543: 2014/08/16(土) 22:12:17.91 ID:/+CRjLUpo
勇者「世界崩壊待ったなし」【1】
勇者「世界崩壊待ったなし」【2】
勇者「世界崩壊待ったなし」【3】
勇者「世界崩壊待ったなし」【完結】
駅
シスター「私はここまでだ。頼むよ、お前ら」
勇者「ああ、まかせとけ」
シスター「……少年。お前の家はこいつらが守ってくれるよ。
この男は私が召喚した悪魔なんだ」
少年「はあ……シスター、また妄想にとり憑かれてる」
少年「悪魔なんて、いないって」
シスター「いるさ」
シスター「信じれば何だって存在するんだよ。神様も天使も悪魔も」
少年「……目に見えないのならいないのと同じだ」
ダダダダダッ
勇者「黒服のあいつらまだ追ってきやがる」
勇者「このまま列車とやらに乗るぞ!どこで乗れるんだ?」
少年「えっと、た、多分あそこ」
魔王「よし行こう」
駅員「ちょっと! 困りますよ、あんたら切符買わないで何通り抜けようとしてるんですか?」
魔王「きっぷ?買わないといけないのか。いくらだ」
駅員「これ料金表です。都まで?だったら、ここご覧ください」
魔王「ん……。高いな。手持ちの金では払えんぞ」
少年「ど、どうするんだよ?僕も金なんて持ってない」
勇者「言わずもがな俺もだ!!」
黒服「いたぞっ!捕えろ!」ダダッ
黒服「列車に乗って都まで行くつもりか!?そうはさせん!」
魔王「まずいぞ。何か…… そうだ。この指輪をきっぷ代にはできないか?」
駅員「指輪?ふーむ、なかなか高価そうな赤い宝石ですね、それなら……」
魔王「…………では、これを」
勇者「待て!それ、先代から受け継いだ大事なもんなんだろ。とっとけよ。
代わりに俺の剣をきっぷ代にしてくれ!!宝石もついてるし多分それなりに値打ちもんだ!多分!」
駅員「ええっ、剣はちょっと……!?」
勇者「じゃあそういうことでよろしくな!よし行くぞ!」ダッ
駅員「えっあのっちょっと!?」
黒服「くそ!追えっ!!」
黒服「えーっと1,2,3……大人25枚まとめて買えますか……あ、領収書下さい」
544: 2014/08/16(土) 22:15:15.77 ID:/+CRjLUpo
魔王「これが……れっしゃ?」
魔王「横長い家の間違いでは?これが本当に動くのか?」
少年「僕でも列車くらい知ってるぞ。どんだけ世間知らずなんだよ」
勇者「小部屋がいっぱいあるな。なんなんだこれは」
少年「都まで大体丸一日かかるらしいから、寝具もついてる。食堂とか娯楽室とかもあるって聞いたけど」
魔王「つまり大きな建物が人を乗せたまま動くと……。魔法も使わず本当にそんなことができるのか?」
ビーーー…… ゴトッ
勇者「うわっ!!本当に動いた!! すげー」
魔王「……竜人と騎士は間に合わなかったようだな。しかし何故彼らまでこちらに……あっ」
魔王「黒服の面々が追ってきたぞ」
少年「あいつらしつこいな……でももう列車は動きだしてる。これでもう追えないさ」
黒服「うおおおおおおおおおーーっ!!」ガシッ
少年「な……なに!?根性で列車の側面にしがみついた!」
勇者「しつこい奴らだ。お前らは先に進め、ここは俺が――」
ガシャーーン!!
人「うわあ!?何事だ!?」
人「窓から人が……」
黒服「皆さまご安心ください。我々は怪しい者ではありません。
そこにいる犯罪者3人組を捕えるために荒々しい手法をとらざるを得なかったことをお詫び申し上げます」
勇者「犯罪者はお前らだろうが!」
黒服「ショッキングな映像をご覧になりたくない方はコンパートメントの扉を固くお閉めください。
また野次馬になった方は巻き添えをくらうことになるかもしれませんがあしからず」
バタンッ バタンバタン バタンバタンバタンッガチャ
黒服「ご協力ありがとうございます」チャキ
545: 2014/08/16(土) 22:18:31.97 ID:/+CRjLUpo
「ぐぁっ」
黒服「!?」
勇者「全員動くな。指一本でも動かしたら、お前らの仲間がどうなっても知らないぜ。
こんな至近距離からなら、俺でも弾もあてられる」
少年(……こいつ自分のこと勇者とか言うわりには、躊躇なく人質とかとるなぁ……)
黒服「…………お前らの目的は何だ?この列車は都行きだ。都市に行ってどうするつもりだ」
魔王「お前たちの会社の社長とやらに会いにいくんだ」
黒服「ふん、直談判でもするのか?あの土地は既に我々のものだ。なかなか出て行かなかったその小僧が悪い」
黒服「法も社会も全て我々の味方だ。むしろ業務妨害でこちらが訴えたいくらいだね。
この間お前が怪我させた人材と、破壊させた機械で損害がいくらになるか電卓で打ってやろうか?」
魔王「正当防衛だ。子どもを事故氏に見せかけて殺そうとしたことの方が重罪だろう。
そのことが周りにばれてはまずいから、こうして追いかけてきたのではないのか」
勇者「とにかく俺たちは都市に行く。法も社会も関係ねえ、お前らに邪魔はさせない」
黒服「都市には行かせない。お前らは今後どんな損害を生むか分かったもんじゃないからな。
悪いがブラックリスト入りだ……ここで消えてもらう」チャキ
勇者「おい、動くなと言っただろ」
黒服「さっき俺たちが特殊な訓練を積んだ者だと言ったが……あれは嘘じゃない。
お前が工事現場で相手した奴らと一緒だと思うなよ」
黒服「俺たちはお前らみたいな厄介者を相手するためにいるんだ。荒事専門」
黒服「あっさりそいつを人質にできたのはすごいが……
こういう状況になったときにどうするか、俺たちはすでに決めてあるんだ」
黒服「恨みっこなしだってな」
勇者「!?」
バンッ! ドガガガガガ……
勇者「……信じらんねえ!あいつら仲間もろとも撃ってきやがった!二人とも大丈夫か?」
少年「う、うん」
魔王「こちらにも銃はあるが、まともに撃てる者がいない……逃げよう」
勇者「よし」
ダッ
546: 2014/08/16(土) 22:19:26.38 ID:/+CRjLUpo
ドガンッ ダンダンッ! ドガガガガ
少年「うわぁぁ……!なんだよこれ……っ」
勇者「障害物のあるフィールドじゃないと不利すぎるな。食堂とか娯楽室ってのはどこらへんにあるんだ!?」
少年「しらねーよ!僕だって初めて乗るんだから!」
勇者「それに武器もほしい……剣とかないのか?」
少年「あるわけねーだろ!!博物館にでも行けよ!!」
黒服「チッ 追うぞ!! 他の街へ応援要請はだしたか?」
黒服「はい。間もなく到着するようです」
黒服「いざとなれば列車止めてでもなんとかするぞ」
547: 2014/08/16(土) 22:21:48.13 ID:/+CRjLUpo
* * *
騎士「もっと速く動かないんですか!?勇者さんたちもう行っちゃいますよ!」
後輩「だめでしたね。正午1分過ぎ、もう列車は行きました。あれって都市行きですよね」
後輩「都市の警察に連絡しておきます」
警官「チッ……逃がしたか。まあしょうがない」
竜人「ええっ?困りますよ、追ってください!!」
警官「列車は一度走り出したら都市までずっと止まらないんだ。車じゃ追いつけん」
警官「お前らは一旦署に………… …………あ?」
後輩「?」
警官「あ……あれ……あの女!!!連続殺人犯だ!!」
後輩「うわ、本当ですね。列車に乗ってましたよ。都市に逃げる気ですね」
警官「……!! 後輩……車を出せ」
後輩「どっちにですか?」
警官「街の外に決まってんだろ!!!あの列車を追うんだ!!なんとしてでもあの女を俺の手で捕まえる!!!」
後輩「はーい」ガチャコン
ガガガガガガガ……
後輩「うーん、砂漠はやっぱり走りづらいですね」
竜人「連続殺人犯って……あの新聞に書かれていた?あれに殺人犯が乗ってるんですか!?
魔王様と勇者様もあれに乗ってるんですよ!どうするんですか!追いつかないと!」
警官「ぎゃーぎゃー騒ぐな!!だから今追ってんだろーが!!
列車とはいえ初速なら追いつける可能性がある。今フルスピードで走ってんだ」
竜人「竜の姿になれればすぐ追いつけるのに……歯がゆいですね」
警官「ハァァ?どういう意味だ?」
後輩「でも、先輩。追いついたとしてもどうやって列車に乗るんです?あの列車止まりませんよ」
警官「飛び移る」
後輩「ええっ?下手すりゃ氏にますよ」
警官「んなこと気にしてられっか!あいつは俺が絶対捕まえる!!捕まえなくっちゃいけねーんだ」
騎士「何か因縁があるんですか?」
警官「俺は何年もあいつのこと追ってたんだ。やっと捕まえたと思ったら護送中に逃げられた……」
警官「……あいつが逃げた理由、俺には分かる気がするんだ」
後輩「逃げた理由なんて……一つしかないでしょう。牢獄に入ったら人殺せませんから」
548: 2014/08/16(土) 22:22:53.42 ID:/+CRjLUpo
警官「一見そうとしか見えねえが、あいつはただの快楽殺人犯じゃあない。
あいつのしてきたことは絶対許せねえが……」
警官「何年も追っかけてるうちに情が湧いちまったのかもしれん。
せめて最後に俺はあいつの願いを叶えてやりてーんだ」
竜人「……?」
騎士「なんか深い事情がありそうですね。
でも、列車に追いついたときに僕たちもどさくさに紛れて飛び移れば……」
竜人「そうですね。彼らにはなんとしても追いついてもらわないと」
竜人「しかし……街の外は随分荒廃してるんですね。砂丘しか見えません」
騎士「太陽ないから砂漠でも暑くないですね。あ、でもあそこに池みたいなのありますよ」
竜人「池にしては……変な色ですね……」
後輩「君たちは街の外に出るのは初めてなのか?あれは酸性泉だよ。
入ると全身どろどろに溶けるから近づかないようにね」
警官「あれくらいのでかさならまだいい方だが、街から離れるともっとでけえのがある。
車いっこがっぽり入っちまうでかさとか、それ以上のとかな」
警官「ま、お前らはすぐ牢屋に入れさせてもらうから街の外にでる暇もねーだろ」
549: 2014/08/16(土) 22:24:08.70 ID:/+CRjLUpo
* * *
頭領「よし今だ!飛び移れ」
姫「とととと飛び移れ!?なに言ってるの!?
列車も車も、馬車の何倍もの速さで動いてるのよ?無理です!」
頭領「できると思えば何でもできる」
姫「はーっ……はーっ……はーっ……まさかこんなアクションを要求される日が来ようとは……氏んだかと思った……」
頭領「よし全員乗り移ったな」
強盗団「いえー」
魔女「これからどうするの?」
頭領「お前らは乗客が騒がないよう見張れ。魔女と姫は7号車担当だからこっから進行方向の逆に進むんだ」
頭領「ほかの奴らも決めた通りに動け。俺は目当ての宝がどこに保管されてるか探す」
魔女「え~~!あたし見張りなんて地味なのヤダ。あたしもお宝探しに行きたい」
頭領「決定事項だ。逆らうな」
魔女「ちぇ」
550: 2014/08/16(土) 22:32:43.35 ID:/+CRjLUpo
7号車
姫「えっとここが7号車ね」
強盗団「おう。んじゃちょっとぶっ放すか」
姫「え?」
ダーーーン!
乗客「!?」
乗客「なんだ……!?」
強盗団「いいかお前らよく聞け!!この都市行きの列車は俺たち強盗団が乗っ取った!!」
強盗団「頭に風穴開けられたくなかったら騒ぐなよ!!全員ほかの車両への出入りを禁じる!!大人しくしとけよ!!」
姫「な……なな……何を……」
ざわざわ ざわざわ
強盗団「これからお前らの荷物をチェックさせてもらうからな!武器と通信器具は没収する!
金目のもんもちょっと頂くかもしれねーがな。そんくらいならお前らにとっちゃ痛くもかゆくもねーだろ」
強盗団「ほら姫も銃構えてろ。牽制しなくっちゃ」
姫「ええっ……そ、そんな……」
魔女「あ」スタスタ
姫「?」
魔女「おじさんも銃持ってるんだ。でも抵抗は止めた方がいいよ」チャキ
乗客「!!!」
姫「魔女さん!?」
魔女「その銃寄越して。じゃないとおじさんの体どうなるのかな~」
乗客「わ、わかった!分かったから銃を下ろしてくれ……!」
魔女「はいよ」
姫(あ、あんな躊躇なく……やっぱり魔女さんと私は違うのだわ)
姫(王女がこんなことしてるところなんて、国民には絶対話せないわね……)
姫(そもそも自衛以外で武器を人に向けるなんて……!ましてやこの銃を撃つなんて絶対無理よ。あぁ……これからどうなっちゃうのかしら)
姫(というか魔王さんと勇者探しはいつ始められるの……)
551: 2014/08/16(土) 22:34:50.13 ID:/+CRjLUpo
* * *
17号車
バタン!
勇者「あっ!このパイプもぎとれば武器になりそうだな!」ボキッ
黒服「待て!」ドタバタ
勇者「待てと言われて待つ奴がいるかっ!」
ガチャ
強盗団「……!?なんだてめーら……動くな!!この列車は俺たちが乗っ取った!!」
少年「えっ! れ、列車強盗だ……!」
魔王「前から強盗、後ろから黒服の連中か。万事休すな」
勇者「こうなったら……上だ!屋根に上るぞ!」
少年「無理に決まってんだろっ」
勇者「この階段から行ける!少年から先に上れ、俺が最後に行くから」
少年「正気かよぉ」
黒服「強盗団だと……!?面倒な時に乗り合わせたな」
強盗団「おい、そこの黒い団体さんも動くなよ。武器と通信器具と金目のもん寄越せ」
黒服「お断りだね。邪魔するならてめーらもあいつらと同じ目にあうぜ!」
強盗団「上等じゃコラァ!何者か知らないがこの列車は俺たちの支配下にあるんだ、大人しくしやがれ!!」
ドンパチドンパチ
552: 2014/08/16(土) 22:38:13.56 ID:/+CRjLUpo
ビュオオオォォォォォ
少年「うわぁぁぁっこわいっ」
魔王「大丈夫だ、後ろに私がいる。落ちたら受け止めるから」
少年「お前も涙目じゃんっ!頼りになんないよ!」
魔王「砂が目に入ったのだ」
勇者「お前らついてくんじゃねー!蜂の巣にすんぞオラァ!」ドドド
黒服「全然あたってねーぞ」
黒服「あいつノーコンだ」
勇者「うるっせえ!! 二人とも上ったか?」
魔王「上ったが、風圧がすごくてこれでは歩けんぞ」
少年「こんなん無理だって!」
勇者「じゃあ二人とも俺が抱える!ちゃんと掴まってろよ!」
少年「どわっ」
魔王「私は子どもではないぞっ」
勇者「似たようなもんだろ」
ダッダッダ……
少年「うわぁぁっ……よくこんなところ走れるな。あんた何者だ……?」
少年「実は軍人だったりするの?」
勇者「グンジン?また分かんない単語でてきたな。知らないが、俺は勇者だ」
少年「ああ……ソウデスカ……」
553: 2014/08/16(土) 22:39:05.85 ID:/+CRjLUpo
* * *
頭領「ふうん……これが……」
強盗団「うわーっ すげえ。これが本物の植物かぁ」
強盗団「恐竜の化石、けっこうでかいんだな」
男「ば、馬鹿っ!!乱暴に扱うな、それらにどれだけの価値があるのか分かってるのか!」
男「金銭の問題だけじゃない、我が国の歴史的財産なんだぞ」
頭領「そんな価値あるものを金持ちにだけしか見せてくれねーのはひどくないかね」
頭領「よし、8号車に開いてる客室があったな。そこにこれは保管しとくぞ」
男「くっ……くそう、お前ら強盗なんかに奪われるなんて」
頭領「ま、運が悪かったと思ってくれや」
頭領「じゃ、このあと適当に金持ちの連中からとれるだけとって、都市に近くなったらずらかるぞ」
頭領「都市にいるほかの仲間が車で迎えに来るから、荷物は乗り移るときに邪魔にならないくらいにしとけよ」
「はーい」
強盗団「けっこうあっさり目的は達成できましたね。騒ぐ乗客もいないみたいだし」
頭領「ああ。少し退屈ではあるがな」
プルルル
頭領「ん?着信だ。 どうした?なんかあったか?」
『お頭ー!大変だー!』
『いま黒い服着て銃装備の男どもと、17号車で交戦中だ!何人か仕留めたが、こっちもやられた!』
頭領「黒い服着た男ども?何者だ?」
『車掌でも乗客でもないみたいだ!誰か追ってるみたいで、逃げてる奴らとそれ追った黒服は屋根からそっちに向かった!』
強盗団「一体何が起こってるんだ……?」
頭領「お前らはその宝をなんとしてでも守れ。俺はあいつらのところに行ってくる」
頭領「いい退屈しのぎができたじゃないか」
554: 2014/08/16(土) 22:41:12.78 ID:/+CRjLUpo
* * *
パン! パンッ チュイン チュィン
少年「っ!」
魔王「大丈夫か!?」
少年「う、うん……ちょっとかすっただけだ」
勇者「……!次の車両は扉が開きっぱなしだ。人がいない!
魔王と少年はこっから降りて先に進め。で、どっか隠れてろ」
勇者「俺があいつらをここでやる……!」
少年「さすがに無茶だよ!そんな丸腰で……あいつら銃で頃しにきてるんだぞ!?」
少年「あんたも逃げなきゃ……!!」
勇者「丸腰じゃない、これがある」
少年「それただの鉄パイプじゃんか!チンピラ相手の喧嘩じゃねーんだぞ!」
魔王「勇者くん……」
勇者「少年を頼むぞ。よし、行け。こっちはまかせろ!」
魔王「……ああ。……分かった!」
555: 2014/08/16(土) 22:41:50.11 ID:/+CRjLUpo
スタッ
魔王「行くぞ。この車両には誰もいないようだ」
少年「本当にいいのかよ?あいつ氏んじゃうぞ」
魔王「私たちがいても足手まといだ」
魔王「……っでも、魔力さえ戻れば……」
魔王「少年。君が信じてくれればまた魔法を使えるような気がするのだ」
少年「おいっ、いま電波ってる場合じゃないって!」
魔王「嘘を言っているわけではない。私は本当に魔法が使えるんだ。
昔 妹のために、君はノートに勇者と魔王の話を書いただろう」
魔王「君が……また、信じてくれれば、私は魔法を使えるようになる……」
少年「は、はぁぁ?……妹のこと……なんで知ってるんだよ」
魔王「知ってる。夢で見たんだ。君たちは本当によく似ている」
少年「…………やめてくれよ」
魔王「え?」
少年「あいつはもう氏んじゃったんだ。……思い出すと苦しい。だから、思い出さないようにしてる」
少年「考えなければ辛くないんだ、だから……忘れ……たい」
魔王「……」
少年「あんたもさっ、いい歳なんだからもう魔法だとかそういうの卒業した方がいいと思うよ。
そういう便利な装置は、この世には存在しないんだ。今時赤ん坊だって信じてないよ」
少年「この世にはどうにもならないことしかないんだ。
受け入れるか、忘れるか、僕たちにできるのはそれだけなんだ」
魔王「だから君は忘れるのか?」
少年「……そうだ」
魔王(……どうしたら少年に信じてもらえるだろうか。何か証拠を示せればいいのだが)
魔王(困ったな)
556: 2014/08/16(土) 22:42:48.87 ID:/+CRjLUpo
* * *
警官「そうだ!!よし、このままもっと近づけろ!!おーし、いいぞぉ!」
後輩「俺のハンドルさばき、なめないでほしいっすね」ギャリッ
警官「ん?」グラ
警官「ギェェエっ!!? お前っ頃す気か!!俺が窓から身を乗り出してるときに蛇行運転すんなボケ!」
後輩「先輩なら大丈夫だろうっていう信頼の表れです」
警官「物はいいようだなぁ?帰ったら覚えとけよ」
警官「じゃあ、俺は列車に乗り移る。こいつらは後輩、お前が責任もって署に送りとどけろよ。
こっちのことは心配すんな、なんとかする」
後輩「了解」
騎士「えっ!?ちょっと僕たちも連れてってくださいよ!」
警官「ばかやろー!できるわけねーだろ!おとなしくしとけよ」ガチャ
騎士「んなっ!この手枷外してください!勇者さんと魔王さんが大変なんですって!」
警官「よいしょっと……!!」ヒョイ
警官「……ふう。なんとか、乗り移れたな」
警官「待ってろよ……何年もずっと追いかけまわした。でも、今日でそれも終わりだ」
警官「今日で全部、終わらせる……!」
557: 2014/08/16(土) 22:49:38.98 ID:/+CRjLUpo
後輩「よし、先輩も無事列車に乗れたことだし、街に戻るから」
騎士「いや、ですから僕たちもあれに乗らなきゃいけないんですって!!お願いします!」
後輩「知り合いがあれに乗ってるんだっけ?殺人犯は先輩が捕まえてくれるから大丈夫だ。
かなりうだつのあがらない昔気質のがんこじじい、ステレオタイプの元刑事だけど、」
後輩「ああ見えてベテランなんだ。大丈夫大丈夫。
というわけで君たちは署に送るよ。こっちも仕事だから勘弁してくれ」
騎士「こちとら世界の命運かかってんですよ!?あなたの仕事より大事です!」
騎士「ちょっと、竜人さんも何とか言ってください、このままじゃ……」
竜人「あまり手荒な方法はとりたくなかったんですけどね。仕方ありませんね」
騎士「へ?手荒?」
スッ
後輩「……!? ちょっなにして」
竜人「よっと……」ゴキッ
後輩「かひゅっ」
竜人「騎士さん、この方を後ろに!私がこのクルマとやらを操りますので」
騎士「なにしてんすか!?!?」
竜人「大丈夫です。氏んではいません。ちょっと首に刺激を与えただけです」
騎士「ちょっとってアンタ……刺激ってアンタ……この人泡吹いてますけど……」
竜人「世界の命運がかかってるんです!やむを得ません!あとで謝ります!
えーっと確かさっきここをこう引いてたような……で、この操縦桿で方向指定ですね」
ブォォォォォォン
竜人「列車に近づいて、二人同時に飛び移りましょう」
騎士「いや、僕もあなたも手枷で座席に繋がれてしまっているので無理ですって!
……あれ?竜人さん、手枷は?いつの間に?」
竜人「騎士さんは手首の関節とか外せないんですか?」
騎士「そんなできて当たり前みたいな顔して言わないでください……!できませんよ!?」
騎士「あ、でもこの人、確か武器みたいなの持ってましたね。それで破壊してみます」
558: 2014/08/16(土) 22:53:11.28 ID:/+CRjLUpo
竜人「…………」
騎士「よしっ、外れた」ガチャン
騎士「……竜人さん、会ってすぐ勇者さんに斬りかかったりしないでくださいね。
敵味方関係なしの大乱闘はじまっちゃいますんで」
竜人「そんなことしませんよ」
騎士(どうかなぁ……)
竜人「あのときはカッとなってしまっただけです。どうも私は気性が荒くてすぐ頭に血が上ってしまいますね。
竜族由縁のものかと思ってましたが、違ったみたいです」
騎士「竜族みんな、そんなだったら畏怖の念を隠せません」
竜人「それに本当はちゃんと分かってるつもりなんですけどね。
魔王様と勇者様のことは私が口を出すべき事柄ではないと……」
竜人「ですが騎士さんは娘か妹いらっしゃいます?私の気持ち分かりますかね?
魔王様が本当に小さい頃から私はずっとお守りさせて頂いてたのですよ」
竜人「さいしょは全然喋らない子でしてね、目も合わせずきょときょとしてて、
でも夜中に起きてトイレに立ったりすると魔王様もいつの間にか起きててついてくるんですよ」
騎士「は、はあ」
竜人「果物のケーキを作ったときはじめて笑ってくれてそれから料理勉強して、匂いが嫌いって言われたんで断腸の思いでタバコもやめました。大物の賞金首をしとめた時にその金でぬいぐるみ買い与えたらずっとそれ抱えて歩きまわってすごいかわいかったんですよ寝る時もずっとそれ抱いててご飯も食べさせようとしてて。ぬいぐるみだからっ!!!ごはん食べないのに!!!!子どもってなんでそういうことするんですかね?天使かよ?」
竜人「うわああああぁぁあーーーーーーーーーーーーーーーーーっくっそやっぱ許せねえッ!!!」
竜人「蝶よ花よと育ててきた大事な娘をあんな若造にぃぃぃぃぃッ!!誰の許しを得て腰に手ェ回してんだあの野郎ッッ!!!!」
騎士「竜人さん!数秒前の自分の台詞ちょっと見直してみよう!」
竜人「そもそも……魔王様にはまだそういうの早いと思うんですけどどうなんですか……っ……ううっ……」
竜人「どうなんですか騎士さん!!!!!!」
騎士「いや知りませんよ」
559: 2014/08/16(土) 22:58:07.20 ID:/+CRjLUpo
* * *
15号車 屋根上
バンバン ガンッ
勇者「うっ!」
黒服「ふん……ここまで躱す奴なかなかいないぜ」
勇者(まるで攻撃が目に見えない……空気に斬られてるみたいだ。弓の何倍の速さだよ)
勇者(いや!集中すれば絶対見えるはずだ。目も慣れてきたはずだし)
勇者(しかしやっぱ障害物がない場での飛び道具多数相手はきついな)
黒服「抵抗は仕舞いか?なら、天国に送ってやる」バンッ
勇者「く……」
パッ
勇者「!?」
勇者「なに!? 避けたはず……」
黒服「これは散弾銃っていうんだ。弾が散らばるんだよ。
お前みたいにすばしっこく動き回る標的をやるのに有効だ」
勇者「うう」グラッ
勇者「……っ」
黒服'「落ちたか?」
黒服「…………だな」
黒服「……いや違う、まだだ!」
バリーン
黒服「窓から列車内部に入った。しぶとい奴だな……追うぞ。今度こそ仕留める」
560: 2014/08/16(土) 22:59:33.99 ID:/+CRjLUpo
* * *
15号車(食堂車)
勇者「……ここはなんだ……?レストラン?」
勇者「ほかのところと違うな」
勇者「しめた。十分な広さがある上テーブルや椅子とか障害物が利用し放題だ」
勇者「ここであいつらを一人一人仕留める。ばらけさせりゃこっちの勝ちだ」
ポタポタ
勇者「……幸い内臓はそんなに傷ついてないみたいだが……あんまり時間はかけられないな」
勇者「はあ……情けないなぁ。ばしっと無傷であいつらの元に行きたかったんだが」
勇者「これ以上かっこ悪い姿見せるわけにはいかないな」ガシッ
バターン!
黒服「往生際が悪いぜ。さっさと…… ん?ここは食堂車か」
黒服「ふっ、テーブルにでも隠れるつもりか?そんなことをしても無駄だ。
お前は一人、こっちは十数人。四方から囲めば……」
勇者「うおらああああああああ!」ブンッ
黒服「意味がな…………あ!?」
ズガンッ
勇者(まず1人やれたな……さらに2人巻き添えだ)サッ
勇者(もう不意打ちは通用しないかもしれないがここはゴリ押しでいくしかない……)
黒服(テーブル投げやがった……野生のゴリラかアイツは)ゴクリ
黒服'(俺たちはいつからゴリラ討伐隊になったんだ……)
黒服「…………ええい怯むな!あれは限りなくゴリラに近いが、かろうじて人間だ!やるぞ!!」
黒服'「……っああ!!ゴリラだろうがなんだろうがやってやる!!」
勇者「誰がゴリラだ!?」
561: 2014/08/16(土) 23:00:29.18 ID:/+CRjLUpo
* * *
8号車 扉前
少年「次が8号車か……でも、いまんとこ強盗団と遭遇してないけど
ここから先に行ったら絶対かち合うと思うよ。どうする?」
ガラッ
少年「だってこの先多分客室だしさ……。……かと行って後ろにも下がれないし、一体どうしたら」
少年「あの黒服の奴らと強盗団だったらどっちを避けるべきだろう」
魔王「……」
少年「?」
魔王「……少年。後ろだ」
魔王「どうやらその二択を迫られずに済みそうだ」
少年「うしろ……」
少年「あ」
強盗団「まだ全員乗客を捕えてなかったのか……今までどこにいたんだ?」
強盗団「まあいい。来い」
少年「……選択肢なんてなかったみたいだね……」
魔王「……!」
魔王「あ、あれは?」
少年「剣?本物?」
強盗団「へっへ、すげーだろ?都市の博物館に送られるはずだった代物だ」
強盗団「ごってごての装飾だが、本物なんだぜ?ちゃんと斬れるんだ」
魔王「……」
魔王「ああ……ぜひ欲しい」
強盗団「おい?」
チャキッ
562: 2014/08/16(土) 23:01:59.16 ID:/+CRjLUpo
少年「なっ……えっ……? な、なにしてんだよ?」
魔王「この剣は私が頂く」
強盗団「……お前さん何者だ?本当に乗客か?ただならぬ気迫を感じるぜ」
魔王「私も実は強盗なのだ。この子どもは本当に乗客だがな。今まで人質として連れまわしていただけだ」
少年「???」
強盗団「まさか同じ列車に別の強盗が乗り合わせるとはね。おもしろい。
だがそうやすやすとお宝を渡すと思ってんのか?」チャキ
魔王「思っていない。元より力づくで奪うつもりだった」
魔王「ゆくぞ」タッ
ガッ!!
魔王「あっ? 切っ先が床に引っかかっ……」
ビッターン!!
魔王「……」
少年「……」
強盗団「……」
魔王「……」
強盗団「……おい……?」
魔王「……」
少年「……気絶してる……」
強盗団「俺なんにもしてないんだけど……」
563: 2014/08/16(土) 23:04:33.16 ID:/+CRjLUpo
強盗団「おいおいなんだってんだ、大丈夫か?
とりあえずここに倒れたまんまじゃ邪魔だ、どっかに運ばねえと……」
魔王「……ハッ……私は一体?」パッ
ゴツン!
強盗団「ガッ」
魔王「うっ」
強盗団「ぐへ……」バタン
魔王「痛いっ!なんだ!?」
少年「かくかくしかじか」
強盗団「……」
魔王「なるほど……人は無意識化のうちにこそ潜在能力を発揮できると聞いたことがあるが、
まさに今それを私が体現してみせたということだな」
少年「いや、ただの運」
魔王「何でもよい。とにかく剣を手に入れた。私はこれを勇者くんのところに届けるぞ」
少年「じゃあ、僕も行くよ」
魔王「いいや、君はこの先の車両に進んで、乗客として強盗団に捕えられた方が安全だ」
少年「はっ!?」
魔王「先の対応を見ただろう。強盗団はこちらが大人しくしていれば危害を加えない。
あの黒服の連中をなんとかしたら必ず迎えに行くから、先に行っていてくれ」
魔王「では私は引き返す」
少年「えっおい、ちょっと……」
少年「……」
少年「……行っちゃった」
564: 2014/08/16(土) 23:05:32.93 ID:/+CRjLUpo
10号車 娯楽室
魔王(早くこの剣を勇者くんに……)
魔王(早く……)ピタ
魔王(? 誰かいる?)
ビシャッ!!
魔王「……!?」
「ガッ……あ」
女「邪魔しないで」
「……ぁ……」ドチャッ
女「……」スタスタ
魔王(な……なんでここに……)
魔王(こっちにくる)
魔王(……で、でもまだ気付かれていない。ここに隠れていれば……)
魔王(……っ)
女「……」スタスタ
魔王(………………行った……)
魔王(…………っはぁ……)
女「……」スタスタ
女「……」
女「見つけた」
魔王「!?」
565: 2014/08/16(土) 23:09:26.70 ID:/+CRjLUpo
車掌室
B「はぁ~ まだ開かないやぁ」
強盗団「まだやってるわけ?」
A「だってよぉ、解錠のプロと名高い俺たちが
そうやすやすとこんなおもちゃの箱ごときに敗北を認めると思うか?」
A「絶対意地でも開けてやんよ」
A「それに、車掌室って眺めはいいけど暇なんだよなぁ。
車掌数人見張ってればいいだけだし」
車掌(く……!強盗団に列車を占拠されるなんて……
せめてこの列車の緊急事態を都市に伝えねば……)
車掌(そうだ、あの緊急連絡ボタンを、こいつらを騙して押させれば……!!)
B「確かに暇だよね。ねえ車掌さん、何かおもしろいこと起きるボタンないの?」
車掌「そ、そこの赤いボタンを押してみろ。すごくおもしろいことが起きる」
B「まじで?やった押すね」
車掌(こ、こいつら思った以上のアホ!!すんなり押してくれた!! ってあれ?)
車掌「ち、ちちちちがーう!!そっちの赤いボタンじゃない!!こっちだ!!」
B「へ?」
車掌「そのボタンは……!!」
566: 2014/08/16(土) 23:10:14.68 ID:/+CRjLUpo
* * *
強盗団『ていうわけであのバカが、車両と車両を切り離す制御スイッチを押しました』
強盗団『あとは各車両にあるレバーを引けば、どこからでも車両を分断できます』
頭領「おう分かった。いま後ろの車両を担当してた奴ら運んでるから、
それが済んだら黒服の奴らとさよならするために使う」
頭領「じゃあな」ピッ
頭領「……しっかし……なんなんだあいつら」
頭領「まあ奴らが食堂車で大乱闘を繰り広げてるおかげで、俺はどちらにも気づかれずに仲間を運べてるわけだが」
頭領「どっちも厄介だな。さっさといなくなってほしいぜ」
567: 2014/08/16(土) 23:11:15.77 ID:/+CRjLUpo
* * *
警官「ふう!なんとか列車に乗り移れたが、一体全体どうなってやがんだこりゃあ」
警官「マフィア同士の抗争か?一応都市に連絡はいれたが……」
警官「とにかくこっちは後回しだ、早く連続殺人犯を追わねえと!!」
警官(何体か、銃ではなくナイフで斬り殺された遺体があった……)
警官(マフィアどもは全員銃で戦ってる。恐らくこれはあの女の仕業だ)
警官(待ってろよな……!!)
15号車
勇者「はぁ……はあ……」
黒服「がはっ…… くくく……」
黒服「俺で最後だとでも思ったか……?」
勇者「ああん!?」
黒服「こんなこともあろうかと……あらかじめ第二軍を手配しておいたのさ……」
黒服「今頃列車に乗り込んでいることだろう……」
勇者「しちめんどくせーことを……」
ガタッ!
勇者「! もう来たのか、早いな……ってあれ!? あんたは確か」
警官「お前!!誘拐罪、銃刀法違反、下着泥棒、恐喝、資金横領、猥褻物陳列罪など余罪多数もろもろのクソガキ!!」
勇者「なんか俺の罪状とんでもないことになってる!」
警官「大人しくお縄についてもらうぜ……と言いたいところだが、俺が今負ってるのはお前じゃねえ」
警官「……腹怪我してんのか。おら、この応急手当セットを使え」
勇者「えっ!? なんだ、おっさんけっこういい人だな。ありがとう」
警官「警察は、犯罪者を頃すためにいるんじゃない」
警官「……普通はな」
568: 2014/08/16(土) 23:12:48.37 ID:/+CRjLUpo
勇者「ん……?」
勇者「まあいいや、とにかく傷の手当てができるのは助かった。黒服第二軍を片したら俺もあいつら……」
ガチャ
勇者「え……?」
警官「勘違いすんな、見逃すわけじゃねえ。お前はここにいろ。また逃げんなよ」
勇者「おいっ!? ふ、ふざけんな!!!この手枷外せ!!」
警官「ま、逃げようと思っても流石に俺特製超合金手錠は壊せまい。
ゾウが踏んでも壊れない丈夫な手錠だ」
警官「なーに入口の柱と右手をつないだだけだ、暴れんな」
警官「じゃあな、あばよ!!また会おうぜ下着泥棒!!」
勇者「なんで数多ある罪状からソレ選んだんだよ、盗んでねーよ!」
勇者「待て……待て行くなこれ外せ!!!第二軍がこれから来るんだぞ!!」
勇者「おーーーーーーーーーーい!!!」
569: 2014/08/16(土) 23:14:31.37 ID:/+CRjLUpo
* * *
7号車
ガタンガタン……ゴトン
「いやだわ、列車強盗だなんて……どうしましょう」
「騒げば金品だけじゃなく命も盗られるぞ……」
「全くついてない……」
少年「……」
少年(あれから……あいつの言う通り乗客のフリをして強盗団のところに来たけど)
少年(……金持ちばっかで落ち着かない)
少年(あいつら……大丈夫かな……)
少年(ていうか本当にこのまま、都市についたら大企業に乗り込んで直談判?)
少年(なんか、現実感がないや。いま僕がこうして列車に乗ってることも)
少年(これが……街の外)
少年(砂漠しかないけど、すごく広い。あれが地平線ってやつなんだ)
少年(静かで、恐ろしいけど、その先に何があるのか気になる)
少年(……こんな広い世界があるってこと、あいつにも見せてやりたかった)
「お兄ちゃん、街の外ってなんにもないんだね」
「でもすごいね……これから、いろんなところいきたいね」
「ね、お兄ち
少年(……)
少年(考えるのやめよう)
少年(全部忘れよう。もう戻ってこない)
少年(忘れちゃえばいいんだ……こんなに苦しいんだから……!)
少年(最初から持ってなかったと思えれば、どんなに楽だろう……)
570: 2014/08/16(土) 23:20:13.78 ID:/+CRjLUpo
* * *
女「私は全部忘れちゃったんだ。もう戻ってこないの」
ズダンッ!!
魔王「うっ、うぐ……は、離せ」
女「私、どうすればいいと思う?」
魔王「そんなこと私が知るかっ」
女「あなたはほかの人とちがった反応してたから……もしかしたら教えてくれるかもって思って」
女「なくなっちゃった感情を取り戻すためには何をしたらいいの」
魔王「……知らん!どけ!私は急いでいるんだ、お前に付き合っている暇はない」
女「…………だめ」
女「教えてよ」
女「教えてくれなきゃ頃しちゃうよ」
女「もう覚えてないんだけど、悲しいことがあったんだ」
女「体と同じように心も病気になるじゃない?
冷蔵庫も知らなかったあなたはもしかしたら知らないかな」
女「でも心の病気も薬を飲めばすぐ治っちゃう時代になりつつあるんだよ。
薬一錠飲むだけで、どんなに悲しくても怒ってても、一瞬で笑えるようになるんだ」
女「まだ市販はされてないんだけどね……私の実家、裕福だったから、特別に売ってもらえたわけ」
魔王「……」
女「確かにすごかったよ。氏にたいくらい悲しかったのに、次の瞬間びっくりするくらい幸福感に包まれた。
ドラッグかと思っちゃうくらいのね。それで私は悲しいのをなかったことにした……」
女「だけど薬があわなかったのかな。
だんだん悲しみだけじゃなくてほかの感情もなくなっていったの」
女「いまではもうほとんど何も感じない。どうすればいいのか教えてほしい」
魔王「だから私は……」
女「ねえ。あなた人間じゃないでしょう」
571: 2014/08/16(土) 23:21:36.79 ID:/+CRjLUpo
魔王「……!?」
女「あなたを殺そうとしたあのとき、変なこと言ってたじゃない。魔族じゃないとかどうのって」
女「常識がなさすぎるし……いくらなんでも、変」
魔王「…………そうだ。私は人間ではない」
女「じゃあ、なんなの。もしあなたが魔法が使えるのなら、私を元に戻してほしい」
魔王「……今は魔法が使えない。それに、使えたとしても、魔法でできることは限られている。
感情をなくしたり、取り戻したりするような繊細な魔法は……私には分からない」
女「…………」
女「……」チャキ
女「じゃ、あともうひとつ。あのとき、殺されそうになっていたのに、どうして笑ったの」
魔王「ああ……。あれは」
魔王「人間だろうが悪魔だろうが神だろうが、生きていればなんだっていいと……言っただろう」
魔王「その言葉に思わず笑ってしまっただけだ」
魔王「そうだな……案外そういうことなのかもしれん。生きてればなんだっていいのかもしれないな」
魔王「……」
魔王「そう考えたら、ずっと今まで小さいことにこだわってた気がして……
小さいからといって有耶無耶にするわけにはいかないけど、でも、胸が空いた気分だった」
女「…………そっか。よかったね」
女「私の期待してた答えと違った……けど」
女「……人間じゃないあなたを殺せば、また何か新しい感情が見つかるかな」
女「そっちに賭ける……よ」スッ
魔王「!! このっ……離せ!!」バッ
ドサッ
572: 2014/08/16(土) 23:22:05.34 ID:/+CRjLUpo
魔王「はぁ、はあ……やめろ。私を頃してもお前に感情が宿ることはない!」
女「そんなのやってみなければ分からないじゃない」
魔王「…………っ」チャキ
魔王「ふざけやがって!!!」
魔王「お前にそうやすやすとやれるほど私の命は安くないっ!!!」
女「銃なんて……使えるの?」
女「どうせ無駄な抵抗なんだから、最初からしなければいいのに」
魔王「例え勝ち目のない相手だとしても、立ち向かわなければならない時がある」
魔王「……今がそのときだ」
ダァン!!
女「全然、あたってない」
魔王「次はあてる……!」
魔王(弾の数は、あと5発……あと5回で仕留めないと)
魔王(どこか一発でも体のどこかに掠ってくれれば)
女「……」
573: 2014/08/16(土) 23:30:33.47 ID:/+CRjLUpo
今日はここまでです
間が空いちゃってすみませんでした
6月に書いた書き溜めはあったんですけども・・
いっそ書き溜め全部投下したいんですが眠いので寝ます
レスありがとうございました 完結は必ずさせます
間が空いちゃってすみませんでした
6月に書いた書き溜めはあったんですけども・・
いっそ書き溜め全部投下したいんですが眠いので寝ます
レスありがとうございました 完結は必ずさせます
579: 2014/09/06(土) 23:55:37.62 ID:Wxbn4SEHo
バァン!
ダンッ
女「……」ヒュッ
魔王「くっ!」
グッ
女「じゃ、はじめようか」ヒュ
魔王「は――離せっ」
魔王「うわあ!」サッ
ハラ……
魔王(……か、髪……)
魔王(……でもこの至近距離ならっ)チャキ
女「邪魔」
魔王「!」
バンッ
女「外しちゃったね」バシッ
魔王「……っあ」
魔王(銃……!)
女「あなたを殺せば、絶対何か分かる……。
絶対取り戻せる……!」
女「氏んで」
ヒュッ!
魔王「……っ」
魔王(剣…………勇者くんに……っ)
魔王(渡さないといけないのに…………)
580: 2014/09/06(土) 23:57:10.22 ID:Wxbn4SEHo
* * *
15号車
ガチャガチャガチャガチャ
勇者「くっそ!! こんなもん……!!」
勇者「早くこれなんとかしねーと……!!あいつらが来る前に」
バタンッ
黒服「! 確かアイツだ。オイいたぞ、こっちだ!!」
黒服「なんで手錠で繋がれてんだ」
勇者「ぎええええええええええええええ」
勇者「うおおおおおおおおおお」ガチャガチャ
頭領「……ふう、お前で最後だな」
強盗団「へい。すまねえリーダー」
頭領「気にすんな。……ん?また黒服の連中増えてやがる」
勇者「……! おい、そこのあんた!頼む……銃でこれ壊しちゃくれねーか!」
頭領「あぁん?」
頭領「……」
ヒョイッ
勇者「待っ……」
頭領「今のこの列車はよぉ……各車両についてるこのボタンひとつで車両を切り離せるんだわ。
俺の部下が馬鹿やったせいでな」
頭領「で、あの黒服の奴らが狙ってるのは明らかにてめぇだ。
俺が次にどうするか、お前にも分かるよな?」
勇者「……おいおい……うそだろちょっと待て」
頭領「お前らのごたごたに巻き込まれて、こっちの計画が狂うのはごめんだね」
頭領「あばよ」
ポチッ
581: 2014/09/06(土) 23:58:45.12 ID:Wxbn4SEHo
* * *
7号車
夫人「……」チラチラ
男「……ふぅむ」
少年「……」
少年(気まずい)
夫人「……あなた、親御さんは? 見たところ、貧困区の子よね。どうして列車に乗っているのかしら?」
少年「……。貧困区の連中が列車乗ってたら悪いのかよ?」
少年「(正規の手段で乗ったとは言い難いけど)ちゃんと金も払った。あんたにとやかく言われる筋合いない」
夫人「な……私は心配をして……」
男「放っておきなさい。貧困区の子どもに礼儀がそなわってるわけないだろう。
全く親は何やっているのやら……」
少年「……ッ」ブルブル
男「むしろ……あいつら、強盗団の仲間なんじゃないのか?強盗の手引き以外に、この列車に乗る理由もないだろう」
少年「勝手に…………決めつけんなよ!!」ガッ
男「な、なにをする」
少年「金持ちってのがそんなに偉いのかよ?金ないのが……そんなに見下されることなのかよ」
少年「僕は……僕はずっとそんな風に……これから一人で生きてかなきゃいけないのかよっ」
男「はあ?」
少年「……列車に乗る理由、あるよ。都市にいるクソムカつく会社の社長に会いに行くんだよ!!悪いか!?
強盗団なんかといっしょにするんじゃねー!!」
男「くっ……うるさい、離せ」ブン
582: 2014/09/07(日) 00:03:32.70 ID:hezoarQQo
強盗団「……なーんかあっち騒がしくねーか」
魔女「んー」
強盗団「俺こっち見てるから、魔女と姫で様子見に行っちゃくれねーか」
魔女「オッケー」スタスタ
姫「えっ……私も……ですか?」
魔女「……」
魔女「こわいの?」クス
姫「!」
魔女「あんだけかっこつけて入団したくせに、こわいんだー」
姫「なっ……怖くないわ!!私が一体何を恐がるというの!!私も行きます!」スタスタ
強盗団「やれやれ……」
スタスタ
姫「…………っ魔女さんって!」
魔女「何よ」
姫「……魔女さんも本当は竜人さんのことが好きなんじゃないんですか!?」
魔女「はぁぁぁ? ゲロゲロ、やめてよ。冗談じゃないんですけど」
姫「だって魔女さんはずっと昔から竜人さんといっしょにいたわけですし……っ
仲も……いいしっ!」
姫「だから、私に意地悪なことばっかり言うんじゃありませんの!?」
魔女「……!」チャキ
姫「なっ……!? ななな何を…… ハッ、私に銃を向けたということは図星?」
姫「や、やっぱり魔女さんも彼のことが……!?? う……うそ!どどどどうしましょう……」
魔女「……」
姫「~~~な、何よ、撃てるものなら撃ってみなさいよっ……脅しなんて私に通用すっ」
バンッ!!
姫「!!」
―――グラッ……
魔女「……あのさ」
583: 2014/09/07(日) 00:06:14.12 ID:hezoarQQo
夫人「きゃっ!! 銃声!?」
少年「まさか……あいつらっ!?」バタン
黒服「!! いたぞ、あのガキだ!」
黒服「おい。大丈夫か?」
黒服「くそぉ、手やられた……! あのアマァ……!!」
姫「え……?」クルッ
魔女「マジで気分悪くなるから、そういうこと言うのやめてくんない?姫様」
魔女「あたし、あんたみたいに趣味悪くないもーん」
姫「趣味悪い……!?」カチン
姫「訂正して頂きたいですわね。私のどこが趣味悪いと言うの」
魔女「ほんとのこと言っただけじゃん。男なんて山ほどいるのにわざわざあいつ選ぶなんて正気の沙汰じゃないね」
姫「ですから……何故そういう言い方をするの!?棘があるのよ、あなたの発言には!!」
魔女「そう聞こえるように言ってるんだから当たり前でしょ?」
姫「なんですってぇ……!?」
魔女「なによ……!?」
黒服「てめえら覚悟しろよ、今すぐ蜂の巣にしてやるっ!」チャキ
魔女・姫「邪魔しないでよ!!!」ダンッ!!
黒服「!?」
コノヤロー! ヤリヤガッタ! イクゾ ヤロードモ!
姫「…………一時休戦」チャキ
魔女「賛成」ジャキッ
584: 2014/09/07(日) 00:08:37.30 ID:hezoarQQo
少年「う、わあ!? は、離せ!離せよ!!」
黒服「チョロチョロと逃げ回ってくれたもんだ。お前が例のガキだな」
黒服「悪く思うな、仕事だ。あばよ」
少年「っ……!」ギュッ
姫「あばよ、はこちらの台詞です」バン
黒服「グハッ!?」
少年「えっ!? あ、あんた強盗団の……」
姫「見たところあなたはこの方たちに狙われているようですね。
ここは私たちにまかせて、あなたはこの先に車両にお進みなさい。ここにいては危険ですわ」
少年「い、いいの?」
姫「かまいませんわ。さあ早く」
少年「う……うん」タッ
少年「あの黒服たち、ここまで来たってことは、あいつら……」
少年「……どうなってんだよ……この列車」
585: 2014/09/07(日) 00:14:09.49 ID:hezoarQQo
バァン!
ギャー
魔女「ヒュー♪魔女ちゃん百発百中かっくいー!」
魔女「銃っていいなー。リロードが面倒くさいけど」カチャ
黒服「フッ」ジャキ
魔女「げ」
ダンッ
姫「……注意力散漫ですわよ」
魔女「ドーモ。御忠告痛み入ります」
姫「…………」
ワーーーワーーー
バンバン チュインッ ドガシャーン
姫「……私、本当は分かってますわ」
魔女「?」
姫「私が私である以前に、私の立場が姫ってことが魔族の方たちにとって大事だったってこと」
姫「最初から分かってました!そういうの慣れてますもの。
宮中って、魔女さんが思うよりずっと色々ありますのよ」
姫「……でも、全部が全部うそだったとは思いません」
姫「本当のあの人と接していた時が必ずあったはずだって……そう思ってます」
魔女「ふーん……それでいいんだ」
586: 2014/09/07(日) 00:17:26.64 ID:hezoarQQo
姫「……それでいいかって? ちっとも……よくありません!!」
姫「大体……魔女さんの方が竜人さんのこと、私の何倍もずっといっしょにいて、何倍もよく知ってるし!
魔女さんといる時の方が……楽しそうだし……!!」
魔女「ないない」
姫「ていうかあの人は魔王さん第一じゃないですか!
いつもいつも口を開けば魔王様って言ってるし……目はいつも魔王さんのこと見てるし!」
姫「私なんかが魔女さんや魔王さんに勝てないってことくらい重々承知してるんですよ゛ーーーーっ」
姫「それに私は人間ですし!!どんなに頑張っても竜にはなれませんもの!!!」
姫「うわあああああああああああああんっ」
ダガガガガガガッ
ワーーーー ギャーーー
魔女(豪快……)
姫「でも諦めきれないの」
姫「あなたに『諦めろ』と言われたけど、できることならとっくにやってます!!」
姫「できないから、こうしてずっと苦しいのよ!!!」
魔女「……」
姫「……それにっ……私、誰かとこんな風に本音で言い合って、口げんかするのなんて初めてで……!」
姫「……仲直りしたくてもどうすればいいのか分かりませんの!」
姫「きっと後に私が傷つかないようにと思って、言ってくれたのだと思うのですけど、私が意地張って……認めたくなくて」
姫「…………こういう……とき、どうすればいいんですの」
魔女「……」
魔女「あははっ。そんなの、かんたんだよ」
587: 2014/09/07(日) 00:30:54.41 ID:hezoarQQo
10号車
女「あなたを殺せば、絶対何か分かる……。
絶対取り戻せる……!」
女「氏んで」
ヒュッ!
魔王「……っ」
魔王(剣…………勇者くんに……っ)
――――バンッ
女「!」
カランッ……
女「……」
魔王「はっ……はぁ……」
警官「そこまでだ」
警官「ついに見つけたぞ。連続殺人犯。今日こそ……」
警官「今日こそ、決着をつけてやる」
女「しつこいなあ」シュッ
バンッ!
魔王「……は……はあ……ええと」
警官「お嬢ちゃんはすぐここを離れな」
女「勝手に……。そんなことさせると思う」ヒュンッ
警官「へっ!投げナイフなんて全部撃ち落としてやらぁ!!」
警官「ほら、とっとと行け!ここにいたら巻き添えくらっちまうぜぇ!!」
魔王「あっ、あぁ。恩に着る」
タッ
588: 2014/09/07(日) 00:31:51.43 ID:hezoarQQo
女「待って」
魔王「……」ピタ
警官「? はよ行け」
女「……いかないで……」
魔王「君の境遇には同情する。でも、私は力になれない」
魔王「君に殺されてやるわけにはいかない。私、勇者くんを助けに行かなければいけないんだ」
魔王「……さようなら」タッ
女「まって……」
女「……まってよ……」
警官「お前、あのお嬢ちゃんに自分のこと話したのか」
女「あの子は人間じゃないの。ほかの人と違う。だから……だからあの子なら分かると思った」
女「私が人間に戻る方法……」
警官「そりゃ、無理な話だ。少なくとも今の技術じゃ、失った感情を取り戻すことはできやしねぇ」
警官「お前は一生そのまんまだ。人を頃した罪悪感だけが拠り所の凶悪殺人犯のまんまだよ」
警官「生きようとする限り罪を重ねるしかねえ。サイコ野郎になりきれねえ最低最悪のシリアルキラーだ」
女「無理かどうかなんて、やってみなくちゃ分からないじゃない」ヒュ
警官「うお、お!」
警官(チッ 接近戦は不利だな……距離をとって)バン
ビチャッ
女「……」スタスタ
警官「! お前、痛みも……」
女「本格的な化け物でしょ」グッ
ズバッ!
警官「ぐっ!? があああ……!いってぇなあ!」
女「そう。それが普通だよね。血が出たら痛いって思う……」
589: 2014/09/07(日) 00:34:49.29 ID:hezoarQQo
女「これ、罰なんですかね」グサ
女「忘れたいって……悲しみごと全部なくなっちゃえばって思ったから
だから私は『普通』をなくしちゃったんですかね」グサ
警官「……罰なんて随分前時代的なことを言うな」
警官「罰っていうのは神様が人に与えるもんだろ?
神なんて、今の時代いるとも思えねえな」
警官「だが、姿の見えねえ神様の代わりに、お前の望む罰を俺が与えてやることはできる……」
女「私が望む……? あなたに私の何が分かるの」グサ
警官「フン。ずっと追っかけてたんだ、それくれえ刑事の勘でちょちょいのちょいだ」
警官「お前、氏にたいんだろう」
警官「俺が頃してやるよ」
女「氏にたい?私が?」
警官「この国は氏刑制度が随分昔に廃止されてるからなぁ……だからお前逃げたんだろ。移送中に」
警官「警察が防衛以外で銃を使うなんて御法度だからよぅ。お前を頃したら、俺は警官やめるつもりだ」
警官「ま……この傷じゃこの列車から生きて降りられるかどうかも怪しいんだが」
女「氏……」
女「氏んだら……どうなるの」
警官「俺は氏んだことねぇから分かんねぇよ。だが……まぁ、今よりは楽になれんだろ」
警官「殺人はお前にとって苦しいことなんだろ。その苦しいってのが、お前が持てる唯一の感情だからやってたんだろ」
警官「そろそろ苦しむのやめて、楽になったらどうだ」
女「…………………………」
女「…………………………」
女「………………お願い」
警官「……おう」
―――パァン……
590: 2014/09/07(日) 00:39:40.40 ID:hezoarQQo
女(……何かを大切に思うのって、楽しいことや嬉しいことばかりじゃないんだ)
女(大切に思えば思うほど、失ったときに悲しいのね)
女(あなたはどうするのかな……)
女(私と同じ、人間じゃない女の子)
女(忘れるの?受け入れる?それとも……失う前に、大切に思うのをやめるの?)
591: 2014/09/07(日) 01:11:37.07 ID:hezoarQQo
15号車
頭領「今のこの列車はよぉ……各車両についてるこのボタンひとつで車両を切り離せるんだわ。
俺の部下が馬鹿やったせいでな」
頭領「で、あの黒服の奴らが狙ってるのは明らかにてめぇだ。
俺が次にどうするか、お前にも分かるよな?」
勇者「……おいおい……うそだろちょっと待て」
頭領「お前らのごたごたに巻き込まれて、こっちの計画が狂うのはごめんだね」
頭領「あばよ」
ポチッ
勇者「ばっかやろおおおおおおおおおおおお」
黒服「あまり標的には近づくな……奴はゴリラ並のパワーを持ってるそうだ。
遠くから対戦車用ライフルで吹っ飛ばすぞ……」ガチャガチャ
勇者「ばっ!やめろ!!オイこっちは身動きとれないんだぞ!!ざっけんな卑怯だぞコラ!!」
黒服「ゲハハハむしろ好都合だ」
勇者(く……前の車両とどんどん距離が離れていく……早く乗り移らないと!)
勇者(枷を早く壊さないと何も始まらん!
ちょっとやそっとじゃ壊れなさそうだが、この中央の鎖部にピンポイントで衝撃を与えられれば……)ガンガン
592: 2014/09/07(日) 01:12:25.98 ID:hezoarQQo
ガチャコン
黒服「うっし……やるぜ」
勇者「待て。あと1時間……いや30分くれ!!!」
黒服「なげーーよ!!その30分俺たちゃ仲良くお茶会でもしてろってのか!?お断りだ」
勇者「じゃ、じゃああと5分!」
黒服「逆に短すぎて5分じゃ何もできねえ。お断りだ」
勇者「どうすりゃいいんだよ!?」
黒服「どうもこうもない。待ったなしだ、覚悟を決めろ」
ジャコンッ
黒服「ヒーーーーーーーーハーーーーーーーー!!」
黒服「イエァ!!!ヒョーーー!!!」
――――バタンッ!!!
魔王「………………」ジャキッ
勇者「!? 魔王……!!」
黒服「ンアァ?」
593: 2014/09/07(日) 01:14:37.07 ID:hezoarQQo
魔王「動くな……手をあげろ。勇者くん」
勇者「なっ、なに言って――、……!」
黒服「アアッハッハッハ!仲間割れかい!?」
勇者「……」グイ
魔王「絶対に……動くなよ」ググ
魔王(弾は残り一発……!)
魔王(失敗は許されない)
魔王(絶対あてる)
魔王「絶対……!!」
ヒュォォォォオオオ……
黒服「こりゃいいね!見物だぜハッハー!」
勇者「…………っ」
魔王「……」グッ
――バキンッ!
魔王「……!」
勇者「!! 枷が外れたっ」
黒服「ん!?」
勇者「魔王!!」
魔王「早くこっちに……!」
594: 2014/09/07(日) 01:17:11.28 ID:hezoarQQo
ダッダッダ……
勇者「うおおおおおおおおおおおおおおっ……!?」ダンッ
黒服「逃がすな、撃て!!」
勇者「やめんか! 届けーーーーっ」
魔王「勇者くんっ」
勇者「……魔王!」
どさっ
勇者「助かった……でもなんで戻ってきたんだ?」
魔王「君にこれを渡しに来た」
勇者「剣?こんなのどこから……」
魔王「借りものなので壊さないように気をつけてくれ」
勇者「誰から借りたんだよ。……あっお前……これどうした!?誰かに切られたのか!?」
魔王「ああ、髪か。気にするな。君を助けるためならば髪などどうでもよい」
魔王「さあ、少年と合流するために急がなくては。まだ黒服の連中は列車内に残っている」
魔王「行くぞ勇者くん」
595: 2014/09/07(日) 01:21:11.36 ID:hezoarQQo
8号車
頭領「なにぃ?剣が奪われた?」
強盗団「なんか女が……」
頭領「チッ……。まあいい、剣くれえなら。俺たちの本当の狙いは、こっちだったからな」
頭領「化石と、植物と海水が無事ならそれでいいさ」
頭領「で、7号車で黒服と交戦中だったな、確か。行ってくる」
強盗団「や、それはもう終わったッス」
頭領「ほう……? 早いな」
596: 2014/09/07(日) 01:22:09.11 ID:hezoarQQo
9号車
タッタッタ……
勇者「大丈夫か?」
魔王「うん」
ガラッ
黒服「見つけたぜオラァー!」バンバン
勇者「ん! ……」キン
黒服「……!?」
勇者「邪魔じゃどけー!」ビッ
勇者「大分弾丸の速度にも目が慣れてきた。剣があれば大体防げる」
魔王「君の動体視力はおかしい」
勇者「お前のおかげだ、ありがとな」
魔王「かまわん。……」チラ
勇者「何だ?」
魔王「……いやっ、何でもない」
魔王「早く先に進もう!少年を早く見つけねばっなっ」
勇者「あっ先に行くな!まだあいつらいるんだから俺の後ろに……」
ドンッ
魔王「わっ!?」
勇者「……!? お、お前……!?」
魔王「いたた…… あれ?貴様は……何故ここにいる?」
妖使い「やあ」
597: 2014/09/07(日) 01:25:14.84 ID:hezoarQQo
勇者「妖使い!お前も扉くぐってこっちに来たのか?」
妖使い「ちょっと時間開いちゃったんだけどね。君たちが扉を見つけたって聞いてすっ飛んできたわけさ」
魔王「なんだその格好は……」
妖使い「変装だよ、変装。こっちの世界の警察の格好だ」
勇者「何にせよ有り難い。今この列車内はえらいことになってるんだ。手を貸してくれ」
勇者「創世主は見つけたんだ。これくらいの身長の子どもで……先の車両にいるから一緒に探してくれないか」
妖使い「いやだね」
勇者「…………は?」
勇者「おい、冗談言ってる場合じゃ……」
妖使い「冗談じゃない。俺たちは君たちを連れ戻しに来たんだ」
妖使い「総勢6名……まずは君たちからだ」
魔王「どういうことだ?」
キィン!
勇者「とりあえずお前は、敵だったってことか」
妖使い「そうだよ」
勇者「……魔王、先に行け」
魔王「わ……分かった。少年を探してくる」タッ
598: 2014/09/07(日) 01:26:51.91 ID:hezoarQQo
勇者「何者なんだ、お前は」
妖使い「創世主側の者だったってだけの話だ」
勇者「……俺たちは戻らないぞ。こっちでまだやることがある」
妖使い「知ってる。だから力づくで戻すよ」
勇者「やってみろ……!!」ダンッ
勇者「……っ!?」ハッ
ヒュッ ヒュンヒュン
忍「わー、よく避けましたね。さっすが勇者様(笑)」
勇者「忍! お前もかよ。ってオイ。かっこ笑いつけんな」
妖使い「遅かったじゃないか」
忍「迷いました。あっははすみません。というわけで勇者様のお相手は私がします」
妖使い「じゃあ後はよろしく」
勇者「待て!!!」ダッ
忍「だ・か・らぁ、私が相手だって言ったじゃないっすか。やだなあもう、無視しないでくださいよ」サッ
勇者「くそ……っ」
599: 2014/09/07(日) 01:30:15.01 ID:hezoarQQo
* * *
ドタンバタンバタン ダン
強盗団「……なんか、上騒がしいッスね」
頭領「……またドンパチやってんのかね」
ダンッ!!
勇者「……っはッ……ごほっ」
勇者「……なんなんだ、お前……人間じゃなかったのか?」
勇者「それともお前たちだけ今でも魔法が使えるのか?攻撃全部効かないなんて」
忍「まあ、人間ではないですね」ゴォッ
ズダーーン!
勇者「しかもっ……割と強いじゃねえかよ!!お前、今までずっと俺との手合わせで手加減してやがったな!!」
忍「だってー本気出したら私が勇者様より強いことばれちゃうじゃないですかー」
勇者「なめた真似しやがって!!お前が本気出したって俺は負けねえぞ!!」
忍「や、それは無理ですよ。あのですね、勇者様がとっても強いのは」
忍「勇者様がいっぱい剣の稽古をしたからでも、才能が溢れてるわけでもなくて」
忍「そういう設定だったからなんですよ。設定設定。勇者は世界で一番強いっていう役割だったからなんですよ~」
勇者「はあ!?」
忍「で、私と若は、そんな勇者様より強いっていう設定でつくられたので」
忍「勇者様が私に勝てるわけないんです。可能性0なんですよ。残念」
勇者「……んなもん知るかよ!!関係ない!!」ガッ
忍「あっはっは」
忍「そういう大口は結果出してから言ってもらえますか?」グイッ
勇者「!? しまっ……!」
600: 2014/09/07(日) 01:33:08.86 ID:hezoarQQo
頭領「ったく、ドコドコとやかましいな。上を見てくる、ここを見張っとけ」
強盗団「はい」
頭領「なんなんだ、一体……、…………!? 伏せろ!!」
バキバキバキ ゴシャーン!!
強盗団「んなぁっ!? 天井から何か……!?」
頭領「!? おいおい嘘だろ、ダイナマイトでも吹っ飛ばしたのか?」
忍「あちゃー、穴あけちゃいましたね」
ガラッ
勇者「ゴホッ!!ゲホゴホ! いってぇ……」
頭領「あ? お前なんでここに……切り離した車両にいるはずだろが」
勇者「あってめえあの時はよくも……」
忍「よっこいせーっと!!」ブンッ
勇者「!」
バキャッ!!
頭領「結局あいつら何なんだ。オイ、お前ら!ドンパチやるのはいいが別のとこでやっ……」
強盗団「お……お……お頭……、これ……」ブルブル
頭領「てくれ……。……あ?」
強盗団「さっきあの男が上から降ってきたときに……化石……恐竜の……下敷きになったみたいで……」
強盗団「わ……割れちまってる……」
頭領「………………………………」
強盗団「………………………………」
頭領「……フー……」
頭領「俺のサブマシンガン……持ってこい……」
601: 2014/09/07(日) 01:39:08.00 ID:hezoarQQo
ドガガガガガガガガッガガガガガガガガガ
勇者「!?」ヒョイ
忍「うわっ危ない」ヒョイ
頭領「避けんなよ……当たんねえだろ」ガンッ
頭領「てめえら……化石ブッ壊しやがって……」
頭領「恐竜の化石だぞ……くっそレアなんだぜ……俺たちのものになるはずだったのによぉ」
頭領「なにしてくれてんだオラァ!!!2人まとめてぶっ頃す!!!!!!」ジャキ
勇者「話ややこしくなるからあんたは出てこないでくれよ……」
忍「邪魔するなら私も二人まとめて殺りますよ」スッ
勇者「……くそっ!なら俺だって邪魔する奴は全員退かす!!」チャキ
ジリッ……
勇者(……面倒なことになった。どうする)
忍「…………と、言いたいところですが、やっぱ撤回します!」
忍「そこのお頭さん。私と一時的に組みましょう。私を頃すのはちょっと後にして、
先に勇者様を一緒に屠ろうではありませんか!」
勇者「なっ!?」
頭領「俺ぁ別にどっちから蜂の巣にしても構わねえぜ」
勇者「ま、待て」
勇者(そうか、これはただの三つ巴じゃない!
3人のうち結託した2人が勝ち、残る一人が負けを見る!)
勇者(つまりいかにこの頭領とかいう男を仲間に引き入れるかが勝負になる!)
勇者(忍には何故かこっちの攻撃がきかない。そのうえこの男とまで戦いたくない。
どうにかして男を俺に協力させなくては!)
勇者(これは肉弾戦じゃない、相手の考えをいかに読めるかが雌雄を決する高度な心理戦だぁ……!多分)
勇者(ん……? とすると何故さっき忍は頭領を仲間に誘った?)
勇者(あいつは攻撃が効かないんじゃなかったか?
そういえばさっき銃で撃たれたとき、「うわっ危ない」とか言いつつ避けてたな)
勇者(なるほど。俺の攻撃は聞かなくてもこいつの攻撃は通用するわけだ。これは勝機を得たり)
勇者「忍とじゃなくて俺と組め」
頭領「別にどっちでもいいっつったろ。先に誘われた方につく」
忍「じゃ、いきましょっか」タッ
頭領「おうよ」ズダダダダダダ
勇者「待て待て待て待て!!!待って!!ストップ!!」
602: 2014/09/07(日) 01:45:12.79 ID:hezoarQQo
勇者「えーと……ええと!! そ……そうだ!!」
勇者「壊れたの、キョウリュウの化石なんだよな!!」
頭領「そうだよくそったれ!!あれにどれくれーの価値があると思ってんだよバカヤロー!!」
勇者「……俺の仲間に竜がいるぞ!!」
頭領「あぁ!?竜!?」
勇者「頼めば骨でもなんでもくれる!!!(んじゃないかな多分!)」
勇者「だからひとまず俺と組め」
頭領「……」
忍「勇者様、なに寝ぼけたこと言ってるんですか?そんなこと、こっちの人たちが信じるわけ……」
頭領「ブッ! ぶぁはははは!!そんなくそまじめに竜とか言う奴初めて見たぜ」
頭領「気に入った。まずお前に手を貸そう」
勇者「ああ!頼む」
忍「げげ……まじですか」
勇者「忍。俺の攻撃は効かないみたいだが、こいつの攻撃は効くみたいだな」
忍「エー?ソンナコトナイデスヨー?ワレゾンジアゲヌー」
ジャキッ!!
勇者「いくぞ」
頭領「覚悟しろよ」
忍「……はぁー……」
603: 2014/09/07(日) 01:47:35.35 ID:hezoarQQo
6号車
タッタッタ……
魔王「少年は一体どこに……」
妖使い「待て待てー」ヌッ
魔王「いっ……!?」ビク
妖使い「君をこれ以上先に進ませるわけにはいかない」
魔王「お……驚かせるな!いつの間に後ろに……。勇者くんは?」
妖使い「忍が今戦ってるさ」
妖使い「あちらの世界に今すぐ帰ってもらうよ」ガシ
魔王「……離せ!」
妖使い「強制送還させる唯一の方法は、こちらでの君たちの生命を断つことだ」グググ
魔王「くっ……う…… はな……」
妖使い「……」ギリギリ
魔王「……っ」ギロ
魔王「……最初……から、ずっと……騙していたのか……貴様」
魔王「なん……の……ため……に」
妖使い「……なんでだろう」グッ
魔王「かはっ」
魔王「や……めろっ……」
妖使い「……君たちが勝手な真似をするから」
妖使い「俺たちがこんなことをしなければならない……!」
妖使い「……早く氏んでくれ」
魔王「っ…………、……」
魔王「……」
ダラン……
少年「…………やっ、やめろぉ!」ドン
妖使い「!」ピタ
604: 2014/09/07(日) 02:00:23.70 ID:hezoarQQo
魔王「っゴホ!ゲホ……っ はぁ……少年?」
少年「あれっ? 黒服じゃない……警察!?」
妖使い「ああ」
妖使い「そうですよ。私は警察の者です。
ここにる国際指名手配の詐欺師を追ってきたんだ」
少年「さ、詐欺師?」
妖使い「君も何かおかしなことを言われたんじゃないのかな?」
妖使い「全て出まかせだ。君のこと騙すためだけに言った嘘なのさ」
少年「……」
魔王「勝手なことを……!出まかせを言っているのは貴様だろう」
少年「……別に、最初から分かってたよ。
でも嘘でもいいって思ったんだ」
少年「どうせ僕だってもう長くは生きられないんだ。だから別にどうだっていいよ……」
少年「そもそも、魔王とか勇者とか魔法とか……
いくら僕が子どもだからといって、さすがに信じたりしないって」
少年「でも僕なんか騙してどうするつもりだったんだ?金なんて持ってないけど」
魔王「私たちは嘘なんかついてない!」
魔王「少年、どうして信じてくれないんだ。何度も言ってるじゃないか……」
少年「騙してないって……何も裏がないって言うんなら、
なんで見ず知らずの僕のためにいろいろしてくれるんだ」
妖使い「そうそう、この世に無償の愛なんてないよ。
みんな見返りと報酬が目当てなんだ」
妖使い「軽い甘言に惑わされてはいけないよ。大事なのは信じることじゃなく疑うことだ」
妖使い「彼らは優しい夢をくれるけど、そんなもの何の役にも立たなかったって君は知ってるだろ?」
妖使い「奇跡は起きない。君は現実を見なければいけない。下らない本なんて捨てるんだ」
少年「……」
妖使い「どうしてそんな顔をしているんだ?何か悲しいことがあったのかい」
少年「……悲しいことなんて……たくさんあるよ」
妖使い「だったら、全部忘れてしまえばいい。君が望むならこれを渡そう」
少年「これは……?」
605: 2014/09/07(日) 02:02:26.08 ID:hezoarQQo
妖使い「悲しみの原因になってる記憶を根こそぎ忘却させる薬さ。高価なものだけど特別に君にあげるよ」
少年「……えっ?」
妖使い「不信がらなくていいさ、これは普通に市販され始めているものだよ。
そんなに驚くことか?機械でも人体でも、悪くなった部分は除去して修理するだろう。心だってそれと一緒だ」
少年「記憶を?」
妖使い「薬を飲まない理由があるかな?極めて合理的な処置だと思うよ」
妖使い「さあ!全部忘れよう。そうすれば苦しいのも悲しいのも全部なくなる。
失ったという事実も記憶も何もかも消えるんだ」
少年「……」
魔王「貴様、いい加減に……むぐっ」
妖使い「ほらほらどうした少年、それ一気だ一気!勢いでがっと飲んじまえ!」
魔王「ん゛ーーっ」バタバタ
少年「………………っ」
少年(最初から……僕だけだったなら)
少年(はじめからひとりぼっちだったなら……!)グッ
勇者「飲むのか?」
少年「……っ」ビク
606: 2014/09/07(日) 02:07:33.14 ID:hezoarQQo
魔王「勇者くん!」
妖使い「君がここにいるということは、忍め……しくじったな」
少年「お前……」
勇者「少年は向こうに行ってろ」
勇者「妖使い、俺と戦え」スッ
妖使い「戦えるのか?こっちには人質がいる。別に俺はどっちから先に始末しても構わない」
魔王「貴様いい加減にしろ、最初から胡散臭い奴だとは思っていたがここまでとは思ってなかったぞ」
妖使い「そんなに胡散臭かったかな……傷つくなあ」グッ
魔王「うぐ……っく」
少年「! や……やめ…… あ、あんた警察っての……うそだろ!」
妖使い「信じるより疑う方が大事だってさっき言っただろ~?」
少年「何なんだよ……っ」
勇者「俺と戦えっつってんだよ!!魔王を離せ!!」
妖使い「こっちの方が手っ取り早い。こんな首、赤子の手を捻るより簡単に折れるからさ」
妖使い「目の前で魔王が縊殺されるなんてショッキングな映像見たくなかったら、10秒以内に自刃しろ。
自分でやった方が痛みも少ないだろうしな」
勇者「お前……っ」
妖使い「10……9……」
勇者「てめえ、やめろ!!」
妖使い「動くな」ギリギリ
魔王「うっ」
妖使い「心配しなくても大丈夫さ。どうせすぐあっちでまた会える」
少年「……っなんだよ、これ……!何が起きてるんだよっ……」
少年「誰か……」
ポン
少年「!?」
「呼んだ?」
607: 2014/09/07(日) 02:13:10.16 ID:hezoarQQo
――パァン!
魔女「おにーさん、あなた背中ガラ空きですわよん」
勇者「!? えっ……魔女!?と……姫様!? どうしてここに……!!」
魔女「うん、偶然ね」
姫「ちょっと魔女さん……それもしかして私の真似ですか」
魔女「もしかしなくてもそうだよ」
妖使い「やあ二人とも久しぶりじゃん」
魔女「久しぶりじゃん、じゃねーよタコ助。体風穴だらけにされたくなきゃ魔王様からその手どけろ!!」
姫「これで挟み撃ちですわ。観念することね。……っ今すぐ魔王さんを解放なさい!」
妖使い「すっかりこっちに馴染んでるな。銃なんて構えちゃってさ。
いいよ、撃ってみればいい。俺には当たらない。でも魔王には当たってしまうよ」クルッ
妖使い「銃殺より縊殺の方がまだよくない?っていう俺の親切心なんだけど」
姫「いいわけないでしょう……!!」ハッ
姫(彼がこっち向いている間に勇者が……)
ダッ
勇者「……っ」ヒュッ
妖使い「残念」ドン
魔王「わっ!」
勇者「んなっ……!? 魔王っ」ボス
魔王「うぶっ」
勇者「大丈夫か!?」
魔王「~~~~……うぐむ……」
魔王「ハッ 妖使いは!? あやつめ、どこ行った。許さん」
608: 2014/09/07(日) 02:16:32.07 ID:hezoarQQo
「上に来なよ、勇者。お望み通り一騎打ちしようじゃないか」
勇者「!」
勇者「……分かった」
魔女「あたしたちも行くよ」
魔女「こっちの世界来る前、あいつと戦ったんだ。むかつくけど結構強いよ」
姫「攻撃が効かないのでは、勇者といえども勝てるかどうか……加勢いたします」
勇者「いや。だったら尚更俺一人で行く。二人は魔王と少年と一緒にいてくれ」
魔女「はぁぁん?なにかっこつけてんの。行くってば」
魔王「魔女」
魔女「むー」
魔王「勇者くん。必ず」
勇者「ああ!」
姫「……分かりました……あなたにまかせます」
魔女「ん! 足音だ」
勇者「早く進め!」
魔王「行こう。少年も」
少年「……」ポカン
612: 2014/09/07(日) 21:08:20.40 ID:hezoarQQo
ダッダッダッダ……
魔女「で、この子なんなの?」
魔王「私たちが探していた『彼』だ」
姫「ええっ!見つけましたの? なら、もう私たちの世界は……」
魔王「いや、そうとも言い難い。まだだ」
少年(……??)
魔王「二人はどうしてここに? 随分……」
魔女「退け退けー!」バンバン
魔王「……随分こちらの器具を使いこなしているな。一体何があったんだ?」
魔女「あたしたち今強盗団の一員なんだー」
姫「…………恥ずかしながら、そうです」
魔王「それは……驚いた」
魔女「はじめまして少年!あたし魔女!こっち姫様!」
少年「あ……はぁ」
姫「さっきも会いましたね。宜しくお願いいたします」
少年「……」
少年(魔女に……姫?)
少年(まさかな……だって誰にも見せてない……)
少年(あれは、ずっと鍵をかけたまんまで……)
613: 2014/09/07(日) 21:09:12.53 ID:hezoarQQo
* * *
妖使い「……いや、すごいよ」
妖使い「これだけやっても、まだ氏なないなんて。驚嘆に値する」
妖使い「でも抵抗する必要ないって。こっちからあっちに戻るってだけなんだからさ」
勇者「あっちに戻ったって…………世界が終わるんじゃ、どのみち生きられないだろうが……っ」
妖使い「いいじゃないか、別に」
妖使い「きっと魔王だってそう思ってるよ」
勇者「はぁ……!?」
妖使い「いつか別々に氏んで孤独になるくらいなら」
勇者「……」
妖使い「いっしょに消えた方がよくないか?」
勇者「あいつの気持ちを勝手にお前が決めるなよ」
妖使い「……フッ」
妖使い「君って本当に勇者らしくないよね」
妖使い「まだ前の彼女や彼の方がらしかったよ」
614: 2014/09/07(日) 21:10:24.19 ID:hezoarQQo
妖使い「あのときなんで止めなかったんだ?」
勇者「……?」ヨロッ
妖使い「少年に薬を渡したとき。てっきり止めるかと思った」
勇者「……ああ……」ポタポタ
勇者「……別に……忘れてもいいんじゃないか?」ゴシ
妖使い「へえ」
勇者「どうしても抱えているのが辛いんなら、別に忘れてもいいと思うよ」
勇者「忘れたからって……なかったことになるわけじゃない」
勇者「俺は……」
勇者「もし、俺だったら……そう思うね。忘れられても構わないって」
妖使い「……はっ。はははは!」
勇者「でも」チャキ
ビュッ!
勇者「どうするかは少年が決めることだ!
お前がとやかく言うことでもないし、決めつけていいことでもないだろ」
妖使い「……だったら」グイッ
妖使い「力づくでやめさせてみろよ」ガッ
勇者「がはっ」
妖使い「よくこんなまがいものの剣で立ち向かおうと思ったなぁ」
バキッ!!
妖使い「簡単に折れる」
勇者「く……そっ! なんで当たんねえんだよっ」スカッ
妖使い「アッハッハ。俺からは当たるんだけどね」ガシ
グルンッ
ズダーン!
勇者「チッ」
妖使い「やっぱ今は銃の時代だなぁ」チャキ
勇者「!」
妖使い「避けさせはしない」
勇者「やめろっ!!」ブン
妖使い「あ」
パァン!
615: 2014/09/07(日) 21:11:31.62 ID:hezoarQQo
勇者「ぐっ……う……掠ったか……」
勇者「でも、今……?」
勇者「……」
妖使い「次は当てるぜ。心臓一直線だ」
勇者「お前な、仮にも妖使いってんなら、銃よりカタナ使えよ」
妖使い「カタナより銃の方が何倍も強いじゃないか!」
妖使い「そろそろ諦めてくれないか?勝ち目なんてないって分かっただろ。
俺は勇者の上位互換だから、抵抗しても意味ないよ」
妖使い「時間の無駄で非生産的だね。君はすでに前時代の遺産で過去の亡霊だ。大人しく消えるがいいさ」
勇者「確かに……」
勇者「……無駄かもな」
………… ……
勇者「……? あれは……?」
妖使い「あぁ、あれ。戦闘機じゃないかな」
妖使い「勇者たちを追ってた彼らの増援だろうね。君たち相当目をつけられてるよ。一体何したんだ?アッハハハ!」
勇者「笑いごとじゃねえよ……」
**「あいつだ、あいつ。いま下にいるやつな。かまわん撃て」
**「列車に当たる可能性もありますが」
**「砂漠を走る長距離列車だ、多少なら当たっても大丈夫だろう」
**「とりあえず……奴を都市に入れるな。危険人物だ。ここで始末しろ」
**「もろもろ明るみに出ても困りますしね……」ガチャ
616: 2014/09/07(日) 21:13:27.37 ID:hezoarQQo
ドガガ……ガガガ……
姫「きゃっ!」グラ
少年「うわああっ な、なんだ?この音」
魔王「そとで一体何が……」
バタバタドタ
黒服「んん……?女子どもしかいないじゃないか、男はどこ行った」
黒服「油断するな」
魔女「わー 来た」
魔女「そうそう。油断しちゃだめだよ。きれいな薔薇には棘があるって言うでしょ!!」
少年(自分で言うのか……)
姫「「自分で言いますのね」
魔女「魔王様と少年くんは、はいこっち!!」ガラッ
魔女「ここに入ってて!こいつらはあたしらがとっちめる!!」
姫「そ、そそそそうですわ、早く私たちにおまかせになって!」
魔王「で……でも あんな大勢……」
ドンッ
少年「ぶえっ」
魔王「うぐっ」
617: 2014/09/07(日) 21:14:28.35 ID:hezoarQQo
車掌室
車掌「ああーーー!!一体何がどうなってるんだあああ!!」
O「ありゃあ……戦闘機かい!?警察のでもなさそうだが、なんで攻撃されてんだ」
車掌「あんたらのせいでしょうがーーーっ!!もうどうしてくれるんだああああ!!」
P「いや、あんなの知らないけどね! なんだろ!?」
O「なんだろうなぁ……うおおぉっ!?」
ドガガガガガッ
P「キャーッ! マグニチュード7.0相応の揺れが私を襲うぅっ!!」ドンガラガッシャーン
O「うおおぉーー!こりゃたまらん!!」ドンガラガッシャーン
車掌「おわっ!! ちょっと……」ドンッ
車掌「………………あ」
O「ん?」
P「え?」
618: 2014/09/07(日) 21:15:53.05 ID:hezoarQQo
あ間違えた
OとPはAとBです
OとPはAとBです
619: 2014/09/07(日) 21:18:08.51 ID:hezoarQQo
魔王「うう……いたた。 ? 彼らは……?」
少年「あ、ここ先頭だ。列車を運転するところだよ」
少年「でもなんだか様子が……?」
車掌「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャーーーーーッ!!!もうこの列車は終わりだァーーーーーーヒャハーーー!!!!」
A「急にはっちゃけてどうしたの?おじさん」
車掌「列車が第二自動操縦に切り替わった!おめーらが押すからよぉー!!」
B「戻しゃいいじゃん?」
車掌「戻せないんだよっ!レバーごととれちゃったから!とれちゃったから!!」
魔王「横から失礼するが、第二自動操縦とやらに切り替わると何が不都合なのだ?」
車掌「ふひひ……第一自動操縦は街から都市への一方通行、いままでこれで列車は走ってた」
車掌「第二自動操縦は街から別の街への一方通行、大昔に使われてた路線なんだ……」
車掌「いまはもう、使われてない…………何故だか分かるかい……」
A「なんで?」
B「ていうか緊急事態なら問いかけとか時間の無駄やってないで、さっさと教えてよ」
車掌「お前らのせいだろうがぁ!!」
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
620: 2014/09/07(日) 21:19:20.22 ID:hezoarQQo
車掌「使われなくなった理由は、その路線の途中に大きな酸性泉が出現したからなんだ」
車掌「列車丸ごと沈んでしまうような、どでかいやつ……」
車掌「このまま進んだら、おしまいだぁ!!」
車掌「全員強酸に溶かされてグロ氏体だぁぁ!」
少年「さんせいせん……?それって異常気象の影響で砂漠に現れるっていう、あれ?」
A「サ行多くて言いづらいな」
B「えーなに、それってかなりやばいってことじゃない!?列車止めなきゃ!!」
A「よし車掌、列車止めろ!!」
車掌「だから止めらんねえっつってんだろーが!!」
少年「というか止めても黒服が乗り込んできてまずいんじゃ……!?」
B「戦闘機で狙い撃ちだね」
A「よし車掌、列車止めるな!このまま走り続けろ!」
車掌「くそがぁぁぁ!!アホどもめがぁぁぁ!!」
魔王「……」
魔王「うむ……とにかくこのままでは都市に行けないばかりか、全員まとめて氏ぬ羽目になるか」
少年「…………はあ」ガクッ
621: 2014/09/07(日) 21:21:09.42 ID:hezoarQQo
ワーワーワー
ギャーギャー
A「うおおおお!どうするどうする!俺まだ氏にたくねえぞ!!」
B「私だって氏にたくなーい!!やだー!!」
車掌「俺だってまだ親孝行してねえよー!!かーちゃーん!!」
少年「……」
少年「やっぱり無理だったのかな……」
少年「……」
少年「……なにしてんの?」
魔王「集中してる」
少年「……集中? ……ああ……また『魔法』?」
少年「魔法でもあったら、こんな状況もどうにかなるのかな……」
少年「……いいよなぁ……そういうの、あれば……なんでもできる魔法があれば……」
少年「……いいよな」
魔王「なんでもできるわけじゃない」
魔王「魔法はそういうものじゃない。だけど、今使うことができれば、いろんなものが救える」
少年「……」
魔王「少年、これが多分最後だ。何回も言ってきたことだけど」
魔王「もう一度思い出してくれないか……」
少年「あんたって、変なやつだな。これから氏ぬってときに」
魔王「それとも本当に忘れてしまったのか」
魔王「全部」
622: 2014/09/07(日) 21:22:57.02 ID:hezoarQQo
A「アーーーーーーーーーーッ!! なんじゃあの気色悪い色の土!?」
B「も、もしかしてあれが……海っ!?」
車掌「うわああああああああっ!! もうだめだああああああ!!」
車掌「海じゃないっ!! あれが酸性泉だっ!!」
車掌「全く俺の人生ちっぽけなもんだったなぁ……ふーっ……」
A「なに悟りの境地に立ってんだ、しっかりしろ車掌!!お前だけが頼りなんだよ!!」
車掌「親不孝な息子でごめんな、母ちゃん……先立つ不孝を許してくれ……」
少年「…………………………っ」
少年「分かったよ……分かった信じる!!あんたが言う通り全部信じるよっ!!」
少年「あんたが、僕の書いた話にでてくる魔王だって信じる!!」
魔王「もっと信じてくれ、まだ魔力が戻ってこない」
少年「うおーーーーーーーーっ!信じる!!!!すごい信じてるっ!!!」
魔王「まだだ。もっと!もっとちゃんと信じて!」
少年「全身全霊で信じてるっつーの!!はよ魔法使ってくれよ!!!」
魔王「……だめだな……君は心のどこかでまだ疑ってるのかもしれん」
少年「そんなこと言われても……!」
ガガガガガガガッ!! ガタン!!
A「う、うわっ」
B「きゃーーー!」
魔王「!」
少年「わ……!!」
ゴトン
少年「…………あ……あれ……??」
少年「これ……??」
623: 2014/09/07(日) 21:23:58.08 ID:hezoarQQo
* * *
バラバラバラバラバラ……
ガガガガガガガガッ!!
「よーしガンガン行け。撃て撃てー」
勇者「……っ」
妖使い「はは!君たち持ってるね。言っておくけど進路変更に関して、俺はなにもやってないよ」
妖使い「俺たちが出張るまでもなかったかな……」
妖使い「これで君たちはおしまいだ。あっちの世界で会おう」
妖使い「彼にとっては虚構の、でも俺たちにとっては現実のあの世界で……いっしょに終わりを迎えようじゃないか」
妖使い「短くて長かった君たちの物語に、エンドロールを付け加えよう」
勇者「いいや……まだだ」
勇者「エンドロールもエピローグも全部まだだ!!何もかもまだ終わってない!こんな中途半端なままで終われるか!!!」
妖使い「閉幕後まで舞台に居座るなんて無粋な役者だ。このままここにいるとして、君に何ができる?」
624: 2014/09/07(日) 21:25:00.53 ID:hezoarQQo
勇者「役者は役者でもただの役者じゃない」
勇者「俺たちはどうやらあいつが書いた物語の主役らしいからな」
勇者「お前になくて俺たちにあるものがなんだか分かるか!!」
妖使い「愚直さ……?」
勇者「てめえ、喧嘩売ってんのか!!! ちがう!!」
勇者「主役っつったらご都合展開だろうが!!」
勇者「使い古されたクリシェでも、黴が生えてる王道ストーリーでも……」
妖使い「なんでもいいって?」
勇者「そうだ、なんでもいい。創世主がそれを望むなら」
勇者「あいつの夢を俺たちが叶えてやろう。そしてもう一度思い出させてやるんだ」
勇者「俺は…… いや。俺が勇者だ!!」
625: 2014/09/07(日) 21:26:00.68 ID:hezoarQQo
* * *
少年「……なんで、ここに……この箱が?」
B「あっ それ、貧困区の家から盗んだやつ……
そんなおもちゃの箱ひとつ開けられずにこのまま氏ぬなんて、盗賊団として氏に切れないよぉ~」
A「お頭に怒られるぜっ!」
少年「貧困区から盗んだ……? じゃあ、この箱がなくなってたのってこいつらのせい……?」
魔王「それが、君が言っていた例の箱か?」
少年「……そう。そう……だよ」
少年「……妹が……大切にしてたものなんだ……僕が誕生日にあげたプレゼントのひとつ」
少年「……あいつにあげたもうひとつのプレゼントが、このなかにはいってる」
少年「どんな話だったっけな…………もう……あんまり覚えてないんだ」
魔王「ならば、開けて見てみればいいじゃないか」
少年「……無理なんだ。この箱はもう開けられない。鍵がかかってる」
少年「たったひとつの鍵は、あいつが持ってる」
魔王「鍵……?」
魔王「もしかして」
魔王「これ……その箱の鍵では?」
少年「……!? えっ……!?」
少年「なんで、その鍵……? あんたが持ってるんだ!!」
626: 2014/09/07(日) 21:26:56.42 ID:hezoarQQo
少年「ど、どこで? どこで拾ったんだ……?」
少年「ここにあるはずないのに」
魔王「……」
少年「妹の墓の中に……あるはずの鍵なのに……」
魔王「開けようか、少年」
魔王「忘れたのなら、思い出せばいい」
魔王「この鍵は、ある子からもらったものだ。私たちの世界の神様から」
少年「…………あ……ええ? あ、あんた一体……」
魔王「何度も言ってる」
魔王「私は……いや。私が、魔王だ」
少年「……え……え……!?」
少年「……」
少年「……魔王……」
魔王「なんだ」
少年「……僕は、箱を……開けるよ」
魔王「ああ」
627: 2014/09/07(日) 21:27:34.19 ID:hezoarQQo
カチャ
628: 2014/09/07(日) 21:28:00.51 ID:hezoarQQo
お兄ちゃんなんかだいきらい。
629: 2014/09/07(日) 21:29:43.36 ID:hezoarQQo
ひとりきりの部屋はとてもしずかです
外からは人がどなる声やわらう声、車がはしる音がきこえてきます
ずっと耳をすませて、時間がたつのをまちます
お兄ちゃんがかえってくるのをまちます
でもせきがとまらなくなると、そういう音はぜんぶきこえなくなります。
息をすうまえに、せきがでてしまうので、くるしくなって
いつもこのまま しんじゃうのかなって おもいます
でも きっとその方がいいんだとおもいます
くすりは高いので お兄ちゃんはたくさんはたらきます
二人分のパンを買うために くすりを買うために
お兄ちゃんは毎日がんばってしごとにいきます
夜かえってくるときには つかれた顔をしてます
630: 2014/09/07(日) 21:30:19.17 ID:hezoarQQo
そんなお兄ちゃんをみると こんなできそこないの体をもってうまれた妹なんて
みすてて どっかいってしまえばいいのにって
くすりをどれだけのんでも ぜんぜんよくならない妹なんて
みすてて どっかいってしまえばいいのにって
たくさん、おもいます
お兄ちゃんなんかだいきらい
お兄ちゃんといると どんどん自分がきらいになります
なにもできない自分がきらいになります
自分がいなければいいのにって おもいます
ほんとは気づいてたよ
夜ねむったあと、窓のそとを、じーっとみてるときがあるってこと
街の外をみていたんでしょう
自由になりたいっておもってるんでしょう
自分一人だけで どこかへいきたいって
いっていいよ お兄ちゃん
いままでがんばってくれてありがとう
もう枯れてしまった木に水をあげることはしなくていいのです
631: 2014/09/07(日) 21:30:51.16 ID:hezoarQQo
ある日 ひきだしのおくから 紙を二枚みつけました
むずかしい字がいっぱい書いてあったけど なんとかよみました
たぶん お母さんとお父さんがおいてったものだとおもいます
たんじょうびにもらったオモチャの箱に それをしまって
カギをかけました
ぜったい みられないように カギをかけました
632: 2014/09/07(日) 21:31:31.15 ID:hezoarQQo
― ― ― ― ―
時計の音が ちくたくずっと鳴ってます
お兄ちゃんがいつもかえってくる時間をとっくに過ぎていました
こんなにおそくなるまで かえってこないことは ありませんでした
だから、やっと決めたんだなって、おもいました
街をでて、どこかとおくに、お兄ちゃん一人でいくことに決めたんだなっておもいました
よかった
これでもう自分のことをきらいにならずにすみます
生かしてもらうだけのお荷物の自分とはおわかれです
これで兄も妹も幸せになれます
ほんとうによかった
よかった……
―――――ギィィ……
「……!」
どうして?
どうしてかえってきちゃったの?
なんで?
「ただいま……」
……なんで?
633: 2014/09/07(日) 21:32:11.73 ID:hezoarQQo
少年「!?」
少女「うわあああああああんっ!」
少年「えっ!? な、なんだ!?」
少女「お兄ちゃん、お兄ちゃん……っ」
少女「うえええええん……ひぐ……うわああああああああんっ!!」
少年「どうした? なにかあったのかっ?」
少女「おにいちゃぁん……うっう……えぐっ」
少年「……帰るの遅くなっちゃってごめんな。仕事……長引いてさ」
少年「ただいま」
少女「……おかえり、お兄ちゃん」
少女「お兄ちゃん……ごめんね。ごめんね……」
少年「なんでお前が謝るんだ?」
少女「ううん……」
634: 2014/09/07(日) 21:32:49.29 ID:hezoarQQo
お兄ちゃんはケガしてました
階段でころんだっていってたけど ほんとうかな
きずだらけの顔でわらってました
少年「お腹すいてんだろ? 遅くなって悪いな。ほら」
少女「……」
少女「お兄ちゃんは?」
少年「実は、今日どうしても帰り道に腹がへって、歩きながら僕の分は食べちゃったんだ」
少女「えーっ」
少年「悪い悪い。我慢できなかった」
少年「うまいか?」
少女「うん。おいしい。……でもおなかいっぱいになりそうだから、はんぶんこしよ」
少年「全部食え。食わないとチビのまんまだぞ」
少女「お兄ちゃんだってちっちゃいじゃん! はい」
少年「ちょ…… むぐっ」
少女「もうお兄ちゃんの口にはいったから、それお兄ちゃんのだよ」
少年「……お前だんだんズル賢くなってくな」
635: 2014/09/07(日) 21:34:13.42 ID:hezoarQQo
どうしてかえってきちゃったのかな お兄ちゃん
ずっとがんばってくれた、お兄ちゃん
だいきらいなんてうそだよ
だいきらいなのは自分だよ
ほんとうはだいすき
だから 今日 お兄ちゃんを解放してあげることにしました
少女「……ね、お兄ちゃん」
少女「……ずっとだまっててごめんね」
少女「ずっとだましてて……ごめんね」
少女「……もういいんだよ」
少女「いいことおしえてあげる……」
少女「カギをね……あけてあげる」
少女「ばいばい。お兄ちゃん」
カチャ
636: 2014/09/07(日) 21:35:26.41 ID:hezoarQQo
少年「それ……オモチャの箱」
少女「これ、みて。この紙」
少年「……診断書? お前……病院になんて行ったこと、ないだろ」
少女「あんまり覚えてないけど、昔お母さんがつれてってくれたこと、あるような気がする」
少女「たぶん、そのときのじゃないかな」
少年「…………、……これって」
少女「ね、ここの字、『不治』っていうのは、くすりじゃ治らないって意味だよね?」
少女「……ごめんねお兄ちゃん。ずっとだまっててごめんね」
少女「あのね……だからね」
少年「…………」
少年「ばか。こんなのうそに決まってるだろ。どうせヤブ医者が適当に書いたんだ」
少女「でも……」
少年「お前はまだ小さいから診断書全部、読めなかっただろ。別のところにちゃんと薬でも治るって書いてあったよ」
少年「お前の病気は治るよ。大丈夫!弱気になったら治るものも治らないだろ!心配するなよ」
少年「……な!!大丈夫だから。……大丈夫なんだよっ……」
少年「……うっ……ぅ……ちゃんと僕が治してやるから心配すんな」
少年「僕はお前の兄貴なんだから。絶対治してやるから」
少女「……」
少女「……」
少女「ちがうの」
637: 2014/09/07(日) 21:36:25.67 ID:hezoarQQo
カサ……
少年「……?」
少女「……」
少女「これ、みてね」
少女「…………血がつながってないの」
少女「……お兄ちゃんは本当のお兄ちゃんじゃないの」
少女「本当の……兄妹じゃないの……」
少女「いままでだまってて、ごめんなさい……」
少女「…………だから……だから、ね」
少女「もういいよ……」
少女「妹じゃないの。他人なんだ。だから、がんばってくれなくていいよ……」
少女「自由になっていいよ。どこでも好きなところに行って、いいんだよ」
少女「いままで……ありがと……だましててごめんね……」
少年「……」
少年「…………知ってたよ」
少女「えっ?」
少年「……なんだ。見つけちゃったのか」
少年「僕も知ってたよ。僕たち血がつながってないってさ」
少女「じゃ……じゃあ……なんで」
少年「お前は僕の妹だよ。血がつながってなくたって、僕はお前のお兄ちゃんだ」
少年「……こんなもの箱に入れてたのか?ばかだな。もっといいもんしまっとけよ」
少女「……うっ……ひぐ…………うっ……」
少年「どこにもいかないよ。ちゃんと帰ってくるからな」
少女「ほんとに……いいの……」
少年「そんなこと気にすんな」
少女「……うん……うんっ……」
少女「これからも……お兄ちゃんってよんでいい……?」
少年「当たり前だろ」
638: 2014/09/07(日) 21:37:54.81 ID:hezoarQQo
少年「こんな紙切れ、捨てちゃおう。いいよな?」
少女「うん……」
少女「じゃあ、今日からあのノートいれていい?」
少年「いいけど……あんなのでいいの」
少女「うん。夜、お兄ちゃんに読んでもらうときに、カギをあけるからね」
―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――
―――――――
少年「こうして勇者と魔王は、二人なかよくいつまでも幸せに暮らしました」
少年「めでたしめでたし。おわり」
少女「めでたし、めでたし」
少女「あはは……」
少年「よく飽きないな。そうだ、教会に新しい本入ったらしいから今度そっち読んでやるよ」
少女「でもそのあと、またこれも読んでね……ボクお兄ちゃんのこの話だいすき」
少女「あっ……そうだ。なにか足りないとおもったら、あれがないよ、お兄ちゃん」
少女「ペン、かして……ボクがかく」
少年「?」
少女「エイチ……エー、ピーがふたつ……。ワイ……イー、ディー。ピリオド」
少女「ハッピーエンドでおわらないとだめでしょ?」
少年「あはは!お前、これピーじゃなくてキューだよ。逆!ディーもそれじゃビーだ」
少年「読むのはできるようになってきたが、書くのがまだまだだな」
少女「そうだっけ……? でも、ボク、このあいだ じしょつかえたんだよ。えらい?」
少年「えらい、けど。そのボクっていうのも、ちょっと変だぞ。お前女の子なんだから」
少女「? でもお兄ちゃん、ボクっていってる」
少年「そりゃ僕は男だから……。まあ、そうか。女の子の友だちいないもんな」
少年「……まいっか。別に、お前はお前だし。じゃ、そろそろ寝るぞ。灯り消す」
少女「うん……おやすみ、お兄ちゃん」
少年「おやすみ」
639: 2014/09/07(日) 21:40:20.43 ID:hezoarQQo
少女「くらいね……ちょっとこわい」
少年「目、つぶってごらん」
少女「もっとくらくなるよ」
少年「ならないよ。ほら、夜空に星が見えるだろう。
真ん丸の月が真上にあって、ねむるまで僕たちのこと見守ってくれるよ」
少年「こわくないだろ?」
少女「うん……こわくない」
少年「明日になれば、東から太陽が昇る。青い空に白い太陽が輝くよ。
朝が来るのもあっという間だ」
少女「うん……きれいだね……」
少年「また、明日な」
少女「またあした……お兄ちゃん」
少女「またあした」
――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――
――――――――――
640: 2014/09/07(日) 21:41:02.80 ID:hezoarQQo
「お兄ちゃん」
「……」
「今度は、いっしょに書こうよ」
「……」
「ボクもいっしょに書いてあげる」
「……」
「…………」
641: 2014/09/07(日) 21:41:44.72 ID:hezoarQQo
少年「うっ……うぅ……うっ、ぐ…………」ガリ
h
少年「こんな兄ちゃんでごめんな……うっ……ぅ」カリ
ha
少年「僕がお前を引きとめてた。一人きりになるのが怖かった」カリ
haq
少年「息をするのも辛かったのに……ボロボロの体だったのに……」ガリ
haqq
少年「8年も……がんばって生きてくれて……ありがとう……っ」ガリ
haqqy
少年「下らなくてありきたりな物語だったけど……お前のためだけじゃない。これはお前と僕のための物語だったんだ……」カリ
haqqy e
少年「僕も……それなりに好きだったよっ……!お前が好きになってくれたこの話が好きだった……」ガリ
haqqy en
少年「今でも、好きだ」ガリッ
haqqy enb
少年「忘れないよ」カリ
haqqy enb.
少年「絶対に、忘れない」
642: 2014/09/07(日) 21:42:34.97 ID:hezoarQQo
少年「……なあ」
少年「氏は別れか? じゃなきゃ忘却か?」
少女「ううん。ちがうよ。氏は友だち」
少女「こわがらないであげて。かなしいかもしれないけど、うけいれてあげて」
少女「いっぱい泣いても大丈夫だよ……ちょっとずつおもいだしてね」
少女「そうしたら、いつかぜったいにまた心からわらえる日がくるからね」
少年「僕はまだちょっと時間がかかりそうなんだ」
少年「まだここに、いてくれるか……?」
少女「ずっといるよ」
少女「みえなくなっちゃっただけ」
少女「呼びかけてくれたら返事するよ。お兄ちゃんが泣いちゃったら、涙ふいてあげるよ」
少女「わらってくれたら わらいかえすよ」
少年「……ありがと」
少年「心配かけないようにするよ」
少年「ちゃんといつか、絶対前を向く。でもそれはお前を忘れることじゃあない」
少年「ずっと忘れない」
少年「お前と生きたこと」
少年「僕の大事な妹のこと」
少年「いままでずっと、ありがとな」
643: 2014/09/07(日) 21:44:09.70 ID:hezoarQQo
―――――――――――――――――――――
――――――――――――――――
――――――――
車掌「うわーーーーーーーっ もうだめだ酸性泉に突っ込むぞーーー!!」
A「ドロドロに溶けちまうなんて俺はごめんだぞチクショー!!」
B「私だって氏ぬならきれいなまま氏にたいーーーーっ!!!」
車掌「かあちゃーーーーーーーーーん!!」
ガクンッ!!
車掌「うっ!?」
B「ぎゃー! また揺れた……いたた」
A「…………!? ……???」
A「なんだ……これ!? おいおい車掌さん、最近の列車ってなあ、空飛ぶ機能もついてるのか?」
車掌「はあ!?そんなもんついてたら酸性泉に突っ込むだの騒ぐ前に対処しとるわい!!」
A「じゃあこれは一体なんだってんだ?」
少年「列車が……空飛んでる……」
少年「……あんたが?」
魔王「ふう、間一髪だったな。このまま都市まで行ってしまおう」
魔王「また私に力をくれてありがとう、創世主くん」
少年「……! 目の色が……」
魔王「あ……ああ、そうか。姿も元に戻ったのか。怖がらせてしまってすまんな」
少年「…………。……いや」
少年「すっげーかっこいいよ。魔王って感じで」
少年「きっとあいつもそう言うだろうな」
魔王「……」
魔王「実は自分でもけっこう気に入ってるんだ」ニコ
644: 2014/09/07(日) 21:45:29.15 ID:hezoarQQo
* * *
妖使い「…………!!」
妖使い「おいおい……参ったね。このタイミングか」
妖使い「あっはっはっはっは!馬鹿な選択をしたものだ!」
勇者「……」スッ
妖使い「おまけに剣までいつの間にか持ってるし……ってあれ?」
妖使い「その剣……まさか」
戦闘機黒服「列車が……浮いた!?一体なにが起こってる!?」
戦闘機黒服「わ、分かりません!とにかくボスに報告して指示を仰……」
パキッ
戦闘機黒服「……ん!?」
645: 2014/09/07(日) 21:46:42.41 ID:hezoarQQo
――――――――――――
――――――――
妖使い「…………あぁ……」
妖使い「全く」
妖使い「痛いな」
勇者「かっこ悪い姿ばっか見せるわけにもいかないからな……」
勇者「あっちの世界で待っててくれよ」
妖使い「どうして俺のことを斬れた?」
勇者「お前が攻撃を無効化するためにはそう意識する必要があったみたいだったからな」
勇者「だから、それより速く斬りつければいいと思ったんだ」
妖使い「なるほど……100点満点だね」
妖使い「そんな戯言みたいなアイディアをさらっと実現しちゃうあたり、君ってほんとに……」
妖使い「……」
勇者「なんだよ?」
妖使い「言おうか迷ったけど言おう」
妖使い「勇者って本当にいけ好かないしムカつくな。君のそういうところ俺は心の底から大っ嫌いだったんだ」
妖使い「せいぜいフラれて泣きを見やがれ」
スウ……
勇者「……嫌な遺言残していきやがって」
勇者「もうフラれてるようなもんなんだけどな」
勇者「……さて、行くか」
646: 2014/09/07(日) 21:52:25.37 ID:hezoarQQo
* * *
姫「あらかた敵は(おおむね魔女さんが)排除したけれど、なんだか列車の進路がおかしくないかしら……」
姫「窓から様子を見…………」
グラッ!!
姫「きゃあああっ!?」ガシッ
姫「な……なにっ!?お、落ちるぅ……!!」
姫「列車が浮いてる……!!まさか……これって!」
魔女「姫様ー!!大丈夫!?」ガッ
姫「ま、魔女さん! その姿……!」
魔女「うん! ……戻ったよ!魔力!」
魔女「これでもう、黒服の人間なんて敵じゃ……」
ガクンッ
魔女「わっ……?」フワ
姫「あっ、ちょっと。魔女さん、窓から投げ出されてしまいましたよ」
魔女「姫様もだね」
姫「私たち、宙に浮いてますよ」
魔女「ていうか落ちてるね! 氏ぬね!」
姫「イヤーー!」
647: 2014/09/07(日) 21:54:02.42 ID:hezoarQQo
ゴオオオオオ……
姫「あっあっ、でもっ魔女さん魔力が戻ったのなら、魔法で飛べるのではありませんこと!?」
魔女「うん、そうなんだけどね、箒がないと無理なんだよねー、ごめんねー」
姫「打つ手なし! あぁぁぁぁぁぁーーーっ!!」
ボスッ
姫「っう……うう……え?」
竜「よかった。姫様も魔女も無事でしたか」
姫「…………ドラゴン……? ……竜人さん……ですよね」
姫「……」
竜「すみませんね。こうするしかなかったもので。見て楽しいものでもないでしょうが、しばし御辛抱を」
姫「……い……いえ」
魔女「いてー」
騎士「ままま魔女さん大丈夫ですかっ!!」
魔女「うーん……?」
騎士「……」ドキドキ
魔女「誰だっけ」
騎士「その反応分かってた!僕は騎士です!!」
竜「魔力が戻りましたね。列車を動かしているのも魔王様でしょう」
魔女「勇者と魔王様のところに行こう!」
騎士「はい!」
姫「……やっと皆揃いますね」
648: 2014/09/07(日) 21:56:05.05 ID:hezoarQQo
* * *
頭領「あー……くそ、戦闘機はいきなり真っ二つになるし列車は浮くし、もう何が何やら……」
頭領「おまけに恐竜の化石は粉々になっちまったしなぁ……ついてねえ」
頭領「思えばこの件、最初からなんか変だったよな」
頭領「そろそろズラかるかね。おい、逃走経路の確保だ」
強盗団「はい!」
頭領「はあ……」チラ
竜「ところで魔女と姫様、その格好は一体?」バッサバサ
魔女「あーこれ? あたしたち実は強盗団n……」
姫「なんでもありません!!!」パ
騎士(強盗……?)
バサーーー……
頭領「………………」
頭領「ほんもの……?」ポカーン
頭領「恐竜……!?!?」
強盗団「お頭! 逃走経路についてですが……」
頭領「ばかやろう……やっとこれから面白くなるところじゃねーか!!」
強盗団「へっ!?」
頭領「行くぞ!野郎ども!!」
649: 2014/09/07(日) 21:58:01.56 ID:hezoarQQo
* * *
車掌室
バターン
勇者「魔王!!少年!!」
魔王「勇者くんっ」
魔王「魔力が戻った!私はまた魔法が使えるようになったぞっ」
魔王「ほら、君の怪我だって一瞬で治せる!久しぶりに使うから加減が難しいが、もうこれで私もっ」
勇者「お、おう」
魔王「……」
魔王「……ゴホン……とにかくこれで私も戦力となったわけだ。安心してくれ。もう転ぶだけの置物魔王とは言わせないぞ」
少年「魔法が使えるようになって相当嬉しかったんだな」
勇者「らしいな」
魔王「別に……そういうわけでは……もごもご」
バターン
姫「勇者!魔王さん!」
騎士「よかった……合流できて」
魔女「魔力復活おめでとー!かんぱーい!」
竜人「……!? 魔王様……なんて格好をなさってるんですか!」
勇者「お前ら!来たか」
魔王「こ、この服は私が選んだものではないぞ誤解するな」
650: 2014/09/07(日) 22:00:48.73 ID:hezoarQQo
わっちゃわちゃ
魔女「おー!少年やっとあたしたちのこと思い出してくれたんだー!」バシバシ
騎士「彼が創世主……ですか?」
魔王「だだだだからこれはパンツとあるが似て非なるものであって私たちの世界との文化的差異を鑑みれば決して破廉恥な履き物ではないのだ」
竜人「魔王様いけませんよ、そんなはしたない格好なさっては!ほらこの上着を羽織っていてください」
魔王「とても助かる」
竜人「なに残念そうな顔してるんですか勇者様……列車から落としますよ」
勇者「してねーよ!! つーかお前だろ!あの警官に俺のこと下着泥棒だとか何とか吹き込んだの!!なにしてくれてんだよ!」
姫「ちょっと皆さん、一旦落ち着きましょう?やっと全員そろったのですから」
―――――――――――――
―――――――――
―――――
落ち着いた
少年「じゃあ、みんな本当に本の中から来たんだ……」
少年「……」
騎士「なんか微妙な反応ですね……」
魔女「普通さー、君くらいの年の子ならさー、もっと興奮して嬉しそうなリアクションとるんじゃないの?」
少年「いや、十分驚いてるんだけど、なんかな……想像と違ってたっていうか」
少年「もっと真面目な連中の設定だったんだけど」
勇者「俺たちのどこらへんが不真面目だっていうんだ!?」
姫「全部じゃないかしら」
魔王「でも仕方あるまい。君の創造物であると同時に私たちは確固たる自我を持っているのだから」
魔王「全部が全部君の想像通りではないのも道理だ」
少年「うん、そうかもな。そっか。あんたらは別の世界で生きてたんだ」
少年「……僕に会いにこっちへ?」
竜人「はい。あなたに会いに」
勇者「よーしそろそろ都市につくな。全員そろえば警察だろうが戦闘機だろうが敵じゃない」
勇者「ガンガンいくぞ」
魔王「では速度を上げよう」スイ
651: 2014/09/07(日) 22:04:24.17 ID:hezoarQQo
都市
「ママー電車飛んでるー」
「はいはい、馬鹿なこと言ってないで行くわよ」
「うそじゃないもんー」
ズガーーーーーーーーーーー
魔王「ついたぞ」
勇者「よっしゃ行くぞ!!!」
魔女「おー!!……ってなにするんだっけ?」
騎士「確かに、僕たち何をするんですか?」
勇者「今更?」
勇者「カイシャに行くんだよ、カイシャ。直談判しにな。だろ、少年」
少年「……うん。そうだ。抗議しに行くんだ」
少年「みんないっしょに来てくれよ」
姫「もちろんですわ」
竜人「ええ、行きましょう」
魔王「それにしても変わった街だな。やけに縦長の鏡面じみた建物をところせましと乱立させるのがこの世界の伝統なのだろうか」
竜人「こんなに空がせまいと私も飛べませんねえ……」
勇者「移動手段どうするか……、 ……ん!?なんだあれ」
少年「うわ、駅の周り……パトカーだらけだ!警察だよ。
多分列車強盗を逮捕するためにいるんだと思うけど」
魔王「私たちもこのまま出ていったら確実に拘束させるだろうな」
姫「時間ロスしている場合ではないのでしょう?どうしますか」
魔女「そんなの考えなくても分かることじゃん!!」
魔女「押し通ろうよ」
652: 2014/09/07(日) 22:06:48.59 ID:hezoarQQo
ギャリリリリリリイイイイイイイイッ
パトカー「!? そこの車、止まれ!!ここはいま封鎖中だ!!」
パトカー「……。……おい止まりなさい!!警告を無視するなら発砲するぞ!!」
魔女「八宝菜だかなんだか分かんないけど……どかないならぺちゃんこにしちゃうよ!」
魔女「アクセル全開!!!!」グイ
ゴシャアアアアアアアアアアアアアッ
ウワーーー
ギャーーー
魔女「口ほどにもないねー」
勇者「魔女……うぷっ、ちょっと待て、操縦変われ……俺がやる」
少年「おええええ」
魔女「は、何言ってんの。勇者は追手撃退して。私の魔法は障害物があると効かないからさ、車の中からやっても意味ないしー」
魔女「ほら、パトカーやら黒服やら色々追っかけてきてるから。
私も運転頑張るけどさ、もし追いつかれそうになったらよろしく!」ギュイイイン
勇者「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ」
少年「氏ぬーーーーーーーーーーー」
―――――――――――
ブイーーン
騎士「ひ、ひ、姫様、ほんとに運転大丈夫なんですか!?」
姫「大丈夫よ。強盗団にいたときやり方は一通り習ったわ」
竜人「強盗団?」
姫「ハッ!! い、いや、違いますわ。聴き間違えていらっしゃいます竜人さん」
姫「ご……ご……ゴートゥーヘルです」
竜人「……?」
魔王「どういうことだ?」
653: 2014/09/07(日) 22:09:36.41 ID:hezoarQQo
ブロロロロロ
騎士「そ、それにしても先に行ってる魔女さんたちの車が、だいたいほかの車を蹴散らしてくれてるので、進むのが楽ですね」
姫「ええ。……ですが、すごい運転ね……中にいる人間が遠心分離されそうだわ」
竜人(あちらに乗らなくてよかった……)
魔王「ん? 道の先に何か見えないか。大きな岩?」
騎士「本当ですね。なんでしょう」
魔女「ん?おやおや? ねー勇者。なんか向こうに変なの見えるんだけどなんだと思う、あれ」
勇者「なんじゃありゃ?でかいが……車の一種か?」
少年「あ……あ、あれ……もしかして」
魔女「知ってんの?」
少年「えっと……もしかしてだけど……戦車っていうやつかも」
「「せんしゃ??」」
勇者「ただでかいだけの車だろ?魔女、そのまま突っ込め!お前の超絶操縦テクで振り切るんだ!俺たちの三半規管は気にするな!!」
少年「待てって!!ただのでかい車じゃない!なんかほら……筒みたいなのが前方に突き出てんだろ!!」
少年「あそこから、鉄の塊が多分飛んでくる。ここは一本道だから、砲丸が直撃しなくても車に衝撃が来て、きっと運転が難しくなるよ」
少年「なんで戦車なんて……!あんなの出動するのは本当に緊急事態だけで、例えばテロを制圧するためとか……」
少年「……」
少年(テロみたいなこと今してるんだった)
ガガガガ……ガコン
魔女「げっ!!なんか飛んできたけど!!」
勇者「分かった俺が斬る!おい窓開けてくれ!!」
魔女「えっ窓? え~~っとどこ押せば窓だっけ??これかな?」ウィーン
魔女「ぎゃーー!なにこれなんか動いた!!前見えない!邪魔!!」
少年「なにやってんの!?」
魔女「きゃーーそんなことやってる間にあたしたちぺちゃんこになっちゃうーーー!!」
勇者「だから早く窓開けろって!!!」
ヒュゥゥゥゥゥゥ…………
少年「うわああああああ……っ」
……パッ
少年「あああぁぁ……え?」
少年「消えた……?」
654: 2014/09/07(日) 22:12:20.20 ID:hezoarQQo
ブロロロロロロ……
魔王「ふふ。他愛ない」
騎士「い、いまの魔王さんが?」
魔王「造作もなきことだ。今の私には魔力があるのだからな」
魔王「ところで……」
魔王「どこの誰が戦力外で、むしろマイナス要因で、足手まといだったか?竜人」
竜人「……あ、結構根に持ってます?魔王様」
魔王「ほら!ほらぁっ!私のどこが役立たずだと言うのだっ、いまの活躍を見ろ!」ズガーン
竜人「いや、ですからあれは魔力0の魔王様のことを言ったのであってですね……」
姫「魔王さん!またあれが来ますわ!魔法で…… きゃっ!」
ボガーーーン
騎士「なに!?道がいきなり爆発した!?」
竜人「どうやらトラップのようですね。近くを通ると爆発するんでしょう。爆発物は複数仕掛けられてると見てまず間違いないでしょうね」
姫「なんですって!そ、そんな道を運転するなんて私には無理です……!」
騎士「姫様頑張ってください!!」
姫「だってどこに爆弾があるか分からないのよ、そんなの……!!」
魔王「それなら私がまたこの車を浮かしてしまえば……」
655: 2014/09/07(日) 22:15:49.87 ID:hezoarQQo
ボガンッ!!
騎士「あっ!また……!! 危ない!!」
姫「……!!!」ギラ
姫「あら危ないわ」ギャリリッッ
騎士「ほぁっ!?!?」
竜人「いっ!?!?」
魔王「ん?」グラ
ゴチーーン
魔王「ぎゅっ!!」
魔王「」
竜人「魔王様----------!!」
騎士「いてて……姫様いきなり乱暴な運転やめてくださいよ……
あっ!!またあの砲丸が飛んできます、魔王さんお願いしま……あれ?魔王さん!?」
竜人「魔王様しっかりーーーー!!!ああ、こうなったら私がなんとかしてみせます。騎士さん援護を宜しくお願いします」ジャキ
姫「まあ小賢しい爆弾ですこと」ギャリリリリ
竜人「さあ、行きます…………よっ!?!?」グラ
ゴチーーーーン
竜人「」
騎士「いやーーーーー主戦力2名逝ったーーーーーーーーーーーーーーっっ」
騎士「魔王さーーーん!!竜人さーーーん!!!起きてくださいよーー!!」
姫「なにを騒いでいるの騎士?一体何が……」チラ
姫「本当に何があったの!?竜人さんと魔王さんに一体なにが!?……まさか敵の攻撃を受けて……!?」
騎士「いや……えっと……敵というか……まあ……」
656: 2014/09/07(日) 22:18:22.08 ID:hezoarQQo
―――――――――――――――
魔女「おーー!砲丸消えたー!多分魔王様が魔法でやってくれたんだよ。さっすが魔王様」
勇者「よし、このまま先へ一気に進むぞ!」
少年「これなら……!」
少年「……あれ?」
勇者「次の砲丸なかなか消えないな」
魔女「なんか……おかしくない?」
少年「うんおかしい」
勇者「……まずいな」
魔女「うーん。まずいねー あははは」
少年「笑ってる場合じゃねーよっ!!」
少年「わーーーーーーーーーーーーーっ!!」
657: 2014/09/07(日) 22:20:31.15 ID:hezoarQQo
戦車の猛攻を何とか凌ぎつつ、コンクリートの地雷原を駆け抜ける二つの車
目的地である「会社」までの道のりは、それはそれは長いものだった
失った尊いふたつの戦力源――彼らの犠牲は無駄にしない!
胃袋の中身をぶちまけそうになりつつも勇者たちは都市の中心部にやっと辿りついたのだった!
少年「つ、ついた……こ……ここが会社、だ」
勇者「よ……よし。社長はどこにいるか、探すぞ……!」
魔女「オッケーー!!このまま車でいっちゃおー!!」
少年「ちょっ……」
悪夢は終わらない――
天空を仰ぎ見るかのように聳え立つ魔天楼
そのガラス張りの正面入り口は車が突っ込むと同時に粉々に砕け散った
プリズムの中、ガラスの破片が突然の闖入者に驚き逃げ去っていく様を、勇者と少年は眺めていた
重く前方からのしかかるGに耐える二人の目は暗かった
魔女だけが楽しそうだった
鳴り響く固定電話
駆ける背広服
発光する赤い「エマージェンシー」のランプ
オフィスの机から舞い上がった書類がひらひらと宙をたゆたった後、やがて床に着地する頃には、
暴走車は階段を強引に上がってその2階上のフロアに到着していた
そして今まさに、氏屍累々を新たに積み重ねようとしているところであった
658: 2014/09/07(日) 22:23:54.53 ID:hezoarQQo
今日はここまでです
663: 2014/09/14(日) 01:49:44.62 ID:NxApZR39o
さてもう一方の車はというと、何とか会社の中に侵入できたはいいが、敵に囲まれて大ピンチ中だった
なんとガソリンがなくなってしまったのである
徐々に車がスピードを落とすのを見るや否や、武装部隊がじりじりと距離を詰めてくる。
車体で強行突破も不可能になったので、ではもう外に飛び出て交戦するしかあるまいよ、と半ばやけくその状況の姫と騎士だった
姫「でもあなた一応我が国の騎士団所属よね?国の最後の砦たる精鋭部隊の一員よね?」
姫「騎士団の中じゃ結構優秀な期待の星って噂よね?」
騎士「や、やめてください!褒められるのは嬉しいですけど勇者さんや竜人さんと同じ次元だと思わないでください!!
僕はあんな化け物じみたことできませんからね!」
姫「銃から放たれた弾丸を剣で二分するなんて芸当、余裕よね」
騎士「だから無理です!!」
騎士「……無理ですが、これでも騎士団のはしくれです。なんとしてでも姫様のお命は守ります!!」
姫「騎士!」
意を決して車の外に出る騎士
その瞬間彼はぶっ倒れた
何故か?それはこのフロア全体に不可視の睡眠ガスが充満させられていたからである
謎のテロ集団を制圧するための手段として尤も確実なものだろう
見るといつの間にか武装部隊はガスマスクも武装済みであった
車内で姫はハンドルにもたれかかった
後部座席では魔王と竜人が気絶している
車のすぐ横では騎士が熟睡している
今この場で戦えるのは自分のみ……!
664: 2014/09/14(日) 01:54:57.01 ID:NxApZR39o
姫「……私がやるしかないわ」
いままで誰かに守られてばかりで、こうして誰かを守る立場になったことなんてなかった
彼女は追憶した。これまでの王女としての人生を。
いっとき目を閉じた。そしてすぐに開くj。
守る立場に立つことに少しの恐怖と、そして恐怖よりほんのわずかに多く高揚を感じていた
銃を握り締めた。まだ弾は残っている。
姫(……息を吸わなきゃいいのよ。呼吸を止めたまま戦えば……!)
姫(かかってきなさいっ!)
とはいえ……土台無理な話だった
かたや対人制圧に慣れた武装集団、一方銃を握って数日かそこらの娘っこ一人では勝負は見えていた
10秒とたたずに彼女は地に伏せさせられていたことだろう
この場に新たな侵入者たちが突っ込んでこなければ。
665: 2014/09/14(日) 09:37:37.78 ID:NxApZR39o
バリーーーン
頭領「おう、がんがんかませ」
強盗団「おっしゃーーー!!」
そう、こいつら強盗団も車でそのまま会社の中に入って来ていた
監視カメラを通して侵入者たちの様子を見ていた社員たちは思った。
こいつらは会社を一体何だと考えているのだろう?サーキットだとでも?
強盗団たちは流石に現代の戦い方に慣れていた
まず全員ガスマスクを装着すると、閃光弾や催涙弾、ロケットランチャーにマシンガン、アサルトライフルもろもろ取り出し始める。
姫が呆然としている間にあれよあれよと形勢逆転、お見事と言いたいくらいの手並みとチームワークだった
……だから知らず知らずのうちに呼吸を再開しそうになってしまった
ひとつだけ息を吸い込んで、姫は気づく
姫(あ)
姫(息吸っちゃった!!)
そういう問題ではないと知りつつ、息を吐きだしてみたが、やっぱり解決しない。
当たり前である
そして次の瞬間にはもう強烈な睡魔に襲われて、瞼が緞帳みたいになっていた
さらに次の瞬間には、立ってることすら困難になった
666: 2014/09/14(日) 09:40:38.79 ID:NxApZR39o
仰向けに倒れそうになった姫を誰かの腕が支える
夜霧のような視界の中、その誰かの背中に生えてる大きな翼が一度だけ羽ばたくのを……
そして彼が少し申し訳なさそうに眉尻を下げたのを見た
姫は言いたかった
そんな顔をする必要はないと
姫「わたし……竜人さんのことが好きなのですけど……」
姫「……だめでしょうか……」
―――――――――――――――――――
――――――――――――――――
――――――――――
強盗団「うおおおおおっ!!すっげえ風だ!!」
頭領「一体何だ……?ここは屋内だろ」
A「でもこれで睡眠ガスが霧散したぜ。やっとガスマスク外せる」
B「こっちの制圧は終わったよ」
竜人「えーと、あなたたちは?」
頭領「俺たちは強盗団。かくかくしかじかで勇者と名乗る男を追ってる」
頭領「あいつに恐竜の化石を壊されたんでな、代わりに竜の骨をもらう約束をしてるんだ」
竜人「……」
竜人「なるほど。手に入るといいですね!」
竜人「実は私たちも彼を追ってるのですよ。できればそちらの車に乗せてくれませんか?こちらの車はどうやらもう動かないようで」
頭領「かまわんぜ」
667: 2014/09/14(日) 09:51:01.72 ID:NxApZR39o
――――――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――
屋上
ドガッシャーーーン
魔女「ここが最上階ーーっ!」
少年「」
勇者「おえぇ……。……ん?待て最上階?というかここもう屋上じゃないか。社長はどこだ?」
少年「あ……。あれ、見て」
少年が遙か彼方の砂色の空を指差す
勇者と魔女の目には、それは最初羽ばたかずに飛ぶ、気味の悪い鳥の姿に映った
勇者「いや……違うか。あれ、列車に乗ってたときに見たな。ひこうきってやつか」
少年「あいつ、逃げたんだ。飛行機に乗って、どっか行くつもりなんだ」
魔女「じゃあ追いかけよ……」
勇者「地の果てまでな……」
少年「お前ほんとに勇者かよ。こええよ」
勇者「移動手段が問題だな」
ガシャーーーーーーーー
竜人「それなら問題ありませんよ。私がいます」
魔女「あー竜人、それにお頭!お頭たちも来たんだ?」
頭領「よう」
竜人「おや顔見知りでしたか。でも、せっかくなんですが、魔女。睡眠魔法を」ヒソヒソ
勇者「え?なんでだ?」
竜人「あれ?勇者様が竜の骨を彼らに渡すと、勝手に約束したのではありませんでしたっけ?私の了承も得ず?
いま私が彼らの前で竜の姿に戻ったら、またひと悶着になりますよね?」
勇者「わ、悪かったよ!勝手に言ったことは謝るからそんな怒るな!」
668: 2014/09/14(日) 09:56:42.33 ID:NxApZR39o
空の上
魔王「…………」
魔王「……いたた……」
少年「あ。起きた」
魔女「姫様と騎士はまだ起きないなー」
勇者「で、結局なんでそっちの車、ほぼ全滅状態だったんだよ?」
竜「いやー……それがですねー……うーん……」バッサバッサ
魔王「こうして上空から見てみると、つくづく私たちの国とは違うのだな」
少年「……ごちゃごちゃしてて汚い眺めだな。でも、僕こんなに空の近くに来たの、はじめてだ」
少年「ちょっと楽しいよ」
魔女「空飛ぶって楽しいよねー。分かる分かる」
少年「なあ、あんたらって僕の考えた世界に住んでたんだよな?じゃあさ、空って青かった?」
魔王「昼は青かった。朝は白くて、夕方は赤くて、夜は黒かった」
少年「そっかー。いいなー。僕も見てみたかった」
勇者「じゃあ見るか」
少年「え?」
勇者「雲に覆われてるだけで、ちゃんとその向こうにはまだあるんだろ?」
少年「え。あ。うん……そう……らしい……けど」
少年「……え、ほんとに?」
ヒュッ
――――パッ……
669: 2014/09/14(日) 09:57:29.24 ID:NxApZR39o
少年「……わ……っ!!ほ……ほんとに青いっ」
少年「これが……本当の空の色……」
魔女「わーなんか久々に見た気がするや」
少年「きれいだなぁ」
少年「僕、生きててよかった」
少年「妹にも見せたかった。……見たかな?」
魔王「ああ。見てた」
勇者「今も見てるだろうな」
竜「さ、そろそろ追いつきますよ。皆さん準備を」
670: 2014/09/14(日) 09:59:38.81 ID:NxApZR39o
* * *
社長「全く……なにがどうなっている」
秘書「さあ……」
社長「あーあー。この映像を見てみろ、会社が滅茶苦茶だ。一体何が目的なのやら」
秘書「今頃捕えて目的を吐かせているころかと思いますが」
秘書「それより社長、3時間後にA社とB社との共同会議です。いま一度資料のご確認を」
社長「はいはいっと」
社長「……? おい、なんか変な音が聞こえるな。空調を確認してきてくれないか」
秘書「……は」
秘書「い……?」
ギコギコ……
ギコギコ…………
社長「ん……? なんだ? 上から」
ガパッ
勇者「おっ、やっと切れた」
騎士「剣ってそういう風に使うもんじゃないと思うんですが……!」
魔女「さむーい!!早く中入ろうよー!」
秘書「…………は……?」
671: 2014/09/14(日) 10:01:03.83 ID:NxApZR39o
社長「な、お前らは……!!まさか……いや、どうやってここに……!!」
ダンッ
勇者「やーーーっと見つけたぜおっさん!!おうこらもう逃げ場はないぞ観念しろ!!話を聞け!!」
社長「話だと……!?お前ら、ここまで損害を出しておいて……!」
魔王「元はと言えば、そちらが手を出してきたのだろう」
魔女「そーだそーーーだ!なんならこの場で縛り上げて、その肥えた腹ピンヒールで踏みつけてブヒブヒ鳴かせたげてもいいんだよ!?」
姫「おやめなさい……はしたないわ」
竜人「騎士さんも赤面しないでください」
騎士「んなっ!?ししししてませんよ!!」
少年「……」スッ
少年「あの家は……あんたが金のために壊そうとしたあの家は、僕の大切な場所なんだ」
少年「今日はそれだけ言いにここまで来たんだ」
社長「貧困区のガキ……」
社長「……お前みたいな汚いガキが俺に話しかけてるって思うだけで反吐が出るな」
社長「お伴連れて今すぐ消えろ」
少年「……」
魔女「ちょっとー言わせておけば言いたい放題じゃん!」
少年「いや、僕は平気だよ」
少年「なんだか、本当に全然大丈夫になったんだ。
……魔王が言ったんだよな」
少年「自分の価値は自分で決めろってさ……」ズイ
社長「……」
少年「僕、お前のことが大っ嫌いだ。お前なんかに何を言われたって全然気にしないし、どうだっていい」
少年「お前の存在なんて僕にとっては取るに足らないものなんだ」
社長「……この…… 犬の糞ほどの価値もないガキが……一代で会社を世界トップクラスにまでのしあげた私に向かって……!!」
社長「身の程を知れ」ツカツカ
672: 2014/09/14(日) 10:02:41.92 ID:NxApZR39o
勇者「……」スッ
少年「どいて勇者」
勇者「ん?」
少年「これはやっぱり僕の問題だから、最後は僕がちゃんと決着をつけたいんだ」
少年「殴られてもいい。でも絶対倍返しにして殴り返してやる!!」
少年「僕はもう逃げない、ごまかさない。ちゃんと戦うんだ!」
勇者「お前……」
少年「こい……っ!!」
社長「クソガキ……!!」ブンッ
少年「……ッ」
ガチッ!!
社長「マ゛ッ!?!? 固っ!?!?」
社長「てめえ、本当に人間か……!?!?」
少年(あれ……?痛くない?)
少年(そうか……これが火事場の馬鹿力ということか!脳内くすりで痛覚が麻痺しているんだ!しめた!)
少年「…………この野郎!!覚悟しろ!!」ギロッ
社長「ちょっと待……」
少年「歯ぁ食いしばれーーーーーーーーー!!」
673: 2014/09/14(日) 10:05:29.02 ID:NxApZR39o
勇者「……」
勇者「なんかした?」
魔王「特に何も」
魔王「ただ、やっぱり大人と子どもでは体格差が違いすぎるだろう」
魔王「なので少年の方に少しだけ防御力と攻撃力増加の魔法をかけただけだ」
姫「それって……増加率はどれくらいなんですの?」
魔王「ほんの少しだ」
竜人「魔王様。具体的に」
魔王「だから、微量だと言っている」
勇者「おい……嫌な予感がするぞ」
魔王「ちょっとだけだ。心ばかりのエールのつもりで……500倍ほど」
騎士「え」
「ちょっと待……」
「歯ぁ食いしばれーーーーーーーーーっ」
ドカーーーーーーーン
竜人「…………」
騎士「……飛んでいきましたね……」
魔女「きたねー花火だぜ」
674: 2014/09/14(日) 10:07:28.97 ID:NxApZR39o
* * *
こうして少年の長きに渡る一瞬の大冒険は幕を閉じたのだった
さて、再び照明が灯された劇場をあらためて見渡してみると
帰り支度をはじめる者、欠伸をする者、顔見知り同士で何やら囁き合ってる者……
均等に並べられたシートにまばらに点在する人の影が、冬眠明けの熊みたいに動き出した頃だった
あるいはその中の一人か二人くらいは、不思議に思いつつ閉じた緞帳を見つめた者がいたかもしれない
少年が、勇者たちが、警官が、強盗団が、社長が、この後どうしたのか?
だけどもやっぱり、エンディングを迎えた物語にあれやこれやと付け加えるのも無粋だろうから
彼らのその後については、事実のみ簡潔に述べるくらいがちょうどよかろう
テロ組織とも暴走団ともつかないとある集団が、雲の下立ち並ぶビル群のひとつに突っ込んで屋上を目指す頃には
喜々面々、興味津津、戦々恐々、カメラマンと記者たちがハイエナのように群がって、騒動の様子は全世界中に放映されていた
そんな折、社長が空から降ってきた
観客諸君ご存じのとおり魔法で超強化された少年に殴り飛ばされたためである
社長の鼻血がつくことも気にとめずに押し寄せるマイクの波、その中心でただただ彼は混乱していた。
あるいはただ脳震盪を起こしていただけかもしれないが……
675: 2014/09/14(日) 10:09:19.11 ID:NxApZR39o
何とか理性を取り戻した彼が、この一連の騒動について、会社の正当性を主張しつつ弁解をはじめようと口を開いたときだった
記者の一人がわあ、と叫んだ
何か空から降ってきた、と。
そう、空から降り立ったのは社長だけではなかった
一体どこからばらまかれたのか、人為的なものなのか偶然だったのか、原因は全く不明だったが
とにかく空から書類が、まるで初雪のように舞い散って、やがて記者やカメラマン、それから野次馬たちの手に捕まった
雪と違うところは手に触れても溶けない点である。社長にとっては都合が悪いことに。
その書類の数々は、社長が今まで会社を大きくするためにしてきた諸々の不正の証拠だった
今後彼の会社が倒産するか、はたまたすんでのところで命綱をつなぐかは今のところ不明である
彼と社員たちの努力しだいだろう
「ああ……やっちまったぜ……」
「こればっかりは結果オーライだ。たまには勧善懲悪ものの役者になってみるのも悪かねえ」
「いや、俺たちもどっちかっつーと悪側なんスよね」
大騒ぎを通り越して一世一代の祭りみたいになってる下界を見下ろして
強盗団一味は高みの見物といったところだった
暇なので会社の上から下まで適当に調べていたとき、AとBがまたやらかし、その結果がこの有様である
「そろそろ帰るか」
「おう」
そしてそろそろ帰るところであり、またどこかに流れていく
676: 2014/09/14(日) 10:11:13.62 ID:NxApZR39o
事件から数日がたった後も、新聞の紙面や町角に据えられたテレビの画面から社長の鼻血まみれの顔と、
そしてボロボロになった会社のビルが消える兆しはなかった……
「やー、すごい騒ぎですね、先輩」
ここにもひとり、テレビの中のコメンテーターの顰め面を見ながら煙草をくわえる若者がいた
今日目が覚めてから同じ画面を5度は見た。いい加減興味も薄れてテレビのスイッチを切る
「あれ、先輩どこに行くんですか」
「ちょっとな」
「なに手に持ってんですか」
「なんでもねえよ」
彼は、だらしなく腰かけていた椅子から、弾かれたように立ち上がると上司に詰め寄った
そしてその手に握られていた辞表をびりびりと裂いてしまう
「俺、先輩のこと実は尊敬してるんですけど」
上司はしたり顔で頷く。「お前はいい警官になる」
「またいつか会おうぜ。お前が立派な一人前になったらな」
煙草の煙が去って行く彼を引きとめようと無駄な努力をしている。
後輩はぐっと言葉を飲んだ
そして沈黙のまま、米粒ほどの大きさになった上司の背中にようやく敬礼をした
677: 2014/09/14(日) 10:13:15.83 ID:NxApZR39o
* * *
ニュースの話題になったのは有名会社の不正だけではない
街と都市をつなぐ列車が空を飛んだとか、遙か古代に絶滅したはずの恐竜らしきものが飛んでいくのを見たとか
または、灰いろの重たい雲に覆われていたはずの空が一時だけ本来の青を見せたとか
そんな都市伝説みたいな噂が流れ、実際その空飛ぶ列車やドラゴンをカメラに収めた者もいたが
不思議なことに記録には残っていなかった。データからその部分だけすっぽり抜けているのである
やがて脳みその片隅、海馬に焼きつけられた記憶も、目まぐるしく変化する社会の中で次第に風化していった
この世界の人々は忘却する能力に長けている
――少年以外。
「きれいだったけど、すぐにまた戻っちゃったなぁ」
またいつも通り鈍色の曇天を、彼は仰ぎ見た
夕暮れ時の路地に人はまばらである
彼が立ち止まって上空を見上げていても、誰も文句は言わない
「でも、いつかまた、もう一度」
678: 2014/09/14(日) 10:16:50.74 ID:NxApZR39o
少年の家
魔女「えー? せっかくこの家、壊されなくてすむようになったのに、結局出て行っちゃうんだ?」
姫「ですが、どちらへ? もしかしてお母様とお父様が……?」
少年「ううん。ちがうんだ」
少年「せっかく僕のために頑張ってくれたのに、ごめんよ」
少年「でもちゃんと分かったから。僕がどこにいたって、妹のことを覚えてる限り、思い出はそのまんまなんだ」
少年「あと、いますぐ出て行くわけじゃない。いつかの話だよ」
勇者「どうするつもりなんだ?」
少年「この街の隣の隣……砂漠を渡った先に学問都市がある。そこでいつかちゃんと勉強したいんだ」
少年「それで学者になる。あんたが見せてくれたあの青空と太陽を、この世界にもう一度取り戻して見せるよ」
竜人「……そうですか」
少年「ま、学校に入学するだけの金も学力も今はまだ全然ないから、当分また働いて金をためるさ」
魔王「金なら、」
ガチャ
頭領「話は聞いたぜ……ロマンだな。俺はお前の夢を応援する」
魔女「あー、お頭じゃん。久しぶりー。元気だった?」
姫「お頭さん!なんでここに……」
頭領「お前らこんな小さい部屋によく7人もいられるな。せますぎるだろ」
頭領「まあ……んなこたぁどうでもいいんだよ。ガキよ。この金を使って学校に入学するといい」ポイ
少年「うわっ! おもっ……」
頭領「俺は女とガキには優しいからな……遠慮なく使えよ」
勇者「自分で言うなよ」
少年「いや、いらない。盗んだ金で勉強なんてしたくないんだ。
ちゃんと自分で稼いだ金で行くよ」
頭領「あぁ……?」カチン
頭領「せっかくの俺の好意を無下にするたぁいい度胸だな、子ども」
少年「うわあああっ!?な、なにするんだよっ!離せよ!」
勇者「おい!子どもに優しい設定どこいった!やめろ!」
679: 2014/09/14(日) 10:18:24.98 ID:NxApZR39o
頭領は帰った
魔王「……だが、また働くと言っても、君は……」
少年「うん。クビになった。でも、今日もう一回頭下げてくる」
少年「子どもの僕を雇ってくれるの、あそこくらいしかないからね」
姫「そ、それなら私たちも手伝いますわ。私も働きます」
魔女「ていうか、あたしたちなら大通りで魔法見せてあげればお金ガッポガッポ稼げるんじゃない?」
少年「大丈夫。僕はもうやりたいこと見つけたから、どんなことも耐えられるよ」
少年「土下座だってなんだってやってやるね!!朝飯前だ!!」
竜人「なんか変な方向に開き直ってませんかね」
少年「それにさ……」
魔王「ん?」
少年「なんとなく、勘だけど。あんたたち、今日の夜に自分の世界に帰る気がするんだ」
勇者「え?そうなのか?」
少年「多分な。……じゃ、僕は工場に行ってくるよ。またな」
ガチャ
騎士「……そういえば僕たち、どうやって帰るんでしょうね」
勇者「……そこだよな」
680: 2014/09/14(日) 10:20:15.10 ID:NxApZR39o
工場
少年「……なんかすごい久々に来た気がする」
少年「……よし、いくk……」
○○「よう」ポン
少年「うおあっ!!」
少年「あ……あんたか。食堂から出てくるなんて……珍しいな」
○○「俺のことよりお前さ。みんな心配してたんだ。……生きててよかった」
○○「今日はどうしたんだ?」
少年「あ、うん。また、ここで働かせてもらおうと思って。
お金貯めて学校に行きたいんだ」
○○「そうか。じゃこれ使えよ」
少年「あ、うん。……うん? え? なにこれ」
少年「なにこれ……!?」
○○「俺一人だけじゃない、みんなからだ。大した額じゃないが、とりあえずこの街を出るのには十分だろ」
○○「学費は、ほらよ。これを自分で勝ち取れよ」ペラ
少年「このチラシ……奨学金? こ、こんなの無理だって」
○○「ばか、自信持てよ。工場で武器つくる時間を勉強にまわせば、お前なら余裕だって。 なあ、みんな」
コツコツ
「頑張れよな。応援してるぜ」
「たまにはこっちにも顔出せよな!」
「期待してるぞ」
「いろいろ勉強してこいよ~」
少年「みんな……」
○○「……頑張ってこいよ。お前はまだまだ若いんだから、なんだってできるさ」
○○「今日発てよ。出発は早い方がいい」
少年「……」
少年「ありがとう……」
681: 2014/09/14(日) 10:21:30.84 ID:NxApZR39o
* * *
―――夜―――
街 正面ゲート
少年「そろそろか……」
魔王「出発するにしては荷物が少ないのだな」
少年「元々あんまり物も服も持ってないし。これで十分なんだ」
少年「そういえばさ。あんたら、どうやって帰るの?」
魔王「……」
勇者「……」
「「「…………」」」
少年「え…… まさか……まじ?」
勇者「いやまあ大丈夫だろう。なんとかなるって」
少年「適当だなぁ……相変わらず」
魔王「私たちのことは気にしなくていい。君は自分のこれからのことだけ考えていればよいのだ」
魔女「頑張ってねー」
姫「あなたなら、今後何があっても乗り越えられますよ。なんて言っても私たちの創世主様なのですからね」
少年「……うん」
少年「ありがとう。僕を……僕たちを助けに来てくれて」
少年「もうみんなのこと忘れたりしないよ。ずっと、ちゃんと覚えてるから」
竜人「どうぞ達者で……」
騎士「創世主がこんな子どもだったとは、……驚きましたけど、会えて光栄でした」
少年「僕が大人になって、夢を叶えたら……またいつか会おう」
682: 2014/09/14(日) 10:25:27.58 ID:NxApZR39o
少年「魔王っ」
魔王「ん……?」
少年「あんたの名前は妹が決めたんだ。昔の月の神様の名前だよ」
魔王「……そうなのか。じゃあ後で礼を言わなければ」
少年「……」
少年「僕とあんたはけっこう似てる」
魔王「そうだろうか」
少年「顔じゃないよ。中身。未来を心配しすぎるところとか、怖がりなところとか、たくさんね」
少年「怖がらなくても大丈夫だよ。大丈夫にできてるんだ、みんな。
僕たちは自分で思ってるよりずっと強いんだ」
少年「氏は怖くない。友だちなんだって……妹が」
魔王「……」
魔王「ありがとう」
少年「こっちこそ、ありがと。あんたに会えてよかったよ。
最初は頭おかしー奴かと思って悪かった」
683: 2014/09/14(日) 10:32:30.39 ID:NxApZR39o
スタスタ……
シスター「おー……まだ出発してなかったか。間に合った間に合った」
少年「シスター」
勇者「ああ、あんたか。久しぶりだな。こっちでは世話になった」
シスター「やあ悪魔。願い叶えてくれたんだな。ありがとよ」
勇者「だから、俺は悪魔じゃ……」
シスター「代償に命でも何でも持っていけ。なんだ、遠慮をするな。血でも何でもいいぜ、ほら首筋がぶっとな」
勇者「ばか、いらねえよ!脱ぐな!!悪魔じゃないって言ってんだろ!!」
シスター「くっくっく……なに照れてんの?つくづくからかい甲斐のある奴だなぁ」
グイッ
勇者「えっ……?」
魔王「……あっ」
シスター「ん……?」
魔王「……こ、ここ。勇者くんの服に埃がついてたから、とっただけだ」
シスター「おやおやおやおや……まあまあまあまあ」
少年「はあ……シスター、そのへんにしてよ。あんたも見送りに来てるんだろ?」
シスター「くっくっく……」
シスター「まあ、悪魔でも何でもいいよ。とにかく色々礼を言いにね。
あと少年も元気でな。たまには帰って顔を見せに来いよ」
少年「もちろん」
684: 2014/09/14(日) 10:34:01.38 ID:NxApZR39o
騎士「あ。そろそろ本当に時間ですよ」
少年「うん、もう行かなくちゃ」
少年「……勇者。あんたの名前も妹がつけた。あんたのは、昔の太陽の神様の名前だ」
シスター「そうそう……」
少年「僕もいつかあんたみたいに強くなれたらいいな」
勇者「はっはっは。よせ、照れるぜ」
少年「ひょっとしたら」
少年「10年後……いや、1年後、もしかしたら明日にでも」
少年「また戦争が始まって、この土地はもっとボロボロになって、全員氏んじゃうのかもしれない」
少年「戦争になったら、僕も徴兵されるだろうし……学校どころじゃないね」
勇者「……」
少年「でも、たとえどんな未来が待ってようとも、僕は僕の夢から逃げないことにしたよ」
少年「勇者も応援してくれるだろ?」
勇者「……もちろん」
勇者「頑張れよ、少年!」
少年「……うん!」
685: 2014/09/14(日) 10:56:29.10 ID:NxApZR39o
少年「じゃあ、さようなら。みんな!」
少年「あいつによろしく」
シスター「元気でな」
騎士「気をつけて行くんだよ」
姫「さようなら……!」
魔女「ばいばーい!まったねー!」
竜人「ご飯ちゃんと食べるんですよ!」
魔王「さようなら、少年」
勇者「じゃあな!」
―――――――――――――
――――――――――
――――――
シスター「………………行ったか……」
シスター「……」
シスター「なあ、そういえば勇者。お前の剣、それって聖女の……」
シスター「葡萄十字…… あれっ?」
シスター「いない……?」
686: 2014/09/14(日) 10:58:11.98 ID:NxApZR39o
* * *
冥府
勇者「…………」
勇者「う……お?あれ、ここは冥府か」
鍵守「そうです」ニョキ
勇者「わっ お、お前いたのか」
鍵守「いました」ニコ
鍵守「彼にあってきてくれてありがとう。これでもうこのセカイはだいじょうぶ……」
勇者「そっか……よかった。戻ってこれたのか」
ザ……
魔王「勇者くん……と鍵守」
鍵守「魔王もありがとう……もうだいじょうぶ」
鍵守「いま、セカイを全部再編中だから……冥府の外にいくのはちょっとじかんがかかるけど……」
勇者「じゃあ、全部元通りになるのか?影に食われて消えた人間も魔族も、全員?」
鍵守「そのはずです……」
魔王「……」
魔王「私たちは彼に会ってきたが、君は会わなくてよかったのか?」
鍵守「……え……?」
魔王「彼は君の兄なのだろう」
鍵守「……」
勇者「え? ……?? ん?」
勇者「なに言ってんだ?あいつに弟はいないだろ。いるのは妹……」
魔王「勇者くん、気づいてなかったのか? 鍵守が彼の妹だ」
勇者「……へ……!? お……お前女の子だったのか!?」
鍵守「ボクはたしかにおんなのこですが……」
勇者「ええええええっ」
687: 2014/09/14(日) 11:00:21.28 ID:NxApZR39o
ここまでです
ここまで読んでくれた方々どうもありがとうございます
ここまで読んでくれた方々どうもありがとうございます
689: 2014/09/14(日) 17:55:25.94 ID:/HT+fuCvO
おつ!
引用: 勇者「世界崩壊待ったなし」
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