55: 2015/01/05(月) 12:39:39.82 ID:b0eLw/k+0
【ジョジョ・ウォールストリート】

「う~ん…まだ慣れねぇなぁ…この左腕はよぉ」

左腕をギリギリと音をたてながら動かす青年はある酒屋にいた
どうやらポーカーに興じているらしい
相手は取引先の重役らしく恰幅のいい格好なのだがその青年は筋骨隆々で逞しい身体をしている

「その腕は…事故か何かかい?若いのに義手なんて大変だねぇ」

恰幅の良い男は口だけの心配をしつつカードを配るディーラーに目配せをした
ディーラーは何かを察したかのようにニヤリとほくそえんだ
どうやらイカサマをするための目配せらしい

「えぇ…昔ちょっとやっちまいましてねぇ……まぁ名誉の負傷ですよ」

青年はイカサマに気付くどころか義手をギリギリと音をたてながらいじるのに夢中らしい
ジョジョの奇妙な冒険 第2部 戦闘潮流 1 ジョジョの奇妙な冒険 第2部 モノクロ版 (ジャンプコミックスDIGITAL)

56: 2015/01/05(月) 12:55:33.82 ID:b0eLw/k+0
(チョロいな……この男は)

重役は心の中で良いカモに当たったとほくそえんでいた
元々この青年とポーカーをする経緯はこうだ


この青年は私の会社の土地を購入したいと言ってきた
それも半額以下で。見る目があるのか一等地である場所をだ
当然私は断った、だがあろうことかその青年はある賭けを持ち込んできたのだ

『じゃあポーカーで勝てば俺の希望通り売ってもらう、もしも負ければ、その土地は倍額の値段で買う?どう?勝てばオイシイ話よん?』

ポーカーをする場所やディーラーは俺に選ばせると言う条件付きだ
この時点で俺はコイツをカモだと思った

(ポーカーをやる上でアウェーでするなど愚の骨頂!甘いな若造め。私を耄碌したジジイだと侮ったな!若い頃はポーカーで大勝し続けたのを知らんようだな!ここのディーラーとは若い頃から共にイカサマをやって来た仲間よ!)

倍額であの土地が売れれば大儲け
思いがけない商談に顔が緩みそうで仕方無かった

57: 2015/01/05(月) 13:16:03.26 ID:b0eLw/k+0
「おぉっと、ポーカーする前にここで飲んでる奴等に証人になってもらわねぇとなぁ。後でそんな話はありませんってのは無しだぜぇ~?」

馬鹿な野郎だぜ。てめぇのその行動が負けたときに自分の首を絞めるってのによぉ!
青年は複数の男達に捺印を押して貰うと再び席についた

「まっ、シンプルにクローズド・ポーカーと行きましょうか!ベットは無し、カードはチェンジは三回まで……ジョーカーは一枚だけ」

三回までのチェンジ…なるほど、イカサマはやり易いじゃあないか
ジョーカーは一枚?お前にとっちゃあ0枚だろがッ!

(今日はツイてるぜぇ~!)

喜色満面で配られた札をとった

58: 2015/01/05(月) 13:33:54.34 ID:b0eLw/k+0
「…………え……?」

次の瞬間にはディーラーも私も眼を疑った
私のカードはKING二枚とA三枚のフルハウス
そしてあの青年の配られたカードはブタ…揃うはずがないッ!なのになんでなんでなんで

「おやまぁ~勝っちゃたよ!うれぴぃ~!」

青年のカードは2の3枚とジョーカー、つまりフォーカードッ!

「次のお前の台詞は『どうしててめぇがブタ以外握れんだァ~ッ!?イカサマだッ!こんなの無効つってんだろォッ!』だ」

「どうしててめぇがブタ以外握れんだァ~ッ!?イカサマだッ!こんなの無効つってんだろォッ!………ハッ!?」

えっ!?なんでコイツ、私の台詞を読めちまったんだ?

59: 2015/01/05(月) 14:25:17.22 ID:b0eLw/k+0
「おめぇの事なんざ調べついてるってぇの。若い頃は詐欺紛いのイカサマポーカーで何人も路頭に迷わせてきたってのはな。お前が乗ってこないわけ無いと踏んだ結果、見事引っ掛かってくれたって訳」

ぐぬぅぅ~ならわざとここでイカサマするように仕向けたって言うのか!

「な、無しだ!お前イカサマしてるんだろッ!?そうだろ!そんなの無しに決まってんじゃねぇか!」

ここまで小馬鹿にされたのは始めてだ!こんなポーカー無しだ無し!
声を荒げ店の外に居させておいた若いのを呼びつける
若いのはゾ口リゾ口リと酒屋の玄関から………あれ?
ゾ口リゾ口リと入ってきたのは見たこともないごろつき共である

「外にいた若いのはのしといたぜ坊っちゃん」

ごろつき共は青年にそう声をかけていた
全て読まれ先回りされてるってのか!

63: 2015/01/05(月) 16:03:57.21 ID:b0eLw/k+0
「ヴェェェリィナァイス!流石あのオウガーストリートの元ごろつきだぜ、格がちげぇな!」

「ヘヘッ!こんなニューヨークのあまちゃんに負けるほど腕は落ちてねぇっての!」

青年は私の方に向き直ると微笑む目で次の手を打ち出した

「さぁて、今から賭けは無かったことにしてスタコラ逃げるかい?逃げれるならよぉ!」

ギリギリと左腕を鳴らしながら青年に尋ねられては逃げれる気もせず、がっくりと肩を落とし商談を成立させてしまった

「教えてくれよ…あんた若ぇのに胆が座ってやがる…何者なんだ?」

「ジョセフ・ジョースター、ニューヨークで一旗上げる男さ。んじゃ今後ともごひーきにぃーよろぴくね~」

二本指を立てて挨拶をすると土地の権利書を持って酒場から出ていってしまった

「ジョセフ・ジョースター…恐ろしい男だ…」

一夜にしてこの私から莫大な資産を奪っていくとはたまげたものだ

64: 2015/01/05(月) 16:19:57.59 ID:b0eLw/k+0
ニューヨークのジョセフ宅
「ただいまぁ~ってうおォッ!イッテェ……何しやがんだよスージー!帰ってくるなり殴らなくたってもよぉ……」

玄関に待ち構えていたスージーQは帰ってくるなり俺の頭を叩いた

「えらく遅いじゃないの、今日は重要な話があるって言ったじゃない!?」

そう言えば今朝そんなこと言ってたっけか!やべぇーポーカーのことでいっぱいいっぱいで忘れてたぜ…

「仕事がちょっぴり延びちまったんだよ、これでも全速力で帰ってきたんだぜ?ほらほらそんなに怒ると小皺が増える…あでぇ~耳はッ!耳はやめてくれェ~!千切れちまうって!」

一切の容赦なく耳を引っ張るスージーQ
こりゃ究極生物よりもおっかねぇぜ……

65: 2015/01/05(月) 16:32:35.72 ID:b0eLw/k+0
「機嫌直してくれよ…悪かったってば」

ディナー中でも怒っているスージーQ。やはり小皺が増えるわけだぜ…
ま、俺は波紋の呼吸さえしてれば見た目はフケねぇから今でもやってるんだけど

「早く教えてくれよ重要な話!俺が焦らされるの嫌いって知ってるだろ?」

スージーQに催促すると顔を赤らめこう言った

「……たのよ……」

「ヘッ?何だって?聞こえねぇぞ!」

「出来たのよ……赤ちゃん。三ヶ月よ。」

その言葉を聞いた瞬間、時が止まった
沈黙のあと、スージーQは慌てて言葉を繋いだ

「も、勿論貴方と私の子供よ!浮気なんかじゃあないわ!」

「ホントか?ホントに、ホントに出来たんだよな!」

スージーQにテーブル越しに詰め寄る
親になる。俺が…親になれるのだ。こんな嬉しいことは他にはあるわけがないだろう
俺は父親になれるのだ

66: 2015/01/05(月) 21:06:43.31 ID:Zchy3zdhO
俺には気付いたときには母親も父親もいなかった。いや、正確には母親はいたのだが
その代わりエリナ婆ちゃんとスピードワゴンのじいさんがいてくれた
けれど俺は少しだけ父親が欲しい。そう考えたことがある

「俺が父親になれるんだよな…」

この子には…絶対親がいないなんて寂しい思いをさせたくはない
俺と同じ、気持ちなんて絶対に感じさせてたまるか

「あなた?ねぇジョセフ?なんで泣いてるの?泣かなくったって良いじゃあないの」

「だっ、誰が泣くっかよォ!あれだぜ、この料理の味が旨すぎただけだ!そう、旨すぎるのがわりぃんだよ!」

照れ隠しに飲んでいたスープを素早く飲み干し、目の横の雫を乱雑に拭いさってスージーQの顔を見るだけで互いに笑みがこぼれた

67: 2015/01/05(月) 21:40:44.27 ID:Zchy3zdhO
その日から完璧に運がこっちに流れてきた
一等地にオフィスを建て、株に手を出して元手を増やす日々
その元手で様々な分野に手を出して行った。どれもこれもが上手く行く日々
まさに天が味方についていると言えるような順風満帆な日々を過ごし続けた

「ほ~らホリィ……いないいない……バァ~!」

「キャハキャハ・・」

スージーQと俺の子供、ホリィはとても可愛い娘だった。もう目に入れても大丈夫なくらいに
彼女のためなら何だってやった。時にやり過ぎたこともあったため、良くスージーQには咎められたがホリィは可愛くて可愛くてたまらなかった…



だがホリィが六歳の頃、少しだけ事件があった

68: 2015/01/05(月) 21:58:49.69 ID:YqbaId/gO
ホリィが六歳の頃、俺はまだ波紋の呼吸をし続けていた。見た目は若々しいままだった
理由は……何と言えば良いのだろう、老いへの抵抗が少しだけあったのだろうか?
柱の男達のように永遠を手に出来るわけでもない。今ならストレイツォの考えてることが少しだけわかる様な気もするのだ

波紋の呼吸をして尚、精神や行動も若くあろうとした俺は毎日のように豪遊、パーティーなんかをし続けていた
当然その事でスージーQには何度も何度も咎められ続けた
だが俺はこの迫り来る恐怖から逃げるためだけに豪遊を続けていた


そんな堕落しきった毎日をし続けていたある日のことだった

69: 2015/01/05(月) 22:04:29.98 ID:YqbaId/gO
スピードワゴンのじいさんがある日俺のパーティに現れた
俺はスピードワゴンのじいさんの元へ駆け寄った。正直身体の方も割りと悪いらしい

「おうスピードワゴンのじいさッ!!」

歩み寄った瞬間にスピードワゴンのじいさんは老いを感じさせない一撃を僕に見舞った
重く、身体の芯へ染み込むような一撃だった

「何をしているんだこの馬鹿者ッ!!自分のしていることを言え!言ってみろ!!私の目を見て、お前の言葉で言ってみろ!!」

子供の頃ですら見たことの無い剣幕で俺の胸ぐらを掴み凄み続ける
俺はその真っ直ぐな強い瞳を見て何一つと言えなかった

70: 2015/01/06(火) 00:28:30.34 ID:pwCdzZMk0
「何一つ言えないのならそんなことをするな!お前のすべき事は何か…考えてみろ!」

スピードワゴンのじいさんの一喝のお陰で目が覚めた
自分の考えていること、していることの愚かさに

「ありがとうよ、スピードワゴンのじいさん」

スピードワゴンのじいさんと堅く握手をするとパーティー会場から逃げるように外へと出た
行く場所は勿論、アイツのいる我が家だった

「スージー、スージーQ!いねぇのかスージーQ!!」

家に入るなり大声でスージーQを探す
もしかしたら愛想をつかして何処かへ行ってしまったのかも……

「何々!?どうしたのジョセフ!?」

慌てて出てきた様子のスージーQを見た途端、駆け寄り強く抱き締めた

71: 2015/01/06(火) 01:33:04.57 ID:pwCdzZMk0
「えっ……ちょっと…ジョセフ!?どうしたの急に!」

戸惑うスージーQなど気にすること無くただ抱き締めていた

「すまねぇ…スージーQ…俺が間違ってた……ホントにすまねぇ…」

掠れた声で何度も何度も詫びを入れる
力を入れれば涙がこぼれそうだからだ
スージーQの顔をまじまじと見つめる
少し小皺が増えたかもしれない顔だが、昔の頃と変わらず、いやとても美しさに磨きがかかっていた
彼女の顔を見ていれば、老いることなんて何ともないように感じられた
老いることは恐れるのではなく楽しむべきものなのだと、いつも近くにその答えはあった。なのに俺は見逃していたのだ
こんなにも美しいモノを、俺は自ら見ないようにしていた


この日から、俺は波紋の呼吸をしなくなった
もう老いることに抵抗なんて無くなった
美しくなるスージーQのとなりで、俺も美しく老いて行こう………そう決めたのだ





この後彼は『ニューヨークの不動産王』ジョセフ・ジョースターとして更に世界に名を知らしめて行く
その彼が一人娘の嫁入りに戸惑う日は……また別のお話



END

72: 2015/01/06(火) 01:38:34.57 ID:pwCdzZMk0
何とか【ジョジョ・ウォールストリート】完結したけど、元ネタの影も形もない!
一応映画の方では奥さんと別れてしまったから、波紋の呼吸を止めた理由も兼ねて二人の絆を重点的に書いてみました…
とにもかくにも読んでくださった方、ありがとうございました!


73: 2015/01/06(火) 02:09:40.29 ID:oZa4IF2Bo

スピードワゴンさすがの貫禄

引用: 【THE・WORLDは止められない】