808: 2013/11/03(日) 23:11:45 ID:KezSua.I

809: 2013/11/03(日) 23:13:12 ID:KezSua.I

 魔界、上空。

 仄暗い空の下で、両者は雲を切って飛んでいく。


炎竜「魔界の塵となれ!!」


 咆哮。
 吐き出された無数の火柱が立て続けに空を切り裂き、大気を焦がす。

 しかし、


焔灼王「できもしないことを声高に叫ぶものではないよ」


 するりと。

 四方を囲まれても、避けた先を狙い撃っても、
 圧倒的な炎量で覆い尽くしてもなお、焔灼の王は悠々とそれを躱していく。

 その様はまるでダンスのようだった。


焔灼王「速さも足りない、威力も狙いも甘い。君は千年間何をしていたんだい?」

炎竜「減らず口を!」
葬送のフリーレン(1) (少年サンデーコミックス)
810: 2013/11/03(日) 23:14:45 ID:KezSua.I

 その光景は、さながら芸術のようでもあった。

 幾重にも走る火炎の放射。
 薄黒い背景に鮮烈な炎の赤が描かれ、直線の隙間を縫うように朱の軌跡が交錯する。

 炎竜を剛と云うなら、焔灼王は柔。

 どれほど強く力を込めても、通じなければ意味はない。


炎竜「チィッ! ちょこまかと逃げよって!」

焔灼王「図々しいねぇ、ゆっくりすぎて当たってやる気にもならないよ」

炎竜「なんだと……!」

焔灼王「教えたはずだろう?」



焔灼王「ブレスは細く、鋭くだ」



 その直後、炎竜が目にしたものは、

 糸のように細く、恐ろしい熱量を秘めた灼熱の閃光の残滓と、

 宙を舞う、己の腕と翼だった。

811: 2013/11/03(日) 23:16:26 ID:KezSua.I

「……ッ、ガアアアアアアアァァァァ……!!」





「■■■■■■■■■■■■■──ッ!!」


 一撃が、暴威の化身を両断した。

 一閃。あるいは一太刀。

 覇王の放った一筋の斬撃は、漆黒の球体を斬り分かち、魔力の海を波立たせ、大地に深い傷を刻む。

 それは王の極技。

 天をも切り裂く無双の一刃。


覇王「これが我が過去との決別の一撃だ……!」

鬼神「いやカッコつけてねえで退けボケ」

覇王「ちょっ」


 余韻に浸る覇王をぐい、と押し退け、鬼神が一歩前に出る。

812: 2013/11/03(日) 23:18:22 ID:KezSua.I
鬼神「掻っ捌いたおかげで核が丸出しだが、もうひと押し行っとくか」


 ぎしり。

 隣に立つ覇王の耳にもはっきり届くほどに、鬼神の体が強く軋む。

 右腕を天に突き上げ、左肩を低く、腰を深く落とす。


鬼神「潰れとけ」


 そこから、手のひらを叩きつけるように、振り下ろした。


鬼神「“空業 地均し”!!」




    ズ  ン  ッ  !!




 そして、まさしく。

 黒き魔力の集合体は、その悉くが魔力の海へと『叩きつけ』られた。

813: 2013/11/03(日) 23:20:09 ID:KezSua.I
 二人が行ったのは至極単純なことだ。


 魔力というものは、引力があって初めて塊となる。

 そのきっかけは他よりもたまたま濃い魔力を秘めた魔石であったり、
 あるいはなんらかの人為的な術式であったり、様々だ。


 さて。では魔人の場合はどうだろう。

 魔人化とは、魔力の過剰収束、飽和、過負荷──その果ての暴走によるものでもある。

 前例のものであれば、それは被験体の自己再生力の暴走を引き起こし、巨人を産む結果となった。
 しかし覇王の場合、その器が強靭だったためか、他に理由があるのか、魔力だけがひたすらに集まり続けた結果、暴威の結晶と化した。

 この二つの違い──ではなく、共通点を挙げよう。

 それは、異常な魔力の量。
 そして、魔力が一点に集中しているということだ。

 魔力は以前述べたように、同じかまたは近しい属性を帯びた魔力と結合しやすい。
 鬼神の言った『核』もまた同様に、そしてより強くその性質を有している。

 早い話が、核の周囲に纏わりついている魔力はあくまで引き寄せられたものに過ぎず、
 別属性の魔力で引きはがしてしまえば、その引力は一時的に失われるのだ。

 覇王はそれを切り離し、鬼神はさらに剥がれた魔力を、海嘯王の魔力の海へと叩き付けた。

 魔力の流れを司る、海嘯王の袂へと。

814: 2013/11/03(日) 23:22:14 ID:KezSua.I
海嘯王『見事だ、人の子よ』


 呟きと共に、魔力の海が唸りを上げる。

 叩きつけられた漆黒の魔力を呑み込み、渦を描き、瞬く間に元の海へと戻っていく。

 後に残ったのは、無尽蔵とも思われた魔力を奪い去られ、剥き出しになった漆黒の結晶。

 それに向けて、鬼神と覇王が跳躍する。


覇王「はああぁぁ……!!」

鬼神「オラアアアアア!!」


 そして、砕いた。

 流星のように天から地へと、二つの影が軌跡を描く。

 その背後で、砕かれた核の魔力が爆散し、消滅した。

815: 2013/11/03(日) 23:24:35 ID:KezSua.I

全員「「「」」」ぽかーん


暴れ猿「……一瞬、だったな」

女勇者「……うん」

暴れ猿「……俺達は意味があったのか?」

女勇者「……さあ」


 唖然とする彼らの視線の先で、鬼神と覇王が土煙を上げて着地する。


魔女「少なくとも海嘯王はいないと無理だったんじゃない?」

姫様「……そういうものか?」

魔女「出っぱなから農家がさんざっぱらぶん殴ってても効果なかったじゃない。そんなもんよ」

キングレオ「あのようなものが地下に眠っていたとは、なるほど先王がこの地を重要視していたわけだ」

暴れ猿「覇王だけではなかったのですね……」

女勇者「でもこれでとりあえずお終いってこと?」

女魔法使い「…………さあ……」

816: 2013/11/03(日) 23:26:59 ID:KezSua.I
魔女「いや多分まだ何かあるとは思うのだけれど」

姫様「何故そこが曖昧なんだ」

魔女「だって何も聞いていないんだもの……」

魔女「というか毎度のことだけれど、農家のやつ何か企んでいる時はほとんど教えてはくれないのよね」

魔女「全く仲間だっていうのにいつも蚊帳の外に放り出されてむかつくったら……」ぶつぶつ

姫様(あ、地雷踏んだ)

女勇者「えーっと、とりあえずおじさんの所行かない? ぼーっとしててもしょうがないし」

女魔法使い「……賛成」

暴れ猿「そうだな。すみません将軍、お願いします」

キングレオ「気にするな。戦いの傷は戦士の誉れだ」

姫様「お前達魔女は放置か!?」

女勇者「なんかめんどいし、それに」


 届けるものもあるし。

 そう答えようとした女勇者の声は、

 突然辺りに響いた轟音に掻き消された。

817: 2013/11/03(日) 23:29:01 ID:KezSua.I

 土煙が、鬼神と覇王の着地点からまっすぐに両方向へと走っていく。

 続いて衝突音。

 吹きつける風がゆっくりと土煙を流し、その原因と正体を露わにする。


覇王「っ、つゥ……相変わらず重い拳だな、友よ」

鬼神「テメエこそ、前以上に魔力が滾ってやがるな剣術馬鹿が」

覇王「後遺症らしい。だが」チャキ…

覇王「その御蔭で貴方と渡り合えるというなら、悪くない!」

鬼神「上等!」



 ──二十数年前。地上には二人の覇者がいた。

 一人は武教の王。
 強者がひしめき合う武教の地で産まれ、王族の血を引き終焉の神の加護を受けし者。

 一人は、ただの農家の男。
 東に大海を望む小さな島国の山奥で、ただ静かに畑を耕して暮らしていただけの男だった。

 それが今、何の因果か剣を、拳をぶつけ合う。
 何の因果か、彼らは出会い、闘っている。

818: 2013/11/03(日) 23:31:02 ID:KezSua.I

 鬼神と覇王が激突する。

 その闘いは苛烈で、凄惨で、そして鮮烈なものだった。

 振るわれた剣は天地を切り裂き、放たれた拳は大気を穿つ。

 遠く離れた女勇者達の目にも、その姿は強く焼き付けられていった。

 大地を揺るがすほどの力を持つ二人の戦いは、他の何者も寄せ付けない。

 否、近付くことなどできはしない。

 荒涼とした大地の真っ只中でなければ、この二人が全力を出し合うことなどできはしないのだ。

 それほどの力。それほどの強さ。

 それほどの二人の闘いが──決着が、今ようやく、果たされようとしていた。

831: 2013/12/15(日) 17:29:17 ID:i3qQy9lg

 終わりとは何か。

 万物万象に等しく訪れるそれを定義するとき、しかしその基準は不明瞭だ。

 ハッピーエンドを迎えれば終わりなのか。

 それは間違ってはいないだろう。しかし正しくもない。

 何故なら主人公達の人生はその後も続き、少なくとも氏を迎えるまでは続くからだ。

 では氏こそが終わりなのであろうか。

 これもまた、イエスでありノーでもある。

 個人としての命が終わろうとも、遺したものや、あるいは世界そのもの、時には本人もまた存在し続けるためだ。

 故に、終わりとは明確なものであると同時に、曖昧なものでもある。

 だから、定義する。確定させる。決定付ける。

 終焉の力は、終わりを定め、そこに至らせる力である。

832: 2013/12/15(日) 17:30:01 ID:i3qQy9lg

 努力という一点において、おそらく覇王を上回るほどの研鑚を積んだ人間はいないだろう。

 しかし、彼の不幸はその力を原因としていた。

 終わらせる力。

 いかに事実として努力を繰り返していようと、

 いかに多くのものを積み重ねていこうとも、

 その全てを、力によるものとして切り捨てられる。

 お前に過程など存在しないのだと、

 お前が強いのは当たり前なのだと。

 どんな結果を出そうとも、それを当然のものとされ、誰に褒められることもない。

 永遠に認められないジレンマ。

 それが、覇王の心を固く閉ざしていた。

833: 2013/12/15(日) 17:31:12 ID:i3qQy9lg

 神子の力は彼を孤独にし、何も与えはしなかった。

 王家に生まれたことも、彼をさらに孤独にする要因となっていた。

 何よりその力が──ただ触れるだけで、あるいは触れることすら必要とせずに命を奪うその力が、

 彼にとってはこの上ない重荷であり、同時に、手放すこともできない拠り所でもあった。



 自分には、他に何もない。



 ある意味で、彼の世界は既に終わっていた。

 それが、彼の不幸。

 そして、



『お前、弱いな』



 それを打ち壊す相手と出会えたこと。

 それが、彼の最後の幸運。

844: 2014/01/12(日) 18:35:46 ID:V.GDqUO.



 閑話休題。


.

845: 2014/01/12(日) 18:36:47 ID:V.GDqUO.

 少しばかり話をしよう。



 二十数年前に勃発した近代で最も大規模な人界、魔界間の衝突は、主に人界側でばかり大きな被害をもたらした。

 ある国では広大な森の半分が荒野となり、

 ある大陸の端では地図を書き替える事態となり、

 ある時は山がなだらかな丘に様変わりし、またある時は国そのものが消滅した。

 それでもその戦争が──見方にもよるが──人間側の勝利という形で終結したのは、七人の勇士と彼らに力を貸した者達の活躍があってこそのものだということは、疑うべくもない。



 しかし、にもかかわらず、彼らの真実を全て知る者は数えるほどしかいない。

 多くの民は勇者が魔王を討ったことで勝利へと向かったと信じている。

 そこには根拠も証拠も存在しない。誰もが“そういうもの”だと考えているからだ。

 勇者は戦場で戦士達を導き、魔物の軍勢を薙ぎ払い、民に希望を与え、人間に勝利をもたらす者だと。



 故に勇者は、勇者こそが最強の戦士であり、心優しく、また勇ましい存在だと、誰もがそれを信じている。

 真実を知ればさぞ微妙な顔になることだろう。

846: 2014/01/12(日) 18:37:52 ID:V.GDqUO.

 勇者はけして最強ではなかった。その特異な能力だけを見るならば、確かに彼は魔物の脅威足り得る存在ではあった。

 しかしながら、彼が最も得意としたのは、もっと別のことだ。

 後の南洋大陸王国国王。彼の最も得意とするもの。

 それは、“防御”である。

 疾さを主とする風の魔法を得意とし、破壊力で見れば最上級である雷の魔法を操る。その明らかに攻撃に特化した特性をもって尚も、彼は“守護神”の異名を持つ。

 七勇士最“堅”の男、その称号は【勇者】。

 正しく人を護る存在である。



 さて。

 では。ならば。他の勇士達は如何様な異名を持っていたのか。

 やはり代表されるのは【鬼神】の号を持つ農家であろう。異名もまた鬼神、あるいは鬼である。

 しかし呆れた話で、彼が鬼と呼ばれるようになったのは、単なる誤解をきっかけとしていたりする。

 とはいえ七勇士の中で彼が最“強”──というより、最“恐”であったのは事実だ。勇者を盾とするならば、彼こそが矛であろう。

 けれど、彼の強さに対しても、人々は大きな勘違いをしている。

 が、それについてはまた後程語ることにする。

847: 2014/01/12(日) 18:38:45 ID:V.GDqUO.

 次いで知られるのは、最強の魔術師にして、大賢者とも謳われる存在、【魔女】だろう。

 現存する全ての魔法を知り、例外はあるもののほとんどのそれを使いこなす彼女は、身体能力では一般兵とさして変わらないものの、とにかく手札が多い。

 集団戦において遺憾なく発揮される大火力の広域攻撃魔法と、友軍全てをサポートできる強力な補助魔法は、多くの兵の味方となった。

 単純な戦闘能力で言えば鬼神に並ぶとも賞される彼女だが、しかし魔法以外のことはからっきしである。

 家事はできず、世間的常識に欠け、なによりドジが多い。

 そしてツンデレである。恋愛下手とは彼女のためにある言葉なのではなかろうか。

 引き換えにと言ってはなんだが、その分勇者に次いで兵達から信頼を得ていたのも彼女であろう。



 そして【姫神子】。多くの人は彼女を“聖女”や“姫”と呼んだ。

 それは彼女が神子という立場を嫌っていたことに起因する。その理由は、勇者と鬼神しか知らない。

 癒しの姫神子とも呼ばれる彼女は、しかし人間にとってはあまり歓迎できない性格をしていた。

 魔物さえも癒そうとしたのだ。

 それ故に、彼女を良く思っている人間は、その実績に反し、とても少ない。

 助けられたことのほうが多いだろうに、なんとも身勝手な話だ。

848: 2014/01/12(日) 18:39:41 ID:V.GDqUO.

 正真正銘の“最速”、速力では鬼神にも勝り、天馬すら凌駕する閃光の化身の如き人物がいる。

 【狩人】と呼ばれた少女だ。

 弓を持ち、しかし矢は持たず、魔力を矢に変えて、七つの奥義を用いて戦場を駆け抜けた彼女は、今はもういない。

 彼女が何を想い、何を考え、何のために戦っていたのか。それを知るのは鬼神と姫と、無二の友人であった魔女くらいだ。オマケで人狼。

 何せ彼女は私達と使う言葉が違った。長く旅をしてこちらの言葉も覚えたようだったが、その頃にはゆっくり話をする暇すらなかった。

 もっと早く出会えていたなら……。いや、止めよう。意味のないことだ。



 その特殊な能力から【召喚士】と呼ばれた少年。彼には謎が付き纏う。

 出生、血縁、人種、そもそも人間なのかどうか。誰もその真実を知らない。知る者がいるのかさえ知られていない。

 一つ確かなことは、彼が人間の、より正確に言うならば、姫神子の味方であったということだけだ。

 私の口から、これ以上を語ることは憚られる。まあ、いずれわかることだろう。



 そして、最後の一人。

 人界と魔界で──いや、神界においてさえ、「あいつとだけは同じ戦場に立ちたくない」と語られる人物がいる。

849: 2014/01/12(日) 18:40:33 ID:V.GDqUO.

 英雄の一人に数えられながら、最“悪”と評され畏怖される、七勇士中最も勇者に程遠い人間。

 連合軍の上層部に「頼むから前線に立たないでくれ」と頭を下げさせた伝説を持つ、正に最悪の、稀代の天才にして天災。

 自らを【錬金術師】と語りながらも、実態を知る者達は密かにこう呼ぶのだ。

 『人界の魔王』と。



錬金術師「全く失礼な話だよね。って、もう聞こえていないか」

鋼鉄王「」

錬金術師「巨大な人型騎乗兵器……それが魔力によって意思を持ったのが君の正体だった。ならば、今の僕に勝てる道理はない」

錬金術師「その身体、有効に活用させてもらうよ」



魔族兵「司令部! 応答を! 司令部っ……クソッ!」

側近「何事です!?」

魔族兵「司令部から火の手が……通信もできません。何者かの攻撃によるものと」

側近「馬鹿な……あそこには魔族長達が集まっているんですよ! そんな簡単に」

850: 2014/01/12(日) 18:41:20 ID:V.GDqUO.

  ──ォォォォン……!!


魔族兵「! 火柱が空に……」

側近「あれは……」


 遠く炎の海の中心から、二つの巨大な影が舞い上がる。

 仄暗い空に浮かび上がったその姿に、この場にいる誰もが息を飲んだ。


魔族兵「焔灼王……そんな、まさか!」

側近「有り得ない……力を七割封じた上で汚濁王に喰らい尽くされたはずなのに……」


『──千年間君達全員を欺き続けてきた輩が、たかだか七割で簡単に氏ぬわけがないじゃないか』


側近「っ!? 伏せなさい!!」

魔族兵「え?」


  ド ガ ァ ァ ァ ン !!

.

851: 2014/01/12(日) 18:42:12 ID:V.GDqUO.

 轟音を伴い、砦が大きく破壊される。側近と魔族の頭上を何かが通り過ぎ、瓦礫が宙を舞った。


魔族兵「ヒ──な、ぁ……っ」

側近「鋼鉄王!? っ!」

側近(魔力を感知できなかった!? いや違う、これは……今の声は!)

『ここで残念なお知らせです。君達の仲間の鋼鉄王君は身体だけ遺して殺させて貰ったよ』

側近「その声は、錬金術師! 貴女……!」

錬金術師『なんだ、怒っているのかい? 本来存在し得なかったものを無に還しただけだろう。元よりこれは人間の所有物だ』

側近「違う! それは……神々の物だ! 大魔王陛下のものだ!!」

錬金術師『だから人間のものなんだよ。君も本当は知っている筈だろう、真実を』

側近「……っ」

魔族兵「は……な、えっ? い、一体何を……」

側近「──言葉は無駄なようです。退がりなさい。そして陛下の元へ」

魔族兵「あっ、は、はいっ!」

錬金術師『……。残酷な人だね、魔族にも自由意思くらいあるだろうに』

852: 2014/01/12(日) 18:42:54 ID:V.GDqUO.

側近「貴女に言われる筋合いはない」

錬金術師『筋合いならあるさ。僕もこれで二児の母でね』

側近「……どこまで知っているのです?」

錬金術師『君が魔族と魔物の産みの親ってところまでかな』

側近「……」

錬金術師『だからこそ分からない。彼等を道具として使う、ありもしない幻想にしがみつくアレに、付き従い今もただアレの為にと僕の隙を突こうと窺っている君の考えが』

側近「……さい」

錬金術師『アレは神ではない。そのなりそこないですらない。それなのに、どうして君はここにいるんだい?』

側近「……るさい」

錬金術師『まさか、君まで本気で』

側近「黙れ!!」


  ゴ ァ …… !

.

853: 2014/01/12(日) 18:43:34 ID:V.GDqUO.

 漆黒が溢れ出す。

 側近──白面金毛の化け狐の背後から、まるで生き物のように蠢く闇が、弾けるように広がっていく。

 否。それは事実、生き物に近かった。

 生きてはいない。肉体もない。意思もない。それでもそれは生命だった。


錬金術師『……それが百鬼夜行というやつかい?』


 漆黒が形を作る。

 あるいは人のような、

 あるいは鳥のような、

 あるいは狼のような、

 あるいは虎のような、

 多種多様に、なんの統一性も見られないほど、様々な生命が生じていく。

854: 2014/01/12(日) 18:44:05 ID:V.GDqUO.

 その様は誕生というよりも、発生と表するほうが近い。

 自然現象さながらに、無秩序に無数の幻影が狐の背後を埋め尽くす。


側近「──頃す」


 呟く。


側近「貴女はここで頃す。あの人の所へは行かせない」

錬金術師『ふぅん……』

錬金術師『ま、そもそも行く気はないんだけど』

側近「…………何?」

錬金術師『僕としては、少しばかり確かめておきたいことがあっただけだからね』


 ──鋼鉄の巨人が僅かに退がる。それを見据える狐の目に、微かに困惑の色が浮かぶ。


錬金術師『よく考えてごらんよ。その気があるならわざわざ姿を晒す必要などないだろう?』

側近「────」

855: 2014/01/12(日) 18:44:48 ID:V.GDqUO.

 その通りだ。

 魔力を失った鋼鉄王の器は、駆動音こそあれど気配がない。

 それ故に気配を察知できず、接近を許した。

 ならば、奇襲で大魔王を襲うこともできたはずだ。

 それをしなかったのは……


錬金術師『僕の目当ては君だよ、【怪異の徒】』


  ──カチッ


 微かな音を立てて、それは起動する。

 些細な疑念に囚われた狐を嘲笑うように、その技術は発動した。

 魔力強制拡散力場発生装置。

 その影響域が瞬く間に広がり、化け狐をも飲み込み、



 異変に気付いた時には、最早手遅れだった。

856: 2014/01/12(日) 18:45:35 ID:V.GDqUO.

側近「!? これは……!」


 漆黒が霧散する。

 器を持たず、魔力だけの存在である彼らは、為す術もなく消えるのみ。

 それは同時に、化け狐の無力化をも意味していた。


錬金術師『効果確認。やはりそうか』

錬金術師『君は、王の中で最も無力な存在なんだね』



「かかれぇええ!!」


側近「なっ」


 驚愕する側近の後方から、無数の魔物が走り抜ける。

 狼、熊、犬、虎、鳥、馬、兎、蟲、トロル、オーク、ゴブリン、などなど、あらゆる魔物が鋼鉄王の巨体めがけて突進する。

 その目には必氏な想いが宿っていた。

 全ての魔物が、ただ一つ、そのためだけに走っていた。

857: 2014/01/12(日) 18:46:22 ID:V.GDqUO.



 この人は殺させない。



 それを理解し、錬金術師はただ静かに笑みを浮かべ、


錬金術師「……ここまでかな。転移スクロール起動」


 鋼鉄王の亡骸をそのままに、何処かへと消えていった。





炎竜「ゥォォオオオ──……!!」


  ── ズゥゥゥゥ──ン……!


炎竜「ガ、ハッ……! グ、オオォ……!」

焔灼王「さすがにタフだねぇ。まあ、腕一本程度で氏なれても困るんだけど」

炎竜「っ、貴様……っ」

858: 2014/01/12(日) 18:47:08 ID:V.GDqUO.

焔灼王「そう睨まないで欲しいね。こっちとしては、これ以上やる意味はないんだ」


 言うや否や、焔灼王は翼を折り曲げ、その身を小さくする。

 炎が渦を巻き、縮小し、霧散し、巨鳥は姿を老人へと変化させた。


炎竜「何のつもりだ……!」

大総統「少しは頭を冷やしたまえ。この姿でも君を頃すことは容易い。勝てない相手に挑めなんて教えた覚えはないぞ」

炎竜「師匠面をするな! 我々を切り捨てたのは貴様だろう!」

大総統「本気でそう思っているのかい?」

炎竜「……?」

大総統「よく考えたらどうだい。自分が何のために戦わされているのか」

大総統「自らを大魔王などと触れ回り、神の名を騙る彼のことを、そして彼の目的をどれほど知っているのか」

大総統「それは果たして、私達全てが命を投げ出すに値するようなものなのか」

炎竜「神の名を……騙る? それはどういう……」

大総統「ああ、そうか。君は知らないんだったね」

大総統「自称回帰の神。自称大魔王。我儘で傲慢で不遜でどうしようもないあの小僧はね」

859: 2014/01/12(日) 18:47:45 ID:V.GDqUO.



大総統「ただの、人間だよ」



炎竜「な、ん……」

大総統「そもそもこの世界はどうやって生み出された?」

大総統「最初の人間を作ったのは神だ。しかしその神はどこからやってきた?」

大総統「答えは魔王城の底にある。興味があるなら覗いてみるといい」

大総統「それを誰にも教えなかったのは、私なりの慈悲だと思ってほしいね」


 老人は立ち去る。

 自身より遥かに巨大な体を持つ炎竜を背に、去っていく。


炎竜「……て」


 その背に、


炎竜「……っ、待て!!」

860: 2014/01/12(日) 18:48:51 ID:V.GDqUO.

 炎竜の叫びが届き、老人は振り返った。

 満身創痍のドラゴンはしかし、大地を踏みしめ立ち上がり、老人を強く睨みつける。


大総統「戦う気かい? 勝てないよ?」

炎竜「……関係ない」

炎竜「俺には何も関係ない。大魔王が何者だろうと! 貴様に決して勝てなかろうと!!」

炎竜「そんなものはもうどうでもいい! 何もかも無くなろうと! 俺は決して戦うのを止めたりはしない!!」

炎竜「一撃だ! 一撃だけでも、貴様に届かせてみせる!」

炎竜「敗けたままで終わらせてなるものかァアアアアアアアアアアアア!!!!」


  ──ィィィィ──……ドォオオン!!!!


 竜の顎門から閃光が放たれ、爆発が巻き起こる。

 高熱の閃光は触れたものを次々と蒸発させ、辺り一帯が舞い上がる煙に覆われた。


大総統「──その攻撃はなかなかだけど、私に届くほどじゃあない」

861: 2014/01/12(日) 18:49:38 ID:V.GDqUO.

 しかし結果として、土煙で相手を見失った炎竜は、老人の接近を許してしまった。

 その位置は、顎の真下。巨体故の氏角。


大総統「けれど、そうか。君は、ずっと昔から、戦士だった」


 戦士。

 戦う者。

 そこに生も氏も関係はなく、あるのは勝つか、負けるかだけ。

 理由も、責務も、どうでもいい。

 あるのはたったひとつだけ。

 『誇り』

 戦士として戦うことの、誇り。意地。何より最も原始的な、ただ『敗けたくない』という感情。

 まさしく炎のように燃え上がるその強い感情こそが、今の炎竜を立ち上がらせている。


大総統「それは私がずっと昔に失くしてしまったものだ。心底羨ましい」

炎竜「──!」

862: 2014/01/12(日) 18:50:13 ID:V.GDqUO.

 肌に触れる。

 炎竜の体は高熱を纏っていたが、同じく火の化身である老人には関係のないことだ。


大総統「だからこそ、君になら預けられる」

炎竜「貴様、何を……」

大総統「持って行け、炎竜王」


大総統「私の、力を──!」



  ド ク ン ッ



炎竜「ガ──ァ──ッ!?」


 脈動。

 視界が歪み、全身が軋み、血液は熱く、力が強く溢れ出す。

 失った腕と翼の感触が復活し、引き換えに酷い痛みが全身を支配した。

863: 2014/01/12(日) 18:51:15 ID:V.GDqUO.

大総統「……大事に使ってくれよ。これが私に遺せる、最後の力だ」

炎竜「焔、灼王……一体、何を……」

大総統「砂獄王、汚濁王! いるんだろう?」

「キシャァァァァァ……」

「……………………」

大総統「彼のことをよろしく。君達ともお別れだ」

炎竜「待て……何が、何を考えているんだ……」

大総統「何のことはないよ。壊したものを直しに行くだけさ」

炎竜「……? ──っ、まさか貴方は!」

大総統「達者でな。『転移』」

炎竜「待て! 待ってくれ! 行くな! 頼むから……!」



炎竜「── 先生!!」


 *大総統は転移した。
.

864: 2014/01/12(日) 18:51:56 ID:V.GDqUO.

錬金術師「やあ、遅かったね?」

大総統「ははは、ちょっとね。若人の成長というのは嬉しいものだ」

参謀「もう宜しいので?」

大総統「そろそろ巨岩王も目覚める頃だろう。迎えに行ってあげなきゃね」

氷銀王「ここいらの魔物どもは凍らせておいたが、このままでよいのかの?」

大総統「いいんじゃないかい? 炎竜君がなんとかするだろうし」

錬金術師「さて。揃ったことだし出発しようか」

参謀「ええ。我々の目的のために」

大総統「それじゃ、行くとしよう」

氷銀王「うむ。人界へ」



大総統「世界を一つに戻すために」



大総統「その為に、この命を捧げよう」

.

880: 2014/02/04(火) 00:05:34 ID:1y0F8aog
さてと

881: 2014/02/04(火) 00:07:33 ID:1y0F8aog



「国王様、前方!」

国王「あーらま……すげぇ数だな」


 視線の先には、大いなる樹があった。

 大地に深く根付き、雲を突き抜け空へと高くどこまでも伸びる巨大な古樹。

 枝は広く空を覆い、葉は常に青く、幹は実に力強く、まさに生命力の結晶とも呼べるそれが、

 無数の黒い何かに、蝕まれていた。


女僧侶「魔物……」


 その何かは、数万を数える魔物の軍勢だった。

 翼を持つものは空から、持たないものは地上から、聖樹を揺らし、蝕み、崩し、破壊しようとしていた。

  ギギギギギギギギギギギィィィ……

 大きく軋む音が悲鳴のように響き渡り、枝がひとつ、またひとつと折れていく。

 雲海の海面を突き破り、それは地上へと落ちていく。
.

882: 2014/02/04(火) 00:08:34 ID:1y0F8aog

「このままではあの中に飛び込むことになりますよ! どうします!?」

国王「…………」


 逡巡は僅か。

 やることは決まっていた。


国王「速度を上げて突っ込め!」

「はぁっ!?」

女僧侶「ちょっ、正気ですか!?」

国王「どっちにしろあれの天辺に行かなきゃなんねぇんだ、だったら」


 告げながら、身に着けていた鎧を外す。

 すると、


女僧侶(……! 国王陛下の魔力が、膨れ上がった!?)

国王「久方振りに俺の全力をお披露目と行こうや」ニィ…
.

883: 2014/02/04(火) 00:09:06 ID:1y0F8aog

「……鎧を外すなんて、随分とやる気ですね」

国王「まあほら、無理矢理魔力抑えてっとやっぱこう、ストレス溜まるわけよ俺も」

女僧侶「なんでそんなことを……」

国王「そりゃあれよ、俺は農家ほど器用じゃねーから魔力隠すのが苦手でな。会談なんかで今みたいな有り様じゃ、まともに話し合いになんぞならんだろ?」

国王「色々あんのよー、これでも」


 あっけらかんと口にする国王の魔力は、はっきり言って異常だった。

 見えるのだ。鮮明に。

 意識的に発しているわけではないそれが見えることは、まずない。

 尋常ならざる魔力を有する農家や、魔法使いの頂点たる魔女でさえ、そのようなことは起こりえない。

 気配や威圧感などのように、感じ取れるという程度の話ではなく、

 自然体で立っている、ただそれだけで、国王の姿がひと回りもふた回りも大きく見える。

 その強さは、農家の魔力と同等か、あるいはそれ以上か……。


女僧侶(これが──)

.

884: 2014/02/04(火) 00:09:47 ID:1y0F8aog

 驚くと同時に、納得する。

 これが──勇者。

 かつて守護神と呼ばれた人物の、本来の力。


国王「速度を上げろ! 一点突破で突き抜けるぞ!」

国王「守るのは俺に任せろ!」

「──ッ、了解!!」


 魔力を解き放つ。

 周囲一帯が淡い薄緑色の光に包まれ、障壁の外まで広がっていく。

 そして、風が吹く。

 近付くもの全てを問答無用に打ち払う、荒々しき暴風が渦を巻く。

 それに呼応するように、天馬が高く声を上げた。

 瞬間、加速。

 翼を開き、空を駆ける。その瞳に気迫の光が宿る。

 その言葉を待っていたと言わんばかりに、神界の獣はその身を流星へと変えた。

885: 2014/02/04(火) 00:10:37 ID:1y0F8aog



「次は東側だ! 休むな!」

「地上部隊は頭上に気を付けろ! 押し潰されたらひとたまりもないぞ!」


 数体の魔物が指揮を執り、統率された群れが聖樹を次々と攻撃する。

 根が断たれ、幹が削られ、枝を落とされ。聖樹の姿は見る間に無残になっていく。

 しかし、倒れない。

 それは揺るがない。

 大いなる樹。

 何百年と経てもなお、限りなく肥大し続けてきたそれは、今や山と見紛うほどに巨大だ。

 外側の根を断ったとしても、地中深くに根付いたそれは断ち切れない。


「ちっ、思った以上の大仕事だな」

「魔法を使えるやつはどんどんぶち込め! ブレスもだ!」


 ただ巨大な樹を倒すだけ。それだけのことでありながら、魔物達は攻めあぐねていた。
.

886: 2014/02/04(火) 00:11:26 ID:1y0F8aog

 そこへ、流星が落ちる。

 初めに気付いたのは、一羽のヘルコンドル。

 それは声を上げる暇すらなく、風の刃に切り刻まれ、塵となった。

 次に気付いたのは、ガーゴイルの小隊。

 僅かに一声鳴いた直後に、その身を粉々に砕かれ、散った。

 そこでようやく、多くの魔物が流星に目を向けた。

 雲の切れ間から空を見上げた魔物も、空から聖樹へと攻撃しようとしていた魔物も。

 ほんの一瞬、その流星に目を奪われた。


 大きく広げられた純白の翼。

 美しく見る者を魅了する白い身体。

 そして、雄々しい瞳。

 流星の名はペガサス。

 その背に、


国王「退け退け雑魚どもォ!! こちとら急には止まれねえぞォオオオオ!!!!」

887: 2014/02/04(火) 00:12:21 ID:1y0F8aog

「! 前世代の勇者か!」

「迎撃しろ! 邪魔をさせるな!!」


 咆哮を上げ、魔物の群れが国王を狙って集結する。

 多くは体当たりを、いくらかは魔法を、またいくらかはブレスを。

 国王めがけて突撃し、唱え、放つ。

 しかし、


国王「ンなモンで止まるかカスどもがぁあああああ!! ガハハハハハハハハハハ!!!!」


 笑いながら、更に魔力を解放する。

 正面に群がる魔物達が、僅かすら触れることもできずに粉砕し、あるいは弾き飛ばされ、散っていく。

 魔法もブレスも遮られ、魔物の攻撃はその悉くが無為に帰す。

 まさに無双。まさに絶対防御。

 攻防一体となったそれは、さながら弾丸のように一直線に聖樹を目指す。

 肉眼で確認できるほどの強烈な風の魔力が、何もかもを薙ぎ払う。
.

888: 2014/02/04(火) 00:13:11 ID:1y0F8aog

 その軌跡をみた魔物の一匹が、ポツリと漏らす。


「龍……」


 そう。

 それはまるで青翠の龍が、黒雲を裂いて空を飛ぶ様に見えていた。

 そしてその龍は、向かい来る魔物の群れを意にも介さず蹂躙する。

 これが、かつての勇者の力。

 その力の前に、有象無象の魔物如きでは、立ち向かう術もない。


国王「──見えた! このまま突っ切ってあそこに突っ込め!!」


 指し示した先には、黄金色に光る何かがあった。

 聖樹の幹の頂点に在り、誰の目にも触れることのない場所に、それはあった。


女僧侶「あれが……」

国王「おうよ。巨岩王の祭壇だ!」
.

889: 2014/02/04(火) 00:13:54 ID:1y0F8aog

 石造りの祭壇に、金色に輝く光球が留まっている。

 それは鼓動するように明滅し、光の波を周囲に発する。

 そこに魔物の姿はない。


国王「気付かれる前に行くぞ! 僧侶ちゃん、やることわかってんな!?」

女僧侶「は、はいっ!」


 手にした“それ”を握り、深呼吸。

 “それ”は祭壇へと近付くほどに、強く、温かい光を放つ。


 暗き礫。


 その名の通り夜闇のように暗く、その名とは裏腹に柔らかな光を湛えるそれは、巨岩の王の力の欠片。

 彼の封印を解き放つ鍵であり、三界を繋ぐ扉を作り、開くための鍵でもあり、



 そして、聖樹を打ち崩し、大魔王の封印を壊す、鍵。

.

890: 2014/02/04(火) 00:14:27 ID:1y0F8aog

 魔物の群れを掻き分けて、風龍が祭壇めがけて加速する。


「奴ら、何をするつもりだ!?」

「わからんが、とにかく止めるんだ!」


 魔物達も必氏だった。

 何故なら、勇者は、人間は魔物の敵だから。

 敵が何かをしようとしているのならば、それは自分達に不利益なことだと考えるのが道理だ。


  ── ドォォォン……!!


 轟音が鳴り響き、風の龍がその姿を消した。

 後を追い、無数の魔物が突入する。

 しかし、


  ゴオオオオオオオオオオ……ッ!!


「ッ、竜巻!?」

891: 2014/02/04(火) 00:15:10 ID:1y0F8aog

「風の上級魔法か! クソッ……!」

「怯むな! 負傷したものを下がらせてもう一度──」


 ── と、その時。

 魔物達にとって予想外の、

 そして国王達にとっては予定通りの、“それ”が始まった。



国王「いっつつ……もうちょっと着地丁寧にしろよペガサス!」

ペガサス「ブルルル……」

「国王様! 魔物が追って来ています!」

国王「おおっとぉ! 僧侶ちゃん、急いで!」

女僧侶「あたた……は、はいっ!」

国王「邪魔はさせねぇ……『風属性純化』かーらーのー……」

国王「『上級風撃“砲”』ゥ!!」


 *荒れ狂う暴風が全ての敵を薙ぎ払う!!

892: 2014/02/04(火) 00:15:53 ID:1y0F8aog

女僧侶「これを、ここに……!」


 *女僧侶は暗き礫を祭壇に置いた。


女僧侶「これで、わっ!?」


 *暗き礫は金色に輝き出した!

 *金色の光が辺りを包み込む……。



  ── ドクンッ



  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


 振動。

 大樹が、大地が、大気が。突如として大きく揺らぎだし、魔物達に動揺が走った。

 そして、彼らの見守る目の前で、

 聖樹の崩壊は、始まった。

893: 2014/02/04(火) 00:16:32 ID:1y0F8aog

「!?」

「なっ……これは、一体……」


 動揺が走る。

 何故。

 原因はわかる。

 だが、何故。

 敵であるはずの人間が、

 大いなる樹を、聖樹として崇めているはずの人間が、

 何故、それを破壊しようというのか──。


 青々としていた葉は見る間に枯れ果て、樹皮はボロボロと崩れ出し、自重を支えきれなくなった枝が次々と折れて落ちていく。

 幹に大きな亀裂が走り、その巨大さ故に割れ、めくれるようにして崩壊していく。


「……いずれにせよ、破壊は成功した。総員退避!」

「了解。総員退避! 崩壊に巻き込まれないよう注意しろ!」
.

894: 2014/02/04(火) 00:17:20 ID:1y0F8aog

 果たして、その判断は正しかったのか。


 聖樹は確かに崩壊した。

 魔物達の──より正しく言えば、大魔王の望んだ通りに。

 しかし、彼らにはひとつ、知らされていないことがあった。


「……!?」

「なん……だ、あれは……」


 崩れゆく聖樹の中に、

 鈍く光る、一対の瞳が姿を見せた。


.

895: 2014/02/04(火) 00:18:08 ID:1y0F8aog



 ──草原に風が吹く。


女僧侶「……えっ?」


 草の匂いが鼻をつく。

 暗き礫を祭壇に置いたその直後、視界に写るものの全てが変化した。


女僧侶(転移!? いや、そんなまさか……)

?「驚かせてすみません。しかしこのタイミングでしか“そちら”とは接触できなかったもので」


 混乱する彼女の背後から、一人の青年が歩み寄る。


女僧侶「っ、誰ですか!」

?「初めまして。自分は──」



?「『召喚師』といいます」
.

896: 2014/02/04(火) 00:18:46 ID:1y0F8aog

女僧侶「しょう……ええっ!?」

召喚師「農家さんや勇者さんから色々聞いてるかもしれませんが、まあ、とりあえずそれは一旦忘れて下さい」

女僧侶「え、は、え?」

召喚師「あ、一応言っておきますと、今の私は肉体を持たない云わば霊魂のようなもので、人界で貴女が会った、魔王を自称していた人物とは別の存在ですので」

女僧侶「は……え、えぇー……?」

召喚師「まあ詳しい話は後ほど錬金術師さんから聞いて下さい。こちらも色々事情があって、隠し事が多いものですから」

女僧侶「は、はぁ……あの」

召喚師「なんでしょう?」

女僧侶「……召喚師って、あの、七勇士の召喚師、様、ですか?」

召喚師「そう呼ばれるとくすぐったいですが、はい。その召喚師です」

女僧侶「…………」ぽかーん

女僧侶(なにがなんだか、わけがわからない……)

召喚師「っと、貴女をここに引き留められる時間は僅かな間だけですので、そろそろ本題に移らせていただきますね。よろしいですか?」

女僧侶「はぁ、まあ……よくわかりませんけど……」

召喚師「では、これを」すっ

897: 2014/02/04(火) 00:19:26 ID:1y0F8aog

女僧侶「? ロザリオ、ですか?」

召喚師「それは姫さん──癒しの姫神子の力を貴女に引き継ぐための鍵です」

女僧侶「へ!?」

召喚師「もちろん、貴女には選択権があります。その力を使うもよし、封じるもよし。しかし誰かに渡すことだけはできません。継承できる人間には条件がありますから」

召喚師「貴女はその条件を満たしている。だからこそ、現勇者の一行の一員として選ばれた」

女僧侶「それって、一体……」

召喚師「それから、もう一つ」

女僧侶「説明なしですか!?」

召喚師「何分時間がないので。貴女がそのロザリオを使い、力を引き継ぐ道を選ぶのならば、これを」すっ

女僧侶「今度は杖ですか……」

召喚師「こちらには私の力の一部を移してあります。そして今から貴女にある術式をお伝えします」

女僧侶「術式?」

召喚師「はい。それを使うも否も、全ての判断は貴女に委ねますが……」

女僧侶「……?」

召喚師「……できることなら。貴女が貴女として生きていくのならば、使わないでいただきたい」

898: 2014/02/04(火) 00:20:07 ID:1y0F8aog

女僧侶「…………」

召喚師「では講義する時間はないので直接貴女の脳に術式の情報を送り込みますので頭をこちらに向けて下さい」

女僧侶「いやいやいやいやいやいや!? 今のはまだ話が続く流れだったんでは!?」

女僧侶「あと直接ってなんですか一体!? 怖いですよ!!」

召喚師「時間がないので仕方ないんです。多少のことは目を瞑って下さい」

女僧侶「多少なんですかこれ!? 大丈夫なんですよね!?」

召喚師「大丈夫ですよ。……多分」ぼそっ

女僧侶「ええええええええええ……ちょ、ちょっと待って下さい話を整理させて」

召喚師「始めます」

女僧侶「無視ですか!? あっ、待って怖いやだ怖い怖い不安しかない! お願いですから待っ──!!」



  ゴォォォォォ……──ン……



女僧侶「──はっ!?」

国王「あ、気が付いたか」

899: 2014/02/04(火) 00:20:57 ID:1y0F8aog

女僧侶「え、あれ、え? 私さっきまで草原に……」

国王「おう、一瞬消えてたな」

女僧侶「消えっ!? え、じゃあ今の現実ですか!?」

国王「何が現実かは知らねーけどそうなんじゃね? とりあえず立てるかい?」

女僧侶「あ、はい」すくっ


  ズゥゥゥゥゥ……ン


女僧侶「うわわっ!? ちょっ、なんですか今の揺れ!?」

国王「いやぁ、そりゃ揺れるでしょうや」


国王「なんせここ巨岩王の頭の上だもん」


女僧侶「…………」


女僧侶「頭の上?」

国王「いえーす」
.

900: 2014/02/04(火) 00:21:47 ID:1y0F8aog



 ── 巨人がいた。

 鉱石の肌を持ち、その身は山よりなお大きく、歩めば大陸全土を揺らし、腕を振るえば雲を薙ぎ払う巨人が。

 彼はかつて、ある棺を閉ざし、封ずるためだけにその魂を楔とした。

 残った身体は土となり、大地となり、そこには数多の命が芽吹いた。

 虫も、

 獣も、

 草も、

 花も、

 木々も、

 人も、

 魔物も、

 全ての生命に等しく命を分け与え、その中心にはひと際大きな樹が育った。

 やがてその樹を中心に自然が豊かに大きく広がり、深い森となり、生命の楽園を生み出した。

 それが後に【大いなる樹】と呼ばれる巨木と、不可侵の聖域とされた聖なる森である。

901: 2014/02/04(火) 00:22:37 ID:1y0F8aog

 地上のどんな生き物も、全ては土の上に暮らしている。

 彼は土そのものであった。

 故に、土の化身。

 故に、土の精霊として。

 巨岩の王は、静かに世界を支えている。



 その彼が今、再び大地を踏み締めた。

 実に千年。

 いつか訪れるであろう目覚めの時を待ち続け、今がまさにその時だった。

 地に足を付け、風を感じ、陽射しを浴びて、地平線を目に焼き付ける。


(──世界は、美しい)


 彼は世界を愛していた。

 おそらくは、誰よりも。
.

902: 2014/02/04(火) 00:23:47 ID:1y0F8aog

(叶うなら……永久にこの世界を……)


 歩む。

 無数の何かが群がって来るが、そんなものはどうでもいい。

 ただ、歩む。

 千年の誓いを果たさんが為に、進む。

 踏み締めた跡の地面から、瞬く間に新たな森が育ち、大地を緑で埋め尽くす。

 ゆっくりと、確かめるように、ただ歩む。

 風の王は元気だろうか。

 火の王は変わりないだろうか。

 水の王は、彼女もまた目覚めただろうか。

 地平線を見つめ、そんなことを考える。

 来たる再会の時を想い、ほんの少し、心が躍った。

 そして、歩む。

 今日で見納めとなるこの世界を、記憶に深く刻みつけながら。
.

928: 2014/04/22(火) 00:12:58 ID:9mwnlGOo



 『山穿ち』──。

 その名の通り、山をも貫く突きの奥義である。

 しかしその実態は、純然たる突き。

 一切の無駄を排し、ただ真っ直ぐに叩き込む。

 誰かが言った。

 単純な攻撃ほど、対策のしようがない、と。


 そして、鬼神はインファイターだ。

 山を穿つその一撃は確かに脅威。

 だが、それを引き起こすのは突きそのものではなく──、



 ──“余波”である。


.

929: 2014/04/22(火) 00:13:49 ID:9mwnlGOo



覇王「はあああああああああ────っ!!」

鬼神「うおらオラオラオラオラオラオラあっ!!」


 超至近距離での衝突。

 剣と拳の激突。

 言うまでもないことだが、その二つがまともにぶつかり合うならば、拳では勝ち目がない。

 普通ならば。


覇王(っ、わかっていたことだが、やはり……)


 しかし、鬼神には通じない。


覇王(見切られている……それも、完全に……!)


 力には、作用する瞬間というものがある。

 刃で斬りつける時も同様。切断とは、刃と対象との摩擦によって起こるものだ。

930: 2014/04/22(火) 00:14:49 ID:9mwnlGOo

 ならば、斬られる前に弾けばいい。

 切れないならば、剣など鈍器と変わりない。

 これは最早、ただの殴り合いだ。


覇王(押し切られる……!!)

鬼神「どうした剣筋が乱れてんぞオラアアアアアア!!!!」

覇王「ぐっ!?」


 鬼神の拳が覇王に届く。

 覇王の体が、僅かに地を滑る。


覇王(しまった!)

鬼神「“山──”」

覇王(間に合うか!?)


 素早く衝撃を地に逃がし、体勢を整える。

931: 2014/04/22(火) 00:15:48 ID:9mwnlGOo

 ……山穿ちの軌道はあくまで直線であり、放たれる方向は体の正面に限られる。

 その原則を理解してさえいれば、躱すことは不可能ではない。

 覇王の身体能力を以ってすれば、十分に対処は可能だ。


鬼神「“──『崩し』!!”」

覇王「なっ!?」


 しかし、放たれたのは“蹴り”だった。


 “薙ぎ”の技、『山崩し』。

 横一文字に衝撃波を発生する、鬼神の奥義の一つである。


覇王(横には躱せない……っ)


 ほとんど反射的に地を蹴り、縦に躱した。

 身体の下を衝撃波が走り抜け、砂塵が舞う。

 強烈な風圧に煽られ、覇王の体が宙に投げ出された。

932: 2014/04/22(火) 00:16:39 ID:9mwnlGOo

覇王(直撃は避けたが、不味い!)

鬼神「……──“山”」


覇王(……鬼神の奥義は三つだが、徒手で放てるものは山穿ちと山崩しの二つのはず)

覇王(つまり、次は山穿ちが来る。空中で回避は不可能……ならば!)

覇王「こおぉぉぉぉぉ────……」


 剣を鞘に納め、深く深く息を吸い込む。

 同時に空中で姿勢を正し、全身から無駄な力を抜いていく。


覇王(──“武王一刀流、抜刀術”……!)


 精神を、研ぎ澄ます。


 心を鎮め、思い描くは水鏡。

 集中を高め、剣を己の一部とする──。


.

933: 2014/04/22(火) 00:17:38 ID:9mwnlGOo


 覇王の幼少期は、常に剣と共にあった。

 いや、それは正確ではない。

 彼には、剣しか与えられなかった。


 孤独。


 ただひたすらの孤独。

 彼は、剣を振るう以外何もなく、だからこそ剣を振るい続けてきた。

 剣技に置いて、その彼に敵う者は、いない。


覇王(打ち破る!!)

鬼神「“──『穿ち』!!”」

覇王「『始龍』!!」


 刺突と逆袈裟。

 覇王の眼前で、二つの奥義が衝突した。

934: 2014/04/22(火) 00:18:48 ID:9mwnlGOo

 山をも穿つ拳圧と、同じく山をも両断する斬撃。そのぶつかり合い。

 勝敗は、一瞬で決した。


  ── ザンッ!!


 拳圧を、斬り捨てる。

 刃をぶつけられるのなら、例え鋼だろうと空気だろうと衝撃波だろうと両断する。

 それが、覇王の剣。

 人類最強の剣士の技。


覇王(もう一閃ッ!)


 息を吐く間も惜しみ、振り抜いた剣を素早く握り直す。

 直撃よりも威力が落ちる余波でさえ、結局は相頃するまでが限界だった。

 ならばここでするべきことは、二撃目を打ち込むこと。


 ──武王一刀流、二の太刀。

935: 2014/04/22(火) 00:19:36 ID:9mwnlGOo


覇王(『還龍』!!)


 始龍と全く同じ軌道で、袈裟切りに剣を振り落とす還龍。

 その威力と速度は、始龍より更に高い。

 そして、山穿ちを相頃した今、この斬撃を阻害するものは、無い。

 剣先が大気を斬り開き、飛刃となった斬撃が一直線に鬼神を目指す。

 いや、飛刃というよりも、剣が巨大になった、と表現するほうが近いだろうか。

 タイムラグはほんの僅か。剣が振り抜かれたとほぼ同時に、大地に大きく深い斬り跡が刻まれた。

 土埃が舞い上がり、視界を塞ぐ。


 始龍から還龍、その二つを放つのに要した時間は、一秒にも満たない。

 ほんの一瞬に繰り出された二撃。普通ならば、反応することすら難しい。


 そう、普通なら。


覇王「っ、いない!?」

936: 2014/04/22(火) 00:20:23 ID:9mwnlGOo


 鬼神は既にいなかった。


鬼神「気い抜いてんじゃねえぞボケ」

覇王(!! 既に背後まで──)


 この距離は、


鬼神「俺の間合いだ」



  ── ズ ドン ! !



 ……爆発の如き轟音。

 振り下ろした拳が、覇王を地に叩き落した。

 土煙が舞い上がる。



 ──が、

937: 2014/04/22(火) 00:21:01 ID:9mwnlGOo


「『昇龍』!!」

鬼神「うおっと!」


 逆風──下方から上方への一直線の切り上げ。

 その斬撃が地表から天まで届く巨大な刃と化し、鬼神を襲う。

 しかし、鬼神はそれを僅かに身を捻ることで難なく躱した。


鬼神「ハッ、お返しってか?」

覇王「当たるとは思っていないさ」


 斬り裂かれた土煙の中心で、覇王は剣を構えていた。


鬼神(……こっちの攻撃は手応えがなかった)


 素早く空間固定魔法を展開し、空中に足場を作る。


鬼神(なるほどな、終焉の力の応用で吹っ飛ぶ結果だけを先取りして躱したのか)

938: 2014/04/22(火) 00:21:49 ID:9mwnlGOo

鬼神「中々器用じゃねえか。前よりはまともな勝負ができそうだ」

覇王「はは……貴方に言われると心に沁みる」

覇王(たった一回で見破られた、か。これで隠し玉が一つ減ったが……)

覇王「そんな高い所に立っていないで、さっさと降りて来たらどうです?」

鬼神「だったら引きずり下ろしてみろ。やれるもんならな」

覇王「では──そうさせてもらう!!」


 大地を蹴る。

 それを鬼神が認識した瞬間、既に覇王は鬼神の背後に回っていた。


覇王(『弧龍』!)


 空中で体を捻っての、氏角から放つ横一文字の一閃。


鬼神「ほっ」

覇王「っ!」

939: 2014/04/22(火) 00:22:43 ID:9mwnlGOo

 にもかかわらず、鬼神は容易くそれを躱し、逆に覇王へと肉薄する。


 そこから始まったのは、まさかの空中戦だった。

 鬼神は次々と空間固定魔法の展開、解除を繰り返し空中を自在に跳び回り、

 一方の覇王は、終焉の神子の力を強引に応用し空中移動を繰り返す。

 拳と剣が、技と技が、奥義と奥義が幾度となく衝突し、その衝撃が雲を散らし、大気を唸らせ、大地さえも震撼させる。


キングレオ「ははは……全く、なんて光景だ……」


 それを見る四人と二匹は、ただただその場に立ち尽くしていた。


魔女「物理法則もなんのそのね……明らかに二人とも何度か音速超えてるんだけど」

暴れ猿「人間が……というか、生き物があんな闘いをできるものなのか」

女勇者「いやいや、もう人間業じゃないでしょこれ……」

姫様「……まさしく限界を超えた者の闘い、といったところか」

女魔法使い「すごい……」

940: 2014/04/22(火) 00:23:39 ID:9mwnlGOo

海嘯王『貴方達、もう少し下がりなさい』

女勇者「うわっ、何!? 誰!?」

魔女「驚きすぎでしょあんた。……貴女、海嘯王ね?」

海嘯王『そのように呼ばれている。それよりも──』


 ── ズ ド ォ オ オ ン !!


キングレオ「ぬ……っ!」

暴れ猿「衝撃波がこんな距離にまで……」

海嘯王『結界を張ってはいるが、抑えきれそうもない。氏にたくないなら離れなさい』

魔女「…………は?」

姫様「結界か……いつの間に」

魔女「いやそこはどうでもいいから! っていうかあんた海嘯王知らんのかい!?」

姫様「知らん」

魔女「」

941: 2014/04/22(火) 00:24:22 ID:9mwnlGOo

キングレオ「……貴様、武教の姫ではないのか?」

姫様「そうだが、それと何か関係があるのか?」

魔女「…………あんたの国の守り神だよ馬鹿……」

姫様「なんと!?」

海嘯王『……おい』

女勇者「へー、守り神なんて実在するんだ」

女魔法使い「けっこう……いる……」

暴れ猿「俺の故郷の森にもいるぞ」

女勇者「ほうほう」

海嘯王『…………おい』

暴れ猿「まあ実際には神族というわけではなく、単なる称号のようなものだがな」

女勇者「あー、勇者とか、おじさんの鬼神とか、そういうの?」

暴れ猿「ああ」

キングレオ「それ以前に海嘯王は最古の大魔族の一人だぞ。歴史も学んでいないのかお前達は……」

942: 2014/04/22(火) 00:25:10 ID:9mwnlGOo

女勇者「座学はさっぱり」

姫様「学問など学者になる者が修めればいいことだろう」

魔女「っがあああああ!! 学長も武教の爺さんもどんな教育してんのよ!!」

海嘯王『…………』


海嘯王『 お い ! ! 』


 キィィィィィィィィィ────…………ン……


女勇者「」
魔女「」
キングレオ「」
暴れ猿「」
姫様「」
女魔法使い「…………耳、痛……」


海嘯王『くだらんお喋りは余所でやれ……』

海嘯王『  潰  す  ぞ  』

.

943: 2014/04/22(火) 00:25:51 ID:9mwnlGOo

魔女「すみませんすみませんいますぐ退きます! ほらあんたら撤収早く!!」

女勇者「あっ、ちょっと待った! まだボクおじさんに届け物が」

魔女「どっちにしろケンカが終わるまで無理だっつーの! マホ、転移魔法!」

女魔法使い「うーい」

姫様「」

キングレオ「おい、この娘気絶しているぞ」

暴れ猿「引きずっていくしかないでしょう」

キングレオ「やれやれ、仮にも覇王の娘が情けない……」ひょいっ


 ── ズズゥゥゥン……!!


暴れ猿「結界が揺らいでいる……」

キングレオ「できるならもう少し近くで見ていたい所だが……そうもいかない、か」

キングレオ(遠い、な……)

キングレオ(──だが、それはつまり、まだ目指せる高みがあるということ)

944: 2014/04/22(火) 00:27:29 ID:9mwnlGOo

キングレオ「行こう」

魔女「はいはい急いだ急いだ!」

キングレオ(いずれ、あの領域まで辿り着いてみせる)

暴れ猿(……? 将軍の魔力が高まっている?)

暴れ猿(…………、ああ、そうか)

女勇者「魔法使いちゃん、準備いいよ」

女魔法使い「行く。『転移』」

暴れ猿(将軍もまた、戦士なのだ)

暴れ猿(そして、俺も……)


 *女魔法使いたちは転移した。


鬼神「“螺旋山穿ち”!!」

覇王「“双龍絞刃”!!」


 ……闘いは続く。

945: 2014/04/22(火) 00:29:50 ID:9mwnlGOo

 どちらかが力尽き、倒れるまで、二人は闘い続けるだろう。

 それは、誰にも止めることはかなわない。

 故に……。



?「私達はただ、その瞬間を待てばいい」

?「せいぜい魔力を無駄遣いしろ鬼神。決着がついた時がお前の最期だ!」

?「ふははははははははははは!! はーっはっはっはっは!! はーっはっはっは……」

?「ぐふっ! げっほぇっ! げほっ!! いかん……むせてしまった」

946: 2014/04/22(火) 00:31:11 ID:9mwnlGOo
今までにないほど変な切れ方だけど今回ここまで

965: 2014/06/29(日) 22:59:11 ID:ATyUE0G6



大婆様「うーむ……」

防人「大婆様、如何なさいました?」

大婆様「……防人よ、急ぎ外におる皆を集めるのじゃ。どうやら、わしら一族の役目も終わりに近づいておるらしい」

防人「! なんと、それでは……」

大婆様「うむ」

防人「…………精霊王様……」

大婆様(……永い……真に永い時をよくぞお待ちになられた……。偉大なる精霊王様……)

「おい! みんな見ろ! 空に光が!」

「おぉぉ……」


 夜明けの近付く空の下に、明緑色の光の帯が一直線に東へと延びる。

 その後を、赤い炎のような光が煌めきを振り撒きながら追っていく……。

966: 2014/06/29(日) 22:59:45 ID:ATyUE0G6

「精霊様……」

「精霊王様だ……!」

大婆様「そうじゃ、皆の者。あれこそ、風の王であらせられる我等が精霊王様と、その古き友、火の王の光じゃ」

防人「あれが……」

「ああっ! 異界の門が!」

「崩れていくぞ!」

神父「ひぃぃ……! お、終わりだ……世界の終わりだぁ……っ!!」

大婆様「これ!」ごちんっ!

神父「ひべっ!」

大婆様「まったく余所者め、滅多なことを言うでないわい。これじゃから教会のもんは……」くどくど

神父「」

「ちょっとばーさんばーさん。気絶しちょるで、聞こえとらんでよ」

大婆様「なんじゃ、大の男が情けないのう」

967: 2014/06/29(日) 23:00:31 ID:ATyUE0G6



『やあ、風の学士。気分はどうだい?』

 その言葉に反応して、明緑色の光体が微かに揺らぐ。

『──随分と懐かしい呼び方をなさる』

『侵食王と呼んだ方がいいかい?』

『その名は棄てたよ……今は精霊王などと呼ばれているが、先程の呼び方のほうが私には好ましい』

『──今でも人の頃の呼び名に固執するのかと笑うか? 火の学士……焔灼の王』

『まさか。君はそうじゃないとね』

「ふむ、四背王が元は人だったというのは本当だったのかい?」

968: 2014/06/29(日) 23:01:47 ID:ATyUE0G6


焔灼王『大昔の話だけどね。私達や最初の魔族達は人を素体として人為的な進化を施した存在なのさ』

錬金術師「なるほど、それで君にも人間体があるわけだ」

参謀「私共は元より人に近い姿になるように調整を行いましたけどね」

氷銀王「あー……そういえばそんなこともあったの」

参謀「忘れてたんですか」

氷銀王「あのな、千年前じゃぞ? 妾の頭で覚えていられるとでも思うか」

錬金術師「何故少し誇らしげなんだい?」くすくす

969: 2014/06/29(日) 23:02:38 ID:ATyUE0G6

氷銀王「そういえば、錬金術師殿は此度の計画についてどこまで承知しておるのかの?」

錬金術師「どこまでと問われると困るけど、ひと通りは理解しているよ」

錬金術師「要するに、一度三つに引き裂いた世界を今度は戻そうというのだろう?」

参謀「口で言うほど容易なことではないですけどね……しくじれば、三界全てが次元の狭間に呑み込まれることになる」

参謀「まあ、失敗する確率はゼロなんですけども」けろっ

精霊王『当然だ』

精霊王『……だが、その過程で我らは命を落とすだろう。同時に術者は間違いなく時空の歪みに喰らわれる』

精霊王『それだけは避けようもない事実だ』

錬金術師「なるほどね。だから“彼”なのかい?」

焔灼王『まあね。アレの持ち主が彼だということもあるけれど……』

焔灼王『……君なら大方予測がついているんじゃないかい? 彼の本質について、さ』

錬金術師「一応ね」

氷銀王「そんな大層なタマかの」

参謀「はいはい、そういう生意気は一度でも彼に勝ってから言いましょうね」

氷銀王「……お主段々妾の扱いがぞんざいになってはおらんか」むぅ…

970: 2014/06/29(日) 23:03:30 ID:ATyUE0G6



     :

     :

     :


 ── ゴォォォ──ン……!!

 ズズウゥ────ン……


「おるああああああああああ!!!!」

「ハアァア────ッ!!!!」


 ギャリィン! ギィン! ィィン……!

 ズオォォォ……

 ドォォォ────ン……


.

971: 2014/06/29(日) 23:04:06 ID:ATyUE0G6

女勇者「…………」

魔女「…………」

姫様「…………」

女魔法使い「…………」

暴れ猿「…………。なんというか……長いな」

女勇者「二人ともタフだねー……」

姫様「いよいよ跳んだままになってきているのだが……」

暴れ猿「本当に人間なのか? あの二人」

魔女「……まあ、一応」

キングレオ「頂点に立つ者、こうでなくてはな」

女勇者「そういう次元かなぁ……」

972: 2014/06/29(日) 23:05:21 ID:ATyUE0G6



「聖騎士長、突入準備整いました」

「ご苦労。命令が下るまで待機していろ」

「はっ。……あの、聖騎士長」

「何だ?」

「聖騎士長殿は、二十年前の戦争当時、勇者殿の一行に加わって旅をされたこともあると聞きましたが……」

「……ああ」

「……宜しいのですか?」

「命令とあらば、仕方あるまい」

「しかし、鬼神殿は貴方の──」

「それ以上は言わなくていい」

「……失礼しました」

973: 2014/06/29(日) 23:06:02 ID:ATyUE0G6

「『今は我慢だ』」

「?」

「昔そう言われたんだ。感情に流されて焦るな、と」

「…………」

「今は、まだだ。いいな?」

「っ、は!!」

974: 2014/06/29(日) 23:06:55 ID:ATyUE0G6



総司令「……暇だなー」だらー…

副司令「だらけないで下さいよ……」

総司令「いやだって師匠と覇王のオッサンの喧嘩だよ? 絶対長引くじゃん?」

副司令「それは知りませんけど……というか総司令、覇王殿のことは御存知なんですか?」

総司令「ん? ああ、ちょっとこの間『見て』きたから」

副司令「毎度思いますけどそれ便利ですね」

総司令「コスト悪いけどねー。この能力さえあれば副司令ちゃんの口リ時代も見放題さ!!」

副司令「ちょっ!? 何を不純なことに使ってるんですか!?」

総司令「あっはっはー、例え話例え話」けらけら

副司令「信用できない……!!」

総司令「……ん?」ピクッ

副司令「? どうしました?」

総司令「そろそろ決着が着きそうな気配だよ。副司令ちゃん、手筈通りに宜しく」

副司令「あ、はい。了解しました(切り替えは早いんだよなぁ……)」

975: 2014/06/29(日) 23:07:52 ID:ATyUE0G6



 ──物質の耐久力には、必ず限界が存在する。
 どんなに頑強な大岩でも、一点に水を受け続ければいつしか穴が開く。
 それは武具においても同じことだ。


鬼神「らあっ!!」

覇王「ぐっ!」


 ガキィン!! ギィン!!

 ──きしり


覇王(チィ……! )


 度重なる打ち合いに、覇王の剣が軋み出す。

 普通ならば、金属と生身のぶつかり合いで金属の側が先に砕けることなどありえない。
 しかし、鬼神はそれを技術で以って現実にしようとしている。


覇王(拳撃の一点への集中──しかし拳による打撃だけで剣を折るつもりなのか!?)

.

976: 2014/06/29(日) 23:08:56 ID:ATyUE0G6

 当然、鬼神の拳もまた傷を負っている。
 皮膚は裂け血が滲み、明らかにボロボロだ。

 それでも拳が剣を上回っているのは──


鬼神「ふんぬあらっ!!」

覇王「ガ──っ!!」

覇王(くそっ、ほんの一発相頃し損ねただけで……!)


 ──その拳圧が、剣の威力も強度も無視するほどに、強力なものだからだ。


覇王(このまま打ち合えば確実に敗ける……ならば強引にでも奥義を当てるしかない!!)


 無論、それを容易くやらせるほど鬼神は生易しくはない。
 ほんの一瞬ですら隙を見せれば、直後にさらに重く致命的な一撃が飛んでくる。

 ……何より、技のキレに影響が出るほどではないものの、覇王は既にボロボロだった。
 それに対し、鬼神は拳を除き、ほとんど無傷と言っていいほどにピンピンしている。

 それどころか、その動きは徐々に加速し、鋭さを増し、技は重く、強くなっていく。
 まるでようやく体が温まってきたとでも言うように……。

977: 2014/06/29(日) 23:09:35 ID:ATyUE0G6

覇王(全く、どこまでデタラメなんだ、貴方は……)

覇王(……だが)


 それでも、覇王の目には闘志が灯る。


覇王(それでも──だからこそ勝ちたい!)

覇王(俺は、俺を倒してくれた貴方に……今度こそ!!)


覇王(自分自身の力で!!)


 ──覇王の魔力が、闘気が研ぎ澄まされていくのを感じる。

 勝負を決めるつもりだろう。

 それならそれで、別にいい。


鬼神(やれるもんならやってみろ!!)


 知らず、鬼神は笑っていた。

.

978: 2014/06/29(日) 23:10:10 ID:ATyUE0G6



 拳と剣が交錯する。

 その寸前で、ほんの一瞬だけ剣筋が揺らぐ。

 拳が空を切り、互いの距離がゼロになる。

 瞬間、覇王の闘気が爆発的に膨れ上がり、





 折れた刃が、宙を舞った。


.

979: 2014/06/29(日) 23:11:28 ID:ATyUE0G6
ここまで
待たせるばかりでほんと面目ない 次スレはできれば投下に合わせたいので後日

984: 2014/07/13(日) 23:07:34 ID:Flkgqu9w

海嘯王(──ここまでですね)


 結界を構築していた魔力を分解する。

 そして、再統合する。


 私達にとって、魔力は体の一部だ。

 しかしそれは、私達が魔力の根源だということではない。

 魔力とは、元々この世界に存在した未知の構成要素だった。

 物理学では定義不可能の謎の何か。それを理解するための研究を進めるうちに、私達は人の枠を外れていった。

 魔力は全てを侵食する。

 それに気付いた時、私達は決断を迫られた。

 私達の体には、魔力に対する抵抗力がなかったのだ。


 ないものは、諦めるか、創り上げるかしかない。


 そして、私達は魔力に最も近しい存在となった。

.

985: 2014/07/13(日) 23:08:26 ID:Flkgqu9w

 神様とはよく言ったものだと思う。

 私達を引っ張ったあの人は、確かに不可能を可能にするだけの力を持っていた。

 けれど……。


 あの人を失って、私達はばらばらになってしまった。

 私達を繋ぎ止める最後の絆……それが、あの人だった。

 そして“あの子”は壊れてしまった。どうしようもないほどに。

 私達にできたことは、“あの子”が何もできないように、誰も“あの子”に何もできないように、“あの子”を閉じ込めることだけだった。

 代償に、私達自身の命を差し出して。


 私達は楔だ。

 私達が消え去れば、この世界は在るべき姿に戻るだろう。

 それを回避するために、私達は自らを切り分けた。

 自分自身を引き裂く痛みと引き換えに、不滅の存在へと成り下がる。

 そうすることで、罪の意識から目を逸らしたかったのかもしれない。

 そうすることで、背負い切れなかった罪から、逃げ出したかったのかもしれない。

986: 2014/07/13(日) 23:09:14 ID:Flkgqu9w

 私達は、世界を壊してしまったから。

 だから、直すのもまた、自分達がやらなければならないと、思っていた。


 でも、この世界は、

 ここは、私達の世界じゃない。

 私達は本当は、何をすることも間違っている、いてはいけない存在だったんだ。

 だから、これが本当の最後。

 この世界を、この世界に生きる人々の手に返す。

 それが私達がしなければいけない、最後の使命。


 責任があると思い込んで干渉することも、

 なにかしなくちゃと必氏になってがむしゃらになることも、

 私達は、許されてなんていない。


 それだけ。


.

987: 2014/07/13(日) 23:10:03 ID:Flkgqu9w


覇王「………………」


 透き通るような青空を、傷だらけの大地を背にして仰ぎ見る。

 気分は悪くない。むしろ清々しくすらある。

 剣だけで自分の全てを支えてきた。剣さえあればなんでもできる気がしていた。

 しかし、その剣は折れてしまった。ちっぽけなプライドは粉々に砕けて消えて、残ったのはこの身ひとつだけ。

 それを心地良いと感じるのは、剣を支えにしていたのではなく、剣に依存していたからだと、そういうことなのだろう。


覇王「…………ははっ」


 なんとなく、笑いがこみあげてきた。

 そんな『俺』を見下ろす形で、鬼神がこちらの顔を覗き込んでくる。


鬼神「ちったあすっきりしたか?」

覇王「今更ながら。ああ、やはり貴方には、氏んでも敵いそうもない」

鬼神「たりめえだ。俺を何だと思ってやがる」

988: 2014/07/13(日) 23:11:00 ID:Flkgqu9w


 その後に続く言葉は、最早確かめるまでもない。


 世界で最も大きな敵と日夜戦い続けること。それが彼の日常だ。

 たかが武芸者如きが勝とうなど、烏滸がましいにも程がある。


覇王「まだまだ未熟ですね、俺は」

鬼神「未熟じゃねえやつなんざいねえよ。テメエは昔っから焦りすぎなんだよこのボケ」


 差し出された手を握る。

 力強く逞しいその手は、俺の手よりもずっと大きく、頼もしく感じられた。


鬼神「チビ助が待ってるぞ、会いに行ってやれ」

覇王「……それこそ今更のような気がしますね」

鬼神「アホ言え。義理でもなんでも親子は親子だ。そいつは氏んでも揺るがねえモンなんだよ」

鬼神「いいから行ってこい。そんでその後行くとこねえなら、南洋王国にでも行って国王に面倒見させろ」

鬼神「できねえことをやろうとすんのはもう止めろ。テメエはそんなタマじゃねえよ」

989: 2014/07/13(日) 23:12:18 ID:Flkgqu9w






「────その通り。覇王、貴様の役目は終わりだ」




.

990: 2014/07/13(日) 23:13:01 ID:Flkgqu9w

鬼神「 ふ ん ぬ っ ! ! 」

覇王「へ、え、ちょ、うわっ──!!」


 いきなり襟首を掴まれ、放り投げられる。

 鬼神の姿が急速に遠ざかり、そして──


覇王(! あれはまさか……!)


 目に映ったのは、空から高速で降ってくる、六つの黒く細い影。

 それらは鬼神を取り囲むように地面へと突き刺さり、稲妻のような光を張り巡らせた。



「はぁーっはっはっは!! ついに捕らえたぞ鬼神め! 貴様がいずれ連合の決定に反した行いをすることはわかっていた!!」

鬼神「…………」

「武教の地における覇王の封印の無断解放!! 強大な魔族の再生!! 旅の扉の破壊行為!!」

「オマケに二十年前俺が貴様に味わわされた屈辱のお返しもつけて五十年の禁固刑をくれてやる!!」

「ふっふっふ、はっはっは! あーっはっはっはっはっはっは!!」
.

991: 2014/07/13(日) 23:14:01 ID:Flkgqu9w

鬼神「…………」

鬼神「……誰だっけお前?」

「」ずがーん

「~~~~きっ、さっ、まあああああああ!!!! この枢機卿(カーディナル)の顔を忘れたのかああああああああ!!!!」

鬼神「アホか。当時の枢機卿はとっくに隠居してんだろが」

枢機卿「『現』枢機卿だあああああああああ!!!! おのれぇぇぇ……! 頂点に立つべくして生まれたこの俺を忘れるとはいい度胸だな鬼神んん……!!」ぎりぎりぎり…

枢機卿「……ふんっ、まあいい。どうせ貴様は抵抗することもできずに俺のいいなりになるしかないのだ! その【星六鍵】の結界がある限り、貴様はそこから動けんのだからなあ!!」

鬼神「ほーん」

鬼神(星六鍵、ねぇ……)



女勇者「何あのテンション高いの。いきなり出てきて超えらそうなんだけど」

魔女「ありゃ枢機卿ね。今の教会のトップなんだけど、完璧な七光りで人望ゼロ。他に適任者がいないからやらされてるだけらしいわよ」

キングレオ「暴れ猿、一度下ろすぞ」

暴れ猿「はい」

992: 2014/07/13(日) 23:15:02 ID:Flkgqu9w

女勇者「? どしたの?」

女魔法使い「……上」

女勇者「うえ?」


  ひゅるるるるるるるるる……


覇王「────そこの君! どけえええええ!!」

女勇者「ヴェイ!?」

姫様「父上!?」

キングレオ「受け止める! 来い!!」

覇王「! すまない!」


  ── ド ズシャァァァァァァァァ……!!


キングレオ「…………フゥゥゥゥゥ……」

覇王「っつつ……ありがとう、助かった」

姫様「父上っ!」たっ

993: 2014/07/13(日) 23:16:01 ID:Flkgqu9w

覇王「娘……か? 大きくなったな」

姫様「──っ、……~~~~っ!」ぎゅーっ!

覇王「」ビキィッ!

覇王(い……痛たただだだだだあばあwせdrfつじこlp;@:!!?!?)

キングレオ「おいおい……何故我がわざわざ受け止めたと……」

魔女「そういうのは言いっこなしでしょ。今の今までおあずけ喰らってたんだし」

女魔法使い「…………感動の……再会?」

暴れ猿「殴り合いの後でそれというのも妙な話だな」

女勇者「……でも、家族は大事だよ、うん」

女勇者(……『私』もお兄ちゃんが生きてたらお姫さんみたいになったのかなー)


『妹ー! 見ろ見ろ! でっかいカエル捕まえたぞ!!』

『それフロッガーだよぉ!?』


女勇者「……駄目だ、やんちゃな所しか思い出せない」がくっ

暴れ猿「急に何の話だ……?」

994: 2014/07/13(日) 23:19:50 ID:Flkgqu9w

995: 2014/07/13(日) 23:47:58 ID:eJLU7Xzo
乙です!

引用: 農家「魔王とかフザけんな」