575: ◆4hcHBs40RQ 2013/11/20(水) 20:25:22.29 ID:jksZmrqN0


前回:苗木「…え? この人が校医?!」霧切「ドクターKよ」【前編】

投下、の前にちょっと一言。今後のスレ進行に関してみなさんにお願いがあります。

見ての通り1は医療関係者ではないし、トリックとか考えるのも凄く苦手です
なので、今後も手術にしろトリックにしろ原作の引用流用が普通に出ると思います。
ただクロスSSという作品の性質上、読者全員が両方の作品を見ている訳ではないので
仮に答えがバレバレだったとしてもみなさんの胸のうちに留めてもらえないでしょうか
上で展開予想はご自由にと書いたのですが、ほぼ答えがわかっている状態で、
多分これだよねって言うのはどちらかというと予想よりネタバレに近いと思いますので

片方の作品を知らない方も楽しんでもらえるために、どうかご理解ご協力の程お願いいたします。

576: 2013/11/20(水) 20:27:49.22 ID:jksZmrqN0

体育館を綺麗にした後、生徒達は娯楽室で遊んでいたようだった。
KAZUYAはすぐに舞園の元に戻り、何が起こったかを説明して舞園を安心させる。
そして午後は苗木が舞園の側にいるというので、KAZUYAは気分転換に部屋の外へ出た。


― 寄宿舎廊下 PM1:12 ―


桑田「お、きたきた」

K「桑田か。どうしたんだ?」

桑田「ああ。苗木がこれから舞園のとこに行くって言ってたからさ。
    もしかしたらここで待ってりゃせんせー来るかなーって」

K「待っていてくれたのか。すまんな」

桑田「またすぐ戻るのか?」

K「いや、苗木と石丸に頼んでおいたからしばらくは出歩いている予定だ」

桑田「あん? 苗木はともかくなんで石丸? あいつうるさいだろ」

K「理由がある。俺と苗木だけではいかんのだ」


577: 2013/11/20(水) 20:30:16.29 ID:jksZmrqN0

K「怪我が治れば、舞園はまたお前達と共同生活することになるだろう。その時、
  苗木しか頼りになる生徒がいなければ舞園はずっと苗木の側にいることになる」

K「それではかえって孤立する要因になるだろう。下手をすれば苗木も一緒にな。
  だから、比較的舞園に当たりが厳しくない生徒に頼んで順番に部屋に
  来てもらうことにしたのだ。今夜は霧切に泊まりこみを頼んである」

桑田「ふーん」


興味のないような感心したような微妙な返事をする桑田。ふと下を向き、ポツリと呟いた。


桑田「……せんせーってさ、ほんと優しいよな。みんなからあんま良く思われてなかった
    俺に対してもちゃんと相手してくれたしさ。今だって舞園に対していろいろしてるし」

K「医者として…いや、この場で唯一の大人として当然のことだ。俺はお前達の保護者だからな」


しかし、桑田はなんだか納得していないようだた。


桑田「俺さぁ……モノクマの言うことまともに取るのはシャクだけど、今朝
    あいつの言葉を聞いて思っちまったんだよ。やっぱ舞園許せねえなーって」

K「……」


578: 2013/11/20(水) 20:32:46.37 ID:jksZmrqN0

桑田「俺が狙われたことに関しては、俺もいろいろ悪かったって反省してるよ。
    …でもよ、苗木は違うだろ。あいつはずっと舞園の味方だったってのにさ」

桑田「せんせーも見ただろ? 俺がみんなから犯人扱いされて集中砲火されたの。
    本当なら苗木があれを食らってたんだぜ? すっげえツラいし苦しいし…
    舞園にもいろいろ事情とかあったかもしれないけどさ…やっぱ許せないわ」

K「…なんだ、お前。苗木のために怒っているのか? ならお前も優しい奴じゃないか」

桑田「な! …ちげーよ。べ、別にそんなんじゃねえって!」

K「フ、そう照れるな。お前はもう少し素直になった方がいいな」

桑田「うっせえよ! よけーなお世話だー!」バンバン

K「こ、こら。叩くなって。おい!」


適当に回避して、KAZUYAもふと真顔になる。


K「いやな、俺もその点に関して完全に許したわけではないのだ。だが、
  当の苗木が許している以上俺達が言えることなど何もないだろう?」

桑田「なーんかスッキリしないなー」

K「…これが本当の惚れた弱みという奴かもしれんな。彼らには彼らの世界があるのだ。
  もしかしたら舞園も、苗木なら自分の全てを受け入れてくれると思ったのかもしれん」


579: 2013/11/20(水) 20:34:40.64 ID:jksZmrqN0

K「ところで、俺はこれから開放された倉庫を見てみるつもりだが、お前も来るか?」

桑田「おう。俺はさっき一通り見てきたから案内するぜ!」


話しながら二人は倉庫に向かった。
倉庫には区画ごとに様々な物が所狭しと置かれている。


桑田「マジすごいぜ! 食いもの着るものゲームにガラクタ。いろんなものがあってさ!
    これで当分は暇つぶしに困らないですみそうだろ?」

K「そのようだな」


適当に辺りの物を手にとって物色しつつKAZUYAは考えていた。


K(…明らかにおかしい。黒幕は頃し合いを望んでいるはずなのに、住み心地を良くしてどうする?
  水や食べ物を制限した方が頃し合いも起こりやすくなるだろうに)

K(特筆すべきはゲームやガラクタ類だな。これらはこの建物に長時間住むことを想定して
  置かれているのだろう。この倉庫の中身を黒幕が置いたのか別人が置いたのを黒幕が
  放置したのかはわからないが、生徒がここで一生暮らすという選択肢も依然残っている訳だ)

K(あくまでフェア、ということか。それともそこに隠された何らかの意味があるのだろうか…)


580: 2013/11/20(水) 20:37:24.81 ID:jksZmrqN0

今朝のモノクマの言葉がKAZUYAの頭に蘇る。


モノクマ『オマエラは世界の誇る才能であり財産としてずーっと
      ここに保存されるんだよ。これほど名誉なことってあるかい?』

モノクマ『ここで生活できるってとても幸せなことだと思うんだけどなぁ』


K(もし俺の推測通り外の世界の情勢が決して良いものだと言えないなら、
  生徒達はここで暮らしていた方がかえって安全ということになるのか…?)

桑田「なあ、せんせー」

K「(いや、そんなことは…ハッ)何だ?」


少ない情報から思考を重ねるKAZUYAだったが、桑田に話しかけられて現実に戻る。


桑田「朝モノクマも言ってたけどさ、せっかく水着あんだしひと泳ぎしねえ?
    ずっと部屋にこもりっきりじゃ体もなまるだろ?」

K「ウーム、せっかくの誘いで悪いが俺は水練場には入れないんだ」

桑田「え? なんで?」


581: 2013/11/20(水) 20:39:50.65 ID:jksZmrqN0

K「プールの前に更衣室があるだろう? そしてその更衣室はお前達の持つ
  電子生徒手帳がなければ入れん。俺は電子生徒手帳を持っていないのだ」

桑田「ハアアアアアアッ? マジでっ?! なんだよそれ!
    俺今すぐモノクマのヤツに文句言ってくるわっ!!」

K「あ、おい…」


余計なことをしてモノクマを怒らせてはマズイと止めようとしたが、
桑田はあっという間にどこかへ行ってしまった。


K(まあ、流石にこの程度で殺されたりはしないかな)ポリポリ



― 自由行動 ―


久しぶりに個室から出てゆっくり出来たので、KAZUYAはコーヒーを飲みながら
食堂でぼんやりと中庭を眺めていた。そこに近づいてくる小柄な影一つ。


不二咲「先生、ここに座ってもいいですか?」

K「不二咲か。構わないぞ」


582: 2013/11/20(水) 20:41:10.49 ID:jksZmrqN0


不二咲は照れ笑いをしながらKAZUYAの向かいの席に座る。


不二咲「エヘヘッ」


事件が起こったのは望ましいことではないが、舞園の手術成功によって
KAZUYAが本物の医者だと生徒達に認知されたことだけは良かった。
こうして自分から話しかけてくる生徒が増えたのはKAZUYAにとっても素直に嬉しい。


不二咲「先生、さっきは苗木君を助けてくれてありがとうございました」

K「校医として当然のことをしたまでだ。大したことはしていない」

不二咲「ううん、そんなことないです。だって、もし苗木君があのまま元気になっても
     先生がいなかったらみんな毒が原因だと思ってきっとギクシャクしてたし。
     そうしたら、今度こそコロシアイが起こっていたかも…」

K「……」

不二咲「先生がいてくれたおかげで、僕達本当に助かってます! 大人の人が
     いるだけで安心感があるし、何より先生はスッゴく頼りになるし」

K「そうか。俺の存在が少しでもお前達の心の拠り所になれているのなら嬉しい限りだ」


583: 2013/11/20(水) 20:42:47.84 ID:jksZmrqN0

不二咲「僕も先生みたいに強くなれたらなぁ」


不二咲が夢見るように呟いた。少し意外に思ってKAZUYAは聞き返す。


K「強くなりたいのか?」

不二咲「はい!」

不二咲「僕…こんな状況なのに全然みんなの役に立てないし、いつも守られてばっかりで…
     強くなれば、もう守られなくて済むし僕もみんなを守ってあげられるし」

K「立派な心構えじゃないか。応援するぞ」

不二咲「でも…思うばっかりでなかなか実行出来なくて、いつも逃げてばっかりの
     僕が本当に強くなんてなれるのかなって…不安になるんです」

K「……」

不二咲「先生、僕はどうしたらいいですか? 僕みたいな弱い人間、
     やっぱり強くなんてなれないのかな…」

K「不二咲、それは…」


584: 2013/11/20(水) 20:44:46.92 ID:jksZmrqN0

不二咲「あ! ごめんなさい。急にこんな話をしても迷惑ですよね?
     僕、もう戻ります。話を聞いてくれてありがとうございました」


そう言うと、KAZUYAが止めるのも聞かず不二咲は去って行った。


K(不二咲…生徒達は皆それぞれ悩んでいるようだ。出来る限り話を聞かなくては)


・・・


KAZUYAがそんな風に考えていると、入れ替わりに今度は大和田に話しかけられた。


大和田「先公」

K「大和田か」

大和田「…その、さっきは苗木を助けてくれてありがとよ」


585: 2013/11/20(水) 20:47:03.09 ID:jksZmrqN0

K「礼を言われるまでもない。誰かが怪我をしたら俺を呼べ。すぐに診てやる」

大和田「……」


そのまま大和田は椅子に座りもせず突っ立っている。
何かを話しあぐねているようだった。


K「どうかしたのか」

大和田「俺はよ…いわゆる先生って周りから呼ばれてる人間が嫌えなんだ」

K「……」

大和田「ちょっと俺達より長く生きてるだけで、偉そうに説教ばっか垂れてよ。
     どうせあんたも思ってんだろ。バカみたいな格好してバカなことやってるって」

K「……」

大和田「親も学校の奴らも言うことはみんな一緒だ。バカなことはするな。
     勉強しろってな。俺達のこと何もわからねえくせにバカにしやがって」

大和田「特に、あの帝都大をトップで出たあんたみたいなエリートの医者には
     俺達なんてどうせプランクトンにしか見えてないんだろ?」


586: 2013/11/20(水) 20:50:46.55 ID:jksZmrqN0

K「プランクトンを馬鹿にするな。彼らがいなければ食物連鎖は成り立たんのだからな」

大和田「…あ?」

K「この世に無駄な命などない。一生懸命生きている命は皆等しく尊いのだ。
  …俺はな、この希望ヶ峰の前に加奈高校という学校の校医をやっていたことがある」

大和田「加奈高っていやぁ確か……あんたあそこにいたのか?」


加奈高はお世辞にも偏差値の高い学校とは言えない。むしろ不良がわんさかいる高校である。
世界を股にかけるトップクラスの外科医が行くにはあまりにも不釣り合いだった。


K「ああ、世話になった先輩に頼まれたからな。加奈高は…まあお前みたいなタイプの
  高校生がたくさんいたよ。みんな生きが良くてな。世間的には不良とか出来が悪いとか
  散々な言われようだったが、根は素直な良い子達ばかりだった。今でも思い出す」

大和田「……」

K「別に暴走族でも何でもいいさ。大人になってもそれでは困るが、若い頃には仲間と
  夢中になれることの一つや二つはあった方がいい。まあ、交通ルールは守るべきだと
  思うがな。お前達だって人を轢き頃したくて走る訳ではないだろう?」


587: 2013/11/20(水) 20:54:15.80 ID:jksZmrqN0

K「自分の生き方、好きな事に胸を張ればいいじゃないか? そうやって周りに
  劣等感を持っているということは、お前本当は自分に自信がないんじゃないか?」

大和田「……!!」


ビクリ、と跳ねるように大和田の体が震えた。次の瞬間、ダァン!と両手をテーブルに叩きつけ怒鳴る。


大和田「う、うるせええええええ! 自分に自信がねえだぁ? 俺は泣く子も黙る
     天下の暮威慈畏大亜紋土二代目総長だぞ?! 寝言は寝ながら言えっ!!」


そう言い放って大和田は食堂から走って出て行ってしまった。
しかしKAZUYAは涼しい顔をしてコーヒーを啜る。


K(――あの様子だと図星だな)


・・・


592: 2013/11/23(土) 23:25:31.81 ID:0fXB6Wiv0


読み終わった医学書を図書室に戻してまた新しい本を借りようとKAZUYAが
廊下を歩いていると、誰かが後ろから追いかけてきた。


石丸「先生! 探しましたよ!」

K「む、石丸か。どうかしたのか?」

石丸「先程はありがとうございました。先生のお陰でみんながパニックにならずに済みました!」

K「今日はみんなからその礼を言われるな。俺としては特別なことは何もしてないのだが」

石丸「無意味に疑心暗鬼に陥らなくて済んだのです。お礼も言いたくなりますよ」

K「それを言うためにわざわざ俺を探していたのか?」

石丸「いえ、違います。…そう! 本題は別なのです!」


言うやいなや石丸の瞳に炎が宿るのを見て、KAZUYAは内心嫌~な予感がしていた。


石丸「西城先生――授業をしてくださいっ!!」

K「…………ンム?」


593: 2013/11/23(土) 23:26:14.39 ID:0fXB6Wiv0


あまりに予想外の言葉過ぎてKAZUYAは思わず素が出る。


石丸「倉庫の中に参考書や問題集があったんです! 思えば、ここは学校なのに僕達は
    毎日遊んだり無為に時間を過ごしていて、今も刻一刻と外の学生達と差が付いている!」

石丸「監禁されたメンバーに先生がいたのは僥倖です。脱出してから困らないように、
    きちんと毎日勉強を続けなければ。と、いう訳で早速授業を行いましょうっ!!」

K「…まあ、勉強熱心なのは良いことだな。何かしていれば気も紛れるだろうし、
  俺で良ければ付き合おう。場所は保健室とお前の部屋、どちらがいい?」

石丸「何を言っているのですか、先生? 授業と言ったら当然教室でしょう?
    これからみんなも集めてきます。待っていてください!」

K「ん? 待て。お前一人の個人的な自習ではないのか?」

石丸「当たり前でしょう! 僕だけ一生懸命勉強しても、みんなは脱出後に社会から
    取り残されてしまう。そうならないためにも一緒に勉強すべきです!」


594: 2013/11/23(土) 23:27:02.99 ID:0fXB6Wiv0


この男は一体何を言っているのだ、とKAZUYAは密かに頭を抱えた。


K「こんな環境でも勉強したいという向上心は真に素晴らしい。俺ですら敬服する。
  だが、授業は全員参加ではなく有志を募って開くという形がいいと思うぞ」

石丸「何故ですか?! どうせ他にやることもないのです。学生の本分は勉強ですよ?
    人生は一度しかないのだから、時間を有意義に過ごす義務があります!」

K(確かに非の打ち所のない程の正論だ。いくら監禁されていると言っても、
  行動の自由まで奪われている訳ではない。いずれ外に出るつもりなら、
  その時困らないように余っている時間を使うべきという主張はわかる。だが…)


人間というのはそう単純な生き物ではないのだ。正しいことだけを機械のように
選択し続けられる人は数える程しかいない。そしてその数少ない人間の一人が目の前の
男なのだろう。しかし、他の生徒はそれ以外の大多数に属しているのだ。


K(監禁され頃し合いを強制されて、実際数日前に事件も起こっているという異常な状況下で
  授業をやろうなどと言えば、まず間違いなく正気でないという扱いを受けるぞ…)


595: 2013/11/23(土) 23:27:51.81 ID:0fXB6Wiv0


石丸はいつも正論しか言わない。だが時と相手と場所を選ばなすぎるのだ。
しかも、言っている内容が正論で頭も良いからそう簡単には主張を崩せずタチが悪い。
本人は良かれと思って言ってるのだし、大人のKAZUYAから見れば常に一生懸命な所は
可愛げがある…と言えなくもないが、同年代の子供達にそれが受け入れられるかは疑問である。


K(なんだか全く同じ心配を桑田の時もしていたような。ベクトルは綺麗すぎるほどに真逆だが。
  …とにかく石丸が暴走する前に急いで策を練ろう。今のままでは皆と溝が出来てしまう)


今朝のやりとりを見る限り既に石丸は空気の読めない奴という認識が出来ているようなので、
もはや手遅れかもしれないがこの監禁生活の保護者としては少しでも周りと馴染んでもらいたい。


K「授業…授業か。……そうだ。良いことを思いついたぞ」


・・・



596: 2013/11/23(土) 23:28:38.94 ID:0fXB6Wiv0


図書室に行くと、予想通りそこには十神が鎮座して本を読み漁っていた。


十神「ドクターか」


一瞥だけくれてまた本に視線を戻す。KAZUYAは本を棚に戻すと、十神に向き直った。
どうしても確認しなければならないことがあったのだ。


K「お前に聞きたいことがある」

十神「何だ?」

K「お前…本当は最初から俺の正体を知っていただろう」

十神「何故そう思う?」

K「俺が舞園を手術している時、お前だけは全く安否に興味を持っていなかった。
  それにさっきの事件の時も、皆が鼻血を信じられない中お前だけはすぐに納得した」


597: 2013/11/23(土) 23:29:34.71 ID:0fXB6Wiv0

K「俺が本物のドクターKだから、あの程度の手術なら簡単に行えるし
  見立ても正しいだろうと思っていたのではないか?」

十神「随分と自信家だな」

K「お前ほどではない。…極めつけは諸々の当番だ。他の生徒が警戒して俺を避ける中、
  お前は常に俺の班を選んだ。俺の近くにいれば安全だと考えたんじゃないか?」

十神「根拠が希薄で推理としては三流だな。今読んでいる本の半分以下だ」


読んでいた本を閉じ、十神はKAZUYAに向き直る。


十神「だがそうだな。結論は正しい。確かに俺はあんたを知っているし、過去に一度会っている」

K「…覚えていたのか」


15年前、KAZUYAがまだ高校生の時であった。KAZUYAの父・一堡(かずおき)は当時
十神家の当主であった十神の祖父を手術し、その際助手としてKAZUYAを連れて行ったのだ。
広大な十神邸でKAZUYAは何人かの孫達を見た。その一人が十神白夜だった。


598: 2013/11/23(土) 23:30:52.45 ID:0fXB6Wiv0


K「俺がモノクマに内通者扱いされた時、何故何も言わなかった」

十神「医術に限らず腕力頭脳共に世界最高クラスと称される男があの程度でやられてはな。
    いずれ世界の頂点に立つこの俺の主治医になってもらうのだ。あの程度のことは
    自分でなんとか出来ないようでは困る」

K(コイツ…!)


体格と鋭い目つきに反して、KAZUYAはとても寛容な男である。特に相手が学生なら、
人を傷つけたりしない限りは子供のすることと思って大半のことは許せる。
だが、この傲岸不遜な男に対しては流石のKAZUYAも苛立ちを隠し切れなかった。


K「お前、勘違いしてるんじゃないのか?」

十神「フン、何をだ」

K「今のままの態度を貫くなら、俺は主治医はおろかお前が病気になっても手術は出来んぞ」

十神「せざるを得ないさ」


599: 2013/11/23(土) 23:31:21.58 ID:0fXB6Wiv0

K「ふざけた態度を取るのもいい加減にしろ! 外ではどうだったか知らないが、
  少なくともこの学園の中ではお前はただの一高校生だ。部下もいなければ
  金の力も通じない。お前のような生意気な子供を捻るのなど容易いことなのだぞ?」

十神「医者のくせに脅迫をするのか」


KAZUYAと十神はそのまま黙って睨み合う。



        ◇     ◇     ◇



腐川冬子はいつも十神の後をついて回っている。今日だって彼と共に図書室にいた。
今はたまたま手洗いで席を外していただけなのだ。腐川が図書室に戻った時、
中から話し声が聞こえてきた。十神が誰かと話をしているなど珍しい。


腐川(盗み聞きじゃないわよ…万が一白夜様が襲われたら助けに入るためよ…)


600: 2013/11/23(土) 23:31:54.56 ID:0fXB6Wiv0


誰にとも言わず心の中で言い訳をして腐川は中の会話を聞いていた。


腐川(そんな、白夜様とあの西城とかいう医者が知り合いだったなんて…)


驚いたのはそれだけではなかった。


K『お前のような生意気な子供を捻るのなど容易いことなのだぞ?』


いつも生徒に穏やかな態度を取ってきたKAZUYAが初めて物騒な発言をしたことに
驚愕し、腐川は我を忘れて図書室に飛び込んでいた。


腐川「び、白夜様に手を出したら私が許さないわよ!」

K「腐川? 聞いていたのか」

腐川「あんたに白夜様の何がわかるのよ!」


601: 2013/11/23(土) 23:33:25.95 ID:0fXB6Wiv0

K「確かにそうかもしれん。だが、だからと言ってな…」

十神「じゃあ貴様に俺がわかるのか、腐川?」


助けに来たはずの腐川に十神は鋭い追及をかけた。


K「!」

腐川「えっと…それは…」

十神「臭うからここには来るなと言ったはずだ。部屋に戻ってとっとと風呂に入れ」

K「お前…!!」

腐川「あ、あ……ごめんなさい!」


KAZUYAが止める前に、腐川は口を手で押さえ図書室から走って出て行ってしまった。


602: 2013/11/23(土) 23:34:21.66 ID:0fXB6Wiv0


K「おい、腐川! …十神。お前、一体どれだけ他人を傷つけるつもりだ?」

十神「臭いのは事実だろう。じゃああんたは臭くても平気なのか?」

K「仮にそうだとしても言い方というものがあるだろう!」

十神「知った事か。いつも付きまとわれてこっちは迷惑してるんだ」

K「自分の味方によくそんな酷い態度が取れるな」

十神「味方? 俺に味方なんていないし頼んだ覚えもない」

K「警告してやる。今のままでは十神家はお前の代で潰れるぞ」


一族の名を出されて、流石の十神も眉をひそめた。


十神「…何だと?」


603: 2013/11/23(土) 23:35:10.68 ID:0fXB6Wiv0

K「俺が世界を飛び回っているのは知っているな? 俺は今までに色々な人間を見てきた。
  その中で、国家元首やゲリラのリーダーといった上に立つ者達には皆ある共通点がある。
  そしてそれは今のお前には決定的に欠けている物だ」

十神「……」

K「何に欠けているのか。それに気が付かない限り貴様に未来はない! よく覚えておくんだな」


本を手に取り、無言のまま睨む十神を置いてKAZUYAは図書室を後にした。


・・・


保健室に戻ると、気を取り直してKAZUYAは借りた本を読みふける。
そして、あることを思い出した。


K(…そういえば、大浴場が解放されたんだったな。見に行ってみるか)


604: 2013/11/23(土) 23:36:04.14 ID:0fXB6Wiv0

保健室で寝泊まりしているKAZUYAは当然ながら自分用のシャワールームを持っていなかった。
それで今までどうしていたかと言うと、一番頼みやすくまたまず断らないであろう石丸に
頼んで個室のシャワールームを借してもらっていたのだった。


K(案の定頼んだら快諾してくれた。人の面倒を見るのが好きみたいだな。本当に、良い奴ではあるが…)


男同士が仲良くなるには裸の付き合いが一番! 一緒に入りましょうと言われた時は
流石のKAZUYAも度肝を抜かした。あの狭いシャワールームに二人で入るのか?
…いや、結局入ったのだが。変な気でもあるんじゃないかとかなり警戒したのはここだけの秘密だ。

うん、当たり前だけど何もなかったよ。疑ってゴメン。


K(フム、普通の浴場だが…一つしかない。まさか男女共用なのか?
  うっかり男が入ってる時に女生徒が来たりその逆があるとマズイな。対策を考えるか)


しかし色々中を見ていてKAZUYAはあることに気が付いた。


605: 2013/11/23(土) 23:37:05.58 ID:0fXB6Wiv0

K(浴場は勿論、脱衣所にも監視カメラはない。そういえばシャワールームや
  トイレにもカメラはなかった。こちらとしては助かるが、明らかに妙だ。
  見えない場所で殺人が起こったらどうするつもりなのだ?)

K(カメラのない所をチェックするための眼があのモノクマという機械なのかもしれん。
  …しかし、俺の予想では恐らく盗聴器くらいはどこかに仕掛けてあるだろう)


だがカメラがないのなら黒幕の目くらましには使えるかもしれないと覚えておく。
色々細かく見ていると、誰かが脱衣所に入ってきた。


朝日奈「さっきちょっと覗いたけど、おっきいお風呂なんだよー」


入ってきたのは朝日奈と大神だった。


朝日奈「あ、先生! …もしかしてこれから入るの?」

K「いや、今は中の様子を見に来ただけだ。しかし、男女共用なのは問題だな」


606: 2013/11/23(土) 23:37:48.09 ID:0fXB6Wiv0

朝日奈「そうなんだよねー。私達が入っている時にうっかり男子が来たら困るし、
     こっちも男子の裸見ちゃったりしたら嫌だし」

K「声をかけてから脱衣所に入るのを徹底する。また、浴場の入口に何か男女の
  目印のような物を作って浴場内に入る時かけておけばわかりやすいかもしれんな」

大神「あとで山田に頼んでみたらどうであろうか。あやつは手先が器用だ」

K「そうしてみよう。…ところで、二人共風呂に入るのか?」

朝日奈「うん! さくらちゃんと一緒だよ」

K「そうか。……その、大神」


念の為、念の為に確認しておこうとKAZUYAは思ったがあまりの聞きづらさに口ごもる。


大神「安心せよ。我は女だ」

K「そうか…失礼だったな」


凄く気まずかったので早々に二人と別れ、KAZUYAは脱衣所を後にした。


612: 2013/11/24(日) 21:48:22.05 ID:FmR10o8E0


― 保健室 PM7:27 ―



KAZUYAは己の居城である保健室に戻り、久しぶりにのんびり過ごしていた。
いくら患者の同意があるとはいえ、やはり少女と密室に長時間二人っきりでは神経を使うのだ。


K(それにしても疑問だな。俺は薬品を避難させる時、輸血パックを確保できないのは
  辛いと内心思っていた。しかし、輸血パックはおろか保健室に何の異常もない)

K(案外黒幕は抜けているのか? ……そんな訳はないか)


体が鈍らないように筋トレをしていると、背後からモノクマが現れた。


モノクマ「ヤッホー、KAZUYA先生!」

K「モノクマか」

モノクマ「先生っていっつも僕が現れても驚かないよね。キャーキャー騒がれるのも
      ショックだけど無反応もちょっと寂しかったり」

K「それで、何の用だ? まさかお喋りでもしに来たのか?」


613: 2013/11/24(日) 21:49:16.58 ID:FmR10o8E0

モノクマ「違うよ! 僕は君達みたいに暇じゃないんだ。今日はこれを届けに来たのさ」

K「これは…」


モノクマがKAZUYAに差し出したのは、電子生徒手帳だった。


モノクマ「まったくさぁ、先生も酷いよね。桑田君を僕にけしかけたりしてさ。
      やかましいったらないよ。しつこいし途中から仲間呼んだりするし」

モノクマ「まあでも、確かに仲間はずれは良くないなーと思って、こうしてわざわざ
      先生にもプレゼントに来てあげた訳ですよ。感謝してよね!」

K「フン、偉そうに言うがこれは元々俺が持っていたものだろう」

モノクマ「ギク」


そう、KAZUYAは希望ヶ峰の正規の教員ではないため電子教員証を持っていなかったが、
それでは何かと不便ということで学園長からゲスト用の電子生徒手帳を借り受けていたのだった。


614: 2013/11/24(日) 21:50:18.25 ID:FmR10o8E0


モノクマ「ま、まあまあ。いいじゃない! ほら、前はゲスト用だから起動しても名前とか
      出なかったけど、僕が調整してちゃんと名前も出るようにしておいたからさ」ホラホラ

K「礼は言わんが、素直に受け取ってはおく」

K(今度桑田に会った時に礼を言っておかないとな。…あと、折角だから一緒に泳ぐか)


KAZUYAは【電子生徒手帳】を手に入れた!


K(校則が増えていると苗木が言っていたな。確認しておこう)


校則は>>53-54に加え、9.電子生徒手帳の他人への貸与を禁止します。の一文が加えられていた。


K(貸与を禁止。貸した方に罰はあるが、借りた方は罪に問われないということか?
  また、奪われて使われた場合は…いや、こんなことを考えるのはよそう…)


そして、また一心不乱に鍛錬を続けるのだった。


615: 2013/11/24(日) 21:51:31.91 ID:FmR10o8E0


― 大浴場 PM9:32 ―



夜、誰もいないことを確かめてKAZUYAは脱衣所に入った。


K(さて、風呂に入って久しぶりにゆっくり寝るか)


そう思った矢先、外から何かの喧騒が聞こえる。こちらへ向かってきているようだ。


苗木「二人ともやめた方がいいよ! 下手したら氏んじゃうって!」

大和田「うるせぇ! てめーらに俺の根性見せつけてやるよ!」

石丸「男が一度勝負すると言った以上は何があっても退いてはならんのだ!」


ああ、ゆっくりしようと思っていたのに騒がしい奴らが来てしまった、とKAZUYAは思った。


616: 2013/11/24(日) 21:53:11.28 ID:FmR10o8E0

苗木「あ、先生! ちょうどいい所にいた! 二人を止めて下さい」

K「勝負とか聞こえたが、一体何の話だ?」

大和田「この石頭が俺のことを根性なしって言いやがったんだよ!」

石丸「事実ではないか! 君は根性がないから言葉ではなくすぐ暴力に頼るのだ。
    たとえ君がどんなに暴力を振るったとしてもこの僕を屈服させることは出来ないぞ!」

苗木「それで、二人ともサウナで根性比べをするって言うんです。
    僕は危ないからやめようって言ってるんですけど二人とも聞いてくれなくて…」

K「(苗木も大変だな…)わかった。では万が一のことがないように
  俺が二人を見張っている。それなら問題なかろう。お前は帰っていいぞ」

苗木「(ホッ)先生がいるなら大丈夫ですよね。じゃあ僕帰るから、二人共あんまり無理しないようにね」

大和田「おう! 勝負の結果を楽しみにしてろや」

石丸「僕の勝ちで決まりだがな!」

大和田「んだと! 勝つのはこの俺だ!」


617: 2013/11/24(日) 21:54:21.27 ID:FmR10o8E0

苗木「ア、ハハ…では先生、お願いしますね~」スタコラ


そそくさと苗木は去って行った。


大和田「よし、早速勝負だ。行くぞ!」

石丸「ム、待ちたまえ! 君は服を着たままではないか」

大和田「ああ? ハンデだよハンデ。文系の委員長様にこの勝負は厳しいだろうからな」

石丸「あまり頭が良くない気はしていたが、君は本当に馬鹿じゃないのか?!
    …君だけにそんな真似をさせる訳にはいかない。僕も服を着たまま挑むぞ!」

大和田「ハア? 無理すんな。氏ぬぞ!」

石丸「いいや、僕はやる。やってみせるぞ!」

K「…二人とも服を着たままやるくらいならいっそ二人共脱いだらどうだ?」

大和田「(ピキィ!)テメーなんかの指示は聞かねえ!」

石丸「待ちたまえ!」


618: 2013/11/24(日) 21:56:21.16 ID:FmR10o8E0

バタバタと服を着たままサウナに乗り込む二人を見て、KAZUYAは呆れ返っていた。


K(図体はデカくても、やっぱりまだまだ子供だな…)ハァ…


2時間後。


サウナには服を着たまま汗を流す三人の男がいた。


K「……」

大和田(つかなんでこいつも一緒に入ってんだよ。しかも多少汗かいてはいるが
     ほとんど顔色を変えていないときた。化け物かよ…)

大和田「おい石丸…てめえ顔が真っ赤じゃねえか。もう限界なんじゃねえのか」


619: 2013/11/24(日) 21:57:30.89 ID:FmR10o8E0

石丸「なんのこれしき…顔が赤いのは元々だ…! 鍋焼きうどんでも食べたいくらいだよ」


二人とも汗まみれになり、だいぶ苦しそうである。


モノクマ「え、今の言葉本当?」

石丸「え?」

大和田「は?」

K「モノクマ…!」


サウナの扉を開け唐突にモノクマが入って来た。


K「お前、見張っていたのか?」

モノクマ「当然でしょ! いくら先生がついてるって言ったって、万が一事故で
      氏んだら困るし。コロシアイ以外で氏人が出てもみんなは納得しないよ」


620: 2013/11/24(日) 21:58:58.19 ID:FmR10o8E0


長時間熱い場所に晒され少しのぼせてはいたが、KAZUYAはモノクマの一言を聞き逃さなかった。


K(みんなとは誰だ…俺達の監禁生活は黒幕以外の誰かにも見られている?
  監視カメラも本当は監視のためではなくそのためなのか?)


それならば監視カメラの氏角がやたら多いのも頷ける。
男の裸なぞ見たい者は少数派だろうからだ。


モノクマ「でさぁ、石丸君。今の言葉なんだけど…ちょうど僕、夜食に鍋焼きうどんを
      作った所なんだよねぇ。凄い偶然! てな訳で特別に君に譲ってあげるよ!」






石丸「…………え?」


621: 2013/11/24(日) 22:00:58.50 ID:FmR10o8E0


― モニタールーム ―


江ノ島「まったく、私様特製のうどんが食べられるんだから感謝しなよ!」

戦刃「盾子ちゃん、このカップ麺三分経ったよ!」

江ノ島「ほいじゃ、いただきまーす」ズルズル



        ◇     ◇     ◇



さほど待たずに届けられた熱々のうどんを見て石丸は硬直していた。
こんなに体は熱いのに、背中からは嫌な冷や汗が出てくる。


石丸「」汗汗汗

K「……」

大和田(バカな奴。調子に乗って大口叩くからだ。ま、これで俺の勝ちは決まったな)


622: 2013/11/24(日) 22:01:53.76 ID:FmR10o8E0

K「…石丸」

石丸「…何でしょうか」

K「いやァ、サウナに長時間入っていたらすっかり腹が減ってなァ。美味そうだな、そのうどん」ジー

石丸「!」

K「生徒から食べ物を取り上げたりするのは非常に心苦しいが、良かったら俺に譲ってくれんか?」

石丸「せ、先生にそこまで言われたら譲らない訳には参りません! ど、どうぞ」

K「ウム、悪いな石丸。……ム、意外と美味い(関西風だな)」チュルチュル

大和田「……」

大和田(チ、助け舟出しやがって。…まあ、いいか。こんな形で勝負が
     ついてもこちとら興ざめだったしな。勝負はこっからだ!)


623: 2013/11/24(日) 22:03:49.47 ID:FmR10o8E0

K(水分と塩分が補給出来て丁度いい。それにしても…モノクマを動かしている奴は黒幕だと
  思っていたが、操作専門の人間がいるのか? 黒幕が夜食にうどんでは流石にな…)チュルチュル

K(やはり十神財閥を超える巨大組織なのだろうか。しかし、俺の存在を見逃したり輸血パックを
  そのままにしたり、どうも人員に余裕がない気がするが気のせいなのだろうか…?)チュルチュル


まさか真顔でうどんを食べながら自分達について考えられているとは流石の黒幕も思うまい。


石丸「…それにしても、先生は本当に凄いですね」

K「何がだ?」チュルチュル…ゴチソーサマ!

石丸「僕も大和田君もこんなに苦戦しているのに、先生だけはビクともしていない。
    …医者という職業はこんなにも強いものなんですね」

大和田(バカか。医者がすげーんじゃなくてこいつが特別なんだよ)


大和田が心の中でツッコミをいれる。


624: 2013/11/24(日) 22:05:41.00 ID:FmR10o8E0


K「まあ、そうだな。俺は患者がいれば世界中どこにでも行く。北極砂漠赤道直下のアマゾン…
  俺が動じていないのは慣れているからだ。アマゾンではこのくらい日常だからな」

大和田「…なんでそんなとこ行くんだよ。テメーなら待ってたって患者の方から来るだろ?」

K「俺の一族が代々医者だというのは前に言ったな? 祖先からの方針なのだ。患者が常に
  医者の元に来れるとは限らない。故に自分の足で患者の元へ向かうというのは」

K「それだけではない。幼い頃から医者になるために、厳しい訓練を受けさせられる。
  俺は物心がついた時には既にメスを握り、初めての手術は6歳の時だった」

大和田「ろ、6歳?!」

石丸「それは違法行為なのでは?!」

K「その時の患者は俺の親父だ。熊と間違えられたらしくハンターに散弾銃で撃たれてな。
  当時、家が山奥にあったのと台風だったのもあり、街から医者を呼んでも時間がかかる。
  幸いあまり難度の高い手術ではないからお前がやれと言い出したのだ」


625: 2013/11/24(日) 22:07:29.41 ID:FmR10o8E0

大和田(熊と間違われたって…まあこいつのオヤジだし、想像がつくな)

石丸「……」ポカーン

K「毎日毎日、遊ぶ時間もなくひたすら手術の練習。お陰で幼少時代には友人がいなかったな」

石丸「…先生は元々天才な訳ではなく、絶え間ない努力によって実力を培われたのですね」

K「石丸、俺は以前から気になっていたがお前はやけに努力という言葉を使うな。
  それに、どこか天才を嫌っているようにも見える」

石丸「…流石は西城先生、わかりますか」


そこで石丸は自身の身の上を話し出した。祖父が元総理大臣の石丸寅之助だということ。
祖父はいわゆる天才タイプで、何でもソツなくこなしていたこと。しかし汚職事件を起こし、
事業も失敗してその借金が今も石丸家を苦しめているということを。


626: 2013/11/24(日) 22:08:46.70 ID:FmR10o8E0


大和田(借金とかマジかよ…いかにも優等生な金持ちの坊っちゃんかと思ってたのに)

石丸「天才というのは悲劇です。世間から持て囃され、努力の大切さに気付かず、
    挫折知らず故に一度つまずいてしまえばあっという間に転落してしまう」

石丸「努力し確固たる力を身につけた者こそが報われる…世界とはそうあるべきです!
    むしろ、そうでない世界なんてウソっぱちだ! 凡人でも努力をすれば天才を
    超えられる! それを証明する為に、僕は努力に努力と努力を重ね今日に至るのです」

K「苗木から聞いたが、お前は三年連続全国模試一位だそうだな」

石丸「…そこまで辿り着くために僕は多大な犠牲を払ってきましたよ。
    お陰で、頭は良くなったけど僕はすっかり世間ズレしてしまった…」


ポツリと呟いて俯く石丸を、大和田は複雑な気持ちで見た。


大和田(こいつ、本当は自分がKYだっつー自覚があったんだな…)


627: 2013/11/24(日) 22:09:35.14 ID:FmR10o8E0

K「もしや、風紀委員の活動に熱心なのもそれに関連しているのか?」

石丸「先生は本当に鋭いですね。その通りです。みんなにもわかってもらいたいのです、
    努力の大切さを。そして、みんなが精一杯努力出来る環境を整えてやりたい。
    その為なら、僕はいくら自分の貴重な時間を割いても構わないのです」

K「政治家を目指しているそうだな」

石丸「はい。昔からの夢です。祖父のような甘い考えではなく、己の信念を持った
    政治家になり、全ての人々の努力が報われるような国を作りたいのです!」

K「そうか。お前ならきっと良い政治家になれるだろう」

石丸「ありがとうございます!」

大和田「……」

大和田(ずっと口うるさい優等生だと思ったが、こいつもこいつなりに色々あったんだな…)


二人の横顔を眺めながら、大和田はそんなことをぼんやりと考えていた。


628: 2013/11/24(日) 22:12:15.73 ID:FmR10o8E0

石丸「それにしても、幼い頃から訓練ばかりではさぞや大変だったでしょう」

大和田「俺だったら間違いなく家出してるな」

K「ああ。実際俺も一度だけ家出をしたことがある」

大和田「お、先公にもやっとまともな所があったか。高校? それともちょっと早めに中学か?」

K「俺が小学三年の時だな」

石丸・大和田「……」

K「医師としてとても大切なことを学んだ。当時、俺は犬を飼っていてな。
  名前はポロと言った。元は野良犬だったのだがとても賢い犬でな…」

大和田(おい、何で犬が出てくるんだよ。こいつがガキの時の話だから絶対もう氏んでるだろ?
     しかも、こいつの昔話で出てくるってことは絶対ろくなことになってねえ…)

K「さっきも言ったが、俺は放課後同級生達と一切遊ばず毎日厳しい手術の訓練だった。
  お陰で友達らしい友達が一人もおらず、ポロは俺にとって唯一の友達だったのだ」

大和田(やめろやめろやめろやめろ! 少しでも水分温存してえっつうのに余計な話をすんじゃねえええ)


629: 2013/11/24(日) 22:13:33.05 ID:FmR10o8E0

そんな大和田の心の声も露知らず、KAZUYAは彼の人生でも特に心に強く刻まれたほろ苦い思い出を話し始めた。

当時幼かったKAZUYAは厳しい父親にささやかな反抗的として、愛犬ポロを連れ家出をしたのだった。
しかし子供故に無計画な家出だったため、当然寒さと飢えの対策などしていない。ポロはKAZUYAの空腹を察し、
店からパンを盗み出したがその道程で車にはねられてしまった。KAZUYAは医療道具を仕込んだマントを家に
置いてきたことを後悔し、ポロを置いて家まで走ったがポロは無理にKAZUYAの後を追い、家に着くと同時に力尽きた。


K「俺がいつも羽織っているマント…お前達から見たら恐ろしいかもしれん。だが、俺は二つの大切なことを学んだのだ。
  医者は常に肌身離さず医療道具を持っているべきということ、そして患者は待ってくれないということだ」

石丸「そんな悲しいことが!(それで自ら患者の元へ…)」ダラダラ


KAZUYAの話を聞いて石丸がドボドボと泣くのは予想が出来たが、今回に限っては石丸だけではなかった。


大和田「ううう、ポロォォ! 何で待ってなかったんだよぉぉぉ! そこで待っていれば! うおおおお」ボロボロ

石丸「お、大和田君?!」

K「お、大和田?」


630: 2013/11/24(日) 22:14:28.08 ID:FmR10o8E0

石丸(凄い勢いで泣いている…そうか。大和田君は外見とは裏腹にとても情に篤い男なのだな…)

K(もしや犬が好き、とかか? 意外だな)

大和田「バカヤロー! 勝負の最中に悲しい話しやがってえええ!」

K「す、すまんな。水を差すつもりではなかったのだが。そうだ。折角だから今度はお前が何か話したらどうだ?」

大和田「ああ?! 俺にもお涙頂戴の話しろってか?!」

K「そうではない。そうだな…では、お前の自慢の暴走族について聞かせてくれ」

大和田「…武勇伝か。まあ、それだったらいくらでも話してやるぜ」


そして大和田も話し始める。自分と兄の大亜はダイアモンド兄弟として地元では有名で、
昔から日本一のチームを作るのが夢だったこと。二人で夢を叶えたこと。
一緒に暴走したり喧嘩をして暴れまわったことなどを生き生きとした表情で語る。


631: 2013/11/24(日) 22:15:34.88 ID:FmR10o8E0

K「兄をとても尊敬しているようだな」

大和田「ああ、兄貴は本当に偉大で立派だったからな」

石丸「立派、“だった”?」

大和田「…ああ、兄貴は氏んだんだ。事故でな」

石丸「そうだったのか。…それは失礼した」

大和田「…気にすんな。兄貴は俺に男と男の約束はなにがなんでも守れって教えた。
     そして兄貴は氏ぬ前に俺にチームを託したんだ。だから、俺は絶対に
     ここから脱出してチームの元に帰らなきゃなんねえ!」

石丸「ウム、みんなで結束して事に当たればきっと脱出出来る。共に頑張ろうではないか!」


しかし、KAZUYAはどこか浮かない顔をしていた。


K「絶対に…か。焦って早まったことだけはするなよ、大和田」


632: 2013/11/24(日) 22:16:09.65 ID:FmR10o8E0

大和田「ああ?! 何言ってんだ! テメー俺が仲間を頃すとでも思ってんのか?!」

K「普段のお前なら思ってないさ。ただ、すぐそうやって頭に血が上るだろう?
  俺はそれが心配なんだ。例えば十神に対しカッとなってうっかり殺さないと断言出来るか?」

大和田「うぐ…それを言われるとツレーな。わかったよ。あいつにはなるべく近づかねえし
     なにか言ってもなるべく相手にしねえようにする。それなら問題ねえだろ」

K「…そうだな」

K(十神以外とはそこまで問題は起こしてない筈だ。石丸とはよく揉めているが流石に殺意までは
  抱いてないだろうし、見た感じ石丸は鍛えている。一方的にやられることはないだろう)




K(…大丈夫、だと思いたい)


・・・


651: 2013/11/28(木) 23:41:53.82 ID:Vc3XORUt0

遅れた。再開


652: 2013/11/28(木) 23:42:20.74 ID:Vc3XORUt0


そんなこんなで話をしていたら、更に1時間が経過していた。


石丸「…………」グールグール

大和田「…………」グールグール

K(二人共ほとんど話さなくなったな。顔色も赤から青になり、発汗も悪くなっているようだ。潮時だな)

K「我慢比べはここまでだ。二人共、出るぞ」

大和田「…ああ? なに、言ってやがる。勝負はまだ…終わってねえぞ」

石丸「そうです…先生…ここまで来て、引き下がる訳には…」

K「ドクターストップだ。そんなに続けたいなら俺の腕を振り払ってみろ」


そう言うと、KAZUYAは二人の腕を掴んで無理やり立たせる。


653: 2013/11/28(木) 23:43:13.01 ID:Vc3XORUt0

大和田「やって…やろうじゃねえか」

石丸「いくら…先生と、いえども…」


しかし、立ち上がった瞬間二人は想像以上に体に力が入らないことに気付く。
KAZUYAの腕を振り払うどころか、実際は立っているのも精一杯だった。


大和田「ちくしょう…」

石丸「うう、力が…入らない…」

K「わかっただろう? これ以上ここにいると氏ぬ。出るぞ」


KAZUYAは二人が歩けないのを見て取ると、二人の背中から脇の下にかけて手を回し
そのまま抱え上げるようにして、ドアを足で蹴り開けサウナから出た。
一度水風呂に突っ込んで冷やした後、脱衣所に座らせKAZUYAは保健室まで走る。


654: 2013/11/28(木) 23:44:08.33 ID:Vc3XORUt0


K(Ⅰ度の熱中症だな。以前、食堂は夜間に入れないからと保健室に運んでおいて良かった。
  水1リットルに対しブドウ糖大さじ 4.5、塩化ナトリウム小さじ0.5を混ぜ経口補水液を作る)


保健室からブドウ糖と塩化ナトリウムを調達し、KAZUYAは手早く経口補水液を作って二人に飲ませた。

熱中症:Ⅰ度からⅢ度まであり、意識がはっきりしていて会話が可能な場合はⅠ度に該当する。
     言動がおかしい・意識がない・時間経過でも回復しない場合等は速やかに救急車を呼ぶこと。

経口補水液:食塩とブドウ糖を水に溶かした物。脱水症状の治療に用いられる。通常のスポーツ飲料でも
       代用出来ないことはないが、糖分が多くナトリウム濃度が低すぎるため低ナトリウム血症から
       水中毒を引き起こす可能性がある。特に乳幼児の脱水はスポーツ飲料で済まさないこと。


K「それを飲んでしばらくそこで休んでいろ」

石丸「…面目ありません」

大和田「チッ…クソ…」

K「気分が悪くなったらすぐに言え。大丈夫だとは思うが、あまり酷いと点滴の必要があるからな」

石丸「いや、流石にそこまでは…」


655: 2013/11/28(木) 23:45:11.03 ID:Vc3XORUt0

本職の医者だけあってKAZUYAはテキパキと対処していく。


大和田「…何でオメーはそんなピンピンしてんだよ」

K「いや、本当に偶然だがうどんが役に立ったな。汁を全部飲んだから塩分と水分の補給が出来た。
  あと俺は独自の呼吸法で発汗量をある程度ならコントロール出来るのだ」

大和田「…バケモンだろ、オメー」


何かと規格外のKAZUYAにもはや大和田も呆れ果ててしまった。
最初はグッタリしていた二人だが、少し休んでだいぶ元気になってきたようだ。


石丸「ム、何だ?」

K「どうかしたのか?」


656: 2013/11/28(木) 23:47:07.70 ID:Vc3XORUt0

石丸「それが、僕の電子生徒手帳の電源が付かないのです」

大和田「壊れちまったのか? 俺のはどうだ。…あん? つかねえ」

K「…お前達。いくら完全防水で衝撃にも強いとはいえ、精密機器を長時間高温多湿な場所に
  おいておけば壊れるに決まっているだろう。恐らく内部で熱暴走を起こしたのだ」

大和田「へー、そういうもんなのか」

石丸「ね、熱暴走?! うう、僕としたことが…」

K「ちなみに俺はマントと一緒にロッカーに仕舞っておいたからこの通り無事だ」ピローン♪

石丸「ど、どうすれば…学園から貸与された物を壊してしまうなんて…」

K「恐らくモノクマに言えば直してもらえるだろう。奴は機械の扱いに長けているようだしな」

K(ゲスト用だった電子生徒手帳を俺仕様にしたのも奴だ)

大和田「ゲッ、あいつに頼むのか…」


657: 2013/11/28(木) 23:49:45.31 ID:Vc3XORUt0

石丸「仕方ない。では、明日モノクマに頼んでみます」

K「ウム。ところで、二人共もう俺がいなくて大丈夫だな? 俺は自室にシャワールームが
  ないから、ここで汗を流して保健室に戻る。お前達も適当な所で帰るといい」


そう言うと、KAZUYAは服を脱いで見事な肉体美を披露しながら浴場へと消えて行った。
その後ろ姿を見送る大和田の表情はどうにも悶々としている。


大和田「ああ、クソ。ムカつくぜ…」

石丸「…何だか、僕らの勝負というよりは二人がかりで先生に挑んで返り討ちに遭ったみたいだな」

大和田「まったくだ。なーんかスッキリしねえ」

石丸「だが、僕は君を見直したぞ! 外見で勝手に根性なしと判断していたが、
    君は見た目よりもずっと根性のある男だったな!」

大和田「ああ? …そりゃこっちの台詞だぜ。口だけの文系委員長様かと思いきや、
     なかなかどうしてやるじゃねえか。正直驚いたぞ」


659: 2013/11/28(木) 23:53:02.60 ID:Vc3XORUt0

石丸「感心したのはそれだけではない。暴走行為そのものは僕は立場上許容出来ないが、
    君が非常に仲間思いで義理人情に篤く勇敢な男だというのは話していてよく分かった。
    今まで失礼な言動をしていたことを心から詫びる! すまなかったな、大和田君!」


そう言って石丸は頭を下げた。照れ隠しと、もう一つ別の感情を持って大和田は顔を逸らす。


大和田(なんて真っ直ぐな目ェしてやがんだよ…)


確かにほんの数時間前までは、自分とこの男はいがみ合っていたのだ。毛色が違いすぎて、
けして和解など出来るはずもないと思っていた。だが、そう思っていたのは自分だけのようだ。


大和田(折り合いの悪いヤツでもイイ所がありゃ素直に認める。自分が間違ってるってわかったら
     どんな相手でも即座に全力で謝れる…こいつは、俺が思っていたよりもずっと強え男だ…)

石丸「さあ、つまらない喧嘩などやめて仲直りしようではないか!」


ズイッと突き出された手を大和田は力強く握り返した。石丸は満面の笑みを浮かべる。


660: 2013/11/28(木) 23:55:07.61 ID:Vc3XORUt0

石丸「では、これから改めてよろしく。大和田君!」

大和田「こっちこそだ。……兄弟!」

石丸「――兄、弟?」


驚きのあまり石丸は思わず目を見開く。大和田は再び顔を逸らして頬をかいた。


大和田「…ほらよ、俺達は同じ地獄を見て同じ強敵と戦った戦友みたいなもんだろ?
     単なるダチよりは兄弟の方がしっくりくんじゃねえかと思って呼んでみたが、イヤか?」

石丸「兄弟…兄弟…いや、とても良い響きじゃないか。よし、僕と君は今日から兄弟だ!」

大和田「ああ、よろしく頼むぜ兄弟! ハッハッハッ!」


KAZUYAの知らない間に二人は義兄弟の契りを交わし、肩を組んで楽しそうに部屋へ帰って行った。


661: 2013/11/28(木) 23:58:46.99 ID:Vc3XORUt0


― 不二咲の個室 AM1:24 ―


サウナでの決戦も無事終結し、誰もが寝静まった頃。
机の上にPC、工具、その他部品類を散乱させて不二咲千尋は熱心に何かをしていた。

カチャカチャ…


不二咲(はぁ~、西城先生って本当に格好良いなぁ。刺された舞園さんを一人で手術してた時も
     思ったけど、今日だって血まみれの苗木君を鼻血だってすぐに見抜いたし)

不二咲(背も高いしガッチリしてて凄く強そう。ううん、あの大和田君の
     パンチを片手で止められるんだもん。絶対強いに決まってるよ!)

不二咲(そのうえみんなに優しくていつも冷静だし。みんながパニックになった時は
     率先して場を収めたり事件の時は桑田君や犯人の舞園さんもかばってたし…
     こんなに頼りになる先生って初めて。みんなも多分同じように思ってるよね)


そして不二咲は本日何度目かのため息をついた。


不二咲「(ハァ、僕もあんな風になれたらなぁ…)あ、いけない。つい手が止まっちゃってた…」

不二咲(ダメダメ、夢ばっかり見るのは。僕は僕の出来ることをやらなきゃ。
     『あれ』が出来さえすれば僕だってきっとみんなの役に立てるはずだし)


662: 2013/11/29(金) 00:00:07.31 ID:ca1uji6v0


― 食堂 コロシアイ学園生活七日目 AM7:51 ―


昨晩面倒事をKAZUYAに押し付けてしまった罪悪感を持ちながら、苗木は食堂へとやってきた。


苗木(あの後どうなったんだろう…先生がついてるから万が一のことはないだろうけど)

「ハッハッハッハッハッハッハッ!!」

苗木「……へ?」


なんだか豪快で楽しそうな笑い声が遠くから聞こえてくる。
食堂に入ると苗木は異様な光景を目撃してしまったのであった。


大和田「なーに言ってんだ兄弟!」ハッハッハッ!

石丸「君こそ冗談はよしたまえ、兄弟よ!」ハッハッハッ!


昨日まで散々喧嘩して肩を掴み合っていた二人が、今は逆に肩を組んで笑い合っている。


663: 2013/11/29(金) 00:01:39.83 ID:ca1uji6v0

苗木「えっと…」

大和田「お、うーっす! 苗木」

石丸「昨日は迷惑をかけてすまなかったな、苗木君!」

苗木「え? えーっと…」

K「……」フイッ


苗木は困惑して側にいたKAZUYAの方に目をやるが、KAZUYAは微妙な表情で目を逸らすだけだった。
どことなくモアイのような顔をしている。その横に座っている桑田に話を聞いてみた。


苗木「その、どゆこと…?」

桑田「知らねー。せんせーもよくわからねーって言うし、まだお前の方が
    なんか知ってんじゃねえの? つか、朝から気持ちわりぃったらねえよ」


664: 2013/11/29(金) 00:03:57.15 ID:ca1uji6v0

朝日奈「ホントホント。さっきからずっとあんな感じでさ。見せられるこっちの身にもなってよねー」

大神「仲が悪いよりは良い方が良いに決まっているが、些か度が過ぎているな…」

石丸「ハッハッハッ! 男同士の濃厚な繋がりは女子にわかるはずもない!
    男同士の友情とは血よりも濃いのだッ!!」

大和田「さーすが兄弟! いいこと言うぜぇ!」

桑田「俺男だけどよくわかんねーわ…」

苗木「で、勝負はどっちが勝ったの?」

大和田「そういう問題じゃねえんだよ」

石丸「そんなことは忘れてくれ! 忘れろ忘れろ忘れろビームッ!!」


石丸が密かに練習していたとしか思えない見事な動きで謎の振付けの必殺技?を放つ。


665: 2013/11/29(金) 00:05:44.97 ID:ca1uji6v0

苗木「」

一同「」

K「」ブフォッ!!


食堂の時が、一瞬止まった。


K「ゴホゴホゲホゴホッ!」

桑田「ちょ、おい?! 大丈夫かっ?!」

不二咲「せ、先生! しっかりしてぇ!」

K「ゴホゲホガホゴホッ!」


全力でむせるKAZUYAの背中を桑田と不二咲がバンバンと叩いてやる。


666: 2013/11/29(金) 00:09:16.51 ID:ca1uji6v0


山田「うーむ、忘れろビームの破壊力は西城カズヤ医師を吹き出させる威力、と」

苗木「それ何気にかなり凄くない?!」


周囲の反応をわかっているのかいないのか、石丸は自信有りげに胸を張っている。


石丸「お茶を吹き出す程笑ってもらえるとは有り難い。僕にだってユーモアくらい言えるんだ!」フンスッ!

大和田「ナイスだぜ兄弟!」

石丸・大和田「ウワッハッハッハッハッハッハッハッ!」

苗木「あ、はははは…(どうしよう、この二人…)」

桑田(うぜー)

不二咲(いいなぁ。楽しそう。僕もいつかあの二人の間に入りたいなぁ)

K「ケホッ……」←あの後放置しなければ良かったと内心後悔している


・・・


667: 2013/11/29(金) 00:12:51.88 ID:ca1uji6v0


朝食会終了後。珍しくKAZUYAが前面に出て一つの提案を出した。


K「朝食も済んだ所で、俺から一つ提案があるのだが」

石丸「何でしょう、先生」

大和田「おう。なんだろうな、兄弟」


そちらにはなるべく目を向けずにKAZUYAは全員に向け発表した。


K「今日はこれから授業を行おうと思う。9時に1-A教室に集合してくれ」

石丸「おお! いよいよ授業をしてくださるのですね!」


待ってましたと言わんばかりに石丸の顔が輝いた。


大和田「こんな時も授業したがるなんて流石兄弟だな!」

朝日奈「勉強かぁ。普段だったら好きじゃないけど、たまには気分転換にいいかも」


668: 2013/11/29(金) 00:14:22.42 ID:ca1uji6v0

桑田「授業とかマジかよ…」

江ノ島「マジありえなーい」

葉隠(適当に聞き流すから問題ないべ)

苗木「まあ、何もしないで過ごすよりはいいんじゃないかな」

霧切「何を教えてくれるのかしら」

山田「保健体育なら歓迎なのですが…」


思い思いの反応をする生徒達だが、意外にもそこまで悪くはなかった。
流石超高校級だけあって適応力も高いのかもしれない。が、


十神「俺は行かんぞ。勉強なら自力で十分出来る。大体このメンバー向けに
    開催して俺を満足させられるレベルの授業が出来るか怪しいものだ」

K「安心しろ。カリキュラムには自信がある。これは全員参加だからな。
  ボイコットする奴は石丸に引きずってでも連れてきてもらうぞ」

セレス「それでは流石の十神君も来ない訳には参りませんわね?」クスクス

十神「…チッ」


683: 2013/12/05(木) 20:38:19.73 ID:xg7lGdME0


― 1-A教室 AM9:00 ―


石丸「起立、気をつけ、礼!」


委員長である石丸の号令によって授業が始まる。教壇に立っているのが
マントを羽織った大男でなければ、それは日常の一コマとして違和感がなかった。


K「これより授業を行う。ただし、俺は医者だ。医者が行う授業とは何だと思う?」

山田「ま、まさか本当に保健体育?!」

桑田「おい、ブーデー。なに興奮してんだよ!」

K「そうだな。保健体育には違いない。俺がこれから教えるのは応急処置の方法だ」

不二咲「そっか。応急処置の方法をみんなで勉強すれば怪我人が出ても安心だもんね」

十神「クッ、クハハハハ! 一体何の授業をするかと思えば!」


珍しく十神が笑った。と言っても、こちらを見下して文字通りに嘲笑っている。


684: 2013/12/05(木) 20:39:45.08 ID:xg7lGdME0

十神「何が仲間だ! 何が結束だ! 口では吐き気を催すような綺麗ごとを並べるくせに
    内心では生徒のことを全く信用などしていない。大した先生だな? ハッ」

石丸「と、十神君! そういう言い方は…!」

十神「違うのか? 事件が起きなければ応急処置の知識などいらんだろう」

霧切「十神君、それは…」

苗木「それは違うよ!」BREAK!


思わず十神に物申そうとした霧切であったが、それを遮って苗木が反論した。


苗木「だって、ドッジボールの時僕が怪我したじゃない? 普通の日常生活や
    学校生活でも怪我をすることなんてよくあるし、知ってて損はないよ」

大神「ウム、我のように闘いに身を置く者としても非常に重要だ」

大和田「まあ知っといて損はねえよな」

桑田「試合で怪我とか日常茶飯事だしな」

十神「…フン」


685: 2013/12/05(木) 20:40:55.91 ID:xg7lGdME0

K「ゴホン。その通りだ。俺は病院で不慮の事故に遭った人間を腐る程見ている。
  特にこの監禁生活ではストレスも溜まるし、その気がなくとも事故が起こる可能性は
  十分にある。よって、俺は全員に応急処置の方法を伝授しようと思った訳だ」

K「初めは応急処置の基本中の基本。心肺蘇生だな。既に学校で習っているとは思うが、
  その復習及び俺が正しい方法を徹底的にレクチャーしてやる」


話しながらKAZUYAはチョークを手に取り、黒板に心肺蘇生法(CardioPulmonary Resuscitation)
通称CPRと文字を書く。


K「使う道具は俺が事前に用意しておいた。頭部のモデルは美術室にあったマネキン、
  胸部は予備の布団を強く縛って実物と同じくらいの固さにしてある。何か質問はあるか?」

セレス「先生」


スッとセレスが手を挙げた。


686: 2013/12/05(木) 20:43:10.74 ID:xg7lGdME0

K「何だ?」

セレス「いくら練習を積んでも実際に出来なければ何の意味もありません。
     わたくし、心臓マッサージはともかく人工呼吸はちょっと…」

石丸「セレス君、君は友人が氏にかかっている時にもそんなことを言うつもりかね?!」

朝日奈「あ、でも私もちょっとわかる…本当に危なかったらちゃんとやるけどさ。
     こればっかりはやっぱりちょっと抵抗あるよね…」

腐川「白夜様以外の相手とキスなんて…無理よ無理! ありえないわ!」

K「フム。確かに同年代の人間…それも顔見知りの異性にするのは抵抗があるかもしれんな」

桑田(逆だよ逆!)

山田(同性の方が嫌に決まってますぞ!!)

大和田(…前々から思ってたがなんかズレてるよな、この先公)


そんな男子生徒達の心の全力ツッコミに気付かず、KAZUYAは人数分のハンカチを配った。


687: 2013/12/05(木) 20:45:06.21 ID:xg7lGdME0

K「まあ素人にあまり厳しいことは言わん。そんなこともあろうかと俺はこれを用意したのだ」

葉隠「ただのハンカチじゃねーか。しかもこれ穴が空いてるべ」

K「俺が空けた。もし人工呼吸の必要があればこれを被せろ。直接接触しなくて済むし
  相手の顔も隠れるから抵抗が減るだろう? それに口元に血が付いている場合は
  血液感染の可能性もあるからな。最近は現場でも器具を使う場合が多い」

苗木「うん、これなら多少は気にならずに出来そう」

K「肌身離さず持ち歩けよ」


そして専門家であるKAZUYA指導の元、いよいよ救命訓練が始まった。


K「腕は真っすぐにしろ。力が弱いぞ!」

大和田「ちょ、こんなぐいぐいやっていいのかよ…」

K「心臓マッサージで骨が折れるのはよくあることだ。それは気にしなくていい。
  ただ本気ではやるなよ? お前が本気を出したら恐らく相手の心臓が潰れる」


688: 2013/12/05(木) 20:47:17.01 ID:xg7lGdME0

石丸「フンッフンッフンッフンッ!」

K「気合は十分だが少し早い。一分間に百が目安だ。早さも大事だが継続出来ねば意味が無い」

不二咲「ふぅぅ!」

K「もっと腹から息を吐くんだ! それでは相手の肺に届かん」

桑田「肺活量なら歌で鍛えてるから自信あるぜ!」

K「先に気道確保をしないでどうする。その状態でいくら吹き込んでも無駄だぞ?」

セレス「面倒ですわ。山田君、わたくしの代わりにやって下さい」

K「 サ ボ る な 」ギロ

十神「……」

K「十神よ。真面目にやらんと温厚な俺もそろそろ怒る」


そんなこんなであっという間に1時間が経った。


689: 2013/12/05(木) 20:50:18.90 ID:xg7lGdME0

苗木「ハア、ハア。結構大変なんだなぁ」

K「人の命を救うというのはそれだけ難しいし体力もいるということだ。俺を見ろ。
  何故医者がそんなに体を鍛えているのかとよく質問されるが、体力もなしに
  長時間のオペは耐えられんし怪我人を運んだりも出来んだろう?」

一同「……」


鍛えあげられたKAZUYAの肉体を生徒達は黙って見上げる。
それはいかにKAZUYAが医者として修羅場をくぐってきたかの証左だった。


K「それにしても、やはり学校で一度やった程度では駄目だな。合格点をあげていいのは
  朝日奈、石丸、江ノ島、大神、霧切の五人。特に朝日奈、江ノ島、霧切は完璧だった」

朝日奈「やったー。褒められちゃった!」

江ノ島「当然っしょー! ギャッハッハッ」

霧切「……フ」ファサッ

K(朝日奈は水泳部、霧切は探偵の仕事の関係上訓練しているのだろう。
  …だがモデルの江ノ島はどこで学んだ? 明らかに動きが素人ではないが)


691: 2013/12/05(木) 20:52:19.29 ID:xg7lGdME0

K「こういうことは反復練習が大事だ。これから毎日、体が覚えるまで叩き込むからな」

葉隠「毎日は勘弁だべ…」

セレス「サボタージュしたいのは山々ですが…もしそんなことをすれば
     石丸君にストーキングされるのは目に見えていますしねぇ…」ハァ


何人かの生徒がげんなりした顔をしているが、KAZUYAは気付かないふりをした。


K「次は出血を伴う怪我をした時の対処法だが…その前に、血液に関しての基礎知識を教える。
  人間の全血液量は体重1kgにつき約80ccだ。さて山田、お前の全身の血液量は何ccだ?」

山田「ファッ?! 僕ですか? えーっとですねぇ…およそ12,400cc。つまり12.4リッターですな!」

桑田「多くねっ?! いや、なんとなくだけど」

十神「つまり山田の現在の体重は155キロと言う訳だ。重すぎだな」

山田「いやー、恥ずかしながら…」


692: 2013/12/05(木) 20:55:24.59 ID:xg7lGdME0

大和田「すげえな…0.15トンってことだろ?」

山田「人の体重をトンで表現するのはやめていただきたいッ!!」

腐川「うっかり転んで、下敷きにでもなったら…氏ぬわね…」

K「お前達も自分の総血液量を出してみるといい。人間は1/3以上の血液を一度に失うと生命に関わる」

石丸「つまり、僕の総血液量は5,280ccだから3分の1の1,760ccまでは出血しても問題無いということですか?」


ひたすらノートにメモを取っている石丸の質問にKAZUYAは何とも言えない複雑な表情で返した。


K「…いや、それはあくまでギリギリ助かるレベルということだ。実際は総血液量の20%を失えば
  全身の臓器・細胞に酸素や栄養が行き渡らなくなりショック症状を引き起こす。そしてその状態を
  放置すれば多臓器不全に陥り……最悪氏に至る」

不二咲「氏…氏んじゃうの……?」


氏という言葉に反応して既に涙目になっている不二咲に向かってKAZUYAは頷いた。


693: 2013/12/05(木) 20:59:38.25 ID:xg7lGdME0

ショック:医学用語のショックとは衝撃のことではない。生命維持に必要な身体の循環・代謝が維持出来ていない、
      即ち危険領域に達していることを表現する用語である。皮膚が蒼白い、冷汗、頻脈(脈が弱く早くなる)、
      虚脱(ぼんやりしたり意識障害が起こること)、呼吸不全等があればショックが起こっている可能性がある。

KAZUYAはショック症状についての解説を行い、板書していく。


桑田「あれ? じゃあ1リットルくらいで大体の人間はヤバイってことだろ。
    献血で400ccも抜かれるって実はけっこーヤバくね?」

K「大丈夫だ。貧血になる人間はいるがその程度なら抜かれても医学的に問題はない。
  …献血には行ってくれ。あれは医療現場にとって本当に大切なのだ」


ちなみにKAZUYAは特殊な血液型のため、暇を見ては献血に赴いている。閑話休題。


K「さて、血液について学んだ所で次はいよいよ止血法を教える」


694: 2013/12/05(木) 21:01:44.51 ID:xg7lGdME0

そう言うとKAZUYAは黒板に直接圧迫止血法と間接圧迫止血法の二つを書いて解説した。


直接圧迫止血法:文字通り直接出血している患部にガーゼや清潔な布などを当てて強く圧迫する方法。
          チリ紙などの繊維質な物は患部に繊維が入り込むため使わないこと。

間接圧迫止血法:直接圧迫止血では止まらない重傷時や患部が汚れている時などに使われる方法。
          止血点と呼ばれる患部と心臓の間にある箇所を圧迫することで一時的に血流を止める。


K「出血の九割以上はこちらの直接圧迫止血法で止めることが出来る。故に、本来は素人に
  関節圧迫止血法までは教えないのだが、こんな環境だ。知っておいて損はないだろう」

K「また、可能なら患部は心臓よりなるべく高い位置に上げろ。それにより多少は出血を減らすことが出来る」


包帯や布を使って、個別具体的にKAZUYAは止血の方法を教授していく。


695: 2013/12/05(木) 21:06:57.69 ID:xg7lGdME0

腐川「包帯…包帯…」ブツブツ

K(腐川の奴、目つきが妙だ…そもそも彼女は血液恐怖症らしいし、残念だが実践の期待は出来んな)

山田「ムムッ、包帯を使った緊縛プレイという素敵な内容が浮かびましたぞ!」

K「お前は一体何を言っているのだ…」

苗木「先生、どうですか?」

K「ウム、なかなか良く出来ているぞ」

石丸「ん、んんー? …もっと練習せねば」グルグルグル…

K(…本当に不器用なのだな。巻き方も締める力も偏っているというレベルではない)

葉隠「よっしゃ、出来たべ!」

K「水晶玉に巻いてどうする…。やり直しだ」

朝日奈「えーっと巻くまでは出来たけど…ちょうちょ結びじゃダメだよね?」

大神「朝日奈よ、貸してみろ。こうやって結ぶのだ」


696: 2013/12/05(木) 21:09:28.38 ID:xg7lGdME0

霧切「出来たわ」

江ノ島「こんなん楽勝楽勝!」

K(やはり今回も江ノ島が大神霧切と並んで頭一つ抜けているな…何者だ?
  以前レーションが好きだと言っていたが、ミリタリーマニアか何かなのか?
  だが単なるマニアにしてはいちいち動きが洗練されているな…)

K「今日の応急処置の授業はこれで終わりだ。…後は、石丸のリクエストに応えて
  普通の授業も行うつもりだが、これは全員参加ではない。帰りたい者は帰っていいぞ」


十神、腐川、セレス、山田、葉隠、江ノ島がバタバタと抜けていった。


K「フム。二、三人しかいないと思ったが随分残ったな」

石丸「おお、兄弟! 共に勉強する道を選んでくれたか!」

大和田「まあ、正直全然わかんねえと思うけどよ。やっぱ少しは勉強しとかねえと
     将来のことを考えたらマズイかなーって思ってさ」


そう言って大和田は照れ笑いを浮かべる。


697: 2013/12/05(木) 21:17:03.79 ID:xg7lGdME0

石丸「勉強なら任せてくれ! わからないことがあったら何でも教えるぞ!」


一方。


K「…桑田、驚いたぞ。お前まさかそこまで心を入れ替えていたのか」

桑田「いや、そーゆーんじゃなくて…ここで帰るとなんか十神達マイペース組と同じ扱いになりそうじゃん?
    それはイヤっつーかなんつーか…ま、多分というかほぼ確実に寝るけどヨロシク!」

朝日奈「あ、あんたね…さすがにぶっちゃけすぎでしょ…」

苗木「桑田君…いくらなんでもそれは…」

K「…かえって俺は安心したがな」ハァ


こうして午前いっぱいはみっちり授業を行ったのだった。


― 自由行動 ―


K「さて、やっと時間が空いたな。これからどうするか?」


人名

>>700

700: 2013/12/05(木) 21:19:57.01 ID:qXcPv1+80
大和田

703: 2013/12/05(木) 21:33:25.01 ID:xg7lGdME0

K「大和田」

大和田「よお、先公じゃねえか」

K「あの後、電子生徒手帳は直してもらったか?」

大和田「おう。アサイチでモノクマに渡して、さっき返してもらった所だぜ」

K「無駄に仕事が早いな、あいつ…」


その流れで世間話に流れ込む。


K「それにしても意外だった。まさかお前が石丸とあそこまで仲良くなるとは」

大和田「そりゃ一番驚いてるのは俺自身だぜ」


704: 2013/12/05(木) 21:36:04.55 ID:xg7lGdME0

K「優等生は嫌いなんじゃなかったのか?」

大和田「あいつがガキの時からものすげえ苦労して努力してきたってわかったからな…
     優等生の一言でかたづけられねえってわかっちまったんだよ」

K「そうだな。その点は俺も驚かされた」

大和田「なにより、あいつは俺が思っていたよりずっと強え男だった。
     男なら自分が強えって認めた相手には敬意を払えって兄貴も言ってたしな…」


だがそこで大和田は何かにハッとしたようだった。


大和田「…ま、兄弟や兄貴よりも俺の方が全然強いけどな! テメェにだってこの間は
     負けたがすぐにリベンジしてやっからよ。覚悟しとけや!」

K「わかったわかった。楽しみにしていよう」


705: 2013/12/05(木) 21:42:00.48 ID:xg7lGdME0

大和田「ああ?! バカにしてんのか?! その余裕こいた顔もすぐにぶっ潰す!」

K(まったく、強がりだけは一人前だな)


適当に濁しながらKAZUYAはその場を離れた。加奈高での経験で、派手な外見をしていたり
荒っぽい行動を取る人間程自分に自信がない、虚勢を張っているだけというのはよくわかっている。


K(ただ仮にも組織のトップだ。いくら今が非常時とはいえ、人に弱みを見せられないと
  いうのもあるだろう。タイミング良く友人が出来たのは本当に良かった)


しかし、KAZUYAの人並み外れた洞察力や分析力を持っていたとしても
大和田紋土が心に爆弾を抱えているということまでは見抜けなかったのだった…


706: 2013/12/05(木) 21:43:20.42 ID:xg7lGdME0

K「さて、次は誰に会うか」


人名

>>708


710: 2013/12/05(木) 22:02:17.47 ID:xg7lGdME0

午後のひと時、KAZUYAは石丸に個人授業をしていたが途中小休憩を挟んで今は雑談をしていた。


K「ところでお前、普段は何をして過ごしているんだ?」

石丸「暇潰しに勉強しています!」

K「…そうか。偉いな」


教員の立場からは何も言うことはないが、流石にそれでいいのだろうかとKAZUYAは思う。


K(そういえばこの男は以前、休日も制服で過ごしていると言っていたな…学校は休みでも
  学生という生き方に休みはない、という持論からだそうだが些かやりすぎではないか?)


ちなみに制服は十着持っているから汚くはないらしい(本人談)。
KAZUYAも同じような服を着回しているからあまり人のことは言えないのだが。


K「…勉強以外には何をやっているんだ?」

石丸「勉強以外ですか? 部屋の清掃、家事の手伝い、あとは鍛練でしょうか。
    特に、鍛練は毎日欠かさずやってます。健全な精神は健全な肉体に宿るのです!」


712: 2013/12/05(木) 22:07:49.94 ID:xg7lGdME0
>>711
まだ投下してなかったのと同じ人だったので変更を受け付けました

714: 2013/12/05(木) 22:13:11.98 ID:xg7lGdME0

K(鍛練、か)


実はKAZUYAは前々から気になっていることがあった。石丸の要望で一緒にシャワーに入った時、
服の上からでは想像も出来ない程無駄のない引き締まった体をしていると感心したのだ。


K「その割には、こう…ハッキリとは言いづらいのだが…」


言おうか言うまいか少し悩む。が、言うのが自分なら怒らないだろうと結局言ってしまった。


K「…………弱いな」


十神に掴みかかろうとする大和田を止めようと彼の前に立ち塞がった時、あるいは
単純に大和田と掴み合いになった時、いずれもあっさり投げ飛ばされてしまって喧嘩にすら
ならないのをKAZUYAは幾度か目撃していた。腕っ節が弱いとかいう次元ではない。


石丸「ハッハッハッ! そうなんです。勉強は出来ても喧嘩はからっきしでして」

K「(良かった。怒らなかった)だが、素人の体ではないな。何かやっているだろう」

石丸「はい。一応道場に通っていて剣道柔道空手をやっております」

K「…何故本気にならない? いくら相手が大柄で喧嘩慣れしているといっても
  所詮は素人だ。軽く投げ飛ばすかいなすくらいは出来るだろう」


716: 2013/12/05(木) 22:22:12.14 ID:xg7lGdME0

石丸「それが、どうにも力が入らないんです」

K「どういうことだ?」

石丸「経験者が素人に技をかけて相手に怪我をさせる事故が時々あるでしょう?
    相手の顔を見ていると、僕はどうしてもそれが頭に受かんでしまって…」


成程とKAZUYAは思った。この男は根本的に他人を傷つけられないのだ。
たとえそれで自分が傷つくことになったとしても――

KAZUYAの沈黙を呆れと受け取ったのか、石丸は軽く笑って言う。


石丸「僕はきっと、臆病なのでしょうね。ハッハッハッ」

K「俺はそうは思わん」


大和田も認めていたが、この男は想像以上に心が強く器が大きいとKAZUYAは感嘆した。

…だが、酸いも甘いも噛み分けた大人であるKAZUYAは知っていた。心とは多面的であると。
ある一点に対して極端に強いということは、その反対側は硝子のように脆いということを知っていた。



717: 2013/12/05(木) 22:28:55.61 ID:xg7lGdME0

石丸はかなりの勉強家でKAZUYAは長時間付き合わされる羽目になった。


K「フウ…毎日付き合って欲しいと言われたが、俺としては御免こうむりたい所だ。
  医者も別に楽ではないが、教師という仕事もさぞや大変なのだろうな…」

K「ム、あそこにいるのは>>720か?」


723: 2013/12/05(木) 22:55:49.16 ID:xg7lGdME0

不二咲「先生ー」


不二咲はKAZUYAの姿を見るや、笑顔で駆け寄ってきた。


K「不二咲か。どうした?」

不二咲「えっと、特に用はないんだけど先生とお話したいなって…」

K「構わないぞ。君は確か超高校級のプログラマーだったな」

不二咲「はい! 覚えててくれたんですね。先生はプログラムはお好きですか?」

K「うーむ、好き嫌い以前にまるで専門外だからな」

不二咲「そっかぁ。そうですよね」

K「機械なら友人に機械いじりが趣味な奴がいて、時々手伝わせられるから
  多少はわかるのだが。不二咲はどんなプログラムを作っているんだ?」

不二咲「えっと、企業と契約してるから詳しくは言えないんですけど…」

K(この歳でもう企業と契約を交わしているのか。やはり天才なのだろうか)


希望ヶ峰学園が才能ある人間ばかりを集めた特別な学校であると改めて再認識させられる。


724: 2013/12/05(木) 23:06:44.51 ID:xg7lGdME0

不二咲「先生なら口も堅そうだし…こっそりヒント出しちゃおうかな。
     僕が今研究してるのは自動学習機能を持った強いプログラムで…」

K「もしやAIか?」

不二咲「わっ! すごーい。いきなり当てられちゃったぁ」

K「たまたまさ」

不二咲「もうバレちゃったし、言ってもいいよね。僕が研究してるのは音声入力が
     出来てこちらの欲しい情報を調べたり指示を聞いてくれるプログラムなんです」

K「音声入力か。…端的に言うと会話が出来るプログラムということか」

不二咲「わっ! またわかっちゃった。やっぱり先生は凄いなぁ」

K「いや、俺の知っている団体でも似たような研究はされていてな」


KAZUYAはクエイド財団を思い浮かべた。


K「つまり人間のように自分で考え学習し、こちらの指示をこなすプログラムを開発しているのか」

不二咲「そうなんです。でも人の心って難しくて…」

K「簡単には再現出来ないだろうな。人間は機械のように常に決まった
  思考パターンを持っている訳ではない。時に予測不可能なことを起こす」


725: 2013/12/05(木) 23:20:37.05 ID:xg7lGdME0

不二咲「そうなんです。僕に出来るのかなぁっていつも考えてて」

K「不二咲なら出来るさ。それにしても女性がプログラムを組むのは珍しいな?」


一瞬、今まで人懐っこい笑顔を浮かべていた不二咲の顔が曇った。


K(…何だ? 女性と言ったのがまずかったのか?)

不二咲「あ…僕がプログラムに興味を持ったのは理由があるんです」


しかし次にはもういつも通りの顔に戻って話し始めた。


不二咲「僕…昔から体が弱くて、みんなみたいに外で遊べなかったから、家で父のパソコンを
     おもちゃ代わりにしてたんです。父もプログラマーで、こっそり父のプログラムを
     いじってたらある日バレちゃって…でもその時凄い喜んでくれたんだぁ」

K「フ…幼い我が子が自分と同じ才能を持っていたらさぞかし嬉しいだろうな」

不二咲「それでこの道に入ったのぉ。…アレも、近い将来先生には見せてあげられるかも」

K「? 何をだ?」

不二咲「ふふっ、その時まで秘密!」


そう言って屈託なく笑う不二咲は非常に可愛らしい。KAZUYAはどうも昔から女学生に
苦手意識があるのだが、小学生とみまごう外見と穏やかな性格もあってか
不二咲のようなタイプなら平気かもしれない、と思った。


726: 2013/12/05(木) 23:25:06.40 ID:xg7lGdME0



>>728 人名


728: 2013/12/05(木) 23:37:58.63 ID:qXcPv1+80
朝比奈

731: 2013/12/05(木) 23:51:12.52 ID:xg7lGdME0

K(折角電子生徒手帳を手に入れたのに、水練場をまだ見ていなかったな。行ってみるか)


KAZUYAは二階に向かい、水練場の中へと入っていった。


K(フム、更衣室の中にトレーニング器具が一通り揃っている。俺も今度使わせてもらおう)


ガチャリ。


朝日奈「あれー? 先生だー! 先生ー!」ブンブン!

K「朝日奈か。泳いでいたのか?」

朝日奈「うん! とっても気持ちいいよ!」

K「そういえば、君は確か超高校級のスイマーだったな」


733: 2013/12/06(金) 00:05:30.28 ID:MOfL4Doh0

朝日奈「一応ね。フッフーン、こう見えてもオリンピック候補生なんだから!」

K「それは頼もしい。目指すは金メダルか?」

朝日奈「もっちろん! 絶対に取ってみせるよ!」

K「フフ」

K(こんな状況だというのに明るいな。だが、こんな状況だからこそこの明るさに救われる)


そんな風に和んでいたKAZUYAだったが、待っていたのは激しい質問攻めだった。


朝日奈「ねえねえ先生。先生って独身なんだよね?」

K「ん? ああ、そうだが」

朝日奈「彼女いるの?」

K「いや、いないが…」

朝日奈「彼女ほしい?」

K「いや、今は…」


736: 2013/12/06(金) 00:20:08.23 ID:MOfL4Doh0

朝日奈「うーんと、あとは…そうだ。先生が何歳かもしらないから年齢と、何歳までに結婚したいかっ!!」

K「歳は32だ。結婚については今は全く考えていない。まあ、縁があればな」

朝日奈「つまんなーい! 先生かっこいいし、私の予想では絶対モテてるはずなのに!
     というか、実はモテモテ? 隠してるだけ? 影では女泣かせで有名だったり?!」

K「……」


KAZUYAは気付いていないし絶対に認めないだろうが、実はそんなに間違っていない。


K(そうだった。忘れていた…女子高生というのはどうにもこういう話が好きなのだった…)


個性が強すぎるメンバー揃いのためにすっかり忘れていた。
だが逆に言うと朝日奈葵は普通の女子高生に近い感覚を持っているということもわかる。


K(普通の感覚が必要な時があれば、助けを借りることもあるやもしれんな)

朝日奈「それにしても、32歳なんだ。意外と若かった…もっと行ってるかと思ってた」

K「流石の俺も少し傷ついたぞ…」

朝日奈「まーまー、細かいことは気にしない気にしない!」


ケラケラと楽しそうに笑う朝日奈にこれ以上追求を受けないよう、KAZUYAは早々と退散したのだった。


737: 2013/12/06(金) 00:30:47.06 ID:MOfL4Doh0

眠いので今日はここまで

場所選択の安価だけ出しておきます

>>740


ちなみに書き忘れていましたが、場所選択では仲間の生徒の個室に入ることが出来ます。
それで親密度が上がったりはしないですが、有力な情報を得られたり色々と良いことが起こります。

※舞園はまだ入院中なので退院するまで除く。


750: 2013/12/13(金) 00:03:30.15 ID:aVkps1Pq0

朝日奈の質問攻めから逃れたKAZUYAは、次に舞園の部屋に来ていた。
保健室に戻ろうとしていた時に苗木に出会い、部屋に誘われたからである。


苗木「すいません…すっかり忘れてたけど、ここ舞園さんの部屋なんですよね…
    いつも保健室で話してるし、今日は僕の部屋に招待しますからお茶でも
    飲みましょう! なんてかっこつけて言ったのに…恥ずかしい」

K「気にするな。もう三日もいるのだからな。この生活が始まって半分はこの部屋で過ごしたことになる」

苗木「ハハ…あの、舞園さんの怪我の具合なんですけど」

K「経過は順調、予後は極めていい。もう何日かしたら自分の部屋に戻れるぞ」

苗木「はぁ、それは良かった」

K「そうしたら改めてお前の部屋に招待してもらおうかな?」

苗木「もちろん! 喜んで」


食堂から持ってきた紅茶を飲みながら、KAZUYAと苗木は他愛もないことを話す。
だが話の内容が学園生活のことに移ると、嫌でも二人の気分は暗くなった。


751: 2013/12/13(金) 00:04:23.98 ID:aVkps1Pq0

苗木「この生活、いつまで続くんでしょうか…?」

K「…わからん。正直、今の均衡状態が続くならまだいい。だが奴が黙っていないだろうしな」

苗木「先生は、モノクマがまた何かしてくると思ってるんですね?」

K「ああ。あの動機…あれが一つだけとは到底思えん。俺の予想では
  近いうちに最悪のタイミングで、奴は再び動機を提示してくるはずだ」

苗木「許せない…人の心を利用して…」

K「その気持を忘れないことだ。奴への怒りより外への渇望が強くなれば、道を誤ってしまう」

苗木「はい」

K「まあお前に関しては俺は心配していないのだがな。問題は…」

苗木「十神君、ですか?」

K「ああ。他にも何人か気になる生徒はいるが、最も警戒しているのはやはり十神だ。
  あの男だけがこの生活をはっきりゲームだと断言し、今も計画を立てているようだからな」

苗木「うーん、難しいですね。僕も何度か話したけど、どうしても理解は難しいというか…」

K「どんなことを言っていた?」


762: 2013/12/13(金) 01:01:59.30 ID:aVkps1Pq0

苗木「えーっと、頭脳も運動能力も全てが超高校級のいわば超高校級の完璧らしいです。
    それに十神家の力を別にアテにしてる訳じゃなくて、デイトレードだけで
    自力で400億稼いだとか、なんか色々とスケールが違いすぎるんですよね」

K「…あの男が、お前にそんなことを話したのか?」


KAZUYAは内心驚愕していた。十神は嫌みったらしい性格ではあるが、自分のことを
他人にペラペラ話しまわるような馬鹿な男ではないということはわかっている。


苗木「…苦労しましたけどね。モノモノマシーンで出た物から好きそうな物を見繕って
    あげてみたり、ひたすら無視されたり悪口言われるのを我慢したり」

K「お前……」


この少年が前向きなのは知っていたが、まさかここまで忍耐強いとは。


K「それにしても、何故不快になるとわかっていて近づいたんだ?」

苗木「その…十神君が何であんな発言や行動を取るのか純粋に気になって。
    親しくなれば彼の行動原理とかわかるんじゃないかなーって思ったんです」


752: 2013/12/13(金) 00:07:26.01 ID:aVkps1Pq0

KAZUYAは思わず目を見開いた。…そうだ。自分に出来ないことであっても、
出来る生徒に頼めばいいではないか。まさしく目から鱗だった。


K「……何だ。苗木よ、幸運以外の才能もちゃんと持っているじゃないか」

苗木「え? なんですか?」

K「『超高校級のコミュニケーション能力』。あるいは『超高校級の忍耐力』というのはどうだ?」

苗木「うーん…嬉しいんだか嬉しくないんだか、よくわからないや。ハハハ」

K「何にせよ、お前のその能力はこの閉鎖された監禁生活で非常に武器になる。
  もし何か面白い情報を掴んだら、逐一俺に報告してくれないか?」

苗木「え、その…僕なんかで本当にいいんですか? 他のみんなの方がもっと役に立てるんじゃ…」

K「むしろ、この役目はお前にしか頼めん。時に情報収集、時に生徒達の緩衝材として、
  この学園生活でこれ以上事件が起こらないよう動いて欲しいのだ。頼む」

苗木「僕が…僕にみんなの役に立つ能力が…」

苗木「……はい! わかりました。上手く出来るかわからないけど、頑張ってみます!」

K「頼んだぞ!」


753: 2013/12/13(金) 00:13:50.73 ID:aVkps1Pq0

苗木のコミュニケーション能力が上がった!
苗木の観察力が上がった! 苗木の話術が上がった!
苗木は全生徒の通信簿3ページ分までの情報を得た。


ちなみに何度も同じキャラの部屋に行けると簡単にステがカンストしてしまうので、
同じキャラの部屋は一章に一度までしか行けないことします。


754: 2013/12/13(金) 00:21:56.39 ID:aVkps1Pq0

― 苗木の部屋  PM9:28 ―


毎晩夜時間の前に、舞園の怪我の経過観察をするのがKAZUYAの日課となっていた。
傷口に軟膏を塗って綺麗な包帯を巻き直す。


K「……」

舞園「先生、あとどのくらいで退院出来ますか?」

K「最低でも三日はいるな。縫合したとしても腹に穴が空いているのだ。
  傷口が完全に接着するまでは無理をしない方がいい。それに…」

舞園「…先生は、近いうちにまた何か起こると思ってるんですね。だから、
    傷が完全に治るまでは出来る限り部屋に篭っていた方がいいと」

K「いや、そうは言わん。だが、モノクマが何もしない保証はないからな」


そう言うと同時にKAZUYAは気配を感じ、ドアの方を見た。


モノクマ「んもう、疑り深いなぁ。何度も言ってるけど僕は手を出したりしないよ!」


755: 2013/12/13(金) 00:22:39.77 ID:aVkps1Pq0

KAZUYA「貴様…」

モノクマ「だって僕が手を出しちゃったら反則だしショーとしてはつまんないでしょ? あくまで
      生徒が自主的にコロシアイを行うという絶望的シチュエーションが大切なんだよ!」

K「そのショーを見せている相手は……誰だ?」

モノクマ「…ほえ? 何のこと? 僕が個人的に楽しんでるだけだけど」

K「とぼけるな!」

モノクマ「全く先生ってすぐ怒るよね。今時キレキャラは流行らないよ? じゃあね!」


それだけ言うと、モノクマは去って行った。KAZUYAは歯噛みしてその後ろ姿を見る。


K「……」

舞園「ごめんなさい」

K「どうした?」


756: 2013/12/13(金) 00:23:18.69 ID:aVkps1Pq0

舞園「もしまた事件が起こるなら、きっと私のせいですよね…
    一度事件が起こってしまえば、事件に対する抵抗が減ってしまいますから」

K「関係ないさ。やる人間はどんな状況だろうと必要があればやる。
  逆にやらない人間はどんな状況でも絶対にやらん」

舞園「そして私はしてしまう人間だった…」

K「…残念ながらな」


KAZUYAは否定しなかった。優しくするのとただ甘くするのは違う。それに…
舞園が何故あそこまでアイドルという存在にこだわるのか、以前苗木が教えてくれた。


K(皮肉なものだな…皆に元気を与えたいと、アイドルとしての仕事に誇りを持って
  誰よりも真摯に働いていたのに、それが逆に執着となって罪を犯してしまうとは…)


舞園は殺人という究極のエゴを行ったのが信じられないほど、自分に厳しくストイックな性格だ。
中途半端な慰めや気遣いは、かえって彼女を傷つけるだけだろう。


757: 2013/12/13(金) 00:28:06.17 ID:aVkps1Pq0


舞園「私…罪を償わなきゃいけないのはわかってます。でも、今は何が出来るのか
    わからない…それどころか、あまり私に関わり過ぎると先生や苗木君の
    立場が悪くなってしまうんじゃないかって、それが気掛かりなんです」

K「怪我人は周りのことなど考えなくていい。ただ怪我を癒すことだけ考えろ。
  傷が完全に治って、周りの状況がよく見えるようになったら改めて考えればいいさ」

舞園「今の私に出来ることはないのでしょうか…本当なら、治療だけ受けて部屋に
    放置されても文句は言えない立場なのに、先生達の優しさに甘えてばかりで…」

K「出来ること、か」


KAZUYAはその時、前日に思いついたある可能性に思いを巡らせていた。


K「あるかもしれんぞ。むしろお前にしか出来ないことが」

舞園「え? 私だけに…ですか?」

K「耳を借りるぞ」


KAZUYAは舞園の耳元に顔を寄せ、何かを囁いた。


760: 2013/12/13(金) 01:00:42.58 ID:aVkps1Pq0
訂正版


朝日奈の質問攻めから逃れたKAZUYAは、次に舞園の部屋に来ていた。
保健室に戻ろうとしていた時に苗木に出会い、部屋に誘われたからである。


苗木「すいません…すっかり忘れてたけど、ここ舞園さんの部屋なんですよね…
    いつも保健室で話してるし、今日は僕の部屋に招待しますからお茶でも
    飲みましょう! なんてかっこつけて言ったのに…恥ずかしい」

K「気にするな。もう三日もいるのだからな。この生活が始まって半分はこの部屋で過ごしたことになる」

苗木「ハハ…あの、舞園さんの怪我の具合なんですけど」

K「経過は順調、予後は極めていい。もう何日かしたら自分の部屋に戻れるぞ」

苗木「はぁ、それは良かった」

K「そうしたら改めてお前の部屋に招待してもらおうかな?」

苗木「もちろん! 喜んで」


食堂から持ってきた紅茶を飲みながら、KAZUYAと苗木は他愛もないことを話す。
だが話の内容が学園生活のことに移ると、嫌でも二人の気分は暗くなった。


769: 2013/12/14(土) 18:14:52.62 ID:1qhst0y60

― 1-A教室 コロシアイ学園生活七日目 AM9:46 ―


今日も授業を行った。前半は昨日とほとんど変わらず反復練習だったので、
特に大きな変化はなかったが一つだけ大きな違いがあった。


K「石丸、たった一日で随分上達したな」

石丸「はい! 昨日は空いている時間を全て練習に注ぎ込みましたから!
    今だったら利き手にも巻けそうです! それそれそれっ!」グルグルグルッ


どうしようもなく下手だった石丸が、そこそこ上手に包帯を巻けるようになっていた。
調子に乗って利き手に巻いた時は相変わらず盛大に失敗したが。


K(そういえば練習すると言って包帯を持って帰っていたな。全く、呆れるほど努力家な男だ)


そしてもう一つ、変化ではないが。倒れた人間相手の処置を練習させた時だった。


K「今日はうつぶせに倒れた人間を実際に体位を変更させる練習だ。倒れている人間を
  見かけたら、まず最初に原因を見極めなければいけない。もし脊椎、胸椎、腰椎…
  いわゆる首や背骨に異常があったら絶対に動かすな。そのままにして俺を呼べ」


770: 2013/12/14(土) 18:18:49.22 ID:1qhst0y60

K「意識はないが呼吸はある場合、吐瀉物の誤嚥や舌根の沈下による窒息を防ぐために
  昏睡体位を取らせるのが鉄則だ。基本的には右側臥位と言って右肩を下にする」


KAZUYAは例によって黒板に図を描いていく。ちなみによく解剖図を描いているからか、絵は意外と上手い。

昏睡体位:まず右肩を下にして横向きに寝かせ、気道を確保するため顎を前に突き出し左手を顎の下に置いて
      枕代わりにする。また上になる左足は軽く曲げて体を安定させ、仰向けやうつ伏せになって
      しまわないよう気をつける。回復体位とも呼ばれている。


K「例外的に左側に怪我や病気がある場合、または毒物などを誤飲した時は左側を下にする」

K「それでは早速実践だ。倒れている相手が同性とは限らんから、性別は無視して体格の近い人間を
  俺が事前に選んでペアにした。今から名前を呼ぶから、組んで始めろ」


そして順々に生徒達の対応を見て、苗木の処置になった時だ。


K「フム、なかなか上手いじゃないか」

苗木「え、本当ですか?」


771: 2013/12/14(土) 18:25:00.52 ID:1qhst0y60

朝日奈「うん、上手いよ。なんか苗木って手際が優しいんだよね」

苗木「そ、そうかな~」

朝日奈「急救命士になれるんじゃない?」

苗木「なんかきゅうが足りなくない? …うーん、僕には無理じゃないかなぁ」

K「そんなことはないさ。俺もお前は向いている気がするぞ」

苗木「え? 先生までそんな…そんなに言われたら僕ちょっと考えちゃうよ? ハハ」

朝日奈「うんうん、いけるって! 私はさ、ちょっとおおざっぱだから」

K「朝日奈はもう少し細やかだといいな。相手は怪我人という設定だぞ?」

朝日奈「えへへ。気をつけまーす!」

K(初心者組の中では苗木が一番筋がいいな。患者の扱いがとても丁寧で気遣いがある。
  なかなか器用だし、小柄な割にはそこそこ力もあった。仕込めがモノになりそうだ)

K(それにしても…)


KAZUYAは他の生徒達の様子を横目で見る。


772: 2013/12/14(土) 18:34:47.51 ID:1qhst0y60


大和田「うらあぁっ!」グイッ!

山田「イタタタタ! お、大和田紋土殿! いくらなんでも乱暴ですぞ!」

大和田「しょーがねーだろ! 優しくやろうにもオメエが重すぎて
     持ち上がんねぇのがわりぃんだよ。ちったぁ痩せろ!」

大神「十神よ…手を抜くとまた西城殿に叱られるぞ」

十神「…俺に指示をするな」

大神「何故やらぬ? 我が女だからか? これは授業だ。遠慮はいらぬぞ」

十神「……」

大神「…もしや、我が重いからか?」

十神「…………違う」タラリ

不二咲「うう、重い~」

セレス「あら不二咲さん、それはわたくしが太っているという意味でしょうか」

不二咲「あっ! ち、違うよぉ。ぼ、私の力が弱いから……ごめんねぇ」


773: 2013/12/14(土) 18:47:14.02 ID:1qhst0y60

石丸「むぅ、怪我人という設定とはいえ、やはり女子の体を触るのは抵抗があるな…」

江ノ島「ちょっと、さっさとやってくれない? 男のくせにいつまでモジモジしてんの!」

石丸「す、すまない! …では失敬!」

江ノ島「…あのさ、手つきがなーんかいやらしいんですけど」

石丸「うぐ、すまないすまない」

江ノ島「なんでそこつかむかなー? なに? 実はあんたマジメなふりしてムッツリとか?」

石丸「断じて違う!! うう、すまないすまないすまないすまない…」

腐川「くうう…力仕事は、苦手なのよ…! ゼェ…ハァ…」グイィ

霧切「…………」

桑田「いっくぜー? そぉいっ!」

ビターン!

葉隠「ギャッ! 桑田っち、ひどいべ!」

桑田「わーりぃわりぃ。ま、本番はちゃんとやってやっから気にすんなって!」

葉隠「本番って俺重傷負ってるってことじゃねぇか! 冗談じゃねぇべ!」


774: 2013/12/14(土) 18:55:43.72 ID:1qhst0y60

K「……」

K(まあこの中なら苗木が一番良いのは必然か…)


KAZUYAは頭に手をやり、深々と溜息を吐く。


K「とりあえずお前ら……患者に対して少しはいたわりの気持ちを持ってくれ……」


個性豊かなメンバーに囲まれ、相変わらず賑やかな授業はやっと終わった。



― 体育館 PM1:02 ―


一人で体育館に来ていた桑田は監視カメラに向かって何やらモノクマを呼んでいる。


桑田「おい、モノクマ! 出てこい。出てこいやオラ!」


775: 2013/12/14(土) 19:01:46.16 ID:1qhst0y60

モノクマ「なんだよ、もう! 僕は今忙しいんだ!」

桑田「お、やーっと来たか。…なあなあ、頼みがあんだけどさぁー」

モノクマ「何?! 僕も忙しいんだから早くしてよね!」

桑田「いやさあ、その…俺最近マジメに野球の練習しだしてなぁ。知ってんだろ?」

モノクマ「ふ~ん…で?」イライラ

桑田「なんだよ! 人がさぁ、この極限状態でやっと自分の本心に気付いて
    新たに夢に向かって足を踏み出し始めたっていうのによぉ」

モノクマ「はいはい。ミュージシャンの夢は諦めて野球選手に戻る訳ですね。小学生じゃあるまいし、
      そうコロコロ夢を変えるなんてやっぱり君はチャラいねぇ」


言ってからモノクマは失敗だと思った。桑田はニヤリと笑う。


桑田「諦める? だーれが諦めるってぇー? 俺はどっちも諦めたつもりなんてねぇからな!
    野球やりつつ歌もやる。マルチな才能持った野球選手になってやんよ!」


776: 2013/12/14(土) 19:08:09.62 ID:1qhst0y60

モノクマ「もう! 君の夢はどうでもいいんだよ! なに? 単に僕に喧嘩売りたかっただけ??」

桑田「ちげぇよ! 俺はちゃーんと用事があってなあ…わざわざお前なんか会いたくないのに
    呼んだっつーのに、お前がナンクセ付けっからわりぃんだろうが」

モノクマ「だから早くその用事を言えよ! こっちは君みたいに暇でも能天気でもないの! わかる?」

桑田「夢のために前置きが長くなるのは仕方ないだろ。こっちは本気なんだからさ」

モノクマ「…で? 今すぐ用事を言わないなら僕は行くからね!」

桑田「あー、わかったよ。その、だな…………俺さぁ、ピッチングマシンが欲しいんだよなー」

モノクマ「ハ?」

桑田「だーかーらー、俺もやっとマジメに練習する気になったワケ。前に予算はあるって…」

モノクマ「そんな無駄なお金はない。以上!」シュバッ

桑田「」



― ランドリー PM1:07 ―


ランドリーにて、今度は苗木がモノクマを呼んでいる。


777: 2013/12/14(土) 19:14:47.68 ID:1qhst0y60

苗木「モノクマー! モノクマー! …いつもだったらすぐ来るのにおっそいなー」

モノクマ「はいはいただいま! 今日はやたらと呼ばれるね。なに?」

苗木「…はぁ、やっと来た。ちょっと困ったことがあるんだけど」

モノクマ「なに? いつも無駄に前向きな苗木君が珍しいね」

苗木「無駄に前向きは余計だよ! …それよりさ、この洗濯機なんだか調子が
    悪いみたいなんだ。ちょっと中を見てくれない?」

モノクマ「はいはいっと」ゴソゴソ


モノクマはどこからか工具を取り出し、洗濯機の中に頭を突っ込む。


苗木「どう?」

モノクマ「うーん、部品がいくつか外れかけてるね。このくらいならすぐに直るよ」

苗木「フーン、ところでさ。お前って普段何をやっているんだ?」


778: 2013/12/14(土) 19:19:59.19 ID:1qhst0y60

モノクマ「色々だよ。オマエラの面倒見たり食糧を供給したり、結構大変なんだぞ!」

苗木「そんなこと言って、みんなのプライバシーを覗いて楽しんでるんじゃないの?」

モノクマ「ギクゥッ!」

苗木「いいよねぇ、女の子の部屋とか覗き放題だもんなー」

モノクマ「おやおや? 普段は割と真面目な善人ぶってる苗木君も、
      実はそっち方面に興味津々だったり??」

苗木「そりゃあね。僕も男子だしやっぱりちょっとは気になるよ」

モノクマ「うぷぷ。それで僕に女子達の様子を聞きたいとか?」

苗木「聞きたいけどさ…どうせお前は教えてくれないんだろ? いいよいいよ。
    わかってるんだから。これ直したらさっさと帰れ!」

苗木(モノクマの性格から考えてこちらが聞きたがれば絶対教えないはず。
    つまり逆にやや引き気味に行けば…)

モノクマ「もう直ったよ。…フゥ、全く思春期の少年の好奇心には勝てませんなぁ。
      では今回特別に、ちょっとだけ女子達の秘密を教えてあげましょう!」


779: 2013/12/14(土) 19:25:11.72 ID:1qhst0y60

苗木「…え?! ほ、本当に?」

モノクマ「苗木君にだけだよー。実はね…」ゴニョゴニョ

苗木(来た! …でもいいのかな。こんな内容聞いちゃって…罪悪感を感じるなぁ)



― 保健室 PM1:20 ―


K「遅いぞ!」

モノクマ「もうなんなんだよ! どいつもこいつも人使い…いやクマ使いが荒いんだから」

K「何だ? 俺以外にも何かあったのか?」

モノクマ「べーつにぃ? で、先生は何の用?」

K「薬品の補給を頼みたい」

モノクマ「先生さぁ、頭おかしくなっちゃった? 確かに僕はここで一生を過ごす選択肢もあるって
      言ったし、それなりの生活は保障してあげるよ? でもさあ、本来氏ぬはずの生徒を
      助けるのはルール違反でしょ? 僕がそのための手伝いをすると思う?」


780: 2013/12/14(土) 19:31:20.40 ID:1qhst0y60

K「そうだな。一応聞いただけだ。わかった。帰れ」

モノクマ「みんな用済みになったらすぐ帰ればっか。流石の僕もちょっとショボーン」

K「目障りだ。消えろ」

モノクマ「もういいよ! また何か用事が出来ても来てあげないから! プンプン!」


モノクマが去ったのを確認し、KAZUYAは保健室を出た。向かったのは脱衣所である。
事前に調べ、KAZUYAの予想通り発見した盗聴器は一時的に撤去しておいた。
今なら黒幕の目を気にすることなく堂々と会話が出来る。


苗木「あ、先生が来たよ」

桑田「おっす。どーだったよ?」


脱衣所の中でKAZUYAを待っていたのは苗木と桑田の二人である。


782: 2013/12/14(土) 20:48:06.56 ID:PN7EMVtd0

K「上手くあしらったさ。かなり機嫌が悪かったがな。あと桑田、お前にこれを返す。助かった」

桑田「おう。どーいたしましてっと」

K「では報告してもらおう。何時何分にモノクマが来て何分間引き止められたかを」


KAZUYAは借りていた工具セットを桑田に返すと、二人に報告を求めた。


桑田「俺は呼び出し始めが12:48分、実際に来たのが13:02分で出てったのが13:06分だ」

苗木「僕は呼び出しが13:03分、来たのが13:07分で終わったのが13:19分です」

桑田「十分以上足止めするとかすげーじゃんお前。そんなに何をしゃべったんだよ?」

苗木「え?! いや、その、雑談を色々とね…」

苗木(桑田君には絶対言えない…まさか女子のプライバシーを延々聞かされてたとか…)


後ろ暗い気持ちを感じている苗木には気付かず、KAZUYAは実験の結果を発表する。


783: 2013/12/14(土) 20:53:58.35 ID:PN7EMVtd0

K「御苦労。お前達のおかげで今回かなり重要なことを知ることが出来た」

苗木「一体何がわかったんですか?」

桑田「俺達、言われた通り時間になったらモノクマ呼び出して足止めしてただけだぜ?」

K「それで十分さ。まず確実に言えることだが――モノクマは一度に一体しか動かせん」

苗木「やっぱり…」


断言したKAZUYAに、神妙な顔をした苗木が相槌を打つ。桑田のみがよくわかっていなかった。


桑田「え? なんでさっきのでんなことわかんの?」

K「俺が今回お前達に頼んだのは、時間差でモノクマを呼び出し足止めをすることだ」

桑田「おう。それはわかるぜ」

K「誰かがモノクマと話している間、他の人間が呼んでもモノクマは来なかった。
  もしモノクマが一度に複数操れるなら、同時に対応すればいいだろう。
  即ち操る装置が一つか、或いは操る人間が一人しかいないことを意味する」


784: 2013/12/14(土) 21:04:49.26 ID:PN7EMVtd0

桑田「なーるほど。でもさ、それなら全員同時に呼び出しても良かったんじゃね?
    なんでわざわざ時間差なんてつけたんだ?」

K「それはだな…」

苗木「一度にたくさん呼ばれてるってわかってたらモノクマが話を切り上げて時間稼ぎが
    出来ないからだよ。先生は確かに奴を足止め出来てるって確信が欲しかったんだよね」

K「ウム、その通り」

桑田「なんでお前が説明すんだよ」

苗木「ま、まあまあ」

K「しかし舞園は流石だな。モノクマは用事が済んだらあまり長居せず
  すぐに去ってしまうのが通例だが、まさか15分以上も足止めするとは」

桑田「…これ、舞園にもやらせたのか?」

K「ああ。むしろ彼女に一番重要なトップバッターを引き受けてもらった。
  この手の作戦は最初に勢いをつけんと上手くいかなかったりするからな」


785: 2013/12/14(土) 21:10:07.25 ID:PN7EMVtd0

計画としてはこうだ。

1.12:45分に舞園が部屋にモノクマを呼び出し出来る限り引き延ばす。
2.時間差の12:48に桑田は体育館でモノクマに呼びかけ現れたら足止めをする。
3.次に部屋を監視していた苗木は、舞園の元からモノクマが去ったのを確認次第ランドリーに
   移動し呼びかける。洗濯機はKAZUYAが事前に工具セットを使って密かに部品を外しておいた。
4.モノクマが去った後、桑田は保健室のKAZUYAに声を掛けてそのまま脱衣所に向かう。
5.KAZUYAは保健室でモノクマを呼び、来るまでに何分かかるかを計っていた。

こうして三度呼びかけてもモノクマが応答しなかったという確かな数字を手に入れたのである。


K「更に言うなら監視も同じ人物が一人で行っている可能性が高いな。
  別の人間がその場にいるなら、長話を切り上げて移動するよう促すはずだ」

桑田「マジかよ…これって超重要情報じゃね?! 敵は一人しかいないってことじゃん!」

K「早まるな、桑田。今の段階では敵全体の人数を断定出来るまでの情報はない。
  せいぜい今言えるのは、監視役は時々一人になることがある、くらいだな」

苗木「それで思い出したけど、前にたった一度だけモノクマを呼んでも来ない時があったんです」

K「いつのことだ?」


786: 2013/12/14(土) 21:13:08.60 ID:PN7EMVtd0

苗木「確か三日目の3時くらいかな。まだ倉庫が開いてない時に、勉強したくて
    たまらない石丸君が教科書が欲しいって騒ぎ始めて…」


苗木はその時のことを話し始めた。


石丸『うがああああ! ここには教科書がない! 参考書もない!
    このまま勉強をサボり続けたら僕は落ちこぼれになってしまうぞ!』

大和田『…オメェ、そりゃあ俺達に対する嫌みか?』

苗木『図書室の本じゃダメなの?』

石丸『図書室は十神君が占領しているのだ。僕が行くと腐川君に命令して
    追い出されてしまう。あの大量の本を独り占めなんてズルいぞ、十神君!』

苗木(多分うるさいからじゃないかな…)

大和田(…どうせ最初に一緒に勉強しようとかなんとか余計なこと言ったんだろ)


787: 2013/12/14(土) 21:16:47.48 ID:PN7EMVtd0

石丸『そうだ! モノクマに聞いてみよう。一生ここにいろと言うからには
    こちらの要求を主張する権利くらいはあるはずだ! 出てきたまえ、モノクマ!』


シーン。


石丸『ム、馬鹿な…他のみんなが呼んだ時には来たというのに、僕の時だけ
    来ないというのか? ならば来るまで何度でも呼ぶのみ! モノクマモノク…』

江ノ島『ああああ! うるさい! モノクマだってトイレやご飯くらいするでしょ!
     呼んでも来ないんなら後にしなさいよ!』

石丸『それもそうか…ではもう少ししたらまた呼ぶぞ!』


苗木「ということがあって、結局十分以上来なかったんだ。モノクマにしては珍しいから印象に残ってた」

K「その時、食堂には何人いたか覚えているか?」

苗木「おやつ時でみんなお茶を飲みに来てたから、ほとんどいたはずです。
    いなかったのは十神君、腐川さん、桑田君、先生くらいかな」


788: 2013/12/14(土) 21:23:22.35 ID:PN7EMVtd0

K「桑田、お前はその時何をしていた?」

桑田「えーっと、確かやることもないし部屋で昼寝してたような…」

K「これは重要な情報だ。仮に十神がモノクマを呼び出していたとしても、十分以上も
  ずっと話し続けていたとは思えん。操作していたから気付かなかったのではなく、
  純粋に監視者は席を外していたということになる」

K「普通席を外すなら別の人間に監視を交代するだろう。交代要員がすぐ近くにいないのは
  ほぼ確実と見ていい。恐らく、事件の起こりそうにない昼間は一人で監視しており、
  周囲に誰もいないのだ。ここから導き出される答えがわかるか?」

苗木「えーっと…思ったより監視が手薄ってことですか?」

K「間違ってはいないが、更に切り込める」

桑田「ワリとテキトーっていうか、あんまやる気がねぇってことは俺にもわかるぜ」

K「やる気がないのではなく出来ないのだ。俺達を捕らえた組織は極端に人員に余裕がない。
  極少人数で回しているとしか思えん。思えば、思い返すとおかしいことだらけだ」


記憶が曖昧だが、KAZUYAを襲った人間は確かに一人だった。まずそこがおかしい。
それに頃したと勘違いしたのは仕方ないにしても、あまつさえ氏体を何日も放置した上に
消えたことすら気付かないというのは管理が杜撰過ぎる。


789: 2013/12/14(土) 21:27:37.39 ID:PN7EMVtd0


K「トイレや脱衣所にカメラがないのは監視する手間を省いているのかもしれんな。
  この調子なら夜もせいぜい二、三人しかいないだろう」

苗木「信じられない…これだけ大規模な監禁なのに…」

桑田「どっかのやばいヤクザとかマフィアじゃなかったのかよ…」

K「ただ油断はするな。モノクマの技術や校内に施された改造といい、敵の技術力は相当なものだ。
  また、俺を襲った人間は確かに一人だった。つまり、この希望ヶ峰学園の生徒達のように
  様々な能力に特化した少数精鋭のプロフェッショナル集団なのだろう」

苗木・桑田「ゴクリ…」

苗木「つまり敵には高度な技術を持った技術者と先生並に強い人の最低二人がいるってことですよね…」

桑田「それだけでもうかなりヤベーじゃねえか…」

苗木「あ、あと僕初めてモノクマが消える所を見たよ。床に穴が空いてそこに消えていったんだ。
    …もしかして、有事の際には廊下中からモグラたたきのモグラみたいにモノクマが出てきたりして…」

桑田「お、お前! こええこと言うなよ!」

K「仮に操れるのが一つでも一斉に自爆でもされたら敵わんな…特に、モノクマに関してはまだ謎も多い」


790: 2013/12/14(土) 21:32:20.91 ID:PN7EMVtd0

桑田「で、でもよ…何もわからなかった時に比べたらすっげえ進歩じゃね?!
    そうだ! 今すぐ他の奴らここに集めて教えてやらねぇと!」

K「待て!」


脱衣所を飛び出さんとする桑田をKAZUYAは制す。ふと頭に受かんだのは……江ノ島盾子だった。


桑田「あ、なんだよ? 早く他の奴らにも教えてやろうぜ?」

K(まだ敵だという確信も証拠もない。だが、俺の直感が何かを告げている)

K「俺が何故お前達にこの話をしたかわかるか? ただお前達がこの作戦に向いて
  いたからではない。俺はお前達を信頼して話をしたのだ」

K「証拠がないため誰とは言わんが、現在生徒の中で不審な行動を取っている者がいる」

苗木「それってまさか、内通…」


内通者、と苗木が言い終える前に桑田が遮った。


791: 2013/12/14(土) 21:39:17.30 ID:PN7EMVtd0

桑田「ああ、十神のことか。確かにあいつ、出来るかわかんねぇみんなでの
    脱出より確実な卒業のほう狙ってるっぽいしな」

K「ああ、あの男は確かに要注意だ。だがこれは十神だけの話ではない」

桑田「ってぇと…もしかして霧切か?」


KAZUYAは驚いた。霧切はKAZUYAが現在最も信用している生徒の一人だったからだ。


K「…何故そこで霧切の名前が出る」

桑田「だってあいつ、今だに一人だけ肩書明かしてねえじゃん。単独行動も多いしな」

苗木「確かにちょっとミステリアスだよね」

K(霧切の奴、まだ皆に話していないのか…何か考えがあるのかもしれんな)

K「彼女は大丈夫だ。実は俺は彼女のことを知っていてな、身元も保証出来る」

苗木「え、先生の知り合いなんですか?」

K「ああ。だから霧切は信用しても問題ない。むしろ、何かあれば彼女を頼るといい。
  恐らく現状では俺の次に冷静で頼りにもなるはずだ」


792: 2013/12/14(土) 21:47:59.59 ID:PN7EMVtd0

桑田「マジかよ…鉄面皮つながり?」

K「どういう繋がりだ…」

苗木「あ、だから初日に男子トイレでこっそり話してたんですか?」

K「そうだ」

桑田「ふーん。なんかうさんくせー女だけど、せんせーがそういうなら一応信じるか」

K「頼む」

苗木「でも、それと肩書を隠すのは何か関係があるんですか? 先生は知ってるんですよね?」

K(言おうにも、記憶喪失だったから言えなかっただけだろうが…)

K「…彼女はああ見えて非常にシャイでな。親しくなればそのうち教えてくれるだろう」

桑田「シャイィィ? シャイってキャラかよあの女!」

K「そう言ってやるな。さて、長居し過ぎると怪しまれる。順番に出るぞ」


苗木と桑田が去ったのを見届け、時間を空けてKAZUYAは脱衣所を後にした。


800: 2013/12/15(日) 21:43:36.89 ID:LbOwmYsv0

― 苗木の部屋 PM1:54 ―


現在舞園は起き上がってベットに腰をかけ、そのすぐ横にKAZUYAが座っていた。
開腹手術をしたために最初の三日間は絶対安静であったが、傷口の癒着を防ぐため
今は起き上がらせたり少しだけ歩かせたりと軽い運動をさせている。


K(…だが、風呂に入る訳でもないのに脱衣所に行けば不自然で目立つ。
  シャワールームに二人きりになるのはどう考えても不味い。仕方がないのだが…)


協力してもらった以上舞園に作戦の結果を話すのは当然だし構わないが、どう黒幕に悟られず
伝えるかが問題であった。マイクに拾われない声量で会話する他ないのだが、その結果、
監視カメラに背を向けて座り恋人がやるようにお互いの耳元へ囁くという形になる。


K(……距離が近い)


舞園は全く気にしていない様子だったが、距離が近すぎてKAZUYAとしては気が気でなかった。

KAZUYAの名誉のために言うと、いかに相手が国民的アイドルグループのセンターを
勤める美少女だろうが、大人のKAZUYAに言わせればまだ子供であり全く対象外なのだが、
この様子を見ている黒幕が妙な噂を流すのではないかと内心冷や汗が止まらない。


801: 2013/12/15(日) 21:46:24.49 ID:LbOwmYsv0

舞園「それでは成功したんですね」

K「ああ、それも最初に上手くやったお前のおかげだ」

舞園「役に立てて良かったです」


あまりこの状態で長話をしたくなかったので、作戦の結果とそこから確定出来た
情報だけを手短に伝える。舞園も想像以上の成果に驚いていたようだった。


K「…それにしても、よくあれだけ奴を足止め出来たな」

舞園「最初は無理かと思いました」

K「一体どんな話術を使ったんだ?」

舞園「話術なんて呼べるものは何も。ただ、幸運なことにたまたまモノクマさんが
    興味を持つ話題を振ることが出来たんです。それだけですよ」

K「奴が興味を持つ話題…それはなんだ?」

舞園「…それはですね」


一瞬舞園が言い淀んだのを見て、KAZUYAは身構える。だが彼女の口から発せられたのは意外過ぎる単語だった。


802: 2013/12/15(日) 21:49:03.75 ID:LbOwmYsv0

舞園「……恋バナです」

K「は?」


舞園はその時の様子を思い出す。


        ◇     ◇     ◇


舞園は焦っていた。KAZUYAに頼み事をされた。しかもこれは自分が一番適任という。
命の恩人であるKAZUYAに報いると共に少しでも罪を償いたい。その一心だったのだが、
敵は強大だった。何を言ってもモノクマはすぐに帰ろうとするのだ。


モノクマ「舞園さんが僕を呼ぶなんて珍しいねぇ。何の用?」

舞園「…はい。私ももう危険領域は完全に脱してしまって、今は前みたいに
    誰かがつきっきりと言う訳ではありません。でも、まだ自由に歩き回れないので…」

モノクマ「何? 暇だから僕とおしゃべりしたいってこと?」

舞園「おしゃべりというか、外の人達の様子を少し教えては頂けませんか?」


803: 2013/12/15(日) 21:51:55.14 ID:LbOwmYsv0

モノクマ「あのねぇ、僕暇じゃないんですけど。むしろかなり忙しいんですけど」

舞園「少しでもいいので…」

モノクマ「…ふぅ、じゃあいいよ。ちょっとだけね」


モノクマが語った内容は本当に少しで、しかも舞園にとっては厳しいものだった。
舞園がいなくても他の生徒達はとても楽しくやっているということ。
他の生徒が舞園のことをどう思っているか等を主観混じりに語ってくれた。


モノクマ「うぷぷ。みんな自分が悪役になるのは嫌だからさぁ、誰も積極的に君の話題を
      出したりはしないけどね? 結局内心ではもう戻ってこないで欲しいって思ってるんだよ」

モノクマ「現に積極的にこの部屋に来てくれた生徒って、苗木君除いたら
      単純熱血馬鹿の石丸君とクールな霧切さんだけじゃない」

モノクマ「怪我が治って退院しても、もうここに君の居場所なんてないんだよ」

舞園「……っ!」

舞園(苦しい…でもこれは全て私が招いたこと。モノクマは私を揺さぶって
    また道を誤らせようとしている。それに乗ってはダメ…)


脳裏に苗木の顔が受かんだ。次にKAZUYAと、そして…


804: 2013/12/15(日) 21:55:02.96 ID:LbOwmYsv0

舞園(まだ5分も経ってない…もっと引き延ばさないと)

舞園「モノクマさんはお話がお上手ですね。もっと色々聞かせてくれませんか?」

モノクマ「だーからー、僕は忙しいんだっての!」


舞園は芸能界で培ったあらゆる手練手管を用いてモノクマを引き止めようとしたが、無駄だった。
モノクマが去ってしまう。このままでは役に立てない。本当に――自分の居場所がなくなってしまう。


舞園「あ、あの…!」


そして半ばヤケクソになって放った言葉がこれである。


舞園「苗木君て、好きな人とかいると思いますか?」

モノクマ「ハァ?」


自分でも何を言っているのかと思った。殺人計画を企み彼を利用した女が何を言うのか。
さぞや滑稽だったろう。モノクマも呆れて去ってしまうに違いない、と思ったが。


805: 2013/12/15(日) 21:58:27.63 ID:LbOwmYsv0

モノクマ「え? なになになに? 舞園さん苗木君に興味あり?」


…ヤケに食いついてきた。


モノクマ「苗木君てさぁ、特に凄い才能とか特徴はないけど話しやすいじゃん?
      あのメンツの中だと常識もあるし。だから意外に倍率高い気がするんだよねぇ?
      犯罪者の君には厳しいと思うけど聞きたい? ねえそれでも聞きたい?」

舞園「……はい。お願いします」


この時点ではまだ、彼女の表情がモノクマの嗜虐心をくすぐったのか
或いは単にそういった俗悪な話が好きなのかはわからなかった。


モノクマ「…でさぁ、その時の苗木君てばナチュラルに彼女達を誉めて天然ジゴロだよね」


しかし話を聞いているうちにだんだんわかってきた。その両方だと。


806: 2013/12/15(日) 22:05:17.34 ID:LbOwmYsv0

モノクマ「…でも僕はKAZUYA先生も結構ああ見えてやるタイプだと思うんだよね!
      初日から女生徒とトイレで二人っきりになったりしてるし、君も気をつけてね?」


最初は苗木だけの話だったのに、いつのまにか他の人間にまで話が広がっている。
KAZUYAは絶対女泣かせだとか誰々が工口いとか、果ては腐川のストーカー紛いの行動まで話し出した。
ただ舞園も歳相応に好奇心旺盛な女子校生なので、ついつい一緒に盛り上がってしまったのだが。

こうしてモノクマは延々と生徒のプライベート話を披露し、舞園は無事頼まれた任務を遂行出来たのだった。



        ◇     ◇     ◇



K「…………」

K(俗的な奴だ。それにしてもそういった話を好むとは、女みたいな奴だな)


ここで再びKAZUYAの脳裏に江ノ島がよぎる。


807: 2013/12/15(日) 22:13:05.55 ID:LbOwmYsv0

K(モノクマの一人称や熊の姿から黒幕は男と思い込んでいたが、何人か女がいるな。
  むしろ、ああいったぬいぐるみを好むのは間違いなく女だろう)

K(更に言えば女子の部屋にだけシャワールームに鍵が付いているが、よくよく考えれば
  それもおかしな話だ。個人の部屋だから付いていなくても別に困らないし、
  付けるというのなら普通全員の部屋に付けるだろう。男子だけ省略する必要はない)

K(……女がいる。それもかなり発言力のある立場で)

舞園「あの、先生。私から説明出来るのはここまでです」

K「…ああ。非常に助かった。まだ傷が痛むだろうに、すまなかったな」

舞園「いえ……それより先生こそ、気をつけて下さいね」

K「ウム、わかっている。黒幕には悟られないよう最新の注意を払い…」

舞園「あ、そうじゃなくて…」

K「?」

舞園「多分私達のこの姿…モノクマが吹聴すると思うので」

K「…………」


808: 2013/12/15(日) 22:28:14.49 ID:LbOwmYsv0

そうだ。黒幕は人の恋バナや噂をするのが大好きな下世話な奴なのだ。
黒幕の性格を考えると黙っている方が有り得ない。きっと今も二人の姿を見て、


「ギャハハ! Kのヤツ、役得っつか立場の濫用じゃね? そうだよねー天下のアイドルだもんねー。
 普段はあんな涼しい顔しててもやっぱり中身は男で狼でしたってか! いいねぇいいねぇ!
 アタシ好きだよ、そういうの? せっかくだからガシガシ盛り上げてやろうじゃんっ!!」


こんなことを言っているに違いないのだ。
そんな黒幕の考えを悟ったのかはわからないが、ただKAZUYAは閉口せざるを得なかった。



― 自由行動 ―


K(さて、今日は対黒幕の重要な情報を少しだが得ることが出来た)

K(来たるべき戦いに備え、今は少しでも生徒達と信頼関係を築かねばな)


>>810人名


811: 2013/12/15(日) 23:10:52.78 ID:LbOwmYsv0

生徒の集まる食堂へ行こうとした矢先、KAZUYAは声を掛けられた。


石丸「西城先生」

K「石丸か。お前のことだ。どうせまた勉強だろう。今度は何を勉強するんだ?」

石丸「はい。実はもっと深く応急処置を…いや、僕に医学を教えてもらえませんか?!」

K「――医学を?」


この男の発言が唐突なのはいつものことだが、今回ばかりは流石のKAZUYAも一瞬対応が遅れる。
しかし、石丸の顔はすこぶる真剣で単なる好奇心での発言ではないようだった。


K「突然どうした? 本気で言っているのか?」

石丸「はい。…実は、舞園君と苗木君を助ける先生の姿を見てからずっと考えていたのです」

石丸「僕の将来の夢は変わらず政治家ですが、大学を卒業してから政治家になるまでにどうしても
    年単位でブランクが空きます。秘書として実力を磨くという手段もありますが、ただでさえ
    政治家と民衆の間には溝があると言われているのにそれで良いのかと常々思っていたのです」

石丸「先生の生い立ちを聞いた時…失礼かもしれませんが、僕は少し自分に似ていると思いました。
    毎日勉強や訓練に追われ友人も作れない…でも先生は僕と違って空気も読めるし普通に
    人付き合いも出来ている。それはたくさんの患者との触れ合いが理由だと考えます」


812: 2013/12/15(日) 23:16:39.25 ID:LbOwmYsv0

K「それは確かにあるだろうな」

石丸「僕はただでさえ空気が読めないと散々言われていて、今のまま政治家になってもきっと
    国民の気持ちがわからないと思うのです。だから、先生のように医者になってたくさんの
    人と出会い救うことが出来れば、今よりも人の気持ちがわかるようになると考えました」

石丸「あまり若いうちに政治家になってもすぐには発言力もなく大したことは出来ない。
    でも、医者になればすぐにでも誰かを救うことが出来るでしょう?」

石丸「僕も先生のように苦しむ人々を救う生き方をしたいのです! そして、医者としても
    人間としても十分なキャリアを積むことが出来たら、その時に改めて政治家を目指します!!」


真っ直ぐKAZUYAの目を見据えて石丸は言い放った。素晴らしい、完璧すぎる程の人生設計だ。
しかも石丸は、口だけでなくその夢を可能にする努力と実力を既に備えている。


K「素晴らしい夢だ。是非応援させてもらおう」

K(この歳で随分立派なことだ)


KAZUYAとしても嬉しい限りであった。自分の後ろ姿を見て同じように医療に
生きる者が増えるということは、自分の生き方を肯定してもらうのと同義である。


813: 2013/12/15(日) 23:20:56.81 ID:LbOwmYsv0

K「俺に出来ることがあればなんでも言ってくれ。協力しよう」

石丸「ありがとうございます!」


本来ならこれほど喜ばしいことはないのに、KAZUYA自身とても嬉しいと思っているのに…
しかし、KAZUYAの心の中にはどうしても引っかかることがあったのだった。



>>815人名


815: 2013/12/15(日) 23:30:50.06 ID:U9xpzFXAO
大和田

816: 2013/12/15(日) 23:58:12.32 ID:LbOwmYsv0

例によって石丸にみっちり勉強をつけてやった後、気分転換にKAZUYAは購買部を訪れていた。
実はいつぞやのリベンジをしようと、メダルを手に入れてはちょくちょくやって来て
モノモノマシーンに挑戦しているのだが、相変わらず妙な物しか出ないのだった。


K「クソッ、何故俺ばかりいつも妙な物が出る…!」


生徒達はモノモノマシーンから出たアイテムをプレゼントしたり物々交換をして
交流を図っている。苗木などは上手く利用しているその典型例だ。


K(今までに出た物といえば黄金銃・村正・木刀・ヘルメット・砲弾その他諸々。
  せいぜいサラシがいざという時に包帯代わりになるくらいだな)

K(…嫌がらせか。嫌がらせなのか)


おかげ様で生徒の健康を守る保健室はちょっとした武器庫になっていた。
…ベッドの下や棚等になんとか隠しているが、そのうちバレそうだ。


大和田「お、先公か。こんなとこで会うなんて珍しいじゃねぇか」

K「そうだな。お前もやりにきたのか?」


817: 2013/12/16(月) 00:06:16.78 ID:tGt0F6Eo0

大和田「おうよ。先公はどんなもんが出たんだ?」

K「俺は運がない。いつもろくなものが出ないのだ。見てみろ」

大和田「どれどれ…って、なんだよ! イイモンばっかじゃねえか!」

K「ム?」


大和田はKAZUYAが引き当てた武器の数々を代わる代わる持ち上げては見ている。


K(そうか。あれだけ生徒がいるのだ。物騒な物に興味を持つ生徒もいるだろう。
  ……だが生徒に凶器を与えるというのは教員としてどうなのだ?)

K「絶対に使わないと約束するならくれてやってもいいぞ」

大和田「…いいのか? サンキュー!」

K(いつになく機嫌が良くなった。今ならいつもより多少はまともに話せそうだな)

K「…それにしても、ヘルメットにツルハシ? お前、そんな物が欲しいのか?」

大和田「おう。実は俺、将来大工目指してんだ」

K「もう将来のことを決めているのか?」


818: 2013/12/16(月) 00:13:51.66 ID:tGt0F6Eo0

大和田「ああ。ほらよ、俺は他のヤツらほど頭良くないだろ? 桑田みたいにスポーツ進学も
     出来ねえ。だから大学なんてムリに決まってるし、そうなると就職しかねえじゃねーか」

K「まだ諦めるような歳ではないと思うがな。俺の知り合いには何浪もしたり、
  中には60歳を超えて医大に入り直したツワモノもいる」

大和田「…そいつはすげーな」

K「大工を選んだのには何か理由があるのか?」

大和田「そんな深い理由はねぇよ。ただ、俺は今まで族として爆走(はし)ったりモノを
     ぶっ壊すしかしてこなかったから、チームを卒業した後は逆に作る立場に
     なるのもいいかなって思っただけさ」

K「なかなか良い着想じゃないか」

大和田「…………」


突然、大和田はKAZUYAの顔を見て黙り込む。


K「どうかしたのか?」

大和田「いや、言ったらきっと笑うだろうよ」

K「何をだ? 俺は相手が真剣なら決して笑ったりはせん」


819: 2013/12/16(月) 00:24:26.69 ID:tGt0F6Eo0

それでも最初は言うか言うまいかを躊躇っていたが、最終的に大和田は重い口を開いた。


大和田「…………不安なんだ」

K「今の生活がか?」

大和田「ちげえ。今もそうだけどよ、ここを出た後だ。あんたは多分わかってるだろうし
     俺も認めたくはねえが、結局俺は社会も知らずにイキがってるだけなんだよ」

大和田「他のヤツらと違って、俺はチームを抜けたら何も残らねぇ。そんな俺がちゃんと
     社会に出てやっていけるのかって思ったらよ…情けねぇことに不安で仕方ねえんだ」

K「……」

大和田「笑えよ。日本一の暴走族のヘッドがこんなちっぽけなことを
     ウジウジ悩んでるなんて、あんたにはおかしくてたまらねぇだろ?」

K「将来に不安を持つのは当然のことだ。俺だってお前くらいの時には色々悩んでいた」

大和田「医者一族の名門サラブレッドがつまんねーウソつくんじゃねぇよ」

K「嘘では…」


違うと説明しようとしたKAZUYAだが、その必要はなかった。大和田の反応がいつもと違ったのだ。


820: 2013/12/16(月) 00:27:18.99 ID:tGt0F6Eo0

大和田「でもよ…励まそうって気持ちは伝わったぜ。ありがとよ」

K「…どうした? 今日はやけに素直だな…?」

大和田「兄弟と…それに不二咲のヤツがやたらあんたをほめるからよ。感化されちまったのかもなぁ。
     …あんたが俺達のために色々ガンバってたのは前からわかってたことだしよ」

K「…そうか」

大和田「じゃ、これもらってくぜ」


そう言って、大和田はヘルメットにツルハシ…そして何故か道路標識を持って行った。


K(友人とは…本当にかけがえのない物だな)


少しだけ心を開いてもらった気がして、KAZUYAは穏やかに笑った。


839: 2013/12/18(水) 21:19:07.47 ID:g5p74fXS0

KAZUYAは廊下を歩いていると、前方をフラフラと進む不二咲を見つけた。


K「おい、不二咲」

不二咲「あ、西城先生」

K「どうしたフラフラして? 目にクマもあるし、あまり寝れていないのか?」

不二咲「心配させてごめんなさい…でも大丈夫だから」

K「寝不足になるほど何かに熱中しているのか?」

不二咲「うーんと…あの、ねぇ…」


顔を赤くして何やらモジモジしている。その姿は非常に可愛らしかったが、
何か聞いてはいけないことだったのではないかとKAZUYAは少し慌てた。


K「いや、すまん。プライバシーの侵害だな。聞かなかったことにしてくれ」

不二咲「あ、ううん! 違うのぉ。…先生なら、いいかな」

K「?」

不二咲「あの、ね…先生、耳を貸してもらってもいい?」


どうやらあまり大声で言えない話のようだ。しかし、耳を貸そうにも
140センチ代の不二咲と2メートル近いKAZUYAでは実に50センチ近くも差があり、
屈んだだけでは到底届かないので近くに片膝をついてしゃがみこむ。


不二咲「ひゃっ」


840: 2013/12/18(水) 21:23:10.95 ID:g5p74fXS0

いつも遥か遠くにあるKAZUYAの顔がすぐ側に来て驚いたのか、不二咲は顔を赤らめた。
そんな反応が小学生みたいで何とも言えず愛らしく、KAZUYAも思わず微笑む。


K「どうかしたか?」

不二咲「う、ううん。なんでもないです。それで、話なんですけど…」


しかし、不二咲の発言はKAZUYAの微笑ましい気分を吹き飛ばす程の衝撃的な内容だった。
不二咲はKAZUYAの耳に顔を近付けそっと囁く。


不二咲「図書室に壊れたノートパソコンがあったでしょう? 僕が修理したんですけど…
     中に脱出の手がかりがないか、今内部を解析するプログラムを作ってる最中なんです」

KAZUYA「何だとっ…?!」

不二咲「明日には完成する予定だから、それ以降には先生にも見せてあげられそうです」

KAZUYA「…しかし、部屋で作業すれば黒幕に見つかるだろう。どこで作業している?」

不二咲「うーんとね、最初は単なる打ち込みだから部屋でやってたんだけど、
     今は最後の調整中だから脱衣所でやってます」


脱衣所と聞いてKAZUYAは嫌なことに気付く。


K「気をつけろ。脱衣所には監視カメラはないが盗聴器がある」

不二咲「そうなのぉ?! 良かったぁ。まだ音声入れてなくて…」

K「音声? プログラムから音がするのか?」


841: 2013/12/18(水) 21:26:20.81 ID:g5p74fXS0

言ってKAZUYAは思い出した。


K「まさか…例のプログラムか?」

不二咲「そうです。自分の一番得意なプログラムがいいかなと思って…」


そう言って不二咲ははにかむ。この爆弾には流石のKAZUYAも驚喜せざるを得なかった。
視聴覚室かどこかに、ネットワーク環境があるかもしれない。もしハッキングが可能なら、
外の情報を得ることも場合によってはこの学園のシステムすら乗っ取れるかもしれない。


K「でかした! 大金星だぞ!」

不二咲「エヘヘ。本当?」

K「ああ。俺に手伝えることがあったら何でも言ってくれ!」

不二咲「あ、それなら一つお願いしたいことがあるんですけど…」

K「何だ?」

不二咲「あのパソコンは旧型だから処理が遅くて…倉庫に置いてある機械に使える部品が
     あればいいなって探してみたんだけど、僕だと上の方は届かないし重い物も
     持てないから…先生に頼んでもいいですか?」

K「任せろ。俺にも機械の知識は多少あるし、必ず調達してきてやる」

不二咲「ふふ、やっぱり先生は頼りになるなぁ。お願いします」


少しずつ脱出に向けて光明が見えてきた。そう胸を高鳴らすKAZUYAだったが、
モノクマこと黒幕の魔の手はもうすぐそこまで来ていた。


・・・


842: 2013/12/18(水) 21:34:32.22 ID:g5p74fXS0

次にKAZUYAは娯楽室を訪れた。思えば、最初の探索以来初めて来た気がする。


セレス「あら、どなたが訪れたかと思えば…随分と珍しいお客様ですこと」


机に肘をつき、気だるげな微笑を浮かべたセレスがそこにいた。


K「もう一週間以上ここにいるというのに、二人だけで話すのは初めてな気がするな」

セレス「そうですわね…それにしても、一体どのような御用でしょうか?
     先生はあまりこういったものにご興味があるようには見えませんが」

K「俺とてたまには息抜きもするさ。…そういえば君はその歳で既に一流のギャンブラーだそうだな」

セレス「…何か賭けますか?」


クスリ、とセレスは笑う。笑顔と言っても本物ではない。作り物の、ポーカーフェイスの笑顔だ。
KAZUYAは長い人生でこのようなタイプの女性を何度か見たことがあるが、そのいずれも
只者ではない…いわゆる曲者だということをよく知っていた。


K「俺は賭け事は嫌いだ」

セレス「では、ノーレートでポーカーでも」

K「そうだな。相手をしてもらえるか?」


KAZUYAも席に付き、セレスとポーカーをする。


843: 2013/12/18(水) 21:41:13.28 ID:g5p74fXS0

セレス「本当はどんな用でいらしたのですか、先生?」

K「俺はただ生徒達とコミュニケーションを取りたかっただけだ。どうしても話しやすい
  生徒とばかり話してしまうが、それでは校医として片手落ちだからな」

セレス「あら、わたくしはてっきり腹の探り合いに来たのかと思いましたわ?」

K「……」


ピクリ、とKAZUYAの眉が上がった。その様子を見てセレスはクスクスと笑う。


セレス「…冗談ですわ。西城先生が人を頃すようにはとても見えませんし、わたくしは
     以前から主張しております通り、この生活に適応することを望んでいますので」

K「そうか」


ポーカーをしつつ無難な世間話を少しして、KAZUYAは娯楽室を去った。


K(セレスティア・ルーデンベルク…とても高校生とは思えん。一筋縄ではいかない相手だな…)


それが初めてセレスと一対一で相対したKAZUYAの感想であった。

今の所はこの生活に満足しているらしいので特に問題はないが、必要さえあれば恐ろしいほど
冷酷な判断をするタイプに思える。下手をしたら十神より厄介かもしれないとKAZUYAは内心警戒した。


・・・


844: 2013/12/18(水) 21:45:23.88 ID:g5p74fXS0

KAZUYAはモノモノマシーンで以前手に入れた物を持ってある人物を探している。


K「ム、あそこにいたか…おい、江ノ島」

江ノ島「な、なによ…あたしになんのようなワケ?」


KAZUYAに呼び止められ、江ノ島はあからさまに警戒していた。


江ノ島(Kは鋭いからあんまり話すと残姉は絶対正体バレる、なるべく近付くな!って
     盾子ちゃんからキツく言われてるんだよね。確かに私も隠し通せる自信ないし)

K(…思えばあのDVDが配られたあたりから、露骨に避けられているな)


二人のそれぞれの思惑が鈍く交差する。


K「そう嫌な顔をするな。今日はお前を褒めに来てやったというのに」

江ノ島「え…?」


KAZUYAの発言が予想外だったのか、江ノ島は少し驚いているようだった。


K「さっきの授業だ。随分良く出来ていたな。人を見かけで判断するなというが全くだ」

江ノ島「…ま、まああのくらいラクショーだし?」

K「そういえば、モノモノマシーンでこんな物を手に入れたんだが、いるか?」

江ノ島「そ、それはレーション! ハッ…」


845: 2013/12/18(水) 21:50:07.99 ID:g5p74fXS0

K「前に好きだと言っていただろう? ほら」

江ノ島「あ、ありがとう…」

K「お前…前から思っていたが…」

江ノ島「ち、ちがっ! これはギャルなら…」

K「今流行のミリタリー女子とかいう奴なのだろう!」

江ノ島「……は?」


必氏に誤魔化そうと言い訳を考えていたのに、突然妙な単語を出されて思わず江ノ島は静止する。


K「違うのか? 俺は流行りには疎いのだが、桑田が今流行っていると言っていたぞ。
  あいつは俺と違って世間の流行に詳しいみたいだからな」

江ノ島(え、うそ…流行ってるの? 知らなかった。私の時代が既に来ていたなんて…
     聞いたことないけど、でも確かに桑田君なら流行とかうるさそうだし)

江ノ島「そ、そうなんだよ! よく知ってるじゃん。ギャハハ」

K「やはりな。ギャルのイメージとかけ離れているから今まで隠していたのか?」

江ノ島「マジマジ! 大変なんだからね! ギャルがモデルガン持つなとか言われちゃってさぁ!」

K「実は俺もその手の物が好きでな。医者がそれでは患者に悪印象だから隠しているのだが」

江ノ島「え、マジで?! 仲間じゃん!」


846: 2013/12/18(水) 21:54:37.49 ID:g5p74fXS0

KAZUYAがそんなものに興味を持っているとは全く知らないし聞いたこともないが、アフリカ中東南米など
彼が治安の悪い所へ率先して治療に行くのを江ノ島は知っていたため特に違和感もなかった。


K「何か一押しの銃器があったら教えてくれないか? 海外の危険地域に行く際身を守るために
  いつも持ち歩いているのだが、他人の意見も参考にしたい。使いやすいのがあれば教えてくれ」

江ノ島「任せてよ! よく撃つの? あんまり撃たないなら命中率も良くなさそうだし、
     やっぱり弾数が多いオートマチックがいいよね。アタシのオススメはね…!」


こうして江ノ島の長々とした銃器の講義をKAZUYAは聞き始める。
余程誰かに聞いてもらいたかったのか、一度話し出すと止まらないのだった。


K「凄く参考になった。ありがとう」

江ノ島「ま、このくらい余裕じゃん? また何か聞きたいことあったら教えてあげるよ。じゃね!」


機嫌良く去っていく江ノ島の姿をKAZUYAは凝視する。主に、服に覆われていない手や足を。


K(間違いない――彼女はプロだ)


今まで慎重だったKAZUYAがとうとう断言した。


847: 2013/12/18(水) 21:59:56.94 ID:g5p74fXS0

K(俺もそこまで詳しい訳ではないが、彼女の持つ軍事知識が多岐に渡っており、しかも非常に実戦的な
  ことくらいはわかる。年齢が若いからか、はたまた頭脳戦は苦手なのか演技力には難があったが…)

K(…それより何故今まで気付かなかった。彼女の鍛えあげられた肢体を見れば一目瞭然ではないか。
  怪我のせいか…それとも自分で思っているよりも環境の変化で洞察力が落ちていたのか?)


あるいは。


K(……生徒を疑いたくなかったのかもしれないな)


その考えに至ると、KAZUYAは深々と溜息を吐いたのだった。


・・・


K(この所色々なことがあって、流石の俺も少々疲れてきた。そろそろ息抜きも必要か)

K「桑田」

桑田「お、なになに? どーしたよ?」

K「前に一緒に泳ごうと誘ってくれただろう? お前のおかげで無事電子生徒手帳も
  手に入れたことだし、今から泳ぎに行かないか?」

桑田「お、行く行く! じゃあさ、せっかくだしヒマそうな奴に片っぱしから声かけるわ」

K「そうだな。大勢いた方が良い気分転換にもなるだろうし、任せるぞ」


848: 2013/12/18(水) 22:03:40.62 ID:g5p74fXS0

そして二十分後、プールサイドにて。


石丸「よし、兄弟! どっちが速いか勝負だ!」

大和田「悪いが俺は負けねえぞ!」

苗木「桑田君、KAZUYA先生も来るって本当? なんか意外だなぁ」

桑田「そうか? せんせーってあんなツラしてるけどなんだかんだ言って付き合い良くね?」

葉隠「クールキャラに見せかけて中身はすっごい熱血だしな」

山田「一昔前の少年漫画の主人公はあの手のタイプが主流だったのです」

朝日奈「お待たせー!」

大神「待たせたな」

桑田「ん? お、おー!(ヤッベェェェ、すげえよこの二人の胸! 誘って良かったぜ!)」

葉隠「…いい眺めだべぇ」

山田「ムッハー! 創作意欲が刺激されますな!」

桑田「…お前二次元限定とか言ってなかったっけ? なーんか変だと思ったんだよな。
    全然運動しないくせに今回はやけにノリ気だったからさ」

山田「…い、いやこれは絵の参考になるという意味でして…僕はあくまでぶー子一筋です!」

葉隠「どっちでもいいべ。素直に拝ませてもらうのが一番。ありがたやありがたや」


849: 2013/12/18(水) 22:11:49.02 ID:g5p74fXS0

そんないかがわしい考えの三人は無視して苗木が朝日奈達に応じる。


苗木「僕らも今来た所だよ」

大和田「ん、おい。不二咲はどうした? 他のヤツらはともかく不二咲が来ないなんて変だな」

朝日奈「んー、誘ったんだけどね、用事があるからって言って断られちゃった」

大和田「そうか」

桑田「おおい、お前目の前のムチ子ちゃんより口リっ娘が気になるのか?
    …もしかして、そういう趣味とか?」

葉隠「桑田っち、人の好みに口を出すのは野暮ってもんだべ。ここは二人を
    応援しつつ、ガッチリ証拠を掴んで後でゆするネタに…」

大和田「お前らぶっ転がされてぇみたいだな!」

石丸「兄弟、暴力と不純異性交遊は禁止だぞ!」


そんなことを話しているとガチャリと更衣室の扉が開いた。


K「すまん、待たせたか?」バーン!

苗木・桑田・葉隠・山田「……(うわ…)」


大神さくら並か、或いはそれを上回る筋肉を誇るKAZUYAに言葉を失う。


850: 2013/12/18(水) 22:18:54.10 ID:g5p74fXS0

葉隠「オーガが……二人いるべ」

桑田「俺、もうせんせーにツッコミ入れるのやめるわ…」

山田「あれじゃないですか。本当は刃牙の世界のお医者さんなんじゃないですか…」

苗木「あんまり意識してなかったけど、僕達って実は凄い先生に教わってるのかな…ハハ」

大和田「…チッ、負けねえぞ。俺も徹底的に鍛えてやる」

石丸「僕も付き合おう! 鍛えるのは良いことだ。ハッハッハッ」


ボソボソと話す男性陣に対し、女子は快活にKAZUYAに近付いていく。


朝日奈「わあー先生、スッゴい鍛えてるねー。私もみならわないと!」

大神「しかし西城殿、腹部にあるその傷痕はどうなされたのか?」

K「これか。実は俺は二年前に癌を患ってな。その時の手術痕だ」

一同「……え」

大和田「お、おい…ガンってあれだろ…? メチャクチャやばくねえか?」

石丸「癌といえば未だに日本の氏亡理由一位の難病では…」


851: 2013/12/18(水) 22:28:57.86 ID:g5p74fXS0

K「今の所再発の兆しはない。あと石丸、癌にかかる人間の大半は高齢者だと
  言うことを忘れているぞ。早めに発見して適切な治療さえすれば、今は癌も治る」

大神「しかし癌は治っても、筋肉に一度刃物を入れてしまうと元には戻らぬのでは…?」

K「執刀をしたのは俺の親友だ。腕が良かったのと、あとはまあ気合いだな」

山田「き、気合いって…」

葉隠「普通は気合いじゃどうにもならんべ」


やっぱりちょっと生徒達は引いているが、KAZUYAはあえて気にしない。


K「俺は大丈夫だ。それより、折角の機会だろう? 今日は思い切り泳ぐぞ!」

朝日奈「よーし! さっそくみんなで競争しよー!」

「おー!」



コンマ判定
下一桁の数字が大きいほど大勝利。今いるメンバーの親密度にボーナス!なお0は…


852: 2013/12/18(水) 22:30:51.70 ID:kArIxeX00
果たして…

856: 2013/12/18(水) 22:43:55.36 ID:g5p74fXS0
0はクリティカルのつもりだったけど、マジで0来るとか…KAZUYA先生実は相当な強運なんじゃ…?


ザババババババババババババババババババババッ!

K「フゥ!」ザッパアアアアン!

K「…さて、みんなは?」


泳ぎ切ったKAZUYAが後ろを振り向くと、遥か後ろの方に生徒達が連なっていた。

バシャバシャバシャ…


朝日奈「ぷはー! 先生、早いよっ!」パシャンッ!

K「…そうか?」

朝日奈「私男子にだって負けたことなかったのに~! 悔しい!」

大神「流石だな、西城殿」

大和田「…バケモンかよ、マジで」ゼーゼー

朝日奈「もう一回! もう一回やろっ!」

K「う、うむ」


結局何度も対決する羽目になった。だが久しぶりに全力で体を動かしたのと、
生徒達と触れ合えてとても楽しかった。良い息抜きになったようだ。


朝日奈「ま、まだまだだよ…!」ゼェ…ハァ…

K「…もうやめにしないか?」


862: 2013/12/21(土) 17:00:46.73 ID:S/b4d96R0

― 調理場 PM4:30 ―


調理場でKAZUYAは愛用の手術道具を広げていた。手術をする訳でもないのにKAZUYAは
念入りに器具を消毒しており、苗木と石丸は若干緊張しながらその光景を見ていた。


苗木「えーっと、突然呼び出して何ですか先生?」

K「今日は俺が食事当番の班長だ」

石丸「それはわかるのですが、いつもよりだいぶ早いですね。それにこの大量の魚は…」

K「この魚を用いて……これから解剖実習を行う!」

石丸「!」

苗木「……え? ええええええっ?!」


得心して頷く石丸とは対照に苗木は慌てる。


苗木「な、なに言ってるんですか先生?! ハッ、まさか今朝の授業で僕が救命士を考えて
    みるなんて言ったから、本気にしちゃったんですか?! 冗談ですよあれ!」

K「わかっているさ。だが、俺は本当に向いていると思ったのだ。考えてみろ?
  医療系はな、進んだはいいがどうしても血が克服出来ず挫折する人間が時折いる」

K「お前は本当なら大学や専門学校に行かなければ受けられない授業をプロの医者監修で
  ただで受けることが出来るのだぞ? そう堅く構えず、体験授業だと考えればいい」

K「やってみて興味が湧いたら進んでみろ。合わない、無理だと思ったらやめればいい」


863: 2013/12/21(土) 17:06:58.34 ID:S/b4d96R0

苗木「そ、そうか…普通は将来を決めて進学してからじゃないと出来ないのに、
    僕はフライングして体験出来るんだ…そう考えると確かにお得かも?」

石丸「僕としても一人で行うより、一緒に切磋琢磨出来る仲間がいた方がいい!
    共に頑張ろうではないか、苗木君!」

苗木「え…で、でも何で石丸君がいるの? 石丸君て…」


僕達の中でも断トツの不器用だよね…という言葉を苗木は優しさで飲み込んであげた。


石丸「うむ! 僕は政治家になる前にまず人間として成長しようと思って、
    そのために医学の道に進むことを決めたのだ!」

苗木「そ、そうなのっ?!」


あの人並み外れた不器用さで医者になれるのか…という疑問は今は置いておく。


苗木(石丸君、もう将来のこと決めてるんだ…凄いな)

苗木「じゃあ折角だし、僕もやるだけやってみようかなぁ…」

K「ウム、その意気だ。では準備をするぞ。このエプロンとマスクを付けろ」

苗木・石丸「はい!」

K「俺の愛用の道具を貸してやる。ちなみに学校で何かを解剖したことはあるか?」

石丸「フナなら一度小学生の時にやった記憶がありますが…」

苗木「僕は初めて…」


864: 2013/12/21(土) 17:14:24.34 ID:S/b4d96R0

K「そうか。最近は解剖をやらない学校も多いらしいから仕方ないな。
  さて、おいおい器具の説明もするが、まずは俺が手本を見せよう」ジャキーン!


KAZUYAはそう言って解剖用の剪刀を構える。KAZUYA程の腕なら通常通りメスで十分切り刻めるが、
魚は表面が滑るので普通はゴム手袋を付けず素手で専用の剪刀を使って解剖をするのだ。

剪刀(せんとう):要はハサミのことである。今回は片尖直型と言って、片側が丸く片側が鋭い
           タイプを用いている。丸い方を体内に入れれば内蔵に傷が付きにくいのだ。


苗木「あ、先生! その前にちょっと…」

K「何だ?」

苗木「ち、ちなみに…この大量の魚は捌いたあとどうするんですか…?」

K「今夜は白身魚のフライだ。揚げ物は体に良くないし俺はあまり好きではないが、
  お前達若いのはスタミナの付く物を食べんと満足出来んだろうからな」

苗木「えっいや、ええええええっ?!」

石丸「食べるのですかっ?!」

K「当たり前だ。まさか捨てるとでも思ったのか?」

苗木「え、で、でも…」

石丸「それらの器具は…過去に誰かへ使っているのでは…」


下手したら自分達のクラスメイトに使った物なのでは、という恐怖心を抱く。


865: 2013/12/21(土) 17:20:28.36 ID:S/b4d96R0

K「消毒したから大丈夫だ」

苗木・石丸「…………」

K「 消 毒 し た か ら 大 丈 夫 だ ! 」クワッ


…医者って凄い。苗木と石丸はこの時点で大分クラクラしていた。


苗木「器具もそうだけど実習に使った物を食べるってなんか…」

K「そんなに抵抗があるか? 医者にとっては普通だぞ」

石丸「普通なのですかっ?!」

K「あ、いや…普通…だと、思うぞ…?」

苗木「どうして疑問形なんですか?!」


何事もハッキリと話すKAZUYAが珍しく口ごもるとその不安はとてつもない。


K「俺の家は色々普通と違っていたからな…大学で会った友人も食べていたから
  今まで特に疑問を持たなかったが、余所がどうしてるかまではわからん」

K「だが、命を粗末にする訳にはいかんだろう? 俺達の手でこの魚を成仏させてやるのだ」

石丸「成程…こうやって命の大切さを学んで行くのですね…為になりました」

苗木「ちょっと違うと思うけど、こうなったら仕方ないよね。僕も覚悟を決めます。ハァ…」

K「よし、実習開始だ!」


866: 2013/12/21(土) 17:27:16.81 ID:S/b4d96R0

KAZUYAは魚の肛門から剪刀を入れて胴体を手際良く切り開き、メスで身を取り除いて内臓を露出させる。
鮮魚だったのか、その際に真っ赤な血がジワジワとまな板の上に広がり、二人は息を呑んだ。


K「魚類の解剖は本来ニジマス等のそこそこの大きさを持つ有胃魚を使う。魚類と哺乳類では
  体の形は全く違うが、腹腔内に関して言えば主要な内臓や消化器系など共通点も多い」


ちなみにフナ、コイ等のコイ科・ドジョウ科・その他サンマ、トビウオ等は胃を持たない無胃魚である。


K「とりあえずお前達は初めてだから、道具に慣れることと内臓の繋がりだけ覚えてくれればいい。
  これが心臓、肝臓、腎臓、食道、胃、腸。魚は更にこの幽門垂、エラ、浮袋がある」

K「最終的にはこのように内蔵を全て取り出し一人で解体出来るようになってもらうが」ズボッ、ピローン

苗木・石丸「ヒィッ」


顔色一つ変えずに魚の内蔵を取り出して器具でいじるKAZUYAに若干引きながらも、
二人は実習に取り掛かったのだった。


苗木「……」集中!

K「そう、そうだ。いいぞ。初めてにしては上出来じゃないか」

苗木「え、そうですか? うーん…前から思ってたけど、KAZUYA先生って実は褒め上手でしょ?」

K「いや、元々お前はそれなりに器用なのだろう。集中力も高い。それにしても…」チラリ

苗木「……」チラ


KAZUYAと苗木は無言で横を見る。


867: 2013/12/21(土) 17:34:45.57 ID:S/b4d96R0

石丸「あ! また腸が切れてしまった!」

K「…何回目だ」

石丸「す、すみません! 今度こそは…!」


腸が切れるだけならまだかわいいもので、身だけでなく骨や内蔵も切り裂いてしまうし、
鉗子で物を掴めば勢い余って握り潰す。無駄な出血で台に血が溢れ、惨憺たる光景となっていた。


石丸「努力…努力だ! 練習し続ければきっと…!」ブツブツ

K(これは…仕込むのに手間がかかりそうだな…)汗


こうして時間いっぱい実習を行い、ついでに使った魚は全て切り身にした。
他の食事当番が来る前に片付けを終え、そのまま調理も始める。


石丸「先生! 僕は今日から毎日朝昼晩と魚を食べることに決めました!」

K「まあ、体には良いだろう。俺の分も切っていいぞ」

石丸「ありがとうございます! …苗木君」ジーッ

苗木「あ、ええと…もちろん僕も付き合うよ」

石丸「一緒に頑張ろう!」

苗木「…うん(これから毎日魚しか食べられないのかな…憂鬱だ)」


こうして最初の医療実習は幕を閉じた。


868: 2013/12/21(土) 17:39:21.59 ID:S/b4d96R0

― 二階 男子トイレ PM8:34 ―


K(ここだな)


KAZUYAは学園エリア二階の男子トイレ一番奥にある掃除用具入れの中に立っていた。
電子生徒手帳を手に入れ中の機能を確認していた際、学園のMAPに妙な部分が
あるのに気が付いたのだ。不自然な出っ張り…今はそれを確認しに赴いたのである。


K(…俺の予想ではここに何かがある)


タイルの一枚一枚まで念入りに調べていくKAZUYA。
そしてあるタイルを押した時、壁が後ろに下がったのだった。


K(これは! やはり…!!)


中に誰もいないのを確認して足を踏み入れる。そこは埃っぽい小部屋であった。


K(資料のような物があるな…)


横の棚からいくつかファイルを取り出し、椅子に座って読みはじめる。


K「馬鹿な…!」


中に書かれていたのは衝撃的な内容だった。


869: 2013/12/21(土) 17:41:52.55 ID:S/b4d96R0

K(人類史上最大最悪の絶望的事件…!! 俺の推測は当たってしまっていたのか…)


当たっても嬉しくもなんともなかった。むしろKAZUYAにとってそれは最悪の情報だった。


K(つまり、警察は当てにならん。自分達でどうにかしなければいけないということになる)

K(…被害状況はどうなのだろう。人類史上というからには日本だけでなく
  世界中で問題が起こっているのか? 高品、七瀬、軍曹…どうか無事でいてくれ)


友人達の安否を祈りながら、次々に資料を取り出しては手早く読み込んでいく。
ただKAZUYAはある奇妙なことに気が付いた。


K(…不自然だな。“人類史上最大最悪の絶望的事件”や“希望ヶ峰シェルター計画”など
  単語はやたら出てくるが、その詳細や発生時期はほとんど載っていない。抜き取られている)

K(思えば、この隠し部屋…MAPに堂々と載っているのに黒幕が気付かない等と
  言うことがあるのだろうか。何らかの罠という可能性は?)

K(そう言えば、校則の四番目…『希望ヶ峰学園について調べるのは自由です。特に行動に
  制限は課せられません』。思えば不自然な校則だった。もしやこれに関係しているのか?)


全ての資料に目を通し、KAZUYAは考え始める。


K(時系列を整理しよう。俺の学園赴任後、“人類史上最大最悪の絶望的事件”が起こる。
  事態を重く見た学園は希望ヶ峰学園閉鎖を決め、同時に“希望ヶ峰シェルター計画”を発動)

K(そうなると…成程、子供達の安全のために俺がその計画に協力した可能性は高いな。
  だから学園が閉鎖してからもしばらく俺はこの学園に残っていた。辻褄は合う)


870: 2013/12/21(土) 17:49:12.56 ID:S/b4d96R0

K(つまり、シェルター計画が完了する前に黒幕が学園に乗り込んできて学園をジャック。
  生徒達を閉じ込め俺達邪魔な教員を頃したということか…)

K(矛盾や不自然な点は…特にないな。つまりこの資料の信憑性は高いと見ていいのか?)

K(だが…)


しかしKAZUYAは一つだけ気になる事実に気付いてしまった。


K(確かに俺の性格的に何らかの協力はしたと思うが、黒幕が学園に乗り込んだのは恐らく
  シェルター化が完了する直前だろう。その頃には俺はここを去っていたのではないか?
  外が荒れ果てているのなら、俺は怪我人を治療するために一刻も早く病院に向かうはず)

K(何らかのSOSを受けて乗り込んだ? いや、いくら俺でもたった一人で乗り込むだろうか。
  …何故俺はここに残っていたのだ?)


そこまで考えてKAZUYAは酷い目眩を覚える。

ズキリ!


K(ぐ、頭痛が…!)


KAZUYAは頭を押さえる。その時、見覚えのある映像が脳裏に浮かんだ。
どこかで誰かと話している。映像も音声もぼんやりとしてはっきりとは映らない。


K『ふ・けないで・れ! ・は・・な話・聞いて・・・!』

?『――申し訳ない・・・ます。しかし、・・こ・・・の・・・・・・は完了し――』

K『・・騙し・・! ・めから・・・・に・・込め・・・りでわざと――!』

?『――氏なせる訳には――』


871: 2013/12/21(土) 17:52:21.04 ID:S/b4d96R0

そこで映像は途切れた。KAZUYAは未だぼんやりとする意識を強靭な意志で覚醒させる。


K「今の映像は、何だ…俺は一体何を忘れている…?」


その時脳内に聞き覚えのある声が聞こえた。


――耐えろ…耐えるのだ…KAZUYA…


K(誰だ?! ……親父?)


心の中で反芻するが、当然どこからも答えなど帰ってこない。


K(もうこれ以上ここで得られる情報はない。戻ろう…)


戻りながらKAZUYAは考えていた。


K(どうする? 生徒達に外の状態やシェルター計画について伝えるか?
  外が危険な以上、ここに留まっているのはそう悪くない判断かもしれん)


872: 2013/12/21(土) 17:59:15.02 ID:S/b4d96R0

K(…だが、俺にはそれらを証明する具体的な証拠がない。中途半端に情報を与えても、
  かえって生徒達は混乱するだけだろう。それこそあのDVDの時のように、
  外の状況を確認しようと事件を起こす生徒が出てこないとも限らん)

K(何より、今はまだ生徒達全員と十分な信頼関係を築き上げているとは言えん。
  最低でも全体の3分の2…十人は俺の言葉を信頼して結束してくれる状態でないと、
  いたずらに内部分裂や生徒同士の対立を産むだけだ)


生徒達の精神状態もそうだが、最も懸念すべき事項があった。


K(それに、俺が外の情報を生徒に教えたと発覚した場合の黒幕の動きが気になる…
  校則には学園を調べるのは自由と書いてあるが、ゲームマスターの言葉など
  所詮は信用出来ん。奴はいつでもルールを変えられる立場なのだからな)

K(もう少し、切り札がいるな。そしてその切り札の一つは現在不二咲が作ってくれている。
  今は焦って動く時ではない。今まで通り生徒達の様子に気を配っておくとしよう)


そう方針を決め、KAZUYAは保健室へと戻って行った。


883: 2013/12/22(日) 21:56:00.07 ID:VHjeaOiZ0

翌日。

いつものように授業を行い、石丸に勉強をつけ、解剖実習を行い夕食を食べる。
コロシアイ学園生活九日目はそんな平和で平凡な一日だった。

…が、この日は大きなターニングポイントだったのである。


― 保健室 PM2:54 ―


苗木「先生! やりましたよ!」


苗木が保健室に駆け込んできた。


K「そんなに慌ててどうかしたのか?」

苗木「今すぐ舞園さんの部屋まで来てもらえますか?」

K「舞園の部屋にか?」


苗木に連れられ舞園の部屋へ行く。どうやら、やっと部屋を戻したようだ。
これでやっと苗木も落ち着けるな、と考えながらKAZUYAは舞園の部屋に入った。
中には部屋の本来の主である舞園と、見舞いに来たであろう朝日奈と大神の二人がいた。


884: 2013/12/22(日) 22:02:11.39 ID:VHjeaOiZ0

朝日奈「あ、先生!」

K「ム、どうしたのだそれは?」

舞園「苗木君がモノモノマシーンで当ててくれたんです」


舞園は車椅子の上に座っていた。苗木が手に入れてきたらしい。


K「本当に何でも出るのだな、あの機械は…」

朝日奈「これなら明日から舞園ちゃんもご飯食べに来られるね」

大神「腕によりをかけて作らねばな」

舞園「二人とも…ありがとうございます」

朝日奈「気にしなくていいって。あんなことあったけど…全部黒幕が悪いんだからさ!」


そうは言うが、朝日奈の表情が若干の緊張を帯びているのをKAZUYAは気が付いていた。
当然人間観察に長け、勘の良い舞園がわからないはずはない。


885: 2013/12/22(日) 22:08:24.66 ID:VHjeaOiZ0

K「では舞園は明日退院、ということでいいな」

苗木「先生の許可も出たし、やったね。舞園さん!」

K「退院と言ってもまだ傷は完全に治った訳ではない。長距離を歩く時は車椅子を使い、
  今まで通り激しい動きはしばらく厳禁だ」

舞園「わかりました。先生には本当にお世話に…」

K「礼は完治して元気な姿を見せてからにしてくれ」


こうして、とうとう舞園さやかの退院が決まったのだった。


K(…何も起きなければいいのだが。一応手は打っておくか)


・・・


886: 2013/12/22(日) 22:13:04.09 ID:VHjeaOiZ0

調理場では例によって二度目の解剖実習が行われた。


苗木「えっと、コッヘル鉗子が有鈎でペアン鉗子が無鈎。モスキート鉗子は小型のペアン…」メモメモ

K「無鈎のコッヘルもあるから定義的にはそれは正しくないのだが…現場では実質鈎の有無で
  判断していることが大半だ。だからそう覚えていても特に問題はない」


鈎(こう):鉗子や鑷子(せっし:ピンセットのこと)の先に付いているフック状の物体のことである。
        これがあるとより強く掴めるが、体組織を傷つけるので体内では主にペアンが使われる。
        ちなみに鈎という名の、棒の先に鈎が付いただけの手術器具も別に存在する。


苗木「ハサミは太いのから順にクーパー、メイヨ―、メッツェンバウム…うーん、たくさんあるんだなぁ」

K「手術において剪刀の切れ味や噛み合わせは命と言っても過言ではないからな。切除する物に対し
  常に適切な剪刀を用いて切ってやらなければならない。急ぎの際はともかく、通常の手術で
  メッツェンを使って縫合糸を切るなどとんでもないと言う訳だ」

苗木「そうなんですか。手術って器具選びも凄い大変なんですね」

K「そうだな。それぞれの用途に特化した器具があり、正しく選んで使わないといけないからな」


887: 2013/12/22(日) 22:18:42.26 ID:VHjeaOiZ0

苗木「でも、勉強してみたらちょっと興味湧いてきたかも」

K「救命士ではなくお前も医者を目指してみるか?」

苗木「い、いやいや! 僕には無理ですって」

K「フ。その気になったらいつでも言うといい。俺が仕込んでやる」

苗木「アハハ。…………で、えーっと。石丸君、そろそろ終わった?」

石丸「もう少し、もう少しだ…!」


今日も実習だったのだが、苗木の方が早く終わってしまったのでKAZUYAから器具の説明を
聞いていたのだった。相変わらず石丸は両手を血まみれにして悪戦苦闘している。


K「前から思っていたのだが…お前、左手を使ったらどうだ?」

苗木「え?」


一体何を言っているのかと思ったが、次の言葉で合点がいく。


888: 2013/12/22(日) 22:22:48.99 ID:VHjeaOiZ0

K「矯正されているのか普段はほとんど右手で活動しているが、お前は生来左利きだろう?
  咄嗟の行動の時や急いでメモを取る時は必ず左手を使っている」

苗木「え?! 石丸君て左利きだったの?! そういえば、ドッジボールの時たまに左手で投げてて
    変だなって思ってたけど…じゃあ、もしかして異常に不器用なのもそのせいなんじゃ…」

石丸「いや、関係ないさ。僕は元々不器用なんだ」

K「何故頑なに右手でやる。いくら不器用でも利き手でやればもう少しマシだろう?」

石丸「利き手でない方で出来るようになれば利き手でも当然出来るでしょう? だから僕は
    あえて普段使っている右手で覚えているのです。今更左に変えるのは逃げです!」

K「俺も幼少の時利き手が使えなくなることを想定した左手の訓練を受けたこともあったが…
  そんなに無理をしなくても良いのだぞ? 根性は認めるが…」

苗木(立派といえば立派だけど…そこは逃げてもいいんじゃないかな…)


結局よくわからない熱意に押され、二人は石丸の実習が終わるまで黙って付き合ったのだった。


889: 2013/12/22(日) 22:27:59.75 ID:VHjeaOiZ0

K「石丸よ…お前はどうも手先の繊細なコントロールに難があるようだ。よって課題を与える。
  この持針器を貸すから、これで針を掴んで縫い物をしてみろ。裁縫セットは誰かから借りてくれ」


持針器(じしんき):傷口を縫合する時に針を持つ器具。今回渡したのは鉗子に似ているヘガール型。


石丸「了解です! 毎日やって裁縫マスターになってみせます!!」

苗木「が、頑張ってね!(一刻も早く器用になって僕を解放してほしい…)」


口には出さなかったが、苗木の願いはかなり切実であった。



― 保健室 PM9:27 ―


その日、保健室に珍しい来客が訪れる。


890: 2013/12/22(日) 22:32:43.51 ID:VHjeaOiZ0

葉隠「オッス、K先生。ちょっと付き合ってもらってもいいか?」

K「葉隠か、珍しいな。一体何の用だ?」

葉隠「そりゃもちろん一緒に一杯やるべ!」

K「…おい。学生が教員に何を言う」


実を言うと、KAZUYAは葉隠が少し苦手だった。一見すると人当たりも良く
話しやすいタイプなのだが、飄々としていて何を考えているのかまるでわからない。


葉隠「ああ、俺三ダブしてっから高校生だけどもう成人してんだ」

K「それは知っている…同席ならしてもいいが、俺は飲まんぞ。今は職務中だ」

葉隠「職務って…授業の時以外は仕事なんかしてねぇべ」

K「職場で飲酒する奴があるか。特に今は、俺がお前達全員の命を預かっているのだ。
  呑気に酒など飲んではおれん」


その時、いつもゆるい表情を浮かべている葉隠が急に真顔になった。


891: 2013/12/22(日) 22:37:35.33 ID:VHjeaOiZ0

葉隠「それってよ…また何か起こるってことか?」

K「いや、そういうつもりで言った訳ではないが…」

葉隠「実はよ、先生…もう二日連続なんだべ」

K「…何がだ」

葉隠「この環境を生き残るために、俺は毎日三日分の運勢を占うことにしてんだ。
    俺の占いは三割当たるから、そうすりゃ三日目になった時一回は当たってるだろ?」


七割の確率で外れると言うことは、三回占っても0.7の三乗の34.3%と
割と高い確率で外れるのでは、とKAZUYAは思ったがそれは黙っておくことにする。


K「それで、二日連続同じ内容が出た訳か。…どんな内容だ?」

葉隠「大破局だべ」

K「…何?」

葉隠「明日は全部バラッバラのメッチャメチャになるんだべ…
    ビビってつい何度も占ったんだが、何回やっても同じような結果になる」

K「……」タラリ


892: 2013/12/22(日) 22:43:34.96 ID:VHjeaOiZ0

苗木情報だが、葉隠の占いは確率は高くないものの確かに的中するらしい。
業界ではもはや霊感とも予知能力者とも呼ばれているようだ。


葉隠「そ、そんでこえーから酒でも飲んで気をまぎらわせようかと思ったんだべ…
    先生が側にいりゃあ何かあっても大丈夫だしな」

K「そうか。なら付き合おう」


葉隠は、見た目はさほどでもないが内心かなり不安がっているようだった。
酒で少しでも不安を紛らわせられるなら、とKAZUYAは葉隠と一緒に厨房へ行く。


K「しかし、ここは学校だぞ? 酒と言ったら…」

葉隠「そ。料理用の安酒しかねぇ。本当はビールか焼酎がいいんだけどよ、贅沢は言えねぇべ」


料理用の日本酒を手に取り食堂に戻ると、早速葉隠は思い切りあおり始めた。


K「おい、他の生徒の目もある。あまり飲み過ぎるなよ」

葉隠「わかってるべ」


893: 2013/12/22(日) 22:49:25.00 ID:VHjeaOiZ0

K「……」

葉隠「……」グビグビ


それにしても会話がない。葉隠はこちらが話しかければ気さくに話すが、
基本的にあまり自分からプライベートを明かさないのだった。
KAZUYAの寡黙さも相まって場が沈黙になり、何だか非常に気まずい。


K(会話をしないのなら俺がここにいる意味はあるのだろうか。帰るか?
  …いや、待て。葉隠の占い…もしかしたら使えるのではないだろうか?)

K「葉隠、占って欲しいことがあるんだが…」

葉隠「先生なら半額に負けておくべ!」

K「…貴様、金を取る気か?」

葉隠「ちょ、ま、目がこえーって! わかった! 初回サービスでタダにしとくから」

K(こいつ…本気で金を取る気だったな)


KAZUYAの呆れ顔に気付いているのかいないのか、葉隠はマイペースに続ける。


894: 2013/12/22(日) 22:56:06.84 ID:VHjeaOiZ0

葉隠「で、何を占うんだ? 恋愛運か?」

K「俺がそんなことを気にするように見えるか? …違う。明日のことだ」

葉隠「明日何が起こるかならもう散々占ったけど、はっきりしたことはわからなかったべ」

K「いや、違う。俺が聞きたいのは…明日困っている人間だ」

葉隠「困っている人間? そんなもん占ってどうすんだ。ま、構わんけど」


すると、葉隠は目を閉じ何か集中しているようだ。本当にこれだけで占えているのかと
KAZUYAは訝しがったが、外れるなら外れるで良いかと考え直す。葉隠が目を開いた。


葉隠「で、出たべ…聞いて驚くんじゃねぇぞ」

K「何だ?」

葉隠「その…みんな困ってたべ」

K「…………帰らせてもらう」

葉隠「あー! ちょっと待つべ! みんな困ってるにゃあ違いねぇが困ってる度合いが違うんだべ!」

K「…誰が一番困っているんだ?」


895: 2013/12/22(日) 23:03:13.38 ID:VHjeaOiZ0

葉隠「断トツで不二咲っち。次点が腐川っちと大和田っちだべ」

K「不二咲…」


KAZUYAの脳裏にあの愛らしい笑顔が浮かんだ。
不二咲は今脱出に向けて作業をしている。狙われる可能性は十分にあった。


葉隠「な、なあ…まさか、不二咲っちが殺されたりとか…ねぇよな? 小柄だし、危ねぇんじゃ…」

K「わかった。俺が明日一日注意しておく。それで大丈夫だろう」

葉隠「おう、先生がついてりゃまず問題ないか。…よし、じゃあついでに先生のために
    明日のラッキーアイテムを占ってやるべ! …ムムッ?!」

K「…出たか?」


しかし葉隠は何とも言えない微妙な顔をしてなかなか結果を教えてくれない。


K「…何を言い淀んでいるんだ。早く教えてくれ」

葉隠「いや、その…先生の明日のラッキーアイテムは石丸っちだべ」

K「…………」


占いなんて不確定なものをアテにした俺が悪かった、とKAZUYAは思ったのだった。


896: 2013/12/22(日) 23:14:10.27 ID:VHjeaOiZ0

― モニタールーム ―


その夜、モニターの様子を見ながら二人の絶望が会話をしていた。


戦刃「ねぇ、盾子ちゃん」

江ノ島「なによ」

戦刃「最初の事件からそろそろ一週間経つけど、なんでなにもしないの?」

江ノ島「ハァ?」

戦刃「だって、せっかく動機がまだ残ってるのに珍しく静観決め込んじゃって
    明日にはとうとう舞園さんも退院しちゃうよ? 希望側が勢いづくんじゃ…」

江ノ島「むくろ姉さんは本当に馬鹿ですね。この飽きっぽい私様がこんな全く
     面白みもない平々凡々な日常をただ見ていただけだと思いますか?」

戦刃「思わないよ。だから、なんでなにもしないんだろうって。Kのヤツが毎日医療の
    実習もやってるし、時間が経つとどんどん氏人も出にくくなるよ?」

江ノ島「私はね! 超高校級の絶望の中でも究極の絶望なんだよ? そんな私が
     ちっぽけで安っぽい絶望に満足すると思う? 絶望にも質ってものがあるんだよ!」


897: 2013/12/22(日) 23:22:07.50 ID:VHjeaOiZ0

江ノ島「……上げて落とすって言葉……ワクワクしますよね……彼らは今非常に
     安定していて……今の生活の中に楽しみすら見出だしています……」

江ノ島「そんなぬるま湯に浸かり切ってすっかりたるんだあいつらをこれから
     絶望って言う名の灼熱地獄に落としてやるんだよ。ギャハハハハハ!」

戦刃「ふーん、で、具体的になにをするの?」

江ノ島「なに、平和な日常にいくつかショッキングな爆弾を落としてあげるだけさ。
     一つ一つは大したことはないが、今奴らの中には舞園さやかという名の
     爆弾が存在している。それに一度引火してしまえば…」

戦刃「内部からドカーン?」

江ノ島「その通り! 絆だの結束だのがいかに脆い作り物の幻想かってことを
     奴らにたたき付けてやるわけよ。ギャッハッハッハッ!」


この妹は本当に性格が最悪だ、と戦刃はため息をつきつつも一緒に笑う。
そう、この妹を理解してあげられるのは自分だけなのだと戦刃は恍惚としていた。


898: 2013/12/22(日) 23:31:23.57 ID:VHjeaOiZ0


江ノ島「あ、そんな訳で今回お姉ちゃんにも一仕事してもらうから。はい、台本」

戦刃「任せて、盾子ちゃん! 演技頑張るから」

江ノ島「調子こいてるKに地獄を見せてやんよ。所詮、付け焼き刃の医療なんて本物の
     殺意の前には無意味だし、他人との信頼なんて幻だってことを教えてあげる」

江ノ島「さーてさて、それではいよいよ待望の絶望コロシアイ生活第二幕が始まるよっ!!」


            最強にして最狂にして最凶。

              最悪で災厄で害悪。


             ――江ノ島盾子始動――





Chapter.2 週刊少年マガジンで連載していた (非)日常編  ― 完 ―



899: 2013/12/22(日) 23:38:30.90 ID:VHjeaOiZ0

ここまで。やった!やっと長かった二章前編が終わった
ほのぼのは十分にやり切った。書かなきゃいけないことも全部書いた…

さようなら、ほのぼの
おいでませ、絶望


>>881
あれはKにしては珍しくあからさまにギャグ顔だったので演技だと判断しました
魚の解体とか初歩中の初歩だと思うので、人間の医者だから魚は解体出来ないって
いうのはちょっとK一族的にないんじゃないかなーと

931: 2013/12/25(水) 23:58:57.98 ID:0B5G69Hb0

IF ①  ~ KAZUYAの後悔 ~


異常が発覚したのは、このコロシアイ生活がいよいよ四日目を迎えた朝だった。


石丸「桑田君、遅いな。彼は前々から遅刻癖があったがいくらなんでも
    遅すぎる! 起こしてきます!」


そう言って石丸が食堂を飛び出して行ったまでは何もおかしくなかった。
しかし、しばらくして彼は顔色を青くして戻ってくる。


石丸「先生! 桑田君がいくらチャイムを鳴らしても出てきません…」

K「何だと? もしや、中で倒れているのでは…」

十神「ただ倒れているだけなら良いのだがな」


その言葉は暗に、いよいよこの生活でコロシアイが始まったのではないかと示していた。


霧切「念の為に、校内も探索した方がいいかもしれないわね」

K「…そうだな。俺と石丸はもう一度桑田の部屋へ向かおう。お前達はそれぞれ校内を探索してくれ!」

K(頼む…無事でいてくれ…!)


だがKAZUYAの願いは虚しく、さほど間を置かずに苗木の悲鳴が寄宿舎中へと響いたのだった。


932: 2013/12/26(木) 00:02:54.22 ID:Az3qfdfM0

K「馬鹿な…」


苗木の部屋には、包丁で滅多刺しにされて血まみれのまま事切れた桑田の姿があった。
入り口には、生まれて初めて氏体――それも友人の氏体を見た衝撃で気絶した苗木が倒れていた。


K「何故…こんなことが…」


KAZUYAは桑田の亡骸に近づくと、思わず目を逸らす。はっきりと言わせてもらえば、決して
好ましい生徒とは言えなかった。態度も服装も軽くて軟派で、いい加減で女たらしで自分本位で…

だが、一度親しくなると意外と人懐っこい面があったり、いつも底抜けに明るくて楽しげで
嫌いだと一言で切り捨てられない物もあった。もっと長く付き合って、欠点を注意したり
出来るほどの深い仲になれば、思い出深い生徒の一人となった可能性は十分にあっただろう。


K「…………」


KAZUYAは恐怖で目が見開かれたままの桑田に近寄り、そっと目を閉じてやる。
血が出るほどに強く強く唇を噛み締めた。生徒一人救えずに何が医者だ。
部屋に集まり恐怖と混乱で動揺する生徒達の前でも気にせずに、KAZUYAは怒鳴った。


K「一体誰が…モノクマの仕業か!!」

モノクマ「違うよ。犯人は確かに君達の中にいるよ」

K「モノクマ…!!」


KAZUYAは怒りと憎しみでモノクマを強く睨みつけるが、モノクマは平然として体育館に
集まるよう指示をした。桑田の氏体を放置して離れたくはなかったが、逆らえばどうなるか
わからない。苗木を置いていく訳にもいかないので、KAZUYAが背に抱え体育館に赴いた。


933: 2013/12/26(木) 00:06:06.13 ID:Az3qfdfM0

・・・


モノクマの説明は単純だった。犯人は自分ではない。この中に真犯人がいる。
そして、同時に学級裁判の説明を始めた。一言で言うなら、自分達が犯人を
指摘できなければ犯人以外全員が氏ぬというデスゲームであった。

現在、犯人の最有力候補者は氏体発見現場の部屋の主、苗木誠である。


苗木「ち、違う! 僕じゃない! 僕は桑田君を頃したりなんかしていない!」

葉隠「でも、じゃあなんで桑田っちは苗木っちの部屋で氏んでたんだべ!」

腐川「あんたが犯人だからでしょ!!」

苗木「そ、それは…」

苗木(確かに殺害現場は僕の部屋だけど…あの時間にあの部屋にいたのは…)チラリ

舞園「…………」

霧切「まずは捜査を行うべきではないかしら。苗木君が犯人にしろ犯人じゃないにしろ、
    真実は学級裁判の議論で明らかになるはずよ」

十神「捜査の時間は限られている。俺は行くぞ」

石丸「みんな、捜査を行うとしよう」

苗木「そんな…十神君、石丸君! …先生! 先生は僕が犯人じゃないって信じてくれるよね?!」

K「……」


思わず、KAZUYAは感情論で同意しそうになってしまった。苗木は他の生徒に警戒されている
自分に対し真っ先に声をかけてきてくれた生徒だった。その苗木が人を頃すとはとても…


934: 2013/12/26(木) 00:09:31.56 ID:Az3qfdfM0

だがKAZUYAは骨の髄まで医者だった。医者とはどんな状況に陥っても冷静でいなければならない。
まず動機だが…これは正直思い当たることがたくさんあった。桑田はいつも思いつきで話すし、
その放言のどれかが苗木を怒らせた可能性は十分だった。そして何よりも舞園さやかである。
桑田は舞園を気に入っていた。それが原因で苗木と揉めてグサリ、というのは簡単に想像できた。


K(動機はある…だが、殺害方法についてだ)


まだ詳しく見ていないが、凶器はほぼ桑田に刺さっていた包丁で間違いはないだろう。
となると、咄嗟の犯行ではなく凶器を事前に準備した計画殺人ということになる。
ならば、どう考えても見過ごせないあまりにも不自然なことがあった。


K(殺害現場を自分の部屋にする馬鹿がどこにいる。百歩譲って何か不都合な事態が
  発生したにしても、氏体を移動させるはずだ。移動中に発見されるリスクもあるが、
  自分の部屋で氏体が見つかるリスクと比べればそう差はないはず)

K(誰かが苗木に罪を着せるために、何らかの手段で氏体を置いた。そう考えるのが妥当だろう)


そう論理的に考え、不安げに自分を見上げる苗木に対しKAZUYAは力強く頷いた。


K「ああ! お前は犯人なんぞではない! 俺はお前を信じよう」

苗木「良かった…」ホッ

霧切「安心するのはまだ早いわよ、苗木君。ドクター一人が信じてくれても意味は無い。
    他の生徒達を信じさせることが出来なければこの学級裁判には勝てないのだから」

苗木「わ、わかってるよ霧切さん…」

霧切「そしてドクター。あなたに一つお願いがあります」

K「…何だ?」


935: 2013/12/26(木) 00:16:50.70 ID:Az3qfdfM0

霧切「モノクマから配られたこのモノクマファイル。犯行について大まかな情報が
    書かれているけれど、どこまでが本当なのかがわからない。そこでドクターに
    桑田君の氏体の検氏をお願いしたいのです」

K・苗木「!!」

苗木「き、霧切さん! そんなのって…!!」

霧切「…仕方ないわ。間違った情報を元に捜査しても真実は得られないもの。私達全員が
    生き残るためにはこれしかないの。協力していただけますよね、ドクター?」

K「……ああ」

苗木「そんな、先生! だって…!」


KAZUYAが桑田とそこそこ親しくしていたのを苗木は知っていた。
ただでさえ生徒の氏体を切り開くなど、KAZUYAにとっては断腸の思いだろうに…


K「…これは医者の俺にしか出来まい。他の生徒達を救うためには、仕方がないのだ」

苗木「先生…」


そうは言ったが、KAZUYAがとても暗い表情をしていたのを苗木は見過ごさなかった。
怪我や病気で氏んだ訳ではない。何の前兆も覚悟もなく、唐突に誰かに命を奪われた。
それも、被害者だけではなく頃した犯人もKAZUYAにとってはまた生徒なのだ。

KAZUYAの心中を察して余りある苗木は、いつしかKAZUYAの代わりに涙を流していた。


・・・


936: 2013/12/26(木) 00:25:05.08 ID:Az3qfdfM0

検氏の結果、モノクマファイルに嘘は書かれていないということが判明した。
その情報を元に、生徒達は各々捜査を再開する。


K「…苗木。俺と一緒に捜査をしないか?」

苗木「先生…でも、先生はさっき仕事をしたんだし、休んでいた方が…」

K「いや、俺は大丈夫だ。心配をかけてすまん。…俺はお前達を守る立場だというのに
  事件の発生を防げなかった。全て俺の責任だ。だから、せめてこの手で真実を暴き
  残ったお前達を守らねばならない。それがあいつに対しても供養になるだろう」

苗木「先生…」


KAZUYAは既にいつもどおりの表情を取り戻しており、その態度は毅然としていた。
この場で唯一の大人としての責任感か、医師としてのプライドか、それとも違う何かか。
まだ若い苗木にはわからなかったが、KAZUYAを信頼して共に捜査を行うことにした。

だが、捜査を始めてから苗木は既に確信を得ていたのだ。この事件の真犯人、クロが誰かを。
そして、裁判が始まり議論を進めていく中で苗木はとうとう宣言をした。


苗木「…犯人は君しかいないんだ。舞園さん」

K「…………」


KAZUYAは俯く。犯行の手口も、動機も全て明らかになった。
舞園さやかは例のDVDによって平静な精神状態ではなかった。そのことを気付けなかった。
もし気付けていれば、事件を未然に防ぐことが出来ただろうに…悔やんでも悔やみきれない。


937: 2013/12/26(木) 00:30:01.30 ID:Az3qfdfM0

そしてもう一つ。舞園の動機。何故桑田を狙ったのか。これも想像通りだった。
舞園は桑田を嫌っていたのだ。声を聞くだけで不愉快になるほど、徹底的に。
KAZUYAはわかっていた。桑田の性格や発言は敵を作りやすいだろうと言うことを。
この閉鎖され、逃げ場がない状況なら尚更だろう。たとえ喧嘩をする羽目になっても
しっかり自分が注意してやるべきだったと後悔した。後悔して、後悔して、後悔した。


K「…………」


舞園を責めることは出来ない。道を誤ってしまったのは確かだが、彼女もまた被害者であった。
ただ責める物があるとすれば、このふざけた監禁生活を企画した黒幕と己の不甲斐なさだ。


K「舞園」


声を掛けようとした。だが、何を言うべきなのか思い浮かばなかった。
何故頃したのか、思い留まることは出来なかったのか、誰かを頼れなかったのか。
どの質問も答えは既にわかっていた。今更聞いて得るものなど何も有りはしない。


舞園「――ごめんなさい」


KAZUYAの呼びかけに対し、舞園は涙を流しながら、ただ一言そう呟いた。

投票で舞園がクロに決まり、彼女が人生最期のステージに立つ。
KAZUYAは力無くその輝かしい姿を見ていた。舞園さやか渾身のパフォーマンスだった。

オシオキは巨大なトラバサミ状のステージの上でのオーディション形式になっており、
採点パネルに次々と明かりが灯るが、合格直前でパネルが壊れ無情にもトラバサミが閉じる。


――そして、舞園さやかは氏んだ。



938: 2013/12/26(木) 00:35:04.84 ID:Az3qfdfM0

・・・


保健室にて、KAZUYAは己の拳を壁に叩きつける。


K(俺が、もっと生徒を注意して見ていれば…もっと深く関わっていれば…)


それは無駄な仮定だった。KAZUYAは元々生徒達に警戒されていて深く関わろうにも関われなかった。
だがKAZUYAにとってそんな事実はどうでも良いのだ。ただ許せない結果だけがあるのだから。

カチャリ


苗木「先生…」

K「苗木か…」


恐らく自分は今苗木とそっくりな顔をしているのだろうな、と苗木の憔悴した顔を見てKAZUYAはうなだれる。


苗木「その、先生…あんまり自分を責めないで下さい。先生は悪くないです…」

K「お前、俺を励ましに来たのか…?」


驚いた。あの裁判で明らかになったのは苗木にとってあまりにも残酷な真実である。
舞園さやかの裏切り…本来なら自分が苗木を励ましてやらねばいけないのに、あまりの悲しい現実に
かける言葉が浮かばず、今はそっとしておこうと…悪い言い方をするならKAZUYAは苗木を放置した。
その苗木がKAZUYAを励ましにこうして保健室にやって来たのである。


939: 2013/12/26(木) 00:41:50.54 ID:Az3qfdfM0

K「気を遣わせてしまって、校医失格だな。俺よりもお前の方がずっと辛いだろうに…」

苗木「ツラくないって言ったら、嘘になります。でも、一人でいるともっとツラくなって…
    誰かを励ますことで、僕は自分自身を励ましているのかもしれない」

K「……時間が、解決してくれるさ。どんなに辛いことも、悲しいことも、時が経てば……」


まるで自分に言い聞かせるように、KAZUYAは苗木に言う。大人であり医者であるKAZUYAは、
今までに数え切れない程の人の氏を見てきた。そのたびにこう言って自分を納得させてきたのだ。


苗木「忘れるなんて、そんなこと出来ませんよ。僕は…! 舞園さんの氏も、桑田君の氏も、
    ずっとずっと引きずっていく! 二人の氏と思いを引きずったまま前に進む!
    忘れたりなんてしない! 忘れたくない! これからもずっと引きずっていくんだ!」

K「苗木…」

苗木「…先生だって、本当は忘れられないんでしょう? 僕にはわかる。先生は、そういう人なんだ」

K「……そうかもしれんな」


そして二人の忘れられない男は、過去を引きずったまま前へと進んでいく――


948: 2013/12/28(土) 23:35:04.59 ID:mM+O71Go0

IF ②  ~ 親密度0の恐怖 ~


KAZUYAが舞園の手術をしていた時のこと。

その時、恐ろしい考えが桑田の脳裏によぎった。犯人が露見するから処刑になる。
頃していいのは二人までだ。つまり、仮に犯行を見られても一人までなら口封じに殺せば…


桑田(今…オッサンは背中を向けていて両手もふさがってる。今なら俺でも…)


模造刀にゆっくりと手を伸ばし引き寄せると、桑田は構えた。
そして桑田は――天高くそれを振り上げ叩き下ろす!

ガカッ!


K「ぬんっ!」

桑田「なっ?!!」


なんと、桑田が振り下ろした模擬刀をKAZUYAは左腕で受け止めていた。
桑田が驚く間もなく、KAZUYAは立ち上がる勢いで右拳を突き出し思い切り殴りつける。


K「桑田あああああああっ!」

桑田「グハッ!」


壁に叩きつけられ桑田はそのまま気絶した。


949: 2013/12/28(土) 23:42:43.39 ID:mM+O71Go0

K「いくら錯乱していたとはいえ、背を向け手術中の人間に襲いかかるとはなんという奴!」


激怒するKAZUYAだが、すぐさま舞園の治療に戻る。そして手術が終了すると、生徒を呼び集めた。


K「…という訳だ」

セレス「事情はよくわかりましたが…ところで西城先生。桑田君は何故そこで気絶しているのでしょう?」

K「…錯乱して暴れたから眠ってもらっただけだ」


襲われたことには内心腹を立てていたが、相手がまだ高校生で非常に錯乱していたこと、
今後も共にこの学園で生活することを考え、KAZUYAは桑田が自分を襲ったことについては黙った。


山田「暴れたとは…やはり桑田怜恩殿が舞園さやか殿を襲ったのではないですかな?!」

K「まだ真相はわからん。二人が起きてから話を聞かんと…霧切、何をしているんだ?」


見ると、霧切が倒れた桑田の服をまさぐっている。


霧切「いえ、彼が倒れている間にも調べられる事はあると思って。…これは」

K「何か見つけたのか?」


霧切が桑田のポケットから舞園のサインが入った呼出状を見つけた。
その流れで苗木が部屋の交換を明かし、舞園の犯行計画が全て明らかになった。


苗木「そんな、舞園さん…」


しかし、明らかにされた事実はそれだけではなかった。


950: 2013/12/28(土) 23:51:51.48 ID:mM+O71Go0

十神「さて、俺はドクターKに一つ聞きたいことがあるんだが。…何か隠していないか?」

K「何のことだ?」

十神「ドクターは桑田が舞園に襲われたという情報を知っている。つまり会話が成立していた。
    にも関わらず、何故被害者であるはずの桑田は暴れだしたんだろうな?」

K「……」

十神「大方、一度に二人まで殺せるから口封じをしようと奴が襲いかかったんじゃないのか?」

K「…いや、そういう訳では…」


一応濁したが、生徒達は十神の言葉に説得力を感じたようだった。


大和田「コイツ…! とんでもねえ野郎だな!」

葉隠「最低だべ!」

苗木「桑田君…そんな…」


事実ではあるし庇い立てをする義理もなかったので、KAZUYAは無理に反論はしなかった。
その後、生徒達を解散させ桑田を部屋に運ぶ。咄嗟のことで強く殴りすぎてしまったため、
肋骨が何本か折れてしまったようだ。肺に刺さらなくて良かったとKAZUYAは思う。


桑田「……う、く…!」

K「目が覚めたか」

桑田「あ、あんた…! いつっ」


951: 2013/12/28(土) 23:59:44.54 ID:mM+O71Go0

K「肋骨が折れていた。俺は医者だから手当をしてやったが、本来なら放置されても文句は言えん」

桑田「…………」


KAZUYAの責めるような視線に耐えかねて、桑田は目を逸らす。


K「舞園に襲われたのは同情するが、お前は俺を殺そうとした。これは他の生徒達も知っている。
  思えばお前は前々から素行に問題があった。これを機に身の振り方を考え直すんだな」

K「痛み止めを置いておく。傷が傷んだら飲め。あと出来るだけ安静にしていろ」


そう素っ気なく言うと、KAZUYAは部屋を出て行く。
…そしてその日から桑田は部屋から出てこなくなった。

餓氏されては困るので扉の前に食事を置いておくが、桑田は誰とも顔を合わせずに
何日も経過していった。流石のKAZUYAも少し心配になり部屋を訪れたが、当然のごとく
いくらインターホンを鳴らしても応じてくれない。


石丸「先生、このままでは桑田君は…」

K「不味いな…完全に心を閉ざしている。流石の俺もカウンセリングまでは専門ではないからな」

苗木「じゃあ、桑田君。このままずっと出てこないんじゃ…」

K「そもそも元は舞園に襲われたことが原因であるし、このままでは処刑されると焦っての暴挙だった。
  俺がもう少し優しくしてやるべきだったのかもしれない。今となっては手遅れだろうが…」


953: 2013/12/29(日) 00:25:23.88 ID:XcEDE7lS0

しかし、いくら焦っても良案など出ないのだった。


・・・


桑田「…………」


桑田は部屋の前においてあった食事を食べると、乱暴に箸を置く。そしてトレーに置いてあった
メモを手に取り投げやりに見やった。それは、外の情報を知らせれば出てきたくなるかもしれないと、
石丸が毎回善意で入れていたものだった。桑田はグシャリとそのメモを握り潰す。

『今日舞園君が退院する。彼女は君に謝りたいと言っているそうだ。
  部屋から出てきてはくれないだろうか。みんなも君のことを待っている』

その日のメモにはそう書かれていた。


桑田「出れるわけねーだろ…アイツのせいで俺は危うく人頃しになる所だったんだぞ…!
    殺そうとしたヤツや他のヤツらに、俺はどんな顔して会えばいいっつーんだよ!」

桑田「舞園…あの女さえいなければ…!!」


少しずつ憎しみが生まれ、それが殺意へと変わるのはもはや時間の問題だった……


957: 2014/01/03(金) 17:34:14.98 ID:/3yNamc30

― オマケ劇場 ⑨ ~ ある日の授業風景 ~ ―


K「授業と言っても、全員学力がバラバラだからな。恐らく最も平均であろう苗木を中心にし、
  それ以上の者はわからない生徒達へ教える側に回ってくれないか?」

石丸「了解しました! それでは僕は教える側へ回ります!」

大和田「頼むぜ、兄弟。もう何がわからないのかすらわからねえレベルだ」

不二咲「ふふっ、僕もお手伝いするよぉ」

K「~であるからして、ここはこの公式を当てはめてだな」

苗木「えーっと、こうですか? あ、じゃあもしかして…」

K「そうだ。出来るじゃないか」

桑田「……」zzz

朝日奈「せんせーい、たすけてー! 全然わかんないよ~」

大神「しばらく学業から離れていたからな…だいぶ忘れてしまっている」

K「任せろ。また基礎からやり直せばいい。もっと前のページから復習していくぞ」

桑田「……」zzz


958: 2014/01/03(金) 17:46:38.39 ID:/3yNamc30

霧切「……」黙々

石丸「霧切君! 一人で自習もいいが、良かったらこっちで一緒にやらないかね?!」

霧切「……え?」

不二咲「そうだよ、おいでよぉ!」

大和田「俺と兄弟だけじゃむさ苦しいが、不二咲もいりゃ平気だろ? 来いよ」

霧切「(モジモジ)……じゃあ、ご一緒させてもらおうかしら?」

桑田「……」zzz


そして1時間後――


K「…………」 石丸「…………」

桑田「……」zzz

K「お前は一体」 石丸「いつまで寝ているのだねっ?!」

パシーン!

桑田「?!?!」


大和田「ホントに期待を裏切らねえヤツだなアイツ…」

苗木「まあ、桑田君だしね…」


959: 2014/01/03(金) 17:58:06.37 ID:/3yNamc30

― オマケ劇場 ⑩ ~ 桑田くんとKAZUYAその2 ~ ―


桑田「オッス! 遊びに来たぜー!!」

K「保健室は遊びに来る場所ではないんだがな」

桑田「まあまあそうお堅いこと言わないでくれよー! ほら、食べるモンも持ってきたからさ」

K「フフ」


・・・


桑田「せんせーさ、なんか世界中とびまわってたんだって? なんかおもしれー話きかせてくれよ」

K「そうだな。幸い話すネタには困らない。では、久しぶりに話すとするか」

K「俺はある時、友人が働いているクエイド財団が開発中の油田基地を見にアラスカへ行ったのだ」

桑田「ふんふん」

K「…という訳で、ベースの中にブルセラ病が蔓延してしまった。ブルセラ病というのはだな…」

桑田「…ふ~ん」ウツラウツラ


960: 2014/01/03(金) 18:15:22.16 ID:/3yNamc30

K「俺はそこで出会った方々に自然の理を学び…」

桑田「」ウトウト


・・・


K「お前、なんでいつも俺が話してる最中に寝るんだ…」ズーン

桑田「わりいわりい。だってせんせーの話むずかしくてよくわかんねーし!」

K「そんなに俺の話はつまらんのか…」ズーン

桑田「マジでゴメンって! メンゴメンゴ! 次はちゃんと聞くからさ! ほら次の話!」


そして、案の定また次も寝てしまう桑田であった。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ここまで。桑田君誕生日おめでとう、という訳で久しぶりにオマケでした


970: 2014/01/09(木) 00:04:04.40 ID:/oTCb2rq0

― Chapter1 番外編その2 ―


舞園が負傷して二度目の夜。流石に少女と二日も密室で過ごしたくなかったKAZUYAは、
誰か女生徒に頼めないかと思い、霧切にそれを頼むことにした。


霧切「わかったわ、ドクター」

K「すまないな」

霧切「いえ…私を選んだのには理由があるのでしょう?」

K「……ああ」


怪我をしているとはいえ、仮にも舞園は殺人を企んだ殺人未遂犯である。他の女生徒達は舞園に
怯えているか、助けてやる義理はないと思っていることだろう。常に冷静で、感情よりこの場での
最適な行動を優先する霧切なら、今後のことを考えて引き受けてくれると踏んでのことだった。


K「それに、それらを度外視したとしても俺は君が適任だと考えている」

霧切「…あら、何かしら?」

K「あんなことを仕出かしてしまった舞園を本気で心配出来るくらい、君が優しいからだ」

霧切「……私は、優しくなんか」

K「隠すようなことか? とにかく、一緒に来てくれ」


霧切は微かに動揺していたようだが、それには気付かずKAZUYAは舞園の元へと向かった。


971: 2014/01/09(木) 00:08:59.37 ID:/oTCb2rq0

K「舞園、今日は人を連れてきた」

霧切「こんばんは、舞園さん」

舞園「霧切さん? …そうですか、先生に頼まれて来てくれたんですね」

霧切「察しが早くて助かるわ。今夜は私があなたに付き添うからよろしくお願い」

舞園「こちらこそよろしくお願いします…」


舞園はテキパキと泊まる準備をする霧切を横目で見やる。


霧切「…どうかしたのかしら?」

舞園「いえ…申し訳ありません。いくら怪我をして動けないとはいえ、殺人犯と
    同じ部屋で寝るなんて嫌でしょう? 本当に、すみません…」

霧切「してしまったことは仕方ないわ。私は苗木君やドクターのようにあなたを完全に
    許している訳ではないけれど、あなたを気の毒にも思っている。ドクターが言った通り、
    一番の悪はモノクマよ。それを履き違えれば、また第二第三の事件が起こるでしょうね」


霧切は、淡々と事実のみを語っていく。その凛とした姿は彼女の怜悧な横顔と相まって非常に美しかった。


舞園「霧切さんは…強いんですね。私も、もっと強ければこんな馬鹿なことをしないで済んだのに…」

霧切「…私だって昔から強かった訳ではないわ。仕事の関係で、そうならざるを得なかっただけ。
    あなたのように取り返しの付かない失敗をしてしまったこともある。起こってしまったことを
    いつまでも後悔し続けるのは不毛よ。あなたはただこれからのことだけ考えていればいい」

舞園「私にこれからなどあるのでしょうか…? 許されるのでしょうか?」


972: 2014/01/09(木) 00:15:04.39 ID:/oTCb2rq0

霧切「あなたが生きている限り、ずっとこれから先の人生は存在するわ。…許されるのか?
    これは私にもわからないけど、少なくともあなたには既に許してくれた人達がいる」

霧切「どうすればいいのかわからなくなった時があれば、その人達のために何が出来るかを
    考えてみるのもいいかもしれないわね。あまり一人で考えこむのはお勧めしないわ」

霧切「…私も出来る限りあなたを手助けしようとは思ってる」


目頭が熱くなる。霧切は常にクールな語り口ではあるが、その言葉は最大限に舞園を労っていた。
近寄りがたい、自分の勘の良さを持ってしても何を考えているのかわからない、そう思って
舞園はあまり霧切とは接触して来なかった。だが、もっと早く話していれば良かった…


舞園「…ありがとう、ございます。私…もっと早く霧切さんとお友達になるべきでした。
    もしあの時霧切さんに相談していれば、きっと私…思いとどまれたと思います」

霧切「たらればの話はいくらしても無意味よ。…あなたが良ければ今日からでもお友達になるけど?」

舞園「私…なれますか? 今からでも、霧切さんのお友達に…」

霧切「…こういう時、苗木君ならどういうのかしら? 友達っていうのはなろうとしてなるものじゃない?」

舞園「苗木君なら、お互いが友達になりたいと思った瞬間にもう友達なんだって言うと思います」

霧切「そう…じゃあそれで行こうかしら」


ここで霧切が黙り込む。何か不味いことを言ったのかと舞園は心配になり、少し体勢を変えて
霧切の表情を覗き見るが、彼女は何やら考え事をしているようだった。


973: 2014/01/09(木) 00:20:27.50 ID:/oTCb2rq0

霧切「…ああ、心配しないでちょうだい。その、こういう状況にあまり慣れてなくて」


相変わらず無表情だったが、舞園は霧切が内心はにかんでいるのだとわかった。
推測だが、霧切は同年代の同性の友人があまりいないのではないだろうか。


舞園「霧切さんは本当に優しい人なんですね」

霧切「…さっき全く同じことをドクターにも言われたわ」

舞園「西城先生が? 流石、先生は人を見る目があるんですね」

霧切「私自身は自分がそんなに優しいとは思わないのだけれど…」

舞園「そんなことないですよ! 先生のお墨付きがあるんだから確かです!」

霧切「そうかしら…? …そういうことにしておくわ。じゃあ、怪我人はもう寝ないと」

舞園「わかりました。あの…霧切さん、また来てくれますか?」

霧切「ええ、また来るわ」

舞園「良かった。……霧切さん、お休みなさい」

霧切「お休みなさい、舞園さん」


こうして、二人の少女は眠りにつく。監禁生活で得た微かな安らぎと共に――


976: 2014/01/16(木) 00:38:40.55 ID:HL9FagcQ0

― オマケ劇場 ⑪ ~ ムダヅモ無き風紀委員 ~ ―


石丸「」チーン

苗木「あれ? 石丸君が氏んでるけどどうかしたの?」

葉隠「実はな…久しぶりに麻雀がやりたくなってよ、メンツを探してたんだべ。
    俺、先生、大和田っちは確定で、あとはセレスっちに頼むかと思ったんだが
    意外にも石丸っちが麻雀できるとか言い出して四人で打ってたんだべ」

苗木「ああ、一人大負けしちゃったんだね」

葉隠「うんにゃ、その逆。一人だけ大勝ちだ」

苗木「…え?!」

・・・

大和田「兄弟が麻雀出来るとか意外だなぁ」

石丸「今となっては苦い思い出だが、昔祖父に仕込まれたのだ。政治家になるなら麻雀は
    絶対出来ねば駄目だと。麻雀の強さこそ政治力とまで言っていた。…とんだ道楽者だ」

大和田「じいさんて元総理のか?」

葉隠「ゲェッ、石丸っちのじいちゃんは総理大臣だべか?(こりゃ仲良くなっとかねえと!)」

石丸「元だぞ。その後失墜して今は実家に借金すら遺してくれた」

葉隠「なーんだ、そうなんか。期待して損したべ」

K「…お前少しは隠したらどうだ」

石丸「ム…き、来た。風紀委員リーチ!」ズビシィッ!

三人「えっ」

石丸「えっ」


977: 2014/01/16(木) 00:42:22.10 ID:HL9FagcQ0

大和田「え…なんだよ、お前その風紀委員リーチって…」

石丸「技を放つ時は大きな声で放つのが礼儀だと祖父に教わったのだが…」

葉隠「なにそれこわい」

K「そもそもリーチは技なのか…」

石丸「え…違うんですか? …あ、兄弟! その牌を…その牌を本当に捨てるのかね?!」

大和田「は? なんでんなこと聞くんだよ。アガリ牌なら黙ってさっさとアガれ」

石丸「ほ、本当に良いのだな…? では行くぞ。ロン! 国士無双十三面(ライジング・サン)!!」

K「な、何ィッ?!」   大和田「ハアァッ?!!」   葉隠「ファッ?!」

大和田「う、うそだろ…」

葉隠「こ、国士とか…それも伝説の十三面待ちとか、生まれて初めて見たべ…」

K「そんなにしょっちゅうやっている訳ではないが…俺も初めて見たぞ…」

石丸「僕は初めて出せたが、国士無双は日本人なら割りと標準の技だぞ? 祖父も得意だった」

大和田「んなワケねえだろアホかああああ! どう考えてもイカサマかなんかだろ!
     つかライジング・サンってなんだよライジング・サンって?!」

石丸「全ての役には技名がついていて技を出す時には全力で叫ぶそうだ。そもそもみんな
    本気でやっているのか? 僕は轟盲牌も使えないし全然麻雀力は高くないはずだが…」

大和田「おま、マジかよ…」

葉隠「麻雀力とかなに言ってんだコイツ…こわいべ…」

K「……ウーム」


978: 2014/01/16(木) 00:46:14.98 ID:HL9FagcQ0

石丸「え? え? …ハッ、もしや僕は長年祖父に騙されていたのか?! 変だと思ったのだ!
    政治も外交もローマ法皇の選出すらも実は全部麻雀で決められているとか!」

大和田「気付けよ!!」

葉隠「ここまで来ると呆れてモノも言えんべ…」

K(そういえば…政治家の病室には必ず雀卓が置いてあったような気が…
  やけにダイナミックに麻雀を打っていた記憶も…いや、そんな…まさかな…)

石丸「うわあああん! 僕は祖父のことが前より更に嫌いになったぞー!」

・・・

葉隠「その後も役満連発して石丸っちは出禁になったべ」

苗木「そんなことが…」

セレス「聞きましたわ! 石丸君はなかなか麻雀が強いそうですわね。
     是非わたくしと勝負いたしましょう。ぐにゃ~ってさせてあげますわ!」

石丸「今はそっとしておいてくれ…」チーン



― オマケ劇場 ⑫ ~ ムチャぶり ~ ―


朝日奈葵――比較的常識人であり普通の感性を持った標準的な女子高生である。
しかし、そんな彼女には困った癖があった。それは、時々謎のムチャぶりをしてくることである。

朝日奈「ねえみんな見て見てー! 倉庫でいろんなエプロン見つけたんだー!」

苗木「わあ、かわいいね」

朝日奈「で、なんと昔なつかし割烹着があったのでさくらちゃんに着てみてもらいました!」


979: 2014/01/16(木) 00:53:08.96 ID:HL9FagcQ0

大神「ど、どうだ?」さくらちゃん with 割烹着と三角巾

苗木「いいね! 似合ってるよ!」

石丸「ウム! まさしく日本の誇る良妻賢母だな!」

不二咲「大神さん、かわいいよぉ!」

大神「誉め過ぎだぞ、お主ら…」カァァ///

朝日奈「だってさくらちゃんはかわいいもん! …そうだ! せっかくだから男子にも着せてみよう!」

苗木「…え?」

朝日奈「えーっと、苗木と石丸はなんか普通に似合っちゃいそうだから意外性を考えて…」

苗木「なんでそこで意外性求めちゃうの?!」

朝日奈「葉隠! ちょっとあんた着てみてよ」

葉隠「俺か? まあ別にいいけど…………どうよ?」

大神「意外と良いのではないか?」

苗木「うん、けっこうイケるかもね」

葉隠「フ、やはりイケメンはなにを着ても似合っちまうな」

朝日奈「えっと次はー」

葉隠「普通にスルーされると悲しいべ」

朝日奈「ジィー」

K「……ん?(何やら視線を感じる)」

朝日奈「ジィー」(¬_¬)ジー

K「…………え」


980: 2014/01/16(木) 00:59:06.24 ID:HL9FagcQ0

・・・

朝日奈「なんで逃げちゃうのさー!」プンプン!

苗木「そりゃ逃げるよ…」

大神「脱兎の如き速さだったな…」

石丸「そう怒るな、朝日奈君。西城先生の代わりに僕が着てみたぞ!」

不二咲「石丸君はやっぱり白が似合うねぇ」

朝日奈「KAZUYA先生のが見たかったのに―!」



― オマケ劇場 ⑬ ~ 入浴中プレート出来たよー ~ ―


浴場に誰かが入浴中の時のプレートを山田に作ってもらった。>>606辺りの話だ。

K「フム、流石画家だな。よく出来ている。入浴の際にはこれを入口横の壁に立てかけることにしよう」

山田「僕にとってはこれくらいお安いご用ですぞ!」

K「この少女は何かのキャラクターなのか?」

山田「よくぞ聞いてくれました! それこそ拙者最愛のキャラでして大人気アニメ
    外道天使もちもちプリンセスぶー子の主人公ぶー子なのです! ストーリーはですな…」

K「う、うむ」

K(…最近の子供向け漫画は話や設定が複雑だな。子供はついていけるのか?)


説明しよう! KAZUYAは昭和生まれで非常に頭が古い。故に、漫画もアニメもひっくるめて全て漫画と呼ぶ。
また、大人向け深夜アニメの存在なんて当然知らないので、アニメは全て子供向けだと思っている。


981: 2014/01/16(木) 01:13:39.05 ID:HL9FagcQ0

K「ちなみに、裏側は男子が入浴中に使う物のはずだが何を描いたんだ?」クルッ

モノクマ「」ドヤァ…!


そこにはお風呂セットを持ったモノクマが堂々とポーズを取っていた。


K「おい…なんでよりによって男はモノクマなのだ…」

山田「んん?wwwそんなの決まっていますぞwwwwww」

山田「男子の裸なんて罰ゲーム以外ありえないwwwwwwモノクマで十分ということですぞ!wwwwwwwwww」

K(こんな時、どんな顔をすればいいのか俺はわからない…)モアイ

・・・

苗木「あ、これが先生の言っていた入浴中パネルだね」

桑田「ちょ…女子は普通にアニメキャラなのになんで男子はモノクマなんだよ…」

大和田「風呂のたびにアイツを思い出さなきゃなんねーのか…」


男子からはちょっぴり不評だった。しかし女子からの評判はそこまで悪くはないという。


腐川「フン、山田の奴…な、なかなかやるじゃない。アニメのキャラってのは気に入らないけど」

セレス「流石山田くん、やはり絵の上手さはずば抜けていますわね。今度わたくしの肖像画でも描かせますか」

霧切「…アニメタッチの肖像画になるんじゃないかしら」


990: 2014/02/09(日) 17:07:51.24 ID:O4E6Hxzm0

― オマケ劇場 ⑭ ~ 頂上対決 ~ ―


ギャンブル界の至宝であり最強の女帝『セレスティア・ルーデンベルク』

世界の覇権を握る十神一族最高傑作にして若き帝王『十神白夜』


…頂点に立つその二人が、相見えていた。その出会いは偶然か必然か。


セレス「あら、十神君。こんな所でお会いするなんて珍しいですこと」

十神「フン、貴様もか」

セレス「どうやら同じ穴のムジナ同士、考えることは同じようですわねぇ」

十神「この俺を貴様と一緒にする気か、女狐め」

セレス「あらあら、怖い顔ですこと」クスクス

セレス「如何です? この退屈な日常に刺激が欲しくなりませんこと?」

十神「何が言いたい」

セレス「折角の機会ですし、これを利用してわたくしと一勝負いたしませんか?」

十神「…面白い。普段なら一蹴する提案だが丁度俺も退屈していた所だ。乗ってやろう」

セレス「勝敗はシンプルに、どちらがより長く鬼から逃げられるかですわ」


991: 2014/02/09(日) 17:10:37.51 ID:O4E6Hxzm0

十神「勝利は常にこの十神の元にある」

セレス「あら、勝ち誇るのは実際に勝ってからにしたらどうです?」

十神「ほざけ。では行くぞ」

セレス「行きますわよ」

ガラッ!

石丸「二人共こんな所に隠れていたのだな! 君達はどうせ授業をサボろうとするから
    早めに確保しておくようにと先生が仰っていたがその通りだ! ほら、来たまえ!
    僕の目の黒い内はサボりなど絶対に許さないからそのつもりでいるように!!」

十神・セレス「…………」


勝負結果:引き分け


― オマケ劇場 ⑮ ~ 保健室の扉は衝撃だった… ~ ―


1はアニメから入ったにわかである。今も学園内部は想像で書いているため、
部屋のレイアウトなどはかなり適当で保健室の扉も普通の扉扱いなのだが、
もしゲーム通りのデザインの扉だったらこんなやり取りがあったに違いない。


山田「む、腐川冬子殿。こんな所で出会うとは珍しいですなぁ」

腐川「な、なによ…アタシが廊下を歩いてちゃいけないっての…?!」グギギギ


992: 2014/02/09(日) 17:13:33.31 ID:O4E6Hxzm0

山田「いやいやいや! そんなつもりでは…ん?」

苗木「それでね、その後に舞園さんが…」

K「ウム」


ガチャッ、バタン


山田・腐川「…………」

山田「なんか、あれですな…長身でゴツい西城カズヤ医師が小柄で中性的な顔をしている
    苗木誠殿と一緒にあの扉をくぐると、こう薔薇の香りっぽいものを感じますなぁ」

腐川「ヒッ! あ、あ、あんた…なにを考えてんのよ?!」

山田「おや? 腐川冬子殿はこういう話は好きかと思いましたが…」

腐川「な、なんでアタシが…気持ち悪い。あんたと一緒にしないでよ!」

山田「またまたそんなこと言って~。拙者聞いてしまったのですぞ! 腐川殿が怪しい目で
    苗木誠殿を見つめながら『やっぱ白夜様×まーくんが王道よねー! あ、でもまーくんなら
    相手が誰でも行けるから総受けオーケー! ただし山田以外』って言っているのを」

腐川「っ…!」サアァー

山田「全く失礼な話です。まあ僕はBLは対象外なのですが、後学のために少しお話でも…」


993: 2014/02/09(日) 17:20:36.94 ID:O4E6Hxzm0

腐川「そ、その話…!!」

山田「はい?」

腐川「もし、誰かに言ったら…こ、こ、こ、コロスわよ!」

山田「ひぃぃぃっ、お助けを!」

腐川「ぜ、絶対にっ! 言うんじゃないわよっ!!」ダダダダッ

山田「行ってしまいましたな…隠れ腐女子というヤツでしょうか。僕のように
    オープンなオタクになれば楽でしょうに、険しい道を行きますなぁ…」

・・・

朝日奈「あ、山田! なんか腐川ちゃんが凄い顔して走ってきたけど、あんたなんか知ってる?」

山田「いえ。乙女心は難しいなぁと思いまして」

朝日奈「そ、そうだよ! 女の子の心は難しいんだからね!」←本当は自分もよくわかってない。


― オマケ劇場 ⑯ ~ 続・医療実習 ~ ―


苗木「やった! 取れたぞ!」

メスで魚の角膜を切り、ピンセットで中から綺麗な透明の球体を取り出す。

K「それが魚の水晶体だ。綺麗だろう?」

苗木「はい! へぇー、目の中ってこうなってるんだ」


994: 2014/02/09(日) 17:25:20.76 ID:O4E6Hxzm0

K「人間の目の水晶体はいわゆるレンズ状になっており、厚みを変えることでピントを調整しているが、
  魚にはその機能がない。何故魚の水晶体が球形になっているかと言うと、屈折率の差だ」

K「空気中では光は大きく屈折するが水中ではほとんど屈折しない。故に、水晶体で屈折率を補っているのだ」

苗木「へえ~、そうなんだ」

K「その水晶体越しに外を見てみろ。上下反転して見えるはずだ」

苗木「え?! あ、本当だ。なんでだろう?」

K「魚だからではなく、人間の目も本来は反転して映っている。それを脳が反転補正して
  認識しているため、我々は真っ直ぐに世界を見ることが出来ているのだ」

石丸「苗木君、屈折率や水晶体による画像の反転は中学の授業で既に習っているはずだぞ!」

苗木「あ、その、ごめん…ちょっと忘れてて…」

K「いいじゃないか。そういうこともあるさ。今身を以って学んだのだから、もう忘れないだろう」

苗木「う、うん! 今度は完璧に覚えたよ!」

石丸「まあいい…しかし君は本当に器用だな。僕はいまだに内臓と悪戦苦闘しているというのに」

苗木(それって単に石丸君が不器用なだけじゃあ…)

石丸「よし! 僕もいよいよその水晶体摘出の作業に入るぞ!」

苗木「頑張って!」

石丸「……。……。あ、ああっ!」グニュッ!

苗木「あ…(潰しちゃったよ…)」


995: 2014/02/09(日) 17:31:27.68 ID:O4E6Hxzm0

石丸「やってしまった……凄く、楽しみにしていたのに……」

K「落ち着け。目は二つあるんだ。もう片方で挑戦し直せばいい」

石丸「は、はい! ……。……。……。う゛っ! わあああああああっ!」

K「……」無言で頭に手をやる

苗木「…だ、大丈夫。次があるよ。明日もあるし。ね?」

石丸「苗木ぐん…君は本当に良い奴だな」涙目

苗木(これがこれから毎日続くのか…ハアァ~…)



― オマケ劇場 ⑰ ~ 超高校級の主人公 ~ ―


桑田「せんせー、野球付き合ってくれよー」

石丸「西城先生! 勉強を教えて下さい!」

朝日奈「えーっ?! 先生は先に私達と泳ぐんだよ!」

大神「…後で構わないので、どうか我と手合わせをして頂きたい」

葉隠「先生、この壺買わねえか? K先生なら特別に安くしとくべ!」

不二咲「……(西城先生とお話したいけど入れない…)」オロオロ

ヤイノヤイノガヤガヤ

K「みんな、わかったから順番にな。あと壺は買わんぞ!」

葉隠「……チッ」


996: 2014/02/09(日) 17:34:00.12 ID:O4E6Hxzm0

・・・

K「フゥ…(やっと全部終わった。流石に少し疲れたな…)」

苗木「先生、良かったらどうぞ」つ旦~スッ

K「苗木、すまんな」ジーン…

苗木「疲れたでしょ? 肩でも揉んであげましょうか?」

K「いや、生徒にそこまでさせる訳にもいかん。俺も一応まだ若いしな。気持ちだけ貰っておくよ」

苗木「あ、あと不二咲さんが先生とお話したいみたいでしたよ?」

K「わかった。後で行く。…本当にいつもすまん」

苗木「僕に出来るのってこのくらいだから。ハハ」

K「いや、とても助かる。ありがとう」ポンポン


苗木誠。

特筆すべき才能は何も持たない王道も裸足で逃げ出す平凡中の平凡な少年。

だが、超高校級の気遣いとコミュニケーション能力を持ち、
持ち前の前向きさと優しさで周囲を支える縁の下の力持ち的存在である。

そう、苗木誠こそ超高校級の主人公なのだ!


997: 2014/02/09(日) 17:39:13.50 ID:O4E6Hxzm0

最後に唐突に頭に浮かんだ各キャラのスキル一覧表みたいなものを書いてみる。

ゲームの攻略本とかに載ってるキャラデータみたいなノリですが、今後の展開によっては
矛盾が出るかもしれないので、スレを埋めるためのオマケ要素くらいに考えて下さい。

×が付いているのはマイナススキル。スキルごとに強弱があり、例えば
固有スキルの洞察力>通常洞察力>観察力みたいな感じになっている。


[ 苗木 誠 ]

通常スキル

・集中力
・観察力
・推理力
・閃き
・論破:相手を論破した時のダメージ1,5倍。
・前向き:逆境でも持ちこたえることが出来る。
・器用貧乏:大体のことが初見でまあまあこなせる。

特殊スキル(そのキャラ固有のスキル)

・超高校級の幸運:普段は不運だがいざという時に発動する。
・超高校級のコミュニケーション:誰と組んでも相手の能力を下げない。

〈 m e m o 〉

ひと目で分かる通りバッドスキルが一つもなく、能力の編成も悪くないバランス型。
強スキルが少ないのでパワーに欠けるが、コミュニケーション能力が高いおかげで
相性の悪い人間がなく、誰と組んでも力を発揮することが出来るのが最大の長所。


998: 2014/02/09(日) 17:43:08.01 ID:O4E6Hxzm0

[ 桑田 怜恩 ]

通常スキル

・瞬発力
・反射神経
・豪腕:実は投げる以外も凄い。
・スタミナ
・ムラッ気×:気分屋で感情的な所がある。

特殊スキル

・超高校級の野球能力:打っても投げても的確に目標を狙撃出来る。
・超高校級の動体視力:凄く目が良いので素早い動きも見切れる。
・ダントツの切り替え:気分の持ち直しが早く、絶望しても復活可能。

〈 m e m o 〉

見ての通り頭脳系のスキルが一つもなく、頭脳労働は全く期待出来ない。
ムラッ気があるためコントロールもしづらく、他の人間との相性も差が激しい。
ただ、代わりに身体能力は全生徒の中でも屈指であり運動面では期待出来る。


[ 舞園 さやか ]

通常スキル

・集中力
・記憶力
・直感
・瞬発力
・対人交渉

特殊スキル

・歌姫の度胸:いざという時大胆な行動を取れる。
・女優の演技力
・エスパーですから:高い人間観察能力による読心術が使える。

〈 m e m o 〉

苗木同様非常にバランスが良い。運動系のスキルも持っているため純粋な
推理能力は苗木よりも劣ってしまうが、対人交渉や人間観察能力を活かして
周囲の人間を補佐する役割に回すと高いサポート能力を発揮する。


999: 2014/02/09(日) 17:49:46.72 ID:O4E6Hxzm0

[ 桑田 怜恩(改) ]

通常スキル

・瞬発力
・反射神経
・豪腕
・スタミナ
・閃き

特殊スキル

・超高校級の野球能力
・超高校級の動体視力
・ダントツの切り替え
・ダイヤのエース:強化版ムードメーカー。流れを大きく変えることが出来る。
・逆境ナイン:仲間がピンチになると能力が上がる。

〈 m e m o 〉

ムラッ気がなくなり精神的に安定した。相変わらず頭脳面は弱いが、閃きが加わっている。
特殊スキルに仲間との連携を前提とするスキルが加わったのはチームスポーツの人間ならでは。
KAZUYA・霧切・苗木など頭脳面を補うキャラと組ませれば文句なしの強キャラと呼べる。


1000: 2014/02/09(日) 17:53:08.70 ID:O4E6Hxzm0

[ KAZUYA(西城カズヤ・ドクターK) ]

通常スキル

・マイナススキル以外の全通常スキル

特殊スキル

・神のメス:高速かつ精緻なメス裁きを可能にする。
・医の洞察力:長年の診察から得た高い洞察力。
・野獣の如き肉体
・帝都大主席の頭脳
・鋼の精神力:何があっても屈しない強靭な精神力。

スペシャルスキル:特殊スキルを更に超えた必殺技的存在。

・K一族の血:十分な設備があり即氏でない状況なら必ず助けることが出来る。

〈 m e m o 〉

次元が違う圧倒的なハイスペックの持ち主。頭脳面・運動面両方で
最高位の能力を誇り、安定した精神も併せ持つ化け物みたいな人間である。

そして、これほど高い能力を持ちあわせたKAZUYAでもかなりの苦戦をしていることから、
このコロシアイ学園生活と黒幕がいかに凶悪かつハードな存在かが伺い知れる…

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モノクマ「以上でこのスレは終わりです!」

ここまで読んで下さり、誠にありがとうございました。
それでは次スレでまたお会いいたしましょう!




引用: 苗木「…え? この人が校医?!」霧切「ドクターKよ」