405: 2019/12/10(火) 01:46:27 ID:NQWsVIhA


ロゼッタ「マリオカートに参戦…ですか?」【前編】
ロゼッタ「マリオカートに参戦…ですか?」【中編】
ロゼッタ「マリオカートに参戦…ですか?」【後編】

ロゼッタ「マリオカートに参戦…ですね、是非!」【1】

ロゼッタ「マリオカートに参戦…ですね、是非!」【2】
ロゼッタ「マリオカートに参戦…ですね、是非!」【3】

……私は、デイジー。

ようやく、本来の自分まるごと、認めてもらえた、幸運過ぎるお姫様。
…まあ、ピーチにも認めてもらってはいるが。

とはいっても。心残りがなくなって一層本腰モードとなった私に対し、
1日2日で耐性ができるなんてことは、あり得なくて。
目の前には、相変わらずの光景が、見事に広がっているんだがな。

――ゼルダ。
プライドのせいで引き下がれなくなったのが大いに災いし、また私に扱かれることに。
遠くから光の弓矢やら炎やらをぱしぱし撃つだけの、クソ詰まらない戦闘を仕掛けてくるものだから。

デイジー「せりゃ」

ゼルダ「があ゙っ…」

不意を衝いて急接近。遅い、反応が遅すぎる。何をやってる。
まだ場外の方がマシだと、自ら身を投げようと更に後退するものだから。
こちらは更に加速して、パンチ一発。

イタイ?クルシイ?そりゃ、拳が胴を貫通してるからそうだろうな。
ゼルダの背の後ろに、何度目か数えるのもだるくなる血飛沫の花が咲く。
amiibo ロゼッタ (スーパーマリオシリーズ)
406: 2019/12/10(火) 01:48:55 ID:NQWsVIhA
デイジー「酷いありさまだな、さっさと残機復活したいよな?
      このまま横に腕を振るって、内臓ぐちゃぐちゃにしつつ体引き千切るから。
      はい、歯を食いしばれ。さん、にぃ、いーち」

ゼルダ「――――――――っ!!――――っ!!!」ポロポロ

私の腕だけで支えられて、宙ぶらりんで。相変わらずの光宿さない眼と、痙攣した手で。
力なく、ペシペシと私の体をはたいて猛抗議の意を示すが。
やる気がないなら、お構いなし。

デイジー「フンッ」ブオォッ

ゼルダ「」ドシャァ

…なんでこうなるのか、わからないものかな。

407: 2019/12/10(火) 01:51:30 ID:NQWsVIhA
デイジー「お次は――」クルッ



ヒルダ「『ファントム・ユガ』召喚っ!!」パアアアア

ファントム・ユガ「WOOOOOOO――!」ズゴゴゴゴ

ヒルダ「わ、わ、私を守りなさいっ!」バッ

ファントム・ユガ「GAAAAAAAA――!」ダダダッ

ファントム・ユガの 槍突き!▼





デイジー「ぎゅっ……ポキッと」

デイジーは 穂の部分を 片手でつかんで へしおった!▼



デイジー「へえ、そんな隠し玉を覚えたのか。面白いな。
     中々の図体してるし、目くらましにはなるんじゃないか?」

ヒルダ「」

408: 2019/12/10(火) 01:53:43 ID:NQWsVIhA
デイジー「これ、返す」ブンッ!!



ファントム・ユガ「」グサッ

ヒルダ「あ゙」ザクッ

ヒルダ「――」バタン



―ヒルダ。
少しは自分の意志で行動しようという気にはなっているみたいだが、
あいかわらず、とりあえず、逃げよう隠れようという意図が見え見え。
力ずくで捻りつぶすだけの力量差もある。話にならない。

ぶん投げた穂の切れ端が首に刺さったのは気まぐれだ。
あ、でも打開を願って成長していることは褒めてやろう。
…いや、3歩進んで5歩戻る精神状態との噂もあるな。

409: 2019/12/10(火) 01:55:40 ID:NQWsVIhA
そして、ロゼッタは――。







ロゼッタ「ハァッ、ハァッ……『浄化』っ!『浄化』っ!『浄化』ぁ――っ!!
     ああもう!せっかく綺麗に掃除したのに、1時間でフィールドが…
     元の木阿弥、赤くて黒くて何か吐かれてて…嫌ああああぁぁ!
     きちゃないです!誰が掃除するというのですか!――どうせ私だけですよ!
     デイジー姫は手伝ってくれませんし!お二人は気力が残っていませんしっ!

     無駄に浄化の熟練度が上がっていく気がします!
     3か月後の私なら、もしかしなくても――あの血濡れの私の衣装、
     自力で蒼色に復元できたのではないですかねっ!?
     もう終わった話ですけどっ!!」シュババババ
 
デイジー「……」

ロゼッタ「ああっ、ゼルダ姫!復活したそばから倒れ込まないでください!
     そこまだ掃除が終わって…あああ、血がべっとりと!
     目に悪いです、再復活まで待っていられません!ちょっと脱がしますよっ!
     …はい、綺麗になりました!ここに置いておきますから着直してくださいね!
     いつまでも下着姿で寝転ばないでくださいね!ねっ!」パアアアア

デイジー「……」

410: 2019/12/10(火) 01:59:06 ID:NQWsVIhA
ゼルダ「――」

ロゼッタ「…………あ、結界を破ってリンクさんが」

ゼルダ「!?」ガバッ

ロゼッタ「ウ ソ で す♪」ペロッ

ゼルダ「――――――――ちょっと殴らせなさい……!!」ゴゴゴゴ

ロゼッタ「……デイジー姫の威を借る、ロゼッタ」スッ!

デイジー「…おい」

ゼルダ「ぐぬぬぬぬ……で、デイジー様。そちら、どいて頂けないでしょうか」プルプル

デイジー(なんというか、ロゼッタの周りだけギャグ空間にでもなっているのかと
      ついつい錯覚してしまうくらい…とても活き活きしている)

デイジー「その必要は、ない」ザッ・・・

ゼルダ「申し訳ございませんでした差し出がましいことを申し上げました
     どうか寛大なご処置を」ガクガクブルブル

デイジー「そういうことではなくて。割とイラッと来たんで私が制裁してやろう」ドゴォッ

ロゼッタ「」ベシャッ

――そんなこんなで、不満はありつつも飽きない1日。

411: 2019/12/10(火) 02:02:22 ID:NQWsVIhA
~次の日~

デイジー「いやあ、朝ごはんがおいしーい!
      ロゼッタ、お代わりあるー?山盛り持ってこーい―!」パクパク

ロゼッタ「はい、いくらでも食べてくださいね!
      …まあ、私が料理したわけでもなんでもないんですが」

すっかり吹っ切れたデイジー姫。元気元気、超元気といったところです。



ゼルダ「……」フラフラ

ヒルダ「――」グズッ

一方、精神的に参ったままの人もいるようです。
ヒルダ姫に至っては碌に食事を摂らずに机(修理済み)に突っ伏しています。
目に光が宿っているようにはみえません。

とりあえず、また休養日というデイジー姫のお達しが出ました。
ゲームの続きでもしましょうか。
…え?薄情じゃないかって?そんなこと…ないですよ?

412: 2019/12/10(火) 02:04:17 ID:NQWsVIhA
デイジー「お、ヤグルマの森かあ。
      もう2つ目のジムまでクリアしたんだー。
      ツタージャ選んどいて、なかなかやるねー」ノゾキコミ

ロゼッタ「…今の言葉で察しました。
     最初のポケモン選択で難易度が変わるのですね?
     不公平なのではないですか?」

デイジー「…ちゃうねん。ツタージャが弱いんやないねん。
      虫に飛行に毒に炎にトドメの氷に、
      草タイプがシナリオで無駄に弱点を衝かれまくるのが悪いねん」

ロゼッタ「むう…レベルアップも結構苦労しました」

ジャノビー Lv28
ヒヤップ Lv.15
タブンネ Lv.13
チョロネコ Lv.12
ヨーテリー Lv.11
マメパト Lv.9

デイジー「バランスわるっ!?単騎同然じゃーん!
     …ついでに言うと、ジャノビーのHPが危ういよ!?
     ピコンピコン鳴ってるでしょこれ!大丈夫!?
     倒されたりでもしたら大ピンチだよー!?」

413: 2019/12/10(火) 02:08:08 ID:NQWsVIhA
ロゼッタ「ここのダンジョンの虫ポケモン達に苦しめられて…
     で、でも、Lv.24でメガドレインを覚えたのです!
     回復しながら戦えるので強いですよ!」

デイジー「どうしてそれで自信が持てるんだってばよ。
      大体、このダンジョン、どこだかわかってるの?もう一度言ってみ?」

ロゼッタ「ですから、ヤグルマの森、ですよね?」

デイジー「…モンメンかクルミルかマメパトかフシデが出たらどうするの?」

ロゼッタ「…その時は体当たりで!」

デイジー「じゃあずっと体当たりだね」

ロゼッタ「え」

414: 2019/12/10(火) 02:12:11 ID:NQWsVIhA
マメパトLv.15「くるっぽー」

あ! 野生の マメパトが 飛びだしてきた!▼

デイジー「あちゃあ、言ってる傍から…食らうとまずいよー?
     逃げよう逃げよう、それか回復だー」

ロゼッタ「大丈夫です!このポケモンは防御力が低いので…
    体当たりで一撃で倒せるはず!
    そして、素早さも――余裕を持って勝っています!」

デイジー「そのレベル差で倒したところで大した経験値が……
     ……………………………………………………………
     ちょっと待ったあああああああああ――――っ!!」

ロゼッタ「……え?」ポチッ

デイジー「」

ロゼッタ「もう押しちゃいま――」



マメパトの でんこうせっか!▼

急所に 当たった!
ジャノビーは 倒れた!▼

ロゼッタ「」

415: 2019/12/10(火) 02:14:53 ID:NQWsVIhA
マメパト「どや」ポッポッポー

デイジー「…………あーあ。しーらない。下手すると全滅するよー」

ロゼッタ「……あ、あの、デイジー姫」

デイジー「んー?」

ロゼッタ「ど、どうして私のジャノビーが…先に攻撃されたのですか!?」

デイジー「そりゃ、相手の技が先制技の電光石火だから、でしょ」

ロゼッタ「…先制技?」

デイジー「……」

ロゼッタ「……」クビカシゲ

デイジー「…あー、ゲーム初心者のロゼッタには、その概念自体がなかったかー。
     ターン制のバトル、対戦を繰り広げるゲームでは…往々にして、
     先制技…すなわち『優先度が高い技』が設けられているんだよ」

ロゼッタ「ゆ、ゆうせんど?」

416: 2019/12/10(火) 02:17:10 ID:NQWsVIhA
デイジー「威力の高い技は、相手に大きなダメージを与えられるから強い。
      命中の高い技は、外すことなく確実にダメージを与えられるから強い。
      
      それと同じように――
      優先度の高い技は、本来の先攻後攻の関係を取っ払って攻撃できる強みを
      主張することで、その他のスペックは低くてもプレイヤーに愛用されるんだ。

      自分の方が先に動ける…と思ってる相手の出鼻を挫けるのは大きいよ。
      …今のがその典型例だね。
     
      ま、ゲームの世界だからこそ設定できる項目だけどねー。
      たとえば現実世界のピカチュウも電光石火は使えるけど、
      あくまで『非常に素早く動く』だけ。

      ゲーム内のピカチュウのように『優先度+1で動く』なんて芸当は
      逆立ちしたってできないよー」

ロゼッタ「……」

デイジー「とりあえず、現状を打開しよう、かあ。
      一応聞いとくけど、最後のレポート、どこ?」

ロゼッタ「…………2番目のジム戦の直前です!
      『かたきうち』を掻い潜ってようやく突破したのに!」サアッ

デイジー「なんでジム突破直後にレポート書かなかったんだー!!」

417: 2019/12/10(火) 02:19:27 ID:NQWsVIhA
~夜~

ヒルダ「…………」

ヒルダ「……誰か、助けて、くださいよう…」シンダメ



シンと静まる、仮眠室。明かりといえば、柔らかに光る小さな電灯一つきり。
私はただ、天井を――そう、天井を。感情もなく見やります。

今日は休息日。そう、「今日」は。
明日になれば、再びデイジー姫が覚醒し。
ロゼッタは何故か喜々として、ゼルダ姫は身から出た錆で特訓に巻き込まれ。
……どうせ、私も――渦の中に囚われる、気がする。

国を背負う女王として、色々と辛いことはあるとは思っていましたが。
延々と命を弄ばれ続けることは、さすがに想定していませんでした。
少し前の情景を思い出したとたん、目の前の景色がぼやけます。

418: 2019/12/10(火) 02:20:42 ID:NQWsVIhA
ロゼッタは、ああは言うけれど。
デイジーの、暴れる絡繰りこそ、わかったけれど。
現実は、何も変わらない。あのとき安心したのは、何だったんだろう。馬鹿みたい。

自分の意志…もとい不手際で参加する羽目になったゼルダ姫とは違って、
私は、これ以上戦う意志だって、強くなりたい意志だってないと、散々主張しているのに。
昨日だけで、何度吐いて、何度血を流して、何度命を奪われたことか。

デイジー、ゼルダ姫、ロゼッタ。誰も、私の弱さを理解してくれていない。
いいように丸め込まれた自分の境遇が…ただただ、恨めしい――!

…寝転ぶまま、涙滲ませながら、強く手を握り締めて…ドス黒い感情に、ハッとする。
こんなに暗い気持ちに、なりふり構わない気持ちになったのは、まるで――

ハイラルから聖三角を奪おうとした時、以来ではないですか。



きっと、私は何かに侵食でもされている。自分が自分でない感覚。
このままだと、コワレテしまう。スデニ、テオクレカモシレナイ。
あと2か月以上だなんて、耐えられない。

419: 2019/12/10(火) 02:22:27 ID:NQWsVIhA
隣を見れば、顔を青くしてうなされながらも、必氏に眠っているゼルダ姫。
…貴方だって、私よりはよほど、マシでしょうに。
私なんて――この瞬間にも発狂しかねないほどの動悸に、発作に、
襲われ続けていると、いうのに――っ!

きっと、今の私、酷い目をしています。
目に光が宿ったかに見えて、血走って、視界に入るもの全て否定したくなるような、目。

反対側のベッドを見れば、どうせ、気ままにすいよすいよと寝息を立てるロゼッタが……。



ロゼッタ「……………………」

ロゼッタ「……………………」



…あれ?

予想に反して、ロゼッタはしっかりと起きていました。
大きく動きこそしませんが、枕に頭を乗せ、私と「同じく」天井を見つめて…………
私と「大違いで」凛とした表情で、何か思案しています。

ヒルダ「…………」

ロゼッタ「…………」

私が横から見つめていることにも気付かず、一点を見つめたまま。

420: 2019/12/10(火) 02:23:56 ID:NQWsVIhA
私が見つめ出してから、5分くらい経ったでしょうか。



ロゼッタ「……………………うん」

ヒルダ「……っ!!」スッ

おもむろにロゼッタが、ベッドから身を起こします。
つい、寝入った振りをしてしまいました。
つたない寝入り方でしたが、何かに気を取られているロゼッタは――
一切気付くことなく、そのままいそいそと、足音を立てずに部屋を出て行きます。

ヒルダ(…………?)

謎の行動に、ちょっと興味が湧いて、荒んだ気持ちも一時的に落ち着いて。

1分。

2分。

5分。

――――10分。



――――30分。

ヒルダ(何を、やっているのでしょうか……確かめに、行きましょう)スッ

421: 2019/12/10(火) 02:26:50 ID:NQWsVIhA
ゼルダ「っ!…………はあっ、はあっ…!!」ガバッ!

傍にある、汲んでおいた水を一気に飲み干します。
どっと流れ出ている汗、汗、汗。



ゼルダ「…酷い、夢を、見ました、ね」ブルッ

顔をつねる。痛いです。――いっそのこと、今もなお夢の方がいいのですが。
時刻を確認。日付が変わったばかりのよう。

…あと数時間で、また地獄がやってくる。震える、体。



みっともない形相を見られたのではと我に返り、周りを見渡せば……え?
別室にこもっているデイジーが居ないのは当然として。
ヒルダ姫のベッドも、ロゼッタのベッドも、もぬけの殻。

一体、どこに消えたというのでしょうか。

422: 2019/12/10(火) 02:29:24 ID:NQWsVIhA
仮眠室を出て、左右を確認。
外界とは閉ざされた、限られた空間…という割に、あまり全容を把握できていません。

とりあえず、フィールドへ向かってみました。…誰も、見当たりません。
不安を抱いて、見当たる扉――ひとつひとつ、開けて確認していきます。

いない。

いない。



やっぱり、いない。



少しずつ、恐れと焦りで、駆け足になっていきます。
お願いですから、誰か――――っ!!

ゼルダ「出て、来なさいよ――――っ!!」ガチャッ!ガチャッ!

ガチャッ!





デイジー「――先ほどから耳障りだ」ドゴオッ

ゼルダ「」チーン

423: 2019/12/10(火) 02:31:12 ID:NQWsVIhA
デイジー「…ふん」ガチャリ

ゼルダ「――――」

奥の部屋まで駆けて行ったところで、既に自己暗示完了状態、
苛つき度MAXのデイジー姫に鳩尾一発、食らいました。
…貫通していませんが、生暖かい物が流れて行って、激痛です。こ、きゅ、うが――。

ふわりと意識がどこか遠くへ行って、気付いた時には傷ひとつなく。
…もう、考えるのは――やめましょう。そうしましょう。
…異常事態発生、というわけではなさそう。
それが分かったのは、不幸中の幸いでした。

触らぬ神に祟りなし、と通路を一目散に逃げ帰ろうとしたところで。





…階段?





柱の陰に隠れていて、仮眠室側からは見えなかった…階段がありました。
誘われるように――2階へと、登っていきます。

424: 2019/12/10(火) 02:36:29 ID:NQWsVIhA
びりっ。

びりりっ。

ゼルダ「…!」ゾワッ



どうしたことでしょうか。
体が、言いようのない魔力を感じ取ります。
ですが、不快な感じではありません。
よりエネルギーの濃い方へ濃い方へと、自然と足が進みます。

どうやら、2階は…部屋数が少ない代わりに、一つ一つの部屋が
贅沢な広さを確保している趣のようですね。扉の数がグッと減りました。



…ヒルダ姫が、いました。



寝間着姿で、体も冷えかねないというのに、
扉の一つをちょっとだけ開けて、中を盗み見しているのでしょうか。

近付こうとすると、ますます魔力濃度は高まります。
…いえ、高まる、なんてものではありません。呑み込まれそうなほどです。
ですが、それでもいいと思えるくらいの、不思議な心地よさ。

425: 2019/12/10(火) 02:38:54 ID:NQWsVIhA
ゼルダ「…ヒルダ姫、探しまし――」

ヒルダ「……」シーーーッ!

話しかけようとしたところで、特段私に驚きもしないヒルダ姫に――制止させられます。
その目は、久方ぶりに、輝いて見えました。

ちょいちょいと、彼女に促されるまま、私も、中の様子を伺います。











ゼルダ「――――――――――――なっ……………………!?」









私はその光景を、二度と忘れることはないでしょう。

426: 2019/12/10(火) 02:41:27 ID:NQWsVIhA
そこにあった、ものは。
さながら、切り取った……宇宙。





ロゼッタ「――――――――」~~~~~~~





目を閉じ、両手をなだらかに下ろし、大部屋の中央に浮かびながら。
聴こえるけれども理解のできない、重ね掛け詠唱《オーバーラップ》を紡ぎ続ける、
神秘的な風貌の大魔法使いと。



ゼルダ「……嘘、でしょ」



彼女を囲み、囲み、囲み過ぎている――
あまりにも多すぎる、大小様々な魔法陣、だったのです。

427: 2019/12/10(火) 02:45:21 ID:NQWsVIhA
私は、これでも魔法は相当に得意な方です。

デイジー姫はそもそもまともに食らってくれないため、どうしようもありませんが…
私の光の弓矢の魔法としての完成度と言ったら、ハイラルで私の右に出る者はいないでしょう。
…リンクは、ただ単にHPが多すぎるだけなのです。

キノコ王国のファイターにしても、易々と負けるつもりはありません、でした。
たった今、目の前の光景を見る、までは。



平時の私として。一度に展開できる、まともな魔法陣…術式は、せいぜい3つ。

たった10分でも…4つ使えば数日は碌に動けず、
5つ使えば軽くない後遺症が残り、
7つも使えば確実に、魔力暴走で氏に至るでしょう。

そもそも、一流の魔法使いでも、ステレオ=マジックの素質は一握り。
まともな魔法陣は、それだけで手一杯になるから「まとも」と言えるのです。

428: 2019/12/10(火) 02:49:13 ID:NQWsVIhA
それを、目の前の「彼女」は…

気が滅入りそうになりながらも、何度も何度も数え直して…
それが錯覚でも何でもないことに気付いて、戦慄します。





ゼルダ「さ……さんじゅう――!?」

ヒルダ「…違い、ますよ」

ヒルダ姫が、ロゼッタの足元を指で示して……っ!

ヒルダ「ひときわ大きい、部屋をはみ出るほどの大魔法陣が――
     床に描かれている、でしょう?…ほら、天井にも対になる物が。

     …ええ。全部で…32個ですね。
     正直な所、あの2つだけで通常の魔法陣10個分の負荷はありそうですけど。

     私が気付いて覗き出したときから…軽く1時間は経っていますが。
     理解はできないけれども耳に心地よい詠唱とともに――
     これっぽっちも、『術式崩れ』が起きていません…!」



…ありえ、ない!
何ですか、この魔法のレベルの高さは!これほどまで――!

429: 2019/12/10(火) 02:51:29 ID:NQWsVIhA
宙に浮かんだままの、ロゼッタ。
流石に全精力を詠唱に割いているためか、一向にこちらには気付きません。

激しく溢れる魔力の奔流とともに、彼女のドレスが、髪が激しく波打ちますが、
気にする様子はまったくありません。…いえ、気付いてすらいないのでしょう。
光り輝く魔法陣たちが、ガーディアンのごとく彼女を幾重にも覆い隠します。

はたと気付けば、せっせとあちこちに動いているチコたちが。
FPが不足しないよう、ロゼッタを手助けしているようです。
そのうちの1人が、休憩がてら、ふよふよと近づいてきました。

チコ「あ、ゼルダ姫が増えた―。ママの邪魔はしないでね」

ゼルダ「ね、ねえ。これは、何を行っているのかしら?」

チコ「ひっみつー!というより、僕たちも詳しいことは分からないんだ。
   ただ…経験上、こうなったママは、すっごいんだよー!
   絶対に、とんでもない成果を出しちゃうんだー!
   だから、僕たちは喜んでママのことを応援するんだ!」

ヒルダ姫と、顔を見合わせます。

…一体、どんな「とんでもない成果」を出すというのでしょう。
彼女の魔法に見惚れて…ヒルダ姫と共に、そのまま、覗き続ける私。

2時間後も、3時間後も。
ロゼッタの詠唱が尽きることは、ありませんでした。
そして――。

430: 2019/12/10(火) 02:54:44 ID:NQWsVIhA
~翌日~

デイジー(…………?)



皆の様子が、どうにも変だ。

やたら眠そうで、その一方でロゼッタをチラチラと眺める、ゼルダにヒルダ。

当のロゼッタは、何か――決意に満ちた顔で、私に話しかけるタイミングをうかがっている。
今まで通りウキウキと、なら分かるんだが。…いや、それも本来はおかしいが。



おっと、そう思ったそばから、ロゼッタがつかつかと歩み寄ってきた。
そして、いきなり。








ロゼッタ「…デイジー姫。特訓の前に、ちょっとだけ…勝負、してみませんか?」

431: 2019/12/10(火) 02:58:48 ID:NQWsVIhA
デイジー「…勝負、だと?」

ロゼッタ「はい。…ルールは単純明快。

     今から私が、デイジー姫に攻撃を3回仕掛けます。
     3回仕掛けて、1回でもまともに当たったら私の勝ち。
     逆に、3回とも躱されたり防がれたりしたらデイジー姫の勝ちです。
     ただし、ダメージを受けたかどうかは考慮しないものとします」

その無茶な吹っ掛けに、ゼルダが驚いている。
そうだろう、今のロゼッタと私の戦闘力差では――

3回どころか、1000回仕掛けたところでロゼッタの攻撃は当たらない。

デイジー「3打席勝負か…野球かな?
      まさか、『反撃はしないでください』とは言わないな?」

ロゼッタ「うっ…本当は遠慮していただけるのなら嬉しいのですが。
     ただ、反撃はともかく、そもそも私が攻撃する機会がないほど
     攻め立てるのは…流石に止めてくださいね!?
     あ、あと残機が減ったとしても、3回目の攻撃がまだならば
     その時点で私の負けにはなりませんからねっ!?」

デイジー「…いいだろう。当然、何時までたってもそちらが仕掛けない…とかは
     こっちの勝ちでいいんだな?…さあ、いつでもどうぞ」スッ・・・

何を考えているのかは定かではないが、面白そうだから…乗ってやろう。

432: 2019/12/10(火) 03:01:22 ID:NQWsVIhA
多少は背伸びしてしまうのも仕方ないだろう、と強者の余裕。

私に合わせて、ロゼッタもスッと構えを取る。
だいぶ様にはなってきたが…別に、昨日の今日で劇的に何かが変わったようには見えない。



ロゼッタ「それでは…まず、1発目っ!」ダッ



宣言してから仕掛けるとは…舐められたものだ!

直線的にただ突進してきて、拳を付き出すロゼッタ。
この数日で動きはよくなったが――。



余裕に余裕を重ねて、指一本で受け止める。
それもあえて小指で。



ロゼッタ「…………うわぁい」ゾッ

なんだか、非常に達観された顔をされた。

デイジー「もちろん、今のは…私を油断させるための手抜き、とかなんだろう?」

ロゼッタ「ももも、もちろんじゃないですっかー!」ビクビク

433: 2019/12/10(火) 03:04:31 ID:NQWsVIhA
ビクビクしながら、それでいてモチベーションは下がっていない。
一旦引いたロゼッタが、パチンと自分の頬を叩いて、気合いを入れて――。
こんどは、ゆっくりと歩み寄って、すこしずつ速めて行って――!



シュンッ!



ロゼッタ「…………2発目ぇーっ!」シュインッ!


テレポートから背後を取って、振りかぶり。
…そう、まるで、いつぞやの。

こんなことで、私が今度こそ引っ掛かると思ったのか。
多少はアクションが速くなっているといえど、無性に腹が立ってくる。
苛立ちのまま、振り向いて――拳、一貫。

ロゼッタ「――うぐっ」ボスッ ズサァッ

咄嗟に身を捩じって避けようとしたことは褒めてやるが。
その結果、胴体のかわりに肩甲骨を強打。鈍い音、破壊音。
勢いも殺せず、壁にドシンとぶつかって止まるまで…地を滑っていく。

434: 2019/12/10(火) 03:07:21 ID:NQWsVIhA
ロゼッタ「――っ…い…ったい、です――」ドクドク

デイジー「おう、腕が千切れなかっただけ御の字と言う奴だな。
      …やめるか?今ので確実に、右肩は使えなくなったろう。
      そんな体では、ますます戦えまい」

そう、諭してみたのだが――。

ロゼッタ「……ふ、ふふ」ヨロッ

ヒルダ「…な、何がおかしいのです?ロゼッタ…」

妙な笑顔をしたまま、壊れた肩を押さえつつ、ロゼッタは起き上がる。


ロゼッタ「…むしろ僥倖、といったところでしょうか。
     満身創痍の方が、『使い甲斐』がありそうなので」ドクドク

また、訳の分からないことを言うものだ。

435: 2019/12/10(火) 03:09:51 ID:NQWsVIhA
デイジー「…結局は、フリなんだろ?最初から、3発目に賭けているんだろう?
     だったら、見せて、もらおうか」

ロゼッタ「…………………………………………
     ええ、では、見て頂きましょう、かっ!」ドクドク

デイジー「…全力で、受けて立とうじゃないか」ニヤリ



シイイイイイイイィィィン――――



ゼルダとヒルダが息を飲みつつ心配そうに見守る中。
5秒、10秒と睨み合いが続いたところで――
ロゼッタが…三度、駆けた。



ロゼッタ「…参りますっ!!」ダダッ!



デイジー(ぼんやりと…体が、光っている。何かしらの強化を掛けたな?
     だが…小手先の魔法で埋め合わせできるほどの差では、ないっ!)

ロゼッタの戦闘力が、素早さが1割2割上がったところで、なんだというのだ。
いや、2倍3倍ですらどうとでもなる絶対的な差が、そこにはある。
…なんだか、フラグっぽくて嫌だな。

436: 2019/12/10(火) 03:12:42 ID:NQWsVIhA
再び、ロゼッタが姿を消す。
――――性懲りもない!!



横目で、後ろの気配を確認。…流石に学習したか。

左右、上。ロゼッタのことだから真下というのも十分に考えられる――

そう、周囲を満遍なく把握したところで…ロゼッタが現れた。



デイジー(…真正面?一体何を――)

ロゼッタ「はああああああああっ!!!!」ドンッ!

一気に、ロゼッタが…ロゼッタなりに、トップスピンを掛ける。
大怪我で体のバランスを崩しながら、痛みに耐えながら、ぎこちない体で。
それを私は、地獄の笑みを以て、遠慮なくフルパワーで――

デイジー「その思い上がり、悔い改めるんだな――」ブンッ



ゼルダが思わず目を背け。ヒルダが思わず顔を覆い。
誰もがその分かりきった結末を――

437: 2019/12/10(火) 03:17:16 ID:NQWsVIhA







一陣の風が、吹く。








ロゼッタ「…………疾風の一撃《ゲOルアタック》――――っ!!」ギュンッ!!

ロゼッタの 周囲の空間が ねじ曲がった!▼



デイジー(……途端に、速くッ!
      …ちぃっ、このままでも相手に大ダメージは入るだろうが…
      ダブルノックは気に入らない、断じて。
    
      仕方ない、瞬時にガードに甘んじて――――――――――――――――
      ―――――――――――――――――――――――――――――――
      ―――――――――――――――――――――――――――――――
      ―――――――――――――――――――――――――――――――)

438: 2019/12/10(火) 03:24:22 ID:NQWsVIhA





<Acceleration!Acceleration!!……….Acceleration!!!>キュイィィ―――――ン

疾風の一撃には 『優 先 度 +1』 が付いている!

デイジーが 行動を早めるほど それ以上に ロゼッタは 行動が早くなる!

ロゼッタの攻撃を ガードすることは 因果律として 不 可 能 だ!▼



ゼルダ「!?」

ヒルダ「!?」

デイジー「――――――っ!?ぐっ―!」ガード:1F



ズドンッ!



ロゼッタ「――っ!!左、すとれーと…届い、たぁ―――!!」アタック:0.1F

439: 2019/12/10(火) 03:29:22 ID:NQWsVIhA
信じられない、この私が目で一切追えなかった…ロゼッタの爆速の一撃…!

ダメージこそ見かけに反してとても小さいが、なんてことだ。一体、何をしでかした…!

自分の不甲斐なさと、親友の成長への喜びがごちゃ混ぜになる。

でも、今は、自分の情けなさは置いておこう。
純粋に、ロゼッタを褒めてやらないまでもない…そう、思えるほど。

そう、「裏の私」に似合わず、小さく穏やかに笑って見せようとして――



ロゼッタ「――――――――――――――――――――――――――――――
      ――――――――――――――――――――――――――――――
      ――――――――――――――――――――――――――――――
      ――――――――――――――――――――――――――――――」



次の瞬間、一気に顔を青くした私は。
あらん限りに握り締めた拳で、ロゼッタに殴り掛かっていた。

442: 2019/12/14(土) 17:39:43 ID:uGh3sj7.
―――…――――――――――――――――――――――――――――――――――――

―――――――――…――――――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――…――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――…―――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――…―――――――――

…。

……。

………しこうに、もざいく。

……………ここは、いったい、どこですか?

かくにん、したいのに。
なぜか、めが、あけられません。

443: 2019/12/14(土) 17:41:39 ID:uGh3sj7.
「――――――」



なにかが、きこえる。



「――――――――」



だれかが、よんでいる、こえが、する。



ああ、きっと、みんなして…わたしをとりかこんでいるのですね。
ゼルダひめ、ヒルダひめ、そして…デイジーひめ。
ひっきりなしに、こえをかけながら。

そういえば、すこしまえに。
かってにわたしが、ちぬれたドレスをみつけてしまい…きを、うしなったときに。
めざめてみれば、なきはらしている、ピーチひめが、いましたっけ。
きっと、いまもおんなじような……。





…………おんなじ、ような?

444: 2019/12/14(土) 17:43:27 ID:uGh3sj7.
かく、せい…ええ、覚醒。
行方知らずの意識と思考を、じわりじわりと取り戻し。
一瞬震えた後、ようやく私は…眼を、うっすらと開けていきました。

目の前には――



当たってほしくは、なかった。
私の目覚めに目を見開いた状態の、泣き腫らして憔悴しきった…デイジー姫。



デイジー「――――っ!!ロゼ…ッタ!?やっと…やっと、目を覚ましたのねっ!?」



私は、寝たきりの姿勢もそのままに、無言のまま、恐ろしくゆっくりと頷きます。

デイジー「…っ!よかった、本当に、よかった、よぉ――っ!!うわああぁぁん!!
      この、まま、氏んじゃうんじゃないかってっ!
      本気でっ!思ってた、くらい、なんだからぁっ!」ポロポロ

ゼルダ「…バカっ!このっ、虚け者っ!!
     結局自分が、周りを悲しませているでは…ないですかっ!
     偉そうに…説教、しておいてっ!」ポロポロ

ヒルダ(ギュッ)ポロポロ

445: 2019/12/14(土) 17:44:57 ID:uGh3sj7.
口調こそ荒いとはいえ、泣き腫らした顔を隠しもせずゼルダ姫がのたまい。
ヒルダ姫は、静かに泣きながら、私の腕を、ただひたすら強く抱きしめます。
結局最後は、皆が私に覆いかぶさるような感じになりました。

ロゼッタ「…………」

まだ微妙に、思考がふわふわしている気がしなくもないですが。
辛い思いをしている人の頭って、どうして撫でたくなるんでしょうね。
ありがとうとごめんなさいの気持ちを込めて、皆さんの頭をつい撫でてしまいました。
呆れられるわけでもなく、一層激しく泣き出す皆さん。…ええと、本当にごめんなさい。

しかし、どうにも体の動きがぎこちないのが、気懸り。
挙動ひとつひとつが、やたらもっさりしています。
速く動かすことができません。…気のせい、ですかね?



…皆の嬉し泣きに包み込まれる中、肝心の私の方はというと。なんとも滑稽なことに。
必氏で、周りの方々が泣いている理由を考え始めていました。

…いや、だってですね。
このままだと氏ぬんじゃないかと思われていた?そんな気絶の仕方を?私が?
そもそも、氏んだら残機を使って復活するだけではないですか…?

446: 2019/12/14(土) 17:48:39 ID:uGh3sj7.
デイジー「…!?も、もしかしてロゼッタッ!
      何が起きてこうなったか…いや、『今何が起きてるか』、
      まるで分かってないの!?」

ロゼッタ「……は、はい。大変申し訳ございません。皆さんはお分かりなのですか?」

デイジー姫は、信じられないような顔を一度して。
暫しののち、無表情になって、ふっと。



デイジー「――ごめん、ロゼッタ。本当に、ごめん。
     思い切り、歯を食いしばって、くれるかな?今から私、『手を離す』から」

ゼルダ「…そ、そんなっ!」

デイジー「…いや、現状を理解してもらうには必要なことだよ。残酷な話、だけど。
     はい、歯を食いしばったね?無意味な可能性も超特大だけど」

…よくわかりませんが、デイジー姫は間違ったことは言わないので。
既に準備は整っていました。1UPキノコ片手に準備万端のデイジー姫の姿を思い出します。

デイジー「…ゼルダ。暴れた時に備えて、右半身押さえてて。…特に、右手!私は左半身に対応するから。
      ヒルダは悪いこと言わない、5メートル以上下がってて」

2人は一瞬、憂いの目をしたあと、あっさりとデイジー姫に従います。

そして、デイジー姫が――
私の体から、どういうわけか「すっかり黒ずんだ」手を、恐る恐る…離しました。

447: 2019/12/14(土) 17:57:14 ID:uGh3sj7.
その、途端。



ロゼッタ「――――――――――――――――っ!!!
      ガア゙ア゙ア゙アアアアアァァァ――――――――――!?」

この世の物とは思えない、全身を駆け巡る、痛み、苦しみに。
はしたなさなど彼方へ捨て去り、絶叫、絶叫、ただただ、絶叫――

ロゼッタ「ガハッ―――ア、ア、ア、ア―――――――――――――っ!!!
     ――――――――――っ!!」ポロポロ

ヒルダ「もう十分でしょうっ!デイジー姫、はやくっ…はやくっ!!
    助けてあげて、くださいっ!!」

イタイ。氏んでしまう。いえ、氏んだ方が100万倍マシ――そう思えてしまう、極限の痛み。

心臓に針を突き刺される…なんて表現、生ぬるい。
あらゆる器官が、微塵切りにでもされていくかのような、痛み――――っ!
歯を食いしばりすぎて出血し、狂乱し、体中を激しく掻き毟る。
とりわけ『右目』の疼き、異物感が我慢ならず、必氏でもがきますが、
慌てて腕を掴んだゼルダ姫によって、阻止されてしまいます。
痙攣し呻きながら、悲しみではなく痛みのせいで、涙が延々と流れ出ます。

デイジー「まずっ、白目剥いてる!…ロゼッタっ!ロゼッタぁ――っ!!」

ゼルダ「起きてっ!お願いだから、起きなさいっ!」

ヒルダ「ロゼッタが氏んじゃうっ!もうやめてぇっ!!」

448: 2019/12/14(土) 17:58:36 ID:uGh3sj7.
ロゼッタ「……ハァッ、ハァッ、ハアッ」ボロッ



今度は私にも、気絶していたことがわかりました。
デイジー姫が、離すものかという掴み方で私の体を捕まえています。

デイジー「…よかった…グズッ。一体、何度私たちを泣かせたら…
     ロゼッタは…気が済むの、さあ」グズッ

ゼルダ「目の焦点が完全にまずいことになっていました…
    恨みますよ、デイジー」ポロポロ



残機がある、はずなのに。
痛みには、割と慣れてきたと…思っていたのに。



激しく動揺しながら、2人の方を見上げます。

449: 2019/12/14(土) 18:01:16 ID:uGh3sj7.
デイジー「………………………ねえ、ロゼッタ。
     昨日の…私との3回勝負、覚えてる?」

ロゼッタ「お、覚えていま――――」

ああ、そうだ。そうでした。
私は、思い立ったまま会得してしまった秘密兵器をぜひ試したい、と…
デイジー姫に喧嘩を売ってしまったのでした。

デイジー「…そっか。じゃあ、何をやったか、詳しくロゼッタの口から…教えてくれるかな?
      推測だけであれこれ騒ぎ立てるのは、もうこりごり」

ロゼッタ「…わかり、ました。
      とはいっても、そんなに、複雑な話ではないんです。
      私は以前、『デイジー姫という新要素から作戦を引っ張り出すことで
      敵の裏をかくことができる』という旨の話をしましたよね?」

デイジー「…うん」

やはり、いまだに息切れしそうですが、なんとか堪えて話を続けます。

ロゼッタ「……これは、別に特訓中に限った話ではありません。
     何気ない会話の中にも、日課や癖の中にも…
     拾える可能性のあるものは無尽蔵にあります。

     私は…どうしても攻撃の速度が足らないと悩んでいました。
     奇しくもそこに、昔なら無縁極まりないゲームの世界から、
     『優先度』というものを教えていただきました。
     私は思ったんです。……これだ、と」

450: 2019/12/14(土) 18:03:54 ID:uGh3sj7.
デイジー姫が、驚きに口をぽかんと開けます。

デイジー「…ま、まさか――!」

ロゼッタ「さっそく、S++ランクの超高等魔法として昇華させようと、
     昨日…いえ一昨日から、術式を構築し始めました。
     基礎となる格子を編み込み、条件式の肉付けをしていって――
     針の穴に通すような繊細な作業でしたが、なんとか…完成に至りました。
    
     とはいえ、本当に、本当に――現実に『優先度』を持ち込むというのは困難で、
     使った後に残機が減ることを、織り込み済みだったんですけどね」

ヒルダ「…織り込み、済み?」

あ、なんだかちょっとだけ、気分が落ち着いてきました。
そんな感じに驚く顔を、見てみたかったです。

ロゼッタ「…ええと。発動させることまでは、何とかなりそうだったんですけど。
     この魔法…というより、魔法が掛かった状態で繰り出す、この技。
     相手の行動の早さに応じて、私の意志そっちのけで自動加速が掛かるので…



     ぶちゃけた話、体が消費予定のFPを事前準備できないんですよね」



3人が、固まりました。

451: 2019/12/14(土) 18:07:44 ID:uGh3sj7.
ロゼッタ「それを承知で、魔術回路をちょっとばかし騙して、
     技自体は正常発動させたのですが。その場合、どうなるか、というと…

     借金してまで豪遊した人が、我に返って慌てふためいて…
     日用品を叩き売って返済に充てるがごとく。

     かなり非効率な交換レートで、体がHPを無理やりFPに変換し出すんですねー」

デイジー「なっ…!?」

ロゼッタ「私の計算だと、不足分のFPを補うために、私のHPは枯渇ぎりぎり、
      というところまで追いつめられるはずでした。
      まあでも、そのくらいのこと、最近は幾らでも経験していますし。
     
      万が一、『ギリギリアウト』で氏亡したとしても、残機制度のおかげで…そのままあっさり元通り!
      今の特訓環境だからこその、したたかで思い切った作戦だと思いませんか!
      …実際、御覧の通り元通りに――――」

凄い魔法の成功に、ついつい得意げになってしまい、語り出し――



…あれ?おかしいです。
――では。さっきの痛みは、後遺症のようなものは。いったい、なんなのです、か…?



デイジー「――馬鹿…!!――元通りに、なってないよ、ロゼッタ…っ!
      優先度なんてものを付けることがどれだけ禁忌か、わかってないよ…!
      私の行動の早さ、馬鹿に、して――っ!」ポロポロ

452: 2019/12/14(土) 18:11:29 ID:uGh3sj7.
ヒルダ「……あの、これ」

ロゼッタ「……鏡?」

ヒルダ姫がおずおずと…持ってきてくれた、1枚の手鏡。
顔を見ろということでしょうか。…使ってみました。
…酷い顔色はしていますが、それ以外に、特に変わったところはなさそうですが。

暴れたせいでボサボサになった髪を、すっと払います。










「魔眼」呼びしていた右目に、幾重にもヒビが入っていました。
光を失う…を通り越して黒ずんで、もやまで掛かって、今にも砕け散りそうです。








…………………………………………………………は?

453: 2019/12/14(土) 18:14:53 ID:uGh3sj7.
ロゼッタ「…………………………え…なに、これ…」ガタガタ

余りのショックに、呆然とします。
こんなこと、生まれてこのかた、なった覚えがありません。



デイジー「落ち着いて、聞いて、ロゼッタ。私、なんとなく状況が把握できた、から」

虚ろな目で、デイジー姫を見上げます。
まるで、あまりのみっともなさを恥ずかしがるように、前髪が再び――右目を覆い隠します。



デイジー「…あのとき。私は、ムキになって、持ちうる限りの速度でもって、ガードに移ろうとした。
      それを抜き去ろうとするために、ロゼッタの体は加速した。

      …ロゼッタの予測すらゴミにしかならないくらい、猛烈にね。
      FPが、あまりにも、あまりにも…『桁違いに』不足しすぎた。

      異常を察知した私が強引にロゼッタの命を速やかに奪って…
      復活するまでのごくごくわずかな時間すら、FPの代償を大量に求められて――
      魔力回路そのものが、ズタズタに荒らされたんだ。

      ロゼッタの例えを参考にするなら、
      待ちきれなくなった借金取りが怒号をあげながら家に乗り込んできて
      あらゆる家具は持ち出され、あるいは破壊され尽くした状態、かな」

ロゼッタ「…!?」サアッ

454: 2019/12/14(土) 18:20:59 ID:uGh3sj7.
デイジー「…ロゼッタの右目、おそらく…単なる遠くが見えるだけの魔眼、じゃない。
      空間認識を極めに極めていく中で、ロゼッタの体のFP循環の根幹に関わっていった…
      超重要な制御装置、心臓部分だったみたい。…自覚、ないわけじゃないでしょ?

      その機能を失って、FPが無差別で体中に漏れ出して、
      …えーっと、魔法が誤発動され続けているような有様なんじゃないか…と…。

      つい条件反射的にFPを送り込もうとして、
      なしくずしで治療し始めることができて、本当に幸いだったよ。
      私のサポートがないと、何もできない。しばらくは、リハビリだね。
     
      薄々分かってるとは思うけど――リハビリが終わったところで、
      金輪際、『ゲOルアタック』とかいう技の行使は禁止。
      今度は確実に、残機制度があるところで使おうと、あの世行きだよ。
    
      だいたい、ロゼッタは仕様を理解してたみたいだけど…あの技。
      『優先度+1』のためだけにエネルギーの99.99%とか、つぎ込んでるんでしょ?
      とんでもない見た目の行動の早さは、『攻撃の運動エネルギー』自体には
      一切乗ってなくて…捨てられてるんだよね?
      革命的に凄いことをしたことは認めるけど、FPが勿体ないよ…ほんと…」

ゼルダ「そうだったのですか!?」

…はい。それは理解していました。しかし、そこまで危険な代物、だったとは―!
慢心があったにちがいありません。

455: 2019/12/14(土) 18:25:27 ID:uGh3sj7.
さらに、デイジー姫は、ひどく申し訳なさそうな顔で――
最悪な結末を、私に突き付けてきたのです。

デイジー「…ここまでのことは、まあ、いいんだ。いや、全然よくはないだろうけど、
      リハビリは一時的なことだし、技の行使の抑止は意識してればいいし。
      まだ許せるんだ。私、全力でFPの流れのコントロール、サポートするから。
     


      …でも。



      その右目、ただのHPじゃなくて、神秘性とかLP、すなわち生命力とか、
      『残機制度で救済されない、取り返しのつかない ナ ニ カ 』をゴッソリ失った、みたい。
      残機制度による完全復活ありきで無茶をしたロゼッタにとって、酷過ぎる…話だけど。
      とにかく、通常の回復じゃあ一切対処ができない。

      リハビリが無事完了したところで…
      自慢の魔法の制御力、何分の1になったか知らないけど、下がりに下がって…
      奇跡でも起こらない限り…二度と、元には戻らない、よ」



デイジー姫が、必氏に声を絞り出します。

――――とてつもない、途方もない、代償に。
――――目の前が、真っ暗になりました。

456: 2019/12/14(土) 18:27:54 ID:uGh3sj7.
デイジー「…………」

涙流れた跡残すまま、気を失ってしまったロゼッタ。
当たり前だけど、今まで積み上げてきたもの、失うのは辛すぎる、よね…!
とりあえず私ができることは、彼女の腕を通じて強制的にFPの流れを作って、
回復に努めること、だけ。他に何もできなくて、歯痒い。

私の負担もけっこー大きいけど…そんなこと、言ってられない。
食い溜めしつつ、できるだけ睡眠時間はカットだ。

デイジー「…まあ、そんなわけで。しばらく、特訓は中止にさせてもらうよ。
     私のチカラ、こっちに注ぎ込まなきゃならないし、気分も全く乗らないし…ごめんね。
     …まあ、ちょうどよかったんじゃない?」

そう言って…自分にも言い聞かせて、見守る2人に向き直る。

ゼルダ「…………」

ヒルダ「…………はい」

457: 2019/12/14(土) 18:33:23 ID:uGh3sj7.
デイジー「…まあ、2人はそんなに気を落とさないで。私がなんとしてでも、ロゼッタはこれ以上苦しませないから。
      よかったら、フィールドで…2人で普通のトレーニングを再開しちゃってよ。
      私は参加できないけど、ロゼッタを背負って同行してアドバイスすることくらいならできるからさ」

ゼルダ「……そう、ですね。時間が、勿体ない…ですもの、ね」

ヒルダ「…………」コク

デイジー「…………やっぱり、暗いの、苦手。ええい、もっと明るく行くぞー!!ビバ、空元気っ!
      このモヤモヤを、トレーニングにぶつけるぞ!ウオオオオオォォォ!
      はい、2人とも、拳を天に突き出して『オーッ!』て叫べ―!」

2人「「お、オーッ……?」」グッ

さあ、フィールドに向かっちゃおう!後ろは振り向かないっ!

ロゼッタ「」ズルズル

デイジー「…って、身長差のせいでロゼッタ背負えないんだった!?ごめん!引き摺ってる!
      こんちくしょーめ!こうなったらお姫様だっこだ!
      抱き上げる方もお姫様の、純度100%のお姫様抱っこだぞー…って、どうでもいいわ!」ツッコミ

ゼルダ「――ああ」

デイジー「ほらほらどうしたの、早く支度するっ!」     

ゼルダ(彼女の挙動にビクビクしてばかりの私でしたが―
     ロゼッタの言っていた彼女の朗らかさとムード、ようやく私にもちょっとだけ、
     理解できた気がしました。節穴…でしたね)

458: 2019/12/14(土) 18:35:44 ID:uGh3sj7.
ロゼッタ「…う」パチッ



デイジー「お、ようやく起きたねロゼッタ」

ロゼッタ「…ど、どうして私、担がれているのですか?」

デイジー「私が3人の面倒を同時に見るにはこれしかなかったっす」



ロゼッタ「………………………っ、わ、私は――そうです、一体どうすれば――」



なんとか、しなければ。対策を考えなければっ!
呑気にデイジー姫に身を預けている暇ではないと、降りようともがきますが…

デイジー「おっと、そうは問屋が卸しません…降ろさないだけに。
      そうだね…この感じなら…あと1週間ばかりは、私が付きっ切りで介抱だね」

ロゼッタ「そん、な―!貴重な、時間がっ!離してっ、下さい!お願いですからっ!」

私の覚醒に気付いたのか、フィールド中央で躍動していた2人も動きを止めて、
こちらに駆け寄ってきます。

459: 2019/12/14(土) 18:39:20 ID:uGh3sj7.
ロゼッタ「えいっ!」ドンッ

デイジー「あ、ちょっとぉっ!?」

デイジー姫の腕の中から、なんとか抜け出したとたん。
また、あの絶望的な侵食に、痛みに襲い掛かられます。
たまらず、もんどりうって、地面に這いつくばってしまう、私。
一瞬にして目の焦点が合わなくなり、涙が流れるままになる体たらく。

ゼルダ「なにをやっているのですか、ロゼッタっ!」

デイジー「もー、馬鹿ッ!いいから私に面倒見られてよっ、このアンポンタン!」

デイジー姫がすぐさま私の体を再度抱き上げ、FPの循環を再開してくれているようです。
痛みが、少しずつ、引いて行きます。…私の心の中の暗雲は、際限なく拡がるばかり。

ロゼッタ「ハアッ、ハアッ――!このままでは、状況が、悪化する一方では、ないですかっ!
     何か、何か策があるはずです!

     早くここから脱出する術が見つかれば、ピーチ姫やマリオならば有用な知識を持っていて
     劣化が抑えられるかもしれませんし!

     ――そ、そうです!新しい、魔法っ!
     私自身、目を修復できる新しい回復魔法を生み出してですね!
     そうすれば話は早いでしょうっ!?」

デイジー「…焦らないでよ、ロゼッタ。視界以上に思考が曇ってるよ。
     流石にそんな淡い希望に縋って一層無茶をするなんて、断固として許さないよ…?」ゴゴゴ

ロゼッタ「……!」

460: 2019/12/14(土) 18:49:36 ID:uGh3sj7.
デイジー「唯一の救いは、目の劣化が、使用回数とは関係ないことだね。
      容体が安定したら、精度は下がってるにしても魔法を使い出してOKだよ。
      特訓再開も…まあ考えておいてあげる。でも。
      今はロゼッタを止めるのが私の役目。お願い、理解して」

私を宥めて、抱きしめてくれるデイジー姫ですが。
ポロ、ポロと。絶望から、自分勝手ながら、涙が更に溢れてきます。

ロゼッタ「何をやっているのですか、私…!貴重な時間を、みすみすフイにして…!
      恵まれた環境下を活かして、もっともっと、強くならなければいけないのに…!」

デイジー「…ほんと、いつの間にか、戦闘狂だよ。気持ちは、わかる、けど」グズッ

ゼルダ「…自分を追い込み過ぎ、ですよ」

ロゼッタ「騒動の原因ですらあるのですから、追い込んで当然です!
      それに…それにっ!これからの私がどんどん…魔法使いとして弱くなるのならば!
      ――既に、自分の存在意義にも直結して、崩れ去りそうではありますがっ!
      余計に、今できることを、今のうちに全てしなければ、後悔してもし足りないではないですか!

      デイジー姫、何かできることはないですか!?
      とりあえず、体を慣らしつつ、新しいFP動力源の構築を
      開始すべきだと考えるのですが、如何でしょうか!?
      ああ、そのためには一層の基礎体力も必要ですね―
      食事療法、ストレッチ、筋トレに走り込み、それからそれから――」

激しい動揺、動転を隠しもせず、泣き腫らしながら想いを吐露して、足掻こうとしたところで…

――強い衝撃を受けて、再び私の意識は、深く沈んでいきました。

461: 2019/12/14(土) 18:54:31 ID:uGh3sj7.
――たった今、手刀一発で、ロゼッタの意識を刈り取ったのは…
――デイジー姫では、ありません。



デイジー「……え?」ボウゼン

ゼルダ「……ヒルダ、姫?」アゼン



ヒルダ「……」スッ

行為者は、予想もしない人物、でした。



気絶したロゼッタの胸に手をやって、数秒。
その手を自分の胸の所に持って行って、抱きしめて。目を瞑ること、数秒。





ヒルダ「――――強く、なりたい」

462: 2019/12/14(土) 18:56:37 ID:uGh3sj7.
いつもの、弱弱しい面影は、どこへ行ってしまったのでしょうか。





ヒルダ「――そうだ、私。強く、なりたいんだ」





今度は、更に力強い声。
デイジー姫が、思わず息を呑んでいます。もちろん、私も。
ここまで凛とした顔のヒルダ姫は初めてです。

ヒルダ「ロゼッタの想い…私も、欠片だけでも受け継ぎたい。
     今回のロゼッタは…少しだけ思いきり過ぎたかも、しれないけど。
     私も、ロゼッタみたいに――
     やりたいこと、やらなければならないこと、全力で挑戦できる人になりたい」

私たちの方もじっと眺めて――

ヒルダ「皆さんより遥かに弱い私ですが。現状、足手まといにしか、なっていませんが。
    必氏で足掻いて、追い縋りたい。役に立って、喜んでほしい。だから――
    
    お願いします、デイジー姫。あの特訓、続けてください」

デイジー姫が、完全に固まる。まさに窮鼠猫を噛む。

463: 2019/12/14(土) 19:04:27 ID:uGh3sj7.
ヒルダ姫が…殻を破って、決意のカタマリになっています。
デイジーは、その目の真意を、十分に感じ取って、ふぅ、とため息をつきました。

デイジー「……やれやれ、まいったなあ。ロゼッタの影響は絶大だね。
     …いや、それも違うか。これは…ヒルダが最初から持ってた芯の強さが
     たまたま…この瞬間、開花しただけだもんね。
     ロゼッタのおかげって言うのはヒルダに失礼千万だ、ごめん。

     ――うん。ロゼッタの療養期間が終わって、それでもまだ
     その意思を貫いてるなら、私は何も言わな――」

ゼルダ「…ちょっと。ヒルダにだけ恰好は付けさせませんよ」

デイジー「…え?」

そんなの、悔しいではないですか。
私にも、響いてきたものは、確かにあるのですから。

ゼルダ「デイジー。私に、ロゼッタの治療法を教えなさい。
    要は、繊細な制御でFPを流し続けてやればよいのでしょう?
    私が面倒を見られるのならば、デイジーの復帰も早くなるでしょうが」

デイジー「え、あの、この治療法は、FPを割と豊富に持ってる私だからこそ
      えいやーって感じで多少のロスを気にせずできる荒技で…
      だいいち、私ならではの感覚的な表現でしか教えられないよ…?」

ゼルダ「…フン。私の魔法技術の真髄、舐めていますね?
     ロゼッタほどではありませんが、その程度の制御、手に負えないとでも?
     3日で…いえ2日で、身に付けて御覧に入れましょう」

464: 2019/12/14(土) 19:09:47 ID:uGh3sj7.
意地っ張りと言われようと、どんと来い。臆病者にだけは、なりたくない。
胸底から、熱いものが込み上げてきます。

デイジーは、ぷっと噴き出して、涙をにじませながら笑い出しました。
…私は何も、言いません。

デイジー「…ふふ。わかった。わかったよ。不慮の事故も考えて…
      私の他にもロゼッタを助けられる人は、多いに越したことはない。
      全く――馬鹿で最高な人たちが集まって、私はすっごく嬉しい!」ジワッ


気絶したロゼッタの、手の上に。

デイジーの手が重なり。

意図を察して、更にヒルダ姫の手が。

最後に、私の手が重ねられ。


デイジー「…さあ、ロゼッタのためにも、そして私たち自身のためにもっ!
      まだまだしんどいこと、辛いこと、待ってるだろうけどっ!
      張り切って、頑張ってっ!喜びは分かち合ってっ!
      大団円のハッピーエンドに持ってく。皆、いいねっ!?」

ゼルダ「ええ!」

ヒルダ「はいっ!!」

――こういうのも、悪くない、と思いました。

465: 2020/01/22(水) 23:13:14 ID:7yJt226g
…………。

……………………。



ロゼッタ「………………………………」



寝かされた状態のまま…ゆっくり――ゆっくりと、瞼が開かれて行きます。
散漫な動きで隣を見やれば、汗をかきながらも、ほっとした様子のデイジー姫が。
その右手はしっかりと、私の右手を握り締めています。

――温かい。

デイジー「…はい、落ち着いてね、今度こそ。
      ひとまずはひと段落ついたことに感謝、感謝だよ。
      神さまに御礼でも言わないと、なんてね」

…そう、でした。
私の体調を、必氏に保ってくれているの、ですね。
何度も錯乱してしまいましたが、流石に落ち着かざるを得なくなって――
デイジー姫の手のひらを伝って、FPが、穏やかに流されていくのが自覚できました。
流石に…もう、跳ね除けることなどできません。

ただ、希望を持てる状況でないのは事実。
まさか、私の目がそんな特殊な機能を担うようになっていたとは露知らず…。
私がこれまで何百年もかけて積み上げてきた魔法のチカラ…
いったい、どれだけの頑張りを、切磋琢磨を、無駄にしてしまったのでしょうか。

466: 2020/01/22(水) 23:16:04 ID:7yJt226g
虚ろな眼差しで、デイジー姫を見やります。

デイジー「…あーあー、また涙ぐんでー。
      まったく、いつまでも年下に慰められるんだからー」ナデナデ

ロゼッタ「…………?」ウルウル



撫でる左手に、不思議とざらざらとした感触。



ロゼッタ「…………あ」ゾッ

デイジー「…………あ、だ、大丈夫だよ!?心配しないで!
      ちょっち、カサブタができてるだけだから!ほら!ほら!
      右手と左手、交代にやってりゃこれ以上は悪化しないから!」ヒラッ

思わず息を呑む。
ヒラヒラと振って見せる左手は、ちょっとどころではなく――
手のひらの面積の半分以上が、赤黒く染まっています。固まっては、いるようですが。
握られている私の手は、特に異常を来していないというのに。

ああ、そういえば、私の両腕の裾が捲られています。
接触箇所を適宜移していくことで、負担を減らしてくれたのでしょう。

467: 2020/01/22(水) 23:17:45 ID:7yJt226g
デイジー「…その様子だとバレた、かな。よっ、さすがの洞察力!
      FPを送る分には、私…手のひらしか使える部位が無くて」

ロゼッタ「…重ね重ね、申し訳ございません」

デイジー「べ、別に謝らなくていいってば。
      ロゼッタの向上欲はとっても大事だと私は思うよ、うん」アセアセ

ロゼッタ「せっかく、修業まで付けて頂いているというのに…
     皆さんの時間をますます削ってしまい…」





デイジー「………………………………
      いや、その判断は、ちょいと時期尚早かなー」ニヤッ





突然、デイジー姫が不思議なことを言い出しました。
おもむろに、扉の方を指さします――。



デイジー「……闘志ってさ、案外伝染するみたいだよ」

ロゼッタ「……?」

468: 2020/01/22(水) 23:19:38 ID:7yJt226g
デイジー姫に手を預けたまま、仮眠室を出て、フィールドへ。



ロゼッタ「……!?」

失礼ですが、思わず目を瞬かせてしまいました。



ゼルダ「今の踏み込み、中々良かったですよっ!そのまま懐に飛び込んで、
    私に1発でも浴びせて御覧なさい!」



ズバッ!ズバッ!ズババババッ――!!
口ではそう言いつつも、余裕綽々な様子で、かといって手を抜いているわけでなく。
次々と繰り出されるディンの炎で、追い込む、追い込む。



そんな、真剣な面持ちでビシッと構えるゼルダ姫と対峙するは。



ヒルダ「はあっ!はあっ!はあっ!――――――――
    もちろん、やってみせようでは、ありません、かっ!!」

ぜぇぜぇと肩で激しく息をしながらも、今までで最高の闘志を燃やしているらしい、
ヒルダ姫だったのです。

469: 2020/01/22(水) 23:22:07 ID:7yJt226g
ヒルダ「ファントム・ユガ!『ファイアロッド』で迎撃っ!」

ファントム・ユガ「DAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」ブンッ!!

ファントム・ユガさんがどこからともなくフッと取り出したるや、
前回の槍ではなく、赤々とした炎を纏う杖。

ゼルダ姫が操り、ユラユラと上下に揺れながら迫り来る炎の球を、
危なっかしい所はちょっとありますが…一つ一つ、なんとか撃ち落としていきます。
激しい炎の弾幕戦となりました…!

状況が悪いのは、もちろんヒルダ姫のほう。
ゼルダ姫がさほど苦も無くディンの炎を連発してのけるのに対し、
青白い顔のヒルダ姫は苦悶の表情。明らかに魔法の限界出力のようです。

ゼルダ姫の猛攻に対抗できず、ジリ貧。違いは倒される時期が早いか遅いか、のみ。
その事実自体は、ちょっと前の、デイジー姫が居ない3人での特訓中にて
さんざん目にしてきた、分かりきっていた事実、なのですが――

ヒルダ「…………っ!」ギリッ

ヒルダ姫が、唇を強く噛みしめ、顎に血を伝わせ始めました。
爆発音があちこちで響く中、それでもヒルダ姫は、体を震わせながら――――

ヒルダ「……負け、ないっ!!」カッ!

一瞬後ろに倒れかけたのは気のせいでしょうか、ものの見事に持ち直しました。
ゼルダ姫を見据えて、強い眼光とともに、すっくと立っています……!
以前の弱気な姿勢が、まるで影も形もありません…!

470: 2020/01/22(水) 23:25:13 ID:7yJt226g
ゼルダ「…ふっ」ダッ!

ここで、ゼルダ姫が魔法行使を突如として破棄。走り出し、接近戦を仕掛けました。

私の視点からはそれがわかりましたが、あちこちの爆風の隠れ蓑になったうえに
疲労困憊も祟っているヒルダ姫。気付くのが遅れてしまいました。

そもそもからして、2人の基礎体力差は、魔法の腕の差以上に開いているのです。
デイジー姫ほどではありませんが、ゼルダ姫の高速ムーブ。
ヒルダ姫が対抗できるわけがありません!

ゼルダ姫の突撃を視界に入れて目を見開いた時には、時すでに遅し。



ゼルダ「マジカルカッターッ!」ブンッ!!

手加減されたとはいえ、手刀を腹部に激しく受け、ヒルダ姫の体が吹き飛びます。



ゴロゴロと地面を転がり、そのままピクリとも動かなく――
あ、いえ!一つ咳をして、赤い物を吐き出して…のそりと、立ち上がろうとしています!
ダメージは大きいらしく、両手を地に着いたまま、中々体を持ちあげられませんが、
ゼルダ姫がその場から動かず様子を伺うなか…15秒ほどして、ようやく立ち上がりました。

私の思考回路が氏の概念を軽んじるようになったという噂もありますが、
氏と隣り合わせの背水の陣状態で戦う人を逞しい、格好いいと思う心は、忘れるはずもない。

471: 2020/01/22(水) 23:26:41 ID:7yJt226g
ゼルダ「……ユガも消えてしまったみたいですが、まだ続けるのですね?」

ヒルダ姫が満身創痍ながら血を拭って、無言で頷いて…試合、再開、となりました。
容赦なく、ふたたびゼルダ姫が、ヒルダ姫のもとへ駆けて行きます!

…ああ、残念ながら。
ヒルダ姫は最後の力で立っているのがやっとなのでしょうか、動くことができません。



あと10メートル。ゼルダ姫が、優雅に颯爽と接近を続けています。

あと5メートル。投げ出してしまったのか、ヒルダ姫が、ぶらんと手を前に出しました。

あと2メートル。おもむろに、ヒルダ姫が微笑みます。



ゼルダ「クイックパームショッ――」

デイジー「あ」

そして―――――――――!

472: 2020/01/22(水) 23:28:53 ID:7yJt226g
ヒルダ「――」サッ



……ファントムユガさんが氏角であるヒルダ姫の陰からぬらりと再出現して。
長い手をすうっと伸ばして、ヒルダ姫の手の上に バクダン 置いて行きました。



ゼルダ「」ガツンッ

ヒルダ(ニコッ)



ドッカアアアアアアアアアアアンン!!!

ロゼッタ「」

デイジー「飛び出した ゼルダは急に 止まれないぃ!!」

473: 2020/01/22(水) 23:30:48 ID:7yJt226g
ロゼッタ「…ハッ!ヒルダ姫ぇっ!何をやっているのですかっ!
     大丈夫ですか、わ、わ、わわわ…………!!」

デイジー姫と連れ立って、慌てて駆け寄ります。
爆発が晴れていき…絶命したヒルダ姫が映り込んできました。

ヒルダ「」チーン

ロゼッタ「嫌っ、完全にボロ雑巾状態になってるじゃないですか!?」

デイジー「私、ロゼッタの言い方も中々酷いと思う」



見ていられない状態のヒルダ姫の体が光り輝き、息を吹き返します。
ああ、本当によかった…。

ヒルダ姫は、復活したと同時に、復活に伴う絶望の副作用といいますか、
えづいて胃液を吐き出していますが。

ヒルダ「…あ、ロゼッ…タ。ゴホッ……。
    でき…れば、幻滅しないで、いただける、と、助かります。
    ちょ…っと、周りに配慮、する、余力が、ない、ので……
    事前に、胃の中、空っぽにして、おく、くらいしか、できませ、ん、でした」

ロゼッタ「そのあたりは私も通った道なので全然気にしないです」トオイメ

ヒルダ「…………………………そ、そうですか」タラリ

474: 2020/01/22(水) 23:34:28 ID:7yJt226g
ロゼッタ「吐血でも嘔吐でも幾らでもすればよいのですよ。
     その数だけ私たちはきっと強くなれるのですから」

デイジー「いっぱしのレディが何て汚い話をしとるねん」バシーンッ

ロゼッタ「きゃああああああっ!ハリセンは痛いですっ!?
      でもFP供給側の手はそのままでいてくれてありがとうございますっ!」ガンッ

意志は強くとも、氏の恐怖に慣れた訳ではさらさらないヒルダ姫。
まだガクガクと震えているところを、そっと背中を撫でてあげました。
ヒルダ姫は、片手を自分の胸に押し当て、落ち着こう落ち着こうとしています。

ヒルダ「…今の戦い、見ていたのですね。我ながら、無茶をしたとは思いますが。
    こうでもしなければ、ゼルダ姫に、一矢、報いることすらできませんでしたから」

ゼルダ「…ええ。これ以上はないというくらいの仕掛け方でしたね。
    もしかして、一度ファントム・ユガが消えたのも、ワザとだったのでは?
    本当にヒルダ姫は逞しくなりました。私もうかうかしていられませんね。
    …はい、とりあえず水を飲んで、体を落ち着かせてください」

慈しみの顔を向けてくるゼルダ姫から水の入ったコップを受け取り、
手先を震えさせながらも、どうにかこうにか、水をこくこくと飲んでいくヒルダ姫。

ヒルダ「……………………ぷはっ。
    ありがとうございました、ゼルダひ――――」

ぴしりと、ヒルダ姫が固まります。
……あれ?何か、おかしいような。あれ?

475: 2020/01/22(水) 23:36:51 ID:7yJt226g
ヒルダ「ちょ、ちょっと待ってください。水を持ってきてくれたのは感謝するのですが、
    一体全体、どうして、無傷なんですか!?爆発に巻き込まれたはずじゃ!」

ロゼッタ「あ、そ、そうですよ!」

ゼルダ「あ、も、もちろんダメージを受けましたよ!?
    幸い、水を取りに行くついでに仮眠室でちょっとつまみ食いして
    体力を回復してきたもので――」



デイジー「嘘つけぃ。バクダンに気付いた瞬間、咄嗟にフロルの風で急上昇して
      爆発から逃れてたよー?私の目は見逃せないぞー。
      
      ヒルダの自爆戦法の狙いはバッチリだったけど
      結果的には地力の差で覆されて大失敗だったってことだよ」ケラケラ

ゼルダ「シィーーーーーーッ!」
     
ヒルダ「」ガーン

ロゼッタ「やるせないです」

476: 2020/01/22(水) 23:39:13 ID:7yJt226g
ゼルダ「あの、その、ヒルダ姫!そんなに気を落とさないでください。
    結構ひやっとしたんですから」

ヒルダ「…………」グズッ

ゼルダ「…………」ダラダラ

ヒルダ「……もう一回」

ゼルダ「…………え」

ヒルダ「もう一回、ですっ!」

ゼルダ「む、無茶です!今日だけでどれだけ貴方の戦闘力の極限スレスレを進んでいるか、
     分からないわけではないでしょう?」

ヒルダ「でも……うっ」フラッ

デイジー「はーい、すとーっぷ。精神保全、精神保全―。
      悔しい気持ちは痛いほど分かるけど、とりあえず落ち着こうか。
      大丈夫大丈夫、今日だけでかなりの経験値は稼げてると思うから。

      いやあ、でも上出来上出来!
      ここまでヒルダ姫が頑張ってる姿見て、どう!?ロゼッタ!
      これも、ぜーんぶ、ロゼッタの熱意の賜物だよっ!!」バッ



慌てて、ヒルダ姫が私の方を向いて、申し訳なさそうに目を伏せます。

477: 2020/01/22(水) 23:41:05 ID:7yJt226g
ヒルダ「…ど、どうでしょうか。ロゼッタ…。
    わ、私も、少しは、貴方みたいに勇気を出してみたので――」

ロゼッタ「……………………すごい、ですね、ヒルダ姫。
     それに比べて、私ときたら、本当に、どうしようもありません…」

ヒルダ「!?」

ゼルダ「」

ロゼッタ「くっ…ぐずっ…」ポロポロ

デイジー「あっれれー?おかしいぞー?ここはロゼッタが
      『私の行動に無駄なんてなかったんだ、皆さんをサポートできてたんだ!
      自信が出てきました、気を取り直して頑張りましょう!』
      ってモチベーションを上げまくる段取りだったんだけどなー?
      おーい、誰だ台本書き換えた奴~!」

478: 2020/01/22(水) 23:44:46 ID:7yJt226g
どたばた。じたばた。どんがらがっしゃん!

~フィールド、ど真ん中~

チコ「シート、敷き詰め、おっけー!ごはんにデザート、オールグリーン!」ヨイショ

チコ「パーティの準備、いいよおー!」ビシッ

チコ「お待たせ―!」ワー

デイジー「…と、いうわけでぇ!一旦特訓は中止しましてぇ!
     さあさあ皆の者、座った座った!祭だ宴だ宴会だ!

     第一回、ロゼッタを励まして励まして励ましつくす会を始めたいと思います!
     盛り上げて参りましょう!おー!」

ゼルダ「いい趣ですね、誠に」

ヒルダ「ロゼッタのためですから!」



ロゼッタ「…………はあ」ドンヨリ

やる気:絶不調



デイジー「よ、よーし。とりあえず、食べて飲んでスカッとしようじゃないか!」

479: 2020/01/22(水) 23:47:40 ID:7yJt226g
ゼルダ「…とは言っても、宴の酒があるわけではないですが…残念です」

デイジー「…………う、ぐ。牛乳ってのも、ちょっと…………………ぐ、ぐ、ぐ。
     …………ったく、しょうがないなあ!特別の特別だからねっ!」

デイジー姫が、頭を掻き毟って、ちょっとの間FPの治療行為をゼルダ姫に任せ…
自分の鞄から、何かの瓶を取り出してきました。

…あ、この僅かな時間でも、治療に慣れないゼルダ姫は額に汗を垂らしています。
かなりデリケートな治療、ですよね…。
もっさり動くことしかできない今の私は、頼り切ることしかできません。
ただ、腕を握られるに任せている、なんとも情けない状況です。

ヒルダ「…お酒、ですか?わざわざ持参されていたのですか?」

デイジー「秘蔵の、ね。ようやく確保できたもんで、こっそり持ってきてたの。
      そんじょそこらの酒とは比べ物にならないんだから!
      注ぐ器が何の変哲もない唯のコップなのは勘弁してほしいけど…はいっ!」スッ

4つのコップに、桃色の澄んだ液体が静かに注がれていきます。
…20mlずつ、くらいでしょうか。オーバーなくらい、慎重に、慎重に注いでいます。

ゼルダ「…勿体ぶる、といいますか。流石にケチ臭くはないですか?
    飲み応えのためにはもっと――」

ゼルダ姫が揺らすグラス…いえコップの中で、「それ」はゆらりと波打ちます。
ほのかに香る桃の香り。一瞬、ゼルダ姫がビクッと固まりました。…気のせいでしょうか。

ゼルダ(……まさか、ね)

480: 2020/01/22(水) 23:50:23 ID:7yJt226g
デイジー「ととととんでもない!?そんなことできるわけないから!
     言っちゃ悪いけど、本当はみんなに振る舞うつもりもなかったんだからね!?
     ロゼッタに免じての大、大、大サービスだよ!?
    
     あ、みんな、お酒大丈夫?無理だったら即刻返してね!勿体ないからっ!!
     私が責任もって飲むっきゃない!」

ヒルダ「よくわかりかねますが……?やっぱり、欲張ってますか…?」

ゼルダ「…………この香り、どこか、で……………いえ、まさか…」ブンブン
    


皆さんがあれやこれや話す中、私はじっと、コップの中を見つめていました。
とても――とても、綺麗な色をしています。少しは、心が洗い流されていくような。



デイジー「とりあえず、かんぱーい!」

私の隣に、しっかりスタンバイしているデイジー姫。
私の左手と彼女の右手はFPの流れのために、仲よしこよしで繋がれていますが、
ぎこちないながらもコップを打ち付け合って。

481: 2020/01/22(水) 23:53:53 ID:7yJt226g
そういえば、お酒、ですか。

日頃嗜むわけでもなく、最後に飲んだのはクッパの誕生パーティまで遡ります。
…デイジー姫のご厚意に応えられるだけの味の理解ができるでしょうか。
心配になってきました。

ふと周りをみれば、みなさん、私がます口を付けるのを待っています。
…わかりました、それならば甘えることに致しましょう。


ロゼッタ「では……」

すこぉしの緊張のあと、コップを、すっと、傾けました。

















482: 2020/01/22(水) 23:55:32 ID:7yJt226g














「――――」

ロゼッタ(…………)

デイジー「…………おーい、ロゼッタぁー?」ユサユサ

ロゼッタ「……!?」ビクッ

ロゼッタ「……え?え?あれ?」



――意識が、ぷっつり、飛んでいました。
――コップを持っていた手すら力が抜けてしまい、危うく落とすところ。
――いえ、正確には「落とした」のですが、咄嗟にデイジー姫がキャッチしています。

483: 2020/01/22(水) 23:58:42 ID:7yJt226g
デイジー「…ま、初めて飲んだら大抵はそうなるだろーね、くふふ」

してやったり、とデイジー姫は愉快そう。
しかし、そんな些細な事、気にしてはいられません。



駆け抜けた感覚に、しどろもどろ。



ロゼッタ「強すぎない、弱すぎない桃の味わいの主張。
     甘く、フルーティで、かといって甘ったるい卑な味でなく。
     香りの上品さ、喉を通るときのたちどころなく消えていく滑らかさ。
     自然の豊かさ、大地の芽吹きを感じさせる――」



――普通、お酒は飲む人を選ぶといいますが…
――このお酒を嫌う人は、おそらく一人たりともいないでしょう。
――そう。まさに……絶品酒…!

484: 2020/01/23(木) 00:04:01 ID:TcZRYjW2
ヒルダ姫が、ほわほわぁと気持ちよさそうに、飲んだ後の余韻に浸っています。
……そして、ゼルダ姫は、というと。

ゼルダ「――っ!ま、まさか、本当に――っ!」ワナワナ

優雅に飲み干した後、プルプル震えて、必氏に答えを導き出そうとしています。
おや、味に覚えがあるのでしょうか。

ほどなく、ダンッとコップをシートに叩きつけたあと、デイジー姫に詰め寄りました。
コップさんは殉職なされました。おいたわしや。

ゼルダ「デイジー!よもや、こちらの酒は――
    いえっ、しらばっくれるつもりでしょうが…瓶を改めさせてくださいっ!!」ガバッ

デイジー「ぬわああああああ!?しまったぁ!?無駄に舌が肥えてるぞこの人っ!?」

デイジー姫、私から離れられないせいで、妨害行動が遅れてしまいました。
そして――



ゼルダ「……やはり、思い違いでは、なかった…!

     『神酒 桃葵の誓い』――っ!

     再びお目にかかるとはっ!なんたる幸運でしょう…!!」

上気したゼルダ姫が、瓶から一切目を離さないまま、思わず唸ります。

485: 2020/01/23(木) 00:07:13 ID:TcZRYjW2
ヒルダ「…神酒?神前にお供えされた有難いお酒、ということですか?」

ゼルダ「い、いえ。それどころではありません!    

    キノコ王国が完全管理する桃果樹園で熟成製造されると聞き及んでおりますが、
    極限の品質を突き詰めた結果、とにもかくにも稀少な果実酒で…
    ピーチが言うには、1年間でせいぜい2, 3リットル程度しか流通させられない、とか…!

    以前、ピーチの誕生祭に呼ばれた時に戴く機会が有りましたが…
    その時は大変恥ずかしながら、余りの味わいに数十秒のあいだ前後不覚になるほどで…!
    しかし、たった今、確信が持てました…!あの時の神酒だと!

    い、一説には、この1リットル瓶1本で小国の国家予算程度は吹き飛ぶ時価が付く、と…!」ブルブル

ヒルダ「!?」

ロゼッタ「!?」

デイジー「無駄に知識オタクだぞこの人!
      知ってくれてるのは嬉しいと言えば嬉しいけど!?」

486: 2020/01/23(木) 00:09:37 ID:TcZRYjW2
ゼルダ「それもそのはず。何百年もの歴史を持つ果樹園で、
     製造者たちは最高の桃を求め、最高の水を求め、最高の酵母を求め…
     はたまた、副材料、熟成温度、湿度、ガス雰囲気、時間、撹拌具合、などなど。

     更に、科学的見地だけでは飽き足らず、魔力泉に樽を導いたり、
     祈祷魔法で神秘性を高めたり、浄化の光を浴びせたり、と構成要素は尽きず。
     心身が喝采を浴びせる、最適解となる条件のプロットを叩き出すために
     先駆者の多くが言葉通り命懸けだったと聞きます…」

ヒルダ「素晴らしいです…!その結果が、このお酒の出来栄えということなのですね!」

ゼルダ「ところが…そう、単純な話で、終わってくれないのですよ」

ヒルダ「…え?」ズルッ



ゼルダ「ズバリ、最後に必要なのは、 運  です。
    悲しいことに、最適解条件を割り出せても、不確定要素が多すぎて、
    作ってからでないと、条件が合っていたかどうか分からないそうです…

    精密機器を活用できる今ですら、ある程度の所まで絞ることしかできません。
    特に神秘性の充填などの話になると、数値測定すら困難ですから」

ロゼッタ「」

487: 2020/01/23(木) 00:13:37 ID:TcZRYjW2
デイジー「憎たらしいほど理解してるね!ったくー、ばれてしまっては仕方がないなあ。
      製造の一部に関与するサラサ・ランドのお姫様として、
      このお酒の製造法、お伝えしまーす!括弧、ピーチ談、括弧閉じ!

     合ってるかな?かな?っていう条件を積み立てまくって、
     合計で1万キ口リットルくらいの果実酒を作りまーす!
     でもでも、10リットル単位でわざわざ樽を独立させて、
     樽を全部で…ええっと…のべ100万本準備しないといけませーん!」

ロゼッタ「」

デイジー「熟成が終わったら、キノコ王国のスキャン技術で
     お酒の内部成分をしかと読み取りまーす!
     それぞれの…独立しこー?により、1樽か2樽くらい、
     全ての条件が超パーフェクトなお酒ができあがりまーす!
     でも運が悪くて1樽もできない年だってありまーす!

     まあ、できあがった樽があったとして、それにペタッと『神酒』の札を付けて、
     ピーチ直々に固定化の魔法かけて、はい完成!
     残りの99万9998樽くらいは、大衆向けに通常価格で
     売り出しまーす!妥協なんてものはありませーん!
     
     だから、これは神に祀られた有難いお酒じゃなくて…
     神に愛されて豪運を勝ち取った野生6Vのお酒ってことだよ。了解?」

ヒルダ「例えが全くもって意味不明ですが、ものすごいということは分かります」

488: 2020/01/23(木) 00:18:03 ID:TcZRYjW2
デイジー「結局、キノコ王国の桃と、サラサ・ランドの向日葵が熟成過程で
     絶妙なハーモニーを醸し出す意外なベストパートナーになることが判明してね。

     両国間に友好条約が結ばれてからと言うもの、
     ピーチも私も製造者たちをバックアップして、1樽か2樽製造して…
     王国で買い上げて、仲良く半分こして、流通…流通?させてるわけだよ」

ゼルダ「…2樽できた年ですら、デイジーに渡るのは1樽、つまり10リットルだけですよね…。
    この1リットル瓶、たったの10本…」ゴクリ

デイジー「ノンノン、『サラサ・ランドに渡る』のが10本ね。更に減ってくよー?
     国民栄誉の頂に登りつめた人に贈呈したり、お祭りごとで少しずつ開放したり。
     外交の持て成しに重宝するし、富くじの特等の景品にもなってたっけ。
     …富くじの場合、ときたま殺傷沙汰になるんだよな…。

     誰もが一口飲むことを切望し、一度飲んだら忘れられず、
     また飲みたくなるお酒だからね」

ロゼッタ「それだけ聞くと危ない薬みたいですね…」

デイジー「失礼なっ!?…ま、とにかく。
      最終的にまともに売られるのが2, 3リットルになるわけだよ。超高いけど。
      …で、これは私の立場で特別に取り分けてもらってる1本ってわけ」



売ったとしたら、紅茶がいーっぱい買えそうですね。

489: 2020/01/23(木) 00:21:01 ID:TcZRYjW2
ゼルダ「もう一杯、クダサイ」ウットリ

デイジー「今の話聞いてたぁ!?もうやらん!涎ふけ!しっしっ!
     周りの料理を食べてなさい!」

ゼルダ「こんなに美味しいお酒を頂いた後で、ジャンクフードなど食べられますかっ!
    吐き気を催してしまいます!」

デイジー「アンタも何気に酷いな!?なんと言われようとダーメ!」

ゼルダ「ぐぬぬ…!」

ヒルダ「…残念、です…」

デイジー「き、きっとピーチに頼み込めば、ハイラル王国にも数年に1本くらい、
      歯ぎしりされながらも融通してもらえるよ…!
      おっとロウラル王国は知らん」

ヒルダ「そんなぁ…」

490: 2020/01/23(木) 00:25:32 ID:TcZRYjW2
あまりにも残念そうな顔をする、ゼルダ姫とヒルダ姫。
それを横目で見て取ったデイジー姫は、ため息ついて…
しばしの思慮のあと…こう告げました。



デイジー「…どうしても欲しいんだったら…そうさね。

     3人同時に私に掛かってきていいから、裏の私の残機を一つでも減らす…
     いや、『背中を3秒以上継続して地面に付けさせる』、で勘弁しておいてあげる。

     このミッションを達成出来たら、この瓶の所有権、3人に渡してもいいよ?
     どうせ無理だろうけど…明日から、やってみる?」



にやぁ、と笑うデイジー姫。
思わず反射的にゴクリと息を呑む私たち。
いの一番に反応を返したのは…予想通りと言うか、ゼルダ姫。



ゼルダ「…二言は、ありませんね?」



デイジー「…お、おう。ゼルダちゃん、貴方が酒でここまで燃えるとは思わなかったよ。
     え、なに?そんなに政務にストレスたまってるの?ハイラル大丈夫?」

491: 2020/01/23(木) 00:28:49 ID:TcZRYjW2
一旦、お酒からは離れて。ようやく、あれこれつまみ始めました。
…いえ、お酒の入手のため作戦会議に移っただけですから、離れているとは言えませんか。



ゼルダ「いいですかロゼッタ!
    貴方にシャキッとしてもらわなければ、我々が勝つことなど夢のまた夢ですよ!
    早く元気になって下さい!」

ロゼッタ「そ、そんなこと、言われましても、無茶振りもいいところです!」

ヒルダ「まあまあ、落ち着いてください」

ゼルダ「何を、無関係気取りですか、ヒルダ姫。
    貴方だって内心欲しがっているでしょう?」

ヒルダ「そ、そこまでは…………………………………」

ゼルダ「…」ジーッ

ヒルダ「すいません意地張りました。ぜひとももう一度飲みたいです」

ロゼッタ「まったく、もう…アルコール中毒って怖いですね…!」



使い方次第で傾国の酒になりそうで怖いです。
私の場合は、そこまで飲みたくは…
いやまあ、飲んでいいと言われれば諸手を挙げて飲ませて頂きますけれど。
それは自然の摂理です。

492: 2020/01/23(木) 00:35:43 ID:TcZRYjW2
デイジー姫が面白そうに眺める中、ゼルダ姫の啖呵は収まることを知りません。



ゼルダ「デイジー姫のロゼッタ語りの内容も踏まえて、私、思ったんです。

    ロゼッタ、貴方は異常なほど魔法技術に優れる。
    悔しいですが、私など足元にも及ばないでしょう。忌々しい。

    しかし、使う魔法も異常なほど高ランクのものを選んでばかりで、
    結果として失敗したり常用するには大掛かり過ぎたり…
    これを機会の損失と言わずして、なんと呼べばよいのか。

    今回の事故で魔法制御が覚束なくなってしまったのをいい切っ掛けとして、
    一旦、行使する魔法のランクを落としてみるというのは如何でしょう?」シレッ



その発言には、さすがの私も色めき立たざるを得ません。



ロゼッタ「なっ…………!それは、あまりにも酷い言い方ではないですか…!?
     こんなに苦しんでいるというのに、『いい切っ掛け』にしろ、だなんて…!」

ゼルダ「何を勘違いしているのか知りませんが、手を抜けと言っているのではないですよ!
    少ない投資でもっと成果を挙げるやり方くらい、ロゼッタなら見つけられる!
    そう言っているのですよ!この分からず屋が!」

493: 2020/01/23(木) 00:39:52 ID:TcZRYjW2
ヒルダ「…あの、デイジー姫。2人とも、実はお酒、弱いのでしょうか?」ヒソヒソ

デイジー「…私の推測と経験からすると、ロゼッタに関しては素で弱い。
     ゼルダは日頃のストレスのせいでたまたま酒に弱い状況になってる。
     でも、ゼルダとうり二つのヒルダは…お酒、強いのかな?」

ヒルダ「荒れ果てた王国で、飢餓に苦しんで得体のしれない食べ物飲み物摂取しているうちに
     分解能力が高まったとかじゃないでしょうか…」フッ

デイジー「そんな重い話はお呼びじゃないよ!」



お酒のせいか、デイジー姫とヒルダ姫を置き去りに、とんとん拍子に、喧嘩腰になってしまっています。

ロゼッタ「私はこれでも何百年も、あれこれ思案して魔法を、術式を編み出してきました!
     空間魔法と回復魔法だけですが、工夫を重ねてきたのです!
     今更、それを馬鹿にされたくはありません!」

ゼルダ「そこまで言うのなら、ヒルダ姫とデイジーとの3人で、
    貴方が土下座したくなるような魔法を提案して差し上げますが、よいですか?」

ロゼッタ「…できるものならやってみてくださいよ」

チコ「そうだそうだー!」

チコ「ママを甘くみるなー!」

チコたちも、私をしっかり応援してくれています。
空間魔法といえば、安心と信頼の実績のロゼッタです!

494: 2020/01/23(木) 00:42:56 ID:TcZRYjW2
ゼルダ「お二方も、よろしいですね!」

デイジー「なんだか変てこなことになってきたけど…
     面白そうだから大賛成!よーし、使える空間魔法、妄想するぞー!
     レッツ!シンキングターイム!」

ヒルダ「わ、わかりました」



御三方揃って、腕を組んだり、顎を捻ったりして悩み始めました。
ま、まあ、私の為に一苦労して頂けるのは非常に嬉しいことなのですが。



ゼルダ「思いついたところから発表していく、と言う感じで参りましょう。
    それでは、言い出しっぺの私から。

    ロゼッタ、あなたは空間魔法で隔壁を造りだせるのですよね?」

ロゼッタ「はい、造れます。無尽蔵に…というわけではありませんが」

今さら…それが一体、どうしたというのでしょう。

495: 2020/01/23(木) 00:45:34 ID:TcZRYjW2
ゼルダ「壁を造れるならば、浮遊床を造ることもできるはずです。

    味方と息を合わせてポンポンと床を作ってやれば、
    さも、空中を言葉通り駆けるような動きが達成されるのでは。
    名付けて、『バディブロック』といったところでしょうか」

デイジー「いいね!本来制御しにくい空中で自由に駆け回れるって、
     相当なアドバンテージだと思う。
     敵に利用されそうだったらとっとと消せるっていうのも評価点かも」

ロゼッタ「ふむ、一理ありますね」



バディブロック、ですか。言い得て妙ですね。

496: 2020/01/23(木) 00:47:22 ID:TcZRYjW2
ヒルダ「あ、あのー。次、私、いいですか?」オズオズ

デイジー「おー、どんどん発表しちゃって」

ヒルダ「隔壁を絶対座標に留めるのではなく、体に対して相対座標で固定して…、
     中長期的に体に何重にも纏わせて、身体強化するというのはどうでしょうか。
     ううっ…この説明自体、あんまり自信がないんですが…ごめんなさい。

    普通なら隔壁同士がごちゃごちゃ干渉しあって動きにくくなってしまいますが、
    ロゼッタならばそのくらいなんとかなったり…しませんか?
    鎧としても、パワードスーツ的な役割としても、面白そうだと思います」

ロゼッタ「相対座標に持続展開、ですか…」

デイジー「次、私―!
     やっぱり、空間魔法で攻撃したかったら『奪い取り』でしょ!
     単なる静止物の預け入れ倉庫だけっていうのは勿体ないよ!
     敵や味方の魔法を切り取って、自分の魔法としてストックして使うっ!
     もう、攻撃手段が亜空切断だけとは言わせないってね!」

ゼルダ「そ、それは流石にずるく…ないですか?できるとも思えませんし」

デイジー「そうかなぁ?既に、むらびとができているって言えばできてるし…」

ロゼッタ「…」

497: 2020/01/23(木) 00:50:13 ID:TcZRYjW2
ヒルダ「…あ。隔壁を動かせるということは、動かさない隔壁との組み合わせでピストン…
    空間の圧縮や膨張ができるということですよね?

    つまり、まるで感知されない所に弾性エネルギーを蓄えられるということです。
    これで物を勢い良く飛ばしたり、爆発に利用したりすれば効果的なのでは」

ゼルダ「それ、いいですね!…いえ、それだけではないような。
    それを応用すれば、断熱状態の伸縮で急加熱、急冷却ができるということです!
    疑似的に炎、氷属性の攻撃手段になり得るのでは?」

デイジー「いいねいいね、盛り上がってきた!
     そうだな…やっぱり、空間魔法の花形といえば、『重力操作』でしょ!
     敵の動きを束縛したり、味方をふんわり落下させたり!
     上空の物体を急速落下させたり、横方向に敵を叩きつけたりね!」

ロゼッタ「…………」

デイジー「…………あり?ロゼッタ」

ロゼッタ「……………………」

デイジー「…………もしもーし?」

498: 2020/01/23(木) 00:52:40 ID:TcZRYjW2





ロゼッタ「うわっ…私の知能、低すぎ…?」ガクガクブルブル





ヒルダ「ないないないない」ブンブンブンブン

ゼルダ「だとしたら全人類の大多数は知能が低いことになりますね」

デイジー「ロゼッタさんはちょっと頭が固いだけなんや」


あれ、おかしいですね。
色々と有意義過ぎる意見が出されたからでしょうか。
すごく嬉しいはずなのに、なんだか悲しい涙が出てきました。

499: 2020/01/23(木) 00:55:57 ID:TcZRYjW2
フラフラと立ち上がり、ボーっと周りを見渡して。
突然の行動に、皆さんがギョッとしています。

デイジー「…ど、どうしたの急に」

ロゼッタ「あの、ちょっとだけ今から無茶します。
     治療中の身でありながら誠に申し訳ありません」

デイジー「え、なになに、どういうこと…
      わ、わたしはFPをこれまで通り送り続けてればいいの?」アタフタ

デイジー姫に握られていない右手で杖を…。

ロゼッタ「ああ、杖はまあ、いいですか」ポイッ

ゼルダ「えっ」



そこまで高等なことは、やらないですし。
数年前の私だと無理だけれど、今の私なら、大丈夫なはず。

500: 2020/01/23(木) 01:00:16 ID:TcZRYjW2
ロゼッタ「えーっと、右手の手のひらの数センチ上に隔壁で小箱を作って…こんな感じですか?」

デイジー「り、理解が追いついていないんだけd――」

ロゼッタ「一方向の隔壁を一気に押し込んで瞬間圧縮して急加熱――」グッ

デイジー「ちょ」



ロゼッタ「その火種に向けてFPを燃料として放出し大きな火球とし――
     別の隔壁のバネの力で、勢いよく、打ち出すッ!

     ええっと、ええっと……………Pyrokinesis《超常の火炎弾》――っ!」



ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!

バレーボール大の火球「だらっしゃあああああああああああああ!!!」バビューーーン!!



ロゼッタは パイロキネシスを 覚えた!▼

デイジー「」

ゼルダ「」

ヒルダ「」

501: 2020/01/23(木) 01:04:41 ID:TcZRYjW2
ロゼッタ「………………………………………………………………
     なるほど、魔法的には精々Bランクといったところですね!今の私でも大丈夫!
     お恥ずかしながら、ようやくゼルダ姫のおっしゃったことが分かりました!
     これが極限でなく実用性を取るということですか……!!

     空間魔法で、こんなことができるだなんて…眼から鱗ですっ!!
     これなら…まだ、戦えるかもしれませんっ!!
     本当にありがとうございました!これでファイアフラワー要らずっ!」パアアアアアア

ロゼッタの やる気が ぐぐーんと 上がった!▼



ゼルダ「ふ、ふ、ふ、すすす全て計算通りですよ、ええ」ガクブル

ヒルダ「…眩暈が」フラッ

デイジー「全王国の魔法使いに謝れやゴラアアアアアァァァァ――――!
      いやまず魔法の才能ゼロの私に土下座して謝らんかぁーい!」

まわりの やる気が がくっと 下がった!▼

503: 2020/01/26(日) 20:31:52 ID:WuB169qM
~時は少しずれ、選手宿泊施設~

ピット「……むにゃむにゃ……………」

ピット「……」

ピット「う……うう……………」ウナサレ

ピット「ぐ、ぐ…………いいかげんに…し、ろ…………」




ピット「このスレ、いよいよ500レスを突破しておいて、
    マリオカートのマの字も出てないぞおおおおおお!!」ガバッ

パルテナ「きゃっ!?」ビクッ



グースカ寝て、飛び起きて。
ふと横を見てみれば、両手をバンザイさせて、ビクッと固まったパルテナ様。



パルテナ「…あ、デイジー姫の台詞中に、チラッと掠めて言及されてましたよ。
      訂正してくださいね」

ピット「よく意味がわかりませんパルテナ様っ!」

504: 2020/01/26(日) 20:34:04 ID:WuB169qM
ピット「…あれ?パルテナ様?…あ。し、失礼いたしましたっ!
    なんだか、意味不明な暴言を吐いたような気が…!

    それはそうと、一体全体、どうしてここに?」

パルテナ「まったく、こっちはこっちで、心臓が止まるかと思いましたよ…。
      …あ、そうでしたそうでした。

     実は、リンクが朝からルフレたちを特訓しているのを見かけまして。
     中々面白い勝負になっていたので、終わってしまう前に
     ピットにも観戦をお勧めしたくて、呼びに来たんですよ。
     きっと、得るものがあるはずです」

ピット「パルテナ様のオススメとあれば喜んで!
    …ですが、リンクとルフレたちが、面白い勝負…?
    いまいち想像できないんですが。一瞬で終わりませんか?」

パルテナ「まあまあ、百聞は一見に如かず、ですよ」グイグイッ

ピット「分かりましたって。そんなに引っ張らなくてもー。
    あれ?というか、部屋の鍵を掛けてたはずなんですが」

パルテナ「出窓の方の鍵が開いてましたよ?」シャキーン

ピット「それ、タダの不法侵入です!犯罪です!」

505: 2020/01/26(日) 20:36:59 ID:WuB169qM
~鍛錬場~

リンク「さあ来い、俺に勝つつもりで…思いっきり掛かってくるんだ!」

ルフレ「何度でも同じ返答をさせていただきますが、そんな無茶な…
    ええい、ヤケクソですよ!――ルキナ、まだ大丈夫かい!?」

ルキナ「…はいっ!」ダッ

ルフレ「戦局を変えてやるっ!それっ!」バッ

ルキナ「はあああああああっ!!」



リンク「ただの、素振りぃー!!」ブンッ!

ブァサァ――ッ!!



ルフレ「ぎぎ…!その、ただの木刀の、ただの素振りで、
    こっちは碌に動けない風圧を食らうんですけどねぇっ!?
    油断していると、あっという間に魔導書も吹き飛ばされそうだっ!
    …ルキナっ!僕の魔法で緩和させるから、構わず突き進んでっ!」ズズズ

ルキナ「わかりましたっ!」ダダッ

506: 2020/01/26(日) 20:39:33 ID:WuB169qM
リンク「そうだ、その調子!攻撃は最大の防御、だぞ!
    全部に対処しようとするんじゃなくて、進路上だけでも障害を退けて、
    針の穴から局面を打開する一撃を狙い打て!」



ルキナ「……!」チラッ

ルフレ「……」コクッ

ルキナと ルフレは デュアル状態!
「デュアルガード」発動! 攻撃を 上手く 受け流す!▼



ルキナ「…御免っ!」ズバッ

リンク「ぐはっ!…なかなかの一撃だったぞ」ザクッ ドンッ



ピット「…ありゃ!?本当に、いい勝負になってる!」タタタッ

アイク「うむ。悪くないコンビネーションだな」

マルス「本来の2人は、会ったのはごく最近だけど。
    あのルキナは『別のルフレ』とタッグを組んだ経験が存分にあるから、
    ある程度の呼吸が分かっているのが大きいね」

507: 2020/01/26(日) 20:41:44 ID:WuB169qM
ピット「……え、でも…そ、それだけで!?
    それだけで、2対1とはいえリンクに善戦できる底力を持ってるの!?
    あの2人、恐ろしい新人ってことなんじゃあ…!まさかの伏兵…!?」

マルス「ははは、まさか。
    リンクは人数差の他に、3つほどハンデを背負ってるから」

ピット「ハンデ?それでも3つだけって、凄いと――」



マルス「ひとつ。リンクは脚を動かしてはならない。
        転倒した場合は、その場で起き上がって再び立ち尽くすこと。

    ふたつ。リンクは木刀しか使えず、更に木刀を直接相手に当ててはいけない。
        間接的に吹き飛ばすにしても、致命傷を与えてはいけない」

ピット「……え゙」

508: 2020/01/26(日) 20:43:53 ID:WuB169qM



Wii fit トレーナー「はい、立木のポーズ!」

リンク「うへーい!」ビシッ

Wii fit トレーナー「いい感じです!」キラーン



マルス「みっつ。60秒ごとに30秒間、『立木のポーズ』を実行しなければならない。
        その間は構えることすらできず休まれ放題、斬られ放題、撃たれ放題」

ピット「ハンデというより敗北への片道切符じゃないかな、それ!?」
   
パルテナ「んー、でもリンクの方がちょっと押してますけどね」



ルフレ「ハアッ…ハアッ…どうして…曲がりなりにも攻撃を当て続けてるこっちが、
    先にフラフラになってきたんでしょうか…?」

ルキナ「…くっ、本当に…際限のない未曽有のスタミナですっ…!
    真剣で斬り続けているのに…!」

ピット「リンクすげえ!」

509: 2020/01/26(日) 20:49:22 ID:WuB169qM
ルフレ「……こ、降参します…………ハアッ、ハアッ、ハアッ…」バタン

ルキナ「…無念、です…」キュウ

肉体と精神の疲労、そして魔力切れで目を回して、座り込んでしまったルフレ。
地に突き刺した剣にしな垂れかかるようにして、動けなくなってしまったルキナ。
う、うん。2人とも、本当によく頑張ったと、思う。相手が悪かっただけで。

リンク「おおっ、なんだかバランス感覚が向上して体幹も強化された気がするぞ!」グイッ

Wii fit トレーナー「BEST率100%!素晴らしいです!」パチパチ

パルテナ「確かに、文句のない体捌きでしたね。
     もしもフィットネスで敵を倒すRPGとかがあったら、
     ラスボスでも瞬殺できそうな勢いでした」

リンク「どんな奇天烈RPGだよ、それ。駄作もいいとこだろ……
    あらかたワゴン行きになる光景が目に浮かぶぞ…」

Wii fit トレーナー「…………面白そうですね」ボソッ

リンク「え、なんだって?」

Wii fit トレーナー「気にしないでください。
           ちょっと従妹に提案してみようと思ったまでです」

リンク「ますます意味が分からない」

510: 2020/01/26(日) 20:53:08 ID:WuB169qM
観客「おう、色々ハンデは有ったみたいだが、
   お前たち、あのリンク相手によく頑張ったな!」

観客「活き活きとしてて、格好よかったわよー!
   そっちの男の人は参戦中だったわよね、応援してるわ!」

パチパチパチパチ……!



ルフレ「あ、あはは、どうも……」

ルキナ「こ、こんなに注目されていただなんて…は、恥ずかしいです…」カアァ



マルス「面白そうだから、今のルールで…是非、僕もやりたいな!
    人数は1対1でいいから!」ワクワク

リンク「おいやめろ!流石にマルスはシャレにならん!俺が剣の錆になる!」ビクッ

マルス「またまた、謙遜しなくてもいいじゃないかー」

リンク「マジだっつーに!
    というか、マルスはそれで勝ってうれしいのか!?」

511: 2020/01/26(日) 21:07:47 ID:WuB169qM
――ピンポンパンポーン。



拡声器「こちら、王国放送です。
     スマブラfor大会に参加されている選手の皆様方にお伝えいたします。
     大会進行に関する重要連絡がございますので、至急、大会控室にお集まりくださいー」



ピット「なんだ、なんだ?こんなの初めてだよ、事件かな?」

周りの市民の人たちも、珍しい放送らしく、熱心に聞き入っているみたいだ。

パルテナ「まあ、残念なことに事件なら割と頻繁に起こってしまっていますが…」

ピット「たしかに…残念ですね、本当に」

マルス「呼び出しとあらば仕方ない。リンク、また次の機会にしよう」タッタッタッ



リンク「そんな機会、あってたまるか……………………………………………
    ………………………………………………………………さて、と」

512: 2020/01/26(日) 21:14:36 ID:WuB169qM
~選手控え室~

マリオ「いや、集まって貰って申し訳ない、みんな」

ピーチ「一体どういうことよ、マリオ。私、こんな呼び出しなんて計画してなかったわよ?」

ザワザワと、落ち着かない様子の集まった選手たち。
どんな意図で招集をかけたのかと、要件を聞きたがっている。

マリオ「さっそくだが本題だ。みんな、いい加減、身の回りの事件に悩んでいると思う。
    その中でも、窃盗事件には辟易していることだろう。
    次はいつ、自分に降りかかるんだってな」

ファルコ「ちょっと待てよ。その件については、運の悪さというか不幸にげんなりするが、
     原因としては定かになった、解決済みの事件じゃねぇか」

マリオ「ファルコはまだ知らなかったかもしれないが、あの後もちらほら、窃盗事件は起きてるんだ。
    それも、相変わらず選手のみを狙ってな。
    その中には、まだ持ち主に返せていないものもある。
    それほど重要なアイテムでなかったのが幸いだが」

ルカリオ「…私のがんばリボンとコンテストリボンが…」

ドンキーコング「ネクタイが…許すまじ…!」ゴゴゴゴ

ロックマン「お守りのE缶が…」ガックリ

ネス「ヨーヨーが…」ショボン

513: 2020/01/26(日) 21:18:46 ID:WuB169qM
サムス「盗んだ奴が一番悪いのは当然だが、みんな、油断し過ぎじゃないか?
    選ばれし戦士として、もう少しどうにかならなかったのか?情けないぞ、まったく」フン



ガチャッ!

キノピオ「たたたた大変ですサムスさん!
     何者かが更衣室に忍び込んで、サムス選手のロッカーを荒らしたみたいです!
     スーツ一式がなくなっている模様だと報告がありました!
     ちょっと確認しに行ってもらえませんか、今すぐっ!」バターン

サムス「それはすごく重要なアイテムだから返してぇ!?」ダダダダダッ



ピーチ「ううっ…吐き気、が」フラッ

ファルコ「…何やってんだよ。マジで大丈夫かよ、この大会!
     防げるかどうか、の話じゃなくて、これじゃ大会に集中することすら…ろくにできないぜ?
     やっぱり…俺の最初の怒りは、間違ってなかったってことになっちまうのか?」

ピーチ姫の顔色が、目に見えて悪い。
相当ショックを受け続けているみたいだ。

514: 2020/01/26(日) 21:21:26 ID:WuB169qM
マリオ「そのことに、ついてなんだが。
    実は、クッパと協力して、対策を考えていたんだ」

ピーチ「…ちょっと。何よそれ、初耳よ」

マリオ「まあ、駄目元だったんでな。
    選手たちが不安がると、周りの市民や観客だって異常に気付いて、
    ますます大会に支障が出てしまう。
    一刻も早く対処したいと、藁でも縋る気持ちだったんだよ」

ピーチ「…駄目元、だった…ってことは、方策を見つけたのね?」

マリオ「ああ。それが…これだ。おーい、クッパ!用意はいいか?」

クッパ「任せておくのだ!」

…!?なんだ、ありゃ?
クッパが、漆黒のでっかい箱を頭の上に抱えて、ズシンズシンとやってきた。

クッパ「……ふんっ!」バッ



ドッズウウウゥゥ――ン!!!

515: 2020/01/26(日) 21:23:33 ID:WuB169qM
クッパが、軽く放り投げるようにして控室中央に置いて見せたのが…
1辺5メートルはあろうかという、巨大な――

フォックス「……金庫、か?」

クッパ「そうだ、人呼んで『大魔王の金庫』。もちろん、唯の金庫などではない。
    あらゆる衝撃に、魔法にビクともしない優れものなのだ。
    おまけにカメックの魔法のおかげで、外見以上の収容能力を持つ!

    さあお前ら、貴重品はとっととこの中に詰め込んでしまうのだ!
    試合中の者だけ、引き出しておけばよい。
    大会終了まで、無事を保証してやるぞ!ガッハッハ!」



でも、そんな高笑いにもすぐに納得はできず…
選手たちは、互いに目配せをし合って、動こうとしない。
突然の提案に、どうしたものかと悩んでいるみたい。

516: 2020/01/26(日) 21:28:00 ID:WuB169qM
ファルコ「…そいつは、信用できるのか?
     悪いが、その金庫の性能が本当に高いのかどうか、俺たちには分からねえ。
     もしそれでも無くなったり奪われたりしたら、一体どうしてくれるんだ」

マルス「僕も疑う訳じゃないが…そもそも、肌身離したくないようなものを
    人様の金庫に収める、ということ自体に、中々の抵抗があるしね」

リンク「そうだぞマリオ。無くなりました、じゃあ弁償します、じゃ済まされないぞ」

全体的に、胡散臭がる、拒絶しようとする雰囲気だ。当然だね。



マリオ「…まあ、普通の弁償限界だったらな」

ピーチ「どういうこと?」

マリオは周りの皆をゆっくりと見渡して、こう宣言した――



マリオ「俺とクッパが、この金庫に絶対的な自信があることを示そう。
    もしも俺たちを信じて預け入れてくれ、その結果何者かに奪われ、あるいは損失したならば。

    奪われた要因、損失の程度に関わらず。
    預け数1つごとに…問答無用で 10億コイン 渡そうじゃないか。
    更に、この『マリオ』の使用権を1年分渡そう。
    自国に連れ帰って、存分にこき使ってもらって構わないぞ」

ピーチ「はああっ!?」

517: 2020/01/26(日) 21:31:32 ID:WuB169qM
ザワザワザワ――ッ!!

控室が、にわかに騒がしくなった。なんてことを言い出すんだよ、マリオ!
ヒーローのマリオを1年間駒にできるとなれば、途轍もない利権には違いない。

ピーチ「マリオっ!そんなこと、勝手に決めないでよ!
    そこまで責任被ること、流石にないわ!」

マリオ「悪いが、ピーチは黙ってろ。
    これは、キノコ王国がどうの、という話じゃあ、ない。
    あくまで俺個人が、みんなと交わす取り決め、約束だ。
    支払いのコインだって、当然俺が全負担する」

ピーチ「そんなお金、ないでしょ!?」

マリオ「まあ…身の回りのアイテムや備品、色々売り払えば、なんとかなるだろ。
    そのくらい、俺は覚悟してるってことだ」



選手たちが、黙りこくる。



クッパ「…おーい。どうして誰も動こうとせんのだ。
    誰も使わないとかいう骨折り損のくたびれ儲けなオチはやめてほしいのだ」

518: 2020/01/26(日) 21:37:02 ID:WuB169qM
リンク「…しゃーないな、そこまで言うなら、この俺が信じてやるよ。
    もちろん、なーんの価値もないようなものを、からかいで入れるとかはしないぞ?
    俺はとりあえず、ネオ・マスターソードとハイリアの盾を預けておくぜ」

デデデ「!?リンク、正気か!?
    それらを失いでもしたら、永遠に取り返しのつかないことになるぞい!
    下手をすればハイラル王国の存亡に関わるぞい!」

リンク「それは盗まれたときだって同じことだろ?
    ルカリオやネスの裏を掻けるような奴の犯行なんだ、
    俺だって絶対に守る自信なんてないよ。
    だったら、せっかく用意してくれる万全なセキュリティに任せた方がいいさ。

    あ、そうだ、パルテナー。
    念のため、金庫の中にテレポートできないことを確かめてくれないか?」

パルテナ「あ、は、はい」スッ

519: 2020/01/26(日) 21:39:54 ID:WuB169qM
パルテナ様が、目を閉じてしばし。



パルテナ「きゃんっ!?」バチィ!

ピット「パルテナ様っ!?」

金庫が怪しく光を発したかと思ったら、テレポートを発動させ姿を消したパルテナ様が、
術式を強制解除されたのか…金庫の壁に予期せぬ出現をして、激しく吹き飛ばされた。

パルテナ「」ドクドク

ピット「うわあ!?あわわわわわわわわわ!!?」

ピーチ「か、回復回復っ!!」ポワアアアアン



パルテナ「う…いったたたた…ちょ、ちょっとクッパさん!?
     これ、何重に転移阻止の術式を展開しているのですか?
     大盤振る舞いにも程がありますよ!」

520: 2020/01/26(日) 21:44:30 ID:WuB169qM
クッパ「ふん、100人以上のカメック達に1週間がかり夜通しで、
    魔法を仕込ませておいたからな。この金庫に氏角なしなのだ!
    なんだったら、ロゼッタも試してみるといい!」

ロゼッタ「え、ええ?わ、わかりました。
     ……せーのっ!」シュンッ


ロゼッタもパルテナ様と同じように姿を消し…、
同じように、激しく跳ね飛ばされる。
流血はしないものの、もんどりうって床を大きく滑らされた。

ピーチ「ちょ、ちょっと大丈夫、ロゼッタ!?
    …クッパ!ちょっとやりすぎよ!」

ロゼッタ「……うそ。凄いですね、これ!まさか跳ね返されるとは…!」

リンク「おおー、上々だな。ま、この金庫に入れたうえで、トドメに周囲を監視カメラで完全警護でもしておけば、
    流石に獲られはしないだろ。マリオ、クッパ、サンキュー!
    じゃ、ハイラルの大事な剣と盾、よろしくな!」ホイッ

マリオ「よっしゃ、確かに承ったぞ」ウケトリ

522: 2020/02/01(土) 16:44:35 ID:5ZK6q2P6
~閉ざされたフィールド~



ロゼッタ「…ぐぐ、まだまだ本調子じゃ…ありません…」ググッ



それでも汗の滴り落ちる中、必氏に腕を、脚を、動かし続けます。

ようやくFPの流れも自力制御できるだけの回復を果たして、喜びたいところですが。
そんな暇など、ありません。なまった体を本調子へ、そしてその先へ進ませなければ。



ロゼッタ「…998、999、1000っ!!」



スクワット、腕立て伏せ、腹筋。1000回ずつ終わりました!
…それぞれ1時間も掛かってしまうだなんて。まだまだ短縮の余地がありますね。



自身を気休めに回復させて、ほっと一息。

523: 2020/02/01(土) 16:52:04 ID:5ZK6q2P6
ゼルダ「やっと終わりましたか、ロゼッタ」

ロゼッタ「…あ、す、すいません」

…おっと、ゼルダ姫をお待たせしていたのでした。

お一人で、魔法の特訓をひたすらしていたゼルダ姫。
なんでも、ゲOルアタック習得時にお見せした私の魔法レベルの高さに刺激を受けて、
居ても立ってもいられなくなったのだとか。…ちょっと照れます。

ゼルダ「もっと高みを目指したくはありますが、やはり簡単ではないですか…ふう。
     …さて、準備はよろしいですか?
     本当にできるかどうか気になりますが、やってみますよ?
     言い出したのは、貴方なのですから」

ロゼッタ「今更、机上の空論と罵倒されるのも嫌ですし……もちろんです!
      練習ではわりといい感じに仕上がっていましたから!」

524: 2020/02/01(土) 16:54:08 ID:5ZK6q2P6
目を瞑って、ちょっと集中。

ゆっくり目を開いて、両腕を横に伸ばします。

左手をグーに、右手をパーにして、パチンと打ち付けて。
FPを集積し、集約し、さあ展開していきましょう。



ロゼッタ「………………Barricade Robe《要塞法衣》――っ!!」



バキバキバキバキバキバキバキバキィ――――――――ッ!!

首を、両腕を、肩を、胸部を、腹部を、背中を――
上半身全体を、ある程度フレキシブルな隔壁が覆います。
肌やドレスに接触した瞬間、凝縮され薄膜となり、コンパクトに。

その上から、次の隔壁がやってきて、ペタリと接着。
焼き直しのように凝縮され薄膜となり、コンパクトに。
更に、その上から次の隔壁が――

一連の作業が、隔壁『12枚分』、生々しい打撃音と共に夥しい速度で進められていきます。
この枚数が、試行錯誤によって判明した…後々の柔軟性を担保できる、限界枚数。
10秒もしないうちに、全ての工程が完了しました―!

525: 2020/02/01(土) 17:00:55 ID:5ZK6q2P6
ロゼッタ「感触、問題ナシ……要塞法衣、完成っ!!」シャキーン



ロゼッタの 上半身の 攻撃力が  10%アップ!
ロゼッタの 上半身の 防御力が 300%アップ!
ロゼッタの 上半身の 素早さが  50%ダウン!▼



ゼルダ「……!」



私の新しい魔法、要塞法衣。
体を隔壁が覆うことで、ダメージを大きく抑えてくれる…天晴れな鎧です!
何重にも薄く張り付いた隔壁が、少しばかり金属じみた性質を獲得したためか、
うっすらと光を反射して輝いています。

…動くたびに体の周りからミシミシと音が立って耳障りなのは我慢、我慢っ!
流石に動きに制約があって、ちょっと動きが取りにくいのは…もっと我慢っ!

ついでにこの魔法、隔壁に多大な負担を強いるため、劣化防止でFPを垂れ流し。考え無しに使うと自分の首を絞めます。
更についでに言うと、視界や聴覚、嗅覚や呼吸なんかが愉快なことになるので顔に対しては発動できません。
もうひとつおまけに申し上げると、何もないところで頻繁に転びまくってしまうので下半身にも発動できません。
…と、何気に不便なところもあります。悲しいかな、全部経験談です、ええ。

526: 2020/02/01(土) 17:04:08 ID:5ZK6q2P6
鎧を纏って、改めてゼルダ姫を見やる。
少し驚いたように見えたゼルダ姫ですが、すぐに顔を引き締めています。

ふんわりとジャンプして、浮き上がって…。
ゼルダ姫を見上げる格好になりました。さて、いよいよですね。
ちょっと、わくわく。

ゼルダ「……コホン」



ゼルダ「光と影を統べる王に弓引く 愚か者よ…
    その身をもって 我が力に触れるがいい!!」クワッ



ロゼッタ「……え?」

ゼルダ姫が、左手を天に向かって掲げると。
途端に、眩く輝く光の球が現れました。
…ええ、それは伺っていた通り、の現象なのですが。
さっきの台詞は一体なんですか?

527: 2020/02/01(土) 17:09:11 ID:5ZK6q2P6
ゼルダ「ハッ!」ブンッ!

ゼルダ姫が、光の球を――私に向けて、放り投げます!

それを私は、避けるのでなく、食らうのでもなく…!



ロゼッタ「…せー、のっ!」ズンッ!



鎧状態の拳で、真正面から正拳突き!
バシイイィィン!と爽快な打撃音とともに…光の球を、ゼルダ姫に撃ち返しますっ!
目論見通り!大成功です!さあさあ鍛えて参りましょう!

…あ、けっこう反動あります。ビリビリします。軽い硬直状態になりますね。
こ、これは間隔開けずに繰り返しこなすのは、無謀ではないでしょうか。タイムを要求します。

私の心の叫びを知ってか知らずか。返された光の球に、ゼルダ姫は手をかざして、一振り。
それだけで、光の球は、ふたたび反転して私に襲い掛かります。

ゼルダ「ほう…問題なさそうですね。それでは、改めて宣言します。
    ――光の球ラリー、500往復、始めっ!」

ロゼッタ「あの、えと、もうちょっと小さい光の球から始めてほし…
     わ、わ、わわわっ!聞く耳持たず!?きゃあ!?」

528: 2020/02/01(土) 17:12:25 ID:5ZK6q2P6
それは確かに、私から提案してみた特訓方法ですけどねっ!?
覚えたての魔法の具合を確かめるには、ちょっと…図らずもハードルを上げ過ぎではないでしょうか!

ああもう…仕方がありません!このまま続行、ラリーを続けます!
開き直り、破れかぶれと人は呼びます!



ロゼッタ「いーち!」ドンッ!

ゼルダ「……」カンッ



ロゼッタ「次はビンタっぽく、にー!」ダンッ!

ゼルダ「……」カンッ



ロゼッタ「アッパー気味に、さーん!」カキーン!

ゼルダ「……」カンッ



ロゼッタ「受け止めて押し返す感じで、しー!」ドスッ!

529: 2020/02/01(土) 17:17:29 ID:5ZK6q2P6
ゼルダ「……ふふ」カンッ

ロゼッタ「流れに逆らわず、くるりと体ごと一回転させながら投げ返す感じで、ごー!」ブンッ

ゼルダ「…それっ」カンッ!

ロゼッタ「――ろ、ろくっ!…あれ?
     ちょ、ちょっとゼルダ姫!微妙に速度が上がって、上がってますよっ!」・・・ゴンッ!

ゼルダ「それが?」

ロゼッタ「いやあの!間違って顔面に当たったりすると即氏する威力なのをお忘れで?
      割と今のスピードで一杯一杯なんですが!」

ゼルダ「頑張りなさい、不断の努力こそがロゼッタの強みでしょう」

ロゼッタ「無視されました!?」



ゼルダ(……………………)

530: 2020/02/01(土) 17:20:43 ID:5ZK6q2P6
~回想~



ゼルダ「光と影を統べる王に弓引く 愚か者よ…
     その身をもって 我が力に触れるがいい!!」フワッ



ブンッ!
ゴオオオオオッ!



ミドナ「憑依されているのか…!?魔法を放って来たぞリンク!
    剣でなんとか対処できるか!?」

リンク「よっしゃ、まかせとけ!…マスターソードォ――――!」

ズバアアアアアアァァン!!



光の球は 耐え切れずに 一撃で 消し飛んだ!!▼



リンク「あ」

ゼルダ「」

531: 2020/02/01(土) 17:22:23 ID:5ZK6q2P6
ゼルダ「…ひ、光と影を統べる王に弓引く 愚か者よ…
     その身をもって 我が力に触れるがいい!!」

ミドナ「…Take2?」



リンク「……ハイリアの盾ェ――!」

ゴチイイイィィン!



光の球は 耐え切れずに 一撃で 消し飛んだ!!▼



リンク「…おいガノン!ゼルダ姫の力、思いっきり呪縛かけてるだろ!
    ゼルダ姫の力、流石にここまでへっぽこにして差し上げるなよ!
    ゼルダ姫の評価を貶めようって腹か?悪役ながら酷い奴だな!」

ガノン(えっ)

ゼルダ「」グサグサッ

532: 2020/02/01(土) 17:24:48 ID:5ZK6q2P6
ミドナ「…そんなにラリーをやりたいんだったら、
    伝説の剣や盾使うのをやめておけばいいんじゃないか?よくわからんが」

リンク「まあ、そうなんだけど…恰好がつかないんだよなあ。
    …それでもお約束のラリーをする楽しさが優先か。
    じゃじゃーん!トアルの剣っ!」

ミドナ「優先なのか」アキレ

リンク「…って、もう光の球撃たれてる!?食らっても案外平気そうだけど、やばっ!」

ミドナ「それってどこがヤバイんだ?」



ズバッ!

光の球は 耐え切れずに 一撃で 消し飛んだ!!▼

ミドナ「……………………」

リンク「……………………」

ゼルダ「」

533: 2020/02/01(土) 17:27:26 ID:5ZK6q2P6
ミドナ「あ、そ、そうだ。そこに転がってる奴とかどうだ?」

リンク「え、これのこと?」ヒョイッ



ゼルダ「」カンッ!

リンク「てえぇい!」カキンッ!

ゼルダ「」カンッ!

リンク「まだまだっ!俺は、負けないっ!
    ……ミドナ、これ、すごいぞ!ラリーがちゃんと続くっ!
    サンキュー、助かったぜ!」

ミドナ「……あ、ああ。全然助けた気がしないが、どういたしまして」

リンク「俺とこの武器は一心同体だー!」





ミドナ「それ、崩れた城の一部から採取できた、何の変哲もない木切れだけどな」

ゼルダ「」

ゼルダ「」ダバーッ

534: 2020/02/01(土) 17:31:38 ID:5ZK6q2P6




ゼルダ(……………………)

ロゼッタ「あっ…いた、いたたっ!そろそろ限界…ああっ!」Miss!

ゼルダ「……ふふふふふふ、また最初からやり直しですね。
     ああ――楽しい、楽しいわ…!」

ロゼッタ「そ、そんな…せっかく35往復まで行ったのに…ハァッ…
      い、いえ、どのみち、序盤もいいところでしたね…。
      うぐ、隔壁修復が間に合わずにけっこう血が滲んで…」

ゼルダ「ああ…こんなに、こんなに光の球の応酬が、楽しい物だった、なんて…!
     グズッ…さあロゼッタ!まだまだ行きますよ!」ポロポロ

ロゼッタ「ちょっと治療の時間を頂いても…って、もう再スタートですか。
      …あ、あれ?なにゆえ泣いているのですか!?」

535: 2020/02/02(日) 00:02:08 ID:PXhC6pdY
まさかの「失敗したらカウントし直し」を宣告されてから、2時間。

必氏に頑張っては見たものの、500往復だなんて土台無理な話で。
一度だけ100往復以上続けさせたところで、ようやく休憩となりました。
か、体が酸素を求めています。

妙にサッパリした顔つきのゼルダ姫が隣に来て、腰を下ろします。
流石に、基礎体力の差が出たのか、ちょっと汗をかいたくらいで余裕そうなゼルダ姫。

ちなみに、基礎体力レベルとしては
デイジー姫(裏)>>デイジー姫(表)>ゼルダ姫>>私>>ヒルダ姫。

一方の魔法レベルとしては
私(本気)>>ゼルダ姫>ヒルダ姫>私(低下)>>>デイジー姫。
…だいたいこんな感じです。たぶん。



2人して見やるのは、そう、ヒルダ姫。
何を隠そう、本日一番頑張っているのは、彼女なのです。



なにせ、私のお相手をゼルダ姫に委ねた流れから、消去法的に――
デイジー姫とのタイマン勝負を、何時間も続けているのですから。

536: 2020/02/02(日) 00:05:43 ID:PXhC6pdY
私、ロウラル王国のトップを務めさせていただいております、ヒルダです。

魔法それなり、運動能力からっきし。吹けば倒れると評判の、ヒルダです。

かつて、理を見失い、愚かにも目が曇り、
「あなたの、その……勇気のトライフォースを渡しなさい!」
とかなんとか、宣ったことのある、ヒルダです。

…ちなみに、リンクに
「勇気のトライフォースね!3つあれば十分かな?」
と笑って返され、固まってしまったのは内緒です。



そんな、私ですが。
何の因果か、いろいろあって心変わりして。
今しがた、デイジーという強大な壁に立ち向かっている最中です。

既に、ちょっと振り返るだけで、彼女に軽く500回以上残機を減らされています。
要するに、命を奪われています。

前半は、失望と絶望の真っただ中で。
そして後半は――

537: 2020/02/02(日) 00:09:39 ID:PXhC6pdY
デイジー「そらっ!」ダダッ!!

ヒルダ「――――っ!」

迫り来る高速の一撃。私程度では、避けられません。
……それで、諦めてしまうのは、簡単。実際、ほんの少し前の私が、そうでした。

何もできず、運命の過酷さを憂い…いえ、運命のせいだと全て責任を押し付けるのは、
何だかんだ言って、ただの逃げ。自暴自棄。役割放棄。
それでは、何も変わらない。変わらなきゃ、いけない。



たとえば。



ヒルダ「……サンド、ロッド――ッ!」

ファントム・ユガ「DAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」ブンッ!!



召喚した影の魔物の杖が振り下ろされるたび、
むき出しの地面から繰り出される、固められた、何本もの砂の柱。

デイジー姫は、そんなこと気にも留めず、むしろ体当たりで砕かんとする勢いです。

それでも。持ちうる最大火力の魔法をぶつければ、ちょっとは彼女の勢いを削げる。
あるいは、最短距離で接近されることを防いで、時間の余裕を生み出せる。

538: 2020/02/02(日) 00:11:37 ID:PXhC6pdY
そんな私の願いをあざ笑うかのように、大して時間と体力のロスもなく、デイジー姫が刻々と迫る…!



――別に、優雅に振る舞えなくても、いい。
――とにかく、残機を失うその瞬間を、少しでも遅らせるために。
――足掻き続けられたら、それで、いいはずなのです。



砂の柱をデイジー姫の目前に繰り出させ、視界を遮る。
私を見失わせたその瞬間に、自分の体に鞭打って、大きく大きく横っ飛び。
さしものデイジー姫といえど、スピードが乗った状態からの急な方向転換は…決して楽ではないはず。

デイジー姫に破砕された砂の柱。四方八方に激しく砂が舞い散ります。
横方向に、1メートル離れ、2メートル離れ、3メートル離れ――!?



デイジー「残念、だったなっ!」グッ ダンッ!

ヒルダ「――!?」

なんて、こと。
デイジー姫ときたら、私が居た箇所、たった一か所踏みしめるだけで。
猛スピードもなんのその、いともあっさり進行方向を90度転換。
私を見据えたまま、迷うことなく突き進んで、きますっ!

539: 2020/02/02(日) 00:15:54 ID:PXhC6pdY
デイジー「はあああぁ――!」ゴウッ!



風を纏いながら、ジャンプキック。

1秒後に、私の胴に届かんとする、デイジー姫。
1秒後に、胴を貫かれ、無残に残忍に絶命させられる――
後ろのデイジー姫に顔を向けてしまった、私。



こちらも負けじと方向転換?
…無理です、貧弱な脚力が咄嗟の行動を許してくれません。

もう一度、サンドロッドで食い止める?
…彼女の位置が大問題です。攻撃動作で浮いているため、
地面から立ち上らせる砂の柱がぎりぎり間に合いません。



デイジー「諦め――」







ヒルダ「……っ!ここに――っ!」

540: 2020/02/02(日) 00:21:38 ID:PXhC6pdY
痛みを覚悟する、一瞬。その直後。



ズゴゴゴゴゴゴッ…!

デイジー「…何っ」

ヒルダ「…ハァッ!…ハァッ!…ハァッ!…ハァッ!」



半ば、自分目掛けて撃ち抜く感じ、でっ!
一気に、何、メートルも、大きく自身、を、持ち上げますっ!

痛い、痛い、痛いっ!
背中を強く、あまりにも強く打ちのめす自爆行為。
肋骨が折れていますよと指摘されても納得してしまう痛みです。
涙目になりながら、砂の柱のてっぺんで激しく呼吸しながら。仰向けに転がります。

砂の柱は、じきに崩れる、あるいは崩されます。
でも、この行動は、決して、無駄じゃない。
ほら、今度こそ、砂の柱に意図せず突っ込んでしまって――
ざっと5秒…いえ10秒、時間を稼げました。

何もしなかったときに比べ、最低でも10秒ぶん。
――考える力を。戦う力を。経験値をかせげたということです。

この激しい痛みだって、即氏に比べればよほどマシ、万々歳というものです。

541: 2020/02/02(日) 00:24:37 ID:PXhC6pdY
ヒルダ「…そもそも、砂が崩れるまでのほほんと待ってくださるとも…
     限りません、よ、ねえっ!」

一刻も早く、体勢を、整えなければ。
節々が痛む体を叱咤激励しつつ、砂の上で起き上がり、周囲の警戒を怠らずっ!
休む間もなく、ファントム・ユガに構えさせる装備を考えます。

私の大切な従者、ラヴィオによって集められた、数々の装備。
もともとはリンクに使ってもらう予定のレンタル品だったとのことでしたが、
リンクが「あんな感じ」なので、まるで使われることはなく。
そのままラヴィオに勧められるまま、私が預かることとなり。

僭越ながら勝手に使い手となってしまって、熟練度を軒並み上げた結果
ファントム・ユガの手にも具現化させるに成功、偉そうに使わせるに至っています。
誰とも知れない本来の使い手さん、本当に申し訳ありません。

フックショットで、足場から足場へ逃げていくか。
…まあ、逃げられるのは図体の大きなあの魔物だけなんですが。却下です。

速度だけなら、やはり弓矢を放たせるか。

自爆覚悟で、バクダンか。



…光の弓矢なんて特別製の代物は、ゼルダ姫か…リンクくらいしか扱えないんです。
私としては持っていない以前に流石に実力不足です。魔法回路が焼き切れます。

542: 2020/02/02(日) 00:28:04 ID:PXhC6pdY
ヒルダ「ハァッ…ハァッ…」

とりあえず威力重視でバクダンを持たせることにして、術式書換え、切換え。
次第に砂の柱がひしゃげていって…。

デイジー「……おお、頑張った頑張った、その調子」

ファントム・ユガ「GARUUUUUUUUU・・・・・」

ヒルダ「よゆう、しゃくしゃく、ですね……バクダン、連続投擲っ!!」サッ

ファントム・ユガ「DADADADADA!」ポポポポポポイッ



デイジー「…別に、猪突猛進だけが能では、ないぞ?…見るがいい」フフッ



5個、10個と、揺らめくバクダンを投げつける。
爆風が辺りに吹き荒れますが、それでもデイジー姫はひらりひらりとかわしていく。
エレガントに、それでいてアクロバティックに。まるで炎の舞を踊っているよう。
激情を醸し出しながらも、「表のデイジー」の片鱗が垣間見えます。

543: 2020/02/02(日) 00:29:58 ID:PXhC6pdY
がくん。



ヒルダ「――ご、ふ」

魔力を急激に召喚獣に持って行かれ、立ち眩みと小さい嘔吐。



デイジー「いいのか?碌に効かないまま、どんどんFPを消耗するぞ?」

対峙する相手は、そう言ってほくそ笑みますが。



ヒルダ「…いい、んです!
    FP…いえ魔力で数々の装備を繰り出せるのが、私の…私だけの、持ち味!
    それを1秒でも伸ばし育てるのが、私の使命、そうでしょう!?」

デイジー「…その意気や、よし。
      もっと踊れ、いや踊らせてやろうじゃないか。
      足掻いたうえで、絶望にぶち当たらないことを精々願っておくことだな」

ヒルダ「…………あたり、まえ、ですっ!
    今の私が目指して止まないものは――期待と希望、だけですからっ!」

口を拭って――まだまだ、足掻いてみせますっ!

544: 2020/02/02(日) 00:33:12 ID:PXhC6pdY
ゼルダ「…本当に、凄いですね」

ロゼッタ「ええ。本当の、本当に――2人とも、凄い、です」

ゼルダ「…え?凄いのは、ヒルダ姫だけでしょう?
     必氏に戦う意志をとうとう己の物として、一気に成長の兆しが――」



…何を言っているんですか?そんなこと、あるわけないじゃないですか。



ゼルダ「…も、もちろんデイジーの強さは凄いと思いますが。
     それはもう、これまでで十分…分かりきっていたことでしょう?」

ロゼッタ「……いえ?私、改めて気付きましたよ。
      デイジー姫は、もしかしたら――天才なんじゃないかって。

      単純な戦闘力なら、今のデイジー姫よりも、マリオ達のほうが更に強いのでしょう。
      彼女自身が認めたように。それは真実かもしれません。

      でも。『成長促進』の素質というか、才覚については……
      世界で一番かもしれないって思った次第です。
      恐るべきは、『私たちを鍛え上げることに全精力』という暗示の絶大さ―!」

ゼルダ「…………?」

545: 2020/02/02(日) 00:37:13 ID:PXhC6pdY
ロゼッタ「……ねえ、ゼルダ姫。貴方は、気付いていますか?
      私は準備運動中やゼルダ姫とのラリー中にチラ見していたのですが…

      ヒルダ姫、残機が減る間隔が――どんどん、どんどん、長くなっています。
      それはもう、加速度的に」

ゼルダ「…で、ですから。それは、ヒルダ姫の努力の賜物でしょう?」

ロゼッタ「いくらヒルダ姫が成長芳しいと言っても、デイジー姫からしてみれば
     赤子の手を捻るような状態のままですよ。
     少なくとも、それだけで何倍も間隔が伸びるなんてことはあり得ません」

ゼルダ「では、手を抜いていると?」

ロゼッタ「…うーん、半分合っているけれど、絶対的に間違っている、と言いますか。
   
      …今日、デイジー姫が鍛えているのは、ヒルダ姫1人です。
      以前のように3人を順番に鍛えるのではない…
      つまり、長引かせても順番待ちが発生するようなことはありません。

      デイジー姫は、そこで――ヒルダ姫が最も成長するようなカリキュラムを、
      徹底して実行しているみたいなんです」

ゼルダ「勿体ぶらずに話してください!」



…できれば、自分で気付いた方が、より大きな感銘を受けられると思うのですが。

546: 2020/02/02(日) 00:43:11 ID:PXhC6pdY
ロゼッタ「…デイジー姫の駆け引きを、よく観察してほしいのですが。
      あと、ヒルダ姫が絶命する瞬間のデイジー姫の動きも、
      ひとつひとつ思い出して頂きたいのですが。

      デイジー姫は、ヒルダ姫の成長ぶりを超人的感覚で分析、フィードバックさせながら、
      今繰り出されているヒルダ姫の行動に潜む本気度を、限界値を読み取り続けています。

      そのうえで、デイジー姫の動き。
      ……ヒルダ姫が諦めずに実力限界を突破する一手を繰り出したとき『 だ け 』
      ぎりぎりのところで減速するように、追撃もしないように制御しているんですよ。
      逆に、諦めたり下を向いたりした瞬間、力も速度も倍化して介錯の一撃を繰り出しています」

ゼルダ「……………………………………………………………………………………………
     ……………………………………………………………………………………………
     ……………………………………………………………………………………………
     ……………………………………………………………………………………………
     そ、んな、馬鹿な」ブルブル

ロゼッタ「ところがどうしたことでしょう、本当、みたいです。
      つまり、ヒルダ姫は無自覚のうちに――
     
      気を抜くと一層の激昂のもと一瞬でねじ伏せられて絶命するのに、
      渾身の動きをすると何故か拍子抜けするくらい怪我をしない、という環境が与えられ。
      否応なしにフルスロットルで応対する癖が、構えが身に付き。
      …経験値を荒稼ぎしているというわけですね」ニコッ

547: 2020/02/02(日) 00:47:05 ID:PXhC6pdY
ゼルダ「有り得ない!有り得ないです、そんなこと!」

ロゼッタ「私も、何度そう思ったことか」

…これに、どれだけの細心の注意が、必要になることか。想像も尽きません。
デイジー姫本人に問い質したとしても、はぐらかされるでしょうけど。



デイジー姫の尽力もあり、ヒルダ姫は、もう、大丈夫。
頼もしすぎる、レベルアップの音が聞こえてくる気がします。

さあ、2人に勇気を貰ったところで。



ロゼッタ「さあゼルダ姫!
     私たちも、休んでいる暇はないみたいですよ!
     続きと参りましょう、続きと!」グッ

ゼルダ「…上等です!
    私も、まだまだ成長させてもらいますから!
    今度こそ、500往復、達成して御覧なさい!」



みんな、まだまだ、強くなれる気がします。
待っていてください、偽物さんたち。
後悔しても、もう遅いというものですよっ!

548: 2020/02/04(火) 01:31:27 ID:ax5KUpRI
~大会会場~

掲示板「現在の順位表デス!

     1st MARIO
     2nd KOOPA     -30pts.
     3rd LINK      -196pts.
     4th CHARIZARD -550pts.
     5th PIKACHU   -620pts.
     6th YOSHI    -783pts.
     7th KIRBY     -877pts.
     8th LUIGI     -1019pts.」デデン!

ピット「…………CHARIZARD?LIZARDON?…あれ?」ミアゲ

パルテナ「まー、このスレ内ではロゼッタも…
      ROSETTAではなくてROSALINAで通してきましたし」ミアゲ

ピット「なるほど…ってか、やっぱりキノコ王国勢と初代ポケモン勢、強いなあ…」

マリオ「…うげっ、一時は1000ポイント以上あったリンクとの差が、
     あれよあれよと、とうとう200ポイント切ったか…!
     残り1か月もないとはいえ、混戦になってきたな…!」

ルイージ「僕が…僕が、暫定8位だよっ、兄さんっ!うおーっ!」バンザーイ!

マリオ「…ビリかあ」ヤレヤレ

ルイージ「上位だよ!?」

549: 2020/02/04(火) 01:37:11 ID:ax5KUpRI
マリオ「…あんまり調子にのってると、またいつもの如く滑り落ちるぞー?
    だいたい、ピーチの不調がなけりゃ、ルイージの順位は下がってても
    全然おかしくないんだからな?」

キノピオ「姫様、多発する問題にすっかり意気消沈されて…
     本調子とは程遠いありさまです、おいたわしや…」ジワァ
      
ルイージ「うぐぅ…言えてる」

リンク「よし。…よしっ!マリオとクッパに、肉薄肉薄ぅ!
    まだまだ苦しいけど、逆転優勝の可能性も十分出てきたぜ!」オーッ

パルテナ「怒涛の追い上げですね…やはり歴戦の勇者の底力は恐ろしい。
     私など、フィールドで吐かないようにするので精一杯ですよ…」

ピット「パルテナ様っ!生々しい!すっごく生々しい!ちょっとは見栄を張りましょう!」

ルキナ「お疲れ様です、リンクさん!本当にお強いのですね!」

ルフレ「僕たちの面倒も見て頂きながら…凄いとしか、言いようがないですよ」

リンク「まーねー。…よし、じゃあまた、金庫にネオ・マスターソードとハイリアの盾預けてっと。
    特訓しようぜ特訓!ルキナ、ルフレ、鍛錬場にレッツゴーだ!」

ルフレ「休みなしですか…返す言葉もないですよ…。
    …はい、もう遠慮はしないことにしました。よろしくお願いします。
    ルキナ、せめて僕たちも全力疾走で試合の準備をしに行こう」タタッ

ルキナ「は、はいっ!」タタタッ

550: 2020/02/04(火) 01:42:07 ID:ax5KUpRI
ロゼッタ「お疲れ様です。皆さん、本当にお強いですね。
     私なんか、見ているだけでお腹いっぱいで…一体、何時になったら戦えるのやら…。
     …せめて、せめて。ゼルダ姫とヒルダ姫が、見つかってくれれば…」

パルテナ「ロゼッタ…………よしよし。元気を出して、くださいな」ナデナデ

ロゼッタ「あっ…………く、くすぐったいです…でも、ありがとうございます」ポワポワ

パルテナ「マリオが言っていたでしょう?きっと2人は大丈夫だって。
      ロゼッタは今のところは、問題解決を一旦他の方々にお任せして、
      大会を楽しみましょうよ。…酷な言い方かも、しれませんけれどね。
      気分転換に、いろいろ見て回るのも、いいかもしれませんよ?

      まあ、あんまり人気のない所に行かれると心配ですけど。ロゼッタの場合…」

ロゼッタ「……………………はい」ニコッ

リンク「ロゼッタ、元気出せよー。ロゼッタがしょぼくれてると、きっと戻ってきた2人も悲しむぞー。
    2人のことなら、俺やマリオやクッパに任せとけ!ちょっとずつ、あてを探っているところだからさ!」

ロゼッタ「それは、本当によかったです。お願い…致します」ペコリ

マリオ「…………おう、任された!」

クッパ「…………うむ。大船に乗ったつもりでいるのだ!」

551: 2020/02/04(火) 01:50:59 ID:ax5KUpRI
~キノコ城 城下~

ワイワイ、ガヤガヤ…。

ロゼッタ「…………」スタスタ

ロゼッタ「…………んー」キョロキョロ

ロゼッタ「気分転換に、いろいろ見て回る、ですか」ボソッ

ロゼッタ「…………」

ロゼッタ「…………既に、色々と、『回って』いるんでけどね」

ロゼッタ「…………」ピタッ

ロゼッタ「なんて、この王国は、平和で、笑顔が溢れて、活気があって――――――――











            こんなに、一寸先が闇とも知らず、呑気でいられるんでしょうね?」クスッ

552: 2020/02/04(火) 01:56:18 ID:ax5KUpRI
ロゼッタ「ここ。人通り、多いですねぇ。

      ――――とぉっても、おあつらえ向き。いいところ、見つけちゃいました」スッ・・・



ロゼッタ「――――――――」パアアアア

トンッ。…スウッ。



ロゼッタ「よし。…………ふふふ」





      『―――――――――――塩梅は』



ロゼッタ『――――――――――――――――――――――――
      上々ですよ、我が主。

      頂いたリモート爆弾、ムラなく満遍なく…
      最大限、効果的な殺戮と交通網の遮断を計算して…これで94個目。
      一斉に火を噴いたときの、絶叫と絶望が、目に浮かんでくるようです。

      そろそろ…派手に、行ってしまいますか?鶴の一声あれば、仰せのままに』ユラァ

553: 2020/02/04(火) 01:59:04 ID:ax5KUpRI
     『――――――――いや、まだだ。まだ、足りない。
      大会時間全て使って、念には念を入れよ。
      だが、あとはお前に任せれば、大丈夫のようだ。良きに計らえ』



ロゼッタ『ああ、勿体ないお言葉です――――――――』



     『――――――――その呼ばれ方は、少々詰まらない。
      万民が恐れおののくよう、脳裏に刻み込めるよう、
      彼奴らの付けた名前を、あえて名乗るのが興があってよいだろう』

ロゼッタ『お戯れを…ですが、承知いたしました。
      引き続き、私めになんなりとご命令を――――



      偉大なる異次元の支配者、タブー様――――』



ロゼッタ(ゼルダ、ヒルダの誘拐と私の負傷。
      芝居を打った甲斐があったというものです。ふ、ふ、ふふふ…!
      そろそろ私が疑われそうでしたからね、ざまあない。
      この王国、本丸から…血みどろに粉砕しつくして、あげますよ♪)

554: 2020/02/04(火) 02:02:56 ID:ax5KUpRI
ロゼッタ(……ん?あら、いけない)

ポケトレ「……」テクテク

ロゼッタ「…あ、あなたはえっと…ポケモントレーナー、さんでしたか?
      こんにちは。今日はお出かけですか?
      かくいう私も、元気のないところをパルテナさんに勧められて…
      こうして目的もなしに出歩いている身なんです」

ポケトレ「…………」

ロゼッタ「…うーん。あの、コミュニケーション、難しいですね。
      えっと、ニャースさん、でしたっけ。通訳の方はいらっしゃらないのですか?」

ポケトレ「……」フルフル

ロゼッタ「そうですか…すいません、私の力では、上手く会話ができません。
      …お、お邪魔しちゃ悪いので、また今度ということで!失礼いたしますね」

ポケトレ「……」テヲフル

ロゼッタ「気にしないで…ってことですか?ふふ、ありがとうございます。
      それでは、お互い、よい発見がありますように」ニコッ

ポケトレ「……」コクコク

ロゼッタ「…では」スタスタ

ポケトレ「……」バイバーイ

555: 2020/02/04(火) 02:05:49 ID:ax5KUpRI
ポケトレ「……」スタスタ







ポケトレ「……」ピタッ






ポケトレ「……」クルリ

ポケトレ「……」チャキッ

ポケトレ「……………………………………………………………………
      ……………………………………………………………………
      ……………………………………………………………………
      ……………………………………………………………………
      ……………………………………………………………………
      ……………………………………………………………………
      ……………………………………………………………………
      ……………………………………………………………………」

556: 2020/02/04(火) 02:14:51 ID:ax5KUpRI





おっ!
マシンが はんのう してるぞ!
ちかくに アイテムが うまってる!





ポケトレ「…………」ピコーン!



知り合いに 貰っていた デボンスコープを 装着した!
ポケモントレーナーは ステルス式の リモート爆弾を みつけた!
バッグの ポケットに 仕舞った! これで 80個目だ!▼



ポケトレ「………………………」ヒョイッ スッ・・・

ポケトレ「………………………」ヨイショ

ポケトレ「………………………」ストーカー ゾッコウ

ポケトレ「………………………」キラーン

557: 2020/02/08(土) 03:40:32 ID:uMdP2yZs
ピ口リン!

マリオ「お、メールだ!…頑張ってくれてるな!
    かたじけないが、感謝と引き続きの捜索について返信っと!」

マリオ「…ポケトレ、相変わらず頑張ってくれてるぞ。
    怪しげなトラップ、というか爆弾の回収量、80個到達時のリュックの画像だ。
    スネークにも負けない隠形ぶりを見込んだ甲斐があった!」

リンク「考えたよなー。さっすがマリオ。
    アイツなら絶対に口を割らない、作戦漏れは起こさない。
    …ホントは大々的に、ロゼッタをみんなで監視したいんだけど」

クッパ「……というか、やはり…偽物とはっきりしたとはいえ、
    ロゼッタの姿でそのような悪行をされていることを突き付けられると、
    なかなか堪えるものがあるのだ…」

リンク「…全くだ、暗躍するタブーには反吐が出るぜ。
    用意周到な同情作戦まで使ってみんなを出し抜きやがって。
    でも、まだ、早いんだよな…?あのロゼッタをとっちめるのは…」

マリオ「ああ。ロゼッタを詰問するにしても倒すにしても、まだ早すぎる。
    『本物のロゼッタ、ゼルダ、ヒルダ』の安全が保証されるまでは、
    いつ何時、交渉材料に使われるか判ったもんじゃない。ディメーン戦で懲りてる。

    それこそ俺たちに掛かれば、始末するのは朝飯前だが――
    いましばらく、騙された振りを続けるしかないさ」

リンク「…面倒だなあ」

558: 2020/02/08(土) 03:44:17 ID:uMdP2yZs
クッパ「…だが、それにもリミットタイムがあるだろう?
    ポケトレも、全部の仕掛けを解除できているわけではあるまい」

マリオ「…ああ。問題はそこなんだ。
    油断させつつ、完全に尾行しきることは流石に無理だからな。
    探索漏れが出てしまうのは仕方がない。

    それが何個あるのか、はたまた何十個も残っているのか…。
    そしてそれらが、いつ発動されるのか…正直ビビりまくってるぞ。

    とりま、ポケトレには人命が関わる所を優先的に暴いてもらっているが…
    いざ決戦となったら、ある程度はドカンとやられて、建造物もろもろの物的損失は免れないだろうな。
    そこに不慮の事故がプラスされないことを祈るばかりだ…」

リンク「そんな、消極的な願い方しかないのかよ…!
    そりゃ、俺はハイラルの民だけどさ…!キノコ王国は第二の故郷みたいなもんなんだ。
    犠牲なんて1人たりとも出したくないぜ…俺は!



    …なあ。やっぱり、『ここ』、どうにかして突破しないか!?」クッ

マリオ「…俺だって、できるなら、そうしたい。そうしたいんだが…!」





フィールドに繋がる 開かずの扉が 目の前に 佇んでいる!▼

559: 2020/02/08(土) 03:49:11 ID:uMdP2yZs
マリオ「制御室から監視しておいて…全員集合させたときに、
    相も変わらず『乱闘中』表示だった、この先のフィールド…!

    よくよく確認してみれば、変な呪いだか結界だかが張られているみたいで、
    普通には開かない。完全にドンピシャ!白か黒かで言ったら、もう、まっ黒!
    強引にこじ開けて助けに行きたい、のはやまやまなんだが…!

    どうみてもこれ、ロゼッタの空間魔法に通ずる高度な仕掛けがある!
    下手に素人が扉を蹴破ったりすると、繋がりがどう破綻するか…わからん!
    それこそ、永遠に結び付きが失われる可能性だってある。
    中にいるだろうロゼッタ本人に何とかしてもらわないと、どうにもならない…!」

リンク「…いつになく、弱気だな……人のこと、俺も言えないけど…
    こう、扉を叩くことで、なにかしらのアクションを引き起こせたり、だな…!
    
    すうぅ――――…うぉりゃあ――!」ババッ



ドンッ! ドンッ! ドンッ!!!



マリオ「お、おい!無闇な刺激は、万が一伝わった時に中の『見張り』を刺激して逆効果だからやめとけ!
    ……気付かれなかっただろうな…!迂闊なことをするんじゃない、リンク!」ヒソヒソ

リンク「…………あ。わ、悪い…!つい、カッとなって…!」

560: 2020/02/08(土) 03:54:35 ID:uMdP2yZs
クッパ「…全く。一体、どんな敵が控えているというのだ。
    まさか人質監視に労力を割いてまで、タブー本人が律儀に見張っているとは考えにくいが…」

マリオ「…ああ、かといって唯のコケオドシというわけでもないだろう。
    少なくともゼルダ、ロゼッタ、ヒルダを纏めて相手にできる戦闘力はあるはずだからな。
    タブーの側近とかを務めている、俺たちにとって初見ながら凄腕の奴が、きっと――」チラッ

リンク「…未知の力なり特異体質なりを有してて、
    俺たちでもそれなりに倒すのに手間取るかもってことか――」チラッ

クッパ「いざ乗り込んでおいて手間取ったら、相手側に利がありすぎる。
    どうにも手詰まり感があるのだ――」チラッ



パネル表示「非公式乱闘中!観戦不可!
        乱闘人数   4 / 4   満員です!」パッ
 








~閉ざされたフィールド~

デイジー「へくちっ」クシュン

561: 2020/02/08(土) 04:01:30 ID:uMdP2yZs
デイジー「……ロ、ロ、ロゼッタ?私、何か変な物に憑りつかれてたりしない!?」

ロゼッタ「…いえ、特に異常はなさそうですが。さあ、そんなことより、参りますよ!勝負です!」

デイジー「そんなことよりって…。まあ、ロゼッタが太鼓判押してくれるなら。
      まあ勝負するのは別に、いいけど、不安だなあ…。よし、こい!

      いけっ!パルシェン!君に決めた!」



ロゼッタ「行ってください、レシラム!」モエルーワ!

デイジー「…………えっ」

デイジー(……………………………………………ま、いいか。ロゼッタだし)

ロゼッタ「みず・こおりタイプでしたっけ…十分耐えられますね、『きあいだま』です!」

レシラムの きあいだま!
相手の パルシェンには 当たらなかった!▼

パルシェンの からをやぶる!
パルシェンの 防御が 下がった!
パルシェンの 特防が 下がった!
パルシェンの 攻撃が ぐーんと上がった!
パルシェンの 特攻が ぐーんと上がった!
パルシェンの 素早さが ぐーんと上がった!▼

ロゼッタ「…………!?」

562: 2020/02/08(土) 04:04:09 ID:uMdP2yZs
デイジー「ロックブラストどーんwww」

レシラム「ぎゃああああ」

デイジー「つららばりウェーイwww」

ジャローダ「ひいいぃぃ」

デイジー「つららばりアンコ――――ル!」

サザンドラ「ぐわあああああ」



ロゼッタ「」ポロッ

デイジー「圧勝過ぎて一回りして勝った気がしないっ!」

デイジー「…ごめん。すっごく大人げなかったけど、あんまりロゼッタが
      『殿堂入りしたことですし、デイジー姫と対戦したいです!負けませんよ!』
      って捲し立てるものだから…

      あとロゼッタ、言い忘れてたけど。
      対人戦で伝説ポケモンは特殊ルール除いてマナー違反っす」

ロゼッタ「……気合玉が、当たって、いれば……!」ブルブル

デイジー(ごめん、ウチ…タスキ持たせてるねん)

563: 2020/02/08(土) 04:07:01 ID:uMdP2yZs



扉「――」・・・ドン ・・・ドン ・・・ドン



ロゼッタ「今度こそ、勝ちますっ!」

デイジー「まあ、いくらでも相手するけどさあ…

     バトンに天候、トリルにトリック。
     土産に宿みが、みがまも猫の手。
     流星ぶっぱに論者、麻痺撒き毒撒き火傷撒き。
     …ああ、多すぎてまだまだ言い切れないや。

     やっぱり経験の差はロゼッタの思う万倍効いてくると、思うよ…?」

ロゼッタ「呪文か何かですか?」



ロゼッタは ゲームに夢中で 外部からの干渉に 気付かなかった!▼

564: 2020/02/08(土) 04:10:21 ID:uMdP2yZs



1日、また1日と。きっと有意義な時間を過ごしながら。
私たちの「日常な非日常」は、過ぎていきます。



デイジー「…おっはよー!
     いやー、昨日はお疲れさまでしたー!
     まあ、私の14連勝目で終了したけどねー!」ガチャッ



ロゼッタ「…と、このあたりで、私の魔法でドンッとおふたりをサポートしてですね…」ツツー

ヒルダ「…それだとロゼッタの負担が大きすぎます。
    私がこう動いて、デイジーに雨霰と爆撃を行って、魔法発動時間を稼ぎます」トン トン トン

ゼルダ「…適材適所、と。私はこの経路で一気に躍り出て、なるべく出の早い魔法で
    仕上げに入ればよろしいのでしょうか。バックアップ、期待していますよ」スイーッ



デイジー姫の元気な挨拶は右から左へ聞き流されて。
手書きのフィールド図を中央に、私たちは喧々諤々、頭を寄せ合って。
なめらかに指を、朗らかに声を。縦横無尽に走らせ続けます。

565: 2020/02/08(土) 04:12:13 ID:uMdP2yZs
デイジー「…なんだか、最近、つまらないなー。
     ちょっと前まで、ヒルダもゼルダも、私が入室するたびにビクッと震えて
     ガタガタ震えてワタワタあたふたしてたのに…今や、平然と作戦会議…………」



ヒルダ「…………眼の光を失った方がいい、デスカ?」シンダメ

デイジー「冗談でもヤメテクダサイすいませんでした」ドゲザ

ヒルダ「…冗談デス。……ふっ、でも安心しました。
    デイジーからしても、成長できてるってことですよね、私たち」

ゼルダ「とても長い、長い道のりだった…気が、します」シミジミ

ロゼッタ「そして、その道のりも…ようやく、終わろうと、している」

デイジー「え、なになに?エンディングへ駆け足進め!な雰囲気ですか?
     混ぜて混ぜて!」

ゼルダ「…はあ。まあ、間違ってはいませんよ。
    ですが、デイジーを混ぜるわけには、いきませんね。

    ――――そろそろ、1勝もぎ取ろうと。
    本格的に、作戦を練りに練ろうとしているところです。
    残念ですが――デイジーの快進撃も、これで終わりですよ、本当に残念なことに」

566: 2020/02/08(土) 04:14:50 ID:uMdP2yZs
デイジー「…へえ、大きく出たねー。まだまだ、私に勝てるようには、思えないけど。
     似たようなこと、10戦目にも宣言してたの、忘れたの?」ニヤリ



まあ、そうかも、しれません。

ただの、自信過剰かも。大それたことを身の程知らずで言っているだけなのかも。

やっぱり、デイジー姫の前で膝を付いて屈する結果が、待っているのかも。



――でも、根拠とか後ろ盾とかがなくても。
――「これは行けるぞ」っていう直感が働いても、いいですよね。
――それが、何の巡り合わせか、3人同時に起こったのなら、なおのこと。



ゼルダ「切羽詰まる、俗物的な理由もありますよ。
    そろそろ、ここから脱出できる…いえ、脱出しなければならないタイミング。
    つまり――」

ロゼッタ「はやくしないと、あの果実酒を飲める機会を失う?」

ゼルダ「そう、そのとお――――なんていうのは、冗談さておき、ですね!
    
    デイジーに『このくらいのことはできるようになった』と示すことが、
    私たちの――精一杯の、お、恩返しだと、思うのです」

567: 2020/02/08(土) 04:16:48 ID:uMdP2yZs
デイジー「…………」ポカーン



ゼルダ「…………ちょ、ちょっとデイジー。
    は、恥ずかしくなってきたのですが!何か反応してください!」

デイジー「…………熱でもある?意趣返しの間違い、とかじゃない?」

ゼルダ「私の決氏の想いに対して謝罪しなさいっ!」ムカッ!

ヒルダ「…本当は熱があるのでしょう?ゼルダ姫?」フフッ

ゼルダ「貴方までなんてことを言うのですか!まったくもう!まったくもう!!」



バンッと、机をたたく音。
もちろん、本気の怒りではなく、机が破壊されたり、紙とペンが吹き飛んだりはしません。

568: 2020/02/08(土) 04:18:40 ID:uMdP2yZs
ヒルダ「…でも、デイジー。

    ゼルダ姫も、ロゼッタも。――私も。
    恩返ししたいと思うくらい、感謝しているのは、本当ですよ?」



デイジー「――――」



デイジー姫が、虚を突かれて押し黙る。



ヒルダ「明日は、デイジーに教わった事、全部、ぶつけようと思います。
    そして、勝ってみせます。勝ちたいです。

    もし勝ったら、お酒の他に、そうですね…
    口を尖らせながらでも、ヤレヤレとため息つきながらでもいいですから。

    『裏の』貴方の状態で、『よく頑張った』って。私の頭、撫でてください。
    ――いい、でしょうか」

デイジー「――――――――っ!」

上目遣いのヒルダ姫のその言葉に、デイジー姫、途端に顔がくしゃくしゃに。
思う所、数多に及ぶのでしょう。それでも決して泣いたりせず、ブルブルと震えて堪えています。

569: 2020/02/08(土) 04:21:29 ID:uMdP2yZs
デイジー「…お、おう!まっかせなさい!幾らでも、撫でてあげるよっ!
     髪が摩擦で燃え出すかっていうくらい、わしゃわしゃと!」

ヒルダ「本当に燃えそうなのでやめてくださいっ!?」

ロゼッタ「あ、じゃあ私もお願いできますか!」

デイジー「背が高くて手が届きにくいから駄目――――

     嘘っす。ドンと来いっす。
     そんな絶望に駆られた顔をしないでください。

     ついでに、プライドの高そうなゼルダも撫でといてあげるー」

ゼルダ「ついでで撫でて頂かなくても結構です!」

デイジー「…じゃ、ちゃんと心を込めて撫でてあげるよ。
     ――――お疲れさま、よく頑張ったねって」







ゼルダ「……考えておいて、あげますよ」カアァ

570: 2020/02/08(土) 04:23:19 ID:uMdP2yZs
デイジー「やばっ、泣きそう――
     よし、じゃあ、私は朝食摂ったら、明日まで会わないでおこうかな。
     その方が、作戦会議も存分にできるでしょ?私、空気読める子!」

ロゼッタ「そこまで気を遣わなくても…でも、ありがたくその提案、受け入れます。
     明日を、楽しみにしておいて、くださいな!」



拳と拳を、軽く、ぶつける。

…なんだか、熱血と青春の香りがします。この際、年齢は気にしません。



ヒルダ「あ、待ってください!私も!」タタタ

ゼルダ「やれやれですね」



左からヒルダ姫が、右からはゼルダ姫が。
2人分の拳は4人分の拳となって、正々堂々、全身全霊の誓いを立てました。

571: 2020/02/08(土) 04:25:07 ID:uMdP2yZs
デイジー姫が、どばっと食料担いで、去った後。

ゼルダ姫と、ヒルダ姫と、私は、時間が経つのもすっかり忘れて。
作戦会議のまっさかり。次々と、線が紙に書き込まれて行きます。

…………冷静沈着に、でもしっかり意見は言い合って。
修正、修正、また修正。

見直すべき動き、手順、プロットはてんこ盛り。
珍しく体もほとんど動かさず、完全な頭脳モード。

体を動かしたときを敢えて挙げるなら…コンビネーション技の特訓、くらいでしょうか。
デイジー姫には悪いですが、退出していただいたこの機会。最大限に利用します。



ゼルダ「はい、では――このあたりにしておきましょうか」パチン

ヒルダ「そう、ですね……あれ、すごくお腹がすいています」

手を打ち合わせるゼルダ姫の合図で、お開き。うーんと背筋を伸ばします。
そういえば昼食すら、食べていませんでした。それくらい熱中していたのです。



夕食を摂って、お風呂に入って、寝間着に着替えて。
寝具に滑り込んで、しばらくぼーっとします。

天井が、妙に近い気がする。…何か、大きなことができそうな、気がします。

572: 2020/02/08(土) 04:27:59 ID:uMdP2yZs
チコ「片づけ、まかせてー!」セッセ

チコ「明日に向けて、すぐに寝ること―!」フヨフヨ

……いろいろ、お片づけを任せちゃいました。



ヒルダ「…ロゼッタ、起きていますか?」

ロゼッタ「起きていますよ。明日は頑張りましょうね」

ヒルダ「…デイジーにお礼を述べたことですし、ロゼッタにも。

    私、ロゼッタと友達になれて、本当によかったです。
    ありがとうございます」

ロゼッタ「…何をいまさら。私こそ、ありがとうございます。
     これまでも、これからも。きっと、ずっと、友達です」

ヒルダ「そうですよね、ふふ…」



もう、暗い表情のヒルダ姫なんて、どこにもいないのです。
それは、とてもとても、喜ばしいことだと、思いました。

573: 2020/02/08(土) 04:31:21 ID:uMdP2yZs
ゼルダ「……何を2人とも駄弁っているのです?
    明日に備えて、さっさと寝てください。

    それに、あえて苦言を言わせて頂きますが。
    結局負ける可能性だって…十分にあるのですよ?
    浮かれすぎず、その先、さらに先を考えておく癖をつけてはどうですか?」

ヒルダ「…………」クスッ

ロゼッタ「…………」クスッ



その言葉は、むしろ笑わせる効果しかありません。



ロゼッタ「ゼルダ姫?快進撃ストップ宣言をしでかした張本人が、
     そんなことでは駄目ではないですか。心にも思っていないでしょう?
     …勝つんですよ、絶対に」

ゼルダ「…はあ。私もヤキが回りましたか。ロゼッタにバレては形無しですね。
    私のこと、中々分かってきたのではないですか?」クスクス



寝過ごしなんて、まっぴら御免ですが。
もう少しだけ、この余韻に浸っていたいと思ってしまうのは、贅沢でしょうか。

…さて、真の強さを手に入れた3人で、打倒デイジー姫と参りましょう!

574: 2020/02/08(土) 04:33:38 ID:uMdP2yZs
~翌日~



ロゼッタ「いよいよですね!」ワクワク

ゼルダ「ロゼッタははしゃぎ過ぎですよ。
    今頃、大きく出過ぎたかと冷や汗たらたらの状態なのかもしれませんよ?」

ヒルダ「あは、それはちょっと見てみたいです…」



会話をしながら軽く身支度をして、さあ仮眠室を出よう…というところで。



がちゃり。



扉がぎいい、と開けられます。



デイジー姫が、妙に静かに――唐突に、部屋にやってきました。

575: 2020/02/08(土) 04:36:37 ID:uMdP2yZs
ロゼッタ「おはようございます、デイジー姫!
      えっと、まずは朝食にしましょうか――――」





デイジー「フィールドに、全員、集合。…………以上」ニヤッ












ゼルダ「――――望むところです」フッ

ヒルダ「が、頑張ります!」グッ

ロゼッタ「為さねば成らぬ、何事も…ですよね!」

576: 2020/02/08(土) 04:40:15 ID:uMdP2yZs
フィールドに向かってみると、既に到着しているデイジー姫。

――目を閉じ、腕を組み、柱の一つに背中を預けて、もたれ掛かっています。
――これぞ、デイジー姫の振る舞いだなあ、と一瞬思って……。







デイジー「では、耳にタコができるかもしれないが、改めて。

     …これより。
     私ことデイジーと、ゼルダ、ヒルダ、ロゼッタの3名1グループによる、
     模擬戦、第15戦を始める。位置に着くように」







流れるように、三者三様…いえ四者四様に、既定の位置まで歩を進めます。



ぴりぴりと張り詰めるこの雰囲気が、たまりません。

577: 2020/02/08(土) 04:45:07 ID:uMdP2yZs
デイジー「初期残機数は、デイジーが『1』、他の3名は『3』とする。
     どちらかの陣営の全ての残機数が『0』となったなら、
     その時点で残機を残した側を勝利とし、試合終了とする。
     また、特殊ルールとして、デイジーについては
     『初期配置の床・地面に対して、背を継続して3秒接地』
     が満たされた時点で敗北条件が満たされたものとする。

     デイジー側の陣営について。
     相手陣営の残機を奪う場合は、一方的な瞬殺を抑止するため…
     直前の残機削りから10秒以上の間隔を空けること。
     また、直前の残機削り対象者とは異なる選手を狙える状況であるかぎり、
     同一の相手から連続で残機を奪わないこと。
     これらに違反した場合、該当する分の残機削りについてはカウント無効とする。

     ゼルダ、ヒルダ、ロゼッタ側の陣営について。
     形式的に残機0となった者は、復活したとしても速やかに戦線から離脱し、フィールド外へ移動。
     試合への不干渉を遵守できる状態に移行しなければならない。
     ただし、既にその者によってフィールド上に仕掛けられた、
     行使が間に合って発動中ないし発動待機中の魔法等については、
     外野からの操作でもしない限り、改めて除去する必要はないものとする。
     外野からの助言等は禁止。単なる応援はこの限りでない。



     ――――不明点のある者は、前へ」



デイジー姫も分かっている通り、何度も何度も聞いた文言です。
私たち3人の反応は、神妙に「問題無し」と微動だにしないことのみ。

578: 2020/02/08(土) 04:50:15 ID:uMdP2yZs
デイジー「…では、ロゼッタ。いつもの開始合図、頼んだぞ」

ロゼッタ「はい!」

皆さん構えたところで、私だけ、違うポーズ。
右手の手のひらの少し上に赤々と作り出したるは、
私だけの炎魔法、パイロキネシス。



…間違えました。私だけの「空間魔法」、パイロキネシス。



見かけも効果もモロに炎属性ですが、物理法則で作った火種にFPを撒いているだけなので、
極端な例を挙げるなら「炎属性禁止スキル」を持った敵が現れたとしてもどこ吹く風で使えます。
逆に、空間魔法を禁止されたとしたら置物になるので、偽物の私には注意しなければ。



さてさて、これをどうするかと言いますと。



ロゼッタ「…そぉれっ!」ブンッ!

ほんのちょっとだけ前方の、はるか頭上目掛けて、ぶん投げます。
隔壁のバネの力で飛ばすのは、頃合いを見計らって止めにしています。
自分の腕を酷使して飛ばした方が、威力も精度も高いみたいです。

579: 2020/02/08(土) 04:53:11 ID:uMdP2yZs
ここで特訓する間にも…私の基礎体力、とてつもなく、伸びました。デイジー姫のおかげです。

ぐんぐんと伸びていき――やがてようやく上昇を止め――重力に従い、落ちてきます。
それが、ちょうど…私たちと、デイジー姫との中間あたりの位置の地面目掛けて――



ボンッ!!



――――ひょうきんな衝突音とともに、試合、開始ですっ!
――――こちらの、第一手は。







ロゼッタ「――――」

ヒルダ「ファントム・ヨガ、召喚――――っ!」

デイジー「相変わらず凝りもせず――何っ!?」



今までとは違う。
フィールド全体を覆い尽くさんとする、巨大な召喚獣の出現で、幕を上げました。

580: 2020/02/08(土) 17:05:25 ID:uMdP2yZs
<前レス訂正 ファントム・ヨガ → ファントム・ユガ>






――――でかい。



ぱっと見た感想が、それ。
これまでの召喚獣はせいぜい体長5メートルといったところだったが、今回は20メートルはありそうだ。
フィールドの足場の一番高い所まで、揺らめく頭が届いている。
もちろん3人の姿など、完全に隠れてしまった。
――そういえば、目くらましになる、とはいつぞや言わせてもらったか。



だが、その分、密度が小さくなって強度としては落ちたのか。
向こう側が透けて見えるとまでは行かなかったが、
いつもならすぐに魔法の杖やらを振り下ろしてくるところなのに、
今さらになってようやくアイスロッドを振り上げ始めた。その動きはあまりに鈍い。

それをわざわざ待ってやる私でもない。
召喚獣の体を突き破る心持で、突進。拳がうなりを上げる。

581: 2020/02/08(土) 17:09:57 ID:uMdP2yZs



ロゼッタ「…要塞法衣っ!」



防御力が高まっていくことを示す、ロゼッタの声がする。
ピキピキピキ、と特徴的すぎる金属音。

…ざっと、防御力4倍。ステータス補助としては破格の効果のように思う。
使えるなら使っておくのは当然な性能だ。それだけ頭に入れておき、なおも私は突進する。



キラッ!

ゼルダ「はああああああああああああ――――っ!!」ドンッ!!



――まさか、そちらから魔物の腹を突き破って突撃してくるとは思わなかった。
無茶をさせ、ゆらりとよろめく召喚獣。ただ、消え失せるほどではない様子。

魔物を貫いた副産物の、身を纏う靄と煙。
神々しい冠を光らせ、ゼルダが中々の…いや、中々すぎる速さでミサイルのように迫り来る。

魔物の体にぽっかりと空いた、大きな穴。
その向こうに、一瞬だけキラリと光る空間を、私は見逃さない。
鼻血を出して、ふらつきながら構えているロゼッタが、映っている。

582: 2020/02/08(土) 17:13:39 ID:uMdP2yZs
…なるほど。ゼルダの体そのものを、即席で…隔壁の空気砲で吹っ飛ばしたのか。
今の魔法レベルで、思い切ったことをする。相当酷使したみたいだがな。

種明かしが済んだところで、作戦に特段の変更、なし。
飛んでくるゼルダに、重い拳を炸裂させて――



しかし妙なことに。低空飛行するゼルダが、顔の前で腕を交差させ。
なりふり構わず突っ込む体勢だと?



ガッキイイイイイィィン!!



デイジー「――――そういう、ことかっ!」ビリッ

ゼルダ「――――ぐっ、これでも結構痛みますが…無問題、ですっ!」

ゼルダの 上半身の 攻撃力が  15%アップしている!
ゼルダの 上半身の 防御力が 300%アップしている!
ゼルダの 上半身の 素早さが  50%ダウンしている!▼

デイジー(…まさか、他人に行使できるように改良していたとはな、ロゼッタめ!)ジィィン

583: 2020/02/08(土) 17:20:04 ID:uMdP2yZs
なるほど、無謀に見えた突進は、ロゼッタの魔法を信頼してこそか。
つい迎撃で殴ってしまった右手を恨めし気に見る。
ゼルダの素の防御力と合わせると、馬鹿にできない耐久性。多少の痺れがある。

ロゼッタ「――まだまだっ!要塞法衣、ばら撒きますよっ!
     積み技の 重要性を 教えて差し上げますっ!」パアアアアアアアアッ

今度は様子がはっきりと伺えた。ヒルダの背に手を当てて、立て続けに術式発動。
ヒルダの体の見た目が、不可思議な屈折率を生み出している。

なるほど、流石に他人の体を遠隔で隔壁で覆うことはできないか。
さっきはそれで、ゼルダを私の視界から隠しておいたのだな。



ヒルダの 上半身の 攻撃力が  15%アップ!
ヒルダの 上半身の 防御力が 300%アップ!
ヒルダの 上半身の 素早さが  50%ダウン!▼



ヒルダ「ありがとうございます、ロゼッタ!」シュイィィン―― !

ロゼッタ「うっ…ははは、どういたしまして。さて、次は私自身が――」スッ

デイジー(これは、うざいな)ヒクッ

サポートキャラとしては壊れもいいところだ。
ヒルダの攻撃スタイルとしては直接の素早さダウンは有ってないような物。

584: 2020/02/08(土) 17:24:52 ID:uMdP2yZs
呆れて一瞬目を離した隙に、ゼルダは勢いそのままに、至近距離で魔法の構え。



ゼルダ「光の――――」パアアアアアッ!

――馬鹿か。チャージに時間が掛かり過ぎる。
――ロゼッタの魔法の副作用で腕の敏捷性が落ちているせいで、ますます遅い。
――5秒、10秒レベルで無防備。こんな距離から矢を番え始めて、間に合わせる訳、無いだろう!

怒涛の反撃体勢。
要は、堅固となっている胴部ではなく、下半身か頭部を撃ち据えてやればいい。

ヒルダ「ファントム・ユガ――ハンマーっ!!」サッ

ゼルダへの支援が飛んでくるのは読めている。
そうしておいて光の弓矢を撃つ機会を作るという方針なのだろう。
だが、この攻撃も、飽きるほど目にしてきた。

闇色に染まる、大きな具現化ハンマー。召喚獣が撃ち付けてくる、怒涛のモグラたたき。

ヒルダ「それっ、それっ、それ――っ!」

FP供給を必氏に頑張り、何かを堪えている感じのヒルダ。
1発目は、手刀で斬って捨てる。2発目は、横にはたいて吹き飛ばす。3発目は蹴り上げる。

そう。ヒルダには悪いが、あいかわらず避けるほどでもない攻撃なのだ。
美しくかわすのも趣があるが、今は調子に乗ったゼルダを懲らしめることを優先。
時間稼ぎに付き合うつもりはない。最短距離でゼルダに向かう。

585: 2020/02/08(土) 17:30:46 ID:uMdP2yZs
――まだまだ、甘いっ!

光の弓矢の魔力充填を今さらやめるわけにもいかず。
ちょっとバックステップして身を翻し私から逃れようとするゼルダの悪あがき。
そんなゼルダの胸倉を、超加速で飛び込んで掴み上げる。
にぃっと笑う私に、目を見開くゼルダ。その隙まさに、命取り。

逃走を防ぐまでが、ワンアクション。鎧のない顔面に、体重の篭った、無慈悲かつ怒涛の肘突き――っ!



ゼルダ「が、はっ……あああああああっ!!」ゴボッ

血反吐を吐きながら吹き飛ばされながらも、ゼルダが吠えつつ、意地で、充填の終わった光の弓矢を解き放つ。
投げやりの叫びではなく、諦めない鋼の心。よく耐えた、と称賛してやりたいところだ。
ただ、狙いなど付けられず放たれたそれは、ゼルダの想いをバッサリ裏切って、
てんで方向違いのところに向かって飛んで行く。

残機のおかげで復活しても、体力と異なり、魔力/FPは回復しない。
つまり、完全に撃ち損。大量の魔力の無駄使い――





ロゼッタ「――――Tactics-Hold《留保戦術》っ!!」ギュッ!



――とはならないのが、最近のゼルダ・ロゼッタコンビの厄介な所なのだよな、全く。

586: 2020/02/08(土) 17:34:38 ID:uMdP2yZs
私の横を通り過ぎ、天を目指す光の弓矢が、霧散する前に…。

ロゼッタの腕が素早く的確にすぅっと向けられ、ぎゅっと握り拳を作られてみれば。
豪速の光の弓矢は、ギュイィンと激しく光ったかと思えば、シュパッと消えていく。
なんというか、あれだ。某忍者漫画の「カム○」みたいな奴だ。
…言っておくがDLCのFE勢の方ではない。



ロゼッタ「――ハァッ…T-ホールド、成功っ!ぐぐぐ…」ガシッ!

デイジー「チッ…」

血を指の隙間から垂れ流しつつ、握り締めた状態で固まっている、ロゼッタの右手。
それが、何を意味するか。最近の私は、知っている。

握り拳をほどくと、ほどなくロゼッタの手の甲が光り出す。
まるで英雄の紋章のように、弓矢らしき、光る絵が刻まれた。
トライフォース模様を光らせることがあるゼルダやヒルダとお揃いだな。

これで、ロゼッタが、何ができるようになったかと言うと。



発動を念じて、腕を振りかぶる、それだけで。
1発だけ、光の弓矢をポンと出現させ、もとの勢いのままぶちかませる。
つまり「『光の弓矢』ストック状態」、以上。

…さすがの私も、初めて見た時は開いた口が塞がらなかった。

587: 2020/02/08(土) 17:38:35 ID:uMdP2yZs
そりゃ、「魔法の奪い取り」が非常に便利だろうとは助言したが。
マスターする早さも、完成度も、異常な次元だろう…!



一度にストックできるのは魔法1つのみ。

コントラクト(魔術契約)を取り交わした味方の魔法しか回収できない。
魔法のことはまるでわからないが、以前、契約の為に魔法陣をサラサラ描いていた。
まるで魔法使いだ。…………忘れていた、大魔法使いだったな。
今の所、契約しているのは当然、ゼルダとヒルダのみ。

ストックから取り出した魔法を、再度回収することはできない。

更に、ストック状態では、取り込んだ魔法のランクと自分の実力との差に応じて
スリップダメージを強いられ続ける。



…とまあ、雁字搦めの制約があるらしいが。
これでロゼッタは、攻撃の幅が「ほぼ0」だった昔から恐ろしく拡がったことになる。

なんせ、外れて無駄になるはずの味方の魔法を見つけたら、
ギュッと握り締めて回収するだけで再利用。「はずれがでたのでもう1回」だ。
エコにも程がある。笑えて来る、と言ってもいい。

588: 2020/02/08(土) 17:45:01 ID:uMdP2yZs
将来のことを考えると、更に胸が躍る。

マリオやピーチなら諸手を挙げて、ロゼッタに協力してくれるだろう。
味方が必殺技を持っていれば、それだけ自分も強くなる。
光の弓矢をあっさり刈り取った…いや切り取ったことから分かる通り、
繊細な集中と視認追跡さえできていれば、魔法の規模、速度は今のところ制約なしだ。

…しかし。
  





  
       え?超高難易度じゃないかって?
       でもですね、『自軍識別』と『魔法エネルギー保存』を『空間転移』に組み合わせるだけですよ?
       一番難しい『魔法エネルギー保存』は自分のHP消費を対価としてBランクに落とし込んでいますし。
       『自軍識別』なんて、あらかじめの魔法陣で別工程タスクにしているおかげで行使中はCランクにもなりません。

      うーん、現に今の私が何とか使えていることからして、全体でB+ランクってところでしょう。
      実分身とかゲOルアタックとか亜空切断とかに比べれば遊戯みたいなものですよ?





……とりあえず、ムカついて残機を奪った当時の私は、絶対に悪くない。

589: 2020/02/08(土) 17:47:51 ID:uMdP2yZs
~昨日~

作戦会議も半ば、とあるタイミングで。



ロゼッタ「ぶっちゃけていいですか?」

ゼルダ姫と、ヒルダ姫が、振り向きます。



ロゼッタ「心の底ではデイジー姫に教えを乞うて満足していた今までと、
     打倒デイジー姫、大々前提で動く明日とでは、私たちの作戦は…
     大きく変えなければ、なりません。

     ぶっちゃけた話。
     勝つためのポイントは、突き詰めれば、至極単純。



     ――どれだけ、光の弓矢をデイジー姫に放ち、当てられるかです」

ゼルダ「……えっ」

ゼルダ姫が、目を白黒させています。
もっと己の魔法に自信を持ってくださいよ。

590: 2020/02/08(土) 17:51:28 ID:uMdP2yZs
ヒルダ「……やっぱり、そうですよね…
    他の魔法や物理攻撃に比べて――光の弓矢だけ、威力が段違い。
    …5倍か10倍くらい上回っていますから。やはり芸術的にまで完成された大魔法ですよね!

    他の魔法を100回かすらせるくらいなら、
    光の弓矢を1回クリンヒットさせた方がよほど効果があるのではないでしょうか」

ロゼッタ「同じ認識を持っていただいていて、嬉しいです」

ゼルダ「えっ…えっ、そのようなことは――」カアァ

ロゼッタ「続けますねー。
     そして、デイジー姫としての認識もそうなっているはずです。
     光の弓矢だけは、割と本気で対策・対処しようとするでしょう。

     そのほかの魔法は逆に、強引に突っ込まれる可能性がありすぎます。
     足止めできたと思い込んでいたら直進で斬り込まれることをうっかりしていた、
     っていうのが一番やってはいけない過ちですね。

     ……今まで嫌というほど犯してきた過ちですけど、ええ」

591: 2020/02/08(土) 17:54:55 ID:uMdP2yZs
ヒルダ「では、その……ゼルダ姫を徹底的にガードして温存して、
    その間にできるだけ光の弓矢を撃ってもらう、と」

ゼルダ「……………………それは、したくありません」

ロゼッタ「私も、それはしたくありません。全然、三位一体じゃありません。
     …というより、それだと勝てません、絶対。

     私たちがデイジー姫に散々鍛えられてきたのと同じく、
     光の弓矢を放つゼルダ姫を十二分に攻略できるだけの経験を、
     私たちはデイジー姫に与えてしまいましたから」

ヒルダ「では、どうしますか?その顔…無策ではないでしょう?
    声が弾んで聞こえますよ。話してみてください」



そう。悲しむのではなく、途方に暮れるのでもなく。
解決策を是が非でも探し出す原動力にしなければなりません。

592: 2020/02/08(土) 17:59:49 ID:uMdP2yZs
ロゼッタ「大事なことは、3つ。

     まず、やっぱり、ゼルダ姫に光の弓矢を撃ち続けてもらうこと。これが、ひとつ目。

     ただし、そのゼルダ姫には敢えて前線に出てもらい、
     一層侮られがちとなった他の魔法で意表を突いたダメージを与えること。これが、ふたつ目」

ヒルダ「確かに、一番の脅威となるはずの撃ち方のゼルダ姫が前に出れば、
    デイジーはそれを咎めるべく、他の魔法を多少強引に蹴散らしてでも
    最短の道筋で接近戦を仕掛けるべく動くでしょうね」 
 
ロゼッタ「そして3つ目は――――」







ゼルダ「――――すこし、待ってください」



ロゼッタ「…え?」

私の秘策を提示しようとしたところに、まさかの横槍。
不快では全くありません。ただただ驚いて、思わず、固まってしまいます。

593: 2020/02/08(土) 18:04:46 ID:uMdP2yZs
ゼルダ「――――ロゼッタの考えていること、分かっているつもりです。
    でも、それだと、まだデイジーの想定から抜け出せていない気がしてなりません。
    
    というわけで、私からの提案は、更なる役割の変更です」

ロゼッタ「…………なんと」

これは、思いがけない申し出です。



ヒルダ「…えっと。ロゼッタの考えとは、一体、なんだったのですか?」

ゼルダ「要するに、ロゼッタと私、2人の話を統合するとですね。





     『最後の切り札』は、ヒルダ姫。貴方になるということですよ」

ヒルダ「…………!!ま、まだ、理解が十分でないのですが…
    それで、よいのですか!?納得して頂けるのですか!?」



ゼルダ「ええ、もちろんですよ?」

ロゼッタ「…ゼルダ姫がそうおっしゃるのなら、私も反対することなどありません!
     して、ゼルダ姫の修正案とは、どのような――!?」

594: 2020/02/15(土) 15:11:58 ID:UXSYQ7yA
~再び、戦いの最中~

手に光る仮初の紋章。ぐさり、ぐさりと体を蝕んできます。
…痛い、痛いですねっ!やっぱり今の私にとっては光の弓矢のランクが高すぎますっ!



ロゼッタ「…あっ!ゼルダ姫、すぐに回復してさしあげ――」

ロゼッタは 留保戦術の副作用で ダメージを受けている!▼



頭から血を流しながら、デイジー姫を睨み、ゼルダ姫が小声で私を諫めてきます。

ゼルダ「…いい、大丈夫、です。FP温存に、努めておきなさい。
    貴方の魔法はただでさえ燃費がよろしくないのですから。
    作戦の大元が破綻するくらいなら、私の残機の方がよほど安上がりです」ドクドク

顔の右半分が血濡れで、心配でしょうがないのですが――
そうですか、気遣って頂きありがとうございます。私も心を鬼にします。

ヒルダ「ユガ、急ぎ修復しますからねっ!」パアア

ファントム・ユガ「GRUUUUUU・・・・」ピカーッ!

ファントム・ユガが、シュルシュルと縮んでいきます。
そうしてやらないと、修復の魔力も馬鹿になりません。

595: 2020/02/15(土) 15:17:48 ID:UXSYQ7yA
デイジー「強化タイムは終了か。折角の隠れ蓑を捨てていいのか?」

ヒルダ「……十分役目は果たしましたのでっ!」

捨て身のギミックとしても使った召喚獣。わざわざ修復するのは骨です。

かといって完全に消滅させてしまっては…まずいことになります。
存在が希薄になり、消滅までの時間も迫るので、一旦ヒルダ姫がメンテナンスに。

ロゼッタ「その間の支援はお任せくださいっ!」ボウッ!

フッと火の玉を浮き上がらせる私。…割と、超能力者っぽいサマになってきました。

ゼルダ「…ゴホッ…まだまだ、射て、さしあげます、よ――」パアアアア



デイジー「その、『2人いれば無防備な3人目を私相手に守り切れる』という浅はかな考え――

      気に、食わないなっ!」

ロゼッタ「――ふぇっ!?」



デイジー姫が大地を震わせて、駆ける。
い、いけない!反応し損ねましたっ!かろうじてゼルダ姫が対応に移ります!

一拍遅れて動作に入るも…余りに速くて、私のパイロキネシスごときは、
誰もいない空間を間抜けに通過していくのみ……!

596: 2020/02/15(土) 15:20:09 ID:UXSYQ7yA
口では「射貫く」と言っていても、流石に無謀と察したか、ゼルダ姫が身構えて格闘応戦。

ただし、攻撃してもダメ―ジなど碌に通らず、意味がありません。
後ろ向きではありますが、底上げされた防御力を少しでも活かし、時間稼ぎに徹せねば。



――そう考えていた、私たち。
――その考え、恐ろしく甘い見積もりでした。



デイジー姫は、ゼルダ姫の直前まで来ると、急停止し、ふっと笑って――





デイジー「右から来るぞ、気を付けろ」





ゼルダ「な、何を―――――――」



――――――――

597: 2020/02/15(土) 15:23:03 ID:UXSYQ7yA



ゼルダ「――――っ!」





ゼルダ姫が、反応できたのは、奇跡だったかもしれません。

ゼルダ姫は、咄嗟に、反射的に、自分の顔までの軌跡を両腕で遮ろうとし――
あろうことか、「咄嗟に顔の守りを捨てて」、下方向に急旋回。
鳩尾を、氏に物狂いで、氏守しました。

バリイイイィィン、と、耳をつんざくような爆音がこだます。
なにかが霧散していく、光の欠片と共に。



ゼルダ「……フーッ…フーッ…!!」ガクガク



デイジー姫の拳は、言葉面だけならゼルダ姫の「期待通り」、
限界を超えて突っ張って見せたゼルダ姫の手によって、バシィッ!!と取り押さえられました。

デイジー姫の拳から初めて流れた、何筋かの赤い血。
受け止めたゼルダ姫の手首からは、夥しい量の出血が。

598: 2020/02/15(土) 15:27:47 ID:UXSYQ7yA



ゼルダ「――――フーッ――――フーッ…!!」バクバク



…傍から見ていても分かるくらいの動揺、脂汗。血走った眼。定まらない呼吸。
ただ、ゼルダ姫は決して、激痛のせいで、あんなことになっているわけではありません。



一瞬見せた、デイジー姫の、本気の本気。
私の仕込んだ要塞法衣は…たった一発のパンチで、腕の周り…
そしてその後ろに控える腹部のものまで、絶望的に大きな風穴があき、もはや使い物になりません。

もしも、「どうせ顔に飛んでくるんだろう」と決めつけてガードしていたのなら、
減速させること叶わず腹部の鎧を貫き通して、絶命させていたこと、請け合いです。



デイジー姫はデイジー姫で、目を見開いています。

デイジー「…驚いたな、心の底から驚いた。
     まさか反応してくるとは、更には腕の制約があるというのに、
     それを跳ね除けて間一髪、間に合わせてみせるとは…っ!
     基礎体力レベルにして、Lv. 50の大台には乗ったんじゃないか?

     私は『胸が張り裂けるほど』嬉しい。敬意を以て――――――――」スッ

599: 2020/02/15(土) 15:33:39 ID:UXSYQ7yA
ゼルダ「ヒルダ姫っ!!自分に集中してっ!早く――っ!」

「ナニカ」を悟り、ゼルダ姫が絶叫します。



デイジー「――――――――――――全力で叩き潰そう」

ドゴオオオオオオオオオオオォォォッ!!



ゼルダ「――――――――なん、ども、いいま、すが。
    ほん、とうに、しゅ……み、わるい、で、す………………………ね」

ゼルダ姫が、ぐるんと1回転、したので、しょうか。
速過ぎて、よくわかりませんでした。……見ているだけしか、できませんでした。

…多分、なのですが、こう…一瞬のうちに、デイジー姫の手が再び自由の身となって。
しなやかに長い腕を差し込まれて。背負い投げをされたのだと、思います。
…クレーターを作りながら、背中から叩きつけられている最終状態を鑑みるに、そうとしか思えない、ので。はい。

…要塞法衣に敢えてちょっかいを出すのは、こちらの戦意を下げることを狙っているのでしょうか――

ゼルダ「――」ガクッ



ゼルダ残機・・・残り『2』
ゼルダを包む要塞法衣が 完全に 解けた!▼

ロゼッタ「マリオカートに参戦…ですね、是非!」【4】

引用: ロゼッタ「マリオカートに参戦…ですね、是非!」