1: 2014/11/15(土) 21:33:21.54 ID:ZOqU0ydh0
★このSSはダンガンロンパとスーパードクターKのクロスSSです。
★クロスSSのため原作との設定違いが多々あります。ネタバレ注意。
★手術シーンや医療知識が時々出てきますが、正確かは保証出来ません。
★原作を知らなくてもなるべくわかるように書きます。
~あらすじ~
超高校級の才能を持つ選ばれた生徒しか入れず、卒業すれば成功を約束されるという希望ヶ峰学園。
苗木誠達15人の超高校級の生徒は、その希望ヶ峰学園に入学すると同時にモノクマという
ぬいぐるみのような物体に学園内へ監禁され、共同生活を強いられることになる。
学園を出るための方法は唯一つ。誰にもバレずに他の誰かを頃し『卒業』すること――
モノクマが残酷なルールを告げた時、その場に乱入する男がいた。世界一の頭脳と肉体を持つ男・ドクターK。
彼は臨時の校医としてこの学園に赴任していたのだ。黒幕の奇襲を生き抜いたKは囚われの生徒達を
救おうとするが、怪我の後遺症で記憶の一部を失い、そこを突いた黒幕により内通者に仕立てあげられる。
なんとか誤解は解けたものの、生徒達に警戒され思うように動けない中、第一の事件が発生した……
次々と発生する事件。止まらない負の連鎖。
生徒達の友情、成長、疑心、思惑、そして裏切り――
果たして、Kは無事生徒達を救い出せるのか?!
――今ここに、神技のメスが再び閃く!!
初代スレ:
苗木「…え? この人が校医?!」霧切「ドクターKよ」【前編】
苗木「…え? この人が校医?!」霧切「ドクターKよ」【後編】
二代目スレ:
桑田「俺達のせんせーは最強だ!」石丸「西城先生…またの名をドクターK!」カルテ.2【前編】
桑田「俺達のせんせーは最強だ!」石丸「西城先生…またの名をドクターK!」カルテ.2【中編】
桑田「俺達のせんせーは最強だ!」石丸「西城先生…またの名をドクターK!」カルテ.2【後編】
三代目スレ:
大和田「俺達は諦めねえ!」舞園「ドクターK…力を貸して下さい」不二咲「カルテ.3だよぉ」【前編】
大和田「俺達は諦めねえ!」舞園「ドクターK…力を貸して下さい」不二咲「カルテ.3だよぉ」【中編】
大和田「俺達は諦めねえ!」舞園「ドクターK…力を貸して下さい」不二咲「カルテ.3だよぉ」【後編】
前スレ:
セレス「勝負ですわ、ドクターK」葉隠「未来が…視えねえ」山田「カルテ.4ですぞ!」【前編】
セレス「勝負ですわ、ドクターK」葉隠「未来が…視えねえ」山田「カルテ.4ですぞ!」【中編】
セレス「勝負ですわ、ドクターK」葉隠「未来が…視えねえ」山田「カルテ.4ですぞ!」【後編】
★クロスSSのため原作との設定違いが多々あります。ネタバレ注意。
★手術シーンや医療知識が時々出てきますが、正確かは保証出来ません。
★原作を知らなくてもなるべくわかるように書きます。
~あらすじ~
超高校級の才能を持つ選ばれた生徒しか入れず、卒業すれば成功を約束されるという希望ヶ峰学園。
苗木誠達15人の超高校級の生徒は、その希望ヶ峰学園に入学すると同時にモノクマという
ぬいぐるみのような物体に学園内へ監禁され、共同生活を強いられることになる。
学園を出るための方法は唯一つ。誰にもバレずに他の誰かを頃し『卒業』すること――
モノクマが残酷なルールを告げた時、その場に乱入する男がいた。世界一の頭脳と肉体を持つ男・ドクターK。
彼は臨時の校医としてこの学園に赴任していたのだ。黒幕の奇襲を生き抜いたKは囚われの生徒達を
救おうとするが、怪我の後遺症で記憶の一部を失い、そこを突いた黒幕により内通者に仕立てあげられる。
なんとか誤解は解けたものの、生徒達に警戒され思うように動けない中、第一の事件が発生した……
次々と発生する事件。止まらない負の連鎖。
生徒達の友情、成長、疑心、思惑、そして裏切り――
果たして、Kは無事生徒達を救い出せるのか?!
――今ここに、神技のメスが再び閃く!!
初代スレ:
苗木「…え? この人が校医?!」霧切「ドクターKよ」【前編】
苗木「…え? この人が校医?!」霧切「ドクターKよ」【後編】
二代目スレ:
桑田「俺達のせんせーは最強だ!」石丸「西城先生…またの名をドクターK!」カルテ.2【前編】
桑田「俺達のせんせーは最強だ!」石丸「西城先生…またの名をドクターK!」カルテ.2【中編】
桑田「俺達のせんせーは最強だ!」石丸「西城先生…またの名をドクターK!」カルテ.2【後編】
三代目スレ:
大和田「俺達は諦めねえ!」舞園「ドクターK…力を貸して下さい」不二咲「カルテ.3だよぉ」【前編】
大和田「俺達は諦めねえ!」舞園「ドクターK…力を貸して下さい」不二咲「カルテ.3だよぉ」【中編】
大和田「俺達は諦めねえ!」舞園「ドクターK…力を貸して下さい」不二咲「カルテ.3だよぉ」【後編】
前スレ:
セレス「勝負ですわ、ドクターK」葉隠「未来が…視えねえ」山田「カルテ.4ですぞ!」【前編】
セレス「勝負ですわ、ドクターK」葉隠「未来が…視えねえ」山田「カルテ.4ですぞ!」【中編】
セレス「勝負ですわ、ドクターK」葉隠「未来が…視えねえ」山田「カルテ.4ですぞ!」【後編】
2: 2014/11/15(土) 21:34:49.08 ID:ZOqU0ydh0
☆ダンガンロンパ:言わずと知れた大人気推理アドベンチャーゲーム。
登場人物は公式サイトをチェック!
…でもアニメ一話がニコニコ動画で無料で見られるためそちらを見た方が早い。
個性的で魅力的なキャラクター達なので、一話見たら大体覚えられます。
☆スーパードクターK:かつて週刊少年マガジンで1988年から十年間連載していた名作医療漫画。
KAZUYA:スーパードクターKの主人公。本名は西城カズヤ。このSSでは32歳。2メートル近い長身と
筋骨隆々とした肉体を持つ最強の男にして世界最高峰の医師。執刀技術は特Aランク。
鋭い洞察力と分析力で外の状況やこの事件の真相をいち早く見抜くが、現在は大苦戦中。
3: 2014/11/15(土) 21:37:05.65 ID:ZOqU0ydh0
《自由行動について》
安価でKの行動を決定することが出来る。生徒に会えばその生徒との親密度が上がる。
また場所選択では仲間の生徒の部屋にも行くことが出来、色々と良い事が起こる。
ただし、同じ生徒の部屋に行けるのは一章につき一度のみ。
《仲間システムについて》
一定以上の親密度と特殊イベント発生により生徒がKの仲間になる。
仲間になると生徒が自分からKに会いに来たりイベントを発生させるため
貴重な自由行動を消費しなくても勝手に親密度が上がる。
またKの頼みを積極的に引き受けてくれたり、生徒の特有スキルが事件発生時に
役に立つこともある。より多くの生徒を仲間にすることがグッドエンドへの鍵である。
・現在の親密度(名前は親密度の高い順)
【カンスト】石丸
【凄く良い】桑田、不二咲、大和田
【かなり良い】苗木、舞園、朝日奈
【結構良い】ジェノサイダー、霧切、大神
【そこそこ良い】山田、葉隠
【普通】腐川、セレス
【最悪】十神
~~~~~
【江ノ島への警戒度】かなり高い
4: 2014/11/15(土) 21:40:38.85 ID:ZOqU0ydh0
人物紹介(このSSでのネタバレ付き)
・西城 カズヤ : 超国家級の医師(KAZUYA、ドクターK)
学園長たっての願いで希望ヶ峰学園に短期間赴任しており、この事件に巻き込まれた。
黒幕に殺されかけたものの強靭な生命力で生存するが、その負傷が原因で希望ヶ峰にいた
記憶の大半を失い、内通者疑惑をかけられる。唯一の大人として何度も生徒達の盾になり、
半数近くの信頼を得ることが出来た。舞園、江ノ島、石丸、不二咲、霧切を手術する。
現在、失った記憶を少しずつ取り戻し希望ヶ峰学園の謎に迫りつつある。
・苗木 誠 : 超高校級の幸運
頭脳・容姿・運動神経全てが平均的でとにかく平凡な高校生。希望ヶ峰学園には
超高校級の幸運と呼ばれる、いわゆる抽選枠で選ばれた。自分は平凡だと謙遜するが、
K曰く超高校級のコミュニケーション能力の持ち主で誰とでも仲良くなれる特技がある。
前向きで穏やかなのが長所で、目立った活躍は少ないがKや仲間達からの信頼は厚い。
・桑田 怜恩 : 超高校級の野球選手
類稀な天才的運動能力の持ち主。野球選手のくせに大の野球嫌いで努力嫌い、女の子が
大好きという超高校級のチャラ男でもあった。……が、舞園に命を狙われたことを契機に
自分が周囲からどう見られていたかを知り、真剣に身の振り方を考え始める。その後、
命の恩人で何かと助けてくれるKにすっかり懐き、今はだいぶ真面目で熱い性格となった。
・舞園 さやか : 超高校級のアイドル
国民的アイドルグループでセンターマイクを務める美少女。謙虚で誰に対しても儀正しく
非の打ち所のないアイドルだが、今の地位に辿り着くまでに凄まじい努力をしており、芸能界を
軽んじる桑田が嫌いだった。真面目すぎるが故に自分を追い詰める所があり、皮肉にも最初に
事件を起こす。その後も自分を責め続け、とうとう限界を迎えた彼女は舞園さやかという一人の
人間を封印。「脱出のための駒」としての自分を演じることにし、現在は精力的に動いている。
・石丸 清多夏 : 超高校級の風紀委員
有名進学校出身にして全国模試不動の一位を誇る秀才。真面目だが規律にうるさく融通が効かない。
苗木を除けば唯一才能を持たない凡人である。努力で今の地位を築いたため、努力を軽視する人間を嫌う。
堅すぎる性格故に長年友人がいなかったが、大和田とは兄弟と呼び合う程の深い仲になった。
自身と生い立ちが似ているKにシンパシーを抱き医者になることを決意。大和田の起こした事件で
顔と心に大きな傷を負い一度は廃人となるが、仲間達の熱い友情により無事復活することが出来た。
6: 2014/11/15(土) 21:44:52.10 ID:ZOqU0ydh0
・大和田 紋土 : 超高校級の暴走族
日本最大の暴走族の総長。短気ですぐ手が出るが、基本的には男らしく面倒見の良い兄貴分である。
石丸とは最初こそ仲が悪かったが、後に相手の強さをお互いに認め合い義兄弟の契りを交わした。
実兄を事故で氏なせたことを隠していた弱さがコンプレックスであり、不二咲の内面の強さに嫉妬し
事件を起こすが、後に自ら秘密を告白し弱さを克服した。石丸の顔に傷をつけたこと、第三の事件を
誘発し不二咲を危険な目に遭わせたことを後悔しているが、自分なりに償っていく決意をした。
・不二咲 千尋 : 超高校級のプログラマー
世界的な天才プログラマー。その技術は自身の擬似人格プログラム・アルターエゴを作り出す程である。
小柄で愛らしい容姿をした女性……と思いきや、実は男。男らしくないと言われるのがコンプレックスで
今までずっと女装して逃避していた。秘密暴露を切欠に強くなろうと決意したが、その精神的な強さが
大和田のコンプレックスを刺激し、殺されかける。石丸が自分を庇って怪我を負ったことに責任を感じ、
単独行動を取った結果ジェノサイダー翔に襲われ氏にかけるが、友情の力でギリギリ蘇生した。
・朝日奈 葵 : 超高校級のスイマー
次々と記録を塗り替える期待のアスリート。恵まれた容姿や体型、明るい性格でファンも多い。
食べることが好きで、特にドーナツは大好物である。あまり考えることは得意ではないが、直感は鋭い。
モノクマの内通者発言により仲間達に疑われたことでとうとう不満が爆発し、KAZUYAとも衝突するが
お互いに本音をぶつけあったことで和解。現在は苗木達同様、KAZUYAの派閥に入っている。
・大神 さくら : 超高校級の格闘家
女性でありながら全米総合格闘技の大会で優勝した猛者。外見は非常に厳つく冷静だが、内面は
女子高生らしい気遣いや繊細さを持っている。由緒正しい道場の跡取り娘であり、地上最強の座を求め
日々鍛錬している……が、実は内通者。モノクマに道場の人間を人質に取られており、指令が下れば
殺人を犯さなければならない立場にある。覚悟を決めているが、同時に割り切れない感情も感じている。
・セレスティア・ルーデンベルク : 超高校級のギャンブラー
栃木県宇都宮出身、本名・安広多恵子。ゴシック口リータファッションの美少女である。徹底的に
西洋かぶれで自分は白人だと言い張っている。でも餃子好き。脅威の強運の持ち主で、破産させた相手の
数は数え切れない。いつも意味深な微笑みを浮かべ一見優雅な佇まいだが、非常な毒舌家でありキレると
暴言を吐く。穏健派の振りをしているが、実は脱出したくてたまらない。そろそろ動き出す?
・山田 一二三 : 超高校級の同人作家
自称・全ての始まりにして終わりなる者。コミケ一の売れっ子作家でオタク界の帝王的存在。
その同人誌は 高校の文化祭で一万部売れる程である。セレスからは召使い扱いで毎日こき使われている。
普段は明るく気のいいヤツだが実は臆病でプライドの高い一面もあり、密かに周囲の人間に対し引け目を
感じていた。特に、殺人を図ったメンバーが活躍することに嫉妬と羨望の混じった感情を有しており、
それが原因でメンバー全員を巻き込む大騒動を引き起こしたが、不二咲の決氏の行為で何とか和解。
7: 2014/11/15(土) 21:53:57.43 ID:ZOqU0ydh0
・十神 白夜 : 超高校級の御曹司
世界を統べる一族・十神家の跡取り。頭脳・容姿・運動神経全てがパーフェクトの超高校級の完璧。
デイトレードで稼いだ四百億の個人資産を持っている。しかし、全てを見下した傲慢な態度で周囲と
何度も衝突を繰り返し、コロシアイをゲームと言い放つなど人間性にはかなり問題がある。初めて
学級裁判が起こった三度目の事件では、自ら事件を撹乱してKAZUYA達に直接攻撃を仕掛けた危険人物。
・腐川 冬子 : 超高校級の文学少女
書いた小説は軒並みヒットして賞も総ナメの超売れっ子女流作家……なのだが、家庭や過去の
人間関係に恵まれず暗い少女時代だったために、すっかり自虐的で卑屈な性格になってしまった。
周囲とは距離を取っているが十神のことが好きで、散々な扱いをされているにも関わらずいつも後を
追いかけ回している。実は二重人格であり、裏の人格は連続猟奇殺人犯「ジェノサイダー翔」。
翔が不二咲を頃しかけ学級裁判を引き起こしたことがショックで部屋に閉じこもっている。
・ジェノサイダー翔 : 超高校級の殺人鬼
腐川の裏人格であり、萌える男をハサミで磔にして頃す殺人鬼。腐川とは真逆の性格でとにかく
テンションが高くポジティブ。重度の腐女子。乱暴だが頭の回転は非常に早く、味方にすると頼もしい。
腐川とは知識と感情は共有しているが記憶は共有しておらず、腐川の消された記憶も保持している。
コロシアイが起こる以前、自分と腐川に親身だったKAZUYAに好感を持っており友好的である。
・江ノ島 盾子 : 超高校級のギャル
大人気モデルで女子高生達のカリスマ……は本物の江ノ島盾子の方で、彼女はその双子の姉である。
本名は戦刃むくろといい、超高校級の軍人だった。天才的戦闘能力を誇るが、頭はあまり回らず全く
気が利かないため残念な姉、残姉と妹からは呼ばれている。このコロシアイ学園生活のもう一人の内通者。
ちなみに、色々と残念すぎるためKAZUYAと桑田からは既に正体を看破され霧切らにもかなり怪しまれている。
・葉隠 康比呂 : 超高校級の占い師
どんなことも三割の確率でピタリと当てる天才占い師。事情があって三ダブし、高校生だが成人である。
飄々として常にマイペース、KAZUYAからは掴み所がないと評されている。普段は割りと 落ち着いているが、
非常に臆病ですぐパニックになる悪癖がある。 また、自分の保身第一であり、借金返済のために友人を
利用しようとする面も…。どうせ外れだと思っているが、大神が内通者だというインスピレーションを得た。
・霧切響子 : 超高校級の探偵
学園長の娘にして、名門探偵一族霧切家の人間。初めは記憶喪失で名前以外何も思い出せなかった。
KAZUYAがたまたま霧切について知っていたため、現在は順調に記憶が回復している。いつも冷静沈着で
洞察力も鋭く、的確な指示をするためKAZUYA派の中では副リーダー兼参謀的役割を担っている。
手に火傷の痕がありKAZUYAに手術してもらったが、すぐには治らないのでまだ当分手袋は外せない。
・モノクマ
コロシアイ学園生活のマスコットにして学園長。苗木達を監禁しコロシアイを強制している
黒幕である。中の人は超高校級の絶望・江ノ島盾子。人の心の弱い部分やコンプレックスを
突くのが得意で、このSSでは幾度も生徒達の心を踏みにじってきた最強のラスボス。
・謎の二人組
学園の外のどこかに潜伏している長い黒髪の男と白髪の男。本物の江ノ島盾子の始めた
このコロシアイ学園生活に強い興味を持ち、見守っている。ぶっちゃけるとカムクラと狛枝。
8: 2014/11/15(土) 22:22:39.11 ID:ZOqU0ydh0
テンプレ終了。本編はもうちょっとかかるので雑談でもしててください
あと、やっと自由行動あるけどヒント欲しい?
32: 2014/11/19(水) 21:22:35.48 ID:5dg6en/g0
Chapter.3 世紀末医療伝説再び! 医に生きる者よ、メスを執れ!! 非日常編
33: 2014/11/19(水) 21:26:11.71 ID:5dg6en/g0
― コロシアイ学園生活三十一日目 食堂 AM8:05 ―
石丸「うおおおおおおおおおおお!」
K「…………」
苗木「ア、ハハ」
不二咲「フフ」ニコニコ
桑田「はぁー」
食堂には二週間ぶりにこの男の大きい声が響いていた。
山田「相変わらずですなぁ」
葉隠「ま、いいんじゃねえか? こちとら久しぶりにゆっくり飯が食えるし」
朝日奈「元気になって良かった!」
大神「ウム」
大和田「おい、兄弟。勉強しながらメシ食うなよ。落ち着かねえだろ……」
石丸「わかっている! 行儀が悪いのは百も承知だ! しかし、僕は大変な遅れを作ってしまった!
二週間もサボってしまったのだぞ?! 急いで遅れを取り戻さないと……」
桑田「いや、遅れって誰にだよ」
石丸「苗木君だ!」ビシ!
苗木「えっ、僕?! 何で?!」
石丸「僕が駄目になっている間も君はきっと真面目に勉強していたに違いない!」
苗木「え、いや……そうでもないよ?」
苗木(石丸君があんな状態なのに呑気に勉強なんて出来ないよ! そもそも別に勉強好きじゃないし)
舞園「でも実際少し自習してましたよね。みんなの役に立てるようにって。私は見てましたよ」ニコッ
苗木「お願い、心を読むのやめて」
34: 2014/11/19(水) 21:37:02.53 ID:5dg6en/g0
石丸「そう謙遜しなくて良いのだぞ? まあ、僕は追いかける方が得意だ。すぐに追いついて見せるさ!」
苗木(いや、僕が君より前を行ってたことなんて一度も……あ、でも器用さは僕の方が上か?)
霧切「石丸君が不器用だからって油断していたらあっという間に追い抜かれるわよ? 彼は努力家だもの」
苗木「今度は霧切さんにまで読まれた?!」
舞園「だって苗木君わかりやすいんですよ」ネー♪
霧切「そうね。バレバレだわ」フフッ
二人が示し合わせたように目線を交わして微笑むと、女子には勝てないなと苗木は頭を掻く。
K「……石丸、まだ治ったばかりなのだからあまり無理をしない方が良い。昨日も言ったが……」
だが、石丸はKAZUYAの声を遮った。決意を秘めた声だ。
石丸「違います、先生――やりたいんです!」
K「……!」
石丸「今までのように学生の義務だからやるのではなく、僕は今心から楽しんで勉強しているんです!」
K「…………」
石丸「知らないことを知るのは楽しい。それが尊敬する先生に近付くことなら尚の事!」
石丸「これからは我慢しないでやりたいことは全部やる! 妥協も我慢もしない!
勉強だろうと遊びだろうとっ! 僕は常に全力で臨みますっ!!」
K「…………」
K「……フッ」
一瞬驚いたものの、KAZUYAの顔から自然と笑みがこぼれる。
35: 2014/11/19(水) 21:41:54.28 ID:5dg6en/g0
K「まあ普段は行き過ぎなくらいお堅いのだし、たまには行儀悪くてもいいんじゃないか?」
大和田「……そうだな。兄弟がいいならいいか」
K「ただし、絶対に無理はしないことだ。体調管理だけはしっかりやるのだぞ」
石丸「はいっ!」
セレス「あまり欲を張りますとそこの桑田君みたいになりますわよ」
桑田「オメエに言われるのはなんかムカつく」
江ノ島「……あんたが一番欲張りだよ」
ボソリと江ノ島が呟くが、誰もその言葉の持つ深さには気付かなかった。当然といえば当然だが。
石丸「ご馳走様でした! ああ、これからやらなければならないことが山積みだ!
勉強も大事だがみんなと遊びたいし、まず衰えた体力を戻さないと……」
朝日奈「じゃあ私達と一緒にランニングする?」
不二咲「そ、それはまだ無理なんじゃないかなぁ」
K「俺がリハビリのスケジュールでも組むか?」
石丸「お願いします! ついでに勉強も見てください!」フンッ!フンッ!
K「……フゥ、わかったから少し落ち着け」
K(一気にまた以前の空気に戻ったな)
実際、石丸復帰の影響力は想像以上に大きかった。まず、裁判後はすっかり形骸化していた
朝食会の習慣が復活した。それに伴い、グループ化が進み過ぎて派閥のようになっていた
人間関係も大幅に緩和し、今は十神を除き全員が入り混じって普通に会話をしている。
36: 2014/11/19(水) 21:52:14.28 ID:5dg6en/g0
K(生徒達は決して内通者の存在を忘れている訳ではない。
……だが、それ以上に石丸のパワーがみんなを引っ張っているのだ)
石丸は声が大きく存在感がある。この男が元気に笑ってくれるだけで一気に場が明るくなるのだ。
K(俺には出来ないことだな。まあ、俺にリーダーの資質はないのだから仕方ないが)
石丸「先生、まだですか?」ジーッ!
K「……俺はお前のようにお粥じゃないんだ。もう少し待ってくれ」
石丸「先生が食べ終わったら保健室で勉強するぞ! 勿論苗木君も来るだろう?! そうだな?!」
苗木「あ、うん……勿論だよ! ハハハ(何か前にも増して強引になったような……)」
石丸「その後は不二咲君と一緒にトレーニングがしたいぞ!」
不二咲「うん! 一緒に頑張ろうねぇ!」
大和田「ムリして倒れんじゃねえぞ!」
石丸「そしてその後は娯楽室でみんなと遊ぶのだ。セレス君、いざ僕と勝負!」
セレス「あら、わざわざ負けに来るのですか?」
山田「なんと?! 石丸清多夏殿がゲーム勝負とな?! 拙者、ワケがわからないでござる」
葉隠「ハハッ! こりゃあ見物だべ」
朝日奈「面白そう! 私達も行こ!」
大神「う、うむ(一体何があったのだ……?)」
霧切「……彼、変わったわね」
舞園「先生が何か魔法でも使ったんじゃないですか?」クスクス
石丸のあまりの変貌ぶりに生徒達は皆思い思いの反応をする。
37: 2014/11/19(水) 22:13:41.27 ID:5dg6en/g0
K(……本当に変わったな)
前とは別の意味で周りを振り回す石丸を見つめてKAZUYAは感慨にふけっていた。遊びと言う言葉は、
今までの石丸とは対極の位置にあった。まず学生の本分は勤勉さであり、遊びは勉強の合間の息抜きか
或いは仲間と親睦を深める特別なイベントにのみ許される存在だった。その石丸が自分から仲間を
遊びに誘っているのである。それは超高校級の風紀委員としては有り得ない光景だった。
K(自分に架けていたハードルが下がったから他人に前程口うるさくしなくなった。
リーダーや風紀委員としてではなく、ちゃんと自分の主張が出来るようになった)
石丸は、少しずつ普通の高校生に近付いている。
KAZUYAから見ればそれは大きな進歩だ。しかし、ふと……もし希望ヶ峰の教員が
この光景を見たら、あまり良い顔をしないだろうなとKAZUYAは思った。
K(普通に近付くと言うことは――希望ヶ峰の望む才能とは外れるということだ。だが)
そんなもの知るかと心の中で切って捨てる。
K(才能なんていくらあっても、生徒が幸福になれないのなら何の意味もない。
……人は皆幸福になる権利があるのだ。俺達大人は選択肢を用意するだけでいい)
K(それが俺の教員方針だ。教育者としてはまだまだ駆け出しかもしれんがな)
結局のところ、相変わらずKAZUYAは医師と教師の間でどっちつかずのままだった。
だが、どちらであろうとここにいる限り生徒を守る保護者であることに変わりはない。
今回の件を通じてKAZUYAは心に決めたことがある。それはただ彼等を生きて脱出させるのではなく、
彼等を真っ当な大人に育てて幸福にすること。それがKAZUYAの新たな行動指針となった。
石丸「もう少しですね!」ルンルン♪
K(楽しそうだな)モグモグ
不二咲「あ、そうだぁ。先生、あのね……」
K「ん?」
38: 2014/11/19(水) 22:23:28.22 ID:5dg6en/g0
不二咲「パーティーの準備の時に、一緒に倉庫に行ったよね? その時面白い物を見つけて……」ゴニョゴニョ
不二咲はKAZUYAに耳打ちする。
K「……成程。興味深いな」ニヤリ
不二咲「先生にも手伝ってもらいたいなって」
K「わかった。……石丸から解放されたらな」
石丸「食べ終わりましたね?! さあ、食器を片付けて保健室に行きましょう!」
K「食後のコーヒーくらい許してくれないか?」ゲプッ
十神「……早く行け。騒がしくてたまらん」
K(この男は相変わらずだな……)
◇ ◇ ◇
K(久しぶりだったからか、丸一日授業をさせられた。凄い疲労感だ……)
K(……だが、たまには悪くないかな)
K(それより、腐川のことが心配だ。他の生徒とも仲を深めねばならん)
K「よし、久しぶりに生徒の所を回るか」
>>40生徒(十神以外)
40: 2014/11/19(水) 22:28:14.26 ID:3D7VaO+sO
セレス
41: 2014/11/19(水) 22:31:41.65 ID:5dg6en/g0
二人目>>43
K「悩んだ時は安価下を使うといいぞ!」
43: 2014/11/19(水) 22:38:32.16 ID:3D7VaO+sO
ごめんなさい、名前変なことになってた
また安価とってもいいのかな?
山田で
なんか怖いな…
また安価とってもいいのかな?
山田で
なんか怖いな…
45: 2014/11/19(水) 22:44:05.56 ID:5dg6en/g0
K「とりあえず連取りは二回までオーケーということにしよう」
K「人数、場所はその日の残り時間や俺の気分によって変わる。
どうしても会いたい人間がいるなら優先的に安価を取るべきだな」
>>47三人目
47: 2014/11/19(水) 22:58:33.93 ID:zM0Cnvkmo
腐川
48: 2014/11/19(水) 23:04:01.26 ID:5dg6en/g0
>>50 場所選択(現在4階まで開放)
※仲間生徒の部屋の場合は苗木・桑田・舞園・石丸・不二咲・大和田が選択可
49: 2014/11/19(水) 23:18:39.39 ID:5dg6en/g0
明日も仕事なので安価だけ飛ばして寝る
>>52も場所選択で
それでは
70: 2014/11/29(土) 20:56:36.71 ID:1eixEB9B0
◇ ◇ ◇
K(やはり、今何より優先すべきは腐川だ!)
KAZUYAはインターホンを数度鳴らし、反応がないと見るや預けられた鍵を使った。
「腐川」
「ひぃぃっ! で、出たぁ!」
「人を幽霊のように言わないでもらいたいのだが……」
「ふ、ふん! あんたの用事なんてどうせわかってんのよ!」
「なら、話が早い。一緒に外へ……」
「……どうせジェノサイダーに用があるんでしょ。馬鹿な奴ら、殺人鬼と仲良くなるなんて……」
腐川は指をくわえ文字通りに歯噛みしている。
「違う。俺は君に……」
「嘘つくんじゃないわよ! アタシなんてどうせアイツのおまけ扱いなんでしょ、そうなんでしょ?!」
「そんなことはない!」
「じゃあなんでいつもあいつとばっかりつるんでるのよ……! 記憶がなくたって
わかってんのよ? 最近あいつが表に出てる時間が多いってことくらいアタシにだって……!」
「…………」
(不味いな。どうも拗ねているようだ。確かに、俺達が翔に色々頼み事をしていたことは事実だしな……)
「うっうっ、どうせアタシなんて……誰からも必要とされてなんかいないんだからぁ……!!」
「そんなことは……」
「口ではなんとだって言えるわよね?! 行動で示しなさいよっ! 行動でっ!」
「行動……」
KAZUYAは腕を組んで考え込んだ。
71: 2014/11/29(土) 21:08:22.60 ID:1eixEB9B0
(果たして、このような時は一体どう行動するのが正解なのか。乙女心と言うものは繊細で難しいからな。
……また石丸の時のようにパーティーでも開くか? いくら何でもそれで怒ったりはしないだろう)
「じゃあ、君が外に出た暁にはみんなで何か催し事でもしようか」
「も、催し事……? トイレに閉じ込めて上から水をかけるとか?」
「」
あまりに予想外過ぎる回答に思わずKAZUYAは口を開けたまま呆然とする。
「そ、それはイジメだ!」
「違うの? じゃ、じゃああれなのね?! 蝋燭をともした魔法陣の上に縛って吊されて……」
「どんな催し事だ?! 黒ミサか?!」
「でも昔、エコエコアザラクって唱えながら……」
「やらん!」
「キャンプファイヤーって言いながらアタシの原稿燃やしたり、背中にブスですみませんて
書いた紙を貼って学校を一周させるとか、体育倉庫に丸一日閉じ込められるとか……」
「そんなことをするか!」
普段はどんなボケもクールに流し陰でボケ頃しと呼ばれるKAZUYAも
思わず突っ込んでしまうほど、腐川の感覚は一般とズレていた。
(そういえばイジメられていたのだったか? ……それにしても、ハードな内容だ)
イジメと言うよりもはや犯罪である。
「この学園にそんな酷いことをする人間などいない!」
「で、でもアタシのことを陰気だとか臭いとか言って陰で笑ったりはしてるんでしょ!」
「誰もそんなこと言っていないさ。……あと臭いを気にするならきちんと風呂に入った方がいいぞ」
ついつい正論を言ってしまった。
72: 2014/11/29(土) 21:29:54.32 ID:1eixEB9B0
「う……中年に、それもアタシなんかよりよっぽど汗くさそうなマッチョに
臭いって言われるなんて! もう、もう終わりだわあぁぁぁ!」ウアアアア!
「別に君を臭いと言った訳では……」
(絶対俺の方が身綺麗にしていると思うのだが……あと俺はまだ中年ではない。そんな歳ではない)
しっかりと心の中で中年を否定する。それにしても、流石のKAZUYAも少し疲れてきた。
このまま話していても埒があかないと判断したKAZUYAは話題を変えることにした。
「そういえば、君の小説を読んでみたぞ」
「! へ、へぇ? どうだった訳……?」
(お? これは好感触か?)
「石丸の面倒を見ていた時、時間があったからな。普段は医学書と新聞しか
読まないような俺だが、それでも君の小説は素晴らしいと思ったよ」
「ふ、ふふ……アタシの芸術がわかるなんて、見かけによらないのね……」
(これは、行けるか?)
「で、感想は?」
「流石に100冊近い量を読むのは無理だったから、代表作を10冊ほど読ませてもらったが
切ない恋愛物が多かったな。読みながら、ふと昔を思い出したりしてしんみりさせてもらった」
「恋愛なんてまるで縁のなさそうなあんたにわかるの?」
「俺も大人だからな。色恋沙汰に全く縁がなかったという訳でもない」
「……!」
「どうかしたか……?」
73: 2014/11/29(土) 21:40:49.86 ID:1eixEB9B0
また腐川が歯噛みをしている。KAZUYAのことを少し恨めしそうに見ながら。
「うぎぎ……こんなゴツいのでも恋愛の一つや二つはしてるなんて……
アタシなんて、どうせブスで根暗なアタシなんて誰からも愛されないわよぉ……!!」
「そんなことは……」
「親にだって愛されなかったのに……」
「わからないぞ? もしかしたら一見冷たくても、実は愛情がある場合も……」
「――ないわよ。アイツらに限ってそんなのある訳ない」
いつもどもり気味でもごもご話す腐川が、それだけはピシャリと切り捨てた。
「…………」
(家族の話は地雷だったか……余程複雑な事情があると見える。もう触れないようにしよう)
「……十分喋ったでしょ。さっさと帰りなさいよ」
「すまない。今日は帰ろう。ただし、俺は君が出てくるまで何度でも来るからな」
「…………」
腐川は無言のままプイと顔を逸らしたが、もうヒステリックに叫んだり暴れたりはしなかった。
ガチャ、パタン。
(反応は悪くなかった。翔も言っていたが、少しずつ心を開いてきているように思える)
(次か、遅くともその次には出て来てくれるはず……)
そう信じてKAZUYAは次の生徒の場所へ向かった。
76: 2014/11/30(日) 19:28:12.82 ID:ZDsr4tZ10
― 娯楽室 PM4:16 ―
いつものように、彼女はそこにいた。いつもと何ら変わりなく。
「あら、珍しいお客様ですわね」
彼女は優雅に微笑む。
だが如何に女心に疎いKAZUYAと言えど、いい加減付き合いも長くなってきたので
ミステリアスなその表情の裏に彼女が子供っぽい一面を持っていることもわかってきた。
「君はいつもここにいるな、安ひ……」
「セェレェスティアァ・ルゥゥーデンベルクゥゥゥ!!」
「……失礼」
本名を頑なに否定し、本名で呼ぶと無視するかこのように柳眉を逆立てて言い返してくる。
最初はKAZUYAも子供に舐められまいと毅然とした態度で言い続けていたが、いい加減
面倒になってきたのと大人が折れるべきなのかと悩み、最終的に名前自体を呼ばなくなった。
「まあ、たまにはこういう息抜きもしないとな」
「先生は男性陣と一緒にいる時の方がリラックスしているように見えますが」
「あのメンバーといるのは楽しいが、別の意味で疲れることはよくある」
「……それもそうですわね」
77: 2014/11/30(日) 19:36:22.30 ID:ZDsr4tZ10
セレスはあの個性的過ぎて騒々しいメンバーの様子を思い浮かべたのか一瞬げんなりした
顔をしたものの、特に気にせず向かいに座ったKAZUYAにいつものようにカードを配る。
「…………」
十神は危険人物であることが確定しているので、KAZUYAにとって残ったメンバーがコロシアイに乗るか
どうかが焦点だった。内通しているかは別に、セレスは目的のためなら手段を選ばない雰囲気がある。
今までは沈黙を保っていたが、今後動機で揺さぶられれば動かないとも限らない。
(だが勘の良い安広のことだ。俺の考えなどお見通しで、逆に今も俺の様子を観察しているのだろう)
普段はあけすけでのほほんとしている朝日奈ですら、周囲の微妙な態度の差に敏感に気が付いていた。
心理戦の達人であるセレスが、ストレートな人間であるKAZUYAの考えを読めないはずもない。
それでも顔色一つ変えず平然とKAZUYAの相手をするセレスに、KAZUYAは薄ら寒いものを感じていた。
・突然だがコンマ勝負!
セレスとポーカーで勝負する。下二桁が90以上とゾロ目で勝利。数字が高いほど健闘。
直下
80: 2014/11/30(日) 20:54:03.70 ID:ZDsr4tZ10
まさかのクリティカル。
(これは……)
「わたくしはこれですわ」
「フォーカードか」
(相変わらず、イカサマでもしているのかと思うくらい強い役を出してくるな。だが……)
「ストレートフラッシュだ」
「まあ……やりますわね」
「たまにはな」
偶然だと思ったので特に喜びもせず、KAZUYAは淡々と返す。しかし、セレスの様子が少し変だった。
「滅多に出る役ではありませんわ。……どうです? 今日の先生はいつになく
調子がよろしいようですし、たまには何か賭けませんこと?」
「教員に賭け事を勧めるのか?」
「別に大したものを賭けるのではありません。確か明日の夕食は久しぶりに先生の班が担当ですわね?」
「そうだが、それがどうかしたか?」
「もしわたくしが勝ったら、明日の夕食のメニューを餃子にしていただけませんこと?
万が一わたくしが負けたら今日と明日の分のデザートを先生に差し上げますわ」
「その程度ならば確かに構わないが、何故餃子なんだ? ……もしかして好きなのか?」
「……はい。あの臭くて不格好で庶民的な食べ物を好きだとおおっぴらに言うのは
少し恥ずかしいのですが。わたくし栃木県は宇都宮市出身ですので」
(本名は否定するのに出身は否定しないのか。そして餃子が好きとは……意外だな。
もっとこう、俺には縁がないような高級で洋風な物が好きかと思ったが)
「久々のギャンブル。しかもかかっているものはわたくしの食事。負ける訳には参りませんわね」
「そんなに気合をいれるほどか……?」
81: 2014/11/30(日) 21:27:01.23 ID:ZDsr4tZ10
セレスの意外な一面を垣間見て、KAZUYAは少しだけ可愛いと思った。
しかし、いつもならせいぜいツーペア、余程調子の良い時にストレートが出るかと言った
調子のKAZUYAだが、今日に限っていつになく運が自分に来ているのを感じていた。
チップ等は使わずストレートに五回勝負で勝敗の多い方が勝ちというルールで戦ったが……
「…………」ワナワナ
「三勝一敗一分け。俺の勝ちだ」
「ま、まさかこのわたくしが敗北を喫すとは……」
「そんなにショックを受けなくとも……」
「わたくし、お遊びでもほとんど負けたことはないのです。賭け事なら尚更ですわ」
(たかだか晩飯を賭けただけだが、プライドが傷ついたようだな……)
「物を賭けた勝負でわたくし……生まれて初めて、負けました……」シュン
(…………)
今まで負けたことがなかったというその言葉に、逆にKAZUYAは衝撃を受けていた。
――恐ろしい。才能と言うものは本当に恐ろしい。確かに、人の人生を狂わせてしまうのかもしれない。
(才能などと言うものに振り回されないよう、俺達大人がしっかりと教育して導いてやらねばな……)
「賭けは俺の勝ちだが、明日の晩は餃子にしよう」
「! まあ、よろしいんですの? ですが、それでは勝負の意味が……」
82: 2014/11/30(日) 21:50:41.03 ID:ZDsr4tZ10
「丁度食べたい気分だったんだ。あとデザートもいらん。俺は特別甘い物が好きと言う訳ではないからな」
普段のKAZUYAは子供相手であろうと割りと勝負事には厳しいのだが、今回は特例的に甘く対応した。
セレスに恩を売っておきたいというのと、少女相手にムキになっていると周りに思われたくなかったのだ。
(たとえデザート一つとはいえ、大の大人が女子高生から物を奪っているのは絵面が悪いしな……)
監禁されコロシアイを強いられているという状況下でなければ、遊びの一環と気楽に考えられたのだが。
しかし、そんな大人の対応をするKAZUYAの姿はセレスの目から見ても好感の持てるものであった。
「見た目によらず紳士ですのね」クスリ
「……見た目は余計だ」
ガチャッ。
話していると娯楽室の扉が開いた。丸々としたシルエットが部屋に入ってくる。
「ややっ、これは西城カズヤ医師。こんなところにいるとは珍しいですな」
「ム、山田か」
「あら丁度良い所に。勝負が白熱したので、わたくし喉が渇いていた所だったのです」
「あ、あのぅ……」
「そこに置いておいて下さい。先生もどうぞ?」
「え? あぁ……」
83: 2014/11/30(日) 22:04:22.13 ID:ZDsr4tZ10
「…………」
無言の山田に目をやる。カップは二つ。山田はKAZUYAがここにいることを知らなかった。
つまり……
「俺はもうそろそろ……」
「……では、ここに置いておくので西城医師はごゆっくり」
「いや、折角だから君達で……」
「――西城先生。ほら、お茶が冷めてしまいますわ」ニコリ
セレスが紅茶をついでKAZUYAに差し出す。笑顔だが、そこには無言の圧力があった。
そういえば、あの裁判の後セレスと山田の仲がこじれているらしいというのをKAZUYAは
複数の生徒から聞かされていた。パーティーの際は一時休戦していたようなのでそこまで
深刻に考えていなかったが、二人をこの状態で放置する訳にはいかないだろう。
(だが、俺は安広とも山田ともあまり親しくないからな。まずは距離を縮めることから始めなくては)
「折角です。もう一勝負行きましょうか」
「ムゥ……」
結局、山田のことが気になったので長居せずに早々と退出したのだった。
93: 2014/12/02(火) 20:13:54.45 ID:PYrz0i480
◇ ◇ ◇
美術室の中央の机を陣取った山田は、しょんぼりと原稿に向かっていた。
(なんだいなんだい……僕が持っていったのに邪魔者扱いだなんて酷いじゃないか)
(最近は前ほどじゃなくなったとはいえ相変わらず素っ気ないし)
執念深いにも程がある、と山田は心の中でセレスに対する恨み言を述べていた。
(クッ、この怒りを今こそ創作意欲に変えるべき! セレス殿を同人誌に描き……)
ガチャリ。
「(性的な意味で)酷い目に合わせてやるんだーい!」
「おい……」
「?!」ギョッ!
入り口に目をやると、そこには驚いた顔のKAZUYAが突っ立っていた。
(な、なんとーーー?!)
「……今のはどういう意味だ?」
先程といい今といい、この男はなんて間が悪いのだと思いながら慌てて山田は弁解した。
「何だ。創作の話か……」
「そ、そうです! イヤだなぁ。僕なんて無害が服着て歩いているような人間じゃないですか」
「それもそうだな」
普段大人しい人間もキレると怖いのだがな……、と思いながらもKAZUYAは相槌を打つ。
山田に関しては、一見丁寧な物腰だがその反面意外と負けず嫌いな所があるのは周知のことだ。
95: 2014/12/02(火) 20:25:08.43 ID:PYrz0i480
「ところで、先生が持っているそれは何ですか?」
「いや、さっきは邪魔をしてしまったからな。お詫びと言った所だ。好きなんだろう?」
そう言って、KAZUYAは袋からコラコーラと油芋を取り出した。
「おおおおおおおおおおっ!! それはコラコーラに油芋ではないですか! 神キタコレ!!!!」
学園の倉庫には様々なジュースやお菓子類が揃っているが、残念ながら山田が最も愛して止まない
この二つだけは置いておらず、モノモノマシーンで引き当てるしか入手手段がないのだ。
(医者としてはあまり体に悪い物は渡したくないが、とても喜んでいる。苗木に相談したのは正解だったな)
「西城医師もどうぞどうぞ!!」
山田は急いで机を片付けるとKAZUYAに席を勧める。先程の件で山田の機嫌を損ねたことを感じ取った
KAZUYAは、娯楽室から出ると急いで苗木の部屋に向かい、山田の攻略法を尋ねたのだった。その際使うと
良いとコラコーラと油芋を渡されたのである。苗木のアドバイスは実に的確であり、また生徒の好みを
よく熟知している。色々な物を生徒にプレゼントして回っているらしく、少しばかり羨ましかった。
「はあー、至福至福」ほっこり
「それは良かった。これは、例の同人誌という奴の原稿か?」
「それなんですがねぇ。最近やっとみんな仲直りして以前の雰囲気(ムード)が戻って来たでしょ?
ぼちぼち創作意欲も戻ってきたので、そろそろ二次創作の枠から一歩飛び出してみようかと」
「ほぅ。一次創作、つまりはオリジナルか」
「そうです! やっとわかってきたじゃないですか!! 僕の考えた世界で作品を作るのですよ!」
「凄いじゃないか。もう内容は決まっているのか?」
96: 2014/12/02(火) 20:37:57.87 ID:PYrz0i480
「僕レベルになりますと、描きたいものがありすぎて逆にこれって言うものがないんですな。
何より、今度の作品はオタクだけではなく一般人にも売れる作品!がテーマですから」
「そうだ! ここは一つ、漫画なんて全く読まないキングオブ一般人である
西城医師の意見を是非とも聞いてみたいものですね!」
「キングオブ一般人……」
KAZUYAは困った。折角生徒がキラキラした期待に満ちた目で自分を見ているのに、自分は一般人とは
別の意味で大きく掛け離れているのだ。悩むKAZUYAはふと、机の上の一枚のイラストが目に留まる。
「これは……安弘か?」
「おお、そうです。セレス殿をヒロインにして一作描いてみようかと思いまして」
まさか18禁作品だとは口が裂けても言わないが、これが切欠となりKAZUYAの頭にあることが閃く。
「そうだ、山田。ここにいるメンバー達を人物のモデルにしてみたらどうだ?」
「ここにいるメンバー? つまり僕達ということですか?」
「ああ。超高校級だけあって、どいつもこいつも俺が今までに見たことがないような
個性的なメンバー揃いだ。登場人物のネタには困らないと思うが」
「なるほど。確かに、人気漫画はストーリーよりまずキャラクターとも言う……」
「いいでしょう! では考えてみましょうか! まずは物語の主人公をば。
主人公は勿論僕! 紳士的で人望があり、勇敢で頼りになってモテモテで……」
「…………」
「ごめんなさい、ウソです……」
敢えて何も言わないKAZUYAの大人の優しさに、山田の心は盛大に音を立て真っ二つに折れた。
97: 2014/12/02(火) 20:55:36.68 ID:PYrz0i480
「うーん、それにしても。確かにここのみんなはジャンル次第で誰が主人公でもイケる気がしますな」
「学園モノなら普通でコミュ強の苗木誠殿、熱血系なら石丸清多夏殿、不良物なら大和田紋土殿、
スポ根なら桑田怜恩殿や朝日奈葵殿、ホラーなら腐川冬子殿。僕だってギャグやオタク系なら
主役イケると思うし。……あ、でも葉隠康比呂殿だけ浮かばないや」
何気に酷いことを言いながら、顎に手を当て山田は創作モードに入っていく。
「とりあえず実験ですし、王道RPG世界にしてみるとしましょう。シンプルな設定でこそ筆者の腕が
出るというもの。勇者ヨ○ヒコだってそれでヒットしたし。主人公は、無難に苗木誠殿あたりにして」
物語はよくある剣と魔法の中世ファンタジー世界――
平凡オブザ平凡な村の青年、マコト・ギエナは勇者の子孫の隣の家に住んでいたという明らかに
納得出来ない理由で呼び出され、魔王から姫を救出する命令を押し付けられる。勇者と持ち上げる割には
兵士はおろか、武器も金も恵んでもらえない。氏ねということか……。不幸な青年の物語が、今始まる。
「うん! 冒頭が浮かんで来ましたぞ!」サッサッ
「上手いな……」
KAZUYAは山田の卓越したデッサン力と作画スピードに改めて感嘆する。これで字が
綺麗なら言うことはない。あと、医者的には運動して少し痩せた方がいいと冷静に思う。
「デュフフ。次に来た時にはプロローグは終了させておきますゆえ! 是非ご期待を!」
「ああ、楽しみにしている」
こうして、お馴染みのメンバーをモデルにした山田の同人誌作りが始まったのだった。
山田の同人誌完成率…………現在20%。
102: 2014/12/04(木) 21:17:05.29 ID:DhYRkuRP0
― 化学室 PM5:22 ―
折角三階にいたので、KAZUYAは四階に上がり各部屋を見回っていく。
特に、劇薬が置かれている化学室に入り鍵に異常がないかを入念にチェックした。
「お、K先生じゃねえか」
「葉隠か。珍しいな。こんな所で何をしている?」
「べ、別に怪しいことは何もしてねえぞ! ただこの部屋の機械とかで高そうなのはどれかと思ってな」
「…………」
売る気満々だ、コイツ。
「そうだ! 先生なら知ってんだろ? どれが一番持ち運びやすくて金になるんだ?」
「……高い装置には当然防犯システムが搭載されているから、盗めばすぐに足が付くぞ」
「ぬ、盗むだぁ?! 失礼なこと言うなって! ちょっと借りるだけだべ!」
「相手の許可を取らず勝手に持って行った挙げ句売り飛ばすのを、お前の中では借りると言うのか?」
「おう! 後でちゃんと返すからな!」
唖然とする。厭味のつもりで言ったのに、どうやらこの男は本気で悪いことだと
思っていないらしい。その真っ直ぐな全く淀んでいない澄んだ瞳にKAZUYAは恐怖すら感じた。
「何でそんなに金が必要なんだ。まさかお前、借金でもしているのではあるまいな?」
「ギクッ! い、いや……そんなことは、その……ちょっとだけだべ」
図星かよ……。とKAZUYAは内心で頭を抱えていた。
103: 2014/12/04(木) 21:34:33.08 ID:DhYRkuRP0
「……お前、稼ぎはかなりあるんだろう? それで返せばいいじゃないか」
「そう簡単に言ってくれるけどよ、俺が頑張って稼いだ金だろ?
だから稼ぎはぜーんぶ趣味に注ぐことにしてんだ!」ドヤアアアッ!
「…………(殴ってもいいか?)」
厚顔無知とはこのことか。KAZUYAは段々頭が痛くなってきた。そもそも、十分な稼ぎがあるのに
借金するような金銭感覚の持ち主が、一体どうやって金を工面して装置を返却するのだろう。
「ま、今はまだ脱出出来ねーから今度にすっか。その時は一緒に見繕ってくれよな!」
「…………」
今の会話、全部監視カメラに記録されているぞと心の中で突っ込みながらも、KAZUYAは
去っていく葉隠に何も言わなかった。この男はいつか真剣に反省した方がいい。
葉隠と入れ替わりのように苗木が化学室に入って来た。
「あ、見つけた。ここにいたんですね、先生」
「どうした、苗木?」
「山田君に聞いたら四階に行ったって言うから丁度良かったです。実は、その……
石丸君も元気になったし、僕もちょっと本格的に勉強しようかなと思って」
「ほぅ、感心だな」
有り得ないほど不真面目な男の後にこんな真面目なことを言われ、KAZUYAの心は癒される。
「よし。ならば折角化学室にいることだし、今日はお前にだけ特別授業をしてやろう!」
「え、本当? やった!」
薬品棚から薬品を取り出し、簡単な実験を一緒にした。
苗木の頭脳が上がった! 観察力が上がった! 器用さが上がった!
104: 2014/12/04(木) 21:48:43.86 ID:DhYRkuRP0
番外編 ― 夕飯クライシス ―
セレス「ここは空いていますか?」
K「空いているが」
朝日奈「あ、セレスちゃんだー」
夕食時、珍しくセレスがKAZUYAの隣に座った。
石丸「おや、セレス君がこちらに来るとは珍しい」
桑田「なんか変なことでも考えてんじゃねえの?」
苗木「まあまあ。たまにはそういう気分もあるよ」
セレスは中心から外れた席に一人で座ったり女子の多い場所に座ることが多かったので、
男子が集まりやすいKAZUYAの近くの席に座ることはほとんどなかった。むしろ初めてである。
石丸「それでだな……!」
不二咲「……だったんだよぉ!」
K「ほう」
苗木「凄いや!」
舞園「良かったですね」
朝日奈「あ、私もねぇ……!」
K「フム」
セレス「…………」黙々
桑田・大和田・大神「…………」
105: 2014/12/04(木) 21:58:44.53 ID:DhYRkuRP0
桑田(……気まずいだろ。こいつ怪しいし)
大和田(よりによって一番苦手なヤツだぜ……)
大神(何か目的があるのだろうか?)
思い切り不審な目で見られているセレスだが、気にすることなく堂々とその場に居続け、そして……
セレス「フゥ、わたくしなんだか今日はあまり食欲がありませんわ。デザートは先生に差し上げます」
K「!」
桑田「え、マジで? じゃあ俺に……」
セレス「この中では西城先生が一番大きいでしょう?」
朝日奈「さくらちゃんも大きいよ!」
大神「…………」
苗木(えっと……)
桑田「へっ、育ち盛りの食欲なめんな」
大和田「おい、待てやゴラ。ここはじゃんけんだろ」
石丸「ウム! じゃんけんが一番公平でいいな!」
不二咲「僕も参加していいのかな……?」
セレス「…………」
その時だった――
< ● > < ● > カ ッ ! !
一同「」
セレス「わたくしは先生に差し上げると言ったのですが?」ニッコリィ…
桑田「お、おう……」
(怖っ!!)
106: 2014/12/04(木) 22:09:01.89 ID:DhYRkuRP0
不二咲(こ、怖いよぉ……)ブルブル
苗木(……セレスさん、目が全く笑ってないよ)
石丸(一体何が起こったと言うのだ……)
いつもは空気が読めない石丸ですら、不運にもセレスの真向かいに
座っていたため顔をひきつらせ少しのけぞっていた。
K「いいのか?」
セレス「……わたくし、勝負はフェアに行いたいので」ボソリ
K(一流故のこだわり、か。流石、高校生と言えど超高校級の肩書きは伊達ではない)
K「ならば、有り難く頂戴するとしよう」フッ
セレス「次は負けませんわよ?」ニコリ
ちなみにセレスは次の日もきっちり同じことをしたのだが……
葉隠「セレスっち、K先生にばっかあげてるべ。もしかして、先生のことが……」
セレス「それ以上言ったらその髪全部引き抜くぞ、ウニィィィ!!」
葉隠「ヒィィィ、勘弁してくれ~!」
K「…………」
苗木「えっと、何かあったんですか?」
K「まあ、ちょっとな」
朝日奈「もしかして、セレスちゃんて先生のこと……」
K「いや、それはない。それだけはない(断言)」
危うく少し噂になりかけたが、セレスに限ってそれはないという結論になりあっさり鎮静化したのだった。
110: 2014/12/06(土) 23:11:16.37 ID:bG7RJr3r0
◇ ◇ ◇
夕食を食べ、食後に生徒と適度に遊び校舎と寄宿舎を見回る。
久々にそんな平和な一日を過ごして、あとは一っ風呂浴びて寝るだけだな、とKAZUYAは大浴場に入った。
そして風呂からあがった時、同じタイミングで大和田がサウナから出てきたのである。
「お、KAZUYAセンセイじゃねえか」
「一人か? 珍しいな」
「いや、最初は兄弟と入ってたんだけどよ。病み上がりだろっつって早めに出させた」
「正解だな。あいつは放っておくとすぐに無理をする」
「風紀委員のくせに手ェ掛かるよなー、まったく」
並んで服を着て、雑談をしながらシャコシャコと歯を磨くKAZUYAと大和田。
二人共筋肉質で体が大きいので、歳の離れた兄弟に見えなくもない。
「あ、そうだ! センセイに見せてえもんがあるんだ。ちょっと俺の部屋に来てくれよ」
「ん? 見せたいもの?」
妙にご機嫌な大和田に連れられ、KAZUYAは大和田の部屋に向かった。
― 大和田の部屋 PM9:44 ―
「……汚いな」
不良の部屋が綺麗な方がおかしい気もするが、不二咲を入院させた時に一度綺麗にしたはずだ。
しかし今、大和田の部屋はやけに汚くなっていた。あちらこちらに物が散らばっている。
「しゃあねーだろ! 実は昨日、兄弟と不二咲と桑田と苗木が俺の部屋に泊まったんだよ。
今日も丸一日兄弟に付き合わされてたし、片付けるヒマがなかったんだ」
「そうか」
そう言いながら、大和田は散らばった物を拾って片付け始める。
素で部屋が汚い桑田よりはマシかもしれない。
111: 2014/12/06(土) 23:24:50.81 ID:bG7RJr3r0
「それで、見せたいものとは?」
「これだよ、これ!」
視界には入っていたが、そこには作りかけの何かがあった。
「棚か?」
「おう! 道具は倉庫から持ってきてよ、材料はモノクマに持ってこさせたんだ。
初めてだから色々四苦八苦してるけど、物を作るって案外楽しいもんだな」
「フフ、良かったじゃないか」
部屋をよく見回すと、確かに工作に使う道具や材料が散乱している。机の上には
『初めての工作』、『誰でもできる!DIY入門』など専門書が色々と置いてあった。
「ちゃんと勉強してるんだな」
「ああ。ちゃんとセンセイに師事できる兄弟と違ってこんな所じゃ弟子入りする
相手もいねえし、あんまり我流でやりすぎても良くないからな」
「俺の知り合いに建設業を行っている者がいる。お前のように元荒くれ者達だ。今度紹介しようか?」
「おう、頼むぜ。高校卒業したらすぐに弟子入りさせてくれ」
「卒業後すぐにか。お前、大学には行かないのか?」
「……行こうにも、俺は頭わりぃしなぁ。今から勉強したってどうせムリだろ」
大和田はサラリと言ったつもりだったが、一瞬だけ見せた苦い表情をKAZUYAは見逃さなかった。
「お前、本当はみんなと同じように大学に行きたいんじゃないか?」
「……そりゃあ、行けるなら行きてえよ。でも今から勉強したって間に合わねえし、
うちは金の余裕もないからな。俺の頭でバイトと勉強両立させるのは厳しいだろ?」
「確かにな……フム」
112: 2014/12/06(土) 23:32:00.94 ID:bG7RJr3r0
大和田はそれを同意の言葉と解釈したが、さほど間を置かずにKAZUYAは続けた。
「――将来返す気があるなら、金は俺が工面してやってもいいぞ」
「は? おい……それマジで言ってんのか?」
「嘘を言ってどうする。俺ならそのくらい簡単に稼げるしな」
「いや、おかしいだろ。いくら生徒だからって、なんでそこまで……!」
「誰にでもしてやる訳ではない。お前なら真面目に返してくれそうだと思ったからだ」
「…………」
二人の視線が交錯する。先に視線を外したのは大和田だ。
「いや、でも……やっぱムリだ。そこまでやってもらっても
俺の頭じゃ結局大して役立てないだろうし、行くだけ時間の……」
「そう言ってまた逃げるのか?」
「逃げる? 俺は別に逃げてるワケじゃ……」
「この俺が保証してやるが、お前は馬鹿なんかじゃない。今までやってこなかっただけだ」
「……!」
「だから、ちゃんとやり直せばある程度までは行ける。何も医学部に行けと言ってる訳じゃないんだ。
大工だってな、今時は設計とか建築学とか色々知っておいた方がいいんだぞ?」
「んなこと言ってもよぉ、俺はなにがわからないのかもよくわからないレベルなんだぜ?」
「自分だけでは無理なら人に教えてもらえ。ここには勉強を教えてくれる友達がたくさんいるだろう?
どうせ閉じ込められてやることもないのだし、みんなで勉強すれば有意義に過ごせるじゃないか」
「やけに押してくるな……」
113: 2014/12/06(土) 23:43:39.19 ID:bG7RJr3r0
「人間はな、人生で一度は真剣に勉強したと言う経験があった方がいいんだ。時々、数学は
大人になっても使わないから勉強しても無駄などと言う者がいるが、普段やらないことを
やることで発想力を磨いたり忍耐力を鍛える。無駄な学問など存在しない!」
「前から思ってたけどよォ。あんたってホント説教くせーよなぁ、センセイ」
以前だったら聞く耳を持たなかったばかりか逆上していたであろう大和田は、頬を掻きながら苦笑した。
「まあ、この歳でやっと説教の有り難みってやつがわかってきたというか、
……そんだけ俺のこと真剣に考えてくれてんだろうけどさ」
「親や教師が散々言ってきただろうし、あまり俺がでしゃばるのも良くないとは
わかっているんだが、ついつい言いたくなってしまうな。お前も大人になればわかるよ」
「……俺の親や担任はほとんど言わなかったけどな」
「言わなかった……?」
「うちの親はテメエのことしか興味なかったし、学校のヤツらは俺にビビってなにしても
見て見ぬ振りだ。ま、そんだけ俺が手のつけらんねえワルだったってこったろ」
「呆れた大人達だ……」
「センセイが変わりモンなんだよ。フツーのヤツは、そんな熱心に他人を
助けようなんて思わねえ。よくお節介って言われねえか?」
「……確かに言われるが」
「気にかけてくれるのは嬉しいけどよ。みんながみんな耳を貸してくれるとは限らねえ。
センセイも、人のことばっかり気にして足元すくわれないようにした方がいいぜ」
その言葉にKAZUYAは思わず溜め息をついた。
114: 2014/12/06(土) 23:58:57.85 ID:bG7RJr3r0
「寂しい世の中になってしまったな。……昔はそうでもなかったのだが」
「あんた、歳いくつだよ……」
十数歳しか離れていないはずなのに、今だけは何故かKAZUYAが壮年の男に見えた。
「ただ、そういう風潮が増えてきたのは事実かもしれないが、まだまだ世間は
捨てたものじゃない。加奈高はとても荒れた学校だったが、熱心な先生が何人かいてな。
ほとんどの生徒はちゃんと更正して、卒業後は真面目に働いている」
「センセイも加奈高のヤツらから慕われてたんだろ?」
「まあ、な……」
目に浮かぶのは別れの光景――
『センコォー! 待ってくれよォー!』
『俺達はあんたに……ずっとここで……!!』
ガッシャーン!
追いすがる生徒達を拒絶するかのように、KAZUYAは校門を固く閉ざした。
『この門は――境界線だ』
そう。KAZUYAは彼等を振り切って加奈高から去った。生徒達を危険な目に遭わせないために……
(……元気にしているかな)
懐かしい気持ちに浸りながら、二人はその後しばらく談笑した。
大和田の頭脳が少し上がった。パワーと度胸が上がった。器用さがかなり上がった。
138: 2014/12/11(木) 21:44:51.71 ID:TCh3mtdO0
― コロシアイ学園生活三十二日目 保健室 AM9:02 ―
翌日、保健室には苗木、桑田、石丸、大和田、不二咲、舞園の六人がいた。
K「石丸はまだ病み上がりだから本当はあまり無理をさせたくないが、いつまた黒幕が
何かを仕掛けてこないとも限らん。そして、俺は必ず現場にいる訳ではない」
K「故にいよいよ本格的に実技を指導していこうと思う」
石丸「おお、実技ですか! 僕のことは気にせずやりましょう!」
桑田「それはいいんだけどさ……」
大和田「なんで俺達まで呼んだんだ?」
K「俺がまず教えたいのは気道の確保だ。呼吸が止まったら人間はすぐに氏んでしまう。
そのためにも気管挿管がすんなり出来るようになってもらいたい」
苗木「でも、ここって練習のために使うような模型とかありませんよね?」
K「一応倉庫のガラクタでそれらしい物を作ってみたが……市販の模型とは比べ物にならんな」
KAZUYAは灯油ポンプやホースを組み合わせて何とか模型を作ってみたが、
感触が全く違うので手順の確認くらいにしか使えないだろうと考えていた。
舞園「……頑張ったと思いますよ」
不二咲「じゃあ、どうするのぉ?」
K「まあ、模型も所詮は模型だからな。実際に人間で練習するのが一番確実だ」
桑田「おいおいおいおい……ちょーっと、イヤな予感がしてきたんだけど?」
K「お前達……悪いが、協力してくれないか? 絶対に事故が起きないようにするから」
大和田「マジかよ……」
139: 2014/12/11(木) 21:51:59.49 ID:TCh3mtdO0
唐突な申し入れに驚いたのは申し入れされた側だけではない。
苗木「えっ?! まさか桑田君と大和田君に被験者になってもらうってこと?!」
石丸「せ、先生! 流石にそれは……?!」
K「わかっているさ! 俺だって正直まだ早いと思っている。……だが、今後
何が起こるかわからん。俺がいつまでも面倒を見られるとは限らんのだぞ?」
最悪の事態……それはKAZUYAが黒幕により学園から排除される可能性だ。KAZUYAとしても
勿論そんなことを考えたくはなかったが、生徒のことを思えば考えずにはいられない。
不二咲「そ、そんなこと言わないでぇ!」
K「……今のは例えだが、何事も最悪を想定しておくべきだ。手遅れになってからでは遅い。
俺の体を使えれば一番いいんだが。そうなると誰も指導出来ないからな」
桑田「いや、いくらせんせーの頼みでもそれはちょっとムリだわ……悪いけどさ。
ほ、ほら! 俺ミュージシャン目指してっからノドは大事だし……」
大和田「…………」
K「そうか。いや、無理にとは言わん。大和田は?」
大和田「……それはどのくらい苦しいんだ?」
K「麻酔で眠らせるから痛みは一切ないはずだ」
大和田「なんだ。なら悩むまでもねえ! 俺はやるぜ。いや、やらせてくれ!」
石丸「きょ、兄弟……!」
桑田「え、ちょ、マジかよ……」
大和田「センセイの言う通りだ。今後、ずっとおんぶに抱っこってワケにいかねえだろ? ……それに、
俺は兄弟にはとんでもない借りがあるからな。兄弟の力になれるなら俺はなんでもやる」
140: 2014/12/11(木) 22:01:46.26 ID:TCh3mtdO0
石丸「うう、ありがとう兄弟……君の決意、僕はけして無駄にしないぞ!」
桑田「お前、言ってることはかっけーけどめっちゃ顔青いからな?」
大和田「う、うるせー!」
大和田(ホントはこえーに決まってるだろうが!)
苗木「あれ? でも麻酔って温存しないといけないから普段は使えないんじゃなかったっけ?」
舞園「麻酔が使えないから石丸君の顔の傷も治せないんですよね?」
K「今回は体を切ったり縫ったりする訳ではないから針麻酔を使用する」
石丸「は、針麻酔ですか?」
シャキーンと効果音が付きそうな感じで、いつの間にかKAZUYAは大きな針を構えていた。
K「俺は針麻酔が得意でな。簡単な手術なら大体これで対応出来る」
苗木(どこから取り出したんだろう……)
大和田(あの腕のカバーから出したのか? 頃し屋かよ……)
桑田(ヤベェ、頃し屋だ。頃し屋がいる……)
不二咲「確か、それで石丸君を眠らせたりもしていたよねぇ」
石丸「何と?! 西城先生は本当に人体を知り尽くしているのですね!」
K「……フン、そもそも俺を内通者と疑うのが間違いだったのだ。俺だったらお前達には絶対にわからない
方法で容易く人を殺せるし、その罪を誰かに被せる方法も片手の指では足りないくらい簡単に浮かぶ」
K「医学を極めるとはそういうことだ――!」ギロッ!
「…………(敵じゃなくて本当に良かった)」
141: 2014/12/11(木) 22:08:03.36 ID:TCh3mtdO0
K「石丸の傷といえば……実は、幸いなことに化学室にキシロカインがあってな」
キシロカイン:キシロカインは商品名で成分名は塩酸リドカイン。主に部分麻酔に使われる。
K「これで顔の傷は治せる。ただ、傷が大きいから施術時間がかかるしその間に黒幕が何か仕掛けてくる
可能性もある。あと、折角なら形成専用の糸でしっかり直したいと考えているが、どうする?」
石丸「特に緊急性があるという訳でもありませんし、麻酔はいざという時のために
温存した方がいいと思います! 脱出したら、その時は改めてお願いします!」
K「ウム。そう言ってもらえると助かる。それでだが……」
不二咲「あ、あの……」
話を戻そうとしたKAZUYAの声を遮ったのは、意外にも不二咲であった。
不二咲「あ、あの、被験者なんですけど……僕もやります!」
K「えっ」
桑田「ハァ?!」
苗木「不二咲君?!」
大和田「なに言ってやがんだ?! オメエまだ病み上がりだろ!」
不二咲「で、でも僕だって役に立ちたい! 僕が協力して二人がレベルアップ出来るなら……」
舞園「なら、私がやります」
不二咲「えぇっ?!」
苗木「ま、舞園さん?!」
石丸「本気かね?!」
桑田「なに言ってんだよ?! お前アイドルだろ!」
舞園「西城先生が監督してくれるなら大丈夫です! 痛みもないそうですし」
142: 2014/12/11(木) 22:14:36.79 ID:TCh3mtdO0
K「いや、気持ちは有り難いがまだ駄目だ。不二咲は弱っているし、舞園も女性だから
首が細い。いくら俺が見ているとはいえ万が一のことがあったら困るからな」
舞園「でも、大和田君に二人分任せるのは……」
大和田「俺は平気だ。気にすんな」
その時、扉が開いて朝日奈と大神が入ってきた。
朝日奈「ヤッホー! 遊びに来たよー!」
「…………」
朝日奈「……あれ?」
大神「何かあったのか?」
K「あったと言うか、これからするのだが……」
二人に事情を説明する。
朝日奈「すごいね……そんなことまでやっちゃうんだ……」
大神「……本格的だな」
K「コロシアイが起こらないことに痺れを切らした黒幕が何をするかわからないからな」
朝日奈「そうだね。また不審者が現れたら怖いし……それにしても、
二人とも本当にお医者さんになるんだ! 頑張ってね!」
石丸「ウム、ありがとう!」
苗木「う、うん」
苗木(どうしよう……知っておいて損はないというか、単にここまで来て
引き下がれないというか。本当は何となく流されてるだけなんて言えない……)
143: 2014/12/11(木) 22:21:57.23 ID:TCh3mtdO0
大神「被験者は大和田一人なのか?」
大和田「ああ。不二咲と舞園も手伝ってくれるっつったんだけどよ、二人とも首細いしな」
K「俺がもう一人いれば俺の体を使えたんだが……」
大神「……我が手伝うか?」
朝日奈「え?! さくらちゃん、本気?!」
石丸「気持ちは有り難いが、僕達はまだ初心者だ。上手くなってからの方が……」
大神「我の首なら問題ないと思うが」バーン!
「…………(確かに)」
大神「大和田一人で二人分は負担が大きいだろう?」
K「ま、まあそうだが……」
大和田「……だ、ダメだ! 女子にやらせるワケにはいかねえ!」
石丸「よく言った、兄弟!」
朝日奈「そ、そうだよ! さくらちゃんも女の子なんだから!」
大神「しかし……」
桑田「……ああああ、わかったよ! やるよ! やればいいんだろ、こんちきしょー!」
不二咲「桑田君、大丈夫? ミュージシャン目指してるのに……」
桑田「せんせーが見てんなら大丈夫だろ。……ホント、マジで頼むぜ?」
頭を抱え項垂れている様子から、心底嫌なのがわかる。
K「……すまん。お前の善意、無駄にはしない。俺が徹底的に指導する」
桑田「あ、あと俺をやるのは苗木だぞ! 石丸は不器用だからぜってーヤダ! マジでムリだから!」
石丸「ムムム……」
144: 2014/12/11(木) 22:28:53.60 ID:TCh3mtdO0
大和田「ったりめーだ! 兄弟は俺が受け持つぜ!」
石丸「兄弟……」
K「よし。まずはもう一度入念に手順を確認する。頭に叩き込んだら実践だ!」
・・・
桑田「いよいよか……」ドギマギ
K「その前に、これにサインしてくれないか?」
桑田「……え?」
K「本来は家族を呼んできっちり説明を行った上で同意書にサインを書いてもらうのだが、
ここにはいないからな。とりあえず同意書を作ったから、お前のサインだけでももらう」
桑田「」
苗木「……わざわざ作ったんだ、同意書」
K「形式は大事だ」
KAZUYAの手書きの同意書には、問題が起こった場合の法的責任は全て監督者の
自分一人であり、生徒二人の責任を問わないと言う旨が書かれていた。
大和田「要は失敗しなきゃいいんだろ!」
朝日奈「そうそう! ガンバレガンバレ!」
桑田「あー、うるせー! 黙って見てろよ!」
K「それじゃあ、ベッドに横になってくれ」
桑田「な、なあ? 針麻酔ってどんな感じ? すぐ眠れんの? 痛くねーよな?
そもそも俺麻酔とかマジ初めてなんだけど、どんな感じだよ?」
舞園「大丈夫です。案外すぐに眠れますから!」←経験者
石丸「ウム、気が付いたらぐっすりだ! グッドナイトだぞ、桑田君!」←経験者
桑田「マジかよ……嘘だったら恨むからな」
145: 2014/12/11(木) 22:35:11.45 ID:TCh3mtdO0
K「ちなみに、万が一施術中に麻酔が切れても絶対に暴れるなよ? 器具が
気道を突き破ったら大変だからな。その時は脱力したまま片手を挙げろ」
桑田「え、ちょ、なに……今めっちゃ不穏なこと聞いたんだけど……」
K「大丈夫だ! 俺を信じろ!」
朝日奈「男でしょ! 弱音吐かない!」
不二咲「頑張って、桑田君」ギュッ
舞園「私達も応援してます」ギュッ
桑田「これ、本当ならすげーおいしいポジションなのに今はそう感じねーわ……」
K「グダグダ言うな。行くぞ!」プスッ!
桑田「う…………」
桑田「…………」ガクッ
K「よし、落ちたな」
苗木「はやっ!」
石丸「お、おおおおおおおお!」
朝日奈「すっごーい!」
大和田「マジかよ……」
大神「ムム……(凄まじい技術だ……)」
K「さて、準備はいいな。苗木?」
苗木「は、はい(……覚悟を決めよう)」
気管挿管術とは――
口または鼻から喉頭(こうとう:ノド)を経由して気管にチューブを通し、気道を確保する方法である。
今回KAZUYAが苗木と石丸に伝授しようとしているのは、一般的に第一選択となる経口挿管法だ。
大まかな手順としては①まず開口し、②鎌のような形をした器具・喉頭鏡(こうとうきょう)の湾曲部を
喉頭蓋まで挿入、③喉頭蓋を持ち上げ喉頭を展開し、④声門からチューブを挿管、⑤位置を調整し固定する。
喉頭蓋:こうとうがい。声門のやや上にあり、物を食べる時は気管にフタをするように動き誤嚥を防いでいる。
気管挿管時は喉頭蓋が邪魔になってチューブを挿入できないため、まずこの喉頭蓋を喉頭鏡を使って
上に引き上げ(喉頭展開と呼ぶ)声門を露出させる作業が必要となるのである。
喉頭鏡:こうとうきょう。一見すると小型の鎌のように見える。曲がっている部分はブレードと呼ぶが、
鎌と違い刃はついていない。ブレードの横には奥を照らす電球や、邪魔な舌を載せておくための
水かきと呼ばれる部分がある。気管挿管ではこの喉頭鏡を使い喉頭を展開する。
146: 2014/12/11(木) 22:44:58.75 ID:TCh3mtdO0
苗木「まずはクロスフィンガー法で口を……う、開かない……?!」
クロスフィンガー法:親指を上の歯、人差指を下の歯に当てて指を交差するように開口させる方法。
K「緊張で歯を食いしばっていたからな。こういうことはよくある。顎を外さない程度に
思いっ切りやれ。下顎を前につきだして受け口にすると開きやすくなるぞ」
苗木「はい。えっと……」
石丸「苗木君、ガンバだ!」
朝日奈「がんばれー!」
苗木「…………(そんなにジッと見られると緊張するんだけど)」
・・・
苗木「先生、喉頭蓋が見えません!」
K「頭の後ろに枕を引き、もっと顎を上げろ。人工呼吸で気道確保をやっただろう? 角度が大事なんだ」
石丸「スニッフィング・ポジションだ、苗木君!」
sniffing position:匂いを嗅ぐ時の鼻を突き出した姿勢のこと。
苗木「よし、見えた。これが喉頭蓋? えっと、どこに引っ掛ければ……」
K「最初は手を貸す。先程図を描いて教えたと思うが、喉頭蓋に直接引っ掛けるのではなく、
喉頭蓋根元の上部を狙って差し込み、こう持ち上げるんだ!」グイッ
苗木(ひぇー!)
声にならない悲鳴をあげている苗木とは逆に、KAZUYAは慣れているので至極冷静だった。
K「見えたな? ほら、これが声帯だ。折角だからお前達も見ておくといい」
舞園「これが桑田君の声帯なんですね……」
大神「フム、こうなっているのか。なかなか綺麗なものだな」
K「まだ若いし、酒もタバコもやってないからな。みんなも大体こんな感じだろう」
石丸(ちゃ、ちゃんとよく見ておかねば……!)ジーーーッ!
大和田(俺もこんな感じでこいつらに見られるんだろうな……)ハァ
147: 2014/12/11(木) 22:54:19.16 ID:TCh3mtdO0
・・・
そして、色々細かいミスはあったものの特に大きなトラブルはなく終了する。
苗木「ハァ~……」グッタリ
K「……少し疲れたな。休憩を挟んだら次は石丸の番だ。とりあえず桑田を起こしておいてくれ」
舞園「桑田くーん、起きてくださーい」ユッサユッサ
不二咲「終わったよぉ」ユッサユッサ
桑田「……ふわ~あ。ん、もう終わったのか? なんだ、ビビるほどじゃなかったな」
K「喉に違和感はないな?」
桑田「んーと、大丈夫だ。ま、せんせーが見てたし」
石丸「お疲れ様だぞ!」
朝日奈「すごかったよ!」
桑田「え、なに? どんな感じ??」
大和田「……器用な苗木も結構苦戦してたぜ」ガタガタ
苗木「やっぱり、実技は難しいよね……」
石丸「い、今から緊張して震えてきたぞ……! これは武者震いだ! 克服せねば!」プルプル
大和田「」
K・苗木「…………」
桑田「あの、大和田に氏相が見えるんですけど……」
そして、とうとう石丸の番が来てしまった。
大和田「だ、大丈夫か……? 本当に大丈夫なんだろうな?!」
K「安心しろ。慣れるまでは俺があいつの手を掴んで文字通り手取り足取り教える」ボソッ
大和田「頼むぜ……? 喉を突き破るとかホントに勘弁してくれよ……」
K「……細心の注意を払うことを約束しよう」
148: 2014/12/11(木) 23:03:47.83 ID:TCh3mtdO0
石丸「うおおおおおおおお。緊張するぞおおおおおおおおお!」
不二咲「お、落ち着いてやれば大丈夫だよ!」
朝日奈「深呼吸深呼吸!」
大神「……こっちに来い。脱力するツボを押してやる」
舞園「わ、私……もう見ていられませんっ!」
桑田「俺もだよ……」
苗木「僕、先生の補助に回るね……」
実際困難を極めた。
K「馬鹿者! 本番ならいざしらず練習だぞ! もっと優しくやれ! 顎を外す気か?!」
石丸「は、はい!」
大和田「」コヒューコヒュー
K「ブレードに舌が乗り切っていない! はみ出ているぞ!」
石丸「すみません!」
・・・
K「いいか? 絶対勝手に動かすなよ。絶 対 勝 手 に 動 か す な よ !」
石丸「はい……」プルプル
石丸が勢い余って気管を傷つけないように、KAZUYAはガッチリとその手を掴んでいる。
桑田「あのせんせーがさっきから同じことばっか言ってるぜ……」ヒソヒソ
大神「そのくらい気を張っているのだろう……」ヒソヒソ
朝日奈「大丈夫なのかな……?」
149: 2014/12/11(木) 23:14:53.30 ID:TCh3mtdO0
・・・
K「馬鹿者! テコの原理は使うなと言ったろう! 歯を支点にしたら前歯が折れるぞ!」
石丸「す、すみません!」
※歯が折れるのは勿論良くないが、折れた歯が気道に入ると本当にシャレにならない事態になるので注意が必要。
不二咲「大和田君、たとえ前歯が全部なくなっても僕達は友達だからね……」グス
舞園「親友のために体を張ったあなたの勇姿を忘れません……」
苗木「やめてよ! 縁起悪いよ!」
・・・
K(やっと声門が見えた。ここに来るまでに苗木の二倍の時間がかかっている……)
石丸「声門が見えたら、チューブを挿入してカフに空気を入れて気管に固定、それから……」ブツブツ
K「待て! 声門を通過したらすぐにスタイレットを抜け! 万が一折れたら気管支の中に落ちるからな」
カフ:チューブの先の方に付いているバルーン。チューブがズレないよう、カフを膨らませて気管に固定する。
スタイレット:stylet。挿管チューブの形状を保つために、チューブの中に入れる金属の棒。
苗木「僕がやります!」
K「俺は手が塞がっている。頼む……」
・・・
ゼーハーゼーハー……
K「……大和田には悪いが今の手順をもう一度行うぞ」
石丸「は、はい……少しでも早く身につけるように僕も頑張ります……」
大和田「」グッタリ
桑田「大和田……ガンバ」
K(あまり大和田にばかり負担はかけさせられんな。気は進まないが、
もう少し慣れたら大神に協力を頼んだ方が良いかもしれん……)ハァ
150: 2014/12/11(木) 23:29:19.24 ID:TCh3mtdO0
三十分後。
大和田「あー……」
K「調子はどうだ?」
大和田「少しノドがイガイガするような……あと、なんだ。心なしかダルいっつーか……」
K「……それは恐らく精神的なものだろう」チラ
石丸「…………」
大和田「まあ、大丈夫だったみてえでなによりだ。意外と平気なもんだな」
桑田「えーっと、うん。お前、ほんとよくガンバったよ……」
朝日奈「お疲れさま」
舞園「ゆっくり休んでくださいね」
苗木「石丸君、元気だして……」
石丸「…………」グスッ
不二咲「次はきっと上手く行くよぉ……」
大神「諦めたら今までの分も無駄になるぞ」
石丸「…………」コク
大和田「なんだ、失敗して落ち込んでんのかよ? 俺が何度でも手伝ってやるから心配すんなって!」
石丸「きょ、きょうだいぃ~!!」ブワッ!
苗木(……あの惨状を見てなかったからこそ言える言葉だよね)
K(俺の指導が悪いのだろうか……何か、だんだん自信がなくなってきたぞ……)
散々な結果を残しながらも、本物の人体に行った最初の医療実習は幕を閉じたのだった。
K「ちなみに、通常だと30症例こなさねばならんからあと29回これをしてもらう必要がある」
苗木・石丸「」
K「15人しかいないから、一人最低二回と言った所かな。まあ、少ない人数ながらここには
色々な体格の人間が揃っているから、数さえこなして慣れれば何とかなるだろう」
K「……まあ、頑張ってくれ」
苗木(これをあと29回もしなくちゃいけないのか……トホホ)
石丸(医の道は険しいな……)
前途多難な二人であった。
158: 2014/12/17(水) 21:15:25.29 ID:Lx6/+Yo70
― 自由行動 ―
(フゥ……つ、疲れた。精神的に疲れた……。だが、今日も腐川の所へは行かねばならん……)
KAZUYAが腐川の部屋のインターホンを鳴らし、どうせ開かないだろうと鍵を取り出した時だった。
カチャリ。
「……来たわね」
「腐川?」
腐川は自ら扉を開きKAZUYAを部屋に招き入れた。
「フ、フフ……そろそろ来る頃だと思っていたわよ」
「俺を待っていてくれたのか?」
「べ、別にそんなんじゃないわよ……! ただ、昨日は本の感想を聞きそびれたから……」
「ああ、そうだったな」
いつもは立ち話だが、その日初めてKAZUYAは椅子に座って腐川と向き合った。
そして、読んだ小説の中でKAZUYAが特に印象強かったシーンや描写について語っていく。
「普段あれだけ熱苦しいくせに、ハッピーエンドより悲恋物を好むなんてちょっと意外ね……」
「……まあ、俺も色々あってな」
「な、なに? 自慢? そうよね……! 何せあの帝都大学首席の超国家級のお医者様で
背も高いし、顔もまあ……並の上くらいはあるし、さぞかしモテてきたんでしょうね……!」キィィ!
「いや、そんなことはないぞ!」
「ア、アタシだってねぇ! 基本は妄想かもしれないけど、一度くらいはデートしたことあるのよ?!」
「そうか、良かったじゃないか」
「……そうよ。生まれて初めて誘われて、三日三晩徹夜でデートコースを練ったわ!」
(徹夜……)
159: 2014/12/17(水) 21:27:21.99 ID:Lx6/+Yo70
誇張ではなく本当に徹夜してそうな所が怖い。
「うふふ、私の恋愛妄想歴から映画が良いという結論になったのよ! 万が一話が
盛り上がらなくても映画なら会話に困らないし、観た後は感想とかを話し合えるしね」
「フム、成程。ちゃんと考えているものだな。デートの場所なんて考えたことがなかった」
「な、なにその投げやりな感じ?! こっちは命を懸けて考えてんのよ?! 馬鹿にしてんの?!」グギギ!
「あ、いや違うんだ! その……」
「好きな相手とだったらどこで何をしても楽しいのではないかと思ってな」
KAZUYAはただ思ったことをさらりと言っただけだったが、腐川は引きつった顔で黙り込む。
「…………」
(不味いな……また地雷を踏んだか?)
「それで、何を観たんだ? そもそも、君はどんな作品が好きなんだい?」
慌てて話を戻すと、何とか腐川は気を取り直して質問に答える。
「ほら、男はダイナミックなアクション映画が好きでしょ? だから名画座に鈴木清順特集を見に行ったのよ」
「ほぅ。鈴木清順が好きなのか。なかなか良い趣味をしているじゃないか。流石作家なだけあるな」
「清順美学がわかるの?! 何てことなの……ただ勉強が出来るだけのマッチョかと思えば
私の小説の良さがわかったり鈴木清順が好きだったり、意外と芸術センスあるじゃない……!」キィィ
「…………(勉強が出来るだけのマッチョ……)」
この子はどうしていちいち発言に棘があるのだろうかと頭を悩ませながら、KAZUYAは話を続けた。
「……しかし、驚いた。今時、鈴木清順を好きな子がいるなんてなァ」
「どういう意味よ……?」
「え? いや、少し言いづらいが……今の子にああいったものは受けないんじゃないか?
退屈というか理解出来ないというか、もっと言うとつまらなく感じてしまうと思うのだが」
160: 2014/12/17(水) 21:36:21.87 ID:Lx6/+Yo70
「はぅあっ?!」
「?! すまん、悪く言うつもりはなかったのだが……!」
また腐川を怒らせてしまったかと焦るが、腐川が見せた感情は怒りではなく悲しみだった。
「そう、そうだったの……薄々気付いてはいたけど、やっぱりそれが原因だったのねぇぇ!」ボロボロボロ…
「どうした……?!」
突然おいおいと泣き出す腐川に面食らったKAZUYAは訳がわからず狼狽する。
「え、映画……映画を観ている時、ふと横を見たら彼がいなくて……
トイレかと思ったら、結局そのまま戻ってこなくて……」
(帰ってしまったのか……)
「私のチョイスが悪かったのね……だから……ううぅ」
「いや、君は悪くない! いくら気に入らない映画でも、声も掛けずに一人で帰るなど言語道断だ!」
「違うのよ。違うの……そもそもデートなんかじゃなかった……」
「デートじゃなかった?」
「後から知ったんだけど……アタシを誘ったのは罰ゲームだったんだって……」
(最悪だ……)
目眩がしてきた。
161: 2014/12/17(水) 21:49:26.12 ID:Lx6/+Yo70
言葉を失うKAZUYAとは反対に、腐川は当時を思い出したのか声をあげて泣いている。
とりあえずハンカチを差し出し、KAZUYAは腐川の肩に優しく手を置いた。
「ほら、涙を拭いて。そんな最低な輩のことなんて忘れてしまえ!」
「ふぇぇええええええん!」
しかし一向に腐川は泣き止まない。
「そ、そうだ! 今度は俺が一緒に観てやろう。俺はちゃんと最後まで付き合うから……!」
「ひぇえええっ?!!」
「」ビクッ
突然ガバッと顔を上げた腐川にKAZUYAはギョッとする。
「そ、そ、それ……本気なの……?! 一緒に映画ってつまり【デェートの誘い】ってこと?!」
「えっ」
「あう……そ、そんな訳ないわよね……私みたいなブスを、あんたみたいな人気者の
先生が誘ってくれたりなんて……きっと、また前みたいに罰ゲームなんだわ……!! ううぅ」
「あ、いや、その……」
1.控えめにデートだと言う
2.デートだと認める
3.男らしくデートに誘う
4.デートなんて何年ぶりかなと言う
5.それは違うぞ!
直下
163: 2014/12/17(水) 22:13:26.52 ID:Lx6/+Yo70
「それはちが……!」
「…………」ジィィィーッ!!
涙と鼻水と唾液まみれで壮絶な顔をした腐川が、壮絶な目で一心にKAZUYAを見つめている!
「あ、ええと、その、だな……」
(言えない……)
心優しいKAZUYAは、傷ついた少女を裏切ることが出来なかった。
「まあ、そんなようなもの……か?」
「本当なの?! 本気で言ってるの?! ……う、生まれて初めてデートに誘われたわぁ……!
初めては白夜様って決めてたけど、女としてここまで言われて断る訳には行かないわね!!」
「……あ、うん」
「ま、任せなさいよ。今度こそ完璧なデートプランを練ってみせるわ……!!
今度はちゃんとあんたの好みを事前に調べておくから安心しなさい!」
「期待しておくよ……」
勢いで何故かデートをする羽目になってしまったが、このお陰で腐川はすっかり元気になった。
(まあ、これで元気になるのなら安いもの……)
「ひゃぁぁっ?!」
「……今度は何だ?」
「さ、触られてる?! アタシ、男に体を触られてる……?!」
腐川は今更ながらKAZUYAが自分の肩を触れていることに気が付いた。
「あ、嫌だったか? 失礼っ……」
まずい、セクハラで訴えられるとKAZUYAは一瞬焦ったが、何故か腐川は感動していたようだった。
164: 2014/12/17(水) 22:23:32.02 ID:Lx6/+Yo70
「ア、アタシ……誰かに肩を抱かれるなんて……初めての経験だわ……!!」うっとり
(肩を抱く、まではやっていないのだが……)
「やっと……やっとアタシにも春が……」ダバダバ
「……えっと」
先程とは打って変わって嬉し涙を流す腐川の感情に翻弄され、KAZUYAはただただ沈黙する。
「……約束、忘れんじゃないわよ! 別に……少しも楽しみなんかじゃないけど……あ!
い、今のうそ……その、ちょっとだけ……本当にちょっとだけ……楽しみ、かも……うへへ」
「わかったわかった……」
(芸術家だけあって感情の振り幅が大きいな。その上……感情の一つ一つがとにかく重い!)
十神が何故腐川を避けているか少し理解出来てしまい、KAZUYAの心は複雑であった。
「あと、そろそろ外に出てきて欲しいのだが……」
「……明日から出るわよ。もういい加減覚悟も決めたし」
「! 本当か?!」
「嘘言ってどうすんの……」
「わかった。みんなにも伝えておく」
「あと、その、西城……」ゴニョゴニョ
「……うん?」
「何度も部屋まで来てくれて……ぁ、ぁりがと……」ボソッ
「すまん、もっとハッキリと……」
「とっとと出て行きなさいって言ってんのよ!!」
「では、また明日会おう!」
慌てて退散しようとしたKAZUYAのマントを腐川が掴んだ。
「ん?」
165: 2014/12/17(水) 22:31:10.76 ID:Lx6/+Yo70
「外に出たら……もうあんたはアタシになんて会いに来てくれないんでしょ……?
あんたは、医者だから弱ってる人間を放っておけないだけで……」
「腐川……」
パタン。
腐川の寂しげな顔を覆い隠すように、扉が閉まった。
(腐川は無事出てくれるようだ。これでこの件は解決と思っていい)
(……だが、これで終わりにして本当にいいのか?)
・・・
腐川の部屋を出ると、ちょうど大神に出会った。
「ム、腐川と会っていたのですか?」
「ああ、何とか説得出来た。明日からまた出てきてくれるそうだ」
「それはめでたい。めでたいついでに少し手合わせをしたいのですが、今朝の件でお疲れだろうか?」
「いや、後顧の憂いも絶てたし、久しぶりに思い切り動きたいと思っていた所だ。むしろ頼む」
― 体育館 PM1:43 ―
大柄な二人の靴底が床と擦れ、その度にキュキュッと小気味の良い音が周囲に響く。
「フンッ! クッ!」
「ぬぅぅん!」
ドンッ!
166: 2014/12/17(水) 22:45:28.54 ID:Lx6/+Yo70
「うおっ?!」
KAZUYAは途切れなく攻めていたが、その合間を縫うように大神の鋭い一撃が決まった。
「ハァ、ハァ……前より少しはマシになったかな?」
「西城殿は筋が良い。短期間で随分と動きにキレが出てきた」
「しかしまだまだ未熟なのは俺にもわかる。大神から見て俺に足りないのは
何だと思う? 一応医者だからな。スポーツ医学的に分析してみたい」
「足りないものか……やはり、身のこなしでしょうか」
「身のこなしか。動きが遅いと言うことか?」
「闘いにおいて最も重要なものは、力でも技でもなく速さと言って良い。どんなに優れた力や
技術を持っていても、当てられなければ意味がない。速さの次に技の正確さ、そして力が来る」
「西城殿は、力に関しては我をも凌ぎこのメンバーで最も強いだろう。技術もそこそこある。だが……」
「成程。俺はパワー偏重タイプで圧倒的に速さが足りないと」
「そうなります」
確かに、体の大きさはそこまで変わらないはずなのに、見た目に反し大神は俊敏であった。
KAZUYAもそこそこ反射神経には自信があるが、格闘家である大神と戦ってみると
どうにも動きがワンテンポほど遅れがちになっているのは薄々自覚していた。
「速さか……確かに、あまり考えたことはなかったな。手術に必要なスタミナのために
走り込みは行ってきたが、瞬発力を鍛えるトレーニングはあまりして来なかったかもしれん」
「西城殿なら言わずともわかるだろうが、下半身のバネや足裏の筋肉を意識して使うようにすると良いかと」
「ああ。瞬発力を鍛えるとなると、いわゆるプライオメトリックトレーニング……
反復横跳び、バウンディング、縄跳びなども有効か。とにかく体を動かすしかないな」
167: 2014/12/17(水) 23:02:23.03 ID:Lx6/+Yo70
プライオメトリックトレーニング(plyometric training):
筋肉を伸張させた後、すぐに収縮させることでパワーやスピードを上げるトレーニング方法。
ちなみに、ダンベルやマシンなどを使い、同じ動きを反復する通常の筋トレは等張性筋活動と言い、
アイソトニックトレーニング(plyometric training)と呼ばれる。
バウンディング:三段跳びのように、跳ねるような動きで走る練習法。高い効果が出るが脚の負担も大きい。
「ありがとう。もう一度頼んでも良いだろうか?」
「無論です」
言われた通り、KAZUYAは足裏と下半身のバネに比重を置きフットワークを意識しながら大神に挑む。
(たったあれだけの助言でこれほど見違えるか。この歳だから我を上回るということはないだろうが、
もしもっと若い時に我が道場に来ていれば、良い組み手相手になれたかもしれぬな……)
(だが、それは元より無理な話か。この男は我と同じ、一族の宿命に縛られている)
「クンッ!」バシッ!
「ぬおおっ!」
大神の足技が入り、KAZUYAが大きくバランスを崩す。だが、倒れる前に大神が腕を掴んで支えてくれた。
「呼吸が乱れ始めている。ここらで一度休憩しましょう」
「……すまない」
ドカッとKAZUYAは床に座り額の汗を拭った。
「フフッ、歳は取りたくないな」
そう言って笑いかけるKAZUYAに、大神は病に倒れたライバルの姿を見た。
168: 2014/12/17(水) 23:12:08.73 ID:Lx6/+Yo70
「……!」フイ
「どうかしたのか?」
「いえ……」
思わず大神は顔を背け、話を逸らすために先程考えていたことを語る。
「……惜しいな。西城殿程の素質があれば、色々とやれることはあっただろうに」
「そうだな。そんな道もあったかもしれないな」
「後悔はしていないのですか?」
「全くない訳ではないが、医者という仕事に誇りを持っている。今では感謝しているさ」
「左様ですか」
「君だってそうだろう? 武人であることに誇りを持っているように見えるが」
「誇りは持っております。後悔もしておりませぬ。ただ……」
「? ただ?」
大神は一瞬言い淀んだが、ボソリと独り事のように呟いた。
「……こんな姿の我にも、乙女心と言うものはあるのです」
「…………」
「…………」
大神の言いたいことを察し、KAZUYAは口をつぐんでただ天井を眺めた。
そのまましばし二人は無言になるが、沈黙を破ったのは大神だ。
169: 2014/12/17(水) 23:28:07.13 ID:Lx6/+Yo70
「余計なことを言った。今のは忘れて欲しい」
「…………」
聞いたことがある。大神は由緒正しい道場の跡継ぎとして生まれたが、女であるというだけで
無用な蔑みを受け、それらを跳ね退けるために人並み以上の修行を積んできた、と。
大神の隠したい秘密は中学の時の写真だった。年頃の少女だ。好きな人もいたのかもしれないし、
恋愛だって普通にしたかったのかもしれない。だが、一族の宿願である世界最強の称号を得るため、
彼女は女としての幸せを捨て生きてきた。その葛藤は男のKAZUYAには永遠にわからないものだ。
「……俺も一族が持つ宿命の重みと言う奴はそれなりにわかっているつもりだが、それでも
今まで君がどれほどの葛藤や苦悩を抱えていたかは、きっと半分も理解出来ていないだろう」
「…………」
「ただ、な……君の力は今まで多くの人を助けていたはずだし、これからもっとたくさんの人の
役に立てると思う。失ったものは少なくないかもしれないが、いつかそれ以上のものを得られるはずだ」
「宿命どころかちっぽけな義務すら背負えずに逃げ出す人間も多い中、自分の運命に
真っ向から挑んで乗り越えた君は本当に凄いし素晴らしい。……と俺は思う」
「…………」
「君の長い人生のうち、たった一月共に過ごしただけの男が言ってもさして重みはないかもしれないが……」
「いえ……」
大神は目を閉じ、大きく息を吐く。KAZUYAもそれ以上は話さなかった。
「……そう言ってもらえれば、我も救われます。さあ、続きを」
「あぁ」
その後しばらく、二人の熱い組み手は続いた。
191: 2014/12/23(火) 23:41:32.05 ID:f6LqqyTh0
◇ ◇ ◇
(なかなか良い汗をかいた。少し休もうかな)
(……そういえば、山田の原稿はどのくらい進んだのだろう)
KAZUYAは美術室に向かった。
― 美術室 PM3:49 ―
「おお、先生! 昨日の今日でもう僕の所に来るとは、さては原稿の続きが気になったのですかな?」
「まあ、そんな所だ」
「いやぁ、漫画に興味のない西城医師をここまで惹き付けてしまうとは、我ながらこの才能が恐ろしい!」
(本当は生徒達がモデルだから気になっているだけなのだが、それは黙っておくか)
「ずばり! 人気漫画には魅力的なライバルとヒロインが必要なのです!
更に、この作品はRPGがモデルですので個性豊かな仲間達も必要となってきますな」
「フム、ライバルか……主人公の苗木のライバルだから、性格は反対のタイプの方がいいな」
「この作品の場合、ライバル兼相棒みたいな感じなんですけどね。誰だと思います?」
「相棒なら……桑田かな」
「正解! 流石西城医師ですな。僕達をよく見ています。では、今出来ている所までどうぞ」
渡された原稿をKAZUYAは読み始める。どうやら、謎の人物に王女が拐われるシーンからのようだ。
???『ヒフミン王よ、サヤカ姫は貰い受けるぞ!』
サヤカ『お父様! 私のことは気にしないでください! どうか、世界を……!』
ヒフミン王『サヤカアアアアア! ……クッ! 勇者に、世界の命運を担う者に託すしかないか……』
山田「僕は王様にしました。体格的にも丁度いいでしょうし。時々現れては主人公にアドバイスをするのです」
K「成程。姫は舞園か。まあ妥当だな」
場面は変わり、家でのんびりしていたマコトが唐突に拉致られてお城に連れて行かれた所に変わる。
ヒフミン王『という訳で、サヤカ姫を救い出して欲しいのです!』
マコト『いや、何が?! 僕は勇者の子孫の隣の家に住んでただけですよ?!』
192: 2014/12/23(火) 23:49:20.85 ID:f6LqqyTh0
ヒフミン王『でもねぇ。その子孫も高齢で跡取りいないし、君の村少子高齢化で
君くらいしかまともな若者いないし。ここは引き受けちゃおうよ?』
マコト『イヤですよ?! 何でそんな投げやりなんですか?! よそから探せばいいじゃないですか!』
ヒフミン『なんで嫌がるの? 魔王倒したら姫と結婚出来ちゃうんだよ! ……ま、無理だろうけど』
マコト『本音出た?! 今思いっきり本音出たよね?!』
ヒフミン『ほら、あからさまな軍隊率いると魔王に警戒されちゃうし、ここは村人を
勇者ってことにして派遣して、陽動兼様子見みたいな? 策士、ワシってマジ策士w』
マコト『ふざけないでくださいよっ! カピバラ百匹分の大人しさと言われる
この僕も流石に怒りますよ?! ひっこ抜いて投げますか?!』
ヒフミン『わぁ、こわーい。衛兵ー!』
マコト『やめて、本当にやめて。いたいいたい! せめて武器かお金だけでも……!』
城門前。
マコト『放り出された……僕ってなんてツイてないんだろう……』
マコト『というか……え、嘘でしょ? 本当に武器もお金もなし? ケチだって
有名なドラ○エの王様だって50Gとかひのきの棒くらいくれるのに?』
マコト『家でポケ○ンやってる時にいきなり拉致られたからスウェットのままだし、というか
スウェットのまま王様の前に連れてくることに臣下の人は何も疑問を持たなかったの?』
マコト『帰ろうにもお金ないし武器もないし……もしかして詰んだ?』
1時間後。
マコト『街中のツボを覗いたけど薬草二個しか手に入らなかった……もう終わりだ』
???『そこのアンテナでスウェットのチビ! お前が姫様救出を任された勇者か?』
マコト『一応僕ですけど……えっと、誰かな?』
レオン『俺様の名前はレオン・クァーターだ!』
マコト『レオンって……まさか、赤毛の獅子?!』
193: 2014/12/23(火) 23:58:11.53 ID:f6LqqyTh0
マコト(田舎出身の僕でも知ってるぞ! 撃って良し切って良しの王都の天才戦士じゃないか!)
レオン『お、知ってるか。まあ当たり前だよな。俺有名人だしー。サインやろーか?』
マコト(うわ……めっちゃチャラくて嫌なヤツだった……)
レオン『って馴れ合ってる場合じゃねー! お前を倒して俺こそが姫に相応しい勇者だって王様に
認めさせんだ! 大体なんだよ。俺が行くって言ってんのにどいつこいつも邪魔しやがって……』
マコト(それは違うよ! 僕捨て駒だから! 多分君が本命で温存したいだけ。……教えないけど)
レオン『ってワケで勝負だ! 丸腰とかよほど腕に自信あるんじゃねーか。行くぞ!』
マコト『だから違うんだってばー!』
省略(憎たらしいけど腕は凄いレオンの鮮やかな攻撃がマコトをボロボロにする描写)。
マコト『』ボロッ
レオン『……え、お前マジで一般人なの? 一般人に攻撃しちゃったの俺??』
マコト『だから最初からそう言ってるのに……』
レオン『ッベー、マジでヤベー……あ、ほらこの剣ボロいけどやるよ。慰謝料ってことで200Gやるから
この件はなかったことにしようぜ。な? な? ハハハ……じゃあそういうことで!』ダダッ
マコト『ありがとう(……チャラいしいい加減そうだけど王様よりはいい人だった)』
・・・
マコト『何とか武器とお金は手に入ったし、これからどうしようか? とりあえず仲間を集めないと……』
???『災難だったわね、マコト君』
マコト『え、君は……?』
キョーコ『私はキョーコ。格好でわかると思うけど魔法使いよ。お城からあなたをずっと見てたわ』
マコト『え、今までの全部見てたの?! 恥ずかしいなぁ……』
キョーコ『王様からあれだけ酷い仕打ちを受けたのに、怒ったりサボろうとはしないのね?』
マコト『何も自慢出来ることのない冴えない僕だけど、前向きなのが唯一の取り柄なんだ。
お姫様を助けたいって気持ちはあるし、何が出来るかわからないけど何かしようと思う』
キョーコ『クスクス。面白いわね、あなた。……仲間を探しているなら西に向かいなさい』
マコト『本当? ありがとう!』
194: 2014/12/24(水) 00:10:04.89 ID:FKwSZVVX0
・・・
ハガクレ『よう、そこの兄ちゃん。占いしてかねえか? 今なら初回割引で5%安くしてやるべ!』
マコト『ごめん、今お金に余裕なくて……』
ハガクレ『なんだ、シケてんな。貧乏人に用はないべ』シッシッ
マコト(露骨過ぎだろ……)
その時、マコトが唐突にバナナの皮で足を滑らせ盛大に転んでしまう。
マコト『わあっ!』ツルッ、ズテーン!パリーン!
ハガクレ『ぬなああっ! 俺の水晶玉がああああっ?! 弁償しろ!』
マコト『えええええええっ?!』
???『アハハ! 今時バナナの皮で転ぶとか古典ギャグ決めるヤツいる? 間抜けな勇者もいたもんだね!』
マコト『え、なんでそれを……?』
???『知ってるよ。アタシは全部知ってる……』
マコト『それってどういう『うおおおおおっ?!』
ハガクレ『勇者ってマジか?!』
ハガクレ(勇者と一緒に旅をした占い師ってことで売り出せば大儲け間違いなし!
危なくなったり魔王城が近くなったら適当にバックれればいいべ!)
ハガクレ『俺は占い師ハガクレってんだ! なぁ、弁償するついでに俺を連れてけって。役に立つからよ』
ジュン『面白そー! アタシも行く行く! アタシは踊り子のジュンね。よろしくー』
ジュン(こいつと一緒に行けば色々と面白いものが見れそうじゃん? うぷぷ!)
マコト『え、えぇ?』
マコト(いきなり二人も仲間が出来たけど……なんか二人とも胡散臭いな……大丈夫なんだろうか?)
こうして、マコトは三人で旅を始めたのだった。
195: 2014/12/24(水) 00:22:07.77 ID:FKwSZVVX0
山田「最初は三人ですが、いきなりピンチになって桑田殿が乱入。以後は四人で旅をすることになるのです」
K「……しばらく桑田頼りになりそうだな」
山田「そこはまあ……謎の魔法使い・キョーコがパワーアップイベントとかを導いてくれるので」カキカキ
K(正直、俺は漫画もゲームも縁がないからこういうのはよくわからんが、山田がみんなを普段
どういう目で見ているかわかるのは非常に興味深いな。……山田から見ても苗木は不運なのか)
どこをどう見ても普通のはずなのにやたら巻き込まれ体質で不運な苗木、天狗でお調子者だが
根は悪人ではない桑田、冷静に他のメンバーを導く霧切、守銭奴の葉隠……等など。
K(一つ気になったことがあるが……江ノ島の性格が俺の知っているものと微妙に違うような……?)
山田の同人誌完成率…………現在40%。
◇ ◇ ◇
美術室から戻る途中、KAZUYAは廊下でモノクマメダルを拾った。
(さっきはなかったはずだがモノクマが置いたのか? ……というか、引き出しの中や
ベッドの下などはわかるが、廊下にポンと置いておくのはどうなのだ……)
(まあ折角拾ったのだし、久しぶりに購買にでも寄ってみるか)
モノモノマシーンのある購買部は保健室のすぐ近くにある。KAZUYAは半月ぶりに購買部に入った。
(引いても引いても凶器が出るし、いい加減保健室に隠すのもキツクなってきたから
最近は来なくなっていたが、何が出るか……かさ張らないものがいいのだが)
チャリーン♪ ガチャガチャ、コロン。
「ん? ……お、おおおおおおっ!」
(初めてまともな物が出たぞッ!)
監禁一ヶ月目にして初めての勝利――!
出て来たのは少し大きめの試験官に入った小さなバラ――イン・ビトロ・ローズ。
小さいし綺麗だ。ここには植物がほとんどないから、きっと誰にあげても喜ばれるだろう。
196: 2014/12/24(水) 00:31:50.17 ID:FKwSZVVX0
(とは言っても、やはり女子がいいだろうな。誰にする? 心を開いていない腐川や安弘か、
逆に普段よく手助けしてくれる舞園や朝日奈でもいいな。或いは……)
マントの裏のポケットにしまいKAZUYAが廊下に出ると、そこでばったり霧切と出会った。
・・・
「あら、ドクター。珍しい場所にいたのですね」
「さっきたまたまメダルを拾ったからな」
(霧切か。そういえば、石丸の件では散々協力してもらったのに、ここ数日は
実習等でバタバタしてしまってろくに話せていなかったな……少し話すか)
「ところで霧切、少し話でもしないか?」
「! ……また男子トイレに行きます?」
「それは勘弁してくれ……」
霧切は悪戯っぽく笑うと髪をかきあげた。いつもは大人びた彼女が
時々見せる歳相応の表情は、何とも言えない艶やかさと可愛らしさを持つ。
しかし、どうもまた彼女は周囲と距離を取っているようだった。
(もっと打ち解けてもらいたいものなのだが)
「腐川が明日から無事復帰してくれるそうだ。フォローを頼む」
「そう……良かった。長かったわね」
「ああ。ただ、実は去り際にこんなことを言われてな……」
先程の腐川とのやり取りを話した。
「ドクター……前から思っていたけれど、彼女は愛情を欲しているのではないかしら?」
「そうだな。俺もそう思う」
「なるべく早く行ってあげてください。きっと待っていると思うので」
「わかった」
197: 2014/12/24(水) 00:39:01.61 ID:FKwSZVVX0
「これで目下の問題は全て片付いた訳だが、この先どう動くか君の意見を聞きたい」
腐川の件が終わり全員が復帰した今、KAZUYAは今後の方針をどうするか迷い始めていた。
ここらで一度、霧切の意見を聞いてみるのもいいかもしれない、と話を振ってみたのだが……
「……今まで通りでいいんじゃないかしら。特に私から言うことはないように思います」ツーン
「そうか……」
腐川の報告をした時とは打って変わり、霧切は少し素っ気なくなる。
ここまであからさまな反応を取られると、流石に鈍感なKAZUYAも気付いた。
(もしかして……拗ねているのか?)
思えば、霧切とはいつも業務的な会話ばかりだった。しっかりしているから忘れがちだが
彼女もまだ高校生なのだ。時にはそれを寂しいと感じることもあるだろう。
(……もっと普通の会話をしよう。何かないか?)
「話は変わるが、君はどんな本が好きなんだ? 腐川のお陰で、俺も最近読書に目覚めてな」
「好きな本? そうね、ミステリーやサスペンスが好きかしら」
「フム、確かに好きそうだな」
「ただ……私もここで腐川さんの小説を読んで、とても面白いと思ったわ。『磯の香りの消えぬ間に』と、
『紐の青みの癒えぬ谷』は呼んだから、次は『おとといの家族』を読もうと思っています。他の本も
気になるし……フフッ、もしかしたら監禁されている間に全部読破してしまうかもしれませんね」
「もしかして好きなのか? 恋愛小説が」
少し意外に感じてそう言ってしまったが、霧切は心外と言った様子で返す。
「あら、いけなかったかしら?」
「いや、そんなことはないが」
198: 2014/12/24(水) 00:45:38.35 ID:FKwSZVVX0
(そうだな。腐川の小説は女子高生からOL、果ては主婦まで幅広く支持があるそうだし、
霧切も女性なのだから当然そういったものは好きだろう。……しかし意外だ)
もしかして、いっぱしに恋愛もしているのだろうか等と下世話な考えも浮かぶ。
そもそも、霧切のような落ち着いた女性に同年代の男子達はどう映っているのだろう。
「どうだ? この中で、誰か気になる奴でもいたりはしないのか?」
「……それはどちらの意味ですか?」
霧切は怪訝に眉をひそめる。
「怪しい、特に注意すべき人と言う意味ならドクターもよくわかっているはず。違う意味なら……」
「違う意味なら?」
「言う必要性を感じないわ。ドクターもそんなつまらないことが気になったりするのね」フッ
「……まあ、たまにはな」
(ウーム、親交を深めるために話しかけたが……かえって距離が出来た気がする。どうするか……)
その時、KAZUYAはマントの中のイン・ビトロ・ローズを思い出した。
「……ああ、そうだ。聞いてくれ。実は、始めてあの購買の機械からまともな物が出てな」
「何が出たんですか?」
「これだ」
「イン・ビトロ・ローズですね」
「そう。イン・ビトロはラテン語でガラスの中という意味で、まさしく
試験官の中に入った薔薇だ。……もし良ければ、これを君に貰って欲しいのだが」
「……私に?」
199: 2014/12/24(水) 00:52:54.92 ID:FKwSZVVX0
目を見張る霧切を見て、やはり女子にあげるのは正解だったなと感じる。が、次の言葉で仰天した。
「イン・ビトロ・ローズを女性に渡す……ドクター、その意味をわかって渡しているのかしら?」
「えっ……?」
(まずいな……何か特別な意味でもあったのか? だが霧切ならわかってくれるはずだ)
「すまない。意味は知らないが……綺麗なものだから喜んでくれるんじゃないかと思ってな」
「……フゥ。ドクターのことだからそんなことだろうと思いました。……でも、本当に私で
良いのかしら? 初めてまともなものが出たのでしょう? 舞園さんや朝日奈さんの方が……」
「いや、君に渡したい。いつも散々助けてもらっているからな。日頃の感謝の印だとでも思ってくれ」
「感謝だなんて……私達の方がよっぽどドクターにお世話になっているのに……」
そっと目を伏せた霧切の頬がほんのり赤く染まったのだが、KAZUYAは気付いていない。
「そこまで言われたら有り難く受け取ります」ニコ
「それは良かった」
何とか機嫌を直すことに成功したKAZUYAがホッと胸を撫で下ろすと、霧切はクスリと笑った。
「……でも、この学園にはほとんど植物がないから保健室に飾っても良かったんじゃないですか?」
「男の俺には今あるプランターで十分さ」
「フフッ」
「ハハハ」
その後も二人で他愛無い談笑をしたのだった。
200: 2014/12/24(水) 01:04:48.65 ID:FKwSZVVX0
本編はここまでだがおまけを2レス。
モノクマ「久々のモノクマ劇じょ……」
霧切「どきなさい」ゲシッ
モノクマ「あんっ」
霧切「ここから先は私が話すわ。霧切劇場とでも思って頂戴」
霧切「>>184さんへ。これが今わかっていることよ」
【物語編】(chapter.2終了時点での情報にプラスαしたもの)
・黒幕は様々な能力に特化した少数精鋭のプロフェッショナル集団と推測。
また中枢メンバーに女がいるとKは予想している。
・二階男子トイレにある隠し部屋を発見し「人類史上最大最悪の絶望的事件」と
「希望ヶ峰シェルター計画」についての知識を得たが、詳細はわかっていない。
・混乱を避けるため、具体的な証拠を掴むまで外の状況については伏せている。
・モノクマが内通者について話したため、生徒達はお互いに警戒しあっている。
・生徒達が部分的に記憶喪失を起こしていること、また黒幕が意図的にその状況を
引き起こしたのではないかとKは考えている。
・黒幕メンバーに本物の江ノ島盾子がいることに気付いた。
・アルターエゴがPCから何らかのデータを解析した。
→それは生徒に対する人体実験のデータだった。 New!
・ジェノサイダーが記憶を失っていないことをKAZUYAは気づいた。 New!
・希望ヶ峰学園には何やら裏があるように思える。 New!
・一連の実行犯は全員希望ヶ峰学園の生徒ではないかと予想。 New!
霧切「江ノ島さんを内通者だと断定しているのはドクターと桑田君。私と十神君は限りなく黒に近いグレー」
霧切「他の内通者に関しては、ドクターはセレスさんと大神さんを疑っているわ。
特に大神さんはほぼ黒に近いと睨んでいるようね。根拠は今までに描写されているはず」
201: 2014/12/24(水) 01:15:34.38 ID:FKwSZVVX0
あと、初回サービスということで今回だけ特別に霧切さんの評価を公開します。
腐川について +-0
今後の攻略 -10
好みの創作ジャンル +5
気になる人 -10
イン・ビトロ・ローズ +30
差し引き+15
霧切「何でこんな結果になったかわかるかしら? 私はプロローグの後、ドクターと最初に
二人っきりになったにも関わらず、その後は自由行動でひたすら選択されず……」
霧切「別に、怒っている訳じゃないわ。他に重要人物がいたらそちらを優先するべきだと思うもの。
でも、一章にあたり自由行動は大体15~20程。二章までに38回もあったのよ?」
霧切「舞園さんも生きているし、私がダンガンロンパのヒロインだからなんて言うつもりは
毛頭ないけれど、でもだからと言っていくらなんでも限度というものが……(以下略)」
本編の霧切さんはここまでキレていませんが、あまりに長期間放っておいたので拗ね切さんに
なってしまったようです。このSSはゲーム形式を取っていますが、1の頭の中では勿論ちゃんと
全員生きているので、あまり長期間放置するとこのようにマイナスなことが起こったり
本来は真面目な話は好まれるのですが、機嫌が悪い時に聞くとこんな結果に。
イン・ビトロ・ローズはやっぱり強いですね。プレゼントは次から規制しないと……
あと、気になる人も機嫌の良い時なら勿論答えてくれます
次回も頑張ってください(次回があるかは安価次第ですが)。では
206: 2014/12/24(水) 23:49:18.81 ID:4P0XEOoc0
よそのスレで散々絶望姉妹の誕生日おめでとう!って書かれてて
自分も最後にそう書くつもりだったのに……すっかり忘れてた
モノクマ「直前まで覚えてたくせに忘れられるなんて余りに間抜けすぎて絶望的だよ!!」
お詫びに小ネタを少し……
― オマケ劇場 26 ~ 最高の絶望を貴方に ~ ―
ワーワー! ワイワイ! キャーキャー!
江ノ島(みんな楽しそう……でも、そのせいで最近盾子ちゃんが退屈そうにしてる……
『この間ケーキ貰っちゃったし、少しだけ猶予期間あげるわ』って言ってたから、
しばらくはこのままだろうし……ここはお姉ちゃんが何とかしてあげないと!)グッ!
江ノ島(盾子ちゃんを喜ばせることと言えば、やっぱり絶望だよね? でもどうやって絶望させよう?)
江ノ島「あ、苗木ぃ! ちょっと聞きたいことがあるんだけどさあ」
苗木「ん? 江ノ島さん、どうしたの?」
江ノ島「人間を効率よく絶望させるにはどうしたらいいと思う?」ニタァ…
苗木「」
・・・
江ノ島(苗木君、なんか引きつった顔して慌ててどこかに行っちゃったけど、どうかしたのかな?)
江ノ島(でもこれで方法がわかった! やっぱり絶望といえば大切な人が傷つくことだよね!
そして盾子ちゃんの大切な人といえば私。私が怪我をすればきっと盾子ちゃんは絶望する)
江ノ島(待っててね、盾子ちゃん。今お姉ちゃんが盾子ちゃんに絶望を届けてあげるから!)
江ノ島「ねえ葉隠! お金払うからちょっとアタシを殴ってくれない?」
葉隠「やらねえよ?! つーか、俺何でも屋みたいに思われてねえか?!
いくら金を積まれたってなぁ、そんな酷いことは出来ねえべ!」
江ノ島(親身に相談に乗ってくれる友達の内臓を売るのは酷くないのかな……)
その後、なんやかんやあったがことごとく失敗する。
戦刃「ごめん……お姉ちゃん、頑張ったんだけど盾子ちゃんを絶望させることは出来なかったよ……」
江ノ島「 帰 れ ! 」
自分も最後にそう書くつもりだったのに……すっかり忘れてた
モノクマ「直前まで覚えてたくせに忘れられるなんて余りに間抜けすぎて絶望的だよ!!」
お詫びに小ネタを少し……
― オマケ劇場 26 ~ 最高の絶望を貴方に ~ ―
ワーワー! ワイワイ! キャーキャー!
江ノ島(みんな楽しそう……でも、そのせいで最近盾子ちゃんが退屈そうにしてる……
『この間ケーキ貰っちゃったし、少しだけ猶予期間あげるわ』って言ってたから、
しばらくはこのままだろうし……ここはお姉ちゃんが何とかしてあげないと!)グッ!
江ノ島(盾子ちゃんを喜ばせることと言えば、やっぱり絶望だよね? でもどうやって絶望させよう?)
江ノ島「あ、苗木ぃ! ちょっと聞きたいことがあるんだけどさあ」
苗木「ん? 江ノ島さん、どうしたの?」
江ノ島「人間を効率よく絶望させるにはどうしたらいいと思う?」ニタァ…
苗木「」
・・・
江ノ島(苗木君、なんか引きつった顔して慌ててどこかに行っちゃったけど、どうかしたのかな?)
江ノ島(でもこれで方法がわかった! やっぱり絶望といえば大切な人が傷つくことだよね!
そして盾子ちゃんの大切な人といえば私。私が怪我をすればきっと盾子ちゃんは絶望する)
江ノ島(待っててね、盾子ちゃん。今お姉ちゃんが盾子ちゃんに絶望を届けてあげるから!)
江ノ島「ねえ葉隠! お金払うからちょっとアタシを殴ってくれない?」
葉隠「やらねえよ?! つーか、俺何でも屋みたいに思われてねえか?!
いくら金を積まれたってなぁ、そんな酷いことは出来ねえべ!」
江ノ島(親身に相談に乗ってくれる友達の内臓を売るのは酷くないのかな……)
その後、なんやかんやあったがことごとく失敗する。
戦刃「ごめん……お姉ちゃん、頑張ったんだけど盾子ちゃんを絶望させることは出来なかったよ……」
江ノ島「 帰 れ ! 」
207: 2014/12/25(木) 00:00:15.25 ID:2xRt5rqu0
― オマケ劇場 27 ~ 結びたいお年頃 ~ ―
K「縫合で一番大切なのは糸の結びだ。緩いのは論外だな。縫合した箇所がほつれれば
縫合不全を引き起こすばかりか、一度吻合した臓器や血管が外れてしまう」
K「かと言ってあまりに強く結び過ぎれば、縫合箇所の細胞が氏んでしまう。時と場合によって
強弱や結び方を繊細に使い分けねばならないのだ。これはとにかく練習して感覚を掴むしかない」
石丸「成程!」
・・・
桑田「ちょっ、誰だよ?! 俺のバットの持ち手にヒモ結んだ奴?!」
朝日奈「カップの持つ所にもヒモついてる!」
大和田「箸もだぞ! なんだこりゃ?!」
山田「拙者の愛用のペン―?!」
葉隠「俺の水晶球ー?! ……は平気だったべ」テヘ♪
苗木「あ、えーと……許してあげてくれないかな。ほら」
石丸「……!」真剣
K「熱心な医大生は棒状の物を見るたびに糸結びの練習をしたくなったりするものだが……やりすぎだ」
・・・
江ノ島「誰?! 私のモデルガンに紐結んだの?! これじゃ撃ちにく……」
モノクマ「そんな所に置いておくんじゃねえよ、このバカっ!!」バキッ!
江ノ島「い、痛いよ盾子ちゃん……」
208: 2014/12/25(木) 00:16:04.33 ID:2xRt5rqu0
公式のクリスマスツイートが面白かったので最後にもう一本
― オマケ劇場 28 ~ クリスマスの思い出 ~ ―
Q.クリスマスの思い出といえば?
不二咲「クリスマスと言えばねぇ、毎年お父さんがローストチキンを買ってきてくれるんだぁ。
僕はお母さんと一緒にお菓子を作ったり。でもね、お父さんてばいつも小食だから
そんなに食べられないって言うんだ。僕より大きいのに情けないよねぇ、もう」
大神「クリスマスだろうが何だろうが、我が道場は鍛錬を欠かさぬ。……ただ、鍛錬が終わった後には
門下生全員が集まってパーティーを催したりしていたな。勿論ケーキも出るぞ。……我の手作りだ」
十神「フン、クリスマスだと? 全く面倒な催しを考えてくれたものだ。この俺クラスの人間となると
あちらこちらのパーティーからお呼び出しがかかってな。仕方なく顔を出してやっている」
霧切「張り込みが多いかしらね。ほぼ確実にターゲットが外出するから。……それ以外になくもないけど」
K「クリスマスか……いや、何でもない。ふと、昔の患者のことを思い出してしまってな……」
腐川「なに? アタシを笑うつもり? そうね、そうなのね?! ……どうせアタシが恋人はおろか
友達や家族すらいない孤独なクリスマスを過ごしていることを笑う気なんでしょう?!」キィィ!
石丸「クリスマス……クリスマスもお父さんは仕事で家に帰ってこなくて、毎年お母さんと
二人でケーキを食べるのだ。でも僕は知っている! いつもサンタさんの代わりに、
深夜に帰ってきたお父さんがこっそり参考書を枕元に置いてくれていることを!」ブワッ
・・・
桑田「クリスマスは毎年予定でいっぱいだから。去年も今年も来年もいっぱいだから。
いっぱいの予定だから! 予定ってのはまだ決まってないってことだからいーだろ!」
大和田「うるせえゴラァ! クリスマスは毎年集会って決まってんだよ! 仕方ねーだろ!
暴走族はなぁ、モテねえんだ。暴走族だからモテねえんだぞ? けっして俺個人が
モテないワケじゃねえぞ? その……兄貴は例外だ! 例外なんだ! チクショウ……」
山田「三次元に興味はありません。その翌週の聖戦に備えます! ええ、本当です! キリッ!!」
セレス「見苦しいですわね……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ここまで。
あと前スレ投下終了したので埋めてくれると助かります。それでは皆様、Merry Christmas!
211: 2014/12/27(土) 21:00:16.44 ID:lvREGtDI0
前スレ1000了解です。「誰に」と書いてないのがミソですね
……そして、年末なので1もちょっと反省を。ここの住人さんは凄く優しいので
マイナスの感想とか書いたりしませんが、ぶっちゃけここ最近ちょっとダレてますよね?
初期のを読み直してみたら自由行動は大体一人あたり3レス前後で今の半分だし
一応、合間合間にギャグやほのぼの入れたりトリビア入れて飽きさせない工夫はしているけど
限度があるだろうと。書かれていないだけで、さっさと本筋進めろという意見もきっとあるはず
最近ダンガンロンパというジャンル自体ちょっと人少なめで寂しいので、ここもガンガン進め、
書き溜めしてる他のダンロンSSとかも近いうちに投下できるよう頑張ろうと思います。
以上、来年に向けての所信表明みたいなものでした。投下は今日中を目処に頑張ります。
十神「愚民が…!」腐川「医者なら救ってみなさいよ、ドクターK!」ジェノ「カルテ.5ォ!」【中編】
……そして、年末なので1もちょっと反省を。ここの住人さんは凄く優しいので
マイナスの感想とか書いたりしませんが、ぶっちゃけここ最近ちょっとダレてますよね?
初期のを読み直してみたら自由行動は大体一人あたり3レス前後で今の半分だし
一応、合間合間にギャグやほのぼの入れたりトリビア入れて飽きさせない工夫はしているけど
限度があるだろうと。書かれていないだけで、さっさと本筋進めろという意見もきっとあるはず
最近ダンガンロンパというジャンル自体ちょっと人少なめで寂しいので、ここもガンガン進め、
書き溜めしてる他のダンロンSSとかも近いうちに投下できるよう頑張ろうと思います。
以上、来年に向けての所信表明みたいなものでした。投下は今日中を目処に頑張ります。
十神「愚民が…!」腐川「医者なら救ってみなさいよ、ドクターK!」ジェノ「カルテ.5ォ!」【中編】
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります