228: 2012/12/03(月) 09:12:26.23 ID:xKQv9y9m0
さて、今からは男と騎士の話を載せようと思います。
ただ、時間の関係上途中までしか載せられそうにないので、帰ってきたら続き以降を載せます。

前回:エルフ「……そ~っ」 男「こらっ!」【2】

229: 2012/12/03(月) 09:13:00.10 ID:xKQv9y9m0
男「ようやく着いた……か」

目の前に広がる多大な建築物。それらは、古き良き建物を残しつつ、いたるところに辺境の地にはない最新の技術が使われていることが一目見て分かる。
今現在住んでいる地域を離れ、都市部を目指すこと数日。道中であった商人の荷馬車に乗せてもらい、ようやく男はこの場所に辿りついた。
かつて何度も滞在し、軍を抜けて以来訪れることなかった懐かしい街を見て男はある種の郷愁を覚えた。

男「帰って……来たんだな」

都市部への入口である門の前に立ち止まる。そこにひと月ほど前に見た顔を見つけたからだ。

男「あ、女魔法使い」

男が彼女の姿を視界に捉えるのと同時に、彼女もまた彼の姿を見つけて駆け出す。

タッタッタッ
葬送のフリーレン(12) (少年サンデーコミックス)
222: 2012/12/03(月) 00:05:04.41 ID:xKQv9y9m0
>>219
それについては後の話で書かれていますので、しばらくお待ちください。ただ、そこでの出来事で女魔法使いに対する意見が分かれるかもしれないですね。

>>220
すいません、文字化けして読めないです。

>>221
エルフもまだ幼いですから、甘えたいさかりなんですよw

227: 2012/12/03(月) 08:46:17.12 ID:xKQv9y9m0
>>223
なるほどです。
エルフはいいですよねー。もうなんていうか癒しですね。

>>224
まあ、一番最後がわかっているとそう見えますけど、そこに至るまでもいろいろありますので、二人がどんな困難を乗り越えたりするのか見ていてください。

>>225
いえ、一応出番としてはまだありますよ。といっても回想だったりですが。予定では回想じゃない出番もあるんですけどね。

>>226
……。

230: 2012/12/03(月) 09:13:30.55 ID:xKQv9y9m0
女魔法使い「久しぶりです、先生」

男「といっても、ひと月も経ってないけれどな」

女魔法使い「ひと月も会わなければ十分久しぶりです。でも、ちゃんと来てくれて嬉しいです」

喜びを隠しきれずににっこりと笑みを浮かべる女魔法使い。そんな彼女の様子を見て男もまた微笑み返す。

男「約束したからね。これを破ったら女魔法使いがまたこっちに来そうだと思ったから……」

女魔法使い「そうですね。もし来てくれなかったらまた私がそちらに行っていました」

男「やっぱり」アハハ

231: 2012/12/03(月) 09:14:00.69 ID:xKQv9y9m0
和やかに談笑する二人。だが、それも束の間。女魔法使いの表情が徐々に陰っていく。

男「どうかした?」

女魔法使い「いえ、これは先生がこちらに来るって手紙を送られてから言うべきか迷っていたのですが、実はあの手紙を女騎士さんが偶然読んでしまいまして……。既に男さんがここに来ることを知っているんですよ」

男「そ、それは……マズイかもね」

女魔法使い「今朝も途中まで私にずっと張り付いていて……。男さんと私がいつ会うか見張っていました」

男「あはははは……。やっぱり相当怒ってる?」

女魔法使い「それは、もう。ここ最近滅多に見ないくらい眉間にシワを寄せていました。しかも、やたらイラついてましたね……」

232: 2012/12/03(月) 09:14:28.90 ID:xKQv9y9m0
男「一発殴られるくらいは当然覚悟してたけど、このままじゃ殺されそうな勢いだな……」

女魔法使い「確かに、そうなってもおかしくないような様子でしたね」

男「……うん。その話は聞かなかったことにしよう」

女魔法使い「先生、現実逃避は駄目ですよ」フフッ

男「ひとまず、街の中に入ろうか。朝から食事も取ってないからお腹も空いたしね」

女魔法使い「もう夕方ですしね。ちょうどいいです、オススメのお店があるので紹介します」

男「ああ、よろしく頼むよ」

233: 2012/12/03(月) 09:14:55.71 ID:xKQv9y9m0
女魔法使い「あ、そうだ。先生」

男「ん?」

女魔法使い「おかえりなさい」ニコッ

男「……ただいま、女魔法使い」

234: 2012/12/03(月) 09:15:59.17 ID:xKQv9y9m0
――静かな店――

男「へえ、こんなお店ができたんだな」

女魔法使い「ええ。男さんが居なくなってからできたんです。静かなところで、夜になると楽器を使った演奏があったりして落ち着けるんです。私みたいに人ごみが苦手な人にはオススメの店です」

男「うん。確かにいい雰囲気の店だ。連れてきてくれてありがとうな、女魔法使い」

女魔法使い「どういたしまして。こんなことでお礼を言って頂ければいくらでも力になります」

男「それはどうも。ただ、僕たち二人とも出不精だから、そんなにお店を知らないと思うけどな……」

女魔法使い「それを自分で言いますか? まあ……確かにそうですけれど」

男「やっぱり」アハハッ

女魔法使い「もう! 笑わないでくださいよ///」カァァァ

235: 2012/12/03(月) 09:16:33.22 ID:xKQv9y9m0
男「それじゃあ、料理でも頼も……」

ドカッ! ドン、ドタドタッ

男「……え?」

女魔法使い「……え?」

男「……これ、店の扉?」チラッ

女魔法使い「あわ……あわわわ……」ガクガクブルブル

男(女魔法使いのこの反応。僕の後ろを見て怯えてる……。嫌だな、これだけでこんなことをする相手が誰なのかが分かるのも……。後ろ、振り返りたくないな……)

236: 2012/12/03(月) 09:17:21.29 ID:xKQv9y9m0
コツ、コツコツコツ

?「久しぶりだね、男」

男「ひ、ひさしぶり……」

?「どうした? いつも人の目を見て話をしていたあんたらしくないじゃない。背を向けたまま話すなんて相手に失礼だと思わないの?」

男「い、いや……。失礼だと思うよ? でも、振り向くのを身体が拒絶しているというか……」

?「そうか。ならば私がこっちを向くようにしてやろう」グイッ

男「ぐえっ」

女魔法使い「あわわわわ……」ビクビク

237: 2012/12/03(月) 09:18:00.94 ID:xKQv9y9m0
?「久しぶりの旧友との再会に言葉も出ないか? うん、うん。なにしろ突然居なくなったきり、何年も顔を合わせていなかったんだ。成長した私の顔を見て見惚れたりしているんだろ?」ゴゴゴゴゴ

男「あ、はははは。そ、そうだね。うん、また一段と美人になった」

?「そう、褒めるな。なんだ、顔が引きつっているぞ、緊張しているのか?」

男「ある意味そうと言えるね。身の危険を感じてだけど……」タラリ

?「そうか、そうか。お前にもまだ自分の身の危険を察知する程度の力は残ってたか。うん、よかった。
 それで? どうしてそんなことを感じるのか、頭のいいお前ならもう分かっているんだろうな?」

男「うん、それはまあ当然分かってる……よ?」

238: 2012/12/03(月) 09:18:29.36 ID:xKQv9y9m0
?「分かっていればいい。私がお前に言うことはただ一つだ。……歯を食いしばれ!」ググッ

男「はい」

ドカッ! ゴロゴロゴロ

男(覚悟してたけど、やっぱり痛いなぁ。ああ、駄目だ……。今のでもう、意識が……)

男(相変わらず……女騎士の一撃は強烈……だ)ガクッ

239: 2012/12/03(月) 09:18:55.25 ID:xKQv9y9m0
……



男「……う、ううん」パチッ

男「ここは……?」キョロキョロ

女騎士「目が覚めたか?」

男「あ、女騎士」

240: 2012/12/03(月) 09:19:39.48 ID:xKQv9y9m0
女騎士「その、なんだ。再会していきなり殴って悪かったよ。私、ちょっとどうかしてた」

男「いや、そうされても文句は言えないよ。一緒に戦ってきた戦友に何も言わず勝手に姿を消したんだから」

女騎士「それに関してはもういい。私も一発殴って今までずっと胸の中でモヤモヤしてたものがなくなったから」

男「じゃあ、この話はこれでお終いってことで。改めて、久しぶり女騎士」

女騎士「あ、うん。久しぶり。その、なんか改まって再会の言葉を交わすとなんか照れくさいな……」テレッ

男「そうかな? まあ、僕は女騎士以外のみんなと会ってるからそう感じないだけかも」シレッ

241: 2012/12/03(月) 09:20:06.67 ID:xKQv9y9m0
女騎士「そっか……。まあ、なんだ。元気そうでちょっと安心した。騎士に聞いていたとはいえ、こうして実際に姿を見るまではちょっと心配してたから……」

男「ありがとう。確かに一人になってからも色々あったけど、今はこうして元気にしてるよ」

女騎士「……」

男「……」

シーン

242: 2012/12/03(月) 09:20:53.56 ID:xKQv9y9m0
男(うっ……なんだか急に話題がなくなったぞ。これは、僕の方から話を振るべきなのか? でも、何から聞けばいいのか……)

女騎士「あのさ……」ボソッ

女魔法使い「あっ! 先生、目が覚めたんですね! はぁ、よかった。あのまま氏んじゃうんじゃないかって思うと心配でした」

男「やあ、女魔法使い。まあ、どうにか生きてるよ」

女騎士「失礼だな。これでも一応手加減して殴ったんだ。だいたいあの程度で氏ぬほど人はヤワじゃない」

女魔法使い「女騎士さんみたいな肉体派の人間と一緒にしないでください! 私や先生は頭脳労働専門なんです」

女騎士「だから、私も騎士もいざという時のために身体を鍛えておいて損はないって言ってるじゃない」

女魔法使い「いいんです! 身体を鍛える代わりに魔法の錬度を上げてますから」


243: 2012/12/03(月) 09:21:23.88 ID:xKQv9y9m0
男「まあ、まあ。二人ともそのくらいにして。それよりもここは一体どこなんだ? 宿の一室には見えないけれど」

女魔法使い「ここは私の家の一室です。こんなことになると思っていなかったので片付けが中途半端なままで散らかっていますが……」

男「そうなのか。でも、ここまでどうやって僕を?」

女騎士「ん? 私がお前を運んだんだが、何か問題があったか?」

男「いや、別に……。ちょっと男としてのプライドが傷ついたけど」ショボーン

244: 2012/12/03(月) 09:21:58.82 ID:xKQv9y9m0
男「それよりも、二人とも今日は仕事とかないの?」

女騎士「だいたいのことは片付けた。それに、お前が来るって知ってからしばらく休みが取れるように調整しておいたからな。よっぽどのことがなければ仕事はない」

女魔法使い「私も、今は魔法の研究が仕事のようなものなので、休みを取ろうと思えばいつでもとれますからね……」

男「そっか、騎士は?」

女騎士「あいつは、軍の騎士隊の隊長だからな……。早々休みは取れないだろ」

男「その割に結構僕のところに来てたけど……」

女騎士「まあ、あれは仕事の一環のようなものだからな。普段休めない分、そういったところで羽を伸ばしたりしてるんじゃないか?」

男「そっか……」

245: 2012/12/03(月) 09:22:29.29 ID:xKQv9y9m0
女魔法使い「よかったら、今からみんなで騎士さんのところに行きませんか?」

男「いいな、それ。女騎士はどう?」

女騎士「私も賛成だ。よし、それじゃあすぐに行こう。あいつは男が来るの知らないだろうし、きっとビックリするぞ」ニヤニヤ

女魔法使い「ふふっ。そうですね、騎士さんの驚いた表情なんてここ最近あまり見てませんし、ちょっと楽しみです」ニヤニヤ

男「二人とも趣味が悪いな……。まあ、いいや。とにかく騎士のところに行こうか」

女騎士「ああ」

女魔法使い「はいっ!」

246: 2012/12/03(月) 09:22:56.90 ID:xKQv9y9m0
――騎士の部屋――

トントン

騎士「ん? 誰だ」

女騎士「私だ。今時間空いてるか?」

騎士「ああ、大丈夫だ。勝手に入ってきていいぞ」

女騎士「それじゃあ……」ガチャリ

女魔法使い「失礼しま~す」テクテク

247: 2012/12/03(月) 09:23:35.61 ID:xKQv9y9m0
騎士「なんだ、女魔法使いもいたのか。二人してどうしたんだ?」

女騎士「ふふふ」チラッ

女魔法使い「ふふっ」チラッ

騎士「なんだ、二人して見つめ合って」

女騎士「これを見て驚くんじゃないぞ……」

騎士「だからいったい……」

男「……やあ、騎士」

248: 2012/12/03(月) 09:24:06.73 ID:xKQv9y9m0
騎士「あ……! 男! お前いつこっちに来たんだ!」

男「つい数時間前。女魔法使いと約束しててさ」

騎士「そうなのか?」

女魔法使い「ええ、もっとも一ヶ月前の件と手紙を見られて女騎士さんには知られてしまってましたけれど」

騎士「なるほどな。それで、何発ぶち込まれた?」ニヤッ

男「生憎一発だけだよ。何発も食らってたら確実に氏んでた」フフフ

女騎士「お、お前たち……」ワナワナ

249: 2012/12/03(月) 09:24:50.86 ID:xKQv9y9m0
騎士「ははっ。まあ、それだけで済んでよかったな。女騎士も女魔法使いと同じくらい男と会いたがってたし」

女騎士「わ、私は別に……。ただ、勝手にいなくなったのが許せなくて怒りをぶつけたかっただけだ」プイッ

騎士「相変わらず素直じゃない奴だな。まあ、なんにしても久しぶりに四人揃ったな」

男「そうだね。でも、みんな昔と全然変わってないや」

騎士「そりゃ、たかだが数年会ってないだけだからな。まあ、まだ成長期だった女魔法使いが数年経っても変わっていないのはちょっとどうかと思うが……」ハハハ

女魔法使い「余計なお世話です。騎士さんはいつも余計な一言が多いんですよ」

250: 2012/12/03(月) 09:25:26.06 ID:xKQv9y9m0
男「確かに。せっかくモテるのに、それでどれだけの女の子からのアプローチを犠牲にしてきたことやら」

騎士「うっせえ。それはお前だって一緒だろ」

男「僕? 僕みたいな奴が何でモテるんだよ。自分で言うのもアレだけど昔の僕は友人もまともにいなかったし、一人で魔法の修行ばかりしていたんだよ?」

騎士「それが一部の女からはミステリアスでいいとか言われてたんだよ」

男「意外だ……。女性の考えることはまったく分からないよ」

251: 2012/12/03(月) 09:27:10.66 ID:xKQv9y9m0
女騎士「言われてみれば、最初に会った時の男は人との関わりをずっと拒んでいたわね。そう思うと今はだいぶ丸くなった」

女魔法使い「そうなんですか? 私は先生が二人と一緒にいるときからしかしらないので、その時の話を聞いてみたいですね」

女騎士「だいたい、なんで昔の男はそんなに人との関わりを避けていたの?」

男「あの時はちょっと色々あってね。一人でいるほうが気が楽だったんだよ」

騎士「なあ、男。別にこの二人なら話してもいいんじゃないか? 今のお前なら心の整理もだいぶできてるだろ」

女騎士「その口ぶりじゃ騎士は男の昔を知ってるのね」

252: 2012/12/03(月) 09:28:03.12 ID:xKQv9y9m0
騎士「まあ、この中じゃ俺が一番男と付き合いが長いからな。こう見えて俺たち昔はすげえ仲悪かったんだぜ。ことあるごとにぶつかりあってたし」

女魔法使い「意外です。今の二人からそんなことは想像できないですね」

女騎士「たしかに、軍に入った当初は悪い意味でこの二人は有名だったしね。私も隊のメンバーで一緒になるまで二人にはあまりいい印象を持っていなかったし」

男「他人の口からそういう評価をされていたって聞くと、当時の僕と騎士って相当ひどかったんだね」

騎士「まあ、水と油みたいなもんだったしな」

女魔法使い「ぜひ、その辺の話を聞かせてください」

男「僕はいいけど。騎士は時間大丈夫?」

騎士「さっき仕事が一段落したところだから別に構わないぞ」

男「そっか。それじゃあ、少しだけ。僕が軍に入った辺りの話を……」

……



257: 2012/12/03(月) 16:50:04.43 ID:xKQv9y9m0
――育成所――

司令官「いいか、君たちは今自らの意思でこの場所に足を踏み入れている! エルフとの戦争が激化する昨今。
 君たちのような戦術も知らず、大して力のないものを戦場に送ったところですぐに戦氏するのがオチだ。せっかく人々のため自らの命を糧に戦場へと飛び込む覚悟を持って軍の門を叩いてくれた若者の命がそんなことで失われるのは私とて避けたい。
 ここはそんな君たちを戦場で簡単に氏なせない力を付けるための場所だ。大いに学び、力を付け、戦場へ飛び出せ!」

人々「オオオォォォッ!」

騎士「俺はやってやる。みんなの仇をとってやるんだ! 力を付けて、戦えない人々を救ってやる」

女騎士「この司令官はとてもいいことを言う。私もこんな人のようになれるように努力しないと」

男「力、まずは自分を守れる力を……。それすらもないのに、戦場に出るなんて……無謀だ。力が……欲しい」

258: 2012/12/03(月) 16:51:05.84 ID:xKQv9y9m0
教官「よし、今から宿舎に案内する。いいか、軍に入る人間に男も女も関係ない。もし、宿舎についてくるなんて当たり前のことすらできず、女のケツを追いかけていくような青くせえガキがいるようなら訓練の一つも受けられれないと思っておけ!」

ザワザワ

教官「私語をする余裕があるとはいい根性してるなお前たち! 戦場に出たらそんなことをしている暇はないぞ! 伝令よりも大事な話があるなら別だがな!」

シーン

教官「よ~し、それでいい。これからお前たちは俺の言うことに黙って従っていればいい。俺がお前たちを立派な軍人に育て上げてやる。付いてこい!」

ザッ、ザッ、ザッ

259: 2012/12/03(月) 16:51:33.24 ID:xKQv9y9m0
――宿舎――

教官「よし、全員付いてきたな。これから四人ずつ名前を呼んでいく。その四人はこれから同じ部屋に住むことになる。互いに協力し合って少しでもいい生活ができるようにせいぜい努力することだ!」

教官「……騎士! ……」

騎士「はい!」テクテク

教官「……。……女騎士!」

女騎士「はいっ!」テクテク

教官「……。……男? ほう、お前が……」

260: 2012/12/03(月) 16:52:20.85 ID:xKQv9y9m0
教官「男! 出てこい!」

ザワザワ ナンダ、ナンダ

男「はい」

教官「お前が噂の男か……。話は聞いてるぞ、お前はここにいる奴らと違って何度か戦場に出ているようだな」

ナンダッテ マジカヨ

男「はい、確かにそうです。しかし、自分はまだまだ未熟です。戦場で自分の身を守ることすらできない弱者です」

261: 2012/12/03(月) 16:52:48.03 ID:xKQv9y9m0
教官「そうだ! お前は軍人でもなんでもないただの一般人だ! 何度か戦場に出てるからっといって調子に乗るんじゃないぞ!」

男「はい。肝に銘じておきます」

教官「よ~し。次! ……」

騎士(あいつ、もう戦場に出たことがあるのか……。よし、時間が出来た時に詳しく話を聞いてみるか……)

女騎士(私とあまり歳が変わらないのに……。負けていられないな、他の者より努力して結果を出してみせる!)

男(……)

262: 2012/12/03(月) 16:53:15.56 ID:xKQv9y9m0
……



ザワザワ、ガヤガヤ

訓練生A「なあ、なあ。戦場に出たことあるって本当かよ? エルフのやつらヤバかったのか?」

訓練生B「ねえ、ねえ。目の前で人が氏んだりした? やっぱり戦うの怖い?」

騎士(うおっ! 案の定訓練生のほとんどがあの男って奴のところに行ってやがるな。やっぱり話を聞いてみたいのか……)

男「……」シラーッ

263: 2012/12/03(月) 16:53:43.08 ID:xKQv9y9m0
騎士「にしても、あいつ無愛想だな……。本読んでるだけで、みんなの質問に答える気が全くなさそうだ」

訓練生C「なんだね、その態度。みんなが君にわざわざ質問しているのにその態度はないんじゃないかな? それとも本当は戦場に行ったことなんてなかったってことなのかな? どうなんだ?」

男「……」パラパラ

訓練生C「くっ! あんまり調子に乗らないことだよ! 化けの皮が剥がれるのは一瞬だからね」テクテクテク

訓練生「……」テクテクテク

騎士(お~お~。一気に人がいなくなった。ちょうどいい、今のうちに話しかけに行ってみるか。もっとも俺も他のやつらと同じような結果になりそうだけど……)

264: 2012/12/03(月) 16:54:14.29 ID:xKQv9y9m0
騎士「……」テクテク

男「……」パラパラ

騎士「よお、俺騎士っていうんだ。何読んでんだ?」

男「……」パラパラ

騎士(う~ん、やっぱりおんなじ反応。だけど、ここで引いてちゃ他のやつと変わらないし、もう少し頑張ってみるとするか)

騎士「それ……魔法に関する本か? 詳しくはわかんねーけど魔法陣とか書いてあるもんな。お前もしかして魔法使えるのか?」

男「……少しだけね」ハァ

265: 2012/12/03(月) 16:54:50.84 ID:xKQv9y9m0
騎士(た、ため息吐きながら答えやがった……。いや、でも返事はしてくれたんだ。このままいくぞ!)

騎士「そっか、俺検査の時にそっちの素質はないって言われてるから羨ましいよ。まあ、でも俺もここで訓練を受けて力を付けてエルフや魔物から力のない人々を守るつもりだぜ」

男「あ、そう」

騎士「……お前さ、もう少し愛想良くしたほうがよくねえか? 仮にもこれから一緒に生活してくんだぜ?」

男「気に触ったのなら謝るよ。でも、僕は早く自分を守れるだけの力が欲しいんだ」


266: 2012/12/03(月) 16:55:25.78 ID:xKQv9y9m0
騎士「自分を守るための力? なんだそれ?」

男「言葉通り、自分の身を守るだけの力だよ」

騎士「……はぁ? お前力ない一般人を守るために力をつけるために俺たちはここにいるんだろ? 自分の身を守る力なんて二の次だろ」

男「君こそ何言ってるんだ。さっき司令官も言ってただろ、今の僕たちを戦場に送ったところですぐに氏ぬだけだって。
 それには自分の身を守れるだけの力が必要なんだよ。それすらもないうちは他の人の力になろうなんて考えないほうがいいよ」

267: 2012/12/03(月) 16:55:54.14 ID:xKQv9y9m0
騎士「おいおい。仮にそうだとしても力がないからってお前は他の人を見捨ててもいいっていうのか? それはちょっと違うんじゃねーか?
 力が無くったって俺たちが命を投げ出してでもその人たちを守ればいいだけじゃねーか。戦場に出るってことは自分の命を賭けるってことなんだから」

男「……ッ! 軽々しく、命を賭けるなんて言うな! どうせなら、自分以外の全てを見捨ててでも生き延びろよ! そんなのは目の前で人が氏ぬのを見たことのない甘ちゃんがいうことなんだよ!」

騎士「……言ってくれるじゃねえか。こっちはエルフに家族を殺されてんだよ。確かに俺はまだ戦場に出たことねえけどよ、何度か戦場に出たことがあるってだけで自分は特別だなんて勘違いしているような奴に甘ちゃんだなんて言われる筋あいはねえぜ」ジロッ

男「……」ジロリ

騎士「……」ジロッ

シーン

教官「こら、貴様ら! 何をやっている! 喋っていないでとっとと自分達の部屋に戻れ!」

騎士「……チッ」

男「……」プイッ

268: 2012/12/03(月) 16:56:30.93 ID:xKQv9y9m0
……



騎士「いやあ、今日も疲れたな~」テクテク

訓練生A「確かにな~。でも今日の模擬戦ホント惜しかったよな。あとちょっとで勝てたのに……」

訓練生D「それに関しては本当にスマン! 俺が足引っ張っていなければ」

騎士「んなことねえよ。チーム戦なんだから、一人の失態はみんなの責任さ。訓練生Dが気にすることねえよ」

訓練生A「騎士はホントにいいやつだよな~。にしても、相変わらず模擬戦トップは男のいるチームか……」

269: 2012/12/03(月) 16:57:12.98 ID:xKQv9y9m0
騎士「……」

訓練生D「でもよ、あいつと一度一緒のチームで組んだことあるけれどさ、ほとんどワンマンプレーだったぜ。確かに魔法を使う才能あるし、実際負けてるから文句言ったところで負け惜しみになるけどさ、もうちょっと協力しろよって思うよな。チーム戦なんだし」

訓練生A「そうそう。あいつなんか他のやつに対して壁作ってんだよな。孤高を気取るのもいいけどよ、あんまし調子乗ってるとそのうち誰かにシメられるんじゃねえか?」アハハッ

騎士「あんなやつのことなんて放っておけよ。それより飯食いに行こうぜ! 腹減ってしょうがねえ」

訓練生A・D「間違いねえ」アハハハハ

270: 2012/12/03(月) 16:57:56.28 ID:xKQv9y9m0
――食堂――

男「……」モソモソ

訓練生「でさ~」アハハハ

訓練生「なんだよ、だっせえなぁ……」

男「……」パラパラ

騎士「……」チラッ

訓練生D「どうしたよ、騎士」

騎士「いや……なんでもない」

271: 2012/12/03(月) 16:58:23.32 ID:xKQv9y9m0
訓練生A「おっ……。見ろよ、男のやつ他の訓練生たちに連れてかれるぜ。やっぱり灸をすえられるみたいだな。いい気味だぜ」ハッ

騎士「……」ガタッ

訓練生D「騎士?」

騎士「あ、わりぃ。ちょっと用事思い出したわ。先に食っててくれ」タッタッタ

訓練生A「どうしたんだ、あいつ?」

訓練生D「……さあ?」

272: 2012/12/03(月) 16:58:53.90 ID:xKQv9y9m0
訓練生C「あのさ、前からずっと思っていたけど君のその態度はどうなのかな? 気に入らないんだよね、協調性の欠片も見られないし。やる気あるの?」

男「……用ってそれだけ? なら戻っていいかな。今から魔法の訓練をするんだ。君の言うやる気っていうのがそれに当てはまらないっていうのなら別に残ってもいいけど」

訓練生C「……くっ! そういう態度が癇に障るって言ってるんだよ! だいたい、今日の模擬戦だって君が独断専行したせいでこっちは大変だったんだ」

男「それについては模擬戦が始まる前に作戦をきちんと立てたじゃないか。実力に見合ったポジションにみんな配置して……」

訓練生C「それだよ、それ! 作戦内容が一番実力のある自分が囮になるからその隙に自分を狙っている相手を強襲しろってやつ! ムカつくな~。自分が一番実力があるってそんなにも周りにアピールしたいのかい?」

男「僕はただ単に一番効率のいい作戦を立てただけだけど……」

273: 2012/12/03(月) 16:59:30.95 ID:xKQv9y9m0
訓練生C「だいたいさ、君は確かに魔法は優秀かもしれないけれど肉弾戦になった時が並程度の実力しかないじゃないか。こうして君に魔法を使う隙を与えなければどうすることもできるんだよ」ニヤッ

訓練生達「……」ジリジリ

男「……なに? つまり、ここに呼び出したのは模擬戦の反省とか、僕に対する注意なんかじゃなくただ単に腹いせ?」

訓練生C「ようやく気づいたんだ。そういうことだよ、調子に乗ってる君の鼻を一度折っておこうと思ってね」ニヤニヤ

男「……」

訓練生達「……」ニヤニヤ

男「……ってみろ」

274: 2012/12/03(月) 17:00:34.02 ID:xKQv9y9m0
男「やりたきゃやってみろって言ったんだよ。確かに、この人数相手に僕一人が応戦したところで最終的には負ける。だけど、命を奪わなければやり返す機会はいくらでもあるんだ。
 やり返される覚悟があるって言うんならいくらでもかかって来なよ。ただし、やるんならその後の生活を無事に過ごせると思うなよ……」

訓練生C「つ、強がるんじゃないよ! ほら、みんなやろう!」

訓練生達「あ、ああ……」

ドカッ バキッ ドンッ

男「……ッ」カハッ

訓練生C「は、ははっ! いい気味だ。ホント、これからは自分の分をわきまえてくれよ」

訓練生達「そうだな」アハハハハッ

男「……」ジロッ

275: 2012/12/03(月) 17:00:59.22 ID:xKQv9y9m0
訓練生C「な、なんだよ……。くそっ! そんな反抗的な目で僕を見るんじゃない!」ドカッ

男「うぐっ!?」ゴロゴロゴロ

男「……」ジロッ

訓練生C「……うっ。も、もういいや。とっとと行こう」スタスタ

訓練生達「なんだよ、気味悪りーよ」テクテクテク

男(意識が逸れたな……。覚悟しろよ……)スッ


276: 2012/12/03(月) 17:01:31.65 ID:xKQv9y9m0
騎士「おい、止めておけ」ボソッ

男「……!」チラッ

騎士「お前、今魔法使おうとしただろ。途中まで魔法紋が構成されてたからな。さすがに不意打ちは卑怯だろ」

男「そんな、ことを戦場でも、言うつもり……?」

騎士「んなこと言わねーよ。ただ、ここは戦場じゃなくて軍の育成所だろ。あいつらを庇うつもりはないけどよ、もう少し肩の力抜いたっていいんじゃねーか?」

男「余計な……お世話だ。なんにも、知らないくせに……」

騎士「そりゃ、確かに何も知らねーよ。だって、お前がなんにも話してくれないんだからな。
 なあ、こんだけの目にあっても考えを変えるつもりはないのか? 前にお前が言ってた自分の身を守る力が欲しいってことだけどよ。今のお前はそれすらもできてねーじゃねーか。
 俺たちは力がない。それは認める。だから、みんなで協力し合って自分の身を守ることも、他の誰かを救うための力もつけるんじゃないのか?
 一人じゃできないことだって、誰かと協力すれば成し遂げることだってできるだろ?」

277: 2012/12/03(月) 17:01:59.92 ID:xKQv9y9m0
男「……」

騎士「ほら、肩貸してやるから医務室行くぞ」グイッ

男「なっ! ちょ、ちょっと……」ビクッ

騎士「怪我人は黙って治療の言い訳でも考えてろよ。てか、お前めちゃくちゃ軽いな。ちゃんと飯食えよ。それこそ、戦場に出て食料がなくなったときにまっさきに倒れることになるぜ」ニヤニヤ

男「……うるさいっ」プイッ

278: 2012/12/03(月) 17:02:38.84 ID:xKQv9y9m0
……



騎士「おい、男。お前またやられてんのかよ」ジーッ

男「うるさい、仕返しはちゃんとしてやった。だいたい騎士こそ女性部屋に何人か連れて忍び込もうとしたらしいじゃないか」

騎士「それな、もうちょっとだったんだけど途中で教官に見つかってな。『訓練を終えてこんなことをしている余裕があるお前たちのために明日から追加メニューを加えてやろう』だなんて言われてそれ以来毎日ヘトヘトだ」

男「……ふん。そんなことやってる暇があるなら剣技を磨いたらどうなの? 力ない人を守るんじゃなかったの?」

騎士「そっちこそ、魔法の特訓ばっかりしてるくせに全然自分の身を守れてねーじゃねーか」

男「いいんだよ、こっちは成長してるんだ」

騎士「生憎だが俺の方も少しは成長してるんだよ。模擬戦でも成果が出るようになってきたからな」

男「……ふん」クスッ


279: 2012/12/03(月) 17:03:28.38 ID:xKQv9y9m0
騎士「おっ……。お前今もしかして笑ったか?」

男「笑ってない、うっとうしい。本を読むのに邪魔だからさっさとどっか行け」シッシッ

騎士「つれねえな。たまには一緒に飯食おうぜ」

男「いつ僕と騎士がそんな仲になったんだ」

騎士「え? 一緒に肩を並べたろ?」

男「それは騎士が勝手に僕を医務室へ連れて行った時の話だ。まるで苦楽を共にしてきた仲みたいに言うな」

騎士「冗談だよ、冗談。まあ、お前がよかったらでいいから一緒に飯食おうぜ。じゃあな」タッタッタ

男「騒がしい奴だな……」ハァ


280: 2012/12/03(月) 17:03:57.97 ID:xKQv9y9m0
……



教官「今日の模擬戦は近くにある森にて実施する。すでに何回か訪れたことがあると思うが、今日はいつもと違う点がある。
 今日は普段模擬戦を行っているチームのメンバーをシャッフルしてチームを構成する」

ザワザワ マジカヨ ザワザワ

教官「ええい、黙れ! 私語は禁止だと何度も言ったはずだ! 文句があるやつは模擬戦ではなく俺特製の訓練を課してやるが、どちらがいいか選べ!」

シーン

281: 2012/12/03(月) 17:04:44.75 ID:xKQv9y9m0
教官「よーし。わかりやすい反応で結構。では、メンバーを発表する」

教官「訓練生C……。……」

教官「……。……女騎士」

教官「……騎士。……男」

騎士「えっ!?」

男「……」

教官「どうした、騎士。何か問題でもあるのか?」

騎士「いえ、何でもありません……」

282: 2012/12/03(月) 17:05:15.56 ID:xKQv9y9m0
訓練生A「ドンマイ、騎士」ボソッ

訓練生D「男と一緒だなんて、お前も運が無いな……」ボソッ

騎士「あ、ああ……」ボソッ

騎士(男と一緒か……。あいつとうまくやれるかな……。まあ、俺があいつのフォローをしてやるとするかな。
 あいつ、一人にしておくと突っ走って危なっかしいからな……)クスッ

男「……」チラッ

教官「よーし、お前ら。さっそく模擬戦実施所に移動しろ! 少しでも遅れたら評価が下がるから覚悟しておけ!」

283: 2012/12/03(月) 17:05:52.69 ID:xKQv9y9m0
……



男「それじゃあ、作戦を発表する。今回の模擬戦はいつも通りチームごとの対戦だ。チーム人数は各班四名。
 向こうには前に僕と同じチームを組んでいたメンバーが二人居る。だから、僕が作戦を立ててくることも読んでくるだろう」

騎士(おいおい。俺以外の二人はまともに男の話聞いていないぞ。わかっちゃいたけど、こいつ周りから相当嫌われてんだな……)

男「それでも、僕はいつも通りの作戦で行くつもりだ。向こうがこちらの手を読んでいようが、それを上回る速さで行動をとればいいだけのこと。
 僕が魔法を使って相手メンバーを拡散、各個撃破。相手一人に対してこちらは常に二人で応戦してくれ。二人はどうにか僕がひきつける」

訓練生E「はい、はい。男さまのご自由にどうぞ。どうせ、俺たちの意見なんて聞く気は無いんだろ?」

訓練生F「まあ、俺たちも適当に頑張るからさ、囮役頼んだぞ。お前しかできないらしい役目みたいだからな」クスクス

男「……それじゃあ、ミーティングはこれで以上だ。後は、各自作戦通り動いてくれ」スタスタ

訓練生E・F「は~い」クスクス

騎士「……」

284: 2012/12/03(月) 17:06:20.97 ID:xKQv9y9m0
……



騎士「おい、男! ちょっと待てよ」テクテク

男「……」スタスタ

騎士「おい、おいって! 止まれよ」グイッ

男「痛いって……。それで? 何だよ」

騎士「お前、あのままでいいのかよ? あの二人どう考えてもお前の作戦をちゃんと聞いていなかったぞ」

285: 2012/12/03(月) 17:07:00.28 ID:xKQv9y9m0
男「いつものことだよ……。あの二人が駄目なら僕がその分頑張ればいいだけの話だ」

騎士「前にも言ったけど、もうちょっとお前は周りを頼れよ! これじゃあ、何のための模擬戦なのかわからねえよ」

男「じゃあ、騎士は僕の意見をちゃんと聞いてくれるのか? その指示が実際の戦場で命を賭けるかもしれないものでも、きちんと聞いてくれるのか?」

騎士「それは……」

男「僕が言っているのはそういった類のものだよ。こっちは真剣にやっているんだ。模擬戦だなんて、割り切ったことは一度も無い。実戦だと思っていつもやってる。だから、中途半端なやつに任せるくらいなら、僕一人でやれることをやるだけだ」

騎士「……」

286: 2012/12/03(月) 17:09:05.07 ID:xKQv9y9m0
騎士(こいつ、そんな風に考えていつも模擬戦を行っていたのか……。確かに、変に意固地なところはあるけど、男は本気で力を付けようとしてる……)

男「僕が言いたいのはそれだけだよ、騎士もやる気がないなら適当にしてくれてていいよ……」スタスタ

騎士(俺は……どうだ? 実戦になった時にこいつに命を預けられるのか?)

男「……」スタスタ

騎士「待てよ……」ボソッ

男「……なんだよ」チラッ

287: 2012/12/03(月) 17:10:13.07 ID:xKQv9y9m0
騎士「俺はまだ戦場に出てないからお前の考えに完全には理解できてないと思う。でもさ、人に命を賭けろっていうならさ、お前も俺に命賭けろよ! もっと他人を信用しろ!
 でなきゃ、俺はお前に命を預けることなんてできねえ!」

男「……」

騎士「今回限りでもいい。俺を信用してくれ。俺も、お前を信用する。だから……」

男「……」

騎士(だ~もう! うまい言葉が出てこねえ。なんか、考えがぐちゃぐちゃしてしょうがねえよ! でも、このままじゃ駄目だってことはわかるんだよ)

男「……わかった」

騎士「……え?」

288: 2012/12/03(月) 17:10:46.67 ID:xKQv9y9m0
男「わかったって言ったんだよ。確かに、相手にだけ命を賭けさせるなんて傲慢すぎた。僕も騎士に命を預ける。これでいい?」

騎士「お、おう……。なんか、やけに素直だな」ポリポリ

男「この間の借りを返すだけだよ。特に深い意味は無い」プイッ

騎士「それじゃあ、模擬戦頑張ろうぜ! 二人には俺から言っておくからよ!」

男「勝手にしてよ。僕は精神集中するから。時間になったら集合場所でね」テクテク

騎士「……おう!」

289: 2012/12/03(月) 17:11:55.04 ID:xKQv9y9m0
……



男「時間だ。みんな、準備はいい?」チラッ

騎士「ああ、バッチリだ」ニコッ

訓練生E・F「……」

男「それじゃあ、事前に説明しておいたように僕が囮になって相手を二人引き付ける。三人はその間に一人ずつ相手を撃破。何度も言うようだけど、必ず二人以上で相手と応戦して。
 その方が早く、確実に相手を仕留めることができるし、多少の力量差ならどうにかなるから……」

騎士「わかったよ。二人ともそれでいいよな?」

290: 2012/12/03(月) 17:12:34.98 ID:xKQv9y9m0
訓練生E「わかった、わかった。ほら、もう時間だろ。集中しねーとな」ニヤニヤ

訓練生F「そうそう。男がいれば模擬戦の成績は必然的にトップになるからな」ニヤニヤ

男「……そうだね。それじゃあ、始めようか」

 相手の姿が見えない森、摸擬戦の開始位置に男、騎士を含めた四人が立ち、しばらくすると戦闘開始の角笛の音が辺に響き渡った。

騎士「……! スタートだっ!」

男「よし! それじゃあ、いくよ皆」タッ

訓練生E・F「……」タッタッタッ

291: 2012/12/03(月) 17:13:09.51 ID:xKQv9y9m0
 男が一人先に進み、それに続くように騎士、訓練生の二人が続く。そこから騎士、訓練生が二手に別れ、男の左右にそれぞれ展開する。
 ジメジメとした空気が肌を撫でる。未だ姿を現さない相手に警戒しながら、四人は先へと進んでいく。
 森に存在する小動物の駆ける音を敵の足音と勘違いして緊張を高め、逆に自分たちが地面に落ちている小枝を踏み潰して相手に位置を悟られてないかと考える。

 模擬戦が開始して半刻ほど経った頃。騎士、訓練生達の前を先行する男が不意に立ち止まり、合図を送る。

男(……見つけた。相手は一人、ほかの三人の姿は見えない。罠……かもしれないな)

 瞬時に次に取るべき行動の判断を脳内で下し、男は他のメンバーに指示を出す。

男(騎士と、僕で相手を撃破する。二人はそのままここで待機。もし、他の相手が出てくるようなら、タイミングを見計らって不意を付いてくれ)

騎士(……了解)

292: 2012/12/03(月) 17:13:44.70 ID:xKQv9y9m0
男(それじゃ、行くよ。三……二……一……今だっ!)ダッ!

 男が合図を送ると同時に、騎士と男が敵の一人の元へと駆け出す。騎士は腰に付けられた模造剣を鞘から抜き放ち、男は指で魔法紋を描いていく。

敵「……! クソッ!」

 駆け抜けてくる男と騎士の姿を捉えた敵は即座に模造剣を抜き放ち、構える。己一人に対して同時に襲いかかる二人を見て、敵が判断した考えは単純な肉弾戦なら己よりも弱い男を相手にすることだった。

敵「くらえっ!」ブンッ

 近づく男に対して模造剣を横一線になぎ払う敵。それに対して男は……。

293: 2012/12/03(月) 17:14:11.91 ID:xKQv9y9m0
男「甘いっ!」

 描いていた魔法紋を模造剣が己の体に叩きつけられる直前に完成させる。すると、なぎ払われた剣と男との間に地面を突き上げて石柱が現れ、その剣先を防いだ。

敵「――ッ~」ビリビリ

 突然現れた石柱に驚く暇もなく、勢い良く叩きつけた剣は石柱にぶつかった衝撃で敵の腕を痺れさせた。硬直する敵の隙を見逃さず、すかさず掌底を相手の顔面に男は叩きつけた。

敵「カハッ!」ドンッ

 男の掌底によって後ろへと吹き飛ばされた敵。それに続くように騎士が追い打ちをかける。

294: 2012/12/03(月) 17:16:09.78 ID:xKQv9y9m0
騎士「くらいやがれ!」ザッ

 模造剣の腹を起き上がった相手の腕に叩きつける。魔法を使う男と違い、騎士や敵は軽装の鎧を身につけているとはいえ、叩きつけられた剣の衝撃は凄まじく、先ほどの男の攻撃とは比べ物にならないほどの鈍い音が辺に響く。

 骨が折れた……とまではいかないものの、衝撃によって飛ばされ、起き上がろうとした敵の腕は力なく垂れ下がっていた。

敵「……参った。俺はここでリタイアする」

 敵の降伏宣言を聞くと、男たちは肩の力を抜いた。基本的に、この摸擬戦は相手の交戦の意思がなくなった場合と気絶しているのを確認した場合、リタイアという形になる。
 これを確認する術は本来外部の人間にはないが、己の敗北を素直に認めないでいるものは逆に恥知らずとして周りから責められることになるため、事後報告という形でも模擬戦がなりたっているのだ。

 さらに、万が一リタイアしたものが再び戦闘に参加するなどといった行為が認められた場合は重いペナルティーがチームメンバー全員に課せられるため、そんなことをするものは皆無なのだ。

295: 2012/12/03(月) 17:17:47.61 ID:xKQv9y9m0
男「よし、まずは一人……」

 男が敵を倒して一息ついた瞬間、背後から叫び声が上がった。

訓練生E・F「うわああああ~」

 驚き、振り返ると、そこにはわざとらしく地面に倒れ込む訓練生二人の姿があった。そして、その横には敵であり、元は男と模擬戦のメンバーを組んでいたうちの一人、訓練生Cの姿があった。

男「……え?」

 一瞬の出来事に、事態が把握できていなかった男だが、倒れこんだ二人の訓練生が浮かべた表情と彼らが告げた一言を聞いて、何が起こっているのかを理解した。

訓練生E・F「参った……ギブアップだ」

 たいした怪我もなく、地面に倒れこんだとしか思えない二人が告げた敗北宣言。それに男、それに騎士の両方が驚く。だが、男はすぐに彼らがそんなことを口にした理由を思いついた。

296: 2012/12/03(月) 17:18:44.10 ID:xKQv9y9m0
男(なるほど……。つまり最初からあの二人はこうするつもりだったんだね)

 おそらくは、ミーティングの前、それから後に彼らは訓練生C達と密会していたのだろう。そして、その時に模擬戦が開始したあとの予定をそれぞれで立てていたのだろう。
 どうしてこんなことをするかという理由を問われれば、男自身に原因があるのだろう。男がそれまでとってきた態度が、彼らに模擬戦での勝敗以上に重要な“男を潰す”という共通の目的を与えたのだ。

 摸擬戦ならば、多少の無茶をしてもペナルティーも課せられない。しかも、男以外の全員が口裏を合わせればどれだけ痛めつけたところで問題が起こるわけでもない。
 そう思ったからこそ、彼らは今こうして敗北宣言を告げ、ただ男を痛めつけるための摸擬戦を開始しようとしているのだろう。

男「……上等だよ。そんなくだらないことをこの場でしようっていうんなら相手になってやる」

297: 2012/12/03(月) 17:19:31.42 ID:xKQv9y9m0
予想以上に彼らの行動が癪に障ったのか、男は知らず、歯を食いしばり、怒りを顕にしていた。その表情は普段からは想像できないほど険しいものとなっていた。
 さすがに、騎士も今の状況に気づいたが、当事者である男と違い、彼はまだ冷静だった。そして、この状況に呆れていた。

騎士(くだらねえ……。なんだよ、これ。せっかくの模擬戦だってのに、男をリンチするためにみんな手を組んでんのか? これは俺たちが力をつけて人の役に立つための訓練だろうが。なのに、一人をいたぶるためにこんなことやるなんて、ぜってえおかしいだろ!)

怒りを胸に秘めながらも、落ち着いて周りを警戒する騎士。よく見れば訓練生Cから少し離れた位置に別の敵の気配を二つ感じた。

騎士(クソッ! やっぱり罠だったか。ひとまず体制を整えるために一度撤退したいが、普段冷静な男が珍しく頭に血が上ってやがる。このままじゃ、ただいいようにやられちまうだけだ……)

どうするべきか、騎士が迷っていると、それよりも早く男が動いた。


298: 2012/12/03(月) 17:20:47.67 ID:xKQv9y9m0
男「お前たちみたいな奴はな、氏ぬほど吐き気がするんだよ!」ザッ

魔法紋を描きながら訓練生Cの元へと走り出す男。当然、他に敵がいることに気づいた様子はない。そんな、彼をみて訓練生Cは不敵な笑みを浮かべる。

騎士「……マズイっ! 男!」タッ!

男を止めようとその背を追う騎士。だが、それよりも先に男が訓練生Cの前に到達する。魔法紋の完成まであと少しとなり、至近距離での魔法を発動させようとする。

男「くらえ!」

最後の一筆を描いて魔法を発動させようとした瞬間、訓練生Cの背後から不意をつくように別の敵が現れた。

敵B「馬鹿な奴だな」ハッ

突き出される棍棒。凄まじい勢いで迫るそれを不意をつかれた男は避けられるはずもなく、吸い込まれるようにしてその先端が男の腹部めがけて伸びていく。

騎士「男おぉぉぉぉぉぉっ!」ドンッ

299: 2012/12/03(月) 17:21:20.51 ID:xKQv9y9m0
だが、その先端が腹部に直撃する間際、駆け抜けてきた騎士が男を弾き飛ばし代わりにそれを受け止めた。

騎士「……ぐっ!?」ゴロゴロ

苦悶の表情と共に吹き飛ばされる騎士。それに男、訓練生C、敵Bのそれぞれが驚き一瞬動きを止める。

訓練生C「な、何出てきてるんだよ騎士。君だってもうこの状況がどんなものだかわかっただろ? それなのに、なんで、男のやつを庇うんだよ」

男「……騎士」タッ

敵B「……」

300: 2012/12/03(月) 17:22:43.08 ID:xKQv9y9m0
騎士「……っぁ。けほっ、けほっ。なんでかって? そんなのな……お前たちのやり方が気に入らねえからだよ! 確かに、男は周りに対して壁作ってるし、気に入らないところもあるかもしれない」

訓練生C「そうだよ! 君だってよく分かっているじゃないか! そいつは一度痛い目を見ないと……」

騎士「だけどな! 少なくともこいつは一度だって訓練に手を抜いたりしていない。他の奴がこいつを気に入らなくて手を抜いたとしても、その分こいつは他のやつの分も頑張ってちゃんと成果を出しているんだよ!
 それなのに、お前たちは自分が助けられていることも考えないで、一方的にこいつのことを悪者扱いしてよ。一人じゃ勝てないからって人数使ってきやがって……。俺はそういうやり方は気に入らねえんだよ!」

訓練生C「そう……。君は男の味方なんだね。ならいいよ。たとえ教官に今回の件を告げられようと、僕たちがすることは変わらないから……」スッ

騎士「! 男、逃げるぞ!」タッ

男「……わかった」

301: 2012/12/03(月) 17:23:09.74 ID:xKQv9y9m0
タッタッタッ

訓練生C「逃げられると思うのかい?」

男「逃げてみせるさ!」

再び描き出した魔法紋はそれまでよりも早く完成し、敵の周りにいくつもの石柱を作り出す。行く手を阻まれた訓練生Cたちはどうにかその場から抜け出そうとする。

騎士「……すげえ」

男「感心している暇はないよ。今のうちに早くっ!」ザッ

騎士「お、おう!」タッタッ

302: 2012/12/03(月) 17:23:54.95 ID:xKQv9y9m0
……



訓練生C「逃がした……か。まあ、いいや。時間はまだたっぷりある。せいぜい逃げ回って僕たちに狩られるのを待つんだな」クックックッ

303: 2012/12/03(月) 17:26:04.11 ID:xKQv9y9m0
……



男「はぁ……はぁっ。どうにか、逃げ切ったか?」ゼーゼー

騎士「……だな。にしてもこんなことになるなんてな……。たく、あいつらもひでえな」

男「……仕方ないさ。こんなことになっても仕方ないような態度を僕は日頃からとってきたんだから。それよりも騎士」

騎士「ん? なんだ」

男「その……巻き込んでごめん。僕のせいでこんなことに。でも、今騎士が摸擬戦を投げ出せば、被害に遭うのは僕だけだから……。だから……」

ポカッ

304: 2012/12/03(月) 17:26:50.42 ID:xKQv9y9m0
男「痛っ! ちょ、なんで急に殴るんだよ!」

騎士「バカいってんじゃねえよ! なんで、俺がそんなことしなくちゃいけねーんだよ。そんなことしたら俺まであいつらと同類になるじゃねえか。
 さっきも言ったろ、俺はあいつらみたいに根性ねじ曲がってねえんだよ。じゃなきゃお前のことかばったりしねえよ!」

男「でも……」

騎士「それに、お前俺に言ったろ? 命を賭けれるかって? それに俺はどう答えた? 命を賭けるって言ったろ。お前も俺に命を預けるって言ってくれただろ。
 こうなりゃ一蓮托生だ。力を合わせてこの状況を乗り切るしかねえよ」

男「騎士……」

騎士「とにかく今はこの状況を打開する術を考えようぜ。ただでさえ相手は俺たちより人数が多いんだ。追われてる側じゃ不意をつくなんてこともできやしない」

男「ああ、わかった……」

騎士「それじゃあ、作戦会議と行こうぜ!」


305: 2012/12/03(月) 17:27:38.05 ID:xKQv9y9m0
……



騎士「よし、これで行こう」

男「本当にいいの? はっきり言って半分賭けだよ。僕も発動させる成功率は半分くらいだ」

騎士「そんだけありゃ、十分だ! あいつらの鼻を明かしてやろうぜ」

男「……騎士」

騎士「まあ、俺も正直いえばビビってる。失敗すれば痛い目見るのは俺たちだからな。だけど、このままあいつらにやられっぱなしってのも癪に障るんだよ! だから、俺はお前を信じて動くし、お前も俺を信じてくれ」

男「……ああ、わかった。なあ、騎士ひとつ話したいことがあるんだけどいいか?」

騎士「どうした?」

306: 2012/12/03(月) 17:28:16.94 ID:xKQv9y9m0
男「僕がさ、ここに来てからずっと人を避けてた理由。騎士になら話してもいいと思ってさ……」

騎士「そりゃ、聞けるなら聞いてみたいな。いったいなんで、お前はかたくなに人を拒むのさ」

男「僕がこの育成所に入る前に戦場に何度か出てたって話は騎士も知ってるよね?」

騎士「ああ、確か教官がそんなこと言ってたな。それが原因でお前とも口喧嘩したな」

男「その件については悪かったよ。僕も反省してる。それでさ、戦場に出てたって言っても僕は別段戦いに参加してたわけじゃないんだ」

騎士「え? そうなのか」


307: 2012/12/03(月) 17:28:44.06 ID:xKQv9y9m0
男「うん、軍のある分隊の従者って形で一緒に行動させてもらってたんだ。魔法もその時にある人から少しだけ教わっていたんだ。だから、僕は人よりも少しだけ魔法がうまく使えるんだ」

騎士「そうだったのか……。それで、それがどうして人との関わりを拒む理由になるんだ?」

男「僕もさ、騎士と同じように家族をエルフに殺されてるんだ。それで、復讐のため力を付けたくて軍に入ろうとした。でも、今よりもまだ幼くて、なんの取り柄もない僕を軍が入れるわけもなくてさ。毎日、毎日軍部の門の前で追い返されたんだ」

騎士「……」

男「そんなある日一人の女性が毎日門の前にいる僕を見て声をかけてくれたんだ。その人が分隊の隊長でさ、どうして毎日ここにいるのかって尋ねられて事情を説明したんだ。そうしたら、上に掛け合ってくれて僕をその分隊の従者として連れてくれることになったんだ」

騎士「なるほどな。それで、そこからどうしたんだよ?」

男「それから僕はその人たちと幾つかの戦場を巡ったよ。エルフとも対峙した。もっとも最初の頃なんて僕はビビってなんにもできなかったんだけどね……」

308: 2012/12/03(月) 17:29:16.24 ID:xKQv9y9m0
騎士「そうだったのか……。でも、その人たちと一緒にいたのならどうしたお前はここにいるんだよ?」

男「最初はさ、復讐のために力をつけたかったんだ。でも、あの人たちと一緒に行動しているうちにみんなの役に立ちたい! って思ったんだ。だから、魔法の勉強や特訓も一生懸命やった。楽しかった、魔法を覚えたことを報告するとよろこんでくれたみんながいたから……」

騎士「……」

男「でも、そんな楽しい日々も長くは続かなかった。ある戦場に出たとき僕達の隊の倍はいる敵に囲まれたんだ。絶体絶命ってやつだね。でも、隊のなかでただ一人、僕だけが戦うには力不足だった。それどころか、自分の身を守るほどの力もなかったんだ。
 結局、みんなは僕を守るために戦って、ただ一人僕だけが生き延びることになった……」

騎士「もしかして、それでお前ずっと自分の身を守る力が欲しいって……」

男「そうだよ。自分の身を守る力もないのにでしゃばった結果がこれだ。大切だった人の命を奪うことしかできなかったんだよ、僕は。だから、力をつけたかったんだ。
 力もないのに、人と関わってその命が消えてくのを見るのはもう嫌だったから……。だから、僕は周りのみんなを拒み続けたんだ」

騎士(なるほど、な。こいつの過去にそんなことがあっただなんて……。家族を殺されたってことは一緒でもそのあと親類に引き取られて穏やかに過ごしていた俺とは大違いだ……)


男「でも、それも間違いだったのかもしれない。そんなことをしても結局僕の周りにしか敵は生まれなかった。僕はまた、失敗したんだ……」

ポカッ

309: 2012/12/03(月) 17:29:44.08 ID:xKQv9y9m0
男「なっ! なんでまた殴るんだよ!」

騎士「お前が一人で勝手に納得してるからだよ! 何が敵しか生まれなかっただ! いるだろ、ここに。たとえ一人でもお前の味方がよ! ったく、さっき言ったこともう忘れたのかよ」

男「……ごめん」

騎士「いいよ、もう。その代わり、この模擬戦終わったら一緒に飯くいに行こうぜ! この話の続きはそれからだ」

男「……ああ、そうだね」

310: 2012/12/03(月) 17:30:37.04 ID:xKQv9y9m0
……



訓練生C「さて、そろそろ探すのも飽きてきたな。いい加減この辺で幕引きといきたいんだけど、そろそろ姿を現してくれないかな!」

敵B・C「……」

男「そうだね、僕もこんなくだらない争いはこの辺で終わりにしたい!」ザッ

訓練生C「ふうん、ようやく逃げ回ることを諦めてくれたんだね。いい判断だと思うよ。もっとも、騎士の姿が見えないところから反抗する意思は残っているようだけどね」

男「反抗もなにも僕が負ける理由はどこにもないからね。卑怯なてしか使えないお前たちには一度灸を据えてやらないとと思ってさ」

訓練生C「へ、減らず口を……。いいよ、そこまで言うのなら相手になってあげるよ。三体一でどこまで勝負になるか見ものだけどね」

311: 2012/12/03(月) 17:31:04.29 ID:xKQv9y9m0
男「かかってきなよ。君たちがいくら束になろうと僕は負けるつもりはないよ」

訓練生C「……そうか。なら、お望み通りにねっ!」ザッ

挑発する男に向かって一斉に駆け出す三人。訓練生Cは模造剣を抜刀し、敵Bは棍棒を構え、先ほど姿の見えなかった最後の敵Cは魔法紋を描きはじめる。迫り来る彼らに男は少しも臆することなく、彼らに対抗するために魔法紋を描いていく。

男「絡みとれ!」ブンッ

素早く魔法紋を完成させた男が腕を払うと、近くにあった樹木の根がまるで生き物のように敵に襲いかかった。

訓練生C「なるほど、これが奥の手ってわけか……。だけど!」ザッ

312: 2012/12/03(月) 17:31:31.95 ID:xKQv9y9m0
襲いかかる木の根に対し、訓練生Cは即座に対応した。勢い良く剣を振り抜き、根を弾き、一直線に男の元へと走り抜ける。

男「くっ! やっぱりこれだけじゃ……」

焦る男を見て訓練生Cの表情が愉悦に染まっていく。勝利を確信し、男の腕めがけて全力で剣を振り抜く。

訓練生C「これで……終わりだっ!」ブンッ

迫る凶刃。それを防ぐ術もなく男は……。

訓練生C「……なっ!」

剣が直撃すると思っていた訓練生Cだったが、なんの見間違いか、彼の持っている剣は男の体をすり抜け宙を切り裂くのみだった。驚き、動揺する彼に“遠く”から男の声が聞こえる。

313: 2012/12/03(月) 17:32:19.65 ID:xKQv9y9m0
男「驚いた? 幻惑魔法の一つだよ。自分の姿を遠く離れた位置に映し出すっていうね。
 いや~見事に引っかかってくれて助かったよ。成功率も半分くらいしかなかったし、正直この魔法を使うのは賭けだったんだけど、うまくいったみたいだ」

訓練生C「そん……な。いや、確かに引っかかったけどこっちにはまだ二人仲間がいる!」

男「それって後ろで気絶してる二人のこと? 悪いけど木の根で動きを封じた後に騎士に倒してもらったよ」

訓練生C「なっ!?」

男の言葉を聞いて慌てて訓練生Cが振り返ると、そこには彼の言うとおり木の根に身体を巻かれて気絶している二人の仲間の姿があった。

訓練生C「こんな……嘘だ!」

314: 2012/12/03(月) 17:32:57.91 ID:xKQv9y9m0
男「残念ながら、嘘でも何でもないよ。君の負けだ。僕と騎士二人を相手にしてまだ勝てるって言うんなら続けてもいいよ」

見ればいつの間にか訓練生Cの視線の先に男が現れていた。そして、背後からも剣を持った騎士の姿がある。

訓練生C「ちく……しょう」

敗北を悟ったのか、持っていた剣を落とし、その場に力なくうなだれる訓練生C。そして、悔しさを滲ませながら彼は負けを認める言葉をつぶやいた。

訓練生C「僕の……負けだ」

こうして、男と騎士が初めて力を合わせて戦った模擬戦は終わりを告げたのだった。

315: 2012/12/03(月) 17:33:24.43 ID:xKQv9y9m0
……



男「と、まあ。こんな具合に僕と騎士は仲悪かったんだけどその摸擬戦を経て交流を深めるようになったんだ。僕の昔についてはまあ、語ったとおりさ」

女騎士「そうだったのか。お前にそんな過去があったなんてな……」グスッ

男「あ、あれ? 女騎士、もしかして泣いてる?」

女騎士「な、泣いてなんかない! これは、そう。ちょっと汗が垂れただけだ!」グスグス

騎士「まあ、そういうことにしておいてやろうぜ、男」

男「僕は何でもいいけどさ……」

316: 2012/12/03(月) 17:33:58.04 ID:xKQv9y9m0
女魔法使い「……」

男「それで、女魔法使い。どうだった、聞いてみた感想としては?」

女魔法使い「……ぇい」

男「うん?」

女魔法使い「先生、私感動しました! そんな過去があったのに、今こうしてたくましく生きている先生は立派です。一生ついていきます!」グイグイ

男「ちょ、あんまり近寄らないでって。あ~もう、こんな風になるなら話さなければよかったよ」

騎士「いいじゃねえか。それだけ、お前のことを慕ってくれてるんだからさ」

男「まあ、悪い気はしないんだけどさ。女魔法使いにはもう少し他のことに目を向けてもらいたいんだよね……」

騎士「大変だな、お前も」

男「まあね。でも不思議と嫌な感じはしないね。もう、昔と違うからかな?」

317: 2012/12/03(月) 17:34:30.96 ID:xKQv9y9m0
騎士「だったら戻ってこいよ、ここに。戦争が終わった時はお前も思うところがあって一人になったかもしれないけれどさ、今もお前のことを待っている仲間はここにいるんだぜ」

男「……そうだね。でも、今の僕には帰るべき場所があるから」

騎士「そう……か。まあ、気が変わったらいつでも戻ってこい。俺たちはずっとお前を待ってる」

男「ああ」

 かけがえのない仲間たち。たとえ長い間離れ離れになっていても、彼らの育んだ絆は消えない。

エルフ「……そ~っ」男「こらっ!」 before days 男と騎士の始まり ――完――

318: 2012/12/03(月) 17:36:54.07 ID:xKQv9y9m0
とりあえず、男の過去編の一部である騎士とのお話はここまでで。次は男が嫉妬する話になります。

325: 2012/12/04(火) 13:49:50.62 ID:4BCi+PlG0
>>319
ありがとうございます。次の話はほんのちょっぴりですがイチャイチャする話があります。まあ、間接的になりますが……。

>>320
ダークエルフ「やめて!私に乱暴する気でしょう?工口同人みたいに!」
男「」
エルフ「」

ですかね?

>>321
そうですね、彼らが正式に顔を合わせることになるのは戦争中ですので。それまでは特に直接的な接点はないですね。

>>322
ありがとうございます。
そうですね、ちょっと違いますがそのうちに二人が住んでいる家に関するお話が出てきまして、そこでちょっとだけ喧嘩するのでそれを楽しみにしてもらいたいと思います。

>>323、324
それについてはエルフの過去編で説明がありますので、それまでお待ちを。
色々と理由はありますが、どちらかといえば人間のほうが悪い面があると感じられるかと思いますね。

326: 2012/12/04(火) 14:02:56.60 ID:4BCi+PlG0
さて、今から続きの方を載せていこうと思います。今回は男の嫉妬話です。
それと、もう一つ。以前リクエストをもらって書いたサイドストーリー、ある男の狂気も載せておきます。

327: 2012/12/04(火) 14:04:02.55 ID:4BCi+PlG0
男がエルフに告白してからしばらく月日が流れた。そして、彼らが住む街にも少しずつある変化が訪れようとしていた。

それは……。

エルフ「男さん! 聞いてください。今日も普通に食材を売ってもらえましたよ!」ニコニコ

男「そうか、それはよかったなエルフ」ニコッ

エルフ「えへへへ~。嬉しいです! 男さん、これって私がみなさんに少しずつ受け入れてもらえているってことですよね!」テレテレ

男「そうだな。でも、それはエルフがいつも頑張っていたからだよ。偉いぞ、エルフ」ナデナデ

エルフ「男さん……くすぐったいですよっ」テレテレテレ

328: 2012/12/04(火) 14:04:30.87 ID:4BCi+PlG0
男「嫌がるような口調の割には嬉しそうな顔をしてるけどな……」

エルフ「だって、皆さんに受け入れてもらえはじめたのも嬉しいですけれども、こうして男さんに褒めてもらえるのが私にとって一番嬉しいことですから……」エヘッ

男「あ、あのな……///」

互いに、互いを意識し甘い空気を作り出す男とエルフ。だが、次にエルフが発した一言が男の態度をそれまでと真逆のものにする。

エルフ「あ……そういえば、今日いろんな男の人に声をかけられましたね。みなさん、なぜか恥ずかしそうにしていましたけれど、一体なんだったんでしょう?」

男「なん……だと?」


329: 2012/12/04(火) 14:06:47.37 ID:4BCi+PlG0
……



エルフ「それじゃあ、今日は少し街の中を見て回ってきますね。男さんもお仕事頑張ってください!」

男「ああ、迷子になったりしないように気をつけろよ」

エルフ「も~っ! 迷子になるような歳じゃありませんよ!」

ギィィ、バタン

男「さて、エルフは予定通り出かけたな。……昨日あいつが言ってた話。もしかして、旧エルフの時みたいにエルフの身体を狙っている奴らが声をかけているかもしれないしな。
 うん、別にそんなに気にしてないけれど何かあってからじゃ遅いし、今日は仕事を休みにしてあいつをこっそり見守ることにしよう」コソコソ

ギィィ、バタン

330: 2012/12/04(火) 14:07:38.10 ID:4BCi+PlG0
――街中――

エルフ「~~♪ この街はいいですね~。周りは自然で一杯ですし、空気も澄んでいておいしいです。今までは男さん以外の人は私がエルフだってことで避けられていましたけれど、最近は少しずつ話してくれる人も増えてきてくれました」

エルフ(でも……男さんはあの告白以来中々手を出してくれようとしません。やっぱり、私の身体がまだ子供だからなのかな……。ちょっとは身体つきもよくなったと思いましたけど、他の大人の女性に比べるとまだまだ貧相ですよね……。
 これでも頑張って男さんに女の私をアピールしてるのに、男さんってば私がギュっ! て抱き着いても顔色一つ変えないで『こら、あんまりそんな風にしているとはしたないぞ』なんて言って……。
 もっと、もっと男さんと触れ合って、温かい気持ちになりたいのにな……)ションボリ

エルフ「めげるのはなしです! 男さんに気持ちを受け入れてもらえたことだけでも奇跡みたいなものなんですから!」

エルフ「でも、やっぱりもっと触れ合っていたいなぁ……」

331: 2012/12/04(火) 14:08:18.52 ID:4BCi+PlG0
――エルフ後方――

男(今のところエルフの近くに男が来る気配はないようだな。というか、あいつはホントにのんびりと散歩しているだけなんだな……。お金も必要な分は持たせてあるし、てっきり何か買いに行くかと思ったけど。
 そういや、旧エルフの時はあいつが普段何やっていたとか日記でしか知ることができなかったんだよな……)

男(いい機会だし、今日はエルフがどんなことをして普段過ごしているのかちょっと見てみるか)

332: 2012/12/04(火) 14:08:45.57 ID:4BCi+PlG0
――広場――

エルフ「う~ん。さすがにちょっと歩き疲れましたね。太陽が真上にありますし、そろそろお昼時ですね……」

エルフ「男さんにお金は貰ってますし、何かお腹が膨れそうなものを買うことにしましょう」トコトコ

エルフ「広場ですし、たくさん露店がありますね。何を食べましょう」キョロキョロ

露店店員「へいらっしゃい。新鮮な果物はいかがかな?」

アラ、ヨカッタライタダコウカシラ

ワタシモ、ワタシモ

エルフ「あの、私にもその果物売っていただけますか?」オズオズ

333: 2012/12/04(火) 14:09:25.96 ID:4BCi+PlG0
露店店員「……あんたが噂のエルフか」ジーッ

エルフ「えっ?」

露店店員「……ふうん、エルフっていうからもっと怖いもんだと思ってたけど、案外かわいいんだな」ジーッ

エルフ「かわ、かわいいだなんて……。あの、そんなじっと見ないでください」テレッ

露店店員「ああ、悪かったな。ほら、果物が欲しいんだろ?」

エルフ「あっ、はい。でも、売ってくださるんですか? 私、エルフなの」

露店店員「金さえ払ってくれんなら別に問題ないさ。俺は別にエルフに恨みがあるわけでもなんでもないからな」

334: 2012/12/04(火) 14:09:58.69 ID:4BCi+PlG0
エルフ「ありがとうございます。それじゃあ、これっ」チャリン、チャリン

露店店員「毎度っ! はい、果物」サッ

エルフ「どうも」サッ

ギュッ

エルフ「?」

露店店員「ふむ、肌触りも俺たち人間と変わらないんだな。なんだ、案外普通だな。やっぱり聞いただけの話と実際に触ってみるのじゃ全然違うもんだな……」フーム

エルフ「あ、あの! すみませんが、私もう行きますので///」サッ

タッタッタッ

335: 2012/12/04(火) 14:10:26.40 ID:4BCi+PlG0
男「……」ピキピキ

露店店員「顔真っ赤にしちゃってかわいいな。エルフも案外いいものかもな……」ジーッ

男「……おい、ちょっといいか?」

露店店員「ん? なんだい、お兄さん」

男「いや、少し話がしたいと思ってね……」ゴゴゴゴゴ

露店店員「……」ビクビク

男「とりあえず、路地裏に行こうか」

露店店員「……はい」テクテク

336: 2012/12/04(火) 14:10:59.41 ID:4BCi+PlG0
……



エルフ「のんびり~♪ のんびり~♪ たまにはこうやってゆったりした時間もいいですね~。一つ不満があるとすれば男さんが一緒にいないことですかね……。でも、男さんも仕事を頑張っていますし、無理を言うわけにもいきません。
 ……そうだ! 帰ってきた男さんの疲れが少しでもとれるような案を何か考えましょう!」パンパカパーン

エルフ「おいしい料理がいいかな~。それとも、疲れを取るのに聞きそうな香を焚くのがいいかな~。何をすれば男さんは喜んでくれるでしょうか?」

エルフ「男さんが喜んでくれるのを想像すると自然と口元が緩んじゃいます。恋人……ですもんねっ」エヘヘ

エルフ「そうだっ! あれにしましょう……」ルンルンッ


337: 2012/12/04(火) 14:11:24.33 ID:4BCi+PlG0
――エルフ後方――

男(ひとまず、エルフに軽々しくスキンシップを取ったあの露店店員には灸をすえておいてやった。僕としたことがついムキになって昔を思い出してしまったよ……)

男(にしても、エルフのやつ僕がいるってのにあんな見ず知らずの男に身体を触れられて、あんなに喜んで……。もしかして、最近あんまり構ってやってなかったからか?
 いやいや、だってエルフだぞ。自分で言うのも何だけどあれだけ僕にべったりなエルフだぞ?
 なんだろう、このもやもやした感じ。なんか、あいつが他の男と仲よさそうにしているの見てたくないなぁ。もしかして、僕嫉妬してるのかな……)

338: 2012/12/04(火) 14:11:59.21 ID:4BCi+PlG0
――とある店――

エルフ「着きました! ここです」ギィィ、バタン

老紳士「おや、エルフさんじゃありませんか? どうかしたのですか?」

エルフ「おじいさん! こんにちは!」ニコニコ

老紳士「こんにちは。珍しいですね、お店の方に君が来るなんて」

エルフ「はい。いつもお会いするのは外ですもんね。こっちにも来たいとは思っているんですけれど、普段は私がいると他の人が気まずい思いをしちゃうと思うので……」エヘヘ

老紳士「そんなことは気にしなくてもいいんですよ。この店の中ではエルフも人間も関係ありません。一人、一人が私の大事なお客さんです」

エルフ「おじいさん……」


339: 2012/12/04(火) 14:12:34.04 ID:4BCi+PlG0
老紳士「それで? 改めて聞きますが、今日はどうしたんですか?」

エルフ「あっ、はい。実はですね、私が普段お世話になっている人の疲れを取ろうと思いまして。それで、いくつか方法を考えたんですけれど、そのうちの一つをして疲れを取ろうと考えて……。
 ただ、私はそれに関してあんまり詳しくないので、物知りなおじいさんなら詳しく知ってそうだと思って今日はここを訪ねたんです」

老紳士「ほう……そうですか。それはあなたがいつも私に話してくれる男さんのことですか?」

エルフ「……はい///」テレテレ

老紳士「なるほど、なるほど。いいですね、若いというのは。いいですよ、私の知っていることであれば喜んで教えて差し上げます」ニコッ

エルフ「おじいさん……。ありがとうございます!」ニコッ


340: 2012/12/04(火) 14:13:31.43 ID:4BCi+PlG0
……



エルフ「ありがとうございました~」

老紳士「いえいえ。では、またお会いしましょう」

エルフ「はい!」ルンルンッ

男「……」ジーッ

テクテク

341: 2012/12/04(火) 14:13:57.24 ID:4BCi+PlG0
男「あの、すみません」

老紳士「はい、なんですか?」

男「今、エルフの女の子がこの店から出て行ったんですけれど何か買っていきましたか?」

老紳士「さあ? お客様の個人的な情報を明かすわけにはいきませんので」

男「そうですか。すみません、突然こんな質問を……」

老紳士「いえいえ、気にしていないので構いませんよ。それにしても、あなたがあの子の言っていた男さんですか……」

男「え? はい、確かに僕がそうですけれども」

老紳士「ふむ、優しそうな目をしていますね。あの子が貴方を慕う気持ちも分からなくはない。あなたの周りはとても居心地がいい」

342: 2012/12/04(火) 14:14:35.48 ID:4BCi+PlG0
男「そんな……勘違いですよ。僕は、もっとひどい人間です」

老紳士「ふふっ。確かに、あの子に仕事だと嘘をついてこっそりと後を付いていくだなんてあまりいい趣味ではありませんね」

男「えっ!? どうして仕事に行ったってことを……」アセアセ

老紳士「いえ、中であの子から聞いたもので」

男「そうだったんですか」

老紳士「できることなら、あの子がここに来たことは見なかったことにしてあげてください。それと、日が暮れてからあの子の元に帰るとより良いですね」

男「何かあるんですか?」

343: 2012/12/04(火) 14:15:09.13 ID:4BCi+PlG0
老紳士「それを私の口から告げるのは……。まあ、帰ってからのお楽しみということで」

男「はあ……。それが必要であればそうしますが」

老紳士「そうそう。なるべく疲れた様子を見せるとあの子も喜んでくれると思いますよ」

男「?」

老紳士「わからなくてもやってあげてください。それが彼女への気遣いというものですよ」

男「わかりました。それよりも、一つ伺ってもよろしいですか?」

老紳士「なんですか?」

男「えっと、あなたはエルフと仲良くしてくださっているみたいですけれど、一体どういう関係で?」

老紳士「……なに。単に老い先短い爺と、そんな爺との会話に付き合ってくれる、かわいらしい話し相手という関係ですよ」ニコッ

344: 2012/12/04(火) 14:15:43.81 ID:4BCi+PlG0
……



男「ただいま~」ギィィ、バタン

エルフ「あっ! 男さん、おかえりなさい!」ニコニコ

男「あ、うん。えっと、エルフ。今日はどうだった?」

エルフ「楽しかったですよ! 男さんもお仕事お疲れさまです!」

男「うん……」

345: 2012/12/04(火) 14:16:10.13 ID:4BCi+PlG0
エルフ「なんだか、お疲れですね」ニコニコ

男「あ、あ~。確かにちょっと疲れたかもね」チラッ

エルフ「! そ、そうですか! えへへっ。それじゃあ、ちょっと部屋に行って待っててください」

男「部屋に? なんでまた」

エルフ「い、い、で、す、から! 早く、早く!」グイグイ

男「わかったって。だから、そんなに背中を押すなよ」

エルフ「待っててくださいよ~」ニコッ


346: 2012/12/04(火) 14:17:01.35 ID:4BCi+PlG0
……



男(部屋に戻って待っているものの、中々エルフのやつ来ないな……)ボーッ

男(なんだか、ちょっと眠くなってきたな)ファァッ

男(……あふっ)パタン

ギィィ

エルフ「お~と~こ~さんっ!」パッ!

エルフ「お待たせしました……って、あれっ?」ジーッ

347: 2012/12/04(火) 14:17:30.44 ID:4BCi+PlG0
エルフ「男さん、寝ちゃってます。せっかくおじいさんに教えてもらったマッサージを疲れてる男さんにしようと思ったのに……」グスン

エルフ「でも、男さんの寝顔を見るのも久しぶりですね……」チラチラ

エルフ「……」チュッ

エルフ「えへへへっ。ごめんなさい、男さん」ゴソゴソ

コソッ

エルフ「今日は一緒に寝てくださいね」ギュッ

348: 2012/12/04(火) 14:18:01.57 ID:4BCi+PlG0
……



男「……う、ううん。もう、朝か?」

男(しまったな、エルフを待っているうちに寝ちゃった……)

ゴソゴソ

男「……ん?」バッ

エルフ「……」スースー

男「まったく、いつの間に潜り込んだのやら。困った子だな」ヨシヨシ

エルフ「ぅ、ぅぅん……」スースー

349: 2012/12/04(火) 14:18:32.92 ID:4BCi+PlG0
男(こんなに無防備に傍にいられたんじゃ昨日の僕の嫉妬が馬鹿みたいだな……。エルフは僕のことちゃんと慕ってくれてるんだ。たまにはきちんと僕の方からもエルフのことを好きだって態度を表さないとな……)ナデナデ

エルフ「うう……んっ」デレデレ ニコニコ

男「……」フフッ

男「エルフ……好きだよ」チュッ

ギィィ、バタン

エルフ「……私も、大好きですっ」ポッ

エルフ「……そ~っ」男「こらっ!」 after story 男の嫉妬とエルフの深愛 ――完――

350: 2012/12/04(火) 14:22:47.44 ID:4BCi+PlG0
ひとまず、男の嫉妬話はここまでで。次はある男の狂気というお話です。

351: 2012/12/04(火) 14:23:16.98 ID:4BCi+PlG0
これは、物語の中核に絡まないある一人の観察者の話である。


いつからだろう、この街に訪れたある一人の少女の姿を俺が追いかけ続けるようになったのは。

戦時中、幾度も人々から伝え聞いたエルフの悪評や恨み言。実物を見たことのない俺は、実際にこの目でエルフを見るまではそいつらが凶暴で野蛮な存在としか思っておらず、さして興味を持たなかった。

だが、ある日。一人の男がこの街にやってきた。突然現れ、この街に住みだしたそいつを最初街の誰もが警戒していたが、月日が経つごとにそいつはただのいい人間だと分かり、少しずつ街のやつらの警戒を解いていった。

352: 2012/12/04(火) 14:23:45.06 ID:4BCi+PlG0
それからしばらく月日が流れた。戦争が終わり、穏やかな日々が続いていた時だ。この街に流れの商人がやってきて、奴隷としてエルフを売りに出した。

初めて見た実物のエルフ。醜悪のものだと思っていたそいつは、一目見た瞬間俺の心を奪っていった。

ああ、なんて美しいんだ。この街にいる豚みたいな女共の数百、数千倍の美しさを持ったエルフ。直視することさえためらう美しい顔立ちを目の前にして、思わず俺は叫びだしそうになった。だが、俺以外の誰もこのエルフの存在を理解していなかった。

 どいつもこいつも、気味が悪いだと言って彼女を忌避した。ああ、理解できない馬鹿はこれだから困る。

353: 2012/12/04(火) 14:24:20.84 ID:4BCi+PlG0
この調子では誰もあのエルフの買い手が現れないだろうと俺は確信した。
金、金だ。今家にある全財産を引っ張ってきてでもあのエルフを手に入れたい。俺のものにしたい。
それまで心の奥底に隠され蓋をされていたドス黒い感情が一気に吹き出してきた。

すぐさま、俺は金品を取りに行くために家に向かって駆け出した。だが、金を手にして戻ってきた時にはあのエルフはもういなかった。

村人A「買わ……れた?」

聞けば、俺が家に戻っている最中にあのエルフを買い取ったものがいたというのだ。契約は既に済んでおり、今から金品を上乗せして横取りすることも不可能だった。

354: 2012/12/04(火) 14:24:58.47 ID:4BCi+PlG0
誰だ、誰だ!? 俺のエルフを奪った奴は誰だ……。
嫉妬と怒りから気が狂いそうになりながらも、俺はそのエルフを買い取った人物を突き止めた。

そう、エルフを買い取ったのはこの街に移住してきたあの、男だったのだ。

憎い、憎い、憎い。俺からエルフを奪い取ったあの男が憎い。だが、下手に手を出せば俺の身が危うい。俺は仕方なく男に手を出すことを諦め、やつの家に監禁されることになったエルフを見守ることにした。

毎日、毎日。雨の日も、むせ返るような暑さの日も、毎日、毎日見続けた。

次第に、彼女を見守ることが俺の義務になっていった。幸い、男に気づかれた様子はない。

エルフが暴漢に襲われた時も、それを男の奴が助けた時もずっと見守っていた。気づかれないように、優しく。

たとえ男の奴がエルフを見放しても自分だけは、ずっと傍にいるという証明を立てるため……。

355: 2012/12/04(火) 14:25:28.78 ID:4BCi+PlG0
だが、そんな幸福な日々も長くは続かなかった。エルフが氏んだのだ。馬車に引かれて……。

俺は絶望した。薄暗い自室でありったけの声を張り上げた。彼女を頃した馬車の主に向かって怨嗟と呪詛を呟き続けた。

ああ、これで今までの時間の全てに意味がなくなってしまった。もうだめだ。この街にエルフを売りにくる商人なんていないだろう。これから、俺は抜け殻のようにただ毎日を無駄に過ごしていくのだろう。

そうして一年近くが過ぎた。そして、俺は信じられないものを目にすることになる。

……奇跡が起こったのだ。

356: 2012/12/04(火) 14:26:12.13 ID:4BCi+PlG0
エルフが、再びエルフがこの街に訪れたのだ。そのエルフは以前のエルフよりも幼く、保護欲を掻き立てるようなか弱い存在だった。
にもかかわらず、首には奴隷の商品としての証の鎖が繋がれ、まるで神聖な存在を捕え、犯しているような光景を連想させた。

その光景に、俺は、たまらなく、興奮した。

欲しい、欲しい。どうしても彼女が欲しい。彼女の、幼く、未発達な身体をこの手で蹂躙したい。そう思った。

だが、その時の俺にはエルフを買うほどの金はなかった。当然だ、働きもせずにずっと前のエルフを見守ってきたのだから。

だからこそ、再びあの男がエルフを買ったときは血が流れるほど強く唇を噛み締めた。屈辱だった。

許さない、またそうして俺からエルフを奪って己の傍に縛り上げるのか? そんなことは断じて認めない。見守るのは、もうやめだ。彼女を、あの男の手から俺が救い出す。


357: 2012/12/04(火) 14:26:49.78 ID:4BCi+PlG0
――The day of fate ――

機は熟した。これより、行動を開始する。

朝。いつものようにエルフが男の洗濯物を干している。可哀想に、あんなに無理やり働かされて。男に言われて作っている笑顔が痛々しくて見ていられない。

だが、そんな痛々しい笑顔ももうすぐ無くなる。俺の手で本当の笑顔を取り戻してやる。

昼。彼女が男にこき使われて買出しに出された。どうせ断られるのは分かっているのに、なんて酷い奴だ。今すぐにでも頃してやりたい。だが、今は彼女を救い出す方が先だ。男を頃すのはいつでも出来る。

村人A「……」ジーッ

エルフ「親切な人でした~。お野菜も、お肉も譲ってもらえるなんて。でも、男さんが今まで私に一人で買い出しをさせなかった理由がなんとなくわかった気がします……」トテテテテ

358: 2012/12/04(火) 14:27:21.04 ID:4BCi+PlG0
村人A「……エルフ……俺の、エルフ……」フフフフ

村人A「今から、俺が君を救ってあげるからね……」スッ

?「……」サッ

村人A「なんだ、お前? 邪魔だよ、そこをどけ」

?「あの子に何か用か?」

村人A「はぁ!? なんだよ、何わけのわからないこと言ってるんだよ! いいから、さっさとそこどけよ! 俺はあの子を救い出さないといけないんだ。そして、俺の傍でずっと幸せにさせないといけないんだよ。ああ、もう。彼女の姿が遠のいていく。どけっ! どけよ!」ダッ

スッ

359: 2012/12/04(火) 14:28:11.77 ID:4BCi+PlG0
?「ここ最近、ずっと変な視線を感じると思っていたけど、お前のせいだったんだな」パサッ

村人A「はぁ!? 何言って……」ハッ

男「……」

村人A「また……またお前か。またお前は俺の邪魔をするのか。ああ、ホントに、ホントニイヤナヤツダ」ガリガリガリガリ

男「……」

村人A「あは、あはははははははははっ! そうだ、ちょうどいい。彼女を助けるためにもお前は頃しておかなきゃならないとは思ってたし、順番は逆になるけれどここで氏ねよ。 しね、シネ、氏ね! くはっ! くははははっ!」ブンッ

男「……」パシッ

村人A「……へ?」

360: 2012/12/04(火) 14:29:27.23 ID:4BCi+PlG0
男「悪いけど、僕は旧エルフの墓前での約束を果たし続けるためにも氏ぬわけにはいかないんだ。お前がこのまま引かないっていうならこっちにも考えがある。それでもまだ、あの子に手を出すというのなら地獄を見てもらう」

村人A「な、なにを……」ギリギリ

男「引く気は……ないみたいだな。なら、宣言通り地獄を見せてやるよ」スッ

男がそう呟くと、目の前に変な模様をした円が現れた。そして……。

村人A「へ、あ、ああ。ああああああああああああああああああああああああああ」ドサッ

俺の意識は消えた。

361: 2012/12/04(火) 14:30:08.54 ID:4BCi+PlG0
……



明るい。そうだ、俺は男に変な円を見せられて……。

あれ? おかしいな、何も見えない。真っ白だ。見えない、見えない。彼女の姿が見えない!? どこだ、どこにいるんだ?

村人A「……どこだ、どこだっ!」ドンッ

ゴロツキ「いテーな。なんだよ、どこ見て歩いてんだ!?」

村人A「……」チッ

362: 2012/12/04(火) 14:30:50.31 ID:4BCi+PlG0
ゴロツキ「おい、待てよ。てめえ人にぶつかっておいて謝罪の一言もなしか」グッ

ドカッ、バキッ、ドコッ

村人A「カハッ!」

ゴロツキ「けっ! これに懲りたら二度と俺の目の前に現れるんじゃねえぞ」ペッ

村人A(くっ……身体が重い。そういえば、ここ数日何も食べていなかったな……)

その時、ふとある考えが思い浮かんだ。

363: 2012/12/04(火) 14:31:18.88 ID:4BCi+PlG0
村人A「ああ、そうだ。氏ねば俺は誰からも手出しされずに彼女をずっと見守っていられるじゃないか。なんで、こんな簡単なことに今まで気がつかなかったんだろう」

その結論を出してしまってからの行動はすぐだった。近くにあった割れて尖った石片を拾い、胸の前に構える。

村人A「彼女は、永遠に俺が見守り続ける」フフッ、アハハハハ!

グサッ!

こうして、狂気をその身の内に秘めた一人の観察者は氏んだ。氏してなお、彼の追い求める少女を追いかけ続けるために……。

エルフ「……そ~っ」男「こらっ!」 side story 「ある男の狂気」

364: 2012/12/04(火) 14:32:47.81 ID:4BCi+PlG0
今回はここまでで。次はエルフと男の喧嘩話になります。

367: 2012/12/04(火) 16:54:34.46 ID:4BCi+PlG0
先ほど今回の分はここまでと書いていましたが、今日はまだ時間があるので残っているお話を時間の許す限り更新しようと思います。
その代わり、結構文の量が多くなってしまいますがその点はご勘弁を。
現在残っているお話を挙げさせていただくと、

エルフと男の喧嘩話。
女魔法使いとエルフの話。
騎士たちのお話で、全ての過去編が終わったあとから男がエルフと結婚するまでの間にある大きな戦い(予定)に繋がる話。
エルフの過去話。
男の過去編~少年編~
男の過去編~喪失編~(途中)

となっております。これらすべてを載せ終えたら本当にゆっくりペースですが更新していこうと思っています。

368: 2012/12/04(火) 17:01:37.87 ID:4BCi+PlG0
エルフ「……男さんが言ってた、新しいおうちってここのことなのかな?」コソコソ

エルフ「うわぁ。前よりも大きくて、中も綺麗……。でも、やっぱり前のおうちの方がよかったな……」シュン

男「……」ジーッ

これは、エルフと男がある日の出来事をきっかけに喧嘩をし、仲直りをするまでを描いた物語である。

369: 2012/12/04(火) 17:02:03.67 ID:4BCi+PlG0
――数日前――

エルフ「お、と、こ、さ~ん」ボフッ

男「こら、エルフ。またそうやって急に抱きついてきて……」

エルフ「えへへ~すみません」ニコニコ

男「そうやって言葉だけ謝ったって駄目だぞ。全く……」ハァ

ガタガタ、ガタガタ

エルフ「? 今日はやけに風が強いですね……」チラッ

男「そうだな。雲行きも怪しいし、これはもしかしたら一雨来るかもしれないな。エルフ、今のうちに洗濯物を中に仕舞っておこうか」

エルフ「はい、わかりました!」トテテテテ

ギィィ、パタン

370: 2012/12/04(火) 17:02:33.21 ID:4BCi+PlG0
ブワッ、ビュ~ッ

エルフ「あわわ、これはすごい強い風です。洗濯物も上下に大きく揺れて、今にも吹き飛ばされそうです。急いで仕舞わないといけません……」イソイソ

エルフ「よいしょ、よいしょ」アセアセ

ギィィ、パタン

エルフ「ふう。どうにか雨が降る前に全部取り込むことができました。一安心です」エッヘン

男「お疲れ、エルフ。今家の窓を全部閉めてきたから、これで雨が降ってきても大丈夫だよ」

371: 2012/12/04(火) 17:03:05.01 ID:4BCi+PlG0
エルフ「男さん、ありがとうございます。それじゃあ、私は今から取り込んだ洗濯物を畳んでいきますね」

男「そう、それじゃあ、僕は料理を……」

エルフ「駄目です! 男さんはのんびりしててください! 料理は私が洗濯物を畳んでから作りますから」

男「でも、二人それぞれで別のことをやっていれば効率的だし、ご飯を食べる時間も早くなるよ?」

エルフ「それでも、です! だって、その。私の作った料理を……男さんに食べてもらい……」ゴニョゴニョ

男「えっと、エルフ? ごめん、最後の方声が小さくて聞こえなかったんだけど」

エルフ「と、に、か、く! 料理は私が作るので、男さんはゆっくり休んでいてください」グイグイ

男「もう……わかったよ。それじゃあ、お言葉に甘えてゆっくりさせてもらうよ」

エルフ「はい!」パァァ

372: 2012/12/04(火) 17:03:40.72 ID:4BCi+PlG0
ポツ、ポツ ザァァァァ

男「あ~。やっぱり雨降って来ちゃったな……」ジーッ

エルフ「そうですね~。しかも今日は風もすごく強いので外は酷い様子です」ジーッ

男「この家もだいぶ古いからな……。これだけ雨風が強いともしかして雨漏りとかするかもしれないな……」

エルフ「大丈夫ですよ! 今までだって強い雨の日は何度もありましたけど一度だって雨漏りしたことありませんでしたから!」

男「う~ん、確かにそうなんだよね。まあ、なんにも起こらなければいいけど……」


373: 2012/12/04(火) 17:04:08.88 ID:4BCi+PlG0
エルフ「それよりも、男さん。今はなんの本を読んでいるんですか?」

男「これかい? これは娯楽小説だよ。少し前に都市部で流行っていたもの流れの商人が売りに来てたから買ってきたんだ」

エルフ「へえぇ。面白いんですか?」

男「うん、面白いよ。読み終わったらエルフに貸してあげるよ」

エルフ「あ、ありがとうございます!」ニコッ

374: 2012/12/04(火) 17:04:55.21 ID:4BCi+PlG0
ザァァァァ、ガタガタ ガタガタ

男「……」パラパラ

エルフ「……」チラッ、チラッ

男「……」ジーッ

エルフ(男さん、読書に集中していますね。本を読んでる姿も様になってかっこいいです……なんて)テレテレ

エルフ(……隣で洗濯物畳んでいても気づかないですよね。集中しているみたいですし)コソコソ

エルフ「……」コソコソ スタッ

エルフ「……」タタミ、タタミ

エルフ「えへへ~」


375: 2012/12/04(火) 17:05:30.83 ID:4BCi+PlG0
……



トントン、コトコト

ジュ~ッ グツグツ

エルフ「~~♪」ニコニコ

男「エルフ、何か手伝おうか?」

エルフ「いえ、結構です! ここは私にとっての聖域。たとえ男さんであろうとも軽々足を踏み入れさせるわけにはいきません」キッパリ

男「そ、そうか……。それじゃあ仕方ないな。素直に待っておくよ」

エルフ「そうしていただけるとありがたいです。料理のほうはもう少ししたらできますから待っててくださいね!」

男「うん、楽しみにしてるよ」ニコッ

エルフ「~~♪」ニコニコ


376: 2012/12/04(火) 17:06:06.75 ID:4BCi+PlG0
……



男「ごちそうさま~。きょうの料理も美味しかったよ」

エルフ「ありがとうございます。完食していただけるのが作った身としては一番嬉しいです」

男「さて、さすがに洗い物くらいはやるよ。いつもエルフに任せてばかりなのも悪いしね」

エルフ「それじゃあ、一緒にやりましょう!」

男「うん、いいよ」

377: 2012/12/04(火) 17:06:33.56 ID:4BCi+PlG0
ジャブ、ジャブ キュッ、キュッ

ザァァァァ、ガタガタ

男「うん、これでよし。さて、一度部屋に戻るとしようかな……」テクテク

エルフ「私も、ちょっと今日の日記を書くので戻ります」テクテク

テクテク、テクテク

男「……あれ?」

エルフ「あっ……」

378: 2012/12/04(火) 17:07:09.43 ID:4BCi+PlG0
ピチャッ、ピチャッ

男「雨漏り……してるな」ジーッ

エルフ「それも、結構な量ですね……」ジーッ

男「まさか、部屋も?」

エルフ「それは……ないんじゃないですか?」

ギィィ、パタン

379: 2012/12/04(火) 17:07:38.72 ID:4BCi+PlG0
ギィィ、パタン

男「!」

エルフ「!」

男「これは……」

エルフ「ひどいです」

ピチャッ、ピチャッ、ピチャピチャッ

380: 2012/12/04(火) 17:08:10.40 ID:4BCi+PlG0
……



男「さて、問題が発生した」

エルフ「はい」

男「現在、二階は雨漏りのせいで水が滴り落ちてきている状態だ。一階はまだ大丈夫だから避難してきているけれど、雨漏りの被害が大きすぎて防ごうにも防ぎきれない」

エルフ「原因はやっぱり……」

男「うん、建物の老朽化。まあ、僕がこの家に来たときもだいぶボロボロだったけど、さすがに限界が来たみたいだな~」

381: 2012/12/04(火) 17:08:39.74 ID:4BCi+PlG0
エルフ「えと、それでこれからどうするんですか?」

男「ひとまず二階にあるもので、手で運べる物を一階に持ってくる。特に僕の部屋なんて濡らしたら駄目になっちゃう書物が沢山あるからね」

エルフ「了解しました」トテテテテ

ヨイショ、ヨイショ

男「よし、ひとまず絶対に確保しておくべきものは全部運んで来れた」

エルフ「明日にはこの雨も止みますかね……」


382: 2012/12/04(火) 17:09:06.04 ID:4BCi+PlG0
男「どうだろうね、それよりも二階の後始末のことを考えないとな……。それに、雨が止んだあとの補修とか……」

エルフ「ひとまず、今日は寝ましょうか」

男「そうだね」

383: 2012/12/04(火) 17:09:33.38 ID:4BCi+PlG0
……



チュン、チュン

男「……ふぁ。朝……か。雨は、止んだみたいだな」チラッ

エルフ「……」スースー

男「エルフのやつはまだ寝ちゃってるみたいだな。もう少し寝かせておいてあげようか」テクテク

テクテク、テクテク

384: 2012/12/04(火) 17:10:08.80 ID:4BCi+PlG0
男「うわぁ~。思っている以上に水浸しになってるな……」

男「こりゃ、床に使っている木とか天井に使われている木が駄目になってそうだな……」ウーン

男「一度、建築の親方の元を訪れてみようか」テクテク

男「さて、一階に戻ったもののまだエルフは寝てるな」フフッ

男「いつも頑張ってくれてるし、たまには僕が料理を作ってあげるかな」


385: 2012/12/04(火) 17:10:34.33 ID:4BCi+PlG0
――朝食――

エルフ「いただきます!」ハムッ、モグモグ

男「どうぞ……って、もう食いついてるのね」

エルフ「しゅみまふぇん、おとこふぁん、ちょうひょふをつふっていただひて」モグモグ

男「行儀が悪いぞ、エルフ。ちゃんと口の中の物をなくしてから話すように」

エルフ「……すみません。でも、男さんに食事を作ってもらったのが嬉しくて」

男「昨日だって作ろうとしたじゃないか」

386: 2012/12/04(火) 17:11:48.91 ID:4BCi+PlG0
エルフ「あれはもう私が台所に入っていたので駄目ですよ。そうじゃなくて、朝起きて男さんが料理を作って私を待ってくれていたのが嬉しかったんです」テレテレ

男「……それって前に読んだ娯楽小説にあったようなシーンだね」

エルフ「ギクッ!? そ、そんなことないです。男さんから借りた小説を読んで、こんな風な朝があったらいいな~って思ってなんていません」

男「まあいいや。それよりも今日は建築業の職人さんの所に行くとするよ」

エルフ「私はお留守番していたほうがいいですかね」

男「いや、別に好きにしていていいよ。この間会ったおじいさんのところに行ってきたらどうだ? あの人は感じもよさそうだったし、エルフのこと差別してなかったし」

エルフ「……でも、男さん一人に任せるのは心苦しいです」シュン

男「気にしない、気にしない。それよりも、朝食が冷めないうちに食べちゃおうか」

エルフ「は~い」

387: 2012/12/04(火) 17:12:14.26 ID:4BCi+PlG0
……



エルフ「では、男さん。出かけてきますね!」ブンブン

男「はいはい。あんまり夜遅くまで遊んで来ないようにね」

エルフ「も~。いつまでも子供扱いして! ちゃんと、帰ってきますよーだ」トテテテテ

男「……ふう。とりあえずエルフも出かけたことだし、僕の方も職人のところに行こうか」テクテク

……スッ

388: 2012/12/04(火) 17:12:54.36 ID:4BCi+PlG0
男「……この家も、思えば色々あったな」ジーッ

旧エルフ『……はじめ、まして。よろしく、お願いします』

旧エルフ『男さん、きょうの料理の出来具合はどうですか? お口に合ってます?』

旧エルフ『ほら、天気がいいんですからそんな部屋に引きこもってばかりいないで散歩とかしましょ。きっと気持ちいいですよ~』

男「本当に……」スッ

テクテクテク

389: 2012/12/04(火) 17:13:22.17 ID:4BCi+PlG0
――建築屋――

親方「らっしゃい。今日はどんな用で?」

男「いや、実は昨日の大雨で雨漏りがひどくて。補修しようにも素人が手を加えてもロクなことにならないと思ってね。それと、できれば一度家の状態を確認してもらおうかなと……」

親方「なるほどな。よし、わかった。ちょいと待っててくれ。すぐに準備をするから」

男「ああ。よろしく頼むよ」


390: 2012/12/04(火) 17:14:09.08 ID:4BCi+PlG0
――老紳士の店――

エルフ「おじいさ~ん」ギィィ、パタン

老紳士「おや、エルフさん。今日はどうしたんですか?」

エルフ「今日はですね、おじいさんのところに遊びにきました!」パンパカパーン

老紳士「これは、これは。嬉しいですね、このような年寄りの元を訪れてくれるだなんて」

エルフ「そんな……私が好きで来ているんですから! それに、私おじいさんとお話するの楽しいですよ」

老紳士「ありがとうございます。そうだ、さっき焼き菓子を買ってきたんだけどよかったら一緒に食べませんか? 私一人で食べるには少々量が多くて……」


391: 2012/12/04(火) 17:14:35.33 ID:4BCi+PlG0
エルフ「いいんですか?」

老紳士「ええ。一人で食べるよりも二人で食べたほうが美味しさも増しますしね」

エルフ「じゃあ、お言葉に甘えて……」

老紳士「では、そこの椅子に座って待っていてください。すぐに紅茶とお菓子を持ってきます」スタスタ

エルフ「とりあえず、おじいさんが来るまで待っていましょう」テクテク ポフッ

エルフ「それにしても、おじいさんのお店古そうな品物が一杯ありますね。これが俗にいう骨董品というものでしょうか……」キョロキョロ

エルフ「う~ん。何がなんだかさっぱりです」

392: 2012/12/04(火) 17:15:16.66 ID:4BCi+PlG0
老紳士「どうかしました?」

エルフ「あ、おじいさん」

老紳士「どうぞ、紅茶は少し熱いかもしれないのでお気をつけて」

エルフ「ありがとうございます。あの、ちょっとおじいさんに聞きたいことがあるんですけれど、いいですか?」

老紳士「なんですか?」

エルフ「このお店に置いてある物ってずいぶん古いものですよね。どうして、こんな古いものばかり置いているんですか?」

393: 2012/12/04(火) 17:15:44.07 ID:4BCi+PlG0
老紳士「ああ、そのことですか。確かにここに置いてあるものは古い家具だったり小物ばかりですよね」

エルフ「はい」

老紳士「これらは、今ならもっと使いやすくて強度のあるものがきっと市場に出ていると思います。ですけど、中には多少不便であったとしても昔の物を使いたがる人がいるんですよ。
 私がこの店にこうした古いものを置いているのは、そういった人たちに、これらの品物を提供できたらよいなと思っているからなんです」

エルフ「う~ん、ちょっとよくわからないです」

老紳士「少し話が難しかったかもしれませんね。エルフさんももう少し大人になったらわかると思いますよ」クスッ

エルフ「そういうものなんでしょうか……」

老紳士「そうですね。さて、今なら紅茶もだいぶ飲みやすい温かさになっているでしょう。今日はゆっくりしていってください」

エルフ「はい! では、いただきますね」

394: 2012/12/04(火) 17:16:46.91 ID:4BCi+PlG0
老紳士「ああ、そのことですか。確かにここに置いてあるものは古い家具だったり小物ばかりですよね」

エルフ「はい」

老紳士「これらは、今ならもっと使いやすくて強度のあるものがきっと市場に出ていると思います。ですけど、中には多少不便であったとしても昔の物を使いたがる人がいるんですよ。
 私がこの店にこうした古いものを置いているのは、そういった人たちに、これらの品物を提供できたらよいなと思っているからなんです」

エルフ「う~ん、ちょっとよくわからないです」

老紳士「少し話が難しかったかもしれませんね。エルフさんももう少し大人になったらわかると思いますよ」クスッ

エルフ「そういうものなんでしょうか……」

老紳士「そうですね。さて、今なら紅茶もだいぶ飲みやすい温かさになっているでしょう。今日はゆっくりしていってください」

エルフ「はい! では、いただきますね」

395: 2012/12/04(火) 17:17:26.25 ID:4BCi+PlG0
――自宅――

男「どう……です?」

親方「あ~。こりゃ、ちょっと駄目かもしれないな。所々支えに使われてる木が腐り出してる。こりゃ、家を建て直すか引っ越したほうがいいと思うぞ」

男「そうですか。ちなみにどっちのほうが費用は安くすみますかね」

親方「そりゃ、引っ越したほうがいいだろうな。知り合いに空き屋を紹介している奴がいるから、よかったら話をつけておいてやろうか?」

男「そうですね……。お願いしてもらってもいいですか?」

親方「おう、任せておけ」

男「……引越し、か」ジーッ

親方「兄ちゃん、どうかしたのかい?」

男「いえ、何でもありません」スッ

旧エルフ『男さ~ん』

男(別れを告げなきゃいけない時が来たのかな……)

396: 2012/12/04(火) 17:18:05.95 ID:4BCi+PlG0
……



エルフ「ただいま帰りました~」

男「おかえり、エルフ。どうだった……って聞くまでもないか」

エルフ「えへへっ。すっごく楽しかったですよ! おじいさんと色々とお話をして、私の知らないことをたくさん教えてもらえました」

男「そっか、よかったね。それでね、ちょっと話したいことがあるんだけどいいかな?」

エルフ「……? どうか、したんですか?」テクテク ポフッ

397: 2012/12/04(火) 17:18:32.53 ID:4BCi+PlG0
男「んとね、エルフ。今日ね、職人さんにこの家を見てもらったんだけど、どうもこの家は限界みたいなんだって」

エルフ「どういうことです?」

男「つまりね、この家を支えている木が幾つか駄目になっちゃってて、このまま放置してるとよくないんだって。だから、家を新しく建て直すか、引っ越すかのどちらかを早いうちにしたほうがいいみたい。まあ、どっちにしても一度この家を出ないといけないんだ」

エルフ「なるほど、わかりました」

男「それでね、僕はこの家から引っ越して新しい家を探そうと思っているんだけど、エルフはどう思うかな?」

エルフ「あ、はい。それは構わないんですけれど、そうなるとこの家はどうなるんですか?」

398: 2012/12/04(火) 17:19:01.30 ID:4BCi+PlG0
男「たぶん、一度壊されて更地になっちゃうんじゃないかな」

エルフ「えっ!? 男さんは、それで……いいんですか?」

男「……仕方ないよ。この家の寿命が来たんだって思うしかないし。それに、書庫も狭くなってきたし、新しい家に移るのはいいかな……って」

エルフ「だって、ここは旧エルフさんと一緒に過ごした場所ですよね? それなのに、いいんですか?」

男「いつまでも、彼女のことを引きずってるわけにもいかないさ。それに、今の僕にはエルフがいるよ」

エルフ「……」

399: 2012/12/04(火) 17:19:40.39 ID:4BCi+PlG0
エルフ(男さん、ずっと私の目を見ないで話してる。きっと、この家から移るのは本心じゃないんだ)

男「……エルフ?」

エルフ「本当に、本当に……男さんはそれでいいんですか?」

男「……だから、僕はいいって……」

エルフ「私の目を見ていってください。今の私には、男さんが無理しているようにしか見えません」

男「無理なんて……」

400: 2012/12/04(火) 17:20:06.50 ID:4BCi+PlG0
エルフ「男さん!」

旧エルフ『男……さん』

男「……っ!?」ドキッ

男「僕は、いつまでも旧エルフのことを引きずるわけにはいかないんだよ……。じゃなきゃ、彼女に対して申し訳ないんだ!」テクテク

ギィィ、パタン

エルフ「男……さん」

401: 2012/12/04(火) 17:20:58.22 ID:4BCi+PlG0
……



男「……はぁ、やっちゃった。八つ当たりなんて、大人げないな……。エルフ、今頃怒ってるかな? いや、あの子のことだから、ショックを受けちゃってるかもな」ハァ

男「エルフの言うこともわかるけど、僕はもうそろそろ旧エルフのことを引きずるのは終わりにしないといけないんだ。それが、彼女を幸せにできずに氏なせて、今エルフと共に生きることを選んだ僕の責任だから……」

男「あの家には彼女との思い出がたくさんありすぎる。あそこにいたらどうしたって彼女のことを思い出してしまう。それは、エルフにも旧エルフにも失礼だ」

男「だから、僕は……」

男「ねえ、旧エルフ。僕は、間違っているのかな? こうして、君を置いて先へ進んでいくこと。それでいて、君のことを忘れられずにいるのは……」

402: 2012/12/04(火) 17:21:26.01 ID:4BCi+PlG0
……



チュンチュン、チュンチュン

男(結局、悩んだまま街をふらふらして帰ってきたのは朝、か。エルフのやつ怒ってるよな……)

男「ただいま……」ギィィ

男「……エルフ?」テクテク

男「いないや。もしかして、まだ寝てるのかな。……ん?」パラッ

男「これは、手紙?」

403: 2012/12/04(火) 17:22:18.53 ID:4BCi+PlG0
エルフ『男さん。私はやっぱり、昨日の男さんの意見は納得いきません。話を聞いていて、私には男さんが無理に旧エルフさんを忘れようとしているように思えました……。
 私は旧エルフさんに会ったことはありませんけど、旧エルフさんの日記を読んで、あの人が男さんと、この家での生活をどれだけ大事にしていたのかは少しは分かっているつもりです。
 だから、たとえ一度この家が取り壊されることになっても、私は男さんにこの家を離れて欲しくないです。だって、この場所が男さんと旧エルフさんが過ごしてきた日々の証なんですから。
 だから、男さんがもう一度考えて結論を出してくださるまで、私はこの家に帰らないことにしました。
 我が儘を言ってすみません。でも、男さん。もう一度、もう一度考えてみてください』

男「エルフ……。これじゃ、家出にならないぞ」

男「エルフが行きそうなところは一つしか思い当たらないし、この手紙に書かれている通りしばらく一人で考えてみようかな」

404: 2012/12/04(火) 17:23:50.84 ID:4BCi+PlG0
男「……」キョロキョロ

男「そういえば、この家に来た時はまだ、僕一人だったんだよな……」シミジミ

男「それからしばらくして旧エルフを買って。最初は彼女暗くって、全然話さなくて苦労したっけ。僕もまだエルフを受け入れられるような心持ちじゃなかったから、嫌なことをしょっちゅう言って……」

男「しばらくして、旧エルフが明るくなって、そんな彼女に惹かれて。でも、結局別れることになって。エルフが来るまでだいぶ荒れた生活をしてきたよな~」

男「こうやって思い返してみると、ある意味この家ってずっと僕の傍にいてくれたんだよな」

男「僕が荒れてた時も、喜んできた時も、悲しんでいた時もずっとこの家が帰ってくる場所だったってことか」

男「……」

男「……どうするべきなんだろうな、僕は」ハァ

405: 2012/12/04(火) 17:28:12.32 ID:4BCi+PlG0
――数日後――

男「さて、結論も出たしエルフのやつを迎えに行かないとな」

男「こっそり様子を見に行ったけど、元気そうにしててよかった。あのおじいさんも優しくしてくれているし、今度一度お礼にいかないとな」

男「……これでいいんだよな」チラッ

シーン

男「……ふふっ」

ギィィ、パタン

406: 2012/12/04(火) 17:28:40.33 ID:4BCi+PlG0
――老紳士の店――

エルフ「おじいさん、おじいさん。この品物はどこに置けばいいですか?」

老紳士「それは、あちらに置いてください。それよりも、エルフさん。別に無理して手伝わなくてもいいのですよ」

エルフ「いえ、無理を言ってこちらに身を置かせてもらっている以上、これくらいの手伝いはさせてください。でないと、申し訳なくて……」

老紳士「そうですか。私は別に何もしないでもエルフさんが頼ってくれているだけで嬉しいんですがね……」

エルフ「でも、でも。やっぱり手伝いたいのでやらせてください。私、こういったお仕事手伝うのやっていて楽しいですし」

老紳士「ふむ……。なら、そのご好意に甘えさせていただきますね。おや?」

エルフ「? ……あっ」

407: 2012/12/04(火) 17:31:28.71 ID:4BCi+PlG0
男「どうも、こんにちは」

老紳士「男さん。話はエルフさんから聞いていますよ。それで、もうよろしいのですか?」

男「ええ。エルフがお世話になりました。今回のお礼にはまた後日現れますので」

老紳士「いえ、そんな。私としても楽しいひと時を過ごさせていただきましたので。ほら、エルフさん」

エルフ「あ、はい。……あの、男さん」

男「エルフ、行くよ」

エルフ「えっと、どこへ?」

男「それは、新しい僕たちの家に……だよ」


408: 2012/12/04(火) 17:32:25.20 ID:4BCi+PlG0
……



男「えっと、そろそろ着くと思うけれど。エルフ、ちょっとこの辺りに庭のある家があるはずだから探してみて」

エルフ「はい」テクテク

エルフ「……」テクテク

エルフ「……あっ! あれ、かな?」

エルフ「……男さんが言ってた、新しいおうちってここのことなのかな?」コソコソ

エルフ「うわぁ。前よりも大きくて、中も綺麗……。でも、やっぱり前のおうちの方がよかったな……」シュン

男「……」ジーッ

409: 2012/12/04(火) 17:33:01.47 ID:4BCi+PlG0
男「やっぱり、エルフとしては前の家がよかった?」

エルフ「……はい」

男「そっか。実はね、まだ言っていなかったんだけどここに住むのはちょっとの間だけなんだ」

エルフ「えっ!? それって……」

男「うん。前の家を一度建て直してもらうことにしたんだ。もちろん内装も出来る限り似せてもらってね。色々考えたけど、これが一番いいかなって思って……」

エルフ「男……さん」パァァッ

男「えっと、ね。あの手紙なんだけどさ、エルフの正直な意見を書いてくれて実は嬉しかったんだ。エルフって普段あんまり自分の意見言わないし。それに、旧エルフのことも考えてくれて……。
 もう旧エルフはいないけれど、確かにあの家は彼女と過ごした思い出が詰まってたから。
 でも、本当にいいの? あの家を残すってことは僕はまた旧エルフとのことを引きずっちゃうかもしれない。いや、多分一生引きずることになるかもしれないよ。
 それは、エルフに嫌な思いをさせるかもしれないってことだよ」


410: 2012/12/04(火) 17:33:49.21 ID:4BCi+PlG0
エルフ「構いません。不謹慎な言い方かもしれないですけど旧エルフさんがいてくださったからこそ、今の男さんや私がいるんです。
 男さんが旧エルフさんのことを一生引きずったとしても、それは男さんにとっても、私にとっても大事な思い出の一部なんです。
 だから、私はこれからもあの家で男さんと一緒に過ごしていきたいです」ニコッ

男「……そっか。ありがとう、エルフ。そうだ、この家に荷物を移す前にさ、二人で旧エルフのお墓に行こっか。今回のことを報告しに、さ」

エルフ「はい、男さん!」

 かくして、二人のちっぽけな喧嘩は終わり、再び時は流れゆく。男は旧エルフとの過去を引きずり、それでもなおその過去を含めて彼の全てを受け入れるエルフと共に。

 ほんの僅かな時を別の場所で過ごし、再びあの家に戻るその日まで。


エルフ「……そ~っ」男「こらっ!」 after story 二人のちっぽけな喧嘩 ――完――

412: 2012/12/04(火) 17:39:31.96 ID:4BCi+PlG0
ひとまず、これでエルフと男の喧嘩話は終わりです。次は女魔法使いとエルフの話になります。

413: 2012/12/04(火) 17:40:20.41 ID:4BCi+PlG0
>>411
ありがとうございます。続きも頑張ります!

414: 2012/12/04(火) 17:44:27.28 ID:4BCi+PlG0
これは、まだ男とエルフが仮の家にいる時のお話。天敵との出会いと、彼らとの和解を描いた物語。

チュン、チュン チュン、チュン

エルフ「ふ……ぁぁああああ。よく寝ました。今日の天気もいいですね! こう天気がいいと、一日のやる気も自然と湧いてきます」ノンビーリ

エルフ「さて、朝食を作らないといけませんね。そ、の、ま、え、に……」コソコソ

ギィィ、バタン


415: 2012/12/04(火) 17:45:33.59 ID:4BCi+PlG0
エルフ「男さ~ん。朝ですよ~。……返事がないですね、まだ寝ているみたいです」ニヤッ

エルフ「こっそり、こっそり。男さんのベッドにちょっとだけ……えいっ!」モゾモゾ

エルフ「男さ~ん」ギュッ

エルフ「……!」

エルフ「男……さん?」

男「うぅ……。熱い……」

エルフ(男さんの身体、とても熱いです。これは、もしかして……)

416: 2012/12/04(火) 17:46:00.04 ID:4BCi+PlG0
男「……ぁ、エルフ……。おは……よう」

エルフ「大変です! 男さん、熱があります!」アワアワ

エルフ「ひとまず、どれくらいの熱なのか確かめないと……」ピトッ

エルフ「うわぁ……。すごい熱いです、どうにかしないと……」

男「うぅっ……」

エルフ「男さん、待っていてください。すぐに水袋を用意してきますから!」トテテテテ


417: 2012/12/04(火) 17:46:28.70 ID:4BCi+PlG0
……



男「ごめん……どうも熱がでた……みたいだ」ウウッ

エルフ「男さん、大丈夫ですか?」ウルウル

男「うん……ちょっと、ふらつくけど大丈夫だよ。それよりもエルフ……ちょっと買い出しを頼まれてくれないか……」

エルフ「なんですか? 無理しないで、どんどん頼ってください! 私、なんでもしますから」

418: 2012/12/04(火) 17:47:31.52 ID:4BCi+PlG0
男「ありがとう……。それじゃあ、今メモを書いたからそこに書かれている物を買ってきてくれ……。買うのが無理そうなら……悪いけどおじいさんに頼んで買ってもらってきてくれ」

エルフ「わかりました! 今すぐに買ってきます!」トテテテテ

男「ふぅ……行ったか。大丈夫……かな?」

男「それにしても、熱が出るなんて……。ホント、参ったなぁ……」

419: 2012/12/04(火) 17:49:01.02 ID:4BCi+PlG0
――街中――

女魔法使い「困りました……先生のいたはずの家が取り壊されています」

女騎士「本当にここだったの? もしかしたら、記憶違いってことかもしれないじゃないか。ここには一回しか来てないんでしょ?」

女魔法使い「たとえ一回でも、私が先生に関することを忘れるわけがありません。絶対にここは先生の家でした!」

女騎士「そ、そう? まあ、女魔法使いが男に関することを間違えるとは私も思ってないけどさ……」

女魔法使い「もしかしたら引越しをしたのかもしれませんね。これは情報収集するしかありませんね」


420: 2012/12/04(火) 17:49:45.99 ID:4BCi+PlG0
女騎士「ねえ、なにも今日中に会わないといけない理由はないし、一度宿に行ったらどう? 女魔法使い、ここに来るまで何度もバテてたじゃない」

女魔法使い「確かにそうですが、先生がいる街に来たので、私の疲れはもうありません。ああ、先生。待っていてくださいね、今会いに行きますから……」

女騎士「駄目だ、こりゃ。本当に女魔法使いは男が絡むと見境がなくなるよ」ハァ

女魔法使い「いざ、先生の元へ。です!」

421: 2012/12/04(火) 17:50:33.31 ID:4BCi+PlG0
……



男(うぅっ……熱い……寒い)ガタガタ

男(エルフのやつ、大丈夫かな……。ちゃんと買い物できてるかな……。いざとなったら、おじいさんが買ってきてくれるだろうけど……)ボーッ

男(ダメだ……熱のせいで、うまく考えがまとまらない……。今はエルフが帰ってくるのを待つしかないか……)

ギィィ、バタン

男(あ……扉の開く音。エルフのやつ、帰ってきたのか? それにしては……だいぶ早くないか……)

422: 2012/12/04(火) 17:52:09.46 ID:4BCi+PlG0
?「本当に、ここなの? ノックしても誰も返事しなかったけど。それに、他の人の家だったら勝手に入るのはイケナイ事だぞ」

?「ここで間違いありません。何人もの人に聞いたんですから。きっと今はどこかに出かけているんでしょう」

?「それにしたって、家主がいない家に入るのはやっぱり駄目だ。素直に外で待っていよう」

?「女騎士さんは心配症ですね。ここは先生の家で違いないんです。少しくらい待たせてもらっても問題はないですよ。だいたい、そんなことを言うような浅い関係でも私たちはないはずですよ?」

?「なっ!? 心配症で何が悪いんだ。だいたい、親しき仲にも礼儀ありと言うだろう。女魔法使いは少し非常識だぞ」

423: 2012/12/04(火) 17:52:39.67 ID:4BCi+PlG0
?「いいですよ、じゃあ女騎士さんは一人で外で待っててください。そもそも、何で今回の訪問に付いてきたんですか? 軍の方って忙しいんじゃありませんでしたっけ?」

?「そ、それは……。べ、べつにいいだろう、私が男の家を訪れたって。戦友なんだし……。そもそも私一人だけが男の家を訪問していないのは不公平だ! みんな勝手に男の元を訪れて……」

?「別に勝手に来たっていいじゃないですか! だいたい、私は騎士さんが止めていなかったらもっと早く先生の元を訪れてました!」

?「私だってそうだ!」

アーダコーダ アーダコーダ

男(頭に響く……。誰だよ、一体……)ムクリ

424: 2012/12/04(火) 17:54:01.03 ID:4BCi+PlG0
ギィィ、バタン

フラフラ フラフラ

男「……誰?」

女魔法使い「! 先生! ほら、やっぱりいたじゃないですか!」

女騎士「確かに、いたけど。男の奴ちょっと様子がおかしくないか?」

女魔法使い「えっ……?」ジーッ

男「あれっ? 女騎士……それに女魔法使い。どうして……ここに?」フラフラ

女騎士「お、おい、男……」ダキッ

425: 2012/12/04(火) 17:54:30.30 ID:4BCi+PlG0
男「あ……ごめん」

女騎士「うわっ! 凄い熱だ。お前、こんな状態で何してるんだ!?」

男「なにって……うるさかったから……」

女魔法使い「先生、体調悪いんですか?」アワアワ

女騎士「ああ、熱もあるし寝かせておいたほうが良さそうだ」ヨイショ

男「あう」

426: 2012/12/04(火) 17:55:17.00 ID:4BCi+PlG0
女騎士「このままベッドまで運ぶぞ。部屋がわからないから案内してくれ」

男「わかった……ごめん、女騎士」

女騎士「気にするな。友人として当たり前のことをしているだけだ」テクテク

女魔法使い「先生、大丈夫ですか、先生?」オロオロ

女騎士「頼むから、女魔法使いは少し黙っててくれ」ハァ

427: 2012/12/04(火) 17:55:43.16 ID:4BCi+PlG0
――男の自室――

男「ごめん……な……二人とも」

女騎士「気にするな、困ったときはお互い様だ。それよりも、お前こんな状態になってるのに一人で生活していたのか?」

女魔法使い「先生、先生……」オロオロ

女騎士「とりあえず、女魔法使いは話の邪魔だから部屋の隅っこにいっててくれ」

女騎士「まったく、素直に誰かに頼ればいいものの。そういうことが苦手なのは昔から変わっていないな」

男「いや、そんなこと……」

428: 2012/12/04(火) 17:56:33.03 ID:4BCi+PlG0
女騎士「なんだ? もしかして、誰か頼る相手がいるのか……?」ジーッ

男(……あっ。しまった、エルフのことについては騎士しか知らないんだった……。不味い……このままじゃ二人とエルフが鉢合わせしちゃう……)

男「あの……女騎士……」

女騎士「ん? どうした?」

男「ちょっと……話しておかなきゃならないことが……」

ギィィ、バタン

エルフ「男さ~ん。今帰りましたよ~」

429: 2012/12/04(火) 17:57:33.93 ID:4BCi+PlG0
女騎士「あっ? 誰か帰ってきたみたいだね。それにしても、この声女の子の……」

男(くそっ……このタイミングで……。どうにかしないと……)

女魔法使い「あ、私が様子を見てきます」テクテク

男「まっ……」

女騎士「まあ、まあ。そんなに無理しない。男の客なら女魔法使いも無下にはしないさ」

男「ちがっ……」

女騎士「なに? もしかして、女魔法使いに会わせたくない相手だったの? ふ、ふ~ん。もしかして、今訪れた子……」

430: 2012/12/04(火) 17:58:11.20 ID:4BCi+PlG0
女魔法使い「な、な、な! なんでエルフがこの家に! 汚らわしい一族! お前のようなものがこの家に土足で踏み込んでいいと思ってるの!」ドカッ

エルフ「キャッ……。うぅ、怖いです。何なんです、急に……。あれ、あなた前に男さんといた……」

女魔法使い「喋るな、見るな、息をするな。お前たちみたいな存在がまだ生き残っているなんて……。私が今すぐに息の根を止めてやる!」

男「……っ! エルフ!」ダッ

女騎士「あっ! おい、男っ!」タッタッタッ

431: 2012/12/04(火) 17:59:09.19 ID:4BCi+PlG0
女魔法使い「氏になさい!」

男「待て! 女魔法使い」ダキッ

女魔法使い「せ、先生!? 離してください、どうして止めるんですか!」ジタバタ

男「その子は、その子はな……」

エルフ「男さんっ!」ギュッ

女魔法使い「あ、お前……。気安く先生に触るんじゃない!」バッ

男「うっ……」ドカッ

432: 2012/12/04(火) 17:59:39.66 ID:4BCi+PlG0
エルフ「あっ!」

女魔法使い「えっ……」

男「……」フラフラ

パタッ

エルフ「男さん! おとこさんっ……」ウルウル

女魔法使い「そ、そんな……。わた、わたし……そんなつもりじゃ」オロオロ

女騎士「いったい……これはどういう状況なんだ?」

433: 2012/12/04(火) 18:00:06.54 ID:4BCi+PlG0
……



男「ぅ……ぅう」パチッ

女騎士「あ……男。目が覚めたのか」

男「女……騎士? あれ、僕は……」

女騎士「女魔法使いの一撃をくらって今まで気絶してたんだよ。まったく、呼びかけても全然反応がなかったから、少し焦ったぞ」

男「あ……そっか。僕……気絶してたのか……」ムクッ

434: 2012/12/04(火) 18:00:36.49 ID:4BCi+PlG0
女騎士「まだ寝ていた方がいい。少しは熱が下がったとはいえ、本調子にはほど遠いだろうからな。それから……一つお前に聞いておかないといけないことがあるんだが……」

男「僕も……二人に説明しておかないといけないことがあるんだ」

女騎士「それは……この家にいるエルフのことについてだな……」

男「うん……。そうだ! エルフ、エルフは大丈夫なの?」

女騎士「今のところは。といっても、女魔法使いは今すぐにでもあの子を頃したがっているけど」ハァ

男「ちょっと、それは駄目だ。あの子は僕にとって大事な存在なんだ……。だからっ!」ケホッ、ケホッ


435: 2012/12/04(火) 18:01:04.62 ID:4BCi+PlG0
女騎士「男……。だから、無理するなっていっただろ」サスリ、サスリ

男「ありがとう、女騎士……」

女騎士「い、いや……べつにこれくらいのこと……」テレッ

男「それよりも、エルフは今どうしてるの?」

女騎士「ああ……あの子は今自分の部屋で女魔法使いに睨まれて大人しくしているよ。とりあえず、今すぐにどうこうなることはないと思う」

男「そっか……」

女騎士「私は女魔法使いの様子を見ながら、話が聞けるならあのエルフの女の子から聞いてみるから、今はゆっくり休んでいろ」

男「わかった、ありがとう」


436: 2012/12/04(火) 18:01:31.59 ID:4BCi+PlG0
……



女魔法使い「……」

エルフ「……あの」

女魔法使い「……」ジロッ

エルフ「……あぅ」ビクビク

437: 2012/12/04(火) 18:02:00.49 ID:4BCi+PlG0
……



女魔法使い「……」

エルフ「……あの」

女魔法使い「……」ジロッ

エルフ「……あぅ」ビクビク

438: 2012/12/04(火) 18:02:35.16 ID:4BCi+PlG0
女魔法使い「よかっ……たぁ。先生があのまま目を覚まさなかったら、私、私……」

女騎士「安心した?」

女魔法使い「はい。先生が目を覚ましたのなら、こいつはもう始末してもいいですよね? 先生もそう言ったんでしょ?」

エルフ「……ひっ!?」ビクビク

女騎士「そのことだけど、この子に手を出すのは駄目。男にとって大事な子みたいだから」

女魔法使い「……そんなっ! だって、エルフですよ!? 私たちにとっての仇敵ですよ! なんで、そんな奴を目の前にして放置しないといけないんですか!」

439: 2012/12/04(火) 18:03:03.48 ID:4BCi+PlG0
女騎士「女魔法使い、男が手を出すなって言ってるんだから文句を言わない。それに、エルフとの戦争はもう終わったのよ。ここは戦場じゃないし、私たちもエルフだからといって好き勝手に殺せるような立場でもない」

女魔法使い「そんなの関係ありません! 甘いことを言ってエルフを放置して何か事件を起こしたらどうするんです? そのせいで誰かが殺されるようになったらどうするんです!
 私は、そんな状況が起こると想像するだけで身が震えます。だから、悪い芽は早めに潰しておかないと……」

エルフ「わたっ、私はそんなことしません!」

女魔法使い「黙ってて! 先生はどうして、あれだけエルフを憎んでいたのに……。ずっと、私と同じ気持ちでいてくれると、私のことを一番に理解してくれてるのは先生だと思ってのにどうして……」

女騎士「女魔法使い……」

440: 2012/12/04(火) 18:03:34.16 ID:4BCi+PlG0
女魔法使い「私……やっぱり納得できません。エルフと先生が一緒にいるなんてこと認められない。だから、しばらくこの街に滞在することにします」ダッ

女騎士「あっ……どこに行くつもり?」

女魔法使い「宿をとってきます。女騎士さんは私が戻ってくるまでそのエルフが先生に近づかないように見張っていてください」タッタッタッ

女騎士「……」

エルフ「……」

シーン

441: 2012/12/04(火) 18:04:20.35 ID:4BCi+PlG0
エルフ「えっ……と」オズオズ

女騎士「そんな不安そうにしなくてもいいですよ。私は女魔法使いたちに比べてエルフにそこまで嫌っていませんから」

エルフ「あ、はい。すみません……」

エルフ(この人はまだ優しそうな人だなぁ……)

女騎士「それで、聞きたいのですが、あなたは男と一緒にここで生活しているのですよね?」

エルフ「はい、そうです。私、男さんの奴隷として買っていただいて」

女騎士「そう……奴隷、ね。でも、男の口ぶりじゃそれ以上の存在として大切にされてるみたいだったけど?」

エルフ「えと、それは……」

442: 2012/12/04(火) 18:04:54.48 ID:4BCi+PlG0
女騎士「まあ、無理に話さなくてもいいわ。いざとなったら男に聞くことにするし。それと、ごめんなさい」

エルフ「えっ?」

女騎士「女魔法使いのこと。さすがに、行きすぎた行動だと思うけれど、あの子のことを知ってるだけに下手に止めるわけにもいかなくて。嫌な気分になったでしょ?」

エルフ「いえ。それは、私がエルフだから悪いのであって、別にあの人のせいではありませんから。それに、こういった扱いには慣れていますから」

女騎士「そう……」

エルフ「あの、女騎士さん……」

女騎士「なんですか?」

443: 2012/12/04(火) 18:05:21.54 ID:4BCi+PlG0
エルフ「聞かせていただけるのでしたら、なんであの人が私のことを、というよりエルフをあんなに嫌うのか教えていただけませんか?」

女騎士「……」

エルフ「あっ、無理なら別にいいんです。少し気になっただけですから……」

女騎士「う~ん、その話なら私よりも男に話を聞いたほうが早いですよ。彼女のことを一番知っているのは男ですから」

エルフ「えっ!? そうなんですか?」

女騎士「ええ。だって、身寄りのない彼女を引き取ったのは……男ですから」

444: 2012/12/04(火) 18:05:59.05 ID:4BCi+PlG0
……



チュンチュン、チュンチュン

男「よし、熱も下がったし体調もよさそうだ。ひとまず、女魔法使いたちに事情を説明しないといけないな」テクテク

ギィィ、バタン

男「おはよう、エルフ……」

女魔法使い「あ、おはようございます先生」

女騎士「あ、男か。ようやく起きたな。もう大丈夫なのか?」

エルフ「……」

445: 2012/12/04(火) 18:06:24.90 ID:4BCi+PlG0
男「あ……うん。まあ、熱も下がったし大丈夫だけど。それよりも二人はいつからここに? てっきり帰ったと思ってたけど」

女魔法使い「エルフがこの家にいるのに私がそれを放置して帰るわけないじゃないですか。近くの宿の部屋を借りて、私と女騎士さんで交代でエルフを見張っていたんですよ」

女騎士「と、いうわけだ。女魔法使いがしばらくこの街に滞在すると言ってな。こいつ一人を置いていったら何をするかわからないから私も一緒に滞在することにしたんだ」

男「そうなのか。それよりも女魔法使いはどうして料理を作ってるんだ?」

女魔法使い「いえ、いつも料理はそこのエルフが作っていると聞いたので。エルフが作ったものを先生に食べさせるわけに行きませんので、私が代わりに作っているんですよ」

男「……そう、か」

446: 2012/12/04(火) 18:07:06.25 ID:4BCi+PlG0
女魔法使い「大丈夫です、先生。きっと先生は一人でいる時間が長かったからエルフに対して寛容になってしまっているんです。こんなことになってると分かっていれば、もっと早くに先生の所に来て私が支えになるべきでした。
 先生に拾ってもらっておいて、先生の状態に気がつかなかった私は弟子失格です」

男「女魔法使い……」

女騎士「……」

女魔法使い「先生、すぐに料理をお持ちするのでもう少し待っていてくださいね」ニコッ

男「しまったな……。こんな風になるとわかっていたから前は女魔法使いにエルフを会わせないようにしていたんだけど」

女騎士「すまない、男。私もお前がエルフと住んでいるっていうことを知らなかったから……」

447: 2012/12/04(火) 18:07:44.65 ID:4BCi+PlG0
男「いや、いいんだ。僕が騎士にエルフのことを伝えないでいてくれってお願いしていたんだから。むしろ、女騎士には前にあったときにでも話しておくべきだったと後悔しているところだ」

エルフ「すみません、男さん。私のせいで……」

男「エルフは何も悪くないさ。ただ、女魔法使いがこうなるのも僕にはわかるから……。とりあえず、どうにか女魔法使いが納得できるように説得するからもう少しだけ我慢してくれるか」ナデナデ

エルフ「はい、わかりました。私、頑張ります」ニコッ

女騎士「なんだか、お前も大変だな……」

男「まあ、自分で選んだことだしね。これくらいは覚悟の上さ。最悪女魔法使いには軽蔑されることになるかもしれないけど」

448: 2012/12/04(火) 18:08:15.79 ID:4BCi+PlG0
女騎士「そのへんの話は後で聞くとするよ。――っと、料理ができたみたいだな」

女魔法使い「朝食なので、簡単なものですけれど。どうぞ」コトッ

男「ありがとう……って、エルフの分は?」

女魔法使い「……どうしてエルフにまで料理を出さなくちゃいけないんですか?」

男「……はぁ。彼女は僕の家族だから、エルフだとかそういうの抜きにして扱ってあげることはできないかな?」

女魔法使い「……わか、りました」ギリギリ

コトッ

女魔法使い「……どうぞ」ジロッ

エルフ「あ、ありがとうございます」ビクビク

女騎士「……やれやれ」ハァ

449: 2012/12/04(火) 18:09:33.49 ID:4BCi+PlG0
……



女魔法使い(先生は変わってしまいました。エルフを家に置くなんて昔の先生だったら考えられません)

女魔法使い(戦争中、家族をエルフに殺されて軍に入って。そこで騎士さんや、女騎士さんと出会った先生)

女魔法使い(そんな先生に家族を失って途方に暮れていた私は救ってもらった)

女魔法使い(だから、そんな先生の力になりたくて魔法を教えてもらって一杯勉強して。大っ嫌いなエルフをたくさん倒して、頃してきた)

女魔法使い(そんな私を戦争中先生は何度も褒めてくれた。よくやったな、えらいなって。だから、私はそんな風に褒められるのが嬉しくって一杯、一杯エルフを頃してきた)

450: 2012/12/04(火) 18:10:05.27 ID:4BCi+PlG0
女魔法使い(だというのに、今目の前にいるエルフに先生は手を出すなっていう。なんで、先生。あんなにエルフを嫌っていたのに、家族を殺された憎い相手だって言っていたのに……。どうしてそのエルフだけ特別扱いするんですか?)

女魔法使い(私は、先生がいなくなってからもずっと先生に褒めてもらえるように頑張ってきましたよ。魔法の勉強も欠かさずに続けて、私みたいに戦争の被害にあった人のケアにも行きました。少しでも人の役に立てるようやれることは精一杯やってきました)

女魔法使い(なのに、どうして私のことを今まで一番理解してくれていた先生がこれまでの私を否定するようなことをいうんですか?)

女魔法使い(憎かったんじゃないんですか? 頃したいんじゃなかったんですか? 大事な人たちを、仲間を私たちはこいつらに殺されてきたんですよ?)

女魔法使い(先生は、変わっていまいました。私がしっかりしていなかったから……)

女魔法使い(先生、先生。大好きな先生。私が絶対に先生の目を覚まさせてあげます。それが、先生に拾っていただけた私にできる恩返しです)

451: 2012/12/04(火) 18:10:34.02 ID:4BCi+PlG0
エルフ「男さん、私はどうしてればいいでしょうか?」

男「えっと、基本的にはいつもと同じようにしてくれて構わないよ。もし、女魔法使いが何か言うようなら僕が言っておくからさ」

エルフ「はい。それじゃあ、今日もお仕事頑張りますね!」トテテテテ

男「ふう、ひとまずエルフの方はこれでいいとして……」チラッ

女魔法使い「……」

女騎士「もう話せる準備はできたのか?」

男「ああ、それじゃあちょっと長くなるけれど二人とも話を聞いてもらえるかな?」


452: 2012/12/04(火) 18:11:01.53 ID:4BCi+PlG0
……



男「というわけだ。僕は戦争が終わってこの街に滞在するようになった。そこで、今はもういない旧エルフと出会って、エルフに対する考えが少しずつ変わって、今のエルフを引き取る事にしたんだ」

女騎士「なるほど……な。あれほどエルフを嫌っていたお前があの女の子を傍に置く理由が分かった気がするよ。それに、彼女を大事にするのはその旧エルフに対する後ろめたさがあるからか?」

男「それもないとは言えない。でも、僕はあの子を家族のように、大事な存在だと思ってるんだ。だから、できることならエルフだからって偏見を持たないであの子に接してあげてほしい」

男(さすがに、エルフとのホントの関係を言うわけにも言わないしな…… 。嘘はついていないし、これくらいまでなら話していても大丈夫だろう)

453: 2012/12/04(火) 18:11:42.48 ID:4BCi+PlG0
女騎士「私は…… 別にエルフを差別的に見るつもりはない。かつては仇敵だった相手とはいえ、もう戦争は終わってるんだ。
 確かに最初は警戒しながら接する事になるかもしれないが、相手が良いエルフであるのなら、こちらの態度もきちんとしたもので返すつもりだ」

男「そっか……。女魔法使いは、どう?」

女魔法使い「私は……無理、です。そもそも、先生がどうしてそんなことを言うのか理解できません。
 先生、私たちにとってエルフ族は敵だったはずです。ちょっと、甘い顔を見せたからって気を許すのは間違っています」

男「女魔法使い……」

女魔法使い「でも、大丈夫です。私がきっと先生を元の先生に戻しますから。エルフに毒された先生には今の私の言っている事が理解してもらえないかもしれないですけれど……。でも、きっと……」ニコッ

男「……」

女騎士「男、今の女魔法使いには何を言ってもきっと無駄じゃない? だから、少しずつ時間をかけて理解してもらうのが一番だと思うよ」ボソッ

男「そうだね、僕もそう簡単に女魔法使いが納得するとは思っていないから……。でも、分かってもらえるよう努力するつもりだよ」


454: 2012/12/04(火) 18:12:21.01 ID:4BCi+PlG0
――男の自宅――

エルフ「男さーん、洗濯物取り込みましたよ!」

男「そっか、ありがとねエルフ」ナデナデ

エルフ「えへへっ」テレッ

女魔法使い「……」ジッ

エルフ「はっ!? あ、あの男さん。すみません、次の仕事がありますから」サッ

男「あっ、エルフ……」チラッ


455: 2012/12/04(火) 18:12:47.37 ID:4BCi+PlG0
女魔法使い「先生、私にも何かお仕事をください」ニコッ

男「いや、そんなことをさせるわけには……」

女魔法使い「私もあのエルフと同じように先生に拾われた身です。本来であればこのように自由にしていられるような立場ではないですし。言ってくださればこの身も心も先生の好きにしてくださって構わないんですよ?」

男「馬鹿っ、そんな事を軽々しく言うもんじゃない」

女魔法使い「私は、本気です。先生のためなら私の全てを捧げても構わないと思っています。ですから、先生。私にも何かを……」


456: 2012/12/04(火) 18:13:27.69 ID:4BCi+PlG0
男(これは……不味いな。今の女魔法使いは出逢ったばかりの頃の状態に戻ってる。
 僕がいなくなっても女騎士や騎士と上手くやってるって話を聞いてたし、前に会った時にだいぶ普通になっていたから安心していたけど、今のこの子はまた僕に依存していた時に戻っている。
 こうなったきっかけは、やっぱりエルフの件だよな……。今まで彼女を肯定し続けていた僕が今は否定する立場になったから居場所がなくなると考えたんだろうな……。
 だから、こんな風に自分を守ろうと必氏に……。そんな彼女を僕には拒絶する事はできない……。
 エルフの件も、女魔法使いの件も僕が責任を負わなきゃならないんだ。それが、彼女達を引き取った僕にできることだ)

男「わかったよ、女魔法使い。それじゃあ、君にも仕事を与える」

女魔法使い「あ、ありがとうございます!」パァァッ

男「ただし、一つ条件がある。これが聞けないのなら仕事はさせない」

女魔法使い「なんですか?」

457: 2012/12/04(火) 18:14:05.32 ID:4BCi+PlG0
男「仕事はエルフと協力してやる事。その際に嫌がらせとかするのは禁止。これだけだよ、できる?」

女魔法使い「……それ、は」

男「無理しなくてもいいよ。別にエルフに任せても大丈夫だから」

女魔法使い「それは嫌です! やります、私頑張ります!」タッタッタッ

男(ごめん、女魔法使い。僕はきっと君に酷い事を言っている。でも、僕は君にももっと広い視点で物事を見てもらいたいんだ。僕が旧エルフに出会って変われたように。
 たしかに、戦争中僕らはエルフを憎んで、戦ってきた。でも、もう戦争は終わったんだ。いつまでも同じ場所で立ち止まり続ける事はできないんだ……。どんな形でも前に進まないと……いけないんだよ)

458: 2012/12/04(火) 18:14:40.39 ID:4BCi+PlG0
……



女魔法使い「どいてください、その仕事は私がやります」

エルフ「あ、え? はい、すみません」

女魔法使い「……」タタミ、タタミ

エルフ「……」ジーッ

女魔法使い「……」タタミ、タタミ


459: 2012/12/04(火) 18:15:23.33 ID:4BCi+PlG0
エルフ「あの……女魔法使いさん」

女魔法使い「……なんですか」プイッ

エルフ「あ、いえ。なんでも、ないです」ショボーン

女魔法使い「……なら、話しかけないでください。私だって、先生の言葉がなかったらエルフとなんか……」

エルフ「あぅ……」

エルフ(女魔法使いさん、やっぱり全然返事を返してくれません。でも、一体どうして急に仕事の手伝いをしてくれるようになったんでしょう。
 もしかして、私を男さんから離すためにいらない子にしようとしてるんでしょうか……。でも、負けません! 私は、私で頑張ります)トントン コトコト

460: 2012/12/04(火) 18:15:58.34 ID:4BCi+PlG0
女魔法使い「……」ジーッ

エルフ「はっ! お、女魔法使いさん……」

女魔法使い「協力、協力……。先生の言う事は絶対聞かないと……。そうしないと、私はまた一人になっちゃう……」

エルフ「女魔法使いさん? どうしたんですか、具合でも悪いんですか?」

女魔法使い「!? 何でもありません。それと、その余った食材を捨てないで料理に使えます。貸してください」

エルフ「は、はいっ!」オズオズ

461: 2012/12/04(火) 18:16:31.44 ID:4BCi+PlG0
女魔法使い「先生への料理に不格好なものを出すわけにはいきません」トントン コトコト

エルフ「……」ジーッ

女魔法使い「……」チラッ

エルフ「……」ジーッ

女魔法使い「はぁ、言いたい事があるなら言ってください。ジロジロ見られても困ります」

エルフ「あ、すみません……。ただ、女魔法使いさんは料理が上手だなって……」

女魔法使い「当然です、先生に習いましたから」

エルフ「男さんに?」


462: 2012/12/04(火) 18:17:14.78 ID:4BCi+PlG0
女魔法使い「そうです。身寄りがなくなって彷徨っていた私を先生は拾って色んな事を教えてくれました。料理や、魔法。敵から身を守る術や生きるために必要な事を。だから、私にとってあの人は“先生”なんです」

エルフ「そう、なんですか。じゃあ、私と同じですね!」

女魔法使い「あなたと……?」

エルフ「はい! だって、私も男さんに拾われて色んな事を教わりましたから。だから、女魔法使いさんは私にとって先輩みたいなものですね」ニコッ

女魔法使い「……」ジッ

エルフ「あ……すみません、私調子いいことを言って。女魔法使いさんはエルフが嫌いなのに……」

女魔法使い「……後はあなたでもできます。私はちょっと考えるべき事があるので」サッ

エルフ「はい、ごめんなさい」シュン

女魔法使い「……」テクテクテク

463: 2012/12/04(火) 18:17:45.89 ID:4BCi+PlG0
……



女魔法使い(私が、あのエルフと一緒? 一体、何を言っているのですか。エルフと人間が一緒なわけないじゃないですか)

女魔法使い(私は、先生に拾われてから先生の信念を、覚悟をずっと傍で見てきたんです。なのに、急に現れてあの人の隣を奪って行った憎いエルフ族と私が一緒ですって?)

女魔法使い(何も知らないくせに……あの人の事をなんにも知らないくせに。先生の事を一番理解できるのは私なんです。私が一番あの人の傍にいたんです!)

女魔法使い(でも……今の先生は私には分からない。あれは、私の知らない先生だ……。でも、あのエルフは私の知らない先生について知っている。それが……私にはとても悔しくてたまらない)

464: 2012/12/04(火) 18:18:23.79 ID:4BCi+PlG0
女騎士「あれ? 女魔法使い。こんなところで何しているの?)

女魔法使い「女騎士さん……」

女騎士「どうしたの、何か考え事?」

女魔法使い「そんなところです。女騎士さんは買い物の帰りですか?」

女騎士「そう。誰かさんが急にこの街に滞在するって言うから必要なものをちょっとね」

女魔法使い「すみません、急にこんなことをして」

女騎士「まあ、滞在するって決めちゃったからね。いいわよ、気持ちはわからなくもないから。だって、女魔法使いってば昔っから男にべったりだったもんね。そりゃ、あのエルフの女の子に焼きもちを焼いたりするわよね」

465: 2012/12/04(火) 18:18:53.52 ID:4BCi+PlG0
女魔法使い「違います! そんなつもりで私はここにいるんじゃありません! 私はただ……」

女騎士「いいの、いいの。まあ気づいていないだろうとは思っていたから。でも、これはある意味でいい機会なのかもね……」

女魔法使い「何の事です……」

女騎士「ん? それはね、女魔法使いと男が本音でぶつかり合える機会なんじゃないかってこと」ニコッ


466: 2012/12/04(火) 18:19:29.37 ID:4BCi+PlG0
……



男(女魔法使いがこの街に来てからもう数日が経った……。未だにエルフと女魔法使いの仲は良くなる気配が見えない)

男(家の仕事を協力してやるようにと言ったけど、ほとんど女魔法使いが仕事を片付けてしまっているな。エルフは女魔法使いに遠慮しちゃってる見たいだし……)

男(このままじゃ、駄目だって分かっているんだけど、上手い手が見つからないしなぁ……。はぁ、どうしようか)

エルフ「おとこさん、男さん」

男「エルフ? あれ、女魔法使いは?」

467: 2012/12/04(火) 18:22:07.59 ID:4BCi+PlG0
エルフ「女魔法使いさんは買い出しに出かけました……その、私がいると買い物の邪魔になると……」

男「そっか……ごめんね、我慢ばかりさせて……」

エルフ「いえ、私は大丈夫なので気にしないでください」

男「そう言ってもらえるとありがたいよ。魔法使いも本当は悪い子じゃないんだ。でも、エルフ族に対して思うところがあるから、あんな態度をとっているんだ。そうなった原因は僕にもあるから……」

エルフ「仕方ないですよ。男さんみたいに私たちを受け入れてくれる人の方が少ないんですから」

男「エルフ……」

468: 2012/12/04(火) 18:24:27.95 ID:4BCi+PlG0
エルフ「でも、私頑張ります! 女魔法使いさんに私のことを受け入れてもらえるように……」ニコッ

男「うん、僕も頑張るよ。だから、頑張っているエルフにちょっとだけご褒美を……」

エルフ「えっ!?」

男「……」チュッ

エルフ「あっ……///」テレッ

男「ごめんね、今の僕にできるのはこれが精一杯だから」

エルフ「いえ、そんな……。これだけで、私には充分ですよ……」テレテレ

ガタッ

男「!」

エルフ「!」

469: 2012/12/04(火) 18:25:14.70 ID:4BCi+PlG0
女魔法使い「そんな……。先生、今エルフにキスを……」

男「いや、これは……」

女魔法使い「……」ウルウル

ダッ 

男「女魔法使い!」

エルフ「……」

男「…しまったな。エルフとの関係について落ち着いてから説明するつもりだったのに……」

エルフ「男さん……」

男「こうなったら全部話すしかないか……。ごめん、エルフ。今から女魔法使いに全て話してくるよ」

エルフ「わかりました。私は、ここで待っています」

男「ありがとう。それじゃあ行ってくる」タッタッタ

470: 2012/12/04(火) 18:26:26.53 ID:4BCi+PlG0
……



女魔法使い「先生がエルフと……。そんなはずは、何かの見間違いです……」

女魔法使い「そうですよ、先生に限って……。先生は他の人と違って私の事を裏切らないんです……」

女魔法使い「ぜんぶ、全部あのエルフが悪いんだ……。私の先生を惑わしているんだ、そうに違いない……。決めました。
 今からあのエルフを頃して先生の目を覚まさせます。最初は先生も傷ついて私に対して嫌な顔をするかもしれないですけど、いつかきっと分かってくれるはずです」

女魔法使い「先生……」

471: 2012/12/04(火) 18:26:52.57 ID:4BCi+PlG0
男「女魔法使い!」

女魔法使い「! 先生! やっぱり、私のところに来てくれたんですね」

男「何のことを言っているんだ? それよりも、さっきのことを説明するから」

女魔法使い「そのことなら大丈夫ですよ。私が今からエルフを頃してきますので……。先生はここで待っていてください。すぐに済みますから」ニコッ

男「――ッ!」パンッ

女魔法使い「……えっ。……せん、せい……」

472: 2012/12/04(火) 18:27:22.72 ID:4BCi+PlG0
男「女魔法使い、一度頭を冷やせ。戦争は終わった、世界は、状況はもう変わったんだ。いつまでも同じままじゃいられないんだ!
 確かに、今は世界がエルフを拒んでいる。でも、いつかはそんな状況も変わるんだ。
 人もそうだ、時と共に変わって行く。僕だって昔戦争に参加してエルフをたくさん頃してきた。
 理由はどうあれ命を奪ってきたんだ。その行為が消える事はないだろう。
 エルフの中には仲間を殺された事から僕の事を恨む者も現れるかもしれない。でも、それでも僕はその罪を背負いながらこれからも生きていきたい。
 それが、旧エルフとそしてエルフと出会って変わる事のできた僕が出した結論なんだ」

女魔法使い「そんなに……そんなにあのエルフの事が大事なのですか! 私じゃ、私じゃ駄目なんですか!?
 私なら先生の力になれます、あのエルフよりもずっと、ずっと……ッ!」

男「違う、違うよ女魔法使い。役に立つとか、立たないとかの問題じゃないんだ。僕が、僕自身があの事一緒に居たいんだよ。理由なんてそれだけだ」

473: 2012/12/04(火) 18:27:53.58 ID:4BCi+PlG0
女魔法使い「先生も、先生も私の事を見捨てるんですか? 戦時中一緒に逃げていた私を見捨てた親のように……」ポロポロ

男「見捨てないよ……僕は。君の事は最後まで面倒を見るつもりだ。それが、君を拾った僕の責任だ」

女魔法使い「せんせい……」

男「でも、僕は君を選ぶ事はできない。君は僕にとって妹のようなものなんだ。家族なんだ。
 もちろん、騎士や女騎士もそうだ。だから、そういった目で君を見る事はできない……。たぶん、これからもずっと……」

女魔法使い「……それが、先生の出した答えなんですね」ポロポロ

男「ごめん、女魔法使い。君が傷つくのを分かっていて、それでも僕は告げないといけない。
 じゃないと、いつまで経っても君は僕に依存してしまうから……。
 前にも言ったけど、僕は君にもっと世界を見てほしいんだ。だから……」

474: 2012/12/04(火) 18:28:21.97 ID:4BCi+PlG0
女魔法使い「わか……りました。でも、家族としてなら甘えてもいいんですか?」

男「ああ、それならいつでも頼ってくれ。一度君たちに何も告げずに姿を消した僕が言っても信用できないかもしれないけどね」

女魔法使い「信じますよ、私は。だって、私の先生ですから……。先生なら生徒を見捨てたままにしないはずでしょ?」ニコッ

男「女魔法使い……。うん、そうだね。君が望んでくれる限り僕は君の“先生”でい続けるよ」

女魔法使い「はい……先生」テクテク ポフッ

475: 2012/12/04(火) 18:28:50.18 ID:4BCi+PlG0
男「女魔法使い?」

女魔法使い「少しだけ、胸を貸してください。それくらいは私にも望む権利はありますよね」

男「ああ。好きなだけ貸してあげるよ……」

女魔法使い「うっ、うぅっ……うぇぇええええん……」ボロボロ ボロボロ

男「……」

476: 2012/12/04(火) 18:29:16.76 ID:4BCi+PlG0
……



女魔法使い「ありがとうございました、先生。もう大丈夫です」

男「そっか……」

女魔法使い「泣いた分少しだけすっきりしました」ニコッ

男「よかったよ、服がびしょびしょになった甲斐があったものだ」

女魔法使い「す、すみません……」

477: 2012/12/04(火) 18:29:44.12 ID:4BCi+PlG0
男「いや、いいよ。それで、女魔法使い。エルフの事だけど……」

女魔法使い「先生、私やっぱりまだエルフの事は許せません……」

男「そっか……」

女魔法使い「でも、先生の言った通りもう少し広い視点で物事を見てみようと思います。
 エルフを受け入れる事はすぐには無理です。でも、彼らを見て私なりの判断をしてみる事にしました」

男「女魔法使い!」

女魔法使い「だから、まずは……」

478: 2012/12/04(火) 18:30:21.04 ID:4BCi+PlG0
――男の自宅――

エルフ「えっと、これはどういう事なんです……」オドオド

女魔法使い「私、しばらくこの街に滞在してエルフの観察をすることにしました。そのために、まずは身近なエルフとしてあなたを観察対象に選びました。なので、これからよろしくお願いします」ニコッ

エルフ「男さぁ~ん……」ウルウル

男「えっと、ごめんエルフ。こればっかりは僕も止めようがないよ」

女魔法使い「それと、私の目の黒いうちは二人に不純な行動をとらせませんので、よろしくお願いします」

男「あははははっ……」

女魔法使い「それでは先生、これからもご指導よろしくお願いしますね」ニコッ

女騎士「男もこれから苦労しそうだな……」ハァ

エルフ「……そ~っ」男「こらっ!」 after story 女魔法使いたちとの和解 ――完――

479: 2012/12/04(火) 18:31:36.64 ID:4BCi+PlG0
ひとまずこれで女魔法使いとエルフの話は終わりです。次は戦乱の予兆のお話です。

エルフ「……そ~っ」 男「こらっ!」【4】

引用: エルフ「……そ~っ」 男「こらっ!」