだ『二人』の先行者と会っていない!
    ここに、『一人』の氏体があるってことは―――『もう一人』は、『先に進んだ』かもしれない!)

モゾ モゾ ウジャ ウジャ……

キョン「邪魔だ―――どけっ!!」 カッ

  ズ  バ  ァ  ッ  !  !

蛆「「「「」」」」」 バラバラバラバラッ

ハルヒ「うきゃっ!? ちょ、き、気持ち悪いじゃない! やるなら言ってよ!」

古泉「それより! 調べるんだ……この、『先行者』が……何か! 何か『メッセージ』を残していないか!!」

キョン(! こいつは―――『男』だ! 洋服も男物だし……体は小さいが、骨格も、今までの『先行者』たちとは違う!
    こいつが、『聡』なのか!? だとしたら、ここに居ない―――もう一人、この先へ進んだはずなのは―――!!)

72: 2009/10/14(水) 20:57:53.12 ID:czgBrG4o0
みくる「っ! こ、これ……キョン君、古泉君、涼宮さんっ!!
    血……この人も、血で……文字を、書いてます!」

キョン「! 本当だ―――! だ、だけど、これは……っ」

ハルヒ「これじゃ――消えかけちゃってて、読めないわ! あの『蛆』どもが、這いずった所為!?」

古泉「見せてください! ……ほ、本当だ……読めない……
    だけど! これしか……僕らには、もう、『これ』しか手掛かりは、無いのに―――!!」

みくる「……待って……古泉君」

古泉「!?」


みくる「……あの、何か……『絵の具』とか、ありませんか?」 キィンキィンキィンキィン……


キョン(! 朝比奈さんの、『目』が……なんだ、これ!? 今までのとは違う! 真っ白に光ってる……!?)

古泉「え、絵の具……ですか? えっと……あります、此処は美術準備室ですから……ですが、何を?」

みくる「……『見える』んです。えっと、これ、何なんでしょうか……もしかして、血の……『鉄分』か、何かなんでしょうか……
    それとも、『赤血球』とか、そういうのなのか、わからないんですが……『見える』んです! この床に残ってる、『血文字』の形が!」

キョン「なっ―――こ、古泉いいいい!! 早く、『絵の具』を朝比奈さんに!!」

古泉「はっ、はい! え、と、どうぞ!!」

みくる「えっと……ちょっと、待って、くださいね……よく見てやらないと、間違えそうで……―――」

75: 2009/10/14(水) 21:05:43.44 ID:czgBrG4o0

キョン(……数分間。朝比奈さんが、『絵の具』をつけた『指』で、床をなぞる、僅かな音だけが、『準備室内』に響きわたった。
    そして―――その文章は。『完成』した――――)


『ひとりでみおねえ いっちゃった しょうこ フレス』


古泉「『みお』、『澪』……あの、書置きの名前と一緒だ―――!!
    『澪』……『秋山澪』は! この先へ行ったんだ―――何かの、手掛かりを得て!!」

ハルヒ「すごいわ……みくるちゃん、グレートよ!! 『みくるミクロスコープ』だわ!!
    あなたは、絶対やればできると思ってたわよ、最初から!!」

みくる「はぇっ!? あ、え、あ、ありがとうございます……」

キョン(いくら顕微鏡でも、こんな芸当できねえだろ……つーか、『みくるマイクロスコープ』のが語呂よかないか?)

古泉「……フレスコ……まさか! あの、『昇降口のフレスコ画』! あのメッセージを、読みに行ったのか――『秋山澪』はッ!?」

ハルヒ「昇降口……? ! あの、一番最初に見つけたやつのことッ!?
    だ、だけど―――あれ、たしか、土砂に埋もれちゃったんじゃないのッ!?」

古泉「ええ、そうです! だから、あの『フレスコ』を『発掘』しに行ったんだ、『秋山澪』は!!
    あれが『最後のフレスコ』だ! いや、本当なら、僕らは『最初』に、あのフレスコに出会っていた……!!
    最後の手掛かりだ――『昇降口のフレスコ』が!! きっと―――きっと! 『何か』が、そこに記されている!!
    行くしかない、昇降口へ……これが、正真正銘! 僕らの、最後の『希望』なんだ―――っ!!」


――

78: 2009/10/14(水) 21:14:56.30 ID:czgBrG4o0

―――思えば。全ては、この場所から始まったのだ。俺たちは、この呪われた学校に閉じ込められて……
     昇降口。土砂に、全体の半分を埋め尽くされた、その空間に―――俺たちは、長いように感じられて、そう長くは無い時を経て。
     再び、この場所に舞い戻った。


―― 一階 南側校舎 昇降口

キョン「……『結界』は破ったし、もしかしてと思ったが。やっぱ、『グラウンド』へのドアは封鎖されたまま、みたいだな」

古泉「ええ……もっとも、解放されていたところで、目の前にあの『魔除けの紐の布』があるのですから、どうにもしようがありません。
    やはり―――この『土砂』の中の、『フレスコ画』しか。僕らに、道は無い―――」

ハルヒ「えりゃあああっ!!」ブォンッ

グシャァッ ボロボロボロ……

ハルヒ「……『岩』みたいに、ハンマーが軽快に効いたりしないわね……地道に掘るしかないのかしら」

みくる「でも……余計に、土砂が押し寄せてきたりとか、しないでしょうか?」

古泉「いえ……これは、僕の憶測ですが。あの、僕らが歩いてきた山道と、今のこの学校とは、切り離されていると考えていいと思います。
    ……この学校が、まるごと『異次元』なんです。そうとしか、考えられません。
    そもそも、この老朽化した建物に、『土砂』が押し寄せてきたら、こんな程度の被害で収まるはずが無い。下手すれば、建物が丸ごと飲み込まれてもおかしくないんです」

キョン(……この学校が『別世界』でなかったら、その時点で俺ら、全滅してたじゃねえか……)

ハルヒ「よっし、掘るわよ! たしか、ここの壁だったわよね……もう、掘って掘って掘りまくるの、総勢で!」

キョン(やれやれ……最後の最後の希望は、えらい肉体労働の果てにでなけりゃ、手に入らんようだ……)

80: 2009/10/14(水) 21:23:22.12 ID:czgBrG4o0

―――

キョン(よりにもよって。最後の『フレスコ』のメッセージは、下の端に記されているらしく。
    俺たちは、とことん掘る羽目になった。
    せめてもの救いは、『敵』らしき『敵』が、現れなかったことか……)

ハルヒ「はあ、はあ……み、みくるちゃん、ライト!」

みくる「は、はい……駄目です、やっぱり、何も浮かび上がりません……」

キョン「このフレスコ、どんだけ縦長なんだよ……!! もう、いい加減、額縁の底辺が見えてもいーんじゃねーか!?」

古泉「はあ、いえ……まだ、少なくとも、1/4は残っていると思います……これまでの、フレスコ画と、おなじ大きさなら……」

キョン(マジかよ……)

ハルヒ「もたもたしてんなっ! 『斧』か『ハンマー』しか、つかえそうなモンが無いんだからね!?
    次、あんた『斧』! さっさと掘れ!」

キョン「あーっ! 分かったよ、ちくしょう!! こんのっやろォ!!」ブォン

ガスッ バラバラ……

キョン「ッ―――んで、こんなカタイんだ!? この土砂は!? これも『葉宮』の怨念か!?」

古泉「まあ……はあ、おそらく、彼女が、僕らを閉じ込めるために創り出した、ものでしょうから……間違っては、いないでしょう……
    はあ、はあ……―――! ちょ、見えてます! 『額縁』が見えてるじゃないですか、もう!」

キョン「―――何っ!? くそ、あと少しで、全容が出てくるって事か!? ああちくしょう、掘りゃァ―――良いんだろ、掘りゃァ―――!!」ガスッガスッガスッ―――

82: 2009/10/14(水) 21:28:17.79 ID:czgBrG4o0

―――

ハルヒ「―――! 出てきた……額縁の、下の端まで、全部! 『フレスコ』が、出てきたわ!
    キョン、ライト! ライトを渡すから―――読んで! そこに、『メッセージ』があるはずなのよ!!」

キョン(メッセージ……これで、もし『何も出なかった』りしたら、マジでうらむぜ……)


カチ……


ハルヒ「……どう、キョン? 何か出て――――、きゃあっ!?」

古泉「え……うわあっ!?」

みくる「ひきゃあああっ!?

キョン(!? な―――何だ!? 何が起きてんだ、そっちで!? ―――メッセージは、出た! 今、それを読もうとしたってのに!)

キョン「おい、何だ、どうしたんだよッ!?」

ハルヒ「ど、『土砂』が……『人』! 『化け物』になって―――か、数が多すぎ―――いやああっ!!!」

キョン(何だって―――!!? この期に及んで、『化け物』だぁっ!!?)

キョン「ハルヒ! 古泉、朝比奈さ―――――――――」


  ――― ド  ギ  ュ  ゥ  ゥ  ゥ  ゥ  ン ッ ! !

83: 2009/10/14(水) 21:33:02.24 ID:czgBrG4o0
キョン「ぬがぁっ!?」

キョン(な、何だ―――俺が、『穴』の外に出ようとしたら! なんか、こう、覚えのある『風』がッ―――!!)

土男「「ギャァァァァァァァ!!」」

ブオォォォッッ ……パラパラパラパ…………

キョン「は、ハルヒ! こいず――――ッ!」

ハルヒ「な、何、今の―――! ……あ、あ――――!!」



長門「……無事?」



ハルヒ「―――ッ有希いぃぃぃぃぃッ!!」 バッ

長門「キャッチ」がしっ

キョン(……長門? やっぱ―――やっぱり、無事で、いてくれたのか―――!!)


みくる「な、長門さん……どうやって、ここに……で、でも、よかった……ふ、ふえええ……!!」

古泉「……っ、な、長門さん! あれから、何が有ったんですかッ!? あの、『地下室』から―――どうやって!?」

長門「―――……説明は、今はいい。それより―――『進む』先は、見つかったはず」

85: 2009/10/14(水) 21:38:30.16 ID:czgBrG4o0
キョン(! ―――長門が、俺を見た……そうだ! 今、『フレスコのメッセージ』を! 俺は、読んだはず―――!
    そうだ、確か―――!)


長門「―――『全てがそろった時 供養塔で心を使え』」

キョン「! ……長門、なんで、そのメッセージを……?」

古泉「何だって……『供養塔』!?」

ハルヒ「え? そ、それが、その『フレスコ』のメッセージなの? ……で、でも、有希! 『全てがそろった時』って……あたしたち、まだ『遺骨』を……」

長門「……それは、もう―――『見つかっ』ている」

キョン「…………何だって?」

長門「『遺骨』のありかは、既に解き明かされている。……ずっと、昔に。『あなたたち』は、それを受け継げば良い。――来て」

ハルヒ「ちょ、ちょっと! どこに行くのよッ!?」




長門「『葉宮スズ』のもと―――『供養塔』」






88: 2009/10/14(水) 21:45:46.82 ID:czgBrG4o0

――― グラウンド 供養塔エリア

キョン(……長門は。俺たちを連れて、まっすぐに『此処』へやってきた……この、『供養塔』のもとへ)

長門「……『全ては揃ったはず』。……あとは―――ただ、『葉宮スズ』へ……『心』を届けるしかない」

ハルヒ「……有希……さ、さっきから何を言ってるの?
    どうして、有希が……その名前を、知ってるのよ……?」


長門「―――――――――『同期』を行った」


キョン(!――)

古泉「同期……!? まさか、それは――!」

ハルヒ「え?」


長門「……正確には、一方的な同期。『私』から、『長門有希』への―――
    ……今は、語るべき時ではない。
    使って……『心の力』を。私たちは―――それで、『葉宮スズ』のもとへ行ける」



―――あの『フレスコ画』のメッセージを、誰が残したのか。そして、あの『日誌』に、一行だけ書かれていた、『神野唯』の言葉―――

―――俺が、全てを理解するのに。そう、時間は必要なかった。

89: 2009/10/14(水) 21:54:53.17 ID:czgBrG4o0


――― 異次元空間 ?????


キョン(……第一印象は。あの、『美術室』で迷い込んだ空間と、似ているな―――などという、暢気なものだった。
    しかし。此処には『床』があり、『壁』がある。そして、『道』がある―――)

長門「……此処が、『葉宮スズ』の構築した、異次元空間。彼女の魂の中枢は、この先に居る。
    ……進める?」

古泉「う……え、ええ、なんとか……」

ハルヒ「だい、じょうぶ……でも、こ、此処、なんかおかしいわよ……重力が、あるんだかないんだかわからない……気を抜いたら、天井まで吹っ飛びそう……」

長門「『葉宮スズ』の精神が、不安定になっている為だと思われる。……『心』を使って。ここは、彼女の精神の内部。
    自分の『心』を見失わなければ、まっすぐに進めるはず」

みくる「う……あ…た、立てました、なんとか……だ、大丈夫ですか、皆さん……?」

キョン「……はい、なんとか……」

キョン(……長門。いや――『お前』を、信じていいんだな―――?)


長門「……来て。きっと、途中で――『彼女』にも会える。
    『葉宮スズ』ではない――あなたたちよりも、前に。『葉宮スズ』を、鎮めようとしたものにも」

91: 2009/10/14(水) 22:03:27.67 ID:czgBrG4o0

―――

キョン(……拍子抜けするほどに。道は、一本道だった。『精神世界』なんて言うもんだから、もっと、迷路のようになっているかと思ったが……
    そして―――数分だろうか、数十分だろうか、数時間だろうか? もう、よくわからんが。
    しばらく、『こいつ』の背中を追って、進んだ先に―――その人物は、居た)



少女「……あ……う……誰……?
    ……誰、でも、いい……お願い……話、きい、て…………」



ハルヒ「! ―――あなた! 『秋山澪』なの!? ―――そう、なのねっ!?」


澪「……きい、て……そう、私は……
  ……見つけた、私……『遺骨』……わかった……みつ、けた……んだ……でも、とどかなかっ、た、『彼女』に……」


古泉「『遺骨』……!? そんな……どこで、『遺骨』をッ!?」


澪「『遺骨』……『彼女』は、『奪われた』……おもって、た……
  でも、違う……『遺骨』、は……『あった』……
  『奪われて』な、んか、な、かった……『あった』の……『供養塔』に……
  わたし、は、それを、掘り出して、ここに……
  『昇降口』の、フレスコの、とおりに……でも、『スズ』には、届か、なくって……」

93: 2009/10/14(水) 22:13:13.10 ID:czgBrG4o0
キョン(―――何だって?
    『葉宮スズ』は、あの供養塔を掘り返されたから、『よみがえった』んじゃ、ないのか―――!?)

長門「……葉宮スズを、呼び覚ましてしまったのは、私」

ハルヒ「え……?」


神野「『長門有希』ではない。―――わたしは、『神野唯』。
    『葉宮スズ』の、観測を行っていた、対有機生命体用ヒューマノイド・インターフェース。
    ……『上位思念体』の『急進派』に脅かされ、私が、『葉宮スズ』の魂を目覚めさせてしまった。
    彼女は、『彼』の遺骨が奪われたと、そう勘違いをした―――『遺骨』は、もとから、『供養塔』の下で、眠っていた」

澪「―――『神野唯』……が、いる、の……?」

神野「……そう。あなたたちが地下室を訪れたとき、私は、あなたたちと同期を行えなかった。
    私は、待っていた。私と―――『葉宮スズ』が目覚めたとき、この『学校』に巻き込まれた、私と。『同期』を行える存在が、この場所を訪れるのを。
    それが――『長門有希』だった……」

澪「……ごめん、わから、な……
  でも、これ……『遺骨』を、持ってって……『スズ』の、ところまで……」

神野「……分かってる。必ず、届ける。
    『彼ら』なら、それができる。きっと……
    だから、あなたは―――眠っていて」

澪「……あり、がと……やっと、わたしも、いけ、…………」


澪「」

94: 2009/10/14(水) 22:20:26.20 ID:czgBrG4o0
みくる「……いっちゃいました、この人も……やっと。『眠り』に、つけたんですね……」

ハルヒ「……これが……『遺骨』? はじめから、供養塔の下にあった……
    それを掘り返して、この先の……『スズ』へ届けようとしたのが、この……『澪』……」

神野「そう」

ハルヒ「……あなたは……有希じゃ、ないのね……?」

神野「そう。記憶のみ、『長門有希』と同期を行った」

古泉「……『フレスコ』に、メッセージを残したのも、あなた……なのですか?」

神野「……そう。……私は、この学校の異世界化とともに、この世界に組み込まれてしまった。
    私は、フレスコへ『手掛かり』を残すことしかできなかった。それから、ずっと、待ち続けていた。
    私とおなじ存在。『長門有希』のような存在が、この学校を訪れるのを。
    私の役目は、あと、わずか。
    この『遺骨』を―――葉宮スズへ、届けるだけ。
    その間だけでいい……『長門有希』の体を、借りる」

キョン「ま―――待ってくれ、お前は―――」

神野「……時間が無い」

古泉「!」


神野「『葉宮スズ』が、来る」

―――

96: 2009/10/14(水) 22:29:42.83 ID:czgBrG4o0



―― ?? ???? ?? ??????



キョン(また―――同じだ、あの、美術室の時と―――
    俺たちは、また、あの宇宙のような空間にいる―――そして。
    長門―――『神野唯』と。『葉宮スズ』が―――俺たち、四人の、中心に居る――)


葉宮「う……あ……どうして……何度も、何度も……あなたたちは、くるの……!?」

神野「……葉宮スズ。あなたが探し求めている……『彼』を、連れてきた。
    もう、あなたが苦しむ必要は、ない。やっと……あなたに、彼を届けにこられた」

葉宮「―――ち、がう……私の、傍から消えたのは、『あいつ』……
    そんな―――『骨』なんて―――ちがう―――!!」


   ド   ォ   ン   ッ   !  !


キョン(ぐ――!! ば、ちくしょう、これじゃあ!! あの時と―――『山村』のときと、同じじゃねえか!!
    『スズ』は! 『葉宮スズ』は、気づいていないんだ―――自分が、どうなったかも! あの『遺骨』のやつが、氏んじまった事すら『見失って』る!!)


ハルヒ「―――『これ』!! 『スズ』―――お願い、『これ』を見て!! ――この、『彫刻』をッ!!」

97: 2009/10/14(水) 22:37:34.72 ID:czgBrG4o0

葉宮「――――え? ――わ、たし――?
    何――なん、で……そんな、ものを――――――」


  ―――  ズ  ズ  ッ  !


キョン(!? ―――『力』が、弱まった―――!?)


神野「……あの、彫刻は。『彼』が、あなたへ……
    あなたの『誕生日』へ、贈ろうとしていたもの」

葉宮「え――……?」

神野「思い出して―――あの日。布に包まれたままの、あの彫刻が。
    『焼却物』として、持ち出されてしまった。『彼』は、それを回収しに行って―――」



葉宮「あ……『地震』……え―――『焼却炉』に――?
    ……な、何? この、『記憶』―――う、うそ、こんな―――!! こんなの、うそ―――――!!!」


   ド   ォ   ン   ッ   !  !


キョン(ぐっ――くそ、またっ! 『力』が、戻ってきちまった―――――!!?)

100: 2009/10/14(水) 22:46:05.22 ID:czgBrG4o0

神野「―――お願い、聞いて―――私を、思い出して―――」

葉宮「あ、知ら、ない……だって、『唯』は、私の傍に―――」

神野「そう。私は、ここに居る。―――『長門有希』が、此処に来てくれたおかげで。
    こうして、あなたと―――『葉宮スズ』と、再び。出会えたの」

葉宮「―――うそ―――まだ、まだ、まだ―――私たちは―――あの、学校に―――」



古泉「は……みや、さん……!! 『これ』を……! この、『日誌』を、どうか―――!!」

葉宮「――『日誌』――どうして、あなたが―――? 『美術部』の、日誌―――持ってるの―――?
    ―――八? ―――変、だって、日誌は、五冊目までしか―――!!」


  ―――  ズ  ズ  ッ  !


神野「……それは。あなたと―――『彼』が――『居なくなった後』の、日誌。
    日次サクラと、行木六生―――そして、私、神野唯が、着け続けた、記録」

葉宮「ヒナミ…サクラちゃん……ユキキ君……ユイ……?
    うそ……だって、わ、たしたちは、ずっと、ずっと、一緒に……わたしも、『アイツ』も、一緒に―――」

古泉「――――違うんです、『葉宮さん』……『僕ら』は。
    あなたたちが、眠りについた後も……二年間。僕らは、あの『学校』に居たんです……三人で。最後は、二人で―――」

101: 2009/10/14(水) 22:54:16.91 ID:czgBrG4o0
キョン(! 古泉―――? いや、違う!  今、『古泉一樹』の中に居るのは―――!!)



行木「……僕らは。ずっと、見守っていたんです。
    僕らの学校が、廃校になってしまう、その日まで。
    あなたと、『彼』の眠る場所を……ずっと、この学校で」

葉宮「――うそ、で……しょ? ……あいつが……氏んだ、なんて……
    行木君、そんなの―――」

行木「嘘じゃ、ないんです。――彼は、事故で氏んでしまった。
    ……あなたは、彼を奪われたんじゃあないんです。
    彼は―――もともと、あなたの作った『供養塔』に……あの『場所』に、いたんです」

神野「私は、其れを届けにきた。彼らのおかげで―――やっと、届けに来れた。
    受け取って―――『彼』を」




葉宮「え――――――『キョン』――?」

行木「……葉宮さん。もう、眠りませんか? 僕も、神野さんも、あなたのそばにいます」

葉宮「―――ほん、と?」

神野「本当。私たちは、ずっと。あなたと共にいる―――ずっと。この世界は、もう、それしか残っていない―――――――」

スズ「――――」

102: 2009/10/14(水) 22:59:05.33 ID:czgBrG4o0



―――



キョン(―――俺たちは――どう、したんだろうか。 気がつくと……俺は。どこかの、やわらかいベッドの上に、寝そべらされていた)


男「! 目を覚ました……大丈夫か、君!」

キョン「……此処、は・」

男「救急車の中だ! 君たちは、土砂に巻き込まれたんだ―――おい! 目を覚ましたぞ!」

キョン「……『土砂』?」

男「ああ、そうだ、『地震』でな。斜面から、『土砂』が降りてきたんだ!
  だが、奇跡的に、君たちは『五人とも、生きていた』んだ!! 君が、最後の一人だ―――!!」




―――


キョン(まさか。
    全部、『夢』、『悪夢』だった――――
    んな、アホな結末なわけは、ないよな?)

105: 2009/10/14(水) 23:08:33.07 ID:czgBrG4o0


――― 部室棟 四階 SOS団部室


古泉「やあ、どうも……正直、焦がれる思いでしたよ、あなたが目覚めてくれるまで」

キョン「……俺は、どれだけ寝てたって?」

古泉「僕らより、一週間ほど長く、ですね。……ご安心を。涼宮さんには、あの一連を、僕らが記憶しているということは、隠してあります」

キョン「だと、思ったよ」

古泉「……すみません。できるなら―――僕としても。彼女だけを騙すような真似は、したくありませんでした。しかし―――」

キョン「言わなくても分かるさ。あの異次元での、長門……『神野』の言葉にしろ。あいつに聞かせないほうがいい単語だらけだったしな」

古泉「…正直。あなたが、何も覚えていなかったら……そんな不安も抱きましたが。どうやら、杞憂に済んだようで」

キョン「……俺が一番口は軽いかもしれんぜ?」

古泉「はは、そうかもしれませんが。……ですが。あなたが今のあなたになってくれたのは、なんというか……
    正直。僕は、たとえ長門さんや、朝比奈さんが、全てを忘れてしまっても、あなたさえ覚えていてくれればいいとすら思っていました」

キョン「……んで、ありゃ、一体『何』だったんだ? 何かしらの結論は出たんだろ? 長門あたりから」

古泉「……あの、『世界』は。多くあると考えられる、『平行世界』の一種であると考えられます。
    あの世界での『彼ら』は、『僕ら』と同一の存在ではない。しかし、そのありかたは、あまりにも似通っていました。
    そして……あの世界は。『葉宮スズ』の力によって、あの学校を残して、全てが『滅亡』した世界。
    ……おそらく、僕らや、彼らのような、こういった『構図』が完成した世界が、最も最悪の道を辿った場合の世界……だったのではないかと」

110: 2009/10/14(水) 23:16:38.71 ID:czgBrG4o0
キョン「……まあ、分からんでもない。で、あの『学校』が、俺たちの世界とリンクしたのは……」

古泉「わかりません。単純に、涼宮さんが『廃校』を探し求めたことで同期したのかも知れません。
    あるいは、涼宮さんが言っていたように。『葉宮スズ』のほうから、涼宮さんの『力』に干渉してきたのかもしれません」

キョン「何のために」

古泉「……葉宮さんも、深層心理で分かっていたのかもしれません。自分が、もう……『未来』のない存在であることを」

キョン「……」

古泉「あるいは、彼女……あの世界に巻き込まれていた『神野』さんや、山村さん……『行木』さんの願いが、そこに多少の影響を及ぼしたのかもしれません。
    何にしろ、ぼくらは、涼宮さんを介し、彼らに呼ばれ、あの世界に引き寄せられた……それは、間違いないと思います」

キョン「『秋山澪』たちは、何だったんだ」

古泉「僕らと同じでしょう。あの、『学校』のみになってしまった異世界に、たまたま『つながって』しまった人々です。
    ……おそらくですが。あの『澪』さんという方……彼女が、『涼宮さん』や、『葉宮さん』に近い力を持っていたのだと」

キョン「あいつらも、また違う世界の住人か……」

古泉「ええ……おそらく、ですが」

キョン「……ま。とにかく、ハルヒはアレを『夢』だと思ってる。……なら、いいだろうよ」

古泉「……そう思います?」

キョン「ああ、そうさ。これまで通りだ。何かイカレた事が起きて、俺や、お前や、長門、朝比奈さんが、その対処をする。
    ……『これ』が、俺たちにとって、一番いいんだろうよ……俺の『憶測』だけどな」

113: 2009/10/14(水) 23:22:01.26 ID:czgBrG4o0

バンッ!

キョン「うおっ!?」

みくる「きょ、キョン君! よかった……め、目覚めて、くれたんですね……」

キョン「あ、朝比奈さん……は、はい、なんとか……びっくりした、ハルヒかと思いました」

みくる「あ、ご、ごめんなさい……でも、よかった……
    キョン君が目覚めるまで、いつ、涼宮さんが、『あれ』が現実だったと気づいちゃうかって、不安で……」

キョン「そ、そうですか……(俺がいたって、大した力にはなれんと思うんですが)」

みくる「……? あの、長門さんは?」

古泉「長門さんでしたら、先ほどから、あちらの席に」

長門「……」

みくる「きゃっ! あ、す、すみません……」

長門「いい」

キョン(……『神野』は、長門に一方的な同期を行ったと言っていた……
    つまり、俺たちを一度分かれたからの記憶は、長門にはない、ってわけだよな……)

長門「……資料として、二人から話は聞いた。
    今回の件は、ただのリンクの異常と捉えるべき。……我々が、同様の危機に瀕する可能性は低い。きわめて低い。
    ……あなたが忘れてしまいたければ、そうすることも可能。それを望む?」

115: 2009/10/14(水) 23:25:56.74 ID:czgBrG4o0
キョン「……いや、いいさ」

長門「……そう」

キョン「つか、そんなことができるなら、ハルヒのやつにそいつをかましちまうことは……」

長門「無理」

キョン「ですよねー……」


バンッ


ハルヒ「やっほー! あ、ちゃんと揃ってる、みんな!」

古泉「ええ、どうも」

みくる「あ、こんにちはあ」

長門「……」

ハルヒ「キョンも復活して、やっと元通りね、SOS団も……しかし、あたしとしたことが、土砂崩れに巻き込まれるなんて、不覚だったわ」

キョン「……むしろ、全員生存した強運を誇っていいと思うがな」

ハルヒ「んー……ま、それもいっか。
    あ、そだ、キョン。復帰突然で、頼みがあるんだけど。
    ほら、映画撮影のとき、電気屋をスポンサーにしたの、覚えてる? あそこに交渉して、なんと、ストーブが譲ってもらえることになったのよ!」

116: 2009/10/14(水) 23:29:32.02 ID:czgBrG4o0
キョン「ストーブだあ? そんなもんを快く譲ってくれる店なんか、あるのかよ」

ハルヒ「そりゃ、あたしの口聞きがあってよ。なんだかんだ、もう十月下旬で、寒い時期じゃない?
    そういうわけで、キョン。あんた、あの店まで言って、受け取ってきてくれる?」

キョン「あ!? 俺一人でかよ!?」

ハルヒ「当然でしょ、でなかったらあんたを名指しなんかしないわよ」

キョン(……ストーブって、普通、そこそこ重いよな……それを担いで、北高前の坂、上ってこいってのかよ……)

ハルヒ「あんた、一週間も余計に休んだ分、労働が溜まってんのよ! ほら、いいから、さっさといく!」

キョン「交通費!」

ハルヒ「実費!」

キョン(ですよねー)

みくる「あ、キョン君、よかったら、私のマフラー……」

キョン「あ、すみません」

ハルヒ「いいから、行け!」

みくる「ふぇ」

キョン(ですよねー……)

―――

117: 2009/10/14(水) 23:34:02.29 ID:czgBrG4o0

―― 光陽園駅 ホーム

キョン(……さみ)

キョン(……しかし。『夢』とかわらねーよな、実際……あんなの)

キョン(最も極端な世界、か……)

キョン(しかし……あのハルヒが、『俺』が氏んだだけで、あの『スズ』みたいになるってのか? はたして……)


プァーン
『マモナク イチバンセンニ……』


キョン(来たか……ま、いいや。所詮、別世界の話だしな……)すくっ


コツ コツ

『ハクセンノウチガワニ……』 プァーン


キョン(ストーブ……重いだろうな、当然……)

キョン(? ……今、後ろに何か―――ま、気のせいか)


END

118: 2009/10/14(水) 23:37:27.24 ID:+NPbFDp1O
バイバイキョン

119: 2009/10/14(水) 23:38:35.79 ID:BPjOI+xg0
乙。そう来ましたか。

124: 2009/10/14(水) 23:41:27.00 ID:czgBrG4o0
スウィートホームの全員生存ったらこれしかねえんだよ!

ちょっと空回りして正直二転三転しました
つきあってくれてありがとうございました

132: 2009/10/14(水) 23:48:17.87 ID:czgBrG4o0
けいおんは一応
踊り場の白骨…律
ライトで潰れた…梓
渡り廊下の氏に損ない…唯
体育館の氏に損ない…紬
模様の体育倉庫の焼氏体…和
美術準備室の蛆虫まみれ…聡
異次元の氏に損ない…澪
かな

134: 2009/10/14(水) 23:53:27.59 ID:sb+MSh76O
キョンて誰かに殺されるのか?

136: 2009/10/15(木) 00:03:38.27 ID:RAGQ2ufr0
リアルでサムデイ観た後にこのラストでビックリw
乙でした

137: 2009/10/15(木) 00:28:57.41 ID:O7Bz7YrzO
>>1乙
元ネタ分かんないけど面白かった
終わりも綺麗(?)だったし
次回作あるか分かんないけど楽しみにしてる

引用: ハルヒ「そういうわけで、今日は廃校探検!」