379: 2009/01/25(日) 01:22:24 ID:8OIygJzx
食堂の前を通ると、厨房で料理をしているリーネと宮藤が目に入った。
そういえば、今日の夕飯は彼女らが作ってくれるんだったか……。
彼女たちの作る食事は特に美味しいと、部隊の中でもとりわけ人気が高い。
二人で活き活きと料理をしている姿を見ると、傍目にも良いコンビだと思う。
うむ、やはり妹には二人セットで……。
そうして厨房の様子を眺めていると、耳を澄ますわけでもなく、二人の会話が聞こえてくる。
「へえ、リーネちゃんってそんなに姉妹がいるんだ」
「うん。バルクホルン大尉やハルトマン中尉も姉妹がいるって聞いたけど、
何人もいるのはたぶん私だけだね」
「私一人っ子だから、ちょっとうらやましいかも。お姉ちゃんとか欲しかったなあ」
「芳佳ちゃんの理想のお姉さんって、どんな人?」
「そうだなあ……。優しくて、頼りがいがあって、一緒に遊んでくれそうな――そう、
シャーリーさんみたいな人かな?」
そうかそうかシャーリーさんか。
……。
…………。
………………。
380: 2009/01/25(日) 01:24:37 ID:h8LOlj7L
う、うそだああああああああ!!
何故、何故そこで私の名前が挙がらない!?
より良き姉であるべく、毎日粉骨砕身しているというのに!
私は認めんぞ、絶対に、認めんからなあああああ!!
*
リーネちゃんと一緒にお夕飯の準備をしている間、私たちは家族の話題で盛り上がっていた。
他愛のない雑談に花を咲かせていると、唐突に廊下の方から叫び声が。
「うそだああああああああ!!」
驚いて振り向くと、廊下を全力で走り去っていく誰かの姿が見えた。
あれ……? バルクホルンさん?
「ビックリした……。ねえ芳佳ちゃん、今の人って……」
「う、うん。バルクホルンさん……だよね。何か嫌なことでもあったのかな」
なんていうか、失意と絶望に満ちた叫びだった。
あ、そうだ。バルクホルンさんにも、お姉ちゃんになってもらいたいかも!
いつもきっちりしてるけど、結構照れ屋さんなところがあるのを私は知っている。
シャーリーさんに『お姉ちゃん』ってからかわれる度に顔真っ赤にしてたりするし。
そのギャップがちょっと可愛いな、なんて思ったりもして。
*
「で、お前のお姉ちゃんキャラとしての立場が危うくなっている、と」
リベリアンの魔手から妹たちを救うことが姉としての使命。
そう思った私は助力を請うべく、少佐に相談を持ちかけることにした。
「その通りです! このままではかねてより構想を練っていた『愛すべき妹達計画』が台無しに……。
ええい、あの忌々しいリベリアンめ」
ルッキーニはすでに奴の手中にあり、宮藤ですら奴の毒牙にかかってしまった今。
次なる標的はリーネか!? サーニャか!? もはや一刻の猶予も無いんだ!
ああ、こうしている間にもリベリアンの侵攻は進んでいるというのに……。
「その怪しげな計画については敢えてスルーしてやるが……。
それはお前個人の問題であって、我々が関わるべきところは何も無いだろう。自分で何とかしろ」
「それが出来ないからこうして頭を下げているんじゃないですかぁ~」
「情けない声を出すな! まったく……お前もいい加減、少しは妹離れしろ」
少佐に冷たい態度で突き放される。だがここで引き下がるわけにはいかん……。
悔しいが、もはや事態は私一人の力でどうにかできる範囲にないのだから。
「そうね。シャーリーさんと他の子が仲良くなるのは私たちにとっても喜ばしいことだわ。
トゥルーデも、あまりシャーリーさんを邪険にしちゃ駄目よ」
「ミーナまで! 私たちは家族じゃ、姉妹じゃなかったのか……」
もはや私には、妹たちを救う手立ては残されていないというのか。
がっくりと床に崩れ落ちる。
その時背後から誰かの声がした。
「話は聞かせてもらいました」
はっとして振り返る。そこには腕を組み、不敵な面構えで壁に寄りかかるエーリカがいた。
「一切合財全てのことは、このエーリカ・ハルトマンにお任せください!」
*
「はーい、皆さんちゅうもーく」
みんな揃っての夕食後。大体の人が食べ終えた頃、ハルトマンさんが突然立ち上がった。
一体何だろ? リーネちゃんと顔を見合わせる。
「えー、これから皆さんにアンケート用紙を配ります。明後日までに必要事項を記入して、
バルクホルン大尉に提出してください」
どこに仕舞っていたのか、プリントを取り出してみんなに配り始めるハルトマンさん。
配られたアンケート用紙を眺めつつ、シャーリーさんが内容を確認する。
「なになに? 『ストライクウィッチーズの中で……』って、何だよこれ?
誰が得するんだよこの情報は……」
怪訝な視線をバルクホルンさんに送るシャーリーさん。あ、バルクホルンさん目逸らした。
私も配られたアンケートを手にとって見る。
『ストライクウィッチーズの中で、お姉ちゃんにするとしたら誰が一番ですか.
理由も併せてお答え下さい』
あれ? いつの間にかみんなの視線がバルクホルンさんに集まってる。なんでだろ。
「おい堅物」
ビクっと震えてバルクホルンさんが顔を上げた。
顔色が悪いように見える。やっぱり、何か辛いことでもあったんだろうか……。
「お前、何か妙なこと考えてんじゃないだろうな?」
「ハハハ……。何を言っているのか私にはよく分からないな」
珍しくバルクホルンさんが押されている。本当にどうしたんだろう。
……それにしても、いきなり姉と言われてもいまいちピンとこない。ちょっと聞いてみよう。
「リーネちゃんはどんなお姉ちゃんがいい?」
「私は芳佳ちゃんにお姉ちゃんになってほしいな。そしたらずっと一緒にいられるから」
「あ、なるほど! それじゃあ私もリーネちゃんの妹になりたいな」
でも、そしたらどっちも姉で妹で……。双子?
その時、私たちの会話を聞いていたらしいバルクホルンさんが身を乗り出して迫ってきた。
「ま、待て、早まるんじゃない宮藤! リーネはほら、姉じゃなくて友達だろ?
姉としてふさわしい人間は誰かもっとよく考えて――」
「はいはい。三人とも、相談は無しですよー」
ハルトマンさんに怒られてしまった。
「サーニャはもちろんワタシの妹だよナー?」
「理由の欄、これだけで足りますかしら……。まあ足りなくなったら裏に書けばいいですわね」
「私より年上は美緒しかいないから、自動的にあなたになるのかしら」
「バルクホルンの奴は『姉は年や血筋ではない! 心だ!』と息巻いていたがな」
他のみんなも、思い思いに理想の姉妹像を浮かべているようだった。
部屋に戻ったら、私もゆっくり考えよう。
*
今日はアンケートの提出期限。
机のアンケート用紙を眺めて、ああでもない、こうでもないと進まぬ思考を巡らせる私。
リーネちゃんももう出したって言ってたし、私も早く決めないと。
このまま迷っていても埒が明かない。
みんながお姉ちゃんになったらどんな感じなのか、それぞれイメージして決めることにした。
そんなわけで――
◇もしも…リーネちゃんお姉ちゃんがお菓子を作っていたら…
芳佳「あ、お姉ちゃんなにやってるのー? わ、甘くていい匂い……お菓子?」
リーネ「うん。この前買った本に面白そうなレシピがあったから」
芳佳「私にも手伝わせてよ、お姉ちゃん」
リーネ「ありがと芳佳ちゃん。それじゃあこれ、かき混ぜておいてくれる?」
芳佳「まっかせて! ……で、お姉ちゃん、どんなお菓子作ってるの?」
リーネ「ふふ、それは出来上がってのひみつ。仕上がったら芳佳ちゃんも味見してね?」
芳佳「わあー、何だろう、楽しみー!」
リーネ「もう、大げさだよ。ひょっとしたらうまく出来ないかもしれないよ?」
芳佳「そんなことないよ。お姉ちゃんが作ってくれるものは全部美味しいもん!」
リーネ「芳佳ちゃんったら…。ありがとう」
芳佳「えへへ」
うーん、何だか普段と変わらないなぁ…。
やっぱりリーネちゃんは姉妹っていうより、親友だよね!
◇もしも…坂本お姉ちゃんに剣道を指導してもらったら…
芳佳「ふええ、疲れたあぁ……」
坂本「何だ宮藤? この程度の練習で音を上げるのか?」
芳佳「だってお姉ちゃん、剣道の練習、私今日が始めてなんだよ?
それでグラウンド50周に素振り1000本って……無茶だよ……」
坂本「わっはっはっは! 何事も経験だ。そのうち慣れるだろう」
芳佳「はぁ、これから宿題もあるのに……。気が重いなあ……」
坂本「それなら私がついて見てやるぞ?」
芳佳「本当、お姉ちゃん?」
坂本「あのメニューをこなした褒美だ。ただし私に頼るときは、ちゃんと自分で考えてからだぞ」
芳佳「やったぁ! お姉ちゃんがいてくれればきっとすぐ終わるよ!」
坂本「わっはっはっは」
半分お姉ちゃんで……半分コーチ?
頼りがいのあるお姉ちゃんって感じかな。
◇もしも…ミーナお姉ちゃんが千鳥足で帰宅したら…
ミーナ「たっだいまぁ~! 宮藤さ~ん、ミーナおねえちゃんが帰ってきましたよぉ~」
芳佳「おかえ――うわ、お酒臭い! また飲んできたでしょ!?」
ミーナ「ええ~!? 私は外で飲んじゃいけないのぉ? 宮藤さんのい・ぢ・わ・るぅ~」
芳佳「気色悪いから止めてください! ……ああ、そんなところで寝ないで、とにかく上着脱いで」
ミーナ「何よ何よ、みんなしてさぁ……。私はまだうら若き10代の乙女だっつーの!!
っぷ……叫んだら気持ち悪」
芳佳「何があったか大体想像つきますけど。玄関で吐くのだけはやめてくださいね」
ミーナ「あははは! よいではないかよいではないかぁ」
芳佳「良くないです! いつも誰が後始末してると思ってるんですか」
ミーナ「いやぁ~、私にはもったいないくらいの良い妹よね……zzz」
芳佳「寝ないでくださいー!」
……何でシチュエーションが酔っ払いになっちゃったんだろ。
私の中ではお母さんのイメージなんだけどな、ミーナ中佐。
◇もしも…エーリカお姉ちゃんが朝寝坊さんだったら…
芳佳「お姉ちゃーん、時間だよ。遅刻しちゃうよー」
エーリカ「んにゃ……ミヤフジおはよーそしておやすみ」
芳佳「もう……。早く起きないと、無理やり布団剥いじゃうよ」
エーリカ「今日はハルトマン記念日で……。休日……」
芳佳「そんな日はありません。ほら、着替えさせてあげるから、ちゃんと立って」
エーリカ「ん~……。わたしのカバンは……」
芳佳「机の上。中身はお姉ちゃんが寝てる間に揃えておいたから」
エーリカ「ありがとミヤフジ……。ふぁ~あ、今日の朝ごはん何~?」
芳佳「ご飯、納豆に目玉焼きとお味噌汁。早くしないと食べる時間も無くなっちゃうよ」
エーリカ「げえ、ナットー!? あ~あ起きる気なくした」
芳佳「嫌なら自分で早起きして作ること。それも嫌ならちゃんと食べること。栄養あるんだから」
エーリカ「ふぁい………。あー眠……」
私がお姉ちゃん役みたいになっちゃったけど、これはこれで退屈しなさそう。
ハルトマンさん、妹さんがいるんだよね。大変だろうなあ。
◇もしも…ペリーヌお姉ちゃんに勉強を教えてもらいにいったら…
芳佳「お姉ちゃん、ちょっといい?」
ペリーヌ「なんですの? わたくし今は坂本少佐への想いを書き綴るのに忙しいのですけれど」
芳佳「あ、そうなんだ……。忙しいなら無理しなくていいよ。邪魔してごめんね」
ペリーヌ「え、ちょ、あー、あまり時間はありませんけれど、話だけなら聞いて差し上げても
よろしくてよ?」
芳佳「えーと、勉強見てほしいなって思ったんだけど、邪魔なら――」
ペリーヌ「い、いえ、ちょうど気分転換でもしようと思っていたところですのよ!
それに、不出来な妹の面倒を見るのも、姉としての役目ですから」
芳佳「それじゃあ……」
ペリーヌ「ほら、早く勉強道具を持ってきなさい。さっさと終わらせますわよ」
芳佳「うん!」
結構いい感じかも?
ペリーヌさん、何だかんだ言って優しいところもあるんだよね。
◇もしも…シャーリーお姉ちゃんに夜食を届けにいったら…
シャーリー「んー、ここをこうすれば……そしたら今度はこっちの重心が……」
芳佳「お夜食におにぎり作ってきたよ、お姉ちゃん」
シャーリー「お、サンキュー宮藤。そいじゃいただきまーす」
芳佳「バイクの改造案練るのもいいけど、あんまり無理して身体壊さないでね?」
シャーリー「そいつに関しちゃ心配ご無用。なんたって宮藤お手製・愛のおにぎり夜食があるからな。
それにもし風邪ひいても、宮藤が愛を込めて看病してくれるから問題なし!」
芳佳「あ、愛って……もう、お姉ちゃんのバカ!」
シャーリー「あっははは! ま、実際お前のおかげで随分助かってるからな。感謝してるぞー妹よ」
芳佳「えへへ……どういたしまして」
シャーリー「よーし、お礼におっぱい揉ませてやろう」
芳佳「うん、ありが――ってえええええ!?」
シャーリー「何だよ、遠慮すんなって! ほれほれ」
そ、そんな、ダメですシャーリーさん! そんなにしたら、わ、私……!
ああ、シャーリーさんのおっぱい、柔らかかったなあ……。もう一回だけ揉みたいなあ……。
頼んだら揉ませてくれるかな!? そしてあわよくば、ち、直接、とか!?
って、いけないいけない……。私としたことがリーネちゃん以外のおっぱいに浮気だなんて!
……でも、柔らかかったなあ……。
◇もしも…ルッキーニお姉ちゃんが突然お家にやってきたら…
ルッキーニ「やっほー芳佳! 今日からあたしのことはお姉ちゃんと呼びなさい!」
芳佳「そんないきなり言われても……。ていうかルッキーニちゃん、私より年下でしょ」
ルッキーニ「姉は年や血筋ではなーい! 心だー!!」
芳佳「え、ええ!?」
ルッキーニ「さあ服従の証としておっぱいを揉ませるのだあ!」
芳佳「揉むのはいいけど揉まれるのはいやー!」
ルッキーニ「ウジャー! 芳佳のズボンいっただきー!」
芳佳「なんでぇー!?」
何だろうこれ……。
ルッキーニちゃんを上手く手懐けてるシャーリーさんって、実はすごいのかも。
◇もしも…エイラお姉ちゃんとケーキを食べていたら…
エイラ「よし、ジャンケンしようゼ宮藤」
芳佳「へ?」
エイラ「ワタシが勝ったらお前のショートケーキのイチゴはワタシのもの。負けたらお前のものダ」
芳佳「やだ。どーせお姉ちゃんが勝つもん。タロット占いが当たったらあげてもいいけど」
エイラ「ムム……。じゃあこうしよう。タロットを1枚ひいて、
その番号が偶数だったらワタシの勝ち、奇数だったらお前の勝ちダ。サア1枚選べ!」
芳佳「それならいいけど……。じゃあ、これ!
んーと、これは……節制のカードだ。お姉ちゃん、このカードって何番――」
エイラ「ン? ふぉーひふぁふぃやふふぃ?(どーした宮藤?)」
芳佳「お姉ちゃん何してんの……? というか、私のイチゴが何故か無くなってるんですけど」
エイラ「モグモグ……ン、お前のイチゴなら見事なバレルロールでどっかに飛んでったゾ」
芳佳「イチゴが空飛ぶわけ無いでしょーが! もう、お姉ちゃんのイチゴ貰うよ」
エイラ「アアッ! 何すんダー!」
うーん、何だか苦労しそうな妹役だなぁ。
でも、こういう遠慮しない関係って、きっと楽しいよね。
◇もしも…サーニャお姉ちゃんと星空を見上げたら…
芳佳「今日は夜空がすごく綺麗なんだって! 見に行こうよお姉ちゃん!」
サーニャ(…コク)
芳佳「そうだ、ラジオも持っていこうよ。お姉ちゃん、よく聴いてるでしょ」
サーニャ(…コク)
芳佳「すごい、満天の星空! 夜なのに空が眩しく見えるね!」
サーニャ(…コク)
芳佳「あ、今ラジオで流れてるこの曲、私好きなんだ。きっみっとなーらー♪」
サーニャ(きっとーでっきーるこっとー♪)
芳佳「お月様もまん丸で綺麗。何だか素敵な夢の中みたい」
サーニャ(…コク)
芳佳「でも、お姉ちゃんの方がもっと綺麗だよ」
サーニャ(…ポッ)
エイラ「サーニャヲソンナメデミンナー!!」
あれ? どうしてエイラさんが出てきちゃったんだろ?
サーニャちゃんがお姉ちゃんになったら、あのピアノもいつでも聴けるのかな。役得だね。
◇もしも…バルクホルンお姉ちゃんがお見舞いに来たら…
芳佳「はぁ、階段で転んで骨折だなんて……。ついてないなあ私」
ゲルト「芳佳ああああ!! お姉ちゃんがお見舞いに来たぞ! 何か欲しいものは無いか!?
私にして欲しいことは!? お姉ちゃんが何でも聞いてやるからもう大丈夫だ!
もう寂しくなんかないぞだから泣くんじゃない芳佳あああ!!」
芳佳「お、お姉ちゃん声大きいよ! ここ病院! それに泣いてないし!」
ゲルト「芳佳は恥ずかしがり屋さんだなあ。ほら、芳佳のために買ってきたんだ。
メロンに梨にブドウとリンゴ、ミカンにブルーベリーにスイカもあるぞ。
飲み物も適当な奴を数種類大人買いしてきたから心配はいらん。
入院中、暇しないように小説や漫画もたくさん持ってきたからな。
あと一人で寂しくないように501全記録だろ、私の秘め声CDだろ――」
芳佳「あ、ありがとうお姉ちゃん! そのくらいで大丈夫だよ」
ゲルト「そうか? 遠慮なんていらないんだぞ。本当はずっとここにいてやりたいが、
そういうわけにもいかないからな……ハァ」
芳佳「あははは……」
シスコ…じゃなくてちょっと過保護気味のような……。
バルクホルンさんらしいっていえば、らしいよね。
――イメージしてみたけど……余計迷っちゃうなあ。
ううーん………………。
…………。
よし、決めた!
*
よし、決めた。
あの時計の秒針が一番上に来たら回収したアンケートを集計しよう。
5……4……3……。
2……1……。
い、いやいや待て待て! 焦ることはないぞゲルトルート・バルクホルン!
そうだ、まだ宮藤とリベリアンからアンケートを貰っていないじゃないか。
集計を始めるのは、全員から回収し終わってからでも遅くはない……。
くそ、エーリカの奴め。何が『皆の求めているお姉ちゃんのビジョンを分析』だ……。
今になって思えば、これほど恐ろしい質問内容はない。
もし私の名前を一人も書いていなかったら?
リベリアンの奴の方が私より人気だったら?
ネガティブな思考が頭を支配し、未だに一枚も確認できていない有様だ。
何だかやたらと疲れた気がする。もう寝てしまおうか……。
机の椅子にもたれかかり、ぐっと伸びをしたところで、コンコンと部屋のドアがノックされた。
おそらく宮藤かリベリアンのどちらかだろう。
ドアを開けると、そこにいたのはやはり宮藤だった。
「あ、すいません。こんな時間に……。これ、アンケートです」
丁寧に二つ折りされたアンケート用紙を受け取ると、宮藤はぺこりとお辞儀を一つ。
おやすみの挨拶を交わした後、宮藤は部屋に戻っていった。
宮藤のアンケート……。やはりシャーリーと書かれているのだろうか……?
い、いや、姉である私が妹を信じられないでどうする!?
ああ、私は信じているぞ宮藤。お前がきっと私を選んでくれることを……。
そんなことを考えながらドアを閉めようとすると、廊下の向こうから私を呼ぶ声。
「おーい、バルクホルンー!」
「こんな時間に何のようだリベリアン」
冷めた声で答えてやる。
「おお、いつにも増して冷ややかなこって。あたし以外に出してない奴いる?」
手に持ったアンケートを、ひらひらさせて尋ねるリベリアン。
「お前で最後だ」
「それならオッケー。はい、アンケートな」
最後のアンケート用紙を受け取る。
ふん、そうのん気に構えていられるのも今のうちだ。
すぐに化けの皮を剥がして我が妹たちを取り戻してやるからな……。
お前もさっさと戻って寝ろ、と言って別れようとすると。
「集計するのが怖いなら私が手伝ってやるぞ、『お姉ちゃん』?」
ぎくりとして顔を上げると、嫌味な笑顔を浮かべてニヤニヤしている奴の顔があった。
「~っ!」
何か言い返してやりたいが、恥ずかしいやら情けないやらでうまく口が動かない。
いたたまれなくなった私はドアノブを引っ掴み、
「覚えてろ!」
などと三流の捨て台詞を吐いて部屋のドアをばしんと思い切り閉めた。
……何をやっているんだ私は……。
ともあれ、これで全員分のアンケートが揃った。後は中身を確認してまとめるだけ。
よ、よし。まずは一枚目。見るぞ、見てしまうぞ……。
ごくりと生唾を飲み込み、震える手で二つ折りのアンケートをゆっくり開いていく。
中身がギリギリ見えるか見えないかのところで、思わず手を止め、目を逸らしてしまう。
いかん、こんなことでは私を慕ってくれている妹たちに申し訳ないじゃないか!
クリス、宮藤、今だけ私に少しばかりの勇気を――!
『バルクホルン』
そこには私の名前が書かれていた。
はっきりと。バルクホルンと。
紙を再び二つに折り、ゆっくりと深呼吸。心を落ち着け再確認。
書かれている名はバルクホルン。何も変わってはいない。
……どうやら幻覚ではないらしい。
ふ、ふふふふ。
ははははは! どうだ、それ見たことかリベリアンめ!
やはり貴様なんぞでは、妹たちの心を捉えることなど出来なかったんだ!
無記名だから誰か分からないけどありがとう、私の名前を書いてくれた人!
アンケート用紙を握り締め、胸に当ててしばしその想いに浸る。
……そうだ。私を選んでくれたその理由も確認せねばな。
くしゃくしゃになってしまった紙を広げる。どれどれ……?
『お姉ちゃんって呼ぶとすぐ赤くなっておもしろいから』
おもしろい? ふむ、期待していた答えとは少々違うが……。
これではまるで、あのリベリア――
そこではっとする。確かこのアンケート用紙は、ついさっき奴から受け取ったものではなかったか。
あ、あいつめ。この期に及んでまだ私をからかう気か!?
アンケート用紙を睨んでいると、紙の端に小さく一言添えられているのに気が付いた。
『何があったか知らんけど、元気出せよ』
…………あいつ。
まったく、誰のせいだと思っているんだ。
不意打ちのような気遣いの言葉にすっかり毒気を抜かれ、怒る気にもなれなかった。
ただ、そのおかげで落ち着いてその後の集計に取り掛かれたのは、素直にありがたいと思った。
*
『芳佳ちゃん』
『理由:ずっと一緒にいたいから』
『特に無し』
『理由:最年長なので』
『美緒』
『理由:年上の人間が彼女しかいなかったので』
『トゥルーデ』
『理由:便利だから』
『坂本少佐』
(理由の欄には隙間無くびっしりと文字が詰め込まれ、解読は不可能に近い。
恐ろしいことに裏面まで続いている……)
『シャーリー』
『理由:遊んでくれるから!あとおっぱい』
『サーニャ』
『理由:むしろワタシが姉になってヤルヨ』
『エイラ』
『理由:すきだから』
『みんな』
『理由:みんな一緒がいいです』
全員分の集計が終わった。
指名された人物とその理由を照らし合わせれば、誰が書いたかすぐに分かってしまった。
これはあいつだな、あいつらしい理由だ、などということを繰り返しているうち、
まるで妹からの手紙を読んでいるような、そんな微笑ましい気持ちになる。
……そうだな。リベリアンの奴がどうだとか、最初から気にすることなんてなかったんだ。
我々はストライクウィッチーズという絆で結ばれた、家族で、姉妹なのだから。
私は私のやり方で、上司として、姉としての責務を全うしていけばいい。それだけのことだ。
さて、随分と夜更かしをしてしまった。もうそろそろ寝ないとまずいだろう。
模範となるべき私が寝坊などして、皆にだらしない姿を見せるわけにはいかないからな。
ベッドに潜ると、私の意識はすぐにまどろみの中に溶けていった。
*
「おーい。起きろー。朝ご飯、もう出来てるよー」
んん……。この声は、エーリカか……?
なんだか身体がだるい……。今は何時だ?
「いつもは起きろ起きろってうるさいくせに。トゥルーデお姉ちゃんにしては珍しいね」
私が寝坊!? しまった、カールスラント軍人にあるまじき失態……。
「ほら、みんなもう食堂で食べ始めてる頃だよ」
「ああすまん。すぐ支度する」
本当に、大失態だ。よりにもよってエーリカより遅く起きてしまうなんて。
やはり昨夜、遅くまで起きていたのが災いしたか。
昨夜――。昨夜? 昨夜は何をしていたんだっけ? 思い出せない。
まあ、忘れてしまうようなことなのだから、大したことではないだろう。
それよりも早く準備をして、食堂へ急がねば――。
食堂に着くと、すでに私とエーリカ以外の者は全員揃っていた。
「ん? 堅物のお姉ちゃんがラストだなんて、明日はきっとネウロイが降るな」
「お姉ちゃんおはよー! 今日の朝ご飯、芳佳とリーネが作ってくれたんだよー!」
「おはよう、ルッキーニ少尉」
リベリアンは無視してルッキーニにだけ挨拶。
「いつもわたくしより先に来ているはずのお姉さまが、食堂におられませんでしたから
驚きましたわ。何かありまして?」
「ああ、いや……昨夜少し根を詰めすぎていたかもしれん」
何に対して根を詰めていたかは覚えていないが。
「あまり無理スンナヨー? サーニャも心配してたゾ、お姉ちゃんが遅いッテ」
「でも…………病気とかじゃなくて、よかった……」
「サーニャもエイラも、心配をかけたようですまなかったな。
夜間哨戒をしているサーニャの気持ちが、少し分かった気がするよ」
ははは……と苦笑しつつ、空いている席に座る。
厨房とテーブルを行ったり来たり、忙しそうにしていた芳佳とリーネも、私に気付いたようだ。
「おはよう、バルクホルンお姉ちゃん。今日の朝ご飯はリーネちゃんと二人の合作なんだよ。
おかわりもあるから、欲しかったら言ってね」
「お姉ちゃんのお口に合うといいですけど……」
二人の作ってくれたものなら何でも美味しいさ。
はっはっはっは――
*
はっ!?
…………何だ夢か。
おわり
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