39: 2014/06/20(金) 00:01:00.09 ID:u/VSH0sC0
艦娘(子供の頃、戦う男達の映画を見るのが好きだった)
艦娘(具体的に言うとマッチョな男が出てくる映画だ。バズーカを撃っていたり或いはボクシングだったり)
艦娘(ついでにサイボーグな映画もあった。4以外は大好きだ)
艦娘(そんな男達に憧れた私は、身体を鍛えることから始めた。武術の道場に通ったりして、男として振舞っていた)
艦娘(そう、その当時は男勝りな性格で、喧嘩だって派手にしていたのだ)
艦娘(山があって、海に囲まれた、小さな離島。そこが私の故郷で、そこら中が遊び場で、そこら中が喧嘩の場所だった)
悪ガキ「なんだよー! おとこおんなー!」
艦娘「うるせー! いいから帽子返せよ! オレの帽子ー!」
悪ガキ「拾ったんだもーん!」
艦娘「オレがお寺で落としちまった奴だよ! 返せー!」
悪ガキ「と、取り返して見やがれ!」
艦娘「なにをー!」
艦娘(と、まあこんな感じで好き放題に暴れまわっていた。帽子は取り返せたがこっちも傷だらけになった)
艦娘「いちち……」
姉「なんだー? また喧嘩してきたのかお前?」
艦娘(私には一人、姉がいた。姉といっても凄く年が離れていて、私が物心つく頃には既に成人していた人だ)
艦娘(姉は私と違って身体を動かすのを面倒くさいと感じる人だった。具体的に言うと望月や初雪といい勝負のダウナーだ)
艦娘(少なくとも私の知っている姉の姿は、家業の雑貨屋の店番…をしている振りをしていつも昼寝しているぐらい姿ばかりだ)
艦娘「だって、アイツらがオレの帽子取ったんだもん」
姉「まったく、少しは女の子らしい言葉遣いをしたらどうだ? そんなんだから友達が少ないんだぞ」
艦娘「と、友達少ないは関係ねーし!」
艦娘(友達が少ないのは本当だ。女子には怖がられるし、男子には噛み付かれるしでご覧の通りだ)
姉「まったくお前はこんなに傷だらけになって…」
艦娘「だけどアイツら倒してやったぜ! オレ、強いし!」
姉「あほ」ぺしっ
艦娘(具体的に言うとマッチョな男が出てくる映画だ。バズーカを撃っていたり或いはボクシングだったり)
艦娘(ついでにサイボーグな映画もあった。4以外は大好きだ)
艦娘(そんな男達に憧れた私は、身体を鍛えることから始めた。武術の道場に通ったりして、男として振舞っていた)
艦娘(そう、その当時は男勝りな性格で、喧嘩だって派手にしていたのだ)
艦娘(山があって、海に囲まれた、小さな離島。そこが私の故郷で、そこら中が遊び場で、そこら中が喧嘩の場所だった)
悪ガキ「なんだよー! おとこおんなー!」
艦娘「うるせー! いいから帽子返せよ! オレの帽子ー!」
悪ガキ「拾ったんだもーん!」
艦娘「オレがお寺で落としちまった奴だよ! 返せー!」
悪ガキ「と、取り返して見やがれ!」
艦娘「なにをー!」
艦娘(と、まあこんな感じで好き放題に暴れまわっていた。帽子は取り返せたがこっちも傷だらけになった)
艦娘「いちち……」
姉「なんだー? また喧嘩してきたのかお前?」
艦娘(私には一人、姉がいた。姉といっても凄く年が離れていて、私が物心つく頃には既に成人していた人だ)
艦娘(姉は私と違って身体を動かすのを面倒くさいと感じる人だった。具体的に言うと望月や初雪といい勝負のダウナーだ)
艦娘(少なくとも私の知っている姉の姿は、家業の雑貨屋の店番…をしている振りをしていつも昼寝しているぐらい姿ばかりだ)
艦娘「だって、アイツらがオレの帽子取ったんだもん」
姉「まったく、少しは女の子らしい言葉遣いをしたらどうだ? そんなんだから友達が少ないんだぞ」
艦娘「と、友達少ないは関係ねーし!」
艦娘(友達が少ないのは本当だ。女子には怖がられるし、男子には噛み付かれるしでご覧の通りだ)
姉「まったくお前はこんなに傷だらけになって…」
艦娘「だけどアイツら倒してやったぜ! オレ、強いし!」
姉「あほ」ぺしっ
40: 2014/06/20(金) 00:02:52.19 ID:u/VSH0sC0
艦娘(姉は心底呆れた口調で私をひっぱたく。喧嘩をする度にやられることだ)
姉「いいか。強さってなんだ?」
艦娘「負けなくて、カッコよくて、それで泣かないこと」
姉「あほ」ぺしっ
艦娘「な、なにすんだよー!」
姉「よく聞け。強さってのはな、別に負けないことじゃないんだ。お前みたいに誰彼構わず喧嘩して、相手を泣かせてることじゃねぇよ」
艦娘「じゃあ、なにさ」
姉「大切なものを守る為の力。それが強さだ」
艦娘(いつもは目が氏んでいる姉が、どこか強い目でそう告げたのを、曖昧に覚えている)
艦娘「ぼ、帽子だって大切だよ! 父ちゃんにもらった、大事な帽子だ!」
姉「まあ、それもそうだろうな。けど、それだけじゃ強いとは言えない。お前、本当に強くなる為に道場通ってるんだろ?」
艦娘「そりゃ、そうだけど」
姉「先生は喧嘩したら怒るだろ?」
艦娘「うん…」
姉「どうして怒るのかって事を、先生に聞いて来い。話の続きはそれからだ」
艦娘「むー…姉ちゃん意地悪言うー!」
姉「意地悪じゃない。まったく、お前はどうして短気なんだ…」
艦娘(結局、道場の先生に聞いても。姉ちゃんと同じような答えを返された)
艦娘(本当の強さってなんだろう。私はそれが解らないまま、ただ鍛錬を繰り返して、マッチョな男の映画を見ていた)
艦娘(ジョッキに生卵を幾つも入れて飲むのをやっていたら母親に背負い投げされたのは恥ずかしい記憶だ)
艦娘(ただ鍛錬に打ち込む姿の私は、同年代の子供達にとって奇特に映った。かつて幾度も喧嘩した悪ガキ達は私を見れば避けるほど)
艦娘(大切なものを守るとは何なのか、本当の強さとは何なのか。私は解らないまま、ただ無心にトレーニングに励んだ)
艦娘(こんな小さな島で、それを披露する場所なんてどこにもないというのに。滝に打たれたりもしていた)
姉「いいか。強さってなんだ?」
艦娘「負けなくて、カッコよくて、それで泣かないこと」
姉「あほ」ぺしっ
艦娘「な、なにすんだよー!」
姉「よく聞け。強さってのはな、別に負けないことじゃないんだ。お前みたいに誰彼構わず喧嘩して、相手を泣かせてることじゃねぇよ」
艦娘「じゃあ、なにさ」
姉「大切なものを守る為の力。それが強さだ」
艦娘(いつもは目が氏んでいる姉が、どこか強い目でそう告げたのを、曖昧に覚えている)
艦娘「ぼ、帽子だって大切だよ! 父ちゃんにもらった、大事な帽子だ!」
姉「まあ、それもそうだろうな。けど、それだけじゃ強いとは言えない。お前、本当に強くなる為に道場通ってるんだろ?」
艦娘「そりゃ、そうだけど」
姉「先生は喧嘩したら怒るだろ?」
艦娘「うん…」
姉「どうして怒るのかって事を、先生に聞いて来い。話の続きはそれからだ」
艦娘「むー…姉ちゃん意地悪言うー!」
姉「意地悪じゃない。まったく、お前はどうして短気なんだ…」
艦娘(結局、道場の先生に聞いても。姉ちゃんと同じような答えを返された)
艦娘(本当の強さってなんだろう。私はそれが解らないまま、ただ鍛錬を繰り返して、マッチョな男の映画を見ていた)
艦娘(ジョッキに生卵を幾つも入れて飲むのをやっていたら母親に背負い投げされたのは恥ずかしい記憶だ)
艦娘(ただ鍛錬に打ち込む姿の私は、同年代の子供達にとって奇特に映った。かつて幾度も喧嘩した悪ガキ達は私を見れば避けるほど)
艦娘(大切なものを守るとは何なのか、本当の強さとは何なのか。私は解らないまま、ただ無心にトレーニングに励んだ)
艦娘(こんな小さな島で、それを披露する場所なんてどこにもないというのに。滝に打たれたりもしていた)
41: 2014/06/20(金) 00:04:38.83 ID:u/VSH0sC0
艦娘(そんな、ある日の事だった)
漁師A「みんな逃げろー! 海からアレが来たぞー!」
漁師B「山だー! 山に逃げるんだー!」
艦娘「なんの騒ぎ?」
艦娘(大人たちが海から来る何かに怯えて、逃げ回っていた)
艦娘(津波ならば逃げなくては、と思ったが海の様子を見ても津波が来る様子は無い)
艦娘(ではいったい何が来たのか。何が海から来たのか)
漁師C「深海棲艦だー! 逃げろ、逃げろー!」
主婦「そんな! 夫がまだ漁から帰ってきてないのよ!」
漁師B「ダメだ、ゴローさんの船が襲われるの、俺は見たんだ。助からねぇ!」
主婦「うう…」
漁師A「逃げるんだ! 皆食われちまうぞ!」
姉「んあ…? 深海棲艦!? なんでここに…」
艦娘(姉が現れたのは偶然だった)
姉「海軍に電話したのか!?」
漁師D「かけはしたけど、到着するまで相当かかっちまうぞ!」
姉「クソッ……なにもできねぇのかよ……! 誰か船を貸してくれ! アタシが鎮守府まで行けば!」
漁師E「バカを言うな! アンタは今、何も持ってないんだぞ! たった数体だって、相手は深海棲艦なんだ!」
艦娘(何を話しているか解らないが、何か恐ろしいものが海から襲来したのだという事だけは解った)
艦娘(本当の強さについて語っていたあの姉が、悔しそうにしていた)
艦娘(腕っ節が自慢の漁師たちがどうにもならねぇと涙を流していた)
艦娘(山へ山へと、逃げ惑う人たち。それらを見ていると)
艦娘(誰も強さなんて持っていない――――そう、思ってしまった)
艦娘「よし!」
艦娘(幼い私は山を駆け下りて、港に戻った。その怪物がなんなのか、だったら倒してやろうじゃないか。そんな気持ちだった)
漁師A「みんな逃げろー! 海からアレが来たぞー!」
漁師B「山だー! 山に逃げるんだー!」
艦娘「なんの騒ぎ?」
艦娘(大人たちが海から来る何かに怯えて、逃げ回っていた)
艦娘(津波ならば逃げなくては、と思ったが海の様子を見ても津波が来る様子は無い)
艦娘(ではいったい何が来たのか。何が海から来たのか)
漁師C「深海棲艦だー! 逃げろ、逃げろー!」
主婦「そんな! 夫がまだ漁から帰ってきてないのよ!」
漁師B「ダメだ、ゴローさんの船が襲われるの、俺は見たんだ。助からねぇ!」
主婦「うう…」
漁師A「逃げるんだ! 皆食われちまうぞ!」
姉「んあ…? 深海棲艦!? なんでここに…」
艦娘(姉が現れたのは偶然だった)
姉「海軍に電話したのか!?」
漁師D「かけはしたけど、到着するまで相当かかっちまうぞ!」
姉「クソッ……なにもできねぇのかよ……! 誰か船を貸してくれ! アタシが鎮守府まで行けば!」
漁師E「バカを言うな! アンタは今、何も持ってないんだぞ! たった数体だって、相手は深海棲艦なんだ!」
艦娘(何を話しているか解らないが、何か恐ろしいものが海から襲来したのだという事だけは解った)
艦娘(本当の強さについて語っていたあの姉が、悔しそうにしていた)
艦娘(腕っ節が自慢の漁師たちがどうにもならねぇと涙を流していた)
艦娘(山へ山へと、逃げ惑う人たち。それらを見ていると)
艦娘(誰も強さなんて持っていない――――そう、思ってしまった)
艦娘「よし!」
艦娘(幼い私は山を駆け下りて、港に戻った。その怪物がなんなのか、だったら倒してやろうじゃないか。そんな気持ちだった)
42: 2014/06/20(金) 00:06:36.43 ID:u/VSH0sC0
駆逐イ級「……ギギ?」
艦娘(そして私は、初めて深海棲艦を見た)
艦娘(第一印象は魚のバケモノ。小型の漁船ぐらいの大きさはあるそれが、歯をむき出して、目を光らせてこっちを見ていた)
艦娘「うおおおおっ!!!」
艦娘(私の戦いが、始まった)
艦娘(尻尾による打撃で、背中から壁に叩きつけられ)
艦娘(砲撃は直撃こそ避けても、爆風までは避けきれずに傷が次々とついて)
艦娘(噛み付きを避けても、体当たりの質量までは避けきれずにその重量で骨が折れた)
艦娘(反撃の拳を叩き込んでも、鍛錬してきた蹴りを叩き込んでもびくともしない)
艦娘(だが、痛みを感じる度に、一撃を浴びせる度に)
艦娘(戦っているという実感が沸いていた。そう、戦っているという思いが、私を動かしていた)
艦娘(強さではない。戦う事を求めていたのかも知れない)
艦娘(一対一での戦いに、私は時間を忘れた)
艦娘(指が折れて、アバラも折れて、歯も欠けて、腫れ上がった顔で視界もままならなくて)
艦娘(それでも、数体いた中の1体だけ、私は足止めすることに成功していた)
艦娘(そして私は身体を動かし続けていた。その痛みが止められなかった)
艦娘(痛みだ―――痛みだ――――)
艦娘(そこへ――――――)
陸奥「敵艦発見! 全砲門、開け!」
駆逐イ級「ギギ!?」
陸奥「選り取りみどりね。このーっ!」
艦娘(私の宿敵は、駆けつけてきた艦娘の砲撃一発に沈んだ)
艦娘(たった数体の深海棲艦の襲撃は、救助に来た艦娘によってあっさりと撃退されたのだった。同じく数体の艦娘に)
陸奥「……君、大丈夫?」
艦娘(すごい、とか。羨ましい、とか。そういうものでなくて、ただ私が思ったことは――強い、だった)
艦娘(そして私は、初めて深海棲艦を見た)
艦娘(第一印象は魚のバケモノ。小型の漁船ぐらいの大きさはあるそれが、歯をむき出して、目を光らせてこっちを見ていた)
艦娘「うおおおおっ!!!」
艦娘(私の戦いが、始まった)
艦娘(尻尾による打撃で、背中から壁に叩きつけられ)
艦娘(砲撃は直撃こそ避けても、爆風までは避けきれずに傷が次々とついて)
艦娘(噛み付きを避けても、体当たりの質量までは避けきれずにその重量で骨が折れた)
艦娘(反撃の拳を叩き込んでも、鍛錬してきた蹴りを叩き込んでもびくともしない)
艦娘(だが、痛みを感じる度に、一撃を浴びせる度に)
艦娘(戦っているという実感が沸いていた。そう、戦っているという思いが、私を動かしていた)
艦娘(強さではない。戦う事を求めていたのかも知れない)
艦娘(一対一での戦いに、私は時間を忘れた)
艦娘(指が折れて、アバラも折れて、歯も欠けて、腫れ上がった顔で視界もままならなくて)
艦娘(それでも、数体いた中の1体だけ、私は足止めすることに成功していた)
艦娘(そして私は身体を動かし続けていた。その痛みが止められなかった)
艦娘(痛みだ―――痛みだ――――)
艦娘(そこへ――――――)
陸奥「敵艦発見! 全砲門、開け!」
駆逐イ級「ギギ!?」
陸奥「選り取りみどりね。このーっ!」
艦娘(私の宿敵は、駆けつけてきた艦娘の砲撃一発に沈んだ)
艦娘(たった数体の深海棲艦の襲撃は、救助に来た艦娘によってあっさりと撃退されたのだった。同じく数体の艦娘に)
陸奥「……君、大丈夫?」
艦娘(すごい、とか。羨ましい、とか。そういうものでなくて、ただ私が思ったことは――強い、だった)
43: 2014/06/20(金) 00:08:33.94 ID:u/VSH0sC0
艦娘(それが、私が見た艦娘の印象だった)
陸奥「君、逃げ遅れたの?」
艦娘「違ぇよ。戦ってたんだ」
陸奥「戦ってた? 君が?」
艦娘「もちろん」
陸奥「………それで、こんな怪我を……」
陸奥「ま、とにかく親を探しに行かないとねー」
艦娘(彼女に半ば連れられる形で、集落の方に戻ると。姉が凄まじい顔をしていた)
姉「おま…どこに行ってた! あれ?」
陸奥「やっほー。お久しぶり。この子、すごいのよ。駆逐イ級相手に装備も無しで戦ってたのよ?」
陸奥「さっすが。あんたの妹ねー」
艦娘(この時、私は艦娘という存在を知った。そして、同時に)
艦娘(姉が元艦娘だったという事を知った。だからこそ、深海棲艦というものについて知っていたのだ)
姉「……おい」
艦娘「なんだよ」
姉「この大馬鹿!」
艦娘(姉に殴られたのは、初めてだった)
姉「なんでこんな無茶をした! 答えろ! どうしてだ! お前は氏んでたかも知れないんだぞ!」
艦娘「違うし! 見出したんだよ!」
姉「あ?」
艦娘「俺は強さじゃない、戦う事を、求めて」
艦娘(最後まで紡がないうちに再び拳骨が飛んできた)
陸奥「ちょ、やめなって! その子、歯ぁ折れちゃってる!」
姉「もうお前という奴は! 倉庫にでも閉じ込めてたほうがマシだ!」
艦娘(姉の怒りは凄まじかった。傷が治るなり、本当に私を倉庫に閉じ込めたのだ)
艦娘(俗に言う座敷牢という奴だ。トレーニング器具も没収されてしまった)
陸奥「君、逃げ遅れたの?」
艦娘「違ぇよ。戦ってたんだ」
陸奥「戦ってた? 君が?」
艦娘「もちろん」
陸奥「………それで、こんな怪我を……」
陸奥「ま、とにかく親を探しに行かないとねー」
艦娘(彼女に半ば連れられる形で、集落の方に戻ると。姉が凄まじい顔をしていた)
姉「おま…どこに行ってた! あれ?」
陸奥「やっほー。お久しぶり。この子、すごいのよ。駆逐イ級相手に装備も無しで戦ってたのよ?」
陸奥「さっすが。あんたの妹ねー」
艦娘(この時、私は艦娘という存在を知った。そして、同時に)
艦娘(姉が元艦娘だったという事を知った。だからこそ、深海棲艦というものについて知っていたのだ)
姉「……おい」
艦娘「なんだよ」
姉「この大馬鹿!」
艦娘(姉に殴られたのは、初めてだった)
姉「なんでこんな無茶をした! 答えろ! どうしてだ! お前は氏んでたかも知れないんだぞ!」
艦娘「違うし! 見出したんだよ!」
姉「あ?」
艦娘「俺は強さじゃない、戦う事を、求めて」
艦娘(最後まで紡がないうちに再び拳骨が飛んできた)
陸奥「ちょ、やめなって! その子、歯ぁ折れちゃってる!」
姉「もうお前という奴は! 倉庫にでも閉じ込めてたほうがマシだ!」
艦娘(姉の怒りは凄まじかった。傷が治るなり、本当に私を倉庫に閉じ込めたのだ)
艦娘(俗に言う座敷牢という奴だ。トレーニング器具も没収されてしまった)
44: 2014/06/20(金) 00:09:48.83 ID:u/VSH0sC0
艦娘「どうしてなんだ」
姉「あれはただの無謀だ」
艦娘「無謀…じゃない。あれは」
姉「深海棲艦は! ちょっとやそっとじゃ倒せない怪物なんだ! お前なんかが太刀打ちできる相手じゃない!」
艦娘(だけど、姉が元艦娘だったという事を知ってしまった私はこう返した)
艦娘「でも姉ちゃんは、戦ってたじゃないか!」
艦娘「姉ちゃんは戦ってたんだろ!」
姉「装備があって、それで訓練を受けて……って、色々あったんだよ」
艦娘「なにがあったんだよ」
姉「お前は知る事じゃない! とにかく、もう二度とあんな真似はするな」
艦娘「また襲ってきたらどうするの?」
艦娘(私の問いかけに、姉は黙り込んだ)
艦娘「深海棲艦は、海から来るんでしょ? いつ来るかも解らない」
姉「…艦娘でしか戦えない…そういうもんなんだ」
艦娘「なら、俺は」
姉「ダメだ!」
艦娘「どうして!」
姉「お前は艦娘には向いてない。もう寝ろ。この話は終わりだ」
艦娘(どうして姉がそう告げるのか解らなかった)
艦娘(戦いたい、という気持ちが私を動かしてた。そう、私は深海棲艦と戦いたいのだ)
艦娘「俺は……艦娘になりたい!」
艦娘(何日も何日も、何度も何度も)
艦娘(声が涸れて、唇が裂けて、扉や窓を外そうとして手が血豆だらけになって)
艦娘(ある日の深夜。姉がやってきた)
姉「あれはただの無謀だ」
艦娘「無謀…じゃない。あれは」
姉「深海棲艦は! ちょっとやそっとじゃ倒せない怪物なんだ! お前なんかが太刀打ちできる相手じゃない!」
艦娘(だけど、姉が元艦娘だったという事を知ってしまった私はこう返した)
艦娘「でも姉ちゃんは、戦ってたじゃないか!」
艦娘「姉ちゃんは戦ってたんだろ!」
姉「装備があって、それで訓練を受けて……って、色々あったんだよ」
艦娘「なにがあったんだよ」
姉「お前は知る事じゃない! とにかく、もう二度とあんな真似はするな」
艦娘「また襲ってきたらどうするの?」
艦娘(私の問いかけに、姉は黙り込んだ)
艦娘「深海棲艦は、海から来るんでしょ? いつ来るかも解らない」
姉「…艦娘でしか戦えない…そういうもんなんだ」
艦娘「なら、俺は」
姉「ダメだ!」
艦娘「どうして!」
姉「お前は艦娘には向いてない。もう寝ろ。この話は終わりだ」
艦娘(どうして姉がそう告げるのか解らなかった)
艦娘(戦いたい、という気持ちが私を動かしてた。そう、私は深海棲艦と戦いたいのだ)
艦娘「俺は……艦娘になりたい!」
艦娘(何日も何日も、何度も何度も)
艦娘(声が涸れて、唇が裂けて、扉や窓を外そうとして手が血豆だらけになって)
艦娘(ある日の深夜。姉がやってきた)
45: 2014/06/20(金) 00:11:39.67 ID:u/VSH0sC0
姉「起きろ」
艦娘「…姉ちゃん」
姉「お前、本当に艦娘になりたいのか?」
艦娘「ああ」
姉「いいか、よく聞け。お前にずっと言わなかった…正確には」
姉「本当はお前が見つけ出すものなんだけどな。それでも、艦娘になるには、本当の強さが必要だ」
艦娘「本当の、強さ」
姉「ああ。前にも言った。大切なものを守る強さってのは、一つの一例だ」
姉「本当の強さは、折れない心だ」
艦娘(姉はそう言って、目線を少しだけ伏せた)
姉「私が艦娘をやめた理由は、その心が折れちまった事だよ。辛い事がありすぎた」
姉「いいか、忘れるな。艦娘になるって事は、ただ深海棲艦と戦って、勝って、それで終わりじゃないんだ」
姉「そこにある全てを忘れるな。戦場だけじゃない、全てに関わって、全てに責任があるって事だ」
姉「たとえどんなに辛くても、どんなに痛くても」
姉「艦娘であるなら、決して折れるな。そしてもう一つだ――――やるべき時には躊躇うな。進むべき時に進む事が、強さの条件だ」
艦娘(姉の言葉一つ一つが、重かった)
艦娘(家でダラダラしている姉の姿とは違う、かつて艦娘だった。戦士だった姉の姿)
艦娘(胸に刻み付けた言葉がある)
艦娘(やるべき時には躊躇うな。進むべき時に進む事が、強さの条件)
艦娘(戦う事だけを目的としそうになった私を導いた、本当の強さの言葉だ)
姉「もう皆寝てる。今のうちに行け。荷物と、紹介状、書いてあるから」
艦娘「あ、あんがと」
姉「それともう一つ。もうちょっと女の子らしい言葉遣いにしろ。俺なんて言葉はやめとけ」
姉「仲間からも怖がられちゃ、話にもならないからな」
艦娘「…わかった」
姉「……じゃあな」
艦娘(深夜の、たった一人だけの見送りだった)
艦娘(姉は私の姿が見えなくなるまで、きっと敬礼を続けていただろう。振り返らなくても解ったのだ)
艦娘(艦娘になると決めた。戦士となる事を決めた私に、迷いは無い)
艦娘(そう、折れない心を持って。本当の強さを手にするその日まで)
艦娘「…姉ちゃん」
姉「お前、本当に艦娘になりたいのか?」
艦娘「ああ」
姉「いいか、よく聞け。お前にずっと言わなかった…正確には」
姉「本当はお前が見つけ出すものなんだけどな。それでも、艦娘になるには、本当の強さが必要だ」
艦娘「本当の、強さ」
姉「ああ。前にも言った。大切なものを守る強さってのは、一つの一例だ」
姉「本当の強さは、折れない心だ」
艦娘(姉はそう言って、目線を少しだけ伏せた)
姉「私が艦娘をやめた理由は、その心が折れちまった事だよ。辛い事がありすぎた」
姉「いいか、忘れるな。艦娘になるって事は、ただ深海棲艦と戦って、勝って、それで終わりじゃないんだ」
姉「そこにある全てを忘れるな。戦場だけじゃない、全てに関わって、全てに責任があるって事だ」
姉「たとえどんなに辛くても、どんなに痛くても」
姉「艦娘であるなら、決して折れるな。そしてもう一つだ――――やるべき時には躊躇うな。進むべき時に進む事が、強さの条件だ」
艦娘(姉の言葉一つ一つが、重かった)
艦娘(家でダラダラしている姉の姿とは違う、かつて艦娘だった。戦士だった姉の姿)
艦娘(胸に刻み付けた言葉がある)
艦娘(やるべき時には躊躇うな。進むべき時に進む事が、強さの条件)
艦娘(戦う事だけを目的としそうになった私を導いた、本当の強さの言葉だ)
姉「もう皆寝てる。今のうちに行け。荷物と、紹介状、書いてあるから」
艦娘「あ、あんがと」
姉「それともう一つ。もうちょっと女の子らしい言葉遣いにしろ。俺なんて言葉はやめとけ」
姉「仲間からも怖がられちゃ、話にもならないからな」
艦娘「…わかった」
姉「……じゃあな」
艦娘(深夜の、たった一人だけの見送りだった)
艦娘(姉は私の姿が見えなくなるまで、きっと敬礼を続けていただろう。振り返らなくても解ったのだ)
艦娘(艦娘になると決めた。戦士となる事を決めた私に、迷いは無い)
艦娘(そう、折れない心を持って。本当の強さを手にするその日まで)
46: 2014/06/20(金) 00:13:24.10 ID:u/VSH0sC0
鎮守府 食堂
若葉「――――と、いうわけなんだ」
陽炎「ねぇ、ちょっといい?」
若葉「なんだ?」
陽炎「たしか私達、百物語をやってるのよね?」
若葉「ああ」
陽炎「百物語の趣旨、わかってる?」
如月「それでなんで若葉ちゃんの昔話聞かされたのかしら…?」
電「で、でも怖い話ではないのです。とてもいい話だったのです」
暁「い、痛い話ではあったけど…指が…指が…」
深雪「でも確かに若葉ってアクション映画とかやたら詳しかったよな」
長月「今度トレーニングについて聞かせてくれ」
若葉「了解した」
陽炎「いや、だから百物語…」
電「つ、次の話はもう聞きたくないのです! 一度怖くない話を聞いてしまうと怖いのはいやなのです!」
暁「ふ、ふん! あ、暁はレディだから怪談なんて怖くもなんともないのよ!」
若葉(まあ、でも艦娘になって解ったことや、得たものはたくさんある)
曙「で、次は誰が話すのよ?」
電「だから嫌なのです!」
若葉「電」
電「へ?」
若葉「たとえお化けが出ても構わないさ。私が守ろう」
巻雲「次は巻雲が話す番です! 鎮守府の裏の…」
電「ひいっ!」
若葉(あの時は、ただ戦う事だけが目的になっていた。今は違う)
若葉(守る為の戦い。そう、守る為の戦いなのだ。人々だけじゃない。提督も、仲間も)
若葉(出来る限りの力を持って、全てを守ろう。折れない心を掲げて)
若葉(それが、艦娘としての強さだ―――――)
若葉「――――と、いうわけなんだ」
陽炎「ねぇ、ちょっといい?」
若葉「なんだ?」
陽炎「たしか私達、百物語をやってるのよね?」
若葉「ああ」
陽炎「百物語の趣旨、わかってる?」
如月「それでなんで若葉ちゃんの昔話聞かされたのかしら…?」
電「で、でも怖い話ではないのです。とてもいい話だったのです」
暁「い、痛い話ではあったけど…指が…指が…」
深雪「でも確かに若葉ってアクション映画とかやたら詳しかったよな」
長月「今度トレーニングについて聞かせてくれ」
若葉「了解した」
陽炎「いや、だから百物語…」
電「つ、次の話はもう聞きたくないのです! 一度怖くない話を聞いてしまうと怖いのはいやなのです!」
暁「ふ、ふん! あ、暁はレディだから怪談なんて怖くもなんともないのよ!」
若葉(まあ、でも艦娘になって解ったことや、得たものはたくさんある)
曙「で、次は誰が話すのよ?」
電「だから嫌なのです!」
若葉「電」
電「へ?」
若葉「たとえお化けが出ても構わないさ。私が守ろう」
巻雲「次は巻雲が話す番です! 鎮守府の裏の…」
電「ひいっ!」
若葉(あの時は、ただ戦う事だけが目的になっていた。今は違う)
若葉(守る為の戦い。そう、守る為の戦いなのだ。人々だけじゃない。提督も、仲間も)
若葉(出来る限りの力を持って、全てを守ろう。折れない心を掲げて)
若葉(それが、艦娘としての強さだ―――――)
49: 2014/06/20(金) 11:18:38.70 ID:kkqC44YNo
姉は元夕立とかその辺りか?
乙
乙
引用: 艦娘「艦娘になった理由」
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