2: 2017/10/19(木)20:24:28 ID:RWr
思わず目を細めてしまうほど月が明るい夜。
その月に負けぬほど眩しい2人の女が、とある料亭の個室にいた。
高垣楓。
かすかに翡翠がかった艶やかな髪。
はかなげでありつつも不思議な温かみのある、碧と蒼の瞳。
しなやかに、悩ましげな曲線を描く身体。
彼女は風にそよぐ芒のようにたおやかで、優雅な風貌だった。
その月に負けぬほど眩しい2人の女が、とある料亭の個室にいた。
高垣楓。
かすかに翡翠がかった艶やかな髪。
はかなげでありつつも不思議な温かみのある、碧と蒼の瞳。
しなやかに、悩ましげな曲線を描く身体。
彼女は風にそよぐ芒のようにたおやかで、優雅な風貌だった。
3: 2017/10/19(木)20:25:27 ID:RWr
それと対照的に片桐早苗は、くっきり、はつらつとしていた。
あるいは“具体的”とでも言うのだろうか。
みずみずしい栗色の髪。
面立ちは童顔で、まったく邪気のないように見える。
けれども顔に見合った小柄な身長に、見合わぬ豊満さがあった。
2人は同じ事務所に所属しているアイドルで、
年は3歳ほど離れていたが、
それを気負うこともなく付き合っている。
性質のちがいから仕事を奪い合うこともなく、他人からは、
両者の間に亀裂を生じさせうる要素はないように見えるだろう。
あるいは“具体的”とでも言うのだろうか。
みずみずしい栗色の髪。
面立ちは童顔で、まったく邪気のないように見える。
けれども顔に見合った小柄な身長に、見合わぬ豊満さがあった。
2人は同じ事務所に所属しているアイドルで、
年は3歳ほど離れていたが、
それを気負うこともなく付き合っている。
性質のちがいから仕事を奪い合うこともなく、他人からは、
両者の間に亀裂を生じさせうる要素はないように見えるだろう。
4: 2017/10/19(木)20:27:39 ID:RWr
「プロデューサー君には本当こまっちゃうよねぇ」
「ええ、本当に…」
2人は食事の余韻をゆったりと感じながら、語り合っていた。
それ自体はごく自然な風景だった。
「食事はおろそかにしちゃダメっていつも言ってるのに、
目を離すとカップラーメンばっかり。
アイドルに心配かけるなんてプロデューサー失格よ!」
「私達に気を回してくれるぶん、自分のことがおろそかになるんじゃないですか」
「そう…そうね。きっとそうだわ」
彼女達をプロデュースしているのは同じ男。
たった1人の、男だ。
「ええ、本当に…」
2人は食事の余韻をゆったりと感じながら、語り合っていた。
それ自体はごく自然な風景だった。
「食事はおろそかにしちゃダメっていつも言ってるのに、
目を離すとカップラーメンばっかり。
アイドルに心配かけるなんてプロデューサー失格よ!」
「私達に気を回してくれるぶん、自分のことがおろそかになるんじゃないですか」
「そう…そうね。きっとそうだわ」
彼女達をプロデュースしているのは同じ男。
たった1人の、男だ。
5: 2017/10/19(木)20:28:46 ID:RWr
「どうにかして負担を減らせないかしら。
いくら好きな仕事でも身体を壊したら元も子もないんだから。ね?」
早苗は、もう1人の女に微笑みかけた。
楓は左小指で泣き黒子を撫でた。
「お酒、頼みますか」
「お願い」
楓は呼び鈴を鳴らして、やってきた仲居に手早く注文をした。
早苗は胸を大きくそらし、のびをした。
「ビール?」
「焼酎です。いけませんでしたか」
「……グラス?」
「ボトルです」
いくら好きな仕事でも身体を壊したら元も子もないんだから。ね?」
早苗は、もう1人の女に微笑みかけた。
楓は左小指で泣き黒子を撫でた。
「お酒、頼みますか」
「お願い」
楓は呼び鈴を鳴らして、やってきた仲居に手早く注文をした。
早苗は胸を大きくそらし、のびをした。
「ビール?」
「焼酎です。いけませんでしたか」
「……グラス?」
「ボトルです」
6: 2017/10/19(木)20:29:46 ID:RWr
早苗が次の言葉を紡ぐまえに、氷の入った2つのグラスと、
黒々とした焼酎のボトルが運ばれてきた。
自分達で注ぐからと、楓は仲居を下がらせた。
「私は、プロデューサーさんにお世話になりっぱなしですね…。
早苗さんみたいにしっかりしてませんし、
早苗さんよりも若くて右も左もわかりませんから…」
楓は、薄く笑みを浮かべてグラスを酒で満たした。
「どうぞ」
「うん。ありがと」
早苗はグラスを受け取って、一息に飲み干した。
彼女は酒好きであっても“ざる”ではないから、これは危険な飲み方だった。
黒々とした焼酎のボトルが運ばれてきた。
自分達で注ぐからと、楓は仲居を下がらせた。
「私は、プロデューサーさんにお世話になりっぱなしですね…。
早苗さんみたいにしっかりしてませんし、
早苗さんよりも若くて右も左もわかりませんから…」
楓は、薄く笑みを浮かべてグラスを酒で満たした。
「どうぞ」
「うん。ありがと」
早苗はグラスを受け取って、一息に飲み干した。
彼女は酒好きであっても“ざる”ではないから、これは危険な飲み方だった。
7: 2017/10/19(木)20:31:02 ID:RWr
一方の楓は酒にはめっぽう強いので、グラスどころかジョッキを干すこともできる。
だが楓は、ちびちびと酒を舐めた。
「なによぉ、もったいぶっちゃって」
すでに顔を赤くした早苗が口をとがらせた。
「どうせ酔っ払っても、今日は瑞樹ちゃんが迎えに来てくれるんだし…」
川島瑞樹は2人の共通の親友で、今日はこの場にいない。
ちょうどバラエティの収録が入ってしまっており、
それが終わった後に彼女達を迎えにくることになっている。
「どうせ素面でも酔ってても手がかかるんだから、楓ちゃんは」
早苗は名前の部分で語気を強めた。
それを聞いて、楓も一気にジョッキを空にした。
だが楓は、ちびちびと酒を舐めた。
「なによぉ、もったいぶっちゃって」
すでに顔を赤くした早苗が口をとがらせた。
「どうせ酔っ払っても、今日は瑞樹ちゃんが迎えに来てくれるんだし…」
川島瑞樹は2人の共通の親友で、今日はこの場にいない。
ちょうどバラエティの収録が入ってしまっており、
それが終わった後に彼女達を迎えにくることになっている。
「どうせ素面でも酔ってても手がかかるんだから、楓ちゃんは」
早苗は名前の部分で語気を強めた。
それを聞いて、楓も一気にジョッキを空にした。
8: 訂正します 2017/10/19(木)20:31:49 ID:RWr
一方の楓は酒にはめっぽう強いので、グラスどころかジョッキを干すこともできる。
だが楓は、ちびちびと酒を舐めた。
「なによぉ、もったいぶっちゃって」
すでに顔を赤くした早苗が、楓に絡んだ。
「どうせ酔っ払っても、今日は瑞樹ちゃんが迎えに来てくれるんだし…」
川島瑞樹は2人の共通の親友で、今日はこの場にいない。
ちょうどバラエティの収録が入ってしまっており、
それが終わった後に彼女達を迎えにくることになっている。
「どうせ素面でも酔ってても手がかかるんだから、楓ちゃんは」
早苗は名前の部分で語気を強めた。
それを聞いて、楓も一気にグラスを空にした。
だが楓は、ちびちびと酒を舐めた。
「なによぉ、もったいぶっちゃって」
すでに顔を赤くした早苗が、楓に絡んだ。
「どうせ酔っ払っても、今日は瑞樹ちゃんが迎えに来てくれるんだし…」
川島瑞樹は2人の共通の親友で、今日はこの場にいない。
ちょうどバラエティの収録が入ってしまっており、
それが終わった後に彼女達を迎えにくることになっている。
「どうせ素面でも酔ってても手がかかるんだから、楓ちゃんは」
早苗は名前の部分で語気を強めた。
それを聞いて、楓も一気にグラスを空にした。
9: 2017/10/19(木)20:32:31 ID:RWr
小一時間ほどたった頃、川島瑞樹は酔いつぶれた2人に呆れかえった。
いつもは片方が、あるいは両方が“ばか”陽気に出迎えてくれるものだったが、
何かの拍子にブレーキがきかなくなってしまったらしい。
「やっぱり君がいてくれて助かったわ~。
2人がいっぺんだと、いつも大変なんだから!」
日々の苦労がしのばれる苦笑いをしながら、瑞樹は引きずるように早苗を抱えた。
「楓ちゃんの方はお願いね。まったく世話が焼けるわ…」
瑞樹と、この場にたった1人の男は視線を交わし、
窓から差し込む月光がきらめいた。
早苗と楓は何も知らないまま、深い酔いの中に沈んでいた。
いつもは片方が、あるいは両方が“ばか”陽気に出迎えてくれるものだったが、
何かの拍子にブレーキがきかなくなってしまったらしい。
「やっぱり君がいてくれて助かったわ~。
2人がいっぺんだと、いつも大変なんだから!」
日々の苦労がしのばれる苦笑いをしながら、瑞樹は引きずるように早苗を抱えた。
「楓ちゃんの方はお願いね。まったく世話が焼けるわ…」
瑞樹と、この場にたった1人の男は視線を交わし、
窓から差し込む月光がきらめいた。
早苗と楓は何も知らないまま、深い酔いの中に沈んでいた。
10: 2017/10/19(木)20:32:53 ID:RWr
終わり
引用元: 【超短編】川島瑞樹「月光」
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