102: 2015/01/06(火) 23:35:05.56 ID:pwCdzZMk0
【原子父心】

エジプト、とあるマーケット街

「仕事とはいえ……エジプトなんぞに派遣するとはあの部長め。ふざけおって」

淡々と仕事はこなすものの愚痴の一つも言いたくなる
何でこんな小汚ない異国なんぞに来なくちゃあならんのだ
しかも仕事の内容も一日二日で終わるようなものじゃあない。エジプト旅行のパンフレット用の写真だとォ?
こんなくそ暑い地に良いことなんぞ無いではないか
誰が好き好んでこんなところに来たがると言うのだ全く

「もしもし…旅のお方…」

半ばイライラしながら歩いていると小さなババアに話しかけられた
良く見ると両手ともが右手と言う何とも奇っ怪なババアである
ジョジョの奇妙な冒険 第2部 戦闘潮流 1 ジョジョの奇妙な冒険 第2部 モノクロ版 (ジャンプコミックスDIGITAL)

103: 2015/01/06(火) 23:46:41.69 ID:pwCdzZMk0
「ええ~っと、私ですか?あの、押し売りとかだったらいらないんで」

良く日本人をカモにする奴を見かける
どうやらこのババアもカモにしようと言う魂胆らしい。そんなババアの者なぞ買ってやるか

「ふぇっふぇっふぇっ………そう蔑ろにすると後悔しますぞ?」

気味の悪い笑い声を上げながらババアはある館を指差した
どうやら面白いものはあの館にある…とのことらしい
まぁ良い。このババアの口車に乗ってやってもなんの問題もない。勿論何も買わないのだが

「良く来たね……入りたまえよ…暗がりですまない。個人的に太陽は苦手でね」

その館の中で、金色の頭髪をした白人が足を組ながら私を待っていた
その男の声は、安心感と不安感を一度に押し寄せさせるかのような声であり、その声を聞いた瞬間最早私は一縷の疑問もなくその館に入っていった

104: 2015/01/06(火) 23:59:57.96 ID:pwCdzZMk0
「君を待っていたんだ…。吉良吉廣……で良いかな?」

その男は私の名前を一瞬で言い当てて見せた
私が名乗ったわけでもなく何かを見せたわけでもない。暗記してきたテストの答えを書くかのように言い当てて見せた

「驚かなくて良い。別に私は君を取って食おうって訳じゃあない。恐れる必要は無いんだ。君の悩みを解決してあげよう」

「そうだな…まずは私と友達にならないか?」

その男の妖しい色気とゾッとするほど暖かい口調に私は何も言えなくなり、無言で頷いた

「そう強張る必要は無いんだ。君の悩みを解決してあげよう。その代わり私の悩みも一つ解決する、持ちつ持たれつと言う関係と言うわけだよ良いかな?」

こいつのさっきから言う私の悩み…まさか知っていると言うのか?知っているわけがない
これだけは誰にも言えないし言ったこともポ口リと溢したこともないのだ
なのに何故だ?

105: 2015/01/07(水) 00:10:31.80 ID:2UvATDGI0
「簡単な事だ……だが君にしか出来ない。もし断れば…分かるだろう?」

その言葉の中には別に氏んでもらって構わない…そう感じられるものがあった
つまり断ることは氏ぬと言うわけだ

「君には今からある試練を受けてもらう……なぁに…単純な試練さ」

その男が指を一つパチリと鳴らした
次の瞬間、あの小柄なババアが弓矢を構えると制止する暇もなく私を正確に射抜いたのだ
最も驚くべきことはその矢に射抜かれた私は痛みこそ感ずれど生きていたのだ

「ぐげっ……ゴゲェッ!!」

「おめでとう吉廣…君は『矢』に選ばれたのだな」

パチパチと控えめに拍手をしながら私へと近付いてくると男は妖艶な笑みを浮かべながら力任せにその矢を抜き去った

106: 2015/01/07(水) 00:22:01.07 ID:2UvATDGI0
矢が引き抜かれた瞬間、何かが自身に宿るのを感じた
いや、自身の中に眠る蕾のようなものが開花したとでも言おうか?

「さて……これで君の『息子』に関する特殊な悩みを解決する方法が宿ったろう?」

やはりこの男、知っている。私の悩みを
打ち明けられるはずの無い悩みを
私の『息子』の持つある衝動の事を、その悩みを

「ところで私の悩みと言うのは……この『矢』に関してだが……日本へ持ち帰り君と同じ片鱗を持つ者を探し出して欲しい。射抜くべき者はこの『矢』が指し示すだろう…。勿論礼はする。私のために働いてくれるな?」

少し血の滴る左胸を抑えながら恐怖に震えながら頷いた
私悪魔に魅入られたのだ
最早抵抗することは不可能だった

107: 2015/01/07(水) 00:35:47.16 ID:2UvATDGI0
仕事を終え、日本へ戻った私はガクガク震えるのみだった
自身に何が宿ったのか。分かったもんじゃあないのだ
今のところ何も見えはしないが……何もだ

「只今……帰ったぞ…」

疲れきった顔をしながら帰ると、妻が出迎えた
割りと出来た評判の妻、そして

「お帰りなさい父さん…エジプトまでなんて大変だったね」

良くできた近所でも評判になる息子、吉影である
せがれは私の誇りであり、様々な大会やコンクールで賞を貰うこともしばしば。成績も一番とは言わずとも優秀なものである
だがその優等生な男の裏の顔を知るのは私だけである

「あぁ…エジプトは大変だったよ…」

そう告げると一旦私の部屋へと戻った
せがれを救うための手立て……一体何なのか

108: 2015/01/07(水) 00:48:47.76 ID:2UvATDGI0
そう言えばあの男はこんなことを言っていた
この『矢』で宿るモノはその者が心から望むものだ、と。
深層心理で望んでいるものがそこに出てくるのだと
だとしたら私の望んだものとは……
そう物思いに耽っていると、夢の中へと引き込まれていった

その夢は少し昔のボーイスカウトキャンプのことだった
私は写真を撮るためにそのボーイスカウトに参加していた。勿論吉影もである
そんなとき、吉影の写真を撮ろうとしたときに何処かへ行ってしまっていることに気付いた
私は吉影を探し回っていると、吉影を見つけた
だが私は話し掛けることが出来なかった



何故なら吉影がなんの表情もなく猫を頃していた真っ最中だったのだから

109: 2015/01/07(水) 00:57:48.32 ID:2UvATDGI0
私は無言で立ち尽くしていた
木の枝をポキリポキリと折る子供の頃の吉影と何の差も無い表情だったのだ
まるで生き物を頃すことは自身の生活の、人生の一部であると言わんかのように何の表情もなく。無言で

しばらくして満足したのか吉影はその場を立ち去った。立ち去ったあと私はその猫の氏骸を誰も見ることの出来ない場所へ捨て去った

私は知った。吉影には運命付けられたモノがあることを
他者を殺さねば気がすまない…いや他者を頃すことが自身の人生の一部の欲求なのだと
この秘密はバレてはならない
吉影のために
大切な息子のために


その日から私は吉影のために彼の殺戮を補助した
氏体の隠蔽は勿論のこと凶器はコッソリと仕事へ出張した先へ持ち込み捨て去った

110: 2015/01/07(水) 10:56:33.47 ID:2UvATDGI0
だが最も恐れていた事を知ってしまった
あるとき私は見てしまったのだ。吉影の殺人現場を。頃した人から手首を切り落とし持ち帰っていたのだ
乱雑に切り取られた手首、恐らく女性のものであるそれを
ついに吉影はやってしまったのだ
何かを壊す衝動は猫だけじゃあ飽きたらず人を[ピーーー]までに成長したのだ


当然私はその女性を処理しながら恐れ戦いた
恐らく吉影はこの先女性を頃し続けるだろう。だが私はそれを補助し続けることはできない…出来ないのだ
吉影よりも先に氏ぬことは自明の理である


私はあの猫を処理した日から、私は暗い暗い光の当たらない道を歩み続ける事になったのだ
それは吉影の『植物のような平穏な生活』のためなのである
その悩みは消えること無く、私を苦しめ続けた。その矢先にあの男に出会ったのだ
『DIO』と

111: 2015/01/07(水) 11:11:12.84 ID:2UvATDGI0
だが最も恐れていた事を知ってしまった
吉影は猫に飽きたらず人まで殺め始めたのだ
そしてあろうことか吉影は女性の右手を切り落とし、大事そうに持ち帰っていったのだ


私はその女性を処理しながら恐れ戦いた
もう私は逃げることはできない
何処までもこの秘密は私を追い続けるだろう
全ては吉影の『植物のような平穏な生活』の為だが、私には全てを処理し続けてやることは出来ない
恐らくと言うか確実に私が氏ぬからだ
その時、あの摩訶不思議な男、『DIO』に出会い『矢』に射抜かれたのだ


私が目を覚まし朝居間へと行くとあることに気付いた
吉影の清々しそうな表情である
あの表情は『何事も上手く行っている』時にする独特な表情だったのだ
それと同時に吉影の側に立つ幽霊のような謎の存在を認識した

113: 2015/01/07(水) 11:32:46.69 ID:2UvATDGI0
「ふむ………それは『スタンド』と言うものだ吉廣よ」

『DIO』はそう言っていた。吉影に宿ったものは精神の具現体なのだと
恐らく吉影の深層心理が反映された力を持っていると言うのだ
『矢』に射抜かれたのは私だが稀に血縁者にも発現することがあるらしい。それが吉影だったと言うわけだ

「吉廣、貴様の送ってきたスタンド使いは優秀だな…実に良く働いてくれる。貴様も自身のスタンドを早く発現させろ」

やはりこの男の前だと恐怖で足がすくみそうになってしまう
なおのこと恐ろしかったのだが私は日本へまた生きて帰ることが出来た


だが私はそれ以降エジプトへ行くことは無かった
何故なら日本に戻った三日後に末期ガンだと言うことが発覚したからだ。呆気ないことに即日入院。助かる見込みなど無いとの事だった

114: 2015/01/07(水) 12:03:55.39 ID:2UvATDGI0
氏ぬ間際、私は絶望していた
もう私には吉影を守ることは出来ない
吉影はスタンドの能力で氏体をどうにか消し去っているようだが、同じスタンド使いにはバレる日が来るかもしれない

「せめて私のスタンドが………氏して尚吉影を守れないだろうか?」

微かな願いが私の脳裏に過った
『矢』に選ばれたとき願ったことは…………『吉影を見守ること』だ。願わくば…我が息子の為に……



そして私のスタンド、アトムハートファーザーを発現させた
このスタンドで私は半ば幽霊となりこの世に取り憑くことが出来た。そして吉影の正体を探るものを抹頃することが出来るのだ
このスタンドは吉影を狙うものを…吉影を追うものを頃すため
吉影を調べようと部屋に忍び込んだモノは躊躇無く消し去っていった
私は永遠と吉影を見守っていく。『植物のような平穏な生活』を実現させるために……
例え何が起ころうと吉影の敵を頃し続けるだろう……





END

115: 2015/01/07(水) 12:39:12.15 ID:2UvATDGI0
【原子父心】完結です
すこしグダグダでしたがお許しください

引用: 【THE・WORLDは止められない】