273: ◆takaJZRsBc 2014/04/25(金) 21:12:53.87 ID:QiH5omKD0

274: 2014/04/25(金) 21:17:49.66 ID:QiH5omKD0

モノクマ「おやおやぁ、どうしたのかな朝日奈さん? 急にムキになっちゃったりして~。
      舞園さんや桑田君が責められてた時は他人事って感じで見てたのにさぁ?」

朝日奈「べ、別にその二人の時だってヒトゴトだった訳じゃ……」

モノクマ「他人事だったよ。そして今は他人事じゃなくなったから慌ててるんじゃない?」

朝日奈「なによ、それ……どういうこと?!」


動揺する朝日奈に対して、モノクマは意地の悪い笑みを浮かべて答えた。


モノクマ「親友がいるのは何も石丸君だけじゃないもんねぇ?」

朝日奈「!!」

モノクマ「君は最近やけにイライラしてなかった? 今だってそう。前は積極的に
      犯罪者を庇ったりなんてしなかったのに、今回に限って変に口出しして」

モノクマ「僕がその理由を教えてあげようか?」

朝日奈「り、理由……」


なぶるような、からかうような声色でモノクマは朝日奈に話しかける。ぬいぐるみのような
愛らしい姿から発される正体不明の威圧感に飲まれ、朝日奈は声が出せなくなった。

ダンガンロンパ1・2 Reload 超高校級の公式設定資料集 -再装填- (ファミ通の攻略本)
275: 2014/04/25(金) 21:22:09.03 ID:QiH5omKD0

モノクマ「君は無意識に感じているんだよ」

朝日奈(感じてる……? 感じてるってなにを?)


わからないはずなのに、朝日奈の口は無意識に動いていた。


言わないで、と。


だがモノクマはそこで止めるような優しさなど欠片も持ちあわせてはいない。


「そう――今の石丸君の姿が未来の自分だってことをさ!!」

朝日奈「っ……!!」


ガタン!と反射的に朝日奈は立ち上がった。
顔は蒼白で、いつもは愛らしい赤い唇が今は紫になってブルブルと震えている。


K「朝日奈! 聞くな! 聞くんじゃない!」

大神「あ、朝日奈……」


276: 2014/04/25(金) 21:25:28.99 ID:QiH5omKD0

モノクマは牽制するように大神にチラリと視線を送る。


大神(グッ! 黙れということか……)

朝日奈「ふ、ふざけないでよ……さくらちゃんは私のことを絶対に裏切ったりしないし、
     コロシアイにだって乗ったりしないもん。そうだよね、さくらちゃん?!」

大神「……あ、ああ。勿論だ」

朝日奈(なに、今の間……?!)


親友だからこそ、大神の僅かな違和感に気付いてしまった。そこへモノクマが畳みかける。


モノクマ「そもそもさ、自分で散々言ってるじゃん。さくらちゃんだって普通の女の子なんだって。
      その普通の女の子にいつも依存して頼り切って、大神さんだって内心では迷惑だよね?」

朝日奈「や、やめ……やめてよ……やめて……」

モノクマ「相手の気持ちなんてお構いなしにさ。自分ばっかり助けてもらって、
      それって本当に友達って言えるの? 君達の気持ちって重いんだよ!」

朝日奈「お願い……やめてよ……さくらちゃんは、そんな……」


277: 2014/04/25(金) 21:31:31.41 ID:QiH5omKD0

K「朝日奈、耳をふさげ! 朝日奈!!」

モノクマ「大和田君が不二咲君を襲ったのだってそういう理由なんじゃないの? 最初は頼られて
      いい気持ちになってたけど、いつもいつも頼られて本当はうっとうしかったんだよ!」

朝日奈「や、やめ、やだ……」

舞園「朝日奈さん! 聞いちゃ駄目です!」


苗木はもう大丈夫だと判断した舞園が急いで朝日奈の耳を塞ごうとするが、
錯乱した朝日奈が抵抗するためになかなか上手くいかない。


モノクマ「相手を思いやってるフリして本当は自分を守ってるだけなんじゃないの? 自分の
      保護者がいなくなったら困るから気を遣ってるポーズをしてるだけなんでしょ?」

朝日奈「ち、違う! 違う!! 私は、そんなつもりじゃ……!!」

大神「(駄目だ、もう見ていられぬ)モノクマ、いい加減に……」


だが大神が遮る前にモノクマはトドメを刺した。


モノクマ「友情って便利な言葉だよね! 綺麗な言葉でごまかせば相手は簡単に騙されちゃうもん!
      自分自身だって騙せちゃうから、相手をいくら苦しめたり傷つけたりしても全然平気だし!」


278: 2014/04/25(金) 21:36:41.66 ID:QiH5omKD0

朝日奈「やめて、もうやめて……やめてええええええええええええええええええええっ!!」


食堂に朝日奈の絶叫が響き渡る。だが、誰も彼女に救いの手を差し伸べられなかった。
何故なら、この言葉が突き刺さったのは朝日奈だけではなかったからである。


不二咲「大和田君、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

石丸「許してくれ……許してくれ、兄弟ィィィ!」

K「しっかりしろ、お前達!」

モノクマ「今更謝ったって遅いよ! 結局君達にあったのは友情じゃなくて独りよがりな依存だけ!
      本当は対等な友達じゃなくて自分に優しくしてくれる人が欲しかっただけなんだよ!!」

朝日奈「違う! 違う違う違う違うッ!」

霧切「相手にしてはいけないわ! みんな落ち着きなさい!」

モノクマ「まあ認めたくないなら認めなくてもいいけどね。それで事件が起きようが
      君達自身の問題だし。今まで通り自分の気持ちを押し付ければいいじゃーん」

朝日奈「押し付け……私がしていたのは依存……」

石丸「僕の存在は、兄弟にとって重かっただけだというのか……」


279: 2014/04/25(金) 21:42:02.85 ID:QiH5omKD0

桑田「このヤロオオオオオオオ! 好き放題言いやがって! ブッ壊してやる!!」

大神「桑田!」

K(不味い! 桑田がもう限界だ!)

K「モノクマ! もう言いたいことは済んだだろう。とっとと出て行け!」

モノクマ「はいはい。じゃあ一人ぼっちの大和田君の所に行きますよ、と」

石丸「ま、待て! 行くな! 行くんじゃない!」

モノクマ「んもう! 行けって言ったり行くなって言ったりどっちなんだよ!
      今度こそ本当に僕は行くからね! バイバーイ!」

石丸「待て! 行くなと言ってるだろうっ! 待てええええ!」


立ち上がりかけた石丸の肩をKAZUYAは無理矢理押さえる。


K「石丸! 落ち着け! 大和田の様子は後で俺が見る。今はお前達が
  落ち着かないと俺もどうしようも出来ん!」

石丸「僕は大丈夫です! 僕は大丈夫ですから早く兄弟の元に!」


「――バッカみたい」


280: 2014/04/25(金) 21:49:06.19 ID:QiH5omKD0

思わず全員の視線が声の主に集中する。それは、今までずっと押し黙って俯いていた腐川だった。


桑田「ああ?! バカってなんだバカって!」

K「桑田! 落ち着け!」

石丸「腐川君……何が、馬鹿なのかね? 確かに僕の気持ちは重かったし押し付けもあったかも
    しれない。だが、だとしたら尚更兄弟は悪くないではないか! 助けに行かなければ……!」

腐川「そういうのが全部馬鹿だって言ってんのよ! 兄弟? 所詮赤の他人でしょ?」

石丸「違う! 僕達は義兄弟の契りを交わした……」

腐川「その兄弟は自分が怪我をさせたあんたの見舞いにも来なかったじゃない。
    いつまでお友達ごっこしてんのよ。いい加減気付いたらどう?」

石丸「…………」


いつもは自信なさげにどもり気味に話す腐川が、今日に限って
やけに流暢に話す。その瞳にはハッキリと影が映っていた。


腐川「アタシは……自分が友達だと思ってた人間から裏切られたことなんて、何回もあるわよ」


281: 2014/04/25(金) 21:58:45.09 ID:QiH5omKD0

石丸「!」

K「……!」

腐川「元々クラスの鼻つまみ者だってことは知ってたけど、アタシが賞をとってから殊更に
    露骨になった。嫌いならハッキリ言えばいいじゃない。いつも陰でヒソヒソ話して……」

腐川「聞こえないと思ってるの? 知らないとでも? そのくせ表向きは友達のふりして。
    アタシの教科書や上履き隠したり靴に画鋲入れたりさ。知らないと思ってんの?」


バン!と両手で机を叩いて腐川は立ち上がった。


腐川「アタシは全部知ってんのよっ!!!」


――シィィィン


「…………」

「…………」


鬼気迫るその表情に、誰もが息を呑む。


282: 2014/04/25(金) 22:07:10.56 ID:QiH5omKD0

見たことのない顔だった。いつものヒステリックな表情ではなく、深い怒りと悲しみが込められたいた。


腐川「ふっふふ……結局、真の友情なんてものは存在しないのよ。美しい恋愛も崇高な友愛も
    作家が書く物語の中だけのもの。みんな天才小説家の友達っていうステータスが
    欲しくてアタシを利用してただけ。自分が一番大事。そのために利用する……」

腐川「友達だけじゃない。アタシが学校に行かなくなっても……親は何も言わなかったわよ。
    アタシに興味なんてないから。アタシを利用出来るかどうかでしか見てないから」

腐川「どんなに綺麗事言ったって、人間なんて所詮自分勝手な生き物なのよ。わかった?」

K「……腐川、それは違う! 今まで君の周りにいた人々がどうだろうが……」

腐川「大人のあんたが一番よくわかってるんじゃないの、西城?」


KAZUYAの言葉を遮り、腐川はまっすぐに見つめてきた。
思えば、腐川と目を合わせて正面から話すのは始めてかもしれない。


K「…………」

腐川「特にあんたは医者だから、人間の醜い姿なんてそれこそ腐るほど見てるはずよ」


283: 2014/04/25(金) 22:16:12.32 ID:QiH5omKD0

腐川「本当はあれだけ自分が色々してるのに反発するアタシ達のことも嫌いなんでしょ……?
    純粋に誰かのためなんかじゃなくて、自分が感謝されたいから頑張ってるだけなのよ」

K「違う」


落ち着いて、明確に、断固としてKAZUYAは否定した。
だが、そんな言葉一つで腐川の冷えきって凍りついた心を溶かせるはずがない。


腐川「何を言おうがアタシは信じない。あんたもそこの石頭も他の奴らも結局みんな偽善者なのよ!」

K(……腐川の異常なまでの人間不信や猜疑心は過去の人間関係に原因があったのか。
  俺がもっと早く気がついてフォローしてやっていれば……)


悔やんでも遅い。そして、最悪のバトンを渡されて王者が舞台上に堂々たる登場を果たす。


十神「フン、腐川にしてはなかなか良いことを言うじゃないか」

腐川「びゃ、白夜様……!」

十神「貴様が今までさえずってきた気持ち悪いどの言葉よりも俺の胸に響いたぞ」

腐川「お、お褒めに預かり……こここ、光栄ですぅ」

十神「愛、正義、友情……愚民はいつもそういったありもしない抽象的なものを絶対視する。
    フン、まるで宗教だ。自分に自信がないからそう言うものを拠り所にするのだろう」


284: 2014/04/25(金) 22:43:36.06 ID:QiH5omKD0

いつも他人を見下している十神だが、今回はいつも以上に冷めた表情で淡々と話す。
その瞳に映っているのは石丸とKAZUYAだった。二人の顔を見据えながら、十神は続ける。


十神「俺は自分しか信じない。何故なら自分だけが百パーセント俺が理解出来る存在だからだ。
    自分は絶対に俺を裏切らないし、俺も自分自身を裏切ることはないからな」

十神「石丸、お前はさっきこう言ったよな? 自分が失言したから事件を引き起こしたのだと。
    それはつまり、貴様がありもしない友情を盲信したから事件を引き起こしてしまったと
    自分で白状しているのと同義ではないのか?」

石丸「あ……」

十神「モノクマの言った依存もそうだが、本当は友情や大和田を心から好きな訳ではなくて、
    それらを盲信している自分が好きなんだろう? 綺麗なものを好きな振りをすれば、
    自分自身も綺麗だと錯覚出来るからな。貴様は心の底から偽善者なんだよ!」

石丸「あ……あ……!」


石丸は頭を抱え、目に見えて錯乱し始めた。


K「十神! それ以上石丸を追い詰めるな!」

十神「いい加減自分の間違いを認めたらどうだ? 貴様の顔に刻まれたその醜い傷が何よりの証だ!」

石丸「あ、あ……ああああっ……!」

K「とが……!」


285: 2014/04/25(金) 22:56:12.77 ID:QiH5omKD0

「ざっけんなてめええええええっ!!」


バッ! ガシィッ!


大神「しまった!」

K「いかん! 桑田、よせっ!」


桑田はモノクマが去ったことで力が緩んでいた大神の手から一瞬で飛び出ると十神に掴みかかった。
慌てて大神が二人を引き離そうとするが、桑田の強靭な握力は十神の襟首を掴んで離さない。


十神「このォッ! 汚い手を放せ愚民がッ!」

桑田「誰が放すかこのクソボケウOコ野郎ォォォ!」

腐川「びゃ、白夜様! 放しなさいよ、このバカ!」

石丸「……………」


その騒動の最中、石丸は無言で立ち上がり食堂から走り出てしまった。


K「石丸!」

霧切「私が追うわ! ドクターはこちらを!」

舞園「私も行きます!」


286: 2014/04/25(金) 23:00:56.54 ID:QiH5omKD0

K「すまん、頼む!」


霧切と舞園が石丸を追って食堂から駆け出した。


K(クソッ! 追い掛けたいのは山々だが、今は桑田を止めねば……)


正直、十神がどうなろうがKAZUYAは全く気にしていなかった。いい加減堪忍袋の尾が
切れそうだったし、ここで十神が殴られたとしても自業自得だと思われるだろう。
……だが、桑田が殴るのはまずい。ただでさえ殺人犯の汚名を負っているのだから。


K(これ以上他の生徒の心証を悪くさせる訳にはいかん!)


恐らく激怒した桑田を止められるのはKAZUYAだけだろう。現に、大神ですら
怪我をさせずに引きはがすのは難しいのか、必氏な形相で桑田の右腕と体を掴んでいる。


桑田「いい加減に! ほんとにいい加減にしろよテメェ!!」

K「桑田! やめろ!」

桑田「イヤだ! 今回だけはぜってぇ許せねぇ!」

K「離すんだ!」


287: 2014/04/25(金) 23:09:16.81 ID:QiH5omKD0

桑田「はなさねえ!」

苗木「桑田君、駄目だ!」

江ノ島「え、なんかヤバくない?」

葉隠「ちょ、桑田っち! 落ち着けって!」


葉隠が十神を、大神が桑田の体を押さえKAZUYAが四苦八苦して桑田の手を引きはがす。


桑田「はなせよ! いっぺんこいつをぶん殴らなきゃ気がすまねえ!」

K「不二咲! すまないが桑田を部屋まで連れていってくれないか?」

山田「あ、危ないですぞ! 不二咲千尋殿が怪我をしてしまいます!」

不二咲「大丈夫。僕、やります! 桑田君、行こう。ね?」

桑田「うっぐぐ……」


不二咲が小さな手で桑田の手を掴むと、流石に小柄な不二咲では怪我をしかねないと
わかったのか桑田は大人しくなる。だが、その目はいまだ燃えるように十神を睨んでおり、
KAZUYAが間に入って二人を外へ促した。


288: 2014/04/25(金) 23:22:00.29 ID:QiH5omKD0

K「早く行くんだ!」

不二咲「桑田君、行こうよぉ」

桑田「十神、覚えてろよ……!」

十神「フン、負け惜しみだけは一流だな」


チッ!と盛大に舌打ちをして、桑田は不二咲と共に食堂を去って行った。
だが今度はKAZUYAが十神に相対する番である。


K「十神……何故石丸にあんなことを言った! 理由によっては俺が容赦せん!」

十神「俺は思ったことを言っただけだ。貴様に俺の発言を制限する権利でもあるのか?」

腐川「そ、そうよそうよ! 白夜様は悪くないわ! 大体、一番悪いのは大和田でしょ?!」

K「…………」

K(確かに、事の発端は大和田だし彼等の言い分にも一理ある。だが……)

K「その通りだ。だがだからと言って傷ついている人間を追い詰めて良い理由にはならん!
  もしこれが原因で石丸が早まったことをしたら、お前は責任が取れるのか?!」

十神「責任? 責任だと? ククッ。ここは人頃しを推奨されている空間だぞ? 自分の
    手を汚さずに一人ゲームから降ろせた。むしろ俺としては好都合だ。馬鹿らしい」

K「これはゲームではない! 現実だ!」

十神「現実だからこっちも負けられないんだよ……! そんなこともわからないのか!」


炎の塊のような瞳と氷の刃のような瞳がぶつかり合い、無言のまま二人はしばらく睨み合う。


290: 2014/04/25(金) 23:48:49.60 ID:QiH5omKD0

K「…………」

十神「…………」

苗木「先生、今は石丸君を追いかけた方が……」

K「……そうだな」


KAZUYAはまだ十神のことが許せていなかったが、苗木がおずおずと
提案してきたのでこの場は怒りを収め、石丸捜索へと向かうことにした。


苗木「みんなで手分けして探そう!」

セレス「全く、世話のかかる方ですわね」

山田「探す気ゼロのあなたがそれを言いますか……」

江ノ島「ちょっと! 今は非常事態っしょ! ちゃんと探しなさいよね」

葉隠「まあ、霧切っち達が追いかけていったから最悪のことはねえだろ。それより……」


全員の視線の先には、生気を失って微動だにしない朝日奈と不安げに彼女を見る大神がいた。


291: 2014/04/25(金) 23:53:14.94 ID:QiH5omKD0

朝日奈「…………」

大神「朝日奈……」

K(こちらはこちらで重傷だな……石丸と大和田の件が落ち着いたら即刻フォローしなければ)

K「すまない、大神。朝日奈のことも心配だが、今は君に頼んでもいいか?」

大神「構いませぬ。朝日奈は我に任せ、早く石丸の元へ行ってやってくだされ」

K「すまない。それではみんな、手伝ってくれないか。一応居場所に心当たりはあるんだが」

霧切「その必要はないわ」


声のする方向を振り向けばそこには霧切がいた。


苗木「霧切さん! 石丸君は?」

霧切「舞園さんが見張ってくれているから大丈夫。……それに、どうせ私達では
    手が出せない場所だから結局ドクターのことは呼びに来たでしょうけど」

K「あそこか……」


334: 2014/05/01(木) 17:39:19.70 ID:AGxlegZA0

― 男子更衣室 AM8:51 ―


食堂から逃げ出した後、石丸清多夏はあの忌まわしい事件の現場に来ていた。

あの夜から三日も経ったからか、血の跡は全て綺麗に消されている。だが、壁にかけられた
鏡には事件の際の大きなヒビ割れが残っており、ここで惨劇があったことを見る者に示していた。
苗木の部屋はいつの間にか綺麗にされていたのに、ここだけ残したのは間違いなく当てつけだろう。


石丸「…………」


割れた鏡に、自分を映す。そこには無力でミジメな自分の姿が映っていた。


石丸「っ!」


石丸は乱暴に顔の包帯を外し、再度鏡を見た。モノクマや十神に醜いと揶揄された、
大きな顔の傷が目に入る。未だ炎症が引かず腫れあがり、動いたために創面がズレて至る所から
赤い物が微かに見えていた。顔を触れれば黒い糸に指が当たり、凸凹とした感触を与える。


335: 2014/05/01(木) 17:47:03.04 ID:AGxlegZA0

「…………」


ぽろぽろ……


「うううっ……!」


ボロボロボロ……


「うああああああああっ!!」


二つの眼から幾筋も涙が溢れ、いつしか滝のようにとめどなく流れていた。床にうずくまり、
激しく慟哭する。傷が出来たから悲しいのではない。実の所、石丸は顔に傷が出来たこと自体は
そこまでショックではなかった。何故なら、傷は消すことが出来るとKAZUYAが言ったからだ。
石丸は尊敬するKAZUYAのことを愚直なまでに信じていたし、その言葉を心から信頼していた。

では何が石丸の心を深く傷つけたのか。


石丸「僕は……馬鹿だ……大馬鹿者だ……!」


傷を見るたび、存在を意識するたびに凶行に走る大和田の姿が脳裏に浮かぶ。

友情などないと、自分が信じていたものが否定されたことが何よりも悲しかった。
自分の至らなさや盲信が、友人を殺人犯にしてしまったのが許せなかった。


336: 2014/05/01(木) 17:55:01.80 ID:AGxlegZA0


―友達が出来たとのぼせ上がって、僕は相手の気持ちなどこれっぽっちもわかっていなかった!

―僕がしてきたことは、ただ相手に依存してきただけだったのだ!

―僕の重い気持ちのせいで、兄弟は今までどれほど辛く苦しい思いをしたのだろうか……

―これだけではない。いつだって僕は独りよがりで自分を押し付けてばかりだった。

―僕は自分勝手で、思いやりがなくて、一人では何も出来なくて、その上周りの足を引っ張ってばかりで……


僕がここにいる意味はあるのだろうか――


「…………」


石丸は目の前の鏡を見た。首の傷が開きかけているのか、包帯が微かに赤くなっている。
もう一度、この鏡の破片で一思いにその傷を裂いてしまえば、今度こそ……

そこまで考えて、扉が開く音がした。視線をやるとそこにKAZUYAが立っている。


K「やはり、ここだったな」

石丸「…………せん、せぃ」


337: 2014/05/01(木) 18:03:11.50 ID:AGxlegZA0

震えながら、搾り出すように自分を呼ぶ石丸の姿を見てKAZUYAは何を言えば言いのかを
必氏に考えた。しかし、本当に深く傷ついた人間をどう慰めればいいのだろうか。
顔の傷は消せる。だが、今傷だらけで真紅に染まっているのは石丸の心なのだ。

――心にどうメスを届ければいい?


K「戻ろう。みんな心配している」

石丸「…………」


しかし石丸は膝をついたまま立ち上がらない。ただ背中を震わせて泣いていた。
KAZUYAは屈むとその肩に手を乗せ、優しく背中をさすってやる。


K「自分が、嫌いか?」

石丸「…………」


石丸は顔を上げずに頷いた。


K「自分なんていなくても良いと思っているな?」

石丸「…………」


再び石丸は頷く。


338: 2014/05/01(木) 18:16:10.12 ID:AGxlegZA0

K「――そうか」


三日前、KAZUYAは自棄を起こす石丸を怒鳴りつけた。奮起してもらいたかった。
……だが、今はもうそれを望める段階をとうに超えてしまっているのは明らかだ。

KAZUYAが黙ってしまうと、あとは石丸の嗚咽だけが広い部屋に響いた。


K(石丸は、重傷だ……だが、俺は何としてもお前を助けねばならん)


それは医者としての義務感か、保護者としての責任か、それとも。


K(いや、救ってやりたいのだ――)


KAZUYAは石丸の横にそっと腰を下ろし、その肩を無言で抱く。思えば、石丸はいつも人に
飢えていたのだ。だから一人になることを極度に恐れ、折角出来た友人が去っていくことに
恐怖している。お前は一人ではないと最も効果的に伝えるためには、人の温もりが一番だろう。

そんなKAZUYAの温かさが伝わったのか、石丸は少しだけ落ち着いたようだった。


K「俺は、ずっとお前を見てきた」


――KAZUYAの魂を懸けた説得が始まる。


339: 2014/05/01(木) 18:24:29.34 ID:AGxlegZA0

K「覚えているか? ここに来たばかりのことを。俺はモノクマに内通者の疑いを掛けられ、
  孤立していた。訳も分からず不安だったのは何もお前達だけじゃない。俺だってそうだ」

K「そんな俺に、お前は自分から積極的に話しかけてくれたな。……俺はとても嬉しかった」

石丸「…………」

K「シャワーを借りに行った時、男同士の裸の付き合いをしたのを覚えているか? その後二人で
  色々と深い話をしたな。事件を防ごうと共に誓い合って、何度も一緒に校舎の見回りをした」

石丸「…………」

K「それから、こんな状況にも関わらずお前は暇を見つけては俺の所に熱心に勉強に来ていたな。
  お前ほど努力家で自分に厳しくて、何事にも一生懸命なやつを俺は知らん」

石丸「…………」

K「確かにお前は類を見ない不器用な奴だし、何度も失敗したり空回りしていることもあった。
  だが、それは俺だって同じだ。お前達から見れば俺は強くて立派な大人かもしれんが、
  ここに来てから俺はいくつもミスを犯してしまった。今だって色々後悔している」

K「だがそれは仕方ないのだ。人間なのだから失敗したり欠点があるのはどうしようもない」

石丸「でも……でも僕は、何度も、何度も同じミスをして……」

K「前より減ったさ。お前が言ったんじゃないか。自分には才能はないが努力があると」


しかし、ここで石丸は予想だにしない名前を出した。


340: 2014/05/01(木) 18:35:39.11 ID:AGxlegZA0

石丸「十神君は……」

K「十神? 十神がどうしたんだ?」

石丸「……彼の言っていることは、全て正しいのです」

石丸「僕は……才能がないから努力を、友人がいないから友情を……そうやって、
    ただ自分が持っていないものを盲信して縋り付いているだけに過ぎない……」

K「…………」

石丸「十神君の言っていることは、言い方は悪いけれどいつも正しい。倫理的に
    おかしいことも多いですが、それが今僕達に求められているものですし……」

石丸「十神君は現実を受け止めて、冷静に正しいことを判断することが出来る。僕はどうしても
    自分にとって受け入れがたい現実を受け止めることが出来ず、感情のままに動いて何度も
    間違える。……やはり、凡人の僕は天才の十神君には勝てないのでしょうか?」

K「そんなことはない」

石丸「僕もずっとそう思ってきました! 才能にあぐらをかいている天才などというものに
    努力という確固たる実力を持つ僕が負ける訳はないと……ですが、この間話したのです」

K「話した? 十神とか? 一体何を……」

石丸「……彼は、あの傲慢な態度とは裏腹に大変な努力家のようでした。むしろ、自分に自信が
    あるからああなのかもしれません。……努力する天才に、凡人はどう勝てばいいのです?」


341: 2014/05/01(木) 18:44:04.28 ID:AGxlegZA0

石丸「元々才能のある天才が努力してしまったら、もう凡人に勝ち目などないではないですか……」


弱々しく縋りつく石丸に、KAZUYAはここぞとばかりに力強く語る。


K「本当に大切なことは勝ち負けじゃないだろう! 確かにアイツの発言は正しいことも多いし、
  俺も正直耳が痛い時がある。――だが、あいつの周りに腐川以外の人間はいるか?」

石丸「……!」

K「俺はお前のことが好きだぞ。俺だけじゃない。舞園と桑田はモノクマになじられた後様子を
  見に来たお前にとても感謝していた。他のみんなだってお前の見舞いに来てくれたじゃないか」

石丸「でも、きょうだ……大和田君は見舞いには来ませんでした。本当に、情緒不安定だという
    理由だけなのでしょうか……? 冷静に考えると、たかが秘密でおかしくはないですか?」

石丸「僕は、親友を自称しながら彼が何を考えているのか全く理解出来ない……」

K「大和田が見舞いに来なかったのはお前がどうでもいいからではない。あいつは怯えているのだ」

石丸「怯え……?」

K「お前には言わなかったが、俺は毎日密かに大和田と会って話をしていた。俺もまだ内容は
  聞かされていないが、あいつの秘密は亡き兄と交わした自分の命よりも大事な秘密だそうだ」


342: 2014/05/01(木) 18:55:34.27 ID:AGxlegZA0

K「だから友人を傷つけていいとは言わないが、氏んだ人間との約束は重い。生きている人間と
  喧嘩しても後で謝れば済むが、氏んだ人間に対して出来ることはないからな……。あいつは
  兄との約束に縛られ、ともすればまた誰かを傷つけてしまうのではないかと怯えている」

石丸「兄弟……」

K「ただ大和田はこうも言っていたぞ。許されるなら、お前とまた以前のような関係に戻りたいと――」

石丸「!!」

K「親友だから、家族だから隠し事がないとか何もかも理解し合えるとかそんな関係は有り得ない。
  時にすれ違い喧嘩しぶつかり合い、そうやって時間をかけてお互いを理解していくものなのだ。
  ……いや、それでも完全に理解することは出来ないだろう。俺達は違う人間なのだから」

K「それ自体は少しもおかしいものじゃない。だから人は信じるのだ! 盲信ではなく信頼によって」

石丸「信頼……」

K「大丈夫だ。今は周囲の雑音が大きすぎて互いの声が聞こえていないが、心は今も繋がっているさ」


そしてKAZUYAは渾身の力と熱い想いを込めて、叫んだ。


K「俺を信じろ!!」


343: 2014/05/01(木) 19:03:10.06 ID:AGxlegZA0

石丸「うう……ふぐぅっ……ひっく……へっく……」


石丸はKAZUYAの手を強く握りしめ、しゃくりをあげて泣き始めた。


K「――人は弱い」

K「悲しいかもしれんがこれは事実だ。俺だって、お前達を守るという信念がなければ
  折れていたかもしれん。お前が今冷静ではないように、他の生徒達も冷静ではないのだ」

K「何でもお前が背負い込むのではなく、過ちを犯した大和田の弱さを受け入れてやれ」

石丸「さいじょ、せんせぃ……ううぅ……ぐずっ……」


泣きすぎて上手く喋れていなかったが、確かに石丸は頷いた。KAZUYAはまた背中をさすってやる。


K「立てるか? 無理ならもう少しここにいるが」

石丸「だい、じょうぶ……です」


KAZUYAは傍らに落ちていた包帯を拾い、石丸の顔に再び巻き直して立ち上がらせた。


344: 2014/05/01(木) 19:15:02.81 ID:AGxlegZA0

K「お前に今必要なのは休息だ。薬を出すから今日一日は部屋でゆっくり休め」


寝てしまえば、もうモノクマからの干渉を受けなくて済む。今朝の感じではモノクマは
往生際悪く今日一杯秘密の公開を伸ばすつもりだろうから、夜まで寝かせてしまおう。
あとは秘密の公開さえ終われば、明日には大和田が会いに来てくれるはずだ。


K(何とか、繋げた。危ない所だった……)


KAZUYAの優しさと包容力でぎりぎり石丸の精神を繋ぎ留めることが出来たが、
それは一本の糸のような頼りない存在だった。


K(まさしく蜘蛛の糸……! ほんの些細な衝撃で切れ、一度切れたら地獄へ真っ逆さまだ)

K(細心の注意が必要だな……)


KAZUYAが石丸の体を支えて二人で部屋に戻る。
途中、階段の前で間の悪いことに十神と腐川に出くわした。


「…………」


345: 2014/05/01(木) 19:24:56.47 ID:AGxlegZA0

ギ口リとKAZUYAが目で威圧したため二人は何も言わなかったが、
すれ違いざまに十神が石丸だけに聞こえるよう囁いた。


十神「無様だな」

石丸「……!」


石丸は目を伏せ、KAZUYAの服の裾を無意識に掴む。


腐川「…………フン」


腐川は二人に目も合わせることはなく黙って十神の後を追って行った。


・・・


KAZUYAの説得は一見上手く行っていた。いや、上手く行っていたのだ。

しかしモノクマの放った言葉は毒草の棘の一刺しのように、傷口は小さいものの
その毒は内部に深々と広がっていき、生徒達の心を腐食させていっていた。


346: 2014/05/01(木) 19:43:01.64 ID:AGxlegZA0


『依存』――これほどモノクマにとって都合が良く、絆を簡単に否定出来る言葉もない。


石丸(ああ……僕は兄弟に依存して、今度は西城先生に依存し始めている……)

石丸(僕は、僕は一体いつになったら……)


石丸の中に広がった闇は、未だ晴れない。



               ◇     ◇     ◇


―― 一方、その頃。


大和田「…………」

舞園「…………」


大和田はモノクマではなく、舞園さやかと対峙していた。


371: 2014/05/03(土) 22:02:18.64 ID:K7YAOnVs0

― 大和田の部屋 AM9:04―


大和田は檻の中の猛獣のように落ち着きなく部屋の中を行ったり来たりしていた。


大和田(もう、朝食会が終わってだいぶ経つ……そろそろアイツがやってくるはずだ)


アイツとは勿論モノクマのことである。KAZUYAと何度も話しシミュレーションもしたが、
本当に自分はモノクマの揺さぶりに堪えられるか、大和田の心臓は今にも破裂しそうだった。


大和田(来るんじゃねぇ……来ないでくれ……)


既に額から尋常でない汗を流し悪寒すら感じる中、突然インターホンが鳴った。


大和田「来た! …………いや」


ビクリと反応するが、待てども待てども扉は開かない。そもそもモノクマなら
自由に扉を行き来出来るのだから、インターホンなど鳴らす必要がない。


大和田(誰だ? 先公か? 不二咲か?)


KAZUYAなら開けたいがそれ以外の人間だとまずい。悩んでいる間に扉の下から一枚のメモが入る。


372: 2014/05/03(土) 22:07:15.79 ID:K7YAOnVs0

大和田「これは……は?! 舞園? なんでまた……」


メモにはシンプルに『大事な話があります。開けてください。舞園』とだけ書かれていた。


大和田(なんで舞園が俺に会いに来るんだ……?)


舞園はこの監禁生活の実に半分以上を入院していたし、最初の三日間も挨拶くらいしか会話を
したことがない。硬派を気取る大和田としては桑田のようにアイドルだからと鼻の下を伸ばしたく
なかったし、アイドルとどんな会話をすればいいのかわからなくて内心遠慮していたからだ。


大和田(舞園が俺に会いに来るなんておかしい。十中八九ニセモンだろ。じゃあ誰がこんな真似……)

大和田(……そうか、十神! アイツだな! 舞園の名前をかたって俺を頃しに来たのか!)


メモを見ながら一瞬だけ、殺されればもう楽になるのだろうかと大和田は考えた。
秘密は守れるし、石丸と不二咲に対しての贖罪にもなるし、何も困らないではないか。


大和田(……なに考えてんだ俺は! 明日になったら兄弟達に会ってちゃんと謝るって
     先公と約束したじゃねえか。また男の約束を破るつもりか?)

大和田(今俺が氏んだら兄弟が立ち直れなくなるだろうし……第一、十神に殺されるのはシャクだ)


373: 2014/05/03(土) 22:12:07.99 ID:K7YAOnVs0

大和田「へっ、ちょうどムシャクシャしてたんだ。アイツは前から気に入らなかったし、
     二度とナメた口きけねえようにここいらで一発シメてやるか」


指をポキポキと鳴らし息を整えると、大和田は一気に扉を開けて相手に殴りかかった。しかし、


大和田「オラアアアアアアアッ!」

舞園「きゃっ!」

大和田「ァアッ?!!」


扉を開けた瞬間、人違いに気付いた。体格が違って本当に良かったと心から思う。
十神と身長の近い葉隠だったらきっと殴ってから気が付いたはずだ。


大和田「あ…………ま、舞園?」

舞園「はい、そうですけど……」

大和田「……十神は?」

舞園「十神君ですか? さっき食堂を覗いたらまだいましたけど……」


お互いの間に気まずい空気が流れる。


374: 2014/05/03(土) 22:16:42.65 ID:K7YAOnVs0

舞園「! あ、もしかして十神君が私の名前で呼び出したと思ったんですか?」

大和田「お、おう。てっきり俺を頃しにきたのかと……驚かせて悪かったな」

舞園「いえ、大丈夫です。そうですよね。いきなり私が来たら驚きますよね」

大和田「そうだ。なんでまたお前が俺の所に来たんだ? 一体なんの用だ?」

舞園「少しお話がしたくて……中に入ってもいいですか?」

大和田「は……はっ?! ここでいいだろ。というか、俺は話すことなんてねえ! 帰れ!」


人と会うとまた襲い掛かってしまうかもしれない。それを危惧した大和田は
すぐに扉を閉めようとしたが、舞園が半身を中に入れるのが先だった。


大和田「どけ! 挟まるぞ!」

舞園「どきません。嫌だと言っても無理矢理入らせてもらいます!」


清楚なアイドルだと思っていた舞園の強引な姿に大和田は驚くが、
よくよく考えたら意志の強さは最初の事件の時から既に垣間見えていた。


375: 2014/05/03(土) 22:21:07.90 ID:K7YAOnVs0

大和田「俺はな! 自分でいうのもなんだが今は危ねえんだ! 怪我させるかもしれねえぞ!」

舞園「大丈夫ですよ。大和田君は女性には絶対暴力を振るわないんでしょう?
    現に今だってちゃんと止めてくれたじゃないですか」

大和田「たまたまだ! 出てけオラっ!」


しかし舞園の力は思ったより強く、力ずくで押し出すのは可能だがかえって
怪我をさせかねない。結局、大和田は舞園に押し切られて彼女を部屋に入れた。


大和田「俺になにを話しにきたってんだ……それを言ったらソッコー出てけ」

舞園「そう焦らないでください。私がここにいればモノクマも来ないかもしれませんよ?」

大和田「あ、オメーもしかしてそのために……」

モノクマ「そんなことはないけどね!」バターン!


モノクマは颯爽と現れて二人の間に割り込む。


大和田「モ、モノクマ?!」

モノクマ「さあ、今日はバンバン行っちゃうよ! 今日の僕はとっても調子いいもんねー!」


376: 2014/05/03(土) 22:27:51.07 ID:K7YAOnVs0

舞園「それでお話なんですが……」

モノクマ「あれ? ちょっと! 無視? 無視って酷くない?!」

舞園「……別にそこにいたいならいてもいいですよ?」


冷めた口調だった。誰にでも愛想の良かったアイドルとは思えぬほどに。


モノクマ「…………」

舞園「…………」

モノクマ「…………」

舞園「…………」

モノクマ「……な、なんかお呼びじゃなかった感じ? 舞園さんがハンパなく
      怖い顔してるから一旦引いてあげるよ。どうせ何話してるか聞こえてるし」

モノクマ「十分間待ってやる!」


そういうとモノクマは空気を読んで退室したのだった。


377: 2014/05/03(土) 22:35:18.80 ID:K7YAOnVs0

大和田(このアマ、気迫でモノクマ追っ払いやがったぞ……)タラリ…

舞園「では、邪魔者もいなくなりましたしゆっくりお話しましょうか」ニコ♪

大和田「あ、あぁ……」

舞園「私が何のお話をしに来たか大和田君はわかりますか?」

大和田「わ、わからねぇ。なに言いに来たんだよ」

舞園「アドバイスに来たんですよ。私は大和田君と一番立場が近いですからね」

大和田「ハ? 立場?」


問い掛けると、舞園は口元を吊り上げて笑い冷たい声で囁いた。


舞園「――殺人犯という立場ですよ」

大和田「!!」


大和田は無意識に後ろへ下がる。目の前に立っているのは超高校級とまで称された
国民的美少女のはずなのに、今はどんな不良やヤクザよりも恐ろしかった。


大和田「お、お前……」


379: 2014/05/03(土) 22:41:24.93 ID:K7YAOnVs0

舞園「安心してください。今の私は西城先生の元、脱出に向けて動いていますから、もう誰かを
    傷つけたり殺そうとはしません。私はあなたの味方で、あなたを助けに来たんです」

舞園「そもそも、私が大和田君に襲い掛かった所で敵うと思いますか?」

大和田「…………」


そうは言うが、影を帯びた笑顔が怖い。


舞園「私はあなたがどうすればモノクマの揺さぶりに堪えられるようになるかを教えに来たんです」

大和田「! そりゃ本当か……?」

舞園「はい。気付きさえすれば案外簡単ですよ。ただ事実を認めればいいんです」

舞園「――自分は仲間を裏切って人頃しをしようとした、最低な殺人犯だという事実を」

大和田「!!」


大和田の額から汗が流れ、頬を伝って床へ落ちた。


舞園「……二回目の動機が配られた日、私は頭がおかしくなりそうでした。モノクマの
    言っていることは全て真実なのに、どうしてこんなに苦しいんだろうって……」


380: 2014/05/03(土) 22:47:08.99 ID:K7YAOnVs0

舞園「考えて考えて……考えて考えて考え抜いて……そこでわかったんです。
    ごめんなさいって口にするくせに、私は本心では事実を認めたくないんだと」

大和田「…………」

舞園「大和田君もそうなんでしょう? 自分のしたことは悪いことだ、謝らなきゃって
    頭ではわかっているけど、本心では認めたくないんです。全部モノクマが悪いって」

大和田「ちげえのかよ……元はと言えばこんなことになったのも、俺が兄弟に大怪我負わせることに
     なっちまったのも……全部全部俺達を閉じ込めたアイツのせいじゃねえか!」


そんな大和田の瞳の奥を覗こうとするかの如く、舞園は大和田の顔を見上げた。


舞園「そうですね。モノクマは確かに悪いですね。……でも実行に移したのは私達ですよ?」

大和田「い、一緒にするんじゃねえッ!! お……俺は確かに不二咲に襲いかかっちまったり
     したけど、なにもオメェみたいに最初から計画立てて裏切ったワケじゃ……!」

舞園「ほら、やっぱり認めたくないんじゃないですか」


舞園の真っ暗な瞳の奥が、一瞬輝いた気がした。まるで喉元に冷たい刃を突き付けられたようだ。
淡々と紡がれる言葉は平坦で、それでいて一つ一つが大和田の心を深くえぐっていく。


381: 2014/05/03(土) 22:53:24.68 ID:K7YAOnVs0

大和田「……!!」

舞園「私達、五十歩百歩ですね。計画を立てていた訳ではないにしても、あなたが
    明確な殺意をもって不二咲君を殺そうとしたのは事実なんでしょう?」

大和田「う、ぐ……」

舞園「今朝モノクマが現れて、あなた達の間に友情なんてなかったと言ったら、石丸君が非常に
    狼狽したんです。彼は友人を本気で殺そうとしたあなたの姿を実際に見て知ってしまって
    いたから、あんなに激しく取り乱してしまったんじゃないですか?」

大和田「…………」

舞園「口でいくら謝ったって、そんなものは何の意味も持たないんです。行動に
    移さないと。そのための第一歩が、まず自分の立場を認めることなんです」

大和田「そんなことは……」

モノクマ「いやぁ! 実に素晴らしい演説だねぇ!」

大和田・舞園「!」

モノクマ「約束通り十分経ったから入って来たよ。それにしても……プークスクス!
      随分思い切り良く開き直ったね、舞園さん! 居直り強盗も真っ青だよ」

モノクマ「まあでも、君は元々そういう人だったのかな? だって、自分に好意を寄せている男性を
      二人も一度に利用して切り捨てるなんて普通は出来ないもんね。全く大した悪女だよ!」


382: 2014/05/03(土) 22:57:00.98 ID:K7YAOnVs0

舞園「否定はしません。確かにあの時の私はどんな犠牲を払っても外に出ようと考えて、
    実際にそれを実行に移したのですから。罰は受けるべきだと思います」

モノクマ「罰ってなにさ? 本来は日陰をコソコソ歩かなきゃいけない立場なのに
      堂々と犯罪論語って仲間増やそうとして、それで許されると思ってんの?」

舞園「苗木君も桑田君も許してくれると言いましたよ?」


いけしゃあしゃあと言い放つ舞園の姿にモノクマは些か押されているようだった。


モノクマ「被害者が許したら罪にならないって言うなら検察はいらないんだよ!
      まったく、君に良心てものはないのかい?!」

舞園「その言葉、そっくりそのまま返させて頂きます。こんな酷いことをしている
    あなたに私達を責める権利なんてないはずですからね」

モノクマ「……あーあ、かつては超高校級とまで呼ばれた天下のアイドルが心まで
      犯罪者に成り下がっちゃって。ファンはガッカリするだろうね~」

舞園「犯罪を犯した時点でファンには見限られていますし――第一、もう私はアイドルではありません」

モノクマ「え……まさかそれ本気で言ってんの?」

舞園「はい。だからそのためにもう無駄に悩む必要性はなくなったんです。
    今の私は目的も存在意義も全て脱出すること、ただそれだけにあります」


383: 2014/05/03(土) 23:02:10.39 ID:K7YAOnVs0

モノクマ「あー、そう」

モノクマ(あんだけアイドルであることに執着してた舞園に一体何があったって訳?
      まさか桑田のバカの安っぽいお説教で目が覚めたとかある訳ないし)

モノクマ(舞園に対してはもう何を言っても無駄か。……今は分が悪いみたいだね。出直そう)

モノクマ「はいはい、わかりましたクマ。犯罪者は犯罪者同士せいぜい傷の
      舐め合いでもしててください! もう僕は知らないから。じゃあね!」


バタン。

モノクマが去って行った扉を見遣り、舞園は大和田を振り返った。


舞園「どうでしたか? 言った通りだったでしょう?」

大和田「ああ……」

大和田(マジでモノクマを追い返しやがった……)


呆気に取られていた大和田だったが、すぐに正気を取り戻し沈黙する。


大和田「…………」


384: 2014/05/03(土) 23:08:46.93 ID:K7YAOnVs0

舞園「わかりますよ。罪を認めるのは辛いって。私もそうでしたから」

大和田「オメェは……どうして……」

舞園「私はこう考えたんです。足手まといにだけはなりたくない。先生やこんな私を支えて
    くれたみんなの役に立ちたい。そう考えたら、罪も楽に認められるようになりました」

大和田「…………」

舞園「大和田君は少し乱暴な所もあるけど、流石に何の理由もなく殺人なんかする人じゃ
    ありません。何か理由があるんじゃないですか? 自分の全身全霊を懸けた大切な物が」

大和田「……わかるのか?」

舞園「わかります。私もそれで道を誤りましたから」

舞園「私の場合は幼い頃からずっと見ていた夢でした。……もうなくなってしまいましたけど」

大和田「そうか……」

舞園「……私達似た者同士じゃないですか? こう言ったら怒るかもしれませんが、
    きっと本当は誰よりも弱いんです。大切な物を失うのが怖いんです」


そう言って大和田を見つめる舞園の瞳を見返せなくて、やはり大和田は顔を逸らした。


385: 2014/05/03(土) 23:15:54.36 ID:K7YAOnVs0

大和田「……オメェはもう弱くなんかねえよ」

舞園「ありがとうございます。あの、私なんかで良ければいつでも話し相手になりますよ? 先生が
    以前言ってました。親しい人間より、親しくない人間の方が話せることも時にはあるって」

舞園「お話は以上です。モノクマは秘密の公表を今日一杯伸ばすつもりみたいなので、
    今日一日ゆっくり考えるといいと思います。……負けないでください」

大和田「……ああ。わかってる」


そして舞園は大和田の部屋を出た。


舞園(上手くいきましたかね? これでなんとか今日だけでも保ってくれるといいんですけど……)


同じ立場だから、似た者同士だから、だからこそわかることがある。

舞園の作戦は実に効果的だった。






……かに思われた。


386: 2014/05/03(土) 23:24:14.09 ID:K7YAOnVs0

・・・


ドゴォッ!


大和田「クソォォォッ!!」


自分以外誰もいなくなった部屋で、大和田は壁に拳をたたき付ける。


大和田「まただ……また……!」


霧切やKAZUYAにすら認められている舞園の対人観察能力だが、今回に限れば一つ大きな穴があった。
この監禁生活において、舞園は大和田と面と向かって話したことがほとんどなかったのである。最初の
三日は粗暴な大和田を避けがちだったし、それ以降はどちらかが部屋に篭っていて会うこともなかった。

だから舞園は気が付けなかった。大和田が強さそのものに異常なこだわりを持っていることを。


大和田(桑田に続いて舞園まで……なんでだ? なんで俺だけ取り残されるんだよ……)


大和田の記憶に残る舞園と言えば、苗木や桑田を利用したしたたかさを持つが、泣きながら
桑田に謝り続ける儚さや、モノクマになじられて錯乱する弱さも持った普通の女だった。


大和田(西城か? アイツの力なのか? でも俺は弱いままじゃねえか……
     なにがいけないんだ?! どうして俺だけダメなんだ?!)


387: 2014/05/03(土) 23:28:47.29 ID:K7YAOnVs0

……舞園にとってもう一つ悪かった点がある。脱出のための駒と化した彼女は、常にその場で
最適解と思える行動を取っていた。同じ立場の自分がモノクマに強く立ち向かう姿を見せれば、
大和田を勇気付けられると舞園は考えていたが、そんな彼女の毅然とした立ち居振る舞いは、
かえって大和田の心を追い詰めることになってしまったのだ。


大和田(俺は弱い! 弱い弱い弱い弱い!!)


同じように悩み苦しんでいた弱い舞園なら、先程の自分の行動がいかに大和田を追い詰めるか
わかるはずだった。だが、人間である自分を封印し弱さを捨てた今の舞園にはわからなかったのだ。

ハラリ。


大和田「! なんだこりゃあ……」


そんな時、大和田の目には一枚の紙が映った。A4程の大きさで部屋に備え付けの
メモ用紙ではない。いつの間にかドアの下から差し入れられていたらしい。

また誰か訪問者だろうか。もう誰にも会いたくないのだが……と大和田が億劫に紙を拾い上げた時。


――まるで機械仕掛けのように運命の歯車が音を立てて廻り始めた。


407: 2014/05/05(月) 23:54:45.23 ID:JFMJ1YpQ0

― 石丸の部屋  PM00:47 ―


部屋には睡眠薬で眠りについている石丸とそれを見守るKAZUYA、そして緊迫した空気の
桑田と不二咲の四人がいた。彼等に会話はない。ただ一刻も早く夜になるのを待っていた。


K「……ム」

桑田「なんだよ、せんせー」


KAZUYAは返事をせずに扉に近付き、部屋に入れられたメモ用紙を拾い上げた。
メモ用紙にはシンプルにたった一行だけ文字が書かれている。

『西城、一人で体育館に来てくれ』


K(これは……!)


咄嗟にメモを握り潰してポケットに押し込む。


408: 2014/05/05(月) 23:57:04.74 ID:JFMJ1YpQ0

桑田「誰からだ?」

不二咲「どうかしたのぉ?」

K「……すまん。至急の用事が出来た。俺は外に出るが、お前達はここから出るんじゃないぞ」

桑田「おい……誰からだよ」

K「危険な用事じゃない。お前達は石丸を見張っていろ。すぐに戻る」

不二咲「先生……」

K「大丈夫だ。俺を信じろ」

桑田「……わかった。じゃあここは俺が守るから行って来いよ」

K「すまんな。……ああ、そうだ。もし霧切がここに来たら、無愛想にしないで
  ちゃんと話すんだぞ? 彼女は怒っていないそうだが、一応謝っておけ」


今朝の騒動ですっかり忘れていたことを桑田に言うと、桑田は途端に渋い顔になる。


409: 2014/05/06(火) 00:02:57.47 ID:4/NzTAQz0

桑田「……誰から聞いたんだよ」

K「舞園だ。お前には負い目があるから、心配なのだろう。あまり心配をかけてやるな」

桑田「わーってるよ! ……ったく、余計なこといいやがって」ブツブツ


桑田は口を尖らせて何かモゾモゾ言っているが、本気で怒っている訳ではないだろう。


K「では二人共、任せるぞ」

不二咲「いってらっしゃい。気をつけてくださいね!」


そしてKAZUYAは部屋を出ると、小走りで脇目もふらずに体育館へ向かった。


「来たかよ、先公。待ってたぜ……」


そこで待っていたのは――殺気を全開にして木刀を持った大和田だった。


410: 2014/05/06(火) 00:06:03.03 ID:4/NzTAQz0

K「大和田、一体どうした?! 何があったんだ!」


KAZUYAは先程のメモの内容を思い出す。あの文面だけならただの呼び出し状であり、誰かが
自分のことを狙っているとも取れるが、名前がなかったのですぐに大和田だとピンと来た。

―― 勿論、KAZUYAが大和田だと判断した理由はそれだけではないが。


大和田「やっぱ、ダメだな俺は……あんたの顔見りゃ勇気も出るかと思ったけどよ……」

K「一体何の話だ……?!」


メモを見た時、KAZUYAは全身の毛が逆立つのを感じた。文面だけなら極めて普通である。
……だが、文字が普通ではなかった。それはぎりぎり判読出来るか出来ないかの汚い文字で、
まるで逆の手で書いたかのようだ。いくら大和田の字が汚いと言っても限度を超えている。

こんな字を書くのは考え得る中で二通りしかない。余程慌てて急いで書いたか、或いは……


K(やはり! 文字もまともに書けないくらい震えている……! だが一体何故?!)


激しい胸騒ぎを抑え、なるべく平静な声になるようKAZUYAは問い掛けた。


411: 2014/05/06(火) 00:11:00.85 ID:4/NzTAQz0

K「どうしたんだ? 何をそんなに慌てている?」

大和田「……こいつを見てくれ。さっき俺の部屋に入ってたんだ」

K「これは!」


大和田が広げたA4程の紙には、一面ラクガキのような汚い字で何かが書かれていた。手紙のようだ。


『ヤッホー☆

 まったく、オマエラってば人の一人も殺せないチキンばっかしでボクもう飽きてきたよ。

 なので、ボクはとってもいいことを思いつきました! オマエラにとってもいいことだと思うよ?

 なんと、今誰かを殺せばサイコロで出た目の数だけみんなを外に出してあげます!!

 どう? 最高で六人、最低でも確実に一人。悪くない話だと思うけど? 僕ってとっても太っ腹~。

 ……ああ、別に頃す相手は誰でもいいよ。僕はいい加減人の氏ぬ所が見たいだけだし。

 そういうことだから、まあせいぜい悩んでちょーだいな。バイビー☆』


最後にはサイン代わりにモノクマの似顔絵やサイコロの絵が書いてあった。


412: 2014/05/06(火) 00:15:27.15 ID:4/NzTAQz0

大和田「へへ……どうだ? 悪くない話だろ……? 最低でも兄弟は確実に出せる。六分の五で
     不二咲もだ。四人以上が出る確率は50%。いくら俺の頭が悪くてもそんくらいはわかるぜ」


大和田がこれから何をしようとしているか瞬時に理解したKAZUYAは叫ぶ。


K「大和田! 馬鹿なことをするんじゃない!」

大和田「今日中に誰かを殺せばいい。そうすれば俺の秘密も守れるし兄弟達を外に出してやれる。
     兄弟の傷も治せるし、上手く行きゃ外から助けも呼んでこれる。いいことづくめじゃねえか」

大和田「誰を頃してもいいんだろ? ……だから俺は決めたんだ。俺自身を殺せばいいってな!」

K「馬鹿な?! あんな奴の言葉を信じるのか?! 嘘に決まっている!」

モノクマ「ウソツキ先生と一緒にしないでよ! 僕はいつも本当のことしか言わないクマ!」


いつの間にかモノクマが二人の間に立っていたが、KAZUYAにとって今はそれどころではない。


K「お前は引っ込んでいろ!!」


413: 2014/05/06(火) 00:22:24.84 ID:4/NzTAQz0

大和田「ちょうどいい、モノクマ。テメエ確かに約束は守るんだろうな?」

モノクマ「もっちろん! 僕はクマ界一約束にはうるさい男だからね。約束は絶対に守るとここに誓おう!」

大和田「俺が氏んだ後サイコロは誰がふる? それにオメェ1しか出ない改造サイ使わねえだろうな?」

モノクマ「そんなに疑うなら使う道具とか振るのは全部先生に任せるよ。それなら公平でしょ?」

モノクマ「じゃ、そういう訳だから! バイナラ」


それだけ言うとモノクマはあっさり去って行った。


K「待て! ……クッ、逃げたか」

K(ここにいたらボロが出ると踏んだな。どこまでも狡賢い卑怯者め!)

大和田「……だそうだ。先公、あんたが証人になってくれれば俺も安心出来る。兄弟と
     不二咲を出してやってくれ。その他のメンツに関してはあんたに任せる」


そう言うと、大和田は木刀の両端を持って見つめる。


大和田(ハァ……ハァ……覚悟を決めろ! チームとダチのためだ。男だろ、紋土!!)


415: 2014/05/06(火) 00:32:34.44 ID:4/NzTAQz0

大和田は覚悟を決めると愛用の木刀を膝蹴りで真っ二つに叩き折った。本当は刃物が良かったのだが
食堂には複数人の生徒がおり、万一誰かに見つかって騒ぎを起こすのは本意ではないので、持って
来れなかったのだ。木刀は当然ながら綺麗には割れず、所々が鋭利にささくれ立っている。


大和田(折れた木刀も十分凶器になるってことはケンカで散々知ってる。こいつで
     兄弟に怪我させちまった所と同じ場所を思い切り突けば俺は、俺は……)


氏ぬと決めた時から、今に至るまで少しも震えが止まらない。怖かった。みっともないと何度も
自分に言い聞かせているのに、ちっとも震えは止まってくれないのだ。逆に涙が滲み出てくる。

走馬灯のように、色々なことが次々と頭に思い浮かんで来た。
亡き兄のこと、愛犬のこと、チームのこと……そして、ここで出会った最高の友人達のこと。


大和田(兄弟とは最初はケンカばっかしてたな……)


つまらない意地の張り合いをしていたが、サウナでお互いの本心を知ってからは、掛け替えのない
親友となった。期間こそあまり長くはないものの、過ごした時間は何よりも濃厚だったはずだ。


416: 2014/05/06(火) 00:40:23.97 ID:4/NzTAQz0

大和田(まずはお互いのことをたくさんしゃべって、次にいろんな勝負をしたな。筋トレで
     まさかの敗北して、腕相撲なら勝てると思ったのに利き手が違うとか言い出してよ……)

大和田(……もっといろいろ二人でバカ騒ぎしたかったぜ)


次に頭に浮かんだのは、小柄でいつも泣きそうな顔をしてるのに、芯に強いものを持つ少年だった。


大和田(不二咲は、暴走族である俺を怖がらずによく話しかけてきたよな……)


今から思えば自分を強さや男らしさの象徴として見ていたのだろう。だがそれだけならKAZUYAでも
良かったはずだった。不二咲は、大和田のことを尊敬しつつ一人の友人になりたかったのだ。


大和田(不二咲……すまねえ。オメェに関しては本当にすまねえとしか言えねえ。
     守ってやるって決めたのに、オメェはなにも悪くないのに俺は……)

大和田(……先公、頼むから1だけは出してくれるなよ)


そして、大和田は折れた木刀を思い切り首筋に突き出した。


418: 2014/05/06(火) 00:50:12.14 ID:4/NzTAQz0

大和田「うおらああああああああっ!!」

K「大和田!! やめろおおおおおッ!!!」


ザシュッ!! ………………ポタ、ポタ。


大和田「あ、ああ……」


普通に止めるのでは間に合わなかった。だから迷うことなくKAZUYAは左手で尖った木刀を掴んだのだ。
幾つにも分かれた鋭いささくれがKAZUYAの手に突き刺さり、骨のない何箇所かは貫通すらした。だが
KAZUYAは木片が自分の手を貫通したことより、その先端が大和田を傷つけていないことに安堵する。


K「クッ! フンッ!」


そしてKAZUYAは力付くで木刀を奪い取ると、それを力いっぱい投げ飛ばした。


K「この……大馬鹿者ッ!!」


ドゴォッ!

KAZUYAは思い切り大和田の横っ面を殴り飛ばし、床に落ちているもう片方の木刀を遠くに蹴飛ばす。


419: 2014/05/06(火) 00:57:31.21 ID:4/NzTAQz0

K「大和田! 俺はお前がここまで愚かだとは思わなかったぞ!」

大和田「……先公、これが一番いい方法なんだ。わかってくれよ!」

K「立て! こうなったらお前がいかに間違っているか拳で教えてやる! かかって来い!」

大和田「クソッ! いかにあんただろうとこれだけは譲れねえ……あんたを倒す!」


殴り合いが始まる。

……だが、それは一方的なものだった。

シュッ! シュッ! パアン!


大和田「グッ!」

K「…………」

大和田(なんでだ?! なんで一発も当たらねえんだ?!)


大和田はKAZUYAに接近し何人もの敵対チームの総長を沈めた自慢のストレートを叩き込もうとするが、
KAZUYAはその巨体には見合わぬ軽やかなステップを踏んで大和田の拳を避け、時にいなしていく。


420: 2014/05/06(火) 01:03:43.04 ID:4/NzTAQz0

K「お前の本気はそんなものか。ならばこちらから行くぞ!」

大和田「!」


ゴッ! ドガッ! ガッ!


大和田(な、なんだ?! 速え!)


大和田の攻撃はちっとも当たらないのに、KAZUYAの拳は的確に自分の急所を打ち抜いてきた。
しかも一発一発が異様に重い。ジャブだからまだ立っていられるが、渾身のストレートでも
喰らおうものなら一撃でダウンは必至だ。しかし、大和田も伊達に喧嘩慣れしている訳ではない。
やられながらもKAZUYAの動きを注意深く観察していた。


大和田(こいつ、この動き……ボクシングか!)


大和田はKAZUYAのことをただ趣味で体を鍛えているだけの男だと考えていた。
あくまで本業は医者だから実戦経験は自分の方が上で、乱戦になれば有利に持っていけると。
だがしかし、KAZUYAは大和田が考えている以上の鍛え方をしているし実戦経験も豊富なのであった。


421: 2014/05/06(火) 01:14:21.04 ID:4/NzTAQz0

大和田(ボクサーなら狙いは足だ! 下半身さえ止めちまえば……!)

K「気付いたか。だがもう遅い。これで終わりだ!」


ゴウッ! ドッダァァァンッ!

フィニッシュブローはいつものストレートではなくアッパーカットだった。アッパーで
脳を揺らすことにより、必要以上のダメージを与えずに動きだけ封じることが出来る。
現に大和田は軽い脳震盪を起こして立ち上がれなくなっていた。


K「俺は医者だがボクシングのセコンド資格も持っていてな。スパーリングはそれなりにしている」

大和田「テメエ、一体なんなんだよ……」


仰向けになって倒れたまま大和田は恨めしげに呻く。


423: 2014/05/06(火) 01:27:36.72 ID:4/NzTAQz0

かなりキリが悪いですが、今回のシーンは長いのでとりあえずここまで。


>>414
昨今では傷の修復を専門に行う形成外科が発達してきておりまして、完全に綺麗にするのは
K含めた一部の名医でないと厳しいですが、ある程度目立たなくする程度なら普通の病院でも出来ますよ


437: 2014/05/10(土) 17:11:43.89 ID:eVeiO9tl0
>>434
メカ沢「拳でしか己を語れない、か。フッ、不器用な男の生き様よ」

神山「大変だ。大和田君が西城先生に襲い掛かっている。校内暴力だ!」

前田「いや、どう見てもやられてんの大和田だろ……」

神山「フレディ、二人を止めるんだ!」

フレディ「…………」スッ


ドカドカッバキッ! ゴスッ! グチャッ! グエエッ!


神山「あ」

大和田「」

前田「大和田ーーー!!」

林田「まあそんな心配するなって。どうせ西城が治すだろ。センコー、出番だぞ」

ゴリラ「ウホ?」

神山・林田・前田「……アレ?」

北斗「どうした? 西城ならさっき保健室に帰って行ったぞ」

前田「校医が怪我人放置して帰るなよ!!」


…同じマガジン繋がりだったので


441: 2014/05/12(月) 20:13:52.33 ID:WJru/EVH0

大和田「うっ、くそ……俺は氏ななきゃなんねえのに……!」

K「まだそんな馬鹿なことを言っているのか。いい加減に目を醒ませ!」

K「前に言ったはずだ。石丸から友人を奪う権利はないと。あいつはお前のために泣いていたんだぞ!」

大和田「……!」

K「今朝の朝食会で、モノクマはお前達に友情などないと言った。お前は結局
  友人よりも自分の都合を優先する自分勝手な奴だと」

大和田「……事実だろ」

K「だが! 裏切られた側にも関わらずあいつはあくまで自分が悪いと言い切った! お前が
  悪いのではなく気付けなかった自分が悪いと。もっと出来たことはあるはずだと」

K「お前も知っている通り、あいつは涙もろくて何かにつけてすぐ涙ぐんでいるが、
  それは必ず誰かのためであって、自分が可哀相で泣いたことは一度だってない!」

K「常に自分より他人を優先する。お前もよく知っているはずだ!!」

大和田「…………………………」

大和田「………………俺だって」

大和田「……俺だって」




大和田「本当は氏にたくなんかねえよぉっ!!」


442: 2014/05/12(月) 20:20:54.56 ID:WJru/EVH0

K「なら生きろ! 誰かを犠牲にしなければ脱出出来ないと言うのなら、
  一生ここでみんな揃って平和に暮らしていく方が百倍マシだ!」

大和田「でもそれじゃなんの解決にもなんねえだろうが!」

K「お前が氏ねば石丸と不二咲は一生お前の氏という十字架を背負って生きねばならんのだぞ!
  ……確かにお前の言う通り、今の段階では明確な打開策はない。これからもないかもしれん」

K「だが、閉じ込められていてもお前達は共に学び、遊び、笑えていたではないか!
  一人では辛いが、誰かと一緒ならば耐えられる。仲間とはそういうものだろう?」

K「お前が氏ねば石丸はもう笑わん。仮に脱出出来たとしても、笑えない人生になど意味がない!!」

大和田「……じゃあ、どうすりゃ良かったんだ」

K「俺にもわからん。わからないことは教えられん。確かに、誰かが犠牲にならなければ
  ならないことも将来的にはあるかもしれないが……だが、今はまだその時ではない」

K「俺とした男の約束を忘れたのか? 石丸と不二咲にちゃんと謝れ。まずは仲直りすることだ」


仰向けに倒れたまま大和田は目を閉じて呟いた。


大和田「かなわねえなぁ……あんたにゃ本当かなわねえ……」


443: 2014/05/12(月) 20:25:42.01 ID:WJru/EVH0

K「当然だ。俺とお前では歳も経験も段違いだし、お前のような小僧に負けてたまるか」

大和田「……そういやあんたに聞きたいことがあったんだ」


大和田は半身を起こすと神妙な顔でKAZUYAを見上げる。


K「何を聞きたいんだ?」

大和田「どうしてアイツらは強くなったんだ?」

K「アイツら?」

大和田「桑田や舞園のことだ! 不二咲だって、最初は泣いてばっかだったのに……どうして俺だけ……」


ああ、とKAZUYAは得心した。


K(そういえば大和田は以前から異常なほど強さに固執していたな……)

K「秘密を告白出来ないから自分は弱いと……それがお前のコンプレックスなのだな?」

大和田「…………」


目線を逸らしながら、コクリと頷く。


444: 2014/05/12(月) 20:32:49.79 ID:WJru/EVH0

K(強くならなければならないのになれない。その焦りからこんな馬鹿な真似を……)

K「俺はお前の秘密を知らん。だが、自分の命を懸けても守りたいと思うのなら、
  その秘密を言えないからと言ってお前を弱いなどと非難したりはしないさ」

K「俺が非難するとしたら、何故不二咲を襲ったかだ」

大和田「! それは……」

K「今は無理に言わなくてもいい。だが、不二咲と石丸にはちゃんと正直に言うんだ」

大和田「……言えねえかもしれねえ。俺は弱えんだ」


バッと立ち上がって、大和田はKAZUYAに縋り付いた。


大和田「なあ! あんたは知ってるんだろ?! どうすりゃ俺は強くなれるんだ?!
     どんなことでもする! 俺をアイツらみたいに強くしてくれ! 頼む!!」

K「大和田……」


KAZUYAは困った顔をして、大和田の手を外し背を向ける。


K「……残念だが、それは俺にはどうしようもないことだ」


445: 2014/05/12(月) 20:40:14.31 ID:WJru/EVH0

大和田「?! なんでだよ! 舞園や桑田にも、あんたがなにかやったんだろ?! 俺にも……!」

K「俺は何もしていない。彼らは自分の力で成長したのだ。俺がやったのは、
  せいぜい辛い時に側にいたり励ました程度のことだ。お前にやったようにな」

大和田「そんな……」

K「なあ、大和田。お前は何故そんなに焦っているのだ? 人にはそれぞれ成長する速さと
  いうものがあるだろう? お前はたまたま人より遅かった、それだけじゃないか」

K「取り残されたような気がして寂しいとか、こんな状況だから強くならなければ、と
  自分を追い込んでしまっているようだが、焦る余り他者を傷付けたら結局……」

大和田「そんなんじゃねえ! そんなんじゃ……ねえんだ……」

K「…………」


愕然とする大和田をKAZUYAは諭すつもりでいたが、何かの中でもがいているような苦しげな
その表情に、KAZUYAは感じ取るものがあった。大昔、確か自分もこんな顔をしていた。


K「……何故だろうな。俺はお前の姿に、昔の自分を見ているような気がする」

大和田「先公の? 一体どこが?」

K「それはわからん。何となく昔の俺と似ている気がするとしか。ただ、だとしたら……」


446: 2014/05/12(月) 20:46:07.72 ID:WJru/EVH0

KAZUYAは回想する。自分が今の自分になったキッカケとは何であったか。


K「今のお前に足りないのは変わらざるを得ない決意――本当の後悔かもしれない」

大和田「ハァ?! 後悔? 後悔なら腐るほどしてるだろうが!」

K「そうだろうか? お前は本当に何もかもを失ったことがあるか?」

大和田「……なんだと?」

K「石丸は顔に大きな傷を負ってしまったが、あれはいつか消せる傷だ。また、不二咲の心を
  傷付けてしまったものの、頃してしまった訳ではない。何より二人はあれだけのことを
  しでかしたお前を、無条件に許し受け入れてくれている」

K「何だかんだ言って、お前は本気で捨て身になったことはまだ一度もないんじゃないか?」

大和田「…………」


大和田は何も言い返さず、黙って俯いた。KAZUYAは溜息をついて医療カバンから包帯を取り出す。


K「とにかく、安易に氏のうとするのは強さでも何でもない。ただの逃避だ。それを忘れるな」


簡単に左手の止血をして凶器と化した木刀の破片をカバンに突っ込むと、大和田を外に促した。
そのまま項垂れる大和田を部屋まで送ろうと廊下を歩いている時に、その異常は発生する。


――悲鳴が聞こえた。


447: 2014/05/12(月) 20:51:47.77 ID:WJru/EVH0

― 石丸の部屋 PM00:51 ―


桑田「……あ、やべえ」

不二咲「どうかしたの?」

桑田「いよいよ秘密公開だーって、緊張してたからかな。部屋にバット置きっぱだった」


最終日。最も危険な日。部屋に篭っていれば問題ないはずだが、KAZUYAが急な
呼び出しで顔色を変えたこともあり、桑田は武器を手放したことに不安を感じ出した。


桑田(石丸は薬でぐっすり眠ってるし、すぐに戻れば問題ないよな)

桑田「わりぃ、不二咲。俺、部屋にバット取ってくる。すぐに戻っから」

不二咲「わかった。あの……気をつけてね」

桑田「ハハッ! 任せろよ。俺を誰だと思ってんだ。超高校級の野球選手だぜ?
    誰か襲ってきても、返り討ちにするかソッコー逃げっからへーきへーき!」


そう言って桑田は石丸の部屋から出てしまった。それが運命の分かれ道だとは知らずに。


桑田(誰もいねーだろうな……)


448: 2014/05/12(月) 20:59:29.91 ID:WJru/EVH0

桑田はKAZUYAと話し合った結果、最重要危険人物に江ノ島。次に危険な人物は大神と
定めていた。十神も勿論危険ではあるが、逃げるくらいなら何とかなりそうである。


桑田「これでよし、と」


誰にも会わず部屋に戻り、愛用のバットを手にして桑田は部屋から出る。
そこで運悪く人に出会ってしまったのだった。


葉隠「う、うわああああ! 桑田っち!」


葉隠は桑田の隣の部屋なので、偶然戻ってきた所に出くわしただけである。だが、葉隠からしたら
自分が部屋に戻ろうとしたタイミングで桑田が武器を持って飛び出てきたように見えた。


葉隠「こ、殺さないでくれえええええ! なんでもするからよおお!」

桑田「は? なに言ってんだ。頃すわきゃねーだろ」

葉隠「ウソだべ! さっきだって十神っちに襲いかかったし!」

桑田「あれはアイツが石丸にひでえこと言ったからだろ!」


しかし桑田が何を言っても葉隠は聞かない。葉隠は他の生徒より年長のため、普段は
余裕があり落ち着いている方なのだが、それは自分の身の安全が保障されている時であって、
生来臆病な彼は自分の身に危険が迫るとパニックに陥りがちな所があった。


449: 2014/05/12(月) 21:09:31.89 ID:WJru/EVH0

桑田「だーかーら! 人の話聞けっての! あんま騒ぐといい加減殴るぞ?」

葉隠「お、脅してきたべ! やっぱり桑田っちは犯罪者なんだべ!」

桑田「あのなぁ……」


以前の桑田ならこの辺りで激怒したものだったが、流石に似た状況を何度も
体験したことや今暴れることのデメリットを考えて、桑田は冷静さを取り戻していた。


桑田(ほっといてもいいけど、パニック起こして他のヤツらに襲いかかられでもしたら
    マズイし、まずは落ち着かせるか。大丈夫だ。俺にだってできる)

桑田「あー、うん。わかったわかった。好きなだけ俺の悪口言えよ」

葉隠「ぶ、不気味だべ……油断させて後ろからそのバットでズガン! てする気だな」

桑田「はいはい」


こうして基本的に受け流しつつ宥めすかして、まだ完全に信用された訳ではないものの
葉隠を落ち着かすことに成功した。ついでに少し雑談したりもした。


桑田(ハハッ、俺もやりゃあできるじゃん。それにしてもバカの相手してたら
    ずいぶん遅くなっちまった。不二咲が心配してるだろうな)


450: 2014/05/12(月) 21:14:29.71 ID:WJru/EVH0

そう思いつつ石丸の部屋に戻る。


桑田「…………え?」


               ◇     ◇     ◇


不二咲(桑田君、遅いなぁ。バットを取りに行っただけのはずなのに)


眠っている石丸の顔を見ながら不二咲は待ちぼうけをしていた。


不二咲(もしかして、バットを取ってくるは僕に対する言い訳で本当は別の用事があるのかな?)


パッと浮かんだのは先程のKAZUYAの様子だ。桑田はKAZUYAの様子を見に行ったのかもしれない。


不二咲(……僕、守られてばかりで何の役にも立ててない)


思えば、ここ数日不二咲のやったことと言えばせいぜい石丸の話し相手くらいだった。
桑田達別動隊のように直接事件を阻止するために動いた訳ではなく、KAZUYAのように
他の生徒の精神的支柱になることも出来ない。悲しいくらいにひ弱な存在。


451: 2014/05/12(月) 21:26:00.00 ID:WJru/EVH0

不二咲(僕も……僕も何かやらなきゃ……頼ってばかりじゃ駄目だ! だって……
     僕が弱いから、頼ってばかりだったから大和田君はあんなことに……)


朝日奈や石丸の過剰過ぎる反応に隠されてしまっていたが、実はモノクマの言葉に
最も強い衝撃を受けていたのは不二咲だと言っても過言ではなかった。

元々弱さを気にしていた彼にとって、頼られて迷惑だったという言葉は他の二人より更に
重い意味を持ち、被害者にも関わらず大和田が自分に殺意を持つのは当然だとすら考えていた。

――しかし、やはり根っこの部分で不二咲は強かったのだ。


不二咲(もう依存なんてしない。僕がみんなを助けるんだ! それで、今度こそ本当に
     対等な友達に……でも、どうすればいいんだろう。僕に出来ることって……)


この最悪のタイミングでKAZUYAの言葉が頭に浮かぶ。

『不二咲、頭脳は時に腕力を凌駕する。お前は力はないかもしれんがとても頭がいい。
 今は場が混乱してしまっているが、落ち着いたらきっとみんなの役に立てる時が来る』


不二咲(アルターエゴ……そうだ! 僕にはアルターエゴがある! あれから
     三日も経ってるし、何か一つくらいは解析出来たかもしれない!)


直接脱出に繋がるまではいかなくても、もし何か一つでも有用な情報を得ることが出来れば、
それがキッカケとなってもうコロシアイなどする必要がなくなるかもしれない。

そしてこの後にKAZUYAが続けて言ったことを、最も大切なことを不二咲は忘れてしまった。


452: 2014/05/12(月) 21:36:07.51 ID:WJru/EVH0

不二咲(……石丸君はしばらく起きないよね。すぐ戻ってくればいいし)チラッ


そして不二咲は桑田が心配しないように書き置きをすると、石丸を一人残し部屋を後にした。
向かう場所は脱衣所である。石丸の部屋のすぐ近くなこともあって不二咲は油断していた。


不二咲「スリープ解除」

アルターエゴ『あ! ご主人タマ、おはよう。三日ぶりだね。何かあったの?』

不二咲「うん、実は大変なことがあったんだ……」


不二咲は手短に今までの経緯と状況を話す。


アルターエゴ『……そんなことがあったんだ。大変だったね』

不二咲「うん。それで、僕は僕の出来ることをしようと思ってここに来たんだ。
     ねえアルターエゴ、何か解析出来たものはある? 何でもいいんだ」

アルターエゴ『あるよ! 一つだけロックが外れたファイルがあるんだ。開くね!』

不二咲「本当?!」


興奮気味に不二咲が画面に顔を近付けると、そこに映ったのは細かい文字が
びっしりと書かれていた何かの書類だった。人体と思われる絵も描かれている。


不二咲「これ……何だろう? 何かの実験レポートみたいだけど」


454: 2014/05/12(月) 21:42:31.85 ID:WJru/EVH0

不二咲は仕事の関係で海外の同業者と話すことも多いため、英語はそこそこ堪能である。
しかし馴染みのない専門用語が羅列され、時に英語以外の言語も飛び交うその書類は
頭のいい不二咲でも完全に理解することは出来なかった。


不二咲「英語と、ドイツ語かな? ……でも、西城先生ならきっと読めるよね!」


きっとこれは何か重要な意味があるのだ。凄い! 凄い発見だぞ! と不二咲は大いに浮かれた。


不二咲「お手柄だよ、アルターエゴ!」

アルターエゴ『本当?! 嬉しい。やったね、ご主人タマ!』

不二咲「うん。今西城先生は出掛けてるんだけど、すぐに連れてきて読んでもらうよ!」

アルターエゴ『いってらっしゃい!』


不二咲は脱衣所を出ると、KAZUYAを探しに学園側に向かおうとし……


不二咲「あれ?」


               ◇     ◇     ◇


石丸はKAZUYAが処方した睡眠薬のおかげで深い眠りについていた。
しかしここ数日、常に誰かが自分の部屋にいるという状況にすっかり慣れきってしまったためか、
人の気配がしないことに逆に違和感を覚え、薬がまだ残っているにも関わらず目が覚めてしまった。

薄目を開けて部屋の中を見渡す。


455: 2014/05/12(月) 21:49:51.65 ID:WJru/EVH0

石丸(誰もいない……)


誰もいないということに強烈な不安を感じて石丸は起き上がり、不二咲の
残した書き置きを読まず鍵も開けたままふらふらと部屋を出て行った。

そして夢遊病患者のように朦朧とした意識のまま廊下を歩き出す。


               ◇     ◇     ◇


「…………ハ?」


え? なんでなんでなんで?

長らく葉隠の相手をしていた桑田がやっとの思いで石丸の部屋に帰ってくると、待っていたのは
もぬけの殻となった室内だった。布団は石丸にしては珍しくめくれたままになっている。


桑田(そういや、鍵が開いたままだった……まさか誰かが入って来たんじゃ?!)


慌てて何か手がかりがないか部屋中を見回すが、襲われたにしては綺麗だ。
また、桑田はすぐに机の上に置かれた書き置きを発見した。


桑田(『用が出来たから少し部屋に戻ってるね。すぐに戻るから心配しないで。不二咲』
    なんだよ、心配させやがって! ビビり損じゃねえかよ!)


456: 2014/05/12(月) 21:54:50.35 ID:WJru/EVH0

きっと不二咲は何か急用を思い出し、一人で外出するのは危険なのでやむなく石丸を起こして一緒に
行ったのだろう。全くこんな時に人騒がせな奴だ、と桑田は座って二人が戻って来るのを待つことにした。



               ◇     ◇     ◇


「…………う」


強い頭痛と共に石丸は目を覚ました。いつの間にか倒れていたようだ。頬に冷たく固い床の感触がある。
周りにたくさんの机と椅子が目に入った。机と椅子の半分は教室の後ろに運ばれ空間が作られている。
実習の時に邪魔にならないようにと以前みんなで運んだから、つまりここは1-A教室なのだろう。

どうやら自分は無意識に教室に来ていたらしい。
頭を押さえて起き上がりながら、石丸は自分が何かを握っていることに気が付く。


(これは……?)


紐状の何かだ。起き上がってそれを見て、思考が飛んだ。

だって、そこにあるはずのないものがあったから。

絶対にあってはならないものがあったから。


457: 2014/05/12(月) 22:03:01.26 ID:WJru/EVH0

「不二、咲、君……」


仰向けに倒れた不二咲がそこにいた。いや、あったという表現が正しいか。何故なら彼は……


「う、嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ! 何かの間違いだ!!」


彼の青白い顔の上へ、授業で習ったように手をかざしてみる。息をしていない。

――そう、不二咲千尋は確かに氏んでいたのだ。


「うわああぁあああぁぁあああぁあぁぁぁああぁああぁあぁぁあぁあああぁああああッッ!!!!!」


石丸清多夏は絶叫した。

弱った自分のどこにこんな気力があったのかと思うほど、体の奥底から叫んだ。


叫んで、泣いた――






Chapter.2 週刊少年マガジンで連載していた  非日常編  ― 完 ―


483: 2014/05/13(火) 21:56:23.75 ID:Lcf5ZFXu0
とりあえず、ここから先は二週間推敲を重ねた1渾身の展開なので
ここで読むのやめたらオマエラぜってぇ後悔すっぞ!とだけは胸を張って言えます


>>470
たくさん名作、良作SSがあるのにうちを一番と言ってもらえてとても光栄です
これからもご期待に添えるよう頑張って書いていきます

>>477>>480
いえ、犯人にフラグが立ったのではなく直接ちーたん事故というフラグが
立ちました。つまり、誰が犯人であろうとちーたんが必ず氏んでます

ちなみにフラグはちーたん自体でもなくてかなり予想外の場所に…
多分みなさん聞いたら確実に「えええええっ?!」て言うと思います

484: 2014/05/13(火) 22:00:15.50 ID:Lcf5ZFXu0
>>479

「希望は前に進むんだ!」

「俺を信じろ!」



1もね、働いてるからね、書き溜めとの関係もあるし本当は連日更新は
辛いんだけど、みんなのちーたんいないとかふざけんな!コンティニューはよ!
っていう心の声が痛いくらいよく聞こえるからね。今日も更新しちゃうよ

…こんなことなら週末にまとめて投下すりゃ良かった

486: 2014/05/13(火) 22:03:22.06 ID:Lcf5ZFXu0





Chapter.2 週刊少年マガジンで連載していた  学級裁判編





488: 2014/05/13(火) 22:05:46.29 ID:Lcf5ZFXu0

食堂では落ち込む朝日奈の横で大神が励ましていた。


朝日奈「ありがとう、さくらちゃん。もう……もう大丈夫だから」

大神「そうは見えぬ」

朝日奈「本当に大丈夫だって」

大神「ならば何故我の目を見て言えぬのだ」

朝日奈「それは……」


モノクマに依存という言葉を言われた時、朝日奈は肝を潰された気がした。
正直に言うと思い当たることがあったのだ。

朝日奈は特定の派閥には属していないが、大神以外にも当然親しくしている人間はいる。
それが朝食会の前に集まるメンバー、早起き組なのだが……まず舞園が事件を起こして
消えてしまった。次に、二つ目の事件で石丸が負傷し、看病のためにKAZUYAも消えた。
不二咲は元気だが、桑田と行動を共にするようになり早朝には現れなくなってしまった。


朝日奈(私には今さくらちゃんしかいない……)


このギスギスとした空気の中、朝日奈が頼れるのはもはや大神一人しかいなかった。
それでこの三日間、いつも以上に側にいて寄り掛かり負担をかけていた自覚があったのだ。


489: 2014/05/13(火) 22:11:00.87 ID:Lcf5ZFXu0

朝日奈(もうさくらちゃんに迷惑かけられない……さくらちゃんだって本当は不安なんだから……)

朝日奈「さくらちゃんは優しすぎるんだよ! 私ももっとしっかりしないと。だから……!」


「――――!!」


背筋が冷えるのを感じて、朝日奈は大神と顔を見合わせた。


朝日奈「ねえ……今、なにか聞こえなかった?」

大神「声が聞こえたな。それも、悲鳴のような……」

朝日奈「だ、誰かふざけてるだけだよ! きっとそうだよ!」

大神「だと良いが……」


               ◇     ◇     ◇


桑田「ハアッハアッ! なんでだよ! なんでどこにもいないんだよ!」


あの後、桑田はしばらく部屋で待っていたのだが一向に二人が戻って来ないので心配になり、
部屋を飛び出して不二咲の部屋を訪れていた。しかしいくらインターホンを鳴らしても反応がなく、
初めて異常を感じ寄宿舎の中を飛び回っていた。そもそも、冷静に考えればおかしいのだ。


490: 2014/05/13(火) 22:14:50.01 ID:Lcf5ZFXu0

桑田(どんな急用があったとしても不二咲が怪我人の石丸を連れて行くワケねえ!
    どこ行ったんだ?! 寄宿舎はクマなく探した。まさか学園の方にいるのか?)

桑田(先生の所に行ったとか? でも、不二咲だって場所は聞いてねえはずだし……)


KAZUYAが行き先を告げなかったので皆目見当がつかなかった。下手に遠くまで行って
入れ違いになりたくないので、結果桑田は寄宿舎の中を右往左往するということになる。
思い切って学園の方に行くべきかと、学園との境で二の足を踏んでいた時だった。

石丸の悲鳴が聞こえ、桑田は頭が真っ白になる。


桑田「まさか……?!」


               ◇     ◇     ◇


音だった。余りにもわかりやすく、事件が起こっていることを明白に伝える音。


K「何だ、今の悲鳴は?!」

大和田「兄弟の声だ……兄弟ッ!!」


KAZUYAと大和田が悲鳴が聞こえたと思われる場所に急いで向かうと、
廊下の向こうから同じように血相を変えた桑田が走って来るのが見えた。


491: 2014/05/13(火) 22:18:27.79 ID:Lcf5ZFXu0

桑田「せんせー!! 今のって……?!」

K「どこだ?!」

桑田「多分こっちだ!」


桑田はスポーツマンとして優れた動体視力を持っているが、ミュージシャンを
目指しているだけあって耳もそれなりに良かった。桑田を先頭にして教室に駆け込む。


K「どうした、何が……!!」


すぐさまKAZUYAと大和田も飛び込んだ。そこにあったのは……


石丸「…………」


不二咲に縋り付き、茫然自失となって震えている石丸と倒れたまま微動だにしない不二咲の姿だった。


『ピンポンパンポーン! 氏体が発見されました。一定の自由時間の後、学級裁判を開きます!』


桑田「お、おい……ウソだろ……なぁ……?」

大和田「不二、咲……?」


492: 2014/05/13(火) 22:25:06.49 ID:Lcf5ZFXu0

聞きたくないダミ声で妙な放送が流れたが、今はそんなものに構っている余裕はなかった。
桑田と大和田は真っ青になって立ちすくんでいたが、沈黙を破るようにKAZUYAが怒号を発する。


K「何をしている! 蘇生処置だ! 授業でやっただろう!!」

大和田「(ハッ)そ、蘇生……」

石丸「ッ!!」


蘇生と言う言葉に反応して、石丸が不二咲に飛び付く。素早く気道を確保すると、以前配布された
ハンカチも使わずに直接心肺蘇生を試みる。その横でKAZUYAは、肌身離さず持っている医療カバンと
桑田が背負っているリュックサックから次々と必要な道具を取り出し、準備を始めた。


K「それでは効率が悪い。まずは気管挿管する!」


KAZUYAは必氏に人口呼吸する石丸をどけると、慣れた手つきで不二咲の気管に管を挿入し、
管の先をバッグバルブマスク(大きなエアポンプのようなもの)に繋いで石丸に持たせた。


K「一分間に十(10回/分)! 回数より一回一回を強く押して確実に換気することを第一にしろ!」

石丸「は、はい!」


次にKAZUYAは不二咲のブラウスを開き、胸部を露出させてメスを構える。


493: 2014/05/13(火) 22:47:54.23 ID:Lcf5ZFXu0

大和田「お、おい?! なにやってんだ?!」

K「開胸心マッサージを行う!」

石丸「! 先生はメスで胸部を切り開き直接心臓を手で掴んでマッサージする気なのだ!」


※実際に存在する治療法です。


大和田「そ、そんなムチャクチャな方法あるのかよ……?!」

石丸「ある! このやりかただと心臓が動いているのと同様の効果があるからより効率的に
    血を全身に回せる。医療の現場ではよく使われる手法だ……授業でも少し触れていた」


知識としては知っていたが、それでも不安なのか石丸の声は小さくなる。三度の手術を経て
KAZUYAの技術が確かなのはわかっているが、麻酔もなしに生徒の体にメスを入れる姿は異様だった。


桑田「な、なあ麻酔は? まさか麻酔なしでやんのかっ?!」

K「心肺停止したらもはや痛みなど感じん! スピード勝負だ!」

「…………」


ゴクリ、と三人の喉が鳴る。


494: 2014/05/13(火) 22:52:56.30 ID:Lcf5ZFXu0

K「……石丸、よく見ていろ。ここ、第四肋骨と第五肋骨の間の皮膚を肋間筋ごと一気に切る」


言いながらKAZUYAはメスで不二咲の胸を切り開いた。出血はほとんどない。


K「出血が少ないだろう。心臓が止まっているからだ。開胸手術の際は壁側胸膜を丁寧に剥離し
  開胸器で創を固定するのだが、今は心臓に手が届けばいいからこれ以上切り開く必要はない」

大和田「で、でも骨があるんじゃ……」

K「肋骨は細く多少の可動ならば問題ない。こう、押し広げながら無理矢理手を突っ込む!」

大和田「ム、ムチャクチャだ!」

石丸「…………」

K「石丸、目を逸らすな。よく見ろ! お前が進みたいと言っている道はこれが日常なのだぞ!」


石丸は舞園の手術の時、他の生徒を呼びに行っていたので実質最後の縫合くらいしかまともに
見ていなかった。だからKAZUYAは石丸が怖じけづいていると思い喝を入れたが、実際は違っていた。


石丸「……出来ません」


誰にも聞こえない程の小さな声で呟く。


495: 2014/05/13(火) 23:01:08.10 ID:Lcf5ZFXu0

石丸(僕にはもう医療の道に進む資格なんてない。何故なら僕は、僕が……)

K「頬に赤みがさしてきた。血が回っている証だ。桑田、他の生徒達をここへ!」

桑田「わかった!」


桑田がバタバタと駆け出すと同時に、朝日奈と大神、山田が駆け付けてきた。


朝日奈「ね、ねえ?! さっき変な放送があったけどなにが……不二咲ちゃん?!!」

大神「不二咲?!」

山田「不二咲千尋殿?!」

朝日奈「な、なにやってるの先生っ?!」

大和田「心臓マッサージだ。直接胸ん中に手ェ突っ込んだ方が効率がいいらしい」

山田「そ、そうなのですか……?!」

大神「しかし、心臓マッサージをするということは不二咲の心肺は現在止まっているということか……」

朝日奈「そんな……ウソだよね……?」

大神「助かりますか?」

K「……まだなんとも言えん。五分五分だ」


496: 2014/05/13(火) 23:10:26.02 ID:Lcf5ZFXu0

桑田に声を掛けられ、すぐに生徒達は教室へと集まって来た。そして、不二咲の小さな体に
直接手を突っ込んで心臓を掴んでいるKAZUYAの姿に絶句し、説明という過程が数度繰り返される。


K(クソッ! 体の表面は冷たいが内部はまだ温かかった。呼吸が止まってからさほど時間が
  経っていないということだ。カウンターショックが使えれば蘇生確率も上がるのだが)


全員が息を呑んで見守る中、場にそぐわない能天気な声が響く。


モノクマ「ちょっとちょっと! オマエラ放送聞かなかったの?! 不二咲君は氏んだんだよ?!
      無駄なあがきとかやめて早く捜査開始しなよ! このまま学級裁判始まっていいの?!」

K「貴様は黙っていろ!」


振り向きすらせずKAZUYAは怒鳴った。もし今手が空いていたら、今度こそ殴っていたかもしれない。
そのくらいKAZUYAは頭に来ていたのだ。こんなに怒ったのは宿敵・真田武志と三度対峙した時以来だろう。


モノクマ「でもさぁ、捜査しないで学級裁判始まったらマズイのは僕じゃなくてオマエラじゃないの?
      学級裁判のルール覚えてる? 犯人間違えたら犯人以外のオマエラ全員処刑だよ?」

葉隠「ヒッ! しょ、処刑!」


497: 2014/05/13(火) 23:19:34.32 ID:Lcf5ZFXu0

十神「モノクマの言う通りだな。一刻も早く捜査すべきだ。処置は西城一人でも出来るだろう?」

霧切「待ちなさい。私達の目がここにある間にあなたが証拠を処分する可能性だってあるわよね?」

十神「俺を疑うのか」

桑田「むしろ疑わねえワケねーだろ! 散々ゲームゲーム言っておいてよ!」

舞園「捜査に参加出来る人間と出来ない人間がいるのは不公平です!」

苗木「そもそもさ、モノクマは僕達の命を懸けた本気の裁判が見たいんじゃないの?
    捜査しないで犯人間違えるだなんてつまらない結果、損するのはそっちだろ!」

モノクマ「うっ、それはまあそうなんだけど……」

霧切「通常、氏亡時刻というのは医師が診断し氏亡したと判断した時刻を指すわ。ドクターは
    まだ不二咲君が氏亡したとは判断していない。つまり捜査時間は始まらないはずよ」

モノクマ「う、くぅ~。屁理屈ばっかりこねて……」

モノクマ(ちきしょー。霧切の奴、相変わらず小賢しい。何のために記憶消したかわかりゃしない)


モノクマ「わかりました、わーかーりーまーしーたー! じゃあせいぜい無駄な
      作業してて下さい! バッカみたい。どうせ生き返りやしないのにさ」

モノクマ「現実は君達の大好きな漫画やゲームと違って厳しいんだよ!」

大和田「うるせえ、黙ってろ! ぜってぇ生き返るに決まってる!」


498: 2014/05/13(火) 23:25:56.69 ID:Lcf5ZFXu0
間違えた。修正


>モノクマ「う、くぅ~。屁理屈ばっかりこねて……」

>モノクマ(ちきしょー。霧切の奴、相変わらず小賢しい。何のために記憶消したかわかりゃしない)


>ブツブツとモノクマは心の中で文句を言うが、無駄な作業をして駄目だった方が
>より絶望的な展開なのではないか、と考え直し黙認してやることにした。


>モノクマ「わかりました、わーかーりーまーしーたー! じゃあせいぜい無駄な
      作業してて下さい! バッカみたい。どうせ生き返りやしないのにさ」

>モノクマ「現実は君達の大好きな漫画やゲームと違って厳しいんだよ!」

>大和田「うるせえ、黙ってろ! ぜってぇ生き返るに決まってる!」


499: 2014/05/13(火) 23:30:28.61 ID:Lcf5ZFXu0

モノクマ「そう思うのは勝手だけどね。先生はわかってるんじゃない? ま、いいや。
      じゃあ諦めた頃にまた来るから、それまでオマエラここで待ちぼうけしててね」


そう言うとモノクマは去った。後に残ったのは規則正しい作業音のみだ。
お互いにお互いの顔を見合わせ、何を言えばいいのかわからず黙り込む。
大和田は三日ぶりの、酷くやつれた石丸の横顔を見て側に近寄った。


大和田「石丸、代われ」

石丸「……いや」

大和田「代われ。お前も怪我人だろーが。ほら」


半ば奪うようにして大和田が石丸からバッグを受け取る。
石丸はただ呆けた顔をして交代した大和田の顔を眺めていた。


苗木「みんなで交代してやろう。十分おきに代わることにして」

桑田「せんせーはどうする?」

K「俺は大丈夫だ。手を替えれば丸一日でも問題ない」


そうは言うが、本当は負傷した左手がズキズキと痛んでいた。古い木刀だったから
放置すれば炎症を起こすかもしれない。白いゴム手袋の下では包帯が血に染まっていた。


500: 2014/05/13(火) 23:36:52.69 ID:Lcf5ZFXu0

十神「手袋の下から出血しているようだがその左手はどうしたんだ、西城?」

K「お前に話す義理はない」

十神「フン、流石にすぐバレる嘘をつくのはやめたらしいな?」チラ

大和田「…………」


どうせ後でまたモノクマが面白おかしく言うのはわかっていたが、
それでもKAZUYAは大和田のせいで怪我をしたなどとは言いたくないし言えなかった。


「…………」

「…………」


時々バッグを交代したり、KAZUYAが不二咲に昇圧剤を打ち込んで様子を見たりと多少の動きはあったが、
生徒達は基本的に無言でKAZUYAの動向を見ていた。それはもはや何かの儀式のようにすら見える。


K「(クッ、目に汗が……)汗を……」

桑田「え? なんだ?」

K「誰でもいい。汗を拭いてくれ。目に入る」


501: 2014/05/13(火) 23:42:26.83 ID:Lcf5ZFXu0

今までは腕で拭っていたが、KAZUYAは袖のないシャツを着ているため拭っても拭っても汗が垂れるのだ。
……勿論、プレッシャーから尋常でない量の汗が吹き出ているのが一番の原因なのだが。


舞園「これでいいですか」


舞園がハンカチを出して丁寧にKAZUYAの顔の汗を拭き取っていく。


K「すまん」


そして心臓マッサージを開始してから二時間以上経過した。KAZUYAは長年色々な患者を診てきた
経験から、その患者が助かるか助からないかを大まかに見抜く目のようなものを持っていた。


K(……手応えがない。命を掴んでいる感覚がまるで感じられん)


たとえKAZUYA程の名医であっても、救えない命は今までにも数多くあった。
この瞬間を何度も何回も経験してきた。だが、何度体験しても慣れないのだ。

――人の氏というものは。


502: 2014/05/13(火) 23:53:35.25 ID:Lcf5ZFXu0

K(情を……移し過ぎてしまった。こういうことがあるから、距離を取らなければならないのに……)


KAZUYAの脳裏には、不二咲の顔が、声が次々と浮かんで消えなかった。
よく懐いてくれた。優しくて、素直で、純粋に良い子だった。芯の強い子だった。


K(駄目だ。生徒達が見ている……)


KAZUYAは唇を強く強く噛み締める。口の中は既に血まみれだった。
悲しんでいる場合ではないのだ。KAZUYAにはここにいる生徒達を悪の手から守るという使命がある。

……たとえその生徒が一人減ってしまったとしても、KAZUYAが折れてしまう訳にはいかない。


K「今、何時だ?」

石丸「3時56分です」

K「4時になったら教えてくれ」


なまじっか知識があるばっかりに、KAZUYAの言葉の意味がわかってしまったのだろう。
石丸は泣きながら腕時計をじっと見つめる。


石丸(不二咲君! 不二咲君! 頼む……生き返ってくれ! 君は僕の友達になってくれたではないか!)


カチ、コチ、カチ、コチ……


503: 2014/05/14(水) 00:02:12.04 ID:ON6ibcvZ0

石丸(兄弟だけでは駄目だ! 君もいないと! ここには君もいるべきなんだ!!)


カチ、コチ、カチ、コチ……


石丸(頼む! 頼む頼む頼む頼む頼む!! 神様仏様! この際悪魔でもいい!
    僕の命と引き換えでもいいから、どうか不二咲君を生き返して下さい!!)


(どうか……!!!)


カチ、コチ、カチ、コチ、コチ、コチ。


石丸「……4時に、なりました」

K「そうか……」


KAZUYAは不二咲の胸部から右手を引き抜く。


大和田「お、おい……何で手ェ抜くんだよ……まだ、不二咲は……!!」

K「開胸心マッサージの限度は大体1、2時間だ」

「……!!!」


全員がその言葉の意味を察した。


507: 2014/05/14(水) 00:08:11.98 ID:ON6ibcvZ0

「本日午後4時をもって……」




















「不二咲千尋の氏亡時刻とする――」


519: 2014/05/17(土) 22:12:28.36 ID:kEsS6lQu0

KAZUYAの宣告が下りた。確かに不二咲千尋は氏んだ。


大和田「ウ、ウソだろ……だって、まだ顔が赤いじゃねえか!」

K「俺が人工的に血を回していたからだ。直に冷たくなる」

大和田「ウソ言ってんじゃねえぞ!!」

K「本当だ。今回は本当に本当だ。……嘘だったらどんなにいいか!」


自分の胸ぐらを掴む大和田にKAZUYAもつい怒鳴る。大和田の手から力が抜けた。


大和田「う、そだ……」


……ただ悲しみが辺りを支配する。


石丸「っわああああああ……あああああああああああああ……!!」

朝日奈「不二咲ちゃん……そんな……ひっ、ぐすっ、うえええええええええん!」

大神「不二咲……」

山田「……ウソです、ウソですぞ……ちーたんが、こんな……信じません……」

葉隠「なにかの、間違いだべ……」

桑田「そんな……俺のせいだ。俺が部屋を出たりしたから……」

苗木「う、ああ……わあああああああああああああああああああああ!」

腐川「あ……ああ……嘘でしょ……」


520: 2014/05/17(土) 22:16:51.19 ID:kEsS6lQu0

舞園「…………」

霧切「…………」


感情を封印したはずの舞園やいつも冷静な霧切ですら、今はただ青い顔をして顔を伏せている。
しかし、悲しみと絶望に襲われている者がいれば、その反面ただ淡々と氏を見つめる者達もいた。


江ノ島(これでやっと一人目、か。……なんでだろう。人が氏ぬのなんて別に
     珍しくないのに、軍人にとっては当たり前の光景なのに、少し胸が痛い……)

江ノ島(みんなが泣いてるから、かな……)

江ノ島(……もう考えるのはよそう。盾子ちゃんの望んだ通りにするって決めたんだし、
     盾子ちゃんに目をつけられた時点で、みんなは既に氏んでるも同然なんだから)

セレス「…………」

十神「ようやく認めたな。捜査開始と行くか」

霧切「……待って。その前に全員のアリバイを確認しましょう。アリバイのない
    人間を単独行動させて証拠を隠滅させる訳にはいかないわ」

十神「チッ、まあそれもそうだな」

大和田「待てよ……」

十神「なんだ、プランクトン。西城が氏亡宣告したのにまだ言い張るつもり……」

大和田「当たり前だ、どけぇ!!」

K「大和田……」


大和田はKAZUYAを力づくで押し退けると―― 自分の右手を不二咲の開いた胸部に突っ込んだ。


521: 2014/05/17(土) 22:21:45.29 ID:kEsS6lQu0

K「……!!」

大和田(俺に医者の知識とかねーけど心臓の位置くらいわかる! これが心臓か……)


掴んだのは、自分の掌より一回りは小さい肉の塊だった。学園に監禁されてからは流石の大和田も
男子厨房に入らずなどと言えず何度か包丁を握ってきたが、その時に掴む肉の感触に似ていた。


大和田(氏ねば肉の塊ってことかよ……)


不二咲の小さな心臓を潰さないように細心の注意をしながら、大和田は心臓マッサージを始める。


十神「おい西城、不二咲はもう氏んだのだろう? 時間の無駄だ。止めさせろ」

K「…………」

K(大和田……いくらやっても無駄だ。もうよせ……)


あまりの痛々しい姿に、最初はKAZUYAも大和田を止めようと思った。

――しかし、いくら言おうとしてもその言葉は声にならないのだ。


K「……気の済むまでやらせてやれ」


そう絞り出すのが精一杯だった。


522: 2014/05/17(土) 22:25:29.94 ID:kEsS6lQu0

十神「全くいつまで足止めさせるつもりだ」

朝日奈「あんた……あんたねぇ?! 不二咲ちゃんが氏んじゃったんだよ?! わかってんのっ?!」

十神「わかってるさ。殺人事件が起こった。だから学級裁判の準備を……」


冷静に言葉を返す十神だが、その態度が逆に他の生徒の火に油を注ぐ。


桑田「お前……お前が不二咲を頃したんだろ! だからそんな冷静なんじゃねえのかっ?!」

十神「何を馬鹿な……」

苗木「いくらなんでも酷いよ! あんまりだよ、十神君!」

山田「ちーたんが氏んだっていうのに、ふざけたことヌカしてんじゃねえぞッ!」

大神「十神……!」

霧切「……十神君、頭の良いあなたなら学級裁判のルールは当然覚えているわよね?」


スッと霧切は手で周りを示す。敵意の込められた視線が十神の体を中心に交錯した。


霧切「……周りを見なさい。今のままだと真相はどうであれあなたが犯人になるわよ?」

セレス「学級裁判は多数決……あなたが馬鹿にして軽んじている方々にも等しく投票権は
     ございますわ。犯人でないならこれ以上の挑発的言動はマイナスではありませんの?」

十神「……チッ」


それ以降は流石の十神も何も言わなくなった。全員の視線が再び大和田に戻る。


523: 2014/05/17(土) 22:31:52.12 ID:kEsS6lQu0

「…………」


大和田は、彼等の会話などもはや微塵も聞いていなかった。ただ、無我夢中だった。


(小せえなぁ……それに思ってたよりなんかこう、やわらけえ)

(オメエ……こんなのでずっと動いてたんだなぁ……)


自分が少し力を入れれば簡単に握り潰せてしまう。
そんな小さくか弱い心臓を必氏に動かして、この小さな少年は大きな強い意志を見せていたのだ。
そして自分はそんな勇気ある少年を、つまらない感情一つで殺そうとしたのだ。

己の犯した業の深さを、大和田は改めて思い知らされていた。


(いや、不二咲だけじゃねえ……みんなそうなんだ……)


以前KAZUYAの授業で習ったが、人間の心臓の大きさは大体握り拳と同じくらいらしい。
つまり、自分と不二咲では体の大きさは全然違うが、心臓の大きさはさほど変わらないのだ。


(一分間に60回くらいだっけ? 60×60で一時間に3600。一日だとその24倍で……何回だ?)


一日に86,400回。一ヶ月で2,678,400回。一年で31,536,000回。十年で315,360,000回 ――


(わかんねえけど……わかんねえけど……とにかくすげえ数のはずだよな?)


524: 2014/05/17(土) 22:35:12.75 ID:kEsS6lQu0

みんな小さなか弱い心臓を休みなく動かして生きているのだ。だから人の命とは尊いのだ。

――大和田は今ここに、初めて命の重みを心から学んだのだった。


「不二咲……不二咲……」

「なあ、頼むよ……生き返ってくれよ……」

K(大和田……)


いつしか大和田の双眸からは止めどない涙が溢れ出ていた。


「俺ぁ、バカだ。大バカモンなんだ……」

「俺……絶対に事件を起こしたりしないって先生と男の約束してたのに、破っちまった……」


空いている左手で大和田は不二咲の右手を強く握る。少し冷たかった。


「お前は何も悪くねえ……全部俺がわりいんだ。でも、先生はこんなバカな
  俺なんかをもう一度信じてくれて、また男の約束をしてくれたんだ……」

「明日になったら、兄弟とお前にちゃんと謝るって……全部話すって、約束を……」

K「…………」


525: 2014/05/17(土) 22:37:54.46 ID:kEsS6lQu0

「ここでお前が氏んじまったら……また男の約束破っちまうじゃねえか……」

「頼む、頼むよぉ……! 俺を最低野郎で終わらせないでくれ! ちゃんと謝らせてくれ!!」

「俺に男の約束を守らせてくれよ! 不二咲ィィィィッ!!!」


大和田は外見に反し義理人情に厚く涙もろい男だが、人前で泣くのは男らしくないからと、
今までは何があっても絶対に涙を見せようとはしなかった。その大和田が滝のように涙を流し
絶叫する姿は、見る者の胸を酷く締め付ける。石丸が大和田の向かいに立った。


「不二咲君!」


屈んで、大和田と同じように不二咲の左手を掴む。


「君は折角僕の友達になってくれたのに、僕達はまだ何も友達らしいことをしていないではないか!」

「一緒に遊んだり、時にふざけあったり……君とは、君とはまだ何もしていない!!」

「そんなのあんまりだろう! 僕達を置いていかないでくれ! 頼むから目を開けてくれ!!」

「不二咲君ッ!! 不二咲君ッッ!!!」


二人が泣き叫ぶ姿をKAZUYA達は心痛な面持ちで見ていた。


526: 2014/05/17(土) 22:41:42.07 ID:kEsS6lQu0

他方、十神は苛々とセレスは淡々とその様子を見下ろしている。


十神(……愚かな奴らめ。涙で生き返る陳腐な展開は物語の中だけだ。あのドクターKが無理だと
    判断した以上は絶対に無理だし助からん。そんなこともわからないのか。いい加減にしろ)

セレス(まあ、気持ちはわかりますし可哀相だとは思いますけど、致し方ありませんわ。
     これがここでのルール。わたくし達はゼロサムゲームの真っ只中なのですから)

セレス(現実とは――斯様に残酷なものなのです)

K「二人共……もういいだろう……」


KAZUYAが二人に声をかけるが、絶叫に掻き消されてしまって届かない。
仕方なく、KAZUYAは大和田と石丸の肩に手を置いた。


K「もう……やめるんだ」

石丸「ひぐっふぐっ、うううう……わああああああん!」

大和田「不二咲ィ……不二咲ィィ……! わああああああああああ!」

K「お前達は、よくやった……よくやったんだ……」


527: 2014/05/17(土) 22:45:04.36 ID:kEsS6lQu0


いくら泣いた所で不二咲は帰って来ない。もう二人に笑いかけることはない。

――とうとう、大和田はその手を止めた。だが、名残惜しくて不二咲の心臓から手が離せない。


「不二咲、すまねぇ……すまねぇ……」


泣き過ぎてしゃがれた声で謝った。謝った。何度も。しつこいくらいに。


もし、もう一度やり直せるのならばその時はちゃんと――


……そんな都合のいい展開なんて起きないとわかっているのに。


「不二咲……ごめんよぉ……ごめん……ごめん……!!」

「…………」


KAZUYAは泣きじゃくる生徒達の肩を黙って抱いた。


528: 2014/05/17(土) 22:48:19.16 ID:kEsS6lQu0

――――――――――――――――――――――――――――――


あれぇ? ここ、どこだろう? 確かに僕は氏んだはずなのに……

……あ、教室か。みんなもいるしね。って、あれ?! 窓が開いてるよ!

それに、みんな凄く楽しそうにしてる……


――ああ、そっか。これは、夢なんだね。


きっと、僕達がもしあんな事件に巻き込まれなかったらっていう、幸せな夢なんだ。

休み明けっていう設定みたい。久しぶりだーって桑田君が首に腕を回してきた。

その後は大和田君が同じように桑田君にじゃれついて、仲がいいのは良いことだ!って

笑いながら石丸君が携帯で写真を撮って僕に見せてくれた。

……楽しいなぁ。

ここが天国なのかな? こんな場所なら、僕ずっとここにいてもいいや。


――そう思ったのに、急に外が暗くなって音が何も聞こえなくなった。


外はまだ夏のはずなのに、なんだか凄く寒い……


529: 2014/05/17(土) 22:52:48.12 ID:kEsS6lQu0

あぁ、わかった。ここって、ゲームで言うエキストラステージみたいな場所なんだね。

もうすぐ終わりなんだ……でも、氏ぬ前にこんな素敵な夢を見せてくれるなんて

神様は優しいなぁ。天国って一体どんな所だろう? 楽しい所だといいな。


「――――ィ!」

「――――ン!」


あれぇ……? どうしたのぉ?! 

相変わらずみんな楽しそうにしているのに、いつのまにか大和田君と石丸君が泣いてた。


「――二咲ィ!!」

「――咲君ッ!!」


目の前に立ってるはずなのに、凄く遠くから声が聞こえる気がする。

どうしたんだろう。二人共、何がそんなに悲しいんだろう。

二人が泣いてると、僕も悲しくなってきちゃうんだ。


530: 2014/05/17(土) 23:01:41.23 ID:kEsS6lQu0


――体は相変わらず寒いのに、なんだか両手がとっても熱い。


慰めてあげないと。

励ましてあげないと。

辛い時は側にいて支えてあげるんだ。

僕に出来ることがあったらなんでもしてあげるよ。


――だって、二人は僕の大切な友達だもん!


まず、僕が泣くのをやめなきゃ。

僕が笑って二人を安心させてあげなきゃ。

だから、お願い。もう……


「泣かないで――」


no title


――――――――――――――――――――――――――――――


531: 2014/05/17(土) 23:02:43.97 ID:kEsS6lQu0

























――トクン。


532: 2014/05/17(土) 23:07:22.97 ID:kEsS6lQu0

大和田「……………………あ」


急に、大和田はガクガクと震え出してKAZUYAを振り返った。


K「……どうした?」


トクン。


大和田「い、今……な、な、なにか、う、動……」


大和田が手を引き抜くと同時にKAZUYAは大和田の首根っこを掴んで力いっぱい
後ろに投げ倒し、不二咲の脈を測る。微かに息を吐くような音も聞こえた。


K(馬鹿な……?! 二人の声が呼び戻したというのか?!)

K「不二咲の心拍が戻ったぞ! 桑田、強心剤を出せ! 赤のラベルのッ!!」

「!!」


風船が割れたように叫び声が弾ける。だが、もうそれは悲しみからのものではない。


533: 2014/05/17(土) 23:11:28.73 ID:kEsS6lQu0

桑田「えっと、ちょ、待って……あった! これだな!」


以前KAZUYAは薬品や器具を分散させて苗木と桑田に預けたが、すぐに取り出せないのは
困ると思って、空いた時間に色のついたビニールテープを貼りマジックで効能を書いておいた。
赤のラベルは昇圧剤など手術時に使う緊急性の高いもの、青のラベルは抗生剤などの
重要だが緊急性はあまりない物、黄色は栄養剤などの緊急性も重要性も低いものだ。


「――――で」


ゴホッ! ヒュー、ヒュー……


K(何か言おうとしている! 脳がまだ生きている証だ!!)

K「よし!! 呼吸が戻った! あとは強心剤を直接心臓に打ち込み、弱った心臓を後押しする!」


受け取った薬品を注射器に入れ、KAZUYAは不二咲の心臓に打ち込む。
久しぶりに手が少し震えていたかもしれない。


534: 2014/05/17(土) 23:20:15.52 ID:kEsS6lQu0

石丸「ぜ、ぜんぜぃ……ふ、ふじざぎぐんは……」

K「これでもう大丈夫だ。不二咲は助かるぞ!」

石丸「きょ、きょうらい……」

大和田「石丸……」


一瞬、KAZUYAが何を言ったのかわからなかった。
……だが、夢ではない。確かにドクターKが助かると言ったのだ。


「わああああああああああああああああああああああんっ!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!!」


石丸と大和田は思わず抱き合って盛大に泣く。
それを皮切りとして、他の生徒達も再び大声で泣き出した。

絶望からではなく、力いっぱいの笑顔を浮かべながら――


570: 2014/05/20(火) 20:04:46.31 ID:WhiG770d0

その日、久しぶりに学園に笑顔が戻ってきた。


朝日奈「よ、良かった……良かったよおおおおおおお! うわあああああああああん!」

山田「ちーたん復活キタアアアアア! ホワアアアアアアアアアアアアアア!!」

桑田「し、心配かけやがっって……ううっ、グスッ……ちきしょお……」ボロボロ

苗木「良かっ、た……本当に、良かった……!」ぽろぽろ

舞園「う、う……うううぅ……」ぽろぽろ

霧切「良かった……」

葉隠「いいもん見れたべ。なんか、久しぶりに心が洗われたっつーか……」

腐川「や、やるじゃない……あんたのこと……ちょ、ちょっとは認めてやってもいいわよ!」


葉隠と腐川も目頭に指を当てている。
そんな中、動揺している人間が二人いた。


江ノ島(信じられない……確かに不二咲君は氏んでたはず。はっきり氏相が浮かんでたのに)


戦場で何度も氏に逝く人間を見てきた戦刃も、KAZUYAのように氏を感じ取る能力があった。
不二咲は助からないはずだったのだ。自分の勘が初めて外れたことに戦刃は驚きを隠せなかった。


571: 2014/05/20(火) 20:06:42.02 ID:WhiG770d0

江ノ島(これがドクターKの力なの? でも、西城先生は確かに一度諦めたし
     氏亡宣告までしたのに……なにがなんだかわからないよ、盾子ちゃん……)

江ノ島(でも、みんなすごく喜んで嬉しそう…………ダメ。考えたらダメ)

江ノ島(今回助かっても、どうせほんの少し寿命が延びただけなんだから――)

江ノ島「よ、良かったじゃん! アハハ!」


もう一人の動揺者はあくまで認めないと言うように首を振る。


十神「馬鹿な……こんなこと、起こるはずがない。有り得ん……!」

K「いや、ある!」


KAZUYAは珍しく困惑する十神の顔を見据えて言い切った。


K(俺も長年この業界にいるが、医療の世界では時々不可思議なことが起こる)

K(軽い病気や発作の、絶対助かると思われた患者の容態が急変してしまったり、
  逆に今回のような何らかの力が働いたとしか思えない奇跡が起きたり……)

K(それは俺達人間の医者にはどうすることも出来ない――いわば神の領域!!)

K「不二咲はここで氏ぬべき人間ではなかったということだ」


言ってから、KAZUYAは思うことがあってあえて言い直した。


572: 2014/05/20(火) 20:15:25.27 ID:WhiG770d0

K「いや……大和田と石丸、二人の思いが、絆が不二咲を呼び戻したのだ!」

K「お前達が散々否定してきた友情の力でな!」

十神「ぐっ! ……認めん。認めんぞ、俺は!!」

石丸「僕達の間には、確かに友情があった……」


この上なく嬉しい言葉のはずなのに、石丸は力無くポツリと呟く。
だが、周囲が石丸の様子に気付く前に乱入者が現れた。


モノクマ「あのさー、いい感じの雰囲気な所悪いんだけど……」

K「厭味ならさっさと言え。そして帰れ」


顔も上げずにKAZUYAは不二咲の開いた胸部を縫合していく。


モノクマ「いやね、厭味じゃなくて学級裁判の話なんだけど……」

セレス「あら、氏人がいなくなったのですからもう裁判をやる必要はなくなったのでは
     ありませんこと? 殺人事件は起こっていないということになったのですから」

モノクマ「そうはいかないね! 氏体発見アナウンスしちゃったし、見てる方も納得出来ないし!
      つーか僕が一番ガッカリだよ! いい加減こっちは裁判やりたいんだよ!!」

モノクマ「大体ねぇ、いくら助かったとはいえ不二咲君をこんな酷い目に
      遭わせた犯人、クロはオマエラの中にいるんだよっ?!」

苗木「嘘だ! どうせお前が不二咲君を襲ったんだ!」


573: 2014/05/20(火) 20:25:38.35 ID:WhiG770d0

モノクマ「天地神明に誓って僕じゃない! なんなら裁判の後に証拠の映像を見せてもいいよ。
      裏切り者は今もオマエラの中にいるんだ。そいつを放置しておくつもりかい?」

霧切「捜査も何も不二咲君が目を覚ましてから犯人を聞けばそれで終わりだわ」

モノクマ「僕の予想では不二咲君はしばらく目を覚まさないと思うんだけど。違う?」

K「確かに。元々体が弱いのにギリギリまで氏に瀕していたのだ。当分は目を覚まさないだろう」

大和田「当分てどんくらいだよ? まさかせっかく助かったのにこのまま目を開けないとか……」

K「……可能性は低いがゼロではない」

大和田「そんな……」

モノクマ「少なくとも今日中には無理ってことだよね? じゃあ裁判出来るじゃない!
      やったね! 僕はこの時を待っていたんだよ!!」


大喜びになるモノクマに反して、一同は背筋が冷えるのを感じた。


K(グッ、まずい……このままでは下手すれば全員が処刑されてしまう……)

K「ふざけるな! 校則には仲間の誰かを“頃した”クロとある! 被害者が生きているのに
  処刑するのは明確なルール違反だ! ゲームマスターのくせに自分の作ったルールを破るのか!」


無駄な足掻きとわかりつつも、KAZUYAは足掻かざるを得なかった。だが、所詮は無意味な行為だ。
この世界のゲームマスターはモノクマだ。自分達がどんなに主張してもルールを変えることは出来ない。


K(こうなったら最悪、俺自身を交渉材料にするしか……)


574: 2014/05/20(火) 20:31:31.33 ID:WhiG770d0

氏人すら生き返したのだ。黒幕から見て最も邪魔な存在なのは明らかにKAZUYAだろう。
そのKAZUYAが自身の身柄を引き渡すのであれば、黒幕にとってそこまで悪くない提案のはずだ。

――しかし、ここで予想外の展開になった。


モノクマ「そこが問題なんだよねぇ……」


モノクマは心底困った声を出してあからさまに焦った表情を見せる。またKAZUYA達を
罠にかけるために演技でもしているのかと思ったが、どうも様子がおかしい。


K「……何?」

モノクマ「不二咲君は間違いなく一度氏んだけど、今は確かに生きてる。事件が起こったら裁判を
      しなきゃいけないけど、人を頃してないクロを処刑する訳にもいかないし……」

葉隠「そ、そうだべ! そんな氏に方納得いかねえ!」

桑田「ふざけんな! これで氏んだら化けて出てやるぞ!」

モノクマ「うーん。この事態は流石の僕もちょっと考えてなかったなぁ。どうしようか……」

K(モノクマが珍しく悩んでいる。これはチャンスだ……!)


付け入る隙を感じ、KAZUYAは禁断の案を出した。


K「ではこうしたらどうか。予定通り学級裁判を開き、裁判後にはお仕置きも行う」

K「――ただしお仕置きの内容はぎりぎり氏なないレベルにする。これでどうだ?」


575: 2014/05/20(火) 20:38:07.61 ID:WhiG770d0

桑田「お、おお! さすがせんせーだぜ」

山田「それなら問題ないですな!」

霧切「…………」

十神「…………」

モノクマ「成程、折衷案て訳ねぇ。……でもさぁ先生、自分が何を言ってるかわかってるの?」

K「……ああ。わかっているさ」

朝日奈「え? どういうこと? 普通に名案だと思うけど」

苗木「何か問題でもあるの?」

江ノ島「もったいぶってないで早く説明しなさいよ!」

モノクマ「つまりさ、先生は学級裁判自体を開かないようにするのは無理だと踏んで……」

モノクマ「自分達を守るためにクロ一人を生け贄に差し出そうって提案をしてる訳!」

「!!」


動揺する生徒達を見上げながらモノクマは嫌らしい笑みを浮かべる。


モノクマ「笑っちゃうよね? 今まで散々生徒達は俺が守る! 俺は生徒全員の味方だ!って
      ヒーローぶってたのに、自分の身が危うくなったらこれだもん!」

桑田「で、でも……しかたねえじゃん……不二咲を襲ったヤツが悪いんだし……」


576: 2014/05/20(火) 20:47:30.51 ID:WhiG770d0

モノクマ「おや? 君が言うの、クロになりかけた桑田怜恩君? あの日あの晩たまたま
      見回りをしてたKAZUYA先生が挙動不審な君を発見して舞園さんを治療したから
      助かっただけで、本来ならあの後学級裁判が開かれてたんだよ?」

モノクマ「そうなったら君か他のみんながオシオキされてた訳だけど、その点については
      どう言及する気? バッチリ証拠隠滅したうえ口封じまでしようとしてた癖にさぁ?」

桑田「だって! あの時は学級裁判のこと言ってなかったじゃんか! 後出ししやがったくせに!!」

K「桑田、そのへんにしておけ。俺はお前達を守るためなら、どんなに
  冷酷にだってなる。氏にさえしなければ俺が治してみせるさ」


固い決意と共にギンッと目を吊り上げると、KAZUYAはモノクマの前に立った。


K「それでモノクマよ。この条件を飲むのか、飲まないのか?」

モノクマ「う~ん、そうだねぇ……」


たっぷりと時間を掛けて思案し、最終的にモノクマはKAZUYAの提案を飲むことにした。


モノクマ「……うぷぷ。いいよ。飲んであげるよ。みんなに裁判ボイコットでもされて
      全員オシオキじゃあまりにもつまらないからね。氏にはしなくてもそれなりに
      きつーいオシオキを用意して待ってるから、せいぜい頑張って犯人当てしなよ」

大和田「ま、待て、待てよ! 裁判なんかより不二咲だ。このままで大丈夫なのか?!
     ここじゃろくな設備もねえし、本当は病院に運ばねえとヤベエんじゃねえのかよ!」

K「当然、病院に運んだ方がいいに決まっているが……」

大和田「なら……やっぱり、俺が氏んだ方が……」


577: 2014/05/20(火) 20:58:22.37 ID:WhiG770d0

K「まだそんな馬鹿げたことを言うのか!」

石丸「待ってくれ」


突然聞こえた単語に全員がギョッとする中、割って入ったのは石丸である。


石丸「僕の聞き間違いでなければ……今、何やら不穏な言葉が聞こえた気がするのだが……」

桑田「唐突になに言い出してんだお前? なんでお前が氏ななきゃなんねーんだよ?」

大和田「これを見てくれ!」


思い詰めた顔で、大和田は例の紙を全員が見えるように広げて見せた。
大和田のしようとしたことを察し誰もが青ざめるが、特に石丸の様子は酷かった。


石丸「……どういうことだ?」

大和田「すまねえ……お前の顔の傷を消すにはこうするしかなかったんだよ。よほど運が
     悪くなければ不二咲も出してやれるし、それが罪滅ぼしになると思ったんだ」

石丸「ふざけるなッ!! そんな……そんな方法で自分だけ脱出して、僕が本当に
    喜ぶとでも思ったのか?! 君には僕がそんな卑怯者に見えていたのか?!」

K「落ち着け、石丸! 傷に障る!」

大和田「同じことを先公にも言われたぜ。確かにあの時の俺はどうかしてやがった…………でも!
     今は話が別だ! 不二咲の命が掛かってるなら、俺の命を犠牲にする意味もあるだろうが!」

舞園「落ち着いてください、大和田君。そもそもモノクマは本当に約束を守る気はあるんですか?」


578: 2014/05/20(火) 21:10:51.96 ID:WhiG770d0

大和田「守るっつったよなぁ?! さっき俺と先公の前で確かに!」

モノクマ「僕は一度した約束は絶対に守るよ」

大和田「ほら見ろ、なら止めるんじゃ……」


しかし、その後にモノクマが告げた言葉はKAZUYAにとって予想通りであり大和田にとって予想外だった。


モノクマ「でも僕は君と約束なんてしてないけどね。いくら僕でもしてない約束は守れないよ」

K「…………」

大和田「…………はぁ?」


思わず大和田は間の抜けた声を出す。


大和田「な、なに言ってやがんだテメエ……だってこの紙にちゃんと……」

モノクマ「ああ、それ? 僕が書いたラクガキだけどそれがどうかした?」

大和田「ら、らくがきぃ??!」


あまりにも堂々と言い放たれて、大和田は声が裏返るのも気にせずただ呆然とする他なかった。


モノクマ「うん。あぁ、そっかぁ。廊下のどこかに捨てたつもりだったけど、“偶然”
      大和田君の部屋に入ってそれを自分宛ての手紙だと勘違いしちゃったんだね!」

大和田「テメエ……俺を、騙しやがったのか……」


579: 2014/05/20(火) 21:20:57.88 ID:WhiG770d0

モノクマ「騙すなんて人聞きの悪い。宛名も差出人もない単なるラクガキを
      君が勝手に手紙だと勘違いしただけでしょ? 逆恨みはやめてよね!」

舞園「……石丸君達の件で焦っていた大和田君の気持ちを利用したんですね」

朝日奈「ひ、ひどい……ひどすぎるよ……」

桑田「この野郎……!!」

モノクマ「ま、勘違いは誰にでもあることだよ! ドンマイ!」テヘ♪

「テメエ……きたねえぞぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


とうとう怒髪天を突いた大和田は絶叫してモノクマに飛びかかる。その進路を妨げるように
大神が立ち塞がって受け止め、すぐさまKAZUYAが大和田を後ろから羽交い締めにして引き離した。


大和田「はなせええええええええ! ぶっ頃してやるッ!!」

K「よさないか、大和田!」

大和田「きたねえ! きたねえぇぇ! クソ野郎があああああ!」

K「大和田!」


その時、荒れる大和田に対しセレスが淡々とした口調で話し始めた。


580: 2014/05/20(火) 21:40:16.49 ID:WhiG770d0

セレス「ギャンブルの世界ではカモを誘う場合、まずは相手に有利な状況を提示します。
     そして相手が勝負に乗ってからこちらに都合の良いように操作するのです」

セレス「日本人は平和ボケしているからわからない感覚かもしれませんが、世界では自分の身は
     自分で守るのが常識。冷たい言い方かもしれませんが、引っ掛かる方が悪いのですわ」

モノクマ「その通り! セレスさん、良いこと言った!」

モノクマ「大体そんなルール校則には書いてないし、現にKAZUYA先生は早まった君のこと
      しっかり止めてたじゃない。これだから頭の悪いヤンキーは困るよ」

大和田「ふ、ざけんなよ……先生がとめてくれなかったら……俺は、俺は今頃……」


そうだ。もし冷静なKAZUYAがあの場にいなければ、自分はもうこの世にいなかったはずなのだ。
大和田は、今回ばかりはKAZUYAをあの場に呼んだ自分の弱さに救われたのであった。


モノクマ「ま、氏ななくて良かったんじゃん? 後で先生によくお礼を言っておくことだね」

大和田「ちくしょお……ちくしょおおお……!」

K「…………」


モノクマの言葉でとうとう気力も折れたのか、大和田は膝から崩れ落ち、床を殴りながら悔し涙を流す。
確かに、敵の言うことをあっさり真に受け騙されたことは大和田に非があるだろう。だが、今回の件で
大和田が相当追い詰められていたことを思うと、KAZUYAはもう何かを言う気にはなれなかった。
石丸は真っ青な顔をして突っ立ち、ただ哀れでミジメな親友の姿を見下ろしている。


581: 2014/05/20(火) 21:49:26.38 ID:WhiG770d0

霧切「でも今回の件で一つはっきりしたことがあるわね」

苗木「どういうこと?」

霧切「たとえ学園長のモノクマであっても、校則には行動を縛られるということよ」

霧切「大和田君の件は、校則に書かれていないことを根拠に無効を主張しているわ。そして人が
    氏んでいないのにオシオキをするのは校則違反だからと今回のみルール変更を認めた。違う?」

モノクマ「その通り。この学園にいる限り、たとえ校則を定めた僕自身であっても
      一度決まった校則を自由に変更することは出来ないよ」

葉隠「はぁ? そんなこと信用できるかいな」


当然モノクマの言葉など信用出来ない者が大半だったが、十神は一人得心する。


十神「成程。あくまでゲームということだ」

山田「はい? どういう意味です?」

セレス「ゲームというのは定められたルール内で行うから面白いのです。モノクマはイカサマは
     することがあっても、ルールそのものを都合良く変えることはしないと言うことですわ」

セレス「ゲームの途中で自由にルールを変更されたら、ゲーム自体が成り立ちませんもの」

K「……相手に勝ち目が全くない時点で、それはもはやゲームとは呼べないからか」

K(憎たらしい奴ではあるが、変にフェアな所があるな。狂人とは概して妙なこだわりがあるものだが)


582: 2014/05/20(火) 21:56:10.63 ID:WhiG770d0

モノクマ「さあさあ、大和田君のせいで余計な時間取っちゃったけど、
      捜査時間には限りがあるんだから、早く捜査を始めなさい!」

K「待て! 最後に捜査時間と集合場所を教えろ」

モノクマ「……念入りだねぇ。ま、僕だって鬼じゃないからさ! オマエラの捜査状況を見て
      もう犯人を絞れるなーと思ったり、逆にこれ以上は無駄だなーと思ったら放送いれるよ」

K「全ては貴様の匙加減一つという訳か」

モノクマ「そういうこと。あと、みんなの電子生徒手帳に事件の概要を記したモノクマファイルを
      配っておいたから、それも参考にするといいよ。では学級裁判でお会いしましょう!」


そしてモノクマは去って行った。
捜査などやりたくはなかったが、やらない訳にもいかない。


K「とりあえず、俺は不二咲についていなければならんから捜査にはほとんど参加出来んな……」

苗木「大丈夫です。僕等が絶対に犯人を見つけます!」

霧切「とりあえず、先程出来なかったアリバイの確認をしましょう」

石丸「……その必要はない」


583: 2014/05/20(火) 22:01:54.59 ID:WhiG770d0

K「どうした? まさか犯人を知っているのか?」

石丸「はい」

大和田「だ、誰だ?! いったい誰が不二咲のヤツを襲ったんだ?!」

石丸「……僕だ」

大和田「は?」

K「……石丸?」

大和田「お、おいおいおい……いくらオメエが空気読めないからって、まさか
     こんな状況でつまらないジョーク言ってんじゃないよな?」

石丸「違う……」








石丸「僕が不二咲君を頃したんだ――!!」


605: 2014/05/24(土) 21:46:37.08 ID:pFE45/yv0


「不二咲君を襲ったのは、僕だ……」


誰もが言葉を失って呆然としていたため、聞こえなかったと勘違いでもしたのだろうか。
石丸は言い回しを変えてゆっくりと、再度その衝撃的な告白を繰り返した。


「?!?!!」

大和田「な、なにを突然……」

桑田「ハアアアア?! なに言ってんのお前?!」

舞園「待ってください、話を聞いてみましょう」

K「その前に俺も一つ確認したいことがあるんだが……」


混乱する生徒達を制すように、KAZUYAは一歩前に出る。


K「俺が部屋を出た時、お前は薬で寝ていた。そして横には桑田と不二咲が
  いたはずだ。何故揃って三人とも部屋の外に出ていたのだ?」

桑田「あ、そ、それは……実は俺が最初に部屋を出たんだ。バットを自分の部屋に忘れてさ。
    すぐに戻るつもりだったんだけどよ、その時葉隠に会って立ち話しちゃって……」

桑田「戻った時には不二咲も石丸もいなくなってたんだ。少し自分の部屋に戻るって
    不二咲の書き置きがあったから、最初は二人で出かけたんだとばっかり……」

桑田「クソッ! 俺があの時すぐに探しに行ってりゃこんなことには……」


606: 2014/05/24(土) 21:47:45.18 ID:pFE45/yv0

K「過ぎたことを悔いても仕方ない。不二咲は助かったのだ。今は学級裁判を最優先にしろ」

桑田「…………」

霧切「それで、石丸君の話を聞きたいのだけれど」

石丸「あ、ああ。全体的に頭が朦朧としていたからどこまで信用出来るかはわからないが……」

石丸「僕が部屋で目を醒ました時、側には誰もいなかったのだ。何かあったのかと不安を
    感じて部屋を出たことまでは覚えている。その後は曖昧で、気が付いた時……」

石丸「ここで僕が凶器を握り締め、不二咲君が倒れていたのだ……」


目線の先には、一本の延長コードが落ちている。KAZUYA達が駆けつけた時、確かに不二咲の首に
これがグルグルと巻かれていた。それを握りしめていたのなら、石丸が犯人の可能性は高いが……


K「では犯行の瞬間は全く覚えていないのだな?」

石丸「そうなります……」

大和田「なにかの間違いだ! 兄弟が不二咲を襲うワケねえ!」

十神「しかし現場の状況的には石丸が犯人だな」

大和田「た、たまたま倒れた不二咲を発見して凶器を手に取っただけかもしれねえじゃねえか!」

葉隠「石丸っちが犯人だべ! 俺の占いがそう言ってるべ!」

桑田「オメエの占い三割しか当たんねえだろ!」


607: 2014/05/24(土) 21:51:30.07 ID:pFE45/yv0

朝日奈「ウ、ウソでしょ? まさか、本当に石丸が……?!」

大神「信じがたいが、確かに状況的には石丸が犯人だろう。しかし……」

山田「よ、よくもちーたんを!」

江ノ島「あんた風紀委員でしょ?! サイテーだね!」

石丸「すまない……」

K「待て! 状況証拠だけで犯人を決めつけるのは早い。まずはアリバイの確認だ」

腐川「ア、アリバイって言っても、犯行時刻もわからないのにアリバイなんて……」

霧切「桑田君、部屋を出たのは何時か覚えてる?」

桑田「せんせーが部屋を出てからそんな経ってないから12時50分くらいだ。部屋に戻って
    来たのは1時15分。途中から心配になって何度も時間確認したから間違いねえ」

K「そして俺達が現場に到着したのは1時40分。つまりこの間が犯行時刻だな」

十神「先程配られたモノクマファイルとも一致するな」

セレス「モノクマファイルとはそもそも何ですの?」

舞園「ほら、電子生徒手帳のここに項目が出来てるんです。事件の簡単な概要が書いてあります」


全員が電子生徒手帳を取り出し、言われた通りにモノクマファイルを開く。
そこには数行だけの簡単な事件の概要が書かれていた。


608: 2014/05/24(土) 22:01:20.86 ID:pFE45/yv0

モノクマファイル:犯行時刻は午後1時から1時30分の間。被害者は不二咲千尋。氏因は絞殺。
           現場は1-A教室で、延長コードを握った石丸清多夏と共に発見された。


苗木「何だこれ……ほとんど情報なんて書いてないじゃないか! それに不二咲君は生きてるのに!」

K「ほとんど情報がないのは自分達で捜査して真相を推理しろということだろう」

霧切「重要なのは嘘が書かれていないかよ。絞殺に見せかけて真の氏因が毒殺だったりしたら厄介だわ」

モノクマ「その心配はないよ! モノクマファイルには本当のことしか書いてないから。
      今回の事件は監視カメラの前で堂々と行われたから僕もバッチリ目撃してたしね」

K「絞殺される前に薬物で眠らされたりした可能性は?」

モノクマ「その可能性はないとは言えないけど……まあ、捜査で明らかにしてください」


KAZUYAの鋭い指摘に、モノクマは目線を逸らしつつ曖昧に答える。


霧切「つまり、モノクマファイルに書いてあることは確実な事実。ただし、ここに
    書かれていないことが行われた可能性も考慮しなければならないということね」

K「あくまで参考程度ということだ」

霧切「ではアリバイ証明に行くわ。私はその時間はずっと苗木君、舞園さんと一緒に
    舞園さんの部屋で話していた。誰も席を立たなかったから私達はアリバイ成立よ」

江ノ島「え? 舞園の部屋に三人でいたの?!」


609: 2014/05/24(土) 22:07:20.22 ID:pFE45/yv0

葉隠「苗木っち、草食系な顔してなかなかやるべ」

苗木「そ、そんなんじゃないよ! 本当にただおしゃべりしてただけだって」

苗木(本当は今後の方針について話し合ってたんだけど……それは言えないし)

朝日奈「私はさくらちゃんとずっと食堂にいたよ。厨房には山田が篭ってた」

山田「僕は厨房と食堂の間を行き来していましたが、外には出ていません」

K「山田は厨房で何をしていたんだ?」

山田「セレス殿にしごかれたおかげで、最近すっかりロイヤルミルクティーを作るのが
    上達しましてねぇ。次はお茶菓子でも作ってみようかと試行錯誤していた次第です」

大神「それで、我らに試食を頼んできたのだ」

山田「甘いものでも食べれば元気になるかと思いまして……」


そこで山田は、チラリと朝日奈の方を見る。山田なりに気を遣ったのだろう。


K「では、三人はアリバイ成立だな」

山田「あ、でも! 大神さくら殿は一度だけ席を立ちましたよ」

大神「……手洗いに行っていた。時間は1時10分くらいだったか」

朝日奈「で、でもすぐに戻ってきたもん! 二、三分くらいだし殺人なんてムリだよ!」

十神「私情を挟むな。大神の力があれば不二咲程度簡単に殺せる」

セレス「大神さんなら石丸君を気絶させて運ぶのも容易いでしょうしね」


610: 2014/05/24(土) 22:11:44.31 ID:pFE45/yv0

霧切「では朝日奈さんと山田君はアリバイ成立で、大神さんは不成立ということね」

朝日奈「そんな……」

葉隠「次は俺か? 俺は桑田っちとしゃべってたからアリバイがあるべ!」

舞園「でも、桑田君は途中で石丸君の部屋に戻ったんですよね?」

桑田「ああ。だから俺と葉隠のアリバイがあるのは1時15分までだな……」

苗木「葉隠君はその後どこで何をしてたの?」

葉隠「部屋にいたべ」

霧切「じゃあそれ以降のアリバイは不成立ね」

K「俺は例の件で大和田から呼び出しを受けた後、現場に行くまではずっと一緒だった。だから成立だ」

江ノ島「でもさぁ、怪しくない? 大和田は不二咲襲った前科があるし、本当は
     大和田が犯人で石丸も西城も大和田を庇ってんじゃないの?」

石丸「馬鹿な! 僕はそんなことは……!」

K「俺と大和田が一緒にいる時モノクマが現れた。動向が気になってずっと監視してたのだろう。
  奴に頼るのは癪だが俺達の前に現れた以上、奴に聞けば証言するはずだ」

江ノ島「ふーん。あっそ」


実際はモノクマが証言するとは到底思えないが、KAZUYAはハッタリとしてモノクマの名前を出した。
案の定内通者だからか単に頭が弱いからか、江ノ島はモノクマの名前を聞くとすんなり引く。


611: 2014/05/24(土) 22:19:33.40 ID:pFE45/yv0

霧切「ちなみに江ノ島さんはどうしてたの?」

江ノ島「え? アタシ? ……えっと、ずっと部屋にいたからアリバイはないかな」

セレス「わたくしも、いつも通り娯楽室に一人でいましたからアリバイはありませんわね」

苗木「十神君はやっぱり図書室にいたの?」

十神「ああ、ずっと本を読んでいた」

舞園「それを証明出来る人はいますか?」

十神「いないな。腐川は一度図書室を出ているからアリバイは成立しない」

霧切「時間は?」

十神「さあな。何でこの俺が腐川の行動をいちいち把握せねばならんのだ」

腐川「た、確か1時20分か30分くらいだと思うけど……白夜様に紅茶をいれて
    差し上げようと、食堂に行ったわ。あ、あんた達も見てたわよね?!」

朝日奈「うん、確かに腐川ちゃんは一度食堂に来たよ」

山田「拙者もお会いしましたぞ。正確な時間は覚えていませんが、確かにそのくらいでしたな」

桑田「え、でも待てよ……」

舞園「ということは……」

K(腐川はちょうど犯行時刻に犯行現場の前を通っていたということか……)


612: 2014/05/24(土) 22:26:18.03 ID:pFE45/yv0

腐川「な、なによ……ま、ままままさか、アタシを疑っているのね?! そうなのね?!
    そ、そうよね……アタシみたいな根暗で陰険なブスなら、平気で人頃しも出来そうって
    そう思ってるんでしょ?! 人を頃しても罪悪感なんて感じなさそうって……!」

K「落ち着け。まだ君が犯人だとは言ってない。その時に不審な人物を見たか?」

腐川「だ、誰にも会わなかったわ……」

霧切「現場の教室には誰も見かけてない?」

腐川「いなかったはずよ……まあ、いちいち覗き込んだりしないから中で
    倒れてたりしたら、どうせ気付かなかったでしょうけど……」


全員のアリバイの確認を終え、KAZUYAは顎に手を当てる。想像以上に厄介な事件であった。


K「フム……」

K(……何ということだ。俺が現在信頼をおいているメンバーのほとんどに
  アリバイがあるとは……逆に言えば、桑田以外誰が犯人でも全くおかしくない)


アリバイのないメンツを順に見ながら、KAZUYAは考え始める。


K(内通者の江ノ島に、殺人肯定派の十神、不審な点が目立つルーデンベルク……
  腐川も秘密が配布された時過大な反応を見せていたから、それが動機かもしれん)

K(葉隠は普段なら到底人頃しなど出来るような奴ではないが、パニックに
  陥りやすい所がある。何かの拍子や誤解で道を間違えないとは断言出来ん)


613: 2014/05/24(土) 22:32:00.62 ID:pFE45/yv0

K(大神は……普段の様子的にも人間的にも本来なら絶対に有り得ない所だが……
  だが、もし俺のあの邪推が当たっていたら……ゼロとは言い切れんだろう)

K(……最後に石丸だが、確定的な証拠が出るまでは俺は信じたい。この男は、自分は平気で
  傷つけられるが人を傷つけたり殺せるタイプの人間ではないのだ。無論、事故の可能性も
  残っている……が、氏因が絞殺ならかなり明確な殺意がなければ厳しいはずだ)


捜査時間はもう始まっているのだが、何分初めてのことであり手順もよくわからず、
アリバイの確認が終わると生徒達は互いの様子を伺いながら固まっていた。
一方、霧切は手慣れたもので既にテキパキと捜査を開始している。


霧切「山田君、あなたカメラを持っていたわよね? 貸してもらえないかしら?」

山田「もしかして、現場を撮影するのですかな? お安いご用です」

K「終わったら俺にも貸してくれ。裁判に役立つよう、写真付きの詳細なカルテを作る」

葉隠「それで、結局俺達アリバイのない人間はどうすりゃいいんだ?」

霧切「ここに残って現場の保全をするか、二人以上で行動してもらいたいのだけれど……」

十神「断る。ここに犯人だと自白した男がいるのに何故そこまで行動を
    制限されなければならない。俺は一人で行動するぞ」

セレス「同感ですわ。足を動かすことは向いておりませんし、捜査にも特に興味は
     ありませんので、部屋に戻らせてもらいます。終わったら呼んでくださいまし」


614: 2014/05/24(土) 22:40:40.38 ID:pFE45/yv0

腐川「ア、アタシもよ! どうせ犯人は石丸なんだから別にいいでしょ?!」

大和田「ハァ?! テメエら勝手なこと言ってんじゃねえ! 兄弟が犯人なワケあるか!」

桑田「そうだ! 石丸が犯人とかマジありえねーし」


再び場が荒れ出したので、やむなくKAZUYAが間に入って二人を諌めた。


K「いい加減にしないか! ここで言い合いをしても所詮は水掛け論だ。自白した石丸が
  この場の最重要容疑者であるのは確かに事実。彼等を拘束する権利は我々にはない」

大和田「だけどよ……!」

K「まだ物的証拠は何もないのだ。石丸が犯人だと思う人間はその証拠を、
  違うと思うならそれを証明する証拠をそれぞれ探し出せばいい」

大和田「チッ、わかったよ……」


ぞろぞろと出て行くメンバーを見ながら、江ノ島は内心悩んでいた。


江ノ島(ど、どうしよう?! どっちにつくのが自然かな?!)

葉隠「俺は別にどっちでもいいべ。ま、頭使うのは苦手だからここで現場の保全すっかな」

大神「我もそうさせてもらう」

江ノ島「……ア、アタシも!」


615: 2014/05/24(土) 22:46:04.75 ID:pFE45/yv0

桑田「俺はもちろん捜査に参加するぜ! 絶対に石丸の潔白を証明してやる!」

大和田「桑田……」

K「よし。俺は保健室で不二咲を見ている。ついでに裁判まで石丸の身柄も預かろう」

苗木「絶対に僕達が助けるよ」

石丸「……君達が僕を信じてくれる気持ちは嬉しいが、出来る訳がない。僕が犯人なのだから」

大和田「いい加減にしろよ! いつまで寝ぼけてやがるっ?!」

K「よせ」


石丸の胸倉を掴んだ大和田の手をKAZUYAは即座に外し、目で制す。


K「石丸、行こう。不二咲を早く休ませなければ」

霧切「ちょうど現場の撮影も終わった所よ」

K「(流石、手慣れているな)俺は保健室にいる。何かわかったり用があったら来てくれ」


KAZUYAは不二咲をそっと抱き抱えると、石丸を連れて教室を出て行った。


苗木「よし、頑張ろう!」


616: 2014/05/24(土) 22:50:31.45 ID:pFE45/yv0

引用: 大和田「俺達は諦めねえ!」舞園「ドクターK…力を貸して下さい」不二咲「カルテ.3だよぉ」