933: 2018/12/24(月) 19:07:24.97 ID:XUuL3A850
隊長「魔王討伐?」【その1】
隊長「魔王討伐?」【その2】
隊長「魔王討伐?」【その3】
隊長「魔王討伐?」【その4】
隊長「魔王討伐?」【その5】
隊長「魔王討伐?」【その6】
隊長「魔王討伐?」【その7】
隊長「魔王討伐?」【その8】
隊長「魔王討伐?」【その9】
隊長「魔王討伐?」【その10】
~~~~
魔王妃「...誤算でした」
ぽつりと呟く、独り言をしてしまうほどに追い詰められていた。
身体に残る痺れ、そして久方ぶりに我が身に向かってきた闇。
完全に想定外の出来事が起きていた。
魔王妃「困りました...街への侵攻はある程度順調なのですが...」
彼女が今いる場所はどこかの街中の宙。
そしてそこには、使い魔として生み出したゾンビやT-REXが跋扈する。
ここには抵抗する者などいない、殺戮の跡地であった。
魔王妃「...早く、炙り出さないと」
魔王妃「どこにいるのですか..."あの子"は...」
魔王妃「いえ...もう...本物の"あの子"などいない...」
魔王妃「...」
そこにあったのは怒りの表情なのか。
それとも悲しみの表情なのか、絶妙な顔つきをしていた。
まるで、なにか理由があってこの世界を襲撃しているような。
魔王妃「...随分と早いですね」
そして地上に投げかけたのはこの言葉であった。
聞いたことのない、機械の鼓動のあとに続くのは扉の開閉音。
隊員「...Jackpotだ、大当たり」
隊長「善良なる市民の、情報提供に感謝しなければな」
魔女「...」ブツブツ
ウルフ「がるるる...もう逃さないよっ!」
魔王妃「...どうやって、私の居場所を?」
ただただ疑問であった。
魔力を頼りに探したとしても早すぎる。
はじめから居場所がわかっていなければこの捜索速度は不可能。
隊長「...この世界は監視社会と化している、お前のような派手な女はすぐに特定できる」
隊員「SNS...といっても伝わりませんね...ともかく、情報を提供してくれた市民がたくさんいる」スチャ
端末をしまいアサルトライフルを構える、彼が直前までみていたのはSNSであった。
このような世紀末のような出来事、そして浮遊する女がいればどうなるか。
画像投稿され、多量に情報が拡散されるのは間違いなかった。
934: 2018/12/24(月) 19:09:03.24 ID:XUuL3A850
魔王妃「...どうやら、撤退は不可能みたいですね」
魔王妃「ならば...応戦するまでです...」
その言葉を待ってかのように、2人が魔法を唱え終えた。
1人は獣の子に、もう1人は同じ見た目をした男に。
稲光する右手と黒に包まれる身体。
ドッペル「──"属性付与"、"闇"」
魔女「────"属性同化"、"雷"」
そしてそれに続く、高速詠唱。
魔女が数分もかかると謳う魔法をものの数秒で発動させる。
彼女の身体が冷気に包まれる。
魔王妃「────"属性同化"、"氷"...」
────パキパキパキッ...!
魔女のモノとは違い、魔王妃の同化は全身に及ぶものであった。
その余波であたりにある摩天楼の低階層が凍てつき始める。
隊長「俺とウルフが前にでるッ! 魔女と隊員は後方を頼むッ!」
ウルフ「──ガウッ!」
魔女「わかったわっ!」
隊員「わかりましたッ!! お気をつけてッ!」
ドッペル「...俺は一度隠れておくか、真っ向から狙われるのは勘弁だ」
返事も待たずに、黒い隊長は闇へと消える。
そして先制を仕掛けたのはウルフであった。
ウルフ「────くらえッ!」ブンッ
────バチッ...!
ただの正拳突きが、とてつもない射程を持っている。
意外にもその攻撃はまともに命中する。
魔王妃「くっ...!」
彼女から見ればライフルから射撃される銃弾よりも避けやすいはず。
なにもどうして当たってしまうのか、それは本命が残っているからであった。
存在するだけで抑止力を誇るアレが控えているというのに、こんな粗末な雷を避けている余裕はない。
935: 2018/12/24(月) 19:10:34.13 ID:XUuL3A850
魔王妃「...くる」
──バババババババ■■■ッッッ!!
これだけは当たる訳にはいかない。
彼女はすでに気づいていた、あの武器は直線状に攻撃をしてくる。
ならば射線にいなければ、雷よりも早いあの攻撃を見切る必要などない。
隊長「──避けた...いや、この武器の性質に気づいたか...」
魔王妃「あぶないですね..."風魔法"」
──ヒュンッ!
殺意のこもった、鋭い風が隊長に向かう。
これが当たったのならば簡単に胴体は真っ二つになるだろう。
まともに当たればの話であった。
ドッペル「やらせると思うか?」
────■■...ッ!
隊長の胴体を包む闇が、向かい風を頃した。
その自動防御とも言える圧倒的な性能。
魔王妃「...やはり、先にドッペルゲンガーを引きずり出して潰すべきですね」
ドッペル「物騒だな、宿主に守ってもらうか」
隊長「...よくもまぁ、そんなことをほざけるな」
魔王妃(...あの人間の武器と、ドッペルゲンガーの相性が良すぎる)
魔王妃(あの発射速度といい、射程といい...遠距離戦では確実にこちらが不利)
魔王妃(かといって肉薄すれば、闇が迫ることは確実...)
魔王妃(...そして先程いた人間の数が足りません、後方に徹しているのは人間が1人と魔物の子が1人)
魔王妃(なにか仕掛けるために、離脱したのでしょうか...)
──バチッ...!
そう考察している間にも、ウルフによる雷が何度も被弾する。
おそらく効果的な負傷を追わせることはできていない、だが問題はそこではなかった。
いかに効き目がないとはいえ、蓄積させれば当然痺れが生まれる、それが例え氷の身体をしていたとしても。
936: 2018/12/24(月) 19:11:55.85 ID:XUuL3A850
魔王妃(...この雷を避けている暇はない、あの武器を目視するので精一杯)
魔王妃(あまり時間をかけれませんね...ならば──)
──ズンッ...!
主人の危機を察知してか、使い魔が現れる。
その重厚すぎる音、旧世界での生態系の覇者。
T-REX「GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR...ッ!」
魔王妃「...頼みましたよ、ドラゴンさん」
ウルフ「うっ...」
その暴君を前にして吠えることのできる狼など存在しない。
野生が野生を威圧する、押し頃すことのできない感情がウルフを襲う。
地帝戦の時のように、魔力薬はもうない。
隊長「ウルフッ!」
魔女「あのドラゴンは私たちに任せてっ!」
隊員「Captainは引き続きあの女をッッ!!」
魔王妃「...さぁ、集まりなさい」
────ガサガサッ...!
なにかモノをどかす音が聞こえる。
まるで歩くために無理やり動かしたような音が。
隊員「────ZOMBIESッ!」
魔女「隊員さんはこいつらを、私があのドラゴンを相手にするわっ!」
隊員「UNDERSTANDッ!!」スチャ
──ババババッッ! ババッ!
的確な判断であった、銃を前にして接近ができるゾンビなどいない。
彼の精密な射撃が続々と集まるゾンビらを射頃していく。
魔女「──"雷魔法"っっ!!」
──バチッ...! バチバチバチバチッ!!
そして魔女から放たれる、一閃の稲妻。
それがあのドラゴンに被弾すると、まるで拡散するかのように雷が展開する。
T-REX「──HOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOWLッッ!!」
まるで、狼の遠吠えのような轟音であった。
少なくとも苦しんでいる、当然だった。
雷が怖くない動物など存在しない。
937: 2018/12/24(月) 19:13:26.10 ID:XUuL3A850
隊長「ウルフッ! 魔王妃にだけ集中しろッッ!!」
ウルフ「う、うんっ!」
魔王妃「..."属性同化"、"風"」
氷の身体に風が伴う、そしてそこから生まれるのは吹雪。
冬場の自然現象で最も恐ろしい出来事が起こる。
視界が白く染め上げられる、そして奪われるのはそれだけではなかった。
魔女「嘘っ!? 属性同化を重ねた...っ!?」
隊員「まずい、Whiteout寸前だぞッ!?」
魔女「...視界もそうだけど、風の音が凄まじすぎる...これじゃ意思疎通なんて無理よ」
隊員「だろうな...ここはともかくあの女の周辺にいるCaptainとウルフが危ない」
──バババッ!
──バチバチバチバチッッ!
幸いにも後方に展開していた彼らはそれほど視界と聴覚を奪われずに済んでいた。
ならば戦地の中心へと向かい、助けに行くべきであった。
しかしそのようなことを簡単に許してくれる使い魔などいない。
T-REX「GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR...ッ!」
ZOMBIE「Ahhhhhhhhhhhhhh...」
魔女「頑丈すぎるわ...怯ませて動きを止めることができても、何度やっても倒れない...っ!」
隊員「こっちは数が多すぎる...処理に追われてそれ以外のことができない...」
攻撃手段の相性は良いはず、どちらとも完封勝利が約束されている。
だがそれは時間をかければの話であった、今はソレを求められていない。
今すぐに必要なのは多少の負傷を覚悟した、速効性の勝利。
隊員「...役割を変えよう、いいか?」
魔女「私もソレ、今思ってたところっ!!」
魔女がゾンビの群れを相手に、隊員が恐竜を相手に。
果たしてどのようなことになるかなど、想像がつかない。
T-REXの硬い皮膚を銃弾で貫けるか、ZOMBIEたちが集まる速度に魔女の魔法や詠唱速度が追いつけるか。
魔女「ねぇ、数秒間私を守ってくれない?」
隊員「いいぞ、そのかわりそれが終わったら数秒間手を貸してくれ」
魔女「話がわかる人ね、じゃあよろしく」
938: 2018/12/24(月) 19:14:45.76 ID:XUuL3A850
隊員「あぁ...まかせてくれ」スッ
────からんからんっ
彼が取り出したのはピンを抜いた手榴弾。
しかしその見た目は、隊長の持っているモノとは違う。
そしてそこから炸裂するのは爆発ではなかった。
隊員「目を瞑ってろ、眩しいぞ」
魔女「わかったわ」
────カッッッッッ!!
言われたとおり、手で顔を遮る。
するととてつもない輝きが指の隙間から差した。
T-REX「────ッッ!?!?」
ZOMBIE「────ッッ!?!?」
魔女(...眩しいわね、これを直視したら完全に動きがとまるわけね...光魔法みたい)
隊員「ほら、あと3つほどあるぞ」ポイッ
────カッッッ!!
1つで数十秒ほど、相手の視界を奪うことができる。
それが3つもあるというならば、1分近く余裕を貰えることができる。
そんな時間があれば、彼女の魔法の威力がどうなることか。
隊員「...次で最後だ、間に合うか?」ポイッ
────カッッッッッッ!
眩いの閃光はあと1度しか時間を作ることはできない。
できれば大事にとっておきたかったフラッシュバン。
だがこのタイミングで使わなければ、どこで使うのか。
魔女「ありがとう、十分よ...伏せて...」
魔女「────"雷魔法"っっっっ!!」
──バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチッッ!!
その雷は、360度すべての方向へと放電する。
そのあまりの威力に腐った氏体どもは、感電は愚か焦げ付いてしまう。
それどころではない、蒸発寸前の動かぬ氏体たちがあたりに転がっていた。
939: 2018/12/24(月) 19:16:10.48 ID:XUuL3A850
隊員「...君は将来...発電所で働いたほうがいい...いい給料を貰えるぞ」
魔女「そう? こっちで暮らすつもりだからいいかもね」
魔女「それよりも...あのドラゴンはまだ生きているのね」
T-REX「...GRRRRRRRRR」
足元、脛あたりをよく見てみる。
そこにはまるで破裂したかのような赤黒さの中に、黄ばんだ白色が見えていた。
魔女による雷の威力が伺える、だがまだ生きている。
隊員「骨は無事みたいだな、よかった」
魔女「...くるわよっっ!」
T-REX「────GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRッッッ!!」
──ズシンッ...! ズシンッ...!
あの映画で見たシーンを彷彿とさせる。
大怪我を無視してまでこちらに突進をしてくる様は、とても恐ろしかった。
隊員「──注意を逸らせッッッ!!」
先程隊員が言った、数秒間手を借りたいというのはこのことであった。
彼はすでにT-REXの弱点に気がついていた、というよりもわかっていた。
あの硬い皮膚を前に銃弾などまともに効かない可能性がある、ならば確実性を得たかった。
魔女「──"雷魔法"っっ!」
────バチッ...!
その一筋の雷は、暴君には直撃しなかった。
だがその音だけで警戒を誘うことは簡単であった。
たとえ知性がなくても、先程我が身をここまで削った魔法を無視することはあり得なかった。
隊員と魔女に走り向かっていたT-REXは、愚かにも真横に落ちた雷の方角を向いてしまう。
隊員「...Snipe」
──カチッ...
アサルトライフルに備え付けられたセレクティブファイア機能。
隊長がフルオートでのアサルトライフルの扱いに長けている。
隊員Bがスナイパーライフルの扱いに長けている、そして彼はその中間の立ち位置にいた。
隊員「......Fire」
──バッ!
セミオートで発射された、たった1発の銃弾。
過去に女騎士が、光竜に致命傷を与えたあの一撃。
だがこれは偶然ではない、彼の生み出す射撃精度がT-REXの光を奪う。
940: 2018/12/24(月) 19:17:19.07 ID:XUuL3A850
T-REX「────────ッッッッ!?!?!?」
音にならない悲鳴が発せられる。
身体に見合わぬあの小さな小さな瞳から吹き出すのは赤色。
見るまでもない、射撃は成功の様子だ。
魔女「...目に当てたの? あの小さな目に?」
隊員「当然だ、Captainに教えてもらったからな」
隊員「...ほら、もう片目も貰うからな」
──バッ!
長距離への射撃精度ならば、隊員Bに劣るだろう。
だが彼と隊長は、近距離ならばたとえ激しく動く相手であっても。
T-REX「────ッッッッッ!?!?!?」
隊員「──FOO! Fuck yeah!」
両目から赤き涙が流れてしまう。
とても可哀想な光景でもあり、その一方で致し方のないモノでもある。
一度は絶滅してたというのに、またこの世に戻されてはこの始末。
隊員「...やったかッ!?」
────ズシィィィィィィンッッッ!!
視界を奪われた暴君、その衝撃で遂には倒れ込んでしまう。
そして大きく開かれた口から発せられるのは、もがきのうめき声。
隊員「...あの映画の大ファンだったんだがなぁ」
魔女「これで、このドラゴンはもう動けないわね」
隊員「あぁ、もう立てないだろうな...」
魔女「もう道を塞ぐ使い魔はいないわね...急いで助けに────」
──バコンッ!
遠くから聞こえたというのに、思わず耳を塞ぎたくなる轟音。
その音だけで威力が伺える、そして視界に映ったのは。
隊員「────上を見ろッッ!!」
魔女「──ウルフ...?」
ホワイトアウト現象から飛び出してきたのは、狼の娘。
わずか数秒の出来事、だがそれ故に目で追うことができた。
誰しも異物が空を飛んでいたら、たとえ一瞬であっても視界に捉えることができるだろう。
941: 2018/12/24(月) 19:18:55.83 ID:XUuL3A850
魔女「...っっ!?」
そして不可視の白の空間から感じる、3つの魔力。
氷、風、そして最後に感知できたのは、爆発の気配。
彼女は同時に3つの同化を行っていた。
魔女「嘘でしょ...いや、それよりも...っ!」
隊員「──私があの子を追うッ! 君はCaptainと急いで合流しろッッ!」
魔女「...わかった、ウルフを頼むわよ」
隊員「あぁ、任せろッッ!!」ダッ
的確な判断であった。
魔女は治癒魔法を唱えることができる、なのでウルフを追うのは彼女の方が良い。
だがそれは地雷であった、例え上記が事実であっても、ある1つの問題点が存在していた。
隊員「ハァッ...ハァッ...!」
特殊部隊の彼が息を切らすほどの全力疾走、歩道に蔓延る雪が足元の調子を悪くする。
闇雲に走っているように見えるこの光景だが、むしろ逆で彼には考えがあって走っている。
彼の持っている土地勘が、ウルフが吹き飛ばされた方角への最短道を割り出していた。
たとえ魔女が魔力を感知したとしても、この迷路じみた合衆国の裏路地を全力疾走できるであろうか。
隊員「...ッ!! GET OUT OF MY WAYッッッ!!」スッ
──バッ! バッ! バッ!
三連のセミオート射撃が、裏路地にはびこるゾンビを射頃する。
これが意味する出来事に彼の足は更に加速する、ここにすらゾンビがいるということは。
隊員(まずい...急がないとZombieに群がられているかもしれない...)
隊員「────FOUNDッッ!!」
全力で走ること数分、ようやくウルフを見つけることができた。
とてつもない距離に吹き飛ばされたというのに身体に目立つ外傷は見当たらない。
その異様感を無理やり納得させ、彼女に近寄った。
隊員(...右手が元通りになっている、効力切れってところか?)
隊員「おい、大丈夫か? 返事ができるか?」
ウルフ「う...げほっ...う、うん...」
隊員「どこが痛む?」
ウルフ「お...おなか...ここにあたった...」
隊員「...服はボロボロになってしまっているが外傷は見当たらない、どうやら内蔵が痛むみたいだな」
942: 2018/12/24(月) 19:20:13.35 ID:XUuL3A850
ウルフ「こ...ここは?」
隊員「ここはCaptainたちが居るところからかなり離れたところだ」
隊員「...GunShopのようだな、その丈夫すぎる身体で店のガラスを突き破ったみたいだ」
ウルフ「ごめん...な、さい...」
隊員「謝るな、今肩を貸してやる」グイッ
自力で立つことが困難と思われるウルフを、起き上がらせた。
すると彼女のおしりで下敷きにされていたのか、ある武器の弾薬が目に入る。
隊員「これは...」
ウルフ「どうしたの...?」
隊員「いや、少し座って待っててくれ」
そういうと彼はやや歪な形になってしまった弾薬箱を手に取る。
そのパッケージには翼の生えたドラゴンが火を吹いているイラストが描かれていた。
それが何を意味するのか、隊員にはわかっていた。
ウルフ「...」ジー
彼が何かをしに行っている間に、ウルフはあるモノに視線を奪われていた。
視線の先には隊長の家にもあったあの光る箱、テレビが存在していた。
そこに移されていたのは、販促用に流されているとある映画。
男が両手に拳銃を持ち、派手な動きをするあの名作。
隊員「すまん、待たせたな...行こう」
ウルフ「あっ...うん」
座り込んでいたウルフを再び抱き寄せ、肩を貸した状態に。
気づけば彼は新たな武器を手にしていた。
そしてウルフも、新たな試みをする。
ウルフ「ねぇ...これ、もう1個もってない?」
隊員「ん? ハンドガンか? 持っているが...どうした?」
ウルフ「えっとね、借りたいの」
隊員「...あぁいいぞ、こっちも手持ちが増えて多分使わないと思うしな」
彼が新たに手にしたのはソードオフのショットガン。
そしてウルフが手にしたのは、隊員から預かったハンドガン。
この2つがこの先どのようにして活用されるのか。
~~~~
943: 2018/12/24(月) 19:23:05.81 ID:XUuL3A850
~~~~
隊長「──ウルフがやられたッッ!?」
局地的ホワイトアウトに囚われた隊長が吠える。
聞き間違えでなければ、爆発音とともに聞こえたのは悲鳴。
聞き覚えのあるあのウルフの声に違いなかった。
隊長「クソッ...なにも見えんし聞こえんぞッッ!?」
ドッペル「...まずいな、あの女...属性同化とやらの魔法を3つも重ねがけしているのか」
ドッペル「お前の身を闇で守ることはできても...これでは防戦一方だな」
隊長「せめて、魔王妃の居場所がわかれば...お前は魔力を感知できないのかッ!?」
ドッペル「出来てたまるか...あれを簡単に且つ高精度にこなしているあの女に感謝してろ」
隊長「...どうすれば────」
────ドクンッ...!
いくら攻撃から身を守ることができても、状況を打破することができない。
そのような手詰まりに近い現状、焦燥感からか心拍数があがる。
ドッペル「...くるぞ、爆だ...焦らず"俺"に任せろ」
──バコンッ!
その爆発は、あまりにも精密なモノであった。
あと僅かでも反応が遅れていたら直撃していたであろう。
野球ボールほどの大きさしかない爆発が、闇に飲まれた。
ドッペル「...ここまで小さな爆発も操れるのか、もう少しで展開している闇の僅かな隙間に通すところだった」
隊長「足元に手榴弾が転がったかと思ったぞ...」
ドッペル「まずいな...向こうはどうやら俺の闇の魔力を感じ取り、攻撃しているみたいだ」
隊長「...やはり感知をしてくるか、向こうは見えなくても攻撃ができるわけだ」
ドッペル「どうするか? 一度闇を取り払うか?」
隊長は魔力を持たない、よって感知による座標の特定はされないはず。
だがそれは同時に身を護る盾を捨てるような行為であった。
隊長「それはできない...もし当てずっぽうで魔法を大量展開されたら...」
ドッペル「...今現在感知されているということは、闇を取り払えばその変異にすぐに気づかれる」
隊長「そうなれば奴はナパーム爆撃みたいなことをしてくるかもしれん...いくらなんでも当たる」
ドッペル「参ったな...せめて奴の居場所がわかれば、闇の一撃が届くんだが」
隊長「振り出しにもどったな、もう少し考えさせてくれ...」ピクッ
944: 2018/12/24(月) 19:24:05.53 ID:XUuL3A850
「──きゃぷてんっっっ!!」
945: 2018/12/24(月) 19:26:07.97 ID:XUuL3A850
ほんの少し、僅かに聞こえたその最愛の声。
たとえ台風の中でさえでも聞き取ることができるだろう。
自身の聴覚を頼りに、彼女のいる方向へと声を投げかける。
隊長「──こっちだッ! わかるかッ!?」
ドッペル「...やかましいぞ」
憎たらしい影の嫌味などに返事はしない。
人として限界の大きな声が吹雪と共に轟く。
彼女には聞こえただろうか、結果はすぐにわかった。
魔女「──っ!」
ドッペル「...顔の周りの闇を除けてやる、今のうちに耳打ちで情報を共有しろ」
全身に纏う闇が、一部取り払われる。
そして彼女の柔らかそうな耳に接近するのは彼の口元。
隊長「──魔王妃はどこだッッッ!?」
魔女「────っ!」スッ
──バババババ■■■ッッッ!
そして彼女は指をさした。
隙かさずに隊長はそこへ銃弾を打ち込む。
そして響くのは、闇の音だけではない。
隊長「──やったかッ!?」
魔女「やってないっ! 逃げてるっっ!!」
猛烈なホワイトアウト、そして吹雪が視界と聴力を奪っていたというのに。
先程まで隊長たちを襲っていた環境は急激に変化を始める。
見る見る間にも、周りの景色が浮かび上がっていた。
ドッペル「...あの女に命中したようだな、闇が当たれば姿をくらますか」
魔女「転移魔法じゃないっ!? まだ魔力を感知できる距離にいるわよっっ!」
隊長「────急いで車に戻れッッ!」ダッ
──ガチャッ! バタンッ!
その言葉とともに、2人の足はすでに動いていた。
迅速な行動、気づけば既に隊長の足はアクセルペダルを踏んでいた。
魔女「──ウルフたちはっ!?」
隊長「隊員を信じろッ! アイツは俺が知っている中で一番優秀だッ!」
ドッペル「...一度闇をすべて取りはらうぞ、車とヤラが壊れかねん」
946: 2018/12/24(月) 19:29:56.85 ID:XUuL3A850
魔女「隊員さんがウルフの方へ行ったなんてよくわかったわねっ! まだ言ってないわよっ!?」
隊長「アイツならそうするッ! それよりももう大声で喋るなッ! 舌を噛むぞッ!」
魔女「...居たっ! 風の属性同化で、凄い速度で空を飛んでるわっ!」
隊長「──まずいッ! 逃げられるッ!?」
このような轟音を鳴らし追跡されたのならば誰だって気づく。
魔王妃はこちらを確認すると、車で追えないような裏路地へと姿を眩ませた。
その一方で飛行速度は保ったまま、邪魔になり得る障害物は同化させた風が追い払う。
隊長「────どうすれば」
魔女「──こうするのよ」クピッ
────ゴクンッ!
彼女から聞こえたのは、なにかを飲む音であった。
そして皮肉にも、この変化に気づけたのはドッペルゲンガーだけであった。
彼だけが感じ取ることができた、魔力量の変化。
魔女「"属性同化"、"雷"」
彼女が飲んだのは女賢者から渡された魔力薬。
無限のように湧く魔力が可能にするのは、詠唱速度の向上だけではなかった。
先程は右手だけしかできなかった同化が今度は全身へと。
魔女「もう逃さないわよっ──」
──バチンッッ!!
車に雷が落ちたかのような衝撃が生まれる。
ドアも開けずに飛びたった影響で、軍用車の助手席付近が完全に破壊されていた。
隊長「...凄まじいな」
ドッペル「見ろ、あの女が魔王の妻を追いかけているのが見えるぞ」
隊長「...今は魔女に任せるしかないか」
ドッペル「そうだな、それよりも人の姿が見当たらんな...これなら存分に闇を放てる」
隊長「先手は取られたが...我が国の部隊がこれ以上の被害を出させるわけがない」
ここはこの国屈指の大都市であるにもかかわらず、人の姿は見当たらない。
あたりに居るのはすでに銃殺されたような氏体しか見当たらなかった。
どうやらすでに一般市民の避難、そして救護は完了している。
隊長「...HQ HQ」
~~~~
947: 2018/12/24(月) 19:31:39.23 ID:XUuL3A850
~~~~
ウルフ「ご主人たちがいない...」
隊員「車がない...状況を察するに、魔王妃は逃走して、Captainたちは車で追いかけたってところか?」
ウルフに肩を貸しながらも、冷静に状況を分析する。
ほぼ正解に近い考察を出しながらも、やや途方に暮れてしまう。
ウルフ「ん...もう大丈夫だよ」
隊員「...」
ウルフの顔、やせ我慢をしているようなモノではない。
本当に身体の不調がある程度緩和されている。
その事実に彼は再度実感してしまう。
隊員(服もほぼボロボロで脱げかけ、そこから見える濃い毛並み...)
隊員(そして被っていたニット帽はいつのまにか脱げている...そこから見える犬の耳...)
隊員「...本当に、人間じゃないみたいだな」
ウルフ「うん?」
隊員「いや...なんでもない...それよりもどうするか」
あたりは暗く、申し訳程度の街頭が道を照らしている。
先程の魔王妃が放った魔法の影響か、摩天楼を彩る明かりはほぼ壊滅していた。
薄暗い日差しが落ちようとしている。
隊員「...もう夜になる、辺りも暗い...奇襲に気をつけろ」
ウルフ「うん」
隊員(夜か...ゾンビものの映画だと夜に被害が拡大するんだがな...)カチャ
だがそのようなことはなかった、なぜなら彼はすでに情報を持っていたから。
片耳から聞こえる状況の最新情報、ラジオの如く自動的に聞くことができる。
本部の報告によると、ここに住む市民の9割をセーフゾーンに誘導できた模様だった。
ウルフ「うわっ! ビックリした...」
隊員「ん...あぁ、すまん...少し明るさが強かったな」
そして彼が手にかけたのは、銃に取り付けられたある装備。
ボタン一つで、射線の先を照らすことのできるタクティカルライト。
これで夜でも視界を確保できるだろう。
948: 2018/12/24(月) 19:33:22.58 ID:XUuL3A850
隊員「少しばかり歩くぞ、途中で動かせそうな車があったらそれに乗ろう」
ウルフ「わかったっ!」
隊員「...ハハ、元気な返事だな」
ウルフ「えへへっ...」
先程の激戦、最前線にいなくてもその疲労値は凄まじいものであった。
未曾有の攻撃である魔法、そのようなモノと対峙すればそうなる。
だがそんな中、彼女の眩しい笑顔が隊員を癒やしていた。
ウルフ「...あれって、さっきの」
隊員「あぁ...T-REXか」
T-REX「────」
少しばかり歩いていると、先程の場所へと到着していた。
そこにいたのは、両目から紅を流していた暴君の竜。
だがその様子はとても静かなものであった。
隊員「出血多量だな、完全に絶命している」
ウルフ「...すごい大きいね」
隊員「そうだろ? 子どもの時は大好きだった」
隊員「だが実際に対峙してみると...なんとも言えんな」
ウルフ「そうなの?」
隊員「あぁ、かっこいいと思っていたが...やはり怖い」
隊員「それに先程はまだ明るかったから動きがわかりやすく、眼を狙えたが...この暗さだともう無理だな」
隊員「...新たなコイツが現れたら、もう手に負えないかもな」
949: 2018/12/24(月) 19:34:23.21 ID:XUuL3A850
ウルフ「うーん...今の所、この辺にはいないみたいだよ」
隊員「わかるのか?」
ウルフ「うん、足音がすごいから...すぐわかるよ」
隊員「あぁ、そうだな...あの足音は映画でもすごかった」
ウルフ「えいがってなに?」
隊員「知らないか、今度見せてや────」ピクッ
軽く雑談をしながら、横たわるT-REXを通り過ぎようとした瞬間。
とてつもない違和感が彼を襲った、この氏体の背中にできている新しい傷跡。
ウルフ「これって...」
隊員「...これは、噛み傷か?」
ウルフ「...たしかに、噛んだらこんな傷ができるけど」
隊員「Zombieでも群がったか...いやそれにしては...」ピクッ
考察をしている彼にある予感が走る。
もし自分が魔王妃なら、もし自分が兵力として恐竜を蘇らせるとしたら。
はたして強大であるかわりに愚鈍なT-REXだけだろうか。
隊員「...ヤバい、ヤバい...この予想が当たりならかなりヤバいぞ」
ウルフ「ど、どうしたの...?」
隊員「耳を澄ませてくれ...聞こえないか...?」
ウルフ「え...?」ピクッ
彼女の耳が立つ、このやや暗闇の中で頼れるのはコレしかなかった。
だがすでに遅かった、たとえ彼女の聴力を持ってしても厳しい。
居場所と数は特定できたとしてもその迅速な動きに対応できるであろうか。
950: 2018/12/24(月) 19:35:04.97 ID:XUuL3A850
「────CRRRRRRRRRRRRッッ!!」
951: 2018/12/24(月) 19:37:16.83 ID:XUuL3A850
ウルフ「────うしろっっ!!」
隊員「──"RAPTOR"だッッッ!!」
ラプトルと呼ばれる、比較的小型の竜。
某映画の影響でデイノニクスという恐竜がそう総称されている。
そして、その映画のお蔭でこの恐竜がどれだけ恐ろしいかもわかっていた。
RAPTOR「CRRRRRRRRRRRRRRッッッ!!」
──ドカッ!
気づけば背後にいた暗殺を得意とする竜。
隊員はあっという間に押し倒され、かつ武器を解除されてしまった。
隊員(アサルトライフルが押し倒された際にどこかに...)
隊員「グッ...なんてッ...力だッ...!」グググ
RAPTOR「CRRRRRRッッ! CRRRRRRRRRRッッッ!!」グググ
ウルフ「──ガウッッ!!」スッ
──バキッ!!
ウルフが繰り出す回し蹴りが、ラプトルに命中する。
普通の人間なら全く効果が得られない、だが彼女は魔物だ。
その威力故に、ラプトルの身体は持ち上がる。
ウルフ「だいじょうぶっ!?」
隊員「あ、あぁ...すごい威力だな、Raptorを軽く吹き飛ばしてたぞ...」
RAPTOR「CRRRR...ッ!」スッ
隊員「──ッ!」スチャッ
蹴飛ばされたラプトルはすぐさまに立ち上がる。
そしてそれを察知して、彼はサイドアームのショットガンをすばやく取り出す。
しかし発砲することはなかった。
ウルフ「...にげた」
隊員「逃げたか...あの阿婆擦れ、厄介なモノも蘇らせやがって...」
ウルフ「さっきのよりかなり小さいけど...その分すばやいね」
隊員「あぁ...だが奴の恐ろしさはそこじゃない」
ウルフ「う?」
隊員「奴らは群れで襲いかかる...今のが数匹いたら、多分殺されていた」
952: 2018/12/24(月) 19:38:49.54 ID:XUuL3A850
隊員「そして最も厄介なのが...賢すぎるところだ」
ウルフ「そうなの?」
隊員「...あぁ、知性のない動物だからといって侮るな、容易に背後を取られるぞ」
隊員「それも集団で、戦術地味た行動もしてくる...映画ではそうだった」
ウルフ「...気を引きしめなきゃね」
隊員「慎重に動くぞ...お互いは必ず、お互いの背中を守ろう」
ウルフ「わかったっ!」
隊員「まずは車を探すぞ...とてもじゃないが車がないと奴らに追いつかれる」
道に転がっている明かりの元へと向かう。
そこにあるのは、先程武器飛ばされたアサルトライフル。
それを拾うとすぐさまに行動に移る。
ウルフ「...」ピクッ
隊員「どうした?」
ウルフ「...いる、それも7匹はいるよ」
隊員「まずい...早すぎる...囲まれたら終わるぞ」
ウルフ「早く行こっ...?」
隊員「あぁ...俺が後ろを向きながら歩く、ウルフは前を見ながら歩き始めてくれ」
ウルフ「わかったよ」
隊員「...ッ!」
──ガサ...ガサ...
ウルフの耳がなくともわかる、後方に奴らがいる。
街路樹の裏、廃棄された車の影からチラリとみえる長い尻尾。
タクティカルライトでソレを照らすたびに、緊張感が生まれる。
隊員「絶対に油断するな...」
ウルフ「う、うん...」
彼女はラプトルについてなにもしらない。
だがそれでいて同じ野生動物でもある。
野生が告げる、あの動物の危険性がウルフにも緊張感を与えていた。
953: 2018/12/24(月) 19:40:42.26 ID:XUuL3A850
隊員「...クソッ、様子を伺ってるみたいだ」
隊員「来るならすぐ来てくれ...」
ウルフ「...ッ!」ピクッ
────ポタッ...!
今はニット帽を被ってはいない、なのですぐに感じ取ることができた。
ウルフの敏感な耳がある液体を察知した、今は冬だというのに季節外れの天候に。
隊員「嘘だろ、こんなときに雨かよ...ッ!?」
ウルフ「う...この感じ...かなり降りそうだよ...?」
隊員「勘弁してくれ...野戦での雨は本当に厳しいんだぞ...ッ!?」
ラプトルが与えるプレッシャーからか、言葉に余裕を伺うことができない。
やや焦燥に駆られた隊員が思わず強い口調でウルフに投げかけてしまう。
それほどに、今のこの天候がどれほど不幸なのか。
隊員「...すまない、少し冷静を欠いた」
ウルフ「...しかたないよ、あたしも雨きらいだもん」
隊員「そうか...だが不幸中の幸いにも、この道路にはロードヒーティングがある」
ウルフ「なにそれ?」
隊員「要するに地面がある一定の温度を保つから、雪が降っても積もらない」
隊員「だからアイスバーン状態に...凍結しないから足を取られることはないってことだ」
ウルフ「...そうなんだ」
隊員「あぁ、だから歩行に関しては問題なく進められるぞ」
ウルフ「たしかに、そういえばこの道にだけ雪がつもってないねっ!」
隊員「そういうことだ」
他愛のない雑談、この切り替えの速さこそが隊員の良さであった。
つい昨日までは隊長という大事な人物を失い、その強みが失われていた。
だが今は違う、彼の話術が緊張感をほぐしていた。
隊員「...しかし、一向に襲ってこないな」
ウルフ「うーん...とびかかってくる気配はたまに感じるけど...」
隊員「警戒しているのか...却って厄介だな」
954: 2018/12/24(月) 19:43:25.28 ID:XUuL3A850
ウルフ「気をつけてね、雨が強くなってきているから聞きづらくなってきたよ」
隊員「...あぁ、大丈夫だ、この目でしっかりと注意しておく」
徐々に雨が強くなる、ハリケーンとまではいかない大雨だ。
ゆっくりと道を進むなかラプトルへの牽制も怠らずにいた。
アサルトライフルの射線を何度も変化させるも、常にどれか1匹のラプトルに向けていた。
隊員(銃を持ったテ口リストを相手にしている方が気が楽だな...野生動物はいつ襲ってくるか全く検討がつかない)
──ゴロゴロゴロゴロゴロ...ッ!
その時だった、ラプトルに警戒しているとはるか上空から鳴り響く轟音。
まるで意思を持ったかのような雰囲気のある雷が響いた。
その音を奴らが利用しないわけがなかった。
隊員「──くるぞッ! 2匹だッッ!」
ウルフ「────わかったっ!」
RAPTOR1「CRRRRRRRRRRRRRRRRRRッッ!」
まずは2匹のラプトルが襲いかかる。
なにか狙いがあるのか、その2匹は愚かにも真正面から走り込む。
確かに不意打ちに近いかもしれないが、この武器を前にしてソレは自殺行為であった。
隊員「──Bye bye mother fucker...」スチャッ
──バッ! バッ!
2つのセミオート射撃が2匹のラプトルに命中する。
彼らはかのティラノサウルスではない、よってその皮膚の厚さは薄い。
とてもじゃないが、銃弾を堪えることはできない。
隊員「...こいつらなら一発で仕留められそうだ」
ウルフ「──後ろっっ!!」
RAPTOR3「CRRRRRRRRRッッ!!」スッ
隊員「────しまっ!?」
──ドカッ!!
決して油断していたわけではない、遠くで響く雷が、視線に広がる雨が彼の隙を産ませていた。
人間は大雨の中、果たして従来の集中力を持続させることはできるだろうか。
隊員の後ろを取った新手のラプトル、響いたのは雷の音ではなく鈍い打撃音であった。
955: 2018/12/24(月) 19:45:02.48 ID:XUuL3A850
隊員「......」
隊員(...身体に痛みはない)
思わず目を瞑っていた、その最後の光景には両手を上げ飛びかかろうとしたラプトルが鮮明に残る。
そして聞こえた鈍い音、間違いなく押し倒されたと思っていた。
恐る恐る視界を開けばそこには彼女がいた。
ウルフ「...」
隊員「...これは」
隊員(RAPTORの頭部が陥没している、まるでハンマーで殴られたかのような傷跡だ)
弱々しく横たわるラプトルを尻目にそう考察した。
ウルフが何をしたか、一目瞭然であった。
だがまだ会話を許してくれる状況ではなかった。
RAPTOR4「CRRRRRRッッッ!」
隊員「──ウルフッ! 新手は上だッッ!!」
新たなラプトルが廃車の屋根から信号機へと飛び移り、そこから奇襲をかけてきた。
その1匹だけではない、いままで機を伺ってきたすべてのラプトルがウルフに目掛けていた。
奴らの動きはすばやく隊員はアサルトライフルの照準を合わせることができなかった。
だがそれは違かった、あえてそうしなかったのであった。
ウルフ「...ガウッッ!!」
──ガコンッ...!
彼女の両手には、ハンドガンが握りしめられていた。
その持ち方は従来のものではなく、銃身を握りしめたものであった。
そこから放たれるのは銃撃ではなく、打撃。
隊員「──Gun kata...ッ!?」
──ドガッ! バキッ...! ダンダンッ!
銃身を握りしめハンマーのように殴ったかと思えば、直ぐ様に元の持ち方へと戻し発砲する。
それだけではない、まるでトンファーのように持てば奴らの爪での攻撃を弾くことができる。
人間では受け流すことができない、だが魔物の筋力ならたとえ恐竜であっても。
隊員「ウルフの方が力は上なのか...」
ウルフ「────よしっ!」
──バキッ...! ダンッ!
最後の1匹、飛びかかりの攻撃を受け流しそのまま地面へと投げ飛ばす。
そして繰り出される一撃の発砲音。
956: 2018/12/24(月) 19:46:47.08 ID:XUuL3A850
隊員「今ので7匹目...全滅させたか」
ウルフ「そうみたい...うまくいったね」
隊員「...Gun kataか...実際に見たのは初めてだ」
ウルフ「がんかた?」
隊員「二丁の銃を使った近接格闘術のことをそう呼ぶんだ...映画の中ではな」
ウルフ「そうなんだ!」
隊員「こうもRAPTORをあしらうとは...流石だな」
ウルフ「...ううん、あと1匹多かったらヤラれてたよ」
隊員「...」
初めは7匹に追われ、2匹は隊員が射頃した。
そしてその後ウルフがガン=カタを駆使して5匹を始末した。
5という数字、それが彼女の限界であった。
隊員「...進もう、RAPTORは7匹だけじゃないはずだ」
ウルフ「うん...それにしても、雨が強いね」
隊員「あぁ、おまけに雷も鳴っている...急いで車にのって安全に移動しよう」
────カッ!
その時だった、まばゆい閃光が夜空を煌めかせた。
どこか近い場所で雷が落ちたようだった。
その明るみは、一瞬だけであったが暗闇の摩天楼を照らす。
隊員「...見えたか?」
ウルフ「うん...見えちゃったよ」
隊員「...前方以外囲まれている、10匹はいるぞ」
あたりは夜の帳、そして静寂とは正反対の雨の轟音。
頼れるものはウルフの嗅覚と聴覚、そしてタクティカルライトの視野。
一難去ったところで、緊張感が再度生まれる。
隊員「...5匹以上は相手にするな、わかったな?」
ウルフ「でも...もし全員でおそってきたら...?」
隊員「その時は...まかせてくれ...絶対になんとかする...」
彼の顔は水でずぶ濡れであった。
雨の仕業か、はたまた冷や汗がそうさせているのか。
とにかく進むしかない、再びウルフが先頭になり隊員が後方の帳を照らす。
957: 2018/12/24(月) 19:48:12.59 ID:XUuL3A850
ウルフ「...ねぇ! あれってっ!?」
隊員「...ッ!」
いつラプトルが襲ってくるかわからないこの緊迫状態。
再度進み始め数十分は経った、そんな中ようやく希望の光が見えた。
そこにあったのは、唸り声をあげながらも主人を待つ鉄の塊。
隊員「でかしたぞ...ッ! そのままゆっくり、派手な動きをせずに乗るぞ...」
ウルフ「うん...っ!」
隊員(助かった...あの様子だと鍵は挿しっぱなしみたいだな...)
────ゴロゴロゴロゴロッ...!
車を見つけたその時、遠くで雷が鳴り響いた。
それが影響してか、わずかに生き残った街灯が反応する。
ウルフ「──うわっ!?」
隊員(こんなときに停電かよ...ッ!!)
隊員「──離れるなッ! これだけが頼りだッ!!」
視覚は完全に奪われた、この暗闇に抵抗できるのはタクティカルライトのみ。
彼は背中でウルフの体温を感じ取ると、そのまま押すように前に進ませる。
隊員「...いいか? 一瞬だ...一瞬だけ前を照らす」
隊員「その一瞬で車の方向を完全に把握してくれ...いいな?」
ウルフ「...っ!」
前方のどこかに車がある。
本当ならずっと前を照らしてやりたい、だがそれを許してくれるラプトルなどいない。
あの狡猾な奴らが暗闇を利用しないわけがなかった。
隊員「...ッ! ...ッ!」
隊員(ヤバい...生まれて初めてだ...ここまで緊張するのは...)
隊員(これならPredatorに追われている方がマシかもしれないぞ...)
隊員(...まだだ、まだ前を向けない)
おおよそ10匹の奴らがこちらを狙いすましている。
彼ができるのは、ラプトルたちに光を当てて警戒心を強めさせることしかできなかった。
素早く手を動かし多くのラプトルに光をあてるだけという警告を送っていないと既に襲われている。
958: 2018/12/24(月) 19:49:22.65 ID:XUuL3A850
ウルフ「...」ピクッ
隊員「...すまない、まだだ...まだ無理だ...」
ウルフ「ううん...違う...聞こえたよ」
──ブロロロロ...ッ!
彼女にだけ聞こえた鉄が煙を吐く音、雨の轟音に紛れた希望の音が。
獣の耳をもってようやくそのエンジン音が聞こえるところまで詰め寄っていた。
あてずっぽうながらも、じりじりと進んだ甲斐がここにあった。
隊員「...やっぱり犬っ子は最高だ」
ウルフ「...うん、間違いないよ、なんか変なにおいもしてきた」
雨によりあたり周辺の匂いが流されていた。
雨によりあたりの音もかき消されていた。
狼という種族の長所を奪われていたが、ここにきてようやくそれが生きる。
隊員「このまま、進めるか?」
ウルフ「うん、だいじょうぶ...後ろはまかせたよ?」
隊員「...YES SIR」
思わず口角が上がってしまう。
ようやく逃げ足を確保することができた。
ゴールはすぐそこ、その事実が彼に癒やしを与えていた。
ウルフ「あとちょっと...」
隊員「いいぞ...まだ襲ってくる気配はない...このままいけるぞ...!」
──ザアアアアアアアアアアァァァァァァァ...!
車という存在に射幸心が煽られている、この雨の轟音すら気にならない程度に。
だが彼らから生まれたのはソレだけではない、いままで絶対に避けていたある感情がそこにはあった。
ウルフ「──ついたっ!」
隊員「そのまま乗...れ...」ピクッ
言葉が詰まってしまっていた、一体なぜなのか。
ウルフの手によって開けられた助手席側の扉。
そして開けた瞬間、車の窓ガラスになにかが映った。
ウルフ「────嘘」
────カッ!
雷が暗闇を照らした、そしてその閃光が見せてくれたのは。
彼らは実感する、ここにきて初めて油断というものをしたということに。
959: 2018/12/24(月) 19:50:50.36 ID:XUuL3A850
隊員「喋るな、動くな、目を合わせるな...コイツは動きに反応するらしい...」
ウルフ「...」
──ズンッ...!
その強烈な足音が物語るのは、圧倒的な恐怖。
先程の明るいときですらここまで近寄られたことはない。
T-REX「GRRRRRRRRRRRRRRRRRR...」
隊員「...」
ウルフ「...」
先程とは別のレックスがそこにいた。
助手席に乗り込もうとしたときに開いた扉が唯一の隔てり。
彼らができるのは沈黙、そして不動であった。
隊員(...まさかこの雨音がT-REXの足音すらかき消しただなんて)
隊員(ふざけるな...B級映画ですらこんな展開をしないぞ...)
隊員(......いや、そうさせてしまったのは...油断か)
自責の葛藤、そして手には震え。
先程までラプトルを照らしていたライトは大いにブレている。
頭は冷静でいても、身体はもう抑え込めない。
隊員(...震えているのは自分だけじゃないか)
隊員(すまん...ウルフ...たとえ魔物とかいう種族でも、女の子にこれは酷すぎる)
ウルフ「...」
T-REX「GRRRRRRRRRRRRRR...」スンッ
あと僅かで車内へと入れるというのに、大雨の中で往生させられている。
急激に体温が低くなる、それは身体に付着した水分が影響しているだけではない。
眼の前へと移動してきた奴が匂いを嗅いでいるからだ。
隊員(...汗は雨に流れている...動物的な匂いはしないはずだ)
隊員(頼む...生き物だと気づかないでくれ...)
ウルフ「...」ブルブル
隊員の横で震えるウルフ、本能に刻み込まれた生態系の存在。
大きさがあまり変わらないラプトルなら話は別。
狼がティラノサウルスに立ち向かえるわけがなかった、そして劣悪な状況は更新される。
960: 2018/12/24(月) 19:51:52.85 ID:XUuL3A850
隊員(...嘘だろ)
────しと...しと...
先程まで聴力を奪っていた豪雨が、弱い音へと変わる。
この状況でなんと雨はあがってしまった。
その一方で身体から湧き出る冷や汗は止まらない。
隊員(まずい...雨が上がったことで匂いが流れなく...)
隊員(それに...T-REXだけじゃない...RAPTORもあたりにいるはずだ...)
隊員(奴らもT-REXの存在に警戒しているはずだ...すぐには襲いかかるとは思えんが...)
隊員(どうする...どうやって────)ピクッ
この状況、あの映画でも似たようなモノがあった。
あの時は発煙筒を使うことでこのデカブツを誘導することができた。
隊員「...」スッ
隊員(...気づくなよ...俺が動いていることに)
T-REX「GRRRRRRR...」
ごく僅かに腕を動かす、そして取り出したのはサイドアーム。
未だに近くに鎮座するT-REX、少しでも不審に思われたらお終いであった。
隊員「...」
隊員(一か八かだ...もしかしたら本命よりも射撃音に反応するかもしれない)
隊員(だがやるしかない...このままT-REXが大人しくこちらの様子を伺うだけとも限らない...)
隊員(タイミングは..."見えた"らだ)
先程まで恐怖によってブレていたタクティカルライトの光。
いかにして不自然な動きをさせずに、T-REXの目に入らないようにズラしていた。
その光をある方向へと固定させる。
隊員「...」
隊員「......」
隊員「.........」
まるで時が止まったかのような感覚でもあり。
まるで時が加速したかのような感覚でもあった。
矛盾するその体内時計、並々ならぬ緊張感がソレを実現させる。
961: 2018/12/24(月) 19:53:11.85 ID:XUuL3A850
隊員(...まだかッ!? まだ映らないのか...ッ!?)
ウルフ「...ぅぅ」ブルブル
隊員(まずい...ウルフも限界が近い...)
T-REX「...」スッ
そんなときだった、T-REXは動く。
こちらの様子を伺うために頭を下げていたが、その格好をやめた。
まるでどこか別の方へと向かうようなそんな素振りに見えた。
隊員(これは...なんとかなったのか...?)
ウルフ「...ふぅ」
だが、それは違かった。
なぜ頭を元の位置に戻したのか。
それはすぐにわかる、誰しも大声を出すときは予備動作が必要。
T-REX「────GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRッッッッッッ!!!」
その音色自体は今までも耳を刺激してきた。
だがその声量はとてつもないものであった。
人間の耳ですら厳しい轟音、それが狼の耳からすると。
ウルフ「────わああああああああああああああああああああっっっ!?!?!?」
隊員「────ッッ!!」ガバッ
ウルフ「わっぷっ!?」グイッ
隊員「──Shhhhhhhhh...Shh...」
人間の何倍もの聴力を持つウルフ。
彼女に襲いかかる多大なストレスが、思わず声を荒らげさせていた。
隊員が彼女の口を抑え、沈黙を促すがもう遅かった。
T-REX「...GRRRRRRR」
隊員(だめだ...目線が完全にこっちを向いているどころか...目があってしまった)
隊員「...ウルフ、覚悟してくれ」ボソッ
ウルフ「...もが」ピクッ
隊員(RAPTORならともかく...T-REXと真正面から撃ち合ったところで...)
その時だった、この一方的なにらみ合いに水を刺すものが。
今まで彼らを追い続けていた狩人の主。
ソレが偶然にもライトに照らされ、現れる。
962: 2018/12/24(月) 19:54:32.18 ID:XUuL3A850
RAPTOR「CRRRRRRRRRRR...!」
T-REX「GRRRRRRRRRRRRRRRRR...」
隊員「...ッ!」
まるで獲物を横取りするな、そのような異議を申し立てているようにも見える。
ライトに照らされているのもあってT-REXの目線がラプトルに向く、それが一筋の勝機を導く。
隊員「────BIG MISTAKEッ! ASSHOLEッッ!!」
──ダァンッッ!
サイドアームにしたソードオフのショットガンから放たれる一撃。
それはただの射撃ではなかった、ある特殊な弾薬が可能にする魔法のような代物。
弾薬に入れられたマグネシウムが着火する。
RAPTOR「──CRRRRRRRRRRRッッ!?!?」
T-REX「──ッ!」ピクッ
ウルフ「──えっ!?」
隊員「────乗れッッッ!!!」グイッ
魔法を使えないはずの人間から放たれた炎魔法のような現象。
燃え盛るラプトル、それに気を取られたT-REXはラプトルの様子を伺うしかなかった。
呆然とするウルフ、そして気づけば助手席に座っていた。
隊員「──とばすぞッ!」
──ブロロロロロロロロッッッ!
彼が足元のペダルを思い切り踏むと、車は唸り声を上げて速度を出す。
緊張を生んでいた現場はすぐに視界から消え失せていった。
ウルフ「な、なにがおきたのっ!?」
隊員「この世界には発火性のある弾薬がある、それを撃ったッ!」
隊員「それよりもヘタに喋るな、道が荒れているから舌を噛むぞッ!」
ウルフ「う、うん...っ!」
──トタタタタタタッッ...!
窓から聞こえるのは、高速の足音。
そして車内のフロアライトによる明るさを利用することで、その全貌が伺える。
963: 2018/12/24(月) 19:55:52.52 ID:XUuL3A850
ウルフ「ついてきてるよっ!?」
隊員「...これだから普通車はッ!!」
RAPTOR「CRRRRRRRRRRッッ!!」
いかに速度を上げたところで民間の車では限界がある。
これがスポーツカーであるなら、これが緊急車両であるのなら。
残念なことに普通車では俊足のラプトルに追いつかれてしまう。
隊員「──ッ!」
ウルフ「まえっ! まえにっ!」
隊員「このまま轢くぞッ! なにかに掴まれッッ!!」
言われるがままに、ウルフは取手に捕まった。
そして目の前に見えるのは腐った氏体、避けている暇はない、ぶつからざる得ない。
ZOMBIE「──...ッ!」
────グシャァァァァッッッ!!
いくら腐敗した身体だとしても、その衝撃はとてつもないものだった。
フロントに乗り上げた氏体の一部が、フロントガラスにヒビを入れる。
隊員「氏んでから迷惑かけてんじゃねぇぞッッ!!」
ウルフ「わあああああああああああっっ!!」
隊員「ウルフッ! 眼の前のコレを蹴破れッッ!」
ウルフ「わ、わかったよっ!」スッ
──パリンッ...!
衝撃の出来事が連発する、間違いなく自動車事故を体験したのは初めてだろう。
軽く混乱する、しかしそれでいて指示には答える、考えるよりも先に身体が動いていた。
隊員「外の奴を撃てッッ!!」
ウルフ「────ッ!」スチャッ
──ダンッ!
隊員の手元のスイッチにより、ウルフ側の窓ガラスが開かれる。
そしてそこから放たれる鋭い一撃。
RAPTOR「──CRRッ!?」ドサッ
ウルフ「あたったよっ!」
964: 2018/12/24(月) 19:57:16.15 ID:XUuL3A850
隊員「上出来だッ! 引き続きたの────」ピクッ
────ズンッ...!
遠くから聞こえる、重低音。
それが隊員の言葉を遮った、それだけではなかった。
ウルフ「うそ...もう追いついたの...?」
隊員「いや...これは新手だ...近くにいたのが並走してきたみたいだ...」
──ズンッ...ズンッ...!
そして聞こえる、連続した轟音。
それはすぐ近くに、そしてまた別の音が。
T-REX「────GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRッッッ!!」ズンッ
隊員「...こいつは足が遅いと聞いていたんだが、そうではないみたいだな」
ウルフ「き、きてるよぉぉおっっ!!」
T-REX「GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRッッッ!!」
開いた窓のすぐそこに、ティラノサウルスの大きな頭が並んでいる。
そして開かれたのは大きな口、それが車に迫る。
ウルフ「──うわぁっ!?」サッ
──メキメキメキッ...!
ウルフは助手席から運転席側へと身を寄せた。
そうしなければ、確実にあの牙の餌食になっていた。
隊員「あの野郎ッ! 扉に噛み付いていやがるのかッ!?」
T-REX「GRRRRRRRRRRRッッッ! GRRRRRRッッ!」
ウルフ「ど、どうすればいいっ!?」
助手席側のドアに、正確には開いた窓とそのピラーに。
まるで肉がちぎれるような音が聞こえる、噛み付いているのは鉄だというのに。
T-REX「GRRRRRッッッ!」グイッ
──メキッ...! バキッ...!
そしてその捕食行為に耐えられるわけもなく、車の身体は欠損してしまう。
思い切り引っ張られた助手席側のドア全体が外れてしまった。
965: 2018/12/24(月) 19:58:37.15 ID:XUuL3A850
ウルフ「う、うわ...」ギュッ
隊員「随分と風通りをよくしてくれたな...このクソッタレ...」
ウルフ「うぅ...」
隊員「速度は落とせない、だがそれだと危険すぎる...この手を離すなよッ!?」
ウルフ「わ、わかってるよっ!」
藁にもすがる思いで、運転している隊員の腕にしがみ付く。
こじ開けられた助手席からは、外へと導こうとする風がウルフの身体を引く。
それだけではない、その狼の肉を喰らおうとする竜も待ち構えている。
隊員「...いいか? 次に大口を開いたら...その中を撃てッ!」
隊員「奴の皮膚はとてつもなく硬いはずだ、だがその内部はそうじゃない」
隊員「...言いたいことわかるよなッ!?」
ウルフ「...っ!」コクコク
──バサバサバサバサッ!!
風の騒音、返事をすることすら億劫に思える程だった。
だが隊員の指示は伝わった、彼女は片手でハンドガンを構える。
ウルフ「...」
──ズンズンズンッ...!
連続した、巨大な足音。
そして続くのは、古代の唸り声。
T-REX「──GRRRRRRRRRRRRッッ!!」
ウルフ「────ッ!」スチャッ
──ダンッ!
その一撃は見事にも、奴の口内へと命中する。
愚かにも大口を開けていた代償だった、しかしそれではまだ足りない。
T-REX「GRRRRRRRRRRRッッッ!!」スッ
隊員「だめだッ! 一発じゃ怯まないッッ!?」
ウルフ「そんなっ!?」
隊員「──衝撃に備えろッッ!!!」
威嚇していたと思えば今度は頭を大きく振り上げる、繰り出されるのは強烈なあの攻撃。
車の速度は落とせない、落とせば確実に後続しているであろうラプトルの餌食に。
車のハンドルはきれない、きれば確実に速度に煽られ横転する。
966: 2018/12/24(月) 19:59:48.34 ID:XUuL3A850
T-REX「────GRRRRRRRRRRRRRRRRッッ!」ブンッ
────ガッシャアァァァァァァァァンッッッ!!
文字通り頭を使った強烈なタックルが、普通車の助手席側をすべてを破壊する。
それどころではなかった、衝撃に負けた彼ら2人が車外へと飛び出してしまう。
隊員「──ッ!」
ウルフ「──うわああああっっ!?」
──ザリザリザリッ! ドサッ!
冬場の冷たいアスファルトが、2人の身体に強烈な擦り傷を負わす。
早くも高速移動が可能な足を失ってしまう、だが絶望に明け暮れている暇などない。
隊員(今ので左腕が折れたな...)
隊員「ウルフッ! 大丈夫かッ!?」
ウルフ「うぅ...だいじょうぶだけど...すぐそこに...」
T-REX「...GRRRRRRRRRRRR」
幸いにもここの街灯はわずかに生きていた、この巨体をライトなしで薄く目視することができる。
そしてその遠巻きに、様子を伺うような素振りをしているラプトルの群れが見える。
隊員(...こちらの装備は、アサルトライフルとドラゴンブレス)
隊員(そしてハンドガンが2丁...厳しいな)
ドラゴンブレス、それは火吹きのショットガンの総称。
対人武器としては非効率的な殺傷道具ではあるが、動物相手には効果は抜群。
だが、いま対峙している動物には相性はよくはない。
隊員(...RAPTORならともかく、T-REX相手に撃っても効果はなさそうだ)
隊員(あの巨体が...あの分厚い皮膚が炎を物ともしないのは確実だ...)
──ズンッ...!
先程の雨の影響か、あたりには水たまりが点在している。
そしてあの巨体が動くたびに、それが波紋を生み起こす。
967: 2018/12/24(月) 20:02:34.09 ID:XUuL3A850
ウルフ「あのね」
隊員「...なんだ?」
時の流れが遅く感じる。
身体が感じているのは、走馬灯に近いものであった。
お互いが氏を覚悟している、だからこそ今落ち着いて会話ができている。
ウルフ「こんなにこわいんだね、氏ぬ前って」
隊員「...」
ウルフ「...最後まで...いっしょにいてくれない?」
隊員「...もちろんだ、むしろ...犬っ子と最後まで逝けるだなんて光栄だ」
とんだ軽口、その一方で身体には震えが。
それを見透かしてか、ウルフは折れてない方の腕を組んでくれた。
そして徐々に近寄る捕食者。
ウルフ「...あのね、だいじなお友達がいたんだけどさ」
ウルフ「その子は殺されちゃったんだ...それも独りぼっちのときに」
隊員「...そうなのか、それは辛いな」
ウルフ「うん...」
そこから会話が続くことはなかった。
ただ最後にかの魔物の友人のことを、誰かに話したかっただけであった。
そして、目の前には大口を開けた捕食者が。
隊員「...少し諦めるのが早かったかな?」
ウルフ「...ううん、むりだよ」
隊員「...だな、車から投げ出された時点で氏んでてもおかしくはなかった」
隊員「こうして氏ぬ前の喋れるんだ...諦めは悪かった方だな」
ウルフ「...スライムちゃん、魔女ちゃん、ご主人...さよなら」
隊員「...Captain、先に逝ってます」
T-REX「────GRRRRRRRR」
────ドシュンッ...!
恐ろしく鋭い歯が最後の光景であった。
そして、肉から骨を貫く鈍い音が、最後に聞こえた音であった。
~~~~
968: 2018/12/24(月) 20:03:45.57 ID:XUuL3A850
~~~~
魔女「──居た」
──ゴロゴロゴロゴロッッ...!
空に響く鋭い音。
だがこれは自然がもたらしたモノではない、人為的な雷であった。
魔王妃「...まさか、空を追ってくるとは思いませんでした」
魔女「悪いんだけど、逃げられたら困るのよ」
人型の雷と人型の風が対峙する。
お互いが属性同化を行使している故の現象であった。
その様子はまるで嵐のような。
魔王妃「いえ、もう逃げません...無事に誘導できましたからね」
魔女「...どういうこと?」
魔王妃「簡単な話です、ここは地上からかなり距離があります」
魔王妃「...いくらなんでも、ここから闇魔法が飛んでくるとは思えません」
魔女「...そういうことね」
要は分断されてしまったということ。
魔王妃が逃げる理由、それは闇魔法というカードを持つ隊長がいるから。
いま彼女らがいる場所は宙、アサルトライフルでは狙うことのできない遥か上空。
魔女「...」
魔王妃「おっと、逃がすわけにはいきません」
魔王妃「強力な戦力は1つずつ、確実に潰す必要がありますからね」
ハメられた、冷静に考えれば魔王妃の後ろを追うのは危険すぎた。
このようにいつ踵を返してくるかもわからないはずだった。
無茶な追跡が窮地に追いやられる。
魔女「...へぇ」
だが追いつめられたのは魔女だけではなかった。
彼女は僅かにも油断している、魔王の妻ともあろう女が。
この油断が1つの勝機につながるかもしれない。
魔女「...これを見ても、その余裕が保てるの?」
──バチッ...!
1つの稲妻が魔女の身体から空の雲へと放たれる。
そして響くのは、神の鳴り音。
969: 2018/12/24(月) 20:06:56.93 ID:XUuL3A850
魔王妃「えぇ、余裕ですね..."属性同化"、"炎"」
風の身体に炎が新たに纏われる、そこから生まれるのは熱風。
生身でこれを受けたのならば全身大やけどは免れない。
2者の属性同化がぶつかる、それがどういうことなのか。
魔王妃「────喰らいなさい」
──ヒュンッッ...!
風が魔女を目掛けて襲いかかる。
それだけではない、風とともに来るのは。
魔王妃「...燃えてください」
魔女「そうはいかないのよ」
────バチィッ...!
魔女の身体が消える、どの方向に消えたのか。
魔王妃はそれを目視することができていた。
最後に見失ったのは自身よりも高い場所にある、雲。
魔王妃「...天候に味方されては困りますね」スッ
──ブンッ...!
属性の身体、その右腕を振りかざすと突風が巻き起こる。
その威力故に柔らかな雲を裂くことなど容易であった。
割れた雨雲から現れたのは、人の形をした雷であった。
魔女「げ...もう見破られたか...」
魔王妃「やはり...この雲を利用して目くらましをしつつ、高速移動をするつもりでしたね?」
魔女「...自然発生してた雷がいい感じだったんだけどなぁ」
魔女「──じゃあいくわよ」
その自然な会話から一転し、突如として放たれる。
彼女が気張るように両手を広げると、あたり全体に魔法が生まれる。
魔王妃「──チッ、私の雷よりも質が良さそうですね」
────バチバチバチバチバチバチバチバチッッッッ!!!
魔女の周り360度に展開する雷の網、その見た目は珠。
なにも対策をしなければ、確実に命中するだろう。
970: 2018/12/24(月) 20:08:24.41 ID:XUuL3A850
魔王妃「雷の密度が濃いですね...」
魔王妃「ですが...距離を取れば当たることはありませんね」
確かに魔女の放った雷は驚異的であった。
だがその見た目の派手さの代償にある欠点があった。
魔王妃の言う通り、その射程の短さに難あり。
魔女「...」
だがそのような見え透いた弱点を、魔女が気づかないわけがなかった。
彼女は賢い者への修行を終えた人物である、距離を取られたのなら取り戻せばいい。
魔女「──そこね」
────バチッ...!
細く鋭い雷が一点に伸びる。
侮りの戦術がもたらしたのは、強烈な一撃。
魔王妃「────うっ...!?」
魔女(...動きが止まった)
身体の痺れに悶える、不可視の風。
魔女の身体の周り全体にはまだ雷が展開している。
ならばやることは1つ。
魔女(──接近戦...)バチッ
魔王妃「近寄らせません...」
雷の珠が超越した速度で接近しようとした瞬間。
猿真似じみた行動を許してしまう、彼女はあの魔王の妻、故に許される。
魔王妃「────燃えろ...」
──ゴォォォォォォォォォオオオオオオオオッッッ!!
その太炎は炎帝のソレを超えている。
風に焚き付けられた炎は温度を加速させる。
ここに氷竜がいたとすれば、間違いなく刹那的に殺害できる。
971: 2018/12/24(月) 20:09:22.97 ID:XUuL3A850
魔女「──うっ...!?」ピタッ
魔王妃「...よく踏みとどまりましたね」
魔女「あっつ...何考えてるの?」
魔王妃「...ふふ、炎帝ほどの才能がなくても、他の属性の魔法を使えばここまで精錬できるのですよ」
魔王妃「あなたのように、得意な属性ばかりに頼っていては...私には勝てませんよ?」
魔女「...」
魔女(...さっきの一撃、まともに当てたつもりなんだけど...一瞬怯ませただけで致命傷になっていない)
魔女(これじゃ本当に...勝てないかも)
魔王妃「ところで、魔力薬の影響とはいえ...随分と懐かしい魔力をお持ちですね」
魔女「...え?」
魔王妃「とても懐かしいです...彼は私のことなど知らないはずでしょうけど」
魔女「...なに? 大賢者様と知り合いなの?」
魔王妃「...知りたければ、無理やり口を割らせてみてくださいね」
魔女「...腹立つわねぇ」
──バチンッ...!
魔女の身を包む雷の珠が痺れる音を鳴らす。
そしてソレが彼女全身に、特に両手へと収縮する。
魔王妃(両手に属性を...炎帝みたいな戦術ですかね)
魔王妃(いや、それとも...あの狼の魔物のように拳圧と共に雷を放つつもりでしょうか)
魔王妃(...どちらにしろ、接近はありえません...属性同化で実態がない身体とはいえ熱は伝わっているはずです)
魔王妃(身体を炎と同化させていない限り...高温の影響で身体に拒絶反応が起こる...)
魔王妃(...ならば、後者...じゃないにしても遠距離攻撃)
彼女が体制を変化させる。
風と炎の身体、そして少しばかり残る人としての型。
女性らしい特有の腰つき、彼女はいわゆる中腰の姿勢に。
972: 2018/12/24(月) 20:11:09.02 ID:XUuL3A850
魔王妃(来なさい...避けてあげます)
風があるなら、間違いなく高速で後部へと移動できる。
彼女の準備は万端、そして同じく彼女も万端であった。
魔女「──そこっっ!!」
──バチンッ!!
両手を前に突き出すとそこから強烈な雷が生まれる、魔王妃の読みどおり遠距離攻撃。
無駄に地属性の魔法を放たなくとも、これなら魔力を節約しつつ避けることができる。
魔王妃「──まずいですね、少し侮りました」
魔女「悪いけど、今はじめて...全力よ?」
────バチバチバチィィッッッ!!
侮りとは少し違う、魔女の全力はこれが初のお目見えなのだから。
適切な言葉は見誤り、彼女の魔力量を考慮すれば全力がどの程度なのかある程度察せるはずだった。
彼女の全力、それ故に放たれる雷の大きさは凄まじかった。
魔王妃「...」スッ
いまさら新たに地属性の魔法など唱えている時間などない。
ならばできることはただ1つ、そのために魔王妃は両手を前に突き出した。
すでに展開してある、属性同化のありったけをぶつけるしかない。
魔王妃「────っ!」
──ゴオオオオオオオオオオオオオオォォォォォッッ!
──バチバチバチバチィィィッッッ!!
2つの轟音が交わる、それに伴い生身の人間では耐えられない衝撃波が生まれる。
あたりの雲は怯えるしかなった、その炎に臆して積んでいた雪を雨に。
その雷に誘われて、貯めていた静電気を垂れ流してしまう。
魔女「────っ!」
魔王妃「──やりますね」
魔女「...っ! ...っ!」
残念ながら彼女には話している余裕などない。
その一方で魔王妃は冷や汗こそかいているが喋れている。
実力差がここに浮き出る、だが今はまだ互角。
973: 2018/12/24(月) 20:12:48.75 ID:XUuL3A850
魔女(くっ...少しでも気を抜くと押しこまれる...っ!)
魔女(だけどこのまま属性をぶつけ合っても...必ず負ける...)
魔女(...どうすればっ!?)
魔王妃「...このまま押し切らせてもらいます」
──ゴオオオオオォォォォォォォッッッ!!
互角だと思われていた、属性の押し付けあいに優劣が生まれ始める。
極太の雷の塊が風を纏う巨炎に負ける、このままでは間違いなく炎が魔女へと向かう。
魔王妃「...いくら実態のない雷の身体とはいっても、耐えられますか?」
魔王妃「それ以前に、その属性同化を保てますか?」
魔女「──こいつ...っ!」
見透かされた、早くも魔力がなくなりつつあることを。
そんなことは感知をすればすぐに気づかれる。
逆をいえば、魔王妃はもうすでに感知をすることができるまでの余裕を持っている。
魔女(...あとちょっとね、数分もすれば完全に雷は負けて私の身体を炎が焦がしてくるわね)
魔女(どうする...短い時間で解決策を考えなきゃ...っ)
魔女(どうにか...油断を誘えれば...)ピクッ
何かを考えついた、そのような雰囲気が醸し出す。
だがそれを拒む理性があった、行おうとするのはあまりにも危険。
油断を誘う方法、それは1つしかなかった。
魔女(...ギリギリ魔力は足りるはず...間に合わせるしかないわね)
このままでは負ける、ならば競う必要はない。
つまりは身体を元に戻すということになる。
それがどれほど危険なことか。
魔王妃「────なっ...!?」
当然、魔王の妻ともあろう者でも驚嘆する。
ある程度の力をだしていたといのに、突然手応えがなくなれば。
眼の前にあった巨大な雷、それどころか人型の雷も見えなくなったとすれば。
魔王妃(なにが狙い...っ!? いや、絶好の機会なのは変わりません...!)
魔王妃「──貰いました」
────ゴオォォォォォォォォォォォォッッッ!
炎が魔女の身体を焦がす、それだけではない。
風が更に焚き付け灼熱の温度を生み出す、極めつけは浮遊していた身体が。
974: 2018/12/24(月) 20:13:51.69 ID:XUuL3A850
魔女「──うわあああああああああああああああああああああああっっっ!?!?」
叫ぶしかなかった、身を蝕むやけど。
そして雲がもたらす雨、その温度差に身体が拒否反応を起こす。
そして最後に感じるのは地上へと引っ張られる重力。
魔王妃「...っ!」
魔王妃(狙いはなにっ...!? 全く読めない...っ!)
まるで意味不明な行動、予測できない自体に身を硬直させてしまう。
だが今しかない、属性同化という強力な魔法を使う魔物を仕留める絶好の機会。
重力に引っ張られる魔女をそのまま追い始める。
魔女(────あつい)
感想を述べている暇はない、魔女は次の行動へと移る。
身体が悲鳴を挙げているのなら癒やせばいい。
傷が治るまで何度も、何度も。
魔女「──"治癒魔法"」ボソッ
その声量は、とてもじゃないが他者には聞き取れない。
風が、炎が、うめき声が、雨が、雷が、5つの音がその小声をかき消す。
それだけではない、その治癒力はとても低いものだった。
魔女「"治癒魔法"、"治癒魔法"」ボソッ
魔力がないわけじゃない、こうしなければならなかった。
派手に治癒してしまえばその異変に彼女は気づくだろう。
今必要なのは、追いながらも狙いが読めず困惑している魔王妃。
魔王妃「...このまま手をかけなくても、地面に衝突して終わりですね」
魔王妃(しかしなぜ...まだ魔力薬の効力は続いている様だというのに)
幸いなことに彼女の性格が油断を誘えていた。
彼女は1から10までを調べないと気になって寝れない質。
様々な属性を自在に操る、つまりはかなりの探究心を持っているに違いない、魔女はそう仮説を立てていた。
魔女「"治癒魔法"、"治癒魔法"、"治癒魔法"」ボソッ
意識は消えかけ、生命維持のギリギリまで粘る。
熱に耐え、身を裂く風に耐え、失禁しそうになる落下速度に耐える。
そして時はきた。
975: 2018/12/24(月) 20:16:19.85 ID:XUuL3A850
魔王妃「...っ!」ピクッ
魔王妃(もしかしてこれは...私を地上へと誘い込んでいる...っ!?)
時はきてしまった。
魔王妃は気がついてしまった、これは明らかに地上へと誘導されている。
そして地上には誰がいるのか、忘れてはならないあの黒がいる。
魔王妃「────危なかった、気がついてよかった...っ!」ピタッ
魔女(...どうしてそこで...気がつけるの...っ!!!)
魔女「だめ...失敗したぁ...」
落下する自分を囮にして魔王妃を地上へと誘導する作戦は失敗した。
これしかなかった、せめて隊長の武器の射程範囲内へと誘導できたのならば。
だがそれはできなかった絶望感が彼女を襲った。
魔女(...属性同化をまた発動させて、落下を防ごうと考えていたけど...もう意味はないわね)
魔女(ごめん...スライム...帽子...ウルフ、そしてキャプテン...)
身体を焦がすやけどが多大な倦怠感を生み出していた。
すべてのやる気を燃やされてしまい、復帰は絶望だった。
もう1分もない、それを過ぎれば地面へと正面衝突だ。
魔王妃「...危なかったですが、そもそもあのドッペルゲンガーもいないみたいですね」
魔王妃「彼があそこにいると賭けに出たわけですね...ですが、博打すぎましたね」
魔王妃「...同じ魔物という種族ですから、最後まで見届けますよ」
魔物という種族、その王の妻。
哀れみにも近い表情で魔女の最後を見届けようとする。
その時だった、あらたな光が勝機を生み出す。
魔王妃「...」
────カッッッ!!
その音は稲光の音、だが魔女が創り出したモノではない。
これは自然が作り出した、神の鳴り音。
魔王妃「────うっぐ...っ!?」
身体に走る痺れ、完全なる油断。
知性のある生き物は雷に打たれる予想などしない、当然の不意打ちであった。
976: 2018/12/24(月) 20:18:35.50 ID:XUuL3A850
魔女「──っ!」ピクッ
魔王妃「な...どうし...て...」フラッ
不幸な一撃を貰いふらついた彼女、それに留まらず。
あまりの出来事に思わず、身体が地上の重力に負けてしまうほどに。
まさに奇跡であった、この異世界の自然は魔女を応援した様に見えた。
魔女(...ふふ)
魔女「────"属性同化"、"雷"っっ!」
──バチバチバチバチバチッッッ!!
倦怠に負けた身から元気を振り絞ったわけではない、何かを見て元気をもらったような雰囲気。
身体を雷にすることで重力に打ち勝ち浮遊する、これで地面との正面衝突を回避できる。
魔王妃「ぐっ...しまっ────」
──□□□...ッ!
身に感じる危険な音、それは黒くなく、白いモノ。
なぜそんなものがここにあるのか、不可解であった。
魔女「────信じてたわよ、あなた」
隊長「──あぁ、俺も信じていた」
闇の気配などない、だからこそ魔王妃は気づけなかった。
彼はもうすでにここに居た、居てくれていたのであった。
そして放たれるのは弾幕。
隊長「──Open fire...」スチャ
────ババババババババババ□□□ッッッ!!
なぜ彼は、闇ではなく光を使っているのか。
その答えはわからない、彼にすら。
魔王妃「──なぜ」
──グチャグチャッ...!
その高品質な光を前に、彼女の身体は実体を創らされていた。
それどころではない、属性同化という魔法を強制的に解除されてしまっていた。
眩しすぎるが故に。
977: 2018/12/24(月) 20:20:35.02 ID:XUuL3A850
魔王妃「──なぜ、あなたが...」
隊長「...まだ耐えるのか」
魔女「その武器だけじゃだめ...もっと威力が欲しいっ!!」
──バチバチバチッ...!
この雷は、先程よりかはやや威力が低下している。
それでも決して低すぎるわけでもない。
だというのに、魔王妃の身体にはまともなダメージを与えることができずにいた。
魔王妃「──なぜ、あなたが光を...」
魔女「──頑丈すぎるっっ!?」
隊長「...大丈夫だ、来てくれた」
──バラバラバラバラバラバラッッッ!!
なにかが高速回転する音が訪れる。
雷にも引けを取らないその轟音、その音の主が上空から参上する。
そしてそこから覗くのはあまりにも大きすぎる銃身。
魔王妃「──なぜ、あなたが"あの子"の光を...」
隊員A「──I found enemy」
隊員B「Bitch ass...」スチャ
────ドシュンッ...!
鈍すぎるその音、どうやって発しているのか。
対物だからできる芸当、アンチマテリアルライフルの真骨頂がここに。
たとえ属性を持たぬただの武器であってもその一撃は計り知れなかった。
魔王妃「......そうか、"あの子"...そこに...いる...のね...」ポツリ
1人つぶやく彼女、その表情はどこか嬉しげなモノ。
光の弾幕でできた銃痕、雷によってできた身体の炭、そして対物ライフルの重すぎる一撃。
様々の要素が彼女の属性同化を完全に解除させていた、彼女は地面へと落下するしかなかった。
ウルフ「...」
隊員「...やったのか」
隊員Aが操縦するヘリコプター、そこから覗き込む2人。
ただその様子を見守ることしかできなかった。
~~~~
978: 2018/12/24(月) 20:22:16.76 ID:XUuL3A850
引用: 隊長「魔王討伐?」



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