830: 2018/12/22(土) 21:21:22.44 ID:GhBtLxBr0

隊長「魔王討伐?」【その1】

隊長「魔王討伐?」【その2】

隊長「魔王討伐?」【その3】

隊長「魔王討伐?」【その4】

隊長「魔王討伐?」【その5】

隊長「魔王討伐?」【その6】

隊長「魔王討伐?」【その7】

隊長「魔王討伐?」【その8】

隊長「魔王討伐?」【その9】

~~~~


炎帝「...燃えてきたよ」


早くも辺りは灼熱の温度に達する。

しかし、実際に温度が上がったわけではない。

炎帝から発せられるその威圧感が、精神的な熱気を誘う。


女勇者「...汗が止まらない、冷や汗かな?」


魔王子「どうだかな、それよりも...備えろ」


魔王子「こちらが本気でやる以上、炎帝も当然本気でくるだろう」


魔王子「...風帝の比ではないぞ、炎帝は四帝の中でも頭一つ抜けている」


炎帝「...だからといって、風帝が雑魚というわけでもないけどね」


炎帝「風帝の魔法理解度、魔法展開規模はとても真似できない」


炎帝「水帝の魔法持続性能、感知能力には追いつくことができない」


炎帝「地帝の防御性能、そして...意外性はとてつもない」


四帝それぞれの、得意な能力を述べ始める。

千差万別、十人十色、実に個性が豊かなモノであった。

そして残るのは、当人の能力。


魔王子「ならば炎帝、貴様の火力はどうだ?」


炎帝「...自慢じゃないが、どの帝よりかは強いと自負しているよ」


炎帝「──"属性同化"、"炎"」


────ゴォォォォォォォォオオオオオオオッッッッ!!!

地獄の炎が燃え上がる。

身体全身が炎に、そしてその内部には人の形のシルエットが。


魔王子「────くるぞ..."属性付与"、"闇"」


女勇者「──わかった..."属性付与"、"光"」


同化とは違い、闇と光が身体に身にまとうだけであった。

しかしそれが圧倒的に脅威なモノである。


炎帝「喰らえ...ッ!!」


両手と思しき部位を前に出す。

魔法を唱えなくても、炎が自在に活動する。

大きな音を立て、巨大な火炎放射が2人に襲いかかる。
葬送のフリーレン(1) (少年サンデーコミックス)

831: 2018/12/22(土) 21:23:18.06 ID:GhBtLxBr0

魔王子「────■■■ッッッ!!」


────■ッ...!

ユニコーンの剣を抜刀する。

その拍子に現れた剣気に黒が追従する。

たとえ光の魔剣から生まれた闇でも、下位属性の炎を斬るのには十分であった。


女勇者「...っ!? いないっ!?」


魔王子「火炎放射の轟音に紛れて転移魔法を行ったはずだッ! 気をつけろッ!」


女勇者「──いや、違う...転移魔法だけじゃない」ピクッ


炎帝「────もう遅いよ、ほら」


──バコンッ...!

背後から彼の声が聞こえたと思ったら、眼の前から爆発音が聞こえた。

そして音だけではなく衝撃も身に受ける、闇はその衝撃を飲み込むが光は違う。


女勇者「────うっ...!?」


女勇者(これは...あの時の偏差魔法...っ!?)


爆発によって生まれる爆風だけが彼女を襲う。

しかし光の所有者は、闇の彼とは違い対策を行おうとしていた。

すでに片手で盾を構え終わっていたのが幸いし、直撃を防いだ。


魔王子「...これは、爆魔法...いや」


炎帝「悪いけど、君ら相手は本気じゃないとすぐ負けちゃうからね」


炎帝「...得意なアレをやるよ」


魔王子(爆の属性同化...まずい、この状態で本領を発揮するつもりか...っ!?)


魔王子「──女勇者ぁッ!! 連鎖爆発が来るぞッ!! 構えろッッ!!!」


女勇者「────っ!」


連鎖爆発、どのようなモノか簡単に想像つく。

しかし、それがどれだけ恐ろしいモノかも瞬時に把握する。

眼の前の空気が張り詰める音が聞こえる。

832: 2018/12/22(土) 21:25:10.51 ID:GhBtLxBr0

女勇者(まさか、これも偏差させる気なの────)


──バコンッ!

──バコンッ! バコンッ!

──バコンッ! バコンッ! バコンッ!

──バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ!

──バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ!

──バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ!

──バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ!

爆発が爆発を呼び覚ます、その連鎖的なモノはすべて偏差して行う。

盾などでは防ぐことができない、かといって光でも防ぐことはできない。

かといって、闇でも完全には防ぐことはできなかった。


魔王子(まだ続くか...炎帝め...器用に闇の隙間を狙って...ッ!)


女勇者(くっ...このままじゃ...)


この爆発は爆魔法によるものではなく、爆の属性同化によるものである。

つまりは、炎帝を怯ませることができれば一時的に止まるかもしれない。


魔王子「──いい加減耳障りだ、■■■...」


女勇者「──うおおおおおおおおおおおおおお□□□□□っっっ!!」


──■□□■□■■...ッ!

2人が身を震わせ、大量の魔力を活用し増幅させる。

気合で生まれた光、そして闇は決して混ざることはない。

しかしそれでいて伴おうとしている。


炎帝「──危なすぎる、離れさせてもらうよ」


退避、そしてその姿をようやく視認できる。

いつもの炎の身体に、小規模な爆発を常に身にまとっている。

どうみても、同化を重複させている。


魔王子「...炎と爆か、それも同時に」


炎帝「便利なものさ...もう高速詠唱なんてしなくても、炎と爆を同時に扱える」


女勇者「..."治癒魔法"」ポワッ


魔王子「治癒の光か...心強いな」


炎帝「なるほど...これは長引きそうだね」


女勇者「...あの連鎖爆発、厄介すぎるよ」


魔王子「あれが炎帝の十八番だ、奴に隙を与えるな」


炎帝「...参ったな、もう二度とヤラせてもらえなさそうだ」

833: 2018/12/22(土) 21:29:22.09 ID:GhBtLxBr0

魔王子「いい加減、おしゃべりは終わらせるぞ────」


──■■■ッッッ!!

次の瞬間、魔王子が消えたように見えた。

しかし彼はあまり魔法が得意ではない、転移魔法などできない。

ひたすら早く動くだけの、神速の疾走抜刀が炸裂する。


炎帝「────あぶないな」


──バコンッ!

斬られる寸前、魔王子と炎帝の間に爆発が起こる。

爆発が身代わりとなり、炎帝は闇の餌食にならずにすんでいた。

それどころか、爆風に煽られた炎の身体は魔王子からある程度の距離を取る。


魔王子「...猪口才な」


炎帝「悪いんだけど、君らの攻撃を一撃でも喰らったらおしまいだからね」


炎帝「こちらこそ、さっきみたいな闇や光を強くするアレ...二度とヤラせないよ?」


魔王子「...ならば、俺に隙を作らせるなよ■■■■」


炎帝「隙なんかなくても、属性付与がやってのけるじゃないか..."転移魔法"」シュンッ


再び2人から距離を取る。

未だに無傷を誇る炎帝に対し、治癒を行ったとはいえある程度負傷をした2人。

攻撃さえ当てることができるのならば、炎帝など敵ではないはずだった。


女勇者(まずいなぁ...僕じゃ全く歯が立たない)


魔王子「...女勇者、少し身を守ってろ」


女勇者「...ごめんね、役に立たなくて」


魔王子「治癒魔法がなければ持久戦において、もう既に負けている...炎帝のあの器用な爆発を見ただろう?」


その通りであった、治癒魔法というカードがなければ一方的に攻撃される。

もし女勇者がいなければ、炎帝は遠距離から爆を器用に魔王子に当てるだけの戦術に移るだろう。

逆に魔王子が隙間のない闇の展開をしたとしても、炎帝はひたすら逃げに入ることは確実だ。


魔王子「...治癒魔法という延命措置が、炎帝を慎重にさせている」


魔王子「下手に距離を取り、爆魔法でこちらを追い詰めても治癒されてしまったのなら無の一言」


魔王子「炎帝が無駄に魔力を使うだけに結果になるはずだ」


魔王子「つまりだ...持てる手札は多いに越したことはない」


女勇者「...ありがとう、優しいんだね」

834: 2018/12/22(土) 21:30:53.00 ID:GhBtLxBr0

魔王子「...いいからさっさと身体に光を強く纏え■■■■」


────■...ッ!

闇の予感が場を緊張させる。

今から始まるのは、あの地獄のような光景。

風帝に恐怖を抱かせた、闇の剣気の乱舞。


魔王子「連鎖爆発の名を借りるのなら、連鎖剣気といったところか...」


炎帝「これは...とてつもないね────」


──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

この世の全てを破壊する勢いだった。

連続で繰り広げられる黒の剣気は炎帝へと向かう。

光で身を守った彼女は、ただ身体を縮みこませて耐えるしかなかった。


女勇者「...魔王子くんやりすぎっ!」


魔王子「────■■■■ッッッ!!」


部屋の全面を攻撃している、この場所に逃げ場などない。

かといって防御策も、光魔法を除いてはありはしない。

しかし、ある異変を感じ取り魔王子は手を止める。


魔王子「...あの野郎、逃げたか」


女勇者「...え?」


魔王子「この部屋に奴の気配が全くしない、攻撃を恐れて一時退避をされた」


女勇者「げっ...ってことをは今までの攻撃は?」


魔王子「無駄に終わったな...まぁそこまで魔力を使ったつもりはない、身体に支障はないはずだ」


女勇者「どんな魔力量してるの...」


炎帝「──終ったかい?」


半ば煽りのような口調とともにいきなり現れた。

闇に抵抗できるナニかを持っていない以上、退避するしかない。

卑怯にも思えるがこれも立派な戦術の一部、そのことは魔王子も認識している。

835: 2018/12/22(土) 21:32:10.21 ID:GhBtLxBr0

魔王子「...大技は無理だな、転移魔法で部屋外へと逃げられる」


女勇者「そうみたいだね、どうにか小さな隙を狙わないと攻撃を喰らわせることができないかも」


炎帝「...悪いね、下位属性の魔力しか持たないもので」


魔王子「黙れ...それよりも、本来ならとっとと逃げてもいい状況だというのに、わざわざ戻ってきたか」


炎帝「まぁね、魔王様から頃してでも足止めしろと言われているからね」


炎帝「逃げだけに徹するのはできないけれどね」


魔王子「...チッ、じゃあこうするしかないな」


──■■...

闇が溢れ出る音、それとは違っていた。

逆だった、闇が消え失せる。


女勇者「...え?」


魔王子「...どうだ、闇の属性付与を解除してやったぞ?」


炎帝「...」


魔王子「もう逃げる必要はない、とっととかかってこい」


女勇者「...なるほどね」


──□□...

光が溢れ出る音、それとは違っていた。

逆だった、光が消え失せる。


魔王子「...お前は別に、しなくてもよかった」


女勇者「うるさいなぁ、僕だって肉薄さえして貰えれば戦えるさ」


女勇者「この剣と盾は飾りではないよ」


魔王子「...フッ」


炎帝「...愚かな、この炎帝相手にソレをするか」


魔王子「仕方ないだろう? 闇があれば貴様は恐れて堂々と向かってこない」


炎帝「...」ピクッ


魔王子「その一方で、風帝はちゃんと闇に向かって闘いにきたというのに...」


見え見えの挑発、それが炎帝に響く。

当然だった、事実を言われてしまったら頭に血がのぼる。

そして魔王子は、禁忌の言葉を口にする。

836: 2018/12/22(土) 21:34:16.43 ID:GhBtLxBr0

魔王子「────どうした? "怖い"のか?」


炎帝「────もう二度と、属性付与を纏う隙など与えんぞ」


女勇者「──くるっ...!」


いつのまにか炎ではなくいつもの姿の炎帝が姿を表した。

よく見てみると右手には炎、左手には爆を纏わせていた。

同化させる範囲を絞っている。


炎帝「...消し炭となれ」


魔王子「──足元だッ! 退避しろッ!」


右手をゆっくりと下げる。

それと同時に魔王子たちの足元から炎柱が浮かび上がる。

いつのまにか、炎帝の右手から床をたどって炎を迫らせていた。


女勇者「な...ここまで自由に操れるのっ!?」


魔王子「これは昔の炎帝の闘い方だ、両手に短刀を持ちそれぞれの属性付与を纏わせる」


魔王子「それをいま己の両手で行っている、油断するな...あれが奴の最も動きやすい型だぞ」


女勇者「...結構頭にきてるみたいだね」


魔王子「それは結構なことだ...それよりも備えろ、肉薄してくるぞ」


炎帝「──"転移魔法"」シュンッ


魔王子の言葉通りに、早くも接近。

狙いは彼、先にこの生意気な小僧を塵芥に変えるつもりだ。

炎帝の狙い、魔王子は早くも気づけていた。


魔王子(左手、爆で仕掛けてきたか...ッ)


炎帝「喰らいなよ」スッ


──バコンッ!

左手を前に振りかざすと、魔王子の懐で小規模な爆発が起こる。

それを事前に備えて、ユニコーンの魔剣を抜刀する。


魔王子「────ッ!」スッ


──スパッ...!

見事な抜刀音であった、生半可な者では斬られたことすら認識できないだろう。

彼は闇を用いることなく、炎帝という男の魔法を両断した。


炎帝「...闇がなくても、魔法を斬ることができるとは」


魔王子「悪いな...魔剣士にじっくりと教えてもらっていてな」

837: 2018/12/22(土) 21:36:09.17 ID:GhBtLxBr0

女勇者「──僕もいるよっっ!!」ダッ


──ガコンッ!

彼女の最も得意とする攻撃が初めて通用する。

自身の走る速度と盾の硬度を利用したシールドバッシュ。

捨て身の突撃が炎帝の背中にぶち当たる。


炎帝「──ぐっ...生意気だね...」スッ


女勇者(右手っ! 炎がくるっ...!)


──ゴゥッッッ!!

右手を薙ぎ払うと、炎が扇状に展開した。

女勇者は盾を利用することで顔と胴体への被弾を防いだ。

だが防ぐことのできなかった箇所が燃えている。


女勇者「ぐっ...熱い...っっ!!」


炎帝「そのまま燃え尽きるかい...ッ!?」


女勇者「お断りするよ...」


魔王子「────そこだ」


──スパッ...!

抜刀から放たれる剣気、絶妙に調整されている。

燃えていた女勇者の身体の一部が剣による風で消火された。


女勇者「──っ! うおおおおおおおおおおっっ!!」ダッ


熱による身体の不調が取り払われた。

盾とは反対の手で握りしめられた剣を構える。

腕力と体重が低い彼女、再び走る勢いを利用した。


炎帝「調子に乗らないことだね...」スッ


──ゴオオオオオオオオオオオオオゥゥゥゥッッッ!!

右手から放たれた炎は凄まじい勢いで拡大される。

その余りの火力に、攻撃をしようとした女勇者の動きは止まってしまう。


女勇者「──あぶなっ!」


魔王子「────女勇者ッ! 爆が来るぞッッ!!」


炎帝「もう遅い...」スッ


わずか数秒にも満たない超速度の戦闘が続く。

次に繰り出されたのは左手、まるで何かを握りしめるような動きをみせた。

女勇者の周り全て、そこの空気が張り詰める。

838: 2018/12/22(土) 21:38:22.73 ID:GhBtLxBr0

女勇者(氏角がない...まずいっ!?)


魔王子「──チッ、伏せてろッッ!!」


炎帝「君はこっちだ、焦げてしまいなよ...」


──ゴゥ...ッ!

右手をくるくると動かす、すると魔王子の身体の周りに炎が現れる。

その炎は渦を巻き、身体を燃やすと同時に動きを制限させる。


魔王子「これは...」


炎帝「下手に動くと炎が完全に身体に付着するよ...はい、さようなら」パッ


女勇者「──う...っ!?」


──バコンッ...!

──バコンッ...バコンッ...!

──バコンッ、バコンッバコンッバコンッバコンッ...!!!

握りしめられていた炎帝の左手が開く、するとあたりには連続した爆発音が響いた。


魔王子「──やられたかッ!?」


炎帝「これで残るは────」


────□□□...ッ!

絶対に頃したと油断した、数秒女勇者から目を話した瞬間。

その不意打ちじみた光は炎帝にまともに当たるはずだった。


炎帝「────"転移魔法"」シュンッ


わずか1秒、唱えた魔法により光を回避する。

目標を見失った光は魔王子の身体に付着する、正確には炎の渦だけに。


魔王子「...でかした、これで自由に動ける」


女勇者「けほっ...そりゃどうも」


炎帝「...手加減したつもりはないんだけどね」


女勇者「伊達に勇者を名乗ってないんだよ...」


女勇者「しかし...不意打ちの光魔法を避けるとはね」


炎帝「...こっちも伊達に、炎帝を名乗っていないのでね」


魔王子「女勇者、まだ動けるか?」

839: 2018/12/22(土) 21:40:28.67 ID:GhBtLxBr0

女勇者「......2秒」


魔王子「どうした...?」


その意味不明な答えに思わず聞き返す。

なにが2秒必要なのか、女勇者は鋭い目つきで炎帝を警戒しつつ、睨みながら答える。


女勇者「2秒間、炎帝の隙があれば光魔法を唱えられるよ」


属性付与を纏えば、炎帝は警戒し近寄ってこない。

ならば一瞬だけ光を放つことのできる、通常の光魔法を唱えることが出来れば決定打になる。

しかしそれには一々詠唱が必要、どうしても詠唱という予備動作が不可欠であった。


女勇者「逆をいえば、いままで2秒の隙もなかったんだね」


魔王子「...魔王軍最強と言われる男だからな」


女勇者「それで、魔王子くんの闇魔法は何秒かかる?」


魔王子「...属性付与に頼りすぎていたツケが回ったか」


魔王子「4秒だ、とてもじゃないがこれ以上早めることができん」


女勇者「...わかった」


魔王子「決め手は光魔法だ、なんとしても2秒を作るぞ」


炎帝「...お話は終わったかな?」


2人の口の動きを逐一見逃さなかった。

いつ光魔法や闇魔法など、とにかく魔法を唱えていないか警戒していた。

おそらく、なんらかしらの詠唱をした時点で攻撃に移っていただろう。


女勇者「さっき外した光魔法で、警戒されている可能性があるね」


魔王子「...どちらにしろ、一筋縄ではいかん」


炎帝「いくよ...」スッ


両腕を空に向ける、上空からかなりの威圧感を醸し出す。

大技がくることは間違いない、それでも2秒の隙を与えない。


魔王子「──くるぞッ!」


女勇者「これは...っ!?」


空を見上げるとそこには大量の炎と爆が展開していた。

そこから繰り出される攻撃方法は1つしかなかった。

840: 2018/12/22(土) 21:42:38.36 ID:GhBtLxBr0

炎帝「傘を持ってこなかったのかい?」


魔王子「...戯言を」


────ゴォォォォォォォォォォッッ!!

────バコンッ! バコンッ! バコンッ!

熱を帯びた炎の雨粒と、爆を含んだ風。

人を頃すためだけに生まれた嵐が2人に降り注ぐ。


魔王子「くッ...!」


──スパッ...!

抜刀により繰り出された剣気が嵐を斬る。

しかし、それは一部にしか効果がなかった。


魔王子「──焼け石に水か、ある程度の負傷に備えろ」


女勇者「そんなことはわかってるってばっ!」スッ


盾を傘に見立てる、両腕や頭、上半身を守ることはできる。

だがどうあがいても大きさがたりない、故に下半身は無防備に。

せめてもの抵抗、しゃがむことで被弾箇所をさらに減らそうとする。


魔王子「...ッ!!」


──スパッ...スパッ...スパッ...!

身に降り注ぐ雨を斬る、多少なりともマシ。

それでも防ぎきれない炎が徐々に身体に付着する。


魔王子(まずい...このままでは...)


彼が感じたのは、ある1つの直感。

このまま身を焦がし、爆ぜればどうなることか。

氏の直感、闇がなければここまで追い詰められるか。


魔王子(せめて...魔法を使う隙さえあれば...)


属性付与をまとえば、確実に魔王子側が有利である。

しかしそうであれば炎帝は必ず逃げに入る、そうなってしまえば時間をただ奪われる。


魔王子(闇雲に抜刀するだけでは...状況は変わらん...)


時間を奪われれば分断された彼らが危機に晒される。

確実に他の四帝が動いている、できれば全員合流して各個撃破をしたい。

そうでなければ必ずあの集まりの誰かは殺される、分断された状態で四帝と対峙して無事にいられる可能性は低い。

841: 2018/12/22(土) 21:44:11.08 ID:GhBtLxBr0

魔王子(なにか...なにか手はないのか...ッ!?)


だからこうして、わざわざ属性付与を解除して闘っている。

狙い通り炎帝は逃げに入らずにいてくれている、だがそれがどうしても厳しいモノになっている。

炎帝も本気だ、もう二度と魔法を唱える暇を与えてくれない、いまさら属性付与を唱えることはできない。

なにか手段を見つけなければ、このまま焼殺されるだろう。


魔王子「もっと...俺にもっと力があれば...ッ!」


──スパッ...!

抜刀、そして彼が叫ぶ渇望。

どうしても力が欲しいという思い込みが、響いた。


魔王子「────力を寄越せ」


────スパ□□□ッ...!

雨を斬る音とともに聞こえたのは、明るい音。

そして幻聴だろうか、馬の嘶きがこの場に留まる。


炎帝「────な...」


時が止まった、当然の反応だった。

その魔王子の一撃で雨雲は消え去った。

なにが起こったのか全く理解できない、2秒。


女勇者「────"光魔法"っっっ!!」


──□□□□□ッッッ...!!

魔王子が放ったかのように見えた光とは桁違いの眩しさだった。

不意打ち、そして今度ばかりは逃げることができない代物。

それでも対応しようと炎帝、だが無残にも微かに光が身体に触れた。

ほとんど当たっていない、それでいて唱えていた転移魔法を止めてしまうのが光の強さだった。


炎帝「──しまった...ッ!?」


女勇者「──っっっ」ダッ


いくら防御姿勢をとったからと言って、身体の一部は雨に濡れ燃えている。

それでも彼女はそのまま炎帝へと特攻を仕掛ける。

先程とは比べ物にならない速度で放たれる、捨て身のシールドバッシュ。


女勇者「──うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」


炎帝「────うッ...!?」


──ガコンッ...!

盾が炎帝の頭部へと激突する。

脳が揺れる感覚に思わず彼はよろめき、そのまま吹き飛ばされる。

842: 2018/12/22(土) 21:46:11.50 ID:GhBtLxBr0

女勇者(手応えあり...だけど最初の光魔法はまともに当たってないはず...)


女勇者「──気をつけてっ! 魔力を抑えることはできなかったよっ!」


魔王子「...十分だ、それよりも光の扱いについて教えろ」


女勇者「大丈夫、きっとその子は...なにもしなくても力を貸してくれるはず...」


魔王子「...そうか」


ユニコーンの魔剣、同じ光の属性を持つ者同士。

以心伝心、心が通じたとはまでは言えない。

だがそれでいて、なんとなくという感覚が彼女の思考を巡った。


炎帝「ぐっ...クソ...まだだよ...」


まだ彼の両腕は漲っている、やはり光がまともに当たっていない。

転移魔法を唱えることはできなくても両腕は氏守した。

武器を失ってしまえば負けてしまう、魔王子たちと同じく、属性同化を唱える暇など与えてくれないだろう。


炎帝「参ったなぁ...はぁ...まさか、魔王子が光を手にするなんてぇ...」


魔王子「...それは俺も思っている」


女勇者(まずいなぁ...思ったよりも負傷してない...これじゃ...)


次はユニコーンの魔剣に警戒して、逃げに入るだろう。

先程の打撃で致命傷を与えたかったが結果は残念の一言。

もう属性付与を解除していても、炎帝はまともに闘ってくれない。


炎帝「...もういいや」


女勇者「え...?」


炎帝「魔王子の闇、女勇者の光の属性付与を抑えているだけで十分さ」


炎帝「その...光の魔剣ぐらい...どうってことないさ...もう二度と喰らうつもりはない」


炎帝「だから...もう逃げないでおくよ」


まさかの、ここで妥協を行うとは思わなかった。

炎の帝、その名に相応しくない彼の冷静さなら絶対に逃げに入ると思っていた。

だがすぐになぜ逃げなかった理由がわかる。


炎帝「...ユニコーンの魔剣如きで、この炎帝を畏怖させることができると思ったかい?」


魔王子「...思わんな」


炎帝「そうかい...まぁいいや」


炎帝「どちらにしろ...相も変わらずに魔法を唱える隙なんて与えるつもりはないよ...」

843: 2018/12/22(土) 21:48:13.31 ID:GhBtLxBr0

炎帝「もう...全力で...いくからね...」


脳震盪に耐えながら、言葉を交わしていく。

その熱すぎる言葉とは裏腹に、女勇者の背筋は凍った。

ようやく底が見えた、見えてしまったが為に両手から放たれる炎と爆がいままでの比ではない展開を行っていた。


女勇者「...もう、噴火してるみたいだね」


魔王子「これが炎帝の真髄だ...直に見るのは初めてだ」


炎帝「さぁ...いくよ..."転移魔法"」シュンッ


2人の眼の前に現れた。

魔王子は剣を構え、女勇者は盾を構える。

そして炎帝は、まずは右手を構えた。


炎帝「燃えなよ...」


──ゴォゥッッ...!

超高温の炎が現れる、そのあまりの熱源に2人の動きは鈍る。

以前にも行ったことのある、光への対策の1つ。


魔王子「──チッ、やはり対策をしてくるか」


女勇者「あっつっっ!?!?」


炎帝「当然じゃないか...下位属性がまともに闘って勝てる相手じゃないんだから...」パチンッ


──バコンッ!

光の剣で燃え上がる炎を消化している間にも炎帝は動く。

憎たらしくも指を鳴らす、そうして生まれるのは爆発。

それも超高度な、絶妙に魔王子の攻撃範囲から離れた偏差魔法。


女勇者「──あぶないっっ!!」スッ


──ズズゥゥンッッ...!

両手で盾を構え、魔王子の前へと立つ。

直撃を防いたとしても、あまりの衝撃に女勇者の身体に嫌な音が鳴る。


女勇者(左腕に激痛...まさか今ので骨が...防いでいなかったらどうなってたの...っ!?)


魔王子「でかした、下がってろッッッ!!」


炎帝「──はああああああああああああああぁぁぁぁぁ...ッッ!!」


この時、初めて炎帝は声を荒げた。

炎帝の右腕の炎が床へと伸びる、そしてその炎が広く展開する。

844: 2018/12/22(土) 21:50:00.21 ID:GhBtLxBr0

魔王子「──跳べッッ!! 足元を焼かれるぞッッ!!」


女勇者「くっ...まるで炎の絨毯だね...っ!」


炎帝「...いい家具だろう、だがそれだけじゃないよ」スッ


右手を上へと持ちあげる。

なにが来るのか魔王子は察する。

炎の絨毯から、炎の棘が生まれる。


魔王子「──チッ!!」


──スパ□□□ッ...!

光の抜刀、その効力ゆえに炎の展開は止まる。

しかし振り終わった剣は、そこで動きを止めるしかない。


炎帝「────貰った」


──ゴォォォォォォォォォウッッ...!

一瞬にして放たれたのは、巨大な火炎放射。

その密度は濃く、たとえ闇をまとってたとしても無傷でいることは厳しいモノだった。


魔王子「くっ...抜刀の誘発だったか...ッ!」


女勇者「────うおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」ダッ


折れた腕を我慢して、有ろう事か魔王子に肉薄する。

このままでは一緒に消し炭にされてしまう瞬間だった。

右手で魔王子の手と重ね、そして魔力を注ぎ込む。


女勇者「────っ!」グイッ


────□□□ッッッッ!!!

教えてもいないというのに、魔剣に魔力を注ぎ込めばどうなるかを直感していた。

まだ光り始めて間もないというのに、光魔法を唱えたわけではないのにすでに炎は消された。

だが眩しすぎる光が次々と生まれようとした瞬間、炎帝は事前に対処の準備をしていた。


炎帝「ぐっ...憎たらしい光だね...っ!」パチンッ


──バコンッ!

魔王子と密着している女勇者、その僅かな隙間に爆発を産ませる。

小規模な爆発だが、女の身体を吹き飛ばすには十分な威力だった。


女勇者「──うっ...げほっ...」


女勇者(やばい...また逝ったかも...さっきまでの威力と全然違う...っ)

845: 2018/12/22(土) 21:51:54.59 ID:GhBtLxBr0

炎帝「そのまま動かないでいてね」スッ


左の手のひらを握りしめる。

先程見た、周囲全体を爆で囲む予備動作だ。

下手に動けば炎帝の手は開かれるだろう。


魔王子「あの小娘にかまっている場合か?」スッ


──スパ□□□□ッ...!

彼が最も得意とする抜刀剣気、光も備わり凶悪なモノに仕上がっている。

とてつもない速度、どうすることもできずに直撃する。


炎帝「────ぐっ...これが生身で受ける切れ味か...」


魔力で強化された身体など、光の前には無力。

今受けた攻撃は確実に負傷につながる一撃であった。


魔王子(...クソ...両手の同化を無力化させることができなかったか)


この攻撃が女勇者のモノなら、勝敗は決まっていただろう。

光と相反する闇属性の魔力を持つ魔王子、どうしても光の質を向上させることはできずにいた。

炎帝の身体の魔力を一瞬だけ抑えられても、両手の強大な魔力を抑えることができずにいた。


炎帝「...質が低いといっても、光に油断すれば確実に負ける」


炎帝「だから...もうやめようね、"転移魔法"」シュンッ


魔王子「──いい加減その高速詠唱をやめろ」


眼の前に現れる炎帝、この構え方は間違いない。

魔法を織り交ぜた近接攻撃、格闘が繰り出されるだろう。

しかし魔王子はその意外な攻撃に気づけずにいた。


炎帝「──そこだね」


──ドゴォッ...!

燃える拳が魔王子の懐にぶち当たる。

それと同時に感じるのは、灼熱の痛み。


魔王子「ぐっ...ここにきて素手だと...っ!?」


炎帝「やだなぁ、昔は短刀と素手を合わせた体術をよくやってたじゃないか」パチンッ


──バコンッ!

左手で握りこぶしを作りながらも、器用に親指と人差し指で音を鳴らす。

すると足元に小規模な爆発が起こる、その勢いで魔王子の身体は持ち上がってしまう。

846: 2018/12/22(土) 21:53:14.76 ID:GhBtLxBr0

魔王子「────なっ...!?」


そして次に見えた光景、いつの間にか宙に存在する炎帝。

これが剣術なら兜割りと表現してもいいかもしれない。

両手を組みソレを振り下ろす、まるで鈍器のような一撃。


炎帝「...地帝のを真似てみたけど、どうかな?」スッ


──ドゴォォッッ!!

そして地面に叩きつけられた背中に、嫌な感覚が巡る。

熱い、熱い、熱い、ここにきて初めてモロに炎を浴びる。

先程の炎の絨毯が、いつの間にか再度展開していた。


魔王子「────ぐおおおおおおおおおおおおおッッッッ!?!?」


炎帝「あぁ、闇があればこんな苦しみはしなかったのにね」


女勇者「魔王子くんっっ!!」


炎帝「────しゃべるな、次はないよ」スッ


光の魔法を恐れてか、炎帝はかなり女勇者を警戒している。

そして突きつけたのは握りしめられた左手であった。

次になにかを行動すれば、開かれてしまうだろう。


女勇者(──っ...どうすれば...っ!?)


魔王子「──いい加減にしろ...ッッ!!」スッ


──□ッ...!

熱に悶ながらも、ユニコーンの魔剣を地面に突き刺す。

その光の一撃は簡単に炎を消化する、背中に走る激痛に耐えながらもフラフラと立ち上がった。


魔王子「...チッ、この衣装は気に入っていたんだがな」


炎帝「背中のほうが焦げだらけだね、次は全身も燃やしてあげるから違和感なんてすぐなくなるさ」


魔王子「...戯言を」


魔王子(さて...どうするか...女勇者の動きは封じられた)


魔王子(この魔剣で光を扱うことができても質が低い...両手に直撃させないと無力化はできないだろう)


魔王子(...かといって動き回るであろう炎帝相手に精密な剣気を放つことなど難しい)


詰まる戦況、不利な状況に頭を悩ませる。

素直に闇を使わせてくれれば、ここまで苦戦することはない。

なにか、別の手がなければ勝てない。

847: 2018/12/22(土) 21:54:40.35 ID:GhBtLxBr0

炎帝「──考え事なんてヤラせないよ」


魔王子「...ッ!」


今度は不意打ちなど喰らわない。

間合いを確認して、右ストレートを避ける。


魔王子「魔闘士の方が早いな」


炎帝「...魔闘士はここから炎を放てるのかな?」


──ゴゥッッ!!

避けた拳から、炎が溢れ出る。

直撃せずにいても、その温度に身体は拒否感を覚える。


魔王子「──そこだ」


──□ッッ...!

徐々に光への扱いに慣れ、精度を増していく剣気。

しかしその攻撃は無残にも避けられてしまう。


炎帝「...両手にソレを当てる気かい?」


魔王子「無論だ、ヤラねば負ける」


炎帝「とてもじゃないが、無理だと思うけど...」


魔王子「当たるのが怖いのか?」


炎帝「...なら当ててごらんよ」


お互いに煽りながらも攻撃を繰り出したり、避けたりを繰り返す。

しかしながら、直撃しなくても熱や爆風が魔王子を襲う。

どうみても炎帝が有利に事を進めていた。


魔王子「──ハァッ...ハァッ...」


魔王子(もう...少しだ...もう少しで...)


炎帝「疲労を隠せてないね、息も、剣の精度も落ちてるよ」


炎帝「...もうおしまいだね、闇も使わずにここまで粘れたものだよ」


気づけば数十分にも渡っていた。

光の剣風、炎帝の炎や爆、そして近距離の体術をずっと避けていた。

たまに直撃することもあったが、それでいても抜刀をやめることはなかった。

しかし、ついに体力は底をつき始めていた。

848: 2018/12/22(土) 21:55:55.05 ID:GhBtLxBr0

炎帝「さよならだ...闇の王子よ...」


──ゴォゥッ...!

右手の炎が展開する。

体力が少なくなり判断力が鈍ったのか、避ける動作ができずにいた。

気づけば周りは炎に包まれている、もう避けることは不可能であろう。


魔王子「────...ッッ!?」


──□□□ッ...! からんからんっ...!

いつも通りに剣気を放とうとした時。

疲労からか、握りしめていた拳が緩んでしまっていた。

抜刀と共にユニコーンの魔剣はすっぽ抜けてしまう。


炎帝「じゃあね...」


魔王子「...」


炎帝「こっちも...勝ったとは言えないね...君は闇を使わずにいたのだから」


炎帝「本当なら全力の君と全力で対峙したかった...でも魔王様の大事な日らしいから...」


炎帝「絶対に勝たないといけない...悪いね」


魔王子「...」


炎帝「...風帝によろしく」


────ゴォォォォォォォッッッッ!!

灼熱が魔王子を包み込む。

そのあっけない終わりに魔王子は思わず目を閉じる。

耳に残るのは不快な焼ける音、そして。


女勇者「...」


────□□□...

光の擬音に紛れたが、確かにあの言葉があの女から聞こえた。

しかし女勇者は口を動かしていない、それにこの光は彼女のモノではない。


炎帝「────馬鹿な、光魔法...いや違うッ!?」


女勇者「...刃物を渡すときは、投げちゃだめってお母さんに言われなかった?」


魔王子「...言われた記憶はある」


炎帝「────爆ぜろッッ!!」パッ


────バコンッ...!

1つの爆発音が聞こえた。

だがそれは1つではない、いくつもの爆発が同時に爆ぜた音だ。

一瞬で起きた連鎖爆発、生身なら人としての原型を保つことは不可能だろう。

849: 2018/12/22(土) 21:57:26.37 ID:GhBtLxBr0

女勇者「──□□□□□□□っっっっっ!!」スッ


──□□□□□□□□□□□□□□□□ッッッ!!

彼女の右手にあるのは、ユニコーンの魔剣。

それを目視できるモノはこの場にはいない、あまりの眩さに見ることはできない。

それがどのような意味を持つのか、彼女は天に魔剣を翳した。


魔王子「...見事だ、あの密度の爆発を一瞬で無力化させるか」


炎帝「グッ...魔王子...図ったね...?」


魔王子「フッ...疲れたのは事実だ、剣がすっぽ抜ける演技に拍車がかかっただろう?」


炎帝「油断した...まさかあの疲労困憊が陽動だったとは...」


炎帝「それに...気づいたときにはもう遅かった...光の魔力を持つ者が光の魔剣を持つとこうなるのか...」


よそ見したつもりはない、横目ながらも常に女勇者を目視していた。

だが今は魔剣が女勇者の光魔法の性能を向上させている、通常の展開速度を上回っている。

魔剣が飛んで、拾って、光を放つこの出来事はわずか1秒の間、炎帝が手を開く速度よりも早い。


炎帝「────うッ...近すぎる...!?」フラッ


炎帝(まずい...これでは高熱で光への対策をすることすらできない...)


魔王子「眩し...すぎる...な...」フラッ


炎帝(まずい...もう逃げに入る以前に...ここまで高質な光を浴びてしまったら...)


身体に感じる倦怠感。

両手の炎たちが消火されている、明らかに光に侵されている。

この光が止まなければ、魔法を唱えることなどできない。


炎帝「────負けたくないよぉ...」


何歳をも歳を重ねたとはいえ、見た目は美少年。

その見た目らしい弱音が垣間見える。

光の眩しさ故に、心の底からの本音が漏れる。


女勇者「────□□□...っ!」


女勇者(凄い...ここまでの光を出したのは初めてかも...魔剣のおかげだ)


女勇者(それよりも...早く炎帝に属性付与を唱えなきゃ...っ!)


所詮は一時的に炎帝の動きを封じているだけであった。

これを中断してしまえば光は失せ、炎帝の身体に魔力が戻るだろう。

だが属性付与なら中断をしてしまう懸念がない、風帝の時のように拘束をするなら拘束魔法よりも遥かに性能がいい。

850: 2018/12/22(土) 22:00:34.80 ID:GhBtLxBr0

女勇者(もう少し近寄らないと...)


属性付与を纏わせるにあたっての有効範囲。

女勇者の場合は、手を伸ばせば触れれる程度の距離にいないと掛けることができない。

そのために足を歩ませたその時だった。


女勇者「────うっ...!?」


──ズキンッ...!

身体のあちこちから生まれる、危険信号。

折れた骨が悲鳴をあげた痛みだった。

その激痛は、女勇者の集中を中断させるのには十分であった。


炎帝「────ッ!」ピクッ


魔法で一番、難しいと言われるのは魔法の持続。

それは魔剣でも同じことが言えるだろう。

その隙を逃す男ではなかった、懐から取り出したのは瓶。


魔王子「────魔法薬かッ!?」


────ゴクリッ!

この世界では市販されている薬を飲む、すると急速に身体に魔力が満ちる。

自然回復など待ってはいられない、今すぐに膨大な魔力が欲しかった。


女勇者「"属性付────」


そして焦ったのか、彼女は間違えてしまう。

単純な詠唱速度なら、通常の光魔法のほうが早いというのに。

もし属性付与ではなく、上記のモノを唱えていたのなら状況は変わっていたかもしれない。


炎帝「────"炎魔法"」


────ゴォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!

この一撃は、この日最も熱いモノであった。

その灼熱の紅は自らの身をも焦がす火力であった。

負けたくない、その感情が魔法を強くする。


女勇者「──与"、"光"っっっ!!」


纏わせようとした炎帝に近寄ることはもう不可能であった。

ならば途中まで唱えたこの魔法を、自らに纏わせる。

魔法の炎からは身を守れる、だがこの地獄のような高温は防ぎようがなかった。

851: 2018/12/22(土) 22:02:06.34 ID:GhBtLxBr0

女勇者「ま...うじ...く....っ!」


魔王子「────これだから人間は...」ダッ


人間の柔な身体の作りとは違う。

光が消えた影響で徐々に魔力が蘇る、僅かな魔力でも彼は炎の中を駆け抜けていく。

身体が熱い、息苦しい、目が痛い、それでも歩けるのが魔物という生き物。


魔王子「肩に掴まれ...炎帝は今暴走状態に近い、危険な状況だが退避するのには余裕を持って動ける」


女勇者「う...ごめ...光...途絶え...」ポロポロ


煙のせいなのか、自分の過ちのせいなのか。

目から涙が止まらない、危機的な状況を作ってしまった自分が情けなく感じていた。

謝罪の言葉を、途切れ途切れでも言わなくてはならなかった。


魔王子「泣くな...俺も先程、まともに骨折の痛みを味わった...痛みで動きが制限される気持ちがよくわかる」


魔王子「...それよりも息をするな、口や鼻に布を当てろ」


女勇者「げほっ...うぅ...」


魔王子「...えぇい面倒だ、とにかく俺に掴まれッ!」ガバッ


彼女の顔を抱き寄せ、無理やり持ち上げて走り出す

これにより呼吸は魔王子の服越しに、身体を持ち上げられた為に歩行をする必要はなくなる。

身体に感じる人間の女の柔らかさ、それを理由に納得できることがあった。


魔王子(...軽い)


その一言、どれだけの意味が込められていたのだろうか。

属性付与を纏った女勇者を抱きかかえているからか、自分の身体の重さが実感できてしまう。

感慨深い何かを得ながらも、危険区域からの離脱に成功する。


魔王子「...炎帝の奴、どうするつもりだ?」


まるで焚き火を眺めているかの光景であった。

こちらへの敵意を全く感じられないその大豪炎はあっけなく魔王子たちを見逃す。

本当に暴走しているだけなのか、理解のできない現状に頭を悩ましていた。


女勇者「げほっ...げほっ...も、もう...大丈夫だょ...」


魔王子「...あぁ、時間に余裕のある今のうちに治癒魔法でも唱えてろ」


女勇者「う、うん...あ、これ...返すね?」


魔王子「...?」


どうも歯切れが悪いような、どこかに異常があるのか。

するとある1つの変異に気づけた、彼女のことではなく手渡してきた魔剣だった。

852: 2018/12/22(土) 22:03:37.44 ID:GhBtLxBr0

魔王子「...その魔剣、今は光っていないのか」


女勇者「"治癒魔法"...うん、なんか...ムラがあるというか」ポワッ


女勇者「今も魔力をこの剣に与えてたはずなんだけど...」


魔王子が炎帝の両手を狙った時、剣気を出せば必ず光ってくれていた。

先程は光魔法を展開する際に、力を助長してくれた。

だが今は、ただの剣のような見た目に成り下がっている。


女勇者「...常時、この魔剣の光を使うのは無理かもしれない」


女勇者「どこか...信用されていないような...そんな雰囲気を感じるよ」


魔王子「...とんだジャジャ馬だな」


女勇者「それよりも...ここからどうすれば」


炎帝が次々と生み出す炎がこの部屋を温めている。

すでに汗が止まらないまでの高温と化している、しばらくすれば人を頃す温度へと変化するだろう。


魔王子「...今なら炎帝はこちらを警戒する余裕はないみたいだな」


魔王子「ならば、もう一度闇を纏う────」


作戦内容を決定した矢先、声が遮られる。

その当人の声はいつもとは違う、どこか熱い声色であった。

炎の中から炎帝が話しかけてきた。


炎帝「──来なよ、闇を纏って」


魔王子「...なに?」


炎帝「たとえ、対策をしたとしても...たとえ距離を伺っても...」


炎帝「光や闇に...炎や爆が勝てるわけがなかったんだよね...」


魔王子「...随分と弱気になったな」


炎帝「仕方ないさ...元々僕は...魔王様の闇に怖れて...傘下に加わったじゃないか」


炎帝「それを...あの光を浴びて思い出したよ...」


上位属性の魔法、属性は違えど彼のトラウマを思い出させるのには十分であった。

しかしこの言葉は諦めの意味ではなかった、むしろその逆、ただただ熱い意味が込められていた。

853: 2018/12/22(土) 22:04:56.88 ID:GhBtLxBr0

炎帝「あの時、自分の力を過信し...無謀にも魔王軍に歯向かった...」


炎帝「風帝や地帝とあったのはアレが初めてだったね...彼らには勝てた」


炎帝「だが...大将であった...魔王様は違った...」


炎帝「炎じゃ...炎じゃ闇には勝てなかったよ...」


魔王子「...そうか、そういえばそうだったな」


炎帝「...闇に破れ殺される寸前、僕は情けなくも命乞いをした」


炎帝「まだ氏にたくない...と、普通の戦場なら有無を言わさずに殺されていただろうね」


炎帝「だけど魔王様は違った...情けをくださった...」


炎帝「そこから僕は...魔王軍として生きることにした...」


炎帝「部下になれば...あの闇の矛先を向けられることはないと...そう考えた...」


炎帝「でも、魔王軍の一員になっても...植え付けられたあの闇の恐怖は払うことができなかった」


炎帝「どうしても...闇が怖い...その感情を隠しながら過ごすしかなかった」


炎帝「だが...時間とは最高の麻酔だったね...数年もすればその恐怖を徐々に消えていった」


炎帝「同期であった水帝と会話をしたり...上司になる風帝や地帝と打ち解ければ...安らいだ」


炎帝「...気づけば、恐怖の根源であった魔王様から...この地位を平然ともらえる程に忘れていた」


炎帝「そして...今、思い出した」


どこからか燃える音が聞こえる。

炎帝の出した炎魔法によるものではなかった。

彼の瞳が、紅くなる。


炎帝「どうしてかな...闇は怖いというはずなのに」


魔王子「...」


炎帝「...思い出したのは、恐怖だけじゃないみたいだね」


魔王子「...望み通りにしてやる」


炎帝「あぁ、頼むよ...遥か昔の...無謀だった僕のことまで思い出したみたいだね」


力に溺れ、自分の力を過信した彼。

光が思い出させたのは、彼の闇への挑戦。

燃えたぎる炎が色濃く染まる。

854: 2018/12/22(土) 22:06:15.00 ID:GhBtLxBr0

魔王子「...俺も過去に、無謀にも炎属性で挑んできた馬鹿がいた」


炎帝「へぇ...どんな子だろうね..."ドラゴン"かい?」


魔王子「冗談はよせ、笑ってしまう」


──■■■■■...ッ!

──ゴオオオオオオォォォォォォォォウッッッ!

方や剣に、方や両手に魔法が唱えられた。

属性付与でも、属性同化でもないただの魔法。


女勇者「...どうして、今になって真正面から?」


炎帝「...負けたくないからさ」


女勇者「え...?」


炎帝「今まで、僕と魔王子は全力を出せていなかったからね」


炎帝「魔王子が本気で闇を纏っている時、僕は逃げつつ隙を伺っていた...」


炎帝「だけど...これじゃとてもじゃないが僕の全力とはいえない」


炎帝「その一方で、魔王子が闇を纏っていない時...僕は全力だったけど彼はそうじゃない」


炎帝「...一度も、全力の炎と全力の闇が対峙していないんだ」


女勇者「でも────」


彼女が至極当然のことを言おうとした時、彼が言葉を遮った。

上位属性、下位属性の相性の話など、無粋なことを言わせなかった。

闇をまとった暗黒の王子が言葉を放つ。


魔王子「お前は先に行ってろ、下の階へ向かいキャプテンたちと合流しろ」


女勇者「...わかった」


魔王子「他の四帝も動いているはずだ、頼むぞ」


女勇者「わかったってば...」


闇と炎を尻目に、光を纏ながらも部屋の出口へと向かう。

すると、燃える男が声をかけてきた。


炎帝「...ありがとうね」


女勇者「...よくわかんないけど、僕は邪魔みたいだから」


炎帝「そうじゃないよ」


女勇者「へ...?」

855: 2018/12/22(土) 22:07:34.14 ID:GhBtLxBr0

炎帝「君がいなければ、魔王子をつまらない頃し方をしてたと思う」


炎帝「ただ遠距離から、闇の合間を狙って爆頃するだけの...本当につまらない勝利しかできなかったよ」


女勇者「...」


そんなことができるのであろうか。

魔王子の闇、確かに隙間があるのは彼女にもわかっていた。

しかしその隙はたとえ隊長の現代兵器を用いても、精密射撃することは不可能。

彼の闇は、本当に小さな小さな弱点しかないのであった。


女勇者「僕も...そう思った...ここに残った理由がソレだったかも」


炎帝「彼の闇は...魔王様のと比べるとかなり劣るよ...気をつけてね」


女勇者「うん...わかった...じゃあ────」


またね。

一番初めによぎった言葉はソレだった。

しかし彼女には、もう二度と炎帝と遭遇しないという強い確信があった。


女勇者「...さようなら」


炎帝「...あぁ、さようなら」


光の勇者と、炎の帝が言葉を交わす。

炎帝は彼女の背中を最後まで追った、視界から消えるまで。

そして感じるのは、闇の気配。


魔王子「...」


炎帝「...じゃあやろうか」


魔王子「当然全力だ、一撃で葬ってやる」


炎帝「僕も...一撃で灰にしてあげるよ」


お互いの気配の色が変化する、黒と真紅に。

魔法によって彩られたその殺気は、ついに放たれる。


炎帝「────いくよおぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!」


魔王子「──氏ね■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!」


一撃の剣気、それは今まで放ってきたモノよりもドス黒い。

一撃の放射、それは今まで放ってきたモノよりも深く紅い。


~~~~

856: 2018/12/22(土) 22:09:46.82 ID:GhBtLxBr0

~~~~


女勇者「...」


部屋から出ると、その温度差に身体が不調を申し出る。

身体中に汗をかいていた影響か、とても冷える。


女勇者「困った...道がわからないや...」


女勇者「女騎士も...ウルフって子も、無事に行けたのかな...」


女勇者「...どうしよう」


道がわからない、ならば無闇矢鱈に進むしかない。

そして歩きながらも先程の闘いを思い返す。


女勇者(あそこで...あそこで炎帝が逃げに入ってたら...)


女勇者(僕たちは負けていたんだろうか...)


女勇者(...確実に負けていたね)


女勇者(たぶん向こうが...理を徹してずっと、逃げながら闘っていたら...)


女勇者(絶対に勝ててなかった...)


女勇者(さっきの闘いは...炎帝が────)ピタッ


己の非力さを嘆く。

そうこうしている間にも、ある地点を発見する。

階段ではなかった、そこにあったのは重厚なる扉。


女勇者「これは...」


説明してもらわなくてもわかる。

その扉越しに感じる、その圧倒的な魔力。

感知ができなくても、誰が放っているのか明白だった。


女勇者「...魔王がこの上に」


それは5階へと続く最後の扉であった。

歴代の勇者はこの階段を登っていた、ならば自分も登らなければならない。


女勇者「でも...勝てるのかな」


先程の闘い、炎帝が真正面からの勝負を受けなければ。

はたまた魔王子の挑発に乗らなければ負けていた。

実力での勝利をもぎ取ることができなかった、そのような者が魔物の頂点と闘って勝てるのだろうか。


女勇者「...今度ばかりは、真正面から来てくれないかもしれない」


女勇者「とてつもない戦略が、僕たちを一切近寄らせてくれなかったら...」

857: 2018/12/22(土) 22:10:24.79 ID:GhBtLxBr0










「...負けることを考えているのか?」










858: 2018/12/22(土) 22:11:57.46 ID:GhBtLxBr0

女勇者「...早かったね」


魔王子「あぁ...早くトドメを刺さなければヤラれていた」


魔王子「それほどに、密度の濃い炎だった...闇で破壊する速度が一瞬追いつけなかった」


魔王子「丸焼きになるところだった...」


女勇者「...すごいね、魔王子くんは」


魔王子「...何がだ?」


女勇者「僕は...弱いよ...光を使わなければ誰にも勝てない気がしてきた」


女勇者「剣術は魔王子くんに劣る...女騎士が出してくれる戦術もたまに理解できない時もある」


女勇者「...自分の愚かさが憎いよ」


魔王子「...ほざけ、その光には何度も助けられ、そして何度も喘がされた」


魔王子「光を自在に操れるだけ、誇れるだろう」


女勇者「その光が、現に炎帝に対策されていたじゃないか」


女勇者「きっと...魔王も対策しているに決まっている...僕は絶対に誰かの足を引っ張るよ」


魔王子「なら...今からでも田舎へ帰るのか?」


彼は覚えていた、女勇者がただの田舎娘であったことを。

自身を失った彼女に投げかけれる言葉はこれしかなかった。

数秒間の沈黙後、女勇者は言葉をひねり出す。


女勇者「そんなこと...できないよ」


女勇者「炎帝は"気をつけてね"と...敵であるはずの僕に言ってくれたよ」


女勇者「それだけじゃない...風帝や、いままで道中で倒してきた魔物たち...」


女勇者「いまここで帰ってしまったら...彼らの立場がなくなってしまうよ」


魔王子「...」


これが彼女の本心であった、慈愛にも似たこの優しさこそが女勇者であった。

どうしても人間側の平和を掴み取りたい、そのために邪魔をする魔物たちを退けてきた。

しかしそれでいて、その者たちへの立場を大切にしていた。

859: 2018/12/22(土) 22:13:40.80 ID:GhBtLxBr0

魔王子「...なら、前に進むしかない」


魔王子「俺も...頃した風帝や炎帝の氏を無駄にはしたくない」


魔王子「彼らは...俺の野望のために散らした...」


魔王子「だからこそ...俺は魔王を絶対に殺さねばならぬ...」


自身の願いを叶えるために、殺さなければならない場面が多々あった。

だからこそ絶対に叶えなければならない、ここで諦めれば、ここで負ければ彼らの氏は無駄になるから。

魔王子の道に立ちはだかる者は誰であろうと斬り伏せる、それがたとえ同胞でも、彼の覚悟は並のものではなかった。


魔王子「...」ピクッ


──カツカツカツ...!

そして聞こえてくるのは、歩くときに鳴る靴の音。

その音は鉄を彷彿とさせる硬いモノであった。

誰が鳴らしているのか、誰たちが鳴らしているのかはすぐにわかった。


女勇者「──女騎士...それにみんなも...」


女騎士「あぁ...無事でなりよりだ、女勇者」


魔女「...みんなボロボロね」


女賢者「...」


ウルフ「...」


隊長「...この様子だと、炎帝に勝利したようだな」


魔王子「...驚いたな、ほかの四帝はどうした?」


隊長「地帝はウルフと女騎士が、水帝はスライムと女賢者が倒した」


魔王子「...そうか、"ほぼ"無事だったようだな」


隊長「あぁ..."ほぼ"な」


女勇者「......"あの子"は?」


隊長「...駄目だった」


言葉を選んだ魔王子に比べ、彼女は選ばなかった。

不躾なわけではない、ただ純粋な彼女の心がそう訪ねた。

氏者は弔わなければならないからだ。

860: 2018/12/22(土) 22:16:09.18 ID:GhBtLxBr0

女勇者「...辛くないの?」


隊長「辛いさ...だけど、泣くのは後だ」


隊長「スライムは...平和を勝ち取ってからの世界で弔う」


女勇者「...そっか、そうだよね」


魔王子「...」


どこかしんみりとした空気感、その中で逸脱する沈黙を放つのは魔王子であった。

その表情は知人の弔い、そのようなモノではなかった。

もっと、知人よりも先にある関係。


魔王子「...正直に言うぞ」


隊長「...なんだ?」


魔王子「俺はこの魔王城での闘い、四帝を各個撃破しなければ絶対に氏者がでると思っていた」


魔王子「現に1名出てしまったがな...あのスライム族の娘とは面識はないが、どこか悲しいモノだ」


魔王子「...」


──ピリッ...!

怒りとも呼べない、悲しみとも呼べない、喜びとも呼べない。

表現できない感情が彼を襲う、空気はかなり緊張したモノへと変貌する。


魔王子「...たった、1名か」


魔王子「俺や女勇者と分断された者たちが、四帝と闘って...犠牲者は"たった"1名なのか」


女賢者「...なにが言いたいんですか?」


スライムの氏を、どこか馬鹿にされている。

そのような思い込みが故に、女賢者は口調を強くした。

その一方で、隊長たちは黙り込むことしかできなかった。


魔王子「...わからない、氏者を丁重に扱うことすらもできない」


魔王子「俺の中の感情が...おかしくなりそうだ...いや、もうおかしいのか...」


隊長「俺も...魔女も...ウルフも女賢者も...気持ちを整理して今ここにようやく立っている」


隊長「落ち着け、不用意な発言は控えてくれ...頼む」


魔王子「そうか...そうだな...すまなかった...」


女勇者「...」


魔王子が混乱する理由、それは自身の記憶にあった。

今は敵となってしまったが四帝は同胞でもある、よってその強さを十分に熟知しているはずだった。

それなのに、自分の手を下さずに彼らは負けてしまっていたのである。

861: 2018/12/22(土) 22:18:04.74 ID:GhBtLxBr0

魔王子「...今は迷っている場合ではない」


魔王子「進むぞ...この上に」


隊長「あぁ、わかっている」


女勇者「...うん」


神妙な面持ち、各々の派閥の主が先陣を切る、この重厚なる扉をあけるとそこにあったのは暗黒の階段。

まるでこの世のすべての闇を凝縮したかのような感覚が足を襲う。

だがそんなプラシーボなど、彼らには通用しなかった。


女騎士「...いよいよだな」


女勇者「そうだね...」


人間の平和のために、駆り出された田舎娘。

そして王に命令され護衛する騎士。


魔女「帽子、スライム...もう少しだからね...そしてお姉ちゃん、もうすぐ帰るからね...」


女賢者「そうですね、負けられません...スライムちゃんの為にも」


ウルフ「...まだ、がんばらなくちゃね」


隊長「...」


違う世界の男に魅入られここまで付いてきた魔物の女。

そして、その男の親友である男の意志を継ごうとする賢き女。

さらに、親友の男に惚れた亡き魔物の意思を思い返す獣、最後に、無言で階段を登る男。


魔王子「...」


彼もまた、無言であった。

なにを思っているのか、先程の四帝のことだろうか。

それとも、万の兵を相手に足止めをしている竜と武人のことだろうか。


魔王子「...ついたな」


女勇者「うん、扉の向こうからとてつもない気配がするよ」


隊長「...悪いが、すぐに頃すなよ? 尋問が待っているからな」


魔王子「...フッ、いまから魔王を相手にする人間の言葉とは思えんな」


魔女「仕方ないじゃない、魔王が世界を跨ぐ魔法を使えるかもしれないんだから」


魔女「そうでもしないと、キャプテンはもとの世界に────」


──ずきんっ...!

胸が痛む、なぜだろうか、先程の仲間の氏で思考が麻痺していたのだろうか。

もう魔王との闘いは迫っている、勝敗はどうであれ隊長はあることをしなくてはならない。

862: 2018/12/22(土) 22:21:53.31 ID:GhBtLxBr0

魔女「...」


ウルフ「魔女...ちゃん?」


とても悲しい表情を見られてしまった。

一瞬だけみせたその顔を、よりにもよってウルフに見られてしまう。

白い毛並みを魔女に擦り寄せてくるその感覚は、とても優しいモノであった。


魔王子「...準備はいいか?」


女勇者「もちろんさ」


女騎士「...どんな激戦が待っているか」


隊長「あぁ...いつでもいいぞ」


魔女「...うん」


ウルフ「がう...」


女賢者「恐いです...けど、やるしかありませんね」


7人がそれぞれ反応を示す。

誰も扉を開けることを拒否していない。

そのことを確認し、魔王子がついに手を動かす。


???「...たどり着いてしまったか、息子よ」


────ガチャン■■■...ッ!

扉の闇の音と共に聞こえたのは、実の父の声。

とても耳障りな邪悪な声色、そこにいるのは間違いない。


魔王子「...魔王」


────■■■■■...ッッ!!

ただ、そこに存在しているだけだというのに。

気味の悪い闇の音が響いている、そしてその中心にいるのは当然この王であった。


魔王「...随分と愉快な仲間を連れているな」


魔王子「黙れ...不快な声を俺に聴かせるな...」


女勇者「あれが...魔王...」


その見た目は、魔王子と瓜二つの美男がそこにいた。

とても歳を召した者とは思えない若々しさであった。

だがそれがかえって不気味さを生み出していた。

863: 2018/12/22(土) 22:23:09.75 ID:GhBtLxBr0

魔王「これは驚いた...魔物を2人しか引き連れていないのか...」


魔王「あとの4人は人間か...よく生き残れてきたな」


魔王子「...ほざけ、ずっと感知していたのだろうが」


魔王子「その小芝居をやめろ...見え見えのヤラセは反吐がでる」


魔王「...なら、こうすればいいか?」


────■■■■■■■■■■ッッッ!!!

玉座に君臨する魔王の背後から放たれた闇の風。

そよ風のような心地よさを誇るソレは7人の精神を蝕む。

それほどに凶悪な一撃であった。


女勇者「──"光魔法"」


女賢者「──"防御魔法"」


この者2人の魔法がなければ魔王子を除いて全滅していただろう。

光が闇のほとんどを飲み込み、ほんの僅かに光を通過した闇を防御魔法が申し訳程度に護る。

闇を前にその防御はすぐに破壊されてしまった、だが身代わりとしては十分であった。


魔王「...やるな、勇者もそうだが...魔王子と一緒にいるだけはある」


女賢者「...褒め言葉として受け取ります」


女勇者「危ないなぁ...」


隊長「...2人とも、助かったぞ」


魔女「私も...もう少し早口の練習したほうがよさげね」


女騎士「それよりもどうする、今のが魔王の本気だとは到底思えない」


女賢者「あんな適当な詠唱でこの威力ですか...」


まるで小言のように適当な口の動かし方で、絶大の威力を誇る闇。

すでに戦力差が見え透いていた、だがここで折れる訳にはいかない。

各々がいざ奮起をしようとした瞬間、魔王がそれを遮った。


魔王「...悪いが、少し待ってくれないか?」


魔王子「...寝言か?」


魔王「いや、ほんの数分でいい...待て」


──ピリッ...!

空気が凍る、そのあまりの圧に思わず萎縮してしまう。

しかしそれでも魔王子と女勇者、隊長の目は鋭いままであった。

多大な緊張感を醸し出す大広間、そしてその奥の扉からある2人が現れた。

864: 2018/12/22(土) 22:25:05.19 ID:GhBtLxBr0

魔王子「側近...そして...母様...ッ!?」


側近「...ご無沙汰しております、魔王子様」


魔王妃「坊や...きてしまったのね...」


女騎士「...あれが、魔王夫妻というわけか」


女勇者「魔王子くんの...お母さん...?」


魔女「...側近ねぇ」


側近、いままで間接的に聞いたことのある人物であった。

あの時、暗躍者が魔力薬を飲む前に叫んだあの言葉。

魔女の耳にはそれが残っていた。


魔女「たぶんあの人よ、追跡者とかが飲んだ魔力薬を作った人は...」


女賢者「...みたいですね、あの時に近い魔力を感じます」


隊長「...なるほどな」


ウルフ「うぅ...怖い...」


帽子派の皆が過去の記憶を振り返っている間にも会話が進む。

話の主は魔王と魔王妃、そしてその息子の魔王子である。

側近はただ沈黙を貫く。


魔王「...さて、始めようとするか」


側近「承知いたしました」


そう言うと、側近は奥の扉へと戻っていってしまった。

なにかを準備するためだろうか、そして演説が始まる、魔王による言葉巧みな演説が。


魔王「...時に、諸君はこの世とは違う世界の存在を信じるか?」


まるでその言葉は、冗談を言っているようなモノだった。

どこか笑いが含まれているような、誰もが真に受けることはないだろう。

だがこの場にいる1人を除く6名はその発言に衝撃を受ける。


女騎士「...なんだと?」


女賢者「やっぱり...」


隊長「......」


言葉を漏らせたのはこの2人、あとの4人は沈黙することしかできなかった。

その一方で、完全に話に置いてかれてしまった女勇者。

彼女のみが魔王に質問をした。

865: 2018/12/22(土) 22:26:17.38 ID:GhBtLxBr0

女勇者「...どういうこと?」


魔王「よく耳にするだろう? 例えば氏者の国...天国」


魔王「そんなモノがあると思うか?」


女勇者「...わかりっこないさ、僕はまだ氏んでいないんだから」


魔王「それもそうだな...では実際に見てもらうか」


女勇者「...やる気?」


魔王「いや、この世の者ではない人物を連れてくる」


────ピクッ...!

その言葉を聞いて、眉が思わず動いてしまう。

この世の者ではない彼が、もうここにいる。


隊長「...」


魔女「なに...どういうこと?」


女賢者「キャプテンさんのことでしょうか...いや、話の感じとしては違うみたいですね」


ウルフ「...」


全くもって話が見えない。

ならば見守るしかない、魔王が連れてくるであろう人物を。

別の意味で緊迫した空気の中、先程の側近が大きな荷物をもって現れた。


側近「お連れ致しました」


魔王「ご苦労、では早速頼んだ」


側近「はい...後の事はよろしくお願いします」


魔王「...あぁ、この魔王に任せろ」


魔王妃「...しますよ?」


側近「えぇ、光栄です」


すると、大きな荷物に向かって詠唱を始める魔王妻。

そして側近はソレに手を触れさせている。

なにをしているのか全く理解できない現状。


魔王子「...いつまで待てばいい」


魔王「もう終わる、それよりも先程の話に戻そう」


女勇者「違う世界の人物だっけ...? どこにいるのさ」

866: 2018/12/22(土) 22:27:19.19 ID:GhBtLxBr0

魔女「後ろに居るわよ...」


女勇者「へ...?」


魔女「ごめんなんでもない、続けて」


魔王「...」


魔女がしびれを切らし、女勇者に思わず突っ込んでしまっていた。

その間に、魔王の視線はある男へと向けていた。

もうすでに気づかれている、彼しかない。


隊長「...なぜ俺を見ている」


魔王「いや...もしかして、貴様もか?」


隊長「そうだと言ったらどうなる」


魔王「どうにもならん、これ以上研究者のような人間の相手をするのは懲り懲りだ」


その偽名を聞いてもなお、腸煮えくり返る感覚が襲う。

もう既に間接的とはいえこの手で頃したというのに。

だがこれで明らかとなった、小声で皆にそれを伝える。


隊長「魔王が言っている、違う世界のことは...どうやら俺が元々いた世界のことみたいだな」


魔女「やっぱり...ってことはあれは転世魔法をやろうとしているってこと?」


女賢者「その可能性は大いにありますね...」


女騎士「...問題なのはその転世魔法とやらを誰が受けるかだな、あの様子だと側近みたいだが」


女騎士「側近がキャプテンの世界に向かったのなら...そっちの世界は大変なことになるぞ」


隊長「あぁ...そうだな」


魔王子「...ならば転世魔法が展開したのなら、そこに向かって走れ」


魔王子「あくまで仮説に過ぎないが...転地魔法と同じならその魔法の範囲内にいれば恩恵を受けれるはずだ」


隊長「...だが、それでは」


だがそれでは誰が帽子の願いを果たすのか。

他の誰でもない、彼がやらなければならない。

この場で自分1人だけ故郷に帰ることなどできるはずがない。

867: 2018/12/22(土) 22:29:21.20 ID:GhBtLxBr0

魔王子「...気持ちはわかる、友人の願いか、故郷を選ぶか...究極だな」


魔王子「だが...いま、彼の剣を誰が持っていると思うか?」


彼にしては意外な言葉であった。

魔王子の握る豪華な装飾のある、細い剣。

それを魅せられては、隊長は言いくるめられるしかなかった。


魔王子「この帽子とやらの忘れ形見、そしてその男の野望...」


魔王子「それは魔王を倒し、平和を掴みとること...それも人間と魔物の和平という意味でだ」


魔王子「...お前はこの俺に、この剣を託したのだろう?」


隊長「...あぁ、その通りだ」


隊長「目的はどうであれ、絶対的な力を持つお前になら...」


隊長「どこか、微かに帽子の理念に近いモノを持っていたお前に託した」


魔王子「...ならば、少しは信用して貰おうか」


信頼ではなく、信用という言葉を使う。

この場面において最も重要なのは、感情論ではない。

客観的な意見、魔王子の力なら魔王を討つことができるという第三者の視点であった。


魔王子「...俺がこの手で、必ず魔王を頃す」


魔王子「だから...キャプテン、貴様だけにしか出来ないことをしろ」


魔王子「悪いが、俺は地理には疎くてな...別世界に行ったら数年は散歩を費やすだろうな」


隊長「...お前は意外と、Jokeを言う奴だったな」


魔王子「じょーく?」


隊長「俺の世界の言葉で、冗談という意味だ」


女賢者「大丈夫ですよ、私がしっかりと...キャプテンさんの目の代わりとして...」


女賢者「平和になったこの世界を見据えますから...だからもし、転世魔法が発動したら行ってください」


隊長「女賢者...ありがとう」


女騎士「唐突だな...まさか魔王との戦いを前に別れの挨拶をするとは」


女騎士「...キャプテン、お前がいなければ今も私は囚われていたかもしれない」


女騎士「ありがとう...そして、元気でな?」


隊長「あぁ...」

868: 2018/12/22(土) 22:30:43.85 ID:GhBtLxBr0

女勇者「よくわかんないけど...お別れなんだね?」


女勇者「あんまり面識はないけれど...女騎士がすごくお世話になったみたいだね」


女勇者「また、どこかでね? 今度はゆっくりと君のことを聴かせてね?」


隊長「もちろんだ、その時は酒でも飲もう」


そして残るは2人、この世界で帽子と同じ位に大事な彼女ら。

唇を噛み締めてこちらを見ようとしない魔女、ソレに寄り添うウルフ。

別れの言葉は、彼から始めないと無理であった。


隊長「魔女...ウルフ...」


魔女「...突然すぎるよ」


ウルフ「...ご主人、いっちゃうの?」


隊長「あぁ...もしこの魔法が転世魔法なら、行く」


隊長「この世界も大事だが...俺の世界も大事だからな」


隊長「帽子の願いは...魔王子たちに頼むしかない...」


魔女「...私も帽子の願いとお姉ちゃんの村を天秤に掛けられたら、迷う」


魔女「でも...前者は魔王子たちが代わりに遂げてくれる...なら私は間違いなく後者を選ぶ」


隊長「あぁ...」


魔女「...また、会えるわよね?」


隊長「会えるさ...一度会えたのだから...な?」


魔女「...なにそれ、あなたらしくないわね」


隊長「だろうな...それほどに、俺も魔女との別れが厳しい」


魔女「...待っててね? 絶対私も、転世魔法を使えるようになるから」


隊長「あぁ、いつまでも...ずっと待っているぞ」


ウルフ「...がう」


その者たちの顔はとても悲しいモノであった。

しかしそれでいて、その目つきはとても希望的な色をしていた。

また会える、そう信じてやまない彼らのプラシーボが別れを麻痺させる。

869: 2018/12/22(土) 22:31:55.53 ID:GhBtLxBr0

魔王妃「────これで、いつでもいけますよ?」


魔王「ほう...ついに、念願が...」


女勇者「...どうやら準備が整ったみたいだな」


魔王子「...もう待たなくていいのか?」


魔王「あぁそうだ、この話で最後だ」


ついに状況が動く、先程まで唱えていた魔法がなにか判明する。

読み通りの転世魔法なのか、はたまた別の魔法なのか。

だがそれよりも1つ、気になるものがまだ残っている。


魔王「さて...単刀直入に言おう」


魔王「これより魔王軍...その先陣として我妻を選んだ」


魔王「侵攻する場所は...人間界ではなく別だ」


魔王子「...どこだ?」


魔王「..."異世界"だ」


隊長(...やはり、か)


アサルトライフルを握りしめる。

いつでも走ることができるように身体を準備させる。

あとは魔王の妻が唱えていた魔法が、どこに展開するのかを見定めなければならない。


隊長(どこだ...どこにくる...)


魔王子「...なんのために、世界を跨ぐつもりだ?」


魔王「それは言わん、作戦内容を敵に漏らすと思うか?」


魔王子「...チッ」


魔王「ところで...先程、別世界の人物を連れてくると言ったな」


女勇者「...そういえば嘘をつかれてたね、どこに連れてきていないじゃないか」


魔王「本当に、そう思うか?」


────ピクッ!

この擬音は、あらゆる方向から聞こえた。

1つは隊長が何かに気がついた時の音、1つは嘘をつかれていなかったことに反応した音。

そして最後の1つ、それは側近が持ってきた大きな荷物。

870: 2018/12/22(土) 22:32:43.03 ID:GhBtLxBr0

女騎士「...今、動かなかったか?」


その大きな荷物は、表現するならばとても丸い物体であった。

しかしソレをよく見てみると、薄い橙色をしている。

さらによく見てみると、目が合う。


隊長「────コイツは...ッ!?」


女賢者「うっ...これ...人じゃないですかっ!?」


魔女「えっ...!?」


四肢をもがれて、肥えさせられた。

そのような表現でしか形容できない人物がそこにいた。

だがそれだけれはない、隊長が驚愕したのは別の理由があった。


魔王「...まさかそこの男、顔見知りか?」


隊長「コイツは...俺と一緒に吹き飛ばされた奴じゃないかッ!?」


どんなに風貌が変わろうと、決してその面持ちを忘れることはない。

犯罪者は逃走するために整形すらする、それを逃さないように訓練させられた記憶力。

その記憶力が、彼だった者の身元を判明させる。


魔王子「...どういうことだ?」


隊長「...説明を端折るぞ、俺は向こうの世界で爆発に巻き込まれ、意識が飛んでいる間にこの世界に居た」


隊長「だが...巻き込まれたのは俺の他にもう1人いた...それが奴だ」


隊長「まさか...まさかコイツも一緒にこの世界に来ていたのか...盲点だったぞ...」


魔王「何たる偶然だな、だが話はこれでおしまいだ」


足早と話を遮る、この話題の振りは魔王当人であるというのに。

だが魔王子たち及び、特に隊長は先程の出来事に動揺を隠せずにいた。

つまりは完全に不意をつかれている。

871: 2018/12/22(土) 22:33:17.42 ID:GhBtLxBr0










「────"転世魔法"」










872: 2018/12/22(土) 22:36:04.46 ID:GhBtLxBr0

魔王妃が魔法を唱えた時、ある不可思議な現象が起きていた。

魔法の展開場所は側近と異世界の犯罪者、彼ら2人が消えた代わりにそこには何かが展開していた。

認識的には見えているというのに、どう目を凝らしても不可視であった。


女賢者「────キャプテンさんっ! 早く行ってっっ!!」


女騎士「魔王妃もいないぞっ! 急げっっ!!」


隊長「────ッッ!」


偶然の再開を強いられれば、誰もが足を止めるであろう。

いくら特殊部隊での過酷な訓練を終えて来た彼でも、それは変わりなかった。

完全に出遅れてしまった、おそらくもう魔王妃たちは異世界へと旅立った。


隊長「──クソッ!」ダッ


魔王「────行かせると思うか?」


────■■■■...ッッッ!

見間違えではなければ、魔王は翼を生やしてこちらに接近してきていた。

邪悪な黒の魔法を纏いながら、走り出す隊長の眼の前に。

しかしその後ろからは、まばゆい光たちが援護する。


魔王子「──行けッ! 母様を止めろッッ!」


女勇者「────急いでっ! 帰れなくなっちゃうよっっ!?」


────□□ッッ!

────□□□□□ッッッッ!!

闇に臆せずに、見えないなにかに向かって激走をする。

光の抜刀剣気と光の魔法が彼を援護した結果、魔王が少しだけ隊長を捕捉しそこねた。

わずか1秒、だがその時間がこの場面では非常に有効的であった。

873: 2018/12/22(土) 22:37:18.76 ID:GhBtLxBr0

隊長「I KNOWッッ! TRYINGッッッ!!」


気の所為でなければ魔法が閉じようとしている、なぜわかるというのか。

それは彼の感情が昂ぶっているからであった。

魔力に目覚めているもう1人の彼が、魔力の感知能力を与えていた。


ドッペル「──急げ、閉じるぞ...俺にお前の世界を直に見せろ...」


隊長「────SHUT UP ASSHOLEッッッッ!!」


力が漲る、身体に何かを注入された感覚がする。

痛みはないので闇魔法に類するものではないのはすぐにわかった。

感じる箇所は足、いつもより早く走れるような気がする、ドッペルゲンガーが提供したのは魔力であった。

魔力で一時的に隊長の脚力を強化し、走行速度を上昇させていた。


隊長(駄目だ...間に合わない...ッ!?)


どう見積もっても、わずかに届かない。

もうその魔法は閉まりかけであることがわかっていた。

あと少し、ほんのあと少しで届くというのに、誰かが背中を押してくれるだけでそれは叶う。


隊長「────ッ!」


────ドンッ...!

誰かが背中を押してくれた。

全力以上で走る彼に追いつける者は1人しかいない。

その者は、さらにもう1人を連れて。


ウルフ「──まにあったよっ!」


魔女「────ごめんね、ついてきちゃった」


~~~~

875: 2018/12/23(日) 22:05:51.22 ID:mK23oEQG0

~~~~


隊長「...」


そして気づけば、周りの景色は一変していた。

この聞き慣れたドライブの音、この見慣れたビルの明かり。

この嗅ぎなれた排気ガスと人混みの匂い。


魔女「うぅ...な、ここは...?」


ウルフ「...なんか変なにおい」


隊長「...America、俺の...世界だ」


隊長「帰ってきた...帰ってこれたんだ...やっと...」


心の底からようやく落ち着けた、長かった、長過ぎる冒険はついに終わる。

だがまだやることはある、安著をしたつかの間、行動に移ろうとする。

まずは2人に問わねばならないことがある。


隊長「...ありがとう、2人がいなければ絶対に間に合わなかった」


ウルフ「...えへへ」


魔女「...どういたしまして」


隊長「そして...すまない...」


助けてもらった、彼女らがいなければ隊長は戻れなかった。

だがその一方でもう二度とあの世界へも戻れない。

あちらの世界の住民を2人も連れてきてしまった、その重すぎる事実に謝罪の言葉しか口にだせなかった。


ウルフ「...だいじょうぶ、スライムちゃんたちぐらいしかともだちいなかったから」


ウルフ「でも...魔女ちゃんは...」


隊長「...すまない」


魔女「...そうね、でも覚悟してあなたの背中を押したんだから...後悔はないわ」


魔女「もう二度と、お姉ちゃんと会えないかもしれないけど...大丈夫」


魔女「...あなたが居てくれれば、大丈夫よ」


隊長「...ありがとう」

876: 2018/12/23(日) 22:07:44.60 ID:mK23oEQG0

魔女「まぁ、この話は置いておいて...それよりも魔王妃を探さないと」


魔女「魔王の妻なだけあって、相当な実力があるのは間違いないわよね?」


隊長「恐らくそうだが...それは後回しにするぞ」


魔女「大丈夫なの...? 見つけられなかったらどうするの?」


隊長「...この世界はほぼ監視社会だ、なにか問題が起きればすぐわかるようになっている」


魔王妃が魔法を唱え都市を破壊しようとするならば。

まずはマスコミが動くことは間違いない、ならば捕捉は難しくはない。

ならば先にやるべきことは目標の発見ではなく根回しであった。


隊長「まずは格好をなんとかしよう、この世界の街なかでこの武器を持ってたらかなり注目される」


隊長「それとお前らの服装...魔女はともかくウルフ、その耳と尻尾を隠さないとならない」


隊長「この世界には魔物はいない...獣の耳をつけた人間がいれば、それも注目されてしまう」


魔女「...なんか、私たちの世界とは大違いね」


隊長「まずは応援を呼ぶ...そいつに服を持ってきてもらう」ピッ


耳につけたインカムを起動する。

これで部隊への通信が可能、人手を増やすことができる。

だがそう簡単に物事を運べるわけがなかった。


隊長「...」


──ザーッ...

そこから聞こえるのは、ノイズだけであった。

当然だった、いままで魔法による激しい戦闘と遭遇してばかりであった。

何度も闇にも包まれた時もあった、軍用とはいっても闇魔法に対しての耐久など持っているわけがない。


魔女「...どうしたの?」


隊長「いや...俺の耳につけているこの機械は...遠く離れた人物と会話ができるモノなんだが」


隊長「壊れているみたいだ...」ピッ


仕方なく起動したインカムのスイッチを切る。

だがそもそもの話、いまになって生まれた疑問が彼を横切る。

この居心地の良さは間違いなくアメリカ、だがその国のどこに自分がいるのか。

877: 2018/12/23(日) 22:09:20.67 ID:mK23oEQG0

隊長「...そういえばここは裏路地か」


ウルフ「ご主人っ! 夕方なのにあっちはすごい明るいよ?」


隊長「...少し、俺のこの武器を持っていてくれ、これは目立ちすぎる」スッ


ウルフ「わかったよっ!」


アサルトライフルをウルフに預け、裏路地を抜けていく。

この格好ならギリギリ通報はされないだろう、ハンドガンさえ見つからなければ。

周りを用心しながらも、裏路地から少しだけ身を乗り出した。


隊長「...」


いつもみたあの光景、どの国のテレビでもここの絵面を撮る。

懐かしくも、その一方でこの名所が魔法による戦火が降る可能性があると思うと。

言葉を発したい衝動を飲み込み、魔女たちへの元に戻った。


魔女「...どうだった?」


隊長「あぁ...幸いにも俺の自宅が比較的近くにある...まずはそこにいくぞ」


魔女「へぇ...キャプテンの家かぁ...」


ウルフ「...ちょっと楽しみかも!」


魔女「で、どうやって家に向かうの?」


隊長「...魔女に頼み事がある」


魔女「...へ? 私?」


隊長「あぁ、魔女の格好なら...ギリギリ目立たないだろう」


魔女「な、なにをすればいいの...?」


隊長「...この裏路地を抜けて、黄色い車を呼び止めてくれ」


魔女「く、車ってなに?」


隊長「箱状の乗り物だ、列車が小さくなったモノと捉えてくれ」


魔女「...まさか、1人で行って来いってこと?」


隊長「...すまん、ウルフは意外と露出度が高い...そして俺は見つかれば捕まる可能性がある」


隊長「捕まっても身分を証明すれば釈放されるが...それはヘタしたら数日かかる」


隊長「...頼んだぞ?」


ウルフ「がんばって魔女ちゃんっ!」

878: 2018/12/23(日) 22:10:52.12 ID:mK23oEQG0

魔女「ちょっとまって...すごい不安なんだけど...絡まれたらどうすればいいの!?」


隊長「いいか? なんか言われたら...Trick or Treatと言え、これでギリギリなんとかなる」


魔女「と、とりっくおあとりーと...?」


隊長「季節外れだがこれを言えば...ギリギリ頭のおかしな子ぐらいに思われるだけで捕まりはしない」


魔女「わ、わかった...やるしかないのよね?」


隊長「あぁ...それで、黄色い車を呼び止めたら、3つ指を立てろ」


魔女「それは...3人いますよってこと?」


隊長「そうだ、そして車を動かす人物...運転手が扉を開けたら俺とウルフは走ってそこに乗り込む」


隊長「多少は目立つが...乗ってしまえばこの武器が周りの人物の目に入ることはない」


隊長「...一番穏便にことを進める方法はこれしかない」


魔女「...やってみるしかないわね」


隊長「裏路地を抜けて、黄色い車...Taxiって言うんだが...それが無かったら道路のすぐ横で手を上げろ」


隊長「それでTaxiが近寄ってくるはずだ」


魔女「...わかったわ、なにかあったらとりっくおあとりーとね?」


隊長「頑張れ...魔女ならできる」


ウルフ「がう」


魔女「とりっくおあとりーと...とりっくおあとりーと...」


まるで詠唱のように、自分の精神を落ち着かせる魔法のようにつぶやく。

お菓子をくれなきゃイタズラするぞ、そのような意味が込められているとは知らずに。

裏路地を抜けると歩道にたどり着く、目的の道路はもう少しだ。


市民A「Wow」チラッ


市民B「...halloween?」ジー


魔女(うぅ...なんか視線がキツイ...)


魔女(というか寒い...雪積もってるじゃない...)


通行人に怪訝な顔つきをされる。

ハロウィーンみたいなこの格好、とても真冬にするものではない。

しかしその冷たい目線をも忘れさせる光景が広がる。

879: 2018/12/23(日) 22:12:36.60 ID:mK23oEQG0

魔女(...なんか、キレイ)


魔女(自然が見せてくれるヤツじゃなくて...なんというか...幻想的ね)


それはむしろ魔女の世界の方だというのに。

今まで見たことのないネオンの光、超高層の建物。

車という未曾有の乗り物、そしてこの都を彷彿とさせる人混み。

彼女からしたらこの摩天楼がとても幻想的に見えていた。


魔女(...今度ゆっくり、キャプテンに案内してもらいましょ)


魔女(って...眼の前にある黄色のヤツ...これがたくしーかしら?)


偶然にも、裏路地の出口近くにそれは泊まっていた。

まだ確証はない、近寄って確かめればならない。

魔女がある程度近寄ると、扉が勝手に開き始めた。


魔女「──うわっ!?」ビクッ


運転手「Welcome?」


魔女「あ、う...」


魔女(びっくりした...でも聞かなきゃ...)


魔女「た、たくしー?」


運転手「...Yes」


少しばかり怪訝そうな表情で頷かれた。

そのイエスという意味はわからないが、身体の動きで理解できた。

運転手もたまに英語のできない観光客相手に商売している、完璧な対応であった。


魔女「やたっ...!」スッ


目標を達成できた、ならば次にする動作を行う。

指を3本立てる、これで伝わるはずだ。


運転手「Okay...Three people?」スッ


英語が話せないと察すると、運転手も指を3つ立ててくれた。

その人としての暖かい心遣いに魔女は軽く涙する。

自分の知らない世界、だけど意思疎通は問題なくできることに。


魔女「ま、まっててくださいっ!」


ついには異世界語、この世界で言う日本語を話してしまう。

だがそこにジェスチャーを加えていた、両手の平を運転手に見せる。

880: 2018/12/23(日) 22:14:33.77 ID:mK23oEQG0

運転手「Okay Okay...I will be waiting for you」


魔女が離れていくのを確認して、運転手はドリンクホルダーに入れていたコーヒーを飲む。

あの様子からしてしばらく時間がかかると踏んだ彼は今のうちに眠気を払っていた。

だがそれは無為に終わる、すぐに目が覚める光景を拝む。


隊長「────ッッ、 I'm begging youッ!」スッ


やや大きな声で叫んだのは、彼の住むマンションの名前。

この男はまるで軍人のような格好をしている、その横には白い髪の女の子。

そして助手席には先程の魔女っぽい子が座る、3人が突如として乗車したのでタクシーは揺れた。


運転手「O...Okay...」


隊長(発車したか...銃は見られてないな、とっさに足元に隠したのがバレずに済んでよかった)


ウルフ「うわぁ~、すごいっ! 走らなくても動くっ!」


魔女「いいわね、車...これは楽ね」


隊長「...俺の家にもあるから今度乗せてやる」


魔女「本当っ!? やったっ!」


隊長(...つかの間の、平穏だな)


何度も感じたことのある、車に乗るという感覚。

いまはそれを一度も感じたことのない2人がここにいる。

その微笑ましさが彼の心を非常に癒やしていた。


ウルフ「ご主人っ! あれなに?」


隊長「ん? あぁ...あれは博物館だ」


ウルフ「はくぶつかん?」


隊長「そうだ、あそこは確か...この世界の古い生き物の化石などが展示されてるはずだ」


ウルフ「そうなんだ...すごいねっ!」


隊長「...事が終わったら、観光案内してやるからな」


ウルフ「うんっ!」

881: 2018/12/23(日) 22:16:42.16 ID:mK23oEQG0

魔女「目新しいモノがありすぎて、楽しいわね」


隊長「...俺も、魔女たちの世界に来たときはそうだった」


隊長「美しい自然風景、魔法、そして魔物...どれも初めて見た」


魔女「ふふ...そうだったわね」


他愛のない雑談、久々な緊張しなくていい状況。

3人の肩の力は抜けており、完全にリラックスをしている。

そしてその中数分、車の動きが止まった。


運転手「Just arrived」


隊長「Thanks...Please wait for me...Bring my wallet」


運転手「Sure」


魔女「なんて言ったの?」


隊長「俺の家についたからここでTaxiの出番は終わった」


隊長「ここまで送ってくれた分の通貨を払わなければならないんだが...俺は今手持ちを持っていない」


隊長「だから、家にある財布を持ってくるまでここで待っててくれと言った...魔女たちも少し待っててくれ」


そう言い残すと、彼は武器を隠すようにウルフに持たせた。

そして建物の入り口へと颯爽と向かっていった。


魔女「...この世界で暮らすには、さっきの言語を覚える必要があるわね」


ウルフ「うぅ...むずかしそう...」


魔女「そうね...けど、なにからなにまでキャプテンに頼むのも良くないのよ?」


ウルフ「...そうだね」


魔女「...あら、もう戻ってきた」


大きめなカバンと、手に財布をもってこちらへと走ってきた。

そそくさとそのカバンに武器をしまい、運賃を支払う。

2回に分けて払った通貨を見て、魔女は不思議に思った。

882: 2018/12/23(日) 22:18:11.26 ID:mK23oEQG0

魔女「なんで1回にまとめなかったの?」


隊長「この世界...いや、この国にはそういう仕組があるんだ」


隊長「1回目に払ったのはここまでの走行距離に見合った金だ」


隊長「2回目は運転手に対しての...まぁオマケみたいなもんだ」


魔女「へぇ~...文化の違いね」


隊長「まぁとにかく上がってくれ、少しゆっくりしよう」


建物の入り口を潜ると、そこに待ち受けていたのは。

見慣れぬ光景に、いちいち質問をしたくてたまらない。

先陣を切ったのはウルフだった。


ウルフ「これは?」


隊長「Elevatorだ...吊り下がった箱に人が入り、滑車の要領で上下に移動する機械だ」


魔女「すごい技術力ね...私の世界とは大違い」


隊長「そのかわり俺の世界では魔法のマの字もないからな」


3人がエレベーターの中に入る。

そして隊長は先程自分が口にしたある単語について質問をする。


隊長「...そういえば、今は魔法を使えるのか?」


魔女「うん? たぶん使えるわよ」


隊長「...錬金術は?」


魔女「問題ないと思うけど...どうしたの?」


隊長「...間違っても、特に錬金術は人前で使うな」


隊長「この世界じゃ金はかなり貴重だ、それを得るために頃しをする奴もいるぐらいだ」


魔女「げぇ...気をつけるわね...って、えれべーたー止まった?」


隊長「あぁ、目的の階についたからな...行くぞ」


長らくしまっていた家の鍵を、再度取り出す。

先程は大慌てで思い返す暇はなかったが、今度ばかりは違う。

何週間ぶりの我が家、ようやく真の意味で心を落ち着かせることのできる場所。

883: 2018/12/23(日) 22:20:18.96 ID:mK23oEQG0

隊長「...ふぅ、やっとここに帰ってこれたか」


魔女「...おかえり、ね」


ウルフ「おかえりっ!」


隊長「あぁ...ただいま」


隊長(このマンションに住んで数十年、初めてただいまという意味のある言葉を言った...)


その疲れ果てた足取りで部屋の中へと向かう。

まず最初に行ったのは、リモコンを取り出すことだった。


隊長「...」ピッ


ウルフ「──うわっ! 箱が光ったっ!」


隊長「まず...状況を軽く整理しよう」


隊長「そこのSofa...椅子に座ってくれ」


魔女「うん...って、ふかふかね」


ウルフ「ふかふかっ!」


隊長「ありがとう、その椅子は結構お気に入りなんだ...で、軽く説明しよう」


隊長「まず今つけた箱...これはテレビと言うモノだ」


隊長「これは...情報を随時教えてくれる機械と思ってくれていい」


魔女「...あぁ、さっき言ってた監視社会ってこういうこと?」


隊長「そうだ、なにか事件が起きたら間違いなくこのテレビが反応する」


隊長「もし魔王妃が動いたとしたら、探さないでいてもこのテレビを見てたらすぐに場所がわかる」


隊長「だからしばらくの間、このテレビを代わり番こで見張るぞ」


隊長「この世界は広すぎる、魔王妃が動かない限り探すのは相当骨が折れるからな」


魔女「でも...魔王妃が動いてからじゃ遅いんじゃ...?」


隊長「この国のPolice...警備は優秀だ、危機的状況をすぐに対応してくれる」


隊長「多少の怪我人はでるかもしれないが...氏傷者はでないはずだ...そう願う」


魔女「...わかったわ、まぁ私も知らない世界で人探しなんてできるとは思ってなかったしね」


隊長「ひとまずは休みながら待とう...みんなボロボロだからな」


治癒魔法で身体を治したところで、精神的疲労はどうしようもならない。

一度豪快に睡眠を取りたい、誰もがそう思っている。

そんな叶わぬ夢を思いながら、彼は冷蔵庫から缶を3つ取り出す。

884: 2018/12/23(日) 22:21:52.60 ID:mK23oEQG0

隊長「...久々に飲むな」


──ぷしゅっ...!

その弾ける空気の音に続くのは、爽やかな香り。

缶の蓋から見える黒い液体、間違いなく精神を癒やしてくれるであろう代物。


隊長「ほら、これでも飲め」スッ


ウルフ「うわっ!? なにこれなにこれっ!?」


魔女「うん...炭酸水? お酒?」


隊長「前者だな、酒ではない」


魔女「ふーん...いただきます」ゴクッ


魔女「...これ、病みつきになりそうね」


ウルフ「すごいしゅわしゅわしてる」


隊長「この世界で一番有名な飲み物だ、酒よりも人気かもしれん」


黒い飲み物に魅了されかけている彼女ら。

その間にも彼はコートを取り出し、出かける支度をする。

これならこのミリタリーな格好を誤魔化すことができるだろう。


隊長「俺はこれから仕事場に向かう、無事の報告と魔王妃のことについて話してくる」


隊長「魔女とウルフはここで休んでろ、誰か訪ねてきても出迎えなくていい」


魔女「...いや、待って」


魔女「私がウルフ、どちらかを連れて行くことをオススメするわ」


隊長「...なぜだ?」


魔女「いきなり魔法のことを言っても、信用してもらえないと思う...」


魔女「なら...私が行くならそこで魔法を唱えるし、ウルフが行くなら尻尾を見せれば説得力が生まれるわ」


隊長「確かにそうだが...休まなくて大丈夫か?」


魔女「私は大丈夫よ」


ウルフ「まだまだ元気だよっ!」


隊長「...そうか、ではどちらを連れて行くか」


長らく考える、どちらのほうが魔法に関しての説得力を持っているのか。

そしてもう1つの要素、どちらに留守番を任せられるか。

特に後者が決め手となった。

885: 2018/12/23(日) 22:23:22.55 ID:mK23oEQG0

隊長「ウルフ、ついてきてくれるか?」


ウルフ「がうっ!」


魔女「私はお留守番ね、本でも読んで待ってるわ」


隊長「あぁ...すまん、俺の家にある本は全部この国の言語...Englishという言語のモノしかないぞ」


魔女「あ、そうか...あっ、でも1つ持ってきた本があったわ」


隊長「そうなのか、悪いがソレで時間を潰していてくれ」


隊長「もし、テレビで魔王妃に関する情報が出たら────」


魔女に電話という仕組みをある程度説明する。

これで自分自身の携帯電話に連絡を入れることができるだろう。

問題はその携帯電話も仕事場のロッカーに入れてある、一刻も早く行かねばならない。


魔女「これお菓子? ちょっと貰うわよ」


隊長「あぁいいぞ...ウルフ、ちょっとこい」


ウルフ「なあに?」


隊長「このニット帽と...ちょっと大きいし似合わないかもしれないが...俺の服を着ろ」


取り出したのはジーンズとジャケット、そしてコート。

どちらも大柄な男物である、当然ウルフにはブカブカであった。

だがこれで、ウルフの耳と尻尾を隠すことができる。


ウルフ「...ご主人のにおいがする」


隊長「...臭くないか?」


ウルフ「ううん、いいにおいだよ?」


隊長「そ、そうか...照れるからあんまり嗅がないでくれよな」


ウルフ「すんすん...」


魔女「...ちょっと羨ましい」ボソッ


隊長「しかし参ったな...その白い髪はどうしようもないな」


魔女「目立つのかしら、あっちの世界じゃ髪の色なんて彩り鮮やかだったけど」


隊長「そういえばそうだったな...まぁこの世界じゃ黒か金か茶色ぐらいが基本だな」


隊長「その他の色は基本的に目立つ」


魔女「ふーん...そうなのね」

886: 2018/12/23(日) 22:24:55.21 ID:mK23oEQG0

隊長「まぁ...とりあえず行ってくる」


魔女「はーい、行ってらっしゃい、気をつけてね?」


隊長「お、おう」


魔女「どしたの?」


隊長「いや...そう言われるのは本当に久しかったからな...行ってきます」


ウルフ「行ってきます!」


隊長「ウルフ、俺の使ってない靴を履け」


ウルフ「はいっ!」


隊長(...独身時代が長すぎた...こんなにも暖かいモノだったんだな)


物思いにふけながらも玄関を開け、片手間に扉の鍵を閉める。

コートは上半身を隠すだけ、ボトムスは仕事着とミリタリーブーツ。

アサルトライフルもハンドガンも、ナイフ等の武器はすべて背負っているカバンに入れている。

これで見た目は一般的な服装に仕上がっている、通報される可能性は低いだろう。


ウルフ「いままで毛皮しかなかったから、服って変なかんじするよ」


ウルフ「そういえば靴も...初めてはいたらから歩きづらい...」


隊長「悪いな、この世界で暮らすにはソレに慣れてもらうしかない」


ウルフ「わかったっ!」


隊長「さて...とりあえずTaxiを呼ぶか」


エレベーターから降り、マンションの入口から外へ向かう。

すると淡く雪がちらつく、その光景に犬ははしゃぐ。

その様子を眺める彼の目はとても優しいモノであった。


ウルフ「ご主人! 雪っ! 雪っ!」


隊長「あんまり走るなよ、靴に慣れていないんだから転ぶぞ」


ウルフ「へっへっへっ...」


隊長「...完全に犬だな」


隊長「まぁいいか...確か公衆電話が近くにあったはず...」


隊長「ウルフ行くぞ、迷子になるなよ」


ウルフ「はいっ!」

887: 2018/12/23(日) 22:26:48.63 ID:mK23oEQG0

隊長(...雪か、そういえばあっちの世界で始めてみた光景は紅葉だったな)


隊長(季節感のギャップに驚いたものだ)


過去の記憶を振り返りながらも、近場の公衆電話でTaxiを呼ぶ。

待っている間にもウルフは隊長の視界の範囲内ではしゃぎまくる。

今はまだ昼間、雪が降る天気が相まってやや暗い、それでも彼にはこの光景が眩しかった。


隊長(...俺に娘がいたならこのような感じなのか)


隊長(おとなしい子よりは、ウルフみたいに元気な子のほうが嬉しいな)


隊長「...って何を考えているんだ俺は」


ウルフ「どうしたの?」


隊長「いや、なんでもない...っと、迎えが来たようだ」


そうこうしている間にも黄色い車両は到着した。

2人は後部座席に乗り込み、隊長は仕事場の住所を運転手に伝える。

そして、もう一言を添える。


隊長「Turn on a radio」


運転手A「Sure」


ウルフ「なんだって?」


隊長「情報を教えてくれる...音声を聞かせてくれと言った」


隊長「いつ、なにが起こるかわからない現状だからな」


ウルフ「そっかっ!」


隊長「と言っても、いま聞いている分には特に重要そうな情報が流れてないみたいだ」


流れてくる情報は、エンターテイメント性の強いモノや交通情報。

そしてどこかの州で馬鹿がアホなことをしている、ユーモアたっぷりのラジオでもあった。

久々に聞くそのラジオは、隊長を安らがせていた。


ウルフ「...なんて言ってるかわからない」


隊長「ん...今はCM...宣伝の情報が流れてるな」


隊長「ここから近くにチョコの店ができたらしい」


ウルフ「ちょこ?」

888: 2018/12/23(日) 22:27:47.22 ID:mK23oEQG0

隊長「...そういえば、ウルフは犬なのにチョコが好きだったな」


隊長「ほら、出会ったばかりの頃に食べた、あの甘い奴だ」


ウルフ「あれかっ! うんっ! だいすきだよっ!」


隊長「今度連れて行ってやる、聴く限りここのは飲むチョコが謳い文句らしい」


ウルフ「飲めるんだっ! すごいねっ!」


隊長「はは、そうだな...?」ピクッ


些細なことだった、なにか違和感を覚える。

気の所為でなければ車が止まっている、赤信号にしては随分と長い。


隊長「...What's up?」


運転手A「I...I don't know...」


ウルフ「どうしたの?」


隊長「いや...どうやら道が混んでいて進めないらしい」


隊長「あそこを見ろ、あの光...青色だろ?」


ウルフ「うん」


隊長「あれは進んで良しという合図なんだが...誰も動こうとしない...というより動けてない」


隊長「道が混みすぎている、事故でもあったのか...?」


隊長(...先程交通情報に関する情報も流れていたが、こんなことは言ってなかったぞ)


隊長「...仕方ない、ここから歩いて30分はかかるが降りるか」


ウルフ「わかったっ!」


隊長「stop here」


財布を取り出し、料金を支払う。

運転手もそのことに納得はしているものの、このような大渋滞に困惑している。

事故でも起きない限り、このようなことは起きないはずなのに。


隊長「...ウルフ、手をつなげ...この先は混みそうだ」


ウルフ「えへへ、はいっ!」ギュッ


隊長「...にしてもおかしい、まさか魔王妃の仕業か?」

889: 2018/12/23(日) 22:28:30.17 ID:mK23oEQG0










「────EEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEKッッッ!」










890: 2018/12/23(日) 22:30:26.28 ID:mK23oEQG0

それは悲鳴を意味する言葉であった。

嫌な予想を口にした途端聞こえたそのスクリーム。

握りしめた手を引き、途端に足を動かした。


隊長「──行くぞッ!」ダッ


ウルフ「──うんっ!」ダッ


悲鳴を聞いた渋滞の主たちが下車し、様子を確かめようと背伸びをしている。

銃声は響いていない、少なくともテ口リストや乱射事件によるモノではない。

いやな予感がする、一度足をとめ近くにいた人物に声を掛ける。


隊長「Can I borrow your phone?」


とても丁寧な言い回し、しかしその声色はかなり迫真。

この声をいつも聞いているのは犯罪者、それも尋問をしている時のモノだ。

それを聞かされた一般人は貸すしかなかった。


市民C「Y...Yep...」スッ


隊長「Much appreciated...」


借りたモノの画面をすぐさまにタッチする。

そして呼び出し先は自宅、扱い方は教えた、出てくれるのを待つだけだった。


魔女≪...キャ、キャプテン?≫


隊長「俺だ、なにかテレビに動きはあったか?」


魔女≪...あったわよ、魔王妃が映ってる≫


隊長「やっぱりか...で、どういう状況だ?」


魔女≪ええと、映ってるだけで動きはないみたい...どうやら空中に浮遊しているのが不思議みたいな映し方してる≫


隊長「...この世界にとってはそれは超常現象すぎる、どこにいるかわかるか?」


魔女≪えーっと...なんか巨大な像が後ろに見えるわね、これでわかる?≫


隊長「十分だ、じゃあまたあとでな」


魔女≪待って、私も行くわ...ウルフの魔力を感知して向かうから絶対に離れないで≫


隊長「...わかった、鍵と戸締まりを頼む、鍵は玄関の靴箱にもう1つあるからな」


魔女≪わかったわ、じゃあね...ってこれどうすればいいんだっけ?≫


隊長「受話器...手に持ってるヤツを元の位置に戻せばいい」


魔女≪こう?≫ブチッ

891: 2018/12/23(日) 22:31:54.16 ID:mK23oEQG0

隊長「...切れたか、よしウルフ行くぞ」


ウルフ「がうっ!」


隊長「...I owe you one」


市民C「Y...You're welcome...」


隊長「さて...」


携帯電話を持ち主に返すと、行き先を再確認する。

どこの道をどういけば早いか、どうすればあの自由な名所にたどり着けるか。

それとも先に悲鳴の原因を調べるか。


隊長「...まずは先に、このまま進むぞ」


ウルフ「わかったっ!」


悲鳴を聞いたおかげか、人混みはパニック寸前。

停泊している車や人々を丁寧に押しのけ、前に進む。

そして新たな悲鳴が発生する、それも連鎖的に。


隊長「...なにが起きているんだ」


ウルフ「...っ!」ピクッ


先に気がついたのはウルフ。

彼女の持つ嗅覚が何かを捉えた。

香る、ドロドロとした熱い匂い、アレしかなかった。


ウルフ「...血の匂い」


隊長「──ッ」スチャ


その言葉を耳にすると、彼はカバンから武器を取り出す。

向こうの世界でも大いに役立った、現代兵器。

アサルトライフルを握りしめた。


隊長「Get out of my wayッ!」スチャ


どけ、強い口調でありその手に持つ武器が人混みを割る。

そしてついに先頭にたどり着く、そこにあるのはパニックの一言。

彼の武器を見たからではない、その現場を見たからであった。


隊長「──これは」


ウルフ「ぐっ...血なまぐさい...」


紅く染まった道路、そこに横たわるのは冷たい男性。

そしてその近くに鎮座するのは犯人、このような光景は映画でしかみたことがなかった。

そしてこの状況を理解してしまった一般人がこう叫ぶ。

892: 2018/12/23(日) 22:32:36.62 ID:mK23oEQG0










「ZOMBIE────ッ!?」










893: 2018/12/23(日) 22:33:31.83 ID:mK23oEQG0

ゾンビという掛け声、そしてその現場を見たものは狂乱するしかなかった。

非現実的なことが起きてしまった、彼らにはその耐性など皆無。

しかし彼らは違う、このような生物を何度も見てきた。


隊長「...数十体はいるな」


ウルフ「がるるるる...」


隊長「ウルフ、近接格闘は控えろ、噛まれるとなにがおこるかわからん」


ウルフ「がう」


隊長「だからこれを使え、使い方は覚えているか?」スッ


そういってカバンから取り出したエモノを手渡す。

すると彼女は返答する、言葉もかわさずに。


ウルフ「────っ!」スチャ


──ダンッ!

その圧倒的な野生のセンスが素人同然の射撃精度を高めていた。

響いた銃声はゾンビの頭にぶち当たる。


ウルフ「覚えてるよ、ご主人っ!」


隊長「そのまま頭を狙え...」


隊長「────EVERYBODY DOWN GROUNDッッ!」


銃声が、ゾンビの衝撃よりも勝る。

この国がどれだけ銃に親しみを持たれているかが伺える。

逃げ惑うよりも伏せたほうがいい、銃声が聞こえたならばここの国民はそうする。

894: 2018/12/23(日) 22:35:05.03 ID:mK23oEQG0

隊長(...よし、一般市民のほとんどが伏せて動かなくなった、これで誤射する可能性が減った)


隊長「──STAY DOWNッ! KISS THE GROUNDッ!」スチャ


──ババッ バババッ!

そして、長年の撓ものである射撃精度。

誤射などありえない、跳弾も起こりえないその技術力。

動きの鈍いゾンビなど相手ではなかった。


隊長「...Zombies down」


数十体はいたゾンビたちは、跡形もなく駆除された。

いずれも頭部を破壊されている、定番の弱点であるはず。


隊長「動く気配はないな...先に進むぞ」


ウルフ「うんっ!」


隊長「こいつらの厄介なところは数だ、囲まれないように動くように」


ウルフ「わかったっ!」


隊長(...氏者が出てしまったか、だがこちらが事前に対処のために動くことはできなかった)


隊長(胸糞が悪い...どうしようもない出来事と割り切るしかない...クソッタレ)


無残にも食い散らかされた男性を目線で弔う。

銃声が鳴り止んだのが影響してか、次第に周りの一般人たちは面を上げる。

こうなってしまったのなら、いまさら目立たないようにしても無駄。


隊長「...急ぐぞ」


ウルフ「うんっ!」


誰かがSNSにアップをする前に、姿を暗ます。

自分だけならともかく、国籍もない不法滞在者に順するウルフを注目させるわけにはいかない。

魔王妃の動向も気になる、急いで自由なあの場所へと徒歩で向かう。


~~~~

895: 2018/12/23(日) 22:36:44.75 ID:mK23oEQG0

~~~~


???「...どうなっていやがる」


場面は切り替わり、同じくアメリカのどこか。

その者たちの格好は異世界を旅した彼と似た姿であった。

なにかが原因だろうか、少し痩せてしまった人物がその英語でのつぶやきに反応する。


隊員「...間違いない、Zombieだ」


隊員、あの隊長が一目を置く人材。

日本のコミックブックスを仕事場に持ち込むほどの傾奇者。

萌えに悶える男、しかしあの時のような余裕は彼にはなかった。


隊員A「えぇ...まさか本当に...イタズラな通報かと思っていたのですが」


隊員B「...」


隊員「...冗談だと思いたいが...実際に今射頃したのはZombieで間違いない」


隊員「これから...どう展開していくか...クソッ」


荒れている、なぜならここの部隊の最高責任者は彼であった。

隊長が行方不明な今、彼が担うしかない、だが荒れているのはそれが理由ではなかった。


隊員「...もう氏者が多数出ている、被害を最小限に留めなければならん」


隊員「各自少数で散らばれ、Civilianの保護や救護を最優先で行え」


隊員「...わかったら、散開しろ」


そして聞こえるのは、不揃いの返事。

作戦の内容に不満があるのか、それとも指示者に不満があるのか。

どちらにしろあまりいい空気感ではなかった、この場に居た数十名の特殊部隊の隊員たちは街へと繰り出した。


隊員A「...我々も行きましょう」


隊員「わかってる...クソッ!」


隊員B「...荒れても、Captainは戻ってこないぞ」


隊員「...黙れ」


険悪なムードのなか、3人が街へと繰り出す。

すでに街中は氏体だらけであった、動く氏体、動かない氏体、どちらにしろ地獄絵図。

896: 2018/12/23(日) 22:38:26.23 ID:mK23oEQG0

隊員B「────ッ!」スチャッ


──ズドンッ!

無口な彼が放つ、スナイプショットがゾンビの頭部へ的中する。

隊員Bの所有している武器は、スナイパーライフル。


隊員A「──OPEN FIREッッ!」


──ババババババッ!

隊員Aの掛け声に反応して、険悪な隊員も射撃を行う。

2人の持っている武器は、アサルトライフル。


隊員「...発生推定時刻はわずか20分前だ、それなのにこの被害進行度か」


隊員A「Emergencyで出動したというのに...これが別の国によるテロならお手上げですよ」


隊員B「...おしゃべりは後にしてくれ、まだいる」スッ


──ズドンッ! ズドンッ!

軽快なボルトアクションが可能にする、連続スナイプ。

腕は確かであった、だがそれがコンプレックスでもあった。


隊員A「相変わらずのAccuracyですね」


隊員B「...これでもCaptainのには劣る、彼は動く相手にすら精度を誇る」


隊員A「...すみません、失言でした」


隊員「──ッ! 3人走ってくるぞッ!」


ゾンビが走ってこちらに向かってくる。

その絵面はどれほど恐ろしいモノなのか、アメリカ国民なら絶対に恐怖する。


隊員B「──ッ!」スチャ


────ズドンッ!

その一撃は惜しくも外れる。

これだから、先程のコンプレックスが助長される。


隊員B(Captainなら今のを当ててたな...)


隊員B「────MISTAKENッ! COVER MEッッ! 」


隊員A「──I KNOW I KNOWッッ!」スチャ


──バババババババババババッッッ!

そして放たれるフルオート射撃。

これなら精度が悪くても、ある程度は当たるはず。

897: 2018/12/23(日) 22:41:24.43 ID:mK23oEQG0

隊員「────FUCK OFFッッ!」


──バッ!

そして最後に隊員が放ったのは、スナイプ地味たセミオート射撃。

疎らな弾幕と、鋭い一撃が3名のゾンビを抹頃する。


隊員「...なんとかなったか」


隊員B「...申し訳ない、次からは気をつける」


隊員「ミスショットなど当たり前さ、普通は外れる」


隊員A「そんなに気を落とさないで、そのための仲間ですよ」


一連の連帯感が、先程の険悪な空気をある程度取り払っていた。

吊り橋効果と言われればそうかもしれない、だがこれが重要である。

作戦中に最も重要なのは士気の向上、そのことは隊員にもわかっているはず。


隊員「...しかし、これは何が原因でこうなったんだろうか」


隊員A「検討も付きません...こんな映画みたいな出来事なんて初めてですよ...」


隊員B「...バイオテロか?」


この手のゾンビは新種のウィルスによって生まれた、そういった映画はこの国に沢山ある。

だがソレを否定できる要素が1つ存在していた、この世界で最も売れたあのアルバムで証明できる。


隊員「...それにしては見た目がおかしい、身体と衣類を見てみろ」


隊員「ほぼ腐りかけだ...どう考えても墓地から蘇ったとしか思えない」


隊員A「...信じたくはないですけど、そうみたいですね」


隊員「それに...このZombie共に噛まれてしまった人々を見ろ」


隊員B「...どれも食い散らかされているか、出血多量で亡くなっているだけだ」


隊員「ウィルスによる感染でZombieになっていない、つまりこれはバイオテロではない」


連鎖的にゾンビが生まれることはなかった。

パニック映画さながらのアウトブレイクなど発生しないはず。

ネズミ算は起こりえない、だがまだ安心することはできない。


隊員「問題はこのZombieがどうやって生まれているかだ」


隊員A「...もし、墓地からコイツらが生まれているのなら...誰かが生産していることになります」


隊員B「...そんなオカルトを特定しなければならないのか」


隊員「まずいな...ここはキリスト教国だぞ、土葬の墓地など腐るほどある」

898: 2018/12/23(日) 22:43:05.02 ID:mK23oEQG0

隊員「...虱潰ししかないのか」


ゾンビの発生源はある程度絞ることができた。

だがその現場の候補が多すぎる、3人は軽く絶望するしかなかった。

そんな矢先、耳元のインカムが作動する。


隊員Z≪──Libertyだ、急げ≫


聞こえたのは、自由という単語。

そしてその後に続いたのは激しい銃撃音。

聞き慣れない声、別部隊の特殊隊員だ。


隊員「──WHAT'S HAPPENEDッッ!?」


だがその返答も虚しく、微かに聞こえたのは断末魔だった。

まるで炎で焦げたような音、突風で身を切り裂かれたような音。

様々な音が通信を妨害していた。


隊員「────HARRYッ!」


隊員A「──UNDERSTANDッ!」


隊員B「Wait...Need a car...」


適当にあたりを見渡す、すると扉の開いた車を発見する。

車の様子はボコボコ、ゾンビから逃げるために無茶な走りをしたと思われる。

だが中の様子は綺麗な状態、運転手は走って逃げたようだ。


隊員B「不用心だな...鍵が刺さりっぱなしだ...ローンも残ってるだろうに...」


隊員「運転を頼めるかッ!?」


隊員B「そうでなければ、率先して車を探さないさ...」


隊員A「早く乗ってくださいッ!」


シートベルトも閉めずに、ピックアップトラックを豪快に鳴らす。

その音に焦った2人はすかさずに荷台に跳び乗る。

足は確保できた、問題が起きない限りすぐに現場に到着できるだろう。


隊員A「つかのまの休息ですね」


隊員「そうだな...Captainならそう言いそうだな」


隊員A「...本当に、どこに行ってしまったんでしょうかね」


隊員「わからない...どうしてわからないんだろうか...」


あの時、この2人は隊長と共にヤク中の立てこもり犯をとっ捕まえていた。

現場にいた、特に隊員はすぐそばに居たというのに、なぜ。

どうしても理解することのできない現象に今までずっと苛つかされた。

899: 2018/12/23(日) 22:44:21.81 ID:mK23oEQG0

隊員B「────ッ!」ピクッ


運転免許を持つものなら、反応することができる行為。

それだけではない、元々の作戦は民間人の救援。

隊員Bは通行人を発見していた、つまりは急ブレーキを行った。


隊員「──どうしたッ!?」


隊員B「今、女の子を見かけた...」


隊員A「...まずいですね、小さい子ですか?」


隊員B「いや...高校生か...? どちらにしても危険すぎる」


隊員「...ッ!」


気づけば、身体が勝手に動いていた。

彼ならこの状況をどうするか、一番近くで見ていた隊員だからこそ率先できた。

ピックアップトラックの荷台から身を降ろし、こう伝える。


隊員「俺はその子と合流する、お前たちは先に行けッ!」


隊員A「That's dangerous...1人は危険すぎ──」


──ズドンッ!

気づけば、運転手の隊員Bがライフルを発砲していた。

女の子のいる方向へと走ろうとしていたゾンビを射頃する。


隊員B「──GO MOVEッッ!」


隊員「────Nice work! BABYッ!」ダッ


そして危険も顧みずに街へと姿を消した。

あっと今に残された隊員たちは、とくにAは呆然とするしかなかった。

隊員の起こした行動にではない、彼のその表情にだった。


隊員B「...少し戻ったな」


隊員A「戻りましたね...最近ド派手な事件などしていませんでしたし」


隊員A「この緊張状態が、Captainのことを一時的に忘れさせたんでしょうか」


隊員B「それだな...今は上司になってしまったが、同期のアイツには元気になってもらいたい」


隊員A「元気すぎてまた、職場にMANGAを持ち込まれても困るんですがね」


隊員B「...おしゃべりは終わりだ、行くぞ」


そして再びベタ踏みされるアクセルペダル。

その恐竜のような唸り声で街を疾走してく。

それの音を聞き、彼はようやく自らの立ち位置に気づけた。

900: 2018/12/23(日) 22:46:25.61 ID:mK23oEQG0

隊員(...車は行った、もう油断はできない)


隊員(早く女の子を保護しなければ...)スチャッ


──ババババッッ! バババババッッ!

走りながらもアサルトライフルでの射撃を行う。

ゾンビには遠距離攻撃ができない、一方的な殲滅だ。

そして自分自身の目でも、目視することができた。


隊員(──あれかッ!)


隊員「────WAITッ!」


その英語に反応したのか、それとも聞き慣れてしまった銃撃音になのか。

帽子をかぶった女の子は返事を行う、その見た目はまるで。


隊員「...Witch? Halloween?」


魔女「と...とりっくおあとりーと...」


魔女(キャプテンかと思ったら...ぜんぜん違う人だった...)


その、たどたどしい発音。

なんども聞いたことのあるそのイントネーション。

彼はすぐさまに言語を変える、伊達に日本文化にハマっているわけではなかった。


隊員「日本人か...?」


魔女「──っ! 言葉わかるのっ!?」


隊員「あ、あぁ...日本人にしてはずいぶんと派手だな...」


魔女「に、にほんじん...?」


彼の日本語には訛りがなかった。

英訳前の邦アニメを見すぎた影響か。

だがこの場面において、大いにソレが役に立つ。


隊員「ここは危険だ、安全なところへ行こう」


魔女「ま、待って...待ち合わせてる人がいるのっ!」


隊員「何人と待ち合わせている」


魔女「2人よ...1人は筋骨隆々な男の人で、もう1人は白い毛なm...白い髪の色をしてる女の子よ」


隊員「なるほど...俺も行こう」


隊員(まずそのCivilian3人をセーフティーゾーンに誘導した後に、目的地に向かうとするか)


901: 2018/12/23(日) 22:48:14.63 ID:mK23oEQG0

魔女「え、いいよ...危ないよ?」


隊員「...それは、こっちのセリフだ」


隊員(この女の子...妙だな、ちゃんとVISAは持っているのか?)


隊員「ともかく、不用意に立ち止まるのは危険だ、待ち合わせ場所に向かおう」


魔女「そうね...こっちよ」


そう言うと、彼女はなにかを頼りにゆっくりと歩きだした。

まるで気配を察知しながら向かっているような。

そしてあるフレーズが隊員の耳を反応させた。


魔女「キャプテン...ウルフ...まだ遠いわね」ボソッ


隊員「────ッ!」ピクッ


その小言が意外にも彼に届いてしまう。

特殊部隊の一員である以上、聴力も優れていなければならない。

おそらく待ち合わせをした人物の名前であろう単語に反応せざるえなかった。


隊員(...いや、ないな)


隊員(特殊部隊が血眼で探したのに見つからないんだ...この女の子が知っているわけがない)


隊員(そもそも...Captainは全くもって女っ気がない...ましてはこんな若い子と知り合いなはずがない)


隊員(...別人だな)


心の中での整理を勝手に終えて、様々な要因が彼を納得させてしまった。

すぐさまに頭を切り替え、歩きながらも再び周囲を警戒し始める。

そのおかげか奇襲は防げた。


隊員「────Wait、待て...いるぞ」


魔女「本当だ...厄介ね」


隊員「発砲をする、後ろに下がっていなさい」


魔女「え...? う、うん」


──ババババッッ! バババッ!

魔女が後ろに下がったのを確認すると、すぐさまに射撃を行う。

その反則じみた距離から放つ攻撃にゾンビたちはどうすることもできない、そのはずだった。

902: 2018/12/23(日) 22:48:52.81 ID:mK23oEQG0










「────GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRッッ!」










903: 2018/12/23(日) 22:50:17.95 ID:mK23oEQG0

その唸り声が聞こえたのは、前方ではなく後方。

きっとどこかに潜んでいたのだろうか。

このままでは女の子がヤラれる。


隊員「──GET DOWNッッ!」スチャ


────バチバチッッ!

アサルトライフルでは急速な方向転換は難しい。

なのでサイドアームであるハンドガンを後方に向け、発砲を行おうとした。

だが響いたのは銃撃よりも激しい、別の音であった。


隊員「...な、なにが起こった!?」


魔女「へ...えっと...雷が降ってきたよ?」


魔女(...良かった、魔法を放ったところはギリギリ見られてなかったようね)


そこにあるのは、雷に耐えることができなかったゾンビの残骸。

全身は真っ黒、身体の組織が全て破壊された様子であった。

自然災害の恐怖、雷というモノの驚異はどの世界でも共通。


隊員「...空に雷雲なんてあるか?」


魔女「えぇっと...もう深い夕方だし、空の様子がわからないわね」


隊員「確かに、そうだが...おかしいな」


隊員「まぁ...自然に助けられたことを感謝するしかない、行くぞ」


魔女「えぇ、そうね」


隊員「...」


だがどうしても、腑に落ちない要素が多々あった。

雷にしては静かすぎる、そしてなぜあの女の子だけが無事なのか。

あのゾンビは、ほぼ肉薄していたと思われるというのに。


隊員(...原因究明は後だ)


隊員「...ん、あれは」


魔女「あれって...たくしー?」


黄色い塗装をされた車が放置されていた。

その座席、特に助手席には大量の紅がばら撒かれていた。

現場は保存された状態であった、エンジン音がまだ続いている。

904: 2018/12/23(日) 22:51:22.55 ID:mK23oEQG0

隊員「ひどい状態だ...どうしてこんなことに」


魔女「...逃げ切れなかったのね」


隊員「...女の子があまり、こういうのをマジマジと見るものではないぞ」


魔女「気遣ってくれてるの? でも、大丈夫...見慣れているから」


隊員(...看護系の仕事でもしているのだろうか)


あながち間違いではないその考察。

それはさておき、視覚的には酷い状態ではあるが足を確保できた。

見た目さえ気にしなければ、問題なく走行できるであろう。


隊員「君は後ろに座りなさい、汚れていないと思う」


魔女「あ、ありがとう...」


隊員「...Sundaydriverだが運転するしかないな」


自分のペーパードライバー加減にうんざりしている中。

アクセルペダルを踏み込もうとした瞬間、耳元のインカムから通信が入る。

聞き慣れた声、彼らからのモノであった。


隊員「What's happened?」


魔女「へ?」


隊員「すまない、君にじゃない」


隊員A≪現場に到着しました...ものすごくひどい状態です...≫


隊員「...Please continue」


その返答は魔女には通じない。

英語で話される通信、隊員Aの声色はかなり変化していた。

そしてソレを、淡々と聞かざる得ない隊員の顔色も変わり始める。


隊員「...」


魔女「...ど、どうしたの?」


隊員「いや...君は知らなくていい...」


魔女「...教えて」


柔らかな女性特有の可愛らしい声。

その中に、どこか力強いモノが含まれている。

それを聞いてか、思わず先程の報告を漏らしてしまう。

905: 2018/12/23(日) 22:52:48.90 ID:mK23oEQG0

隊員「...あの女神像の近くで大虐殺が起こっていたらしい」


隊員「別部隊の隊員も、マスコミも...燃やされたり、氷漬けにされていたらしい」


隊員「...一体、何が起きているんだ」


魔女「女神像...っ!?」


隊員「...話はここまでだ、先に君のツレと合流させることを専念する」


隊員「それで、どこに向かえばいい?」


魔女「...このまま、まっすぐよ」


このまま、まっすぐいけばどこにたどり着くだろうか。

魔力の感知を頼りにしているだけの魔女にはソレがわからない、だが彼は違った。

目的地、そこは偶然なのだろうか必然なのだろうか。


隊員「...まさか、"同じ"か?」


魔女「え...?」


隊員「このまま直進は、先程言った場所だぞ...?」


魔女「────っ!」


知らなかったのは当然、彼女は彼から見れば日本人なのだから。

その驚愕した表情を見れば察することができる。

彼女と待ち合わせ人物たちも、そこにいるのだろう。


隊員「──HANG ONッッ!」グイッ


魔女「──きゃっ!?」


彼にできることは、アクセルペダルをべた踏みすること。

この女の子のツレの安否を確認しなければならない。

さらに隊員ABとの合流もできる、急がないわけがなかった。


魔女「こ、こんなにも速度がでるのねっ!?」


隊員「公道でここまでトバしたのは初めてだッ!」


速度に耐えきれず、上に付属している取っ手のようなモノを握る。

幸いにも今現在、対向車線は愚か追い越しすら必要としない独走状態。

あるのは当たり屋じみたゾンビだけ。


~~~~

906: 2018/12/23(日) 22:54:03.92 ID:mK23oEQG0

~~~~


隊員「──ついたッ! 降りるぞッ!」


魔女「ま...まって...ちょっと気分が...」


わずか数分後、あっという間に目的地へと到着する。

クリアリングを怠らずに、周囲を警戒する。

するとすぐに目視することができた、彼らがいる。


隊員A「...隊員っ! 無事でしたか?」


隊員「あぁ...そっちはどうだ?」


隊員B「見ての通りだ、酷すぎる...」


隊員「...説明で聞いていた通りだな、どうなっているんだこれは」


あたりに散乱する氏体の山。

焼氏から凍氏、はたまた身体がバラバラになっているモノもある。

このような現場、今まで見たことがなかった。


隊員A「...わかりません、まるで魔法としか形容できません」


隊員B「...」


隊員「Magical...」


隊員A「...ところで、その子が先程の?」


隊員「あぁ...そうだ、日本語しかしゃべれないらしい」


隊員がそう伝えると、彼らは車酔いに翻弄されている彼女に近寄る。

彼らには日本語がわからない、だが挨拶程度の言葉は知っている。

ならば、彼女の様子を伺うために接近するしかない。


隊員A「コ、コニチワ」


隊員B「...コンバンワ?」


魔女「えっ...こ、こんばんわ」


魔女(...どうして、私の世界の言葉を知っているのかしら)


不思議で仕方がなかった、なぜ異世界の言葉を知っているのか。

彼女からしてみればそれはとても可怪しく、彼らからすればそうでもない疑問。

だが今はそのような考察をしている場合ではない。


魔女(...ウルフの魔力、近いわね)

907: 2018/12/23(日) 22:55:09.57 ID:mK23oEQG0

魔女「...ウルフ? いる?」


──ガサガサッ...!

後ろの草むらから、野生の気配を感じる。

だがソレがどれだけ彼らを刺激する代物であったか。


隊員「Look out...」スチャ


隊員A「...Okay」スチャ


隊員B「...」スチャ


魔女「ちょ、まってまってっ!」


3人が銃口を向けていた。

それも当然、この状況なら誰もがゾンビだと勘違いする。

身に危機が迫っていることを知らずか、草むらからある人物が飛び出した。


ウルフ「...魔女ちゃん」


魔女「ウルフっ!」


草むらから出てきた、白い髪の毛の少女。

ニット帽を深く被っているが、その顔立ちはしっかりと目視することができる。

ゾンビではない、どうみても可愛らしい女の子であった。


隊員B「Japanese...?」


隊員A「It's like that...」


隊員「...この子が、待ち合わせの子か?」


魔女「そうよ...そうだけど...ウルフ?」


どこか悲しげな顔つきをしている。

なぜなのか、それは魔女にもなんとなくわかっていた。

もう1人、彼が見当たらない。


ウルフ「ご主人と...はぐれちゃったよ...」


魔女「...やっぱり」


ウルフ「匂いで探そうとしたんだけど...血の匂いがひどくて...わからないよ」


隊員「...匂い?」


魔女「え、えーっと...この子、鼻が利くのよ」


隊員「...犬みたいな子だな」


ウルフ「がう」

908: 2018/12/23(日) 22:56:35.93 ID:mK23oEQG0

隊員「────ッ!?」ピクッ


その瞬間、隊員に稲妻が走る。

魔女が魔法を放ったわけではない、彼のセンスが刺激されていた。

その可愛らしい見た目、そして今やった犬みたいな声がそうさせたのだろうか。


隊員「...Very pretty」


魔女「え?」


ウルフ「?」


隊員B「...again」


隊員A「That's a bad habit...」


また始まった、落胆の言葉が上がっていた。

しかしその中の意味には、少しばかり安心したかのようなモノを感じる。

完全に調子が戻ったな、とそのような失笑が生まれていた。


隊員「Take a pictureッ! PLEASEッッ!」


魔女「な、なに...怖いよ?」


ウルフ「がるるる...なんかいやな感じ」


隊員「Woooooooooo...Puppy....」


隊員B「Stop...Everybody fears」ドスッ


隊員A「...LOL」


みんな怖がっている、そう隊員Bがツッコミを入れる。

それ同時に脇腹に突き刺さった彼の手刀が隊員の目を覚ます。

この緊迫した状態でふざけている場合ではない、要は怒られている、それなのに隊員Bの顔つきはどこか優しかった。


隊員「...すまん、調子にのってしまった」


魔女「う、うん...」


ウルフ「もうしないでね、知らないことばはなんかこわいから...」


隊員「...それで、待ち合わせは2人のはずだったが、逸れたみたいだな」


魔女「そうね...状況が状況だし、仕方ないわね」


隊員「心配だ、探しに行こう」


魔女「...大丈夫、あの人...強いから」


魔女「それよりもウルフ、どんな状況だったの?」


ウルフ「えっとね、くさい人たちがたくさんいて...気づいたら囲まれてて...」

909: 2018/12/23(日) 23:00:54.72 ID:mK23oEQG0










「...まだここに、人が残っていましたか」










910: 2018/12/23(日) 23:03:35.18 ID:mK23oEQG0

────ゾクッ...!

その声は、はるか上空から突然降りてきた。

この世のものとは思えないプレッシャーが、特殊部隊である彼らに注がれる。

ウルフが説明をしている最中だと言うのに、気づけば全員銃を構えていた。


隊員A「Who are you...ッ?」


???「...こちらの言語はわかりません」


隊員「...誰だ、お前は」


魔女「......魔王妃よ、今の現れ方は転移魔法ね?」


魔王妃「おや...なぜ知っているのですか?」


魔女「あの後、閉じかけの転世魔法に突っ込んだのよ」


ウルフ「ガルルルルルルルル...ッ!」


魔王妃「...なるほど、2人は魔物のようですね」


隊員「...なにを言っているんだ? 君たちは...日本人じゃないのか...?」


魔女「...ごめん、そのにほんじんってのがよくわからないし...説明している余裕はないわ」


魔女「それよりも下がって...本当に危険よ」


話に全くついていけない男が3人。

ただ、照準を彼女に合わせることしかできない。

続々と生まれる不可思議な単語や、浮遊している魔王妃。


隊員A「Be in a dream...」


隊員B「...」


隊員「なにが起きているんだ...?」


魔王妃「────"地魔法"」


──メキメキメキッ!

5人の足元の地面が、魔王妃の放つ魔法によって変異する。

まるで大地が襲いかかってきている、そうとしか比喩できない現象。


隊員B「────WHAT'Sッ!?」


魔女「──"雷魔法"」


────バチンッ!

魔法陣から生まれたその雷は、大地を抉る。

下位属性の相性、優劣は後出しのほうが有利である。

大地の変化に驚いている間に生まれた新たな変化に、彼らの情報処理速度は追いつけない。

911: 2018/12/23(日) 23:06:56.99 ID:mK23oEQG0

隊員「────止まったッ!?」


ウルフ「──ッッ!」スチャッ


──ダンッ ダンッ!

そしてようやく、彼らの思考は定まる。

その聞き慣れた銃の音、自分たちのやることは1つ。


隊員A「────FOLLOW HERッッ!」


隊員B「...ッ!」スチャ


────ズドンッ!

いち早く発砲できたのは、Bだった。

その強烈な速度の一撃をあのオカルト地味た彼女に被弾させる。


魔王妃「──うっ...!?」


隊員A「──Did that workッ!?」


魔王妃「なかなかの威力ですね...でも、致命傷にはなりませんね」


隊員B「────NOT WORKEDッ!」


今まで弾丸を簡単に貫かせてきた魔物とは違う。

圧倒的な硬度を誇る彼女の肌に、ライフル弾は弾かれてしまっていた。

魔を統べる王の妻、その実力が伺える。


魔王妻「御返しです..."風魔法"」


──ヒュンッ...!

風切り音が響く、ソレはまるでライフルの射撃音のような鋭さであった。

人間にその音を伴う速度のモノを避けることができるであろうか。


隊員「──LOOK OUTッッ!」


────ドカッ...!

まるで鉄にぶつかったかのような鈍い音。

先程の鋭い風から繰り出される代物ではない、隊員Bの腹部に激しい激痛が生まれる。


隊員B「──ッ...Bitchッ!」


魔女「下がっててっ! あいつの魔法は人間には厳しすぎるわよっ!」


隊員「──Get back!」


隊員B「U...Understand...ッ」


隊員A「Stay with me...」


今まで感じたことのない痛みに耐えきれず、彼は言われたとおりに後方へと下がった。

銃で撃たれたほうがマシだったかもしれない、歩行が困難なのを察知して隊員Aが彼に付きそう。

912: 2018/12/23(日) 23:08:43.66 ID:mK23oEQG0

隊員「さっき...魔法と言ったな?」


魔女「...ええ、そうよ...あの魔王妃が...私が出したのは魔法よ」


隊員「...なるほどな、とんだJokeだな」


魔女(じょーく...)


向こうの世界で、隊長が魔王子に向かって使った言葉。

愛しの彼の言葉を忘れる彼女ではなかった、その皮肉を受け取れてしまう。


魔女「...悪いけど、冗談に思える?」


隊員「...思えないさ、この目で...見てしまったのだから」


隊員「簡単に...簡単にこの状況を説明できないか?」


魔女「...いいわ、魔王妃がいつ動くかわからないから絶対に鵜呑みにして」


魔王妃はまだこちらの様子を伺っている。

口の動きすらない、魔法を唱えることすらしていない。

ならば余裕のある今しかない。


魔女「私とウルフ、そしてあそこにいる魔王妃は別世界から来たの」


魔女「魔王妃は、向こうの世界の悪い王様の奥さんよ」


魔女「彼女の目的は、この世界の侵略...私たちはソレを食い止めるために彼女を追ってここにいるの」


隊員「...なぜそんなことを、君たちがこの世界を守ろうとしてくれるのは助かる」


隊員「だけど...メリットがないぞ...なにを理由にこの世界を?」


魔女「それは...さっき待ち合わせをしている人がもう1人いるって言ったわよね」


魔女「...実はその人は...元々この世界にいた人だったの」


隊員「──なに?」ピクッ


鼓動が少しばかり、早くなっていた。

確証がない、だけどもしかしたらそうかもしれない。

もしそうだとしたら、探しても見つからないわけだ。


魔女「その人はね...キャ────」


彼の名前を言おうとした瞬間、視界に捉えた。

魔王妻の口元が動いている、つまりはなにかを仕掛けてくる、だがそうではなかった。

913: 2018/12/23(日) 23:09:58.21 ID:mK23oEQG0

魔女(──魔法...いや、これは詠唱じゃないわね...)


魔王妃「...この世界の住民は、なかなかにしぶといですね」


魔王妃「私が墓地から氏者を蘇らせ、市街地を襲撃させているというのに」


魔王妃「先程様子を見るために赴きましたが...まだ攻め落とせていませんでした」


隊員「やはり...あのZombieはお前の仕業だったのか」


魔女「...一体どうやって氏者を蘇らせたの、そんな魔法なんて聞いたことないわよ」


魔王妃「...言葉を間違えましたね、厳密に言えば蘇らせてはいません」


魔王妃「私は土葬されていた氏体を...媒体にしたに過ぎません」


魔女「...媒体ですって?」


隊員「墓の掘り起こしとは趣味が悪いな...」


どのような魔法を使えば、あのような芸当ができるのか。

ある1つの可能性が魔女の頭を冴えさせる。

彼と一番初めに対峙した時、あの知性のない奴が使っていた魔法。


魔女「...使い魔召喚魔法ね?」


魔王妃「正解です、よくお気づきで」


魔女「...氷竜がやってなければ気づけなかったわ」


隊員「それは...どういう魔法なんだ?」


魔女「...なにかを媒体として、文字通り使い魔を生み出す魔法よ」


魔女「私が見たことあるのは、トカゲを利用したモノだけど...」


隊員「...つまり、氏体を利用して手駒を増やしたというわけか?」


魔女「その解釈で間違いないわ」


魔王妃「しかし困ったものですね...まさかここまでとは」


氏者はすでに多数でている、だが予想を遥かに下回る数。

なぜここまで被害が抑えられているのか。

彼女は知らなかった、この国で所持を許されているあの武器を。

914: 2018/12/23(日) 23:11:27.79 ID:mK23oEQG0

隊員「...悪いが我が国民はこういった現象に慣れている」


魔女「え...? 何度もこのような出来事が起きてるの?」


隊員「いや、経験による慣れではない...何度も模擬されてきたんだ」


隊員「このようなB級な出来事には、これしかないってな」スチャ


彼が構えたのは、アサルトライフル。

そして耳をすませば聞こえる、銃火器の音。

特殊部隊だけではない、民間人ですらゾンビを処理できている。


魔王妃「...蘇らせたところで、所詮は人ですね...耐久力に難があります」


魔女「そうか、この武器は...この世界じゃかなり流通しているのねっ!?」


隊員「あぁそうだ、まぁそれが問題として挙げられることもあるんだがな...」


ウルフ「...?」ピクッ


────ズンッ...

会話に参加せずに、ずっとハンドガンを構えていたウルフ。

彼女が始めに気づけた、その違和感に。


魔王妃「魔力で強化したところで、身体は腐っています...その武器の前じゃ駄目みたいですね」


魔王妃「遠距離からその武器で攻撃されては...手も足もだせません...」


魔女「...魔法は? 氷竜の使い魔は魔法を使っていたけれど...?」


魔王妃「そうなんです...そこが難点でした」


魔王妃「あの子が媒体としたのは唯のトカゲではありません...一応魔物に属するトカゲです」


魔王妃「だから言葉を理解し話せる...でも氏者は違います」


魔女「...そうか、発声できないのね...身体が朽ち果てているから」


魔王妃「...たとえ話せる状態だとしても、詠唱に必要な私たちの世界の言語が喋れません」


魔王妃「だから、この世界で使い魔召喚魔法を展開させるのはあまり得策ではありませんね」


被害が少ないのは、言語の壁。

もし向こうの世界の言葉が英語だとしたら。

まるで仕組まれたようなこの状況に助けられていた。

915: 2018/12/23(日) 23:12:55.42 ID:mK23oEQG0

隊員「...だが、もうすでに氏者は出てしまっている」


隊員「それは許されることではない...覚悟しろよ?」


隊員(...裁判にかける時は、どのような罪状が適用されるんだろうか)


魔王妃「...私がなぜここから離れたかわかりますか?」


ウルフ「...まただ」ピクッ


──ズンッ...

音が近づいてきているような。

それよりも隊員と魔女が気にしているのは、魔王妃の問いであった。


魔女「...また、氏者を蘇らせたとか?」


隊員「手駒を増やしたところで、大した驚異ではないぞ」


魔王妃「確かに、動く氏体を増やしたところで意味はないですね」


魔王妃「...現に、ほぼすべての使い魔が処理されていました」


魔力で蘇ったとしても、先程彼女が言ったように所詮は人間。

人類最速の男が媒体となったとしても、簡単に射殺ができてしまう。

ならば魔力を注ぐべきなのは違うモノに。


魔女「...なに? やる気?」


魔王妃「えぇ、あなたたちには私と闘ってもらうます」


魔王妃「ですが...市街地には"別の子"に襲わせることにしました」


隊員「...別の子だと?」


ウルフ「...近づいてきてるよッ!」


────ズンッ...!

ウルフが吠えると同時に、ようやく気づけた。

まるで地鳴りのようなその足音に。


隊員「...なにをした、なにをしやがった...?」


魔女「...嫌な音ね、聞き覚えがあるわ」


魔王妃「この世界にも...この種族がいるとは驚きでしたね...もう絶滅してしまったみたいですけど」


隊員「絶滅...? まさか...ッ!?」


──ズンッ...!

視界に現れたのは、偉大なる大きさを誇る巨体。

過去に覇者として君臨していたドラゴン。

916: 2018/12/23(日) 23:14:20.46 ID:mK23oEQG0

魔王妃「...ありがとうございます、保存状態がよかったので肉体はおまけしておきました」


魔王妃「氏体は便利ですね...腐りかけでも...骨だけでも使い魔として利用できますから」


魔女「...この世界にもドラゴンがいたとはね」


隊員「あれはDragonじゃない...」


蘇る最大級の肉食獣、暴君の大トカゲ。

ゾンビなどとはケタが違う、その皮膚の硬度の前には並の銃器じゃ致命傷を与えられない。

今度ばかりは被害が拡大する、厄災の竜がそこにいた。


隊員「────T-REX...ッ!?」


T-REX「GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR...ッッ!!」


ウルフ「う、うわ...っ!」


魔女「...見ただけでわかるわ、これが街なかで暴れたら酷いことになるって」


隊員「あぁ...コイツの出現も模擬されてきたが...有効手段などない」


隊員「少なくとも俺のみた映画の中じゃ、眠らせて隔離することしかできなかった」


魔女「...まずいわね、ここで食い止めなきゃ」


魔王妃「別に、食い止めてもいいのですが...もう遅いですね」


魔女「...なにがよ」


魔王妃「分身魔法...と、言えばわかりますかね?」


言葉の真意を知らなくても、わかってしまう。

あの巨体を分身させたというならば、彼女の言う通りもう手遅れだ。


隊員「──Shit mother fuck...」


魔女「...っ! やってくれたわね...」


魔王妃「...どういたしまして、さぁ行きなさい」


T-REX「GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR...」


──ズンッ...! ズンッ...!

誰もあの怪物を止めようとすることができなかった。

たった1匹を仕留めたところで、状況がよくなるわけではない。

魔女も隊員も、ウルフも、その後ろで様子を見ていた隊員ABもただ見送ることしかできなかった。


魔王妃「さて...やりますか」


──ゾクッ...!

先程、あの大トカゲを見送った真の要因が露となる。

彼女から醸し出されるその圧倒的な殺気、ソレを他所にT-REXとの戦闘を行えるわけがなかった。

917: 2018/12/23(日) 23:15:55.51 ID:mK23oEQG0

隊員「...君も魔法を使えるんだよな?」


魔女「それなりに強い魔法を使えるわ...でも...」


魔女「...アイツには敵わないわ」


肌で感じる魔力量の差。

どう考えても、魔王妃のほうが格上。

しかしやらなければならない、この世界を、彼が生まれた世界を守るために。


ウルフ「魔女ちゃん、どうするの?」


魔女「えっとね...試したい魔法があるの、けど詠唱に時間がかかるわ」


隊員「...何分あればいい?」


魔女「ごめんなさい...わからないわ、初めてやろうとするから見当がつかないわ」スッ


彼女が取り出したのは、本であった。

先程隊長の家で暇つぶしのために読んでいた本。

向こうの世界で、少女が眠っていたあの小部屋にあったモノだ。


隊員「わかった...なんとしても時間を稼ぐ」


隊員「様子を見たところ、ライフル弾ですら有効手段ではない...君の魔法に賭けるしかない」


隊員「...君、援護をしてくれ」


ウルフ「わかったっ! あとウルフってよんで!」


魔女「自己紹介がまだだったわね...私は魔女と呼んで」


簡易的な自己紹介が終わると、魔女が下がり隊員とウルフが前にでる。

その手に持つ銃器で時間を稼ぐしかない。


魔王妃「さぁ、行きますよ..."炎魔法"」


──ゴォォォォォォォオオッッ!

早速繰り出されたのは炎の魔法。

炎帝のモノと比べればやや火力が足りない。

しかし、それでも人を焦がすのには十分な威力である。


ウルフ「────...ッ!」スチャ


──ダンッ! ダンッ!

炎の有効範囲を瞬時に見極め、安置へと身を置く。

そしてそこから放たれる隙のない射撃。

918: 2018/12/23(日) 23:17:31.71 ID:mK23oEQG0

隊員「──しまった...ッ!?」


しかし彼にはできなかった。

特殊部隊の訓練の中に、巨大な火炎放射に関するモノなどない。

経験の無さが故、彼は対処をできずにいた。


魔女「────"風魔法"っ!」


──ヒュンッ...!

大雑把で鈍い風が彼の背中から通り過ぎていく。

その風が彼に迫る炎の一部を押し戻し、わずかな安置を作ってくれていた。


魔女「気をつけて、次は助ける余裕はないわよっ!」


ウルフ「次はついてきてっ! 魔法がこないところをおしえるからっ!」


隊員「申し訳ないッ! そして有難うッ!」


隊員(彼女の為に時間を稼がなければいけないというのに...足を引っ張ってどうするッ!?)


魔王妃「..."水魔法"」


ここは女神像近く、当然その周囲には海が存在している。

彼女の魔力がソレと伴い、巨大なモノに仕上がっている。

大きさだけなら水帝の水魔法と肩を並べられるだろう。


隊員「──冗談だろッ!?」


ウルフ「う...どこにもないっ!?」


彼女の野生が伝える、この水魔法に氏角などない。

ならばやれることは1つしかない。

詠唱は終わっている、ならばこの水の塊を操る者の邪魔をするしかない。


隊員「────撃てッッ!!」スチャ


ウルフ「────ッ!」スチャ


──バババババッッ! バババッ!

──ダンッ! ダダンッ!

2種類の銃声が魔王妃を捉えた、捉えただけであった。


魔王妃「──"防御魔法"」


虚しくもその2つの銃声は通用しなかった。

彼女の展開した魔法が銃弾を弾く。

まるでなにもなかったかのように、彼女は水を操作し続ける。

919: 2018/12/23(日) 23:18:55.78 ID:mK23oEQG0

魔女(──詠唱を中断して助けなきゃ)


────ズドンッ!

魔女が動こうとした瞬間、鋭い音が響いた。

隊員とウルフが持っている銃よりも、かなり威力のある代物。


魔王妃「────うっ...!?」


隊員B「...Get stopped bitch」


──パリンッ...!

なにかが割れた音というよりか、なにかが貫かれた音だった。

魔王妃の周りに展開している魔法が徐々に貫かれた箇所からひび割れていく。

使用した銃弾の大きさが決定打だった。


魔王妃「...致命傷にはなりませんが、もう喰らわないほうがいいですね」


血は出ていない、おそらく何十発被弾させたところで仕留めることができない。

しかしそれでいて怯ませるだけなら十分な威力であった。

巨大な水を操作するという集中力が必要な作業、痛みを受ければその作業は途切れる。


ウルフ「──こっちっ! はしってっ!」


隊員「──UNDERSTANDッ!!」


そして生まれるのは、氏角。

彼女の異常なまでの嗅覚が氏の概念を捉えていた。

あそこまで逃げれば、殺されずに済むであろう。


隊員「──うわッ!?」


──バッッッッッシャァァァァァァァンッ!

水風船が弾けたような音、その規模はソレの比ではない。

まるで水系のアトラクションみたいなその光景。

冷たい海水が、彼の頭を冷やし現実味を産ませていた。


ウルフ「...しょっぱい」


隊員「あれが直撃していたと思うと...恐いな」


隊員B「...Are you okay?」


隊員「Yup...」


水の出来事に思わず尻もちをついていた。

その様子を見かねて隊員Bは近寄って手を差し伸べてくれた。

よく見ると、彼の手は震えていた。

920: 2018/12/23(日) 23:20:09.48 ID:mK23oEQG0

隊員(まだ、痛みは完全に引いていないみたいだな)


隊員(それとも...この夢のような出来事に緊張しているのか...)


隊員(...これは言葉にしないほうが良さそうだ...隊員Bのためにも)


魔王妃「..."雷魔法"」


ウルフ「────!!!!」


彼女の野生のみが感じ取れる氏の概念。

狙いはこの面識のない男の人、先程の水魔法ような威圧を兼ねたものではない。

即効性の、殺害することを優先とした隠密じみた稲妻。


ウルフ「──どいてッッ!!!」ドンッ


隊員B「────What the」


────バチッ!

風帝よりかは劣り、魔女のモノよりは優位である。

そのような威力の雷が突如襲いかかってきていた。

そのことに気づけたのはウルフだけ、彼女がとった行動は1つ。


ウルフ「──うぐっ...げほっ...」


隊員「──身代わり...ッ!?」


魔女「...っ!」


魔女(...だめ、助けに行けない...あと少しで終わるから...耐えてっ!)


魔王妻「よく気づけましたね...」


隊員B「...BITCH ASSッッ!!」


言葉が通じなくても、彼が彼女にされてしまったことは伝わっていた。

例え異世界の未曾有の生物だとしても、見た目は女の子。

そんなことをされてしまったら特殊部隊の面目がつかない。


隊員B「──EAT THISッッ!」スチャ


魔王妃「それはもう避けさせてもらいます」


──ズドンッ! ズドンッ!

冷静さを欠いた、精度の悪いライフルの連射。

ソレも相まってか、この手の攻撃を受けないことに決めた魔王妻の前では無力であった。

目では捉えられない速度であっても、簡単に避けられてしまっていた。

921: 2018/12/23(日) 23:21:28.50 ID:mK23oEQG0

隊員「続けッ! ウルフは撃てるかッ!?」


ウルフ「うぅ...がんばる...っ!」


そして続く、アサルトライフルとハンドガンの音。

だがそれも虚しく、防御魔法に守れていない素肌の状態でも怯ませることができない。

火力不足、もう少し口径の大きな銃器が必要。


魔女(お願い...もう少しだから...)


魔女(なにも起こらないで...っ!!)


その願いも虚しく、叶わぬものとなった。

魔界を統べる王の妻、そのような実力者が大きな時間を与えてくれるだろうか。

そんなことはあり得なかった。


魔王妃「..."炎魔法"」


怒りの炎、紅色に染まった魔法が展開する。

先程のモノより遥かに魔力が込められている、一目瞭然であった。

単純な威力だけなら炎帝と同等かもしれない。


隊員「...さっきのとはまるで別物だぞ」


ウルフ「...ッ!」


隊員B「...Oh my GOD」


魔女「...」


4人の顔色は、絶望そのもの。

山火事レベルのその炎の規模に氏角などない。

このままなにもできなければ、そのまま焼き殺されるであろう。


隊員「...Where is he?」


隊員B「Connect...」


この場にいない、彼は一体何をしているのだろうか。

無残にも殺害された、この場に居た特殊部隊が残した車両。

そこに搭載されている高精度な通信機器を操作していた。


~~~~

922: 2018/12/23(日) 23:22:47.92 ID:mK23oEQG0

~~~~


隊員A「...」


様子から察するに、既に通信は終えていた。

現状の出来事をすべて本部に伝えた。

ゾンビだけではない、恐竜や魔法使いが現れていると。


隊員A「...Trust me」


あとはどの程度まで信じてもらえているのか。

祈るしかなかった、鵜呑みをしてもらわなくては確実に被害が拡大する。

未だにゾンビですら半信半疑、たとえ動画を送っても迅速な対処をしてくれないだろう。


隊員A「Got to go...」


行かなくては、今は隊員たちが魔王妃と交戦しているに違いない。

自分もそこに加わり戦力として介入しなければ。

通信を終え、車の扉を開こうとした瞬間であった。


隊員A「...Zombies?」ピクッ


──ザッ...ザッ...!

足音が聞こえる、人数は1人。

不意打ちをされない限り、例えゾンビだとしても簡単に処理できる。

目標が徐々に近寄ってくる、隊員Aは息を潜めタイミングを測る。


隊員A「────What...ッ!?」


ドアガラス越しに見えたその人物。

予想外の出来事に思わず声を荒げてしまっていた。

見間違えでなければもう1人。


~~~~


~~~~


魔王妃「...おしまいですね」


巨大な炎が迫る、消火器を使っても鎮火させることはもう不可能。

急激な気温の変化からか、隊員たちの顔には汗が流れる。


魔女「...」ブツブツ


それでも彼女は詠唱を続ける、まだ諦めていない。

何を信じて、誰を信じてここまでやれているのか。

その様子を見た隊員はそう疑問した。

923: 2018/12/23(日) 23:25:50.66 ID:mK23oEQG0

隊員「...おしまいだな」


ウルフ「まだあきらめないで...ッ!」


隊員「いや...これはもう無理だ...たとえHurricaneが消えてもこの炎が収まる気がしない」


ウルフ「魔女ちゃんは...まだあきらめてないよッ!」


隊員「だがなぁ...」


隊員B「That's impossible...」


彼らの職業は特殊部隊、氏と隣り合わせの仕事だ。

だから慣れてしまっている、慣れてなければいけない。

人一倍に氏への抵抗感が薄れている、だから故の諦めの速さであった。


隊員「...最後に、もう一度会いたかったです」


ぽつりと漏らしたその言葉。

それと同時に聞こえたのは、背後からの足音。

そして今まで聞いたことのない、謎の擬音。


魔王妃「────な...っ!?」


──ババババババ■■■ッッ...!

アサルトライフルの音に、黒いなにかが纏わりついている。

気づけばウルフの顔は満面の笑みに、気づけば魔女の顔は安著の表情に。


ウルフ「────ご主人っ!」


魔女「...っ!」


詠唱を途切れさせない為に、魔女は目線だけを彼に送った。

ようやく登場してくれたこの男は、彼らに言葉を告げる。

924: 2018/12/23(日) 23:26:33.37 ID:mK23oEQG0









「"I'll be back"...だな」










925: 2018/12/23(日) 23:27:25.75 ID:mK23oEQG0

その有名すぎる言葉に反応できるのはこの国民だけであった。

振り返ればそこには、今まで見ることのできなかった彼がそこに居た。

よく見れば2人いる、だがそんなことはどうでもよかった。


隊員「────CAPTAINッッ!?」


隊員B「──CAPTAINッ! WHERE HAVE YOU BEENッ!?」


隊長「Not now...」


再開の会話も後ほどに、今は状況の打破が最優先。

だがしかし、もうやれることなどなかった。

先程の弾幕に付着した黒が炎を鎮火させていた。


隊員「な、なんで...ッ!?」


隊長「...そうか、隊員は日本語が喋れるんだったな」


魔王妃「なんで...あなたのような人間が闇を使用しているのですか...っ!?」


なぜ彼が闇を扱えているのか。

疑問しかなかった、そもそも魔力を持っていないというのに。

しかしすぐに解決することができた、彼のすぐ後ろの人物が証拠であった。


ドッペル「...俺が力を与えているからな」スッ


隊長「...そういうことだ」


魔王妃「────ドッペルゲンガー...っ!」


ウルフ「うぅ...もう1人のご主人...なんかいや」


隊長「嫌われているぞ、当然だな」


ドッペル「...まぁいい、ともかくあの女をとっとと仕留めたほうがいい」


ドッペル「なぜだかわからんが、殺意を向けられている」


隊長「...俺からすれば、お前など殺されてもいいんだが」


ドッペル「冷たいな、力を貸していなければどうなっていたことやら」


隊長「あぁ、そこは感謝している」


魔王妃「...目障りですね、その"屑"魔物」


意外な言葉であった。

侵略者ながらも、比較的丁寧な口調をしていた魔王妻。

たった今放った言葉にはとてつもない穢れが含まれていた。

926: 2018/12/23(日) 23:28:43.04 ID:mK23oEQG0

ドッペル「...嫌われすぎてないか?」


隊長「俺もお前が嫌いだ」


ドッペル「そんなことはわかっている...だが、俺はあの女に悪さなどした覚えはないぞ...」


魔王妃「黙れ...お前たちのせいで...っ!」


ドッペル「どうやら、俺以外のドッペルゲンガーがヤラかしたようだな」


隊長「...今お前に氏なれては困る、下がってろ」


ドッペル「あぁ、戻らせてもらうさ...面白い世界を見れた礼だ、今回は丁重に貸してやろう」


ドッペル「──"属性付与"、"闇"」


そう言うと、黒い影が隊長の身体に入り込む。

それと同時に彼に纏わりつくのは闇、それも優しく。

少女戦の時みたいな傷は生まれていない、ドッペルゲンガーは本当に丁重に扱っている。


魔王妃「...あなたもドッペルゲンガーなど好んでいないはずです」


魔王妃「悪いことは言いません、あの屑を差し出せば呪縛から開放してあげますよ」


隊長「...それはできない、悔しいが奴がいなければお前に太刀打ちできない」


魔王妃「愚かな...ならばその身ごと滅ぼして差し上げます...」


魔王妃「..."属性同化"────」


そのとき、ある違和感が生まれた。

属性同化という言葉が、かぶって聞こえたような。

まるで誰かが、同じタイミングで同じ魔法を唱えたかのような。


魔女「──"属性同化"、"雷"...ってね」


────バチッ...!

小規模な雷がある特定箇所で生まれる。

そこは毛に覆われた、ある女性の右手だった。


ウルフ「うわっ!?」


魔女「ごめん、私の魔力じゃ片手が限界だった...でも、ちゃんと使えると思うわ」


魔王妃「...馬鹿な、属性同化はある人間と側近が創り出した魔法のはずです」


魔王妃「なぜあなたのような子が...っ!?」


魔女「悪いわね、幼い頃から手癖がわるいのよね...これよ」スッ


狼狽にも近い状況であった、魔王妃が投げかける問いに魔女は答える。

彼女が取り出したのは本であった、この本はあの時に持ち出した例のモノ。

927: 2018/12/23(日) 23:29:48.47 ID:mK23oEQG0

魔女「...手書きの教本、ありがたく頂戴したわ」


魔王妃「──この性悪女ぁ...っ」


ウルフ「────ガウッッ!!」スッ


─────バチンッッ...!

ウルフが虚空に向かって、右の拳を突き出す。

その方向の先には魔王妃が、そして空振りの掌打は稲妻を光らせる。

銃弾とは別物の痛みが、内部から染み渡るその痺れが思わず顔を曇らせる。


魔王妃「──ぐっ..."転移魔法"」


モロに受けてしまった雷に堪えながらも、逃げの魔法を唱えた。

専売特許であると思いこんでいた属性同化。

そして想定外の闇魔法を確認、一度引くべきであった。


ウルフ「...逃げられた」


魔女「そうね、どいつもこいつも早口が得意ね」


隊長「...すごいな、そんな魔法もあるのか」


魔女「そうみたいね...初めて見たし...初めて聞いたわ」


魔女「側近とかいう人の、マメさに感謝ね」


隊長「...しかし、ウルフの腕は大丈夫なのか?」


ウルフ「うーん、痛くはないけど...へんな感じがするよ」


魔女「...ぶっつけ本番だけど、大丈夫そうね」


隊長「みたいだな、まぁ体調に変化があったらすぐ言うんだぞ?」


ウルフ「わかったぁっ!」


魔女「まぁ...これでウルフの得意な近接格闘が遠距離格闘に化けたわね、右手だけだけど」


再会の挨拶もなしに雑談が進む。

それほどに魔女は隊長のことを信頼している証であった。

そんな中、ようやく部下である3人が介入する。

928: 2018/12/23(日) 23:30:59.80 ID:mK23oEQG0

隊長「...Long time no see」


隊員「日本語でいいですよ...その子たちにも伝わりますし」


隊長「だが...2人は日本語を話せないぞ」


隊員ABは携帯端末を取り出し、そしてなんらかのアプリを起動した模様。

彼らはその端末に向けて英語を投げかける、そして聞こえてくるのは機械的な女性の音声。


隊員A「コレデダイジョウブ?」カチッ


隊員B「...マイクノレンシュウ」カチッ


魔女「うわっ、ガタイのいい男が出す声じゃないわね...」


ウルフ「なんかやだ」


隊員「...我慢してくれ」


隊長「技術の進歩に感謝だな、自動翻訳というのはここまで性能が上がったか」


そして、日本語で話す隊長に向かって端末を向ける。

そこから聞こえてくるのは英語であった。

とてつもなくシュールな画がそこにはあった。


隊員「...募る話はありますが、まずは無事を確認できてよかったです」


隊長「あぁ...とてつもなく迷惑をかけただろうな...申し訳ない」


隊員「いえ...それで本題なのですが...」


隊長「...いままでどこにいたか、だろ?」


隊員「はい...ですがその子たちが教えてくれました」


隊長「...話の通りだ、俺は異世界にとばされていた」


隊員「信じられないです...が、現に魔法をこの目で見ましたから信じるしかないです」


隊長「あぁ、信じてもらえて助かる...」


隊員「...」


隊員A「...」


隊員B「...」


ようやくの再開、そして余裕のある時間。

それだというのに投げかけたい言葉がありすぎた。

言葉に詰まる異世界の人間たち、そんな中ある魔物が沈黙を破った。

929: 2018/12/23(日) 23:32:12.71 ID:mK23oEQG0

ドッペル「一度、付与を解除してもいいか?」


隊長「...あぁ、そうだったな...頼む」


隊長の周りに展開していた闇が消え失せる。

そして現れたのは、全く同じ見た目をした魔物。

身体の色、というよりも全体的に影のような色をした彼がそこにいた。


魔女「あなたが...あんたがドッペルゲンガーね?」


ドッペル「あぁ、そうだとも」


魔女「...ムカつくぐらい似てるわね」


ドッペル「お褒めの言葉をありがとう」


魔女「褒めてないわよ...虫唾が走るからその顔あんまり見せないで...」


魔女「あんたが、私の大切な人の身体を使って傷だらけにしたり...私を殺そうとしたのを覚えているんだから」


魔女「ねぇ、隊員...さん、こっちの世界の言葉で"失せろ"ってどう言うの?」


隊員「..."Fuck you"だな」


魔女「そう...ふぁっくゆ────」


魔女がとてつもなく汚い言葉をドッペルに投げかけている。

その間にも隊長はウルフの右手に再度注目する、視線を感じ取った彼女は拳を突き出した。


ウルフ「なんか、バチバチしてるね!」


隊長「あぁ、すごいな」


隊員A「コレハナンデスカ?」カチッ


隊員B「...キニナリマス」カチッ


隊長「なんだろうな...魔法なのはわかるが、どういうモノなのか」


魔女「...あぁ、それね...この本を見て」サッ


取り出したのは先程魔王妻の動揺を誘った代物。

本の中身は手書きの言葉の羅列が記されていた、よく見るとそこには研究結果が。

930: 2018/12/23(日) 23:34:58.54 ID:mK23oEQG0

魔女「どうやら、側近と研究者がこの属性同化という魔法を創ったみたいね」


隊員「魔法って創れるんですね...」


隊長「あぁ、そうみたいだな...ちなみに研究者ってのは────」


隊員「...え?」


そこにいた隊員たち3名が度肝を抜かれる、隊長が発したのは研究者という男の本名。

向こうの世界での名前ではなく、こちらの世界での名前であった。


隊長「どうやら向こうの世界に滞在していたらしい...見つからないわけだな」


ドッペル「...あぁ、俺が頃した奴か」


魔女「そうね、それで...この属性同化だけども」


隊員(...戻さずに先程の詳細を聴きたいんですが、無粋ですかね)


魔女「下位属性の属性付与を身体に纏うと、どうなるかはわかるわよね?」


隊長「あぁ...魔剣士が言ってたな、炎を纏えば身体がやけどしてしまうなど被害が生まれる...だっけか?」


魔女「そうね...それでこれは、どうやらそれを改善するために創られたみたい」


隊長「...身体自体を炎にしてしまえば、やけどする心配などないということか」


魔女「そういうこと」


隊長「なるほど...それを魔女は使えるようになったのか」


魔女「...そうだけど、まだ詠唱に慣れないわ...発動させるのに数分はかかるわね」


魔女「それに...魔王妃もこの魔法を使おうとしてた...私よりも詠唱も早くに...あまり期待しないほうがいいわ」


隊長「だがこれでウルフの攻撃射程が伸びた、それだけでも十分だ」


魔女「...そうね、それじゃ人探しをしましょうか」


隊長「あぁ、早く魔王妃を探そう...被害が拡大するのは明白だ」


魔女「ウルフ、匂いで居場所を突き止められない?」


ウルフ「...うーん、いろいろな匂いがまざってむりかも...」


隊長「...参ったな」


隊員「Captain、居場所の特定なら簡単ですよ」スッ


そう言うと彼は端末を取り出し、あるアプリを起動させる。

この発想は隊長には無理、比較的若者だからこそ可能なモノであった。

隊員は画面を確認し、確信する。


~~~~

931: 2018/12/23(日) 23:36:54.94 ID:mK23oEQG0

932: 2018/12/23(日) 23:40:15.94 ID:811SSYKm0

引用: 隊長「魔王討伐?」