1: 2024/09/17(火) 20:44:37 ID:???00

夏休みのとある日。
屋上での部活を終えて、部室に帰ってきたAqoursの面々。
ダイヤが部室の扉の鍵を開けて中に入ると、
部室の机の上に置いておいたはずの、花丸のパンが無くなっていた。
部室には、二つの扉と窓がある。
片側は体育館へ繋がっている扉、その正反対側に中庭へ出る扉がある。
窓もまた、体育館側と中庭側、その両側にある。
パン以外に、無くなったものはない。
机の上には千歌が置きっぱなしにしていた財布があったにも関わらず、そのままだった。

――さて、パンはどこに?

2: 2024/09/17(火) 20:49:09 ID:Q4yjV4FESa
~部室にて~

花丸「マルののっぽパン……」グスン

千歌「まあまあ、花丸ちゃん。そんなに気を落とさないで。ほら、みかん飴」

花丸「ぱくん」

ダイヤ「これは……考えたくないですけれど、窃盗事件ですわね」

果南「窃盗って、たかがパンひとつ?考え過ぎじゃないかな」

梨子「でも……変よね。ほら、窓も全部閉まってる」ガタガタ

梨子「窓に壊れたような跡も無いし……」ガラガラ バタンッ

梨子「盗んだにしても、鍵を閉めた後の部室にどうやって入ったのかしら……」

鞠莉「どうせマルちゃんが食べたのをforgetしたんじゃない?」

花丸「酷いずら!いくらオラでも日に食べたパンの数くらい覚えてるずら!」

ルビィ「花丸ちゃんがパンを食べたことを忘れるなんて、ありえないよ!」

梨子「でもいつもパン食べてるし、忘れてても不思議じゃないような」

曜「花丸ちゃん食いしん坊だしね~」

千歌「バスケ部とかバレー部の子に聞いてみる?」

果南「今日静かでしょ。大会に行くって言ってたよ」

千歌「確かに……誰もいないや」

善子「……」

梨子「……?善子ちゃん?」

善子「――ふっふっふ。このヨハネが、哀れな子羊たちを導いてあげましょう」

ダイヤ「まさか!!善子さんが、そんな」

善子「ってちっがーう!」

鞠莉「そんなこと言って、1番怪しいのはダイヤだよ?鍵を持ってるのダイヤだけだしね」

ダイヤ「ま、鞠莉さん!?わたくしがそんなことをするとでも!?」

果南「なんて。思ってる人は誰も居ないから安心しなよ」

千歌「そうだよ、この中にパンを取った人がいるなんて思えないよ」

花丸「でも現に、パンは無くなってるずら……。はっ!これは俗に言う、密室殺パン……!?」

ルビィ「……パンさんが歩いて外へ出て行ったのかなぁ?」

果南「何それ、怖っ……」

善子「だから私がこの灰色の脳細胞にかけて解決してあげよう、って言ってるじゃない!無視しないの!」

ダイヤ「灰色の脳細胞……名探偵エルキュール=ポアロの二つ名ですわね」

千歌「チョコレートのお菓子みたいな名前。美味しそう!」

曜「それは月面着陸した方だね」

花丸「なんでもいいからお腹空いたずら……。パンを見つけた人には、マルがアイスを奢ってあげるずら」

マリー「難事件ならこのマリーにお任せあれね!アイスを頂くのはわたしデス!」

千歌「ずるい!私だって内浦では名探偵ちかっちー小五郎という二つ名があるんだよ?」

梨子「千歌ちゃんの場合は、どちらかといえば迷う方の迷探偵かなぁ…」

千歌「酷いよ梨子ちゃん!」

3: 2024/09/17(火) 20:51:30 ID:Q4yjV4FESa
善子「と・に・か・く!ここは私が仕切らせてもらうわ!探偵として!」

果南「なんであんなに鼻息が荒いの?」

梨子「あはは……多分、何か本でも読んだのかと」

善子「まずは、前提の確認ね。屋上での練習が始まる前、花丸がパンを部室の机の上に置いておいたのよね」

花丸「そうずら。確かに机の真ん中に置いておいたずら」

善子「最後に部屋を出たのは……鍵を持ってるダイヤかしら?」

ダイヤ「ええ、そうですわ。みなさんが部室を出ていくのを見送って、私が最後に鍵を閉めました」

花丸「それはマルも覚えてる。ダイヤちゃんが鍵を閉めるのを見てたずら」

善子「その時、パンは?」

ダイヤ「うーん、よく覚えていませんわ。それほど気にしていなかったので」

善子「もう一つ確認。ダイヤが締めたのは、屋外側の鍵と、体育館に繋がる鍵、どちらも締めたのよね?」

ダイヤ「そうですわ。体育館と繋がる扉の鍵は部室からサムターンを回して鍵をかけましたわね。外と繋がる部室の扉は、外から鍵を使って締めましたわ」

果南「なんだ、簡単じゃん。ダイヤが鍵を開けたんじゃないのなら、体育館側から誰かが侵入したんだよ」

ダイヤ「それはありえませんわ。体育館側からは、私が持っている鍵を使わないと開きませんもの」

善子「窓は……さっき、リリィが確認してくれたわよね」

梨子「ええ」

ルビィ「合鍵は無いのかな?マスターキーとか」

マリー「マスターキーならありマス。でも、マリーズロックで保管しているので、私の許可無しではマスターキーは得られマセン!」

千歌「つまり、ダイヤちゃんが外から部室の鍵を閉めてからは、この部屋は鍵を持ってるダイヤさんしか入れなかった、と……」

8人「じーっ……」

ダイヤ「ちょ、ちょっと!やめて下さいまし!花丸さんじゃあるまいし、人のパンを盗んで食べるほど、卑しくありませんわ!」

果南「ダイヤ。悪口だよ」

花丸「ウッ……」

4: 2024/09/17(火) 20:52:31 ID:Q4yjV4FESa
曜「でもでも、ダイヤちゃんの持ってる鍵を誰かが盗んだってことも、考えられるんじゃない?」

善子「それもあり得るわ。まあ一旦、話を次に進めましょう。練習の時の荷物は、私たちは屋上にまとめて置いてるわよね。誰かがこっそり自分の荷物の隣にある、ダイヤの荷物から鍵を取る、ってこともできたんじゃないかしら」

ダイヤ「そうですわよ」

梨子「でも問題は、部室に戻ったかどうかよね。練習の時は、みんな揃ってたと思うけど……」

善子「そうね。アリバイも重要。練習中は皆んなが屋上に居たことは覚えてるわ。この中で、休憩時間に部室に戻った人は?」

8人「……」

善子「居ないようね。黙ってるだけかもしれないけど。休憩は10分を2回。屋上から部室までは片道3分、遅くても4分だから、往復はできたはず。少し質問を変えて、休憩時間に屋上から居なくなった人はいたかしら」

ルビィ「うゅ……最初の休憩で、お手洗いに……。それから休憩が終わりそうだったから、急いで帰ってきたよ」

善子「そういえば、ルビィは一番遅れて、練習再開のギリギリに来てたわね。息を切らして……」ジロリ

ルビィ「わ、私じゃないもん!」

ダイヤ「お待ちなさい善子さん。私もルビィの後に着いて御不浄に行きましたわ。梨子さんも、私の後に屋上から降りてきましたわよね?」

梨子「ふぇっ?! あ、はい。ちょっと教室に忘れ物をして……それを取りに」

マリー「ワタシも最初の休憩で、理事長室に用事があったので降りマシタ!」

果南「私も。暇だったから階段を往復してたよ」

花丸「体力がゴリラ並みずら……ぁっ」メキメキ

果南「……何か言ったかなん?」

花丸「」

5: 2024/09/17(火) 20:54:52 ID:Q4yjV4FESa
善子「その次の二回目の休憩はどうかしら?私はゲヘナへ……」

花丸「善子ちゃんはトイレに入っていくのを見たよ」

善子「ゲヘナ!アンタはどうなのよ?」

花丸「マルもトイレずら」

曜「はいはーい!私も!家庭科部の子に呼ばれたのを思い出して、そっちの方に顔を出してたんだ」

千歌「あ、私も。図書室の本の返却期限、今日だったの思い出しちゃって……図書館に行ってたよ」

善子「ふむふむ。つまり皆、屋上から一度は居なくなったってワケね。自分のアリバイを証明できる人はいる? 私が思うところ、曜だけかな」

曜「うん!私は、家庭科部に行ってたから、聞いたら答えてくれると思うよ!」

ダイヤ「ちょっと善子さん!わたくしとルビィだって、お互いを証明できますわよ!」

善子「肉親の証言は参考にできないの。二人が口裏を合わせてるかもしれないし。……ってかヨハネ!」

ルビィ「そ、そんな……」

果南「それで?これからどうするの?」

千歌「……チカ、わかっちゃったかも」

7: 2024/09/17(火) 20:57:22 ID:Q4yjV4FESa
8人「ええっ?!」

善子「もう?!」

千歌「ふっふーん。伊達に、志満ねえに見せられて科捜研の乙女と相暴をコンプリートしてないから。犯人はね……」

8人「ごくり」

千歌「――曜ちゃん!君だ!」

曜「え?私?」

千歌「そう。曜ちゃんは自分で白状しちゃったんだよ」

曜「えぇ……何か言ったかな?」

千歌「家庭科部だよ」

ダイヤ「いったいそれに何が……」

千歌「ダイヤちゃんは知らないかもしれないけどね。密室といえば家庭科部ってぐらい、そりゃあもう定番中の定番なんだよ」

梨子「もしかして……」

果南「何のこと?」

マリー「さぁ……」

ルビィ「??」

花丸「お腹すいたずら……」

善子「……そういうことね」フフン

千歌「……針と糸!密室を作ったのはこの2つなんだよ!曜ちゃんは家庭科部でその二つを調達した」

善子「古典的な手法ね」

ダイヤ「つまり……どういうことですの?」

千歌「曜ちゃんは部活前、一階の家庭科部で針と糸を調達してから部室へ向かった。そして屋上へ行く前に糸を鍵に巻きつけて外に伸ばしておいたんだよ」

千歌「あとは、休憩時間に部室に来て、糸を引くだけで鍵を開けた。部室を出る時は、また糸だよね」

千歌「糸を引っ張って外から鍵をかけ、糸を切って回収する。これで密室の出来上がり」

千歌「曜ちゃんが休憩時間に家庭科部に行ったのは借りた糸と針を返すためだよ。家庭科部のいる家庭科室と、部室のある体育館は渡り廊下を通ればすぐ行けるし」

ルビィ「しゅ、しゅごいけど……」

梨子「そんな上手くいくかなぁ」

善子「ふん。家庭科部に行けば分かることよ。行ってくるわよ」

8: 2024/09/17(火) 20:58:14 ID:Q4yjV4FESa
曜「……待って善子ちゃん!」バンッ

善子「ひっ?!」

果南「曜?……まさかアンタ本当に」

マリー「Oh……」

曜「ち、違うよ!でも……」

善子「な、何よ。煮え切らないわね」

曜「家庭科部に行くのは、ちょっと……」

善子「それは、後ろめたいことがあるから?」

曜「だから違うの!……ええい、もう言っちゃえ!千歌ちゃん!!」

千歌「……なにか弁解があるかな?」

9: 2024/09/17(火) 21:00:29 ID:Q4yjV4FESa
曜「ちょっと早いけど、お誕生日おめでとう!」

曜「これ!」ガサゴソ

千歌「へ?」

曜「……開けてみて?」モジモジ

千歌「う、うん……。わぁ、これ……」

花丸「綺麗なみかん色の服ずら……」

梨子「漢字の、千……?」

曜「千歌ちゃんの練習着、Aqoursの練習で結構傷んでるみたいだったから……プレゼントっ」

曜「この色の布ね、なかなか探してても見つからなくて、家庭科部の子に貰ったんだ」

曜「昨日ようやく完成したから、今日はその子にお礼を言いに行ってたの」

千歌「よ、よーちゃん……///」

曜「喜んで……くれる?」

千歌「もちろん!ありがとっ、大切にするよ!!」ダキッ

曜「千歌ちゃん、苦しいよ……///」

マリー「Wonderful……」

ダイヤ「いい話ですわね……」

善子「ちょっと!家庭科部はどうなるのよ!」

千歌「曜ちゃんはそんなことしない!」

善子「……」

梨子「まぁまぁ。これで、曜ちゃんが家庭科部に行ったことは、今回のパン消失と何も関係なかったってことよね」

梨子「それに千歌ちゃんの推理は、糸さえあれば誰にでもできたんじゃない?」

果南「私はそういうチマチマしたのは嫌い」

ルビィ「ぅゅ……実際にできるのかな?」

善子「任せなさい。こんなもん、ちょちょいのちょいと……」

10: 2024/09/17(火) 21:02:00 ID:Q4yjV4FESa
~10分後~

善子「ダメ。無理。絶対できない!糸が切れる!」

ダイヤ「元々、この部室の扉は窓に外鍵をつけて扉にしたようですわ」

ダイヤ「サッシの上を重量のある窓枠がスライドしていて、下面の隙間は皆無と言っていいですわね。横面も同じ。密閉性はかなり高いですわ」

千歌「ほらね。言ったでしょ?曜ちゃんは絶対に違うよ」

善子「……アンタ、どの口が言うのよ」

曜「千歌ちゃん、そろそろ離れてもらっても……」ドキドキ

千歌「確かに! エアコン効いてても暑くなっちゃうね」

善子「……あっ!わかったわ!」

11: 2024/09/17(火) 21:04:02 ID:Q4yjV4FESa
花丸「本当に?また変なこと言わないずら?」

善子「ふふん。本当よ。そしてこのトリックを使える犯人は、私の見立てでは絞られる……」

善子「何も、部屋の中と外が通じているのは、扉や窓の隙間だけじゃない。……そう、エアコンよ!」

善子「犯人は停止したエアコンと室外機を通して、鍵まで糸を這わせたんだわ!」

8人「えぇ!?」

花丸「って、室外機ってなんずら?」

善子「それこそが犯人特定の要素。このトリックは、エアコンと室外機が通じているという機構を理解している現代庶民にしか思いつかないわ」

善子「……エアコンから突如現れる漆黒の眷属を目撃した経験のある者にしかね」

善子「したがって、古代人の花丸と富豪である黒澤家、マリーは除いても構わないはずよ。犯人は、曜、千歌、果南、梨子の誰かよね!?」

梨子「それ、よくある勘違いよ」

善子「え?」

梨子「室外機はね、あくまでエアコンとは冷媒管を通してしか繋がっていないのよ」

梨子「輪になった出口のないホースが部屋の壁を貫通して室外と室内にあるイメージね」

梨子「室外機から室内のエアコンまでを貫くストローみたいな管、というのは存在しないのよ。エアコンから直接外に繋がる、ドレンホースというものならあるけどね」

善子「じゃあその、ドレンホースの中に糸を……」

梨子「やってみる?」

12: 2024/09/17(火) 21:05:48 ID:Q4yjV4FESa
~10分後~

善子「いたた……」

果南「へえ、エアコンの中身ってこんな風なんだ。案外綺麗だね」

マリー「夏休み中に急遽業者が入ると連絡がアリましたから。そのお陰ね」

曜「どれどれ……。これは無理だね……手が入らないや」

ダイヤ「あまり無理は止めてくださいまし!こんな真夏に壊れたら……氏、ですわよ?」

マリー「So hot! もういいでしょう?早くエアコンを点けて~!」

善子「という訳で。事件はフリダシね」

果南「糸を使うなんて、こす狡い考えはナシ!素直に鍵を使った方が早いんじゃない?」

ダイヤ「鍵なら、わたくしの持っている鍵は、部活の間ずっと鞄の中に仕舞っていましたわ」

ダイヤ「わたくし、鍵を落としてしまっても気が付くように鈴をつけていますの。私が屋上にいる間は、鳴った覚えがありませんわ」シャリンシャリン

千歌「ダイヤちゃんの鞄、いつもシャリンシャリン鳴ってるなあ、と思ったらその音だったんだ!」

千歌「澄んでてよく聞こえるもんね。屋上にいると、あっダイヤちゃん来た、って分かるもん!」

ダイヤ「そ、そんなに聞こえまして? ちょっと工夫が必要ですわね……」

果南「鞠莉の方の鍵はどうなの?」

マリー「私のマスターキーも、誰かに貸し出した覚えはないわ」

千歌「じゃあ、ダイヤちゃんが屋上から居なくなった時に、誰かが鍵をダイヤちゃんの鞄から取っていった……ってことかな」

13: 2024/09/17(火) 21:08:07 ID:Q4yjV4FESa
善子「ダイヤが屋上に居た二回目の休憩は無視するわよね、気付くはずだから」

善子「そして、一回目の休憩でダイヤより先に屋上を降りたルビィも除外。となると、ダイヤより後に屋上を降りた……梨子、マリー、果南が怪しくなるわね」

果南「私、パンって好きじゃないんだ。やっぱり日本人なら、ごはんと、わかめのお味噌汁だよね」

花丸「たまにはパンもいいずらよ」

ダイヤ「……梨子さん。あなた、私と目が合ったとき、逃げるようにして階段を降りて行きましたわよね……?」

梨子「え!? そ、そうでしたっけ? 教室に忘れ物をして、急いでただけだと思いますけど! なんで逃げる必要があるんですか?」

ダイヤ「ぶっぶーですわ……。やましいことが有ったから、逃げたのではなくって?」

梨子「それはダイヤさんの想像ですよね」

梨子「私からすれば、ルビィちゃんの後をついて行く振りをして、ダイヤさんがトイレに入ったと偽装して、部室へ駆け戻った……ってことも考えられると思いますけど!」

ダイヤ「んまー!なんて白々しい!」

ルビィ「おねいちゃぁ……落ち着いて……!」

マリー「そうだよダイヤ。落ち着きなって」

ダイヤ「鞠莉さんも鞠莉さんですわ。あなたがマスターキーを誰にも貸していなくとも、ご自分で使った可能性はあり得ますわよね?」

マリー「今度は私?! 酷い言いがかり!」

ダイヤ「そうやってムキになるところがますます怪しいですわ」

マリー「私は何もやってないし!」

ダイヤ「じゃあ理事長室で何をやっていましたの? 言ってごらんなさい」

マリー「そんなの関係ない!」

ルビィ「あのっ!」

14: 2024/09/17(火) 21:09:16 ID:Q4yjV4FESa
ダイヤ「ルビィはおだまりなさい。私は鞠莉さんに」

ルビィ「わ、私なんです!」

ダイヤ「……え?」

ルビィ「花丸ちゃんのパン、食べたの私なの!」

ダイヤ「ルビィ、あなたそんな冗談を……!」

ルビィ「じ、冗談じゃないもん! お姉ちゃんの鍵をとって、部室に戻って、それから……急いで帰ってきたの!」

ダイヤ「そんな……どうして……?」

ルビィ「……パンが、食べたかったから」

ダイヤ「何を、馬鹿な……!あなた、自分が何をしたか分かってますの!?」

ルビィ「ぅゅ……」

ダイヤ「……ッ! そのうゆうゆ言うのを止めなさいッ!」バンッ

果南「ダイヤ落ち着きなよ!」

花丸「そ、そうずら。た、たかかがパン一つ……」

善子「……ルビィ。何を隠しているの?」

15: 2024/09/17(火) 21:10:57 ID:Q4yjV4FESa
ルビィ「……ぇ!? 隠してなんかない!」

善子「いいえ。ルビィの言葉がすべて真実だとしたら、ルビィが犯人ではありえないわ。あなたは嘘をついている」

ルビィ「そんなことない!私がやったんだもん!」

善子「……あなたは練習再開の直前、一番最後に、慌てて来た。私たちは、あなたが来るのを待っていたわ」

梨子「……あっ!」

ルビィ「それは、だから、部室に行ってたから……!」

善子「鍵を持ってね? ……ならどうして、私たちは鍵に付けられた鈴の音を誰一人聞いていないのかしら」

善子「あなたは鈴が鳴りやすいように慌てていたはずのに」

梨子「……それも、普段ダイヤさんの姿が見えなくても、音だけでそれと分かるくらい、屋上では聞こえるものね」

梨子「歩いて屋上に来るダイヤさんより、慌てていたルビィちゃんの鈴の音が聞こえなかったのは、確かにおかしいかも」

ルビィ「っ! そんなの……」

善子「……練習再開の直前にルビィが屋上に戻ってきた時。あなたは、部室の鍵なんて持っていなかったのよ」

ルビィ「……」

ダイヤ「……ルビィ? どういうことなの、もう、訳が分かりませんわ……」

ルビィ「……私が、犯人だよ。それで、終わりなのに……。こんな犯人探しなんて、もうやめようよ……」

8人「……」

16: 2024/09/17(火) 21:12:22 ID:Q4yjV4FESa
善子「……いいえ。だからこそ、今止めるわけにはいかない。ルビィは身を挺して誰かを庇ってる」

善子「そして当の本人は、ルビィを犠牲にして黙って見ている。その人がルビィに、皆に謝るまで……私は止めるべきじゃないって思う」

善子「これはもう、ずら丸のパンだけの問題じゃない。Aqoursのチームとしての問題」

千歌「……続けよう」

千歌「はっきりさせて、ちゃんと終わりにしよう。でも、私は善子ちゃんとは正反対」

千歌「皆のことを信じてるから。絶対ここには、そんな人はいない」

曜「……そうだよね」

ダイヤ「わたくし……。ルビィ、御免なさい。あなたを、疑って……」

ルビィ「……」

マリー「オーライ。最後まで付き合う。私も、疑われるのはゴメンだし」

果南「私も、千歌と同じ意見。早く終わらせよう?」

梨子「外部の人間の犯行? ……でもそれは……」

善子「リリィ。考えたことを話すといいわ」

17: 2024/09/17(火) 21:13:35 ID:Q4yjV4FESa
梨子「……私は、まったく外部の人間の仕業では、無いと思う。千歌ちゃんの財布が、机に置きっぱなしだから」

善子「そうね。なぜ犯人は危険を冒してまで、金目のものではなくパンを盗んでいったのか」

善子「それも答えを出さなければいけないけど、このことからも犯人は、私たちの中か、私達にかなり近いところに居るはずよ」

千歌「それでも! 私は、信じるっ! それってつまり、財布を盗んでいくほど悪い人じゃなかったってことでしょ? 何か理由があったんだよ」

果南「ここまで黙ってるなら、相当の理由だね」

花丸「マルのパンが、大好物だったのかな」

ダイヤ「どんな理由でも許せませんわ。こんな、わたくしたちを弄ぶような真似を」

マリー「ホワイダニット。動機の詮索はあとにしましょう。まずは、一つ一つ、手段を確かめていくのよ」

18: 2024/09/17(火) 21:17:11 ID:Q4yjV4FESa
善子「ええ。その先に、犯人が居るはず」

善子「さっきの話にもあったとおり、ダイヤの鍵を勝手に持って行って、帰ってくるというのはあまり現実的ではないと思うわ」

善子「私たちは皆、休憩時間のどこかで屋上を降りている。その時に、誰も鈴の音を聞いていないってことは、やっぱりダイヤの鍵は持ち出されなかったのよ」

マリー「では、次はマリーの番という訳ですネ? マスターキーだって、私の一存で持ち運べるわけじゃない」

マリー「理事長といっても、いち生徒ですからね。職員室の先生に許可を貰わない限りは、持ち出せないわ」

マリー「そのために、マスターキーの入った箱の鍵は先生が、利用生徒名簿で管理しているんですもの」

曜「うーん。マスターキーも駄目、ダイヤちゃんの鍵も駄目、か。あとは、合鍵とか?」

善子「それも今のマリーの言葉で、無理だと分かったわ」

善子「マリーがマスターキーを持ち出せるのは、先生の許可を踏まえると、おおかた平日の学校開校中だけ」

善子「合鍵屋は沼津まで行けばあるでしょうけど、マリーにせよ、他の誰かにせよ、学校に登校しながら授業を受けない、鍵を借りてから合鍵屋に行くなんて、目立った行動はすぐ分かるでしょうからね」

果南「じゃあ、ダイヤの持ってる鍵の方はどうかな」

梨子「それも難しいかも。やっぱり鈴の音がキーね」

梨子「もし誰かがダイヤさんの鍵を盗んで合鍵を作ろうとしたとして、やっぱり沼津まで行かなきゃならない」

梨子「一日あれば学校から沼津まで往復することは簡単でしょうけど、鞄に鍵を入れて持ち歩いてるダイヤさんが、鍵が無くなっていることに気が付かない、なんてあるかしら」

ダイヤ「もしそれが……ルビィでしたら。私が家にいる間に、鍵を持ちだすこともできたのでしょうけれど。もうルビィは、犯人から除外されていると思いますわ」

ルビィ「……」

19: 2024/09/17(火) 21:18:15 ID:Q4yjV4FESa
善子「鍵も駄目、か。じゃあ……そう、目撃者よ! 誰か部室を見ていた人はいないの?」

果南「階段からは、部室は見えなかったなあ」

曜「家庭科室からは、渡り廊下を渡って真正面だしよく見えるけど、何も変わったことは無かったよ」

ダイヤ「私は、御不浄にいってすぐ戻りましたので……部室の方は見ていませんわ。ルビィも同じかと思います」

ルビィ「……」

花丸「マルも見えなかったずら」

千歌「私も。図書室からは、ちょうど体育館が邪魔で、部室が見えないんだよね」

梨子「私にも部室は見えなかったわ」

マリー「私もデース」

善子「収穫なし、か。あーもう、分からん!」ガクッ

20: 2024/09/17(火) 21:20:45 ID:Q4yjV4FESa
千歌「糸も、鍵も駄目。どうやったら……あっ!」ガタン

果南「……千歌、どうしたの? 外なんか見て。……屋上?」

千歌「……おおっと、いっけない! こんな時間だよ。私、志満ねえにお使い頼まれてたんだ!」

千歌「先帰るね! また明日、話しよ!」タッタッタ

善子「……外」

マリー「Oh…」

ダイヤ「行っちゃいましたわ……」

果南「やれやれ、だね。でも、部活の後だし確かに疲れちゃった。今日はもうやめにしない?」

曜「あはは、そうだね……」

花丸「お腹すいたずら~」

梨子「……」

善子「……私はもう少し、ここに残るわ。色々調べたいこともあるし。鍵は……先生、居るかしら。先生から借りて、返しておく」

ダイヤ「あまり、無理をしてはいけませんわよ」

善子「分かってる。……それと、リリィ。ちょっと手伝ってほしいことが有るから、残ってもらっていい?」

梨子「……私? 別に、いいけど……」

善子「そう、ありがと。じゃあ少し、この部室で待っててくれるかしら」

ダイヤ「……ルビィ。帰りますわよ」スタスタ

ルビィ「……うん」スタスタ

花丸「マルも一緒に帰るずら。いこ? ルビィちゃん」スタスタ

マリー「でもパンパン言ってたら、無性にパンが食べたくなってきたわ。果南、コンビニ寄っていきましょ?」

果南「鞠莉、あんた家に帰ればパンくらい、いくらでもあるでしょ」

マリー「もう、いけず。果南と食べたいの!」スタスタ

果南「はいはい。わかりましたよー、だ」スタスタ

善子「じゃあ、リリィ。少し待っててね」スタスタ

梨子「うん……待ってる」

21: 2024/09/17(火) 21:24:55 ID:Q4yjV4FESa
~~しばらく後、廊下にて~~~

善子(まず曜。家庭科部員は捕まえられた。曜が来たのは確からしい)

善子(偶然、職員室に居た事務の先生から、マスターキーを借りた)

善子(マリーが、職員室の横の理事長室に入っていったのを見かけた先生も居たのには驚いた)

善子(更に、進路の話で先生に捕まっていたらしい。三年生の夏だし、当然か。時間的にマリーは除外してよさそう)

善子(鍵の貸し出し名簿を見たけど、ここ三カ月、マスターキーを借りた生徒は誰もいなかった。最後に借りたのはマリー。四月七日だから、入学式の時かな)

善子(次は千歌。図書室では、図書委員が千歌のことを覚えていた。沢山借りっぱなしだったから、時間がかかったらしい)

善子(図書館から部室までの距離を踏まえれば、千歌が部室に戻るのはギリギリ無理ね)

善子(時間だけ考えれば、残るメンバーは、嘘自白をしたルビィを除いて、ダイヤ、梨子、花丸、果南、曜の5人か)

善子(でもやっぱり、問題は鍵だわ。……もうこれしかないはず。この鍵の謎に、千歌は気付いた。だから、外を見て慌てて……)

善子「……でも結論を出す前に。やっぱりもう一度、試してみなきゃ……」

22: 2024/09/17(火) 21:25:59 ID:Q4yjV4FESa
~~~部室~~~

梨子「どう? うまくいく?」

善子「うーん……。だめだあ……!」

梨子「やっぱり無理よ。エアコンのドレンホースから、糸を外に出そうなんて」

梨子「エアコンの部品は曲がってもいないし、ひっかき傷も、汚れだってないし」

善子「……そう……だよね」

梨子「善子ちゃん?」

善子「あはは、エアコン切ってたら暑くなっちゃったわ。やめやめ。リリィ、部室の中でちょっと休憩しましょ」

梨子「……やれやれね」フゥー

23: 2024/09/17(火) 21:26:44 ID:Q4yjV4FESa
~~~~~

梨子「あー、涼しい」

善子「……」

梨子「もうお手伝いは終わり? そろそろ善子ちゃんも、帰りの終バスじゃない?」

善子「……最後に、一つだけ」

梨子「もう、小出しにしてばっかりね」

善子「これは、相談……かな」

梨子「……相談?」

善子「糸も使っていない。鍵も使っていない。だとすればどうやってパンは密室から消えたのか。……どう思う?」

梨子「ふふっ、それが分かれば、私たちはこんなに困ってないわ」

24: 2024/09/17(火) 21:29:16 ID:Q4yjV4FESa
善子「……リリィ。私は二つのことを考えたの」

善子「まず一つ。ダイヤが最初に鍵を閉めたときに、既に部屋の中には人が隠れていたの。そして、パンを取って逃げた」

梨子「……でもそうだとすると、部室を出るときにもう一度鍵を閉める事はできないわよね」

善子「その通りよ。だから二つ目の選択肢に移る。鍵は最初から最後まで、閉められていなかった――」

梨子「……それは、どういうこと?」

善子「最初に部室を出るとき、ダイヤが、鍵を閉めたふりをしていた」

善子「こうすれば、休憩時間には鍵を持ちださずに部室に入れるわ。でも、ダイヤが鍵を閉めるのは、しっかりと花丸は目撃してる」

梨子「……」

善子「ただね、この部室の出入り口は扉だけじゃない」

梨子「……善子ちゃん」

善子「――窓だってあるのよ。そして、窓が閉まっていると、皆の目の前で確認して見せたのは」

善子「リリィ、あなただったわよね」

25: 2024/09/17(火) 21:31:23 ID:Q4yjV4FESa
善子「この窓のクレセント錠。持ち手の部分が上にある時は、ロックが掛かっていると誰でも思う」

善子「でも実際は、窓には遊びがあるから、クレセント錠を上に持ち上げた状態でも、鍵を掛けないまま持ち手の部分を上にできる」

善子「この状態で、窓を揺らして鍵がかかっている振りをすれば……。これで、偽りの密室の完成よ」

梨子「……それで?」

善子「最後にあなたは、窓に異常が無い事を確認するために、皆の前で窓を開放してみせた」

善子「後はもう、窓の鍵をいつも通りに閉めるだけね。これで終わりよ」

梨子「……ふふっ」

善子「リリィは、教室になんて行ってないんでしょう。ここには私しかいない。お願いだから、本当のことを話して」

梨子「あはっ!あははっ! とんだ、名探偵ね……ふふふっ!」

善子「どうして、ずら丸のパンを盗んだの? どうして、ルビィを助けてあげなかったの? どうして、どうしてよリリィ……!」

梨子「あはは……。ふふっ。……善子ちゃん、もういいわ」スクッ

善子「!? 何を……」

26: 2024/09/17(火) 21:33:57 ID:Q4yjV4FESa
~~~翌日:屋上にて~~~

曜(善子ちゃんが、犯人を見つけたらしい)

曜(犯人を説得するから協力して欲しいと言われて……部活の前に屋上に行くことになった)

曜(なんだか……ドキドキしちゃうな)

曜(こっそり、こっそり……)チラッ

曜「善子ちゃん……に、梨子ちゃん!?」

善子「あぁ。待ってたわ、曜」

梨子「……」

曜「そ、そんな……梨子ちゃんが」

善子「こっちへ来て」

曜「どうして……」


ポツポツ……
サーー


曜「雨……」

善子「すぐ止むでしょ。気にしないで」

善子「最初から説明してあげる。糸を使っても駄目、鍵も持ち出された形跡がない。どうにもならないから、私は鍵が元々かかっていなかったんじゃないかと思ったの」

曜「鍵が? でも、ダイヤちゃんは部室を出る前に鍵をかけたって言ってるし、花丸ちゃんもそれを見てた」

曜「部室に帰ってきたときも、ダイヤちゃんが鍵を開けてた気がするけど……」

善子「そうよ。でも、部室の出入り口は扉だけじゃない」

曜「そっか、窓、だね?」

善子「……」コクン

善子「窓が、実は最初から開いていたとしたら……。それを、最後に閉めた人が犯人、私はそう思った」

善子「そう思ってた」

善子「――でもそれは、違ったの」

27: 2024/09/17(火) 21:36:23 ID:Q4yjV4FESa
~~~前日:部室にて(善子・梨子)~~~

善子「どうして、ずら丸のパンを盗んだの? どうして、ルビィを助けてあげなかったの? どうして、どうしてよリリィ……!」

梨子「あはは……。ふふっ。……善子ちゃん、もういいわ」スクッ

善子「!? 何を……」

梨子「この窓……ね」

梨子「善子ちゃん。こっちへ来て」ニコッ

善子「……」

梨子「怯えないで。別に何か意地悪しようってわけじゃないから」

善子「……なに?」

梨子「ほら、この窓のクレセント錠。よく見て」

善子「……これを、リリィが」

梨子「綺麗でしょう。傷一つないわ。これをもし……」グググッ

梨子「えいっ!」グイッ

梨子「ううっ、指が痛い……。でも案外いけるわね」

善子「私の言った通り……」

梨子「鍵をしないように、クレセント錠の取っ手を上にあげてみたわ。でもこの状態でも、かなり窓は強く固定されてしまうし……」ガタッガタッ

梨子「もしこの状態の窓を無理に開けようとすれば……」グググッ

梨子「んっーーーていっ!!」バキン‼ ガラガラ

梨子「ふぅ……とまあ、かなりの力が必要ね」

梨子「それにクレセント錠の錠側に鍵側が押し付けられているから、元に戻すと大きな音が鳴るわ。それに、ここを見て」

善子「……錠に傷が」

梨子「そう。さっき善子ちゃんは傷が無い事を確認したわよね。もしこんなことをすれば傷が出来るし、なにより、音が鳴るから皆に気付かれなかったはずはないの」

善子「じゃあ、リリィは……?」

梨子「もう酷い、善子ちゃん。私がそんなこと、するわけないじゃない!」

善子「な、なんだぁ……。よかったあ……。私てっきり、リリィかと」

梨子「信用ないなあ、もう」

善子「でも良くないっ! 結局フリダシよ!」

善子「窓にも、扉にも、鍵にも、机にもエアコンにも、傷も無ければ汚れも異常もない。一体どうやって――」

善子「傷も……汚れも……ないのに……」

善子「あっ!! あっー!! もしかして――」

梨子「な、なに!?」

善子「私、職員室に行ってくる! リリィも付いてきて!」

梨子「え、えぇ!?」

善子「ほら、早く早く!」ギュッ

梨子「いったい何~?!」

善子「あの部室はね、綺麗すぎるのよ!」

28: 2024/09/17(火) 21:38:38 ID:Q4yjV4FESa
~~屋上にて(善子・梨子・曜)~~~~~

ポツポツ
サーー


曜「部室が、綺麗すぎる……?」

善子「屋上でも、端の方に立つと色々なものがよく見えるわね。中庭の様子も、教室の様子も……私たちの部室の様子も」

曜「……善子ちゃん?」

善子「二回目の休憩の時。きっとルビィはここから部室を見ていたんでしょうね」

善子「部室に居る、曜――あなたのことを」

曜「……え?」

善子「惚けたって駄目よ。色々聞きまわって、職員室にも行って確認したの」

善子「昨日、外から人が学校に入ってきていないかって」

曜「……? 外から来た人と、私に何の関係があるのかな」

善子「予想通り、来ていたわ。マリーの言葉と、リリィと私の試行錯誤がなかったら、辿り着けなかった」

善子「あの古い部室に古いエアコン。だけど、あのエアコンは綺麗すぎた」

善子「あの日、私たちが部活をしている時間に――エアコンの清掃業者が学外から来ていたのよ」

曜「……」

善子「それもね、私たちが二回目の休憩をとっている間、まさにその時に、清掃業者は部室に入っていた」

善子「生徒ではなく、事務の先生がマスターキーを使って、部室に付き添ってね。通りで、生徒用貸出名簿に記載がないわけだわ」

曜「……はは。凄い、偶然だね」

善子「先生から聞いたわ。エアコンの清掃中に、部室に忘れ物を取りに来た子が居たってね」

善子「――肩くらいの髪の、活発そうな女の子。そう言っていたわ」

曜「……」

29: 2024/09/17(火) 21:42:03 ID:Q4yjV4FESa
善子「私と花丸ではありえないわね。千歌じゃないの? とは言わないのね」

善子「まあ、分かってはいたけど。あなたは、自分が犯人だと分かっていて、千歌を陥れることは決して出来ないでしょうから」

曜「……なに、それ」

善子「言ったでしょ? 私は、よく聞きまわったの。家庭科部にだって行ったわ」

善子「あそこからは、部室がよく見える」

善子「曜、屋上のその位置からでは、部室は見えないでしょう? 私たちがいつも練習しているその位置からでは、屋上の縁が邪魔で部室は見えない」

善子「だから、休憩時間なの。休憩時間に屋上を降り、かつ部室にいるエアコン業者を見ることが出来たのは……やっぱりあなただけなのよ、曜」

曜「……」

善子「おしゃべりな家庭科部の子は、教えてくれたわよ。あなたに、二着分以上の布を渡していたってね」

善子「千歌へのプレゼントにしては多すぎる」

善子「それにAqoursに加入してから、あなたの手捌きを見ているけれど、失敗するとも思えないから、予備じゃない」

善子「なら、布のもう一着分はどこへ行ったのかしら」

曜「……ってよ」

善子「これは想像だけど、あなたは千歌へのプレゼントの練習着を二着作ったんじゃないかしら」

善子「一着は千歌へ。もう一着は――あなた」

善子「あの練習着は、元々ペアルックなのよね」

善子「さしずめ、千歌のTシャツの文字が千なら、あなたのTシャツの文字は『歌』かしら。それともカタカナの『カ』なのかしら」

曜「分かったから!もう黙ってよ!!」

30: 2024/09/17(火) 21:44:14 ID:Q4yjV4FESa
善子「いやよ、黙らない! あなたはルビィを傷つけた。皆を傷つけた。私の居場所を傷つけたの! あなたが謝るまで、私は喋り続けるわ!」

善子「……これは計画的犯行だったはずはないの」

善子「マリーのもとにエアコン業者が入る連絡があったのは、急遽だと言っていた」

善子「他の生徒は、業者が来るまで知らなかったはずなのよ。無論、あなたも」

善子「あなたは、家庭科部の部屋で偶然、部室を見た。施錠されているはずの部室に、先生とエアコン業者が居る。そこで初めて、あなたに魔が差したの」

曜「知ったようなこと、言わないでったら!!」

善子「先生も居る。業者も居る。怪しまれないように、かつ目立つものをあなたは持っていきたかった。それが、机の上のパンだった」

曜「……もう、黙ってよ……」

善子「……何故こんなことをしたのか。話してくれるわね?」

曜「……」

梨子「曜ちゃん……本当なの? 善子ちゃんの話を聞いたときは、半信半疑だったけど、まさか、曜ちゃんが」

曜「梨子ちゃんのせいだよ」

梨子「……え?」

31: 2024/09/17(火) 21:45:08 ID:Q4yjV4FESa
曜「……私ね。梨子ちゃんのこと」



曜「だーーーーーーーい嫌いだから」

32: 2024/09/17(火) 21:47:53 ID:Q4yjV4FESa
曜「梨子ちゃんだけじゃない。皆、皆嫌い。皆が、私と千歌ちゃんの時間を奪っていくんだ!」

曜「私は水泳まで辞めたんだよ? 千歌ちゃんの夢を、二人で一緒に追いかけたいと思ったから。それなのに、何?!」

曜「千歌ちゃんの隣に居るのは、私じゃない!」

曜「梨子ちゃんは覚えてる? 東京のライブが終わった後の事。千歌ちゃんはね、あんな、悔しくて泣くような子じゃない」

曜「私の知ってる千歌ちゃんは、私に泣き顔なんて見せたことがないんだよ?」

梨子「……曜ちゃん」

曜「そんな……そんな目で私を見るな!渡辺曜は、高海千歌の一番の親友で……私が一番、千歌ちゃんのことを分かってるんだ!」

曜「アンタたちが、千歌ちゃんを変えちゃったんだ! 返してよ! 返せよ! 私の千歌ちゃんを返して!!」

善子「……曜」

善子「これはあなたの、復讐だったのね」

曜「そうだよ! 全部ぶち壊すんだ! 元通りにするんだよ!!」

曜「千歌ちゃんが誰も信じられなくなって、独りぼっちになっても、それでも私だけが側にいる」

曜「生まれたときからそうで……そして、氏ぬまで。ずっと私たちは一緒に居るんだ!!」

善子「……だそうよ、千歌」

曜「!?」

33: 2024/09/17(火) 21:53:03 ID:Q4yjV4FESa
千歌「曜ちゃん……」スタスタ

曜「ち……か……?」

千歌「ごめんね。私が、曜ちゃんを……こんなに、追い詰めちゃった……」

曜「あ……聞い、て……」

千歌「うん。善子ちゃんに呼ばれて、まず三人で話した方がいいだろうって。私達、最初の三人で」

曜「……」キッ

千歌「善子ちゃんを責めないで! 私は、寧ろ感謝してるんだよ」

千歌「曜ちゃんがそんなに私の事、大事にしてくれてたんだって、分かったから」

曜「……」

千歌「ねえ曜ちゃん。皆に、謝ろう? 皆きっと、笑って許してくれる。それから、やり直そうよ」

千歌「顔を上げて、前を向いて歩いている限り、私たちは何度だって、何度だって、なーんどだって! やり直せるんだよ!」

曜「もうだめだよっ……。私は、千歌ちゃんを裏切った。梨子ちゃんも、善子ちゃんも、皆も裏切った。もう私には、やり直す資格なんて」

千歌「……よーちゃん」ギュッ

曜「ち……かちゃん……?」

千歌「うん、千歌だよ。チカにとっても、曜ちゃんは大事な、一番の親友」ギュッ

千歌「だからね、前を向いて?」

千歌「私は曜ちゃんとも一緒に……ずっとずっと一緒に歩いていきたいんだ」

千歌「私と、曜ちゃんと」

千歌「梨子ちゃんと、善子ちゃんと、花丸ちゃんと、ルビィちゃんと、ダイヤちゃんと、果南ちゃんと、鞠莉ちゃんとで――」

千歌「皆で歩いていけばさ」

千歌「きっと、私と曜ちゃんが見る9倍。ううん、100倍、100万倍凄い景色が見られるんだよ!!」

千歌「なんでかな、そんな気がするの。――ほら、今みたいに!!」


曜「ぁ……」

曜「あぁっ……」ポロポロ

梨子「……虹……」

善子「……綺麗」

千歌「ね! 私たちは、すっごいんだから! 一緒に歩いて、一緒に見つけようよ!」

千歌「私たちだけの、とっておきの輝きを!!」

曜「ちか、ちゃん……」

曜「千歌ちゃん……ごめんっ……」ギュッ

曜「みんな……ごめんね……」ポロポロ

曜「ぅぐ……うぅ……」

梨子「……許してあげる」

梨子「私はね、曜ちゃんのこと、だーーーーーーい好きだから。嫌いになってなんて、あげないの」ギュッ

千歌「あはは、なんか梨子ちゃんに抱き着かれて、私と曜ちゃんが梨子ちゃんの子供みたい」

曜「梨子ちゃん……ごめん……」ポロポロ

梨子「はいはい、よしよし」ナデナデ

善子「……止まない雨は無いように。……解けない謎もまた、無いんだからね」

梨子「よい子の善子ちゃんも、こっちにいらっしゃーい」

善子「ヨハネっ! もう、せっかく恰好ついたのにい!」

千歌「あははっ」



~~~~~

~~~

~~


34: 2024/09/17(火) 21:54:39 ID:Q4yjV4FESa
~~いつかの日~~


生徒A「ねえ、聞いた?」

生徒B「何の話?」

生徒A「なんでも、この学校に名探偵がいるらしいって」

生徒B「あ、知ってる。最近噂になってるよね。何でも、失せ物に探し人、たちどころに解決しちゃうんだってね」

生徒A「そうそう。全然知らなかったんだけど、それが一年生の子らしいのよね。あっ、ほらあの――」

花丸「善子ちゃーん、大変ずらぁ……」

善子「な、なに!?」

花丸「今度はロッカーに入れておいたはずの、のっぽパンが消えたずら……。鍵はかけておいたのに……」

善子「なぁんだ、そんなこと」

善子「ふふん」

善子「簡単なことだよ、ずら丸くん!」



~Fin~

35: 2024/09/17(火) 21:56:03 ID:Q4yjV4FESa
以上、完結です。

36: 2024/09/17(火) 22:01:38 ID:???00
よきでした

引用: 🆓【SS】善子「簡単なことだよ、ずら丸くん」