211: 2012/06/05(火) 21:02:56 ID:XZGlkluU

農家「魔王とかフザけんな」
農家「魔王とかフザけんな」【その2】


オーク共は1・3組と2・4組だったことにしてくれ。


女勇者「ところでそれどうすんの?」

猪3「」ぴくぴく

暴れ猿「……村人Bにでもくれてやるか」

農家「おい止めろ想像させるな」

女僧侶「え?どういうことですか??」

女魔法使い「それはね……」

農家「説明すんな!」ばっ

女魔法使い「むぐっ」口塞がれ

猫娘「あのー……」おずおず

女勇者「うぃ?ありゃ、誰さん?」

猫娘「うちは猫娘ですにゃ。おっちゃんのトモダチですにゃ」びくびく

女勇者「ほうほう」

農家「自己紹介は後にして、そろそろ戻るぞ」

勇僧魔猫猿「「「「「はーい(おう)」」」」」
葬送のフリーレン(1) (少年サンデーコミックス)
212: 2012/06/05(火) 22:29:12 ID:XZGlkluU

 ・ ・ ・

女勇者「ふーん。じゃあワーウルフさんとも知り合いなんだねー」

猫娘「にゃ。センセーは勉強とかいろいろ教えてくれたのですにゃ」

女僧侶「先生?」

農家「ああ、あいつ元々寺子屋やってたんだよ」

女勇者「テラコヤ……って何?」

女魔法使い「……学校……みたいなもの」

女勇者「あー」なるほど

 ガチャ

暴れ猿「オークを引き渡してきたぞ」

農家「おう、お疲れ」

暴れ猿「……というか今更だが貴様、俺様を信用しすぎではないか?」

暴れ猿「あれを利用して暴れることもできたんだぞ」

農家「語るに落ちてるぞ猿」

暴れ猿「……はぁ」やれやれ

214: 2012/06/07(木) 10:17:12 ID:iTKRWzJ6

 一方・・・。

村人B「ヒャッハー!新鮮な尻だー!」ナデナデ

オーク「止めて!助けて!兄ちゃんっ、兄ちゃあああんっ!!」

村人B「くけけけけ、助けを呼んでも無駄だぜェ!」スーリスリスリ

オーク「いやああああああ!マーマ!マーマあ!ああ!」

村人C「ほっといていいのか?」

村人A「今近付くと巻き添え喰らうぞ」

村人B「見てくれ。こいつをどう思う?」

オーク「いやだああああああああ!!誰かっ!誰か助けてええええええ!!」

村人A「アーアーキコエナイ」

村人C「南無三……」合掌

215: 2012/06/07(木) 12:22:10 ID:iTKRWzJ6

   :
   :
   :

村人B「……バカな……メスだと……?」

村人A「えっ」
村人C「何それ怖い」

219: 2012/06/11(月) 12:43:07 ID:noyizTr.

 ・ ・ ・

ワータイガー「申し訳ありません」

キングレオ「うむ……」

キングレオ「まあ、よい。些細なことだ」

ワータイガー「は」

キングレオ「それよりも北の人間どもの動きはどうなっている?」

ワータイガー「表向きには、守りを固める方向に動いているように見えます。しかしながら……」

キングレオ「ふむ、何かあると?」

ワータイガー「……武器の流通量がいささか多く思えます。隣国に掛け合い騎兵も集めているようでした」

キングレオ「……なるほど。まだ諦めがついていなかったか」

ワータイガー「いかがなさいますか?」

キングレオ「…………。よし。――――――、――――」

ワータイガー「――――。ではそのように」

 ―――
 ――
 ―

220: 2012/06/11(月) 18:26:36 ID:noyizTr.

 ―
 ――
 ―――

女勇者「魔人?」

.

222: 2012/06/13(水) 23:07:26 ID:pbtcmdgU
女勇者「なにそれ?」

農家「…………」

暴れ猿「……簡単に言うなら、生きた兵器、といったところか」

女僧侶「生きた兵器、ですか」

農家「あれはそんなモンじゃねえよ」

暴れ猿「む、知っているのか?」

農家「研究を叩き潰したのは、俺と勇者と先代魔王の3人だからな」

女勇者「おじさんそんなこともしてたんだ……」ほへー

女勇者「え?」
女僧侶「へ?」
女魔法使い「?」
暴れ猿「ん?」
猫娘「にゃ?」
農家「あ?」

女勇者「ちょっと待って、今すごい聞き捨てならない発言があった気が……」

223: 2012/06/13(水) 23:20:08 ID:pbtcmdgU
農家「俺が研究を叩き潰したのが意外か?」

女勇者「違う、その次!」

女僧侶「あの、聞き間違いでなければ……先代魔王がどうとか……」恐る恐る

農家「俺とタコ助と角ジジイな」

暴れ猿「さっきと呼び方が違うぞ?!」がびーん

女魔法使い「角ジジイ……」

猫娘「先代陛下をジジイなんて呼ぶの、世界中探してもおっちゃんと勇者だけだにゃあ」

女勇者「いや呼び方はどうでもいいってばさ……」

女勇者「それより、魔王が協力ってどういうこと?敵対してたんじゃないの?」

農家「…………」

農家「……こっからはクソマジメな話になるぞ」

224: 2012/06/14(木) 08:48:56 ID:SX6Faf9E

 時は20年ほど前まで遡る。

 人間とモンスターの衝突が最も激しかった時代だ。

 少数の豪傑によって支えられる人間側の連合軍と、
 数と平均能力で圧倒的に勝るモンスター側の魔王軍。

 両者の戦力は、勇者(後の国王)と鬼神(後の農家)、
 そして他5人の精鋭の活躍により、辛うじて拮抗状態を保っていた。

 つまりは人間側の劣勢であり、それ故に勇者達の存在は大きな希望だったのだ。

 しかし、その英雄に依存した状況が、思わぬ暴走を引き起こした。


鬼神「――“人造勇者”だ?」もぐもぐ

勇者「ああ。どうも先の会議でそんな話が挙がったらしい」がつがつ

鬼神「またけったいなモン思い付きやがる……。
 どこの物知らずだンな事言い出したのは」

勇者「北の大陸の西端に差別主義者の国があったろ。あそこの王が、な」

鬼神「《武教の国》か……」

225: 2012/06/14(木) 12:41:43 ID:SX6Faf9E

 武教の国。
 その名の通り、武と宗教の国だ。

 国の中枢は巨大な城壁で囲まれ堅牢。
 中心にあるコロッセオでは兵達が日々闘いを繰り広げ、多くの氏者と引き換えに練度の高い軍隊を築いている。

 そして、武教の国にはとある教えがある。
 『弱者は敗者であり、敗者は氏者である。』

 これは生涯不敗を誇った初代王の遺言のひとつだ。
 要は『弱肉強食』ということだが……時を経て、この言葉は歪めて捉えられるようになった。

 『勝つために氏ね』

 ――そして、絶対的英雄たる初代王への畏敬と崇拝が合わさり、
 それは強さに対する宗教へと変化していった。

 ……ある人物は、武教の国の兵と戦場を共にした後、こう言い残している。


「奴らは人間じゃない。人の皮を被った化け物だ」


 彼はその戦いを最期に、剣を見ることすらできなくなったという。

226: 2012/06/14(木) 15:11:38 ID:SX6Faf9E
鬼神「で?」

勇者「ん?」ぐびっ

鬼神「あの馬鹿連中がどうかしたのかよ」ごそごそ…

勇者「あぁ。どうも、会議で棄却されたのを無視して研究を始めてるって噂でよ」ぷはぁ

鬼神「止めてこいってのか」ボッ

勇者「ま、勇者だしな」

鬼神「気楽に言いやがる……」スゥ… ふー…

勇者「あ、葉巻一本くれ」

鬼神「ん」

227: 2012/06/14(木) 15:27:27 ID:SX6Faf9E
女勇者「おじさん葉巻吸うんだ」へー

農家「タコ助と一緒に止めたけどな。あの後ガキもできたし」

女僧侶「あぁ、そういえば陛下も吸ってませんね」

女勇者「たまにスルメくわえてるけど」

女魔法使い「……タコがイカを?」

暴れ猿「っ」←顔逸らした

猫娘「おさるさんどしたのにゃ?」

暴れ猿「いや……っ、なんでもない……っ」←笑い堪えてる

農家「……続けていいか?」

229: 2012/06/14(木) 21:47:20 ID:SX6Faf9E
鬼神「だが止めるっつっても、何しろってんだよ」

勇者「さぁなぁ。その辺なーんも言われてねんだわ」

鬼神「丸投げか」

勇者「丸投げだな」

2人「「ふー……」」

勇者「どっちにする?」

鬼神「魔女はなあ……」

勇者「んじゃ、錬金術師ンとこ行くか」

鬼神「《焔鍛の国》か……」

勇者「あそこ暑いんだよなぁ……」

230: 2012/06/14(木) 22:05:19 ID:SX6Faf9E

 焔鍛の国。

 視界に映るものが岩壁と熱砂しかない不毛の地の、数少ない水源付近に位置する小さな国だ。

 ここでは鉄などの採掘と、それに伴って武具の生産が盛んに行われている。
 また、何故か多くの錬金術を修める者達が移り住んでくる場所でもある。

 彼らに理由を訊ねると、皆口を揃えてこう答えるそうだ。

 『過酷な環境でこそ見えるものがある』

 探求とは奥深いものである。



勇者「でもそれとこれとは別じゃね?」

錬金術師「……キミはそんなことをわざわざ言いにきたのかい?」

 酔狂だねぇ、と振り返りもせず実験(何の、かは不明)を続ける、分厚いメガネを掛けた白衣の女性。
 彼女もまた、勇者の仲間の一人だ。

鬼神「お前……また部屋散らかってるじゃねえか、この間片したばっかだろ」

錬金術師「ああ、すまない。集中しているとつい、ね」黙々

鬼神「せめて手を止めろ」

231: 2012/06/14(木) 22:14:57 ID:SX6Faf9E
錬金術師「気になるならまた片付けてくれてかまわないよ。机の上にないものは全てゴミだからね」

鬼神「わかってんなら棄てろ、マジで」

錬金術師「うん、だから床に捨てた」

鬼神「なあ勇者、殴っていいか?」

勇者「お前が殴ったら全身複雑骨折起こすぞ」

鬼神「じゃあテメエが殴ってくれ」

勇者「セクハラで投獄されます」

錬金術師「いやだなぁ、せいぜい実験台にする程度だよ」

勇者「なお悪いわ!」

鬼神「つうか会話する余裕はあんのな……」

錬金術師「ただし質問は手短に」

鬼神「武教の国のことなんだけどよ」

錬金術師「あぁ、人造勇者の件かい?」

勇者「なんだ、話通ってたんか」

錬金術師「これでもキミの仲間だからね」

232: 2012/06/14(木) 22:30:13 ID:SX6Faf9E
勇者「一応訊くが、可能なのか?」

錬金術師「不可能と考えるほうが異常だと思うね」

鬼神「道理だな。コイツ自身、ただの偶然の産物なわけだし」

勇者「人をアートみたいに言うな」

錬金術師「勇者となる条件は、

1.体内に宿る全属性の精霊量がほぼ均一である。
2.【原初の三柱】の加護を受けている。
3.武と術の双方に長けている。

 の3つだけだからね」

錬金術師「とはいえ、それを意図的に整えようと言うのは、些か夢を見すぎだとは思うね」

勇者「お前も結局否定的なんじゃねーか」

錬金術師「あ」

鬼神「あん?」

錬金術師「しまった、触媒が足りない。勇者買ってきてくれ」

勇者「いや実験を止めろや」

233: 2012/06/14(木) 22:47:31 ID:SX6Faf9E
錬金術師「錬金術協会では過去に“狂化薬”という代物の研究をしたことがあってね」

鬼神「狂化(バーサーク)?」

錬金術師「物質化レベルまで純化圧縮した魔力結晶を、とある術式を施した薬水に溶かして飲むだけの……、
 まあ、いわゆるポーションの類だよ」

鬼神「そいつがどうかしたのか?」

錬金術師「なぁに、大した話じゃないさ」



錬金術師「実験時の服用者が暴走して、国を3つ滅ぼしただけだよ」

234: 2012/06/16(土) 00:49:09 ID:o9dO22lU

   :
   :
   :

 静寂の森。

 一年中深い霧に覆われ、人の立ち入りが禁じられた未開の森だ。

 曰わく、「彼の森には近付くな。魔女にとって喰われるぞ。」

 ただしそれは当の魔女本人が流布したデタラメな噂である。

魔女「【魔人】なら知っているわ。私が見た時には魔力に耐えきれずに自壊を始めていたけれど」

鬼神「自壊……」

魔女「正規の手順を無視して、限界を無視して。過負荷に至るのは当然ね」

鬼神「どうやって止めたんだ?」

魔女「止まるのを待ったのよ。避難勧告だけはしてね」

魔女「まあ、誰も本気にしなくて勝手に氏んでいったのだけれど」

鬼神「…………」

235: 2012/06/16(土) 12:38:59 ID:o9dO22lU
錬金術師「結論だけ言うなら人造勇者、イコール魔人の生産は可能だよ」

錬金術師「あらゆる前提を無視すれば、ね」

勇者「前提?」

錬金術師「僕が“生産”という言葉を使ったことに気付いたかい?」

勇者「!」

錬金術師「狂化薬の研究はね」



錬金術師「元々、蘇生薬の研究だったのさ」

236: 2012/06/16(土) 12:50:27 ID:o9dO22lU
鬼神「……氏体か」

魔女「そう」

魔女「『過剰再生』」

魔女「それが狂化の原因」

魔女「なら、過剰再生を抑えるには?」



錬金術師「蘇生薬の研究を進めていた錬金術師は、応用すれば不老不氏の薬を作れるのではないか、と考えた」

錬金術師「結果は失敗。まあ、未完成品での実験なのだから当然といえばそうだろうね」

錬金術師「その後、蘇生薬も研究者を失ったために開発が凍結」

錬金術師「――けれど、それは表向きの話だった」

237: 2012/06/16(土) 15:14:57 ID:o9dO22lU
魔女「不氏の研究はね、どこの国や宗教でも大昔からやってるのよ」

魔女「当然、魔法使い達もね」

魔女「協会のお偉方は魔法ギルドに蘇生薬のサンプルを渡して、解析を依頼したの」

魔女「ギルドにとっては、未完成とはいえ他の技術で作られた不氏への手掛かりは貴重だった。迷わず引き受けたそうよ」
魔女「そして解析した結果、とんでもない秘密が出てきたの」

238: 2012/06/16(土) 15:18:02 ID:o9dO22lU
錬金術師「蘇生薬――いや、狂化薬の触媒になっている薬液はね」



錬金術師「人間丸ごと千人分のミンチから作られていたのさ」

239: 2012/06/18(月) 12:22:55 ID:kbtDQcM.
勇者「1001人の生贄か……」

錬金術師「ま、それで救える命と比べれば安い対価かもね」ツカツカツカ…

勇者「そういう問題じゃねえだろ」

錬金術師「ふふ、キミならそう言うと思った」カチャン

勇者「? おい、なんで鍵閉めんだよ」

錬金術師「なんでだと思う?」ぬぎぬぎ

勇者「何故脱ぐ」じり…

勇者「つか、そういや鬼神はどこ行った」じりじり…

錬金術師「彼には魔女のところへ行ってもらったよ。そういう約束だからね」にやり

勇者「なっ! お、お前らまさか」

錬金術師「ねえ勇者」
 するするする… ぱさっ

錬金術師「2人きりだね」くすっ

勇者「……(汗)」だらだらだら…

240: 2012/06/18(月) 12:34:04 ID:kbtDQcM.
魔女「そういえばなんでわざわざこっちに? 錬金術師だって同じようなことは知ってるはずだけど」

鬼神「ああ、新しい合成肥料の開発と交換条件で勇者と2人きりにしてきた」

魔女「鬼かアンタ」

鬼神「農家だ」ふんす

魔女「勇者もかわいそうに……」

鬼神「いつまでも未練がましく姫さん追っかけてるほうが悪い」

魔女「でも錬金術師ひとりじゃ無理矢理逃げるんじゃない?」

鬼神「ちょうど魔力の強制拡散の研究が出来上がったところらしいから何とかするだろ」

魔女「何その研究怖い」

241: 2012/06/18(月) 12:39:48 ID:kbtDQcM.
勇者「くっ来るな!服を着ろ!」


勇者「そそそそれ以上近付いたら吹っ飛ばすぞ!?」


勇者「この……魔法が使えねえ!?」


勇者「おぉぉおい……落ち着け息が荒い、まずは話し合おう、な!」


勇者「や……やめろ!離せ馬鹿力!」


勇者「あっこらそこは!」


勇者「ちょ、やめ――」


勇者「あっ」


   :

   :

   :

242: 2012/06/18(月) 12:53:01 ID:kbtDQcM.
勇者「」ズーン…

鬼神「童O卒業おめでとう」ぽん

勇者「氏にたい……」ズーン…

鬼神「いいじゃねえか、愛されてんだから」

勇者「この裏切り者……」

鬼神「それよりどうすんだ。武教の国をほっといたらろくなことにはならねえぞ」

勇者「話そらすなよ……。

 まあ、一度実態を確かめたほうがいんじゃね?
 まだ俺らが聞いた通りの方法を取るとも限らねえし」

鬼神「ま、それもそうか」

勇者「しっかし、魔人ねぇ……」

243: 2012/06/18(月) 15:18:22 ID:kbtDQcM.
女勇者「えーと、ちょっといいっすか」挙手

農家「あん?」

女勇者「今のエピソード必要?」

女僧侶「」意識不明

女魔法使い「僧侶ー……しっかりしろー……」ぽむぽむ

農家「テメエの親の馴れ初めだから話したんだが」

女勇者「知らなくていいことを知ってしまった!」マイガッ!

暴れ猿「なんというか、緊張感のない一味だな……」

猫娘「にゃあ」こくこく

農家「そうか? まあそうか」うん

女僧侶「――はっ! あれ、ここはどこ?」

女勇者「ほら僧侶ちゃんが錯乱しちゃった」

農家「……テメエらも大概緊張感ねえと思うがなあ」

女勇者「それを殺いでいるのはあなたです」

農家「まあいい、続けるぞ」

249: 2012/06/20(水) 22:03:41 ID:ciGCUC4E
鬼神「一応、大書館で俺なりに調べてもみたんだがな」

勇者「なんか収穫あったか?」

鬼神「どうにも大昔の話らしくてよ……記録を見るに大体100年くれえか」

勇者「マジかよ、ンな前だったんかい」

鬼神「で、俺らが接触できて、当時おそらく生きていただろう奴らってえと、だ」

勇者「あー……、魔女と」

鬼神「精霊共と」

勇者・鬼神「「魔王(角ジジイ)」」

鬼神「とりあえず角ジジイに話聞いてみようぜ。しばらく顔合わせてねえし」

勇者「そうだなぁ……あ、そういや葡萄の濁酒飲みたがってたな。土産に持ってくか」

鬼神「んじゃ俺は漬け物でも持っていくかね」

勇者「自家製か」

鬼神「たりめえだ」どやっ

250: 2012/06/20(水) 22:07:09 ID:ciGCUC4E
女勇者「はいはいはいストォオー―――~~…ップ!!」

農家「なんだよさっきから……」

女勇者「なんだもなにもないよね!?
 なんで魔王のとこ行くのに土産だなんだなんて話が出るのさ!?」

農家「角ジジイいいやつなんだぞ? ジャンケン弱えけど」

女勇者「友達かッ!!」くあっ!

251: 2012/06/22(金) 10:33:27 ID:AJuFLJGQ
女勇者「駄目だ……もう無理、ツッコミどころしかない……」

農家「こっからがいいとこなんだがなあ」

暴れ猿「農家よ、ひとまず要点だけでいいのではないか?
 細かい話はまた時間のある時にでもすればいいだろう」

猫娘「にゃぁ」ウトウト…

女僧侶「猫娘ちゃんも眠そうですよ」

農家「んー……まあいいか、しょうがねえ」

女魔法使い「……猿さん……ナイスフォロー」

暴れ猿「正直前任勇者の痴態とか語られても困るしな……」

農家「面白えんだがなあ」

女勇者「その娘であるところのボクの心情を察していただきたいです、はい」

254: 2012/06/25(月) 12:32:33 ID:2K6cyFrU
農家「掻い摘んで事の顛末だけ話すとだな」

農家「その後魔王と組んで武教の国に忍び込んで、研究施設を探して潰すことにしたんだわ」

農家「その時に不法に拘束されてたモンスターを解放したり色々あったんだが、なんやかやで狂化薬自体はできあがっちまっててな」

農家「追い詰められた武教の国の王が、自害と同時にそれを使っちまったのさ」

農家「その後はひどいもんだ」

農家「氏体に使えば過剰再生を抑えられるのでは、ってーのもただの仮説だったからな。結局は暴走して、魔人になった」

農家「国土が更地になるくらい破壊し尽くして、生存者がいたかどうかもわからねえ」

農家「ただ、何が理由かは知らねえが、魔人に自壊の兆候がまるで見えなくてな」

農家「仕方なしに3人がかりで無理矢理封印して、その時は収まった」

農家「後から王家に生き残りがいるってのは聞いたが、本当かどうかはわからん」

農家「北の国に潜り込んだらしいとは噂になってたけどな」

農家「これが事件の顛末だ。案外あっけないもんだろ?」

255: 2012/06/26(火) 10:28:06 ID:Cxss8rOs

 ~ 魔界 魔王城 地下 ~

側近「魔王様」

魔王「……側近か。何用だ」

『………………』

側近「ようやく全ての準備が整いましてな」

魔王「!」

魔王「そうか、ようやく……!」

側近「そう、ようやく」



側近「これでもう君に用はない」

 ――ドスッ

魔王「…………な、に……?」

魔王「そっ……きん……?」

『………………』

 ――――ザシュッ

256: 2012/06/26(火) 10:32:26 ID:Cxss8rOs
魔王「」

側近「あっけないものだね。これがモンスターの頂点などと」

側近「所詮、元は人間にすぎないということかな」

側近「……さて、急ぎ武教の地に行くとしようか」

側近「君も一緒にね」

『………………』

側近「……ふふふ、こんな出来損ないに執着するなんて」

側近「人間とは愚かな生き物だねえ」

『………………』

『…………』

『……』

257: 2012/06/26(火) 10:59:43 ID:Cxss8rOs



「役者は揃い、舞台は整った」

「さあ、プロローグを始めよう」




258: 2012/06/26(火) 11:09:40 ID:FabwxVK.
プロローグほ始まってすらいなかったのか!

259: 2012/06/26(火) 11:15:09 ID:Cxss8rOs
農家「勇者と俺。それと、召喚師、錬金術師、姫、魔女、狩人」

農家「当時の勇者一味っつったらこの7人なんだが、姫さんと狩人は氏んじまってな」

農家「召喚師のクソ野郎はしまいにゃ行方知れずだった。俺も何度か氏にかけたことがある」

農家「戦争やってたわけだから多少なりと犠牲は出るもんなんだがな」

農家「だが魔人は違え。あれは戦争だろうがなんだろうがお構いなしだ」

農家「敵も味方も皆頃し。そんなもん、ただの災害と同じだろ」

農家「だから封印したのさ。今度こそ狂化薬のレシピと諸ともな」

女勇者「はー……」

女僧侶「でも、それじゃあそんなものが封じられた土地で、魔王軍は何を?」

暴れ猿「武教の王族から守るためだ。生き残りは噂だけじゃなかったということになるな」

農家「猫娘の話じゃ、俺達が魔王軍と接触したらその隙に潜り込んでくるかもしれねえ、ってことだが」

女勇者「……じゃ突撃できないじゃん」

農家「だが魔王が動いてる以上はぶつかるしかねえ。明日には行くぞ」

女勇者「明日ァ!?」

女魔法使い「……急ぎ足」

260: 2012/06/26(火) 12:16:53 ID:Cxss8rOs

 ~ 深夜 ~

暴れ猿「呼び出されておいて何だが、俺様を自由に歩かせていいのか?」

農家「真面目な野郎だなお前……。今更だろ」

暴れ猿「それはそうかも知れんが……」

暴れ猿「その大鉈は貴様のものか?」

農家「ああ、この村に預けてた」

暴れ猿「…………行く気か」

農家「ナスビどもは任せるぜ。こいつが指南書だ」

暴れ猿「つっこむ気も失せるな……」

農家「それとナスビ、いや、勇者に伝言だ」

農家「『現実を疑うな』」

暴れ猿「わかった、伝えよう」

農家「じゃあな」

261: 2012/06/26(火) 12:21:30 ID:Cxss8rOs

 ~ 旅の扉 ~

農家「思ったよりかかったな、空が白んできやがった」

農家「さあて、行くぜ相棒」

 応えるように、大鉈の刀身が鈍く光を反射する。

農家「よっ!」

 *農家は旅の扉に飛び込んだ。

262: 2012/06/26(火) 12:42:40 ID:Cxss8rOs
魔物A「旅の扉が動いた――来るか」

魔物B「反応はひとつだ。舐められているのではないか?」

魔物C「斬り合えば解ること。お前達、氏に急ぐなよ」

魔物A「! 来た!」

農家「……おーおー一面モンスターだらけたあ、随分な出迎えじゃねえか」

農家「名前くらいは聞いてやるぜ」

魔物A「獣将直轄遊撃隊隊長、グリフォン」

魔物B「同じく直轄殲滅部隊隊長、ケンタウロス」

魔物C「直轄暗殺部隊長、空狐」

農家(ホントに名乗るんかい……)

農家「……元勇者一味“鬼神”、農武一元・鉈業(シャゴウ)陰流、名は農家」

農家「氏にたい奴からかかってこい」

263: 2012/06/26(火) 12:49:26 ID:Cxss8rOs

 ・ ・ ・

女勇者「置き去りとかあーもぉっ!」
 ダッダッダッ…

女僧侶「なんで止めなかったんですか!」

暴れ猿「農家にも何か考えがあるんだろう。それより喋ると舌を噛むぞ」 タッタッタッタッ…


女魔法使い「…………」 スタタタタタ…

「っ、いた! 姫様!」

女勇者「うぇっ!?」
 キキィーッ!

暴れ猿「ぬあっ!?」キッ
女僧侶「にゃぶっ!」ガチッ
女魔法使い「……」ピタッ

暴れ猿「急に止まるな阿呆!」

女勇者「あ、ごめん。でも今誰か――」

国王「間に合ったか」

264: 2012/06/26(火) 13:05:15 ID:Cxss8rOs
女勇者「パパ!? ……と、騎士団の人達も」

国王「おい、農家のバカは?」

女勇者「あー、それが……」

国王「あんにゃろう、やっぱり一人で行きやがったのか」

女僧侶「~~~~~~っ」

暴れ猿「おい、大丈夫か?」

女魔法使い「急いでる。話なら早く」

国王「聖霊の剣を渡しにきたんだ。それとヤバいことになった。精霊王から聞かされたんだがな」

国王「現魔王が殺された」

暴れ猿「なんだと!? あの怪物がか!」

国王「ん? 誰だお前……まあいいか。
 とにかく魔王ってのは条件が揃わねえと氏なねえモンなんだが、それが氏んだんだ。ただ事じゃねえ」

国王「そうじゃなくても現魔王は俺と農家の2人がかりで頃しきれなかった魔人並みの化け物なんだ。
 それが簡単に殺されたってことは、もっとヤバい奴が現れたってことになる」

女勇者「?? よくわかんないんだけど……」

265: 2012/06/26(火) 15:09:44 ID:Cxss8rOs
国王「とにかくヤバいってことだ。急がにゃならん、全員馬車に乗れ」

女魔法使い「走った方が速い」

暴れ猿「それはお前だけだろう……」

国王「旅の扉が使えりゃあな」

女僧侶「使えないんですか?」

国王「向こう側を農家が派手にぶっ壊してるはずだ。かといって転移魔法で行くには遠い」

女勇者「じゃどうすんの?」

国王「ペガサスって知ってるか?」にやり

267: 2012/06/26(火) 18:16:34 ID:Cxss8rOs
?「始まったか」

?「皆の者、準備はいいか!」

「「「オオオー―――――!!」」」

?「我らはこれより、我らの王を取り戻す!」

?「愚かな凡人共と悪辣なる魔物共を討ち倒し!我らが覇王を呼び覚ますのだ!」

「「「オオオー―――――!!」」」

?「臆病者共に思い知らせてやれ!力こそが世界に真の革命をもたらすのだ!」

?「剣を抜け!出陣だ!!」

「「「ウオオオオー―――――――!!!」」」

268: 2012/06/26(火) 18:22:16 ID:Cxss8rOs
爺「姫様」

?(姫様)「爺、私は必ず成し遂げる」

爺「……全てを忘れ、平穏に身をやつすこともできるのですぞ」

爺「貴女は優しすぎる」

姫様「……武教の国の姫として。ひとりの剣士として」

姫様「今更、私に逃げ道など見えぬ」

爺「姫様……」

姫様「留守を頼む。必ず、父上を」

爺「……この爺には信じて待つことしかできませぬ」

姫様「……ありがとう」

270: 2012/06/28(木) 08:29:41 ID:httOqJ9w

 キイイィィィィィィ――…

女勇者「うわぁ、ホントに飛んでる上に無茶苦茶速い……」

国王「障壁から出ると普通に落ちるぞ、大人しく座ってろ」

女勇者「はーい」

暴れ猿「『頃しきれなかった』とはどういう事なんだ?」

国王「時間もあるし少し話すか」

国王「野郎は元々何考えてるかわからねぇ得体の知れねーガキだった。出会った頃はまだ10歳にもなってなかったはずだな」

国王「まあただのガキじゃなかったがな。戦争の時にゃ最後まで前線に出ずっぱりでそれでも生き残ってたすげえ奴さ」

国王「つっても、本人は戦っちゃいねぇんだけどよ」

女僧侶「軍師ってことですか?」

国王「それもあるが……あいつはな」

国王「召喚術師なんだ。少なくとも俺らはそう思ってた」

暴れ猿「行方不明になったという輩か……」

国王「んん?なんだ結構話してんのか」

国王「ま、そうだな。終戦直前に姿を眩まして……最後に会ったのは魔王の城でだった」

271: 2012/06/28(木) 10:13:12 ID:httOqJ9w
国王「お前ら、勇者の条件はわかるよな?」

女勇者「えーっと、なんだっけ?」

女僧侶「おじ様が言っていたじゃないですか」

女魔法使い「1.体内に宿る全属性の精霊量がほぼ均一である。
2.【原初の三柱】の加護を受けている。
3.武と術の双方に長けている。
の3つ」

国王「正解。ちなみに1は素質の話だが、2は絶対条件だ。3はぶっちゃけどうでもいい」

女僧侶「どっ……!?」

国王「要はバランスの問題だし、そこは人間が勝手に決めた部分だからな。戦えない勇者に用はねぇってこった」

女勇者「おおぅ、シビアな意見……」

国王「で。ひとつ確認するが、お前ら前の世代で俺以外に勇者がいたとか聞いたことあるか?」

暴れ猿「……ないな」

国王「いたんだよ、認められなかっただけでな」

273: 2012/06/28(木) 12:30:03 ID:httOqJ9w

   :
   :
   :

グリフォン「ぐ……なんという……!」

農家「……もういいだろ面倒くせえ、退け」

ケンタウロス「ガフッ!か……っ!は……」

空狐「千の兵をただひと薙ぎで――これが鬼神か」

農家「テメエはかかってこねえのか?」

空狐「我は見定めよとの命を受けている。貴殿の強さ、確かに真のもの」

グリフォン「ま、だだ!まだオレはッ!」

ケンタウロス「まだ……氏んでおらぬぞ……!」

農家「…………」チャキ…

空狐「やめなさい。かないません」

グリフォン「だが……!」

空狐「我らが将は鬼神殿との1対1を望んでいます。我らの役目は終わりました」

ケンタウロス「…………くそっ」

274: 2012/06/28(木) 12:52:04 ID:httOqJ9w
農家「……なるほどな。俺一人通せば武教の残党を抑える兵が割ける。随分と合理的な野郎じゃねえか」

空狐「御存知でしたか。では話が早い、こちらへ」

農家「ああ」

農家「だがその懐刀はしまっとけ」

空狐「ッ!」ゾクッ

農家「案内もいらねえ。勝手に行かせてもらう」

空狐「……わかりました」



キングレオ「……来るか、鬼神。先王の友にして敵」

ワータイガー「将軍」

キングレオ「お前は去れ」

ワータイガー「しかし……」

キングレオ「雌に惹かれたのはお前が初めてだった」

キングレオ「仔を頼む」

ワータイガー「……はい」

275: 2012/06/28(木) 13:03:54 ID:httOqJ9w
農家(連戦は避けられたか……)

農家(参ったな、衰えたつもりはねえんだが)

農家(あーあ、面倒くせえな……)

農家(俺はただの農家だってのによ)

農家(妙な因果だぜ、全く)

278: 2012/06/28(木) 15:34:00 ID:httOqJ9w

 ――武教の地 魔王軍拠点

   地下最深部 封印の間――

  ギギギギイイィィィィ……

農家「……よう、テメエが大将か」

キングレオ「いかにも」

農家「ったくわざわざご丁寧にこんな場所選びやがって。酔狂な野郎だなオイ」

キングレオ「外では貴公の全力を見ることは叶わぬと判断したまでだ」

キングレオ「ここならば、先王の結界により崩壊する心配もあるまい」

農家「そりゃご丁寧にどうも」

農家「やり合う前に訊いておくぜ。テメエは魔王軍で何をしようとしてる」

キングレオ「戦いを」

キングレオ「ただそれだけだ」

農家「シンプルだな」

キングレオ「貴公はどうだ。何故ここにいる」

農家「さあな」

279: 2012/06/28(木) 15:51:50 ID:httOqJ9w
農家「そもそも俺にゃ戦う理由なんざねえのよ」

農家「一生畑耕してられりゃよかったのさ」

農家「ただ、何の因果かたまたま強かっただけだ」

農家「そんで先の戦争だ」

農家「生憎、力があるのに知らねえふりできるほど図太くねえモンでな」
農家「それに、近場でギャースカ喧嘩なんざされちゃ落ち着いて畑仕事ができねえだろ」

農家「なんのことはねえ、そんだけだ」

農家「魔王とかフザけんな」

農家「こちとら知ったこっちゃねーんだよ」

農家「俺の邪魔をするバカは、魔王だろうが……神様だろうがブチ頃す」
農家「俺あワガママなんだよ」

キングレオ「…………く」

キングレオ「くくく、ははははは!」

キングレオ「いい、実にいいぞ!それでこそ戦士!そうだ、戦いに大義など無用!!」

キングレオ「さあ戦おう鬼神!
 魔王軍獣魔師団総大将、キングレオ!参る!!」

286: 2012/06/30(土) 08:29:28 ID:7gAYVU9I
 獣将キングレオ。
 彼は4本の前肢を有し、身の丈はゆうに5mを超える巨獣である。
 悠然と立つその姿はまさに王者の風格を放ち、見る者全てを圧倒する。

 対するは鬼神と呼ばれた男。
 彼は才能があるわけではない。努力家でもない。
 ただ偶然に、本当にたまたま強かった、それだけの男である。

キングレオ「オオオオオオ――!!」

農家「うるああ!!」

 4本の大剣と1本の大鉈が、両者の間で激しく衝突を繰り返す。

 4対1、一見すれば絶対の差を――、

農家「らあ!」

キングレオ「くっ!」

 ――鬼神は左腕ひとつで制していた。

キングレオ(これほどとは……!)

287: 2012/06/30(土) 08:30:08 ID:7gAYVU9I
 1の剣で打ち、2の剣で突き、3の剣で払い、4の剣で断つ。
 キングレオの正しく縦横無尽、変幻自在の剣術は、並みの剣士ならば打ち合うことすら叶わないだろう。

 しかし、その暴風の如き乱撃を、鬼神は実にゆったりとした動きでいなし、かわし、さらには斬り込んでいく。

キングレオ「くァ――!」

農家「どうした、出し惜しみでもしてんのか化け猫」

 至近距離での一合。双方の動きが止まる。
 否。体格差にも関わらず、鬼神がキングレオを圧していく。

 キングレオは笑っていた。

キングレオ「これほど……」

キングレオ「これほど愉しいのは、初めてだ!」

 それは歓喜の笑みだった。

288: 2012/06/30(土) 10:18:59 ID:7gAYVU9I

 ・ ・ ・

猫娘「……おっちゃんダイジョーブかにゃあ」

農夫B「心配するだけ無駄だろ。あの人の強さは常軌を逸してる」

農夫C「むしろ、相手方が哀れといふもの。南無」

農夫B「お前いつまでそのキャラだよ……」

農夫A「デタラメに強いのは確かだな。それよりトウキビ食うか?」

農夫B「トウキビ! よっしゃ網持ってこい!」

農夫C「猫娘も食うであろう?」

猫娘「…………」

農夫A「上の空だな」

猫娘(おっちゃん……)

猫娘(ダイジョーブだよね……)

289: 2012/06/30(土) 19:17:12 ID:7gAYVU9I

 ――同時刻、武教の地北部平原。

姫様「……どういうことだ、これは」

 そこには無数のモンスターがいた。

 そう、『いた。』

「全て氏んでいるようです」

姫様「そんなことはわかっている。問題は何故氏んでいるのか、だ」

「何者かがやったとしか……」

姫様「これだけの数をか?」

 平原はモンスターの骸で埋め尽くされている。
 その数はゆうに1万を越えていた。

姫様「一体何が起きているんだ……」

「姫様、あの丘に人影が見えます」

姫様「何?」



姫様「――ッ!馬鹿な、あれは……あの人はっ!?」

290: 2012/06/30(土) 19:18:02 ID:7gAYVU9I
?『………………』

側近「ふむ、なかなか。さてと、仕上げと行こうか」

側近「……ん?ほう、これはこれは」

側近「ははは。素晴らしい、生贄が向こうからやってくるとは」

?『………………』

側近「さあ、儀式を始めようか、『姫』」

?(姫)『…………』

291: 2012/06/30(土) 19:18:47 ID:7gAYVU9I


  ……――ォォォォォオオオ……


姫様「なんだ、この呻くような声は……」

「ウ……ひ、姫様……っ」

姫様「!? どうしたお前達!」

「ち、からが、……」

「苦し、い……!」

「体が……溶け……っ!」

姫様「…………これは、まさか!?」

側近「そのまさかだよ、お嬢さん」

姫様「っ、いつの間に!」

姫様「いや、そんなことよりこれは貴様の仕業か!?」

姫様「この術がどんなものかわかっているのか!!」

側近「おや、お気に召さないかな?」

側近「これを編み出したのは君達だというのに」

292: 2012/06/30(土) 19:19:35 ID:7gAYVU9I
姫様「貴様!今すぐ術を止めろ!さもなくば斬る!」

側近「できもしないことを吠えるものじゃないよ」

姫様「っ、なめるな!」

姫『………………』

姫様「なっ」

側近「ほら、斬れない」

  ドスッ

姫様「う……」ドサッ

側近「折角だ。彼女の復讐に手を貸すのも一興かな」

側近「おいで、姫」

姫『……』

297: 2012/07/06(金) 15:24:49 ID:VK8CdsK6

 原初の三柱。

 古より語り継がれる創世伝の中で語られる、三柱の神である。

 伝承は、虚無の果てに【創造の神】が降りた時より始まる。

 創造の神は宇宙を創り、星を創り、命を創った。

 しかし、創造の神とその子らは、創ることしかできなかった。

 やがて神は考え、終わりを生むことにした。

 神は自らの身を切り分け、新たに【終焉の神】を産み出した。

 そうして万物に氏が与えられた。

 氏を得た神の子らは、やがて頃し合うことを覚えた。

 気付けば子らは自ら滅ぼうとしていた。

「このままではいけない」

 創造の神と終焉の神は、直すことを思い付いた。

「産まれ、滅ぶだけでなく、抗う力を創ろう」

 そして二柱は互いの身を切り分け、新たに【回帰の神】を産み出した。

298: 2012/07/06(金) 15:25:34 ID:VK8CdsK6
国王「勇者の力は第一柱、【創造の神】から借りてるもんだ」

国王「だから条件を無視した高位魔法の発動ができるし、場合によっちゃ新しく別の力を創ることもできる」

国王「大元の魔法を作ったのも勇者だって話だしな。まあ、その頃は勇者じゃなく【神子】って呼び方だったみてぇだがよ」

女勇者「それと勇者がたくさんいるのと、何か関係あるの?」

国王「わかんねぇか?」

女僧侶「もしかして……」

暴れ猿「わかるのか?」

女僧侶「あ、いえ、でも……」

女魔法使い「神様の力を借りられるのは1人だけ」

女魔法使い「でも、神様が3柱いるなら」

女勇者「あ」

暴れ猿「つまり、まだ終焉の勇者と回帰の勇者が存在しうる、と」

国王「そういうことだ」

女勇者「もしかして召喚師とかいう人がどっちかなの?」

国王「いや、あいつは違う」

299: 2012/07/06(金) 15:26:07 ID:VK8CdsK6
女僧侶「……『姫』ですか?」

国王「正解。教会じゃこう呼ばれてたな」

国王「【癒やしの姫神子】」

暴れ猿「待て、では召喚師とは何者なんだ」

国王「さあ、な。魔王や精霊王にも正体が掴めねぇっつー、それこそ農家みてぇに得体の知れねぇ輩には違いねンだが……」

女勇者「あ、おじさんもそこに入るんだ」

国王「あいつ自身もよくわからんっつうしな。まーそれはいいや」

国王「だがな、おかしいんだよ」

女僧侶「?」

国王「召喚師は勇者――神子っつった方がいいな。神子じゃねえのは確かなんだ」

国王「なのに、俺と農家とやりあった時使ってた力は間違いなく」

国王「神子の力だったんだ」

300: 2012/07/07(土) 01:44:06 ID:nmVWfWtU

 甲高い金属音が封印の間に響き続ける。

キングレオ「カアァァ――――……!」
農家「ふっ!」

  ガキィン! キン! キィン!

 弾き合う刃が火の粉を散らし、斬撃の衝突が衝撃波となって互いの体力を削り取る。
 押さば引け、引かば押せの繰り返しの中、僅かな隙を窺い合い凌ぎ合う。

キングレオ「我がオリハルコンの四大剣を受けきるとは、その大鉈、なかなかの業物だな!」

農家「エルフの宝剣を俺専用に鍛え直した代物だぜ。強度は折り紙付きだ」

農家「もとより、道具ひとつ壊さず使いこなせねえで農家がやってられるかってな」

キングレオ「フッ、言ってくれる……」

キングレオ「ならば貴公の自信諸とも、その大鉈を叩き折ってくれよう!」

農家「やってみろや化け猫が!」

 何度目かの攻防――。

301: 2012/07/07(土) 01:44:52 ID:nmVWfWtU

農家「ふぅー……ぜァッ!」

キングレオ「ぬ!?」

 ――その一撃。
 目で追うことも困難な剣撃の嵐の中、大鉈の縦一閃が4本の剣を断ち切るように振り降ろされた。
 受け流しきれず、キングレオの巨体が揺らぐ。

農家「“鉈業陰流”――」

キングレオ「!!」

 大鉈の柄に、両の手が添えられる。そして、

農家「――“山穿ち”!」

 山脈をも貫くと言われるひと突きが、キングレオの心臓を捉えた。

 音が消える程の衝撃。
 踏み込みの威力だけで、頑健に造られた石畳の床が激しく砕け散る。

 キングレオは空を切って壁に叩きつけられ、封印の間全体が大きく揺れた。

302: 2012/07/07(土) 01:47:50 ID:nmVWfWtU

 しかし、

キングレオ「っ――――、まだまだぁ!」

農家(! 受けきったか!)

 キングレオは尚も立ち上がる。

 膝をつくこともなく、
 剣を落とすこともなく、
 闘志を失うこともなく。

 尚も笑い、眼前の強敵と相対する。

キングレオ「流石、これがかの山穿ち……鬼神を鬼神たらしめた技のひとつか!」

農家「平然と立ちやがって、そこそこショックだぜ化け猫」

キングレオ「ふっ、手加減しておいて何を言う」

農家「わかるか」

キングレオ「わからいでか」

 両者の顔に笑みが浮かぶ。

303: 2012/07/07(土) 01:51:56 ID:nmVWfWtU
農家「それにしたって、魔王のジジイにも通じた威力で立ってくるたあ、大した化け猫だなテメエ」

キングレオ「魔界最堅を誇るこの身こそが、我が最強の防具」

キングレオ「易々と傷を付けられると思ってくれるな」

農家「ハッ、上等」

 大鉈を右手に持ち直し、肩に負う。

農家「体も温まったことだし……」ユラ…

キングレオ(! 雰囲気が変わった?)


農家「行くぜ、化け猫」


 空気が、急激に張り詰める……。

304: 2012/07/07(土) 01:53:49 ID:nmVWfWtU

農家「ここからは――」



鬼神「――【鬼神】として闘ってやらあ」



  ゾ ワ ッ !

キングレオ「ッ!」


 言葉の直後、農家の――否、鬼神の魔力が解放された。

 圧倒的、暴力的、そしてそれでいてひどく静かなそれは、肉眼で確認できるほどの濃度をもって見る者を威圧する。

キングレオ(これが鬼神の――)

 常人であれば、その力を前に心を折られていただろう。

 だが、キングレオの心にあったのは、

 純粋なる敬意。

 感動。

 そして何よりも、絶対的な強者と闘えることへの、戦士としての喜びだった。

305: 2012/07/07(土) 01:55:28 ID:nmVWfWtU



鬼神「“鉈業陰流”――」グ…

キングレオ(来る……!)





鬼神「“無影”」





 ――その瞬間、キングレオは世界を見失った。

315: 2012/07/13(金) 18:02:15 ID:hw21.ejk
国王「って、まあ氏んだ奴の話なんだから今更どうもこうもねーんだけどな」

「陛下、もうじき領空に入ります」

女勇者「速っ!まだ1時間も経ってないよね?」

国王「神界育ちのサラブレッドだからな。昔も世話になったもんだ」

 …………――――――!

女魔法使い「! 何かくる」

国王「あん?」

316: 2012/07/13(金) 18:03:38 ID:hw21.ejk

 油断も慢心もなかった。

 正真正銘の全力で迎え撃った。

 それでも、目視することすらかなわなかった。

 光すら置き去りにする、神速の一撃。

 なんの飾り気もない、縦一文字の一閃。

 無意識で受けることができたのすら奇跡と思えるひと太刀。

 しかし、我が剣はその悉くが容易く砕かれ、

 この身には深く傷が刻まれている。

317: 2012/07/13(金) 18:04:52 ID:hw21.ejk


 ああ……、


 魔界最堅のこの身でさえも、

 こうも簡単に打ち破られるのか。


 これが鬼神、

 これが武の頂点、

 これがかの覇王と剣を競った男の……。


 薄れかけた意識と、ぼやけ始めた視界の中で、

 鬼神の大鉈が切っ先を返すのが見えた。


 二撃目を受ける手段は、ない。

318: 2012/07/13(金) 18:08:05 ID:hw21.ejk

 ああ――、

 我は、ここで氏ぬ……。


キングレオ「は――……」

 零れたのは笑みだった。


 目指してきた最強、

 その担い手へ、感謝と……。

キングレオ「……――見事」

 賞賛を。


 大鉈の刃が、我が方に向けられた。


 ……ああ、そういえば。

 ワータイガーに、愛していると言えなかった、な……。

   ・
   ・
   ・

319: 2012/07/13(金) 18:09:03 ID:hw21.ejk





 ……――――ォォォォ……ン――……





_

320: 2012/07/13(金) 18:10:32 ID:hw21.ejk


 ――感じたのは風の流れ。

 ……そして、日の光。


 開いた眼に映ったのは、氏後の世界などではなく、

 どこまでも果てしなく、突き抜けるような、青い、空。


 そしてその下、


 瓦礫の頂に立ち、空を仰ぐ鬼神の背中だった。

321: 2012/07/13(金) 18:11:24 ID:hw21.ejk

キングレオ(……生きている)

 それに気付くと同時に、疑問が思考を埋める。


 何故。

 そして、何が起きたのか。


 その答えは――。

側近「これは失礼。邪魔をしてしまったかな」

 鬼神の視線の先に立つ、顔を隠した外套姿の男が示していた。

322: 2012/07/13(金) 18:12:05 ID:hw21.ejk

鬼神「テメエ……誰だ」

 唸り声にも似た鬼神の言葉。

 それに対し、外套姿の男はあくまで飄々と言葉を返す。

側近「誰だ、とは御挨拶だね」

側近「折角の再会だというのに」

329: 2012/07/23(月) 12:22:05 ID:q6JjblAw
キングレオ「あれは、魔王の側近……か」

鬼神「生きてたか。悪いな、邪魔が入った」

キングレオ「いや、いい。負けには変わりない」

キングレオ「それよりも……」

側近「ふむ、これだけ壊しても綻びひとつ見えないとは、なかなか厄介な封印を施したものだ」

330: 2012/07/23(月) 12:22:57 ID:q6JjblAw
鬼神「目的は覇王か?」ギロッ

側近「やれやれ、貴方は相変わらずせっかちだね」

鬼神「あ?」

側近「…………」

鬼神「……、テメエ」

側近「おっと。お土産を忘れていた」スッ

 *側近は何かを投げつけた。

キングレオ「――なッ! それは!」

鬼神「首……?」

鬼神「!」

鬼神「こいつ、クソ野ろ――」

331: 2012/07/23(月) 12:23:31 ID:q6JjblAw



『“無影”』



 刹那。

 鬼神の体が、瓦礫諸とも大きく宙を舞った。


_

332: 2012/07/23(月) 12:24:51 ID:q6JjblAw
側近「こらこら、勝手に動いてはいけないよ、姫」

姫『…………』

 大きく開いた穴の上、側近の隣に並び立つように、ふわりと姫が舞い降りる。

 その手には鬼神のそれによく似た片刃の大剣を携えているが、その刀身は闇のように黒く、暗い。

キングレオ「…………『姫』……だと……?」

側近「おや、猫が一匹生きていたとは」

側近「鬼神も腕が落ちたと見える」

333: 2012/07/23(月) 12:25:57 ID:q6JjblAw


 空中。

 飛んだ瓦礫を足場に体勢を整えながら、鬼神は視線を乱入者達に向ける。

鬼神(…………)

 一人は外套に身を包んだ男。
 その顔は見えないが、身に纏う魔力が正体を示している。

 一人は氏んだ女。そして自分の弟子。
 しかし、何故か魔力の気配を感じない。
 でなければ、不意打ち程度で吹き飛ばされなどするものか。

鬼神(……悪い予感ってのは当たるもんだな)

 ゆったりと落下しながら、冷静すぎる思考を巡らせる。


 鬼神に狼狽はない。

 まるで、全て承知していたかのように。

335: 2012/07/24(火) 20:00:34 ID:Mh4D4KoU

  ・ ・ ・

国王「いっつつ……何だってんだ」ガラ…

暴れ猿「全員無事か?」

女僧侶「ふぁい……」ぐるぐる

女勇者「猿さんがとっさに掴んでくれて助かったよぉ……」

女魔法使い「…………」スッ

女勇者「魔法使いちゃん?」

女魔法使い「あれ」

国王「……なんだありゃ、モンスターの氏体だらけじゃねえか」

336: 2012/07/24(火) 20:01:46 ID:Mh4D4KoU

 魔法使いの示した先には、無数の魔物の骸が横たわっている。

 真っ二つに切り裂かれたもの。力任せに引きちぎられたもの。

 四肢を叩き潰されたもの。心臓を抜き取られたもの。

 そのどれもが最後には頭部を砕かれ、氏に際の表情を見ることすらできない。


 その中に、グリフォンとケンタウロスの骸もあった。


 しかし、勇者達は彼らを知らない。

 故に、違和感に気付かない。

337: 2012/07/24(火) 20:02:19 ID:Mh4D4KoU
女勇者「おじさん、じゃないよね」

国王「野郎はこんな無粋な真似しねぇよ」

暴れ猿「何が起きたんだこれは……」

女僧侶「! あそこに誰かいます!」

国王「あん?」

女魔法使い「人間。たぶん」

338: 2012/07/24(火) 20:03:41 ID:Mh4D4KoU
姫様「…………」ぐったり

国王「こいつの鎧の紋様……こりゃ武教の王族のモンだ」

女勇者「え、じゃあこの人って」

国王「おそらく王女、だろうな」

女僧侶「どうしてそんな方が一人で……」

女勇者「潜り込んでくるかも、っておじさん言ってたけど、だったらこんなとこにいないよね」

国王「外傷はなさそうだ。気絶してるだけだな」

女僧侶「もしかしてこの惨状はこの方が?」

339: 2012/07/24(火) 20:04:34 ID:Mh4D4KoU
暴れ猿「それはないだろう。あまりに身なりが綺麗すぎる」

国王「むしろさらわれてきたのかもってほうがしっくりくるな」

女勇者「誰に?」

国王「知らん!」キリッ

暴れ猿「」ずるっ


女僧侶「……あれ?」

女僧侶「魔法使いちゃんは?」

女勇者「え?」

340: 2012/07/24(火) 20:05:22 ID:Mh4D4KoU

女魔法使い「…………」

  てってって…

  ぴたっ

  キョロキョロ…

女魔法使い「…………こっち……」

  てってってって……

348: 2012/08/11(土) 18:58:27 ID:3ZQ670bg

 神の子らは嘆いた。

「何故滅びなければならないのだ」

 嘆きは悲しみに、
 悲しみは怒りに。

 やがて子らは神を恨み始めた。

「我等の永遠を返せ!」

 神々は失望し、一柱、また一柱と姿を消した。

 そうして、気付けば【原初の三柱】だけが残っていた。

 やがて人々の怨恨は【終焉の神】に向けられ、
 長い永い時を賭して、人々は神を討ち取った。
_

349: 2012/08/11(土) 18:59:53 ID:3ZQ670bg

 ――しかし人々に永遠は戻らなかった。


「奴を生み出した者が悪いに違いない」

 彼らの矛は【創造の神】に向けられ、
 そして、人々はそれを討ち取った。


 ――それでも永遠は訪れなかった。


 人々は最期に【回帰の神】を討とうとした。

 しかし矛は砕け、人々は地に伏した。

 傷つけても傷つけても、【回帰の神】は倒れなかった。

 永遠はそこにあったのだ。

 そして、人々にそれを止める手だては遺されていなかった。

 生み出す術も、
 終わらせる術も、
 人々は自ら討ち砕いてしまったのだ。
_

350: 2012/08/11(土) 19:02:49 ID:3ZQ670bg

 ――降り注ぐ瓦礫と共に、音も静かに着地する。

鬼神「…………」

 視線はそらさず、乱入者達を真っ直ぐに見据えた。

キングレオ「鬼神、あの者達は……」

鬼神「悪いな化け猫。どうもテメエは巻き添え喰っただけらしい」

キングレオ「どういうことだ?」

側近「そこから先は私が話してあげよう」

姫『…………』

 続いて、二人の乱入者が封印の間に降り立った。

 敵意はない。

 むしろ、長年の友人に接するかのような気安さを見せて。

側近「まずは私の正体から明かそうか」

 ぱさり。

 フードがめくられ、その下に隠されていた顔が露わになる。

351: 2012/08/11(土) 19:03:55 ID:3ZQ670bg
キングレオ「なっ!?」

 キングレオの顔が驚愕に染まる。

「そんなに驚くことかい?」

鬼神「……やっぱり、そういうことかよ」



鬼神「召喚師」

 そこには、氏んだはずの魔王が佇んでいた。

352: 2012/08/11(土) 19:04:54 ID:3ZQ670bg
召喚師「貴方にそう呼ばれるのも久し振りだ」

鬼神「昔話しに来ただけなら今すぐブチ頃すぞ」

召喚師「やれやれ、相も変わらずつれない人だ」

 まるで日常風景のようなやり取り。

 しかし互いに隙はなく、鬼神も構えを崩さない。

鬼神「覇王の封印を破るつもりか?」

召喚師「ふむ、それも目的ではあるね」

鬼神「何?」

 鬼神の頭に初めて疑問が浮かぶ。

召喚師「ここへ来たのは単純な実験と、魔力の回収のためさ」

353: 2012/08/11(土) 19:06:52 ID:3ZQ670bg
召喚師「人間とは面白いものだね。

 自身の力が及ばずとも、封じることで相手を無力化する。

 それどころか、その力を吸い上げて己のために利用している。

 これは実に効率的だ。

 一度封じ込めさえすれば、相手が滅びるまで力を奪い続けることができる。

 そして奪われ続けるがために、自力では封印を壊すこともかなわない。

 こんなシステムを1000年もの昔に編み出したんだ。

 正直敬意に値するよ」

 召喚師はただ語る。

鬼神「……何の話をしてやがる」

 鬼神の中で、疑念が膨らんでいく。

354: 2012/08/11(土) 19:08:14 ID:3ZQ670bg
召喚師「【大いなる樹】を覚えているかい?」

 大いなる樹。

 世界樹とも呼ばれる、天を貫く巨木だ。

 その周囲には無数の遺跡群と濃密な樹海が広がり、
 強大なモンスター達がひしめいている。

 並みの人間では近付くことすらできない辺境。

 教会において、聖樹、そして聖域とされる場所。

鬼神「ああ、覚えてるぜ。テメエを拾った場所だ」

355: 2012/08/11(土) 19:10:07 ID:3ZQ670bg
召喚師「あの時は驚いたよ。
 私の求めていたものがそちらから近付いてきたのだから」

鬼神「あ?」

召喚師「まあ、よもや前魔王に邪魔をされるとは思わなかったが」

鬼神「…………」

 記憶を探り、あの時あの場所にいた人間を思い浮かべる。

 勇者――違う。

 鬼神――違う。

 狩人――違う。

 姫――…。

 視線をわずかに動かし、召喚師の横に控えるそれを睨む。

召喚師「大いなる樹が何故聖樹と呼ばれるか、貴方は知っているかな?」

 癒やしの姫神子は動かない。

 まるで人形のように動かない。

356: 2012/08/11(土) 19:11:39 ID:3ZQ670bg
召喚師「教会には『聖なる蕾』という秘宝がある。

 それは大いなる樹に数十年に一度だけ実る、
 小さな小さな花の蕾だ」

 噂だけは聞いたことがある。

 それは蜜を振り撒けば万人を癒やし、

 灰を埋めれば森が生まれ、

 涸れ井戸に落とせば水は絶え間なく湧き出し……、


 ――氏者に食らわせればその身を蘇らせるという。


召喚師「あれはね、鬼神。回帰の神の……」

357: 2012/08/11(土) 19:12:19 ID:3ZQ670bg






召喚師「“私”の力の結晶なんだよ」




_

359: 2012/08/21(火) 23:45:05 ID:uMsueM2M

   :
   :
   :

「魔力は『可能性』――言い換えれば『変数』よ」

「可能性?」

「旧科学で例えるなら『素粒子』かしら」

「その例えは僕にもわからないよ」

「あー……、万能媒体って言えば伝わる?」

「『賢者の石』のことかい?」

「そうそれ」

360: 2012/08/21(火) 23:46:35 ID:uMsueM2M
「本来はなんの性質も持たない、
 何になるかもわからない、
 物質なのか違うのかさえわからない何か。

 認識次第で容易く変化するそれを私達は魔力と定義したわけだけど、
 元々はその変化させる作業を魔術、
 得られる結果を魔法と呼ぶの」

「ふむ」

「魔力が属性を帯びているのは、精霊に影響を受けて変異した結果ね。

 これは自然界にあるものもそうだし、生き物が内包しているものもそう。

 純粋な魔力は限りなく少ないわ」

「そしてその純粋な魔力が噴き出す特異点を『龍穴』と呼ぶ」

「そう」

361: 2012/08/21(火) 23:48:33 ID:uMsueM2M
「龍穴は『龍脈』によって空、あるいは地下で繋がっていると言われているわ。

 そして今知られている龍穴は僅か4つだけ」

「1つ目は聖樹の袂」

「2つ目は異界の門」

「3つ目はここ」

「そして4つ目は」

「武教の地――覇王の封印の真下、というわけか」

362: 2012/08/21(火) 23:51:48 ID:uMsueM2M
「魔王は初めから龍穴の在処を知っていたんでしょうね。

 龍脈を通して聖樹に流れる魔力の一部を吸い上げて、覇王に向けて流し込む。

 覇王自身に刻まれた術式を通して魔力は変換され、そしてその魔力を封印と覇王の維持に利用。

 覇王の存在を鍵として、回帰の神復活を妨げるためのシステムを作るなんて……、
 彼、ホントに魔族の王なのかしら」くすっ

「教会が正史を隠匿している以上、そこに違和感を覚えるのは僕達くらいのものだと思うよ?」

「あら、それもそうね」

「しかし、最大の誤算は姫か」

「……どうかしら。
 召喚師に与えた影響を考えるなら、神子が彼女だったことは歓迎すべきなんでしょうけど」

「心とは難しいな」

「そうね。その通りだわ」

363: 2012/08/21(火) 23:53:09 ID:uMsueM2M
「時に、勇者は本気で気付いていなかったのかい?」

「そうみたいよ?
 あれで仲間を疑えない性格だもの、無理もないわ」

「くっくっ、彼は純粋だね」

「どうかしら……ま、いい意味でバカだとは思うけど?」

「そこがいいんだよ。

 ……こちらの準備は済んだ、そっちは?」

「いつでも行けるわ。

 あとは“あの子”が喚ぶのを待てばいい。
 人狼と接触できたのは幸いだったわね」

364: 2012/08/21(火) 23:54:07 ID:uMsueM2M
錬金術師「さて、僕の愛しい家族は頑張っているかな」

魔女「案外鬼神に惚れてたりしてね」

錬金術師「……もしそうだったらどうしよう」

魔女「いや冗談だから」

   :
   :
   :

365: 2012/08/21(火) 23:56:46 ID:uMsueM2M



回帰の神「――さあ、始めようか」


_

366: 2012/08/21(火) 23:59:30 ID:uMsueM2M


 ゴ ゴン ……!


 巨大な歯車が動き出すような音と共に、ぐらり、と大地が大きく揺らぐ。

キングレオ「っ、地震か?」

回帰の神「不正解。鬼神、貴方ならわかるのではないかな?」

鬼神「…………」

 少しずつ、少しずつ。

 揺れは大きくなっていく。

回帰の神「私の目的は話しただろう」

回帰の神「確かに先代魔王の封印は強固なものだ。

 私の力を奪い、数百年単位で私諸とも覇王を封じる。

 実に厄介、よくできた封印、よくできた仕組みだ」

 やがて揺れは増し、立ち続けることも困難なほどになる。

 それでも彼らは動かない。

 平然と、ただ相手を睨み続ける。

367: 2012/08/22(水) 00:00:58 ID:71/eTXjE
回帰の神「けれどそれは危ういバランスの下で成り立っている。

 精巧なものほど、

 頑丈であればあるほど、

 その実打ち崩すのは容易なのだよ」

 ――ドクン、と。

 揺れ動く大地の音に、何かの鼓動が混ざり始めた。



回帰の神「器が外から砕けないのなら……」


回帰の神「――内から溢れさせればいい」

368: 2012/08/22(水) 00:03:04 ID:71/eTXjE

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

国王「うおっ!何だ!?」

女勇者「うわわわわっ!」
女僧侶「きゃっ!」

暴れ猿「っ、2人とも掴まれ!」

女僧侶「す、すみません」

女勇者「何これすっごい揺れてるけど大丈夫なの!?」

暴れ猿「この辺りは地震なぞ滅多に起きないはずだが……」

369: 2012/08/22(水) 00:04:11 ID:71/eTXjE


 ――ィィィィィン……


女僧侶「う……あ……、?」ガクッ

女勇者「! 僧侶ちゃん!」

国王「どうした!?」

女僧侶「魔、力……が……、何……これ……」

暴れ猿「しっかりしろ!おい!」

 ポワ…

女勇者「僧侶ちゃんの体が、光ってる……?」

国王「こいつは魔力の光だ……一体何が」

姫様「ぅ……」もぞ…

370: 2012/08/22(水) 00:04:49 ID:71/eTXjE





姫様「……父、上……?」


_

375: 2012/08/30(木) 10:21:23 ID:D9FHo/as

 ――止まらない揺れの中、封印の間の中心に深い亀裂が走る。

 床石に刻まれた魔法陣が魔力を失い、魔人の封印が解かれていく。

回帰の神「共に来い、鬼神」

鬼神「ああ?」

回帰の神「貴方も気付いているのだろう? 己が人間と違うことに」

キングレオ「……?」

回帰の神「かの覇王をも圧倒する程の力を持つ者などそうは居まい」

回帰の神「貴方のそれは最早、人の域を超えている」

姫『…………』

 四者の上空。

 青く晴れた空の下に、白く煌めく無数の光の帯が集っていく。

 それは回帰の力、再生の魔力。

376: 2012/08/30(木) 10:24:36 ID:D9FHo/as
回帰の神「それだけの力があれば、貴方は完全なる魔王となれるだろう」

回帰の神「出来損ないの先代とは違う、真の支配者に」

キングレオ「出来損ない……?」

 その言葉で、獅子の王の目に僅かな敵意が宿る。

 それに気付いてか否か。回帰の神は言葉を紡ぐ。

回帰の神「アレはくだらない世迷い言のために氏を選んだ愚図だ」

回帰の神「成すべき役割さえ忘れ、私情に走った愚か者だ」

回帰の神「役立たずの分際で私に刃を向けるなど――」

キングレオ「――貴様ァ! 先王を愚弄するかあああ!!」

 獅子の王は吼え、立ち上がった。

 その身は既に満身創痍。

 しかし誇りが、怒りが、彼の体を奮い立たせる。

377: 2012/08/30(木) 10:26:27 ID:D9FHo/as
回帰の神「…………」

 対する神は、ただ不快そうに眉根を寄せる。

キングレオ「あの方は真に未来を想っておられた!」

キングレオ「あの方がそう在ったからこそ我等は戦ってこられたのだ!」

 獅子の王は止まらない。

 炸裂した感情が、彼の足を前へと進める。

キングレオ「たとえ貴様が神であろうと――我が君への侮辱、万氏に値する!」

 鬼神と対峙した時とはまた違う、炎のような闘気が獅子の王から溢れ出す。

 激情を力に。

 揺らぐ大地の上で、獅子の王は強く、跳んだ。

378: 2012/08/30(木) 10:28:29 ID:D9FHo/as
キングレオ「――ォォォオオオオ!!」

 空を切る――。

 疲弊した体からは信じ難い程の、力強い跳躍。

 目指すは眼前に立つ回帰の神。

 剣はなく、魔力もなく。残るは己ただ一つ。

 それでも彼は跳ぶ。

 譲れないもののために。

 信じてきた者の為に。

キングレオ(陛下……!)

 その爪と牙に、魂を込めて。

382: 2012/08/31(金) 15:34:47 ID:wy0APh9E
回帰の神「……姫」

姫『…………』ス…

 言葉に応じ、姫は神の前に立つ。

キングレオ「邪魔だあああああ!!」

 上腕を振り上げ、覆い被さるように襲いかかる。

  ――ガキィン!

 姫はその両腕を漆黒の大鉈で受け止め、敵の突撃を食い止める。


 ――しかしそれはブラフ。

 腰に溜めた下腕が、あらん限りの力を込めて繰り出された。

  ド ゴァッ!!

姫『――っ!』

 腹部への衝撃に息を漏らし、姫の細い体が後方へと飛んだ。

383: 2012/08/31(金) 15:35:27 ID:wy0APh9E
回帰の神「ほう」

 感心の声を漏らし、僅かに身を逸らして姫をかわす。

 その一瞬の隙を逃すまいと、獅子の王はさらに駆ける。

キングレオ「ガアアアアアア!!」

 襲い来る牙と四本の腕。

 並みの人間であればその姿に恐怖し、呆気なく命を奪われるだろう。

 それ程の脅威、野生の怒りを前に、

回帰の神「なるほど、ただの猫ではないようだ」

 心底愉快そうに、回帰の神は微笑んだ。

384: 2012/08/31(金) 15:36:05 ID:wy0APh9E


 それは興味か、好意か。


 この一瞬、神の意識は完全に獅子に向けられた。

_
農家「魔王とかフザけんな」【その3】

引用: 農家「魔王とかフザけんな」