1: 2010/07/26(月) 01:16:55.76 ID:jR0I+Zc80
雨が降っている。
僕は手に提げたスーパーの袋が濡れている事を自覚しながら、
仕方が無いと割り切っていた。

傘をさしてはいるものの、この時期は雨に悩まされる。
たまには自炊しようと食材を買いに出たのだが、
こんな事なら出前で済ませるべきだったかもしれない。

そう考えていた時。

この雨の中、傘もささずに佇んでいる人影を見つけた。

すぐに誰だか分かった。

朝比奈みくる。

未来人にして、SOS団の仲間。

僕は朝比奈さんに声をかける。

「……何をしているのですか、貴方は」

朝比奈さんが僕を見る。

「古泉……君?」

その目は、どこか空ろで、とても寂しげだった。

3: 2010/07/26(月) 01:21:18.39 ID:jR0I+Zc80
「雨……嫌い、なんですよね」

朝比奈さんは言う。
僕は傘を彼女の上に移動させる。

「とにかく、こんな所で濡れていちゃ風邪をひきます」
「朝比奈さんの家は、近くなのですか?」

首を横に振る。

「……では、僕の部屋に来て下さい」

彼女の手を握る。

「こんなに冷たくなって……さあ」

朝比奈さんは、何も語らない。
しかし、嫌がる様子も無い。

僕は、自分の部屋に彼女を招きいれた。

古いタイプのマンション。
鍵を開け、朝比奈さんを入れる。

「今、タオルを持ってきます」

朝比奈さんは、僕を見つめるだけだった。

4: 2010/07/26(月) 01:26:06.20 ID:jR0I+Zc80
シャワーの音が響く。

濡れた衣服は、洗濯し、乾燥機に放り込んだ。

……森さんの世話を少しした経験があるので、
女性の衣服には免疫があると思っていたのだが、やはり下着に触ったときは動悸がした。

しかし、それより。

朝比奈さんの事が気にかかる。

彼女に何があったのだろう?

僕は着替えの服を――なるべく彼女が着れそうなものを選んで、脱衣所に置いた。

「ここに、着替えを置いておきます」

小さな声で、はい、と答えが返ってくる。

まるで人形のようだ。

……長門さんを連想してしまったのは、我ながら酷いと思った。

しかし、それくらいに今の彼女は、感情の起伏が無い。
僕には分からない。

5: 2010/07/26(月) 01:30:53.15 ID:jR0I+Zc80
僕のYシャツと短パンを着た朝比奈さんは、ぺこりと頭を下げる。

一体、どうしたのだろう。
問い詰めようにも、どう言葉をかけていいのか分からない。

こんな時、彼ならどうするのだろうか?

全く当てになりそうも無い人物を脳裏に思い浮かべつつ、ココアを入れる。

「どうぞ。身体が暖まりますよ」

「……いただきます」

ようやく、喋ってくれた。
か細い、頼りない声だけど。

ココアを少し口に含み、彼女は言う。

「……雨は、嫌いなんです」

嫌いなら、何故濡れていたのです?

聞きたいが、何故か聞けない。

このジレンマは何なのだろうか。

とにかく、今の朝比奈さんはいつもの朝比奈さんでは無い。

6: 2010/07/26(月) 01:37:24.51 ID:jR0I+Zc80
「僕も、雨は嫌いですよ」

相手が話さない以上、僕が喋るしかなかった。

「この、梅雨の時期は憂鬱な気分になります」
「雨自体はいいものなのでしょう。水源の確保に繋がりますから」

僕は馬鹿か。
何を言っている。
世間話としても、もう少し気の利いた話題があるだろう。

意を決して、尋ねてみる事にした。

「……何か、あったんですか?」

彼女の身体が、震える。

「僕で良ければ、ご相談に乗りますが」

朝比奈さんは、動かない。

僕のYシャツを身にまとった彼女は、不思議な色気を感じさせた。

分かっていた事なのに、僕が男で、彼女が女だと言う事を、今更ながら意識する。

床に、ぺちゃんと座った、その足が綺麗だった。

9: 2010/07/26(月) 01:41:56.18 ID:jR0I+Zc80
朝比奈さんが、少し動いた。

どうしたのだろう。

「……の」

「はい?」

「……痒いの」

僕の耳が確かならば、朝比奈さんは『痒い』と言ったはずだ。
どこが?
何が痒い?

僕の視線は、朝比奈さんの足に向く。


朝比奈さんの足の指には、奇妙な痕があった。

これで分かった。

「……水虫、ですか」

朝比奈さんは、肩をびくりと震わせ、ぽろぽろと泣き出した。

無理も無い。

この時期の水虫は、気が狂いそうな痒さなのだから。

11: 2010/07/26(月) 01:45:47.48 ID:jR0I+Zc80
「……僕も、そうなんです」

僕は、靴下を脱いだ。

「ほら。両足とも、痕があるでしょう?」
「ですから……朝比奈さんの気持ちは充分に分かります」

「古泉君……」

泣き顔が、戸惑いに変わる。

僕は、その表情に、ときめいてしまった。

「水虫、痒いんでしょう?」

「はい……」

「足を、僕に……」

僕は朝比奈さんの足を取り、指の股を見た。

そして、少し躊躇った後、舌を伝わせた。

「ひゃっ……」

「我慢してください。これが、一番良い方法なのですよ」

13: 2010/07/26(月) 01:51:02.79 ID:jR0I+Zc80
ある程度舐めた後、僕は言う。

「……朝比奈さんは、じゅくじゅくタイプなんですね」

「ゃんっ……」

「恥ずかしがる事はありません。このタイプは、梅雨の時期は大変ですから」

僕は第二段階に移った。

そう。甘噛みだ。

決して痛くせず、それでいて痒みを抑えるように。

時に強く。時に弱く。

朝比奈さんの足の指は、僕の涎でべとべとになっていく。


甘美な声が僕の耳朶に響く。

それが、僕の心に火をつける。

八重歯で、一番酷い症状の所を引っ掻く。

朝比奈さんの身体が仰け反った。

15: 2010/07/26(月) 01:56:26.06 ID:jR0I+Zc80
病状の悪化している皮を噛み千切り、テーブルに置く。

朝比奈さんの顔は紅潮していた。

何度も続ける。
彼女の心を救う為。
彼女の水虫を癒す為。

本当に?

もしかすると、僕は自分の欲望を朝比奈さんにぶつけているだけなのかもしれない。

しかし、止めることはできなかった。

片足が終わり、次の足へ。

朝比奈さんは拒まない。

僕に、全てを預けている。

舐めて。噛んで。吸って。

あらゆるテクニックを使い、僕は朝比奈さんの足に奉仕した。

ちらりと胸が見えたが、そんなものはどうでもいい。

今は水虫だ。

16: 2010/07/26(月) 02:00:37.35 ID:jR0I+Zc80
小指の先を丹念に舐める。

「……如何でしたか?」

聞くまでもなかった。
朝比奈さんは、濡れた目で僕を見つめていた。

「なんで……」
「なんで、古泉君は、こんなに優しいんですか……?」

僕が優しい?

そんな訳が無い。
僕は、水虫に酔っていただけだ。

しかし。
そんな事が言えるだろうか?

僕はこう言った。

「言ったでしょう? 僕も、水虫なんですよ」

朝比奈さんは、ほぅっ、と溜息をついた。
そして言った。

「なら。お返しをしなければいけませんね」

僕の鼓動が早くなる。

17: 2010/07/26(月) 02:05:12.78 ID:jR0I+Zc80
「そんな……お返しなんて……」

「ダメですよ? ちゃんとお礼をさせてください」

何て事だ。
僕は、森さんの水虫を甘噛みし、今朝比奈さんの水虫を同じようにしたけれど。

僕自身の水虫を誰かに任せた事はない。

「しかし……」

僕が言う暇も無く、朝比奈さんは僕の左足を掴んでいた。

彼女は、僕の足を見つめて言う。

「古泉君は、かさかさタイプなんですね」

「ええ。ですから、厳密には朝比奈さんとは違います」

「でも。この時期に痒いのは同じでしょう?」

「それは……そうですが」

朝比奈さんの小さな唇が、僕の水虫の足の指に触れる。

「たっぷり……お返ししますね?」

20: 2010/07/26(月) 02:09:35.51 ID:jR0I+Zc80
朝比奈さんは慣れていなかった。

当たり前だ。
誰が他人の水虫を舐める、甘噛みすることに慣れるものか。

僕だって、森さんの命令がなければやれなかっただろう。

しかし。

朝比奈さんは不器用ながらも、丁寧に僕の足を舐めてくれた。

あの、唇で。

あの、小さな舌で。

あの、綺麗な歯で。

僕は、知らぬ間に声を上げていた。

男の癖に!
恥知らず!
インキンタムシ!

自分で自分を罵倒してみても、声を止める事はできなかった。

僕は、快楽に屈してしまった。

21: 2010/07/26(月) 02:14:52.48 ID:jR0I+Zc80
僕の右足の小指をちろちろ舐めながら、朝比奈さんは言う。

「どうでしたか?」

もう、分かっているだろうに。
罪な人だ。

「……最高でしたよ」
「人にされるのが、こんなに気持ちの良いものだなんて、思いもしませんでした」

「それは良かったです」

沈黙。

僕と朝比奈さんは、足をシャワーで丹念に洗った。

ココアを入れ直し、飲む。

口を開いたのは、朝比奈さんだった。

「……この時代にきて、わたしは水虫にかかりました」

「未来では水虫ではなかったと」

「はい。というか、水虫は、未来には存在しないんです」

ノーベル賞ものの情報だが、禁則事項ではないようだ。
まあ、治療法を教える訳ではないので構わないのだろう。

23: 2010/07/26(月) 02:20:56.74 ID:jR0I+Zc80
「この時代で、水虫になって……とても辛かった!」
「鶴屋さんにも相談できませんでした」
「だって、友達が水虫なんて、耐えられますか?」

彼女の言う事も分からなくはない。
しかし、その多くは多感な時期の女性にありがちな、
潔癖でありたいと思う純粋思考であり、それほどの問題ではないはずなのだ。
しかし。

「……だから、雨の中、佇んでいた訳ですか?」

「どうせ水虫なんです! もっと酷くなったらいい! ……そう思ったんです」

彼女の告白は続く。

「SOS団の団活中でも、痒くて痒くて堪りませんでした」
「何度も靴を脱いでガリガリ掻こうかと思いました」
「けど!」
「そんな事、涼宮さんは望んではいないから!」
「だから!」

朝比奈さんはうな垂れて嗚咽をはじめた。

そうか。
貴方も、『望まれた役割』を演じる為に、必氏だったんですね。

「……僕もそうです。朝比奈さん」

25: 2010/07/26(月) 02:27:02.57 ID:jR0I+Zc80
「『クールな謎の転校生』。それが水虫だったら、涼宮さんはどう思うでしょうね」
「彼とのゲーム中」
「涼宮さんに薀蓄を語っている時」
「貴方のお茶を飲んでいる最中」
「僕も、痒かった……!」

「古泉君……!」

僕と、朝比奈さんの間に、何かができた気がした。

それは、錯覚だったのかもしれない。
けれど。

約束をした。

一つは、この事は誰にも言わない事。当然だ。

もう一つは……定期的に、互いの水虫を舐め合う事。

乾いた服に着替えて、貸した傘をさし玄関で僕の目を見る朝比奈さん。

もう言葉は要らなかった。

水虫が、全てを語ってくれた。

感謝するべきなのだろうか?

水虫に? この雨に?

26: 2010/07/26(月) 02:31:23.03 ID:jR0I+Zc80
――
次の日。

学校へは傘をさして行った。
雨は、まだ止まない。
この時期は、嫌いだと彼女は言った。

僕も好きではない。
しかし、嫌いでもない。


放課後、団室に行くと、メイド姿の朝比奈さんが笑顔で出迎えてくれた。

痒いだろうに、我慢して。

僕も痒いのを堪えて、いつもの笑顔を浮かべる。

彼がゲームに誘ってくる。

痒い。

朝比奈さんのお茶を飲む。

痒い。

けれど、僕は一人じゃない。

どこかで気持ちが軽くなっていた。

27: 2010/07/26(月) 02:37:06.96 ID:jR0I+Zc80
ドアが乱暴に開かれる。

「あー! 梅雨って嫌ね! むしむしして嫌んなっちゃう!」

涼宮さんは怒鳴りながら団長席につく。

「みくるちゃん! お茶!」

「はい~」

いつもの平和な光景だ。
今では、滅多な事が無い限り、大規模な閉鎖空間も発生しない。

願わくば、この平穏が何時までも続かん事を。

と、次に涼宮さんの取った行動は、僕の予想を超えていた。

机の上に、両足を放り出し、靴と靴下を脱ぎ。

ボリボリと掻き始めたではないか。

「もう! 水虫が酷くなってやんなっちゃう!」

「おいおい、ハルヒ。女の子がそんな格好で足を掻くな」

「うるさい! 痒いんだから仕方ないでしょ!」

……なんと言う事だ。

28: 2010/07/26(月) 02:41:11.73 ID:jR0I+Zc80
朝比奈さんを見る。

彼女の目は、大きく見開かれている。

僕の顔も、笑顔は消えているだろう。
しかし、問わずにはいられなかった。

「あの。涼宮さん」

「なに?」

「水虫、だったんですか」

「そうよ。毎年毎年、この時期は特に痒くて嫌になるわね!」

まさか、涼宮さんまで水虫だったなんて。

「ハルヒ。病院には行ってるのか?」

「行ってるけど。完治はしないのよね」

「そうか。俺もなんだ。痒くて仕方が無い」

「なら、掻けばいいじゃない」

……彼も水虫だったなんて。

29: 2010/07/26(月) 02:46:49.17 ID:jR0I+Zc80
僕は倒れそうになるのを堪えながら、朝比奈さんを見る。

真っ白な顔をしていた。

分かりますよ。今までの僕たちの苦労が何だったのか。

しかし、涼宮さんのイメージは……。

「そういえば、古泉君も水虫なのよね」

「えっ」

「それくらい分かるわよ。SOS団団長の名は伊達じゃないわ」

「……あの」

「みくるちゃんもよね」

「……ひゃ」

「全く。SOS団の中で水虫じゃないのは有希だけじゃない」

「名前を改名しないとな、水虫団に」

「馬鹿キョン。そんなおかしな名前に、誰がするもんですか」

「本気じゃないが……SOS団も大概だと思うぞ」

僕の中で何かが壊れた気がした。

30: 2010/07/26(月) 02:53:41.11 ID:jR0I+Zc80
長門さんに目を向ける。

水虫でないのはこの宇宙人だけ。

僕は、どうしようも無い感情が身体を支配する事を、止められずにいた。

その時、長門さんが動いた。

靴を脱ぎ、靴下を脱ぐ。

そこには、見たことも無い、悲惨な状態の水虫があった。

「有希……!」

「長門……!」

「長門、さん……?」

「貴方は……!」

長門さんは、僕らを見渡すと言った。

「そう。私も水虫」

SOS団は、水虫集団だったのだ。

この事実を知った僕らは、水虫に対して真剣に取り組む事になった。

32: 2010/07/26(月) 03:10:11.58 ID:jR0I+Zc80
僕らは猛勉強を始めた。
この世界から、水虫を撲滅する為に。

長門さんは、情報操作で治せるそうだが、人類の自律進化の為、あえてそうはしなかった。
彼女もまた、水虫の犠牲者なのだ。

高校を卒業し、大学に進学。
涼宮さんはもちろん、彼も有名な大学へと入学を果たした。

長門さんも、難関と言われる大学へ行った。

一足先に朝比奈さんも別の大学へ。
僕は朝比奈さんの大学へ進学した。



毎日が忙しかった。
勉強する事は山ほどある。

その僅かな暇を見つけては、僕と朝比奈さんは互いの足を貪りあった。

いや、正確には身体もだ。
いつしか、僕らは、愛し合うようになっていた。

そしてその数年後、元SOS団を中心とした、水虫撲滅プロジェクトが立ち上がった。

資金提供は鶴屋財閥。

鶴屋さんもまた、水虫だった。

33: 2010/07/26(月) 03:14:44.34 ID:jR0I+Zc80
気がつけば、三十を超えていた。

しかし、水虫は治らない。
それでも、僕たちは一心不乱に研究を重ねた。

その途中で、彼と涼宮さんは結婚した。
祝福もあったが、産まれてきた子供が水虫だと判明し、
更に研究に没頭する事になった。

そして。
ついに。

水虫の特効薬が完成した!

僕たちは狂喜乱舞した。

これで水虫から開放される!
水虫で苦しむ人がいなくなる!

盛大なパーティが続き、ノーベル賞を受賞し、僕たちの水虫は完治した。

しかし。

それは、別れの始まりだった。

35: 2010/07/26(月) 03:21:07.68 ID:jR0I+Zc80
「どうしたんですか、朝比奈さん。こんな所に呼び出して」

僕と朝比奈さんは、結婚はしていなかった。
住む場所も別々だった。

朝比奈さんが呼び出したのは、高校生の頃、何度か集まった、あの公園だった。

「……水虫、治りましたね」

街灯に照らされた朝比奈さんは、
とても三十を過ぎたとは思えない、瑞々しい若さと美しさを備えていた。

「みんなが頑張ったお陰ですよ」

僕の胸に、不安がよぎる。

「わたしは、この時代に来て、SOS団に入って……古泉君に会えて、本当に良かった」

止めてくれ! それ以上は言わないでくれ!

「もう、禁則事項では無くなったから言えますけど」
「水虫を治したのは、わたしたちなんです。……って当たり前ですよね」

「それを、何故、今ここで言うんです?」

朝比奈さんは、俯いて呟いた。

「……お別れ、だから」

36: 2010/07/26(月) 03:26:41.10 ID:jR0I+Zc80
そんな馬鹿な!

「実は、本当はわたしがいなくても特効薬は出来たんです」
「上から、何度も帰還命令が出されました」
「でも……」
「貴方と離れたくなかった!」

朝比奈さん。

「貴方と、一緒にいたかった!」
「貴方に抱かれていたかった!」
「貴方と、水虫を甘噛みしていたかった!」

「……」

「でも」
「もう限界なんです」

「行かないでください……いや、行くな!」

止めろ。朝比奈さんを困らせるな。
しかし、口は勝手に動く。

「朝比奈さん、……みくるは、僕の足を舐める! 僕はみくるの足を舐める!」

みくるは、頭を振りかぶった。

「わたしだってそうしたい! だけど……もう、無理なの」

37: 2010/07/26(月) 03:31:33.07 ID:jR0I+Zc80
未来の事情はよく分からないが。
こんな勝手な事があっていいのだろうか?

いい年をして、僕は泣いた。
みくるも泣いていた。

「……まだ、時間はあるから」

そう。
分かっていた。
一分一秒も無駄にはできない。

僕とみくるは靴と靴下を脱ぎ、素足になった。

水虫の無い、綺麗な足。

互いに舐め、噛み、吸いあった。

どれほどの時間が過ぎただろう。

「さようなら……」

と、声がして、ふと気がつくと、僕は一人だった。
涙が、止まらなかった。

公園でおかしな事をしていると通報を受けた警察が来ても、何も話せなかった。

その夜は、留置場で一晩を過ごした。

38: 2010/07/26(月) 03:39:35.43 ID:jR0I+Zc80
――
プロジェクトは解散し、僕たちはそれぞれ多額の金が入るようになった。

しかし、僕には金など必要無かった。

ただ、彼女が、朝比奈みくるがいれば良かった。

彼は事情を知り、慰めてくれたものの、僕の気持ちは晴れなかった。
家庭を持ち、幸せに暮らしている彼の顔を腫れ上がるまで殴っても。

そんな折、長門さんから連絡があった。
直接会って話がしたい、と。

どうせする事もないと、僕は変わらない、あのマンションに行った。

長門さんは、こう言った。

「私は、今、新しいプロジェクトに参加している」
「それは、未来への、生物の冷凍保存」
「今の人間の技術で、成功するかどうかは、はっきり言えない」
「けれど、もし、貴方にその気があるのなら……」

未来への片道切符。

僕は、迷わずその列車に乗る事を決めた。

目が覚めた時に、きっとそこには……。

39: 2010/07/26(月) 03:48:54.34 ID:jR0I+Zc80
――
目を開くと、そこには足があった。
間違えるはずが無かった。
みくるの足だ!

僕はむしゃぶりつき、喉に突っ込んでえづいた。

「……もう。無茶しないで」

みくるの声だ。

逆光で、顔が見えない。
しかし、足は見える。

「みくる……また、会えたね」

「ようこそ未来へ……一樹君」

僕は、幸せを掴んだ。


―――
「プロジェクト凍結。冷凍保存での時間旅行の可能性、0」

「古泉は、甦らせないのか?」

「……良い夢を見ているはず。このままにしておく」

 【ジ・エンド】

40: 2010/07/26(月) 03:49:42.97 ID:jR0I+Zc80
 何がどうなったのか……。
 古泉とみくるのカップリングを書こうとしたのに。
 とりあえず寝たほうが良さそうです。
 年表で終わらせようかとも思いましたが、主義に反するので止めました。
 今の季節は、からっとしていて良いですね。
 読んでくれていた方、どうもありがとうございました
 ではおやすみなさい。

41: 2010/07/26(月) 06:07:52.95 ID:jR0I+Zc80
 起きた。足痒い。

引用: 古泉「梅雨の時期は」