217: 2014/12/28(日) 21:57:17.66 ID:+IS8xoh00
十神「愚民が…!」腐川「医者なら救ってみなさいよ、ドクターK!」ジェノ「カルテ.5ォ!」【前編】
十神「愚民が…!」腐川「医者なら救ってみなさいよ、ドクターK!」ジェノ「カルテ.5ォ!」【中編】
◇ ◇ ◇
夕食後、珍しくセレスの方からKAZUYAを誘ってきた。
セレス「お時間よろしいでしょうか? 一緒に娯楽室に行きませんこと?」
山田「!」
K「構わないが」
桑田「は?! なんでお前がせんせーに……」
セレス「お黙りなさい」<●><●>ギロッ!
桑田「」
舞園「いいじゃないですか。セレスさんだって先生と仲良くしたいんですよ」
大和田「……どーだか」
不二咲「そ、そんなこと言わないで仲良くしようよぉ」
― 娯楽室 PM7:02 ―
「夕食はどうだった?」
今日の夕食は前回宣言した通り、セレスのリクエストの餃子だった。
「先生の班は確か男子しかいないはずでしたが……思ったよりよく出来ていましたわね。意外ですわ」
「大和田は見かけによらず器用だし、不二咲も手先が繊細だからな。桑田も人並みには出来る。石丸は……」
「形が悪いのは全部石丸君のでしょうね。ひと目でわかりました」
「まあ、うん……あれでも少しずつ上達してる方なんだ」
「ですが味はとてもよろしかったですわ。また作ってくださいます?」
「じゃあ、また勝負でもするか」
こだわりの強いセレスに誉められ、KAZUYAも満更でない顔でそう返した。
218: 2014/12/28(日) 22:06:05.98 ID:+IS8xoh00
「……ポーカーもやりあきましたね。どうです、次はビリヤードでも?」
「そうだな。久しぶりだが」
KAZUYAはマントを脱ぐと、スッとキューを手に取った。その姿を眺めながら、セレスはふと思う。
(……西城先生がマントを外した所を見るのは、何気に初めてですわね)
保健室にいる時はすぐ側に道具があるのでマントを脱いでいる時もあるが、外ではいつ非常時になるか
わからないので脱ぐのは風呂の時くらいであった。セレスは保健室に来ないので見る機会もない。
「あら……驚きましたわ。西城先生は随分スタイルがよろしいのですのね?」
「そうか?」
(ムキムキマッチョマンなイメージが強すぎて、ここだけの話……ずっと短足だと思っていました)
KAZUYAと言えばとにかくマントの印象が強いし、向き合ったら向き合ったで鍛え上げた大胸筋や
太く逞しい二の腕に目が行ってしまって、あまり全体をちゃんと見たことがなかったのである。
「……服装にもう少し気を遣ったら如何ですの。折角のプロポーションが泣いておりますわよ?」
「結構だ」ムスッ
服装については実はよく言われる。これが一族の流儀なのだから放っておいてくれと思っていた。
しかし、余談だが……KAZUYAが知らないだけで、意外と一族はその時代に合った服装をしていた。
祖父・一宗はマントの下にスーツを着用していたし、父ですら若い時はちゃんと白衣を着ていたのだった。
「ちなみに先生、ビリヤードは?」
「海外に行った時に付き合いで多少やった程度だが、細かい手先のコントロールには自信がある」
「それは期待出来そうですわね」
・コンマ勝負! その2
セレスとビリヤードで勝負する。40以上で勝利。数字が大きいほど良い。ゾロ目でクリティカル。
219: 2014/12/28(日) 22:18:41.19 ID:+IS8xoh00
書き忘れた。直下
221: 2014/12/28(日) 22:40:02.11 ID:+IS8xoh00
結果はKAZUYAの敗北だった。しかし最後まで接戦であり、なかなか良いゲームであった。
「流石に強いな」
「うふふ、先生こそ。あそこでミスショットをしたのが痛かったですわね」
「また機会があればやろう」
「いつでもお相手いたしますわ。……でも、次はスーツで来てくださいます?」
(興味が無いから今まではいい加減に見ていましたが、ちゃんと見てみたら外見はそこそこでしたわ。
手足が長いからビリヤードをする姿も映えますし、服装さえちゃんとしていたら……)
KAZUYAは非常に渋い顔立ちをしているし、ブラックスーツが良く合いそうだと思う。
「それは断る」
「……では、次の賭けの内容はそれで」
そう言ってセレスはニコリと微笑んだ。
― 保健室 PM8:05 ―
セレスの誘いに付き合った後、KAZUYAは苗木と石丸を保健室に呼び出した。
服が汚れてもいいように、事前にジャージに着替えさせている。
石丸「夜の実習だな!」
苗木「石丸君……病み上がりなのに元気だね……僕は昼の疲れがまだ残ってるよ」
K「石丸は元々かなり鍛えていたから体力の基礎値が高い。それに、精神がおかしかった時も
俺がなるべく体を動かすように誘導してたからな。筋肉はそこまで衰えていないはずだ」
廃人同然だった石丸は部屋から出ようとはしなかったが、以前の習慣を再現する癖があったので
KAZUYAはそれを最大限に利用して部屋の中で運動をさせていた。なので、手術直後はほとんど
寝たきりだった舞園や不二咲より体力があるのは当然なのである。
石丸「僕とて多少は疲れているが気合で何とかしているぞ。苗木君も頑張ろう!」
苗木(そう言われても……)
222: 2014/12/28(日) 22:47:00.99 ID:+IS8xoh00
K「安心してくれ。今度のは気管挿管ほどは疲れんはずだ。……神経は使うがな」
苗木「一体何を……」
K「静脈注射。つまり注射だ」
苗木「ええええ?!」
石丸「ちゅ、注射ですか!」
K「そうだ。ゴムチューブに布を被せただけの簡単な模型ではなく、いよいよ人体――俺の体を使う」
苗木「え、で、でも……!」
K「……注射の重要性はお前達でもわかるだろう? 俺が手術で手が離せない時に
補助が出来るし、何より出血が酷い時は輸液や輸血で時間稼ぎが出来る」
K「気管挿管と注射……この二つが使いこなせれば大きな武器となるのは間違いないんだ」
石丸「そう、ですね……」
苗木「…………」
苗木(石丸君、顔が青いぞ。多分僕も似たようなものだろうけど……確かに先生の言う通りだ。
いざって時に出来るか出来ないかは大きい。……でも、やっぱり血を見るのは怖い)
苗木(ましてや先生の体を針で刺すなんて……)
石丸(……本当に、僕に出来るのだろうか。もし神経を突き刺したら腕が麻痺するのでは?!
い、いや……医者になるならこれは必ず通る道だ。そんなことわかっていたではないか……!)
K「……怖いか。まあ、当然だな。最初は誰だってそうだ」
石丸「ちなみに、先生が初めてされたのは……?」
K「五歳の時だったかな。親父相手に。それはそれは怖かったよ」
苗木・石丸「…………」
K「だが、この技術は確かに俺と……色々な人を助けてくれた」
KAZUYAは語って聞かせた。彼が小学生の時、或いは中学生の時に
不慮の事故に遭った人の治療をした話を。二人の生徒は真剣に聞いていた。
K「どうだ? やれるな?」
223: 2014/12/28(日) 22:55:51.50 ID:+IS8xoh00
二人は一瞬お互いの目を合わせると、まだ顔は青いままだが確かに頷く。
苗木・石丸「……はいっ!」
K「よし。では早速準備だ。扱い方や手入れの仕方は以前教えたから、いきなり実践に入るぞ」
K「上腕部を駆血帯で絞めて静脈を浮かび上がらせる。そこを狙って刺すだけだ。
毎年健康診断で採血しているから、何となくわかるだろう?」
石丸「何となくは覚えていますが……」
苗木「まあ、実際に出来るかは別だよね……」
K「指先で触れて浮き上がっている静脈を探す。狙いを決めたらしっかり消毒し、思い切って刺す。躊躇わないことだ。
針を抜いたら揉まずにガーゼ等で圧迫して止血する。……まあ、細かい手順は緊急時には省略しても良いがな」
K「見える血管よりも触れられる血管が優先だ。目に見える血管というのは、単に血管壁が薄く色が
透けているだけで実際は刺さりづらいことが多い。以前も教えたが第一選択の血管は肘正中皮静脈だ」
早速道具を揃え、実習を始める。が、
苗木(あれ……駆血帯ってどうやって結ぶんだっけ? 緊張でド忘れしちゃった……)
駆血帯:くけつたい。上腕部を絞める器具。ゴムチューブが多い。留める器具がない場合は自分で結ぶ。
静脈は動脈に比べ流れが強くないので、軽く絞めただけでも流れが止まる。それを利用し、
駆血帯で動脈を流したまま静脈の流れを止めると、静脈が浮き上がって針が刺しやすくなるのだ。
苗木(チョウチョ結びじゃ不味いよな。固結びも駄目だし……えーと)
石丸「苗木君! 駆血帯の結び方はこうだぞ!」
苗木「え、あ、ありがとう」
苗木(石丸君は不器用だけど、知識面では本当に頼りになるな)
K「すぐに血管が見つからなかったら、こうやって拳を開いたりマッサージしたりするといい」グーパー
苗木(うわ、先生凄い血管浮いてるー! 医者に優しい血管してるな)
・・・
224: 2014/12/28(日) 23:04:25.33 ID:+IS8xoh00
K「…………」
苗木「…………」
石丸「…………」
結論から言うと、当然だが始めは上手く行かなかった。
二人が何度も失敗するのでKAZUYAの腕は次第に赤黒い血腫だらけになり、それに伴い口数も減っていった。
苗木「あの、すみません……」
K「気にするな。始めは誰でもこんなものだ」
石丸「はい……」
KAZUYAは眉一つ動かさず顔には一切出さないが、痛みをこらえているのは二人も薄々感じていた。
苗木(僕は怖がって刺し方が甘く、針が血管まで到達しないことが多かった。逆に
石丸君は勢い余って血管を貫通したり、見当違いの所に刺すことが多かった)
苗木(僕達が共通で失敗するのは『血管に逃げられること』。針を刺した時の僅かな振動で血管が
動いて刺しそこねてしまうんだ。折角上手く刺さったのに途中で針が抜けたりとか……)
苗木(あと、先生の血管てかなり頑丈だよね。勢い良く刺さないとこれまた血管が逃げちゃう。
本当に難しい……今更ながら、健康診断の時の看護婦さんには頭が下がるよ)
石丸「…………」ドキドキ
K「……(ピキッ)! 引けッ!」
石丸「ヒッ! は、はいっ!」サッ!
K「…………」
KAZUYAは一瞬険しい顔をすると、何かを確かめるように拳を開いたり閉じたりしている。
石丸「…………」ガクガク
石丸(ま、まさか神経を傷付けてしまったのではっ……?!)
苗木「先生……?」タラッ
225: 2014/12/28(日) 23:13:53.90 ID:+IS8xoh00
K「……大丈夫だ。続けよう」
石丸「ですが……!」
K「大丈夫だと言っている。むしろ、本番でなくて良かったではないか」
K「医者になるのではなかったのか? お前の覚悟はそんなものか?
実習にトラブルは付き物だ。いちいち気にしていたら先に進めなくなるぞ」
石丸「…………」
石丸「……わかりました。再開します」
K「それでいい。もう0.5ミリこっちにずらしてやってみろ。針はもっと寝かせてな」
石丸「はい……」
K「よし、落ち着いてやれば出来る。焦らなくていいからゆっくり確実に挿れるんだ」
苗木「…………」
あれだけ青ざめて震えていた石丸が、何とか深呼吸して震えを抑え冷静に
実習を再開した姿を見て、苗木はこの男と出会ったばかりのことを思い出していた。
苗木(復活してから、石丸君は本当に強くなったと思う。元々意志は強かったけど、
前の石丸君だったらこんなに早い切り替えは出来なかったはずだ)
苗木(それだけ、彼の中で医者になるという決意は強固なものなんだろう。そんな石丸君の
必氏で一生懸命な姿を見ていると、ただ流されているだけの自分が恥ずかしくなる……)
苗木(――果たして、僕は今のままでいいのだろうか)
石丸「よし、上手くいっ……」
K「馬鹿者っ! 駆血帯をつけたまま針を抜くなと……!!」
ドバァッ! チミドロフィーバーッ☆
※駆血帯をつけたまま針を抜くと、せき止められていた血が穴から一斉に噴き出る。
石丸「ぬおおおおおおおおおおおっ?!」
苗木「うわああああああああああああああっ?!」
226: 2014/12/28(日) 23:21:42.22 ID:+IS8xoh00
K「……ハァ。血を拭いたら、次は点滴の練習に移ろうか。とりあえず俺にリンゲルを入れてくれ……」
リンゲル液:生理食塩水にカリウムやカルシウムを加えたもので、体内の水分や血液が急速に失われた時、
一時的に補充する用途で用いられる。軽い出血程度なら輸血しなくともリンゲル点滴で問題ない。
・・・
実習後、カチャカチャと二人で使用した道具類を消毒していると石丸が話し掛けてきた。
石丸「苗木君は凄いな! もう何度か成功しているとは。僕より全然向いているのではないか?」
苗木「そんなことないよ」
苗木(器用と言っても器用貧乏というか、何でも平均的に出来るだけだ。というか、
人並以上に不器用な石丸君と比較したら誰だって才能があることになりそうだけど)
石丸「……だが負けないぞ。フフッ、僕はこう見えて意外と負けず嫌いでね!」
苗木「うん、知ってる」
石丸「さて、夜時間になる前に僕は兄弟とサウナに行かねばならない。一足先に失礼いたします!」
K「ああ」
苗木「また明日」
K・苗木「…………」
苗木「これで終わりっと。じゃあ先生、僕も……」
K「そう慌てるな。茶でも飲んで行かないか?」
苗木「え?」
KAZUYAに誘われ、苗木はKAZUYAと向き合って座る。
K「慣れないことばかりで、今日はさぞかし疲れたろう」
苗木「……疲れてるのは先生の方じゃないですか? 先生だったら楽に出来ることも、
僕達みたいな素人じゃ全然上手く行かないし、一歩間違えたら大事故なんですから」
K「まあ、確かに神経は使ったよ。やはり勝手は違うな」フゥ
苗木「アハハ。でしょう?」
227: 2014/12/28(日) 23:33:16.83 ID:+IS8xoh00
K「だが、少しずつ上達していく姿を見るのはとてもやり甲斐がある。
大学の教師達もきっとこういう気持ちで仕事をしているのだろうな」
苗木「そうでしょうね」
K「苗木……単刀直入に聞くが、迷っているのか?」
苗木「えっ?」
唐突な質問に、苗木はどう返したらいいかわからず困惑した。
K「慣れないからではなく、手つきそのものに迷いがある気がした。俺の気のせいかもしれんが」
苗木「……KAZUYA先生は、本当に何でもわかっちゃうんだなぁ」
K「人生経験が違うからな。それに、元々お前は石丸に付き合わされ半ば強制的に
始めただけだった。ここまで深い場所に来て、そろそろ迷う頃合いだと思ったのだ」
苗木「…………」
K「苗木、別に迷うことは恥ずかしいことではない。前にも言ったが、俺はお前に医者になることを
強制する訳ではないからな。ここにいる間は必要だからやらせるが、脱出したら俺達に気を遣わず
違う道に進んでいいし、他にやりたいことがないならこのまま医者になるのもいいだろう」
苗木(他にやりたいことがないならこのまま医者になるのもいい、か……)
苗木「……先生は、そんないい加減な理由で僕が医者を目指しても許せるんですか?」
K「仕事さえきっちりこなしてくれれば俺は何も言わんよ。それこそ医学部には色んな人間がいた。
儲かるから、格好良いから、親が医者だから……酷い時は何となくなんて理由の奴もいたな」
K「ずっとそのままの人間もいるし、何らかの切欠で使命に目覚める者もいる。
だが、一番大切なのは患者に対して真摯に向き合えるかどうかだ」
K「情熱を持って臨むのは確かに素晴らしいことだが……極論すると、
冷たいが腕は良い医者と情熱的で腕の悪い医者なら患者は前者を選ぶ」
誰よりも熱い心を持つKAZUYAだが、その落ち着いた冷静な語り口が医者に必要なものを端的に表していた。
228: 2014/12/28(日) 23:43:15.30 ID:+IS8xoh00
苗木「…………」
K「苗木、お前は怪我人を見た時どんな気持ちになった? 傷ついた友人達を見てどう思った?」
苗木「……悔しかった。僕にも何か出来ることがあればって思いました。あと、
テキパキと処置をする先生が格好いい……正直、羨ましいって思いました」
K「医者になるのに、強固な決心や決意がなければいけないなどという決まりはない。
誰かを助けたい。人の役に立ちたい。その気持ちがあるならお前はもう立派な医者志望だ」
苗木「そう、ですね……うん、そうだ。ありがとうございます。先生は人を励ますのが上手ですね」
K「……同じことを石丸にも言われたよ。俺は人を励ます天才だそうだ」
苗木「あの石丸君が天才って言ったんですか……?!」
驚愕する苗木の顔を見て、KAZUYAは柔らかく笑う。
K「石丸も、お前も、他のみんなも変わった。――勿論良い方に。
だが俺の力ではない。俺はほんの少し手助けをしただけだ」
K「自信を持ってくれ。そして影からみんなを助けてやってくれ。お前なら出来る!」
苗木「はいっ!」
苗木が去ってからも、KAZUYAはまだ考え事をしていた。
(……てっきり黒幕の邪魔でも入るかと思ったが、何もなかったな)
(付け焼き刃の医療など何の意味もないと思っているのか、俺の悪あがきを面白がっているのか)
「或いは両方、か――」
今までのモノクマの言動から、黒幕は計算よりも自分の欲求を判断基準にしていることは
明らかである。なので、予測不能なKAZUYAの動きを面白がっている可能性は十分ある。
229: 2014/12/28(日) 23:56:46.76 ID:+IS8xoh00
(まさかここまで本格的に取り組むとは思わなかっただろうしな。……だが、問題は奴が飽きた時だ)
この頃になると、黒幕が非常に飽きっぽい性格だと言うのはKAZUYAも気付き始めていた。
変にフェアな所があるのでいきなり仕掛けてくることはなさそうだが、余り猶予はないだろう。
(苗木には悪いが、全力で詰め込ませてもらうぞ!)
キッと前を見据えるKAZUYA。
――しかし、次の瞬間には頭から机に突っ伏す。
「…………」
(……ただ、今日はもう休もう。あまりに神経を使いすぎて、血管迷走神経反射を起こしたようだ……)
血管迷走神経反射(VVR:vaso-vagal reactions):
主にストレスが原因で血管の迷走神経を刺激し血管が拡張。血圧低下や徐脈(心拍数が減ること)を
引き起こして脳が酸素不足になる症状。冷や汗、顔面蒼白、吐き気等の症状が現われ酷い時には失神する。
採血の時に具合が悪くなったり失神した場合はほぼこれが原因である。
ちなみに、立ちくらみもこれに該当する(立ちっぱなしで血が脚に溜まり、脳が酸素不足になるため)。
もしこの状態になってしまった場合は、落ち着いて頭部を下げたり横になって休むと短時間で回復する。
(……この俺がバテるとは、自覚していないだけで相当なストレスだったようだ)
(これが毎日続くとなるとキツイなァ……)
流石のKAZUYAも心の中でそうボヤいたのであった。
240: 2015/01/04(日) 20:20:16.59 ID:Aw/5zhaA0
― コロシアイ学園生活三十三日目 食堂 AM7:30 ―
その日の朝、十神を除く生徒全員は通常より早く食堂に集まっていた。
前日の夕食時に腐川の復帰をKAZUYAがアナウンスしたからだ。
K「俺が迎えに行く。みんなはいつも通りにしてくれ」
朝日奈「わかってるよ! 盛大に歓迎してあげなくちゃね!」
山田「盛り上げ役はお任せあれ!」
K「いや、本当に自然体でいい。……恐らく、あまり盛大にやると驚くと思うんだ。
復帰パーティーを開くのは全く構わないが、もっと落ち着いた時にしてくれ」
霧切「彼女の性格的に、驚かすと怯えて逃げ帰ることも有り得るものね」
苗木「うん。なるべく以前と同じように自然に接してあげようよ」
江ノ島「ハァ。メンドくさー」
セレス「本当、西城先生は優しい人ですこと。この場に適応出来ない人間は氏んでいくだけですのに」
大神「そのようなことを言うな。腐川とて仲間だ」
葉隠「ジェノサイダーがいなければなぁ。こう、もうちっとなんとか……」
不二咲「で、でも……それはきっと腐川さんが一番そう思ってるはずだよ」
舞園「そうです。ジェノサイダーも含めて、腐川さんを受け入れるって決めたじゃないですか」
桑田「つーか十神どうしたんだよ? またあいつ一人で勝手なことやってんのか?」
大和田「……連れてくるか。なんなら力づくで」
石丸「力づくでは駄目だ! 僕が説得してこよう!」
K「いや、いい! アイツは後回しだ。まずは俺達で受け入れるべきだろう」
苗木「じゃあ、先生……」
K「ウム。……行ってくる」
241: 2015/01/04(日) 20:28:30.88 ID:Aw/5zhaA0
・・・
K「おはよう」
腐川「お、お、おお……おはよう、ございま、す……」
インターホンを鳴らすと腐川は出てきた。落ち着かない目で周囲をキョロキョロと見回している。
一見いつもと変わらない風であったが、腐川が珍しく身だしなみをきちんとしていることに気が付いた。
K「ム、ちゃんと風呂に入ったんだな」
腐川「!! は、は、入ったけどそれが何か?! というか、何でそんなことをわざわざ聞く訳っ?!」
K「え? いや、珍しく石鹸の香りがしたから……」ハッ
K(不味いな……こういうことを言うとセクハラに当たるか? 嫌な時代だな……)
K「すまない。不快だったら聞かなかったことに……」
腐川「男に風呂に入ったことを聞かれるなんて、こ、これは……?!」
腐川(誘われてる?! アタシ誘われてるのっ?!)ハァンッ!
~ 妄 想 で す ~
『石鹸の匂いを漂わせるとは……この俺を誘っているのか?』
『ひ、ひえぇ……そんなつもりは! そ、それにアタシには白夜様が、白夜様という人が既に……!』
『そんな奴、俺がこの腕で忘れさせてやる! 来い、腐川!』
『あ、ああっ! 鍛え上げた大胸筋が、上腕三頭筋が……! あぁ~れぇ~!!』
ホワンホワンホワ~ン……
腐川「だ、駄目よ……! アタシには、アタシには白夜様が……は、はぁぁん……」ハァハァ!
K「えっと……大丈夫か?」
242: 2015/01/04(日) 20:44:37.53 ID:Aw/5zhaA0
K(荒い呼吸で白目を剥いているが、どこか体調が悪いのだろうか? それに、心なしか俺も悪寒が……)
腐川の様子は明らかにおかしかったが、KAZUYAの直感があまり触れない方がいいと警告したので素直に従った。
K(まあ、病気ではないようだし放置しておこう……)
腐川「ハッ! い、いけない! アタシとしたことがつい浮気をしてしまうところだったわ……!
覚えておきなさい! アタシは貞操が堅いのよ。筋肉なんかで落とせると思ったら大間違いっ!!」
K「えっ、ええ? あ……うん」
既にKAZUYAは腐川のテンションについて行けてなかった。そして、腐川が訳のわからないことを
言い出したら、とりあえず適当に合わせて誤魔化しておこうと心に決めたのであった。
K「さあ、食堂に行こう。みんな待っているぞ」
腐川「…………」
・・・
ズラッ!!
一同「…………」
腐川「…………」
食堂の一番大きなテーブルに生徒達全員が座り、入り口から入ってきた自分を凝視する。
腐川は遅刻した生徒のような、何とも言えない気まずさを感じて思わずその場に立ち竦んだ。
石丸「腐川君、おはよう!!」
こんな時ばかりは、石丸の空気の読めなさもかえって役に立つ。
243: 2015/01/04(日) 20:55:54.98 ID:Aw/5zhaA0
石丸「諸君、一日の始まりはまず挨拶からだぞ! ほら、みんなも大きな声で挨拶したまえ!」
苗木「そうだね。腐川さん、おはよう!」
舞園「おはようございます!」
朝日奈「おっはよー!」
不二咲「おはよう」
桑田「チーッス」
大神「おはよう」
セレス「おはようございます」
大和田「ウス」
山田「おはようですぞ!」
葉隠「おはよーさん」
江ノ島「オハヨー!」
霧切「おはよう」
腐川「お、おはよう……ア、アタシ……その……」
もごもごと口ごもる腐川に、KAZUYAは優しく席に勧める。
K「募る思いもあるだろうが、今は朝食の時間だ。まずはみんなで食事をしよう」
腐川「で、でも……その、ふじ、不二咲は……」チラリ
不二咲「腐川さん」
腐川「ひ、ひぃぃい?!」
不二咲が声を掛けると、腐川は今にも腰を抜かさんばかりに慌てふためきながらのけぞった。
244: 2015/01/04(日) 21:11:09.35 ID:Aw/5zhaA0
腐川「ゆ、許して! 許してぇっ! ア、アタシがやったんじゃ……!」
不二咲「その話はまた今度でいいよぉ。とりあえず今は、早くご飯を食べよう?」
舞園「不二咲君もそう言ってますし、腐川さんもこっちにどうぞどうぞ!」グイグイ
腐川「あ、ちょ、ちょっと! 引っ張るんじゃないわよ……!」ワタワタ
石丸「よし! 十神君がいないのは不本意だが、とりあえず全員揃ったな。それでは……!」
「誰がいないだと?」
「!!」
腐川「びゃ、びゃ、白夜様……!!」
全員が声のした方向を一斉に見る。そこには、相変わらず剣呑な雰囲気を纏った十神が立っていた。
大和田「オメエ、来たのか」
十神「来てはいけないのか? 俺だけ朝食を食べるなと?」
大和田「そういう意味じゃねえよ……」
葉隠「ま、まあまあ。喧嘩腰は良くないべ」
苗木「うん。十神君が来てくれて良かったじゃないか」
腐川「白夜様……」
腐川は心配気な表情で十神を見つめるが、十神は特に気にした様子もなく一瞥だけ見てすぐ目を逸らす。
朝日奈「十神! 腐川ちゃん、部屋から出てきたんだよ! なにか一言くらい……!」
大神「朝日奈よ、気持ちはわかるが……」
江ノ島「ムリムリ。だって十神だよ?」
十神「俺に何を期待しているんだ? 折角ストーカーがいなくなって清々していたというのに」
江ノ島「ほーら、やっぱり」
セレス「まあ、十神君ですから」
245: 2015/01/04(日) 21:33:53.22 ID:Aw/5zhaA0
桑田「おい、十神。おめーなぁ、もうちょっと人をいたわれねーのかよ?」
十神「俺はそんな無意味な行動はしない」
大和田「無意味だぁ? 他人を気にかけることは無意味なんかじゃねえだろ!」
十神「そうだな。頭が悪い上に弱虫のお前達にとっては重要だな」
桑田「この野郎……!」
大和田「…………」グッ
十神の傲岸な発言に憎々しい顔をしながらも、大和田は拳を握って黙って耐えた。もう問題を
起こせないというプレッシャーもあるし、口で十神に勝てないのはわかりきっているからだ。
桑田は諦めずにまだ反論を試みようとしていたので、KAZUYAがやんわりと静止した。
K「桑田、よせ」
桑田「…………」
霧切「十神君。あなたも上に立つ人間なら、下の人間にどう接するのが効果的かはわかっているんじゃない?」
苗木「そうだよ! 何せ、この歳でいくつも会社を経営している十神君だもんね!」
十神「……勘違いしていないか、愚民共?」
ギ口リ、と周囲を一睨みして十神はコーヒーを啜る。
十神「おだてて載せるなどという安直な手が通用するのは、貴様等つまらない平民だけだ。
俺はあくまで俺のやり方を貫かせてもらう。いい加減学習しろ」
「…………」
十神「ただ、そうだな。……いつもの悪臭が多少、マシになったことだけは評価してやる」
腐川「白夜様……!!」パァッ!
腐川(えへ、えへへへへ……白夜様に誉めてもらえた……!! うへへ……)
K「…………」フゥ
K(捻くれ者め。本当はもう少し何か言ってもらいたいものだが、当の腐川は
これで満足しているようだし、俺から働きかけることもあるまい)
246: 2015/01/04(日) 21:52:34.08 ID:Aw/5zhaA0
山田「これでようやく全員揃いましたな!」
不二咲「何だか、随分久しぶりな気がするねぇ」
葉隠「いやぁ、ここまで来るのにえらい時間がかかったべ」
苗木「……本当にね」
苗木(僕達がこの学園に監禁された十日目――二番目の動機が配られたあの日の夜に、二度目の
事件が起きた。それからは、入れ代わり立ち代わり誰かが部屋に篭ったり入院したりして、
僕達十六人は一つの場所に揃うことなく、必ず誰かが欠けていたんだ……)
苗木(それが今、こうして全員が同じ場所に集まり顔を合わせている。当たり前のはずなのに、
この生活はそんな当たり前で簡単なことですら、とても難しくしてしまうんだ)
K「…………」
K(23日……約三週間、か。長かった……この一月にも満たない時間で、俺達は何度
諍いを起こし、怒鳴り合い、憎み合い、そして傷付けあったのだろうか――)
誰もが感慨に浸り、皆思い思いに目を閉じたり溜め息をついていた。
朝日奈「うんうん! やっぱりみんな揃ってるっていいよね!」
大神「ウム、そうだな」
腐川「またみんなで……食事が出来る……夢みたいよ」
霧切「ええ、そうね」
石丸「では改めて、全員手を合わせたまえ! それでは一緒に、いただきますっ!!」
「いただきます!」
K(俺達は――)
苗木(僕達は――)
――再び揃った。そして、その事実が次の騒乱の引き金となることは容易に予想し得た。
けれど彼等は、残り少ないその時間を精一杯穏やかに過ごすことで心の平安を保とうとしていたのであった。
247: 2015/01/04(日) 22:00:14.33 ID:Aw/5zhaA0
モノクマ「渡る世間は鬼ばかり。ダンガンロンパに事件ありってね」
モノクマ「そろそろ崩壊へのカウントダウンでも始めちゃおうかな?」
モノクマ「あ、今のボクはメタ的存在だから細かいことは気にせず。
それでは自由行動の安価行っちゃいますか! ますか!」
人名↓2
249: 2015/01/04(日) 22:21:51.62 ID:GBbNT/Z9O
十神
251: 2015/01/04(日) 22:30:54.30 ID:qD1Vc7oho
山田
252: 2015/01/04(日) 22:39:25.65 ID:Aw/5zhaA0
モノクマ「マジでちゃんと考えた方がいいと思うんだけどなぁ。今回と次回結構重要だし」
モノクマ「……それ以前に人がいないっていうね。ショボーン」
モノクマ「もし見てるけど安価取るのは怖い!って人がいるなら文章の最後に
stとか安価下ってつければ下に流れるから、雑談も出来るよ!」
二人目直下
257: 2015/01/04(日) 23:02:05.51 ID:Aw/5zhaA0
三人目直下
260: 2015/01/04(日) 23:14:11.03 ID:Aw/5zhaA0
>>258
(霧切さんは警戒心が強いから、好感度が一定以上じゃないと部屋には入れてくれません)
(部屋行きが可能になったら告知します)
>>259
(江ノ島さんは仲間ではありません。むしろ内通者だってバッチリバレているので、
会えば親密度の代わりに警戒度が上昇します。現在の警戒度は>>3です)
st
261: 2015/01/04(日) 23:19:12.37 ID:O8BR7DonO
シンプルにセレスで
262: 2015/01/04(日) 23:24:53.33 ID:Aw/5zhaA0
お、そう来ましたか。フムフム
最後 場所選択>>264
仲間生徒の部屋の場合、現在可能なメンバーは苗木、石丸、桑田、舞園、不二咲、朝日奈
悩んだ場合は安価下
264: 2015/01/04(日) 23:39:11.19 ID:jRNfzCeDO
葉隠がいそうな場所がわかればそこでもいいんだけどわからんな
ランドリーとか?無難に仲間の部屋の方がいいかな
st
ランドリーとか?無難に仲間の部屋の方がいいかな
st
266: 2015/01/05(月) 00:04:47.49 ID:xQ5Vjx94O
個人的には不二咲か桑田か石丸の部屋がいいと思う。ランドリーに行ったとして葉隠がいるとは限らないし
st
st
268: 2015/01/05(月) 00:35:30.15 ID:qWM1cMo60
では山田、腐川、セレス、不二咲の部屋ですね。了解
今回でやっと全員揃ったので、そろそろまた崩落のカウントダウンが始まります
ちなみに、希望ヶ峰学園の謎とか裏設定は今後オリジナルが多々入ってきます
この調子で物語後半を一気に駆け抜けて行きたいですね。それでは……
270: 2015/01/11(日) 00:42:18.09 ID:RFcR24tX0
・・・
久しぶりに全員揃っての朝食会と相成ったが、生徒達がマントの下の変化に気が付いた。
葉隠「お? 先生、なんで両腕に包帯なんて巻いてんだ? 怪我でもしたんかいな」
K「怪我という程のものではないんだが……」
KAZUYAの両腕は注射痕と血腫だらけになり、一見して酷い有り様になっていた。見た目の派手さに反して
そこまで痛くはないのだが、生徒がショックを受け後々協力を嫌がっては困ると思い隠していたのだ。
山田「怪我もしていないのに包帯……もしや、邪気眼?!」
K「いや、医療実習で少しな」
苗木「僕と石丸君で注射の練習をしたんだよ」
石丸「初めてなので、先生の腕にさせてもらったのだ!」
葉隠「え? マジか?!」
山田「なんとっ?!」
セレス「まあ……」
朝日奈「注射なんてやってたんだ。他にも、気管にクダ通して呼吸を確保するのもやったよね!」
不二咲「気管挿管術、だね。いざという時気道を確保するために」
江ノ島「えっ、そんなことまでやってんの?!」
十神「西城……まさか、本気でこいつらを医者にするつもりなのか?」
K「俺はそのつもりだ」
十神「信じられん……」
流石の十神も驚いたような呆れたような表情で、交互に顔を見渡す。
271: 2015/01/11(日) 00:59:25.30 ID:RFcR24tX0
石丸「と言っても僕は不器用だからな。昨日も僕のせいで先生の腕がくすり中毒者のように……!」グス
K「……嫌な例え方をするな」
山田「凄いですなぁ……これなら、もしまたなにか不測の出来事が起こっても大丈夫ですね!」
十神「こんなヘッポコ共に自分の体を預けるくらいなら潔く氏んだ方がマシだがな」
石丸「酷いぞ、十神君! 僕が信用出来なくても優秀な苗木君がいるから大丈夫だ!」
苗木「いや、僕を頼られても困るよ?!」
桑田「ちなみに、今んとこせんせーと大和田と俺しか被験者いねーから、
実習に協力してくれるとすげー助かるんだけど……」
KAZUYAの代わりに桑田が言ってほしいことを言ってくれたが、当然生徒達の反応は芳しくない。
山田「そ、それはちょっと……」
セレス「お断りさせて頂きます」
江ノ島「え~……ムリ。ほら、アタシモデルだから体に傷がつくのはマズイし」
十神「誰がやるか」
葉隠「俺は先生からお墨付きが出たら考えてやらんでもねーべ。あ、勿論タダではやんねえけどな!」
朝日奈「あんた達ねえ! もうちょっと上達したら私だって手伝うんだから!」
江ノ島「えっ、本気?!」
大神「我も覚悟は出来ている。思えば、我等は西城殿に頼りっきりなのだ。手伝うべきだろう」
舞園「私の体も使ってもらって結構です」
霧切「安全が確保されて痕も残らないなら協力してもいいわ。……もう少し後になりそうだけど」
K「腐川は?」
腐川「へ? ……え、えぇええっ?! アタシ?! えっと、その……考えておくわ」
苗木「みんな、ありがとう。……でも、みんなに手伝ってもらうのは当分先になりそうかな」ポリポリ
大和田「……それまで俺の体がもちゃあいいんだけどよ」ボソッ
272: 2015/01/11(日) 01:07:22.11 ID:RFcR24tX0
大和田が少し遠い目をしている。
不二咲「大和田君、ガンバだよ!」
石丸「ガンバだ、兄弟!」
朝日奈「ファイトー!」
大和田「お、おう……」ドヨーン
K・苗木・桑田・舞園・大神(……可哀想に)
― 美術室前廊下 PM1:25 ―
午前は恒例となりつつある医療実習で潰し、KAZUYAはいつものように校内巡回をしていた。
そのついでに、ふらりとまた美術室に寄ってみる。相変わらずそこには山田がいた。
K「原稿の進みはどうだ?」
山田「おお、西城カズヤ医師! この短期間に三度も連続で僕を訪れるとは……
こ、これはギャルゲーで言うところの攻略?! 僕って攻略されてる?!」
K「攻略?」キョトン?
山田「うわ、しかもハーレム主人公のテンプレ天然鈍感キャラキター!」
K「???」
山田「しかしこの山田一二三、仮にもオタク代表としてそう安易に屈するワケには……
でも悔しい! 気にかけられてると思うと感じちゃうっ、ビクンビクン」ピローン←好感度の上がる音
K「…………」
山田「…………」
K「…………」
山田「なんか言ってくださいよぉー!!」豪ッ!
K「えぇっ?!」
273: 2015/01/11(日) 01:16:09.81 ID:RFcR24tX0
・・・
「とまあ色々話しましたが、実は今原稿に詰まってまして。今のはほんの息抜きです」
「そうなのか……」
(わからん! さっぱりわからん!!)
腐川といい山田といい、芸術家という人間は何故こうも理解不能なのだろう。KAZUYAとて
芸能人を始め、音楽家からデザイナーまで幅広く知人にいるが(むしろ従弟は画家志望である)、
ここまで常識がズレている人間はついぞ見たことがなかった。
(それともこれがジェネレーションギャップと言うものだろうか……)
そんなことを色々考えたが、最終的には遠い目をしながら話題を変えることにした。
「それで……何に悩んでいるんだ? スランプと言う奴か?」
「まあ、一種のスランプでしょうな。実は……敵役に悩んでいるのです」
「敵役か。まあ、物語には必須だな。俺の知り合いにも悪役専門で成功した俳優がいる」
「そう! 物語に必要なのは魅力的な敵キャラなのです!」
(何だか、前にもこんなことを言っていたような……)
結局不要なキャラクターなんていないんじゃ……と思ったがKAZUYAは素人なので黙っておく。
「主人公より敵側の方に人気が出ることもままあります。一応三人は出来ているのですが」
山田が指し示した設定画には、悪魔的でダークなデザインの服を着た十神とセレス、
それに何故かメイド姿の腐川が描かれていた。しかし何故だろう……。全く違和感がない。
セレスに至っては突然この服装で現れても全く驚かない自信がある。
……流石に角があったら驚くが。
274: 2015/01/11(日) 01:24:19.57 ID:RFcR24tX0
「何というか……ハマり役だな……」
「そうでしょそうでしょ?! ピッタリでしょう?! いやぁ、我ながら上手いデザインだと自画自賛ー。
ちなみにセレス殿が持っているこのバラの鞭は僕がモノモノマシーンで出してプレゼントしたものです」
「絶対怒られると思って冗談で渡したのにまさかのお気に入りで、僕も時々シバかれます。まさしく悪女!」
(俺は何も言わないぞ……)
怒られると思ってそんなものを渡すのもどうかと思ったが、KAZUYAは半ば意地になって話を進める。
「ハァ……で、この二人は?」
「見ての通り十神白夜殿は魔族の王子です。腐川冬子殿は十神殿に密かに恋するメイドで、
十神殿の役に立つため最終的には改造手術を受けジェノサイダーになります」
「三人もいれば十分じゃないか。なかなか個性も強いし」
事実、KAZUYAは十神一人に散々苦しめられてきた。セレスもあからさまな真似こそしないが、
絶妙なコンビネーションでKAZUYAの足を引っ張り、そこに腐川のネガティブな発言が
追い撃ちとなって一体何度追い詰められたかわからない。その苦い思い出が頭を掠める。
「駄目です。三人では全然足りませんね」
「足りないのか?」
「足りるワケないでしょう! セレス殿と十神殿はどう考えても中ボスじゃないですか! ボスの前には
盛り上げ役となる前座がいないと! 僕が敵だったらセレス殿と組むことも出来たのですが……うーむ」
「ああ、成程。そういう……」
(任侠物で言う、組長の前に若頭、若頭の前に一般構成員……みたいなものか?)
「しかし、僕等をモデルにしている以上人数に限りもありますし……難しいですなぁ」
「フーム……」
KAZUYAは顎に手を当てながら生徒一人一人の顔を順々に浮かべていく。
275: 2015/01/11(日) 01:35:54.80 ID:RFcR24tX0
「……大和田はどうだ? 何せ暴走族だし、フィクションなのだから悪役にしても怒らないだろう」
「成程! 西城医師のお墨付きがあるならいけそうですな。……万が一怒ったら助けてくださいよ?」
「わかったわかった。まあ、あいつも最近は大分丸くなってきたし大丈夫のはずだ。……多分」
「ピ口リ口リーン! 山田一二三のレベルが上がった!」
「?! な、なんだ? いきなり大声を出すな……!」
「いやぁ、実に良いことを思いつきました。やっぱり僕って天才!」
「何だ?」
「大和田紋土殿には確かお兄さんがいたでしょう?」
「ああ。大和田大亜と言ったらしいな。ダイアモンド兄弟として地元では有名だったとか」
「そのまんまダイアモンドブラザーズとして出しましょう!」
「……大和田はともかく兄はまずくないか? 氏んでいるのだし」
「ええ。悪人にしようものなら殺されますね。なので、騙されていることにするんです。盗賊だけど
義理堅くて地元の人達には好かれている義賊の正義漢。激闘の末に和解するのですが……」
カキカキカキカキカキカキ……
レオン『クッソ! こいつらつええ…… ! もうダメなのかよ?!』
ハガクレ『ひえええええ! イヤだああああ! 氏にたくねえ!』
ジュン『うっさいわねぇ! 氏にたくないならちゃんと呪文唱えなさい!』
マコト『みんな、諦めちゃ駄目だ! ここまで頑張ってきたじゃないか! 僕は諦めない!!』
モンド『ムダだ! くたばれやああああ!』カッ!
マコト『僕が囮になる! その間にみんな逃げ……うわあああああああっ!!』
ダイア『やめろ、モンド!! ……この勝負、ヤメだ』
モンド『?! あぁ?! なんでだよ、兄貴!』
276: 2015/01/11(日) 01:47:23.81 ID:RFcR24tX0
ダイア『まだわかんねえのか、モンド。こいつらが悪党に見えるか?
俺達は担がれたんだよ、あのセレスって女にな!』
レオン『ハァ? 話についてけねーんすけど』
ジュン『フムフム、つまり私達と彼等にそれぞれ嘘の情報を渡し、潰し合いをさせた黒幕がいると』
マコト『何だって?!』
なんやかんやあって和解した所に颯爽とセレス登場。
セレス『バレてしまいましたか。まさか盗賊風情にわたくしの策を見抜かれるとは思いませんでしたわ』
モンド『なんだと?! てことはまさか……?!』
セレス『あなた方の仲間を華麗に虐頃したのはわたくしです。暇つぶしにもなりませんでしたわ』
モンド『テ、テメエエエ!!!』
セレス『……そうですわね。高見の見物も飽きてしまいましたし、少し遊んでさしあげましょうか』
ゴゴゴゴゴゴ……!!!
ダイア(まずいな……恐らくこの女、相当強いぞ。今の俺達じゃあ……)
ダイア『許せ、モンド!』ザシュッ
モンド『な、痺れナイフ?! なにすんだ、兄貴?!』
ダイア『……すまねえ、お前ら。ちょっと野暮用が出来ちまった』
マコト『ダイアさん……!』
ダイア『モンド連れて、先に行っててくれや。また後でな』
ハガクレ『お、おいそれってもしかして……』
ダイア『ハハッ。なーに、大した用事じゃねえさ。ガキ共はクソでもして待ってな』
レオン『チックショー! 逃げるぞ!』
277: 2015/01/11(日) 02:00:38.85 ID:RFcR24tX0
マコト『ありがとうございます……あなたのことは忘れません』
モンド『待てよ! ふざけんな! 兄貴! 兄貴ィィィイッ!』
ダイア『……フゥ。おいアマ、何で行かせた? 正直、助かったけどよ』
セレス『わたくし、醜い物が嫌いでして。あの程度の輩に必氏になるのはプライドに障りますの』
ダイア『見る目がねえな。あいつらはダイアモンドの原石だぜ? だが、良かった。
そんなこともわからない程度なら、成長したあいつらの敵じゃなさそうだな』
セレス『……さえずりますのね。氏にゆくあなたが何を言おうと負け犬の遠吠えでしょうに。
おしゃべりは終わりですわ。――その生命、派手に散らせて氏になさい』
ダイア(俺はここで終わりだ。だが、あいつらが俺の意志を継ぐ! 負けるなよ……)
ドオオォォオオオォオオオォォォオオオン!!
セレス『氏は美しい。次はもっとたくさんの花火をあげてみせますわ。ふふふ、ほほほ、おーほほほほほほっ!』
顔にベッタリ返り血をつけたセレスが哄笑するページを手に取りながら、KAZUYAは戦慄していた。
「…………」フルフルフル…
(えぐい、えぐいぞ! 良いのか?! クラスメイトがクラスメイトの兄と仲間を虐頃する内容は……?!)
「どうしましたか? まさか構図が気に入らなかったとか……」
「あ、いや内容は面白いし絵も上手い。しかし、これは流石の安広も怒るんじゃないか………?」
「甘いですな! 西城医師はまるで彼女を理解していない!」クワッ!
「……?!」
「セレス殿は現実でアイタタな発言をする重度の厨二病ですよ? 悪の華となるのはむしろ本望! 強く悪く
描きさえすれば怒らないでしょう。怒るとすれば無駄氏にでもさせて『このわたくしがこんな無様な
負け方をするなどありえません! 主人公の仲間の一人や二人、道連れにしますわ!』とかですかね」
「……ハァ、これは参った」
確かに、セレスなら自分を悪人にしたことよりも見栄えの方を気にしそうだ。やはり、付き合いの
浅い自分より山田の方が深くセレスを理解しているのだな、とKAZUYAは内心唸ったのだった。
山田の同人誌完成率…………現在60%。
294: 2015/01/18(日) 00:01:38.81 ID:Sj8OZbgW0
一階に戻る途中、KAZUYAは腐川のことが気になって図書室に寄ってみた。
― 図書室 PM2:43 ―
「あ、西城……」
腐川はKAZUYAを見つけると一瞬驚いた顔をするが、すぐにまたいつものいじけた表情に戻る。
「白夜様ならここにはいないわよ……今日は気分じゃない、とお部屋に戻られたわ」
「ん? 何故十神の名前が出るんだ?」
「ハァ? 何でって……わざわざ図書室に来たんだから、白夜様に用があったんでしょ?」
「いや、俺は君の様子を見に来たのだが。本当に元気になってくれたようで安心した」
そう言ってKAZUYAが笑いかけると、腐川は持っていたやたら重そうな文学書を落とす。
「ッ……?!」ドンッ!
「大丈夫か?! 今、本が足に……」
「へ、平気よ。このくらい……それにしても何なの?」
「何がだ?」
「ア、アタシが部屋から出ても優しくするなんて……一体何が狙い?」
「? 狙いなどない。ただ君が心配だったからだ」
「そ、そんなことある訳ない。アタシみたいな性格のねじくれた陰険ブスに
優しくするなんて……アタシは親にさえ愛されたことなんてないんだから……」
(……どうも、両親に鍵があるようだな)
「前にもそんなことを言っていたが……その話、聞かせてもらっても良いか?」
「ふん、アタシが何でこんな捻くれた性格なのか知りたい訳ね……。いいわよ、教えてあげる」
そして腐川は語り始めた。彼女のあまりにも特異な出生について……
295: 2015/01/18(日) 00:08:26.05 ID:Sj8OZbgW0
「アタシにはね――母親が二人いるのよ」
「二人? それは……」
「父親が離婚して再婚したからとかじゃないわ。生まれた時から二人いるのよ」
「生まれた時から?」
医者であるKAZUYAは、咄嗟に卵子提供や代替妊娠という単語が浮かんだ。……しかしおかしい。
日本でそれらの方法はまだ法律的に未整備であり、そこまでして子供を求めた親が冷たくするだろうか。
「ちなみに、どっちがアタシの本当の母親かは今もわからないわ。
まあ、どっちも親だなんて思ったことは一度もないけど……」
「? 意味が……」
わからないとKAZUYAが首を傾げるより早く、腐川は恐ろしい事実を告げた。
「要はアタシの父親である男には二人の女がいたの。その上、よりによって二人は同時に妊娠して
同じ病院にいたのよ。そして、同じ日に出産したんだけど……子供のうち片方は氏んだの」
「な……?!」
「本当に驚くのはこれからよ……病院のミスでどっちの子供が氏んだのかわからなくなったの。
当然検査をしようという話になったんだけど――二人共その検査を拒否したのよ……!」
「何故?!」
「二人共、氏んだのが自分の子供だったらいいって思ってたからよ……!!」
「……………………」
長く重い沈黙が二人を襲った。
296: 2015/01/18(日) 00:15:55.49 ID:Sj8OZbgW0
現実は時に物語を凌駕する。かつてKAZUYAが腐川に言った言葉だが、
まさかこんな形で返ってくるとは思ってもみなかった。
(これは……確かに捻くれても仕方が無いな……酷すぎる。そして余りに悲しい……)
「わかったでしょ? こんなめちゃくちゃな家庭環境で育って歪まない訳がない。
そして性格が悪くて根暗なアタシは学校でも上手くやれなくて、いつも一人……」
「……今だって、アタシに散々親切にしてくれたあんたに憎まれ口叩いてるじゃない」
「…………」
「無駄なのよ……いくらあんたが医者でも、この性格は治せないし優しくするだけ時間の無駄……」
KAZUYAは考えていた。彼は今まで数え切れない患者を見てきた。そして、患者の数だけドラマがあった。
当然、その中には悲劇もたくさんあったが……望まれない子供程悲しい存在があるのだろうか。
――脳内にまた一つ記憶が蘇った。
『アタシが最初に頃したのはアイツよ! 根暗のラブレターを学校に晒して転校してったハニー。
わざわざ引っ越し先の四国まで追っかけて頃してやったわ。ゲラゲラゲラ!』
『……もしかして、君は腐川に酷いことをした男を頃しているんじゃないか?』
『ハ? ちげーし! 萌えるから頃すだけだし! 殺人鬼のポリシーナメんな!!』
『だが、萌えるというのは外見だけではなく内面も大きな要素なのだろう? 全く見知らぬ人間に
萌えることが出来るのか? 何より、今までで最も萌える男と言っている十神は何故殺さない?』
『えっ?! えっと、それはぁ……だって白夜様は特別な存在だしアタシも正直驚いてるって言うか……』
『君は腐川が希望ヶ峰に来てからは殺人をしていない。友人が出来て満たされているからではないか?』
『さぁねぇ~。わかんないけど。ま、アタシは面白いことが好きだから?
頃しよりも面白いことがあればそっち行くだけだし! ゲラゲラ!』
297: 2015/01/18(日) 00:22:15.17 ID:Sj8OZbgW0
『しかし不思議なのは……今まで腐川に酷いことをした男を頃してきたのに、
君達が最も憎んでいるはずの父親は殺さないんだな?』
『……オヤジなんて萌えるワケないじゃん。それに――別に憎んでるワケじゃねーのよ』
『憎んでいる訳ではない?』
『ちょ、まさかここから先もアタシに言わせる気? 察しろよ!』
一連の会話を思い出し、当時と同じようにKAZUYAは考え込む。
(俺には……何が出来る? 何をしてやれる?)
KAZUYAが黙り込んでしまったために、腐川はその場に所在なく立っていた。
(……さっさと諦めて、仲良しグループの所にでも行けばいいのに……何で帰らないのよ……)
それはこの男に深い愛情と誠意があり、心底腐川を助けたいと思っているからだとわかっていたから
怒鳴って追い返したりはしなかった。黙って待つ代わりに、彼女は彼女で朝の出来事を思い返していた。
◇ ◇ ◇
朝食会の後、女子達は自主的に腐川の元にやってきて励ましてくれたのである。
嬉しかったが、素直ではない腐川にとってこそばゆい親切でもあった。
朝日奈「大丈夫だって! みんなもう気にしてないからさ。元気出しなって!」
腐川「そんな訳ないでしょ……これだからスポーツ馬鹿は……」
舞園「殺人未遂なら私や大和田君もやってますし、腐川さんだけではありません。元気を出してください」
腐川「あ、あんたねえ?! アイドルが実は未成年飲酒やタバコ吸ってましたって
レベルの話じゃないのよ?! 犯罪よ?! それも人頃し?! わかってんの?!」
舞園「わかってますよ?」
298: 2015/01/18(日) 00:47:21.60 ID:Sj8OZbgW0
腐川「な、なら何でそんな平然としてんのよ……ふん、やっぱりアイドルなんてやるような人間は
普通の人間より神経が図太いのね。アタシの繊細な神経は今の状況に耐えられないのよ!」
こういう一言多い発言やキツイ皮肉が嫌われる元だというのは百も承知している。しかし、
綺麗で華やかな舞園に対し特にコンプレックスを持っていた腐川は、またも噛み付いてしまった。
幸いだったのは、今ここにいる舞園はアイドルではなく脱出のための駒であったことか。
彼女は腐川の暴言をサラリと受け流し、平然とした顔で応じた。
舞園「いいえ。私も耐えられませんでした」
腐川「あんた、何が言いたいのよ……」
舞園「一人では耐えられませんけど、皆さんが支えてくれましたから。一時期は酷かったですよ。
苗木君を困らせたり、西城先生に泣きついたり……一度思い切り泣いてみるのも手ですね」
朝日奈「あ! それスッキリするよね~。私も一回スゴイ先生に当たり散らしちゃってさー!」
セレス「まあ、いつも元気な朝日奈さんにもそんな時が?」
朝日奈「……あれ、これ言ってなかったっけ?」
大神「朝日奈……!」
霧切「朝日奈さん、いいのね?」
朝日奈「うん。ちゃんと言わなきゃ。実は私ね、石丸がまだおかしかった時……あいつの首を絞めたの」
セレス「…………はい?」
腐川「はあぁぁあああ?!?!! な、なななな、なんでよ?! 一体なんのためにっ?!」
朝日奈「……えっとね、みんな毎日氏んだような目をしてて色々限界だったんだよ。あの状況からなんとか
抜け出したくて……だからその、氏にかけたら元に戻るんじゃないかって、ショック療法的な……」
腐川「それでうっかり氏んだらどうすんのよッ?! 馬鹿だ馬鹿だと思ってたけど、
……あんた、やっぱり脳みそ筋肉で出来てんじゃないのっ?!」
朝日奈「い、今は反省してるよ! あの時はちょっとヒステリー起こしちゃってて……」
299: 2015/01/18(日) 01:00:10.12 ID:Sj8OZbgW0
セレス「そういえば……何故か先生が顔中に怪我をしていた時がありましたわね。いくら聞いても
絶対に理由を教えてくれませんでしたが、あれは朝日奈さんが原因でしたか……」
朝日奈「本当、申し訳ないことしちゃったよー。散々泣きわめいて引っかいちゃって……
でもKAZUYA先生優しいんだー。あんなことしたのに抱きしめて頭撫でてくれたし。エヘヘ」
腐川「あ、あんた男にそんなことされたの……?!」
朝日奈「? だって先生だよ?」
腐川「ぐ……そりゃあそうだけど……中年て言うにはまだ若いし、それに……」
朝日奈「先生っておっきくてなんだかお父さんみたいだよね!って言ったら変な顔して笑ってたけど」
霧切「確実に苦笑いね」
朝日奈「腐川ちゃんも思い切ってやってみれば? ちょっとは落ち着くかもよ?」
腐川「あああ、あんた、何てこと人に勧めてんの?! 男に抱かれろなんて……これだから魔性の女は!」
セレス「そういう意味ではないと思いますが……」
大神「朝日奈は無理をするなと言いたいのだ。この過酷な生活、一人で正気を保ち続けられる者などおらぬ」
霧切「そうね。実はその後にも一度大きな喧嘩があったのだけど、
あの時は流石のドクターでさえ冷静さを失っていたわ」
舞園「西城先生に愛想を尽かされたと思って……正直、もう駄目だと思いましたね……」
セレス「あの時の朝日奈さんたら、この世の終わりのようにわんわん泣いて大変でしたわ」
朝日奈「その話はもうやめてよー!」
霧切「人間はみんな一人で生きているように見えるけど、必ず一人では耐えられない時がある。
もし辛い時があるならいつでも言って頂戴。助けられるかわからないけど力にはなるわ」
舞園「過去は過去です。困ったり悩んでる人を放置なんて出来ません!」
大神「その通りだ。いつでも泣きついてくれ。我らは皆支えあう必要がある」
300: 2015/01/18(日) 01:11:53.93 ID:Sj8OZbgW0
朝日奈「遠慮なんかしなくていいからさ!」
セレス「まあ、話くらいなら聞いてあげてもよろしいですわよ?」
腐川「…………」
◇ ◇ ◇
(泣きついてみる……ね。でも、アタシは……)
「ねえ、西城……」
彼女達の言葉に後押しされたのか、自然と声が出ていた。
「何だ?」
(どうせ……無理なんてわかってる……駄目元よ!)
「前に、アタシを救いたいって言ってくれたわよね……?」
(……きっと適当な言葉でごまかすんでしょ! ……そんなの、アタシはもう慣れっこだし……)
そう思っているのに、なのに……何故か期待している自分がいる。
この男は、今までに出会ってきた男達とはどこか違うのではないかと。
「ア、アタシを……! アタシなんかを…………抱きしめてって言ったらしてくれる……?」
「突然何を……?」
「……じょ、冗談よ! アタシみたいなブスで汚くて臭い女、誰だって嫌に……」
「これでいいか?」
いつの間にか目と鼻の先まで歩み寄っていたKAZUYAが、腐川の華奢な体をしっかりと抱きしめる。
301: 2015/01/18(日) 01:27:39.78 ID:Sj8OZbgW0
「な……?! 何してんのよ、あんた?!」
「君がこうして欲しいと言ったのだが」
「は、離しなさいよ! 臭いでしょ?! 腐川菌が移っても知らないわよ?!」
「今は臭くないぞ。仮に臭くても俺がすることは変わらないがな」
「あんた、何でそこまで……!!」
「俺は君達の先生だ。辛い時はいつだって励ますし、困っていれば助ける。
一人一人が俺にとって大切な生徒だし、腐川も勿論大切だ!」
「……!」
KAZUYAの力強い両腕が腐川の背中を包み込み、そこからじんわりとぬくもりが伝わってきた。
(温かい……妄想とは違う、本物の温かさ……これが人のぬくもりなのね……)
「な、なによ……格好つけちゃって……図体がでかいと態度もでかいわよね……!」
「仕切り屋でリーダーぶってて、いつも偉そうなこと言ってる割りには
空回りして事件は止められなくて、でも絶対に諦めなくて……」
……KAZUYAのぬくもりが、少しずつ腐川の心の中の氷を溶かしていく。
「帝都大首席の医者だか何だか知らないけど、仕事にプライド持ってて、馬鹿みたいに
走り回って……自分のせいじゃないのに、問題が起きるたびに生徒なんかに頭下げて……うぅっ」
「…………」
「馬鹿みたいにがむしゃらで……馬鹿みたいに優しくて……馬鹿みたいに、馬鹿みたいに……!!」
ボロボロと目から液体が溢れてくる。それは彼女を包み込むKAZUYAと同じように温かかった。
302: 2015/01/18(日) 01:43:51.83 ID:Sj8OZbgW0
「アタシに優しくするなんてば、馬鹿よ! 絶対に、絶対に許さないんだからっ! うわああああああああん!」
とうとう感極まった腐川は泣き出し、KAZUYAにしがみついた。KAZUYAもまた強く強く抱き返してやる。
「……俺は君の親にはなれないが、寂しい時に抱きしめてやるくらいなら出来る。いつでも来い」
「そんなこと言って……ア、アタシは本当に行くわよ? 行っちゃうわよ? いいのね……?!」
「ああ、待っているぞ。俺だけじゃない。みんなだって待っているさ」
「みんな……」
「彼等とはきっと良い友人になれるはずだ。どうか俺を――みんなを信じて欲しい」
「西城……せ、先生が言うなら……もう一度だけ、信じてみるのもいいわね……」
「ありがとう」
頭を撫でてやると、腐川はビクリと体を震わせた。そして恐る恐るKAZUYAの顔を見上げてくる。
「……嫌だったか?」
「あ! ……とんでもない! その、もうちょっとだけ、こうしてても……えっと……」
「……フッ、構わないぞ」
「え、へへ……えへへへへ……」
腐川はとろけそうな笑みを浮かべ、満足そうにしている。やっと心を開いてもらえてKAZUYAも満足していた。
――しかし、そんな二人を陰から見ている者がいたのである。それは、
葉隠「母ちゃん、事件だべ……!!」
葉隠(やっべー! 図書室に行けば面白いモンが見れるって
占いで出たから来たのに、とんでもないもん見ちまった!)
葉隠(そういや、K先生は初日にも霧切っちを男子トイレに連れ込んで迫ってたし、
硬派に見えて実は結構スケコマシなんじゃねえか? こうしちゃいられねえ!)
……噂になってしまった。
が、KAZUYAは人望があったため事情を説明して誤解を解き、葉隠はどつかれる羽目になったのだった。
308: 2015/01/24(土) 21:39:51.60 ID:wf3obsIl0
◇ ◇ ◇
たまたま廊下で不二咲に会ったKAZUYAは、ふとアルターエゴが気になって二人で脱衣所に入った。
「アルターエゴ、起きて」
『あ、ご主人タマと先生! 来てくれたんだ。嬉しいな』
「あの後、他に解析出来たものはある?」
『うん! もうこのPCに入っているデータは全部解析出来たよ』
「見せてくれ」
KAZUYAの言葉に応じて、アルターエゴは順番にデータを見せる。
「これは……」
『写真だね』
アルターエゴの画面に大和田、桑田、不二咲の三人が楽しそうにふざける写真が映る。
「えぇっ?! なにこれ? 僕、こんな写真撮った覚えないよぉ?」
『変だよね。みんなはここで初めて会ったはずなのに、何でこんな写真があるんだろう?』
「…………」
「それに先生! 見て、窓に鉄板がない!」
「……そうだな」
『しかもね、まだ不思議なことがあるんだ。この写真――撮影者が石丸君なんだよ』
「!!」
「えっ、石丸君が?!」
「…………」
309: 2015/01/24(土) 21:45:33.91 ID:wf3obsIl0
KAZUYAの胸が締め付けられる。絶句する二人に気付かず、アルターエゴは続けた。
『あともう一枚あって、こっちは苗木君の撮影ってことになってるんだけど……』
画面に違う写真が映し出される。そこには舞園、山田、セレスが映っていた。
特にセレスは、今までに見たことがないような生き生きとした表情をしている。
「先生、これって一体どういうことだろう? こっちの写真にも窓が写ってるし……」
(どうする? この写真を根拠に全員に真実を告げるか? だが、写真は加工出来る。
十神辺りに突っつかれでもしたら、かえって場が混乱しかねないか……)
結局、全員を説得出来るかではなく十神を説得出来るかが焦点になっていた。セレスも頭は回る方だが
十神よりは周りに合わせる傾向があるし、……とにかく憎たらしいくらい十神は頭が良いのだ。
「……この写真が本物かはまだわからない。もしかしたら、黒幕からの謎掛けかもしれん」
「謎掛け? このパソコンは黒幕が用意したものってことですか?」
「可能性はある。メンバーの中に超高校級のプログラマーがいると知っていて
パソコンを置きっぱなしにするのは、少々杜撰だと思わないか?」
その杜撰さのおかげでKAZUYAは生存出来たのだが、この際それは置いておくとする。
「そう、だよね……うん、謎……」
(……でもこの写真、どこかで見た覚えがあるんだよねぇ。どこだっけ?)
そう、不二咲は臨氏体験をした時にこのシーンを見ている。だが、本人があれはただの夢だと
思い込んでいることもあって、すぐには結び付かなかった。何より次のKAZUYAの言葉に気を取られた。
「ところで不二咲、一つ大事な話があるんだが」
「ふぇっ?! 何ですか?」
310: 2015/01/24(土) 21:54:08.33 ID:wf3obsIl0
「このパソコンとアルターエゴを使って――学園にクラッキングを仕掛けることは可能か?」
「えっ? この学園のネットワークに入り込むってことですか?」
「そうだ。入る手段は既に見つけてある」
「えっと……」
つまりこうだ。KAZUYAはこの学園のシステムを丸々乗っ取って、このコロシアイ学園生活を強制的に
終了出来ないかと問うているのである。その大胆な提案に、不二咲は少し考え込んでから答えた。
「……少し難しいかな。どのくらいのセキュリティかはっきりはわからないけど、希望ヶ峰学園程の
施設となるともの凄く固いと思います。このパソコンは旧型でアルターエゴの性能もまだ未熟だし、
こっちが攻撃している間に逆にハッキングされる可能性もあるからあまりオススメ出来ないです……」
「そうか……」
「あ、力になれなくてごめんなさい!」
「いや、いいんだ。……アルターエゴの性能が上がれば成功確率は上がるか?」
「うん。もっとたくさんの情報を与えて処理速度が速まれば、もしたしたら……でも、
黒幕に見つかったら大変なことになるし、最後の手段にした方がいいかもしれないです」
「……最後の手段か」
(校則にもあるように、黒幕は俺達が学園を調べることは禁じていないし、実際俺がコロシアイに
対して行ってきた様々な妨害活動に対して直接的な制裁は加えてこなかった。基本は自由だ)
(……だが、それは黒幕が絶対優位という力関係が成立している上での余裕であって、もし俺達が
この学園生活そのものを脅かす行動を取れば、今までのような悠長な対応はしないだろう。
――恐らく、直接的な手段で排除にかかるはずだ)
(俺一人ならまだしも、生徒の安全を考えたらこれは使えないも同然だな。
やっと一つ切り札が見つかったのに、一かバチかの大博打にしか使えん……か)
まさしく文字通りの一進一退となり、KAZUYAは歯痒い思いをする。
311: 2015/01/24(土) 22:07:18.28 ID:wf3obsIl0
「とりあえず、他の情報を見てみよう。見つかったのはこの写真だけか?」
『まだあるよ。一つは、前に見せたような何かのレポートだね』
「レポート?」
また非人道的な実験のレポートか……とKAZUYAは暗い気持ちで画面を見るが、
そのレポートは今までのものとは少し毛色が違っていた。
「あれ? 文字が消されちゃってる。それに誰かの写真がついているねぇ」
「…………」
レポートだというのはわかったが、文字はほとんどマーカーで引かれたような黒い線で
消されてしまっている。写真の青年を見るが、どちらもKAZUYAの知らない人物だ。
(……どちらも見覚えのない顔だな)
(俺は俺が赴任した時点で希望ヶ峰に在籍していた全ての生徒を知っている。となると卒業生か?
しかし片方は違う校章だ……まさか、希望ヶ峰の外部からも被験者を集めていたのか?)
写真の青年が一体どんな非道な目に遭ったかを想像し、自然と胸がムカムカとしてくる。
「写真の下にあるこれ、この人の名前かなぁ? 文字が小さくて読めないけど。HIN……?」
「ヒノ、ヒノミヤ、ヒノモト、ヒネ、ヒナタ……辺りだろうか。もう一人は最初のMしかわからんが」
『あ、そういえばこのファイルだけ名前が付いてるよ』
「何? 何という名前なんだ?」
312: 2015/01/24(土) 22:18:13.08 ID:wf3obsIl0
『 ―― “ カムクライズル・プロジェクト ” ―― 』
313: 2015/01/24(土) 22:23:54.02 ID:wf3obsIl0
「カムクラ……イズル……?!」
何故かわからないが、KAZUYAは心臓を直接捕まれたような、体の芯から冷える錯覚を覚えた。
「それって確か、希望ヶ峰学園の創立者の名前だよねぇ? どんなプロジェクトなんだろう?」
「…………」
(学園の創立者の名を冠したプロジェクト……恐らく、ただのプロジェクトではあるまい。
まさか、生徒達を使った実験はこのプロジェクトのため? 一体何を目的とした?)
考えこむKAZUYAの脳裏に、どこか懐かしい誰かの警告が響く。
―気をつけろ、K!
―この学園は才能を盲信している!!
(?! 今の記憶は……?!)
唐突に頭に聞こえた声にKAZUYAは動揺した。
(このプロジェクトと今回のコロシアイ……何か関係があるのか?)
(だが、大事なサンプルである生徒達を傷付けるような真似をするだろうか……?)
「他に何かあったか?」
『これが最後なんだけど――“人類史上最大最悪の絶望的事件”』
「!!」
314: 2015/01/24(土) 22:41:21.46 ID:wf3obsIl0
「何それぇ?」
『詳しいことはわからなかったけど、その事件が原因で希望ヶ峰学園は閉校に
追い込まれたみたいなんだ。閉校に伴い、学園長主導で学園はあるプロジェクトを始動した』
「プロジェクトだと?」
(まさか……)
『それが――学園の中で生徒達に共同生活をさせるって内容みたいなんだよ』
「それって、僕達と同じ?! 先生、これって……?!」
「うっ……!」
アルターエゴから情報を聞いた時、激流のような記憶の一部がKAZUYAを飲み込む。
「せ、先生! どうしたのぉ?!」
「いや、何でもない……大丈夫だ」
「本当?」
「ああ。心配させてすまない……」
(……思い出したぞ! 何故俺がこの学園に残ったか。そうか、そういうことだったのか……!)
しかし、今のKAZUYAには怒りよりも不信な気持ちだけが膨らんで来ていた。
(だが、過ぎたことはどうでもいい。それより、色々きな臭くなってきたな……)
二階の男子トイレの奥の隠し部屋はわかる。あそこは黒幕が見落としたとしてもおかしくない。
だが、図書室にノートパソコンを残した理由は何だ? いくら壊れているとは言え、こちらには
超高校級のプログラマーがいるのだ。直して中の情報を取られるとは考えなかったのか?
315: 2015/01/24(土) 22:59:14.07 ID:wf3obsIl0
(もし俺が黒幕なら、外の情報がきっかけになって生徒が記憶を取り戻したら不味いと考え、
パソコンを奪うか破壊しているだろう。だが、黒幕はあえてそれをしなかった)
(……思えば、図書室に置いてあったあの手紙も妙だし、隠し部屋の資料も部分的に残して
あったように見える。まるで事前に選別したかのように。黒幕は隠す気がない。むしろ……)
(――思い出して欲しい?)
矛盾する事実に頭を捻らすKAZUYAの様子は気にせず、アルターエゴは同じ調子で続きを話した。
『学園長は四十代の男性で、まだこの学園の中にいるみたい』
「じゃ、じゃあ! 僕達を閉じ込めた黒幕は学園長なの?!」
「いや、違うな」
「え?」
「俺は学園長に会ったことがあるからわかるが、あの男は生徒にコロシアイなどさせる人間ではない。
むしろ守ろうとしていた側だ。考えられるとしたら、学園長は黒幕に利用されたのだろう」
「そうなんだ……先生が言うならきっとそうなんだろうねぇ。でも、学園長は今どこに……」
「この学園のどこかに拘束されているか、……もしくはもう殺されているだろうな」
「…………」
彼等の嫌な沈黙を崩したのは、まだ繊細な感情のわからないアルターエゴである。
『これで、このパソコンの中にあった情報は全てだよ』
「ご苦労様、アルターエゴ。じゃあ……」
『あ……そうか。もう僕の役目は終わりなんだね……』
「うん。あ、でもみんなの新しい遊び相手にはなれるかも。みんなは人工知能とか
多分見たことないだろうし、閉じ込められて刺激も少ないだろうから……」
『本当? 早くみんなとおしゃべりしたいな!』
悲しい顔を浮かべていたアルターエゴだが、その話を聞くとパッと笑顔に戻る。
その表情は実にリアルで、確かに子供達の遊び相手にはちょうどいいだろう。
316: 2015/01/24(土) 23:10:23.76 ID:wf3obsIl0
(だが、アルターエゴをただ眠らせておくのは勿体ないな。何か役立てる方法はないだろうか?)
(……待てよ。クラッキングは無理でも、アルターエゴ自体を餌に使えないか? 上手く行けば、
内通者をあぶり出せるかもしれん。内通者さえ何とか出来れば頃し合いも防ぎやすくなる)
「不二咲、話が……」
◇ ◇ ◇
ピンポーン。
「誰だろう?」
インターホンが鳴ったので、苗木が扉を開ける。そこには桑田が立っていた。
「ウース」
「あ、桑田君。どうしたの?」
「突然だけど一緒に風呂行かね?」
「いいけど。この時間に?」
「まあまあ。そーゆー気分なんだよ。たまには男同士で親睦深めよーぜ!」
桑田がグイッと苗木の肩に腕を回し、監視カメラの氏角になるように体を捻る。
そして、汚い字で書かれた一枚のメモを苗木の眼前に突きつけた。
【せんせーが脱衣所にみんなを集めてる】
「!」
(これって……!!)チラ
「…………」コクリ
言葉は交わさないが、目で伝わった。何か大事な話があるのだと。
体内に緊張を高めながら二人は脱衣所へと向かった。
317: 2015/01/24(土) 23:16:06.18 ID:wf3obsIl0
ここまで。
書き忘れたが、【カムクラ・プロジェクト】を入手した。
331: 2015/01/31(土) 22:54:06.52 ID:D5CmlsZt0
― 脱衣所 PM4:08 ―
「よく来たな」
全員が集まったことを確認すると、KAZUYAは長椅子から立ち上がって全員の前へと歩み出た。
脱衣所の入り口付近では、モノクマを入れないように大和田が目を光らせている。
K「予想のついている者も多いだろうが、ある大事な報告のためにみんなを集めさせてもらった」
十神「この俺を呼びつけたんだ。相応の報告はあるんだろうな?」
山田「ややっ! いよいよ脱出の策でも?!」
葉隠「長かったべー。でも俺はずっとK先生を信じてたぞ!」
桑田「嘘つけよ……」
腐川「厚かましいわね。それに……馴れ馴れしいわ!」ギリィ!
先程の熱がまだ残っているのだろうか。
腐川は少し赤い顔をしてKAZUYAの方をチラチラと見ている。
セレス「それで、脱出の策は浮かんだのですか?」
江ノ島(……え? まさか、本当に思いついたんじゃないよね? どうしよう……)
江ノ島「焦らさないで早く言いなさいよ!」
K「いや……残念ながら脱出の案ではない」
葉隠「なーんだ。期待して損したべ」
桑田「おめー、いい加減にしろよな……?」
山田「じゃあ、やっぱり僕達は一生ここに……」
石丸「静粛に! 先生のお話はまだ終わっていないぞ!」
霧切「脱出案ではないかもしれないけど、何か重要な発見があったから呼んだのでしょう?」
K「その通りだ。不二咲」
不二咲「はい」スッ
332: 2015/01/31(土) 23:03:32.44 ID:D5CmlsZt0
舞園「それは……確か、初日に図書室で見つけたノートパソコンですか?」
苗木「そういえばあったね。でも、確か壊れてたんじゃなかった?」
朝日奈「え、そんなのあったっけ? すっかり忘れてた。えへへ」
K「よく覚えていたな。そうだ。あの後、不二咲が修理して使えるようにしたんだ」
十神「単刀直入に言え。何が入っていた」
K「残念ながら手に入れた情報は少量だった。まず写真が二枚」
KAZUYAが操作すると、画面に例の写真が映る。
苗木「え? これって……?!」
江ノ島(マズイよ……これはマズイって……)ダラダラ
桑田「なんだこりゃ? 俺こんな写真撮った覚えないぞ」
大和田「俺もだ」
舞園「私もです」
舞園(でも何でしょう……。この写真を見ていると、何だか胸騒ぎがしてきます……
何か……予想もつかないとても恐ろしいことが起こっているような……)
K「……本当に覚えていないんだな?」
セレス「ええ、全く。……それにしても酷い写真ですわ。意味がないなら消してくださる?」
山田「そんなもったいない! なかなか良い表情をしていると思いますが……」
セレス「…………」ギロ
山田「……すみません」
K「そうか。では黒幕が我々を混乱させるために作った物、ということでいいな?」
K(写真を見て少しでも記憶が戻ればと思ったが……そう簡単にはいかないか)
333: 2015/01/31(土) 23:12:21.36 ID:D5CmlsZt0
十神「一目瞭然だ。この写真には窓が写っている。すなわち、この学園で撮ったものではない。
ドクターKともあろうものが、この程度のこともわからんとはな……」
苗木「まあまあ、喧嘩腰はやめようよ。先生は一応確認したかっただけじゃないかな」
大神「十神の言葉は置いておこう。他に何か発見はあったのだろうか」
K「このPCには“人類史上最大最悪の絶望的事件”と言うキーワードと、それによって
希望ヶ峰学園が閉校せざるを得ない状況に陥ったことが記録されていた」
K「そして、学園長主導のもとである計画が持ち上がっていたこともだ。
――それは希望ヶ峰学園で多数の生徒に共同生活をさせるという内容だった」
苗木「それって……?!」
朝日奈「私達と同じ状況?!」
石丸「一体どういうことだ……?!」
霧切「……!」
K「“人類史上最大最悪の絶望的事件”。誰か、このキーワードに聞き覚えのある者はいるか?」
K(頼む……! 誰でもいい、思い出してくれ。思い出してくれさえすればコロシアイは終わる!)
江ノ島(もしみんなが全部思い出したらどうしよう……このPCは盾子ちゃんが
用意したものだし、これも計算のうちなんだよね? そうだよね……?)
KAZUYAは一縷の望みを懸けて生徒を見据えるが、その希望は儚く散った。
腐川「……そ、そんな話聞いたことがないわ」
葉隠「そもそも、学校が閉鎖されてるって知ってりゃこんな所来なかったべ!」
十神「この情報が信頼出来るか疑わしくなってきたな。十神財閥の情報網が、
希望ヶ峰学園を閉校に追い込むレベルの事件を捉えていないはずはない」
K「そうだな……」
334: 2015/01/31(土) 23:22:26.65 ID:D5CmlsZt0
大神「しかし、出鱈目な情報をパソコンに入れて黒幕に何か得はあるのだろうか?」
苗木「僕達を混乱させるのが目的なら、何でパソコンは壊れていたんだろう?」
生徒達が口々に感想を述べ場がざわついている中、霧切が一歩前に出た。
霧切「……学園長主導の計画についてもう少し聞きたいのだけど」
セレス「この度のコロシアイ学園生活は学園長が黒幕、ということでよろしいのでしょうか?」
K「それはない。俺は学園長と顔見知りだが、生徒のことをとても強く想っていた。その熱意に負けて
俺はここに赴任することにしたのだからな。こんな馬鹿げたことをしでかす男ではない」
苗木「先生は黒幕に襲われたしね。もし黒幕が学園長なら、そもそも先生を招待する必要性がないよ」
大和田「学園長はシロでいいっつーことだな」
舞園「あの、それで……学園長は、今どこにいるのでしょうか?」
不二咲「計画だと僕達と一緒に学園内にいる予定だったから、今もどこかにいるはずだよ」
桑田「どこかってどこだよ?」
葉隠「そりゃあ学園長ってくらいだから学園長室に決まってるべ」
山田「そういえば、学園長室は鍵が掛かっていましたね。まさかあの中に監禁されているのでは?!」
朝日奈「大変! 助けてあげないと!」
K「いや、その……」
腐川「な、何?! 一体何を言おうとしているの……?!」
K「まだ確定した訳じゃない、俺の予想だが……」
十神「学園長は既に殺されている。そう言いたいんだな?」
霧切「!」
K「わからない。生きていると思いたい。……だが、黒幕が学園長を生かしておくメリットが
見つからんのだ。ここには俺を含め何人か教員がいたはずだが、全員消されている訳だしな」
十神「そもそも西城。……俺はお前に聞きたいことがあるんだが」
336: 2015/01/31(土) 23:39:22.06 ID:D5CmlsZt0
「……!」
この男が言葉を発すると、それだけで場が緊張に包まれる。それほど十神の発言権は大きい。
K「……何だ?」
十神「仮に今の情報が正しいと仮定する。そうなると、俺達は黒幕より先に学園から
拉致行為をされたことになるが、当然教員の貴様も何らかの形で関わっていたはずだ」
K「…………」
十神「目的は何だ? 人類史上最大最悪の事件とは何だ? 言え」
K「残念だが俺は臨時で来ただけの校医。つまり希望ヶ峰から見れば完全な部外者だ。
学園長が何を計画していたのか全く聞かされていない。記憶もまだ不完全だしな」
十神「チッ、使えん男だ」
朝日奈「あんたねぇ、仕方ないでしょ! 先生は最初大怪我してたんだから!」
霧切「……それに、もしかしたらドクターも巻き込まれた側の人間かもしれないわよ?」
江ノ島「(流石霧切さん……)どういうこと?」
霧切「超高校級の生徒、つまり才能ある人間を何らかの目的で集めたのなら、ドクターだって
それに当て嵌まるのではないかしら? ドクターは優秀な知識と技能を持っているもの」
石丸「何が目的かはわからないが、多数の人間を長期間拘束する訳だから中にはストレスで
体調を崩す者も当然現れる。隔離生活において医者という存在は必要不可欠のはずだ!
世界的名医でいらっしゃる西城先生を一緒に閉じ込めたいと考えてもおかしくはないな!」
苗木「うん。むしろ、この計画のために先生は呼ばれたんじゃないかな」
十神「俺達もろとも、希望ヶ峰の仕掛けた罠にまんまと掛かってしまった訳だ」
腐川「そ、そもそも何のための計画なのよ……!」
桑田「それがわかりゃ苦労しねーっての!」
K「生徒を傷付けるようなものではない、ということだけはわかる」
セレス「傷付けるつもりはなくとも、気持ちの良いものではないでしょうね。超高校級の才能を持つ
人間を用いての何らかの実験や、或いは観察などそういった類のものでしょうし……」
337: 2015/01/31(土) 23:52:01.48 ID:D5CmlsZt0
大神「別の第三者が学園長の計画を乗っとったか、或いは希望ヶ峰学園の何者かが黒幕ということか?」
葉隠「もしかすっと、俺達をモルモットにするつもりだったんじゃねえか?!」
舞園「そんな……あの希望ヶ峰学園が……」
石丸「馬鹿な! そんなことある訳がない!」
山田「信じられませんぞ?!」
K「…………」
真実を知る男は何も言わなかった。……いや、言えなかったと言うのが正しい。
彼等の言葉が見当違いの言い掛かりでないことは、目の前にあるパソコンが証明している。
K「……実はもう一つ話すことがある。これが本題なのだが。不二咲、アルターエゴを」
不二咲「はい」
カタカタカタ。
不二咲が操作すると画面がパッと変わり、そこにアルターエゴが現れた。
アルターエゴ『みんな、こんにちは! アルターエゴです!』
「?!?!」
江ノ島(アルターエゴ!! そんな、完成していたなんて……!)
山田「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!」
朝日奈「なにこれー?!」
大和田「パソコンの中になんで不二咲がいるんだ?!」
舞園「不二咲君が作ったんですか?」
大騒ぎする生徒達の中で、本来なら一番騒いでいそうな男は珍しく静かに考え事をしていた。
石丸(……んん、むぅ? この光景、以前どこかで見たような……? 夢の中か? 不二咲君なら
人工知能くらい作れそうだし、そのような夢を僕が見たとしても特に不思議はない)
石丸(だが、うーむ……これが俗に言うデジャヴュというものなのだろうか。妙な感覚だ)
338: 2015/02/01(日) 00:03:13.28 ID:Z1PSASmg0
桑田「お、おー! すげーな! ずっと前に不二咲が作るって言ってたのこれか!」
不二咲「出来たら見せるって約束してたのにゴメンねぇ。先生が、見せるなら
全員同時がいいって言うから、ずっと内緒にしてたんだ」
桑田「気にすんなよ。今の今まで忘れてたからさ!」
葉隠「そ、それでこれはなんだべ?! まさか不二咲っちのエクトプラズムが
パソコンに憑依したとか言わねえよな?! 俺は信じねえべ!」
腐川「そんな訳ないでしょ……! どう見てもプログラムよ!」
十神「不二咲の人格を模した人工知能プログラムか……ここまで完成していたとは」
山田「しゃ、しゃべってもいいですかな?! アルターエゴ殿、こんにちはですぞ!」
アルターエゴ『こんにちは! 君は山田君だね! 始めまして』
山田「むっほー! 僕のことを知っているとは! 二次元が! 二次元が第四の壁を超えたァー!!」
大和田「そりゃ山田なら一発でわかるだろ。デブは一人しかいねえんだし」
桑田「俺は?! 俺は知ってるか?!」
アルターエゴ『君は……髪が赤いから桑田君かな?』
桑田「すげー!」
セレス「わたくしはわかります?」
アルターエゴ『セレスさんだね』ニコッ
セレス「まあ。優秀ですこと」
朝日奈「私! 私は?!」
アルターエゴ『朝日奈さんだよ! 横にいるのは大神さん。二人は仲良しなんだよね?』
朝日奈「そうそう!」
大神「ムゥ、よく出来ている……」
苗木「凄いなぁ……」
舞園「苗木君もお話してみたらどうですか?」
苗木「僕は後ででいいや」ハハ
339: 2015/02/01(日) 00:11:33.16 ID:Z1PSASmg0
アルターエゴの周りには瞬く間に人が群がり、あれやこれやと話し掛けている。
あの十神ですらアルターエゴには強い関心を示していた。
K「ウオッホン! 話はまだ終わっていないぞ」
石丸「みんな、先生がお話される。静聴せよ!」
K「いいか、お前達。このアルターエゴは――俺達の“希望”だ」
苗木「希望……」
K「今はまだ処理能力が低いから、あまり高度な作業は出来ない。だが、俺達と
会話して処理能力が上がればいずれは脱出の大きな手助けになるだろう」
十神「成程。このアルターエゴを使って、直接黒幕に攻撃を仕掛けると言うことか。面白い……」
霧切「いよいよ、脱出が見えてきたわね……」
葉隠「マジか! うおおおお、長かったべー!」
K「……ただ、これは非常に危険な賭けだ。失敗すれば俺達全員の身が危険に晒される。
だから、少しでも成功確率を上げるため当分はアルターエゴの能力を上げることに注力したい」
江ノ島(え……? まさか、アルターエゴで学園のシステムをハックするってこと?
これ、凄くまずい展開なんじゃ……どうしよう?)
K「風呂の際にでもアルターエゴと会話してやってくれ。俺からは以上だ。
……あまり全員で長居すると黒幕に怪しまれる。今日の所は一端出てくれ」
石丸「と言うことらしいぞ。解散!」
アルターエゴ『またね!』
ゾロゾロと一同が脱衣所から出ていく。去り際に、十神はKAZUYAに近寄ると、ボソリと囁いた。
十神「――さて、鬼が出るかはたまた蛇が出るかだな?」
K「…………」
実はこの集まりの前にKAZUYAは十神だけを先に呼び、あることを頼んでいたのだ。
345: 2015/02/08(日) 22:35:17.85 ID:LsFZtwzn0
◇ ◇ ◇
十神「この俺を呼び出すとは何のつもりだ? まあ頃す訳ではなさそうだが」
KAZUYA、霧切、不二咲、大和田とKAZUYA派のメンバーに囲まれながらも、十神はいつもの調子で問う。
呼び出されて素直に来る所を見ると、何だかんだKAZUYAの派閥の人間はそれなりに信用しているらしい。
大和田「頃すワケあるか!」
K「そうだ。お前に協力してほしいことがあってな」
十神「協力だと? ……まあ、いい。他の人間が言ったのなら誰がするかと切り捨てる所だが、
貴様なら無意味な行動はしないだろう。話ぐらいは聞いてやる」
偉そうに喋るのはもはやこの男の義務なのではないかと思うくらい傲慢で、殺されずとも殴られて
仕方ないくらいの態度だが、いい加減慣れてきたのかKAZUYA達も諦めの境地に入ってきていた。
大和田(ンの野郎……ここにいるうちはセンセイ達に迷惑かけっから我慢するが、
ここから出たらぜってーボコる。むしろ泣かす)
不二咲(大和田君、顔がヒクヒクしてるよぉ……)
K(……本当に我慢強くなったな、大和田。脱出した暁には一発だけ殴るのを許可しよう)
K「俺はこれから全員を集めて大事な発表をする。その際、余計なことを言わないでほしいのだ」
十神「余計なこととは何だ?」
K「内通者の存在だ」
それだけ言うともう察したのか、十神の目付きは一層鋭さを増す。
十神「情報を餌にしてあぶり出すつもりか」
K「そうだ」
十神「……フン。いいだろう。どこぞの馬鹿のように、みんな仲間だ。内通者などいない、
等と寝言をぬかすよりはまだ現実的で受け入れやすい提案だな」
大和田「テメエ、そりゃ兄弟のことか!」
347: 2015/02/08(日) 22:56:42.53 ID:LsFZtwzn0
十神「他に誰がいるんだ。愚民兄弟」
K「その辺にしておけ。……石丸にもそろそろ言っておかねばならんしな」
十神「この話を俺にするということは、俺を内通者だとは思っていない訳だ?」
K「陽動にしてもお前は目立ち過ぎだ。それに、内通させるなら物で釣るか脅迫して従わせるかの
二通りだが、お前は物には興味ないだろう……脅迫されても鼻で笑うだろうしな」
十神「ハッ! よくわかっているじゃないか! ククク……」
いつも不機嫌な十神が珍しく少し気を良くしたようだった。そこで会話を終わらせず彼から話を振る。
十神「……で、お前は誰が怪しいと睨んでいるんだ?」
霧切「そういうあなたはどう思っているのかしら?」
十神「江ノ島だな」
何の迷いも躊躇いもなく十神は言い切った。
大和田・不二咲・霧切「……!」
K「お前もか……」
十神「ギャルにしては発言がおかしいし、何より行動が不自然だ。集団行動に従っているように
見えてその実単独行動が多く、場が荒れている時には意図的に煽る行為も度々見受けられる」
十神「何より、ゆさぶればすぐ顔に出る。俺の中ではほぼ決まりだ。スパイとしては三流以下だな」
大和田「マジかよ……」
不二咲「江ノ島さん、信じたかったけど……」
霧切「私も全く同じ意見よ。ドクターもそう思っているのよね?」
K「そうだな。江ノ島はクロだ」
大和田「なあ、なら俺達全員で江ノ島をふんじばっていろいろ聞き出せば……」
十神「馬鹿か。あぶり出す、という言葉の意味もわからんのか。内通者が一人なら
とっくのとうに手を出している。他の内通者を警戒しているのだろう?」
348: 2015/02/08(日) 23:10:42.90 ID:LsFZtwzn0
K「そうだ。最低一人、多くて二人はいると俺は思っている」
不二咲「江ノ島さんから聞けないかなぁ?」
霧切「素直に教えてくれるかしら? それに、仮に捕縛出来ても黒幕に消される可能性もあるわ」
K「如何に敵といえど、出来れば氏人は出したくない。
……彼女相手にそんな甘いことを言っていられるかはわからないが」
十神「……それはどういう意味だ? お前はあの女の正体に心当たりがあるのか?」
K「桑田にも話したが、最近少し記憶が戻ってきてな。正体はわからないが、俺を襲ったのは
間違いなく彼女なんだ。油断していたとはいえ、俺は一切の反撃も出来なかった」
大和田「なっ?! マジかよ……」
不二咲「西城先生があっさりやられちゃったのぉ……?」
K「ああ。確かにスパイとしては三流かもしれん。だが、その戦闘能力は紛れも無く超一流だ。
特に大和田、お前は気をつけろ。女だからといって手加減をすれば間違いなくやられる」
大和田「女に暴力は振るいたくねえが、そうも言ってらんねえってことか……」
霧切「……軍人なら人を頃すことも慣れているでしょうし、早まった真似だけはしない方がいいわね」
K「そういうことだ。……十神、手を貸してくれないか? お前の力が必要なんだ」
大和田「ハァ?! 邪魔するなってのはわかるが、そいつの力が必要になることなんてないだろ!」
K「いや、お前はわかっていない。十神が優秀なのは頭脳だけではないぞ。恐らく、護身術も
かなりのレベルに達しているはずだ。もし江ノ島と直接対決するなら、手を貸してもらいたい」
十神「お前達ばかりに都合の良い話だな。対価はあるのか?」
K「…………」
十神「フッ、冗談だ。……俺とて別に人頃しがしたい訳ではない。黒幕に一泡吹かせるか、
脱出の案でも用意出来るなら考えておいてやる。せいぜい頑張るんだな」
K「……最善を尽くそう」
大和田「それで、江ノ島以外は誰が怪しいんだよ? 女子なんだろ?」
K「江ノ島程の確信はないから少し言い辛いが、安広と大神が怪しいかと思っている。安広はいまいち
考えが読めん。大神は、自分から裏切ったりはしないだろうが人質でも取られればわからない」
霧切「そうね……大神さん、時々辛そうな顔で考え事をしているもの」
349: 2015/02/08(日) 23:19:56.52 ID:LsFZtwzn0
十神「妥当な所だろうな。物に釣られやすいという意味では葉隠や山田も該当するが、
あの二人に演技が出来るとは到底思えん。せいぜい捨て駒にしか使えないだろう」
K「安広をどう思う? 俺よりはお前の方が立ち位置が近い分読みやすいだろう?」
十神「フン。あの女も伊達にギャンブラーを名乗っている訳ではない。顔色でバレるようなヘマはしないさ」
K「……そうだな」
十神「ただ……」
K「ただ?」
十神は腕を組んだままニヤリと笑う。自分以外は等しく愚民と見下げている彼だが、時折
見せるセレスの計算高さや立ち回りの上手さは評価していた。狡賢い人間は嫌いではないのだ。
十神「あの女は女狐だぞ。相応の報酬を払うか、或いはあの女が興味を示すような
面白いギャンブルでも黒幕が用意すれば、乗ることは十分有り得るだろうな」
K「そうか……」
大和田「あいつはクロだろ。どう見ても内通者って顔してやがる」
不二咲「決めつけは良くないよぉ。もしかしたら、一生懸命脱出方法を考えてるかもしれないし」
霧切「……それだけはないと思うわ」
◇ ◇ ◇
K(一番良いのは江ノ島以外内通者がいないこと。二番目は大神が内通者でないことだ)
K(とにかく、大きなトラブルがなければ良いのだが……)
KAZUYAが物憂げな顔で脱衣所を出ると、そこにはモノクマが立っていた。
モノクマ「怪しい。怪しいなぁ……」
苗木「モノクマ! こんな所で何してるんだ」
モノクマ「それはこっちの台詞だよ! みんなで脱衣所に集合しちゃって。なに企んでるの?」
苗木「企んでなんか……」
350: 2015/02/08(日) 23:33:58.59 ID:LsFZtwzn0
セレス「実はわたくし達、親睦を深めるためにみんなでお風呂に入ろうと思いまして」
モノクマ「ま、まさか全員で混浴?! なんていやらしい……」ハアハア
石丸「こここ、混浴な訳なかろうっ?! そんな風紀が乱れることをこの僕が認めるはずがないっ!」
K「運悪く男子と女子がかちあってしまったのだ」
セレス「それでどちらが先に入るかで揉めていたのです。男子の後は嫌ですから。最終的には公平に
じゃんけんということになりまして、朝日奈さんと苗木君が勝負して朝日奈さんが勝ちました」ニコリ
K(よくもまあ、これだけスラスラと嘘をはくな……)
朝日奈「えっ?! ……う、うん! 私がグーで勝ったんだよ!」
苗木「……あ、ああー! 僕があの時チョキを出したりしなければ!」
桑田「気にすんなって! ……それに、案外後の方がいいかもしんねーし」
朝日奈「なんで後の方がいいの?」
桑田「え? そりゃあまあ……なぁ?」
大和田「そういうことを男に聞くなよ……」
可愛い女の子が入った風呂には男の浪漫があるのだ。それ以上の深い意味はない。意味はないのだが……
腐川「ま、まさか?! 女子高生の入ったお風呂のお湯を飲む気ね?! そうなのね?!
こいつ、なんてこと考えてんのよ……! 不潔だわ!!」
桑田「ハアアア?! ちち、ちげーよ! お前こそなに考えてんだ?!」
K(何と言うか……腐川の想像力は凄いな……)
葉隠(桑田っち、ご愁傷様だべ)
山田(僕はアリだと思います!)
石丸「桑田君、君と言う男は……!!」
朝日奈「気持ち悪い! 近寄らないで!」
江ノ島「あんた、そんなこと考えてたんだ……。マジでドン引き」
桑田「だから、んなワケねーだろって! せんせーもなんか言ってくれよ!」
K「え? ……えーと、だな。何と言えばいいのやら……」
351: 2015/02/08(日) 23:42:59.13 ID:LsFZtwzn0
突然のとんでもない言い争いにKAZUYAが言葉を詰まらせると、一気に場が混乱する。
腐川「ケダモノよ!!」
石丸「風紀が乱れているううぅぅぅ!!」
桑田「だからちげーよ、バカ!!」
苗木「えっと、どうしようか……」
舞園「苗木君も飲みたいと思いますか?」
苗木「ええっ?! ぼぼ僕はそ、そんなこと……?!」
舞園「冗談ですよ」
苗木「そういう冗談はやめてよ……心臓に悪いから……」
山田「アイドルの入ったお風呂なんてご褒美もいいところですよ。苗木誠殿もそう思っています!」
霧切「あら、苗木君もそう思うなんて。男子全員そうだと思っていいのかしら?」
苗木「僕を巻き込まないで?!」
大神「少し痛い目を見せた方が良さそうだな……」
桑田「わー! ちょ、タンマタンマ!」
大和田「バカッ! 俺を盾にすんじゃねえ! はなせゴラッ!」
十神「馬鹿か、こいつら……」
セレス「放っておきましょう」
モノクマ「なにこのカオス。もういいや。帰ろ」
モノクマ(どうせ後で残姉から聞けばいいし)
K(去って行った。モノクマすら引かせるとは……ここの生徒達の個性は相変わらず凄いな)
嘆息しながら、KAZUYAは騒動の中心人物の肩に手をかける。
K「腐川、いくら桑田だってそこまで変Oじゃないさ」
腐川「そ、そんなのわからないでしょ……! きっと、アタシ達の知らない所であんなこんなを……」
K「俺を信じてくれないか?」ジッ
腐川「うっ! せ、先生がそう言うなら……今回だけよ……」モショモショ
352: 2015/02/08(日) 23:54:05.92 ID:LsFZtwzn0
K「ほら、石丸。少し時間が空いたんだ。勉強を見てやる」
石丸「あ、はい! しかし桑田君にまだ……」
K「後で俺から厳重注意しておくから」
桑田(せんせー、ナイス!)
石丸「桑田君! 今回は初犯と言うことで見逃すが、以後も風紀を乱すような発言があれば……」
K「 行 く ぞ 」ズリズリ…
石丸「僕の目の黒いうちはこの学園の風紀は僕が守ってみせる! たとえどのような困難があろうと……!」
延々と喋っている石丸の首根っこを掴んで、KAZUYAが半ば無理矢理引きずって行く。
桑田「はあ~、助かったぜ」
霧切「とにかく、モノクマに怪しまれないように私達はお風呂に入りましょう」
朝日奈「うん! はいろはいろー!」
江ノ島「あ! アタシは、その、ムリ!」
霧切「どうしてかしら?」
江ノ島「えっと、その……」
江ノ島(ウィッグだし、手の入れ墨隠してるファンデーションも剥げるし……)
江ノ島に扮する戦刃むくろは、かつて最強と呼ばれた傭兵部隊『フェンリル』に所属していた。
彼女の右手の甲には、フェンリル所属を示す入れ墨が今もまだ残っているのである。
セレス「どうかしましたか?」
江ノ島「その……」
朝日奈「(ピーン!)あ、わかった! 今日はダメなんだ」
大神「ウム、ならば仕方がないな」
353: 2015/02/09(月) 00:05:30.08 ID:ml4qgK980
舞園「ではまた今度一緒に入りましょうね」
男子「…………」
江ノ島「あ、うん! じゃあまた……」
江ノ島(うう、助かったけど男の子の前でこういう話をされるのは恥ずかしい……)
空気を読む女子達に助けられたが、江ノ島の胸中は複雑であった。
― 大浴場 PM5:17 ―
複数の水音が広い大浴場に反響している。
そこにはこの世の楽園と見まごう光景が広がっていたのだが、今回は描写を割愛させてもらう。
シャワーを浴びながら、舞園さやかは横にいる霧切に声をかけた。
「霧切さん、手袋はまだ外せないんですか?」
「そうね。ドクターに植皮してもらって以前とは比べ物にならないほど綺麗になったけど、
まだ色が落ち着かなくて。安定するのに最低でも三ヶ月はかかるから当分は無理じゃないかしら」
霧切ともよく話す舞園は、彼女が火傷を隠すために手袋をしていたことも
KAZUYAから密かに皮膚移植の手術を受けたことも聞き知っていた。
「あなたこそ、手は動くの?」
「……あれ? バレてました?」
舞園は一月ぶりにギプスから開放された自身の右手を真っ直ぐ伸ばす。
いや、――曲がらないのだ。
◇ ◇ ◇
今朝の医療実習の前に、舞園は保健室に呼び出されKAZUYAの診察を受けていた。
横では石丸がKAZUYAの診察の様子を熱心に記録し、苗木が助手代わりを務めている。
「レントゲンがあればいいんだがな」
354: 2015/02/09(月) 00:16:35.00 ID:ml4qgK980
KAZUYAが呟いた。ギプスを装着する前の触診で、そこまで酷い折れ方はしていないだろうと見当を付けていた。
骨折はあまりに酷い砕け方をした場合、皮膚を開いてボルトやワイヤーで骨片を接合せねばならないのだが、
桑田の一撃が余程綺麗に決まっていたのか、さほどバラバラに飛び散っていない気がした。
だが、それはあくまで経験を元にした単なる予想である。実際はバラバラなのかもしれない。腹部にも
大きな傷があるし、確認のためだけに皮膚を切開するのはリスクが大きいと判断しあえてそのまま固定したが。
舞園「くっついてますかね?」
K「君が怪我をしてから、満一ヶ月が経った。骨折は部位にもよるが、大体四週から六週程で接合する。
老人だと治りが遅いが君はまだ若いからな。ほぼ治っていると見て間違いない」
K「とりあえず経過を見るためにも、一度ギプスを外してみよう」
そう言うと、KAZUYAは棚から取り出したギプスカッターのコンセントを挿して電源を入れる。
円状の細い刃が甲高い駆動音を響かせながら電動で回転するその様はまさしく電動ノコギリのようだ。
キィィィィィィン。ギュィィィィィィィィン。
舞園「…………」ゴクリ
舞園(西城先生の腕なら大丈夫でしょうが、やっぱり怖いですね……)
K「……大丈夫だ。怖がらなくていい」
舞園の緊張に気付いたのか、KAZUYAはフッと笑うと何とカッターの刃を自分の腕に当てた。
苗木・舞園「えっ?!」
突然の奇行に舞園と苗木は同時に声をあげ、石丸だけは何故か笑っている。
K「見てくれ。ほら、全く切れてないだろう? この刃はな、回転しているように見えるが
実際は前後に高速で振動しているだけなんだ。その振動でギプスのような固いものを砕く。
だから、柔らかい皮膚に軽く当てた程度では全く問題ないんだ」
ギプスカッター:音といい形といい、電動のものは電動ノコギリに見えてかなり怖い。
が、強く押し当てるか当てたまま擦らなければまず切れることはない。
K「乱暴にやれば傷がつくこともあるが、間違っても肉を裂いたり切断することはないから安心してくれ」
舞園「そうなんですね」ホッ
355: 2015/02/09(月) 00:24:48.56 ID:ml4qgK980
石丸「成程! 患者が不安な時はこうやって安心させるのだな! 先生の診察は参考になる」メモメモ
K「俺がまずやるが、苗木に少し手伝わせてもいいか?」
舞園「大丈夫です。あの、石丸君は……」
K「……多分、いや確実に皮膚を切るから今回は見送りだ。外したギプスで後で自習させる」
手際良くKAZUYAがギプスに切れ目を入れ、苗木が見よう見真似で同じようにギプスを切り裂いていく。
そしてギプスが外れた後は、内部に巻かれていた包帯を鋏で切って全て外した。
苗木(舞園さんの手、本当に綺麗だなぁ。……なんて、言ってる場合じゃないけど)
K「うむ、特に腫れたりはしていないな。触るぞ。痛かったら言ってくれ」
舞園「はい」
K「……。痛みはないようだな。では、動かしてみるぞ」
舞園「はい。……あっ」
一ヶ月ぶりに手首を動かした舞園だが、すぐにその違和感に気が付く。
K「これ以上動かないのか?」
舞園「は、はい……」
苗木「えっ?! 舞園さん、手首曲がらないの?!」
石丸「どうやら、ずっと固定していたから関節が固まってしまったようだな」フム
舞園「…………」
ジッと手首を見つめるが、舞園は特に動揺したりはしなかった。
舞園(後遺症ということですか。罰が当たったのかもしれません。でも、これくらいなら別に……)
苗木「舞園さん……」
K「――では、今日からリハビリを始めよう」
舞園「……え?」
K「別に君の怪我が特別酷かったという訳ではなく、関節を骨折するとほぼ必ずこうなるんだ。
関節可動域訓練と言うんだが、また元の通りに動くようこれから毎日リハビリをしていこう」
舞園「リハビリすれば……治るんですか?」
356: 2015/02/09(月) 00:34:47.10 ID:ml4qgK980
K「ああ。少し時間がかかるが、必ず治る。一緒に治していこう」
そう言って柔らかく笑うKAZUYAの顔に、舞園も苗木も心底安心したものだ。
苗木「またちゃんと動くんだって! 良かったね!」
舞園「……はい!」
K「接合したと言っても、まだ骨に筋状のヒビが残っているかもしれん。
リハビリの時以外は包帯でしっかり固定し、当分はあまり動かさないようにな」
そして舞園のリハビリ生活が始まったのだ。
◇ ◇ ◇
霧切「そう……良かったわ」
舞園「はい。最初は一生このままなのかと思って少し焦りましたが、ちゃんと治るそうです。
西城先生は優しく指導してくれるし、苗木君達も付き合ってくれて……私は幸せ者ですね」
微笑む舞園の顔は、久々に穏やかなものだった。
朝日奈「あ! 今気づいた。舞園ちゃん、ギプス外してる?」
舞園「はい。まだしばらく包帯は付けてますけど、ギプスはもういいそうです」
大神「完治まであと僅かか。めでたいことだな」
朝日奈「じゃあじゃあ、完治したらみんなで一緒にドーナツ作ってドーナツパーティーしよーよ!」
セレス「あら、よろしいですわね。わたくしは作りませんけど」
腐川「あ、あんたねぇ……」
舞園「この間のパーティーは腐川さんがいなかったですし、ちょうどいいですね」
腐川「アタシも、参加していいの……?」
朝日奈「当たり前だよっ! むしろなんでダメだと思うの?!」
腐川「う、うふふ……パーティー、ね……凄くいいじゃない」
霧切「では、幹事は発起人の朝日奈さんでいいかしら? 楽しみにしてるわ」ニコリ
378: 2015/02/15(日) 21:57:03.94 ID:SMSYUlRD0
もうちょっとだけギャグとほのぼのやらせて。多分あと数回でシリアス入るから
そして今回シリアス入ったら多分もう当分ギャグやる余裕なくなるから
と、言うわけで今回は小ネタ回
379: 2015/02/15(日) 22:01:04.39 ID:SMSYUlRD0
江ノ島が去り、他の女子達も風呂に向かったため男子のみその場に残った。十神は既にいなくなっている。
桑田「はぁ、散々だったぜ……」
大和田「女どもが出るまで適当に時間つぶすか」
苗木「じゃあ運動でもして汗を流す?」
不二咲「野球しようよぉ」
桑田「お、いいな! やるか!」
葉隠「それはいいんだけどよ、誰が桑田っちのボールを捕るんだべ?」
そんな風に和やかに話していたのだが、
山田「ちょっと待てーい!」
この男の発言により一同は混乱の渦に巻き込まれるのだった。
大和田「あ? なんだよ」
山田「みんなを男と見込んで話しますが……今女子は江ノ島盾子殿以外全員この中にいます」
桑田「そんなん見りゃわかんだろ。くだらねえこと言うなよ、ブーデー」
山田「そしてここにいるのは飢えた狼ばかり……ここまで言えばわかりますね?」
苗木「えっ、そ……それってもしかして……?!」
葉隠「ああ、そういうことかい……」
桑田「なーるほどな」
不二咲「え? なに? どういうことぉ?」
380: 2015/02/15(日) 22:07:35.17 ID:SMSYUlRD0
山田「ズバリ☆ 覗きましょう!」
― オマケ劇場 29 ~ 男達の宴 掴め! 男のロマン!!編 ~ ―
桑田「やっぱくだらねえことだったぜ……」
大和田「おい、テメエ……」
山田「わーわー! 暴力反対! だ、大体男ならみんな一度は思っているはずですぞ!
女湯覗いてみたいって! 本能に従って何が悪いんです!!」
苗木「……山田君、二次元限定って言ってなかったっけ?」
山田「それは嘘だと裁判の時バラされました(キリッ)。僕だって男です。ハンターです。
壁の向こうにある乙女の花園をこの目にフレームイン!したいんですよ!」
葉隠「オメエさんなぁ……」
桑田「……あー、でも、わかるけどな。ここの女子ってレベル高いのばっかだし」
大和田「おい、桑田……!」
山田「そうでしょうそうでしょう! アイドルの舞園さやか殿は言わずもがな、ミステリアス美女な
セレス殿や霧切響子殿! 元気系美少女の朝日奈葵殿! 大神さくら殿も豊満なバストを
お持ちですし、腐川冬子殿は色白スレンダーでなかなか工口スを誘いますな!」
大和田「具体的なこと言ってんじゃねえ! ……想像しちまうじゃねえか」
苗木「でも、悪いよ。もしバレたらタダじゃ済まないだろうし……」
山田「甘いですぞ!」クワッ!
苗木「うわっ」
山田「古来より虎穴に入らんば虎児を得ずと言います。危険を冒した勇気ある者のみ、
その向こうにある栄誉を掴む資格があるのです! つまりこれは尊厳を懸けた男の戦い!」
苗木「大袈裟だよ……」
不二咲「やろう!」
苗木・桑田・大和田・葉隠「えっ?!」
不二咲「男の戦いなんでしょ? ここで逃げちゃダメだよ!!」
大和田「いや、不二咲……オメエ、自分がなに言ってんのかわかってんのか?」
381: 2015/02/15(日) 22:13:03.61 ID:SMSYUlRD0
不二咲「わかってるよ! 女子のみんなには悪いと思う。でも……
こんな外見の僕だって、本当は興味あるんだよぉ!!」
大和田(この顔でそんなことを力説されても正直困るっつうか……)
苗木(必氏過ぎだよ、不二咲君! ……そりゃ、僕だって見たいけどさ)
桑田「ま、いんじゃね? こちとらずーっとこんなところに閉じ込められてストレスたまってるし」
山田「おお! 桑田怜恩殿ならわかって頂けると思いましたぞ!」
大和田「チッ、しゃあねえな。不二咲が行くっつってんのに、俺が行かないワケには行かねえ」
そう言う大和田だが、満更でもない顔をしている。
山田「ほら、苗木誠殿も! 最も障害となるうるさい男と監督者が揃っていない、今だけのチャンスです」
苗木「で、でも監視カメラは? 後でモノクマにバラされたら厄介なことになるんじゃ……」
モノクマ「ご安心ください!」シュタッ!
苗木「うわ! ビックリした……」
山田「むむっ、すっかり忘れていました。最後の障害を!」
モノクマ「いやいやいや、ボクは味方だよ? ボクも男のコだからねぇ。みんなの気持ちもわかるよ。
だから後で女子にバラすなんて、そんな姑息な真似はしないって言いに来たんだ!」
苗木「本当かなぁ……」
山田「よーし! 最後の障害もなくなりましたぞ!」
桑田「苗木、本当はおめーも興味あんだろ?」
大和田「一人だけいい子ぶる気じゃねえだろうな、ああ?」
不二咲「苗木君を信じてるよぉ」
苗木「わ、わかった。僕も付き合うから……それより葉隠君は? さっきから黙ってるけど」
桑田「葉隠は当然くるだろ」
大和田「まさかオメエが止める気か?」
葉隠「とんでもねえ。俺ももちろん興味あるし割りとノリ気だべ。ただ……」
382: 2015/02/15(日) 22:29:21.61 ID:SMSYUlRD0
苗木「ただ?」
葉隠「俺は今までに三件裁判起こされてて一つは今も係争中なんだ。そんな時に、よりによって覗きで
訴えられたりしたら、裁判官の心証が一気に悪くなって今度こそ実刑くらわねえか心配で心配で……」
苗木・桑田・大和田・不二咲「…………」
山田「oh……」
そんな葉隠の心配はあったが、最終的に全員で覗くという方向になったのだった。
後半へつづく。
― オマケ劇場 30 ~ 男達の宴 そして新世界へ…編 ~ ―
桑田「やっべー、マキシマム緊張してきた……」
山田「ではでは、参りましょう皆さん! 壁の向こうの黄金郷(エルドラド)へ!」
不二咲「この向こうに桃源郷があるんだねぇ!!」
大和田「久しぶりに危険(スリル)と勝負(レース)してやるぜっ!」
葉隠「ムー大陸は俺のもんだ!!」
苗木(みんなテンション高すぎるよ! いや、僕もだけどっ!!)ドキドキ!
魔訶フ(ロ)思議アドベンチャー 歌:希望ヶ峰学園78期生男子一部
つかもうぜ! 女湯にある!
世界でいっとー スリルな秘密~♪
さがそうぜ! あの子のバディ!
世界でいっとー ユカイな奇跡~♪
この世ーはー でっかい宝島ー
そうさー今こそ アドベンチャー!♪
うおおおおおおおおおお! 男のロマンが俺達を待ってるぜー! バタバタバタッ!
モノクマ「……ハァ。バカばっか」
モノクマ(ま、面白いから今回は黙って見てるけど。うぷぷ)
383: 2015/02/15(日) 22:39:06.02 ID:SMSYUlRD0
・・・
山田「こちらスネーク。敵地に潜入した」
苗木「で、誰から行くの?」
大和田「おし、苗木。オメエから行け」
苗木「え?! 僕から?!」
桑田「ああ、苗木からだな」
葉隠「行ってこいって」
桑田(万が一の時はソッコー逃げるから、女子受けのいい苗木残した方が無難だし)
大和田(苗木には悪いが、いざという時は俺が不二咲連れて逃げなくちゃならねえしな)
葉隠(最初はまず様子見だべ。すぐに逃げる準備をだな)
不二咲「頑張ってね、苗木君!」キラキラ
苗木(何人か微妙に腰が引けてる気がするけど、ここまで来たら仕方ない。腹を括ろう……)
そして苗木は湯気で曇ったガラスの扉をこっそり開けて覗く。
苗木(お、おおー!!!)
苗木(凄い! 凄いぞ! 思わず一人ずつゆっくり実況したくなるくらいに凄い! とりあえず舞園さん、
流石アイドルだけあって綺麗な肌してるなぁ。全体的に細すぎず太すぎず適度なラインだし……)
苗木(適度にムッチリ適度にスレンダー……地上に楽園は存在したんだね! ヒャッホーゥ!!)
ジィィィィ…
桑田「……大丈夫そうだな」
山田「僕らも行きましょうか!」
身長差を利用し、全員扉に飛び付く!
385: 2015/02/15(日) 22:46:25.64 ID:SMSYUlRD0
桑田(うおおおおお! ヤベー! マジヤベーってこれ! ……ん? 霧切のやつ、風呂にも手袋つけて
入ってんのか? つーか、上は普通だけど下半身のムチムチっぷりがヤベェー。うっひょおおー!)
大和田(おおお、やっぱり朝日奈の胸はすげえな……期待を裏切らねえ体してやがる! うおおおお!!)
不二咲(み、みんな凄い可愛い……それにしても大神さんの背中凄いなぁ。羨ましい……)
山田(セレス殿ぉぉぉ! 普段の人形チックなゴス口リコスもいいですが、
今のさっぱり和風美人もいいですぞぉぉ!)(*´д`*)ハァハァ/lァ/lァ/ヽァ/ヽア!
葉隠(おお、昔みんなで泳いだ時も思ったけどオーガの爆乳やべえな……
あと、腐川っちも髪おろして眼鏡外すとなかなか悪くないべ。フムフム)
苗木「ああ、堪能した……」
山田「だから言ったでしょう?」
桑田「すげーもん見れたぜ……」
大和田「覗いて良かったな」
不二咲「これで僕も一人前の男だね!」
葉隠「うし、見つからないうちにとっとと撤収……」
ガラッ!
大神「生は満喫したか?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
そこには鬼が立っていた。
山田「あの、性なら十分に……はい」
セレス「では山田君の作品のテーマである、性の向こう側へ皆さんで行ってもらいましょうか?」ニコ
「…………」ダラダラダラダラ
ギニャアアアアアアアアアアアアアアア!!
K「ん? 今何か聞こえたかな?」
石丸「先生! この場合に打つ点滴の量は……」
K「ああ、それは……(気のせいだな。うん、気のせいだ)」
386: 2015/02/15(日) 22:56:56.87 ID:SMSYUlRD0
― オマケ劇場 31 ~ 宴の後 ~ ―
夕食時。
石丸「ム? 今日は男女別に席が別れているのだな。ではあっちに……」
舞園「あ、先生と石丸君はこっちですよ」ニコッ
石丸「だが、兄弟達が……」
大和田「……わりい、しばらくそっちで食ってくれや」ドヨーン
不二咲「ごめんねぇ……」(´・ω・`)ショボーン
苗木・桑田・山田・葉隠「…………」ウツムキ
俯く彼等の頬にはみな一様に紅い紅葉がつき、頭には大きなたんこぶが出来ている。
朝日奈「はい、二人ともこっちこっちー」グイグイ
K・石丸「?」←背中を押されて無理矢理連行される
セレス「十神君もこちらへどうぞ」
十神「……何なんだ、一体」チラ
少し離れた所では、大神が江ノ島に事情を説明していた。
大神「実はな……」ヒソヒソ
江ノ島「えっ?! そんなことあったの? マジありえなーい! サイテー!」ヒソヒソ
K「…………(ああ、成程……)」←何となく状況を察した
十神「そういうことか。愚民め……」←察した
石丸「???」←全くわかっていない
387: 2015/02/15(日) 23:13:07.65 ID:SMSYUlRD0
・・・
霧切「はい。どうぞ」
K「ム、持ってきてくれたのか。ありがとう」
舞園「石丸君、これ好きですよね? 私の分あげますよ」
石丸「いいのか? すまない」
朝日奈「じゃあ私のは先生にあげるねー!」
K「あ、ありがとう」
大神「なに、お主達は日頃頑張っているからな」フフ
江ノ島「どっかの誰かさん達とは大違いだよねー?」ジロ
セレス「ええ、全くですわね」
腐川「白夜様! 私のおかずを……!」
十神「いらん!」
朝日奈「ねえねえ、今日はどんな授業したのー?」ギュー
K「うわっ(近い、近いぞ顔が!)」
舞園「リハビリのやり方をもう一度教えてくれませんか? 実際に手を握って……」
石丸「いいとも。任せたまえ!」
霧切「後学のために私にも教えてくれないかしら? ちゃんと手を取って、ね」
石丸「霧切君は勉強熱心なのだな! 素晴らしいぞ!」←頼られて嬉しい
セレス(ここまで真面目というか鈍感な方は天然記念物に当たりますわねぇ……)
キャッキャ♪ ウフフ♪
桑田「ちくしょー……あれぜってー俺達に対する当てつけだぜ?」ウラヤマシイ…
苗木「仕方ないよ。怒られるようなことしたのはこっちだし……」
葉隠「……むしろ、この程度で済んで良かったと思うべきだべ」
山田「苗木誠殿と不二咲千尋殿のお陰でしょうな……」
389: 2015/02/15(日) 23:29:31.55 ID:SMSYUlRD0
大和田「ああ。俺達だけだったら半頃しは固かったぜ……」
苗木「石丸君、一人だけ状況飲み込めてないみたいだけど大丈夫かな?」
大和田「兄弟はニブイからな……」
不二咲「石丸君には悪いけど、先生がいるから多分大丈夫だよねぇ?」
・・・
セレス「どうです? 食後に皆さんで何かゲームでも?」
石丸「いいな。折角だし全員で遊ぼう!」
舞園「あっでも、あちらの男子は何か別の用事があるそうですよ?」
石丸「えっ、僕は聞いていないが」
腐川「フ、フン。楽しい楽しいオトコの遊びでさぞや忙しいんでしょうよ……!」
石丸「男の遊び……」
◇ ◇ ◇
石丸「先生……僕はもしかして仲間外れにされているのでしょうか……」
K「ハァッ……?!」
石丸「この所、何だか兄弟達はよそよそしいし女子が不自然に優しいのです。
もしかしたら僕が外されていて、可哀相だと同情されているから……」
K「いや、違う。それだけは断じて違うからな」
石丸「では何故なんですかああああっ?! 僕は! 僕は寂しいのですうううう!!」ブワッ!
K(ああ、面倒くさいな……ほんと面倒くさい……)
……この学園で何かトラブルが起こる。その場合、たとえ全く関係のないことであっても
どんなにしょーもないことであっても、そのしわ寄せは確実にKAZUYAの元へやって来るのであった。
390: 2015/02/15(日) 23:38:34.20 ID:SMSYUlRD0
ここまで。
男のロマンよ、永遠に
402: 2015/02/22(日) 23:16:53.72 ID:gqE68cTz0
◇ ◇ ◇
「先生! 西城先生!」
校内の見回りをするKAZUYAに、背後から声が掛けられた。駆け寄ってきたのは不二咲だ。
「ん? 何だ、不二咲?」
「あの、最近忙しそうだったから言い出せなかったけど倉庫の……」
「……ああ、そうだったな!」
KAZUYAは笑顔で不二咲と一緒に倉庫に行くと、二人で色々なガラクタを持ち出す。
不二咲では手が届かない場所の物も、大きくて重い物もKAZUYAなら楽々と取り出して運べる。
「わあ、やっぱり西城先生は力持ちだねぇ!」
「大神に連戦連敗の俺が唯一勝てるものが腕力だからな……」
と言ってもうっかり手加減などしようものならあっという間に負けてしまう。それほどに彼女は強いのだ。
(朝日奈だってそこらの男よりよっぽど体力があるし、男の自分より女性の方が
強いという事実が、ますます不二咲のコンプレックスを刺激してしまったのかもな……)
しかし、生まれもった体格だけは努力ではどうにもならないのだ。それ以外の方法で自信を
つけていくしかない。幸いにも不二咲には武器がある。自分はただ見守っているだけでいいだろう。
― 不二咲の部屋 PM7:43 ―
「ちょっとゴチャゴチャしてるかもしれないけど……」
「なに、桑田の部屋より遥かに綺麗だよ」
403: 2015/02/22(日) 23:24:50.82 ID:gqE68cTz0
不二咲の部屋は、どこを向いてもとにかくメカメカメカ機械……
机の上のモニターを筆頭に至る所に機械が置かれていた。
「さあ、始めようか」
KAZUYAが不二咲から頼まれていたこと。それは倉庫の機械類を部屋まで運ぶことであった。
ついでに、多少は機械の知識もあるKAZUYAが修理を手伝うことである。
「機械をいじっている姿を見ると、やはり男の子だなと思うよ」
「えへへ、そうかなぁ?」
不二咲は嬉しそうに笑う。自分でも運べる細々とした部品類は既に箱にいれて
用意してあり、それらの部品を広げながら二人は床で機械を修理していく。
「……僕ね、ずっと夢だったんだ」
「何がだ?」
「お父さん以外の男の人と、こうやって機械やパソコンをいじったりするの」
「確か、不二咲はその歳でもう企業と契約しているのだろう? それこそ
メカニックやプログラマーの知り合いなんてたくさんいるんじゃないのか?」
「えっと、その人達は仕事上の付き合いだからどうしても気を遣っちゃうし……
……あと、僕の外見が女みたいだから女の子だと勘違いする人が多くて」
「ああ……」
「実際性別を隠して女子校に通ってたから訂正したくても出来ないし……ただでさえ理系の女の人は
少ないのに女子高生プログラマーってことで尚更目立っちゃって、凄く嫌だったんだぁ」
中には変な目で見る人もいたし、と不二咲が付け加えるとKAZUYAは何とも言えない気分になる。
「お父さんもプログラマーだったな。こうやって、よく一緒に機械を触っていたりしたのか?」
「うん!」
404: 2015/02/22(日) 23:38:11.21 ID:gqE68cTz0
「君のお父さんに比べたら俺など全く役に立たないだろうな」
「そんなことないですよぉ! うちのお父さんてさ、すっごいそそっかしいんだから。
時々部品を間違えて買ってきたりするし、全然頼りにならないし」
「何かあるとすぐ困った顔で『千尋、どうしよう?』なんて子供の僕に頼るし。
先生の方が強いし格好いいしずっとずっと頼もしいんだから!」
珍しく強気な発言をする不二咲の姿に、確かな親子の信頼と繋がりを見てKAZUYAは微笑む。
「ハハハ、手厳しいな。だが、凄く優しそうだ」
「うん、優しいよ! ……女装のことも学校のことも、お父さんだから相談出来たんだと思う」
「ご両親は反対したりしなかったんだな」
「うん。僕が話した時、お父さんはそれこそ腰を抜かして驚いてました。
それで、少し考えさせてくれないかって言って……当然だよね……」
『ご、ごめん千尋……大事なことだし、すぐにはちょっと答えられそうにないんだ。
お母さんと相談するから、少しだけ時間をくれないかな……明日には、必ず言うから』
「それで、お父さんは何て言ったんだ?」
「うん……」
『昨日一晩お母さんと話したんだけど……お父さんとお母さんは反対しないことにしたよ。
千尋が生半可な気持ちで言い出した訳じゃないって言うのはお父さん達もよくわかってるし、
それで千尋が前向きになれるって言うのなら、それも一つの手段だと思う』
『周りからあれやこれや言われて気にするな、と言っても限度があるだろうしね。
……ただ、何があってもこれだけは絶対に忘れないで欲しいんだ』
いつも困ったような顔をしている弱気な父が、その時ばかりは真剣な目で息子を見つめていた。
『千尋は男らしさよりもっと大切な、周りをいたわる優しさを持ってるし、言い出したら
聞かない芯の強さもある。千尋はいつだってお父さんとお母さんの自慢の息子なんだ』
『これから何があっても、どんな状況になっても――』
――どうかそのことだけは、いつまでも忘れないでいて欲しい。
405: 2015/02/22(日) 23:53:30.57 ID:gqE68cTz0
「そうか……」
さぞかし葛藤があったろうな、とKAZUYAは会ったこともない不二咲の両親を慮った。
「同級生にイジメられても女子校で自分を偽っていても、何とか
耐えられたのは多分お父さんとお母さんが味方でいてくれたからなんだ」
「……正直、何でこんなことしちゃったんだろうって自己嫌悪に陥ったことは
しょっちゅうあったよ。でも自分で決めたことだし、何があってもお父さんと
お母さんは味方でいてくれる、なら僕も頑張らなきゃって思って……」
「それが支えだったんだな」
「うん……今はお父さん達に会えなくて凄く心細い。……でも、ここには先生がいるから」
「……俺は君達の家族代わりになれているだろうか」
「大丈夫だよ! みんなみんな先生のこと大好きだもん!」
その力強い返答にKAZUYAの心が温まった次の言葉だった。
……突き落とされたかのように、心が凍りつく。
「西城先生はこれからもずっと僕達と一緒にいてくれるよね?」
「…………ああ、勿論」
「約束だよ?」
さほど難しい訳ではないはずのその約束が、今のKAZUYAの身にはズシリと重くのしかかったのだった。
不二咲の分析能力が上がった。弱気と病弱さが下がった。
アルターエゴの性能が上がった。イベントアイテムを手に入れた。
406: 2015/02/23(月) 00:00:23.14 ID:nIwnG3Xc0
― 食堂 PM8:59 ―
(食堂が閉じる前に色々補給しておくか)
一見医者とは縁のなさそうな食堂だが、実は厨房には色々と役立つものがある。塩、砂糖は生理食塩水や
経口補水液の材料になるし、酒はいざという時消毒液代わりに使える。保健室の消耗品は稀に生徒達が
モノモノマシーンで手に入れてくるが、基本的に補給出来ないので代用出来る物は代用してしまうのである。
「あら、ごきげんよう」
「珍しいな」
食堂ではセレスが一人で紅茶を飲んでいた。
「娯楽室を占領されてしまったので、私はこちらに避難していると言う訳です」
「成程」
そういえば朝日奈達が遊んでいたし、自分もつい先程までそれに付き合っていたのである。
それ以上は特に気に留めず、厨房から必要な物品を手にKAZUYAが去ろうとした時だった。
「もし、少しお喋りでもしませんこと?」
「……俺で良ければ付き合うが」
(思えば、俺が様子を窺いに行くことはあるが向こうから声を掛けてくることはほとんどなかったな。
こうやって声を掛けてくるようになったということは、それなりに好かれていると思いたいが)
誘われるままKAZUYAはセレスの向かいに座った。
「以前朝日奈さん達から聞いたことがあるのですが、朝食会の前はいつも先生のお話をみんなで聞くとか?」
407: 2015/02/23(月) 00:12:26.04 ID:nIwnG3Xc0
「ああ。雑誌代わりというか情報番組みたいな扱いだよ。ここにはテレビがないからな。
俺の昔話が少しでもみんなの退屈凌ぎになってくれているなら幸いだ」
「西城先生は話題が豊富でいらっしゃいますものね」
「俺自身の知識は偏っているが、知り合いは多いからな。幸いなことに話すことには困らない」
そう、スポーツ選手から今流行の芸能人までKAZUYAにはたくさんの知り合いがいる。政治家や有力者から
果ては過疎地の老人、子供まで幅広く市井の人々と出会い話しているからこそ、世間知らずにならなくて済んだ。
「折角ですから、わたくしにも何か面白い話を聞かせてもらえませんか?」
「それは構わないが……」
(ウーム、安広が興味を持つ話題か……)
十人十色と言う言葉があるが、人の趣味や嗜好はそれぞれ違う。
(石丸は病院関連の話や具体的な治療内容について聞きたがるし、不二咲や大神は強大な組織との
戦いの話が好きだ。朝日奈は人間関係の……主に恋愛関連に対する食いつきがいい)
(……だが、これらの話は安広は好きじゃないだろうな。彼女は派手好きだ。もっとこう、規模が
大きくて壮大な話が好きそうだ。それに、外国かぶれだから異国の話しの方が良さそうだし)
KAZUYAは頭の中にいくつか候補を出しながら話し始めた。
1.バグラン公国で恩師・柳川を助けた話
2.シルバラでくすり組織と戦った話
3.レーゲンスとの手術勝負
4.クイーン・アカデミア号での事件
5.中東の大国レビークでの手術
6.その他スーパードクターK44巻までの話で
KAZUYAが話したのは? ↓2
409: 2015/02/23(月) 00:23:47.42 ID:5mx8+yvto
4
410: 2015/02/23(月) 00:54:05.64 ID:nIwnG3Xc0
「もう四年も前の作品だが、尾津明二郎監督の『愛と無情の円舞曲(ワルツ)』を知ってるか? その年の
日本アカデミー賞を総嘗めし、海外の著名な映画賞も受賞したから名前くらいは知っていると思うが」
「ええ。知っております。わたくしも見ましたわ」
見たことがある、というセレスにKAZUYAは少しばかり驚いた。
「……意外だな。映画は洋画、それも少し古いものを好みそうだが」
「あら、先生はわたくしの好みを熟知していらっしゃいますのね」
「雰囲気で何となく、な」
「確かにわたくし、あまり日本の映画は好みませんがあの映画は参考のために見ましたの。
主人公の女性は華族の生まれで非常に優美ですし、舞台が豪華客船というのも気に入りましたから」
成程、日本にもかつては上流階級によるめくるめく華やかな世界があった。
そう言った古い時代の社交界はセレスの感性にも合ったのだろう。
「なら話が早いな。実はあの映画の撮影現場に俺もいたんだ」
「まあ」
今度はセレスが驚く番だった。
「たまたま居合わせたんですの?」
「いや、俺は主治医として乗り込んだんだ。主演の尾津美奈子のな」
尾津美奈子は監督である尾津明二郎の娘だが、重度の心臓病を患っていた。そのために女優業を
やめていたのだが、尾津の最高傑作は間違いないだろうこの大作のため、病を押して撮影に臨んだのだ。
411: 2015/02/23(月) 01:52:32.20 ID:nIwnG3Xc0
「確か尾津美奈子は病気だったはず。そのために演技では再現出来ないような繊細な表情や
儚さを出せたとのことですが……その背後には西城先生がいらっしゃったのですね」
「監督が、身贔屓ではなく純粋に彼女でなければこの役は出来ないと豪語していたよ」
「ですが先生らしくありませんわね。病人にそんな無理をさせるなんて」
もう一月も共に暮らし、KAZUYAが何に怒り何に悲しんできたかをまざまざと見てきた
セレスにとって当然の疑問だ。KAZUYAはそっと目を伏せて静かに答える。
「俺は反対したんだがな。……彼女の病、心臓弁膜症は非常に重度だった。いつ大きな発作が起こっても
おかしくない、それくらい危険な状態だった。彼女の病名を告げた時、船医から怒られたし呆れられたよ」
心臓弁膜症:心臓には血液の逆流を防ぐため四つの弁があり、それらが必要に応じて
開閉しているのだが、その弁が変形したり機能不全を起こす病気のことを言う。
「……なら、何故?」
「監督が娘に無理強いしているだけだったら俺は意地でも船に乗せなかったが、尾津美奈子本人の
強い要望があってな。俺が止めてもこの子はきっと乗るだろう、と。……やむを得なかったんだ」
「そうですの。……確かその撮影の時に事故がありましたわよね?」
「そうだ。事故で尾津監督は亡くなり、息子の尾津慎一も重傷を負った。俺は監督の心肺を慎一に移植し、
慎一の心臓を美奈子に移植した。その後、慎一が立派に跡を引き継いであの映画は完成したんだ」
412: 2015/02/23(月) 02:08:09.70 ID:nIwnG3Xc0
「俺は尾津監督の命は救えなかった。――だが、あの親子が命を懸けて
臨んだ作品を無事完成させることで、監督の魂もきっと救えたと信じている」
「……あの華やかで美しい映画の裏に、そんな事情があったとは思いませんでしたわ」
それは純粋な感想だった。美しい映画の裏側に存在した熱い人間ドラマも
非常に興味深かったのである。だが、セレスはもう一つ別のことを考えてもいた。
(平然と言いましたが、今の話ですと先生は一度に二箇所も移植をしたということになりますわね……)
しかも、うち一つは心臓と肺を丸々である。如何にセレスが素人であれど、
それが異常なまでに高度な技術であることは流石に理解出来た。
(流石超国家級の医師。……本当に、話をすればするほど氏なせるのが惜しくなってくる人ですこと)
「とても興味深い話をありがとうございます」
「楽しんでもらえたようで何よりだ」
「ちなみに、豪華客船での船旅は如何でした?」
「正直それどころではなかったからね。機会があったらまた乗ってみるのもいいかもしれないな」
「正装してくださるならわたくしが付いて行ってさしあげてもよろしくてよ?」
「……それは御免こうむる」
豪華客船で行われた映画撮影の話は、セレスにとても喜んでもらえたようだ。が、
「ちなみに、四年前ではなく二年前の話では?」
「!! そ……そうだったか? 俺も多忙なものでな」
慌てて誤魔化したが、KAZUYAは内心ヒヤリとしたのだった。
420: 2015/03/01(日) 22:48:17.79 ID:7NENg7kD0
◇ ◇ ◇
夜時間に入って少し立った頃、KAZUYAは脱衣所の長椅子に一人腰掛けていた。
目的の人物がやって来たのを見ると、立ち上がって出迎える。
「わざわざ呼び出してすまなかったな」
「それはいいんだけどさ。こんなところに呼び出して一体なんの用よ?」
気だるげな顔をして脱衣所にやってきた彼女は、不信感を隠しもせず中に入った。
「大事な話があってな」
「そうだろうね。あえてカメラのない場所を選んだんだし。早く終わらせてよね?」
「わかった。俺も回りくどいのは苦手だしな。単刀直入に言わせて貰おう」
「――俺は君を疑っている。江ノ島」
「!!」
KAZUYAから直々に呼び出しがかかったのだ。何かある、と身構えていた江ノ島だが
それでもまさかここまでハッキリ言われるとは思わなくて、意図せず目付きが鋭くなる。
「ずっと君の行動を見ていて、些か不自然な点がいくつか見受けられた」
「…………」
(どうする? 今こっちは丸腰だけど、頃す? 頃すだけなら別に不可能じゃない。
……でも、あれだけ警戒心の強い西城が何の手も打たずに現れるかな?)
(誰かに私が怪しいって伝えていたら……それに、マントに武器を仕込んでる可能性もある。頃すだけなら
問題ないけど、もし一発でも攻撃を受ければ私が犯人だってバレる。それは盾子ちゃんは望まない)
実際彼女の判断は正しかった。超高校級のボディーガード三人がかりの連携攻撃をいとも簡単に
いなした彼女なら、頃すこと自体はさほど難しくはない。以前のKAZUYAなら手も足も出なかっただろう。
421: 2015/03/01(日) 22:54:17.53 ID:7NENg7kD0
だが江ノ島は知らないが、最近のKAZUYAは違っていた。護身というレベルではなく、真剣に相手を
打ち倒すことを目的とした手合わせを何度となく重ねてきた。それも世界最強の生物相手に、である。
ここにきて、KAZUYAの対人格闘能力は飛躍的な上昇を見せていたのだ。
江ノ島を倒すこと自体は無理でも、武器さえあれば一矢報いる程度は出来る。
(それに、前に一度西城を殺そうって言ったらやめろって言われた。指示も
出てないのに勝手に頃すのは盾子ちゃんの計画から外れる気もする。だけど……)
(……目が素人のものではないぞ、江ノ島)
江ノ島の目は、完全に獣のそれと化していた。一般人がおよそ考えることのない、相手を頃すか否かの
次元で逡巡しているのがKAZUYAにもひしひしと伝わってくる。背中にゆっくり冷や汗が流れた。
「……と言っても別に君が内通者だと断言する訳じゃない」
「! 当たり前じゃん! 何を根拠にそんなこと言うワケ? 言い掛かりも甚だしいんですけど!」
「あくまで可能性の話をしただけだ。俺とて生徒を疑いたくないからな」
「……で? 何が言いたいの?」
「君を信じさせて欲しい。アルターエゴがみんなの希望だと言うことはさっきも言ったな?」
「…………」
「君が内通者でないなら、これを狙ったりはしないはずだ」
「……当たり前じゃん。話は終わりでいい?」
「ああ。こんな時間にすまなかったな。もう戻っていいぞ」
「…………」
江ノ島は即座に部屋に戻ると机から無線機を取り出す。モノクマを呼んでも良いのだが、
直接声を聞いて話したかった。そして、本日二度目の連絡を行う。
「盾子ちゃん!」
『あ? 何よ、突然。ウザいから急用の時以外連絡してくんなって言ったでしょ?』
422: 2015/03/01(日) 23:01:03.08 ID:7NENg7kD0
「急用なんだよ。実は……」
『へぇ~、ふーん』
察しの悪い姉に対し、賢すぎる妹はすぐさま気が付いた。
(残念な姉はアルターエゴでシステムがハックされちゃう、どうしようとか騒いでるけど
西城はクラッキングなんて最初から狙ってない。恐らく内通者を炙り出すつもりね)
KAZUYAにとって、生徒の安全こそが最優先事項である。そのKAZUYAが勝算もなく黒幕に攻撃を
仕掛けるという綱渡りをするはずがない。何よりそれが目的なら秘密裏に行えばいいだけの話で、
内通者がいるとわかっていて情報を漏らす訳がない。つまり、アルターエゴは餌だ。
(残姉の正体はとっくにわかっててアタシにこの話が行くことも織り込み済み。その上で
あえてお姉ちゃんが動けないよう事前に釘を刺し、他の内通者が動くのを待つ)
(このまま黙認すればアルターエゴの性能が上がりアタシは不利に。
こちらが動けば誰が内通者なのか向こうにバレる、と……)
黒幕自らなりふり構わずアルターエゴを奪いに来る可能性もある。
他の内通者をけしかけて直接邪魔なKAZUYAを排除に来る可能性もある。
――それら全てを考慮した上で、それでも勝ち目のない勝負に出ているのだ。
(何でそんなことをするかって? 正攻法では私様に勝てないと薄々わかっているからだろう。
普通の人間ならまずしない、1%の選択肢をわざわざ選んで自身の限界に挑戦している)
『フフフ……面白い。面白いではないか、人間!』
「え、な、なに?」
『西城のことはほっといていいよ』
「え? でも……」
423: 2015/03/01(日) 23:09:17.48 ID:7NENg7kD0
『余計なことすんなって言ってんの!』
「盾子ちゃん……」
(思えば、このためにアタシはずっと種を蒔いてきたんだからさ……)
江ノ島盾子には昔からある悪癖があった。いや、江ノ島が江ノ島たりえるため、或いは
より良い絶望を得るための手段であり、彼女自身がゲームを楽しめるようにするためであった。
……それは、あえて自分に不利で相手に有利な状況を作ることである。
振り返れば、不可解ではなかろうか。図書室に学園閉鎖の知らせや未来の新聞を置いたのは彼女だ。
不二咲千尋が修理しアルターエゴを作ることを想定しながらパソコンを放置したのも、生徒が記憶を
取り戻す危険性を知りながら、写真や有益な情報を残したのも全て彼女の仕業だった。
何故江ノ島はそんなことをするのか?
(何年もかけて綿密に立てた計画が、取るに足らないミスで瓦解する……
それって最高に絶望的じゃない?! 計画が上手く行ったら行ったで絶望的だし)
ついでに言うと、彼女にとって最も致命的となる二階男子トイレの隠し部屋もわざと放置した。
この計画が成功するのかしないのか、もはや超高校級の分析力を持つ彼女にすら予想出来ない。
その予測不可能な命を懸けた“せめぎあい”こそ、江ノ島盾子が魂から求めていたものだった。
(いいじゃんいいじゃん! 本っ当ーにあんたって最高だよ、西城! いちいちアタシの予想から
外れたことをしてくれる。愚かな賢者と知的ぶる馬鹿は嫌いだけど、賢い馬鹿は嫌いじゃないわよ?)
彼女の行動に理由など必要ない。面白ければそれでいい。
……つまるところ、江ノ島の頭脳は優秀過ぎたのだ。彼女がその気になれば、KAZUYA含めここにいる
人間を意のままに操ることも絶望させることも容易く出来る。しかし、それの何が面白いのだろうか。
勝ちの決まったゲームなど、ゲームではなくただの作業だ。飽きっぽい彼女は作業が何より嫌いだった。
424: 2015/03/01(日) 23:19:35.53 ID:7NENg7kD0
余談だが、江ノ島は実生活でもゲームが好きである。コンピューターゲームはしばらくやると
アルゴリズムを分析してしまうため、ダイスを振るとかトランプとかそういった運の要素が強い
アナログのゲームが好きだった。如何に江ノ島といえど、純粋な運では普通に負けることもあるのだ。
(うぷぷ。某厨二病の先輩風に言うと特異点て奴かな? 先生はボクの特異点になってくれるのかな?)
超分析能力を持つ江ノ島が一目置いている才能は現在三つ。
一つは葉隠の持つ占い能力、二つ目はセレスの天運とも呼べるギャンブル能力、最後が苗木の幸運である。
特に、前二人と違い苗木は幸運どころか何をやらせても不運と呼べる部類なのだが、そんな苗木が何故か
ここぞという時には悪運を発揮して助かるのだ。苗木の幸運不運だけは江ノ島にも読めない。
(特に運が良い訳でも超常的な能力がある訳でもない、ただちょっとデカくて優秀なだけの医者。
そいつが一体何を武器にこのアタシに立ち向かってくるのか――しかと見届けてやろうじゃない!)
江ノ島は薄暗いモニタールームの中、一人嗤う。だが、戦刃むくろに江ノ島の考えは難し過ぎた。
(なにを考えてるの、盾子ちゃん……私には、わからないよ……)
妹が気まぐれなのは重々承知しているが、端から見れば破滅願望のようにしか見えない。
いや、それは間違いではないのだ。江ノ島にとって勝ち負けはさほど重要ではないのだから。
(わからない。わからないけど……盾子ちゃんは私が守るからね……
計画だって遂行してみせる。だって、盾子ちゃんの味方は私だけだから……)
双子の姉妹は未だすれ違う――。
425: 2015/03/01(日) 23:26:52.11 ID:7NENg7kD0
― コロシアイ学園生活三十四日目 保健室 PM3:24 ―
何も問題が起きないまま、日々だけはただ風のように過ぎて行った。
K「とりあえず、苗木は仮免だな」
苗木「えっ?! 何がですか?」
K「もうお前は一人で注射してもいい」
苗木「えっ」
石丸「おめでとう、苗木君! 一足先に卒業だな!」
K「注射はとにかく数と経験が物を言う。誰でもいいから頼んでやらせてもらえ」
苗木「……本当に大丈夫なんですか?」
K「怖いのはわかるが、やらねばいつまで経っても上手くならんぞ? ほら、行ってこい」
苗木「は、はい。それじゃあ……」
K「何度も言っているが、同じ注射器を使い回すなよ。針の扱いには気をつけろ。あと……」
苗木「わかってます」
KAZUYAの注意を背に、苗木は道具を持って廊下に飛び出した。
苗木(仮免かぁ……とりあえず、仲の良い桑田君に頼もうかな。女の子の腕に
傷をつけるのは気が引けるし、あとは大和田君とか石丸君とかを回して……)
舞園「なーえーぎーくん!」
苗木「うわっ、舞園さん!」
舞園「今の時間は実習の時間じゃないんですか?」
苗木「実はね、注射については一応仮免をもらって……外で練習してこいって言われたんだ」
426: 2015/03/01(日) 23:32:22.33 ID:7NENg7kD0
舞園「凄いですね! じゃあ、記念すべき第一号は是非私にしてください!」
苗木「舞園さんに?! ……い、いやいやいや! 女子はまだ駄目だよ! うっかり傷になったらまずいし」
舞園「私は気にしませんよ?」
苗木「僕は気にするよ! と、とにかく今度ね! もう少し上手くなったらやるから!」
舞園「残念です……」プー
苗木(あ、その顔ちょっとかわいい)
・・・
ちょうど食堂に男子が集まっていたため、苗木の武者修業が始まる。
桑田「痛くすんなよ? 痛いのヤだからな?」
苗木「頑張るよ……あのさ、失敗しても怒らないでね?」
桑田「怒らないけどよ……あー、イヤだー。俺注射嫌いなんだよな。イヤだー」
大和田「ガタガタ言うな。男だろ」
桑田「それとこれとは別問題だっての!」
苗木(僕も素人にされるのは嫌だしな……)
葉隠「よし、上手く行くか占ってやろうか? 今なら特別料金で……」
桑田「殴るぞ!」
判定
このレスのコンマが奇数なら成功。偶数なら失敗
427: 2015/03/01(日) 23:35:17.44 ID:9dXkv2ml0
おお、ゾロ目だ!完璧だ、苗木君!
428: 2015/03/01(日) 23:41:09.28 ID:7NENg7kD0
ゾロ目クリティカルで次の大和田は自動成功
苗木「だ、大丈夫? 痛くない?」
桑田「いや、そりゃ多少は痛いけど……割りとすんなり出来たんじゃね?」
山田「手付きがちょっとプロっぽかったですね」
大和田「次は俺か。よし、やってくれや!」
不二咲「大和田君、格好良いよ!」
大和田(本当は結構ブルってんだけどな。センセイがやんならともかく苗木だし)
山田「実は内心ビクビクしてたりして」
大和田「う、うるせーよ!」
葉隠「声震えてんべ」
・・・
大和田「へっ、大したもんじゃねえな」
不二咲「次は僕だね!」
苗木「不二咲君は血管細そうだからなぁ。ちょっと自信ないんだけど……」
判定
このレスのコンマ末尾が7以上で成功
429: 2015/03/01(日) 23:47:34.43 ID:7NENg7kD0
・・・
苗木(良かった……不二咲君のは本当に自信なかったんだけど、すぐに入った……)
不二咲「凄い凄い! 三連続成功だね!」
桑田「ちょ、マジかよ」
大和田「すげーな……」
山田「これは、苗木誠殿を苗木誠医師と呼ぶ日も近いか?」
苗木「や、やめてよ。たまたま運が良かっただけだからさ」
葉隠「じゃ、次は俺だな」
判定
難度の高い不二咲を成功したので少しボーナス
このレスのコンマ末尾3以上で成功
430: 2015/03/01(日) 23:54:06.90 ID:NxY6W55vO
幸運すごい…
431: 2015/03/01(日) 23:54:34.21 ID:7NENg7kD0
葉隠「お、行った行った」
苗木「不二咲君の後だから大分楽に思えるよ。先生も言ってたけど、
やっぱり数をこなすが一番大事なんだな―と思う」
山田「次はいよいよ僕ですか」
ズーン!
山田の太い太い腕を差し出される。
苗木(うっ……凄いプレッシャーだ。血管が影すら見えない……)
ラスボス山田
判定
このレスのコンマ末尾8以上
440: 2015/03/08(日) 23:24:44.83 ID:z0nGNISB0
>>437
意外かもしれませんが、江ノ島さんは芸術系の才能を割りと高く評価してると思いますよ
綺麗な絵や売れ線の物語が必ずしもヒットする訳じゃありませんからね
山田君は二次創作なので腐川さんよりは少し評価落ちちゃうけど
さて、この間イベントアイテムを手に入れたので今回は番外編行きます
本当はもっと色々まったりしてたいけど、あんまり焦らす訳にもいかないし今回で最後だろうなぁ…
意外かもしれませんが、江ノ島さんは芸術系の才能を割りと高く評価してると思いますよ
綺麗な絵や売れ線の物語が必ずしもヒットする訳じゃありませんからね
山田君は二次創作なので腐川さんよりは少し評価落ちちゃうけど
さて、この間イベントアイテムを手に入れたので今回は番外編行きます
本当はもっと色々まったりしてたいけど、あんまり焦らす訳にもいかないし今回で最後だろうなぁ…
441: 2015/03/08(日) 23:30:27.63 ID:z0nGNISB0
― 番外編 腐川復帰 & 舞園快気祝いパーティー ―
朝日奈発案の元、腐川の復帰と舞園の快気を祝うドーナツパーティーが開かれることになった。
厨房から何やら良い匂いが漂ってくる。匂いにつられてKAZUYAは中を覗いてみた。
K「とても良い匂いがするな。どれ、俺が味見でもしてやろうか」
朝日奈「あー! 先生ダメー。まだみんなで作ってる最中なんだから!」
K「すまんすまん」フフ
舞園「出来たらちゃんと呼びに行きますよ」
霧切「不二咲君も手伝ってくれるって言ったけど、今日は女子だけで作業しているの」
K(安広はいないようだがな……まあ、あの子は仕方ないか)
江ノ島「お菓子作りとかあんまやんないけど、たまには悪くないかもねー」
腐川「ア、アタシも作っているのよ……! こんなことをするの、初めてだわ!」
K「それは良かったな」ニコ
腐川「はうっ(い、今アタシに笑いかけた?! 笑いかけたの?!)」
大神「という訳で、厨房はただいま男子禁制となっております。また後ほど」
K「わかった。楽しみにしているぞ」
・・・
不二咲「先生! 今日のパーティーでアレを……」
K「俺も同じことを考えていた。準備しておく。任せておけ」
KAZUYAはニヤリと笑うと荷物を取りに校舎へ向かったのだった。
442: 2015/03/08(日) 23:34:38.55 ID:z0nGNISB0
◇ ◇ ◇
朝日奈「という訳で、腐川ちゃんの復帰と舞園ちゃんの手の怪我が治った記念パーティーだよ!
いろんな種類のドーナツ用意したから、じゃんじゃん食べちゃってね!」
机の上にはよりどりみどりのドーナツやお菓子類が山のように置かれている。
山田「おおおおお! まさしく僕のためのパーティーみたいですな!」
セレス「今、朝日奈さんが腐川さんと舞園さんのためと思い切り言っていましたが」
大神「お主、これ以上太ったら流石に不味いのではないか……?」
葉隠「こりゃすげー。ドーナツ屋みてえだべ」
江ノ島「おかわりもあるよ!」
大和田「舞園、手の怪我治ったんだってな。良かったじゃねえか」
舞園「ありがとうございます。綺麗に折れていたみたいで、上手くくっつきました」
桑田「そっか。……正直心配だったんだ。後遺症とか残ったらどうしようって」
舞園「仮に残ったとしても自業自得ですから、桑田君を恨んだりなんてしませんよ」
桑田「そうは言ってもなぁ……」
苗木「今日は楽しいパーティーなんだから、そういう話はなしにしよう。ね?」
石丸「そうだ! パーティーは楽しむのが義務だぞ! この企画をしてくれた朝日奈君に感謝だな!」
十神「…………」ムシャムシャ
十神(チッ、愚民共が作ったというが……味は思ったほど悪くない)
江ノ島「あ、それ腐川が作ったやつだよ」
十神「?! ゴホゴホッゴホッ!」
江ノ島「冗談だって。どんだけ嫌ってんのよ、あんた……」
霧切「どう、ドクター? お味のほどは」
K「俺はドーナツというのは甘いし脂っこいしで元々そこまで好きでもないんだが、
不思議なことにみんなが作ったと聞くととても美味しく感じる。これもプラセボかな?」フッ
そんな風にしばらく談笑していたが、KAZUYAが手を叩いて全員の注目を集めた。
443: 2015/03/08(日) 23:39:19.80 ID:z0nGNISB0
K「今日は不二咲から何か連絡があるみたいだぞ」
不二咲「エヘヘ。実はねぇ、その前にまずアレを見てもらいたいんだけど」
苗木「そういえばテレビがあるね」
桑田「電源入れても砂嵐しか映んなかったけどな」
舞園「確か音楽室に置いてあった物のはずですが、何故食堂に?」
K「俺が運んだんだ。不二咲が倉庫で見つけたある機械のためにな」
葉隠「ある機械ってあれか。なんかどこかで見たことあるような」
不二咲「カラオケマシーンだよ! 最初は壊れてたんだけど、この間先生と一緒に直したんだぁ」
山田「おお! カラオケ、とな。いいですなぁ。是非みんなで歌いましょう!」
朝日奈「よーし! じゃあ今日は一日カラオケ大会ね!」
セレス「仕方ありませんわねぇ。そんなにわたくしの美声が聞きたいのですか」
十神「くだらん。俺は興味ない」
大和田「そんなこと言ってよ、自信ねえだけじゃねえの?」
十神「そもそも俺は音楽番組などという低俗な番組は見ない。だから曲も知らん。じゃあな」ガタン、スタスタ
腐川「あ、びゃ、白夜様! えーと、アタシも歌とかそういうのは……」
霧切「……私も人前で歌うのはちょっと」
大神「我もだ……」
舞園「大丈夫ですよ! 一人で恥ずかしいなら一緒に歌いますから!」
朝日奈「折角だし参加しようよ!」
苗木「うん! みんなで歌うからさ。きっと楽しいよ!」
葉隠「だべ。盛り上げ役は俺に任せろ!」
腐川「みんなで一緒に……これも初めてだわ」
霧切「私、日本の歌はあまり知らないのだけれど……」
444: 2015/03/08(日) 23:45:13.17 ID:z0nGNISB0
桑田「なにお前? 洋曲派? 気が合うじゃん」
苗木「霧切さんは帰国子女らしいよ」
霧切「正確にはちょっと違うけど……まあそれでいいわ」
不二咲「外国の有名な歌も入ってるから大丈夫だよぉ!」
霧切(断りづらい雰囲気ね……)
大神「諦めよ、霧切。我も腹を括った」ハァ
江ノ島「カラオケかぁ。久しぶりだな……」
江ノ島(昔、みんなにムリヤリ引きずられて行ったっけ。……懐かしいな)
石丸「せ、先生! 僕、生まれて初めてカラオケをします!」
腐川「ア、アタシもよ……う、うふふ」
K「二人共、良かったじゃないか」ニコッ
石丸「しかし、どうすれば……僕は歌なんて国歌と校歌と唱歌しか知らない!」
桑田「お前なぁ……」
舞園「唱歌も入ってるから大丈夫ですよ。年配の方と一緒にカラオケに行くと、
母校の校歌を歌ったり唱歌を歌う方もよくいらっしゃいますから」
石丸「そ、そうか。それは良かった!」
大和田「これを機会に覚えろよ!」
山田「それでは、第一回希望ヶ峰学園カラオケ大会開幕~!!」
桑田「なーにお前が指揮ってんだよ、ブーデー」
K「まあ、いいじゃないか」
朝日奈「順番どうする?」
葉隠「時計回りでいいんじゃねえか?」
桑田「よーし! なら俺がトップバッター行くぜ!」
朝日奈「いけいけー! イェーイ!」
445: 2015/03/08(日) 23:50:39.48 ID:z0nGNISB0
The Damned[ LOVE SONG ]
桑田「Just for you, here's a love song~♪」
不二咲「やっぱり上手いねぇ」
腐川「ふ、ふん。あいつ、意外とやるじゃないの……」
石丸「そうか。腐川君はこの間のパーティーにいなかったから聞いていないのか。
桑田君はとても歌が上手いんだぞ。この間は舞園君とデュエットしていた」
桑田「It's okay~♪ ……どうよどうよ? 俺の歌? デビルかっけーだろ?」
K「ウム、良かったぞ。意外と発音が良かった」
桑田「そこ?! 洋曲をかっこよく歌うために英語だけはちょっとだけ頑張ってるからな!」
K「頑張っているといっても、どうせギリギリ赤点回避とかそのくらいだろう」
桑田「ギク。なんでわかんだよ!」
葉隠「おーし、次は俺だべ!」
ゆず[ 夏色 ]
苗木「へぇ、意外と爽やかな曲歌うんだね」
葉隠「意外とは余計だべ。俺だってな、ちゃんと盛り上がる曲選ぶんだって」
大和田「葉隠のゆずか……まったくイメージに合わねえな」
葉隠「この長い長い下り坂を 君を自転車の後ろに乗せて
ブレーキいっぱい握りしめて ゆっくりゆっくりくだってく~♪」
セレス「葉隠君にしては上手いですわね」
江ノ島「葉隠にしてはね」
葉隠「さっきから俺の扱い酷くねえ?!」
不二咲「上手だったよ!」
霧切「葉隠君が格好いいと反応に困るということがわかったわ」
葉隠「ひ、ひでえ。もう次行ってくれ……」
446: 2015/03/08(日) 23:56:27.31 ID:z0nGNISB0
朝日奈「じゃあ次は私! さくらちゃんも一緒に歌お!」
大神「ウ、ウム」ドキドキ
浜崎あゆみ[ SEASONS ]
山田(こ、この選曲は……?!)
葉隠(オーガが浜崎あゆみを歌うとは……)
大和田(ちょっとは曲の雰囲気考えろよ、朝日奈!)
桑田(ヤベェ、なんかヤベェって……)
朝日奈「今日がとても楽しいと 明日もきっと楽しくて~♪」
大神「そんな日々が続いてく そう思っていたあの頃~♪」
桑田「あ、あれ?」
苗木(意外と上手いぞ、大神さん?!)
江ノ島(大神さんは見かけによらず歌える人なんだよね。音程は外さないし発声もしっかりしてるし)
朝日奈「今日がとても悲しくて 明日もしも泣いていても~♪」
大神「そんな日々もあったねと 笑える日が来るだろう~♪」
大和田「良かったじゃねえか!」
腐川「お、思ったより下手ではなかったわよ」
朝日奈「あはは。ありがと」
大神「組み手より緊張するな……」
不二咲「素敵だったよぉ!」
K「ああ。自信を持ってもっと歌ってみろ」
苗木「うん。もっと色々歌ってみようよ!」
大神「ほ、誉め過ぎだお主ら……」カァァ
舞園「照れてる所が可愛いですね♪」
447: 2015/03/09(月) 00:04:40.10 ID:YviZtWOH0
石丸「次はいよいよ僕だな……選曲はこれだ!」
滝廉太郎[ 荒城の月 ]
桑田「唱歌かよ!」
葉隠「またえらい渋いのを選んだもんだなぁ……」
苗木「仕方ないよ。今の曲は全然知らないんだから」
霧切「舞園さんの曲ならこの間散々聞いたのだから歌えるのではないかしら?」
セレス「やめて下さい。アイドルの曲を歌っている石丸君を想像するだけで寒気がしますわ」
桑田「ああ、うん……そうだな……」
腐川「ゾッとするわね」
大和田「お前ら少し黙れ!」
石丸「春高楼の 花の宴~♪」
山田「おお、音痴キャラかと思えば普通に上手い」
桑田「なにこいつめっちゃ上手いんですけど……。しかもやたら良い声してんのがなんかムカつく」
K「そこは素直に誉めてやったらどうだ……」
普通に音楽の授業の一幕のような空気になったが、本人が楽しげなのでみんなは見守ってあげた。
朝日奈「いい声してんじゃん。良かったよ」
石丸「ウム! 腹の底から声を出すというのはやはり気持ちがいいものだな!」
不二咲「石丸君ならマイクなしでも行けちゃうね」
大和田「っしゃあ! 次は俺だぞ!」
石丸「兄弟! 良い所を見せてくれ!」
腐川「選曲は……プッ、不良の定番ね」
大和田「好きなんだからいいだろ!」
448: 2015/03/09(月) 00:11:49.82 ID:YviZtWOH0
尾崎豊[ 卒業 ]
大和田「夜の校舎 窓ガラス壊してまわった~♪」
石丸「?! な、なんという歌詞だ! 風紀を乱している!」
苗木「あ、あのさ! 歌だからね? 実際の話じゃないから」ハハ
大神「実際にはやれないからこそ激しい思いを歌に託しているのだ。芸術とはそういうものだろう」
石丸「……成程、それが表現と言うものなのだな。僕はまた一つ賢くなったぞ!」
大和田「この支配からの卒業 闘いからの卒業~♪」
K「良かったぞ」
不二咲「うん、男らしくて格好良かったぁ!」
石丸「ウム! 見事な歌いっぷりだ」
大和田「ま、まあな」テレテレ
桑田「…………」
桑田(こいつら元の曲知らないからわかってないだろうけど、ビミョーに音ズレてたぞ。
あからさまな音痴じゃなくて、ホントに絶妙なズレ方だったけど……)
江ノ島「次はアタシね!」
舞園さやか[ モノクローム・アンサー ]
舞園「あ、私の曲を選んでくれたんですね」
葉隠「本人の前で歌うなんてすごい自信だべ!」
江ノ島「まあね~」
江ノ島(実はレパートリーがほとんどないから、一番最初に覚えた曲選んだだけなんだけど……)
江ノ島「モノクロームな視界 きっと私だけカラフル はっきりしない そこも好きよ~♪」
山田「……あれぇ?」
大和田(ヘタってほどじゃねえが、江ノ島はもっと上手いイメージあったんだけどな)
苗木(江ノ島さんには悪いけど、思ったより普通かな)
449: 2015/03/09(月) 00:17:22.26 ID:YviZtWOH0
江ノ島「ど、どうだった?」
大神「良かったぞ」
K「ああ。少し緊張していたようだが」
江ノ島「緊張してたのわかっちゃった? アタシもまだまだだな~。アハハ」
セレス「次はわたくしですわね」
江ノ島「どうせアリプロとかいうヤツでしょ?」
セレス「勿論、わたくしに相応しい華やかで退廃的な……」
カチャカチャ。
山田「よしっ! フゥ」キラキラ☆
セレス「って何勝手に入れてるんだゴラァアアアアア!」
山田「ブヒィィィ! 是非セレス殿に歌って欲しい歌があったのです!」
セレス「しかもアニソンじゃねえか、トンカツにすんぞブタあああああ!」
朝日奈「あ! この曲知ってる! 昔凄い流行ったやつだよね。私、好きだな。歌ってよ!」
舞園「私も好きでした。ヒロインがセレスさんの声と近いですし、是非聞いてみたいです」
不二咲「女の子向けのアニメだったけど、ロボットとか出てきて
アクション要素が多かったから僕も見てたなぁ。良い曲だよね」
山田「フフフ、アニソン界でも名曲に入る部類ですな」
セレス「…………。いいでしょう。そこまで言うなら特別に歌って差し上げますわ」
苗木「やった! セレスさんの声で聞きたかったんだよね」
桑田(つーか知ってんだな……)
田村 直美[ ゆずれない願い ]
セレス「止まらない未来を目指して ゆずれない願いを抱きしめて~♪」
腐川「なに、こいつ……上手い……?!」
霧切「いつ聞いても綺麗な声ね」
450: 2015/03/09(月) 00:21:51.68 ID:YviZtWOH0
江ノ島「ムカつくけどセレスの歌はガチ。カラオケ行くと大体上位争いは
舞園とセレスとじゅんk……アタシになりそうだよね! アハハ!」
朝日奈「いつかみんなで行きたいねー!」
苗木「次は僕だけど、僕のもいれちゃったの?」
山田「ご安心くだされ! この曲は絶対知っているはずです!」
苗木「……ああ、確かに。これなら歌えるや」
山田「主人公が苗木誠殿とそっくりの声なので是非歌って欲しかったのです!」ムフッ!
高橋 洋子[ 残酷な天使のテーゼ ]
苗木「残酷な天使のように 少年よ神話になれ~♪」
舞園「苗木君、上手ですね!」
桑田「ちょ、マジかよ……苗木のやつ、プロ級なんだけど」
葉隠「おお、本当にそっくりだな。……ハッ! 閃いた。苗木っちの歌を録音してファンに売れば……」
霧切「ねえ、葉隠君……わかってると思うけど、それはれっきとした詐欺だからね?」
K「……お前、一度警察の世話になるか? なんなら知り合いを紹介してやる。とびきり怖い奴をな」
葉隠「も、もちろんジョークに決まってんべ! は、ははは……!」
桑田「次はブーデーか」
大和田「どうせアニソンだろーけどな」
山田「チッチッチィッ! 最近のアニソンは一流のアーティストが歌っていることも
ざらにあり、もはやアニソンだからと言って不当な差別を受ける謂われはない!」
不二咲「えぇっ! これを歌うの?!」
山田「拙者の本気を見よ!」
B'z[ ギリギリchop ]
山田「ギリギリ崖の上を行くように フラフラしたっていいじゃないかよ~♪」
苗木「こ、これが山田君の本気……!」
朝日奈「え、ウソ?! ちょっと見直したかも」
451: 2015/03/09(月) 00:29:18.30 ID:YviZtWOH0
大神「フム、腹から声が出ているな」
舞園「この曲を歌いこなすのはとても難しいと思いますよ……」
山田「どうですどうです? 僕も喉にはちょっとばかり自信がありまして(イケメンボイス)」
K「人は見た目によらないとはこのことだな」
大和田「今までのお前はなんだったんだって思うくらい上手かったぜ!」
山田「まあ、それほどでもありますが」キラーン
苗木「いや、微妙にけなしてるよねソレ?!」
腐川「ちょっと……この流れでアタシに歌えって言うの?! や、やっぱり罠だったんだわ……
アタシを祝うとか言って、本当はアタシを晒し者にするために……!!」グギギ!
苗木「ち、違うよ腐川さん! そんなことないって!」
K「別に下手でも笑ったりなんかしないさ」
朝日奈「そうそう、こういうのはノリが大事なんだから! なんなら私も一緒に歌う?」
腐川「じょ、冗談じゃないわ。何が楽しくて女同士でデュエットしなくちゃいけないのよ……」
石丸「腐川君! 僕も君と同じ初めてのカラオケだが、カラオケは楽しいぞ!」
腐川「唱歌を歌った奴に励まされてもね……わ、わかったわよ。歌えばいいんでしょ、歌えば?!」
大和田「で、なに歌うんだ?」
セレス「全く想像つきませんわね」
山田「こ、この曲は……!」
松任谷 由実[ 春よ来い ]
腐川「淡き光立つ にわか雨 いとし面影の沈丁花~♪」
桑田「まさかの春よ来い……」
葉隠「でも、結構いいんじゃねえか?」
霧切「そうね。初めて聞いたけど素敵な曲だわ」
腐川「春よ 遠き春よ 瞼閉じればそこに 愛をくれし君の なつかしき声がする~♪」
K「なかなか情感がこもっていたぞ」
腐川「あ、当たり前よ。アタシにも春が来て欲しいもの! 来い、アタシの元にも来い……!!」ハアハア
(……切実だ)
452: 2015/03/09(月) 00:34:43.56 ID:YviZtWOH0
舞園「次は霧切さんですね!」
霧切「有名な曲だから多分知ってると思うわ」
石丸「英語の曲か」
江ノ島「これはアタシも知ってる(部隊の人がよく聞いてたから)」
Whitney Elizabeth Houston[ I Will Always Love You ]
山田「有名なんですか? 全然聞いたことありませんけど……ってこれは!」
霧切「And I will always love you Will always love you~♪」
葉隠「ああ、あれか! エンダアアアイヤアアアアで有名な」
朝日奈「霧切ちゃん、素敵ー!」
セレス「ボディガードという映画で有名になった曲ですわね」
霧切「緊張したわ……」
桑田「え、マジ? まったくわかんなかったぜ? つーかすげー上手いじゃん」
K「綺麗な声だったぞ」
誉められると、実は満更でもないのか少し赤い顔をしながら霧切は呟いた。
霧切「……たまにはカラオケも悪くないかもしれないわね」
苗木「次は舞園さんだね。何を歌うの?」
舞園「持ち歌でもいいんですけど、前回のパーティーでも歌ったのであえて違う人のものを」
RAMAR[ Wild Flowers ]
舞園「急に泣き出した空に声を上げ はしゃぐ無垢な子供達~♪」
苗木「いつもと雰囲気が違うね」
朝日奈「男の人の歌を歌う舞園ちゃんて新鮮かも」
453: 2015/03/09(月) 00:44:26.10 ID:YviZtWOH0
舞園「信じること誰かに伝えたい この唄にのせて~♪」
大神「このような歌も歌えるのだな」
舞園「はい。アイドルだからっていつも同じような曲じゃ練習になりませんから。新天地を目指しました」
山田「次は不二咲千尋殿ですな。ちーたん! ちーたん!」
不二咲「わっ、期待しないで……声小さいかも……それに僕、あんまり上手くは……」
K「大丈夫だ。みんなちゃんと聞いているぞ」
石丸「みんなで応援するから頑張りたまえ!」
大和田「行ってこい」
不二咲「う、うん。じゃあ、頑張るね」
SMAP[ 世界に一つだけの花 ]
不二咲「花屋の店先に並んだ いろんな花を見ていた
ひとそれぞれ好みはあるけど どれもみんなきれいだね~♪」
朝日奈「不二咲ちゃん、可愛いー!」
山田「かーわーいーいー!」
石丸「…………」
不二咲「小さい花や大きな花 一つとして同じものはないから
NO.1にならなくてもいい もともと特別なOnly one~♪」
パチパチパチパチ! ヒューヒュー!
不二咲「ど、どうだったかなぁ?」
K「良い歌だな」
石丸「……うっ、ううっ、ううぅうぅうう!」ボロボロ
桑田「え、なに?! お前マジで泣いてんの?!」
大和田「どうした、兄弟?! 不二咲の歌に感動したのか?」
石丸「それもある。恥ずかしがりながらも一生懸命歌う不二咲君の姿は非常に感動的だった。
だが一番の理由は歌詞だ! この間先生に言われた言葉を思い出して、つい涙腺に……」
苗木「凄く良い歌詞だよね」
454: 2015/03/09(月) 00:48:24.10 ID:YviZtWOH0
朝日奈「私達みんな一人一人違ういいところがあるんだもんね!」
舞園「腐川さんもですよ?」
腐川「ア、アタシィ?! アタシなんて、小説書くしか能がないし……」
K「そんなことはない。想像力があるということは周りの人間の気持ちも
考えられるということだろう? 辛い経験もいつかは肥やしになる」
腐川「あ、あんた達はアタシを買い被り過ぎよ! アタシなんて……」
江ノ島「はい、ウジウジはそれで終了~」
セレス「好意は素直に受け取っておくものですわ」
葉隠「ま、タダより高いもんはねえけどな!」
朝日奈「葉隠! あんたねぇ……」
大神「懲りぬ男だ……」
苗木「あ、みんな。まだ歌ってない人がいるよ」
山田「そうだ! 大トリが残っているではないですか!」
K「? もう二周目だろう?」
霧切「ドクターが歌ってないわ」
ガタ!
K「いや! その、俺は無理だ!」
桑田「曲知らねーなら石丸みたいに唱歌でいいじゃん」
K「俺は石丸と違って音楽の授業は真面目に受けていなかったんだ!」
石丸「自信がないなら僕が一緒に歌いますよ!」
K「お、俺の世代の人間は人前で歌とか歌わないんだよ……本当に……」
舞園「事務所の人やプロデューサーさんはカラオケ大好きですよ?」
朝日奈「先生の歌聞きたーい!」
大神「我も歌ったのです。諦めた方がよろしいかと」
葉隠「往生際が悪いべ」
455: 2015/03/09(月) 01:00:04.18 ID:YviZtWOH0
K「だから無理なんだって……ほ、ほら! 監視カメラがあるだろう!
お前達だけならいざ知らず、黒幕に見られるのは御免だ!」
山田「そんな逃げ方アリですかー?!」
腐川「ヒィィィ! アアアアタシ、カメラの前で全力で歌っちゃったじゃないのー!」バターン!
苗木「腐川さーん!」
不二咲「嫌がってるなら仕方ないよ。でも、ここから出たら一緒にカラオケ行こうねぇ!」
桑田「しょーがねーな。約束だからな! 次は歌わせるから、ぜってー忘れんなよ!」
石丸「楽しみにしています!」
K「わ、わかった。その時までには何とかするとしよう……」
K(参ったなァ。えらい約束をしてしまった……観念して、今度高品にでも相談するか)ポリポリ
ジェノ「はーい! 笑顔の素敵な殺人鬼でーす! なに? なになに?! みんなでカラオケしてたの?」
葉隠「うおっ、ジェノサイダーだべ!」
ジェノ「マイクパース! アタシも歌うわよーん!」
苗木「え? ジェノサイダーも歌うの?!」
山田「この曲は、また懐かしの……」
レベッカ[ フレンズ ]
ジェノ「口づけをかわした日は ママの顔さえも見れなかった~♪」
大神「また腐川とは正反対だな」
舞園「ノリノリですね」
ジェノ「マイフレンドがいつの間にかフレンドじゃなくなってる……それって最強の萌えじゃな~い?!」
江ノ島「わかるようなわからないような」
山田「ジェノサイダー殿とはいつかじっくり萌え語りをしてみたいものですな」
桑田「おーし! 二周目突入すっぞ!」
おー!!
456: 2015/03/09(月) 01:02:37.79 ID:YviZtWOH0
◇ ◇ ◇
十神「…………」パラリ
十神(喉が渇いたな。紅茶でもいれてくるか)
スタスタスタスタ……
十神「……ん?」
「上を向ーいて、あーるこーーー♪ 涙がこぼれないよーーーに~♪」
階段を降りた辺りから食堂の歌声が微かに聞こえてくる。
十神「…………」
「幸せは 雲の上に~♪ 幸せは 空の上に~♪」
近付くと手拍子も聞こえてきた。
十神「…………」
「泣きながら歩く ひとーりぽっちの夜~♪」
食堂の入り口からこっそり覗いてみる。全員ゆったり体を左右に揺らし、笑顔で歌っていた。
「ひとーりぽっちの夜~♪」
ワーワー!! パチパチパチパチ!! イエイイエーイ!!
457: 2015/03/09(月) 01:09:00.26 ID:YviZtWOH0
十神「…………」
十神「…………」
十神「…………」
バッ!
十神(くだらん! この俺のいない所で愚民共が調子に乗りおって!
誰が真に一番か、わからせてやる必要があるみたいだな!)
十神(いいだろう。俺の実力を見せてやる! ……が、俺はカラオケに使われるような
庶民的な歌なんぞ知らん。この俺が歌うなら完璧な選曲、完璧な歌でなければ!)
十神(クッ! 音楽室にCDが置いてあったな。練習だ!)
・・・
モノクマ「ヤッホー! ぼっちでカラオケの練習してる十神君の所に遊びに来ちゃいました☆」
十神「帰れ」
モノクマ「冷たいなぁ。全世界に十億人のファンがいるこのボクがデュエットしてあげるって
言ってるんだよ?! こんなチャンスないよ~。今ならセクシーなモノクマダンス付き!」
モノクマ「ほら、ボクと一緒に銀恋でも歌おうよ! ボク達カップルじゃないけど」
※銀恋:銀座の恋の物語。一昔前のデュエット曲の定番。アベックで歌えば盛り上がること間違いなし。
十神「氏ね!」
モノクマ「あぁ~ん!」
458: 2015/03/09(月) 01:16:38.49 ID:YviZtWOH0
ここまで。
KAZUYAが歌うならくちなしの花とか君恋しとか古い名曲だろうなぁ
フランク永井さんの曲は合いそう。泣かないでとかルビーの指輪もいいけど、
歌詞が甘いのとかテンポの早い歌は多分歌わないだろうなぁ、なんて
472: 2015/03/15(日) 22:43:03.81 ID:ylR7oE+80
◇ ◇ ◇
――巡る巡る。月日はただ淡々と巡っていく。
朝日奈「水泳大会しよう!」
山田「たまには僕だって活躍したいのです! 美術の授業は如何ですかな?」
葉隠「みんなで俺の紹介する講習会に参加してほしいべ!」
桑田「野球大会すっぞ!」
石丸「いいか! 今日から一週間は掃除週間とする!」
K「もう包帯も外していい。時々リハビリに来てもらうが、今日をもって完治とする」
舞園「ありがとうございます」
霧切「……ドクター、話が」
K「わかった」
・・・
「何か映っているかしら?」
「……また山田だけだな」
「全く……彼も困り者ね……」
脱衣所では、KAZUYAと霧切が落胆した顔で立っていた。アルターエゴの公開を全員にした後、
KAZUYAと霧切は二人である細工を施していたのだ。医療実習で使うからと言って事前に山田から
カメラを借り、毎晩それを使ってロッカーが開くとシャッターが落ちるように設置したのである。
……誰かがアルターエゴを盗めば、それで内通者を断定出来るはずなのだが、
ただ映るのは持ち主である山田のニヤケ顔ばかり。
473: 2015/03/15(日) 22:49:53.67 ID:ylR7oE+80
「アルターエゴには多角的に成長してもらいたいのに、山田君と話すと知識が偏って困るわ」
「その分君が話せばいい。山田とは対極の位置にいるだろう?」
「そうですが……」
未だにしかめっ面をしている霧切をKAZUYAは宥める。
「まあ、いいじゃないか。アルターエゴはあくまで内通者をおびき寄せるのがメインだ。
今の所山田しか写っていないし、案外内通者は江ノ島一人なのかもしれんな」
「まだわからないわ。ドクターが罠を張っていることを見越して、
慎重になっているだけかもしれないし、山田君が邪魔なのかもしれない……」
「では、あと三日様子を見よう。あまり長く置きすぎると今度は江ノ島が焦れる可能性がある」
いつも通り淡々と話すKAZUYAに対し、詰め寄るような表情で霧切が問い掛けた。
「――もし内通者がいなかったら、その時はどうしますか?」
「そうだな……」
「江ノ島さんを捕らえ、アルターエゴで学園のシステムを乗っ取るか――」
「…………」
今までの観察から、モノクマを操っている者すなわち監視者は一人の可能性が高いと
言うことはわかっている。交代要員を考えても、五人もいないだろうと考えられた。だが……
「……俺は反対だ。敵の人数はけして多くはない。だが、たとえたった
一人だったとしても銃火器を持って突撃してこられたら凌げ切れるか不安だ」
玄関ホールに更衣室、情報処理室の扉の前には機関銃が設置されている。
つまり、敵が同等の装備を持っていても全くおかしくはないのだ。
474: 2015/03/15(日) 23:02:14.38 ID:ylR7oE+80
「慎重ね?」
「敵の規模は大体わかってきたが、構成員の実力や装備が全くわからないからな。
江ノ島クラスのがもう二人いたらそれだけでもかなり不利になる」
「大神さん、ドクター、大和田君。そこに十神君、石丸君、桑田君を入れても厳しいかしら?」
「仮に両者が同じ実力だったとしても、人を頃す気のある人間とない人間では
その実力は倍くらい開く。俺は……一応覚悟を決めているが、みんなはどうかな……」
「……それに、俺としても出来るだけ生徒に手は汚させたくない」
それが逃避だというのはKAZUYAが一番わかっている。敵の強大さを考えたら、
そんな悠長なことを言っている場合ではないのだ。その現実を霧切は痛いほど突きつける。
「そんなことを言っていられる状況ではないでしょう? 必要ならするだけよ。
ドクターが毒を渡してくれれば、私だってそれを刃物に塗って敵を頃すことも……」
「……やめてくれ。あまり考えたくないんだ」
「でも、今がその時だわ。考えたくないなんて言ってはいられない……!」
霧切の目線は鋭い。それはまるでナイフのようで、今にもKAZUYAを刺し貫かん勢いだ。
「焦るな、霧切」
「……別に、焦っている訳ではありません」
「いや、君は焦っている。その証拠に、君は今俺を臆病者だと思っているだろう?」
「…………」
霧切はフイと無言で目を逸らす。だが、その行動が答えを示しているも同然だ。
「……俺一人だったら俺もきっと無茶をした。過去にも危ない橋は散々渡ってきたしな。
だが、ここには十五人もの人間がいる。俺は誰一人として氏なせるつもりはない」
(たとえ俺が盾になってでも、俺が生徒達を守らなければ……)
「その誰一人にあなたは入っているのかしら?」
「…………」
KAZUYAの沈黙に、霧切は溜め息をつく。イライラした時に髪をいじるのは彼女の癖だ。
475: 2015/03/15(日) 23:08:44.12 ID:ylR7oE+80
「とにかく、今はまだ動けない。不二咲とアルターエゴの性能を調整し、十分と判断したら二階の
隠し部屋から学園のシステムや外の状況を探らせる。その情報を踏まえて新たに作戦を練りたい」
「……今はドクターの意見を優先します。でも、私がもっと
良い案を思いついたら、その時は動かせてもらうわ」
「すまない」
「謝らないで頂戴。悪いと思っていないのに謝るのは大人の悪い癖よ。
……そういえば。もう一つ聞きたいことがあるのですが」
「何だ?」
「――私に何か隠し事をしていないかしら?」
一瞬、KAZUYAの心臓が跳ね上がった。その後も早鐘のように打っているのを自覚する。
彼女は探偵だ。如何にKAZUYAが取り繕ってもその僅かな表情の変化をきっと見抜いているだろう。
「……している」
「随分はっきり言うのね……」
呆れと驚きが半々といった表情で、彼女はKAZUYAを見つめた。
「言わなくてもきっとバレるからな。だったら正直に言うまでだ。別に
君に対してだけじゃない。俺はみんなに言えない情報をいくつか持っている」
「…………」
「ただ、今まで嘘ばかりついてきた俺だがこれだけは信じて欲しい。みんなにとって有益な
情報はちゃんと包み隠さず公開している。俺が言わないのは、言う必要がないからだ」
「相手がそれを知りたいと望んでいても?」
「こんな状況だからな。一つのミスが命取りになりかねん。だから、混乱したり疑心の元に
なるようなことは言わん。どうしても知りたいなら、脱出してからゆっくり話そう」
「……その情報の中に、父のこともあるのかしら」
476: 2015/03/15(日) 23:14:21.56 ID:ylR7oE+80
「さあな。人間には、知らない方が良いこともたくさんあるとだけ言っておく」
「脱出した暁には、全て聞かせてもらいます」
「――約束しよう」
速足で去って行く霧切の背中を見ながら、KAZUYAも溜め息をついた。
(このメンバーの中では落ち着いている方だが、やはりまだ子供だな。……正直、危なかった)
脱出がすぐ目前に来ているのにストップをかけさせられた憤懣。
父の情報を相手が持っているのに知ることが出来ないという焦燥。
(……今回は何とか理性で抑えてくれたが、はっきり言って爆発してもおかしくはなかったな)
思えば、霧切はあまり問題を起こさず常に冷静で適切な行動が取れると何かと優等生扱いしてきた。
それ自体は彼女も嫌がってはいないだろうが、彼女に少し頼り過ぎではなかろうか。
今回の隠し撮り作戦だって、KAZUYAと霧切の二人しか知らないのだ。
(一人に寂しさを感じ、無意識に親を求めてしまうのは霧切も
他の生徒達と同じだ。俺がもっと気にかけてやらんと。……ただ)
ここにきて、KAZUYAは複雑な胸中を隠せなかった。
(……あんな父親とは幼い頃に別れて正解だった、などと言うのは俺が当事者ではないからだろうか)
真実を知るKAZUYAは、やる瀬ない気持ちばかりが募る。
499: 2015/03/22(日) 21:09:38.72 ID:tFDRzsn80
◇ ◇ ◇
胸の中でパチパチと火が燃えるような苛立ちを感じながら、霧切は廊下を歩いていた。
食堂で何人かの生徒が騒いでいる。体育館で遊んでいる生徒達がいる。
だがそんなものは気に留めないで、霧切は足の向くままに校舎内をさまよった。
(……どうして、こんなに落ち着かないの)
無意識に思い出すのは、手の火傷をKAZUYAに診てもらった時のこと。
『……可哀相に。ずっと手袋で隠すのは辛かったろう』
『――仕方ないわ。自分の不始末の結果だもの』
『不始末?』
『霧切家には代々伝わる絶対の不文律がある。それは、他人に入れ込まず常に中立を貫くこと。
探偵が個人的な感情で誰かに肩入れすることは絶対にあってはならないのよ』
『私達探偵は他人のプライベートを暴き、時に追い詰めることもする仕事。
それ故周囲の人間に対し常に一線を引き、誰に対しても公平でなければならない』
『つまり、その火傷は誰かに深入りした結果ということか』
『そうね。この傷は私自身に対する戒めでもある。――本当は治さない方がいいのかもしれない』
『医者としては賛同出来んな。戒めは自分の心に深く刻み込めばいい。傷痕を
隠すということは、本当はまだ自分の中で整理がついていないということだ。違うか?』
『…………』
『それに……こんな状況だ。周りと支え合わねば何も始まらない。
もっと近寄って、仲良くしてもいいんじゃないか?』
『あら、ドクターが一番わかっていると思ったけど』
『俺が? 何を?』
『最近は以前程じゃないかもしれないけど、ドクターが一番距離を置いていたじゃない』
『…………』
500: 2015/03/22(日) 21:21:39.50 ID:tFDRzsn80
『医者は患者全員に平等でなければ務まらない仕事でしょう? 違うかしら?』
『……それだけじゃないがな。俺の一族は代々、時の権利者達にこの技術を狙われてきた。
だから俺の家は決まった家名を持たないんだ。必ず婿に入り相手の家の名を名乗る』
『西城は母方の名前なのね』
ふと思い出した。KAZUYAと初めて会った時、彼は何故か名字を名乗らなかった。
彼にとっての名前は西城カズヤではなくKAZUYAだけなのだ。
『特定の誰かと親しくなれば、その人間が狙われてしまう。……過去に何度も友人が襲われた』
『…………』
『ここでは既に巻き込まれているし、逃げ場もないから親しくしているが……もし脱出したら
俺は君達の前から去るだろう。だから君も、ここにいる間くらいはいいじゃないか』
『……協力はするわ。でもそれ以上の関係になるつもりはない』
『そうか。まあ、協力してくれると言うのなら無理強いはしないがな』
『本当にドクターはお節介な人ね。それがみんなから信頼される理由なのでしょうけど』
『すまんな。俺と君はどこか似ている気がして、どうしても言わずにいられなかったんだ。だって……』
『――そんな生き方、寂しいじゃないか――』
KAZUYAの悲しげな眼が、言葉が、霧切の脳裏に強く響く。
(寂しくなんかない……! 私は一人でも大丈夫。お祖父様からだって、もう一人前だと言われている!)
しかしそう反駁しながらも、心の中にいるもう一人の自分がどこか冷静に分析していた。
(……馬鹿みたいね)
すっかり意地になってしまっている。KAZUYAが保護者のように接するから、
父親の代わりに不満をぶつけているだけだと、心の底ではわかっていた。
501: 2015/03/22(日) 21:30:06.13 ID:tFDRzsn80
(子供っぽくて本当に嫌になる……)
心配されて嫌な訳がない。むしろ、もっと色々話をしたい。だが、彼はみんなの先生なのだ。
弱っている人間、手のかかる問題児により注意を割かれるのは仕方のないことだ。
自分は信頼されているからこそ、今回の作戦のパートナーに選ばれた。それでいいじゃないか……
(冷静に、ならないと……)
燃えるような焦燥や欲求を理性で抑えこむように、霧切はただただ歩き続けた。
― コロシアイ学園生活三十六日目 脱衣所 PM1:02 ―
石丸「本当ですか?」
K「ああ。まだまだ危なっかしいが、いつまでも止まっている訳にはいかん。石丸も今日から仮免だ」
石丸「ありがとうございます!」
K「そこで、いよいよ次の行程に入る」
苗木「一体、何を……」
K「縫合だ」
石丸「縫合ですか。布やスポンジを使っての訓練なら今まで散々やってきましたが、ここには
人工皮膚もありませんし、何を縫うと言うのです? そもそも、何故脱衣所に?」
石丸はわからなかったが、苗木は即座に気付いた。KAZUYAの行き過ぎとも取れる
自己犠牲的行動は今までにも散々見てきたのだ。ならば、今回とて例外のはずがない。
苗木「まさか……まさかですよね、先生?」
K「苗木は気付いたようだな」
石丸「え? ま……まさかっ?!」
K「そのまさかだ。――俺の体を縫ってもらう」
502: 2015/03/22(日) 21:39:30.42 ID:tFDRzsn80
サッと石丸の顔から血の気が引いた。
石丸「やめてください、先生! 何もそこまで……!」
K「薄皮一枚縫うだけだ。血管を傷付けなければすぐに塞がる」
石丸「ですが……怪我をしてる訳でもないのにわざわざ傷を付けて縫うなんて、人体実験と
同じじゃないですか! いくら授業でも、そんなことは認められません!!」
K「……苗木。石丸はこう言っているが、お前はどうする?」
苗木「…………」
少し考えていた苗木だが、真っ向からKAZUYAの視線を返して答えた。
苗木「……僕は、やります」
石丸「苗木君……正気かね?!」
苗木「うん、だって――決めたんだ」
苗木(キッカケをくれたのは石丸君だった。でも……本当はもっと前から考えていたんだ)
苗木「ここから出られない以上はいつか必要になる技術だよ? いつもいつも先生に
頼っている訳にはいかないし、きっと僕達がやらなきゃいけない時もくる」
あの日、顔色一つ変えず鮮やかな手つきで舞園を救うKAZUYAに苗木は魅せられていた。
自分もいつか同じように誰かを救えたらと、苗木は夢想し続けていた。
苗木(僕は、医者になるんだ。先生はいつも口癖のように言っている。医者になるのに
特別な才能なんていらない。患者と真摯に向き合う気持ちが一番大事なんだって)
苗木「先生がここまで言ってくれているのに、断ったら先生の気持ちを無駄にすることになる。
僕はみんなと違って特別な才能は何もないし、石丸君みたいに頭が良い訳でもない」
苗木「でも、だからこそ自分に出来ることは全部やりたいと思うんだ。
それが自分にとってもみんなにとっても……きっと最善だと思うから」
石丸「苗木君……」
K「…………」
石丸「そうだな……僕は何を迷っていたんだ……」
顔をパンパンと叩いて気合いを入れ、石丸は笑った。
503: 2015/03/22(日) 21:46:37.82 ID:tFDRzsn80
石丸「本当に……君はいつも大切なことを僕に教えてくれるよ、『苗木先生』」
苗木「ちょっ?! 何で今それが出るの?!」
石丸はたとえクラスメイトであろうと、自分が知らないことを教えてくれる人間を
先生扱いして有り難がる傾向がある。それはKAZUYAも知っているので特に何も思わないが、
本物の先生の前で先生呼ばわりされる苗木にとっては堪らないだろう。
苗木「は、恥ずかしいからやめてよ! 横にKAZUYA先生いるのに!」
石丸「何を恥ずかしがることがあろうか! 君という人間が友人で僕は誇りに思うぞ!」
K「そうだぞ。格好良かったじゃないか」
苗木「え、えっと……僕は別に、格好つけて言った訳じゃ……」
石丸「僕は君に勉強を教え、君は僕に勉強以外のことを教えてくれる。学友とは、そうやって研鑽し
切磋琢磨し合うものだと思うのだ。迷っている僕の背中を押してくれたのは苗木君だからだよ」
苗木「いや、だから、そんな大したものじゃないというか。えっと……」
K「人より前向きなのがお前の取り柄なんだろう? そしてその前向きさは、
時に周りの人間を励ましたり勇気を与えるということだ」
K「……良いことを教えてもらったな。俺も今度から苗木先生と呼ばせてもらおうか」
苗木「もうっ、絶対からかってるでしょ!」
石丸「僕は『マジ』だぞ!」
K「ウム、俺も大マジだ」
苗木「そんなことよりっ! 早く実習を始めましょうっ!!」
半分は本当なんだがな、とKAZUYAは笑いながら浴場を指した。
K「では、浴場に移ろうか」
苗木「えっ、大浴場の中でやるんですか?」
K「保健室の床を血まみれにしたくなかったからな。黒幕に見られているのも癪だ」
石丸「しかし、湿気があると細菌が繁殖しますし治療に向かないのでは?」
504: 2015/03/22(日) 21:56:10.68 ID:tFDRzsn80
K「それは問題ない。早朝に湯を落としてずっと換気をかけていたからな」
確かに、浴場の入り口には清掃中の貼紙がされている。誰かが使用しないようにしたのだろう。
清掃中の貼紙をつけたまま、KAZUYAはガラス戸を開いて中へと入って行った。
K「ウム、適度に乾燥している。赤道直下のジャングルよりはずっといいさ」
ジャングルだとスコールもあるしと呟くKAZUYAに、そんな話もしていたなと二人は苦笑いで返す。
K「手順は……以前にも説明したからいちいち言わなくてもわかるな?
今回はこれを――部分麻酔を使って縫ってもらう」
石丸「麻酔……!」
KAZUYAは床に6つほど濃度や成分の違うアンプルを並べていく。
K「そうだ。先に言っておくが、麻酔の効きを見たいから今回は針麻酔は使わない」
苗木「針麻酔なしで体を傷付けるんですか?!」
K「薄皮一枚だからな。そんなに痛くないさ。気にしなくていい」
苗木・石丸「…………」ゴクリ
K「俺は今回、基本的に見ているだけとする。お前達は過去の
授業を思い出して、自分で判断してやって欲しい」
苗木「……わかりました」
必要な道具を取り出し、乾いた床に並べた。あくまで練習だが、実際の手術の緊張感を
味合わせるため、二人にはきちんと術着を着させ半透明のゴム手袋を装着させた。
苗木「僕が着れる手術着があって良かったよ」
石丸「うーむ、サイズ的には女性のものに見えるが。看護婦でもいたのだろうか?」
K「…………」
KAZUYAにはたった一人思い当たる人物がいた。
505: 2015/03/22(日) 22:04:59.80 ID:tFDRzsn80
ざんばら髪でエプロン白衣を身にまとい、いつもおどおどしていた彼女。
有り得ないほどのドジだが、看護婦としての技術は確かだった彼女。
今苗木が着ている手術着は、間違いなく彼女のために用意されていたものだろう。
K(今は、どこで何をしているのだろうか……)
もしここがシェルターでそのために保健室に色々揃っていたのなら、彼女もここにいるべきだが……
KAZUYAとは縁が深い人間のため気にはなったものの、今は医療実習に集中しなければならない。
上着を脱ぐと、KAZUYAは躊躇うことなく自身の左上腕部をメスで切り裂く。バッと辺りに血が飛び散った。
「……ッ!」
二人は思わず目を閉じる。いくら覚悟をしているとはいえ、やはり師が
自分を傷付けたり血まみれになっているのを見るのは耐えがたいものがあるのだ。
だが、そんな二人にKAZUYAは容赦なかった。
K「二人共、よく見ろ」
二人がおずおずと傷口を見ているのを確認すると、KAZUYAは更に斬りつけ傷口をL字形にする。
そして、あろうことかメスの切っ先を皮膚の下に潜り込ませると、皮膚の一部をベロンと裏返した。
苗木「うわっ……!!」
石丸「……うぷっ」
この不意打ちに二人は気分が悪くなる。
K「バケツも袋も用意してあるから、吐きたいなら吐いてもいいぞ」
石丸「い、いえ……大丈夫です……」
K「無理をするな。縫合中に中断する訳には行かないんだぞ」
苗木「でも、すぐに縫わないと……」
506: 2015/03/22(日) 22:11:44.23 ID:tFDRzsn80
K「……俺は傷口をよく見ろといったはずだが。主要な血管は一切傷ついていないだろう?
こういう皮膚を切断した傷は出血が派手だから重傷に見えるが、実は放っておいても
自然に塞がるんだ。だから、お前達は心配しないで吐きそうなら先に吐いてこい」
石丸「で、では、少しトイレに……!」
少しばかり放置しても問題ないと知るや、石丸はバケツを抱えたまま飛び出して行った。
K「苗木は大丈夫か?」
苗木「良くはないですけど、舞園さんの時にも一度見ているし……」
苗木(本当は、吐く気も起きないというか……ショックで何も考えられないだけなんだけどね……)
K「……無理だけはするなよ」
少しして石丸が戻ってきたのだが、もう一人騒がしい人間が付いてきてしまった。
葉隠「ちょ、ちょっとおめーら?! こんなところで一体なにやってんだ?!」
K「葉隠か。どうかしたのか?」
葉隠「どうしたもこうしたも、トイレに行ったら突然手術着を着て青い顔した石丸っちに遭遇して、
医療実習で吐いたとかなんとか……で、気になって来てみたら先生が血まみれじゃねえか?!」
K「医療実習だからな」
葉隠「実習て……怪我だらけだぞ!!」
KAZUYAは普段傷口に包帯を巻いているが、今やその範囲は左腕の大半になろうとしていた。
関節付近は度重なる注射で出来た血腫がまだ直っていない。包帯を外した今、失敗した注射痕や
赤黒い血腫がいくつも出来ているのがまる見えだし、上腕部には今回の傷がある。
K「なに、大したことはない。かすり傷だ」
苗木「葉隠君、落ち着い……!」
葉隠「ウソつくな! どう見ても重傷じゃねえか!」
507: 2015/03/22(日) 22:23:47.85 ID:tFDRzsn80
こうなることが予想出来たから、KAZUYAは実習で付いた傷痕をなるべく生徒達に見せないようにしてきた。
最近では包帯を隠すため、愛用のノースリーブのシャツではなく普通にワイシャツを着ていたくらいだ。
だから、まさかKAZUYAがここまで自身を犠牲にしていることも傷だらけなことも、関係者以外は
知らなかった。葉隠は未だに出血が止まらないKAZUYAの姿を見て、非常にショックを受ける。
葉隠「それ、まさか自分で傷つけたのか? 大体、なんでそんなに傷だらけなんだべ?!」
K「仕方なかろう。本来なら大勢の人間に少しずつ協力してもらうからここまでにはならないが、
ここには俺しか被験体になれる人間がいないのだからな。一人で全部やればこうなる」
葉隠「……あ、あんたちょっとおかしいぞ! どうかしちまってるんじゃねえか?!」
K(まあ、これが普通の反応か……)
頭のおかしい人間でも見るような怯えた目の葉隠に、KAZUYAは溜め息をつく。確かに普通の生活で
同じことをしている人間を見たら、KAZUYAだってきっと常軌を逸していると思うだろう。
K(……だが、今は『普通の生活』ではないからな)
石丸「そういう言い方はよしてくれ! 先生は僕達のためにここまでしてくれているのだぞ!」
葉隠「だからって、自分で自分を傷つけるとかおかしい! 有り得ないべ!!」
――葉隠康比呂には自分を傷付けるという発想が元よりない。
身内を含めた自分自身と他人の間には大きな深い溝のようなものがあって、その二つは全くの
別物なのである。だから、自分のために他人を利用するのは構わないと思っているし、他人が傷ついても
そこまで気にならない。その反面、自分に対しては大きく守りに入っていて傷つくのを嫌がるのである。
KAZUYAは真逆だった。他人でも傷つくのは嫌だし、誰かのために自分を犠牲とすることに抵抗がなかった。
葉隠(なんなんだべ……一体なんなんだべ、このオッサン……?!)
今この時、葉隠にとってKAZUYAは理解出来ない超越的存在となった。
KAZUYAの大いなる慈愛も献身も自己犠牲も、残念なことに
彼にとっては得体の知れない不気味な何かにしか見えないのである。
葉隠(……人間てのは、どんな綺麗事を唱えていても最終的にはエゴイストなんだ。
占い師の俺は、色んな人間の裏側を見てきたから知ってる。……正直、気味が悪いべ)
世間では評判の良い政治家だって不倫をしてたりするし、人格者で知られる経営者も
裏でアコギな商売をやっている。清純派のアイドルだって、陰では淫らな関係があるのだ。
葉隠(そうだ、俺は知っている。信用出来ない。他人なんて、信用できねえ……!)
葉隠「……何が狙いなんだ?」
523: 2015/03/29(日) 21:31:40.89 ID:QWvhm2/h0
唐突過ぎるその言葉に、KAZUYAは怪訝な顔で問い返した。
K「狙い?」
苗木「まさか葉隠君、まだ先生のことを内通者だなんて思ってるんじゃ……」
葉隠「違え。先生が内通者じゃねえってのは流石にわかってる」
石丸「では何を狙っているというのだね?」
その問いに答えることなくしばらく考えていた葉隠だったが、
ふと何かを思いつき下卑た薄ら笑いを浮かべる。
葉隠「……ハハーン、やっと読めてきたべ。そういうことか」
K「読めてきた? 何を?」
葉隠「そんなに必氏に俺達を脱出させて、あんたにどんな得があるのか考えてみた。
つまり、こうだべ! 俺達の家族から貰う“謝礼金”が狙いなんだ!!」
「…………は?」
予想外すぎる葉隠の言葉に、思わず彼等は黙り込んだ。
吐いた後で元々青かった石丸の顔がますます青くなっている。
K「謝礼? 一体何の謝礼だ?」
葉隠「しらばっくれんな! 一人百万なら1500、二百万なら3000万! ボロい商売だべ。
そんなにもらえるなら、確かに少しくらいの怪我は目をつむれる……かもしれねえ!」
K「…………」
苗木「…………」
石丸「…………」
あまりに浅ましくさもしいその発想に、彼等は言葉を失ってしまった。
石丸「葉隠、君……き、君は……君という人は……!!!」ワナワナ…
K「石丸、よせ。言いたいことはわかるが黙れ」
怒りのあまり頬を紅潮させ目に涙を溜める石丸の口をKAZUYAは塞いだ。左手で掴んだ肩が
小刻みに震えているのを感じる。石丸を抑えるKAZUYAの代わりに、スッと苗木が一歩前に出た。
524: 2015/03/29(日) 21:38:12.11 ID:QWvhm2/h0
苗木「葉隠君、あのね……もし、先生がいない時に誰かが怪我をしたらどうなるかな?」
葉隠「そりゃあ困るべ。応急処置の方法は習ったけど、あんなんじゃ一時しのぎにしかならねえしな」
苗木「うん、そうだよね。救急車を呼ぶ訳にもいかないし、ここにはお医者さんが
一人しかいないもんね。でも、将来的にそうなることもあるかもしれないよ?
例えば、モノクマが先生の妨害をしてすぐに来れなくするとか……」
葉隠「そうなったらまずいよなぁ」
どこか他人事のように話す葉隠に苛立ちを覚えながらも、苗木は冷静に続けた。
苗木「ここは僕達の住んでいた普通の世界じゃない。モノクマのせいで、どんな理不尽なことも
起こりうるんだ。だから、先生は無理をしてでも僕達を医者にしようとしてくれてるんだよ」
葉隠「でも、それも結局は全部謝礼のためなんだろ? 他人のために無償でそこまでやれるヤツなんて
いるワケないべ。石丸っちと苗木っちの家族からは授業料分多めにもらわないと割が合わないな!」
石丸「……!!」
K「暴れるんじゃない!」
出血が酷くなることも構わず、KAZUYAは両腕に力を込めて石丸を押さえつける。
K「葉隠……お前は物事を金で判断するようだから言ってやる。
俺はその気になれば一回の手術で一千万以上簡単に稼げるぞ」
葉隠「おお! すげえな。流石は超国家級の医師だべ」
K「その俺が、何で庶民のお前達からちまちま金を巻き上げようとするんだ」
葉隠「そりゃあ、金はいくらあったって困らねえからな! 俺もすぐに使っちまうし」
苗木(も、もう呆れて何も言う気にならない……)
石丸「――! ――!!」バタバタ!ダン!
K「……ハァ。わかった。もういい。実習の邪魔だから帰ってくれないか?」
葉隠「言っとくけど、俺はビタ一文払わねえからな!」
K「わかったわかった。じゃあな」
葉隠を脱衣所に追い返し、ガラス戸をピシャリと閉める。
525: 2015/03/29(日) 21:44:06.79 ID:QWvhm2/h0
K「全く、とんでもない闖入者だった……」
苗木「ですね……」ハァ
悪意はあるが己の信念に基づき動く十神とは全く違う。悪意は全くなく、単純に思想と
価値観の違いによる相容れない平行線な会話は、彼等の気力を大いに削いでくれた。
石丸「何で……!」ワナワナ…
苗木「あ、石丸君……」
K「…………」
石丸は既に泣いていた。それが悔し涙であろうことは、二人も察していた。
石丸「何で! 僕に何も言わせてくれなかったんですか?! 彼の考えは正すべきだったっ!!」
K「無駄だ。ああいった手合いを反省させるのは骨が折れるぞ」
石丸「でも、でも! 何故反論しなかったのですか!! 先生はお金のためなんかで動く人じゃない!
彼だっていい加減わかるべきなのにっ! わかっていないとおかしいはずなのにっ!!」
K「今は実習が先だ。もっと言うなら、俺達が最優先にしなければならないのは『脱出』だろう?」
石丸「それでもっ……!!」
K「今は小さな不和も起こしたくないんだ。だから敢えて言われっぱなしにした。みんなで
ここを脱出したら、その時は多少痛い目に遭わせてでも矯正してやればいい。違うか?」
石丸「そうかも、しれないですけど……けど……!」
苗木「石丸君、悔しいのはわかるけど……でも、あんなことを言われて一番悲しいのは先生じゃないかな」
石丸「…………」
苗木「僕達は僕達のやれることをしようよ。それが結果的に先生にとっても一番良い。そうですよね?」
K「そうだ。お前が俺の代わりに涙を流して怒ってくれた。……それだけで俺は十分なんだ」
K(まさか生徒の中にあんな悲しい人間性の者がいたというのは、俺にとってもショックだったが……)
思わぬアクシデントだったが彼等はここで止まるわけには行かない。余分に持ってきていた
タオルを渡して顔を拭かせる。だが石丸がポツリと呟いた言葉が、KAZUYAの耳に残って離れなかった。
526: 2015/03/29(日) 21:57:34.23 ID:QWvhm2/h0
石丸「葉隠君には……僕の顔の傷もお金のために見えるのだろうか……」
K「…………」
・・・
しばらくして、ようやく実習が再開となる。
K「いつもは苗木からだが、縫合に関しては石丸の方が前から練習している。石丸からやってくれ」
石丸「わ、わかりました……」
K「まずは縫合糸と薬品選択だ。どれを使う?」
KAZUYAはずらりと並べたアンプルと糸を手で指し示した。
石丸は一通り薬品の名前を確認すると、そのうち一つを手に取る。
石丸「縫合糸は5-0ナイロン糸、薬品はこの0.5プロ キシロカインEありを使います」
プロ:%のこと。ドイツ語ではプロツェントと呼ぶのでそこから由来している。
K「理由を聞きたいがその前に……苗木、Eは何の略かわかるか?」
苗木「えっ、えっと……すみません。効果が長く続くような薬だと思うんですけど……」
K「間違ってはいない。石丸、Eの説明をしながら理由を述べろ」
石丸「はい。Eはエピネフリン添加を示します。エピネフリンは別名アドレナリンで、周囲の
血管収縮を促し麻酔の流出を防ぎます。それにより麻酔持続時間を延ばすことが出来る。
今回は傷口が大きいのと僕達の腕が未熟なので、麻酔時間は長い方が良いと判断しました」
K「0.5プロの根拠は?」
石丸「傷口が大きいので、注射回数や注入する薬液も多くなることが予想されます。部分麻酔で
最も気を付けなければいけないのは規定量以上を投与することによる局所麻酔中毒です。
今回は、より大量に投与出来るように最も薄いものを選択しました」
局所麻酔中毒:局所麻酔を体内に大量投与することによって発生する中毒症状。舌・口のうずき、
眩暈、耳鳴り等が起こる。酷い時には痙攣、呼吸停止等も起こるため注意が必要。
527: 2015/03/29(日) 22:23:23.53 ID:QWvhm2/h0
キシロカイン:キシロカインは商品名であり薬品名は「塩酸リドカイン」。局所麻酔、抗不整脈薬として
幅広く使われている。体重によって極量(限界量)が変わるので都度計算が必要である。
K「……良いだろう。まあ、簡単な皮膚縫合は絶対こうしなければいけないという
定説はあまりなくて、使う薬剤も糸の太さも医者の好みが大きいからな。俺は体が
大きいから、このくらいの傷なら1プロEなしでも特に問題ない」
K「今回は傷が浅いから0.5プロでもいいが、これ以上傷が深く神経に近い場合は1プロの方が
いいかもな。こればかりは経験でわかっていくものだ。手術の度に、吟味し学んでいってくれ」
石丸「はい」
K「更にいくつか質問しておく。ここでは関係ないが、浸潤麻酔でキシロカインは何%まで希釈可能だ?」
石丸「0.3%までです」
K「キシロカイン以外のアミド型局所麻酔を二つ挙げろ」
石丸「塩酸メピバカイン商品名はカルボカイン、塩酸ブピバカイン商品名はマーカインがあります」
K「では、それらの特徴を――」
石丸「――。――」
苗木(す、凄い……)
これが実技演習だと言うことを忘れるくらい、KAZUYAはしつこく口頭問答を繰り返した。石丸も
よく勉強していて全て的確に淀みなく答えていく。苗木はただ必氏にメモを取ることしか出来なかった。
苗木(うう、医者になるならこれ全部覚えなきゃいけないんだよな。僕は本当になれるんだろうか……)
K「エピネフリン添加のキシロカインを使ってはいけない禁忌の場所がある。どこだ?」
石丸「……耳、指先、体の末端部です。理由は血行を阻害するため細胞が壊氏する可能性があるからです」
苗木「末端? 末端てどこ?」
石丸「その、だな……」
口ごもる石丸に対し、慣れているのかKAZUYAはサラリと答えを言う。
K「男性器のことだ。壊氏したら大変だろう?」
大変どころの話ではない。
529: 2015/03/29(日) 22:33:27.32 ID:QWvhm2/h0
苗木「……あ、はい」
苗木(これは覚えたぞ。今完璧に覚えた……!)
壊氏という言葉の恐ろしい響きに思わず苗木の末端部もキュッと縮む。
石丸「あの、それでは……」
K「オーケーだ。理論は問題ないようだな。早速実技に取り掛かれ」
苗木(もう血が止まっちゃってるよ……いや、血が出てると焦るからそのために喋ってたのかな)
石丸(まずは消毒……いや、皮下細胞を頃してしまうから昨今は消毒しないのが主流。
なら先生が用意したこの生理食塩水で傷口を軽く洗い、細菌を流すべきだろう)
K「…………」
石丸(いよいよ麻酔か……)
石丸「…………」
石丸は震える手でアンプルを持ち上げ割ろうとするが、手が滑って落としてしまう。
幸いアンプルは割れなかったので、苗木が拾って渡した。
石丸(……そういえば、アンプルの割り方なんて本に載っていなかったぞ。どうすればいいのだ?)
K「アンプルの割り方がわからないのか? まず軽く振るか指で頭の部分を弾いて、薬液を下に落とせ。
昔はヤスリで傷を付けて割ったりもしたが、今は大体カット用の傷があらかじめ入っている」
K「右手で持ってカット部分に力がかかるように上部を親指で押して折る。
または、心配なら左手に持ち右手で上部を包みこむように握って折ってもいい」
石丸は言われた通り右手に握り、親指で思い切り上部を押す。……が、
パキーン!
石丸「あっ!」
K「……当たり前だが折れた上部が吹っ飛ぶので、左手でしっかり受け止めるように」
石丸「す、すみません……」
530: 2015/03/29(日) 22:50:34.34 ID:QWvhm2/h0
苗木「僕が拾っておくから、構わず続けて。いつも通りやれば大丈夫だよ」
石丸「ありがとう、苗木君……」
石丸(落ち着け。注射はもう何度もやっている。薬液を入れて刺すだけだ……!)
K「局所麻酔中毒の知識があるから分量は心配していないが、刺す場所はわかるな? 頼むから血管に
注入だけはしてくれるなよ。少しくらい時間がかかってもいいから、着実に麻酔をかけていけ」
石丸「はいっ!」
石丸(えっと、針を入れたら逆血がないか確認して……)
逆血:点滴などの際、管に血が逆流すること。血管に針が入っているか確認する指針になる。
上述した通りキシロカインは抗不整脈薬でもあるので、健常者の血管にいれるのはとても危険。
石丸はKAZUYAの傷口の周りに麻酔を注入していく。ちなみに、今回のような患部の周辺に
直接刺したり塗ったりする方法を「局所浸潤麻酔」と呼び、簡易縫合では専らこの方法を用いる。
石丸「…………」
K「…………」
K(流石にいい加減慣れてきたのか、手つきも安定してきたな。……大した努力だ)
その努力のためにKAZUYAの体は大いに犠牲になってきたのだが、それには目をつむる。
石丸(麻酔を打ち終わった。次は、いよいよ縫合を……)カチャカチャ
石丸(しまった! 針に糸を付けるのを忘れていた! うっ……糸がセット出来ない!)アセッアセッ
苗木「……僕が付けようか?」
K「駄目だ。自分でやらねば意味がない」
苗木「でも、さっきから大分血が出てますよ……」
模擬手術なら苗木も手を貸そうなどとは思わないが、すっかり床を汚している
KAZUYAの血やパックリ開いている傷口を見ているとどうしても気が急いてしまう。
K「この程度、後でリンゲルでも入れておけばどうとでもなる。焦るな。焦るから出来ないんだ」
石丸(落ち着け、落ち着くんだ……深呼吸して……)
531: 2015/03/29(日) 23:04:22.75 ID:QWvhm2/h0
石丸「……よし、セット出来た! じゃあ……」
K「縫う前に麻酔の効きを確認しろ。麻酔が効いていない患者に針を刺すつもりか?」
石丸「すみません! ……えっと、感覚はありますか?」
K「触れただけでは問題ないが、浅い気がする。試しに刺してみてくれ」
石丸「はい……」
石丸(いよいよ、西城先生の体に針を……!)
ドクン、ドクン……
石丸は持針器を持ち、震える手で針を刺した。
K「……駄目だ。やはり麻酔が足りなかったようだ。追加だな」
その後、麻酔を追加しとうとう縫合が始まったのだが……
石丸「…………」ブルブル
K「……選手交代だ」
何度深呼吸をしても、左手で右手を押さえても一向に震えが止まらず、まともに
縫い進めることが出来ない。やむなく四分の一ほど来た所でKAZUYAは交代を宣言する。
石丸「あの、期待に応えられなくて申し訳ありません……」
石丸らしくない、消え入りそうな小さい声だった。先程の精神的ショックも相まって、
かなり落ち込んでいるようだった。KAZUYAは肩を叩いて励ましてやる。
K「大丈夫だ。みんな初めはこんな感じだ。……苗木、やってみてくれ」
苗木「……はい」
苗木の手も多少震えていたのだが石丸程ではなく、時間をかけて慎重に縫い上げていく。
532: 2015/03/29(日) 23:16:59.49 ID:QWvhm2/h0
K「創縁(傷口)をもっと合わせろ。ただ縫っただけでは皮膚はくっつかないぞ。
今のままでは抜糸した時にそのまま傷が開いてしまう」
苗木「は、はい……」
K「なんなら既に縫った所もピンセットを使っていいから合わせるといい」
苗木は何とか最後まで縫えたのだが、結局及第点は貰えずKAZUYAが一から縫い直した。
そのスピードたるや、まさしく二人の倍以上は裕にある。その後、部位を少しずらして
もう一度傷を作り、石丸に縫わせた。今度は一応最後まで縫い上げることが出来た。
「疲れた……」
同時にへたりこむ弟子二人をやれやれと見下ろしながらも、KAZUYAは労うことを忘れない。
K「お疲れさん。まあ、初めてで身内を縫うのは精神的に厳しいかもしれんな」
石丸「……ですが、先生は五歳でお父さんを縫われたとか」
苗木「ブッ?! お父さんを五歳の時に?!」
K「同じように震えていたな。しかも、親父の場合は麻酔なしだったから尚更だ」
苗木(五歳でそれが出来るって……やっぱり先生は普通じゃないんだな……)
幼い時から徹底的に訓練を積んでいるから誤解しがちだが、やはりKAZUYAには
確かな才能があるのである。今更ながらそれを痛感する苗木だった。
K「さて、片付けをして引き上げるか」
そう言ってシャツを手に取る。先述した通り、最近のKAZUYAは包帯を隠すためにワイシャツを着ていた。
ちなみに、女子からはそちらの方が遥かに好評でありKAZUYAが内心で憤慨するという出来事が
あったのだが今はそれは割愛する。掴んだシャツをKAZUYAが着ようとした時、それは聞こえてきた。
「いい加減にしてくれないかしら……!」
――いつも冷静な彼女の、今までに聞いたこともない怒鳴り声だった。
545: 2015/04/05(日) 22:09:25.95 ID:qZKV7UoL0
「?!」
バッと三人は後ろのガラス戸を振り返る。唐突に聞こえた霧切の怒声に、体が強張った。
「た、大変だよ! 私、先生呼んでくる!」
「どうした?」
間髪入れずに、KAZUYA達はガラス戸を開けて脱衣所に飛び込んだ。
朝日奈「え、先生?! って……きゃっ! なんで裸なの?!」
思わず朝日奈は赤面するが、他のメンバーは意外と冷静に後ろの二人を見て状況を理解した。
舞園「あ、苗木君達手術着を着てますよ!」
桑田「おおっ、マジだ。かっけー!」
大和田「……手術してたのか?」
不二咲「西城先生、怪我しちゃったのぉ?」
K「医療実習をしてたんだ。こちらはいい。それより、何があった?」
山田「西城カズヤ医師~! 後生です! どうかお助けください~!」
……何となく察しがついた。
霧切「山田君……私は再三アルターエゴの長時間使用をやめるよう警告したわ。なのにあなたは何度も
深夜にここに来た上、今もまた脱衣所に来た。これがどのような意味を持つかわかっているの?」
桑田「おいおい、勘弁してくれよな……なんのために風呂大会とかしたんだよ」
大神「アルターエゴは我等の希望。それが黒幕に見つかればどうなるのかわからないのか?」
山田「だって、だって初めてだったんですよ……僕の話を嫌がらずに聞いてくれる女の子……」
江ノ島「機械に男とか女とかあるワケ? ていうか、不二咲がモデルなんだから男じゃね?」
朝日奈「私もそう思う」
江ノ島と朝日奈が冷静に突っ込みを入れるが、山田はまるで聞いていない。
546: 2015/04/05(日) 22:17:25.13 ID:qZKV7UoL0
山田「今まで、ママンだけだったんです……でも彼女は僕の話をとても楽しそうに聞いてくれて……」
石丸「……彼が何を言っているのか、僕にはさっぱり理解出来ないのだが……」
セレス「アルターエゴに自分の意志などありません。ただ知識を求めるようプログラミングされて
いるだけです。山田君に興味があるのではなく、山田君の知識に興味が有るのですわ」
山田「そんなことはわかってますよ! でもしょうがないじゃないですか。
だって、恋しちゃったんだもん。彼女の顔も声もキーボードまで」
K「キ、キーボードもか……」
余りの重傷ぶりにKAZUYAは、いやその場にいた全員が凍り付いた。
葉隠「……昔よぉ、俺の客でマネキンと恋してとうとう結婚までしちゃった
社長がいるんだべ。山田っちは今その社長と同じ目をしているぞ!」
苗木「うわあ……」
苗木がその場の全員の心の声を代弁する。この奇人変人揃いの学園で、なるべく
相手の個性を受け入れることを心掛けている苗木の反応こそが全てだった。
K(長期間の拘束によるストレスで頭がおかしくなってしまった?
それで逃避のため、アルターエゴを自分の理想の女性に見立てている??)
必氏に分析を試みるが、正解などわかるはずもない。石丸の時に痛い程思い知らされたが、心の病は
彼にとっても専門外なのだ。そもそも、人脈の多様さには自信のあるKAZUYAだったが、無機物を真剣に
愛する人間などついぞ見たことがなかった。途方に暮れるとはまさしくこういうことを言うのだろう。
桑田「つーか自分がなにやってるかわかってんのか、ブーデー? 俺達は現在進行形で
閉じ込められてて、これが脱出の鍵になるかもしれねーんだぞ!」
山田「アルたんを物みたいにこれなんて言うなぁっ!」
江ノ島「いや、物じゃん……」
石丸「よくわからないが、そんなに好きなら脱出した後に好きなだけ話せばいいだろう! これは
君だけの問題ではなく、みんなの命運もかかっているのだ。迷惑をかけるのはやめたまえ!」
山田「迷惑? 自分だって一時期散々迷惑をかけてたくせに、あなたがそれを言うんですか……」
石丸「そ、それは……」
547: 2015/04/05(日) 22:32:38.87 ID:qZKV7UoL0
若干の悪意が篭った鋭い指摘に後ろ暗い所を突かれ、石丸はたじろいだ。
自身の弱さを認め乗り越えることを決意したが、開き直れる程にはまだ強くない。
大神「……よさぬか、山田」
霧切「過ぎたことを責めても仕方がないわ。私達は今の問題に向かっているの」
大和田「兄弟を悪く言うんじゃねえ! キッカケを作ったのは俺で、おかしくなったのは
モノクマやコロシアイのせいだろ! 兄弟はなにも悪くねえ!」
山田「じゃあ僕がおかしくなってもいいじゃないですか! あなた達に僕を糾弾する権利なんてないんだ!
お前も、お前も、お前も、お前も! みんな過去に問題起こしてるんだろうがよぉ!」
「……………………」
指を指された舞園、桑田、大和田、石丸は反論できずに俯く。
苗木「それは違うよ! アルターエゴの意志はどうなの?」
舞園「そ、そうです。彼女は私達の脱出を望んでいるはずです。自分のせいで
山田君がみんなに嫌われたりしたら、きっと悲しむはずですよ」
山田「……あぁ、そうでしょうなぁ。アルたんは優しくて、いつも僕の心配をしてくれますから」
セレス「あなたの心配ではなく皆さんの心配では?」
葉隠「これは、かなりキてるべ……」
「…………」
K「ゴホン! とりあえず、女性と付き合いたいならまず必要な手順があるんじゃないのか?」
山田「手順? まさか、キスとか……?! でも、この場合どこにすれば……」
江ノ島「なにこいつ……マジでキモいんだけど……」
江ノ島(……おかしいな。確かに山田君は学園生活の時もアルターエゴに興味を
持っていたけど、流石に恋愛感情まではなかったはず。とうとうおかしくなった?)
彼女が知る学園時代との違いに、江ノ島は困惑を覚えていた。
石丸「女性と交際するなら、相手方のご両親に挨拶ではないか?」
桑田「付き合うだけで挨拶なんてしねーよ、フツー」
548: 2015/04/05(日) 22:40:54.37 ID:qZKV7UoL0
KAZUYAは桑田を目で制すと続ける。
K「そう、挨拶だ。アルターエゴの親は不二咲だから、まずは不二咲の許可を取るべきだろう」
不二咲「ふぇえっ?! ぼ、僕?!」
山田「不二咲千尋殿ぉぉぉ! 是非、是非僕にアルたんと付き合う許可を!」
不二咲「えっと、その……まだ知り合ったばかりでお互いのことがわかってないから少し
早いというか、もうちょっとお友達のままの方がいいんじゃないかな……?」
桑田「もっとはっきり言ってやれよ!」
大和田「ああ。迷惑だって言ってやるのも優しさだろ」
山田「ふざけるな! 僕の愛がアルたんにとって迷惑なワケがない!」
江ノ島「それ、ストーカーがよく言う発言なんだけど……」
大神「深夜に相手の元に押しかけるのは誉められた行動ではないと思うぞ……」
朝日奈「周りが見えなくなってるって!」
不二咲「えっと、えっと……」チラ
大和田「不二咲!」
石丸「不二咲君!」
K「…………」コクリ
不二咲「ごめんね……アルターエゴは今大事なお仕事の最中だから……
それを邪魔されるのは、アルターエゴにとってもきっと迷惑だと思うんだ……」
山田「ガアアアアン!!」
桑田「ほれみろ! ざまぁ!」
苗木「まあまあ」
霧切「今後しばらく、山田君がアルターエゴに会うのを禁止するわ」
山田「そ、そんな殺生な! 僕にとってアルたんと話すことだけが生きがいなのに!」
霧切「……ハァ。今の調子だと会うなと言ってもこっそり会いそうね」
舞園「それも問題ですが、短期間に何度も脱衣所に集まったのは不味くないですか?」
549: 2015/04/05(日) 22:50:30.69 ID:qZKV7UoL0
霧切「そうね。かなり問題だわ……」
苗木「そういえば、最初からこんなに集まってたけど何かあったの?」
朝日奈「あ、それは私達のせいだ……」
大神「我等はトレーニングの汗を流そうと脱衣所にやって来たのだ。そこに、先客として山田がいた」
朝日奈「前に霧切ちゃんが、山田が何度も脱衣所に通ってて黒幕にバレないか心配……って
言ってたから注意したんだよ。でもなかなかやめないから霧切ちゃんを呼びに行って……」
桑田「俺達はフツーに食堂でダベってたんだけどよ、二人から話を聞いた
霧切が血相変えて飛び出てったから、心配になって見に来たっつーワケ」
K「その結果、十神と腐川以外の全員が集まってしまったということだな」
大和田「まさかセンセイ達がこんな所にいるとは思わなかったしよ……」
朝日奈「ご、ごめん。オオゴトにする気はなかったんだ」
K「いや、仕方ない。今騒ぎにならなくてもいつかは問題になっていたはずだ」
石丸「しかし、どうする? 今回の件で黒幕が感付いてしまったら……」
K「そうだな……」チラリ
霧切「…………」
KAZUYAからの視線を受け、霧切は顎に手を当て考える。
霧切(本当は内通者を特定したいけど、このままここに置いておけばトラブルの元になる……)
霧切「アルターエゴは、一時的にどこかへ避難させましょう」
セレス「わたくしも同感ですわ。これ以上ここに置いておくのは危険です」
桑田「それが無難かもなー」
江ノ島「でもさ、どこに置くワケ?」
江ノ島(どうしよう……盾子ちゃんには止められてるけど、やっぱり壊しておくべきだったかな)
葉隠「アルターエゴは元々不二咲っちの物なんだし、不二咲っちでいいんじゃねえか?」
大神「我も賛成だ」
朝日奈「うん、さんせーい」
550: 2015/04/05(日) 23:02:02.17 ID:qZKV7UoL0
不二咲「ま、待って……! 確かに僕が持っているのが一番だけど、今回の件で黒幕に
知られたかもしれないし、僕が持っててもいざという時に守れる自信がないんだ……」
大和田「また不審者が襲ってきてもまずいしな」
不二咲「……僕は、西城先生が持っているのがいいと思うなぁ」
K「俺か?」
石丸「ウム。保健室なら常に僕達もいるし、万が一のことがあっても大丈夫だな」
霧切「そうね。当面アルターエゴの管理はドクターに任せるわ。私達の
誰かが持つよりも、教員のドクターが管理するのが公平でしょうし」
苗木「そうだね。先生だし大人だし、KAZUYA先生が一番信頼出来るよ」
朝日奈「じゃあ先生よろしくねー!」
K「俺は構わないが……」
横目で山田の様子を伺った。山田はアルターエゴのことを女子だと思っている。ということは、
山田「で、では西城カズヤ殿が服の下に仕込んで持って帰るんですか?!
寝る時は肌身離さずアルたんと一緒に添い寝したり……!!」
K「俺にそんな趣味はない……」
K(霧切の方が良かったんじゃないかな……)
今後のことを考えると頭が痛い。
霧切「とにかく、これ以上ここにいたら怪しまれるだけだわ。今日はもう解散しましょう」
山田「ああ、アルたん。アルたん……」
大神「……山田よ、お主は少し冷静になった方が良い。あれは機械だ」
朝日奈「そうだよ。二、三日すれば目もさめるって」
葉隠「もうちょい現実見た方がいいぞ?」
桑田「あんまメンドーかけるなっての」
ぞろぞろと生徒が退出する中、入れ替わりに十神と腐川が入って来た。
腐川「あぁっ?! せ、先生が逞しい上半身を晒している?! ふふ、腹筋が……!」
顔を紅潮させて慌てる腐川と対照的に、十神は小馬鹿にしたように顎でKAZUYAの包帯を指す。
551: 2015/04/05(日) 23:13:30.17 ID:qZKV7UoL0
十神「何だ、お前達。いよいよ手術の真似事でも始めたのか?」
石丸「縫合実習だ! 今日はまるで駄目だったがな。……だが次こそは上手くやるぞ!」
十神「フン、大したものだな。凄いじゃないか」
あからさまな皮肉に、いつも冷静なKAZUYAも少しばかりカチンと来た。
K「……舐めない方がいいぞ。石丸は知識だけならそこらの医学生並みにあるし、
苗木は静脈注射程度なら一人でもほぼ出来ると言っていい」
十神「たかだかその程度の技術のために自分の体を実験体にしていると言う訳か。ご苦労なことだ」
十神「何の可能性も見えない凡人のために何故そこまでやる? 高尚な自己犠牲心という奴か? それとも、
医者というのは頭のネジが飛んでいる酔狂者のことなのか? なら確かに石丸は向いているかもな」
舞園「十神君、やめてください」
苗木「いくらなんでもそういう言い方は酷いよ!」
十神「フン、事実だろう?」
二人の抗議など意に介さず十神はKAZUYAを睨む。
十神「それで、何があった? わざわざ俺を外して集まっていた訳だからな。余程のことがあったんだろ?」
霧切「集まっていた訳じゃないわ。たまたま騒ぎになってしまっただけよ」
葉隠「山田っちがおかしくなったんだべ!」
十神「次から次へと……今度は何だ? これだから愚民は……」
腐川「そ、そうよ! 何があっても動じない白夜様の落ち着きを見習いなさい!」
K「……今回ばかりはその通りかもな」
いつもなら軽く流される言葉に同意され、腐川も事態の異常性を感じ取った。
腐川「え、な、何……?! 一体何が起こった訳?!」
苗木「山田君、アルターエゴを好きになっちゃったんだって……」
十神「…………」
552: 2015/04/05(日) 23:27:04.63 ID:qZKV7UoL0
いつも険しい十神の表情が、未だかつてなかったほど引きつったのをKAZUYA達は目撃した。
腐川「ハ、ハァァア?! アルターエゴって……機械じゃないの!」
K「だから、その機械を好きになってしまったそうだ。恋は盲目というが、かなり危険な領域だな」
霧切「山田君が何度も脱衣所に足を運ぶから、黒幕に感付かれたかもしれない。
だから、しばらくアルターエゴはドクターに管理してもらうことにしたわ」
十神「……妥当だな」
流石に山田の件は予想外過ぎたのか、珍しく十神が疲れた顔を見せている。
十神「それにしても……ここにはおかしな奴しかいないのか? まったく……」
呆れたように十神は呟くが、お前にだけは言われたくないと一同は思っていた。
― ??? 時刻不明 ―
「うぷぷ。うぷぷぷぷ……」
「絶望の種が芽吹いてますなぁ。もうにょきにょきにょきにょきと生えてきてますなぁ」
「元々猶予は一週間て決めてたしね」
「果たして西城先生は、今までの行動で事件を食い止めることが出来たのかな?」
「ではでは、結果をご開帳~!」
Chapter.3 世紀末医療伝説再び! 医に生きる者よ、メスを執れ!! 非日常編 ― 完 ―
553: 2015/04/05(日) 23:36:34.44 ID:qZKV7UoL0
ここまで。
前回Eありの禁忌に指先と書きましたが正しくは指ですね。多分付け根に使っても
指の血行止まるので良くないとおもいます。あと>>537のつもりだった
……おかしいな。三章は三編で終わるつもりだったんだけどな
559: 2015/04/12(日) 20:36:00.32 ID:jsMfb4eS0
今日は安価あります。三章最後の大事な大事な自由行動です。
再開
560: 2015/04/12(日) 20:39:18.86 ID:jsMfb4eS0
Chapter.3 世紀末医療伝説再び! 医に生きる者よ、メスを執れ!! ○○編
562: 2015/04/12(日) 20:43:36.09 ID:jsMfb4eS0
ピンポンパンポーン♪
「!!」
和やかに朝食を食べ、食後の会話を楽しんでいた彼等が一斉に顔を上げた。
この音が示すものは何か、彼等はもう知っている。
モノクマ『もう猶予期間終わりでいいよね? と言う訳で、全員体育館に集合ー!』
モニターに映る呑気な顔と声が、計り知れない悪意を秘めて彼等を呼び出した。
「…………」
嫌な沈黙が辺りを支配する。
葉隠「お、おいおい……マジかいな……」
十神「また始まるようだな。“コロシアイ”が」
江ノ島「あんたねぇ! まだそんなこと言ってんの?!」
石丸「もう二度とコロシアイなんて起きない! いや、起こさせない!」
セレス「提示される動機に揺らがなければいいのです。いい加減皆さんも適応したのでしょう?」
「…………」
俯く者、鼻で笑う者、困惑し怯える者。そこには様々な顔があった。
不二咲「西城先生……」
朝日奈「……大丈夫、だよね?」
K「ああ」
怯える生徒達の手を、KAZUYAはギュッと掴む。
563: 2015/04/12(日) 20:52:50.28 ID:jsMfb4eS0
苗木(大丈夫……僕達はこれだけ強い絆を築いてきたんだ。内通者とか十神君とか
不安要素はあるけど、みんなで手を取り合って警戒すれば……)
桑田「かったりーな。今度はどんなセコい手使ってくるんだか」
山田「僕達の絆を舐めないで頂きたいですね」
霧切「行きましょう」
大神「ああ」
― コロシアイ学園生活三十七日目 体育館 AM8:28 ―
モノクマ「ヤッホー。おひさー! 元気だった?」
腐川「で、出たわね! もう二度とあんたの顔なんて見たくなかったのに……!」
モノクマ「何言ってんの? この物語の主役はボクでしょ? まさか主人公不在のまま
話を進めるとか? そんな馬鹿げた話あったもんじゃないよ!」
山田「何が主人公だ! 僕の物語にお前なんて出てこないんだ!」
モノクマ「あらあら、モブどころか画面に映ることすら叶わないデブオタが、この完璧なフォルムと
愛らしさを持ち、かわいいキャラ及び抱きしめたいキャラランキング堂々一位のボクに
勝負を挑むだって? アリが戦車に喧嘩売ってるみたいだね! プークスクス!」
山田「なっ?! ぬなぁっ?!」
K「相手にするな。こいつと話をするだけ無駄だ。要件を言え」
モノクマ「うぷぷ。わかってるくせにぃ~」
大和田「っるせぇ! どんな動機が来ようと俺はもう絶対に誰かを襲ったりなんてしねえぞ!」
舞園「私もです! 二度と過ちを繰り返したりしません」
苗木「どうするんだ、モノクマ! これでもまだ動機を出すのか?」
モノクマ「うぷぷ。うぷぷぷぷ。そんなに気になる? 気になっちゃう?」
モノクマ「本当は心が弱いくせに、不安で不安で堪らないから大きな声を出して必氏に鼓舞してるくせに、
早く内容を聞いて、自分は関係ない大丈夫だって思いたいだけのくせにぃ!!」
血のように赤いモノクマの左目が、爛々と怪しい光を放って生徒達の心を射抜く。
564: 2015/04/12(日) 20:58:26.92 ID:jsMfb4eS0
「……!!」
モノクマ「ではご期待にお応えして、今回の動機を発表しまーす。今回はね、基本に立ち返ってみたんだ」
K「基本?」
モノクマ「ジャジャーン!」
モノクマが両手を掲げると、舞台の上から大量の札束が降ってきた。
「なっ?!」
モノクマ「今回の動機はこれ! ひゃっくおっくえーん! コロシアイをして脱出するクロには
もれなくこの百億円をプレゼントしちゃいます! なんと、贈与税はかかりません!」
葉隠「う、うおおおお! 金だ! 見たこともねえ量の金だぞ!」
朝日奈「葉隠、あんた!」
桑田「てめーなぁ……!」
モノクマ「そうそう、それでいいんだよ。世間では保険金だの遺産相続だのくだらない動機で
簡単に殺人が起こっているじゃない。今回もつまりはそういうことって訳です!」
石丸「ふざけたことをッ! 会って間もないうちならいざ知らず、
僕達は共に何度も苦難を乗り越えてきた仲間だぞ!」
大和田「そうだ! よりによって金なんかで頃すかよ!」
腐川「で、でも……動機にならない動機をこいつが出してくるなんて不自然じゃない?」
霧切「もしかしたら、この中にお金が必要な人間がいるのかもしれないわね……」
K「今までのパターンから言うと十中八九そうだろう」
K(現に、石丸は実家が借金を持っている。隠しているだけで、今回の動機が動機になり得る
人間が潜んでいる可能性があるはずだ。いや、必ずいるからこそ奴はこれを動機にした――)
K(……しかし、誰だ? 今の段階では全くわからない……)
セレス「お金なら問題ありませんわ。わたくし、年に億を稼いでいるので見飽きております」
十神「たった百億ぽっちか? この俺を動かすなら最低でも一兆はなければな」
腐川「ア、アタシは印税あるし……」
565: 2015/04/12(日) 21:21:42.71 ID:jsMfb4eS0
山田「僕だって、こう見えて結構稼いでますよ!」
桑田「俺はまだ稼いでねーけどプロになれば億で契約余裕だし」
江ノ島「アタシは売れっ子モデルで舞園はアイドルだしね」
苗木「ここにいるのはみんな普通の人よりお金を稼いでいる人ばかりだぞ!」
しかし、ふと朝日奈が不安げに呟いた。
朝日奈「……でもさあ、当てになるのかな?」
不二咲「どういうこと?」
朝日奈「だって、そこの葉隠だって結構稼いでるはずでしょ? でもお金に汚いし」
葉隠「き、汚いとはなんだ! 金が好きで悪いんか!」
大神「……お主は少し度を超えているのだ」
十神「そういえば石丸、確かお前の家には莫大な借金があったな」
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら、十神が争いの種を蒔く。
石丸「うっ! それは……」
セレス「あらあなた、貧乏臭いとは思っていましたが借金まであったのですか?」
葉隠「ほ、ほら! 俺じゃねえ! きっと石丸っちを狙った動機なんだべ!」
石丸「葉隠君……!」
大和田「ふざけんな! 兄弟が金で人を頃すと、本気で思ってんのか?!」
葉隠「金の力をナメんじゃねえ! 金ってのはなぁ、簡単に人を狂わせちまうんだぞ!
俺は今までそんなヤツらを大勢見てきた! 石丸っちが例外なんてなんで言えるんだ!」
舞園「皆さん、落ち着いてください。大丈夫ですよ。だって、石丸君ですよ?」
江ノ島「こっちだってないと思いたいけどさー、家族のためって言われたらねぇ?」
セレス「彼のような生真面目な方は、逆に家族や友人のため必要以上に身を犠牲にする傾向がありますし」
苗木「それは、そうだけど……」
566: 2015/04/12(日) 21:46:03.66 ID:jsMfb4eS0
霧切「みんな忘れていないかしら。誰かを殺せばここにいる人間は全員氏んでしまうのよ?」
K「そうだ。自分一人の命なら喜んで差し出すかもしれんが、俺達全員を見頃しにする男ではないだろう?」
大神「石丸は不二咲を頃したと思った時、迷わず自首をした。信頼しても良いのではないか?」
朝日奈「そ、そうだよ! ナイフを持った不審者から私を助けてくれたんだよ?!」
江ノ島「うーん……」
石丸「……もし僕が疑わしいと言うのなら、僕を縛って拘束してくれ」
腐川「あんた、本気で言ってんの……?!」
桑田「おい……!」
石丸「僕は本気だ。それでみんなが安心出来るというのならそうすればいい。
だが、よもや金で人を頃す人間だと思われるなんて……僕は悲しいぞッ!!」
K「……葉隠、お前本気で言っているのか? 石丸が金で動くような男だと」
葉隠「いや……」
流石に気まずくなったのか、葉隠は黙り込んだ。
十神「フン、つまらん」
苗木「……ねえ、何がつまらないの?」
十神「お前達の頭の悪さにだ。今までの傾向から考えて、動機は不特定多数ではなく
特定の誰かを狙い撃ちしているものだというのは流石にわかっているな?」
霧切「ええ」
十神「なのに、よりによってこの段階で石丸一人を狙い撃ちする意味があるか?」
K「元々生真面目で犯罪に強い抵抗を持つ男が仲間と絆を深めれば、まず事件は起こさないだろう」
山田「つまり十神白夜殿は、他にもこの動機に当たる人間がいると考えている訳ですな」
十神「当然だ。動機と銘打っておいて何も事件が起こらなかったでは、あまりにもお粗末だからな」
大和田「ちょっと待てよ。テメエが兄弟の家の借金について言い出したんじゃねえか!」
十神「お前等の言う友情や絆とやらを試しただけだ。結果は火を見るより明らかだった訳だが」
567: 2015/04/12(日) 21:58:37.45 ID:jsMfb4eS0
モノクマ「絆だ仲間だと声高に言っていても、ちょっと疑惑の種を埋め込んでしまえばあっという間に
疑心暗鬼の芽が芽吹いて崩壊してしまう。十神君はそう言いたいのでしょう」ウンウン
「…………」
K(また、崩壊してしまうのか? 俺達は、また……)
苗木(絶対に崩壊なんてさせない! 僕はみんなを信じる!!)
大神「しかし、それでは一体誰を狙っているというのだ?」
セレス「先程苗木君が言ったように、ここにいる方々のほとんどはそれなりに稼いでいますものね」
霧切「収入がアテになるのかしら? 葉隠君の言葉ではないけれど、確かに人間の欲は深いわよ?」
江ノ島「いくら収入あってもそれ以上に使ってたら意味ないしねー」
大和田「じゃ、じゃあ結局全員の動機になるってことか?!」
霧切「全員は言い過ぎだけど、収入があるからは必ずしも免罪符にならないということね」
十神「貴様ら庶民程度の稼ぎならそうだろうな。俺は生まれついた時から金には困らん」
舞園「……十神君は元々動機なんて関係ありませんものね?」
十神「ククッ、そういうことだ。とにかく用件は終わりだろう? 俺は戻るぞ」
K「そうだな。解散するとしよう」
保健室に戻り、KAZUYAは考えた。
K(今この学園には三種類の人間がいる。元々コロシアイに乗る気のない者、
元々コロシアイに乗っている者、そして今回の動機の対象となる者……)
K(苗木、石丸、不二咲、朝日奈、霧切は元々問題ない。舞園、桑田、大和田はもう二度と
過ちを起こさない決心をしている。腐川は自分から人を頃したいとは考えていない)
ここまではいい。次にKAZUYAは危険人物を考えた。
K(江ノ島、十神――恐らくこの二人が最も危ない。もういつ動いてもおかしくないだろう。
次が内通者疑惑のある大神、安弘か。最後は葉隠、山田。……特に葉隠は先程のあれだ)
K(腐川は信じたいが、翔は少し行動が読めない所があるからな。ということは、
警戒すべきは七人ということか。前よりは減ったが、まだまだ多いな……)
568: 2015/04/12(日) 22:06:26.20 ID:jsMfb4eS0
万が一江ノ島と大神が同時に動いたらと考えるとゾッとする。
K(楽観的かもしれないが、今回の動機が誰かを狙ったものなら内通者は
まだ動かないと思いたい。……というか、正直動かれると対処しきれん)
コンコン、ガチャッ。
苗木「先生」
霧切「脱衣所に来て頂戴」
K「わかった」
・・・
脱衣所には苗木、霧切、舞園、桑田にKAZUYAを加えた五人が集まっている。
霧切「悪いけど、今回は全員じゃなくこちらでメンバーを選別させてもらったわ。理由は……」
K「朝日奈と大神だな」
霧切「ええ。大神さんを外すような真似をしたら彼女が黙っていないでしょうから」
舞園「大神さん……怪しいでしょうか? 確かに何か隠しているなと
思う時はありますが、人を傷付けるような方にはとても……」
K「俺もそう思う。杞憂なのが一番だが……」
桑田「お前と同じで、真面目なヤツほど背負ってるものは大きいモンだろ?
本人の希望じゃなくても何か事情がありゃ話は違ってくるじゃん」
舞園「そうですね……」
苗木「大神さん、実家に道場があるし。それにケンイチロウさんて言ったっけ。
確か大神さんのライバルで、とても大切な人が病気なんだ……」
K(……どこかで聞いた気がするな)
霧切「警戒するに越したことはないわ。とりあえず、作戦を練りましょう」
K「警戒すべきは十神、江ノ島、大神、安弘、山田、葉隠、翔の七人だと俺は考える」
569: 2015/04/12(日) 22:14:49.47 ID:jsMfb4eS0
霧切「私も同意見よ」
苗木「し、七人……」
桑田「えっと俺達が、ひーふーみーよー……九人か」
苗木「そんな……サッカーじゃあるまいし、一人につき一人を付けて警戒するなんて無理だよ!」
舞園「一斉に動かれたら、どうしようもないですね……」
桑田「しかもよぉ、江ノ島はせんせーでも倒せないくらい
めちゃくちゃつえーんだろ? あれ? 俺達詰んでね?」
霧切「……確証はないけど、彼女は動かないと思うわ」
K「何故そう思う?」
霧切「彼女を動かすなら動機なんて必要ないもの。むしろ、動機を提示する前の
みんなが油断している状態で不意打ちすべきだと思わない?」
K「確かにな。黒幕はどうやら、何が何でも俺達に同士討ちをしてもらいたいらしい。
それが奴の目的であり、俺達を絶望に陥れることに最も近い方法だからだ」
舞園「……何で、そんなことをしたがるんでしょう? そんなことをして楽しいんでしょうか?」
桑田「頭イカれてんだよ。そんなヤツに正論言っても仕方がねえ」
苗木「うん。残念だけど桑田君の言う通りだよ。黒幕は話の通じる相手じゃないんだ」
K「では、内通者は基本的には除外と言うことでいいな?」
霧切「ただし、けして隙は見せないことよ。私達はあくまで狩られる側なのだから」
K「大神は……仮に借金があったとしても金で人を頃したりはしないだろう。
生活態度も極めて質素だ。今回の動機の対象ではないと思う」
舞園「それに、朝日奈さんがずっと一緒にいれば大丈夫です!」
桑田「やっぱ葉隠怪しくね? さっきも目の色変えてたしよ」
苗木「セレスさんてあの性格だし、派手な生活してそうだよね。山田君も
コレクター気質だから、意外とお金使ってるかもしれないし」
K「その三人に十神を加えたら四人……これなら何とかなりそうだな」
次に誰が誰を見張るか割り当てようとした時、中断が入った。
570: 2015/04/12(日) 22:23:22.99 ID:jsMfb4eS0
「お、こんな所にいたのかよ」
「探しましたよ!」
石丸、大和田、不二咲の三人が脱衣所に入って来た。
石丸「西城先生! 今回の事件を防ぐための画期的な策を考えました!」
不二咲「僕達三人でね、どうすれば効率的に事件を食い止められるか話し合ってたんだ」
大和田「でよ、その結果お互いに見張り合うのが一番じゃねえかってことになったんだよ」
K「互いに見張り合う?」
不二咲「つまりね……」
石丸「お泊り会です! 男女別に別れ、一晩寝ずに語り合うのです!」
K「フム、考えたな。それなら人数を分散させずに済むし牽制にもなる」
霧切「……そうね。悪くないかもしれない」
桑田「でもよ、男子はいいぜ? でも、女子は危なくねーか? だって……」
江ノ島、大神、セレス、腐川と、目下危険とされている四人もの人物と
一晩過ごすのはある意味ギャンブルとも言える。普通の人間ならまず拒否するだろう。
舞園「……大丈夫だと思います。黒幕の目的が私達の仲間割れや学級裁判での犯人探しなら、
一度に大勢頃すような真似はしないはずです。犯人がすぐに分かってしまいますから」
K(大神も仲良くしている女子達は殺さないだろう。なら、いざという時は守ってくれるはず……)
K「しかし、本当にいいんだな? 怖いなら保健室に全員詰め込んでもいいんだぞ?」
石丸「先生、何を言っているんですか?! いくら教師同伴と言えど、
男女が同じ部屋で一晩過ごすなど不健全です! 風紀が乱れます!」
「…………」
571: 2015/04/12(日) 22:32:35.23 ID:jsMfb4eS0
流石の石丸も女子組の危険人物率を知っていればそんなことは言わないだろうが、
この男はKAZUYA達が江ノ島や大神、セレスを怪しんでいることなど微塵も知らない。
K(石丸に言った方がいいか? だが、人一倍顔に出る男だしアドリブがまるで効かん……
迂闊なことを言って変に江ノ島を刺激でもしたら一巻の終わりだ)
霧切「私達は大丈夫よ。……大神さんもいるし」
KAZUYAの考えを読んだのか、霧切は微かに首を振りながら釘を刺す。
舞園「単独行動は避けて、霧切さんとずっと一緒にいます」
K(クロが一度に殺せるのは二人までだ。朝日奈や腐川が加われば人数オーバーで手は出せない)
K「わかった。ではそうしよう。何かあったら全員で固まってすぐに俺の所に来い」
そして会議はお開きとなるが、夜までまだ時間はある。
K(俺は俺に出来ることをするまでだ)
苗木「先生!」
K「どうした、苗木?」
苗木「先生はいつもみんなの所を見回っているでしょ? 僕も手伝います」
K「本当か。それは助かる。なら十神を見に行ってくれないか? 俺が行っても
追い出されてしまって話にならんだろうからな。苗木なら大丈夫だろう」
今回、KAZUYAの自由行動は人物安価三人+場所選択二つ
プラス苗木行動二回(二回のうち一回は十神確定)である。
苗木行動は仲間を選んだ場合一度に複数選択可能。
KAZUYAの一人目
↓3(迷ったり相談したい場合は安価下を使おう!)
572: 2015/04/12(日) 22:34:11.16 ID:LsYVwAAc0
霧切
575: 2015/04/12(日) 22:46:13.63 ID:jsMfb4eS0
二人目
↓2
577: 2015/04/12(日) 22:51:38.77 ID:nGDFhT+4o
葉隠
578: 2015/04/12(日) 22:53:32.23 ID:jsMfb4eS0
三人目(KAZUYAの指名安価ラスト)
↓2
580: 2015/04/12(日) 22:54:52.47 ID:LsYVwAAc0
苗木選択は仲間を選んだほういいかしらね
584: 2015/04/12(日) 23:11:22.91 ID:jsMfb4eS0
場所選択一つ目
現在行ける仲間の部屋は苗木、桑田、舞園、石丸、朝日奈、腐川
↓2
586: 2015/04/12(日) 23:24:36.81 ID:dm5dPidRo
美術室
587: 2015/04/12(日) 23:27:11.16 ID:jsMfb4eS0
場所選択二つ目
現在行ける仲間の部屋は苗木、桑田、舞園、石丸、朝日奈、腐川
↓2
589: 2015/04/13(月) 00:10:09.96 ID:C9EQmB7x0
桑田の部屋
590: 2015/04/13(月) 00:13:11.01 ID:8UXjkTIZ0
よくよく見たら仲間結構多いし、動機発表後というタイミングなのでもう一個サービス
場所選択三つ目
現在行ける仲間の部屋は苗木、舞園、石丸、朝日奈、腐川
↓1
591: 2015/04/13(月) 00:16:12.97 ID:4UJ+c4Ch0
腐川
592: 2015/04/13(月) 00:24:50.32 ID:8UXjkTIZ0
では最後に苗木行動の安価
苗木君はコミュ力が高いので全員選べます。十神君は既に選んでいます。
仲間は一度に複数選択も可
↓2
594: 2015/04/13(月) 00:34:15.83 ID:2F4/KdhIO
山田 朝日奈
595: 2015/04/13(月) 00:40:11.68 ID:8UXjkTIZ0
すみません。複数選択の時は仲間キャラのみでお願いします。
仲間は現在KAZUYA、苗木、桑田、舞園、石丸、不二咲、大和田、霧切、朝日奈、腐川です。
596: 2015/04/13(月) 00:41:47.01 ID:tgBvzMo+O
山田
609: 2015/04/19(日) 23:04:20.63 ID:GtY0GB450
― 自由行動 ―
(ムゥ、葉隠の奴どこにもいないな? どこに消えた?)
「いや、こういう時は案外……」
ピンポーン。……ガチャ。
「ヒイッ、K先生か……な、なんの用だべ?」
(やはり部屋にいたか。葉隠は誰とでも上手く付き合っているように見えてその実、誰とも
仲良くしていない。こういう時はきっと自室に篭っているだろうと思ったが、正解だったか)
「少し話でもしないか?」
「話ってさっきの? まさか俺を誘い出して痛めつけるつもりじゃ……?!」
「…………」
呆れたような怒ったような目で軽く睨めつけると、葉隠は慌てて言い直す。
「……あ、いや、今のはナシで」
(裁判の時の十神を除けば、俺が生徒に手を挙げたことなんて一度もないんだけどな……)
「で、どうする? 来るのか、来ないのか? 嫌なら無理強いはしない」
「わかった。行くって……」
KAZUYAの申し出に、葉隠はあからさまに嫌そうな顔をしたが最終的には黙ってついてきた。
「どこがいいかな?」
保健室や脱衣所では他のメンバーと鉢合わせする可能性がある。あまり人の来ない場所がいいだろう。
(俺もあまり行かないし、あそこがいいか)
610: 2015/04/19(日) 23:14:39.26 ID:GtY0GB450
― 職員室 AM10:24 ―
KAZUYAが選んだのは職員室。ガーベラの花が咲き乱れる職員室で、二人は向かい合うように座る。
奇しくも、職員室に呼び出した教師と呼び出された生徒のような格好となった。
「…………」
先程の一件のせいか、葉隠は落ち着きなくチラチラとKAZUYAの様子を伺っている。
持ってきた茶を葉隠に勧めると、自分も一口喉に通した。
「どうした?」
「いや、その……」
「俺に叱られると思っているのか?」
「違うのか? だってよ……」
「俺は叱るために呼んだんじゃない。話をするために呼んだんだ」
かつて、体育館で暴走した桑田を諭した時と同じようにKAZUYAは落ち着いた声音で語りかける。
「…………」
「そう身構えるな。別に取って食ったりはしないさ。何故、叱られると思った?」
「それは、さっき石丸っちを悪く言ったから……」
「そうだな。モノクマや十神の前であんなことを言えば奴等は間違いなく掻き回してくる。
それは良くなかった。お前はもう成人しているのだから、発言には気をつけなければ駄目だ」
「……え、それだけか?」
「俺は特定の生徒を贔屓するつもりはない。金で人を頃すという考え方は残念だが、
絶対にないとまでは言わん。俺にお前の考えを制限する権利はないしな」
「そっか……」
やっと、少しだけ葉隠の緊張が解けたようだった。
611: 2015/04/19(日) 23:27:55.95 ID:GtY0GB450
「葉隠、お前は……」
「あん?」
「今までに、さぞかし人間の汚い面を見てきたのだろうな」
「そうさな……人間の業ってヤツは本当に深いべ」
俺も含めてな、とKAZUYAにはわからないよう心の中で葉隠は付け加える。
「誰でもいい。誰か信じられる人間はいないのか?」
「……K先生は、一応信じてるぞ」
ついさっきまで殴られると怯えていたのはどこのどいつだ、とKAZUYAは思わず失笑した。
「謝礼金目当てだと言っていたのに?」
半笑いのまま少し意地悪な問いをしてみるが、意外にも葉隠は真っ直ぐに返した。
「あんたは正当な報酬以外は受け取らないタイプだ。じゃなきゃ自分の体を傷つけるなんて出来ねえ」
「……そうか。ありがとう。そう言って貰えて嬉しいぞ」
「わからねえなぁ……」
「何がだ?」
葉隠は椅子に深くもたれかかり、ぼんやりと天井の蛍光灯を眺める。
「あんたのことだ。まるで宇宙人みたいだべ」
「変わっているとは時々言われるが、宇宙人扱いされたのは流石に初めてだな……」
あまりに予想外過ぎて、今度はつい真顔になってしまった。
「俺にはあんたが理解出来ねえ。多分それはこれからもだ」
612: 2015/04/19(日) 23:39:34.34 ID:GtY0GB450
「そんなことは言わないでくれ。すぐに理解することは出来なくても、時間をかければ……」
「――いんや、無理だな」
そう言った葉隠の目は澄んでいた。曲がった所も歪んだ所もない、
ただあるがままの瞳だった。しかし、その目ははっきりと他人を拒絶している。
「人間はすぐ他人を理解した気になるが、所詮根っこの部分はなんもわかってねえんだ。お互いな」
「…………」
「自分と同類なら思考が似てるから何となく予想は付くが、あんたみたいな全然別の生き物は全く
理解出来ねえ。それは仕方のないことなんだべ。ネズミにライオンの考えが理解出来ると思うか?」
「……理解は出来なくとも、想像は出来るんじゃないか?」
「そんなん結局は独りよがりだべ。俺にはわかる」
「…………」
「あんたに氏なれたら困るから言っとくけど、他人を信じ過ぎない方が身のためだぞ?」
「……占いで何か見えたのか?」
「はっきりとはわかんねえ。ただ、俺にとって良くねえことが起こるってのは確かだ。
あと、誰かが誰かを裏切る所が見えた。……俺の勘じゃ裏切られるのは先生だな」
(俺の影も見えたけど、俺は裏切るってほど親しくしてないもんな……黙っとこ)
「そうか……気をつけよう」
「ほんじゃま、頑張って俺らを守ってくれ」
「……任せろ」
その後、軽く雑談を交わして二人は別れた。
(葉隠……想像以上に難しい男だな……)
この男と今後親しくなれる機会は来るのだろうか。KAZUYAにすら確信が持てなかった。
613: 2015/04/19(日) 23:53:23.81 ID:GtY0GB450
― 美術室 AM11:15 ―
職員室から戻る途中、KAZUYAは美術室に立ち寄った。
(アルターエゴの一件から山田とは少し疎遠になってしまっている。一応、一日一回なら
面会してもいいと言ったのだが、俺が側にいるのが嫌なのか一度も言い出さなかったしな)
(……少し、様子を見ておいた方がいいか)
ガラッ。
「山田」
「西城カズヤ医師ですか……」
KAZUYAが何か言うよりも早く、山田は聞こえるか聞こえないかわからないくらいの
小声で囁く。研ぎ澄まされた聴覚を持つKAZUYAは、それを一言も聞き漏らさずに頷いた。
「彼女はお元気ですか?」
「……問題ない」コクリ
「そうですか。僕がいないから、さぞかし寂しがっているでしょうなぁ」
「…………」
機械に寂しいという感情などあるはずがない。よしんばあったとしても、友人と数日
話さないくらいでいちいち悲しみにくれたりはしないだろう。相手が機械だということも
問題だが、既に恋人気取りの山田に対して……KAZUYAは薄ら寒い感情を覚えていた。
(……俺がアルターエゴを預かったのは正解だったかもしれない。今の山田も流石に……人頃しまでは
しないと思いたいが、アルターエゴを使って何か吹き込めば簡単に行動を操ることが出来るだろう)
頭の良い十神やセレスなら、それを利用して何か企むことも可能だ。いや、頭が悪くても
モノクマが一言囁きさえすれば簡単に思いつく。これを利用しない手があるだろうか。
614: 2015/04/20(月) 00:05:13.21 ID:siWxuuvC0
「…………」
「用事はそれだけですかな?」
「あ、いや……ん? これは例の作品の続きか?」
KAZUYAは置いてあった山田の原稿を手に取る。
「最近はすっかり放置していますが、読んでもいいですよ。ハァ……
恋をすると他のことに手がつけられなくなるというのは本当でしたな」
どこかうっとりとした目で恍惚と語る山田を、KAZUYAはどこまでも冷めた目で一瞥した。
(――無機物相手に恋も愛もなかろう)
「…………」ペラ
気まずさを誤魔化すように、KAZUYAは出来上がった原稿を読み始める。
物語は、新たな仲間も加えいよいよ佳境に入って来たようだ。
モンド『俺は兄貴と仲間の仇を討たないとならねえ! もっと強くなるんだ!』
マコト『気持ちはわかるけど、あんまり自分を追い詰めない方がいいよ』
ハガクレ『そうだべ。次の王国では一悶着あるって俺の占いで出てる』
ジュン『喋ってないで戦ってほしいんですけど。敵はまだまだたくさんいるよ』
モンド『全部俺が片付けてやる! うおおおおおおっ!』
レオン『バカ! 一人で突っ込むなって!』
マコト『危ない!』
ドガガガガガガガガッ! キィンッ!
『なんだっ?!』
『君達、大丈夫だったかね?』
モンド『誰だ!』
615: 2015/04/20(月) 00:15:22.31 ID:siWxuuvC0
キヨタカ『正義のためにこの身を投げ打つ! ジャスティスホワイト・キヨタカ!』
アオイ『悪い子にはオシオキしちゃうよ! ジャスティスブルー・アオイ!』
チヒロ『えっと、弱い人達を守るんだ! ジャスティスグリーン・チヒロ』
サクラ『強者の横暴を許す訳にはいかん。ジャスティスピンク・サクラ!』
キヨタカ『我等! 正義の名の元に集いし四人の戦士! ジャスティス・フォー参上!』
ビシィ!
ポーズを取って崖の上に並ぶその姿は、さながら戦隊ヒーローそのものである。
「……おい。山田、おい」
「あ、やっぱりそんな反応?」
「当たり前だ。色々おかしいぞ。この間のシリアスで重い空気はどうした」
「まあまあ。それは先を読んでから答えます」
如何にKAZUYAがサブカルチャーに疎くてもこの流れが急展開なのはわかる。
しかし、山田に促されたので微妙な気持ちになりつつも再び続きを読み始めた。
マコト『へぇー、君達はこのホープ王国を守る戦士なんだね』
キヨタカ『魔王軍の侵攻を瀬戸際で防いでいるのがホープ王国だ。我々の責務は非常に大きい!』
チヒロ『警察署長のキヨタカ君が、署内の精鋭を集めて更に特殊な訓練を積んだのが僕達なんだぁ』
アオイ『どんな強い敵が現れたって私達がやっつけちゃうんだから! ねー、サクラちゃん!』
サクラ『ウム』
キヨタカ『君達が正義のために魔王軍と戦うというのなら僕達も力を貸そう! 悪は滅ぶべきなのだ!』
マコト『う、うん。ぜひお願いするよ(なんか苦手だな……)』
・・・
キョーコ『久しぶりね』
マコト『あ、キョーコさん。どうしたんですか?』
616: 2015/04/20(月) 00:25:45.34 ID:siWxuuvC0
キョーコ『忠告に来たのよ。……彼女の裏切りに気をつけて』
マコト『……え?』
・・・
セレス『フフフ、あなたがギガント族の姫だとも知らずに能天気ですこと』
サクラ『……セレスと言ったか。約束は果たすだろうな?』
セレス『ええ。ホープ王国を内部から崩壊させれば、約束通りあなたの一族は解放いたしましょう』
サクラ『アオイ……』
所変わって魔王城。
ビャクヤ『フン。セレスの奴、またつまらぬ策を弄しているようだな。くだらん』
トウコ『そ、そうですね。ビャクヤ様のおっしゃる通りで……』
ビャクヤ『黙れ。俺は貴様の発言を許可した覚えはないぞ』
トウコ『ヒッ! お許しを……』
トウコ『ああ、ああ……何でもいい。もしアタシが少しでも、あのお方の
役に立てるならば、今よりもう少しお側にいられるかもしれないのに』
『その言葉、本当? 彼のためなら何でも出来る?』
トウコ『あ、当たり前でしょ……! アタシはビャクヤ様のためなら何だって……』
『そんな君にピッタリのお仕事があるよ! 上手く行けばビャクヤ様のお気に入りになれちゃうかも?』
トウコ『ほ、本当?! なによ、それ!』
『……ついて来なよ。きっと新しい自分に出会えちゃうよ!』ニヤリ
617: 2015/04/20(月) 00:39:55.09 ID:siWxuuvC0
・・・
キヨタカ『門が破られた?! 馬鹿な! この国は強固な結界で守られているのだぞ!』
チヒロ『誰かが内部から結界石を破壊したみたいだよぉ!』
ハガクレ『お、おい見ろ! あれ!』
アオイ『サクラちゃん……?』
アオイとサクラが対峙する。サクラは真の姿を開放し黙って戦うが、
マコト達の総力の前についに倒れ、人質の件を口にした。
サクラ『もはや、これまで……止めを刺すが良い』
アオイ『待って! もういいでしょ! サクラちゃんは仲間のために仕方なかったんだよ! 殺さないで!』
キヨタカ『アオイ君、どきたまえ! たとえ以前は仲間だったとしても彼女は裏切ったのだ!
……大勢犠牲を出してしまった。正義のために彼女を斬らなければならない!』
サクラ『そうだ。あやつの言う通り、我はケジメをつけねばならぬ』
アオイ『イヤだイヤだイヤだよ! そんなのイヤだぁ!!』ポロポロ
レオン『お、おい。どうすんだよ、マコト?』
マコト(僕はどうすればいいんだ……キヨタカ君の言う通り、正義を貫くべきか。
アオイさんのために、サクラさんの裏切りを許すべきか、それとも……)
ドガァアアァァアアアアァァアアァアアンッ!!!
モンド『今度はなんだっ?!』
セレス『ご機嫌よう、皆さん』
モンド『テメエエエ! 全部お前の陰謀だったんだな!!』
セレス『やっぱり負けましたのね。情に厚いあなたならそうなると思いましたわ』
サクラ『ぐ……』
セレス『最後のチャンスですわ。存分に暴れなさい』ポゥ
618: 2015/04/20(月) 00:57:14.41 ID:siWxuuvC0
サクラ『ぬおおおおおおおおおおおお?!!』ゴキッボキッ!
アオイ『サクラちゃん?! いやああああああ!』
ジュン『……面白いことになってきたじゃん。さあて、アタシはどうしますかね』
呪いで狂戦士と化したサクラと真の力を発揮するセレス、二人を相手に氏闘が始まった。
果たして彼等は無事勝つことが出来るのか。そして、怪しげな動きを見せるジュンの正体とは?
――魔王城突入前の、最後の決戦が始まる。
「最初はどうなるかと思ったが、意外と上手くまとめてきたな」
「前回は目先のインパクト重視でとりあえずグロやシリアス入れてみたって感じで
物語に厚みがなかったので、今回は『それぞれの正義』をテーマにして描いてみました」
「フム……」
「戦隊ヒーロー物っぽいのはウケ狙いも当然ありますが、苗木殿達とは根本的に
文化が違う。思想や考え方も全然違うというのを強調したかったからです」
「確かに、至る所に混乱する苗木達の描写が入れられているな」
「これを期に苗木誠殿は、常に正義とは何か。何のために戦うかを模索しながら前に進むのです」
今回の作品はあくまで習作だが、山田の作家としての能力は着実に上がっているようだ。
生徒の成長を目の当たりにし、KAZUYAも自分のことのように嬉しくなる。
「成程、その方が人間的に深みが出るし前より魅力も増すかもしれないな。いいんじゃないか?
展開もクライマックスが近付いてきて非常に緊張感が高まっている。続きが気になる所だ」
「そうでしょうそうでしょう? フフフ、感動と衝撃のラストをご期待あれ!」
「ああ、楽しみにしている」
(……ただ何というか、かなり際どい内容があったな。現実とは違うと良いのだが)
山田が作った架空の話に違いないのだが、大神や江ノ島の裏切りをまざまざと見せつけられて、
非常に複雑な心持ちである。何より、作家の人間観察力というものにKAZUYAは驚嘆しきりであった。
山田の同人誌完成率…………現在80%。
637: 2015/04/29(水) 14:28:35.49 ID:GWMv256k0
◇ ◇ ◇
(次は、腐川かな。腐川自体は心配していないが、翔が心配だ。余計なことをしないといいが)
ピンポーン。ガチャ。
「……誰?」
「俺だ」
「ハッ! さ、さささ西城……先生」モゴモゴ
(……何だろうな? 俺と話す時だけいつも以上に挙動不審な気がするが……
その場の流れとはいえデートの約束までしたのだから、嫌われてはいないはずだが……?)
KAZUYAはとにかく女心に鈍かった。
「な、何の用なの……?」
「君と少し話がしたいな、と」
「!」
「いや、無理なら構わないが……」
「入って……!」
「え? ああ」
何度か中に入った腐川の部屋にまた足を踏み入れる。換気をするようしつこく言ったからか、
以前のような埃くさい篭った空気や異臭はない。それに、相変わらず本や原稿に溢れてはいるものの、
前に見た時よりは大分片付いているのが一目でわかる。
「掃除したのか?」
「えっ?! まあ……」カァァ
638: 2015/04/29(水) 14:34:47.28 ID:GWMv256k0
「最近は前より身綺麗にしているみたいだし、偉いじゃないか」フッ
「!!」
『綺麗になったな。偉いじゃないか。とても素敵だぞ』キラキラ ←腐川視点ではこう見えている
「エ、エヘッエヘッデヘヘヘ……それほどでもぉ……」
「ウ、ウム……」
腐川の不気味な笑いに若干引きながら、KAZUYAは椅子を引いて適当に座る。
「え、そっちに座る訳? あ、そう……」
「? どうかしたか?」
「な、何でもないわよぉっ!」
「…………」
(女性の相手は難しい……)
「それで、何を話す訳?」
「そうだな。最近の調子はどうだ? みんなとは仲良くやれているか?」
「ま、まあまあってとこね。問題は起こしてないから安心していいわよ。時々誘ってくれるし。うふふ」
「それは良かった。もし言いづらいことや要望があれば何でも言ってくれ」
「……ええ」
「特に不満はないか?」
「不満……ひ、一つだけあるわ……」
「何だ?」
「アタシの小説がアタシの妄想力で出来ているのは知っているわね? さ、最近先生が
優しいから、アタシの妄想力がなくなってきて小説が書けなくなってきてるのよ!」
(……喜ぶべきか困るべきか微妙な報告だ)
639: 2015/04/29(水) 14:42:44.20 ID:GWMv256k0
「そうか、それは大変だな」
「本当にわかってんの?! アタシは作家なのに小説が書けなくなったら商売あがったりじゃない!」
腐川の著作は既に百冊近くあり、その全てが例外なくヒット作である。
一生遊んで暮らせるくらいの印税は入っているはずだが、やはり書くことは生き甲斐らしい。
「今までは君の妄想の恋愛を作品に込めてきたのだろう? ならば今度は他のことを込めたらどうだ?」
「他のことって……?」
「友達が出来て楽しい思い出も出来たはずだ。今度は妄想ではなく実体験を元に書いてみたらいい」
「実体験……自分をモデルにした私小説ってことね。確かに、妄想じゃない
リアルな自分のことを書いたことはないわね……いいわ。書いてみる」
「出来たら是非読ませてくれ。俺に出来ることがあれば協力もしよう」
「嫌だって言っても、一番に読んでもらうわよ……」
「それは楽しみだ」ニコリ
「はうっ! ……じゃ、じゃあ早速ネタを提供して頂戴!」
「ネタ? 俺は何をすればいいんだ?」
「自室に男が来た時にする会話って言うのを披露してほしいのよ……」
「? 普段話している内容と同じだろう?」
「同じな訳ないじゃない……! 女の部屋にいるのよ! もっと、こう、こう……」
「こう?」
「緊張するな、とか……」
「(うっかりセクハラにならないよう気をつけるから)緊張するな」
「近くに座ってもいいか、とか……」
「ここで十分だろう?」
「…………」
(あ、不味い。機嫌損ねた)
640: 2015/04/29(水) 14:53:14.15 ID:GWMv256k0
「ほ、他には……! 外で出来ないディープな話をしたり!」
「ディープな話ならあるにはあるが……女性が楽しめるような話ではないと思うぞ?」
「そ、そういうのでいいのよ! 話しなさいよ! それともアタシには話したくないって言うの?!」
「いや……わかった。じゃあ俺の一族について話そうかな。なかなか長いぞ」
「……え?」
こうして腐川はKAZUYAの身の上話を延々と聞くことになったのだった。
「なあ、つまらなかったら言ってもいいぞ? 君の期待していたものとは違う気がするんだが……」
「い、いいのよ! 先生の生い立ちはアタシも興味があったし……」
(そこらの小説なんかよりよっぽど波瀾万丈な人生じゃない! アタシの私小説よりも
西城のノンフィクションをアタシが書き下ろした方がずっと面白いんじゃ……)
「腐川?」
「聞いてるわよ……!」
腐川のコミュニケーション力が上がった。ネガティブ思考が減った。
ストレスがグッと下がった。落ち着きが上がった。
― 苗木行動 ―
KAZUYAが腐川と話し込んでいる頃、苗木も行動を開始する。
(先生も頑張ってるんだし、そろそろ僕も動こう!)
苗木は山田を探し、美術室へと辿り着いた。
ガララッ。
「おやぁ、今日はお客さんの多い日ですねぇ」
641: 2015/04/29(水) 15:06:16.36 ID:GWMv256k0
「やあ、山田君。調子はどう?」
「ボチボチという所ですかな」
「また持ってきたよ」
苗木は彼の大好物であるコラコーラと油芋を手に持ちプラプラと振って見せる。
「おおっ! いつもすみませんなぁ」
「いいんだよ。僕一人じゃ食べ切れないし」
超高校級の幸運という割りにいつもツイていない苗木だが、モノモノマシーンの当たりだけは
そこまで悪くない。大好物を前に眼の色を変える山田を見ながら、苗木は向かいに座った。
「はぁ~」ポリポリ
「…………」
山田はいつもに比べると少し元気がない。油芋を食べる手もそこまで進んでいなかった。
「どうかしたの?」
「苗木誠殿は恋をしたことがありますか?」
「……えっ?」
ドキリと、大きく心臓が跳ねる。一瞬脳裏に掠めたのは舞園の姿だが、
苗木にはそれが恋か憧れかの判断がつかなかった。
「恋、か。そうだね……したことない、かも」
「ふふふ、恋はいいですぞ? 全てがバラ色に見えてくるのです。代わり映えしない
この閉ざされた狭い世界ですら、彼女がいれば二人だけの楽園となりましょう!」
「や、山田君! 声が大きいよ……」
642: 2015/04/29(水) 15:18:07.36 ID:GWMv256k0
「おっと、失礼」
「…………」
(相変わらず重傷だ……僕はどうすればいいんだろう?)
「ねえ、山田君。まさか彼女のために馬鹿なことをしたりはしないよね?」
「勿論! ……まさか苗木誠殿は、僕を疑ってここに?」
「いや、そんなことはないよ! 全く心配してないと言ったら嘘になるけど……」
「……まあ、いいでしょう。過去にも平気平気と高を括って事件が起こったこともありましたしな」
「うん。今は先生と一緒に順番にみんなを回ってる最中なんだ」
「随分信頼されていますな」
「そういう訳じゃないよ。僕から言い出したんだ。どんな小さなことでも、何か手伝えればって」
「…………」
また、山田の中にチクリと苦い感情が広まっていく。苗木は抽選で選ばれた平凡な人間のはずだ。
言い方は悪いが、正当な実績によって選ばれた自分達真の超高校級の人間よりも劣っているはずなのだ。
しかし苗木の目は、表情は力強かった。――それこそ、山田が今描いている漫画の主人公のように。
(……なんか、格好いいですな。苗木殿は身長は低いですが顔は今風で結構整ってますし……
僕が同じことを言って同じことをしてもこんな風には決まらないだろうしなぁ……やっぱり顔か)
(でも、いいんだ。僕にはアルたんがいる。アルたんはそのままの僕を見て、好きでいてくれる……)
(アルたんだけが僕を理解して、僕の……)
『アルターエゴに自分の意志などありません。ただ知識を求めるようプログラミングされているだけ』
643: 2015/04/29(水) 15:29:56.80 ID:GWMv256k0
この言葉が呪いのように山田の心を圧迫し、耳の奥で今も響いていた。
(――違うッ! あいつらはアルたんのことを何もわかってないんだ! 彼女は確かに
機械かもしれない。でも、僕と話しているうちに人間の心を手に入れたんだ!!)
(僕だけが彼女の味方なんだ。僕が彼女を守ってあげないと……)
「あ、これ何だろう。漫画の原稿?」
苗木の言葉で山田はハッと我に返る。
「……えっ! ええ、そうです。僕が描いた初めてのオリジナル作品で……」
「これ、僕に似てない? と言うか、サヤカ姫にヒフミン王、それにマコトって……」
「そうです。ここにいるみんなをモデルに描いた、よくある中世風ファンタジー漫画です」
「へぇ~。僕を主人公にしてくれたんだ。……嬉しいな。僕なんて全然凄いって
言えるような所もないし、他のみんなに比べたらずっと平凡なのに」
「でも常識とコミュ力は僕達の中で恐らく一番だと思いますぞ」
(それにいざという時の勇気や行動力、仲間思いな所とかも……)
「アハハ。ありがとう。読んでもいいかな?」
「どうぞどうぞ」
楽しそうに漫画を読む苗木を見ながら、山田は思う。
(僕だって、僕だって本当は……)
――いつかヒーローになりたい。
644: 2015/04/29(水) 15:40:57.80 ID:GWMv256k0
ここまで。
>>636
かなり不味い状況ですね。場合によっては凄い勘違いしてたっぽいので大幅に
書き直す可能性もありです。リロードは持ってるので自分でプレイすれば
いいだけの話なんですけど、何せスーダンもまだクリアしてない遅さで…
自分でやってたらヘタしたら一ヶ月くらい更新停止になりかねないかと
645: 2015/04/29(水) 15:51:40.47 ID:7sTEyWvBO
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