31: 2013/08/28(水) 08:36:53 ID:2wFJAnPE

●ライナー「ありゃどうみても、俺に気があるよな?」



巨大樹の森にて――紡がれているライナーの言葉に、俺たちは微動だに出来なかった
それくらいに、その言葉は俺たちの現状とかけ離れていたから


兵士としてのそれなりの評価?
それに、幸いにも壁は壊されていなかっただと?

壁を壊して人類を攻撃してきた、巨人の言葉とは信じられなかった


そして、その言葉は俺の知っている――訓練兵時代の彼と、口調が見事に重なる
敵の癖に、訓練兵時代に似た彼はユミルに礼を言い……話は塔での攻防の話へ繋がって行った
進撃の巨人(34) (週刊少年マガジンコミックス)
32: 2013/08/28(水) 08:38:35 ID:2wFJAnPE

「そんでもって、その後のクリスタなんだが……」

ありゃどうみても、俺に気があるよな?と呟いた彼は、まさしく俺の知っているライナーだった

失ってしまったと思った彼が、近くに存在する事を信じられず
言葉を失ってしまった俺は、ライナーをじっと見つめる事しか出来ない


「実はクリスタはいつも俺に対して、特別優しいんだが――」
「おい……」

言葉を失った俺に代わり、その声を遮ったのは……ユミルだった

33: 2013/08/28(水) 08:41:36 ID:2wFJAnPE

「てめぇ、ふざけてんのか?」

ビキビキとまるで血管が張り裂けて仕舞いそうな程に、こめかみに青筋を立てた彼女は――ゆらりと体を揺らした
それと同時に、シュウシュウと音を立てて蒸気が一層高く上がる

彼女の欠けている左半身は、その蒸気の量に合わせてその形を形成して行った


「…………は……おいユミル、お前……?」

俺のその言葉なんて、聞こえていなかったのかもしれない
だがその言葉が終わる頃には、皮膚までは完全に再生し終えてはいない物の――手足が完全に生え揃っていて

その再生したばかりの足に力を込めて、ユミルは立ち上がる

34: 2013/08/28(水) 08:44:33 ID:2wFJAnPE

皮膚の再生していない足は、立ち上がるだけでも激痛を伴うだろうに……彼女は痛がる素振りも見せずに、彼らから視線を逸らさなかった
その目は爛々と輝き、まるでオオカミの様に凶悪だ

驚いたのはライナーと同じく、視線を向けられているベルトルトも同様だったらしい
彼は木の枝の上に体操座りをしたままだったが、ユミルに顔を向けたまま目を見開いている


「何を怒っているだユミル、俺が……何かマズイこと言ったか?」
「あぁ、言ったね――この脳味噌まで筋肉まで単細胞な、ゴリラ野郎が」

罵詈雑言を口にした後、「いいか?」と彼女は言いながらその視線に力を込める



「クリスタは、私と!将来を共に過ごす事を約束してんだよ!」


声を上げて、高らかに宣言されたその言葉に
俺は、自身を縛っていた緊迫感が霧散していくのを感じた

35: 2013/08/28(水) 08:51:36 ID:2wFJAnPE

「……な、何だと!?」
「えぇっと……ユミル、それはどう言う……?」

ユミルの告白に、驚いたのか……身振り手振りを大きくしているライナーに対し
落ち着いているベルトルトが、ゆっくりとその意を問いかけた

だが問いかけられている彼女自身が、何故か酷く満足気な為に返事をしない
未だに怒りを堪えつつも、まるで勝ち誇った様に二人を睨みつける


ここでようやく、オレも声を発する事を思い出し
巨人の領域に連れ攫われたのに、至って普通に会話している彼女を咎めた


「え、おい……ユミル、今はそんな話をする展開だったか?」
「そんな展開なんて問題じゃないんだよ、エレン」

こいつはクリスタの事を、妄想で穢したも同然なんだからな
と、相も変わらずにこちらを一瞥もせずに返答をする

視線だけで人を殺せるとしたら、間違いなくユミルはライナーを頃している

そんな事を思わせるには、十分な視線を向けながら
彼女はライナーへ、再びクリスタに関する事を話し出した

36: 2013/08/28(水) 08:55:07 ID:2wFJAnPE

「私達はな、お互いに相手が了承をした相手じゃないと結婚しないと決めてるんだ」

その言葉に、視線を向けられていた男はピクリと顔を引き攣らせる
まぁそれもそうだろう、だってそれは


「つまりだな、クリスタと結婚を前提のお付き合いをする為には“私の”了承が必要なんだ!」
「な、なんだ……と」

つまり、そう言う事

その事実を知らされたライナーはぶるぶると肩を震えながら、宣言をした者に怖気づいていた
そんな反応が満足したのか、ユミルは自慢げに鼻を鳴らす


「そしてだな、お互いにそう言った相手がいなかったら――一緒に家を建てて暮らそうと誓い合ったんだよ」
「嘘だっ!」

絶叫が、森の木の中に反響する
その声は少しエコーが掛り、その場に居た者の鼓膜を何度も何度も繰り返し揺さぶった

信じられない、信じたくない
そんな彼の心の状態を表す様に返ってきた音の反響は、エレンにとって酷く不愉快に思えたが

37: 2013/08/28(水) 08:59:09 ID:2wFJAnPE

「――と、言うかユミル。もう一度言うが……今はそんな話をする展開じゃ」
「更に絶望的な話を続けようか、ライナー」

あ、この話続けるんだ、と言う
俺の言葉は……悲しいかな彼女の心に少しも反響もせず、空気に溶けて行った

そんな俺の状態に、憐みの様な視線を向けて来たベルトルトに少しだけ殺意が湧く
分かっている、八つ当たりだ――でも許してくれ


「更に私は巨人だ、結婚するつもりは無いしする意思もない」

なのでだな
と言うユミルは、ようやく先程の戯言の怒りが静まってきたのか……いつもの口調に戻ってきた


「ならば私が許可を出さなければクリスタは、お付き合いも出来ずに私と一緒に暮らすしかないんだよ――でも私もそこまで鬼じゃない」

テンポよく、楽しそうに
ユミルは言葉を紡いく

38: 2013/08/28(水) 09:01:43 ID:2wFJAnPE

「年収10000金貨程で、内地に持家有り、私も一緒に暮らす事を許してくれる――そんな奴なら大丈夫とクリスタに日頃から言い聞かせているんだが」

ニヤリ、と笑う彼女は本当に……邪悪だった



「お前は無理だな、巨人だもんな」
「くそぉおおおおお!」

その声が、また森の中に響いた
何度も何度も、響いた

下で群れていた巨人の群が、少しだけ彼の信条を汲みとったのかもらい泣きしていた様にも見える
彼らに知性は無いので、もちろん見えるだけ……なのだろうが

39: 2013/08/28(水) 09:04:10 ID:2wFJAnPE


「……ライナー、君はもう」

そんな中、響いたベルトルトの落ち着いた声が


「もう、振られたも同然なんだね」

ライナーに、とどめを刺した



その後

俺は脅威のスピードで完全復活したユミルに連れられて、調査兵団に戻った
クリスタに抱きつくユミルは、本当に心から幸せそうだったと――ここに追記する





【ありゃどうみても、俺に気があるよな?...end】

40: 2013/08/28(水) 09:08:23 ID:2wFJAnPE

11巻を読んだ時、エレンの「おい……」をユミルが言ったのではないかと一瞬錯覚した
そう言う人は多いよね!多いはずだよね!……やはり私だけか?orz

多分今日中に三篇目の更新いけるかな?と言う微妙なお仕事状況


引用: エレン「短編を」ライナー「三編」ベルトルト「纏めて載せるよ」