110: 2010/05/26(水) 23:52:50.97 ID:RsorWCco
 俺は能力者であり、魔術師であった。
 それは一時的なものであって、勿論満足に振るうことはできなかったけど。


 両親は俺を学園都市に売った。
 用語でいうと『置き去り』。
 随分と昔の話だから、もうほとんど憶えていないけど。
 唯一覚えていて、そして両親が残してくれたものといえば名前だけだった。


 俺はモルモットだった。
 研究者曰く、実験に『置き去り』が使われるのはそう珍しいことではないらしい。
 そんな中で俺が数年間生き残っていたのは、恐らく僥倖だったのかもしれない。


 そんなある時。
 俺を含めた幾人かが集められた。
 俺は今日もまた実験か、痛くないといいななどと考えていたが、研究員の口から出たのは予想外の言葉だった。

「彼方達にはイギリスへと行ってもらいます」

 きっと、俺を含む全員が驚き、疑問の表情を浮かべていたと思う。
 研究員は淡々とそのわけを説明しだした。

 イギリスには『魔術』という科学では説明出来ない能力があること。
 その『魔術』は『超能力』とは別の理論を使っており、別々に使用することが可能であるかもしれないこと。
 つまり、それを使えば、幻の『多重能力者』に似たものを実現できるかもしれないと言うこと。

「行ってくれますよね?」

 勿論俺達に拒否権は、なかった。
『魔女狩りの王(イノケンティウス)』
111: 2010/05/26(水) 23:53:32.96 ID:RsorWCco
 俺達はイギリスの一角の建物に辿り着いた。
 周りの奴は皆、学園都市に入ってから初めて見る外の世界、それも外国に心踊らせていた。
 俺も例外じゃない。
 けれど、これから何が行われるのかと思ったら、正直俺は気が気ではなかった。
 それでも、モルモットながらでも世話をしてくれた学園都市の利益になれると考えたら、そんな不安など捨てることが出来たけど。


 建物の中には既に人がいた。
 この建物の外でも見た修道服を着ていて、神父やシスターと言った感じ。
 実際に見たことはないからなんともいえなかったけれど。
 しかし、彼、彼女達はその外にいる人やきっと教会にいるその人達とは全く違うオーラのようなものを纏っていた。
 俺達に同伴していた研究者が彼らに歩み寄って、相手側の代表と話す。

 その時だった。
 修道服を着ていた人たちの中でも異彩を放っていた女性が俺に歩み寄ってきて、流暢な日本語で語りかけてくるのは。

「どうやら、私が世話するのは貴方みたいね」

 少しばかり長い金髪にゴス口リ調の服装。
 第一印象で、綺麗な人だな、と思った。
 俺は少しばかり彼女に見とれ、次の言葉で現実に引き戻されると素早く自己紹介をした。
 それをきいた彼女は淡い笑みを浮かべて、言う。

「ふぅん、イイ名前じゃない」

 彼女は、シェリー=クロムウェルと名乗った。

112: 2010/05/26(水) 23:54:05.45 ID:RsorWCco
「ああ違う違う。そんなに使ったら暴発しちまうだろうが」

 シェリーは面倒くさそうにサラサラとチョークで魔法陣に俺が間違えた魔力の量を書き直す。
 この建物に入ってから一週間。
 シェリーと俺は、おそらく友達と言える関係になっていた。
 だからこそ、シェリーの口調がこんなにも砕けているのだ。厳密に言えば、俺の口調がシェリーに伝染ったわけだけども。
 そのことについて言及してみると、

「別に構わないだろうが。私と貴方は友達なんだから」

 などと少し恥ずかしい言葉を口走ってくる。
 それに対して羞恥心を感じないのはやはり大人だからなのか。
 友になった理由は、よくわからない。一緒に来た人たちも友達といえば友達だけど、今はもうあまり話さないから。
 単純に、ウマが合ったっていうのが一番の理由なんだと思う。

「……よし。これで基礎的なものは全部よ」

 羊皮紙に教えられたことを書き込み終わると、シェリーは少し満足そうにそう言った。
 一週間……随分と時間がかかった気がする。
 全く別の知らない法則。だからこそだからだとおもう。理解し、自分のものとするのに時間がかかった。

「さてと……ところで、魔術師ってのは魔法名を持つのが常で、自分の何かを貫くとき、または頃し名としても利用することがあるの」

 シェリーはそう言って、幾つかのラテン語、そしてそれ単体の意味を書く。
 基本的に自分の指針をラテン語にしたもの、そして被らないように数字を加えたものが魔法名というものになるらしい。
 俺は参考にするためにシェリーの魔法名を尋ねてみると、どうやら今はないらしい。
 以前の目標が十分に達成された状態であり、次の目標が明確にさだまっていない状態であるから今の魔法名はない、ということだった。

 そして俺は少し考えた後、提案した。
 その提案にシェリーは一瞬きょとんとした表情をして、

「馬鹿じゃないの。そんなことをしたら、わざわざ数字を違える意味がねーだろうが」

 そうして憎まれ口を叩きつつも、渋々と言った様子で了承してくれた。
 その時、きっと俺は満面の笑みだったと思う。
 だって、シェリーが呆れたように、そして嬉しそうに俺の顔を見ていたから。

113: 2010/05/26(水) 23:54:39.62 ID:RsorWCco
 それから、どのくらいが経過しただろう。
 習い、学び。
 それが終わったら、語らう。
 そんな日を何度も何度も繰り返して、その日がやってきた。

 俺達が、魔術を使う日が。

 建物の一番大きな部屋に俺達は集まって、各担当の人の元に魔術の下準備をする。
 魔法陣を描きながらシェリーに、成功すると思うかどうかを尋ねてみると、きっと成功すると答えが帰ってきた。
 たったそれだけで、なんとなく勇気が湧いてきた。
 何だって出来る気がした。


 ――自分の中の『何か』が音を立てて壊れるまでは。


 身体中に激痛が走る。
 皮膚が破れ、それからまるで映画の大袈裟な表現のように血が吹き出す。
 ごぷっ、と口が鉄の味で溢れ返った。
 確かに魔術は発動した。発動したが、そんな予想外の事態が起こった状態でまともに標準を定められるはずがない。
 地面を抉り、壁を打ち抜き、天井を崩壊させる。
 研究者も、魔術師も何が起こったのか全く理解が追いついていないようだった。

 失敗。
 俺が思うのはそれひとつ。
 シェリーが悲痛に、俺の名前を呼んだ。
 心配いらない、俺はレベル2の『肉体再生』だから。
 そう告げようとした瞬間に、

 地鳴りが響き渡った。

114: 2010/05/26(水) 23:55:10.57 ID:RsorWCco
 それは無論、地震とかそういうものではない。
 『騎士派』だ、と。誰かが叫び声を上げた。
 必要以上に知識をもらっていない俺達には何のことだか全くわからなかった。

 が、それは次の瞬間明らかになる。

 鉄で作られた扉が一瞬で切り倒され、扉付近に立っていた数人が同時に弾き飛ばされた。
 現れるのは人ではなく、鎧。
 全身を銀色の甲冑で覆い、外部からの攻撃を軽減するボディアーマー。
 それも、一人や二人ではない。
 一人、二人、三人四人、五人六人七人八人、九十十一十二十三――――――
 俺はそれを見て、学園都市の警備員が使う駆動鎧を思い出した。あながち、間違いではないと思う。
 なにせ、俺達を鎮圧するために使われているのだから。
 周りの魔術師達が急いで術式を練り迎撃する。
 しかし。

 『騎士派』が振るったその剣が、放たれた魔術を一刀両断に切り裂く。

 どう仕様も無いくらい、力の差が歴然としていた。
 逃げるしか無い。
 しかし、どうやって?
 俺もない頭で必氏に考えるが、方法が思いつかない。
 周りに相談してみようと見渡すが、魔術師は『騎士派』とやらの相手で手一杯、能力者は皆俺と同じように血を噴き出して地面に伏していた。

 扉から近いところで迎撃していた魔術師が、切り伏せられた。

 情けも、容赦すら無い。
 理解する。これは俺達を制圧ではなく、全員頃すつもりだ、と。
 シェリーが俺を呼んだ。俺はそれに答える。
 身近な壁を破壊し、俺達は手をつなぎ、そこから一目散に逃げだした。

115: 2010/05/26(水) 23:55:41.91 ID:RsorWCco
「くそったれめ……っ、科学と手を繋いで、何がいけないっていうのよ……!」

 シェリーが走りながらそう憎しみを込めて呟いた。
 それを聞いて、俺は『騎士派』とやらがどうして攻撃してきたかがわかった。

 魔術と科学は、相容れないものなのだ、と。

 ガシャンガシャン、と背後から追ってくる音が聞こえ、だんだんと大きくなってくる。
 速い。きっと、俺たちよりずっと。
 このままじゃ逃げ切れなくて、二人ともやられてしまう。

「くそっ、くそっ、くそっ……!」

 シェリーもそれがわかってる。
 けれど、止まれない。
 真正面から戦っても、負けることがわかっているから。
 逃げても追いつかれ、戦っても敗北する。
 助かる方法は……ない。

 ――いや、一つだけある。
 どちらかが犠牲になれば、どちらかが時間を稼げば。
 もう片方は逃げきることができるのだ。

 俺の思考に、何かどす黒いものが混じる。
 俺が助かるためには、シェリーを犠牲にすればいい。
 シェリーを犠牲にすれば、俺は助かる。
 この手を切り離し、殴りでも蹴りでもいれて、置いていけば――――

 ズキン、と傷口が痛んだ。
 同時に思い出すのは――俺の、俺達の『魔法名』。
 互いが互いに誓って名付けた、一つの目標。

116: 2010/05/26(水) 23:56:10.68 ID:RsorWCco
 俺はシェリーに気付かれないように、嘆息した。
 一体、何をバカなことを考えていたのだろう。
 友を、シェリーを犠牲にして助かって、その先に一体何があるというのだろうか。

「……どうしたの?」

 黙っている俺を心配したのか、シェリーはその顔を少しばかり曇らせていた。
 音は近い。
 決断する時間はない。
 階段を降りる――そこで、俺は手を切り離し、シェリーを押した。
 ダンダンダン、とシェリーはそのまま勢い良くかけおりて、階段の下から俺を見上げる。
 その目は、どうしてそこで立ち止まるのか、と驚きを雄弁に語っていた。
 俺は言う。俺には超能力があると。魔術がきかなくとも、法則の違う能力なら聞くかもしれないと。
 シェリーはそれでも納得出来ないのか、階段を登ろうとしてきた。

 だから、俺は。
 『さようなら』と紡ぎ。
 チョークを振るい、魔術で階段を破壊した。

 何か、叫び声が聞こえた。
 俺はそれを聞かない。聞こえない。
 どうやら今の魔術で耳がいかれたようだった。
 今までのことから察するに、俺達が血まみれになったのは暴発ではなくて能力者だからなのだろう。
 能力者に、別の法則は使えない。
 奇しくも『多重能力者』と同じように、実現不可能だったというわけだ。
 俺みたいな回復系の能力を持っているなら、また別なのだろうけど。

 『騎士派』が目の前に迫る。
 きっと一撃を入れるのが精一杯。それでゲームオーバー。
 それでも、俺は戦う。
 友を、親友を守るために。

117: 2010/05/26(水) 23:56:37.38 ID:RsorWCco
 ――『Intimus115』。

 シェリーに同一のものをつけようと提案し、そして名付けた魔法名。
 『我が身の全ては友のために』。

 傷ついた身体で搾り出すようにして俺はそれを叫び。
 そのチョークを振るい、魔法陣を記す、文字を刻む。
 ブツン、ブツンという血管が切れる感触が激痛とともに身体中を駆け巡る。
 けれど俺は止まらない。
 そして、致命的な何かがキレたと同時に、魔術が発動する。
 地面が、壁が、天井が。あらゆる土が槍と成して敵へと降り注ぐ。
 シェリー直伝の魔術。
 それは『騎士派』と呼ばれていた奴らを捉えて。
 直撃――――

 同時に、俺が感じたのは。
 魔術の氏角から迫っていた騎士の混紡の風の切る音。
 身体中に滲み渡る鈍い痛み。
 そして、俺の視界が暗転する。





 そんな中、俺が最後に思うのは、一つだけ――――





 ……俺は能力者であり、魔術師であった。
 それは一時的なものであって、勿論満足に振るうことはできなかったけど。

 そして、俺は、俺の魔法名は『Intimus115』。
 今込める意味は、『我が身の全ては生ける友のために』。


 俺が最後に思うのは、一つだけ。
 願わくば。
 我が友、シェリー=クロムウェルが。
 この事件に対して、俺に対して何も気負うことがありませんよう――

118: 2010/05/27(木) 00:00:25.56 ID:XcFQzx6o
終わり、です。

エリスの一人称という形でとらせていただきました。
正直、エリスが男だか女だか原作中で明言してないから、どっちにするか超悩みました……
シェリーの彫った少年の彫刻で男だと言うことに決めましたが。

なんとなく、魔術の話って難しい感じがしてなりませんね。
いやはや……魔術メインの話書こうとしてたけど、時間掛かりそうだ…………

では、見てくれた方、ありがとうございました。

119: 2010/05/27(木) 00:00:34.79 ID:bTO1trAo
きれいにまとまっててマジおもしろかった乙乙

引用: ▽ 【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ≪4冊目≫」【超電磁砲】