1: 2010/10/02(土) 14:39:38.35 ID:oKWf5jWrO


朝比奈みくるのパOツ盗難事件。
それが今、俺達SOS団が解決しようと躍起になっている事件だ。
どうやら朝比奈さんのパOティーが、水泳の授業中に盗まれてしまったらしい。
腕に「探偵」と書かれた腕章を身につけ、ハルヒが唸った。

「迷宮入りね……あたしでもわからない事件があったなんて」

頭を抱えている。確かに今回の事件は難題だ。
なんといっても、証拠の数が皆無に等しい。
現場に残された痕跡や、まわりの目撃情報までも一切無いのである。
ここまで完璧な犯罪が、過去にあっただろうか?

「ふえぇ~、わたしの下着、いつになったら戻ってくるんですか~」

朝比奈さんの悲痛に満ちた泣き声が、文芸部室内に響く。

「これは……幾多もの別れ道で構成された迷路に紛れ込んだようですね。
さしづめ、右を選んでも左を選んでも行き止まりといったところでしょうか……」

頭にパOティーをかぶった古泉が、神妙な面持ちでそう呟いた。
涼宮ハルヒの憂鬱 「涼宮ハルヒ」シリーズ (角川スニーカー文庫)
3: 2010/10/02(土) 14:46:20.08 ID:oKWf5jWrO
「わたしも今回の事件は理解できない部分が多い。こんなことは初めて」

くそっ……長門でも分からないだと。
一体どうすればいいんだ。何か……何か一つでもいい。
解明の糸口となり得ることはないのか!?

「そうね……確かめてみる価値はあるわ」

俺が困り果てていると、何やらハルヒがぶつぶつと呟いていた。

「どうした、ハルヒ。何か思いついたのか?」

そう尋ねると、ハルヒは椅子から勢いよく立ち上がった。

「インターネットで下着泥棒の特徴を検索してみたのよ。それで分かったことが一つあるんだけど」

「なんだ? 言ってみろ」

今はどんなに小さなことでもいい。少しでも事件の真相に近づく「何か」が必要だった。

「下着泥棒には一つの共通点があるの。それはね……」

ゴクリ、と生唾を飲み込む音が響いた。
古泉の額にある女性用のパOツのゴムの部分が、汗を染み込み濃い色に変化している。

「涼宮さん、その共通点とは、一体?」

6: 2010/10/02(土) 14:52:53.74 ID:oKWf5jWrO
そこでハルヒは、自らの団長机を手のひらで大きく叩き、叫んだ。

「盗んだ下着を身につけるということなのよ!!」

驚愕した。
まさかそんな隠し場所があったなんて。
そういった類のものを手に入れた場合、一番困るのはその保存方法だろう。
安易に鞄の中に入れておくのも危険だし、かといってポケットに潜ませても妙に膨らんでしまい怪しまれる。
しかし、それらを全て打ち破る方法があったのだ。
「身につける」……そう、それはどう考えても完璧としかいいようのない作戦だった。

「ってことで、悪いわね、みくるちゃん」

「ふぇ?」

ハルヒは、一思いに朝比奈さんのスカートをめくった。

「ひ、ひえぇぇぇえぇ!」

悲鳴を上げる朝比奈さん。
全員の視線がそのスカートの中に集まる。
そこに見えたのは、ブラジル奥地のジャングルだった。
何を隠そう、朝比奈さんはノーパO(所謂ノットパOツ)だったのである。
無理もないだろう。彼女はパOツを盗まれたのだから。

「みくるちゃんは……完全に白ね」

「ああ、そうだな」

10: 2010/10/02(土) 15:01:32.82 ID:oKWf5jWrO
「安心しました……このSOS団の中に犯人がいたらどうしようかと」

古泉のその発言に、長門の眼光がするどく光った。

「その可能性は高い」

何を言っているのだ。SOS団の中の誰かが犯人?
それからの長門の話を短くまとめると、下着泥棒の特徴として、近しい存在の女性を狙う傾向があるというのだ。
確かに言われてみれば、何も知らない女性より、顔や性格、行動パターンなど色々な情報を知っている女性の方が興奮する。
古泉も、長門の話を聞きながら大きくウンウンと頷いていた。
その度に、光に反射するパOツの銀色のシルク製のリボンが、美しく輝いていた。
しばらくその輝きに見とれていると、これまたハルヒが口を開いた。

「念のため、全員の今履いている下着をチェックする必要があるわね……」

当然のことである。
長門によって、SOS団内の誰かが犯人という線が濃厚になった今、それはしておかなければならないことだった。

「まずはあたしからよ! 見てちょうだい!」

12: 2010/10/02(土) 15:07:14.02 ID:oKWf5jWrO
そういうとハルヒは、スカートの両端を掴み勢いよく持ち上げた。
そこに燦然と輝きたるは、橙の光。
まさしくハルヒ自身のものだった。

「これで証明はできたはずよ! じゃ、次は有希ね!」

「わかった」

そういうと長門は、スカートの真ん中部分をちょんと掴み、遠慮がちに持ち上げた。
そこに燦然と輝きたるは、白の光。中央部分に付加されている淡いピンクの装飾品が、その美しさを更にレヴェルアップさせていた。
それもまた、正真正銘長門自身のものだった。

「次は朝比奈みくる……」

「は、はい!」

朝比奈さんはノットパOツだった。

「つ、次はキョンくんお願いします」

「ええ、分かりました」

13: 2010/10/02(土) 15:12:24.68 ID:oKWf5jWrO
そこで俺はカチャカチャとベルトを外し、チャックを下げた。
ガチャッというバックルの放つ金属音とともに、俺の下半身があらわになった。

「これは……!」

ハルヒが驚いたような顔で俺のその部分を凝視する。

「エベレストだぞ、ハルヒ」

ハルヒは泣いた。わんわんと泣いた。
そして「ありがとう、ありがとう」とお礼を言っていた。
一体何に対してお礼を言っていたのかは、さっぱりだったのだが。

「じゃあ次は古泉だな」

そう言って、俺が古泉に視線を向けると、既に自らの下着を披露した状態の古泉が立っていた。

「イッツ ア ショータイム」

右手で髪をかきあげ、いつものスマイルで囁く。
全くお前は、憎たらしいほどのイケメンだな。

14: 2010/10/02(土) 15:17:41.07 ID:oKWf5jWrO
古泉の下半身に装着されたボクサーパOツ型のそれは、淡いピンク色で、頭上に位置するパOツと同じ色彩だった。うむ、見事にマッチしている。

「そういえば、朝比奈さんの盗まれた下着の特徴をまだ聞いていませんでしたね」

思い出したように、俺が問いただした。

「は、恥ずかしいですけど……言わないと解決できませんよね」

「そうよ! 事件解決のために、教えてちょうだい!」

「わ、わかりました……えっと、淡いピンクに、銀色の小さなリボンがついている下着です」

なるほど……全くもってわからないな。心当たりが微塵もない。
朝比奈さんには申し訳ないが、一歩も事件解明には近づいていなかった。

「これでまた振り出し」

長門のその声だけが、俺たちのいる文芸部室に小さく響いた。

16: 2010/10/02(土) 15:23:44.68 ID:oKWf5jWrO
それからどれほどの間沈黙が続いただろうか。
各々が必氏に足りない脳で考えを捻り出そうとしていたのだが、いかんせん何もでてこない。
本当に、お手上げ状態だった。
何かないのか? 俺が困っている朝比奈さんにしてあげられることは……。
なんでもいい。どんな小さなことでも。なんでも……。

「!!」

そこで俺はハッとした。
あるじゃないか。まだ調べていないことが。そして、場合によっては一気に事件の解明に繋がることが。

「どうしたの!? キョン!?」

急に椅子から立ち上がった俺を見て、ハルヒが叫ぶ。
その瞳は、期待に輝いていた。

「……っはは。なんでこんな初歩的なことを思いつかなかったんだろうな」

そう言いながら、腰に手をあてる。我ながら、バカバカしい。

「何?」

長門のその短い問いかけに、俺は答えた。
これで確信をつけるはずだと、信じて。

20: 2010/10/02(土) 15:28:56.39 ID:oKWf5jWrO
「……アリバイだ。朝比奈さんが水泳の授業だった時に何をしていたのか。
 それさえ分かれば、犯人は絞れるはずだ」

俺のその言葉に、ガタッ、ガタッと椅子から立ち上がる音が重なる。

「さすがよ、キョン!」

「その考えはなかった」

「やはりあなたは肝心な時に頼りになりますね」

「ありがとうございます……キョンくん」

パチパチと贈られる拍手に、片手をあげて応えた。

「そんじゃ、本題に入ろうか。まずは……ハルヒ! お前は何をしていた?」

23: 2010/10/02(土) 15:37:24.29 ID:oKWf5jWrO
「あたしね。あたしは体育の授業だったわ! っていうかキョンも一緒だったじゃない」

「そういえばそうだったな。だがしかし男女別々で行われていたからな。
 まあ、同じクラスの女子に聞けば裏はとれるか……」

「大丈夫よ。あたしはその時間、確かに体育をしていたもの」

ハルヒのその口調と眼差しは、とてもじゃないが嘘をついているような風じゃなかった。

「有希はどうなの!?」

「わたしは教室で国語の授業をうけていた。その時間は日本の有名な文学作品を紹介する内容だったのでよく覚えている。
 わたしのクラスメートに確認をとるといい」

ハルヒの時と同様、長門も嘘をついているようには見えなかった。

「俺はハルヒが言った通り、体育の授業をうけていた。これはまあ、谷口や国木田にでも聞いてくれればすぐだろうよ」

2人と同様、俺の言葉にも嘘は一切含まれていない。
残るは古泉だけだ。

26: 2010/10/02(土) 15:43:18.54 ID:oKWf5jWrO

「古泉、お前は何をしていた?」

「ぼ、僕ですかぁ? そうですねぇ~……ふふっ。
 ぼ、ぼぼぼ、僕は教室で練り消し作りに没頭してしまいましてね! そうだ! 練り消しです!
 ですから、授業の内容もあまり記憶にないですし、何の授業だったのかもあまり……でゅふふ」

…………完全に白だな。





ふう~、とりあえず全員のアリバイを聞いてみたのだが、どこにも疑う余地はなかった。
結局、俺の案も意味はなくまた振り出しに戻っちまったってことか。
何故だかプルプルと震えている古泉だが、何を考えているのかわからないので今は放っておくとしよう。

35: 2010/10/02(土) 15:52:08.27 ID:oKWf5jWrO
「これでまた振り出しってわけね……。もう! 何度振り出しに戻ったら気が済むのよ!」

「ハルヒ、今は感情的になってもしょうがない。落ち着こう」

そう言ってなだめたのだが、もう皆の精神は限界がきていた。
朝比奈さんも疲労困憊のようで、机に顔を突っ伏しうなだれている。
それも無理はない。もうかれこれ3時間以上ずっと頭をフル回転させているのだ。

「これ以上の詮索は不可能」

長門が、半ば諦めたような口調でそう言った。
その発言に、ハルヒが噛み付く。

「何言ってるのよ! このままじゃ絶対に帰れないわ……! この事件を解決するまではね!!」

荒々しい声を張り上げ、団長机を何度も手で打つハルヒ。

「では、何か解明に近づく案があるの?」

長門も相当精神的にきているようだった。
普段ならありえないほど攻撃的な姿勢だ。

36: 2010/10/02(土) 15:57:23.62 ID:oKWf5jWrO
「そんなの……ないわよ!! でも、今解決しなきゃダメなの!
 一度犯人を家に帰したらもう手遅れよ! それくらい、有希にだって分かるでしょ!?」

「分かっている。でももう体力の限界」

「それでも解明しないといけない事件なのよこれは! 甘ったれてる暇なんかないの!!」

その言葉を聞いた長門が、ガタッと勢いよく立ち上がった。
見たこともない表情で、ハルヒを見つめている。
とうとう臨戦態勢か。
と、その時

「やめてください! 涼宮さんも、長門さんも……喧嘩しないでください!!
 ……お願いですから」

ウルウルとした瞳で、朝比奈さんが二人にそう訴えた。
それを最後に、文芸部室はまた完全な静寂に包まれた。

39: 2010/10/02(土) 16:04:03.49 ID:oKWf5jWrO
「……あ~もう!!」

争うのはやめたものの、ハルヒはまだ怒りが収まっていないようだった。

「ハルヒ、お前の気持ちもよーくわかる。だがな、今は冷静になってもう一度よく状況を整理することが」

「そんなことはもう何度もやってるわよ!!」

俺が最後まで言い切る前に、ハルヒが叫んだ。

「何度もやっているのなら尚更だ。せっかく整理された状況がイライラのせいで吹っ飛んじまう」

「わかってるわよ!! わかってるから今は話しかけないで!!」

「ハルヒ! イライラするのは勝手だがな、人に八つ当たりするのだけはやめろ!」

「何よ! じゃああんたに何ができるってわけ!?」

「だからそれを今から冷静になって」

「もう3時間も冷静になって考えたじゃない! 一度くらい冷静じゃなくなったって」

「もうやめてください!!!!」

一瞬、何が起こったのかわからなかった。

40: 2010/10/02(土) 16:11:04.95 ID:oKWf5jWrO

突然文芸部室に響いた、大きな叫び声。その声の主は誰なのか。
少し落ち着いてきた俺が、状況を確かめるように辺りを見回す。
どうやら、俺とハルヒの口論を打ち破ったのは、古泉らしい。
涙と鼻水を流し、両手の拳を強く握りながらガタガタと震える古泉の姿がそこにあった。
古泉は、力なく立ち上がった。

「もう……やめてください」

全員が黙っていた。
古泉は、それまで頭に装着していたピンク色のパOツを右手で掴むと、それを思い切り引っ張った。
スポンッ! という音が鳴ったかのように思えた。それほど勢いよく、古泉の頭からパOツが解き放たれたのだ。

「皆さん……気づいているんでしょう? 僕が、朝比奈さんのパOツをかぶっていることを……」


45: 2010/10/02(土) 16:17:18.23 ID:oKWf5jWrO
「古泉……」

「古泉くん……」

「古泉一樹」

「こ、古泉くん……」

「もう……やめてください。これ以上皆さんの無理をしている姿を見るのは、胸が痛いですよ」

涙と鼻水でボロボロになった顔を歪めながら、ニッコリと笑う古泉。

「古泉……お前」

「いいんです。分かってますから。僕は然るべき対処を受けるつもりです」

「古泉くん……副団長の座は、剥奪させてもらうわ」

「ええ、分かっています。ですが、いつか戻ってきてもよろしいでしょうか?
 そして再び、この名誉あるSOS団の副団長の座を狙っても……いいでしょうか?」

古泉のその言葉を受けたハルヒは、満面の笑みで

「もっちろんよ!」

と言った。
それを聞いた古泉は、子供のように笑う。

49: 2010/10/02(土) 16:22:51.84 ID:oKWf5jWrO

「ありがとうございます。それと、朝比奈さん……」

「ふぇ? は、はぁい! なんですか?」

「最後に頼みが一つだけあるのですが、聞いていただけるでしょうか?」

「え、ええ……いいですよ」

「……一度だけ、このパOツをはいても……いいですか?」

そう言って微かに笑う古泉のその表情は、底知れない優しさで満ち溢れていた。
窓から入る夕陽に、ピンク色のパOツが照らされる。
神々しく輝くそれは、まるで古泉の下半身で踊っているように見えた。





「古泉、輝いてるぜ」

古泉一樹の微笑・完






53: 2010/10/02(土) 16:26:38.99 ID:oKWf5jWrO
団員が団員を思いやる。一人はみんなのために、みんなは一人のために。
これがSOS団の真の姿だと思っています。
レスを下さった方、ありがとうございました。
皆さん、内容についてきてくれたので嬉しかったです。
それではまたどこかで。

54: 2010/10/02(土) 16:27:42.63 ID:Z5NAb4Vm0
古泉イケメンんんんんんんんんんん

55: 2010/10/02(土) 16:32:50.98 ID:G0AiC57oP
おつ!

真犯人が最後までわからんかったわ

引用: キョン「事件は完全に……迷宮入りだな」