1: 2011/04/25(月) 21:21:37.02 ID:LHK/uDTP0
☆桜田家・リビング・薔薇乙女定例会議・議題『八百長疑惑』


真紅「非常に残念なことながら、姉妹の中に
    アリスゲームで不正を行っていた者がいるのだわ」

雛苺「八百長なの!」

水銀燈「はぁ? なによそれ? せこい真似する奴もいたものね」

金糸雀「楽してズルするカナでも、出来レースは許せないかしら!」

翠星石「全くですぅ。お天道様は誤魔化せても、お父様までは誤魔化せないですのに」

蒼星石「誰なんだい? その不届き者は」

雪華綺晶「不埒ですわね」

薔薇水晶「……」
ローゼンメイデン 愛蔵版 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)
4: 2011/04/25(月) 21:24:09.25 ID:LHK/uDTP0
ジュン「おい、全員知らないって言ってるぞ、真紅?」

真紅「素直に白状するなら許してあげようかとも思っていたけど
    どうやら物的証拠を突き付けない限り、しらばっくれるつもりね。
    翠星石、例の物を」

翠星石「はい。これです」さっ

金糸雀「携帯電話?」

蒼星石「え!? それ、ひょっとして僕の……!?」

真紅「いかにも、これは蒼星石の携帯電話なのだわ」

蒼星石「ば、馬鹿な!? マスターの家に置いてきたはずなのに!?」

ジュン「携帯しろよ」

金糸雀「何で蒼星石の携帯が証拠なのかしら?」

雪華綺晶「ひょっとして蒼のお姉様が八百長を……ですか?」

蒼星石「ち、違う!」

6: 2011/04/25(月) 21:26:13.49 ID:LHK/uDTP0
翠星石「罪を認めるです蒼星石。
     翠星石は見ちゃったんですよ……蒼星石のメールを」

蒼星石「!? やっぱり君が勝手に持ってきて? て言うか中を見たの!?」

翠星石「可愛い妹が出会い系サイトとかで、危ない遊びをしていないか確認するためですぅ」

蒼星石「だからって!」

真紅「DAKARAも力水もないのだわ蒼星石」

蒼星石「し、しかし、僕は八百長なんてしていない! これだけは確かだ」

翠星石「往生際が悪過ぎるですよ」

蒼星石「い~やっ! 天地神明に誓って八百長はしていない! お父様にも誓う!!」

真紅「ふぅ、しょうがないのだわ。問題のメールを公開するしかないわね」

8: 2011/04/25(月) 21:33:31.01 ID:LHK/uDTP0
no title


蒼星石「ッ!?」

水銀燈「ッ!?」

薔薇水晶「これが……証拠?」

雪華綺晶「メールの相手は黒薔薇のお姉様」

金糸雀「……と言うことは」

真紅「ええ、その通り。八百長をしていたのは水銀燈と蒼星石」

雛苺「悲しい事実なの」

9: 2011/04/25(月) 21:35:53.68 ID:LHK/uDTP0
水銀燈「ちょちょちょ、ちょーっと待ったぁ!!」

蒼星石「このメールのどこが八百長の証拠だって言うんだい!!」

水銀燈「そそそ、そーよそーよ!」

翠星石「随分と取り乱しているですねぇ水銀燈。
     その慌てっぷりは最早、自白したも同然ですぅ」

水銀燈「ぬ!?」

真紅「『星』だなんて言葉でオブラートに包んだつもりでしょうけど
    これがアリスゲームの勝ち星を意味していることは明白なのだわ」

金糸雀「確かにそうとしか受け取れない文面かしら」

薔薇水晶「二つ……ということは二勝分を貸していたと?」

蒼星石「ふ、深読みし過ぎだ! この『星』ってのはそういう意味じゃない!!」

ジュン「ほぉ。じゃあ、どーゆー意味だ?」

水銀燈「そ、それは……」

真紅「それは?」

11: 2011/04/25(月) 21:38:58.27 ID:LHK/uDTP0
水銀燈「それは、エスポワール号で限定ジャンケンの時に……」

蒼星石「そ、そう! 水銀燈が持っていた星が無くなっちゃったから……僕のを」

雪華綺晶「なんでお姉様達がエスポワール号に乗ってるんです?」

水銀燈「エ、エスポワール号じゃ無かったわぁ。
     決闘者王国(デュエリストキングダム)行きの船に乗った時よ! ね、蒼星石!?」

蒼星石「そ、そうそう! 水銀燈ったら他の乗客にエクゾディア捨てられちゃって……」

薔薇水晶「エグゾディアと星、関係無くありませんか?」

金糸雀「そもそも、カイジはともかく遊戯王だと星の貸し借りは反則かしら」

ジュン「つっこむところはそこかよ」

蒼星石「うう……」

水銀燈「くく……」

翠星石「二人とも悪あがきはやめるです。
     素直に吐いて早く楽になっちまった方がいいですよ~」

蒼星石「水銀燈……」

水銀燈「わ、分かったわよ。本当のこと言えばいいんでしょ、言えば」

真紅「ようやくお縄につく覚悟が出来たようね」

12: 2011/04/25(月) 21:41:14.81 ID:LHK/uDTP0
水銀燈「いいえ。『星』とは『お金』のこと」

真紅「は?」

雛苺「お金ぇ?」

金糸雀「蒼星石はお金を水銀燈に貸していたのかしら?」

蒼星石「ああ、『星』一つにつき千円。星二つ返してってのは二千円返してってこと」

翠星石「な、なんで『星』なんて誤解を招く表現を使っているです!?」

水銀燈「利子が付いてんのよ。千円につき一円だけの可愛いものだけどね」

薔薇水晶「千円に一円……千一円……千一?」

雪華綺晶「ひょっとして星野仙一監督をモジって?」

蒼星石「……」

水銀燈「……」

ジュン「く、くだらねぇ」

13: 2011/04/25(月) 21:43:18.54 ID:LHK/uDTP0
蒼星石「し、しかし! これで僕達が八百長をしていないってことが分かっただろ!」

水銀燈「そうよそうよ! よくも疑ってくれたわね!! 謝罪と賠償を要求するわ!」

真紅「疑われるような真似をする方が悪い」

水銀燈「ぐ!」

ジュン(言い切りやがった)

翠星石「ついでに言うなら、姉妹間でお金の貸し借りをしていることも問題ですぅ」

金糸雀「本当かしら。しかも、きっちり利子まで取り立てるなんて」

蒼星石「うちの家訓で、親兄弟相手でもタダで金は貸すなと」

ジュン「案外がめついトコあるんだな、結菱さん」

雛苺「だからお金持ちなのね」

14: 2011/04/25(月) 21:45:34.87 ID:LHK/uDTP0
のり「みんな~、おやつよ~」



真紅「あら? もう、そんな時間?」

翠星石「きりよく八百長疑惑も晴れたところです」

雛苺「みんなでおやつタイムなの!」

蒼星石「ちょ、ちょっと? 翠星石が勝手に僕の携帯を見ていた件については?」

翠星石「ほらほら、早くしないとおやつが無くなるですよ蒼星石」

蒼星石「え、ああ、うん……」

水銀燈「何か釈然としないんだけど」

雪華綺晶「クラスの終わりの会で、些細なことで公開処刑された感じですわね」

薔薇水晶「……言えてる」

金糸雀「しかも濡れ衣だったかしら」

15: 2011/04/25(月) 21:47:38.45 ID:LHK/uDTP0
のり「ほ~ら、今日のおやつはスイカよ!」ゴロンゴロン

真紅「わぁい」

水銀燈「わぁい」

蒼星石「もうスイカが出回り始めるような季節になったのか」

のり「商店街の福引で当たったの! 一人一玉あるからね!」

ジュン「一人当たりの配分がデカ過ぎるだろ」

のり「だ~って全部で十玉もあるのよ? 早く食べないと傷んじゃうし」

ジュン「だからって……」

16: 2011/04/25(月) 21:50:03.47 ID:LHK/uDTP0
のり「さ、それじゃあ水銀燈ちゃんから好きなスイカ選んでいいわよ」

水銀燈「え? わ、私から?」

のり「勿論。お客様だし、こういうのはお姉ちゃんから!」

水銀燈「ほ、本当にいいの!?」

のり「ええ」

水銀燈「あなたって本当はいい人間だったのねぇ」



薔薇水晶「何か随分と感動しているようですね水銀燈」

金糸雀「姉扱いされることは滅多に無いからかしら」

真紅「そもそも姉としての威厳に問題あるからなのだわ」

翠星石「妹に金借りてるですしね」

蒼星石「のりさんも長姉だし、何か通じるものでもあるんだろうか?」

17: 2011/04/25(月) 21:52:50.67 ID:LHK/uDTP0
水銀燈「さて、あんた等には悪いけど、一番良いスイカ貰ってくわよ」

真紅「あなたにスイカの目利きが出来て? 水銀燈」

水銀燈「ふ、そんなの簡単よぉ。人間、体重計を持って来なさい」

ジュン「え?」

水銀燈「聞こえなかったの? 体・重・計!! それとも、この家に体重計は無いの?」

のり「体重計ならここにあるけど……」

水銀燈「なんだ、やっぱりあるじゃない。ほら、早く貸して」

のり「う、うん」



水銀燈「えーと、こっちよりもこっちの方が重い……こっちは……」

薔薇水晶「ぜ、全部の重さをはかるつもりなので?」

水銀燈「何よ? 当たり前でしょ」

金糸雀「いくらなんでも、それはしみったれすぎるかしら」

真紅「ただでさえ地に落ちていた姉の威厳が地下マントルへと潜って行ったわね」

翠星石「今頃ブラジルまで貫通してんじゃねーですか」

18: 2011/04/25(月) 21:55:06.29 ID:LHK/uDTP0
水銀燈「よし! このスイカが一番重い! てことは、これが一番良いに違いない!
     それじゃあ確かに頂いてくわよぉ!!」

雪華綺晶「やっと選び終わりましたわね」

水銀燈「あははは、貰っちゃった貰っちゃたぁ! スイカ貰っちゃったぁ!」ダダダ

のり「え!? あ、水銀燈ちゃん帰っちゃうの!?」

水銀燈「あはははははははははは」ダダダ

ジュン「あーあ、行っちゃった。スイカ一個でテンション上がり過ぎだろ」

蒼星石「多分、持ち帰ってマスターと一緒に食べるつもりなんだろう。
     一番重いのを慎重に選んだのも、きっとマスターのため」

真紅「でも、帰り際はちびまる子ちゃんの山田に限りなく近かったわよ」

19: 2011/04/25(月) 21:58:14.04 ID:LHK/uDTP0
のり「じゃ、次は金糸雀ちゃん。どうぞ」

金糸雀「カナもみっちゃんのために美味しいスイカを選ぶかしら!」

ジュン「お前も体重計で重かったやつを選ぶのか?」

金糸雀「重い=美味しいとは限らないかしら! いくわよ、ピチカート!」ばっ

蒼星石「バイオリンを構えた? 金糸雀、何を!?」

金糸雀「シトラス・マルテラート!!」♪ギッギッゴッギッゴッ


スイカ『♪ぽぽぽぽ~ん』


真紅「な、何!? 金糸雀がバイオリンを弾いたら……」

雪華綺晶「あいさつの魔法みたいな音がスイカ達から!?」

薔薇水晶「ひょっとして……音波検査?」

20: 2011/04/25(月) 22:01:51.96 ID:LHK/uDTP0
金糸雀「ふふふ、そのとおりかしら。古来より、スイカを叩いて反響音で
     食べ頃を判断するのが通。カナはそれをバイオリンの演奏で代用したの。
     と言うワケで、このスイカを頂くかしら~」

翠星石「え? 今のだけで、どのスイカが一番美味しいか分かったのですか!?」

金糸雀「モチのロンかしら!
     いいお土産がみっちゃんに出来たわ、さよならかしら!」ダダダ

のり「みっちゃんさんにもよろしくね~」



真紅「水銀燈の十分の一にも満たない時間で、スイカを選び終わったわね」

蒼星石「しかも、凄いスマートな方法で」

雪華綺晶「複数のスイカ全てを正確に共鳴させる奏法……
       そして反響を的確に捉え、判断した耳と頭脳」

翠星石「食べ物が絡むと金糸雀はとんでもないスペックを発揮するです」

22: 2011/04/25(月) 22:04:04.46 ID:LHK/uDTP0
のり「では次は蒼星石ちゃん、どうぞ」

蒼星石「はい」

翠星石「!? 何故、翠星石よりも蒼星石が先なんですか!? のり!
     翠星石が姉で蒼星石は妹です! 間違えちゃ嫌ですぅ!」

のり「間違えてないわ。お客様が先なだけ。我慢して翠星石ちゃん」

ジュン「最初に同じこと言ってただろ」

翠星石「あ……」

雛苺「食べ物が絡むと翠星石は見境が無くなるの」

23: 2011/04/25(月) 22:06:49.10 ID:LHK/uDTP0
蒼星石「えーと、それじゃあ僕はこれを」

のり「それでいいの? じっくり選んでいいのよ蒼星石ちゃん」

蒼星石「はい、大丈夫です」

翠星石「? 蒼星石は何を基準にスイカを選んだんですぅ?」

蒼星石「ああ、さっきの金糸雀の音の反響は皆にも聞こえてただろ?
     僕も自分なりに自分の耳を信じて選んでみた」

雪華綺晶「お姉様も随分と抜け目のない」

薔薇水晶「実にしたたかですね」

蒼星石「それじゃ! 僕も家に帰ってマスターと食べるから!
     ありがとうございます、のりさん!」ダダダ

のり「結菱さんによろしくね~」

25: 2011/04/25(月) 22:09:47.77 ID:LHK/uDTP0
のり「次はゆっきーちゃんよ!」

雪華綺晶「では私は、これで」

真紅「白薔薇もチョイス早いわね。蒼星石と同じ方法?」

雪華綺晶「いえ、長々と悩んでも私には分かりませんので
       取り敢えず自分に一番近いスイカを」

翠星石「白薔薇にしては随分と控え目な判断ですね」

のり「はい最後、待たせてごめんなさい! 薔薇水晶ちゃん!」

薔薇水晶「……これ」

雛苺「薔薇水晶はどうしてそれにしたの~?」

薔薇水晶「……なんとなく」

ジュン「どんどん選び方が適当になっていったな」

薔薇水晶「そもそも……これらのスイカにそれほど差があるとも思えません」

真紅「言っちゃった」

雪華綺晶「では、持ち帰ってオディールと食べます」

薔薇水晶「私もお父様と……」

のり「は~い。今日はみんなお疲れ様! 家族の方にもよろしくね~」

26: 2011/04/25(月) 22:12:17.18 ID:LHK/uDTP0
のり「さ、残ったスイカはみんなで食べましょう! 今から切るからね」

翠星石「あ、翠星石に一玉切らせてくれです」

のり「? いいけど」

ジュン「お前包丁なんて使えるのか?」

翠星石「ふふん、刃物の扱いのコツは蒼星石から仕込まれているです。
     そこで翠星石の手並みを指くわえて見てろです」

ジュン「へいへい」

翠星石「一度、やってみたかったんですよね。この切り方!」しゅるしゅるしゅる

真紅「リンゴの皮を剥くように!?」

のり「上手ねぇ! 翠星石ちゃん!」

雛苺「スイカが真っ赤な玉に変身したの!!」

翠星石「じゃじゃーん! こいつを丸かぶりしてやるです!!」

ジュン「悔しいけど、素直に羨ましい」

27: 2011/04/25(月) 22:15:17.04 ID:LHK/uDTP0
真紅「なら私も自分流に切らせてもらうのだわ。翠星石、包丁を貸して頂戴」

翠星石「ほい」

真紅「あらよっと」すぱっ

ジュン「スイカのてっぺんだけ切ってどうする気だ?」

真紅「あとはここからスプーンでほじくって食べるのだわ。
    スイカの皮がそのまま容器と言うワケ、風流でしょ?」

ジュン「風流……なのか?」



真紅「雛苺も自分で切ってみる?」

雛苺「ヒナはいいの! のりに切ってもら~う!」

のり「はいはい、ジュン君も普通の切り方でいい?」

ジュン「ああ」

30: 2011/04/25(月) 22:18:26.41 ID:LHK/uDTP0
no title
真紅「ムシャムシャ」ほじほじ

翠星石「ムシャムシャ」がりがり

雛苺「ムシャムシャ」しゃくしゃく

ジュン「ムシャムシャ」しゃくしゃく

のり「ムシャムシャ」しゃくしゃく

31: 2011/04/25(月) 22:21:18.66 ID:LHK/uDTP0
のり「ふう、果物でお腹いっぱいになるなんて贅沢よねぇ」

翠星石「ままま、全くですぅ……」がりがり

ジュン「大丈夫か翠星石、顔が青くなっているぞ? 食べきれるのか?」

真紅「その切り方をした以上、全部食べないと勿体無いわよね」ほじほじ

翠星石「も、盲点だったですぅ」がりがり

ジュン「無理そうなら僕も手伝ってやるから。食べ物を無駄にはするなよ」

のり「ジューン君、それだったら自分のスイカもちゃんと食べて下さい。
   ほら、まだ皮に赤いところが残ってる」

ジュン「? 別にいいだろこれくらい。カブトムシじゃあるまいし」

のり「だーめ、ほらヒナちゃんを見て」

ジュン「へ?」

雛苺「うゅ」バリバリ

ジュン「皮まで食ってるじゃねーか!!」

真紅「皮を残すという発想は、雛苺に無いのだわ」

ジュン「虎眼流の内弟子か」

33: 2011/04/25(月) 22:24:39.31 ID:LHK/uDTP0
翠星石「チ……チビ人間……」

ジュン「どうした翠星石? もう限界か……て、スイカが無い!?
     全部食べきったのか!? やるじゃないか!」

翠星石「う……ぷ……く……」

ジュン「お、おい!? まさかリバースッ……!?」

35: 2011/04/25(月) 22:28:42.91 ID:LHK/uDTP0
no title


ジュン「い、痛っ!? 痛たたたったたたったたた!?」

翠星石「ふぅ~、スッキリしたですぅ」

ジュン「お、お前なあ……!!」

真紅「食べるのにやけに手間取っていたと思ったら
    スイカの種だけ口に溜めこみ続けていたのね」

翠星石「ふふん、ですぅ」

ジュン「何、得意気な顔してやがる。しょうもない悪戯しやがって」

雛苺「そうなの! 種がもったいないのよ!!」

のり「はしたないわ翠星石ちゃん。あと、ちゃんと掃除してね」

翠星石「わ、分かってるですよ……」

36: 2011/04/25(月) 22:31:47.08 ID:LHK/uDTP0
真紅「それはそうと、スイカの種を飲み込んだりはしなかったでしょうね翠星石?」

翠星石「それは大丈夫です。絶対に飲んではいないです」

ジュン「おいおい、まさか種を飲み込んだら、おヘソからスイカが生えるとかいう
     迷信を心配してるんじゃないだろうな?」

真紅「人間なら大丈夫でしょうけど、ローゼンメイデンだと
    そういうメルヘン現象が起こらないとは言いきれないのだわ」

ジュン「マジでか」

のり「あら大変! お姉ちゃんたら全然そこまで気が回らなかったわ!
   ヒナちゃんは種を飲んだりしていないわよね!?」

雛苺「ちゃんと良く噛んで食べたから大丈夫なの!!」

ジュン「ああ、そう」

37: 2011/04/25(月) 22:34:22.78 ID:LHK/uDTP0
☆翌朝・桜田ジュンの部屋


ジュン「おい……人間なら大丈夫って……言ったよな?」

真紅「ええ」

ジュン「じゃあ、どうして僕のおヘソからスイカの芽らしきものが生えてきてるんだよ!?」

翠星石「さあ」

ジュン「『さあ』じゃねーよ!! これ、あれだろ! 絶対お前だ! 翠星石のせいだ!
     お前が種ふきつけたせいだ!」

翠星石「な、なんですとー! 責任転嫁もいい加減にするです!!
     自分がスイカの種を飲み込んだだけに決まってるです!」

ジュン「ああもう……どうすりゃいいんだよ。
     明日から月曜日なのに、このままじゃまた学校にも行けなくなる!」

雛苺「抜けば?」

真紅「そうよね。抜けばいいのだわ」

38: 2011/04/25(月) 22:37:43.23 ID:LHK/uDTP0
ジュン「……抜こうとしたら痛い」

翠星石「痛いのぐらい男なら我慢しろです」

ジュン「男にしか分からないだろうが、金玉袋の中身まで
    一緒に引き抜かれそうな気持ち悪い痛さが下腹部を駆け巡る」

真紅「金玉が何よ。女は出産の時に鼻の穴からスイカ出すぐらい痛いのだわ」

ジュン「……」

真紅「なによ?」

ジュン「別に……」

翠星石「まあまあ。不毛な議論はやめにして、ここは植物のスペシャリスト。
     物知り蒼星石にヘルプを要請するです」

雛苺「翠星石だって植物のスペシャリストじゃないの?」

翠星石「真のスペシャリストは独断専行はしないものなので~す」

ジュン「つまり自分じゃ、よく分からないってことだな」

真紅「じゃあ、大急ぎで来てくれるように蒼星石の携帯にコールするわね」

40: 2011/04/25(月) 22:41:30.74 ID:LHK/uDTP0
☆十五分後


蒼星石「ジュン君がケツからパイナップルを丸ごと突っ込んで
     口から輪切りにして出したってぇーーー!?」ドタバタ

翠星石「お! 流石に迅速なご到着ですねぇ蒼星石!」

ジュン「それよりも情報が錯綜し過ぎだろ。
     おい真紅、ちゃんと正しい説明をしたんだろうな?」

真紅「緊急事態だから少し大袈裟に言っといたのだわ。方便よ」

ジュン「……」

真紅「なによ?」

ジュン「別に……」

42: 2011/04/25(月) 22:43:55.55 ID:LHK/uDTP0
雛苺「パイナップルじゃなくて、ジュンのおヘソから
    スイカさんの芽がこんにちわしてるのよ、蒼星石」

蒼星石「なーんだ……」しょぼーん

ジュン「そりゃパイナップルの輪切りよりは地味だが、そこまで落胆しなくてもいいだろ。
     こっちは本気で困ってるんだ」

蒼星石「抜くか切るかすればいいじゃないか」

ジュン「そうしようとすると痛いんだってば」

蒼星石「痛い? ちょっと、そのスイカの芽とやらを診せてくれる?」

ジュン「頼む」



蒼星石「……ふむ。これは……」

翠星石「どうです? 何か分かったですか?」

蒼星石「見ただけじゃまだ何とも。この芽や、お腹を触ってみてもいい?」

ジュン「やさしくしてね」

43: 2011/04/25(月) 22:50:22.68 ID:LHK/uDTP0
蒼星石「ふむふむ……なるほど。ありがとうジュン君」

ジュン「で、どうだ蒼星石? このスイカ何とかなりそうか?」

蒼星石「これスイカじゃないよ」

ジュン「え!?」

真紅「どういうこと?」

蒼星石「昨日食べたスイカのことで先入観が皆の頭の中に入っちゃってたんだろう。
     落ち着いて観察すれば、真紅達にも分かったはずだよ。
     これはジュン君の心の樹だ」

雛苺「ジュンの樹?」

翠星石「えぇ!? それってチビ人間の夢の世界にあったチビ樹ですか!?
     確かに小さい樹でしたが、ここまで小さな芽では無かったですよ!」

蒼星石「いや、おへそから生えているのは心の樹の一部……新芽だと思う」

真紅「けど、夢の世界、nのフィールドの樹が何故ジュンのおへそに?」

翠星石「は!? ひょっとしてチビ人間が引きこもりから現実社会に復帰したのを機に
     チビ樹までこっちの世界に進出を!?」

45: 2011/04/25(月) 22:52:59.58 ID:LHK/uDTP0
蒼星石「……たまにだけど人間の精神の樹が本人の体から出てくることはある。
     大体そういった時は、夢の中の樹の方に異常事態が起きているものなんだけど」

翠星石「……」

雛苺「じゃあジュンの夢の中に確かめに行かなくちゃなの!」

真紅「そうね! よし! 眠りなさい! ジュン!!」

ジュン「まかせろ! ぐー……zzZ」ばたん

蒼星石「早っ!?」

翠星石「ヤローが眠りに就くのに、そうそう尺を取ってはいられないです」

蒼星石「尺て」

46: 2011/04/25(月) 22:58:42.51 ID:LHK/uDTP0
☆夢の中へ


ジュン「ここも久しぶりだな。僕の樹も少しは成長したかな」

翠星石「変に期待するのはやめておいた方がいいですよ。
     人の樹の成長とは現実の植物よりもゆっくりなことがほとんどです。それに」

真紅「蒼星石の予想が正しければジュンから樹の芽が出たということは
    こっちの樹が何かしらのピンチなはずなのだわ」

雛苺「枯れてないか心配なの」

蒼星石「心の樹が枯れていればジュン君本体も
     心神耗弱になっているはずだから、そこまでひどい状態では……」

翠星石「お、そろそろチビ人間のチビ樹が見えてきたですよ」

真紅「遠目には異常なさそうに見えるけど……?」

蒼星石「!? いや、よく見て!! 樹に大量のイモムシ発生してる!!」

翠星石「ほほう、チビ人間のヘソの芽は虫の仕業だったですか」

47: 2011/04/25(月) 23:01:42.12 ID:LHK/uDTP0
ジュン「うわああああああ、僕の樹がイモムシだらけええええええ!!」


イモムシ『ムシャムシャ』


真紅「猛烈な勢いで葉っぱを食べてるのだわ!!」

蒼星石「なるほど、ジュン君の体から生えてきた芽は
     食べられないように避難してきたというわけか」

ジュン「この虫けらども! やめろ! 僕の樹を食べるな!!」バッバッ

蒼星石「落ち着いてジュン君! 心の樹に群がる害虫に迂闊に手を出すと……!」


イモムシ『モワ~ン』


ジュン「ッ!? 酢っぱ!? 臭ッ!?」

真紅「何!? ゲロ以下の匂いがぷんぷんし始めたわよ!!」

蒼星石「ひゃっぱり……」←鼻つまんでる

翠星石「くああああああ!! この臭いはたまらんですっ!!」

雛苺「退避! 退避~なの!!」

48: 2011/04/25(月) 23:05:01.72 ID:LHK/uDTP0
真紅「ふ~、ここまでは臭いも届かないようね」

翠星石「外敵からは悪臭で身を守るようですね。しかし、酷い目にあったです」

ジュン「……」

雛苺「ジュン、大丈夫?」

ジュン「何か気分が悪い」

蒼星石「自分の樹に大量に虫が湧いてたんだ。気分が良いはずはない。
     それに、このまま放置すれば気分だけじゃ済まなくなる」

真紅「あのイモムシ達は一体!?」

蒼星石「ジュン君が引きこもりから脱出して、やる気を出したもんだから
     心の樹が活性化したんだ。その匂いを嗅ぎつけて親虫が卵を産んだんだろう」

ジュン「どうして僕ばっかりが、またこんな災難に……」

蒼星石「ローゼンメイデンが二体も三体もたかってるんだ。
     虫にとっても魅力的な心の樹なんだよ、ジュン君は」

真紅「釣り餌でも、他の魚の齧りかけのエサの方が良く釣れると聞いたことがあるのだわ」

49: 2011/04/25(月) 23:07:55.49 ID:LHK/uDTP0
ジュン「で、どうすりゃいいんだ? 臭いを我慢してイモムシを取り続けるってのも
     やろうと思えばやれないでもないぞ。自分の生命に関わることだし」

蒼星石「ジュン君の体に心の樹の一部が避難していることだし
     これを利用させてもらってイモムシ達を退治したいと思う。
     一匹一匹を手作業で虫を除く方法だと取り残しが心配だ」

翠星石「お! 我に必勝の計ありですか、蒼星石」

ジュン「考えがあるなら僕は蒼星石に従うよ」

雛苺「ヒナも手伝うの!!」

真紅「早速、実行しましょう」

蒼星石「うん。それじゃ先ずは、あのイモムシの解説をさせてもらっていいかな?」

翠星石「今日の蘊蓄タイムですね」

50: 2011/04/25(月) 23:12:36.26 ID:LHK/uDTP0
蒼星石「ジュン君の心の樹に大量発生している虫、その名を飢蛾(キガ)と言う」

翠星石「飢蛾!? あれが飢蛾の幼虫ですか?
     話には聞いたことがあるですが、実物を見るのは初めてですぅ」

真紅「あまり好意を抱けない名前ね」

蒼星石「その名の通り大食漢でね、このままだと心の樹の葉は全て喰いつくされる」

ジュン「おいおい」

蒼星石「親虫は卵を産む時、心の樹のサイズに応じた数で産みつける。
     ちょうど全てのイモムシ達がちゃんと羽化まで成長できるような卵の数でだ。
     多く卵を産み過ぎて、幼虫が食べる葉に困るような事態には、普通ならない」

雛苺「賢いお母さんなのね」

ジュン「感心してどーする」

蒼星石「そこで僕の作戦としては
     こちらから意図的に幼虫が食べる葉を減らそうと思う」

翠星石「?」

真紅「どういうこと?」

蒼星石「飢蛾にまだ食べられていないジュン君の心の樹の葉を摘んでしまうんだ」

ジュン「な!?」

53: 2011/04/25(月) 23:17:12.76 ID:LHK/uDTP0
翠星石「翠星石達で葉を取っちゃうのですか!?」

真紅「本気なの蒼星石!?」

蒼星石「勿論。飢蛾は幼虫の間、常に葉っぱを食べていないと僅かな時間で餓氏する。
     幸いにして一番大切な心の樹の新芽はジュン君本体のへそに避難している」

雛苺「葉っぱを全部とっちゃってジュンは大丈夫なの?」

蒼星石「ジュン君にも、心の樹にも相当の負担を強いるのは確かだ。
     けど、僕の庭師の鋏であれば枝葉が再生しやすいように切ることが出来る。
     飢蛾に葉を食い荒らされるよりはダメージが少なくて済むはずだ」

ジュン「まさに、肉を切らせて骨を断つ……か」

54: 2011/04/25(月) 23:20:17.14 ID:LHK/uDTP0
蒼星石「ジュン君が嫌なら止めるけど」

ジュン「言ったろ? 蒼星石に作戦があるなら僕はそれに従うし
     蒼星石が上手くいくと思うのなら、僕はそれを信じるさ」

蒼星石「ジュン君……」

真紅「話もまとまったようだし、作戦開始といきましょうか。
    私達はどうすればいいの? 蒼星石?」

蒼星石「僕がどんどん葉を切っていくから、真紅とジュン君は落とした葉を遠くへ捨ててきて。
     翠星石と雛苺は僕が切った痕に、この庭師の膏薬を塗りこんでくれ」

翠星石「はいです」

雛苺「がってんなの!」

55: 2011/04/25(月) 23:22:41.33 ID:LHK/uDTP0
☆小一時間で作業終了


ジュン「……思ったより早く終わったな」

翠星石「所詮はチビ樹ということです」

真紅「葉っぱが無くなった樹に、イモムシが集っているというのも
    ちょっとした地獄絵図ね。」

雛苺「気持ち悪いのよ」

蒼星石「しかし、これであとは飢蛾の餓氏待ちだ。ジュン君、体の調子はどう?」

ジュン「なんともないと言えば嘘になるが、耐えられないほどじゃない。
     へそに生えてる芽の方も今のところ異常無いみたいだし」

蒼星石「飢蛾がいなくなれば、へその芽も自然に心の樹に戻ると思う」

翠星石「あれ? 飢蛾の様子が変ですよ?」

真紅「だから食べ物が無くなって氏に始めたんじゃないの?」

雛苺「違うの! 何かを食べてるのよ!」

蒼星石「何か……て?」

56: 2011/04/25(月) 23:26:52.69 ID:LHK/uDTP0
イモムシ『ガリッ! ムシャムシャムシャ!』

イモムシ『ピギィイィィッ!!』


ジュン「仲間を……食ってる!?」

翠星石「う!?」

真紅「そんな!?」

蒼星石「馬鹿な……っ」


イモムシ『ムシャムシャムシャ』

イモムシ『ピィィィィ! ギピィィィッ!』


ジュン「お、おえぇええっ!」

翠星石「うう、こ、これは……ひどいですぅ」

真紅「けど……それも私達が……」

雛苺「す、すごいの。みんながみんなを食べてるの……
    あ、あの子! 他の子を食べながら……また別の子に食べられてる」

蒼星石「見るな……雛苺! 見るなっ!!」

57: 2011/04/25(月) 23:29:25.28 ID:LHK/uDTP0
イモムシ『ムシャ……ペ口リ……』


真紅「あっという間に一匹だけになったのだわ」


イモムシ『シュー……シュー……』


蒼星石「糸を吐きだした!? 繭を作る気だ!」

翠星石「ど、どうするです? 蒼星石!?」

蒼星石「……最後の一匹だ。こいつを心の樹からはがして潰せばこの樹の飢蛾は全滅する」

ジュン「……」

蒼星石「しかし、繭を作り始めたということは、もう葉を食べることは無い。
     飢蛾は成虫になると口が無くなる。エサどころか水さえ飲まない」

58: 2011/04/25(月) 23:31:54.23 ID:LHK/uDTP0
翠星石「!? 見るです、チビ樹の一番上のところに葉っぱが!?」

真紅「もう葉っぱが生えた!? いつの間に?」

蒼星石「いや、いくらなんでも早過ぎる。あんな目立つ場所なら摘み忘れもしないはず……!
     ひょっとして……ジュン君! おへそは!?」

ジュン「へ? あ! へその芽が……無くなってる……!!」

翠星石「チビ樹自身が、もう葉を食べられることは無いと理解して戻ったというのですか!?」

蒼星石「そういうことだと……思う」


繭『……』


真紅「飢蛾の方はもう……繭になってしまったわよ」

ジュン「……」

60: 2011/04/25(月) 23:35:18.15 ID:LHK/uDTP0
蒼星石「ジュン君の心の樹は……飢蛾の繭は無害なものだと見做している。
     ジュン君は……どうする?」

ジュン「……」


繭『……』


ジュン「こうするさ」ぶちっ

雛苺「ああ、繭を取っちゃったのぉ……」

ジュン「せっかく蒼星石が立ててくれた作戦だ。
     最後の一匹もきっちり退治して……終わりにしよう。
     それにコイツが親虫になるのを見逃せば、また沢山の卵を産んでしまうかもしれない」

蒼星石「うん。ありがとうジュン君」

63: 2011/04/25(月) 23:38:39.90 ID:LHK/uDTP0
☆夢路より帰りて


ジュン「やれやれ朝っぱらから夢見の悪いもの見ちまったな」

雛苺「もうお昼ご飯の時間なの!」

翠星石「流石にあの後じゃあ食欲でねーですよ」

真紅「まさか共食いを始めるとはね。まさに、命ほど強面(つれなき)ものは無し」

ジュン「でも共食いはないだろ共食いは。いくら虫だからとはいえ酷過ぎるよ」

蒼星石「僕は……分からない」

翠星石「へ?」

蒼星石「飢蛾は共食いという道を選んでも一匹だけは生かそうとした。
     でも僕は、初めから一匹も生かすつもりは無かった。
     僕と飢蛾、酷いのはどっちだろうか?」

翠星石「蒼星石、それは……!」

ジュン「僕じゃ駄目か?」

蒼星石「え?」

65: 2011/04/25(月) 23:41:40.81 ID:LHK/uDTP0
ジュン「僕が頼んで、蒼星石が飢蛾を退治してくれたから僕はここにいる。
     流石に元気百倍とまでは言えないが、それなりに気分は良い。
     蒼星石のお陰だよ。本当に助かった……これじゃ駄目か?」

蒼星石「……」

ジュン「蒼星石は僕を助けてくれたんだ。今日の件は誇っていい仕事だよ。
     ありがとう蒼星石」

蒼星石「僕こそ……ありがとうジュン君」





桜田ジュン、飢蛾に遭う。 『完』

66: 2011/04/25(月) 23:42:31.21 ID:dhf7MVtf0
えっ

68: 2011/04/25(月) 23:44:17.85 ID:qUtyJ3iNQ
おつ

引用: 桜田ジュン、飢蛾に遭う。