44: 2013/09/01(日) 02:06:46 ID:QoYU4iUE
●ベルトルト「あぁ、皆で巨人を倒そう」
「ベルトルト!」
「おい、ベルトルト!しっかりしろ!」
「……っ?」
気がついた時は、僕は装備を万全にして剣を握りしめていた
周りには瓦礫の山、そして……血の海
「な、これは……?」
「おいおい、しっかりしろよ!こんな事態に」
そう言って、コニーが僕の元へと走ってくる
そして……僕の顔面を、思いっきり殴り飛ばした
「――っ!?…………な、にを」
「しっかりしろ、お前に構っている時間はねぇんだ!」
捲し立てる様に放たれたその言葉に、サシャが続ける
その言葉も、やや興奮気味だ
45: 2013/09/01(日) 02:07:25 ID:QoYU4iUE
「そうですよ!巨人が進行してきた、この時に……!」
「巨人……?」
思考が追いついていかない
何が、どうなっているんだ
そんな言葉が、口に出来なかった時だ
「超大型巨人が、攻めて来たんですよ!」
「……は?」
僕は、言葉すらを失った
超大型巨人とは、何だった?
それは自分の巨人の名称では?
でも僕は此処に居る
「ほら、アレを見て下さい!」
指をさすサシャの先には、そう……紛れもなく「超大型」と言ってもいい様な巨人が町中を歩いていた
46: 2013/09/01(日) 02:09:51 ID:QoYU4iUE
「ぎゃああ!」
「嫌だ、助けてくれぇ!」
ブチッ
ガシャン
「お母さーん!」
「くそ、氏ねぇえ!」
ガラガラ
「ぎゃあああ、氏にたくねぇ、氏にたく」
人が氏に、物が壊れる音
そんな音が耳に届き、僕は今どうしてこの場に立っているのかが分からなかった
(ら、ライナーは何処に……それに、アニは?)
反射的に、心の中でその二人に縋りついた
彼らにこの状況を説明してもらえない事には、僕は自分の意思で動けない
だって……僕は指先の動かし方すら、忘れてしまっている
そんな僕を見て、コニーはチッと舌打ちをした
47: 2013/09/01(日) 02:10:59 ID:QoYU4iUE
「……チッ、お前は一旦後方に下がれ!」
「そうですよ、足手纏いです!」
二人の叱咤が、僕に向かって飛んだ
「あ、あぁ……分かったよ」
場面が分からなければ、何もする事は出来ない
僕はひたすら超大型巨人の進行する方向とは離れている方へと向かい、ライナーとアニを探した
そして
「……っ!ライナー、アニ!!」
彼らの姿を見つけられたのは、本当に幸運だったと思う
「一体、どうなっているんだい、これは!」
駆け寄り声を掛けると、二人は驚いた様にこちらを見つめた
48: 2013/09/01(日) 02:12:10 ID:QoYU4iUE
「ベルトルト!?」
「ベル、どうして此処に!」
彼らが口々に、困惑した様に僕の名前を呼ぶ
でもそれはこっちも同じだ、おそらく僕も困惑した表情で叫ぶしかない
「僕が聞きたい、あの超大型巨人は何だ!?」
その質問には、ライナーがぽつりと答えた
「アレはお前じゃないのか」
「そうだよ!だって……僕は此処にいるんだろう?」
肯定の後、唐突に不安になって疑問系の言葉が漏れてしまう
でも二人とも、僕の気持ちなんて分かりきっているからか――疑問も吐かずに言葉を続けてくれた
49: 2013/09/01(日) 02:16:37 ID:QoYU4iUE
アニは、僕ではないと知って……少しだけ安堵したように
ライナーも大きく息を吐いて、肩の力を抜きながら声を発する
「あんたが変身して、暴れているんだったら止めないとと思って……私達も変身しようとしていた所だった」
「だが……このざまさ」
目の前に差し出されたライナーの手を見て、目を見張る
彼の腕は、ナイフによって無残に切り裂かれていた
僕は驚き、アニの方へも目を向ける
彼女の腕も傷だらけだ
それを見た瞬間……不意に怒りの様な焦燥感の様な
何か大きな感情が頭を掠めて行った
それは傍から見たら「呆然とした様な」と形容される物だと
何故か、客観的に理解した
「なんで……」
ぽつりと漏れた言葉は、三人の誰が呟いた物かは分からない
誰かが無意識に呟いたのか、それとも僕が見ていなかっただけかも
50: 2013/09/01(日) 02:19:43 ID:QoYU4iUE
「分からない――変身しない事に加えて、再生もしない」
ライナーは自らの蒸気の出ない腕を、マジマジと見つめながら言うその姿を見て
自然と――ベルトルトは自分の腕へと視線を注いだ
「ぼ、僕も試し……」
試さなくては、そう思って自分の手の甲を口に持っていく
だがそれは、他人の手によって妨げられた
誰か、なんて分かり切っている
その手の主はやはり、ライナーだった
51: 2013/09/01(日) 02:20:18 ID:QoYU4iUE
「止めておけ、変身を試したところで――アレがあっちにいる」
無駄な傷を負う事は無い、そう言ってライナーは僕の腕を抑え続ける
いや、でも!声を荒らげ様とした所に、アニが割って入った
彼女の手も、僕の手を抑えるライナーの腕に沿わされる
「やめときなよ、ベル」
「だって、アニの腕が……アニの…………、女の子の腕なのに」
伸ばされた手のひらの、その上に僕は手を這わす
彼らの掌を、ちょうど僕が挟んでいる様な形だ
添わした手の先には――鮮血が滴り、固まった跡と
傷を付けた際に、僅かに浮きあがってきた凹凸のある肉の感触
(痛かっただろうに、なんで僕を止めるんだ)
ベルトルトはその感情を、涙を流すことでしか体の外に出す事が出来ない
そんな自分が、どうしようもなく嫌いだ
52: 2013/09/01(日) 02:21:38 ID:QoYU4iUE
「……俺たちは巨人では無くなってしまった」
「こうなったら、兵士としてしか生きる道は無いんだ」
ライナーの言葉に、アニが続く
二人ともその言葉で決意を固めたのか、すっと利き手を硬質ブレードへと手を伸ばした
そして、もう一方の手を僕の方へと伸ばす
「さぁ、行こうベル」
「やるぞ、ベルトルト……巨人を倒すんだ」
僕はその手を掴む為に、手を伸ばした
「あぁ、皆で巨人を倒そう」
その先に
「さっさとくたばれよ!裏切り者!」
エレンの、憎悪の顔が見えた
53: 2013/09/01(日) 02:24:38 ID:QoYU4iUE
(あぁ、僕は……)
もう、首が半分以上無くなっているのか
僕の巨人の体を壊すには多くの時間と、斬撃の数が必要だった
ゆっくりと、ゆっくりと切り込みが深くなる首
エレンが、ミカサが、コニーが、サシャが、クリスタが協力をして僕の首を落としに掛っている
僕は空っぽの心で、その様子を見ていた
人と言うのは、氏ぬ前に走馬灯を見ると言うけれど
……どうやら僕が見たのは、全員が一丸となって巨人を倒す世界らしい
でももう、どうでもいい
鎧の巨人や、女型の巨人が倒され……巨人を生み出す巨人の王も倒されて
僕にはもう、意思を決定してくれる人はいない
――だから、君たちの決定に僕は従うよ
54: 2013/09/01(日) 02:27:41 ID:QoYU4iUE
しゅううう
「蒸気!?」
「てめぇ、また逃げる気か!?そんな事はさせね……ぇ?」
うなじから体を切り離して、その振り下ろされた刃を両手を広げて迎え入れる
体の中を、冷たい異物と激痛が通り過ぎて行った
「な、に……?」
「おいこら、テメェ何を……!?」
――何も考えていなかった
立体機動の勢いで動く、彼らの刃は
僕の行動に驚いたとしても、その慣性の法則で止まらない
――ただ、僕は君たちの決定に従っただけだよ
ひとつ、またひとつと体の中を走り
その冷たさと、異物の感覚と痛みだけが僕の体に染み込んでいく
――でも、その言葉は、もう、いえ…な…………
55: 2013/09/01(日) 02:28:41 ID:QoYU4iUE
ぶつん
頭の奥で、何かが擦り切れた様な音がして
僕は暗闇の中へと意識を落とした
.
56: 2013/09/01(日) 02:29:22 ID:QoYU4iUE
……あれ、ここはどこだろう
ベルトルトは、ゆっくりと意識を覚醒させた
僕は空間に浮いている
それを認識した瞬間に、何故か自分が何処に居るのか分かった
この空間は僕の意識、僕の世界
その僕の意識の――目の前に、他の意識が入ってくる
侵入者は意識の中にぷかぷか浮かんでいる僕の目の前に、その姿形を纏って現れた
「よぉベルトルさん」
「あぁ……君か」
あぁ、私だ
そう言いながらこちらを見てくる瞳は、生前と変わらない
生前――そうか、僕も君も氏んだんだった
57: 2013/09/01(日) 02:31:02 ID:QoYU4iUE
「本当に、君は最後まで掴みどころが無いなぁ。人の意識に急に入ってくるなんて」
「ま、それが私の売りだからな」
不思議な感覚だった
自分の意識の中に他人が入ってきて、雑談をするなんて
それは夢の様に、違和感が無く僕の体に染み込んで行く
彼女はキョロキョロと、僕の意識を見まわした
人の意識を観察するなんて、本当に図々しい奴だと――僕は思いつつも止めない
止めたって無駄な事を理解しているから
僕達は今、暗い中にぽつりぽつりと光の浮かぶ空間に浮かんでいる
その光景を見ながら
これが僕の意識、と思うと不思議な感覚を得た
――まるで心の中に、僕自身がダイブしている様な感覚
58: 2013/09/01(日) 02:32:41 ID:QoYU4iUE
「氏んでまで、僕の意識ってこんなに暗いのか」
「暗いなんて言うなよ、綺麗な星空だぞ」
まぁ星の数は少なめだがな、と呟かれた言葉
僕は無難に、確かに……と同意した
星空と言われれば、そう見えなくもないが
それは単に、客観性の違いだろう――と提言する前に、侵入者に行動を起こされる
人の意識の中を見まわした後に、ふわりふわりと浮かびあがったのだ
そしてその――光っているモノを触ったり覗きこんだり、観察をした後に
彼女はこちらの方へと、顔を向ける
「何を勝手に、人の決定に従った事にして氏んでんだお前は」
言いたい事は分かった――何故か理解できていた
氏に際の事だと
59: 2013/09/01(日) 02:36:17 ID:QoYU4iUE
「……本当の事だよ」
氏んだにしては、普通に回る頭で会話を続ける
幽霊になると、もっとふわふわとした感覚があるものと思っていたが――そう言う物ではないらしい
意外に普通だった
「僕は皆の決定に従って、氏んだ」
「いいや、違うね」
僕の心を込めて呟いた言葉を、あっさりとした非定形が被せられた
なんでその場にもいない、君が勝手に否定するのか――彼女の言葉は、その思考を得る前に放たれる
「……お前はただ単に、皆と一緒に行動しようと考えただけだろ」
言葉を上手く返せなくなる
生前もそうだった、僕は一度として彼女のこのペースに逆らえた事が無い
「お前が皆と一緒に巨人をやっつけたいと思うのは、お前の意思だ――他人の所為にすんな!」
確かに
僕は、僕の中にある巨人と言う運命を……皆で倒したかったのかもしれない
60: 2013/09/01(日) 02:39:36 ID:QoYU4iUE
「……そうかもね」
彼女は僕の返答を聞くと
ふん、っと言いながら顔を逸らした
「じゃあ、次の所に行くわ」
「唐突だね」
もう行くんだ、何処に行くかは謎だけれど
でもなんとなく……これが最後になる様な、でもまた何処かで会える様な気がする
「もう会えないのかな」
「氏んだ奴らが多すぎてよぉ、こっちも大変なんだよ」
あぁ、会える気の正体が分かった
彼女はこの氏後の世界で、就職でもしたらしい
何故か心に湧いてきた物だが……何故かこの考えは正しいのだろうな、と思う
――つまり
転生して、また氏んだら会えると言う事だ
61: 2013/09/01(日) 02:40:37 ID:QoYU4iUE
「また何かに巻き込まれているの?」
そう尋ねると「全くもって面倒臭いよ」と言う不機嫌な気持ちが吐きだされた
本当に、面倒臭そうな顔
でも、まぁ……
意外と世話焼きが好きなのだから、まぁこう言った氏後の世界での就職もいいのではないだろうか
「ったく……前世と言い、第二の人生と言い。ついでに氏後の世界と言い、この要職への巻き込まれ体質はいつになったら治るんだろうな」
「要職に就いているの?大変だね」
大変だよと返答しながらも、彼女は言葉少なに忠告をする為に口を開いた
「間違ったままの意識だと、転生に時間が掛るから……そこだけ気をつけろよ」
「ありがとう、ユミルは本当に優しいね」
そう言うと、ユミルはちょっと気まずそうに鼻の頭を掻いた
照れた時の彼女の癖だ
そして
62: 2013/09/01(日) 02:43:04 ID:QoYU4iUE
「まぁ同期のよしみってやつだよ、じゃあな」
それだけ言い残して、彼女の意識は消えた
僕はまた――暗い空間に、ぽつんと取り残される
すると途端に、星空と思いこもうと思っていた景色は……ただの暗い空間へと変わってしまった
でも
……そうか
(僕はちゃんと、自身で選択をした最後を過ごせたのか)
そう思うと、ふと心が軽くなった
気付かせてくれたユミルには、素直に感謝する
(そうと決まれば……早速、次の行動を自分で決ようかな)
――早く転生をして、ライナーとアニに会いに行こう
そう心に決めて、暗闇だった意識の中を歩いて行く
こちらの方へ進めばいい事は、これまた心の何処かで理解はしている様だ
後はただ、目標へと向かって進むだけ
63: 2013/09/01(日) 02:43:57 ID:QoYU4iUE
僕は歩いた
もしかしたら次の転生先では、僕も彼らも忘れてしまっているけれど
今回少しでも、自分の意思を持って生きられたのだから
次は、もっと自分の意思で生きて行きたいと思えているかもしれない
まぁきっと大丈夫だよね
きっと
僕は、自信を持って
これから先にある、転生への道へと踏み出した
ベルトルト「あぁ、皆で巨人を倒そう」【完】
64: 2013/09/01(日) 02:51:12 ID:QoYU4iUE
過去の走馬灯ではなく
皆と共に行きたいと思っていた願望が駆け巡る話
自分の氏を糧にしてもいいから、ベルトルさんには前を向いて欲しい
と思ったら衝動的に書いた
65: 2013/09/01(日) 13:32:48 ID:QSXWZtbA
乙!面白かった!
ベルトルさんの氏ネタ楽しみにしてる
ベルトルさんの氏ネタ楽しみにしてる
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります