511: 2018/12/09(日) 19:25:39.26 ID:cXY40eQY0
隊長「魔王討伐?」【その1】
隊長「魔王討伐?」【その2】
隊長「魔王討伐?」【その3】
隊長「魔王討伐?」【その4】
隊長「魔王討伐?」【その5】
隊長「魔王討伐?」【その6】
~~~~
???「では、いってきますね」
数日しか経っていないというのに、どこか懐かしい声がした。
その声の主は、かつて冒険を共にした彼女であった。
場面は代わりここは賢者の塔。
大賢者「...やはり、心配じゃのう」
女賢者「大賢者様、私なら大丈夫ですよ」
大賢者「ふむぅ...しかし、女賢者がワシのこと以外で積極的なるのは初めてじゃのう」
女賢者「...そういえばそうですね」
大賢者「彼らとの出会い、いい影響を受けたな」
女賢者「はい...私も力になりたいと思いました」
大賢者「ふむ! ならゆくがよい!」
女賢者「はい!」
──ずびーっ! ずばばばっ!
女賢者でもなく、大賢者でもない第三者が鼻をすする音。
それはかなり豪快なものであった、余程の感情が押し寄せている様子。
女賢者「...そんなに泣かないでください」
女僧侶「だってぇ...すごい献身的で感動しちゃいますぅ...」ズビビッ
大賢者「罪づくりな女じゃのう...」
女賢者「...もう、私までもらい泣きしそうですっ」ホロリ
女僧侶「ずびびっ...これぇ、旅先でお腹が空いたら食べてくださいねっ!」
女賢者「ありがとうございます、帰ってきてからも作ってくださいね?」
女僧侶「わかりましたぁっ! 絶対に帰ってきてくださいねっ!」ズビッ
512: 2018/12/09(日) 19:27:13.15 ID:cXY40eQY0
大賢者「...ふむ、そろそろじゃな」
女賢者「はい、お願いします」
大賢者「...気をつけるんじゃぞ」
女賢者「...彼らと一緒なら、何があっても大丈夫ですよ」
大賢者「それもそうじゃな...では、ゆけ我が愛弟子よ」
大賢者「────"転地魔法"」
髪をなびかせ、その表情はどこか決意のあるモノであった。
彼女は魔法に包まれた、するとどこかへ消えてしまった。
これが転地魔法というモノである、女賢者が向かった場所とは。
~~~~
~~~~
女賢者「──とっ、ここが塀の都ですか」
女賢者(門を通らずに、直接入ってしまいましたが大丈夫でしょうか)
女賢者(もう、魔界へ行ってしまったのでしょうか...ともかく、ここで情報収集をしましょうかね)
あたりを見渡してみる、都というだけに店がたくさんならんでいる。
人に声をかければなんらかしらの情報が手に入るだろう。
だが、それ以前に生まれたのは疑問であった。
女賢者(なんというか...活気がありませんね)
女賢者(店も閉まっているのが多く、人の表情もどこか暗い...)
女賢者(これが塀の都というやつなんでしょうか、とにかく話しかけてみましょう)
女賢者「あの、すみません」
町民1「...なんだ?」
女賢者「えぇと...見たことのない防具をした筋骨隆々な男性を見ませんでしたか?」
町民1「...知らないな」
女賢者「では...帽子を被った、剣を持った金髪の男性は?」
町民1「......」
女賢者「...?」
町民1「答えたくないね...」
513: 2018/12/09(日) 19:28:35.47 ID:cXY40eQY0
女賢者「...知っているんですか?」
すると、答えを聞く前に相手はどこかへ行ってしまった。
この後何度も人を変えて試みるものの、すべて同じ反応で対処されてしまった。
女賢者(どうなっているんですかね...)
女賢者(せめて、向かった方角を知りたかったんですが...仕方ありませんね)
女賢者(確実ではありませんが、あの山を登って暗黒街へ向かいますか...)
女賢者(山を遠回りしている場合もありますけど...すれ違いにならなければいいですが)
~~~~
~~~~
女賢者「...都とは思えないほどに暗い雰囲気でしたね」
女賢者「なんだか...不安になってしまいました」
女賢者「...コレを渡さなければいけませんのに」
都を抜け、彼女は草原地帯を歩み始めていた。
思わずひとりごとをぽつりと言ってしまう。
とぼとぼと歩いて行くと、オブジェクトが見える。
女賢者「...お墓?」
不格好な、不揃いの木が地面に刺さっている。
その形は十字架に見えるように細工されてあり、辺りには花が手向けられていた。
女賢者「...毎日お花を手向けているみたいですね」
??1「...あれっ?」
??2「女賢者さん...?」
女賢者「...あなたは────」
女賢者を見つけたのは、知っているはずの2人組であった。
柔らかそうな毛並みをした白い狼、瑞々しい青肌の彼女。
女賢者「────まさかっっ!?」
彼女がお墓を凝視する、まだ確定もしていないのに涙がこみ上げてくる。
女性ゆえの感情表現であり、その脳への伝達速度は尋常ではない対応であった。
彼女は柄にもなく、震えた声で彼女らに質問を投げかけた。
~~~~
514: 2018/12/09(日) 19:31:20.07 ID:cXY40eQY0
~~~~
隊長「...うっ」ピクッ
どこか暗い場所、そして冷たい床。
意識が戻ると同時に強烈な痛みが脇腹を襲う。
身体は拘束されていはいないがしばらくは動けない。
隊長「ここ...は...?」
???「...目覚めたか?」
隊長「...魔闘士ッ!? どこだッ!?」
魔闘士「隣の牢屋といったところか...」
隊長「牢屋...?」
魔闘士「...視界が開けてきたらわかるだろう」
隊長「...」ゴシゴシ
隊長「そうか...捕まったのか...」
魔闘士「そのようだな」
隊長「...武器も奪われている」
ハンドガン、ショットガン、アサルトライフル、ナイフ、手榴弾。
それ以外のものは所持していると、彼は冷静に確認を行った。
次に隣の牢屋に魔闘士を確認、それ以外の者はいない様子。
隊長「...何が起きたんだ」
魔闘士「あのドラゴン...どうやら光属性の魔法を使ったらしい」
魔闘士「...それも、かなり質の高いやつだ」
魔闘士「為す術もなく敗れ、何者かによってここに運ばれてきたらしい」
隊長「ここは...どこなんだ?」
魔闘士「...わからん」
隊長「...参ったな」
沈黙が続く。
大敗を喫した後だ、語ることはなかった。
それに耐えきれずに、魔闘士は思わず口を滑らした。
515: 2018/12/09(日) 19:32:32.00 ID:cXY40eQY0
魔闘士「...言わせてもらおうか」
隊長「...あぁ」
魔闘士「俺が知る限りで、光魔法を使うドラゴンなど存在しないはずだ」
魔闘士「それでこそ、神と同義だろう...所詮は物語にしか登場しない」
隊長「だが...存在したな」
魔闘士「...」
隊長「...」
魔闘士「...このような惨敗、2度目だ」
隊長「...1度目は?」
魔闘士「...魔王子だ」
隊長「あぁ...なるほどな」
魔闘士「俺も若気のころ、無謀にも魔王子に挑んだものだ」
隊長「昔話を...聞かせてくれるのか?」
魔闘士「あぁ...身体も動かんしな...お前も暇だろう?」
隊長「...身体が動かないのか?」
魔闘士「そうだ、ドラゴンと対峙した時程ではないが...」
魔闘士「光の海に浸かっているような...じわじわと力を抑えられている感覚だ」
隊長「...詰んでいるな」
魔闘士「そうだな」
隊長「...で、魔王子とはどうだったんだ?」
魔闘士「聞くまでもないだろう、惨敗だ」
魔闘士「奴の闇魔法には心底ウンザリさせられる...」
隊長「それは...共感できる」
魔闘士「いつかは復讐を...と思っていたが、いつの間にかあのような関係になっていた」
隊長「...フッ」
516: 2018/12/09(日) 19:34:02.04 ID:cXY40eQY0
魔闘士「牢獄での笑い話には丁度いいみたいだな」
隊長「そうだな...うん、俺も大敗は2度目といったところか」
魔闘士「ほう...お前のような男でも負けるのか」
隊長「当然だ、小さな負けは数えきれない程あるぞ」
魔闘士「...それで、1度目の大敗とは?」
隊長「...特殊部隊といってな、俺は元の世界では罪を犯した者を捕らえる仕事をしているんだが」
隊長「一度、凶悪犯を取り逃してしまってな...今も追い、憂いている」
魔闘士「ほう...」
隊長「そいつは、違法な実験を繰り返すMadscientist...狂気の研究者だった」
隊長「数々の子どもや女が実験台にされ、理解できないものを造っていた」
隊長「そんな奴を、捕まえられなかった...足取りも掴めないで10年も経っている」
魔闘士「...逃げ足は一流だったようだな」
隊長「あぁ、今も誰かが奴の被害に遭っていると思うと、虫唾が走る...」
隊長「この世界は色々と大変だが、奴がいないだけ十分に綺麗だ」
隊長「...元の世界に戻ったら、必ず牢獄に叩き込んでやる」
魔闘士「...大敗だな」
隊長「そうだ...だから、お前も落ち込むな」
魔闘士「落ち込んでなどない...」
隊長「...そういうことにしてやろう」
魔闘士「...」
517: 2018/12/09(日) 19:35:21.30 ID:cXY40eQY0
隊長「これから...どうなるんだろうな」
魔闘士「さぁな、助けがなければこのまま氏刑か?」
隊長「...魔女たちは、どこにいるんだろうか」
魔闘士「...わからん」
隊長「...もうひと踏ん張り、するしかないな」ムクッ
魔闘士「まだ...力を振り絞れるのか」
隊長「あぁ...あいにく諦めが悪いんでな」
魔闘士「人間とは...魔物よりも劣ると思っていたが...」
隊長「...人間とか魔物とか関係ない、所詮気の持ちようだ」
魔闘士「...そうか、そうだな」
魔闘士「昔話をして、しんみりしている場合ではないな」ムクッ
隊長「あぁそうだ、まずはここから脱出するぞ」
魔闘士「お互い、立つのがやっとだ...鉄格子は破壊できんな」
隊長「武器もない...どうしたものか」
薄暗い牢屋の中、詰んでいる状況に頭を抱えるしかない。
だが2人とも、諦めの悪い性格であった。
その心は決して折れず、希望に溢れていた。
~~~~
~~~~
女騎士「...っ」ピクッ
女騎士「ここは...そうか、捕まってしまったのか」
同じく、牢屋に連れ込まれていた女騎士が目覚めた。
鎧は剥がされてはいないが、槍は没収されていた。
拘束はされてはいないが、身体に鈍い痛みと謎の倦怠感が残っていた。
518: 2018/12/09(日) 19:37:06.04 ID:cXY40eQY0
女騎士「ぐっ...脱出しなければ...!」グググッ
彼女の強みはその性格にあった。
出会いこそ、卑劣漢に責められ涙を流していたが今は違う。
武器を奪われ、身体が言うことを聞かなくても絶対に心は折れない。
彼女が勇者の一行に選ばれた理由は、その極められた騎士道が要因であった。
女騎士「うっ...なんとか、立てるな...」ヨロヨロ
女騎士「...鍵か」
壁伝えに歩き、鉄格子の前に移動する。
辺りには誰かいる様子はなく、心もとない蝋燭が灯っている。
女騎士「...女勇者、すまん」スッ
耳、正確には耳たぶに手を当てる。
謝罪をしながら耳飾りを外し、装飾を崩し始めた。
そして残った骨組みの針金を棒状の形状に再加工をする。
女騎士「鍵開け...子どもの頃にやったきりだが大丈夫だろうか...」カチャカチャ
女騎士「...」カチャカチャ
女騎士「......」カチャカチャ
────カチャッ
牢屋に小さく響いたのは、針金の音ではなく施錠音。
喜びの声も挙げずに、音を立たせないよう静かに脱出を試みる。
女騎士「...殺されてなければいいが」
~~~~
519: 2018/12/09(日) 19:39:19.23 ID:cXY40eQY0
~~~~
女騎士(...通路ばかりだな)
壁伝えに歩く、鎧特有の金属音が微かに響く。
見つからないことを祈りながら前に進むしかない。
女騎士(薄暗い...いや、この場合は薄暗い方が見つかりにくいか)
女騎士「...ん?」
終わりが見えないほどに長い通路の先に、輝かしい光が見えた。
その光は人工的で暖かみのあるものではなかった。
女騎士(魔物の気配はしないな...光に群がらせてもらおうか)
動物としての本能だろうか、光へ向かう。
拍子抜けなほどに警備が薄い、もはや早歩きで音が鳴っても問題はなかった。
光が刺す空間へ辿り着いた。
女騎士「...なんだこれは?」
女騎士(この部屋...見たことのない材質の物だらけだな)
未知の物体に驚愕するなか、部屋を探索する。
彼女も騎士の前に人間だ、気になるものが広がればそうなってしまう。
だがそれが功を奏した。あるものを発見する。
女騎士(──あれは、きゃぷてんの武器じゃないかっ!?)
女騎士「...合流するまで使わせてもらうぞ」
アサルトライフルとショットガンを付属していたベルトで背負う。
鎧にある申し訳程度の収納に、手榴弾とナイフを無理やり詰め込む。
そしてハンドガンを握りしめる、ようやく武器を手にした女騎士から不安が消え失せる。
女騎士(重たい...だけど、急いで合流しなければ)
女騎士(武器がここにあるということは...彼は丸腰だろう)
~~~~
520: 2018/12/09(日) 19:40:19.19 ID:cXY40eQY0
~~~~
魔剣士「...チィッ」
魔剣士「とっとと出しやがれェッッ!!!」
血みどろの竜が吠える。
魔剣を奪われ、仲間を奪われ、身体の自由を奪われている。
拘束はされていない、だがそれが竜の逆鱗に触れてしまっていた。
魔剣士「クソがァッ...なんで身体が動かねェ...畜生ォ」
魔剣士「見張りはいねェ...脱出の機会っつうのによォ...」
魔剣士「ムカつくぜェ...クソォ...」
魔剣士「...」
────シーン...
不気味なほどに手薄な牢獄。
その孤独感が意外にも魔剣士に響いてしまう。
魔剣士「...情けねェな、俺様」
魔剣士「どんなに練度を上げても...上位属性の前には敵わねェのかよォ...」
弱音を吐いてしまう、力はともかく今は魔力すら振り絞れない。
身体の内から光魔法を浴びているかのような感覚に陥っていた。
いままで簡単にやっていたことが突如できなくなるというのは、どれほどの不安を誘うものか。
魔剣士「────畜生...」
──ガチャッ...!
気づけば鉄格子の鍵が開いていた。
薄暗い牢屋の中、徐々に目が冴えてくる、この見慣れた武器は間違いなく奴だ。
???「──大丈夫か...?」
魔剣士「...きゃぷてんかァ?」
女騎士「いいや、女騎士だ」
魔剣士「...お前、どうやって」
女騎士「なに、少しばかり鍵開けを嗜んでいてな」
魔剣士「...ハッ、心強いことでェ」
少しばかりか、不安が消え失せていた。
相変わらず魔力や力を振り絞れないが、勇気が湧いてきた。
521: 2018/12/09(日) 19:41:44.86 ID:cXY40eQY0
女騎士「立てるか?」
魔剣士「悪ィ...そいつはちょっとばかり出来ねェなァ...」
女騎士「なら肩を貸してやろう」グイッ
魔剣士「お、おう...」
女騎士「...軽いな」
魔剣士「るせェ...それより剣かなんかねェか?」
女騎士「きゃぷてんの刃物ならあるぞ」
魔剣士「...だめだ、短すぎる」
女騎士「なら、これで我慢してくれ」スッ
そういうと、女騎士はハンドガンを渡してきた。
肩を支えてもらっていて、片腕だけしか動かせない魔剣士でも発砲が可能だろう。
そして女騎士は、背負っているアサルトライフルを同じく片腕で構える。
魔剣士「なるほどなァ...つーか、お前はそれを片手でやるつもりかァ?」
女騎士「所詮私は人間...だが、極限まで鍛えたつもりだ」
女騎士「それに...やるしかないだろう?」
魔剣士「違ェねえな、それじゃ運搬よろしくゥ」ケタケタ
女騎士「言ってくれるなぁ...まぁ、早くきゃぷてんと合流しなければ」
~~~~
~~~~
隊長「...そっちの調子はどうだ?」
魔闘士「だめだ、まだ立つので精一杯だ」
隊長「...この牢獄自体に光魔法がかかっている可能性は?」
魔闘士「...ありえる、だが1つ矛盾点がある」
魔闘士「光魔法がかかっているなら、お前も同じ症状を得るはずだ」
魔闘士「...お前は万全なのか?」
522: 2018/12/09(日) 19:43:06.45 ID:cXY40eQY0
隊長「...身体に鈍い痛みは残っているだけで、それといった症状はないな」
魔闘士「なら...現時点では原因不明だ」
隊長「参ったな...」ポリポリ
現状では、内側からはなにもすることができない。
そして、魔闘士だけが光魔法を受けたような症状に頭を悩ませる。
今できることは頭のかゆみを解消することだけであった。
魔闘士「...神に祈ってみるか?」
隊長「その神の使いの天使を頃したのは誰だ?」
魔闘士「...くだらん冗句は言うものではないな」
隊長「あぁ...だが、仲間に祈ってはいるぞ」
魔闘士「...」
──ガチャッ...!
気づけば、鉄格子の鍵が開いていた。
薄暗い牢屋の中、目が冴えていなくともわかる、見慣れないこの風貌は間違いなく敵だ。
???「やぁ」
魔闘士「...何者だ?」
隊長「...」
???「この施設の最高責任者だよ」
魔闘士「なぜ、牢屋を開けた...」
???「君たちに教えたいことがあってね」
???「ほら、さっさと歩いてくれ、時間は無限じゃないんだ」
魔闘士「...」
隊長「...断るといったら?」
???「断るわけない、今だって現状を打破できなかったじゃないか」
???「君たちは付いてくるしか、ここから脱出する目処は立たないよね?」
魔闘士「...チッ」
???「さぁ、こっちだ、言っておくけど脅しは聞かないからね」
???「君は歩くことも辛いはずだ...君は違うみたいだけど、どちらにしろ急な運動は無理でしょ?」
523: 2018/12/09(日) 19:44:27.41 ID:cXY40eQY0
魔闘士「...癇に障る奴だな」
隊長「だが、事実だ...従うしかない」
大人しく従うしかない、このままだと永遠に牢獄に入れられたまま。
せめて、仲間が助けに来る可能性に縋りたかったが、敵が目の前にいるのなら話は別。
既に仲間がくるまで待機という選択は消されている、彼らは少しふらつきながら奴に付いて行く。
???「...しかし、君も大変だったね」
隊長「...大変にしたのはお前らだろう」
???「いや、そうじゃないさ...まぁ直にわかる」
隊長「...?」
他愛のない会話、まるで囚人と看守のようなものだった。
意味深なことを言い放つこの者に疑問を抱える。
だが、それとは別に隊長には気になる点があった。
隊長(...こいつの服、白衣か?)
夜目が効いて、ようやく確認ができた。
この白い服装は間違いなく、科学者が着るようなアレだ。
この世界には似つかわしくない、非現実的であり、現実的すぎる服。
隊長「────お前、まさか」
一瞬だけ頭に過ぎった、過ぎってしまった。
その後姿は過去に見たことがある、見てしまったことのある者。
追ってきたその背中を見間違えることは絶対にない、だがその言葉は遮られてしまう。
???「さぁ、到着したよ」
魔闘士はその見たことのない光に目を白黒させる。
そして隊長はその見慣れた光に目を白黒させる。
明かりで奴の、この施設の最高責任者の顔を確認できてしまった。
隊長「────なぜここにいる」
~~~~
524: 2018/12/09(日) 19:47:24.09 ID:cXY40eQY0
~~~~
女騎士「...まるで迷宮だな」
魔剣士「あァ...地図がねェと、どうしようもねェな」
女騎士の前髪は汗でぺったりとしている。
魔剣士を支えながら、かなりの時間を彷徨っているのが伺える。
魔剣士「...悪ィ」
女騎士「...このくらいどうということはない」
本当は片腕が乳酸でパンパンだというのに。
女騎士は顔色を変えずに、平然と嘘をつく。
魔剣士「クソッ...まるで光魔法が身体の中に宿っているみてェだ...」
女騎士「...やはり、そうか...お前ほど症状はひどくないが、そのような感覚がするんだ」
女騎士「もしかして...この施設全体に光魔法が宿っているのか?」
魔剣士「...光魔法が関与しているのはありえるがよォ」
魔剣士「さっきも言ったが俺様が感じるのはこの施設からじゃなく、身体の内からだァ」
魔剣士「そもそも、光魔法は希少だ...この施設全体に宿らすってなるとォ...」
魔剣士「それができる人物は限られるぜェ? それでこそ女勇者が────」ピクッ
魔剣士が可能性を否定しようとした瞬間、あることを思い出す。
女勇者、彼女は神によって選ばれたと伝えられている、勇気ある者。
魔剣士「...拉致られたんだよなァ?」
女騎士「...あぁ、まさか...そうなのか!?」
魔剣士「この俺様をここまで抑えられるんだァ...可能性は高いぞ」
女騎士「...」
魔剣士「この施設全体に云々はともかく、女勇者が関与してる可能性は高いなァ」
女騎士「...この施設にいるかもしれんな」
魔剣士「敵側に寝返ってなければいいけどなァ...今の状態だと瞬殺されるぞ」
女騎士「良くて洗脳だろ...どちらにしろ戦闘にならなければいいが」
魔剣士「とにかく、急ぐしかねェ...きゃぷてんたちと合流しねェとまずい...」
女騎士「あぁ、それに彼らも丸腰だろう...この武器を渡さなければ」
~~~~
525: 2018/12/09(日) 19:48:35.90 ID:cXY40eQY0
~~~~
隊長「────なぜここにいる」
その発言にはあらゆる感情がこもっていた。
ただならぬ雰囲気に、魔闘士は困惑する。
魔闘士「...知り合いか?」
???「はて、知らないな」
魔闘士「黙れ...質問の相手はこっちだ...」
隊長「...」
魔闘士「おい...どうした?」
魔闘士の質問には答えない。
隊長は質問に答えられる精神状態ではなかった。
???「...自己紹介でもするかな」
研究者「ここでは研究者と名乗っているが、君はこっちのほうが知りたいみたいだね」
研究者「過去の名前は────」
聞き取ってしまう、かつて追い求めた犯罪者の名前。
マッドサイエンティスト、狂気の研究者。
間違いない、奴だ。
隊長「────なぜここにいるんだあああああああああああッッッッ!!!!!」
怒声にしか聞こえない、その質問。
怒り、憎しみが含まれるその声にはもう1つ意味があった。
隊長「お前のような奴がァッ! なんでこの世界に居やがるッッ!!!」
研究者がいない、奴の実験によって喪われた人たちがいない世界。
この異世界は、罪もない子どもや女性が奴の意味不明な実験台にされていない世界などと勝手に思っていた。
つみ木の城を壊された子どものように、叫ばないと崩壊してしまいそうだからであった。
研究者「...あぁ、もしかして私を追っていた特殊部隊の誰かか?」
魔闘士「...お前が言っていたのはこいつか!?」
隊長「お前ぇ...なぜこの世界にィ...ッ!?」
研究者「さぁね、気づいたらこの世界にいたんだ...10年前くらいにね」
隊長が追ってきた10年間は無残にもたった一言、あっさりとした一言で無駄に終わってしまった。
当然だった、異世界にいる犯罪者を捕まえることは不可能。
怒りのボルテージがさらに上昇する。
526: 2018/12/09(日) 19:51:09.45 ID:cXY40eQY0
隊長「ふざけるなァ...お前が頃した子どもたちの親は、どのような気持ちで過ごしているか────」
研究者「────知らないね、私はやりたいことをやるだけだ」
研究者「自由の国で自由にやってなにが悪い、そのためにアメリカの国籍を獲得したんだよ」
隊長の頭の中でなにかが切れる音が通った。
過去の被害者、そして自分自身の無念が隊長の身体に纏わりつく。
復讐に襲われる、彼の感情はすでに爆発していた。
隊長「────ッ!!!」ダッ
魔闘士「──落ち着けッ!! お前らしくないぞ!」
隊長「──止めるなッッ!!」
研究者「いや、止まりなね」スッ
白衣の懐から、あるものを取り出してきた。
それは大男が所持することを許される、大型のリボルバー拳銃。
科学者にありがちな細い腕で、絶大な威力を誇る銃を突きつけてきた。
魔闘士「あれも、あの武器と同じものか...」
隊長「...FUCKッッ!!!」
研究者「それ以上動くと撃つからね...さて、本題に入ろうか」
研究者「実は異世界から来た...という話はもう要らないね」
研究者「それじゃあ、こっちを見てもらおうか」
魔闘士「...これは...硝子の壁か?」
研究者「そう、硝子...本当はミラーガラスといって向こう側からは可視できない壁なんだけど」
隊長「────お前ェ...ッ!!」
そしていち早く隊長は気がついた。
この硝子の向こう側にある物体、またも怒りを誘うものであった。
非現実的で超科学的な代物に魔闘士は質問を投げかけるしかなかった。
魔闘士「...あれはなんだ?」
研究者「あれは生体ユニット...大きな試験官って思ってくれていいよ」
研究者「よく見てご覧、君の身体が抑えられている原因だよ」
魔闘士「...? どういう...ッ!?」ピクッ
研究者「気づいたみたいだね...って、おや?」
~~~~
527: 2018/12/09(日) 19:52:19.09 ID:cXY40eQY0
~~~~
女騎士「────嘘だろ」
その光景をみた女騎士の瞳は濁っていた。
それも当然、かつての仲間と再会できたのだから。
女勇者「────」
謎の液体が入った大きな試験管に彼女は存在していた。
身体のあちこちに管が埋め込まれ、とてもじゃないが生命を感じるものではなかった。
魔剣士「女勇者...やっぱりいたかァ、いやそれよりも...」
魔剣士がひやりと汗を垂らす。
彼ほどの者が焦る理由、それは女勇者の番犬に見つめられているからであった。
女騎士「...さっきの光魔法を使うドラゴンか」
魔剣士「そうだなァ...差し詰め、"光竜"とでも名付けるか」
光竜「グルルルルルルルル...ッッ」
魔剣士「これ以上動いたら、襲ってくるだろうなァ...」
女騎士「...おい、あれって」スッ
女騎士が指を指す、別の試験官だ。
女勇者の衝撃に囚われてか、見えていなかったものがようやく目に入る。
魔剣士「──あれは俺様の魔剣ッ!?」
光竜「──ッッ」ピクッ
女騎士「大きな声をたてるな...あいつに刺激を与えないほうがいいぞ」
魔剣士「あァ...すまねェ...だが、あれがあれば...」
女騎士「...なんとかできるのか?」
魔剣士「...」
迂闊にこの状況を打破できると言ってしまえば、嘘になるかもしれない。
身体の自由は奪われ、満足に魔力も使えないこの現状。
彼は深く葛藤する、軽く言える言葉ではなかった。
女騎士「...もう一度言うぞ」
女騎士「なんとかできるのか?」
これは彼女なりの足掻きだった。
先ほど彼らを完膚なきまで叩きのめした光竜と対峙してしまった以上、ほぼ詰み。
もう魔剣士の言葉にすがるしかなかった。
528: 2018/12/09(日) 19:53:23.36 ID:cXY40eQY0
魔剣士「...」
魔剣士「...あァ、できる」
長い沈黙の末に口を開く、その重すぎる責任を彼は背負う。
いつも背負っている魔剣よりも、遥かに重たいこの代物を。
女騎士「...私が取ってこよう」
魔剣士「あァ...頼んだぞ」
女騎士「ここで...待ってろ」
支えていた魔剣士の肩を、ようやく開放する。
それと同時に魔剣士が静かに腰をついた。
1人身となった女騎士、身体に若干の違和感が残るけれども身軽にはなった。
女騎士「さて...どうするか」
光竜「グルルルルルルルルル...ッ」
魔剣士「あいつの警戒が強いぞ、既に跳びかかってきてもおかしくはない状況だァ」
女騎士「...まず、武器を選択だな」
音を立てずに、持っていた武器をソーっと床に置く。
あるのは、アサルトライフル、ショットガン、手榴弾、ナイフ。
魔剣士が申し訳程度にもっているハンドガンは端から眼中になかった。
女騎士「...これとこれだな」スッ
選ばれたのはナイフとアサルトライフルであった。
最も、女騎士は隊長がショットガンと手榴弾を使用している場面に遭遇していない。
使い方がわからない、消去法による選択だった。
女騎士「...行ってくる」
魔剣士「...頼んだ」
ついに、足を動かしだす。
まずは試験官の近くへ行かなければならない。
光竜の様子を伺いながら移動を開始する。
529: 2018/12/09(日) 19:55:04.33 ID:cXY40eQY0
光竜「グルルルルルルルルルル...ッッ」
女騎士(...見られている...目で追われている)
女騎士(だが...まだ襲ってこない...なぜだ?)
光竜に睨まれながら、着々と進んでいく。
驚くほどにすんなりと、事が進む。
女騎士(...ついた)
女騎士(さて、どうやってあれを取ろうか)
試験官は少し高い場所に設置されている。
少し不安定だが、試験管を支えている細い管を登れば辿り着けそうな高さだった。
女騎士(武器は背負うしかないな...今は襲わないでくれ...っ!)
アサルトライフルを背負い、管を支えに。
身体の倦怠感、鎧という重り、そして光竜による威圧感。
それらも背負いながら、健気に登っていく。
魔剣士(...順調だなァ、このままうまくいってくれ)
光竜「グルルルルルルルルルルル...ッッ」
魔剣士(にしても...なんであいつは襲わねェんだァ...?)
魔剣士(まるで...調教された犬みてェだな)
???≪あー、マイクテスト≫
魔剣士が推理を進めた矢先、聞いたことのない音声が聞こえる。
頭に軽くキンと響く、とても不快な音だ。
魔剣士「...なんだァ?」
???≪待たなくていい、やれ≫
その指示、まるで調教された犬。
この竜には竜としての威厳は全く無く、知性は失われていた。
待ての指示を忠実に行う畜生、そしてその褒美は目の前に。
光竜「──ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
~~~~
530: 2018/12/09(日) 19:57:00.32 ID:cXY40eQY0
~~~~
研究者「...調教したはいいが、どうも要領が悪いのが玉に瑕だね」
隊長「お前ェ...!!!」
魔闘士「──下衆がッ!」
研究者「動くと撃つよ...さぁ、話を戻そうか」
話を戻す、というより話したくてたまらない。
そんな、嬉々とした表情をしていた。
研究者「もう、ほとんど答えはわかっているね?」
研究者「その身体の倦怠感...それは女勇者の光魔法を細工したものだ」
魔闘士「...異世界の人間が、それも光魔法を細工しただと?」
魔闘士「ふざけるな...この世界の賢者ですら、光について熟知していないんだぞ...」
魔闘士はその質問を反する答えを出した、出さざる得なかった。
この世界で何百年と過ごしてきた彼ですら、未知の領域である光魔法。
それを異世界の、たった10年しか住んでいないこの人間に。
まるで光魔法について熟知しているような口ぶりが許せなかった。
研究者「悪いけど...熟知して当然なんだよね」
研究者「はっきり言って、この世界は私のいた世界よりも遥かに遅れている」
研究者「この世界にいる賢者は...私より頭が悪い」
魔闘士「...」
研究者「そうだろ? その身体の倦怠感がそう物語ってるじゃないか」
魔闘士「...ふざけるな」
研究者「...納得いってないみたいだね、なら一旦別の話をしてあげよう」
魔闘士「...?」
531: 2018/12/09(日) 19:57:54.48 ID:cXY40eQY0
研究者「──さぁ、握手だ」スッ
魔闘士「────ッッ!?」ビクッ
──ギュウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥッッッ...!
気づいた時には目の前に研究者が。
そして気づいた時には手は結ばれていた。
その音はあまりにも激しく、激痛が伴うモノであった。
魔闘士「──がああああああああああああああああああああッ!?」
研究者「ほら、痛がってないで...わかったかい?」スッ
魔闘士「────ッ...!?」
掌に鈍い痛みが残る。
しかし、どうしても考えを進めなければならなかった。
なぜ、奴がこの力を持っているかという質問を。
魔闘士「な...なぜだ...?」
研究者「なぜ私が君の力を得ているか...だね?」
あらゆる推理をする、だが答えが見つからない。
おそらく永遠に彼1人では見つからない、着々と研究者が答え合わせを行う。
研究者「悪いけど、君の力は研究させてもらった...それが私がこの世界にきて、初めての研究だった」
魔闘士「ど、どうやって...」
研究者「...Mosquito、蚊だよ」
魔闘士「蚊だと...?」
研究者「あぁ、そうだ...どんな人体実験も始めは血液検査から始めるのが私流なんでね」
研究者「それが大当たりだ、悪いけど君の身体は1年で熟知したよ」
魔闘士「い、1年...」
正確な誕生日は覚えていない。
ただ、数百年は生きていたのは確実、だがそれがたった1年で研究しつくされた。
ただならぬ絶望感が魔闘士を襲う。
532: 2018/12/09(日) 19:59:08.29 ID:cXY40eQY0
研究者「まぁ、研究自体は半年もなかったんだけどね...君の血を得た蚊の取得や研究機材の作成のが大変だったね」
研究者「1から説明しよう...まず、この世界の魔力についてだ」
研究者「まず魔力は不可視とされているが...そんなことはなかったよ」
研究者「魔力と呼ばれている物質は血液の中に存在している...それは自作の顕微鏡で確認できた」
研究者「その発見によりわかったのは、魔力という物質が身体を強化しているということ」
研究者「魔力を含んでいる分だけ、身体は鍛えられる...それが魔物というわけさ」
研究者「鍛えられるのは身体だけではない、脳細胞だって...動物に近い魔物が言葉を発するのはそういうことだね」
研究者「今のは単純な説明でしかない、あとで詳しく教えてあげるよ」
研究者「まぁあとは簡単だ、君の血を注射するだけで超人的な力を得ることができるはずだ」
研究者「初めの人体実験は異端者って人にやってもらった...みごと成功したよ」
研究者「副作用は発熱程度だったから、私も続いて君の血を入れさせてもらったよ、血液型も一致してたようだし」
魔闘士「な...」
口をあんぐりさせるしかなかった。
この男の言っていること、頭の理解が追いついていない。
魔闘士の頭が悪いわけではない、この世界の研究水準がかなり低いのが原因であった。
研究者「次に魔力という物質がどんなものなのか...まずは創生を語ろうか」
研究者「これはまだ推測にすぎないんだけど、答えは空気から発見できた」
研究者「魔界の空気には大昔から姿を変えてない微生物...ある小さな小さな魔物が存在しているんだ」
研究者「それが原始の魔物...すべての魔物の祖というべきか」
研究者「その魔物が、初めて魔力というものを作ったと思われるよ」
研究者「魔物の歴史の最初は、恐らく魔界の空気を吸った人間や動物から始まったんじゃなかな」
研究者「魔力に目覚めた人間が子どもを産めば、産んだ子どもは先天的に魔力を持っているはずだ」
研究者「それが歴史を重ねることで、突然変異として人の形を離れたの魔物が生まれ...今に繋がるんじゃないかな」
研究者「まぁ、歴史はそんなに好きじゃないんでね...これ以上は調べる興味がわかないね」
研究者「それから考えると、人間界にいる人間が魔力を持っていないのは魔界の空気を摂取していないから」
研究者「もしくは、過去に摂取をした祖先等が血縁者にいないという結論に到れるね」
533: 2018/12/09(日) 20:00:20.97 ID:cXY40eQY0
研究者「じゃあ、後天的に魔力に目覚めた人間はどういうことかというと...これはなかなか骨が折れたよ」
研究者「私の考えが合っているなら、空気を吸った瞬間に魔力を得ることができると思ったんだけど」
研究者「そうはいかなかった...現に、私は君の血を入れるまで魔力に目覚めることはなかったしね」
研究者「じゃあなぜか、それは微生物...いやこの場合はVirus...いや、ウィルスと言ったほうがわかりやすいかな」
研究者「ウィルスと微生物は正確には同じではないんだけど、便宜上今はそう呼ばせてもらうよ」
研究者「そう、このウィルスには潜伏期間というものが存在していたんだ...厄介だね」
研究者「私の世界でも潜伏期間には手を焼かされるよ...まぁ、もう判明したから問題はないけどね」
研究者「魔界の空気に存在するウィルスを摂取する...だが、それだけでは魔力は目覚めない」
研究者「なぜなら...身体にはとてもすごいモノがあるからだ、それは異物への抵抗力」
研究者「風邪を引くと無意識に咳をしたり、花粉を感じると鼻水で防御をする...まぁ後者は過剰反応なんだけど」
研究者「身体にの中に侵入したウィルスは身体の中で殺されるんだ...白血球とかにね」
研究者「なら、人間が魔力に目覚めることはないと思うだろ? だけどそのウィルスには特性があったんだ」
研究者「それは無性生殖だ...あちこちに自身の一部分を残しまた成長を始めるんだ」
研究者「白血球がウィルスを頃し、ウィルスは殺される前に身体をどこかに残す...イタチごっこが始まるわけだ」
研究者「その行動に身体は徐々に慣れて、やがてウィルスを殺さなくなる...時間はかかるが次第に適応していくのさ」
研究者「その適応が魔力に目覚めるということだ...まぁ完全に頃しきって魔力に目覚めない場合もありそうだけど」
研究者「その時間のズレが潜伏期間...骨が折れた箇所だよ、なにせ潜伏期間は自覚ができないからね」
研究者「君の血を入れた時、発熱が起きたのは身体の抵抗が原因だったみたいだね、予防接種みたいなものさ」
研究者「まぁ、生まれた時から適応している魔物にとってこの話は意味なかったか」
研究者「...次は魔法について語るね、これも仮説なんだけどね」
研究者「魔力を源にする魔法...どうやって魔力を使用しているかという話だね」
研究者「もともと、魔力というのはさっきの微生物が活動するに必要なただの動力源に過ぎないみたいなんだよね」
研究者「だけど...それはその微生物での話、人間及び魔物なら話は別」
研究者「何が違うか、それは脳...魔力は脳の電気信号に反応することが発見できたよ」
研究者「例えば、手から風を出したいと思えば脳へ電気信号が走るんだけど...まぁ普通は無理だよね」
研究者「だけど...魔力はそれを実現させるんだ」
534: 2018/12/09(日) 20:01:32.19 ID:cXY40eQY0
研究者「そう、魔力は思ったことに変化をする夢の物質なんだ」
研究者「その事実を発見したときは、思わず感極まってしまったよ...夢が詰まりすぎた代物だ」
研究者「だが、2つほど弱点があったんだ...1つは思い込みが足りないと全く実現しないということさ」
研究者「例えば、お腹が空いたから目の前に料理を出したいと思っても...そんな一時的な思い込みは受理されない」
研究者「何千年も思い込み続けてたら出せるかもしれないけど、そんなことする奴はいないだろうね」
研究者「...でも、何千年も思い込み続けられたモノがこの世界にあるね?」
研究者「そう...この魔法について書かれている本だ」
研究者「魔法というのははるか昔、書物さえ残されていないときから存在しているらしいね」
研究者「きっと初めは妄想や愚行だったんだろう、じゃんけんのようなお遊びとして語り継がれたんだろうか」
研究者「でもあるとき、魔力に目覚めた者がそれを変えた」
研究者「炎をだしたり、水をだしたり、風をだしたり、土をだしたり、傷を癒やしたり」
研究者「思い込みが電気信号の道を舗装し、長年お遊びとして思い込み続けてきたものが...実現した!」
研究者「そして思い込みが受理された後、汗腺などの細かい穴から魔力が放出され、変化を始める」
研究者「それが魔法だ」
喜々として語る。
この男、わずか十年でここまでの物言いができる。
その語り部に魔闘士は頷くしかなった。
魔闘士「...」
研究者「...まぁ一説に過ぎないけどね、あくまで私の考えさ」
研究者「プラシーボ効果は侮れないね...さぁ、もう1つの弱点を語ろうか」
研究者「といっても、あっけない結論なんだけどね...」
研究者「よくある弱点だ、この微生物は塩分を含んだ水に弱く、海水が蒸発した水蒸気ですら触れたら氏ぬ」
研究者「まぁ一度身体に取り込めば微生物自体が体外へ放出されることはない、海に浸かったら魔力を失うことはないさ」
研究者「血管に塩水を注入すれば、もしかしたらだけど...そんなことしたらそれ以前に氏んじゃうよね」
研究者「魔法は魔力によって発動するけど、魔力自体にはそんな性質はないから海中でも使えると思うよ」
研究者「とにかく、魔界の空気は海を超えられない...人間界の空気に微生物が存在しないのはそういうことだ」
研究者「まぁ、あの大橋を運良く渡りきり、人間界へ訪れる場合もあるね」
研究者「その結果、普通の人間が魔力に目覚める要因になるわけだ」
研究者「蛇足だけど、人類の進化と同様、人魚族とかが海に生息しているのも突然変異の賜物だろうね」
535: 2018/12/09(日) 20:02:28.57 ID:cXY40eQY0
研究者「話がズレた...塩水に触れるともう1つ、それは微生物には塩水に触れたら硬度を増す性質がある...紐付けできることがあるね」
研究者「人間界側の崖には魔法の欠片とよばれるものが存在しているよね?」
研究者「あれは微生物の氏体の成れの果て...可視できるほどに氏体が集まったものだ」
研究者「どうやら、微生物が氏んでも魔力は残るみたいだよ...まだ詳しくは調べてないけど」
研究者「まぁこれで、魔法の欠片が魔法を維持する理由、これでわかったかな?」
研究者「...1人でしゃべりすぎたね、要点をまとめよう」
研究者「1つ、魔力は血液に存在する」
研究者「2つ、魔力は元々、魔界の空気に存在する微生物の原動力である」
研究者「3つ、その微生物を摂取することで、潜伏期間を得る」
研究者「4つ、そしてその潜伏期間を超えると、魔力に目覚める」
研究者「5つ、なお魔力に目覚めた者の血液を投与すれば潜伏期間なくして同等の魔力に目覚めることができる」
研究者「6つ、魔力には身体を強靭にする作用がある」
研究者「7つ、魔力は脳の電気信号...そして思い込みに反応する、その結果が魔法だ」
研究者「8つ、魔法などの思い込みに反応をした後、魔力が体外へ放出され魔法へと変化する」
ついに、長い長い演説が終える。
1人でぺらぺらと論を語る様は不快なものだった。
だが、その不快なものにすら遅れを取っているのがこの世界の水準。
真実かそうでなくても、信じざる得なかった。
魔闘士「たった10年で...ここまで語れるのか...?」
研究者「そうでなくては、生かしてもらえないしね」
研究者「なんたって、この施設と私は魔王様のお墨付きなんだからね」
魔闘士「...チッ」
悪態をつくしかない。
身体が鈍い今、彼に言葉で勝るしかない。
だが、そのような試みはもう無意味だった。
研究者「さて...じゃあ、話をもどそうか」
研究者「硝子の向こうを見てご覧...って、あれ?」
魔闘士「──ッ...!?」
話に夢中になりすぎて、気が付かなかった。
ガラスには真っ赤な液体がこべりつき、向こう側への目視が不可能な状態であった。
536: 2018/12/09(日) 20:05:08.44 ID:cXY40eQY0
研究者「...はぁ、後で掃除しなきゃね」
魔闘士「魔剣士...」
研究者「君のお仲間、やられちゃったみたいだね」
魔闘士「...」
呆然とするしかなかった、もう、否定する気力すらわかなかった。
最後に見た光景は動きが鈍っていた魔剣士と女騎士。
そしてこの施設に送り込まれた原因である光竜。
研究者「じゃあ...本題に移ろうか」
研究者「その、身体のだるみをね」
魔闘士「...まだ語るか、もううんざりだ」
研究者「言いたくてたまらないのさ、私の研究結果をね」
研究者「まぁ、理由はさっきの話があれば簡単さ」
研究者「さっき、硝子の向こうに女の子がいたよね」
先ほどの記憶は曖昧だが、覚えている。
その女は魔闘士にとって、忘れることはない人物であった。
人間界、女騎士と同様にあちこちの新聞に掲載されていた彼女だ。
魔闘士「...女勇者」
研究者「そう、女勇者...彼女の魔力を使ったのさ」
魔闘士「...なるほどな」
段々と理解してきた、おのずと答えが脳内で導かれていく。
いくら研究水準が低いこの世界の住人であれ、学がないわけではない。
537: 2018/12/09(日) 20:07:48.46 ID:cXY40eQY0
研究者「答えはさっきの微生物、そこに女勇者の魔力を与えたんだよ」
研究者「これも骨が折れたね、彼女のあらゆる要素を使って実験したんだけど」
研究者「まぁ...一番初めに手を加えたリザードたちは完全に出来損ないになっちゃったけどね」
研究者「そういった礎の上に、あのドラゴンや光を含む微生物の創造に成功したよ」
研究者「彼女の魔力、つまり光属性の魔力...君たち魔物にとって天敵だよね」
研究者「光属性についても、研究させてもらったよ...なんでもありとあらゆる物を抑える属性だってね」
研究者「だけど、それは惜しい認識だったよ、本当の性質は"魔力を抑える"属性さ」
研究者「それは顕微鏡で確認できたよ、光属性の魔力がその他の魔力の活動を停止させていたよ」
研究者「この世の生物は魔力にあふれている、潜伏期間中で自覚がなくてもね」
研究者「光で魔法を抑えられるのも当然、武力を抑えられるのも、その当人に魔力が存在するから」
研究者「よって、ありとあらゆる物を抑えると誤認しちゃったんだね...仕方ないと思うよ」
研究者「話は戻して、光は魔力を抑える性質...それが微生物を通して体内へ侵入するんだから...ね」
研究者「まぁ、後天的な魔力の所有者には、魔物より体内の魔力が少ないので効果が完全に発揮されないし」
研究者「潜伏期間中はそもそも身体の抵抗力で魔力が殺生の繰り返しをしているから効果が非常に薄かったりするしね」
魔闘士「...あの村にバラ撒いたというわけか」
研究者「そうさ、まぁ実験中にたまたま通りかかったのが運の尽きだったね」
魔闘士「...お前は...人間なのか...?」
研究者「...あぁ、そうさ」
魔闘士「...人間」
人間には驚かされてばかりだ、この研究者といい、キャプテンといい。
人間は魔物よりはるかに弱い生き物だと思っていた。
そんな、大きな挫折感を味わっているうちにあることを思い出した。
魔闘士(...奴が静かだ)
研究者「...ところで、君はさっきから黙っているけど生きているかい?」
魔闘士が振り向く、そこにはとても人間という枠を超えそうな何かが沈黙をしていた。
復讐者の予言、それは見事に的中することになってしまった。
隊長「────■■■...」
~~~~
538: 2018/12/09(日) 20:10:58.92 ID:cXY40eQY0
~~~~
光龍「────ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
時は少し巻き戻り、不快なノイズとともに発せられた命令が光竜を動かす。
狙いは女騎士、全力の突進が彼女を襲う、管上りの最中だというのに。
魔剣士「──女騎士ィッ!!!!」
女騎士「────クソっ!!!」ダッ
登っていた管から離脱をする。
もう少しで魔剣に手が届いたかもしれないが、仕方がない。
着地と同時に受け身を行い、急いで走り始める。
女騎士「魔剣士ィっ! そんなに持たないっ!」スチャッ
──バババババババババババババッッッッ!!!!
アサルトライフルを走りながら構え、射撃する。
本来なら音を建てずに光竜をやり過ごしたかったが、もう手遅れであった。
魔剣士「────なるほどなァッ!!!」
パキッ、そのような音が連続するのとよくわからない液体が流れる。
するとそこに重量感のある音も続く。
女騎士「ほらっ! こっちだ光竜っ!」
光竜「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」
光竜は他のことに目もくれず女騎士を追う、彼女が行ったのは陽動。
アサルトライフルによって乱雑に射撃された大きな試験官、それが砕けたことによって落ちてきた魔剣。
魔剣士「グッ...ハァッ...!」ズルズル
そしてプライドを殴り捨てた這いつくばり。
しかし、まだ距離がある。
女騎士「はぁっ...はぁっ...ほら私はここだぞっ!」
──バババババババッ!!!!
女騎士とて武人、初心者ながらも射撃に成功する
しかし効果がないようだ、光竜は構わずに突進してくる。
光竜「ガアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!」
女騎士(──怯みもしないかっ!)
広いとはいえほぼ密室。
きた道を戻ろうとすれば魔剣士が巻き込まれてしまうかもしれない。
身体もだるい、全力で走るのも数秒が限界だろう。
539: 2018/12/09(日) 20:12:45.79 ID:cXY40eQY0
女騎士(──だが、やり通さなければ)
魔剣士「クソッ...動けッ...俺様の身体ァッ...!」ズルズル
女騎士「はぁっ...はぁっ...はぁっ...」チラッ
小走りしながら目視をする。
魔剣士は遅いながらも、確実に魔剣に迫っている。
このまま行けばうまく行くはずだった、やけに静かでなければ。
光竜「...」
女騎士(────視線が違うっ...!?)
女騎士「──クソっ!!! 魔剣士ィっ!」
魔剣士「──チィッ!」グッ
女騎士「おいっっ!! こっちだっ!」
──バババババッ!!!!
アサルトライフルを発砲するが、無に終わる。
空っぽの力を振り絞り、這いずりの速度を上げる。
言われなくても気づくこの雰囲気、魔剣士は光竜に睨まれていた。
光竜「...ガアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」
継ぎ接ぎだらけの翼を扱い、突進のモーションに移る。
ヘイトは魔剣士、女騎士などもう飽きたらしい。
女騎士「────だめだっ!!!」ダッ
竜に駆け寄るしかなかった。
その圧倒的威圧感を臆さず、仲間のために。
そして彼女は、突撃しながら銃を発砲する。
女騎士「────っっ!」スチャ
──バババババッッッッ!!!
────グチャァッ...!!!
そして聞こえたのは、何か柔らかいモノが潰れる音であった。
光竜「────ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!?!?!?!?」
540: 2018/12/09(日) 20:14:06.97 ID:cXY40eQY0
女騎士(──怯んだっ!?)
幸運の一撃、それは生物共通の弱点。
彼女のへたっぴな射撃は近寄ることで精度を増し、光竜の片目にヒットした。
潰れた瞳からは赤い液体が、尋常じゃない量を撒き散らし、一部の壁を染め上げる。
光竜「...」
そして沈黙、弱ったわけではない。
生物としてのすべての感情が竜を黙らせていた。
女騎士「...くるっ!」
光竜「────ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」
女騎士「────こいっっ!!!!」スチャ
再びアサルトライフルを構える。
彼の武器であるこれが、唯一の抵抗手段。
絶望的な状態でも勇気があふれる、だが。
女騎士「...え?」
──カチッ...カチッ...
彼女はしらなかった。
リロードという概念を、弾切れという概念を。
光竜「────ガアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」
この世のものとは思えない雄叫びを叫びながら向かってきている。
本来なら、彼女は回避を行うであろう。
だが武器の仕様にあっけにとられて、彼女の反応が大幅に遅れてしまっていた。
女騎士「──氏んだか」
すべての出来事がゆっくりと、頭には走馬灯のように過去の思い出が。
氏を悟った彼女は不思議と余裕ができていた、しかしその余裕が新たな希望を発見した。
女騎士「...あれは?」
そこには男のようななにかが立っていた。
その表情は醜悪、彼が彼であることを忘れている。
その格好は邪悪、彼の元の形状を連想できない程。
魔剣士『────くたばれェッッッッッ!!!!!!!!』
頃すことだけを目的とした剣気が竜を追う。
竜は気づいておらず完全に不意打ち、そして反撃を許さない威力。
541: 2018/12/09(日) 20:15:45.04 ID:cXY40eQY0
光竜「────ッ...!」
────────サクッ...
まるで果物を裂くような綺麗な音だった。
首から離れる直前、畜生は知性を取り戻す。
光竜「──あぁ...我が盟友よ、よくぞ我を開放してくれたな...」
魔剣士『当然だ、俺様は竜人...魔剣士だからなァ」
光竜「────」ズドンッ
女騎士「...終わったか」
魔剣士「あァ、助かったぜェ」
女騎士「調子は...戻ったか?」
魔剣士「駄目だァ、絶えず魔剣から魔力をもらってるだけな現状だ」
魔剣士「数分もしたら立っているのが限界だろうなァ」
女騎士「それでも、さっきよりはマシだな」
魔剣士「...とりあえず、あいつを助けてやらねェとな」
女騎士「そうだな...いま助けるからな、女勇者」
~~~~
~~~~
────■■■...
聞き取れない言葉、まるで復讐の言語。
思わず、聞き返してしまう程。
魔闘士「どうした...?」
隊長「...お前、なにをしているかわかっているのか?」
魔闘士(...気のせいか?)
研究者「わかっているさ、研究をしているんだ」
悪びれもしない、彼の中ではこの行為は正義なのだろう。
それが隊長をおかしくさせる、させてしまうのであった。
542: 2018/12/09(日) 20:16:57.01 ID:cXY40eQY0
隊長「...やはり、あの時頃しておけばよかったな」
魔闘士「...らしくないぞ」
研究者「お国の特殊部隊が物騒なことを言うね...まぁ特殊部隊自体が物騒なんだけど」
隊長「テ口リストにも劣るクズが...お前のような人間に生きる価値はない」
研究者「...そうかな?」
魔闘士「おい...落ち着け...相手に飲まれるな」
魔闘士ともあろう男が、人間である隊長をなだめる。
その異様な雰囲気に魔の武人もそうせざるえなかった。
隊長「お前はどれだけ他者の未来を奪う気なんだ?」
隊長「殺された子どもたち、女性...どれも男のお前に襲われたらどうすることもできない者たちだ」
隊長「お前はMadscientistを謳っているが、実際は臆病で卑怯者のNardにすぎない」
研究者「...言ってくれるね、Jockさん」
研究者「それに、他者の未来を奪うどころか...私は研究で技術の未来を進めているじゃないか」
研究者「進展に犠牲はつきものだろ...どの先進国もそうしてきたじゃないか」
隊長「ふざけるな...そんな屁理屈で...奪われる命などあるわけないだろッ!!」
研究者「...だいたい、君だって人を頃しているじゃないか」
隊長「黙れ...ッ!」
隊長「お前だけは絶対に...絶対にッ!!!」
543: 2018/12/09(日) 20:17:23.34 ID:cXY40eQY0
「地獄に叩き込んでやる...ッ!」
544: 2018/12/09(日) 20:18:19.70 ID:cXY40eQY0
魔闘士「ッ...!」
────ピリピリッ...
まるで空気に馴染むような、生々しい殺意が場を包み込む。
研究者「...どうやら、相当恨まれているみたいだね私は」
研究者「でも、その殺意も怖くないね...動くと撃つよ?」スッ
再び、大きなリボルバーを構える。
ひょろひょろな腕だが、魔闘士の力を得た彼なら問題なく撃てるだろう。
隊長「お前だけは絶対にッ!」
魔闘士「──ッ、落ち着け!」
研究者「...それに、まだこちらには手はあるんだよ?」
魔闘士「黙れッ! これ以上刺激をするな!」
今にも魔闘士の制止を振り切って暴れだしそうな局面。
だが、研究者には切り札が存在していた。
研究者「────魔法使いの女の子」
隊長「──ッ」ピクッ
研究者「...お仲間だよね?」
隊長「...」
研究者「この施設、電力供給が少し不安定でね」
研究者「今は奴隷みたいな魔物に雷魔法を経て、維持しているんだけど...」
魔闘士「────よせ」
研究者「彼女は素晴らしい...いい電力になりそうだよ」
研究者「...君が暴れるなら、彼女はどうなるかなぁ?」
魔闘士「────やめろッッ!!」
禁断の一言、女騎士と魔剣士の生存は絶望的。
残る仲間は魔女1人、それが人質にとられている。
先にその言葉に怒りをぶつけたのは、魔闘士であった。
魔闘士「今は堪えろッ! あの女がどうなるかわからん────」
怒りを保ちつつ、隊長を落ち着かせようと試みる。
先ほどまでは只ならぬ雰囲気を感じ取り、しっかりと顔を合わせていなかった。
隊長の様子を確かめるべく後ろを振り返る、そこに居たのは。
545: 2018/12/09(日) 20:18:46.49 ID:cXY40eQY0
「────やはりお前はここで氏ぬべきだ■■■■■■」
546: 2018/12/09(日) 20:20:30.46 ID:cXY40eQY0
──■■■■■■■■■■■■...
謎の擬音が部屋を響かせた、そして、次第に隊長を包み込む。
それだけではない、その闇はあまりにも膨大であった。
魔闘士「な...ッ!?」
研究者「──これは?」
隊長「■■■■■■■■」
魔闘士「────どうして闇をまとっているッ!?」
研究者「...へぇ、これが闇魔法か」
研究者「気になるなぁ...ぜひ、実験台になってもらいたいね」
魔闘士(この状況で...頭がおかしいのか!?)
魔闘士「──チィッ!」ダッ
無理やり、身体を動かして距離を取る。
闇魔法と対峙したことがある者にとっての定石である。
研究者「さて...君のそれは私の作った光に抗えるかな────」
──■■■■■■■■■■■■...
気づけば、身体のほとんどが闇に飲み込まれていた。
そこには感覚はなく、わかることはただ一つ。
研究者「が...え...?」
隊長「...■■■」
──ガチャンッ...
握られていたグリップを離すことで、大型リボルバーが床に落ちて滑る。
その様子を眺めるのは、闇の恐ろしさを熟知した魔闘士。
研究者「身体が...左半身が...?」
魔闘士「...愚かな、おおよそ女勇者の光を利用した策でもあったようだが」
魔闘士「この闇、すでに女勇者のモノを遥かに超えているぞ...」
研究者「あっ────」
■■■■■■■...
再び闇が研究者を包み込む。
今度は全身を、右半身と顔だけのこった彼を跡形もなく屠る。
もうこの世界に、研究者という存在は居なくなった。
547: 2018/12/09(日) 20:23:28.47 ID:cXY40eQY0
魔闘士「...この俺の力を得たとしても、所詮人間か」
魔闘士「だが...いい土産ものをくれたな」ヒョイ
魔闘士「これもまた...未知の武器か」
床に転がった、大型リボルバー。
これもまた隊長の世界の武器であり、唯一の抵抗手段。
魔闘士「さて...一度、大幅に距離をとったほうがよさそうだな」
隊長「■■■■■■■■」
どうみても暴走を起こしている。
このままこの部屋にいれば、巻き込まれる可能性は大いにある。
夢中で研究者を葬っている今がチャンス、きた道を歩いて戻ろうとする。
魔闘士「...どうやって、正気に戻させるか」スッ
隊長「──■■■■■■」クルッ
魔闘士(────走れ、俺の身体よッ!)ダッ
──■■■■■■■...
後ろから闇が追いかけてきている。
魔闘士「はぁッ...はぁッ...」ダダダッ
魔闘士(どうやら、無差別な破壊衝動に駆られているようだな...)
魔闘士「はぁッ...闇に追われるなど...魔王子振りだな」ダダダッ
微生物、研究者の仕業により身体は人間程度の力しかでていない現状。
走ってもすぐ息を乱してしまう、だが早くも最初に捕まっていた牢屋を通過する。
土地勘もクソもない、ただひたすら走って逃げるしかない。
魔闘士「クッ...どこか一度身を潜めるか」
魔闘士「──ッ、丁度分かれ道...右が左どちらだ...?」
──......■■
微かに、遠くから闇の気配を感じる。
それが魔闘士の判断を焦らせる、決断している暇などない。
魔闘士(──迷っている暇はない)ダッ
──ガチャッ! バタンッ!
答えは左、するとすぐに扉が見えた。
その扉には偶然にも、一部に硝子が取り付けられていた。
これで向こう側を確認することができる。
548: 2018/12/09(日) 20:25:08.37 ID:cXY40eQY0
魔闘士「...」チラッ
魔闘士(来ているな...分かれ道に差し掛かっているな)
魔闘士(頼む...こちらにくるな...)
魔闘士「...」
魔闘士「......」
魔闘士「.........」
魔闘士「............」
魔闘士「...撒いたか」ガクッ
闇は分岐すら選ばず、もとの道を戻っていった。
思わず、安著をして腰を落としてしまう。
だが、すぐに復帰をしなければならなかった。
魔闘士「...さて、なにか策を練らねば」
魔闘士「それよりも...距離を稼がなければ...」スッ
音を立てないように、ゆっくり足を進める。
ひとまず、冷静を取り戻した彼に様々な考察が浮かび上がる。
魔闘士(なぜ、闇を...闇魔法を使えるのか)
魔闘士(奴の魔法は光じゃなかったのか...?)
魔闘士(光と闇を扱う者...聞いたことがない)
魔闘士(...やはり、異世界人...いや、神に祝福されているものは違うな)
魔闘士(この状況...非常にまずいな)
魔闘士(...)
魔闘士(...魔剣士よ、本当にくたばってしまったのか?)
ここ数十分で様々な衝撃的出来事が多発して、すぐには受け入れられなかった。
そしてようやく、腐れ縁だが数百年もつるんでいた彼のことを思い返す。
特に言葉が浮かび上がらない、それに反比例するように足が進む。
549: 2018/12/09(日) 20:26:09.26 ID:cXY40eQY0
魔闘士「...」
魔闘士(...もう、どうでもよくなってきた)
???「...あれ?」
魔闘士(魔剣士...そして奴...俺になんの関わりがあるんだ)
???「ちょっと! 魔闘士っ!」
魔闘士(......らしくなかったな、仲間など)
魔闘士(結局は、己を極めるのが一番だ)
???「まちなさいよっ! 聞いてるのっ!?」
魔闘士(...立ち去るか)
???「ちょ..."逃げる"なってばっ!」
魔闘士「────ッ」ピタッ
この瞬間、集中していた影響で耳に入らなかった言葉がようやく伝わる。
しかし、それと同時に彼の過去がフラッシュバックする。
(「────逃げるのか、この魔王子に挑戦しておきながら」)
魔闘士「...」
(「...最後まで立ち向かったことを、誇りに思え」)
魔闘士「......」
(「よォ、お前も負けたクチかァ?」)
魔闘士「.........」
(「へェ...この俺様と互角かァ...やるじゃねェか...」)
魔闘士「............」
(「魔王子がやられたァッ!?」)
魔闘士「...............」
(「探して数年経つがァ...なんも見つからなくてつまらねェな」)
魔闘士「..................」
(「おい、なんでも復讐者が人間界でやられたみてェだぞ」)
魔闘士「.....................」
550: 2018/12/09(日) 20:28:32.05 ID:cXY40eQY0
魔闘士「...いい拳だった、人間にしてはな」
魔闘士「...絶望のあまり、忘れていたようだな」
フラッシュバックが終わる。
それには様々な思い出が、彼を強くしていた。
敗北、そして数々の交流が肉体ではなく、精神を成長させていた。
???「やっとしゃべったわね...」
魔闘士「──ッ、誰だ!?」
ようやく会話が成立する。
声のする方向へ視線を送ると、馴染みのある顔が牢屋の中に現れる。
魔女「誰って...魔女よ、魔女」
魔闘士「...そうか」
魔女「そうかって...あのねぇ」
魔闘士「...無事か?」
魔女「...そうね、魔法が使えないのと倦怠感があるの以外は無事ね」
魔闘士「...鍵がかかっているのか」
魔女「うん...」
魔闘士「...下がっていろ」スチャッ
先ほど拾った、大型リボルバーを握りしめる。
そして、隊長の見よう見まねで構える。
魔女「...え?」
──ドンッッ!! ガチャァァンッ!!
あまりにも鈍い射撃音とともに、金属が砕ける音が響いた。
魔闘士「──ッ!?」
魔女「──きゃっ!?」
魔闘士「...なんて反動だ」
魔女「び、びっくりした...ってそれどうしたの...?」
魔闘士「...後々教える、それよりも現状を簡潔に説明してやる」
魔女「え...う、うん...」
551: 2018/12/09(日) 20:29:24.27 ID:cXY40eQY0
魔女(なんか...雰囲気が丸くなった?)
そして、魔闘士は語る。
長くなりそうな研究者の戯れ言を大幅に添削して。
途中で止めて質問したくなる説明を、魔女は終わるまで聞き入れる。
魔闘士「...以上だ」
魔女「そう...そんなことがあったのね」
魔女「魔剣士...女騎士...そしてきゃぷてん...」
魔闘士「...」
魔女「...これからどうする気なの?」
魔闘士「...俺は」
魔闘士「...」
魔闘士「...もう一度、奴との接触を試みるつもりだ」
魔女「...私もついていくわ」
魔闘士「あぁ...」
魔女「あ、まって!」
魔闘士「...なんだ?」
魔女「あんたのその武器、必要なものがあるでしょ?」
魔闘士「...そうだったな」
魔闘士「だが、それを作るのに魔法を要するのではなかったのか?」
魔女「そうなんだけど...これがあるわ」スッ
魔女「大賢者様からの餞別の魔法薬、これを飲んですぐに魔法を唱えるしかないわ」
魔闘士「...なるほどな」
魔女「正直、飲んでもすぐに魔力が消えちゃうかもしれない...けどこれしか方法はないわね」
魔女「あんたも身体の中の光魔法に抑えられ...頼れるのはその武器だけ」
魔女「なら...やるしかないわね」
魔闘士「...頼んだぞ」
~~~~
552: 2018/12/09(日) 20:31:39.85 ID:cXY40eQY0
~~~~
隊長「...」
──■■■■■...
何もない空間、その辺りには闇が渦巻いていた。
そして、中心には人物が1人。
異世界の人間、この世界で健闘を続けてきた彼が目を覚ます。
隊長「...ここは」
隊長「どこだ...俺は一体なにをしているんだ...?」
隊長「...あぁ、思い出した..."また"...やってしまったか」
隊長「どうして...こんなことに...」
隊長「...俺も、所詮人頃しか...目の敵にしている犯罪者共と変わらないということか...」
心の闇が、比例するかのように辺りの闇を強くする。
自分が自分でないような感覚に囚われていた。
隊長「...誰か」
隊長「誰か...俺を...」
隊長「────頃してくれ」
自分自身に追い詰められた結果、そうつぶやいてしまった。
本当に彼が言ったようには感じられないほどに、異質感のある発言だった。
???「...まだお前は殺せない」
隊長「...お前は?」
???「俺はお前だ」
まるで双子のような精巧な造りをした人物がそこに居た。
全体的に黒いが、それを除けばそっくりであった。
???「苦しいのなら、楽にしてやる...少し待ってろ」
隊長「...そうか、なら頼んだぞ」
???「あぁ、まかせろ」
そういうと、謎の人物は目の前から消え去ってしまった。
そして、耳に鋭く刺さる声が届く。
??1「────きゃぷてんっ!」
~~~~
553: 2018/12/09(日) 20:33:35.92 ID:cXY40eQY0
~~~~
魔女「────きゃぷてんっ!」
隊長「■■■■■...」
魔闘士「...やはりな」
魔女「...なにか、わかったの?」
魔闘士「..."ドッペルゲンガー"だ」
魔女「...え?」
魔闘士「奴は、ドッペルゲンガーという魔物に憑かれている」
魔女「それって、出会うと氏ぬってやつ...?」
魔闘士「少し訂正箇所があるがそんなとこだ」
魔闘士「どこで憑かれたかはわからんが...このままだと奴は氏ぬぞ」
魔女「どうすればいいのっ!?」
魔闘士「...一度気絶させるしかないな、それよりも攻撃に備えろ」
魔女「──っ!」
魔闘士「くるぞッ!」
────■■■■■...
じわりじわりと闇が迫ってきている。
魔闘士「──ッ!」スチャッ
──ドンッッ!! ドンッッ!!
リボルバーのダブルアクション。
隊長のハンドガンと勝手は違うが、その性質に早くも勘付いていた。
魔闘士「...効果はなしか」
魔女「生産に成功したからって無駄撃ちは控えてよねっ!」
魔闘士「あぁ...努力はしよう」
隊長「■■■■■■」
魔闘士「さて...どうしたものか」
魔女「魔王子の時みたいなことはどう?」
魔女「さっき飲んだ魔法薬...徐々に抑えられてきてるけど今なら1回分の魔法を使えるわよ」
554: 2018/12/09(日) 20:35:54.04 ID:cXY40eQY0
魔闘士「...やれるのか?」
魔女「やるしかないじゃない...そうでしょ?」ニコッ
この状況で、魔女は笑顔を作った。
先ほどこの闇に絶望していた魔闘士とは比べ物にならない精神力。
魔闘士「女という者は...ここぞという時に強いな」
魔女「じゃあ...頼むわよ」
魔闘士「あぁ...陽動はまかせろ」スチャッ
──ドンッ!!! ドンッ!!! ドンッ!
歩行と同時に、リボルバーを構え射撃する。
すると起こるのは弾切れ、不慣れな動きでシリンダーに弾をこめる。
魔闘士「...こっちだッ! しっかりついてこいッ!」
闇は魔闘士を追いかけてきている。
その速度は遅く、小走りならギリギリ距離を保てるものだった。
魔闘士「...ッ!」チラッ
隊長「■■■■...」
魔闘士(どうやら、今のところ奴自体は動かないみたいだな...)
魔闘士「────いまだッ!」
魔女「うんっ! "属性付与"、"雷"っ!!!」
魔女(──う゛っ...身体が一気に重く...使いきっちゃったか...)
魔女(まだあの小瓶はあるけど...あれはまだ大事に取っておかなくちゃ)
──バチッ...
小さな雷音と共に、隊長付近の闇に稲妻が走る。
作戦は成功、魔王子の時のように隊長の闇の質は著しく下がるはず。
魔闘士(──よし、とりあえずは成功だな...)
魔女「ごめん...今ので魔力を使い果たしちゃったわよ...」
魔闘士「想定内だ」スチャッ
──ドンッ!! ドンッ!
大きすぎるその射撃音、先程は闇に飲まれるだけであった。
だが今違う、その銃弾は彼に大きな傷を与えた。
555: 2018/12/09(日) 20:37:27.64 ID:cXY40eQY0
隊長「──ッッ! ■■■■■ッッ!」
魔闘士(...通った、光魔法がなくともうまく行ってくれたか)
闇の質が低くなる、銃弾という物質を完全に破壊できないまでに。
隊長の腕に2発の銃痕が出来上がる、それに伴い今まで動かなかった隊長は怒りを露わにする。
隊長「■■■■■■■■■■■ッッッ!!!」
魔闘士「...このまま続けて、痛みを蓄積させ気絶させるぞ」
魔女「わかったわ...ごめんね、後で治してあげるから...」
魔闘士「後は任せて、下がっていろ...」
魔女「えぇ...お願いねっ...」
魔女が戦線を離脱する。
ヨロヨロと、小走りで部屋の入口付近に向かった。
魔闘士「...さて、続けるか」スッ
隊長「■■■■■■■■ッッッ!!!」
魔闘士「待っていろ、目を覚まさせてやる」スチャ
──ドンッ!!! ドンッ! ドンッ!!
リボルバーの反動が凄まじく、腕に痺れが伴い始めていた。
だが彼は動かなければならない、この人間の男を止めるために。
再びなれない手付きでリロードを行った。
隊長「──■■■ッ!!!」
魔闘士「...3発とも的中、この武器にも慣れてきたところか」
魔闘士「ドッペルゲンガーというのも...大したこと──」
魔闘士(────まて、相手はドッペルゲンガーだぞッ!?)
戦闘に余裕ができたからこそ、思い出せた。
ドッペルゲンガーという魔物がどれだけ恐ろしいものかを。
悪い予感が的中する、それは後方で待機している彼女がいち早く気づけた。
魔女「──魔闘士っ! 後ろっ!!」
556: 2018/12/09(日) 20:38:45.06 ID:cXY40eQY0
魔闘士「しまっ────」
隊長「──■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!」ガシッ
──メキメキメキメキメキメキッッッッ!!
突如として背後に現れたのは彼であった。
魔法ではない、ただ氏ぬほど素早く動いたように見えた。
これが魔物に取り憑かれた人間の力、血と闇と雷を纏わせた隊長の腕が魔闘士を掴む。
魔闘士「ぐおッッッッッ!?!?」
魔闘士(質を下げてもこの威力かッッ! いや即氏しないだけでもマシか!)
魔闘士「は、離れろッ!!!!」グググッ
隊長「■■■■■■■■」グググッ
魔闘士「ち、くしょお...ッ!」
魔闘士(どうするッ!? このままじゃ殺されるぞッ!)
力がだめなら考えるしかない、抵抗を諦め集中する。
すると思い出すことができた、ドッペルゲンガーの生態についてを。
これが逆転の一撃。
魔闘士(──そうだ...)スチャ
魔女「...え?」
魔闘士「動くな、魔女」
──ドンッ!!
鈍い射撃音が、彼女に向かった。
その狙いは魔女の眉間、人は愚か魔物ですら一撃で葬ることができる威力。
このままでは彼女は魔闘士に殺される。
~~~~
557: 2018/12/09(日) 20:40:37.11 ID:cXY40eQY0
~~~~
隊長「もう...やめてくれ...」
ここは隊長の精神世界。
本来であるなら訪れることはあり得ない、未知の領域。
だが、彼はここに閉じ込められていた。
隊長「俺はもう...仲間を失いたくない...」
過去の記憶が蘇る。
数々の戦闘によって失った部隊の仲間、そして帽子。
そのことに狼狽える隊長...絶望の一言だった。
???「...それでいい、絶望が俺を強くする」
隊長「あぁぁ...」
その表情は廃人寸前。
とても、人様に見せられないものだった。
???「ほら、お前の仲間の腕を掴んだぞ」
──メキメキメキメキメキメキッッッッ!!
その何かが砕けてしまうような音と共に、魔闘士の叫びが響く。
それはまるで、自分がやったかのような感覚に襲われる。
???「お前がやったんだぞ」
隊長「違う...俺じゃない...お前がやったんだ...」
???「言っただろ、俺はお前だと」
隊長「やめろォ...」
???「もう、こいつはおしまいだな」
???「このまま握りつぶして...おや?」
???「...どうやら、抵抗もあきらめたようだな」
そう、確信する。
だが隊長は弱りながらも、最も大切な人を見ていた。
これからなにが起こるかを察する。
隊長「────魔女」
絶望の淵にいながらも彼女を守るために光を強くする。
それが男という生き物、尽きることのないその原動力。
胸に秘めた彼女への思いが、彼を目覚めさせる。
~~~~
558: 2018/12/09(日) 20:41:38.24 ID:cXY40eQY0
~~~~
魔女「ひっ────」ビクッ
──ドンッ...!
射撃をした時を最後に瞳を閉じる、だが一向に痛みは生じない。
おかしい、確かにあの射撃音は聞こえたはずだというのに。
魔女「...?」
不思議に思い、ゆっくりと目をあけてみる。
すると、そこにはいつもの背中が立っていた。
魔女「──きゃぷてん...?」
隊長「■■■■■...」
魔女「かばってくれたの...?」
隊長「...」
魔女「どうして...?」
魔闘士「...やはりな」
左腕が絶対に曲がらない方向に曲がっている。
そんな痛みを無視して隊長たちに語りかける。
魔闘士「ほら...お前の愛する者が狙われているぞ...助けてやらんか」スチャッ
──ドンッ!!
その軌道の先には魔女がいた。
しかし着弾位置はおおよそギリギリ当たるか当たらないかの瀬戸際であった。
隊長「──■■■■ッッ!!!」
──グチャッ!!
リボルバーの着弾と共に、隊長の左肩の肉がミンチになる。
再び隊長は魔女をかばった、なぜなのか。
魔女「...なんで?」
魔闘士「──魔女ッ! 逃げろッッ!!」スチャ
──ドンッ! ドンッ!!!
発砲しながら、矛盾めいたことを言う。
隊長は再び庇う、それに続き魔闘士は語る。
559: 2018/12/09(日) 20:42:40.84 ID:cXY40eQY0
魔闘士「ドッペルゲンガーの性質ッ! それは精神を犯すことッ!」
魔闘士「取り憑いた宿主の精神を覗き、じわりじわりと性格を歪ませ自己嫌悪感を産ませるッ!」
魔闘士「そうして得た負の感情を力にして、宿主の身体を奪うッ!」
魔闘士「そして奪った身体で宿主の大事な物を壊し深い絶望を与えるッ!」
魔闘士「最後に宿主が頃してくれと懇願するをの待つッ! それがドッペルゲンガーだッ!」
出会ったら氏ぬと伝えられているドッペルゲンガー、その本質は上記のもの。
なにを伝えたかったのか、魔女にはわかった。
魔女「────っ!」ダッ
空っぽになった魔力、そして体力を振り絞り走り出す。
その速度は人ではギリギリ追いつけない、それでいて弾速ならば簡単に追いつく速さだ。
魔闘士「時間を稼げッ! ドッペルゲンガーに殺されるなッ!」
魔闘士「────そして俺に殺されるフリをしろッッ!」スチャ
隊長「■■■■■■ッッ!」
──ドンッ...! グチャッッ...!
隊長が魔女を庇い、右足に被弾する。
もう動けるはずがない、だが彼は動き続ける。
魔物としての性なのか、それとも彼自身の性なのか。
魔女「こっちよっ! きゃぷてんっ!」
隊長「■■■■...」ヨロヨロ
魔闘士「...読み通りだ」
なぜドッペルゲンガーが魔女を庇うか、ドッペルゲンガーは感情を餌とする生き物であった。
中でも大切な物を自ら壊し絶望する時に起こる感情は甘美と言われている。
魔女という隊長が最も大切にしている者を、他人に破壊されてはその味を味わうことはできない。
守らざる得なかった、しかしそれだけではなかった。
隊長「...■□■■■■」
~~~~
560: 2018/12/09(日) 20:43:34.71 ID:cXY40eQY0
~~~~
???「グゥゥ...やめろォ...」
隊長「やめるのは...□□□...お前だ...」
隊長の精神世界、ここでも争いは起きていた。
絶望する中、弾丸が魔女を襲うヴィジョンが見えていた。
それだけが彼の原動力になる、それだけが彼の光を強くする。
???「俺を邪魔すると...魔女は撃たれるぞ...」
隊長「魔闘士は...そんな...□□...ヘマをしない...ッ!」
???「どうして魔物のあいつを信頼できる...」
???「あの武器だって...さっき拾ったばっかりの物だぞ...」
普通に考えれば、ずぶの素人が細かいエイミングができるわけない。
ましては魔闘士は本調子ではない、客観的にみてもドッペルゲンガーが庇わなければ魔女は撃たれる。
これは揺さぶりであった、だけども隊長には通用しなかった。
隊長「────やるしかないんだッッ!!」
瞳に光が満ち溢れる。
一見、魔女を弾丸から庇うことを妨害している風にも見える。
だが、それが最善の一手であった。
???「クソッ、遊ぶんじゃなかった...ッ!」
???「はじめから魔女を狙っていれば...今からでもッ!」
そう、ここで妨害をしなければ魔女はこのドッペルゲンガーに殺されてしまう。
他の誰でもない、自分自身の身体を使って殺されてしまうだろう。
隊長「────□□□ッ!」
~~~~
561: 2018/12/09(日) 20:44:40.54 ID:cXY40eQY0
~~~~
魔闘士「────これはッ!?」
魔女「──光っ!?」
現実世界、隊長とドッペルゲンガーの問答の末。
それは軽く小走りをしている魔女にもわかった。
振り返る、そこには闇に覆われた彼はいなかった。
隊長「■■■■■□□■□...ッ!」
光と闇が隊長にまとわりついている。
これが意味するもの、真っ先に気づき笑みを浮かべるのは魔闘士だった。
魔闘士「──目は覚めたかッッ!?」
隊長「■□■...撃■■□て...■□...ッ!」
光と闇の言語に挟まる、人間としての言葉。
光が闇の一部部分を払い除け、左肩を露出させる。
魔闘士「戻ってこい..."キャプテン"ッ!」スチャ
────ドンッ!
最後の一撃、光を貫通する攻撃。
生身の人間が食らったのならば、意識を保つことは不可能。
562: 2018/12/09(日) 20:45:06.95 ID:cXY40eQY0
「────■■■■■■■■■■ッッッ!!!」
563: 2018/12/09(日) 20:46:06.41 ID:cXY40eQY0
この世の者とは思えない叫び声が木霊し、闇は消え失せた。
それに伴い、彼がまとっていた光も消失する。
意識を失った彼は、そのまま倒れ込むしかなかった。
隊長「────」
魔女「──きゃぷてんっ!!」
急いで魔女が駆け寄る。
それに伴い、魔闘士も折れた腕を抑えながら近くによる。
魔女「...まだ息はあるみたい」
魔闘士「あぁ...だが、出血がひどい...」
魔闘士「なんとか気絶させたはいいが...このままでは氏んでしまう...」
魔女「...どうしよう、魔法も使えないし」
魔闘士「...泣くな、こいつはこんなような所で氏ぬような奴ではない」
魔闘士「信じろ...キャプテンという男を」
魔女「うん...そうね...でもせめて、血は止めてあげないと...」シュル
魔女は着ていた服の一部を裂き、包帯代わりに施術する。
少し肌寒いが、隊長のためとなると思えば寒さなど微塵も感じなかった。
魔闘士「...急いでここを脱出するぞ」
魔女「...女騎士たちは?」
魔闘士「...」
その質問に頭を抱えるしかなかった。
どう考えても、あの状況で生きている可能性は限りなく低い。
仮に生きていたとしても、捜索に時間をかけていると隊長が氏ぬ。
魔女「...ごめんなさい、行きましょう」
魔闘士が答えを出す前に決心したのは魔女のほうであった。
女騎士を見捨てたわけではない、彼女は極めて理にかなった決断を下しただけであった。
魔闘士「...すまん」
魔女「あんたのせいじゃないわよ...さぁ、いきましょ?」
魔女は帽子を深くかぶり、目元を隠す。
それが精一杯の強がり、虚勢であった。
564: 2018/12/09(日) 20:46:54.06 ID:cXY40eQY0
魔闘士「...行くぞ────」
魔闘士たちが動こうとする、すると突然視界が奪われる。
すると同時に、館内に嫌な警告が流れ出した。
魔女「──きゃっ!? なにっ!?」
魔闘士「灯りがッ!?」
???「警告、電力供給が不足したため、一時的な停電を起こしました」
???「それに伴い、実験室の折が解錠されました」
???「係の者は即座に実験室を鎮静させよ」
???「繰り返す────」
聞いたことのない電子の音と、警報が鳴り響く。
それと伴い、遥か遠くから悲鳴のようなものが聞こえてくる。
魔闘士「...とことん運がないな」
魔女「ど、どうしよう...この暗さじゃ何もみえないわよっ!」
魔闘士「いや...確かキャプテンが灯りになるような棒をもっていなかったかッ!?」
魔女「そ、そういえば...」ゴソゴソ
魔女「...あったわっ!」カチッ
スイッチを押すと、前方が明るくなった。
十分ではないが、視界を確保することができた。
魔闘士「これで進むしかない...キャプテンは俺が運ぶ」
魔女「それなら私が周囲を警戒するわ...行くわよっ!」
魔闘士「あぁ...なるべく敵に遭遇しないことを祈るしかない...」
──ガキンッ! ガキンッ...!
いたるところから、鉄格子を破る音が木霊する。
この忙しい時に、厄介な奴らが現れてしまった。
リザード1「アアアアアアアアアアアア...」
魔闘士「...こんな時に、リザードもどきかッ!」
魔女「────見てっ! あそこに扉が!」
565: 2018/12/09(日) 20:48:55.98 ID:cXY40eQY0
魔闘士「────走れッ!」スチャッ
──ドンッ!! ドンッ!
重厚な発砲音とともに、敵を一撃で葬る。
なんとか扉に到着する、だがそれはみたことのない材質でできた扉であった。
開け方がわからない、ドアノブは愚かつかむ場所すらない。
魔女「──この扉どうやって開けるのよっっ!」
魔闘士「魔女ッ! なんとかしてくれッッ!」
──ドン! ドンッッ!
走行しているうちに退路は塞がれ、完全に囲まれてしまった。
もう戻ることはできない、この扉をどうにかして開かなければ待っているのは氏である。
魔女「────このっっ!」スッ
苛々が募り、手持ちにあるものを確認する。
唯一没収されていなかった、例の小瓶。
大事に大事に取っていたものを投げてしまうほどに苛ついていた。
魔女「──開きなさいってばぁっ!!」ブンッ
──パリィンッ...! バチバチバチバチッ...!
しかし調節を誤ったか、その雷は申し訳程度のものだった。
扉の破壊は愚か傷1つついていない光景、自分の調整ミスとその現状に半ば絶望しかける。
???「...システムに異常、ドアが開きます、ドアが閉まります」
まるで扉が喋ったかのように聞こえた。
言葉が矛盾している。隊長の世界でいうバグというものだった。
魔闘士「────ッ!」グイッ
魔女「───きゃっ!?」ドサッ
扉が開いたのは理解できた、それを見逃さずに魔闘士が隊長と魔女を突き飛ばしたのも理解できた。
ここは扉の先、いるはずの人物が1人見たらない、肝心の彼がいない。
つまりどういうことか、魔女にはわかってしまった。
魔女「────魔闘士っ!?」ガバッ
魔女「なんでっ!? せっかく仲良くなれたのに!?」
閉まった扉に飛びつき声を荒らげる。
扉に向かって罵声にも近い、そんな声かけを行う。
そして返答はすぐに帰ってきた、扉に耳をつけないと聞こえないぐらいの声だった。
566: 2018/12/09(日) 20:49:26.81 ID:cXY40eQY0
「...だからこそだ」
567: 2018/12/09(日) 20:50:06.34 ID:cXY40eQY0
魔女「──っ」
思わず涙が溢れる。
彼らしくない言葉を聞き、魔女は覚悟を決める。
重たい隊長の身体を支え、前にするもうとする。
魔女「────っ」
無言で足をすすめる、力奪われた魔女には進むことしかできない。
悔しさでたまらない、思わず唇を噛んでしまい、血が流れるほどに。
孤高の魔闘士、その最後は仲間を助けるための足止めで終わる。
聞こえるのはリザードもどきの声と鈍いの発砲音。
彼は最後まで闘い続ける、そのはずであった。
568: 2018/12/09(日) 20:51:04.41 ID:cXY40eQY0
『なァに辛気臭ェ顔してんだ、嬢ちゃん』
569: 2018/12/09(日) 20:51:52.81 ID:cXY40eQY0
魔女「────魔闘士がっ!」
魔剣士『わかってる、なんたって俺様はァ...あいつの相棒だからよォッ!』
その言葉とともに、彼は扉に疾走してゆく。
魔女は振り返らずに進む、後ろから聞こえるのは扉が破壊された音と。
魔闘士「お前という奴はこうでなくてはなッッ! 魔剣士ッ!」
魔剣士『ぱーてぃとやらの始まりだぜェ! そうだろ、魔闘士ッ!』
初めて聞いた、彼らの心底嬉しそうな大声であった。
そして続くのは、再会することができた彼女の声。
女騎士「──魔女っ! 急げこっちだっ!」
魔女「────女騎士も無事だったのねっ!」
魔女の顔面はもうボロボロ。
涙で顔をめちゃくちゃにしている。
出会えたのは女騎士、そして誰かを背負っている様だった。
女騎士「あぁ! 今は彼らに任せて脱出するぞ!」
魔女「うんっ!」
魔女は隊長を支えながら、女騎士は女勇者を背負いながら。
着々と戦場から距離を離していく、その中で彼女はある成果を教えてくれた。
女騎士「先ほど、魔剣士とともに列車とやらを発見したぞ」
魔女「本当っ!? きゃぷてんが重症なの...急いでここを離れて落ち着いた場所で処置をしないとっ!」
女騎士「あぁ...本当なら彼らを待ちたいが...列車についたら迷わず出発する...いいな?」
魔女「...ふふ、あいつらならきっと足止めどころか全部ぶっ飛ばしてくれるわね」
女騎士「当然だ、私の仲間なんだ、そう簡単にやられてはこまる」
魔女「...あれが列車っ!?」
軽く雑談しているうちに、列車が姿を表す。
列車というよりかは汽車に近い形であり、車両もたった2両しかない。
女騎士「そうだ、急ぐ────」
二人が急いで駆け込み乗車をしようとする。
しかし、それを阻むような出来事がきてしまう。
重低音とともにそれは現れた。
570: 2018/12/09(日) 20:56:01.64 ID:cXY40eQY0
魔女「────嘘でしょ」
女騎士「...なんだってこんな時にッ!」
言われなくてもわかる。
巨大な剣に黒い鎧を着た大柄の男。
その見た目こそ醜い手術痕だらけだが、黒騎士と形容できる見た目であった。
黒騎士「...」
女騎士「奴もここで実験をうけてた口か...」
魔女「そうみたいね...でもどうするの!?」
女騎士「...私も魔女も負傷者を負ぶさっている、まともに動けんぞ」
女騎士「万事休すか────」
────■■■...
その時、闇の言語が聞こえる、黒騎士からではない。
聞こえた方角を振り向く、そこにいたのは最も頼りになる男。
彼だけは捕まっていなかった、ようやく彼女らを見つけることができた。
女騎士「────魔王子ッ!」
魔女「無事だったのねっ!?」
魔王子「俺を誰だと思っている...」
魔王子「...黒騎士よ、醜くなったものだな」
黒騎士「...」
魔王子「喋れないのか...お前ほどの男の最後がこれだとは...嘆かわしいものだ」
魔王子「ならば一瞬で葬ろう...■■■■■」スッ
────ブン■■■■ッ...!
その言葉とともに、闇が黒騎士を切り裂く。
抜刀とともに現れた闇の剣風が真っ二つにする。
黒騎士「...暗黒の王子よ...我が無念、託しましたよ────」
魔王子「...当然だ」
女騎士「──魔女っ! 急げっ!」
こうして、3人と意識のない2人は列車の乗り込む。
幸いにも動かし方の説明書が備え付けであったためにすぐに出発できた。
研究所に残ったのは不気味な実験物の氏骸と2人の男の楽しそうな雄叫びであった。
~~~~
572: 2018/12/10(月) 21:14:12.37 ID:tMsrpe0u0
~~~~
魔女「...」
女騎士「...魔女、大丈夫か?」
魔女「...うん、大丈夫...だけど」
そういいながら、横たわっている2人に視線を送る。
魔女は列車に備え付けてあった魔法薬を飲み、隊長と女勇者に治癒魔法を行っていた。
そして再び魔力がつき、今の状態に至る。
女騎士「...魔力が微量しかない私にだってわかる、なんども魔力を使い果たしては辛いにきまっている」
魔女「...でもふたりとも目を覚まさないから」
女騎士「...だが、傷は完全に塞がっただろう」
魔女「でも...でも...」
魔女が自分を責めている。
もっと魔力があれば2人はもう目をさましているかもしれない。
そんな葛藤に覆われている中、ついに男が口を開く。
魔王子「...息はある、氏んではいない」
魔王子「あとは祈るしかないぞ...」
女騎士「魔王子の言うとおりだ、いまは休んでくれ...とても見ていられない」
魔女「...わかったわ」
女騎士「...列車にあった茶を入れたぞ、これで少し落ち着くといい」
魔女「ありがとう...」
女騎士「ほら魔王子、お前の分だ」
魔王子「...礼を言う」
女騎士「...お前はなんともないのか?」
淡い期待を抱いて、そう質問する。
だが、そんなことは彼の表情である程度は察していた。
魔王子「...俺も蝕まれている」
女騎士「そうか...いや、それでも黒騎士を一撃で倒せるほどの力か」
魔王子「この俺をここまで抑えるとはな...この小娘」
ある程度、身体の異変については魔女に聴いたようだった。
皮肉のようなことを言いながら、女勇者に視線を送る。
そして、ユニコーンの魔剣を抱えながら小じんまりを座り込んだ。
573: 2018/12/10(月) 21:16:44.08 ID:tMsrpe0u0
女騎士「あぁ...なんたって我らが勇者様だからな...」
魔女「......」
女騎士「...今のうちに状況を確認しよう」
女騎士「正直にいって、私と魔女は戦力にならない...」
女騎士「きゃぷてんも女勇者も目覚めない...」
魔王子「...まともに戦える俺も、力をある程度抑えられている」
女騎士「あぁ...ここからどこまで抗えるか、不安でしかたない」
魔女「...もう、どうすればいいのかしら」
魔王子「......」
女騎士「...辛気臭い話はここまでにしよう」
女騎士「魔女、この武器の使い方を知っているか?」
魔女「えぇ...ある程度は...使ったことないけど」
女騎士「そうか...でも、これがあるだけでだいぶ違うぞ」
魔女「...そうね」
研究所に槍を置いてきてしまったため完全に丸腰。
幸いにも隊長の武器はすべて所持しており、マガジンは没収されずに隊長が初めから所持している。
話し合いの結果、魔女がハンドガン、女騎士がショットガン、アサルトライフルは隊長の側に置いておくことになった。
魔女「これなら...きゃぷてんが目覚めたときにすぐに戦える...わよね?」
そういいながら、アサルトライフルを隊長の横に置いた。
無くさないように銃器についていたベルトを隊長に引っ掛ける。
その様子をみながら、女騎士はショットガンに目を輝かせる。
女騎士「前方を全面的に攻撃するものか...すこし使うのが楽しみだ」
魔女「...女騎士は強いわね」
女騎士「あぁ...楽観的な部分は私の自慢でもあるぞ」
魔女「...ふふっ」
女騎士「ははっ」
魔王子「...」
574: 2018/12/10(月) 21:18:31.42 ID:tMsrpe0u0
女騎士「さて...すこし仮眠を取らせてもらおう」
魔女「そのほうがいいわ、なにかあったら起こしてあげるわよ」
女騎士「あぁ、頼む」
魔王子「...俺が見張っている、貴様も休め」
魔女「え...で、でも...」
魔王子「......」
魔女「...ありがとう」
女騎士「...頼むぞ、魔王子」
魔王子「...あぁ」
その返答を終えると、2人は寝具も必要とせずに眠りに落ちる。
男がいるというのに寝顔も気にせずに寝入る姿から、限界が近いようだった。
しかし彼の視線は、目を開かない女勇者に向けられていた。
魔王子「...これほどに小さな身体で、この光か」
魔王子「侮れん...人間という者は」
魔王子「...さて、呼ばれたようだ」
~~~~
~~~~
魔王子「...」
魔王子の衣服が靡く。
移動した先は列車の屋根、常人では立つことすら不可能な風を受けている。
しかし、この風は列車の速度によるものではなかった。
???「...流石は魔王様の息子、暗黒の王子なだけはあるな」
魔王子「...それで気配を頃したつもりか?」
???「吾輩は完全に頃していたつもりではあったが...」
彼に問いかけるこの男。
腕には魔王軍の入れ墨、間違いなく追手である。
???「...まぁいい、一度相まみえたかったものである」
魔王子「貴様も親父の言いなりか」
???「当然である、吾輩は魔王軍四天王────」
575: 2018/12/10(月) 21:19:12.54 ID:tMsrpe0u0
「"風帝"であるぞ」
576: 2018/12/10(月) 21:20:26.17 ID:tMsrpe0u0
名乗りを上げる、それと同時に嫌な風が纏う。
敵は魔王軍最大戦力の1人、すぐさまに魔王子は抜刀をする。
魔王子「...氏ね」
風帝「はて、弱りきった貴方になにができるであるか」
魔王子「戯言を...」
風帝「..."風魔法"」
まるでそよ風のような自然な詠唱。
気づいたときには魔法が発動している様に見えた。
それほどに素早く、隙きのない先制攻撃。
魔王子「────ッ!?」
──ギィィィィィィィンッッ!!!
光っていないユニコーンの魔剣が風を切り裂く。
その音はあまりにも鈍く、風の威力を物語っていた。
風帝「いつもの剣も...その魔剣も、本来の力を得ていないようであるな」
魔王子「..."属性付与"..."闇"■■■■■」
風帝「得意の闇魔法であるか...これは厳しいであるな」
魔王子「──■■■■ッッッ!」
一瞬で詰め寄る。
これは魔法ではなく、ただ単純に前に出ただけ。
極められた剣術が織りなす疾走抜刀。
風帝「────速いであるなッ!」
魔王子「──ッ!?」ピクッ
ピタッ、そう音を立てて急ブレーキを行った。
魔王子の攻撃は失敗に終わったが、そんなことを気にせずに魔王子は問いかける。
魔王子「貴様、何をした?」
風帝「...はて?」
魔王子「とぼけるな、貴様のその速さ...」
魔王子「...風の様に見えたぞ」
彼は振り返る、風帝という男を。
確かに風帝は昔から魔王軍四天王の座に君臨しており、その身のこなしは評判であった。
だが今の速度はその過去の速さを遥かに凌駕していた、驚きで魔王子は攻撃を自ら止めてしまっていた。
577: 2018/12/10(月) 21:21:26.79 ID:tMsrpe0u0
風帝「申し訳ないであるが...敵に情報を与えるほど吾輩は甘くないのである」
魔王子「...チッ」
風帝「...ご覚悟を」
再び風が襲いかかる。
詠唱はない、おそらく1回目の詠唱で生まれた風魔法。
賢者の修行を終えた魔女ですら額に汗をかく芸当を、この男は淡々とこなす。
魔王子「────■ッ!」
────キィィンッ...!
闇魔法を要して、風を壊すのが精一杯な現状。
とても反撃をする機会がない、しまいにはユニコーンの剣が弾かれてしまった。
風帝「...できれば万全の状態で相まみえたかったのである」
風帝「光に侵されつつあるその身体も、背負っている最強だった魔王様も」
風帝「...残念である」
魔王子「...ッ!」
怒りがこみ上げてくる。
かなしげな表情をしている、かつての同胞に。
そして、力を蝕まれているとはいえ反撃すらできない無力さに。
風帝「...その魔剣、使えないのであろう?」
魔王子「ならばその目で確かめてみろ...」スッ
鞘から不自然なほどに綺麗な剣を抜く。
だが、1箇所だけその綺麗さと矛盾したものがあった。
風帝「ヒビ割れであるか...歴代最強と言われた魔王様の魔剣がここまでやられるとは...」
風帝「...誰にやられたあるか?」
その表情は先程とは全く違う。
新たな強者を知った嬉々とした表情。
魔王軍最大戦力の1人風帝はこのような性格であった。
578: 2018/12/10(月) 21:22:45.53 ID:tMsrpe0u0
魔王子「...フッ」
魔王子「この俺を差し置いてその顔をするか...」
風帝「...これは失敬」
魔王子「...心底虫唾が走る」
────■■■■...
あたりが黒に包まれる。
女勇者によって奪われつつある魔力。
それでいて魔剣士や魔闘士とは比べ物にならない量を未だ保持している。
風帝「────やめるである」
魔王子「...今更遅い」
風帝「そのまま魔剣に力を注ぎ込めば折れてしまうである」
風帝「歴代最強の魔王様を折るわけにはいかないのである」
風帝「...鞘に収めるである」
魔王子「名のある魔王だ、そうやすやすと折れんだろう」
────ピリピリッ...!
風帝も魔王子も、今までと比較にならない殺気をぶつけ合っている。
そして、お互いに禁忌の言葉が発せられる。
魔王子「──最も...ここで折れるのであれば"その程度"のモノだ」
風帝「..."青二才"がァッ! 偉人を侮辱するかァッ!?」
魔王子「────頃してやろうか?』
────バキバキバキバキバキッッ!!
風とは思えない擬音が魔王子に向かう。
風帝の怒りが、感情が魔法に注ぎ込まれる。
魔王子『氏ね■■■■■■』
────■■■ッッッ!!!
暗黒の擬音が風を飲み込む。
その黒い剣気は先程の比ではない。
579: 2018/12/10(月) 21:24:58.23 ID:tMsrpe0u0
風帝「一体化かッ...なんて無茶をッ...!」
魔王子『氏ね』
風帝「────ッ! "風魔法"ッ!」
周囲に多量の竜巻が起こる。
そしてその竜巻から、とてつもない数の風が魔王子に襲いかかる。
風帝は自力でハリケーンを生み出す、とてつもない魔力量が伺える。
魔王子『──氏ね...』スッ
────ブン■■■ッ...!
語彙力を失いながらも、風を頃す。
それでいて、常軌を逸した射程の剣気を風帝に向ける。
しかしそれは紙一重で避けられてしまう。
風帝「当たらなければ意味がないであるぞッ!」
魔王子『氏ね』
風帝「まるで餓鬼のようであるなッ!」
その絶大な威力を誇る剣気に冷や汗をたらす。
だが、魔王子も驚く身のこなしの速さで次々と風魔法を回避する。
風帝(まずい...このままではあの魔剣が折れるのである)
風帝(それだけは阻止しなければ...)
魔王子『氏ね』
────■■ッッ!
研ぎ澄まされた黒い剣気が、風魔法を産んでいる竜巻の1つに当たる。
とてつもない大きさを誇る竜巻が、小さな小さな黒に負け消滅していく。
風帝「──ッ! 相変わらずとてつもない威力であるな」
魔王子『ならば氏ね』
風帝「...言っていることが滅茶苦茶なのである」
580: 2018/12/10(月) 21:27:44.77 ID:tMsrpe0u0
風帝(このままではイタチごっこなのである...仕方ない)
風帝「貴方様よ、吾輩のこの速さの秘密...気になるであるか?」
魔王子『...!』
風帝(──かかった...)
風帝「どうやら図星のようであるか...ならばしかと見るである」
魔王子『...まさか、属性付与か?』
発言とともに風が完全に止む、そして魔王子は語彙力を取り戻す。
取り戻したした結果、考え出されたのは属性付与という魔法であった。
風のような身のこなし、自身に風の属性付与をかけていた様にも思える。
風帝「...それなら我が身は疾風で切り裂かれるであろう」
以前魔剣士も言っていた、下位属性と上位属性の差というもの。
身体を浮かせる程度の風なら話は別だが、ここまで速度を出せる風となると話は違う。
風帝の言うとおり、そんな速度の風を纏えば身体はバラバラになってしまう。
風帝「魔王子様よ...貴方様が隔離されていた数年で魔法は進んだのである」
魔王子『馬鹿げたことを────』ピクッ
皮肉を言うつもりだったが、つい止めてしまう。
隔離されていたのはたかだが数年、その間に自分が絶句するような魔法が産まれるなどありえない。
だが魔王子は事前にあの話を聞いていた、はじめは魔闘士から、そこから魔女へ、最後に自分に。
魔王子『────研究者』
風帝「ご存知であるか...」
魔王子『まさか...』
風帝「ではご覧あれ、進化した魔法を────」
581: 2018/12/10(月) 21:28:24.95 ID:tMsrpe0u0
「"属性同化"..."風"」
582: 2018/12/10(月) 21:30:27.32 ID:tMsrpe0u0
再び風が吹きあられる。
その風は魔王子の違和感をようやく吹き飛ばす。
魔王子『──同化だと?』
風帝「その通りである」
風帝「吾輩のこの速さの秘密は風」
風帝「我が身を風にすることであるッ!」
強く発言するとともに片腕を前にだす、すると腕が徐々に消えていく。
消えていった箇所から突風が生まれ始まる、まるで風帝自身が風へと変貌していく様。
魔王子『な...』
あまりにも現実離れした光景に絶句する。
このような現象はスライム族の水化でしか見たことがない。
あの強屈な男が徐々に消え失せていく。
風帝「貴方様の闇魔法、たしかに吾輩の風を頃すなど容易いであろう」
風帝「しかし、貴方様...いや、魔王子よ」
風帝「貴様に不可視かつ超速である風を捉えることが可能であろうか?」
風帝の身体が自然へと溶け込んでいく。
そして暴風がどこからともなく吹き荒れていく。
風帝「..."風魔法"」
魔王子『────チィ■■■■ッ!』
──ビュウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥ...!
再び、竜巻があらわれ風魔法を産み出していく。
魔王子は防御をするために身体の周りを闇で覆った。
それと同時に完全に風と化した風帝が吠える。
風帝「守っていては吾輩に攻撃すらできんであるぞッ!」
魔王子『────後ろか?』
──■ッ!
真後ろに剣気を打ち込む。
手応えはない、それは当然であった。
風を射ることなど、果てしなく難しいはずだ。
風帝「...風向きは急に変わるのであるよ」
魔王子『...黙れ』
583: 2018/12/10(月) 21:32:36.07 ID:tMsrpe0u0
魔王子『...』
耳を澄ませる。
風を目視することは不可能だが風がくる方向ならある程度音で把握できる。
今度は身の回りの闇魔法を使用して、無防備にはなるが気配を感じた方角へ全面的な攻撃をするつもりであった。
魔王子『...』
魔王子『────そこだ』スッ
────■■■■■■■■ッッ!!
微かなな風音を感知し、すぐさまに行動する。
剣気とともに闇の塊が風を飲み込んだ。
手応えあり、だがそれは果たして本当に風帝なのか、それとも。
風帝「...それはただの風である」
魔王子『──ッ! 上かッ!?』
風帝「闇に守られていない貴様にこの疾風は少し痛むであろう」
気づけば、真上に姿を表していた。
そして次の瞬間、再び風となり魔王子に降り注いだ。
闇はまださっきの風を頃している、完全に無防備な状態。
風帝「────喰らえ」
──ドガアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!
その音は余りにも、衝撃的であった。
魔法で生まれたとしても、風がこのような轟音を上げるとは思えない。
魔王子『────ッッッッ!?』
風帝「直撃...もう終わりであるか?」
魔王子『...ゲホッ...黙れッ!』
風帝「姿を現しているというのに、反撃もできないであるか」
気づけば背後に立っていた、それもそのはず。
風帝は己の風で魔王子に攻撃した、つまりは宙から体当たりをしたわけであった。
その威力は列車の屋根を凹ますものであり、魔王子が闇をすぐさまに操作できないほど鈍い痛みであった。
584: 2018/12/10(月) 21:34:14.79 ID:tMsrpe0u0
魔王子『──ゲホッ...』
風帝「もう一息であるな」
魔王子『失せろ...■■■』
ようやく闇が戻る、それと同時に風帝は姿をくらます。
闇の戻りの遅さから察すると、相当疲労している。
自身の魔法の操作すら難しくなってきている。
魔王子『......』
魔王子(...厄介だ)
魔王子(あの竜巻から無数の風が飛んできている状況...)
魔王子(どれが風帝自身の風なのかを判断するのは無理だろうな...)
長考に入る、その片手間で竜巻から来る風魔法を闇で頃している。
身体に鈍みと倦怠感が残る劣悪な状況でも、出来る限り隙きを作らずにいた。
もう二度と風が直撃することはないだろう。
風帝「考え事はいいであるが...おそらく覆すことはできないのである」
風帝「...諦めるがいい」
魔王子『...』
確かに、今のままではイタチごっこ。
風を頃すことはできても風帝自体は頃すことが極めて困難。
この状況が続けば間違いなく、先に疲弊している魔王子が負ける。
魔王子『......フッ』
風帝「...なにもできずに、笑うしかないのであるか」
魔王子『風帝よ...貴様忘れているな?』
皆目検討が付かない。
忘れ物をした覚えのない風帝は沈黙するしかなかった。
585: 2018/12/10(月) 21:37:15.98 ID:tMsrpe0u0
魔王子『俺は...闇だぞ』
魔王子『闇はすべてを壊す...』
魔王子『風の居所がわからないのなら...すべて壊せばいい』
──■■■■■■■■■...
ありったけの魔力が闇へと変わる、すべての感情が黒に染まる。
なにをするか察した風帝は思わず姿を現した。
風帝「まさか...ッ!?」
魔王子『────氏ね』
──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!
──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!
──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!
──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!
──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!
──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!
──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!
──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!
──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!
──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!
──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!
──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!
──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!
──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!
地獄のような光景、魔王子は列車の屋根でひたすら抜刀剣気を放った。
風の居場所がわからなければすべてに向かって攻撃すればいい。
彼の出した結論はそうだった、風の気配を感じる場所全てに攻撃をしている、竜巻などあっという間に破壊した。
魔王子『──ッ! ...ゲホッ』ピタッ
身体の危険信号がでて、ようやく攻撃を止める。
あたりに風の気配がないのを確認し、闇を収めた。
この圧倒的な闇の剣気を前に、生き残れる者など居やしない。
魔王子『...氏んだか』
586: 2018/12/10(月) 21:37:47.90 ID:tMsrpe0u0
「魔王子よ、貴様忘れているな?」
587: 2018/12/10(月) 21:39:02.28 ID:tMsrpe0u0
魔王子『────ッッッ!?』
──バチバチバチバチッッ!!!
気づけば前方から、なにかが魔王子を貫通した。
聞き慣れた痺れる音、そして再び背後に姿を現す。
風帝「...吾輩は風帝、風魔法の超越者ではなく風属性の超越者」
風帝「したがって雷魔法の超越者でもあるぞ」
魔王子『──いつのまに...」
風帝「同じことである、属性同化の雷...詠唱すら気づかぬほどに夢中だったであるか?」
魔王子「畜生────」ガクッ
風帝「...まぁあの光景には正直命の危険を感じたのである」
風帝「身柄を持ち帰らせてもらうのである...そしてその魔剣も大事に保管するのである」
風帝「...もうじき夜明け、間に合ってよかったのである」
風帝「さて..."転地────」
???「...まちなよ」
背後から誰かが声をかける。
魔王子は気絶している、そもそも柔らかい声であった。
風帝「────貴様は」
???「...コレ、使わせてもらうね」
彼女が拾ったのは弾かれて手元から離れていたユニコーンの魔剣。
そしてまばゆい光が生じ、姿がしっかりと現れる。
ほぼ裸の状態で、なんらかの大きな布で身体を隠している女がそこにいた。
風帝「────女勇者...」
女勇者「久しぶりだね...よくわからないけど、その人を連れて行かせないよ」
588: 2018/12/10(月) 21:42:31.57 ID:tMsrpe0u0
風帝「貴様...なぜここに...研究者の実験台になっていたはず」
女勇者「僕にもよくわからないんだ...女騎士は深く眠っているし...他の人も起きないし」
女勇者「そこで倒れてる人も...なんだか味方のような気がするんだ」
風帝「愚かな...コヤツは魔王子...貴様の敵である魔王様の息子であるぞ」
女勇者「...それでも連れて行かせないよ」
風帝「ならば我が風の塵となれッ! "風魔法"ッッ!」
女勇者「────"光魔法"」
────□□□...
あたりが光に包まれる、その光は余りにも輝かしくそれでいて優しいもの。
風はその光に包まれ消滅していく、その光景は魔物からするとあまりにも恐ろしかった。
風帝の風魔法によって再び竜巻が創られたかと思えば、あっという間にそれは抑え込まれてしまった。
風帝「──やはり勇者は恐ろしい...ただの光魔法でそれか...」
女勇者「悪いけど、寝起きはいいんだ...絶好調だよ」
風帝「力技は無理であるな...ならば」
──バチバチッ...
痺れるような音とともに姿が消える。
彼の属性同化はまだ続いていた。
女勇者「──消えた?」
風帝「...その光は、雷を捉えることができるであるか?」
────バチバチバチバチッッ!!
風帝の策は極めて単純、魔王子にもやったアレをするだけであった。
攻撃が困難になる属性付与を女勇者が行う前に、致命傷を与えることができれば勝利は確実。
人間には雷よりも早く言葉を発することは不可能、よって属性付与に必要な詠唱ができないはずだ。
女勇者「────っっっ!?!?!?」
風帝「...直撃である」
女勇者「──けほっ...」ガクッ
彼女が倒れる。
雷と化した風帝が身体を貫通、女勇者は焦げだらけに。
とても人の形をしていない荒んだものだった。
風帝「魔王子と違い、長期戦なら負けていたのである...」
風帝「...さて、今度こそ────」
589: 2018/12/10(月) 21:43:23.96 ID:tMsrpe0u0
「まちなよ」
590: 2018/12/10(月) 21:45:04.79 ID:tMsrpe0u0
風帝「────な...」
デジャブ。
再び背後から柔らかい声が聞こえる。
そのあり得ない出来事に風帝は驚愕する。
女勇者「...悪いけど、友だちじゃない人には用心深くしているんだ」
女勇者「それに、間接的にだけど君のお陰で僕は捕まったんだ、警戒するよ...初めから分身魔法だよ」
風帝「──貴様...」
──バチバチバチッ...
再度雷へと変貌しようとする、その音がなるはずだった。
次に感じたのは身体が雷になる痺れるような感覚ではなかった。
身体の力が抜ける、あの忌々しい魔法の感覚であった。
風帝「な...ッ!?」ガクッ
風帝「──何時、どこでだッッ!?」
檄を飛ばしながら女勇者に答えを求める。
自分は光魔法を食らった覚えがない、不可解で仕方なかった。
女勇者「...分身魔法に光の属性付与をかけてたのさ」
女勇者「最初の光魔法は嘘、ひっかかったね?」
その周到っぷりに風帝は鳥肌を立てた。
この女、微笑ましい顔つきに似合わずかなりの策士だった。
魔法使いが陥れていなければ、魔王軍はすでに壊滅的被害を受けていたかもしれない。
女勇者「あの攻撃...雷の身体ですごい速さの体当たりってことだよね?」
女勇者「つまりは自分から光に当たりに行ったってとこだよ」
風帝「...魔王様、この女は危険すぎます」
女勇者「...しばらく、おやすみだね」
その優しい声は、風帝からしたら恐怖そのものでしかなかった。
ハッキリとした意識は次の言葉で淡くなってしまう。
女勇者「"属性付与"、"光"」
風帝自らの身体が光に包まれていく。
光のエキスパート、彼女ならではの使い方。
強い光が身体の内から魔物を拘束していった。
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591: 2018/12/10(月) 21:48:38.86 ID:tMsrpe0u0
引用: 隊長「魔王討伐?」
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