1: 2010/10/17(日) 00:07:04.83 ID:nFgIxCoxP

「……」

キョン「よう、今日も可愛いな」

「……」

キョン「そんなに照れなくたっていいんだぞ?」

「……」

キョン「あはは、そうか」

「……」

キョン「そろそろ着替えるか。今日は何を着る?」
涼宮ハルヒの憂鬱 「涼宮ハルヒ」シリーズ (角川スニーカー文庫)
2: 2010/10/17(日) 00:08:57.29 ID:nFgIxCoxP

事は数ヶ月前に遡る。


ハルヒ「だから、恋だの愛だのは一時的な精神病だって言ってるでしょ!」

その日、SOS団部室では恋愛とか人間愛についてのトークが繰り広げられていた。
何故そんな話題に行きついたか、詳しい経緯は思い出せない。
覚えているのは、部室が所謂甘ったるい「恋バナ」的なムードに包まれていたという事だけだ。

古泉「随分と現実的な見解をお持ちですね」

ハルヒ「じゃあ古泉くんはどんな風に考えるのよ?」

古泉「うーん……そうですねぇ……」

キョン「くだらねーな」

ハルヒ「うるさいわよバカキョン!」

3: 2010/10/17(日) 00:11:53.12 ID:nFgIxCoxP

古泉「確かに恋愛感情とは、涼宮さんが仰るように一時的な錯覚なのかもしれません……がしかし」

長門「……」

古泉「例え錯覚だとしても、そこに宿る愛という物はそれ自体が普遍的で素晴らしいと僕は思いますよ」

キョン「随分と持って回るな」

古泉「ふふっ」

みくる「難しいですぅ……」

ハルヒ「ふーん」

4: 2010/10/17(日) 00:15:00.01 ID:nFgIxCoxP

キョン「……恋愛なんてそんな小難しいこと考えながらするもんでもないだろう?」

ハルヒ「何よ? 知ったような口のきき方して」

キョン「別にそんな」

ハルヒ「あんた私たちに内緒で女遊びしまくってるんじゃないでしょうね!?」

キョン「なっ!? なんでそうなる!?」

みくる「キョンくん……」

キョン「そんな事ありませんよ朝比奈さん! するとか以前の問題ですから!」

古泉「これはこれは、興味深い」

長門「……」

キョン「お前らも乗るんじゃない!」

5: 2010/10/17(日) 00:18:26.82 ID:nFgIxCoxP

ハルヒ「油断ならないわね!」

古泉「まぁ我々は人間である以上……誰かを、あるいは何かを……愛する事になるという運命から逃れられないのでしょうね」

キョン「何かってなんだよ」

古泉「人間は、人間に対してのみ恋愛感情を抱くという訳ではないんですよ」

みくる「どういうことですか……?」

古泉「つまり、物に恋してしまう人もいる……ということです」

7: 2010/10/17(日) 00:22:22.40 ID:nFgIxCoxP

ハルヒ「とんでもないわね」

長門「……」

古泉「そこが人間の興味深く不気味な点ですね……異常性癖、性的倒錯は人間にしか見受けられない」

古泉「非生物へ向けられる愛の形は様々です……異性が身につける物であったり、優れた芸術品や、はたまた自然物という場合さえあります」

古泉「代表的な例を挙げるとすると……例えば、人形性愛であるとか」

キョン「人形性愛……?」

古泉「お人形さんに恋してしまう人もこの世にはいるのですよ」

ハルヒ「うわぁ」

古泉「常軌を逸しているとお思いですか? んっふ、無理もありませんね」

8: 2010/10/17(日) 00:27:17.53 ID:nFgIxCoxP

キョン「そんな性癖持ち本当にいるのか……?」

古泉「ええ……余り知られてはいませんが、中々需要があるそうですよ。人形性愛はまだメジャーな方らしいです」

ハルヒ「なんでそんなに詳しいのよ……古泉くん」

古泉「バイト先の知り合いでそういう趣味の方がいましてね……色々と教えてくれるんです」

キョン「お前はそれに目覚めたりしないのか」

古泉「まさか。僕は至って平凡な性的嗜好ですよ」

ハルヒ「全く、生々しいわね!」

長門「……」パタン

ハルヒ「……今日はここまでにしましょう! 解散!」

10: 2010/10/17(日) 00:31:35.65 ID:nFgIxCoxP

その夜、俺は一人ベッドに横たわりながら悶々としていた。

キョン「人形性愛ねぇ……」

部室トークなんて日々消費されていくどうでもいい日常の残滓に過ぎなくて、内容なんてあっても無くても同じな筈だ。すぐ忘れちまう。
それなのに、今日のそれは夜が更けてもなお俺の心にわだかまりとなって残っていた。

キョン「…………」

妹「キョンくーん!お風呂あいたよー!」ガチャッ

キョン「うおっ!? お、おう。分かった」

妹「どうしたのキョンくんー?」

キョン「なんでもねーよ……それと他人の部屋に入る時はきちんとノックしなさい」

妹「むー」

キョン「…………」

11: 2010/10/17(日) 00:35:01.65 ID:nFgIxCoxP

この胸のモヤモヤを抱えてこのまま夜を越すのは、何と言うかとても気分が悪い。
俺はパソコンを立ち上げ、検索エンジンにその文字を打ち込んだ。


キョン「人形性愛……っと」カタカタ

キョン「どうだ」ッターン


人形性愛 の検索結果

約 1,960,000 件 (0.08 秒)


キョン「思ったより多いな……」

キョン「いろいろ見て回るか」カチカチ

13: 2010/10/17(日) 00:38:40.86 ID:nFgIxCoxP

ディスプレイに未知の世界が広がっていた。
何処か背徳的で、それでいて端正で恭しい人形たちの表情に、俺はすっかり目と心を奪われていた。

キョン「…………なんだこれ」

キョン「なんか……すげえ」


そして俺はそのサイトに辿り着いてしまった。


キョン「ここは何のページだろ」カチッ

キョン「……っ……!?」

14: 2010/10/17(日) 00:42:34.87 ID:nFgIxCoxP

えらい美人がそこにいた。

吸い込まれそうな黒い瞳。何処か儚げで、何かを憂いているような表情。整った顔立ちと白皙の肌……

キョン「…………っ」

俺はその写真を食い入るように見つめた。
ふと気が付くと、胸が妙に苦しく、呼吸が荒くなっている。

キョン「…………かわいい……」

不意に口からそんな言葉が洩れていた。

16: 2010/10/17(日) 00:46:22.25 ID:nFgIxCoxP

その日から、俺は毎晩そのサイトを訪問し、人形たちを眺めた。
いつしかそれは日課となり、日に欠かせない依存と呼べるものにまで発展した。

二週間ほど経った後。
人形のことを思い浮かべると、俺は胸に切なげな疼きが走るように感じるまでになっていた。

俺はラブドールに心を奪われたのである。

18: 2010/10/17(日) 00:50:33.34 ID:nFgIxCoxP



ハルヒ「キョン! 聞いてるの!?」

キョン「えっ……? あ、ああ……」

ハルヒ「あんた最近ボケっとしすぎよ! ちゃんと寝てんの?」

キョン「んぁ、いや……別に」

ハルヒ「……もう! いいわよっ! 先に部室行ってるから!」

キョン「ああ……」

19: 2010/10/17(日) 00:53:01.78 ID:nFgIxCoxP

昼中もずっと、あの人形の顔が頭の中をゆらゆらと漂い、俺をボンヤリとさせた。
周りの声や授業なんて耳に入らない。俺は四六時中あの人形の事を考えていた。

古泉「どうされました? 何やら心配事でもあるのですか」

キョン「いや……別に」

古泉「何かあったら相談に乗りますよ」

キョン「…………あのなぁ」

古泉「はい?」

20: 2010/10/17(日) 00:56:04.18 ID:nFgIxCoxP

キョン「……いや、やっぱりいい……」

古泉「? そうですか……?」

人形に興味がある、そのバイトの知り合いとやらに会わせてくれ、なんて言える筈が無い。
自分は変Oだと声高々に宣言するようなものじゃないか。

古泉「最近のあなたは妙に上の空ですね。恋煩いですか?」

キョン「なっ……! なわけねえだろ!!」

古泉「っ……どうしたんです、いきなりそんな大声で」

キョン「っ……す、すまん……」

古泉ならあるいは、案外冷静に受け止めてくれるかもしれない。真摯に頼めば内密にしてくれるだろう。

だが、無理だった。
恥というか、罪悪感というか……そういった色々な思いが混ざり合った薄暗い感情が、俺に打ち明ける事を拒ませた。

21: 2010/10/17(日) 00:59:03.05 ID:nFgIxCoxP

キョン「はぁ……はぁっ……」

俺は毎晩ラブドールのサイトを眺め、物思いに耽った。
やがて、見ているだけでなく実際に触れてみたいという欲求が肥大化していった。

キョン(欲しい……買いたい……)カチカチ

キョン(なんでこんなに高いんだよ……糞っ……)カチカチ

キョン「……!?」


『新作』の欄、更新され新しくアップされたドールの画像を見て、俺は電撃が走ったかのような錯覚に襲われた。


あまりにもハルヒにそっくりだったからである。

22: 2010/10/17(日) 01:02:05.38 ID:nFgIxCoxP

キョン「ハルヒ……!?」

髪の毛も顔立ちも体つきも、全てがハルヒと同じだった。
細部の人形らしい作りを無視すれば、本人と見間違えさえしそうだ。
ただ一つの違いは、あの傲岸不遜な表情の代わりに、虚ろで儚げな顔を浮かべている事だけだった。

キョン「こっ……これは」

俺は無意識の内に詳細ページを開いていた。

キョン「……っ!!」


ぼんやりと口を開いたまま、しどけなくO房を晒しているハルヒ……
おぼろげで繊細な、一度も見せた事が無い表情を浮かべつつ、乱れた服を纏っているハルヒ……


キョン「…………」

23: 2010/10/17(日) 01:05:32.84 ID:nFgIxCoxP

ハルヒが、あのハルヒが、こんな表情を見せるなんて。




そのハルヒは夢の中にも現れた。
俺は物言わぬハルヒをひたすら愛撫している。
胸を揉まれ、局部を撫でられても、ハルヒは何も言わない。顔色一つ変えずに、虚ろな目を空に漂わせているだけだ。

24: 2010/10/17(日) 01:07:12.14 ID:nFgIxCoxP



ハルヒ「はぁ? バイト?」

キョン「ああ」

ハルヒ「そんなの認めないわ! 部活に支障が出たらどうするのよ!」

キョン「頼む。この通りだ」

ハルヒ「ちょ……ちょっと」

キョン「なるべく部活とは被らないようにする。バイトさせてくれ」

ハルヒ「やめてよ……いきなり何よヘコヘコしちゃって」

キョン「……」

ハルヒ「……わ、わかったわよ……勝手にしなさいよもうっ!」

キョン「悪い……」

28: 2010/10/17(日) 01:13:23.19 ID:nFgIxCoxP

いまや俺の心はあの人形に囚われていた。
早くあれを買いたい。一日一刻も早く、金を貯めてあの人形を買うんだ。

でないと俺は、壊れてしまうかもしれない。



ハルヒ「あんた……ちょっとは休んだらどうなの?」

キョン「……わりぃ、何て言った?」

ハルヒ「無理しすぎって言ったの!! 見るからに疲れてるじゃない!」

キョン「ああ……まぁな」

ハルヒ「……そんなにお金が必要なの?…………何かあったわけ?」

キョン「……別に」

30: 2010/10/17(日) 01:16:18.78 ID:nFgIxCoxP

ハルヒ「そう……」

キョン「大した事ない……気にすんな」

ハルヒ「……ねぇ、キョン」

キョン「ん?」

ハルヒ「あ、あんたバイト忙しくてどうせロクなもの食べてないでしょ。あ、あたしが何か作ってあげてもいいわよ」

キョン「なっ……」

ハルヒ「べ、別に勘違いしないでよ!? 団員を気にかけるのは団長の義務だからっ……」

キョン「…………」

ハルヒを異性として意識していない訳ではない。ドキッとする事もある。
客観的に見てもそうでなくても、ハルヒは可愛いと思うし、
色々と肉体的なあれこれをしてみたいと感じる事もそりゃある。健全な男子なら当然だ。

31: 2010/10/17(日) 01:19:27.81 ID:nFgIxCoxP

キョン「そんな……気を遣わなくてもいいぞ? 本当に大した事じゃないんだ、だから」

ハルヒ「……もう!!分かったわよ! もう知らないっバカキョンッ」

キョン「ちょっ……おい」

ハルヒ「うるさいっ!!」

キョン「……」

可愛いとは思う。彼女にしたいと思わない訳ではない。
だがしかし、やはりあの気性が……

谷口「見てたぜキョン~ヘマやらかしたな」

キョン「ええいうるさい! 見てんじゃねぇ」

32: 2010/10/17(日) 01:22:34.75 ID:nFgIxCoxP

人形嗜好に目覚めてから、二つ分かった事がある。

一つ目は、俺が生来の人間嫌いだという事だ。
生きている人間を相手にするなんて恐ろしい。罵られたり、裏切られたり、嫌な事ばかりじゃないか。
それに比べ、人形の美しさと完璧さと言ったらもう……

二つ目は……俺はハルヒが好きだったのかもしれない、と言う事だ。
無意識の内にでも、ハルヒに惹かれていたから、あいつに似た人形をこんなにまで求めるようになったのだろうか。
それとも、先に人形に惚れてから、人形に似ているハルヒを気にするようになったのだろうか?


キョン「……」

34: 2010/10/17(日) 01:28:28.58 ID:nFgIxCoxP

考えている内に、俺は一つの結論に達した。

俺はハルヒが好きなんだ。だが、付き合っていく中での軋轢や不和は我慢できない。耐えられない。
だから、あの人形は俺にとって最高なんだ。俺を罵らない、殴ったりもしない、静かで静謐なハルヒ。
それこそ俺の求めるものだったんだ。

キョン「ハルヒ……」

35: 2010/10/17(日) 01:31:18.05 ID:nFgIxCoxP

寝る間も惜しんでアルバイトに励んだ甲斐もあり、遂に目標の金額まで貯める事に成功した。
親と妹が出払うタイミングを狙って、時間指定配達を頼んだ。

キョン「はぁ……はぁっ……まだかっ……まだなのか」

頬を撫でたい……髪を梳いてやりたい……抱きしめたい……早く、早く会いたい……

キョン(こんなにドキドキしたのは初めてかもしれん)



ピンポーン



キョン「!!」

36: 2010/10/17(日) 01:34:05.76 ID:nFgIxCoxP

「××××さん宛てのお届け物です。サインか印鑑を」

サインを書く手が震えた。
箱を受け取ると、全身に喜びが満ち満ちていくを感じた。

部屋に運び入れ、俺は箱を開いた。


「……」


それは恭しく綺麗に飾られた装丁の中で、生まれたままの姿で横たわっていた。
見れば見るほどハルヒにそっくりだった。ただ一つ、どこを眺めているのか知れない虚ろな視線だけを除いて。

キョン「……ハルヒ……っ」

37: 2010/10/17(日) 01:37:55.07 ID:nFgIxCoxP

頬を両手で包んでみる。柔らかい肌の感触が伝わる。

「……」

ハルヒはされるがままに、静謐な顔を浮かべながら俺を受け入れた。

キョン「ハルヒっ……ハルヒ……ハルヒ……ハルヒッ……」

「……」


それから毎晩、俺とハルヒはベッドの中で睦言を交わした。
普段は箱に入れてクローゼットの中に隠している。家族に見つからないようにするのも一苦労だ。

39: 2010/10/17(日) 01:42:10.00 ID:nFgIxCoxP



古泉「何か良い事でもあったのですか? 活き活きとしてますね」

キョン「そうか?……別になんでもねえよ」

みくる「アルバイトの方は一段落ついたんですか?」

キョン「ああ、もう辞めたよ」

ハルヒ「なんだ辞めてたの?」

キョン「流石に体が持ちそうにないんでな……しばらくバイトは控えとく」

ハルヒ「……ふん、そう言うと思ってたわ! 怠け者で飽きっぽいキョンのことだし」

キョン「はいはい」

40: 2010/10/17(日) 01:44:03.59 ID:nFgIxCoxP

ハルヒ「これからはより一層SOS団に尽力するのよ! 分かったわね!」

キョン「分かったよ」

妙な気分だ。
目の前のハルヒは大声でまくし立てる。目を吊り上げてやたら表情を変化させる。
夜になれば無言で俺に弄られ放題なのにな。

42: 2010/10/17(日) 01:45:41.61 ID:nFgIxCoxP

ギシッ ギシッ


キョン「はっ……はぁっ……ハルヒっ…!」

「……」

キョン「ハルヒっ……!好きだっ…………うっ」

「……」

キョン「ハァ……ハァ……」

「……」

キョン「ふぅ」

43: 2010/10/17(日) 01:48:57.19 ID:nFgIxCoxP

横たわったハルヒを立たせて、乱れた服を綺麗に整える。
ハルヒは何も言わない。表情一つ変えない……

キョン「……ハルヒ?」

「……」

キョン「…………」

購入してから更に数カ月後。
何度も行為を重ねていくにつれて、目の前のハルヒを抱くにつれて、
今まで感じていたリアリティが薄れていくのを、俺は痛切に感じ始めていた。

キョン「…………」

「……」

キョン「…………」

肌に触れてみる。合成樹脂の柔らかな触感が手に伝わる。

キョン「……これじゃない」

46: 2010/10/17(日) 01:50:19.54 ID:nFgIxCoxP

俺は理解した。

キョン「俺は人形が好きだったんじゃない……」

キョン「ハルヒが好きだったんだ。何も言わないハルヒが好きだったんだ」

ずっとこの人形を、ハルヒと思い込む事が出来たらよかったと思う。
だが俺は気付いてしまった。これは人形に過ぎなくて、俺が本当に求めていたのは、本物のハルヒだって事を。

キョン「……」

51: 2010/10/17(日) 01:51:53.14 ID:nFgIxCoxP

でも、それで、俺はどうすればいいんだ?
何も言わない人形のようなハルヒなんて有り得ない。ハルヒはいつだってペラペラと喋り、叫び、罵る。
それじゃ駄目なんだ……人形のように静謐で、何をされても物を言わないハルヒなんて……この世に存在しない。

キョン「…………」


この世に存在しない?


53: 2010/10/17(日) 01:53:22.34 ID:nFgIxCoxP


ハルヒ「ちょっとキョン……どこまで行くのよ」

キョン「……」

ハルヒ「……まさかアンタ、人気のない所に連れ込んでヘンな事しようってんじゃないでしょうね」

キョン「そんなんじゃねーよ」

ハルヒ「そ、そう……」ドキドキ

キョン「……」

ハルヒ「……」

きっとハルヒは告白だとかそういうのを意識してるんだろうと思う。
そういう雰囲気になってる事くらい自分でも分かる。

56: 2010/10/17(日) 01:55:51.78 ID:nFgIxCoxP

ハルヒ「ちょっと!そろそろ用件を言いなさいよ!団長を単独で呼び出したりして、つまんない理由だったら承知しないわよ!」

キョン「ああ……」

でもハルヒ。俺はお前が好きなんじゃない。人形みたいに静かなお前が好きなんだ。

ハルヒ「……キョン?」

キョン「……」

俺はハルヒを押し倒すと、首に両手をかけてそのまま締め上げた。
ハルヒは狂ったように手足を振り回し、俺の背中を蹴り、顔を引っ掻いた。

ハルヒ「っ…が……ぁっ……っ…!」

涎を垂らし喘ぐハルヒを見下ろしていると、何故だか涙が込み上げてきた。
しばらくそうしているうちに、荒々しかった呼吸が徐々に静かになっていった。
涙のしずくが頬を伝い、ハルヒの顔の上に落ちると、俺はハルヒがもう息絶えてた事を知った。

59: 2010/10/17(日) 01:59:55.99 ID:nFgIxCoxP

キョン「……」

「……」

キョン「……ハルヒ?」

「……」

目の前のそれは完璧な存在だった。
本物のハルヒが、他に無い唯一のハルヒが、人形のように静かに固まっている。

キョン「ハルヒ……」

「……」

いや、それはハルヒであって人形でもあった。
本物のハルヒでも、人形でも辿り着けなかった、俺の理想だった。

キョン「好きだ……ハルヒ、大好きだ……」

「……」

63: 2010/10/17(日) 02:02:11.07 ID:nFgIxCoxP

俺はハルヒを抱えて家に帰った。
首の跡さえ気付かれなければ、気を失った女の子を家まで送っている男子生徒にしか見えなかっただろう。

部屋のベッドに寝かせると、俺は途方も無い充足感に満たされるのを感じた。

「……」

キョン「ハルヒ……」

物言わぬハルヒの顔を、俺はいつまでも眺め続けていた。

66: 2010/10/17(日) 02:06:07.41 ID:nFgIxCoxP

服を脱がし、白い肌の真ん中に包丁を入れた。
完璧に綺麗な肌に傷を付けていく事に背徳と快感を覚えた。

キョン「……」

正直、心が痛んだ。
でも仕方ない事なんだ。後の事を考えたら、これは絶対に避けられない処置なんだ……
自問自答しつつ、俺はハルヒの腸を引きづり出した。

キョン「うっ……」

赤黒く長い臓物を掴み出すと、吐き気が込み上げてきた。

キョン「ハルヒ……ごめんな、あとちょっとだから……」

69: 2010/10/17(日) 02:13:09.98 ID:nFgIxCoxP

どれくらい経ったか分からない。
綿を詰め終わると、俺は溜め込んだ疲労がどっと溢れるを感じた。

キョン「はぁ……はぁ……終わった……っ」

「……」

青く冷めきった肌に返り血が付いていた。
乾き切ったハルヒの血は赤いと言うより最早黒かった。

キョン「ごめんな……今拭いてやるからな……」

用意していた薬品を綿に染み込ませ、ハルヒの体を万遍無く拭いた。

「……」

キョン「あぁ…………綺麗だ……」

78: 2010/10/17(日) 02:21:12.02 ID:nFgIxCoxP

それから俺は毎晩、毎日、ハルヒと過ごした。
不可解なのは、それから一度も、警察も知り合い、親や妹さえ家に来なかったことだ。

俺はハルヒと二人、いつまでもそこに居続けた。

キョン「……ハルヒ、まさかお前のおかげか?」

「……」

キョン「……まさかな」

こんな形で結ばれる事をハルヒが望む訳無いだろう?

キョン「……」

「……」

81: 2010/10/17(日) 02:23:40.17 ID:nFgIxCoxP

だが俺はそれを信じる他無かった。

何故なら、ベッドに横たわるハルヒの顔が、この上なく幸せそうに見えたから。


「……」



<終>

引用: キョン「人形性愛……?」