500: 2011/12/12(月) 08:35:53.95 ID:Hxaan8590
「ふぅ……。 ……ん、んっ~~!!」
思い切り朝の空気を吸い込む。
ついでに、空まで届くくらいの、伸びをひとつ。
「はぁ、一見いいお天気、なんですけれど……」
空は青空。透き通るような青。視界の端に雲が見えるほかは、一色の空。
ぴりっとする寒ささえ気持ちの良いベランダ。
そう、一見すると、お出かけ日和。でも、部屋の中のテレビには晴れのち雨のマーク。
「はぁ……」
爽やかな朝だけど、憂鬱。目の前ではいくつもの布が風にさらさらと揺れている。
洗濯日和だとも感じさせる朝なのに、今からこの洗濯物を取り込まなくてはいけない。
たまたま両親が旅行に行っていて。くわえて昨日は生徒会の仕事が長引いて。
それゆえ洗濯機を回し、干したところで力尽きてしまって。
せっかく洗ったものを雨で台無しにされる訳にはいかない。
……いや、洗濯機を回した後に今日の天気を知ることができて良かった。
もし気付いていなかったら、いつも通りの時間に起きていたら、学校に行く前にこんなことをする時間はない。
早起きは三文の得だしと気合をいれ、作業を開始する。
……あれ、徳、だったかな? まぁ、どっちでもいい。
それに、パジャマの上に1枚羽織っただけでは、今は心地よくともすぐにただの寒さに塗り替えられてしまいそうだから。
さぁ、さっさと終わらせますわよ!
501: 2011/12/12(月) 08:37:26.55 ID:Hxaan8590
「……」
黙々とまだかすかに湿った衣服を取り込む。
どこかから、朝ご飯を支度する音が聞こえる。それ以外には鳥の囀りくらい。
2階から見える光景に、人影はなくて。なんだか神秘的に感じられて、朝ってちょっと不思議。
洗濯物は二人分だしそう多くない。そんなに時間もかからないだろう。
この後は朝ごはんを作って、家を出る準備をして、楓を幼稚園の送迎バスまで送り届ける。
うん、時間は大丈夫そうだ。
……もしかして、この洗濯物の量だったら、無理に昨日洗濯をしなくてもよかったのではないか。
もし洗濯機を回す前に天気予報を見ていたら……。
「……いえ、そんなことは」
首を振って嫌な予感を追い払う。余計なことは考えないほうがいい。
……でも、もしかして、部屋干しをしていれば、帰宅後に、のん、びり、と……。
「……」
はっ、いけない、一瞬手が止まっていた。
朝は忙しい。時間は少したりとも無駄にできないものだ。
しかも『あと5分……』を繰り返した日には尚更。楓まで遅刻させるわけにはいかないし。
いいや、考えようによっては、低血圧のこの私がこの時間にこれだけ色々考え付くということは。
たぶん、それだけ頭が覚醒しているということだろう。
珍しい。
やはり早起きをするといいことがあるみたい。
あと、疲れていても頭を働かせることを放棄してはいけないみたい。
502: 2011/12/12(月) 08:38:19.97 ID:Hxaan8590
そんなことを考えつつ手を動かしていたら、もう最後の一枚。
部屋の中では、途中で起きだした楓が着替えを終えようとしている。
座りながら靴下を履き……『んしょ』っという声が聞こえてきそうだ。 あ、ほくろ。内もものあんな所に。
ひとりで起きて、窓越しにおはようと告げてくれて、自発的に朝の準備もできる。
ほんとうに、よくできた妹だ。
「よいしょ……あら?」
隣家からガチャリと扉の開く音が聞こえた気がして、外を見下ろす。
「花子ちゃん、おはようですわ」
「あ、ひま子お姉ちゃん、おはようだし」
挨拶を交わしたのは、隣に住む大室三姉妹の末娘。花子ちゃん。
そういえばこの妹も優秀だと聞いたことがある。 ……次女と違って。
「今日もいい天気だし」
言いながら新聞を取る花子ちゃん。
「でも午後から天気、悪くなるみたいですわよ」
「へ? ……あー、本当だし」
手元の新聞で天気を確認する。
それにしても今日の花子ちゃん、いつもと違って……。
「あ、でも明日からはまたお天気みたい……」
「ですわね……ねぇ花子ちゃん、その髪どうしたの?」
503: 2011/12/12(月) 08:39:20.39 ID:Hxaan8590
腰どころかお尻にも届くほどの、長くて手入れの行き届いた髪を、
普段は下ろしているそれを今朝はアップにしてひとまとめにしていた。
確かにあれ程の長さがあればどんな風にもアレンジできるだろうけど、そういったお遊びはとんと見た記憶がない。
「あ、これ……撫子お姉ちゃんが、結ってくれて」
「へぇ、撫子さんが……可愛いですわよ、花子ちゃん」
「あ、ありがとだし……」
ふふ、思わず微笑んでしまう。可愛いと言われ、照れている姿がまた愛らしい。
この子はきっと美人になる。もう少し大きくなっておしゃれを覚えたら、きっと世の女たちは放っておかないだろう。
将来が楽しみだ。
「でも……」
「ん? なんですの?」
「そ、そういうセリフ、たまには櫻子にも言ってあげるといいし!」
「んなっ!?」
「そ、それじゃまたっ」
がちゃん。
ぽかーんとしているうちに、意味深な言葉を残した少女は家の中に戻ってしまった。
また朝に、ひとり。
ちらほらと人影が見え出した朝の隙間に、花子ちゃんの置き土産を反芻する。
505: 2011/12/12(月) 08:40:49.48 ID:Hxaan8590
櫻子に、可愛いって?
優秀な長女と三女に囲まれた、ちょっと頭の足りない次女。
同い年で、私とは産まれてからずっと一緒。
一度も違うクラスになったことがない、隣同士の幼馴染。
腐れ縁の割に、仲が良かった記憶があまりない。
ライバル。
友達と言う言葉よりも、そんな間柄の方が似合う。
顔を合わせればいつも憎たれ口。
そんな櫻子に、言うに事欠いて、可愛い?
まさか!
そんな自分、想像したこともない!
それに、そんなこと言われてあの櫻子がどんな反応するか、想像もつかない。
……想像もつかなくない。あの子の反応だなんて、手に取るようにわかる。
きっと、ちょっと固まった後、『はぁ!?』と叫ぶ。いつもうるさい。
その後もきっとそうだ、何言ってるかわかんねーとか、バカじゃねーのとか、そんな言葉。
むむ……、想像するだけでイラついてくる。
折角の爽やかな朝なのに。
私の晴れやかな気分は、今日の天気よりも早く崩れだした。
506: 2011/12/12(月) 08:41:44.95 ID:Hxaan8590
櫻子のことなんて。
いつも一緒のあの子のことなんて。
きら……。
……。
全然、好きなんかじゃないんだから!
―――少しだけ、心がチクっとした。
507: 2011/12/12(月) 08:42:56.75 ID:Hxaan8590
まったく、気が滅入る。
櫻子のことを考えて、胸が……なんだろう、むかむか? もやもや? 痛い……?
目の前には、出来上がったばかりの朝ごはん。
食卓をはさんで向かい側には、楓も既に席についている。
ふと、妹がまだ食事に手をつけていないことに気付いて。
なんだか、不安げな顔をしてこちらを見ている?
「あら? どうしましたの、楓」
「うん……、お姉ちゃん、なんだか、辛そうなお顔してるの……」
「そんなことないですわよ、ほら、早く食べちゃいましょう」
「う、うん、いただきます……」
この子は、年の割に、よく気付く。
どうやら私は、いつもなにかと喧しい騒がしい台風のような幼馴染の事を考えているうちに、険しい顔になっていたらしい。
まったく、居ても居なくても厄介事を持ち込むだなんて、
本当きら
……好きじゃ
―――心の中の声なのに、それがなぜか、その先を続けることが出来なくて。
むしゃくしゃして、目の前の目玉焼きにかぶりつく。
丸ごと箸で持ち上げて。
半熟の黄身がたらり、こぼれていく。
慌ててお皿の上に顔を持っていく。顎を伝って落ちたそれが、なんとか服の上に落ちることは避けられた。
508: 2011/12/12(月) 08:43:45.79 ID:Hxaan8590
変なことはするもんじゃないですわね。
半分以上も年下の妹にたしなめられてしまうとは……。
まったく、これも全部、さく……いいえ、自業自得、ですわよね。
櫻子のことは好きじゃ……こほん、とにかく、櫻子のせいだけど櫻子のせいじゃない。
流石に、櫻子が悪いとは言えないことくらい、理解していますわ。
だから、櫻子に、何かを言うのはお門違い。
―――でも、たまには、ちょっとした、イタズラくらい。
ただの、いつものお返し。
櫻子のことは、手に取るようにわかるから、それを確かめるだけ。
きっと、慌てふためいて、変なことを口走って、面白い。
そうしたら、なに慌ててますの? まんまと引っかかりましたわねって、すました声で。
―――きっと、その後もうるさいだろうけれど、いつものこと。
二人のときにしようかな、周りの反応も見てみたいな、なんて。
ちょっと大きめの折り畳み傘を忘れずにカバンにいれて、扉を開け放つ。
なんだか、今日も一日、楽しく過ごせそうな気がしてきましたわ。
――完――
509: 2011/12/12(月) 08:45:56.54 ID:Hxaan8590
以上、『ひまさくさんは、「朝のベランダ」で登場人物が「嘘をつく」、「黒子」という単語を使ったお話を考えて下さい。』でした。
7レスかと思ったか? 8レスだよ!! くそぉ、算数ェ……
7レスかと思ったか? 8レスだよ!! くそぉ、算数ェ……
510: 2011/12/12(月) 08:46:53.44 ID:U0UhRD5v0
いつも雰囲気が素晴らしいなあ
乙
乙
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