687: 2014/03/05(水) 20:45:18.22 ID:rZpRcdHH0

688: 2014/03/05(水) 20:49:00.04 ID:rZpRcdHH0






Chapter.2 週刊少年マガジンで連載していた  非日常編






689: 2014/03/05(水) 20:51:08.72 ID:rZpRcdHH0

KAZUYAの中の苦い思い出と同じように、その夜は雨が降っていた。
汚染された雨だ。外は汚染されている。だが、彼等はそんなことは知らない。

何故なら、この建物は外界と隔離され外は愚か空さえも見ることは出来ないのだから。
知っていることと知らないこと。危険な自由と安全な不自由。

どちらが幸せかなんて、そんなことは誰にもわからない――


霧切(……………………)


ふと、霧切響子は胸騒ぎを感じて目を覚ました。彼女はそれを『氏神の足音』と呼称する。
KAZUYAによって記憶のヒントを与えられた彼女は、既に取り戻すべき記憶の半分以上を
手に入れていた。そして取り戻した能力こそ、優れた探偵の証とも言える氏神の足音だった。


霧切(……何かあったのかしら? それとも、これから起こる?)


彼女が起き上がろうとしたちょうどその時、来客を告げるインターホンが鳴ったのだった。


690: 2014/03/05(水) 20:55:57.04 ID:rZpRcdHH0

― 食堂 コロシアイ学園生活十一日目 AM7:05 ―


朝日奈は親友の大神とここに来てから習慣となっているトレーニングをし、気持ち良く
シャワーを浴びて食堂へとやって来た。昨日あったことなどなんのその、一日経って
すっかり元気を取り戻していたのだが、二人はすぐさま食堂に起こった変化に気が付いた。


朝日奈「おっはよー!」


シーン。


朝日奈「あれ? 調理場かな?」


いつもなら真っ先に食堂に来ているはずの男がいない。


大神「どうした、朝日奈よ」

朝日奈「それがね、石丸がいないの。変だなぁ」


大体石丸は食堂が開く朝7時あたりには食堂の入口で待機し、開くと同時に中へ入る。
そして食事当番でもないのに朝食の下準備をしておいてくれるのだ。


大神「勉強に熱が入っているか、風邪でも引いたのではないか?」

朝日奈「珍しいね。じゃあ、今日はどうせ私達の担当だし準備しちゃおっか」


691: 2014/03/05(水) 20:59:11.86 ID:rZpRcdHH0

特に気にせず朝食を作り始める。だが時間が経つごとに変化は異変に変わっていった。


朝日奈「…ねぇ、これって絶対おかしいよね」

大神「ああ…」


朝の光景は大体決まっている。まず石丸が騒々しく準備をし、次に来た自分達がそれを手伝う。
その前後にKAZUYAがやって来て、何やら難しそうな外国語の本を読みながらコーヒーを飲んでいる。
そこへ不二咲が来て、支度が終わったメンバーとおしゃべりをするのが日課だった。

そろそろ時計の針は7時半を指そうと言う時間になっているのに誰も来ない。


朝日奈「まさか、何かあったのかな…」


今この学園にいるのは自分達二人だけなんじゃ、という嫌な想像をしてしまう。
だが、か弱そうな不二咲はともかくKAZUYAや石丸にまで何かあったとは思いがたい。


朝日奈「どうする、さくらちゃん? 様子見に行った方がいいかな?」

大神「ウーム…」


悩む二人の前にある人物が現れた。


692: 2014/03/05(水) 21:04:23.90 ID:rZpRcdHH0

舞園「おはようございます」

朝日奈「あ、舞園ちゃん! おはよー」


現れたのは舞園だ。車椅子に乗らず、表情も以前の通りに戻っている。
心身、特に精神の回復の早さに大神はやや驚いて舞園に問う。


大神「…もう大丈夫なのか?」

舞園「体の方ですか? まだ完全ではありませんが、寄宿舎の中を少し歩くくらいなら
    問題ないです。昨日の件については、ご心配をかけて申し訳ありませんでした」

朝日奈「あ、いいよ。モノクマの言い方はちょっとイジワルすぎたよね」


正直に言えばまだ舞園に対するわだかまりもあるが、今は目の前の異変の方が気になった。


朝日奈「それよりさ、先生達に会わなかった? 私達以外誰もいないんだよね」

舞園「西城先生、石丸君に不二咲さんですか? ここに来る時には誰も…」

舞園(やっぱり…何かあったんですね)


彼女は気付いていた。何故なら、もう一度見回りに来るとKAZUYAは言っていたのに
来なかったからだ。不測の事態に身構える。そんな中、食堂にはまた新たな来客が現れた。


693: 2014/03/05(水) 21:09:24.95 ID:rZpRcdHH0

朝日奈「苗木、おはよー」

大神「おはよう」

苗木「みんな、おはよ…舞園さん?!」

舞園「おはようございます、苗木君」ニコッ

苗木「ま、舞園さん?! 元気になったの?!」

舞園「はい。今までご心配かけました。今日から舞園さやか復活です!」

苗木「ほ、本当に…?」


苗木にとっては夢のようだった。また舞園のあの笑顔を見れる日が来るなんて。
急に元気になるなんて不自然だとも思ったが、喜びの前にそんな疑問はかき消えてしまった。


苗木「いやぁ、良かった。本当に良かった! 一時はどうなることかと思ったよ!」

舞園「本当にごめんなさい」

苗木「それにしてもどうしたの? 何もないってことはないよね?」

舞園「…実は昨日の夜、桑田君と話したんです」


694: 2014/03/05(水) 21:12:57.25 ID:rZpRcdHH0

苗木「桑田君と?!」

朝日奈「桑田と?!」

舞園「はい。桑田君、自分も大変なのに私のこと励ましてくれて…それで元気になったんです。
    いつまでもうじうじなんてしていられない。私も頑張らないと!って」

苗木「そっかぁ、桑田君が…」

朝日奈「桑田のやつ、いいとこあるじゃん!」


少し空気が和やかになって談笑が始まりかかったが、ここで苗木はKAZUYA達の不在に気付く。


苗木「ところで、あれ? 先生や石丸君はどうしたの? 不二咲さんもいつもはもう来てるよね?」

朝日奈「あ、それが…大変なの! 三人ともまだ来てないの!」

苗木「え?! 三人同時に?」


あの三人に限って寝過ごしたなどということはないだろう。苗木も異常に気付き、青ざめる。


苗木「大変だ! 手分けして探しに…」


695: 2014/03/05(水) 21:17:49.87 ID:rZpRcdHH0

「その必要はないわ」


いつの間にか食堂の入り口には霧切が立っていた。あたかも何もなかったかのように
平然とその場に存在している舞園を見て一瞬驚いた顔をしたが、すぐに表情を戻す。


大神「霧切か。お主にしては早いな」

苗木「もしかして…霧切さん、なにか知ってるの?!」

霧切「ええ。三人は無事よ。私はドクターから伝言を頼まれて来たの」

朝日奈「なんだ~、よかったぁ」

舞園「でも、何もない訳ではないんですよね? 何があったんですか?」

霧切「石丸君が怪我をしたのよ」

苗木「え、怪我?! 大丈夫なの?!」

霧切「ドクターが治療したから命に別状はないわ。ただ、ドクターは石丸君に
    ついていなければならないから、朝食会には来られないと伝えにきたの」

大神「不二咲もそこにいるのか?」

霧切「昨日の夜までいたわ。疲れているだろうから、今朝は遅れてくるんじゃないかしら」


696: 2014/03/05(水) 21:27:10.23 ID:rZpRcdHH0

朝日奈「え? なんでなんで? なんで怪我したの?」

霧切「悪いけど、詳しい事情は私からは言えないわ。みんなには私から説明すると
    言ったのだけど、不二咲君がどうしても自分で説明したいと言うから」

舞園「…不二咲“君”?」


舞園が耳ざとく気付いて霧切を見たが、霧切はそっと目を伏せた。


霧切「ごめんなさい。私からは何も言えないの。すぐ明らかになるから。
    …あと、大和田君も朝食会には来ないと思うわ」


そう言うと、もはや何も話す気がないと言うように霧切はコーヒーを入れ席に着いてしまった。
とりあえず三人の無事は確認出来たので、四人も定位置に着いて他のメンバーを待つことにした。

朝食会は大体三つのグループに分けることが出来る。一つ目は早朝組。石丸を筆頭に、KAZUYA、
朝日奈、大神、不二咲、舞園の六人である。次に、そこそこ組。特別早くもないがある程度
余裕をもって来る組で苗木、桑田、大和田、霧切の四人が当たる。最後がギリギリ組。
ギリギリと言っても半分は遅刻することが多い。十神、セレス、腐川、山田、葉隠、江ノ島の六人だ。
(桑田と大和田は元々ギリギリ組だったが、生活態度を改めてからはそこそこ組になっていた)

そして桑田、石丸、大和田、不二咲以外の全生徒がほぼこの区分通りに食堂へとやって来る。


697: 2014/03/05(水) 21:31:40.84 ID:rZpRcdHH0

朝日奈「江ノ島ちゃん! 怪我したところ大丈夫?」

江ノ島「うん、ちゃんと縫ってもらったしこのくらいヘーキヘーキ!」

苗木(縫ったから平気って…一部槍が貫通してたのに。意外と根性あるんだなぁ)

十神「それで、これはどういうことだ?」

セレス「有り得ない顔ぶれがいらっしゃいませんわねぇ」

葉隠「…えーっと、なんかあったっぽい?」

江ノ島「そんなの見りゃわかるっしょ」

山田「いつ頃いらっしゃるんですかね? 僕、お腹が空いてしまいまして」

腐川「なんなのよ、一体…」

苗木「ま、まあまあ。もうすぐ不二咲さんが来て全部説明してくれるらしいからさ」


昨日の雰囲気を引きずりいまだ険悪なメンバーを苗木が宥める。朝食会の時間を少し過ぎてから
不二咲はやって来た。何故か桑田と一緒だ。不二咲は傍目からわかるほど顔色が悪く、目は赤く腫れて
酷い顔をしていた。一方桑田は明らかに寝不足と言った感じで、顔色は悪くないが不機嫌そうである。


698: 2014/03/05(水) 21:34:45.91 ID:rZpRcdHH0

不二咲「おはよう。み、みんな、遅れてごめんね。桑田君がなかなか起きてくれなくて…」

山田「な、なんと?! ちーたんは桑田怜恩殿と一緒にいたのですか?!」

葉隠「事件だべ! これはなんかあるべ。俺の占いは三割当たる!」

セレス「まあ、大人しそうな外見に似合わず意外とやりますのね、不二咲さん。
     そう言えばよく殿方と一緒にいらっしゃいますものねぇ」

江ノ島「よりによって桑田ァ? アタシがもっといい男の選び方教えてやるよ!」

腐川「ふ、不潔よ! 近寄らないで!」

十神「…………」

桑田「うっせー! そんなんじゃねーよ! アホアホアホアホクソボケウOコタレ!!」

江ノ島「な、なによ! そこまで怒らなくたっていいじゃない!」

桑田「アホアホアホアホ!」

セレス「…見苦しいですわよ、桑田君」

葉隠「おい、桑田っち。いい加減に…」


699: 2014/03/05(水) 21:39:18.63 ID:rZpRcdHH0

山田「……え?」

腐川「な、なによ……」


桑田の態度に再び喧嘩が起こりかけたが、起こらなかった。何故なら桑田は真っ赤になって
怒鳴っているが、その顔は怒っているというより泣くのをこらえているように見えたからだ。
そして桑田の横に立つ不二咲は既にボロボロとしゃくりをあげて泣き始めていた。

……何かあったのだと、彼らもようやく悟った。


十神「泣いていても仕方あるまい。お前が来るまで待たされたんだ。早く説明したらどうだ?
    …まあ、この俺には何があったのか大方予想はついているがな」


口々に生徒が騒ぐ中、十神だけは冷静だった。元々KAZUYAが不在な時点で何かあったのは
聞かずとも明白。桑田はKAZUYAと近いから、単に不二咲のことを頼まれただけだろう。


十神(今現在いない面子から想定するに、石丸か大和田二人のうちどちらかが
    何らかのトラブルで怪我をした。…それもかなり重傷のな)

十神(十中八九原因は大和田だろう。石丸の奴は馬鹿で抜けてはいるが、腐っても
    超高校級の風紀委員だ。生徒に怪我をさせるようなヘマはしまい)


700: 2014/03/05(水) 21:41:32.83 ID:rZpRcdHH0

不二咲「い、石丸君がね……大怪我しちゃったんだ。僕のせいで……」

セレス「あら、まあ…」

山田「け、怪我ですと? それで、容態の方は…?」

桑田「…せんせーがすぐに処置したからなんとか助かった」

江ノ島「なんだ! よかったじゃん!」

葉隠「そうだべ。怪我をしたのはご愁傷様だが、助かったんだからそんな
    暗い顔しないで石丸っちの無事をもっと喜ぶべきだべ」

桑田・不二咲「…………」


シーン。


葉隠「…あ、ありゃ? 俺なんかおかしなこと言ったか、苗木っち?」

苗木「え、僕?! いや、今回は特におかしいことは言ってないと思うけど…」

舞園「…もしかして、後遺症か何か残るんじゃないですか?」


舞園が冷静な声で二人に聞く。その問いに不二咲はビクリと震えまた泣き出し、桑田が代わりに答えた。


702: 2014/03/05(水) 21:46:23.95 ID:rZpRcdHH0

桑田「傷……残るんだって」

腐川「え、なに? き、傷がどうしたのよ?」

桑田「だからっ! 顔にバカでっかい傷が残っちまうんだってよっ!」

一同「!!」


再び場が騒然となる。


朝日奈「え? 顔? あいつ顔に怪我しちゃったの?!」

苗木「そ、そんな…」

大神「むぅ……」

山田「いや、いやいやいや! まさか、そんな…ブラックジャックレベルのじゃあ、ないですよね?」

桑田「…俺は見たけど、同じくらいか下手すりゃもっとヒドイ」

江ノ島「全部で何針くらい縫ったの?」

不二咲「二十ヵ所くらいあったよ。しかも顔は二ヵ所切ったの…」


703: 2014/03/05(水) 21:54:06.62 ID:rZpRcdHH0

針数:縫合技術がまだ未熟だった頃、大体一針一センチ程であったので針数が傷の大きさを
    示していた。現代は技術が進み、それこそ傷を残したくない顔などは一センチに
    十針近く縫うこともあるので単純に針数を聞くことは無意味となっている。

…しかし今回の場合、麻酔の効果時間と傷の癒着を最優先にして通常よりかなり粗く
縫ったため、針数が通常より少なくそのまま傷の大きさに比例していると考えてもらって良い。


江ノ島「二十も?! かなり大きいね…」

葉隠「ま、まあアレだべ! 顔に傷なら大神っちだってあるし…」

大神「我は格闘家だ。傷は激闘を生き抜いた証であり勲章でもあるが、お主ら一般人は違う」

葉隠「だ、だべなぁ……傷かぁ……」

山田「普通なら命があっただけいいって言えますけど……なにせ顔ですからなぁ……」

十神「それで、何で怪我をしたんだ?」


詰問するように十神が不二咲を睨む。その視線に怯えながらも、不二咲は説明し始めた。


不二咲「そ、それを話すにはまず僕の秘密から言わなきゃいけないの…」


704: 2014/03/05(水) 22:00:31.11 ID:rZpRcdHH0

山田「秘密? ちーたんの秘密とな?!」

苗木「…やっぱり、昨日配られた動機と関係があるの?」

不二咲「そう。僕に勇気があればこんなことにはならなかったのに…」

セレス「後悔は後でゆっくりして下さいな。それで不二咲さんの秘密とは一体何ですの?」

不二咲「僕…………本当は男なんだ」


その瞬間、食堂の時が止まる。事情を知らない全員がポカンと口を開ける。


「…………ハ?」

不二咲「今までずっと女装してみんなを騙してたの。ごめんね……」

「ハアアアアアアッ?!!」

葉隠「不二咲っちが……男?!」

山田「リアル男の娘ですとぉぉぉっ?! 嘘だと言ってよバーニィ……」

苗木「えええええええええええっ?!」


705: 2014/03/05(水) 22:04:28.17 ID:rZpRcdHH0

朝日奈「うそぉぉぉっ?!」

大神「なっ……?!」

腐川「……はぁ?!」

十神「何……だと……」

セレス「生命の神秘を感じますわね…」


流石の十神すらこれは予想出来なかったようで、面食った顔をしていた。


舞園「だからさっき霧切さんは不二咲君と呼んだんですね」

霧切「ええ、そうよ……不二咲君、続きを」

不二咲「うん。それでね……」


不二咲は一連の決意や出来事を順に話していった。不二咲の悲しい過去や
それを乗り越えようとしたくだりでは賞賛の声も上がった。

そしていよいよ次は事件について話し始める。


714: 2014/03/08(土) 17:23:58.95 ID:7H2Ah3aV0
昨日は寝落ちしてすみませんでした

ちなみに前スレ最後で各キャラのスキル表を書きましたが、KAZUYAのSスキルは
この学園にちゃんとした設備はないので実質氏に設定です。大怪我したら氏にます

715: 2014/03/08(土) 17:28:26.48 ID:7H2Ah3aV0

               ◇     ◇     ◇


終始、和やかな空気であった。この後想像を絶する悲劇が起きるとは到底信じられぬ程に。


不二咲「うーん…うーん…」

大和田「おら、ガンバレ」

石丸「頑張れ、不二咲君!」

不二咲「九……十!」

大和田「やったじゃねえか! オメエもやりゃ出来るなぁ! ハハハッ!」

石丸「おめでとう、不二咲君!」

不二咲「ありがとう、二人共!」

不二咲(ふふっ! 僕は今まで何をうじうじしてたんだろう。僕だってやれば出来るんだ!
     ……でも、それは後押ししてくれる人達がいるからだよね)

不二咲(もっと早く先生に言えば良かったなぁ。それにもっと友達を信じれば良かった。
     もうこれからは自分を隠さなくていいんだ。男友達とだって思い切り遊べるんだ!)


今から思えば不二咲は少し浮かれていたのだ。しかし、一体誰がそれを責められようか。


716: 2014/03/08(土) 17:36:06.32 ID:7H2Ah3aV0

不二咲「じゃ、じゃあ次は~」

大和田「おいおい、ムリすんなって。張り切りすぎるとケガするぞ」

石丸「その通り! 不二咲君はまだ始めたばかりで体が出来ていない。休み休みやりたまえ」

不二咲「はぁ~い」テヘ!

大和田(これで男とかなぁ…)ハァ


溜め息を吐く大和田に、不二咲は無邪気に笑って近付いた。


不二咲「そういえば、大和田君もさっきから一生懸命鍛えてるね?」

大和田「おう、実はな。…あんま言いたくないが、この間ここで兄弟と勝負してボロ負けしてな」

不二咲「え?! 大和田君が?!」

大和田「一応言い訳するとだ……」

石丸「言い訳は男らしくないぞ、兄弟」


鋭い石丸のツッコミが入るが大和田は無視する。


大和田「うるせー。ここに来たばっかの時は確かに俺の方が上だったと思うんだわ。
     …ただな、閉じ込められてしばらく運動不足だったろ。それが祟ったみたいでな」


717: 2014/03/08(土) 17:49:23.73 ID:7H2Ah3aV0

石丸「僕は毎朝目が覚めたら必ずラジオ体操をし、朝の鍛練を欠かさないからな! その後昼間は
    ずっと勉強だが、座りっぱなしでは体に悪いから夕方軽く運動をし、寝る前はストレッチだ。
    どうだね? 非常に健康的な生活だろう? 不二咲君も見習ってくれていいぞ!」

不二咲「見習いたいけど、僕はちょっと無理かも…」

大和田「兄弟は終始こんな感じだからよ。ただ、腹筋背筋腕立ては負けたが
     ベンチプレスは根性で勝ったぜ! 他のも近日中にリベンジの予定だ」

石丸「はっはっはっ、返り討ちにしてくれる!」


余裕そうに笑う石丸を見て、不二咲はふと石丸のことはあまりよく見ていなかったなと思った。


不二咲(西城先生や大和田君ばっかり見てたけど、石丸君も実は凄いんだよね。文武両道だし、
     今だって一心不乱に課題をこなしてるし。もう苦手だなんて思わないようにしよう)

不二咲「石丸君て凄いよねぇ。努力家だし勉強も運動も頑張ってる。それに比べて僕は……」

石丸「何を言うんだ! あれ程の秘密を持っていたのに一大決心をした君こそ凄いではないか。
    僕の秘密なんて本当にちっぽけなものだ。あんなことで悩んでいた自分が恥ずかしい」

不二咲「石丸君の秘密……聞いてもいい?」

石丸「構わないぞ。なに、ここに来るまで友人という存在が一人もいなかったという、ただそれだけのことだ」

不二咲「えっ」

大和田「あぁ……まぁ……そういうこともあるだろ」


718: 2014/03/08(土) 17:56:18.34 ID:7H2Ah3aV0

石丸「でも僕はここでかけがえのない友人が出来た。正直、そのことだけはこの生活に感謝している」

大和田・不二咲「…………」

石丸「不二咲君。君が男性だとわかったから聞きたい。君も僕の友人になってくれるかね?」

不二咲「もっ、もちろんだよ! 僕も石丸君の友達になりたい!」

大和田「バーカ。んなことはわざわざ口に出して聞くもんじゃねえだろーが」

石丸「そ、そうなのか?! もしやまた僕は空気が読めていなかったのかね?!」

大和田「空気読めないとかじゃねーんだよ。兄弟のKYは一生治んねえな。ハハハッ!」

不二咲「あははっ」

石丸「ところで、兄弟の秘密は何なのだね?」

大和田「ハハ……は?」


笑いが止まる。


石丸「どうかしたのか?」

大和田「あ、いや、その…」


719: 2014/03/08(土) 18:02:35.02 ID:7H2Ah3aV0

石丸「歯切れが悪いな。もしかして、言いたくないのかね? まあ、どうせ明日に
    なればわかるし、言いたくないと言うのなら今は無理をせずとも良いが」


まあ、ちょっと、な……と大和田が言って終わる話のはずだった。石丸も話の流れで
何となく聞いただけで、別に大和田の秘密を暴きたかった訳ではないし、現にすぐ引いた。

では、何が問題だったか。


不二咲「石丸君! 大和田君に失礼だよ!」

大和田「……ハ?」

石丸「ん?」

不二咲「大和田君は強いんだから! 弱い僕なんかと違って秘密なんてへっちゃらだもんね?」

石丸「ああ、そうだった。失礼したな、兄弟。親しき仲にも礼儀ありだ」ハハ

不二咲「そうだよ! 大和田君はとっても男らしくて強いんだから。
     いつまでも“嘘に逃げてた弱い”僕なんかとは違うんだよ!」

石丸「君は弱くなんてないさ。生まれ変わったのだからな!」


そう言って二人は笑うが、大和田だけは笑っていなかった。


720: 2014/03/08(土) 18:10:05.91 ID:7H2Ah3aV0

大和田「本当に強ぇーなら…秘密を言ってみろっつーことか?」

不二咲「え…?」


余りの冷たい声に、思わず石丸は顔を上げた。大和田は今まで見たことのない顔をしていた。
…ただ、それが喜んでいる訳ではないのは明らかだ。


大和田「俺に…どうしろっつーんだ…? 秘密をバラして…全部台無しにすりゃいいのか?」

不二咲「お、大和田君? どう…したのぉ?」

石丸「兄弟…?」


その時、石丸の脳裏にKAZUYAの言葉が蘇った。

『単刀直入に言うが、精神状態が極めて悪い。今回のことでかなり追い詰められているようだ』

『…俺も正直、今のあいつは危ういと思っている』


石丸(そんな……そんなこと、ある訳……)


そう思いながらも、無意識に石丸は立ち上がっていた。


721: 2014/03/08(土) 18:20:25.81 ID:7H2Ah3aV0

石丸「兄弟……いけない……」

大和田「なんで…オレに言った? オレへの当て付けか?」

不二咲「ぼ 僕はただ…大和田君に憧れてて…強い…大和田君に憧れて…」

大和田「そうだよ…俺は強ぇーんだ…強い…強い…強いんだ…
     強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い!」

石丸「兄弟!」

大和田「オメェよりも…! 兄貴よりもだぁぁぁぁぁああッ!!!」

石丸「よせえええええええええッ!!」


大和田が叫びながら手に持っていたダンベルを振り上げる。石丸は持っていた物を
放り投げ、友人の凶行を制止すべく走った。そして……


石丸「うぅ……ぐぅ……」

大和田「兄、弟……?」

不二咲「い……石丸君っ!!」


気が付いた時、大和田の足元には顔面と首筋から血を流してうずくまる石丸の姿があった。


722: 2014/03/08(土) 18:30:17.44 ID:7H2Ah3aV0

大和田「きょ、兄弟…? 兄弟ぃぃっ!! 兄弟! 兄弟! しっかりしてくれよっ、兄弟!!」


一瞬何が起こったかわからず呆然としていたが、自分がしたこととその結果に気付いた時、
大和田は錯乱した。石丸に縋り付き激しく揺さぶろうとする。その姿を見た時、不二咲は
正気を取り戻した。そして自分が今何をしなければいけないかを急速に理解した。


不二咲「動かしちゃダメェェェッ!!」


こんなに焦っているはずなのに、自分にもこんな大きな声が出せたんだと不二咲は思う。


大和田「で、でも兄弟が!」

不二咲「授業の内容を思い出して! 早く、早く止血をしないと…!」

大和田「し、止血…」

不二咲「見て! 頸動脈のすぐ近くが切れてる。乱暴に動かしたら切れちゃうかも」


不二咲は自室に置いてあった人体急所マップを思い出していた。頸動脈は急所の一つだ。
これが切れたら恐らく助からないだろうと言うことは素人でもわかった。


大和田「ど、どうすりゃいいんだ?!」


723: 2014/03/08(土) 18:37:19.85 ID:7H2Ah3aV0

不二咲「落ち着いて! 習った通りにやれば僕達にも出来るはずだよ!」

大和田「…そうだ! 当て布だな!」


同じ授業を受けていたはずだが、元々大和田は勉強が苦手なので理解度に差があった。
そのため記憶力の良い不二咲が大和田をフォローする。


不二咲「傷口を心臓より上にしないと…大和田君、石丸君を壁に寄り掛からせて!」

大和田「お、おう。こうだな?」


大和田が石丸の体を抱えて壁際に運ぶ。


不二咲「傷口を押さえないといけないんだけど、大事な血管の近くだし
     何より首だからあんまりぎゅうぎゅうやるのは良くないかも…」

大和田「じゃあどうすりゃいいんだよ?! ほっといたら氏んじまうだろ?!」

不二咲「間接圧迫止血法をしてみよう! これなら患部から離れてるから大丈夫なはずだよ!」

大和田「あの布で絞め上げる奴か? で、どこを絞めればいいんだ?!」

不二咲「あ……」


724: 2014/03/08(土) 18:48:07.57 ID:7H2Ah3aV0

腕や足の止血点は習った。止血帯の巻き方も。だが、首の止血点は習ってない。
そもそも、首を絞めたら止血は出来たとしても呼吸が出来ないのではないだろうか。

止血点:患部と心臓の間に存在する、間接圧迫止血法で圧迫すべきポイント。

止血帯法:止血の方法の一つ。幅広の布で、傷口より5~10センチ程心臓側の部位を緩めに巻き、
      棒状の物を差し込みそれを巻くことで、簡単に止血することが出来る。但し、この方法は
      簡単に圧迫することが出来る分、強く締めすぎて細胞を壊氏させる可能性が極めて高く、
      現在は現場でも推奨されていない。実際に行う場合は三十分に一度緩めなければならない。


石丸「首の止血点は……付け根……ここだ……」


左鎖骨の上辺りを石丸が息も絶え絶えに指し示す。


石丸「恐らく…血の色と、出血量から…傷ついているのは頸静脈…だから、ここを…」

大和田「わかった! わかったからもうしゃべるな!」

不二咲「えっと、素人が止血帯を使うのは極力避けた方がいいから…大和田君、指で押して!」

石丸「圧迫は……三十分おきに、少し緩める…」

大和田(兄弟が勉強家で助かった! あとは先公さえ早く戻ってきてくれりゃあ…)

不二咲(確か…石丸君が流しても問題ない出血量は1リットルくらい。もう半分近くは
     流れちゃってるはず…急がないと)


725: 2014/03/08(土) 18:56:50.00 ID:7H2Ah3aV0

不二咲「ねえ! 押さえるのは大和田君一人でも大丈夫だよねぇ?! 僕先生を呼んで来る!」

大和田「頼む!」


そしてちょうど不二咲が立ち上がった時、KAZUYAは戻ってきた。冷静に状況を把握すると
鮮やかな手捌きで傷口を縫合していくが、顔の傷を縫合する前にKAZUYAは一瞬止まった。


不二咲(先生……何か考え込んでる。顔より首の方が重傷なのに……)


賢い不二咲は、ズタズタに裂け血まみれになっている石丸の顔を見て気付いた。


不二咲(もしかして、顔に傷が残っちゃうんじゃ……)


少し悩んだもののKAZUYAは顔の傷も手早く縫い上げ、手術を終えた。


K「それで……聞かせてもらおうか。ここで何があったのかをな」

大和田「…………」


俯く大和田にKAZUYAは厳しい表情で詰問する。


726: 2014/03/08(土) 19:05:34.76 ID:7H2Ah3aV0

不二咲「違うよ! 先生、本当に事故だったんです!」

大和田「!」

K「事故?」

不二咲「だって、ちょっと前まで僕達楽しくおしゃべりしてたんです。それに、先生も
     大和田君の強さは知ってるでしょう? そんなことする訳ないんです!」

大和田「…………」


不二咲の言葉を大和田は黙って聞いている。


K「…どうなんだ、大和田? 黙ってないで何か言ったらどうだ」

大和田「あ……あ……」


呆けていた大和田は突然ガクガクと震え出した。KAZUYAは警戒して不二咲を後ろに下げる。


大和田「お、俺がやった……俺が――だったから……」

不二咲「大和田君?」

大和田「うわああああああああああああああああああああっ!!!」


727: 2014/03/08(土) 19:18:11.91 ID:7H2Ah3aV0

ダッ!

大和田は絶叫しながら更衣室を飛び出して行った。


不二咲「ま、待って! 大和田君!」

K「よせ、不二咲!」


追いかけようとする不二咲の手をKAZUYAが素早く掴む。


不二咲「先生、でも…」

K「お前の足では追いつけん。よしんば追いつけたとしても、今の大和田は危険だ!」

不二咲「危険……」


危険という言葉にショックを受ける不二咲の両肩を掴み、KAZUYAは言い聞かせた。


K「現実から目を背けるな。あいつがお前を襲おうとしたのだろう?
  何か理由があるはずだ。前後にあった出来事を事細かに話してくれ」

不二咲「……うん」


728: 2014/03/08(土) 19:22:21.85 ID:7H2Ah3aV0

不二咲はその時話していた内容も大和田の様子もなるべく一言一句正確に話す。
だが、聞けば聞くほど何故大和田が不二咲を襲おうとしたのかわからないのだった。


K(わからん……あいつが重要な秘密を持っているのは知っている。だが、人は殺さないと
  誓っていたはずだ。しかも何故直接秘密を聞いた石丸ではなく小柄な不二咲を狙った?)

K(話を聞く限り強いという言葉がキーワードになりそうだが。……そういえばあいつは
  以前から何かと強さに執着して事あるごとに強がっていたな。そこにヒントが…?)

不二咲「大和田君、どうして…? グスッグスッ…」

K「…とにかく石丸を個室に運ぼう。大和田も心配だが、今は怪我人を優先する」

不二咲「……はい」

               ◇     ◇     ◇


不二咲「事故、だったよ…大和田君が手を滑らせて、持ってたダンベルが僕の方に飛んで
     来ちゃったんだ。石丸君が庇ってくれたから僕は平気だったんだけど、石丸君は
     体勢を崩して壁の鏡に衝突しちゃって。その後運悪く首も引っ掛けて…」

桑田「おい、不二咲……」

霧切「…………」


729: 2014/03/08(土) 19:26:55.07 ID:7H2Ah3aV0

生徒には包み隠さず本当のことを言うようにKAZUYAから言われていたが、不二咲は嘘をついた。
大和田と仲が良かったのもあるが、優しい不二咲に本当のことなど言えるはずもなかった。


舞園「首も鏡で?」

不二咲「ううん。首は横にあった器具の角にたまたま引っ掛けちゃったんだ」

朝日奈「うわあ、痛そう…」

大神「災難だったな…」

苗木「じゃあ、大和田君は責任を感じて部屋に篭っちゃったんだ…」

不二咲「う、うん……そう……」

桑田「…………」


真相を知っている桑田は大和田を庇って嘘をつく不二咲を複雑な顔で見ていた。
昨晩は桑田にとっても本当に災難な夜だったのだ。


739: 2014/03/09(日) 19:44:57.11 ID:LISq3PK40

― 桑田の部屋 昨晩 AM1:17 ―


舞園が部屋に戻り、やっと桑田は安眠出来たのである。
しかしその安眠を妨害するかのように、眠りについた瞬間インターホンが鳴った。


桑田「ああ? 今度はなんだよ!!」


度重なる来客でいい加減疲れてきた桑田は乱暴にドアを開ける。


桑田「誰だ!」

不二咲「ヒッ! ご、ごめんなさいごめんなさい」ポロポロ

桑田「あ……え? 不二咲?」


扉を開くとそこには涙で顔がくしゃくしゃな不二咲がいた。しかも服には大量の血が付いている。
予想外の光景に桑田は眠気も怒りも全て吹っ飛んだ。まさか誰かに襲われたのか?!と血の気が引く。
だが、更に驚かされたのはそのすぐ横から同じように血まみれのKAZUYAが現れたことだった。


K「桑田、寝ていたのにすまん。大至急、来てくれ!」

桑田「なんだよ…なにが起こったっていうんだよ…?!」


740: 2014/03/09(日) 19:54:54.04 ID:LISq3PK40

その後、同じように霧切に声をかけ四人は石丸の部屋に入った。


桑田「なんで石丸の部屋に…」

K「……見ればわかる」

桑田「ハ?! なんだよこれ…」

霧切「酷い怪我ね……手当てはされているけど」


二人はベッドに横たわった石丸と、横の棚に置かれた血染めの制服を見た。石丸の顔と首は
黒い糸で数ヶ所縫われている。特に顔の傷を見た時、桑田は思わず目を逸らしてしまった。
額の左側から左眉と瞼を通って左頬まで貫通している傷が一つ。頬にはもう一つ、その傷の
外側から顎にかけてが大きく裂けている。痛々しいどころの騒ぎではない。


桑田「いったいどうしたっていうんだよ…?!」

K「今から何があったか全て説明する。…もう、俺一人では手が回らんのだ。手伝ってくれ」


KAZUYAの説明を桑田は判然としない様子で聞いていた。寝起きで頭が働かないのもあったが、
何もかもが飛躍し過ぎていてついていけなかったのだ。不二咲が男? 大和田が不二咲を襲った?


桑田「ウ、ウソだろ……そんなの……」


741: 2014/03/09(日) 20:01:02.23 ID:LISq3PK40

霧切「気持ちはわかるけど、現実逃避をしても意味がないわ。ドクターがここで
    私達に嘘を話すメリットはないもの。つまり、全て本当のことよ」

K「冷静で助かる。混乱を最小限にするために協力して欲しい」

桑田「あ、ま、待てよ。苗木は? 苗木もいた方がいいんじゃね?」

K「いや、苗木は駄目だ。今俺とは距離を取ってもらっている。特に今回は
  俺の周りで起こった事件だからな。周囲の目はより厳しくなるだろう」

桑田「じゃあ霧切も本当は良くないんじゃね?」

K「…本当はな。ただ、お前は説明役に向いていないだろうしやむを得なかった。
  それに霧切はいつも冷静だから生徒代表で呼んだということにすれば体裁も保てる。
  とりあえず霧切、俺が君に頼みたいのは…」

霧切「ドクターは石丸君の側から離れられない。だからみんなに説明とフォローをして欲しいのね?」

K「そうだ。頼む」

不二咲「あ、待ってぇ! …その、説明は僕にやらせてくれないかな…」

霧切「いいの、不二咲君?」

不二咲「うん…僕の秘密も言わなきゃいけないし、僕のせいで起こったんだから…」

霧切「そう…」


742: 2014/03/09(日) 20:06:55.80 ID:LISq3PK40

K「だが、みんなには全て本当のことを話さなければならんぞ」

不二咲「わかってます…」

桑田「なあ、そんで石丸の状態はどうなんだ? 治療したから大丈夫なんだよな?」

K「重傷だったが処置が早かったから命に別状はない」

桑田「そ、そうか」ホッ

K「ただ、な…」

桑田「ただ、なんだよ…」


KAZUYAの顔はとても暗かった。その表情で察した霧切が後を継ぐ。


霧切「…そう。顔に痕が残るのね…」

不二咲「……!!」

桑田「えっ?! ウソだろ…?」


桑田は石丸の顔をまじまじと見る。大きな傷はフランケンシュタインを思い出させた。
不二咲は口を両手で押さえ真っ青になってガクガクと震えている。


743: 2014/03/09(日) 20:16:10.60 ID:LISq3PK40

桑田「え……その、時間がたてば消えたりとかさ、手術で消せたりしないの?」

K「勿論、俺の腕なら十分可能だ。ただ…ここでは薬品が足りないのだ。命に関わる傷では
  ないからどうしても優先度が低い。だから、外に出るまでは消せないと言うことになる」

桑田「で、でも消せるんだろ? なら良かった…」

霧切「いつ外に出られるかわからない以上治らないも同然よ。一生ここから出られないなら
    彼の傷も一生このままになるし。何より大和田君がこの状況に耐えられるかしら?」

桑田「そうだ、大和田! あいつなにやってんだよ! 引きずり出さねえと!」

K「よせ。あいつが今一番自分を責めているはずだ。今は放っておくしかない。
  むしろ今回のことで自分を追い詰めてしまい過ぎないか、俺はそれが心配だ…」

桑田「まさか、自殺とか…?」

不二咲「そ、そんなぁ…?!」


少し前に舞園が悲壮な顔で氏にたいと言っていたのを思い出し、桑田の胸はズキリと傷んだ。


K「内鍵をかけられてしまえばこちらから止めることは出来んからな…」

桑田「なら尚更様子見に行った方がいいんじゃねえか?!」

霧切「落ち着いて。大和田君のことが心配なのはわかるけど、今は手を出せない人より
    目の前の石丸君を何とかするのが最優先じゃないかしら」


744: 2014/03/09(日) 20:21:45.80 ID:LISq3PK40

桑田「石丸は大丈夫だろ。もう治療すんでんだから」

霧切「話を聞いていなかったの? 石丸君は麻酔の効きが悪くなるほど極度の
    興奮状態だったのよ? そんな彼が目を覚ませばどうしようとすると思う?」


霧切の問いに対して、桑田の代わりに不二咲が呟く。


不二咲「きっと、怪我をしてるのに無理して大和田君の所に行こうとするんじゃ…」

K「そうだ。そんなことをすれば折角縫合した傷がすぐに開いてしまうだろう。
  石丸はもうすぐ目を覚ます。桑田、お前は石丸を押さえてくれ」

K「…大和田については、早まらないことを祈るしかない」

桑田「マジかよ…」

石丸「う……」


話している最中に、石丸の呻き声が聞こえる。ハッとして一同は顔を見合わせた。


K「桑田! お前は反対側に!」

桑田「わかった!」


ベッドの両脇にKAZUYAと桑田が控える。


745: 2014/03/09(日) 20:27:54.89 ID:LISq3PK40

石丸「……こ、こは?」

K「目を覚ましたか。ここはお前の部屋だ」

不二咲「先生が石丸君を手術して、運んでくれたの…」

石丸「そうか…先生、ありがとうございます。…ん? 桑田君に霧切君が何故? それに…」

石丸「兄弟はっ?!」


バッと起き上がろうとした石丸をKAZUYAと桑田が見事な反射神経で即座に押さえつける。


石丸「桑田君?! 先生も、何をするんです! どうしてここに兄弟はいないッ?!」

K「落ち着け! 大和田はお前に怪我をさせたことを後悔して今部屋にいる!」

石丸「そんな! あれは事故だと言ってるのに! 自分を責める必要なんてないんだ!」

霧切「そうかしら?」


興奮して叫ぶ石丸とは対照的に、いつもと変わらぬ冷静な口調で霧切は異を唱えた。


石丸「! 何が言いたい…?!」


746: 2014/03/09(日) 20:36:41.65 ID:LISq3PK40

桑田「お、おい霧切……」

K「いや、言わせてやれ。現実から目を背けて良い結果になった試しなどない」

霧切「私達はその場にいた訳ではないけれど、あなたはその目で見て知っているはずよ。
    確かに大和田君が不二咲君を殺そうとした瞬間を」

石丸「違うッ! あれは…!」

不二咲「石丸君、ごめんねぇ! 僕の、僕のせいで!」


暴れていた石丸が静止し、泣いている不二咲をジッと見つめる。


石丸「ふ、不二咲君…」

不二咲「僕に勇気がなかったから、特訓がしたいなんて言い始めたからこんなことに…」

石丸「ち、違う! 君は悪くなんてない!」

K「では誰が悪いのだッ!!」

石丸「!」


KAZUYAの怒気を含んだ怒鳴り声に石丸は一瞬怯む。
普段あまり怒らないKAZUYAが怒ると、その怒りは芯に沁みるのだ。


747: 2014/03/09(日) 20:40:23.69 ID:LISq3PK40

K「大和田も不二咲も悪くないなら誰が悪い? お前が悪かったから怪我をしたのか?
  こんな事態を招いたのはお前の自業自得なのか? 或いは席を外した俺のせいか?」

石丸「そ、それは……」

K「あいつがあいつの意志でこの出来事を招いた。その現実から目を逸らすな!」

石丸「し、しかし! なら尚のこと兄弟は自分を責めているはず! 行かせて下さい!」

K「駄目だ。手術したとはいえお前は重傷患者だ。知識があるならわかるだろう?
  お前は外頸静脈に傷がついていたのだ。今は絶対安静にしなければならん!」

石丸「でも! 今行かないと、兄弟がもし自殺でもしてしまったら!」

K「お前の傷を見せるのは逆効果だ!」

石丸「傷ついた兄弟を一人にはさせておけない! 行かせてくれ!」

桑田「暴れんなってバカ! 傷が開くだろ!」

不二咲「石丸君、ダメェ!」

K(いかん……話が通じない……やむを得ん!)

K「霧切! 少しだけ代わってくれ」

霧切「わかったわ!」


748: 2014/03/09(日) 20:44:12.44 ID:LISq3PK40

桑田「え、ちょ、うわ!」

桑田(怪我人のくせになんつーバカ力だよ!)

霧切「くっ…!」


KAZUYAがいなくなり桑田と霧切が悪戦苦闘している中、KAZUYAは注射器を取り出し石丸に刺した。


石丸「何を…?!」

K「鎮静剤だ。お前は少し落ち着け。大和田は後で俺から説得してやる」

石丸「こんなもの……僕は眠りませんよ!」

桑田「だから怪我人はさっさと寝ろよ! 俺達がなんとかするっつってんだろ!」

不二咲「石丸君、お願い! 先生を信じてぇ!」


しかし、驚異的な精神力で石丸は眠らなかった。


石丸「くっ! ……眠ってたまるか! 僕は兄弟の所に行かないと……」

桑田「おい、薬うったのにまだ寝ないぞコイツ」

霧切「シッ」

桑田「…………」


749: 2014/03/09(日) 20:54:35.49 ID:LISq3PK40

K(何て奴だ…限界ギリギリの量を打ったというのに。だが、ここまで来れば後は容易だ)

K「これをよく見ろ」

石丸「…………」


KAZUYAは石丸の肩を一定のリズムでゆっくりと叩きながら、
左手の指を目の前に差し出し、同じ早さで振り子のように動かす。


石丸「そ、そんなもの……」うつらうつら

K「…………」

石丸「僕には……僕……には……」うつらうつら

石丸「ん……」スゥ


石丸が目を閉じ、寝息を立て始めたのを確認してやっとKAZUYAも息をつく。


K「……フゥ。やっと落ちたな」

桑田「なにやったんだ?」

霧切「簡単な催眠術よ。鎮静剤を先に打っていたから劇的に効いたのね」


750: 2014/03/09(日) 20:59:41.17 ID:LISq3PK40

K「薬品はなるべく温存したかったが、こうなっては仕方ない。しばらくは薬漬けだな…」

桑田「しょーがねえよ。コイツが暴れるのがわりいんだし」

霧切「とりあえず、私の役目は終わったと見ていいかしら?」

K「ああ、深夜にすまない。明日の朝は頼む」

霧切「わかったわ」


そう言って霧切は去って行った。


桑田「えっと、俺は…」

K「お前にはまだ頼みたいことがある。…頼む。不二咲を守ってやってくれ」

桑田「えっ?! 俺が…?!」

K「大事な話だ。二人ともよく聞け。こんな大事が起こり、明日はさぞかし荒れるだろう。
  そして、混乱の中事件を起こそうとする者がいるやもしれん」

不二咲「先生は…内通者の話を信じてるのぉ?」

K「…残念だがな。そして、よりによって俺が信頼していたメンバーのうち、腕に自信がある
  大和田と石丸二人が同時に抜けてしまった。俺自身もしばらく石丸を看なければならない」


751: 2014/03/09(日) 21:08:32.99 ID:LISq3PK40

K「今自由に動けるメンバーで一番腕が立つのは桑田、お前だ。恐らくここ数日最も
  狙われやすいだろう不二咲を、俺の代わりに守ってやってくれ。今はお前だけが頼りだ」

桑田「ハ、ハハ……マジか」


KAZUYAに信頼されているのも頼み事をされるのも嬉しい。だが、そのくらい
今が危機的な状態だと思うと、桑田は素直に喜べないのだった。


桑田「でもさ…いくら不二咲が弱そうだからってなんで不二咲ばっか危ないって思うワケ?
    苗木とか女子だってかなりヤバいんじゃねーか?」

K「勿論そうだ。苗木にも単独行動はなるべく控えるよう忠告しておいてくれ。
  女子についてだが…正直、もし内通者がいるなら俺は女子が怪しいと睨んでいる」

桑田・不二咲「……へ?」

K「男子で危険なのは今の所十神だけだ。男子はアイツにさえ注意しておけばいい」

桑田「え、なに…せんせーはさ、女子に内通者がいるって考えてんの?」

K「断言は出来んがな…俺も長年色々な人間を見てきて洞察力にはそれなりの自信があるが、
  女心という奴だけは昔からどうも苦手だ。だから、もしいるなら女子だろうと考えている」

桑田「んなテキトーな…」

K「確かに適当だが、俺はこの勘に何度も助けられている。そしてもし女子が危ないのなら、
  女子が頃すことの出来る人間は限られているだろう?」


752: 2014/03/09(日) 21:13:39.65 ID:LISq3PK40

K(最も、内通者が江ノ島一人だったら関係ないかもしれないがな…)


江ノ島に限らず、大神が内通者なら男子だって問題なく殺せるだろう。だが、向こうだって
なるべくリスクは取りたくないはずだ。固まって行動することは決して無意味ではない。


桑田「なるほどな。確かに女子が怪しいなら不二咲は狙われやすいわ」

K「そういう訳だ。不二咲、お前も守られるのは嫌だろうが男同士なら気兼ねもせんだろう?
  不便かもしれないが、これからは常に俺か桑田と行動を共にするようにしてくれ」

不二咲「…わかりました。ごめんね、桑田君」

桑田「気にすんなよ。まあ、緊急事態だしな」

K「なに、桑田も以前はアレだったが反省してからは頼りになるようになってきた。好きに使ってくれ」

桑田「アレってなんだよ、アレって!」

不二咲「く、桑田君! 石丸君が起きちゃうよ」

桑田「あ、わりぃ…」

K「男同士だから部屋に泊めても問題ないしな」

桑田「そーそー、そうだな…って、え? 泊まり?」


サラリと重要な事を言われた気がして桑田は慌てて聞き返す。
KAZUYAは石丸の傷に丁寧に包帯を巻いてやりながら淡々と説明した。


753: 2014/03/09(日) 21:21:13.86 ID:LISq3PK40

K「お前の部屋から見て不二咲の部屋はギリギリ氏角になるだろう。そこを狙われると不味い。
  それともお前、毎回不二咲を部屋まで送り迎えしてやれるか?」

桑田「いや、えーと、それはめんどいけど…」

K「なら常に一緒に行動しているのが一番だ。石丸が回復するまですまないがそうしてくれないか?」

不二咲「本当にごめんねぇ……」

桑田「わ、わかった。任せろよ」

桑田(外見美少女の男と同じ部屋とか…ある意味女子と同じ部屋よりヤバくねーか?)


しかし不二咲を部屋まで連れて行ったものの、桑田は別の意味で苦労することになったのだった。


不二咲「ひぐっ…へぐ…」

桑田「お、おい…泣くなって…」

不二咲「ごめんねぇ…迷惑かけてるってわかってるのに、涙がとまらなくて…」

桑田「いや、ムリしなくてもいいけどよ…」

不二咲「僕のせいで石丸君の顔に傷が出来ちゃったって思うとどうしても…ふぇぇ」

桑田「ぜってー治るって! せんせーが治せるって言ったんだから間違いねえよ。
    せんせーが今までいい加減なこと言ったことあるか? な?」


754: 2014/03/09(日) 21:30:47.93 ID:LISq3PK40

不二咲「ううん……あ…でも、大和田君が……」

桑田「あ、ああ…うん。えっと、それもせんせーがなんとかしてくれるって! お、俺だって
    殺されかけたうえにみんなから責められてめちゃめちゃ落ち込んだけど、せんせーが
    励ましてくれてこの通り元気になったし。大丈夫だって!」

不二咲「そうかなぁ…そうだよね…ふぇぇん」

桑田(なんで納得してるのに泣くんだよ!)


こうして桑田は夜通し泣き続ける不二咲を励まし続け、睡眠不足になったのだ。


               ◇     ◇     ◇


桑田(…………ハァ)


そんな前日の疲労を思い出して桑田はドッと疲れを感じていた。
だが、弱音を吐いている余裕などない。…本当の問題はこれからだ。


桑田(モノクマ…見逃してくれねえかな。あいつの性格的にありえねーか…)

霧切(不二咲君が正直に話すのが一番だったけど、こうなってしまっては
    もう仕方がないわ。私が何とかして混乱を抑えるしかない)

霧切(来るわね。もうすぐ…)


770: 2014/03/12(水) 22:12:57.90 ID:t3jOPXmU0

― 石丸の部屋 AM7:51 ―


K「…………」


KAZUYAは厳戒態勢を取っていた。いつも規則正しい生活をしている石丸は、ピタリと平時と同じ
時間に目を覚ましたのである。KAZUYAは仮眠を取っていたが、石丸の気配に気付き寸での所で
取り押さえた。そしてしばらく取っ組み合いをしたが、力ではKAZUYAに敵わないと悟り、やっと
石丸は落ち着いたのだった。だが、いつまた抜け出そうとするかわからない。


石丸「そろそろ、朝食会の時間ですね…」

K「ああ」

石丸「小学校から無遅刻無欠席だった僕が、欠席してしまう日が来るなんて…」

K「仕方ないさ」

石丸「…不二咲君は大丈夫だろうか」

K「大丈夫だ。桑田に頼んだ。あいつも近頃すっかり面倒見が良くなってな」

石丸「でも、もしまた何か言われたり誰かにイジメられたら騒ぎになるのでは…」

K「そうならないよう霧切と苗木が動いてくれる。友人を信じろ」

石丸「友人……」


771: 2014/03/12(水) 22:17:07.66 ID:t3jOPXmU0

友人という言葉に反応して石丸の目がギョ口リと動いた。
包帯で隠れているため片方だけになっている赤い目が、涙に沈む。


石丸「僕に……友達なんていない……」

K「何を言っているんだ? ここにたくさんいるだろう」

石丸「みんな、ただのクラスメイトですよ。友達と言うのは、お互いにそう思っていなくては」

石丸「やっと……やっと兄弟と、不二咲君が友達になってくれたのに……
    僕は彼等を守れなかった。むしろ、僕のせいで傷付けてしまった……」

K「違う。お前のせいでは…!」


KAZUYAが慰めようとするが、石丸は嗚咽をあげながら独白を始めた。
その内容はKAZUYAにとっても重く苦しい内容だった。


石丸「昨晩先生は誰が悪かったのかを聞きましたよね? …全部僕のせいなんです。
    僕が兄弟に、秘密なんか聞いたりしたからっ……!」

K「…………」

石丸「きっと兄弟は、秘密のことを聞かれるのが凄く嫌だったんだ……今から考えれば、
    信じられない程無神経な発言だった。友人だからと言って許されるものではない…!」


772: 2014/03/12(水) 22:21:15.08 ID:t3jOPXmU0

石丸「それで頭に血が上った兄弟は不二咲君を……」

K(秘密! やはりあれが引き金になってしまったのか…? しかし…)


大和田に秘密を聞いたのは石丸。だが、実際に襲われたのは不二咲。
このちぐはぐな事実にKAZUYAは妙な不自然さを感じていた。


K(本当に秘密だけが原因なのだろうか…?)


だがKAZUYAは考えを中断した。今は何を差し置いても石丸の対応を最優先にせねばなるまい。
ボロボロと涙を零しながら自分を責める石丸は、今にも壊れてしまいそうだった。


石丸「折角出来た大切な友人を、一度に二人も失ってしまった……僕に友達がいないのは
    当然なんだ。僕みたいな無神経な人間に友達なんて出来る訳がなかった!!」

K「そんなことは…!」

石丸「先生だって知っているでしょう! 僕がどんなに駄目な人間かっ! 頑固で融通が利かなくて、
    厳しくて自分の意見を押し付けてばかりで空気も読めない。そんな人間が好かれる訳がない!」

K「いい加減にしろッ!!」


KAZUYAは思わず怒鳴る。…見ていられなかった。


773: 2014/03/12(水) 22:28:09.10 ID:t3jOPXmU0

石丸「!」

K「確かにお前は普通の人間より不器用で欠点も多いかもしれない。だが、そんな
  お前を好んで友人になったのが大和田と不二咲じゃなかったのか!!」

K「俺だって…お前の人間性や熱意を見込んで弟子にしたんだ。それを間違っていたなどと言わないでくれ」

石丸「…………」


石丸は何も答えなかった。ただ泣いていた。


K「…たとえ原因がお前の失言だったとしてもだ。暴力は振るった方が悪い。
  何があっても! だから、お前が大和田の分まで責任を被る必要はない」

石丸「…………」

K「……石丸?」

石丸「…………許してくれ」


一体誰に何を謝ったのだろうか。

石丸はうわごとのようにポツリと呟くと再び声を頃して泣き続ける。
KAZUYAはもはやその姿を黙って見ていることしか出来なかったのだった。


774: 2014/03/12(水) 22:32:06.06 ID:t3jOPXmU0


               ◇     ◇     ◇


チャーチャチャージャーラーラー♪

突然古い昭和のラジオのような音楽が流れたかと思えば、モニターにモノクマの姿が映る。
モノクマの放送は学園中に流され、学園内にいる全ての人間が渋い顔でモニターを見つめた。


K「…………」


モノクマ『友達を庇うために嘘をつく。いやぁ、美しい友情物語ですなぁ』


不二咲「モ、モノクマ…?!」

石丸「なんだ……この放送は……」


モノクマ『ですが! 不二咲君、嘘ついちゃダメだよ~』

モノクマ『仲間を騙してまで守ろうとすることが本当に相手のためになるでしょうか?!
      嘘は時に秩序を乱し、ひいては仲間同士の疑心暗鬼を引き起こすでしょう!』


775: 2014/03/12(水) 22:35:14.17 ID:t3jOPXmU0

苗木「ふざけるな…お前が言う言葉じゃない…!」

霧切「…………」

K(不二咲……やはり本当のことは言えなかったか……)


モノクマ『学園長としては秩序が乱されるのを黙って見ている訳にはいきません!
      …と言う訳で、僕がこの場で本当のことを全部暴露しちゃいまーす!』


不二咲「そんな、何で知ってるの…? 更衣室に監視カメラは…」


そこで不二咲は気が付いた。脱衣所には盗聴器が仕掛けてあったではないか。
モノクマは一部始終を見てはいないが一部始終を聞いていたのだ。

楽しそうに、実に楽しそうにモノクマは嗤う。


朝日奈「本当のことって…なに?」

桑田「…聞きゃわかるよ」


776: 2014/03/12(水) 22:42:14.76 ID:t3jOPXmU0

モノクマ『ではでは…えー昨晩、怪我をした石丸君、不二咲君、大和田君の三人は男子更衣室に
      来ていました。なんと、KAZUYA先生監修の元です。夜時間は絶対出歩き禁止!とか
      言って念入りに見回りまでしてたくせに、自分達はそのルールを破ってたんですね!』


セレス「あらあら…いけませんわねぇ」

十神「フン、そんなことだろうと思っていた」

腐川「やっぱり…アイツは信用出来ないわ…!」

苗木「…………」


モノクマ『しかもこんな大事故まで起こしちゃって、懲戒免職物だよ! 教育委員会に
      呼び出しくらっちゃうよ! KAZUYA先生は責任取ってよね!』


山田「な、なんと…!」

葉隠「学園長からクビ宣告されたべ! 明日から無職だべ」

K「…………」

K(確かに俺の監督不行き届きだった点は否めんな…)


KAZUYAは後悔していた。自分が目を離したりさえしなければ、こんなことにはならなかったのに。
だが後悔しても何かが変わる訳ではない。今はただこの放送に意識を集中させる。


777: 2014/03/12(水) 22:46:45.12 ID:t3jOPXmU0

モノクマ『ではではいよいよ本題! 昨晩起こった事件の全貌ですが…』

モノクマ『なんと、あの大和田君が華奢でか弱い不二咲君を殺そうとしたのです!
      石丸君の怪我は不二咲君を庇って受けた、つまりとばっちりな訳ですな』


腐川「お、お、大和田が不二咲を殺そうとしたあああっ?!」

大神「何だと…?!」

舞園(やっぱり…)

朝日奈「ウソでしょ?! ウソって言ってよ!!」

苗木「そんな…何で?!」


混乱する生徒達の疑問には答えず、モノクマはただ嘲る。


モノクマ『いやぁ、実にビックリしましたね~。直前まで三人仲良く会話して
      非常に仲睦まじい光景だったのに、突然の豹変。惨劇! やっぱり
      人頃しになるような人間には元々素養があるんですね!』


778: 2014/03/12(水) 22:52:39.44 ID:t3jOPXmU0

モノクマ『しーかーも! なんと、石丸君の顔にはバカでっかい傷が出来てしまいましたー!
      僕もバッチリ目撃しましたよ。学園長は見た! …それにしても、可哀相にねぇ。
      男子だから顔に傷があってもいいなんて理屈はないもんねぇ?』


石丸「や、やめろ…それ以上兄弟を追い詰めないでくれ…!」


モノクマ『僕の好みじゃあないけど、結構男前な顔してたのにズッタズタ! 見事にズタズタ!
      あーこりゃもう結婚は無理ですな~。そもそも素顔晒して外歩けないレベルでしょ』


石丸「これ以上兄弟を追い詰めたら兄弟が氏んでしまう! やめろ! やめてくれ!!」

K「石丸、落ち着け! 傷が…!」


モノクマ『しかも、石丸君は政治家目指してたじゃない? あれって顔も大事な職業なのに
      あーんなヤクザもビックリな傷があっちゃあ有権者の信頼なんて得られないよ!
      医者なんて論外論外! あんな恐い先生が病院にいたら患者逃げ出すって!』


石丸「誰か…誰でもいい! この放送を止めてくれ! 止めろ! 止めろおおおおおおお!!」

K「石丸!」


779: 2014/03/12(水) 22:58:08.74 ID:t3jOPXmU0

包帯はうっすら赤くなり始めている。傷が開きかけているのだろう。やむを得ずKAZUYAは
再び鎮静剤を刺した。だが鎮静剤は麻酔と違ってすぐに効果が出るものではない。


モノクマ『しかもさぁ、先生は外にさえ出れば手術で消せるとか豪語してるけどぶっちゃけ
      無理だよね。あれ、本来なら失明してるレベルの重傷だよ? いい加減なこと
      言って希望を与えるなんて残酷だよね! そもそも外に出られないのにさ!』


K「いい加減なことなど俺は…!」


だが反論しながらもKAZUYAは気付いていた。


K(違う! 俺に言ってるんじゃない。生徒達に聞かせているのだ!)


現にKAZUYAはよかれと思って生徒達に何度か嘘をついている。生徒達はより良い状況を
望みながらもより悪い敵の情報を信じるという歪な心理状態に陥っていた。


不二咲「やっぱり、治らないんだ…」

桑田「そんなワケねぇ! せんせーは超国家級の医者だぞ! そのせんせーが治せるって言ったんだから…」

十神「本心から言ったならな。だが奴は自分の都合で何度も嘘をついている。信用出来ん」


780: 2014/03/12(水) 23:09:29.22 ID:t3jOPXmU0

セレス「それにどちらにせよここでは治せないのでしょう? なら一生ものの傷には変わりませんわね」

不二咲「うぅ…」


そしてモノクマはいよいよ遠回しな言い方ではなく直接的な攻撃に出始めた。


モノクマ『つーかさぁ、大和田君はいつまで部屋に閉じこもってんの? 君のせいで大事な
      兄弟がキズモノになっちゃったんだよ? 石丸君は完全に無関係だったのに。
      君と違って優秀な、将来を約束された青年の未来を奪った罪は軽くないよ?』
      
モノクマ『土下座して謝っても全然足りないね! 隠れてないで出てきて責任取ったら?
      …あ、でも無理かー。単なるいきがってるだけの不良に責任なんて取れる訳ないよね。
      取り返しの付かないことだもんね? せいぜい謝り続けなよ。ぶひゃひゃひゃひゃ!』


大和田「…………」ガクガク


大和田は、個室のシャワールームの隅に縮こまって耳を塞いでいた。少しでもこの恐ろしい
放送から逃れたかった。だが、耳障りな大きなダミ声は逃げ場など与えてはくれない。


大和田「そうだ…俺がやっちまった…! 俺が兄弟の顔をズタズタに…!!」ガタガタ

大和田(どうすれば許される?! どうすればいい?!)


781: 2014/03/12(水) 23:23:17.07 ID:t3jOPXmU0

もはや半分パニックを起こしながら大和田は呻き声をあげる。


大和田(不二咲だってそうだ…! あいつはなにも悪くなかったのに。俺が…俺のせいで…!)

大和田(責任なんてどう取りゃいいんだ…命か? 氏んで詫びればいいのか? そうだ…
     俺みたいなクズ野郎は生きてる価値なんてねえんだ…誰か、誰か俺を頃してくれ!!)


心の中で大和田は絶叫する。だが、いくら叫んだ所で救いなどないのだ。

モノクマの手によって、一人ずつ生徒の心に絶望が侵食していく――


モノクマ『…と、まあ今のが昨日起こったことの真相な訳です。みんなわかったかな?』


「…………」


返事をする者などいない。ただ全員黙って俯いている。だがこの次がモノクマ的には
本題だったようだ。テンションを上げ、勢い良く生徒達を煽り始めた。


モノクマ『ちなみに、殺人を計画しているそこのオマエ! 朗報です! 目障りなKAZUYA先生は
      重傷の上色々手のかかる石丸君にしばらく付きっきりで離れられないみたいですよ!』


782: 2014/03/12(水) 23:35:28.13 ID:t3jOPXmU0

十神(……ほう)

セレス(まあ……)

K(どうやら、俺にとっての最悪は昨日の夜で終わらなかったようだ…)


二人のプレイヤーはポーカーフェイスを崩さずに内心で微笑んだ。
一方、KAZUYAの額からはねっとりとした脂汗が滲み出る。今はそれを拭く余裕もない。


モノクマ『更にお知らせです! 秘密の公開は今から三日後に伸ばすことに決めました! つまり今なら
      誰の邪魔も入らず襲い放題頃し放題! 秘密を守れて外にも出られる! やったね!!』

モノクマ『では皆さん、健闘を祈ります!』


プツン。

そこで放送は終わった。


石丸「あ……あぁ……!」

K「石丸、しっかりしろ!」

石丸「僕は…何の役にも立たないどころか…むしろ、むしろ先生の足を引っ張っている…」


783: 2014/03/12(水) 23:43:59.73 ID:t3jOPXmU0

K「そんなことはない!」

石丸「……わかりました。兄弟のことは先生に任せます。僕は大人しくするので…
    もう、僕のことは放っておいて下さい。みんなを、みんなのことを守って…」


…言っている内容はおかしくないが目の焦点が合っていない。風紀委員の石丸は誰よりも
責任感の強い男だった。だからこそ、自分が足手まといになっているという事実が何よりも
堪えたのだろう。だが、こんな状態の石丸をKAZUYAが放っておける訳がなかった。


K「大丈夫だ。確かに何人か危うい生徒もいるが、みんなで手を取り合って事件を
  食い止めてくれるはずだ。お前は何も心配などせず安静にしていればいい」

石丸「先生……」

K「大丈夫だ。俺と、みんながついている。大丈夫だ…」


KAZUYAは石丸の肩に手を置き、少しでも不安を和らげるように語り続けた。
そのうちだんだん薬が効いてきたのか、いつしか石丸は眠りに入る。


K(秘密の公開を三日延長、か……確かにモノクマの言う通りだ。俺はここから
  離れられん……あとは生徒達に任せるしかない……頼むぞ。お前達……)


KAZUYAは生徒達に希望を託したのだった。


800: 2014/03/15(土) 21:27:44.78 ID:9yKSYP7a0

― 食堂 AM8:22 ―


一同「…………」


重い空気が辺りを漂っていた。


苗木「…と、とりあえず朝ごはん食べない? もう冷めちゃってるけど…」

舞園「汁物だけでも私、温め直してきます」

山田「そうですな。朝食を楽しめる気分ではありませんが、それでもお腹は空きますし」

朝日奈「う、うん…ほら、不二咲ちゃん! 泣いてないで、食べた方がいいよ!」

桑田「腹が減っては戦はできぬって言うしな。お前ただでさえ弱っちいんだからしっかり食べろって」

不二咲「うん…ごめんね、みんなぁ…」グスッグスッ

十神「辛気臭い奴だ」

不二咲「…!」


十神の嫌みに不二咲はビクリと震えた。十神が怖かったからではない。
今までだったら真っ先に庇ってくれた二人の友人がこの場にはいないからだった。


801: 2014/03/15(土) 21:32:42.28 ID:9yKSYP7a0

桑田「あぁ?! ケンカ売ってんのか、テメエ!」

霧切「桑田君、落ち着きなさい。喧嘩をして困るのはあなたではなくドクターよ」

桑田「ぐっ…!」


KAZUYAの名を出されると桑田も退かざるを得なかった。ただでさえ自分は
一度やらかしているのだ。同じミスを何度も犯す訳にはいかない。


不二咲「あ、ありがとう。僕は大丈夫だから…ね?」

桑田「あ、あぁ…」

桑田(落ち着け。こいつらのイヤミなんてここの名物みたいなもんじゃねえか…)


その様子を見ながら、深い決意を固める者がいた。苗木である。


苗木(…大変なことになっちゃった。多分、これから荒れる…先生は、このことを
    見越して昨日僕にあんなことを頼んできたのかもしれない。僕がなんとかしなきゃ)


自分に何が出来るのかはまだわからない。だがこの誰よりも前向きな少年は、
何もせず黙って見ているということだけは出来なかった。


802: 2014/03/15(土) 21:37:30.39 ID:9yKSYP7a0

葉隠「それにしても大変だったべなぁ」

不二咲「う、うん…」

腐川「で、でも…今回の事件は西城のせいなんじゃないの?」

桑田「は? なんでだよ!」

セレス「先程モノクマさんがおっしゃいましたが、先生監督の下で発生した事件。それも自ら
     夜間外出禁止のルールを破ってのもの。当然その責任は大きいですわよねぇ?」

桑田「それは…こっそり特訓したいっていう不二咲の気持ちを尊重したからだろ!」

霧切「でもルールを破ったことには変わりはないわ。本来なら何もしなくても
    不二咲君達の秘密は明らかになって事件も起こらなかったはずなんだから」

桑田「でも…!」

苗木「…桑田君、今回はみんなの言う通りだと思うよ。もしこの場に先生がいたら、
    きっと何も言い訳しないでみんなに謝るんじゃないかな」

桑田「苗木…」


いつもなら必ず擁護に回る苗木が指摘したことによって、桑田も冷静になる。
苗木の顔は全くKAZUYA達を責めてなどいない。むしろ少し悲しげだったからだ。


803: 2014/03/15(土) 21:44:03.18 ID:9yKSYP7a0

十神「フン、奴がこの場にいたらどう責任を取る気か問い詰めたかったが…
    元々石丸達が自爆して潰しあっただけだしな。今回は見逃してやるとしよう」

桑田「…………」ギリッ

十神「期限も三日延びたそうだ。愚民共もせいぜいない頭を捻って頑張るんだな」


そう言い捨てて十神は食堂から去って行った。残されたメンバーも何を話して良いかわからず、
手短に食事を終えて早々に退室していく。残ったのは苗木、舞園、桑田、霧切、不二咲のみだった。


苗木「大変なことになったね…」

不二咲「…ごめんね」

桑田「もう謝るなって! オメエが悪いワケじゃないんだからさ!」

舞園「そうですよ。不二咲君が悪い訳ではありません!」

桑田・霧切・不二咲「……?!」


舞園の力強い発言に、苗木と舞園以外の三人はギョッとした。発言内容は極めて普通だが、
事件前と全く同じような表情で普通に発言していることに三人は驚きを隠せなかった。


805: 2014/03/15(土) 21:48:43.43 ID:9yKSYP7a0

霧切「舞園さん…あなた、一体何があったのかしら?」

舞園「何もありませんよ。ただ昨日桑田君に励ましてもらって、うじうじするのをやめたんです」

桑田「…そりゃあよかった」


桑田にとって舞園は天敵のような存在だが、平常心を取り戻してもらったのは素直に有り難かった。
不二咲が落ち込んでいるのにその横で舞園まで落ち込んでいたら、どう対応すればいいかわからない。


舞園「はい。今は緊急事態です。皆さんで手を取り合って乗り切らなければいけません。
    そこで、私から霧切さんに一つお願いがあります」

霧切「な…何かしら?」


急に元気になったどころか、テキパキと現状を認識し対応する舞園の姿に霧切は
違和感が止まらなかった。だが、今はそれに構っている場合ではない。


舞園「このメンバーで一番頭が良くて冷静なのは霧切さんだと思います。
    だから霧切さんに決めて欲しいんです。私達が今何をするべきか」


806: 2014/03/15(土) 21:53:21.29 ID:9yKSYP7a0

苗木「うん、そうだね。霧切さんなら頼りになる」

桑田「だな。頼むぜ!」

不二咲「教えて、霧切さん。僕達、どうすればいいの…?」

霧切「えっと、そうね……」


霧切は動揺していた。霧切家は代々優秀な探偵を輩出する名門一族であり、それゆえ絶対中立を
一族の掟として掲げていた。この学園生活でも、一見周りと普通に付き合っているように見えるが、
心の中では常に一線を引いていたし、周りも薄々感づいているはずだ。だから自分に積極的に
近づく生徒は少なく、自身も栄光ある孤立を貫いていたのだ。


霧切(…でも、何日目からかしらね。だんだんみんなが私に近付いてきた。
    私も嫌ではなかったけど、あくまで中立を保つために私は自分から引いた)

霧切(それで大半の人は引いたけど、中には諦めずにぐいぐい近寄る人がいた…)


もっと引かなければいけない。彼等が追ってこなくなるまで。


霧切(でも今は…私が積極的に手を貸さないと状況を改善出来ないレベルにまで達しているから、
    少しくらいは近付いてもいいのよね? 探偵として最も優先しなければならないことは、
    事件を未然に防ぐことなのだから。冷静ささえ、最後まで失わなければ…)


807: 2014/03/15(土) 22:00:09.31 ID:9yKSYP7a0

ふと頭に浮かんだのはKAZUYAだった。何故かはわからないが、KAZUYAも最初は周囲に対して
どこか一線を引いている所があった。そのKAZUYAが、今は懸命に生徒の側で戦っている。
生徒の横に立って、生徒の立場を思って、生徒のために身を削って行動している。


霧切(大丈夫。私は探偵。あくまで中立を保つ――)

霧切「まず、舞園さんはなるべく普通にしているのがいいわ。まだしばらくはみんな
    警戒しているでしょうから。ただ、今回の事件で衝撃が多少和らいでいると思うし、
    あまり印象の悪くない苗木君あたりと組んで警戒を解かせるのが最優先よ」

舞園「わかりました。なるべく目立たず穏やかに、ですね」ニコリ


そう言って舞園は穏やかな笑みを浮かべて見せる。その笑顔には、大丈夫だ。彼女なら出来る、
という妙な説得力が感じられた。舞園は問題ないと判断し、霧切は桑田に向き直る。


霧切「桑田君はドクターから何か言われた?」

桑田「ああ、しばらく不二咲と組んで守ってやれって。あ、そうだ! …苗木、お前なるべく
    人の多い所にいろよ。もし内通者が女だったらお前も危ないってせんせーが言ってた」ボソボソ

苗木「え?! …もしかして、内通者って女子なのかな」ヒソヒソ


808: 2014/03/15(土) 22:05:36.93 ID:9yKSYP7a0

監視カメラに拾われないよう声を落として彼等は話す。


不二咲「断言はしてなかったけど、先生は女子が怪しいって言ってたよ」

桑田「何でも、さすがの俺の洞察力をもってしても女心だけはよくわからん、だとさ」

苗木「そんな適当な…」

舞園「ちょっと待って下さい。その話を私達にするということは、私と霧切さんは
    除外でいいんですよね? …そうなると、かなり限られてきますよ?」


ハッとした顔で一同は顔を見合わせる。


苗木「あとは朝日奈さん、大神さん、江ノ島さん、セレスさん、腐川さんしかいない…!」

桑田「まあそんなかじゃ断トツで怪しいのはセレスだよな。感じ悪いしエラソーだし」

苗木「うん。彼女には気をつけろって先生も言ってた」

桑田「せんせーがそんなこと言ったのか?! じゃあ確定でいいんじゃね?!」

霧切「早まってはいけないわ。モノクマは内通者は一人とは言わなかった。
    仮に彼女が内通者だったとしても、他のメンバー全員が安全だとは限らない」


809: 2014/03/15(土) 22:10:28.00 ID:9yKSYP7a0

霧切「それに…私はセレスさん以外にも一人怪しい人物を知っている」

桑田「え?! だれだれ??」

苗木「何か知ってるの?!」

霧切「証拠がないから断定は出来ないけれど――江ノ島さんよ」

舞園「江ノ島さん…」


槍に襲われ血まみれになっていた、明るい快活なギャルを思い出す。あの江ノ島が?


桑田「え…ウソだろ。だってアイツ殺されかけてたじゃん…」

苗木「う、うん。何かの間違いじゃないかな?」

霧切「そうね。今の段階ではあくまで少し怪しいという程度よ。…ただ、時々会話の
    内容がモデルにしては少しおかしい時があるの。注意しておく必要があるわ」

舞園「つまり、確定するまで全員を疑っておけばいいということですね」

不二咲「全員疑わなきゃいけないのぉ? そんなのイヤだな…」


810: 2014/03/15(土) 22:15:03.65 ID:9yKSYP7a0

苗木「あと、僕からも一つ。先生は心の中で疑ってもそれを絶対表に出しちゃいけないって
    言ってたよ。疑ってた相手がもしシロの場合、後で揉める要因になるからって」

霧切「それが賢明だわ。要は今まで通り振る舞えばいいのよ。警戒だけは怠らず、ね」

舞園「男子については何か言ってましたか?」

桑田「今のところ気をつける必要があるのは十神だけだってさ。まあ予想通りだろ」

苗木「十神君とこの場にいない女子全員を警戒すればとりあえずは問題ないかな」


そうは言っても、実に六人もの人間を警戒しなくてはいけない。そのうち大神や十神は並みの
人間よりずっと強いだろう。全員で生き残るのはけして容易ではないと、苗木は内心緊張していた。


霧切「ええ。桑田君は引き続き不二咲君と一緒にいてちょうだい。ドクターは石丸君の側から
    離れられないだろうから、石丸君の部屋に行って外との連絡役になってくれるかしら?」

桑田「わかった。任せろ」


テキパキと霧切が指示を飛ばしていく中、おずおずと不二咲が声をかける。


811: 2014/03/15(土) 22:21:10.43 ID:9yKSYP7a0

不二咲「あの、霧切さん…」

霧切「何かしら?」

不二咲「大和田君に会いに行っちゃダメかなぁ…?」

桑田「ああ、そうだな…あいつもずっと放置しておくワケにはいかねえし」

舞園「ですが、不二咲君が直接行くのはマズイのではないでしょうか? 先程の話だと、
    大和田君が襲いかかったのは石丸君ではなく不二咲君なんですよね?」

不二咲「うん、僕だよ…多分、何か僕が大和田君を怒らせるようなこと言っちゃったんだ」

霧切「…その時の会話、一言一句正確に教えてくれないかしら」


不二咲はKAZUYAにしたように、その場であったことをなるべく正確に
説明したが、かえって仲間達は混乱するばかりであった。


桑田「……。ワケわかんねぇ。なんでそれでキレるんだよ? おかしいんじゃねーの、アイツ」

霧切「…もしかして、絶対に打ち明けられない重大な秘密を持っているんじゃないかしら」

不二咲「じゃあ、僕が秘密なんてへっちゃらだよね?なんて言ったから…」

桑田「い、いやいやいや! いくらなんでもそんな理由で殺そうとするかフツー?」


812: 2014/03/15(土) 22:26:28.97 ID:9yKSYP7a0

舞園「それに、そんなに聞かれるのがマズイ秘密なら、何故直接秘密を聞いた石丸君は
    襲われなかったのでしょう? 秘密を聞いたことが主原因ではないのでは?」

苗木「石丸君は親友だったからとか? でも、不二咲君とだって仲良くしてたし…」

桑田「あれか? まず石丸の言葉でプッツンして、次の不二咲の言葉で行動に出ちゃったとか」

霧切「今の所一番可能性が高いのはそれかもしれないわね。でも、確証はないわ。大和田君を
    凶行に走らせた直接の理由がわかるまで、不二咲君は会わない方がいいと思う」

不二咲「そっか…」

苗木「じゃあ、僕が代わりに行こうか? 励ますくらいなら出来ると思うし」

桑田「(チラッ)励ますのは逆効果じゃねえの? まだなじった方が効きそうだぜ」


桑田はチラリと舞園を見る。本気で自分を責め後悔している人間に対して、
優しさや励ましはあまり力にならないというのは既に見て知っていた。


舞園「……私も同感です。きっと、今大和田君は自分を責めていると思います。
    今の段階ではまだ私達が励ましてなんとかなる問題ではありません」

苗木「あ、はは。そうだね…ゴメン」


813: 2014/03/15(土) 22:31:11.45 ID:9yKSYP7a0

霧切「ただ…」

桑田「ただ、なんだよ?」

霧切「大和田君が何故怒ったのかの理由を知らないと、今後仲直りは難しいでしょうね。
    根本的な問題がわからないと対処も出来ないでしょうし。恐らく、石丸君が大和田君の
    所へ言ってもあなたは悪くない、いや自分が悪いの押し問答にしかならないはずよ」

舞園「大和田君の中にある問題を見つけて…たとえそれが私達や大和田君にとって
    受け入れがたい内容だとしても、直視して受け入れないと解決出来ないんですね?」

霧切「そう…そのためには、不二咲君が大和田君に会うのもアリかもしれない」

苗木「で、でも霧切さん! それは危ないよ!」

霧切「ええ。…そこで桑田君に聞きたいのだけど」

桑田「え、俺?」

霧切「不二咲君を守れる自信…ある?」

桑田「それってもしかして…」

霧切「私は一応護身の覚えがあるけど、大和田君は大柄だし力も強そうだから私一人では
    自信がないの。桑田君が大和田君を止められると言うなら、私が付き添うという
    条件で不二咲君が大和田君に会いに行ってもいいわ」


814: 2014/03/15(土) 22:37:07.42 ID:9yKSYP7a0

不二咲「本当?! 桑田君、どうかなぁ…?!」

桑田「ちょ…マジかよ。うーん、なるべく近寄らせないようにして武器で
    威嚇すりゃなんとかなるかなーとは思うけど……うーん……」


桑田は唸る。自分の身の心配もそうだが、不二咲の命が懸かっているのだ。軽はずみなことは言えない。
しかし、不安と期待を一杯に自分を見つめる不二咲に対して、無理だとは言いたくなかった。


桑田「……わかった。やってやるよ! 超高校級の野球選手の底力見せてやろうじゃん!!」

苗木「僕も行くよ。いくら大和田君がケンカで負けなしでも、三人同時は厳しいでしょ?」

舞園「でも、一度に大勢押しかければかえって大和田君は動揺するんじゃないでしょうか」

霧切「そうね。苗木君と舞園さんはホールの入口から様子を伺って、危なければ苗木君が援護、
    舞園さんが石丸君の部屋に駆け込んでドクターを呼べばいいわ。ちょうど隣の部屋だしね」

苗木「わかった。任せて!」

桑田「おし! じゃあちょっくら気合いいれるか!!」

不二咲「みんな、ありがとう!」


840: 2014/03/18(火) 23:20:46.22 ID:NajIKqyj0

― 図書室 AM8:44 ―


十神は腐川と離れて一人になりたかったので、早々に朝食を済ませ図書室へと入った。
口元には歪んだ笑みが浮かんでいる。いつしかその愉悦は音となり、哄笑へと変わっていた。


十神「ククク…ハハハ…フハハハハハハッ!」


楽しくて楽しくて仕方ない。あれだけ目障りだった人間達が一度に消えたのだ。
まさしく好機到来。…だが、十神が笑っているのは何もそれだけが理由ではなかった。


十神「アッハッハッハッハッハッハッハッ!!」

十神(それ見たことか! 全て俺の予見した通りになったではないか! 監禁されコロシアイを
    強要されるという異常な状況下で、馬鹿の一つ覚えみたいに愛だの正義だのと陳腐な
    道徳を説き、友情などという不確実なものを盲信した愚か者の末路がこれだ!)

十神(貴様の理想がいかに無力かこれでわかったか――石丸清多夏!!)


……そう、十神白夜は石丸清多夏のことが心の底から大嫌いだったのである。

この感情はもはや憎悪と言ってもいい。

十神が石丸の存在を初めて認識したのはいつだっただろうか。

それは数年前、十神が全国模試の成績上位者をチェックしていた時のはずだ。


841: 2014/03/18(火) 23:23:47.26 ID:NajIKqyj0

十神『…………』


十神は将来自分の手足となって働く者をスカウトするため、各業界の上位者を調べる習慣があった。
特に企業経営は高度な頭脳労働が求められるため、自分の名前もトップに載っている全国模試の
成績上位者名簿は殊更しっかりチェックしていた。

当時、石丸は常に上位ではあったものの壁があったのか、20位~50位のあたりをふらふらしていた。
学校あるいはその地域では断トツだが、全国レベルでは霞んでしまう程度の存在である。
十神はぼんやりと認識してはいたが、特に興味は持っていなかった。


十神『……フム?』


だがある時、石丸は壁を乗り越えたのか更に上位に食い込み、とうとうトップ10に入った。
流石の十神も多少興味を覚え、他の人間にやっているのと同じように身元調査をした。
だが、その結果は十神にとってあまりにも期待外れだったのだ。


十神『フン…祖父が元総理と聞いて少し驚いたが、何ということはない。不祥事を起こして
    すぐに消えた石丸寅之助じゃないか。祖父が特別だっただけで家柄もごくごく平凡』


父はそこそこの会社の真面目なサラリーマン。母はパート勤務をしている普通の主婦。
石丸自身も日本一の進学校に通ってはいるものの取り立てて特徴のない平凡な男だ。


843: 2014/03/18(火) 23:29:29.77 ID:NajIKqyj0

十神『…いや、平凡以下か。残った借金を生真面目に返し続け、貧乏ではないがまさしく清貧』


こういう所も十神にとって興味の持てない要因だった。借金なぞ相続放棄や自己破産で
いくらでも対処出来るというのに、今も家計を切り詰めせっせと真面目に返している。
馬鹿がつくほどお人好しで生真面目、不器用で善良。そんな小市民の家族が頭に浮かんだ。


十神『性格は真面目な優等生で三年連続風紀委員。座右の銘は質実剛健で将来の夢は政治家。…ハッ』


鼻で笑うと十神は持っていた資料と写真を机に投げつける。


十神『大方、祖父の雪辱戦と言った所だろう。そのため何の才能も持っていないのに
    ひたすら愚直に努力し続けているという訳か。哀れなものだな』


結果を出す人間というものは幼い頃から頭角を現しているか、あるいは流星のように
突然現れるものだ。この男はそのどちらでもない。つまり、上には行けるがいくら
頑張った所で頂点には立てないのだ。頂点を極める十神にとっては取るに足らない存在。


十神『まあ、マグレでトップ10に入れたことは素直におめでとうと言ってやるか』


それで終わりのはずだった。異常が現れたのはその少し後…
すぐまた元通りになると思っていた石丸の順位は、落ちるどころか徐々に上がってきたのだ。


844: 2014/03/18(火) 23:37:20.20 ID:NajIKqyj0

十神『まさか…』


少しだけ、十神は焦燥した。十神の名において敗北は絶対に許されない。それに十神は確かに
天才だが、自身の才能に溺れず努力をする天才だった。もし万が一ここで負けることがあれば、
何の才能もないただ努力するだけの無能な男に自分の才能と努力が屈することになる。


十神『…そんなことはありえん!』


久しぶりに真剣に勉強した。…だが、結果は無残だった。


十神『この俺と、同点一位だと…?!』


負けた。認めたくはないが確かに負けた。


十神『マグレ…そうだ、マグレに決まっている!』


すぐに挽回してやるさ。自分は十神一族でも最高傑作のはずなのだから。しかし、現実は残酷だ。
その次の模試で、石丸は全科目満点を叩き出したのだ。しかもそれ以降は常に満点だった。
これにより、どんなに頑張っても十神の単独首位奪還は事実上不可能となったのである。


十神『この俺をここまでコケにするとはな。…いや、愚民ならここで怒り狂うのだろうが、
    俺は支配者だ。優秀な人材を見つけたことは逆に喜ばしいことではないか』


845: 2014/03/18(火) 23:52:00.37 ID:NajIKqyj0

十神はプライドが高く尊大な男だが、それで先を見誤るようなことはない。過去にも
いわゆる各業界の天才達に敗北したことはあった。それは仕方ないのだ。人間なのだから。

今までの簡単な身元調査とは違う、徹底的な身辺調査を十神は行った。だが、その結果が十神を
激怒させることになる。何せ、石丸は以前十神がプロファイリングした通りの人間だったからだ。


十神『規律を何よりも重んじ、現実を見ず形骸化した理想論を馬鹿みたいに唱える潔癖な男…
    こんなのが政治家になったら世も末だな。…しかし、なりそうなのが恐ろしい所だ』


十神一族は政財界に深く根を降ろしており、十神自身政界や経済の裏側を嫌というほど知っている。
現実を誰よりも知っているからこそ、子供のような甘ったるい理想論を唱えるこの男が気に入らなかった。
きっといつの日か政治家になって十神の元に意見しにやって来るだろう。拒んでも拒んでもしつこく
食らいついてくるに違いない。…そして、その予想は思っていたよりもずっと早く実現した。


十神(希望ヶ峰学園入学者名簿で貴様の名前を見つけた時、俺は目眩がしたよ……)


自分にスカウトが来るのは当然だと思っていたが、まさか石丸が希望ヶ峰に選ばれるなんて夢にも
思っていなかった。つまり、石丸の努力が認められたということになる。才能がなくても努力で何でも
叶うのなら、自分の才能を否定された気がした。しかも同じ学年なのだ。毎日顔を合わせることになる。


846: 2014/03/18(火) 23:57:09.76 ID:NajIKqyj0

十神(…そして、貴様は何もかも俺の予想通りだった。むしろ想像以上のうっとうしさだった)


出来もしない脱出を掲げ、何の役にも立たない愛や正義を恥ずかしげもなくデカイ声で言う。
自分の価値観の押し付けが強く、十神にもしつこく突っかかって偉そうに説教をしてくる。

十神の中で嫌悪が憎悪に変わるのはそう間もなかった。


十神(いい気味だ……これでやっと静かになる)


昨日の騒動を思い返し、十神は薄ら笑いを浮かべた。



               ◇     ◇     ◇


石丸はKAZUYAの白衣と医学書を手に、混乱する生徒達の説得へと東奔西走していた。
葉隠と山田は手応えがあった。あとは恐らく最大の難関である腐川のみだ。


石丸「腐川君!」


バターン!


847: 2014/03/18(火) 23:59:25.90 ID:NajIKqyj0

腐川「ひっ! い、石丸……なんの用よ!」

石丸「僕は君が西城先生に抱いている誤解を解きに来たのだ!」

腐川「ご、誤解ですって…?! ふん…そんなのムダよ。あいつが怪しいのなんて明白じゃない!」

石丸「それは違う! これを見たまえ。この医学書と白衣が証拠だ! 先生の授業に嘘など何一つない!」

腐川「あっそ…どうでもいいわよ。で、その汚い白衣はなんだっていうの…」

石丸「この白衣が汚れているのは当然だ。何故ならこの白衣は先生が黒幕に
    襲撃された時に着ていたもので、大量の血が付着していたのだ!」

腐川「ヒッ!」

石丸「よく見てくれ! こんなに血を流して氏にかけた先生が内通者の訳が…」

腐川「ち、血ぃぃぃ?!」バタリ!

石丸「ふ、腐川君?! しっかりしたまえ! 腐川君!」


石丸は慌てて倒れた腐川に駆け寄り激しくゆする。それがうるさかったのか十神が不機嫌に呟いた。


十神「…貴様はとことん馬鹿だな」


848: 2014/03/19(水) 00:03:18.95 ID:145LPTCk0

石丸「なっ! 馬鹿と言う方が本当の馬鹿なんだぞ!」

十神「そんな小学生レベルの反論はどうでもいい。貴様は腐川の血液恐怖症を忘れたのか」

石丸「あ……だ、だが一応洗ってあるし色も大分落ちているというのに」

十神「血液恐怖症は精神から来ているものだ。本人が血だと認識したら反応するに決まっている」

石丸「うう……それもそうだな……」


腐川を床に放置するのは風紀委員として許されないので、椅子を並べてそこに腐川を運ぶ。

ジャラッ…


石丸(何だ? 今、スカートの中から金属音がしたような…)


腐川を椅子の上に横たえるとまたチャキッという音が聞こえた。


石丸(気のせいではないようだ……一体何故? だが確認する訳にもいかんしな。忘れよう)


849: 2014/03/19(水) 00:08:33.73 ID:145LPTCk0

十神「…腐川が倒れたんだ。当分起きないからさっさと出ていけ」

石丸「いや…僕が話さなければいけないのは腐川君だけではない。君もだ。十神君」


そう言って石丸は十神に向き合う。


十神「俺が貴様に話すことなど何もない」

石丸「でも僕にはある!」


このコロシアイ学園生活は生徒達の精神に甚大な悪影響を与えていたが、
石丸だけは少し勝手が違っていた。そう、良い影響が強かった。


石丸「僕はもっと君と話がしたい! もっと君を知りたい! 現在、何かと僕と君の
    意見が対立しがちなのはお互いの無理解が原因だ! 現状打開のためにも、
    僕達は早急に話し合いお互いをもっと知る必要がある!」


石丸は頑固で融通の利かない男であるが、変わろうという気持ちは常に持っていた。
ただ今までは自分と深く関わってくれる人間が周囲にいなかったため、変わろうにもどう
変わればいいか、人一倍不器用なこの男にはわからず空回りせざるを得なかったのである。


850: 2014/03/19(水) 00:10:46.70 ID:145LPTCk0

石丸「話し合い、お互いを深く理解すればたとえ全く違う価値観の持ち主だって仲良くなれる!」

十神「……貴様と大和田のようにか?」

石丸「! そう! そうだとも!!」


この閉鎖空間でKAZUYAや苗木と言った良きアドバイザーに出会えたこと、また逃げ場がないため
一人一人とじっくりぶつかり合う時間が取れたこと。これらの結果石丸は生まれて初めて
友人を作ることが出来た。そしてこの経験から、石丸は少しずつ学習し始めていたのである。


石丸(あの十神君が珍しく乗ってきた。これはチャンスだ!)


自分はいつも自己主張ばかりであまり相手の話を聞いてこなかった気がする。
それに、より相手と深い話をしたいならまず自分から話すのが重要だということも学んだ。
そしてこの考えは、つい先程交わした朝日奈、大神との会話で確信に変わったのである。


石丸「まあ、話し合いとはいえいきなり君から話せというのは無粋だ。だからまずは
    僕の夢の話をしよう! 僕は昔から政治家になるのが夢だったが、より人間として
    成熟するため、その前に医者になることを決めたのだ! 君の夢は何かね?」


851: 2014/03/19(水) 00:13:30.65 ID:145LPTCk0

十神「フン、俺に夢などない」

石丸「そんなことはないだろう? 何かあるはずだ」

十神「俺は十神の後継者になった以上、十神家の当主にして世界の支配者となることは
    決定済みだ。だからこの俺に夢などという曖昧な物は存在しないのだ」

石丸「だ、だが! 十神家の当主になった後やりたいことは? 何か一つはあるだろう!」

十神「そうだな。俺の邪魔となる人物を一掃するか。なんなら石丸、貴様をそのリストの
    トップにしてやってもいいぞ? 十神の力を使えば貴様の夢も簡単に潰せるのだからな」

石丸「!!」


嫌な笑みを浮かべいつもの高圧的な態度で十神が挑発すると、サッと石丸の顔に朱が差す。


十神(相変わらず単純な男だ)


挑発的な言動とは裏腹に、十神の心は冷え切っていた。そう、十神にとって石丸始めここにいる
人間は皆潰すにも値しない道端の小石のような物。ならば何故このような過激なことを言ったか。

理由は簡単だ。十神は石丸を怒らせたかったのである。話し合いなどしたくないと言っても
この強情な男はしつこく自分に付き纏い続けるだろう。だったら話に付き合う振りをして
言い合いに持ち込み、適当に決裂して別れるのが一番手っ取り早い。


852: 2014/03/19(水) 00:16:14.51 ID:145LPTCk0

十神(この男は馬鹿の一つ覚えみたいに道徳の授業で習ったことを繰り返し、
    口を開けば風紀を守る!だからな。この発言は許せないはずだ)


さあ、早く突っ掛かってこい。そして言い合いが始まったら頃合いを見て自分が出ていこう。


石丸「十神君! 今の発言は聞き捨てならないぞ!」

十神「(…ほら来た。単純な男だ)だったらどうし…」


だが、ここで石丸は予想外の発言をした。


石丸「…聞き捨てならないが、君がどうしてそんな考えに至ったのか僕は知りたい!」

十神「……は?」

石丸「君の夢は到底僕にとって認容出来るような内容ではない! だが、君がそのような
    考えに至ったには何か深い事情や考えがあるのだろう? それを聞かせてくれないか?」

十神「…………」


石丸はこの監禁生活の中で、人間関係の構築には自分の価値観で相手を縛りつけず、まず粘り強く相手の
話を聞くことが重要だと学んだ。そして忍耐力は、この努力の化身にとって最も得意な分野でもある。

…ただ石丸にとって唯一計算外なことがあったとすれば、それは相手が十神白夜なことであった。


853: 2014/03/19(水) 00:20:00.34 ID:145LPTCk0

十神(…成程。お決まりの性善説か。俺が捻くれているのは何かそうなる悲しい過去でも
    あったに違いないと思っているのだろう。相変わらず頭の中がお花畑みたいな奴だ)


石丸の変化を、歩み寄りを十神は見抜けなかった。かつての石丸のように、十神自身も己の
凝り固まった思想に囚われていたからだ。だから、十神はいつもの価値観の押し付けだと思った。


十神「残念だが、俺は元々こういう人間だ。貴様の期待するような過去なんてない」

石丸「期待? そうではなく、純粋に君の話が聞きたいのだ!」


執拗に同じことを繰り返す石丸に十神は苛立ちを隠せず思わず舌打ちをした。


十神「しつこい奴だな。お前がいくら頑張っても俺はお前の望む答えなど言わん」

石丸「何故頑なに話すことを拒むのだね? 確かに、僕のような凡才が天才の君を
    理解しようなどとはおこがましいかもしれないが…」

十神「天才、だとッ?!」


十神の整った顔が天才という言葉に反応して怒りで歪み、額に青筋が走る。十神は天才だが
努力をする天才だ。特に十神家は特殊な世襲制度を取っているため、十神の幼少時代は
辛く苦しいものであり、それ故十神は自身以外の人間に天才と呼称されるのを嫌っていた。


854: 2014/03/19(水) 00:23:26.77 ID:145LPTCk0

石丸「と、十神君…? すまない! もし何か僕の言ったことで気に障ったのなら謝ろう!」


石丸は空気の読めない男であるが、流石に十神の突然の豹変と凄まじい剣幕に異変を感じる。


十神「そうだ。俺は天才だ。だが、俺を天才と呼んでいいのは俺だけだ! 貴様みたいに
    行った努力を馬鹿みたいにひけらかす無能な凡人が気楽に呼んでいい称号ではない!」

石丸「その口ぶり…? …十神君は、もしかしたら本当は努力家なのではないかね?」

十神「努力を貴様の専売特許だと思わないことだな」

石丸「な、なんだ…なら僕らには共通点があるではないか! 同じ努力家同士わかりあえ…」

十神「ふざけるなッ!!」


今回ばかりは石丸の空気の読めなさが原因ではなかった。石丸は十神の家庭の事情など知らないし、
一般人の彼に十神家の嫡男がどれほどの重みとプレッシャーを持つかなどわかるはずもなかった。

十神は持っていた本を机に叩き付ける。石丸は驚いてビクリと震えた。


十神「貴様のような凡俗とこの俺が同じだと?!」

石丸「あ、いや…違うんだ! そういうつもりで言ったのでは…!」


855: 2014/03/19(水) 00:29:12.21 ID:145LPTCk0

十神はいつも不機嫌そうな顔をしているが、実際に感情を露わにしたのを見るのは初めてだった。
何故そんなに怒るのかと半ば理不尽に感じる思いもあったが、十神の迫力に呑まれ何とか宥めようと
試みたが無駄であった。十神は立ち上がると石丸のすぐ前に立ち、その襟首を乱暴に掴む。


十神「貴様に何がわかる?!」

石丸「十神君…そうだ。僕にはわからない。僕は何故君が怒っているのか本当にわからないんだ!
    だから教えてくれ。何故君は怒っている? 僕は君の事が知りたいんだ」

十神「……いいだろう。そんなに知りたいなら教えてやる」


襟首を掴む手にますます力が入る。石丸は息が苦しかったが、それ以上に十神の話が聞きたかった。
そして十神は語った。赤の他人には誰にも話したことがなかった十神家の厳しい世襲制度を。


十神「十神の家に生まれたら自動的に跡取りになると思ったか? そんな馬鹿な話があるか。
    俺にはたくさんの兄弟がいた。全員母親の違う兄弟だ。そして…兄弟同士で争いあった」

石丸「な…?!」


石丸は目を見開く。歴史上ではよくある話で、知識としては知っていた。だが現代日本の、
それも自分の身近な人間がそれを実践させられたというのはにわかには信じがたかった。


856: 2014/03/19(水) 00:34:58.72 ID:145LPTCk0

十神「十神家の跡取りはただ一人。代々勝ち残った者が十神家を継ぐしきたりだ。俺は末弟で、
    他の兄弟達に比べ大きなハンデがあった。末弟が勝者となったのは俺が史上初だそうだ」

石丸「負けた兄弟達は、その後どうなるのかね…?」

十神「……一族から追放される。十神の名を失い、社会的には氏んだも同然だ」

石丸「そんな…!!」


そこで初めて十神は掴んでいた手を離した。石丸は言葉を失ったまま呆然としている。当たり前だ。
元より自分とは住む世界が違うのだ。これでやっとわかったかと十神は深々と息を吐いた。


十神「貴様も同世代の平凡な人間達の中ではそこそこ苦労している方だというのは認めよう。
    だが貴様は何も知らない。生まれながらに戦いを宿命づけられている人間が世の中には
    いることも、勝ち残った者には重みと責任が生じるということも、何もな……」

石丸「…………」

十神「戦うことから逃げて仲良しごっこがしたいだけなら、お前達で勝手にやればいい。
    俺は一人でも戦うし十神の名にかけてこのゲームに勝つ。二度と俺に近寄るな」

石丸「十神君、だが…!」


857: 2014/03/19(水) 00:40:41.59 ID:145LPTCk0

食い下がろうとする石丸を、十神は背を向けることにより明確に拒絶する。


十神「……貴様の顔はもう見たくない。貴様が出て行かないなら俺が出て行く」


そう言い捨てて十神は去って行った。一人図書室に残された石丸は十神の言葉を頭の中で反芻する。


石丸(逃げている…?)

石丸「僕は……僕はそんなつもりは……」


僕はただ、十神君とも友達になりたかっただけなのに――


石丸(…急ぎ過ぎてしまったのかもしれない。こういうことは時間をかけなければ。
    今回は失敗してしまったが、気持ちを切り替えてまた今度話してみよう)


だが石丸は気付いていなかった。

この日この時、自分と十神の決裂が決定的になっていたことを……


858: 2014/03/19(水) 00:44:21.77 ID:145LPTCk0

非日常編になってから時間軸が錯綜してます。ここまで。


903: 2014/03/27(木) 00:14:09.43 ID:hz8pyjRA0
あー、大好きだったSSさんが終わってしまった。この場を借りてお疲れ様と言いたい

>>902
むしろ小ネタしかない

リクエストありがとうございます。最近鬱話考えてばっかりで
実はギャグが浮かばなかったのでネタ頂けると助かります

という訳で少し投下。

904: 2014/03/27(木) 00:16:07.62 ID:hz8pyjRA0

― オマケ劇場 ⑱ ~ コロシアイはディナーの後で ~ ―


セレス「こちら、よろしいかしら?」

十神「……フン、好きにしろ」


夕食時。十神とセレスが同席しているだけでそこは高級レストランさながらの光景へと変貌する。


セレス「ゲームの勝算は見えましたか?」

十神「フン、聞いてどうする?」

セレス「わたくしの平和な生活を乱されたら困りますから、聞いてみただけですわ。十神家の
     次期当主たる者、実は策が浮かばなくて困っているなんてことはありませんものねぇ?」

十神「…愚問だ」

セレス「フフ、本当の所は聞かないでおきますわ。…推理小説は面白いですか?」

十神「……思っていたよりはな。時間潰し程度にはなる」

セレス「十神君なら勿論全て途中で真相がわかってしまうのでしょうね」

十神「当然だ。俺を誰だと思っている」

セレス「嘘はいけませんわよ?」

十神「…………フン」


905: 2014/03/27(木) 00:19:32.23 ID:hz8pyjRA0

十神(目障りな女だ。俺の腹を探りに来たのか)


十神は警戒するが、実は違う。


セレス(十神君は口は悪いですが外見だけならわたくしの理想のナイトですからねぇ。
     この場を利用して優雅なディナータイムを楽しませて頂きますわ! ウフフ)


なんと、セレスは素で態度が悪いだけだった!

バターン!


腐川「ああっ! こんな所に白夜様って、えええ?! なによ?!
    なんであんたなんかが白夜様と同席してるのよ?!」

十神「うるさいぞ、腐川。別に俺が誰と食べようが関係な…」


バターン!


山田「ぬぉぉぉっ! セレス殿ぉぉ! 見つけましたぞっ! 僕を置いて行くなんてひどい!」

セレス「あら、山田君。早かったですわね?」


906: 2014/03/27(木) 00:23:53.90 ID:hz8pyjRA0

山田「早かったって、やっぱりわざとでしたか!」

腐川「白夜様に近寄るんじゃないわよ、この女狐!」

セレス「あら、同席を許可されないからと言って嫉妬は見苦しいのではありませんか?」

腐川「キィィィ! どうせアタシはブスよ! 不潔よ! 悪かったわね!」

山田「セレス殿! たまには僕とも同席を…」

セレス「山田君、鏡をご覧になったら如何ですこと?」ニコ

山田「ガアアアアン! わかっていることとはいえショック!」

セレス「まあ、外野は放っておきましょうか。ねえ、十神君?」ガン無視

腐川「そんな、白夜様ぁぁ!」

山田「セレス殿ぉぉ!」

十神「…………(関わりたくない…)」


十神はセレスを最重要警戒人物として認定したのだった。


907: 2014/03/27(木) 00:26:07.42 ID:hz8pyjRA0

― オマケ劇場 ⑲ ~ 二人のロンリーウルフ ~ ―


葉隠「お、山田っちか」

山田「葉隠康比呂殿、これはどうも」

葉隠「なにやってるん?」

山田「見ての通りロイヤルミルクティーを作っているのです。最初はセレス殿に言われて
    始めたのですが、いやはやなんとも奥が深い。もし良かったら飲んでみますか?」

葉隠「おお、頼むべ」

・・・

山田「どうですか?」

葉隠「よくわかんねえけど美味いんじゃねえか?」

山田「それはなにより」

葉隠「…………」ズズー

山田「…………」パクパク…ズズッ


シーン。


葉隠・山田(……気まずい)


908: 2014/03/27(木) 00:32:49.75 ID:hz8pyjRA0

葉隠「そういやさ、山田っちはオーパーツとか興味あるか? なんだったら
    俺のオーパーツコレクションについて話してやんべ」

山田「そうですねぇ。ちょっと興味深いですし、聞いてみますか」

葉隠「~でな? アトランティスの超古代文明とムー大陸には意外な共通点があってだ…」

山田(どうしよう…軽い趣味かと思ったらかなりディープな世界でした。日本語でおk…)

葉隠「…で、山田っちは最近どうよ? 相変わらず同人描いてんのか?」

山田「それはもちろんですとも! コミケの締切に負われて限界を超えるのも楽しいですが、
    締切がない中で自由に描くというのもまた別な発想が出やすくて面白いものです」

山田「ぶー子の良さを引き出すために絶妙なシチュエーションをいくつも用意して…」

葉隠「ああ、ああ、うん(全っ然意味わからんべ)」

・・・

葉隠「…………」

山田「…………」

葉隠「…………あ、じゃあ俺はこれで。お茶おいしかったべ」

山田「長話してしまいましたな。それではまた」


すたすたすた…


葉隠・山田(…話が通じる話し相手が欲しいなぁ(べ))ハァ…


909: 2014/03/27(木) 00:40:04.38 ID:hz8pyjRA0

― オマケ劇場 ⑳ ~ 恋の血圧測定 ~ ―


腐川「ちょっと、ドクターK! は、話があるんだけど…」

K「どうした、腐川? 君がこんな所に来るとは珍しいな」

腐川「ど…どーして授業の組み合わせで、いつも白夜様をアタシ以外の女と組ませるのよ?!
    大神とか江ノ島ばっかり! なんで筋肉女と汚ギャル? なに? アタシがブスだから?
    そんなこと百も承知よ! で、でもアタシだってたまにはいい思いしたいじゃない!!」キィィ!

K「まあ、待て。別に君を避けている訳ではなくてだな…体格で組むとそうならざるを得ないのだ。
  十神は長身だから、女子と組ませる時は大柄な大神や江ノ島でないと抱えられんだろう?」

腐川「白夜様を抱えるなんて…ずるい! アタシだって、アタシだってぇ…!」ギリギリギリ!

K「…ハァ。わかった。明日の授業は力を必要としないものだから、十神と組ませよう」

腐川「本当?! 約束よ! 約束だからね!」

・・・

K「今日はこのアナログ血圧計を使って血圧を測る実習だ。三つしかないから、
  八組に分かれて順番にやること。組み合わせは…」

腐川「来たわぁぁぁ! びゃ、白夜様…! よろしくお願いします…」

十神「チッ。面倒だが仕方ない。とっととやれ」

腐川「は、はいぃぃ!」


910: 2014/03/27(木) 00:43:12.36 ID:hz8pyjRA0

腐川(ああ、白夜様の綺麗な白い二の腕を締め付けて圧迫するなんて、なんて工口ティカル!
    うふ、うふ、圧迫された腕から青い血管がうっすらと浮き出て…うふふふふ)」ハアハア…


シュコシュコシュコシュコ… ←腕に巻いたバンドにポンプで空気を送る音


十神「…おい、やり過ぎじゃないのか? 痛いんだが」

腐川「うへへへへ」うっとりヨダレダラァ~


シュコシュコシュコシュコ…


十神「おい、腐川? 聞いているのか。やり過ぎだ。一度外せ!」

腐川「ハア…ハア…ハア…ハア…」鼻血ブー


バターン!


朝日奈「なに?! どうしたの?!」


911: 2014/03/27(木) 00:45:19.79 ID:hz8pyjRA0

苗木「大変だ! 腐川さんが倒れちゃった!」

十神「おい、そこの変Oはどうでもいいから誰か俺のバンドを外せ」

K「全く、測る方が血圧の上がり過ぎで倒れるとは何事だ…」ヨイセ

十神「おい、誰か…」

石丸「腐川君! 気をしっかり持つんだ!」

江ノ島「ほっときなよ…どうせいつものでしょ?」

大和田「だな。続けよーぜ」

十神「…………おい」


シッカリシロー! コッチニネカセルゾ! ドウデモイイデスワ。ワーワー!


十神「…………」




十神「…………痛い」


912: 2014/03/27(木) 00:49:27.98 ID:hz8pyjRA0

ここまで。

前スレの小ネタではほとんど出番がなかった十神がここにきて出番を増やしている


922: 2014/04/06(日) 00:33:32.42 ID:rc1Lxq5K0

― オマケ劇場 ㉑ ~ 早起きは三文の得 ~ ―


食堂には毎朝ほぼ同じ時間に同じメンツの生徒が揃う。朝の情報番組がないので、
他のメンバーが来るまで生徒達はKAZUYAをテレビ代わりに珍しい話を聞くのが日課だった。


朝日奈「ねえねえ先生、なにか面白い話ない~?」

K「面白い話、か。面白いかはわからんが、俺のこのベルトの由来でも話そうかな」

不二咲「ベルト?」

石丸「古い皮のベルトですね。牛革だろうか?」

大神「だが質は良さそうだ」

K「ベルト自体はそこまで古くはない。ただ、歳老いた闘牛の皮をもらったから古く見えるのだろう」


KAZUYAが雨宿りしたある地方の民家。そこにはかつて王者だった闘牛・雷神がいた。KAZUYAは雷神の
老いと病を見抜き引退を勧告したが、牛主は認められずKAZUYAは嵐の中勝負することになる。KAZUYAに
倒され満足したのか、翌日KAZUYAが薬を持って戻って来た時には雷神は既に亡くなっていたのだった。



石丸「最期に最強の相手である先生と戦い、闘牛としての生を全うして満足したのですね……!」ブワッ

不二咲「仕方ないけど悲しいね…」うるうる


923: 2014/04/06(日) 00:35:51.43 ID:rc1Lxq5K0

大神「だが満足して逝けたのだ。武人としてその生き方には共感出来るものがある」

朝日奈「それにしても先生すごーい! 牛を投げ飛ばしちゃったんだ!」

K「フ、雷神号が歳老いていたからだ。万全の状態だったら俺でも勝てたかどうか」

朝日奈「KAZUYA先生ならきっと投げちゃうって!」

不二咲「うん! 先生なら出来るんじゃないかなぁ!」

石丸「僕も負けてはいられないな! もっと鍛えねば!」

大神「西城殿、我と組み手をしては頂けぬか」

K「……それは勘弁してくれ。闘牛よりよっぽど手強そうだ」ハハ

・・・

桑田「ウーッス」

苗木「おはよー」

朝日奈「おはよー! 二人共おそーい!」

桑田「は? なにがだよ。時間通り来てんじゃん」

朝日奈「もっと早起きすれば先生が猛牛と相撲をとる話が聞けたのに!」

桑田「……は?」


924: 2014/04/06(日) 00:39:22.70 ID:rc1Lxq5K0

不二咲「先生はねぇ、こーんな大きな牛さんだって投げ飛ばせちゃうんだよぉ!」フフッ♪

石丸「僕もいつか先生のように牛くらい投げ飛ばせるようになるんだ!」

K「任せろ。俺がみっちり鍛えてやる!」

苗木「い、いやいやまさか……というか石丸君まで何言い出してるの?!」

大神「フフ、我ももっと修業せねばな」

桑田「大神は今の段階でも出来る。間違いなく出来る(断言)」



― オマケ劇場 ㉒ ~ 早起きは三文の得その2 ~ ―


朝日奈「ねー先生ー! 今日はどんな話聞かせてくれるの?」

K「ウーム、色々あるからなぁ。何関連か絞って言ってくれんと」

不二咲「また強敵と戦う話がいいな!」

大神「我も是非聞きたい」

朝日奈「海の話ない?!」

K「海か。海だったら…」


925: 2014/04/06(日) 00:42:50.06 ID:rc1Lxq5K0

ある漁師を訪ねた時のこと。漁師は鮫に足を噛みちぎられてしまった。KAZUYAは足を治すため
鮫を海から引きずり出し、腹を裂いて胃から取り出した足で接合手術を行ったのだった。

〈参考画像:KAZUYA鮫を倒す〉http://imgur.com/wAIpgxe.jpg


石丸「さ、鮫?!」

不二咲「鮫……!」

大神「鮫か……」

朝日奈「先生すごーい!」

K「別に凄くはない。水中で直接戦うのは不利だからエラを塞いで呼吸困難にさせただけだ」

石丸「それでも普通の人間には無理だと思いますが……」

不二咲「凄いなぁ! 西城先生って本当に格好良いなぁ!」キラキラキラ!

大神「水中戦の概念は我にはなかった。我も訓練してみるとしよう」

朝日奈「私も付き合うよ!」

K「溺れないようにしてくれよ?」

・・・


926: 2014/04/06(日) 00:48:05.96 ID:rc1Lxq5K0

大和田「オッス」

苗木「おはよう」

石丸「一足遅かったな、君達!」

大和田「あ? ちゃんと時間通り来てるぜ?」

石丸「違う! もう少し早く起きれば先生が鮫を倒した話が聞けたのだ!」

大和田「おいおい、兄弟……まだ寝ぼけてんのか?」

不二咲「ふふっ、僕も鮫を倒せるくらい強ければなぁ!」

苗木「そ、そこまで強くなりたいの不二咲さん……?」

石丸「ちなみに大神君と朝日奈君は後で水中戦の訓練をするそうだ。僕と兄弟も参加させてもらおう!」

大和田「え? は? ……ハァ??」

苗木「あの、先生……」

K「俺も水中戦のエキスパートという訳ではないが、やるからには協力するぞ」フフ

「ガンバロー!」  「オー!」  「いや、ちょっと、待……」

苗木「えぇと……」

苗木(メンバーにツッコミがいないからこんなことになるんだろうなぁ……)


927: 2014/04/06(日) 00:57:13.18 ID:rc1Lxq5K0

― オマケ劇場 23 ~ 恐怖! ドーナツ化現象 ~ ―


十神「いい加減にしろ」

朝日奈「そっちこそ! 十神って本当性格悪いよね!」

十神「黙れ愚民。特に貴様みたいな頭のおかしい奴にこの俺が馬鹿にされるのは心外だ」

朝日奈「おかしいってなに?! もう最低! あっち行こ、さくらちゃん!」

・・・

K「……十神。売り言葉に買い言葉なのはわかるが、いくらなんでも言い過ぎではないか」

十神「フン、貴様は何もわかってない。あの女は本当に頭がおかしいぞ」

K「何?」

十神「疑うのなら、あの女の前で思い切りドーナツの悪口を言ってみろ」

苗木「あ、十神君! それはちょっとマズイよ……」

K「……苗木までそう言うのか? フム、そんなに言うなら俺自身の目で確認してこよう」


三十分後。


K「すまん……お前の言いたいことが少しわかった」ゲッソリ…

十神「それ見たことか!」


928: 2014/04/06(日) 01:05:32.08 ID:rc1Lxq5K0

ここまで。

ほの、ぼのだったかな…?最初21と22のタイトルを「在りし日」にしようかと思ったけど、
あまりに縁起が悪いというかあんまりだったので変更した。二章メインの三人組、
通称大和田サンド好きには本編はしばらくきっつい展開続きそうです。ごめんなさい

丸文字は機種依存文字を使ってみたのですがやはり文字化けするのできっぱり廃止
次はいよいよエピソード0かな。誰も待ってないだろうけど


933: 2014/04/12(土) 01:29:31.14 ID:kcmE17aY0


      あの忌まわしい事件を隠蔽すると決めた時から

      私は“彼”をこの学園に招こうと計画していた。

   何故なら私には、人類の希望を守るという使命があるからだ。

        そのためにはどんな手段も選ばない。


    彼ならば、大切な生徒達をきっと守ってくれるはずだ。

           そう、あの男ならば――



          ◇     ◇     ◇


かつてこの日本に、不世出の天才と呼ばれた一人の青年医師がいた。

出身地・生年月日等一切不明。日本の最高権威・帝都大医学部を主席で卒業し、

若くして国際レベルの活躍を重ねる。その執刀技術は最高の特Aランクだという。


人類史上最大最悪の絶望的事件が起こってしまった時、本来なら真っ先に

活動するはずのこの男の姿を、誰も見つけることが出来なかった。

何故なら彼は、人類の希望達と共にコロシアイ学園生活を送っていたからである。

果たして何故そうなったのか。その顛末の一部がここに明かされる。


934: 2014/04/12(土) 01:35:28.64 ID:kcmE17aY0

「 スーパードクターK × ダンガンロンパ ― Episode0 ― 」


野獣の肉体に天才の頭脳、そして神技のメスを持つ男――その名はK!!


― 高品診療所 ―


「お願いします! ここで待たせて下さい! ここにいればいらっしゃるんでしょう?!」

高品「そのォ、申し訳ないんですけどうちは診療所なんで……」

「では、ドクターKに伝えて下さい! 一年、半年……いや、この際二ヶ月でもいい!
 どうか……どうか我が学園に、校医としていらして頂きたいと!」

斉藤「伝えますので今日の所はお引き取りくださーい」

高品「すみません。あんまり粘られると、うちにも色々と支障が出ますんで……」

霧切仁「……わかりました。今日はもう帰りますので、確かにお伝え下さい」


そう言って、若き希望ヶ峰学園の学園長は帰って行った。やれやれ、と高品龍一は息をつく。

高品はKAZUYAとは古い付き合いの友人であり、KAZUYAに認められた腕を持つ腹腔外科医である。
以前は寺沢病院という病院に務めていたが、数年前看護婦の斉藤淳子と共に独立し、現在は自分の
診療所を構えているのだ。ちなみに、独立後に斉藤とは正式に婚約し現在も交際中である。


ジョージ「いやぁ、なんだか熱心な人でしたネ」


オールバックに白衣が似合う、少し日本語のおかしいこの男はジョージ・タケモリといい、
アメリカから来た日系アメリカ人の医師である。クエイド大学で研究をしていたが、KAZUYAと
高品の友人である朝倉雄吾の命により、現在は高品診療所に出向して現場の経験を積んでいる。

935: 2014/04/12(土) 01:39:34.12 ID:kcmE17aY0

高品「そうだね。……K、もう帰りましたよ」

K「……すまんな」


奥からヌッと現れた長身で筋肉質なこの男こそ、霧切仁が熱望するドクターKその人であった。


斉藤「何も隠れなくたって……面と向かって断ればいいじゃないですか」

K「そうなんだが……いい加減こちらも疲れてきてな」

高品「谷岡先輩と七瀬さんから聞きましたけど、あの人寺沢病院や斎楓会病院にも
    来たんでしょ? 次は軍曹の所や帝都大にも行くんじゃないですか?」


軍曹とはKAZUYAの大学時代の先輩である大垣蓮次のことだ。高品同様、大垣診療所という自身の
診療所を構えている。世話になっている先輩にまで迷惑をかけたくないな、とKAZUYAは頭を抱えた。


K「……それまでに諦めてくれればいいのだが」

斉藤「二ヶ月でいいって言ってるし、土日は行かなくてもいいんでしょう? いっそ
    引き受けちゃえばいいじゃないですか。過去には加奈高だって引き受けたんだし」

ジョージ「そうですヨ! なんて言ったって世界的にも有名なあの希望ヶ峰学園デスよ?!」


羨ましそうにジョージがKAZUYAを見る。


斉藤「へえ、日本の学校なのにアメリカでも知られてるんだ? 知ってた?」

高品「実は縁がないから俺も詳しくは知らないんだよね。天才ばっかりの学校としか……」


936: 2014/04/12(土) 01:46:36.93 ID:kcmE17aY0

ジョージ「希望ヶ峰学園といえば、あらゆる分野の超一流高校生を集め、育て上げる事を目的とした
      政府公認の超特権的な学園デス! 学園側からスカウトを受けた、選ばれた天才しか
      入学することを許されない、まさしく天才のための天才養成学校なんデスよ」

ジョージ「我がアメリカにも似た施設はありますが、歴史と伝統では希望ヶ峰学園に圧倒的に劣りマス」

高品「その学園の校医として相応しいって太鼓判を押された訳ですよ? 流石Kだよなぁ」

斉藤「学園の中には各業界のトップエリート達が勢揃いなんでしょ? アイドルとかモデルとか
    スポーツ選手とか。いいなぁ。どんな所か覗いてくればいいじゃないですか!」

K「ウーム……」


だが、KAZUYAは強面の顔を更に渋くして何やら考え込んでいる。


高品「……なんだかノリ気じゃないみたいですね」

K「俺はな、どうにもその天才のための学校という響きが好かんのだ……」

K「スカウトを受けた天才児しか入ることが許されない学園。生徒達の才能を伸ばすことを第一義にし、
  選ばれた特別な教員が特別な教育を施す……その反面、予備学科という誰でも試験で入ることが
  出来る学科を用意し、高い授業料を納めさせ雇われ教員に適当な授業をさせているという……」

斉藤「何それ……その予備学科の子達は本科の生徒のための金づるってこと?」

高品「まあ、僕ら普通の人間からしたら気持ちの良いものではないですよね。踏み台にされてるみたいだし」

ジョージ「ですが、それは予備学科の子供達もわかっていてブランド目当てで入学しているのでしょう?
      ならお互い様というか、お互いにメリットが一致しているフィフティな関係ではないデスか」

K「まあ、そうなのだがな…」


937: 2014/04/12(土) 01:53:17.66 ID:kcmE17aY0

そう言うKAZUYAの顔は相変わらず暗かった。『才能こそ人類にとっての希望』という理念を
第一義にする希望ヶ峰学園の存在は、KAZUYAにしてみればかつて自分が校医をしていた加奈高の
生徒達のような落ちこぼれを全否定されているようで気に食わなかったのだ。


高品「でもあの学園長……霧切さんって言いましたっけ? とても諦めそうには見えなかったけどなぁ」

斉藤「次は多分土下座してくるんじゃない?」

ジョージ「一回引き受けて、それでグッバイしたらどうですかネ?」

高品「あんまり断り続けるのも可哀相だし、一回くらい引き受けてあげればいいじゃないですか!」

K「ムゥ。そうか……?」

斉藤「そうそう! それで私達に、希望ヶ峰の中がどうなってるのか後でじっくりレポートして下さいよ」

高品「有名人がいっぱいなんでしょ? 土産話が楽しみだなぁ」

ジョージ「頭の良さそうな子がいたら教えて下さいね。クエイドからスカウトをかけるのデ!」

K「……わかった。お前達がそこまで言うなら、試しに引き受けてもいいかもしれんな」

K(まあ、正直少し気にはなっていたのだ……ここらで一度様子を見てもいいかもしれん)


KAZUYAは初めて霧切仁と出会った時のことを思い出す。



               ◇     ◇     ◇


霧切仁「あなたがあの世界的に有名な名医ドクターKですね?」

K「そうですが……あの有名な希望ヶ峰学園の学園長が、私に一体どのようなご用件で……?」


938: 2014/04/12(土) 02:03:59.51 ID:kcmE17aY0

寺沢病院の医局で、KAZUYAはうら若き学園長と対峙していた。KAZUYAの仁に対する第一印象は、
とにかくやり手の男だなということだった。端正な容姿とは裏腹にその目には強い意志が感じられ、
何故この男が医者である自分に会いに来たのかとKAZUYAは怪訝に思う。


K(一度電話でアポを取られたが、手術の依頼ではなかった。何をしにここへ……?)

霧切仁「単刀直入に言います。あなたに我が学園の校医になって頂きたい」

K「……はぁ。私が、ですか?」

霧切仁「そうです! 現在校医を勤めている森川さんはご存知でしょう? 確か帝都大で……」

K「ああ、森川先輩ですか。覚えていますよ」

霧切仁「当初は産休だけという話だったのですが、子育てのためしばらく職から離れたいと。
     そのため、我が学園では現在代わりの校医を探している最中なのです。そこで、以前から
     話を聞いていたあなたに是非ともお願いしたいと紹介状を持って参上した次第です」


差し出された紹介状に一応目を通すが、KAZUYAはすぐにそれを仁へと返した。


K「申し訳ありませんが、私は医者です。希望ヶ峰学園に病人や怪我人がいるというのなら、
  勿論いつでも治療に参りますが、校医として赴任するという話はお引き受け出来ません」

霧切仁「しかし、過去に加奈高校という学校に校医として赴任していたというのを私は
     知っているのですよ? 何故加奈高は良くて希望ヶ峰学園は駄目なのです!」

K「……そこまで知っているのなら申しますが、その話は友人である加奈高の校医が急病で倒れ、
  代わりがどうしても見つからないので私がやむなく引き受けたに過ぎません。加奈高は
  知っての通り偏差値も低く少し荒れていて、校医になりたがる医師がいませんからね」

K「希望ヶ峰学園程の有名校なら、わざわざ私が行かなくとも校医になりたがる人間は
  たくさんいるでしょう? なんなら帝都大あたりに私からも紹介状を書きますが?」


939: 2014/04/12(土) 02:07:15.11 ID:kcmE17aY0

霧切仁「いえ、誰でもいい訳ではないのです。ドクターK――あなたでなければ!」

K「話が見えませんな。単なる塔として利用したいだけなら丁重にお断りいたします」

霧切仁「それは違います! そんな理由であなたを呼びたい訳ではないのです!」

K「……何か逼迫した理由でも?」

霧切仁「いえ、そういう訳ではありませんが……」


一瞬口ごもった仁を見て、KAZUYAの直感が何かを感じ取っていた。


K(これは何かあるな……)

霧切仁「あなたはその若さで超国家級と称しても良い天才医師だそうですね。そのような方が
     我が学園に来て頂ければ、我が校の生徒達に対して良い刺激になりますし……何より
     聞いた話ではあなたは文武両道。人格的にも非常に優れていると伺いました」

霧切仁「知っての通り、我が学園は選ばれた天才だけが通う学校。……しかし、逆を言えば自分は
     特別だとつい選民思想に陥りがちです。そのため、あなたのような方が来て良い手本と
     なって頂ければ、生徒達により強い自覚を与え正しい方向へ導けると思うのです」

霧切仁「希望ヶ峰学園は単なる天才養成学校ではありません! 各業界へ強い影響力を持つ、まさしく
     世界の“希望”を養成しているのです。我々大人は彼らを正しく教育する義務があります!」

K「そうですか……」


仁の強烈な熱意にKAZUYAは気圧される。そして、やけに強調される希望という言葉が少し気になった。


霧切仁「だから、もう一度お願いします。どうか我が学園に来て頂きたい。給料は勿論
     あなたの才能と実力に見合った額を用意させて頂いております。どうか……」


940: 2014/04/12(土) 02:09:58.34 ID:kcmE17aY0

そう言って仁は頭を下げる。だがKAZUYAの答えは既に決まっていた。


K「お断りいたします」

霧切仁「な、何故です……?!」

K「先程も申しましたが、私の本業は医者です。時間があれば一人でも多く患者を診たいのです。
  優秀な医者なら何も私でなくても世界中にごまんといますよ。それこそ市井の病院にもね」

霧切仁「ま、待って下さい! あなたでないと駄目なのです!」

K「他を当たって頂きたい。私はこれからオペが入っているので失礼させて頂きます。それでは」


そう言ってKAZUYAは部屋から去って行った。一人部屋に残された仁は、熱のこもった目で扉を睨む。


霧切仁「私は、諦めないぞ……絶対に……」

霧切仁(今、希望ヶ峰学園にはあなたの力が必要なのだ……生徒を守るためには!)



― とある日の昼休み 希望ヶ峰学園グラウンド ―


カキーン!


大和田「苗木! 守れ!」

桑田「ムダムダァ!」


ズザザザザッ!


苗木「痛ったぁー!」


941: 2014/04/12(土) 02:13:21.78 ID:kcmE17aY0

大和田「どうした?!」

桑田「うわ、やべえ……スパイクで足をバッサリ切っちまった……」

不二咲「痛そう…」

山田「血が出ていますよ!」

葉隠「桑田っちが無理してスライディングなんてするからだべ!」

大和田「あんなに野球なんてやりたくねえとか言ってたのにこのザマだ」

桑田「うっせーな! 一度やるってなった以上は勝ち負けにこだわんだよ、俺は!」

石丸「言い合いをしている場合ではない! 早く保健室に連れて行こう!」

桑田「……俺が連れて行くよ。わりいな、苗木」

苗木「あ、気にしないで。そんな大怪我じゃないっぽいし。イタタタ……」


・・・


歩きながら、ふと苗木は今朝教室で聞いた情報を思い出した。


苗木「……そういえば桑田君、保健室に新しい先生が来たって聞いた?」

桑田「え、マジで?」

苗木「うん。石丸君が言ってたよ。律儀に挨拶に行ったらしいから」

桑田「ふーん。美人だといいなぁ」

苗木「ハハ……」


942: 2014/04/12(土) 02:16:39.89 ID:kcmE17aY0

ガラッ。


桑田「すんませーん。野球してたら怪我しちゃったんスけど……」

K「…………」


ドオオオオオオオオオオンッ!

保健室の中には、マントを羽織った強面の大男が腕を組んで座っていた。
ギョ口リと目を動かすと入り口の二人を捉え、低い声で呟く。


K「……怪我か」

苗木・桑田「…………」


ピシャッ!


桑田「お、おい……苗木、見たか?」

苗木「う、うん。見たよ……」

桑田「なんかすっげえのがいた……大神みたいなヤツ……」

苗木「ここ、保健室で合ってるよね……?」


ガララッ。


943: 2014/04/12(土) 02:18:57.09 ID:kcmE17aY0

K「おい」

苗木・桑田「ヒッ!」

K「……何故ドアを閉める? 怪我をしているのだろう? 入れ」

苗木「あ、あの……」

K「何だ?」

苗木「もしかして、おじさんが……今度新しく来たっていう保健室の先生ですか?」

K「(おじ……)そうだ」

桑田「マジかよ……」


KAZUYAに圧倒されながらも二人は保健室に入った。


K「傷を見せてみろ。……フム、野球で怪我をしたと言っていたな?」

桑田「その……俺がムリに突っ込んじまったせいで、スパイクでザックリ……」

苗木「そんなに気にしないでよ。ちょっと痛いだけだからさ。ハハ」

桑田「でもよ……」

苗木「平気平気! あ、僕全然大丈夫なんで」

K「ウム。幸い、皮膚が少し切れただけだ。一応縫合しておく」

苗木「えっ?! 縫合?!」

K「ああ。軽傷だが、放置するには少し深いのでな。すぐに済む」


944: 2014/04/12(土) 02:21:27.28 ID:kcmE17aY0

桑田「え、でも縫うのとかちゃんと病院でやんなきゃマズイんじゃ……」

K「安心しろ。俺は単なる保健の教諭ではなく国家資格を持ったプロの外科医だ。縫合は慣れてる」

苗木「え、外科医?! 本物の?! なんでそんな人がうちの学校の保健室に……」

K「色々あってな。学園側からの依頼で短期間だがここで働くことになった。よろしく」

桑田「マジか! すげーな」


話しながらも、KAZUYAは部分麻酔を傷の周辺に打ち込み、麻酔が効いたのを確認して
手早く縫い上げていく。素人の二人にも恐ろしい早さだというのがわかった。


K「……よし、終わったぞ」

苗木「あ、ありがとうございます」

K「傷口から感染したら不味いから抗生剤と鎮痛剤を出しておく。ここに書いた通りに飲むように」

桑田「おお、すげー。普通に病院みたいじゃん」

苗木「なに先生って言うんですか?」

K「KAZUYAだ。Kでもいい」

桑田「え、なにそれ? 通り名かなんか? 普通名前聞かれたら名字言わね?」

苗木「く、桑田君! そこは察してあげようよ!」


希望ヶ峰学園に来る人間は一癖も二癖もある人間が多い。現に、自分達のクラスには偽名を
使っている人間がいるし、KAZUYAが名字を名乗らないならそこには何か事情があるはずなのだ。


945: 2014/04/12(土) 02:24:08.20 ID:kcmE17aY0

K「……名字は西の城と書いて西城だ」

苗木「西城KAZUYA先生って言うんだ。僕は二年A組の苗木誠って言います」

桑田「俺は桑田怜恩だ。よろしくな!」


威勢よく名乗る桑田の名前を聞いて、KAZUYAはどこかで聞いたことがあるなと思った。
しかし、こんなド派手な一度見たら忘れないような少年をどこで見たのだろうか。


K「桑田怜恩? どこかで聞いたような……」

桑田「お? 俺のこと知ってる感じ??」

K「すまんが、俺はテレビはニュース以外ほとんど見なくてな。芸能関係はあまり……」

桑田「え、なに?! 俺のこと芸能人かと思っちゃった?! いやぁ、残念。
    まだデビューはしてないんだよなぁ、これが!」ナハハ

苗木「そりゃあ桑田君は現役時代と外見が違いすぎるし、まずわからないよね」

K「現役時代?」

桑田「俺さぁ、超高校級の野球選手って呼ばれてて甲子園じゃスターだったんだけど……」

K「ああ! 通りで見覚えがある訳だ」


KAZUYAは加奈高で校医をしていた際、野球部の面倒をよく見ていた。
その流れで、強豪校や有力選手の知識は一通り頭に入っている。


K「しかし、こう……随分と変わったな」


946: 2014/04/12(土) 02:26:55.80 ID:kcmE17aY0

変わり果てたな、とは流石のKAZUYAも言えなかった。


桑田「今のほうが断然イケイケっしょ? そのうちミュージシャンになってブイブイいわせっから!」

苗木「桑田君、あんまり長居しちゃ先生の邪魔になるし、みんなも心配してるから早く戻ろうよ」

桑田「おう、そっか。じゃ、またなー」

K「無理しないようにな。お大事に」



― 2-A教室 ―


不二咲「あ、戻ってきたよ」

石丸「苗木君、大丈夫かね?!」

苗木「あ、みんな。心配かけてごめんね。全然大したことなかったから」


怪我をした苗木を心配してクラスメイト達が集まってくる。だが桑田は、既に治療の
終わった苗木についてより少し前に会った奇怪な校医について話したくて仕方がなかった。


桑田「聞いてくれよ! 保健室に新しく来た先生マジヤッベエから!!」

大和田「ああ? どうせすげえ美人だとか胸が大きいとかだろ。くだらねえ」

セレス「嫌ですわね。そんなところばっかり見て」

朝日奈「桑田サイテー」

江ノ島「ほれほれ、美人も巨Oも私様で間に合っておろうが。浮気は感心しないねえ」

戦刃「…………」←冷たい眼差し


947: 2014/04/12(土) 02:28:57.39 ID:kcmE17aY0

桑田「ちげーよ! なんでそんな話になってんだよ!」

石丸「第一西城先生は男性だぞ」

葉隠「なーんだ。男だべか」

山田「保健室の先生は綺麗なお姉さんでないとダメですよねぇ。創作でもお約束ですよ」

腐川「ふ、ふん! どうせ……アタシみたいなブスはお呼びじゃありませんよ……
    なによ! 美人美人って……ちやほやしちゃってさ…」グギギ

大神「……落ち着け。お主はその被害妄想をまずなんとかせよ」

桑田「とにかくヤッベエんだって! 大神よりデカくてマッチョだし、マント着てんだぜマント!」

舞園「マントですか?」

石丸「あのマントは頂けないな! 僕もさっき挨拶した際、風紀を乱すような格好は
    お控え下さいと申し上げたのだが……どうやらもう一度行く必要があるようだ」

苗木「せ、先生にも注意するの……?」

石丸「当たり前だ! むしろ先生だからこそ率先して風紀を守って頂かないと!」

大和田「流石だぜ、兄弟!」

不二咲「フフッ、石丸君らしいね」


たとえ相手が誰であろうと超高校級の風紀委員はブレない。そんな頑固な男に
義兄弟の契りを結んだ大和田と仲の良い不二咲は笑顔で賛辞を送る。


舞園「マントの大柄な男性……もしかして昨日会った人でしょうか?」

朝日奈「あ! あの人、保健の先生だったんだね! てっきり体育か格闘技の先生かと思ったけど」


948: 2014/04/12(土) 02:30:37.05 ID:kcmE17aY0

苗木「二人共、知ってるの?」

舞園「学園長室の場所を聞かれたので、連れて行ってあげたんです」

苗木「へえ~」

桑田「しかもよぉ、すげーんだぜ! ただの保健の先生じゃなくて本物の外科医なんだってさ!
    麻酔うって苗木の足の傷もぱぱぱーって縫っちゃてさ。しかもめちゃくちゃ早えのなんの」

霧切「……そう。二人共ドクターKに会ったのね」

苗木「うわ、霧切さん! いつの間に……」

霧切「今来たのよ」

苗木「黙って人の背後に立つのやめてくれない?!」

石丸「それで、ドクターKとは何のことかね?」

十神「ドクターKだと?! 馬鹿な……何故奴がこの学園にいる? それも校医だと……?」


石丸の大きな声で気付いたのか、十神が眉間に皺を寄せて近付いてきた。


山田「なんか、漫画の登場人物みたいな名前ですねぇ」

不二咲「十神君は新しい先生のこと知っているのぉ?」

十神「知っているも何もドクターKとは日本の誇る世界的名医だぞ……帝都大を主席で卒業後、国境を
    問わず世界的に活躍。その執刀技術は特Aランクであり『超国家級の医師』とも称される……」

セレス「まあ、超国家級の医師……興味がありますわね」


949: 2014/04/12(土) 02:35:23.04 ID:kcmE17aY0

十神「奴が行った手術で最も有名なのは、五年前にアメリカで行われたスペース・オペレーションだ。
    テレビや新聞で散々報道されていたし、お前たち愚民でも聞いたことくらいはあるだろう?」

葉隠「マジか! 一時期めっちゃ騒がれてたやつだべ!」

舞園「凄いです。そんな人が身近にいるなんて……!」


スペース・オペレーションとは――世界的なソ連のプリマドンナを救うため、地上では重力の関係で
不可能と言われた手術をアメリカの全面協力の元に、KAZUYAが宇宙空間で手術した時のことを指す。
その模様は全世界に放映され、この件がキッカケとなり冷戦は終結しソビエト連邦は解体されたのだ。


大和田「知らねえ。ニュース見ねえしな」

腐川「これだから不良は……新聞くらい読みなさいよ」

石丸「何と!! 確かにあの手術を行った医師は日本人だと聞いたが、西城先生であったのか!
    あの一件により戦争が起こらず冷戦は終結したのだぞ! まさしく歴史の生き証人だ!」

桑田「え、マジで……?」

苗木「そんな凄い人だったんだ、さっきの先生……(別の意味で凄そうではあったけど)」

十神「いずれは我が十神家の主治医になってもらうつもりだった。そんな男が何故ここに……」

霧切「相手の迷惑も顧みず学園長がしつこく頼んで特別に来てもらったみたいよ?」

江ノ島「ふーん」

江ノ島(あー、そういうことね。学園長も無駄なことしていじらしいわー)


霧切の言葉を聞いて江ノ島の瞳が一瞬怪しく光ったが、そのことに気付くものはいない。


950: 2014/04/12(土) 02:39:34.56 ID:kcmE17aY0

苗木「え、なんで?」

霧切「さぁ? やたらとその時の苦労話や手柄を話してきたけど相手にしなかったから」

朝日奈「霧切ちゃん……もう少しお父さんに優しくしてあげなよー」

霧切「学園長と私はあくまで教師と生徒の関係よ。それ以上でもそれ以下でもないわ」

苗木「あ、はは……(学園長も大変だな……)」

桑田「にしてもマジかぁ。あのオッサン、そんなマキシマムすげぇヤツだったのかよ。
    確かにタダモノじゃないオーラはプンプンしてたけどさー。顔めっちゃ濃いし」

大神「……強そうだったか?」

桑田「おう! そりゃあもう。片手で人間の頭潰しちゃいそうな感じ」

大神「そうか……今度手合わせにでも行ってみるとしよう」

江ノ島「お姉ちゃんも行ってみたらー?」

戦刃「うん。少し興味あるかも。今度装備を整えて……」

苗木「いやいやいや、万が一保健の先生に怪我させちゃったら手当する人いないからね?!」

石丸「安心したまえ! 一つ上の学年には超高校級の保健委員殿がいらっしゃるぞ!」

セレス「……そういう問題じゃありませんわ」


そうして苗木のクラスはしばらくKAZUYAの話題で持ちきりとなったのだった。


951: 2014/04/12(土) 02:53:53.52 ID:kcmE17aY0

眠いのでここまで。前半全部落とすつもりだったのに……三部構成にするか

やっと本編にK以外のキャラを出せましたよ!高品先生正式出演おめでとう
ちなみに、作中で書いたスペース・オペはちゃんと原作でありますが、冷戦終結とか
その辺はこのSSオリジナルです(原作でもそれっぽいこと匂わせてはいるけどね)。
現実のソ連解体は1991年のことですが、この世界では恐らく2001年くらいなんでしょう
ちょうどドクターKとダンガンロンパの中間の年代になるし

次の投下はまた今度。後半はまんまドクターKのノリです。


>>931
こんな冗長なSSを途中から読み始めてくれる人がいるとは感謝です!

960: 2014/04/29(火) 23:00:23.77 ID:XeiYBAtx0
酉変わってるけど乗っ取りじゃないよ!1だよ

ちなみに投下前にどうでもいい小話を一つ。
家探しパート2を行いやっと久しぶりにスーパードクターKを全巻通して読み直したのですが
恐ろしいことに気がつく。KAZUYAって人を抱える時はほぼ例外なく必ず横抱きなんですね…

相手がたとえオッサンやジーさんでもお姫様抱っこ…まあ、よくよく考えたらマントで
おんぶってしづらいしKAZUYAくらいデカくて筋肉質だとその方が効率がいいんだろうけど、
顔に傷のあるオールバックのゴッツイヤクザを姫抱きしてるのはなかなか衝撃的な絵でしたね
…そういえば男の患者の手を握って耳元で励ましてたこともあるなぁ

1の脳内イメージだと舞園江ノ島は姫抱っこで石丸は背負って運んだつもりだったが、
こりゃ間違いなく横抱きだわ。ついでに今後もしさくらちゃんや大和田や葉隠が倒れても
間違いなく姫抱っこっすよ…原作がそうなのであって断じて1が腐っている訳ではない


投下

961: 2014/04/29(火) 23:05:08.55 ID:XeiYBAtx0

・・・


放課後。十神以外の男子が集まって何やら賑やかに話している。


桑田「明日休みだしどっか遊び行こうぜー!」

大和田「カラオケでも行くか」

苗木「あ、ごめん。僕は足怪我してるし今日はもう部屋に戻るね」

桑田「そうだった。わりい……」

苗木「いいよ、気にしないで。じゃあまた」


そう言って、苗木は去って行った。


桑田「……苗木に悪いし、今日は出かけんのなしにすっか」

葉隠「じゃあさ、その噂のスーパードクターってヤツに会いに行ってみねえか?」

不二咲「いいねぇ。とっても強そうなんでしょう? 僕、興味あるなぁ」

山田「しかし、怪しいですねぇ」

石丸「何がだね?」

山田「だっておかしくないですか? いくら希望ヶ峰学園が凄いって言っても、そんな
    偉い高名なお医者さんがわざわざ高校の校医になんかなってくれますかねぇ」

大和田「大方、宣伝かなにかのために大金積んで呼び寄せたんだろ」

石丸「お金で動くような先生には見えなかったが」


962: 2014/04/29(火) 23:08:55.81 ID:XeiYBAtx0

山田「しかも桑田怜恩殿によれば、その方は大神さくら殿以上の筋肉を持っていて日頃から
    マントを着用……あまりにも怪しすぎます。もしや、なんらかの工作員なのでは?」

葉隠「事件の香りだべ!」

石丸「ハッハッハッ、まさか!」

桑田「ありえるな! どう見てもヤバそうだし、クリミナルなことしてそうだぜ!」

大和田「そういや霧切のヤツが、学園長がムリ言って呼んだみたいなこと言ってたよな。
     医者なんて他にもたくさんいるのに、なんでドクターKじゃなきゃマズいんだろうな」


ここで、面白いことを思いついたと言わんばかりに桑田がイタズラっぽい笑みを浮かべる。


桑田「……なあ、ちょっとあのオッサンの後つけてみねえか?」

山田「いいですねぇ。なんらかの組織と希望ヶ峰学園が共同してなにかやっているのかもしれません」

葉隠「これは秘密結社……もしくは国際的なシンジケートが関わっている予感がするべ!」

石丸「な、何を言っているのだ! 先生の後をつけるだなんて僕が許さないぞ!」

大和田「こいつらが一度言い出したら聞かねえよ。ま、いいんじゃねえか? 確かにどんなヤツか
     俺もちょっと気になるしよ。うちの学校の先公が変な店とか出入りしてたらマズイだろ?」

石丸「むうぅ。しかしだな……風紀委員としては他人の尾行など許可する訳には……」

桑田「おーし、善は急げだ! 行くぜー」

山田「待って下さいよー」

葉隠「山田っち、カメラ持ってくべ! 変なことしてたら写真をとって後でユスるべ!」

石丸「あ、コラ! 待たないか君達!!」


バタバタと慌ただしく教室を駆け出していく四人を、不二咲はポカンと見ている。


963: 2014/04/29(火) 23:13:32.85 ID:XeiYBAtx0

大和田「……で、お前はどうすんだ?」

不二咲「あ、えっと、その……僕も行く! なんだか心配だし」

大和田「だな。いくら兄弟でもあの三人押さえるのは大変だろうし。手伝ってやっか」


そして二人も早足で教室を出て行ったのだった。


十神「フン、全く相変わらず馬鹿なことをしているな」

腐川「そうですねぇ。まったく十神君以外の男子は馬鹿ばっかりよ!」


腐川はクールな十神を賞賛するが、それでも十神は機嫌悪く鼻を鳴らした。


十神「…………フン!」

十神(たとえ俺が断るとわかりきっていたとしても、声ぐらいかけるのが礼儀じゃないか?)


当たり前のように自分が数に含まれていなくて、十神は少し拗ねていたのだった。


               ◇     ◇     ◇


校門前から少し離れた路地に、六人は集まっていた。


桑田「出てきたぜ!」

大和田「あいつか……確かにデケえな」

不二咲「一つ上の弐大先輩と同じくらいありそうだね」


964: 2014/04/29(火) 23:19:03.11 ID:XeiYBAtx0

石丸「みんな、今ならまだ間に合うぞ。尾行などやめるべきだ!」

葉隠「不審者オーラ全開というか、見るからに怪しすぎるべ」

山田「葉隠康比呂殿はあまり人のことを言えないと思いますが……」

石丸「人の話を聞けー!」

山田「シーッ! 石丸清多夏殿、静かに!」

桑田「それにしても、あんな格好で外出歩いてよく職質されないよなー」

大和田「おい見ろよ。今普通に交番の前通ってったっぜ。オマワリのヤツ職務怠慢じゃねえか」

葉隠「相手の立場になって考えてみるべ。あんなゴツくて怖いの相手に、オメーら声かけるか?」

桑田「あームリだわ」

山田「氏を覚悟しますね」

大和田「ムリだな。……あ、いや俺は別にビビってねえが一般論でな!」

石丸「うぅ……兄弟まで僕を無視するとは……」

不二咲「元気出して、石丸君」


なんとかして尾行をやめさせたい石丸であったが、一度好奇心に火が着いた
遊びたい盛りの男子高校生数人を止めるなど出来ようはずもなかった。


桑田「よし、俺達も追いかけるぞ!」

石丸「だから尾行など風紀に反していると先程から……!」

大和田「いい加減諦めろよ、兄弟」


965: 2014/04/29(火) 23:24:37.06 ID:XeiYBAtx0

葉隠「ま、あんなデカくて目立つ格好してたら見失なうってことはなさそうだな」

不二咲「ほら、石丸君も行こうよぉ!」グイグイ

石丸「むうぅ……」


・・・


文京区にある吉本ビル。一階にはZ薬局が入り、二階には美容室フラワー、
そして三階には高品の経営する高品診療所が入っている。


葉隠「平凡な雑居ビルに入ってったべ」

桑田「これじゃあ何階に用があんのかわかんねえなぁ。美容院は間違いなく違うだろうけど」

山田「雑居ビル! なんらかの組織の隠れ蓑にはピッタリです。実に怪しい」

大和田「そうかぁ? 単に店のどれかに用があんだろ」

不二咲「多分、三階に病院があるからそこに用があるんじゃないかなぁ?」

石丸「高品診療所、か。医者が通院とは考えづらいから、知り合いなのかもしれないな」

大和田「で、どうするよ? ここで待ってもしばらく出てこねえんじゃねえか?」

山田「裏口を調べましょう!」

石丸「馬鹿を言うな! みんなもう気は済んだだろう! 何を言われても今日は帰るぞ!」

桑田「えぇ~。こっからが面白えトコじゃんか。イインチョは頭かてえんだよ!」

石丸「うるさい! これだけの人数が道のド真ん中にいたら公共の迷惑だ。ほら、帰るぞ!」


966: 2014/04/29(火) 23:28:07.74 ID:XeiYBAtx0

まだ不満が残るメンバーを石丸はグイグイと引っ張って行く。
仕方がないので帰ろうと全員が踵を返した時だった。

ドンッ!


不二咲「きゃっ」


たまたま通りがかった青年と不二咲が衝突し、不二咲が尻もちをついてしまった。


石丸「あ!」

大和田「不二咲!」

「オー?! ソーリー! 大丈夫かい?」


衝突したのは白衣をビシッと着こなした一人の青年医師だった。勿論、ジョージである。
ジョージは大きな往診用バッグを地面に放り、慌てて不二咲を立ち上がらせる。


ジョージ「ごめんね。怪我はなかっタ?」

不二咲「あ、大丈夫です。こちらこそ、ちゃんと前を見てなくてごめんなさい」

ジョージ「いやいや、こちらこそ。……君達、このビルに何か用でもあるのかナ?」

桑田「いや、えーと、特に用はねーけど」

石丸「ム……その服装、もしやあなたはお医者様ですか?」

ジョージ「イエス! このビルの三階にある高品診療所っていう所で働いているんだ」


967: 2014/04/29(火) 23:34:33.68 ID:XeiYBAtx0

桑田「へー、オッサンも医者なワケね(まあ、こっちはいかにもって感じだけどな)」

ジョージ「オ、オッサン……?!(ボク、まだ若いのに……)」ガーン


オッサン呼ばわりを受けてショックを受けるジョージだが、ふと思いついて名刺を取り出した。


ジョージ「君達この近くの高校の子かな? これをあげよう。もし急病人が出たらすぐ
      ここに連絡するといい。勿論、普通の怪我や病気で来てもらってもいいから」

ジョージ(フフフ、研究者のボクだけど営業だって出来るのサ!)


そう言ってジョージは気前よく全員に名刺を配っていく。


不二咲「あ、ありがとうございます」

ジョージ「ちなみにここだけの話だけどネ……うちの診療所って時々凄い先生が来るんだ」

石丸「凄い先生?」

ジョージ「そうそう。所長の高品先生のお友達で時々うちに手伝いに来てくれるんだけど、もう
      とにかく凄腕の先生でネ。だから何か困ったことがあったら気軽に相談に来ていいよ」

ジョージ「それじゃあね。気をつけて帰るんだよ、シーユー!」


そう言うと男はビルの中へ消えていった。


「…………」

葉隠「どうやら、不二咲っち達の言った通り知り合いの医者に会いに来ただけみてーだな」

石丸「ほら見ろ! だから言ったではないか!」


968: 2014/04/29(火) 23:39:16.80 ID:XeiYBAtx0

大和田「なーにが怪しい組織だよ。まったく」

山田「ぐう、絶対裏の繋がりとかありそうな気がしたのにぃぃ」

桑田「ちぇー、ムダ足かよ。……ま、いっか」


そして一同は学園に帰るため、駅へと向かう。


桑田「それにしても、さっきのオッサン妙ななまり方してたなぁ。どこ出身だよ」

不二咲「純粋な日本人の人じゃないみたいだよ。ほら」


不二咲は先程もらった名刺を見せる。


大和田「あいつ、外人だったのか。どう見ても日本人にしか見えなかったのによ」

石丸「ハーフや日系の外国人の方なのかもしれない。しかし、大病院ならまだしも
    あんな市井の診療所に外国の方がいるというのはなんとも珍しい感じだな」

山田「やっぱり、怪しいですよ! 国際的な組織が関わっているのかも……」

桑田「もうそれ飽きた。さっさと帰ってゲームの続きでもするわ」

葉隠「言い出しっぺがこれだともうなんも言えねえな……」


ワイワイガヤガヤと高校生らしい賑やかさで一同は駅に入り、ホームで電車を待つ。


不二咲「あれ?」

大和田「どうした、不二咲?」


969: 2014/04/29(火) 23:44:06.13 ID:XeiYBAtx0

不二咲「あそこのおじさん、なんだか苦しそうじゃない? 胸を押さえてるみたいだし」

桑田「二日酔いかなんかじゃねえの? 倒れてるワケじゃねえし大丈夫だろ」

石丸「大変だ! ちょっと様子を見てくる!」ダダダッ!


言うやいなや石丸が飛び出して行ってしまった。


葉隠「早えーな」

桑田「さーすがイインチョ。しょうがねえなぁ……」


石丸の後を追うように五人もぞろぞろと向かう。


「ううう……」

石丸「大変だ、みんな! こちらの方は胸が非常に苦しいらしい」

山田「胸?! まさか心臓発作とかですか?!」

大和田「やべえな……」

桑田「え、ちょ、マジな話? 駅員とか呼んだ方が良さげ?」

葉隠「俺駅員呼んでくるべ。ちょっとそこで待っててくれ」


バタバタと葉隠が改札に向かって走って行く。


970: 2014/04/29(火) 23:47:49.25 ID:XeiYBAtx0

石丸「と、とりあえず背中を擦ってみよう」

不二咲「大丈夫ですか……?」

男「すみません……うう……」


その後、すぐに葉隠が駅員を連れてきて男を駅員室に運んだ。


駅員「ご協力ありがとうございます」

石丸「いえ。それより、救急車はいつ頃来るんですか?」

駅員「それが、この時間帯って結構道路が混むんですよ……。すぐには来れないとのことです」

大和田「おいおい、なんかめっちゃ顔色わりいぞ。早くしないとマズイんじゃねえのか?」

不二咲「ねえ、みんな……」


その時、不二咲がもう一度名刺を取り出した。


不二咲「さっきの病院ならここからすぐだよね? 電話して、連れて行ってあげたらどうかな?」

石丸「ウム! 診察時間は終了しているが、西城先生も先程の先生もさっき会ったばかりだから
    まだ診療所に残っている可能性が高い。どうすればいいか聞いてみようではないか!」

不二咲「じゃあ、掛けてみるね」


そして緊張しながら不二咲は高品診療所に電話を掛けた。


971: 2014/04/29(火) 23:52:27.89 ID:XeiYBAtx0

『高品診療所ですが』

不二咲「(! さっきの人じゃない)えっと、実は僕達A駅で具合の悪い人を見つけて、
     駅員さんに聞いたら救急車がすぐに来れないみたいで、どうしたら……」

『症状を詳しく教えてくれ!』

不二咲「顔色が悪くて、胸の痛みを訴えていて、汗が凄いし、呼吸もツラそう、あと吐き気も……」

『胸以外に痛む場所はないか?』

不二咲「え? あの、胸以外に痛い場所はありますか?」

男性「左腕と、あと背中も少し……」

不二咲「左腕と背中も痛いそうです」

K(間違いない……症状からして急性心筋梗塞だ!)


心筋梗塞:心臓に酸素や栄養を運ぶ冠動脈が何らかの理由で狭窄(狭まること)や閉塞を起こし、心筋が
      壊氏してしまう状態を言う。代表的な虚血性心疾患の一つであり、早急な対処が必要である。
      PCI(経皮的冠動脈形成術)とCABG(冠動脈バイパス移植術)の二つの治療法が代表的(後述)。

虚血性心疾患:心臓が虚血(血が十分に行き渡らない)状態になるため、そう呼ばれている。
         虚血状態であるが壊氏にまで至らない前段階の状態が狭心症である。

症状:前胸部中央に締め付けられるような感覚があり、胸全体、頸部(けいぶ:首)、背部、左腕、
    上腹部等が痛む。付随症状として冷や汗、吐き気・嘔吐、呼吸困難がある場合もある。
   (ちなみに、糖尿病患者や高齢者は痛みがない場合もあるので様子がおかしかったら注意)


972: 2014/04/29(火) 23:56:17.70 ID:XeiYBAtx0

K『(A駅ならここから近い)ここまで運べるか? 無理なら迎えに行くが』

不二咲「えっと、診療所まで運べるかって聞かれてるけど……」

大和田「任せろ。俺が背負ってく」

不二咲「力の強い人がいるから大丈夫です」

K『わかった。では準備をして待っている。なるべく急いでくれ!』プツリ!

不二咲「急いでくれって!」

大和田「おおっし! 走るぞオラアアアア!」

駅員「頼んだぞ、君達!」


・・・


ガラガラ……


桑田「すんませーん!」

高品「例の患者さんか?!」バタバタ

斉藤「高校生? どうかしたの?」

山田「えーとですね」

葉隠「俺達、さっき駅で……」

K「お前達?! まだいたのか!」


973: 2014/04/30(水) 00:00:40.16 ID:+X08FbMT0

桑田「え、まだいたのかって……? まさか後ツケてたのバレてた?!」

K「当たり前だ! あんな人数で大声で話していて気付かない訳がないだろう!」

高品「えっと……Kの知り合いの子ですか?」

K「希望ヶ峰の生徒だ。全く、人の後をツケるだけでもけしからんというのに
  まさか診療所にまで押しかけてくるとは。今は忙しい時だというのに……」

ジョージ「例のクランケは来ましたか?! って、アレ? さっきビルの前にいた子達だ」

高品「? ジョージ、知ってるのか?」

ジョージ「ええ、ちょっと……」


ガラガラ! バタバタバタ!


大和田「着いたぜ!」

石丸「しっかりして下さい!」

不二咲「頑張ってぇ!」

K「ム! お前達は……!」

石丸「西城先生! 急病人を連れて来ました!」

K「! さっき電話をしてきたのはお前達だったのか!」


974: 2014/04/30(水) 00:05:50.13 ID:+X08FbMT0

高品「君! その人をこっちまで運んで。斉藤君! 心電図とエコーだ!」

斉藤「はい!」

K「やはり、急性心筋梗塞のようだな。幸い意識は消失していない。検査と平行してMONA(モナー)だ!」


MONA:モルヒネMorphine、酸素吸入Oxygen、硝酸薬Nitrate、アスピリンAspirinの頭文字を取ったもので
    心筋梗塞の初期治療である。投下順は実はモルヒネが最後のONAM。酸素吸入は酸素不足の心臓に酸素を
    送るため、硝酸薬は血管拡張作用、アスピリンは抗血小板凝固作用(血をサラサラにする)を持ち、
    少しでも心臓に血液を送る効果を期待している。痛みが引かない場合モルヒネ(鎮痛剤)を投与する。

何だか慌ただしい雰囲気になり、生徒達にも緊張が走った。


石丸「あの人は大丈夫なんですか?!」

K「話は今度だ! お前達はもう帰れ!」

ジョージ「症状からして、恐らく心臓の動脈に血栓が出来ているから再灌流療法をする必要があるネ」

桑田「さいかんりゅー療法?」

ジョージ「簡単に説明すると、あの人の心臓の血管は今ほとんど血が流れていない状況だから、
      薬を打ったりカテーテルを使って詰まった血管をまた流れるようにするンだよ」


975: 2014/04/30(水) 00:10:16.56 ID:+X08FbMT0

再灌流療法:血栓溶解剤を使った血栓溶解療法と、カテーテルを使って冠動脈にバルーン等を通し、
       直接狭窄部位や閉塞部位を広げる冠動脈インターベンション(PCI)のことを指す。

カテーテル:医療用に用いられる中空の柔らかい管。点滴や体液の排出に使ったり、血管の奥深くまで
       挿入して直接心臓部まで物を運んだりと医療の現場では幅広く用いられている。


大和田「……連れてきてなんだけどよ、こんな所で治療とか出来んのか?」

石丸「ここに専門の方はいらっしゃるのですか?」

ジョージ「高品先生は腹腔外科が専門で、ボクに至っては研究職がメインだヨ」

山田「ちょ、連れてきた意味なかったんじゃ……」

高品「大丈夫! 僕もジョージも専門外かもしれないけど、ここには全身が専門の凄い先生がいるから」

斉藤「そうですよね、K先生」

K「安心しろ。あの人は絶対に救って見せる。俺に任せろ!」


検査後。


ジョージ「心電図でST値の上昇を確認。間違いなく心筋梗塞ですね」

K「発作が起きてからすぐに連れて来られたため、ほとんど心筋の壊氏は起きていないようだ」


976: 2014/04/30(水) 00:19:28.89 ID:+X08FbMT0

高品「ツイてますね。狭窄も一箇所ですし、CABGの必要はないでしょう。
    これなら薬で散らしてCCUか胸部CTのある病院に搬送すれば……」


CABG:冠動脈バイパス移植術のこと。いわゆる一般的なメスで胸を開く手術であり、別の部位から
    調達した血管でバイパスを作る(冠動脈は大動脈から伸びている血管なので、詰まっている
    部分より先の部分と大動脈とを直接血管で繋げて迂回路(バイパス)を作る手術である)。

CCU:冠疾患集中治療室。循環器系、特に心臓血管系の疾患を抱える重篤患者を対象とした治療室のこと。


K「いや。この時間だと道路が混んでいる。とりあえず俺がPOBAだけやって、それから運ぼう」


PCI:経皮的冠動脈形成術。経皮的冠動脈インターベンションとも呼ぶ。血管から直接カテーテルを
   冠動脈まで通し、病変部をバルーンで広げたり直接削り取ったりする治療全般のことを指す。

POBA:PCIの中でも特にシンプルでスタンダードな治療法であり、バルーン(風船)を用いる物を指す。


ジョージ「い、今ここでですカ?!(相変わら何でも出来る人だなァ……)」

K「俺なら出来る! カテーテルとガイドワイヤー、それにバルーン準備!」

高品「はい!」


977: 2014/04/30(水) 00:29:49.57 ID:+X08FbMT0

K「局所麻酔投与、シースを血管に挿入、次はカテーテルだ」


シース:カテーテルを出し入れするために、血管に入れる管のこと。


K「冠動脈入口にカテーテルが到達したらリードとなるワイヤーを通し、バルーンを進め……拡張!」


血栓が硬くない場合、まず細いワイヤーを使って血栓部を貫通させる。次にそのワイヤーを使って血栓の
中心部にバルーンを運び、そのバルーンを膨らませることによって血栓ごと血管を押し広げるのである。
こうすることによって血栓は膨らんだ風船で押し潰れ、再び血流が通るようになるのだ。


高品(流石Kだ。うちにはろくな設備もないのに)

高品「ステントは流石にここでは無理ですから、後日寺沢病院で詳しく検査して必要があればですかね」

K「ウム」


ステント:筒の形をした網状の金属である。通常はPOBAの後にステントを設置することで再発を防ぐ。

KAZUYAの処置によって詰まった血管に再び血流が流れ、最悪の状況は去る。
四人の医療関係者達は火急の危機を脱したことで一息ついたのだった。


978: 2014/04/30(水) 00:48:52.01 ID:+X08FbMT0

・・・


手術を終えたK達が部屋を出ると、そこでは生徒達が不安げな顔をして待っていた。


K「お前達、帰れと言ったのにまだいたのか」

石丸「西城先生! さっきの方は大丈夫ですか?!」

高品「大丈夫。Kが詰まった血管を広げる処置をしたからね。念のためにこれから
    ちゃんとした病院に行って詳しい検査をするけど、もう命に別条はないよ」

不二咲「良かったぁ」

大和田「やったな!」

高品「いやぁ、お手柄だったね、君達! 心筋梗塞はスピードが命なんだ。処置が早ければ
    早いほど助かる確率が上がるし、後遺症もほとんど残らず復帰出来るんだよ」

桑田「ほーん。そーなのか」

葉隠「もし駅員に任せてさっさと帰ってたら……」

山田「救急車もすぐに来ないし、来ても受け入れ先が見つからなかったら一大事でしたね……」

ジョージ「ボクが渡した名刺が早速役に立って何よりデス!」

高品「ジョージ、名刺なんていつ渡してたんだ?」


そこでジョージがビルの前にいた高校生に名刺を配った話を披露すると、その場に少し気まずい空気が流れた。


ジョージ「アレ……どうかしましタか?」

高品「いや、はは(まあ、高校生ってこういうとこあるからな)」


979: 2014/04/30(水) 00:50:47.47 ID:+X08FbMT0

K「フゥ……まあ、勝手に人の後を尾行したことは今回のことに免じて許してやる。
  ただし、次にまた同じようなことをすれば流石の俺も怒るぞ」

石丸「その件につきましては風紀委員でありながらみんなを止められなかった
    僕に全責任があります。ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした!」ピシッ!

K「い、いやそこまで謝らなくてもいいが……とにかく、お前達が助けた人に会ってあげなさい」


腰を90度に曲げてビシリと謝罪する石丸に若干押されながらKAZUYAは生徒達を診察室にいれた。


斉藤「あ、さっきの高校生達ですよ」

男性「ありがとう。君達のおかげで助かったよ」

不二咲「えへへ、助かって良かったぁ」

石丸「お大事になさってください」

斉藤「あら? 君達……って、あぁーっ!!」

高品「ちょっと?! いきなり叫んだりしてどうしたんだよ、斉藤君! 患者の前だぞ」

斉藤「あ、ご、ごめんなさい……いえね、この子達どこかで見た顔ばかりだなって
    思ってたら、今K先生が希望ヶ峰にいるのを思い出しちゃって……」

ジョージ「あぁーっ! と、いうことは……!」

高品「君達みんな超高校級の学生ってことー?!」

桑田「お! なんか俺達スポット当たってる感じ?」

山田「みたいですねぇ」グフフ


980: 2014/04/30(水) 00:53:02.87 ID:+X08FbMT0

斉藤「えっと、変な髪型の君! テレビで見たことあると思ったのよ。なんか凄い占い師でしょ?」

葉隠「変な髪型は余計だけど、俺の占いは三割当たる!」

高品「あ~、その決め台詞聞いたことあるかも!」

斉藤「やっぱり! 天才占い師とか占い界の超新星とかしょっちゅう週刊誌に載ってるわよ!」

ジョージ「あ、そういえばそちらのお嬢さんはボクの愛読してるパソコン雑誌で見たことがありマス!
      確か世界でもトップクラスの実力を持つ天才高校生プログラマーだったかな」

不二咲「えへへ。なんだか、恥ずかしいなぁ」

大和田「ちなみに不二咲はどう見ても女だがれっきとした男だ」

高品・ジョージ「な、なんだって~!」  斉藤「うそでしょ~?!」  K「ッ?!」ギョッ

葉隠「このやりとりはもはやお約束となりつつあるべ」

斉藤「えーっと、あとの子は……ごめんなさい。知らないんだけど、名前を聞けばわかるかも」

桑田「俺のことはきっと知ってるぜ。甲子園の大スター桑田怜恩っていやぁ大体通じる」

高品「えええええっ?!! く、桑田君てLL学園のあの桑田君?! ウソだろう?!」


高品はこう見えて高校時代は元野球部であり、今も母校の野球部に顔を出すほど熱心な高校野球の
ファンである。当然桑田のことはよく知っており、その変貌ぶりには驚かざるを得ない。


高品「えっと、なんというか……驚いたよ」

高品(硬派な高校球児が何をどうしたらこんな風になっちゃうんだろう……)

桑田「へっへー! サイン欲しいならあげるぜ!」

山田「あれ絶対別のことで驚いてますよね」ヒソヒソ

葉隠「このやりとりも大体お約束だな」ヒソヒソ


981: 2014/04/30(水) 00:56:45.37 ID:+X08FbMT0

斉藤「あとは……君は見たまんまね。ちょっと有名な暴走族かヤンキーなんでしょう?」

大和田「おう! 超高校級の暴走族って呼ばれてるぜ」

不二咲「大和田君は日本で一番大きい暴走族のリーダーをやってるんだぁ」

高品(暴走族までいるとか、希望ヶ峰のスカウト基準って一体どうなっているんだ……)ゴクリ…

ジョージ「で、君はなんなのかな?」

山田「デュフフ、いよいよ拙者の番が。僕の名前は山田一二三。超高校級の同人作家、と呼ばれていますぞ」

ジョージ「ドージン? って何でスか?」

斉藤「私もよくわからないけど、とにかく売れっ子の作家ってことじゃない?」

山田「その通り! 僕の一番の伝説と言えば、かつて文化祭で同人誌を一万部売り上げたことですな!」

高品「ひゃあ! ぶ、文化祭で一万部?! それは凄い!」

山田「グフフ……コミケ界の帝王にして当代随一の人気作家、ですので」メガネキラーン!

斉藤「流石希望ヶ峰ね! やっぱり凄い子が揃ってるわ。で、最後の君はなにをやっているの?」

石丸「僕は超高校級の風紀委員です!」

高品「ふ、風紀委員?? どんな活動をしてるんだい?」

石丸「学園の内外を問わず目につく限り風紀を守っています!」敬礼!

「えーと……」


あまりに微妙すぎて一同は反応に困るのだった。


982: 2014/04/30(水) 01:02:06.30 ID:+X08FbMT0

石丸「うぐぅ……風紀を守ることの大切さを大人の方にも分かって頂けないなんて……」

大和田「元気出せよ、兄弟」

不二咲「あ、あのねぇ、石丸君はスッゴく頭が良くて全国模試ではいつも一番なんだよぉ!」

葉隠「五年連続トップで全科目満点らしいべ」

高品「! そ、それは凄いね!」

斉藤(凄いけど、なんで風紀委員なのよ。超高校級の優等生とかガリ勉の方が合ってるんじゃ……)

ジョージ「将来何になりたいのかな? 学者や研究者になるのならクエイドに紹介したいヨ」

石丸「僕の夢は政治家になってこの国を良くすることです!」

K「ほう、大した夢だな」

大和田「兄弟のじーさんは元総理なんだぜ。なんつったっけ。石丸……寅之助?」

斉藤「知らないわ。そんな人いたかしら?」ズバッ

ジョージ「すみません。ボクは日系アメリカ人なもので日本の政治家はあまり……
      でも凄いじゃないか! 総理大臣のお孫さんだなんて!」

K「…………」

高品「ええっと……」

高品(よりによって汚職事件起こした総理じゃないか……その反動で真面目になったのかな……)

桑田「まあ汚職して失脚しちゃったらしいけどな」

一同「…………」

石丸「…………うぅ」ドヨーン


983: 2014/04/30(水) 01:07:06.80 ID:+X08FbMT0

大和田「オメエは余計なことをよおお!」

桑田「だって事実じゃんか!」

不二咲「石丸君、元気出してぇ!」

石丸「そうだ。事実だ。だからこそ僕は怠けた天才とは違う、誰よりも厳しい努力を……」ブツブツ


場が混乱してきたので、一区切りつけようとKAZUYAが間に入る。


K「お喋りはここまでだ。学生が出歩くにはもう遅い。早く帰りなさい」

高品「K、途中まで送って行ってあげたらどうだい? 患者さんは僕らが病院まで連れて行くから」

K「しかし……」

斉藤「最近なんだか治安も悪くなってきてますしねぇ」

ジョージ「世界中でテロが頻発してマス。この東京だって例外ではないかもしれませんよ」

K「……そうだな。全員寮住まいだから学校まで送ればいいし、そうするか」

大和田「別に俺がいるから問題ねーぞ?」

石丸「兄弟! 折角先生がこう言ってくださるのだから、ご好意は受けるべきだ」

不二咲「……僕も先生と色々お話してみたいなぁ(強そうだし)」


こうして、KAZUYAは六人を希望ヶ峰学園まで送って行くことにした。石丸は先程の治療や
医療について興味が有るのかKAZUYAに詳しく話を聞き、不二咲もそれを熱心に聞いている。
他のメンバーは高校生らしく、今興味のある話を賑やかに話しながら帰って行った。


984: 2014/04/30(水) 01:11:23.85 ID:+X08FbMT0

エピ0はここまで。

PCIとPOBAの説明の後に「普通に開胸するバイパス手術は患者に対する負担が大きいため、
PCIが可能な時はPCIでの治療が前提である。」って文章つけといてくだしあ


すっかり遅くなってしまいましたが中編でした。恐ろしく切りの悪い所で終わる上、
大した内容でもないのにまさかの後編は次スレとか\(^o^)/

なんでこんな遅くなったかというと、普通に一般人が遭遇しうるメジャーな病気というだけで
安易に心筋梗塞を選んで調べていたら、恐ろしく奥の深い病気で理解してまとめるのに一週間以上
かかってしまったからです。手術一発でなんとかなるイレウスとか盲腸にしときゃ良かったよ

あと完全な余談ですが1はドクターKのサブキャラだと谷岡先輩とジョージが好きです。
谷岡先輩は普段はひょうきんなのに実は割りとクールというか、仕事に対して淡々と
してる所がいかにもお医者さんって感じでいい。ジョージは普通にあの愛嬌ある所が好き。
真船先生の描くオールバックキャラはなんともいえない男の色気があるよね

986: 2014/04/30(水) 01:53:38.19 ID:4yLu3Wow0

もうちょっとだけ続くんじゃ。恐らくみんなが気になっていたであろうスキル表。


[ 舞園 さやか(駒) ]

通常スキル

・集中力
・記憶力
・直感
・瞬発力
・対人交渉
・ムードメーカー:場の空気を作り出せる。

特殊スキル

・歌姫の度胸:いざという時大胆な行動を取れる。
・女優の演技力
・エスパーですから:高い人間観察能力による読心術が使える。

スペシャルスキル

・脱出の為の駒:感情を頃し駒に徹することで全スキル及び能力を1,2倍にする。


〈 m e m o 〉

元々高い対人能力を誇っていた舞園だが、ムードメーカーが加わり組み合わさることによって
更に強力に場のコントロールが出来るようになった。Sスキルにより全性能が大幅に強化され、
スキル効果には書かれていないがKAZUYA・苗木・霧切の立ち居振る舞いをコピーすることが
出来る(あくまで振る舞いのみで固有能力は完全にはコピー出来ずやや劣化する)。


987: 2014/04/30(水) 01:58:22.99 ID:4yLu3Wow0

[ 石丸 清多夏 ]

通常スキル

・集中力
・観察力
・発言力:意見を主張した時に通る割合が1,5倍。
・カリスマ:周囲の人間を指示して動かせる。
・護身術
・KY×:空気が読めない。場の雰囲気を悪くする。

特殊スキル

・鬼気迫る努力:どんなスキルも努力することによって学習可能である。
・凄まじい気迫:一時的に全能力を上げられる。また場の支配をする。
・鋼の忍耐力
・全国一位の頭脳
・超高校級の不器用×:何をやっても最初は失敗するしなかなか上手くならない。


〈 m e m o 〉

KAZUYAを除けば全メンバーの中で最多のスキルを誇り、一見強キャラに見えるがそのうち二つは
マイナススキルである。特に特殊と通常のマイナスを併せ持つのは石丸のみで、その二つが絶妙な
コンボで他のスキルを阻害する為、本来ならかなりバランスの良いスキルを持っているにも関わらず
本領発揮が出来ず、使い所の悪いキャラとなっている(ラーニングキャラは大体ゲームでは強キャラの
はずだが…)。ただし、得意分野をやらせると非常に高い効果を発揮したりするので使い所が難しい。


988: 2014/04/30(水) 02:04:39.95 ID:4yLu3Wow0

[ 大和田 紋土 ]

通常スキル

・筋力
・男気:タイミング良く行動することで周囲からの評価が上がる。
・度胸:いざという時に行動出来る。
・カリスマ
・短気×:気が短く、すぐ頭に血が上る。

特殊スキル

・フルスロットル:頭に血が上った時の攻撃力1,2倍。
・男の根性:男の意地を見せなければならない場合に耐久力1,5倍。
・男の約束:男の約束のためなら一時的に全性能を上げられる。


〈 m e m o 〉

桑田同様頭脳面では全く期待出来ない典型的パワーファイター型である。誰かのため、
男の約束のためなど目的を持たせて使うことによってその性能をフルに引き出せる。
また、元々暴走族のリーダーだったため人の上に立たせると意外な力を見せることも。


989: 2014/04/30(水) 02:18:54.65 ID:4yLu3Wow0

[ 不二咲 千尋 ]

通常スキル

・集中力
・観察力
・記憶力
・分析力
・弱気×:自己主張が弱い。
・病弱×:体が小さく体力も低い。

特殊スキル

・超高校級のプログラミング:アルターエゴを始め役に立つプログラムが作れる。
・機械いじり:ハードはソフト程専門ではないがある程度は出来る様子。
・超高校級の癒やし:みんなを元気づけられる。

〈 m e m o 〉

体力特化の桑田・大和田の真逆で頭脳特化である。推理力や閃きなどは持っていないので
推理はそんなに得意ではないが、頭が非常に良く飲み込みが早い。高い分析能力を持ち、
脱出に役立つプログラムが作成可能。何気に苗木の次にコミュニケーション能力が高く、
ほとんどの生徒と安心して組ませられる。その他機械関連全般に強い。


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以上でこのスレでの投下はお終いです。ご清覧頂きありがとうございました。

埋めついでにここ(2スレ目)までで印象に残ったシーンとか好きなシーンとか
感想とか、なんでもいいから書いてくれると1が今後の展開に活かせる…と思うよ?
あと、1000の言うことは可能な限り叶えようと思います。



それでは3スレ目でまたお会いいたしましょう!


大和田「俺達は諦めねえ!」舞園「ドクターK…力を貸して下さい」不二咲「カルテ.3だよぉ」



990: 2014/04/30(水) 02:37:45.14 ID:UilJEBX/o
乙です

引用: 桑田「俺達のせんせーは最強だ!」石丸「西城先生…またの名をドクターK!」カルテ.2