1: 2016/09/22(木) 23:15:43.38 ID:C5di/bbJ0
★このSSはダンガンロンパとスーパードクターKのクロスSSです。
★クロスSSのため原作との設定違いが多々あります。ネタバレ注意。
★手術シーンや医療知識が時々出てきますが、正確かは保証出来ません。
★原作を知らなくてもなるべくわかるように書きます。
~あらすじ~
超高校級の才能を持つ選ばれた生徒しか入れず、卒業すれば成功を約束されるという希望ヶ峰学園。
苗木誠達15人の超高校級の生徒は、その希望ヶ峰学園に入学すると同時に
ぬいぐるみのような物体“モノクマ”により学園へ監禁、共同生活を強いられることになる。
学園を出るための方法は唯一つ。誰にもバレずに他の誰かを頃し『卒業』すること――
モノクマが残酷なルールを告げた時、その場に乱入する男がいた。世界一の頭脳と肉体を持つ男・ドクターK。
彼は臨時の校医としてこの学園に赴任していたのだ。黒幕の奇襲を生き抜いたKは囚われの生徒達を
救おうとするが、怪我の後遺症で記憶の一部を失い、そこを突いた黒幕により内通者に仕立てあげられる。
なんとか誤解は解けたものの、生徒達に警戒され思うように動けない中、第一の事件が発生した……
次々と発生する事件。止まらない負の連鎖。
生徒達の友情、成長、疑心、思惑、そして裏切り――
果たして、Kは無事生徒達を救い出せるのか?!
――今ここに、神技のメスが再び閃く!!
初代スレ:
苗木「…え? この人が校医?!」霧切「ドクターKよ」【前編】
苗木「…え? この人が校医?!」霧切「ドクターKよ」【後編】
二代目スレ:
桑田「俺達のせんせーは最強だ!」石丸「西城先生…またの名をドクターK!」カルテ.2【前編】
桑田「俺達のせんせーは最強だ!」石丸「西城先生…またの名をドクターK!」カルテ.2【中編】
桑田「俺達のせんせーは最強だ!」石丸「西城先生…またの名をドクターK!」カルテ.2【後編】
三代目スレ:
大和田「俺達は諦めねえ!」舞園「ドクターK…力を貸して下さい」不二咲「カルテ.3だよぉ」【前編】
大和田「俺達は諦めねえ!」舞園「ドクターK…力を貸して下さい」不二咲「カルテ.3だよぉ」【中編】
大和田「俺達は諦めねえ!」舞園「ドクターK…力を貸して下さい」不二咲「カルテ.3だよぉ」【後編】
四代目スレ:
セレス「勝負ですわ、ドクターK」葉隠「未来が…視えねえ」山田「カルテ.4ですぞ!」【前編】
セレス「勝負ですわ、ドクターK」葉隠「未来が…視えねえ」山田「カルテ.4ですぞ!」【中編】
セレス「勝負ですわ、ドクターK」葉隠「未来が…視えねえ」山田「カルテ.4ですぞ!」【後編】
五代目スレ:
★クロスSSのため原作との設定違いが多々あります。ネタバレ注意。
★手術シーンや医療知識が時々出てきますが、正確かは保証出来ません。
★原作を知らなくてもなるべくわかるように書きます。
~あらすじ~
超高校級の才能を持つ選ばれた生徒しか入れず、卒業すれば成功を約束されるという希望ヶ峰学園。
苗木誠達15人の超高校級の生徒は、その希望ヶ峰学園に入学すると同時に
ぬいぐるみのような物体“モノクマ”により学園へ監禁、共同生活を強いられることになる。
学園を出るための方法は唯一つ。誰にもバレずに他の誰かを頃し『卒業』すること――
モノクマが残酷なルールを告げた時、その場に乱入する男がいた。世界一の頭脳と肉体を持つ男・ドクターK。
彼は臨時の校医としてこの学園に赴任していたのだ。黒幕の奇襲を生き抜いたKは囚われの生徒達を
救おうとするが、怪我の後遺症で記憶の一部を失い、そこを突いた黒幕により内通者に仕立てあげられる。
なんとか誤解は解けたものの、生徒達に警戒され思うように動けない中、第一の事件が発生した……
次々と発生する事件。止まらない負の連鎖。
生徒達の友情、成長、疑心、思惑、そして裏切り――
果たして、Kは無事生徒達を救い出せるのか?!
――今ここに、神技のメスが再び閃く!!
初代スレ:
苗木「…え? この人が校医?!」霧切「ドクターKよ」【前編】
苗木「…え? この人が校医?!」霧切「ドクターKよ」【後編】
二代目スレ:
桑田「俺達のせんせーは最強だ!」石丸「西城先生…またの名をドクターK!」カルテ.2【前編】
桑田「俺達のせんせーは最強だ!」石丸「西城先生…またの名をドクターK!」カルテ.2【中編】
桑田「俺達のせんせーは最強だ!」石丸「西城先生…またの名をドクターK!」カルテ.2【後編】
三代目スレ:
大和田「俺達は諦めねえ!」舞園「ドクターK…力を貸して下さい」不二咲「カルテ.3だよぉ」【前編】
大和田「俺達は諦めねえ!」舞園「ドクターK…力を貸して下さい」不二咲「カルテ.3だよぉ」【中編】
大和田「俺達は諦めねえ!」舞園「ドクターK…力を貸して下さい」不二咲「カルテ.3だよぉ」【後編】
四代目スレ:
セレス「勝負ですわ、ドクターK」葉隠「未来が…視えねえ」山田「カルテ.4ですぞ!」【前編】
セレス「勝負ですわ、ドクターK」葉隠「未来が…視えねえ」山田「カルテ.4ですぞ!」【中編】
セレス「勝負ですわ、ドクターK」葉隠「未来が…視えねえ」山田「カルテ.4ですぞ!」【後編】
五代目スレ:
十神「愚民が…!」腐川「医者なら救ってみなさいよ、ドクターK!」ジェノ「カルテ.5ォ!」【前編】
十神「愚民が…!」腐川「医者なら救ってみなさいよ、ドクターK!」ジェノ「カルテ.5ォ!」【中編】
十神「愚民が…!」腐川「医者なら救ってみなさいよ、ドクターK!」ジェノ「カルテ.5ォ!」【後編】
前スレ:
モノクマ「学級裁判!!」KAZUYA「俺が救ってみせる。ドクターKの名にかけてだ!」カルテ.6【前編】
モノクマ「学級裁判!!」KAZUYA「俺が救ってみせる。ドクターKの名にかけてだ!」カルテ.6【中編】モノクマ「学級裁判!!」KAZUYA「俺が救ってみせる。ドクターKの名にかけてだ!」カルテ.6【後編】
十神「愚民が…!」腐川「医者なら救ってみなさいよ、ドクターK!」ジェノ「カルテ.5ォ!」【中編】
十神「愚民が…!」腐川「医者なら救ってみなさいよ、ドクターK!」ジェノ「カルテ.5ォ!」【後編】
前スレ:
モノクマ「学級裁判!!」KAZUYA「俺が救ってみせる。ドクターKの名にかけてだ!」カルテ.6【前編】
モノクマ「学級裁判!!」KAZUYA「俺が救ってみせる。ドクターKの名にかけてだ!」カルテ.6【中編】モノクマ「学級裁判!!」KAZUYA「俺が救ってみせる。ドクターKの名にかけてだ!」カルテ.6【後編】
2: 2016/09/22(木) 23:17:13.10 ID:C5di/bbJ0
☆ダンガンロンパ:言わずと知れた大人気推理アドベンチャーゲーム。
登場人物は公式サイトをチェック!
…でもアニメ一話がニコニコ動画で無料で見られるためそちらを見た方が早い。
個性的で魅力的なキャラクター達なので、一話見たら大体覚えられます。
☆スーパードクターK:かつて週刊少年マガジンで1988年から十年間連載していた名作医療漫画。
KAZUYA:スーパードクターKの主人公。本名は西城カズヤ。このSSでは32歳。2メートル近い長身と
筋骨隆々とした肉体を持つ最強の男にして世界最高峰の医師。執刀技術は特Aランク。
鋭い洞察力と分析力で外の状況やこの事件の真相をいち早く見抜くが、現在は大苦戦中。
3: 2016/09/22(木) 23:18:54.63 ID:C5di/bbJ0
《自由行動について》
安価でKの行動を決定することが出来る。生徒に会えばその生徒との親密度が上がる。
また場所選択では仲間の生徒の部屋にも行くことが出来、色々と良い事が起こる。
ただし、同じ生徒の部屋に行けるのは一章につき一度のみ。
《仲間システムについて》
一定以上の親密度と特殊イベント発生により生徒がKの仲間になる。
仲間になると生徒が自分からKに会いに来たりイベントを発生させるため
貴重な自由行動を消費しなくても勝手に親密度が上がる。
またKの頼みを積極的に引き受けてくれたり、生徒の特有スキルが事件発生時に
役に立つこともある。より多くの生徒を仲間にすることがグッドエンドへの鍵である。
・現在の親密度(名前は親密度の高い順)
【カンスト】石丸 、桑田
【凄く良い】苗木、不二咲、大和田
【かなり良い】舞園、朝日奈、腐川 、ジェノサイダー
【結構良い】霧切、大神
【そこそこ良い】セレス、山田、葉隠
【普通】十神
~~~~~
【江ノ島への警戒度】かなり高い
4: 2016/09/22(木) 23:20:48.13 ID:C5di/bbJ0
人物紹介(このSSでのネタバレ付き)
・西城 カズヤ : 超国家級の医師(KAZUYA、ドクターK)
学園長たっての願いで希望ヶ峰学園に短期間赴任しており、この事件に巻き込まれた。
失った記憶を少しずつ取り戻しながら、希望ヶ峰学園の謎に迫り生徒達と絆を結んでいく。
閉鎖されたこの学園で“唯一の大人”であり生徒のためなら自ら犠牲になることも辞さない。
半数近くの生徒を手術で救い苗木と石丸に医療技術を仕込むが、モノクマに危険視されている。
・苗木 誠 : 超高校級の幸運
頭脳・容姿・運動神経全てが平均的でとにかく平凡な高校生。希望ヶ峰学園にはいわゆる抽選枠で
選ばれた『超高校級の幸運』の持ち主。自分を平凡と謙遜するが我慢強い性格と前向きさで、誰とでも
仲良くなれる。K曰く、超高校級のコミュニケーション能力の持ち主。 石丸と共に医者を目指すことを
決意し、現在はKの指導を受けている。その幸運で保健室の隠し空間を発見した。
・桑田 怜恩 : 超高校級の野球選手
類稀な天才的運動能力の持ち主。野球選手のくせに大の野球嫌いで努力嫌い、女の子が
大好きという超高校級のチャラ男でもあった。……が、舞園に命を狙われたことを契機に
真剣に身の振り方を考え始める。その後、命の恩人で何かと助けてくれるKにすっかり懐き、
だいぶ真面目で熱い性格となった。今は真剣に野球や音楽に取り組んでいる。
・舞園 さやか : 超高校級のアイドル
国民的アイドルグループでセンターマイクを務める美少女。謙虚で誰に対しても儀正しく
非の打ち所のないアイドルだが、真面目すぎるが故に自分を追い詰める所があり、皮肉にも最初に
事件を起こす。その後、自分を責め続けたことにより精神が限界を迎え、現在は「脱出のための駒」
としての自分を演じている。桑田とも和解し、一見何の問題もないように見えるが……
・石丸 清多夏 : 超高校級の風紀委員
有名進学校出身にして全国模試不動の一位を誇る秀才。真面目だが規律にうるさく融通が効かない。
苗木を除けば唯一才能を持たない凡人である。努力で今の地位を築いたため、努力を軽視する人間を嫌う。
堅すぎる性格故に長年友人がいなかったが、大和田とは兄弟と呼び合う程の深い仲になった。
大和田の起こした事件で顔と心に大きな傷を負い一度は廃人となるが、仲間達の熱い友情により
無事復活。現在は尊敬するKAZUYAに憧れ医学の猛勉強を行っているが……不器用なのが玉にキズ。
5: 2016/09/22(木) 23:21:56.39 ID:C5di/bbJ0
・大和田 紋土 : 超高校級の暴走族
日本最大の暴走族の総長。短気ですぐ手が出るが、基本的には男らしく面倒見の良い兄貴分である。
石丸とは最初こそ仲が悪かったが、後に相手の強さをお互いに認め合い義兄弟の契りを交わした。
己の弱さから事件を起こすが、後に自ら秘密を告白し克服する。石丸の顔に傷をつけたこと、第三の
事件を誘発し不二咲を危険な目に遭わせたことを後悔しているが、自分なりに償っていく決意をした。
手先の器用さや力が強いことを活かし、KAZUYAからも何かと仕事を任されている。
・不二咲 千尋 : 超高校級のプログラマー
世界的な天才プログラマー。その技術は自身の擬似人格プログラム・アルターエゴを作り出す程である。
小柄で愛らしい容姿をした女性……と思いきや、実は男。男らしくないと言われるのがコンプレックスで
今までずっと女装して逃避していた。事件の際、石丸が自分を庇って怪我を負ったことに責任を感じ、
単独行動を取った結果ジェノサイダー翔に襲われ氏にかけるが、友情の力でギリギリ蘇生した。
現在は等身大の自分で出来ることを探し、前向きさに他のメンバーを支えている。
・朝日奈 葵 : 超高校級のスイマー
次々と記録を塗り替える期待のアスリート。恵まれた容姿や体型、明るい性格でファンも多い。
食べることが好きで、特にドーナツは大好物である。あまり考えることは得意ではないが、直感は鋭い。
モノクマの内通者発言により仲間達に疑われたことでとうとう不満が爆発し、KAZUYAとも衝突するが
お互いに本音をぶつけあったことで和解。現在は苗木達同様、KAZUYAの派閥に入っている。
・大神 さくら : 超高校級の格闘家
女性でありながら全米総合格闘技の大会で優勝した猛者。外見は非常に厳つく冷静だが、内面は
女子高生らしい気遣いや繊細さを持っている。由緒正しい道場の跡取り娘であり、地上最強の座を求め
日々鍛錬している……が、実は内通者。モノクマに道場の人間を人質に取られており、指令が下れば
殺人を犯さなければならない立場にある。覚悟を決めているが、同時に割り切れない感情も感じている。
今回の事件でのセレスと山田の裏切り行為に何か思う所があるようだ。
・セレスティア・ルーデンベルク : 超高校級のギャンブラー
栃木県宇都宮出身、本名・安広多恵子。ゴシック口リータファッションの美少女である。徹底的に
西洋かぶれで自分は白人だと言い張っている。いつも意味深な微笑みを浮かべ一見優雅な佇まいだが、
非常な毒舌家でありキレると暴言を吐く。穏健派の振りをしているが、実は脱出したくてたまらない。
満を持して事件を起こし、完璧と思われるトリックで周囲を華麗に翻弄するが超国家級の医師を
欺くことは出来なかった。事件前にKAZUYAを唯一のCランク認定していたが、その真意とは……
・山田 一二三 : 超高校級の同人作家
自称・全ての始まりにして終わりなる者。コミケ一の売れっ子作家でオタク界の帝王的存在。
セレスからは召使い扱いで毎日こき使われている。 普段は明るく気のいいヤツだが実は臆病で
プライドの高い一面もあり、密かに周囲の人間に対し引け目を感じていた。
その負の感情をセレスに利用され事件に加担してしまったが、セレスに裏切られたことにより
己の愚かさと浅はかさを悟り深く後悔する。KAZUYAの手術を受けたが現在は未だ昏睡状態。
6: 2016/09/22(木) 23:26:34.52 ID:C5di/bbJ0
・十神 白夜 : 超高校級の御曹司
世界を統べる一族・十神家の跡取り。頭脳・容姿・運動神経全てがパーフェクトの超高校級の完璧。
デイトレードで稼いだ四百億の個人資産を持っている。しかし、全てを見下した傲慢な態度で周囲と
何度も衝突を繰り返し、コロシアイをゲームと言い放つなど人間性にはかなり問題がある。
自ら事件を撹乱したり危険人物ではあるが、内心では現在の状況や度重なる孤立に多大な不安や
ストレスを感じている。また、そんな自分に苛々しているため周囲に対しやや攻撃的な面も。
・腐川 冬子 : 超高校級の文学少女
書いた小説は軒並みヒットして賞も総ナメの超売れっ子女流作家……なのだが、家庭や過去の
人間関係に恵まれず暗い少女時代だったために、すっかり自虐的で卑屈な性格になってしまった。
十神が好きで、いつも後を追いかけている。実は二重人格であり、裏の人格は連続猟奇殺人犯
「ジェノサイダー翔」。翔が事件を起こしたことがショックで閉じこもっていたが、自分を外に
連れ出したKAZUYAに深い感謝と好意を持っている。……最近は十神に加えKでも妄想してるらしい。
・ジェノサイダー翔 : 超高校級の殺人鬼
腐川の裏人格であり、萌える男をハサミで磔にして頃す殺人鬼。腐川とは真逆の性格でとにかく
テンションが高くポジティブ。重度の腐女子。乱暴だが頭の回転は非常に早く、味方にすると頼もしい。
腐川とは知識と感情は共有しているが記憶は共有しておらず、腐川の消された記憶も保持している。
コロシアイが起こる以前、自分と腐川に親身だったKAZUYAに好感を持っておりその関係で何かと協力的。
・江ノ島 盾子 : 超高校級のギャル
大人気モデルで女子高生達のカリスマ……は本物の江ノ島盾子の方で、彼女はその双子の姉である。
本名は戦刃むくろといい、超高校級の軍人だった。天才的戦闘能力を誇るが、頭はあまり回らず全く
気が利かないため残念な姉、残姉と妹からは呼ばれている。このコロシアイ学園生活のもう一人の内通者。
ちなみに大半の生徒からは軒並み怪しまれKAZUYAや霧切、十神と言った頭脳派達にはバレている。残念。
・葉隠 康比呂 : 超高校級の占い師
どんなことも三割の確率でピタリと当てる天才占い師。事情があって三ダブし、高校生だが成人である。
飄々として常にマイペース、KAZUYAからは掴み所がないと評されている。普段は割りと 落ち着いているが、
非常に臆病ですぐパニックになる悪癖がある。 また、自分の保身第一であり、借金返済のために友人を
利用しようとする面も……。どうせ外れだと思っているが、大神が内通者だというインスピレーションを得た。
犯人ではなかったものの、二人も襲ったことが明らかになった葉隠に明日はあるのか。更なる悲劇が葉隠を襲う。
・霧切響子 : 超高校級の探偵
学園長の娘にして、名門探偵一族霧切家の人間。初めは記憶喪失で名前以外何も思い出せなかった。
KAZUYAがたまたま霧切について知っていたため、現在は順調に記憶が回復している。いつも冷静沈着で
洞察力も鋭く、的確な指示をするためKAZUYA派の中では副リーダー兼参謀的役割を担っている。
手に火傷の痕がありKAZUYAに手術してもらったが、すぐには治らないのでまだ当分手袋は外せない。
少しずつだが、周囲に対し確かな信頼や絆といった感情を持ち始めている。
・モノクマ
コロシアイ学園生活のマスコットにして学園長。苗木達を監禁しコロシアイを強制している
黒幕である。中の人は超高校級の絶望・江ノ島盾子。人の心の弱い部分やコンプレックスを突くのが
得意で、このSSでは幾度も生徒達の心を踏みにじってきた最強のラスボス。強靭な精神力と
高い医療技術を持つKAZUYAがいよいよ真剣に邪魔になってきており、排除を企む。
13: 2016/09/25(日) 19:31:18.99 ID:Z3FAymaw0
Chapter.4 オール・オール・フォー・ア・ポリシー (非)日常編
14: 2016/09/25(日) 19:33:11.87 ID:Z3FAymaw0
「…………」
もう何度となく開かれた朝食会は今日も無言だった。
生徒達は疲れ果てていた。ただ惰性で生き、月日が早く過ぎるのを待っているようだった。
悪夢のような二度目の裁判の後、果たして彼等に一体何が起こったのか。
まず一つ目の結論から言うと、
――セレスは氏んでいない。
「…………」
彼女は今日も保健室で山田と並んで横たわって天井を見つめている。
では何故こうも空気が暗いのか。
時系列をオシオキ後に戻して説明しなければならない。
15: 2016/09/25(日) 19:47:07.23 ID:Z3FAymaw0
╂
「ウオオオオオー!!」
城の梁が崩れる寸前、建物の崩壊を察知したKAZUYAはバリケードを蹴破り中に侵入した。
そして悲鳴を上げるセレスを押し倒して自身のの巨体で庇う。
「先生ッ?!」
誰もが予想外の行動だった。モノクマすら口を挟まなかったのがその証拠だ。
しかし、当の本人が一番驚いていた。セレスは大きな瞳を更に見開き、目の前の男を凝視する。
「な、ぜ……?」
「――さあな」
自分は見捨てられて当然のことをしたのだ。KAZUYAだって呆れていたし怒っていたはずだ。
しかし、KAZUYAはセレスを助けた。さもそれが当然であるかのように。
その表情は極めて複雑であったが、彼は彼女を責めることも恩を着せることもなかった。
「KAZUYA先生! 大丈夫ですか?!」
「慌てるんじゃない! 俺は大丈夫だ! 上に乗っている梁を落ち着いてどけてくれ!」
KAZUYAの背にはいくつも太い木の柱が落下していた。しかし、鉄骨すら耐えたことのある
鋼の肉体は何とか柱の重みに耐え、KAZUYAの下にいるセレスを守った。
「俺と大神で何とかする! お前らは危ないから下がってろ!」
「兄弟、二人だけでは大変だ! 僕達も手伝う!」
16: 2016/09/25(日) 19:57:44.64 ID:Z3FAymaw0
「では我と大和田が直接木材をどかす! 石丸達は受け取ってくれ」
「了解した!」
「十神! おめーも手伝えよな!」
「チッ。面倒な……」
大和田と大神がKAZUYA達を潰さないように慎重に木材に乗り上げ、
石丸、桑田、十神が柱を受け取るため瓦礫の下で待機する。
「手伝いたいけど、僕達は力が弱いから邪魔になるかな……」
不二咲が残念そうに呟くと、ただぼんやり見ていた葉隠に朝日奈が噛み付いた。
「ちょっと葉隠! あんたは力あるでしょ! なにぼーっとしてんの?」
「え?! えぇ……だってなぁ……」
渋る葉隠を腐川と江ノ島が睨みつける。
「あ、あんた、先生が氏んでもいいの?! 散々世話になっておいて……!」
「あんたにとって命の恩人でしょ!」
「まあ、それもそうか……」
「私も手伝うから、ほら早く!」
葉隠は渋々と手伝い始める。
……が、どう見ても小柄な朝日奈の方が役に立っていた。
17: 2016/09/25(日) 20:11:56.20 ID:Z3FAymaw0
「…………」
「…………」
撤去作業中、KAZUYAもセレスも無言だった。
上に何百キロも木材が乗っているため、KAZUYAの体は必然的に地面と近くなり、
セレスと顔が近い。その距離は、もはや30センチもない。
頭部の皮膚が裂けたのか、KAZUYAの額からは血が流れている。
流れている血と汗が混じり合ってセレスの顔にぽたり、ぽたりと落ちた。
「……大丈夫ですか?」
「……問題ない」
KAZUYAの彫りが深い端正な顔が苦痛で少し歪んでいる。
だがKAZUYAは呻き声一つ漏らすことはなく、ただ歯を食いしばって黙って耐えていた。
そして濁り一つない真っ直ぐな目で、セレスの目を覗いている。
そこにあるのは後悔か、やるせなさか。
セレスは目を逸らすことが出来ない。それは何よりも辛い精神的な責め苦のように感じた。
(馬鹿なことを、したものです……)
無言のKAZUYAと見つめ合いながら、セレスは初めて後悔の念を持った。
今まで自分の行動に後悔したことなどない。過激なギャンブルの結果、相手が破産する姿など
何度も見てきた。だがそれは彼等の自業自得だし、基本的に彼女は他人がどうなろうと気にしない。
関係ないからだ。他人がどうなろうと自分には関係ない。
そんな自分中心の思考を持つ彼女でさえ、殺人は流石にやり過ぎではないかと
思うことは正直何度もあった。いくら他人とはいえ人の命を奪うのはどうなのかと。
18: 2016/09/25(日) 20:22:24.41 ID:Z3FAymaw0
しかし、彼女は耐えられなくなってしまった。ここには何もない。
彼女が好きなブランドの服も、きらびやかな宝石も。
空気の張り詰めるようなギャンブルも。
長年ずっと追い求めてきた夢も。
……一緒に暮らす家族も。
何もないのだ。
モノモノマシーンで中途半端に外の物が手に入るのも良くなかった。
物が溢れている分かえって危機感が削がれ、虚無感ばかりが埃のように積もっていく。
結果、周囲と団結する意志は日に日に薄れていった。
外の世界に対する渇望は日を追うごとに強くなっていくというのに。
そんな中、モノクマは囁く。
『緊急避難ってあるじゃない? 自分を助けるためなら周りの人を犠牲にしても許されるんだよ?』
そうだ。自分は監禁されている。
食べ物は今は支給されているが、今後どうなるかはわからない。
突然モノクマが気まぐれを起こして殺されるかもしれない。
絶対ないなんて誰にも言えない。
出たい。
出たい。
出たいッ!!!!!
19: 2016/09/25(日) 20:48:09.14 ID:Z3FAymaw0
そんな時に、まるで自分の背を押すような大金を差し出されたらセレスはもう動くしかなかった。
自分は悪くない。脱出のために仕方ない。黒幕が全て悪いのだと言い訳しながら。
しかし、悪くない訳がないのだ。監禁を我慢し夢を諦めているのは他のメンバーも同じ。
実際に大怪我を負い、常に氏の恐怖に怯えているのは彼等も同じなのだから。
KAZUYAに殴られようが、オシオキで氏のうが本来なら甘んじて受けなければいけない。
……それでも。
それでもKAZUYAは自分を助けた。
己の身を盾にして、恨み言一つ言わずに――
(西城先生。あなたは……あなたは本当に立派な人ですね……)
(きっと、誰かに言われなくても……自然に体が動いて……
そうやって、いつも当たり前のように誰かを助けているのでしょう……)
KAZUYAの言った通りだ。金で手に入る人間関係など何と薄っぺらいことだろう。
容姿がどんなに良くても、中身の伴っていない人間に価値があるのだろうか。
そして目の前の人物は頭脳、力、技術、容姿、人間性。その全てが揃っていた。
(たくさんのイケメンに囲まれて女王のような生活を送るより、たった一人でも真の騎士と
呼ぶに相応しい人間を手に入れて守ってもらう方が、よっぽど有意義でしたわね……)
(……今更それに気付いても、何もかもが遅すぎたのですが)
「先生、汗が……」
身じろぎして自由な右手を何とか動かすと、KAZUYAの額の血と汗を拭う。
20: 2016/09/25(日) 21:08:29.26 ID:Z3FAymaw0
「ウム……」
KAZUYAは相変わらず険しい顔をしている。セレスの想像以上に柱が重いようだ。
彼女の体に覆いかぶさるように、KAZUYAの巨体は密着して微動だにしない。
(せめて、今だけでも、このまま……)
セレスは静かにまぶたを閉じる。
――そのままの態勢で十分以上過ごし、やっと二人は救出された。
桑田「せんせー!」
石丸「大丈夫でしたか?!」
K「……ああ、何とかな」
セレス「…………」
舞園「セレスさん!」
不二咲「大丈夫?」
セレス「わたくし……」
K「……傷が開いているな。早急に処置をせねば」
葉隠「そんなんしなくていいべ!」
苗木「は、葉隠君……」
朝日奈「ちょっと、あんた……」
葉隠「K先生はお人よし過ぎだべ! 今ので自分が氏んでたらどうすんだ?!」
十神「同感だな。ほっとけば良いだろう。オシオキで氏んでもそれは
俺達の殺人にはならんのだからな。数が減ってちょうどいい」
K「……!」
石丸「い、いくら犯罪を犯したとは言え見頃しにするわけにはいかないだろう!」
21: 2016/09/25(日) 21:36:59.84 ID:Z3FAymaw0
葉隠「オメエらどんだけオメデタイ頭してんだ。さっきセレスっちが言っためちゃくちゃな
動機忘れたのか?! あんなワケのわからない夢のために俺達は殺されるとこだったんだぞ!!」
霧切「確かに酷い動機だけど、それだけが原因かしら?」
大和田「というか、仲間に一人本物の殺人鬼いるしな……」
腐川「うぅ……」
K「……元々精神的に追い詰められていて、第三の動機発表がトリガーに
なっただけかもしれん。いや、むしろ俺にはそう見えた」
葉隠「でも俺は危うく殺人犯にされるところだったんだ! こんな危ない人間を
ムリに生かしとく必要あるか?! ねえだろ!」
大神「葉隠、落ち着け」
葉隠「落ち着けるか! 今日という今日は絶対許さねえからな!」
江ノ島「でもさぁ、あんたがウソばっかついてたからムダに裁判長引いたんじゃないの?」
大和田「そうだ! セレスの策にまんまと引っ掛かって山田殴ったのはお前だろ」
桑田「おめーのせいで俺達まで巻き添え食らうとこだったんだぞ」
葉隠「う、うるさいべ! それとこれとは別だ!」
舞園「そもそも葉隠君……脱出のメモを見たあと何で先生に何も言わなかったんですか?
きちんと報告してから行っていたら、先生が何とかしてくれたかもしれませんよ?」
大神「いい加減な情報で周囲を混乱させてはいけないというのはわかるが、
誰にも言わずに一人で向かったのは何故だ?」
葉隠「そ、それは……!」
朝日奈「なんか怪しい……」
葉隠(もし本当に脱出口だったらその情報を売ろうとしたってのは……流石に言わない方がいいよな)
葉隠「そんなことはどうでもいいんだ! 俺はメモの通りにしただけだべ! それよりセレスっちだろ!
俺の心についたこの傷はどうしてくれるんだ! 慰謝料をもらうべ!」
苗木「葉隠君、あのさ……」
葉隠「それに危ないから監禁とかした方がいいんじゃねえか?! いや、そうすべきだろ!!」
「…………」
その時、予想だにしない方向から冷水が浴びせられた。
「もういい加減にしてよ」
葉隠「?!」
43: 2016/10/03(月) 21:53:46.26 ID:Wmei1aMu0
その冷たい言葉を発した人物が余程予想外だったのか、葉隠は目を白黒させてそちらを見る。
苗木「本当にさ、いい加減にして欲しい」
K「苗木?」
いつも穏やかな苗木が見せる鋭い表情に、KAZUYAも嫌な予感を感じていた。
苗木「僕はね、葉隠君の立場を考えてずっと黙ってたんだよ? でも、そろそろ我慢の限界みたいだ」
モノクマ「お? 苗木君、とうとうキレちゃった? キレちゃった?」
苗木「お前は黙ってろ」
ギ口リとモノクマを睨むと、苗木は葉隠に向き直る。
苗木「葉隠君、君が怒るのもわかるよ。セレスさんのしたことは本当に酷いし、最低だと思う。
でもね、みんな多かれ少なかれ欠点があったり他のみんなに迷惑かけたりしてるじゃないか」
苗木「僕はね、この学園生活で誰かを責める権利がある人も責められなきゃいけない人も
誰一人だっていないと思うんだ。勿論、こんな酷いことを仕出かした黒幕は別だけど」
葉隠「お、俺はハメられたんだって! セレスっちの卑怯なワナにハマらなきゃ、山田っちを
殴ったりなんてしなかったしみんなに迷惑なんてかけてねえ! そうだろ?!」
苗木「……それはどうかな。ちょっと厳しい言い方かもしれないけど、葉隠君って
自分のことしか考えてないような所あるよね? 今回のことがなくたって
似たようなことをしてた可能性はあると思うよ? 心当たりない?」
葉隠「ある訳ないだろ! 苗木っちは俺のことをどういう目で見てんだべ!!」
その言葉を聞いて苗木は少し険しい表情になったが、それでもまだ穏やかな声音を崩さなかった。
苗木「……ねえ、葉隠君。僕だって本当はこんなこと言いたくないんだ。もし君が心から
反省してもう騒ぎを起こさないって約束してくれるなら、あの件は僕の心の中だけに
仕舞っておくからさ。だから、こんなこと……もうやめよう」
葉隠「あ、あのことってなんだべ? 俺は別に……言われて困ることなんてねえぞ!」
苗木「悪いって……思ってないんだね」
一瞬苗木の瞳から光が消える。
葉隠「し、知るか知るか! とにかく、俺はセレスっちを許す気なんてねえからな!」
苗木「そう。わかったよ……」
K「何の話だ? あの件とは一体……」
苗木「…………」
44: 2016/10/03(月) 22:18:32.02 ID:Wmei1aMu0
モノクマ「まあまあ。例のショッキング映像はばーっちり抑えてるんで!
いちいち説明するより見せた方が早いでしょ?」
モノクマ「ではここで、問題の映像を大公開~!」
室内が暗くなり、天井から現れた大型モニターにその一連のシーンが映る。
二人の間に何が起こったのか?
それを説明する前に、まずは苗木の日頃の行動を説明しなければいけない。
苗木は苗木なりに、持ち前の前向きさや積極性を活かしてKAZUYAを手助けしようと動いていた。
頭脳や運動能力は並でも、他のメンバーと一緒に遊んだり勉強をしたり仕事を手伝うことは出来る。
また、周囲の人間とこまめにコミュニケーションを取り、相手が不安を感じているようなら
親身に相談に乗り、疲れている時はストレス解消に付き合ったりもしていた。
そんな中、単独行動の多い葉隠ともなるべく機会を作って話をするようにし、仲良くなったのだが……
「えっ?」
全員が目をモニターに釘付けしながら絶句した。
葉隠が苗木に、相談したいことがあると自室に呼び出した時のことである。
わかりやすくまとめると、葉隠はお金持ちと思われる客の女を騙して貯金を引き出した。だが
そのことが訴訟沙汰になった挙句、相手は暴力団関係者でありヤクザに追われる羽目になったのだ。
この男が三回も留年しているのはヤクザから逃げ回っていたから(と趣味のオーパーツ集めで
世界中をフラフラ放浪していたから)なのである。全寮制の希望ヶ峰学園に来たのも
要は身を隠すためであったが、結局見つかって多額の請求を受けてしまう。
ここまででもかなり問題があるのだが、葉隠の爆弾発言はまだまだ終わらなかった。
45: 2016/10/03(月) 22:30:49.30 ID:Wmei1aMu0
『ここから出たら内臓とか取られちゃうかも!! なんか若者の内臓は高く売れるんだって!』
『だから、 苗 木 っ ち の 内 臓 を安く売って! ちょっくら転売させて!』
『一個でいいから!!』
『…………』
『じゃあ、国籍でいいや! 国籍も高く売れるらしいんだわ!』
『…………』
唖然として言葉が出ない映像の中の苗木。……画面の前では現実の苗木が深い溜め息をついている。
度重なる葉隠の暴言から何とか平静さを取り戻した苗木は、葉隠が過去に話していた内容を思い出し、
騙し取った金で趣味のオーパーツを買っていたことを看破する。まずはそのコレクションを全て
売り払って金を作り、それでもダメなら協力しようと冷静に提案するが……
『ダメダメ! ダメに決まってんだろ! 俺の大事なコレクションだぞ! 苗木っちは酷いべ!』
『もういい! 苗木っちには頼まん! 何が何でも逃げ切ってやるって!』
『 貯 め 込 ん だ 貯 金 を切り崩してでも逃げ切ってやるって!』
『チッ、バレたか……苗木っちの内臓を売れば、貯金を切り崩さずに金を造れると思ったのに……』
シーーーン。
シーーーン。
46: 2016/10/03(月) 22:47:42.32 ID:Wmei1aMu0
映像の最中、至る所からえっ?という呟きが溢れ返っていたが、映像が終わって室内に
再び明かりが灯ると、嫌な沈黙が辺りを包み込んだ。生徒の半分は信じられない物を見る目で、
残りの半分は汚物を見るような冷え切った目で葉隠を凝視している。
葉隠「あー、いや……その……」
友人に平気で問題発言をするくらい一般人と感覚がズレている葉隠だが、
今の空気が非常に不味いものであることは本能的に察知していた。
舞園「……エッ?」
桑田「ハァ……??」
朝日奈「あんた……あんたって……!!」
不二咲「嘘、でしょ?」
霧切「…………」
一部の者は呆れ果ててまともな言葉を出せない。そのくらいの衝撃であった。
江ノ島「(葉隠君は本当に変わらないなぁ……)クズだね」
十神「ここまで来ると、クズというか底無しの馬鹿というか……」
腐川「信じられないわ! あたし以下の汚物ねっ!!」
大和田「こいつ殴っていいか? いいだろ!」
石丸「君という男は一体どこまで自分本位なのだっ?!」
葉隠「い、いやほら……金は借りたら返すつもりだったし……」
K「……臓器は一度借りたらもう返せないが」
47: 2016/10/03(月) 22:53:01.55 ID:Wmei1aMu0
セレスのとんでもない動機すら踏みとどまったKAZUYAがかつてないほど冷たい目をしている。
医者であり実際に違法な臓器売買に直面し、命を失った者を見たたこともあるKAZUYAにとって、
臓器を巡る発言は非常にデリケートな話題であった。
更に、葉隠の不運という名の自業自得は続く。
不二咲「あれ? ねえ、ここの日付……」
右下にこの映像がコロシアイ学園生活の何日目のものか書かれている。
霧切「コロシアイ学園生活三十六日目○時△分」
不二咲「これって、動機が配られた日とかじゃないよね……」
朝日奈「えーっと、いつだったっけ? その時ってなにしてた?」
K「石丸の復帰パーティーが30日目。腐川が部屋から出たのが33日目。
第三の動機が配られたのが36日目だ」
桑田「それってさぁ……」
大和田「一番和やかな時じゃねえか……」
「…………」
その指摘に一同は再び静まり返る。
そもそも葉隠は『ここから出た後』の話をしているのだ。このことが何を表しているか。
――つまり、葉隠の発言はコロシアイや動機とは全く関係ない。
精神的に追い詰められタガが外れた訳でも錯乱して思わず口走った訳でもない。
彼にとって、どこまでも平常運転の上での発言である。
48: 2016/10/03(月) 23:00:11.95 ID:Wmei1aMu0
舞園「借金は、ここに来る前からあったんですよね?」
桑田「で、おめーは手っ取り早くダチに助けてもらおーって考えたワケだ」
朝日奈「自分の貯金があるのに……!」
十神「この発言、ここに閉じ込められていなくてもどうせしていただろうな」
葉隠「えーっと、その……」
K「葉隠」
葉隠「は、はい」
K「お前にとって友人とは、困ったら何でもしてくれる便利な存在か?」
葉隠「だ、だって困った時に助けてくれるから友達な訳で……」
K「そうだな。俺は友人が困っていたらいつも出来る限りのことはしている」
葉隠「そ、そうだろ?!」
K「……で、だ。苗木が困ったらお前は何をしてくれるんだ?」
葉隠「へ……?」
K「まさか人には助けてもらうくせに自分は何もしないなんてことはないよな?」
K「苗木は内臓を求められたんだ。なら、お前は命も差し出す覚悟がある訳だ」
葉隠「…………」
50: 2016/10/03(月) 23:09:57.88 ID:Wmei1aMu0
K「俺の目を見ろ」ギロ
葉隠「いや、えっと」
静かに凄むKAZUYAに威圧され、葉隠の全身からダラダラと滝のように汗が落ちる。
K「友人というのは双方向だ。片方が友人と思っていてももう片方がそう思っていなければ
それは友人とは呼べん。そんなものはただの便利な道具だ!」
K「お前の親の顔を見てみたいものだな。一体どんな教育を受けたらあんな発言が出来るんだ?」
葉隠「ッ……!」
KAZUYAは大きな溜め息をついた。心の底から疲れ切っているようだった。
K「……安広の手当をしなければならない。戻ろう。――ム? 気絶したのか?」
セレスは目を閉じたままKAZUYAの服をしっかりと掴んで放さない。
仕方ないので、KAZUYAはセレスを横抱きに抱え上げる。
石丸「先生! 先生もお怪我をしているのに……」
大神「我が代わるか?」
K「いや、この程度はかすり傷だ。問題ない」
事実、流血しながらもKAZUYAの足取りは確かでさっさとエレベーターへ向かって行った。
生徒達も一人また一人とその後へ続く。……葉隠ただ一人を残して。
51: 2016/10/03(月) 23:23:49.74 ID:Wmei1aMu0
モノクマ「あーあ。みんな行っちゃったよ」
葉隠「…………」
モノクマ「うぷぷぷ。絶望してる? でもキミの場合は本当に自業自得だからなぁ。
ボクとしてもコメントに困るといいますか」
葉隠「…………」
モノクマ「キミみたいな安っぽい絶望、ボク的には美味しくもなんともないんだよねー。
ま、頑張んなよ。これから大変かもしれないけど。じゃねー」
言いたい放題言って、モノクマも去って行った。裁判場には葉隠だけが残される。
葉隠(別に、俺は自分のやったことが間違ってるなんて思ってねえし……)
葉隠(そりゃあ、代わりに借金返済してくれはちょっと都合が良かったかもしれないけど、
流石に内臓もらいっぱなしなんてしないしなんらかの礼はするつもりだったべ。
……こんなの価値観の相違ってやつだろ?!)
葉隠「何がいけねえんだあッ?!」
葉隠は吠えた。
だが、その声に応えてくれる者などおらず、ただ虚しく反響するだけだった。
119: 2016/10/13(木) 23:43:24.68 ID:tqfNbJUu0
╂
あの件から葉隠とそれ以外のメンバーに決定的な溝が出来、朝食会にも来なくなったのである。
しかし葉隠ばかりに構っている訳にもいかない。裁判が行われたため、
とうとう最後の五階が解放されたのだ。
そして、その五階がまた問題だったのである。
― コロシアイ学園生活四十一日目 保健室 AM8:02 ―
K「五階が解放されたか」
霧切「ええ。二度目の裁判が開かれたからもしかしてと思って、朝一番に覗いて見たわ」
K「そうか。なら、また分担して調べておいてくれないか?」
KAZUYAは目でベッドを示す。一つは眠ったままの山田、もう一つはカーテンで
区切られているが中にはセレスがいる。KAZUYAは長時間この場を離れられないのだ。
石丸「では早速チーム分けをしましょう!」
霧切「そのチーム分けについてだけど」
割り込んだ霧切の目はやけに鋭い。
(あっ……)察し
石丸以外の人間は全員気付いた。
120: 2016/10/13(木) 23:57:00.33 ID:tqfNbJUu0
苗木(霧切さん、前回大変な目に遭ってたもんな……)シミジミ
霧切「私はドクターにチーム分けをしてもらいたいわ」
K「俺か……?」
KAZUYAは少し困った顔をしたものの、メンバーを見ながら考え始める。
K(難しいな。変な組み合わせにしてまた怒られるのも困る)
朝日奈「KAZUYA先生! 私はさくらちゃんと一緒がいいなー」
K「ウム、わかった」
苗木「僕は誰でもいいです」
K「ああ」
腐川「どうせ……あたしと組みたがる物好きなんていないわよ……」
桑田「あーはいはい」
舞園「大丈夫ですよ。誰もいないのなら私が組みますから」
腐川「誰も組みたがらないことを肯定された……! そ、そうよね……あたしなんて……」グギギ
K(まず腐川を何とかしよう。腐川は難しいからな。コミュニケーション能力の
高い苗木と明るい朝日奈がいればとりあえず問題ないか?)
K「では一斑は苗木、朝日奈、大神、腐川でいいか?」
苗木「わかりました」
朝日奈「任せて!」
大神「任された」
121: 2016/10/14(金) 00:08:32.77 ID:bnAXFkOe0
K(次に石丸だが……女子とはイマイチだが男子とは大体仲良くやれている。
今回はいつも通り大和田や不二咲と組ませるか?)
石丸「先生! 僕は残って先生のお手伝いをします。今日の分の課題も終わっていないので」
K「ム、そうか」
大和田「なら俺も残るぜ。怪我人が多いし、力仕事できるヤツは多い方がいいだろ」
K「そうだな。二人もいれば助かる。では、残りは……」
K(霧切が問題だったが、幸い残りのメンバーなら誰と組ませても大丈夫だろう。
女子同士でもいいし、意外にも桑田との仲は良好だ。以前だったら到底合わなかっただろうが)
K(……最近は上手くやっているとはいえわざわざ桑田と舞園を近付ける必要もない。
ここは無難に霧切舞園、桑田不二咲か。いや、霧切桑田と舞園不二咲の方が良いかな?)
舞園「先生、このメンバーならくじでどうですか?」
桑田「メンドーだしグーパーしようぜ」
不二咲「うん、やろう」
桑田「じゃあ行くぜ。グーパージャス!」
K「あ」
桑田「えーっと俺と舞園に」
霧切「私と不二咲君ね。不二咲君なら安心だわ」
腐川「それってどういう意味よ……!」
石丸「確かに不二咲君なら安心だなっ」
大和田「お、おう」
K「…………」
K(俺が決める意味あったか?)ショボーン
122: 2016/10/14(金) 00:22:10.69 ID:bnAXFkOe0
朝日奈「じゃあ、探索行ってくるねー!」
大神「こちらは任せた」
不二咲「行ってきまーす」
K「ウム、行ってこい」
― 五階 AM8:21 ―
五階に上がると、まず二つの部屋が目に入った。5-A教室と5-B教室だ。
5-Aのドアを開けて中を覗くが、特に何も変わったことのない普通の教室だったので、
後回しにすることにし5-Bに行く。5-Bもほとんど同じだが、先客が一人いた。
江ノ島「あ、あんた達」
苗木「江ノ島さん」
中には江ノ島がいた。
江ノ島「そんな大人数でなにしてるワケ?」
舞園「新しく五階が開放されたので、みんなで探索に来たんです」
江ノ島「フーン。なんかさー、最近あんたら集団行動してる? アタシだけハブられてない?」
不二咲「ええっ? そんなことないよ?」
桑田「十神や葉隠だっていねーし」
江ノ島が怪しいというのは、初期からKAZUYAの味方をしてくれている生徒達には
周知の事実で、距離感があるのは違いない。だが朝日奈や大神、腐川はそのことは知らず
特別避けている訳でもないので、江ノ島の勘違いということで片付けた。
123: 2016/10/14(金) 00:37:25.27 ID:bnAXFkOe0
腐川「被害妄想よ……そ、そもそもあんたが保健室来ないのが悪いんでしょ!」
朝日奈「わざと仲間外れにしてるんじゃなくて、保健室で先生を手伝ってる時に
お使い頼まれることが多いから自然に団体行動になっちゃうんだよね」
朝日奈「だから江ノ島ちゃんももっと保健室おいでよー」
大神「ウム。今は怪我人も多いからな。人手があれば西城殿も助かるだろう」
江ノ島「パスパス。そういうのアタシのキャラに合わないし、狭い場所に
あんま大勢で押しかけてもジャマになるだろうからさ。遠慮しとく」
朝日奈「そっかー。確かに全員揃うとちょっと狭く感じるかも」
江ノ島「あんたらほんとあのオッサン好きよねー。そりゃ面倒見はいいけどさぁ」
江ノ島(私あの人苦手なんだよね……。なんかグイグイ来るし熱いし。
盾子ちゃんにあんまり近寄るなって言われてちょうど良かった)
腐川「フン! 汚ギャルにあの人の魅力なんてわからないでしょうよ!」
江ノ島「だからその汚ギャルはやめてって何度も言ってるんだけど。
それにしても、腐川までそんなこと言い始めるなんて……どの辺がいいの?」
腐川「全部よ全部! 強いて言うなら……筋肉かしらね」
江ノ島「筋肉?!」
苗木「そ、そうなんだ」
腐川「あの丸太みたいに太い手足がいいわ。あの上腕二頭筋で……うふふ……」
霧切「放ってほいた方がいいわよ。彼女、こうなると長いから」
桑田「そーだな……」
124: 2016/10/14(金) 01:00:43.47 ID:bnAXFkOe0
舞園「私は笑顔が好きですね」
朝日奈「うんうん、わかる! 優しくって頼りになって~」
大神「フフ。朝日奈は本当によく西城殿のことを話しているからな」
朝日奈「お父さんみたいだよね! そう言ったらそんなに老けてないって言われちゃったけど」
不二咲「わかるなぁ。うちのお父さんとは全然タイプが違うけど、
優しくて包容力がある所とか。背中も凄く大きいし憧れちゃうよね」
江ノ島「フーン。そんなもん?」
江ノ島(うちは割りと平凡な普通の家庭だったけど、その感覚はよくわからないなぁ。
いくらお父さんみたいって言っても所詮本当のお父さんじゃないし)
江ノ島(――結局は赤の他人なのに)
戦刃むくろは淡白な性格をしていた。ウェットで情の厚い人間には軍人は務まらないのだ。
それも超高校級の軍人ともなれば、それら軍人としての性質は並の人間より遥かに極まっている。
苗木「じゃあ僕達は別の部屋も見てくるからまたね、江ノ島さん」
舞園「失礼します」
江ノ島「またねー」
そう言って彼等は別れた。苗木達はまだ見ぬ別の部屋を調査するために。
では、江ノ島は何故この何もない教室にいたのだろうか。
江ノ島(例の代物は無事回収っと――)
咄嗟に隠した服の下には、鋭い刃物が息を潜めて活躍の時を待っていた。
132: 2016/10/16(日) 23:17:44.52 ID:wDG5fskt0
◇ ◇ ◇
廊下が三方向に別れていたため、三つのグループはそれぞれ分かれて探索することにした。
○1班(苗木・朝日奈・大神・腐川)
朝日奈「わあ! 見て見て! 武道場だよ!」
腐川「そんな大きい声出さなくたってわかるわよ……」
廊下を左に曲がると、大きな武道場があった。竹刀、弓矢など各種の道具が置かれており、
外に咲いている桜からは他の施設にはない静寂で平穏な空気を感じることが出来る。
苗木「良かったね、大神さん。修業にちょうどいいんじゃない?」
大神「ウム。ここなら落ち着きそうだ」
苗木「それにしても、これってまさか本物の桜? まだ咲いてるなんて……」
モノクマ「お答えしましょう!」
腐川「ヒィィ! 出たわね!」
どこからともなくモノクマが飛び出てきて彼等の前に立った。
モノクマ「その桜はキミ達の先輩にあたる【超高校級の植物学者】が品種改良したもので、
年がら年中咲いているんだ。ほら、散っていく花の横にもう別の蕾が。凄いでしょ?」
苗木「あ、待て!」
それだけ言うとモノクマは別の場所に向かって猛スピードで去って行った。
133: 2016/10/16(日) 23:31:07.59 ID:wDG5fskt0
朝日奈「へえ、すごーい! ……でも、年中咲いてるとなんかありがたみが薄れるね」
苗木(……思った)
大神「やはり、年に一度荘厳に咲きそして潔く散っていくのが桜の見所だな」
腐川「人の一生みたいね。まああんたにとっては武士道ってヤツ?」
大神「我は武士ではないがな。ただ、武人と武士は似通っている部分もある」
一瞬だけ、大神が遠い目をしたが三人は気付かない。
苗木「特に変わった物はなさそうだね。弓矢や竹刀は凶器になるかもしれないから
一応先生に報告した方がいいかもしれないけど」
朝日奈「でも、もう事件なんて起こるのかな?」
顎に人差し指を当て思案顔をしながら、朝日奈は続ける。
朝日奈「あと危ないのは十神と葉隠だけでしょ? この二人にだけ注意すれば大丈夫じゃない?」
腐川「びゃ、白夜様は大丈夫よ! こんなにマークされてる状況で動くほど馬鹿じゃないもの」
朝日奈「じゃあ、もう葉隠だけじゃん! 葉隠と二人っきりにならないようにすればいいよ」
朝日奈の言葉に頷きながらも、苗木は考え込んでいた。
苗木(朝日奈さんの言ってることはもっともだ。山田君は意識不明、セレスさんは重傷、
十神君はマークされてるし、あとは葉隠君にさえ気をつければ事件はもう起こらない)
苗木(……でも、何だろう。それだけでは上手くいかない気がする)
チラリと先程の江ノ島の姿が脳内を掠めた。
134: 2016/10/16(日) 23:39:23.56 ID:wDG5fskt0
大神「……油断しないことだ、朝日奈。今までもそうやって油断して事件が起こってきただろう」
朝日奈「そっか……。またモノクマが煽ってこないとも限らないもんね」
腐川「それに殺意がなくても事故なら起こる可能性はあるわよ。慎重にして悪いことなんてないわ」
特に自分はジェノサイダーに関して何らかの事故を起こすかもしれないと、腐川は内心不安だった。
朝日奈「うん、気をつけよう」
苗木「じゃあ次の場所に行こうか。生徒手帳の地図によると、五階は部屋が多いみたいだし」
○2班(桑田・舞園)
桑田「おぉー! 見ろよ!」
舞園「わぁ、凄いです!」
二人は植物園の中にいた。まるで南国のような、見覚えのない珍しい植物に溢れ返っている。
舞園「隣には武道場もあるみたいですし、五階はリラックス出来そうですね」
桑田「階段上がった時はなーんか嫌な感じしたのにな」
舞園「あ、桑田君もですか? ……実は私もなんです。何だか他の階とちょっと違いますよね?」
桑田「おめーもか。なんかあんのかね?」
舞園「わかりません。上手く言えませんが……とりあえず、今はここを調べましょう」
桑田「そうだったな、と……あーあ、これで空が見えりゃあ文句なしなんだけど」
あいにく、天井の青は空の青ではなくペンキで塗られた人工の空であった。
久しぶりに外を見ることが出来たと勘違いした分、失望は大きい。
135: 2016/10/16(日) 23:49:50.68 ID:wDG5fskt0
舞園「何か手がかりがあるかもしれませんし、端から順に見て行きましょう」
桑田「おう。……ん? なんだありゃ?」
舞園「……花、でしょうか? 大きいですね。見たことがありません」
見慣れない巨大植物に惹かれるように、二人は近付いて行く。
モノクマ「危なーい!」
桑田「うわっ」
危ないと言いながらタックルをかますモノクマを桑田は紙一重の動きで避けた。
モノクマ「クッ! 流石は超高校級の野球選手! ボクの攻撃をかわすなんて恐ろしい子!」
桑田「知るか! つか危ねーな! いきなりなにすんだよ、おめーは?!」
モノクマ「全く、ボクはキミ達の身の安全を考えて注意しに来てあげたのに」
桑田「注意するのにタックルする必要あるのかよ?!」
舞園「それで、一体何が危ないんですか?」
モノクマ「その花だよ」
桑田「あー、このデカい花? これがなんだっつーんだ?」
モノクマ「その花はモノクマフラワー。元超高校級の植物学者が遺伝子操作で
作り出した花でね、何でも食べちゃうとても危険な花なんだよ!」
舞園「食べるって……食虫植物みたいにですか?」
モノクマ「そうそう。ほら!」
モノクマが持っていた空き瓶をモノクマフラワーに投げ付けると、
モノクマフラワーは器用に蔓で掴んで飲み込んでしまった。
136: 2016/10/17(月) 00:02:30.37 ID:d467i3gM0
桑田「怖っ! なんだよこれ?! 危なすぎるだろ!」
モノクマ「そうだよ。だから親切に忠告しに来てあげたってワケ」ドヤァ!
桑田「そんなものがあるのにおめー俺を突き飛ばしたのか……」
モノクマ「いやー、人生には適度な刺激があった方が楽しめるかなって。
ボクってほら、とっても気が利いて優しいクマだからさ」
桑田「いらねーよ! 頃す気か?! あとなんでもいいけど、
モノクマフラワーって絶対それ正式名称じゃないだろ」
モノクマ「Yes! ボクが名付けました! だってさ、巨大蝿取り草や
バクバク花じゃなーんかセンスないじゃない?」
桑田「巨大ハエ取り草でいいだろ、フツーに」
舞園「バクバク花ってなんだか良くないですか? 韻を踏んでて語呂もいいですし」
モノクマ「! 絶望した! キミ達の絶望的なセンスのなさに絶望したッ!!
とにかく他の生徒を見かけたら注意しといてよ。じゃーね!」
慌ただしくモノクマは去って言った。
桑田「おちつかねーヤツ」
舞園「初めて来た場所だから、色々説明することが多いのかもしれませんね」
137: 2016/10/17(月) 00:19:19.54 ID:d467i3gM0
○3班(霧切・不二咲)
不二咲「わ! 見て! ニワトリさんがいるよぉ!」
霧切「そうね」
霧切と不二咲も桑田達と同じく植物庭園に来ていた。廊下を右に曲がっても教室が一つと
小さな生物室があるのみなので、広さ的にこちらの方が時間がかかるだろうと霧切が踏んだのだ。
広い植物園の中には二つ小屋があり、そのうちの一つが飼育小屋で中には五羽の鶏がいた。
久しぶりに生物を見れて嬉しかったのか、不二咲は熱心に鶏を見つめている。
不二咲「霧切さんは動物って好き?」
霧切「嫌いではないわ」
不二咲「僕、動物大好きなんだぁ」
霧切「そう」
霧切は少しだけ微笑んだが、すぐにいつもの冷静な顔に戻る。
霧切「……でも、非常時にはこの子達を食べることもあるかもしれないわ」
不二咲「えっ?!」
霧切「私達の命は所詮モノクマの手の上だもの。彼が食料の供給をやめたら
私達は生きていけない。あなたもわかっているわね?」
不二咲「う、うん……」
138: 2016/10/17(月) 00:30:41.31 ID:d467i3gM0
霧切「幸い、この施設は食用になる植物が数多く植えられているわ。みんなで
ニワトリを繁殖させて野菜を育てていけば、ある程度は生活出来そうね」
不二咲「そうだね……」
霧切(ここは学校だから、いざという時のための食料確保の施設ということかしら。
希望ヶ峰学園程の学校ならそれは特段おかしくはない。……でも何か引っ掛かる)
不二咲「霧切さんは頼りになるなぁ」
霧切「……どうして?」
不二咲「僕、ニワトリを食べなきゃいけないなんて考えもしなかったし、
臆病だからきっと一人だったら出来ないと思う……」
霧切「優しいのは悪いことではないわ。それで大事な決断も下せないのは問題だけど」
霧切「――でも、みんなに秘密を打ち明けた今のあなたならそれは大丈夫なんじゃないかしら?」
不二咲「うん、ありがとう! 僕も頑張るよ」
霧切は毒気の抜かれた顔をして……次に何かに気付き素早く振り返った。
霧切「誰?」
不二咲「ふぇっ?!」
葉隠「あ……」
不二咲「葉隠君」
葉隠「…………」
不二咲「待って!」
しかし、葉隠はすぐに走り去って行った。
139: 2016/10/17(月) 00:40:18.32 ID:d467i3gM0
霧切「五階が解放されたことに気が付いて、様子を見に来たのね」
不二咲「葉隠君、何とかならないかなぁ」
霧切「難しいわね。こちらが譲歩しても、彼自身に問題があるうちは」
不二咲「うぅ」
落ち込む不二咲を横目で見つつも、霧切はもう一つの小屋に向かった。
霧切「この小屋の中を確認するわよ」
不二咲「中は……物置みたいだね。芝刈り、スコップ、肥料……」
その時、霧切の目はある物を捉えた、
霧切「…………」スッ
不二咲「それは、ツルハシ? ツルハシがどうかしたの?」
霧切「見て頂戴」
不二咲「何か文字が刻まれてるね。くれ、い、じ……あ、暮威慈畏大亜紋土!
確か大和田君のチームの名前だよね!」
霧切「ええ、そうね……」
不二咲「でも、何でツルハシに大和田君のチームの名前が? 大和田君が持ってきたのかな?」
霧切「彼は探索チームに入っていないわ。まだ五階には来てないはず」
140: 2016/10/17(月) 00:54:22.01 ID:d467i3gM0
不二咲「じゃあ、学園に来た時にモノクマに没収されたのかも。持っていってあげよう」
霧切「……そうね。それがいいわ」
その時、桑田と舞園も物置小屋にやって来た。
桑田「オーッス。なんか目ぼしいモンはあったかー?」
舞園「不二咲君、ツルハシなんて持ってどうかしたんですか?」
不二咲「これ、ここに置いてあったんだけど大和田君の持ち物みたいなんだ。
だから保健室まで持って行ってあげようと思って」
舞園「暮威慈畏大亜紋土……確かに大和田君の学ランに書いてある文字ですね」
桑田「大和田ぁー? まったくアイツ、先に五階行ったんなら言えっつーの」
不二咲「多分、違うと思うけど……」
彼等が廊下に出ると、丁度苗木達のグループと合流した。
苗木「あとは、この奥にある二つの部屋だけだね。ここは5-Cか」
舞園「MAPのマークによるとこの部屋は教室に見えますが……変ですね。
今までは各階に二つしか教室はなかったのに」
大神「何かあるということか?」
朝日奈「脱出の手掛かりかもしれないよ!」
霧切「逆に、良くないものの可能性もあるわね」
桑田「ま、開けてみりゃわかるだろ」
桑田が手をかけ、思い切り5-Cの扉を開く。彼等の目に映った光景とは……
160: 2016/10/23(日) 22:36:38.14 ID:Yucb85OF0
― 5-C教室 AM9:18 ―
それは荒れ果てた元教室の姿だった。
一同「?!」
腐川「ち、血ィィー?!」
まずその惨状を見て腐川が倒れ、慌てて舞園と朝日奈が廊下に寝かせる。
他の生徒達は唖然としながらも恐る恐る中に足を踏み入れた。
苗木「な、何だよこれ……」
荒れ果てた、としか表現出来ない。机や椅子はメチャクチャに倒れ、
壁や天井には鋭いもので斬りつけられたような痕が無数に付いている。
――何より、壁床天井と問わず大量の血が付着し、未だ強烈に残る鉄と脂の臭いが鼻腔を刺激した。
不二咲「うっ……」
数人が苦しそうな顔をして鼻を押さえた。幸い、手術の経験が活きたのか
胃の中の物を戻す生徒はいない。五階にはトイレがないので全員こらえてくれて
助かったと、霧切は冷静に考えながら現場検分を始める。
朝日奈「気持ち悪い……」
大神「大丈夫か? 無理をしない方が良いぞ」
不二咲「怖い……どうして学校にこんなものが……」
舞園「ここで一体何があったんでしょう……?」
霧切「少なくともここ最近のものではないわね。血の乾き具合からして数ヶ月は経っているはず」
桑田「わかんのか?」
161: 2016/10/23(日) 22:52:15.75 ID:Yucb85OF0
霧切「正確には無理だけれど。血に関してはドクターの方が詳しいでしょうね」
苗木「じゃあ、後で先生に来て貰わないと」
霧切「ただ、一つだけわかることがあるわ」
大神「なんだ?」
霧切「この血の飛び方……誰かが一方的に誰かを頃したような付き方じゃない。
恐らく複数の人間が同時に争いあっていたはず」
朝日奈「コロシアイしてたってこと?」
霧切「そこまではまだ断定出来ないわ」
舞園「一体何故……」
彼等は無言で床の白線を見つめる。チョークで引かれたそれは、複数の人型を表していた。
ここが悲惨な殺人現場だとそれらは暗に主張している。
十神「面白いものを見つけたようだな」
苗木「あ、十神君」
振り返ると、扉の部分に背を預けるようにして腕を組んだ十神が立っていた。
十神「何か手掛かりになりそうなものは見つかったか?」
舞園「残念ですが、今のところは……」
十神「フン、そんなことだろうと思った」
朝日奈「なにさ、エラそーに!」
桑田「おめー、この中で一番なにもやってねーぞ」
二人を無視して十神はつかつかと教室の中に入る。
162: 2016/10/23(日) 23:03:22.21 ID:Yucb85OF0
十神「フン、酷い臭いだ。人間の血と脂――氏と絶望の臭い……」
苗木「絶望……」
十神「学校というよりもはや戦場だな。お前がやったのか、モノクマ?」
モノクマ「はいはい。ぜーんぶボクのせいボクのせい、と」
いつの間にか入り口から中を窺っていたモノクマがふざけながら入ってくる。
桑田「なんだァ、その態度?」
モノクマ「だってオマエラ、問題が起こると何でもかんでもボクのせいにするじゃないですか!」
苗木「お前がしてないなら……なんでこんな事になってるんだよ!」
モノクマ「いーや? ボクは何もしてないよ? むしろ逆、逆! ボクが放置したから、この部屋は
こうなんだよ。ボクはただ、当時の状況のまま掃除もせず残しておいただけ!」
不二咲「え……?」
モノクマ「血が何だっていうの? 毎日世界では誰かが氏んでる。オマエラが食べてる肉だって、
誰かが頃して血を抜いてくれただけでしょ? 前向きに生きようよ。希望を持ってさ!」
そう笑いながらモノクマは去って行った。
十神「ククク、本当に面白いな。この教室で一体何が起きたと思う? まったく興味深いよ」
朝日奈「あ、あんた……この状況を楽しんでるの? どうかしてるよ……」
大神「相手にするな。奴には付いて行けぬ」
十神「…………」
苗木(僕も同感だ。十神君には付いていけそうにない)
163: 2016/10/23(日) 23:15:28.81 ID:Yucb85OF0
周りの視線など少しも気にせず、十神は自分なりに教室を調査し始める。
その様子を他の生徒達は呆れながら見ていた。
桑田「霧切の調査が終わったらさっさと出ようぜ」
霧切「まだ少しかかるわ。先に行ってていいわよ」
不二咲「待つよぉ。腐川さんも倒れてるし」
舞園「私も何か変わったものがないか探してみます」
霧切「……なるべく急いでみるわ」
・
・
・
ようやく調査が終わり、一行は最後の部屋である生物室に向かった。
ちなみに腐川は廊下に置いたままだ。目を覚ませばジェノサイダーになることが
予想できたため、調査が終わってから起こそうと全員一致で決まった。
扉を開けると、強烈な冷気が襲いかかる。
桑田「うおっ、寒っ!」
不二咲「寒い……」
朝日奈「あれ、江ノ島ちゃん?」
生物室の中では半袖でミニスカートの江ノ島が両腕を抱くように凍えていた。
164: 2016/10/23(日) 23:31:32.84 ID:Yucb85OF0
不二咲「あれ、江ノ島さん? さっきは教室にいたよね?」
舞園「こんなところで何をしてるんですか?」
江ノ島「べ、別に。なんだっていいでしょ!」ガタガタガタ
江ノ島(本当は盾子ちゃんに生物室に入ってろって言われたからなんだけど……
ここでなにすればいいんだろう? あと、いつまでいればいいのかな?)ガタガタガタ
残念な姉は、それが単なる妹の暇つぶしと嫌がらせでしかないことを知らない。
苗木「寒いなら、早く外に出た方が……」
江ノ島「ア、アタシだってあんたらみたいに調査の一つや二つしてんのよ!
それが終わるまでここを出るワケには……」ガタガタガタ
苗木「じゃあ、僕の上着で良かったら貸すよ」
苗木がさっと自身のジャケットを脱いで震えている江ノ島に渡す。
江ノ島「エッ?! でも……」
苗木「そんな薄着じゃ寒いでしょ? 女の子は体冷やしちゃいけないって言うし、
調査が終わるまで着ててよ。僕は平気だからさ」
朝日奈「おー、苗木優しい!」
大神「優しいな」フフ
江ノ島「あ、ありがと……」
余程寒かったのか、江ノ島は借りた上着をすぐさま羽織る。
江ノ島(苗木君……優しいなぁ。それに、上着が苗木君の体温であったかい……)
165: 2016/10/23(日) 23:45:23.11 ID:Yucb85OF0
霧切「…………」
桑田(苗木のヤツほんとーにお人好しだよな。アイツ内通者だってのに)
舞園「それにしても、これは何でしょう? ロッカーでしょうか?」
生物室とは言うが、部屋には生物室らしい物などほとんど置いて無かった。
簡素で殺風景な部屋の壁には、大型の金属製ロッカーのような物が設置されている。
不二咲「開けてみても平気かな?」
江ノ島「いいんじゃない? 何も入ってなかったし」
試しにいくつか引き出しを引き出すが、確かに全て空っぽであった。
苗木「うわ、冷気が」
桑田「ただの冷蔵庫じゃねーか、これ?」
大神「どうやらそのようだな。変わった形だが、業務用なのかもしれん」
朝日奈「アイスでも入っていれば良かったのに」
舞園「残念でしたね」
霧切「……見て。あそこにランプがあるわね。使用中だと光るんだわ」
苗木「何で冷蔵庫にそんな機能があるんだろう」
不二咲「不思議だねぇ」
江ノ島(……だって、ただの冷蔵庫じゃないし)
166: 2016/10/23(日) 23:58:59.03 ID:Yucb85OF0
苗木「もう大体見て回ったかな。一度保健室に戻ろうか。江ノ島さんも行く?」
江ノ島「あ、えっと……まだ調べたいから」
苗木「じゃあ上着は貸しておくよ。後で返してくれたらいいから。またね」
江ノ島「あ、うん」
江ノ島は何とも言えない表情で苗木を見送った。
◇ ◇ ◇
保健室に戻った生徒達は倒れていた腐川を回収し、五階の状況をKAZUYA達に伝えた。
K「そうか。報告助かる」
石丸「血まみれの教室とは一体……」
大和田「俺達の前に、誰かコロシアイでもさせられてたのか?」
苗木「そんな、まさか……」
ジェノ「チミドロフィーバー! なんつって。ゲラゲラゲラ!」
腐川は気絶したせいでジェノサイダー翔になっている。久しぶりに外に出れて上機嫌のようだ。
霧切「あの血痕は少なくとも数ヶ月経っているわ。学園側が何も把握していないとは思えないけど」
舞園「そういえば、希望ヶ峰学園は閉校が決まってたんですよね?
もしかして、あれが原因なんじゃ……」
桑田「もしかしなくても普通に考えればそうだよなー。一人二人じゃねーんだろ?」
K(数ヶ月前なら、俺がこの学園に来た時には既にあったことになるな。恐らく、
それこそ学園長の言っていた希望ヶ峰が総力を挙げて隠蔽した事件の一つなのだろう)
167: 2016/10/24(月) 00:11:56.31 ID:onA3YOh/0
KAZUYAは取り戻した記憶のカケラの一つ、仁との会話を思い出していた。
『部外者のあなたには話していませんでしたが、この希望ヶ峰には
我々教師達が総力を挙げ隠蔽したある【二つの事件】があります』
『ええ、凄惨な事件でした。大きな声では言えませんが、既に何人も氏んでいます』
仁が何度も自分の元を訪れ、しつこいくらい熱心に頼み込んできた姿が脳裏に浮かんだ。
K(……今ならわかる)
K(学園長のあの熱意は、当時から違和感があった。何故そこまで俺にこだわるのかと。だが学園内で
尋常ならざる事件が起きていて、そしてそれを外部に公表することが出来なかったのなら……)
K(繋がる。生徒達のボディーガード兼いざという時の治療役として俺がどうしても欲しかったのだ)
朝日奈「先生? どうかしたの?」
K「いや、俺も後で見に行かなくてはと思ってな。それにしても……」
一度にたくさんの情報を得て、KAZUYAの頭脳は止まらなかった。
断片的に散った情報を、パズルのピースのように整理し並べていく。
K「…………」
桑田「悩んでるなー」
大神「当然だ。あんなものが校舎の中にあったのだからな。
学園と何か関係があったと見るのが妥当だろう」
不二咲「えっと、先生が来たのはつい最近だから先生は何も知らないんですよね?」
K「ああ。俺は何も知らされていない」
大和田「ところでさっきから気になってたけどよ、不二咲が持ってるそのツルハシはなんだ?」
168: 2016/10/24(月) 00:25:21.41 ID:onA3YOh/0
不二咲「あ、そうそう。これ、大和田君のじゃないかな」
大和田「ハァ? 俺?」
朝日奈「柄の部分に大和田のチームの名前が書いてあるんだって」
K「!」
大和田「……見せろ」
受け取ったツルハシを大和田はまじまじと見つめる。
大和田「確かに暮威慈畏大亜紋土って刻まれてるが……俺はこんなもん知らねえぞ?」
石丸「兄弟のものではないのか?」
桑田「じゃあ誰のだっつーんだよ」
大和田「知るか。誰だ、勝手にヒトのチーム名乗ってる不届きモンは!」
大神「何者かが勝手に大和田のチーム名を使ったということか。だが一体何のために……」
霧切「全く見覚えもないの? よく見て頂戴」
大和田「あ? ……あー、なんだ。言われてみりゃ見覚えなくもないような……」
K(……見覚えはあるはずだ。恐らく、大和田が希望ヶ峰学園時代に使っていたものだろう)
K(記憶が戻ってくれないものか……)
大和田が記憶を取り戻せば、自分とジェノサイダーで三人の証言が取れる。上手く行けば十神達も
説得出来るし、自分がまだ思い出せていない情報を手に入れられる可能性もあるが……
ジェノ「単にカチコミかけた時の道具をモノクマが持ってきただけじゃね? モンちゃんのチームって
千人くらいいるっしょ? なら一人くらいツルハシマニアがいたっておかしくないじゃーん!
地面だけじゃなく男のアソコも掘ってたり?! ウホッ! 萌えるわ~ん」
大和田「そうかもしれねえな。仲間の持ち物かもしれねえし、とりあえず俺が預かっとく」
K(ヌゥ。そう上手くは行かんか……)
結局記憶は戻らないまま、話も流れてしまった。
222: 2016/11/06(日) 20:04:07.09 ID:6QP6cpw10
◇ ◇ ◇
保健室を生徒達に任せ、短時間だがKAZUYA自身も五階の調査に向かった。
モノクママスクをした看護婦はいつの間にかいなくなっていたため、山田に関して
少々の不安は残るものの黒幕に関する手掛かりを見落とす方が問題であった。
KAZUYAは五階に来ると、まず階段付近の二つの教室を覗いた。聞いていた通り特に変わった所はない。
相変わらず自己主張の強い黒板の落書きが気になる程度だ。ちなみに、何故か黒板にはいつも妙な
落書きがあるが、これらは探索の時既にあるものなのでモノクマが描いたものだと思われる。
……が、時々退屈凌ぎに朝日奈も書き足して遊んでいるようだ。
(ここには何もないようだな)
これらの部屋は軽く目を通しただけですぐ後にした。生徒達が先に調べてくれているし、
元よりKAZUYAは探偵ではないのだ。詳細な調査は霧切に任せれば良い。
次に三つに別れている廊下に出たが、KAZUYAは奥の生物室から時計回りに部屋を見ることにした。
植物庭園が最も広く時間が取られるということと、噂の5-C教室を早く見ておこうと思ったのだ。
……しかし、実はKAZUYAが最も気になっていたのは生物室なのである。
(医者の勘……とでもいうか。何となく気になる)
その部屋は、生物室だというのに生き物の標本等は何もないと言う。
少し冷たい扉を開くと、KAZUYAは冷え冷えとした部屋の中に滑り込んだ。
「フム」
(やはり……)
慣れ親しんだホルマリンの臭いはしない。代わりにあるのは氏の気配だ。
壁際には鉄製の大型ロッカーのようなものがあった。生徒達は奇妙な冷蔵庫と
表現していたが、KAZUYAはそれが【遺体保存用のロッカー】であると看破していた。
223: 2016/11/06(日) 20:21:57.29 ID:6QP6cpw10
「…………」
使用中だとランプが点灯するようだ。現在、ランプは点いていない。
念のため、KAZUYAはロッカーを順に開いてみた。人一人がすっぽり入れる空間だ。
(人数分あるな……)
裁判場と同じくロッカーの数は16。
しかし、KAZUYAは数に入っていないから本来この学園にいた人数のはず。
(きっと、コロシアイで氏人が出た場合はここに氏体を保存する予定だったのだろう)
何のために?
(特に意味はないのかもしれん。だが……)
(――氏体を捨てたくない?)
警察に見つかりたくないからという考えではないだろう。
何せ都心の建物を丸々占領しているのだ。氏体の処理くらい容易いはず。
(非人道的な学術的利用法か……或いは単なるセンチメンタルか?)
KAZUYAは犯人が希望ヶ峰学園関係者だと目星をつけている。
なら、生徒達と顔見知りの可能性もあるのだ。
(……まあ、こんなことを仕出かす黒幕に丁重な葬儀なんて期待出来んがな。
どうせ絶望のため、などというつまらん理由だろう。鮫かライオンの餌が関の山だ)
我ながらすっかり考え方がドライになったと思いながら、KAZUYAは生物室を後にした。
224: 2016/11/06(日) 20:33:44.26 ID:6QP6cpw10
「ここか……」
そして、最も問題と思われる5-C教室の前に立つ。
何故五階だけ教室が三つあるのか気になったが、
この校舎の構造がおかしいのは今に始まったことではない。
(そもそも階ごとに階段の位置が違うのがおかしい。こんな奇妙な建物は見たことがない)
元超高校級の建築家がデザインしたこの旧校舎は、
デザインは見事だが使う人間の利便性などまるで考えられていない。
(芸術家が利便性を考えずにデザインを重視するのはありがちだが、
それにしても流石に度が過ぎているような。何か学園側に理由でも……?)
(……いや、今はいいか。とりあえず対応しなければいけないのはここだ)
ガラッ。
KAZUYAは戸を開いた。真っ先に変色した赤が視界に飛び込んでくる。
「…………」
聞いていた通りの惨状に無意識に眉をひそめるが、
血の臭いには慣れているため特に苦もなく検分を開始する。
(……血の量が多い。ここで氏んだ人間は一人や二人ではないのだろう)
KAZUYAは天井にこびりついた血を眺めながら推理する。あの量の血が
天井の高さまで吹き出るには刃物で頸動脈を切り付けられたとしか考えられない。
225: 2016/11/06(日) 20:48:01.79 ID:6QP6cpw10
また、教室の様々な場所に上から踏まれたり擦られた血痕が点在しているため、
拘束した人間を順に処刑していったとは考えにくい。霧切の言っていた通り、
コロシアイをしていたか逃げ惑い抵抗する人間を誰かが殺害していったのだ。
(色と乾き具合からして大体五、六ヶ月経過といった所か……ん?)
(確か四月に新校舎に移ったと聞いたな。もしこの校舎が無人になった後に
この事件が起こったのなら、そこから今がいつか大まかに推測出来る)
KAZUYAが希望ヶ峰学園にやって来たのは五月のゴールデンウィーク明けだ。そして、学園長の様子から
その前には既にこの事件は発生している。となると恐らく春休みの三月末から四月の間だろう。
(それから五、六ヶ月経過しているということは……監禁開始は八月から十月辺りということになる)
(まさか、そんな……)
KAZUYAは動揺を隠し切れなかった。
夏休みになるまでという約束でこの学園に来たが、どうも自分はその後も何らかの事情で
学園に残っていたらしい。KAZUYAが思い出した記憶は五、六月辺りのものが多いので、
下手をすると四ヶ月近くの記憶を失っているのだ。
(そんなにたくさん失っていたのか……)
その失われている記憶の中に黒幕を倒す鍵が含まれていたかもしれない。
そう思うと、KAZUYAは悔しくて堪らなかった。
(……あまり時間もない。生徒達の様子も見なければならないしな。とりあえず他の場所も見よう)
項垂れながらKAZUYAは教室を出て、そのまま武道場に向かった。
226: 2016/11/06(日) 21:03:03.77 ID:6QP6cpw10
― 自由行動 ―
「ム、大神か?」
「西城殿」
大神は武道場の中心で正座をして瞑想していた。
服もいつもの制服ではなく道着を着ている。
「さっきは言い忘れたが、ありがとう。助かったよ」
「いえ。慣れているので……」
セレスを助けた時に愛用のマントの裾が破れ、それを大神が縫ってくれたのだ。
ついでに洗濯もしてくれた。道場で育ったからか、手慣れている。
「やはり、こういう場所にいると懐かしいか?」
「多少」
大神はあまり口数が多くない。特に相手がKAZUYAだと、
遠慮なのか警戒なのか言葉を選んでいる節がある。
(だが俺は踏み込まなければならん。朝日奈の時の過ちを繰り返す訳にはいかない)
自分が長期間放っておいたせいで傷付いた朝日奈。
彼女のためにも、大神とは仲を深めたい。
――それにあの時、KAZUYAは朝日奈と約束したのだ。
(俺は信じるぞ、大神)
227: 2016/11/06(日) 21:16:18.71 ID:6QP6cpw10
「久しぶりに組み手をしてくれないか?」
「組み手か。……了解した」
KAZUYAは教わった大神流武術の構えを取る。大神もそれにならい、構えた。そして踏み込む。
激しい攻防だ。KAZUYAは筋が良いのか、大神と拳を交わす度に如実に成長していった。
成長するKAZUYAに合わせて、大神も少しずつ手加減の幅を狭めていく。
「フフ、大分強くなられたな」
「そうか? 自分ではよくわからんが」
「少しばかり、我も本気を出すとしよう。フンッ!」
「! ヌオオオ!」
ズガガガガガガガッ!
威力と速さが格段に増した拳撃をKAZUYAは必氏に防ぎ、弾き、受け流す。
「なかなかよく耐える。では、これはどうか!」
「クッ!」
高度なフェイントとステップワークを活かして繰り出される必殺の一撃。
とうとう大神の拳がKAZUYAの鳩尾を深く抉った。
ドスゥッ!!
「グフォッ! ゲホゲホッ、ゴホッ……!」
「す、すまぬ! ついやり過ぎてしまった!」
膝をつき、腹を手で抑えながら咳き込むKAZUYAを見て大神は慌てる。
久しぶりにまともな打ち合いが出来たので、無意識に力が入ってしまったらしい。
228: 2016/11/06(日) 21:27:40.45 ID:6QP6cpw10
(いくら筋が良いと言っても、この男はまだまだ初心者なのだ。……ケンイチロウとは違う)
大神はふと外の世界に思いを馳せた。病に倒れた彼女のライバルにして想い人のケンイチロウ。
彼はまだ生きているのだろうか。人質となった道場の門下生や家族は今、どこにどうして……
「!」
大神の思考を遮るように彼女の顔を影が覆った。
目の前では、バッと立ち上がったKAZUYAが再び構えを取っている。
「心配かけてすまない。もう大丈夫だ。続けてくれ」
「本当に大丈夫なのですか? 西城殿に何かあっては……」
「気にするな。この程度、俺にとっては日常茶飯事だ」
「では、もう一度参る」
だが、数合打ち合ってKAZUYAは止まった。大神が気を遣って手加減していることを見抜いたからだ。
「本気で来てくれ。手を抜かれては修行にならん」
「しかし……」
「少しくらい怪我をしても俺は平気だ。頼む。これが出来るのは君だけなんだ」
「本当に構わぬのか?」
「ああ。みんなを護るためにも、俺は強くならなければならん」
「――そのためなら、俺はどんなことだってするさ」
この男の瞳に迷いはない。
229: 2016/11/06(日) 21:55:01.01 ID:6QP6cpw10
大神は、崩れ落ちる城に一瞬の躊躇もなく飛び込んだKAZUYAの背中を思い出す。
「…………」
「……?」
一瞬、大神が悲しそうな顔をした。以前はあんなに手合わせをしたがっていたのに
これはどういうことだろうか。訝しむ間もなく大神は構え直す。
「わかりました。これからは本気で行く」
「来い!」
・
・
・
激しい戦いを終え、お互いに礼をすると二人は別れた。KAZUYAは久しぶりに気持ちの良い汗を流し、
心地好い疲労感に満足していたが、KAZUYAと別れた大神の表情は晴れなかった。
(西城殿は生徒を守るためならば何でもすると言った。その言葉に嘘はない。
……さほど付き合いが長い訳でもない人間達のために、あの男は既に氏ぬ覚悟をしている)
(それに対して我は……)
◇ ◇ ◇
KAZUYAは次に隣の植物庭園に向かった。
思っていたより規模が大きかったため、わざわざモノクマが世話をしていたのか?と
驚いたが、どうやら毎朝自動でスプリンクラーが起動しているらしい。
230: 2016/11/06(日) 22:08:55.69 ID:6QP6cpw10
(南国風の花が目立つが、やはり食用になる植物が多い)
(現役生に超高校級の植物学者がいたな。確か、色葉田田田(しきばさんた)だったか?
変わった名前だから覚えている。彼の管轄だったのだろうか)
KAZUYAは記憶の中のデータベースを参照しながら、注意深く植物園を見回る。
(物置は特に異常なし。例のツルハシくらいだな。ただ、何かの時に
使えそうな道具が多いから、何が置いてあるか覚えておいても損はない)
物置から出ると、先程からずっと目についていた巨大な植物に歩み寄る。
「これが噂のモノクマフラワーとやらか……」
桑田と舞園がそれぞれ巨大ハエトリ草やらバクバク花やら適当に呼んで、
わざわざモノクマが訂正に来たが、要はかつて色葉が作った植物とのことだ。
そして、恐ろしいことに何でも飲み込んで消化してしまうらしい……
(もしこの中に氏体を入れたら……と、何を考えているんだ俺は)
以前KAZUYA自身が言ったことだが、この学園で最も完全犯罪に近いのは間違いなくKAZUYAである。
「……ハァ。あとはあの飼育小屋だけだな」
飼育小屋に近付くと、何かが反応した。鶏にしては大きい。
「!」
「あっ!」
231: 2016/11/06(日) 22:32:13.40 ID:6QP6cpw10
目が合った。飼育小屋の中に葉隠がいた。
一瞬動揺して腰を浮かしかけた葉隠だが、思い直し壁に向かって座り直す。
(……無視か)
KAZUYAも葉隠に背を向けるように腰掛け、小屋の柱に背中を預けた。
「…………」
「…………」
そのまま険しい顔で青い天井を眺めていたが、気分が落ち着いてくると口火を切った。
「お前は」
「…………」
「お前は一体どんな家で育ったんだ?」
「……それがなんだってんだ」
「前に親のことを出したら、お前は反応したな」
「……!」
「お前にとって家族とはどういう存在だ」
「……何だっていいだろ。あんたには関係ねえべ」
232: 2016/11/06(日) 22:43:54.36 ID:6QP6cpw10
「大有りだ。お前が問題を起こしたら俺がお前の親に報告に行くことになる」
(もう問題を起こしてるも同然だが)
心の中では厳しく付け足す。
「それは……!」
「なんだ」
「それは、その……困るって……」
KAZUYAはピンと来た。
「さてはお前、借金の話を親にしていないな?」
「出来るわけねえ! 俺がヤクザに追われてるなんて知ったら、
母ちゃんが肩代わりするって言い出すに決まってる!」
(フム……意外だが母親との関係は悪くないのか)
「してもらえばいい。親を頼るのは情けないが、他人にたかるよりはずっとマシだ」
「人事だと思って気楽に言ってんじゃねえぞ! 母ちゃんはなぁ、ずっと苦労しっぱなしなんだ。
親父がいい加減だったから女手一つで育ててくれて、看護婦だから忙しいってのに……」
「看護婦? お前の母親は看護婦なのか?」
「そうだべ! 先生だってよく知ってんだろ」
「まあな……」
このいい加減な男の母親が看護婦というのが意外すぎてKAZUYAの中で上手く結びつかない。
233: 2016/11/06(日) 23:02:17.04 ID:6QP6cpw10
「とにかく! 借金のことを母ちゃんにバラしたらいくらあんただって許さないからな!」
「だったら真面目に働いてさっさと返せ」
「うっ、それはまあ、ボチボチ……だ、大体なぁ、俺ほど真面目なヤツはいねえぞ!
真面目だから世界の謎にここまで深く迫ってこれたんだべ! いずれは集めたオーパーツで
アメリカ政府が宇宙人の存在を隠蔽してるって証明してやるからな!」
(何故古代文明由来のオーパーツで宇宙人の証明をするのだ……いや、それはいい。
絶対繋がりがないとは言えないし、宇宙人の存在は俺だって否定出来ん)
(問題は、世界とかアメリカ政府とかやたら話の規模が大きいことだな)
KAZUYAは葉隠の誇大妄想じみた陰謀論に内心頭を抱えた。ある意味、こんなことにここまで
真剣になれるということは、ここにいる生徒達の中で最も真面目で純粋と言えるのかもしれない。
しかし、その真面目のベクトルが一般人とかけ離れ過ぎているのが問題だった。
(疑い深い割りに、そういうことは信じやすいんだな。そういえば、
ただのガラス球を騙されて二億で買ったとかなんとか……)
(もしや金にがめついのは本気で世界を救おうとか考えているせいなのか……?)
(よくよく考えると、何だかんだ自分から悪意を持って行動したことはないな。
苗木に対してのあの発言も、その後普通に接していることから悪いことだという
認識自体なかったようだし……俺からしたら全くもって信じがたいが)
いや、まさかそんな、と思うが何分葉隠である。こちらの予想を常に意外過ぎる形で裏切ってきた。
山田が『ヒーローになりたいと憧れる男』だとしたら、
葉隠は『既に(自分の中では)ヒーローとなっている男』なのである。
(一体どうしたものか……)
悪意がないというのは時に悪意がある以上の問題を引き起こすことがある。
……考えれば考えるほど、KAZUYAの頭は痛くなってきたのだった。
273: 2016/11/21(月) 00:26:25.92 ID:MwivLJAh0
◇ ◇ ◇
「先生」
「苗木か」
飼育小屋を離れるとすぐに苗木が現れた。
「葉隠君、どうでした?」
「何とも言えん。変わった奴だからな。ただ、母親をとても大事にしているようだから
その辺りから上手く攻められないかと思っているが」
「僕も話した方がいいかな?」
「しばらくはやめておけ。この間のことを逆恨みしている可能性もある。
……まあ、いい加減な男だからな。時間が経てば平気だろうが」
ここでKAZUYAは、苗木が何故植物園にいたか理解した。
「もしかして、葉隠の様子を見に来たのか?」
「はい。ああは言ったけど僕のせいで孤立してるようなものだしやっぱり放っておけないというか」
「あんな暴言を吐かれたのに大した奴だ」
「ハハ。人が良すぎるってみんなにも言われちゃいました」
そう言って笑う苗木は本当に人が良いのだと感じたが、KAZUYAはあえて切り込む。
274: 2016/11/21(月) 00:40:46.21 ID:MwivLJAh0
「自業自得だとは思わないんだな?」
「確かに自業自得な部分もありますけど、というかほとんど自業自得だけど……
でも、葉隠君も色々あってああいう考え方になったのかもしれないし」
「今は無理でも、諦めなければいつかお互いに理解して歩み寄れる。そう思っています」
(一番嫌な思いをした苗木がこう言っているのだ。俺が諦めてどうする)
苗木の言葉に励まされ、KAZUYAも頷いた。
「ウム。俺も同感だ。世の中にはどうしても相容れない人間というのもいるが、
葉隠の場合まだそこまで長く付き合っていないからな。様子を見よう」
「はい! あ、一階に戻るならお茶を入れましょうか。久しぶりに僕の部屋でゆっくり話しませんか?」
「苗木の茶は上手いからな。あがらせてもらおう」
そのまま苗木の部屋に行き、しばらく二人で取り留めのない世間話を交わした。
無意味かもしれないが、こうした穏やかで平穏な時間は日々の疲れを忘れさせてくれるのだ。
・
・
・
苗木と笑顔で別れ部屋を出ると、間髪入れず横から声をかけられた。
「仲が良いのね」
「霧切か」
275: 2016/11/21(月) 00:50:47.04 ID:MwivLJAh0
まるで待っていたかのように霧切がそこに立っている。
彼女に関しては偶然居合わせただけなのか狙ってやって来たのかいまいちわからない。
「調子はどうだ?」
「まあまあと言った所だわ」
このやり取りは暗号のようなもので、実際は調査の進捗を聞いている。
霧切がまあまあと言うことは、何かしら情報を手に入れているのだろう。
(五階は今までで一番情報量が多かったからな。何か気付いたか)
「そうか。まあ、あまり根は詰めないようにな。俺で良ければいつでも話を聞くぞ」
「あら? 私もカウンセリングが必要かしら?」
「そう言ったつもりでは……」
「クス。冗談よ。そうね。久しぶりに少し話そうかしら」
◇ ◇ ◇
「茶でも飲みながら話そう、だったな?」
「ええ」
「何故ここに?」
二人は植物庭園に来ていた。
276: 2016/11/21(月) 01:05:23.01 ID:MwivLJAh0
(確かに公園のようで本来なら落ち着く場所ではあるが……)
KAZUYAに限っては、葉隠とバッタリ会いそうで落ち着かなかった。幸い今はどこかに
行っているようで助かったが。自動販売機で買った缶を持ち、二人で並んでベンチに腰掛ける。
「だって、保健室には他に人がいるから二人で話せないでしょう?」
「それもそうだが……なら、適当に空いている教室でも良かったんじゃないか?」
流石に女生徒に対し、君の部屋でいいじゃないかとは言えない。
「人に聞かれているのって落ち着かないもの。たとえ他愛のない会話であっても」
「……そうだな」
けして忘れることのない監視カメラの存在。
刑務所のように風呂やトイレまで監視されてないだけマシだが、
それでもやはり良い気はしない。特に男の自分は下着を見られようが寝ている所を
見られようがさして気にはならないが、女生徒達はさぞかし嫌だろう。
(ここにも監視カメラはあるが、広い場所だからよほど大きな声で話さない限り
ほとんど聞こえないだろう。霧切はあまり声を張らないしな)
(さて、改めて……何を話すか?)
いつものように捜査や真面目な話でも良かったが、たまには純粋な雑談も良いかもしれない。
277: 2016/11/21(月) 01:23:45.99 ID:MwivLJAh0
「参考に聞かせて欲しいんだが、君はみんなのことをどう思っているんだ?」
「どう、とはどういう意味ですか?」
「何でもいいさ。頼りになるとかならないとか、話しやすいとか苦手だとか。
俺は君達の教師役だからな。そういうことも把握しておく必要がある」
「…………」
霧切は顎に手を当てて考え込む。
「まあ、言いたくないなら無理にとは言わんが……」
「そうね。……今なら、みんな良い人達だと素直に思えるわ。最初の頃と違って」
KAZUYAの目を真っ直ぐ見返しながら霧切は呟いた。KAZUYAもそのまま静かに彼女を見守る。
「…………」
「私もだけど、みんな少しずつ変わったんじゃないかしら」
ドクターや苗木君はあまり変わらないけど、そう付け加えて微笑んだ。
「そうだな。君は変わった。始めの頃はもっと周りを警戒していたな。
常にどこか緊張しているように見えた。今は前より心を開いてくれて、俺も嬉しいよ」
「欲を言うなら、もっと大人を頼って欲しいものだ。俺はそんなに頼りないか?」
278: 2016/11/21(月) 01:32:07.58 ID:MwivLJAh0
「あら? こう見えてドクターのことは頼りにしているつもりだけど。その言葉はそのまま
返させて貰うわ。あなたももっと私達を頼って欲しい。私達はそんなに頼りにならないかしら?」
これは手痛い返しを受けてしまったなとKAZUYAは苦笑した。どうやら彼女の方が一枚上手だったようだ。
「あ、はは。そうだな。そう言えば変わったと言えば誰が一番変わったと思う?」
これ以上の墓穴は勘弁したいと強引に話を逸らしたが、
霧切はフッと笑っただけで意地悪く追及したりなどはしなかった。
「そうね。丸くなった石丸君と大和田君、前より自分に自信を持った不二咲君あたりが
ハッキリ変わったと言えそうだけど……一番はやっぱり桑田君ね」
「アイツはな……」
「正直に言えば、始めは苦手というか嫌いだったのだけれど」
「……多分女生徒のほとんどはそうだろう」
KAZUYAは比較的早い段階から打ち解けていたが、親しくない人間からすると
あの男の不真面目ぶりはさぞかし目についたことだろう。
「今は最初の印象とは真逆ね。ああ見えて意外とよく周りを見ているから純粋に頼もしいと思うわ」
「意外と高評価なんだな」
「最初とのギャップかしら。舞園さんとも和解したことだし、彼等が脇を
しっかり支えているからこそドクターも自由に動けるでしょう?」
「そうだな。舞園も立ち直ってくれて良かった。苗木と桑田には本当に感謝している」
279: 2016/11/21(月) 01:40:22.30 ID:MwivLJAh0
「その二人にも勿論感謝しているでしょうけど、きっと一番感謝されているのは
ドクターだと思うわ。あなたがいなかったら彼女はもうここにはいなかったのだから」
「俺は医者だ。当然のことをしたまでだよ」
「フフ、謙虚ですね」
「そう言えば、ここはたくさん花があるな。君は花は好きかい?」
「ええ。人並みには」
霧切は立ち上がって、咲いている花を指で指す。
「あれはスターチス。花言葉は『変わらぬ心』、『途絶えぬ記憶』。ゼラニウムは『予期せぬ出会い』。
ベゴニアは『愛の告白』、『親切』、それに『幸福な日々』だったかしらね」
「凄いな。詳しいのか?」
「詳しいというほどでもないけれど……」
霧切は花を指先で弄っている。その姿は頼りになる名探偵と言うよりも、年頃の少女だった。
そんな霧切に目を奪われていると、ふとKAZUYAはあるものに気が付く。
「ム、これなら俺も知っているぞ」
「何かしら?」
280: 2016/11/21(月) 01:51:09.80 ID:MwivLJAh0
KAZUYAはかがんでそれを摘み、霧切に手渡した。
「たまたま見つけたんだ。四葉のクローバー。花言葉は『幸運』だろう?」
「!」
「君にあげよう」
「いいのかしら? 折角見つけたのに……」
「俺が持ってても仕方ないからな。俺はもうみんなから十分幸運を貰っている」
「そこまで言うのなら……」
「もっとも、俺より苗木の方がもっとたくさん運も分けて貰えるかもしれないが」
「いいえ。その、嬉しいわ。――とても」
「喜んでもらえて何よりだ」
霧切の喜んだ顔を見て、KAZUYAも微笑む。
こんな時間がいつまでも続けば良いのにと、思わずにはいられなかった。
281: 2016/11/21(月) 01:55:34.04 ID:MwivLJAh0
ここまで。クローバーには私のものになってという花言葉もある
もっと親密度高かったらプロポーズでしたな!
モノクマ「あー、ヤダヤダ。クローバーには『復讐』っていう花言葉もあるのにさ。
いい感じのムード作っちゃって。甘ったるくて胸焼けしそうだよ、まったく。
ていうかイチャイチャすんじゃないよ、ボクの前で! キィィ!」
モノクマ「以上。モノクマでした」
291: 2016/12/05(月) 00:34:35.44 ID:v0PDYuhu0
― 保健室 PM9:42 ―
夜も更けてきた。
と言っても、特に疲れてはいないし外も見えないから、時刻の上での夜だが。
KAZUYAの体内時計は比較的正確な方ではあるが、それでもこのまま時計がなくなって
時間の感覚が完全になくなったらと考えるとゾッとする。
舞園「先生」
舞園がチラリと目線を動かす。
K「ああ、わかった」
朝日奈「すぐに終わらせるから待っててね」
K「ウム」
それだけでKAZUYAは理解し、保健室を出て行った。
怪我で動けないセレスの体を拭いてやり、服も清潔なものに変えるのだ。
普段はこの時間を使って男子達と風呂に行っているが、今日は大神と組み手をした後に
一人で入ってしまったため、KAZUYAは校内の見回りに行くことにした。
KAZUYAが去ったため、昏睡状態の山田を除いたらこの場にいるのは女子だけである。
突然誰か入って来ても問題ないように入り口に大神が控え、舞園と朝日奈で面倒を見る。
舞園「体調は如何ですか?」
セレス「…………」
292: 2016/12/05(月) 00:45:31.93 ID:v0PDYuhu0
舞園「服を脱がせますね」
セレス「…………」
舞園が無言のセレスを起こし、横で朝日奈が介助する。
朝日奈「…………」
朝日奈(なんか、気まずい……やっぱり、あんな酷いことをしたのにすぐには許せないよね。
先生達は本気にしてなかったけど、結局あの動機もどこまでウソなのかはわからないし……)
朝日奈(流石にあれだけで動いた訳じゃないっていうのは私にもわかるけどさ。それに、
セレスちゃんを許せないなら舞園ちゃん達も許せないってことになるし……ううー)
一度KAZUYAを手伝うと決めた以上、舞園達の過去の所業についてはそれなりに
折り合いをつけているが、それでもなかったことに出来るほど朝日奈はまだ強くない。
朝日奈(裁判終わった直後なのに、まっすぐセレスちゃんを助けた先生って
やっぱり大人だよね。私も、いつかはあんな風になれるのかな……?)
舞園「…………」
朝日奈が複雑な思いを抱いているのに気が付いたのか、着替えを終えると舞園は朝日奈に向き直った。
舞園「朝日奈さん」
朝日奈「なに? どうしたの?」
293: 2016/12/05(月) 00:47:53.67 ID:v0PDYuhu0
舞園「少し、セレスさんと二人で話してもいいですか?」
朝日奈「わかった。私達は外で待ってるね。行こう、さくらちゃん」
大神「ウム」
それだけで察したのか、朝日奈は大神を連れ外に出た。
「…………」
「…………」
セレスは白い顔を舞園に向ける。普段の化粧ではなく、血の気がない本当に青白い顔だ。
「セレスさん、あの」
「慰めならやめて下さいね」
「…………」
セレスはピシャリと切り捨てた。舞園が思っていた以上に、その声には覇気がある。
「わかっています。あなたが言いたいことも、わたくしが取るべき道も」
「……後悔しているんですね」
思わず舞園は呟いた。その言葉に、少しだけ弱気な表情をして彼女は舞園を見上げる。
294: 2016/12/05(月) 00:57:47.36 ID:v0PDYuhu0
「いけませんか?」
「私、セレスさんは後悔しない人だと思っていました」
普段のセレスの強気な表情を思い浮かべながら、続ける。
「自分に自信があって、マイペースで、勝手で、他人の視線なんて全然気にならないような人だって」
「喧嘩を売りたいのですか? 生憎買ってあげられるほど元気ではないのですが」
「褒めているんですよ。強い人だって。私みたいな弱い人間とは大違いです。
私は……いつも人の目が気になって仕方ありませんでしたから」
「買い被りですわ。わたくしとて一人の人間。弱い部分もあります」
「そうですね」
否定はしなかった。KAZUYAに助けられた後の弱々しい姿を見ればそれが真実であるとわかる。
「…………」
「…………」
しばらく、二人は無言で壁を見ていた。静寂の中、セレスは囁くように呟いた。
「舞園さん……一人でずっと辛い思いをしていたのですね」
「…………。わかりますか」
295: 2016/12/05(月) 01:10:07.07 ID:v0PDYuhu0
「同じ立場ですからね。針のムシロになるよりも周りに気を遣われる方が
ずっと苦しいということをわたくしは初めて知りました」
「……馬鹿なことをしでかしたものです」
「…………」
珍しく殊勝な態度で反省の意を示すセレスに、舞園も素直に同情の念を抱いた。
「……本当は、仕方ないって言っちゃいけないんですけどね。
加害者に言い訳する権利なんてありませんから」
「でも、私の前では言ってもいいですよ。辛かったんですよね?」
「…………」
「外が気になるし、夢もあるし、家族に会いたいし、何よりここは怖いですし……」
「よして下さい。今更言ってもそれこそ仕方のないことですわ。
――気付くのが遅かった。それが全てです」
「何にですか?」
「大切な物はどこに落ちているかわからないということですよ。灯台下暗しとよく言いますが、
人生や価値観そのものを変える程大きいものは、意外と目に入っても気が付かないのでしょうね」
ふっとセレスは机の方を見る。当たり前だが、今そこには誰もいない。
「もっと早く、西城先生のような方に出会えれば。それも違った形で……そうだったら……」
(違った結末になっていたかもしれなかったのに……)
296: 2016/12/05(月) 01:19:15.07 ID:v0PDYuhu0
セレスは目を伏せる。その顔は寂しげだった。
「セレスさん、もしかして……」
「その先は言わないで下さいな。今となってはもう無意味なことですわ」
「…………」
「そうです。罪は償わないといけませんね。それが敗者のペナルティというもの。
わたくしは生粋のギャンブラーです。ご心配なく。負けた分はしっかりお支払いいたしますわ」
「セレスさんは、大丈夫ですね」
「ええ、大丈夫です」
セレスはそう言って“笑った”。
それが作られた笑顔であることは明らかだったが、不思議とそこに悲壮感はなかった。
(やっぱりセレスさんは強いですよ……)
後先考えず衝動のままに動いた舞園と違い、彼女は十分にリスクを考慮し覚悟して臨んだのだ。
負けを知らない彼女にとって初めての敗北となったが、それは意味のある敗北であった。
「もうお話は終わりでしょう? いつまでも朝日奈さん達を締め出しておく訳には行きませんわ」
「あ、そうですね」
扉を開けると、既に見回りを終えたKAZUYAも戻ってきていた。
心配そうな顔で舞園を見下ろす。
297: 2016/12/05(月) 01:29:10.28 ID:v0PDYuhu0
「二人きりで話していたそうだが……」
「大丈夫ですよ、先生」
「……それはどういう意味でだ?」
「セレスさんは間違いに気付いたんです。だから、もう大丈夫です」
「! そうか。君がそう言うなら本当に大丈夫なんだろう」
舞園は人間観察力に優れている。それに、同じ犯人側の人間としてセレスとは
どこか通じ合うものがあるはずだ。その舞園がここまではっきり言うということは、
今のKAZUYAにとって最も信じられる言葉なのである。
保健室に入り、KAZUYAも再びセレスと対面した。
「調子はどうだ?」
「…………」
(……ただの、吊橋効果だと思えばいいのです。ポーカーフェイスは慣れてますもの)
セレスはいつもの作り笑顔を浮かべ大袈裟なほど優雅に答えてみせる。
「お陰様で、特には」
「そうか」
それだけの短い会話を交わし、KAZUYAは椅子に座る。
セレスはいつまでもその広い背中を見つめていた。
……けして口に出せない想いを秘めて。
307: 2016/12/19(月) 01:08:20.14 ID:iDlZpw930
― コロシアイ学園生活第四十二日目 5-C教室 PM2:17 ―
色々とやるべきことは山積みのはずなのだが、KAZUYAは今日もこの教室に来てしまった。
血と脂の酸化した臭いで本来落ち着いて考えるには不向きだが、この強烈な刺激が
逆に何かを思い出させてくれそうでもあるのだ。何よりこの男は血の臭いに慣れきっていた。
(セキュリティの面から考えても部外者が大勢希望ヶ峰にやって来て
いきなりコロシアイを始めたというのは有り得ない)
KAZUYAが希望ヶ峰学園に来た時、ただの高校にしては随分物々しい警備をしているなと思ったものだ。
警備部には元超高校級のボクサーを始めとしたプロの格闘家も配置しているとのことだった。
(……何よりこの件については既に解決しているも同然だ。
犯人は希望ヶ峰の関係者であり事件は学園によって隠蔽された――)
学園長自身がKAZUYAにそう語ったのだから間違いないだろう。
それにしても、この規模の事件を隠蔽するなど尋常ではない。
よほどの不都合な事実が学園側にあったはずだ。
(まさか、黒幕は学園そのもの……?)
希望ヶ峰は過去に生徒を使って人体実験を行っている。だったら、その延長線上にあっても……
(……いや、どう考えても大量殺人を行うメリットがない。かつての無敵兵士のように、
学園が秘密裏に人間兵器でも作っていてその実践というならわかるが、紛争国ならいざ知らず
この日本でそんなものを作る必要性がない)
(それに学園が主犯なら学園長も関係していることになる。確かにあの男の生徒を思う気持ちは
歪んではいたが本物だった。何よりこんなことを仕出かせば娘に迷惑がかかる。有り得ない)
308: 2016/12/19(月) 01:26:08.70 ID:iDlZpw930
(あまり決め付け過ぎてもいかんな。多角的に考えねば――)
「…………」
手術の際、患部を別の角度から観察するようにKAZUYAは反対側から考え始める。
(……逆から考えよう。学園が“事件を隠蔽する必要がある”状況とは?)
(確かにスキャンダルな事件だ。これが公になれば一大ニュースになることは間違いない。
希望ヶ峰のブランドイメージには大打撃であり、学園関係者として出来れば隠したいのはわかる)
(だが、仮に犯人が元学園長や評議会メンバーであったとしても、その人物がたまたま
頭のおかしい人間だったと言い逃れすれば済むことだ。むしろ下手に隠蔽工作など行って
後から発覚した方がどう考えても学園にとっては致命的なはず……)
(つまり、多大なリスクを支払っても学園は事件を隠蔽しなければならなかった。その理由は……)
瞬間、閃く。
(――主犯ではないが事件に“何らかの形で学園が関わっていた”のではないか?
コロシアイ自体は元々の目的ではなく何らかの事故だった。それなら隠蔽も不自然ではない)
KAZUYAの背筋に悪寒が走った。
学園は一体どのように関わっていたのだろう。
もし、KAZUYAの推理通りなら希望ヶ峰はここで何をしていたのだ?
309: 2016/12/19(月) 01:34:32.94 ID:iDlZpw930
(今から思えば教師達の間に奇妙な空気が漂っていたが、
恐らく教師達は知っていたのだろうな。全員グルだったのだ)
(一体何なのだこの学園は……。黒幕もこの件に何か関係が?)
堂々巡りの思考の中、KAZUYAの懸念はもう一つあった。
(この事実を生徒達に教えるか否か……)
既にKAZUYAの中で希望ヶ峰に対する怒りと不信感は根深い。
だが、生徒達にとって希望ヶ峰学園は未だ憧れの対象なのだ。
証拠もないのに自分の勝手な憶測を述べて、夢を壊していいものだろうか。
それに、結局主犯は誰なのか。
何故こんなことが起こったのか。
真相は何一つわかっていない。
(生徒達には悪いが、やはり黙っていた方がいいな。この状況で不安の種を蒔くのは
得策ではないし、何より今回の事件を学園と結び付けて考えるようになったら不味い)
(この件の黒幕は組織だったものではないはずなのだ。……何かしらの因果関係はあるかもしれないが)
希望ヶ峰学園。
希望の丘の向こう側には、何があるのだろう。
どこまでも光り輝く希望が続いていれば良いが、実際は色濃く深い絶望が隠されているのでは?
(生徒達のためにも、俺の思い過ごしであることを祈る)
もはや確信に近いものを感じながらも、生徒達のためにKAZUYAは目を逸らした。
310: 2016/12/19(月) 01:40:29.20 ID:iDlZpw930
一通り考えがまとまったので、次にもう一つの事件について考えてみる
(……確か【希望ヶ峰学園評議会メンバー連続殺人事件】だったな。
この事件は時系列的には後のもので、学園内の警備レベルを最大まで上げていたという)
(連続殺人ということは、一度に全員殺されたという訳ではなさそうだ。
こちらはこの事件と違って犯人は不明のままらしい)
(…………。もしや、連続殺人の犯人とこの事件の黒幕は同一人物か?)
希望ヶ峰学園が非人道的な実験を行い、現実に氏人すら出している。
その後、評議会のメンバーが次々に殺害され、生徒達は監禁されているのだ。
深読みしなくても学園に対しての怨恨を疑ってしまうのは当然と言えよう。
(例えば黒幕が何らかの学園の被害者で恨みがあり、その復讐のために
生徒達の記憶を消し因縁の学園でコロシアイをさせているなら辻褄は合う)
(むしろそれ以外にあるのか? もしそうだったとしたら……)
「やめてよね!」
「!」
KAZUYAが振り返るとそこにはモノクマがいた。
「……何だ?」
「いや、なんとなく変なこと考えてそうな表情だったから」
311: 2016/12/19(月) 01:48:30.90 ID:iDlZpw930
「丁度いい。お前に聞きたいことがあった。本当にこれはお前がやったことではないのか?」
「ボクじゃないよ! 相変わらずうたぐり深いねぇ」
「貴様は前科があり過ぎるからな」
KAZUYAは睨みつけるが、モノクマは肩を竦めてヘラヘラと笑う。
「さて、ではもう一つ質問だ。この学園は陰で色々と公に出来ないことをしていたようだが
お前もそれに関わっていたのか? それともそれが原因で学園に恨みを抱き、
このようなことを引き起こしたのか?」
「……あー、そんなこと考えてたの? やっぱりロクなこと考えてなかったよ。
ヤダねぇ~ヤダヤダ。さっきも言ったけどやめてよね、そういうの!」
「そういうの、とは?」
「そうやって何でもかんでも因縁つける所だよ! 先生はさ、こう考えてない?
ボクの中の人がこの学園のとても口には出せない非人道的で残酷で倫理なんてカケラもない
えっぐーい実験の可哀相な被害者で、学園に復讐するためにコロシアイを始めたんだ!とか」
「あ、動揺のあまり中の人とか言っちゃった。恥ずかしっ恥ずかしっ! 中には誰もいませんよ!」
「何が言いたい?」
KAZUYAは苛立ちを隠さず床をつま先でトントンと叩く。
「この学園が芯から腐ってる真っ黒組織なのとボクの思想行動は全く因果関係がありません!
ボクがボクなのはボクだからです! 生まれた時から既にボクという存在は完成してたんだよ!」
「フム」
312: 2016/12/19(月) 01:54:52.10 ID:iDlZpw930
(黒幕はただの希望ヶ峰生徒であってそれ以上ではない? 元々サイコパス的性質の持ち主だった?)
「イヤだよねぇ。最近はゲームでも漫画でもすーぐ悪役に悲しい過去とかつけちゃってさ。
過去がないと行動出来ない人間って浅くない? ボクはそんなファッション悪役って嫌いだなぁ」
「悪人が悪事を働くのに理由なんていらないじゃん。ただ悪役だからでいいんだよ!
先生だって過去がないと良いこと出来ないヒーローなんて本物のヒーローじゃないと思わない?」
「くだらんな。過去があろうとなかろうと今行っている行為がその人間の全てだ」
「つれないなぁ。って、そうだった。そういえば先生も両親の自己犠牲っていう
悲し~い過去がある典型的なありがちヒーローだったね?」
「…………」
(俺はヒーローではない――)
KAZUYAはつい反論しかけたがグッと堪えた。
今は少しでも情報が必要なのだ。モノクマの発言を妨げてはいけない。
「ボクはね、生粋の悪役になりたいの。ボクイズ悪、悪イズボクみたいな。
悪の概念そのものであり、人類史上最大最悪の災厄であり、これ以上ないって程の
絶望的なラスボス的存在。……あ、もうなってるか。うぷぷ!」
「人類史上最大最悪……」
(何度も耳にしたフレーズだ。男子トイレの隠し部屋、アルターエゴ。やはりこれこそが鍵か?)
――人類史上最大最悪の絶望的事件。
希望ヶ峰学園廃校の原因であり、シェルター計画発動のキッカケとなった事件だ。
313: 2016/12/19(月) 01:59:14.16 ID:iDlZpw930
(まさか、これが……? いや、流石にこれを世界レベルというのは無理がある)
「お前の口ぶりでは既に成し遂げたかのようじゃないか? 俺達に一体何を隠している?」
「うっぷっぷー。知ってるくせに~?」
「わからん。何でもいいからヒントをよこせ」
「もうしょうがないなぁ。先生ったら聞き上手なんだから。なら特別出血大サービス!
この部屋の惨状は確かにボクがやったことではありませんが、ボクも勿論関わってます!」
「……何だ、そんなことか」
あからさまにKAZUYAは落胆する。
「そんなことって……」
「どうせ貴様が悪巧みをして頃し合いが起こるように仕向けたんだろう?
そんなことだろうと思っていた」
「もう、先生ったら早漏なんだから、空気読まないんだから! 問題はこの先!」
「先?」
「ここでコロシアイをしてたのは誰でしょうか? そしてその結果、学園に何が起こったのでしょう?」
「……何が起こったんだ?」
「ここから先は有料だよ。完結編は映画館で!」
314: 2016/12/19(月) 02:04:55.82 ID:iDlZpw930
「焦らしたいだけなら俺は帰るぞ」
もう得られる情報はないと判断し、KAZUYAは踵を返して部屋から出ようとした。
すると、去りゆくKAZUYAの背中に向かってモノクマが白々しい声を上げる。
「おっとボクとしたことが。お喋りに夢中になってつい本題を忘れる所だったよ」
「本題だと?」
「先生ったら、ボクが用もなくお喋りに来たと思ってる?」
「!」
そうだ。忘れていた。
モノクマはただふざけているだけの時もあるが、そういう時は早々に帰っている。
モノクマが長々と勿体振って話す場合。――それは不吉なことが起こる前触れなのだ。
「おめでとう。いや、先生的には良くないニュースかな?」
「何の話だ?」
その言葉を発した頃にはKAZUYAの耳にも届いていた。
廊下からけたたましい足音が近付いてきていることも、彼を呼ぶ生徒達の声も。
315: 2016/12/19(月) 02:06:45.95 ID:iDlZpw930
「山田君が目を醒ましたよ」
316: 2016/12/19(月) 02:08:20.38 ID:iDlZpw930
ここまで。
1は先週吐き気と腹痛で氏にそうでした。寒さのせいかな?
皆さんも体調には気を付けてお過ごしください。
317: 2016/12/19(月) 11:57:25.66 ID:q5bLDsWtO
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります