4: 2012/08/15(水) 23:08:53.42 ID:nz71fILS0
代行感謝

この間の続きです、楽しい話じゃありません
末原「お邪魔します」赤阪「邪魔するんやったら帰ってやー」
悪しからず

ゆっくり投下していきます

8: 2012/08/15(水) 23:10:33.06 ID:nz71fILS0
主将とあんなことがあった次の日は、なんとなく足取りが重かった。
好きな人はいない、なんてウソをついたことが後ろめたいという気持ちもあるし
主将に抱きしめられたときの感覚が抜け切らない。

こんなときに、あの人に会いたくはない。
あの人は鋭いから、なにかあったとかそういうのはすぐに見抜かれる。
じっと、目を見られるんが怖かった。

学校に早く行きたいという気持ちと、まだもうちょっと歩いていたいという気持ちが
心の中で葛藤していて、歩みはゆっくりとした感じ。

「おー、恭子ー!」

そんな私に、後ろから声がかかった。
振り向かんでもわかる、主将や。
咲-Saki- 25巻 (デジタル版ヤングガンガンコミックス)
10: 2012/08/15(水) 23:14:53.29 ID:nz71fILS0
「先輩おはようございます」

「おはよう絹ちゃん、主将」

相変わらずの仲良し姉妹は毎日一緒に登校してくる。
そこに加わって、学校へと歩みを進める。

主将の顔ははっきりと見られへんかった。
恥ずかしいって気持ちもあるし、何よりなんか気まずい。
…気がする。

ってあれ、二人ともいつもよりちょい遅いんちゃう?

「いつもより遅いやん?」

「聞いてくださいよー!お姉ちゃんが寝坊したんです!」

「あ、わ、ちょ、言うな!」

慌てた主将が愛らしい。思わず、クスっと笑みがこぼれた。
テンションは高い。昨日のままやな。
そのことに少しだけ安堵した。

12: 2012/08/15(水) 23:15:54.22 ID:nz71fILS0
「なんか遅くまで起きてたみたいで…目が真っ赤なんですよもう」

「ま、まあ一応受験生やしな!」

「主将は勉強なんかほとんどしませんよね」

「う、…否定できん」

「もう、お姉ちゃんしっかりしてやー」

「わ、わかってるわ」

こういうときの二人は微笑ましい。絹ちゃんがお姉ちゃんみたいや。
主将はこういう抜けたところも魅力やなぁ…。

14: 2012/08/15(水) 23:16:44.58 ID:nz71fILS0
学校へ着いて、それぞれの教室へと別れた。
日々は淡々と過ぎていく。
昨日のこともなかったんちゃうかって思うくらいに何の変化もない一日。

気がついたらもう放課後で、うちは部室へと向かっていた。

もうすぐ夏がやってくるせいか、長いジャージじゃ、ちと暑いなぁ。
スカートのひらひらは苦手やし、今年もスパッツかなぁ。

なんて考えながら、部室のドアに手をかけた。
そのとき急に不安になった。

あの人がこの中にいるはずで、感情のわかりにくい笑顔浮かべてるはずで。
何もなかったように、何も悟られずに過ごせるか不安になった。

別に悪いことしたわけやない。抱きしめられたのかって、急やったし
すぐに離れたし、……悪いことは何も…。

そうは思うのに、部室に入るのを躊躇する自分がいた。

18: 2012/08/15(水) 23:21:18.79 ID:nz71fILS0
そしたら、急にドアが開いた。向こう側から、誰かが開けたらしい。

「うわぁっ」

びっくしたけど、向こうも同じやったらしい。

「うわっ!びっくりしたー」

目を見開いた漫ちゃんが目の前にいた。

「なにぼーっとしてるんですか、先輩」

「んー?漫ちゃん誰に口聞いてるんやー」

「あ、す、すいません!」

「あはは、ええよーもう」

ちょっと声色を変えるだけでコロコロと表情を変える漫ちゃん。
その姿になぜか安心して、うちは部室の中へと入った。

21: 2012/08/15(水) 23:22:53.81 ID:nz71fILS0
ふと顔を上げて、あの人の、代行の姿を探す。
いつもあの人が座ってるイス…いーひん。
いつもあの人が外を見てる窓際…いーひん。

あれ…?
この時間にはもう「あんたらへったくそやなぁ」とか
笑顔で言うて後輩らをびびらせてるはずやのに。

なんでいーひんのやろ?

首を傾げながら「末原ちゃんなに隠してるんや~?」って
言われるとばかり思ってたのに。
言う人がいーひんて…安堵とともに、少し寂しい気もした。

「あ、恭子ー」

先に来ていた主将がこっちへ寄ってくる。

22: 2012/08/15(水) 23:24:18.98 ID:nz71fILS0
「主将、…あの、代行は?」

「あぁ、なんか風邪やって」

「風邪?あの人が?」

「そうらしいねん、代行が休むって珍しいなぁ」

「ですね、…風邪、か」

「よし、ほなだいたい集まったしはじめるかー」

「…風邪、風邪」

「おい、恭子、はじめるで?」

「あ、はい。すいません」

24: 2012/08/15(水) 23:27:28.92 ID:nz71fILS0
代行のいない部活が始まる。

会うのが怖いと感じながらも、会いたいと思っていたのに。
いないとわかると寂しさばかりが募っていく。

だいたい、なんでうちに知らせてくれへんのやろ?
メールでも「休む」って伝えられるはずやのに。
今朝から何の連絡もないし…。
うちに知られたくなかったんかなぁ、でもなんで?
そんなんすぐにバレてしまうことやのに。

風邪なんやったらお見舞いとか…あの人ずぼらやし
絶対にまともなもん食べてなさそうやし
何かしてあげたいけど、でも連絡ないしな…

なんもせん方がええのかな…

26: 2012/08/15(水) 23:29:46.21 ID:nz71fILS0
「末原先輩、それロンです」

「へ?」

「せやから、ロンです、12000」

「あちゃ…」

「漫に振り込むとか何してんねん恭子」

「あ、あはは・・・」

考え事してた、なんて言えへんよなぁ。

調子が狂ったまま、集中することもできずに部活が終わる。
最悪や、今日はほとんどラスやん…面目ないわぁ。

…代行が、連絡くれへんしや。あほ、寂しいわ。
なんて、他人のせいにしても仕方ないけどな。

少しずつ、でも確実に、深みにはまっている気がする。
大嫌いな人を大好きになっていく。
そんな自分が怖いけど、嫌いやないのは不思議な感覚かもしれん。

28: 2012/08/15(水) 23:33:19.42 ID:nz71fILS0
「どうしよかな…」

部活が終わったあと、代行の家に行くべきか悩んでた。
うち何の連絡もないってことは、
放っておいてほしいって言うことな気もする。

けど、連絡でけんほど苦しんでるのかもしれんし…

カバンの外側ポケットに入れてる合鍵をカバンの上から握り締めた。

「恭子ー、絹がクレープ食べたいって言うてるねんけど恭子も行こうや!」

そんな私の肩をポンと主将は叩いて、そう言った。

30: 2012/08/15(水) 23:36:03.98 ID:nz71fILS0
「先輩今日なんか元気ないみたいやし、どうですか?」

「そうやそうや、恭子行こうやー」

「あ、でも」

「なんか用事あるん?」

「…いえ、大丈夫です」

「よっしゃ、ほな行くでー!」

「あ、ちょ、お姉ちゃん走らんといてー!」

「あぁもう二人で走ったら追いつけませんて!」

連絡なかったんやし、うちから行くことない。
あんま考えてても答えなんか出ないわけやし、ここは二人の提案に乗ろう。

走り出した姉妹を追いかけて、部室を飛び出した。
廊下を走るのは禁止やけど、その疾走感が気持ちよかった。

31: 2012/08/15(水) 23:37:06.78 ID:nz71fILS0
ちょい休憩

35: 2012/08/15(水) 23:42:46.39 ID:nz71fILS0
--赤阪side--

「…もう部活終わった頃やろか」

日が傾き始めていて、窓の外は薄っすらと赤くなってる。

「ズル休みって私は何をしてるんやろう…代行失格やな」

風邪、なんてウソ。
中学生でももっとマシなウソを考えるんとちゃうやろうか。
自分がひどく滑稽に思えて仕方がない。

「これでは監督さんにはなられへんなぁ…」

代行どまりやな、これでは。
あぁ、情けない。インハイ予選が迫ってるっちゅうに。

自分より年下の教え子の顔が見たくないから、なんて幼稚な理由。
さっきから自己嫌悪ばっかりや。

37: 2012/08/15(水) 23:46:14.25 ID:nz71fILS0
ソファで膝を抱えて、何時間経ったんやろう。
何か食べたいと思うけど、この場所から動けへん。

つくづく、教師やなくてよかったと思うわ。
教師がこんな理由で休んだらクビやろ…いや、監督代行も同じかもな。

でも、もう休んでしもたわけやし。
末原ちゃんに会わなくて済んだわけやし…もっとプラスに考えへんと。
そやないと、また明日も同じことになってしまう。

「…心配とかしてくれたりするんかなぁ」

と、ふと、あの子の顔を思い浮かべた。
でも、その顔は昨日の…頬を赤らめた嬉しそうな顔で。
余計に虚しくなって、膝を抱えたまま、ソファに倒れこんだ。

そんなとき、携帯がけたたましい音で鳴りはじめた。
反射的にその携帯に手を伸ばして着信者を見た。

38: 2012/08/15(水) 23:51:28.49 ID:nz71fILS0
「洋榎ちゃんか…」

あぁ、この電話も出たないわ。
けどまあ…逃げてるわけにもいかへんか。

「はい、もしもし」

『あ、代行ですか?風邪どうです?』

「まあ、ぼちぼちかな」

『そうですか、よかった』

「明日は行けると思うから、ごめんな」

『いえ、…あ、恭子、代行やで』

恭子、という言葉に胸がドキリとした。
一緒にいる…?
昨日あんなことがあって、一緒にいるん?

41: 2012/08/15(水) 23:53:20.48 ID:nz71fILS0
『あ、うちはええって……身体どうですか?』

「二人一緒なん?」

私を心配してくれたことに対する返事よりも、疑念が口からこぼれた。
怒りなのか、悲しみなのか、よくわからない感情が
沸々と湧き上がってくるのを感じる。

『あ、はい…』

同じ電話を使ってるから、一緒にいないはずはないのに
否定して欲しかったという気持ちが勝っていた。

けれど、そういうのは当然、あっさりと崩れ落ちる。
二人は一緒にいて、私に電話をかけてきている。
この事実は決して、覆らへん。

怒りの感情が悲しみの感情を、勢いを増して上回っていく。

「そうなん…身体はいい感じやし、大丈夫」

なんで、末原ちゃんは電話してきてくれへんかったん?
なんで、洋榎ちゃんがかけてくるん?
なんで、電話を交代するときに躊躇してるん?

考えれば考えるほど、手が震えてきて、
それを押し頃すようにぎゅうっと拳を握り締めた。

42: 2012/08/15(水) 23:57:14.55 ID:nz71fILS0
『よかった…ほな、また明日』

「うん、明日な」

このあと洋榎ちゃんと少し話して、電話を切った。
電話はソファに投げつけられて、落ちた衝撃で電池パックは外れた。
直すに気にもならへんし、その場から、動く気もせーへんかった。

こんなに感情的に何かに当たったのは久しぶりで自分に戸惑っていた。
誰もいない、こんな静かな部屋ではいつもみたいに
笑顔作って感情を押し頃すことに何の意味もない。

強いはずやった私のメンタルどうなってるん?
弱すぎやん…。
今麻雀打ったら、絶対負けるわ…。

なんやこれ、どうなっとるんよ。
私、どんだけあのこのこと好きなん…怖い、自分が怖いわ。

44: 2012/08/16(木) 00:01:35.28 ID:kU5mCCXq0
年下の、教え子が好きっていうだけでも問題やのに
いい年した、大の大人の私がこんなに感情乱されてるやなんて…。

胸が痛い。どうしたらええの、なぁ、末原ちゃん?
私のことはもう好きやないの?
洋榎ちゃんが好きなん?

本人に直接聞けばいいんかな。
そんなこと、今の私に出来るんかな。
そこでもしふられたら、私はどうなってしまうんやろう。

無理や…絶対に直接聞いたり出来ひん。
怖い、知りたくない。でも、知りたい…。

二人の姿が頭から離れてくれへん。
頭に浮かぶ二人はお似合いで、私は触れられへん。

負のスパイラルからそう簡単に抜け出せるわけはない

あぁ…明日も逃げていたいなぁ。

50: 2012/08/16(木) 00:09:54.35 ID:kU5mCCXq0
--末原side--

代行が休んだ次の日の部室。
元気に姿を見せた代行は機嫌よくみんなを笑顔でこき下ろしてる。
後輩が可哀想に思いつつも、その変わらぬ姿に安堵した。

姿を見たとき、やっぱり嬉しかった。
自然と笑みがこぼれた。「なんなん?」って顔を覗き込まれたときは
ちょっとヒヤっとしたんやけど、でも、それも嬉しかった。

一日会わへんだけで、こんなに嬉しいやなんて。
全く、うちはこの人のこと大好きなんやな。

このまま、何も悟られませんように。
ボロを出さんように過ごせますように。

卓を見回っているとき、代行から声がかかった。

54: 2012/08/16(木) 00:14:58.19 ID:kU5mCCXq0

「すっえはっらちゃ~ん♪」

「…気持ち悪いです」

「えぇ、そんなん言わんといて~」

「なんですか?」

「ちょっと、屋上頼むわぁ~」

「はぁ…」

屋上につれてこられる。
一緒に屋上に行くんは結構久しぶりのことかも。

けどなんか今日の代行はテンション高いなぁ。
なんかええことでもあったんかな。

53: 2012/08/16(木) 00:12:15.54 ID:kU5mCCXq0
「大事な話でなぁ、ごめんなぁ」

「はい、なんですか?」

「…今夜、うちにおいで」

「え、でも」

「な~に?」

「昨日風邪で休んではったし、悪いですよ」

「私が来て欲しいんやから来たらええやろ?」

「まあ…いいですけど、って大事な話ってこれですか?」

「そやけど?」

「…じゃあ、戻りますね」

55: 2012/08/16(木) 00:17:48.51 ID:kU5mCCXq0
>>54で>>53ね
て、続き


「待って」

「へっ?あ、ちょ、だ、ダメですって、誰か来たら…!!」

「ええやん、誰もきーひん」

「やめっ…んっあ」

後ろから抱きしめられて、耳を舐められた。
学校でこんなことは絶対せーへん人やのに…なんでこんなこと。

「…私が風邪で休んでんのに、末原ちゃんは主将と仲良くなにしてたん?」

ドキリとした。
そんなつもりはなかったのに、
そう言われるとすごく悪いことした様な気になる。

一昨日のことも相まって、すごく緊張している。
代行が後ろにいてよかった。
今目を覗き込まれたら、絶対ボロを出す気がする。

58: 2012/08/16(木) 00:20:28.62 ID:kU5mCCXq0
「へっ?…いや、クレープ食べただけで…」

ウソやない。クレープ食べて、すぐに帰った。
やましいことなんか何もない…。

「ふぅん…」

代行の声が冷たい。なんで?今日のこの人は怖い…。
どんどん、追い詰められているような気がしてくる。

「すいません、でも、連絡なかったし…」

「ふぅん…」

「行ったら迷惑なんかなって…そやから」

「ふぅん…」

代行の、小さな相槌が怖い。
何を考えてるか、よくわからへん。
言えば言うほど、泥に沈み込むような…。

59: 2012/08/16(木) 00:22:58.93 ID:kU5mCCXq0
「まあ、ええわ~…」

ふわっと身体が離されて、一瞬前のめりになる。
振り返ったら、ニコニコといつもの笑顔やった。
何考えてるんか、全然わからへん。

「…こういうの、学校ではやめてください」

「それはそっち次第なんちゃうかなぁ~」

「え?」

「じゃあ、先戻るなぁ~」

代行はスタスタと私を追い抜いて、階段を下りていく。

うち次第ってなに…?え、うちなんかやってしもたんかな?
感情読めへんけどなんか怒ってたっぽいし…
昨日のことをそんなに怒ってるんかな。
うちとしては気をつかったつもりやったんやけど…裏目った?

62: 2012/08/16(木) 00:28:20.24 ID:kU5mCCXq0
部活中、代行が声をかけてくることはもうなかったし
帰り際も、話すことはなかった。
休んだ分取り戻そうとしてるんか、なんか書類と睨めっこしてた。

「お先です」とだけ言うて、先に家に帰った。
荷物を片付けて、必要なものを持ってまた家を出る。
学校とうちの家の間にあるんが、代行のマンション。

手慣れた手つきで、鍵を開けて部屋に入った。
そしたら、代行は玄関の段差に腰掛けてた。
荷物がそばに置きっぱなしやから帰って来たとこっぽい。

「お邪魔します」

「いらっしゃい、それと、邪魔するんやったら帰りや」

いつものやりとりやのに、空気が重たい。
なんやこれ…いつもの楽しい言い合いやのに。
なんでこんなに息が詰まりそうなんや…?

65: 2012/08/16(木) 00:30:25.52 ID:kU5mCCXq0
「…帰ったとこですか?」

「うん、そやねん」

「すいません、もちょっとゆっくり来た方がよかったですね」

「ええよ、ほら、入り」

代行は立ち上がって、靴を脱いでリビングへ歩いていく。
うちはそれに着いていくように、リビングへ入った。

そのあと、なぜかうちはソファに押し倒されてた。
あれ?なんでやろ?と首を傾げるけど
目の前に広がるのは代行の澄ました顔だけ。

66: 2012/08/16(木) 00:33:13.81 ID:kU5mCCXq0
「…代行?」

恐る恐る声をかける。澄ました顔が余計に怖い。
感情が読めへんわけやなくて、感情がない気がした。

「せやから、名前で呼んでって言うてるやん」

冷たくて、感情のない声。
なんでこうなったん…?

「でも」

「あんな~、末原ちゃん、私は怒ってるねん」

怒ってる、と言う割には怒りの感情は一切見えへん。
なんとなく、こういうやりとりに覚えがある。

…初めての、夜やったなぁ、あれは。
いやでも、今は思い出したくない…。

69: 2012/08/16(木) 00:36:43.08 ID:kU5mCCXq0
「え?なんでですか?」

「なんでやろうな?」

「昨日のことですか?」

「そんな単純やったらよかってんけど」

「じゃあ…なんやろ?わかりませんよ…い、痛いです」

両手首を掴まれて押さえつけられてるから動けへんし
なによりその押さえつける力が強い。
こんな風に乱暴にされるんはあの時以来かもしれん。

「怖い?」

「いえ、でも、痛いです」

「そうなん…末原ちゃんて、ほんま可愛いなぁ」

「んっ…」

キスされた。触れるだけやけど、優しくて甘い。
今の代行の顔は優しそうで、怖さはない。けど。

70: 2012/08/16(木) 00:39:52.98 ID:kU5mCCXq0
「…末原ちゃん、優しくするんはここで終わりや」

「え?どういう意味ですか?」

「…こういう、意味」

「え、ちょっ!!」

どこから取り出したのか、細長いタオルを手にした代行は
するすると、うちの両手首を縛った。
ぎゅっと結ばれたタオルは動かしてみても取れる気配はない。

「な、なんですかこれ!」

「…末原ちゃん、やっぱり虐げられてる方が可愛いわ」

「やめてください、こんなんいやです!」

「あかん、言うたやん?優しいのは終わりや」

「いや、いやです…んっ…はぁっ」

何度イヤと口にしても、代行はにやにやと笑って見下ろしてくるだけ。
その顔が怖い、と思った。
あの時と同じ…虐げられたものを見下すようなそんな怖い目をしてた。

75: 2012/08/16(木) 00:42:51.38 ID:kU5mCCXq0
思い出したくない思い出が、頭の中に次々と浮かんでいく。

キスされて、舌が入ってきて息が出来ないほど追い詰められる。
酸素が足りひんのか、頭がぼーっとしてきて、苦しくて。
身をよじってみても、離してくれへんかった。

「はぁっ、ぁっ、んあっ」

荒い息と卑猥な水音だけが部屋に響く。

なんでこんなことになってるんやろう?
何か、とても怒らせたから、こんなことされてるんやろうか?
昨日のことやないとしたらなんなん?

あかん、もう何も考えたくない…

考えることを拒否しようとしたとき、唇が離れた。
思いっきり空気を吸い込んで吐き出す。

77: 2012/08/16(木) 00:45:50.47 ID:kU5mCCXq0
「な、んで…」

「こんなもんでは終わらせへんから」

代行の言葉が頭の中に響く。
あぁ、やっぱりもう考えるんはやめよ…

考えることを拒否して、その身を委ねた。

「あぁっ、んぁ、はぁ」

自分でも恥ずかしいくらいの声が漏れるけど止める術がない。
手は使えへんし、我慢できるほど強くはない。

代行の手つきは乱暴で、言葉をたくさん投げかけて来る。

78: 2012/08/16(木) 00:47:55.89 ID:kU5mCCXq0
「もうこんなになってるん?末原ちゃん、ほんまえろいなぁ」

誰のせいや、誰の…

「気持ちいいん?ほら、ちゃんと言わへんと…もうあげへんよ?」

言いたくない、けど、このままは辛い…

「してっ…やめ、んとって…」

「ええ子や、それでええよ」

撫でられた頬が熱い。

「もういきそう?いきたいん?あかん、ちょっと我慢しぃ」

我慢なんか、できひんのに、そう言われたらできる気がして悔しい。

言葉の一つ一つが身体を刺激する。
縛られた手首が痛くて、体中は汗ばんで、羞恥心を刺激されて
恥ずかしいはずやのに、それらは全部、快感へと変わっていった。

81: 2012/08/16(木) 00:54:48.49 ID:kU5mCCXq0
目を覚ましたら、ソファやなくて、ベッドの上にいた。
身体を起こそうとしても、体中が重たくて動かせへん。
けど、手首の拘束は解かれて、そこは赤く痕がついていた。

「これまずいな…」

小さく声が漏れる。
こんなん人に見られたらなんて言うたらええんやろ…。
なんでこんなことになったんや…。

代行の姿は寝室にはない。どこへ行ったんかな…。
ひどいことされたって思ってるはずやのに、
すぐに姿を探してしまうんは惚れた弱みかもしれん。

微かに、水の音が聞こえてくる。
あぁ、シャワーか…。
その気持ちもわかるけど、目を覚ましたときには
隣にいて欲しかった。なんていう、ワガママまで思いつく。

82: 2012/08/16(木) 00:56:23.24 ID:kU5mCCXq0
『ごめんなぁ、やりすぎたわぁ』とでも言ってくれれば
きっと許せる気がする。
いつもとは違う、無表情の怒った代行は怖かったけど、
でも、責める気にはならへん…理由を聞ければ。

「はぁ…ほんま、身体がしんどいわ」

ため息が漏れて、被せられてたタオルケットを握り締める。
そのとき、ガチャリとドアが開いて、
首にタオルをかけた下着姿の代行が入ってきた。
手にはミネラルウォーターのペットボトルが見える。

「起きたん?」

「はい、えっと」

顔を見るのがなんとなく恥ずかしくて目を伏せた。
そしたら、首筋に冷たいものが押し当てられた。

83: 2012/08/16(木) 00:57:41.30 ID:kU5mCCXq0
「っ!!」

「あはは、もう、大げさなんやから」

肩がビクンと、大きく跳ねた。
首筋には、ペットボトルがあった。

「それ、飲みや」

「すいません、ありがとうございます」

「…怒ってへんの?」

「まぁ…はい」

「そうなん」

代行は頷いて、ベッドに腰掛けた。
まだ少し濡れた背中は妙に色気があって、見つめてしまう。
あぁ、この人って色白さんなんやなぁって再確認した。

86: 2012/08/16(木) 01:00:29.58 ID:kU5mCCXq0
「末原ちゃん、」

「はい?」

まだ起き上がる気にはなれへんくて、
ペットボトルを手にしたまま、返事をする。

「それ飲んだらな…、合鍵置いて、帰り」

一瞬、言われた意味がわからへんかった。
あい…かぎ?お、おく?…ん?

「もう、ここへ来たらあかんよ。今日で、おしまい」

「……え?」

言われている意味が全くわからへん。
おしまい?なにが?

「私は向こうで仕事するから、はよ帰りや」

代行がベッドから立ち上がる。

あかん、なんで、なんで?
なんでこんなことに?え、わからへん、え!?

87: 2012/08/16(木) 01:01:41.50 ID:kU5mCCXq0
混乱してる。困惑してる。戸惑ってる。
どうなってるん?さっきまで、あんなことしてたのに。
おしまいってなに?合鍵を置いて帰る?

それって…

…別れよう、ってこと?

「な、なんで…!?」

立ち上がった代行の腕を掴んでた。
身体が重いはずやのに、びっくりするくらいに力が出た。

「…末原ちゃん、痛い」

「…なんで、なんでですか!?」

「離して」

代行はぎゅっと下唇を噛み締めてた。
けど、目は私を見てくれへん。視線を外して、床を見てる。

89: 2012/08/16(木) 01:03:09.82 ID:kU5mCCXq0
「代行…!」

起き上がって、隣に立った。
素っ裸やったけど、気にならへんかった。
そんなことより、離れようとしてる相手を掴まえる方が大事やった。

「ん~…」

「なんで、なんで…グス」

泣いたら負けやって、我慢してたのに。
泣いたら感情的になって、冷静になれへんから我慢してたのに。
一気に涙が溢れ出した。

「なんですか!?うち何かしましたか?なんですか?教えてください。
あかんとこあるんやったら直します、せやから、そんなおしまいやなんて!!」

縋るというのはまさにこういうことなんやろうか。
腕を掴んで、相手に縋ってる。
涙声で、縋って、懇願してる。
とにかく、必氏やった。

90: 2012/08/16(木) 01:05:03.13 ID:kU5mCCXq0
「末原ちゃんというよりは、私の問題やな」

「どういう意味ですか!」

「声、大きいで」

「年が離れてるからですか?教え子やからですか?せやから…」

「んー、それは当たらずも遠からずやなぁ」

「そやったら、なんなんですか!」

「せやから、声が大きいって」

「…だって!こんな…好きやのに!!」

「…ありがとう、せやけど早く、帰りや」

「代行…」

この人が部屋に入ってきて、初めて私の目を見た。
哀れむような目やった。
…違うのかもしれんけど、そう見えた。

92: 2012/08/16(木) 01:07:09.49 ID:kU5mCCXq0
そう見えたら、もう何を言うても無駄な気がした。
はぐらかして、きっとなにも教えてはくれへんやろうし
面倒くさそうにあしらわれる姿が想像できた。

絶望が襲う。
大好きやと思えた人に、突き放されようとしてる。
一日、たった一日会えへんだけでも
寂しいと思えた人に、早く帰れと急かされてる。

二人をつないでいた、この部屋の鍵も、置いていかなあかん。
あの鍵を置いてしまったら、もう何も残らへん。

しかも、なんでこうなったんか、それが全くわからん。
そのことが、余計に辛くて悲しくて苦しい。

「…ほな」

力を失ったうちの手を振り解いた代行は、寝室から出ていった。
残されたんは、泣きながら、拳を握るうち一人。

「…なんで…なんでなんや」

小さく呟いてみても返事はないし、虚しいだけやった。

94: 2012/08/16(木) 01:09:12.68 ID:kU5mCCXq0
泣きながら水を飲んで、着替えて、ベッドを整えた。
どれだけ泣けるかな、と思うくらいに悲しかったのに
涙さんは薄情もんやから、結構早くに止まってしもうた。

いつやったか、試合の後にご褒美やで、と
代行がくれた髪留めを付ける気にはならへんかった。
握り締めたそれは、ポケットに突っ込んだ。

カバンのポケットの中に仕舞われた合鍵を取り出す。

「…置いていけ、か」

二人をつないできた合鍵。
なくしたらあかんよ、と付けられたぶさいくなキャラクターの
大きめのキーホルダーが無性に可愛く思える。

「…これは、もらってもええやんな」

キーホルダーから鍵だけ外して、ベッドサイドのテーブルへ置いた。
ポタポタと、また涙があふれて、鍵を濡らす。

95: 2012/08/16(木) 01:10:22.61 ID:kU5mCCXq0
「終わり、か…」

寝室を出て、一度リビングへ向かった。
代行は汚い、散らかったテーブルの上で何か書き物をしていた。

あぁ、もう掃除することもないんやな。
清々するわ、ほんま…ほんまやで。

「…ひどい理不尽ですね」

背中を向けた代行へ、投げかける。

「前も言うたよ、人生は理不尽なもんやって」

「そうでしたね」

「ん、そうや」

「…ほな、さようなら」

「うん」

96: 2012/08/16(木) 01:11:22.27 ID:kU5mCCXq0
代行は一度もうちを見ることはなかった。
背中を向けたままやった。
寂しくて、あぁ、終わりなんやなぁって実感する。

涙声の、震えた声の私は、お別れを言って、部屋を出た。
ドアがゆっくりと閉まる。
バタン、と完全に閉まったら…うちは駆け出した。

一刻も早く、ここからいなくなりたかった。
駆け出して、走って、走って、どこかを目指していた。

どこ、行けばいいんやろう?
空っぽになった心のままでは、上手く答えを導き出せへん。

それでも、足が止まることはなかった。



おわり

102: 2012/08/16(木) 01:14:27.95 ID:kU5mCCXq0
遅い時間まで支援ありがとうございました
とりあえずここで終わりです

例のごとく、まだ続きます

また書きあがったらスレ立てするんでよろしくお願いします

思ったより長くなってきたよ…
おやすみー

108: 2012/08/16(木) 01:19:42.71 ID:7htxhBmq0
おっつー

109: 2012/08/16(木) 01:20:09.62 ID:nrjU612v0

引用: 赤阪「すっえはっらちゃ~ん♪」末原「…気持ち悪いです」