1: 2009/05/24(日) 00:14:47.81 ID:nOkoIOhX0
「ジュン、この字は何て読むの?」

珍しく真紅、雛苺、翠星石が新聞を読んでいた。
平仮名すらマトモに読めないのに何を考えているのやら。

「あら、平仮名くらいすらすら読めるわ」

どうだか。
それに読めても書けないと意味がないし。

「・・・・・・それは練習中よ」

「そうですぅ、今にすらすら書けるようになるですぅ!」

夜遅くまで3人で何かやっているくらいならそれを字の練習に回せばいいのに。
まぁ、一朝一夕で書けるようになるほど日本語も甘くないけど。

2: 2009/05/24(日) 00:19:13.67 ID:nOkoIOhX0
何だかんだ文句を言いつつも真紅達の質問には答えた。
普段は偉そうな真紅に教える、というのは中々味わえないような気持ちよさがある。

「これはさっきジュンが言っていた"いと"って字なの?」

違う違う、『糸』と『系』って字は確かに似ているけど意味が全く違う。
っていうかお前らに漢字はまだ100年早い。

「ふん、チビ人間も今に驚くですぅ」

お前らがすらすら字を書いたら確かに僕は驚くだろう。
まぁ、あり得ない話だけどな。

「ジュン、今に見ていなさい」

3: 2009/05/24(日) 00:23:01.87 ID:nOkoIOhX0
今日の夜も真紅達は3人で何かしていた。
メガネをはずして寝る体勢を取っている僕には何をしているのか分からないけど。
それに興味すら湧かない。

だが、取り合えず電気を消すなりしてくれ、眩しくて眠れない。

「あら、ごめんなさい」

パチッと電気が消える音がして、真紅達の所から小さい光が見えた。

・・・・・・あれくらいの光なら別にいいだろ、我慢するか。

黙々と何かをするあいつらを背に、僕は眠りに付いた。

5: 2009/05/24(日) 00:27:05.52 ID:nOkoIOhX0
翌日、全員がリビングに集まり、各々の時間を過ごす。
真紅達は相変わらず3人で新聞を読んでいる。
昨日と比べて僕にはあまり質問をしてこなかった。

「みんな、聞いて欲しい事があるの」

雛苺が唐突に切り出した。
いや、唐突じゃなかったかもしれない。
目を開けたら3人のドールが僕の隣に座っていたから。

「今日まで真紅と翠星石と一緒に練習した成果を見せるときがきたの!」

なるほど、遅くまで何かをやらかしていた主犯はこいつか。

「みんなでタイムカプセルを埋めるのーッ!」

6: 2009/05/24(日) 00:32:43.03 ID:nOkoIOhX0
「タイムカプセル・・・・・・ですぅ?」

翠星石の返答に目をキラキラと輝かせ、鼻息を荒くしながら雛苺は「そうなの!」と答える。
大方テレビでも見て思いついたんだろ、くだらない。
っていうかお前らも知らなかったのか?

「まぁ、確かに少し面白そうですねぇ」

翠星石が賛同するのは少し予想外だった。
こういう事は嫌いなタイプだと思っていたから。

「真紅もジュンも一緒に埋めるのーッ!」

雛苺の元気な掛け声に真紅が読んでいた難しそうな本を閉じる。

「ええ、分かったわ」

真紅までやるんだったら仕方ない、僕も参加するか。

7: 2009/05/24(日) 00:37:05.13 ID:nOkoIOhX0
それぞれが埋めたい物を持って庭に集合した。
あいつらは使い古しのティーカップ、クレヨン、花の種、そして白い紙を持ってきた。

「ジュン、あなたは何を埋めるの?」

制服のバッヂを埋めようと思っていた。
将来掘り返したときの自分がどう思うか、と考えて。

「ふぅん、タイムカプセルは思い出の物を入れるものだと思っていたわ」

真紅が少し意外そうに驚く。
僕だってそう思う、別に思い出のものなんて無かっただけだし。

「みんなー、早速手紙を書くのー!」

8: 2009/05/24(日) 00:42:25.44 ID:nOkoIOhX0
「僕はパス、めんどくさいし」

いくら雛苺がプクゥと頬を膨らまそうが関係ない。
そもそもこんな事は茶番でしかない。

「チビ人間はやっぱりチビ人間ですぅ」

「いいじゃない、私達だけで書きましょ」

真紅が他の2人を納得させて、手紙を書き始めた。
っていうかこいつら字を書けるのか?

「ジュン、書かないのなら見ないで頂戴」

10: 2009/05/24(日) 00:45:51.06 ID:nOkoIOhX0
面白くない、と思い自分の部屋にそそくさと退散した。
パソコンでもしながら時間でも潰すか。

・・・・・・。

パソコンの前に立って気付く、物凄く埃を被っている事に。

面白くない。
何もする事が無い。

窓から覗くと、まだあいつらは手紙を書いていた。
一体何を書いているのやら。

11: 2009/05/24(日) 00:49:00.52 ID:nOkoIOhX0
うとうとしながらベッドに寝転んでいると、ようやくあいつらが戻ってきた。
もうタイムカプセルを埋めたらしく、土まみれだった。

「ジュン、あなたの分も埋めておいたわ」

真紅がドレスの土をはらいながら言う。
せめて外ではらって欲しい。

「あら、私とした事が失敗したわ」

「ジュン、タイムカプセルを勝手に開けちゃだめなのよ?」

心配しなくてもそれはない。
面倒な事は自分からはやらない主義だから。

「真紅、雛苺、シャワーを浴びにいくですぅ」

12: 2009/05/24(日) 00:53:01.14 ID:nOkoIOhX0
あいつらが立ち去った後、真紅のはらった土を窓から放り投げて
再びベッドに寝転んだ。

眠ろうとしても下から聞こえてくる賑やかな声が邪魔をする。
鼻歌混じりの楽しそうな声が。

思わず布団を被った、もう夏も近いというのに。
理由なんて分からない。

音がより遠くから聞こえてくるように感じ、ようやく眠りにつけそうだ。
この暑ささえ我慢できればの話だが。

だがそれも要らぬ心配のようだ。
だんだんと意識が遠ざかっていくのが分かる。

14: 2009/05/24(日) 00:58:25.71 ID:nOkoIOhX0
どれくらい眠っただろうか。
既にあいつらはシャワーを終え、僕の部屋で遊んでいた。

「凄い汗ね、早く着替えないと風邪をひくわ」

面倒くさいけど確かにこのままじゃ風邪を引いてしまう。
・・・・・・着替えるか。

べっとりと濡れたシャツを力任せに脱いだ。

「ち、チビ! ここで脱ぐんじゃねえですぅ!」

上しか替えないし別に構わないだろ。

かるくタオルで体を拭き、新しいシャツを着た。

15: 2009/05/24(日) 01:01:27.70 ID:nOkoIOhX0
着替えを終えると、待ってましたと言わんばかりに雛苺が話を切り出した。

「今日埋めたタイムカプセルをいつ掘り返すか決めるのー!」

いつ・・・・・・といわれてもなぁ。
忘れないうちがいいが、それじゃ埋めた意味が無い。
お前らで勝手に決めてくれ。

「翠星石はいつでもいいですぅ」

「私達が思い出した時、でいいんじゃない?」

真紅の案が採用されて、思い出した時に掘り返す事になった。
若干普通のタイムカプセルとは違う気がする。
まぁ、何の案も出せない僕に言えた義理じゃないが。

16: 2009/05/24(日) 01:04:06.73 ID:nOkoIOhX0
やがて、アリスゲームが激化していきほのぼのとした日常を送る事が出来なくなった。
最初に雛苺が真紅の力を受けられなくなり、止まってしまった。

"呪い人形"だの"お子ちゃま"だのと言っていたが、
やはり僕は泣いてしまった。

自分の力の無さを悔やんだ。
悔やんだところで雛苺は戻ってこないが、それでも悔やむ事しか出来なかった。

「ジュン、泣かないで・・・・・・」

「チビ人間、泣くんじゃねえですぅ!」

いくら真紅や翠星石が慰めても、僕は聞き入れられなかった。
本当はこいつらが1番悲しいはずなのに。

18: 2009/05/24(日) 01:08:18.07 ID:nOkoIOhX0
次は翠星石だった。
目の前で蒼星石のローザミスティカを奪われて、泣き喚いている所を襲われた。
・・・・・・僕の目の前で。

「ふふ・・・・・・、これで私の持つローザミスティカは3つねぇ」

ニヤリと笑う水銀燈に、真紅が怒りを見せた。
だが、僕はこれを止めるべきだったと後悔している。

そして真紅。
怒りで我を忘れた真紅はあっさりと水銀燈の牙にかかってしまった。

「・・・・・・最期は意外とあっさりねぇ」

21: 2009/05/24(日) 01:13:01.96 ID:nOkoIOhX0
水銀燈が泣いているような気がした。
そして僕の方を向いた。

「人間には手を出さない・・・・・・ 自分の無力さを痛感しながら生きるといいわぁ!」

水銀燈に言われるまでもなく、既に嫌というほど痛感していた。
僕にとって家族同然となった真紅、翠星石、雛苺が消えてしまったのだから。
全員が、僕の目の前で。

水銀燈が僕に背を向けて飛び去っていくのを見ていることしか出来なかった。
動かない真紅と翠星石を抱えながら。

22: 2009/05/24(日) 01:17:00.44 ID:nOkoIOhX0
自分の部屋に戻り、真紅と翠星石を鞄の中に入れて雛苺の隣に並べる。
動かないこいつらはただのインテリアにしか見えない。

つい最近までは確かに生きていた。
一緒に食事をし、テレビを見て、笑っていた。

他に何をした?
喧嘩もした、泣いたりもした。


そうだ、タイムカプセルも埋めたよな・・・・・・。

23: 2009/05/24(日) 01:20:20.78 ID:nOkoIOhX0
何かに取り憑かれたかのように、ふらふらと庭に向かった。
手にはスコップを持って。

以前にタイムカプセルを埋めた場所からは芽が出ていた。
翠星石が入れた花の種がいくつかこぼれたのだろうか。

その芽を傷つけないように慎重に土を掘り返した。
黙々と。

やがて、カツンと硬い物に当たりスコップを地面に置いた。
手で優しく土をはらってタイムカプセルを取り出した。

カプセルを開けると、それぞれが入れたものがそのままの形を保っていた。
そして、3枚の手紙を見つけた。

24: 2009/05/24(日) 01:22:03.28 ID:nOkoIOhX0

手紙を読むとドッと涙が溢れてきた。
真紅も翠星石も雛苺も、僕宛てにメッセージを書き残していた。
必氏に練習したような拙い文字で。

fin

29: 2009/05/24(日) 01:28:33.56 ID:a3dyXdNh0
とりあえず・・・乙

引用: 翠星石「タイムカプセル・・・・・・ですぅ?」