1:◆TRhdaykzHI 2014/05/10(土) 18:44:59.65 ID:Func4jDl0
あらすじ
海に浮かぶ小さなこの大陸には
人間と魔族が共存しています
100年前には割と血みどろな人魔戦争があって
勇者と魔王が瞳孔開きながらぶっ頃しあったことがありました
(勇者「百年ずっと、待ってたよ」)
戦争後かろうじて生き残った魔族の子孫たちも
討伐に来た勇者によって殺されそうになりますが
魔王と勇者が和解したことにより戦は起こらなくなります
その後勇者は国王に反旗を翻します
(幼女「待ちくたびれたぞ勇者」)
人と魔族の和平から数年 平和な暮らしもつかの間
世界崩壊カウントダウンがはじまって
バッドエンド不可避でやばいという話
(勇者「世界崩壊待ったなし」 これ)
2: 2014/05/10(土) 18:46:32.85 ID:Func4jDlo
魔王「んん……」ムク
魔王「朝か……」
魔王「顔を洗いに行かねば」
バシャバシャ
魔王「……」
魔王(なんだか城が騒がしいな……あとで下に降りよう)
魔王「……寝癖を直してから」
魔王「……?」
魔王「…………!?」
3: 2014/05/10(土) 18:48:08.48 ID:Func4jDlo
ヒュン
勇者「おっしやっと来た!!うおおおおおおおあああああああ」
チリンチリンチリン
勇者「俺だ!!10秒以内に応答がなければ勝手に入るぞ!!10中略0おじゃましまーす!
魔王いるかーーっ!!緊急事態だ大事な話がある逃げるなよ!!」
勇者「姫様。ついてきて頂いて大変恐縮なのですが、少しだけ二人で話させてもらってもいいですか」
姫「ええと……今の様子を見る限りとても不安ですが、分かったわ。行ってらっしゃい」
勇者「魔王ーーーっ どこだ!?」
ダッダッダッダッダ……
バターン
勇者「魔王!!!ここにいたのか!!!」
魔王「……!?」
勇者「大変だ。落ち着いてよく聞いてくれ」
勇者「もう間もなく世界が滅亡するかもしれないんだそうだ」
4: 2014/05/10(土) 18:51:36.11 ID:Func4jDlo
魔王「……」
勇者「……」
魔王「……」
勇者「なあ聞いてるか? なんでタオルで顔隠してるんだよ」
勇者「こっち向……」
魔王「……」パサ
勇者「なっ お前、それ……どうした!?」
魔王「どうやら、この世界に何らかの異変がまた現れたのは間違いないようだ」
魔王「……大変だ。落ち着いてよく聞いてくれ」
魔王「私は人間になってしまった」
勇者「……ええええええーーーーーーーーーっ!!」
5: 2014/05/10(土) 18:53:49.85 ID:Func4jDlo
時の神殿
??「もう何の役にも立たないゴミクズ……」
??「結局、ぜんぶ僕の手によって消え去ってしまうんだ」
??「この世界はもういらない」
バタン
??「やあ」
時の女神「…………? だれです……?」
??「はじめまして」
女神「……鍵守様……ではないですね。姿は似ていますけど」
女神「まさか……あなたが創世主様なのですか?」
??「そうさ。それで君が時の女神だね」
??「君の仕事といえば、時間を管理すること」
??「君がいなくなってしまえば、時空の歪みがそこここに生まれて大変なことになってしまうね」
女神「あ……はあ、そうですね……」
女神「あの……あなた様は一体……何故この神殿にいらっしゃったのですか?」
??「僕は一応創世主という肩書だから、生むのは得意だけど消すのはそうじゃないんだ」
??「だからこんな地道な作業を繰り返すしかないんだけどね」
女神「……」
女神「……なにを」
??「君には一番最初に消えてもらいたいなって」
女神「!?」
??「じゃあ」
6: 2014/05/10(土) 18:55:33.14 ID:Func4jDlo
――カラン……カランカラン
??「これが時の歯車か」
??「よし。これからはじまるぞ。じゃあ幕を閉めようか」
??「この世は舞台」
??「そして人生は歩く影法師。あわれな役者だ」
??「束の間の舞台の上で威張りくさって歩いてみるが、出場が終われば耳を傾ける者もなし」
??「男も女も老いも若きも勇者も魔王も皆全て、僕がつくりあげた役者に過ぎない」
??「カーテンコールはいらない」
??「おわりのはじまりだ」
7: 2014/05/10(土) 18:58:29.55 ID:Func4jDlo
――――ちょっと前
王都
魔術師長「ねえ~~魔王ちゃぁぁん~~お願いがひとつだけあるんだけどぉ」
魔王「断る」
魔術師長「まだなにも言ってないじゃない!!」
魔王「研究の手伝いならこの間やった」
魔術師長「この間以上に締めきりがやばいのよ~~ ねぇぇぇお願いお願いお願い」
「くくくく……」
魔術師長「なにっ!?この声は!?」
召喚師長「僕だよぉ……」
魔術師長「あなたなんでここにいるのよ?」
召喚師長「残念だったね……魔王は既に僕の研究を手伝う予定があるんだ……」
魔王「ないが」
召喚師長「だから魔術師長の研究の手伝いなんてする暇はないんだ。おとなしく帰りたまえよ」
召喚師長「次締めきり過ぎたら減俸の僕を気遣って、やさしい魔王は僕の手伝いをしてくれるって言ったんだよぉ!」
魔王「言ってないが」
魔術師長「なんですって!? ていうか減俸って、あなたどんだけやらかしてんのよっ」
魔王「二人とも話を聞け。私は明日王都を離れて一度魔王城に帰るつもりだ」
魔王「そのために私は私でこちらのことを片づけるのに忙しいから、君たちのことは手伝えんぞ」
召喚師長「だってさ。だからほら言っただろ?帰りたまえ魔術師長!!」
魔王「いや、だから君もだ……」
魔術師長「ぞんな゛~~ えぐえぐ」
8: 2014/05/10(土) 19:09:29.86 ID:Func4jDlo
ざわざわ ざわざわ
魔術師長「あら? 城の外が騒がしいわねぇ。一体なにかしら」
召喚師長「窓から見えるよ。騎士団が遠征から帰ってきたみたいだ」
魔術師長「ああ……。最近変なことが続いてるから、騎士団も忙しいみたいねぇ」
召喚師長「顔色から見るにあまり成果は上がらなかったみたいだね。また原因不明か」
魔術師長「勇者もいるわ」
魔王「……」
騎士A「はあ……まーた今回も成果なしでしたね」
勇者「なんなんだろうな。あんな大穴、とても一晩で掘れるものじゃないし」
勇者「しかも底なしときた。でも一番謎なのは……」
騎士B「動機ですよね。穴なんて掘って一体なにがしたいんでしょう」
騎士B「まあ、人の手によるものでなく自然現象と考えるのが妥当だとは思いますが」
勇者「突然各地に巨大な穴が開く自然現象って、なんだよ?」
騎士A「さあ……。どちらにせよ不思議ですね」
騎士B「あ」
勇者「?」
騎士B「魔王様と魔術師長様と召喚師長様が、ほら、テラスから」
小隊長「魔術師長様と召喚師長様はこちらを指さして楽しそうだな……
大方成果のあげられなかった我々を笑っていらっしゃるのだろうが」
小隊長「はあ……」
勇者「はは。相変わらず騎士団とあっちは仲が悪いな」
騎士A「あっ 魔王様が手振ってくれてる!俺にか」
騎士B「馬鹿言え……俺にだろ」
小隊長「お前らいい加減にしろ。浮かれすぎだぞ。団長に報告を終えるまでが任務だ」
小隊長「……そもそも俺だろ」
騎士A「それは絶対ありえません」
小隊長「なんで!?俺って嫌われてるの!?」
9: 2014/05/10(土) 19:13:04.30 ID:Func4jDlo
魔術師長「ふん……相変わらず馬鹿丸出しねぇ。騎士団の連中は」
召喚師長「勇者に声かけに行けば?魔王」
魔王「いや……あとにしよう」
魔術師長「何故? ……ああなるほどね。
あの木の影で若い小娘たちが今か今かとあいつらに飛びかかろうとしているわね」
召喚師長「騎士団の今年の新入隊員は例年より女子の割合が多かったみたいだからね」
魔術師長「チィッ こちとら今年は希望者が少なかったって言うのに腹立つわねぇ」
魔術師長「魔王ちゃん。あの女狐たちの前で、勇者は自分のものだって見せつけてきていらっしゃい」
召喚師長「そうさ魔王。それで召喚師部に勧誘してきてくれ」
魔王「何故そうなる……」
魔術師長「何故って。あなた、勇者と付き合ってるんじゃなかった?」
魔王「どこをどう見たらそうなるんだ」
魔術師長(えっ。ちがうの)
召喚師長(えっ。そうだったんだ)
10: 2014/05/10(土) 19:14:15.76 ID:Func4jDlo
宮殿
国王「うん。確かに受け取った。おや、今月は随分小麦の収穫が多かったみたいだね」
竜人「そうなんですよ。新しい肥料を導入したせいですかね」
国王「なるほどね。 他国との交易もうまくいってるようだし、成長著しいな」
竜人「国王様こそご立派になられて。あのころとは見違えましたね」
戦士「それが根本は全く変わっとらんでな」
戦士「俺はいまこの方のお近くで仕事をしているが……」
国王「最近のマイブームである、会議中に誰にも気づかれずアヘ顔ダブルピースゲームやってたら」
国王「後で彼に怒られてしまったよ。ハハハ」
竜人「そりゃそうでしょう」
騎士「この王の奇行には全く頭が痛いですよ……」
国王「いやあ照れるね」
竜人「戦士さんと騎士さんもお元気そうでなによりです」
11: 2014/05/10(土) 19:16:02.19 ID:Func4jDlo
竜人「そういえば戦士さんの娘さんはこの間誕生日だったそうですね。
おめでとうございます」
戦士「ありがとう。もう娘も15だ……。最近彼氏ができたみたいでな……。
昔は……昔はパパと結婚するって言ってくれてたのに……寂しいものだ……」
竜人「ああ……その気持ちすごく分かります!
魔王様も……昔は『私が大きくなったら魔女も竜人もいっしょに娶る』って仰ってたんですよぉ」
国王「一夫多妻か。さすが魔王だね」
騎士「それ以前に何かがおかしいような……」
姫「お兄様、今ちょっとよろし……あっ」
姫「竜人さん!いらしてたんですか……し、失礼しました」
竜人「いえ、もう帰るところですのでお気になさらず」
12: 2014/05/10(土) 19:19:02.24 ID:Func4jDlo
姫「帰ってしまわれるのですか……いえ別にいいのですけどもね……別に」
国王「どうかしたのかな。あ、もしかしてこの間の」
姫「!!」
国王「貴族との見合いの話――」
姫「ではないです!!!そうでは全くありません!!!」
竜人「姫様もそんなお年ですか。うまくいくといいですね、その方と」
姫(……お兄様)ギロ
国王「ハッハッハ、目つきが悪いぞ妹よ」
姫「……そのお見合いを今日は断りにきたんです。私にはまだ結婚は早いと思いますし」
姫「…………せっかく竜人さんがこの場にいらっしゃるから、ついでにお尋ねしますけれど
竜人さんは……ご結婚とか考えてらっしゃる方がいらっしゃるのでしょうか?」
竜人「え?いえいえ私は全く」
竜人「恥ずかしながらその手の話には疎くてですね。ははは」ゴォッ
竜人「おっといけない。うっかり人の姿のままで火を吹いてしまいました。失敬」
騎士「……!?」ガクガク
戦士「お前、絶対うちの娘の前で照れ笑いをするなよ」
姫「……」
姫(竜人さんって照れると口から火を吐くんだ……)
姫(……)
騎士「……」
姫(素敵……)
騎士「姫様ー!お気を確かにー!ちょっと盲目すぎませんかー!?」
13: 2014/05/10(土) 19:20:45.57 ID:Func4jDlo
魔王「勇者くん。おかえり」
勇者「魔王。久しぶりだな。王都にいたのか」
魔王「いたのだ。 穴の原因は……」
勇者「いや、結局分からず仕舞いだ」
勇者「この国だけじゃなく雪の国や星の国でも同じようなことが起こってるみたいだが、
どこの国も原因がまだ分かってないらしい」
魔王「共通しているのは、一晩で底なし巨大な穴がいきなり地面に開くことくらいか」
魔王「ところでこの底なし、というのはどうやって確かめたんだ?」
勇者「召喚師に鳥の幻獣を召喚してもらって、人がそれに乗って下まで降りたんだ。
でも1時間くらい下降しても何も見えなくてな、それ以上は危険を感じてやめたって」
魔王「ふむ……一体なんなのだろうな」
勇者「そんな穴開ける理由も分からないし、第一どうやって掘ったんだか」
勇者「……あんなこと一晩でできるとしたら魔王くらいしかいないんだけど、
本当にお前じゃないんだよな……」
魔王「なっ……ちがうぞ。私を疑っているのか」
勇者「いや、冗談冗談。そんな睨むなよ」
勇者「ま、穴については、落下する奴がいないように騎士たちが見張ってるし」
勇者「だれがやったのか、それとも災害かなんか知らないが、そのうちおさまるだろうな」
魔王「……」
勇者「おい、そんなに怒るなよ。さっきのは本当に冗談だって!」
14: 2014/05/10(土) 19:22:27.19 ID:Func4jDlo
魔王「勇者くんが私のことをそんな風に思っていたとは知らなかったな」
勇者「いやっ悪かったって!魔王がそんな意味分からないことするなんて思ってないよ」
魔王「大体私にそんな暇はない。
今日王都での魔術研究をやっと終わらせて、明日魔王城に帰って自治区の諸々の事務処理などをしなければならないのだから」
魔王「ここ一カ月……王都と魔王城を往復する毎日で、休みがないのだぞ。
休みがほしいっ……ケーキ食べたいっ。時間をかけてゆっくりケーキを食べたいっ」ダンダンッ
勇者「お、落ち着け。悪かったよ」
勇者「そうだ、南区の新しくできたあの店行きたいって言ってたよな。
来週行こうぜ。奢ってやるよ」
魔王「え……?」
魔王「でも君は……騎士団の仕事が忙しいのでは」
勇者「来週は俺も遠征なしでこっちでの仕事ばっかりだから、予定合わせる」
魔王「ほんとうに……?」
勇者「ああ」
魔王「行くっ」
魔王「……来週までに過労氏してでも私の仕事は終わらせよう」
勇者「過労氏はしないでくれ」
魔王「約束だからな。その日を心の支えにして来週まで頑張るのだから、
もし反故にされたら私の精神はどうなるか分からんぞ。覚えておけ勇者くん」スタスタ
勇者「またよくわからん捨て台詞を……」
15: 2014/05/10(土) 19:26:09.68 ID:Func4jDlo
* * *
どっかの町
生徒「先生さよーなら!」
元神官「はい、さようならー」
勇者「……」
「…………ちょっと勇者様?なにを笑っているんです」
勇者「いや、ちゃんと先生やってるなって思って」
元神官「やってますよ。当たり前じゃないですか」
勇者「神官やめて教師になるって言ったときには驚いたけど、なかなか様になってるな」
元神官「けっこう楽しいですよ。こうしてこの長閑な町で教師をやっていると」
元神官「勇者様たちと旅していたあの期間が、どれだけ激動に満ちていたかと思い知らされますよ……」
勇者「とか言いつつ一番はっちゃけてたのはお前だよな」
元神官「ちょっと何言ってるんですか!?そういう誤解を招くようなことやめてくださいよ!!」
元神官「今日はこの町の近くに出現した穴を調査するついでに?」
勇者「まあな。あれは3日前に現れたんだっけ?」
元神官「ええ、そうですよ。でも別に……とくになにもないですね」
元神官「穴からマグマが飛び出してきたりもしないし、温泉が湧いてくるわけでもなし……」
勇者「この国だけでも13か所か。全く、暇人もいるよな。
一人じゃ絶対無理だし、団体でやったんだろ」
勇者「あーもうまったくよーー!!
転移魔法が使えるからって、穴の報告がある度に確認に回される俺の身になってくれよーー!!」
勇者「今日も残業だーー!うわーーい!!」ダンッ
勇者「ま、今日は教師に久々に会えたし別にいいけどな」
元神官「ははあ……勇者様も大変ですねえ。
魔王様との旅を終えてから、騎士団で仕事してるんでしたっけ」
勇者「ああ。勇者って別に職業じゃないしな」
元神官「確かにそうですね」
勇者「剣を使うのはまだいいが、事務処理が堪える……」
元神官「でしょうね。書類を前に苦悩する勇者様が一瞬で想像できますよ」
16: 2014/05/10(土) 19:26:50.77 ID:Func4jDlo
元神官「……ですがさっきの、穴が団体で誰かに掘られたっていうのは違うと思いますよ」
勇者「え?」
元神官「だって、穴を最初に発見した人が言ってました。
穴の周りにはなにもなかったって」
勇者「はあ……それが?」
元神官「なにもですよ。普通穴を掘ったら、その体積分の土が周りにあるはずじゃないですか」
勇者「……ああ、そっか」
元神官「間違いなく人や魔族の仕業ではないと私は思いますよ」
元神官「魔王さんにも……ちょっと難しいんじゃないでしょうかね」
勇者「……」
元神官「私は少しだけ嫌な予感がします」
元神官「まるで何かの前兆のような……」
17: 2014/05/10(土) 19:31:03.86 ID:Func4jDlo
* * *
魔王城
魔王「……ふう。今日はこのへんでやめておくか」
コンコン
竜人「魔王様ご飯ですよ!」
魔王「いま行く」
魔女「ひゃっほーっ 新薬できたー!できたよ魔王様ーっ」
魔王「何の薬だ?」
魔女「身長が伸びる薬ー」
魔王「なに!?」ガタ
魔女「まだ実験してないから試験体になってくれます?」
魔王「分かった」
竜人「こらっ!!だめですよ魔王様!
魔女の薬は成功してたら出来がいいですが失敗してたら最悪なんですから!!」
竜人「いくら身長伸ばしたいからって安易に実験体にならないでください!!」
魔女「ちっ……うるさいなぁ竜人は」
魔王「しかし、もし成功してたらどれくらい背を伸ばせるんだ?」
魔女「一滴飲むごとに1cm伸ばせるから、10cmくらいまでとりあえず今すぐOK」
魔王「飲み干そう」
魔女「いえーい」
竜人「私の話聴こえてました?だめです」ヒョイ
魔王「返せ」
魔王「く……もし私にあと10cmの身長があったら今も竜人から薬を取り返せたのに」
竜人「あと30cmくらいないと届きませんよ」
魔王「虎穴に入らずんば虎児を得ずというだろう。竜人、それをよこせ」
魔女「おうおう天才魔女ちゃんの薬を虎穴呼ばわりたぁ恐れ入るね」
竜人「虎穴どころか……」
魔女「なによぅ」
竜人「先週、変な触手もってる植物つくって失敗させて、下にある私の部屋まで滅茶苦茶にしたのは
一体どこの誰かさんでしたっけね……」
魔女「知らないもーん」
18: 2014/05/10(土) 19:33:05.19 ID:Func4jDlo
魔王「私が王都に行ってる間にそんなものをつくっていたのか」
魔女「だって触手の植物ってけっこう需要あるんだよー」
魔女「もうそろそろ魔族地区の特産指定うけてもいいくらい売上絶好調なんだから!」
魔王「確かに交易でもなかなか買い手がつくな。魔女のおかげだ。
しかしよく分からんな、香りがいいわけでも実をつけるわけでもないのに」
魔王「食べることもできないし、何かの役に立つとも思えない。
鑑賞用……なのか?私には理解できないが風情があるのだろうか」
魔女「何かの役って、そりゃ決まってるよ。大人のおも――
竜人「ほら!!早く二人ともご飯食べないと冷めてしまいますよ!!
さあ早く席について!ねっ、ほら!!」
竜人「今日はシチューですよ。魔王様お好きでしょう。ねっ」
魔王「シチューか。素晴らしいな!」
竜人「魔女。余計なことそれ以上魔王様の前で口にしてはいけませんよ」
魔女「過保護だなー もう」
19: 2014/05/10(土) 19:36:54.92 ID:Func4jDlo
竜人「そもそも……」
竜人「身長が伸びないのは魔王様が牛乳を飲まないからではありませんか?」
魔王「何故牛の乳など飲まねばならん」
竜人「好き嫌いはいけませんよ」
魔王「はあ……。成長したらもっと……こう、きりっと立派な魔王になれると思っていたのに」
魔王「背は高くて、顔は大人っぽくて、剣も得意で、向かうところ敵なしの完全無欠な存在に」
魔女「けっこう欲張ったね」
竜人「向き不向きというのがあります。とりあえず今日から牛乳飲みましょうか」コトッ
魔王「……。……」ゴク
魔王「……不味いぞ」
魔王「不味い!こんなものやはり飲めない」
竜人「ああ、それなら畑でとれた苺をつぶして混ぜてみましょうか」
魔女「えーーーなにそれおいしそう。あたしにもちょうだい」
竜人「いまつくりますから」
魔王「……」
魔王「……甘い」
魔王「おいしいなっ」
竜人「はあああああ魔王様かわいいいいい(おかわりありますよ)」
魔女「逆」
20: 2014/05/10(土) 19:39:19.15 ID:Func4jDlo
* * *
一週間後
魔女「あれー。魔王様どっかに出かけるの?」
魔王「ああ。王都に」
魔女「ふーん……。……だったら竜人のいないうちに行った方がいいよ」
魔王「?」
竜人「私がなんです?」スタスタ
魔女「ありゃ。来ちゃった」
竜人「おや魔王様、お出かけですか。どなたかお友達とですか?」
魔王「ああ」
竜人「そう………………」
竜人「ですか…………」
魔王「な……なんだ」
竜人「スカートが少々短くはないですか?」
魔王「ひざ下10cmだぞ。どこが短いんだ。それだったら魔女の方が何倍も短いだろう」
魔女「そうだよ、魔王様はもっと足だした方がいいよ」
竜人「……え? もしかして…………どなたか男性とお出かけになるのですか……?」
竜人「……デートですか……?」クラッ
竜人「……ていうか勇者様とですか?……あの野郎と二人っきりで……お出かけに?」
魔王「何故そこで勇者くんの名前が出る」
魔女「あ、ちがうの?」
魔王「違う」
竜人「今目ぇ逸らしましたね!?やっぱりあいつなんじゃないですか!!!
ああっ!!手塩にかけて育てた魔王様が……」
竜人「ついに私たちに黙って男性と出かけるようになってしまわれたとは!!
これが……戦士さんが仰ってた思春期!!ああっ悲しい!!」
魔王「ええい違うと言ったら違う!もう待ち合わせに遅れてしまうから私は行くぞ」
魔王「転移魔法」
竜人「こらっ待ちなさい!!まだ話は終わってませんよ!!」
ヒュン
竜人「あのクソ勇者め……!!!」
魔女「どうする?竜人。魔王様が明日の朝帰りだったら。
今日の夜あんなことやこんなことまで勇者にされちゃうかもねー」
竜人「頃してきます」スッ
魔女「うそうそ、冗談……ってあんた今日仕事あるでしょ」
魔女「ちょっと!!私に押し付けないでよ!?ねえ!!」
21: 2014/05/10(土) 19:42:19.09 ID:Func4jDlo
王都
魔王「竜人のせいで待ち合わせに遅れてしまう。急がなければ」
スタスタ
魔王「……」
魔王「短い……だろうか?」
魔王「いやこのくらい普通だろう……変なことを二人が言うから」
魔王「全く」
魔王「ただ友と食事をするだけだ。なのに」
魔王「…………!」
ピタ
魔王「だれだ?」
魔王「後をつけているのは分かっている。隠れていないで出て来い」
??「……」
??「君が魔王かな?」
魔王「……そうだが」
22: 2014/05/10(土) 19:44:14.96 ID:Func4jDlo
勇者「……魔王遅いな」
勇者「寝坊か?」
――ヒュッ!!
勇者「!?」キィン
勇者「なんだ!? ……見たことない飛び道具だな」
??「くないって言います」
キャーー!
なんだなんだ!?
――カッ!
――――カッ カッ!
勇者「うおっ なんだよ! 誰だ!?」
??「貴様が勇者様ですね!私は東国から参りました忍です!くのいちです」
忍「さっそくですが――お命頂戴っ!!」
勇者「お、おいっ」
23: 2014/05/10(土) 19:44:45.60 ID:Func4jDlo
ヒュンヒュン
勇者「こんな街中で……いきなり危ないだろ!
その妙な飛び道具が人にあたったらどうする……、!」
勇者(火薬の匂い!?)
忍「どかーん!」
ドンッ……!
「うわー!?一体なんなんだ!?」
「逃げろー!」
忍「よっしゃあ!!
勇者様とあれど、私の『全く忍んでいない爆破攻撃』にはひとたまりもなかったようだな!!ふははは!!」
勇者「俺はこっちだ」
忍「げっ 生きとるがな」
勇者「こっちに来い!」
忍「待てーー!」
勇者(とりあえず人気のないところに……)タッ
24: 2014/05/10(土) 19:49:09.54 ID:Func4jDlo
* * *
魔王「私は確かに魔王だが、君は一体何者だ」
妖使い「俺は妖使いっていうものさ。妖っていうのは……こっちでいう魔族みたいなものだ」
妖使い「俺のいた東国じゃあ君たちのことをそう呼ぶ」
魔王「見慣れぬ格好だと思ったら、大陸の外から来た者だったのか」
妖使い「君が魔族のトップなんだろう?」
妖使い「突然だけど、お手並み拝見させてもらえないかな?」
魔王「私は今急いでいるのだが」
妖使い「ボクコッチのコトバわかりまセーン」
魔王「うそをつけ」
妖使い「いっけー妖孤!君に決めたーっ!!」
ボフン
妖孤「ええと……主様の命令なので戦わせて頂きますね……すみません」
魔王「君の主は話を聴かないな」
妖孤「ええ、ほんとすみません……」ヒュッ
魔王「捕縛魔法」
25: 2014/05/10(土) 19:50:34.57 ID:Func4jDlo
スゥ……
魔王「なに? すり抜けた?」
妖使い「妖孤は何にでも変身できるからね。いまは霧に身を変えたのさ」
妖使い「そして背後から君に襲いかかるよ。どうするのかな」
魔王「……」
魔王「霧なら風で追い払えばいいだけだ」
ビュオッ
魔王(どこだ?)
魔王「!」
妖孤「……はあっ!」ブン
妖使い「ほう。あれがこっちの防御結界か。
妖孤の爪も防ぐなんてなかなかの強度みたいだな」
妖使い「でも防ぐ一方じゃ妖孤には勝てないよー。
といってもすぐ妖孤も霧になっちゃうから攻撃はあたらないんだけどね」
妖使い「…………」
妖使い「なんか空気が冷たくなってきたなぁ」
26: 2014/05/10(土) 20:00:07.96 ID:Func4jDlo
パキ……パキパキ……ッ
妖使い「……ああ!そうか。魔王が空気の温度を下げているのか」
妖使い「閉め切られた室内ならまだしも、屋外でそんな芸当ができるなんて。
……なかなかいいね」
妖孤「うえええ……体が動かしづらい」
妖孤「じゃあ火の玉に変化!」
ガシャン!!
妖孤「へ?」
妖孤「あれ?あれ?なにこれ?抜けだせないよぉ~~助けて主様~~」
妖使い「この檻は一体何でできてるんだい」
魔王「私の魔力だ。どんな物質に変化しても抜けだすことはできない」
魔王「……君も拘束させてもらうぞ」
妖使い「ありゃ」ガシャン
妖使い「……本当に抜けだせない。すごいな」
妖使い「…………さすが魔王。君……すごくいいね!ぜひ欲しい」
魔王「は?」
妖使い「俺と契約して下ぼ……くじゃなくて、使い魔になってよ!」
魔王「……。…………断る」
スタスタ
勇者「あれ。魔王じゃないか。なにしてんだ? だれだそいつら」
魔王「勇者くん……いや、君こそ肩に担ぎあげているのは誰だ?」
27: 2014/05/10(土) 20:00:57.27 ID:Func4jDlo
ケーキ屋 テラス席
妖使い「この忍は俺の護衛さ。別に俺一人でいいって言ったんだけどね、
なかなか周りの連中が聞かなくて。俺けっこうお坊ちゃんなんだ」
忍「はい!私は若の護衛でこの度この大陸まで参りました。
本当は我が家は代々スパイとか諜報とか、隠密の任務を負うものなんですけど」
忍「私にはあんまりそういうの向いてないみたいで!
ということで若の護衛として派手にぶっ放す所存であります!」
勇者「なんで護衛任務についてる奴が単独で俺を襲撃してきたんだよ……おかしいだろ」
忍「勇者がこの国で一番強い人って聞いたから、その強い人と戦ってみたかったんです」
忍「結果ボロ負けしちゃいましたけどねー!!若すみません!私負けました!」
妖使い「俺も負けたから許す!!」
忍「やったー!」
忍「しっかしやっぱり強いですね勇者様。でも私諦めないっすよ。
むしろ精神面で粘りを見せて、必ず貴様を屈服させてやりますよ。ふははは」
勇者「やめろ」
忍「でも若も負けたんですか?この女の子に?……」
魔王「……」モグモグ
妖使い「そうなんだ、負けちゃったよ。妖孤ですらだめだった。
で、魔王。俺の使い魔になってよ。君が使い魔になってくれたら百人力だ」
妖使い「俺の使い魔は好待遇だよ?給料あげるし。週休二日制。有給もあるよ。
頑張ったら頑張った分だけ上に上り詰めることができる成果主義」
妖使い「常に笑顔の絶えない職場だよ」
勇者「嫌な予感しかしない文句だな、おい」
魔王「……百歩譲って街中でいきなり襲われたのは許そう」
魔王「しかし何故私たちと君たちがテーブルを囲んで、共にケーキを食べているのだろうか?」
魔王「私は今日勇者くんと約束していたんだが」
28: 2014/05/10(土) 20:07:24.74 ID:Func4jDlo
妖使い「ああ、悪いね。勇者、御馳走様」
忍「ごちになりまーす!!」
勇者「待って。お前らは自分で払えよ!!お前らも奢るとはだれも言ってねーよ!!」
妖使い「えー、だって旅費で全部金飛んだし」
忍「もうケーキ全部食べちゃったし」
勇者「東国の奴らってみんなこうなの!?」
魔王「……」ガジガジ
忍「? フォークも味するんですか?」ガジ
魔王「……そもそも」
魔王「君たちはこの大陸に一体なにをしに来たんだ?私と勇者くんに戦いを挑むためか?」
妖使い「いや、それはついで。本当の目的はあれさ」
妖使い「地面に一夜で開く不思議な巨大穴。俺たちの国でも問題になっててね」
妖使い「いまはまだ被害が少ないけど、いずれ大問題になるだろうと考えて、
こっちの大陸に存在するっていう強大な力を持つ人間と妖に協力を仰ぎにきたのさ」
魔王「大問題?」
忍「こっちの大陸と違って、私たちの国は領土が小さいので。
穴が増え続けると困るんですよ」
勇者「まあ、困るのはこちらも同じだが……」
妖使い「俺たちの目的は、怪奇現象の原因を暴くことだ。
そのために君たちにも協力してほしいのさ」
妖使い「異文化人同士で協力してみれば、何か新しい発見があるかもしれないだろう?」
忍「あ、ちなみにこの国の王様にはさっき話をつけてきました!
魔王様と勇者様と協力するようにって言われましたよ」
忍「というわけでよろしく!!勇者様、貴様の命下さい!」
勇者「前後の文脈噛みあってねえぞ」
妖使い「よろしく」
魔王「…………よろしく」
29: 2014/05/10(土) 20:15:04.55 ID:Func4jDlo
* * *
国王「この大陸外の東国にまで被害があったとは知らなかったよ」
国王「どうやら思ったより事態は深刻みたいだ」
国王「というわけで勇者、魔王。最重要事項として、東国からの使者二人とともに
問題解決に向けて尽力してほしいんだ」
国王「頼めるかな」
――――――――――――
―――――――――
―――――
勇者「って言われたけどさ……」
忍「勇者様決闘しましょうよ決闘!!その首ください!!私が最強になりますので!!」
勇者「いやだよ。息を吸うかのごとく刃ものを投げつけてくるのやめろ!!」
妖使い「なーに契約なんてすぐに済むよ、ちょっと指切ってこの契約書に血印押してくれればいいだけ」
妖使い「ね?かんたんでしょ?ほーら契約契約!さっさと契約!」
魔王「しないと言っているだろう。貴様の使い魔とやらになるつもりは毛頭ない」
妖使い「そんなこと言わずに。ちょっと血がほしいだけだから!大丈夫だから!!」
妖使い「俺の下僕……じゃねっ、奴隷……じゃない、使い魔になって」
勇者「お前らすごいなほんと色々……」
魔王「東国では……魔族と人の関係はそういうものなのか?」
30: 2014/05/10(土) 20:21:57.01 ID:Func4jDlo
妖使い「そうさ。妖は悪いことばっかりするからね、俺の一族は代々妖祓いを営んできてるんだ」
妖使い「悪い妖を退治して、使い魔として契約する。それでまたほかの妖を退治しに行くってわけさ」
妖使い「あの妖孤も俺の祖父から受け継いだものだけど、昔は結構悪戯し放題だったんだ」
妖使い「妖祓いの価値は使い魔の強さに直結するから、ぜひ君に使い魔になってほしいんだよ」
魔王「……貴様の国ではそうかもしれんが、この大陸の魔族は貴様の奴隷にも下僕にもならんぞ」
妖使い「奴隷や下僕だなんて思ってないよ!みんな俺のかわいい使い魔だって」
勇者「いやお前さっき言いまくってただろ」
魔王「そのような隷属的立場におくことを私が許さん」
魔王「いいか、ここの魔族は、人と同等に生きる権利がある。
私はもちろん使い魔になどならないし」
魔王「ほかの魔族を使い魔にしようとしたら……ただじゃおかないぞ」
魔王「分かったか」
妖使い「大丈夫、今のところ魔王しか使い魔にする予定ないから!」
勇者「何にも分かってねえな」
31: 2014/05/10(土) 20:27:32.37 ID:Func4jDlo
勇者「で、ここが王都に一番近い穴。1週間前くらいに発見されたんだ」
忍「ふーん、東国のものと大きさも形も大体いっしょですね」
魔王「魔力の気配は感じないな」
忍「地底人がここから出てくるための穴だったりして。
それでこの世界は侵略されちゃうんですよ、その真っ黒い地底人に!」
勇者「んなアホな」
勇者「こんな風に石を投げてみると……」ヒュ
ヒューーーーーーーー…………
妖使い「底にあたる音が全然しないね」
勇者「不気味だよな」
魔王「私が下りてみよう」バサ
忍「えっ! 空飛べるんですか!」
魔王「ああ。そこで待っててくれ」
妖使い「俺も行くよ。鳥の妖に乗せてもらうから」
魔王「えっ。…………いやいい」
忍「一人で穴に降りたら危ないですよ!若はこれでも結構頼りになりますから!」
妖使い「ははは、そんなことは全くあるんだけどねアッハッハ」
魔王「……勇者くんは……?」
妖使い「勇者は飛べないだろ。さあ行くぞ!!」
魔王「うぅ……」
勇者「大丈夫か、あの二人……」
32: 2014/05/10(土) 20:29:02.87 ID:Func4jDlo
妖使い「真っ暗だなあ。灯りはつけられるのか?」
魔王「……いまつける」
妖使い「壁がきれいに削られてる。やっぱり自然現象じゃないみたいだね」
鳥「……」
魔王「その鳥はいつもどこにいるんだ?さっき急に出てきたが」
妖使い「ああ、用のないときは札に封印してるんだ」
妖使い「もっとも君が使い魔になったときは、そう言う風にできないだろうね。
魔王は……というかこの大陸の妖は全部半妖半人なんだろ?」
妖使い「普通の使い魔みたいにできないから、
もしそのときはずっと俺のそばにいてもらうことになると思うよ。従者みたいにね」
魔王「『もしものそのとき』は永遠にこないから安心しろ」
妖使い「つれないなぁ!そうなると強硬手段にでるしかなくなるよ!
寝てる間に契約させちまわねーとな!!」
魔王「いい加減本気で怒るぞ」
33: 2014/05/10(土) 20:31:00.02 ID:Func4jDlo
魔王「……もう上を見ても闇しか見えないな」
魔王「一体どこまで穴は続くのだろう」
妖使い「……!」
妖使い「止まれ!」
魔王「なんだ?」
ピチャ
魔王「? 今ブーツが何かに……」
妖使い「なんだ、これ。水面……?黒い水……かな?」
魔王「なら、ここが底なのだろうか」
妖使い「よし、妖孤。ちょっとでてこい」
妖孤「はい」
妖使い「お前この水に飛び込んでみろ」
妖孤「はい。…………ええーーーー!?」
妖使い「四の五の言わずに行ってこい。大丈夫だ、お前ならなんとかなる」
妖孤「いやっ……無理ですよ主様ーーーー」
魔王「無茶な命令をやめろ。かわいそうだろう」
ビュッ!
魔王「!?」
34: 2014/05/10(土) 20:54:26.33 ID:Func4jDlo
妖使い「うわっ!影が動いて……おいおい俺たちを狙ってきてるぞ!撤退しよう!」
ボオッ
魔王「火炎魔法も効かないか」
魔王「灯りを消すぞ」
妖使い「ええっ?」
妖使い「……あ、もう影の気配がなくなった」
魔王「灯りでできた影が動いていたんだ。灯りがなければ動きを止める」
妖孤「ひえ~~ なんなんですかあれぇ」
妖使い「なんだろうな……。妖?」
妖孤「いや妖の気配は感じませんでしたけれど……」
妖使い「よし。ちょっと今から底に落ちてみろ、妖孤」
妖孤「だからイヤですよ~~っ 意地悪言わないでくださいよ主様~~」
魔王「ええい妖孤をいじめるのをやめろっ。私が許さんぞ」
魔王「……とにかく、穴の底に何かがいるということは分かったな」
魔王「それだけでも一歩前進だ。急いで各地の穴を塞いで回ろう」
35: 2014/05/10(土) 21:01:08.64 ID:Func4jDlo
* * *
魔王「やっと全部の穴を塞ぎ終わった……」
国王「お疲れ。いやあ本当に助かるよ。で、穴の底にあったのは水……ってわけだね」
国王「なんだろうね。ただの水ならいいんだけど」
魔女「あたしも見てきたけど、灯りを持ってるとこっち狙ってくるから、あんまり詳しく調べられなかったよ」
魔王「しかし穴は全て頑丈に蓋をした。アレが新種の生物なのか知らないが、
地上に出てくることはないだろう」
妖使い「新しい穴が開くまでは、だよね」
魔女「そうだねー。ていうか君が東国から来たって人? おもしろい格好してるね」
妖使い「そうだよ、よろしく」
魔女「よろしく」
魔王「よろしくしなくていい」
国王「あはは、東国は大事な交易相手国だからできるだけ仲良くしてくれると助かる」
国王「ただ、あまり私の国民にちょっかいを出すと……そうだね」
国王「私には昔馴染みの友が割とたくさんいるんだが、その中にはガチのアッチ系の者もいてだね。
もしかしたら君の穴も何かによって塞がれるかもしれないね」
妖使い「?」
魔王「?」
魔女「王様おもしろーい。でも姫様に言うよ?」
国王「ジョークだよジョークアハハハ」
36: 2014/05/10(土) 21:02:50.97 ID:Func4jDlo
国王「おっといけない。私はこれから会議の時間だから失礼するよ。
報告どうもありがとう。今後も何かあったら頼むよ」
魔王「ああ」
騎士「……あっ!魔王さんに妖使いさんに……まままま魔女さん」
騎士「お、お久しぶりです!」
魔女「だれだっけ?」
騎士「ひどいぃっ!!元姫様お付きの騎士ですよ!!
あの色々あった時には共闘もしたじゃないですか!!」
魔女「ああ……そばかす君ね。やあやあ久しぶり!1年ぶりくらい?」
騎士「3カ月前には会ってますよ……ううっ泣いていいですか」
魔王「……魔女、私は先に行っているぞ。またあとで」
魔女「え?はーい」
スタスタ
魔王「……」
魔王「ふわぁ……眠い。魔力を使いすぎたな……もう休もうかな」
魔王「!」
魔王「あっ……中庭に勇者くんがいる。騎士団の仕事はもう終わったのか……」
魔王「勇者くっ――」タッ
妖使い「あぁ、本当だ。勇者だ」
魔王「!?」
ズサー
妖使い「うわっこけた。何にもないところでこけた」
魔王「何故貴様が横にいる」
魔王「ついてくるなっ」
37: 2014/05/10(土) 21:10:05.04 ID:Func4jDlo
魔王「私は誰の下にもくだるつもりはない!」
魔王「魔族や妖をモノのように考える貴様といるとイライラする。
いいか。私は貴様と同等だ。それ以下でもそれ以上でもないっ!」
魔王「問題解決のために協力はするがそれ以外で慣れ合うつもりはない。失せろ」
妖使い「素直じゃないなぁ。名誉が欲しいの?金?地位?」
魔王「ぎーっ」
魔王「もういい!」
魔王「勇者くん……っ」パッ
忍「勇者様ああああああああああああああオラアアアアアアアアアア首よこせよおおおおおおおおおお」
ドカーーーーン
アーーー……
妖使い「あー、またあいつやってるな。素直に剣術教えてくれって言えばいいのに」
妖使い「つーか護衛任務完全に忘れてるよね。俺の身に何かあったらどうするのやら」
妖使い「あっははごめんね?なんかうちの護衛が勇者をとっちゃったみたいで」
魔王「……二人とも楽しそうだからいい」
妖使い「まあそうだよね。だって、勇者は人間であの忍も人間だけど」
妖使い「魔王はあの二人とは違うもんな」
妖使い「君は魔族だからこれまでも今も、こういう時に割って入っていくことができないんだろ?」
魔王「……」
妖使い「この国の制度じゃあ半妖といえど魔族と人では結婚できないんだったよね」
魔王「……は。結婚……」
魔王「馬鹿馬鹿しい。そのようなこと考えたこともない。私はただ……」
38: 2014/05/10(土) 21:11:19.25 ID:Func4jDlo
妖使い「人と妖では同じ時を歩めないよ」
魔王「……なんだ。いきなり」
妖使い「数年前この国でいろいろあったらしいね。俺は少し聞いただけだけど、
なんか勇者が剣使って子どもの姿になってしまったとか?」
妖使い「君が今、彼と同世代の姿でいられるのもそのおかげだってね」
妖使い「でも今だけ」
妖使い「歩く速さがそもそも違うんだから、当たり前だよね」
妖使い「いつかまたずれてしまうよ」
妖使い「いつから?君が人と魔族の寿命の違いについて気にし出しだしたのって――むぐっ」
魔王「べらべらとやかましい」
魔王「貴様には関係ないだろう」スタスタ
妖使い「ちょっ むぐむぐ これほどいて……」
魔王「はあ……勝手なことを」
魔王「もう宿に戻って休もう……」
39: 2014/05/10(土) 21:15:17.23 ID:Func4jDlo
* * *
勇者「なんていうか……おもしろい戦い方するんだな」
勇者「武器も変だし」
忍「変ですかね。私からすれば貴様の刀の方が重くて振りづらそうですけど!」
勇者「忍者っていうのはみんなそんな戦い方なのか?」
忍「いえ、どちらかっていうと忍者は暗殺術とか使いますよ。
闇に隠れて……音もなくグサリ!みたいな」
勇者「お前は闇に隠れもしないし、めちゃくちゃ騒がしいぞ」
勇者「あといきなり攻撃してくるのはやめろ。ほんとに。
手合わせだったら、暇があれば付き合うから」
忍「わーい! やっぱり強い人と戦うのは楽しいぜ!」
忍「いつか絶対勝ってみせますからね!首頂戴するんで!」
勇者「勝つ=頃すなのかよ……やっぱ暗殺向いてるよお前」
勇者「……でももうそろそろ終わりにしようぜ。
俺は宿に戻って休むぞ。じゃあな」
忍「あ、私もいっしょに行きます」
宿 廊下
勇者「あれ、魔王帰ってきてたのか。そろそろだとは思ってたけど」
忍「私と若といっしょに帰ってきてましたよ。ていうか勇者様は勇者なのに
あまり魔法が得意じゃないんですね!」
忍「もし貴様も魔法が上手だったら、穴を塞ぐのを魔王様一人で頑張らなくてよかったのに!」
勇者「うっうるせえな!俺だってちょっとは使えるよ!」
勇者「あとお前なんか『貴様』の使い方おかしいぞ」
コンコン
勇者「魔王、いるのか?」
魔王「……」
魔王「……ん」パチ
魔王(いまの声……)
40: 2014/05/10(土) 21:20:08.68 ID:Func4jDlo
忍「もう寝ちゃってるんじゃないでしょうか。すごく疲れてましたし!
ところで勇者様って魔王様のこと好きなんですか!?」
勇者「はっ!?!?」
忍「どうなんですか!?そこのところどうなんですか!?フォーリンラブなんですか!?」
勇者「なに急に言って……馬鹿言うな!」
忍「魔王様って、勇者様と初めて会ったとき小さな女の子の姿だったんですよね!」
勇者「あ、ああ……魔族は人より成長が遅いからな」
忍「私そういうの知ってます。勇者様はヒカルゲンジなんですよねっ」
勇者「なんだそれ」
忍「幼女のときから目をつけておいた子を、自分好みの女に育て上げて大人になったら結婚する男の人のことです」
勇者「おい!!誤解すんなよ!?俺はそんな男じゃないぞ!!」
忍「えーーちがうんスか。この変O野郎……間違えた。勇者様」
勇者「ちげーーーよっ!!俺は変Oじゃない!!わざと間違えただろ今っ」
勇者「……魔王は……あれだな、妹みたいな感じだ」
忍「いもうと」
勇者「ああ、そうだ」
忍「へーー」
忍「じゃ、私のことお嫁にもらってくれますか……?」
勇者「はあ!?」
バタンッ!!
忍「あ」
勇者「……魔王」
魔王「………………」
忍「起きてたんですか」
41: 2014/05/10(土) 21:21:47.29 ID:Func4jDlo
魔王「……」ニコ
魔王「おめでとう」
魔王「ただひとつ言っておきたいのは、どちらかというと私の方が姉だと思う」
魔王「私の方がしっかりしているし」
勇者「お、おい」
勇者「ちがうぞ、今のは……」
忍「冗談じゃないですよ。
私の一族は強さこそ第一ですから、女はより強い伴侶を見付けることを信念にしています」
忍「だから私より強い勇者様を伴侶にして、ゆくゆくは勇者様の強さを受け継ぐ子を生したいのです!」
勇者「お前まじでなに言ってんの!?」
忍「いいじゃないですか!好きな女の子もいまいないって言ってましたし!
おらっ服脱げよ!生娘みたいに恥ずかしがってないで、さあ!!ほら!!」ビリー
勇者「ばっ なにしてんだ!!俺のシャツ!!!」
魔王「……よかったな勇者くん。式にはぜひ呼んでくれ」
魔王「転移魔法」
ヒュン
勇者「あっ おい!?待て……!」
ビリーッ
宿屋「キャー勇者様!?廊下でなに猥褻物を陳列しようとしているんですか!?」
勇者「いやこれはっ!!ちがうんだ!!!」
42: 2014/05/10(土) 21:25:33.61 ID:Func4jDlo
人魔共同都市 月の町
魚人「んでー、その男、俺が厨房で自分の手捌こうとしたら泡食って倒れちまってな!」
魚人「ちょっとしたフィッシュジョークだったんだけど、人間はからかいやすいよなぁ!!」
グリフォン「チョーウケル」
キマイラ「あんまりからかっては客が減ってしまいますよ」
グリフォン「僕も、ここに初めて来たっていう人間が唐揚げ食べている前で
元の姿に戻ったらすごく気まずそうな顔されたな」
グリフォン「別に気にしないのに。鳥とグリフォン族全然違うし。
なんか変なこと気にするよねぇ、人間って」
キマイラ「でもなかなか人と生活するのはおもしろいですね。
この都ができてから何年も経ちますが、まだまだ新しい発見がたくさんあります」
魚人「俺の店もおかげで売上右肩上がり、繁盛繁盛。
そうだ、これから一杯飲みにいくか?」
グリフォン「ああ、いいね…… あれ?あそこから歩いてくるの魔王様じゃないかい」
キマイラ「おや」
魔王「キマイラ」
キマイラ「なんでしょう魔王様」
魔王「元の姿に戻ってくれ」
キマイラ「はい……?分かりました」
魔王「……」モフ
魔王「はぁ……」モフモフ
キマイラ「あのお……魔王様……?」
グリフォン「何かあったのかい」
魚人「ま…………まさかっ!?!?し、し、失恋!?」
魔王「……」
魔王「ちがう……」モフ
キマイラ「……こ、このあと魚人の店にみんなで行く予定でしたが、
魔王様もいらっしゃいますか?」
魔王「今日は疲れたから……いい。もう寝る……」
スタスタ……
43: 2014/05/10(土) 21:29:28.60 ID:Func4jDlo
キマイラ「……」ジロ
グリフォン「……」ジロ
魚人「いや……あの。ごめんね!?」
魚人「まさか……ねえ!?本当にそうだとは思わないじゃん!?」
魚人「だってあいつ、魔王様のこと好きなのかって俺思ってて」
キマイラ「まあ彼は人間ですし、いろいろあるのでしょう……」
グリフォン「まあ君はまず明日の朝一に魔王様に謝りにいくべきだねーーーーー」
魚人「いやだからごめんね!!反省してますハイ!!もうマジで空気読めなくてごめんなさい!!」
44: 2014/05/10(土) 21:31:18.47 ID:Func4jDlo
姫「ひいっ 魔女さんの部屋なんっ……これなんなんですの!?」
魔女「あ、これ?いま品種改良中の植物」
姫「植物ってうねうね動くものでしたっけ? 正直なんだか壮絶に気持ち悪い……」
姫「これさえなければ女の子らしいピンク色の家具で溢れる部屋なのに……何故……」
魔女「あたしだってそりゃやだよ。
でも実はこないだ魔法薬の調合に失敗してこの家半壊させちゃって」
魔女「研究室もボロボロなんだよ、だから置いとくところないの。
魔王様が来たら直してもらわなくちゃ」
魔女「というわけでせっかく姫様が来てくれたんだけど、あたしの部屋しか泊めるとこないわけ。
ごめんねーほんと。しかもあいつもどっか出かけちゃってたし」
姫「あ……あいつ?なんのこと? 私は今日人魔共生都市の定期視察に王族として参っただけで……!!」
姫「決して竜人さんにちょっと会えたらいいな、とかそういう邪な考えは神に誓って持ってないわ!」
魔女「うん。姫様って最上級に分かりやすいよね」
ガチャ
魔女「……ん?」
魔女「あれれ。魔王様じゃん。おかえり!姫様来てるよ~」
姫「魔王さん……どうもお邪魔しています」
魔王「ああ。姫」
魔王「十分なもてなしができず申し訳ないのだが……私はもう休む。ゆっくりしていってくれ」
魔王「魔女。また家を壊したのか……?」
魔女「ごめんね」
魔王「明日直す……おやすみ」
姫「おやすみなさい……」
45: 2014/05/10(土) 21:32:38.99 ID:Func4jDlo
ゆめのなか
勇者「どうした?」
勇者「早く来いよ。おいてくぞ」
魔王「あんなに遠い……」タッタッタ
魔王「走っても走っても、これじゃ追いつけない」
魔王「……」
勇者「なにやってんだ。疲れたのか?」スタスタ
魔王「あ……」
勇者「ほら。行こうぜ」
魔王「う……うん」
魔王「ありがとう」
魔王「これでやっといっしょに歩けるな」
魔王「……嬉しい」
スタスタ
魔王「……」タッ
魔王「……む」タッタッタ
勇者「……」スタスタ
魔王「わっ」ズテッ
勇者「……」スタスタ
46: 2014/05/10(土) 21:34:53.88 ID:Func4jDlo
魔王「……もう少し……ゆっくり歩いてくれないか」
勇者「悪い。俺に決められることじゃないんだ」
勇者「俺たち、いっしょには歩けないな」
勇者「先に行ってる。じゃあな」
魔王「……」
魔王「…………」
人間「私といっしょに行きましょうよ」
勇者「ああ。行こう」スタスタ
魔王「……」
魔王「……」
魔王「…………いいな……」
47: 2014/05/10(土) 21:35:53.88 ID:Func4jDlo
翌朝
ズドーー……ン
魔女「うわっ なにいまの音?」
魔王「……おかしいな」
魔女「魔王様ーっ! いまの音って一体何……、……おお」
姫「……ず、ずいぶんアヴァンギャルドな外観の家になりましたね」
魔女「かっこいいじゃん!ロックでイケてるよ!」
魔王「私は元の外観に戻そうとしたのだが、どうもうまくいかぬ。何故だろう」
姫「……まさか」ピト
姫「わっ魔王さん、あなた熱があるわ。すぐベッドにお戻りになって」
魔女「えーーーー熱!?魔王様大丈夫っ!?苦しくない?どっか痛い?」
魔王「いや、ない。私は熱などないっ!!自分の体調管理くらいできている!!」
姫「明らかに普段より様子が変じゃないの……」
魔女「わああ、マジだ。こりゃあ魔女ちゃん特製の風邪薬の出番だね……。
史上最強最悪に味の保障ができない代わりに超効き目あるから。いまとってくる」
魔王「魔女!いらん。飲まないぞ私はっ!!あれだけは絶対……」
魔女「姫様、魔王様捕獲しといてね」
姫「はい」
魔王「私は飲まないぞ!!」バタバタ
48: 2014/05/10(土) 21:40:12.57 ID:Func4jDlo
姫「ええっ……ちょっとこれ本当に大丈夫なんですの?
薬を飲ませたら魔王さん氏んだように……これ生きてます?大丈夫?」
魔女「オールオッケーだよ。魔王様は薬の味で気絶しただけだから」
姫「それのどこらへんがオッケーなのかお聞かせ願いたいんですけれど」
魔女「よし、魔王様のためにお粥作らなくっちゃ!!」
魔女「わーいできた!」
モワワン……
姫「……なに入れたの?」
魔女「薬草19種、イモリ、スッポン、青汁と、魔王様は甘いもの好きだからフルーツ各種」
姫「かわいそう!かわいそうすぎますわ!病人になんて仕打ち!!」
魔女「なんで!?栄養バランス完璧だよ?」
姫「魔女さんは少しでも味付けという言葉を覚えて!」
49: 2014/05/10(土) 21:41:43.98 ID:Func4jDlo
* * *
竜人「えっ!!」
竜人「私がいない間に魔王様が熱を!? ままままま、まっまさか……魔女一人で看病を?」
竜人「魔王様はご存命ですかっ!?」
魔女「あんたはあたしのこと猛獣か何かだと思ってる?」
魔女「それに一人じゃないよ。姫様が遊びに来てたから手伝ってもらったー」
姫「あ、遊びに来たわけじゃ。 いま魔王さんは食事を終えて眠ってますわ」
竜人「姫様、いらっしゃってたんですか」
竜人「ああよかった……(魔女一人で看病をしてなくて)。ありがとうございます。
姫様がいてくれて助かりました」
姫「えっ!?」
竜人「え?」
姫「えっ……えっ」
竜人「え?」
50: 2014/05/10(土) 21:43:51.52 ID:Func4jDlo
魔王の部屋
魔王「……」
妖使い「スヤスヤ寝てますねー」
妖孤「熱なんてかわいそうですね……主様が意地悪なこと言ったからじゃないんですか……?」
妖孤「というか主様の存在のせいで魔王様はストレスフルな生活を強いられているのでは……」
妖使い「かわいそうだね」
妖孤「どの口でって感じなんですけど……」
妖使い「だけどチャンスだぞ、妖孤。魔王が風邪でダウンしているときに、
ちょっと指を切って契約書に押しちまえば、契約いっちょあがりってわけよ」
妖孤「げ、外道!」
妖使い「善は急げだ!ちゃっちゃとやるぞ!」ピッ
妖孤「いや善でもなんでもないです!」
妖使い「よしあとは魔王の指を契約書に押し付ければ……」
魔王「…………。……?」パチ
妖使い「あ」
妖孤「あ」
魔王「!?」
魔王「わあああああっ! なにやってるんだ離せーーーーーーっ」
妖使い「チッ!! 妖孤、魔王の口を押さえろ!」
妖孤「外道通り越して悪魔ですよ主様~~~~」
竜人「魔王様!? なにがあったんですか!?」
妖使い「やばい。俺は窓から逃げるから後よろしくな」
妖孤「へっ……え?え?」
バタンッ
魔王「ぜえぜえ……げほっげほ」
妖孤「いや、あの、ちがいますよこれは主様がですね」
竜人「…………」
魔女「…………」
竜人「なにやってんだてめぇぇ……!!!!!!!!」
妖孤「ちがいますもん~~~ちがう~~~~!!わーーーん!!」
ギャーーー……
51: 2014/05/10(土) 21:45:37.12 ID:Func4jDlo
* * *
妖使い「やあやあ!」
魔女「あ、妖使い。ねえこの間君の妖孤が魔王様の部屋に侵入してたけど」
魔女「君の仕業じゃないの」
妖使い「え?さあ。知らないな」
魔女「ふーーーん? なんか怪しいなー。魔王様になにかしたらあたしは怒るよ」
妖使い「ところで今日は東国の酒を持って来たのさ。はい君にプレゼント」
魔女「わー!珍しいお酒だね。やっぱり君いい人だったわゴメンね!誤解だったー!」
魔女「さっそく今から飲もうよ!私つまむもの作ってくるからグラスに注いどいてねー」
魔女「グラスはそこの食器棚に入ってるからよろしく」
妖使い「はいはい」
妖使い「ははは!将を射んと欲すれば先ず馬を射よ。ちょろいもんだぜ」
妖使い「酒持ってきといてよかった」
……カタン
魔王「……? おかしいな。下で人の声が聴こえた気がしたのだが」
魔王「気のせいだったか……」
魔王(喉かわいたな。……あ、水)
魔王「……」ゴクゴク
妖使い「あ、魔王だ。チッ……なんだ、もう歩けるくらいにまで回復したのか」
妖使い「……って……あれ?なに飲んでんの?」
妖使い「あーーーっ!!それは……俺が持ってきた酒っ!!」
妖使い「そんな一気飲みするもんじゃないよーー!!貴重な酒なんだよっ ああもう!!
一本しか持ってこなかったのにーーーーー!!」
魔王「酒……?」
52: 2014/05/10(土) 21:48:15.76 ID:Func4jDlo
魔女「えっなに。間違えてお酒飲んじゃったの?」
魔女「でも魔王様お酒強いよね。大丈夫大丈夫……」
魔王「ああ、平気だ」バターン
魔女「全然大丈夫じゃなかった!!」
妖使い「病み上がりだしね……」
魔女「ままま待っててすぐ水持ってくるからしっかり魔王様!」
53: 2014/05/10(土) 21:49:21.17 ID:Func4jDlo
王都
勇者「え?魔王が熱出したって?」
勇者「またか」
竜人「そうなんですよ。もう治りかけですけどね」
竜人「今日は用事があって私は魔王様のおそばにいられないのですが、
もう心配で心配で心配で心配で……気が狂いそうです」
竜人「気が狂いそうですよ」
勇者「なんで二回言ったんだよ。お前の心配度合いは十分分かったから」
勇者「あいつよくこの時期風邪ひくよなあ」
勇者「魔王のステータスって、魔力完ストでほかは全部0か1って感じするな」
竜人「まあいずれほかも完ストするでしょうけれどもね」
勇者「お前は色眼鏡で見すぎだと思うぞ」
勇者「今日この後行ってみるか……」
勇者「……ちょっと気まずいけど」
竜人「エ?魔王様トナニカ アッタンデスカ?」
勇者「いやなんでもない」
勇者「何でもないから剣しまえ」
54: 2014/05/10(土) 21:50:38.40 ID:Func4jDlo
月の町 魔王宅
勇者「入るぞー」
妖使い「勇者。やあこんばんは」
勇者「よう」
勇者「ところで何してんだ?」
勇者「何故魔王が倒れてて、お前は右手で魔王の人差し指を持って、左手でナイフを持ってるんだ?」
妖使い「別に危害を加えようとしたわけじゃないよ。ただちょっと血グフッ」ゴキャ
妖使い「問答無用でヘッドロックはやめてほしいなって!折れる折れる!くそいてーよ」
勇者「魔王しっかりしろ!!全然治りかけてないじゃねーかよ」
魔王「ん……」
勇者「大丈夫か!?」
魔王「…………」
魔王「あーー……ゆうしゃくんら~~~……」
魔王「くすくす……」
勇者「ああ。まったく大丈夫じゃないな」
55: 2014/05/10(土) 21:53:38.19 ID:Func4jDlo
妖使い「ええっなんでまた俺ヘッドロックかけられてんの!?痛い痛い!!氏ぬーーー!!」
勇者「経緯を説明しろ」
妖使い「魔王が水と間違って酒飲んじゃっただけだよ!混乱ついでに俺に八つ当たりするのやめて!」
勇者「酒~~?あいつ酒強いぞ。間違って飲んだ量であんな風にならねーよ」
妖使い「飲んだのが、東国名産アルコール度数99%の『地獄酒』だから……
一口飲んだだけでもあっという間に地獄行き確定だよ~~」
勇者「お前の国一体どうなってんの!?」
魔女「勇者!来てたの? 魔王様が今急性アルコール中毒でえらいことになってるんだけど!」
勇者「中毒じゃないが、別の意味でえらいことになってるぞ!いろいろ崩壊してるぞ!早く水を飲ませないと」
魔王「ゆうしゃくんこっちきてよ~~~ねえっこっち~~~」
魔女「うわっ!!魔王様が酔っ払ってるとこ初めて見た!!確かにえらいことだね。よく見とこっと」
勇者「そうじゃねーだろ!!」
妖使い「はー。もういいよみんなで飲もうぜ。へいかんぱーい!!!」
魔王「こっちきてよ~~~……ねえってばあ~~~」
勇者「なんだこの状況!俺一人で収拾つけられる気がしねーよ!」
61: 2014/05/13(火) 19:22:25.38 ID:/h/l3jH+o
勇者「お前病み上がりなんだろ?こんなことしてないで早く寝ろよ。ほら水」
魔王「やみあらりってなに?」
勇者「熱下がったばっかりだってことだよ……おい!ちゃんと座ってろ!水零れるって!」
魔王「やみあらりっれらに~~~~?」
勇者「お前酔うと面倒くさいな!! さっき言っただろ!」
魔女「ていうか、てっきりあの忍っていう子も来るかと思ったのに
今日は妖使いにも勇者にもついてこなかったんだね」
妖使い「あいつ俺の護衛なのに全く護衛してないよ。
おかげで俺はヘッドロック2連発でまだ首が痛いよ」
勇者「ああ、王都にいたぞ。妖使いを探してた」
勇者「今日も日中、毎時2回のペースで襲撃された。いい加減なんとかしてくれ」
妖使い「メンゴ」
魔王「……」
勇者「でもこっちに妖使いがいたなら、撒かないで一緒に連れてきてやればよかったな」
妖使い「撒いたんかい」
勇者「……あ、ああ。なんとなくな」
勇者「いや別に忍個人がどうのこうのってわけじゃな
魔王「……」ズボ
勇者「ぐえっ!?」
魔女「わあ、なにしてるの魔王様」
魔女「勇者のベロなんて手で引っ張ったらバッチイよー」
勇者(どういう意味だ)
勇者「は、離せよ!いきなり度肝抜くようなことをするな。なんだよ」
魔王「…………」
魔王「あのこのはなしはしないで」
勇者「え?」
魔王「しないでーーーーーーーーーっ」
勇者「わ、分かったから?落ち着けよ」
62: 2014/05/13(火) 19:24:50.92 ID:/h/l3jH+o
魔王「ぎゅーしていい?ぎゅー」
勇者「牛? なんのこっちゃ」
魔王「ぎゅー」
魔女「あー これが巣立ちか……さびしいものですな」
妖使い「分かる分かる」
魔女「魔王様は勇者のことが好きなの?」
魔王「うん すきー」
魔女「そっかー……あたしのことは?」
魔王「すきー!」
魔女「よかったー。じゃあ妖使いのことは?」
魔王「大っ嫌い」
妖使い「ねえ俺にも心はあるんだよ?」
魔王「はっ……なぜきさまがここにいる?」
魔王「ここは私の家だぞ。出て行け今すぐにだ。魔女の近くに寄るな!
魔女は私の部下だから貴様の使い魔にはやらんぞ」
妖使い「う、うわあ急に流暢にしゃべりやがって……傷つくなあ」
妖使い「そうだなあ、魔王が全然使い魔になってくれないから
君が言う通り代わりに魔女を使い魔にもらおうかなあ」
魔女「やーん助けて魔王様ー」
魔王「だめらろいったらろ!!!そんらことしらら、たららおからいろ!!!」
勇者「おいあんまりからかうなよ。激昂しすぎて魔王の呂律がやばいぞ」
63: 2014/05/13(火) 19:30:51.93 ID:/h/l3jH+o
妖使い「じゃあ……あのドラゴンでももらおうかな?
竜なんてこっちじゃまだ生き残ってるか分からないくらい希少だし」
魔王「りゅうじんもだめ!!!」
妖使い「じゃあ誰ならいいって言うんだよ!?」
魔王「ぜんぶだめっ!!!!ぜんぶだめえーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
勇者「魔王の血管がぶち切れそうだからそろそろやめてくれ」
妖使い「ギブギブ。ギブお願いしまーす。そろそろ首の骨が疲労骨折しそーう」
魔女「ぎゃあああ魔王様、いまその状態で魔法使おうとするのはやめてーっ」
魔女「家壊れちゃうよー!路頭に迷うよー!」
魔女「はいお水飲んでクールダウンね。ひっひっふー」
魔王「……」クラクラ
魔女「ていうかもう寝ようか?」
勇者「なにを手にもってるんだ?」
魔女「魔王様が子どものとき寝かしつけるのに使ってたおもちゃ。
振ると音がするんだー」ガラガラ
勇者「いやいや、そんなもので眠るわけないだろ……こいついくつになったと思ってんだ」
魔王「………………」
勇者「寝たよ」
勇者「つーかそれあったんなら最初から使えよ!!」
魔女「あー あたしも眠くなってきちゃった。もう寝ようっと。
片付けは……明日竜人に9割方手伝ってもらおう」
妖使い「容赦ないねー」
魔女「じゃおやすみ。いい夢みなよ」
勇者「魔王はどうするんだよ?」
魔女「か弱い非力なあたしが魔王様を運べるわけないでしょ?
勇者が部屋まで送ってあげてよう」
魔女「ああ……なに?これほしいの?金貨一兆枚で売ってあげるよん」
勇者「なんだよそれ」
魔女「びやk
勇者「さっさと寝ろ」
64: 2014/05/13(火) 19:34:20.99 ID:/h/l3jH+o
バタン
勇者「なんかどっと疲れた…………」
勇者「ついたぞ魔王。って寝てるか」
勇者(まあ……元気そうでよかったな)
魔王「……ゆうしゃくん」
勇者「おやすみ、また明日な」
魔王「……」
魔王「くび……くるしい」
勇者「そんなかっちりした服着てればそりゃな」
勇者「今部屋出るから、そしたら着替ろよ」
魔王「りぼん ほろけらい~~……」
勇者「俺が部屋の外に行ってからにしろって言ってんだろ!!」
魔王「とれない。くるしい~~っ」モタモタ
魔王「とって……とってーーーっ」
勇者「リ……リボンくらい自分でとれるだろ」
魔王「くるし……お……おぼれちゃうぅ……うっぅ……」
勇者「ここは陸だ!!」
勇者「あーーもう分かったからそんなことで泣くなよ」
勇者「……」
勇者「……ほら」シュル
魔王「ありがとう」
魔王「……ん?……あれ……」
魔王「ぼたんもとれらいーーーとって~~~」
勇者「頼むから勘弁してくれ」
65: 2014/05/13(火) 19:37:12.10 ID:/h/l3jH+o
勇者「そ、そうだ魔女を呼んでくるから、あいつにとってもらえ。じゃあな」
魔王「……あ、らいふ……」
勇者「うわあああっナイフはやめろ!大惨事になる予感しかしない!」
魔王「かえしてかえしてかえして~~~そろらいふはわたしろらろ!」
勇者「ええいなに言ってるか分からん!」
魔王「なんれいじわるするの?
…………ゆうしゃくんもわたしのこときらいなんら……」
魔王「……」
勇者「そんなこと一言も言ってないだろ!?深刻な顔をするなっ」
勇者「やめろ青ざめるな、良心が痛い。……泣くな!」
勇者「分かったよ分かったから……!もういっそ俺が泣きてえよーーー!!」
66: 2014/05/13(火) 19:42:07.36 ID:/h/l3jH+o
勇者(……でも考えてみれば違うわけだ)
勇者(こいつと出会ったときのことを思い出してみろ……子どもだ。
そして俺は別に特殊な嗜好をもっているわけじゃあない……)
勇者(俺は口リコンではない。変O口リコン野郎じゃない)
勇者(俺はヒカルゲンジとやらではない……)
勇者(だったら別にこんなの子どもの着替えを手伝っているようなもの……)
勇者「……」プチプチ
勇者(でも今の魔王は子どもじゃなくないか?)
勇者(普通に……だったら俺は口リコンではない?いたって正常な感性を持つ男だ)
勇者(…………いやそのことは後で考えよう。今真面目に考えるといろいろ状況的に問題が……)
勇者(魔王は酩酊してるんだから……酔っ払ってるだけだからな)プチ
魔王「ゆうしゃくんのて、つめたくてきもちいーな」
勇者「ひいいいい……俺ほんとなにやってんの……なにやってんの……無心無心無心」プチ
勇者「……う」
勇者「…………」
魔王「もういいー」
勇者「……」
魔王「? ゆうしゃくん……」
勇者「……ハッ……そ……そうか。分かった」
67: 2014/05/13(火) 19:45:17.43 ID:/h/l3jH+o
魔王「もうねる……」
勇者「ああ、じゃあおやすみ!!!またな!!!」
魔王「えっ……どこいくの?」
勇者「えっ……宿だけど」
魔王「……? なんで?………………あっ」
魔王「やだーーーやだやだやだやだここにいてーーーーっ!!」
魔王「あのこのところにいっちゃやだ~~~~~~~~」
勇者「おい馬鹿っ離せ!!あの子って誰だよ!!誰かのところに行くつもりねーよ!」
魔王「やだ~~~いっしょにねようよ~~~っ」
勇者「それだけは絶対に無理だからな!!もう俺もお前も子どもじゃないんだから無理!!」
ガチャ
魔王「やだ……なんれもするからいかないでーーやだやだ」
勇者「俺も何でもするからほんとそれだけは勘弁してくれ。
俺に心の平穏と睡眠時間をくれ」
魔王「いかないで……」
勇者「……」
魔王「ゆうしゃくんいっちゃやだ……」
ギイ……
魔王「あう……」
魔王「……お……おかねはらうから~~~~……うえっ……うう……」
勇者「いらねえよ!!」
68: 2014/05/13(火) 19:49:12.39 ID:/h/l3jH+o
勇者「なんで金……微妙に傷つくじゃねえか!」
魔王「やだやだおねがい……おねがい! ……ねっ」
魔王「ねっ!!」
勇者「ゴリ押しやめろ!いやだっつってんだろ!」
勇者「お前どうなっても知らんぞほんと!!手ぇ離せ」
魔王「きょうらけらからぁ~~……」
魔王「もうあしたからわがままいわないから……ううっ……」
魔王「いっちゃやだぁ~~~~!!」
勇者「……ぐ…………うぐ……」
勇者「……」
69: 2014/05/13(火) 19:53:35.76 ID:/h/l3jH+o
勇者「……」
勇者「……はあ……結局。くそ」
魔王「ごめんね」
魔王「おこってる……?」
勇者「……怒ってない」
勇者「怒ってないけど、なんでそんな……」
魔王「らって」
魔王「…………ゆうしゃくんしんじゃうから……」
勇者「ええええええええええええええええええええええええ」
勇者「どういうこと!?」
魔王「……まってっていったのに……さきにいっちゃうから!
あるくのはやいから~~~……!」
魔王「さびしいよ……」
勇者「待て待て、一体何の話だよ。先に行ったっていつの話だ?」
魔王「あさまでここにいる?」
勇者「つーかもしかして俺が氏ぬって、お前の例の未来予知で見たんじゃ……ないよな?」
魔王「あさまでここにいる?」
勇者「なあ答えてくれよ!予知じゃないですよね!?」
魔王「あさまでここにいてくれる……?」
勇者「いるよっ!!いるから!!」
魔王「おやすm……」
勇者「あっおい、あんまりひっつくなって……魔王!聞いてんのか」
魔王「んん……」
勇者「……おいっ……!」
70: 2014/05/13(火) 19:56:30.13 ID:/h/l3jH+o
* * *
冥府
??「氏に別れって悲しいよなぁ」
??「だからみんないっしょに消してあげよう」
鍵守「……時の女神をけしたでしょう」
鍵守「……やめようよ……こんなこと」
鍵守「時空のゆがみがたくさん……」
鍵守「怒るよ」
??「でももうこの世界の存在理由はなくなってしまった」
??「もういらねーんだよ。だったら消すしかねーだろ」
??「こんなもの……全部下らないね。逃避のためだけの箱庭だ」
??「お前が氏んだからさ」
鍵守「……ボクは所詮偽物だけど……それでもわかる。
君がしようとしてることはまちがいだよ……」
鍵守「君に会うのたのしみにしていたのに……
こんなかたちで会うことになっちゃって、かなしいよ」
??「いずれここも消すよ。最後にな」
??「だからその悲しいのもそれまでだ」
鍵守「……させないよ……」
71: 2014/05/13(火) 19:58:31.97 ID:/h/l3jH+o
* * *
魔王「……。……朝か。いま何時……」ムク
魔王「うっ……?」
魔王「頭が痛いし気持ちが悪い……一体これは……」
勇者「起きたか」
魔王「……」
魔王「ここは私の部屋だが……」
勇者「知ってる」
魔王「何故勇者くんが私の部屋で寝ているのだ」
勇者「……………………覚えてないのか」
魔王「? とりあえずおはよう」
勇者「いいか魔王。お前はもう二度と深酒はするな」
勇者「絶対にだ」
魔王「深酒? そういえば昨日の夜間違ってあれを飲んでしまってから記憶がないな」
魔王「まさか私は……酔っ払って正体をなくしてしまったのか?」
魔王「うう……信じられないくらい頭が痛いぞ……気持ち悪い」
勇者「大丈夫か?魔女に二日酔いの薬作ってもらうか」
魔王「余計に具合悪くなるだろうからそれはいい……」
72: 2014/05/13(火) 20:01:43.88 ID:/h/l3jH+o
魔王「……」フラ
魔王(……ん!?)
魔王(な……?何故こんなにシャツがはだけて……!?)
魔王(寝てる間に無意識に脱いでしまっていたのか? あわわ……どうしよう。よりによって……)
魔王「……」チラ
勇者「……気にするな、見ていない」
勇者「真ん中にリボンがついた白地に薄桃の水玉模様の下着なんて」
勇者「全然みてないから安心しろ」
魔王「そ、そうか」
魔王(よかった……)ホッ
勇者「じゃあ俺は出かけてくる」
魔王「どこへ?」
勇者「滝に」
魔王「た、滝?何故? それより今すぐ出かけなくとも、ここで朝食くらい……」
勇者「いいや今すぐにだ!!俺は今すぐ滝に行かなければいけないんだ!!」
勇者「一に滝、二に滝、三から億まで全部滝だ!!!今すぐ煩悩を滅さなければ俺は氏ぬ」
魔王「滝にかけるその情熱は一体どこから来たのだ。勇者くん」
勇者「10割お前のせいだよ!ちくしょう!!」
バタン
竜人「あ」
73: 2014/05/13(火) 20:04:26.50 ID:/h/l3jH+o
勇者「」
魔王「竜人。おはよう」
竜人「……おはようございます。魔王様」
竜人「…………………………」
勇者「おい誤解するなよ。お、俺は何もやましいことはしていないぞっ!!」
竜人「何故この朝に勇者様が魔王様のお部屋にいたかについては、
後ほどじっくり拷……尋問させて頂くことにして」
勇者「待て!!!いやなワードが聴こえたんだけど!!俺は本当になにもしてないって!!」
竜人「それより先に報告があります。
勇者様、至急今から告げる町に行って頂けますか?」
魔王「何があったんだ?」
竜人「またあの謎の大穴ですよ。ただ今度の穴は……」
竜人「今までのより5倍ほど大きいそうです」
74: 2014/05/13(火) 20:06:55.97 ID:/h/l3jH+o
* * *
勇者「確かに大きいな」
魔王「でも人が巻き込まれなくてよかった」
男「へえ、そうなんですがねえ。
町の外れにあった牧場や畑は、この穴に飲み込まれて突如消えてしまいました」
男「まったく、これはなんなんですかねえ。こちとらたまったもんじゃないですよ」
勇者「牧場や畑は……また作ればいいじゃないか。とにかく人の被害がなくてよかったよ」
魔王「では穴を塞ぐぞ」ス
勇者「大丈夫か?」
魔王「ああ」
バサーッ
妖使い「うおお、今度の穴はでっけえな!遅れてごめんごめん!俺だぜ」
忍「おまけに私です!」
勇者「やかましい登場だな」
75: 2014/05/13(火) 20:08:06.74 ID:/h/l3jH+o
忍「勇者様昨日なんで私のこと撒いたんですかーっ ひどいじゃないですかぶん殴りますよマジで」
勇者「いや……撒いた?え?なんのことだ?」
忍「しらばっくれないでください。また手合わせしてくれるって約束したじゃないですか」
忍「今度逃げたら承知しませんよ!ヤンデレ発動しますからね」
勇者「ヤンデレって何だ?」
忍「あれ?わあ魔王様、今から魔法を使うんですか?」
忍「ていうか顔色悪いですけど……大丈夫ですか?」
妖使い「あーもしかして二日酔い?昨日すごかったもんね」
魔王「……」
魔王「少し調子が悪くて……特別集中する必要があるから、一人であっちで魔法は使う。
ここで待っててくれ」
76: 2014/05/13(火) 20:10:26.32 ID:/h/l3jH+o
忍「あ……行っちゃいましたね。私魔王様が魔法使うところ見たかったのに」
勇者「あいつ大丈夫かな。やっぱりちょっと……」
忍「でも無事魔法は使えたみたいですね。ほら、穴がみるみる魔法で覆われていきますよ」
忍「さすがですね……彼女」
忍「……」
忍「勇者様。この大穴は一体何故いきなりこの世界に現れたんだと思いますか?」
勇者「その理由を今探してる最中だろ。俺にはさっぱり分からん」
忍「私……ちょっと分かるかもしれません」
勇者「え?」
忍「ちょっと耳貸してください!!鼓膜は破らないので安心してください!!!!!」
勇者「あ、安心できねえ!」
忍「もしかして……神様が怒ってるんじゃないかなって思うんです」
勇者「神様……?」
忍「この世界を作った神様が……自分の作品を嫌いになっちゃったんじゃないでしょうか」
勇者「……なんで嫌いになったんだよ」
忍「さあ。それは知りませんけど、例えば勇者様が粘土で何か作品を作ったとしますよね」
忍「でもできあがったものは、理想とは程遠いゲロと糞尿の合成物みたいな作品だったとします」
勇者「おい。失礼な奴だな!!俺は一体どんなものをつくってんだよ!!」
忍「もうそばにおいておくのも見るのも嫌だ……ってなったとき、それをブッ壊しません?」
忍「そういうことじゃないかって、私、最近思うんです」
勇者「……」
忍「このままいけば、世界は神様によって壊されちゃいますよ」
77: 2014/05/13(火) 20:13:09.95 ID:/h/l3jH+o
勇者「……たとえそうだったとして、じゃあどうすればいいんだ?」
勇者「神になんて……俺たちが対抗できるものなのか」
忍「絶対無理でしょうね!!」
勇者「うるせっ! 鼓膜破れる!」
忍「まあ常套手段としては生贄を神様に捧げたり? そういうのが有効なんじゃないですかね」
勇者「生贄って……」
忍「東国では普通ですよ?一人氏ぬのと、大勢の人が氏ぬのとでは、どちらが種にとって善か一目瞭然じゃないですか」
忍「生贄に選ばれたその一人も、皆を守って氏ねるのだから、誇らしいことです」
勇者「……」
忍「犠牲の上に成り立つ平和なんて嫌だ!なんて思ってるわけじゃないですよね?」
忍「犠牲の上に成り立ってない平和なんて、存在しませんよ。
勇者様、いまあなたがこの平和な世界で暮らせているのも……」
忍「あなたが知らない犠牲があったからにほかならないと思います」
勇者「……随分物知りだな。その犠牲ってじゃあ、何だよ。
誰が犠牲になったって言うんだ?」
忍「さあ。私が知ってるわけないじゃないですかーやだー」
忍「……でも、次はあなたたちの番じゃないですか?」
勇者「……は?」
忍「勇者様と魔王様、その時が来たら、どちらが生贄になるのですか?」
78: 2014/05/13(火) 20:15:50.24 ID:/h/l3jH+o
魔王「……」
妖使い「やー見事見事」パチパチ
魔王「……来るなと言ったはずだが」
妖使い「だってさ、向こう岸見てごらんよ。
勇者とあの護衛、二人で内緒話なんかはじめちゃってさ」
妖使い「居づらくってしょうがなかったわけよ。はっはは、参ったね」
魔王「……」
妖使い「あの二人がこっちで結婚したら、そばにいるのは君にとって辛いんじゃないかな?
だから一緒に東国においでよ。東国いいところだよー雅だよー」
魔王「馬鹿を言うな。私は魔王だぞ。この地の魔族を守らねばならん」
妖使い「そっか。じゃあ実力行使だ」
妖使い「はっはー!陣を踏んだな魔王!!これで君は一定時間、身動き一つとれまいて!
我が一族秘伝の拘束術だ!」
魔王「……!」
妖使い「油断したな魔王。くくくく……」
妖使い「恋と戦争は手段を選ばず!」
妖孤「恋でも戦争でもないじゃないですか~~正気ですか主様~~」
妖使い「僕と契約して下僕……じゃない、使い魔になってよ。魔王」
妖孤「下衆ここに極まれりですよ主様~~~いい加減にしてくださいよ~~」
妖使い「うるせえ!お前は勝手に出てくるな!!」
魔王「…………」
79: 2014/05/13(火) 20:19:24.42 ID:/h/l3jH+o
魔王「このような術ごときで私を拘束できると思ったのか?心外だ」
妖使い「……あれれ……」
魔王「拘束術というのはこういうものだ」
妖使い「ちょっとタンマ!!!待って待って!!」ギュー
妖孤「あ、あるじさっ…………わーーーっ!!」ギュ
妖使い「おい即効掴まってんじゃねーよこのボンクラ狐!」
妖孤「助けようとしたのにこの言われよう……しくしく」
魔王「で?身動き一つとれない状況に貴様は今置かれているわけだが」
妖使い「あのー見逃して?ごめんね?謝るから」
魔王「貴様の謝罪には塵ほどの価値もない」クイ
妖使い「ひいいい」
魔王「僕と契約して奴隷……じゃない、しもべになってよ」
妖使い「言いかえる必要あったかな!?」
魔王「違うか。しもべになったな、おめでとう」
妖使い「過去形!?勘弁して!!」
80: 2014/05/13(火) 20:22:09.95 ID:/h/l3jH+o
魔王「……全く」パッ
妖使い「あ、動ける」
魔王「誰かにされて嫌なことは他人にするな」
妖孤「これでもかというほどの正論ですよ主様~~」
妖使い「……はっ。俺はこの世で『正論』と『責任』という言葉が最も嫌いだね!!」
妖孤「ふざけんなカス~~」
妖使い「じゃあ分かったよ魔王。何事も等価交換が原則だよね」
妖使い「俺の望みをかなえてもらう代わりに、君の望みをかなえよう」
魔王「……?」
妖使い「君を人間にしてあげるよ」
魔王「…………」
魔王「……は……?」
81: 2014/05/13(火) 20:24:00.65 ID:/h/l3jH+o
妖使い「そうだなあ。俺の下で使い魔として5年。
5年働いてくれたら、その後は君を人間にしてあげよう」
妖使い「どうする?もちろん今この場で契約してくれないとだめだから」
妖孤「主様……むぐっ」
妖使い「今決断するんだ。使い魔になるかならないか」
魔王「……そんなこと貴様にできるわけないだろう。騙されると思ったか?」
魔王「というかどれだけ私を使い魔にしたいのだ……さすがに少し気持ち悪い」
妖使い「言葉に気をつけろ。俺はとても傷つきやすい」
魔王「すまん」
妖使い「嘘じゃないよ。準備に時間はかかるかもしれないけど。
東国の秘法にあるのさ。人を妖に、妖を人にする術が」
妖使い「人になれたらって……ずっとそう思ってたんじゃないのかい」
妖使い「そうしたら彼とも一緒に生きることができるよ。
彼と一緒に成長して、結婚して、老いて、共に氏ぬことができる」
妖使い「同じ速度で、ずっと二人で歩いていける」
妖使い「たった5年使い魔になってくれるだけでいいのさ。
それだけで君は全ての望みを叶えられるんだ。悪い話じゃないだろ?」
魔王「…………」
魔王「……まさか…………無理に決まってる……」
妖使い「無理じゃない。人になったら、」
妖使い「あの子に勇者を取られないで済むよ」
魔王「…………」
魔王「……本当に……?」
妖使い「……もちろん」
82: 2014/05/13(火) 20:26:05.69 ID:/h/l3jH+o
妖孤「ぐむっ……ぷは! 主様!はなしてください」
妖孤「嘘はだめですよ~~~!!」
妖孤「その秘法は、まだ誰もやり方が分かってないじゃないですか……。
成功するかどうかも疑わしいですし~~」
妖使い「……チッ」
妖使い「いや、嘘は言ってないよ。秘法は存在するっていうことだけはれっきとした事実だし、
5年もあれば絶対やり方も分かるってマジで」
妖孤「詐欺みたいな手法やめろクズ~~魔王様かわいそうじゃないですかぁ」
魔王「……」
妖孤「ごめんね。信じちゃったかな……?」
魔王「……!」カァ
魔王「そんな術があったとしても……私は人間にはならないっ!」
魔王「私は魔王だ!魔族として生まれたことに誇りを持っている」
魔王「今までどんなに虐げられようとも、魔族であることに負い目を感じたことはなかった!」
魔王「それに私には魔王として……この国の魔族を守る責任があるのだ。
皆を捨ててまで人間になんて……な……なりたくないっ!」
魔王「私を愚弄するな!」
83: 2014/05/13(火) 20:28:45.63 ID:/h/l3jH+o
妖使い「愚弄なんてしてるつもりはないよ……
むしろ最大限の敬意を持って君に接してるつもりだったけど」
妖孤「ごめんね魔王様。主様、コレ本気で言ってるんです。色々頭おかしい人なんです」
魔王「もういい……後で戻るからちょっと一人にしてくれ」ヨロッ
妖使い「おっと危ない。こけるよ」パシ
魔王「離せ」
妖使い「どうかした……の……か……って、……え」
妖使い「えええええええええええええーーーー……!?!?」
妖使い「いやいやいや……な、なんで泣いて…………ええええっ」
魔王「泣いてない」
妖使い「いまの泣くところじゃないじゃん……!?!?」
魔王「だから泣いてない。離せ」
妖使い「いやでも……」ヒタ
妖使い「ん? 何か首に今、ひやっと……」
勇者「なにやってんだ?」
妖使い「わあ、最悪のタイミング」
勇者「なにやってんだ?」
妖使い「いやほんと何もやってないよ?だから俺の首に剣押し当てるのやめてくださいよ。
大事な血管切れちゃいますよ。君いつからアサシンに転職したんだ」
84: 2014/05/13(火) 20:31:46.87 ID:/h/l3jH+o
勇者「俺の目には、お前が魔王を泣かしたように見えるが気のせいか?」
魔王「泣いてない」
忍「私の目にも、残念ながら若が魔王様に無理やり何かをしようとして
魔王様が泣いちゃったように見えますねー」
魔王「泣いてない!」
妖使い「おい忍!俺の護衛ならこの状況助けろ下さいお願いします。
俺は何もやってないよ!なんで魔王が泣いてるのかも分かんないって!」
魔王「だから泣いてないっ!!」
魔王「……ううーっ、頭が痛い……もう穴は塞いだから私は宿で少し休んでいていいだろうか」
魔王「原因についての調査にはまた改めて加わる」
勇者「魔王。何があったんだ?」
勇者「さっきもそうだし……昨日の夜おかしなことも言ってたな。
最近変だぞ。何かあったんじゃないのか」
魔王「何もないが」
勇者「何もなくて泣くのかよ」
魔王「だからっ泣いてないと言っているっ。皆私の話を聴け!」
90: 2014/05/14(水) 20:12:13.11 ID:RBNk19F+o
* * *
勇者「あんまり魔王が嫌がることするなよ」
妖使い「してないですし~~」
勇者「その話し方やめろ、いらっとくる」
勇者「使い魔使い魔って……いちいちちょっかいかける割には、
お前があんまり本気で使い魔にしようとしていないように思えたから」
妖使い「……」
勇者「そんなに気にしてなかったけど。度が過ぎるようなら俺も怒るぞ」
勇者「つーか俺より先に、あいつの部下にミンチにされて海に沈められるぞ」
妖使い「……」
妖使い「魔王は君のものじゃないだろ?そんなこと君に言われる筋合いないんだけど」
妖使い「それとも何かな、君にとって彼女は何にカテゴライズされてるんだ」
勇者「はあ……!?」
勇者「……お前には関係ないだろ!」
妖使い「君はあと50年とか60年で氏ぬ」
妖使い「魔王は妖の血が入ってるから、何年かは分からないけどそれ以上確実に生きるだろうね」
妖使い「100年……200年?もっとかな」
勇者「何が言いたいんだよ」
妖使い「俺が言いたいのは、人と妖は深い関係を結ぶべきじゃないってことさ。
確かにこの国は妖と人が共存していて興味深いけれど」
妖使い「隣人や友人程度なら……問題ないかもしれないね。人と妖でも。
でもそれ以上はお互い不幸にしかならないだろうってこと」
勇者「…………」
91: 2014/05/14(水) 20:13:25.98 ID:RBNk19F+o
妖使い「君が気にいったんなら、忍はここに残すよ。
彼女と幸せになってくれ」
勇者「……東国の連中ってのはみんなそうなのか?煙にまく言い方ばっかりするな」
勇者「お前も忍も、本当に穴の調査のためにこの国に訪れたのか?
その割には本気で調査してる風にも思えないし、自国を案じてる様子にも見えないな」
勇者「本当は何が目的なんだ?」
妖使い「いやだな……ちゃんと本気で穴の原因究明にあたってるし、自国も心配してるよ」
妖使い「そんなに怪しがらないでくれ」
勇者「どうだか」
勇者「……? おい、今何か聞こえなかったか?」
妖使い「へ?」
キャーー
ウワーーー
勇者「町の人の悲鳴だ! 外でなにか起きてるんだ、行くぞ!!」
妖使い「合点でい! 妖孤、魔王を起こしてきてくれ」
妖孤「あ……はいっ」
92: 2014/05/14(水) 20:15:39.17 ID:RBNk19F+o
「きゃーー!なにあれ!?」
「北に逃げろ!物は置いてけ!!早く逃げるんだ!」
勇者「一体何の騒ぎだ!?なにがあった?」
忍「おっせーですよ勇者様に若!!村の入り口に変な生き物が押し寄せてるんです!」
町長「勇者様!どうか村のみんなをお助けください!
あの穴の方向から……あいつらが……影みたいな奴らが村に向かってきてるんです」
妖使い「あいつら……?」
勇者「なんだあれ!?」
影「……」ノソノソ
影「……」ノソ
忍「……いやほんと、なんですかねアレ?」
妖使い「影としか言いようがないな……顔も何もない……けど動いてる」
妖使い「きんもー」
勇者「町長!俺たちがあいつらを止めてる間に、住民の避難を!」
町長「合点です!勇者様よろしくお願いします……!!」
勇者「よし、何が何だか分からんが、とにかくあいつらを止めるぞ。
この町に入れさせるな!」
93: 2014/05/14(水) 20:17:22.83 ID:RBNk19F+o
ビュッ
ズバッ……!!
影「……」
勇者「……!? 真っ二つにしたんだがな」
勇者(斬ってもすぐ断面から再生するか……)
勇者(斬ったときの感触もあるようなないような変な感覚だし。生物じゃないな)
勇者「本当なんなんだよお前ら!!」ヒュッ
ドカーン
忍「爆破しても無駄ですね!忌々しい」
オヤジ「うわあああっ誰かーーたすけてくれええ」
勇者「! 町の外に人が!」
勇者「待ってろ今助けるっ」ダッ
影「……」ガシ
オヤジ「うわああああああああああっオヤジ氏ぬーーー」
勇者「そのオヤジを離せっ!!」ズバッ
勇者「おい、大丈夫かあんた…… あ?」
勇者「……!? どこ行ったんだ……?」
妖使い「勇者!気をつけろ、後ろに来てるよ」
勇者「うわっ!!」
ドッ!!
94: 2014/05/14(水) 20:19:06.15 ID:RBNk19F+o
勇者「あのオヤジはどこに行った!?避難させないと……」
忍「……勇者様。私はさっき、お二人を見ていたのですが……」
忍「あのオヤジは……消えました。……自分でも信じられないですけど」
勇者「消えた!?」
忍「あの影に腕を掴まれて、影に飲み込まれたように見えました。
そのまま、アイスみたいに影に溶けて……」
妖使い「もしかしたらだけど、この影は……あの穴にあったモノから生まれたもので」
妖使い「触れたものを全て消す力があるのかもしれないな」
忍「こわっ」
勇者「でも、あいつらが歩いてる地面も、身体を斬った俺の剣も無事だな。
……ていうことは、触れた人だけ消しちまうのか……」
勇者「これじゃ本当に神業だな……」
勇者「……」
勇者(まさかこの影を生み出したのは……本当に神なのか?)
95: 2014/05/14(水) 20:27:27.75 ID:RBNk19F+o
妖使い「よーしみんな出てこい」
妖狸「あいさ」ボフン
一つ目小僧「主様お呼びで?」
なめこ「なんですかこいつら!」
妖使い「直接あの影に触れるなよ。遠くから攻撃するんだ」
忍「爆破しても飛び道具投げても、いまいち効き目ないっすね。くそう。 ん?」
忍「ヒッ」
ピシャーン!!
忍「ひいいいっ!?」ビク
勇者「チッ……魔法でも若干動きを止めるだけか」
忍「貴様!びっくりするので雷はやめてください!雷嫌いなんです私!!」
勇者「しょうがねーだろ!」
勇者「くそ、どうするか!」ビッ
勇者「確かにこのままやってりゃ時間は稼げるが……
何の攻撃も効かないとなると、解決にはならないぞ」
勇者「……そう言えば妖使い。魔王と穴にもぐったときに、
穴の底にあったモノは灯りを消したら動きを止めたって言ってたよな」
妖使い「うん、そうさ。だからあるいは夜になればこの影も消えるかもしれないけど」
忍「いま午後2時……日没まで粘れますかね?」
勇者「……やるしかないな」
96: 2014/05/14(水) 20:29:45.31 ID:RBNk19F+o
妖孤「主様~~! 魔王様連れてきましたよ~~!」
魔王「遅れて悪かった……ええとこれは?」
勇者「魔王! これはかくかくしかじかまるまるうしうしだ」
魔王「ふむ、なるほど。分かった、つまり光をなくせばいいのだな」
忍「そんなことできるんですか!?」
魔王「太陽は消せないが、太陽の光をさえぎることはできる。
ただ大がかりな術なので少し時間がかかるが……」
魔王「その間まかせてもいいか」
勇者「ああ、まかせとけ!頼むぞ魔王」
忍「太陽の光をさえぎるって……?
そんなこと……まさか」
忍「ってうわーお!真面目ぶってたらいつの間にか目の前に影一体迫ってきているー!
なれないことはするもんじゃねえですな!」
勇者「大丈夫か!」ズバ
勇者「慣れないことはするな!」
忍「自分でもそう思ってたところです!!」
勇者「やると言ったら絶対やる奴だ、あいつは」
勇者「……魔王は。だから心配するなよ」
97: 2014/05/14(水) 20:33:30.99 ID:RBNk19F+o
ズズズ……ズズ……
勇者「きたか!」
妖使い「黒い雲が空を覆っていく……」
忍「ほんとに夜みたいに、なっちゃいましたね」
忍「あ!あの影たちは……?」
勇者「暗くてはっきり見えないが、どうやら消えてくれたみたいだな」
妖使い「一時はどうなるかと思ったけど、なんとかなったね」
魔王「……ふう……」
勇者「魔王!やったな!」
魔王「なんとかできてよかった……。水魔法」
勇者「まだ何かするのか?」
魔王「いや喉が渇いてしまって。ごくごく」
勇者「自分で飲むんかい。水魔法って飲料用としてもOKなんだな」
魔王「勇者くんも飲むか?コップがないから手のひらを使うことになるが」
勇者「俺はいい。いやっそんなことより!!お前、いつの間にあんな大魔法使えるようになってたんだよ!」
勇者「すごいじゃないか!昼を夜に変えるなんて、魔王くらいにしかできないだろうな。
あのまま……魔王がこの魔法を使わなかったら、俺たちもどうなってたか分からない」
勇者「あの影、随分厄介な敵だったんだ。この町を守れたのも魔王のおかげだよ。ありがとな」
魔王「うむ、当然だ。もっと言うがよい」
勇者「ああ、魔王がいてくれて助かった」
98: 2014/05/14(水) 20:37:08.53 ID:RBNk19F+o
魔王「……」
魔王「……あ、ありがとう」
魔王「私も……自分が魔法を使える存在でよかった」
勇者「ん?」
魔王「ところでどうしても私を褒めたいのであれば、もっと盛大に褒めてくれても構わんぞ。
これでもかというほど褒めちぎってくれても何ら私は構わない」
魔王「そうしたいのであれば頭を撫でてくれてもいいのだぞ」
妖使い「いやーーすごいじゃないか魔王も勇者も!君たちの活躍には帽子を脱いでも脱ぎきれないな!
つまり脱帽の極みということだけどね!!あっぱれあっぱれ!」
魔王「貴様には言っていない。私は勇者くんに褒めていいと言ったのだ」
妖使い「どうせなら二人まとめて俺の使い魔になってみる?ハッハッハ」
勇者「はああ?アホ言ってんな」
妖使い「いいじゃないか、どうせ勇者も半分魔族みたいなもんなんだろ?」
勇者「わけ分かんないこと言ってないで、さっさと今後について話し合おうぜ。
町の被害について確認しないとだし、この夜化の説明もしないと混乱を招くな」
忍「そうでしたね!じゃあちゃっちゃと行動しましょうか、若」ゲシ
妖使い「いたっ」
99: 2014/05/14(水) 20:49:07.26 ID:RBNk19F+o
魔王「…………」
魔王「……はっ…………」
勇者「? どうした魔王」
魔王「…………」
魔王「……妖使い……忍……」
妖使い「え?なに?」
忍「へ?」
魔王「す……すまない。その……この魔法は今の私では、大陸の3国までしか行き渡らせることができなくて」
魔王「東国までは……届かなかった。……ごめん」
忍「ああ……」
妖使い「まあ、仕方ないよ。大丈夫大丈夫!
俺の故郷には俺より強い奴らがわんさかいるから、なんとかなってるはずだって」
忍「そうですよ!私の一族もなかなか強いのです。あんな影なんかに負けたりしませんよ!」
魔王「……」
勇者「二人とも、もうこうなったら東国に帰国した方がいいんじゃないか?家族とか心配だろ」
勇者「俺たちに遠慮してるんなら気にすんなよ」
妖使い「いや……こっちに残るよ。いまあっちに戻ってもできることはないだろうし」
妖使い「俺たちは俺たちの使命を果たすだけさ」
忍「そーっすよ。そっちこそ気にしないでバンバン若のことこき使ってあげてくださいネ!」
妖使い「俺だけかよ」
100: 2014/05/14(水) 20:50:56.43 ID:RBNk19F+o
王都 宮殿 国王執務室
騎士「陛下!大変ですよ陛下!! 失礼します!」バタン
騎士「……!? 陛下……!? い、いない!?」
戦士「まさか、陛下の身にも何かが!?急いで探っ……」
スタッ
国王「やあ、二人とも」
騎士「っぎゃあああああ!!」
国王「そろそろ来るだろうと思って天井に張り付いて、待ち伏せをしていたんだ」
戦士「真剣に意味が分かりませんぞ、陛下」
騎士「無駄に驚かさないでください!!」
国王「ああ、燭台を持ってきてくれたか。助かるよ。
いきなり窓の外が暗くなってしまって、もう国王と言えど何が何だか大混乱だ」
国王「私が若年性アルツハイマーでもタイムリーパーでもないとして、
この部屋の時計も壊れていないとして……こんな時間に夜になるのはおかしいな、全く」
騎士「はい。まだ原因は特定できていません。どうやら王都以外でも同じような状況みたいです」
戦士「またあの巨大穴に関係することでございましょうか?」
国王「ふうむ……この突然の夜の原因としては、あの穴をこしらえた者、あるいは事象……が有力だけど」
国王「もしかしたらそれに対抗して取られた措置の結果かもしれない。
こんなことできるのは魔王の彼女か、勇者の彼くらいだろうな」
101: 2014/05/14(水) 21:01:07.32 ID:RBNk19F+o
国王「もし原因が後者だったとして、何故それをしなければいけなかったのかと考えると
こちらも軽率に動くのは危険だなあ」
国王「じゃあ戦士に騎士。
私のことは放っておいていいから、突然の暗闇に大混乱中であろう王都の民のところへ行ってくれい」
国王「宮殿の倉庫の中からろうそくや松明をあるだけ持っていって配るんだ」
騎士「しかし……魔術師たちが魔法で街に灯りをともしたほうが早いし、強力では?」
国王「あんまり強い灯りをともしていい状況かも分からないからね。
とりあえず勇者か魔王の連絡を少し待つよ。それまで私が今言ったことしくよろ」
国王「私は星の国の王と雪の女王に手紙出してくるから。ヘイ鳥、こっちへカモン」
バタバタ……
騎士「いやあ……こんなときでも陛下のブレなさ ヤバイですね。いっそ末恐ろしいです」
戦士「あそこまでいつも通りだと、動揺していたこちらが逆におかしいのかと錯覚してしまうな!」
騎士「一度あの人の頭の中覗いてみたいですね」
102: 2014/05/14(水) 21:04:10.93 ID:RBNk19F+o
* * *
妖使い「んじゃ王都に報告に行ってくる」
忍「さらばです、勇者様に魔王様!」
魔王「気をつけて行くのだぞ」
勇者「なあ、やっぱり俺が行こうか?テレポートして行った方がすぐだし」
妖使い「いーや、ほかの村の様子も空から見ておいて、王都の王様に報告した方がいいと思わないか?」
妖使い「俺の使い魔に乗ってけば、君ほどじゃないけど普通の鳥より速く飛んでけるからさ」
妖使い「妖は夜目もきくし。心配ご無用。じゃあね」
忍「拙者たちはこれにてどろんでござる!」
妖使い「急にキャラ押しだしてきたな」
バサッ……
妖使い「……」
忍「こんな夜久しぶりですね。月も星も何もない……」
妖使い「それでも慣れ親しんだ夜空とはまた別モノだけどね。
あそこはこんなに真っ暗じゃあなかった」
妖使い「灰色さ」
忍「地上はどんな様子です?私は見えません」
妖使い「妖孤、見えるか?」
妖孤「はい主様……なんかアホみたいに穴が開いてます。
例えて言うとレンコンの断面図みたいな感じになってます」
妖使い「なるほど。そいつあ確かにアホみたいだ」
忍「次はどうなっちゃうんでしょうかね」
妖使い「どうなるんだろうな。止められるだろうか」
妖使い「彼らに」
103: 2014/05/14(水) 21:07:34.63 ID:RBNk19F+o
* * *
魔王「王都や魔王城の方は無事だろうか」
魔王「もしさっきの影がこの町の穴だけでなく、ほかの穴からも出現したとすれば
あまり明るい灯りをつけるのは危険なのだが」
勇者「王都の国王は、普段はアホだけど……ほんとアホな真似しかしないけど……」
勇者「いざというときには察しがいいし頼りになる。姫様もそばについているはずだしな」
勇者「魔王城の方も大丈夫だろう。魔女や竜人やほかの魔族たちが、
きっと意図を察してくれていると思う」
魔王「……うん」
魔王「しかしいつまでも夜のままにしておくわけにはいかないな」
魔王「これは単なる一時しのぎにしかならんのだ。もっと根本的な解決をしないと」
勇者「本格的にやばくなってきたな……まさかあんなものが穴から出てくるなんて」
勇者「召喚師が召喚する幻獣みたいな魔法生物か?斬っても意味なかったんだ、あいつら」
魔王「いや。魔法の気配は感じなかった。しかし魔法も物理攻撃も効かないとすると、恐らく生物でもない」
勇者「魔力で動くものでもなく、生物でもないとしたら……一体なんなんだ」
魔王「分からない」
魔王「いま分かっているのは、あれらがこの世のいかなるものとも違う物体だということだ」
104: 2014/05/14(水) 21:11:27.39 ID:RBNk19F+o
勇者「一体なにが起こってるんだ……」
勇者「……そうだ。過去にも同じようなことが起こった可能性があるんじゃないか?」
勇者「やっぱり俺たちも王都に行ってみよう。
あそこの図書館に行けば、何かしらの記録が残ってるかも」
魔王「残念だが、それはない。
正体不明の影が出現していきなり人々を襲うなんてことはどこにも書かれていなかった」
魔王「歴史書にも神話にも、おとぎ話にも、哲学書から経済書にいたっても、どこにもなかったんだ」
勇者「言いきるのはまだ早いだろ?お前だってあそこの本全部読んだってわけじゃないだろうし」
魔王「読んだ」
勇者「……読んだのか?」
魔王「読んだ」
勇者「読んだんだ……」
勇者「あーーじゃあどうするか……。こんな風にどう対処していいか分からないのははじめてだ」
魔王「うむ……」
105: 2014/05/14(水) 21:15:12.05 ID:RBNk19F+o
賢者「でも、魔王様が本を全部読んだって言っても、
図書館にもうすでにない書は別なわけじゃろう?」
魔王「ああ、そうだ」
賢者「あそこの図書館は確かにこの国の全ての書を保管しておるが、2つ例外がある」
賢者「ひとつ、人魔戦争の竜族王都襲撃の際に燃えてしまった書」
賢者「ふたつ、以前の王家が『置くべきでない』と判断した書」
賢者「ちゅーこっちゃ。じゃからまだ希望はあるんじゃ」
勇者「なるほど。そうか……いまある本は百年前の戦争後に揃えられたものだもんな。
それより古い本は確かにお目にかかれない」
魔王「しかし燃えてしまったのならどちらにせよ読むことはできないのでは」
魔王「王家が置くべきでないと判断した書も、ならばどこに保管されているのだろう」
賢者「なあに、案ずるでない。まだ道は残されている」
勇者「……!手がかりがあるのか?」
勇者「……」
勇者「ところであんた誰だ?」
魔王「いつの間に私たちのテーブルについていた?」
賢者「そうドン引きをするな。私は賢者。賢い者と書いて賢者。
自分で言うのも恥ずかしいがな……」
賢者「ここより西の丘に住んでいる賢いジジイじゃ」
賢者「すげえ賢いよ」
勇者「自称を恥ずかしがってる割に滅茶苦茶アピールしてくるな、あんた」
106: 2014/05/14(水) 21:19:08.88 ID:RBNk19F+o
魔王「賢者か。頼りになりそうな肩がきだな」
勇者「肩がきはな……肩がきは」
魔王「してその王立図書館にない書を閲覧する方法とは?」
魔王「私たちは一刻も早くあの影たちが何なのか、正体を突き止めないといかんのだ」
勇者「そうだ、教えてくれ賢者のじいさん!」
賢者「分かった。まず東の森の奥にある砦に行け」
賢者「そして最奥の赤い秘石をとってくるのじゃ。そうしたら次は南の天空神殿へ。
しかし天空に行くためには気球が必要になってくるだろうから」
賢者「気球職人を探しだしてからにしろ。職人は王都にいるはずだ。
天空神殿では白い秘石をとってくるように」
勇者「やたら手間と時間がかかるな……」
賢者「さらに西のマグマ火山では緑の秘石を、北の要塞廃墟では黒い秘石をとってこい。
4つの石を集められたら、それが賢者の家に入るための鍵となる」
魔王「仕方ない。やろう勇者くん。では賢者、東の森に案内してくれるか」
勇者「あれ、待てよ。賢者の家に入るための鍵って……」
賢者「そう、私がここにいるから今言ったことはショートカットできるよーん」
勇者「じゃあさっきの説明いらねーだろ!!?」
賢者「私がここにいてよかったね、と思わせるための1分間じゃ」
勇者「あんた、じつは賢者っていうの嘘だろ!?」
魔王「君がここにいてよかった」
勇者「お前も乗らなくていいよ」
賢者「魔王様は素直じゃ。それでよいよい。では行こうではないか、わしの家へ!」
賢者「長旅になるからしっかり準備を整えて行くように。薬草は持ったか?」
魔王「そんなに遠いのか?では準備をしてくる。少し待っていてくれ」
賢者「ああ遠い。徒歩5分じゃ」
魔王「と……遠くないっ!」
勇者「いい加減にしろ爺さん!魔王が慣れないツッコミをするレベルに達したぞ!」
107: 2014/05/14(水) 21:22:22.41 ID:RBNk19F+o
賢者の家
賢者「なにしろ暗いからいつもより時間がかかってしまったな」
勇者「と言っても徒歩10分くらいだったけどな」
魔王「家のどの部屋を見ても……本だらけだ」
魔王「見たことのない書ばかり……すごい」
勇者「古い本ばっかりだな」
賢者「あまり乱暴にさわるでないぞ。
紙も古いものじゃから、触っただけでばらばらになってしまうのもある」
勇者「まじかよ。でもなんで昔戦争で燃えてしまった本を持っているんだ?」
賢者「本物の書がここにあるわけではないのじゃ。本物は確かに昔燃えて消えた。
ここにあるのは私の曾爺さんが複製したものじゃ」
魔王「確かに全部手がきだ」
賢者「曾爺さんは戦争の時に、もしかしたら王都も危ないかもしれないと思ったんじゃろうな。
貴重な本は全てこっそり複写しておいたらしい」
勇者「へえ……すごいな」
賢者「この部屋にあるのは曾爺さんが複製したものが棚にしまってある。
地下室にあるのは、私が若いころから蒐集した変な書じゃ」
勇者「変な書って」
賢者「自由に見て回るがよい」
108: 2014/05/14(水) 21:24:33.24 ID:RBNk19F+o
魔王「ん……?」
魔王「この書は? 古代語……に似た文字だが、少し違うな」
賢者「それは曾爺さんにも解読できんかったようじゃな。
その棚の書は全部似たようなもんじゃ。なんの本だかさっぱり」
賢者「私も解読しようと研究中でなー。何通りかの文字のパターンはとりあえずこの図にまとめておいたが」
魔王「これは魔族の古代語と人間の古代語があわさったような文字だな」
魔王「こんな文字は初めて見た……」
勇者「読めそうか?」
魔王「少し時間がかかりそうだがやってみよう」
魔王「賢者、手伝ってくれるか」
賢者「いいよ」
109: 2014/05/14(水) 21:25:52.50 ID:RBNk19F+o
地下室
勇者「あっちに俺の出る幕はなさそうだな」
勇者「地下室にある本は賢者の爺さんが集めた本なんだっけ。
こっちの本なら俺でも読めそうだし……手当たりしだい見てみるかな」
勇者「っつっても……『変な本』だろ?工口本とかじゃねーだろーな爺さん……」
勇者「……『薬草大辞典』……『鉱石図鑑』……『秘湯100選』……」
勇者「……『50歳からの結婚』……『よい老後』……『未確認生命体レッシーを追え!』
勇者「ほとんど趣味の本かよ。……ん?」
勇者「本を抜いたのにまだ奥に背表紙が。なんの本だ?ええと」
勇者「…………」
勇者「こっちの書庫は魔王に見せない方がいいようだな」
勇者(手がかりになりそうな本はないかもな)
勇者「ん……なんじゃこりゃ。『時の女神の日記』」
勇者「はははは!だれがこんなもの書いたんだろ。見てみるか」
110: 2014/05/14(水) 21:27:45.24 ID:RBNk19F+o
○月×日
今日は何事もなし。
いつも通り完璧に仕事を終えた。
仕事終わりに飲む麦酒は格別だ。
○月×日
時の剣を置いたのをすっかり忘れていた。
勇者がやってきた。
休憩時間に来る勇者が悪い。
すっかり気を抜いているところを見られてしまった。
ジャージ姿でぐーたらしているところを見られてしまった。なんたること。
急いで取り繕ったが……このままでは私のイメージが……。
○月×日
眠い。
時の歯車を見ているとだんだん眠くなってくる。
○月×日
今日は何事もなし。
○月×日
今日はうっかり仕事中にうたた寝をしてしまって、
地上にひとつだけ時空の歪みを発生させてしまった。
急いで歯車を回して消す。
直径50cmくらいの小さな穴だったので誰にも気づかれなかった。あぶないあぶない。
○月×日
と思ったが鍵守様にばれていた。
優しい口調で叱られた。かわいい。こわい。
111: 2014/05/14(水) 21:29:25.93 ID:RBNk19F+o
勇者「……………………」
勇者(これ本物だ……)
勇者(この感じ、本物の時の女神だ……)
勇者「日記とか下界の俺たちに知られて大丈夫なのかよ!なにしてんだあの女神!」
勇者「つーか……ここ!」
勇者(地上にひとつだけ時空の歪みを発生させてしまった。急いで歯車を回して消す。
直径50cmくらいの小さな穴だったので誰にも気づかれなかった……って)
勇者(穴……時空の歪み?それって今俺たちがまさに困っていることだよな)
勇者(まさかの黒幕女神説…………)
勇者「いやいやいや。まさか。女神は確かに第一印象は変だったけど、俺たちを助けてくれたし」
勇者「……だが確かめる必要があるな。あとで時の神殿に行ってみよう」
勇者(入れるかどうか分からないが)
勇者「一応ほかの本も見てみるか。てか爺さんは一体どこで女神の日記を入手したんだよ」
勇者「すげーな爺さん」
112: 2014/05/14(水) 21:30:45.56 ID:RBNk19F+o
―――――――――――――
―――――――――
―――――
勇者「ふー……疲れた。字読むのは剣振るのより何倍も疲れる……」
勇者「あらかた目を通したか。めぼしいものはなかったけど」
勇者「魔王と爺さんの方はどうだろう。そろそろ様子を見に行ってみるか」ガタ
スタスタ
勇者「……」
勇者「ん?」
勇者(……『はじめてでもよくわかる!初心者のための異端審問(やさしい図解付き)』)
勇者「…………異端審問……」
勇者(今はもう歴史書の中でしか見かけないが、昔はこういう本が至るところにあったんだろうな)
勇者(現在では絶版になってるだろうが、恐らくこの本も実用書としてつくられた本なんだろう)
勇者(戦争で燃えてないけど国が図書館に置くのをやめたってこういう本のことか?)
勇者(確かに人と魔族が共に生きる今の社会では、こういう実用書は置く必要はない)
勇者(配慮っちゃ配慮か……。隠ぺいとまで疑うのは……俺の考えすぎか)
勇者(……あっちもまだ時間かかるよな)
パラ……
113: 2014/05/14(水) 21:33:22.54 ID:RBNk19F+o
イタンシンモン
異端審問
20年前に戦争が終わってやっと平和な世界を取り戻せましたね。
でも安心しすぎてはいけません。
実は山奥や谷の底で、異形のものを見たという証言が相次いでいます。
角が生えていたり大きな鳥の姿をしていたり、半馬半人の化け物たち……そう魔族です。
悪魔たちはひっそりと私たち人間に復讐をする機会を待っています。
決して一人で挑まず、姿を見かけたら周囲の人々に知らせましょう。
王都の騎士団に知らせるのもいいですが、彼らが駈けつけてくれるのには時間がかかります。
(田舎の村なら特に)
なので見つけ次第迅速に対処するのが重要です!
まず化け物を見かけたら、太陽の日に3日置いた木に灯した聖火で森ごと焼き打ちします。
悪魔たちはとても強い力を持っていますので、こちらが大勢いたとしても危険です。
悪魔の住処を囲うように四方から火を放ちましょう。
これが一般的な悪魔狩りの方法ですが、種族によっては別の方法が有効な場合もあります。
詳しくは34ページ参照されたし。
114: 2014/05/14(水) 21:34:30.10 ID:RBNk19F+o
しかし、悪魔の中には人に化けるのが得意なものもいます。
あなたの隣人が実は魔族だった、ということも大いにあり得るのです。
化け物の正体に気づかずそのままボケッとして過ごしていると
はっとした時にはそいつの腹の中、ということもあるかもしれません!
様子や言葉がおかしかったり、姿かたちが人と違うところがあったり、
人の体を見てよだれを垂らしていたりしたら、間違いなくそれは魔族です!
疑わしい者がいたら火あぶりにしましょう。(図1 火刑のときの木の組み方)
もしその者が魔族だったら、聖火によって化けの皮がはがれ、本当の姿を現わすはずです。
ですが火刑はとても手間がかかりますね。
あまり大人数で準備をしていると、そのことを化け物に悟られてしまうかもしれません。
それはこちらの命が危うくなるので、気を付けた方がいいです。
じゃあどうすればいいの?とお思いの方。ご心配なく。
火あぶりは正統派ですが、もっと手軽な異端審問の方法もあります。
115: 2014/05/14(水) 21:36:34.88 ID:RBNk19F+o
それは水審判とよばれるものです!
勇者(……)
あなたの村に泉はありませんか?
清らかな水があればなんでもいいです。
水があったら、悪魔と疑わしき者の足に石をくくりつけて泉に落としましょう。
反抗が怖いと言うのならば、酒か何かを飲ませて眠らせ、その間に準備を済ませましょう。
もし悪魔だったら、悪魔は邪悪な魔法を操りますので、石がくくりつけてあろうがなかろうが関係なく浮かび上がってきます。
浮かび上がりそうだったら、すぐに火刑の準備に取り掛かりましょう。
大丈夫、悪魔は清らかな水が苦手ですから、かなり衰弱しているはず。
その間にぱっぱと準備を済ませておきましょう。
もし人間だったら、水底に沈みます。まあ仕方ないことですね。
ね、簡単でしょ?
さて次のページでは…………
―――――パタン。
勇者「……!?」
魔王「……」
勇者「……魔王」
魔王「古代語の解読がすんだぞ。上にあがってきてくれ」
勇者「……あ……ああ。分かった」
魔王「この本は私が棚に戻しておく」
スッ ゴト
121: 2014/05/16(金) 18:57:22.33 ID:kELIGolwo
賢者「いやー私が50年かけても読めなかったこの本を……
2,3時間で読まれるとなんとも言えない気持ちじゃの」
魔王「この言葉の解読には魔族の言語の知識が必要なのだ。
たまたま私が魔族だったというだけのことだ」
勇者「……で、なんか見つけたか?」
魔王「ああ。これだ。タイトルは『創世記』」
勇者「創世記?そんなもん、古代語じゃなくったってどこにでもあるぜ」
勇者「あれだろ?二人の創世主がいて、ひとりがこの世界をつくって、もうひとりが冥界をつくった」
賢者「1日目に空と海を、2日目に太陽と星と雪をつくって」
賢者「3日目に月と命と氏をつくったという神話じゃな」
魔王「ああ、それは私も知っている。でもこの古書にはもっと詳しく書かれているのだ」
魔王「古書の創世記によると、大地も空も海も、太陽も星も雪も……」
魔王「月と命と氏も、全て黒い水からつくられたという」
勇者「黒い水?なんか嫌な感じだな。普通の水ならともかく」
勇者「それか赤い水なら血の比喩だって分かるけど。黒い水って……沼の水かよ?」
賢者「私らは沼の水からできとるんかいのう」
勇者「すげえいやだな」
122: 2014/05/16(金) 18:58:57.33 ID:kELIGolwo
魔王「創世主はまず0日目に白い大地と黒い水を用意して、
それから3日間でこの世界を創造したらしい」
勇者「へえ」
魔王「私と妖使いが地面に開いた穴に入ったときのことを覚えているか?」
勇者「ああ、覚えてるよ」
魔王「あのとき底にたまっていたのは水だったのだ。黒い水」
賢者「関連がありそうじゃのう」
勇者「とすると影は黒い水でできてて、つまり俺たちと同じようなものってことか?」
魔王「同じというか私たちの原始的姿なのではないか。
命も氏も与えられていないから、勇者くんの攻撃も私の魔法も通用しなかったのだろう」
勇者「……。俺もおもしろい本を地下室で見つけたんだ。これ」
勇者「時の女神の日記……なあ、爺さんこれどこで見つけたんだ?」
賢者「時の神殿の近くの道で落ちていた。
どうせ偽もんじゃろうが、話のタネになるかと思っての」
勇者「へ……へえ。でも、本物みたいだぞ」
勇者「これによると、女神が時の歯車を回していないと、時空の歪みが発生して大地に穴が開くらしい」
魔王「では時の女神がいま、なんらかの理由で歯車を回せていない状況なのか」
勇者「そうらしいんだ」
123: 2014/05/16(金) 18:59:58.66 ID:kELIGolwo
魔王「……」
魔王「そしてこれがもうひとつ解読した書のなかで興味深いものだ」
勇者「また随分難しそうだな。これは?」
魔王「『終末記』。創世記と対でつくられたものらしいな」
勇者「不吉すぎる」
魔王「この世界が存在理由を失ったと創世主が判断したとき、黒い影が全てを呑みこむだろうと書かれている」
勇者「……」
勇者「大当たりだな」
魔王「大当たりだ」
賢者「影に呑まれたあとは無だけ……なにも残らんのじゃろう」
勇者「俺は人が影に呑みこまれたのを見た。そのオヤジはいなくなってしまった。消えたんだ」
勇者「……『世界が存在理由を失ったと創世主が判断したとき』ってことは、
その創世主って奴がこの事態を引き起こしてるんだよな」
勇者(忍が言ってた通りだったのか。まさかとは思ったが……)
勇者「止める方法はないのか?」
124: 2014/05/16(金) 19:02:00.70 ID:kELIGolwo
魔王「『扉を開けて彼に会いに行け』」
魔王「『扉の鍵は 雄竹の里 神の宮 永遠の泉 離島の浜辺』」
勇者「ヒントになってねえ!!」
勇者「扉の場所も鍵の在り処も、昔の人はなんでそうやって迂遠なやり方しかできないんだ!?」
勇者「はぐらかさないと氏んじゃう病気か何か?『扉はここで、鍵はここにある』って書けよ!!」
勇者「はあはあ……悪い、取りみだした」
勇者「勇者やってると結構その手の暗号?に振り回されてな」
賢者「どうどう」
魔王「はっきり書けない事情でもあったのではないか。
明確に書くと誰かに消されてしまったり……」
勇者「ダイイングメッセージじゃないんだからさ」
勇者「まあ文句を言っても仕方ないか!扉がどこにあるかは分からないが」
勇者「とにかく鍵を集めよう。雄竹に神の宮と……ええと?」
勇者「ほかのみんなにも協力してもらって、分かれて探せば早いだろう」
魔王「そうだな」
125: 2014/05/16(金) 19:04:17.37 ID:kELIGolwo
勇者「俺はその前に時の神殿に行ってみる。
魔王は魔族たちにこのことを知らせて、竜人と魔女といっしょに王都で待っててくれ」
勇者「ちょっと確かめたら俺もすぐ王都に戻る。そしたら鍵を探しに行こう」
魔王「分かった」
勇者「……」
勇者「……太陽の日を遮る魔法はけっこう魔力を消費すると思うんだが、どれくらい持ちそうなんだ?」
魔王「1日1回なら大したことではない。魔力は寝れば回復するから」
勇者「本当に?」
魔王「ああ」
勇者「ならよかった。でも無茶すんなよ」
魔王「君こそ」
勇者「……いっつも無茶してんのはお前だろ!」
魔王「勇者くんだって無茶してるではないか。ここは譲らんぞ。
無茶ナンバー1は君だ勇者くん。異論はないな」
勇者「異議あり!お前忘れたとは言わせねーぞ、昔王都で自分の心臓ブッ刺したじゃねーか!
あれ今でもたまに夢に見るぞ!もう絶対ああいうことすんなよ!」
魔王「勇者くんだってその後……その後……目が覚めたらいなくなってて……
代わりにお墓があって……勇者くんが……」
魔王「…………だから全部勇者くんが悪いっ。もうあんなことをしたら許さない!」
賢者「まあまあお二人とも。落ち着け」
勇者「爺さん……」
賢者「さっさと目的地に行くんじゃ」
賢者「うるさいし邪魔」
賢者「世界の命運が二人にかかっているんじゃぞ。急ぐんじゃ。
君たちなら必ずこの世界を救えると信じておる。頑張るのじゃぞ」
勇者「おい、真ん中に本音が挟まってるぞ。ごめんて」
勇者「邪魔したな爺さん。あんたがあの町にいてくれたおかげで助かったよ。じゃあな」
魔王「ありがとう賢者。またどこかで」
賢者「よいよい。頑張れ若人たちよ。創世主だかなんだか知らんが……」
賢者「私は君たちを応援しておるぞ。またな」
126: 2014/05/16(金) 19:10:31.16 ID:kELIGolwo
* * *
王都 宮殿
戦士「騎士!ここにいたか」
騎士「あれ?戦士さん今は休憩中じゃ?」
戦士「王都に魔王たちが到着したらしい。いま謁見の間にいるそうだ。俺たちも行くぞ」
騎士「は、はい!」
コツコツコツ……
騎士「魔王さんたちが……」
戦士「お前あんまり浮かれるんじゃないぞ」
騎士「浮かれてなんかいませんよ!国の緊急事態なんですから、僕だって弁えてます」
戦士「分かった分かった。魔女が来ているといいな。まあ来てるだろうが」
騎士「だだだだから誰も魔女さんのことなんて話していないじゃないですか」
騎士「……そ、そうだ。僕は最初魔王さんのこと、
何考えてるかよく分かんない人だなーって思ってたんですよ」
戦士「露骨な話題逸らしだな」
騎士「戦士さん!真面目に聞いてください!
ほら、魔王さんってあんまり表情が顔に出ないじゃないですか」
戦士「魔女と違ってな」
騎士「それでですね!!ある日魔王さんがまた難しそうな顔で何やら虚空を見つめていて、
僕は『きっとすごい難しいことを考えているんだろうなあ』と思ったわけです」
騎士「そしたら横にいた勇者さんは
勇者『いや、あれは難しそうなことを考えていそうで実はなにも考えていない顔だ』
って言って……」
騎士「いやいやまさか、と思うじゃないですか。あの魔王さんが。
そしたらその後、勇者さんが魔王さんに話しかけに行って……
勇者『なあ魔王。いま何考えてんだ?』って聞いたら、
魔王『ん……?』
魔王『何も考えてない』
騎士「…………って!どう思いますか戦士さん」
戦士「いや……どうも……?」
戦士「なんだ、どう反応すればいいんだソレ?」
127: 2014/05/16(金) 19:12:59.24 ID:kELIGolwo
戦士「確かに年頃の娘と比べると表情が乏しいが、全くないというわけでもないだろう」
戦士「なにか甘いものを差しいれると嬉しそうにするぞ」
騎士「まじすか。今度贈ってみようかな……そう言えば魔女さんに以前ケーキを贈ったら……」
騎士「なんかうねうね動く不気味な植物をお返しでもらったんですけど……どう思いますか戦士さん」
戦士「いや……分からんけど……喜べば?」
騎士「喜んでいいんですかね……」
バタン
国王「ああ、来たか」
戦士「お待たせいたしました」
国王「やはりこの夜化は魔王の魔法だったって」
騎士「そうでしたか……陛下の仰る通り、王都に光を灯さなくて正解でしたね」
国王「ところで戦士、騎士。君たちを近衛騎士の任から解くよ」
騎士「そうですか…………って、ええええ!?ななな何故ですか!?クビですか!?」
戦士「ツマトムスメガ……ツマトムスメガ……」ガクッ
騎士「戦士さーーーーん!戦士さんがショックで氏んだーーー!」
国王「いや違う違うクビじゃない。おりゃっ蘇生ビンタ!」パーン
戦士「ハァッ!」
国王「君たちには魔王たちに協力して、扉の鍵を探してもらいたい。
いいかな、3人とも」
魔王「それは有り難いが、いいのか?」
国王「もちろん。鍵の在り処の『雄竹の里 神の宮 永遠の泉 離島の浜辺』という場所だけど」
国王「いま王都中の民に訊きまわってそれに当てはまりそうな場所をリストアップさせている。
ここはいろんな国や都の商人が訪れるところだから、情報はすぐ集まるだろう」
国王「けれどたぶんそんなに絞り込めないと思うんだ。特定できるキーワードもあまりないしね」
竜人「虱潰しに行くしかありませんね」
魔女「ぶちぶちっとねー」
国王「だからできるだけ頭数いた方がいいだろう?だから頼むよ、戦士と騎士」
戦士「そ、そういうことでしたら。またよろしくな、3人とも」
騎士「宜しくお願いします」
バターン
姫「話は聞かせてもらいました」
姫「私も行きます」
128: 2014/05/16(金) 19:15:26.14 ID:kELIGolwo
国王「…………………………」
姫「…………」
国王「じゃ私も行く」
戦士「陛下、そこは姫様を止めるところでしょう。なに言ってんだあんた」
騎士「そうですよ、ドサクサにまぎれないでくださいよ」
騎士「姫様、だめですよ。頭数が必要なのは必要ですが、それはあくまで戦える者が必要ということです」
魔王「敵は創世主かもしれぬのだ。なにがあるか分からない。
国の大事な姫を巻き込むわけにはいかない」
姫「私こう見えて弓なら得意です。それにある程度の護身術なら心得ておりますわ。古代語も読めます」
姫「私もこの国の王族として何かしたいの。必ず役に立って見せます」
姫「……私も一緒に行きます」
国王「…………」
国王「では私も一緒に行く」
戦士「便乗しないでください陛下。いい加減にしてください」
国王「はあ……いいよ。分かった。ただし怪我はしないこと。それだけは守ってくれるね」
姫「お兄様……!ありがとう!私頑張るわ!」
騎士「姫様……全くお転婆なところは変わっていませんね」
姫「うるさいわ」
129: 2014/05/16(金) 19:18:16.05 ID:kELIGolwo
竜人「ところで影の被害は一体どの程度なのですか?」
国王「ああ……すぐに国中の村々に安否を窺う鳥文を出したんだが、
返事が帰ってこないところがいくつかあった」
国王「兵士を派遣して調べてもらったんだけど、その村々にはだれもいなかった」
国王「だれもだ。家や畑はあるのに、その土地に住む人間の姿だけ消えていたよ」
魔王「……」
国王「恐らく、魔王と勇者があの影に出会ったとき、同時に別の場所でも影が穴から出現していたんだろう。
君が魔法を使わなかったらもっと被害は広がっていたはずだ。ありがとう」
国王「魔族たちの町はどうだった?大丈夫だったかい」
魔女「あたしたちの町と魔王城の近くには穴がなかったから、全然被害はないよ」
国王「そうか、よかったよ」
国王「敵は創世主か……なんだかあんまり実感がわかないな。
創世主が我々の国を消そうとしているなんて」
姫「ねえ、この世界の存在理由がなくなったと創世主が判断したとき……って仰ってましたよね。
それってどういうことなのかしら?」
姫「世界はただ在るだけではないの?存在する理由とはなにかしら」
戦士「それは直接創世主に訊くしかないのではないだろうか」
国王「私も創世主に会いたいなあ」
魔女「創世主も王様みたいなのの生みの親だって知ったら失神しちゃうんじゃないのー アハハ」
国王「言えてるー 度肝抜かれるだろうねアハハ」
魔王「魔女……失礼だぞ。いくら昔がアレとは言え、いまは国王なのだから」
竜人「魔王様も若干フォローし切れていませんよ」
130: 2014/05/16(金) 19:20:26.56 ID:kELIGolwo
国王「まあとにかく、勇者が来るまで鍵の在り処はこちらで調査しよう!」
国王「それから彼が来たら鍵捜索は君たちに頼む!私は扉のことを調べよう」
魔王「ああ。頼む」
魔王「勇者くんが来るまで私も城下で鍵について調べようと思う」
姫「あー……それはやめておいた方がいいかもしれませんわ」
魔女「なんで?」
国王「夜が続いてることについて不満を抱いてる農民が王都に押し掛けてきているんだ」
姫「危険を避けるためだと説明しているのだけど納得しないのよ。
彼らの言い分も分かるのだけど……」
国王「どうしても城下に行くというのなら、姿を隠して行った方がいい。気をつけてね」
竜人「私はどうしても武器屋に行っておきたいので、失礼しますね」
魔女「あたしは魔王様についてこーっと」
131: 2014/05/16(金) 19:25:06.97 ID:kELIGolwo
姫「……じゃあ私、武器屋の場所を案内したします。
いまは夜だから私も外套を羽織れば何も問題ないはずだわ」
竜人「武器屋の場所は分かっているので私一人で大丈夫ですよ。お気遣いどうも有難うございます」
姫「でも何かあったら危ないわ。それに私も武器を買わなきゃいけませんもの。
だから別に深い意味はなくってただのついでです。ついで」
戦士「……姫様、私も同行させて頂きますが構いませんな」
姫「ええ全然構いません。ただのついでの買い物ですもの」
姫「ただの!」
国王「じゃあ魔王と魔女には騎士がついてってあげてくれ」
騎士「は、はいっ」
国王「ほんとに結構危なげだからみんな気をつけてね」
国王「あー なんなら私も行こうか?」ガタッ
魔王「結構だ」
姫「お兄様はダメに決まってるでしょ」
魔女「だめー」
戦士「なに仰ってるんですか?」
騎士「普通にNGです」
竜人「仕事してください」
バタン
国王「はあー……あれが満場一致というものかー……」
国王「仕事するか……」
132: 2014/05/16(金) 19:30:07.55 ID:kELIGolwo
* * *
わいわい がやがや
「答えろよ!この夜はいつまで続くんだよ!」
「農作物に影響が出るだろうが!こちとら生活がかかってんだよ!」
「これじゃいままで大切に育ててきた畑全部枯れちまう!わかってんのか!」
「ですから、それについては今早急に問題解決にあたって……」
「はぐらかすなよ!ちゃんと質問に答えろ!」
やいのやいの がやがや
騎士「表通りは危険なので裏通りから行きましょう。
……ていうかどこに向かうつもりなんですか?」
騎士「……ああ!あそこですか。それならこちらから行けば近いです」
魔王「よかった。かなり……農民たちは怒っているようだな」
魔女「こわいね。王都の人たちじゃない?」
騎士「はい。近くの村から直訴しにきた方々です。
太陽がないと農作物は育ちませんから、みなさん危機感を募らせているようで」
魔王「彼らのためにも早く扉と鍵を見つけねばならないな」
騎士「……まあ、農民以外でも……続く夜にいろいろ思いを抱いてる者はいるようです」
魔女「でもさー仕方ないじゃん。こうしないとみんな影に消されちゃうんだよ?」
騎士「その影に対する恐怖を、この夜と闇は助長させているみたいで……」
騎士「人は本能的に暗闇を怖がる生き物ですから。あなたたちはどうですか?」
魔女「あたしは暗い方が好きだけど。わくわくしない?」
魔王「……暗闇か……私は」
魔王「どちらかというと…………わっ」
ドン
騎士「! 大丈夫ですか?」
男「悪い!こう暗くっちゃ視界が悪くってよ…… ん?」
男「あ……あんた、魔王か!?」
魔王「え?」
魔女「魔王様フードがずれちゃってるよ!」
魔王「あっ。 違う。私は魔王ではない。人違いだ」
魔王「……魔王じゃなっ……いですよ。ほんとですよ」
魔女「あたしも魔女じゃないわ。うそじゃないわ、ほんとわ」
騎士「お、俺も騎士じゃねーぜ!これはコスプレだぜ!趣味だぜ!」
男「いや、どっからどう見ても魔王と魔女と騎士だ」
騎士(即効ばれた)
133: 2014/05/16(金) 19:40:18.52 ID:kELIGolwo
男「なあっあんたが夜になるように魔法をかけたんだろ!?この国はどうなっちゃうんだ?
まさかずっとこのままなんてこたあないよな?」
男「人を消しちまう影ってなんなんだよ?ほんとに消えちまった奴がいるんだよな?なあ!」
魔王「いま我々が問題解決のために尽力している、だから……」
男「お、俺は怖いんだよ……ずっと真っ暗なままの家の中にいて、物音とかすると……
その影がどっかから俺のところに近づいて来てる気がしてよ」ガシ
男「ここは大丈夫なんだよな?わけわかんねー化けもんはここまで来ないんだよな?」
男「いつかなんとかなって、また朝が来るんだよな!?」
魔王「なんとかするから、手を……いたた」
魔女「ちょっとあんた離してよ!肝っ玉ちっちゃい男だなー。魔王様にあたんないでよね」
騎士「こらっ手を離せ!それ以上無礼を働くな」
男「待て、まだ俺は魔王に訊きたいことがっ!!」
騎士「馬鹿大声を出すなっ!これじゃ人が集まってきてしまう」
女「あっなにして――あれ?もしかして」
老婆「騒がしいね、一体なんだい」
騎士「最悪だな……これじゃ表通りにまで騒ぎを嗅ぎつけられてしまう」
騎士「………………最悪だな」
134: 2014/05/16(金) 19:42:53.66 ID:kELIGolwo
そのころ
武器屋
竜人「外はひどい騒ぎになっていましたね」
戦士「なに、あれくらいの騒ぎは数カ月に一度二度あるものだ」
姫「まあこのような事態、めったにないことですから、国民たちが動揺するのも無理はありません。
そういうときこそ上に立つ者が毅然としなくては」
戦士「竜人は新しく剣を買うに?」
竜人「ええ。ずっと使っていた剣の切っ先が折れてしまって」
竜人「ドワーフにいつも剣はつくってもらっているんですけど、
いまはごたごたしていて頼む暇がなかったんです」
竜人「姫様は?武器を買うと仰ってましたが、弓ですか?」
姫「そ、そうですね……でもちょっと剣も見てみようかしら」
戦士「剣も弓もたくさんお持ちでしょうに」
姫「シッ……新しいのがほしいと思っていたの!」
135: 2014/05/16(金) 19:46:57.33 ID:kELIGolwo
武器屋「いらっしゃい。ええと……?」
姫「私よ。久しぶりね」
武器屋「おおこれはこれは姫様でしたか!お久しぶりでございます。
武器を御所望でよろしいですかな?」
姫「ええ。剣と弓を見たいのだけど」
竜人(王族の姫でも武器屋に来たりするのか……)
武器屋「いいモノを仕入れましたよ。これはどうですか?スティレットです」
軽くて振りやすいし、短剣はおすすめですよ」
姫「そうね……。次は?」
武器屋「でしたらこちらはいかがです?エストック。
慣れればかなりの攻撃力になりますよ」
姫「うーん。次見てピンとこなかったら弓にするわ」
武器屋「じゃあこれはどうだ!どんなに斬るものが固くても一太刀でバッサリです!
一昨日仕入れたばっかりのレア中のレア……」
武器屋「ドラゴンスレイヤーです!!!」
竜人「オエーッ」
姫「竜人さん!?!?!?」
136: 2014/05/16(金) 19:49:38.99 ID:kELIGolwo
武器屋「へっ!?ああ竜人様ーー!?すみません外套で見えなかったもので!」
戦士「竜人しっかりしろー!大丈夫か!」
姫「竜人さんっ!ああっどうしよう!神官を呼んできます!!!」
戦士「姫様外套なしで外に出てはだめです!というかここにいてください!」
武器屋「あのですね、これは違うんですよ、ドラゴンってついてればなんかハクがつきそうだねっていう
そういう魂胆なので、本物の竜屠りの剣ではないのですガチで」
竜人「いやずみまぜん大丈夫でず」
戦士「全然大丈夫そうではないぞ!」
竜人「姫様……できれば……できればあの剣だけはやめてください……できれば……」
竜人「たぶん見る度吐きますので……」
姫「私弓にします!!弓にしますからっ!!弓がいいです!!!」
141: 2014/05/21(水) 20:39:46.91 ID:rW/sMJ5uo
* * *
女「誰かと思ったら……魔王とその側近じゃないの!ちょっと、いつになったら夜は明けるわけ?」
老婆「影が来て困るってのもわかんだけどねえ、こっちも畑がなくなっちまったら生きていけないんだ」
爺「王様と騎士様には……分かんないかもしれないけどね」
騎士「……魔王さんも魔女さんも今日はもう転移魔法を使えないんでしたっけ。
ここは僕が止めますので、宮殿まで引き返してください」
魔女「うーん無理みたい。反対からも来ちゃった」
騎士「え!?」
魔女「もー、なんで悪いことしてないのに、むしろ助けようとしてるのに
こんな風に責められなくちゃいけないわけ?」
魔女「こっちだっていろいろ頑張ってんだけど?昼を夜にするのがどれだけ大変か知ってんの?
つーかあんたらできんの?」
魔女「ずっと夜にすることもなくあのワケ分かんない影を消すことができる人が
この中にいるなら前に出てきて。その人の文句だけ聞いてあげる」
魔女「それ以外はこんな風に寄ってたかって文句を言う資格なし」
魔女「帰れば?」
「な……なんだと」
「黙って聞いてれば」
魔王「魔女……あまり挑発するような真似はよせ」
魔女「だって超むかつく!きーっ」
魔王(しかたない、角が立つかもしれんがここは魔法を使うしか……)
ゴンっ!
女主人「あんたら、なにみっともない真似してんだい!?やめな!」
男「いてっ!」
女「お、女主人……」
142: 2014/05/21(水) 20:41:18.07 ID:rW/sMJ5uo
騎士「女主人さん!」
女主人「全く騒ぎを聞きつけてやってくれば、なんてザマだ。
こんなことしても何にもならないでしょうが」
女主人「ほら、散った散った!こんな暇あるならもっと違うことに使いなよ」
ざわざわ……
女主人「それとも何?みんな私のフライパンで頭叩かれたいってのか?」
女「……ま、確かにカッとなっちゃったのは謝るよ。じゃ私は帰る」
老婆「そうだねえ……しょがないことかもしれないねえ……」
カエルカー シラケタナー ザワザワ
男「……俺はまだ」ダッ
女主人「あっ こら」
魔王「!」
魔女「魔王様どいてて!あいつにあたしが一発くれてやるから!」シュッシュッ
騎士「ま、魔女さんもどいててください危ないです!僕がっ」
ドスッ!!
男「ぐあっ……!?」ズサ
騎士「へ……?」
魔女「あれ、あたし念動力に目覚めちゃったかな?」
「んなわけあるかよ」
「皆さんお久しぶりです」
魔王「ああ……二人とも、王都に来ていたのか」
魔女「神官!じゃなくて……元神官!
それにもう仮面はつけてないけど仮面くん!」
仮面「ややこしいな」
元神官「ややこしいですね」
女主人「なんだ……あんたらも来てたのかい」
143: 2014/05/21(水) 20:52:11.29 ID:rW/sMJ5uo
店
騎士「二人ともどうしてここに?」
元神官「私たちも勇者さまたちのお力になるために王都まで来ました。
世界の穴と、それからそこから出てきたよくわかんない影」
元神官「手がかりはつかめてるんでしょう?協力しますよ。
私はもう神殿の魔法は使えないのですけどね……」
魔女「わーい。ていうか仮面くんまで来てくれたのは意外だったなー」
仮面「このままだと商売あがったりだからな。お前らが万が一失敗したら困るんだよ。
なんだかんだでいつもお前らはツメが甘いからな」
魔王「ん……すまん」
元神官「魔王さん、仮面さんは素直じゃないだけなので言葉は額面通りにうけとらなくていいんですよ」
魔女「翻訳すると『俺もお前たちの力になりたくて遠路はるばる来たッス!』ってことだから」
仮面「好き勝手言うんじゃねえ!ちげえよ!」ダン
女主人「で、私の店に何の用だい?危険を冒してまで来ちゃってさ」
騎士「はあ……ほんとに危ないところでしたね。みな殺気立っちゃって……」
女主人「ああいう過激なのは王都でも一部だからね、勘違いしないでよ。
ほかの奴らはちゃんとあんたらのこと応援してるからね!」
女主人「ちゃんとしっかりこの騒動を止めとくれよ!頼んだからね」
魔王「今日はそのことで。女主人は情報通だから、鍵のことについて聞きに来たんだ」
女主人「ふふ、ちゃんと渡す情報があるよ。これ、城に帰ったらゆっくり読みな。
まああんまりドンピシャなのはないけどね」
魔王「有り難い」
女主人「忙しいだろうけど一杯くらいちょっと飲んでく?」
魔女「飲む!!」
騎士「魔女さん、そろそろ宮殿に戻りませんと」
魔女「え~~ちょっとくらいいいじゃん。ねー魔王様いいよね?ね?」
魔王「うん……」ウトウト
仮面「なんだぁ?まだ6時なのにもうおねむなのか、魔王サマは?」
元神官「疲れちゃったんじゃないですか」
144: 2014/05/21(水) 21:44:57.54 ID:rW/sMJ5uo
* * *
バタンッ
戦士「勇者!戻ったか」
元神官「勇者様」
勇者「おう。って元神官?なんでここに?」
元神官「協力しますよ。昨日王都に来たんです。
勇者様は時の神殿に行ってきたんですよね?どうでした?」
勇者「……それがな……なくなってた」
戦士「なくなってた?」
勇者「神殿の入り口はあったんだけど、中に入ると途中ですっぱり何もなくなってた」
勇者「女神に会えたらと思ってたんだが……だめだったよ」
元神官「そうですか」
戦士「なにかあったと考えるのが自然だな」
勇者「創世主に消されたのか、女神の意志なのか……うーん」
勇者「てか創世主って……今更だけど本当に?」
元神官「世界を創って以来創世主が何かしたということは伝わってません。
謎が多い……ていうかほとんど謎なんですよね」
戦士「まあ、頭だけ悩ませても仕方あるまい。行動あるのみだ」
勇者「ああ、そうだな!さっそく鍵の在り処を探しに行こう。
国王が怪しそうな場所をリストアップしてくれたんだ」
勇者「またお前らと戦えるんだな。懐かしいぜ」
元神官「ふふ、そうですね!で、どこに行けばいいんです?そのリスト見せてください」
元神官「えーーっと?まず雄竹の里と思わしき場所50か所……」
元神官「神の宮……48か所……永遠の泉……67か所……離島の浜辺81か所……」
元神官「計246か所………………」
145: 2014/05/21(水) 21:46:31.41 ID:rW/sMJ5uo
元神官「一応聞いときますが……ふざけてます?勇者様」
勇者「なんで俺だよ。ふざけてないよ」
元神官「こんなのひとつひとつ回って行ったらどれだけ時間かかると思ってるんですかーっ!」
戦士「ま、まあ待て!騎士団の奴らも何人か協力させて……
勇者に俺に神官、魔王に竜人に魔女、姫様に騎士に仮面、妖使いと忍には
それぞれ二人一か所行ってもらうとして」
勇者「うまくすれば一週間で終わる!」
元神官「ええええーー!?うまくすればって完全に希望的観測じゃないですか!
大体移動と探索の時間も結構かかるし、もっと時間がかかっちゃいますよ!」
勇者「でも仕方ないだろ!神様に言ってくれよ!お前神官だろ!?」
元神官「元ですよ!」
元神官「あんまり時間がかかってしまうと魔王さんが大変なんじゃないですか……?」
勇者「……だから急いで探そう!みんなで探せば必ず見つかるはずだ!」
戦士「やるしかないな!」
元神官「……こうなったら最速で鍵を見つけ出してやりましょう。
創世主の鼻を明かしてギャフンと言わせて土下座させてやりましょう!!」
勇者「ああその意気だ!ついでにぶん殴ろう!」
戦士「熱しやすいところ全く変わってないなお前ら!ほんとしょうもないな!」
146: 2014/05/21(水) 21:47:23.48 ID:rW/sMJ5uo
* * *
星の国
姫「ここもだめ……でしたね。
もう20か所以上まわったのに、いまだにそれらしいものひとつ見当たりませんわ」
魔女「あたしたちの担当はあと25か所かー。多いなあ」
魔女「まっ さっさと終わらせちゃお。その25このうちどっかにあるでしょ」
魔女「ほら早く箒に乗っちゃってー」
姫「あ……ええ。……うう……まだちょっと空を飛ぶのは慣れないわ」
魔女「そのうち慣れるよ」
ビュン
姫「~~~~~~~~~……!!」
魔女「ひゃっほー!」
* * *
バッサバッサバッサ
騎士「あ゛ーーーーーーーーーーーーーーーっっ」
騎士「ちょっど竜人ざんごれ速過ぎじゃないでずがーーーーーーーっ」
竜「いやでも、急ぎませんと。まだ鍵を見つけられていないのですから」
騎士「氏ぬーーーーーっ」
竜「次はあそこの離島ではありませんか?下降しますよ」ビュン
騎士「あ゛ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」
147: 2014/05/21(水) 21:49:35.78 ID:rW/sMJ5uo
* * *
太陽の国
魔王「……だめだな。ない」
仮面「ここの泉もだめか。くそ」
魔王「あと15か所……か」
仮面「つーか……鍵って、そのまま鍵の形状なのかよ?」
魔王「どういう意味だ?」
仮面「一見鍵っぽくないような形してるってこともあるんじゃねーのかってことだ」
魔王「……」
魔王「そうだな……うむ。一理ある。鋭いぞ仮面。もう仮面つけてないけど仮面」
魔王「そういえばもう仮面はつけないのか。あれはあれでかなり目立っていたが」
仮面「へっ お前にゃ関係ねーよ。俺の勝手だろ」
魔王「素顔のままの方が話しやすいな。もう隠さない方が私もよいと思うぞ」
仮面「だから関係ねーっつってんだろ!俺の面のこたあどうでもいいんだよ。
さっさと次に行くぞ」
仮面「大体なんで俺が魔王サマといっしょなんだよ……あいつと行きゃあいいだろーが。
我ながらこの組合せはないと思うぜ」
魔王「あいつ?」
仮面「勇者だよ」
魔王「この組み合わせは個々の戦力のみを考慮したものだが……
なんだ、君は勇者くんと行きたかったのか?ならそう言ってくれればよかったものを」
仮面「ちっげーよふざけんな」
仮面「おい、なにしてんだ行くぞ」
魔王「……ああ」
魔王「……しかしきれいな泉だな。この村の名前は……なんだったっけ」
仮面「あー?確か……泉の村だ。そのまんまだな」
魔王「……泉の村…………か」
魔王「きれいだな」
148: 2014/05/21(水) 21:52:05.95 ID:rW/sMJ5uo
* * *
元神官「はっ!!戦士さんこれは!?この柱の紋様、ちょっと鍵っぽく見えませんか!?」
戦士「む……確かに。しかしこれはどうやって持ちだせばいいのだ?」
元神官「戦士さん……その大剣で柱ごとバキッとやっちゃってくれません?」
戦士「無茶言うな!」
* * *
雪の国
ビュオオオオオオ……
妖使い「なにこれさっむ!さっむ!信じられない本当にこの世か!?
鍵探しどころじゃねーよこれ!」
忍「若……私はもうここで凍え氏にまする……」
妖使い「そっか。じゃあまたいつか」
忍「ちょっとーっ若あんまりですよーっ!!見捨てないでくださいー!」
* * *
勇者「……寒い……」
勇者「……」
勇者「なんで俺だけ一人……」
勇者「くそっ別にいいけどね!いいけどね別にっ!こういう扱い慣れてるし俺!!」
勇者「全然寒くねーし!身も心も寒くねーし!」
勇者「えー次はここから西に行ったとこにある廃墟だな!それ終わったらあと8か所!
もうちょっとだ、頑張れ俺!絶対鍵を見つけてやるぜちくしょー!」
149: 2014/05/21(水) 21:54:14.94 ID:rW/sMJ5uo
* * *
食事処
仮面「今日もだめだったな……チッ」
仮面「無駄足か」
魔王「明日こそ見つかるはずだ。それに、私たち以外の誰かが見つけているのかもしれないし」
仮面「古文書を解読したのはお前だろ?お前が読み間違ったってことはねーのか?」
魔王「それはない。失礼だな」モグモグ
仮面「……よく夕飯にパンケーキなんて食えるな……」
魔王「竜人には言っちゃだめだぞ。うるさいから」
仮面「はいはい」
魔王「……みんなどうしてるだろうか……そういえば君の子分の……双子の彼らはどうしてるんだ?」
魔王「……ふわ……」
仮面「あいつらはまあいつも通り元気だ。いまは店をまかしてる。
それよりお前、もう眠いのか?まだ5時だぜ。いつもこんな早くに寝てんのか」
魔王「……いや眠くはない」
魔王「……」
仮面「うそつけよ。まだまだガキだな」
仮面「あ、おーい。これもう一杯くれ、同じやつな」
店員「はーい」
仮面「あー、で何の話だっけ。……うおおおおっ!?」
魔王「ぐー……」
仮面「なにやってんだてめえ!食事中に寝る馬鹿がいるか!!
あーあー顔が蜂蜜で大変なことになってんぞ」
仮面「おいっ!起きろガキ!! だれかタオル持ってきてくれー!」
150: 2014/05/21(水) 21:56:05.71 ID:rW/sMJ5uo
――――――――――――――――
―――――――――――
―――――――
ジリリリリリリリリン
ジリリリリリリリリン
ジリリリリリリリリン
ジリリリ……
魔王「……」パチ
魔王(夜明け……)
魔王(空が白みはじめてる。危なかった……。早く魔法をかけないと)
魔王(あれだけ寝たのに魔力の回復が追いついていない……)
魔王「…………」
魔王「……呪文……えっと」ブツブツ
ズズズズズ……
魔王「……ふう……」
魔王「うー……だめだ……もう起きていられ…………」
魔王(そうだ、仮面に……手紙を書いて……おいておけば……)
魔王(……)
魔王(……)
魔王(……)スヤ
151: 2014/05/21(水) 21:57:23.50 ID:rW/sMJ5uo
―――――――――――――
―――――――――――――
少年「□□□□……」
少年「……?」
少年「寝てるのか……?」
少女「……お兄ちゃん」
少年「起こした?」
少女「ううん……□□□□」
少年「……朝出てくときにお前寝てたから言えなかったんだけど」
少年「誕生日おめでとう。8歳だな」
少年「……ケーキは無理だったけどオレンジもらえたよ。好きだろ?いま食えそうか?」
少女「お兄ちゃんがたべて」
少女「ありがと……」
少女「ごほっ……ごほっ」
少年「……おい……大丈夫か?もしかして」
少年「……!」
少年「ま、待ってろ。すぐ薬をもってくるから……!」
152: 2014/05/21(水) 21:59:23.09 ID:rW/sMJ5uo
少年「すぐ楽になるからな」
少女「いかないで」
少女「……もういいよ……お兄ちゃん。だからそばにいて……」
少年「なに言ってんだよ!こんなのすぐ治るから、弱気になるな」
少年「すぐ治るから……」
少年「もっといっぱい働いて、そしたら高い薬も買えるようになる。
お前も1日ですぐ元気になるよ」
少年「外で遊ぶんだろ?学校も行くんだろ? ……」
少女「うん……」
少女「ありがとうね。おにいちゃん」
少年「……っ」
少年「……氏なないでくれ」
少女「あのね……ありがと……」
少女「……ごめんね……」
153: 2014/05/21(水) 22:03:03.83 ID:rW/sMJ5uo
* * *
勇者「担当箇所を捜索し終え、王都にいま集まっているわけだが」
勇者「……では鍵らしきものを発見した者は手を挙げるように」
シーン……
勇者「……ぐああっ!全然だめだった!」
姫「あっでも、まだ魔王さんと仮面さんが帰ってきていません!
もしかしたら彼女たちが何か手掛かりをつかんだのかも!」
魔女「さすが魔王様!」
元神官「それにしても遅いですね……もしかして何かあったのでしょうか?」
戦士「転移魔法を魔王が使えるはずだから、すぐ帰ってこれるはずなのだが」
竜人「ま……まさか魔王様に何かあったのでは!?ちょっと探しに行ってきます!!!」ダッ
勇者「待て、竜人」
戦士「そうだぞ、竜人。勇者の言う通りだ、落ち着け」
勇者「俺も行く!!」ダッ
戦士「おい」
バサ
魔女「あ。二人ともストップ。鳥がこっち向かって来てるよ」ガッ
竜人「ぐえっ」
勇者「おえっ」
魔女「魔王様と仮面くんからの鳥文かも。どれどれ」
魔女「……えっ?」
154: 2014/05/21(水) 22:05:15.13 ID:rW/sMJ5uo
* * *
勇者「起きないって……どういうことだよ!?」
仮面「おい怒鳴るな、ツバ飛ぶだろきったねーな」
仮面「そのままの意味だ。3日前から声かけても揺すってもビンタしても起きねえ」
竜人「あ?」
仮面「……いやビンタは言葉の綾だ。してねーよ!!口が滑っただけだ!!」
魔女「魔王様ぁぁ……ぐすん……大丈夫かな?」
元神官「見た感じ普通に眠ってるだけなんですけどね……
とりあえず病気やけがではないようです」
魔王「……ぐー……」
姫「ねえ、でもこれうつ伏せでずっと寝ていたら呼吸できないのではありませんか!?」
魔女「魔王様はいつも寝る時このスタイルだからそれは大丈夫」
姫「信じられない……」
仮面「で、こいつのベッドサイドに置いてあったのがこの紙切れだが……
字が汚すぎて何が書いてあるのか分かんねーんだ」
忍「うわあ、若より汚い!」
妖使い「黙れ」
勇者「確かに汚すぎてもはや字とは判別できないほどだが、これは……!」
勇者「魔王が睡魔MAXのときの字だ!!夜9時以降にはこんな風な字をよく書く。竜人読めるか?」
竜人「いや流石にここまでになると判別不能ですね」
仮面「夜明け前になると起きるんだが、魔法をかけてまたすぐ寝ちまうんだよ」
妖使い「そんなの、魔王の手紙を読まなくても分かることじゃないか」
妖使い「魔力の回復が消費に追いついてないから、睡眠を取らざるを得ないんだろ」
155: 2014/05/21(水) 22:08:34.22 ID:rW/sMJ5uo
妖使い「いくら魔王といえど、大陸全土を覆うような大魔法を毎日使い続けるのは無理だったってことさ」
魔女「……確かにあたしたちは魔力を使いすぎたら1週間くらいずっと寝込んで回復させるよ」
勇者「でも回復が追いついてないんだろ?」
勇者「魔力を使いすぎて……0になったら氏ぬんだろ?
何か方法はないのか?」
妖使い「方法はひとつだけだよ」
妖使い「魔王が氏ぬ前に、君が鍵を見つけ出すしかない」
妖使い「で、創世主を倒せばそれで済む話さ」
勇者「……」
勇者「……ああ、分かってるよ。鍵を見つければそれで終わる」
勇者「早く見つけないと……!」
勇者(でも……一体どこに?)
魔王「……」グー
156: 2014/05/21(水) 22:09:57.57 ID:rW/sMJ5uo
――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――
少年「……□□□□」
少女「□□□□っ お兄ちゃん」
少年「熱、下がってよかったな……。心配したんだぞ」
少女「うん、ごめんね」
少年「はいこれ、今日の分のパン。それ食ったら薬飲めよ。
昼の分はちゃんと飲んだか?」
少女「うん……のんだよ」
少女「……ごほ」
少年(……)
少年(熱が下がったのに……咳が止まってないな。顔色も悪いし…………)
少年(もっと強い薬が必要なんだ)
少年(でも僕の給料じゃ……普通の薬と毎日のパンを買うので精いっぱいで、貯金なんてできやしない)
少年(……)
少女「ね、お兄ちゃん。パンたべないの」
少年「え?……ああ……」
少年「今日は昼食べすぎたからいらないんだ」
157: 2014/05/21(水) 22:10:53.75 ID:rW/sMJ5uo
少女「じゃあ、はんぶんこしよ……」
少年「だからいらないって。ちゃんと食べて体力つけないとだめだろ」
少女「おなかいっぱいなんだもん。のこしたらもったいないから……」
少年「……」
少年「どうしたんだよ、前は……パンひとつ全部食えてたのに……最近……」
少年「……今日だけだぞ、明日からは全部ちゃんと食えよ」
少女「うん。ありがと……」
少年「……じゃ、もう寝るぞ」
少女「ね、またあのお話してくれる?」
少年「ああ、いいよ。どこまで話したっけ」
158: 2014/05/21(水) 22:12:35.66 ID:rW/sMJ5uo
―――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――
ガチャガチャ……
少年「はあ……はあ……。くっ」
××「おいっ!お前!それはこっちに運ぶんだろうがっ!なにしてんだ!!」
少年「えっ……? でもあっちに運べって言われました……けど」
××「どうせお前が聞き間違えたんだろうが!口答えをするんじゃねえクソガキ!」
少年「……すいません」
××「まったく、お前みたいなガキを雇うのは本当は法律で禁止されてるんだぞ」
××「だがお前がどうしても働きたいっていうからこうしてこっそり雇ってやってるんだ」
××「その恩を忘れるんじゃねえ!!いつでもお前なんてクビにできるんだからな、ええ!?」
少年「……すいません」
ジリリリリリリ……
××「……フン。時間だな」
××「全員休憩に入れ!!1時間後に持ち場に戻らなかった奴はクビだからな、クビ!!」
○○「よう。まーたあのジジイにこっぴどくやられてたな。気にすんなよ」
○○「で、今日はここで食べてくだろ?なににする?」
少年「……あー……えっと……朝食べすぎちゃったんだ……だから今日もいらない」
○○「またかよ?それうそじゃねえだろうな?……ほんとは金がないんじゃねーの?」
○○「なあ水臭いぜ。言ってくれりゃちょっとしたもんくらい出せる」
少年「たまにパンをくれるだけで十分だよ。それ以上なにかして、あいつにばれたら○○がクビにされちゃうって」
少年「○○は一家の大黒柱なんだからそれは不味いだろ」
○○「しっかしなあ」
少年「僕は屋上に行ってくるよ。じゃあね」
159: 2014/05/21(水) 22:15:18.49 ID:rW/sMJ5uo
少年「……」
少年「……今日も曇りか」
少年「明日も明後日もその後もずっと曇り……」
少年「くそっ 何が『雇ってやってる』だ。あのジジイめ」
少年「大人の給料3分の1しか寄越さないでこき使うくせに。足元見やがって!」
少年(早く大人になりたい。そうしたらもっとお金がはいる。そうしたら……あいつにも)
少年(屋上からは橋の向こう側が見える。
こっちとはまるで違う、どこもかしこもキラキラしてる別世界……)
少年(あ……僕と同じくらいの年の人が歩いてる。横にいるのは友だちか)
少年(笑い声がここまで聞こえてきそうだ。……あれが制服ってやつなんだろうな。
靴もバッグも服も、なにもかも高そうだ)
少年(……あいつらの着てるあの服を売れば……どれだけの薬を買えるだろう。
高いほうの薬だってたくさん買えるんだろうな……)
少年(あそこの高級レストランで食べてる奴らの一回分の食事代だけで
妹の病の進行をどれだけ遅らせることができるんだろ)
少年(このままだとあいつは……もう長く……は)
少年(僕が……橋を越えて、ちょっとだけ奴らの金を盗んでしまえば)
160: 2014/05/21(水) 22:16:54.08 ID:rW/sMJ5uo
少年「だって命がなにより尊いはずだろ?」
少年「……僕が盗んだって、あいつらはそんなに困らないはずだ」
少年「あいつらの食事一回分。持ち物ひとつ分。たったそれだけで妹の病気を治せるかもしれないんだ」
少年「そしたらこんなところすぐ出ていってやる。
それでお母さんとお父さんを探しに……この街壁の外へ……妹といっしょに」
少年「あいつといっしょに……」
少年「……」
少年「……」
少年(……わかってる。盗んだ金で病気が治っても、あいつは喜ばないだろう)
少年(いきなり大金をもってったらすぐ気付くだろうな)
少年「……!やべっ もう休憩時間終わる!またあのジジイにネチネチ言われる。戻らなきゃ!」
―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――
161: 2014/05/21(水) 22:18:59.68 ID:rW/sMJ5uo
ダン!
勇者「くそっ 鍵はどこにあるんだよ」
元神官「雄竹の里 神の宮 永遠の泉 離島の浜辺……
この『終末記』にあったっていう文言ですが」
元神官「もしかしたらこの4か所にそれぞれ鍵があるんじゃなくて、
この4つがひとつの場所を指しているのかもしれませんね」
戦士「えー……と、すると、竹林と泉と神宮がある離島ってことか?」
戦士「さっきから地図とにらめっこしているが、そんなところないぞ。
俺たちも広く世界を旅してきたがそんな離島聞いたことない」
元神官「まあ、竹と泉と島はともかく、神宮なんて限られてますからね……
神殿に登録されてるところは全て探したし」
元神官「とすると、もっとひねった解釈が必要なんですかね。
竹……イネ科タケ亜科多年生常緑木本、タケ群とササ群に大別、竹八月に木六月、筍……」
勇者「俺を頭痛で頃す気か? 難しい単語の羅列を今すぐやめろ」
勇者「だーーもう、なにが『終末記』だっ 古代人のアホが!!
そんな意味わからんヒントだすんじゃねーよ!なぞなぞ解いてるほど暇じゃねーんだよ!」
姫「落ち着きなさい勇者。魔王さんがあんなことになって焦るのも分かりますが、
冷静にならないと分かるものも分かりませんわ」
勇者「ひ、姫様。すみません、お見苦しいところを」
姫「いえ構いません。ところで……行き詰っているのならほかのことに目を向けてみませんか?
鍵のことも何かひらめくかもしれないわ」
元神官「と仰いますと……?」
姫「鍵ではなく扉……と思わしき場所をお兄様が発見なさったの。私が案内します」
勇者「扉を……!?」
162: 2014/05/21(水) 22:20:22.19 ID:rW/sMJ5uo
王立図書館
勇者「……図書館!?」
姫「ここの地下よ。ついてきて」
コツ……コツ……コツ……コツ
元神官「あれ?この先って……?図書館は地下2階までですよね?」
姫「ええ。地下3階以下は王家の者と図書館長のみ閲覧可能となってるわ」
姫「向かうのは地下4階、最下階。暗いから足元に気をつけて……きゃっ」ズルッ
戦士「大丈夫ですかな」ガシ
姫「……ごほん。私みたいにならないように皆さんくれぐれも気をつけて」
姫「……ここよ。ここが地下4階」
勇者「ここに扉が?」
姫「ええ。下を見てちょうだい。床の紋様、扉に見えませんか?
それにちょうどドアノブのところが窪んでいるでしょう」
姫「もしかしたら、そこに嵌めるべきものが『鍵』なのかも……」
勇者「確かに扉に見えますね。これが……。この先に、『彼』がいるのか」
163: 2014/05/21(水) 22:22:30.38 ID:rW/sMJ5uo
元神官「? 戦士さんどうかしました?獅子の像を見つめて……
なにかあります?」
戦士「ああ、この像だが、一度壊れたものを修復したものなのだろうか」
姫「その通りですよ。人魔戦争のときの王都襲撃で、
確か図書館は地下2階までしか被害がなかったはずなんですけれど」
姫「ここでその獅子像だけが壊されていたみたい」
戦士「これは……剣による傷だな。それも相当の強さで壊されたものだ。ふうむ」
勇者「……」ジッ
勇者「なあ、こいつの左目」ガコッ
戦士「うおおお!?お前何やっとるか!?」
元神官「勇者様!?弁償ですよ弁償!!払えるんですか!?」
勇者「す、すみません姫様!でも四の五の言ってらんないっていうか!弁償はするんで!」
姫「いえ、いいですけど……その水晶が何か?」
勇者「この床の扉のくぼみにぴったり嵌りそうだと思いまして。
ちょっとやってみますね」
ガコ
勇者「ぴったり嵌りましたね」
姫「……」
元神官「……」
戦士「……」
164: 2014/05/21(水) 22:23:46.02 ID:rW/sMJ5uo
元神官「……ふう……竹も宮も泉も離島も全く関係ありませんでしたね~~!ふう~~!」
勇者「俺いつかあの終末記書いた古代人に会ったら、絶対邂逅一番ぶん殴るわ」
戦士「やってやれ」
姫「と、ところでこの先に……創世主がいるのですよね?」
勇者「姫様は宮殿に戻って皆に知らせて来ていただけますか?
俺たちはこのままあいつに会ってきます!殴ってきます!」
戦士「よし、行くか!!」
元神官「ええ!!」
姫「でもその扉、どうやって開くの?」
勇者「……え!?…………ああ、えっと……」
勇者「…………どうする!?戦士!!元神官!!!」
戦士「いや、わからっ……」
ガパッ
元神官「ああっ!? 床が……っ!!」
姫「ちょっ私まで! きゃーーっ」
戦士「ぐぬわあああああ!」
勇者「うわああああっ」
165: 2014/05/21(水) 22:26:41.02 ID:rW/sMJ5uo
スタッ スタッ グキッ!
勇者「おい誰だ最後のグキッて」
戦士「俺の腰だ……!!」
勇者「大丈夫か!?無理すんな!戦士は最年長なんだから!おっさんなんだから!」
戦士「だ、黙れ!俺はまだ現役だ。姫様、お怪我はありませんか!?」
姫「ええ、あなたが抱えてくれたおかげで。ありがとう」
元神官「あーいいな姫様はお姫様だっこされて優しく受け止めてもらえてー……」
勇者「ん?なんだよ、俺だってお前のことちゃんと同じように受け止めてんじゃないか」
元神官「逆です。勇者様、私がいまどんな体勢か見えます?海老反りですよ!!!
お姫様だっこは私が仰向けの状態になっていないと成り立ちません!!」
勇者「あー わっり!暗くて見えなかったわ。すまんすまん」
元神官「誠意がこもってないんですよぉ誠意が……!
はーっ もう、全然女の子の扱い方が分かってませんね……っ」
元神官「そんなんじゃいつまでたっても彼女できませんよ勇者様」プイ
勇者「なぁ……っ!?それとこれとは関係ないだろ!
つーかお前こそそろそろ男捕まえて結婚しないと婚期……」
元神官「勇者様、これから創世主に会うかもしれないっていうのに、そんな無駄話してる暇ありませんよ」
元神官「さあ、創世主はどこなんですか!?気を引き締めていかないと……!!」シュッシュッ
勇者「おいっお前から言いだしたんだろーが!」
166: 2014/05/21(水) 22:35:08.82 ID:rW/sMJ5uo
姫「この空間はなんでしょう。地下4階よりも下なんてないはずなのだけど」
戦士「大分広い空間ですな。む、あそこになにか置いてあります」
戦士「……これは?台座か?」
勇者「こっちは大きさと形状からして剣の台座かな」
元神官「もうひとつは何でしょうね。何でもおけそう。窪みの大きさからして、書かなにかでしょうか」
勇者「……ここには創世主はいないようだな」
勇者「……あれが扉じゃなかったのか?」
勇者「……」
勇者「いやでも、姫様でさえ知らなかった王立図書館の地下とか
なんかそれっぽくないか。もうちょっと調べてみようぜ」
姫「なんか穿った見当のつけ方するわよね、勇者って……」
戦士「いつもあんなんですよ」
コツコツ
コツンコツン
勇者「ん!! なんだかここの壁だけ、叩いた時の音が違うぞ。
隠し通路があると見た」
勇者「姫様……ここの壁ブッ壊していいですか?」
元神官「勇者様、もうちょっと言い方考えましょうよ」
姫「非常事態ですもの。責任は私がとるわ。やっちゃってください」
ガラガラガラ……
姫「あらっ 本当に隠し通路……というか隠し階段が向こうに!
こんなのいつつくられたのかしら?」
戦士「まだ下があるのか」
167: 2014/05/21(水) 22:36:59.85 ID:rW/sMJ5uo
勇者「いま、地下何階あたりだ……?」
勇者「ずいぶん長く階段を下ってきたが」
元神官「螺旋階段なのでなんとも言えませんね。
でも小一時間は降りてますよ。まだ続くんですかね……」
戦士「目回ってきた」
姫「ふう……これは一体どういうことなのかしら」
姫「あっ 見て!下に光が漏れてるわ。きっとあそこで階段は終わりよ」
ギイッ
元神官「うっ 眩しい。ここは……」
姫「! 扉があるわ!」
勇者「あの扉が光ってんのか」
戦士「これは当たりなのではないか?誰も知らない地下の光る扉とはかなりそれっぽいぞ」
元神官「確かにこの上なくそれっぽいです」
姫「あなたたちの会話、ふわっふわ過ぎません!?」
勇者「これは何でできてるんだろう。不思議な……感じがするな」
勇者「そうだ、時の神殿と同じような感じだ。この向こうに創世主がほんとに……」
元神官「……」ゴクリ
勇者「…………」
姫「……」
168: 2014/05/21(水) 22:44:28.59 ID:rW/sMJ5uo
勇者「おい出て来い創世主!!あの影出すのやめろ!!ふざけんな!!説明しろ!!!」ガンガン
姫「さすが勇者。数秒前の神妙な空気を一瞬で壊しましたね」
元神官「ごくりとかやっちゃった自分が恥ずかしいです」
戦士「……勇者、気持ちは分かるが鍵がないことには無駄だろう」
勇者「チッ」
勇者「しかし、間違いないな。これが俺たちの探していた扉だ」
戦士「根拠があるのか?」
勇者「ああ。触った瞬間びびっときた。なんというか……」
勇者「ぞわっとした。具体的に言うとそうだな……」
勇者「………………ぞわぁってしたんだ」
元神官「頑張れ勇者様の語彙!」
勇者「とにかく間違いない!あとは鍵を見つけるだけなんだ!」
勇者「あとは、鍵を……!!」
169: 2014/05/21(水) 22:49:00.70 ID:rW/sMJ5uo
きょうはここらへんで
1作目から読んでくれてる方ありがとうございます
こんな続いちゃってすみません 完全に自己満ですはい
1作目から読んでくれてる方ありがとうございます
こんな続いちゃってすみません 完全に自己満ですはい
170: 2014/05/22(木) 00:28:13.28 ID:KwqvQJCS0
引用: 勇者「世界崩壊待ったなし」
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