448: 2009/02/03(火) 07:42:23 ID:jHJ6n8Yp
×××
「エホウマキ?」
「はい、恵方巻きです。しいたけ、キュウリ、卵、かんぴょう、穴子、高野豆腐、でんぶ。七種類の具が入っています」
テーブルの上にドン! と置かれた十一本の黒い丸太、もとい恵方巻き。隊員達が訝しげにこの物体を眺める。朝から宮藤さんがキッチンで何やらやっていたのは、これを作っていたらしい。作るにあたって扶桑から食材を取り寄せたとのこと。わざわざご苦労な事ですわ。
「皆、席に着いたようだな」
坂本少佐が立ち上がり、辺りを見渡す。ちなみに私ペリーヌ、今日は少佐の隣を確保出来ました。
「これから、この恵方巻きを食する際の作法を説明しようと思う」
少佐によると、扶桑では今日の事を節分と呼び、一年間の無病息災を願って炒った豆を撒くらしい。
「へー。何だか面白そうだね、トゥルーデ」
「食べ物を粗末に扱うのは感心しないがな」
「撒いた豆は後で歳の数だけ食べるのよ。そうでしょ、美緒」
「ああ。だが正確には歳の数プラス一個だな」
「……何よフラウその目は。言っておくけど、私はまだ十八よ」
中佐、誰も何も申しておりませんわ。
そして
449: 2009/02/03(火) 07:45:32 ID:jHJ6n8Yp
この恵方巻きを恵方に向かって、願い事を思い浮かべながら頂くらしい。
「恵方って何? 芳佳ちゃん」
「え~っと恵方っていうのはね、その年の神様がいる方角なんだよ。毎年違うんだけどね、今年は──確か東北東かな」
「そういえば扶桑の神道は多神教でしたわね」
「ああそうだペリーヌ。よく知っているな」
少佐にお褒め頂いてしまいました。
「ねえシャーリー、後で豆まきしようよー」
「いいねえ、ルッキーニ。エイラの奴に当ててやろうな」
「ムッ、それはムリダナ。全部避けて、三倍にして返してヤル」
「エイラ、人に向けて投げたらダメだよ」
こちらではまだ豆まき談議に花を咲かせている。そこ! 少佐のお話はもっときちんと聞くべきですわ。
「皆、聞いてくれ。今から、最も重要な決まりを説明する」
少佐が真面目な表情で口を開いた。隊員達はみな話を止めて押し黙る。流石、坂本少佐ですわ。
「恵方巻きを食べている間は、口から離してはいけないし、一言も喋ってはいけない。何があってもだ」
皆、一様に無言だった。
「喋ったりしたらどうなるの?」
ハルトマン中尉が質問する。
「恵方って何? 芳佳ちゃん」
「え~っと恵方っていうのはね、その年の神様がいる方角なんだよ。毎年違うんだけどね、今年は──確か東北東かな」
「そういえば扶桑の神道は多神教でしたわね」
「ああそうだペリーヌ。よく知っているな」
少佐にお褒め頂いてしまいました。
「ねえシャーリー、後で豆まきしようよー」
「いいねえ、ルッキーニ。エイラの奴に当ててやろうな」
「ムッ、それはムリダナ。全部避けて、三倍にして返してヤル」
「エイラ、人に向けて投げたらダメだよ」
こちらではまだ豆まき談議に花を咲かせている。そこ! 少佐のお話はもっときちんと聞くべきですわ。
「皆、聞いてくれ。今から、最も重要な決まりを説明する」
少佐が真面目な表情で口を開いた。隊員達はみな話を止めて押し黙る。流石、坂本少佐ですわ。
「恵方巻きを食べている間は、口から離してはいけないし、一言も喋ってはいけない。何があってもだ」
皆、一様に無言だった。
「喋ったりしたらどうなるの?」
ハルトマン中尉が質問する。
450: 2009/02/03(火) 07:47:03 ID:jHJ6n8Yp
「それはだな……一年間、想像を絶する災厄を被るという」
誰もがゴクリと唾を飲み込む。
「よ、芳佳ちゃん。節分って怖いんだね」
「アハハ……。そんな事はないんだけどね」
「な、何だハルトマンその目は! 何か企んでいるな! 企んでいるのだろう!?」
「フフ~ン。べっつに~?」
「さ、サーニャ! 絶対に喋っちゃだめダゾ!」
皆さん、様々な感想をお持ちになったようで。かくいう私も少し不安になったので、少佐にお伺いした。
「坂本少佐、それは本当に……?」
「わっはっは。まあ、冗談だな。本当は喋ったりしたら福が逃げるとか、食べ切る事が出来たら、どんな願いも叶うと言われている」
それを聞いて安心した。
節分。
どんな願いも。
素晴らしいイベントですこと。流石、少佐の出身国。
「願い事ねぇ。ルッキーニ、どんなのにしよっか?」
「えーとねぇ、いつまでもシャーリーと一緒に居たい!」
「願い事……。お父さま、お母さま。お会いしたいです」
「願い事……。フフフ、美緒とあんな事やこんな事……」
中佐、聞き捨てならないですわね。全部漏れてましてよ。
「ではそろそろ食べよう」
その声を合図に、恵方巻きの皿が時計回りに渡される。席順の関係上、私は少佐から皿を承った。少し嬉しい。
それにしてもこの黒い丸太、見た目の割にズシリと重い。この分なら食べ終わる前に脱落者が出てもおかしくはない。具体的に言うと子供のルッキーニさんや、一波乱ありそうなバルクホルン大尉辺りが。
「東北東は……あっちね」
中佐が指差した方向を見る。それは私にとっては奇しくも、少佐の背中を眺めながら、という形になった。
「みんな、言った事は分かっているな?」
と少佐。
「ああ。願い事を思い浮かべながら、喋らない、口から離さない、人に迷惑を掛けない、だろう」
とバルクホルン大尉。大尉、余計なものが一つ混じっていますわ。
「みんなで一斉に食べ始めましょうか」
と中佐。皆、ゴソゴソと東北東を向く。
中佐がテーブルを見渡す。
「準備はいい?」
私の願い事……。願わくば、いつまでも坂本少佐のお側で──。
「せーの」
パクリ。
ムグムグ。
501の隊員全員が同じ方向を向きながら一言も喋らず食べる光景は、ちょっと異様かも知れないと思った。
誰もがゴクリと唾を飲み込む。
「よ、芳佳ちゃん。節分って怖いんだね」
「アハハ……。そんな事はないんだけどね」
「な、何だハルトマンその目は! 何か企んでいるな! 企んでいるのだろう!?」
「フフ~ン。べっつに~?」
「さ、サーニャ! 絶対に喋っちゃだめダゾ!」
皆さん、様々な感想をお持ちになったようで。かくいう私も少し不安になったので、少佐にお伺いした。
「坂本少佐、それは本当に……?」
「わっはっは。まあ、冗談だな。本当は喋ったりしたら福が逃げるとか、食べ切る事が出来たら、どんな願いも叶うと言われている」
それを聞いて安心した。
節分。
どんな願いも。
素晴らしいイベントですこと。流石、少佐の出身国。
「願い事ねぇ。ルッキーニ、どんなのにしよっか?」
「えーとねぇ、いつまでもシャーリーと一緒に居たい!」
「願い事……。お父さま、お母さま。お会いしたいです」
「願い事……。フフフ、美緒とあんな事やこんな事……」
中佐、聞き捨てならないですわね。全部漏れてましてよ。
「ではそろそろ食べよう」
その声を合図に、恵方巻きの皿が時計回りに渡される。席順の関係上、私は少佐から皿を承った。少し嬉しい。
それにしてもこの黒い丸太、見た目の割にズシリと重い。この分なら食べ終わる前に脱落者が出てもおかしくはない。具体的に言うと子供のルッキーニさんや、一波乱ありそうなバルクホルン大尉辺りが。
「東北東は……あっちね」
中佐が指差した方向を見る。それは私にとっては奇しくも、少佐の背中を眺めながら、という形になった。
「みんな、言った事は分かっているな?」
と少佐。
「ああ。願い事を思い浮かべながら、喋らない、口から離さない、人に迷惑を掛けない、だろう」
とバルクホルン大尉。大尉、余計なものが一つ混じっていますわ。
「みんなで一斉に食べ始めましょうか」
と中佐。皆、ゴソゴソと東北東を向く。
中佐がテーブルを見渡す。
「準備はいい?」
私の願い事……。願わくば、いつまでも坂本少佐のお側で──。
「せーの」
パクリ。
ムグムグ。
501の隊員全員が同じ方向を向きながら一言も喋らず食べる光景は、ちょっと異様かも知れないと思った。
451: 2009/02/03(火) 07:48:42 ID:jHJ6n8Yp
それにしても、この恵方巻きとやらの食べにくい事。
まず太い。口を限界まで開けないと入らない。そして噛みにくい。ふやけた海苔が歯で切れなくて、中身が口の中に押し出される。何度も吐き出しそうになった。
みんなの様子は。
「! ……っ、~~~ッッッ! ──ブハっ! エ、エーリカ! 何て事をしてくれる! 人に迷惑を掛けるなとあれ程言っただろう何だその顔は! 何故こっちを向く!?」
どうやらハルトマン中尉が面白い顔をしたようで。
バルクホルン大尉、呆気なく撃墜。
「ッッ──ブっ! ははは! ハルトマンに堅物、その顔面白すぎ!」
シャーリー大尉、誘爆、そして撃墜。リベリオン、陥落。
これは危ない。うかうかしていると、いつどんな危険に襲われるか分からない。私も早く食べませんと。
しかし恵方巻きはまだ三分の一以上は残っている。他の方はどうだろうと見回してみると、誰も似たり寄った──
いや違う、中佐が。中佐がとんでもないスピードで恵方巻きを食べていた。もう半分もないだろう。
やりますわね。私も負けてはいられませんわ。少佐はこの私が!
「エーリカ……。覚悟は出来ているのだろうな? ──こうしてくれるッ!」
「ブハハっ、ぎゃははは! トゥルーデ、くすぐるのは反則だよ!」
一方その頃ハルトマン中尉、味方の手により撃墜。これで501の二大エースが堕ちた。
そして。
「! サーニャ、危ナイ!」
エイラさんが持ち前の予知能力を発揮して、ハルトマン中尉の口から飛んだ恵方巻きの軌道上にいたサーニャさんを押しのけた。恵方巻きは二人に当たる事なくそのまま床に落ちる。サーニャさんが驚いた顔でエイラさんを見つめた。
「いいンダ、サーニャ。私に構わずそのまま食べ続けてクレ。サーニャの願いが叶うのなら、私はそれデ……」
エイラ機、友軍機を庇って撃墜。スオムス、陥落。
食べ始めて一分も経たない内に次々と堕ちてゆく各国の歴戦のエース達。それが、この恵方巻きという敵がいかに手強いかという事を物語っている。
……今までに脱落した四人はご自身も含め、全てハルトマン中尉が原因のような気もしますが。
そうこうしている内に、
「……ゴクン。──やった。やったわ、美緒! ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐、一番に食べ切ったわ! これで美緒は私のものよ!」
中佐が食べ終わっていた。
まず太い。口を限界まで開けないと入らない。そして噛みにくい。ふやけた海苔が歯で切れなくて、中身が口の中に押し出される。何度も吐き出しそうになった。
みんなの様子は。
「! ……っ、~~~ッッッ! ──ブハっ! エ、エーリカ! 何て事をしてくれる! 人に迷惑を掛けるなとあれ程言っただろう何だその顔は! 何故こっちを向く!?」
どうやらハルトマン中尉が面白い顔をしたようで。
バルクホルン大尉、呆気なく撃墜。
「ッッ──ブっ! ははは! ハルトマンに堅物、その顔面白すぎ!」
シャーリー大尉、誘爆、そして撃墜。リベリオン、陥落。
これは危ない。うかうかしていると、いつどんな危険に襲われるか分からない。私も早く食べませんと。
しかし恵方巻きはまだ三分の一以上は残っている。他の方はどうだろうと見回してみると、誰も似たり寄った──
いや違う、中佐が。中佐がとんでもないスピードで恵方巻きを食べていた。もう半分もないだろう。
やりますわね。私も負けてはいられませんわ。少佐はこの私が!
「エーリカ……。覚悟は出来ているのだろうな? ──こうしてくれるッ!」
「ブハハっ、ぎゃははは! トゥルーデ、くすぐるのは反則だよ!」
一方その頃ハルトマン中尉、味方の手により撃墜。これで501の二大エースが堕ちた。
そして。
「! サーニャ、危ナイ!」
エイラさんが持ち前の予知能力を発揮して、ハルトマン中尉の口から飛んだ恵方巻きの軌道上にいたサーニャさんを押しのけた。恵方巻きは二人に当たる事なくそのまま床に落ちる。サーニャさんが驚いた顔でエイラさんを見つめた。
「いいンダ、サーニャ。私に構わずそのまま食べ続けてクレ。サーニャの願いが叶うのなら、私はそれデ……」
エイラ機、友軍機を庇って撃墜。スオムス、陥落。
食べ始めて一分も経たない内に次々と堕ちてゆく各国の歴戦のエース達。それが、この恵方巻きという敵がいかに手強いかという事を物語っている。
……今までに脱落した四人はご自身も含め、全てハルトマン中尉が原因のような気もしますが。
そうこうしている内に、
「……ゴクン。──やった。やったわ、美緒! ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐、一番に食べ切ったわ! これで美緒は私のものよ!」
中佐が食べ終わっていた。
452: 2009/02/03(火) 07:50:17 ID:jHJ6n8Yp
でも中佐! これには速さなど関係ありませんわ! とにかく、食べ切る事が重要なはず。
「ミーナ、なかなかやるな。わっはっは。私の負けだ」
いつの間にか、少佐も完食なさっていた。少佐の願い事が気になるところですが、私も食べなければ。
「り、リネット・ビショップ軍曹、食べ終わりました!」
ここで、意外な伏兵登場。しかし彼女の狙いは恐らく宮藤さん。私とは利害関係にない。
「芳佳ちゃん! わたし、やったよ! やり遂げたよ!」
案の定、リーネさんは宮藤さんの頭を自分の胸にギュッと抱き締めた。
「ぶッッ! り、リーネちゃん!? ああ、わたしのおっOいマイスターの夢が……。あ、でもこれはこれでなかなか……」
ついでに宮藤さん、撃墜。
「わっはっは。リーネ、成長したな。偉いぞ。それに比べて宮藤、まだまだ訓練が足りんな」
「は、ハイ! 済みません、坂本さん」
あの豆狸、少佐からお声を……! いい気味ですわ。
「ハイハ~イ、あたしも食べ終わったよ!」
ついにはルッキーニさんまで。
「やったな、ルッキーニ! 最高だ!」
「これでいつまでも一緒だね。シャーリー、もっと褒めて褒めて!」
つまり、残るは私とサーニャさん。流石に、彼女よりも遅いというのは嫌ですわ。私はペースを上げる。
「サーニャ、急がなくてもいいからナ。よく噛んで食べるんダゾ?」
エイラさんの言葉に、こっくり頷くサーニャさん。まるで私への当て付けに感じられたので、エイラさんをキッと横目で睨んだ。
その時。私の体に異変が起きた。
胸が苦しい。喉の奥が灼ける。私は吐きそうになりながら、胸元を抑えた。
このグニャッとした感触は恐らくかんぴょう。かんぴょうが喉に詰まったのだ。
「あんな風になるカラ」
こっちを見て、再び頷くサーニャさん。どうやらエイラさんは、私がこうなるという事を知っていたようだ。
「ンっ、ン~~~っっ!」
涙目になりながら、私は胸をドンドンと叩く。
くっ、かんぴょう! このかんぴょうさえ無かったら!
何か助けになるようなものはないかと辺りを見渡すと、気付いた。未だに恍惚そうな表情を浮かべている宮藤さんを除いた、撃墜された四人のエースプラス中佐。彼女達がニヤニヤと、まるでお前も堕ちろ、とでも言いたそうな顔で私を見ている事に。
ま、負けませんわ! ガリアと少佐はこの私が守ってみせます!
「ミーナ、なかなかやるな。わっはっは。私の負けだ」
いつの間にか、少佐も完食なさっていた。少佐の願い事が気になるところですが、私も食べなければ。
「り、リネット・ビショップ軍曹、食べ終わりました!」
ここで、意外な伏兵登場。しかし彼女の狙いは恐らく宮藤さん。私とは利害関係にない。
「芳佳ちゃん! わたし、やったよ! やり遂げたよ!」
案の定、リーネさんは宮藤さんの頭を自分の胸にギュッと抱き締めた。
「ぶッッ! り、リーネちゃん!? ああ、わたしのおっOいマイスターの夢が……。あ、でもこれはこれでなかなか……」
ついでに宮藤さん、撃墜。
「わっはっは。リーネ、成長したな。偉いぞ。それに比べて宮藤、まだまだ訓練が足りんな」
「は、ハイ! 済みません、坂本さん」
あの豆狸、少佐からお声を……! いい気味ですわ。
「ハイハ~イ、あたしも食べ終わったよ!」
ついにはルッキーニさんまで。
「やったな、ルッキーニ! 最高だ!」
「これでいつまでも一緒だね。シャーリー、もっと褒めて褒めて!」
つまり、残るは私とサーニャさん。流石に、彼女よりも遅いというのは嫌ですわ。私はペースを上げる。
「サーニャ、急がなくてもいいからナ。よく噛んで食べるんダゾ?」
エイラさんの言葉に、こっくり頷くサーニャさん。まるで私への当て付けに感じられたので、エイラさんをキッと横目で睨んだ。
その時。私の体に異変が起きた。
胸が苦しい。喉の奥が灼ける。私は吐きそうになりながら、胸元を抑えた。
このグニャッとした感触は恐らくかんぴょう。かんぴょうが喉に詰まったのだ。
「あんな風になるカラ」
こっちを見て、再び頷くサーニャさん。どうやらエイラさんは、私がこうなるという事を知っていたようだ。
「ンっ、ン~~~っっ!」
涙目になりながら、私は胸をドンドンと叩く。
くっ、かんぴょう! このかんぴょうさえ無かったら!
何か助けになるようなものはないかと辺りを見渡すと、気付いた。未だに恍惚そうな表情を浮かべている宮藤さんを除いた、撃墜された四人のエースプラス中佐。彼女達がニヤニヤと、まるでお前も堕ちろ、とでも言いたそうな顔で私を見ている事に。
ま、負けませんわ! ガリアと少佐はこの私が守ってみせます!
453: 2009/02/03(火) 07:51:47 ID:jHJ6n8Yp
「どうした、ペリーヌ。喉に詰まったのか?」
少佐も私の異変にお気付きになったようで。私は首をブンブンと勢い良く横に振る。
私はまだ堕ちていない。まだ闘える。願いを叶えるために、ここで脱落する訳にはいかないのだ。
だけど。
冗談抜きで苦しくなってきた。本当に、諦めないと危ないのかも知れない。
ああ、少佐。私の願いは叶う事はないようです。私が堕ちてもどうか、いつまでもお元気で。そしていつの日か、あんな部下もいたなあ、と思い出して頂けるのなら、それだけで私は幸せです。
バルクホルン大尉、シャーリー大尉、ハルトマン中尉、エイラさん、宮藤さん。心残りがないと言ったら嘘ですが、私も今からそちらに参りますわ。
私が氏を覚悟した人間の心境に似たものを味わっていたその時。
少佐が動いた。
「わっはっは。ペリーヌ、仕方のない奴だな。そんなに詰め込み過ぎるからだ。どれ、一つ手伝おう」
近づく少佐。不思議そうな表情の皆さん。高まる私の心臓。見開かれる中佐の瞳。そして、私の視界を覆い尽くした少佐のかんばせ。
少佐の手が置かれた私の肩は、とうに感覚が麻痺して。この後に起こるであろう事を察した脳が、フルスロットルで全身に血液を送る。
ほんの一瞬の事だった。
少佐は私が口にしている恵方巻きを、反対側から食べ始めた。
私は何も出来ず、ただ立っていた。当然、二人の距離は縮まる。二センチ、一センチ、──ゼロ。
唇が、重なった。暖かくて、甘くて。離れる時を思うと、少しだけ切なくなった。
「美ィぃぃい緒ぉぉォオ!」
「お、オイ暴れるなミーナ! エーリカ、リベリアン! ボサッと突っ立ってないで抑えるのを手伝え!」
「わ、分かった」
外の世界で起きている事も、気にならなかった。私の脳は、正常な機能を失っていた。
やがて唇が離れる。
「今度からは気を付けろよ、ペリーヌ。──と、大丈夫か?」
私はその場にへたり込んでしまった。少佐に抱えられる形で、その顔を見上げる。
「は、はい大丈夫ですわ」
「ペリィィヌさぁぁぁん、離れなさぁぁあい!」
「ち、中佐。落ち着くんダナ」
「ははは。ミーナ、もっとやれー」
「リーネちゃんの胸……。至福……」
私の顔は真っ赤で、胸は恋する乙女のようにときめいていた。
少佐、どうやら私もあなたに撃墜されてしまったみたいです。
おわり
少佐も私の異変にお気付きになったようで。私は首をブンブンと勢い良く横に振る。
私はまだ堕ちていない。まだ闘える。願いを叶えるために、ここで脱落する訳にはいかないのだ。
だけど。
冗談抜きで苦しくなってきた。本当に、諦めないと危ないのかも知れない。
ああ、少佐。私の願いは叶う事はないようです。私が堕ちてもどうか、いつまでもお元気で。そしていつの日か、あんな部下もいたなあ、と思い出して頂けるのなら、それだけで私は幸せです。
バルクホルン大尉、シャーリー大尉、ハルトマン中尉、エイラさん、宮藤さん。心残りがないと言ったら嘘ですが、私も今からそちらに参りますわ。
私が氏を覚悟した人間の心境に似たものを味わっていたその時。
少佐が動いた。
「わっはっは。ペリーヌ、仕方のない奴だな。そんなに詰め込み過ぎるからだ。どれ、一つ手伝おう」
近づく少佐。不思議そうな表情の皆さん。高まる私の心臓。見開かれる中佐の瞳。そして、私の視界を覆い尽くした少佐のかんばせ。
少佐の手が置かれた私の肩は、とうに感覚が麻痺して。この後に起こるであろう事を察した脳が、フルスロットルで全身に血液を送る。
ほんの一瞬の事だった。
少佐は私が口にしている恵方巻きを、反対側から食べ始めた。
私は何も出来ず、ただ立っていた。当然、二人の距離は縮まる。二センチ、一センチ、──ゼロ。
唇が、重なった。暖かくて、甘くて。離れる時を思うと、少しだけ切なくなった。
「美ィぃぃい緒ぉぉォオ!」
「お、オイ暴れるなミーナ! エーリカ、リベリアン! ボサッと突っ立ってないで抑えるのを手伝え!」
「わ、分かった」
外の世界で起きている事も、気にならなかった。私の脳は、正常な機能を失っていた。
やがて唇が離れる。
「今度からは気を付けろよ、ペリーヌ。──と、大丈夫か?」
私はその場にへたり込んでしまった。少佐に抱えられる形で、その顔を見上げる。
「は、はい大丈夫ですわ」
「ペリィィヌさぁぁぁん、離れなさぁぁあい!」
「ち、中佐。落ち着くんダナ」
「ははは。ミーナ、もっとやれー」
「リーネちゃんの胸……。至福……」
私の顔は真っ赤で、胸は恋する乙女のようにときめいていた。
少佐、どうやら私もあなたに撃墜されてしまったみたいです。
おわり
454: 2009/02/03(火) 08:05:52 ID:Cec7564f
お疲れ様
455: 2009/02/03(火) 08:21:30 ID:z1LwtX6U
大人気無い中佐ダナ
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります