1: 2012/02/12(日) 23:17:53.61 ID:w1y+iJxd0
~屋敷:主人自室~


コンコン


主人「どうぞー」

メイド「失礼します」

主人「ん」

メイド「書棚の整理に参りました」

主人「ああ、どうも」

メイド「……お邪魔でしたら、時間を改めさせていただきますが」

主人「いや、構わないよ。お願いします」

メイド「……かしこまりました」



2: 2012/02/12(日) 23:20:57.79 ID:w1y+iJxd0
ガサガサ


メイド「……」

主人「……」

メイド「……」

主人「……」チラッ

メイド「……」

主人「……」

メイド「……」

主人「……あのさ」

メイド「はぁ」

3: 2012/02/12(日) 23:21:25.56 ID:w1y+iJxd0
主人「聞きたいことが、あるんだけど」

メイド「はい」

主人「……あ、作業したままでいいから」

メイド「……」


ガサガサ


主人「……あのさ」

メイド「はぁ」

主人「キミ、以前は男だったって本当?」

メイド「はぁ、まぁ」

4: 2012/02/12(日) 23:24:14.93 ID:w1y+iJxd0
主人「……そうなんだ」

メイド「……」

主人「あ、いや、気に障ったなら謝る」

メイド「いえ、別に」

主人「……」

メイド「……三年前に、突然。例のウィルスで」

主人「やっぱり、あれか」

メイド「女になったら、それまでの勤め先を解雇されまして、それからは派遣の仕事をしています」

メイド「それで、先々月からこちらからお世話になって」

主人「そっか……」

5: 2012/02/12(日) 23:24:48.81 ID:w1y+iJxd0
メイド「……」

主人「……キミは――」

メイド「あの」

主人「あ、うん。何?」

メイド「作業が終わりましたので、失礼したいのですが……」

主人「……あぁ、そっか……、うん、ありがと……」

メイド「では、失礼します」ペコリ

主人「あ、ちょっと待って」

メイド「?」

主人「煙草」

メイド「あ」

主人「においがする」

メイド「……あー」

6: 2012/02/12(日) 23:25:28.94 ID:w1y+iJxd0
主人「一応、屋敷では禁煙ね」

メイド「……申し訳ありません」

主人「あはは、建前だけどね」

メイド「……はぁ」

主人「吸うときは、この部屋に来るといい」

メイド「……」

主人「実は、僕も、隠れて吸ってる」

メイド「……あぁ」

8: 2012/02/12(日) 23:30:07.33 ID:w1y+iJxd0
主人「みんなには、内緒だ」

メイド「……かしこまりました」

主人「うん」

メイド「それでは」

主人「ありがとう」

メイド「……」ペコリ


ガチャ バタン


主人(……可愛いな)

主人(可愛いけど……)

主人「愛想もへったくれもないけど」

9: 2012/02/12(日) 23:33:59.99 ID:w1y+iJxd0
主人(ちょっと前にあった家政婦のドラマ……)

主人(あのヒロインも、無口で無愛想だったな、そういえば)

主人(……メイドの場合は、ちょっと違うか)

主人(職業的な冷徹さというよりは)

主人(無気力、無関心……)


主人「そして……」

主人「元男……」

主人「かぁ……」

14: 2012/02/13(月) 22:42:56.58 ID:hIhQfVpi0
~夜:某居酒屋~


友「……――ンなるほどねぇ」

主人「なるほどって、何さ」

友「つまり変O貴族の主人クンは」

主人「……おい」

友「女の子だけじゃ飽き足らず、ついに男にまで手を出しはじめた、と」

主人「なんだ変O貴族って。それにメイドは、男じゃなくて、元男」

友「手ぇ出したのは否定しないのな」

主人「出してない」

友「今は、ね」

主人「こんにゃろ!」

友「ひっひ」

15: 2012/02/13(月) 22:43:47.61 ID:hIhQfVpi0
主人「でも、やっぱり心配でさ」

友「んー?」

主人「伝染とかさ、気になるじゃん」

友「……」

主人「……?」

友「……お前ねぇ」

主人「……な、何?」

友「お前みたいなやつの、オロかな無知や偏見があるからね!サベツはなくならないんですよ、サベツ!」

主人「えっ、えっ!?」

16: 2012/02/13(月) 22:46:56.62 ID:hIhQfVpi0
友「お前ね……、TSウィルスは空気感染も、経口感染もしないよ」

主人「あ、そうなの?」

友「で、大抵の場合、TSウィルスは免疫の働きで非病原性の病原体になるし」

主人「えっと……」

友「ウィルスを持っていても、必ず性別が反転するわけじゃない、ってこと」

主人「そ、そうなのか」

友「本気で知らなかったのかよ、お前……」

主人「えへへ……」

友「えへへじゃないよ。ったく……」

17: 2012/02/13(月) 22:50:49.22 ID:hIhQfVpi0
友「普通に生活していて、TSウィルスに感染することはないし、感染したとしても、発症の確率は、1%にも満たない――……」

主人「……、それ、全然心配いらなくない?」

友「全然ではないけど、普通に暮らす分には、問題ないよ」

主人「へぇー」

友「……それを、お前みたいなやつがいるからだなー……」

主人「……あー」

友「TS病患者への風当たりは、実際の問題以上に強く、大きな社会問題にだなー」

主人「面目ない……」

主人(そういえば、確かメイドも)

主人(女になって、前の仕事クビになったって、言ってたっけ……)

主人(うーん……)

主人(……)

18: 2012/02/13(月) 22:51:13.81 ID:hIhQfVpi0
主人「……っていうか」

友「ん」

主人「友、詳しいんだな」

友「まぁな」

主人「……」

友「……」

主人「……なぁ、もしかして」

友「ん」

主人「友」

友「そうだよ」

19: 2012/02/13(月) 22:51:46.08 ID:hIhQfVpi0
友「『俺』も、TS病だ」

主人「……」

友「……キモい?」

主人「全然」

友「……あー」

主人「……」

友「……変O貴族め」

主人「だからなんで貴族」

友「じゃあただの変Oか」

主人「こんにゃろ」

友「ひっひ」

20: 2012/02/13(月) 22:52:18.49 ID:hIhQfVpi0
~深夜:屋敷~


主人「いかん……」

主人(思いのほか遅くなった……)

主人(またばあやにどやされる……)

主人「ただいま……」

メイド「お帰りなさいませ、ご主人様」

主人「あれ」

メイド「……」

主人「なん、で、キミが?」

メイド「夜勤です」

主人「……夜勤かー」

21: 2012/02/13(月) 22:54:11.58 ID:hIhQfVpi0
メイド「ご主人様のお帰りが遅いので、待っているようにと、メイド長が……」

主人「あ……、ごめんね」

メイド「いえ、別に……」

主人「……」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……あの」

主人「は、はい!」

メイド「お水、どうぞ」

主人「あ……うん、ありがと……」

メイド「……」

22: 2012/02/13(月) 22:55:36.36 ID:hIhQfVpi0
主人「……」

メイド「……」

主人「……あ、ば、ばあやは?」

メイド「メイド長でしたら――」

ばあや「坊ちゃん!」

主人「ひっ」

ばあや「何してたんですか、こんな時間までー!」

主人「ご、ごめん……」

ばあや「いい年してまだ夜遊びばかり……!ばあやは坊ちゃんをそんな風に育てた覚えは――」

主人(うぁー)

23: 2012/02/13(月) 22:56:14.62 ID:hIhQfVpi0
主人「ち、違うって!今日は友と会ってただけ!ほんと、それだけだって!」

ばあや「それにしたって!今何時だと……」

メイド「……メイド長、私はこれで」

ばあや「……ああ、メイドちゃんも、手数をかけたね」

メイド「いえ」

ばあや「超勤分は、明日のタイムカードに書いておいてくれればいいから」

メイド「それでは……」ペコリ

主人「……」

24: 2012/02/13(月) 22:57:10.94 ID:hIhQfVpi0
ばあや「まったく、いくつになっても坊ちゃんときたら……!」

主人「……なあ、ばあや。あの子……」

ばあや「はい?ああ、メイドちゃんですか?」

主人「うん。何て言うか……うまくやれてる?」

ばあや「ええ、まぁ……、しかしばあやには、最近の子のことはさっぱり分かりませんよ……」

主人「ん?」

ばあや「よく働くし、ミスも少ないですし。隠れて煙草吸ってるのは、問題ですが」

主人(あ、バレてる)

25: 2012/02/13(月) 22:58:00.04 ID:hIhQfVpi0
ばあや「ただねぇ……、何考えてるのか、ちっとも分からないといいますか……」

主人「うん?」

ばあや「他のメイドたちとも、あんまり馴染まないようで」

主人「……」

ばあや「……若い子で集まってても、大抵ひとりで、つまらなそうにボヤッとして……」

主人「そうかぁ……」

ばあや「ま、最近の子は、ああいう……、……坊ちゃん?」

主人「へぇ?」

ばあや「まさか、あのメイドちゃんに変な気など……」

主人「え……、あ!違う!違うぞ!」

26: 2012/02/13(月) 22:59:01.97 ID:hIhQfVpi0
ばあや「そう言って、坊ちゃんはいつもいつも……」

主人「だから、違うって!」

ばあや「……本当に?」

主人「本当だって……。よしてくれよ、まったく……」

ばあや「……はぁ」

主人「何だよ……」

ばあや「……いえ、ただ……」

主人「……」

ばあや「……何でもありませんよ。くれぐれも、変な気を起こさないでくださいませ」

主人「わ、分かってるって……」

27: 2012/02/13(月) 23:00:24.17 ID:hIhQfVpi0
今日はここまでです

31: 2012/02/15(水) 23:20:07.13 ID:HmLDBDor0
~別の日:主人自室~


メイド「……お茶をお持ちしました」

主人「あ……キミか」

メイド「……」

主人「ありがとう」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……」

主人(……何か見られてる……)

メイド「……」

32: 2012/02/15(水) 23:20:50.97 ID:HmLDBDor0
主人「うん、甘い」

メイド「……」

主人「……コーヒー、僕好きなんだけどねー、たっぷり甘くしないと飲めなくてねー、はは」

メイド「はぁ」

主人(興味なし!)

主人(興味ない人の相槌だ!)

メイド「……」

主人「……うぅ」

メイド「……あの」

主人「……?」

33: 2012/02/15(水) 23:21:33.65 ID:HmLDBDor0




シュボッ


主人「……」


ジリ…


主人「……」

メイド「……フー――……」

主人「……」

メイド「……はぁ……」

主人(吸いなれてるなぁ……)

34: 2012/02/15(水) 23:22:33.30 ID:HmLDBDor0
主人「……」シュボ

メイド「……」

主人「はぁー……」

メイド「……」スフー

主人(メイド服で煙草って)

メイド「……」

主人(なんか、新鮮な図だなぁ……)

主人「……」

メイド「……なにか」

主人「へ!?あ、いや!」

35: 2012/02/15(水) 23:23:04.24 ID:HmLDBDor0
メイド「……ぁー」

主人「結構、強いの吸ってるんだ」

メイド「はぁ、まぁ……」

主人「……」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……止した方がいいのは、分かってるんですけどね」

主人「まあ、そうだよねぇ」

メイド「男だったときから、こればっかりはどうしても」スフー

主人「……いや、でも、分かるよ」

メイド「……」

36: 2012/02/15(水) 23:23:42.28 ID:HmLDBDor0
主人「僕も、何度か禁煙してるんだけどねぇ。やめられなくて」

メイド「……、やめられないっていうのも、勿論あるんですけど……」

主人「ん?」

メイド「男の頃の、名残だって考えると」

主人「あぁ。……やめたくない?」

メイド「……どうなんでしょう」

主人「……」

メイド「……」

主人「……」

メイド「怖い、のかもしれません。やめるのが」

主人「怖い」

37: 2012/02/15(水) 23:25:21.55 ID:HmLDBDor0
メイド「……身も心も、女だけど」

主人「……」

メイド「それでも……、男だった頃のことが、全て、何も、残らなくなってしまうのが」

主人「……」

メイド「……怖い、いや、単に……イヤなのかも」

主人「そういうもんかね」

主人(怖いなんて言う割には……)

メイド「……」スフー

主人(無感情な目つき……)

38: 2012/02/15(水) 23:26:11.97 ID:HmLDBDor0
主人「……でもやっぱり、女性の身体に」

メイド「……」

主人「煙草は、毒だよねぇ」

メイド「……はぁ」

主人「……なんて、僕が言うのも馬鹿らしいかな。スモーカーだし」

メイド「……」

主人「ねぇ」

メイド「はい」

39: 2012/02/15(水) 23:29:09.54 ID:HmLDBDor0
主人「キミは……、なんていうか、その……」

メイド「?」

主人「女って認識なのかな?つまり、メンタリティというか」

メイド「……えっと?」

主人「いや、さっきの話だとさ。男だったときのこと、気にしてるのかなー、って」

メイド「……」

主人「心の底では、自分は男だー、って思ったりしてるのかなぁ、って……」

メイド「……」

主人「……あぅ、その……、答えたくなければ――」

メイド「女ですよ、私は」

40: 2012/02/15(水) 23:29:43.96 ID:HmLDBDor0
主人「……」

メイド「さっきも言いましたけど。心身ともに、女です。今は」

主人「……そ、そうなんだ」

メイド「性の対象も、男性ですよ?」

主人「セイノ……?……?……あっ!」

メイド「……」ニヤリ

主人「な……、いや、そんなつもりじゃ……!」

メイド「……意外ですね」

主人「な、何が!」

41: 2012/02/15(水) 23:30:47.50 ID:HmLDBDor0
メイド「……思いのほか、初心な反応なさるから」

主人「……っ」

メイド「冗談です」

主人「どこからが!?」

メイド「……それでは、私はこれで失礼します」

主人「ちょっとぉ!」


ガチャ

バタン


主人「……はぁ」

主人「掴めねぇ……」

主人(でも、)

主人(笑った顔、はじめて見た)

主人「……あんなときばっかり、笑顔なんだもんなぁ……」

50: 2012/02/17(金) 00:29:32.18 ID:oSbjhsv20
主人「……にしても」


~~


メイド『それでも……、男だった頃のことが、全て、何も、残らなくなってしまうのが』

メイド『……怖い、いや、単に……イヤなのかも』


~~


主人(ある日いきなり、自分が別の自分になって)

主人(それからずっと、別の自分として生きてなきゃで……)

主人「どんな気持ちかなんて……」

主人「……」

51: 2012/02/17(金) 00:30:18.96 ID:oSbjhsv20
主人(そもそも僕は――)

主人(TS病のことも、全然知らない)

主人(あの子のことも、全然知らないんだよな、僕は……)

主人「……はぁ」

主人「……」

主人「……」

52: 2012/02/17(金) 00:30:58.63 ID:oSbjhsv20
~屋敷:別室~


メイド「……」カタカタ カタ カタカタ

メイド「……」カタカタ

メイド「……」カタカタ

メイド(ご主人様)

メイド(ご主人様って……)

メイド(……今時、ご主人様ってのも、どうかと思うけど……)

メイド「……」カタ

メイド(変わった人……)

53: 2012/02/17(金) 00:33:00.12 ID:oSbjhsv20
メイド(無神経に、何でも聞いてくるくせに)

メイド(妙に人懐っこくて、つい……)

メイド(うっかり、気を許してしまいそうな……)

メイド「……」

メイド(子供か犬と一緒かな)

メイド「……」カタ

メイド「……」

先輩メイド「はぁ~、お疲れ~」

メイド「……」カタカタ

先輩メイド「あら、アンタ何やってんの?」

メイド「……」カタカタ カタカタ

54: 2012/02/17(金) 00:33:46.43 ID:oSbjhsv20
先輩「なにこれ」

メイド「……三階の廊下の壁が、補修が必要なので。その見積もり依頼書を」

先輩「ふぅん……。アンタ、パソコンできるんだ」

メイド「まぁ、普通に」カタ カタ

先輩「エックスセ……?」

メイド「エクセルです」

先輩「そかぁ~、うち、誰もパソコンできないもんねぇ。ご主人様も」

メイド「……」カタ

先輩「……ねぇ」

メイド「はぁ」

55: 2012/02/17(金) 00:35:23.73 ID:oSbjhsv20
先輩「アンタ、ご主人様のとこに行ってたでしょ」

メイド「……」

先輩「さっき」

メイド「……申し訳ありません」

先輩「いや、そうじゃなくてさ」

メイド「……」カタ

先輩「ふっふふ、何してたのかなぁ~」

メイド「……世間話を」

先輩「ん?」

メイド「……」カタカタ カタカタ カタ

先輩「んー」

56: 2012/02/17(金) 00:36:40.86 ID:oSbjhsv20
先輩「んん、ふぅん」

メイド「……」カタカタ カタ

先輩「でも、ま、気をつけなよ?」

メイド「……」カタカタ

先輩「あの人、メイド好きらしいから」

メイド「……」カタ

先輩「……や、噂なんだけど~」

メイド「……」

先輩「アンタの前任者もさ、あの人に手ぇだされたとかでさぁ」

メイド「……」カタ カタカタ カタ

57: 2012/02/17(金) 00:37:34.11 ID:oSbjhsv20
先輩「いや、私には全然ないんだけどさ~」

メイド「……」

先輩「ふっふ、やっぱアンタみたいに、おっOいおっきい方が――」

メイド「あの」

先輩「んー?」

メイド「……ちょっと、興味……ないんで、私」

先輩「……あぁ、んー?」

メイド「すみません。……トイレ掃除、いってきます」ガタ


ガチャ

バタン


先輩「ふぅん……かわいげのない」

58: 2012/02/17(金) 00:38:50.93 ID:oSbjhsv20
~屋敷:トイレ~


主人「ふむ……」


バサリ


『TS病患者 実態把握道なかば』

『「オカマ病」発言 厚労相更迭へ』

『野党 独自にTS調査委員会を設置』


バサリ


『TS患者詐欺にご用心!』

『TSしたら?はじめてのコスメはこれ!』


主人「むむ……」

主人「新聞なんて、久しぶりに読んだけど……」

主人「色々書いてあるなぁ」

59: 2012/02/17(金) 00:39:30.13 ID:oSbjhsv20
主人(全然知らなかったけど……)

主人(世の中は結構大騒ぎして――)


ガチャリ


主人「え」

メイド「あ」

主人「あ」


メイド「……」

主人「えっ、あ」

メイド「……失礼しました」

主人「閉めてー!」

60: 2012/02/17(金) 00:40:15.77 ID:oSbjhsv20
メイド「……」

主人「いや、閉め……っ、ちょ……」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……人は、」

主人「えっ、え……な……」

メイド「見かけによらないものですね」

主人「何が……いやっ、どこ見て言ってんのぉー!」

メイド「失礼しました」

主人「閉めてぇー!」

65: 2012/02/18(土) 00:12:18.63 ID:Z+fxHDHl0
~別の日:主人自室



主人「……」シュボッ

メイド「……」カチャ

主人「ふー……」

メイド「……」カチ カチッ

主人「……」

メイド「……」

主人「火、使う?」

メイド「あ、どうも……」

主人「はい」

メイド「……」

66: 2012/02/18(土) 00:12:52.30 ID:Z+fxHDHl0
メイド「……」

主人「?」

メイド「100円ライター」

主人「ん?あぁ」

メイド「……お金持ちは、ライターも高級品を使ってるかと、思いました」

主人「あはは、デュポンの一点物とか?」

メイド「いいですね」シュボッ

主人「んで、キューバの葉巻でも吸うか」

メイド「ゴッドファーザーですか」

主人「ははっ」

メイド「……すふー」

67: 2012/02/18(土) 00:13:43.22 ID:Z+fxHDHl0
主人「あー……」

メイド「……」

主人「ん」プカ

メイド「あ、輪っか」

主人「ん、ん」プカプカ

メイド「……器用ですね」

主人「できる?」

メイド「できないです」

主人「こうやって、ベロをね」

メイド「……興味ないです」

68: 2012/02/18(土) 00:14:10.98 ID:Z+fxHDHl0
主人「……灰皿」

メイド「ありがとうございます」

主人「……」

メイド「……」

主人「やっぱり、ふたりだと、ケムいね」

メイド「……窓、開けましょうか」

主人「寒い……」

メイド「……開けますね」


ガタッ ガラガラ


主人「寒いってー」

メイド「……」

85: 2012/02/18(土) 22:43:25.04 ID:Z+fxHDHl0
主人「風が冷たい……」

メイド「……」

主人「寒くない?」

メイド「我慢してください」

主人「上着貸すよ」

メイド「……」

主人「いい?」

メイド「……もう、仕事に戻りますので」

主人「ん」

86: 2012/02/18(土) 22:45:31.40 ID:Z+fxHDHl0
メイド「……灰皿」

主人「ん?」

メイド「……高価そうですね」

主人「や、はは、もらいもの」

メイド「……」

主人「あ…ははは」

メイド「……」

主人「しょ、庶民派なの、僕は!この屋敷とかは父さんの趣味で」

メイド「へぇ」

主人「メイドなんてのも、父さんがはじめたことだしさ」

メイド「……」

87: 2012/02/18(土) 22:47:02.93 ID:Z+fxHDHl0
メイド「意外でした」

主人「ん?」

メイド「ご主人様の趣味かと」

主人「いや、いやいや!」

メイド「……違いましたか」

主人「違います!」

メイド「このメイド服も……」ヒラヒラ

主人「父様が考えたやつで、僕が子供のときからそれなんだって!」

メイド「……じゃ、メイドには興味なし、と」

主人「それは……」

メイド「……」

主人「あ、いや、えっと……」

88: 2012/02/18(土) 22:48:01.91 ID:Z+fxHDHl0
主人「……好きです、けど……」

メイド「……」

主人「……ごめんなさい、好きです」

メイド「謝るんですね」

主人「や、何となく……」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……メイドに手を出すことも、しょっちゅうとか」

主人「はぁ!?そんなこと……っ」

メイド「……」

主人「あ、あー…………えっと」

89: 2012/02/18(土) 22:49:15.02 ID:Z+fxHDHl0
メイド「……」

主人「……あー、いや……」

メイド「……」

主人「……」

メイド「そういう、だらしないのは」

主人「……」

メイド「悪いことです」

主人「……」

メイド「いつか、痛い目を見ます」

主人「僕は……そんな……」

90: 2012/02/18(土) 22:49:51.32 ID:Z+fxHDHl0
メイド「まぁ、いいですけど」

主人「……」

メイド「……私は、別に」

主人「……?」

メイド「ご主人様が、そういうつもりでも」

主人「……メイドさん?」

メイド「この身体に、そういう意味があることは、知ってますから」

主人「え?それって――……」


グイ


主人「は」


チュッ


主人「……っ」

91: 2012/02/18(土) 22:53:12.88 ID:Z+fxHDHl0
メイド「ん……んぅ……は」


チュ チュッ


主人「……んむっ、……はっ、待……」

メイド「ふ、ぁ」ギュ

主人「~~……!」

メイド「……はぁ」

主人「――っぷは!待っ……、待って!」

メイド「……どうされました」

主人「なっ!何、いきなり!」

メイド「……こういう、おつもりだったんでしょう?」

主人「は!?」

メイド「私に、話しかけたのも」

92: 2012/02/18(土) 22:56:21.55 ID:Z+fxHDHl0
メイド「ですから、私は構いませんと……」

主人「何言っ……!僕は、そんなつもりは!」

メイド「……しないんですか?」

主人「しないよ!」

メイド「……そうですか」スッ

主人「……あ」

メイド「失礼しました」

主人「……」

メイド「……やっぱり、男が相手では、気持ち悪いですよね」

主人「そ、そういうことじゃなくて……!」

93: 2012/02/18(土) 22:57:28.85 ID:Z+fxHDHl0
メイド「それでも、まぁ、別に」

主人「……僕は」

メイド「……」

主人「……そういう、つもりじゃ……、いや、そういうっていうのは、つまり、キミのことは」

メイド「……」

主人「……キミは」

メイド「何も、なさらないのでしたら」

94: 2012/02/18(土) 22:57:58.35 ID:Z+fxHDHl0
主人「……」

主人(キミは何で)


メイド「仕事が、ありますので」

主人「……」

主人(こんなときでも、投げやりな瞳で……)

メイド「失礼します」

主人「……」


ガチャ

バタン


主人「……ぁ」

主人「あー……」

95: 2012/02/18(土) 22:58:47.03 ID:Z+fxHDHl0
~夜:某居酒屋~


友「……――それから?」

主人「それから、って……。これだけだけど」

友「……」

主人「……」

友「……」

主人「……なぁ、お前はどう思……」

友「童Oか」

主人「ちげーし」

96: 2012/02/18(土) 22:59:23.24 ID:Z+fxHDHl0
主人「僕は!そんな気じゃなくてさ!」

友「はー」

主人「何て言うの?普通に……、そう!普通にさぁ!」

友「あー」

主人「それをいきなり、とか!そんな流れになってもさぁ!」

友「ちょっと、お前……」

主人「だいたいってのは、お前!」

友「ちょ、声大き……」

主人「だってセッ――……」

店員「あ、あのー……」

主人「あ」

97: 2012/02/18(土) 22:59:56.74 ID:Z+fxHDHl0
店員「な、生ビールでーす……」

主人「はい……」

友「はぁ……」

店員「えっと……、ごゆっくりどうぞー」

主人「……」

友「……」

主人「……」

友「……ばーか」

主人「うるせー……」

98: 2012/02/18(土) 23:00:38.80 ID:Z+fxHDHl0
友「お前」

主人「……」

友「ちょっと、落ち着け」

主人「……うん」

友「ほら、生だぞ」

主人「生はよくない……」

友「そうだな。生は色々アレだな。ほら、かんぱーい」

主人「かんぱーい……」


カチン

106: 2012/02/21(火) 00:44:20.40 ID:7PX5GVWM0
主人「無関心なのにさー、いきなりからかってきたり……、かと思えば、迫ってきたり……」

友「まあなぁ」

主人「マジ、全然分かんない……」

友「お前みたいな無神経じゃ、尚更なぁ」

主人「うっせ」

友「ひひひ」

主人「……なぁ」

友「ん?」

主人「友は、どう思う?」

友「俺?」

107: 2012/02/21(火) 00:45:04.14 ID:7PX5GVWM0
主人「TS経験者だから、共感……?できるとか、あるじゃん?」

友「んー……、そう言われても、俺の場合は『元女』だしなぁ……」

主人「そうだけどさ」

友「何だかんだ言って、『元男』の方が、苦労が多いだろうよ」



メイド『この身体に、そういう意味があることは、知ってますから』



主人「そうかぁー……」

友「それに俺は、性の対象は男だし」

主人「あ、そうなの?」

友「まぁ。……性的なところに関しては、それこそ人それぞれだろ。TSどうのじゃなく」

主人「そうかもなぁ……」

108: 2012/02/21(火) 00:45:29.62 ID:7PX5GVWM0
友「ただ、話を聞いた限りだと」

主人「うん」

友「お前のようなメイドフェチの変O貴族を、心から軽蔑しているようではあるな」



メイド『そういう、だらしないのは』

メイド『悪いことです』



主人「……だから変O貴族言うな」

友「メイドフェチは認めるのか」

主人「いや、それは……」

友「……」

主人「……」

109: 2012/02/21(火) 00:46:03.81 ID:7PX5GVWM0
友「……でもさ」

主人「……」

友「メイドに手ぇ出したって、アレだろ?あの――……」

主人「言うなぁぁ……」

友「……」

主人「……」

友「……ま、いいけど」

主人「……」

友「酒が切れたな」

主人「ウーロンハイ」

友「もっと高い酒頼めよリッチガイ」

主人「……高いウーロンハイ」

友「んなモンねぇよ和民には」

110: 2012/02/21(火) 00:46:34.13 ID:7PX5GVWM0
友「何にせよ」

主人「……」

友「なかなか複雑なヒトだ」

主人「うん……」

友「……お前さ」

主人「うん?」

友「あんまり気安くしない方がいいんじゃないの?そのメイドさん」

主人「なんで……」

友「複雑そうで……、何と言うか、やっかいだ」

主人「いやぁ、やっかいって、友さん」

友「お前だって、一応その子の上司に当たるわけだし。職場で気まずくなるのは嫌だろ?」

主人「それは……、そうかもしれないけど……」

111: 2012/02/21(火) 00:47:08.61 ID:7PX5GVWM0
友「メイドさんだって」

主人「……」

友「あれこれ、詮索されたくないこともあるだろうよ」

主人「……」

友「お前が、物珍しさだの、興味本位でメイドさんにちょっかい出してるなら」

主人「……」

友「そういうのは、相手にも失礼だから、やめといた方がいいだろ、って」

主人「あー……」

友「……」

主人「正論ってやつですか?」

友「一般論ってやつだよ」

112: 2012/02/21(火) 00:47:33.91 ID:7PX5GVWM0
主人「……」

友「……」

主人「……」

友「TS病のことが知りたいなら、俺が教えてやるし」

主人「……なあ」

友「ん」

主人「煙草吸っていい?」

友「やだー」

主人「あー」

友「臭いじゃん、煙」

主人「まあね」

113: 2012/02/21(火) 00:48:05.41 ID:7PX5GVWM0
友「……」

主人「……メイドさんさぁ」

友「おう」

主人「スモーカーなんだよね」

友「え、メイドなのに?」

主人「メイドなのに」

友「いいのかよ」

主人「駄目だけど」

友「駄目じゃん」

主人「うん。駄目だけど、やめられないんだってさ」

友「……」

主人「昔からの習慣で。やめるのが、何となく、怖いって言ってた」

友「……」

114: 2012/02/21(火) 00:48:39.41 ID:7PX5GVWM0
主人「でもねぇ」

友「……」

主人「美味しそうに吸うんだよね、彼女」

友「……はぁ」

主人「僕のより、キツい煙草でさ」

友「お前さ、メイドさんの……」

主人「ん?」

友「……やっぱ何でもない」

主人「何だよー」

友「いや、仲良くしたいなら、そうしろって思っただけ」

115: 2012/02/21(火) 00:49:09.33 ID:7PX5GVWM0
主人「仲良く……」

友「主人、」

主人「うん?」

友「相手のこと、よく知りたいと思ったらな」

主人「……うん」

友「理解しようとするだけじゃ駄目だ」

主人「……」

116: 2012/02/21(火) 00:50:14.93 ID:7PX5GVWM0
友「相手を理解する前に、自分のことを相手に理解してもらわないと」

主人「……」

友「ちゃんと、お前のことを分かってもらって、はじめて相手と対等になれる」

主人「そういうもんかぁ」

友「多分な」

主人「そっかぁ……」

友「……」

主人「……」

友「……」

主人「ありがとね、友」

友「おう」

117: 2012/02/21(火) 00:51:24.29 ID:7PX5GVWM0
主人「もう一杯くらい、飲んでく?」

友「んだな」

主人「何にしよっかなー」

友「……あ、あとな」

主人「ん?」

友「性の対象が男って、嘘だから」

主人「え?あ、そうなの?」

友「俺、生ビールにしよう」

主人「あ、じゃあ僕も!」

126: 2012/02/23(木) 00:20:37.28 ID:hkfxXdRC0
~別の日:主人邸渡り廊下~


主人「……」


コソコソ


主人「……」

主人(お……)


メイド「……」

メイド「…………」

メイド「…………」


主人(めっちゃ掃除してる)

主人「……」コソコソ

127: 2012/02/23(木) 00:21:01.65 ID:hkfxXdRC0
メイド「……」

メイド「…………」

メイド「………………」


主人(全然やる気なさそうな動きなのに)

主人(細かいところまで掃除してる……)


メイド「……」

メイド「……」


主人「……」コソコソ

主人(性格出てるなぁ……)

ばあや「何なさってるんです?」

主人「うっはぁ!?」ビクッ

128: 2012/02/23(木) 00:21:46.51 ID:hkfxXdRC0
ばあや「坊ちゃん?」

主人「……ばあやかぁ。いやね、えーと……」

ばあや「……」

主人「……す、スパイ大作戦ごっこ?」

ばあや「ばあやには、ストーカーか何かにしか見えませんでしたけど」

主人「ち、違いますー!失礼な!」

ばあや「子供みたいな真似も、ほどほどになさってくださいな」

主人「いいから、あっち行ってって」

ばあや「……はぁ。まぁ、メイドたちの仕事の邪魔は、なさらないでくださいませ」

主人「分かったって!」

ばあや「まったく……、いくつになっても子供みたいな……」スタスタ

主人「はぁ……」

129: 2012/02/23(木) 00:22:17.92 ID:hkfxXdRC0
~主人邸3階~


メイド「……」


主人(……あ、止まった)コソコソ


メイド「……」

メイド「……ふぁ」


主人(……サボってる)


メイド「……」

メイド「……」グイー


主人(背伸びしてる……)

メイド「ふぁ……」

主人(なんか、)

主人(面白い……)

130: 2012/02/23(木) 00:22:52.77 ID:hkfxXdRC0
メイド「……はぁ」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……何か、ご用ですか?」

主人「うぇ!?」

メイド「ご主人様」

主人「……あはは……」

メイド「……」

主人「……き、気付いてたんだ」

メイド「……結構、お粗末なスパイ大作戦だったので」

主人「あ、そこからもうバレてたんだ……」

131: 2012/02/23(木) 00:23:20.61 ID:hkfxXdRC0
主人「でも、尾行がバレるのもスパイ大作戦っぽいよね」

メイド「はぁ……」

主人「よくあるじゃん、簡単なはずのミッションが、実は大きな陰謀の――……」

メイド「あの」

主人「ん」

メイド「何か、ご用でしたか」

主人「……あー、いや……、手が空いてたら」

メイド「何でしょう」

主人「えっと……、ちょっと、お話ししたいな、って」

メイド「……」

主人「いいかな?」

メイド「……まぁ」

132: 2012/02/23(木) 00:24:03.99 ID:hkfxXdRC0
~主人自室~


メイド「失礼します」

主人「どうぞどうぞ」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……」

主人「あ、煙草吸う?」

メイド「……いえ、やめておきます」

主人「あら」

メイド「まだ、仕事がありますので」

主人「そっか」

133: 2012/02/23(木) 00:24:36.06 ID:hkfxXdRC0
主人「……」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……」

134: 2012/02/23(木) 00:26:14.71 ID:hkfxXdRC0
主人「……前に、この家で働いてたメイドがいたんだけどね」

メイド「……」

主人「背がね、すごく高くて、僕より高くて、こーんなノッポでさ」

メイド「……」

主人「なのに、すごく怖がりで。すぐ泣くメイドだったよ」

メイド「……」

主人「ネズミがさ、まぁ、この家にも出るんだけど、ネズミが出ただけでへたり込んで、超泣いちゃって……」

メイド「……」

主人「……まあ、僕の初恋の人だったんだよね」

メイド「……」

135: 2012/02/23(木) 00:26:56.01 ID:hkfxXdRC0
主人「そのときは、僕もガキだったからさ。それなりに一途な感じで」

メイド「……」

主人「周りとか、色々見えなくなって……」

メイド「……」

主人「……多分、メイドに手を出すバカ殿様、って感じに見えてたと思うな、周りからは」

メイド「……」

主人「あはは……」

メイド「……」

136: 2012/02/23(木) 00:27:56.82 ID:hkfxXdRC0
主人「僕、バカだから、そういうの全然気にしなくて。年上だった彼女は、それが嫌だったみたいで」

メイド「……」

主人「で、彼女としょっちゅう喧嘩してて。本当は大好きだったのにね」

メイド「……」

主人「結局、喧嘩したまんま、彼女は辞めちゃって……」

メイド「……」

主人「それきり」

メイド「……」

主人「だから、その……」

メイド「……」

主人「僕がメイドが好きだ、っていうのは、そういう初恋の頃の思い出があるためで」

メイド「……」

137: 2012/02/23(木) 00:29:09.28 ID:hkfxXdRC0
主人「メイドを見るたびに、甘酸っぱい青春?みたいな、そんな気持ちになるからで……」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……」

主人「つまり、えっと……」

メイド「……」

主人「べ、別に、やましい気持ちで、メイドさんたちを見てるわけじゃないんですよ?いや、本当本当」

メイド「ご主人様?」

主人「いや、本当!本当だよ!?」

メイド「……なぜ、そんなお話を?」

145: 2012/02/23(木) 21:59:02.55 ID:hkfxXdRC0
主人「……友達がさ、言ってたんだけど」

メイド「……」

主人「相手のことを知りたかったら、まずは自分のことを分かってもらうのが、いいんだって」

メイド「……相手って、私のこと……ですか?」

主人「うん」

メイド「……」

主人「これは、その、やましい意味じゃないからね!何度も言うようだけど!」

メイド「……なんでですか」

主人「ん、……えーっと……」

メイド「……」

主人「……?なんでだろう……?」

146: 2012/02/23(木) 21:59:38.58 ID:hkfxXdRC0
メイド「……」

主人「ただ、キミがさ、僕の部屋に、サボりにきたりして」

メイド「……」

主人「で、一緒に煙草吸ってさ」

メイド「……ぅ」

主人「何か適当に話したり、いや、何も話さなくてもいいのかも……」

メイド「……うぅ」

主人「ただそれだけで、何の含みもないというか、そういう……何て言うの?」

メイド「……うぅぅ」

主人「……仲良し!そう、仲良しがいいな、って!」

147: 2012/02/23(木) 22:00:41.10 ID:hkfxXdRC0
主人「駄目かな……?」

メイド「……わ、私は……」

主人「……」

メイド「その……、えっと……」

主人「?」

メイド「……」ハッ

主人「メイドさん」

メイド「わ、分かりました……。そ、そ、そういうのが、ご主人様のやり口なんですね……」

主人「ヤリクチ?」

メイド「そんなお人好しの笑顔で、メイドをたらし込んで……」

主人「ちょっ……」

メイド「うっかり心を開いたら最後、あとはヤリたい放題……」

主人「ちょ、ちょ!」

148: 2012/02/23(木) 22:01:25.49 ID:hkfxXdRC0
主人「何か勘違いしてるみたいですけども!」

メイド「何をですか」

主人「メイドに手を出したことがあるのって、さっき話した初恋のヒトだけだから!」

メイド「……え」

主人「……いや、固まらないで。恥ずかしいから」

メイド「……?」

主人「後にも先にも、あれっきりです」

メイド「……」

主人「……」

149: 2012/02/23(木) 22:01:48.82 ID:hkfxXdRC0
メイド「……しょっちゅう、メイドをツマミ食いしてるのでは……」

主人「や、やめてよマジで!超人聞き悪い!」

メイド「……私の前任者にも、手をつけていたんじゃ……」

主人「キミの前任者って……」

メイド「……」

主人「70過ぎのおばあちゃんだったけど……」

メイド「……」

主人「……」

150: 2012/02/23(木) 22:02:20.57 ID:hkfxXdRC0
メイド「……」

主人「……」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……」

主人「……あの、大丈夫?頭痛い?」

メイド「……すみません」

主人「うん」

メイド「やっぱり、一服していいですか?」

主人「あ、うん。どうぞどうぞ」

161: 2012/02/26(日) 15:48:35.11 ID:ZaQBFkC40
シュボ


メイド「……」

主人「……」

メイド「……スー」

主人「……」

メイド「……」

主人「……」

メイド「はー……」

主人「……」

メイド「……」

主人「僕も」

162: 2012/02/26(日) 15:49:08.57 ID:ZaQBFkC40
メイド「……ご主人様は」

主人「ん?」スフー

メイド「……見境のない、だらしない、単なるスOベだったと思ってました」

主人「ひどい」

メイド「…………単なるメイドフェチでしたか」

主人「ひどい!!」

メイド「……」

主人「……」

主人(否定できないのが悲しい……)

メイド「それに」

163: 2012/02/26(日) 15:49:38.00 ID:ZaQBFkC40
主人「……」

メイド「仲良し、なんて」

主人「……う」

メイド「ガキじゃないんですから」

主人「そ、そう……?」

メイド「はい」

主人「そう言われると、超恥ずかしく……」

メイド「…………はじめて言われましたけど」ボソリ

主人「うぇ?」

メイド「いえ、別に」

164: 2012/02/26(日) 15:50:10.00 ID:ZaQBFkC40
主人「……」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……変な人ですね」

主人「そ……」

メイド「変です」

主人「そ、そんなに言わなくても……」

メイド「変」

主人「謝るから!もう変なこと言わないから!」

165: 2012/02/26(日) 15:50:51.48 ID:ZaQBFkC40
メイド「……仕事に戻ります」

主人「……うぅ」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……また」

主人「……」

メイド「きます」

主人「……あ」

メイド「失礼します」

主人「あ、ああ!うん!」

166: 2012/02/26(日) 15:51:58.92 ID:ZaQBFkC40
~屋敷:別室~


メイド「……」カタカタ

メイド「……」カタカタ

メイド「……」カタ

メイド「……」

先輩「はぁ~、お疲れ~」

メイド「……」

先輩「あら、アンタ何やってんの?」

メイド「……」カタカタ

167: 2012/02/26(日) 15:52:56.40 ID:ZaQBFkC40
先輩「またパソコン……、うぇ、英語だ~」

メイド「……ご主人様に代わって、メールを送っています」

先輩「アンタ英語もできるのぉ。何でもできるんだぁ~」

メイド「英文は、ご主人様が作ってます……」

先輩「ふぅ~ん……」

メイド「……」

先輩「……」

メイド「……」

先輩「……?」

168: 2012/02/26(日) 15:53:29.90 ID:ZaQBFkC40
メイド「あなた」

先輩「ふん?」

メイド「嘘つきですね」

先輩「んん~?あぁ、んっふふ。やだなぁ~」

メイド「……」

先輩「嘘じゃなくて、ウワサ」

メイド「……」

先輩「ふふっ、でも……ふぅん、そっかぁ~」

メイド「……なにか」

169: 2012/02/26(日) 15:54:10.64 ID:ZaQBFkC40
先輩「確認、したんでしょ~」

メイド「……」

先輩「ご主人様に」

メイド「……」カタカタ

先輩「ふっふっふ、そっかぁ」

メイド「……」カタ カタカタ

先輩「やっぱり、興味ないって言ってもねぇ~」

メイド「……あの」

先輩「んん?」

メイド「おっしゃりたいことが……、よく……」

170: 2012/02/26(日) 15:54:44.09 ID:ZaQBFkC40
先輩「べっつにぃ~?」

メイド「……」

先輩「たださぁ」

メイド「……はぁ」

先輩「あんまりご主人様と、馴れ馴れしくしないでほしいなぁ~、ってさ」

メイド「……」

先輩「や、結局はアンタの好きなんだけど」

メイド「……」

先輩「伝わる?」

メイド「……あの」

先輩「んん」

メイド「……仕事に戻りますので」

先輩「んっふふ、はいはい」

179: 2012/02/27(月) 23:18:30.69 ID:EEZ4MHHX0
~別の日:主人自室~


バサリ


主人「んー……」


バサリ


主人(新聞読むクセがついてしまった……)

主人(つまんない記事ばっかりだけど……)

主人「……んー」


コンコン


主人「ん?どうぞー」

メイド「……失礼します」

主人「やぁ」

180: 2012/02/27(月) 23:20:21.23 ID:EEZ4MHHX0
メイド「……ご主人様あてのメールを、プリントアウトしました」

主人「ん、ありがとうございます」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……」

主人「灰皿、使う?」

メイド「……ええ、それじゃ」

主人「あはは」

181: 2012/02/27(月) 23:20:55.78 ID:EEZ4MHHX0
シュボ


メイド「……新聞」

主人「ん?」

メイド「読まれるんですね……」

主人「ん、あぁ、まあね」

メイド「……」

主人「……コホン、やっぱりね、世の中の動きに目を光らせてないとね」


バサリ


主人「む」

メイド「……」

主人「むむむ」

メイド「はぁ」スフー

182: 2012/02/27(月) 23:21:36.62 ID:EEZ4MHHX0
メイド「……」

主人「んんんー……」

メイド「……こういうのがいいって人のもいるのか……」ボソリ

主人「……」

メイド「……」

主人「……やめたー」バサリ

メイド「……」

主人「あ、さっきなんか言った?」

メイド「いえ、別に」スフー

183: 2012/02/27(月) 23:23:43.53 ID:EEZ4MHHX0
主人「ふぁー……」スフー

メイド「それより……あの、」

主人「はい」

メイド「あの……、こういうこと聞くの、恥ずかしいのですが……」

主人「な、なんでしょう?」

メイド「……あの、な……」

主人「……な?」

メイド「……な、なかよしって、どういう、ものなんですか……?」

主人「んん?」

184: 2012/02/27(月) 23:24:27.23 ID:EEZ4MHHX0
メイド「……」

主人「んー……」

メイド「……」

主人「んん?」

メイド「……忘れてください、やっぱり」

主人「ああいや!待って待って!……ほら、仲良しってのは、こう……」

メイド「……」

主人「えっと、友情、というか?トモダチですよ、トモダチ」

185: 2012/02/27(月) 23:25:01.05 ID:EEZ4MHHX0
メイド「……えっと」

主人「だめ?」

メイド「……男性の友達が、いなくて……」

主人「あぁ」

メイド「具体的に何するか、ちょっとイメージが……」

主人「あぁー……」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……」

186: 2012/02/27(月) 23:25:24.34 ID:EEZ4MHHX0
主人「で、でもほら、TSする前と一緒だって!友達同士で何かしたり、とかは……」

メイド「……その頃も、人付き合いとか……あんまり……」

主人「……」

メイド「……」

主人(やっぱり人付き合い、苦手なんだ)

主人「……」

メイド「……やっぱり、って思いましたよね、今」

主人「お、思ってない!思ってない!」

187: 2012/02/27(月) 23:26:01.42 ID:EEZ4MHHX0
主人「……でも、具体的に何する、って言うと……、確かに難しいね」

メイド「肉体関係なら、まだ何とか……」

主人「や、やめてね」

メイド「はい」

主人「とりあえず」

メイド「……はぁ」

主人「遊び行こうか!」

メイド「……は?」

主人「……」

メイド「……」

主人「……よし!」

メイド「いえ、あの、私まだ就業時間中――……」

188: 2012/02/27(月) 23:26:35.21 ID:EEZ4MHHX0




メイド「失礼します、メイド長」

ばあや「はいはい」

メイド「ご主人様に買い物を頼まれましたので、少し外出します」

ばあや「はいはい」

メイド「経費申請は、後ほど致しますので」

ばあや「はいはい」

メイド「では、失礼しました」

ばあや「はーい」

189: 2012/02/27(月) 23:27:12.21 ID:EEZ4MHHX0




主人「ばあやー」

ばあや「はいはい」

主人「仕事ひと段落着いたから、ちょっと散歩行ってくるね」

ばあや「はいはい」

主人「夕方までには、帰るようにするから」

ばあや「はいはい」

主人「じゃ、行ってきまーす」

ばあや「はーい」

190: 2012/02/27(月) 23:28:06.19 ID:EEZ4MHHX0
ばあや「……」

ばあや「……」

ばあや「……」

ばあや「…………」

ばあや「………………んん?」

191: 2012/02/27(月) 23:28:59.30 ID:EEZ4MHHX0
~市街~


主人「大成功ー!」

メイド「……どこがですか」

主人「どしたの。暗い顔して」

メイド「生まれつきです……」

主人「あはは」

メイド「……下手したらクビなんですけど、私」

主人「あっはは、心配ないって。大丈夫大丈夫!」

メイド「……はぁ」

192: 2012/02/27(月) 23:29:50.71 ID:EEZ4MHHX0
メイド「……っていうか」

主人「ん」

メイド「『ご主人様の買い物と、そのお手伝い』とかで、良かったですよね。出てくる理由……」

主人「でも、別々にこっそり出てきた方が、脱出ミッションみたいでカッコいいじゃん」

メイド「スパイ映画の観すぎです」

主人「好きなんだよねー、スパイ大作戦」

メイド「はぁ」

主人「グッモーニン、ミスターフェルブス!」

メイド「似てないです」

主人「このテープは5分後に自動的に消滅する!」

メイド「微妙に長いですけど、5分後って」

193: 2012/02/27(月) 23:31:18.46 ID:EEZ4MHHX0
今日はここまでです

198: 2012/02/29(水) 00:12:20.61 ID:/qHTvY1r0
主人「さぁて」

メイド「……」

主人「どうしよっか、これから」

メイド「え」

主人「ん」

メイド「どうしよっか、って……」

主人「行きたいトコとかあるー?」

メイド「……いや、目的というか、何か、アテがあるから外出したんじゃ……?」

主人「全然?」

メイド「……」

主人「……」

199: 2012/02/29(水) 00:13:34.18 ID:/qHTvY1r0
メイド「……」

主人「……」

メイド「……何のために、外出したんですか」

主人「それは、」

メイド「……」

主人「今から考えます」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……」

主人「……あ、居酒屋行く?」

メイド「……お酒苦手です」

主人「そっかぁー」

200: 2012/02/29(水) 00:17:58.37 ID:/qHTvY1r0
~カフェ~


メイド「……ご主人様は」

主人「うん?」

メイド「計画性って、ご存知ですか」

主人「あはは」

メイド「……はぁ」

主人「でも、日中屋敷にこもってたら、なかなかこういうトコも来れないしね」

メイド「……いい、お店ですね」

主人「でしょ。個室だし、コーヒーも美味しいし」

メイド「……」

主人「煙草だって吸える」

メイド「なるほど」

201: 2012/02/29(水) 00:19:08.15 ID:/qHTvY1r0
シュボ


メイド「……ふー」

主人「最近は、どこのお店も禁煙ばっかりだからねぇ」

メイド「ですね……」

主人「ぁー……」

メイド「……」スフー

主人「……」

メイド「……」

主人「あ、ケーキ頼もう」

メイド「……」

202: 2012/02/29(水) 00:19:42.38 ID:/qHTvY1r0
主人「んー……、どうしよ」

メイド「……」

主人「……メイドさん、どれにする?」

メイド「……いえ、私は、別に」

主人「えぇー。何か頼みなよー、せっかくなんだしー」

メイド「別に、どれでも……」

主人「……」

メイド「……お任せします」

主人「んん……」

メイド「……」

主人「……どれでもは無しー」

203: 2012/02/29(水) 00:20:15.16 ID:/qHTvY1r0
メイド「そうですか……」

主人「……」

メイド「……ご主人様は、決まりましたか」

主人「ティラミスかなー」

メイド「……では、同じもので」

主人「うぉ、そうきたか」

メイド「……」

主人「なんか、ズルい」

メイド「……同じメニューを頼めば」

主人「うん」

メイド「……大抵、一緒に運ばれてくるので」

204: 2012/02/29(水) 00:21:04.87 ID:/qHTvY1r0
主人「うん」

メイド「片方だけ早く来て、もう片方が待たされることが、ありません……」

主人「おお」

メイド「……」スフー

主人「なるほど」

メイド「……」

主人「合理的です」

メイド「……」

主人「じゃ、コーヒーとティラミスふたつずつで」

メイド「っていうか、このメニュー全部時価なんですけど……」

主人「すみませーん」

205: 2012/02/29(水) 00:21:33.10 ID:/qHTvY1r0




店員「コーヒーデス」

主人「ありがとう」

店員「ゴユックリドゾ」

主人「はい、メイドさんの分」

メイド「どうも。……お砂糖とミルクは……」

主人「いいよ、僕のは自分で入れるから」

メイド「……そうですか」

主人「んー」チャプ チャプン

206: 2012/02/29(水) 00:22:29.87 ID:/qHTvY1r0
メイド「……」

主人「メイドさんはブラックなんだねー」チャプ チャプ

メイド「……ご主人様は」

主人「ん?」

メイド「……お酒も煙草もなさって……」

主人「……」

メイド「その上、糖分もそんなに……」

主人「……」

メイド「……」

207: 2012/02/29(水) 00:23:44.11 ID:/qHTvY1r0
主人「……」

メイド「……いえ、私は構いませんけど」

主人「……」

主人「……やっぱり、ヤバいかな」

メイド「さぁ」

主人「……」

メイド「……」

主人「メイドさぁん……」

メイド「はぁ」

主人「コーヒー換えてー」

メイド「どうぞ……」

主人「ありがとー」

208: 2012/02/29(水) 00:24:10.63 ID:/qHTvY1r0
メイド「……」

主人「……」ゴク コク

メイド「……」コク コク

主人「苦……っ!」

メイド「……甘」

217: 2012/03/02(金) 00:39:23.04 ID:Q8PhwBWX0
主人「苦ぁー」

メイド「……ケーキが来ましたよ、ご主人様」

主人「うん」

メイド「……」

主人「……」モグモグ

メイド「……」

主人「……」モグモグ

メイド「……」

主人「甘ぁー」

メイド「……」

218: 2012/03/02(金) 00:39:58.09 ID:Q8PhwBWX0
主人「食べないの?」

メイド「……いただきます」

主人「……」モグモグ

メイド「……」モグ

主人「……」

メイド「……」

主人「女の子は、みんな甘いもの好きだと思ってた……」

メイド「……食べ慣れなくて」

主人「そうかぁー」

メイド「すみません……」

主人「あはは、何で謝るの」

219: 2012/03/02(金) 00:40:43.79 ID:Q8PhwBWX0
メイド「……こういうところで」

主人「ん」

メイド「……ボロが出る気がします」

主人「ははは、そんな、ボロって」

メイド「……」

主人「……んー」モグモグ

メイド「……」

主人「メイドさん、せっかく可愛いんだから」

メイド「……」

主人「もっと、女の子を満喫したらいいのに」

220: 2012/03/02(金) 00:41:15.89 ID:Q8PhwBWX0
メイド「満喫……」

主人「そうそう」

メイド「……私には」

主人「……」

メイド「どうでしょう……」

主人「……」

メイド「……難しい、です」

主人「……」

メイド「……」モグモグ

221: 2012/03/02(金) 00:41:51.86 ID:Q8PhwBWX0
主人「……」モグモグ

メイド「あと」

主人「むぐ」

メイド「可愛いとか、言わないでください」

主人「……えぇー」

メイド「……」モグ

主人「……」

メイド「……」モグモグ

主人「美味しいね、ティラミス」

メイド「はい」

222: 2012/03/02(金) 00:42:25.46 ID:Q8PhwBWX0
主人「あ、ケーキと一緒なら、コーヒー平気――」

メイド「……ご主人様」

主人「はい?」

メイド「ほっぺ」

主人「?」

メイド「……じっとしててください」

主人「……」

メイド「……」ゴシゴシ

主人「んー……」

メイド「……」ゴシゴシ

主人「とれた?」

メイド「はい」

223: 2012/03/02(金) 00:43:37.47 ID:Q8PhwBWX0
~別の日:主人自室~


ザァァァァ


主人「ぁー……」

主人「雨、やまないなぁ……」

主人「……」

主人(……今日は、外行けないなぁ……)


ザァァァ…


主人「……」

主人「ぁー」

224: 2012/03/02(金) 00:44:25.13 ID:Q8PhwBWX0
ザァァァァ…


主人(……メイドさんは)

主人(……)

主人(身も心も、女だ、って言ってて……)

主人(……そうなんだろうな)

主人(……言われなきゃ、前は男だったなんて、全然分からない……)

主人(……)


ザァァァァ

225: 2012/03/02(金) 00:45:26.14 ID:Q8PhwBWX0
主人(……でも、)

主人(……何でだろう)



メイド『満喫……』

メイド『……私には』


メイド『……難しい、ですね』


主人(……)

主人(無表情で)

主人(……遠くを見ているみたいな、目)

主人(……)

主人(……)

226: 2012/03/02(金) 00:46:15.34 ID:Q8PhwBWX0
主人「……諦め、なんでしょうか」

メイド「何がです?」

主人「うっわぁぁ!?」ビクッ

メイド「……」ビクッ

主人「え?い、い……いつから?」

メイド「……つい、今さっき」

主人「び、びっくりしたぁ……」

メイド「申し訳ありません、ノックしたのですが、返事がなかったもので……」

主人「あ、いや。こっちこそごめん。考え事してて」

235: 2012/03/04(日) 15:21:30.14 ID:RlDRCCbo0
ザァァァァ


メイド「……」

主人「……」

メイド「……」シュボ

主人「……」

メイド「雨、」

主人「ん」

メイド「……よく降りますね」

主人「ねー」

メイド「……」スフー

主人「……」


ザァァァァァ

236: 2012/03/04(日) 15:22:24.35 ID:RlDRCCbo0
主人(メイドさんは)

主人(……ふたりでカフェに行った後も)

主人(よく、僕の部屋に来てくれて)

メイド「……」

主人「……」

主人(相変わらず、無気力そうな目つきだけど)

主人「……」

メイド「……」

主人(……とりあえず、嫌がってる、ってわけでも、なさそうで……)

メイド「何か?」

主人「や、何も何も」

237: 2012/03/04(日) 15:23:30.62 ID:RlDRCCbo0
ザアァァァ


メイド「……」

主人「……」

メイド「今日は、口数が少ないんですね」

主人「……ん?あはは、そう?」

メイド「いえ、何となく」

主人「……」

メイド「……」

主人「……雨の日は、気が滅入るというか」

メイド「あぁ」

主人「……」

メイド「……」

238: 2012/03/04(日) 15:24:31.32 ID:RlDRCCbo0
ザアァァァ


メイド「……」

主人「……アンニュイなご主人様とか、味でしょ?」

メイド「はぁ」

主人「な、生返事!」

メイド「……」

主人「……」

メイド「似合わないです」

主人「何で溜めてひどいこと言うの!」

メイド「ふふっ」

239: 2012/03/04(日) 15:25:25.52 ID:RlDRCCbo0
ザアァァァ


主人「……」

メイド「……」

主人「……?」

メイド「……」

主人「今笑った?」

メイド「……いいえ」

主人「嘘、ニヤリって感じじゃなくて、普通に、今」

メイド「笑ってないです」

主人「え、よく見てなかった、もう一回、もう一回見せて」

メイド「いやです」

主人「ほら、やっぱり笑ったんじゃん!ね、もう一回!」

メイド「面倒臭い……」

240: 2012/03/04(日) 15:25:52.94 ID:RlDRCCbo0
~別の日:某居酒屋~


主人「……――まぁ、最近はそんな感じで」

友「……」

主人「知れば知るほど、何考えてるのか分からない、っていうか」

友「……」

主人「……」

友「……」

主人「……なぁ、友はどう思――」

友「氏ね」

主人「何でぇー!?」

241: 2012/03/04(日) 15:27:02.21 ID:RlDRCCbo0
友「何いちゃいちゃしてんのお前ら」

主人「い、いちゃいちゃって……!」

友「こっちはノロケ聞くために酒飲みに来たわけじゃねーってのぉー」

主人「別に、ノロケてませんけど!」

友「あー、そうだな。はいはい」

主人「何だよもうー」

友「ほら、かんぱーい」

主人「かんぱーい」

友「お前とメイドさんに」

主人「……だから何なんだよー」


カチャン

242: 2012/03/04(日) 15:27:30.88 ID:RlDRCCbo0
友「……」ゴクゴク

主人「……」ゴクゴク

友「うめー」

主人「うめー」

友「何か頼む?」

主人「任せるー」ゴクゴク

友「んー……」

主人「……あ、塩辛食べたい」

友「はいはい」

243: 2012/03/04(日) 15:28:34.41 ID:RlDRCCbo0
主人「……」

友「……」

主人「メイドさんは」

友「おう」

主人「最近ちょっと、心開いてきてくれたみたいでー」

友「うっぜ」

主人「あはは。……でも、やっぱり、どこか」

友「……」

主人「……胸に、抱えてるものがあるというか」

友「……ふぅん」

244: 2012/03/04(日) 15:29:21.14 ID:RlDRCCbo0
主人「……」

友「……話を聞いた限りだと」

主人「ん」

友「自分が女だってことに、納得してないんじゃないかな、そのメイドさん」

主人「んー?」

友「……つまり、ね。TSして。それで考え方や感じ方も、一生懸命変えて、女になって」

主人「うん」

友「……それでも。性別に対する違和感、とか、何で?っていうのが残ったりさ」

主人「あー……」

友「……」ゴクゴク

主人(友さん……)

245: 2012/03/04(日) 15:30:22.44 ID:RlDRCCbo0
主人「いや、でも、何というか……」

友「おう」

主人「そういうのとは、また、違うような」

友「そう?」

主人「……何となく、だけど」

友「うーん……」

主人「……」ゴクゴク

友「……じゃ、たとえば」ゴクゴク

主人「ん」

友「女でいても、嬉しくない、とか」

主人「……」

246: 2012/03/04(日) 15:30:51.10 ID:RlDRCCbo0
主人「あー……、というと?」

友「女の喜びを知らない、っていうかさ」

主人「……」

友「……」

主人「……」

友「工口い意味じゃないぞ」

主人「わ、分かってますよ!な、何言ってんですかねまったく!」ゴクゴク

247: 2012/03/04(日) 15:33:09.52 ID:RlDRCCbo0
友「女でいることを、楽しめない。服も、化粧も、楽しくない。女向けの雑誌も、お店も」

主人「……」

友「だから自分が、女だって受け入れても、満足を感じない」

主人「でも、それなら、うん……」



メイド『満喫……』

メイド『……私には』


メイド『……難しい、です』



主人「分かる気が、する……」

友「……」

主人「……でも何で?」

友「俺が知るかよ」

248: 2012/03/04(日) 15:33:38.98 ID:RlDRCCbo0
主人「むむむ……」ゴクゴク

友「それより主人よ」

主人「ん?」

友「お前自身は、どうなんだよ」

主人「どうって……?」

友「好きなのか、そのメイドさんのこと」

主人「なっ……!好きって……そんな……!」

友「……」

主人「……どうだろう」

友「……」

主人「……分からない……」

249: 2012/03/04(日) 15:34:20.44 ID:RlDRCCbo0
友「……」

主人「でも」

友「……」

主人「そう、なのかな……」

友「はぁ……」

主人「分からない」

友「お前は何にも分からないんだなぁ」

主人「うるせー」

友「ま、いいけどよ、別に」

主人「……」

250: 2012/03/04(日) 15:35:49.59 ID:RlDRCCbo0
友「でも、真剣に考える気があるならよ」

主人「うん」

友「TS病のこと、ちゃんと考えてるのか?」

主人「んー。病気のことなんて気にしてないけど」

友「……」

主人「偏見は良くないって友も言ったしね」

友「そうじゃなくてさぁ」

主人「……」

友「……」

主人「……?」

友「……お前」

251: 2012/03/04(日) 15:37:08.17 ID:RlDRCCbo0
主人「うん」

友「……TS病がどうやって感染するか、知ってるのか?」

主人「えぇ?」

友「……」

主人「あー……」

友「……」

主人「知らない。教えて?」

友「……」

主人「なぁ、友ー」

友「じ、自分で調べろ」

主人「冷たいー」

友「うっさい、自分の問題になるんだから、それくらい自分でやれ!」ゴクゴク

主人「友さんが冷たいよー……」ゴクゴク

257: 2012/03/04(日) 21:22:15.81 ID:RlDRCCbo0
~別の日:主人自室~


メイド「……パソコン、ですか?」

主人「うん。メイドさん、得意でしょ?」

メイド「得意というか、使える程度ですが……。私がご主人様に、教えればよろしいので?」

主人「うん」

メイド「はぁ」

主人「駄目?」

メイド「いえ、構いません……」

主人「よかったー」

メイド「それで……、どういったことを、お教えすれば?」

主人「んー、っと、調べ物。インターネット?が使いたくて」

メイド「分かりました」

258: 2012/03/04(日) 21:23:22.92 ID:RlDRCCbo0




メイド「ノートパソコンです」

主人「はー……」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……椅子に、おかけになってください」

主人「え、僕が?」

メイド「それはそうでしょう」

主人「うん……、よし、よーし……」ガタリ

メイド「…………あの、ご主人様」

主人「うん?」

259: 2012/03/04(日) 21:24:32.22 ID:RlDRCCbo0
メイド「……パソコンを触ったことって」

主人「生まれてはじめてです」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……。……言ってくだされば、調べ物くらいメイドがやりますが……」

主人「いや、自分の問題らしいからね。自分で調べないとらしいんですよ」

メイド「はぁ。らしいって……」

主人「友達が言ってた」

メイド「……そうですか」

主人「……よーし」

260: 2012/03/04(日) 21:25:30.55 ID:RlDRCCbo0
メイド「……友達の方と」

主人「うん」

メイド「ずいぶん、仲がよろしいんですね」

主人「あはは、まぁ、友達だからねー」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……」

主人「……?」

メイド「……では、まずこのボタンを押していただいて」

主人「あ、うん。インターネットのボタン?」

メイド「電源です」

261: 2012/03/04(日) 21:26:05.40 ID:RlDRCCbo0
カタッ


ブゥゥゥゥン


主人「……」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……」


テンテンテーン テテーン♪


主人「」ビクッ

メイド「……」

主人「……め、メイドさん……」

メイド「はい?」

主人「……ご、ごめんなさい……、壊れた……」

メイド「通常起動です。大丈夫です」

262: 2012/03/04(日) 21:30:47.14 ID:RlDRCCbo0




メイド「ここに、矢印を合わせて……」

主人「インターネット、エクスプローラー」

メイド「マウスのここを二回押して……」

主人(う、うわ……)

主人(メイドさん……、顔……近い……!)

主人「うー……」カチカチカチカチカチ

メイド「押しすぎです」

主人(……やばい)

主人(何かいいにおいする)

メイド「……どうされました?具合が悪そうですが……」

主人「ぱ、パソコン触ってたら、何か熱が……」

メイド「……パソコンアレルギー?」

271: 2012/03/07(水) 00:45:32.72 ID:PUH8oFnn0
メイド「で、……これが、グーグル検索で……」

主人「……」

メイド「……聞いてますか」

主人「えっ?ああ、聞いてる、聞いてる!ぐーぐるね、うん」

メイド「……はぁ。……ここに、調べたい言葉を入れます」

主人「んー」カタ

メイド「……」

主人「……しゅ、……じ、……ん」カタ カタ

メイド「……何で自分の名前を調べるんですか」

主人「あ、だ、駄目!?」

メイド「いえ、気持ちは分かりますが……」

272: 2012/03/07(水) 00:47:01.87 ID:PUH8oFnn0




主人「何となく分かってきた」

メイド「……まぁ、あとはお使いのうちに、慣れると思います」

主人「うん。ありがとね、メイドさん」

メイド「いえ。……では、私はこれで」

主人「え?一服くらいしていけばいいのに」

メイド「……まだ仕事が、残ってますので」

主人「ありゃ……。ごめんね、余計な時間とらせちゃって」

メイド「……気に、なさらないでください」

主人「ありがとう」

メイド「……では」

273: 2012/03/07(水) 00:47:30.93 ID:PUH8oFnn0
主人「またきてね」

メイド「はい。……あ、パソコン……、まだ使いますか」

主人「あー……、借りていい?」

メイド「……では、後日また、取りに来ます」

主人「うん」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……それと」

主人「うん?」

274: 2012/03/07(水) 00:48:19.55 ID:PUH8oFnn0
メイド「エOチなサイトは、自重してくださいね」

主人「あはは、やだなぁ。見ないよそんなのー」

メイド「……調べれば、見たかどうかすぐ分かりますので……」

主人「……え、マジで?」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……はぁ」

主人「じょ、冗談だって!」

275: 2012/03/07(水) 00:49:12.36 ID:PUH8oFnn0
ガチャ


主人「……ふー」

主人「……」

主人「……」シュボ

主人「……」

主人「……」スフー

主人「……何見たか、ばれるのか」

主人「……パソコンおっかない」

276: 2012/03/07(水) 00:50:35.42 ID:PUH8oFnn0
主人「……とりあえず、っと……」カタ カタカタ


”TS病 感染”


カチッ


主人「……あー」

主人「何かいっぱい出てきたぁー……」


『TS病基礎講座3 ~感染経路について~』


主人「……うーん」

主人「……」

主人「……」カチカチ

主人「……」

277: 2012/03/07(水) 00:53:26.87 ID:PUH8oFnn0
主人「んー……」

主人「よく分かんない」

主人「もっと何か……」カタ


『これらの行為では、TS病感染のリスクは、ほぼありません!

・せき、くしゃみ
・食べ物を分け合う
・抱き合う
・キス
・共同浴場
・トイレ

などなど……』


主人「ふぅん……」カタ

主人「それから……」カタ


『TS病の主な感染ルートは、性行為感染です!』


主人「……」

主人「……んん?」

278: 2012/03/07(水) 00:55:37.93 ID:PUH8oFnn0
『TSウィルスは、感染者のO液(男性の場合)・分泌液(女性の場合)に高い濃度で含まれます』


『TSウィルス感染者とのによって、粘膜を通して体内に入り込む可能性があります』


『また、傷がある場合、感染のリスクが高まり――』


主人「……」

主人「……」

主人「……あぁ」

主人(……それで教えてくれなかったんだな、友のヤツ……)

主人「……」

主人「……まぁ、でも」

主人(言いづらい、のかな)

279: 2012/03/07(水) 00:56:06.24 ID:PUH8oFnn0
『感染率は高く――』

『――発症のおそれは――』

『――未解明の点が――』『――予防は困難――』『――まずは検査――』


主人「……あ」

主人「っていうか、メイドさんも……」

主人「……」

主人「……」

主人(メイドさんの……)

主人(……セッ)

主人「……」

主人「……」

280: 2012/03/07(水) 00:57:38.33 ID:PUH8oFnn0
主人「あ、あはは、落ち着け僕……」シュボ

主人「……」

主人「……」スフー

主人(……い、いかん)

主人(……妄想とか、何か、あの、膨らんで……)

主人「そ、そもそも感染したときは、メイドさん男だったでしょうに!」

主人「何考えてるんですかね、僕は!」

主人「……」

主人(メイドさんの胸……、大きい……)

主人(メイドさんの首……、白くて、細い……)

281: 2012/03/07(水) 00:58:12.11 ID:PUH8oFnn0
主人(メイドさんの、薄くて、小さめな、唇……)

主人(唇……)

主人(唇……の、感触……)



『ん……んぅ……は』


『ふ、ぁ』ギュ



主人「……」

主人「……ま、マジで童Oか僕は……」

主人(でも、無理矢理キスされたときの、あの感触は……、本当にすごく……)

主人「……」

主人「……あ」

282: 2012/03/07(水) 00:59:31.25 ID:PUH8oFnn0
主人「……そっか、あのとき……」

主人「メイドさんは、そういうこと、しようとしていて……」

主人「……」

主人「……つまり、僕に感染しても、構わないって、思ってたわけで……」

主人「…………うーん」

主人「……」カタ


『パートナーと一緒に、TS病の理解を深めるとともに』


『パートナー同士、お互いの理解も深めていくことが大切です!』


主人「『理解』……」

主人「……パートナー、かぁ……」

284: 2012/03/07(水) 01:00:55.15 ID:PUH8oFnn0
~屋敷:別室~


ガチャ


メイド「失礼します」

先輩「あ~、お疲れぇ~」

メイド「…………どうも」

先輩「んっふふ、どうも~。……あれ、今日は、パソコン持ってないんだ」

メイド「……はぁ。ご主人様に、お貸ししたので……」

先輩「……ふぅん。……そう~」

メイド「……」

先輩「っていうか、ご主人様パソコンできないじゃん」

285: 2012/03/07(水) 01:01:41.89 ID:PUH8oFnn0
メイド「……先ほど、少し教えまして……」

先輩「……アンタが?」

メイド「はぁ、まぁ」

先輩「……あ、そお~。ふぅん……」

メイド「……」

先輩「そっかぁ~……」

メイド「……」

先輩「……」

メイド「……」

286: 2012/03/07(水) 01:02:30.15 ID:PUH8oFnn0
先輩「……アンタさぁ」

メイド「はぁ」

先輩「この間、私が言ったこと、よく分かってなかった?」

メイド「……確か、結局はアンタの好き、と」

先輩「……いや、そうは言ってもさぁ~、ほら、周りがどう思ってるか?とか、ちゃんと考えないといえないわけじゃん~」

メイド「……」

先輩「だからさ、私の言葉もね、受け止めてほしいわけ~」

メイド「……」

287: 2012/03/07(水) 01:03:01.30 ID:PUH8oFnn0
先輩「ね?アンタだって、自分で考えて動ける子なんだから……」

メイド「私は」

先輩「……」

メイド「自分の考えで、ご主人様のところにお邪魔していますので」

先輩「……ふぅん」

メイド「それについて、周りからとやかく言われたこともありません」

先輩「いつもみたいに、『興味ない』とか『どうでもいい』って、言わないんだぁ……」

メイド「……あなたは……、少し、迂遠です」

先輩「ウエン?」

メイド「回りくどい、です」

先輩「あぁ……ふっふふ」

288: 2012/03/07(水) 01:04:03.79 ID:PUH8oFnn0
メイド「言いたいことがあるなら……」

先輩「もう、分かってるくせに」

メイド「……さぁ。はっきりおっしゃっていただかないと……、分かりかねます」

先輩「あっそぉ……、もう……。じゃあはっきり言うけどさぁ~」

メイド「……」

先輩「私さぁ」

メイド「……」

先輩「ご主人様に、アンタのこと渡したくないの」

メイド「……」

先輩「……」

メイド「……?」

先輩「きゃっ、言っちゃったっ」

289: 2012/03/07(水) 01:05:29.41 ID:PUH8oFnn0
メイド「……」

先輩「……」

メイド「…………私に、ご主人様を?渡したくない?」

先輩「ん~っふふ~、もう、逆~!」

メイド「……え?」

先輩「……ん?」

メイド「……えぇ?」

先輩「もう、分かってたくせに、わざわざ言わせるんだからぁ。でもそういう意地悪なところ、キュンって――」

メイド「……あ、えっと、あぁ、あの」

先輩「ん?」

メイド「……定時なんで、今日はあがります」ガタッ

先輩「やだもう、ちょっとぉ~!」

メイド「失礼します」

先輩「ちょっともぉ、ひどくない!?あ、でもそういう可愛くないところも可愛――」


バタン

304: 2012/03/08(木) 22:20:58.03 ID:QGIFtT9To
感染経路がHIVみたいだな

305: 2012/03/08(木) 23:57:34.35 ID:uVBuQtN60
~別の日:屋敷廊下~


メイド「……」テクテク

メイド「……」テク

メイド「……」

ばあや「あら、メイドちゃん」

メイド「……」ペコリ

ばあや「坊ちゃんのところで、一服かい?」

メイド「あー…………、えっと、その」

ばあや「……ついでにこれ、持っていって頂戴な」

メイド「……お菓子、ですか?」

ばあや「焼きチョコだそうよ」

306: 2012/03/08(木) 23:58:12.14 ID:uVBuQtN60
メイド「あの」

ばあや「はいはい?」

メイド「ちょっと……、多くありませんか、これ」

ばあや「ああ、いいのいいの。いいのよ」

メイド「……?」

ばあや「ま、お願いしますよ」

メイド「えっと……、分かりました」

ばあや「……」

メイド「それでは」

ばあや「あ、そうそう、メイドちゃん」

メイド「はい……?」

307: 2012/03/08(木) 23:59:41.87 ID:uVBuQtN60
ばあや「あなた、最近雰囲気変わったかしらね?」

メイド「……?……そう、ですか?」

ばあや「いやぁ、何となくだけど」

メイド「自分では、分かりませんが……」

ばあや「前なら『ちょっと多くないか?』なんて、興味も持たなそうな感じだったけどねぇ」

メイド「……あー」

ばあや「……いえね、ババの勝手な世間話よ。気にしないで頂戴な」

メイド「……」

ばあや「じゃ、頼みましたからね」

メイド「かしこまりました……」

308: 2012/03/09(金) 00:01:54.20 ID:HnDgl8tQ0
~主人自室~


コンコン


主人「はーい、開いてますよ」


ガチャリ


メイド「失礼します」

主人「ああ、メイドさん、いらっしゃい」

メイド「……お茶を、お持ちしました」

主人「ありがとー」

メイド「それと……」

主人「あ、チョコだ」

メイド「焼きチョコだそうです」

309: 2012/03/09(金) 00:02:46.44 ID:HnDgl8tQ0
主人「ありがとね」

メイド「いえ、メイド長から、です」

主人「そっかぁ……。はい、メイドさんも」

メイド「え」

主人「これ、絶対一人で食べきれないから。ちょっともらって?」

メイド「……」

主人「あ、そっか。甘いもの、苦手なんだっけ?」

メイド「いえ……、いただきます」

主人「んー」モグモグ

メイド「……」モグモグ

主人「美味しい」

メイド「はい」

310: 2012/03/09(金) 00:03:31.61 ID:HnDgl8tQ0
主人「コーヒーによく合う……」

メイド「……砂糖、入れないんですね」

主人「ん?あぁ、うん」

メイド「……珍しい」

主人「まあ、あれです」

メイド「……」パク

主人「健康志向」

メイド「はぁ……」モグモグ

311: 2012/03/09(金) 00:04:21.14 ID:HnDgl8tQ0
主人「……」ズズ

メイド「……」

主人「……苦い」

メイド「あの」

主人「ん?」

メイド「先輩メイドさんって……」

主人「あぁ、うん」

メイド「どういう方、なんですか?」

主人「んん?そうだねー。えーっと……、僕もあんまり、話したことないんだけど……」

メイド「……」

主人「あ、そうそう!採用面接のとき、『メイドが大好きです』って言ってて」

メイド「……あー」

主人「きっと、職業意識がすごく高い人なんだと思うよー!」

メイド「多分、違う意味だと思います……」

312: 2012/03/09(金) 00:04:53.16 ID:HnDgl8tQ0
シュボ


メイド「……」スフー

主人「……」スフー

メイド「……」

主人「焼きチョコ、美味しいもんだねぇ」

メイド「そうですね」

主人「甘いの、嫌じゃなかった?」

メイド「……このチョコは、美味しかったです」

主人「あはは、よかった」

313: 2012/03/09(金) 00:05:19.78 ID:HnDgl8tQ0
メイド「……」スフー

主人「……」スフー

メイド「……パソコンは」

主人「うん?」

メイド「もう、よろしいですか?」

主人「ああ、そうだね。ありがとう」

メイド「いえ」

主人「ってか、パソコン超便利だねー。本格的に勉強しようかなー……」

メイド「いいと思いますよ」

主人「だよねー。……メイドさん、また教えて?今度はメールとか、エクセルとか」

メイド「……ええ。構いません」

314: 2012/03/09(金) 00:05:57.04 ID:HnDgl8tQ0
主人「……」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……」

主人「……調べ物ってさ」

メイド「……はい?」

主人「パソコンで、僕、調べてたのって」

メイド「……」

主人「……TS病の、ことでさ」

メイド「…………はい」

321: 2012/03/10(土) 00:29:09.68 ID:moTNZs4j0
主人「僕、TS病がどうやって感染するのかも知らなくてさ」

メイド「……」

主人「でも、多分、知っとかなきゃいけないんだって……」

メイド「……えぇ……、私の感染も……」

主人「違うの!待って待って」

メイド「……?」

主人「そうじゃなくて!メイドさんのプライバシーを、どうこう言いたいわけじゃなくてさ!」

メイド「……でしたら……?」

主人「僕が言いたいのは……」



『パートナーと一緒に、TS病の理解を深めるとともに』


『パートナー同士、お互いの理解も深めていくことが大切です!』



主人「……えへへ」

メイド「……?」

322: 2012/03/10(土) 00:29:46.34 ID:moTNZs4j0
主人「……じゃなくて。えっと……あ、そ、そう!」

メイド「はい」

主人「前に、あの……メイドさんが、僕を押し倒そうとしたとき」

メイド「押し倒すって……」

主人「し、したじゃん!」

メイド「あの時は、合意の上かと……」

主人「と、とにかく!あのとき……」

メイド「……」

主人「……あのとき、メイドさんは……」

メイド「……えぇ」

323: 2012/03/10(土) 00:31:06.92 ID:moTNZs4j0
主人「……」

メイド「……ウィルスが、ご主人様に感染しても構わない、って……いや」

主人「……」

メイド「……感染して、発症すればいいって」

主人「……うん」

メイド「……思ってました」

主人「うん」

メイド「……ごめんなさい」

主人「あ、いや!あのときは僕も、ちょっと嬉しかったし!」

メイド「え」

主人「あああ、いやいや、そ、そういうことじゃなくてぇ!」

メイド「……落ち着いてください」

324: 2012/03/10(土) 00:31:34.31 ID:moTNZs4j0
主人「……」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……」

主人「でも、ああいうことで、メイドさんが」

メイド「……」

主人「自分のことを……ええと……、粗末?ぞんざい……?」

メイド「……」

主人「投げやり……、そう、投げやり!」

メイド「……」

325: 2012/03/10(土) 00:32:03.86 ID:moTNZs4j0
主人「メイドさん自身の、『女性』ってところをさ」

メイド「……」

主人「メイドさん自身が、投げやりに扱うのは」

メイド「……」

主人「……ちょっと、悲しいです」

メイド「……どうして」

主人「……いや、僕は……、女の子なキミが、すごく好きだし……」

メイド「……!」

326: 2012/03/10(土) 00:32:39.14 ID:moTNZs4j0
主人「キミは、自分が女だってこと、嫌だっていうか……、満足してないかも、しれないけど」

メイド「……う」

主人「メイドさんが女の人じゃなければ、僕とは出会えてなかったわけだから……」

メイド「……あ、ぅ……」

主人「キミが女の子で、嬉しいし」

メイド「……!」

主人「だから、やっぱり自分を大事にしてほしいと思う――……」

メイド「……」

主人「……って、メイドさん?」

メイド「……す、すみません。そんな風に……」

主人「……」

327: 2012/03/10(土) 00:33:26.77 ID:moTNZs4j0
メイド「そんな風に、言われたの……、はじめてで」

主人「そ、そう?」

メイド「……っていうか、今……好きって……」

主人「え?あ……、あ!」

メイド「……」

主人「……えっと、今のは……!その……!」

メイド「……」

主人「……ごめん、嫌だったよね……!」

メイド「……嫌じゃない」

主人「……え」

328: 2012/03/10(土) 00:33:54.20 ID:moTNZs4j0
メイド「え」

主人「あ」

メイド「あ……」

主人「……」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……」

主人「……」

329: 2012/03/10(土) 00:35:22.87 ID:moTNZs4j0
メイド「……あの」

主人「あ!明日さ!」

メイド「……」

主人「また、どこか遊びいこうよ!二人で外にさ!」

メイド「……え、え。はい。構いません。はい……」

主人「……よ、よかった。うん」

メイド「はい。えっと、それでは……また明日……」

主人「は、はい。それでは!」

メイド「……失礼します」


ガチャリ


バタン


主人「ぁー……」

330: 2012/03/10(土) 00:35:49.06 ID:moTNZs4j0
主人「……」

主人「……」

主人「………」

主人「……え、あれ、これ……」



『パートナー同士、お互いの理解も深めていくことが大切です!』



主人「パートナー……」

主人「ぱ、パートナー……!」

331: 2012/03/10(土) 00:36:20.39 ID:moTNZs4j0
~屋敷:別室~


メイド「……」ボー

メイド「……」



主人『キミが女の子で、嬉しいし』


主人『だから、やっぱり自分を大事にしてほしいと思う――……』



メイド(私は……)

メイド(私が女の子で、嬉しい……?)

メイド(……そんな風に、思われて……)


メイド「……」ボー

メイド「……」


メイド(……嫌じゃない)

332: 2012/03/10(土) 00:36:54.50 ID:moTNZs4j0
ガチャリ


先輩「はぁ~、おつか……、あぁ!」

メイド「……」ボー

先輩「やっほ~、はろぉ~!」

メイド「……!」ビクッ

先輩「んっふふ~、何よぉ、そんなに警戒しなくても~」

メイド「……お疲れ様です」

先輩「露骨に距離置くのやめてぇ、傷つくぅ」

333: 2012/03/10(土) 00:37:25.18 ID:moTNZs4j0
メイド「……」

先輩「それで、どぉ?準備できた?」

メイド「……準備、ですか?」

先輩「私のハァトを、受け入れる準備~」

メイド「謹んで、お断りします」

先輩「もう~、……でもそういうつれないところがいいの~」

メイド「……」

先輩「……じゃ、ご主人様の気持ちを受け入れる準備は?」

メイド「え」

334: 2012/03/10(土) 00:38:20.74 ID:moTNZs4j0
先輩「知ってるんだからぁ~。何か、アプローチされてたでしょぉ~」

メイド「……い、いえ、あれは……、そういうのでは……」

先輩「……あ、やっぱり何か言われてたんだ」

メイド「……」

先輩「そっかぁ~」

メイド「……」

先輩「……んっふっふふ~」

メイド「う、嘘つき……」

先輩「やだなぁ、嘘じゃなくて、カマかけ~」

メイド「……」

335: 2012/03/10(土) 00:39:06.35 ID:moTNZs4j0
先輩「……で、どうなの?実際」

メイド「……」

先輩「ご主人様との関係」

メイド「……私は、……でも……」

先輩「……」

メイド「……どうしたら、いいのか……」

先輩「……」

メイド「……はじめて、なので」

先輩「なによぉ~、私のときはアッサリ突っぱねたくせにぃ。妬けるわぁ~!むぅぅ~!」

メイド「……」

336: 2012/03/10(土) 00:39:40.61 ID:moTNZs4j0
先輩「……でも、アンタさ」

メイド「……」

先輩「最近、あれ言わなくなったよね。『別に』とか、『興味ない』とか」

メイド「……そう、でしょうか」

先輩「んふふ、そうよぉ。アンタのことガッツリ見てるんだから、私」

メイド「見ないでください」

メイド(……でも)

メイド(……メイド長にも、同じようなことを言われた気がする……)

先輩「自分の中で、何か変化があったんじゃない?」

メイド「……」

337: 2012/03/10(土) 00:40:07.96 ID:moTNZs4j0
先輩「そうやって、自分が変わっていくときは」

メイド「……」

先輩「そんときの気持ちに素直になるのが、一番だと思うなぁ~」

メイド「……」

先輩「私はね~」

メイド「……ありがとう、ございます」

先輩「……んふふ、ねぇ」

メイド「……」

先輩「ちゅーしていい?」

メイド「やめてください」

先輩「なでていい?」

メイド「……やめてください」

先輩「なでなで」

メイド「……」

351: 2012/03/11(日) 01:18:06.94 ID:ejQhEqj30
~別の日~





メイド「失礼します」

ばあや「はいはい」

メイド「ご主人様に買い物を頼まれましたので、少し外出を……」

ばあや「はいはい」

メイド「経費申請は、戻ってからしますので」

ばあや「はいはい」

メイド「では、失礼しました」

ばあや「はいはーい」

352: 2012/03/11(日) 01:18:45.62 ID:ejQhEqj30




主人「ばあやー」

ばあや「はいはい」

主人「ちょっと散歩行ってくるねー」

ばあや「はいはい」

主人「遅くならないから、夕飯は用意しといてー」

ばあや「はいはい」

主人「じゃ、行ってきまーす」

ばあや「はーい」

353: 2012/03/11(日) 01:19:21.65 ID:ejQhEqj30




ばあや「……」

ばあや「……」

ばあや「……」

ばあや「………」

ばあや「………まったく」

354: 2012/03/11(日) 01:19:51.60 ID:ejQhEqj30
~市街~


主人「……よし!」

メイド「何がよしなんですか……」

主人「どこに行こうかー」

メイド「だから、計画性……」

主人「メイドさん、行きたいところある?」

メイド「……うーん」

主人「とりあえず、お茶しながら考えようか」

メイド「はい」

356: 2012/03/11(日) 01:20:22.60 ID:ejQhEqj30
~カフェ~


メイド「このお店、二回目ですね」

主人「本当は色々開拓したいんだけどさー」

メイド「……」

主人「ここよりいいトコ、あんまりないんだよね、この界隈」

メイド「いえ、私も好きですし、このお店……」

主人「あはは、よかった」

メイド「……灰皿、いいですか」

主人「ん、はい」

357: 2012/03/11(日) 01:21:35.26 ID:ejQhEqj30
シュボ


メイド「……」

主人「……」

メイド「……」スフー

主人「……」スフー

メイド「……」

主人「……そういえば、」

メイド「はい」

主人「何でメイドさん、私服なの?前に来たときにも、そうだったけど」

メイド「……メイド服で出歩く勇気はないです」

主人「えぇー、いいと思うけどなぁ」

358: 2012/03/11(日) 01:22:11.85 ID:ejQhEqj30
メイド「……メイド服で『ご主人様』と歩いてたら」

主人「うん」

メイド「……なんか、変なプレイみたいになります」

主人「あはは、確かに」

メイド「……」スフー

主人「まぁ、でも、私服も可愛いからいいんだけど」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……わざと言ってます?」

主人「うん」

359: 2012/03/11(日) 01:22:39.95 ID:ejQhEqj30
主人「なんか頼もうか」

メイド「……」

主人「メイドさん、どうする?」

メイド「……ご主人様と、同じものを」

主人「……んー……」

メイド「……」

主人「今回は、『同じもの』はナシでー」

メイド「え……」

主人「メイドさんの好きなものを頼んでください」

メイド「えぇー……」

360: 2012/03/11(日) 01:23:45.72 ID:ejQhEqj30
メイド「……では」

主人「……」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……ガトー……」

主人「ガトー・ショコラ?」

メイド「……待ってください」

主人「……」

メイド「……」

361: 2012/03/11(日) 01:24:21.35 ID:ejQhEqj30
主人「……」

メイド「ティラミス……」

主人「……」

メイド「……いや、ガトー・ショコラ……」

主人「……」

メイド「……ガトー・ショコラにします」

主人「じゃ、僕ティラミスにしよう」

メイド「……え?ま、待って」

主人「あはは」

メイド「……」

362: 2012/03/11(日) 01:27:53.77 ID:ejQhEqj30
メイド「ティラミスにしました」

主人「じゃ、僕ガトー・ショコラ」

メイド「……」

主人「……あ、半分こする?」

メイド「いえ、結構です……」

主人「そっかぁ」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……やっぱり、一口ください」

主人「うん」

363: 2012/03/11(日) 01:28:48.15 ID:ejQhEqj30




店員「ゴ注文ハ以上デオ揃イデショカ」

メイド「はい」

主人「はいー」

店員「ゴユックリドゾ」

メイド「……」

主人「でも、意外だなー」

メイド「……何がですか」

主人「メイドさん、意外と優柔不断なんだ、って」

メイド「……面白がってますよね」

主人「あはは、いやいや」

メイド「……意地悪」

364: 2012/03/11(日) 01:29:16.67 ID:ejQhEqj30
主人「でも、何か嬉しいかも」

メイド「……はい?」

主人「またメイドさんのこと、分かれた気がして」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……」

主人「……ね、メイドさん」

メイド「……はい」

主人「昨日は、言えなかったけど……」

メイド「……」

365: 2012/03/11(日) 01:30:37.78 ID:ejQhEqj30
主人「……僕は、」

メイド「……」

主人「少しでも、キミのことが理解できたら、嬉しいと思う」

メイド「……」

主人「キミと、一緒にいたいって、前よりも、そう思うし……」

メイド「……」

主人「それは、その……つまり……」

メイド「……」

主人「仲良しって、だけじゃなくて……」

メイド「……」

主人「パートナーとして」

366: 2012/03/11(日) 01:31:27.80 ID:ejQhEqj30
メイド「……こ、ここで、言いますか、それを」

主人「あ、いや……あはは」

メイド「……ムードとかって、ものが」

主人「……はは、申し訳ない……」

メイド「ご主人様、らしいですけど」

主人「……」

メイド「……でも、私に」

主人「……」

メイド「私なんかに……」

主人「『なんか』なんて」

メイド「……」

主人「僕はキミに、自分のこと大事にしてほしいって、思ってる」

メイド「……でも」

367: 2012/03/11(日) 01:31:56.87 ID:ejQhEqj30
メイド「……でも、その……私は」

主人「……」

メイド「ご主人様のことは……」

主人「……」

メイド「ぱ、パートナーにって、言われて、嬉しいですし……」

主人「え……」

メイド「……私も、ご主人様となら、一緒にって……」

主人「……え、それって」

メイド「でも……」

368: 2012/03/11(日) 01:32:29.30 ID:ejQhEqj30
主人「……」

メイド「こんなこと……、女になってから、はじめてで……」

主人「……うん」

メイド「ど、どうしたら、いいのか」

主人「うん」

メイド「分からなくて」

主人「……答えなんて、今すぐ出さなくて、いいから」

メイド「あ……」

主人「メイドさんが、色々抱えているっていうのは、僕も分かるから」

メイド「……」

369: 2012/03/11(日) 01:33:43.27 ID:ejQhEqj30
主人「……」

メイド「……私が」

主人「……うん」

メイド「ご主人様の気持ちに、心から答えられるように、なるまで……」

主人「……うん」

メイド「……それまで待ってて、もらえますか……?」

主人「もちろん」

メイド「それまでは……」

主人「それまでは、今までどおり、仲良し」

メイド「……」コクリ

370: 2012/03/11(日) 01:34:18.88 ID:ejQhEqj30
主人「……」

メイド「……」

主人「……ケーキ」

メイド「……」

主人「食べよっか」

メイド「はい」

主人「……」モグモグ

メイド「……」モグ

主人「美味しい」

メイド「……ご主人様」

主人「……ん?」

メイド「……ありがとう」

371: 2012/03/11(日) 01:35:50.58 ID:ejQhEqj30
~市街~


主人「美味しかったねー」

メイド「はい」

主人「んー……っ」グイー

メイド「……」

主人「……っと、次どこ行こうか」

メイド「っていうか、あんまり長く出歩くのは、ちょっと……」

主人「あ、本屋ちょっと寄っていい?」

メイド「聞いてないですね」

372: 2012/03/11(日) 01:36:57.86 ID:ejQhEqj30
主人「毎月買ってる雑誌があるんだけどさー」

メイド「はぁ……、……、……」

主人「ちょっと先の本屋にしか入らなくて……、って、メイドさ――……」

メイド「……」ギュ

主人「あ、あはは、きゅ、急に腕なんか組んできて、どうしたの」

メイド「……」ギュウウウ

主人「う、わ……ちょ、ちょっと……!」

主人(そんなに強く、腕からめたら……!)

主人(メイドさん体が……暖かい……)

主人(……っていうか、む、胸が、胸が……!)

主人「……め、メイドさん!?」

メイド「……早く」

主人「え?」

373: 2012/03/11(日) 01:37:50.56 ID:ejQhEqj30
メイド「……早く行きましょう」

主人「……?」

メイド「……」ブルブル

主人「メイドさ――……」


「あーっ!!ちょっと!アンタ!」


主人「ん?」

メイド「お、お……お願い、ご主人様、は、早く」ブルブル

主人「うわっ……、ちょ、ちょっとメイドさん、どうしたの!」



「ちょっとー!こら、ちょっと!待ちなさいよーっ!!」

374: 2012/03/11(日) 01:38:18.24 ID:ejQhEqj30
主人「な、何だ……?」

メイド「っ!」ダッ

主人「うわっ、ちょ、メイドさん!どこ行くの!」


女「ちょ、ちょっと!逃げんな!待ちなさいよ男ー!」


主人「えっ」

女「えっ」


ドシン!


主人「わっ……!」

女「きゃっ!」

375: 2012/03/11(日) 01:39:17.38 ID:ejQhEqj30
主人「いたた……、ごめんなさ――……」

女「ちょ……、何よアンタ!邪魔!」

主人「は?え?……あ、メイドさん……走って行っちゃった……」

女「あ……み、見失った……」

主人「……あー」

女「……」ギロ

主人「……?な、何か……?」

女「アンタ……、何?アイツと一緒にいた?」

376: 2012/03/11(日) 01:40:04.78 ID:ejQhEqj30
主人「はぁ?……アイツって、メイドさん……?」

女「メイド……?アンタ、男の何なの?」

主人「男……?いや、僕はメイドさんの、ご主人様だけど?」

女「は?」

主人「あ、つまり、雇い主……です」

女「……何よ、ゴシュジンサマって。何アンタ、すげー怪しい……」

主人「キミこそ!急に何なの!?何、メイドさんの知り合いなの?」

女「妻」

主人「へ」

女「正確には、元・妻だけど」

378: 2012/03/11(日) 01:41:07.09 ID:ejQhEqj30
~メイド自宅~


ダッダッダッ


ガチャ


バタン


メイド「はっ、はっ……はぁっ」

メイド「……は……っ」

メイド「……あっ、あ、ぁ……」

メイド「……」ガタガタ

メイド「……」ガタガタ

メイド「ごめ……さ……」

メイド「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」ガタガタガタガタガタガタ

393: 2012/03/13(火) 00:13:19.46 ID:+HGuG6l00
~カフェ~


主人「本日二度目……」

女「何よ、こんなトコにまで連れてきて」

主人「まぁ、立ち話もなんですし」

女「アンタなんかと世間話してる暇なんて……」

主人「でも、今から探したって、メイドさん見つかりっこないでしょ」

女「……」

主人「……僕も、キミに聞いておきたいことがあるし」

女「……ま、いいけど。アイツのことだっていうなら、私にも聞きたいことがあるし」

主人「よかったー」

女「っていうかここ、メニューが全部時価なんだけど」

主人「好きなの頼んでいいよー」

394: 2012/03/13(火) 00:13:54.67 ID:+HGuG6l00
主人「……それで、ええと……、女さん」

女「ええ」

主人「さっき言ってた、その……妻って、どういう……」

女「どういうって、言葉通りだけど」

主人「……」

女「夫婦。だったの、男と私」

主人「……」

女「……何よ、その顔」

主人「や、別に」

女「……知らなかった?」

主人「……」

395: 2012/03/13(火) 00:14:22.52 ID:+HGuG6l00
女「ま、自分のことなんて、あんまり話したがらないでしょうしね、アイツは」

主人「……よく、知ってるんだ」

女「まぁね。高校のときからの付き合い。大学で籍入れて……」

主人「……」

女「……で、別れたのは、三年前」

主人「三年前……。じゃあ……」

女「そ、アイツが」

主人「TSしたとき」

女「……」

396: 2012/03/13(火) 00:15:24.67 ID:+HGuG6l00
女「……で、アンタ……何てったっけ」

主人「主人です」

女「ねぇ、主人クン、あのさぁ……」

主人「何?」

女「一応聞いておくけど、……その、メイドって、どういうことよ」

主人「……?メイドはメイドだけど……。知らない?メイド」

女「いや、メイドは知ってるけど……、いや、普通ありえないじゃん、メイドとか」

主人「へ?ありえないって……なんで?ハロワの求人もあるよ。川崎のハロワ」

女「え?」

主人「え?」

397: 2012/03/13(火) 00:15:58.79 ID:+HGuG6l00
女「……」

主人「……?」

女「はぁ……、まぁ、分かったことにしておく」

主人「何それー」

女「……で、アイツさ」

主人「……」

女「どう?ちゃんとやってる?」

主人「……まあね。頑張ってるし、細かいところにも気が利くし……、助かってるよ」

女「……ふぅん……」

主人「……」

女「……」

主人「……まぁ」

398: 2012/03/13(火) 00:16:26.91 ID:+HGuG6l00
主人「……結構」

女「……」

主人「……サボり魔だけど」

女「……ぷっ」

主人「ははっ」

女「……あははっ、やっぱりねー!頑張ってる男なんて、想像できないし!」

主人「はは、あ、やっぱりそうなんだ」

女「くくっ、昔っからよ。もう、手ぇ抜くことばっかり考えててさー」

主人「あー、……でも絶妙なんだよね。手抜き加減が」

女「そうそう。でもねー、高校のときの体育祭でー」

主人「うん」

399: 2012/03/13(火) 00:16:59.46 ID:+HGuG6l00
女「めんどくさいーとか、興味ないーとか言い出して」

主人「あ、興味ない、よく言うよね」

女「そうそう。……で、こっそりサボって逃げようとして」

主人「うん」

女「あっさり見つかってー」

主人「あはは」

女「罰として、棒倒しのとき、棒支える係一人でやらされて」

主人「ははは、可哀想だー!」

女「……ま、その逃げるとこ見つけたのって」

主人「……」

女「私なんだけどさ」

主人「あはははっ」

女「ははっ」

400: 2012/03/13(火) 00:17:30.32 ID:+HGuG6l00
主人「はは……」

女「……」

主人「……」

女「……」

主人「……」

女「……」

401: 2012/03/13(火) 00:17:57.98 ID:+HGuG6l00
主人「……」

女「……」

主人「……ねぇ」

女「……」

主人「……女さんは」

女「……」

主人「……メイドさんに、会うつもり?」

女「……そうだね」

主人「……」

402: 2012/03/13(火) 00:18:39.54 ID:+HGuG6l00
女「……」

主人「……それって、勝手じゃないかな」

女「……」

主人「だって、メイドさんがTSしてさ、一番……」

女「……」

主人「一番辛いだろ、ってときに、メイドさんを見捨てて……」

女「……」

主人「一番傍にいた人なのに!なのに、別れて……!」

女「……」

403: 2012/03/13(火) 00:19:39.42 ID:+HGuG6l00
主人「そんな人が、今更……!」

女「…………仰るとおりですけどね」

主人「だったら……」

女「アンタさぁ」

主人「……」

女「TS病が、どうやって感染するか、知ってる?」

主人「知ってる……」

女「……そう。でさ、私……、TSウィルスのキャリアじゃないの。持ってないの、ウィルス」

主人「……。……え」

女「意味、分かる?」

主人「……え、でも、メイドさんは、それって……、つまり……」

女「そう」

主人「……」

女「浮気してたの、アイツ」

404: 2012/03/13(火) 00:20:13.46 ID:+HGuG6l00
~メイド自宅~


メイド「……はっ、はぁ……っ」ガタガタ

メイド「ふぅ、ぅ……っ……」シュボ

メイド「……ふ……ぅ」ジリ…

メイド「……っ」ガタ

メイド「げほっ、ゴホ……!げ、げほ」

メイド「え……っ、げぇ……」

メイド「はぁ……、はぁ……!」ガタガタ

メイド「……なさい……――めんなさ……」

405: 2012/03/13(火) 00:20:45.29 ID:+HGuG6l00
メイド「……めん……さ……」ガタガタ

メイド(……なんで)

メイド(……なんで、今更……)

メイド「……」

メイド「……うぅ」

メイド(……違う)

メイド(……今だから、だ)

メイド「……」ガタガタ

メイド(警告なんだ……)

406: 2012/03/13(火) 00:21:28.48 ID:+HGuG6l00
メイド(私が、ご主人様に甘えそうになったから……)

メイド(受け入れてもらえる……かも、なんて、思ったから……)



主人『……いや、僕は……、女の子なキミが、すごく好きだし……』


主人『キミが女の子で、嬉しいし』



メイド(……駄目なんだ)

メイド(……――忘れるな、って)

メイド(私のやったことが、許されると思うな、って……)

メイド「……ごめんなさい」

メイド(罰なんだ……)

メイド(……バチが当たったんだ……)

407: 2012/03/13(火) 00:21:59.42 ID:+HGuG6l00
~カフェ~


女「バチが当たったんだ」

主人「え……」

女「……」

主人「……ちょ、そんな言い方……」

女「アイツが言ってたのよ」

主人「……」

女「よく言ってた。バチが当たった、って……」

主人「……」

女「別に、神様も仏様も信じちゃいないけどさ。私も、男も」

主人「……」

408: 2012/03/13(火) 00:22:35.05 ID:+HGuG6l00
今日はここまでです

427: 2012/03/14(水) 00:19:00.76 ID:9JuXyHmq0
女「因果応報、ってのかな。や、それだと仏様か。何て言うんだろ、難しいんだけど……」

主人「……因果応報」

女「とにかく、アイツ、女になったのは浮気の報いだって、本気で思ってて」

主人「……」

女「それで、バチだ、って……」

主人「メイドさん……、女の自分が、あんまり好きじゃないみたいだった……」

女「そりゃね。男にとって、あの姿は……罰、というか、背負わされた十字架というか、そういうもんなんだと思う」

主人「……」

428: 2012/03/14(水) 00:19:27.52 ID:9JuXyHmq0
女「……で、そんなことになってさ。私ももちろん、すごいショックだったけど」

主人「……」

女「男はもう、この世の終わりみたいな、取り乱しようで」

主人「……」

女「……正直、見ていて辛くなるくらいで」

主人「さっきの……、メイドさん……」

女「……ええ。あのときも、ちょうどさっきみたいな顔してさ」

主人「あんな表情、はじめて見た」

女「真っ青な顔して、……ごめんなさいごめんなさい、って……」

主人「……」

女「ったく、人の顔見るなり逃げ出すなんてさー。失礼しちゃうわー」

主人「……」

429: 2012/03/14(水) 00:19:55.24 ID:9JuXyHmq0
女「まぁ……、仕方ないんだろうけど」

主人「……」

女「確かに私は、アイツを見捨てたんだ。主人クンの、言った通り」

主人「……そんな」

女「アイツが一番辛いとき、一番傍にいたのに、見捨てて、別れて」

主人「な、なんで……」

女「……」

主人「……」

女「……なんでだろうね」

主人「……」

女「……やっぱり、許せなかったから、かな」

430: 2012/03/14(水) 00:20:28.03 ID:9JuXyHmq0
主人「……」

女「許せなかったし、正直、女になっちゃって、ざまみろなんて、思ったりもしたし……」

主人「……うん」

女「……でも実際、別れてみると」

主人「……」

女「やっぱり、駄目なんだよね……、アイツがいないと、私」

主人「……」

女「夫婦って関係じゃなくても、どんな形であれ、一緒にいたいって思う」

主人「……」

431: 2012/03/14(水) 00:20:57.10 ID:9JuXyHmq0
女「……でも、気付いたときにはアイツは音信不通で」

主人「いなくなったの?」

女「完璧に行方知れず。それで私は、今日までいろんなトコ探し回って」

主人「それで……」

女「そ。さっきたまたま、本当に偶然、見つけたってわけ」

主人「……」

女「アンタの言った通り、『今更』『勝手な』理由だよ」

主人「……」

女「……それでも、私には男が必要だし」

主人「……」

女「男が苦しんでるのを、助けてやれるのも、私だけだと思うから」

432: 2012/03/14(水) 00:21:36.23 ID:9JuXyHmq0
主人「それじゃ、女さんは」

女「うん?」

主人「許したんだ、メイドさんのこと」

女「いや?」

主人「えぇー」

女「えぇーって何よ!簡単に許してやれるほど、人間できてないし!」

主人「だったら、何で……」

女「……許す許さないって、単純な話だけじゃないのよ、感情ってのは」

主人「……」

女「……ま、アンタみたいなガキんちょには、まだ難しいか。その辺の感情の機微ってヤツは」

主人「が、ガキんちょ……」

女「アンタ、この辺の高校?普通に平日なんだけど今日……あ、今は春休みだから、学校ないのか」

主人「……あの、僕今年で25で……」

女「……え?はっ!?にじゅ……はぁっ!?お、同い年!?」

441: 2012/03/14(水) 23:50:40.57 ID:9JuXyHmq0
女「……」ジー

主人「……」

女「……」ジー

主人「……」

女「……詐欺だ」

主人「な、何が!」

女「……」

主人「……」

女「ま、置いといて」

主人「……うん」

442: 2012/03/14(水) 23:51:27.53 ID:9JuXyHmq0
女「主人クンさ」

主人「……」

女「色々話したけど、……主人クンに頼みたいことがあってさ」

主人「……メイドさんに会わせろ、とか?」

女「……」コクリ

主人「……」

女「どうなの?」

主人「それは……」

443: 2012/03/14(水) 23:52:27.75 ID:9JuXyHmq0
女「……」

主人「……」

女「……やっぱりね」

主人「……え」

女「アンタ、好きなんでしょ?男のこと」

主人「な!?いやっ、そんな……!」

女「……」

主人「その……」

女「……」

主人「好き、です」

女「はぁ……」

444: 2012/03/14(水) 23:53:11.52 ID:9JuXyHmq0
女「……もう、付き合ってるの?」

主人「まだ……」

女「……」

主人「……」

女「はぁ……」

主人「ため息やめてよ!へこむから!」

445: 2012/03/14(水) 23:53:43.07 ID:9JuXyHmq0
女「悪いけど」

主人「……」

女「男のことは、諦めて」

主人「……!」

女「アンタには、男のことを助けられないわ」

主人「そんなこと……っ」

女「現に、さっきのアイツの様子」

主人「……」

女「全然、心の傷が癒えてない感じだった」

主人「それは……」

女「……いや、昔よりもっと、酷いかもしれない」

主人「でも……!」

446: 2012/03/14(水) 23:54:27.57 ID:9JuXyHmq0
主人「僕も……僕だって、彼女のことを分かってやれる」

女「……」

主人「理解してやれる。ちょっとずつだけど、今までそうしてきて――……」

女「分かってやれる?はっ」

主人「……」

女「アンタは、何も知らなかったじゃない。アイツが何に苦しんで、何を恐れていたか」

主人「……!」

女「きっと、本当に奥深くのところは、理解できないわ、アンタには」

主人「そんなこと……、僕はメイドさんを……」

女「『メイドさん』?アイツは、『男』だったの。それも全部含めて、アイツなの」

主人「う……」

女「アンタには、分からないでしょうけど」

447: 2012/03/14(水) 23:54:58.77 ID:9JuXyHmq0
主人「……」

女「私の方が、アイツのことを理解できる。誰よりも。アンタよりも」

主人(……理解)

女「……」

主人(理解、理解、理解……)

主人「……」

女「……ま」

主人「……」

女「主人クンが、男のことを大事に思ってくれてたのは、感謝する」

主人「……」

448: 2012/03/14(水) 23:55:29.34 ID:9JuXyHmq0
女「アイツが今日まで、やってこれたのも、主人クンのおかげかもしれないし」

主人「……」

女「でも、……だからこそ。男のことを、大事に思うなら」

主人「……」

女「アイツのことは、私に任せてほしい」

主人「……」

女「私が一番、アイツの苦しみを理解してやれる」

主人「……」

女「当事者の私なら、アイツの苦しみをいつか、癒してやれると思う」

主人「……」

449: 2012/03/14(水) 23:56:02.62 ID:9JuXyHmq0
主人「……」

女「……よく考えて。落ち着いたら、連絡ちょうだい。携帯番号教えとく――」ガサゴソ

主人「……あー、僕、携帯持ってない……」

女「うそっ!今時!?」

主人「機械苦手……」

女「じゃあ……えっと、メモ書きで悪いけど。これ」サラサラ

主人「……」

女「はい」

主人「……」

450: 2012/03/14(水) 23:57:11.29 ID:9JuXyHmq0
女「……主人クン」

主人「……」

女「……お願い」

主人「……預かっておきます」スッ

女「ありがと」

主人「女さん、僕」

女「……」

主人「ねえ、僕は……メイドさんのこと、本当に……」

女「分かってる」

主人「……」

女「ごめん……」

主人「……」

451: 2012/03/14(水) 23:57:45.79 ID:9JuXyHmq0




~屋敷~


主人「……」

ばあや「あら、坊ちゃん。お帰りなさいまし」

主人「ただいま……」

ばあや「……メイドちゃんは?一緒じゃなかったんですか?」

主人「……ちょっと、具合が悪いって言ってたから」

ばあや「あらあら」

主人「ごめん、帰した」

ばあや「まぁ、構いませんけど……」

主人「……」

ばあや「……ゴホン、それより……、やっぱり坊ちゃん、外でメイドちゃんと落ち合ってたんですね!」

452: 2012/03/14(水) 23:59:13.60 ID:9JuXyHmq0
主人「……」

ばあや「まったく!いくつになっても子供じみたことして!」

主人「……」

ばあや「メイドちゃんのことも、その気ならそれらしく振舞えば私も――……」

主人「……」

ばあや「……坊ちゃん?」

主人「ごめん、僕もちょっと……、調子よくないみたい」

ばあや「は、はぁ……。大丈夫かしら?」

主人「ちょっと部屋で……休む」フラ

ばあや「かしこまりました……?」

471: 2012/03/18(日) 16:58:06.70 ID:bSTzi7pb0




メイド『……』

主人『や』

メイド『ご主人様……』

主人『いやぁ、晴れたねー』

メイド『……』

主人『あれ、何か僕、変なこと言った?』

メイド『い、いえ。……晴れましたね』

主人『ねー。どこか行こうか』

メイド『いいですね』

472: 2012/03/18(日) 16:58:48.28 ID:bSTzi7pb0
主人『メイドさん、どこか行きたいとこある?』

メイド『いえ……、ご主人様に、お任せします』

主人『えぇー?そっかぁ、そうだなぁ……、じゃあねー』

メイド『……』

主人『刑務所』

メイド『え』

主人『行こっか』

メイド『え……?』

主人『キミは、僕を騙そうとしました』

メイド『あ……』

473: 2012/03/18(日) 16:59:22.75 ID:bSTzi7pb0
主人『人を騙すのは、詐欺罪です』

メイド『ご……ごめ……』

主人『僕が、何も知らないのをいいことに、本当のことを隠して、ハメて……』

メイド『わ、私は、違……』

主人『汚いな』

メイド『ごめんなさい……』

主人『その姿は、罰なのに、罰を受けているのに、キミの本質は何も変わっていない』

男『ごめんなさい、ごめんなさい……』

主人『腐っているんだ』

男『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……』

474: 2012/03/18(日) 17:00:02.90 ID:bSTzi7pb0
~翌朝:メイド自宅~






メイド「……――なさい」

メイド「……」

メイド「……」ハッ

メイド「……ぁー」

メイド(……夢)

メイド(眠ってたのか)

メイド(いつの間に……)

メイド「……」

メイド「……」モゾモゾ

メイド(お屋敷……)

メイド(行かなきゃ……)

475: 2012/03/18(日) 17:00:38.13 ID:bSTzi7pb0
~主人邸渡り廊下~


主人「……」


コソコソ


主人「……」

主人(あ……)


メイド「……」

メイド「…………」


コソコソ


主人「……」ホッ

主人(良かった……)

主人(来てくれてた……)

476: 2012/03/18(日) 17:01:41.97 ID:bSTzi7pb0
主人「メイドさん!」

メイド「……」ビクッ

主人「……おはよ」

メイド「……」ペコリ

主人「昨日は、その……えっと……」

メイド「昨日は、急に用を思い出して」

主人「え」

メイド「急に立ち去ってしまい、申し訳ありませんでした」ペコリ

主人「あ、いや、いいよ……それより――……」

メイド「……仕事中ですので、失礼します」

主人「ま、待っ……!」

477: 2012/03/18(日) 17:02:34.34 ID:bSTzi7pb0
メイド「……」

主人「……あの」

メイド「……」

主人「……ちょっと、話せないかな?」

メイド「……急ぎますので」

主人「待って、キミは……!」

メイド「失礼します」

主人「メイドさん……!お願い、話を――……」

メイド「私には……、話すことは、ありません」

主人「……」

メイド「……」ペコリ

主人「……」

メイド「……」


スタスタ


主人(うぁー……)

478: 2012/03/18(日) 17:03:04.91 ID:bSTzi7pb0
~主人自室~


主人「……」

主人「……うぁ」

主人(……やっぱり、こないな)

主人(メイドさん……)

主人「……」

主人「…………」

主人(駄目だ)

主人(全然落ち着かない……)

主人「……」

主人「……」

479: 2012/03/18(日) 17:03:47.75 ID:bSTzi7pb0
主人(僕は)

主人(彼女がここに来る時間が、思ったよりずっと――……)


コンコン


主人「っ!」

主人「はっ、はい!開いてます!」


ガチャリ


先輩「失礼しまぁ~、っす……」

主人「あ、あぁ……」

先輩「……」

主人「どうぞ……」

先輩「露骨にテンション下げるのやめてくれませぇん?」

480: 2012/03/18(日) 17:04:23.78 ID:bSTzi7pb0
先輩「コーヒーです~」

主人「うん、ありがと……」

先輩「……」

主人「……」

先輩「……」ムスッ

主人「……な、何かな?」

先輩「ご主人様、あの子に何したんですかぁ~?」

主人「何って……あの子?」

先輩「メイドちゃんのこと。さっきですけどぉ……」

481: 2012/03/18(日) 17:05:04.32 ID:bSTzi7pb0
~一時間前:屋敷別室~


先輩『あぁ~、いたいたいたぁ~』

メイド『……』

先輩『今日も可愛いじゃん~、あ、でもちょっと寝不足気味ぃ?』

メイド『……』

先輩『んっふふ、ねえねえ、ちゅーしていい?』

メイド『……』

先輩『ん~、あ、じゃあ撫でていい?んん?』

メイド『……』

先輩『……あ』

メイド『……失礼します』

先輩『うぅぅ……』

482: 2012/03/18(日) 17:05:34.93 ID:bSTzi7pb0
~~


先輩「ということが、ありましてぇ……」

主人「何してんのキミ」

先輩「最近は、ちょっと打ち解けてくれたと思ったのにぃ……、あんな目……」

主人「……」

先輩「ちょっと前のあの子に戻っちゃったみたいな、シケた顔でぇ~……」

主人「……」

主人(そうだ……)

主人(さっきの、メイドさんの目……)

主人(あれは、会ってすぐの頃の……)

483: 2012/03/18(日) 17:06:03.37 ID:bSTzi7pb0
先輩「……っていうか、昨日までは普通だったんですけど」

主人「昨日……」

先輩「ご主人様、昨日どこか行ってたじゃないですか、あの子とぉ」

主人(あ、普通にバレてる)

先輩「そのときに、何かあったって考えるのが自然じゃないですかぁ~」

主人「……」

先輩「……で、ご主人様は、あの子に何やらかしたんですか」

主人「やらかしたって……」

先輩「……」

484: 2012/03/18(日) 17:06:54.88 ID:bSTzi7pb0
主人「僕は、何も……」

先輩「……」

主人「何も、しなかった……」

主人(できなかった……)

先輩「何もって、そんなわけ……」

主人「……」

先輩「……はぁ」

主人「……」

先輩「理解できない……」

主人「僕もだ」

487: 2012/03/18(日) 22:51:34.88 ID:bSTzi7pb0
~屋敷:廊下~



主人「……」

主人(とにかく、メイドさんと話をしないと……)

主人「……」

主人(……話?……何を話す?)

主人(女さんのこと……?)

主人(……『キミを待っている人がいる』って?)

主人「……」

ばあや「あ、坊ちゃん!」

主人「ん」

ばあや「ちょっと、メイドちゃんに何したんです!」

主人「えええ、ばあやまで!?」

488: 2012/03/18(日) 22:52:22.52 ID:bSTzi7pb0
ばあや「どういうことなんです!あの子急に、あんなこと言って!」

主人「……あんなこと?」

ばあや「ここを辞めるって!今朝一番で、退職願なんて出してきて」

主人「……え」

ばあや「急に言われてもねぇ、すぐ代わりが見つかるわけでもないでしょ」

主人「……な……!」

ばあや「せめて、契約期間内は残ってほしいってことで、届けは預かって…………坊ちゃん?」

主人「……」

ばあや「……ご存知、なかったのですか?」

主人「……っ」ダッ

ばあや「あっ、坊ちゃん!ちょっと……!」


タッタッタ…


ばあや「はぁ……」

489: 2012/03/18(日) 22:53:42.44 ID:bSTzi7pb0
~屋敷:三階客間~


メイド「……」

メイド「……」ボー

メイド「…………」ボー


ガチャリ


主人「……っ!」

メイド「……」ビクッ

主人「ハァ、ハァ……、……あ、いた」

メイド「……」

主人「っ……ハァ……、ねぇ、メイドさん……」

490: 2012/03/18(日) 22:54:15.11 ID:bSTzi7pb0
メイド「……」

主人「……ばあやから、聞いたけど……」

メイド「……」

主人「や、辞めるって……」

メイド「……はい」

主人「どうして……」

メイド「ご主人様には、関係な――」

主人「関係なくなんかない!」

メイド「……」ビクッ

主人「あ、ご……ごめ……」

491: 2012/03/18(日) 22:54:48.58 ID:bSTzi7pb0
メイド「……」

主人「……」

メイド「……アイツから」

主人「え?」

メイド「女から……、何か、聞きましたか……?」

主人「……何も」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……」

主人「……いや」

メイド「……」

主人「色々、聞いた」

メイド「……、……そう、ですか……」

492: 2012/03/18(日) 22:55:17.18 ID:bSTzi7pb0
メイド「……」

主人「……」

メイド「……女の話したことは」

主人「……」

メイド「全部、本当です」

主人「……聞いてたみたいに、言うね」

メイド「分かりますから、彼女のことは」

主人「…………」

493: 2012/03/18(日) 22:55:54.47 ID:bSTzi7pb0
メイド「私は……、ねえ、ご主人様、聞いたでしょう?」

主人「……」

メイド「私は、クズです」

主人「そんな……」

メイド「酷い人間です」

主人「そんなこと、ない!」

メイド「……」

主人「だって……、誰だって、間違いくらい……」

メイド「……」

主人「そうだよ!間違いなんて、誰にだって――……」

494: 2012/03/18(日) 22:57:01.32 ID:bSTzi7pb0
メイド「……ふふ」

主人「……」

メイド「……やっぱり、ご主人様は……、優しいから」

主人「……」

メイド「甘えそうに、なります」

主人「そんなこと……」

メイド「でも、それじゃあ駄目だから……。そんな風に、楽になるなんて……」

主人「……」

メイド「だから」

主人「……」

メイド「……ご主人様とは、一緒にいられません」

主人「……」

495: 2012/03/18(日) 22:57:38.62 ID:bSTzi7pb0
メイド「ご主人様の気持ちには、答えられません」

主人「……」

メイド「ご理解ください……」

主人「……」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……失礼します」

主人「……っ!」グイッ

メイド「……っ痛」

主人「あっ!ごめ……」

メイド「……ごめんなさい」

496: 2012/03/18(日) 22:58:13.35 ID:bSTzi7pb0
主人「え……」

メイド「ごめんなさい……」ジワ

主人「……」

メイド「……っ」ポロポロ

主人「あ」

メイド「失礼します……」


ガチャ


バタン!


主人「あ……」

主人「あー……」

497: 2012/03/18(日) 22:58:51.31 ID:bSTzi7pb0
主人(泣いてた)

主人(泣かした。泣いてた。メイドさん泣いてた)

主人(どうして?痛かった?分からない。僕のこと嫌い?分からない?泣いてた?)


友『相手を理解する前に、自分のことを相手に理解してもらわないと』


 『パートナーと一緒に、TS病の理解を深めるとともに』


女『私の方が、アイツのことを理解できる。誰よりも。アンタよりも』


 『パートナー同士、お互いの理解も深めていくことが大切です!』


先輩『理解できない……』


主人『僕もだ』



メイド『ご理解ください……』


主人「……」

主人「……あー」

498: 2012/03/18(日) 23:00:13.67 ID:bSTzi7pb0
主人(僕は結局)

主人(何も分からなくて)

主人(いつも、何も、理解、できなくて……)

主人(……)

主人(……)

499: 2012/03/18(日) 23:00:59.89 ID:bSTzi7pb0
~夕方:某居酒屋~


友「おう、いたいた!」

主人「……」

友「悪い、ちょっと用事でさ、出るの遅れちゃって」

主人「……」

友「すまんすまん。ってか、お前もいい加減、携帯持てよ。こういうとき不便で――……、主人?」

主人「……友ぉ」

友「……ん」

主人「助けてー……」

友「おう」

511: 2012/03/20(火) 23:30:02.73 ID:4CnLl7iz0




友「……――ンなるほどねぇ」

主人「……」

友「なるほど……、それでメイドさん、他人を遠ざける態度を取ったり」

主人「……」

友「『女』の自分を嫌がったりしてた、のか?」

主人「……」

友「お前を押し倒そうとしたのも、色ボケご主人様をちょっとこらしめてやろうってところだろうけど」

主人「……」

友「それも、自分の不倫を、自分自身許せないでいることの、裏返しなのかもなぁ……」

主人「うん……」

友「ふぅん……。確かに、色々と事情がある人みたいだな」

512: 2012/03/20(火) 23:30:30.05 ID:4CnLl7iz0
主人「友ぉ……」

友「悩ましい声出すな馬鹿」

主人「……僕は、どうすればいいんだろう……」

友「知らん」

主人「冷たい」

友「っていうか……、お前自身はどうなの」

主人「どうっ……、て?」

友「だってさ、要は浮気野郎だったわけだろ、メイドさん」

主人「……」

513: 2012/03/20(火) 23:31:04.96 ID:4CnLl7iz0
友「それ知って、主人はどう思ってるのかな、って。嫌だったりしねぇの?」

主人「……」

友「……」

主人「そりゃ、さすがに驚きはしたけど……」

友「ん」

主人「でも……、嫌いになんて……」

友「……」

主人「なれない……」

514: 2012/03/20(火) 23:32:07.48 ID:4CnLl7iz0
友「でもなぁ……」

主人「何だよぉ」

友「ま、他人のプライベート勝手に聞いて、勝手にアレコレ言うのは、気が引けるけど……」

主人「……」

友「浮気した上に、バレて奥さんから逃げて、雲隠れ決めてたわけじゃん?」

主人「……」

友「その上、今度はお前にバレたからって、メイド辞めてまで、お前からも逃げようとしてる」

主人「そんな言い方……」

友「気に障ったら謝る」

主人「……」

515: 2012/03/20(火) 23:32:53.56 ID:4CnLl7iz0
友「……でも正直、ロクでもねぇだろ、そのメイドさん」

主人「そんなこと……」

友「お前のことだって、軽く考えてるから、さっさとバックれようと――……」

主人「でも、好きなんだ……」

友「……」

主人「……」

友「……」

主人「……」

友「……はぁ」

主人「……」

516: 2012/03/20(火) 23:34:32.49 ID:4CnLl7iz0
友「他にいくらでも、マシな相手いるだろ、お前だったら」

主人「……」

友「見た目はガキ臭いけど、まだ若いんだし、金もあるんだし」

主人「……」

友「付き合いが長いわけでもない家政婦一人に、そこまで……」

主人「好きなんだよ!」

友「……」

主人「そんなの全部関係ない!好きなんだ!悪い!?」

店員「…………あ、あのー」

友「あ」

主人「あ」

517: 2012/03/20(火) 23:35:08.72 ID:4CnLl7iz0
店員「あ、いえ……」

友「……」

主人「……」

店員「……生ビールでーす……」チラッ

友「……」

主人「……」

店員「……」チラッチラッ

友「……」

主人「……」

店員「失礼しました……」チラッチラッ

友「……ぁー」

主人「うぁー」

518: 2012/03/20(火) 23:36:09.14 ID:4CnLl7iz0
友「……絶対誤解したって、あの店員……」

主人「……ごめん」

友「いや、俺が悪かった。わざと煽るようなこと言い方したから……」

主人「わざと?」

友「ひっひひ、ああ言えば、お前ならポロっと本音吐くと思ってたぜー」

主人「えぇー……」

友「実際、大声で好きだー!だって、くっくっ……」

主人「や、やめてよマジで、そういうの」

友「まあ、でも、なんだ」

主人「……」

519: 2012/03/20(火) 23:37:12.99 ID:4CnLl7iz0
友「答え出てるじゃねーか、俺に聞くまでもなく」

主人「……」

友「それを、メイドさんに伝えればいいだけじゃねえか」

主人「……でも」

友「……ん?」

主人「……」

友「……」

主人「……」

友「……お前、もしかして」

主人「……」

友「メイドさん、女さんとヨリ戻させようとか考えて……」

主人「……迷ってる」

友「ばっ……!」

520: 2012/03/20(火) 23:38:03.23 ID:4CnLl7iz0
友「……」

主人「……」

友「……バッカじゃねーの」

主人「でも……、だって、僕じゃ女さんほど、メイドさんのことを理解してあげられない……」

友「……」

主人「メイドさんが、苦しんでいるのを、本当に理解して、助けてあげられるのは……」

友「……」

主人「僕じゃなくて、女さんだと思うから……」

友「……」

主人「それが一番、メイドさんのために良いんじゃないかって」

友「お前なぁ……」

521: 2012/03/20(火) 23:39:31.49 ID:4CnLl7iz0
友「理解がなんだよ。『本当に理解』なんて、できるわけねーじゃん。馬鹿か」

主人「え……」

友「相手のことを本当に理解できる、なんて自惚れんな。お前、主人、メイドさんが生理のときの辛さが分かるのか?」

主人「え、いや、そ、それは……」

友「女さんとかいう人にしたって、そうだ。TSしたこともないのに、TSしたヤツの気持ちが、本当に分かるわけねぇ」

主人「それは……」

友「俺だって、お前のこと全部分かるわけじゃない。お前も、俺がTSする前のことだって、よく知らないだろ?」

主人「うん……」

友「理解できないと、一緒に酒も飲めねーか?」

主人「そんなこと、ないけど……、で、でも……」

522: 2012/03/20(火) 23:41:32.76 ID:4CnLl7iz0
友「……」

主人「ぼ、僕は……、僕はメイドさんのこと、わ、分かりたくて……、でも何も分からなくて……」

友「それが自然なんだよ」

主人「ぅ……」

友「お互い、理解しようとして、それで結局、理解できなくても……」

主人「……」

友「それでも、大事な人なら、一緒にいたいって思うモンだ」

主人「友……」

友「っていうか、『私は貴方の心を完璧に理解できます』なんていうヤツは、ただの詐欺師だ」

主人「……はは」

523: 2012/03/20(火) 23:42:47.04 ID:4CnLl7iz0
友「……」

主人「……」

友「……お前も、メイドさんと同じで」

主人「……え」

友「自分を責めてるんだと思うよ」

主人「……」

友「ずっと前に、好きだったメイドの子のことを……」

主人「……」

友「結局、理解してやれなかった、自分を」

主人「……」

友「……だから、理解することにこだわる。理解できないと、気持ちも伝わらない、なんて考える」

524: 2012/03/20(火) 23:43:24.56 ID:4CnLl7iz0
友「……主人、」

主人「……うん」

友「……お前はいいヤツだよ」

主人「……」

友「ただ、もっと、何ていうか……、大事なのは、何が一番、幸せかってことだ」

主人「……うん」

友「何がキミのー幸せー」

主人「なーにをしーてー喜ぶー」

友「そゆこと」

主人「あはは」

525: 2012/03/20(火) 23:43:53.02 ID:4CnLl7iz0
主人「友は……」

友「おう」

主人「僕のこと、分かるわけじゃないって言ったけど」

友「……」

主人「本当は……、すごくよく、分かってくれてて」

友「そうだぜー。お前が次頼むドリンクまで分かる」

主人「マジで!」

友「……ウォッカ」

主人「無理」

友「いいや分かるね。お前はウォッカを一気でいく」

主人「あはは、絶対分かってないし」

526: 2012/03/20(火) 23:44:21.59 ID:4CnLl7iz0
友「……」

主人「……友ー」

友「おう」

主人「ありがと」

友「おう」

539: 2012/03/23(金) 00:47:27.96 ID:Jl3HP5HL0




主人『メイドさん……』

メイド『ご、ご主人様……?ち、近……』

主人『メイドさん、大好きだ』

メイド『へっ!?』

主人『愛してる……』

メイド『はっ?いや、ちょ……ご主人様!?』

主人『ねえ、こっち向いて?』

メイド『や、だ……駄目……、駄目です……』

主人『……』ギュ

メイド『あっ……』

540: 2012/03/23(金) 00:48:35.62 ID:Jl3HP5HL0
メイド『やめて……ください……』

主人『どうして?』

メイド『私は……私は、今まで沢山、酷いことをして……』

主人『関係ないよ』

メイド『あ……』

主人『今のキミだけ、見つめていられれば』

メイド『駄目……ご主人様、駄目です……』

主人『目、閉じて……?』ギュウ

メイド『だ、駄目!駄目……』

541: 2012/03/23(金) 00:49:13.76 ID:Jl3HP5HL0




メイド「……――駄……」

メイド「……」ハッ

メイド「……」

メイド「…………」


~翌朝:メイド自宅~


メイド「…………」

メイド「……」

メイド「ぁー」

メイド(……氏にたい)

542: 2012/03/23(金) 00:50:10.38 ID:Jl3HP5HL0
メイド「……」

メイド「……」カァァ

メイド(……なんて恥ずかしい夢を……)

メイド「……」

メイド(……違う)

メイド(きっと私は、ご主人様に)

メイド(『関係ない』って、言ってほしいんだ……)

メイド「……」

メイド(……浅ましい)

メイド(自分で自分が、嫌になる……)

543: 2012/03/23(金) 00:50:52.40 ID:Jl3HP5HL0
メイド(…………行きたくないなぁ)

メイド「……」

メイド(……サボろうかなぁ)

メイド「……」

メイド「……」

メイド「……ご主人様……」

メイド(……そういえば)

メイド(最近、よく見る気がする……)

メイド「……」

メイド(ご主人様の、夢……)

メイド「……」

メイド「…………」

メイド(やっぱり、行こう……)

メイド「……」モソモソ

544: 2012/03/23(金) 00:51:33.78 ID:Jl3HP5HL0
~屋敷~


メイド「……」

メイド「……」ボー

メイド「……」


ガチャリ


先輩「はぁ~……、あ、メイドちゃんだ~」

メイド「……」

先輩「お~っす」

メイド「……」ボー

先輩「……」

メイド「……」ボー

先輩「……デコピン」ペチン

メイド「……っん!」

545: 2012/03/23(金) 00:52:35.20 ID:Jl3HP5HL0
先輩「んっ、だってぇ。っふふ~、なんか工口いなぁ、今の~」

メイド「……何、するんですか」

先輩「だって、アンタ無視するからぁ」

メイド「……」

先輩「ん~んっふっふ、睨む顔も似合う、ゾクゾクする~……」

メイド「……はぁ」

先輩「……」

メイド「……」

先輩「……ねぇ」

メイド「……」

先輩「アンタ、本当に辞めちゃうの?」

メイド「……はい」

546: 2012/03/23(金) 00:53:34.13 ID:Jl3HP5HL0
先輩「何でよぉ……」

メイド「……」

先輩「あの、ボンクラご主人様のせい?だったら私、ガツンと一発言って――」

メイド「ご主人様は、悪くないです」

先輩「……えぇ」

メイド「悪くないです……。悪いのは……」

先輩「……む」

メイド「私、ですから……」

先輩「……むむ」

メイド「……」

先輩「なんか、悔しいぞ」

547: 2012/03/23(金) 00:54:19.25 ID:Jl3HP5HL0
先輩「……アンタ、最近ちょっと変わったと思ってたけどぉ……」

メイド「……」

先輩「なかなか、うまくいかないもんなのねぇ……」

メイド「……」

先輩「もうちょい、気楽にやったらいいのに~」

メイド「ごめんなさい……」

先輩「謝るし……」

メイド「ここの、お屋敷の人は、みんな優しいから……」

先輩「アンタね……」

メイド「……失礼します」


ガチャ


バタン


先輩「……まったくもう」

548: 2012/03/23(金) 00:54:52.86 ID:Jl3HP5HL0
~屋敷:二階廊下~


メイド「……」

ばあや「……あら、いいところにいた」

メイド「あ……」ペコリ

ばあや「三階の壁の見積りのことだけど」

メイド「はい」

ばあや「やっぱり、○○さんのところの値段も見てみたいから、相見積りとってもらえるかい?」

メイド「ああ……、かしこまりました」

ばあや「できれば、早めにお願いしますよ」

メイド「……頑張ります」

549: 2012/03/23(金) 00:55:21.09 ID:Jl3HP5HL0
ばあや「辞めるって言っても、契約が残ってるうちはしっかり働いてもらいますからね!」

メイド「はい……」

ばあや「あぁ忙し忙し」スタスタ

メイド「……」

メイド「……」スタスタ

メイド「……」

メイド(……あ、パソコン……)

メイド(まだご主人様の部屋だった……)

メイド「……」

メイド(……どうしよう)

550: 2012/03/23(金) 00:55:54.22 ID:Jl3HP5HL0
~屋敷:主人自室前~


メイド「……」

メイド「……」


コンコン


メイド「……」

メイド「……?」


コンコン


メイド「失礼……します」ガチャリ

メイド「……」

メイド(……いない)

メイド「……」ホッ

556: 2012/03/24(土) 18:59:05.45 ID:DvVjwzZX0
メイド(……何ホッとしてるんだ、私……)

メイド(情けない……)

メイド「……」

メイド「……」

メイド「パソコン……」

メイド「どこ置いたんだろう、ご主人様……」

メイド「……」

メイド「……」クン

メイド(……煙草のにおい)

557: 2012/03/24(土) 18:59:38.89 ID:DvVjwzZX0
メイド(……やっぱり、ふたりで一緒に吸ってたら)

メイド(さすがに、残るか……)

メイド「結構、入り浸ってたからなぁ……」

メイド(ふたりで……)

メイド「……」

メイド「……」

メイド「……」ハッ

メイド「……ボーっとしてた」

メイド「パソコン、は……」


ガチャ


主人「あ」

メイド「……あ」

558: 2012/03/24(土) 19:00:15.64 ID:DvVjwzZX0
メイド「……」

主人「……」

メイド「……」

主人「いらっしゃいー」

メイド「失礼し……」

主人「ああぁ、待って待って!」

メイド「……」

主人「えっと……」

メイド「……」

主人「……はい、灰皿」

メイド「………………」

559: 2012/03/24(土) 19:00:48.54 ID:DvVjwzZX0
シュボ


メイド「……」

主人「……」


ジリ…


メイド「……フー」

主人「……」シュボ

メイド「……窓、開けますね」

主人「寒いよ、まだ」

メイド「におい、結構残りますから」

主人「……空気清浄機を買います」

メイド「……はぁ」


ガタッ ガラガラ


主人「寒いー」

メイド「今日は、我慢してください」

560: 2012/03/24(土) 19:01:37.25 ID:DvVjwzZX0
主人「……そういえば」スフー

メイド「……」ビクッ

主人「何か、用事だった?」

メイド「……あ。えっと……、いえ、ノートパソコンを……」

主人「そっか、ごめんごめん、借りっぱなしだったね。えーっと……」ガサゴソ

メイド「……」

主人「……本棚の下の、ここを外して……、あれ……」ガサゴソ

メイド「……」

主人「あった!」

メイド「何で隠してるんですか……」

561: 2012/03/24(土) 19:02:15.03 ID:DvVjwzZX0
主人「はい」

メイド「ありがとう、ございます……」

主人「……」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……検索」

主人「……?」

メイド「……エOチなヤツ」

主人「……」ビクッ

562: 2012/03/24(土) 19:02:46.86 ID:DvVjwzZX0
メイド「……はぁ」

主人「な、な、なんで分かったの!?」

メイド「……」

主人「ま、まさか中身見なくても全部分かるのパソコンって!?怖い!」

メイド「いえ……、っていうか、……まさか本当にやってるとは」

主人「あ……」

メイド「……」

主人「……う、嘘つきだ」

メイド「嘘じゃなくて、カマかけです」

主人「あ、それ先輩さんだ」

563: 2012/03/24(土) 19:03:39.50 ID:DvVjwzZX0
メイド(……あぁ)


メイド「……ご主人様にも、そういうこと言うんですね、あの人」

主人「はは、面白いよね、先輩さんー」


メイド(……煙草、燃え尽きる)


メイド「いえ、ご主人様の方が……」

主人「面白いって?」

メイド「……いえ、というか」

主人「……」

メイド「変」

主人「変!?」


メイド(終わってしまう……)

564: 2012/03/24(土) 19:04:15.78 ID:DvVjwzZX0
メイド(終わる……)



主人「うぅ……、メイドさん酷い」

メイド「……」

主人「あはは……」



メイド(あぁ……)



メイド「……」

主人「……」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……」

主人「……もう一本、吸う?」

メイド「いえ」

565: 2012/03/24(土) 19:05:40.74 ID:DvVjwzZX0
今日はここまでです

570: 2012/03/25(日) 16:07:16.49 ID:XZJvOk1f0
メイド「……もう、行きますので」

主人「あ……」

メイド「では……」

主人「メイドさん」

メイド「……」

主人「……やっぱり、僕は」

メイド「……駄目」

主人「キミと一緒にいたい」

メイド「……うぅ」

主人「僕はキミが好きだ」

メイド「……だ、駄目……」

571: 2012/03/25(日) 16:07:57.40 ID:XZJvOk1f0
メイド「……どうして、今更そんな」

主人「……」

メイド「ご主人様に、好きって言ってもらえる資格なんて、私には……」

主人「僕と一緒にいるのは、嫌?」

メイド「そんなこと……!」

主人「……」

メイド「うぅ……ぅ……」

主人「……」

メイド「……ご、ご主人様は、ズルいです……、そんな言い方……」

主人「うん」

メイド「嫌なわけ……、嫌なわけないじゃないですか……」

572: 2012/03/25(日) 16:08:31.57 ID:XZJvOk1f0
主人「……」

メイド「今だって……、ふたりで、一緒にいて、つまらない話して……」

主人「……うん」

メイド「それだけなのに、なのにこんなに……」

主人「……」

メイド「泣きそうです……」

主人「メイドさん……」

メイド「こんなの……、こんな気持ち」

主人「……」

メイド「女になってから、はじめてで……」

主人「うん……」

メイド「私は……ご主人様のことが……好きです」

573: 2012/03/25(日) 16:10:06.92 ID:XZJvOk1f0
主人「メイドさん」

メイド「男の人に、こんな気持ちになれるなんて、考えたことなかった」

主人「なら……」

メイド「でも、やっぱり……いや、ご主人様のこと、大好きだからこそ……」

主人「……」

メイド「ご主人様の傍にいたら、私は、忘れてしまうから」

主人「……」

メイド「自分がしたことを、忘れて」

主人「……」

メイド「こんな姿になった理由を、忘れて……」

主人「……」

メイド「ただ、ご主人様に甘えて。それで……」

574: 2012/03/25(日) 16:11:27.39 ID:XZJvOk1f0
主人「きっと、それは違うよ、メイドさん」

メイド「え……」

主人「キミは、忘れない。自分がしたことを、忘れられないと思う」

メイド「……」

主人「どこにいても、誰といても……僕と、いても」

メイド「……そんなこと」

主人「キミが、今のその……『女』であることを、罰だって感じているなら」

メイド「……」

主人「キミが、その姿でいる限り、キミは救われない……」

メイド「……そうかも、しれませんね」

主人「……」

メイド「……」

575: 2012/03/25(日) 16:12:39.71 ID:XZJvOk1f0
主人「……ごめんね」

メイド「え……」

主人「僕は、キミの助けになれない」

メイド「……ご主人様?」

主人「僕はさ、メイドさん……」

メイド「……」

主人「ずっとキミのこと、理解したいと思ってた」

メイド「……」

主人「キミは、いつもどこか……、なんていうか、掴めなくて」

メイド「……」

主人「そこが魅力的だったんだけどさ」

メイド「……」

576: 2012/03/25(日) 16:13:07.24 ID:XZJvOk1f0
主人「……最初は、『元男』だから、TSしたから、何となく……理解できないんだと思ってた」

メイド「……」

主人「でも、そうじゃなくて……、メイドさんっていう人間は、もっと複雑で」

メイド「……」

主人「ちょっとずつ、理解できる思ってたけど……、知れば知るほど、遠くなるみたいで……」

メイド「……」

主人「それでもいつか、キミを理解してやれるって、お互いに、色々と分かり合えるって思ってて」

メイド「……」

主人「でも、違った」

メイド「……」

577: 2012/03/25(日) 16:13:38.41 ID:XZJvOk1f0
主人「僕は、キミを理解してあげることはできなかった」

メイド「それは、私が……」

主人「いや、違うんだ。僕が……いや、そもそも」

メイド「……」

主人「理解して『あげる』だなんて、……僕は、なんていうんだろう……偉そう?上から……?」

メイド「……」

主人「傲慢……?そう、傲慢だった」

メイド「ご主人様は、そんなこと……」

主人「傲慢だったよ。実際、メイドさんが苦しんでることなんて、ちっとも分からなかった」

メイド「……」

主人「僕には、キミが悩んでいても、それを忘れさせることなんて、できない」

578: 2012/03/25(日) 16:14:29.09 ID:XZJvOk1f0
メイド「ご主人様……」

主人「それでも、メイドさんを幸せにしたい」

メイド「……っ!」

主人「キミの悩みを、癒せないけど……」

メイド「……」

主人「僕といても、キミは苦しんだり、悩んだりし続けるかもしれないけど……」

メイド「……」

主人「その分、それ以上に、絶対幸せにする」

メイド「……う、ぁ」

主人「女の子でいることは、メイドさんにとっては罰でも、僕にとっては違う」

メイド「……うぅぅ」

579: 2012/03/25(日) 16:15:09.32 ID:XZJvOk1f0
主人「僕にとっては、嬉しくて、幸せなことだから」

メイド「……」

主人「メイドさんにも、その幸せを、感じてほしい」

メイド「……」

主人「幸せなことを、ひとつでも積み重ねて」

メイド「……」

主人「……一緒に」

メイド「私は……」

主人「メイドさん……」

メイド「……わ、私……」

主人「大好きです」

580: 2012/03/25(日) 16:15:36.60 ID:XZJvOk1f0
メイド「……私は、私は……でも……」

主人「うん」

メイド「酷いヤツで、嫌われて当然で……」

主人「そうかもしれない。でも、それだけじゃない」

メイド「あ、愛想もないし、意地悪なことも言うし……」

主人「知ってるよ」

メイド「煙草、やめられないくらい、意志が弱いし、優柔不断だし……」

主人「あはは、それも知ってる」

581: 2012/03/25(日) 16:16:08.97 ID:XZJvOk1f0
メイド「それから、それから……」

主人「メイドさん……」

メイド「ご、ご主人様……」

主人「うん」

メイド「本当に……私で」

主人「うん」

メイド「私で……、いいんですか?」

主人「うん……、だから」

メイド「……」

主人「一緒に、幸せになろう」

メイド「……はい」

582: 2012/03/25(日) 16:17:18.27 ID:XZJvOk1f0
メイド「……ご主人様」

主人「……うん」

メイド「……抱きしめてもらって、いいですか?」

主人「え……」

メイド「……」

主人「う、うん。こう……かな?」ギュ

メイド「……もっと、強く」

主人「は、はい……」ギュウ

メイド「もっとっ……」

主人「……っ!」ギュウウウ

メイド「痛い……」

主人「えええ!?ご、ごめんなさい!?」

メイド「あ、いえ……、いいんです……」

583: 2012/03/25(日) 16:17:49.07 ID:XZJvOk1f0
主人「どうか、したの?」

メイド「……何も。ただ……」

主人「ん?」

メイド「夢かも、って思って……」

主人「あはは、違うねぇ」

メイド「……最近、妙な夢ばかり見てたので……」

主人「へぇ……、どんな?」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……内緒、です」

主人「えぇー……?」

584: 2012/03/25(日) 16:18:47.76 ID:XZJvOk1f0
主人「……やっぱり、メイドさんは謎だなぁ」

メイド「そうですか?」

主人「分からないことだらけです」

メイド「ふふっ……」

主人「……」

メイド「……ご主人様」

主人「……うん」

メイド「……」ジッ

主人「……」

メイド「……」ジーッ

主人「……?」

メイド「……はぁ」

585: 2012/03/25(日) 16:19:14.97 ID:XZJvOk1f0
主人「な、何そのため息!」

メイド「……鈍いです」

主人「えええ、何か叱られた!?」

メイド「……ご主人様」

主人「はい……」

メイド「ちょっと、屈んで」

主人「はい……」

メイド「目を閉じて、ください」

主人「……」

586: 2012/03/25(日) 16:19:54.71 ID:XZJvOk1f0
メイド「……」

主人「……」

メイド「……ン――」

主人「んっ……」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……」

主人「……」

587: 2012/03/25(日) 16:20:22.66 ID:XZJvOk1f0




メイド「……仕事に、戻りますね」

主人「……」ボー

メイド「ご主人様?」

主人「……あっ、は、はい。お気をつけて」

メイド「何ですか、それ」クスッ

主人「あー……」

メイド「……失礼します」

主人「メイドさん」

メイド「……」

主人「大好きだよ」

メイド「私も、大好きですよ、ご主人様」

588: 2012/03/25(日) 16:20:54.29 ID:XZJvOk1f0
ここまでです

また夜くるかもです

次回、エピローグ

595: 2012/03/25(日) 23:52:14.74 ID:XZJvOk1f0
エピローグ



~別の日:屋敷~


先輩「……」

メイド「……」

先輩「……」

メイド「……ごめんなさい」

先輩「あ……」

メイド「……」

先輩「うぁ~……」

メイド「ごめんなさい」

先輩「二回言ったぁ……」

596: 2012/03/25(日) 23:52:52.56 ID:XZJvOk1f0
先輩「……でも、そっかぁ」

メイド「何が、です?」

先輩「選んだんでしょ、アンタ。自分にとって、一番いい道を」

メイド「いい道……。いえ……」

先輩「ん?」

メイド「それが本当に、いい道なのかは、分からないです……」

先輩「ふぅん……」

メイド「……」

先輩「でも、納得はしてる」

メイド「ええ」

先輩「……んっふふっふ~」

597: 2012/03/25(日) 23:53:20.15 ID:XZJvOk1f0
先輩「ま、頑張んなさいな」

メイド「……先輩」

先輩「んん?」

メイド「ありがとうございます」

先輩「……」

メイド「感謝してます」

先輩「……ぅ」グスッ

メイド「……」

先輩「……馬鹿ぁ」グスグス

メイド「……はい」

598: 2012/03/25(日) 23:54:48.93 ID:XZJvOk1f0
先輩「ぅ、ふぅぅ……」ギュウ

メイド「……せ、先輩?」

先輩「……ごめ、ちょっとだけぇ……、こぉさせて……」

メイド「……はい」

先輩「……グス……、私ぃ……、これでもちょっと……」

メイド「……」

先輩「本気だったんだよぉ……」グスッ

メイド「はい」

先輩「……」ギュウ

メイド「……」

先輩「おっOいおっきい……」モミモミ

メイド「やめてください」

599: 2012/03/25(日) 23:56:15.85 ID:XZJvOk1f0




~屋敷:玄関~


主人「あ、きたきた」

メイド「……お待たせしました」

主人「準備できた?」

メイド「はい……」

主人「……先輩さん、なんだって?」

メイド「……いえ」

主人「……」

メイド「何も」

主人「ん、そっか」

メイド「ええ……」

主人「……じゃ、行こうか」

メイド「はい」

600: 2012/03/25(日) 23:57:09.81 ID:XZJvOk1f0
~カフェ~


主人「……」

メイド「……ご主人、様……」

主人「……辛くなったら」

メイド「……」

主人「言ってね」

メイド「……大丈夫です」

主人「うん。……えーと、どこだろ……、もう来てるはず――……」

女「おーい」

主人「あ」

女「こっちこっち!」

601: 2012/03/25(日) 23:58:13.32 ID:XZJvOk1f0
主人「どうも」

女「や、連絡ありがと」

主人「いや、しばらくぶり」

女「だね。それと……」

メイド「……女」

女「……久しぶり、男」

メイド「うん……、元気そう……だな」

女「ま、そこそこね。男も、変わりなさそうじゃん」

メイド「そう、かな」

女「あはは、そりゃ昔とはずいぶん変わったけどさー!」

メイド「そう、だね……」

主人「………………」

602: 2012/03/25(日) 23:58:48.87 ID:XZJvOk1f0
女「……それで、さ……男」

メイド「……」ビクッ

女「……話があって」

メイド「……」

女「私、もう一度あんたと――……」

メイド「……」ギュ

主人「……大丈夫、手……、離さないから」

女「……――ぁ」

メイド「……ご主人様」

主人「大丈夫……」ギュ

女「あー……?」

603: 2012/03/25(日) 23:59:32.68 ID:XZJvOk1f0
主人「ごめん、女さん。メイドさんのこと……、絶対に、大切にするから」

女「なんで……?」

主人「……」

女「男が苦しんでるの、分かってるはずでしょ……?なのに、どうして……!」

メイド「……楽になろうとは、思わないよ」

女「……」

メイド「でも、癒されるよりも、苦しくても、幸せを感じたい。……この人と」

主人「メイドさん……」

女「……」

メイド「……女」

女「……」

604: 2012/03/26(月) 00:00:08.50 ID:yVgZHHyM0
メイド「ごめん……」

女「……っ」

メイド「多分、私の人生で、一番愛したのは、女だから……」

女「……」

メイド「絶対忘れない。女のこと……。それと、私が女にしたこと……」

女「……」ガタッ

メイド「……っ」ビク

主人「女さん……?」

女「帰る」

605: 2012/03/26(月) 00:01:22.78 ID:yVgZHHyM0
主人「……ごめん」

女「コーヒー代くらい、払っといてよね」スタスタ

主人「……」

メイド「女……」

女「じゃーね、ふたりとも。もう会わないと思うけど」

主人「……」

メイド「……」

女「お幸せに、『メイド』さん?」

メイド「……」

606: 2012/03/26(月) 00:01:58.38 ID:yVgZHHyM0




~市街:公園~


主人「……大丈夫?」

メイド「……はい、だ、だい……」ブルブル

主人「……メイドさん」

メイド「すみ、ま……せん、少しだけ……」ギュッ

主人「うん」

メイド「……」ギュウ

主人「……」

メイド「……グスッ……」ギュウウ

主人「……」

メイド「……」ギュウウ

607: 2012/03/26(月) 00:02:29.44 ID:yVgZHHyM0




~市街:サイゼリア~


主人「いやぁ、やっぱり混んでるねー、サイゼリア」

メイド「はぁ……」

主人「……大丈夫?」

メイド「はい……、ご心配かけて、すみませんでした」

主人「いえいえ」

友「……っていうかさぁ」

主人「うん?」

友「なぜサイゼ!」

主人「いいじゃん!美味しいじゃんサイゼの料理!」

友「それでもブルジョアかお前は!」

メイド「……」

608: 2012/03/26(月) 00:03:30.48 ID:yVgZHHyM0
主人「……紹介が遅れたけど、友」

友「おう」

主人「こちらが、メイドさん。……で、メイドさん、これが友」

メイド「はじめまして」

友「どうもー。お噂はかねがね」

メイド「噂……、ですか……。ご主人様……?」ジト

主人「いっ、いや!?別に変な話は……」

友「ひひ、割と口軽いよー、コイツー」

主人「ちょっとぉ!」

メイド「……ふふ」

609: 2012/03/26(月) 00:04:25.44 ID:yVgZHHyM0
友「っていうか、主人くぅん」

主人「ん?」

友「俺、ウーロン茶ね」

主人「え」

友「ハリアーップ」

主人「ど、ドリンクバーくらい自分で行ったら……」

友「んんー?居酒屋でどんなトークしてたか、教えちゃってもいいのかなぁー?彼女、興味あると思うけどぉー?」

主人「うううウーロン茶ね!取ってきますハイ!」

メイド「私もウーロン茶で」

主人「め、メイドさんまで!メイドなのに!行くけど!取ってきますけど!」

610: 2012/03/26(月) 00:05:09.45 ID:yVgZHHyM0
友「うはは、本当に行くし」

メイド「……」

友「ね、変なヤツだろ、アイツ」

メイド「ええ」

友「ははは。……でもね」

メイド「……」

友「すごく、いいヤツなんだ」

メイド「……はい」

友「……メイドさん」

メイド「はい」

友「約束してくれ」

メイド「……」

友「アイツのこと、絶対に泣かせないって」

メイド「……はい」

611: 2012/03/26(月) 00:05:36.67 ID:yVgZHHyM0
メイド「……友さんは」

友「ん?」

メイド「ご主人様と、仲がいいんですね、とても」

友「んー。まあねぇ」

メイド「……友さん」

友「んん?」

メイド「背、高いですね」

友「ああ、うん。まあ」

メイド「……泣き虫だったり、します?」

友「……直したよ、それは。男になってから」

メイド「ネズミは、嫌いですか?」

友「あはは、ネズミはいまだに駄目だ。泣いちゃう」

612: 2012/03/26(月) 00:07:05.92 ID:yVgZHHyM0
メイド「……友さん」

友「……主人くんを」

メイド「……」

友「……よろしく頼むね」

メイド「……はい」

主人「お待たせー、なになに。何の話ー?」

友「別にぃー?ただお前が、いかにボンクラかって話をなー」

主人「ちょ……!やめてくれない、マジで!」

メイド「ボンクラは否定しないんですね……」

主人「えええ、ち、違うよ!?っていうか、何この孤立無縁な感じ!」

友「あっははは」

メイド「ふふ……」

613: 2012/03/26(月) 00:07:40.49 ID:yVgZHHyM0




~市街~


主人「面白いヤツだったでしょ、友って」

メイド「ええ……。ねえ、ご主人様」

主人「ん?」

メイド「友さんとは……、仲良し、なんですね」

主人「そうだね、すごく仲良し」

メイド「……」

主人「変な言い方だけど、『生涯の友』って、アイツのことだなー、って」

メイド「生涯の……」

主人「そ。いくつになっても、この先何があっても、ずっと親友」

メイド「……」

主人「……メイドさん?」

メイド「いえ、……そろそろ、帰りましょうか」

主人「そうだね」

614: 2012/03/26(月) 00:08:42.44 ID:yVgZHHyM0
~屋敷~


ばあや「退職届を撤回したいぃ?」

メイド「はい」

ばあや「……はぁ」

メイド「……」

ばあや「……すぐ、そんなこと言ってくるんじゃないかと」

メイド「……」

ばあや「何となく、思ってましたよ」

メイド「申し訳、ありません……」

ばあや「でもね、ちょっと遅かったわね」

メイド「え」

ばあや「アンタんとこの派遣元に、もう連絡しちゃいましたよ」

メイド「あ……」

615: 2012/03/26(月) 00:09:20.33 ID:yVgZHHyM0
ばあや「派遣の契約は、予定通り、今月までですからね」

メイド「……そう、ですか……」

ばあや「大体、退職届なんて、そんなポイポイ出したり引っ込めたり、するもんじゃないですからね」

メイド「はい……」

ばあや「それも個人の事情で、どうこうしようなんて!あなた、社会人経験あるんでしょう!?」

メイド「……はい……」

ばあや「だったら、そういう態度が迷惑だって、分かるんじゃありませんか!?それを、まったく……」

メイド「はい……、ごめんなさい……」

ばあや「……ま」

メイド「……?」

616: 2012/03/26(月) 00:11:04.26 ID:yVgZHHyM0
ばあや「それでも、もし、お屋敷で働き続けたいんだったら」

メイド「え……」

ばあや「正式採用でもするしかないわねぇ……」

メイド「あ……」

ばあや「そうなれば、派遣はやめてもらって、住み込みの専属メイドになってもらうしかないけど」

メイド「や……、やります!」

ばあや「派遣メイドとは違って、楽な仕事じゃありませんよ?何せ24時間体制ですからね」

メイド「やります、やらせてください!」

ばあや「……ま、そこまで言うなら」

メイド「……あ」

ばあや「考えておきましょう」

メイド「あ……、ありがとうございます!」

ばあや「まったく……、世話の焼ける……」

640: 2012/03/26(月) 21:59:41.94 ID:yVgZHHyM0




~屋敷:主人自室~


メイド「……――というわけでして」

主人「おぉー、それじゃ……」

メイド「はい、来週から、お屋敷の部屋をお借りして」

主人「そっかぁー」

メイド「はい」

主人「じゃ、もっと一緒にいられるね」

メイド「ええ」

641: 2012/03/26(月) 22:00:41.54 ID:yVgZHHyM0
メイド「……来週からは、朝も夜も」

主人「うん」

メイド「お勤めさせて、いただきますので」

主人「う……うん」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……」

主人「……」

メイド「……スOベ」

主人「な、なにが!?」

メイド「目が」

主人「いい今のはメイドさんが!メイドさんの言い方が悪いと思いますけども!」

642: 2012/03/26(月) 22:01:40.90 ID:yVgZHHyM0
シュボ


ジリ…


メイド「……」

主人「……ふぅ」スフー

メイド「……」スフー

主人「……」

メイド「……ぁー」

主人「疲れた?」

メイド「……少し」

主人「今日だけで、色々やったからねぇ」

メイド「……」

主人「……」スフー

643: 2012/03/26(月) 22:02:34.09 ID:yVgZHHyM0
メイド「……やっぱり、まだ」

主人「ん?」

メイド「私……、女の自分を、許せそうにないです」

主人「うん……」

メイド「色んな人を傷つけたり……」

主人「……」

メイド「色んな人の気持ちを、踏みにじって、こうなったと思うから……」

主人「……」

メイド「今でも、私は……」

主人「……」

メイド「誰かを泣かせていると思います」

主人「……」

メイド「それでも、ご主人様と――……、でも本当に、それがいいのか、って……」

644: 2012/03/26(月) 22:03:17.86 ID:yVgZHHyM0
主人「メイドさん」

メイド「……、はい……」

主人「こっち向いて?」

メイド「……え」


チュッ


メイド「……」

主人「ん……」

メイド「……っ!?」

主人「……んん、やっぱ、煙草の味」

メイド「…………ふ」

主人「ふ?」

メイド「不意打ちは、卑怯です……!」カァァ

主人「あはは、赤くなった」

645: 2012/03/26(月) 22:03:45.87 ID:yVgZHHyM0
主人「やっぱりメイドさんは、可愛い」

メイド「……馬鹿」

主人「あはは」

メイド「……」

主人「……」

メイド「ご主人様……」

主人「……大丈夫だよ」

メイド「……」

主人「キミが辛いときも、僕が一緒にいるし」

メイド「……」

主人「キミが自分を嫌いになっても、僕は大好きだし」

メイド「……はい」

646: 2012/03/26(月) 22:04:12.19 ID:yVgZHHyM0
メイド「……ご主人様」

主人「ん」

メイド「あの……、さっきの……」

主人「……」

メイド「……」カァァ

主人「……」

メイド「……」

主人「……??」

メイド「……、……馬鹿」

主人「えっ?えぇ!?」

647: 2012/03/26(月) 22:04:38.78 ID:yVgZHHyM0
メイド「さっきの、もう一回……」

主人「あ……、あぁ!」

メイド「……言わなくても、分かってください……」

主人「キミを完全に理解することは、不可能に近い」

メイド「ご主人様の場合は、ただの無神経です……」

主人「う……、反省します……」

メイド「……はぁ」

主人「……」

メイド「……目を、閉じてください」

主人「……うん」

648: 2012/03/26(月) 22:05:05.31 ID:yVgZHHyM0


メイド「……」

主人「……」


649: 2012/03/26(月) 22:06:27.08 ID:yVgZHHyM0




メイド「……っふ、ぁ」

主人「……ん……ぷは」

メイド「……ぁ……」

主人「……」

メイド「……はぁ」

主人「……あは」

メイド「……煙草、燃え尽きちゃいました」

主人「また新しく、火を着ければいいさ」

メイド「……じゃあ、もう一本」

主人「どうぞ、いくらでも」

650: 2012/03/26(月) 22:07:00.94 ID:yVgZHHyM0
~おわり~

652: 2012/03/26(月) 22:08:03.55 ID:yVgZHHyM0
これで、このSSは終わりです

お読みいただき、ありがとうございました

655: 2012/03/26(月) 22:24:29.74 ID:yVgZHHyM0
TS病患者のパートナーは、常に感染のリスクに晒されています

そのことが、二人の関係の障害になるかもしれません

もし主人とも別れることになったら、メイドさん、今度こそ駄目かもしれません

女も救われません

先輩も報われません

友はもう受け入れたようですが

それでも二人は、少しでも幸せになれればと願っています

そういうお話

672: 2012/03/27(火) 19:09:11.70 ID:o5BtrVCP0
超乙

引用: 主人「キミ、以前は男だったって本当?」 メイド「はぁ、まぁ」