1: 2012/01/31(火) 17:42:35.13 ID:0g7FT/GF0
ハルヒ「ね?」

キョン「いや、ね?とか言われても…」

ハルヒ「あんたの目は節穴ぁ?どー見てもあれは太いわよ!」

キョン「うーむ」ジィッ

朝倉「どうしたの、キョン君?さっきからコッチ見て」

4: 2012/01/31(火) 17:44:49.94 ID:0g7FT/GF0
キョン「あ、いや……」

ハルヒ「朝倉の眉毛って太いわよねって話してたのよ」

朝倉「えっ…」

キョン「あっ、俺は思ってないぞ?それはハルヒが勝手に…」

ハルヒ「なによ!じゃあ、あんたは朝倉の眉毛が太くないとでも思ってんの?」

キョン「それは…」

7: 2012/01/31(火) 17:47:30.77 ID:0g7FT/GF0
朝倉「ちょっとぉ!ソコはすぐに否定する所じゃないの?」

キョン「そ、そうだよな!」

キョン「ハルヒ!朝倉の眉毛は決して太くなんかないぞ!」

ハルヒ「ふん!じゃあさっきの『間』はナニよ?『間』は?」

キョン「う…」

ハルヒ「ほんとーは太いと思ってんでしょ?正直に言いなさい!団長命令よ!」

8: 2012/01/31(火) 17:49:36.89 ID:0g7FT/GF0
キョン「……」チラッ

朝倉「キョン君…」ウルッ

キョン「ふ、太くない!ちっとも太くないぞ朝倉!」

キョン(だからそんな目で俺を見るな!)

ハルヒ「ふーん…」

キョン「なんだよ…」

ハルヒ「つまんないわね」

キョン「はあっ?」

9: 2012/01/31(火) 17:52:19.35 ID:0g7FT/GF0
ハルヒ「つまんないって言ったの!あんたならぜーったいに!」
    太いって、言うと思ったのに!」

キョン「おいおい。仮に思ってたとしても俺はTPOをわきまえてる人間だぞ?
    本人の目の前で言うワケ…」

ハルヒ「ということは、やっぱり思ってるんだ?」

朝倉「キョン君…」

キョン「いやいやいや。思ってない!思ってないから!」

10: 2012/01/31(火) 17:56:14.33 ID:0g7FT/GF0
ハルヒ「……そう。そこまで言うならいいわ!勝負しましょう!」

キョン「今までの話の流れでなぜそーなる!?」

ハルヒ「ルールは簡単よ!朝倉のまゆげが太いと思うかどうか道行く人に
    聞いて行くだけ!」

キョン「聞いてどーする…」

ハルヒ「そして、もし朝倉の眉毛が太いと思う人の方が多かったらあんたは
    罰として毎日眉毛に水やりするのよ!分かった!?」

11: 2012/01/31(火) 17:57:47.77 ID:0g7FT/GF0
キョン「眉毛に…」

朝倉「水やり?」

ハルヒ「ええ!朝倉にはこれからもしっかり太い眉毛を維持して
    もらわなくちゃいけないからね」

ハルヒ「そのための水やりよ!」

キョン「意味が分からん…」

13: 2012/01/31(火) 18:01:36.55 ID:0g7FT/GF0
ハルヒ「ふっふっふ!毎日水やりを続ける事によって眉毛は更なる進化を
    とげるのよ!」

ハルヒ「エボリューションよ!エボリューション!」

キョン「……」

朝倉「……」

ハルヒ「というわけで、さっそくレッツゴー♪」

16: 2012/01/31(火) 18:06:28.89 ID:0g7FT/GF0
そんなわけで、俺とハルヒと朝倉は北高の生徒や教師なんかに

「朝倉の眉毛を見てどう思いますぅ?」

とか、意味分からん質問を繰り返したのだった。

ちなみにこの作業は、日もとっぷりと暮れて校舎にほとんど人
がいなくなるまで続けさせられた。……やれやれだよ、まったく。

さて、そしてこの意味の分からんアンケート結果なのだが……
結果から言おう。

「太い」

結局のところ、この一言に集約された。

17: 2012/01/31(火) 18:08:58.23 ID:0g7FT/GF0
「…………」

隣にいる朝倉がやけに無口なのが少し怖い。
すまない朝倉。俺はこんなとき、どんな顔すれば良いのか分からないんだ。

「ふふん♪」

一方ハルヒはというと、自分の予想が見事に的中したのがたまらなく
嬉しいみたいで仁王立ちでふんぞり返っていた。ええい忌々しい。

21: 2012/01/31(火) 18:14:53.49 ID:0g7FT/GF0
「さてと……じゃあ、あんた達には明日から眉毛の水やり係だからね?」

「……おまえ、本気だったのか」

「あったり前じゃない!じゃ、もう遅いから帰りましょ♪」

「…………」

朝倉は終始無言だった。

俺は嬉しそうなハルヒの横顔を見て、「ああ」と短く答えて、学校を
後にした。

24: 2012/01/31(火) 18:17:47.17 ID:0g7FT/GF0
異変は翌日からだった。

「うーっす」

挨拶もそれなりに、席につこうとした俺を待っていたのは

「キョン君!」

朝倉の声だった。だがしかし……

「どうかしたのか?朝倉」

朝倉は何故か顔上半分……いや、まゆげを隠していた。
嫌な汗が背中を伝う。

29: 2012/01/31(火) 18:20:49.00 ID:0g7FT/GF0
「あの、ちょっとね……?」

朝倉が俺に目くばせする。
どうやら教室では話しにくい内容らしい。

俺は朝倉に言われるがまま教室を出て、人通りの少なそうな
屋上近くの階段まで着いて行った。

「ここなら、良いか?」

朝倉に確認を取る。

「うん。そうね……」

31: 2012/01/31(火) 18:23:58.54 ID:0g7FT/GF0
朝倉はそう言うと、少しはにかみながら

「あの、笑わないでね?」

両手をまゆげから離した。

「ぶふぉっ!?」

だがしかし!

朝倉の悲痛な訴えは、間もなく俺の声によってかき消されたのだった。


瞬間。
本当に、朝倉の眉毛を見た瞬間、俺は吹きだしていた。

33: 2012/01/31(火) 18:28:13.46 ID:0g7FT/GF0
だってそうだろう?
こんな眉毛見たことない。

いや、それは言い過ぎか。
でも、学年でも一、二を争う美女の朝倉がこんな眉毛になるなんて誰が
想像できよう?

少なくとも俺には無理だ。
いくら朝倉の眉毛が最初から少々太かったっとしても、これは予想外、想定外だ。

ああ、すまない。
こんな言葉じゃちっとも伝わらないな。ちゃんと言おう。

そう、朝倉の眉毛はジャングルだったのだ。

ただのジャングル眉毛じゃないぞ?バナナの木や小さいサル、ゴリラも
生息している本当に本気で立派なジャングルだ。

34: 2012/01/31(火) 18:29:53.36 ID:0g7FT/GF0
多分、この光景を的確に表すなら

「スモールライトで小さくしたジャングルを、朝倉の眉毛に移植した」

ってとこだろうか?

ああ、うん。まさにそんな感じだ。

36: 2012/01/31(火) 18:33:44.49 ID:0g7FT/GF0
おそらくコレもハルヒの力の所為なんだろう。
まったく、恐れ入る。
つーか、人の眉毛をなんだと思ってるんだ、あいつ?

「キョン君。笑わないでって言ったのに……」

ひたすらニヤニヤしながら眉毛を観察している俺に、朝倉が泣きそうな
顔で言った。

おっと、いかんいかん。
俺はTPOをわきまえる男!

38: 2012/01/31(火) 18:36:45.59 ID:0g7FT/GF0
「すまない。それで朝倉その眉毛……」

「うん。朝起きたらこうなってて……多分涼宮さんの力の所為だと思う」

「情報操作で治らないのか?」

「それが……何回試してみても『エラー』になって…」

「そうか……」

44: 2012/01/31(火) 18:56:03.37 ID:0g7FT/GF0
「……」

「なに?」

「いや、水をやったらどうなるんだろうって思って…」

「ちょっと!?まさか水をやるつもり?」

46: 2012/01/31(火) 18:59:56.36 ID:0g7FT/GF0
「ダメか?」

「ダメに決まってるじゃない。それより早く眉毛をどうにかしなくちゃ…」

「…………」

だがしかし、走り出した俺の好奇心は止まってはくれなかった。
俺は何故か手に持っていた森の水だよりのペットボトルの蓋を開けると、

「足が滑ったぁぁぁぁ!」

と、わざとらしく叫びながら、そのまま朝倉の眉毛に向かって中の水を掛けた。

48: 2012/01/31(火) 19:02:45.77 ID:0g7FT/GF0
ジャングルは、広がった。
つーか伸びた。主に前方に。

「いぃぃぃぃっ!?」

なんか、飛び出る絵本みたいな、あんな感じ。

「ちょっと!?何してんの!?」

朝倉もご立腹だ。
でも、眉毛が邪魔で表情は分からない。

たぶん、怒っているんだろう。

50: 2012/01/31(火) 19:06:28.83 ID:0g7FT/GF0
眉毛を見ると、さっきよりバナナの木もサルもゴリラも心なしか
でかくなっていた。

さっきまではどれもフリスクの欠片ほどもなかったのに、今じゃ一円玉
ほどの大きさになっている。

「う、うわっと?」

朝倉も、眉毛が重くなってバランスが取りづらくなったのか、よたよた
しながら俺にもたれかかってきた。

51: 2012/01/31(火) 19:07:57.95 ID:0g7FT/GF0
ふだんなら女の子がもたれ掛かって来るイベントなんて

「やった♪ラッキー♪」

とでも思うのだろうが、生憎いまは

「うっ、ちくちくする!?」

胸よりも先に眉毛が顔に当たる。
伸びすぎだろ、眉毛。

52: 2012/01/31(火) 19:13:38.99 ID:0g7FT/GF0
しかも眉毛に生息しているサルも俺を威嚇して来る。

「うっき!うっきき~!!!」

すまない。サル語は分からないんだ……。

「って、それより朝倉!大丈夫か?」

俺はうっとおしい眉毛を払いのけながら朝倉に訊ねる。

「頭が……重いわ」

そうだろうよ、と心の中で頷く。

53: 2012/01/31(火) 19:16:12.98 ID:0g7FT/GF0
だがとにかく、水を掛けたらどうなるかは分かった。
ジャングルが広がる。それだけだ。

俺の好奇心は満たされた。
ここにはもう謎はない。

「じゃあな!朝倉」

俺はもたれ掛かって来る朝倉を振り切って……

「逃がさないわ」

振り切れなかった。

56: 2012/01/31(火) 19:21:28.99 ID:0g7FT/GF0
「止めるな、朝倉!ここに謎はもうないんだ!もうないんだよ!」

「うん。でもね、それがなに?」

「はあ?」

「あなたの所為でこんなになったんだからあなたが直すのは
当たり前じゃない?わたし、間違ったこと言ってる?」

「間違ってはないだろうが、それはムリだ!極平凡などこにでもいる
普遍的高校生の俺にそんなのどうしろと!?」

「無理でもやるのよ」

57: 2012/01/31(火) 19:25:08.70 ID:0g7FT/GF0
「いや、しかしなあ……」

俺は困った。

どうする?眉毛に情報操作は効かなくなったと言ってもそれは眉毛に
効かないだけで俺に対しては効くだろう。

だとしたら、また命の危険に晒されるってワケだ。

言っちゃあなんだが、俺は朝倉に勝つ見込みなんてこれっぽっちも
持ち合わせちゃいない!

持っているのモノと言えば……

「そうか!!!」

「観念した、キョン君?」

「観念するのはお前の方だ!」

俺は手に持っていたペットボトルに入っていた残りの水を朝倉目がけて
ふりまいた。

58: 2012/01/31(火) 19:28:06.97 ID:0g7FT/GF0
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

「なっ!?」

「これが、俺の今持ってる全ての水だああああああああ!!!!!」

朝倉の眉毛が光り輝く!

「これはちょっとしたスペクタルですよ」

いつの間にやら隣にいた古泉がそれだけ言って、また走り去っていく。
あいつ、この台詞の為だけにスタンばっていたのか……。

「そう」

長門もそれだけ言うと、歩いて教室に向かっていく。
なんだ、みんな居たんじゃないか。

60: 2012/01/31(火) 19:31:45.30 ID:0g7FT/GF0
朝倉の眉毛はまだ光り輝いている。
朝比奈さん、出てくるなら今ですよ~。

「…………」

だが、朝比奈さんは結局間に合わず、朝倉の眉毛の光はやんでしまった。
やんで、そして……。

「え?」

バサバサと音を立てながら、抜け落ちて行く。

61: 2012/01/31(火) 19:33:01.61 ID:0g7FT/GF0
これは……

「枯れたのよ」

「ハルヒ!?」

気がつけば、隣にハルヒが立っていた。

「どういうことだ、ハルヒ!?」

「まだ分からないの?枯れたって言ってんの!」

「枯れ……た?」

「ええ」

63: 2012/01/31(火) 19:35:35.00 ID:0g7FT/GF0
「そんな……なんで?」

「こんの馬鹿キョン!あんたが水やりすぎたからでしょ!?
根腐れしたのよ、根腐れ!」

「なん…だと…?」

慌てて抜け落ちた眉毛をかき分けながら朝倉に近づく。

「朝倉!」

「キョン……君?」

65: 2012/01/31(火) 19:37:48.34 ID:0g7FT/GF0
だが、朝倉の顔にはもう眉毛は残ってはいなかった。

「そんな……」

「どうしたの、キョン君?」

「すまない!俺の…俺の所為だ!!!」

「えっ、えっ?」

いまだ要領を得ない朝倉。

当然だ。

ついさっきまで大騒動していた眉毛が一転、今度は顔からなくなって
しまっているんだ。その無念といったら計り知れない!

69: 2012/01/31(火) 19:41:37.10 ID:0g7FT/GF0
「ハルヒ、俺はどうしたらいい?どうしたら朝倉の眉毛の想いに答えてやれる!?」

「…………それは、あんた自身が考えなさい」

ハルヒは、俺の質問に対して背を向けながら、そう答えた。

「くそっ!俺は……俺はぁ!!!」

「キョン君…」

「朝倉……?すまない!すまない!」

だが、朝倉は俺の目から零れ落ちる涙を拭いながら見上げる。

71: 2012/01/31(火) 19:43:07.92 ID:0g7FT/GF0
「いいの。なんとなく、こうなる予感はしてたから…」

「でも、お前の眉毛が!?」

「ねぇ、キョン君。わたしね、ときどき思うんだ」

「?」

「なんでこの世から争いは無くならないんだろうって、なんで皆平和に
暮らせないんだろうって」

「朝倉、おまえ何言って…」

72: 2012/01/31(火) 19:44:57.97 ID:0g7FT/GF0
「たぶん、きっと眉毛の所為なんだと思う」

「眉毛の?」

「うん。きっと眉毛があるから皆争うんじゃないかなあって、わたし
そう思うんだ」

「…………」

俺は何も答えられない。

「だからね、キョン君……」

77: 2012/01/31(火) 19:51:49.02 ID:0g7FT/GF0
それから、一週間後。


あの大事件から世界は変わった。
いや、きっと朝倉が変えてくれたんだろう。
少なくとも、俺はそう思ってる。

あいつが眉毛の大切さ、尊さ、怒り、悲しみ、憎しみ、そして眉毛に
対する愛なんかを、まとめてこの世界に教えてくれたからこそ、世界
から争いは消えたんだろうと、そう思ってる。

「キョーン!きょうもあんたの眉毛!決まってるわね!」

「だろ?」

今ではこの世界から眉毛という存在は完全に消え去り、代わりに
皆各々好きな形の眉毛を顔に書いている。

79: 2012/01/31(火) 19:57:59.65 ID:0g7FT/GF0
「眉毛……ね」

もしかしたら、あいつは笑うかもしれない。
眉毛が太いからって気にする事はないと。

もしかしたら、あいつは怒るかもしれない。
眉毛で戦争なんて馬鹿げてると。

もしかしたら、あいつは悲しむかもしれない。
眉毛で苛めがおこるなんてと。

でも……きっと!

「迷える眉毛の子羊よ。汝らに光の祝福を……」

きっとあいつは、笑顔でこう答えてくれるに違いない!

「あなたの眉毛はあなただけのモノです。誇りなさい」と!!!

そうして、今日も眉毛な一日が始まっていく。
朝倉の隣に行こうと、俺が思った。


おわり

80: 2012/01/31(火) 20:01:16.84 ID:0g7FT/GF0
終わった。長かった。

82: 2012/01/31(火) 20:01:44.44 ID:4SedvoYkO

引用: ハルヒ「朝倉ってまゆげ太くない?」