1: 2018/12/24(月) 20:32:18.02 ID:XUuL3A850
隊長「魔王討伐?」【その1】
隊長「魔王討伐?」【その2】
隊長「魔王討伐?」【その3】
隊長「魔王討伐?」【その4】
隊長「魔王討伐?」【その5】
隊長「魔王討伐?」【その6】
隊長「魔王討伐?」【その7】
隊長「魔王討伐?」【その8】
隊長「魔王討伐?」【その9】
隊長「魔王討伐?」【その10】
隊長「魔王討伐?」【その11】
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5: 2018/12/26(水) 20:31:54.50 ID:czzKzwQ80
~~~~
魔王子「...ついにボケたか?」
ここには彼の母親などいない。
彼の暴言はそれが引き金となっていた。
世界が変わる、あたりには闇が醸し出されていた。
魔王子「自らの妻を、知りもしない世界へと送るのか...」
魔王子「...クソ親父がぁ」
彼の周りにはとてつもなく濃い闇が生まれていた。
なぜなのか、それは彼だからこその理由。
父と母を知る息子だから故の理由であった。
魔王「...子にはわからんさ、我らの野望には」
魔王「残念だ...息子を頃すことになるとはな...」
魔王子「...!」
──......
無音が響く、それがどれだけ不気味なモノなのか。
魔王子が抜刀する、光の剣に纏わせるのはどす黒い色。
いよいよをもって始まってしまう。
女勇者「...始まるね」
女騎士「あぁ...備えろ、今までの戦闘の比じゃないぞ」
女賢者「...鳥肌が止まりません、魔王子さんの闇も...魔王の闇も...」
魔王子「俺が全力で叩き斬る...後方に居てくれ」
──■■■■...
闇が広がる、冒涜的な擬音があたりを包み込む。
そして両者の口から同じ魔法が唱えられた。
6: 2018/12/26(水) 20:32:24.79 ID:czzKzwQ80
「────"属性付与"、"闇"」
7: 2018/12/26(水) 20:34:37.38 ID:czzKzwQ80
────ギィィィィィィィイイイイイン■■■■ッッッッ!!!
そして続くのはあまりにも鈍い金属音。
魔王子は早くも、父である魔王に向けて剣気を放っていた。
女騎士「──うっ...!?」
魔王子「女勇者ッ! 女騎士と女賢者の前に立てッ!」
女勇者「そんなことわかってるよっ! "属性付与"、"光"」
──□□□□ッッ!
光の擬音、その心まで照らされるような明るい音が女勇者を包む。
そしてある箇所に光が重点的に集まる。
女賢者「...光の盾といったところでしょうか」
女勇者「絶対に後ろにいてっ! 魔王子くんたちの闇をこれで護るからっっ!」
女騎士「凄まじいな...」
魔王子「──それでいい、それなら...俺も...」
先程の剣気の余波が、魔王によって創り出された闇が彼女たちを襲う。
だが光の盾がここにあるのならばその心配はない。
人の大きさに合わせて作られたこの盾、その面積を補うように光が展開する。
魔王子「本気を出せる...■■■■」スッ
────■ッ...!
素早く剣を鞘に収めたかと思えば、すぐさまに抜刀を行う。
彼の最も得意な基本戦術、その鋭い一撃が闇を纏う魔王に直撃する。
魔王「...これが本気なのか?■■■■■」
魔王子「準備運動だ、そんなことにも気づけないのか?」
魔王「...その口の悪さは誰の譲りだろうか」
女騎士(...絶対に魔剣士だろうな)
魔王「では...今度はこちらの番だな...■■」
魔王の両手に闇が集まる。
そして背中に生えた翼を大きく広げる。
なにが起こるのかは明白であった。
8: 2018/12/26(水) 20:36:19.01 ID:czzKzwQ80
魔王子「──ッ!」
魔王「────喰らえ」シュンッ
────ッッッッッッッッ!!!
音にならない衝撃が耳を貫く。
身にまとった闇でさえ追いつくことのできない速度であった。
翼を利用した超高速接近、そして繰り出されたのは闇の爪。
魔王「...光の魔剣か、だが十分に扱えていないようだな」グググ
魔王子「...ッ! クソッ...!」グググ
剣と爪が鍔迫り合う、一見して互角のような力関係と思えた。
だが決定的な力量差が見て取れる事実があった。
魔王にはもう1つ、手段があった。
魔王子(──片腕でこれか...ッ!?)
魔王「ほら、腕はもう1本あるぞ?」スッ
女勇者「──っ!」ダッ
闇の右手で光の魔剣を掴み取られている。
そして左手が炸裂しようとした瞬間であった。
闇への抵抗手段を持たない彼女たちを置いて、女勇者が突撃する。
魔王「素早い判断だ、だが代償を払ってもらうか...」スッ
魔王子の首元へと伸びようとしていた左手を、別の場所に向けた。
それは光の盾を失った無防備な彼女たち、女勇者の判断は間違いであったのだろうか。
魔王「あのままなにも起きなければ、魔王子の首を跳ねていた」
魔王「正しい判断だ、大事な戦力をここで失う意味などない...」
魔王「...だが、あの人間の女2人は氏ぬ」スッ
──■■■■ッッッッ!!!
左手の闇を地面へと叩きつける。
そして生まれたのは、地を這う黒の魔法。
闇が彼女たちへと襲いかかる。
9: 2018/12/26(水) 20:37:48.95 ID:czzKzwQ80
女勇者「──ごめんっ! 避けてっっ!!」
女騎士「言われなくともわかっているさっ!」
女賢者「...そうですね、このぐらい対処できないと足を引っ張るだけですからね」
──■■■■ッッ!!
迫る闇、そして彼女は詠唱を行う。
黒は地面を這っている、ならばその経路さえ潰せば。
彼女は賢き者、光魔法や解除魔法が使えないのならこの魔法を使えばいい。
女賢者「..."地魔法"」
──メキメキメキメキッッッ!
彼女の魔法に反応して、魔王の間の床がめくり上がる。
迫りくる黒の動きが止まる、誰しも道がなければ歩けないのと同じ原理であった。
だがそれを許す魔王もいるわけがなかった。
魔王「...ならこれはどうだ?」スッ
──■■...ッ!
道を失った闇が宙へと浮かぶ。
これならわざわざ床を這わなくても迫らせることができる。
属性付与の魔法故に、簡単に操作できてしまう。
魔王子「...いい加減離せッ! このクソ親父...■■■」
女勇者「僕の仲間を、いじめないでよ□□□」
女騎士(...時間は稼げたな)
女騎士「女賢者っ! こっちだっっ!!」グイッ
女賢者「ぐえっ...もうちょっと優しく引っ張ってくださいね...」
結果的に、女騎士と女賢者では闇に抗えなかった。
だが女賢者が魔法を唱えたことによって、時間を稼ぐことができた。
あの魔王から時間を奪うことができたのならばそれだけで上々。
魔王子「────氏ね■■■■」
女勇者「──くらえっっっ□□□□」
人間の女に気を取られすぎた、近くには光の勇者。
そして、剣を手から離し自身と同じような闇の展開をしている実の息子。
10: 2018/12/26(水) 20:41:20.03 ID:czzKzwQ80
魔王「...これはこれは」
────□□□□□ッッッ!!
まず決まったのは、光を帯びた盾による打撃。
そのあまりの眩しさに魔王の闇は萎える。
魔王「────ぐゥ...ッ!?」
──■■■ッッッッ!!
そして次に炸裂するのは息子の拳。
誰に教えてもらったのか、黒を纏った殴りが魔王の顎に直撃する。
魔王の身体はどこかへと吹き飛ばされていた。
魔王子「まさか魔闘士の真似事をするとはな」
女勇者「...かっこよかったよっ!」
女賢者「早速、魔王に一泡吹かせるとは...」
女騎士「...そうだな、っと...落ちてたぞ」スッ
落ちていたのはユニコーンの魔剣。
魔王子の強烈なストレートの威力に負け、魔王はソレを離してしまっていた。
ともかく先制に成功した、状況は魔王子側が有利だろう。
魔王「...なかなかやるじゃないか」
あたりには塵芥、なかなか掃除をする機会がないようだった。
魔の王としての衣装についたソレを手で払い、口の中に貯まる血を吐き捨てる。
魔王「久々にまともな一撃を喰らってしまったな」
魔王子「...抜かせ、わざと受けただろ?」
魔王「...お見通しか、血の繋がりとは面倒なものだ」
女勇者「どういうこと...?」
なぜ不利になるようなことをするのか。
光魔法により自らの魔力を封じられ魔王子の類まれに見る純度の闇を受ける。
それがどれだけ危険なことなのか、わかりきったことだというのに。
女賢者「...狙いがわかりませんね」
女騎士「混乱させようとしているのか...?」
魔王という男がこのような一撃をまともに喰らうだろうか。
そのように問いかければ誰しも疑問に思うだろう。
混乱を招こうとしている、そう言われても不思議ではない現状。
11: 2018/12/26(水) 20:42:53.34 ID:czzKzwQ80
魔王「...」
魔王子「...なぜだ?」
魔王「なにがだ?」
沈黙を破る、息子からの問いかけ。
それは今起きた出来事に関するものではなかった。
なぜ、このように対峙せざる得ない状況に陥ったのか。
魔王子「なぜ...民を見捨てた...」
魔王子「俺の知っている...魔王は...そんな男ではなかったぞ」
魔王「...言ったはずだ」
魔王子「確かに答えは聞いた...だが、その理由を述べてもらったことなどないぞ」
女騎士「...」
事情を知る女騎士。
あの時、炎帝により叩き落とされたあの城下町。
あそこで漏らした魔王子の言葉、今も耳に残っている。
女騎士「無駄だ、訳など話してくれそうにもないぞ」
魔王子「...」
魔王「まさか...人間の娘に言葉を漏らすとはな」
事情を知る顔つき、それだけで魔王は察する。
当然であった、彼は魔王子の父親、息子の行動原理など手にとってわかる。
だからこそ意外でもあった。
女騎士(...私にできるのは、これぐらいか)
女騎士「魔王子、しっかり守ってくれよ?」ボソッ
魔王子「...?」ピクッ
正直言って戦力になることのできない女騎士。
治癒魔法や防御魔法を唱えることのできる女賢者より足手まといかもしれない。
だからこそ彼女は、賭けにでる。
12: 2018/12/26(水) 20:43:59.13 ID:czzKzwQ80
女騎士「...所詮コイツは、愚かな暴君でしかないみたいだ」
女騎士「民の気持ちもわからず、治安を改善しようともせずに椅子に座るだけのジジイに過ぎない」
女騎士「魔族の王...? 笑わせてくれる...これなら魔剣士のほうがいい政治ができるんじゃないか?」
魔王「...煽りか? 悪いが無駄だぞ」
────ピリッ...!
無駄、その言葉とは裏腹にとてつもない威圧感が女騎士を襲う。
お前のような雌などいつでも頃すことができる、そのような意図が組める。
女騎士「...っ! そうやって脅すことしかできないところを見ると、図星のようだな」
女騎士「魔族の王と言うより...蛮族の王といったところか?」
女騎士「これなら納得できるな、民の治安よりも人間界や異世界への侵略を優先するわけだな」
魔王「...まるで全てを知ったような口を叩くじゃないか」
女騎士(...やはり城下町の治安については、なにか訳があるみたいだな)
女騎士(だがそれの追求は今することじゃない...今やるべきことは...っ!)
女騎士「何も語らないお前が悪いんじゃないか?」
女騎士「それにしても、魔王子の母も可哀想なモノだな」
魔王「...」
ある言葉に反応して沈黙が訪れる、禁忌の言葉を連発させる。
キーワードは絞られた、女騎士の巧みな話術がそれを逃すわけがない。
女騎士「このような野蛮な男の政略に付き合わされて、挙句の果てには異世界へとばされる」
女騎士「...考えられないな、同じ女として同情する」
女騎士「それとも..."愛"は盲目といったところか?」
魔王「────ッ!」
────■■■■ッッッ!!
闇が溢れ出る、魔王子と瓜二つのその顔に地獄のような表情が付与される。
先程のモノとは桁違いの質を誇る暗黒が辺りを破壊する、釣れてしまったのはとてつもない大物であった。
13: 2018/12/26(水) 20:45:40.48 ID:czzKzwQ80
女騎士「すまん魔王子、お前の母を侮辱して」
魔王子「...お前じゃなければ首を切り落としていたところだ、安心しろ」
女勇者「...」ブツブツ
女賢者「...」ブツブツ
後ろにいた2人は既に唱えていた。
魔法の練度を高めるために、とても丁寧に。
これから来るであろう超弩級の闇に対する防衛策を。
魔王「女ァ...地獄の底まで付き合ってもらうからなァ...」
魔王「我が妻は自ら志願したんだァ...側近も自らを転世魔法の生贄にしろと志願した」
魔王「彼らの忠誠心を...穢すことは断じて許せん...」
────■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッッッッ!!!!!!!!!!
とてつもない量の闇が魔王城の内部を破壊する。
これが魔王の本気、属性付与が繰り出す最強の黒。
魔王子「...やはり、薄々わかってはいたが...側近は生贄か...」
女騎士「...顔見知りが亡くなるのは、辛いな」
魔王子「あぁ...それにもう...母様とは会えないだろうな」
女騎士「それも...辛いな」
魔王子「...どちらにしろ魔王に背けば四帝や側近、母様にまで刃を向けねばならないことに」
魔王子「だが...母様だけはこの手で殺めずに済んで、良かったと思える自分がいる」
女騎士「...いいのか? 異世界にいった魔王妃は...キャプテンたちによって殺害されるぞ?」
魔王子「仕方ないことだ...仕方ない...ことだからな」
苦渋の決断、そのような苦虫を潰したような顔をしている。
過去の同朋を選ぶか、現在の同朋を選ぶか、そのような選択の答えは明白。
魔王子「俺は...今を生きている...だからこそ、今の貴様らを選ぶ」
魔王子「だから...少し下がっていろ■■■■■」
魔王「────氏ね」
──■■ッッ! ■■ッッ! ■■ッッ! ■■ッッ! ■■ッッ!
魔王が闇の爪を、前方にかつ一心不乱に振り回す。
過去に魔王子が風帝に見せたあの地獄のような光景。
それを己の素手のみで実現させていた。
14: 2018/12/26(水) 20:48:06.57 ID:czzKzwQ80
魔王子「────氏ね」
──■■ッッ! ■■ッッ! ■■ッッ! ■■ッッ! ■■ッッ!
ならば当然、こちらも抜刀の勢いで生み出した剣気で応戦するまでだった。
魔王にできるのなら彼にだってできる、闇と闇がぶつかり合う、共喰いじみた光景が広がっていた。
魔王「──その女を差し出せ、殺させろ」
魔王子「それはできん、大事な戦力だ...」
──■■ッッ! ■■ッッ! ■■ッッ! ■■ッッ! ■■ッッ!
──■■ッッ! ■■ッッ! ■■ッッ! ■■ッッ! ■■ッッ!
黒がぶつかれば、闇が闇を喰らう。
イタチごっこにすらならない、これが闇属性同士の競り合い。
どちらかが気を抜けばこの暗黒が身を滅ぼす、しかしその気配は一向に起ころうとはしない。
魔王「闇に闇をぶつけても、なにも進展しないぞ?」
女勇者「────ならこれならどう?」
────□□□□□ッッッ!!
遠くから光が魔王へと歯向かう。
彼女には遠距離攻撃ができないはずだというのに、どのようにしてコレを行ったのか。
魔王「...自らの武器を投げ捨てるのか」
女勇者「悪いね、僕は魔王子くんのようなことできないから」
答えは単純、至極単純であった。
彼女は己の剣を、光を纏わせたソレを投げつけてきていた。
だが、上位属性の相性には叶わなかった。
魔王「...残念ながら、無駄だ」
────■■...
魔王子による連鎖剣気を凌ぎながらの動作であった。
上位属性の相性の優劣は質の高さ、という話以前の問題であった。
光を帯びた剣は魔王に避けられてしまった。
魔王子「────...ッ!」
一瞬の好機、たとえ魔王といえども慢心は絶対にしない。
光属性とはそれほどに恐ろしい、それは魔王子自身も味わっている。
ならば絶対に強く警戒をする、その場面を見逃すわけがなかった。
15: 2018/12/26(水) 20:49:56.25 ID:czzKzwQ80
魔王子「──そこだ」スッ
────ブン■■ッ!
この黒の一撃が、どれほどに凄まじいモノか。
魔王の爪から放たれる闇を相頃する中でのこの新たな剣気。
その抜刀はとても素早く、たとえ魔剣士程の達人でも見逃せてしまうほど。
魔王「...見えてるぞ」
連鎖的な剣気の間に造り出した新たな抜刀、だというのにこの王の眼は捉えていた。
両手の爪は魔王子の剣気を頃している、ならば身にまとっている闇をソレに向かわせる。
魔王「─────しまった」
その時だった、視界の端に見えてしまった。
先程、愚かにも自身の武器を投げ捨てた女。
彼女が新たな、それも見知らぬ武器を構えていた。
女騎士「────引き金を引けっっ!!」
女勇者「──っっ!」スチャ
────ダァァァァァァァァン□□□□ッッッ!!
未曾有の炸裂音、そして予感する地獄の痛み。
この期に及んで光による遠距離攻撃など皆無だと勝手に認識していた。
まるで走馬灯、魔王の感覚はとてもゆっくりと。
魔王(...息子の闇は殺せても、このままだとこの光は直撃してしまうな)
身に纏わりついてた闇は、魔王子の一撃を相頃しようとしている。
つまりは無防備、風帝戦での魔王子のような状況。
ならばこの光の散弾はまともに受けることになる。
魔王「"転移魔────」
だが彼は違う、ただの魔物ではない。
魔の頂点である彼がこのような陳腐な戦術に屈するだろうか。
この反則じみた詠唱速度の魔法を唱える、そのはずだった。
女賢者「──"封魔魔法"」
その魔法は、あの時魔女を苦しめたモノ。
とてつもなく長く、そして丁寧に詠唱されたソレ。
たとえ魔王という相手でも引けは取らなかった。
16: 2018/12/26(水) 20:52:40.04 ID:czzKzwQ80
魔王「────なッ」
────グチャグチャッ...!
その封魔魔法はほんのわずかに残っていた魔王の闇によって一瞬で破壊された。
だがこの状況、一瞬でも魔法を封じられたとしたら。
それがどれだけ状況を覆すものなのか。
魔王子「...手が止まってるぞ、クソ親父」スッ
──■■■ッッ!! ■■■ッッ!! ■■■ッッ!! ■■■ッッ!!
その一瞬の隙が連鎖剣気を放つ時間を与えてしまう。
封魔魔法が戦術を奪い、光の銃弾が身をえぐらせ、闇の剣気が壊滅的な負傷を与える。
確実に格下である光と闇、しかしソレを生身で受けてしまえば。
魔王「────グウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッ!?!?」
魔王子「──畳み掛けろッッッ!!」
女騎士「──それを引けっ! そうすればもう1発撃てるっっ!!」
女勇者「──わかったっっ!」ジャコンッ
女賢者「──これならいけますっ!!」
魔王「...」
なぜ、たった一度だけまともに攻撃を当てられて喜んでいるのか。
先程はわざと当たったが今回は違う、その事実が苛立ちを沸かせる。
実力差を知らないこの無知な餓鬼共が。
魔王子「────ッ!?」ピクッ
その様子に気づけたのは実の息子だけであった。
父親のいつもの表情、憎たらしいほどに冷静さを保つ二枚目の顔。
そんなモノではなかった、感情がむき出しの顔、怒れる表情、それは矛盾したことに無表情に近いモノだ。
魔王子「──女勇者ッッ! 光魔法を唱えろッッ!」
女勇者「────えっ!?」
ショットガンのポンプアクションを終え次弾発射の準備が整っていた。
魔王子による急な要求、それに答えるためにすぐさまに詠唱を行なう。
彼女ならば2秒もあればすぐに放てる。
魔王「...」
尤も2秒あったところで大惨事は逃れられないのは確実であった。
魔王の口から例の魔法が放たれる、いままで苦戦を強いられたあの魔法を黒くした物。
17: 2018/12/26(水) 20:53:29.50 ID:czzKzwQ80
「..."属性同化"、"闇"」
18: 2018/12/26(水) 20:55:07.64 ID:czzKzwQ80
────■■■■■■■■■■■■■■■■■■...
闇が闇を引き寄せる、付与などとは訳が違う。
桁違いの漆黒、とてつもない質量を誇る闇が生まれ続ける。
その影は光すらを奪い取ろうとする。
女勇者「────"光魔法"おおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!!」
────□□□□□□□□□□□□□□□ッッ!
悲劇の雄叫び、その魔法はあまりにも眩しい。
列車にて死神に襲われたときに放ったまるで太陽のような光魔法。
それをも凌駕する光量、だが相手が悪すぎた。
魔王「...■■■■■■■■■■■■■」
魔王子「──チッ! 凄まじすぎるッッ!?」
身体が魔王へと引っ張られる。
それが意味するのは、闇の質量の多さ。
重力じみたソレが発生するということは、そういうことである。
女騎士「────なにかに掴まれっっっ!!」
女賢者「眩しすぎて、何も見えませんよっっ!?!?」
身体の力が抜ける、そしてあまりにも眩しすぎる。
だが目の前には黒が、底の見えない闇が存在している。
女勇者から少しでも離れればこの闇に飲まれてしまう。
女勇者「──"属性付与"、"光"っっっ!!」
ようやく届いた日差しよけ、それがみんなの身体に染み渡る。
女勇者が付与した光がこの人工太陽の日差しを軽減させていた。
そのかわり失うのは己の魔力、だが背に腹は代えられない。
女賢者「────えっ?」
─────ふわっ...
その可愛らしい音ともに浮かぶのは、深い絶望。
光によって魔力を失った、つまりは完全なる普通の人間。
彼女はまだ21の女性、ただの女性がブラックホールのような引力に抗えるだろうか。
19: 2018/12/26(水) 20:57:08.59 ID:czzKzwQ80
魔王子「な...ッ!?」
女勇者「──嘘っ」
女騎士「────掴まれえええええええええええええっっっっ!!!」
──ガシィィィィィッッッ!!
いつの間にか彼女は武器を返却してもらっていた。
即席で作った槍のような武器、ベイオネット。
それを地面に突き刺すことで支える力を助長させる。
女賢者「──女騎士さんっっ!?」グイッ
女騎士「────氏んでも離すなよっ!!!」グググ
身体は光の属性付与によって身体の動きが制限されている。
だが魔力とは関係なしに、持ち前の筋肉がこの行動を可能にしていた。
それでも本当はダルいはずなのに彼女は手を伸ばしていた。
魔王子「この輝きの中で、そこまで動けるのか...尊敬するぞ...」
女勇者「ごめんっ...! 魔法を持続させるので精一杯...助けにいけない...っ!」
女騎士「くっ...魔王子っ! なんとか魔王を止められないかっっ!?」
彼に助けを求めるその時。
突如として突風が襲いかかったかのような錯覚に囚われる。
まるで大きな鳥が、こちらへと羽ばたいてきたかのような。
魔王「...止められるとおもうか?」
魔王子「────女勇者から離れるなッッ!!」スッ
────ブン□■...ッ!!
自らが付与した闇、そしてその上から付与された光。
2つの属性が混ざることもなく、剣気と一緒に放たれる。
魔王「だめだな...光が闇を、闇が光の質を互いに下げているぞ」
────......
闇の身体を持つ魔王にソレが当たる。
だが被弾音すら鳴らない、悲しいことに威力が計れてしまう。
女勇者「くっ...どうすれば...っ!」
魔王「どうすることもできん、もう終わりだ...一撃を与えられただけ誇りに思え」
魔王「いや...茶番を含めれば二撃か...」
20: 2018/12/26(水) 20:59:19.92 ID:czzKzwQ80
女騎士「────っ!」グイッ
女賢者「うわ...っ!?」
闇へと引っ張られていた女賢者を力任せに引き寄せる。
甲冑越しとはいえそのまま胸へと抱き寄せ、己の軸足を頼りにする。
床に刺さった歴代最強の魔王の残骸、それを引き抜いて。
女騎士「────っっ!!」スチャ
──ダァァァァァァァンン□□□ッッッ!
属性付与の影響か、拡散された銃弾は輝かしかった。
だが果たして、このような行動が得策になるか。
魔王「...光量が足りてないのでは?」
女騎士「くっ...だめかっ...!」
魔王「諦めはついたようだな...妻を侮辱した代償は払ってもらうぞ」スッ
実態のない闇の身体、そこから現れる黒の翼。
コレで羽ばたかれてしまえば、いかに女勇者が光魔法で闇を払っていたとしても。
その圧倒的な質の差で壊滅するのは間違いなかった。
魔王「...闇の風は冷酷なまでに冷たいぞ」
女勇者「...」
女勇者(...だめ、この光魔法を途切れさせたらそれこそ即座に全滅だ)
女勇者(動けない...どうすれば...っ!?)
女賢者「...っ」ビクッ
女騎士「それは結構、暑いよりかはマシだ...私は汗かきだしな」
魔王「...生意気な、その抱いている娘のように怯えていれば良いものを」
────バサァ■■■■ッ...
風とともに闇が、彼女たちの身を滅ぼす。
暗黒の音が間近に聞こえる、そのはずだった。
魔王「────何?」ピクッ
女騎士「...女賢者を頼んだ」グイッ
魔王が感じたのは新たな闇の気配。
だがこれは自分のモノではない、それでいて息子のモノでもない。
そして女騎士はかなり強引に彼女を突き飛ばした、それを受け取る魔王子、彼は直感する。
21: 2018/12/26(水) 21:02:24.18 ID:czzKzwQ80
魔王子「────やめろ」
女賢者「...女騎士...さん?」
女勇者「────まってっっ!!」
────■...
とても小規模な闇が生まれる。
さらには光に包まれている、まるで線香花火のような黒だった。
だがそれが、どれだけ恐ろしい闇なのか。
魔王「────これはッ!?」
女騎士「特攻させてもらうぞ...魔王...っ!!」ダッ
無謀にも闇の塊へと走り込んでしまう、身体の鎧が次々と朽ち果てていく。
その走行速度は引力も相まって、まるで坂道を下るような速度であった。
魔王「────歴代最強の魔王...ッ!? なぜ貴様がッ!?」
誰が想定できるであろうか、ただの人間が最強の魔剣を所持していることを。
たとえ粗悪な魔力を餌にしたとして、あの堅牢な地帝を貫くことができる代物。
とてつもない質の闇が魔王の闇を破壊していく。
女騎士「────うおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」
────グチャ■■ッ...!
お手製の槍が刺さる音、たとえ実態を持たぬ闇の身体ですら可能にしたこの刺突音。
だが彼だけではなかった、この音の主は彼女でもあった、最高質の闇を持ったとしてもその身体はただの人間。
折れた刀身と魔王の闇に耐えきれず、ショットガンと彼女の一部が完全に破壊された。
女騎士「...肩付近まで持ってかれたか」
魔王「────ッッ!?!?」
あまりの激痛に、魔王の同化は曖昧なものへと変化していた。
両手や両足などは闇のままだというのに、一部の身体や顔は元の姿に。
魔王(魔王子に持たせていたコレは...ここまでの威力だったか...初めてまともにくらった...ッ!?)
魔王(闇の質にあまりの差があると相性以前の問題になることを失念していた...ッ!)
魔王(クソッ...まさか人間の魔力でもここまで...歴代最強の名は伊達じゃないな...ッ!?)
魔王「────くたばれッッ!!!」
女騎士「──っ!」
魔王が放つ闇が襲いかかる。
ここまで肉薄している、もう回避するのは不可能。
右腕を失い多量の出血にうろたえている人間には避けることができなかった。
22: 2018/12/26(水) 21:04:26.30 ID:czzKzwQ80
女勇者「────女騎士っっ!!」
女賢者「...どうすればっっ!!」
魔王子「.....」
傍から見るしかない、先程の特攻である程度の闇が晴れたとはいえ。
暗黒に身を投げ、女騎士を守ろうという気など起きるわけがなかった。
例えるなら、普通の人間が毒蛇を素手で触ろうとすることができるだろうか。
闇の恐ろしさが脳に染み付いている、動けるわけがなかった。
??1「...あんな蛮勇を見せられたら、動くしかないな」
??2『あァ...そうだなァ...闇に突っ込むのはもう何度目だろうなァ...』
しかし、愚者は現れた。
かつて何度も光を持たずして、圧倒的な闇と対峙者たちが。
万の数の兵を抹頃し、まるで図ったかのようなタイミングで現れる。
??1「...全力で走るのは久々だな」
彼が見せてくれたのは、ただの全力疾走。
過去に隊長を苦しませたこの速度が可能にするのは。
女騎士「──魔闘士」
魔闘士「挨拶は後だ、まずは少し距離を置くぞ」
あと僅かで闇が女騎士に接触しようとしたその瞬間。
ウルフよりも優れた疾走で彼女を救出する、だがそれを許してくれる魔王など存在しない。
魔王「────逃さんぞッッ!!」
??2『──逃げられるんだよなァ、これが...』
────バサァッッッ!!
大きな羽音、魔王の背中に生えてあるモノとは桁が違う。
異形の翼、それの持ち主は1人しかいなかった。
女騎士「──魔剣士」
魔剣士『よォ...お前も"欠損"したクチかァ』
女騎士「...ふっ、心配よりも冗談が先にでるか」
竜の形をした魔剣士が、魔闘士ごと女騎士を攫う。
そしてそのまま光り輝く場所へと導く、そしてすぐさまに女勇者が動く。
23: 2018/12/26(水) 21:06:07.86 ID:czzKzwQ80
女勇者「────さがっててっっ!!」
魔力を集中させるとともに前方へと出る。
女騎士の特攻により魔王は怯む、その成果は目に見える。
明らかに属性同化と共に出現した闇の量が減っている。
女勇者(これなら...これでなんとかなりそう...っ!)
────□□□□□□□...!
そうすると、彼女は既に光り輝いていた盾に光魔法を移行させる。
属性付与により光を纏った盾は更に輝かしく、まるで光魔法を補給し光度を増したかの如く。
女賢者「──女勇者さんっ! 私に付与した属性付与を解除してくださいっ!」
女勇者「わかってるよっ! 女騎士を頼んだよっ!」
魔王の闇の量が減り、光魔法を盾に収めた今。
こうなれば身を守ってくれてる光の属性付与など不必要であった。
前方の魔王を盾越しに警戒しつつ、彼女は女賢者への付与を解除した。
女賢者「──"治癒魔法"っ! "治癒魔法"っ!」ポワッ
女騎士「...すまない...迷惑をかけた」
女賢者「まだしゃべらないでくださいっ! 血が止まっていないんですからっ!」
魔闘士「...この状況で意識があるだけ、褒めたものだ」
魔剣士『あァ...だがこの出血量はやべェぞ...」
失ったのは右腕の二の腕付近、魔闘士が強引に止血していると言うのにも関わらず止まらない。
決して女賢者の魔法の質が悪いわけではない、だがどうしても止まらない。
なぜなら、闇というモノが右腕を奪ったのであるから。
魔闘士「傷口が闇に侵されている...治りが悪いのも納得だ」
女騎士(......そういうことか、通りであの時...地帝は...)
魔剣士「...緊急措置だ、燃やすぞ」
女賢者「そ、それは...」
魔闘士「致し方ない...俺が押さえつけるぞ」
女騎士「すまない...頼んだ...」
隊長の世界でも過去に行われた療法。
焼灼止血法という地獄の等価交換。
出血による氏亡は避けられても、他の危険性が迫る。
24: 2018/12/26(水) 21:08:17.75 ID:czzKzwQ80
魔剣士「久々に爆以外を唱えるなァ..."炎魔法"」
──ボォッ...!
ロウソクよりも少しばかり大きな炎。
ゆらゆらと揺れるその温かみのある魔剣士の魔法。
魔剣士「...やんぞォ?」
女騎士「きてくれ...痛いのは我慢する...っ」
魔剣士「......」
炎が女騎士へと迫る。
かつて研究所で魔剣士の心を支えてくれていた彼女。
その彼女に向かって放つ、灼熱の魔法。
女騎士「────うっ」
────じゅううううううううううううぅぅぅぅぅぅ...
焦げる音が響く、そして身体には拒絶反応。
だが身体は魔闘士により強く押さえつけられている、逃れなれない。
ただただ彼女は唇を噛む、それしかできなかった。
女勇者「...」
魔王「クッ...あの女ァ...よくも...」
女勇者「...許さないんだからね」
────□□□□...
怒りという感情が光を強くする。
盾に集中した輝きが激しく膨張する。
それが魔王を、ほんの少しだけ冷静にさせる。
魔王「...なかなかだな、だが剣もなしにどうするつもりだ?」
女勇者「...僕にはこれがある...みんなを護れる盾がある」
魔王「現に仲間の1人の腕が奪われたんだぞ? 護れていないじゃないか...」
女勇者「──っ! うるさいっ!」
──□□□□□□□□□□□□ッッ!
さらに激しさがます、それでいて後方には光が向かわないように調整されている。
内なる感情を押さえつけなんとかして理性を保っている、魔王の挑発は無におわる。
25: 2018/12/26(水) 21:11:03.20 ID:czzKzwQ80
魔王「その程度じゃ...この魔王の闇には敵わんぞ...」
女勇者「あとで泣いてもしらないからね...っ!」
彼女もまた特攻をしかけるつもりであった。
だが女騎士とは決定的に違う、非常に高い安全性が確保されている。
確かに正面から戦っても魔王の闇には敵わない、だが自衛に関しての話は別。
魔王(質の差でこちらが有利なのは変わらんが...かなり濃い闇をぶつけなければ即氏は厳しいか)
魔王(挑発に乗っても理性を乱す様子はない...へたに煽っても光だけが増すだけか)
魔王(...ならば、己の戦術のみでやるしかない)
────バサァ■■■■ッッ!!
闇の翼が広がる、ついに激しい戦闘が始まる。
格下相手だとはいっても光魔法を前にしての侮りは氏を意味する。
全力をもって魔王の最も得意とする近接格闘を炸裂させようとした、その時。
魔王子「......」
闇の属性付与をいつの間にか解除し、沈黙する魔王子が前にでる。
女騎士の腕が奪われても、女勇者が激しい光を展開しても無言を貫く。
そんな彼がようやく行動に移った。
女勇者「...魔王子くん、どいて」
女勇者「眩しいでしょ...? あぶないよ?」
魔王「...お前の相手は後でしてやる、まずは女勇者を潰させてもらう」
魔王「だから...下がってろ■■■■」
──■■■ッッッ!!
魔王が片腕を素振りさせる、そして生まれたのは闇の衝撃波。
剣を使わずとも、彼は剣気のような技を放つことができたのだった。
驚異的な威力が予想される、魔王子を護るべくと女勇者が盾を構える。
女勇者「...え?」
────□□□□...ッ!!
激しい光、たとえどれほど眩しくとも魔王の闇の前では苦戦を強いられる。
この盾を持ってしても、あの闇に当てればとてつもない衝撃を受けるだろう。
だがこの闇が直撃したとしても即氏を防げる、それだけでも十分でもあった、しかし今は彼女の光の話ではなかった。
魔王「────まさかッ!?」
右手に握りしめられた、奇妙なほど豪華な柄。
そしてその細すぎる刀身から輝きが生まれる。
桁違いの光が、あたりを照らし尽くす。
26: 2018/12/26(水) 21:12:06.27 ID:czzKzwQ80
『......』
27: 2018/12/26(水) 21:13:41.30 ID:czzKzwQ80
魔王「馬鹿な...魔剣と一体化しただと...ッ!?」
魔王「その光の剣...手にして間もないはずだろうに...ッ!?」
女勇者「...嘘」
魔王子『......』
どこかで馬の嘶き声が聞こえるというのにまだ無言を貫く。
爆発しそうな感情をまだ抑えている、然るべきときを待つ、その時まで。
女勇者「すごい、僕の光よりも...断然に...」
光の魔力を持つ女勇者。
そんな彼女が驚愕するほどに輝かしかった。
そして時は早くも訪れる、光が剣に収縮する。
魔王子『────氏ね□□□□□』スッ
────□□□ッッッ!!
光の剣気、その一撃と同時に放つのは邪悪な言葉。
魔王の重厚なる闇が抵抗するも、わずかに残ってしまった光。
魔王(────この魔王の闇と同等の光だとッッ!?)
魔王「──■■■■■■ッッッ!!」
──■■■■■■■■■■■■ッッッ!!
闇の翼がありったけの黒を光にぶつける、そうすることでようやく止まった。
質の差は同等、ここにきて初めてイタチごっこをすることができる。
魔王子『...どうだ? 息子の成長具合は』
魔王「...驚いたさ、ここまで育つとはな」
意外にもその表情は変わらなかった。
むしろ逆に、冷静なようにも思える。
先程まで妻を侮辱され、怒り狂っていた彼はいない。
魔王「...」
改めて見れば、冷静な顔つきではなかった。
その瞳の奥にあるのはどこか暖かな眼差し。
まるで妻と同等の相手を見るような。
魔王「...どうせ、時間を潰さねばならん」
女勇者「...?」
魔王「初めてだ、属性同化という魔法を使って...全力を出せるのは」
28: 2018/12/26(水) 21:15:41.48 ID:czzKzwQ80
魔王「尤も、先程の一撃で本調子とはいかないがな...」
魔王子『...ヤリあう前から、言い訳づくりか?』
魔王「...そう思えるか?」
魔王子『思えん...これでも俺の父親なのは変わらない...だから...』
魔王子『────氏ね□□□□□□』
────□□□□ッッッ!
輝かしい剣気が魔王を襲う。
まともに喰らえば、確実に勝敗がついてしまう威力であった。
まともに喰らわせることができればの話ではあるが。
魔王「...■■■■■■■■■」
闇の言語と共に、溢れ出る漆黒。
周りの雑魚のことなど眼中にない、明らかに魔王子1人を狙っている。
そのような軌道をした闇が光の一閃を滅ぼす。
魔王子『...チッ!』
魔王「どうした■■■■■■?」
こんなものか、と言わんばかりの声色。
それも当然であった、たしかに光の質が魔王の闇に追いついた。
だからといっても魔王子自体の実力が魔王に追いついたわけではなかった。
魔王子『...これでも歯が立たないか□□□□』
──□□□ッッッ!
────■■■■■ッッッ!!
剣気を飛ばせば、すぐさまに闇が相頃してくる。
どうにかしてこの光をまともに当てることができるのなら、勝敗に決め手がつく。
だがあと一歩及ばない、それも当然であった。
魔王「単純な話だ、剣は1つしかないのに、こちらは両手がある」
魔王「...頃したければ、腕を落としてみろ...あの人間の娘の仇でも取ってみろ」
魔王子『────ッッッ!!』
安い挑発、一体化させた魔剣を力任せに降る。
そうした結果聞こえるのは、あまりにも鈍すぎる音。
魔王子がいつも放っているあの鋭い剣気とは程遠いモノであった。
29: 2018/12/26(水) 21:17:47.19 ID:czzKzwQ80
魔王「────なに■■■?」
────バコンッッ!
鈍重なる音、その正体が明らかとなる。
通りで似合わない訳であった、こんな音を魔王子が発するわけがなかった。
剣が1つたりないのであればもう1つ用意すればいい。
魔剣士『──よォ、俺様も混ぜてくれよ...なァ?』
魔王「...愚かだ、そうした無謀さが己の"翼"を失くした理由だ」
魔剣士『ケッ、焦ってんのかァ? 魔王子を捌くのに手一杯なんだろォ?』
彼の爆発が直撃すれば、無視することのできない負傷をするのは間違いない。
先程までのように身体全体に闇が同化しているわけではない。
この些細な剣士が1人増えることが、どれだけ不利な状況へと近づいてしまうのか。
魔王子『...女騎士はどうした?』
魔剣士『出血は止めたが...闇が蔓延るここは危険すぎる...一時撤退させたぞォ』
魔剣士『魔闘士が運び、賢者の嬢ちゃんがひたすら治癒、そして女勇者は付き添いだァ』
魔剣士『女勇者はすぐ戻るとかほざいてたけどなァ...』
魔王子『...それでいい』
────□□□□□□□□ッッッ!!
輝きが増す、今までの戦闘で出していた光量など比ではない。
ここにいるのはわずか3人、出し惜しみをする理由などなかった。
魔王子『...この場にいるのが魔剣士程の男だけなら、巻き添えを作らずに済むな』
魔剣士『ふざけんなァ、魔剣と一体化してひたすら魔力を供給させてねェともう倒れてんぞォ』
魔王子『それができるだけ上等だ』
決して今まで、女騎士らが邪魔だったわけではない。
魔王子が今になって全力の一段階上を出そうとする理由が1つある。
それは、魔王のはらわたに答えがあった。
魔王子『絶好の機会だ、女騎士があのクソ親父のはらわたを捌いていなければ、今の俺の全力もあしらわれていた』
魔王子『そして今、誰も巻き添えを喰らうものがいない...今しかない...ッ!!』
魔王「...チッ」
よく見ると魔王の腹部にはまだ刺さっていた。
桁違いの闇を秘める、歴代最強の魔王がそこに。
とてもじゃないが引っこ抜くことなどできない、触れれば己の手を失うだろう。
30: 2018/12/26(水) 21:19:02.49 ID:czzKzwQ80
魔剣士『...あれでよく動けんなァ』
魔王子『父親なだけはある...俺も過去にあの魔剣に誤った触れ方をしたが...』
魔王子『服の裾に少し闇が付着しただけで、3日は寝込んだぞ』
魔剣士『ゲッ...そんな危険なもんを振り回してたのかァ...』
魔王子『それ以来は魔剣自体に注ぎ込むこと魔力をかなり抑えたさ』
魔剣士『...その抑えた魔力量で、俺様の"翼"をぶった切ったのかァ?』
魔王子『そう言うことになるが...あの魔剣に魔力を注ぎ込む事自体に臆病になっていたと言おう』
魔剣士『ケッ...まぁ自らを滅ぼすような魔剣には出会いたくねェな』
魔剣士『...つーことでェ、任せるぜェ?』
────ドクンッ...!
まるで心臓の鼓動のような音が鳴る。
魔剣士が握る異形の魔剣、それが答えた。
魔王子『...そういえば、魔剣士の魔剣...詳細を聞いたことがない』
魔剣士『あァ? 内緒だァ』ブンッ
────バコンッッッ!!
彼が魔剣を振るうと付与された爆が弾ける。
下位属性の剣気だというのに、魔王の顔に冷や汗を流れさせる。
魔王(この軌道...同化が不安定で生身の箇所を狙っているな...)
魔王「──厄介なッ...」
──■■■■ッッッ!
魔王が左手を強く降ると闇が放たれる。
そうすることで、魔剣士の攻撃は呆気なく破壊されてしまう。
魔王子『────そこだ』スッ
────□□...ッ!
────■■■■■ッッ!!
魔王子の剣気は間髪入れずに破壊される。
右手で放たれた闇は、光を苦しそうに飲み込んだ。
31: 2018/12/26(水) 21:21:07.68 ID:czzKzwQ80
魔剣士『ハッ! 本当に余裕がねェんじゃねェのかァッ!?』
魔王「...うるさい竜だな、頃すぞ」
魔王子『そう簡単には殺させる訳にはいかん...』
両手を使うことで2人の剣気を頃す。
だが明らかに、状況は変化しつつある。
片手で済んでいたというのに急遽両手を強いられれば、当然魔王への負担は大きい。
魔剣士『オラァッ! どんどんいくぜェッ!!!』ブンッ
魔王子『──氏ね□□□□□□』スッ
──バコンッッ! バコンッッ!!
──□□□□ッッ! □□□ッッ!
爆発と光がまるで弾幕のように襲いかかる。
前者ならともかく、後者には絶対に触れてはならない。
魔王「...ッッ!!」
────■■■ッッッ!! ■■■■ッッ!!
両手を的確に振り回すことで、前方からの剣気を闇で相殺させる。
だがどうして、どうしても通してしまう場面に陥る。
魔王(...捌く余裕がない、魔剣士の攻撃は受けるしかない)
たかが下位属性の剣気。
数万発も喰らうのなら話は別だが、数発程度の被弾は受けることができる。
我が身を犠牲にすることで魔王子の光に集中するつもりであった。
魔剣士『...へェ』
にやり、不敵な笑顔を見せる。
彼は熟知していた、己が魔王の立場ならばどうするかを。
ならばどうするか、魔剣士の剣の振り方が少し変化する。
魔剣士『────そこだァッ!』
──ブンッッッ!!
豪快でいて、緻密な風が飛ぶ。
魔王はそれを目視すると、自らの身体を差し出した。
たった一発、爆属性の剣気など取るに足らないはずだった。
32: 2018/12/26(水) 21:22:38.24 ID:czzKzwQ80
魔王「────なぁッ!?」
──ぐにゅ...
柔らかな肉に、刃物が刺さりこむ音が身体の中から聞こえた。
なぜこのような痛みが生まれたのか。
魔王「────魔剣士ぃぃぃぃぃいいいいいいいいいッッッッ!!!」
魔剣士『おーこわ...気持ちよかったかァ?』
魔王子『...フッ、お前はそういう奴だったな』
魔王子『乱暴な素振りをしている分際で、小賢しいことを平気で熟す』
魔剣士『...褒めてんのかそれ?』
魔王「グゥゥゥウウウ...ッッッ!!」
腹部に刺さる歴代最強が体内へと潜り込む。
炎帝が見せたあの偏差魔法の如くの精度。
爆風により生まれた押し込む力が、折れた刀身に当たったのであった。
魔王子『────隙だらけだぞ』スッ
──□□□□ッッ!! □□□ッッ! □□□ッッッ!
痛みに喘ぎ魔剣士に怒りを向けている間。
その僅かな刹那に、ありったけの剣気が放たれる。
闇で相頃する暇など与えてくれない。
魔王「────ッ」
これを受けたら、氏ぬ。
光で身体の自由を奪われ輝きの中に眠る鋭い剣気が身を裂く。
時間の流れが遅く感じてしまう、つまりは魔王という男は。
魔王(これが走馬灯とやらか、つまり氏を感じているわけか...だが)
魔王「────まだ氏ぬわけにはいかない」
────■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■...
彼の感情に比例して闇が姿を現した。
新たな魔法を発動したわけではない、これは魔王の意地。
その単純な理由で惨劇を生み出そうとしている、わずか一瞬で大量の闇がばら撒かれたのであった。
33: 2018/12/26(水) 21:24:02.34 ID:czzKzwQ80
魔剣士『──チッ! 魔王子ィッ!』
魔王子『わかっている...後ろに下がっていろ...』
呼吸を整えることで身体の光を集中させる。
女勇者が与えてくれた属性付与、そして一体化しているユニコーンの魔剣。
すでに魔王子は光属性の扱い方を熟知していた。
魔王子『...女勇者、技を借りるぞ』
──□□□□□...
まるで盾、前方に光を展開させる。
魔王の闇にも引けを取らない質を誇っている。
これなら防御面に限っては心配など生まれない。
魔王「────"転移魔法"...」シュンッ
そのはずだった、彼らは闇だけを恐れすぎていたのであった。
背筋が凍る、突如背後に現れた気配はとてつもないモノ。
誰しもが思っていたはずだった、魔王という男が感情だけに任せて闇をばら撒くだろうか。
魔王子『────しまった』
魔剣士『──そのまま前方の闇を受けてくれェッッ! 魔王は俺様が相手をするッッ!!』
魔王「...ゲホッ」
転移魔法がどれだけ身体に負担をかけたのか。
血反吐を吐きながら手のひらに闇を集中させる。
腹部の痛みを堪え、そしてソレを地面へと叩きつける。
魔王子『──地面だ、翔べッッッ!!』
魔剣士『んなことはわかってるッッッ!!』ブンッ
────バコンッ!
地面に向かって放たれた剣気。
爆発の勢いを利用して、宙へと身体を持ち上げた。
魔剣士『ウッ...!?』
──■■■■■...
まるで底なしの沼のようだった。
すでに闇は展開していた、あと少しでも遅ければ足元から滅びていた。
だがまだ危機は去っていない、当の本人が黙っているわけがない。
34: 2018/12/26(水) 21:25:28.28 ID:czzKzwQ80
魔王「...逃げ場はないぞ」
魔剣士『...あァん? 竜を相手に空中戦かァ?』
魔王子『────ッッ! 闇が光に衝突するッ! 衝撃に備えろッッッ!!』
魔王子が創り出した光の盾に、津波のような闇が接触する。
そのときに生まれる衝撃は計り知れなかった、彼程の男が声を上げてしまうほどに。
魔王子『──うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!?!?』
──□□□□□□□□□□□□□□□ッッッ!
少しでも気を抜けば、光の質が弱まる。
弱まってしまえば、あっという間に闇が身体を飲み込むだろう。
とてつもない負担が魔王子を襲った。
魔王子『────ッッ...!』フラッ
──■...
結果的に魔王子は闇を払うことに成功する。
だが彼の本質は闇である、光を使いこなせている様に見えるが違っていた。
頭の中に激しく巡る、知恵熱にも似た痛みが。
魔王「...あの闇を抑えたか、だが終わりだな」
魔剣士『...ッ! てめェッッ!!』
魔剣士程の男が気づかないわけがなかった。
先程までギラギラと殺意を向けていたというのに。
魔王の目線は既に変わっていた。
魔剣士『──この俺様を無視するつもりかァッ!?』
魔王「...そのとおりだ、戦力は1つずつ潰させてもらう」
大きな翼を広げ、得意の急降下を始める。
先程まで宙に浮いていた魔剣士へと攻撃をしようとしていたというのに。
場面の切り替わりが激しい、この適応力こそが魔の王たる所以。
魔王「...氏ね」スッ
────■■■■ッッッ!!
両手を思い切り、空振りさせる。
そうして生まれた闇が魔王子へと向かう。
彼は今気絶に近い状況、とてもじゃないが質の高い光を操れてはいない。
35: 2018/12/26(水) 21:28:18.69 ID:czzKzwQ80
魔剣士『────させるかよォォォオオオオッッッ!!』バサッ
一瞬の出来事であった。
右腕と一体化していた魔剣が即座と背中へと移動する。
その姿は竜とも呼べず、また人とも言えない。
魔剣士『──オラァッッッッ!!』ビュンッ
その飛行速度はまるで燕。
人と同等の大きさだというのに、それを考慮するととてつもなく素早い。
魔王の闇など取るに足らない、すぐさまに魔王子を拉致することができた。
魔剣士『起きろッッ! 寝てる場合じゃねェぞッッ!?』ガシッ
魔王子『グッ...』
魔剣士(駄目だ、意識が朦朧としていやがるゥ...一体化が解除されていないだけマシかァ...)
魔王「...その形態で、翼を得るとはな」
魔剣士『...チッ!』
────バサァッッ!!
異形の翼から音がなる。
魔王子が起きないとなると、戦況はどう考えても不利。
ならば今は起きるまでの時間を稼がなければならない。
魔王「...逃がすと思うか?」
魔剣士『思わねェな...魔王が最も得意とするのは空中戦だと聞くしなァ』
魔王「ならば、なぜ翼を生やした?」
魔剣士『こうでもしねェと、終わっちまうからだよォッッ!!』
────ヒュンッ...!
まるで風が鳴く音、それを再現したのは魔剣士の翼。
彼はとてつもない速度で逃げに徹する。
魔王が放った闇の影響で、あちらこちらに窓ができた魔王城から飛び出した。
魔剣士『──頼むッ! 速く起きてくれェッ! 本当に時間なんて稼げねェぞッッ!!』
魔王子『────...』
魔剣士『クソッ! しかも魔王子の光で全力の速度も出せ────』ピクッ
────■■■■■■...
闇の気配がする、現状だせる最高速度を出しているというのに。
竜の翼にこうもあっさりと追いつかれてしまうとは。
それでも最善手を得ようとする魔剣士、頭の中ががんじがらめになったような感覚が襲う。
36: 2018/12/26(水) 21:29:40.64 ID:czzKzwQ80
魔王「────そこだ■■■」
──■■■ッッッ!!
背後から迫るのは、魔王の闇爪。
魔王の基本的戦術は宙でも健在であった。
魔剣士『──あっぶねェなァッッッ!!』スッ
魔王「...逃げてばかりじゃどうにもならんぞ」
魔剣士(まずいなァ...やっぱり宙に逃げるのは悪手だったかァ...?)
魔剣士(いや...こうでもしねェととてもじゃないが時間なんて稼げねェ...)
魔剣士『...ケッ! 逃げるだけだと思うなよォ?』
魔剣士の身体が変異する。
いつぞやのウルフのようなとても不安定な見た目に。
身体は人のままだが、頭の形が徐々に竜へと変貌する。
魔剣士『────喰らいなァッッッ!!』
────ゴォォォォォオオオオッッッ!!
竜が吐いたのは、炎の吐息。
凄まじい密度を誇るそれは魔王へと向かう。
魔王「...無駄だ」
────■■■■...
当然の結果であった、この炎は炎帝のモノよりも劣る。
そのようなお粗末な火が魔王に抗えるだろうか。
魔剣士『──...ッ!』
魔王「まるで灯火だな...剣も持たないでどうするつもりだ?」
魔剣士『...まずいなァ、もう無理かもしれねェ』
魔王子「────...」
魔王「お遊びはここまでだ...諦めてもらうか」
────■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■...
魔剣士はこの光景を一度見たことがあった。
あの時は属性付与で行っていたが、今も似たようなモノ。
魔王が両手を掲げ、闇を集め始めている。
37: 2018/12/26(水) 21:31:01.54 ID:czzKzwQ80
魔剣士『──これはッ...!?』
魔王「...かつて空を滅ぼした技だ、見たことがあるだろう?」
かつて、魔王城はある危機に会っていた。
それは反乱でもなく、人間界からの侵攻でもなく、自然的な現象。
魔王子たちも苦しめられたあの自然現象。
魔剣士(あれは...前の日食の時に使った奴じゃねェか...ッ!)
魔剣士(魔界の空全体に蔓延った死神共を、一撃ですべてを滅ぼした大技...ッ!?)
魔王「安心しろ...空には誰もない...ここにいる者だけだ」
魔王「だから...」
──■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■...
滅びの魔法とも言えるソレは、既に備わっている。
光魔法を唱えるのに2秒かかる女勇者など比較にならない。
わずか数秒、それだけで魔界全体の空を殺せる闇を創り出していた。
魔剣士『────ッッ...!!!』
魔剣士(やりたくはねェがァ...覚悟を決めるかァ...)
なにかをしようとするために魔剣士は翼を構える。
まるでこれから、闇に向かって突撃しようとするような。
とても無謀な挑戦のようにも見えた。
魔王「────氏ね」
魔王子の口癖は父親譲りであった。
その残酷な言葉とともに放たれるのはこの世の終わりとも言える黒。
そして行なわれるのは無謀とも言える特攻。
魔剣士『──オラァッッッ!!』
────バサァッ...!
翼をなびかせながら彼は漆黒へと向かう。
あまりにも衝撃的な出来事、刹那的な時間が流れる。
魔王「──愚かな...」
両手の闇が開放される、その余波で突撃してきた魔剣士は滅びる。
そう思い込んでいた、だが肝心なことを忘れている。
彼ほどの男がこの大量の闇の気配を無視して眠り込むだろうか。
38: 2018/12/26(水) 21:32:10.38 ID:czzKzwQ80
魔王子『────氏ね』スッ
──□□□□□□□□□□□□□□□□□□...
光が迫る、両手を掲げたままだと我が身を貫かれる。
この闇を開放するのは後、今やらねばいけないことは1つ。
創り出した膨大な闇で息子の光を止めなければならない。
魔王「──今頃お目覚めか、それとも狸寝入りか?」
魔王子『...あれ程の闇を出されて、気づけない訳がないだろう』
──□□□□□□□□□□□□□□□□ッッッ!!
──■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!
上位の属性同士が正面から衝突する。
鍔迫り合いのようなその光景、それほど間近で光と闇が抗う。
そしてその余波をただ1人が被る。
魔剣士『────とっとと決着つけてくれェッッ! 氏んじまうぞォッッ!!』
魔王子『──それができれば苦労しない...頼む、耐えてくれ...ッ!』グググッ
魔王「グッ...ウッ...■■■■■■■」グググッ
魔王子には翼はない、だから魔剣士に抱えてもらい宙に存在している。
つまりは魔剣士もこの光と闇の鍔迫り合いに参加しているということになる。
下位属性しか所持していない彼がこのような激戦に長く参入することができない。
魔剣士『氏ぬゥッッッ!! 本気でくたばりそうだぜェッッッ!!』
魔王子『──耐えろッッ!! 竜の底力を見せてみろッッ!!』
魔剣士の身体に走るのは滅びの感覚。
あまりの衝撃に目を開くことすらままならない。
何が起きているのか全くわからないというのに、身体には強烈な違和感が生まれる。
39: 2018/12/26(水) 21:32:45.11 ID:czzKzwQ80
『────とっととくたばれッッッ! クソ親父ィィィイイイッッッ!!!』
40: 2018/12/26(水) 21:33:19.57 ID:czzKzwQ80
「────まだ妻の野望が残っているッッッ!! くたばるのは貴様だァァァアアアアッッッ!!!」
41: 2018/12/26(水) 21:34:59.43 ID:czzKzwQ80
普通の言語じゃ表現できない轟音が鳴り響く。
魔王城の上空、ここにて決着がついてしまった。
だらりという音が聞こえる、凄まじい一撃を受けて意識を保てる者などいない。
魔王「...さらばだ、愛しい息子よ」
魔王子『────ッ...」
魔剣士『──クソッ...タ...レ...」
勝利をもぎ取ったのは魔の王。
当然だった、魔界すべての空を滅ぼすことのできる闇を彼らにぶつけたのだった。
たとえ同等の質の光を持っていたとしても、圧倒的な質量に叶うはずがなかった。
魔王「...できれば、妻の野望を...共に果たしたかった」
魔王「あの世があるなら、先に待っていてくれ...」
ポツリと呟く、手向けの言葉であった。
力を失った魔王子たちは魔王城へと落下する。
それを他人事のような面持ちで、眺めるだけであった。
魔王「...来たるべき時に備えなければならない」
激しい戦闘の疲れからか、独り言。
気だるそうに翼を扱い自らも下降を始める。
魔王の闇が作り出してしまった天窓から、魔王城へと帰還する。
魔王「...おや?」
魔闘士「...」
女勇者「...」
そこに待ちわびていたのは、勇気ある者。
そして武を極めた、魔の闘士がそこにいた。
その2人はとても遥か上空から落下したとは思えないほどに綺麗な2人を見つめていた。
魔王「そうか、魔闘士が受け止めたのか」
魔闘士「...だったらどうした」
魔王「...いや、遺体は綺麗な方が弔い甲斐がある...感謝する」
女勇者「...っ!!」
その一言、決して煽りの意味ではなかったはず。
だがこの場にいる2人にはそう聞こえてしまった。
感情を揺さぶられ、彼女は落ちている彼の魔剣を拾う。
42: 2018/12/26(水) 21:36:22.70 ID:czzKzwQ80
魔王「...やめておけ、勝てると思うか?」
女勇者「うるさいっっ!! よくも魔王子くんをっっ!!」
魔闘士「...冥土の土産には丁度いい、魔王相手に殴り合いといこうか」
敵意を向けられてしまった。
だが魔王子という最大の障害がなくなった今。
もはやまともに戦う気などありはしなかった。
魔王「...そうか、氏ね」
──■■■■■...
未だに不安定な同化、腹部に刺さった折れた魔剣が阻害する。
だがこのような状況でもこの2人を屠るのには申し分なかった。
最大戦力である魔王子と魔剣士も、既にこの状態で倒したのだから。
魔王「────なっ」
女勇者だからといっても彼女の光は先程の魔王子よりも質が悪い。
魔闘士も下位属性しか扱えないはず、もう驚異などない、そのはずだった。
魔王「──なぜだ...ッ!?」
────□□□□□□□□□□□□□□□□□□...
その光はとても暖かくとても雄大であった。
まるで太陽と遜色のない代物、それがなぜここにあるのか。
答えはすぐにわかった、わかっていた。
女勇者「────□□□□□...』
彼女の右手にある、ユニコーンの魔剣。
それが身体を同化し始める、なぜ彼女が、人間である彼女が。
この剣を持って僅かな時しか過ごしてきてないの彼女が。
魔王「──なぜ一体化を...魔王子の魔力に馴染んでいたその魔剣と...ッ!?」
いつぞや魔剣士が言っていた、魔剣との一体化。
己の魔力を魔剣に慣れさせることができれば、可能だと言った。
だがそれは数十年単位もの時間が必要と言われる、しかし問題はそこではなかった。
魔王「ふざけるな...1つの魔剣が別の人物と一体化するなど聞いたことがないぞ...ッ!?」
魔王「それも...我が息子の光よりも、桁違いに眩いだと...ッ!?」
女勇者『...□□□□』
不可解な現象に気を取られてしまう。
誰でもそうだ、自分の中にある常識が覆されるとどうなることか。
だがそれが命取りへと繋がる。
43: 2018/12/26(水) 21:37:47.21 ID:czzKzwQ80
女勇者『────□□□□□□□□ッッッ!!』スッ
光の言語が可能にするのは彼女が苦手とするあの攻撃。
魔剣と一体化した右腕を宙へ向かって突き刺す。
すると生まれるのは、アレしかなかった。
魔王「────剣気ッ!?」
──□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ッッ!!
それは、あまりにも輝かしかった。
己の色彩では捉えることのできない限りなく無に近い白。
もう少し反応が遅れていたら、この一撃が顔を貫いていた。
魔王「──危ないな」
どのような出来事が起きたとしても、身に迫る危険が魔王を即座に冷静にさせる。
それが故に彼は魔の頂点に立てている、そうでなければ魔王という座をとうに奪われているだろう。
魔王(...そういうことか、あの時の魔王子には...あの勇者の属性付与が備わっていた)
魔王(つまりあの魔剣と馴染んだ魔力は息子のモノではなく、あの女のモノだったか...通りで一体化できるわけだ)
魔闘士「...今のが見えるのかッ!?」
女勇者『ぐっ...□□□...身体が、言うことを聞かない...□□□□』
女勇者『ごめん...□□□□光は生み出せても、もう一歩も動けない...っ!?』
魔王「これは...暴走に近いみたいだな?」
──からんからん□□□...ッ!
左手に予め持っていた盾を落としていまう。
皆を護るために、この旅を共に過ごしてきたというこの装備を。
魔剣との一体化で得た代償が彼女を締め付ける。
魔闘士「...落ち着け、己の魔力を魔剣に委ねろ」
魔闘士「いつも通りだ、魔法を制御する感覚を思い出せ...ッ!」
女勇者『いつも...□□...どおり...?』
魔剣を所持していないというのになぜこのような助言ができるのか。
それは単純な理由であった、彼は武道家だからこその訳がある。
44: 2018/12/26(水) 21:39:31.08 ID:czzKzwQ80
魔王「────助言はやめてもらおうか...■■■■」
魔闘士「──ッ! 盾を借りるぞッッ!!」スッ
魔剣に破れたことのある武道家が、次の対戦に備えてソレを調べ尽くさない訳がなかった。
だからこそ助言ができた、魔力の操作を乱すことができれば魔剣への対抗策を得ることができる。
逆をいえば、魔力を安定させることができれば一体化など造作もないとも言える。
その助言がこの戦況を逆転させてしまう、それを察知した魔王は狙いを魔闘士に絞った。
女勇者『魔闘士くんっ...□□□□っ!』
魔闘士「俺に構うなッ! 魔王が今お前を狙わないということは、女勇者の光に抗えないということだッ!」
魔闘士「ならばソレが勝利の鍵だッ! 時間は稼いでやるッ! とっとと制御しろッッ!!」
魔王「──時間など与えんぞ...ッッッ!!」
魔王子と瓜二つの顔、それは冷静な面持ち。
だがその表情からは想像もできない焦燥感が溢れ出る。
この決戦の鍵は間違いなく女勇者なのは間違いない、だが鍵はもう1つある。
魔王(──女勇者とて人間だ...眼の前で味方である魔闘士を殺せば...心が乱れるはずだ...ッ!)
魔王(ならば、こちらの勝利の鍵は魔闘士...貴様だ...ッ!!)
魔王「────氏ね■■■■■」
──■■■■■■■...ッッ!!
とてつもない闇の気配、直ぐ側にまで迫っている。
まるで一瞬凍えたかのような錯覚にとらわれる。
氏の予感が招く寒気、それをこらえながら彼は盾を構えた。
魔闘士「────氏にたくなるほど気だるいな...」
力が失せる、それは闇も魔闘士も。
この盾に秘められた光は尋常な代物ではない。
先程落としてしまったとはいえ、一体化した女勇者が握っていたモノだ。
魔王「──クソッ...!!!!」
魔闘士「グぅぅぅぅぅぅぅうううううッッッ...!!!」
──□□□□□□□□□ッッッ!!
闇が盾へと衝突した音、それは白かったと表現できる。
それが何を意味するのか、魔王の焦りを見ればわかってしまう。
魔闘士の持つ光が優位に立っている、魔王程度の闇では破壊することができない。
45: 2018/12/26(水) 21:40:31.50 ID:czzKzwQ80
魔王「この盾を貫けぬとも、盾の所有者がこの衝撃に耐えられるかッッッ!?」
魔闘士「...ぐぅうううッ、...ッ!!」
早くも息が切れ始める、魔の武道家だというのに。
己の身体がどれだけ魔力に依存していたのかが痛感してしまう。
この光の盾を持っているだけだというのに。
魔闘士「ま...まだだ...時間を...ッ! 稼がねばならん...ッ!!」
光がかき消す闇、その実害がないとはいえ盾越しに感じる衝撃は計り知れない。
光によって己の身体は普通の人間程度、もしくはそれ以下になっているというのに。
限界は既に来ている、だが彼はまだ立っている。
魔王「...なぜだッ!? なぜ立てているッ!?」
闇の猛攻が続く今、不可解でしかなかった。
彼が今立てている理由など存在しない。
全くもって理にかなったモノではない要素がソレを可能にしていた。
魔闘士「────知るか...ッ!」
当の本人でさえ立てている理由がわかっていない。
無意識の欲求、武道家だからこそ彼はしぶとかった。
貪欲なまでに勝利に拘る、だがこの窮地にそのような自覚を芽生えさせている暇などない。
魔王「──ならばこれを受けてみろ■■■■...」
────■■■■■■■■■■...
新たな闇の気配、見なくともわかる。
圧倒的な量を誇る黒が生み出されていた。
光の盾を滅ぼす為のモノではない、盾を持つ彼を疲弊させ盾を弾き落とす為の闇だ。
魔闘士「────これは」
例えるなら人が盾で大きめの波から身を守ることができるだろうか。
不可能だ、正面からの波は防げても圧倒的な質量が盾を持つ腕に多大な負荷をかけるだろう。
そうなったのならば、腕は疲弊し盾の構え方が曖昧になるだろう。
魔闘士「──クソッ...」
後方を確認しなくともわかる。
光の根源、主である魔力が微動だにしていない。
女勇者はまだ一体化の制御を可能としていない。
魔闘士「...あとは任せたぞ、女勇者」
結局は間に合わなかったが、十分時間を稼ぐことができた。
次の魔王の攻撃によりこの身が滅びたその瞬間に、彼女が動けるようになることを祈って。
そのわずかな可能性を信じて、彼は最後まで時間を稼ごうとする。
46: 2018/12/26(水) 21:43:10.76 ID:czzKzwQ80
魔王「────氏ね■■■■■■■■■」
────■■■■...
黒の音が遠く聞こえる、なぜなのか。
意識が消えかけているからなのか、それとも別の理由があるのか。
氏の直面だというのにも関わらず、どうしても聞きたい声がそこにあったからだ。
盾を構える魔闘士の懐にある人物が潜り込んだ、それが聞きたかった声であった。
魔闘士「──動けるのか?」
女騎士「──あぁ、片腕をなくした程度では騎士を辞職することはできんからな」
魔闘士「そうじゃない...この光を持っても、動けるのか?」
女騎士「あぁ、お前と違って私は人間だからな...かなり気だるいが二日酔いよりはマシだ」グッ
彼女は人間、その魔力は後天的に得た存在。
彼女は騎士、その筋力は魔力により強化されたモノではない。
身体は重いのは事実だ、だが上記の理由が盾を強く支えていた。
魔闘士「...これだから人間は」
────■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!
──□□□□□□□□□□□□ッッッ!!!
強い闇が、強い光によってかき消されていく。
ここまでは想定通りだというのに、その様子は不沈艦の如く。
それを見てしまっては、絶句するしかなかった。
魔王「────な...ッ!?」
女騎士「ぐっ...なかなかの衝撃だったな...」
魔闘士「なんとかなったか...それよりもあの賢者はどうした?」
女賢者「呼びましたか?」
────ずるずるっ...!
小声のようで、はっきりとした音が聞こえる。
この激戦の轟音でかき消されているはずだというのに。
超越した集中状態が会話を可能にしていた。
女賢者「その盾で守っててくださいね...私は2人を引きずっているのに精一杯なので...」ズルズル
女賢者「..."治癒魔法"」
──ぽわっ...!
光魔法とは違う、とても優しさのある明かりが2人を包み込んだ。
闇による攻撃を受けたというのに、その治癒速度は比較的平常通りであった。
女騎士の時とは違う要素が彼らの傷を癒やしていた。
47: 2018/12/26(水) 21:45:59.77 ID:czzKzwQ80
魔王子「────ッ! ゲホッッ!!」
魔剣士「──あァ...今度ばかりはくたばるかと思ったぜェ...」
女賢者「...女勇者さんの光に感謝です、2人を侵していた闇が簡単に払われてましたよ?」
女賢者「もっとも...そのおかげで私の魔法もかなり制限されていますが」
魔王ほどの男がトドメを刺さなかったのだろうか。
違う、これはトドメを刺せなかったのであった。
彼らのくどいほどの生命力を彼は予期することができなかった。
魔闘士「──生きていたかッッ!!」
魔剣士「あァ...なんとかなァ...」
女賢者「まだ喋らないでください、制限された治癒魔法じゃ健康な状態まで癒せません」
魔剣士「通りでなァ...まァ闇に喘がされ続けるよりかは遥かにマシだァ...」
魔王子「──ゲホッ...吐血が止まらん...」
女賢者「...2人ともお腹に穴が空いてたというのに...さすが魔物ですね」
魔剣士「その穴もまだ塞がってねェしなァ...」
女賢者を含む3人が前方の女騎士らから距離を十分取れた。
これで盾を越してこない限り、魔王の闇が襲いかかることはないだろう。
尤も、それを許してくれない彼女がそこにいる。
女勇者『...□□□□□□□□□』
魔王「...これは」
一体どこで間違えてしまったというのか。
どれほど己の運が悪いのか、野望を叶える代償だというのか。
彼は冷静な顔つきをやめてしまう。
魔王「...」
この表情は一体なにを表しているのか。
喜怒哀楽、これら4つに属さない謎の感情。
彼の瞳の奥には一体なにが見えているのか。
魔王「...フッ」
────□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□...ッッッ!!
そして聞こえたのは光の音。
腹部に刺さっている歴代最強の魔王が震えているような感覚。
そこには終わりが待っている、全ての終わりが待ちわびている。
~~~~
49: 2018/12/27(木) 21:59:17.27 ID:GmvGoknR0
~~~~
隊員「...やったか」
世界が切り替わる、ここは現実世界。
そして目の前に広がるのは、血痕。
射殺された魔王妃が横たわる道路に皆が集まる。
魔王妃「────」
ウルフ「...まだ生きてる」
隊員「冗談だろ...?」
ヘリコプターが着陸できる場所などそう簡単に見つからない。
それを察した隊員AとBは縄ハシゴを降ろし、ウルフと隊員を先に合流させていた。
魔女「...生きてるわね」
脈を計っているわけでもないというのになぜ断定できるのか。
それはある魔法が結論を表していた、遠くに見えるのは生きる屍。
魔女「使い魔召喚魔法がまだ発動しているわ、あれは術者が氏亡すると自動的に消滅するはずよ」
隊員「...あの攻撃を受けても、まだ息があるのか」
魔女「...生きてはいるけど、気絶はしているみたい」
────□□...
その時だった、どこからか違和感が生まれる。
思わず彼女は後ろの人物を確認してしまう。
魔女「...え?」
隊長「...どうした?」
魔女「あれ...? ごめん、気の所為だった」
隊長の方から強い光を感じた、だがそれは刹那の出来事であった。
もしかしたら先程の光の銃撃による残り香的なモノなのかもしれない。
少なくとも、今の隊長から光など一切感じなかった。
50: 2018/12/27(木) 22:01:23.20 ID:GmvGoknR0
隊長「さて...どうするか」
隊長「このまま寝首をかくか...それとも鹵獲か...」
隊員「...私としては、鹵獲が優先だと思われます」
隊員「このような超常現象...その実物を見せない限り納得はされないでしょう」
魔女「...そうね、その通りだと思うわ」
当然だった、彼女には山程聞きたいことがある。
今はまだ頃すべきではない、隊員と魔女はそう意見を述べた。
おおよそ隊長も同じ意見だと思われた。
隊長「...いや、危険すぎる...このままトドメを刺すべきだ」
魔女(...え?)
隊長「確かに、この身柄を確保したい事実もある...だが今必要なのは人命救助だ」
隊長「今もまだあの屍共に襲われている人々がいるかもしれん...」
隊員「確かに、この女を殺害すればZombie共は消滅するらしいですが...」
隊長「...それに、鹵獲に失敗してまた被害が拡大したら目も当てられん」
隊員「それもそうですね...このまま寝首をかく他ないですかね...」
ウルフ「...?」
ウルフの顔つきが変わる。
それはとても困惑したようなモノであった。
なぜそのような表情をしているのか、魔女にはわかった。
魔女(...なに? なんなのこの違和感は...?)
魔女(どこもおかしい所なんてないのに...でもどうして心が落ち着かないの...?)
隊長の発言、このまま魔王妃の寝首をかくとのこと。
確かに彼の言葉にしては少しばかり野蛮かもしれない。
だがそれでいて理にかなっている、隊長らしい思慮でもある。
魔女「...ね、ねぇ────」
どうしても、この違和感を追求したい。
その欲求に耐えきれずに彼女は彼に質問をしようとする。
その時であった。
51: 2018/12/27(木) 22:02:28.69 ID:GmvGoknR0
魔女「────っ...」ピクッ
隊長「どうかしたか?」
魔女「いえ、なんでもないわ...ちょっと疲れたから座らせてもらうわね」
隊員「...全身にやけど痕が...大丈夫か?」
魔女「大丈夫よ、あとで魔法でさっぱり治せるから...ウルフ、一緒に座りましょ?」
ウルフ「うん? いいよっ!」
隊長と隊員が打ち合わせをする中、彼女たちは摩天楼の足元で座り込む。
冬のコンクリート、とても冷たいがそんなことを言っていられる場合ではない。
多大な疲労感をいち早く癒やしたい、魔女とウルフは座り込んでしまった。
魔女「...ねぇ、ウルフ...なんか、変じゃない?」
ウルフ「...ご主人のこと?」
魔女「やっぱり...気がついたのね」
ウルフ「うん...でも、どこもおかしいところがないよ」
ウルフ「においも間違いなく、ご主人だよ」
魔女「でも...なんなんだろう、この違和感...」
ウルフ「...つかれてるんじゃない?」
魔女「そうかなぁ...そうかも...」
ともかく、これにて闘いは終了した。
隊長と出会ってからずっと戦闘続きであった。
いまようやく、この長い旅の終止符が打たれた。
魔女「これで、終わったのね」
ウルフ「...そうだね」
ウルフが魔女に身を寄せる。
闘いは終わったのだ、この世界でやれることはすべてやった。
あとは魔王子たちがあの世界を掴んでくれていることを願って。
魔女「スライム...帽子と会えてればいいね」
ウルフ「...そうだね、きっとあえてるよ」
声が徐々にか細くなっていく。
もう闘う必要はない、今初めて心を落ち着かせることができた。
スライムが戦氏したという事実をようやく受け止めようとする。
52: 2018/12/27(木) 22:03:55.34 ID:GmvGoknR0
ウルフ「...少し、ねむたいよ」
魔女「そう...ね...ちょっとだけ寝よう?」
魔女「きっと...あとはキャプテンが後始末してくれる...わ...」
過去の激戦、過度の疲労感、そして過酷な出来事が彼女たちを眠気にさそう。
ウルフはもうすでに眠りについた、可愛らしい小さな寝息を立てている。
そんな彼女の頭を肩で受け止めつつも魔女のまぶたも下がり始めていた。
魔女「...これからどうしよう」
魔女「もう、あっちの世界に戻れることなんて...ないだろうし...」
魔女「どうしたらいいと思う? キャプテン...」
うつらうつらと船を漕ぎながら、独り言を済ませていく。
もう限界が近い、眠気に負けそうになりながらも彼女は視線を送る。
最愛の人物、眠気を惜しんでまでも彼を見つめていたかった。
魔女「...あれ?」
その乙女のような仕草がある要素に気づくことができた。
先程まで彼女を悩ましていた違和感、それがついに判明する。
それは意外にも単純なモノであった。
魔女「...ドッペルゲンガーがいない」
あの憎たらしいまでに、隊長と瓜二つのあの魔物。
魔王妃を仕留めたならば、その様子を伺いに現れてもいいはずだった。
だが現時点で闇の魔力を感知することができない。
魔女(キャプテンの中にいるのかしら...)
表舞台にいないのならばあの魔物は隊長の精神に潜んでいる。
ドッペルゲンガーとはそういうモノだ、だがそれだと1つ疑問点が生まれる。
魔女(あれ、そういえばさっきは...)
魔女(闇じゃなくて...久しぶりに光を纏っていたような...)
ふと思い返せば、魔王子と対峙した時以来だろうか。
久々にみた彼の光によって魔王妃を破ることができた。
だがなぜ今になって光なのか、あの場面なら闇でも勝てたはずだ。
53: 2018/12/27(木) 22:05:35.93 ID:GmvGoknR0
魔女(...そもそも、あの光ってなんなの...?)
魔女(キャプテンが言うには、神からあの力をもらったって言っていたけど...)
魔女(...だめ、わからない...けど気になって仕方ない)
今まで一度も深く考えている暇などなかった。
光を扱えるという戦力がとても重要だったがために追求などせずにいた。
だが今はもう戦う必要などなく十分に時間は作れてしまう、無意識の知識欲が彼女をドンドンと刺激する。
魔女(...私じゃわからない...でもここにいる皆に聞いたところでわかりっこない)
魔女(当の本人ですら、理にかなった説明ができないんだから...)
魔女(...もう1人しかいないじゃない)
隊長に聞いてもわからない、ウルフに聞いてもわからない。
だが一度刺激されてしまったこの欲求は止めることができない。
ならば尋ねるしかない、彼女に。
魔女「...ごめんウルフ、動くわね」
ウルフ「うぅ...?」
肩に寄り添ったウルフを優しく動かした。
冷たいながらもどこか心地いいこの道路の上で横にした。
そして、ふらふらと隊長たちの方に歩み寄った。
魔女「...ねぇ、待って」
隊長「どうかしたか?」
魔女「ごめん...魔王妃にどうしても聞きたいことがあるの...まだ殺さないで」
隊長「...しかしだな」
隊員「危険じゃないか? また魔法でも放ってきたらどうする」
魔女「それは...そうだけど...」
──■■...
その時だった、わずか一瞬にも満たない。
ほんの少しだけ、まるで蚊の羽音のような黒い音が聞こえた。
当然誰も気づかなかった、魔力を持たない者は。
54: 2018/12/27(木) 22:06:39.85 ID:GmvGoknR0
魔女(──今、闇が...っ!?)
魔女「...えっ...と」
隊長「...どうかしたのか?」
気づけたのは魔女だけであった、その闇が現れた場所に。
思わず顔を強張らせながらも彼女は彼の顔を見つめる。
どうして、なぜこの場所から闇が生まれたのか。
魔女「...ごめんなさい、ちょっと疲れすぎたみたい」
魔女「もう...魔王妃のことは任せるわ...」
隊長「...そうか」
隊員「では...実行しますか...」
魔女「...私も、付き添うわ」
こうして3人が倒れている魔王妃へと近寄る。
話し合いの結果、どうやら隊員が引導を渡すことになったようだった。
彼のみが武器を構えいつでも射頃する準備を整えていた。
魔王妃「────」
隊員「...本当に生きてるのか、不思議なぐらいだ」
隊長「...」
魔女「...」
隊員「では...やりますよ」スチャ
アサルトライフルの照準が横たわっている彼女の頭へと向けられる。
このままなにも起こらなければ確実に仕留めることができる。
そしてもう、激しい戦闘など起きることはないだろう。
魔女「...」
本当にこれでいいのだろうか。
このまま一生、隊長は謎の光に付き纏われることになる。
あの不可解な光がどうしても魔女を不安にさせる、それが魔女の猜疑心を煽る、彼女は裏切りを決意する。
魔女「..."治癒────」
気狂いとも表現できてしまう、その戦犯的な行動。
それを実行してしまう、もう後戻りはできない、そのはずだった。
55: 2018/12/27(木) 22:08:01.32 ID:GmvGoknR0
隊長「────ウッ...!?」
彼の嗚咽とも取れる声がそれを阻害した。
まるで、身体の中でなにかが暴れまわっている。
彼ほどの男が身を丸くしてしゃがみ込んでしまってた。
隊員「──Captain...?」
魔女「え...だ、大丈夫?」
隊長「...手こずらせやがって■■■■■■」
その闇の言語とともに現れたのはどう考えてもあの魔物。
ドッペルゲンガーがようやく登場した。
なにか苦しそうな顔つきで、隊長の身体を乗っ取っている。
魔女(────嘘...っ!?)
過去に魔闘士と共にこの現象を見たことがある。
ドッペルゲンガーという魔物は宿主の身体を乗っ取る。
油断した、油断してしまった、だが彼らしき者が叫んだ言葉は意外の一言であった。
隊長「────俺を気絶させろッッッ!!」
隊員「──は...?」
隊長「早くしろッッ!! もう抑えられんッッ...■■■!!!」
魔女「──っ..."雷魔法"っっっ!!」
──バチバチバチバチバチッッ!!
隊長がドッペルゲンガーに乗っ取られた、そのことを理解していた彼女はすでに臨戦状態であった。
言動に多少困惑しつつも、人が氏なない程度に調整された魔法が直ぐ様に隊長を襲う。
隊長「──グ...ッッ!! 手加減をするなッッ!!」
魔女「ど、どういうこと...っ!?」
雷に悶ながらも、彼は叫び続ける。
なぜ気絶をさせようとしているのかは一向にわからない。
だが切羽が詰まっていることは確実であった。
56: 2018/12/27(木) 22:09:48.24 ID:GmvGoknR0
隊長「まずい...っ! 早く■■□────」
────ガコンッッ!!
後頭部に激しい痛みが走る。
その一撃は、あの獣からの重いモノであった。
隊長「────ッ」ドサッ
ウルフ「────フーッ...フーッ...」
魔女「...気絶、したみたいね」
隊員「何が起こったんだ...?」
その問いかけに答えられる者などここにはいない。
わかることは1つだけ、それも仮説に過ぎない。
ふらつくウルフを抱き寄せ、彼女は答えた。
魔女「...わからない、だけど今のキャプテンは本当のキャプテンじゃないわね」
隊員「...どういうことだ」
魔女「あのね、まず大前提の話なんだけど...」
彼女は語る、向こうの世界で隊長がどのような魔物を引き連れてきたのかを。
ドッペルゲンガーに取り憑かれる、その呪いのような出来事を説明した。
隊員はとても険しい顔つきでその言葉を受け止めた。
魔女「...さっきの様子を見ると、キャプテンとしての人格がなかったように思えるの」
隊員「確かにそうだな...つまりドッペルゲンガーに乗っ取られたってことか」
魔女「そうなんだけど...でも、おかしいと思わない?」
隊員「あぁ...奴は気絶をさせろと懇願していたな」
魔女「そうなのよ...それが...この話を難しくしているの」
あの時、研究所で一度だけ見せられた。
ドッペルゲンガーによる宿主の乗っ取りというのは今回みたいなモノではない。
いままで経験したことのない事態に隊員は愚か魔女ですら頭を抱えてしまう。
隊員「...Captainは気絶したが...目を覚ましたらどうなるのかが分からない」
隊員「こちらも全力を持って対応するつもりだが...魔法の話には全くついて行けない」
隊員「その魔法のExpert...魔法に長けている君ですら理解の追いつかない現象にどう対応すればいいか」
魔女「...そうね」
正直に言って手詰まり、また目を覚ましてはこのような暴走に巻き込まれてしまえば。
1日2日だけなら話は別だがそのような確証などない、このまま隔離病棟にブチこむしか手はないのかもしれない。
57: 2018/12/27(木) 22:11:12.06 ID:GmvGoknR0
魔女「...1つだけ、手段があるわ」
そして魔女は頭の中で線路をつなぐ。
どうしても聞きたかったことをこの現象に繋げる。
これはもう尋ねるしかなった、自分よりも遥かに魔法を長けている者に。
魔女「......魔王妃に聞くしかないわ」
隊員「...正気か? それでこそ危険だ」
隊員「また先程のように暴れ回られたらどうする...Captainが動けない分、より苛烈な戦闘になるぞ」
魔女「でも...そうするしかないじゃない...」
魔女「もしキャプテンが目を覚まして、何事もなかったような素振りをみせても...」
魔女「また発作的にさっきの出来事が起きたらどうするの? あの人の人生滅茶苦茶になるわよ」
魔女「だったら...多少危険を背負ってまで...解決方法を知っているかもしれない魔王妃に聞くべきよ...」
実に女性的な発言だった。
愛する人のためなら世界を敵に回してもいい。
彼女が言っているのは、それと同義であった。
隊員「...しかしだな」
ウルフ「...魔女ちゃんがそう思うんなら...だいじょうぶだよ」
魔女「ウルフ...」
ウルフ「もう...誰も失いたくないよぅ...」
ウルフも直感していた、それは単純すぎる結論。
もしこのままを維持するのであれば、隊長はこの病魔じみたなにかに侵される。
原因不明の病を患ったまま長生きなどできるはずがない。
隊員「...わかった、鹵獲の方向に話を進めよう」
隊員「だがまず先に...どうやって抑えつけるかを決めよう」
魔女「...そうね、どうしようかしら」
ウルフ「力で抑えつけるのは...むりそうかな?」
魔女「...いえ、それしかないわ」
隊員「それで大丈夫なのか...? もし魔法を唱えられたらどうする」
58: 2018/12/27(木) 22:12:59.38 ID:GmvGoknR0
魔女「平気よ...魔法って意外な話、物理的に抑えることができるの」
隊員「...それはどうすればいい? 本当に文字通り拘束させるだけか?」
魔女「そうね、あとは口を塞げば問題ないわね」
隊員「そんな単純でいいのか...?」
魔女「そうよ、魔法は魔力の込められた言葉...詠唱をしなければ扱えないわ」
魔女「だから...口を塞げば魔法自体はなんにも怖くないわ」
隊員「それを先に言ってくれ...知っていればあの時がもっと楽に...」
単純でいて簡単な方法。
口を塞ぎさえすれば魔法なんてものは恐るるに足らず。
だがそれがどれだけ難しいことなのか、すぐに分かってしまう。
隊員「...いや、今のように気絶している状態じゃなければそもそも接近すらできなかったな」
魔女「まぁ...そういうことね」
隊員「とにかくわかった...魔法への対策がわかっただけでも上等だ」
隊員「...この布で口を塞ぐぞ」
そうして取り出したのはただのハンカチ。
男性用の少し大きめな物、これなら口を覆うことができる。
そして少しばかり締めれば簡易的なギャグになりえる。
魔女「...なんか絵面が厳しいわね」
隊員「あ、あぁ...一応人妻だからな」
魔王妃「────」
髪の乱れた人妻がなおのこと淫靡な雰囲気を醸し出す。
傍から見れば間違いなく暴漢と間違われるであろう。
しかし、これにて魔法への防御策が完了する。
隊員「...できたぞ」
魔女「これだけ締めてあれば...唸り声しかあげれなさそうね」
魔女「それじゃ、ウルフ...ってどうしたの?」
ウルフ「うーん...ちょっと服が邪魔になってきた...」
隊長から借りた洋服は既に原型を留めていなかった。
こうなってしまえばもう邪魔でしかない、この状態だと全力で走るときに支障がでる。
せっかくの隊長の服をダメにした罪悪感と、不快感に負け彼女は脱ぎ始める。
59: 2018/12/27(木) 22:14:48.80 ID:GmvGoknR0
ウルフ「よいしょっと」ヌギ
隊員「それで全裸か...完全に犬だな...」
魔女「ちょ...呼吸が荒いわよ...?」
隊員「いや...すまない...犬が...好きなんだ...犬が...」
かなりオブラートに包んだ発言。
ウルフの全裸というものは、人間のようにすべてが包み隠されていない状態ではない。
身体の数箇所に濃い体毛が生え揃っている、つまりは公共の場でも問題ない見た目である。
ウルフ「動きやすくなったのはいいけど、これをしまえなくなっちゃった」
隊員「...これを貸してやろう」
そう言うと彼は右太もも付近に装備していたモノをウルフに与える。
手付きに迷いはない、この行為に他意はなく単純な施しの為の行動だった。
ウルフの右太ももになにかが装備された。
ウルフ「...いいの?」
隊員「あぁ、ウルフがつけていたほうがいい...私は今ハンドガンを持っていないからな」
魔女「...いいわねそれ、邪魔にならなそうだし」
隊員「そうだろ? Holsterっていう装備品だ、これで1丁は仕舞えるな」
ウルフ「ありがとうっ! もう1個はずっと手に持っとくよっ!」
隊員「...」
犬のように尻尾を振るい、女児のような明るい表情。
この光景をみて隊長は父性を芽生えさせていた。
だが隊員は別の感情に身を焦がす。
隊員「...Mother fucking pretty」ボソッ
魔女「だ、大丈夫?」
隊員「あ...あぁ...ここしばらくCaptainを探すので精神的に参っていたが...どうやら特効薬が見つかったみたいだ」
魔女「そ、そう...よかったわね」
隊員「...ちょっと夜風に当たってくる、このままの興奮状態じゃまともに動けない」
魔女「あ、はい...魔王妃はたぶん何もしない限り起きないと思うから...ゆっくりね?」
そういうと彼は鼻を抑えながら暗闇の摩天楼に向かう。
そこから聞こえるのは、謎の奇声と銃声、そしてそれの被害を被るゾンビの断末魔。
時が流れていく、不測の事態に備えてウルフはひたすらに魔王妃の真横で待機していた。
60: 2018/12/27(木) 22:16:46.43 ID:GmvGoknR0
隊員「...今戻った」
魔女「早かったわね...その荷物は?」
ウルフ「────っ!」ピクッ
わずか10分も経っていない、鼻にティッシュを詰めた彼の興奮は収まったのだろうか。
そのようなことはどうでもよかった、肝心なのは彼の新たな手荷物。
透明な袋に入っている何かとぶら下げているなにか。
隊員「...こっちはWestpouchという腰につける鞄だ、ハンドガンは入らないがMagazineは入るはず」
隊員「そしてこっちは、食料だ...代金は店にそのまま置いてきた」
魔女「あー助かるわ...ちょうどお腹が減ってたのよ」
魔女「とりあえずその鞄をウルフに着けて...ってウルフ?」
ウルフ「へっへっへっへ...ちょこの匂い...」
隊員「あ、あぁ...Chocobarはあるけど...犬にこれはまずいと思うんだが」ゴソゴソ
わざとらしく、本人にそのつもりはないがそう見えてしまった。
それが運の尽きであった、獣相手にエサを見せつけるほうが悪い。
ましてはウルフは極度の疲労状態、すぐさまにも口に何かを入れたいはず。
ウルフ「────いただきまぁす」
──ドサッ...!
その俊足は、戦闘以外でも発揮される。
とてもじゃないが人間には見えない、手も足も出せないどころか押し倒された。
そして貪られる、チョコバーを持っている彼の腕。
魔女「...あ、さっきの飲み物あるじゃない」
そしてそれを止める元気もない魔女。
黒いシュワシュワする飲み物と、ウルフが暴れて飛び散った棒状の芋を拾い食いする。
どこか不気味な声を上げている隊員を余所目に、魔女は体力を癒やしていた。
隊員A「...What's happened?」
隊員B「...Nightmare」
~~~~
61: 2018/12/27(木) 22:18:42.02 ID:GmvGoknR0
~~~~
??1「...終わったんだな」
抉れた大地にいるのは、男が1と女が2人。
男がぽつりとその言葉を漏らす、そして1人の女が返事をする。
??2「終わりました...これで...やっと...」
??1「...魔王と共に死神が大量に沸いた時はもう駄目かと思ったぞ」
??2「そうですね、あの子に感謝するしかありません」
??1「...まさか勇者が、太陽に属性付与をかけるとは」
勇者「...」
いままでの会話に参加せずにいた者、それは勇者と呼ばれていた。
女勇者が可憐というなら、この勇者にふさわしいのは美人という言葉であった。
だがその表情は、この世の修羅を乗り越えた非常に険しい顔つきであった。
勇者「...勝った、勝ったんだ」
勇者「賢者...魔術師...よく生き残った...っ!」
そして残りの男女の名前、賢者と魔術師。
賢者と呼ばれる男は激戦の果の疲労感に負けそのまま座り込んだ。
魔術師と呼ばれる女は落ちていた剣を拾っていた。
魔術師「まさか、トドメを刺されたくないがために...己を魔剣化させるだなんて」
賢者「魔剣には詳しくないが...魔剣から肉体を取り戻した事例など聞いたことがない」
賢者「...結界魔法で封印する手間が省けた、実質的に魔王はこの世を去ったと言える」
魔術師「そうですね...」
激戦地に雨が降る、それでいてギラつく光が眩い。
俗に言うお天気雨が彼らの身体を冷やし、癒やしていた。
大地の恵みが全身を巡る。
賢者「...心なしか、いつもより日差しが強いな」
魔術師「これも、勇者の属性付与による影響でしょうか」
賢者「死神はわずかな光属性でも嫌う...もう二度と地上に現れないだろう」
賢者「...いや、日食時はどうなるのか...まぁ奴らは人間界には現れないからもう気にしなくてもいいか」
些細なことが気になるところを見ると、賢き者であるのは間違いない。
そして現れるのは沈黙、3人は余韻に浸りこのまま眠りについてしまいそうになる程に。
62: 2018/12/27(木) 22:19:54.39 ID:GmvGoknR0
魔術師「...これから、どうしましょうか」
賢者「魔王は倒したんだ、もうやるべきことなどないはず」
魔術師「...そうですね、このまま人間界へと帰還しましょうか」
賢者「さっさと帰ろう、魔界の空気は人間には合わない」
勇者「...帰ろう、故郷が待っている」
座り込んでいた賢者が立ち上がり、魔術師は魔剣を手荷物にする。
そして勇者も、この激戦により更地と化したこの場所から離れようとした瞬間。
妙な感覚が襲いかかる。
勇者「────っ...」
──どくんっ...!
心が燃やされるような感覚が彼女を襲う。
まるで、内部から身体を引き裂かれているような痛みが伴う。
魔術師「...勇者?」
賢者「どうし...これは────」
いち早く気づけたのは賢者であった。
なぜ気がついたのか、それは彼が魔力の扱いに長けているからであった。
だが既に遅かった、勇者は変貌し始める。
賢者「まさか...ッ!?」
魔術師「────勇者っ!!!」
握りしめられた魔剣がやけに馴染む。
どうしてだろうか、彼女は人間だというのに。
だが彼女は将来魔に染まる、その因果だというのだろうか。
???「────"治癒魔法"」
そして聞こえたのは全く馴染みのない女の声。
彼女は目を覚ます、これは魔術師の過去の出来事。
気絶していたがために夢に見せられた、記憶の断片。
~~~~
63: 2018/12/27(木) 22:21:43.75 ID:GmvGoknR0
~~~~
魔女「────"治癒魔法"」
心地いい明かりが彼女を癒やした。
その傷はまだ残るが、意識を蘇らせることは可能だった。
魔物という生き物はそう簡単にくたばるような生き物ではない。
魔王妃(...随分と、嫌な夢を見てましたね)
魔王妃「...もが」
視界は開けていていく。
そして突きつけられているのは、様々な武器。
そして口には布が、背中には狼が彼女を羽交い締めにしている。
魔王妃(...これでは物理的に逃げることも、魔法も唱えられないですね)
魔王妃(この狼の子...ものすごく力が強い...いくら魔力で強化した私でも脱出は不可能ですね)
魔王妃(...ですが、なぜあのまま殺さずに治癒魔法を...?)
魔王妃(いえ...これは私にとっても好都合です)
魔女「...おはよう、悪いけど聞きたいことがあるの」
魔女の周りには3人の男が武器を構えていた。
もう魔王妃に拒否権などない、そう悟った彼女は首を頷かせた。
魔女「...あんた、"あの光"についてなにかわからない?」
魔王妃「...」
こくりと音が鳴る、きれいな意思表示であった。
それを見た魔女は目を見開いた、やはりこの行動は間違いでなはかった。
魔女「...当人はあの光を、神から貰ったって言ってたけど...それは本当なの?」
魔王妃「...」
彼女は首を振った。
その返答に彼女はどこか安心したような表情を浮かべた。
やはり、理にかなっていない説は抹消したかったのであった。
魔女「...あれは、なんなの?」
魔王妃「...」
なにも音はしなかった。
彼女はなにも反応をせずにいた、それが意味するのは1つしかない。
先程の意思表示だけでは答えられないからだ。
64: 2018/12/27(木) 22:25:29.43 ID:GmvGoknR0
魔女「...いい、わかってるわね?」
その一言で周りの者たちの緊張感が増していく、3人の男が向ける銃口はより正確に。
後ろで拘束しているウルフも新たにハンドガンを彼女に突きつける、魔王妃の口元が開放される。
魔王妃「...随分と乱暴ですね」
魔女「黙って、少しでも詠唱の素振りを見せたら頃すわよ」
魔王妃「...」
その魔女の顔つきに既視感があった。
過去に自身もこのような顔をしていたのだろうか。
大切な者ために、己を修羅に染めるこの表情を。
魔王妃「...あの光は────」
その言葉に、魔王及び魔王妃の野望が詰まっていた。
これをするがために、この夫妻は人間界を侵略しようとしていた。
これをするがために、妻は単身で異世界に旅立ったのであった。
魔王妃「────"勇者による光"です」
勇者の光とは、何を意味するのか。
魔王妃のその苦悶の表情は、何を意味するのか。
理解が追いつかない回答に魔女は追求を行おうとしたその時、ある人物が納得をした。
ドッペル「...そういうことか」
魔女「──っ! ドッペルゲンガー...なんでここにっ!?」
ドッペル「あの宿主の身体から追い出されたのでな...だが気絶させてなければ滅びるところだった」
ドッペル「この身も...あの宿主もな」
隊員「...どういうことだ?」
ドッペル「...それはあの女が説明してくれる」
魔王妃「...話かけるな、腐れた種族が」
怒りを顕にする、どれだけドッペルゲンガーのことが憎いのか。
その理由がついに明らかとなる、魔王妃は回答を続ける。
重すぎる言葉、それをただ飲むことしかできない魔女。
65: 2018/12/27(木) 22:27:21.92 ID:GmvGoknR0
魔王妃「私は...遥か過去に、人間の魔術師として生きていました」
魔王妃「そして私は勇者...そして賢者と出会い、魔王討伐の旅に加わりました」
魔王妃「...簡潔に言いますが犠牲はありましたが、なんとか魔王を討ちました」
魔王妃「問題は...討った後です」
あの世界の真実が紡がれる。
なぜこのような出来事が歴史書に綴られていないのか。
真相を知るものは、わずか2人しかいないからなのか。
魔王妃「────勇者は、ドッペルゲンガーに取り憑かれていたのです」
魔女「...え?」
魔王妃「そして...彼女は...あの忌々しい魔物に......」
そして訪れる沈黙、その答えは明白であった。
あの時魔闘士が強引に気絶させていなければ、隊長もそうなってしまったかもしれない。
魔王妃「あの時、私は殺されました...ドッペルゲンガーによって操られた勇者自らの手によって」
魔王妃「そして彼女は、私を頃した絶望感に負け...氏にかけた私の眼の前で...」
魔王妃「...あの光景を忘れることはありません」
魔女「...そんなことが、過去に起きてたなんて」
魔王妃「...この事実を知ってる者は私と今の魔王、そして...賢者だけでしょうね」
やけに引っかかる賢者という名前。
それに先程、大賢者の魔力薬を飲んだときの魔王妃の反応。
彼女はあの魔力を懐かしいと言っていた。
魔女「まさか、あんたが言ってる賢者って...大賢者様のこと?」
魔王妃「...真相はわかりませんが、彼の子孫だと思われます」
魔王妃「彼も殺されたかと思っていましたが...なんとか生き残っていたようですね、それはよかったです」
魔王妃「...脱線しましたね、話を戻しましょう」
脱線した話を戻す、つまりは隊長の身に何が起きているかという話だ。
今の魔王妃の発言から推理すればもう答えは明白であった。
彼の中にもう1人、誰かがいる。
66: 2018/12/27(木) 22:29:07.11 ID:GmvGoknR0
魔女「...まさか、キャプテンは2つのドッペルゲンガーに憑かれていたってわけ?」
魔王妃「そういうことになります...あの光の魔力は間違いありません」
魔女「そんな...いつ...どこで憑かれたのよ...?」
ドッペル「...俺が取り憑いた時にはすでに、奴はいたぞ」
今の発言がどれだけ重要なモノなのか。
逆に言えば、なぜ今までそのことを黙っていたのか。
それはこの魔物は味方ではないからであった、魔女はその事実を頭の中で無理やり理解させる。
魔王妃「...私は長年、あの偽物の勇者を探していました」
魔王妃「ようやく掴めた手がかりは、わずか10年くらい前でした」
魔王妃「...人間界に、勇者の魔力を感じたのです」
魔女「...続けて」
彼女は語る、己の野望を。
10年前、魔物の彼女からすればわずかな時だ、その過去になにが起きたのか。
魔王妃「...その魔力は、とある人間に付着していました」
魔王妃「それを逃すべきではない、すぐさまに私はその者を拉致しました」
魔王妃「...それが、研究者のことです」
隊員「────ッ!?」
研究者というのは、あちらの世界での名前であると隊長は言っていた。
そのことを忘れずにいた隊員はその言葉に動揺する。
まさか、あの男が重要人物だとは思いもよらなかった。
魔王妃「...ですが残念ながら彼を拉致したところで、目的は果たせませんでした」
魔王妃「だけれども、少なくともまだ人間界に奴がいる...そう踏んだ私たちは人間界への干渉を試みました」
魔王妃「侵略を行い、魔界として統治すれば...人探しが簡単になりますからね」
魔女「...それが、魔王軍が動いていた訳ね」
魔王妃「えぇ...そうです」
67: 2018/12/27(木) 22:31:40.04 ID:GmvGoknR0
魔王妃「...しかしですね、ある程度時が経った時に...もう1つの可能性が生まれたのです」
魔女「...転世魔法ね?」
魔王妃「そうです...私の感知能力でも、なかなか見つけることができずにいた訳ですから」
魔王妃「...新たな可能性として、異世界へと着目したのです」
これまでの魔界の動きがようやく明らかとなった。
彼女はついに尻尾をつかめたのであった、あそこで横になっている人間の彼が鍵だ。
魔王妃「...私の目的は、勇者を装う無礼者にトドメを刺すこと」
魔王妃「そして今...ようやく...ようやく、奴を捉えることができました」
魔王妃「身勝手な話にしか聞こえないでしょうが、これを逃すわけにはいきません...」
魔王妃「...離してください、あの憎たらしい魔物を殺させてください」
隊員「...随分都合がいいな、お前が呼び出したZombie共がどれだけ人を頃したと思っている」
魔王妃「...ですが、話したところで納得してくれましたか?」
魔王妃「この世界で私ができるのは...侵略、そしてドッペルゲンガーを炙り出すことです」
魔王妃「...私の野望の邪魔をするな」
あのまま侵略を進めてこの世界を統べることができたのなら。
確かに人探しなど容易だろう、彼女の選択は間違いではない。
醸し出されるの雰囲気は渇望、そして執念。
魔王妃「──私の大切な"あの子"の無念を...晴らさせてくださぃ...」
そして、涙であった。
彼女は女性だ、その考え方は男性と異なる。
愛する者のためなら、全てを敵に回してもいい。
隊員「...」
魔女「...」
主要人物が2人、このチームのトップは間違いなく魔女と隊員。
その他の者は指示を待つことしかできずにいた。
長い沈黙が訪れた後、ようやく答えをだせた。
68: 2018/12/27(木) 22:32:59.16 ID:GmvGoknR0
隊員「──Put the gun down...」
隊員B「Are you mental...?」
隊員A「...」
その命令、真っ先に従ったのは隊員A。
少しばかりの悶着がありつつも、隊員Bも続く。
そして当の隊員の顔つきはとても険しいモノであった。
魔王妃「...ありがとうございます」
隊員「...全てを許したわけじゃないからな」
隊員「別の形で罪を償ってもらう...だがそれはCaptainをどうにかしてからだ」
魔女「...ウルフ、離していいよ」
ウルフ「...わかったよ」
羽交い締めにしていた魔王妃をゆっくりと開放する。
しかし彼女は自力では立てないまで負傷をしている。
それを哀れに思ったのか、優しいウルフは肩を貸してあげた。
魔王妃「...ありがとう」
ウルフ「...どういたしまして」
魔王妃「ではまず...アレを解除します」
そう言うと彼女は、魔力の籠もった言葉を口にする。
それはあの惨劇を引き起こした魔法に関するモノ、すぐに効果は現れた。
魔女「...今の、使い魔召喚魔法?」
魔王妻「それを解除しました」
ウルフ「...っ! 見てっ!」
ウルフが指さした方向、かなり遠くにゾンビが居た。
だがソレは徐々に魂を失っていく、生ける屍がただの屍へと変貌する。
隊員「...これでもう、Civilianに被害はでないな」
魔王妃「...ご迷惑をお掛けしました」
魔女「それで、これからどうすればいいの?」
魔王妃「...え?」
なぜ彼女は困惑をしているのか。
魔王妃は1人で全うしようとしていた。
だからこそ、魔女の発言に言葉をつまらせていた。
69: 2018/12/27(木) 22:34:46.81 ID:GmvGoknR0
魔女「悪いんだけど私が手伝うんじゃないわよ、あんたが手伝うのよ」
魔女「私たちの目的は勇者のドッペルゲンガーじゃないわ、キャプテンよ」
隊員「...Exactly」
ウルフ「そうだねっ!」
魔女「私たちだけじゃどうすることもできない...手の届かないところはまかせるわよ」
魔王妃「...そうですか...そうですね」
魔王妃「わかりました...この身が滅んでも、彼を助けることを誓います」
魔王妃「そのついでに、憎たらしいドッペルゲンガーを祓ってもよろしいですか?」
魔女「...いいわよ、あんただけじゃなにするかわからないしね」
先程まで頃し合っていたというのに。
魔王妃に至ってはこの世界の住民を殺害したというのに。
だが彼女がいなければ、隊長はどうなってしまうのかが明白。
隊員「で、なにをしたらいい」
魔王妃「...まず私がありったけの魔法を彼にぶつけます」
魔王妃「それで彼に憑いているドッペルゲンガーを引き剥がします」
魔女「...引き剥がせなかったら?」
魔王妃「...それしか方法がないのです」
魔王妃「ドッペルゲンガーが自らの意思で離脱しなければ、宿主から離れることはありません」
そう言うと彼女はあの憎たらしい魔物を睨みつけた。
まるで証明をしろと言わんばかりの眼光。
圧倒的な威圧感を持つ彼女に、上位属性を持つはずである彼は思わず返答する。
ドッペル「...たしかにそうだ、第三者がドッペルゲンガーを宿主から引き剥がす方法などない」
ドッペル「ならばできるのは、その宿主から離れたくさせる行為だけだ」
ドッペル「つまり...先程この女が言ったとおり、あの宿主の身体を痛めつけて離脱を促すしかない」
魔女「...本当にそれしかないの?」
隊員「話の内容は理解した...だが、これじゃCaptainへの負担が大きすぎるぞ」
先程の激戦、ある程度の威力は把握している。
だからこそ2人は別の方法を促していた。
あの天災じみた威力を誇る魔法を隊長に当てたとしたら、どのようになってしまうのか。
70: 2018/12/27(木) 22:36:27.30 ID:GmvGoknR0
ドッペル「...ない、こればかりは本当だ」
魔王妃「彼が大事なのはわかります...だけどこれをしなければ彼は二度と自我を取り戻せないですよ」
隊員「...Fuck」
魔女「...わかった、その方向で行きましょう」
ウルフ「...いいの?」
魔女「うん...これしか...手はないみたいだから」
ウルフ「...きっと、ご主人ならたえてくれる...そうだよね」
魔女「そう...ね、いつもの頑丈さを見せてくるわ」
とても不安げな表情をする魔女に、ウルフは身を寄せた。
まるで悲しんでいる飼い主に寄り添ってくれる飼い犬のように。
ウルフの柔らかな毛並みが魔女の頬をうめた。
魔王妃「...あのドッペルゲンガーは宿主を乗っ取ることに成功し、完全に勇者の魔力を得ています」
魔王妃「だから光魔法を扱えています...なので、魔物である私たちは一瞬の油断が命取りです」
魔王妃「...もしもの時は、あなた方が頼りです」
隊員「...わかった、善処しよう...ちなみに光魔法とはどんな魔法なんだ?」
魔王妃「そうですね...魔物には人間とは違う動力源があるんですが」
魔王妃「光魔法はその動力源を抑制する効果があります...つまり、呼吸がしづらくなるのと原理は同じです」
隊員「なるほどな...人間相手にはあまり効果はなさそうだな」
魔王妃「その通りです...ですが、ドッペルゲンガーとは闇の魔物...おそらく闇魔法も放ってくるでしょう」
隊員「...その闇魔法とは?」
魔王妃「単純な話です、闇はすべてを破壊してきます」
魔王妃「黒い魔法が見えたら、絶対に当たるべきではないです」
隊員「...わかった」
ドッペル「安心しろ、光はともかく闇に関しては俺がなんとかしてやる」
魔女「...やけに協力的ね、なにか企んでいるの?」
ドッペル「お前は自分の住処に見ず知らずの誰かが居て、不快だと思わないのか?」
魔女「...あんたも似たようなもんでしょ」
71: 2018/12/27(木) 22:37:32.09 ID:GmvGoknR0
ドッペル「...ともかく、俺もあの宿主の元へと戻りたい」
ドッペル「一時協力させてもらうぞ...こんな見ず知らずの土地で住処を追い出されるのは溜まったものじゃない」
魔女「そう...ありがとうね」
魔女の愛しの人物と瓜二つのこの男。
純粋な味方ではないが、利害の一致とのことで協力体制に。
彼の黒の魔法がどれだけ優位な手札になるだろうか。
隊員「...Listen to me」
隊員A「Okay」
隊員B「...Understand」
日本語についていけない2人の為に隊員は通訳をする。
それを尻目に彼女は単純に気になったことを魔王妃に投げかける。
先程、殺されたという発言が引っかかっていた。
魔女「...ねぇ、さっき殺されたとか言ってたけど」
魔王妃「気になりますか?」
魔女「気になるわね、少なくとも蘇生が可能な魔法なんて知らないしね」
魔王妃「...そうですね、まずは私と夫との馴れ初めから話しましょうか」
魔女「あー...恋愛話なんて久方ぶりに聞くわね...」
魔王妃「まず、私が氏亡した場所は魔界でして...化石のような亡骸がどこかに残っていたらしいんです」
魔女「へぇ...」
魔王妃「それを夫が、使い魔召喚魔法の媒体にしたのです」
魔女「...へ?」
魔王妃「......」
彼女は淡々と語りすぎていた。
そして訪れたのは静寂、つまりは話は終わったということ。
それがどれほど凄まじい状況なのか、魔女は高い声で反応した。
72: 2018/12/27(木) 22:39:41.87 ID:GmvGoknR0
魔女「えっと...つまり魔王は常に魔法を継続させてるってことっ!?」
魔王妃「そうなりますね、本人はあと200年はいけると仰ってました」
魔女「えぇ...どんな魔力量しているのよ...」
魔王妃「はじめは私の魔力を目当てに蘇らせて、召使いにしていたのですが...」
魔王妃「いつの日か、魔王城の清掃を終えた私の寝床に────」
魔女「──それ以上はいいわ...魔王子の誕生秘話なんて聞きたくないわよ...」
魔王妃「...そうですか」
魔女「というか...氏体のままでも魔力は残るのね...そっちの方がびっくりよ」
魔王妃「...亡骸の保存状態が非常によかったらしいです、あとは私の元々の魔力量が桁違いだったので」
隊員「...ちょっといいか?」
他愛のない会話が終わると、隊員たちが合流してきた。
そして彼らの話し合いの結果を伝える、それはとても戦略的な提案であった。
隊員「隊員AとBはひとまず帰還させることにした」
魔女「そう、わかったわ...」
隊員「それで彼らにはある武器を取りに行かせる...この世界でかなり強力なヤツだ」
魔女「...まだ優秀な武器があるの? 正直ウルフの持っている小さなアレだけでも凄いんだけど」
隊員「...強力な武器があることはあまり良いことではないが...今は褒め言葉として受け取っておこう」
隊員「それでだ、そうなるとここにいる人間は1人になるわけだが...」
隊員が懸念しているのは時間だった。
それを述べようとした瞬間に2つの声が答えを導く。
1つ目は時間について、もう2つ目は戦略について。
ドッペル「...あまり時間はないぞ、もうじき目覚める」
魔王妃「...ですが、逆に好都合かもしれません、向こうがどのようにして動くのかがわかりませんから」
魔王妃「決して貶しているわけではありませんが...奴の魔法に人間が耐えれるとは思えません」
魔王妃「初めは武器を取りに行ってもううのを兼ねた退避をしてくれたほうがこちらとしては楽です」
相手がどのような戦術をするのかがわからない中、人間の味方を護るのは至難。
だからといってただの人間がいなければ魔物は光に抗えない。
ならせめて行動パターンが読めた頃にいてくれればコチラとしても楽、魔王妃はそう伝えた。
73: 2018/12/27(木) 22:40:57.96 ID:GmvGoknR0
隊員「...なるほど、言いたいことは理解した」
隊員「まぁ...先程見せられたあの嵐のような魔法を見せられた後じゃ、食い下がれないな」
隊員「あの魔法以上のモノがくるかもしれないというなら、はっきり言って我々は邪魔にしかならない」
魔王妃「...聡明ですね、そのような判断をしてくれて助かります」
隊員「だが、要所では活躍させてもらう」
隊員「...こちらの世界の武器は、かなり遠くからでも攻撃できるからな」
魔王妃「それは身をもって実感しています、とてもじゃないがアレを予測することは不可能です」
そういうと彼女は腹部の傷を見せつけた。
そこにはエゲツないほどに跡が残った銃痕が。
先程のアンチマテリアルライフル、その威力が伺える。
魔王妃「...魔法も介さずにこの威力は若干引きますね」
隊員「それはコチラのセリフだ...普通コレで撃たれたら跡形もないぞ...」
魔女「それで、結局どうする? 隊員さんも一度退避しておく?」
隊員「...いや、初っ端にその光魔法とやらが来たら一溜りもないんじゃないか?」
魔王妃「そうですね...かなり危ない橋を渡ることになりますが...1人は残っててもらいたいです」
隊員「それなら先程の話通りだ、私がここに残る...すこし離れた場所でな」
魔王妃「...お願いします」
隊員「......あぁ」
とても複雑な表情をしていた。
やはり協力体制とはいえ、この女はテ口リスト。
微かに沸き立つ殺意を抑えながらも、彼は返事を全うした。
隊員A「...Be careful...Please」
隊員「I Know...I Know...」
まるで母親のような口ぶりに思わずほくそ笑む。
だが当人は至って真剣、その様子は彼の目を見れば伝わった。
わかってるよ、隊員はそう言葉を投げ返した。
74: 2018/12/27(木) 22:42:33.94 ID:GmvGoknR0
隊員B「Use this...」スッ
隊員「...Thank you!」
隊員B「...Find somewhere to hide」
彼が渡したのは先程の魔王妃を仕留めた一品。
いい場所を見つけて、隠れながらこれを使えと隊員Bは皮肉交じりに言う。
強烈な武器、アンチマテリアルライフルが隊員の手に。
ドッペル「...そろそろ、来るぞ」
隊員「...Go move...Let's meet again AMIGO!」
彼は彼らしい優しい顔で、上司としての指示をだした。
そしてそれを受け取った部下たちは親指を立てただけであった。
これで最後の会話かもしれないというのになんと素っ気ないモノなのか。
魔女「いいの...? 最後の会話かもしれないのよ?」
隊員「...素っ気なさすぎて、これが最後の会話だと思えんだろ?」
魔女「...そういう意味ね、じゃあ大丈夫ね」
一種のジンクスかもしれない。
こんなしょうもない最後があってたまるか。
彼は何が何でも生き残るつもりだった、この逆説的な意味合いがそれを物語る。
魔女「なんだか...隊員さん、キャプテンみたいね」
隊員「それはそうさ、Captain以外と話をするときは彼を真似ているからな」
魔女「あー、確かに...結構似てるわね」
隊長の口調を真似る男がここに。
だがこの微笑ましい空気感は一瞬にして凍りつく。
それは、隊長の姿形を真似る男がそうさせたのであった。
ドッペル「────奴が目覚めるぞ」
なにか、とてつもなく重苦しい空気感。
それに反応してなのか、激しいビル風が彼らを通過した。
そして目覚めるのは真似られた男。
75: 2018/12/27(木) 22:43:08.70 ID:GmvGoknR0
「...偽るのはやめたほうがいいか」
76: 2018/12/27(木) 22:43:37.66 ID:GmvGoknR0
引用: 隊長「魔王討伐?」 Part2
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