1: 2014/03/23(日) 22:20:05.56 ID:uV78RBmd0
★このSSはダンガンロンパとスーパードクターKのクロスSSです。
★クロスSSのため原作との設定違いが多々あります。ネタバレ注意。
★手術シーンや医療知識が時々出てきますが、正確かは保証出来ません。
★どちらかの作品を知らなくてもなるべくわかるように書きます。
~前スレまでのあらすじ~
〈 Prologue 〉
超高校級の才能を持つ選ばれた生徒しか入れず、卒業すれば成功を約束されるという希望ヶ峰学園。
苗木誠達15人の超高校級の生徒は、その希望ヶ峰学園に入学すると同時にモノクマという
クマのぬいぐるみのような不可思議な物体に学園内へ監禁され、共同生活を強いられることになる。
学園を出るための方法は唯一つ。誰にもバレずに他の誰かを頃し『卒業』すること――
〈 Chapter.1 〉
モノクマが残酷なルールを告げた時、その場に乱入する男がいた。世界一の頭脳と肉体を持つ男・ドクターK。
彼は臨時の校医としてこの学園に赴任していたのだ。Kが警戒する中、第一の事件が発生する。 Kは重傷を
負った舞園さやかを手術で救い、また日頃の素行不良を糾弾された桑田怜恩を励まし信頼関係を築くのだった。
〈 Chapter.2 (非)日常編 〉
一度事件が起こったことで今後のことを危惧したKは、授業と称し応急処置の知識を生徒達に与えた。
その中で、石丸清多夏は政治家になる前にまず人間として成長する!と苗木と共にKに医学を教わり始める。
〈 Chapter.2 医療編 〉
舞園退院のタイミングを狙い、モノクマによる二度目の招集がかかる。事件が起きなければ生徒達の秘密を暴くという
内容だ。モノクマは学級裁判のルールを説明すると共に舞園を追い詰め、江ノ島盾子の殺害を図ったがそれはKが防ぐ。
しかし暴走した桑田によって生徒達の心はバラバラになってしまった。限界を迎えた舞園は、全員を脱出させることこそ
自分の成すべきことと定め、そのために自分を駒だと自己暗示をかける。そしてその夜、再び事件が発生してしまった。
〈 Chapter.2 非日常編 〉
Kが席を外している間に、大和田紋土は衝動的に不二咲千尋を襲い、石丸がそれを庇って重傷を負う。手術したものの、
薬品が足りず石丸の顔には大きな傷跡が残ってしまうことになった。大和田は自分を責め、石丸は自分の失言が事件を
招いたと強く後悔する。生徒達が混乱する中、モノクマは秘密の公開を三日延長すると宣言したのだった――
前々スレ:苗木「…え? この人が校医?!」霧切「ドクターKよ」
桑田「俺達のせんせーは最強だ!」石丸「西城先生…またの名をドクターK!」カルテ.2【前編】
桑田「俺達のせんせーは最強だ!」石丸「西城先生…またの名をドクターK!」カルテ.2【中編】
桑田「俺達のせんせーは最強だ!」石丸「西城先生…またの名をドクターK!」カルテ.2【後編】
前スレ:
苗木「…え? この人が校医?!」霧切「ドクターKよ」【前編】
苗木「…え? この人が校医?!」霧切「ドクターKよ」【後編】
★クロスSSのため原作との設定違いが多々あります。ネタバレ注意。
★手術シーンや医療知識が時々出てきますが、正確かは保証出来ません。
★どちらかの作品を知らなくてもなるべくわかるように書きます。
~前スレまでのあらすじ~
〈 Prologue 〉
超高校級の才能を持つ選ばれた生徒しか入れず、卒業すれば成功を約束されるという希望ヶ峰学園。
苗木誠達15人の超高校級の生徒は、その希望ヶ峰学園に入学すると同時にモノクマという
クマのぬいぐるみのような不可思議な物体に学園内へ監禁され、共同生活を強いられることになる。
学園を出るための方法は唯一つ。誰にもバレずに他の誰かを頃し『卒業』すること――
〈 Chapter.1 〉
モノクマが残酷なルールを告げた時、その場に乱入する男がいた。世界一の頭脳と肉体を持つ男・ドクターK。
彼は臨時の校医としてこの学園に赴任していたのだ。Kが警戒する中、第一の事件が発生する。 Kは重傷を
負った舞園さやかを手術で救い、また日頃の素行不良を糾弾された桑田怜恩を励まし信頼関係を築くのだった。
〈 Chapter.2 (非)日常編 〉
一度事件が起こったことで今後のことを危惧したKは、授業と称し応急処置の知識を生徒達に与えた。
その中で、石丸清多夏は政治家になる前にまず人間として成長する!と苗木と共にKに医学を教わり始める。
〈 Chapter.2 医療編 〉
舞園退院のタイミングを狙い、モノクマによる二度目の招集がかかる。事件が起きなければ生徒達の秘密を暴くという
内容だ。モノクマは学級裁判のルールを説明すると共に舞園を追い詰め、江ノ島盾子の殺害を図ったがそれはKが防ぐ。
しかし暴走した桑田によって生徒達の心はバラバラになってしまった。限界を迎えた舞園は、全員を脱出させることこそ
自分の成すべきことと定め、そのために自分を駒だと自己暗示をかける。そしてその夜、再び事件が発生してしまった。
〈 Chapter.2 非日常編 〉
Kが席を外している間に、大和田紋土は衝動的に不二咲千尋を襲い、石丸がそれを庇って重傷を負う。手術したものの、
薬品が足りず石丸の顔には大きな傷跡が残ってしまうことになった。大和田は自分を責め、石丸は自分の失言が事件を
招いたと強く後悔する。生徒達が混乱する中、モノクマは秘密の公開を三日延長すると宣言したのだった――
前々スレ:苗木「…え? この人が校医?!」霧切「ドクターKよ」
桑田「俺達のせんせーは最強だ!」石丸「西城先生…またの名をドクターK!」カルテ.2【前編】
桑田「俺達のせんせーは最強だ!」石丸「西城先生…またの名をドクターK!」カルテ.2【中編】
桑田「俺達のせんせーは最強だ!」石丸「西城先生…またの名をドクターK!」カルテ.2【後編】
前スレ:
苗木「…え? この人が校医?!」霧切「ドクターKよ」【前編】
苗木「…え? この人が校医?!」霧切「ドクターKよ」【後編】
3: 2014/03/23(日) 22:22:32.23 ID:uV78RBmd0
KAZUYA:スーパードクターKという漫画の主人公。本名は西城カズヤ。このSSでは32歳。
2メートル近い長身と筋骨隆々とした肉体を持つ最強の男にして世界最高峰の医師。
現在部分的に記憶喪失を患っている。外の状況やこの事件の真相をいち早く見抜く。
K一族とは:KAZUYAの祖先は代々世界的な外科医であり名門医師一族。
全員イニシャルがKのためK一族と呼ばれている。あまりにも
凄腕なため裏世界から目をつけられがちであり、体を鍛えている。
2メートル近い長身と筋骨隆々とした肉体を持つ最強の男にして世界最高峰の医師。
現在部分的に記憶喪失を患っている。外の状況やこの事件の真相をいち早く見抜く。
K一族とは:KAZUYAの祖先は代々世界的な外科医であり名門医師一族。
全員イニシャルがKのためK一族と呼ばれている。あまりにも
凄腕なため裏世界から目をつけられがちであり、体を鍛えている。
4: 2014/03/23(日) 22:24:31.12 ID:uV78RBmd0
現在の状況
【物語編】
・三階までの全ての施設が解放済み。
・保健室から薬や道具を確保し、最重要な物以外は桑田と苗木に分散して預けた。
・黒幕は様々な能力に特化した少数精鋭のプロフェッショナル集団と推測。
また中枢メンバーに女がいるとKは予想している。
・二階男子トイレにある隠し部屋を発見し「人類史上最大最悪の絶望的事件」と
「希望ヶ峰シェルター計画」についての知識を得たが、詳細はわかっていない。
・混乱を避けるため、具体的な証拠を掴むまで外の状況については伏せている。
・モノクマが内通者について話したため、生徒達はお互いに警戒しあっている。
・生徒達が部分的に記憶喪失を起こしていること、また黒幕が意図的にその状況を
引き起こしたのではないかとKは考えている。
【生徒編】
・桑田が改心し、かなり真面目になった。
・江ノ島が黒幕の味方だと気付いた。
・霧切はKから情報を得たためだいぶ記憶が戻っている。
・不二咲が現在脱出に向け何らかのプログラムを組んでいる。
・石丸が医者を目指し、苗木も巻き添えの形で現在医学の勉強中。
・舞園は自身を「脱出のための駒」として定義し演技している。
・石丸の顔に大きな傷痕が出来た。麻酔が足りないので今は消せない。
【現在の仲間】
苗木、桑田、舞園
【物語編】
・三階までの全ての施設が解放済み。
・保健室から薬や道具を確保し、最重要な物以外は桑田と苗木に分散して預けた。
・黒幕は様々な能力に特化した少数精鋭のプロフェッショナル集団と推測。
また中枢メンバーに女がいるとKは予想している。
・二階男子トイレにある隠し部屋を発見し「人類史上最大最悪の絶望的事件」と
「希望ヶ峰シェルター計画」についての知識を得たが、詳細はわかっていない。
・混乱を避けるため、具体的な証拠を掴むまで外の状況については伏せている。
・モノクマが内通者について話したため、生徒達はお互いに警戒しあっている。
・生徒達が部分的に記憶喪失を起こしていること、また黒幕が意図的にその状況を
引き起こしたのではないかとKは考えている。
【生徒編】
・桑田が改心し、かなり真面目になった。
・江ノ島が黒幕の味方だと気付いた。
・霧切はKから情報を得たためだいぶ記憶が戻っている。
・不二咲が現在脱出に向け何らかのプログラムを組んでいる。
・石丸が医者を目指し、苗木も巻き添えの形で現在医学の勉強中。
・舞園は自身を「脱出のための駒」として定義し演技している。
・石丸の顔に大きな傷痕が出来た。麻酔が足りないので今は消せない。
【現在の仲間】
苗木、桑田、舞園
5: 2014/03/23(日) 22:25:43.69 ID:uV78RBmd0
《自由行動について》
安価でKの行動を決定することが出来る。生徒に会えばその生徒との親密度が上がる。
また場所選択では仲間の生徒の部屋にも行くことが出来、色々と良い事が起こる。
ただし、同じ生徒の部屋に行けるのは一章につき一度のみ。
《仲間システムについて》
一定以上の親密度と特殊イベント発生により生徒がKの仲間になる。
仲間になると生徒が自分からKに会いに来たりイベントを発生させるため
貴重な自由行動を消費しなくても勝手に親密度が上がる。
またKの頼みを積極的に引き受けてくれたり、生徒の特有スキルが事件発生時に
役に立つこともある。より多くの生徒を仲間にすることがグッドエンドへの鍵である。
・現在の親密度(名前は親密度の高い順)
【かなり良い】桑田 、石丸
【結構良い】不二咲、苗木、舞園
【そこそこ良い】大和田、朝日奈、霧切、大神
【普通】セレス、葉隠、山田
【イマイチ】十神、腐川
~~~~~
【江ノ島への警戒度】かなり高い
安価でKの行動を決定することが出来る。生徒に会えばその生徒との親密度が上がる。
また場所選択では仲間の生徒の部屋にも行くことが出来、色々と良い事が起こる。
ただし、同じ生徒の部屋に行けるのは一章につき一度のみ。
《仲間システムについて》
一定以上の親密度と特殊イベント発生により生徒がKの仲間になる。
仲間になると生徒が自分からKに会いに来たりイベントを発生させるため
貴重な自由行動を消費しなくても勝手に親密度が上がる。
またKの頼みを積極的に引き受けてくれたり、生徒の特有スキルが事件発生時に
役に立つこともある。より多くの生徒を仲間にすることがグッドエンドへの鍵である。
・現在の親密度(名前は親密度の高い順)
【かなり良い】桑田 、石丸
【結構良い】不二咲、苗木、舞園
【そこそこ良い】大和田、朝日奈、霧切、大神
【普通】セレス、葉隠、山田
【イマイチ】十神、腐川
~~~~~
【江ノ島への警戒度】かなり高い
6: 2014/03/23(日) 22:43:27.74 ID:uV78RBmd0
― 大和田の部屋 AM8:56 ―
悪夢のような放送は終わったものの、大和田にとっての悪夢はまだ終わっていなかった。
大和田「なんだよ…あれ…ウソだろ…」
床に座り込み、頭を抱え呻く。実は、あの放送の後大和田は石丸の部屋に向かったのだった。
・・・
大和田「やっぱり…まずは謝るべきだよな…謝って済む問題じゃねえし、
土下座したって許されねぇだろうけど…」
いや、正確にはこの表現は正しくないだろう。
何故なら、最初から石丸は怒ってなどいないからだ。許さないのは自分自身の心だ。
大和田(いや……あの話を知ったらさすがの兄弟も怒るかもしれないな。まさか、
俺があんなくだらない、情けない理由でダチを殺そうとするなんて……)
告白せねばならない。親友に全てを告白し、その上で謝らなければならない。
だが大和田にはどうしてもその決心がつかなかった。とりあえず謝らなければという
不純な気持ちで向かったから、余計な物を見る羽目になったのかもしれない。
7: 2014/03/23(日) 22:46:58.06 ID:uV78RBmd0
――面会謝絶。
大和田「…………ハ?」
8: 2014/03/23(日) 22:49:45.24 ID:uV78RBmd0
その紙は昨晩KAZUYAが念のためにと用意しておいたものだった。
石丸は意識もはっきりしているし処置も完璧に施してある。だが、怪我をした場所が
場所だけにとにかく傷が塞がるまで出来る限り安静にしていなければならないのだ。
特に、あの放送のせいでただでさえ情緒不安定だったのが更に酷くなった。ほんの少しの
外部刺激がどんな結果をもたらすかわからないため、やむなくKAZUYAは面会謝絶にしたのである。
大和田(面会謝絶ってアレだろ…アイツ、そんな悪いのかよ……
……そういや本来なら失明してるレベルの重傷っつってたな)
大和田(まさか、氏にかけてんのか…?!)バッ
石丸の姿を表したドット絵の下に貼られた紙をジッと見つめる。KAZUYAが書いたのだろう、力強く
それでいて丁寧な文字だ。用がある場合はドアの下からメモを入れるようにとも書かれていた。
大和田「あ…ああ……」
思わず大和田は数歩後ずさり、自分の部屋へと逃げ戻った。
・・・
大和田(俺のせい……俺のせいで兄弟が……)
9: 2014/03/23(日) 22:53:30.88 ID:uV78RBmd0
よしんば命が助かっても顔に傷が残る。彼の輝かしい将来を自分が奪ってしまった。
かえってその方が残酷かもしれない。鏡を見るたびに親友の裏切りを思い出すのだから。
大和田自身も昨晩の出来事を思い出していた。
――思い出す。友人を殺そうとした瞬間を。
――思い出す。信じられないと言った顔で自分を見上げる親友を。
頭が真っ白だった。本当に自分がやったことなのか疑った。ただ足元にひれ伏す血まみれの
親友が、大きな赤い目をいつも以上に大きく見開いて、微かに口を動かしている。
石丸『……きょ……だい……』
大和田『い、石丸』
石丸『ど……して……?』
大和田(う、ウソだウソだウソだウソだウソだウソだっ!!!)
大和田『ち、違うんだ…石丸…こんな…こんなこと俺は…』
どこまでも見苦しい姿だ。自分を信頼する友を殺そうとした挙げ句、全く無関係の親友に
重傷を負わせたのに関わらずまだ保身しようとする。なんと醜く浅ましい姿だろうか。
……だが、石丸は少しも大和田を責めたり恨んだりはしなかった。
10: 2014/03/23(日) 22:58:04.24 ID:uV78RBmd0
石丸『う、く……ぼ、僕は大丈夫だ……兄弟は、気にするんじゃあない……』
大和田『気にしないワケねえだろ……お、俺がまた……』
石丸『これは事故だ! 不幸な事故が起こっただけなんだ……自分を責めないでくれ……』
大和田(また、やっちまった……)
人を頃してまで大和田が守りたかった秘密。それは敬愛する兄が自分のせいで氏んだことだった。
大和田の脳裏にあの夜の出来事がフラッシュバックする。兄が氏んだ日。自分が兄を頃した日。
石丸はあの時の兄と全く同じ目をしていた。大和田のことを心から心配している優しい瞳だ。
何故だ。全て自分が悪いのに。何故責めない。何故許す。何故心配する。何故……
大和田『きょ、兄弟! 兄弟! しっかりしてくれよ! 氏なないでくれええええええ!!』
記憶の中の自分の絶叫から逃げるように大和田は耳を塞いだ。
大和田(どうしてだよ……なんで……なんでこんなことになっちまった!)
大和田「誰でもいい! 助けてくれ……!」
11: 2014/03/23(日) 23:00:18.07 ID:uV78RBmd0
辛い時、苦しい時、決まって大和田の脳裏に浮かぶのは偉大な兄・大亜の姿だった。
大和田「あ、兄貴……兄貴ィィ! なんで氏んじまったんだよぉ! 弟を守るのが当然なら
助けてくれよ! いっそあの時見捨ててくれりゃこんなことにはならなかったのに!」
大和田「兄貴! 兄貴! うぅ…クソッ! 兄貴ィィィィ!」
床をダンダンと殴りつける。手の皮が向け、血が出てもやめることはない。自分なんか
生きている意味はない、氏んで償うべきだと答えは出ている。…出ているのにどうしても
氏ぬ覚悟が出来なかった。そんな自分の弱さを改めて目の当たりにし、大和田はただ嘆く。
ピンポーン。
大和田「……誰だ」
モノクマによって自分の所業はバラされている。そんな自分の元へやって来たいと
思う物好きは片手で数えられる程度しかいない。しかもそのうち一人は動けないのだ。
大和田(西城か不二咲だな……今はどっちのツラも見たくねえ……)
12: 2014/03/23(日) 23:03:18.08 ID:uV78RBmd0
大和田の予想通り、扉の外にいたのは不二咲だった。桑田と霧切までいるのは想定外だろうが。
桑田「……出ねえな」
霧切「当然ね」
不二咲「どうしよう……大和田君と話さなきゃいけないのに……」
霧切「大丈夫。少し間を空けて、次は全力で鳴らして」
十分ほど間を空け、霧切の指示通り桑田がインターホンを連打する。
ピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポーン! ピンポーン!
大和田(なんだ?! 一度やんだと思ったら、今度は急に激しく鳴らしはじめやがった…)
とめどなく続くインターホンの音に、大和田は不安感を募らせていく。
そして、先ほど見た面会謝絶の札を思い出した。
大和田(まさか……兄弟の容態が急変したんじゃ……)
今わの際に自分を呼ぶ石丸の姿が浮かび、いてもたってもいられなくなった大和田は扉を開けた。
13: 2014/03/23(日) 23:05:53.84 ID:uV78RBmd0
大和田「…………」
お互いにお互いの姿を見てギョッとしただろう。大和田は一睡も出来ていないのか、目の下に
黒々とした隈が出来、顔色も頗る悪い。大和田は大和田で、不二咲の顔を見てサッと顔色を変えた。
ガッ!
桑田「おっと!」
大和田がすぐに扉を閉めようとするのを見越していた霧切と桑田が二人がかりで扉を掴んで開く。
桑田「逃がさねえぜ!」
大和田「……なんの用だ。兄弟は?!」
霧切「今は大丈夫よ、今はね。インターホンは無視しない方がいいわよ」
大和田「…………」
霧切が扉を押さえ、桑田がバットを構えて不二咲の前に立つ。その様子を見て、
大和田は自分が警戒されているという空気を痛いほど感じた。
14: 2014/03/23(日) 23:10:02.09 ID:uV78RBmd0
桑田「不二咲がどうしてもお前と話がしたいんだってさ。男ならちゃんと向き合えよ」
大和田「…………」
霧切「大和田君……不二咲君に何か言わなければならないことがあるんじゃないかしら」
大和田「…………」
二人に促されても、大和田は黙り込んだままだった。沈黙を破ったのは不二咲だ。
不二咲「ごめんねぇ、大和田君!」
大和田「…!」
不二咲「僕、気付かないうちに何か大和田君を怒らせるようなこと言っちゃったんでしょう?
思えば、いつもいつも大和田君に頼りっぱなしだったし、迷惑だったよね…ごめんね」
大和田「…………」
仮にも自分の命を奪おうとした男に対して言える発言だろうか。昨晩自分の中にあった
どす黒い感情が、またドロドロと沸き上がり始めたのを大和田は感じていた。
大和田「な……んで、なんでオメーが謝るんだ……」
15: 2014/03/23(日) 23:15:03.83 ID:uV78RBmd0
不二咲「大和田君…?」
大和田「本当に謝んなきゃいけないのは……俺の方だろーが……」
大和田(どうして……どうしてコイツはこんなに強いんだ! 兄貴も、兄弟も、コイツも……
そして、どうして俺だけ弱い?! どうして俺以外のヤツはみんな強い?!)
思えば、不二咲だけではない。監禁当初から全く動じていないKAZUYAや霧切は当然のこと、
今目の前にいる桑田があのチャラチャラした軟派男と同一人物だというのが信じられなかった。
不二咲を庇う姿は勇ましく、武器を構え鋭い目線で自分の一挙手一投足を見張っている。
不二咲「僕ねぇ、同じ過ちをしたくないの……何が大和田君を傷つけたのかわからないと、また
気付かないうちに傷つけてしまうかもしれないから……だから、辛いかもしれないけど
あの時のことをちゃんと話し合いたいんだ」
不二咲「お願い……僕達がいつまでも喧嘩してたら、きっと石丸君も悲しむと思うの。早く仲直りして、
一緒にお見舞いに行ってあげよ? そうすれば、石丸君だってきっとすぐに元気になるよぉ!」
そう言って大和田の顔を覗き込む不二咲の目は、とても優しかった。目の前の男が、
自分の命を狙ったことなど気にも留めず、ただ大和田と石丸のことだけを思いやっている。
この弱々しい少年の瞳が、昨晩の石丸の瞳に、そしてあの夜の兄の瞳に――重なった。
不二咲の優しさと芯に秘めた強さが、再び大和田の劣等感を槍のように鋭く貫く。
大和田(俺だけが弱い。俺だけが変わらない…! 俺だけ! 俺だけが同じ過ちを繰り返す! 何度も!!)
16: 2014/03/23(日) 23:18:26.74 ID:uV78RBmd0
大和田「…っとけよ」
不二咲「大和田君?」
桑田・霧切「…!」
異変を察知した桑田と霧切に緊張が走った。二人は構えに力を入れる。
大和田「俺のことなんかもうほっといてくれ! 俺はなぁ、クズ野郎なんだよ!」
不二咲「そんなこと…!」
大和田「クズじゃなきゃ一体なんなんだ?! 大の男がオメーみてえなチビに殴りかかるか?!
兄弟…いや、石丸にも伝えといてくれ! 俺はお前の兄弟には相応しくなかったってな!」
不二咲「大和田君!」
桑田「ちょっと待て! テメェ逃げる気か! 石丸にも不二咲にもまだちゃんと謝ってねーだろーが!」
大和田「…石丸には今度詫びに行く。でも、それで終わりだ! 俺みたいな危険人物は、
部屋に閉じこもるか縛って監禁でもされてた方がいいんだよ!!」
桑田「あ、おい、待てって…!」
17: 2014/03/23(日) 23:21:35.33 ID:uV78RBmd0
大和田「うるせぇ! もうテメェらと話すことなんかねえ! …全部俺がわりぃんだ」
霧切「大和田君、問題から逃げても根本的な解決には…!」
大和田「もう俺に関わるなって言ってるだろ!」
霧切「!」
ドンッ!
桑田「あ、てめ…うわっ!」サッ
バタンッ!
大和田は扉を押さえていた霧切を突き飛ばし、桑田に牽制の蹴りを放つと扉を閉めてしまった。
不二咲「大和田君…」
桑田「あんの野郎! こっちが下手に出りゃ調子のりやがって!」
苗木「大丈夫、二人共?!」
18: 2014/03/23(日) 23:24:25.16 ID:uV78RBmd0
様子を見ていた苗木と舞園が三人の元に駆け寄る。
霧切「大丈夫よ。流石に今回は本気じゃなかったようだから」
だが、それは桑田と霧切がいたからだろう。その空気は離れていた所から見ていた舞園も感じていた。
舞園「……でも今の感じですと、もし不二咲君と二人だったらまた襲っていたかもしれないですね」
不二咲「そ、そんな…!」
桑田「アイツちっとも反省してねぇな」
苗木「そんな単純な問題じゃないんじゃないかな」
霧切「…どうやら想像以上に根深い問題があるみたいね。過去に何かあった可能性が高いわ。例えば
何らかのトラウマとかコンプレックスとか、不二咲君を見ると思い出してしまうのかもしれない」
桑田「どうすりゃいいんだよ。アイツは部屋にこもってるし、ムリヤリ外に
連れ出したってあの感じじゃどーせしゃべんないだろ」
霧切「鍵は大和田君の秘密よ。今まではあんなそぶりを見せなかったんだから、あの動機のせいで
何かを思い出した可能性が高いわ。だから秘密さえわかれば手のうちようはあるはず…」
19: 2014/03/23(日) 23:28:27.33 ID:uV78RBmd0
苗木「じゃあ、三日後に大和田君の秘密がわかるまで僕達に出来ることはないのかな?」
霧切「残念ながらそうなるわね」
不二咲「それまで、大和田君を部屋に放置するのぉ…? 一人っきりに…?」
桑田「心配なのはわかるけどよ…こればっかりはな…」
苗木「自頃しちゃったりとか…ないよね?」
霧切「…わからない。彼は自分を危険人物と認識してしまっているし、自分の存在意義や
価値が極端に下がっている状態。こういう心理状態で何をするかは予想出来ないわ」
不二咲「お、大和田君…」
涙ぐむ不二咲の肩に手を置いて、舞園が優しく慰める。
舞園「大丈夫ですよ。しばらく一人になれば、冷静になれると思います。
それに……大和田君は自殺とか出来る人ではないと思いますよ」
桑田「なんでそんなことお前がわかるんだよ」
舞園「私だからわかるんですけど、過ちを犯す人って共通点があると思います。……怖がりなんですよ」
20: 2014/03/23(日) 23:34:02.46 ID:uV78RBmd0
桑田「…………」
自分から積極的にやったことではなかったとはいえ、人を刺した経験のある
桑田は鳩尾を素手で掴まれたような、そんな寒気を背中に感じていた。
舞園「氏ぬなんて一番怖いじゃないですか。だから、今の段階で生きているのなら余程
追い詰められないと自殺はしないと思いますよ。……怖いのはモノクマですね」
実際に自分が追い詰められた経験から舞園はモノクマの存在を警戒していた。
しかし、こればかりはこちらで対処のしようがない。
苗木「モノクマは鍵をかけても入ってこれるしな…」
霧切「とりあえず私達に今出来ることはないわ。今日はもう解散しましょう」
苗木「そうだね…」
そして彼等は何の収穫もないままその場を離れざるを得なかった。
41: 2014/03/28(金) 00:20:40.32 ID:Tse2lACi0
― 娯楽室 AM9:47 ―
娯楽室の中にはいつも通りセレスと、甲斐甲斐しくその世話をする山田がいた。
まさしくその様は女王と従者のそれにしか見えない。
セレス「ご苦労様、もう下がってよろしいですわ」
山田「え、ええ~。せっかくですし、もうちょっとなにかこうお話でも…」
セレス「わたくしを楽しませられるなら構いませんが、山田君のお話と言えばアニメや漫画の
ことばかりではありませんか。はっきり言ってつまらないし興味もありません」
山田「……で、では一緒になにかゲームでも」
セレス「二人で出来るゲームは限られていますし、わたくしが勝ってしまうので面白くありませんわ」
山田「えーと、では…」
セレス「お下がりなさいな」ニコ
山田「ええー?」
セレス「さっさと下がれって言ってんだよこのブタァァァ!」
山田「ひ、ひぃ~! 失礼しましたー!」ドタドタドタ…
セレスの迫力に押され山田は娯楽室から追い出されてしまった。
42: 2014/03/28(金) 00:25:03.48 ID:Tse2lACi0
セレス「フゥ、やっと邪魔者がいなくなりましたわ」
一息つくと、セレスはチェスの駒を盤上に並べる。
セレス(折角今は西城先生のいない好機。この機会を逃す手はありませんもの!)
チェスの駒を手に、まずKAZUYAの陣営を白、そして自分達敵対陣営は黒に設定した。
次にKAZUYAを中心にして白い駒の担当を振り分けて並べていく。
セレス(キングは勿論西城先生ですわね。クイーンは霧切さん。ナイトは……桑田君と
大和田君でしょうか。人材不足で気の毒になりますわ。ビショップは石丸君と
舞園さん、ルークは苗木君、不二咲君は体が弱いからポーンでしょうか)
セレス(対するこちらは、クイーンは勿論わたくし。キングは十神君。腐川さんは十神君の
専属ナイト。山田君も臨時でわたくしのナイトにしてあげましょう。あとは…)
正直残っているメンバーは適当でいいのだが、ふと思うことがあってセレスは横にあった
将棋の駒を取り出した。そして、王将を大神、飛車と角行をそれぞれ朝日奈と江ノ島に当てる。
セレス(葉隠君は動きに予想が出来ないから適当に桂馬でも当てておきますか)
43: 2014/03/28(金) 00:36:53.58 ID:Tse2lACi0
何故大神達を別枠にしたか。それはKAZUYA達とも自分達とも違う、別の第三勢力と見なしたからだ。
白は明確に敵。黒は、味方ではないが思考が近いため大まかに動きが予想出来るメンバー。
そして、全く動きが予想出来ない将棋の駒の三種類でセレスはこの学園の勢力図を描き出す。
セレス(所属陣営を明らかにした所で、次は各人の行動分析です)
葉隠の占いのように、セレスは監禁当初から自分の中でとある賭けをしていた。それは、今
ここにいるメンバーのうち誰が殺人を犯すかの賭けだ。セレスが絶対に殺人をしないと賭けたのは、
KAZUYA・苗木・霧切・石丸・不二咲の五人のみ。それ以外の人間は殺人の可能性ありと判断した。
セレス(だてに超高校級のギャンブラーを名乗っている訳ではありませんわ。人間観察には
それなりに自信がありますの。成功する人、破滅する人は見れば大体わかります)
同じ殺人の可能性ありと判断しても二種類の人間に分けた。勝率によって賭け金の額を変え
リスクコントロールするのはギャンブルの基本だ。自分や十神のように計画を立てて行う人間と、
その場の流れで間違いを犯してしまう人間に分け、桑田・大和田・葉隠を後者と見ていた。
セレス(実際に問題を起こした桑田君と大和田君のお陰で、わたくしの予想が
そこまで的外れではないという確信が持てましたわ)
セレス(それにしても…)
44: 2014/03/28(金) 00:42:01.39 ID:Tse2lACi0
一列に並んだ白い駒を見てセレスは顔をしかめる。KAZUYAはいつの間にこんな大きな
勢力を作っていたのだろうか。石丸と大和田に該当するビショップとナイトをそれぞれ
一つずつ指で弾き倒したが、それでもまだ六つも駒が残っているのだ。
セレス(狙うはやはり最弱のポーンである不二咲君ですが、隙がありませんわね…)
今朝不二咲が桑田と一緒に現れたのを思い出す。恐らくKAZUYAが護衛につけたのだ。
セレス(となると、もう一人の最弱……苗木君ですか。しかし、苗木君には
常に舞園さんが影みたいについていますしねぇ)
ここで目線を変えて黒と将棋の駒の方を見る。
セレス(いっそのこと守りの固い白ではなくこちらを狙ってみますか?)
しかし、こちら側でも殺せる相手はかなり限られていた。十神と大神は論外。
アスリートの朝日奈もよほど上手く不意打ちしないと難しい。
45: 2014/03/28(金) 00:46:33.53 ID:Tse2lACi0
セレス(いえ、超高校級の運動能力というものを甘く見ない方がいいですわね…)
自分よりずっと運動神経がいいだろう舞園の奇襲を鮮やかに返り討ちにした桑田を思い出す。
まだ殺人など到底起こりそうにない中、完全に油断していた相手からの攻撃を避けたのだ。
つまり、舞園よりずっと体力の劣る自分に朝日奈の殺害は厳しいと判断した方がいいだろう。
セレス(……かと言って江ノ島さんも侮れないですわね)
駒を指で弄びながらセレスはドッジボールの時の江ノ島を思い出す。
あれは各生徒の身体能力を観察するには絶好の機会だった。
セレス(モデルをやっているだけあって大柄でガッチリしてますし、身のこなしが
意外と素早い。負傷していますが、左腕以外は大したことなさそうですしね)
セレス(葉隠君は正直少しどんくさいと言いますか、そんなに運動神経は良くないですが、
占い師だけあって勘がいいのか逃げ足だけは異様に早いですわ。それに大柄ですし)
そうなると、もう選択肢が限られていた。
セレス(山田君か腐川さん…ですか。一番楽そうなのは腐川さんですかね。
彼女はインドア派で華奢ですし、特に運動神経が良い訳でもない…)
46: 2014/03/28(金) 00:53:02.58 ID:Tse2lACi0
唯一気になるのは彼女がいつも十神といることだった。
結局の所、殺せそうな人間は必ず誰かと組んで行動しているのだ。
セレス(…ターゲットよりもまず殺害方法から練った方がよろしいかもしれませんわね。
毒でもあればこんなに苦心しなくて済むのですが。もういっそのこと駄目元で
モノクマさんに交渉でもしてみましょうか?)
色々と策を巡らせながらセレスは頭を唸らせる。頭脳派を自称している彼女だが、
所詮ギャンブラーはギャンブラーであり、場の流れを読んだり読心術には長けていたが、
頭を捻って殺人計画を立てるのは完全に門外漢だったのだ。
セレス(……賭けてみましょうか。わたくしが上手く計画を立てて実行出来るかを)
当分セレスの苦心は尽きないようだ。
・・・
山田「ハァ~。いつもあれだけ尽くしてる僕に、あんまりじゃないですかね…」
47: 2014/03/28(金) 00:57:35.95 ID:Tse2lACi0
娯楽室を追い出された山田は自分の居城である美術室へ戻ってきた。
同人誌の続きを描きながら溜め息をつく。
山田(……こう空気が重いと妄想もはかどりませんなぁ)
何かと個人行動の目立つ山田ではあるが、セレスと行動を共にすることも多いし、
人の集まる場にはそこそこきちんと顔を出している。常に飄々と根無し草のように
漂う葉隠と違って、山田は一人の時間に少しずつ寂しさを覚え始めていた。
山田(話し相手がほしいですなぁ。せめて一人くらい趣味が合う友達でもいれば違うのですが)
しいて挙げるなら苗木や桑田は漫画やゲームの話も普通についてこれるのだが、山田の
ディープなオタク話に若干引いているというか、桑田に至ってはいつも馬鹿にされる。
…それ以前に、今はなんだか生徒間に見えない派閥のようなものがあって、自分はどちらの
中心部にもいないというか、もっと言えばのけ物になっているのを薄々感じていた。
山田(一応西城医師には昨日謝りましたし、この際僕も向こうに入ろっかなぁ…)
48: 2014/03/28(金) 01:02:55.26 ID:Tse2lACi0
KAZUYAや不二咲は話が合わないなりに自分にも気を遣ってくれるし優しい。
特に不二咲は男だという衝撃的過ぎる秘密を知ってしまったものの、かえって男の娘とか
おいしいというか、逆に以前より濃厚に付き合えるんじゃないかと下心もあった。
山田(向こうに入れば憧れのちーたんと無条件でお近づきになれる。男の友情だとか言えば
多少の馴れ馴れしさも許されるでしょうし、久しぶりに萌え成分の補給が出来ますよ!)
しかし、山田がKAZUYAの派閥に入るにはどうしても見過ごせない問題が一つあったのだ。
山田(…問題はアレですよ、アレ! メンバーの中に犯罪者多すぎなことですよ!
どんだけいるんですか?! 西城医師もお人よしというかなんというか…)
KAZUYAの派閥に入りたい。だがその場合、舞園、桑田、大和田の三人とも仲良くしなければならない。
山田は元々桑田と大和田のことが嫌いだし、舞園はなんか怖い。なんだかよくわからないが怖い。
山田(拙者の第六感が告げている。舞園さやか殿から桂言葉並のヤンデレオーラを感じると。
ハッ! そういえばどちらも黒髪長髪美少女で敬語キャラではないですか?!)
その事実に気付くと山田はブルリと震えた。舞園にはけして逆らわないようにしよう。
いや、むしろなるたけ近寄らないようにしようと固く決意する。
49: 2014/03/28(金) 01:09:48.94 ID:Tse2lACi0
山田(他のメンバーと言えば…苗木誠殿は空気のようなと言いますか、良くも悪くも普通ですな)
苗木は全く問題ない。最後は石丸でこれも実は問題だったが…ただ、今回の事件で山田は石丸の
評価を少し改めていた。元々口うるさくて偉そうで好きではなかったが、山田は内心ではそれが
オタク特有のエリートに対する僻みであり嫉妬だと言うことをわかっていた。身を呈して不二咲を
守ったことは純粋に評価出来るし、その結果顔に重傷を負ったことは素直に同情もしている。
山田(やっぱり、前科組が問題ですな…)
いっそ孔明の罠よろしく離断工作でもしてみるか?!などと一瞬恐ろしい考えがよぎったが、
桑田や舞園が命の恩人であるKAZUYAから離れることなど有り得ないし、逆にKAZUYAが彼らを
見捨てることも有り得ないというのは山田の頭でもすぐにわかった。
山田「こう考えると、メリットとデメリットがトントンですなぁ…
いや、下手したらデメリットの方が大きい?」
人数が多いということは、内通者が中に潜んでいるという恐るべき事態の可能性も高いのだ。
山田(あー……一人は寂しいし、でも内通者は怖いし、前科組はもっと怖いし。
僕はこれから一体どうすれば……助けてぶー子……)
身の振り方を真剣に悩む山田であった。
61: 2014/03/29(土) 18:27:40.64 ID:mC95T3am0
>>60
もしかして: 何も考えていない
再開。今日は久しぶりに安価あります
もしかして: 何も考えていない
再開。今日は久しぶりに安価あります
62: 2014/03/29(土) 18:29:00.73 ID:mC95T3am0
◇ ◇ ◇
K「…そうか。二人共ご苦労だったな」
とりあえず桑田と不二咲は石丸の部屋へと戻って来ていた。鎮静剤のおかげで石丸は
眠っていたため、今までのことをKAZUYAに報告していたのである。
不二咲「ごめんなさい、先生……僕が大和田君と仲直り出来れば、石丸君だって
きっと落ち着けるのに。僕、全然役に立てなくてぇ……」
また涙を流す不二咲の頭をKAZUYAは優しく撫でた。
K「そんなことはないさ。不二咲が無傷でここにいるだけで俺は嬉しいし、
石丸だって無茶をした甲斐があったというものだろう」
不二咲「でも、石丸君の顔の傷…」
K「モノクマが言ったことは嘘だ。お前達全員を追い詰めようとしているんだ」
桑田「ほーら言ったじゃねえか。せんせーの言ってる方が正しいんだよ!」
不二咲「うん、うん、そうだよねぇ…」
K「…それにしても舞園には驚かされたな」
63: 2014/03/29(土) 18:34:23.66 ID:mC95T3am0
大和田の件を解決出来なかったのは想定の範囲内だが、舞園が積極的に事態の
収拾に動いているのが信じられなかった。あんなに弱かった彼女が何故短期間で
そこまで強くなったのだろう。昨夜の不自然なまでに綺麗な笑顔を思い出す。
桑田「ぶっちゃけ俺も結構ビビッてるよ。確かに昨日ちょっと持ち直したけどさ、
まさかいきなりあんな頼りになるなんてよ。俺にも普通に話しかけてくるし」
K「…まあ、有り難い話ではないか。彼女も彼女なりに色々思うことがあるのだろう。
むしろ、お前は平気なのか? まだ気持ちの整理はついていないと思うが」
桑田「んー……別に。頼りになるならなるでいいじゃん? アイツには今まで
散々迷惑かけられたんだし、これからはバンバン動いてもらおうぜ!」
正直な話、わだかまりも葛藤もあった。騙されて刃物で襲われたトラウマは急には消えない。
だが桑田も少し大人になっていたので、KAZUYAに余計な心配をかけさせたくないのと、彼女の
力が今は必要だという冷静な判断で嘘をついた。…が、表情でKAZUYAにはバレバレなのだ。
K「フッ、お前も大分大人になったではないか」ポンポン
桑田「やめろよ、ガキじゃねえんだからさ!」
KAZUYAが桑田の頭に手を置くと、桑田は照れて逃げる。
64: 2014/03/29(土) 18:39:09.14 ID:mC95T3am0
桑田「…で、どうすんだよ? 部屋にこもってりゃ俺達は安全だけど、それじゃ事件は防げないだろ?」
K「苗木が舞園と組んで動いているなら、お前は霧切と組んで怪しいメンバーの監視をしてくれないか?」
K(戦力的に考えたら桑田は腕が立つし手負いの舞園と組むのが望ましいが、そこまでさせるのはな…)
桑田が自分に好意的なのをいいことに、昨日から散々無理をさせているのをKAZUYAは内心申し訳なく
感じていた。それに今の舞園はなんだか調子が良いようだし、苗木なら任せても大丈夫だろう。
桑田「わかった。で、誰を特に見ればいい?」
K「十神と江ノ島だ」
桑田・不二咲「!」
KAZUYAは即答した。先程話題が出た江ノ島の名前が挙がり、二人は顔を見合わせる。
桑田「十神はわかるけどよ……江ノ島はなんで?」
65: 2014/03/29(土) 18:44:32.00 ID:mC95T3am0
江ノ島はけして軽傷ではない怪我人である。その江ノ島の名前が挙がったことに不信を
感じるのは当然だ。内通者だということは伏せたままKAZUYAは適当な理由を述べる。
K「まあ、消去法だな。ルーデンベルクと腐川はそこまで力が強くなさそうだから、
不二咲と苗木さえガードすれば問題ないだろう。大神と朝日奈は常に二人一緒に
いるから、もし片方が内通者でないなら昼間は事件を起こせない」
K「江ノ島は怪我人ではあるが、両足と利き腕はほぼ問題なく使える。それに今までの動きで
わかるが、ああ見えて運動神経が良さそうだ。ギャルだからと舐めてかからない方がいい」
不二咲「朝日奈さんが内通者の可能性もあるのかなぁ…」
不二咲もKAZUYA同様、あの太陽のように明るい少女だけは
内通者であって欲しくないと思っているようだ。
K「俺は大神と朝日奈の両方が内通者という可能性はないと考えている」
桑田「あん? どうしてだよ?」
K「あの二人はとても仲が良いだろう? 内通者同士が必ず組んで行動するとは
限らないが、あの二人がもし共に内通者なら確実に組んで事を起こすはずだ」
66: 2014/03/29(土) 18:51:10.85 ID:mC95T3am0
K「一人で足がつかないよう殺人を犯すのは難しいが、二人で協力すればさほど難しくはない。
今まで事件が起こっていないのなら、あの二人が両方内通者という可能性はかなり低い」
桑田「なるほどなー……前から思ってたけどさ、せんせーってホント頭いいよな」
K「まあ、狡賢い悪人と何度も戦ってきたからな。頭を使わねば生き残れんのだ」
そう言うとKAZUYAは不二咲に向き直る。
K「不二咲、頭脳は時に腕力を凌駕する。お前は力はないかもしれんがとても頭がいい。
今は場が混乱してしまっているが、落ち着いたらきっとみんなの役に立てる時が来る」
K「だから、みんなの力になりたい、事件を防ぎたいと思う気持ちはわかるが、
今しばらくはなるべく出歩かずみんなを励ます係に回ってくれないか?」
不二咲「僕なんかが励まして、元気になれるのかなぁ…?」
K「お前の笑顔は人を元気にさせる力がある。俺を信じろ!」
不二咲「うん、わかったよぉ」
そう言って不二咲が微笑むとKAZUYAと桑田もつられて笑う。
今一番必要なのは癒しなのだ。そして不二咲はそれをみんなに与えることが出来る。
67: 2014/03/29(土) 18:59:46.44 ID:mC95T3am0
K(これも立派な才能だな)
だが実の所、今誰よりも癒しを求めているのはKAZUYA自身かもしれなかった。生徒の手前
悩んでいる表情は絶対に出せないが、少しずつ追い詰められ始めているのを感じていた。
K(もう二人ほど協力者がいれば、俺も自由に動き回れるのだが…)
だがないものねだりをしても仕方がない。むしろ、最初の方に比べれば
KAZUYAを信じ、付き従ってくれる仲間が出来ただけ有り難いのだ。
K(頼む。誰も氏なないでくれ――)
◇ ◇ ◇
苗木誠は舞園を連れて廊下を歩いていた。
舞園「それで苗木君、私達はどうしますか?」
苗木「……僕はね、舞園さん。事件を防ぐためには、怪しい人とかそうでない人とか今は
置いておいて、とにかくみんなをよく見ないといけないんじゃないかって思うんだ」
68: 2014/03/29(土) 19:06:40.64 ID:mC95T3am0
苗木「昨日の事件もそうだけど、必ずしも殺人を計画してる人が事件を起こす訳じゃない。
みんなの不安や恐怖が原因で、思わぬ事故が起こってしまうこともあるよね?」
舞園「そうですね。あからさまに怪しい十神君などは逆にみんな警戒しているから
かえって事件を起こしにくいですが、事故は事前に予測が出来ませんし」
― 苗木行動 ―
皆さん、お待たせいたしました。いよいよ我らが苗木君のターンですよ!
苗木君はKAZUYAじゃないので生徒達と会っても親密度は変動しませんが、
その代わり生徒のもう一つの隠しゲージ「絶望度」を下げることが出来ます。
絶望度は毎日溜まっていき、数値の上がりやすさは個人差があります。
また、事件のような悪いイベントが発生すると一気に上昇します。
自由行動と違って、仲間キャラを選んだ方が良い時もあったり…
苗木「先生じゃないけど時間の許す限り何人か会ってみようよ。
とりあえず、最初は>>70の所に行ってみようかな」
大和田はさっき会ったので除く。
71: 2014/03/29(土) 19:21:52.85 ID:mC95T3am0
苗木「腐川さんの所へ行こう」
舞園「どうして腐川さんを選んだんですか?」
苗木「腐川さんて、確かに暗くて卑屈な所はあるけど、ホントは寂しがりやだと思うんだよね。
今回のことで不安を感じているかもしれないし、様子を見た方がいいんじゃないかなって」
舞園「なるほど。では行ってみましょうか。腐川さんと言えば図書室ですかね?」
・・・
二人は図書室の前をたむろしている腐川を発見した。
苗木「あ、いたいた。腐川さん!」
腐川「ヒッ。苗木に舞園……なによ。アタシに一体なんの用よ?」
腐川は二人を見て、特に舞園の姿を認めるとあからさまに警戒する。
72: 2014/03/29(土) 19:26:43.59 ID:mC95T3am0
苗木「いや、特に用はないんだけどね」
腐川「用もないのにアタシの所に来た……アタシをからかいに来たのね? そうなのね?
どうせアタシなんて、からかうくらいしか役に立たないブスだし」
苗木「そ、そんなことないよ!(相変わらずめんどくさい性格だなぁ…)」
舞園「昨日のことや今日のモノクマの件で、腐川さんが不安になっているんじゃないかって…」
舞園がそう言うと、腐川は半歩後ろに下がって舞園を睨みつける。
腐川「不安に決まってるでしょ! …というか、あんたがここにいるのが既に不安よ!」
舞園「そうですね、ごめんなさい」
神経過敏になっている腐川をなるべく刺激しないよう、舞園はすぐ申し訳なさげに謝る。
だが、そんな舞園の姿でさえ腐川は気に入らないようだった。
73: 2014/03/29(土) 19:37:54.56 ID:mC95T3am0
腐川「帰んなさいよ。あんた達と話すことなんて特にないから」
苗木「まあまあ、そう言わずに。動機の件でイライラしてるのはわかるけど…」
苗木が動機、という単語を出した時だった。腐川が白目を剥いたのは。
腐川「ヒィィィィ!」
苗木「え、な、何?!」
舞園「どうかしましたか?」
腐川は両手で自分の体を抱きしめるようにしてガタガタと震えだす。
苗木は訳が分からず混乱したが、舞園はこれは何かあるなと見抜いていた。
腐川「あ、あ、あんた達…」
苗木「何? どうしたの?」
動揺する苗木と舞園に腐川が突きつけた言葉は二人にとって完全に予想外なものだった。
74: 2014/03/29(土) 19:45:10.79 ID:mC95T3am0
腐川「アタシを頃しに来たのね!」
苗木「……え?」
舞園「違います! そんなことは…!」
腐川「びゃ、白夜様ぁぁっ!」
バタバタ、バタン!
引き止める間もなく、腐川は図書室へと駆け込んで行ってしまった。
苗木「ふ、腐川さん! 待っ…!」
舞園「苗木君、待ってください! 今腐川さんは怯えています。追いかけるのは逆効果ですよ」
苗木「そうかな…? それにしても腐川さん、急にどうしちゃったんだろう…」
舞園「あの怯えよう…もしかしたら、何か人に恨まれるような動機なのかもしれないですね」
苗木「恨まれる…」
舞園「断定は出来ませんよ? その可能性があるというだけです。とにかく、腐川さんと
これ以上話すのは無理みたいですね。時間も惜しいし次の人の所に行きませんか?」
苗木「あ、うん」
次>>76(大和田・腐川以外)
あとご飯行ってきます。
78: 2014/03/29(土) 20:13:26.96 ID:mC95T3am0
苗木「じゃあ、次は山田君の所に行ってみようか」
舞園「山田君も内通者騒ぎの時にパニックを起こしていた人の一人ですからね」
苗木「(あれ、舞園さん先生から聞いたのかな?)うん、行っといた方がいいかなと思って」
そして二人は最も山田がいそうな場所、美術室へと向かった。
・・・
ガラッ。
苗木「あ、いたいた。山田くーん」
山田「おお! これはこれは苗木誠ど……ってぬおおおおっ?!」
苗木「え、何?! どうしたの?!」
山田「い、いえなにも…(ま、舞園さやか殿おおおお。ヒイィ、会いたくなかったのに…)」
79: 2014/03/29(土) 20:18:11.75 ID:mC95T3am0
舞園「どうかされましたか?」
山田「(ブンブンブン!)なにも! なにもありません! 本当に!」
舞園「そうですか。ちょっと、私達と一緒にお話しませんか?」ニコ
山田「え、ええ。構いませんが…(目をつけられたー! 拙者ピンチですぞ!)」
少し前に関わるまいと決意した舞園にいきなり近寄られ、山田は汗が止まらなかった。
山田(チッ、せっかく苗木殿といういい話し相手が来たと思ったのに…なんで舞園殿まで)
苗木「山田君、なんか汗がすごいけど大丈夫?」
山田「い、いいえぇ。ほら、僕ってちょっと太いし暑がりだから。いやあ。ここも暑い暑い」
苗木「? そうなの? モノクマに言って空調強めてもらおうか」
山田「いや、それには及びませんぞ」
舞園「…………」
80: 2014/03/29(土) 20:22:59.63 ID:mC95T3am0
山田「ところで、僕になにか用ですかな?」
苗木「えっと、特に用はないんだけど。ほら、昨日の今日だしちょっと不安だよね」
山田「その気持ちは良くわかりますぞ! あの忌々しいモノクマが煽ったせいで、
誰がいつ僕達を殺そうと企んでいるかわかりませんからな!」
苗木「うん、それで…」
山田「ああ、怖い怖い……既に犯罪者が三人も出てますし、きっとこれからだって……」
苗木「……え」
言ってから山田はしまったと口を押さえた。
山田「あ、い、いや! 今のは失言といいますかなんというか…」
舞園「いいですよ。本当のことですしね。私が殺人を犯そうとした事実はけして消えません」
山田「」ダラダラダラ
81: 2014/03/29(土) 20:31:09.10 ID:mC95T3am0
舞園「大丈夫ですよ。ここでまた事件が起きれば前科者の私は真っ先に
疑われる訳ですから。そんな状態で事件なんて起こすと思いますか?」
そう言って舞園は山田を見るが、山田にとってその目が既に怖かった。
山田「そ、そうですよねぇ。は、ははは」
山田(テラヤバス…こ、これ以上ここにいられるとますます墓穴を掘りそうだ)
山田「あの、せっかく来てもらったのになんですが僕は今同人制作に忙しくて…」
苗木「あ、そうなの? ごめんね、忙しいのに邪魔しちゃって」
山田(うわあああ、苗木誠殿にはいてほしいのにいいい。舞園殿のせいでぇぇ!)
山田「今描いてる作品が完成したら苗木殿にもきっと見せますぞ!」
苗木「楽しみにしてるね。じゃ、僕達はこれで…」
山田(ああ。話し相手が去って行く……これが孤高の戦士として生まれた宿命なのか)
苗木が去って行く後ろ姿を切なげに眺めながら、山田は心の中でそう呟くのだった。
103: 2014/04/01(火) 22:56:39.77 ID:q5h31EQ90
◇ ◇ ◇
KAZUYAに不審なメンバーの監視を頼まれた桑田は、霧切を探して寄宿舎を歩き回っていた。
そしてトラッシュルームを調査している霧切を発見し、簡単に事情を話す。
霧切「それで、あなたは私の所へ来たと」
桑田「そーゆーこと」
霧切「…………」
霧切(流石ドクター…やはり江ノ島さんを怪しんでいるのね。何か証拠を掴めればいいのだけど)
桑田「でさぁ、俺達はどっち行く? 強さ的にはやっぱ十神か?」
霧切(私の推理が正しいのなら、江ノ島さんは恐らく何らかの訓練を受けている。
でも十神君も十神家の人間である以上、護身の腕はかなりのものと見ていい)
霧切「私達は……十神君は行っても無駄でしょうし、江ノ島さんの方へ行くわ」
桑田「江ノ島ちゃんかぁ。まあ十神よりはいいかな」
霧切「ちなみに私は行かないわよ」
桑田「へ?」
霧切「前にも言ったはずよ。私はあくまで中立の存在だと。自分の力で頑張ることね」
桑田「ちょ、マジか……」
104: 2014/04/01(火) 22:58:21.41 ID:q5h31EQ90
ガッカリする桑田に対し、霧切は小さな声で早口で話す。
霧切「そもそも普段他の生徒とあまり関わらない私が、ドクターと近い存在の
あなたと一緒に彼女の前に現れたら警戒されるに決まっているわ」
桑田「まあ、そうだな」
霧切「私は食堂にいるから、あなたが上手いこと彼女を連れてくるのよ」
桑田「え、マジで?」
霧切「ナンパは得意でしょ?」
桑田「いやぁ、その……ここに来てからはちょっと調子が悪いっつーか」
霧切「男の子でしょ。いちいち言い訳しないでさっさとやりなさい」
桑田「ハァ……お前ってホント性格キツいよな」
霧切「……そうかしら」
キツいと言われて若干心外という顔をするが、すぐに霧切は気を取り直す。
霧切「とにかく、何を言われても今は協力出来ないわ」
桑田「わーったよ」
けんもほろろに断られた振りをして霧切と別れると、桑田は江ノ島を探しに出かけた。
105: 2014/04/01(火) 22:59:57.96 ID:q5h31EQ90
桑田(つってもなぁ……江ノ島って普段どこでなにやってんだ?)
普通に社交的で明るい性格なのに特に仲の良い友人というものがおらず、江ノ島はいつも
単独行動ばかりしているような気がする。よくよく考えればこんな状況で不自然ではないか?
桑田(なんか、考えれば考えるほど怪しく見えてくるな……モデルだからインドア系かと思えば
ドッジボールの時はノリノリだったし、かといって朝日奈達とつるんだりはしないし)
桑田(……一緒にいるとボロが出るからわざと距離取ってるとか?)
疑惑は深まるが、まずは本人を探してみないと始まらない。
桑田(部屋にいねーだろうな……いくらなんでも突然親しくもない男子が女子を
誘いに部屋まで押しかけたら警戒されるなんてレベルじゃねーぞ……)
まず食堂を覗き、次に桑田はランドリーを覗いてみる。
江ノ島「お、桑田じゃん」
桑田(……いたよ)
あっさり見つかりすぎて桑田は些か拍子抜けするが、すぐに表情を作った。
108: 2014/04/01(火) 23:12:30.03 ID:q5h31EQ90
桑田「よう。元気?」
江ノ島「別に、フツー。……あんた一人なの? なんか珍しいじゃん」
桑田「まあな。そんな時もあんだろ」
意外にも江ノ島は桑田を警戒していなかった。内通者云々が全くの濡れ衣だとしても、
桑田の過去について嫌悪感や恐怖心を抱いたりはしていないのだろうか。
江ノ島「で、そんなとこでなにやってんの?」
桑田「えっとさ……」
まさか正直に探りをいれにきたとは言えない。こんなことなら探す前に
言い訳の一つも考えておけば良かったと後悔しながら桑田は頭を回転させる。
桑田「さっきまでせんせーんトコにいたんだけど、うるさいからって追い出されちまってさ…
ほら、せんせーって今石丸に付きっきりじゃん? 俺がいると目を覚ますからってよ」
桑田「最初は苗木探してたんだけどさぁ、あいつ舞園と一緒にいてな……かと言って、
他の男子とは今上手くいってねえし。誰でもいいから話し相手探してたんだよ」
江ノ島「ふーん」
江ノ島は桑田の嘘を特に疑ってはいないようだが、興味も持っていないようだった。
109: 2014/04/01(火) 23:15:46.88 ID:q5h31EQ90
桑田「でさぁ、この際女子でもいいから誰か話し相手になってくんねえかなって……」
江ノ島「“女子でもいいから”…?!」
ギョッとしたような目で江ノ島は桑田を見返し、思わずその顔を凝視した。
桑田「なんだよ……俺、なんかおかしいこと言ったか?」
江ノ島「う、ううん! 別に!」
桑田「でさぁ、その……もし良かったら、ちょっと付き合ってくれね?」
江ノ島「いいけど」
桑田「えっ、マジ?!」
正直かなり駄目元で聞いてみたのだが、江ノ島はあっさりとOKを出してくれた。
江ノ島「ハァ? あんたなに自分から誘ってきたくせに驚いてんの?」
桑田「いや、俺ってあんま女子受け良くないみたいだし、断られるって思っててさ」
110: 2014/04/01(火) 23:20:07.00 ID:q5h31EQ90
江ノ島「だっておしゃべりするだけでしょ? なんか昨日からみんなバラバラに行動してて
アタシも暇だし、それくらいなら付き合うよ。それとも、変なことでも考えてんの?」
桑田「いや、そういうワケじゃねーけど……」
江ノ島「言っておくけどね、アタシは外見が派手だからよく誤解されるけど、こう見えて
貞操は堅いしあんたみたいにチャラチャラしてないから! 同類扱いしないでよね」
桑田「わかってるって! 純粋にただの時間潰しだよ」
冷静に考えればこれもかなり失礼な発言なのだが、
江ノ島は特に気にせずむしろもの珍しげに桑田を眺めるのだった。
江ノ島「話してたらちょうど終わったから、洗濯物部屋にしまって来るね」
桑田「! じゃあ俺、食堂にいるから来てくれよ」
江ノ島「了解。待ってて」
桑田はランドリーを出て食堂に向かう。打ち合わせ通りそこには霧切がいて一人静かに
コーヒーを飲んでいた。目で問い掛けてきたので桑田はウインクをして返す。
111: 2014/04/01(火) 23:22:55.30 ID:q5h31EQ90
江ノ島「お待たせー」
桑田「おっす」
江ノ島「あれ、あんた紅茶なんて用意してくれたの? 気が利くじゃん!」
桑田「んー、まあな」
桑田(飲み物でも飲んでリラックスしたら余計なことしゃべってくれないかなって作戦なんだけどな)
江ノ島はすっかり機嫌が良くなったようで笑顔を浮かべながら座ろうとし、ふと振り返った。
江ノ島「あ、そうだ。せっかくおしゃべりするなら人数多い方が良くない?
ねえ! 霧切もどうよ? こっちで一緒におしゃべりしない?」
桑田(マジかよ! 願ったりかなったりってヤツだぜ!)
桑田「どうよ、霧切?」
霧切「折角のお誘いだけど私は遠慮させてもらうわ。今は静かにコーヒーを飲みたい気分なの」
霧切は桑田の目を見据えながら即座に断り、再び目線を逸らす。
112: 2014/04/01(火) 23:30:02.78 ID:q5h31EQ90
桑田(自分がいたら警戒されるからあくまで俺が前に出ろってことか)
桑田「ちぇー。せっかく江ノ島ちゃんが誘ってくれたのに感じわりぃな、あいつ」
江ノ島「まあ、いいよ。霧切っていつもあんな感じじゃん?」
江ノ島(良かったぁ……無視するのも不自然かなと思って一応声かけたけど、霧切さんを
相手に演技するのって正直キツイんだよね。盾子ちゃんにも散々注意されたし)
桑田「だな。で、誘っといてなんだけどなに話すか。そうだ、仕事の話とか聞かせてくれよ」
江ノ島「仕事、ね……」
江ノ島(えーっと、仕事の話はよく聞かれるから盾子ちゃんの真似をして……)
江ノ島「まあ、あんなんテキトーよテキトー! アタシクラスになるとノリでなんとか
なっちゃうみたいな? それっぽくポーズ取ればもう形になっちゃう感じ!」
桑田「でも修正はあるんだよな」
江ノ島「ま、まあね~。別にアタシだけじゃなくて今時みんなやってるし! アハ、アハハハハ!」
内心傷ついているが、半分ヤケッパチになって偽の江ノ島は笑い飛ばす。
桑田「フーン。そんなもんか……」
桑田(その割に舞園はテレビのまんまだったけどな)
113: 2014/04/01(火) 23:31:53.83 ID:q5h31EQ90
オシャレにうるさい桑田は色々な雑誌を頻繁に買うし、モデルの江ノ島についてもよく知っている。
桑田(……なんか怪しくねーか? プリクラの詐欺修正知ってっから目とかそばかすはいいぜ?
でも体まで修正するか? あんまかわいくないごり押しアイドルがグラビア撮る羽目に
なって修正とかならともかく、最初から写真ありきのしかも現役トップモデルが?)
怪しまれない程度にチラリと体に目をやりまた考える。
桑田(江ノ島っていやぁ、今時の男子高校生が抱きたい女断トツの一位だよな。
ふっくらムチムチかつメリハリのあるボディが売りなのに……)
貧相、は言い過ぎかもしれないが目の前の女性はお世辞にも豊満な体とは言えないし、
ガッチリしてるというか筋ばっているというか、男の桑田的に表現すると……
桑田(なーんか固そうだよな。正直、あんま抱き心地良くなさそう)
その時、桑田はある恐ろしい考えが閃いたのだった。
桑田(まさか――江ノ島の偽物、とか?)
114: 2014/04/01(火) 23:35:53.85 ID:q5h31EQ90
スパイ映画で変装した人間が別人に成り済ますのはよくある展開だ。勿論、普段なら
馬鹿げた考えだと一蹴しているだろう。もし自分以外の誰かがそれを言ったのなら、
映画の見すぎだと即座に切り捨てるくらいには有り得ない考えだった。
だが、今自分達は謎の組織に捕らえられコロシアイを強制させられるという、
まさしく映画のような世界にいるのだ。だったら有り得ないとは言えないのでは?
桑田(俺達は所詮本物の江ノ島を知らないんだし、ある程度顔とか身長の近い人間に
化粧させたらいくらでもごまかせるんじゃねーか? 女は化粧で化けるっていうし)
流石に本人そっくりのマスクを被って、というフィクションで
よくある手法は却下したが、それでも一度抱いた疑念はなかなか消えない。
桑田「なあ、やっぱ江ノ島クラスのモデルだとあのめっちゃ有名な写真家にも
撮ってもらったことあんの? ほら、なんつったっけ? 篠なんとか」
江ノ島「え?! えっと……ヤバっ! アタシも名前ド忘れしちゃった。かなーり昔に
撮ってもらったと思う。緊張してたから細かいことはよく覚えてないけどね」
桑田「あの人の写真集はマジですげーよな! 江ノ島もお約束のアレ、撮ってもらったの?」
江ノ島「(アレ?! アレってなに?! どうしよう……わかんないよ)ま、まあね!」
桑田「へー、すげえじゃん」
桑田(バーカ。名前はド忘れすることもあるかもしれねーけど、あの写真家がヌード写真で
有名ってことを業界人が知らないワケねーよ。江ノ島はヌードなんてやってないし)
115: 2014/04/01(火) 23:40:56.01 ID:q5h31EQ90
心の中で舌を出すが、同時に桑田は青ざめるのだった。
桑田(……ヤバイ。マジでニセモンだった。てことは、こいつ内通者じゃねーか!!)
映画の中で、変装して敵陣に潜入するのはどんな人間か。凄腕のエージェントが大半だ。しかも、
先程桑田が聞いたことは別に業界人でなければ知らないようなマニアックな知識ではなく、そこそこ
一般常識に近い内容である。一般常識を知らないくらい俗世間からかけ離れたプロのスパイが、
目の前に座っている。もしかしたら、今も服の下には銃を隠し持っているのかもしれない……
桑田(お、落ち着け、俺! ビビるな……!)
桑田は元々とても臆病な人間である。軟派さやいい加減さは大分改善されたものの、生来の性根が
そう簡単に変わるはずがない。恐怖と緊張で体が震えないよう、桑田は必氏に仲間の顔を思い浮かべた。
桑田(気付かれたら一巻の終わりだ! 生きて戻って、ぜってえせんせーに知らせねーと!)
もはや会話など出来る状態ではなかった。流石の江ノ島も桑田の異常に気付く。
江ノ島「……わた。桑田! あんた人を誘っといて話ちゃんと聞いてんの?!
ていうかさ……なんか、顔色悪くない? 大丈夫?」
116: 2014/04/01(火) 23:45:21.00 ID:q5h31EQ90
桑田「あ、わりぃ! ちょっと、考え込んじまって……」
江ノ島「考え込むってなにを?」
桑田「(あ、ヤバ!)いや、ほら、石丸と大和田のことふと思い出しちまって。大丈夫かなってさ」
江ノ島「…………」
以前の桑田だったら、江ノ島ちゃんがかわいいから見とれてたんだよ、などと適当な
調子の良い嘘をサラリと言えたものだった。しかし、ここ最近は不慣れな頭脳労働ばかり
していたため、すっかり頭が真面目モードになってしまって白々しい嘘をつけなかった。
江ノ島「……桑田君、変わったね」
桑田「あ?」
言い訳で頭がいっぱいだったため半分聞き逃したが、江ノ島がとても驚いているのはわかった。
桑田「変わった? 俺が?」
江ノ島「え? あ、その……あんたここに閉じこめられた時とキャラ違い過ぎじゃね?!
どーしちゃったの? 桑田イコールどーしようもないチャラ男って感じだったのに!」
桑田「……俺ってそんなどーしようもない印象だったんだな。ハハ……」
117: 2014/04/01(火) 23:51:23.17 ID:q5h31EQ90
過去の自分は黒歴史にしよう、と密かに桑田は誓う。
江ノ島「ま、まあいーんじゃない? 今の方が全然いいよ。……やっぱあいつのせいなワケ?」
あいつと言われて思い浮かぶのは一人しかいない。
桑田「KAZUYAせんせーか。そうだなぁ……石丸ほど頭固くはないけど、真面目が服着て
歩いてるタイプには違いねえし、やっぱ一緒にいると影響受けんのかもなぁ」
江ノ島「なんか意外。あんたとあいつってめっちゃ相性悪そうだったのに」
桑田「うーん……最初はなんか恐そうだしヤバそうだし、近寄らないようにしようって
思ってたけどさ……話してみたら意外と人の話ちゃんと聞いてくれるし優しいし」
桑田「あと、悪いことすりゃキッチリ叱るし結構厳しいことも容赦無くバンバン言うんだけどさ、
基本的に相手を否定しないんだよなぁ。少し離れたトコロから見守ってくれるっつーか」
江ノ島「……尊敬してんの?」
桑田「え? いや、リスペクトって言われたらちょっと違うような、あーでも……」
最初はグチャグチャと煮え切らなかった桑田だが、ふっと力を抜くと最終的には肯定した。
118: 2014/04/01(火) 23:59:25.11 ID:q5h31EQ90
桑田「まあ……そーなのかもな」ニカッ
江ノ島「フーン。そうなんだ……」
桑田の楽しげな顔を見て、今度は江ノ島が物思いにふける番だった。
江ノ島(……私は西城先生についてあんまり知らない。たった二ヶ月しかいない臨時の
先生なのにやけに人気あるなとは思ってたけど、興味なかったから保健室にも
全然行かなかったし、なんか大っきくて強そうくらいのイメージしかなかった)
江ノ島(だから盾子ちゃんが西城先生をやたら警戒する理由がわからなかったし、私自身
ちょっと気を抜いてるトコロはあった。でも、こういうことだったんだね……!)
江ノ島(盾子ちゃんは桑田君を『あいつは才能に溺れてる典型。救いようがない』って言ってた。
なのに先生は、その桑田君をここまで更生してみせた。流石に十神君やセレスさんは
無理だと思うけど、下手したらそれ以外の全員を取り込んでしまう可能性がある)
軍人としての本能が騒ぎ始める。一度敵と認めた者は殲滅せよと告げている。
江ノ島(今なら私にもわかるよ、盾子ちゃん。西城先生は――危険だ!)
119: 2014/04/02(水) 00:03:18.77 ID:jrn3QSkY0
江ノ島(どうする? 今すぐにでも消した方がいい? 今ならきっと怪我で動けない石丸君を
庇うだろうから簡単に殺せる。でも、今はマズイんだっけ? どうしたら……)
桑田「……しま。おい、江ノ島! 聞いてんのか?」
江ノ島「あ、ゴメンゴメン! なに話してたっけ?」
桑田「ったくよー。人のこと言えねーじゃんか」
江ノ島「だから悪かったってば。もっかい最初からお願い!」
桑田「しゃーねえな」
お互いがお互いを警戒し腹を探ろうと会話を続けるが、
頭脳労働が苦手な者同士、結局何の成果も得られないのだった。
ただ唯一、江ノ島の姿をした戦刃むくろにとって計算外だったのは……
霧切「…………」
ドクターKと並んで本物の江ノ島が最も警戒する人物、霧切響子に会話を全て聞かれていたことだった。
136: 2014/04/05(土) 00:11:44.93 ID:/ypBSAQK0
◇ ◇ ◇
葉隠は特にやることも見つからず、ブラブラと学園内をフラついていた。
ふと足音が聞こえそちらに目をやると、廊下の向こうから人影がやって来る。
大神「ム、葉隠か」
葉隠「よう、オーガか。朝日奈は一緒じゃないんか?」
大神「一緒に泳いでいたのだが、朝日奈はまだ泳ぎ足りないと言ってな。我だけ早くあがった」
葉隠「フーン、そっか。こんな時だってのにあの元気さは羨ましいべ」
大神「逆だ。今朝の件で混乱し、フラストレーションが溜まっている。
だから体を動かして無理矢理その感情を発散させているのだ」
葉隠「そんなもんか」
大神「ああ。余程ショックだったのだろうな。まるで試合でもしているかのように今も
一心不乱に泳ぎ続けている。モノクマもとんでもない置き土産を残したものだ」
葉隠「そうだよなぁ。ただでさえ事件が起こって空気が重ったるいってのに、秘密の
公表を三日延期だなんて事件を起こしてくれって言ってるようなもんだべ」
大神「言ってるようなものではなく実際にそう言っているのだが……」
他愛もない会話だったが、葉隠はふと血相を変えて大神を見た。
葉隠「ま、まさかオーガ……俺を殺そうとか考えてねえよな?」
137: 2014/04/05(土) 00:15:47.82 ID:/ypBSAQK0
大神「…………」
大神(偽装用の凶器もなく、こんな時間にこんな所で素手で殺せば我が犯人だとすぐに
わかる。そもそもモノクマから指令も出ていないというのにやるはずもない)
だが、全く頃す気がないと言えないのは武人として些か情けない気持ちだった。
大神「見ての通り我は丸腰だ。安心せよ」
葉隠「で、でも! オーガだったら素手でも十分だべ!」
大神「素手で人が殺せる人間など我か西城殿しかおらぬからすぐに犯人がわかるだろう。
そもそも怖いのならこんな所を一人で歩かず、部屋にいた方が良いのではないか?」
葉隠「そ、そうさせてもらうべ」
まだ警戒しているのか葉隠は背中を見せずに後ずさり、一気に寄宿舎へと駆け戻って行った。
大神(皆少しずつ疑心暗鬼が酷くなってきているな。……当然か。昨日から我等の
周りには、いつ殺人が起こってもおかしくないという空気が蔓延している)
そもそも指令さえ下れば真っ先に人を頃すのは自分の役割なのだ。内通者である自分が
誰よりも冷静に周囲を見ているという皮肉な事実に、大神は苦笑せざるを得なかった。
138: 2014/04/05(土) 00:19:16.02 ID:/ypBSAQK0
大神(絶望は感染する、か)
一昨日、呼び出しを受けた大神はモノクマと対面していた。その時に言っていた言葉だ。
きっとその時からモノクマは今の事態をあらかた予想出来ていたのだろう。
やり切れない思いで大神はため息を吐いた。
◇ ◇ ◇
―どうしてどうしてどうして……
―なんでなんでなんで……
朝日奈は自分の限界を追い求めるようにただひたすら泳ぎ続けていた。考えたくなかった。
体を動かせば、酸欠になれば、余計なことを考えずに済む。だが、そんなものは所詮その場
凌ぎにしかならず、力尽きて陸にあがればまた朝日奈は深い思考の渦に飲み込まれるのだ。
朝日奈(……大和田と不二咲ちゃんは、あんなに仲が良かったじゃん)
プールサイドに仰向けに倒れて朝日奈は天井を見上げる。
いつもなら心地好いはずの疲労が、今日に限っては体を鉛に変えていた。
139: 2014/04/05(土) 00:23:17.88 ID:/ypBSAQK0
朝日奈(本当は違ったの? 本当は嫌いだったの? ……違う! そんなはずない!!)
朝日奈(だって、大和田が本当に悪いヤツなら不二咲ちゃんは庇ったりしない。
不二咲ちゃんは好きになったりしない。石丸だって仲良くなったり……)
そこまで考えると、朝日奈の頭には許容出来ない大量の疑問符が浮かんで止まらなくなる。
朝日奈(でも、じゃあなんでよ。なんでよ……)
疲労のせいでもはや思考も限界だった。朝日奈は力なく立ち上がる。
朝日奈(……ドーナツ食べよ。それにさくらちゃん……さくらちゃんといれば……)
フラフラと朝日奈も大神を追いかけてプールサイドを後にした。
― 図書室 PM3:17 ―
桑田から話を聞いた苗木と舞園は十神を見張るため、図書室に来ていた。だが、江ノ島と
違って十神は二人が何をしに来たかわかっているだろうし、特に会話などをすることも
なかったので、二人は本を読みに来た振りをして実際に十神を見張りながら勉強していた。
140: 2014/04/05(土) 00:24:46.64 ID:/ypBSAQK0
舞園「苗木君」
十神に聞こえないように、舞園は苗木にそっと耳打ちをする。
苗木「ん? どうしたの?」
舞園「ずっと警戒していたら疲れませんか? 気分転換を兼ねて、
石丸君のお見舞いに行くのはどうでしょう?」
苗木「うん、いいね。舞園さんはやっぱり気が利くなぁ」
舞園「恩返しみたいなものですよ。石丸君は、私が入院していた時に積極的にお見舞いに
来てくれた数少ない人の一人ですからね。やっぱり誰か来てくれたら嬉しいですし」
苗木「……うん。そうだよね。部屋にこもりっきりじゃ寂しいし、気分も落ち込んじゃう」
舞園「先生達の分の紅茶やお菓子も持って行きましょう」
・・・
面会謝絶の紙が貼ってあるため少し躊躇ったが、見舞いの旨を書いたメモを
扉の下から差し込むと、すぐに扉が開いてKAZUYAが顔を出してくれた。
K「よく来たな」
141: 2014/04/05(土) 00:27:22.37 ID:/ypBSAQK0
苗木「入っても大丈夫ですか?」
K「構わん。……が、なるべく刺激しないようにな」ボソ
頷くとKAZUYAは二人を中へ通した。KAZUYAが大柄なため最初は全く見えなかったが、
室内にはベッドから上半身のみ起こした石丸と、そのすぐ横に不二咲がいた。
石丸「……誰だい?」
苗木「僕だよ。あと舞園さん」
苗木は顔の左半分を包帯で覆った痛々しい石丸の姿を見て、顔を引きつらせないように精一杯
努力しなければならなかった。無理矢理作り笑いをして、なんとか平静に見えるよう努める。
一方、苦心する苗木とは反対に舞園の笑顔は実に鮮やかなものだった。
舞園「こんにちは、石丸君。お見舞いに来ました。調子はどうですか?」ニコッ
石丸「ま、舞園君……?!」
例によって、完全に普段通りの姿となった舞園を見て石丸は仰天する。
石丸「舞園君の方こそ……その、もう大丈夫なのかね?」
142: 2014/04/05(土) 00:34:19.86 ID:/ypBSAQK0
舞園「ええ、もう大丈夫です。心配して何度もお見舞いに来て頂いてありがとうございました」
石丸「昨日は本当にすまなかった」
舞園「いいえ。むしろ、わざわざ謝りに来てくれるなんて凄く嬉しかったです」
苗木「なんのこと?」
舞園「昨日の夜、苗木君が帰った後に石丸君が訪ねて来て謝られたんですよ。
モノクマに色々言われている時、庇えなくてすまなかったって」
初耳だった。どうやら不二咲は勿論のこと、KAZUYAも知らなかったらしく少し驚いている。
K(……石丸の奴、俺よりよっぽどこまめにみんなの所を回っているんじゃないか?)
苗木(そういえば石丸君、僕の次に舞園さんのお見舞いにも来てくれてたしなぁ……)
不二咲(石丸君は自分のことを責めてばかりだけど、やっぱりここに必要な人だよ!
なのに、僕のせいで大怪我させちゃってごめんなさい。ごめんなさい……)
こんな状況でもこの男は風紀委員たろうと、常に全力で活動していたのだ。
その挙句が今の姿だと思うと、KAZUYAも苗木も不二咲もなんとも言えない気持ちになる。
143: 2014/04/05(土) 00:39:20.23 ID:/ypBSAQK0
石丸「僕は無力だった……モノクマがあれだけ好き勝手しているのを止められず、
ただ見ていただけだった。……超高校級の風紀委員の名が泣いている」
石丸「今回だって……元を正せば僕のせいで……」
K「石丸、その話はもうしないと約束したはずだ」
石丸「…………」
いつもあれだけ自信に溢れ力強かった石丸が、今は随分と弱々しく小さくなっていた。
その姿は苗木達にとってとても衝撃的なものであり、次にかける言葉が思い浮かばない。
舞園「あの、不二咲君……ちょっと」
不二咲「…!」
舞園に呼ばれ、不二咲は苗木達の方へとやって来る。何を聞かれるかはわかっていた。
舞園「さっきのことなんですが……」
不二咲「話してないよ。……先生が、話さない方がいいって」
144: 2014/04/05(土) 00:47:18.45 ID:/ypBSAQK0
苗木「……うん、そうだよね」
不二咲「なるべく刺激を与えたくないから、大和田君の話はしないってことになってるの」
苗木「わかった。じゃあ僕達も気をつけるね」
最低限の確認をすると、二人はテーブルの上に持ってきた物を広げる。
舞園「ジャーン! 以前山田君に教わったロイヤルミルクティーをいれてみました。
教わってから全然作る機会がなかったので、味にはちょっと自信ないんですが」
K「フム、とても良い香りだ」
不二咲「わあ、凄くおいしいよ!」
舞園「そう言ってもらえると何よりです。……石丸君はどうですか?」
石丸「……おいしい」
舞園「お口に合ったようで良かった。お代わりもありますよ」
苗木「倉庫からお菓子も持ってきたんだ。みんなで食べようよ!」
石丸「…………」
145: 2014/04/05(土) 00:53:39.23 ID:/ypBSAQK0
石丸(僕は被害者という立場だから、みんなこうして心配して気遣ってくれる。でも兄弟は、
兄弟はきっと今も部屋に一人だ。助けてあげたいのに、僕は何も出来ない……)
KAZUYA達四人は和やかに談笑しつつテーブルを囲むが、石丸の心がここにないのは明らかだった。
少しでも石丸が余計なことを考えないように、苗木達は引っ切りなしに話しかけていく。
舞園「一週間ぶりに図書室に行ったんです。料理のレシピ本もたくさん置いてあったので
今度お菓子も作って来ますね。何かリクエストとかありますか?」
苗木「僕は舞園さんの作った物なら何でも好きだよ! 石丸君はどう?」
石丸「……僕も、特には」
舞園「確か和食が好きでしたよね? では和菓子とかどうでしょう?」
石丸「……舞園君に任せよう」
不二咲「これ、おいしいよぉ。石丸君もどう?」
石丸「……すまない。朝からジッとしているから、あまり食欲がないんだ」
K「…………」
上の空の石丸をKAZUYAは複雑な顔で見つめると、少しキツ目の声を上げた。
146: 2014/04/05(土) 00:58:10.92 ID:/ypBSAQK0
K「石丸、あまり食欲がないならさっさと課題の続きをやれ。ペースが遅れてるぞ」
石丸「あ、はい」
KAZUYAが急かすと、石丸は横に置いていた布と持針器を急いで手に取り課題を始める。
苗木「え、先生」
安静にした方がいいのではと言いかけたが、KAZUYAは黙ったまま首を横に振る。
舞園「きっと、何かに集中させていないとダメなんですよ」ボソッ
苗木「…………」
確かに、課題に取り組み始めると石丸は余計なことを考えずそちらに集中するようだった。
不二咲がこっそり教えてくれた所によれば、目を覚ましてからはずっとこうらしい。
苗木(……大和田君が心配なのは勿論だけど、大和田君を早く説得出来ないと
なんだか石丸君も大変なことになりそうな気がする……)
焦る気持ちばかりが、彼等の心に雪の如くただ静かに降り積もっていく――
155: 2014/04/07(月) 20:31:57.25 ID:g+SZjcyn0
・・・
苗木と舞園が帰り、更にしばらくしてからKAZUYAはふと立ち上がった。
K「俺も少し見回りに行ってくる。俺が戻るまで不二咲は絶対ここから出るなよ」
不二咲「はい。いってらっしゃい」
その時、課題に集中していたはずの石丸が顔を上げKAZUYAの顔を見つめる。
石丸「先生……兄弟をお願いします」
K「……俺はただ見回りに行くだけだ」
石丸「お願いします」
K「――不二咲、俺のいない間頼んだぞ」
不二咲「はい!」
不二咲に見送られ部屋から出ると、KAZUYAは大きく息を吐いた。
K「……フゥ」
K(バレていたな。……まあ当然か)
156: 2014/04/07(月) 20:34:06.30 ID:g+SZjcyn0
見回りも嘘ではないが、KAZUYAの本当の目的は大和田に会うことだった。霧切によれば大和田の
秘密がわかるまで打つ手なしとのことだが、だからと言って何もせず放置する訳にもいくまい。
ピンポーン。ピンポーン……シーン。
K(まあ、出ないだろうな)
KAZUYAは用意しておいたメモ用紙を扉の下に差し込み、もう一度インターホンを押す。
…………ガチャリ。
大和田「先公……」
たっぷりと間を空けて、大和田は顔を見せたのだった。
K「……少し話がしたい。入っていいか?」
大和田「…………」
無言で大和田はKAZUYAを部屋に入れる。
157: 2014/04/07(月) 20:37:59.44 ID:g+SZjcyn0
大和田「きょうだ……いや、石丸の具合は?」
K「大丈夫だ。今は安定している。……ただ問題なのは肉体ではない。精神の方だ」
大和田「…………」
K「俺はお前のことを一方的に責めに来た訳でも許しに来た訳でもない。
以前舞園にも話したが、過ちは過ちだ。なかったことには出来ん」
大和田「……わかってる。全部、全部俺がわりぃんだ」
K「それは違うな。確かに過ちを犯したのはお前だが、そもそもこんな状況を作り出したのは
モノクマだ。それに、お前の精神が不安定なのを知りつつ目を離した俺にも責任がある」
K「責めは確かに負うべきだがお前が全て背負うのは間違いだ」
真っ直ぐ大和田の目を見ながら理路整然と話すKAZUYAの姿は、大和田にとってあまりにも
大きすぎた。その瞳を直視出来ずに顔を逸らしながら、大和田は苦しげに呻く。
大和田「……あんたは、なんでそんな強いんだよ」
K「…………」
158: 2014/04/07(月) 20:42:33.22 ID:g+SZjcyn0
大和田「俺は昨日あんたと約束した! 絶対に事件を起こさないって男の約束をな……!
……なのに、俺は約束を守れなかったばかりか……ダチに大怪我させちまった」
大和田「あんたはこうなることをわかっててちゃんと釘を刺したのに、俺が勝手に約束を
破ったんだ。俺が全部わりぃし、あんたには俺を責める権利があるだろ!」
K「大和田……」
大和田「あいつは……石丸は俺を止めようとしてた。止まるべきだった。でも俺は
自分を止められなかったんだ! ……責めを、負うべきじゃねえのか?」
やっと大和田がKAZUYAの目を見た。その瞳には強い感情が込められている。だが……
だからこそKAZUYAはここで引いてはいけないのだ。たとえ肉体は健康だとしても、
救いを求めるものはKAZUYAにとって皆等しく患者に変わりないのだから。
K「その責めとは何のことだ? お前はどうやって償う気だ?」
大和田「わかんねえ……それがわかんねえんだ! 俺はいったいどうしたらいい…?!」
K「……石丸は、以前と同じように過ごしたがっているぞ」
大和田「出来るワケねえだろ! 俺があいつの顔を潰しちまったっていうのに!」
イライラと髪を掻きむしりながら頭を振る大和田を見下ろしながらKAZUYAは問い掛ける。
159: 2014/04/07(月) 20:48:12.40 ID:g+SZjcyn0
K「大和田よ、俺が何でここに来たかわかるか?」
大和田「また、俺がなにかしでかさないように釘をさしにきたんだろ……」
口ではそう言ったが、KAZUYAが自分を心配して様子を見に来てくれたのは明白だった。
KAZUYA自身、大和田がそれをわかっている前提で言葉を続ける。
K「それもあるが、俺は心配なんだ。お前達が」
大和田「お前“達”?」
K「お前と石丸だ」
大和田「…………」
石丸の名前を出すと、大和田は途端にピタリと動きを止めた。性格も外見も
何もかも対照的な二人のはずなのに、こういう所は凄くよく似ている。
K「お前は知っているか知らんが、石丸はここに来るまで友人が一人もいなかったそうだ」
大和田「聞いたぜ。……俺が事件を起こす前に、あいつは自分から秘密を告白した」
160: 2014/04/07(月) 20:54:09.63 ID:g+SZjcyn0
K「あいつにとってお前は初めての大切な友人なんだ。あいつから友人を
奪う権利は誰にもないはずだぞ。それが他ならぬお前自身であってもな」
大和田「…………」
K「償いとは、お前の自己満足ではなく相手の望むことをしてやることではないのか?
そしてあいつはお前が側にいて、また前みたいに楽しく過ごせればと望んでいる」
K「……たとえ顔の傷を見るたびにお前の胸が締め付けられたとしても、あいつのために
笑って見なかったことにするのが、今お前が真にすべきことではないのか?」
大和田はギュッと唇を引き結び、拳を強く握り締めた。
大和田「それが、俺の償いか……」
K「そうだ。どんな罰よりも辛い償いだ。だがお前が本当に償う気なら出来るはずだろう?」
K「石丸に顔を見せてやれ。あいつはお前のことを心から心配している。
俺もそこそこ長く生きているが、あんな真っ直ぐな奴は見たことがない」
大和田(俺だって……俺だって兄弟に会いてぇ。でも、まだダメだ! 俺は兄弟に
本当のことを言えねえし、外に出たらまた誰かを襲っちまうかもしれねえ)
161: 2014/04/07(月) 21:00:44.54 ID:g+SZjcyn0
苦悶の表情を浮かべながら、大和田は首を横に振った。
大和田「今は……ダメだ」
K「――秘密か」
コクリと大和田は頷いて再び顔を逸らす。
K(根深いな……事ここに至っても言えないとは……)
KAZUYAは逡巡していた。無理にでも聞き出した方がいい気もするし、大和田を信じたい気持ちもある。
K(どうする? 今この場で聞き出すか、信じるか)
※重要選択肢
1 無理矢理聞き出す
2 もう一度大和田を信じる
3 KAZUYAの気持ちを聞いてみる
>>165
166: 2014/04/07(月) 21:19:25.64 ID:g+SZjcyn0
答えがすぐに出ない時、そういう時は自分がどうしたいかを考えて見ればいい。
KAZUYAは心を静かにして己の中に問いかけてみた。
K(大和田は一度約束を破っている。その上で信じるというのは愚かかもしれん)
K(……だが、俺としては無理矢理聞き出すようなことはあまりしたくない)
1 無理矢理聞き出す
2 もう一度大和田を信じる
>>168
169: 2014/04/07(月) 21:34:04.20 ID:g+SZjcyn0
そしてKAZUYAは決断した。
たとえそれがどのような結果をもたらしたとしても、後悔しない――
K(もう一度だけ大和田を信じよう……)
K「ではいつなら良い? いつまでも先送りは出来んぞ」
大和田「……三日後だ。俺は、どうしてもあの秘密を自分から言うことが出来ねえ。
知られたくない……今だって誰か頃してでも隠したいって思ってる……」
K「…………」
大和田「だから、この三日間は誰にも会わねえことにした。誰かに会ったらまた自分を
抑えきれなくなっちまうかもしれねえから、部屋に引き込もらせてくれ。頼む……」
K「……わかった。それがお前の望みならそうしよう。だが、秘密が明らかになり
お前が少し落ち着いたら、必ず石丸と……不二咲に会いに来い。今度こそ約束だ」
大和田「男の約束だな……今度こそ、今度こそ絶対に守る……!」
目と歯を食いしばって、唸るように大和田は答えた。
170: 2014/04/07(月) 21:39:50.17 ID:g+SZjcyn0
K「さて、最後にもう一つ俺から言わねばならんことがある」
大和田「なんだ?」
K「……モノクマについてだ」
大和田「ッ!」
大和田は目を見開いて震え出す。KAZUYAがこの先何を言うかはもう予想が付いていた。
昨日体育館でモノクマになじられる舞園と桑田を見て、自分はこうはなりたくないと
あれだけ強く思っていたのに、とうとう今度は自分の番がやって来てしまった。
K「鍵をかけて部屋に篭っても、奴はここに入ってこれる。そしてお前を追い詰めるだろう」
K「色々なことを言うだろうな。石丸の輝かしい将来や不二咲の心を二度も傷つけたこと、
氏んで償えと言うかもしれんし、逆に卒業してなかったことにすればいいと言うかもしれん」
大和田「…………俺は」
既に心が揺れ始めている大和田の肩を掴み、KAZUYAは強く言い聞かせる。
K「あれは悪魔の囁きだ。絶対に耳を貸すな。石丸の顔の傷が治らないと言うのも嘘だ!」
171: 2014/04/07(月) 21:50:05.46 ID:g+SZjcyn0
大和田「?! 本当か?! あいつの顔の傷、消せるんだなっ?!」
K「ここには麻酔が足りないが、外に行けばいくらでも手は打てる。奴は揺さぶりをかけているのだ」
大和田「……俺は、耐えられるか?」
K「厳しいだろうな。お前は俺の想像以上に繊細な奴だ。だから、どうしても辛くなったら
俺を呼び出せ。俺はしばらく石丸の部屋に泊まり込む。ドアの下からメモをいれろ」
そしてKAZUYAはカメラに聞こえにくいように低い声で囁く。
K「名前は書くな。石丸に見られたらまずいからな」
大和田「……わかった」
K「昼間なら俺以外の誰かが石丸のことを見ていてくれるから、呼び出されたら
すぐに行ける。……もっと俺を、仲間を頼れ。ここでは強がる必要はないんだ」
大和田「わかって……わかってはいるんだよ。けど……!」
この言葉に大和田の全てが集約されている気がした。大和田も頭ではわかっているのだ。
だが心がついていかない。だから自分は強いと、自己暗示に近いくらい嘘をつき続け
身を守ってきた。しかし、この過酷な監禁生活で嘘で作った殻が限界に達している。
172: 2014/04/07(月) 21:58:19.40 ID:g+SZjcyn0
K(頼む、大和田。この三日間、保ってくれ……)
K「もう一度言う。モノクマの言葉には絶対に耳を貸すな。なんなら布団をかぶって耳を
塞いでもいい。見苦しかろうが情けなかろうが、今はとにかく身を守るしかないのだ」
大和田「…………ああ」
大和田の目は既に虚ろだった。だが、いつまでもここにいる訳にはいくまい。
K「そろそろ俺は行く」
大和田「もう、行っちまうのか?」
弱りすぎてもはや虚勢も張れなくなったのか、大和田は縋るような目でKAZUYAを見上げた。
K「……いや、まだ時間はあるからもう少し話そうか」
結局、後ろ髪を引かれたKAZUYAは時間いっぱい大和田と話をしたのだった。
173: 2014/04/07(月) 22:07:34.73 ID:g+SZjcyn0
ここまで。
いつも感想とかありがとうございます。最近ずっとガチシリアス続きで先の展開とか
結構悩むことが多いので、ちょっとした感想がアイディアに繋がっていつも助かってます
1は人の感想とか意見を見てネタを着想するタイプなので
そろそろ大きく話動きます。とりあえず、このスレ内で二章が終わるように頑張ろう…
185: 2014/04/12(土) 22:24:10.86 ID:Gu34fbwf0
◇ ◇ ◇
KAZUYAが石丸の部屋に戻ると、中では桑田がKAZUYAのことを待っていたようだった。
桑田「あ、せんせーちょっとちょっと!」
K「! どうした?」
桑田がKAZUYAを引っ張って部屋の外に連れ出す。
K「中では話せないことか?」
桑田「……ここでもまだヤバい。こっちだ!」
そのままぐいぐいと男子トイレの中に連れ込まれてしまった。
桑田「ここなら監視カメラもねえし、誰かに盗み聞きもされねーだろ?」
K「重要な話みたいだな。何か掴んだのか?」
桑田「聞いて驚くなよ?」ニヤッ
桑田「なんと俺、内通者が誰かわかっちまったんだよ!」
186: 2014/04/12(土) 22:27:20.44 ID:Gu34fbwf0
K「何だと?! 誰だ?」
桑田「間違いねぇ! アイツ、江ノ島だ!」
K「……!」
そして誉めてくれと言わんばかりの得意げな顔で、桑田は少し前の会話の内容を説明する。
K「成程、よくわかったな」
桑田「だろ? だろ?」
K「ちなみにその会話を他に聞いていた人間はいたか?」
桑田「霧切だけだ。そもそも最初は二人で行くつもりだったんだけどさ、霧切が自分がいたら
警戒されるからって言い出して、俺が江ノ島を霧切のいる食堂に連れてったんだよ」
K「流石霧切だな。俺も何度か江ノ島に探りをいれたことがあるが、その度に警戒されて
逃げられてしまった。もし霧切が同席していたらきっと口を滑らせなかっただろう」
桑田「おう! ……っつーかアレ? なんか反応薄くね? ……もしかして、知ってた?」
K「……黙っていてすまなかった」
桑田「なんだよ! 俺チョーお手柄だと思って戻ってきたのにバカみてーじゃん!」
K「すまん。そう怒るな。まさかお前が一番最初に気付くとは思わなかった。凄いじゃないか」
187: 2014/04/12(土) 22:38:48.90 ID:Gu34fbwf0
K(だが考えてみれば、この中で一番オシャレにうるさいのは間違いなく桑田だろうし、
ファッション雑誌などに目を通すことも多いだろう。モデルの江ノ島についても
一番よく知っているはずだし、桑田が真っ先に気付くのは必然だったかもしれん)
桑田「でもさぁ、知ってたのになんで黙ってたんだよ?」
K「一つは、江ノ島が口封じに消されることを心配したのだ。もし俺達に正体が
知られているとわかれば、黒幕は即座に消しにかかるだろうからな」
K「二つ目は、みんなが早まった真似をしないかが心配だったのだ。江ノ島の
正体を知れば、当然捕獲して情報を聞きだそうと考えるだろう?」
桑田「それがなんでマズイんだよ。仮に銃持ってたとしても不意打ちしちまえば平気だろ?」
相手がいかに強かったとしても、こっちにはKAZUYAがいるのだからどうとでもなる。
そう桑田は考えていたが、対するKAZUYAは深刻な顔をして桑田に問い返す。
K「お前は偽江ノ島の正体は何だと思う?」
桑田「正体? ……どっかの秘密工作員とか?」
K「……俺は江ノ島の正体に気付いた時、ぼんやりと襲撃された際の記憶が戻ってきたんだが、
俺を襲った相手は女一人だけだった。いいか? 女一人が俺相手に互角以上に戦ったんだ」
桑田「えっ」
188: 2014/04/12(土) 22:45:37.98 ID:Gu34fbwf0
K「……しかも、いくら不意打ちだったとは言え俺は反撃一つ出来なかった。つまり、
彼女は見た目に反して相当戦闘に特化している工作員なのだろう。彼女を捕えるには
それ相応の準備が必要だが、今のように生徒達がバラバラに動いている状況では無理だ」
桑田「マジかよ。大神以外でせんせーと戦える女とかいるんだなぁ……」
K「下手をしたら、いや間違いなく、お前と大和田と石丸が同時に襲い掛かっても勝てんぞ」
桑田「えぇっ?! ……じゃあさ、そこにせんせーが加わったらどうよ?」
K「……難しいな。向こうの武装がどれほどかわからんし、俺達は人を殺せない。対して
相手はプロだ。人を頃すことに躊躇がないはず。この差は実戦では想像以上に大きい」
K「江ノ島を捕えるならトラップが必要だ。……大神が仲間に加われば心強いのだが」
ボソリとKAZUYAは本音を漏らす。大神さえ仲間に出来れば戦力面でもう悩まなくて済むし、
いつも落ち着いていて仲間に対するフォローもしてもらえると良いことづくめなのだが。
桑田「あいつは大丈夫じゃねえの? いつも俺達寄りの発言してるし
コロシアイも嫌がってる感じじゃん。なんか疑う要素あんのか?」
K「何の根拠もないし俺も疑いたくはないのだが、冷静に考えると彼女は有力候補なのだ……」
189: 2014/04/12(土) 22:54:58.55 ID:Gu34fbwf0
桑田「ハァ?! な、なんで?!」
K「考えてみろ。いくら江ノ島の戦闘力が凄くても、俺と大神が二人がかりで不意打ちすれば
勝てるはず。そして黒幕にとって江ノ島は、見せしめに頃してもいい程度のいわば捨て石」
K「俺達にあっさり正体を看破されるくらいだ。はっきり言って江ノ島は頭はあまり良くない。
黒幕の立場で考えたら、情報を漏らさないために一刻も早く口封じをすべきじゃないか?」
桑田「それをしないのは、大神も内通者だからってことかよ……」
桑田の言葉に対し、KAZUYAは溜息混じりに答える。
K「……わからん。ただの邪推かもしれん。だが無条件に相手を信用するよりはマシなはずだ」
桑田「マジかぁ……あーあ、じゃあせっかく内通者わかったのにしばらく放置かよ?」
K「事件が頻発しているからか、幸い江ノ島は積極的に動かないようだ。最低でも
生徒の三分の二を団結させることが出来れば捕獲も考えられるのだが……」
桑田「三分の二? えーと、ムリめなヤツから数えると十神、腐川、セレス、江ノ島……それ以外か」
朝日奈と大神はなんとかなりそうだが、葉隠と山田に関しては自分の存在が
ネックになることを薄々感じ取り、今度は桑田が嘆息する番だった。
190: 2014/04/12(土) 23:02:42.64 ID:Gu34fbwf0
桑田「あ、そーいやさ。あの江ノ島がニセモノってことは、本物はどこにいるんだ?」
K「考えられるパターンは三つ。一つは運良く一人だけ捕まらず逃げられた。
二つ目は今も尚捕まっていて、下手をすればこの学園のどこかにいる。
そして三つ目は、一番最悪だが江ノ島自体が敵の仲間というパターンだ」
桑田「……なあ、捕まって殺されてる可能性ってあんの?」
K「その可能性は限りなく低いだろう。もし江ノ島が氏んでいるなら、わざわざ偽の江ノ島を
頃すなどと回りくどい手を使わず、そのまま江ノ島の氏体を見せて見せしめにすればいい」
K「直接の知り合いではないが、江ノ島のような有名人の氏体を見せれば恐怖感を煽るには十分のはず」
桑田「なあ、せんせー……せんせーはぶっちゃけどの可能性が一番高いと思ってんの?」
K「…………」
桑田「せんせーは頭がいいから、どうせもう見当つけてんだろ? 俺ぜってえ
誰にも言わないし顔にも出さないからさ、こっそり内緒で教えてくれよ」
桑田の指摘通り、実はKAZUYAはどの可能性が一番高いか見当をつけていた。元々寡黙な上、
いい加減なことを言うのを好まない性質のKAZUYAは、ハッキリしたことがわかるまであまり
言いたくはなかったが、ここで黙るのは相手の信頼を失うだろう。そして、重い口を開く。
191: 2014/04/12(土) 23:11:31.43 ID:Gu34fbwf0
K「……良かろう。俺は――三番目の可能性が一番高いと思っている」
K(男子トイレの隠し部屋の資料によれば、この学園は外の暴動から生徒を守るために
シェルター化していたはず。その中にすんなり入り込むには手引をした内通者がいたと
考えるのが妥当。そうなると不自然に姿をくらましている江ノ島は怪しすぎるのだ……)
K「俺としては、学生がこのような恐ろしい計画に加担しているとは思いたくないが……」
桑田「マジかよ~……せんせーがそう考えるってことはいろいろ難しい理由があんだろ?
多分まったくの見当ハズレってことはないだろうから、ほぼ確定じゃねえか」
K「……もしかすると、今もモニター越しに本物の江ノ島がいるのかもしれないな」
桑田「俺けっこーファンだったんだけどなぁ。――そーいや、声が全然違うから今まで
気にならなかったけど、モノクマの変な笑い方って前にテレビで見た江ノ島盾子の
笑い方にちょっと似てるかもしんねぇ。あのうぷぷぷってヤツ」
桑田が何気なく漏らした重要情報にKAZUYAは震撼した。
K「それは本当か?! では……」
K(モノクマを操っているのは江ノ島……? やはり俺の予想通り監視者は女だったか。
しかし、女子高生が一体何故? どうやってそんな組織に関わり地位を得たのだ?)
192: 2014/04/12(土) 23:26:52.02 ID:Gu34fbwf0
思えば、偽江ノ島とて少女に見える。にも関わらずあの戦闘能力なのだ。以前、自分達を
捕らえている組織は少数精鋭のプロフェッショナル集団だと推理をした。ならば、本物の
江ノ島もその組織の構成員たるに相応しい何らかの特殊な技能を持っているのかもしれない。
K(モデルはあくまで表の顔で、裏の顔があるということか……油断しない方がいいな)
K「さて、話は終わりだ。内通者問題も重要だが、今は正直それどころではない。
ここでした話はたとえ仲間内であっても他言無用と思ってくれ」
桑田「でもさぁ、苗木達には話しちゃってもいーんじゃねえの?」
K「俺もあまり秘密主義は良くないと思っているのだが、苗木は正直者ですぐ顔に出てしまうからな。
敵に感づかれたくない。全員で事に当たれるまで、江ノ島にはなるべく近寄らないようにしろ」
K「今俺達がしなければならないのは、この三日間を無事乗り切り全員を団結させることだけだ」
桑田「わかったよ。内通者も脱出も今の状況じゃどうしようもないもんな」
K「では俺は戻る。この三日間、見回りは任せるぞ」
桑田「任せとけって!」
193: 2014/04/12(土) 23:28:54.13 ID:Gu34fbwf0
― モニタールーム AM0:57 ―
そこには本物の江ノ島盾子がまさしくゲームのラスボスのように鎮座していた。
その前には変装を解いた戦刃が立ち、江ノ島の機嫌を見ながら言葉を選ぶ。
江ノ島「で、話って何よ? 怪しまれるからあんまりこっち来るなって
言ってあるでしょ? まさかまだ文句があるんじゃないでしょうね」
昨日の晩、戦刃はグングニルの件で江ノ島の元に行った。当初の打ち合わせでは落とし穴に
落とされ、表向きには監禁されるという名目で完全に裏方に回る手筈だったからだ。
戦刃「わかってるよ。その件についてはもう怒ってないから」
妹に頭が上がらない戦刃だが、流石に命の危機とあっては抗議せざるを得なかった。
江ノ島の説明では、やっぱり槍の方がスリルがあるし生徒達に与えるショックが大きいから
直前に変更した。戦刃の運動能力なら簡単に避けられると思った。他意はない、だった。
妹の気まぐれさや無茶な性格を知り尽くしている戦刃としては、こう言われてしまうと
もう反論出来ない。せいぜい危ないからもうやらないでと言うのが関の山だった。
194: 2014/04/12(土) 23:32:12.03 ID:Gu34fbwf0
江ノ島「で、その件について片付いてるなら何の用よ。アタシもそろそろ仮眠取りたいんだけど」
戦刃「私、やっと盾子ちゃんの言ってたことがわかったんだよ。西城先生は厄介だってこと」
江ノ島は嘆息した。心から嘆息した。彼女の未来予知に近い高度な分析能力は人の思考を
先読みすることすら可能にする。そもそもそんな能力がなくても戦刃は非常に単純で残念なのだ。
これから言う言葉を予測してしまって、既に江ノ島はげんなりとしていた。
江ノ島「……それで?」
戦刃「うん。消そう! このまま先生を放置しておくのは危険だよ! 私がなんとかするから」
江ノ島「ハァ」
やはりと頭を抱える。
戦刃「でもでもほら、私は盾子ちゃんみたいに頭が良くないし、勝手なことをするとプランが
崩れるかもしれないでしょ? だから一応聞いておこうと思って。作戦は盾子ちゃんが……」
江ノ島「バッカじゃないの?!」
戦刃「……え?」
195: 2014/04/12(土) 23:35:21.86 ID:Gu34fbwf0
江ノ島「それでもアタシのお姉ちゃん? 超高校級の絶望? 全くどんだけ残念なの……」
予想外の言葉と剣幕に戦刃はしどろもどろになる。
戦刃「え? え? だって……先生が危険だって言ってたのは盾子ちゃんが……」
江ノ島「危険よ。危険だったわよ。でも今はアタシ達が絶対的に有利な状況ってわからない?」
江ノ島「私様が蒔いた絶望の種が今人間共の中で芽を生やし実を結び始めている。
ドクターKにもこの流れはもはや止めることは出来ないだろう」
江ノ島「この最っ高にイカすシチュエーションに西城はいてもらわねえとダメなんだよ!
むしろ役者の務めを果たしてもらいたいのにそんなこともわかんねーのか、ファック!」
相変わらずコロコロとキャラが変わっていく妹の言葉を聞きながら、戦刃も理解した。
戦刃「盾子ちゃんは、西城先生も絶望させたいんだね?」
江ノ島「やっと正解です、残念なお姉さん。私様はああいった正義感が強くて熱苦しい、
でも現実の厳しさや汚さを知っているいわゆる強い大人というものが大嫌いです」
196: 2014/04/12(土) 23:43:28.14 ID:Gu34fbwf0
江ノ島「あいつが絶望する時はどんな顔を見せてくれるんだろ。あー楽しみ。
そんなワケだから、勝手に殺そうとか余計なことしないでよ?」
戦刃「うん、わかった。それが盾子ちゃんの見たいものなら」
戦刃(盾子ちゃんの絶望好きは仕方ないなぁ。……西城先生は消しておいた方がいいと思うのに)
江ノ島の分析力と戦刃の軍人としての本能。どちらが正しいかは今の時点ではまだわからない。
◇ ◇ ◇
その晩。KAZUYAは桑田と不二咲を石丸の部屋に泊めさせ、自身は夜中に何度も見回りを行った。
事件はなかった。
次の日の晩、苗木が桑田と組んで見回りを行った。
事件はなかった。
事件はない。事件はないが、こう警戒ばかりしているとストレスが溜まり気が立ってくる。
モノクマが姿を現して引っ掻き回す訳でもなく、ただ長く重苦しい時間を過ごすだけだが
それは決して楽なものではなく、生徒達はただじっとその時が来るのを待っていたのだった。
203: 2014/04/15(火) 22:22:30.69 ID:yJAYTtIb0
― コロシアイ学園生活十三日目 食堂 AM8:32 ―
朝食会の後、苗木達はこっそり集まって打ち合わせをするのが常になっていた。
苗木「じゃあ、また二手に別れて見回りしよう」
桑田「おう」
不二咲「ね、ねぇ……ちょっといいかな?」
舞園「どうかしましたか?」
不二咲「大和田君のことなんだけどね……僕が行ったらまずいのはわかってるけど、
誰か代わりに様子を見に行ってもらうのはダメかなぁ?」
不二咲「だって、もう三日も誰とも会ってないんだよ? 部屋の前に置いたご飯は
ちゃんと食べてるから具合は悪くないと思うけど、やっぱり心配だよぉ……」
桑田「あぁ、そうだなぁ……」
舞園「顔を出せないだけで、本当は寂しいし人恋しいでしょうしね……」
苗木「じゃあ、僕と桑田君が様子を見に行くのはどうだろう?」
桑田「そうだな! そうしようぜ。じゃあ後で……」
霧切「私は反対だわ」
205: 2014/04/15(火) 22:27:00.98 ID:yJAYTtIb0
話がまとまりかけた所に、霧切の言葉が刃物のように鋭く切り込む。
桑田「は? なんでだよ」
霧切「まだ大和田君の秘密は明らかになっていない。精神は不安定のままよ。
もし話してる最中に何らかの要因で彼が激昂したらどうするの?」
桑田「いくらなんでも俺や苗木は大丈夫だろ。原因は不二咲の言葉みたいだし。
それにもし襲ってきたって俺なら殺されはしねえよ」
霧切「相手は仮にも暴走族の総長であり腕の立つ大和田君よ? 確かに警戒さえ
怠らなければ命は取られないかもしれないけど、怪我をする可能性はあるわ」
霧切「ただでさえ今はドクターが自由に動けないのに、これ以上こちらの戦力を
削る訳には行かないのよ。軽率な行動はなるべく控えてちょうだい」
不二咲「あ、ご、ごめんなさい……僕そこまで考えてなくて……」
桑田「軽率って言い方はないだろ。不二咲はただ大和田のことを気遣かっただけじゃねえか!」
霧切「軽率には違いないわ。あなた達は大和田君のことを仲間だと思っているから
気を遣うけど、彼がその仲間を裏切って殺人をしようとした事実は消えないの」
霧切「私に言わせれば大和田君は今も危険人物よ。体格的にも技術的にも圧倒的に
勝っているドクター以外の人間が気軽に会いに行っていい存在じゃないわ」
霧切「……しかもドクターが問題ないと言っていることから、恐らくは時々様子を
見に行ってるわね。私達が危険を犯してまで会いに行く必要性は感じないわ」
206: 2014/04/15(火) 22:39:50.14 ID:yJAYTtIb0
舞園「残念ですけど確かに霧切さんの言う通りですし、仕方ないですね……」
苗木「明日が過ぎれば会えるし、きっと大丈夫だよ」
不二咲「そっか……そうだよ、ね……」
不二咲「…………」
不二咲(僕が余計なことを言ったばっかりに、大和田君がみんなに危険だと
思われちゃってる……僕のせいで……ごめんなさい……)
霧切の冷静な指摘により話は終わったかと思われたが、桑田が噛み付いた。
桑田「ツメテー女」
苗木「く、桑田君……」
桑田「そりゃお前の言うことはいつも正しいけどさ、人の気持ちもちょっとは
考えろよ! 確かに大和田のやったことは許されることじゃねえけど、
なにも不二咲の前でそんな言い方しなくてもいいじゃねえか!」
霧切「あなた達に危機意識が足りないからよ。私達が今置かれている状況は普通じゃない。少しの
油断で簡単に氏んでしまうのよ? たとえ仲間だろうと危険なものは危険と考えないと」
桑田「だからっ! そんなことは百も承知だっての! 前々から思ってたけどお前ちょっと
冷てえんだよ。いつも異常に冷静で無表情だし。人の気持ちわかんねえのか?」
霧切「…………」
207: 2014/04/15(火) 22:44:17.21 ID:yJAYTtIb0
ピクリ、と霧切の整った眉が動く。不穏なものを感じて苗木が間に入った。
苗木「桑田君、今のは流石に言い過ぎだよ!」
不二咲「き、霧切さんごめんねぇ……僕のせいで」
霧切「……安心して。私が冷たいのは事実だし、別に怒ってなんかいないから」
苗木「き、霧切さん! そんなことないよ! ほら、桑田君も謝って!」
桑田「…………」フイッ
霧切「……どうやら、私がいるとチームワークが乱れるみたいね。
これからはあまり一緒にいない方がいいかもしれないわ」
そう言うと霧切は無表情のまま席を立つ。
舞園「そんな……霧切さんは私達に必要な人です! 行かないでください!」
霧切「……大丈夫。見捨てる訳じゃないわ。私の力が必要ならいつでも手を貸すから。それじゃあ」
そういうと霧切は去って行った。
208: 2014/04/15(火) 22:52:23.05 ID:yJAYTtIb0
苗木「追いかけないと……桑田君、霧切さんに謝った方がいいよ」
桑田「本人が怒ってないっつってんだしいいだろ。あいつもちょっとは痛い思いした方がいいって」
苗木「でも……」
舞園「私が追いかけて霧切さんと行動します。苗木君は今日は桑田君と組んでください」
苗木「わかった。霧切さんのことは舞園さんに任せるね」
舞園「任せてください」
・・・
舞園は廊下の先を歩く霧切を見つけ駆け寄った。
舞園「霧切さん!」
霧切「……舞園さん。あなたが来ると思ったわ」
相変わらず表情を微動だに動かさず、霧切は静かに振り返って舞園と対面する。
209: 2014/04/15(火) 23:00:14.32 ID:yJAYTtIb0
舞園「桑田君は少し疲れてイライラしているんです。許してあげてくれませんか?」
だが、言った側から舞園は霧切の本当の感情に気付いた。
舞園「――いえ、霧切さんは本当に怒っていないんですね?」
霧切「流石舞園さんね。人の感情を見抜くことにかけては私達の中でも群を抜いている」
舞園「エスパーですから……なんて、今はふざけている場合ではありませんね」
霧切「……桑田君の言ったことは間違ってないわ。正論を振りかざすことが常に正しいとは
限らない。確かに私は大和田のことで傷ついている不二咲君に対して配慮が足りなかった」
霧切「いつからかしらね……何事にも中立であらねばと周りの人から距離を取るうちに、人との
付き合い方がわからなくなって、こんな当たり前の配慮すら出来なくなるなんて」
霧切「……私は今、とても情けない思いをしているのよ」
珍しく、霧切が感情を露わにしていた。とても哀しげだった。
舞園(霧切さんは、怒っているのではなく傷ついているんですね……)
210: 2014/04/15(火) 23:04:09.19 ID:yJAYTtIb0
舞園「気にすることはないですよ。だって、霧切さんは落ち込んだ私のことを
励ましに来てくれたじゃないですか。あの時、私は凄く嬉しかったです」
舞園「人間なんだから、苦手なことも失敗することも当然ありますよ。元気を出してください」
そう言って舞園は笑う。霧切を励ますために笑ってみせる。
霧切「……不思議ね」
霧切「以前は私が桑田君にお説教をして舞園さんを励ましていたのに、
今は桑田君からお説教されて舞園さんに励まされるなんて」
舞園「それが人間なんじゃないですか?」
霧切「そうかしら?」
舞園「そうですよ。苗木君や西城先生ならきっとそう言うと思います!」
霧切「……そうね。そういうものなのかもしれないわね」
舞園「はい。私、今まで散々迷惑をかけてしまったから、今度はたくさんみなさんの
役に立ちます。つらい時はいつでも励ますので遠慮なく言って下さいね!」
ふっと肩の力を抜いて霧切は微笑んだ。
良かった、元気になってくれたと舞園が安心した時だった。
211: 2014/04/15(火) 23:10:32.83 ID:yJAYTtIb0
霧切「舞園さん。私、あなたと友人になれて本当に良かったわ」
舞園「……!」
瞬間、舞園の心に生々しい感情が湧き上がりかけるが、その気持ちを無理矢理封じ込める。
何故ならまだ自分は役割を終えていない。今の自分は舞園さやかという人間ではなく、
舞園さやかという名の一つの役なのだ。脱出という悲願を達成するために、駒として
その場に最も相応しい表情で最も相応しい台詞を読み上げ役を演じ続けなければいけない。
舞園(私は駒。脱出のための道具。私は人間じゃない……)
さあ、続きの台詞を読もう。
舞園「……私も、霧切さんとお友達になれて本当に良かったです。さ、今日は
私が霧切さんと組みますよ! どんどん見回りに行きましょうね!」
霧切「ふふっ。同性で組むとやっぱり落ち着くわね。行きましょ」
◇ ◇ ◇
苗木は桑田と共に不二咲をKAZUYAの元に送り届け、現在は学園内を当てもなく歩いていた。
212: 2014/04/15(火) 23:14:40.41 ID:yJAYTtIb0
桑田「…………」
苗木「…………」
苗木(ハァ、桑田君はさっきからこんな調子だし気まずいなぁ)
苗木「そうだ。ねぇ、プールに行ってみない?」
― プール AM11:36 ―
大神「ム、苗木に桑田か」
苗木「やあ、大神さん」
プールには苗木の予想通り、大神と朝日奈がいた。
苗木(この二人のことはあんまり疑いたくないけど、一応容疑者だしな。見ておかないと)
朝日奈「あ、苗木と桑田。……どうかしたの?」
苗木「いつもみたいに学校内の見回りをしてて、何となく寄ってみたんだ。
ほら、女子をほっとく訳にもいかないしね」
朝日奈「そう……」
桑田「…………」
213: 2014/04/15(火) 23:19:31.88 ID:yJAYTtIb0
苗木・大神「…………」
苗木と大神は目が合う。きっとお互い似たような表情をしていることだろう。
大神「桑田よ、何かあったのか?」
桑田「……別に。なんもねえし」
苗木「実は、喧嘩ってほどじゃないんだけど、さっき霧切さんと軽く言い合いしちゃって」
大神「そうか……」
苗木「それより朝日奈さん、元気ないけど大丈夫かな?」
朝日奈「えっ……?! そ、そんなことないよ! ほら、元気元気!」
苗木(作り笑いされても痛々しいだけだよ……)
苗木「無理しなくていいよ。こんな状況だもん。元気ないのが普通だよね」
朝日奈「まあ、その……ちょっとこたえてるかも。最近みんな暗いし、あんまりしゃべらないから」
苗木「そっか……」
214: 2014/04/15(火) 23:25:31.10 ID:yJAYTtIb0
朝日奈「…………」
桑田「…………」
大神「…………」
苗木(空気が重いなー……)
いつも賑やかな朝日奈の所に行けば少しはマシになるかと思ったが、むしろますます
空気は重くなり、多少のことでは堪えない苗木も流石に内心で苦笑せざるを得なかった。
そう言えば、ここ最近の朝日奈はいつもより少し大人しかった気がする。
朝日奈「……あ、そういえばさ。桑田はKAZUYA先生と毎日会ってるんでしょ?」
桑田「おう。毎回メシ食ったら不二咲を石丸の部屋まで送ってるからな」
朝日奈「私達も石丸のお見舞いに行きたくてさ。ほら、行こうにも今までずっと面会謝絶の
紙が貼られてたじゃない? 今朝は紙が外れてたからもういいのかなって」
大神「西城殿は何と言っていた?」
桑田「ああ、そういや見舞いを解禁するとか言ってたな。フツーに会いに行って平気だぜ。そもそも
面会謝絶ってのも別に具合が悪い訳じゃなくて、単にあいつ刺激したくないってだけだし」
朝日奈「刺激かぁ。……やっぱり大和田のこと?」
215: 2014/04/15(火) 23:34:02.82 ID:yJAYTtIb0
大和田の名前を口に出すと、朝日奈の顔は意図せずに暗くなっていた。
苗木「うん。今はだいぶ落ち着いてるみたいだけど、大和田君の話はなるべくしないようにね」
大神「他に気をつけた方がいいことはあるか?」
苗木「あとは特にないかな。あんまり長時間いない方がいいくらい」
朝日奈「差し入れにドーナツ持ってっても大丈夫かな?」
桑田「持ってっても多分食わねえと思うぞ。あいつ最近ほとんどメシ食ってねえから」
苗木「多分……まず顔色の悪さと包帯でギョッとすると思うけど、あんまり驚かないであげてね」
朝日奈「う、うん。わかった……」
大神「……ウム」
会話が終わり再び重い空気が漂い始めたのを感じ、苗木は空元気を振り絞って明るい声を出す。
苗木「そうだ。もうすぐお昼だし、良かったら一緒に食べない?」
216: 2014/04/15(火) 23:40:27.47 ID:yJAYTtIb0
朝日奈「あ、食べる食べる! じゃあ、急いで着替えてくるからちょっと待ってて!」
大神「食堂で待っていてくれ」
朝日奈が慌てて更衣室に駆け込み、その後を大神が追って行く。
少し前までとの落差に、残された二人はポカンとしていた。
桑田「……急に元気になったな、アイツ」
苗木「みんなお互いに警戒しあうようになっちゃって他の人とあんまり話せないみたいだし、
大神さんがついているけどやっぱり寂しいんじゃないかな。桑田君のことも、最初は
ちょっと気まずそうにしてたけど、昨日くらいから普通に話すようになったよね」
桑田「ホント今バラバラだからな、俺達……」
苗木「僕がもっと懸け橋にならなきゃいけないんだけど、力不足で……」
桑田「んなこたねーよ。とりあえず明日一日凌げばなんとかなんだし、もっと気楽に行こうぜ」
苗木「そうだね」
――秘密公表まで、残り36時間。
224: 2014/04/19(土) 01:11:00.38 ID:f5qgSQqt0
― コロシアイ学園生活十四日目 石丸の部屋 PM8:21 ―
K(今日ももうすぐ終わりだ。モノクマは何も仕掛けてこなかった。……平和なものだな)
KAZUYAは与えられた一時の平和を噛みしめる。だが、それももうすぐ終わりだ。
横で一心不乱に医学書を読みあさっている石丸の方をチラリと見た。
石丸「心タンポナーデとは心嚢(しんのう)内に血液や心囊液が溜まったため、心臓が十分に
拡張出来なくなり、全身から心臓への血液還流が障害されショック状態から氏に……」ブツブツ
K(意外だったのが、試しに面会謝絶を解いたら十神、腐川、大和田を抜いた全員が石丸の
見舞いに来たことだ。まあ……本気で見舞いに来たのは朝日奈と大神くらいで、江ノ島と
ルーデンベルクはこちらの様子見、葉隠と山田は半分暇潰しのようではあったが……)
K(何だかんだ言って、やはり人望はあるのだな。本人は友人がいないことを気にしているが、
時間さえあれば……いや、そもそも俺の記憶通りならみんなとは既に友人だったはずだ)
K「…………」
嫌なことを思い出し、KAZUYAは目を閉じて嘆息する。
K(秘密の公表は明日か。だが、奴は明日の何時にするかまでは言わなかった。
だから、明日一杯を想定しあと一日。明日さえ無事に過ごせれば……)
225: 2014/04/19(土) 01:20:21.79 ID:f5qgSQqt0
石丸「先生」
ふと、石丸が本から顔をあげてKAZUYAを見ていた。何か聞きづらいことを聞く時の顔だ。
KAZUYA「どうした?」
石丸「この三日間、僕はジッとしていました。傷も少し塞がりかけてきたし、
その……明日の朝食会には出てもよろしいでしょうか?」
K「――正気か?」
渦中の人間の一人である石丸が生徒の前に出れば、確実に事件の話が再燃するだろうし、中には
酷い誹謗中傷を言ってくる者もいるだろう。そんな場所にむざむざ出向くと言うとは。
K「一体何を考えているんだ。お前は怪我人だし、それに……」
石丸「……わかっています。先生が何を仰りたいのかは。でも、昨日も今日も何も
起きなかった。モノクマが何か仕掛けてくるなら、明日だと思いませんか?」
K「そうだ。そんな場所にお前を連れていける訳がない」
石丸「だからこそです! みんなが危険な時に風紀委員の僕が一人安全な場所に
隠れている訳にはいかない。それに僕の元気な姿をみんなに見せれば、
コロシアイが起きるような重い空気を吹き飛ばせるかもしれませんよ!」
226: 2014/04/19(土) 01:25:08.27 ID:f5qgSQqt0
K「大和田について何か言われたらお前は耐えられんだろう?」
石丸「その件については僕から兄弟の潔白を説明します。僕の怪我は僕の失言が
原因だったとわかれば、みんなの兄弟への印象も少しは良くなるはずです」
K「だが、しかし……」
石丸「行かせて下さい!!」
K「駄目だ! お前の主治医として許可する訳にはいかん!」
石丸「お願いします!」
K「駄目だと言って……!」
ガチャ。
モノクマ「行かせてあげればいいじゃーん」
K・石丸「!!」
振り向くと、そこにはドアを開けたモノクマが立っていた。
227: 2014/04/19(土) 01:32:08.02 ID:f5qgSQqt0
K「貴様ッ!」
モノクマ「もうっ、先生のイケズ~! 石丸君が行きたいって行ってるんだよ?
朝食会だって三日も休んでるし、いい加減みんなも顔忘れちゃうよ」
K「石丸は怪我人だ! ドクターストップをかける!」
モノクマ「ま、別にいいけどね。……でも来ないと逆に大変なことになっちゃうかもよ?」
石丸「な、何だと?! まさか、みんなに何かする気では……!」
モノクマ「ま、じっくり相談して決めたら? どっちを選んでも後悔するのが君達人間なんだし」
モノクマ「じゃ、僕は帰るクマ。明日を楽しみにしてるよ~!」
パタン。
K「クッ……」
石丸「先生、行きましょう! 止められても僕は行きます!」
K「あれが奴のやり方だ! その手に乗ってはいかん!」
しかし、石丸を止めながらもKAZUYA自身迷いが生じていた。
228: 2014/04/19(土) 01:37:43.41 ID:f5qgSQqt0
石丸「僕は堪えます! モノクマに何を言われても絶対に堪えますから」
K「しかしな……」
石丸「それに、他のみんなはどうするのですか?! 先生がその場にいれば対処も出来ますが、
僕に気を取られてみんなが事件に巻き込まれたら意味がないのではないですか?!」
K「…………」
確かに石丸や大和田にばかり気を取られては不味いという考えはKAZUYAの中にもあった。
霧切や舞園から話を聞く限り、一部の生徒達の様子がおかしいのはほぼ間違いない。
また、霧切からこんな話も聞いた。
K『大体状況はわかった。助かる』
霧切『それともう一つ。気になることがあるので伝えておきます』
K『何だ?』
霧切『桑田君に江ノ島さんの相手をさせていた時のことですが……彼女ドクターについて
探りをいれてきたわ。大分警戒されているようです。何か仕掛けてくるかもしれません』
K『……わかった。気をつける。忠告ありがとう』
いよいよ江ノ島が動くのかもしれない。それは即ち黒幕が積極的に仕掛けてくるということに
他ならなかった。そういう意味では、KAZUYAもその場にいて何が起こるか監視しておきたい。
229: 2014/04/19(土) 01:41:25.72 ID:f5qgSQqt0
石丸「西城先生! お願いします!」
K「……わかった」
石丸「本当ですか?!」
K「だが、何もしないで出向くのは自殺行為だ。きっと奴はあの手この手で
お前の心を傷つけようとするだろう。……そこでだ」
石丸「……何でしょうか」
KAZUYAの重い表情を見て、石丸は嫌な予感を感じていた。
K「お前は授業を受ける前に、必ず予習をして行くだろう? それと一緒だ。明日奴や他の
みんながお前に言うだろう言葉を俺が言うから、お前はそれに対する返事を考えろ」
石丸「明日に備えた想定問答演習、と言う訳ですね……」
K「ああ。事前に覚悟をしておけば、当日いきなり言われるよりはまだマシだろうからな」
石丸「……お願いします。何を言われても僕は絶対に我慢してみせます」
KAZUYAは本日何度目かの深い深い溜息を付く。今から自分はモノクマや十神になりきって
石丸に酷いことを言わなければならないのだ。これが嘆息せずにいられるだろうか。
230: 2014/04/19(土) 01:46:21.67 ID:f5qgSQqt0
K「では……お前は事件がお前の失言のせいだとみんなに説明するだろう。そこで、
風紀委員のくせにそんな失言をするなんて思いやりがないと言われたら?」
石丸「……言い訳しません。僕が至らないせいでこんな騒ぎを起こしてしまい、
不二咲君にも怖い思いをさせ、申し訳ないとひたすら謝ります」
K「俺の言葉は嘘だ。顔の傷は一生治らないと言われたらどう答える?」
石丸「先生は外に出れば治せると仰った。僕は先生の言葉を信じます!」
K「十神辺りが言いそうだが、外に出られる保障などどこにもない」
石丸「そんなことはわからない。みんなで力を合わせればきっと脱出出来る!」
K「たとえお前の失言が原因だとしても、大和田がやったことは決して
許されることではない。一体どう責任を取らせる気だ」
石丸「それは……兄弟が落ち着いたら僕から話をしてみんなに詫びさせる。
僕からも謝るのでどうか許してほしいと。とにかく謝り続けます」
不謹慎な話だが、なんだか不祥事を起こした政治家の謝罪会見のようだなとKAZUYAは思った。
正確には謝罪会見の練習だが。ならば今の自分は石丸の秘書か。そういえば石丸の本来の夢は
政治家だったな、などとぼんやり思いながらKAZUYAは更に追及の手を厳しくしていく。
231: 2014/04/19(土) 01:52:00.21 ID:f5qgSQqt0
K「……舞園や桑田の時のように、大和田を犯罪者呼ばわりされたらお前はどうする?」
石丸の顔からサッと血の気が引き口元が引き攣った。やはりこの男は自分のことより他人のことを
言われる方が弱いのだ。だが、明日のためにもKAZUYAは容赦なくそこを攻めなくてはならない。
石丸「その時は……人が過ちを犯してしまうことはある。舞園君や桑田君も犯罪者ではないと」
K「それで納得してくれればいいが、実際は犯罪者を許すなの大合唱だろうな。
それもモノクマに言われるだけでなく、仲間である人間達に言われる訳だ」
石丸「あ、相手にしません! きっとみんな頭に血が上っているだけなのです。
だから……明日はとりあえず受け流して、後日冷静になって話し合いを……」
K「本当に我慢出来るのか?」
石丸「し、します! 我慢すると先生に誓ったのですから……!」
既に石丸の顔は真っ青だったが、目から覇気は消えていない。KAZUYAはその姿に
石丸が将来政治家となった姿を垣間見た気がした。願わくばそれが幻ではないこと、
そしてその時には自分の手で石丸の顔から傷が消えていることを切に願う。
K「では次に俺の責任だ。今回の事件は全て責任者でありながら率先して
夜間外出禁止のルールを破った俺の責任だと責められるだろう」
232: 2014/04/19(土) 01:59:27.12 ID:f5qgSQqt0
石丸「そんな! 先生はただ頼まれただけです。先生こそ、本当に何も悪くないではないですか!」
K「……お前は何も言うな。俺が謝るからお前は横でただ黙って見ていろ」
石丸「しかし……!」
K「いいから黙れ。それが約束出来ないなら明日は行かせられん」
石丸「う、く……わかりました。黙って見ています……」
K「……そんな顔をするな。俺は元々患者のためならいくらでも頭を下げられる人間だ。
お前は俺の患者であり、教え子でもある。頭を下げて済むならむしろ良い方だ」
石丸「も、もしそれ以上のことを要求されたらどうするんです…?」
K「どんなことでもするさ。それにあまりに無茶を言われたら苗木達が黙ってはいまい」
K「ただ俺達は、何を言われても黙って堪え謝り続けることだけ考えろ」
石丸「……はい」
しかし、高い理想を持ち人間の良心を信じているこの男にとって、それが一番難しいのを
KAZUYAはわかっていた。それに、KAZUYAはモノクマや十神、セレスを特にイメージして
想定問答を行ったが、腐川達が突然どんなことを言い出すかまでは予測しきれない。
233: 2014/04/19(土) 02:09:52.81 ID:f5qgSQqt0
K「さあ、まだ終わりではないぞ。問答を続けよう」
――結論を先に言うと、この練習はそこまで役には立たなかった。
何故ならKAZUYAは根が優しいのだ。どうしても、最後の最後で残酷にはなれなかった。
それに、普通の人間であるKAZUYAに悪魔と同じ発想など元より出来るはずもなかったのだ。
◇ ◇ ◇
最後の朝、KAZUYAは石丸の部屋の前に立っていた。生徒達が朝食会に現れる時間は
大体決まっているので、逆算すれば何時に誰がここを通るかはおおよそわかる。
カチャリ。
舞園「あ、おはようございます。西城先生」
K「おはよう」
234: 2014/04/19(土) 02:18:59.88 ID:f5qgSQqt0
舞園「そんな所でどうかされたんですか?」
言ってから舞園はすぐに気が付いた。
舞園「もしかして、私を待っていたんでしょうか?」
K「そうだ。実は……今朝の朝食会に石丸を連れて行くことになった」
舞園「えっ?! 本当ですか?」
K「ああ。そのことを全員に伝えて欲しいのと、君の部屋の車椅子を借りようと思ってな」
舞園「それは構いませんが、大丈夫でしょうか……?」
舞園は不安げな顔でKAZUYAを見上げるが、こればかりはどう転がるかKAZUYAにもわからない。
K「俺も最初は反対したんだが……押し切られてしまってな。それに、モノクマがどんな
揺さぶりを掛けてくるかわからない以上、俺が現場にいた方が良いとも思ったのだ」
235: 2014/04/19(土) 02:25:52.23 ID:f5qgSQqt0
舞園「そうですか……あと、私からも先生に伝えておきたいことが」
K「何だ?」
舞園は昨日、桑田と霧切が口論したことをKAZUYAに伝えた。
K「そんなことがあったのか……」
舞園「霧切さんは怒っていなくて、むしろ桑田君が気まずくなってしまうことを心配して
いました。先生から一言言ってもらえればきっと桑田君も素直になれると思います」
K「わかった。俺から伝えておく。最近の君は随分と頼りになってくれて俺も助かるよ」
舞園「……ありがとうございます。でも、今日が終わるまで気を抜かないで行きましょうね!」
KAZUYAが誉めた時、舞園は一瞬動揺したような暗い顔をした気がしたが、KAZUYAは
それをこれから起こることに対して緊張しているからだと解釈した。
そしていよいよ、KAZUYA達は緊迫の朝食会を迎えることになる。
246: 2014/04/22(火) 21:52:16.32 ID:vbFVcfYc0
― コロシアイ学園生活十四日目 食堂 AM8:00 ―
実に丸三日ぶりに石丸のよく通る大きな声が食堂に響き渡った。
石丸「やあ! 諸君、グッモーニンだ!」
「…………」
石丸「実に三日ぶりだな。諸君が僕の顔を忘れてしまうのではないかと心配だったよ。ハッハッハッ!」
「…………」
石丸「怪我のことだが、この通り体はピンピンしている。傷口が開くとまずいのでしばらくは
安静にしなければならないが、大きな問題はない。見舞にも来てもらい、感謝感激雨霰だ!」
「…………」
全員、視線を下に向けたまま押し黙っていた。車椅子に乗せられ、顔の半分に
包帯が巻かれた石丸が空元気を出して無理に笑う姿は痛々しい以外の何物でもない。
……一つだけ空いている空席が、場の空気を更に重いものとするのに一役買っていた。
セレス「元気な怪我人ですこと。とても重傷患者とは思えませんわ」
江ノ島「アタシと違って急所を怪我してるもんね……」
247: 2014/04/22(火) 21:57:43.82 ID:vbFVcfYc0
葉隠「ま、まあでも元気そうでなによりだべ。命あってのものだねっていうしな!」
朝日奈「う、うん! そうそう! 生きていればどうとでもなるって!」
石丸「ウム、二人共良いことを言う! その通りだ。今日も一日元気に行こう!」
彼等が何とか冷えきった場を盛り上げようとしている中、石丸の横に立って注意深く
周囲の観察をしていたKAZUYAは、しかしモノクマの気配を感じて戦慄していた。
K(来た! 今回は一体どんな手で……!)
視線を巡らせモノクマの姿を見つけたKAZUYAは――全身から血の気を失い、茫然とした。
モノクマ「イエーイ! みんな楽しそうだねー! 僕も混ぜてよ!」
「きゃあああっ!」 「わああああっ!」 「ひぃっ!」
いつの間にか空いていた大和田の席にモノクマが座っている。
モノクマ「久しぶりにみんな揃ったからかな? あ、でも一人いないんだっけ?
まあいいかあんなヤツ。いなくても誰も困らないもんね!」
248: 2014/04/22(火) 22:04:37.95 ID:vbFVcfYc0
「…………」
悲鳴の後に場を支配したのは沈黙だった。誰もがモノクマの姿を見て言葉を失う。
石丸に至っては憐れな程狼狽し、モノクマの言葉に反論しようにも声が出ないのか、
ただ口をパクパクと動かすばかりだった。仕方なく、KAZUYAが沈黙を破る。
K「――貴様、それは一体なんのつもりだ」
モノクマ「え? これのこと? イメチェンだよ! ほら、優等生の石丸君がなんかワイルドな
外観になっちゃったから僕もマネしてイメチェンしてみたんだけど、どお? 似合う?」
モノクマの顔の黒い左側には……大きな二つの傷痕の形になるよう白いテープが
貼りつけられている。それが何を表しているかは誰の目にも明らかだった。
K「貴様ァ! ふざけるのも大概にしろッ!!!」
予想外の攻撃に思わずカッとなってKAZUYAが怒鳴ると、
モノクマは少しも悪びれずにテープを剥がしながらぼやく。
モノクマ「ちぇー、やっぱり不評かぁ。そうだよね。でっかいムカデが
二匹顔に張り付いてるみたいで気っ持ち悪いもんねっ!!」
249: 2014/04/22(火) 22:09:03.93 ID:vbFVcfYc0
石丸「ッぁああ!!」
桑田「テメェエエエェッ!!」
苗木「モノクマァァァァァ!!」
あまりの暴言に桑田と苗木が椅子を蹴り飛ばしモノクマに駆け寄る。
K「いかんッ!」
KAZUYAが制止しようにも距離があって間に合わない。
大神「待て!」
霧切「いけない!」
舞園「駄目です!」
寸での所で大神が桑田を、舞園と霧切が苗木を止めた。
桑田「離せよ! コイツっ!」
苗木「こいつだけは許せない!」
250: 2014/04/22(火) 22:14:25.22 ID:vbFVcfYc0
K「二人共やめるんだ! 江ノ島の件を忘れたのか!」
一気に場が騒然となるが、KAZUYAが江ノ島のことを出すと生徒達は少し冷静になる。
山田「そ、そうです! 串刺しにされてしまいますぞ!」
江ノ島「アタシの二の舞になっちゃうよ!」
セレス「ここで怒るのは逆効果ですわ」
朝日奈「気持ちはわかるけど二人とも落ち着いて!」
葉隠「あ、あわわわわ!」
不二咲「ダメだよぉっ!」
桑田「く、くそぉぉっ!」
苗木「フーッフーッ!」
石丸「っ……うぐぁぁあっ……!!」
「!」
石丸が声にならない悲鳴を上げ、全員が振り向く。目に涙を溜め、痙攣しながら
尚堪えようと必氏に唇を噛む石丸の肩を、KAZUYAが強く掴んで支えた。
251: 2014/04/22(火) 22:20:54.09 ID:vbFVcfYc0
K「石丸! 俺がついている。しっかりしろ!」
石丸「わかって……わかっています。そうだ、僕は……先生と約束した……!」
話しながら限界を超えたのか、露出している右目からはボロボロと涙がこぼれ
顔は涙と鼻水でグシャグシャになったが、それでも石丸は屈しなかった。
石丸「つ、辛くなんかないぞっ! 外に、外に出たら必ず消すと先生が約束してくれたのだ!」
モノクマ「外? 外ねぇ……まあ、仮に外に出たら治せるにしてもさぁ、脱出の手がかりなんて
まるでないのにまだ夢を見てるの? 全く、君は教科書なんかより現実見た方がいいよ。
どうせだから頭の中も先生に治してもらったら? ぶひゃひゃひゃひゃっ!」
石丸「っ!」
似たようなやりとりは昨晩KAZUYAと練習していた。だが、同じ内容を言っていたとしても
発言者や込められた悪意によってこうも辛さが違うのかと石丸は歯を食いしばる。
K「悪魔め……!」
石丸「とにかく、お前が何を言おうと僕は絶対に折れたりしない! みんなで必ず脱出するのだ!!」
石丸が滝のように涙を流して吠えると、それを援護するように周囲からも声が上がる。
252: 2014/04/22(火) 22:29:41.32 ID:vbFVcfYc0
桑田「そうだ! 出てけ!」
苗木「僕達は絶対諦めたりしない! 諦めたりなんてするもんか!」
朝日奈「帰ってよ!」
葉隠「いい加減諦めるべ!」
山田「かーえーれ! かーえーれ!」
モノクマ「…………」
石丸の決氏の覇気が通じたのか、生徒達は口を揃えてモノクマを糾弾し始めた。
思わぬ猛バッシングを受け、モノクマがたじろいでいる。……とKAZUYAは解釈した。
K「もういいだろう? いくら貴様が揺さぶりをかけても無駄だ!」
モノクマ「ショボーン。つまんないのー」
K「諦めてさっさと秘密の公表をしたらどうだ? 今日まで事件は起こらなかったのだ。
今更いくら往生際悪く粘っても、お前の望む事態になどならん!」
勢いづいたKAZUYAが秘密の公表をモノクマに迫る。しかし、モノクマは
最初からこうなることを読んでいたようで、素早く攻撃の仕方を変えてきた。
253: 2014/04/22(火) 22:36:10.41 ID:vbFVcfYc0
モノクマ「もう、先生ったらせっかちさんなんだから。こういうのはまずお互いの気持ちを
十分に盛り上げてから本番に行くものでしょう? それとも早漏タイプ?」
山田「この状況で下ネタ?!」
モノクマ「ま、お楽しみは夜までオアズケってことで……」
そこでモノクマは石丸の方を見てニヤリと笑う。
モノクマ「じゃあそれまで暇だし、次は大和田君と遊ぼうかなぁ~」
石丸「! よ、よせ! 兄弟をこれ以上追い詰めるな!」
モノクマ「兄弟? まだ君はそんなことを言ってるの? 君の顔にでっかい傷を創った張本人なのに?」
石丸「あ、あれは全部僕が悪いんだ! そうだ、みんな聞いてくれ! 実は……」
だがモノクマは石丸の決氏の告白すら嘲笑うように遮った。
モノクマ「石丸君が大和田君にうっかり秘密を聞いてしまったから? だから本当は
全部僕のせいなんだーごめんなさいとでも言うつもり? バッカじゃないの!」
石丸「何だとっ?!」
254: 2014/04/22(火) 22:43:10.02 ID:vbFVcfYc0
モノクマ「確かにこの状況で秘密聞くとかKYなんてレベルじゃないけどさ、
それが直接の動機なら何で大和田君は石丸君を襲わなかったの?」
石丸「そ、それは僕の失言でカッとなっても、その一瞬は抑えたから……」
モノクマ「君って本当に救いようのないバカだねぇ。君はバッチリ見てたはずだよ」
モノクマ「――大和田君が殺意を込めた目で不二咲君を睨んでいた姿をさ」
不二咲「!!」
石丸「ち、ちがっ……! あれは……」
モノクマ「全く、唯一その場にいた第三者のくせに私情で加害者庇ったりして、
風紀委員失格じゃないの? ……まあでも、それも仕方ないか」
モノクマ「だって、認める訳にはいかないもんね? 認めちゃったら、大和田君が本当は
君達なんて何とも思ってなかったってことも認めることになっちゃうもんね?」
不二咲「っ……!」
石丸「ち、違うッ!! 兄弟はそんな人間じゃないッ!」
K「黙れ、モノクマ!」
だが当然のことながらモノクマは止まらない。むしろエンジンを全開にして
その場を駆け抜け、嵐のように何もかもを滅茶苦茶にして行く。
255: 2014/04/22(火) 22:49:13.56 ID:vbFVcfYc0
モノクマ「何が違うの? だってそうでしょ? 直接の動機がなんであれ、大和田君にとって
君達は自分の秘密やカッとなった怒りで切り捨てられてしまう程度の存在なんだよ?」
モノクマ「友達だと思ってたのは君達だけで、最初から大和田君と君達の間に友情なんてものは
なかったんだよ。或いは、友情自体はあったとしてもちっぽけな見栄やプライドの
ためにあっさり切り捨てられる程度の価値しかなかったんだ。反論出来るかい?」
石丸「反論だと?! あるに決まっている! お前の言葉なんてさっきから全部、全部デタラメだ!」
モノクマ「じゃあ証拠を見せてよ! 違う違うって騒いでも、結局君は僕を納得させる証拠の
一つも出せないじゃない。僕はいくらでも証拠を出せるよ。例えば、大和田君は
この三日間で一度でも君のお見舞いに来てくれたかい?」
石丸「!! そ……そ、れ、は……」
モノクマ「お友達が自分のせいで大怪我して入院してるのに、大和田君はお見舞いにすら
来てくれません。へぇー、石丸君はそれがお友達のすることだと思ってるんだ?」
石丸「きっと……き、気まずいから……」
モノクマ「気まずかったら謝りにも来れないの? 大切な友達に? ふーん」
K「石丸、相手にするんじゃない! お前を刺激するのは良くないから来れなかったんだ!」
モノクマ「あ~、また始まったよ。先生のウ・ソ。この間だってみんなを騙して自分は
夜時間外出禁止のルールを破ってたくせに、一体何回ウソつくつもりなの?」
256: 2014/04/22(火) 22:59:41.02 ID:vbFVcfYc0
K「俺は嘘などついていない!」
モノクマ「じゃあ大和田君が外に出てこない一番の理由を今ここで言いなよ!」
K「それは……」
KAZUYAは口ごもった。これを言ってしまえば大和田の立場は確実に
悪くなるどころか、石丸や不二咲を大いに傷つけることになるのは明らかだった。
石丸「一番の理由? 一番の理由とは何ですか、先生?!」
駄目だ。会話は全て監視カメラで記録されている。嘘をついたら自分の首を絞めるだけだ。
K「……アイツは自分が情緒不安定なのをよくわかっていて、外に出たらまた誰かを
襲ってしまうかもしれない。だから、秘密が明かされる今日まで部屋に篭りたいと」
石丸「そんな……」
モノクマ「60点。大和田君は友達を怪我させた今でも秘密を……何かな?」
257: 2014/04/22(火) 23:07:17.49 ID:vbFVcfYc0
冷酷に続きを促すモノクマが本当に憎い。額から脂汗を流しながら、KAZUYAは渋々続けた。
K「……秘密を知られたくない。今だって誰かを頃してでも隠したいと思っている、と」
不二咲「ああ、大和田君……!」
不二咲の嘆く声が聞こえた。石丸の呻き声も。
モノクマ「はい、満点です。やっと正直に言いましたね。学園長のボクも大変満足です!
……さて、ニブい石丸君にもわかったかな? 大和田君にとっては怪我を
負わせた君よりも自分の秘密を守ることの方が遥かに大事だってことがさ!」
石丸「ああああ……!」
K「違う! そういう訳では……!」
モノクマ「大和田君は秘密が明かされるのが怖い! だから誰か頃してでも秘密を守りたい!
大切なはずの友達に怪我を負わせた今でもその気持ちは変わっていない!」
モノクマ「つまり、友情なんてなかった!!」
不二咲「そんなぁ……」
石丸「あ……あぁ……」
258: 2014/04/22(火) 23:17:33.82 ID:vbFVcfYc0
モノクマ「はい、論破論破。納得してくれたかな、みんな?」
K(クッ……どうする? 何を言っても上手く反論されてしまう。どうすれば……)
「……………………」
誰もが言葉を失った、かと思えた。だが、
朝日奈「い、いい加減にしなさいよね!」
苗木「朝日奈さん?」
K「朝日奈?」
KAZUYAにとって完全に予想外の場所から声が上がった。一体何を言うつもりなのか。
朝日奈「石丸達には確かに友情はあったよ! 私達から見ても本当に仲が良かったもん!
あんたはそうやっていつも人を傷つけることばっかり……勝手なこと言わないで!!」
モノクマの表情が、いやモニターの向こうの誰かの口が吊り上がった気がした。
――後にKAZUYAは思う。自分が止めなければならなかったと。
259: 2014/04/22(火) 23:52:26.57 ID:vbFVcfYc0
ここまで。モノクマの暴走は止まらない!
話は変わりますが、今回ちょっと投下が遅れたのはちょっと準備していまして
今回の話は石丸君の顔の傷がどんなもんかわからないと少しわかりづらいかなぁと
思って、拙作ですがイメージ図を用意していました。下手ですが参考にはなるかと。
傷丸
包帯グルグル丸
顔の傷ですが、暴れたために傷口が若干ズレているのを表現しようとしたのですが、
開き過ぎですね…Kの腕が悪いからではありません。こんなに傷口が開いていたら
感染ヤバイし再縫合妥当ですよ。ちなみに、絵だとあんまり大したことないように
見えますが、実際は患部が炎症起こして腫れ上がってるし相当酷いことになってます
260: 2014/04/22(火) 23:56:15.72 ID:7G1KyDv7o
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